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ISSN 1345-238X
開発金融研究所報
2006年11月 第32号
〈巻頭言〉ミレニアム開発目標に寄せる夢
〈ABCDE会合〉
● 報告(1)世界銀行 開発経済に関する年次会合
● 報告(2)慢性的貧困および一時的貧困の削減におけるインフラ
の役割:国際協力銀行のスリランカ灌漑支援事業のケース
● 報告(3)ネリカ米の貧困削減への効果:ウガンダの事例
■ 貧困削減におけるインフラの役割
スリランカ・パキスタンにおけるJBIC灌漑事業のインパクト評価
■ 30年後の途上国経済:被援助国人口の増加に歯止めはかかるか?
■ 国際協力銀行・インドネシア大学経済社会研究所共催
「グローバリゼーション及び地域統合時代のインドネシアの産業競争力」
に関する公開セミナー概要報告
■ アルゼンチン共和国:財政連邦制と地方財政
■ タイ:貯蓄・投資バランスから見た更なる成長の可能性
■ CAMBODIA IN THE WAY TO RECOVERY. THE CHALLENGES
AHEAD
本誌は、当研究所における調査研究の一端を内部の執務
参考に供するとともに部外にも紹介するために刊行する
もので、掲載論文などの論旨は国際協力銀行の公式見解
ではありません。
開発金融研究所
表2.indd
2
2006/11/07
14:42:26
開発金融研究所報
2006年11月 第32号
CONTENTS
<巻頭言>
ミレニアム開発目標に寄せる夢… …………………………………………………
理事 武田 薫
2
<ABCDE 会合> 報告(1)
世界銀行 開発経済に関する年次会合… ……………………………………
4
開発金融研究所 開発政策支援班主任研究員 武藤めぐみ
<ABCDE 会合> 報告(2)
慢性的貧困および一時的貧困の削減におけるインフラの役
割:国際協力銀行のスリランカ灌漑支援事業のケース… ……… 7
東京大学大学院 経済学研究科助教授 澤田 康幸
東京大学/クラーク大学 庄司 匡宏
東京大学 菅原 慎矢
<ABCDE 会合> 報告(3)
ネリカ米の貧困削減への効果:ウガンダの事例……………………… 21
国際開発高等教育機構リサーチフェロー 木島 陽子
貧困削減におけるインフラの役割
スリランカ・パキスタンにおける JBIC 灌漑事業のインパクト評価……… 34
東京大学大学院 経済学研究科助教授 澤田 康幸
名古屋大学大学院 国際開発研究科助教授 新海 尚子
東京大学・クラーク大学 庄司 匡宏
東京大学 菅原 慎矢
開発金融研究所 開発研究グループ 桂井 太郎
30 年後の途上国経済:
被援助国人口の増加に歯止めはかかるか?… …………………………… 70
開発金融研究所 所長 田辺 輝行
国際協力銀行・インドネシア大学経済社会研究所共催
「グローバリゼーションと地域統合時代のインドネシアにお
ける産業競争力」に関する公開セミナー概要報告… ……………… 91
海外投融資情報財団 下鉢 雅宏
開発金融研究所 国際金融グループ 半田 晋也
<各国経済シリーズ>
アルゼンチン共和国:財政連邦制と地方財政…………………………… 94
国際審査部第 3 班 細野 健二
タイ:貯蓄・投資バランスから見た更なる成長の可能性………
112
CAMBODIA IN THE WAY TO RECOVERY.
THE CHALLENGES AHEAD… …………………………………………………
130
JBICI 便り…………………………………………………………………………………………
141
国際審査部第 1 班課長 石川 純生
仲山 里美
国際審査部参事役 ヨランダ フェルナンデス ロメン
開発金融研究所総務課
開発金融研究所所報 第32号
Journal of JBIC Institute
開発金融研究所報第 32 号について
「ABCDE 会合報告書(1)~(3)」は、「開発のための新たなインフラを考える」
を全体テーマとして、2006 年 5 月 29、30 日に東京で世界銀行と財務省が共催し
た「世界銀行 開発経済に関する年次会合(ABCDE Tokyo 2006)」から、開発
金融研究所が企画を担当した「貧困削減における農業の役割」分科会における議
論を紹介するものである。
「貧困削減におけるインフラの役割-スリランカ・パキスタンにおける JBIC
灌漑事業のインパクト評価-」は、世帯レベルの月次パネルデータをミクロ計量
経済学の手法により分析し、物的インフラが貧困削減、特に貧困動態に及ぼすイ
ンパクトを評価するものである。
「30 年後の途上国経済:被援助国人口の増加に歯止めはかかるか?」は、貧し
い国々の所得向上による資源消費の増加とそれに伴う環境負荷の増大が新たな対
策費用を必要とし得ることも想起しつつ、援助を必要としない国々の人口が援助
を必要とする国々の人口を上回る可能性を検証するため、最近 5 年間の平均成長
率と世界銀行の人口増加率予測を用いて試算を行うものである。
「国際協力銀行・インドネシア大学経済社会研究所共催「グローバリゼーショ
ンと地域統合時代のインドネシアにおける産業競争力」に関する公開セミナー概
要報告は、グローバル化と地域統合の趨勢が加速するなか、インドネシアの産業
競争力の維持・向上は将来世代を含めた国民が豊かさを享受するための喫緊の政
策課題であるとの共通認識をもって 2006 年 8 月 30 日にジャカルタで開催された
セミナーにおける議論について、ロジスティクス、裾野産業育成、金融セクター
整備に焦点を当てて紹介するものである。
「アルゼンチン共和国:財政連邦制と地方財政」は、2001 年の経済危機以降、
地方財政を含む国家財政強化の重要性が一層強調されているアルゼンチンを取り
上げ、地方交付金制度の改革や地方分権化のもとでの歳出面における自治・裁量
権等の諸課題を明らかにし、財政健全化の成果について評価するものである。
「タイ:貯蓄・投資バランスから見た更なる成長の可能性」は、アジア通貨金
融危機前後の貯蓄・投資バランスの変化を分析したうえで、通貨危機後の経済ファ
ンダメンタルズの改善を概観する一方、2006 年初来の政治的混乱と経済への影
響を論じ、持続的経済成長のための課題を明らかにするものである。
「CAMBODIA IN THE WAY TO RECOVERY. THE CHALLENGES
AHEAD」は、近年比較的良好なカンボジア経済のパフォーマンスについて詳述
しつつ、対外ショックに対して脆弱な制約条件に加え、インフラの未整備や金融
セクターにおける制度上の諸課題、さらに広範な貧困や若年層の未教育を背景と
する生産性・競争力上の問題を明らかにするものである。
ミレニアム開発目標に
寄せる夢
理事
武田 薫
1970 年 11 月に 45 歳でその生涯を閉じた作家の三島由紀夫は古代ギリシャの時
代の平均寿命が 20 歳代であったと聞いて、当時の冥界はミケランジェロの作品で
ヘレニズム的傑作として知られるダヴィデの彫像のような均整が取れ、若く美しい
青年の死者で溢れていると憧憬の念を込めて書いていたのを読んだ記憶がある。蒲
柳体質の早熟な文学青年であった自らを否定し、ヘレニズム的な美を自らの肉体に
実現しようと、ボディービルに励んだ耽美派の三島由紀夫ならではの夢想であり、
また平均寿命を勝手に解釈してしまうのは芸術家の特権でもあろう。
さて、古代ギリシャの人々の平均寿命が 20 歳代だったとして、具体的な生涯は
どうだったのだろうか。当時の冥界はどのような死者から成っていたのだろうか。
世界各国の現在の平均寿命統計を参考に考えてみたい。
世界銀行の「世界開発指標」によると、新ミレニアムがスタートした 2001 年に
おける平均寿命が一番短い国はアフリカのシエラレオネの 37 歳であり、そして5
歳未満児の死亡率も最悪で、生存出生児 1000 人あたり 316 人に達する。5歳未満
児死亡率の最小な国はスウェーデンで 1000 人あたり3人に過ぎず、その平均寿命
は 80 歳である。わが国の場合は5歳未満児死亡率が5人、
平均寿命が 81 歳である。
また、各々の国の乳児死亡率(満1歳に達する前に死亡した出生児 1000 人あたり
の死亡率)を見てみると、
シエラレオネ 182 人、
スウェーデン3人、
日本3人である。
2001 年の平均寿命が 37 歳であるシエラレオネでは、実に乳幼児 10 人中2人が
出生後1年の生涯を生きられず、更に1人強が5歳までに死亡している。残りの7
人弱は5歳を超えてどのような生涯を送るのだろうか。5歳を超えて生存できる場
合には、
極めて単純な計算をしてみると、
凡そ 53 歳の平均寿命になると推定できる。
これから類推すると、平均寿命が 20 歳代であった古代ギリシャの当時の冥界は、
亡き三島由紀夫が想像したダヴィデの彫像のような肉体美を誇る若き死者の代わり
に、深刻な栄養障害や重度の疾患のある5歳未満の乳幼児で溢れていたのではない
だろうか。悲しいことである。
古代ギリシャは歴史の彼方であるが、シエラレオネは此方であり、同様な状況は
他の国・地域に現存している。飢餓、疾病、栄養不良等が原因で毎日3万人、年間
1100 万人の乳幼児が命を落とし、12 億人が一日1ドル未満で生活することを余儀
なくされている状況が現実にある。
このような状況を前にして、2000 年9月に開催された国連ミレニアムサミット
は、平和と安全、開発と貧困、環境等の課題と、国連の役割に関する方向性を示し
た国連ミレニアム宣言を採択し、そして8つの目標からなるミレニアム開発目標
開発金融研究所報
(MDGs)をまとめた。この中に、2015 年までに5歳未満児の死亡率を3分の2減
少させる、1日1ドル未満で生活する人口比率を半減させる、飢餓に苦しむ人口の
割合を半減させる等のターゲットが掲げられている。
国際社会は MDGs の達成に向けて真剣に取り組んでいる。昨年7月の英国グレ
ンイーグルスでのサミットにおいて、参加各国は積極的な ODA 拡大を表明し、目
標達成への出来る限りの貢献を果たすとの意思を明確にしている。しかしながら、
途上国自身の努力と国際社会のこのような積極的な貢献があったとしても、どのよ
うなアプローチを取るのか、必要な資金・技術等をどう動員するのか等々、課題は
多く、実際の達成は困難にも思える。とはいえ、わが国からの ODA を通じた途上
国開発の支援に長年従事し、ASEAN や東アジア諸国の開発の現場を見てきた筆者
としては、三島由紀夫の夢想とは異なって浪漫は無いが「2015 年までではないに
しても、そう遠くない先の冥界は生前を懐かしみ、談笑にふける老人達で満ち溢れ
ている」と確信している。
以上
2006年11月 第32号 〈ABCDE 会合〉
報告(1)
世界銀行 開発経済に関する年次会合
開発金融研究所 開発政策支援班主任研究員 武藤 めぐみ
1.はじめに
2006年 5 月29日 か ら30日 に か け て、 東
京 の 三 田 共 用 会 議 所 に お い て、 世 界 銀 行
及 び 財 務 省 の 共 催 に よ り「 世 界 銀 行 開
発経済に関する年次会合(ABCDE Tokyo
2006)」 が 開 催 さ れ た。ABCDE 会 合 は
Annual Bank Conference on Development
Economics の略であり、開発に携わる研究
者、市民社会、民間セクター、政府関係者
等の間の意見交換を促進することを目的と
して1989年に開始された。今までは欧州や
途上国で開催されることが多かったが、東
アジアで初めて開催された今回の東京会合
には全世界から900人近くが参加した。
ABCDE 会合は、開発に係わる研究の最
前線(cutting edge)の議論を行う場を目
指しており、そこで議論されたテーマは、
その後の G 8サミット首脳会合や欧州理事
会といった場での議題となることが多い。
ABCDE 会合発足の意図は、経済学者によ
る開発分野での研究を推進することであり、
各会合のテーマは、開発援助の国際潮流を
先取りすることを意識しながら、経済の理
論研究や実証研究をどのように開発分野に
応用し、有効な政策を導くことが出来るか
という観点から選定されている。
今回の ABCDE 会合では、全体テーマと
して「開発のための新たなインフラを考え
る」が掲げられた。そして、サブテーマと
して以下の4つが挙げられた。
①「成長のためのインフラ:新たな課題」
②「持続可能な開発とインフラ:気候変動、
クリーンエネルギー、エネルギー効率性」
③「地方インフラと農業開発」
④「インフラと地域協力」
2日間にわたる会合では、コロンビア大
学教授 Stiglitz 氏らによる複数の基調講演の
他、①~④それぞれのサブテーマの下に全
体会合(Plenary Session)が設けられ、14
件の分科会も開催された。国際協力銀行は、
③「地方インフラと農業開発」の全体会合
の企画に携わると共に、2件の分科会を主
催 *1した。本稿では、開発金融研究所が企
画を担当した「貧困削減における農業の役
割」分科会について紹介を行う。なお、次
号で「地方インフラと農業開発」の全体会
合について報告する予定。
2.「貧困削減における農業の役割」
分科会概要
財団法人国際開発高等教育機構(FASID)
との共催である本分科会は、2日目の午後
に開催され、同日午前中にあった全体会合
「地方インフラと農業開発」に関連した分科
会として位置づけられた。全体会合では2
本の論文発表があり、1本目はコーネル大
学 教 授 Per Pinstrup-Andersen 氏 に よ る 農
業におけるインフラの役割を展望した論文、
2本目は京都大学教授兼アジア経済研究所
長の藤田昌久氏による「ブランド農業」に
関する論文であった。本分科会では、貧困
削減における農業の役割のうち、①新しい
品種の導入による効果、及び、②灌漑イン
フラの導入による効果に焦点を当て、講演
者が論文を発表し、討論者によるコメント
が続いた。参加者は100名を越え、立ち見も
出るほど盛況であった。研究者が多いとい
う ABCDE 会合参加者の性格を反映して、
論文発表のテクニカルな説明の部分での反
応が高かった。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 「貧困層に裨益する経済成長のための都市インフラ」は国際協力銀行、フランス開発庁、ドイツ復興金融公庫、世界銀行共催。
「貧
困削減における農業の役割」は国際協力銀行、財団法人国際開発高等教育機構(FASID)共催。
開発金融研究所報
図表1 2006 年 5 月 30 日(火)「貧困削減における農業の役割」分科会 14:00-15:15
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3.本分科会での議論のポイント
(詳細は、本稿に続く〈ABCDE 会合〉報告(2)
及び〈ABCDE 会合〉報告(3)参照)
本分科会では、ミクロ実証の手法を使っ
た日本からの最新の研究が紹介された。最
初の論文、東京大学澤田助教授による「慢
性的貧困及び一時的貧困の削減におけるイ
ンフラの役割:国際協力銀行のスリランカ
灌漑支援事業のケース」は2000年頃からの
国際協力銀行開発金融研究所と澤田助教授
との共同研究の成果である。澤田論文は、
貧困動態を分析するために収集された月次
家計パネルデータを用い、スリランカに対
して1995年より供与された円借款「ワラウェ
左岸灌漑改修拡張事業」の貧困削減効果を
定量的に評価したものであり、灌漑地と天
水地を比べた場合、
前者における(一時的の)
貧困削減効果や平均的消費水準が有意に高
いことを示している。
2 本 目 の 論 文、FASID 大 塚 教 授 及 び 木
島リサーチフェローによる「ネリカ米は貧
困削減にどれほどの効果があるのか?ウガ
ンダの事例」はネリカ米の貧困削減効果に
関 す る 初 め て の 論 文 で あ る。 ネ リ カ 米 は
New Rice for Africa の略であり、アフリカ
で普及が始まっている新種のコメ*2である。
FASID では、東アフリカ3カ国の貧困につ
いての実証研究をすすめており、ネリカ米
が貧困削減に資するとの認識が高まってい
たウガンダにおいて、ネリカ米を栽培して
いる地域に限定した詳細な調査を行った。
実際の所得と、ネリカ米が無かった場合の
仮設的な所得の比較分析を行い、ネリカ米
は所得分布を悪化させることなく貧困削減
に貢献しうることを示している。
国 際 食 糧 政 策 研 究 所(IFPRI)
Badiane
氏は、大塚/木島論文に関し、①農家がネ
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 乾燥や病害虫に強い西アフリカ種(オリザグラベリマ)のコメと収穫の多いアジア種(オリバサティバ)のコメを掛け合わせ
ることで作られた陸稲。
(農林水産省 HP より)
2006年11月 第32号 リカ米を導入するペースやパターンの決定
要因、②ネリカ栽培が持続可能な技術かど
うか、という今後の研究課題を指摘した。
これに対し、大塚教授より、ネリカ米の持
続可能性は、世帯内に利用可能な労働力が
あるかどうかによって決定的な影響を受け
ること、また、収量を高くするためには、
肥料投入が不可欠であるとの説明があった。
Asian Institute of Management(AIM) の
Garilao 教授は、①農業を取り巻くシステム
全体、すなわち、農業技術、農村インフラ、
灌漑、マーケッティング、マイクロ・ファ
イナンス並びに能力開発等を総合的にかつ、
それぞれの地域のニーズに応じた形で検討
する必要性、また、②農民の主体的な参加、
エンパワーメントを推進することにより、
①で挙げた各種サービスの質が向上する可
能性、を指摘した。これに対し、澤田助教
授より、今回発表したスリランカの灌漑と
パキスタンの灌漑を比較した場合、水利組
合の性格(スリランカでは多目的組合もみ
られる一方パキスタンでは灌漑水利のみを
目的とした組合)によって持続性の違いが
認められ、エンパワーメントは今後の重要
な研究課題であることが言及された。
質疑応答は十分な時間がとれなかったが、
参加者からはアフリカという主要農産物が
複数ある環境下での研究のあり方、貧困削
減という便益で測った場合のインフラ投資
の効率性、交通アクセスや貿易が及ぼす影
響など、今後の研究課題として重要な点が
複数指摘された。
4.今回の分科会の成果
08年の世界開発報告書(World Development
Report)のテーマは「農業と開発」に決定
されており、国際社会では貧困削減におけ
る農業の役割への関心が高まっている。こ
うした中、本分科会をきっかけとして、最
近一緒に議論されることの少なかった稲の
品種改良・普及と、灌漑インフラ整備につ
いて、貧困削減という共通の土俵の上で議
開発金融研究所報
論することができたことは意義が大きい。
共通の土俵を形作るにあたっては、ミクロ
実証という分析手法が重要な役割を果たし
ている。また、ABCDE 会合という開発援
助の国際潮流を先取りする場で日本から最
新の研究成果を発信できたことは、国際社
会におけるアカデミックな議論への貢献と
しても大きい一歩である。
尚、今回の ABCDE 会合をきっかけとし
て、会合全体のオーガナイザーであった世
界銀行調査局と日本の研究機関や大学との
関係強化の機運が高まっており、開発金融
研究所は日本側のとりまとめ役の一端を担
いつつ、国際社会に発信できる水準を目指
した研究に取り組んでいる。
以上
〈ABCDE 会合〉
報告(2)
慢性的貧困および一時的貧困の削減におけるインフラの役割:
国際協力銀行のスリランカ灌漑支援事業のケース*1
東京大学大学院 経済学研究科助教授 澤田 康幸
東京大学/クラーク大学 庄司 匡宏
東京大学 菅原 慎矢
*2
要 旨
物的なインフラが経済発展において重要な役割を果たすということは広く知られている。また、安
全な上水道システム、学校、保健医療施設といったインフラへのアクセスの改善が人々の福祉を増進
させることも明らかである。しかしながら、貧困削減におけるインフラの直接効果をミクロデータに
よって実証的に明らかにした既存研究は少なく、とくに貧困動態という観点からはほとんど分析され
てこなかった。本稿の主な目的は既存文献におけるこのギャップを埋めることであり、スリランカで
実施された大規模な灌漑事業をケースとして、24 ヶ月間にわたり独自に収集された世帯レベルの月
次パネルデータを用い、インフラが家計の厚生へもたらしたインパクトを定量的に評価する。実証結
果によると、消費水準は灌漑地の世帯の方が天水地の世帯よりも大きく、さらに消費水準が貧困線を
下回る月数は灌漑地のほうが有意に小さかった。これは、灌漑インフラが慢性的貧困と一時的貧困の
両方に対する削減効果を持つということを示している。
目 次
第1章 はじめに…………………………… 7
第2章 調査対象地域の概要……………… 9
第1章 はじめに
2000年9月に開かれた国連総会では、世
界の貧困削減に関するミレニアム宣言が採
択された。ミレニアム宣言を具現化する形
第3章 消費・所得の季節変動………… 12
第4章 おわりに………………………… 18
で構成されたのが、
「ミレニアム開発目標」
である。ミレニアム開発目標の特に第一目
標では、世界の貧困削減を達成すべきこと
が謳われている。しかしながら、その目標
を達成すべき政策ツールは明らかにされて
いない。翻って、日本の開発援助、特に円
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 本論文は、JBIC 研究所が2000年から2002年にかけて収集したパネルデータの再解析結果に基づいており、2006年世界銀行
ABCDE 東京会合において報告された論文に大幅な加筆・修正を行ったものである。JBIC 研究所による調査プロジェクト第
一フェーズのデータ解析結果は、澤田・新海(2003)として既に公表されているが、本論文はさらにすべての期間のデータを
用いて分析を拡張したものである。より詳細な分析結果は、澤田他(2006)にもまとめられている。データ解析・論文執筆・
ABCDE 会合での報告に際して多くのご協力を頂いた以下の方々に感謝したい:青木昌人、新海尚子、北野尚弘、武藤めぐみ、
桂井太郎、Intizar Hussain、Fuard Marikar、Sunil Thrikawala、大塚啓二郎、Ernesto Garilao, Ousmane Badiane。言うまでもなく、
あり得べき誤りに関しては筆者たちが一切の責任を負う。
*2 連絡先:〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学経済学部 澤田康幸 email: [email protected]
2006年11月 第32号 借款による援助はインフラ整備を重点対象
として行われており、とりわけ南アジアに
おいては灌漑インフラ整備が比較的大きな
割合を占めてきた。果たして、
インフラ整備、
特に灌漑インフラ整備はミレニアム開発目
標達成のための有効な政策ツールなのであ
ろうか?本論文は、独自に収集したミクロ
データを用いてこの問いに答えることを目
的にしている。
物的なインフラが経済発展において重要
な役割を果たすということは広く知られてい
る。Hirschman(1958)や Rosenstein-Rodan
(1943)のような古典的な研究以来、開発経
済学者はインフラを工業化のための必要不
可欠な前提条件とみなしており、政府の工
業化政策は物的インフラが企業と企業の間
で共有されているときに功を奏すとされて
きた。というのも、インフラストラクチャー
によってコーディネートされる様々な投資
の組み合わせは、工業化成功の鍵を握ると
される強い金銭的外部性を生じさせるか
ら で あ る(Murphy, Shleifer, and Vishny
1989)。また、内生的経済成長に関する文
献によると、インフラは長期経済成長にお
けるコア資本のひとつであり、それは政府
によって最適に供給されるべきものであ
る(Barro 1990; Easterly and Rebelo 1993;
Futagami, Morita, and Shibata 1993)
。さら
に、実証的にもインフラが経済の長期生産
性と所得水準に対してもたらす貢献に関し
ては多くの研究がなされている(Canning
and Bennathan 2000; Lipton and Ravallion
1995; Jimenez 1995)
。物的インフラによ
る生産性向上効果は、マクロレベルのみな
らず、農村地域や農業部門においても確認
される。たとえば、Jimenez(1995)は58カ
国を対象とする研究をまとめることで、灌
漑や舗装道路、地方道路の密集度が1%改
善 す る こ と で 農 業 生 産 が そ れ ぞ れ1.62%、
0.26%、0.21%向上したということを示して
いる。
さらに、インフラ整備が進むと道路や電
力へよりアクセスしやすくなることから、
開発金融研究所報
物的インフラは人的資本への投資と補完関
係に、そして共同体の強化を通じて社会関
係資本(social capital)への投資と補完関
係にあると考えることもできる。たとえば、
共同体の集合行動(collective action)は農
業用水や用水路の監視・管理、村の学校教
育の運営と維持、そして村の医療施設の運
営などに不可欠である。従って、管理すべ
きインフラストラクチャーの存在が対象と
なる社会関係資本の蓄積を促進する可能性
がある。そして社会関係資本が十分に蓄積
されていくことは、マクロレベルの経済成
長につながっていく可能性がある(Knack
and Keefer 1997; Temple and Johnson 1998;
Ishise and Sawada 2006)
。
マクロレベルでは、インフラと経済成長、
経済成長と貧困削減とのそれぞれの実証的
連関を統合することで、インフラの貧困削
減に対する正の影響を推測できる。すでに
述べたように、Easterly and Rebelo(1993),
Jimenez(1995), Canning and Bennathan
(2000)らはインフラが経済成長に与える
正 の 効 果 を 実 証 的 に 見 出 し て お り、 さ ら
に Besley and Burgess(2003), Dollar and
Kraay(2000), Ravallion(2001) らは経済
成長が貧困削減に寄与することを実証的に
確認している。これらの研究は、少なくと
も「間接的」にインフラが国全体の貧困削
減に貢献することを示すものである。しか
しながら、これらの 「間接的」 な「誘導型」
に基づいた議論では、インフラが一体どの
ような経路を通じて機能するかを明らかに
することはできない。このことは、インフ
ラが機能する内部構造を明らかにするため
の緻密なミクロ研究の重要性を示唆してい
る。安全な水、学校、医療施設、下水道シ
ステムといったインフラへよりアクセスし
やすくなると、人々の生活水準が向上する
ことは一見すると自明のように思われるか
もしれないが、Lipton and Ravallion(1995;
p263) や Jimenez(1995; p2788) が 指 摘 し
ているように、貧困削減に対するインフラ
の役割について体系的に検証した綿密なミ
クロ計量的研究はほとんど存在しない。そ
もそも、最近までインフラは貧困削減の有
効な手段としては認識されていなかったの
である *3。既存の文献においてインフラの
貧困削減への効果が取り扱われなかったの
には二つの理由があると考えられる。
第一には、多くの研究者は従来「貧困」
を非経済的な問題だとみなしてきたことに
ある。そのため、貧困は物的インフラの経
済効果とは密接な関係はないと理解される
ことが常であった。第二には、既に述べた
ように、貧困削減に対するインフラの役割
を緻密に評価するには、ミクロレベルの分
析が必須である。しかしながら、個人や家
計の貧困に関する特徴と、インフラへのア
クセスの程度を同時に収集したデータは少
なく、実証分析が進まなかった。
本稿はこれら既存の文献の問題に対して、
スリランカで行われた灌漑事業に関して独
自に収集したデータを用いることで対処し
ようとする試みであり、二つの重要な貢献
を果たしている。第一は、Dercon ed.(2005)
や Fafchamps(2003)にまとめられている
ような、近年の理論的かつ実証的枠組みに
沿って、貧困動態の観点からインフラの役
割を分析していることである。第二には、
インフラと貧困動態との関係性を分析する
ために、灌漑インフラへのアクセスを軸に
選択された標本家計を対象として、周到に
計画されたフィールド調査によって月次パ
ネルデータを収集し、分析していることで
ある。われわれはこの一連のデータ収集自
体が研究に貢献するものであり、貧困動態
とインフラの役割について新たな光を当て
るものであると確信している。
本稿は以下のような構成になっている。
第2章では、データ収集の手順、すなわち
調査地域環境や標本選択の方法、標本の構
造を説明する。第3章では、簡単な理論枠組
みの説明を行った後に、記述統計量を議論
する。その上で、インフラが貧困動態に与
える影響について、データから見られる傾
向についてのさまざまな考察を加える。
第2章 調査対象地域の概要
本研究では、図表1で示されている、スリ
ランカ南部の低開発地域におけるワラウェ
川左岸地域(Walawe Left Bank;WLB)の
灌漑システムを分析対象とする。この地域
は、1967年に完成しウダ・ワラウェ多目的
貯水池を水源として開発が始まった地域で
あり、右岸はアジア開発銀行の借款によっ
て初期に開発が進んだ。左岸では、澤田・
新海(2003)や澤田他(2006)に詳述され
て い る よ う に、 国 際 協 力 銀 行(JBIC) の
支援のもと1995年に「ワラウェ川左岸灌漑
改修拡張事業(WLB Irrigation Upgrading
and Extension Project)
」が開始された。本
事業は、同地域における農業生産の向上と
地域活性化を主たる目的とするものである。
JBIC は1995年から2001年にかけて25.7億円
(約2,500万 US ドル)を融資し、灌漑開発に
かかった費用の約85%を賄った。一方、ス
リランカ政府は4.5億円(440万 US ドル)を
提供した。これらの地域において、政府は
貧困家計に対して1ヘクタールの農地と0.2
ヘクタールの居住地を分配した。政府の採
用した土地配分基準は0.8ヘクタール以下の
土地しか持たない小規模農家や、年間所得
が9,000ルピーに満たない貧困家計、そして
18歳以上の人々である。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*3 例外は Datt and Ravallion(1998)による1951年から91年にかけてのインドの州レベルの貧困データの分析である。彼らはイン
ドの州別貧困削減の程度は初期条件の違いに起因することを発見しており、物的インフラと人的資本が特に重要な初期条件で
あることを見出している。
2006年11月 第32号 図表1 ワラウェ川左岸地域
この WLB 地域では、Yala 期(乾季)が
4月にはじまり9月に終わる。そしてモン
ス ー ン Maha 期( 雨 季 ) は10月 に は じ ま
り3月まで続く。この地域の作付け様式は
多様であり、主要作物としては水稲やサト
ウキビ、バナナなどの生産が見られる。ま
た、調査地域における農業の様式は灌漑農
業 か ら、 天 水 栽 培、Chena( 焼 き 畑 農 業 )
までさまざまであるが、降雨の季節性のも
と、WLB 地域は、大きく2つの地域に分
けることができる。第一は灌漑用水へのア
クセスがある地域で、第二は、調査当時天
水に頼っていた地域である。第一の地域に
おけるすべての灌漑インフラはすでに修復
もなされていたが、第二の地域は隣接した
天水耕作地域である。灌漑プロジェクトの
インパクトをプログラム評価の手法によっ
て解析しようとすれば、前者の地域は処置
群(treatment group)
、後者の地域は対照
群(control group)ということになる。従っ
て、これらの地域は貧困削減に対するイン
フラの役割を定量的に評価するのに適して
いる。近年の開発分野におけるプログラム
10 開発金融研究所報
評価では、無作為化されたプログラム評価
の手法が目覚しく進展しているが(Kremer
2003)
、灌漑プロジェクトの配置を無作為化
することは非現実的であり、本調査は、無
作為化評価がそぐわない性質の評価例の一
つである。
本 論 文 で は、JBIC 研 究 所 が2001年 か
ら2002年 に か け て 5 度 に わ た り、IWMI
(International Water Management
Institute)と共同で行った家計パネル調査
データを用いる(以下、JBIC・IWMI デー
タと呼ぶ)
。2001年 初 頭 に お い て WLB 地
域には政府から土地の割当を受けている者
と、不法占拠者、そして非農業家計が混在
しており、全部で約75,000人の居住者がい
た。地域の代表性を確保しつつこれらの世
帯 を 調 査 す る た め、JBIC・IWMI 調 査 で
は、 ま ず 灌 漑 イ ン フ ラ の 整 備 状 況 に 従 っ
て 流 域 全 体 を 6 つ の 調 査 地 域、 す な わ ち
Sevanagala rainfed, Sevanagala irrigated,
Kiri-ibbanwewa, Sooriyawewa, Ridiyagama,
Mayurapura(extension area, 天 水 耕 作 地
域)に分割した(図表1, 図表2)
。その上
で、これら調査地域全体の全18,767世帯のう
図表2 調査対象家計の地域別内訳
対象地域
総家計数
調査対象
家計数
標本の割合
ブロック 1
Sevanagala Irrigated
3,202
167
5.2
ブロック 2
Sevanagala Rain‑ fed
1,218
60
5.0
ブロック 3
Kiri‑ ibbanwewa
3,504
151
4.3
ブロック 4
Sooriyawewa
6,843
229
3.3
ブロック 5
Ridiyagama
2,200
146
6.6
ブロック 6
Extension Area
(天水耕作地域)
Total
1,800
105
5.8
18,767
858
4.6
ち、5%弱にあたる858の調査対象家計(660
の農業家計と198の非農業家計または土地な
し家計)を、層化された無作為抽出法によっ
て選択し、継続したパネル調査を5度にわ
たって実施した(澤田・新海 2003,澤田他
2006)。図表2が、標本の地域別内訳を示し
ている。
全五回の調査のうち、第一、第二、第三
回の調査はそれぞれ2001年の6月、8月、
10月 に 実 施 さ れ た。 第 一 回 調 査 は 直 前 の
Maha 期(雨季)のデータを収集すること
を目的としていた。第二回と第三回調査は
Yala 期(乾季)のデータを集めることを目
的としていた。第四と第五の調査は2002年
の 6 月 と10月 に 実 施 さ れ、2002年 の Maha
期と Yala 期の情報を収集することを目的と
した。
次に、澤田・新海(2003)に従って、こ
れ ら6地 域 の 特 徴 を 簡 単 に ま と め る こ と
に し よ う。 ま ず、 第 一 ブ ロ ッ ク・ 第 二 ブ
ロ ッ ク で あ る、Sevanagala 地 域 は、 ワ
ラ ウ ェ 川 左 岸 上 流 に 位 置 し て お り、 灌 漑
地 域(Sevanagala Irrigated) と 天 水 地 域
(Sevanagala Rain-fed) の 両 方 を 含 む 地 域
である。灌漑農業地域では、3,200家計のう
ちの7割程度を占める約2,300の農業家計が
サトウキビと水稲の生産を行っている。一
方、約1,200家計が居住する天水灌漑地域で
は、約1,100家計が主としてサトウキビ栽培
を行っている。
第三ブロックである Kiri-ibbanwewa は、
ワラウェ川左岸中流地域に属する地域であ
り、 約3,500の 家 計 の う ち 約2,000家 計 が 全
1,700ha の灌漑地域で主に米作に従事してい
る。第四ブロックである Sooriyawewa は、
ワラウェ川左岸下流地域に属し、約6,800家
計のうち4,000家計弱を占める農業世帯が主
として米作に従事している。
第 五 ブ ロ ッ ク で あ る Ridiyagama は、
Ridiyagama 貯 水 池 周 辺 地 域 を 指 し、 全
2200世帯のうち8割弱を占める1,800家計が
3,000ha におよぶ灌漑地を耕作している。た
だし、この地域は灌漑の補修が行われてお
らず、マハベリ開発庁が管理する他の WLB
地域と異なり、灌漑局が管理しているとい
う特徴を持つ地域である。
最後に、第六ブロックである Mayurapura
(Extension Area)は、ワラウェ川左岸下流
2006年11月 第32号 11
地域に属し、灌漑施設は存在せず、約1,800
の家計が8つの村に分かれて、乾季には貯
水タンクに依存した耕作、雨季には天水に
よる耕作に従事している。
第3章 消費・所得の季節変動
Foster, Greer, Thorbecke(1984)の FGT
poverty measure を代表として、貧困概念
は従来、貧困人数比率、貧困ギャップ指標
などの静学的な概念によって表現されてき
た。 し か し な が ら、Fafchamps(2003) や
Dercon ed.(2005) が ま と め て い る よ う
に、最近の貧困についての研究は貧困の動
態 的 側 面 に 注 目 し て お り、 慢 性 的 貧 困 と
一時的貧困との違いの重要性を強調してい
る(Lipton and Ravallion 1995; Morduch
1994)。慢性的貧困とは、家計の所得ある
いは消費がつねに貧困線を下回っている状
態と定義されるものであり、生涯を通じた
一種の平均所得である恒常所得が貧困線
を下回っている状態と考えることができ
る。他方、一時的貧困とは、恒常所得は貧
困線を上回っていながら、消費水準が貧困
線を一時的に下回ってしまう危険性に直面
している状態として定義することができる
(Morduch 1994)
。Morduch(1994) は こ
の一時的貧困を「確率的貧困」と呼んだ。
近年の実証研究は実際の一時的貧困の深刻
さ を 強 調 し て お り、 例 え ば、Walker and
Ryan(1990, P93-97)は南インドにおける
ICRISAT 調 査 対 象 の 家 計 の う ち70% が 一
時的貧困にあり、わずか20%が慢性的貧困
にあることを確認している。加えて、広西
自治区、貴州省、雲南省といった中国の貧
困地方における39,000もの世帯のミクロパ
ネルデータを解析した Jalan and Ravallion
(2000)によると、貧困の大半が一時的貧困
として説明できることが明らかになってい
る。
次に、JBIC・IWMI データを分析した澤
田・ 新 海(2003)
、Hussain, Marikar and
12 開発金融研究所報
Thrikawala(2002)を元にして、灌漑施設
の有無別に家計の特性を見てみることにし
よう。これらの研究によると、全体的に見
て貧困人口比率が高いのは天水地域であり、
85%にも上っている。さらに、慢性的貧困
者比率は天水地域では19%、灌漑地域では
10%であり、大きな違いがある。また、ブ
ロック別の家計の基本特徴として以下のよ
うなものが挙げられる。第一に、世帯の平
均人数は5人前後であり、これは灌漑地・
天水地にかかわらず同様である。このうち、
全世帯の約20%に0歳から5歳の子供が少
なくとも一人いた。第二には、戸主の平均
体重は53.5kg であり、平均身長は161.32cm
であった。その中でも天水地域では平均体
重は最低の52.17kg であり、肥満度指数も最
低だった。第三には、年単位で測った戸主
の教育水準は Extension area の5.61年から
Ridiyagama area の7.86年 ま で さ ま ざ ま で
あったが、職業から見てみると、おおよそ、
75%の戸主が農業を本業としていた。
灌漑の到達範囲は用水路の水を使ってい
る人数の割合で測ることができるが、この
指標には重要な多様性がみられる(図表3)。
Sooriyawewa はもっとも灌漑地の割合が広
く88%であるが、他方で Extension area と
rain-fed Sevanagala area の灌漑率はそれぞ
れ13%と2%だった。修復については、Kiriibbanwewa と Sooriyawewa area で は ほ ぼ
すべての灌漑システムが修復されていた一
方で、Sevanagala では灌漑整備のほとんど
は1997年以前に行われたものであり、全シ
ステムの半分しか修復されていなかった。
次に、全5回の調査データの記述統計に
ついて見てみよう。図表3にまとめられて
いるように、灌漑地と天水地別に計算され
た主要な変数の記述統計によると、次のよ
うな家計の特徴がわかる。第一に、天水地
域の世帯主は灌漑地域よりも若い、第二に、
天水地域の世帯主は灌漑地域の世帯主より
所得と土地保有という点から貧しく、灌漑
へのアクセスのしやすさは所得と資産に対
して正の相関関係があるように見受けられ
図表3 記述統計
変数
単位
灌漑地域
天水地域
成人男性一人当たり月額消費支出(食費)
Rs.
1123.34
(616.76)
1058.42
(525.88)
成人男性一人当たり月額消費支出(非食費)
Rs.
479.10
335.16
(1264.64)
(951.09)
22
28
1906.23
1488.84
(4597.89)
(4514.71)
0.15
0.18
(0.36)
(0.39)
0.29
0.19
(0.46)
(0.39)
52.41
41.68
(11.59)
(12.09)
0.12
0.09
(0.32)
(0.29)
5.66
5.79
(3.32)
(3.36)
2.04
1.50
(1.12)
(0.92)
1.91
1.50
(1.02)
(0.88)
1.36
1.75
(1.41)
(1.31)
0.74
0.53
(0.53)
(0.56)
28.61
20.46
(11.83)
(13.47)
27.49
18.31
(11.02)
(10.64)
総消費に基づいた貧困人口比率
%
(一人一日一ドルの貧困線)
成人男性一人当たり月額所得
流動性制約ダミー(直面している =1:
Rs.
ダミー
直面していない=0)
機能している農業組合への参加
世帯主の年齢
世帯主の性別(女性=1:男性=0)
世帯主の教育年数
16 歳以上の男性人数
16 歳以上の女性人数
15 歳以下の人数
成人男性一人当たりの土地所有面積
居住年数
農業の経験年数
ダミー
年
ダミー
年
#
#
#
エーカー
年
年
注)カッコ内の数値は標準偏差。
2006年11月 第32号 13
成人男性一人当たり Rs.
図表4 成人男性一人当たり月間消費(2000年10月から2002年9月)
2500
2300
2100
1900
1700
1500
1300
1100
900
700
500
10月 12月 2月
4月
6月
食糧消費(灌漑地域)
食糧消費(天水地域)
る。このことは、インフラが慢性的貧困の
削減に対して正の効果があるということを
示唆している。これらの数字は驚くに値し
ないが、一方でインフラが一時的貧困を削
減する効果を明らかにするためにはさらに
詳細な分析を加える必要がある。第三に、
後で詳述するように、一人一日一ドルの貧
困線を用いた場合、貧困人口比率は灌漑地
では22%、天水地では28%である。これは、
同じ貧困線を用いた World Bank(2006)に
よるスリランカ全体の貧困人口比率5.75%を
大きく上回っており、JBIC・IWMI 調査地
域の貧困度が全国的に見て高いことを示し
ている。
次に、月別の消費支出と所得の変動を見
てみることにしよう。この研究では、食糧
支出と非食糧支出の二つに消費支出を分類
している。非食糧支出としては広義の医療
ケアや教育といった非耐久財への支出が含
まれている。他方で、所得は農産物の売上
高と、自家消費の帰属価値、家畜などの非
農作物による収入、農業労働・非農業労働
を通じて得られる賃金収入の総計である。
JBIC・IWMI デ ー タ に は、2001年10月 か
ら2002年9月までの12ヶ月間の月別所得の
14 開発金融研究所報
8月 10月 12月 2月
4月
6月
8月
総消費(灌漑地域)
総消費(天水地域)
データと、2000年10月から2002年9月まで
の24ヶ月間の月別支出の情報が存在する。
したがって我々は所得と支出のデータが共
に得られる、2001年10月から2002年9月ま
での12ヶ月のデータを対象とした。
図表4・5は灌漑の有無で分類した平均
月別支出の推移である。第一に、あきらか
に天水地域の世帯は年間を通して体系的に
灌漑地域の世帯より支出額が小さい。この
ことは慢性的貧困が灌漑地域よりも天水地
域においてより頻繁に発生しうるというこ
とを示唆している。第二に、消費支出のレ
ベル自体は灌漑インフラへのアクセスに
従って差が見受けられるのに対し、消費支
出変化のパターンはどの月に関しても同様
である。支出レベルは10月から2月にかけ
て一定であり、Maha 期の収穫期の直後に
増加し、5月と6月になると再び減少する。
さらに、食糧支出は Yala 期の収穫期後であ
る10月ごろから若干増加する。
一方、農業所得の月別変動を示したのが
図表6であり、
灌漑地については Maha
(雨季)
の収穫期である3−4月のみならず、Yala
(乾季)の収穫期である9月においても所得
の増加が見られることがわかる。一方、天
図表5 成人男性一人当たり月間平均消費(Rs.)(2000年10月から2002年9月)
灌漑地域
2000年
2001年
2002年
変動係数
平均の差
天水地域
(灌漑地域-天水地域)
食費
総額
食費
総額
食費
総額
10月
997.2
1278.1
940.6
1065.8
56.6
212.3**
11月
996.9
1207.6
950.1
1104.3
46.8
103.3*
12月
992.0
1258.0
941.1
1081.7
50.9
176.3***
1月
966.6
1400.8
948.6
1332.8
18.0
67.9
2月
973.7
1313.4
940.3
1163.9
33.4
149.4**
3月
995.9
1386.5
971.5
1262.4
24.4
124.1
4月
1331.3
2155.3
1274.3
2109.4
57.0
45.8
5月
1018.0
1540.8
999.6
1426.6
18.4
114.2
6月
1025.5
1415.9
986.1
1285.8
39.3
130.0
7月
1068.6
1675.9
993.6
1406.4
74.9*
269.5**
8月
1058.5
1403.6
921.6
1198.8
136.9***
204.8***
9月
1029.2
1547.0
920.3
1220.2
108.9***
326.8***
10月
1157.4
1453.2
1074.9
1214.3
82.6**
238.9***
11月
1165.1
1465.4
1091.7
1228.0
73.3*
237.5***
12月
1182.3
1587.4
1106.6
1322.9
75.7*
264.5***
1月
1140.6
1550.0
1093.9
1392.4
46.7
157.6**
2月
1152.0
1553.2
1096.2
1389.7
55.7
163.5*
3月
1265.8
1782.3
1121.3
1444.5
144.5***
337.8***
4月
1547.3
2572.4
1488.5
2329.3
58.8
243.1*
5月
1227.2
1849.0
1137.1
1474.8
90.1*
374.2**
6月
1167.4
1664.5
1093.9
1449.0
73.5
215.5
7月
1151.1
1637.9
1088.0
1485.9
63.1
152.0
8月
1171.2
1816.7
1094.9
1487.7
76.3*
329.0*
9月
1217.4
1890.8
1142.9
1597.6
74.5*
293.2**
0.321
0.595
0.319
0.508
0.001
0.087***
***1%水準で統計的に有意、**5%水準で統計的に有意、and *10%水準で統計的に有意。
2006年11月 第32号 15
成人男性一人当たり Rs.
図表6 成人男性一人当たり農業所得(2001年10月から2002年9月)
5000
4500
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
10月 11月 12月 1月
2月
3月 4月
5月
6月
7月
8月
9月
天水地域
灌漑地域
水地では同じ時期に所得は特に増加してい
ない。より詳細に月次データを見てみると、
以上の所得変動の異なりが消費支出の差に
つながっていることが分かる。図表5によ
ると、すべての月において灌漑地の平均消
費支出は天水地のそれよりも大きく、その
差は統計的に有意である。特に Yala(乾季)
の収穫期に当たる8−9月における一人当
たり消費の格差は大きく、灌漑へのアクセ
ス有無が特に乾季における生活水準に大き
な違いをもたらすことを示している。
u(c − m) = E[u( c )] , (1)
消費変動の厚生インパクト
以上のデータは、灌漑インフラストラク
チャーへのアクセスが、慢性的貧困と一時
的貧困の発生を抑制することを示している。
ここでは、季節性による消費の変動によっ
て生み出される厚生水準低下を把握し、一
時的な貧困の深刻さを数量化するために、
Morduch(1995) に 習 っ て、Arrow=Pratt
の リ ス ク プ レ ミ ア ム を 計 測 し て み る。
Arrow=Pratt のリスクプレミアムは、以下
の式で定義される通常のリスクプレミアム
m が、平均消費に占める割合(%)として
あらわされる:
この(2)式を用いることにより、家計が
消費変動を削減するためにどの程度の消費
水準を犠牲にしてもよいと考えるか、言い
換えれば消費が変動することによる厚生の
ロスがどれぐらいであるかを定量化するこ
とが可能となる。
図表7は、図表5の JBIC・IWMI データ
に基づいて、平均的な食糧消費変動の悪影
響を推計した結果を示している。これらの
推計によれば、所得変動による所得の目減
り分は低く見積った場合、10%であり、場
合 に よ っ て は、 所 得 を 約20% 減 少 さ せ て
16 開発金融研究所報
ここで u
(·)は標準的な仮定を満たす通常
の効用関数であり、 と はそれぞれ、確
率的な消費水準とその期待値を示してい
る。ここで、
(1)式左辺と右辺をそれぞ
れ m=0 の周りで1次と2次のテーラー展開
を行い、整理することで、以下のように
Arrow=Pratt のリスクプレミアムを導出す
ることができる:
m
c
u c c
u c
相対的リスク回避度
Var c
c
変動係数
2
,
(2)
図表7 食糧消費変動がもたらす厚生のロス
相対的リスク
回避度
所得の変動係数
(各家計の変動係数の平均値)
灌漑地
天水地
事実上の所得低下
灌漑地
天水地
2
0.321
0.319
10.3%
10.2%
3
0.321
0.319
15.5%
15.3%
4
0.321
0.319
20.6%
20.4%
しまう効果を持っている。しかしながら、
Arrow=Pratt のリスクプレミアムからは、
灌漑地と天水地間での食糧消費変動の厚生
ロスに統計的に有意な差は見られない。た
だしこの議論は、消費の減少と増加という
異なる方向の変動を対称的に扱っており、
消費減少のみに注目する一時的貧困の議論
としてはミスリーディングである可能性が
ある。
一時的貧困
次 に、 一 時 的 貧 困 を よ り 直 接 に 数 量 化
し、 灌 漑 地 と 天 水 地 の 比 較 を 行 っ て み よ
う。Walker and Ryan(1990) は、 国 際 半
乾 燥 熱 帯 地 域 作 物 研 究 所(International
Crop Research Institute for the Semi-Arid
Tropics; ICRISAT)によって調査された 3
つ の 南 イ ン ド 村 落(Aurepalle, Shirapur,
Kanzara)居住世帯のうち、1975/76年から
1983/84年の9年間のパネルデータが得られ
る104家計について、貧困状況の推移を分
析している。これら家計のうち、9年間に
わたって継続的に所得が貧困線を下回ると
いう状況にあった家計、すなわち慢性的貧
困家計は、23家計のみであり、多くは土地
無し層とハリジャンであった*4。一方、9
年間継続的に生活水準が貧困線を上回って
いたのは多くの資産を保有する13家計であ
る。慢性的貧困層である23家計と富裕層で
ある13家計を除いた、残りの68家計は、時
間を通じてその生活水準が貧困線を上下す
るという一時的貧困の下にあったといえ、
インド農村における一時的貧困の深刻さを
示 す も の で あ る(Walker and Ryan, 1990;
p93-97)
。このように途上国の半乾燥地域に
おける貧困状態の多くは、短期的なもので
あり、多くの家計、とりわけ農業家計の生
活水準は貧困線を常に上下していると考え
られる。
そこで、Walker and Ryan(1990)と同じ
方 法 に 基 づ き、JBIC・IWMI デ ー タ を 用 い
て一時的貧困と慢性的貧困の分析を行って
みよう。まず、貧困線の設定方法であるが、
世界銀行が推計したドルに対するスリラン
カの1993年購買力平価、一ドル12.85ルピー
を 用 い る。IMF の International Financial
Statistics から得た卸売物価指数を用いれば、
1993年のアメリカ合衆国の物価を固定した
2000年、2001年、2002年の購買力平価はそ
れ ぞ れ、23.17ル ピ ー、26.46ル ピ ー、28.98
ルピーと計算される。Chen and Ravallion
(2004)は、1993年のアメリカ合衆国物価で
固定された国際貧困線、いわゆる「一人一
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*4 ここで用いられた貧困線は、1960/61年の時点での一人当たり支出が15ルピー / 月であり、これに物価調整を行ったものである。
IMF の International Financial Statistics の国レベルでの物価水準で単純に概算するとこの貧困線は1993年時点で一人当たり約
6.15ルピー / 日である。世界銀行の1993年購買力平価推計を用いると、
この貧困線は1993年時点で一日あたり0.88ドルとなる。従っ
て、やや慢性的貧困を過小評価している恐れがある。
2006年11月 第32号 17
図表8 スリランカの貧困動態指標(一人当たりの総消費が貧困線を下回った月数の分布)
0 ヶ月
1-12 ヶ月
13-23 ヶ月
24 ヶ月
全世帯
15.50 %
50.23%
31.47%
2.80%
食糧消費
灌漑
15.50%
51.60%
30.57%
2.33%
天水
15.50%
47.78%
33.08%
3.65%
全世帯
27.16%
56.06%
16.67%
0.12%
総消費
灌漑
28.68%
56.87%
14.45%
0.00%
天水
24.41%
54.61%
20.66%
0.33%
計
100%
100%
100%
100%
100%
100%
貧困線を下
回っていた
平均月数
9.28
9.03
9.73
5.70
5.13
6.72
日一ドルの貧困線」として1.08ドル / 日を設
定している。これに習えば、
「一人一日一ド
ルの貧困線」は、スリランカルピー建てで
は、2000年25.03ルピー、2001年28.57ルピー、
2002年31.30ルピーとなる。この貧困線に各
月の日数を乗じた月レベルの貧困線をもと
に、24ヶ月のうち、一人当たりの総消費が
貧困線を下回った月数を家計ごとに計算し
た。その分布を見たのが図表8である。こ
こで、24ヶ月間常に貧困線を下回っている
場合にはその家計は慢性的貧困の下にあり、
常に貧困線を上回っている場合には富裕層
ということになる。それ以外の家計は生活
水準が時間を通じて貧困線を上下する状況
にあり、一時的貧困層ということになる。
この図表7からまずわかることは、イン
ドと同様にしてスリランカ WLB 地域にお
ける貧困のうち半分以上、総消費について
は9割以上が一時的な現象として説明され
る と い う こ と で あ る。 他 方、 総 消 費 に 基
づ い た 場 合、 富 裕 層 の 割 合 は27.16% で あ
り、慢性的貧困層の比率は0.12%にしか過
ぎ な い。 次 に 灌 漑 へ の ア ク セ ス 別 に 見 て
みると、慢性的貧困層の比率・一時的貧困
層の比率ともに灌漑地の方が低く、灌漑地
と天水地とのこれら指標の差は統計的に
有 意 で あ る。 ま た、 貧 困 線 を 下 回 っ て い
た 月 数 で 見 て み る と、 食 糧 消 費 で は 平 均
し て 年 に 約11日、 総 消 費 で は 年 に 約24日、
灌漑地の方が天水地よりも短い。さらに、
18 開発金融研究所報
Kolmogorov=Smirnov テストを用いて貧困
線を下回っていた月数の分布を灌漑地と天
水地で比較すると、両分布の違いは統計的
に有意である。以上の結果は、慢性的貧困
のみならず一時的貧困も天水地においてよ
り深刻であることを示している。
第4章 おわりに
我々はインフラの整備と貧困の削減との
関係を、消費支出における季節変動に注目
することで計量的に評価した。記述統計や
貧困動態に関する若干の数量分析によると、
灌漑設備の存在は慢性的貧困を削減するだ
けでなく、消費支出の低下リスクを軽減さ
せ、一時的貧困へのマイナス影響を取り除
くことが分かった。我々の得た結果は、慢
性的貧困と一時的貧困の双方に対してイン
フラストラクチャーが有意な削減効果を持
つことを裏付けるものである。
しかしながら、灌漑設備の適正な保守・
整備が欠如していることは灌漑の治水機能
を著しく弱めてしまう可能性が高い(澤田
他2006)
。このような問題は、慢性的貧困・
一時的貧困を有効に軽減するための手段と
してのインフラストラクチャーの効果を弱
めてしまう。従って、灌漑設備のメインテ
ナンスを継続して行い得る農民組織の存在
は、灌漑の質を維持し長期的に貧困を削減
してゆくのに必要不可欠であるといえよう。
さらに農民組織は、灌漑の維持管理のみな
らず、農民同士の諸問題を解決したり、コ
ミュニティーのさまざまな集合行動を調整
するのに非常に重要な役割を果たしうる。
しかしながら、現実には、農民組織の結束
力が弱いためにメンバー間での十分なコ
ミュニケーションがとれなかったり、ある
いは会費が定期的に回収できないために、
資金面での制約に直面するなどして、農民
組織が十分にその役割を果たせない場合も
多い。いずれにしても、これらの問題を解
決することは、灌漑インフラストラクチャー
の貧困削減効果を長期に持続するために不
可欠の要素である。農民組織が果たす役割
については、澤田他(2006)によって若干
の分析が加えられているが、将来的により
包括的な実証研究を行うことが必要であろ
う。
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〈ABCDE 会合〉
報告(3)
ネリカ米の貧困削減への効果:ウガンダの事例
国際開発高等教育機構リサーチフェロー 木島 陽子
要 旨
サブサハラ以南のアフリカ(SSA)における食糧不足や貧困の増加は主要な開発問題となっている。
ネリカ米はアフリカの環境に適するよう開発され、SSA の貧困世帯の農産物の収量を増やし、食糧
問題を緩和し、所得を増大することが期待されている。近年、ネリカ米の高収量性については良く知
られるようになってきたが、ネリカ米の所得や貧困への効果についての実証研究は皆無である。そこ
で本稿は、貧困削減策の一つとしてネリカ米普及プログラムが実施されているウガンダを例に取り、
ネリカ米導入の効果を実際の所得とネリカ米がなかった場合の仮説的な所得を比較し分析する。メイ
ズが植えられていたプロットにネリカ米が植えられた場合、1 ヘクタールあたりの所得は US $246 か
ら US $429 の所得増加効果があり、さらに、ネリカ米がある場合のほうが、ない場合よりも所得分
布がより平等になることがわかった。これらの結果は、ネリカ米の導入は所得分布を悪化させること
なく貧困削減に貢献しうることを示唆している。
目 次
はじめに…………………………………… 21
第1章 データ…………………………… 22
第2章 ネリカ米の特性………………… 24
はじめに
ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標(MDGs) 採 択 後、
いかに貧困を削減するかは特に重要な問
題 と な っ て い る。 し か し Sahn and Stifel
(2003)などの研究はサブサハラ以南のア
フリカ(SSA)において MDGs が達成され
ることはほぼ不可能であろうと予測してい
る。MDGs を達成するために今こそキャパ
シティビルディング、経済政策の改善、投
資の確実なデリバリーを加速化することが
必要である。貧困層の多くは農村部におり、
その生活は農業に依存していることが多い
ため、改良品種などの農業技術の開発と普
及が早急に強化されるべき中心課題のひと
つと考えられる(NEPAD 2004, Deininger
and Okidi 2001 Pender et al. 2004a)
。
第3章 所得への効果…………………… 28
終章 結論……………………………… 31
土地が不足している地域では、肥料反応
種の開発と普及により農業生産は増加しう
る(Hayami and Ruttan 1985)
。しかし、非
効率なマーケティングシステムの下では、
現在入手可能な技術に化学肥料を投入する
ことにより利益を得ることは難しい(Pender
et al. 2004b, Otsuka and Kalirajan 2005,
2006)
。マーケティングシステムを改善し、
より収益性の高い技術の開発がなされない
限り、肥料の投入も農業生産も増加しない
であろう。
近年、ウガンダ政府はネリカ米(アフリ
カの環境に適した高収量陸稲品種 New Rice
for Africa の頭文字を取った通称)を貧困削
減策のひとつとして導入した。現在ほとん
どの農家は肥料を使わずにネリカ米を栽培
しているが、平均収量は1ヘクタール当たり
2.3トンと高く、これは SSA における従来の
2006年11月 第32号 21
陸稲の平均収量の2倍以上である(Kijima et
al. 2006)。この高収量性のため、ネリカ米は
稲作生産量と農家所得を増加させうるとし
て期待されている。
ここで重要な問題は、どの程度ネリカ米
は貧困削減や所得分布に影響があるかであ
る。なぜなら、たとえ平均的に所得を増加
させるとしても、相対的に富裕な農家がネ
リカ米の生産をより大規模で行えば、ネリ
カ米の導入が所得分布を悪化することにな
りかねないからである。本研究の目的はこ
うした問題を実証的に分析し、政策的に含
意を得ることにある。我々は2005年にウガ
ンダの10のネリカ米生産地域において家計
調査を実施し、ネリカ米栽培農家に関する
詳細なデータを収集した。
本論の構成は、第1章で使用するデータ
について説明した後、ネリカ米生産地域や
農家の特徴を整理し、第2章で既存の作物
とネリカ米の技術的な相違点を検証する。
第3章では、農業所得やネリカ米栽培面積
の決定因を計量分析し、その結果を使って
ネリカ米の所得・貧困・所得分布の効果を
推定する。最終章では結論を述べる。
第1章 データ
1. サンプリング
ウガンダの多くの地域で2つの耕作シー
ズンがある。東部では2月から6月の第1
耕作シーズンが、中部と西部では9月から
11月までの第2耕作シーズンがより長く安
定的な降雨を期待できる。ネリカ米は成熟
までの期間が短く旱魃に強いと言われてい
るが、ウガンダではネリカ米を年に二度植
えることはほとんどない。2004年の第1耕作
シーズンは深刻な旱魃により、東部地域で
ネリカ米生産が壊滅的な打撃を受けたため、
中部と西部からサンプル地域を選んだ。
サーベイの行われた2005年2月の時点で、
ネリカ米栽培農家数は政府の普及プログラ
ムがある地域において増加していたが、そ
れ以外の地域ではネリカ米栽培農家数は非
常に限られていた。2005年に実施されたよ
り広範な地域から無作為に調査地を選択し
た家計調査によると、水稲と陸稲を栽培し
ている農家の割合はそれぞれ4.6%と1.7%で
あり、ネリカ米に限っては0.7%に過ぎない
ことがわかった(Kijima and Sserunkuuma
2006)
。よって、厳密な統計分析を行うため
には意図的にネリカ米が栽培されている地
域を選択しなければならなかったのである。
10のサンプル地域は、より広範囲の地域
を網羅するよう選んだ。各地域から2004年
の第2耕作シーズンにネリカ米を栽培した25
家計を無作為に選択した。ネリカ米栽培農
家数の割合が地域によって異なるため、各
地から同数の家計を選ぶと実際の母集団よ
りもある地域のネリカ米農家を過小(また
は過大)評価する可能性がある。この問題
をコントロールするために全ての分析でサ
ンプリングウェイトを使う*1。
2.サンプル地域と
ネリカ米栽培家計の特徴
図表1はサンプル地域の特徴を示してい
る。ほとんどの地域で年間降雨量が、陸稲
生産に最低限必要といわれている1,200mm
以上ある。最寄りの町までの車での所要時
間は10分から2時間とサンプル地域間で違
いがあるが、全サンプル地域に耕作地のほ
かに休耕地や未開拓地が存在していること
が図表1からわかる。ネリカ米耕作地面積
は、2004年にネリカ米を新たに導入した地
域では0.2ヘクタールと限られているが、そ
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 サンプリングウェイトは、地域ごとの [ 全ネリカ米生産家計数 / サンプルとして選ばれたネリカ米生産家計数 ] として計算され
る。
22 開発金融研究所報
図表 1.サンプル地域の特徴 (降雨量、最寄町までのアクセス、土地利用)
サンプル地域
Masindi
Kobaale
Kamwenge
Hoima
Luwero
Mbarara
Wakiso
Mpigi
Mubende
Kiboga
2003 年
年間
降雨量
(mm)
1294
1602
643
1530
1373
765
1460
1454
1248
818
最寄町まで
の自動車で
の所要時間
(分)
70
60
60
30
50
40
25
10
120
45
最寄町
までの
距離
(km)
21
17
16
9
17
13
7
2
25
8
一家計あたりの平均面積(ha)
耕作地
休耕地
ネリカ米
耕作地
3.42
1.88
1.57
1.36
1.95
1.20
1.08
1.70
2.11
2.63
1.65
4.04
1.16
2.12
0.99
1.25
0.97
1.71
1.60
3.29
0.32
0.54
0.41
0.34
0.41
0.19
0.32
0.32
0.22
0.29
ネリカ米
導入年
n.a.a
2001
2001
2002
2003
2004
2004
2004
2004
2004
出所)ネリカ米コミュニティー調査データ
a ネリカ米が初めに導入された年が不明。
れ以前に導入した地域では約0.4ヘクタール
に達している。
図表2は調査家計の特徴を一人当たり所
得4分位別に示している。いくつかの重要
な点を挙げると、第1に、一人当たりの土
地面積は一人当たり所得と正の関係があ
る。これは土地が所得の重要な生産要素で
あることを示唆し、伝統的な農業で見られ
る結果である。第2に、ネリカ米耕作面積
は高所得家計でより広く、ネリカ米耕作地
の全耕作地面積に占める割合は低所得家計
において高いことである。このことは、低
所得家計がネリカ米栽培に不利な立場には
ないということを示し、アジアにおける緑
の革命の経験と類似している(David and
Otsuka 1994)
。第3に作物生産が所得の
70%に寄与し、特に稲作生産は所得の36%
を占めている。また、稲作からの所得シェ
アは低所得家計(下位50%)においてより
高いことから、ネリカ米生産が pro-poor 効
果を持ちうることを示唆している。
3.ネリカ米導入による
作付けシステムの変化
肥料の投入や作付けパターンを所得4分位
別に示した図表3によると、どの所得4分位
においても有機肥料(堆肥や厩肥)
・化学肥
料はほとんど使われていないことがわかる。
有機肥料の投入を妨げている理由としては、
東アフリカにおいて堆肥の主要な源となる
改良牛の普及がウガンダではあまり進んで
い な い こ と(Otsuka and Yamano 2005)、
堆肥を投入する際に必要な労働力が不足し
て い る こ と(Sserunkuuma 2005) な ど が
考えられる。ネリカ米栽培においても化学
肥料が使われていないのは、化学肥料の価
格がアジア諸国と比べ非常に高いためであ
る(Otsuka and Kalirajan 2005, 2006) *2。
それでは、どのようにして土壌の肥沃度は
保たれているのであろうか。調査によると、
農家は主に輪作によって土壌の肥沃度を維
持する努力を行っていることがわかった。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 ウガンダにおける肥料の値段は他の東アフリカ諸国と比べても高く、ナイロビやダルエスサラームの2倍以上との報告がある
(Nkonya et al. 2005)
。
2006年11月 第32号 23
図表2.サンプル家計の特徴(一人当たり所得 4 分位別)
一人当たり所得 (US$)
作物所得シェア(%)
家畜所得シェア(%)
稲作所得シェア(%)
平均
170
70
10
26
1
41
75
15
27
ネリカ米栽培面積 (ヘクタール)
全土地面積に占めるネリカ米栽培面積の割合(%)
土地面積(ヘクタール)
世帯員数
家計世帯主就学年数
一人当たり土地面積 (ヘクタール)
0.47
17.5
4.1
7.7
5.6
0.56
0.39
16.5
3.0
9.1
5.5
0.33
一人当たり所得 4 分位
2
3
4
100
168
363
81
65
60
6
11
8
36
20
21
0.43
22.5
3.7
6.7
5.8
0.55
0.57
12.5
5.3
8.2
4.9
0.65
0.52
18.5
4.5
6.8
6.0
0.72
出所)ネリカ米家計調査データ
よって、第3章で作付けパターンが収量や
所得にどのような影響を与えるかを分析す
る前に、ネリカ米の導入が作付けシステム
にどのような影響を与えたかを理解する必
要があろう。
まず強調したいのは、ほとんどのサンプ
ル地域でネリカ米は初めて栽培される陸稲
であり、ネリカ米を栽培するかどうかは米
の品種の選択ではなく、米という作物の選
択であるということである。多くの農家は
ネリカ米を栽培するために、休閑中の土地
を耕地に転換した。これは従来の作物(豆、
調理バナナなど)の面積を維持するためで
ある。ネリカ米が既存の作物に取って変わっ
たのは、ごく限られた地域においてであっ
た。例えば Hoima では、第1耕作シーズン
にタバコが植えられたプロットに、第2耕作
シーズンはメイズ、キビ、ネリカ米以外の
陸稲などが植えられていたが、ネリカ米導
入後、第2耕作シーズンにネリカ米が植えら
れるようになった。
図表3には、2004年第2耕作シーズンにネ
リカ米が植えられたプロットが、その前の
第1耕作シーズンにどのような作付けパター
ンであったかを示しており、40%のネリカ
米プロットは、その前の耕作期には休閑さ
24 開発金融研究所報
れていたことがわかる。残りは豆類、タバ
コ、米以外の穀物、根菜(甘藷、キャッサバ)
などが植えられていた。低所得層はネリカ
米を休閑地に植え、高所得層はタバコが植
えられた後のプロットにネリカ米を植える
傾向がある。また、地域により作付けパター
ンが異なることがわかる。
図表4はネリカ米の収量を一耕作期前に
植えられた作物別に示したものである。休
閑地、またはタバコやマメ科の作物の次に
ネリカ米が植えられると、ネリカ米の収量
はメイズの次に植えた場合よりも高い。こ
れは、タバコ栽培に化学肥料が投入される
ことにより、次耕作期にも十分な養分が土
壌 に 残 存 し て い る こ と や、 マ メ 科 の 植 物
には空中窒素を固定する働きがあることに
よって説明されよう。
第2章 ネリカ米の特性
ネリカ米の所得への効果を分析する前に、
要素シェア分析(Factor share analysis)を
することにより、サンプル家計が栽培して
いる作物(豆やメイズ)と比べて、ネリカ
米がどのような要素をより多く使用する技
図表 3.調査家計の肥料投入と作付けパターン(一人当たり所得4分位別)
堆肥が投入
されたネリカ
米プロットの
割合(%)
平均
1
化学肥料が 化学肥料が投入
された代替作物
投入された
プロットの割合
ネリカ米プロ
ットの割合(%)
(%)
前期の利用が以下であるネリカ米プロットの
割合(%)
米以外
の穀類
豆
タバコ
休閑
地
根菜
類
9
2
18
21
15
40
6
1
1
1
1
11
1
12
12
2
0
6
13
24
19
13
17
23
20
17
23
1
8
25
23
47
47
33
34
5
5
12
3
7
0
0
0
0
0
0
3
0
0
17
8
7
12
0
0
0
24
19
22
8
4
0
0
3
0
0
0
7
4
45
29
22
0
0
25
11
5
40
55
0
33
41
5
4
0
11
5
25
0
0
8
0
63
0
25
0
0
0
15
45
25
33
26
88
25
68
65
30
30
9
4
4
5
8
25
11
25
5
0
一人当たり所得4分位
1
2
3
4
サンプル地域
Masindi
Kibaale
Kamwenge
Hoima
Luwero
Mbarara
Wakiso
Mpigi
Mubende
Kiboga
出所)ネリカ米家計調査データ
図表 4.ネリカ米収量、収入、支出、所得 前期の作付けパターン
タバコ
マメ科
休閑地
米以外の穀類
収量 (トン/
ヘクタール)
収入 (ドル/
ヘクタール)
支出 (ドル/
ヘクタール)
所得 (ドル/
ヘクタール)
3.38
(1.33)
2.64
(1.25)
2.39
(1.22)
2.42
(1.52)
946
(431)
642
(311)
660
(342)
624
(401)
106
(93)
171
(129)
168
(137)
153
(118)
840
(413)
472
(260)
491
(363)
471
(373)
注)カッコ内の数値は標準偏差。
術であるのか、どの要素が相対的により多
くの収益を得ているのかを明らかにしたい。
要素シェア分析は新しい技術や作物が導
入される際に広く使われている手法である
(David and Otsuka 1994)
。こうした比較を
するために、ネリカ米が植えられていたプ
ロットの近くで作られていた作物を「代替
作物」として選び、ネリカ米と代替作物の
生産に関するデータ(収穫物の総額、購入
された現物投入、生産に費やされた家族労
2006年11月 第32号 25
a
図表 5.作物別要素支払い(ドル / ヘクタール)
サンプル数
総収益
現物投入
所有
購入
b
資本
所有 b
雇い入れ
労働
家族労働 b
雇い入れ労働
残差 (利潤)
土地貸し出しからのレント
純利益
ネリカ米
240
731.8
(100)
52.4
(7.2)
31.7
20.7
マメ科
44
271.2
(100)
27.1
(10.0)
8.0
19.1
米以外の穀類
127
254.8
(100)
21.8
(8.7)
11.2
10.6
0.7
(0.1)
0.1
0.6
0.0
(0.0)
0.0
0.0
4.8
(0.0)
2.2
2.6
673.4
(92.0)
570.4
103.0
255.2
(94.1)
194.2
61.0
239.8
(95.8)
164.0
75.8
5.3
(0.7)
2.0
3.3
‑11.1
(‑4. 1)
0.0
‑ 11.1
‑11.6
(‑4. 6)
2.1
‑ 13.7
a 調査時点でのウガンダシリングのアメリカドルへの為替レートは Shs 1700 = US $1.00. カッコ内の数値は要素シェア(%)
。
b 家族労働は農作業ごとの市場賃金レートを使い、所有資本は市場レンタル料、前年から持ち越しの種子や無料で取得した種子や化学肥料は市場の価格で評価した。
働、雇い入れ労働・機械レンタル費用など)
を収集した。地理的に近くに位置する作物
を選んだのは、ネリカ米が代替作物よりも
肥沃度の高い土地に植えられたために、ネ
リカ米生産からの所得が高くなる可能性を
最小限に抑えるためである。よく見られる
代替作物はメイズと豆である。
図表5は、2004年第2耕作シーズンの1
ヘクタールあたりの要素支払いと要素シェ
アを表示している。ネリカ米からの収穫物
の総額は代替作物の2.7-2.9倍であり、ネリ
カ米はウガンダでは高価作物であることが
わかる。同様に、他のカテゴリーに分類さ
れる投入物への要素支払いは、代替作物に
26 開発金融研究所報
比べてネリカ米生産において高い。このこ
とはネリカ米を導入することにより、資本
を除く全ての要素投入へのリターンが高く
なることを意味する。家族労働への要素支
払い額はネリカ米生産において高くなって
いるが、労働への要素シェアは豆やメイズ
と 同 様、92-96% を 占 め て い る。 よ っ て、
ネリカ米の導入は要素中立的技術変化と類
似していると言えよう。ネリカ米生産は労
働需要を増加させるので、家族労働力が豊
富な貧しい家計の所得状況の改善につなが
ると考えられる。
図表5に見られるように、推計された土地
へのリターンはネリカ米生産において高く、
a
図表 6.ネリカ米栽培面積決定因分析 (最小二乗法)
平均
(標準偏差)
2004 年以前のネリカ米栽培年数
2004 年以前のネリカ米以外の稲作経験年数
男性世帯員(年齢 15‑5 9 歳)割合
女性世帯員(年齢 15‑5 9 歳)割合
世帯主就学年数
世帯主年齢/100
女性世帯主ダミー
世帯員数
全所有農地面積 (ヘクタール)
一人当たり所有農地面積
(ヘクタール)
家畜保有額 b
(1 億ウガンダシリング)
家計資産額 c
(1 億ウガンダシリング)
肥料・種販売業者までの距離 (km)
0.13
(0.43)
0.36
(1.76)
0.244
(0.165)
0.214
(0.147)
7.15
(4.04)
0.434
(0.138)
0.079
(0.27)
7.70
(3.56)
4.15
(4.01)
0.565
(0.482)
4.734
(8.112)
2.406
(5.997)
13.14
(14.23)
切片
地域ダミー
サンプル農家数
決定係数
ネリカ米栽培面積
(ヘクタール)
(1)
(2)
0.082** 0.100**
(3.92)
(4.64)
‑0.00 7
‑0.00 6
(1.38)
(1.19)
0.156
0.136
(1.28)
(1.01)
‑ 0.008
0.169
(0.05)
(1.19)
0.002
0.004
(0.36)
(0.76)
‑0.29 7*
‑0.16 3
(2.07)
(1.09)
0.022
0.013
(0.35)
(0.19)
0.016**
(3.00)
0.016**
(3.02)
0.021
(0.52)
0.911
3.804
(0.42)
(1.72)
2.124
1.954
(0.77)
(0.68)
0.004
0.004*
(1.77)
(2.01)
0.135
0.174
(1.09)
(1.36)
Yes
Yes
240
240
0.37
0.30
全土地面積に占める
ネ リカ米栽培面積の割合
(3)
(4)
0.007
‑0.00 7
(0.55)
(0.60)
‑0.00 7*
‑ 0.007*
(2.39)
(2.57)
‑0.01 5
0.109
(0.21)
(1.46)
0.044
‑0.06 7
(0.53)
(0.84)
0.005
0.005
(1.76)
(1.80)
‑0.21 1*
‑ 0.218**
(2.48)
(2.63)
0.077*
0.103**
(2.06)
(2.77)
‑0.00 2
(0.69)
‑0.01 6**
(4.99)
‑ 0.137**
(5.97)
‑1.26 7
‑2.5 54*
(0.98)
(2.07)
‑1.00 5
‑0.99 1
(0.62)
(0.62)
0.001
0.001
(0.65)
(1.07)
0.273**
0.282**
(3.71)
(3.98)
Yes
Yes
240
240
0.28
0.30
** , * はそれぞれ有意水準1% , 5% を意味する。
a 第1列を除くカッコ内の数値はt値。第1列の数値は標準偏差。
b 家畜には牛、ヤギ、豚、鶏が含まれる。
c 家計資産には自転車、バイク、車、携帯電話、ラジオ、テレビ、水タンクが含まれる。
これはネリカ米が代替作物よりも高い利潤が
見込まれる作物であることを示している*3。
ネリカ米の残差利潤が非常に小さい理由とし
て、ウガンダの労働市場の不完全性により、
労働雇用のコストが家族労働の機会費用より
も高く、家族労働を雇い入れ賃金率で評価し
たことにより費用が過大評価されている可能
性があることが考えられよう。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*3 生産関数が一次同次で市場が競争的であるとき、土地への要素支払いは、現物投入、資本、労働への実際の費用と市場価格で
評価した所有資産への支払いを、収穫物の総額から差し引いた残差として推計される。保有資産の場合は、各地域の市場にお
ける雇い入れ労働の賃金率(農作業、男女別)
、機械の場合はレンタル費によって計算した。
2006年11月 第32号 27
第3章 所得への効果
1.ネリカ米栽培面積の決定因
ネリカ米の所得への効果はネリカ米の栽
培面積に依存するので、はじめにネリカ米
の栽培面積がどのような要因によって決定
されるのかを分析する。我々の仮説は、貧
しい家計は土地面積あたりの労働人口が多
いため、より多くネリカ米を栽培する傾向
があるというものである。
この仮説の妥当性を検定するために、2
つの被説明変数(1)ネリカ米栽培面積、
(2)
ネリカ米栽培面積の全土地面積に占める割
合、を使用する。全サンプル家計はネリカ
米を栽培しているので、最小二乗法によっ
て分析する。各被説明変数に対して、土地
と労働の希少性を表す説明変数として、
(a)
世帯員数と土地面積、
(b)一人当たり土地
面積、を使った推定式を分析する。説明変
数の記述統計と推定結果を図表6に示す。
ネリカ米栽培面積決定関数において、一
人当たり土地面積は有意な効果はないが、
世帯員数の係数は正で有意である。このこ
とは、より多くの家族労働や土地を保有す
る家計はネリカ米をより大きな規模で栽培
することを意味するので、家族労働や土地
の入手可能性によってネリカ米栽培面積が
制限される可能性があることを示している
と言えよう。
しかし、ネリカ米栽培面積シェア決定関
数においては、労働・土地比率の係数は負
で有意であるので、一人当たりの土地が少
ない家計がよりネリカ米栽培に熱心である
ことがわかる。また、女性が家長である家
計はより貧しいことが多いのだが、そうし
た家計でより多くの土地をネリカ米栽培に
割り当てている。このように、貧困家計は
ネリカ米栽培により多くの土地を割り当て
ることにより、ネリカ米の導入は貧困の削
減と所得分布の改善につながると考えられ
る。
28 開発金融研究所報
2.生産管理の作物所得への効果
作物生産からの所得は、その作物の品種・
技術的性質のみでなく、作付けパターンな
どの管理方法によっても決定されうる(第
2章)
。しかし、ある特定の作付けパターン
の選択は、土壌の肥沃度や生産者の作付け
に関する管理能力などに依存していると考
えられる。これらの関係を切り離し、ネリ
カ米導入の純粋な効果を明らかにするため
に、各家計からネリカ米と代替作物の2つ
の隣接したプロットで得られた所得の決定
因を家計レベルの固定効果モデルを使って
分析する。実証モデルを次のように特定化
する。
y ij =βXi +δMij +αi +εij ,
そこで y ij は家計 i 、プロット j (ネリカ米
か代替作物)からの所得 ; Xi は家計 i の家計
の特徴を表す一連の変数 ; Mif は家計 i , プロッ
ト j における作付けパターンダミー ; αi は
家計 i の観察不能な特徴を表す変数 ; εij は
エラータームである。
ネリカ米と代替作物のプロットレベルの
所得は、家計の特徴とそのプロットの作付
けパターン(2004年第1・第2耕作シーズ
ンにおける土地利用により表す)の関数と
する。作付けパターン以外の管理法(植え
付けのタイミング、適切な除草など)もネ
リカ米からの所得を増加させうるので、第
2・第3の特定化では、作付けパターン以
外の管理法の代理変数として稲作経験年数
を、説明変数として使用する。家計レベル
の固定効果モデルを使用しているため、ネ
リカ米プロットダミーと稲作経験ダミー(稲
作経験があれば1、なければ0)を説明変
数として追加する。ネリカ米とネリカ米以
外の稲作経験の有無が所得に与える影響が
異なる可能性があるため、第3の特定化で
は稲作経験をネリカ米栽培経験とネリカ米
以外の稲作経験とに分ける。
図表7第1列に示された結果によると、第
図表7.プロットレベルの所得決定関数の推定結果(USD 100/ ヘクタール),
家計レベルの固定効果モデルa
作付けパターンダミー b
(2004 年第 1 期 ‑ 第 2 期作付けシーズン)
穀類
ネリカ米
豆類
ネリカ米
根菜類
ネリカ米
タバコ
ネリカ米
未開拓地
ネリカ米
休閑地
ネリカ米
穀類
豆類
豆類
豆類
根菜類
豆類
タバコ
豆類
未開拓地
豆類
休閑地
豆類
穀類
根菜類
豆類
根菜類
根菜類
根菜類
タバコ
根菜類
未開拓地
根菜類
休閑地
豆類
根菜類
穀類
根菜類
タバコ
穀類
穀類
未開拓地
休閑地
穀類
穀類
多数作物作付けプロットダミー
(1)
(2)
(3)
2.281
(1.52)
3.355*
(2.25)
2.450
(1.00)
7.630**
(4.71)
4.769*
(2.38)
3.085*
(2.12)
‑2.63 6
(‑1. 11)
1.174
(0.40)
‑2.52 1
(‑0. 99)
‑2.1 94
(‑0. 75)
‑0.5 70
(‑0. 09)
‑1.1 27
(‑0. 57)
‑1.7 12
(‑0. 62)
3.293
(1.31)
0.727
(0.37)
0.889
(0.19)
‑0.9 71
(‑0. 08)
‑1.3 12
(‑0. 63)
‑1.9 55
(‑0. 85)
‑0.5 43
(‑0. 19)
2.284
(0.79)
0.694
(0.36)
‑0.6 70
(‑0. 39)
0.232
(0.22)
0.700
(0.46)
2.068
(1.39)
0.701
(0.29)
5.140**
(2.98)
4.065*
(2.08)
2.317+
(1.62)
‑0.91 3
(‑0. 39)
3.413
(1.17)
‑2.01 2
(‑0. 81)
‑ 0.451
(‑0. 16)
0.880
(0.15)
0.960
(0.48)
‑ 1.202
(‑0. 45)
4.678+
(1.89)
0.694
(0.36)
1.692
(0.37)
‑ 1.675
(‑0. 15)
‑ 0.191
(‑0. 09)
0.105
(0.05)
1.542
(0.54)
2.539
(0.91)
2.378
(1.23)
0.805
(0.47)
0.737
(0.71)
3.798**
(3.46)
0.717
(0.46)
2.099
(1.39)
1.793
(0.73)
6.745**
(4.00)
4.540*
(2.31)
3.086*
(2.16)
‑1.85 7
(‑0. 78)
2.430
(0.84)
‑2.26 5
(‑0. 91)
‑0.7 71
(‑0. 27)
‑ 0.417
(‑0.0 7)
0.203
(0.10)
‑0.5 44
(‑0. 20)
4.780+
(1.90)
1.174
(0.61)
0.587
(0.13)
‑1.2 00
(‑0. 10)
‑0.2 77
(‑0. 13)
‑ 0.615
(‑0.2 6)
0.077
(0.03)
1.939
(0.68)
1.603
(0.83)
0.358
(0.21)
0.943
(0.89)
ネリカ米プロットダミー × 稲作経験ダミー
ネリカ米プロットダミー × ネリカ米栽培経験ダミー
ネリカ米プロットダミー×ネリカ米以外の稲作経験ダミー
サンプル農家数
決定係数
(自由度修正済み決定係数)
428
0.72
(0.26)
428
0.74
(0.31)
3.291**
(2.95)
1.294
(1.27)
428
0.74
(0.30)
a カッコ内の数値は t 値。
** , * はそれぞれ有意水準1% , 5% を意味する。
b 作付けパターンダミーのデフォルトカテゴリーは穀類-穀類。
2006年11月 第32号 29
1耕作シーズンに豆やタバコが栽培され、
第2耕作シーズンにネリカ米が栽培された
プロットにおいて、ネリカ米栽培からの所
得が、米以外の穀物が少なくとも2期続けて
植えられたプロット(推定式のデフォルト
カテゴリー)からの所得よりも有意に高い
ことがわかる。ただし、ネリカ米からの所
得は、ネリカ米が穀類の後に栽培された場
合には有意に高くはない。この結果はネリ
カ米が土壌養分に反応しやすい品種であり、
化学肥料を投入したタバコ栽培の後や、空
中窒素を固定する豆栽培の後にネリカ米を
植えることが望ましいことを示している。
第3列の結果で、ネリカ米プロットとネリカ
米栽培経験ダミーの交差項の係数が正で有
意であることから、ネリカ米栽培経験があ
る家計はより高い所得を得ていることがわ
かる。このように、ネリカ米の栽培が所得
に与える効果は、どのような作付けパター
ンが取られるかに依存しているといえる。
第3列の結果によると、作付けパターン
を「第1耕作シーズン:休閑地-第2耕作シー
ズン:米以外の穀類」から 「休閑地-ネリ
カ米」 に変えると1ヘクタールあたりの所得
が273ドル、または「タバコ-米以外の穀類」
から 「タバコ-ネリカ米」 に変えると481ド
ル増加することを示している。稲作経験が
ある場合には、これらの変化が602ドルと
810ドルに増える。サンプル家計の平均所得
が1,044ドルであったことを考慮すると、ネ
リカ米導入の所得への効果は無視できない
大きさであることがわかる。
3.貧困削減と所得分布への影響
ネリカ米導入の貧困削減と所得分布への
影響を考察するために、3つのシナリオの
下での仮説的な所得を推計する。第1のシナ
リオは、ネリカ米が導入されず、実際にネ
リカ米が植えられたプロットには代替作物
が植えられたというものである。例えば、
実際の作付けパターンが「タバコ-ネリカ
米」で、ネリカ米の代替作物が豆である家
30 開発金融研究所報
計の場合、第1のシナリオによる仮説的な所
得は、ネリカ米プロットの作付けパターン
は「タバコ-豆」となる。第3列の結果によ
ると、「タバコ-ネリカ米」 作付けパターン
からの1ヘクタールあたりの所得は、「タバ
コ-豆」 プロットからの所得よりも751.6ド
ル (6.745
[
+ 0.771)
×100] 高いことがわかる。
各家計でネリカ米栽培面積は異なるので、
得られる所得を計算する際には、各家計の
実際のネリカ米プロット面積で調整しなけ
ればならない。もしネリカ米プロットの大
きさが0.5ヘクタールであるならば、375.8ド
ル(751.6×0.5)を家計の全所得から差し引
いたものが、ネリカ米が導入されなかった
場合の所得となる。
第2のシナリオは、2004年以前にネリカ
米栽培経験が無い家計に、仮説的にネリカ
米栽培を経験させる場合である。ネリカ米
プロットダミーとネリカ米栽培経験の有無
ダミーの交差項の係数を使い、実際の所得
にネリカ米栽培経験があることによる追加
的所得 [329.1ドル×ネリカ米栽培面積(ha)]
を加えることにより仮説的所得2を計算す
る。このネリカ米栽培経験と所得の間の直
接的な効果に加えて、第3のシナリオでは、
ネリカ米栽培経験がネリカ米栽培面積を増
加させることによる間接的な所得増大効果
をも考慮する。図表6第2列によって示さ
れたように、ネリカ米栽培経験の1年の増加
は、ネリカ米栽培面積を0.1ヘクタール増や
す効果がある。
図表8は実際の一人当たり所得と推計さ
れた仮説的所得を比較している。仮説的所
得1は実際の一人当たり所得よりも平均で8
ドル少なく、全ての家計が少なくとも1年の
ネリカ米栽培経験があった場合の仮説的所
得2は実際の所得よりも16ドル(間接的な
効果を含めると40ドル)ほど高い。しかし、
これらの平均的な所得増大効果はネリカ米
導入が貧困を減らすことを意味しない。シ
ナリオ1によると、ネリカ米が導入されな
かった場合の貧困者比率は、ネリカ米が導
入された場合のものよりわずかに高い程度
図表8.実際の所得と仮説的所得からの貧困・不平等指標 一人当たり所得(US ドル)
貧困ライン = US 128 ドル
貧困者比率
貧困ギャップ比率
二乗貧困ギャップ比率
不平等指標
ジニ係数
タイル指標
対数分散
実際の
所得
155
仮説的 a
所得 1
147
仮説的 a
所得 2
171
仮説的 a
所得 3
195
50.8
24.3
15.4
52.1
26.7
18.0
43.6
18.1
10.8
33.3
13.5
7.5
0.411
0.290
0.822
0.428
0.311
0.825
0.392
0.269
0.655
0.373
0.250
0.526
b
a 仮説所得1はネリカ米が導入されず、代替作物がネリカ米プロットで栽培された場合の所得、仮説所得2は2004年以前にネリカ米を栽培した経験がない家計が、少なくとも1年
の経験があったとした場合の所得、仮説所得3は仮説所得2に加えて、ネリカ米栽培経験がネリカ米栽培面積を0.1ヘクタール増加させる間接的な効果を考慮した所得をさす。
b 貧困ラインは Yamano et al.(2004)で計算されたものを UBOS(2005)の消費者物価指数を使い、2005 年の物価水準に調整した。
だが、シナリオ2と3においては、全ての
貧困指標でネリカ米の導入が貧困を大きく
減少させる効果があったことがわかる。
不平等度の指標として用いたジニ係数、
タイル指標、対数分散の全てにおいて、ネ
リカ米の導入が所得分布を平等化する効果
があったことがわかる。これは、貧困家計
がより多くの割合の土地を、労働集約的な
ネリカ米生産に割り当てたためだと考えら
れる。
終章 結論
本稿は、ウガンダにおけるネリカ米をケー
スに取り、新しい農業技術がサブサハラ以
南のアフリカにおける貧困農家家計の所得
に与えうる影響を分析した。ネリカ米は一
人当たり所得の10-25%に相当する所得を
増加させる可能性があることが示された。
この結果は、伝統的な農業において、高収
益技術の導入が最も効果的な貧困削減策で
あるというシュルツの仮説(Schultz 1964,
1979)を支持する。しかし、我々の分析が
示したように、ネリカ米の所得増大効果は、
土壌肥沃度の維持に寄与する適切な作付け
パターンを用いることによってのみ実現さ
れうる。また、
稲作経験を積むことによって、
作物所得がさらに増加するという分析結果
を得た。これらの結果は、高収量・労働使
用技術の開発とともに、効果的な新技術の
普及、栽培方法などの情報の伝授が、貧困
家計の所得増大にとって必要不可欠である
ことを示している。
ウガンダは比較的雨量の多い地域が多い
こと、急速な都市化と人口増加による米需
要の増加により米価が比較的高いこと、タ
バコやコーヒーなどの伝統的な換金作物と
異なり米は食べることができるため、貧困
削減だけでなく食糧安全の点からも好まし
いと考えられていることなどから、国全体
にネリカ米が普及する可能性がある。しか
し、目下、ネリカ米を栽培している家計の
割合は国レベルで1%以下と非常に低く、
ネリカ米の導入に深刻な制約があることを
示 唆 す る。 考 え ら れ う る 制 約 の 一 つ は ネ
2006年11月 第32号 31
リカ米の種子の不足や非効率な extension
サービスである(Kijima and Sserunkuuma
2006)。この研究はネリカ米が導入された地
域において、ネリカ米による貧困削減効果
が大きいことを示したが、ウガンダの多く
の地域ではネリカ米による恩恵を享受する
に至っていないことを注意しておきたい。
また、我々の分析は一時点のデータに基づ
いており、ネリカ米の所得や貧困への長期
的な影響については分析範囲を超えている。
しかし、アジア諸国で収量の飛躍的な増大
を実現した緑の革命に相当しうる「ネリカ
米革命」がアフリカにおいておこるために
は、いかに土壌の肥沃度を維持するかが重
要となることをこの研究は示唆している。
ネリカ米生産において最も費用効率的でか
つ持続可能な土地管理法が何かは知られて
いない。ウガンダにおいてネリカ米による
持続可能な貧困削減を達成するためには、
土壌肥沃度への効果についての注意深い研
究が必要であろう。
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2006年11月 第32号 33
貧困削減におけるインフラの役割
スリランカ・パキスタンにおける JBIC 灌漑事業のインパクト評価 *
東京大学大学院 経済学研究科助教授 澤田 康幸
**
名古屋大学大学院 国際開発研究科助教授 新海 尚子
東京大学 菅原 慎矢
東京大学・クラーク大学 庄司 匡宏
開発金融研究所 開発研究グループ 桂井 太郎
要 旨
本論文では、ミクロ計量経済学の手法を用い、物的インフラが貧困削減、特に貧困動態に及ぼすイ
ンパクトを評価する。具体的には、JBIC の支援の下でスリランカとパキスタンで実施された大規模
な灌漑事業につき、世帯レベルの月次パネルデータを 24 ヶ月間にわたって収集し、計量経済学的な
分析を加えた。実証結果によると、消費の全般的低下と下方向への季節変動は灌漑地の世帯の方が天
水耕作地の世帯よりも有意に小さかった。これは、灌漑インフラが慢性的貧困と一時的貧困の両方に
対する削減効果を持つということを示している。二次的効果として、灌漑システムが整備されること
で世帯はより信用市場にアクセスしやすくなる傾向があることが分かった。さらに、パキスタンデー
タの分析結果は、灌漑設備の適切な維持・管理の重要性を示している。
第1章 はじめに
物的インフラには、大きく分けると道路・
電力・灌漑などの「経済インフラ」と、より
生活に密着した、上下水道・病院・学校など
の「社会インフラ」がふくまれる。これら
のインフラが生み出す経済効果については、
さまざまな実証研究が行われてきた。マク
ロ的な視点で実証的にインフラの役割を論
じたものには、Easterly and Rebelo
(1993)
,
Canning and Bennathan(2000)
, Canning
(1999)
, Lipton and Ravallion
(1995)
, Jimenez
(1995)
などがある。より最近の研究では、例
えば、Hulten, Bennathan, Srinivasan
(2006)
は、1972年から1992年のインドにおける登録
製造業のソロー残差・総要素生産性に対し
て、道路および電力供給力の改善が半分近
く寄与していることを示した。また、物的
インフラの生産性向上の効果は、農村地域
や農業部門においても確認される。たとえ
ば、Jimenez
(1995)は58カ国に関する異なる
研究をまとめ、灌漑や舗装道路、地方道路
の密集度が1%改善することで農業生産がそ
れ ぞ れ1.62%、0.26%、0.21% 向 上 し た と い
うことを示した。また、
Zhang and Fan
(2004)
や Fan and Zhang
(2004)
は地域レベルのデー
タを用いて、それぞれインドと中国におけ
るインフラの経済効果を測定している。
しかしながら、Lipton and Ravallion
(1995,
p.263)や Jimenez
(1995, p.2788)ら が 指 摘 し
ているように、貧困削減に対するインフラ
の役割についての綿密なミクロ計量的研究
は、従来ほとんどなされてこなかった。こ
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
* 本研究は、JBIC(国際協力銀行)開発金融研究所がスリランカ、パキスタンにおいてそれぞれ2000-2002年、2001-2002年に実施し
た調査によって収集された月次世帯パネルデータに基づいている。北野尚弘氏、青木昌人氏、Intizar Hussain 氏、Fuard Marikar 氏、
Sunil Thrikawala 氏には調査において多大なご協力をいただいた。また河合正弘氏、Carol A. Litwin 氏、若杉隆平氏からも多くの
貴重なコメントと提案をしていただいた。言うまでもないが、あり得べき誤りに関してはわれわれが一切の責任を負うものである。
** 連絡先:〒113-0033東京都文京区本郷7-3-1 東京大学経済学部 澤田康幸 email: [email protected]
34 開発金融研究所報
れは、最近までインフラ整備は貧困削減を
達成するための直接の手段として認識され
て こ な か っ た た め で あ ろ う。 し か し な が
ら、ごく近年、ミクロレベルでのインフラ
開発の貧困削減効果を分析している Van de
Walle(1996) や Jalan and Ravallion
(2003)
,
Lokshin and Yemtsov
(2004, 2005)
などの研
*1
究が出つつある。 Van de Walle
(1996)は、
ベトナムにおける1992-93年の世帯調査個票
データを用い、灌漑の貧困削減効果を推計
している。また、Jalan and Ravallion
(2003)
では、上水道設備の経済効果が特に貧困世
帯において非貧困世帯より強く見られると
している。Lokshin and Yemtsov
(2004,2005)
は、グルジアの農村地域において1998年か
ら2001年 の 間 に 実 施 さ れ た、 学 校、 道 路、
上水道システムといったコミュニティレベ
ルのインフラ設備改善プロジェクトの村単
位の貧困削減効果を推計している。この研
究は、プロペンシティ-スコア・マッチン
グ(propensity score matching)
、
「差の差の
手 法(difference in difference method)
」な
ど、ミクロ計量経済学的なプログラム評価
の手法を駆使しながら、正確なインパクト
評価を行っている点が特筆される。この研
究では、特に教育インフラの貧困世帯グルー
プへの正の効果が大きく、道路については
指標によって貧困削減効果が見られるもの
の、上水道についてはあまりその効果にグ
ループ間の差が見られないとしている。
これらは、いずれもミクロレベルでのイ
ンフラ開発の貧困削減効果を検証している
ものであり、研究の方向性としては正しい
と考えられるが、共通した問題点は、静学
的な貧困、つまり一時点での貧困状態のみ
を分析対象にしていることである。Dercon
ed.(2005)や Fafchamps
(2003)
などにまとめ
られているように、最近の貧困研究は、時
間を通じた「貧困動態
(poverty dynamics)
」
を重視している。そして、静学的な貧困分
析に基づいた政策介入を行うことは大きな
政策の非効率性をもたらすことが知られて
い る た め[Jalan and Ravallion,(1998a)]、
インフラの貧困削減効果も動学的な枠組み
の中で議論される必要がある。しかし、イ
ンフラが貧困動態に与える影響を詳細に検
証した研究は見当たらない。
本稿はこれら既存研究における残された
課題に対して、スリランカ・パキスタンで
行われた灌漑事業に関する世帯レベルの独
自の月次パネルデータを分析し、インフラ
が貧困動態に与える影響を数量化しようと
する試みである。本稿は以下のような構成
になっている。第2節では、われわれの理
論的な枠組みを紹介する。つづいて第3節
ではデータ収集の手順、すなわち調査地域
環境や標本調査の手法、標本の構造、記述
統計量の説明を行う。第4節ではモデルの
推計方法とその結果を取りまとめ、最後に
分析結果に考察を加える。
第2章 貧困削減におけるインフ
ラの役割:理論的枠組み
従来幅広く用いられてきた貧困概念は、
Foster, Greer, Thorbecke
(1984)の貧困指標
によってまとめられる、貧困人口比率、貧
困ギャップ比率、貧困2乗ギャップ指標な
どである。しかしながら、これらの指標は
ある一時点での貧困状態を数量化するもの
であり、時間を通じた貧困状態の変化(貧
困動態)を把握するには不適切である。最
近の貧困についての研究は貧困の動態的側
面に注目しており、とりわけ慢性的貧困と
一時的貧困との違いの重要性を強調してい
る[Lipton and Ravallion(1995)
; Morduch
(1994)
]
。 慢 性 的 貧 困 と は、 世 帯 の 所 得
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 さらに、必ずしもインフラの貧困削減効果を評価したものとは限らないが、ミクロデータを使いながら、インフラのインパク
トを検証している研究として、上水道や公衆衛生設備の改善の効果を計測した Brockerhoff and Derose (1996)、道路へのアク
セスの効果を示した Jacoby(2000)などがある。
2006年11月 第32号 35
あるいは消費がつねに貧困線を下回って
い る 状 態 と 定 義 さ れ る。 つ ま り 恒 常 所 得
(permanent income)が貧困線を下回って
いる状態と同義である。他方、一時的貧困
とは、恒常所得あるいは平均消費は貧困線
を上回っていながら、貧困線を一時的に下
回ってしまう危険性に直面している状態を
言う。Morduch
(1994)はこの一時的貧困を
「 確 率 的 貧 困(stochastic poverty)
」と呼ん
でいる。
我々は、物的インフラには、生産性を向
上させることで慢性的貧困を減らすだけで
なく、所得を安定させることにより特に一
時的貧困を削減する効果があることに注目
する。発展途上国の特に半乾燥地域では、
降雨量の変動によって農業生産が大きな影
響を受けるため、農民の生活水準の季節変
動が激しい。特に乾季においては十分な降
雨が得られないため、生産性の高い農業生
産に従事することは困難である。このよう
な状況では、農業主従事者にとって農業生
産の季節変動が一時的貧困を生む原因と
なってしまう。ここで、灌漑インフラに代
表される、農業用水確保のためのインフラ
が整備され、雨季・乾季によらず安定した
農業用水が得られれば、降雨量が少なく、
一時的貧困が発生しがちな乾季においても
さまざまな農業生産が可能となり、一時的
貧困の削減に大きな貢献を与える可能性が
高い。
1.理論モデル
灌漑インフラが慢性的貧困と一時的貧困
の双方に与える影響について理論的・実証
的に分析するため、我々は標準的な世帯の
異時点間効用最大化モデルを拡張する。こ
の論文で取り扱う問題は、本来、天候に左
右される所得の季節変動が灌漑インフラへ
のアクセスのしやすさによって変化するの
か、そして変化するのであれば、どのよう
に変化するのかという問題である。ここで
はとりわけ、所得と消費を外生的な季節変
36 開発金融研究所報
動から守る効果を持つという物的インフラ
の役割を評価することに注目した。
以 下 で は、 理 論 枠 組 み と し て、Paxson
(1993)による季節別の消費決定に関する異
時点間モデルに、信用市場へのアクセスや
資金の借入への制約があるという意味での
流動性制約を導入することで拡張する。各
世帯は生涯効用を予算制約のもとで最大化
し、季節ごとの消費水準を決定する。当面、
世帯は信用市場に自由にアクセスできると
する。具体的には、t 年の季節 j における 世
帯 i の消費 Cjt について、時間に関して加法
分離的である効用関数を仮定する。瞬時的
(各時点における)効用関数は、相対的リス
1-α
=α(
ク回避度αが一定の関数,U(Cjt)
j Cjt)
-1
(1-α) で記述されるものと仮定する。ただ
し、ここでαj は選好パラメータである。さ
らに、以下では単純化のため、2季節のモ
デルを想定する。つまり j = 0 または 1 である。
最終的に、世帯の意思決定は、季節別の割
引率を用いて計算される生涯の期待効用が
最大になるような消費経路 Cjt を選択するこ
とになる。季節別の所得を,Yjt, 期首の世帯
資産残高を,W, 季節間の利子率を r として
R=1+r と定義すると、Paxson
(1993)によっ
て定式化されたように、世帯の異時点間の
効用最大化問題は以下のようになる:
(1)
Max
{C jt }
∞
∑β
2t
t=0
α0t C 0t
1− a
1
a
α1t C1t
+β
1− a
1
a
(2)
∞
s.t.
∑
R
t=0
−2t
P0 C 0t +
P1 C
1t
R
∞
∑R
=W +
t=0
−2t
Y0t +
Y1t
R
,
こ こ で、Pj は 毎 年 季 節 j に お け る 消 費
財 価 格 で あ る。
「消費の傾斜
(consumption
R=1
tilting)
」 が 無 く、 β
で あ る と す る と、
季節 j の最適消費額は以下のようになる:
(3)
Ej
*
= P j C j =ω j RП こ こ で、Y を 2 季 節 の 消 費 総 額 と す る
と、 Π は Y=RΠ を 満 た す 変 数 で あ り、 総
資産、すなわち初期資産と人的資産の総和
で あ る。Paxson
(1993)が 示 し て い る よ う
に、ωはω1+ω2 = 1 を満たす、季節別の消費
ウェイトであり、効用関数の季節別選好パ
ラメータと、季節別消費財価格を含むもの
となる。結局のところ
(3)式は、ライフサイ
クル恒常所得
(life-cycle permanent income
hypothesis: LC-PIH)を季節別消費に拡張し
たものである。
ここまで、信用市場へ自由にアクセスで
き る こ と を 想 定 し て き た。 以 下 で は、 流
動性制約の可能性を考慮するために、まず
Flavin(1981)と Paxon
(1993)に 従 い、 季 節
別消費額は(3)式で示される季節別最適消費
と、季節別所得の加重平均であるとする:
(4) E j
*
= 1 −π E j +πY j
ただしπは流動性制約の度合いを示すパ
ラメータである。π= 0 のとき流動性制約は
季節別消費の制約となっておらず、π= 1 の
ときには流動性制約が季節別消費の制約に
なっていると考えることができる。Y=RΠ
であるので、
(4)式はさらに次のように書き
換えることができる:
(5) E j
ここで、Aj≡Yj / Y、つまり年間所得のう
ち季節 j で得た所得のシェアである。
(5)式
を対数線形近似すれば、結局、以下のよう
な季節消費に関する構造モデルが得られる:
= ln Y +ω j 1 −π +πAi −1
(7)
Z
ln E j = ln Y +γj +γj Z + u.
ただし、Z は灌漑へのアクセス有無を示
すダミー変数でありγj は季節別の切片であ
る。この季節別の切片は全世帯に共通する
各季節特有の選好パラメータと、灌漑への
アクセスがないグループ(Z = 0 のグループ)
における季節別所得の変動との両方が消費
に与える影響を反映している。留意すべき
は
(6)式においてπ= 0 のとき、
(7)式におい
ては、Z = 1 である世帯のパラメータγZj がそ
ろってゼロになるはずであるということで
ある。
Z = 1 で あ り 灌 漑 へ の ア ク セ ス が あ る グ
ループは、処置グループ
(treatment group)
と呼ぶことができ、Z = 0 の地域は比較対照
グループ
(comparison group)である。した
がって、
(7)式におけるγZj は、灌漑インフ
ラのプログラム効果
(program effect)
を示し
ていることになる。したがって、
(7)式のγZj
を推計することで、灌漑インフラのインパ
クト評価を行うことができる。
3.内生的流動性制約
= Y ωj 1 −π +πAi
(6) ln E j
仮定は、Z が観察されていない季節別消費
の決定要因とは無相関であるというもので
ある。すると、季節別消費の構造式
(6)に対
応する誘導型推計式として、以下を得る:
2.灌漑インフラのインパクト 評価
次に灌漑インフラが消費変動におよぼす
効果を明示するために、所得の季節性 A の
決定要因である操作変数として灌漑アクセ
ス有無を示す変数 Z を導入しよう。我々の
(7)式 で 表 さ れ る、Flavin
(1981)
・Paxon
(1993)モデルの問題点は、流動性制約の内
生性を考慮していないことである。流動性
制約が起きる理由としては、貸し手と借り
手の間の情報の非対称性や[Carter
(1988)]、
政府による金融抑圧政策など[McKinnon
(1973)
]さまざまな可能性がある。流動性
制約を組み込んだ従来の実証モデルでは、
流動性制約の内生性を捨象し、分析対象と
なる標本を外生的に二つのグループ、すな
わち流動性制約が制約となっているグルー
プとなっていないグループに分けている
[Zeldes
(1989)
; Morduch
(1990)
]
。しかしな
2006年11月 第32号 37
がら、この外生的グループ分けの手法には
二つの問題がある。第一に、所得・資産比
率あるいは土地所有権といった、グループ
分けに用いられている単一の変数が消費者
の借り入れ能力の十分統計量になる可能性
は低いことである。第二に、流動性制約は
内生的に発生するため、内生変数として扱
われるべきである。
そこで、Jappelli
(1990)にしたがって、内
生的流動性制約の実証モデルを導入する。
E* が当期の流動性制約がないときの最適な
LC-PIH に基づいた消費を表すということを
思い出そう。すると、
流動性制約(信用制約)
がないときは E*=E、あるときは E*>E であ
る。最適消費 E* の誘導型関数が当該所得や
資産、世帯主の年齢、その他の社会経済的
要素といった観測可能な変数、およびこれ
らのうちのいくつかの変数(これら変数群
を X で表す)の二乗の関数として表すこと
ができるとする[Jappelli
(1990)
]
。そして、
手持ち現金と E * の差を Hj=Bj+Wj+Yj-E *j と定
義する(ここで Bj は借入れ上限額を示す)
。
すると、次のような手持ち現金の誘導型方
程式を得る:
(8) H j
= X jγ+εj
ここで、εは測定誤差などを表す確率的
誤差項である。ここでは、Hj<0 のとき流動
性制約があり、Hj≧0 のときは流動性制約が
ないと考えることができる。
(8)式で表されるように、信用制約は、内
生的な制約であるため、内生変数として取
り扱われるべきである。ここでは、Jappelli
(1990)にしたがって、各世帯の借り入れに
制約があるかないか、という定性的な二値
変数を用い、二つのグループに世帯を区分
した上で季節別消費を
(7)式をもとに推計す
る。この流動性制約の指標変数は、流動性
制約がある場合は1、ない場合は0をとる
ものである。
この内生的流動性制約モデルは理想的で
あるが、一般的な世帯調査では信用状態を
直接識別できるような信用情報は収集され
ていない[Scott
(2000)
]
。この問題に取り組
むにあたり、我々の世帯質問票に特別に信
用の測定基準を盛り込み、流動性制約に直
面している世帯を直接把握できるようにし
*2
た。
第3章 調査の概要と記述統計
本研究は、スリランカとパキスタンにお
ける JBIC の灌漑事業を事例として、それら
事業が裨益した地域としなかった地域にお
ける世帯消費の季節変動をとらえることで
灌漑の貧困削減効果を定量化しようとする
ものである。まず、ここではそれぞれの地
域におけるフィールド調査の概要と記述統
計をまとめることにしよう。
1.スリランカ
まずスリランカの南部低開発地域におけ
るウダ・ワラウェ左岸(Uda Walawe Left
Bank: WLB)地域の灌漑システムを分析対
象とした。スリランカ政府は、南部低開発
地域の灌漑開発と入植を目的として1959年
にウダ・ワラウェ計画を策定し、1960年代
にウダ・ワラウェ貯水池および左右両岸の
幹線水路を建設した。その後、アジア開発
銀 行 融 資 の「 ワ ラ ウ ェ 開 発 事 業(Walawe
Development Project)
」 や「 ワ ラ ウ ェ 灌 漑
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 厳密に言えば、以下の質問をした。第一に、ある時期にその世帯がどれくらいの貸付を受けていたのか質問した。その中で貸
付を受けていない世帯に対してはその理由を質問した。資金を借りる必要がないと答えた場合、その世帯は流動性制約のない
世帯とした。一方、債務不履行の危険性などの理由を挙げた世帯は“discouraged borrower”として、流動性制約があるとし
た。また、貸付を受けた世帯に対しては希望通りの金額を借りることができたかを質問した。もし希望通りの金額を借りるこ
とができなければ、世帯は流動性制約に直面していると考えられる。
38 開発金融研究所報
改 良 事 業
(Walawe Irrigation Improvement
Project)
」によって右岸が優先的に開発され
た。本研究の調査対象である WLB 地域は、
JBIC の円借款事業である「ワラウェ川左岸灌
漑改修拡張事業(WLB Irrigation Upgrading
and Extension Project)
」*3に よ っ て1995年 に
ようやく本格的な開発が開始された。
灌漑へのアクセスにしたがって、WLB 地
域は大きく2つの地域に分けることができ
る。第1は灌漑へのアクセスが十分である
地域で、第2は現在天水に頼っているが将
来灌漑施設の建設が予定されている地域で
ある。第1の地域におけるすべての灌漑イ
ンフラはすでに修復もなされている。それ
に対して第2の地域は隣接した天水耕作地
域である。プログラム評価の用語に従えば、
第1の地域は、灌漑プロジェクトの処置グ
ループ(treatment group)であり、第2の地
域は比較対照グループ
(comparison group)
である。したがってこれらの地域は貧困削
減に対するインフラのインパクトを比較に
基づき評価するのに適している。
WLB 地域では、ヤラ(Yala)期(乾季)
が2月から9月まで、マハ(Maha)期(雨
季)が10月から1月まで続く。*4 この地域
の1994年から1999年の降水パターンによる
と、7月と8月の月間平均降水量は60㎜に
満たないことが分かっている[JBICI-IWMI
(2002)]。
WLB 地域において、政府は貧困世帯に対
して1ヘクタールの農地と0.2ヘクタールの
居住地を分配している。政府の採用した配
分対象の基準は18歳以上で0.8ヘクタール以
下の土地しか持たない小規模農家や、年間
所得が9,000R より少ない貧困世帯である。
ウダ・ワラウェ地区全体には、農家・非
農家を合わせて38,000世帯が居住しており、
そのうち非農家が約半数をわずかに下回る
比率となっている。この地域の総人口は推
定約170,000人であり、その約40%が左岸に
住んでいる。調査地域となる WLB 地域の
総人口は推定約75,000人であるが、11,400の
農家世帯および5,200の非農家世帯によって
*5
構成されている[JBICI-IWMI
(2002)
]
。
標本抽出
WLB 地域全体は、灌漑へのアクセスの
有無、インフラ整備の程度や施工時期、農
作物の耕作パターン、そして2001年のマハ
期における農業用水へのアクセスによって
5地 域 に 分 類 さ れ る。 こ れ ら に、WLB 地
域の灌漑インフラは全て改修済みであるこ
とから、改修済み灌漑インフラと未改修灌
漑インフラの貧困削減効果の違いを比較
す る こ と を 目 的 に、 ウ ダ ワ ラ ウ ェ 右 岸 の
灌漑地域であるリディヤガマ地域を加えた
6地域
(Sevanagala irrigated、Sevanagala
rain-fed、Kiriibbanwewa、Sooriyawewa、
Extension area、Ridiyagama area)を 調 査
対象地域とした。リディヤガマ地域には約
10,000人が居住し、1,800の農家世帯と400の
非農家世帯によって構成される。
それぞれの地域の概要は次のとおりであ
*6
る。
国営のサトウキビ加工工場によって
運 営 さ れ て い る Sevanagala 地 域 は、WLB
の上流部に位置し、JBIC 事業の対象では
ないものの既に灌漑が改修されている地
域
(Sevanagala irrigated)と 天 水 耕 作 地 域
(Sevanagala rain-fed)が あ る。WLB 中 流
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*3 WLB 上流部の既存灌漑地区2,900ヘクタールの改修工事と天水地域1,040ヘクタールの用排水路の新設を対象としたフェーズ1
は1995年に25.7億円で契約され、WLB 下流部の未開発地区5,340ヘクタールの新規灌漑及び老朽化したウダ・ワラウェ貯水池
施設の改修工事を対象としたフェーズ2は1996年に93.9億円で契約された。
*4 マハ期は北東モンスーン気候とされ、スリランカ全体に降雨がある一方、ヤラ期は南西モンスーン気候とされ、スリランカ島
中央山地地域及び南西部でのみ降雨がみられる。ヤラ期に多量の雨が降る地域は「ウェット・ゾーン」、殆ど降らない地域は「ド
ライ・ソーン」と呼ばれている。本研究の対象地域である WLB 灌漑地域は、ドライ・ゾーンであるため、ヤラ期は乾季である。
*5 これら WLB 地域の居住者には、土地の割当を受けている者、不当に住み着いている者、非農業世帯といった層が混在している。
*6 調査対象地域のより詳細な情報は、澤田・新海(2003)や JBIC-IWMI (2002, 2006b) を参照されたい。
2006年11月 第32号 39
部 の Kiriibbanwewa と Sooriyawewa は
JBIC 事 業 で 改 修 さ れ た 灌 漑 地 域 で あ る。
Extension area は JBIC 事業のフェーズ2の
対象となっている地域で、現在はまだ天水
耕作地域である。Ridiyagama area は上述
のとおり未改修灌漑地域である。
これらの地域特性を用い、調査対象世帯
を選ぶにあたって、多段階無作為抽出法を
用いた。第一段階において、抽出階層とし
て全地域を上述の6つの地域に分けた。次
に、各地域から1つないし2つの代表的な
クラスター(cluster)を抽出した。*7 その上
で、各クラスターの全世帯リストをもとに
それぞれから対象家計を無作為に抽出した。
それぞれの標本数は人口の4.5%を基準とし
た。実際の調査における標本は858世帯で
あった。*8 表1は各地域で予定されていた
標本数、および実際の標本数である。標本
の内訳として、当初は646の農家世帯および
224の非農家世帯が計画されていたが、実際
に入手可能であったのは660の農家世帯およ
び198の非農家または土地無し世帯の情報で
あった。抽出された世帯標本の詳細は図表
1および図表2に掲載されている。
図表1 調査対象地域および標本世帯数:スリランカ
母集団世帯数
調査地域
Sevanagala
(a) 灌漑地域
(b) 天水耕作地域
Kiri‑ibbanwewa
Sooriyawewa
Ridiyagama
Extension Area
(天水耕作地域)
合計
標本世帯数
標本割合(%)
3202
1218
3504
6843
2200
167
60
151
229
146
5.2
5.0
4.3
3.3
6.6
1800
105
5.8
18767
858
4.6
図表2 調査対象地域および標本世帯数
(農業 / 非農業世帯)
: スリランカ
調査地域
母集団
農業世帯 農業世帯
母集団
農業世帯数 の標本数 標本割合(%) 非農業世帯数
非農業
世帯の標本数
非農業世帯
標本割合(%)
Sevanagala
(a) 灌漑地域
(b) 天 水 耕 作 地 域
2392
1128
126
54
5.3
4.8
810
90
41
6
5.4
6.7
Kiri‑ibbanwewa
Sooriyawewa
Ridiyagama
2084
3983
1800
114
149
112
5.5
3.7
6.2
1420
2860
400
37
80
34
2.6
2.8
8.5
Extension A rea
(天水耕作地域)
1800
105
5.8
13187
660
5.0
5580
198
3.5
合計
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*7 灌漑地域では水路の上流、中流、下流という違いを基準にクラスターを抽出し、灌漑アクセスの無い地域では、村のサイズや
市場へのアクセス、居住者の入植時期といった基準が抽出に利用された。
*8 総標本数の決定には、調査地における標本のバリエーション、統計的に有意な標本数、調査の実施における金銭的および時間
的コストが考慮された。
40 開発金融研究所報
質問票と調査の実施手順
記述統計
Grosh and Glewwe eds.
(2000)
の標準的な
家計調査の質問票に基づきながら、本調査
では6つのセクション(世帯の基礎情報、イ
ンフラ、農業生産、消費、資金貸借、回顧
的質問)によって構成される質問票を用い
た。基礎情報では、世帯構成員の年齢、教育、
雇用状況、非農業所得のような各構成員に
関する情報や、家屋・土地所有に関する情
報を収集した。インフラのセクションでは
水や灌漑へのアクセス、インフラのメンテ
ナンス状況、および医療施設へのアクセス
に関する質問を行った。農業生産に関する
セクションは農業生産用資本、生産費用、
農業生産、そして投入財市場に関する質問
を盛り込んだ。消費のセクションでは食費、
衣類、医療、交通と通信、教育、その他の
消費項目をカバーしている。資金貸借に関
するセクションでは貸借金額、貸し手の情
報、返済状況およびローンへの制約につい
て情報を収集した。最後に、回顧的質問に
よって、過去10年間の農業生産に関する事
項を網羅した。
質問票で用いられた各用語や単位は現地
の生活様式に合うよう、入念に編集・確認
された。本調査では5地域それぞれにおい
てプリテストを行ったが、調査対象となる
クラスターでの実施は避けた。プリテスト
終了後には質問票の改訂を繰り返し、最終
的には25人の調査員を雇用してデータ収集
を行った。また、各調査に際して事前に一
週間のトレーニングを実施した。
実際のパネル調査は、2001年から2002年に
かけて5回にわたって行われた。第1、
第2、
第3回の調査はそれぞれ2001年の6月、8
月、10月に実施された。第1回目の調査は
その前のマハ期のデータを収集し、第2回
目と第3回目の調査はヤラ期のデータを集
めた。第4回目と第5回目の調査は2002年
の6月と10月に実施され、それぞれ2002年
のマハ期とヤラ期のデータを収集した。
JBICI-IWMI
(2002)によると、調査対象世
帯には次のような特徴が挙げられる。まず、
世帯の平均人数は5人前後である。また、
調査地域の約20%に0歳から5歳の子供が
少なくとも1人いた。世帯主の平均体重は
53.5kg であり、平均身長は161.32cm だった。
天水耕作地域では平均体重は最低の52.17kg
で肥満度指数(body mass index: BMI)も
最 低 だ っ た。 世 帯 主 の 教 育 年 数 は 天 水 耕
作地域である Extension area の5.61年から
Ridiyagama area の7.86年までさまざまであ
り、約75%の世帯主が主に農業に従事して
いた。
灌漑の到達範囲は用水路から取水してい
る人数の割合で測ることができ、多様性が
あることがわかる(地図1)
。Sooriyawewa
はもっともカバー範囲が広く88%であり、調
査地域内での灌漑施設の整備状況は比較的
新しいといえるが、他方で Extension area
と Sevanagala rain-fed はそれぞれ13%と2%
で あ っ た。Kiriibbanwewa と Sooriyawewa
はほぼすべての灌漑システムが整備され
て い る が、Sevanagala で は 全 シ ス テ ム の
半 分 し か 整 備 さ れ て い な か っ た。 ま た、
Sevanagala では灌漑整備のほとんどは1997
年以前に行われていた。
次に、本研究では、支出を二つに分類し
た。すなわち、
食糧支出と非食糧支出である。
非食糧支出としては広義の医療ケアや教育
といった非耐久消費財が挙げられる。一方
で、所得は穀物の売上高と、自家消費の帰
属価値、家畜などの非農作物による所得、
農業・非農業労働による賃金所得の合計で
ある。我々は、2001年10月から2002年9月
まで12ヶ月間の月別所得のデータと、2000
年10月から2002年9月までの24ヶ月間の月
別支出のデータを取得した。したがって所
得と消費が同時に得られる12ヶ月のデータ
をもとに計量分析を行った。
2006年11月 第32号 41
地図1 ワラウェ川左岸地域
42 開発金融研究所報
図表3 信用および灌漑へのアクセス別で見た標本世帯の特性 : スリランカ
流動性制約に直面している
変数
単位
成人男性 1 人あたりの月間食糧消費 R s.
成人男性 1 人あたりの月間の
R s.
食費以外の消費
成人男性 1 人あたりの月収
R s.
機能的な農民組織への参加
ダミー
世帯主年齢
年
女性世帯主
ダミー
世帯主就学年数
年
成人男性数
#
成人女性数
#
子ども数
#
成人男性 1 人あたりの土地所有
エーカー
居住年数
年
農業経験年数
年
灌漑
天水耕作
制約に直面していない
灌漑
天水耕作
1033.06
963.42
1134.97
1080.16
(581.70)
(508.90)
(616.99)
(535.60)
384.42
280.59
487.88
349.11
(1015.88)
(827.24)
(1277.76)
(995.48)
1990.75
1587.39
1930.64
1493.91
(4977.67)
(2010.39)
(4618.61)
(5043.45)
0.26
0.13
0.30
0.19
(0.44)
(0.34)
(0.46)
(0.39)
52.37
41.96
52.41
41.53
(11.25)
(11.34)
(11.65)
(12.04)
0.13
0.10
0.12
0.09
(0.34)
(0.30)
(0.32)
(0.28)
5.30
5.56
5.75
5.82
(3.36)
(3.32)
(3.30)
(3.38)
2.03
1.54
2.05
1.48
(1.18)
(0.95)
(1.11)
(0.89)
1.92
1.51
1.90
1.50
(0.99)
(0.85)
(1.03)
(0.89)
1.41
1.86
1.34
1.74
(1.44)
(1.34)
(1.40)
(1.32)
0.71
0.53
0.74
0.57
(0.48)
(0.49)
(0.55)
(0.58)
28.38
20.51
28.77
20.37
(11.94)
(12.59)
(11.86)
(13.61)
27.98
18.17
27.43
18.35
(10.14)
(10.44)
(11.15)
(10.37)
注) カッコ 内は標準偏差
(注)カッコ内は標準偏差
図表3は調査世帯を、資金借り入れと灌
漑へのアクセスという点からまとめたもの
である。この表よりわかることは、まず第
1に、天水耕作地域の世帯主は灌漑地域よ
りも年齢が低いことである。第2に、天水
耕作地域の世帯主は灌漑地域の世帯主より
所得と土地保有という点から貧しいといえ
る。つまり、インフラ整備が慢性的貧困の
削減に対して正の効果があるということを
示唆している。これらは特に驚くに値しな
いが、インフラが一時的貧困を削減する効
果を明らかにするためにはさらに詳細な分
析が必要である。
平均月別所得を灌漑設備へのアクセスの
有無によって別々にみたものが図表4と図
表5である。第1に、あきらかに天水耕作
地域の世帯は年間を通して灌漑地域の世帯
より一人当たり支出額が小さい(澤田・庄
司・菅原,2006)
。このことは慢性的貧困が
灌漑地域よりも天水耕作地域においてより
深刻であるということを示唆している。*9
第2に、支出レベルは10月から2月にかけ
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*9 PPP によって変更された一日あたり2ドル以下の貧困線を用いて貧困人口比率も算出した。全体的な発生率は12%であり、最
も高かった人口比率は Extension Area の14%、最も低かった貧困率は Kiriibbanwewa の8%であった。これらの数値は灌漑
インフラへのアクセスのしやすさが貧困の発生と負の関係にあることを示唆している。
2006年11月 第32号 43
図表4 成人男性一人あたり月間平均消費
(Rs.)
: スリランカ
灌漑
2000
2001
2002
天水耕作
食費
消費合計
食費
消費合計
10 月
997.2
1278.1
940.6
1065.8
11月
996.9
1207.6
950.1
1104.3
12月
992.0
1258.0
941.1
1081.7
1月
966.6
1400.8
948.6
1332.8
2月
973.7
1313.4
940.3
1163.9
3月
995.9
1386.5
971.5
1262.4
4月
1331.3
2155.3
1274.3
2109.4
5月
1018.0
1540.8
999.6
1426.6
6月
1025.5
1415.9
986.1
1285.8
7月
1068.6
1675.9
993.6
1406.4
8月
1058.5
1403.6
921.6
1198.8
9月
1029.2
1547.0
920.3
1220.2
10 月
1157.4
1453.2
1074.9
1214 .3
11月
1165.1
1465.4
1091.7
1228.0
12月
1182.3
1587.4
1106.6
1322.9
1月
1140.6
1550.0
1093.9
1392.4
2月
1152.0
1553.2
1096.2
1389.7
3月
1265.8
1782.3
1121.3
1444.5
4月
1547.3
2572.4
1488.5
2329.3
5月
1227.2
1849.0
1137.1
1474.8
6月
1167.4
1664.5
1093.9
1449.0
7月
1151.1
1637.9
1088.0
1485.9
8月
1171.2
1816.7
1094.9
1487.7
9月
1217.4
1890.8
1142.9
1597.6
成人男性一人当たり Rs.
図表5 成人男性一人あたり月間消費 : 2000 年 10 月から 2002 年 9 月 スリランカ
2500
2300
2100
1900
1700
1500
1300
1100
900
700
500
Oct Dec Feb Apr J un Aug Oct Dec Feb Apr J un Aug
食糧消費(灌漑)
食糧消費(天水)
44 開発金融研究所報
総消費(灌漑)
総消費(天水)
成人男性一人当たりRs.
図表6 成人男性一人あたり月収 : 2000 年 10 月から 2002 年 9 月 スリランカ
5000
4000
3000
2000
1000
0
Oct Nov Dec J an Feb Mar Apr May J un J ul Aug Sep
灌漑地域
て一定であり、マハ期の収穫期の直後に増
加、5月と6月になると減少、ヤラ期の収
穫期後に若干増加する。また、月ごとの所
得パターンの変化を表している図表6から、
灌漑地域では4月と9月の収穫期に所得に
明らかな増加があることが分かる。
2.パキスタン
パキスタンにおける本研究の調査対象地
域としては、パンジャブ州のグジュラート
(Gujrat) お よ び マ ン デ ィ・ バ フ デ ィ ー ン
(Mandi Bahauddin)の両地域が選ばれた(地
図2)。この地域では、全国末端水管理計
画「末端灌漑水管理事業(On-Farm Water
Management Project: OFWM)
)
」の一部と
して、JBIC の円借款事業が1992年から2000
年まで実施された。*10
この地域の農業は二期輪作が中心であ
る。*11雨季にあたる5月から10月はカリフ
(Kharif)、乾季の10月から4月はラビ(Rabi)
と呼ばれる。平均年間降水量はグジュラー
ト で853mm、 マ ン デ ィ・ バ フ デ ィ ー ン で
435mm であるが、両調査地域内において
も、灌漑施設へのアクセス、栽培穀物の違
いなどによってさらなる多様性がみられる。
まず、灌漑施設の有無によっては二種類の
天水耕作地域
大別が可能となる。一つは灌漑施設へのア
クセスの可能な地域、もう一つは農業用水
を天水に依存している地域である。さらに、
灌漑へのアクセスがある農家のうちでも、
用水利用が通年で可能か、それともカリフ
(雨季)のみかという重要な区別がある。
標本抽出
1998年のセンサスによれば、グジュラー
ト、マンディ・バフディーン両地域の総人
口 は そ れ ぞ れ2,048,008人 お よ び1,160,552人
であった。ここから標本世帯を抽出するた
め、多段階無作為抽出法を用いた。第一段
階において、抽出階層を定義するにあたっ
て用いられた基準は、灌漑施設へのアクセ
ス・灌漑施設の改善の有無・用水供給のパ
ターン
(通年・非通年)
・栽培穀物である。
これらの基準に従って、対象地域を4つの
階層に分割した。これらの階層は
(1)通年灌
漑による米 - 小麦輪作地域、
(2)非通年灌漑
による米 - 小麦輪作地域、
(3)通年灌漑によ
る小麦連作地域、そして
(4)天水耕作地域の
4つである。
第二段階として、各階層から代表的なク
ラスターが無作為に抽出された。クラスター
としては、天水耕作地域では村、灌漑地域
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*10 JBIC の OFWM は、パキスタン4州並びに連邦政府直轄部族地域とイスラマバード首都圏行政区における末端水路の改善や調
整池の建設、農民や末端水管理指導員の研修を対象とし、1992年3月に82.3億円で契約された。
*11 この地域の栽培穀物としては、主食である小麦、換金穀物としての性質の強い米、サトウキビや、家畜の資料となるマグサな
どが中心である。
2006年11月 第32号 45
地図2 末端灌漑水管理事業対象地域(パンジャブ州)
GILGIT
KASHIMIR
(Disputed Territory)
N.W
.F.
P
PESHAWAR
ISLAMABAD
PUNJAB
LAHORE
QUETTA
46 開発金融研究所報
I
D
N
KARACHI
I
SINDH
ARABIAN SEA
A
BALOCHISTAN
IRAN
*12
では水路が用いられた。
そして、第三段
階として、クラスター内の世帯の無作為抽
出がなされた。標本抽出に際しては、対象
地域の世帯の完全なリストが母集団の特定
に用いられた。
図表7にまとめられているように、各階
層から180世帯、あわせて720世帯を調査対
象とした。上述の抽出手法によって、灌漑
地域の540世帯の中にはそれぞれ半数(270
世帯)の改善された灌漑へのアクセスがあ
る世帯、未改善の灌漑地域の世帯が含まれ
ている。さらに、それぞれの用水分流から
は90世帯、その上流・中流・下流からそれ
ぞれ30世帯が抽出されている。
図表7 調査対象地域および標本世帯数 : パキスタン 母集団世
帯数
標本世
帯数
天水耕作地域
米‑ 小麦輪作地域
(通年灌漑 )
米‑ 小麦輪作地域
(非通年灌漑 )
小麦連作地域
(通年灌漑 )
2394
180
2450
180
2492
180
2394
180
合計
9730
720
調査地域
質問票と調査の実施手順
調査の実施については、スリランカと同
様、Grosh and Glewwe
(2000)の 質 問 票 を
修正し、6つのセクションによって構成さ
れる質問票を用いた。質問票で用いられた
各用語、単位は現地の生活様式に合うよう、
入念に編集された。プリテストの終了後に
は質問票の改訂を繰り返し、最終的には22
人のインタビュアーを雇用してデータ収集
を行った。各インタビュアーは事前に一週
間のトレーニングを受けている。世帯への
調査は2001年から2002年にかけて5回行わ
れた。調査実施時期はそれぞれ2001年6月、
9 月、12月、2002年 6 月、12月 で あ る。 第
一回調査は直前のラビ(乾季)の情報を集
めた。第二回、第三回はカリフ(雨季)を
対象とし、第四回、第五回はそれぞれ2002
年のラビ、カリフを対象とした。
記述統計
記述統計から調査世帯の基本的な情報を
知 る こ と が 出 来 る[JBICI-IWMI
(2006a,
2006c)
]
。まず一世帯の人数は平均で7人ほ
どであり、階層間に大きな違いはない一方、
家長の教育年数は小麦連作地域の2.87年から
天水耕作地域の4.81年と多少のばらつきがあ
る。
灌漑へのアクセスに関しては下記のよう
な こ と が わ か る。 ま ず 天 水 耕 作 地 域 で は
地下水が主な灌漑資源であり、この地域の
68%が管井戸
(tubewell)によって灌漑されて
いる。その他の地域(便宜的に灌漑地域と
呼ぶ)では90%以上が灌漑用水へのアクセ
スを持っているが、10%弱は渇水などの理
由によりアクセスを断たれている。
ス リ ラ ン カ と 同 様、 消 費 デ ー タ と 所 得
データを下記のように定義した。まず消費
データは、食費と非食費の二種類に大別さ
れる。非食費は医療費・教育費など広義の
非耐久財を含む。一方、所得データの構成
要素としては、販売所得に自家消費分を足
した穀物所得、家畜などによる非穀物農業
所得、農業・非農業の賃金所得が含まれる。
我々のデータセットでは、月次消費データ
は26ヶ 月
(2000年10月 か ら2002年11月 )ま で
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*12 このうち天水耕作地域でのクラスターとしては、103の村のうちから6 村が無作為に選ばれた。一方、灌漑地域でのクラスター
抽出には、下記のような二段階法を取った。第一に、各階層を代表すると思われる二つの用水分流をそれぞれ選んだ。第二に、
各分流の上流・中流・下流においてそれぞれ改善された水路、改善されていない水路が一つずつ選んだ。この第二段階におい
ては、まず上流・中流・下流から無作為に改善された水路を選び、そしてそれぞれにもっとも近い未改善の水路を抽出した。
この手順は標本内の不均一性を減らすために取られたものである。
2006年11月 第32号 47
記録されているが、月次所得データは後半
14ヶ 月(2001年10月 か ら2002年11月 )ま で し
か調査されていない。したがって、消費・
所得データが同時に得られる後半14ヶ月の
みが計量分析に用いられた。
図表8は信用市場と灌漑施設へのアクセ
スを規準に世帯の特徴を要約している。こ
こからいくつかの情報を見ることができる。
図表8 信用および灌漑へのアクセス別で見た標本世帯の特性 : パキスタン
変数
単位
成人男性 1 人あたりの
Rs.
月間食糧消費
成人男性 1 人あたり の
Rs.
月間の食費以外の消費
成人男性 1 人あたり の 月収
灌漑施設建設以降の年数
農民組織への参加
世帯主就学年数
灌漑改良
男性世帯主
男性数
女性数
子ども数
世帯主年齢
土地所有
Rs.
年
ダミー
年
ダミー
ダミー
#
#
#
年
エーカー
成人男性 1 名あたり の
灌漑された土地の所有
エーカー
成人男性 1 名あたり の
通年灌漑された土地の所有
注) カッコ 内は標準偏差
48 開発金融研究所報
エーカー
流動性制約に直面
制約に直面していない
灌漑
灌漑
天水耕作
天水耕作
780.62
676.46
750.85
698.04
(430.13)
(320.29)
(381.29)
(358.69)
1439.12
675.1971
1856.56
883.76
(5945.20)
(3247.46)
(8701.51)
(3929.69)
2584.77
1194.23
2020.53
903.87
(8851.99)
(3128.54)
(5667.07)
(1862.82)
55.56
‑
5 0.06
‑
(33.28)
‑
( 35.17)
‑
0.03
0.00
0.03
0.00
(0.17)
(0.00)
(0.17)
(0.00)
4.84
3.85
3.90
3.72
(5.19)
(4.55)
(4.86)
(4.28)
0.54
‑
0.48
‑
(0.50)
‑
(0.50)
‑
0.99
0.98
0.97
0.99
(0.12)
(0.14)
(0.17)
(0.10)
3.46
3.48
3.55
3.62
(1.82)
(1.85)
(1.87)
(1.81)
3.36
3.38
3.57
1.70
(1.93)
(1.84)
(1.75)
(1.84)
3.03
3.36
3.15
3.55
(2.31)
(2.25)
(2.24)
(2.11)
55.29
51.86
51.60
49.69
(14.91)
(14.86)
(13.62)
(14.21)
1.09
0.22
1.77
0.20
(2.35)
(0.58)
(2.03)
(0.62)
0.98
‑
0.90
‑
(2.36)
‑
(1.70)
‑
0.63
‑
0.67
‑
(0.48)
‑
(0.47)
‑
第一に、灌漑施設へのアクセスのある世帯
において、家長の教育水準がより高い事が
見てとれる。第二に、灌漑へのアクセスが
ある世帯の方が、所得・土地所有面積が大
きい。ここから、灌漑へのアクセスには所
得や資産との間に正の相関があり、したがっ
てインフラが慢性的貧困の削減効果を持つ
ことが推測される。これらの考察はさほど
驚くべきことではないが、一時的貧困に対
する削減効果については、インフラの役割
についてより注意深い分析が必要である。
図表9と図表10は灌漑へのアクセスの有
無で測った一人当たりの平均月別支出であ
る。第一に、天水耕作地域の世帯主は年間
を通して灌漑地域の世帯主より支出額が小
さい。このことは慢性的貧困が灌漑地域よ
りも天水耕作地域においてより深刻である
ということを示唆している。貧困の移ろい
図表9 成人男性一人あたり月間平均消費
(Rs. ): パキスタン
㩷
㩷
㩷
㩷
㘩⾌㩷
ᶖ⾌ว⸘㩷 㩷
㘩⾌㩷
ᶖ⾌ว⸘㩷 㩷
㪉㪇㪇㪈㩷
㪈㪇 ᦬㩷
㪏㪐㪍㪅㪇㩷
㪊㪇㪉㪈㪅㪈㩷
㪎㪍㪏㪅㪌㩷
㪉㪇㪍㪍㪅㪍㩷
㩷
㪈㪈 ᦬㩷
㪏㪐㪏㪅㪇㩷
㪊㪌㪋㪐㪅㪋㩷
㪎㪎㪌㪅㪊㩷
㪉㪈㪌㪈㪅㪉㩷
㪈㪉 ᦬㩷
㪎㪏㪉㪅㪌㩷
㪉㪇㪇㪊㪅㪇㩷
㪍㪎㪎㪅㪏㩷
㪈㪍㪋㪉㪅㪍㩷
㪉㪇㪇㪉㩷
㩷
㪈 ᦬㩷
㪎㪋㪈㪅㪍㩷
㪉㪉㪋㪇㪅㪎㩷
㪍㪋㪍㪅㪊㩷
㪐㪊㪊㪅㪏㩷
㩷
䋲 ᦬㩷
㪎㪍㪎㪅㪎㩷
㪉㪋㪇㪏㪅㪏㩷
㪍㪎㪇㪅㪇㩷
㪈㪉㪈㪎㪅㪈㩷
㩷
䋳 ᦬㩷
㪎㪋㪌㪅㪊㩷
㪈㪐㪌㪍㪅㪎㩷
㪍㪍㪎㪅㪎㩷
㪈㪉㪎㪋㪅㪉㩷
㩷
䋴 ᦬㩷
㪎㪋㪉㪅㪍㩷
㪉㪎㪎㪎㪅㪐㩷
㪍㪌㪍㪅㪎㩷
㪈㪋㪇㪎㪅㪎㩷
㩷
䋵 ᦬㩷
㪎㪍㪇㪅㪇㩷
㪉㪏㪌㪌㪅㪉㩷
㪍㪎㪋㪅㪎㩷
㪈㪍㪎㪌㪅㪐㩷
㩷
䋶 ᦬㩷
㪎㪊㪋㪅㪎㩷
㪈㪌㪉㪇㪅㪋㩷
㪍㪎㪏㪅㪋㩷
㪐㪏㪋㪅㪇㩷
㩷
㪎 ᦬㩷
㪎㪊㪌㪅㪍㩷
㪈㪍㪍㪍㪅㪈㩷
㪍㪎㪌㪅㪉㩷
㪈㪉㪈㪎㪅㪈㩷
㩷
䋸 ᦬㩷
㪎㪊㪊㪅㪇㩷
㪈㪋㪈㪏㪅㪌㩷
㪍㪎㪉㪅㪊㩷
㪈㪊㪍㪏㪅㪋㩷
㩷
䋹 ᦬㩷
㪎㪉㪍㪅㪋㩷
㪉㪉㪌㪉㪅㪊㩷
㪍㪍㪐㪅㪎㩷
㪈㪈㪌㪉㪅㪌㩷
㩷
㪈㪇 ᦬㩷
㪎㪉㪍㪅㪌㩷
㪊㪉㪊㪇㪅㪋㩷
㪍㪎㪊㪅㪇㩷
㪈㪌㪉㪐㪅㪐㩷
㩷
㪈㪈 ᦬㩷
㪎㪋㪈㪅㪌㩷
㪉㪋㪊㪌㪅㪋㩷
㪍㪐㪈㪅㪊㩷
㪈㪍㪍㪐㪅㪐㩷
ἠṴ㩷
ᄤ᳓⠹૞㩷
図表 10 成人男性一人あたり月間消費 : 2001 年 10 月から 2002 年 11 月 パキスタン
成人男性一人当たり Rs.
4000.0
3500.0
3000.0
2500.0
2000.0
1500.0
1000.0
500.0
0.0
Oct Nov Dec J an Feb Mar Apr May J un
総消費(灌漑)
食糧消費(灌漑)
J ul Aug S ep Oct Nov
総消費(天水)
食糧消費( 天水)
2006年11月 第32号 49
図表 11 成人男性一人あたり月収 : 2001 年 10 月から 2002 年 11 月 パキスタン
成人男性一人当たり Rs.
10000
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
Oct Nov Dec J an Feb Mar Apr May J un
灌漑地域
やすさについて同様のパターンが図表11で
描かれており、これは月ごとの所得パター
ンの変化を表したものである。この図から
5月と11月の収穫期に所得の増加があるこ
とが分かる。
第4章 計量分析結果:
スリランカ
まず 誘導型の
(7)
式を検証するために、全
標本を用いた推計結果を報告する。流動性
制約を内生化したモデルについては Sawada
他(2006)を参照されたい。図表12と図表14、
図表13は月ごとの支出効果の一連の結果を
示している。灌漑へのアクセスがある世帯
がそうでない世帯に比べてより高い消費レ
ベルにあることは明らかである。しかも図
表9が示すように恒常所得の違いをコント
ロールしたのちも同様の結果が得られる。
Sawada 他(2006)は灌漑地域と天水耕作地
域とで月次効果の違いがあるのかを検証し、
全標本において月ごとの係数がすべて1%
の有意水準で明らかに異なるということを
見出している。これらの結果より慢性的貧
困は灌漑地域よりも天水耕作地域において
より深刻であるということが分かる。さら
に図表13からもわかるように月ごとの係数、
とくに非食料支出は一年を通して変動する。
非食料支出の月ごとの効果は作付け期に減
50 開発金融研究所報
J ul Aug Sep Oct Nov
天水耕作地域
少するが、それはこの季節に一時的貧困が
増えるということを示している。これらの
月次効果は、予期せぬ所得変動のインパク
トを反映している可能性がある。所得変動
以外では流動性制約や予備的貯蓄などによ
る影響かもしれない。
ここでは詳細に報告しないが、スリラン
カデータをより細かく分析した Sawada 他
(2006)によると、さらに2つの重要な結果
が得られている。第一には、灌漑にアクセ
スしやすい家計が、流動性制約に直面する
可能性が低いこと、そして、機能している
水利組合の存在が流動性制約を緩和するこ
とである。これらの結果は、灌漑へのアク
セスや、水利組合による灌漑の維持管理が、
農地の価値を高めることを通じて流動性制
約を緩和することを示唆するものであり、
興味深い。
第二には、灌漑へのアクセスは、食糧消費・
非食糧消費の差を説明するが、これがさら
に流動性制約で説明できるかどうかを検証
している。分析結果は、
流動性制約の有無が、
灌漑アクセス有無で異なる消費効果をある
程度は説明できるものの、説明不可能な差
異も残されることを示している。これにつ
いては、インフラ政策による流通システム
効率化などの副次的要因によるものかもし
れない。
図表 12 全標本世帯を用いた誘導型推定 : 食糧消費 スリランカ
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 ᦬㑆㘩♳ᶖ⾌ᡰ಴㩷 㩷
㩷
ଥᢙ㩷
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図表 13 消費の月次効果: 全標本 スリランカ
7.000
6.000
5.000
4.000
3.000
2.000
Oct Nov Dec J an Feb Mar Apr May J un
食糧消費(天水)
非食糧消費(天水)
J ul Aug Sep
食糧消費(灌漑)
非食糧消費(灌漑)
2006年11月 第32号 51
図表 14 全標本世帯を用いた誘導型推定 : 食糧以外の消費 スリランカ
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 㘩♳એᄖ䈱᦬㑆ᶖ⾌ᡰ಴㩷
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第5章 計量分析結果:
パキスタン
1.推定結果1:全標本における誘
導型推定
スリランカのケースと同様に、まず全標
本を用いたベンチマーク解析の結果を示す。
推定方法としては、各家計・各月の成人男
性一人あたり消費支出を従属変数、月のダ
ミーと家計の特徴を説明変数とした線形回
帰を用いている。以下で
「月ごとの消費効果」
と呼ばれるものは、月ダミーの係数で評価
されている。図表15と図表16、図表17は月
52 開発金融研究所報
ごとの消費効果の一連の結果を示している。
灌漑へのアクセスと消費効果の関係は、食
糧消費に関しては自明ではない。一方で、
非食糧消費に関しては灌漑にアクセスしや
すい世帯がそうでない世帯に比べてより高
い消費効果を持っていることが読み取れる。
図表23は、灌漑地域と天水耕作地域とで月
ごとの消費効果に違いがあるかを検定した
結果である。この表によれば、2002年11月
を除き、全標本において月ごとの係数はす
べて1%の有意水準で明らかに異なる。
図表 15 全標本世帯を用いた誘導型推定 : 食糧消費 パキスタン
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 ᦬㑆㘩♳ᶖ⾌ᡰ಴㩷
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㪌㪅㪏㪊㪊㪁㪁㪁㩷
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2006年11月 第32号 53
図表 16 全標本世帯を用いた誘導型推定 : 食糧以外の消費 パキスタン
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 㘩♳એᄖ䈱᦬㑆ᶖ⾌ᡰ಴㩷
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図表 17 消費の月次効果 : 全標本 パキスタン
7.000
6.000
5.000
4.000
3.000
2.000
1.000
0.000
Oct Nov Dec
J an
Feb
Mar
Apr May J un
食糧消費(灌漑)
非食糧消費(灌漑)
54 開発金融研究所報
J ul
Aug Sep Oct Nov
食糧消費(天水)
非食糧消費(天水)
2 推定結果2:プロビット推定
(12)
ln E j =γo ln Y +γj +γj Z + δ
C
C
Z ,C
C
次 に、 流 動 性 制 約 の 指 標 を 用 い る こ と
φ X jγ
C
C
C Z ,C
C
に よ り、 内 生 的 流 動 性 制 約 ア プ ln
ロEー チ
と
+vj
j =γo ln Y +γj +γj Z + δ
1 − Φ X jγ
Paxon(1993)の 季 節 別 支 出 モ デ ル を 統 合
し、推計する。厳密に言えば、
(7)式と
(8)
(13)
式を統合することにより、以下のような内
N
N
Z ,N
N
ln E j =γo ln Y +γj +γj Z + δ
生的流動性制約下の支出関数の計量モデル
φ X jγ
N
を得る。これは Amemiya
(1985)がlnType
5N
N Z ,N
N
+ vj
E j =γo ln Y +γj +γj Z + δ
Φ X jγ
Tobit Model と呼ぶものである。
φ X jγ
C
1 − Φ X jγ
+vj
if H j < 0 ,
φ X jγ
Φ X jγ
N
+ vj
if H j > 0
(9) ln E j =γo ln Y +γj +γj Z + u j
C
C
Z ,C
if H j < 0 ,
C
if H j < 0
ここで、φ(◦)とΦ
(◦)はそれぞれ標準正
C
C
Z ,C
C
ln E j =γo ln Y +γj +γj Z + u j
if H j < 0
規分布の密度関数と累積分布関数であり、
(12)式と
(13)式を OLS によって推定するこ
N
N
Z ,N
N
if H j > 0とができる。
(12)式と
(13)式を推定するこ
(10) ln E j =γo ln Y +γj +γj Z + u j
N
N
Z ,N
N
とで、灌漑インフラが慢性的・一時的貧困
ln E j =γo ln Y +γj +γj Z + u j
if H j > 0
を緩和する効果を吟味する。*13
図表18は流動性制約式(8)式(ないし(11)
(11) H j = X jγ+εj
式)のプロビットモデルによる推定結果で
ある。労働年齢の男性が多い世帯と灌漑地
N
C
ただし誤差項u とu 、ε は結合正規分布
域にアクセスしやすい世帯において、流動
にしたがうとする。ここで、Z は灌漑イン
性制約に直面する可能性は低い。特に、通
フラへのアクセスを表すダミー変数である。
年で用水供給のある灌漑地域へアクセスし
上付きの C は流動性制約のある世帯、N は
やすい世帯において、流動性制約に直面す
流動性制約のない世帯を表す。
る可能性は低い。
ここで、(9)式と
(10)式の誤差項の条件
先行研究では流動性制約が存在すること
付期待値がゼロとはならないため、通常の
が一時的に消費レベルを下げる要因になる
最 小 二 乗 法(ordinary least squares: OLS)
と認識されており、したがって流動性制約
は使えない。この問題を打開するために、
は一時的貧困の大きな要因だとみなされて
Heckman = Lee の 二 段 階 推 計 法[Lee
きた[Fafchamps
(2003)
]
。図表18での推定
(1978)]に従い、
(9)式・
(10)式・
(11)式の
結果は、灌漑インフラへのアクセスが流動
システムを推計する。第一段階では、
(11)
性制約を有意に緩和することを示している
式をプロビットモデルを用いて推定する。
ことから、一時的貧困を緩和する経路とし
この第一段階で推定された係数を用いるこ
て重要と考えられる。
とで、(12)式と
(13)式における誤差項の条
Sawada 他
(2006)に よ る と、 ス リ ラ ン カ
件付期待値についての修正項の一致推定値
デ ー タ の 分 析 結 果 か ら、 灌 漑 設 備 の 維 持
を得ることができる。第二段階では、この
管理を行う水利組合が機能していることに
修正項を(9)式と
(10)式に盛り込み、次の
よって流動性制約が緩和されることが示さ
式を得る:
れている。パキスタンにおいても、灌漑施
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*13 しかしながら、この誘導型モデルでは流動性制約の有無は直接には検証できない。そのため、Sawada(2006) 他ではさらに構
造型推定式を取り入れて流動性制約を検証している。
2006年11月 第32号 55
if H j > 0
図表 18 灌漑へのアクセスが流動性制約に及ぼす効果 : パキスタン
ᓥዻᄌᢙ䋺䉪䊧䉳䉾䊃䉝䉪䉶䉴䈱᦭ή㩷
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㩷㩷
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㪄㩷
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㪇㪅㪇㪇㪇㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪇㪇㩷
㪇㪅㪇㪇㪇㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪇㪇㩷
㪄㩷
㪄㩷
㪇㪅㪇㪇㪇㩷
㪇㪅㪇㪇㪇㩷
㪄 㪇㪅㪇㪉㪐㩷
㪇㪅㪇㪐㪏㩷
㪄 㪇㪅㪇㪈㪋㩷
㪇㪅㪇㪐㪐㩷
㪇㪅㪇㪈㪇㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪇㪈㩷
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㪄 㪇㪅㪈㪇㪇㪁㪁㩷
㪇㪅㪉㪌㪐㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪎㪋㩷
ᚑੱ↵ᕈ 㪈 ฬ䈅䈢䉍䈱 ἠṴ䈘䉏䈢࿯࿾ᚲ᦭㕙Ⓧ䈱 ੑਸ਼㩷 㩷
ᚑੱ↵ᕈ 㪈 ฬ䈅䈢䉍䈱 ᦬෼䈱ੑਸ਼㩷 㩷
㪇㪅㪈㪈㪇㩷
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ᚑੱ↵ᕈ 㪈 ੱ䈅䈢䉍䈱 ࿯࿾ᚲ᦭㕙Ⓧ䈱ੑਸ਼㩷
ᚑੱ↵ᕈ 㪈 ੱ䈅䈢䉍䈱 ᦬෼㩷
㪇㪅㪇㪋㪉㩷
㪇㪅㪇㪈㪍㩷
ᚑੱ↵ᕈ 㪈 ੱ䈅䈢䉍䈱 ࿯࿾ᚲ᦭㕙Ⓧ㩷
ᚑੱ↵ᕈ 㪈 ฬ䈅䈢䉍䈱 ἠṴ䈘䉏䈢࿯࿾ᚲ᦭㕙Ⓧ㩷
ᮡḰ஍Ꮕ㩷
㪄 㪇㪅㪇㪈㪌㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪇㪍㩷
㪄㩷
㪇㪅㪇㪇㪇㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪇㪇㩷
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㪄 㪇㪅㪇㪌㪌㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪈㪇㩷
㪄 㪇㪅㪇㪌㪍㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪈㪇㩷
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㪄 㪇㪅㪇㪈㪌㩷
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㪇㪅㪇㪈㪈㩷
㪇㪅㪇㪈㪈㩷
㪇㪅㪇㪊㪇㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪈㪉㩷
㪇㪅㪇㪊㪋㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪈㪉㩷
㪄 㪇㪅㪈㪊㪐㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪊㪐㩷
㪄 㪇㪅㪈㪊㪐㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪊㪐㩷
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㪇㪅㪉㪇㪉㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪉㪐㩷
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㪇㪅㪇㪇㪉㪁㪁㪁㩷 㪇㪅㪇㪇㪈㩷
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ᮡᧄᢙ㩷
㩷㩷
㪐㪊㪈㪏㩷 㩷 㩷
㪐㪊㪈㪏㩷
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設の改修に際して、水利組合の形成を条件
とし、水利組合に対する研修なども行って
いる。しかし、スリランカの場合と異なり、
パキスタンの調査対象地域における水利組
合は、多くの場合、事業実施後に機能しな
くなった[KRI International Corp.
(2004)
]
。
これには、パキスタンにおける水利組合が
灌漑インフラの維持管理のみの機能を担っ
ていた一方、スリランカにおける水利組合
は、 農 業 投 入 財 の 共 同 購 入 や 農 作 物 の 共
同販売など、その他多くの機能を併せ持っ
ていたことや、パキスタンにおいては水利
組合に対する研修が満足できる成果ではな
かったこと[JBIC(2003)
]など様々な要因
が考えられる。いずれにせよ、パキスタン
56 開発金融研究所報
においては機能している水利組合が少ない
ことから、分析対象とするには標本数が不
足していると思われる。そのため、スリラ
ンカのように流動性制約と水利組合の質の
関係は見ずに、流動性制約と灌漑インフラ
へのアクセスとの関係のみを考察した。
図表 19 流動性制約別の誘導型推定 : 食糧消費 パキスタン
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 ᦬㑆㘩♳ᶖ⾌ᡰ಴㩷
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ሶ䈬䉅ᢙ㩷
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㪄㪇㪅㪇㪇㪏㩷
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㩷 㪉㪇㪇㪈㩷 㪈㪇 ᦬
㪈㪈 ᦬
㪈㪉 ᦬
㪉㪇㪇㪉㩷 㪈 ᦬㩷
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㩷 䋸 ᦬㩷
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㪌㪅㪏㪇㪇㪁㪁㪁㩷
㪌㪅㪏㪇㪏㪁㪁㪁㩷
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㪌㪅㪏㪈㪍㪁㪁㪁㩷
㪌㪅㪌㪋㪌㪁㪁㪁㩷
᦬ᰴലᨐ㩿 ᄤ᳓⠹૞㪀㩷
㩷 㪉㪇㪇㪈㩷 㪈㪇 ᦬
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㪇㪅㪇㪇㪍㩷
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㪇㪅㪇㪎㪐㩷
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㪇㪅㪇㪎㪏㩷
㪇㪅㪇㪎㪏㩷
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㪇㪅㪇㪎㪎㩷
㪇㪅㪇㪏㪈㩷
㩷
ᮡḰ⺋Ꮕ㩷
㪇㪅㪇㪇㪎㩷
㪇㪅㪇㪋㪎㩷
㪇㪅㪇㪇㪈㩷
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㪇㪅㪇㪇㪌㩷
㪇㪅㪇㪇㪍㩷
㩷
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2006年11月 第32号 57
図表 20 消費の月次効果 : 流動性制約に直面している世帯 パキスタン
7.000
6.000
5.000
4.000
3.000
2.000
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0.000
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J an
Feb
Mar
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食糧消費(灌漑)
非食糧消費(灌漑)
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Aug Sep Oct Nov
食糧消費(天水 )
非食糧消費(天水)
図表 21 消費の月次効果 : 流動性制約に直面していない世帯 パキスタン
7.000
6.000
5.000
4.000
3.000
2.000
1.000
0.000
Oct Nov Dec
J an
Feb
Mar
Apr May J un
食糧消費( 灌漑 )
非食糧消費(灌漑 )
58 開発金融研究所報
J ul
Aug Sep Oct Nov
食糧消費(天水)
非食糧消費(天水)
図表 22 流動性制約別の誘導型推定 : 食糧以外の消費 パキスタン
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2006年11月 第32号 59
3.推定結果3:信用へのアクセス
別誘導型推計
上述の通り、図表18の推定結果を用いる
ことで、(12)式・
(13)式を推定することが
できる。図表19と図表22は各家計・各月の
成人男性一人あたり食糧消費と非食糧消費
について、誘導型推定式
(12)式と
(15)式を
推定した結果を示しており、月ごとの影響
については図表24と図表25にまとめられて
いる。食糧消費に関しては自明ではないが、
非食糧消費に関しては灌漑へアクセスしや
すい世帯において、月ごとの消費がより高
いことが読み取れる。図表23は灌漑地域と
天水耕作地域の月別効果の違いを検定した
結果を示している。非食糧消費に関しては、
流動性制約の有無にかかわらず、ほとんど
の月で灌漑へのアクセスがより大きな支出
をもたらしている。一方、食糧消費につい
ては、資金借入れの可能性が、天水耕作地
の一時的貧困を緩和していることが示唆さ
れる。
図表 23 灌漑アクセスによる月次効果の差の有無の検定 : パキスタン
全標本
食糧消費
食糧以外の消費
F検定の P 値
F検定の P 値
流動性制約
流動性制約
流動性制約
流動性制約に直
に直面してい
に直面して
に直面して
面していない世帯
る世帯
いない世帯
全標本
いる世帯
2001 10 月
0.000
0.001
0.010
0.000
0.005
0.000
11 月
0.816
0.082
0.863
0.000
0.056
0.001
12 月
0.023
0.010
0.374
0.006
0.791
0.001
1月
0.001
0.002
0.077
0.000
0.001
0.001
2月
0.002
0.002
0.214
0.000
0.000
0.003
3月
0.020
0.004
0.584
0.000
0.001
0.000
4月
0.005
0.049
0.045
0.000
0.001
0.003
5月
0.019
0.553
0.170
0.000
0.011
0.002
6月
0.040
0.070
0.344
0.000
0.000
0.000
7月
0.019
0.042
0.271
0.000
0.000
0.000
8月
0.007
0.021
0.256
0.000
0.003
0.000
9月
0.035
0.023
0.458
0.000
0.000
0.002
10 月
0.000
0.040
0.475
0.000
0.000
0.001
11 月
0.019
0.070
0.344
0.082
0.155
0.317
2002
F検定の帰無仮説: 灌漑アクセスの有無で月次効果に差がない
60 開発金融研究所報
図表 24 灌漑年数別の誘導型推定 : 流動性制約に直面している世帯の食糧消費 : パキスタン
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2006年11月 第32号 61
図表 25 灌漑年数別の誘導型推定 : 流動性制約に直面していない世帯の食糧消費 : パキスタン
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 ᦬㑆㘩♳ᶖ⾌ᡰ಴
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62 開発金融研究所報
㪊㪐㪐㪏㩷 㩷
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図表 26 灌漑年数別の誘導型推定 : 流動性制約に直面している世帯の食糧以外の消費 : パキスタン
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 㘩♳એᄖ䈱᦬㑆ᶖ⾌ᡰ಴㩷
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ᣂ䈚䈇ἠṴ㩷
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2006年11月 第32号 63
図表 27 灌漑年数別の誘導型推定 : 流動性制約に直面していない世帯の食糧以外の消費 : パキスタン
ᓥዻᄌᢙ㪑㩷 ᚑੱ↵ᕈ৻ੱ䈅䈢䉍䈱 㘩♳એᄖ䈱᦬㑆ᶖ⾌ᡰ಴㩷
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64 開発金融研究所報
4.推定結果4 : 灌漑の質別の消費
効果
際、灌漑へのアクセスがある世帯のうち、年
数が不明であるデータは推定から除外した。
推定に当たっては、灌漑年数の10%分位
点以下を新しい灌漑、90%分位点以上を古
い灌漑とみなしている。*15 前者は建設以降
41年以下、後者は102年以上が経過している。
その上で、古い灌漑、新しい灌漑へのアク
セスがある世帯において、5-2、5-3節と同様
に内生的流動性制約をコントロールした上
で月別効果を比較した。図表24-27は
(12)式
と
(13)式の推定結果を示しており、図表28
は消費支出の月別効果の差異の検定結果を
表している。流動性制約に直面している世
帯では、ほとんどの月で、新しい灌漑は古
以上で示されたように、食糧消費に対する
灌漑へのアクセスの効果が自明には読み取れ
ないという点で、パキスタンのデータにはス
リランカと比べて大きな違いがある。*14 こ
れらの違いをより詳細に検討するため、灌漑
へのアクセスがある世帯を、利用可能な灌漑
の質ごとに分類し、その消費効果の差異を考
察する。ただし灌漑設備の質を直接示すよう
な変数はデータに含まれていないため、灌漑
の質に関する代理変数として、灌漑設備の建
設以降の経過した年数を分析に用いた。その
図表 28 灌漑年数による月次効果の差の有無の検定 : パキスタン
食糧消費
食糧以外の消費
F検定の P 値
F検定の P 値
流動性制約
流動性制約に
流動性制約
に直面してい
直面していない に直面して
直面していない
る世帯
世帯
世帯
いる世帯
流動性制約に
2001 10 月
0.000
0.189
0.001
0.632
11 月
0.000
0.288
0.004
0.931
12 月
0.001
0.366
0.001
0.885
2002 1 月
0.001
0.334
0.002
0.904
2月
0.000
0.310
0.001
0.893
3月
0.001
0.331
0.001
0.731
4月
0.000
0.303
0.000
0.570
5月
0.000
0.440
0.016
0.816
6月
0.000
0.420
0.009
0.606
7月
0.000
0.336
0.003
0.455
8月
0.000
0.306
0.003
0.759
9月
0.000
0.494
0.003
0.753
10月
0.000
0.329
0.002
0.900
11月
0.003
0.488
0.006
0.903
F検定の帰無仮説: 古い灌漑・新しい灌漑で月次効果に差がない
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*14 さらに、今回は掲載しないが、構造型方程式の推定の推定結果は、平均月収が消費支出に対して負に有意な影響を及ぼすなど、
直感に反するものであった。
*15 灌漑年数の10%分位点以下と90%分位点以上の他に準拠集団(reference group)としてその中間が入っている。
2006年11月 第32号 65
い灌漑よりも高い消費効果をもたらしてお
り、灌漑の質が一時的貧困・慢性的貧困に
対して重要な役割を果たすことが示唆され
ている。ただし、10%分位点以下の世帯は
30世帯、90%分位点以上の世帯は29世帯で
あり、標本数が少ないために多重共線性が
発生していくつかの係数が推定不能となっ
ている。さらに、流動性制約に直面してい
ない場合、多くの係数がゼロであるという t
検定を棄却できないため、統計的には結果
の解釈に関して留保が必要である。
第6章 考察
本論文では、インフラの整備と貧困の削
減との関係を、灌漑インフラがもたらす消
費支出の季節変動変化という観点から検証
した。スリランカとパキスタンのデータを
用いた推計結果は、おおむね灌漑設備の存
在が恒常所得を増幅させ慢性的貧困を削減
するだけでなく、とくに流動性制約に直面
する世帯の場合、一時的貧困に陥るリスク
要因を取り除くことを示している。これら
の分析結果はインフラのもたらす動態的な
貧困、すなわち慢性的・一時的双方の貧困
に対する削減効果を裏付けるものである。
さらに重要な点として、灌漑が世帯の信用
市場へのアクセスを改善するということが
分かった。信用市場へのアクセスの改善は、
さらなる動態的な貧困削減に貢献するとい
うことを示唆する。
一方、灌漑設備の適正な維持管理の欠如
によるインフラの質の低下は、灌漑インフ
ラの慢性的貧困・一時的貧困を軽減するた
めの手段としての効果を弱めてしまう。従っ
て、持続的に機能する水利組合等の農民組
織の存在は、灌漑インフラの質を維持し、
それが慢性的貧困・一時的貧困の軽減に資
するのに必要不可欠であるといえるであろ
う。というのも、灌漑の維持管理に必要な、
農民同士の諸問題を解決する能力、コミュ
ニティーでの集団行動を調整する能力にお
66 開発金融研究所報
いて、農民組織が非常に重要な役割を果た
しうるからである。とはいえ、農民組織に
はいわゆるフリーライダーの問題がつき物
であり、その機能を維持することは容易で
はない。個々の農民が組織に貢献するイン
センティブを付与するためには、農民組織
を単なるインフラの維持管理のためのもの
とするのではなく、農産物の共同マーケティ
ングや農業投入財の共同購入を同時に行い、
農民の経済取引を活性化するための多目的
の集団として組織することが不可欠であろ
う。これらの問題は、潜在的な市場競争に
さらされている状況においてコミュニティ
メカニズムが市場取引を活性化することを
精緻に論じた速水
(2006)の議論につながる
ものである。ただし、インフラの維持管理
や農産物の共同マーケティング・農業投入
財の共同購入を含む多目的な農民組織は、
速水
(2006)が詳細に論じているように、独
占的権限を生み出すものであったり、政治
的有力者のレント追求や既得権益保護をも
たらすものになってはならない。そしてそ
れは、農民の自発的取引を強化するように
慎重に設計されなければならない。これら
の問題については、今後の研究課題とした
い。
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Poverty in Viet Nam,”LSMS Working
Paper Number 121. The World Bank.
Washington, D.C.
Zhang, Xiaobo and Fan, Shenggen(2004)
,
“How Productive Is Infrastructure? A
New Approach and Evidence from Rural
India,” American Journal of Agricultural
Economics 86
(2)
, 492-501.
Zeldes, S. P.(1989)
, ‘Consumption and
Liquidity Constraints: An Empirical
Investigation,’Journal of Political Economy
97, 305-346.
2006年11月 第32号 69
30年後の途上国経済:
被援助国人口の増加に歯止めはかかるか?
開発金融研究所 所長 田辺 輝行
要 旨
現在、世界の人口は約 64 億人で、その内援助を必要としない先進国と中進国の人口が 16 億人で全
体の四分の一、残り四分の三の 48 億人が援助を必要とする開発途上国の人口となっている。そして、
開発途上国の人口 48 億人の半分の 24 億人が中国とインドの2ケ国の人口である。この両国の経済成
長は最近目覚しく、もしこの成長が今後も継続して両国が中進国となれば、その間の人口増加が無い
と仮定すると、先進国と中進国々の人口は“16 億人+ 24 億人= 40 億人”
、
他方開発途上国の人口は“48
億人―24 億人= 24 億人”となり、援助を必要としない国々の人口が援助を必要とする国々の人口を
上回ることになる。
その可能性を検証するために、最近 5 年間の平均成長率と世界銀行の人口増加率予測を用いて、試
算を行った。結果は、今後 10 年以内に中国が開発途上国から中進国に移行することにより、援助を
必要としない国々の人口と援助を必要とする国々の人口とが拮抗することとなり、またインド等の開
発途上国の成長が若干加速すれば、今後30年程度で援助を必要としない国々の人口が援助を必要と
する国々の人口を上回る可能性が有る、ということとなった。
この 30 年を長いと見るか短いと見るかは別として、その間も開発途上国支援の継続が必要であり、
その後もサブサハラ・アフリカを中心に、世界人口の四分の一前後は引き続き手厚い援助を必要とす
る。また、より重要なことは、援助卒業国の増加により被援助国の人口が減ったとしても、現在貧し
い国々の所得向上による資源消費の増加と、それによる環境負荷の増大が、新たに多大の対策費用を
必要とするであろうことであり、それは昨今の中国やインドの資源獲得を巡る動きからも想起される。
いずれにせよ、開発途上国の所得向上等により、貧しい国々の人口増加率が低下し、また援助卒業国
の増加により被援助国の人口が減れば、世界はより多くの資源を環境対策に使用することが可能とな
る。それは、嘗てローマ・クラブが言った“無限でない地球の破局の回避”に向けて一歩前進するこ
とでもあり、それは当時“遠い彼方の夢物語”とも思えたが、最近の中国やインドという人口大国の
目覚しい発展により、“その可能性が見えてきた”と言えるのかもしれない。
第1章 はじめに
1.問題意識
嘗てローマ・クラブが、その1972年の報
告書『成長の限界』で、
“現在のままで人口
増加や環境破壊が続けば、資源の枯渇や環
境の悪化によって100年以内に人類の成長は
限界に達する”と警鐘を鳴らし、また“破
局を回避するためには、地球が無限である
ということを前提とした従来の経済のあり
方を見直し、世界的な均衡を目指す必要が
ある”と論じた *1。このレポートは、その
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 ドネラ H. メドウズ他(1972)『成長の限界−ローマ・クラブ「人類危機」レポート』ダイヤモンド社.
この「人類の危機レポート」後の30年間のアップデートとして、ドネラ H. メドウズ他(2005)『成長の限界−人類の選択』
ダイヤモンド社.が最近出版されている。
70 開発金融研究所報
分析手法等について種々批判がなされたが、
地球の有限性について注意を喚起したこと
は、評価に値する。
20世紀後半以降に於ける我々の経験則で
は、貧しい国々の人口増加率は豊かになら
なければ低下しない *2。しかしながら、そ
もそも現在の開発途上国の人々全てが豊か
になることが可能であろうか?それが可能
だとしても、人口増加率を現在の先進国の
ように人口が殆ど増えないレベルにまで低
下させることが可能であろうか?これも可
能だとしても、そのような水準に達するま
でには長い年月を要し、その間にも人口は
増えてしまう!
他方、貧しい人々が豊かになれば、一人
当たりの資源消費量が増え、世界全体の資
源消費は確実に増加するであろう。従って、
開発途上国の人口増加に歯止めをかけるこ
とが可能だとしても、そのような状況にな
るまでに増える人口も含めて養うことが、
“地球の有限な資源と環境の観点から可能で
あろうか!?”という問いが投げかけられ
ているわけである。残念ながら、これまで
のところ、人類はこの問いに対して明確な
答えを示すことには成功しておらず、出口
を見出せないままに、悲観論と楽観論を交
錯させながら、地球環境対策と開発途上国
支援を別個に行ってきており、その間にも
貧しい開発途上国の人口は増え続けた、と
いうのが現実であった。
そこに、最近の所謂 BRICs、特に中国と
インドの発展が、一方でグローバルなビジ
ネス環境上の好機という観点から注目され
ているが、他方、中国とインドの活発な資
源外交や一次産品の輸入急増が、先に触れ
たローマ・クラブの資源の有限性の観点に
ついて、再度注意を喚起しつつあると言え
よう *3。しかし、中国とインドの台頭は、
上記に加え、
“もしかしたら、援助を必要と
する開発途上国の人口が大幅に減るかもし
れない !?”という可能性を提起しているこ
とにも、併せて注目する必要がある。
2004年現在、世界の人口は約64億人 *4で
あるが、内訳は先進国 *5と中進国が全体の
約四分の一の16億人、残り四分の三の48億
人が援助を必要とする開発途上国の貧しい
人々となっている。そして、この途上国人
口48億人の半分の24億人を中国とインドの
2ケ国だけで占めている。従って、両国が
目覚しい成長により開発途上国を脱して中
進国になると、仮にその間の人口増加が無
いと仮定すると、先進国と中進国の人口は
16億人+24億人で40億人、他方途上国の人
口は48億人―24億人の24億人となり、援助
を必要とする途上国の人口は世界の4割以
下となる。
両国が開発途上国から中進国になれば、
人口増加率が高い途上国人口の絶対数が減
り、人口大国である両国の人口増加率も所
得向上等により低下する。また、援助国の
人口が増える一方被援助国の人口が減れば、
援助に投入しうる資源が増えることから、
被援助国人口一人当たりの援助の増額が可
能となる。それにより、一方で貧しい人々
の所得向上、ひいては人口増加率低下を図
り、他方環境対策も併せて強化できれば、
まさにローマ・クラブが言うところの“無
限でない地球の破局を回避するための世界
的な均衡”が実現できるかもしれない、そ
れが本稿の問題意識である。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 所得と人口増加の相関関係は、理論的には確立していない。世界銀行『世界開発報告書1984』では、“出生率と所得には逆の
相関が見られることが多いが、重要な例外が存在する”、そして“出生率の差は、一人当たりの所得よりはむしろ、平均寿命、
女性の識字率、及び貧困層の所得水準との間に強い相関関係を持っている”としている。
*3 最新の天然資源の動向を記述したものとして、柴田明夫(2006)『資源インフレ』日本経済新聞社.がある。また、1995年と
少し古くなるが、レスター・ブラウンが『誰が中国を養うのか』ダイヤモンド社.で、中国の食料供給について警鐘を発し
ている。
*4 World Bank“World Development Indicators(WDI):06”,pp46-48
*5 本稿で扱う“国の所得カテゴリーの定義”等については、本稿第1章3.(2)と図表1参照。
2006年11月 第32号 71
2.分析の目的と内容
本稿の分析は、最近の経済発展の傾向が
今後30年続いたとしたら、援助を必要とし
ない国と、援助を必要とし、かつ人口増加
率も高い開発途上国の人口の割合がどのよ
うに推移するかを概観し、今後の援助政策
に与える含意について検討することを目的
とする。
このため、先ず第2章において、過去約
40年間の実績データに基づき、一人当たり
所得水準の推移、所得水準別カテゴリー毎
の人口の推移、そして人口増加率とそれに
影響を与える合計特殊出生率*6の動向を確
認する。上記に基づき、第3章において、
最近の平均成長率と世銀の人口成長率予測
を用いたベース・ケースを、第4章におい
ては、代替シナリオとして、貧しい国々の
成長を加速させたケースについて、それぞ
れ今後30年間の一人当たり所得水準を試算
し、所得水準別カテゴリー毎の人口の動向
を確認し、開発途上国人口の推移を分析・
検討する。
3.分析の前提と留意点
(1)データ
世銀銀行が毎年出している統計の最新版
“World Development Indicators(WDI)
:06”
*7
に収録されている GDP 関連統計と人口統
計 を 使 用。 こ の GDP 統 計 は2000年 の 不 変
価格ベースで、1965年から2004年までをカ
バーしている。後に述べる所得カテゴリー
が GNI ベ ー ス で あ る た め、 本 来 は そ ち ら
の統計を使うことが望ましいが、不変価格
ベースで長期をカバーする GNI 統計が無い
ため、ここでは GDP ベースのものを使用し
た。従って、
本稿で触れる所得に係る数値は、
特記が無い限り、2000年の不変価格で、し
かも GDP ベースのものである。
(2)所得水準別カテゴリー
各国の所得水準による分類は、複数の異
なった方法があるが、本節以降の分析・記
述においては、世銀の分類方法、即ち“高
所得国”
、
“高中所得国”
、
“低中所得国”
、
“低
*8
所得国” を用いた。それぞれのカテゴリー
の所得水準と世界銀行の融資条件決定表上
の分類との対応は図表1のとおりである。
図表の右側には、それぞれのカテゴリーの
一般的呼称も記載した。
高所得国は、必ずしも同義ではないが“先
進国”とも言われ、多くの国々は“開発途
上国”に対して援助を行っている。一人当
たり GNI が2000年基準で 2,996ドル以上の
高中所得国は“中進国”とも言われ、一般
に援助からの卒業生とみなされる。他方、
2,996ドルに達しない国々は援助を必要とす
る“開発途上国”と呼ばれ、特に貧しい低
所得国への支援は、返済を要しない無償ベー
スで行われ、低所得国のカテゴリーの中で
も債務負担能力がある国々と低中所得国は、
世銀の IDA クレジットや日本の円借款と
いった、長期・低利の譲許的借款などのロー
ンを主体にした支援がなされている*9。現
時点のアジアでは、インド、ベトナム、バ
ングラデシュ等が低所得国に、中国、イン
ドネシア、フィリピン等が低中所得国のカ
テゴリーに入っている。
上記を踏まえ、本稿では、特記が無い限り、
各カテゴリーを以下のように整理している*10。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*6 定義等については、本稿第2章、4.参照。
*7 詳しくは世銀ウェッブ・サイト、http://web.worldbank.org/WEBSITE/EXTERNAL/DATASTATISTICS/ 参照。
*8 英文表記では、それぞれ“Hight Income”,
“Upper middle Income”,
“Lower Middle Income”,
“Low Income”となっている。
*9 世銀の場合、低中所得国については、所得水準と債務返済能力等を勘案して、それらの向上に従ってよりハードな融資条件
を適用し、高中所得国カテゴリーの5,225ドル以上の国は世銀借款からの卒業生としている。
*10 高所得国以外でも、中国やインド等、非援助国であると同時に援助国でもある国々がある。また、高中所得国でも援助を受け
ている国もあり、援助国と比援助国を厳密に区分することは難しく、ここでの区分は、あくまで概念的整理のためのものである。
72 開発金融研究所報
高所得国 =先進国 =援助国
=援助を必要としない国
高中所得国=中進国 =援助卒業生
=援助を必要としない国
低中所得国:開発途上国=被援助国
=援助を必要とする国
低所得国 :開発途上国=被援助国
=援助を必要とする国
尚、図表1の分類は GNI ベースであるが、
本稿で使用する数値は GDP ベースである
ため、便宜的に2000年の各国の一人当たり
GNI は GDP に等しいものと仮定した*11。
(3)地域分類
地域分類については、基本的に世界銀行
の分類*12を用いた。但し、本稿ではアジア
全体の動向を注視するため、特に世銀のデー
タを引用する時以外は、東アジアと南アジ
アを一緒にし、他方、世銀は東アジアに太
平洋の島国を含めているので、それらは東
アジアから切り離して大洋州に含めている。
第2章 過去 40 年間
(1965-2004 年)の動向
1.一人当たり GDP
図表2は、1965年から2004年迄の約40年間
にわたる一人当たり GDP *13の推移を示した
ものである。これによれば、世界の一人当た
り GDP は着実に増加を続けて、2000年の不
変価格ベースで、1965年の3,069ドルから 2004
年には 5,604ドルへと、1.83倍となった*14。
所得の絶対額を見ると、2004年で約 35,000
ドルの北アメリカが群を抜いて高く、次いで
欧州と大洋州が15,000ドル前後とその半分位
で、他のラテンアメリカ・カリブ、中近東・
北アフリカ、アジア、サブサハラ・アフリカ
は、これら上位との格差が大きく、グラフの
下の方に集中している。
図表3は、見易いように図表2の下部を
拡大したものである。これを見ると、微減
を続けたサブサハラ・アフリカを除く全て
の地域において、所得が向上している。40
図表1 所得水準別カテゴリー
ࠞ࠹ࠧ࡝࡯ ৻ੱᒰߚࠅ GNI(2000 ᐕၮḰ) ਎㌁Ⲣ⾗᧦ઙ⴫ ઁߩ৻⥸๭⒓
ૐᚲᓧ࿖
ૐਛᚲᓧ࿖
㜞ਛᚲᓧ࿖
㜞ᚲᓧ࿖
0
755
2,996
࠼࡞એ਄
–
–
755 ࠼࡞ᧂḩ
2,996
9,266
I 㐿⊒ㅜ਄࿖
II ෸߮ III
IV ෸߮ V 㐿⊒ㅜ਄࿖
ਛㅴ࿖
9,266 ࠼࡞એ਄ వㅴ࿖ 出所)『世界銀行年次報告書 2001』「表 8.1 世銀融資適格国」のデータを元に筆者作成。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*11 理論的には GNI と GDP は異なり、実際に各国の一人当たり GNI と GDP を比較しても一致はしない。しかし、一部の産油国
等を除くと、2つの数値は概ね同水準にある。例えば、2000年の高中所得国と低中所得国のボーダーラインである2,996ドル前
後を見ると、南アフリカの GNI が3,050ドル、トルコの GNI は2,980ドル、他方 GDP もそれぞれ3,020ドル、2,956ドルとなって
おり、殆ど同じ水準であった。同じ比較を低中所得国と低所得国のボーダーラインについても行ってみたところ、そちらもほ
ぼ同様であった。従って、長期に渡って概観するという本稿の目的からして、GNI と GDP を等しいと仮定しても、全体の分
析結果に大きな影響は与えないと判断した。
*12 世銀の地域分類は、
“World Development Indicators(WDI)
”の巻末に地図と表が記載されており、それで一覧できる。
*13 過去40年の間、例えば旧ソ連邦の崩壊により独立した国が出現したこと、また1965年には統計が存在しなかったがその後整備
された等の理由により、時期により統計が存在する国の数が変動している。本稿では、時期毎に必要なデータが揃っている国
は全て集計対象としているので、時期毎に集計対象国が一部異なっている。
*14 年率換算では1.56%の増加となる。
2006年11月 第32号 73
図表2 一人当 GDP 推移 -1(1965-2004)
40,000
北アメリカ
大洋州
欧州(含中央アジア)
ラテンアメリカ・カリブ
中近東・北アフリカ
アジア
サブサハラ・アフリカ
世界
ドル ・ 20 00 年不変価格
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
19
65
19
70
19
75
19
80
19
85
19
90
19
95
20
00
20
04
0
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
6,000
ラテンアメリ
カ・カリブ
中近東・北ア
フリカ
アジア
5,000
4,000
3,000
2,000
サブサハラ・ア
フリカ
世界
1,000
19
75
19
85
19
95
20
04
0
19
65
ドル・2000年不変価格
図表3 一人当 GDP 推移 -2(1965-2004)
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
74 開発金融研究所報
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
20
04
19
95
19
85
19
75
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
19
65
人口(百万人)
図表4 所得カテゴリー別人口推移
(1965-2004)
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
図表5 所得カテゴリー別人口構成推移(1965-2004)
100%
80%
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
60%
40%
20%
20
04
19
95
19
85
19
75
0%
19
65
年間の増加が大きい順に挙げれば、世界平
均の1.83倍に対して、アジア3.15倍、中近東・
北アフリカ2.47倍、北アメリカ2.23倍、大洋
州1.91倍、ラテンアメリカ・カリブ1.69倍、
欧州1.43倍、サブサハラ・アフリカはマイナ
ス成長で0.91倍となっている。
所得の絶対額を見ると、1965年段階でサ
ブサハラは 594ドル、アジアは 831ドルと、
両者にあまり大きな差は無かったが、アジ
アは各地域の中で一番高い伸び率を達成し、
2004年には 2,621ドルと、地域全体として
高中所得国(中進国)の水準にあと一歩と
いうところ迄近づいたが、地域平均で高中
所得国レベルに達している4,000ドル前後の
ラテンアメリカや3,000ドル強の中近東・北
アフリカよりは低い水準に止まっている。
いずれにせよ、北アメリカ、大洋州、欧州
以外の全ての地域では、一人当たり GDP が
世界平均の5,604ドルを下回っている。
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
2.所得カテゴリー別人口
図表4は所得カテゴリー別の人口を示し
たものであるが、過去40年間に、援助を必
要としない高所得国(先進国)と高中所得
国(中進国)のカテゴリーに属する国々の
人口は、絶対数として着実に増加し続けた
が、援助を必要とする低所得国と低中所得
国の合計、即ち開発途上国のカテゴリーに
属する国々の人口も絶対数として増加して
いる。
図表5は、図表4の数値を、各カテゴリー
別の構成比で表示したものであるが、高所
得国と高中所得国を合わせた援助を必要と
しない国々の人口は、多少の増減はあるが、
概ね全体の2割強前後で推移しており、増
えもしなければ減りもしていない、といっ
た傾向を示している。上記を裏返せば、援
助を必要とする開発途上国の人口の割合も
8割弱前後で推移しているということで、
如何にこの比率と絶対数を減らすことがで
きるかが課題である。
2004年時点で、世界人口に占める高所得
図表6 低所得国と低中所得国の人口推移(1965-2004)
人口(百万人)
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
低所得国
低中所得国
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
国、高中所得国、低中所得国、低所得国の
そ れ ぞ れ の 割 合 は、15.4%、10.4%、38.3%、
35.9%となっている。因みに、1995年と2000
年の間で、低所得国の人口の割合が減って
低中所得国の人口の割合が増えているが、
これは人口13億人の中国が、この間に低所
得国から低中所得国のカテゴリーに移行し
たことによるものである。いずれにせよ、
仮に開発途上国の人口が減らないまでも、
その中でより貧しい国々の比率が下がるこ
と自体は、好ましい傾向であることは言う
までもない。
図表6は、開発途上国の人口の絶対数を
2006年11月 第32号 75
見易くするために抽出したものである。低
所得国の人口は、中国が抜けたことにより
一旦減少するものの、その後再び増加に転
ずること、また中国を含んだ低中所得国の
人口も増加傾向にあることから、両者の合
計である開発途上国の人口の絶対数も増加
傾向にあることを示している。
3.所得カテゴリー別 GDP
図表7は、所得カテゴリー別 GDP の推移
を示すものである。これ迄40年間、一貫し
て高所得国の GDP が世界全体の8割前後を
占めており、高中所得国も含めると9割前
後となる。2000年以降、低中所得国の割合
が若干増加しているが、これも高成長を続
ける中国が低所得国から低中所得国のカテ
ゴリーに移ったことによる。
尚、本稿での分析・記述は通常の GDP の
数値に基づいて行っているが、これでは物
価水準が低い開発途上国経済が過小見積も
りとなる傾向があるため、購買力平価ベー
スを使用することもある。それによる最近
の IMF の推計では、中国の GDP は世界の
15.4%を、インドは5.9% を占めると報道さ
れている*15が、本稿の通常の GDP ベースに
よる計算では、それぞれ2.7%、1.7%となっ
ており、両者の間には大きな乖離が有る。
図表7 所得カテゴリー別 GDP 推移(1965-2004)
100%
80%
60%
40%
20%
19
65
19
70
19
75
19
80
19
85
19
90
19
95
20
00
20
04
0%
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
いずれにせよ、先に一人当たり GDP の世
界平均の推移を見たが、その数値は世界の
GDP 総額の9割前後を占める非開発途上国
の所得増加と、総人口の8割近く占める途
上国の人口増加によって大きく影響を受け
ることが、この図表からうかがえる。
4.開発途上国の人口増加
ここまで、過去40年間の一人当たり GDP
の推移と、それぞれの所得カテゴリー別人
口の絶対数及びその構成比を見てきた。本
節では、出生率、人口増加率、及び今後の
開発途上国の人口増加への含意について見
てみたい。
図表8は、合計特殊出生率の40年間の推
移を見たものである。合計特殊出生率*16と
は、人口統計上の指標で、一人の女性が一
生に生む子どもの数を示す。調査対象にお
ける男女比が1対1であり、すべての女性が
出産可能年齢以上まで生きるとすると、合
計特殊出生率が2.0であれば人口は横ばいと
なり、これを上回れば自然増、下回れば自
然減となるはずである。最近の日本では、
少子化の問題点について盛んに議論がなさ
れているが、世界の人口増加に歯止めをか
けられるかという問題意識の本稿では、世
界全体で2.0に早く近づくことが望ましいと
いうことになる。
図表8の作成に当たっては、先ず必要な
デ ー タ が1967年 か ら2002年 *17ま で の 過 去
35年分揃っている国を抽出した。次に、こ
れらの国々を2002年の一人当たりGDPに
従って高所得国、高中所得国、低中所得国、
低所得国の4グループに分類し、それぞれ
のグループに属する国々の特殊出生率の加
重平均を時系列的に示した。尚、この作業
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*15 2006年8月8日付、日本経済新聞。
*16 実際には生まれてくる子どもの男女比は男性が若干高いこと、出産可能年齢以下で死亡する女性がいることから、自然増と
自然減との境界は、正確には2.08ないしは2.07とされている。
*17 多くの国の統計が、下一桁が2年、7年の5年毎にとられているため、1967年から2002年迄の比較となった。
76 開発金融研究所報
図表8 合計特殊出生率推移
(1967-2002)
7
6
人
5
高所得国
高中所得国
低中所得国
低所得国
世界平均
4
3
2
1
19
67
19
72
19
77
19
82
19
87
19
92
19
97
20
02
0
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
に必要なデータが揃っている国の数は99ケ
国であった。
時系列的に見ると、高所得、高中所得、
低中所得、低所得の各グループの1967年に
於ける合計特殊出生率は、それぞれ2.6、5.3、
5.8、6.3であったのが、2002年には1.7、2.4、2.2、
3.7へと、また世界の平均も5.2から 2.7となり、
35年間に大きく低下している。また、この
間の所得の上昇をグループ別に計算してみ
ると、高所得のグループは2.3倍、高中所得1.7
倍、低中所得5.1*18倍、低所得1.9倍と、いず
れのグループも所得が伸びている。従って、
時系列的に見ると、合計特殊出生率は所得
レベルと逆相関となっていると言える*19。
尚、1972年から 1977年にかけて、高中所
得グループと低中所得国の数値が逆転し、
低中所得国の出生率の方が低くなっている。
これはこのグループの人口の7割前後を占め
る中国の出生率が、その間に4.9から 2.7へと
急減したことによるものである。中国の数
値はその後も低下し続け、2002年では1.9と
なり、低中所得グループ全体でも2.2と、高
中所得グループの2.4を下回っている。但し、
世界にも稀な一人っ子政策により出生率抑
制に成功した特殊要因としての中国を除い
てみると、低中所得グループの出生率は2.7
と高中所得グループの数値より高くなり、
一般的には所得の高いグループの方が合計
特殊出生率が低いという傾向が見てとれる。
さらにこの図表で注目されるのは、高所
得グループの最近の合計特殊出生率が1.7と
2.0を下回っており、また高中所得グループ
も2.4、低中所得グループも2.2と2.0に接近し
ていることである。このため、低所得グルー
プだけが依然として3.7と高い水準にあるも
のの、世界平均は2.7*20となっており、今後
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*18 低中所得グループの伸びが5.1倍と傑出して高いのは、グループの人口の7割前後を占める中国の所得が11.2倍と大きく伸び
たことにる。
*19 この相関関係については、脚注2も参照されたい。
*20 この2.7という数値は、過去35年間のデータが揃う99ケ国の加重平均であるが、国の数が少ないので、2002年のデータが揃っ
ている183ケ国について、その加重平均を計算して見たところ、それも2.7となった。また、次のパラグラフで引用する表2の
世銀の数値は、2004年で2.6となっている。
2006年11月 第32号 77
図表9 人口増加率と合計特殊出生率(地域別)
人口増加率(%)
1950-80
合計特殊出生率(人)
1980-1990
1990-2004
1970 1980 2004
欧州(含中央アジア)
1.3
0.9
0.1
2.5
2.2
1.6
東アジア・大洋州
2.0
1.6
1.2
5.4
3.0
2.1
ラテンアメリカ・カリブ
2.6
2.0
1.6
5.3
4.2
2.4
南アジア
2.2
2.2
1.8
6.0
5.2
3.1
中東・北アフリカ
2.6
3.0
2.1
6.7
6.2
3.1
サブサハラ・アフリカ
2.6
2.9
2.5
6.8
6.7
5.4
世界
1.9
1.7
1.4
4.8
3.7
2.6
出所)
“WDI:06”,p.42.
図表 10 合計特殊出生率(アジア主要国)
合計特殊出生率(人)
1990
2004
中国
2.1
1.8
タイ
2.2
1.9
インドネシア
3.1
2.3
インド
3.8
2.9
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
の低所得国の出生率低下の速度次第で、そ
う遠くない時期に世界平均が2.0に近づく可
能性があると言えよう。
図 表 9 は、 地 域 毎 の 人 口 増 加 率 と 合 計
特 殊 出 生 率 を 示 す も の で、 世 銀 の World
Development Indicators から引用したもの
であるが、サブサハラ・アフリカ以外の全
ての地域において、確実に人口増加率が低
下していることが見てとれる。この低下は、
図表の右側の合計特殊出生率の低下によっ
て裏打ちされている。欧州では合計特殊出
生率が1980年では2.2であったのが 2004年に
は2.0を下回る1.6へと低下している。東アジ
アも、1970年には 5.4であったものが、1980
年 に は 3.0、2004年 に は 2.1へ と 低 下 し た。
また、ラテンアメリカ・カリブも2004年の
数値は2.4で、2.0まで今一歩である。南アジ
アと中東・北アフリカは3.1とまだ若干高い
が、1970年から2004年にかけて数値がほぼ
78 開発金融研究所報
半減していることから、今後の低下が期待
できる。但し、サブサハラ・アフリカは、
1980年の 6.7から2004年の5.4へと若干減った
といえども、未だ高水準にある。しかし、
東アジアも1970年には同様の水準であった
ことを考えれば、この地域についても今後
の低下は期待しうる。
図表10は、アジアの主要開発途上国の合
計特殊出生率を見たものである。2004年の
数値では、中国のみならずタイも既に2.0を
下回って、それぞれ1.8.1.9となっている。
インドネシアやインドは、それぞれ2.3、2.9
と2.0を上回っているが、共に1990-2004年の
間にそれぞれ0.8、0.9低下していることから、
今後も低下の継続が期待できる。中国に加
え、それと並ぶ人口大国であるインド、ま
た2億人の人口を抱えるインドネシアの数値
が2.0に近づく、或いはそれを下回ることが
あれば、それは開発途上国の人口増加の趨
勢に大きな影響を与えるであろう。
図表11は、これらアジア主要国の人口増
加率の推移であるが、合計特殊出生率の低
下により予想できるように、人口増加率も
着実に低下を続けていることがわかる。
図表 11 アジア各国の人口増加率推移
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出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
第3章 今後 30 年間
(2005-2035 年)の動向
1.試算の前提
前 章 で は、1965年 か ら2004年 迄 の 所 得
水 準、 所 得 カ テ ゴ リ ー 別 の 人 口、 人 口 増
加 率 等 の 推 移 に つ い て、 世 銀 の World
Development Indicators
(WDI)最 新 版 の
2000年の不変価格ベースでの GDP 及び人
口統計に基づいて概観した。本章では、同
じデータベースを用いて、最近の傾向が継
続すると今後30年間どのように推移するか、
試算を行って、その含意について検討する。
試算に際しては、一人当たりGDP成長
率は直近の2000-2004の5年間の平均値、人口
増加率は WDI に示される2004-2020年の予
測値を用いた。各地毎の一人当たりGDP
成長率は図表12、人口増加率は図表13、各
国別の数値は付表1*21に示すとおりである。
2.一人当たり GDP
図表14は、今後30年間にわたる一人当た
り GDP の試算結果を地域毎に示したもので
ある。尚、
この図表では2004年迄が実績値で、
2005年以降が試算値である。
そもそもこの試算自体が、これまでの傾
向が変わらないという前提に基づくもので
あり、GDP成長率も過去5年間の実績の
平均値を用いていることから、この図表は
予想どおりのものであり、1965‐2004年の
実績を示す図表2と比較しても、所得の上
昇によりグラフが全体的に上方シフトした
以外に、大きな相違は無い。
しかし、図表14の下部を拡大した図表15
を丁寧に見ると、1965-2004年の実績を示し
た図表3とは3つの点で異なっていること
に気づく。一つには、アジアの一人当たり
GDPが中東・北アフリカとラテンアメリ
カ・カリブのそれを追い越していること、
二つ目が、中東・北アフリカがラテンアメ
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*21 図表13は世銀が作成したものを直接引用したものであり、本稿の地域分類に基づく図表12とは分類方法が異なるが、いずれ
も付表1の数値が各国毎のバックデータとなっていることにかわりはない。地域分類方法の相違については、第1章、3.(3)
参照。
2006年11月 第32号 79
図表 12 一人当たり GDP 年平均成長率(%) 図表 13 人口増加率
2000-2004
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5.44
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4.15
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2.42
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1.81
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1.71
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1.14
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1.03
ୠ⏲
4.07
人口増加率(%)
1990-2004
2004-2020
欧州(含中央アジア)
0.1
0.1
東アジア・大洋州
1.1
0.7
ラテンアメリカ・カリブ
1.6
1.2
南アジア
1.9
1.5
中東・北アフリカ
2.0
1.8
サブサハラ・アフリカ
2.5
2.2
世界
1.4
1.1
出所)“WDI:06”,p.48.
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
図表 14 一人当 GDP 予測 -1(2000-2035)
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出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
図表 15 一人当 GDP 予測 -2(2000-2035)
ドル・2000年不変価格
14,000
ラテンアメリカ・カ
リブ
中近東・北アフリ
カ
アジア
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
サブサハラ・アフリ
カ
世界
2,000
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
80 開発金融研究所報
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
2000
0
図表 16 所得カテゴリー別人口予測(2000-2035)
10,000
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
2035
2030
2025
2020
2015
2010
2005
2000
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
図表 17 所得カテゴリー別人口構成比予測(2000-2035)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
図表 18 低所得国と低中所得国の人口予測(2000-2035)
人口(百万人)
6,000
5,000
4,000
低所得
低中所得国
3,000
2,000
1,000
0
20
00
20
05
20
10
20
15
20
20
20
25
20
30
20
35
図表16は所得カテゴリー別人口(2000-2035
年)であるが、これを1965-2004年の実績を
示した図表4と比較すると、高所得と高中
所得の国の人口が増えて、他方低所得国の
割合が減っている。具体的には、先ず2010
年から2015年にかけて、高中所得国の人口
が増え、低中所得国はあまり変わらず、そ
の分低所得国が減っている。これは、その
間に、人口10億人以上のインドが低所得国
から低中所得国に移行するので、その分低
所得国の人口が減る。他方、同じく10億人
以上の中国が低中所得国から高中所得国に
移行するため、低中所得国はインドによる
増分が中国の減で相殺されて変わらず、結
局低所得国の人口が減って高中所得国の人
口が増えるという形になっている。その後、
中国は2025年と2030年の間に高所得国に移
行するため、その分高所得国の人口が増え、
他方高中所得国の人口が減っている。
図表17は所得カテゴリー別の人口構成比
を示したものである。1965-2004年の実績を
示す図表5では、援助を必要とする開発途
上国人口の割合が一貫して世界人口の7-8割
を占めていたのが、この図表では2010年か
ら2015年にかけて、約7割から一気に5割に
減り、その後概ね一定となっている。
図表18は、援助を必要とする開発途上国
人口の絶対数を示したものである。2015年
人口(百万人)
3.所得カテゴリー別人口
以降、世界人口に占める割合は概ね5割前後
と一定でも、絶対数では増えている。その
主たる要因は低中所得国の人口の増加であ
り、低所得国の人口の絶対数は減っている。
この試算結果では、インドの一人当たり
GDPは、2035年の時点で1,876ドルと高中
所得国基準の 2,996ドルには届かず、未だ低
中所得国のカテゴリーに留まっている。も
し、その時点で16億人を有するインドが低
中所得国から外れて高中所得国に移行すれ
ば、即ち図表16で16億人分高中所得国の人
口を増やして、その分低中所得国から減ず
れば、明らかに援助を必要としない高所得
と高中所得の国々の人口が、低中所得と低
20
00
20
05
20
10
20
15
20
20
20
25
20
30
20
35
リカ・カリブを追い越していること、そし
て三つ目が、サブサハラ・アフリカが減少
ではなく微増していることである。これら
の試算結果は、繰り返しになるが、図表12
に示す最近5年間の実績成長率において、
アジアの成長率が中東・北アフリカとラテ
ンアメリカ・カリブのそれよりも高く、中
東・北アフリカの成長率はラテンアメリカ・
カリブのそれよりも高く、サブサハラ・ア
フリカの成長率はプラスの値であり、これ
らの数値を用いて試算すれば、当然得られ
るものである。
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
2006年11月 第32号 81
図表 19 所得カテゴリー別国の数
高所得
高中所得
低中所得
低所得
合計
1965
16
18
27
45
106
1970
21
19
31
44
115
1975
25
22
36
38
121
1980
29
25
46
40
140
1985
30
25
48
49
152
1990
31
34
51
55
171
1995
33
32
52
62
179
2000
39
33
50
60
182
2005
34
35
50
52
171
2010
37
37
48
49
171
2015
41
40
44
46
171
2020
45
41
44
41
171
2025
53
37
46
35
171
2030
62
31
44
34
171
2035
63
34
42
32
171
出所)筆者作成
図表 20 所得カテゴリー別 GDP 予測(2000-2035)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2035
2030
2025
2020
2015
2010
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
2000
図表19は所得カテゴリー階層別の国の数
を示したものである。試算対象となった国
の数は171であるが、その内高所得国の数は、
2000年から2035年にかけて39ケ国から63へ
と大幅に増加、高中所得国は33から34と微
増、両方併せた援助を必要としない国の数
は全体の40%から57%へと増加する。他方、
低所得国の数も60から32へと大幅に減少す
るが、低中所得国の数は50から42へと若干
の減少に止まっている。いずれにせよ、低
所得国と低中所得国数の合計である被援助
国は、国の数から見ても、171国中102ケ国
から74ケ国へと、全体の半分以下となる。
図表20は所得カテゴリー別 GDP の推移を
見たものである。図表16での説明と同様で
あるが、2010年から2015年にかけて、中国
の低中所得国から高中所得国への移行によ
り、高中所得国の GDP シエアが増え、そ
の分低中所得国のシェアが減っている。そ
の後、中国の所得向上により高中所得国の
GDP シエアが増え続けるが、2025年と2030
2005
4.所得カテゴリー別国数
5.所得カテゴリー別 GDP
2004
所得国の合計である援助を必要とする開発
途上国の人口を上回ることになる。
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
82 開発金融研究所報
年の間に中国が高所得国に移行するため、
高中所得国のシュアが減って高所得が増え
ている。2035年の状況を、1965-2004年の実
績を示す図表7と比較すると、図表7より
も更に高所得と高中所得国の割合が大きく
なっている。
第4章 代替シナリオの分析
1.追加的試算の背景と前提
前章の2035年までのベース・ケースの試
算結果では、主として中国が2010年と2015
年の間に低中所得国から高中所得国に移行
することにより、援助を必要としない高中
所得国と高所得国の人口合計と援助を必要
とする低所得国と低中所得国の人口合計と
が拮抗し、その状況がその後も続いた。また、
2035年の段階で未だ低中所得国に留まるそ
の時点で人口16億人を擁するインドが、中
国のように高中所得国に移行したら、援助
を必要としない国の人口が援助を必要とす
る国の人口を大きく上回るであろうことが
示唆された。そこでインドが高中所得国に
移行した後の各所得カテゴリー別人口構成
を見るべく、追加的に試算を行うこととし
た。
インドの高中所得国への移行後の状況を
見るためには、高中所得国になる時期を特
定し、その後の所得カテゴリー別人口構成
比を計算することが考えられる。このため、
前章のベース・ケースの試算で用いられた
最近5年の平均一人当たりGDP成長率4.1%
で、2004年に538ドルであった一人当たりG
DPが高中所得国基準である2,996ドルに到
達する時期を計算すると、それは2047年、
即ち43年を要するという結果となった。
インドの高中所得国移行後の状況を見る
ためのもう一つの方法は、2035年に高中所
得国になる成長率を求めて、それよりも高
い成長率を用いて試算することが考えられ
る。この条件を満たす一人当たりGDP成
長率を計算すると5.9%となり、これは最近
の平均実績成長率の4.1%より1.8%高い数値
となった。
上 記 い ず れ の 方 法 を 採 っ て も 良 い が、
2047年まで計算するというのも少し迂遠な
話であること、また最近のインドの成長が
加速気味で、一人当たりGDP成長率5.9%
の持続も可能*22と考えられることから、本
章では後者の方法を採って、
“開発途上国の
成長加速ケース”として追加的に試算を行っ
た。具体的には、2035年の段階で高中所得
国の水準に到達していない国々全ての成長
率を 2 %高め、また、成長率を 2 %高めて
もマイナスの成長率となる国があり、これ
らについては成長率を 0 %として計算した。
尚、これら2035年の段階で高中所得国の
水準に到達していない国々については、付
表 1 にその時点でのカテゴリーを低中所得
或いは低所得国として表示してあるが、そ
の顔ぶれを見ると、1,876ドルのインドに加
えて、2,984ドルと高中所得国直前のベトナ
ム、同じく2,811ドルのスリランカ、以下イ
ンドネシア(2,436ドル)
、フィリピン(2,262
ドル)
、ブータン(2,075ドル)
、カンボジア
(1,391ドル)
、バングラデシュ(1,139ドル)、
ラオス(1,097ドル)
、パキスタン(941ドル)
等のアジアの国々が多く含まれている。
2.所得カテゴリー別人口
上記前提で試算した結果が図表21である
が、その前提とはインドが2035年には高中
所得国に到達する成長率を選択することで
あった。その結果、この図表の2035年の棒
グラフでは、低中所得国の人口が大きく減っ
て、その分高中所得国の人口が増加してい
る。また、低所得国と低中所得国を合わせ
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*22 詳しくは、次節の図表24と関連の説明参照。
2006年11月 第32号 83
た開発途上国の人口の割合は、図表22のと
おり全体の 2 割 5 分程度へと減少しており、
また人口の絶対数も図表23のとおり2010年
の半分以下へと減っている。尚、この時点
での各カテゴリー毎の正確な数字は、高所
得国31億人(35%)
、
高中所得国36億人(41%)
、
低中所得国15億人(17%)
、低所得国6億人
(7%)で、世界の総人口は87億人 *23となっ
ている。従って、正確には、援助を必要と
しない高所得国と高中所得国の人口は67億
人で世界の総人口の76%、他方援助を必要
10,000
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
20
00
20
05
20
10
20
15
20
20
20
25
20
30
20
35
人口(百万人)
図表 21 所得カテゴリー別人口試算(2000-2035)
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
図表 22 所得カテゴリー別人口構成比試算(2000-2035)
100%
80%
低所得国
低中所得国
高中所得国
高所得国
60%
40%
20%
0%
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
5,000
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0
20
00
20
05
20
10
20
15
20
20
20
25
20
30
20
35
人口(百万人)
図表 23 低所得国と低中所得国の人口試算(2000-2035)
出所)
“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
低所得国
低中所得国
とする低中所得国と低所得国の人口は21億
人で、総人口の24%となっている。
この“開発途上国の成長加速ケース”で
は、時期は様々であるが、アジア諸国では
インドにとどまらず、ベトナム、スリラン
カ、インドネシア、フィリピン、ブータン
も高中所得国に到達しているが、パキスタ
ン、バングラデシュ、カンボジア、ラオスは、
この加速ケースでも2035年の時点で未だ低
中所得国に止まっている。また、この成長
加速ケースでは、前章のベース・ケースと
比較すると、18ケ国が追加的に高中所得国
になっているが、サブサハラ・アフリカ地
域ではカーボ・ベルデとアンゴラの 2 ケ国
だけで、それ以外は上記のアジア諸国の他、
モルドバ、エジプト、グアテマラ等々、サ
ブサハラ地域以外の国となっている。
この代替シナリオ、即ち成長加速ケース
試算の目的は、繰り返しになるが、あくま
でもインドが高中所得国に移行した後の各
カテゴリー毎の人口構成を検討することで
あって、そのような状況に2035年までに至
る可能性を論ずるものではない。しかし、
そのシナリオがあまりにも非現実的であっ
ては意味がないので、その点について、以
下検討してみる。
図 表24は、 幾 つ か の ア ジ ア の 国 に つ い
て、2035年までに高中所得国に到達するの
に必要な成長率を計算したものである。先
ずインドであるが、最近の一人当たりGD
P成長率実績は、図表の①の欄に示される
と お り4.1% で あ る が、
“2035年 ま で に 高 中
所得国に到達するのに必要な一人当たりG
DP成長率”は、前節でも触れたが、図表
24では②の欄に示される 5.9%である。この
一人当たりGDP成長率に③の欄の人口増
加率を足せば、④の欄の“2035年までに高
中所得国に到達するのに必要なGDP成長
率”となり、それはインドの場合7.2%とな
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*23 この2035年までをカバーする試算で用いた予測人口増加率は2004年から2020年までのものであり、2020年以降は更に低い増
加率となると予想されることから、実際にはこの87億人よりは小さい数字になると予想される。
84 開発金融研究所報
図表 24 2035 年までに高中所得国に到達するのに必要な GDP 成長率
一人当たり GDP 成長率
実績
必要な成長率
2000-2004
人口増加率
GDP 成長率
予測
必要な成長率
2004-2020
2004-2035
④=②+③
*24
ADB 予測24
2006
①
②
③
⑤
フィリピン
2.4%
3.4%
1.5%
4.9%
5.0%
スリランカ
3.5
3.8
1.0
4.8
5.3
インドネシア
3.2
4.0
1.0
5.0
5.4
インド
4.1
5.9
1.3
7.2
7.6
ベトナム
5.9
6.0
1.2
7.2
8.0
出所)
“WDI:06”及び“Asian Economic Outlook 2006”のデータに基づき筆者作成
る。右端の⑤の欄は、アジア開発銀行によ
る2006年のGDP成長率予測の現時点での
最新版である。それによれば、インドの予
測成長率は7.6%で、2035年までの高中所得
国到達に必要な 7.2%を上回っている。従っ
て、2000-2004年の平均成長率実績では難し
いが、アジア開発銀行による2006年の予測
成長率を維持できれば、インドは2035年ま
でに高中所得国になる、と言える。他のフィ
リピン、スリランカ、インドネシア、ベト
ナムの数値を見ても、いずれも“2035年ま
でに高中所得国に到達するのに必要な成長
率”を“ADB予測の2006年の成長率”が
上回っていることから、インドと同様にこ
れらの国々が2035年までに中所得国に達す
る可能性もあると言える。
従って、この代替シナリオとしての成長
加速ケースのように、援助を必要としない
国の人口が援助を必要とする国の人口を大
きく凌駕する状況が2035年前後に到来する
可能性は十分あり、また、2035年には間に
合わなくとも、全節で触れたように、イン
ドが4%前後の一人当たりGDP成長率を維
持できれば、10年程度遅れでこのような状
況が達成される可能性が十分にある、と結
論づけられる。
第5章 分析結果とその含意
1.分析結果
1)過去40年の概観
これまでの40年間の実績の数値を見ると、
世界の所得水準は、唯一サブサハラ・アフ
リカを例外として、あらゆる地域において
向上している。
また、人口増加率も、所得の伸びと反比
例して、これもサブサハラ・アフリカを唯
一の例外として、あらゆる地域において、
その低下が明瞭になっている。この人口増
加率の低下は、合計特殊出生率の低下に裏
打ちされており、欧州では既に人口減少を
経験する国が出てきているが、アジアもそ
う遠くない将来に、その他の地域について
も、サブサハラ・アフリカ以外では、いず
れは人口増加が止まる可能性が視野に入り
つつある。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*24 アジア開発銀行(ADB) Asian Economic Outlook 2006.
ADB ウェッブ・サイト http://www.adb.org/documents/books/ado/2006/ 参照
2006年11月 第32号 85
いずれにせよ、現状では、援助を必要と
す る 開 発 途 上 国、 即 ち 低 所 得 国 と 低 中 所
得国の人口が世界の総人口の約四分の三を
占め、残りの四分の一の援助を必要としな
い高所得国と高中所得国の人口を大きく上
回っている。
その結果2035年では、人口大国のインドが
高中所得に移行することも影響して、援助
を必要としない国の人口が全体の約四分の
三を占め、援助を必要とする国の人口が残
りの四分の一となり、現状とは全く逆の構
成となる、という結果となった。
2)今後30年の試算:ベース・ケース
30年後の各国の1人当所得水準を、過去5
年間の平均成長率と世界銀行の人口増加率
予測を用いて試算すると、一番貧しいカテ
ゴリーである低所得国は、そのグループの
中で成長する国々が上位の低中所得国のカ
テゴリーに移行することにより、その人口
の絶対数、世界の総人口に占める割合、そ
して国の数のいずれをとっても、大きく減
少する。
低中所得国は、中国がこのカテゴリーか
ら抜け出す一方、インドが入ってくること
等により、2010年から2015年にかけて人口
が少し変動するが、それ以降は、低所得国
からの移行により、国の数は若干減少する
ものの、その人口の絶対数および世界の総
人口に占める割合共に増加する。
高中所得国は、先に触れたように2010年
から2015年にかけて中国がこのカテゴリー
に移行することにより人口の割合が大きく
増え、その結果、2015年以降暫くの間、援
助を必要とする低所得国と低中所得国の人
口合計と、援助を必要としない高中所得国
と高所得国の人口合計とが、それぞれ世界
の総人口の半分を占め、両者が拮抗した状
況が続く。
2.分析結果の含意
3)代替シナリオの分析:成長加速ケース
2035年においても高中所得国に到達しな
い国々について、その成長を若干加速させ
たケースを追加的に試算してみると、2015
年以降、援助を必要としない高中所得国と
高所得国の人口合計が大きく伸び、低所得
国と低中所得国の人口合計を凌駕し、以降
援助を必要とする国の人口が絶対数、世界
の総人口に占める割合共に減少を続ける。
86 開発金融研究所報
1)無限でない地球の破局の回避
図表25は、各所得カテゴリー毎の人口構
成について、過去40年間の実績を示す図表
5と、今後の30年間について成長を加速し
て試算した図表22を合成したものである。
図表 25 所得カテゴリー別人口構成比(1965-2035)
100%
80%
低所得国
60%
低中所得国
高中所得国
40%
高所得国
20%
35
25
30
20
20
10
15
20
20
20
20
05
20
00
20
95
20
85
80
75
70
90
19
19
19
19
19
19
19
65
0%
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
過去40年間、援助を必要としない国の人
口比率は世界の総人口の約四分の一程度で
推移してきており、増えもしなければ減り
もしない、裏返せば、援助を必要とする国
の人口が減少する兆しは見えなかった。し
かし、近年の中国やインドの目覚しい発展
が、その様相を大きく変へつつある。
この図表25のように、開発途上国の所得
向上により、現時点では貧しい国々の人口
増加率が低下し、また援助卒業国の増加に
より被援助国の人口が減れば、世界はより
多くの資源を環境対策に使用することが可
能となり、嘗てローマ・クラブが言った“無
限でない地球の破局の回避”に向けての一
歩前進となるであろう。
2)試算結果の解釈
論理的には、開発途上国を卒業する国々
の人口が、開発途上国に留まる国々の人口
増加を上回る状態を継続できれば、何時か
は図表25のような状況、即ち援助を必要と
する国々の人口の割合が減少を続ける状況
を実現できる。本稿の試算では、近年の経
済成長率と人口増加率低下の傾向を前提と
すると、そのような状況の実現の可能性は
有るが、ベース・ケースでは30年以上かか
るという計算結果となった。他方、若干“開
発途上国の成長が加速”すれば、今後30年
程度で実現する可能性も有り、そのタイミ
ングは人口大国インドの成長率に大きく左
右される、ということでもあった。
試算の大前提は、近年の経済成長率と人
口増加率低下傾向の継続であり、特に前者
が今後30年間継続するという保証が無いこ
とは言うまでもない。本稿の試算結果は、
人口大国である中国とインドの動向に大き
く左右されており、両国の成長が停まる、
或いはマイナス成長に陥るような事態にな
れば、開発途上国の人口増加が、開発途上
国を卒業する国々の人口を上回る状態が続
き、結果として援助を必要とする人口が増
加し続けることも、当然起こりうる。
したがって、図表25のような状況は、そ
の実現自体、また実現するにしてもそのタ
イミングは、何ら保証されたものではなく、
“最近の中国やインドの目覚しい発展によ
り、その可能性が視野に入ってきた”が、
正確な表現であろう。
3)途上国支援
図表25のような状況の実現、即ち援助を
必要とする国々の人口が減少を続ける状況
実現の前提は、開発途上国の近年の経済成
長率の継続であり、従って、そのために行
われて来たこれまでの援助の継続も大前提
となる。
世界の所得水準は、唯一の例外を除き、
あらゆる地域において向上していることか
ら、それらの地域の今後の成長については、
そのスピードはさておき、多少楽観視して
良いように思われる。他方、唯一の例外と
はサブサハラ・アフリカのことであり、最
近若干状況改善の兆しが出てきてはいるが、
残念ながら持続的成長とは未だ程遠い状況
にある。その結果、本稿における試算にお
いても、2035年の段階での低所得国の数は、
ベース・ケースでは32ケ国となるが、うち
27ケ国がサブサハラ、成長加速ケースでも
19の低所得国のうち16ケ国がサブサハラと、
いずれの試算をとっても低所得国の大半は
サブサハラ・アフリカの国となっている。
したがって、他の地域の開発途上国は皆
援助から卒業したが、サブサハラだけが引
き続き停滞し、しかもその人口が増え続け
る、といった事態を避けるためにも、サブ
サハラ・アフリカ支援に一層注力する必要
があると言えよう。
4)譲許的借款
今後30年の試算結果では、ベース・ケー
スは図表18に、代替シナリオは図表23に示
されているとおり、そのいずれにおいても、
開発途上国の中で、低中所得国の人口が低
所得国の人口を大きく上回り、しかも低所
得国の人口は絶対数においても減少を続け
ることになる。一般に、低所得国の多くは
無償資金協力を必要とし、低所得国の中で
も債務返済能力がある国と低中所得国は、
譲許的借款を主体に支援を行われることが
通例である。したがって、低中所得国の人
口が大きいということは、譲許的借款への
潜在需要が大きいということであり、逆に、
譲許的借款による低中所得国支援を如何に
効果的に行うか、そして援助を必要としな
い高中所得国に如何に速く移行させるかが、
“被援助国人口の削減”という目標実現に向
けて、極めて重要な鍵の一つであると考え
られる。
5)環境保全
試算結果のとおりに現在貧しい人々が豊
かになれば、彼らの一人当たりの資源消費
量が増え、よって世界全体の資源消費も確
実に増加し、それによる環境負荷も確実に
2006年11月 第32号 87
増大する。この問題については、既に多く
の識者が取り組んでおり、敢えて本稿で取
り上げるまでもない。
本稿で触れておくべきことは、貧しい国々
が豊かになるための経済発展が、環境の制
約により挫折することがないように、引き
続き経済開発支援と併せて環境保全にも注
力する必要があること、そして人口大国の
中国やインドの成長が顕著になればなるほ
ど、その分地球温暖化対策、省エネルギー、
水不足と汚染対策等々、諸々の地球環境対
策により多くの資源を投入していく必要が
ある、ということであろう。
<参考文献>
[和文文献]
柴田明夫(2006)
、
「資源インフレ」
、日本経
済新聞社.
世界銀行(1984)
、
「世界開発報告書1984」
ドネラ H. メドウズ他 (1972)、
「成長の限界-
ローマ・クラブ「人類危機」レポート」
、
ダイヤモンド社.
___(2005)
、
「成長の限界-人類の選択」
、
ダイヤモンド社.
レスター・ブラウン(1995)
、
「誰が中国を
養うのか」、ダイヤモンド社.
[英文文献]
World Bank(2006)
,
“World Development
Indicators 2006”
Asian Development Bank(2006),“Asian
Economic Outlook 2006”
88 開発金融研究所報
付表1 2004 年基礎データ
人口
国
数(人)
2004 年
Afghanistan
一人当たり GDP
人口
増加率(%) 金額 (ドル) 伸び率(%) カテゴリー
04‑2 0予測
2004 年
00‑0 4平均
国
2035 年
2004 年
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
Albania
3,111,700
0.58
1,477
5.63
Dominica
Algeria
32,358,000
1.40
1,982
2.68
Dominican Republic
American Samoa
57,000
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
Andorra
66,000
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
15,490,000
2.70
799
4.11 低中所得国
El Salvador
80,085
N.A.
9,597
2.00
Equatorial Guinea
38,372,000
0.90
7,483
‑0.65
Eritrea
4,231,500
3,026,100
‑0.20
952
10.39
Estonia
1,349,000
Ethiopia
69,961,000
48,000
Angola
Antigua and Barbuda
Argentina
Armenia
Aruba
N.A.
数(人)
Ecuador
13,040,000
1.30
1,459
2.69
Egypt, Arab Rep.
72,642,000
1.70
1,615
1.91
低中所得国
6,762,400
1.50
2,088
0.00
低中所得国
492,230
N.A.
4,101
6.55
2.80
173
‑3.85
‑0.40
5,328
7.63
2.70
113
2.95
低所得国
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
840,810
N.A.
2,258
1.31
Finland
5,228,100
0.20
25,146
2.64
France
60,380,000
0.30
23,432
1.49
252,690
N.A.
N.A.
N.A.
Gabon
1,362,300
1.40
3,860
‑0.12
Faeroe Islands
Austria
8,173,300
0.10
24,875
1.20
Fiji
Azerbaijan
9.72
N.A.
Bahrain
715,820
N.A.
13,852
3.76
139,210,000
1.60
402
3.42
低中所得国
N.A.
Bangladesh
Barbados
N.A.
低中所得国
2.05
1.94
945
低中所得国
‑1.21
N.A.
N.A.
French Polynesia
268,880
N.A.
N.A.
N.A.
Gambia
1,477,700
2.10
337
1.58
Belarus
9,824,500
‑0.60
1,695
7.19
Georgia
4,518,000
‑0.70
883
7.06
Belgium
10,421,000
0.10
23,213
1.55
Germany
82,516,000
‑0.03
23,705
1.12
Belize
282,600
N.A.
3,669
3.83
Ghana
21,664,000
1.80
278
2.43
Benin
8,177,200
2.80
328
Greece
11,057,000
0.10
11,960
3.94
64,000
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
57,000
N.A.
N.A.
N.A.
896,010
N.A.
695
3.59
低中所得国
Grenada
105,750
N.A.
3,797
0.04
0.56
低中所得国
Guam
Bermuda
Bhutan
1.42
Bolivia
9,009,000
1.60
1,034
Bosnia and Herzegovina
3,909,500
‑0.10
1,406
1,769,100
‑0.40
3,668
5.46
183,910,000
1.10
3,564
1.17
Botswana
Brazil
Brunei
Bulgaria
Burkina Faso
Burundi
低所得国
4.21
365,690
N.A.
N.A.
N.A.
7,761,000
‑0.80
1,958
6.08
12,822,000
2.90
248
1.24
Greenland
低所得国
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
1,722
0.18
低中所得国
Guinea
9,201,800
2.30
380
0.55
低所得国
Guinea‑Bissau
1,539,700
3.00
137
‑1.87
低所得国
低中所得国
Guyana
750,230
N.A.
990
0.33
Haiti
8,406,900
1.30
N.A.
N.A.
N.A.
低所得国
Honduras
7,048,300
1.90
965
1.41
低中所得国
Hong Kong, China
7,281,800
3.30
105
‑0.46
低所得国
1.90
339
4.66
低中所得国
Hungary
Cameroon
16,038,000
1.50
662
2.49
低中所得国
Iceland
Canada
31,974,000
0.80
24,688
2.10
495,170
N.A.
1,291
2.66
低中所得国
44,000
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
Central African Republic
3,986,000
1.40
225
‑2.06
低所得国
Chad
9,447,900
2.80
257
8.25
Channel Islands
低所得国
2.20
13,798,000
Cayman Islands
N.A.
166,770
Cambodia
Cape Verde
低所得国
12,295,000
Guatemala
N.A.
2035 年
‑0.02
3,534
N.A.
N.A.
00‑0 4平均
791
2,476
22,083
0.80
2004 年
N.A.
N.A.
318,760
N.A.
1.20
0.90
8,306,400
04‑2 0予測
71,460
99,000
Bahamas
779,100
8,767,900
20,111,000
Australia
N.A.
Djibouti
一人当たり GDP
増加率(%) 金額 (ドル ) 伸び率(% ) カテゴリー
India
Indonesia
Iran, Islamic Rep.
Iraq
Ireland
27,446
3.92
5,413
4.36
292,100
N.A.
31,699
2.07
1,079,700,000
1.30
538
4.11
低中所得国
217,590,000
1.00
906
3.24
低中所得国
67,006,000
1.50
1,885
4.23
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
4,068,200
1.20
28,546
4.47
N.A.
148,920
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
16,124,000
0.90
5,462
2.78
Israel
6,797,700
1.20
17,788
0.36
China
1,296,200,000
0.60
1,323
8.46
Italy
57,573,000
0.00
19,352
1.36
44,915,000
1.30
2,091
1.25
Jamaica
2,644,600
0.30
3,215
0.76
127,760,000
‑0.10
38,609
1.08
5,440,000
2.10
1,940
2.54
Kazakhstan
14,994,000
0.00
1,818
10.27
Kenya
33,467,000
2.50
427
0.29
低所得国
97,813
N.A.
532
‑0.30
低所得国
Korea, Dem. Rep.
22,384,000
0.40
N.A.
N.A.
N.A.
Korea, Rep.
48,082,000
0.20
12,752
4.75
Comoros
Congo, Dem. Rep.
Congo, Rep.
Costa Rica
Cote d'Ivoire
Croatia
Cuba
Cyprus
Czech Republic
Denmark
Isle of Man
1.00
‑0.30
Chile
Colombia
N.A.
6,882,600
10,107,000
587,940
N.A.
378
0.08
低所得国
Japan
55,853,000
3.00
88
‑1.37
低所得国
Jordan
3,882,900
3.10
940
1.04
低中所得国
4,253,000
1.30
4,328
1.21
17,872,000
1.70
574
‑2.68
4,442,400
‑0.10
4,934
4.62
11,245,000
0.10
N.A.
N.A.
低所得国
N.A.
Kiribati
N.A.
825,910
N.A.
12,439
2.07
Kuwait
2,459,500
2.50
17,674
0.69
10,216,000
‑0.20
6,123
3.27
Kyrgyz Republic
5,092,800
1.10
325
4.01
低中所得国
5,404,500
0.20
30,735
1.22
Lao PDR
5,791,700
2.00
378
3.50
低中所得国
2006年11月 第32号 89
人口
国
数(人)
2004 年
Latvia
2,312,800
Lebanon
Lesotho
一人当たり GDP
人口
増加率(%) 金額 (ドル) 伸び率(%) カテゴリー
04‑2 0予測
2004 年
00‑0 4平均
2035 年
‑0.50
4,460
8.08
3,540,300
1.00
5,606
2.84
1,798,000
‑0.30
540
2.46
低中所得国
Liberia
3,240,600
2.80
130
‑1.70
低所得国
Libya
5,740,100
1.70
7,397
2.48
Liechtenstein
Lithuania
Luxembourg
Macao, China
Macedonia, FYR
Madagascar
国
2004 年
Russian Federation
一人当たり GDP
増加率(%) 金額 (ドル ) 伸び率(%) カテゴリー
04‑2 0予測
143,850,000
‑0.50
Rwanda
8,882,400
Samoa
183,750
San Marino
Sao Tome and Principe
N.A.
数(人)
2004 年
00‑0 4平均
7.23
2.10
250
1.90
低所得国
N.A.
1,379
2.38
低中所得国
28,000
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
152,960
N.A.
359
1.74
低所得国
0.89
34,000
N.A.
N.A.
N.A.
Saudi Arabia
23,950,000
2.20
8,974
3,435,600
‑0.40
4,402
7.27
Senegal
11,386,000
2.10
461
1.80
453,300
N.A.
48,419
3.10
Serbia and Montenegro
8,146,800
1.50
1,287
11.50
457,210
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
2,030,500
0.10
1,799
1.03
低中所得国
18,113,000
2.40
229
‑0.24
Seychelles
2035 年
2,286
83,643
N.A.
6,656
‑1.87
Sierra Leone
5,336,400
2.30
156
2.27
低所得国
Singapore
4,240,300
1.00
24,164
2.79
低所得国
4.13
低所得国
Malawi
12,608,000
2.20
153
0.07
Slovak Republic
5,382,400
0.00
4,495
Malaysia
24,894,000
1.50
4,290
3.10
Slovenia
1,997,000
‑0.30
10,860
3.28
Maldives
321,200
N.A.
2,575
4.03
Solomon Islands
465,790
N.A.
636
‑5.49
低所得国
13,124,000
2.90
237
2.73
7,964,400
2.70
N.A.
N.A.
N.A.
401,300
N.A.
9,435
0.48
45,509,000
0.30
3,312
2.20
Mali
Malta
Marshall Islands
低所得国
Somalia
South Africa
61,218
N.A.
1,703
‑2.25
低中所得国
Spain
42,690,000
0.20
15,343
2.10
Mauritania
2,980,400
2.50
437
2.09
低中所得国
Sri Lanka
19,419,000
1.00
962
3.52
低中所得国
Mauritius
1,234,200
0.70
4,289
3.45
46,985
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
Mayotte
172,000
N.A.
N.A.
N.A.
163,650
N.A.
4,276
‑0.71
103,800,000
1.10
5,968
1.14
St. Vincent Grenadines
109,690
N.A.
2,016
1.75
Sudan
4,217,900
‑0.20
400
6.33
Mexico
Micronesia, Fed. Sts.
Moldova
Monaco
St. Kitts and Nevis
N.A.
St. Lucia
118,430
N.A.
3,174
2.21
35,523,000
1.80
434
4.06
2,370
2.72
低中所得国
Suriname
446,460
N.A.
33,000
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
Swaziland
1,119,800
‑0.80
1,357
0.33
2,514,700
1.40
462
3.31
低中所得国
Sweden
8,992,000
0.30
28,858
2.17
Morocco
29,824,000
1.60
1,349
2.39
低中所得国
Switzerland
7,389,600
0.00
34,340
0.65
Mozambique
19,424,000
1.70
275
5.45
低中所得国
Syrian Arab Republic
Myanmar
50,004,000
0.80
N.A.
N.A.
N.A.
Namibia
2,009,300
1.10
2,035
2.73
Nepal
26,591,000
1.80
231
1.32
Netherlands
16,282,000
0.30
23,347
0.60
180,870
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
Togo
N.A.
Tonga
Mongolia
Netherlands Antilles
New Caledonia
New Zealand
Nicaragua
Niger
Nigeria
Northern Mariana Islands
Norway
Oman
230,060
N.A.
N.A.
N.A.
4,061,000
0.50
15,030
2.50
低所得国
1,115
0.40 低中所得国
6,430,300
1.50
223
8.48
低中所得国
Tanzania
37,627,000
1.70
313
4.28
低中所得国
Thailand
63,694,000
0.70
2,356
4.13
Trinidad and Tobago
924,640
N.A.
355
0.60
N.A.
5,988,400
2.40
244
‑1.09
低所得国
101,980
N.A.
1,678
2.76
1,301,300
0.20
8,055
6.15
5,376,100
1.80
817
0.99
低中所得国
Tunisia
9,932,400
1.00
2,337
3.52
13,499,000
3.20
156
‑0.47
低所得国
Turkey
71,727,000
1.20
3,197
2.87
128,710,000
1.90
402
2.74
低中所得国
4,766,000
1.20
N.A.
N.A.
77,000
N.A.
N.A.
N.A.
N.A.
Uganda
27,821,000
3.70
267
2.30
4,591,100
0.50
39,005
1.40
Ukraine
47,451,000
‑1.10
928
9.35
2,533,800
2.00
8,961
2.71
2.10
566
1.65
低中所得国
20,000
N.A.
6,360
N.A.
N.A.
Panama
3,175,400
1.50
4,170
1.32
Papua New Guinea
5,771,900
1.70
604
‑1.99
低所得国
Paraguay
6,017,200
2.00
1,373
‑1.08
低中所得国
Palau
2.10
低中所得国
Tajikistan
Timor‑Leste
152,060,000
Pakistan
18,582,000
低中所得国
Turkmenistan
United Arab Emirates
低所得国
4,320,000
2.20
22,173
0.03
59,867,000
0.30
26,363
2.26
293,660,000
0.90
36,655
1.67
3,439,500
0.60
5,926
‑1.01
26,209,000
1.30
639
207,330
N.A.
1,151
‑1.87 低所得国 N.
Venezuela, RB
26,127,000
1.50
4,596
‑0.15
Vietnam
82,162,000
1.20
502
5.92
N.A.
N.A.
United Kingdom
United States
Uruguay
Uzbekistan
Vanuatu
3.27
低中所得国
Peru
27,562,000
1.40
2,206
1.80
Philippines
81,617,000
1.50
1,085
2.40
Poland
38,182,000
‑0.10
4,891
3.38
Virgin Islands (U.S.)
113,140
N.A.
Portugal
10,502,000
0.20
10,333
0.43
West Bank and Gaza
3,508,100
3.00
N.A.
N.A.
N.A.
3,894,900
0.50
N.A.
N.A.
N.A.
Yemen, Rep.
20,329,000
3.00
534
0.56
低所得国
N.A.
Zambia
11,479,000
1.70
336
2.44
低所得国
Zimbabwe
12,936,000
0.60
457
‑6.60
低所得国
Puerto Rico
Qatar
Romania
776,940
N.A.
N.A.
N.A.
21,685,000
‑0.40
2,163
6.02
低中所得国
低中所得国
N.A.
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
注) GDP:2000年不変価格ベース
N.A.:データ不十分のため予測対象外
出所)“WDI:06”のデータに基づき筆者作成
90 開発金融研究所報
国際協力銀行・インドネシア大学経済社会研究所共催
「グローバリゼーションと地域統合時代のインドネシア
における産業競争力」に関する公開セミナー概要報告
海外投融資情報財団 下鉢 雅宏
開発金融研究所 国際金融グループ 半田 晋也
* 国際協力銀行(JBIC)は、
2006年8月30日、
インドネシア大学経済社会研究所(LPEMFEUI)
との共催で第3回目となるセミナー
(題
名「グローバリゼーション及び地域統合時
代のインドネシアの産業競争力」
)をジャカ
ルタ市内にて開催した。
経済のグローバル化と地域統合の趨勢が
加速するなか、インドネシア産業の国際競
争力を維持・向上させることは、インドネ
シアにとって将来世代を含めた国民が豊か
さを享受するためにも喫緊の政策課題であ
る。そしてインドネシア産業の国際競争力
の維持・向上のためには、国内外投資家に
とっての事業環境を整備・改善するための
諸施策を実施し、投資を拡大することが必
要になる。また日本にとっては、企業活動
において国際的生産・物流ネットワークへ
の統合が進むなかで、投資先としてのアジ
ア域内諸国は極めて重要になりつつある。
本共催セミナーでは、第1回共催セミナー
「インドネシアの産業発展へ向けた貿易・投
資政策の課題」及び第2回共催セミナー「イ
ンドネシアの競争力拡充:産業発展への課
題」で得られた共通認識を踏まえ、具体的
な施策の提言を目指したものである。すな
わち、1990年代以降、東アジア域内で国際
的生産・物流ネットワークが形成されてき
た に も 係 ら ず、 イ ン ド ネ シ ア は、 ロ ジ ス
ティックス等のインフラ整備の遅れ、地方
分権に伴う行政の煩雑さ、汚職などが生み
出す「高コスト」体質が障害となり、国際
的生産・物流ネットワークを充分に活用で
きていない状況にある。こうした
「高コスト」
体質を是正していくことが、インドネシア
産業の国際競争力を維持・向上させるため
に必要不可欠であるという共通認識である。
本共催セミナーには、インドネシア側か
ら、LPEM-FEUI Chatib Basri 所長、経済調
整大臣府 Mahendra Siregar 次官、Adrianus
Mooy 元中銀総裁、Chris Kanter 商工会議所
副会頭などが参加した。日本側からは東京大
学大学院 伊藤隆敏教授、慶應義塾大学 木
村福成教授、一橋大学 奥田英信教授、
(財)
国際東アジア研究センター 本台進研究部長
(神戸大学名誉教授)
、JETRO 今清水浩介所
長、国際協力銀行ジャカルタ事務所広田幸紀
今清水所長、Simandjuntak 会長、木村教授、Patunru 研究部長
本台研究部長、Panennungi 教授、Kacaribu 教授、Kanter 副会頭
Saragih 局長、伊藤教授、Soetjipto 研究部長
Pardede 副社長、奥田教授、西沢次長
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
* 開発金融研究所 前次長
2006年11月 第32号 91
首席駐在員等が参加した。また政府・ビジネ
ス界などから約100名が集まった。本共催セ
ミナーは、午前と午後の2つのセッションに
分けて行われた。午前のセッションでは、ア
ジア域内分業体制のなかでインドネシア産業
の国際競争力を維持・向上させるためには、
国際・国内物流及び裾野産業育成が重要であ
るという議論が行われた。午後のセッション
では、産業育成の根幹をなす金融インフラの
果たす役割の重要性に鑑み、2006年7月に発
表された「新金融政策パッケージ」について
議論が行われた。
セミナーのプログラムは以下のとおりで
ある。
第 3 回 JBIC/LPEM-FEUI 共 催 セ ミ ナ ー プ
ログラム
(開会の辞)国際協力銀行ジャカルタ事務
所 広 田 幸 紀 首 席 駐 在 員 LPEM-FEUI Chatib Basri 所長
(第1セッション)
キ ー ノ ー ト ス ピ ー チ: 経 済 調 整 大 臣 府
Mahendra Siregar 次官
議長:LPEM-FEUI Arianto Patunru 研究部長
(報告)
・ “ I n t e r n a t i o n a l P r o d u c t i o n a n d
Distribution Networks in East Asia:
Facts, Mechanics and the Implication
for Indonesia”慶應義塾大学 木村
福成教授
・ “Forging Indonesia’
s Competitiveness
under Globalization: Leapfrogging to
Third Culture” イ ン ド ネ シ ア 戦 略
国 際 問 題 研 究 所(CSIS)Djisman S.
Simanjuntak 会長
・ “Capital Productivity in Small and
Medium Enterprises in Indonesian
Machine Industry: Do Financial
Support Programs Alone Work Well
in Indonesian SMEs”
(財)国際東ア
ジア研究センター 本台進研究部長
(神戸大学名誉教授)
92 開発金融研究所報
・ “Rural Investment Climate in Indonesia”
LPEM-FEUI Maddremmeng
Panennungi 教授、Febrio Kacaribu 教
授
(コメント)
JETRO 今清水浩介所長、Chris Kanter 商
工会議所副会頭
(第2セッション)
キーノートスピーチ:Adrianus Mooy 元
中銀総裁
議長:LPEM-FEUI Widyono Soetjipto 研究
部長
(報告)
・ “Financial Sector General Issues in
Indonesia”東京大学大学院 伊藤隆
敏教授
・ “Financial Sector Development”財務
省資本市場・金融機関管理庁 Freddy
R. Saragih 局長
・ “Financial Sector Policy Package”
国 営 資 産 管 理 会 社 PPA Raden
Pardede 副社長
・ “The Operational Efficiency of
Leading Banks in South East
Asian Countries: An International
Comparative Study Using DEA and
Cluster Analysis”一橋大学 奥田英
信教授
(コメント)
国際協力銀行 西沢利郎国際金融第1部
次長
第1セッションでは、キーノートスピー
チとして経済調整大臣府 Mahendra Siregar
次官から、インドネシアも国際競争にさら
されており、近年、日系企業からみて、イ
ンドネシアの投資先として魅力が薄れてお
り、国際競争力が落ちつつあるとの認識が
示された。さらに、
こうした状況を踏まえて、
①投資環境の改善、②インフラ整備、③金
融セクターの整備、③エネルギー政策、④
貧困削減、⑤中小企業育成、⑥経済特別区
の整備の政策目標を達成していくことが重
要であるとの説明があった。慶応義塾大学
の木村福成教授からは、細分化された国際
分業体制が進む状況では、東アジアを中心
に形成されている国際的生産・物流のネッ
トワークを活用することが肝要であるとの
説明があった。Djisman S. Simanjuntak 会
長からも、2000年から2004年にかけて、欧
米及びアジア諸国から輸入される中間財
シェアが相対的に低下しており、これは国
際競争力が低下を示すサインであるとの説
明があった。
(財)
国際東アジア研究センター
の本台研究部長からは、産業競争力の維持・
向上には、裾野産業の育成が重要であり、
裾野産業の主な担い手となる中小企業の育
成は重要であるとの説明があった。そして
中小企業育成のためには、経営者の育成が
必須であると同時に、市場の需要と中小企
業の技術を繋ぐ仕組みを作っていく必要が
あるとの提案があった。JETRO 今清水浩介
所長からは、多国籍企業の生産拠点の再配
置が ASEAN6やインドの間で行われるなか
特にインド、ベトナムが注目されているが、
こうした状況下での国際競争力の維持には、
投資環境の改善は喫緊の課題であるとの説
明があった。Chris Kanter 商工会議所副会
頭は、投資に関連する税法の優遇措置整備、
国際競争に対応するための労働法の改正が
必要になるとの見解を示した。会場からは、
投資環境整備を迅速かつ適切に行う重要性
について議論がなされた。
第2セッションでは、Adrianus Mooy 元
中銀総裁からのキーノートスピーチで、金
融セクターが実物経済に対して重要な役割
を担っており、国際的な競争力の維持確保
のためにも、銀行セクター、株式市場など
の改善が重要であるとの指摘があった。東
京大学大学院 伊藤隆敏教授は、IMF への
繰上げ返済が示すように、経済状況は良好
であるが、世界的な国際収支不均衡などの
潜在的な危機に対処していくためにも、適
切なマクロ経済政策の運営が重要と指摘
し た。 財 務 省 資 本 市 場・ 金 融 機 関 管 理 庁
Freddy R. Saragih 局長と国営資産管理会社
PPA Raden Pardede 副社長からは、2006年
7月に発表された「新金融政策パッケージ」
への説明、評価がなされた。このパッケー
ジの目的は、金融セクターが最適な資源配
分、安定的な資金供給を行う条件を整える
ことであり、政策パッケージの着実な実行
には独立した監視体制が必要あるとの説明
があった。一橋大学 奥田英信教授は、
タイ、
マレーシア、フィリピンとインドネシアの
銀行セクターの状況を比較し、タイ、マレー
シアの銀行セクターは、インドネシアより
効率的であるとの分析結果を報告した。国
際協力銀行 西沢利郎国際金融第1部次長
からは、産業競争力の維持・向上には企業
による設備投資が必要であり、それを可能
とする中長期資金の供給には銀行セクター
の金融仲介機能が不可欠との指摘があった。
会場からは、資本市場を含めた新金融政策
パッケージが順調に実施されていくことが
肝要であり、そのための監視体制について
議論がなされた。
グローバル化と地域統合化が同時に進行
する世界経済を考えたとき、産業の国際競
争力の維持・向上には、港湾・道路インフ
ラ、金融インフラ、法制度の整備等、多大
な努力が必要となる。特に、
インドネシアは、
タイ、マレーシア、ベトナムと ASEAN 域
内でも競争相手が多く、厳しい競争環境に
ある。インドネシアの持つ優位性を活かせ
るように、迅速に投資環境を整備していく
ことが、インドネシア国際競争力を向上さ
せる上での喫緊の課題であるといえよう。
2006年11月 第32号 93
アルゼンチン共和国:財政連邦制と地方財政*1
国際審査部第 3 班 細野 健二
要 旨
24 の州・首都特別区からなるアルゼンチンでは、地方財政を含む国家財政全体の強化が長年に亘っ
て重要な課題とされており、2001 年の経済危機以降、その重要性が一層強調されるようになった。
特に、国家財政を大きく特徴付けている「財政連邦制」や「地方交付金制度」を巡る課題がクローズ
アップされており、2002 年以降の、アルゼンチン政府と IMF とのプログラム交渉の過程においても、
地方財政改革が大きな焦点となった。
地方交付金制度を巡っては、①制度自体の複雑性、硬直制及び景気循環性の問題、②同制度の下での、
徴税強化インセンティブの制約、③連邦政府・地方政府間の財政不均衡(垂直不均衡)
、州政府間の
不均衡(水平不均衡)、及び各政府間の税配分基準、等を巡る諸問題・改革課題が挙げられる。こう
した諸問題を背景に、本来は、1994 年に改正された新憲法の規定にしたがって、1996 年までに地方
交付金制度の抜本的な改革が行われることになっていたが、未だ実現しておらず、今後の改革課題と
なっている。
また、各州政府が歳入面で地方交付金に大きく依存する一方で、歳出面では地方分権化が進んでお
り、各州は歳出実行について大きな自治・裁量権を有している。さらに、従来は、州財政を包含する
財政責任法も存在しなかった。こうしたことから、州政府を含む国全体で財政運営の足並みを揃える
ことが容易ではなく、このことも重要な課題となっていた。
地方交付金制度等の抜本的な改革の目処が立たない中、アルゼンチンでは、現行制度の枠組みの中
で、①「金融秩序プログラム」の導入や、②「財政責任法」の制定、等を通じて地方財政の健全化に
取組んでいる。そこで、近年の州財政全体の動向を概観するとともに、同国の 2 大州であり、地方財
政の大きな部分を占めるブエノスアイレス州及びコルドバ州の個別事例を取上げ、その実状を見てい
くと、2004 年までの実績値からは、財政健全化について一定の成果が窺われる。
他方、財政責任法を巡っては、資本歳出については必ずしも十分な制限を設けていないことや、公
的債務については、実質的に、単年度の支払額に制限を設けるのみである点、等も指摘されており、
留意を要する。また、同法を批准していない州の今後の動向も注視していく必要があると思われる。
さらに、近年の地方財政の改善は、財政健全化努力の他、一面では、高い経済成長に支えられている
部分もあると考えられ、成長が減速してきた場合の財政運営も注目される。景気変動が財政に与える
影響を緩和する観点からは、景気安定的財政運営が重要と考えられるが、財政連邦制・地方交付金制
度の下で、そうした財政運営を地方財政レベルも含めてどのように行っていけるのかも注目される。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 本稿は、筆者の個人的な見解であり、国際審査部及び国際協力銀行の公式見解ではない。
94 開発金融研究所報
第1章 はじめに:背景、問題
の所在と本稿の構成
(1)本稿の背景:注目を集める財政
連邦制と地方交付金制度
1980年代末にかけて深刻な財政・債務危
機を経験したアルゼンチンでは、1990年代
に入り、カバロ経済大臣(当時)の指導の下、
財政の再建に着手した。具体的には、①税
率の引上げ、課税対象拡大、及び徴税強化
をはじめとする税制改革によって歳入を増
加させるとともに、②公務員の削減等を通
じて歳出を削減した。また、③赤字が続い
ていた国営企業を民営化することによって、
赤字補填のための財政支出を削減するとと
もに、民営化収入を確保することができた。
こうした財政改革や、経済の成長にも支え
られて、国家財政は1980年代後半の危機時
に比べ改善した。
然しながら、アルゼンチンの財政は1990
年代後半にかけて再び悪化していった。そ
の要因として、①景気の後退、②民営化案
件一巡後の民営化収入の減少、及び、③年
金制度改革に伴う追加的な財政負担*2とと
もに、④ GDP 比で見た歳入規模が他の新
興市場国に比して低い水準にとどまる等、
歳入強化が必ずしも十分ではなかったこと
(Daseking et al 2004)や、⑤地方政府レベ
ルでは必ずしも財政改革が十分進まなかっ
たこと、等の問題が挙げられている。そして、
2001年には、⑥財政の行方について鍵を握
ると見られていた、連邦政府と州政府によ
る財政交渉(地方交付金の扱い等を巡るも
の)が不調に終わり、危機が一層深刻化し
ていった。
こうした1990年代以降の経験から、連邦
政府財政のみならず、地方財政を含む国家
財政全体の強化の重要性が強調されるよう
になり、その国家財政を大きく特徴付けて
いる「財政連邦制」や「地方交付金制度」
を巡る改革課題がクローズアップされるよ
うになった。2002年以降の、アルゼンチン
政府と IMF とのプログラム交渉の過程にお
いても、地方財政改革が大きな焦点となっ
た。
(2)問題の所在
財政連邦制及び地方交付金制度を巡って
は、相互に関連する下記①~④をはじめと
する諸問題が指摘されており、重要な改革
課題となっている。
① 地方交付金制度自体が極めて複雑かつ
硬直的であり、このことが制度の機動
的運用を困難にしていること。
② 現行の地方交付金制度では、
(イ)国内
の各政府(連邦政府・各地方政府)の
徴税努力の度合いと、
(ロ)これら各々
の政府が受け取る地方交付金の金額が
連動していないこと等から、各政府に
とっては、徴税強化のインセンティブ
が働きにくいこと。
③ 連邦政府と地方政府の間の税収の配分
割合や、各地方政府間の配分割合が必
ずしも客観的な基準に依拠していない
こと。
④ 各州政府が歳入面で地方交付金に大き
く依存する一方で、歳出面では地方分
権化が進んでおり、各州は歳出実行に
ついて大きな自治・裁量権を有してい
る。さらに、従来は、州財政を包含す
る財政責任法も存在しなかった。こう
したことから、州政府を含む国全体で
財政運営の足並みを揃えることが容易
ではなかったこと。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 従来の公的年金制度から、公的年金と民間年金基金の2本立ての制度への移行が進められ、この移行の際、公的年金の給付が
従来通り続けられる一方で、公的年金への掛け金収入が減少したこと等から、財政コストが発生することになった。
2006年11月 第32号 95
(3)本稿の構成
本稿では、上述の諸点を踏まえ、財政連
邦制・地方交付金制度の概要を整理し、問
題点・課題を概観する。その上で、地方財
政改善に向けた近年の取組みについて、同
国の2大州であり、地方財政の大きな部分
を占めるブエノスアイレス州及びコルドバ
州の事例を中心にみていく。
目次
第1章 はじめに:背景、問題の所在と本
稿の構成
第2章 財政連邦制・地方交付金制度の起
源
第3章 地方交付金制度を巡る具体的諸問
題
1.地方交付金制度の複雑性・硬直性
を巡る諸問題
2.地方交付金制度の下での徴税強化
を巡る問題
(1)地方交付金の財源となる税
収の徴税強化を巡る問題
(2)州税収強化を巡る問題
3.地方交付金制度と垂直不均衡・水
平不均衡
第4章 現行制度の下での地方財政健全化
への取組み
1.地方財政健全化策:
「金融秩序プロ
グラム」及び「財政責任法」
2.個別州の事例
(1)ブエノスアイレス州
① 2001年までの財政状況
② 近年の財政健全化への取
組み
(2)コルドバ州
①「コルドバ・モデル」
② 近年の財政状況
第5章 まとめと今後の課題
第2章 財政連邦制・地方交付
金制度の起源
同国では憲法上、地方政府(州及び首都
特別区)に大きな自治権を与える「連邦制度」
を採用することが定められている。同制度
の下、外交等を除く大半の行政機能(教育
をはじめとする公的サービス)が地方政府
に委ねられる地方分権化が進んでいる。然
しながら、各地方政府では、人口、経済規
模及び産業構造等が大きく異なるため、財
源規模にも大きな格差があり、小規模州が
上記の公的サービスを賄う歳入を全て独自
に確保することは困難とされている。また、
一部の税については、各地方政府が個別に
徴税を司るよりも、連邦政府が集中的に徴
税を実施・管理した方が効率が高い面もあ
ると考えられる。
こうしたことから、連邦政府が中心となっ
て徴税機能を司り、国全体の税収の大半を
一旦中央に集めた上で、各地方政府に再配
分する制度(地方交付金制度)を採用して
いる。即ち、地方交付金制度は、①徴税機
能の多くを司る連邦政府と、歳出の多くを
負担する地方政府の間の不均衡(
「垂直不均
衡」
)に対処するための制度として、また、
②経済規模の異なる各地方政府間の歳入格
差(
「水平不均衡」
)に対処するための制度
として採用されている。
現行の地方交付金制度では、①税収総額
の42.34%は連邦政府に、②56.66%は地方政
府に、それぞれ配分し、③残る1%は、州の
財政危機等、緊急時に備えるための特別基
金に振り向けられることになっている*3。ま
た、地方政府に配分される税収については、
従来、その65%分は各地方自治体の人口に
応じて、10%分は人口密度に応じて、また、
25%分は住民1人当たりの持ち家・自動車
数を勘案して、各自治体間で配分されてお
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*3 政府資料“Funcionamiento del Sistema de Coparticipacion”.
96 開発金融研究所報
り、1980年代末以降は、1980年代後半の分
配比率(実績値)を概ね踏襲することになっ
ていた。
然しながら、同制度は様々な要因から運
用面での変更を余儀なくされてきた。まず
①構造的な要因として、年金制度改革が挙
げられる。1990年代には、従来の公的年金
制度から、公的年金と民間年金基金の2本立
ての制度への移行が進められ、この移行に
伴って財政コストが発生することになった。
このため、税収の一定割合を、同コストの
手当てに振り向ける必要が生じた。また、
これとは別に、②各州が州レベルで独自に
運営していた公的年金基金のうちの一部が、
1990年代に連邦政府に移管され *4、この移
管にあたって、州への地方交付金配分が調
整された。さらに、③1990年代末の景気後
退や2001年以降の金融危機をはじめ、経済
状況の変化に応じて州政府への交付金移転
額を調整する必要も生じた。このため地方
交付金制度は、連邦政府・地方政府間の暫
定的な「財政協定」締結等を通じて、運用
面で数多くのアドホックな修正が施されて
きた。
以上が地方交付金制度の起源と、同制度
の変遷の大きな流れであるが、同制度を巡っ
ては、冒頭で触れた諸問題が焦点となって
いる。以下ではこれらの問題について具体
的に見ていく。
第3章 地方交付金制度を巡る
具体的諸問題
1.地方交付金制度の複雑性・硬直
性を巡る諸問題
アルゼンチンの地方交付金制度は、
「財政
迷宮」
(Fiscal Labyrinth)と形容される極
めて複雑なものであり、加えて、連邦政府
と州政府間の「財政協定」締結等を通じて
随時アドホックな修正が加えられているた
め、各政府間の正確な財政関係が分かりづ
らいとされている(図表1)
。
また、税種毎に異なる税分配方式が定め
られていることや、入り組んだ特定財源・
目的税を多用していること等から、実際の
財政状況に応じた柔軟な税分配や機動的な
運用を行うことは容易ではないとされる。
さらに、税収総額のうちの相当部分は、
連邦政府が採らんとする財政スタンスの如
何に拘わらず、財政協定等に基づいて半ば
自動的に州政府に移転されてしまうことも、
連邦政府による景気安定的な運用を困難に
していると考えられる。例えば、景気が拡
大し税収が増加している局面においては、
増加した税収が、財政協定等に基づいてほ
ぼ自動的に州政府に移転されてしまうため、
景気循環的になる傾向があるとされている。
また、2000年には、連邦政府・地方政府間
の財政協定によって、州政府への税配分が
一定の実額(名目額)で固定されたことも、
後に重要な問題となった。当時は、景気が
後退し税収が伸び悩んでいたため、州政府
への交付金移転額を抑制する意図で、固定
額を移転する仕組みに変更したが、その後、
景気が更に後退し、本来であれば移転額を
削減しなければならない局面でも、上記の
固定額が事実上の下限額(フロアー)になっ
てしまい、連邦政府は交付金移転額を減ら
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*4 州レベルの公的年金基金の中には、収支が悪化していたものが少なくなく、これらの運営が連邦政府に移管された。
2006年11月 第32号 97
図表1 アルゼンチンの地方交付金制度
付加
価値税
①
11%
580百万ペ
ソ/年
銀行部門
経常勘定税
89%
70%
内国税
等
②
100%
30%
100%
個人
資産税
支払金利
③
100%
100%
10%
25万
ペソ/月
120百万ペ
ソ/年
技術院
20百万ペ
ソ/年
4%
66%
440百万ペ
ソ/年
64%
州財政不均衡
補填基金
地方交付金(グロス)
85%
ブエノスアイレス以外の州
15%
93.7%
の1%
2%
650百万ペソ/年
ブ エノスアイレス 州基金
41.6%
地方交付金(ネット)
1%
職業税
国 庫
57.36%
企業掛け金
20%
30%
70%
自動車ガスオイル税
連邦政府
100%
貿易関連税
100%
州政府
州・ 市社会保障
100%
保険税
6.3%
連邦社会保障
燃料税
100%
100%
93.7%の41.64%
100%
タバコ税
93.7%の57.36%
ディ ーゼル等
21%
ガソリ ン 等
統計税
100%
農業技術院
住宅基金
道路基金
60%
79%の
29%
79%の
42%
インフラ 基金
30%
電力開発基金
10%
40%
79%の
29%
補填基金
79%
60%
電力エネルギー
(注)本図は、アルゼンチンの地方交付金制度の複雑性を示す一例であるが、同制度は随時修正されており、現在の正確な財政関係を
示すものではない。
(出所)連邦税制委員会ホームページ掲載資料(Bertea)より作成
すことができなくなってしまった。この結
果、機動的な運用は一層困難となった。*5
以上では、地方交付金制度の複雑性・硬
直性を巡る問題を述べたが、以下では、同
制度の下での徴税面の問題を見ていく。
2. 地方交付金制度の下での徴税強
化を巡る問題
(1)地方交付金の財源となる税収の
徴税強化を巡る問題
現在の地方交付金制度の下では、①国内の
各政府(連邦政府・各地方政府)の徴税努力
の度合いと、②これら各々の政府が受け取る
地方交付金の金額が連動していないこと等か
ら、各政府にとっては、徴税強化のインセン
ティブが働きにくいとされている。
まず、連邦政府について見ると、同政府
は徴税行政の中心的役割を担っている(行
政コストをかけて徴税を司っている)が、
徴収した税収の多くは地方政府に移転され
てしまうため、徴税強化のインセンティブ
が働きにくいとされている。即ち、連邦政
府にとっては、地方政府と分け合うこれら
の税金よりも、自らが独占できる他の税種
(地方政府に交付されない輸出税等)を導入・
徴収するインセンティブが働きやすいと指
摘されている。また、
各地方政府にとっても、
連邦政府と協力して徴税に努めても、その
徴収努力に見合う追加的な交付金配分を必
ずしも受けられる訳ではないので、徴税努
力のインセンティブが制約されると指摘さ
れている*6。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*5 Daseking et al (2004) ; IMF (2005) ; CIPPEC.
*6 Daseking et al (2004) ; Tommasi et al (2001) ; CIPPEC.
98 開発金融研究所報
図表2 各州・首都特別区の税収構成(2004 年)
100%
80%
60%
40%
トゥクマン州
ティエラ・デル・フエゴ州
24の州・首都特別区全体
サンタ・フェ州
サンタ・クルス州
サルタ州
サン・ファン州
ネウケン州
リオ・ネグロ州
メンドーサ州
ミシオネス州
フフイ州
ラ・リオハ州
サン・ルイス州
州税収
(出所)アルゼンチン経済生産省統計より作成
図表3 各州の州 GDP に占める州税収等の割合(1999 年)
(%)
16
14
12
10
8
6
4
2
その他の非税収入
平均
トゥクマン州
ティエラ・ デル・ フエゴ州
サンタ・ フェ州
サンタ・ クルス 州
サルタ 州
サン・ フアン州
サン・ ルイス州
ネウケン 州
リ オ・ ネグロ州
メンドーサ州
ラ・ リ オハ 州
ミシオネス州
ラ・ パンパ州
フフイ州
ロイヤリティ ー
サンティアゴ・ デル・ エステロ州
州税収
フォルモサ州
エント レ・ リオス州
チャコ州
チュブッ ト州
コリエンテス州
コルド バ州
カタマルカ州
ブエノスアイレス市
0
(2)州税収強化を巡る問題
(出所)Tommasi et al(2001)より作成
図表4 (参考)州税収の推移
GDP比 (%)
4
3
2
1
0
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
不動産関連税収
その他の資産関連税収
その他の税収
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
各州、特に小規模州は、上で述べた地方
交付金等の、中央からの移転収入に大きく
依存しており(図表2)
、この高い依存度も
地方財政を巡る重要な焦点となっている。
この依存度を引き下げる観点から、各州の
独自財源である州税(自主財源である自動
車税等)の徴税強化が課題とされている。
例えば、各州の州 GDP に占める州税収の割
合を比較すると、税体系や非税収入等に大
きな差異のない州の間でもばらつきが大き
く(図表3)
、このことは、州によって徴税
努力の差がある証左と考えられている*9。
ラ・パンパ州
エントレ・リオス州
その他の、中央からの移転収入
サンティアゴ・デル・エステロ州
地方交付金
フォルモサ州
チャコ州
チュブッド州
コルドバ州
コリエンテス州
カタマルカ州
ブエノスアイレス市
0%
ブエノスアイレス州
20%
ブエノスアイレス州
上で述べた諸問題は、国全体の徴税強化
を図る上での制約要因になると考えられる。
GDP 比で見た同国全体の歳入水準が他の新
興市場国に比して低く*7、税収強化が課題
とされていること等を考えると、徴税強化
のインセンティブをより働き易くする工夫
が望まれる。
こうした徴税強化インセンティブ付与の
観点から、例えば、各自治体における徴税
努力(ないしは財政健全化努力)の度合い
に応じて、各々の自治体への地方交付金配
分額が調整されるような仕組み(努力した
自治体が多くの配分を受けられる仕組み)
への改革を望む声は少なくない。また、各
州における徴税努力のインセンティブを強
化するべく、連邦政府が中心となって徴税
を司っている現状に対して、州政府が徴税
面でより大きな役割を担うようにする、と
いった改革も提唱されている*8。
金融取引等関連税収
財・ サービス関連税収
(出所)アルゼンチン経済生産省統計より作成
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*7 アルゼンチンの歳入 /GDP 比率は、1996~2000年平均で20%強であり、エストニア(40%弱)、ウルグアイ(40%弱)、ブラ
ジル(30%超)等に比して低い(Daseking et al 2004)。
*8 IMF(2005).
*9 Tommasi et al(2001).
2006年11月 第32号 99
3.地方交付金制度と垂直不均衡・
水平不均衡
第2章で触れたように、本来、アルゼン
チンの地方交付金制度は、①徴税機能の多
くを司る連邦政府と、歳出の多くを負担す
る地方政府の間の不均衡(
「垂直不均衡」
)
に対処するための制度として、また、②経
済規模の異なる各地方政府間の歳入格差
(「水平不均衡」
)に対処するための制度とし
て採用されてきた。
然しながら、垂直不均衡を巡っては、近年、
歳出面で地方分権化が一層進み、州が担う
歳出機能が益々増える一方で、それに見合
う十分な歳入の移転(地方政府の交付金取
り分の適正な見直し)が必ずしも行われて
いないとの議論もなされている。
また、水平不均衡に関しては、各地方政
府間の税配分方式が必ずしも客観的な基準
に依拠してらず、適正な分配になっていな
いことが重要な問題とされてきた。こうし
た問題に対処するためには税配分基準の見
直しが必要と考えられるが、この見直しの
基準として、①各自治体の財源規模、②各
自治体の歳出規模、及び、③各自治体の潜
在的な徴税能力(ポテンシャル)に対する、
実際の徴税努力の度合い、といった視点が
考えられる。
このうち①は、例えば、独自財源(州税
収等)が小さい小規模州が必要な交付金を
十分確保できるように配慮する等、各自治
体の財源規模を踏まえるという趣旨である。
また上記②は、歳出面に着目し、歳出負担
の大きい大規模州が、それに見合う歳入を
確保できるよう配慮する、といった視点で
ある。そして上記③は、徴税努力に見合っ
た配分とすることにより、各自治体が各々
の潜在的な徴税能力を十分に発揮すること、
即ち、徴税強化へのインセンティブを付与
する趣旨である。地方交付金制度改革はこ
うした多様な視点から検討されてきたが、
未だ具体的な改革案は固まっておらず、特
に各論では、各自治体の間で立場の違いや
温度差も少なくなく、今後の議論を待つ必
要がある。
例えばブエノスアイレス州についてみる
と、人口の約3分の1が集中しているため歳
出必要額も大きいが、その大きさに比して、
同州への地方交付金の配分額が小さいとさ
れており、
重要な焦点となっている。例えば、
同州経済省は、同州の居住者1人当たりの
地方交付金受領額が他州に比して小さい点
を指摘している(図表5)
。
図表5 居住者一人当たりの地方交付金受領額
居住者一人当たりの地方交付金給付額
ペソ
4000
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
ブ エノスアイ レス州
最も多い州
23州の平均
(出所)ブエノスアイレス州経済省(2005)
また、①財政連邦制を採用している他国
の配分基準を仮にアルゼンチンに適用した
場合にブエノスアイレス州が受け取れる交
付金額と、②現在、同州が実際に受け取っ
ている金額、との比較からも、現在の水準
がかなり低いことが窺える(図表6)*10。
こうしたブエノスアイレス州への過小配
分問題の背景には、1988年の地方交付金制
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*10 各国で用いられている地方政府間の税配分基準は、主として、各自治体の1人当り GDP、人口、面積、発展段階、独自財源規
模、等に関する複数の指標の組み合わせである。
100 開発金融研究所報
図表6 各国の地方交付金配分基準をアルゼンチンに適
用した場合の、ブエノスアイレス州の配分割合
㻋㻈㻌
ᖲᆍ
咧味命呹ᇱ‵呜㐲⏕否吭ሔྙ
咹呭咓咀呮咯ᇱ‵呜㐲⏕否吭ሔྙ
咜咯呾咱ᇱ‵呜㐲⏕否吭ሔྙ
呿咠呪咸ᇱ‵呜㐲⏕否吭ሔྙ
咏呪咊ᇱ‵呜㐲⏕否吭ሔྙ
呪咅咰周ᇱ‵呜㐲⏕否吭ሔྙ
⡷ᅗᇱ‵呜㐲⏕否吭ሔྙ
⌟≟
㻗㻘
㻗㻓
㻖㻘
㻖㻓
㻕㻘
㻕㻓
㻔㻘
㻔㻓
㻘
㻓
྘ᅗ䛴ᆀ᪁ஹ௛㔘㒼ฦᇱ‵䜘䜦䝯䝀䝷䝅䝷䛱
㐲⏕䛝䛥ሔྙ䛴䚮䝚䜬䝒䜽䜦䜨䝰䜽ᕗ䛴㒼ฦ๪ྙ
(出所)ブエノスアイレス州経済省 Otero et al(2004)
度改正の際、従来の水準(1973~84年は毎
年全体の28%を受領)から約8%ポイントも
引き下げられたという歴史的経緯がある。
この問題は、1992年に連邦議会で認知され、
ブエノスアイレス州に対しては、地方交付
金の過小配分に対する補償として、
(一般の
地方交付金配分とは別に)所得税収の10%
が交付されることとなり、これにより、同
州への配分割合は実質的に25%まで回復し
た。然しながら、1996年以降は、この補償
に対して、毎年の税収実績や GDP の水準等
の如何に拘わらず、一律650百万ペソの上限
が設定されたこと等から、2005年までの10
年間で、配分割合が再び20%台前半へ落ち
込んでおり、同州では、過小配分になって
いるとしている*11。
以上は、ブエノスアイレス州への配分割
合を巡る議論であり、歳出負担の大きい大
規模州が、それに見合う歳入を確保できる
よう、配慮すべきとの論調が強い。他方、
24の州・首都特別区のうち、大半を占める
小規模州への配分を巡っては、①産業規模
が小さく、独自財源が自ずと限られる点や、
②発展段階に留意し、今後の発展のために
必要な交付金を十分確保できるように配慮
すべきとの、
国内の声も少なくない。この他、
徴税強化努力等によって財政収支を大きく
改善させてきたことで知られるコルドバ州
等は、各州による財政健全化努力の度合い
が交付金配分額に反映されるような仕組み
づくりを求めている*12。
なお、①各地方政府の国家歳入全体への
貢献額(地方交付金等の源泉となる、各州
での税金発生・徴税等)
、②連邦政府による、
各地方政府への歳入移転・各地方向け支出、
及び、①と②の間のバランスは図表7の通
りとなっている。
図表7 各地方政府による、国家歳入への貢献額、及び、
連邦 政府による各地方への移転額(2003年)
(百万ペソ)
①各地方政府による、 ②連邦政府による、
国家歳入全体へ 各地方政府への歳入移転額、及び地方向け支出額等
の貢献額
総額
うち
うち
地方交付金
交付額
ブエノスアイレス州
カタマルカ州
24,621
19,669
2787
うち
その他の
歳入移転額
(特別基金を通じ
た歳入移転等)
1,649
左記①と②の
間のバランス
(注)
うち
地方向け
支出額
12,217
その他の、地方政
府向け財政補助
(優遇税制措置
を通じたもの等)
3,016
4,952
456
1,183
350
157
588
89
‑727
チャコ州
1,032
1,684
633
266
640
145
‑652
チュブッド州
1,100
1,141
201
160
486
294
‑41
18,240
15,644
0
319
12,908
2,418
2,596
5,902
4,926
1127
500
2,629
670
977
ブエノスアイレス市
コルドバ州
コリエンテス州
エントレ・リオス州
808
1,754
1,452
1,980
472
620
237
299
648
95
879
182
‑64 4
‑ 226
フォルモサ州
415
1,061
462
211
347
41
‑646
フフイ州
657
1,218
361
194
604
60
‑561
62
‑234
ラ・リオハ州
399
1,154
263
137
717
38
‑755
メンドーサ州
ラ・パンパ州
2,853
675
2,639
909
529
238
268
149
1,453
460
389
214
ミシオネス州
1,060
1,426
419
238
583
186
‑366
ネウケン州
1,552
1,028
220
145
462
200
524
リオ・ネグロ州
1,123
622
200
サルタ州
1,121
1,808
486
248
947
126
‑687
716
1,501
429
191
788
93
‑785
サン・ファン州
サンタ・ルイス州
サンタ・クルス州
サンタ・フェ州
サンティアゴ・デル・エステロ州
ティエラ・デル・フエゴ州
トゥクマン州
合計
700
1,307
962
320
290
165
143
448
‑184
81
‑262
753
913
201
156
359
198
‑160
5,740
5,349
1134
550
2,953
711
392
687
1,699
524
242
864
69
‑1,012
1,464
1,327
161
111
366
689
136
454
2,301
604
288
1,181
228
‑1,847
74,282
74,282
12,831
7,022
44,148
10,281
0
(注)プラスは、①地方政府による国家歳入への貢献額が、②連邦
政府から同地方政府への歳入移転額・同地方向け支出額、を
上回ることを示す。
(出所)ブエノスアイレス州経済省(Otero et al(2004))試算
以上では、地方交付金制度を巡る諸問題
に注目して見てきた。これらの問題を背景
に、本来は、1994年に改正された新憲法の
規定にしたがって、1996年までに交付金制
度の抜本的な改革が行われることになって
いた。然しながら実際には、各税の配分方
式の統一・簡素化や配分基準の見直し等に
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*11 ブエノスアイレス州経済省(2005)。
*12 コルドバ州政府(2004)。
2006年11月 第32号 101
関するいくつかの改革案が検討されたもの
の、合意形成は容易ではなく、また、その
後の財政危機の顕著化によって、危機を乗
り切るための当面の対応(暫定的な財政協
定を通じた税体系の一部調整・州歳出の抑
制等)へ焦点が移り、抜本的な制度改革は
実現しなかった。
その後も、地方交付金制度改革の目処が
立たない中、アルゼンチン政府は、現行制
度の枠組みの下で徴税強化に努めるととも
に、歳出面からの財政強化にも取組んでい
る。そこで、次章では、現行制度の下での
地方財政強化への具体的な取組みについて
みていく。
第4章 現行制度の下での地方
財政健全化への取組み
1.地方財政健全化策:「金融秩序
プログラム」及び「財政責任法」
第1章で述べた通り、同国では、各州政
府が歳入面で地方交付金に大きく依存する
一方で、歳出面では地方分権化が進んでお
り、各州は歳出実行について大きな自治・
裁量権を有している。また、従来は、州財
政を包含する財政責任法も存在しなかった。
こうしたことから、地方政府を含む国家全
体で財政運営の足並みを揃えることは容易
ではないとされてきた。例えば、1997年か
ら1999年にかけて、連邦政府が財政強化に
向けて財政スタンスを累計で GDP 比1¹/₄%
ポイント引き締めた際も、州財政スタンス
は累計で同比³/₄%ポイント拡大した(図表
8、9)*13。
こうしたことから、地方財政の強化が重
要な課題と考えられるが、この課題につい
てアルゼンチン政府は、
「金融秩序プログ
ラム」及び「財政責任法」の制定を通じて
取組んでいる。このうち、
「金融秩序プログ
ラム」は、地方交付金(各州政府の取り分)
を担保として、連邦政府が、同プログラム
に参加する各州政府に対して、一定の範囲
図表8 連邦政府財政:財政収支及び財政スタンス 図表9 州政府財政:財政収支及び財政スタンス
連邦政府財政:財政収支及び財政スタンス
GDP比(%)
3
州政府財政:財政収支及び財政スタンス
GDP比(%)
1.5
1
2
0.5
1
0
0
‑0 .5
‑1
‑2
‑1
‑3
‑1 .5
‑4
‑2
‑2 .5
‑5
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
財政収支
財政スタンス(緩和:+、引き締め:‑ )
(注)景気変動要因や金利要因によらない財政変動を「財政スタンス」として表示
(出所)Daseking et al(2004)より作成
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
財政収支
財政スタンス(緩和:+、引き締め:‑ )
(出所)Daseking et al(2004)より作成
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*13 Daseking et al(2004).
102 開発金融研究所報
内で、既存債務返済等のための資金を貸し
付けるものである。各州政府は、かかる金
融支援を受ける代わりに、財政健全化計画
を立てることになっている。また、同プロ
グラムの下では、州政府の新規借入が制限
されることになっており、これによって、
財政規律強化を促す狙いがある。かかる条
件が遵守されない場合には、連邦政府によ
る州政府への上記金融支援が打ち切られる
等の措置が採られることになっている。
さらに、2004年 8 月には州財政を包含する
財政責任法が可決され、同法を批准した各州
政府については、プライマリー歳出伸び率を
名目 GDP 成長率見込み値以下に抑制すること
等が義務付けられるようになった(図表10)
。
そこで、財政責任法を批准した各州につい
て、2005年(同法施行1年目)の履行状況を、
政府機関(
「財政責任法委員会」
)の報告書*14
図表 10 財政責任法の骨子
(1)歳出面の規制
① プライマリー歳出の定義
=経常歳出+資本歳出−公的債務利払い−国際機関によって資金手当ての
された支出−社会インフラ向け支出
② 規制内容:
プライマリー歳出の伸び率は、名目 GDP 伸び率見込値以下に抑制。
但し、名目 GDP 伸び率見込値がマイナスの場合には、プライマリー歳
出の伸び率を一定とすることが可能。
固定資産売却による収入を、経常歳出に充当してはならない。
(2)財政収支面の規制:
① 財政収支の定義
=歳入−歳出(但し、国際機関によって資金手当てされた支出、及び社会
インフラ向け資本支出を除く)
② 規制内容
均衡財政の維持
(3)公的債務管理面の規制
債務支払額は、
(市への地方交付金交付を差し引いた後の)経常歳入の
15%以内に抑制する。
上記の水準を超える状況での、新規借入れは禁止。
但し、以下の場合を除く。
・より有利な条件での債務再編を行う場合。
・国際機関からの借入れ
・連邦政府からの借入れ
(出所)ブエノスアイレス州経済省 Informe de Gestión de la Deuda Pública(March 2005)より作成
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*14 一部暫定値に基づく。
2006年11月 第32号 103
図表 11 財政責任法の履行状況
第 10 条の規程:プライマリー歳出の伸び率を、名目 GDP 伸び率以下に抑制
2005 年の名目 GDP 成長率とプライマリー歳出伸び率実績値:
名目 GDP 成長率:18.9% プライマリ ー
経常歳出伸率( % )
ブエノスアイレス州
コリエンテス州
フ フイ州
メンドーサ州
トゥクマン州
1 7.4
1 7.9
1 8.1
1 7.0
1 8.9
プライマリ ー
資本歳出伸率( % ) 歳出全体伸率( % )
‑ 2 5.6
‑ 7.3
‑ 4 .0
1 9.6
‑1 8.0
(注1)財政責任法発効後に州予算案が可決された州を対象として、
同法の履行状況をみたもの。
(注2)資本歳出伸び率に関しては、以下の場合に、名目 GDP 成
長率を超過することが可能。
① 債務支払額が経常歳入額の 15%以下の場合
② 歳入伸び率が名目 GDP 伸率を上回る場合
(出所)Consejo Federal(2006)
第 19 条の規程:均衡財政の維持
2005 年の財政収支実績値: (百万ペソ、プラス:財政黒字)
ブエノスアイレス州
カタマルカ州
コルドバ州
コリエンテス州
チャ コ州
チュブット州
エントレ・リオス州
フォルモ サ州
フ フイ州
ラ・リオハ州
メンドーサ州
ミシオネス州
リ オ・ネグロ州
サン・フア ン州
サンタクルス州
サンタフェ州
サンティア ゴ・デル・エステ ロ州
トゥクマン州
34.5
74.5
285.9
91.5
149.6
38.9
251.6
11.3
14.2
34.9
245.1
58.9
41.2
209.1
69.1
787.1
168.5
118.7
(出所)Consejo Federal(2006)
第 20 条の規程:債務支払 / 経常歳入比率が
15%を超過する場合には、プライマリー収支
黒字を盛り込んだ予算を策定・実施
2005 年のプライマリー収支実績値:
1 4 .7
1 5 .0
1 5 .7
1 7 .1
8.6
第 21 条の規程:債務支払を経常歳入の 15%以内
に抑制
2005 年の債務支払 / 経常歳入比率実績値: (%)
ブエノスアイレス州
カタマルカ州
コルドバ州
コリエンテ ス州
チャコ州
チュブット州
エントレ・リオス州
フォルモ サ州
フ フイ州
ラ・リオハ州
メンドーサ州
ミシオネス州
リ オ・ネグロ州
サン・フア ン州
サンタクルス州
サンタフェ州
サンティア ゴ・デル・エステロ州
トゥクマン州
12.0
11.4
12.6
14.3
18.3
6.7
14.8
19.6
26.4
9.2
12.5
14.6
20.0
15.2
2.0
9.6
1.4
18.8
(出所)Consejo Federal(2006) (参考)債務支払 / 経常歳入比率
の推移(全州合計ベース):(%)
25
20
15
(百万ペソ)
10
5
0
19
97
19
98
(出所)Consejo Federal(2006)
25 3.1
83.5
83.2
123.3
246.8
213.5
19
99
20
00
20
01
20
02
20
03
20
04
20
05
チャコ州
フォルモ サ州
フフイ州
リ オ・ネグロ州
サン・フアン州
トゥクマン州
(注)2004 年、2005 年は推計値
(出所)アルゼンチン経済生産省(Fraccaroli(2004))
104 開発金融研究所報
等に基づいて見ると、同法の各規程を基本的
に満たしているとされている(図表11)
。こ
れらの州財政の今後の推移、ならびに、批准
していない州の今後の動向も見守っていく必
要があると思われる。
上で述べた財政健全化への取組みや、実
体経済の回復にも支えられて、近年の地方
財政収支は全体としては黒字に転じている
(図表12)が、以下では、同国の2大州であ
り、州財政の大きな部分を占めるブエノス
アイレス州及びコルドバ州の事例を取上げ
て、より具体的な取組みを見ていく。
図表 12 24 の州・首都特別区政府:財政収支の推移
十億ペソ
6
図表 13 ブエノスアイレス州が国全体に占めるウェイト
(%)
40
35
30
25
20
15
10
5
0
歳出額
GDP
輸出額
人口
(出所)ブエノスアイレス州経済省 Informe de Gestión
de la Deuda Pública (August 2005) より作成
図表 14 ブエノスアイレス州:財政収支の推移
(%)
1.5
1
4
百万ペソ
1,000
0.5
2
500
0
0
0
‑0.5
‑1
‑2
‑4
‑6
‑1.5
‑1,000
‑2
‑1,500
‑2.5
‑8
‑500
‑2,000
‑3
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
財政収支額(左軸)
‑2,500
財政収支のGDP比(右軸)
‑3,000
(注)2005 年は第 1 四半期
(出所)アルゼンチン経済生産省統計より作成
‑3,500
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001
(出所)アルゼンチン経済生産省統計より作成
2.個別州の事例
(1)ブエノスアイレス州
① 2001年までの財政状況
ブエノスアイレス州は、国の歳出全体の
約15%(図表13)
、州債務総額の約4割を占
め る 等、 同 国 の 財 政 上 大 き な 位 置 を 占 め
ているため、その動向は特に注目される。
1990年代後半には、景気後退の中で、同州
の財政赤字及び州債務は大きく増大して
いった(図表14、15)
。
図表 15 ブエノスアイレス州:州債務の推移
十億ペソ
ブエノスアイレス州:州債務の推移
12
10
8
6
4
2
0
1997
1998
1999
2000
2001
(注)一部の州債を除く
(出所)アルゼンチン経済生産省統計より作成
2006年11月 第32号 105
② 近年の財政健全化への取組み
ブエノスアイレス州の歳入基盤を巡って
は、第3章で述べた通り、地方交付金の過小
配分という歳入制約要因があるが、そうし
た中で、同州は、独自財源である州税の強
化(図表16)を通じて財政改善に取組んで
いる点が注目される。
図表 17 ブエノスアイレス州:金融秩序プログ
ラムへの取組み状況
㻃
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㻕㻓㻓㻖 ᖳᗐ䝛䝱䜴䝭䝤㻃
㻕㻓㻓㻗 ᖳᗐ䝛䝱䜴䝭䝤㻃
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㻕㻓㻓㻕 ᖳ 㻘 ᭮ 㻖㻔 ᪝㻃
㻕㻓㻓㻖 ᖳ 㻕 ᭮ 㻕㻓 ᪝㻃
㻕㻓㻓㻖 ᖳ 㻔㻕 ᭮ 㻔㻛 ᪝㻃
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㻕䟸㻃
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㻗䟸㻃
㻘㻓䟸௧୕㻃
㻖㻈㻃
㻘㻓䟸௧୕㻃
㻖㻈㻃
㻘㻓ࠤ㻘㻗䟸㻃
㻙䟸㻃
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㻙㻈㻃
㻘㻓䟸ᮅ‫‮‬㻃
㻗㻈㻃
㻕䟸㻃
㻚㻘䟸㻃
㻖䟸㻃
ᮅリ㻃
ᮅリ㻃
図表 16 ブエノスアイレス州:州税収(独自財源)、
㻃
及び地方交付金受領額
๎΅ᖕ䛮㐲⏕㔘ฺ㻃
ᐁ㝷䛴㈀ᨳ཭ᨥ㉝Ꮚ
㔘⼝ᨥᥴ䟺䝋䜧䜽䝔䞀
㻙㻛䟸㻃
㻕㻜㻘 Ⓤ୒䝞䝁㻃
㻘㻔㻔 Ⓤ୒䝞䝁㻃
㻚㻓㻚 Ⓤ୒䝞䝁㻃
䜽䟻㢘㻃
(%)
䟺ず㎰㢘䟻㻃
( 出 所 ) ブ エ ノ ス ア イ レ ス 州 経 済 省 Informe de Gestión de la
Deuda Pública 各号及びホームページ掲載情報より作成
6
5
図表 18 ブエノスアイレス州:財政収支及び成長率
4
(%)
ブエノスアイレス州:財政収支及び成長率
1
3
(%)
15
0.5
10
2
0
‑0 .5
1
5
‑1
0
‑1 .5
0
2001
2002
2003
2004
ブエノスアイレス州税収実績(州GDP比)
ブエノスアイレス州の地方交付金受領額(GDP比)
‑2
‑5
‑2 .5
‑1 0
‑3
(出所)アルゼンチン経済生産省及びブエノスアイレス州経
済省統計より作成
同州では、①徴税行政機関の強化による、
納税履行率の向上や、②未納者に対する追
徴金の課徴強化、をはじめとする徴税強化
策を実施しており、こうした政策措置が、
実体経済の回復とともに、税収増加に寄与
しているものと考えられる。
また、ブエノスアイレス州は、2002年5月
に「金融秩序プログラム」に参加し、2003
年及び2004年には後続プログラムに取組ん
でいる。各プログラムの骨子とその実施状
況(目標達成度)は図表17の通りであり、
一定の成果が上がっていることが窺える。
106 開発金融研究所報
‑3 .5
‑1 5
2001
2002
2003
2004
ブエノスアイレス州財政収支(同州のGDP比、左軸)
ブエノスアイレス州財政収支(同国のGDP比、左軸)
ブエノスアイレス州の州GDP成長率(右軸)
(出所)アルゼンチン経済生産省及びブエノスアイレス州経
済省統計より作成
上述の通り、ブエノスアイレス州の債務
は、同国の州債務全体の約4割を占めるため、
その動向は注目に値する。ブエノスアイレ
ス州は、従来より国内債を負っていたが、
1994年には憲法改正によって各州が独自に
外債を発行できるようになったのを受けて、
同年以降は外債の発行も行ってきた。然し
ながら、1990年代末の景気後退による財政
の悪化や、2002年の為替切り下げに伴う実
質的な債務負担の増大等により、州債の返
済が困難となった。
これを受けて同州政府は、まず、国内で
の債務スワップを通じて、2001年末時点の
州債務総額の約半分を再編した。また、直
図表 19 ブエノスアイレス州債務スワップ:
図表 21 ブエノスアイレス州債務スワップ:
スワップ対象(旧)州債券の概要
スワップによる債務負担軽減効果
建値通貨
名目額
スワップ対象名目元本額
( 発行通貨建、
( 単位百万)
単位百万)
発行通貨建金額
2001年 1 2月
ド ル換算額
ユーロ
100.0
78.2
93.8
米ド ル
150.0
111.0
111.0
263.5
米ド ル
州債務総額/州 GD P
州債務総額/輸出額
州債務総額/経常歳入額(注)
金利支払額/州税収
州債務支払額/州税収
州債務支払額/経常歳入額(注)
州債務支払額/州 GD P
350.0
263.5
3,000.0
2080.0
17.9
ユーロ
100.0
97.9
117.4
米ド ル
100.0
80.3
80.3
米ド ル
160.0
119.4
119.4
ユーロ
100.0
99.3
119.0
ユーロ
300.0
295.0
353.8
ユーロ
300.0
296.2
355.3
米ド ル
100.0
63.4
63.4
米ド ル
74.0
43.8
43.8
スイス・ フラン
275.0
267.1
207.0
80%
ユーロ
350.0
310.0
371.8
70%
ユーロ
175.0
173.8
208.4
60%
ユーロ
150.0
147.5
176.9
50%
円
( 出 所 ) ブ エ ノ ス ア イ レ ス 州 経 済 省 Informe de Gestión de la
Deuda Pública(Jan 2006)
1 1.6 %
10 . 81 %
1.66 倍
1 8.0 %
2 8.2 %
1 5.3 %
1.1 %
2004年 1 2月
(スワップ前)
2 1.1 %
90.5 %
2.6 0 倍
25.2 %
73.7 %
41.6 %
3.4 %
2005 年 1 2月
(スワップ後)
1 5.6 %
68.9 %
1.8 3 倍
5.7 %
26.4 %
14.1 %
1.2 %
(注)市への移転額を除くネットの経常歳入。
( 出 所 ) ブ エ ノ ス ア イ レ ス 州 経 済 省 Informe de Gestión de la
Deuda Pública(April 2006)
図表 22 ブエノスアイレス州:金利種類別債務構成比
100%
90%
40%
30%
20%
図表 20 ブエノスアイレス州債務スワップ:
スワップ後(新)債券の概要
10%
0%
2000
2001
固定金利債
通貨
元本削減率
元本削減債
元本維持債
元本維持長期債
ユーロ、米ドル
ユーロ、米ドル
ユーロ、米ドル
約 60%
‑
‑
発行上限額
500 百万ドル(相当)
750 百万ドル(相当)
金利(年率)
ドル建:9.25%
1~4 年目:1%
1~2 年目:2%
ユーロ建:8.5%
5~8 年目:2%
3~4 年目:3%
9~12 年目:3%
5 年目以降:4%
2002
2003
固定金利インフレ調整債
2004
2005
変動金利債
( 出 所 ) ブ エ ノ ス ア イ レ ス 州 経 済 省 Informe de Gestión de la
Deuda Pública(January 2006)
‑
(2)コルドバ州
13 年目以降:4%
発行日
2005 年 12 月1日
据置き期間
7年
償還開始日
2012 年 10 月 15 日
2017 年 11 月 1 日
12 年
2020 年 11 月 15 日
15 年
最終償還日
2017 年 4 月 15 日
2020 年 5 月 1 日
2035 年 5 月 15 日
( 出 所 ) ブ エ ノ ス ア イ レ ス 州 経 済 省 Informe de Gestión de la
Deuda Pública(Jan 2006)より作成
近では、州の外債の再編(ボンド・スワップ)
を実施している。スワップ対象(旧)州債券、
及び、スワップ後(新)州債券の概要は各々、
図表19、20の通りとなっている。
同州政府によると、かかる州債務スワッ
プ へ の 参 加 率 は、 海 外 で94%、 国 内 で は
99%となり、スワップ後新債券の、今後5年
間の償還負担は、州歳入総額の2%以下、
GDP の1~1.6%以内に抑制されるとしてい
る。また、本スワップの実施を挟んで、図
表21の債務負担軽減効果が見込まれている。
この他、同州の債務管理政策に関しては、
固定金利債の比率を引き上げている点(図
表22)が注目される。
① 「コルドバ・モデル」
同国有数の工業地帯を有し、経済規模が
大きいコルドバ州では、その財政規模及び
州債務の規模も大きいが、1999年に就任し
たデ・ラ・ソタ州知事の下で、州財政を改
善させて注目された。
歳出面では、州議会を2院制から1院制に
縮小する等、思い切った歳出削減策を実施
した。また歳入面では、税率を引き下げる
一方、徴税強化による税収増加を図った。
具体的には、納税者の捕捉率向上、過去の
未納分の追徴、及び、州税制の簡素化によ
る徴税効率の改善、等を進め、この結果、
税収は、税率引き下げ前の水準を大きく上
回るようになった。こうした政策は、州知
事選挙におけるデ・ラ・ソタ氏の公約とし
て当初から掲げられていたため、政策遂行
に対する州政府のオーナーシップも強かっ
2006年11月 第32号 107
たと考えられる。また、
州知事選挙を通じて、
州民による同政策への是認を予め得ていた
ことや、当選後は、公約通り、まずは歳出
削減や税率の引き下げを実施した上で、州
民に対して徴税強化への協力を求めたこと
から、政策実行への支持が得られ易い状況
にあったと考えられる。こうした取組みを
通じた財政健全化は、当時、
「コルドバ・モ
デル」と呼ばれ、連邦政府や他州の財政状
況が悪化する中で、大きな注目を集めた。
② 近年の財政状況
2001年アルゼンチン危機の後、2003年に
再選されたデ・ラ・ソタ知事は、改めて財政
均衡・黒字化を掲げてきた。近年の推移を見
ると、予算上の前提を大幅に上回る高い経
済成長を背景に、税収が顕著に伸びている。
また歳出面では、資本歳出を拡大する一方、
経常歳出を抑制する政策を採っている。こ
うした政策の下、2003年以降、財政収支は
黒字に転じている
(図表23)
。
他方、2002年の為替切り下げ等によって
州債務の実質的な負担は同年に大きく増加
している(図表24)
。今後、財政収支を引き
続き黒字に維持しつつ、州債務を抑制して
いけるかが注目される。
図表 24 ゴルドバ州:州債務の推移
十億ペソ
コルドバ州:州債務の推移
8
7
6
5
4
3
2
1
0
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
(出所)コルドバ州財政省資料(Elettore,(2006))より作成
図表 23 ゴルドバ州:財政収支の推移
百万ペソ
こうした観点から、同州の中期財政見通
し(多年度予算)を見ると、3 ~4%の経済
成長率を前提(図表25)に、財政収支黒字
の維持と、州債務返済予定額の減少が見込
まれている(図表26、27)
。今後、同見通し
で想定されている経済成長の減速局面にお
いて、財政調整をどのように進めていくの
かが注目される。
400
200
0
‑200
‑400
図表 25 ゴルドバ州:中期財政見通し 2006 〜
‑600
08 の前提
㻃
‑800
1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
(注)2005 年は第1四半期
(出所)アルゼンチン経済生産省統計より作成
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(出所)コルドバ州財政省 Presupuesto Gerenal Año 2006 より作成
108 開発金融研究所報
図表 26 ゴルドバ州:中期財政見通し
第5章 まとめと今後の課題
十億ペソ
7
5
金利支払
等
一般歳出
3
その他の
収入
地方交付
金
州税収
1
‑1
収支
‑3
‑5
‑7
2006
2007
2008
(注)便宜上、支出はマイナス表示とした。
(出所)コルドバ州財政省 Presupuesto Gerenal Año 2006 より作成
図表 27 ゴルドバ州債務の償還
百万ペソ
700
600
500
国内金融機関
に対する債務
400
国際機関・ 海外
金融機関等に
対する債務
公的部門に対
する債務
300
200
100
0
2006
2007
2008
(出所)コルドバ州財政省 Presupuesto Gerenal Año 2006 より作成
24の州・首都特別区からなるアルゼンチ
ンでは、地方政府を含む国家財政全体の強
化が長年に亘って重要な課題とされてきた。
そして、この課題には、国家財政を大きく
特徴付けている財政連邦制が深くかかわっ
ている。とりわけ、財政連邦制の根幹を成
す地方交付金制度に関しては、①制度自体
の複雑性、硬直制、景気循環性や、②同制
度の下での、徴税強化インセンティブの制
約、さらには、③垂直不均衡・水平不均衡、
及び各自治体間の税配分基準、等を巡る諸
問題・課題がある。こうした課題に対応す
るための地方交付金制度改革については未
だ目処が立っていないが、現憲法では、改
革にあたって、各国内政府間の公平性等を
確保するための客観的な税配分基準を盛り
込む必要性、等が述べられている。また、
これまで見てきた教訓から、制度の複雑性・
硬直性を緩和する工夫や、徴税強化を促す
仕組み作りも検討に値すると思われる。
地方交付金制度の抜本的な改革の目処が
立たない中、同国では現行制度の枠組みの
中で、金融秩序プログラムや財政責任法の
制定を通じて地方財政健全化に取組んでい
る。財政責任法委員会の報告書や2大州(ブ
エノスアイレス州及びコルドバ州)の個別
事例に関してみる限り、財政改善について
一定の成果が窺われる。
他方、財政責任法については、資本歳出
については必ずしも十分な制限が設けられ
ていないことや、公的債務については、実
質的に、単年度の支払額に制限を設けてい
るのみである点、等も指摘されている *15。
また、同法を批准していない州の、今後の
財政動向も注視していく必要があると思わ
れる。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*15 IMF(2005)
2006年11月 第32号 109
さらに、近年の財政の改善は、財政健全
化努力とともに、一面では、経済の急速な
成長に支えられている部分もあると考えら
れるため、経済成長が減速してきた場合の
財政運営も注目される。景気変動が財政に
与える影響を緩和する上では、景気拡大局
面において財政収支黒字を積み上げる景気
安定的財政運営が重要と考えられるが、こ
うした観点からは、2005年末に連邦政府が
創設の意向を明らかにした「景気安定基金
(Anti-Cyclical Fund)
」が注目される。これ
は、予算上の目標値を上回る財政黒字の一
部を積み立てて、景気後退に備えるという、
新しい試みである。また、財政責任法では、
州政府レベルでの、景気安定基金の創設が
謳われており、例えばゴルドバ州では、既
にかかる基金を設立して、財政黒字の一部
を積み立てている。今後、こうした地方レ
ベルでの運営を含め、財政連邦制・地方交
付金制度の下で、景気安定的財政運営をど
のように行っていけるのかが注目される。
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'(October 26, 2006)
.
2006年11月 第32号 111
タイ:貯蓄・投資バランスから見た
更なる成長の可能性 *
国際審査部第 1 班課長 石川 純生
仲山 里美
要 約
アジア通貨金融危機を機に、他のアジア新興国と同様、タイにおいても国内貯蓄と国内投資の動向
に大きな変化が生じた。過去 20 年間の貯蓄投資バランスをみると、国内貯蓄は概ね GDP 比 30%程
度で安定的に推移したが、国内投資は危機前の同 40%から危機直後に同約 20%まで急落した。通貨
金融危機を境として、国内需要が急減したことが背景にあるが、かかる投資超過から貯蓄超過への転
換は、通貨金融危機の影響を受けた他のアジア新興国でもみられた現象であり、最近しばしば議論さ
れる世界的な経常収支不均衡(Global Imbalances)と関連する問題である。
通貨金融危機後、タイは不良債権処理、企業改革をはじめとする各種構造改革を経て、また堅調な
輸出の伸びにも支えられ、経済ファンダメンダルズを大幅に改善させてきた。しかし一方、足元の状
況をみると、2005 年にインド洋津波の影響や農業の不振等で景気が減速し、2006 年にはタクシン前
首相の株式不正取引疑惑に端を発した政治的混乱から、消費者や投資家のセンチメントが悪化した。
インフラ拡充のためのメガプロジェクトも実施が大幅に遅れており、消費については 2006 年にイン
フレ抑制のために4回にわたり行われた政策金利引き上げの影響が今後強まる可能性もある。
タクシン前政権は輸出振興策を採り続けながらも、これまで成長の果実が十分回らなかった地方等
の内需振興を目指すデュアル・トラック・ポリシーを採用した。特に内需振興策については、一村一
品運動、村落基金、農民債務モラトリアムといった多岐にわたる政策がとられ、輸出促進策について
は、自動車、ファッション、食品、観光、ソフトウェア等、タイの比較優位のあるニッチ市場に「選
択と集中」を行う方向性がとられている。今後の持続的経済成長のためには、国内投資を拡大してい
く必要がある。その過程で貯蓄・投資バランスが再び投資超過となり、国際収支が経常収支赤字に陥
る可能性もある。投資拡大のための企業の資金調達手段は、近年多様化しつつあり、金融セクターの
更なる発展も重要な課題である。更にメガプロジェクトの円滑な実施によってインフラを拡充・整備
することも民間投資拡大のために必要である。9月にクーデターが発生したが、10 月にスラユット
枢密院議員を首班とする暫定内閣が成立しており、同内閣の政策の舵取りに期待されるところが大き
い。政治的不安定性に終止符がうたれ、投資拡大のための政策が着実にとられることが期待される。
はじめに
1997年7月にタイが通貨金融危機に陥って
から10年近くが経とうとしている。通貨金
融危機後、タイは不良債権処理、企業改革
をはじめとする各種構造改革を経て、また
堅調な輸出の伸びにも支えられ、経済のファ
ンダメンダルズを大幅に改善させてきた。
本稿では、通貨金融危機前後の貯蓄投資バ
ランスの変化に焦点を当てた分析を行った
後、
最近のマクロ経済動向を整理する。更に、
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
* 本稿執筆に際しては、本行バンコク事務所の斉藤俊亮氏に多大な情報を提供頂き、国際審査部増井彰久調査役より多くの有益な
コメントを頂いた。この場をかりて御礼申し上げたい。また、本稿は筆者の個人的見解であり、国際協力銀行あるいは国際審査
部の公式見解ではない。
112 開発金融研究所報
今後タイ経済が持続可能な成長を確保して
いくためには、国内投資の拡大と輸出の更
なる増大が必要不可欠であるとの認識のも
と、タクシン政権下のデュアル・トラック・
ポリシーについての考察を行う。また、企
業投資を支える金融セクターの状況、金融
仲介機能についても一考を加えたい。
2006年初以来タクシン前首相の株式不正
取引疑惑に端を発する政治的混迷が長引い
ており、9月にはクーデター事件が発生し
たことは周知の通りである。長引く政治的
混迷の経済面への影響については、メガ・
プロジェクトと呼ばれる大型インフラプロ
ジェクトの遅れがみられており、国内需要
がやや軟化している中、経済成長を鈍化さ
せる要因となることが懸念されている。9
月のクーデターについては、執筆時点はクー
デター事件発生直後であり、その動向ある
いは経済への影響を展望することは困難で
ある。従って、本稿は基本的にはスラユッ
ト新暫定政権の経済政策やその展望には触
れることなく、同国の経済動向と今後の政
策課題について検討することとする。
第1章 貯蓄投資バランスの変化
アジア通貨金融危機を機に、他のアジア
新興国と同様、タイにおいても国内貯蓄と
国内投資の動向に大きな変化が生じた。一
言で言うと、通貨金融危機を境として、国
内投資(特に民間投資)が急減し、大幅な
投資超過から大幅な貯蓄超過に転換した。
過去20年間の貯蓄投資バランスをみると、
国内貯蓄は概ね GDP 比30%程度で安定的に
推移している一方、国内投資は危機前の同
約40%から危機の直後には同約20%まで急
落している(図表1)
。その後国内投資は徐々
に回復し、2005年には GDP 比30%近くまで
増大しているが、通貨危機前の水準を取り
戻すには至っていない。
国民所得の恒等式から国内貯蓄から国内
投資を差し引いたバランスは国際収支上
の経常収支と一致するが、前述の貯蓄投資
バランスの動きは、1997年の通貨金融危機
後、為替の下落や東アジアの生産流通ネッ
トワークに支えられて輸出が順調に伸びる
図表1 貯蓄投資動向
%
50
40
30
20
10
0
‑10
出所)CEIC
出所:CEIC
貯蓄投資ギャップ(=経常収支)
貯蓄率
投資率
実質GDP成長率
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
1989
1988
1987
1986
‑20
2006年11月 第32号 113
一方、打撃を受けた国内需要が回復するま
で輸入が抑え気味になったこと等により、
経常収支が大幅な黒字に転じたことと一致
している。しかしながら、後述する通り、
2005年には、半導体・農産品輸出の不振、
原油輸入額の増大、鉄鋼輸入の増大等を受
け、経常収支が危機後初めて小幅ながら赤
字に陥っている。最近の国際収支動向を見
る限り、2006年の経常収支は再び黒字に戻
る可能性も高いが、いずれにしても、経常
収支が1998年の GDP 比13%にも及ぶ黒字か
らほぼ均衡水準に戻っていることは確かで
ある。
近年、世界的な経常収支不均衡(Global
Imbalances)、すなわち米国の大幅な経常収
支赤字をアジア諸国、産油国等がファイナ
ンスしていることが重要イシューとして取
り上げられている。Global Imbalances には
様々な論点があるが、問題点の一つとして、
新興市場国として成長ポテンシャルの大き
いアジア諸国が資本輸入国にならず、大幅
に資本を輸出している点が挙げられる。誤
差脱漏を除けば、経常収支と資本収支を合
計した国際収支はゼロになるはずであるか
ら、大幅な経常収支黒字は大幅な資本収支
赤字(すなわち、
資本の輸出)と裏表である。
この観点からすれば、他の東南アジア諸国
に先んじて、タイの大幅な経常収支黒字が
均衡に近い水準に是正されたことは、世界
的な金融資源の効率配分の上からも望まし
い方向であるとの議論も有り得よう*1。
同様に通貨金融危機前後の比較により、
実質 GDP 成長率と需要項目別寄与度の推移
をみることとする(図表2)
。これによると、
通貨金融危機直前の1996年と IT 不況で世界
経済が後退した2001年以外は、一貫して輸
出が経済成長を牽引していることがわかる。
これに対し、消費(民間および政府)の経
図表2 実質 GDP 需要項目寄与度
出所)CEIC
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
%
20
15
10
5
0
‑5
‑10
‑15
‑20
‑25
‑30
輸出
輸入
投資( 民間・政府投資、在庫投資を含む)
消費(民間・政府消費 )
実質GDP成長率
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 ただし、IMF(2005)はタイの潜在成長率は5%程度で、1990年代は5%を大幅に超える高成長が続いていたことが危機に
つながったとしており、投資率は現状以上になることが必要との指摘はあるものの、通貨危機前の水準にまで戻る必要性は
必ずしもない。
114 開発金融研究所報
済成長に対する寄与度は、1988年にマイナ
ス5.9%に落ちこんだものの、1999年に2.6%
に回復したがその後3%前後で推移してい
る。一方、投資 ( 民間および政府 ) の経済
成長に対する寄与度は、1996年の2.3%から
1998年のマイナス17.4%まで大幅に低下し、
その後も2002年までは1-2%で伸び悩んでい
る。投資の回復が遅れた要因については、
過剰設備を背景に設備稼働率が低い水準に
あったことに加え、企業が過剰債務の解消
に注力していたこと、銀行部門が大量の不
良債権を抱え金融仲介機能が傷ついていた
ことにあると考えられる。消費の回復要因
としては消費超低金利政策下、消費者向け
融資(クレジットカード、個人向けローン)
が拡大したことなどがあると指摘されてい
る。タクシン政権が推進してきたデュアル・
トラック・ポリシーの内容や消費拡大に対
する効果については、第3章で触れることと
する。
マネーサプライの伸び率の推移をみると、
1990年代初には前年同期比30%近くとなり、
経済成長率と比較してもかなり高水準で
あったが、危機後を経た近年においては一
桁台の伸びに留まっている(図表3)
。また、
1990年代後半は国内信用の伸び率が民間投
資の伸び率とほぼ連動あるいは上回って推
移しており、基本的には金融機関からの信
用増によって民間投資が伸びるという構造
であった。しかし、危機後の混乱を経た近
年の状況を見ると、民間投資の伸び率がプ
ラスに転じた2000年、2001年にあっても国
内信用の伸び率を下回っている。これには、
前述の通り銀行が不良債権処理のため新規
の貸出に消極的であったことに加え、企業
が過剰債務の解消を行っていたこと、企業
が資本市場(株式・債券)の利用を拡大さ
せるなど資金調達手段の多様化を進めたこ
とも大きく影響したと指摘される*2。
また、こうした国内信用の伸び率の低下
を反映して近年マネーサプライの伸び率
も 低 位 で 推 移 し て お り、 マ ネ ー サ プ ラ イ
図表3 マネーサプライ、国内信用、民間投資の伸び率
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
%
40
30
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10
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‑10
‑20
‑30
‑40
‑50
‑60
出所)CEIC
出所:CEIC
政府向け国内信用(寄与度)
M2伸び率
民間投資伸び率
民間向け国内信用(寄与度)
国内信用伸び率
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 すなわち、銀行信用の増大はマネーサプライの伸びに直接つながるのに対し、対内直接投資や株式・債券といった資金フロー
は基本的にマネーサプライの定義から外れる。
2006年11月 第32号 115
の GDP 比( マ ー シ ャ ル の k) は1997年 の
105% か ら10% ポ イ ン ト 程 度 低 下 し2005年
には95%となっている(図表4)
。マネーサ
プライの内訳を見ると、中銀の対外純資産
(NFA)は危機が発生した1997年に GDP 比
20%弱となったが、危機後は外貨準備を順
調に増加させたことから過去10年間で10%
ポイント程度上昇し、2005年には同30%程
度となっている。一方、商業銀行の対外純
資産(NFA)は、
通貨金融危機の原因となっ
た外貨建ての対外借入を反映して、1997年
時点では GDP 比30%近くまでマイナス(純
借入)幅が拡大していたが、危機後は対外
借入の返済を進めたため、2002年以降は小
幅ながらプラスとなっている。また、国内
純資産(NDA)は、前述の要因により企業
が銀行からの借入を減少させたことから、
1997年の GDP 比100%程度から2005年には
同60%程度に大幅に減少している。
中銀の外貨準備(グロス)をみると、通
貨金融危機前(1996年末)の387億ドルから
1997年には270億ドルに減少したが、1998年
以降速やかに上昇に転じ、2005年末には通
貨金融危機前より133億ドル多い521億ドル
に達した(図表5)
。前述の通り、近年は資
本収支も改善しており、為替は増価傾向に
あるなか、中銀は外貨準備を積み上げてい
る。近年経常収支黒字幅は縮小あるいは赤
字化しており、今後資本収支が悪化する場
合は外貨準備の積み上げペースが減速する
可能性があるが、外貨準備は従来の概ねの
基準 *3からすると、既に十分な水準となっ
ている。
図表4 マネーサプライの推移
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出所)タイ中央銀行
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…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*3 谷内(2005)によれば、外貨準備の適正水準についてその国の3~6カ月分の輸入額程度という基準があるとしている。タ
イの外貨準備(2006年8月末時点で594億ドル)は輸入額の約6.1カ月分に達している。
116 開発金融研究所報
図表5 国際収支と外貨準備・実質実効為替レート
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出所)CEIC
第2章 最近のマクロ経済動向
前章では通貨金融危機発生後の経済回復
を振り返りつつ、貯蓄投資バランスの観点
から論じた。ここでは、政策課題について
論じる準備として、最近のタイの経済動向
を概観することとする。
1.景気の減速
実質 GDP 成長率は2005年に4.5%とやや低
調であったが、①津波による観光業の落ち
込み、②年前半の干害や鳥インフルエンザ
による農業生産の停滞、③年前半の半導体
需要の減退、④油価高騰に伴うインフレの
悪化等、景気を押し下げる外生的ショック
が重なったことによる一時的なものと考え
られていた(図表6)
。
2006年に入りエレクトロニクス製品、自
動車・同部品等を中心に輸出が成長を牽引
したものの、消費・投資の伸びは政治的混
乱を背景に低下しており、第2四半期の成長
率は前年同期比4.9%に低下した*4。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*4 2006年第1四半期の実質 GDP 成長率が前年同期比6.1%に上昇したことについては、インド洋大津波の影響で前年同期の
GDP 成長率が同3.2%に留まり、比較のベースが低いことにも留意が必要である。
2006年11月 第32号 117
図表6 実質 GDP 成長率の項目別寄与度
実質GDP成長率
消費
政府消費
民間消費
投資
固定資本形成
政府投資
民間投資
在庫増減
純輸出
輸出
輸入
誤差脱漏
2001
2002
2003
2004
2005
2.2
2.5
0.2
2.2
0.6
0.2
‑0.4
0.6
0.3
0.0
‑2.7
‑2.7
‑0.9
5.3
3.1
0.1
3.0
1.2
1.3
‑0.4
1.7
0.0
1.0
7.3
6.3
0.0
7.0
3.7
0.2
3.5
2.9
2.4
0.0
2.4
0.5
0.3
4.5
4.2
0.1
6.2
3.6
0.4
3.2
3.1
2.9
0.4
2.5
0.2
‑0.6
6.2
6.8
0.1
4.5
3.4
1.0
2.4
2.9
2.5
0.7
1.9
0.4
‑2.1
2.9
5.0
0.2
Q1
3.2
3.6
1.3
2.4
4.8
3.1
1.2
1.9
1.7
‑5.7
‑0.4
5.3
0.4
2005
Q2
Q3
4.6
5.4
3.5
3.9
0.8
1.4
2.7
2.5
6.7
‑2.9
3.3
2.0
1.1
0.2
2.2
1.8
3.5
‑4.9
‑6.4
4.5
1.3
7.7
7.7
3.2
0.7
0.0
Q4
4.7
2.7
0.6
2.1
3.1
1.8
0.2
1.6
1.3
‑1.1
3.1
4.2
0.0
2006
Q1
Q2
6.1
4.9
2.1
2.4
‑0.1
0.3
2.2
2.1
‑4.2
‑4.7
1.5
1.0
0.3
0.3
1.3
0.7
‑5.7
‑5.7
8.1
7.4
8.4
6.0
0.3
‑1.4
0.1
‑0.2
出所)国家社会開発委員会(NESDB)
出所:国家社会開発委員会(NESDB)
2006年初のタクシン前首相の株式不正取
引疑惑に端を発する政治的混乱は既にメガ
プロジェクト等の公共投資に影響を与えて
いる。また、かかる政治的不安定性は油価
高騰や金利の引き上げなどと相俟って、消
費者の信認や企業の業況判断を悪化させて
おり、2006年の景気の足を引っ張ってきた。
2006年7月にタイ投資委員会(BOI)は2006
年通年の投資申請額見通しを8,000億バーツ
から4,000億バーツに半減させており、投資
家も政治的混迷の帰趨が明らかになるまで
投資を見合わせると思われる。その意味で、
スラユット新暫定政権によって、政治が安
定性を回復し、投資家の信認が回復するこ
とが極めて重要である。
2.インフレ抑制のための利上げ
インフレ率は油価高騰の影響もあり2006
年第2四半期まで上昇を続けたが、ほぼ2年
間にわたる中銀の政策金利引き上げを背景
に、コア・インフレ *5は2006年4月(前年
同期比2.9%)をピークに、CPI ベースのヘッ
ドライン・インフレは同年5月(同6.2%)
をピークに安定化の方向に向い、同年8月
にはそれぞれ1.9%、3.8%まで低下した(図
表7)
。
中銀は2004年央に1998年末から続いた超
低金利政策を転換し、
政策金利(14日物レポ・
レート)の引き上げを随時実施し2006年6
月に年率5.0%とした(図表8)
。一方、マネ
タリー・ベースの伸び率は主に中銀債の発
行によって抑えられ、2006年6月には前年
同期比2.1%まで鈍化している(図表9)
。中
銀は6月以降政策金利の引き上げを見合わ
せているが、更なる引き上げに踏み切るか
否かは、今後のインフレ動向次第であろう。
当国のインフレは8月以降足元ではやや落ち
着きをみせている油価の動きに左右される
ところが大きいが、消費者物価指数バスケッ
トの2割程度の財の価格が商務省の統制下に
あり、同財の生産コストが燃料価格を中心
に上昇していることから、同財の価格が調
整されインフレ率が反応する可能性もある。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*5 当国は2000年5月よりインフレ・ターゲット政策を採用しており、
四半期間平均のコア ・ インフレ
(CPI から食料品・エネルギー
価格を除いたもの)を0-3.5%に抑えることを目指している。
118 開発金融研究所報
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図表8 金利動向
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出所)タイ中央銀行
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図表7 消費者物価指数(CPI)上昇率
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出所)CEIC
2006年11月 第32号 119
図表9 マネタリーベース増加率
%(対前年同月比)
国外純資産
対非金融公企業信用
その他
ブロード・マネー(M2a)(伸び率)
2006年7月
2006年5月
2006年3月
2006年1月
2005年11月
2005年9月
2005年7月
2005年5月
2005年3月
2005年1月
2004年11月
2004年9月
2004年7月
2004年5月
2004年3月
2004年1月
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40
30
20
10
0
‑10
‑20
‑30
‑40
‑50
‑60
対政府信用
民間向信用
マネタリーベース(伸び率)
出所)CEIC
金融引き締めを受けてブロードマネーの
伸び率も低下しており、2006年7月には前
年 同 期 比 8 % 増 と な っ て い る。 為 替 レ ー
トは2005年央の1ドル=41バーツ水準から
徐々に増価して、2006年9月には同37バー
ツ水準となり、実質実効ベースでみても相
当程度増価している(図表10)
。なお、9月
のクーデター発生直後の為替レートをみる
限り、事態が早期に収束する期待感もあり、
大幅な切り下がりは発生していない。
図表 10 名目為替レート・実質実効為替レートの推移
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出所)CEIC,IFS
120 開発金融研究所報
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3.慎重な財政運営と
2005/06年度の動向
金利の投資・消費行動に与える影響を検
討する前に、銀行部門の過剰流動性の現状
につき触れてみよう。長年続いた超低金利
政策、過剰債務の整理に伴う企業による返
済、後述する不良債権処理に伴う銀行の慎
重な貸付姿勢等を背景に、銀行部門の過剰
流動性は2003年にピーク(約1.22兆バーツ)
に達したが、2006年7月時点で約0.7兆バー
ツにまで半減した。
(図表11)
。過剰流動性
の相対的な大きさを測るべく、ブロード・
マネーに対する比率を計算すると、同比率
は2003年10月 の21% か ら2006年 7 月 に10%
にまで急減している。このことは2004年央
から2005年初に政策金利の引き上げが直ち
に銀行貸出金利に跳ね返らなかったものの、
最近銀行貸出金利が政策金利に連なって反
応していることとも整合的である。実質ベー
スで預金金利が依然マイナスであることか
ら、政策金利の引き上げ余地があるとの議
論もあるが、貸出・預金金利の上昇は消費・
投資を更に抑制する可能性もあることから、
慎重な金融政策の舵取りが期待される。
政府は均衡財政を維持しながらも、中期
的な経済成長の達成を視野に入れた財政政
策を模索している。2006年1月初旬に、タ
ノン財務大臣(当時)は、徴税効率の更な
る改善を行い、財政面から産業競争力の強
化や、農村・低所得者・中小企業への金融
サービスの拡充を支援していく旨発表し
た。2005/06年度については1兆3,600億バー
ツ(GDP 比18%)の均衡予算が成立してお
り、2006/07年度についても1兆4,800億バー
ツ(同18%)の均衡予算が2006年1月中旬
に閣議承認されている。2005/06年度につい
ては、成長率の前提を5.5~6.5%と現実より
高めに設定されたが、徴税強化の成果も徐々
に出てきており、2006年4~5月には所得
税の伸びを主因として政府歳入が前年同期
比10%以上伸びていることも報告されてい
る。
図表 11 過剰流動性のブロードマネーに対する比率の推移
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出所)タイ中央銀行より筆者推計
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2006年11月 第32号 121
公的債務については、国内債の新規発行
をゼロにおさえ、公的対外債務については
上限を設定するなど慎重に行っている。公
的対外債務の上限は GDP 比50%とされ、対
外債務支払いの歳出比を15%以内に収める
ことが目標とされている。2004/05年度には、
対外借入のシーリングが10億ドル(GDP 比
0.6%)であったのに対し、借入実績は8.3億
ドルであった。なお、2004/05年度末時点の
公的債務残高は GDP 比約50%である。
2006年に入り輸出は世界経済の景気に牽引
される形で順調に伸びる一方、輸入は投資
の軟調を背景に伸びが鈍化しており、経常
収支は再び黒字になる可能性がある。貯蓄
投資バランスの観点から考えると、前述の
通り政治的混乱を背景として2006年は公共
投資、民間投資ともに抑え気味になり、貯
蓄投資バランス(=経常収支黒字)をプラ
スにする要因として働いている。
一方、資本収支については、2005年に直
接投資、ポートフォリオ投資、その他投資
のそれぞれで改善し、前年の6億ドルの赤
字から66億ドルの黒字に転じた。特にポー
トフォリオ投資は2004年後半からネットで
流入に転じており、2005年も株式市場が堅
調で全体で40億ドルと大幅な流入超となっ
た。直接投資は2002年から2004年にかけて
停滞していたが、日系自動車企業の投資拡
大などもあり、2005年に前年比約2.5倍の33
億ドルに拡大した。かかる国際収支の状況
を反映して、為替は増価傾向にあり、中銀
は外貨準備を積み上げ、為替の増価に対抗
している。
4.経常収支の均衡化
経常収支は2005年に通貨危機後初めて赤
字に転じた。特に年前半に大幅な赤字を記
録し、第3四半期に黒字に戻したものの、
通年では GDP 比2.1%の赤字となった(図表
12)。これは、農業の不調で農産品輸出が停
滞し、需要後退から半導体輸出が伸び悩ん
だことに加え、津波の影響で観光収入が減
少したことが主因である。また、油価高騰
で原油輸入額が前年比で約60%増加し、公
共投資の拡大等で年前半の鉄鋼輸入額が拡
大したことも年前半の赤字化に貢献した*6。
図表 12 経常収支と資本収支の項目別推移
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出所)タイ中央銀行
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*6 空港建設などで鉄鋼需要が増大したなか、中国による鉄鋼の輸出税引き上げ措置を見越して、鉄鋼輸入が一時的に増大した。
122 開発金融研究所報
第3章 今後の政策課題
前述の通り、これまでのタイの経済成長
は輸出に大きく依存してきたが、タイが持
続可能な経済成長を確保するためには、国
内投資を中心として内需を拡大することが
必要不可欠と思われる。本章では、まずタ
クシン政権下で実施されてきたデュアル・
トラック・ポリシーの考察を行い、次に、
企業の投資促進の前提条件となる金融セク
ターの状況を概観することとする。
1.デュアル・トラック・ポリシー
アジア危機から3年半後に発足したタクシ
ン政権は、①国内市場における民間消費を刺
激する内需振興と、②積極的な外資導入によ
る輸出促進の双方を目標とする「デュアル・
トラック・ポリシー」といわれる経済成長
戦略を採用した。同経済成長戦略は国外と
の経済関係を強化し輸出競争力の戦略的な
強化を図るとしつつも、これまでの日、米、
欧の経済に過度に依存した輸出主導の経済
成長は不安定との認識のもと、外需依存の
経済構造からの脱却を目指したものである。
その一方で、これまで成長の恩恵が十分配分
されなかったセクター(農民、グラス・ルー
ツ、中小企業等)を支援し、地方の特性を
活かした地方経済の活性化を行うことで内
需の持続的拡大を図ることを目指している。
本項では、内需拡大政策及び輸出促進政策の
具体的内容につき考察を加えたい。
(1)内需振興策
持続的な内需拡大のためには、一部の都市
居住者だけでなく国民全体の消費活動を活
発化させる必要がある。タイでは地方農民は
十分な消費活動を行うだけの収入を確保し
ておらず、また地方経済や中小企業は銀行借
入をはじめとして金融サービスへのアクセ
スが限定的であったことなどから十分発達
してこなかった。
「デュアル・トラック・ポ
リシー」下の内需振興策は、外需中心の経済
成長の中で取り残された地方、農民、中小企
業の経済活性化をめざしている。具体的に
は、地方経済活性化に必要なプロジェクトを
支援する「村落基金」
(Village Fund)*7(総
額16億ドル)を設立し、地域特産品の生産を
促進する「一村一品運動」を7,000超の地区
で導入した。また、農業・農業共同組合の
債務に苦しんでいる農民を自立させるべく、
金利減免、債務繰延、債務免除等を含む「農
民債務モラトリアム」*8を実施し、また2003
年9月には貧農が「土地利用権」
、
「露天商権」
等を担保に起業資金の借入を行える「資産・
資本化転換政策」を施行した。また、中小企
業に対しては政府系の中小企業銀行等を通
じた金融支援を行い、中小企業の信用保証制
度も整備した。その他、低所得者に対して、
公立病院を中心に1回の診察料を定額30バー
ツで行う「30バーツ医療制度」
、家計収入が
月額15,000バーツ以下の低所得者に対する住
宅供給政策*9、都市貧困者に対し政府貯蓄銀
行を通じたマイクロ・クレジット事業等、多
岐にわたる政策が実施されている。
かかる地方経済活性化を含む内需振興策
の効果については、効果出現まで時間的ラグ
を有すること、地方経済のデーター収集上の
問題があることから、十分な分析を行うこと
は困難である。ただし、国全体の一人当た
り GDP は1998年から2005年の間に実質ベー
ス(バーツ建て)で年平均4%の伸びを見せ
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*7 全国の地方村及び都市村の中で要件を満たす村落に対し政府系金融機関から1村あたり100万バーツを交付する政策。
*8 債務者の自立を支援する政策であり、2001年4月に開始され2004年3月に終了した。政策満了時点で231万人の債務者が救済
されたとのこと。
*9 2003年に開始され、本事業の実施期間は5年間、全国50ほどの都市で実施予定。
2006年11月 第32号 123
図表 13 地域別一人当たり GDP の推移
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出所)CEIC
ており、また世銀(2006)によれば貧困率は
2000年から2004年の間に21.3%から11.3%に
半減している。したがって、国民の平均的な
生活水準はこの数年間改善していると考え
られる。しかしながら、一人当たり GDP を
地域別に見ると、かかる生活水準の改善は、
バンコクおよびバンコク近郊、工業団地が
存在する東部および中部において顕著にみ
られ、それ以外の地方の所得拡大は相対的
に緩慢なものとなっている(図表13)
。所得
*10
分配の不平等度を測るジニー係数 を見る
と、過去10年間余り0.5前後で推移しており、
所得格差の目立った改善は見られていない。
農村を中心とした地方経済の活性化の成果
は現時点では十分現れておらず、今後の進展
が期待される*11。
(2)輸出振興策
「デュアル・トラック・ポリシー」のもう
一つの柱である輸出促進策については、中国
の大量生産モデルとは異なり、タイの特性を
活かしたニッチ市場への生産要素の「選択と
集中」を通じ輸出競争力を強化させていくこ
とが目標とされた。具体的には、
自動車産業、
ファッション業、食品産業、観光業、ソフト
ウェア産業において、製品の差別化を通じ
た輸出戦略を展開しつつある。例えば、自
動車産業においてはピックアップトラック
に特化して付加価値の高度化を図り、ファッ
ション産業ではタイ文化を活かしたブラン
ドの確立を目指し、ソフトウェア産業につい
てはグラフィック・デザインに注力する等、
産業分野毎に比較優位を活かし競争力を高
めていく取り組みを行っている。輸出は相手
国の経済動向にも依存するため、上記の輸出
振興策の効果を論じることは困難であるが、
2003~2005年の輸出の実質伸び率が一桁台で
推移していること、足元では前述の通り実
質実効ベースでバーツ高が進んでいること、
中国の輸出が急激な勢いで伸びていること
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*10 ジニー係数は0から1の間をとり、1に近づくほど所得分配は不平等となり、0に近づけば所得分配は平等になる。
*11 ただし、ジニー係数では大きな変化が見られないが、1995年にバンコクおよびバンコク近辺と比較して所得の低かった東部 ・
中部の一人当たり GDP が2005年に相対的に上昇している点は注意を要する。人口構成比を見ると、バンコクおよびバンコク
近辺、東部、中部の3地域の人口の全人口に占める比率は、1995年の40%から2005年に39%とほとんど変化していない。し
たがって、東部・中部の相対的な一人当たり GDP の上昇は、所得格差の縮小を意味すると考えられるが、ジニー係数にはそ
の変化が反映されていない。
124 開発金融研究所報
等を考えると、輸出競争力の強化は引き続き
重要な政策課題となろう。
タイの輸出競争力の強化を考える際には、
まず同国が東アジアの生産流通ネットワー
クの中に位置することを念頭におく必要が
ある。近年、東アジアでは、電気・電子機
械の分野を中心に、生産流通ネットワーク
が形成されており、中国・ASEAN 主要国間
でも各生産工程を経た中間財が取り引きさ
れている。ただし、タイについては、輸出
の5割が最終財であり、他の ASEAN 主要国
と比較して最終財輸出のシェアが高い。ち
なみに、中国も最終財輸出が輸出の7割弱を
占めるほど大きく、その意味でタイと中国
の貿易構造は類似していると言われている。
タイと中国の輸出市場での関係については、
大泉(2004)は米国市場に関しては両国は約
6割の品目において「共栄関係」としてお
*12
り、
また、タイ・中国間の貿易に関しても、
「共栄関係」にあるものの比率が近年上昇し
つつあると指摘している*13。その背景には、
2003年以降タイがハードディスクの対中輸
出を急増させたことがあり、中国優位と言わ
れている電子電機製品の中でも、電子部品・
デバイスでは中国とタイは共栄関係になり
つつある。
「共栄関係」の定義は、第3国市
場においては両国の同一品目の輸出が一定
率以上の伸びを見せていること、両国間の貿
易においては相互に同一品目を輸出しあっ
ていることとなっている。このような状況に
ある場合、同品目の競争力の強化を行わなけ
れば、相手国でも同品目の製造が可能である
ことから容易に相手国優位の状況になって
しまう。タイと中国が第3国市場においても
両国間の貿易においても「共栄関係」が拡大
していることからも、タイとって競争力強化
は必須の課題である。
今後タイが更に輸出競争力を強化してい
くためには、前述の「ニッチ市場」への「選
択と集中」のみならず、バンコク首都圏のイ
ンフラ拡充を行い、ロジスティック・コスト
を削減してくことも重要と指摘されている。
タイでは鉄道や港湾等のロジスティック・コ
ストが高いと言われており、道路、鉄道、港
湾などのインフラを拡充し、輸送コストを更
に引き下げれば競争力強化につながると見
られている。メガ・プロジェクトは1.8兆バー
ツ(GDP の25%程度)のインフラ投資を約
5年間*14かけて実施するものであり、バンコ
クの地下鉄、高速道路、水道事業などを整備
するものである。インフラ投資の必要性は大
方の支持を得ているが、1.8兆バーツとの数
字が十分な精査を経ずして提示された点や、
個別プロジェクトの TOR に対する政府の検
討が十分でない点に批判がある。メガ・プロ
ジェクトがロジスティック・コストを下げ
る方向で効率的かつ効果的に進められれば、
産業の競争力が強化されると思われる。
2.金融セクターの現状
デュアル・トラック・ポリシーに並んで、
金融セクター改革も2004年に策定された金
融セクター・マスタープランに基づき推進
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*12 大泉(2004)は1999〜2002年のタイ・中国の輸出の年平均伸び率によって、中国が5%以上でタイがマイナスの場合を「中
国優位」とし、双方が5%以上の場合を「共栄関係」と定義している。米国市場で中国優位にある品目が全体の30%(コンピュー
ター製品・通信機器・魚加工品・鞄・履物等)であるのに対し、タイ優位にある品目は全体の4%(天然ゴム・時計・カメラ等)
にすぎず、残りの6割強は共栄関係としている。
*13 大泉(2004)は、貿易特化係数を計算して、中国・タイ間の貿易から両国の優位関係および共栄関係を計測している。貿易
特化係数とは(タイの輸出-中国からの輸入)/(タイの輸出+中国からの輸入)によって定義され、1~0.6をタイ優位、
-0.6~ -1を中国優位、0.6~ -0.6を共栄関係としている。2003年の二国間貿易の中で、中国が優位な品目は貿易全体の3割弱で
ある一方、タイが優位なものが同3割弱、また双方が輸出し合ういわば「共栄関係」にあるものが4割強となっている。しかも、
「共
栄関係」にあるものの比率は、2002年以前は3割にすぎなかったが、2003年以降タイがハードディスクの対中輸出を急増させ
たことから4割強に上昇した。
*14 メガ・プロジェクトは2006~2011年の約5年間で実施される予定であったが、内政の混乱により開始時期が新政権発足後まで
延期される見込みである。
2006年11月 第32号 125
されている。政府は同プランによって、金
融サービスへのアクセスを拡大し、消費者
保護にも配慮した、競争的、効率的かつ安
定した金融セクターの構築を目指している。
特に金融サービスへのアクセスの拡大につ
いては、農村、低所得者、中小企業への金
融サービスの拡充を目指し、金融機関の再
編については、ファイナンス・カンパニー
等を商業銀行あるいはリテール銀行に転換
させ、既存行の合併等を行うとしている。
ここでは金融セクターの現状とともに、今
後の投資拡大のためには必要不可欠である
金融仲介機能について概観することとする。
14)
。企業については、通貨危機後、過剰債
務を整理すべく、銀行への返済が促進され
た。また、タイの企業は過剰設備を抱えて
いたこともあり、設備稼働率は低水準で推
移し投資需要の伸びの鈍化から、銀行の企
業向け融資の拡大も抑制された。返済の促
進と融資拡大の鈍化によって、銀行部門で
は過剰流動性が発生し、金利も低水準で推
移した。近年では企業向け融資に多少回復
がみられるものの、消費者向け融資の拡大
のペースの方が大きい。2005年第3四半期に
企業向け融資は対前年同期比で0.9%増に留
まったが、消費者向けは対前年同期比8.4%
増と高い伸びを示しているのが特徴的であ
る*15。企業向け融資の中でも中小企業向け
が増加しているので、大企業向けの伸びは
より限定的と考えられる。
(1)企業向け融資の伸び悩み
前述の通り通貨金融危機を境にマクロ経
済上の貯蓄投資バランスは大きく変化した
が、銀行の金融仲介機能にも通貨金融危機
後に停滞が見られた。銀行貸出は2002年を
底に回復に転じたが、その内訳をみると、
消費者向けに貸付残高は伸びたものの、企
業 向 け に は そ れ ほ ど 伸 び て い な い( 図 表
(2)不良債権処理の進展
また、通貨金融危機後の企業向け融資の
回復が遅れた理由として、銀行が大量の不
良債権を抱え、金融仲介機能が傷ついてい
図表 14 商業銀行の業種別貸出残高の推移
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出所)タイ中央銀行
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*15 ただし、銀行の貸出残高では、企業向けは全体の8割強を占めているのに対し、消費者向けは2割弱に過ぎない。
126 開発金融研究所報
(3)今後の金融仲介機能
たことも挙げられる。以下、不良債権処理
を概観すると、通貨金融危機により不良債
権 が 急 増 し、1999年 5 月 に2.7兆 バ ー ツ と
ピークに達した。タイにおける不良債権処
理は、当初私的資産管理会社等によって行
われていたが、タクシン政権は2001年7月
に公的資産管理会社として TAMC(タイ資
産管理会社)を設立し、
7,770億バーツ(GDP
比16%)の不良債権を移管した。TAMC は
2005年末段階で同債権全額について債務者
との交渉を一応終了させた*16。2000年末段
階で TAMC に移管されなかった不良債権、
あるいはそれ以降に発生した不良債権は、
2001年1月末の8,665億バーツ(不良債権比率
17.7%)から2006年1月末に4,847億バーツ(不
良債権比率8.2%)に減少した。中銀は、来
年までに不良債権比率を5%に低下させるこ
とを目標としている。
では、不良債権処理にも目途がついてき
たことから、今後銀行の企業向け融資は増
大していくであろうか。ここでもう一つ考
えなければならない要素は、近年タイはア
ジア新興国の中でも先んじて証券市場及び
債券市場を拡大させていることである。資
本市場の発展に伴い、企業も銀行部門から
だけではなく、株式や社債の発行により資
金を調達することが可能となる。まず、証
券市場のついては、株式時価総額はアジア
危機直後の落ち込みから2003年には危機前
の 水 準 に 回 復 し、2005年 末 に5.0兆 バ ー ツ
(GDP 比72%)となった(図表15)
。上場社
数も危機の影響により1999年には392社まで
減少したが、2006年9月末には再び472社に
増加した。ただし、近隣諸国と比べると、
証券市場の規模は依然として小さく*17、今
後の更なる拡大が期待される。次に、債券
市場については、証券市場より発達が遅れ
ていたが、債券発行残高は1997年末の0.5兆
図表 15 タイ証券取引所(SET)における時価総額の推移
10億バーツ
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
2006 Sep
出所)CEIC
1992
1991
1990
0
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*16 全債権の73%が債務のリストラ等で合意したが、残りの27%については交渉決裂によって担保権の実行となった。
*17 タイの証券市場の時価総額は1410億ドルであり、フィリピン(400億ドル)やインドネシア(810億ドル)より大きいが、マレー
シア(1810億ドル)、シンガポール(2570億ドル)より小さい。
2006年11月 第32号 127
バーツ(GDP 比12%)から2006年9月末の3.7
兆バーツ(同48%)に拡大した
(図表16)*18。
ただし、国債、国営企業債、金融機関債が全
体の8割を占めており、社債市場の育成の必
要性が指摘されている。タイの債券市場の育
成については、
「アジア債券市場構想」
(Asia
*19
Bond Market Initiative) 」 に 基 づ き 取 り
組みが進められている。総じて資本市場は
大企業に有利であり、中小企業においては
内部留保、銀行融資が新規投資のための資
金調達の太宗を占めるであろう。しかしな
がら、金融セクターの深化により様々な資
金調達手段が選択できるようになることは、
金融仲介機能を高めるものであり、企業の
投資意欲、投資計画の実現に不可欠なもの
であることから、今後も銀行部門、資本市
場ともに十分発展していくことが望まれる。
結びにかえて
最後に今後のタイ経済をみる上でのポイ
ントをまとめておきたい。2006年に入りタ
イ経済において消費と投資の勢いは低下し
ており、成長の輸出に対する依存度が拡大
している。主要貿易相手国である米国をは
じめとする先進国の成長が鈍化する際には、
IT 関連輸出の後退等を通じてタイ経済に与
える影響は大きい。また、今後の輸出が伸
び悩むリスクに備え、国内需要の堅調な伸
びに期待したいところであるが、2006年初
からの政治的混乱、9月のクーデターの発生
によりメガ・プロジェクト等の公共投資の
実施が大幅に遅れており、民間投資にも減
速傾向が見込まれることは懸念材料と言え
る。また、インフレ抑制のために政策金利
図表 16 国内債券発行残高の推移
㪈㪇ం䊋䊷䉿
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㪌㪇㪇
㪇
␠ௌ
出所)CEIC
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*18 うち、T-Bill が0.2兆バーツ、国債が1.36兆バーツであり、国債の期間構造は2000年末に短期(1年)が全体の15%、中期(1- 5年)
が同48%、長期(5年以上)が同37%から、2005年末にはそれぞれ4%、34%、62%と長期化している。また、保有者は中
銀が国債全体の8%、銀行が同22%、保険が同19%となっている。
*19 ABMI は2002年12月より ASEAN +3(日中韓)の間の金融協力として進められている取り組みであり、主な課題は、多様な
通貨・期間の債券をできる限り大量に発行し、市場に厚みを持たせるとともに、保証や格付機関、決裁システム等の環境整
備を行うことで、債券発行主体・投資家双方にとって使いやすく、流動性の高い債券市場を育成することとなっている。
128 開発金融研究所報
の引き上げが行われているが、8月以降油価
にやや落ち着きがみられることから、イン
フレ圧力も弱まり更なる金融引き締めが回
避されれば、個人消費の回復が早まる可能
性もある。いずれにしても、政治的安定性
が早期に回復することが、景気回復や持続
的成長に不可欠であり、今後の状況を見守っ
ていく必要がある。
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Economic Monitor April 2006”
2006年11月 第32号 129
CAMBODIA IN THE WAY TO RECOVERY. THE CHALLENGES AHEAD
国際審査部参事役 ヨランダ
フェルナンデス ロメン* 要 旨
近年のカンボジア経済は、政治的な安定性が確保されるなか、全ての産業において力強い成長を達
成している。特に、繊維・衣料を中心とする輸出については、中国との競合が当初予想されたほど激
化せず、引き続き好調な伸びを維持している。対内直接投資についても、外国資本による繊維・衣料
工場の新設が約 50 件に達するなど、比較的順調に伸びている。また、インフレの低下や財政赤字の
削減を実現しており、マクロ経済上も一定の成功を収めていると言えよう。
しかし一方、経済基盤が小さく、輸出の多様化も十分ではないため、対外ショックに脆弱であると
いう制約条件も抱えている。加えて、金融セクターの未発達、インフラの未整備というボトルネック、
若年層の教育水準の低さを背景とする生産性・競争力上の問題といった困難な課題も残されている。
更に、同国の広範な貧困、行政の非効率性や腐敗の蔓延といった問題が、経済発展上の深刻な障害
となっている。生活水準をみると、近年の安定的な成長は一定の貧困削減につながり、貧困ライン以
下の人口は 1995 年の 47%から 35%に低下した。 しかしながら、経済成長によりもたらされた利益
は均等に配分されているとは言えず、同国は依然としてアジア地域において最も所得分配の不平等な
国の一つに数えられる。
Ⅰ. INTRODUCTION
Ranking among the poorest economies in the
world Cambodia struggles to overcome his
tragic past and decades of armed conflicts that
deprived the country from adequate human
capital, a proper infrastructure network, and
the basic settings for the development of a
modern economy. Granted full support from
the donor community the country initiated its
first steps towards economic reconstruction
after the approval of the 1993 Constitution
that followed the Paris Peace Agreement in
1991. Difficult years have been rewarded at
present by the long awaited rationalization
of the political course, economic growth and
moderate poverty alleviation.
In July 2003 Cambodia hold the thir d
democratic elections. In the absence of a
majority winner the main political par ties
struggled to form coalitions. One year later,
in July 2004, a two-party coalition comprising
the Cambodian People’s Par ty (CPP), and
the National United Front for an Independent
Neutral Peaceful and Cooperative Cambodia
(FUNCINPEC) was voted into of fice.
The CPP stands as the dominant par tner
under Prime Minister Hun Sen’s strong
leadership with 76 seats against the 26 from
the FUNCINPEC. It is notewor thy that
the lengthy negotiations unfolded without
recourse to violence in contrast to previous
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
* Yolanda Fernández Lommen, Senior Economist, Advisor, Country Economic Analysis Department, JBIC. The paper contains
the author’s personal opinions and does not represent any official position of the Country Economic Analysis Department of the
Japan Bank for International Cooperation. The author wants to thank the valuable comments by Y. Yokoyama, S. Ishikawa and the
contribution of N. Morimura. Any inconsistency of mistake in the article is, however, the author’s solely responsibility.
130 開発金融研究所報
election processes. On 2 March 2006, the
National Assembly amended the Constitution
to reduce the number of seats required
to form a government from two thirds to
absolute majority. The measure will help
avoiding lengthy post-elections political
deadlocks.
Against this background of political stability
the economy outperformed all expectations
and achieved vigorous growth in all sectors.
Trade, dominated by apparel, benefited from
less Chinese competition than expected,
and Foreign Direct Investment (FDI) flows
led to the set up of 50 new garment plants.
Moderated inflation and a dramatic reduction
in the fiscal deficit rounded a very successful
year for the Cambodian economy. The good
economic momentum provided an excellent
environment for the launching of the new
gover nment development plan in May
2006. Presented to the donor community
the strategy was well accepted, and the
government praised for its ownership of the
document.
In spite of the strong economic growth
and good prospects for the medium-term
the economy remains constrained by its
narrow base, lack of export diversification
and high vulnerability to external shocks.
Aside from that, hindrances exist in the
financial sector particularly with regards to
access to financial resources and the use of
collateral, infrastructure bottlenecks, and
widespread pover ty among a ver y young
but poorly educated population hampering
the productivity and competitiveness of the
economy.
The paper is divided in three sections. The
first part reviews the recent economic trends
in Cambodia, and the second focuses on
macroeconomic policy developments and
the major structural issues constraining the
economy. Lastly, the economic and policy
outlook draws some insights on the county’s
future development.
Ⅱ. RECENT ECONOMIC
TRENDS
Strong economic dynamism in 2005 led
to higher than expected growth rates,
outper for ming all pessimistic forecast
anticipating a production collapse after the
phase-out of the Multi-Fiber Agreement
(MFA). Steady growth in recent years has
contributed to alleviate poverty and according
to the World Bank Poverty Assessment 2006,
since 1995 the population below the national
pover ty line has fallen from 47% to 35%.
Unfor tunately the benefits of growth have
been unevenly distributed and, for the same
period, the Gini coef ficient has worsened
from 0.35 to 0.42, making Cambodia one of
the more unequal countries in the region.
1. GDP Growth and the Real Economy *1
In 2005 GDP grew 11.7% from 7.7% in 2004,
boosted by the good performance of the real
economy, underpinned by further financial
intermediation, growing confidence in the
banking system, and a contained fiscal policy.
Strong growth lifted per capita income up to
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*1 Data for the analysis were collected from government sources during a field visit to Cambodia in March 2006.
2006年11月 第32号 131
US$402.7.
Favorable weather conditions lifted
agriculture output to 17.3% from negative
growth in 2004. The sector —still contributing
to on third of GDP and 70% of the total labor
force— rebounded from the devastating
ef fects of the 2004 draught, and yields
flourished in the second and third quarters.
Improvements in the ir rigation system,
but mostly abundant rainfall, led to a 28.6%
growth in crops resulting from an outstanding
paddy rice harvest, which accounts for 40% of
the total sector output. Fishery and livestock
grew 7.4% and 6.4% respectively, and forestry
3.6%.
Industr y rose by 13.4% driven by growth in
garments and constr uction. The garment
sector’s production surpassed all expectations
thanks to the temporary safeguards imposed
to China by the United States (US) and the
European Union (EU). While 20 factories
closed down in the first quarter leading to a
10% decline in the production level, the sector
resuscitated in the second half of 2005 and
the production volume increased 25% by yearend. The rise in production value was lower
due to the 10% decline in international prices
steaming from higher Chinese competition
in the post-quota environment. In terms
of af fected factories, the set up of 50 new
garment plants, all foreign owned —namely
from Taiwan, Hong Kong and China—,
resulted in a higher number of operating
garment factories. Construction grew 13%
driven by public spending for infrastructure,
and by private sector investments in
residential and tourism-related projects.
132 開発金融研究所報
The ser vice sector activity reached 6.3%
down from 9.2% in 2004 owing to the lesser
contribution of hotels and restaurants —that
are leveling off after the post-SARS rebound
in 2004—, transpor t and communications,
and other ser vices. The tourism sub-sector
per formed well in 2005 and generated an
estimated income of US$700 million. More
than 1.4 million tourists visited Cambodia
in 2005 recording a 34.7% increase, with
South Korea, Japan, and the US standing as
the major sources or visitors. To enhance
the potential of the tourism sector, which
contributes to 12% of GDP, the government is
pursuing an expansionary strategy based on
diversification. Tourism has been traditionally
centered in Seam Reap, but other options
in the countr y are now being developed
including eco-tourism in the nor theast
mountainous region.
Figure 1 GDP Growth
(%)
2002-2006e
12
10
8
6
4
2
0
2002
2003
2004
2005
2006e
Source: Cambodian authorities, CEAD staff estimates.
2. Fiscal Policy and Budget
On fiscal developments, a better management
of the public finances and increased tax
payments contributed to improve revenue
collection to 11.5% of GDP from 10.8% the year
before. Although still insufficient, and several
percentage points below the regional average,
the positive trend is welcomed. The major
factor behind the low revenue collection,
aside from capacity constraints, resides in the
large size of the informal sector in Cambodia.
With an estimated contribution of 40% of GDP,
there is no incentive for the informal sector
to register given the high cost of corruption.
Thus, around 90% of the businesses remain
informal.
The fiscal deficit improved from 4.3% in 2004
to 1.5% in 2005 driven by higher revenue
collection and lower capital expenditure. The
latter results from a decline in foreign funded
projects that was triggered by uncertainties
linked to the long political deadlock in 2003
and 2004. There are numerous initiatives
for tax reform scheduled for 2006 covering
diverse issues, both at the policy and
administration levels, but progress and
implementation is slow. Issues remain with
regards to non-tax revenue collection, which
declined in 2005 mainly due to the elimination
of the quota auction after the phase-out of
MFA. Ef for ts are on the way to improve
collection in the telecommunication and
civil aviation sectors, which still account for
large arrears. The 2006 budget guarantees
the continuation of the current fiscal policy
moderation.
Figure 2 Fiscal Balance(% GDP), 2002-2006e
0.5
0
-0.5
-1
-1.5
-2
-2.5
-3
-3.5
-4
-4.5
-5
2002
2003
2004
2005
Source: Cambodian authorities, CEAD staff estimates.
2006e
3. Monetar y Policy Developments
In a highly dollarized economy like Cambodia
there is limited room for maneuver in terms
of monetar y policy. Money supply (M2)
expanded 16.1% driven by growing foreign
currency deposits. Confidence has improved
in the banking sector as shown by a 21.3%
increase in private lending to satisfy the
demand from the construction and tourism
sectors, and a 16% surge in deposits. There
are no major concerns on non-per forming
loans (NPLs), which declined to 8% of total
loans outstanding reflecting, however, a
decrease in relative terms only given the
fast lending rates. Interest rates for deposits
increased slightly to 3.9% but the spread
remains large due to the high lending interest
rates (11-18%). Gross official reser ves rose
a modest 1% but declined in terms of import
coverage from 3.7 to 3.2 months owing
to the impact of the higher oil prices on
the impor t bill. The Cambodian riel (CR)
depreciated only marginally vis-à-vis the US
dollar and stood at CR4,092 per US dollar.
The dollarization of the economy will persist
in the long run but the government hopes
to bring it down progressively along further
improvements in public confidence on the
national currency.
On inflationary trends, a 5.6% CPI (from 3.8%
in 2004) reflects more the increase in food
prices than the direct impact of expensive
oil. Food has a high weight in the consumer
basket in Cambodia; 42% in the Phnom Penh
CPI, 62% in the urban CPI, and 70% in the
rural CPI, the first being the most commonly
used for statistical purposes. Food products
became more expensive because of the
indirect impact of oil prices on transportation
costs, hikes in intermediate inputs’ prices like
fertilizers, and high water pumping needs.
The latter, which is fuel driven, required extra
use in early 2005 to combat the effects reeling
from of the 2004 severe drought.
2006年11月 第32号 133
4. External Sector
Trade was led by the good per formance
of garment’s expor ts, which registered an
11.8% increase up to US$2.2 billion exceeding
all expectations. However, foreign sales
slowed down as compared to previous years
owing to the poor results achieved until the
imposition of the safeguards to China in the
fourth quarter. The main destination market
for apparel was again the US (around 80% of
total exports), and its purchases grew over
22% in 2005. On the contrary, exports to the
EU declined (-16%) in spite of Cambodia’
s eligibility to the All but Arms Initiative,
because orders are being shifted to Vietnam
on grounds of lack of compliance with the
rule of origin and the high cost of corruption
in Cambodia. Footwear exports plummeted
(-30.5%) due to fierce competition from
Vietnam and China. However, the recently
implemented anti-dumping regulation by the
EU against those two countries might benefit
the Cambodian footwear industry.
Figure 3 Main Destination of Export, 2005
Canada
5%
Viet nam
UK
5%
8%
Ger m any
14%
US
68%
Source: Cambodian authorities, CEAD staff estimates.
to quotas but paddy rice would be quota
free. According to the Vietnamese statistics,
bilateral trade amounted to US$700 million in
2005 and it is expected to reach US$1 billion
in 2006. China has announced intentions
to increase bilateral trade from the current
US$500million to US$2 billion by 2010.
Export growth (8.9%) was of fset by an oildriven higher cost of imports (15.2%), and
the wider trade deficit (-17.7%) led to a slight
deterioration of the current account (from
-9.2% deficit in 2004 to -9.7%, excluding official
transfers). However, large inflows into the
capital and financial accounts resulted in an
overall balance of payments surplus (US$5
million).
FDI flows almost tripled in 2005 up to US$449
million boosted by the set up of the new
garment factories and a Thai cement plant.
Prospects for 2006 are promising in terms
of registered projects; the government is
concluding an agreement with China for
the construction of a hydropower project,
and South Korea is planning a US$2 billion
investment in the outskirt of Phnom Penh
to constr uct a satellite city comprising
residential, tourism and enter tainment
components. Growing investments in agrobusiness, a sector with large potential, are
also expected.
Regional trade is gaining importance in recent
times. In March 2006 Cambodia and Vietnam
agreed to eliminate tarif fs and establish
special economic zones at the common
border. Hence, Vietnamese tariffs and quotas
on 40 agricultural products including pepper,
cashew, banana, rubber and sugar cane, will
be removed. Milled rice will still be subject
Total external debt is estimated at 57.6% of
GDP, of which nearly two thirds is owed to
the Russian Federation and the United States
and is under negotiation and, thus, exempted
from service. That is the explanatory factor
behind Cambodia’s negligible debt ser vice
(0.9% of expor ts). In contrast, the ratio of
foreign debt to government revenue stands
134 開発金融研究所報
Figure 4 Main Source of Imports, 2005
Singapore
15%
Thailand
31%
Vietnam
15%
China
19%
Hong Kong
20%
National Strategic Development Plan (NSDP)
in early 2006. The strategy enjoys donors’
support who pledged over US$600 million to
aid projects over the coming year. Despite
recent macroeconomic consolidation, the
economy, fragile and narrowly based, faces
diverse structural constraints ranging from
widespread corruption to limited access to
financial services, and low competitiveness in
key sectors.
Source: Cambodian authorities, CEAD staff estimates.
1. The Government Development Plan
at 600% placing Cambodia in the category of
debt-stressed countries. Domestic public debt
is denominated in local currency and amounts
to 0.3% of GDP posing no threat.
In sum, while Cambodia’s debt is sustainable
the risk of debt distress is still high due to
the fragility of the revenue base. However,
vulnerability indicators are projected to
improve dramatically after the resolution
of the US and Russian debts, and the debt
burden is expected to continue improving
modestly after the rescheduling. The two
top country’s vulnerabilities are seen in the
weak government revenue collection, and
the negative impact of high competition in
the garment’s market after 2009. A slight
deterioration in the reserve’s import cover is
expected reeling from less favorable terms of
trade in the medium-to-long term. However,
debt rescheduling will clearly reduce its
burden and reserves would still exceed 100%
of gross financing requirements.
Ⅲ. MACROECONOMIC POLICY AND
STRUCTURAL CONSTRAINTS
The international community’s confidence
in the government’s policy making agenda
was boosted with the launching of the
The gover nment presented the National
Strategic Development Plan 2006-2010 during
the Donor’s Consultative Group Meeting held
in Phnom Penh in March 2006. The NSDP is
a broad framework providing the road map
for poverty reduction and other Millennium
Development Goals (MDGs) achievements.
It embodies the main guidelines for policy
making for the next years and covers 43 major
goals cross-cutting along diverse sectors,
i.e. poverty reduction, enhanced agricultural
productivity, improved health and education
facilities and ser vices, rural development,
environmental sustainability, gender equity,
infrastr ucture and energy development,
sustained macroeconomic growth, improved
gover nance, etc. A US$1.9 billion Public
Investment Program (PIP) for 2006-2008 has
been prepared to support the implementation
of the NDSP. Solid government ownership
leads to the perception that this time the
plan has better chances to be successfully
implemented.
Another milestone in the gover nment
r efor m agenda is the Public Financial
Management Reform Program. Launched in
2004, its implementation is divided into four
major stages in order to strengthen public
financial management while developing
2006年11月 第32号 135
Figure 5 Selected Indicators: Projections 2006-2010
2006Proj.
2007Proj.
2008Proj.
2009Proj.
2010Proj
Real GDP Growth (%)
5.9
6.0
6.0
5.7
5.6
CPI Inflation (%)
5.5
5.0
4.5
4.0
3.5
Fiscal Balance (%GDP)
-1.8
-2.6
-2.7
-2.9
-2.8
External Debt (%GDP)
36.5
38.0
37.6
37.1
36.7
Exports Growth (%)
13.6
13.3
13.5
7.4
7.0
Imports Growth (%)
14.5
14.0
14.3
7.0
6.5
International Reserves ($m)
1,100
1,183
1,281
1,409
1,521
2.9
2.8
2.7
2.7
2.7
In months of imports
Source: Cambodian authorities, CEAD staff estimates.
capacity for the government officials at all
levels. After a slow start due to the political
deadlock that followed the last elections,
the program is moving ahead and progress
has been achieved in terms of better cash
management, incr easing r evenue, and
procurement and financial decentralization to
line agencies and ministries. The cumulative
impact of all the ongoing measur es is
expected to show its benefits soon. The civil
service reform is at an embryonic stage and
so far only the merit-base salar y program
has been implemented. Under the program
300 targeted top performing officials at the
Ministr y of Economy and Finance already
perceive a US$250 salar y against a US$38
average. The Ministry of Health is the next
candidate for the pilot program. In addition,
across the board salary increases are being
implemented since last year and are meant to
be continued in the years ahead at a pace of a
15% annual increase
2. The Financial Sector
The sector’s per formance has improved
in the last two years. Financial deepening
is still low with loans and deposits at 10.3%
and 17.3% of GDP respectively, but has
progressed reflecting the financial stability
and wider offer of financial ser vices. Broad
136 開発金融研究所報
money supply (M2) to GDP has risen to 22.1%
which is a welcomed structural improvement,
and credit to the private sector expanded
from 6.5% of GDP in 2000 to 10% in 2005.
In the banking system, after 16 banks were
closed through the re-licensing program and
the remaining banks required to strengthen
their capital position, there are currently
15 commercial banks and only two remain
state-owned, the Rural Development Bank
and the Foreign Trade Bank. Banks are
well capitalized and relatively liquid with
an average capital adequacy ratio to risk
weighted assets of 22.4% and a loan to deposit
ratio of 60%. Only foreign participated banks
offer modern banking facilities.
Non-bank financial services like insurances,
pension funds, and leasing are only at the
early stages of development. Rural finance is
poorly developed but there is a large informal
credit market providing an impor tant but
expensive sour ce of funding for small
businesses and farmers. The Prime Minister
has declared 2006 the year of microfinance
and progress is expected given the growing
number of licensed microfinance entities.
There are no plans to develop a stock market
in the immediate future, but some timid
initiatives at the level of working groups and
commissions are on the way to establish a
basic capital market in ten years time.
3. Cambodia’s Competitiveness:
The Cost of Corruption
Cambodia’s fragile competitiveness, a problem
closely linked to deeply rooted corruption,
stands as a clear str uctural obstacle in
the countr y’s development *2. The World
Economic Forum ranked Cambodia 112/117
in terms of the Growth Competitiveness
Index, and 109/116 as per the Business
Competitiveness Index *3. The constraint is
particularly worrying in the garments sector,
the country’s major source of growth.
According to a study conducted by the
Economic Institute of Cambodia (Cambodia
Competitiveness report 2005-2006, September
2005), the countr y’s macroeconomic
environment is hampered by low government
revenue collection, high lending-borrowing
interest rate spread, difficult access to credit,
and misuse of government spending. The
judiciary is perceived hardly independent and
the legal framework does not enable business
dispute resolutions. Consistent with the
findings of the World Bank reports (Seizing
the Global Opportunity: Investment Climate
Assessment and Reform Strategy, 2004, and
Doing Business in Cambodia 2006) the study
acknowledges that corruption is the leading
constraint for doing business in Cambodia,
and that bribery to access public services is
common and widespread.
The study shows that Cambodia’s
competitiveness lags far behind Vietnam,
Thailand, China and Indonesia, but is
comparable to Bangladesh. The country ’s
relative weaknesses in terms of the
macroeconomic environment are well known,
but the uncer tain ability of the countr y to
meet its debt obligation is another concern
reflecting the lowest countr y credit rating
in the region. In addition, the perceived
quality of Cambodian public institutions
is among the worst in the world and only
comparable to Bangladesh. The quality of the
business environment ranks below Thailand,
Indonesia, China, Vietnam and Bangladesh.
Accor ding to the business community
corruption is the most problematic factor
for doing business in Cambodia, followed
by an inefficient government bureaucracy,
unskilled labor force, poor infrastructure high
transportation and utilities’ cost, and difficult
access to financing.
Poor competitiveness is a serious concern in
the garment sector. Over 250,000 Cambodians
are employed in the garment industry, mainly
women from rural areas whose remittances
help supporting around 20% of the population.
Garment expor ts increased from US$26
million in 1995 to US$2.2 billion in 2005 with
apparel accounting for 80% of foreign sales.
Foreign ownership and par ticipation lays
behind the dynamism of the sector, and most
factories are foreign owned, mainly from
China, Hong Kong, Taiwan and Korea.
Cambodia holds a good reputation in terms
of labor regulations compliance but after
the phasing-out of the MFA good labor
standards can not compensate for a lack of
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*2 Corruption is rampant at all levels and Cambodia ranks 130/158 in the Corruption Perception Index (Transparency International).
*3 The GCI measures competitiveness based on the quality of the country’s macroeconomic environment, public institutions and
technological stance, while the BCI, developed by Professor Porter, focuses on the quality of the business environment.
2006年11月 第32号 137
Figure 6 Growth Competitiveness Index (GCI) and Business Competitiveness Index (BCI), 2005
(selected countries)
GCI
BCI
Rank
Score
Thailand
26
4.94
37
Indonesia
33
4.61
59
China
60
3.96
57
Vietnam
64
3.89
80
Bangladesh
83
3.43
100
Cambod ia
104
3.04
109
Source: EIC, Cambodia Competitiveness Report, September 2005.
competitiveness. According to a USAID study *4
addressing the costs of administrative red
tape and corruption, estimated to be 7% of
total sales value, is one of the keys in rising
Cambodian competitiveness. The study
suggests that Cambodia’s apparel factories
have potential for increased productivity,
provided basic production techniques,
training, and managerial skills are introduced
to the production process. USAID estimates
that improvements in productivity of 15-20%
can be achieved allowing Cambodia to
produce higher-quality and higher-value
garments. When analyzing the threat posed
by the unbeatable Chinese competitiveness
it is noteworthy to mention that Cambodia
enjoys some comparative advantages;
while inner China of fers ver y competitive
advantages in terms of labor costs, distance
to markets and ports make Cambodia more
appealing to foreign investors.
Ⅳ. ECONOMIC AND POLICY
OUTLOOK
Judging from all key macroeconomic
indicators 2005 was an exceptional year for
the Cambodian economy. Although further
macroeconomic consolidation is expected
and overall prospects are good, the observed
high rates of growth would not be sustained
across time. Thus, an average 6% growth is
expected in the next years with inflationary
pressures curbed down around 4% as oil
prices stabilize. A pr udent fiscal policy,
additional efforts in revenue collection, and
the first results of the implementation of
the public financial management program
will secure further fiscal consolidation and
an average fiscal deficit around 4%. On the
sources of growth, the garment sector will
continue to grow under the protection of the
safeguards imposed to China until late 2008,
and then is expected to slow down. Tourism
will continue expanding based on Cambodia’s
reputation as a popular and safe destination.
The construction boom will moderate and
return to a slower path in the long run when
demand saturates. Recent investments in
food processing and agro-business will help
agriculture productivity but production will
remain subject to weather inclemency as
shown by historical records.
The gover nment is fast tracking the
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
*4 Measuring Competitiveness and Labor Productivity in Cambodia’s Garment Industry, USAID, June 2005.
138 開発金融研究所報
implementation of trade facilitation measures,
like, for instance, the establishment of the
Single Window and the Single Administrative
Document at custom’s units, as well as
streamlining the security scanning process,
that are expected to reduce bureaucratic
bottlenecks and foster trade flows. Being
the US the largest destination market for
Cambodian exports, trade will also greatly
benefit from a positive resolution of the
negotiations with the US on the Trade Act
2005 (additional preferential treatment for
textiles and garments). Talks were halted by
domestic political developments in 2005 but
negotiations are meant to resume.
Only unforeseen external shocks might pose a
threat to the mid-to-long-term outlook, the avian
flue being the most worrying one, not only for
its impact on the poultry industry and poverty
levels, but mainly for its pernicious side-effect
on tourism. The expiry of the temporary textile
and garments’ safeguards imposed to China
will hit garment’s production and export levels
from 2009 onwards if determined measures
to increase competitiveness are not promptly
taken.
On the policy side, the government appears
strongly committed to economic reform as
evidenced by its anticipated compliance to
the IMF program conditionality ahead of its
formal approval. However, in terms of policymaking, there is still room for improvement
in the NSDP, particularly regarding the plan’s
policy prioritization and costing into the
budget. On the public finance management
reform process there is a clear need to develop
a Medium Term Expenditure Framework
(MTEF) to reflect in the budget the cost of
the pursued reforms and the PIP.
On structural constraints, even though the
financial sector is playing an increasingly
role in the emerging market economy and
confidence in the banking sector is growing
it remains a hindrance for private sector
development. The banking sector provides a
wider range of services but its cost is high,
and access to financial ser vices limited to
preferential clients. Thus, SMEs and small
business must rely on informal but highly
expensive money-lenders. In this context,
land refor m is vital to facilitate access
to credit. Land titling and registration is
lagging behind schedule, blocking its use as
collateral. Actions and policies to curb down
corruption and to increase competitiveness
in the countr y must be expedited in order
for Cambodia to increase its competitiveness
before the expiration of the safeguards that
are containing China’s huge potential.
Cambodia faces a good opportunity in 2006
to accelerate reforms given the consolidated
macr oeconomic and political stability.
Political will is then a key for success,
and must be reflected in a tougher line on
cor r uption and committed fiscal reform.
However, misgivings about the pace and
depth in the implementation of the ongoing
reforms lead to a moderately optimistic
scenario given Cambodia’s past records.
Failure to take timely necessary actions will
remove Cambodia from the right track to
development in light of the coming political
events —elections to the council in 2007 and
general elections in 2008—that will divert the
government attention from economic reforms
to politics.
References
Economic Institute of Cambodia (EIC),
“Cambodia Competitiveness Repor t
2005-2006”, September 2005, EIC, Phnom
Penh.
2006年11月 第32号 139
Economist Intelligence Unit (2005-2006),
Country Profile and Country Reports, EIU,
London.
Inter national Monetar y Fund (2006),
“Cambodia. Rebuilding for a Challenging
Future”, IMF, Washington D. C.
International Monetar y Fund (2006), “2006
Article IV Consultation”, IMF, July 2006,
Washington D.C.
Ministr y of Economy and Finance (2004),
“Public Financial Management Reform
Program. Strengthening Gover nance
Thr ough Enhanced Public Financial
Management”, Phnom Penh.
Royal Gover nment of Cambodia (2006),
“Enhancing Development Cooperation
Ef fectiveness to Implement the National
Strategic Development Plan”, Phnom Penh.
USAID (2005), “Measuring Competitiveness
and Labor Productivity in Cambodia’s
Garment Industry”, June 2005.
World Bank (2004), “Sizing the Global
Oppor tunity: Investment Climate
Assessment and Reform Strategy”, WB,
Washington D.C.
World Bank (2006), “Doing Business in
Cambodia”, WB, Washington D.C.
World Bank (2006), “Cambodia: World
Bank Pover ty Assessment 2006”, WB,
Washington D.C.
140 開発金融研究所報
JBICI 便り
開発金融研究所総務課
1.刊行物のご案内(敬称省略)
・JBICI Research Paper No.30「雇用機会創出による Pro-Poor Growth:タイとケニアの農産
品加工業発展の比較」
貧困削減にとって経済成長が重要であることは、多くの開発援助にかかわる実務者・研究者に
認識されており、貧困削減に資する経済成長は Pro-Poor Growth と呼ばれています。
当研究所では、2002 年度に実施した基礎調査※ の考え方を背景に、経済成長に伴い貧困層が
雇用機会を得、実質賃金を上昇させることで自律的に所得貧困から脱出する状況を Pro-Poor
Growth として捉え、アジアとアフリカから調査対象国を選定し、経済成長により雇用を通じど
のように貧困削減が実現されたのか、マクロ面、ミクロ面、制度面から実証的に分析を行いました。
分析結果から、開発途上国の政府が産業振興を通じた Pro-Poor Growth を目指す場合、今後
発展が見込まれる産業を選定し、育成することが重要であること、また、労働市場を柔軟なもの
にし、多くの人々が労働市場に参加できるよう雇用制度の改善を図る必要があるということが示
唆されました。
なお、本報告書の概要は開発金融研究所報第 29 号(2006 年 5 月)に掲載されています。
(※)詳細は「アジアにおける Pro-Poor Growth とアフリカ開発への含意」
(開発金融研究所報
第 17 号(2003 年 9 月)
)を参照。
URL: http://www.jbic.go.jp/japanese/research/report/paper/pdf/rp30_j.pdf
2.セミナー・ワークショップ等開催報告
(1) 慶応義塾大学「開発法学ワークショップ・プログラム」
2006 年 10 月 18 日に本研究所の武藤めぐみ主任研究員が慶応義塾大学大学院に講師として招
かれ、「開発法学ワークショップ・プログラム」において講義を行いました。講義では、途上国
支援におけるフォーマルルールとインフォーマルルールの関係をテーマとしました。インフォー
マルルールの影響力が大きい農村開発の事例として、先般、武藤主任研究員が京都大学藤田昌久
教授と共同執筆した日本経済新聞「経済教室」で論じた「ブランド農業」
、フォーマルルールの
影響力が強い都市インフラの事例として、マニラの水道事業の民営化を採り上げました。
(2) 世銀調査局との連携調査
2006 年 10 月 31 日、世界銀行東京事務所において、来日した世界銀行調査局メンバーとの意
見交換セミナーが開催されました。主に、2008 年度の世界開発報告書のテーマとされる「農業
と開発」について、本研究所の田辺所長、武藤主任研究員をはじめ関連省庁や研究機関の関係者、
学識経験者等が参加し、活発な議論が行われました。
2006年11月 第32号 141
(3) JBIC セミナー(The Eighth JBIC Seminar for International Finance)
2006 年 11 月 7 日(火)から 17 日(金)にかけて、本行の国際金融等業務に関係の深い、又
は今後関係が深まると見込まれる国の政府・政府関係者、地域機関、金融機関等の中堅幹部 19
名を招聘し、上記セミナーを開催しております。本セミナーは、旧日本輸出入銀行時代の 1976
年度より開催しているものであり、本行の役割・業務内容及び我が国の経済、金融、産業等に対
する理解の促進、並びに研修生同士の相互理解・交流の深化を目的としています。
本年度のセミナー内容は、(1) 本行の役割・融資業務等に関する本行職員による講義に加え、
政府関係機関等より講師を招聘して我が国の経済、金融、産業等に関する知識、(2) 日本の製造業、
エネルギー産業の状況を把握し、最新技術にふれるための三菱自動車工業株式会社及び新日本石
油開発株式会社の工場視察、(3) 研修生と関係各部との個別協議、(4) 個別テーマ(
「直接投資」
「官
民協力方式(PPP)
」
「資源・エネルギー開発」
「京都メカニズム」
)に関するセミナー生と本行職
員によるディスカッション、等としております。
3.お知らせ
(1)「第 4 回 JBIC 学生論文コンテスト」開催のご案内
本行は、大学生・大学院生等高等教育機関に在籍する方を対象にした論文コンテストを実施し
ます。論文コンテストを通じて、日本の対外経済政策・経済協力の分野に関心をもつ学生の研究
を奨励し、人材育成を図るものです。ご関心のある方は、本行ホームページの募集要項をご覧く
ださい。
募集締切:2007 年 2 月 28 日(水)
募集内容:本行の業務に関連する以下の 8 分野のいずれか(複数にまたがるものも可)における
課題につき、調査・分析を行った上で、諸施策を提言したもの。
(1)国際金融秩序の安定、
(2)貧困削減への支援、
(3)持続的成長に向けた基盤整備、
(4)
人材育成への支援、
(5)資源の安定的供給、
(6)国際貿易の活性化・地域経済連携
の推進、
(7)海外直接投資・国際競争力、
(8)地球規模問題・平和構築への支援
応募資格:2006 年 10 月 1 日時点で大学院(研究生や助手は除く)
・大学(短期大学を含む)又
は専修学校等の高等教育機関に在籍の方。グループの応募も可能です。
お問合せ先:開発金融研究所総務課「JBIC 論文コンテスト係」
(電話:03-5218-9720)
URL:http://www.jbic.go.jp/japanese/research/contest/index.php
(2) NHK 国際放送「インサイト&フォーサイト」出演
海外向けの情報発信を行う NHK 国際放送の番組「インサイト&フォーサイト」に本研究所の
武藤めぐみ主任研究員が出演予定です。途上国におけるブランド農業戦略をテーマに、日本の一
村一品運動や道の駅という経験を途上国での農村開発にどう応用できるか、タイの産業村の事例
に基づいて解説する内容となっています。
(3) CAW(Country Analytic Work)のご案内
本行は、これまで行った世界各国・地域の開発に関連する調査・研究の情報を CAW に提供し
ています。
CAW とは、開発途上国とドナー及びドナー間で国・地域別の開発に係る知識を共有し、援助
の調和化を図ることにより、開発援助を効果的・効率的に実施することを目的として、世界銀行
142 開発金融研究所報
が立ち上げたウェブサイトです。現在、国際機関・二国間援助機関を中心に 43 機関が参加して
おり、これら機関の国・地域別調査・研究情報の入手が可能ですので、積極的にご活用下さい。
URL:http://www.countryanalyticwork.net/
(4)「メール配信サービス」へのご登録のご案内
本行は、本行ホームページよりメールアドレスをご登録いただいた方に無料で本行の新着情報
をお届けするメール配信サービスを行っています。お届けする新着情報は、7 つのカテゴリ(
「国
際協力銀行からのお知らせ」
「プレスリリース(和文)
、
」
「プレスリリース(英文)
、
」
「トピックス」、
、
「国際金融等業務 / 融資条件」
、
「調査研究情報」
、
「NGO-JBIC 協議会」
)の中からいくつでもお選
びいただけます。
『開発金融研究所報』などの本研究所刊行物に関するお知らせは、
上記のうち「調
査研究情報」からご案内しています。本サービスにご登録頂くと、
発刊と同時にご登録頂いたメー
ルアドレスに刊行物のタイトルと目次等の概要をご案内します。また、本研究所の刊行物に限ら
ず、「意見 BOX」では本行のその他の資料の送付希望も承っておりますので、ご活用下さい。
URL:http://www.jbic.go.jp/japanese/mail/mail.php (
「意見 BOX」
)
上記に関するお問い合わせは、以下までお願いします。なお、開発金融研究所総務課の e-mail
アドレスは 2006 年 8 月末をもちまして閉じさせて頂きました。今後は本行外部公開ホームペー
ジに掲載されている上記「意見 BOX」までご連絡下さい。
【開発金融研究所総務課】
Tel.: 03-5218-9720
Fax.: 03-5218-9846
Website: http://www.jbic.go.jp
2006年11月 第32号 143
開発金融研究所報索引
2006 年 11 月
第32号 2006年11月
<巻頭言>ミレニアム開発目標に寄せる夢
<ABCDE会合>
・報告(1)世界銀行 開発経済に関する年次会合
・報告(2)慢性的貧困および一時的貧困の削減におけるインフラの役割:国際協力銀行のスリ
ランカ灌漑支援事業のケース
・報告(3)ネリカ米の貧困削減への効果:ウガンダの事例
・貧困削減におけるインフラの役割−スリランカ・パキスタンにおけるJBIC灌漑事業のインパ
クト評価−
・30年後の途上国経済:被援助国人口の増加に歯止めはかかるか?
・国際協力銀行・インドネシア大学経済社会研究所共催「グローバリゼーション及び地域統合時
代のインドネシアの産業競争力」に関する公開セミナー概要報告
・アルゼンチン共和国:財政連邦制と地方財政
・タイ:貯蓄・投資バランスから見た更なる成長の可能性
・CAMBODIA IN THE WAY TO RECOVERY. THE CHALLENGES AHEAD
・JBICI便り
第31号 2006年9月
<巻頭言>海外生産の基盤・・・物づくり現場力の危機
・北欧援助政策の変容−資金配分の視点からみた多様化−
・タイ、マレーシアにおける主要企業の属性別分布と資金調達構造、
日系・外資系企業の位置づけ
・中国:過剰流動性によるマクロ経済上の諸問題にかかる考察
・ブラジル連邦共和国:レアル・プラン以降の経済安定化政策の評価と課題
・JBICI便り 第30号 2006年 8 月
<巻頭言>景気は良いのか?
・<解説>2005年わが国の対外直接投資動向(国際収支統計ベース)
・東南アジア5カ国における主要銀行の経営構造:DEAとクラスター分析による国際比較
・通貨危機のモデルおよびIMF支援のインプリケーション
・第3回JBIC学生論文コンテスト審査結果
・第3回JBIC学生論文コンテスト最優秀賞受賞論文:インドネシアへの外領教育支援のあり方
・JBICI便り
第29号 2006年 5 月
<巻頭言>歴史は繰り返せるであろうか!?―アフロ・ペシミズムについて―
・開発における政策の一貫性:東アジアに関する事例研究の試み
・雇用機会創出によるPro-Poor Growth:タイとケニアの農産品加工業発展の比較
・主要な開発援助機関・国の動向:平和構築支援への取り組み
144 開発金融研究所報
・東アジア諸国における地域格差と国土政策
・JBICI便り
第28号 2006年 2 月
<巻頭言>グローバリゼーション考
<特集:海外直接投資>
・わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告
-2005年度 海外直接投資アンケート調査結果(第17回)-
・国際資本移動の変貌とアジア(続)
・IMFとアルゼンチン:1991年-2001年
・IMFレポートへのアルゼンチンのコメントについて
・アフリカ開発、G8サミット以降
・ロシア連邦:体制移行の現状と今後の課題
・JBICI便り
第27号 2005年11月
<巻頭言>メコン地域開発―東西経済回廊の現場から
・開発途上国のインフラと投資環境
・国際協力銀行・インドネシア大学共同調査「ロジスティックスの観点から見たインドネシア産
業の輸出競争力」
・国際資本移動の変貌とアジア(上)―グローバル・インバランスの中のアジア―
・カナダの新開発協力政策『誇りを持って世界に与える影響力』より
・メキシコ合衆国:政治・経済の現状と今後の展望
・JBICI便り
第26号 2005年 9 月
<巻頭言>グレンイーグルス・サミットが残した課題
・カラチ活性化シナリオ
・財政支援と援助効果向上-東アフリカの経験から-
・ロシア・ブラジル・インドのFDI
・ラテンアメリカにおける制度能力と直接投資
・<解説>2004年度わが国の対外直接投資動向(届出数字)
・アルゼンチン-経済危機とマクロ経済安定化への道のり-
・JBICI便り
第25号 2005年 7 月
<巻頭言>大阪万博から愛知万博へ-インドでの万博開催はいつの日か-
<特集:東アジアのインフラ整備>
・国際協力銀行・アジア開発銀行・世界銀行 共同調査「東アジアのインフラ整備に向けた
新たな枠組み」に係るバックグラウンドベーパー:序論
・インフラ利用者としての日系企業のインフラ・ニーズ
・貿易動向の変化がインフラ・ニーズに及ぼす影響
・地方分権:東アジア諸国のインフラ整備に対するインパクト
2006年11月 第32号 145
・東アジアにおける都市化とインフラの整備
・東アジアのインフラ整備における政策策定・調整の役割
<特集:インドネシア>
・アジア危機後の経済改革とインドネシア上場企業の資金調達構造
・インドネシアの銀行再建-銀行統合と効率性の分析-
・インドネシア国家開発計画システム法の制定とその意義について
・インドネシアの中期開発計画における公的債務の持続可能性
・開発途上国のガバナンスと経済成長
・FTAによる金融サービスと資本の自由化
・インフラ・プロジェクトを通じた感染症対策への取り組み
・JBICI便り
第24号 2005年 5 月
<巻頭言>杞憂に非ず
・国際協力銀行・アジア開発銀行・世界銀行 共同調査「東アジアのインフラ整備に向けた新たな
枠組み」
序論
国際潮流から見た本調査の位置づけと意義
調査報告書要旨
東京シンポジウム(兼、第4回JBICシンポジウム)結果報告
・開発における知識ネットワークと国際社会
・北欧諸国の援助:ベトナムの援助実施状況から
・第2回JBIC大学院生論文コンテスト 審査結果及び最優秀論文
・ベトナムのマクロ経済の現状と今後の課題
・JBICI便り
第23号 2005年 3 月
<巻頭言>ソフト・パワー、CSR、そして「武士道」
・持続可能な上下水道セクターに向けた民活の役割―中南米のケース―
・東アジアにおける成長のための為替制度は何か―地域公共財としての為替制度―
・中東欧・旧ソ連諸国の金融改革とEBRD
・中央アジア・シルクロード地域経済圏の市場経済移行プロセスの特色と課題―移行経済支援に
関する一つの視点として―
・インドネシアの銀行再編―課題と取り組み
・変貌を遂げるタイ経済―金融セクターの視点から
・米国の二国間開発援助政策
・注目されるインド―その位置づけ―
・JBICI便り
第22号 2005年 2 月
<巻頭言>香港の想い出 ―人民元と香港ドル―
・わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2004年度海外直接投資アンケート調査結
果(第16回)―
146 開発金融研究所報
・日本企業が直面する中国の競争環境
・中国家電産業の発展と日本企業―日中家電企業の国際分業の展開―
・中国元問題の検証―歪んだ資金流出入構造と脆弱な金融システムの課題―
・開発プロジェクトにおける銀行のモニタリング機能
・セミナー/ワークショップ報告
・
「開発援助と地域公共財に関する東京フォーラム」の概要報告
・第15回国際開発学会全国大会口頭報告セッション
・
「Global Development Network」概要報告
・JBICI便り
第21号 2004年11月
<巻頭言>石油:再び“単なる商品”から“戦略商品”の時代へ
・IMFと資本収支危機:インドネシア、韓国、ブラジル―IMF独立政策評価室による評価レポート
の概要―
資本取引自由化のsequencing―日本の経験と中国への示唆―
・経済成長と所得格差
・オランダ政府の開発援助政策
・
「アジアにおける灌漑農業に関する貧困削減戦略」ワークショップ概要報告
・国際協力銀行・インドネシア大学経済社会研究所共催 「インドネシアの貿易・投資政策に関
する公開セミナー概要報告」
・
「香港からみた中国経済―「軟着陸」の可能性と外資動向―」稲垣清氏講演会概要報告
・JBICI便り
第20号 2004年 8 月
<巻頭言>「任国を愛せ」と国益
・東アジアにおける都市化とインフラ整備
・アフガニスタン復興の現状と支援のあり方 ―アフガンイメージの見直し―
・対外政策としての開発援助
・借款か贈与か:どのように援助するか?
・<解説>2003年度わが国の対外直接投資動向(届出数字)
・第6回日本ラ米諸国経済交流シンポジウム
・
「日本と中南米諸国-グローバルパートナーシップ」の概要報告
・JBIC大学院生論文コンテスト―国際協力研究と実務の架け橋を目指して―
・最優秀論文及び経済協力プロジェクト現場視察報告
・JBICI便り
第19号 2004年 6 月
<巻頭言>国の入り口で
・仮想市場法(CVM)による上下水道サービスへの支払意志額の推計 ―ペルー共和国イキト
ス市におけるケース・スタディ―
・国際協力銀行・世界銀行・アジア開発銀行共同調査「東アジアのインフラ整備:その前進に向けて」
東京セミナー概要報告
・外国銀行の進出とタイ銀行業への影響:アンケート調査結果と経営指標の検討
2006年11月 第32号 147
・インドネシアの競争法の問題点
・英国援助政策の動向―1997年の援助改革を中心に―
・JBIC大学院生論文コンテスト~国際協力研究と実務の架け橋を目指して~審査結果(入賞論文の
要約及び審査講評)
・JBICI便り
第18号 2004年 2 月
<巻頭言>付加価値の創出とそのコンセプト化、そして対外発信
・わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2003年度 海外直接投資アンケート調査
結果(第15回)―
・マレーシアにおける日系/欧米系電機・電子メーカーの投資環境評価の調査・分析―「欧米系
企業のアジア進出状況とわが国企業の対応(フェーズⅢ)
」―
・投資フォーラム「ASEAN新メンバー国向け投資の拡大」
(JBIC・UNCTAD・ICC共催)の概
要報告
・金融グローバリゼーションが途上国の成長と不安定性に及ぼす影響―IMFスタッフによる実証
結果のサーベイ―
・JBICI便り
第17号 2003年 9 月
<巻頭言>開発と知的財産権
・2002年度わが国の対外直接投資動向(届出数字)
・援助協調(International Aid Coordination)の理論と実際―援助協調モデルとベトナム―
・アジアのPro-Poor Growthとアフリカ開発への含意―貧困層への雇用創出―
・Globalizationの諸課題と国際社会の対応のあり方―最近の国際機関コンファレンスから―
・IDAにおける国別政策・制度評価(CPIA)とPerformance ‐ Based Allocation制度
・JBICI便り
第16号 2003年 6 月
<巻頭言>アジア・アフリカに於ける日本のODA
・欧米系自動車部品メーカーのタイ進出状況とわが国自動車部品メーカーの対応
・格差に関する一考察 ―援助を考える一つの視点として―
・農村女性の起業活動における行政の役割
・
「紛争と開発:JBICの役割」ワークショップの概要報告
・エージェンシー・コスト・アプローチによるフィリピン企業の資金調達構造の分析―1993-
2000年期における製造業企業負債比率の推計―
・市場の効率性と介入の役割―ドル・円外為市場での介入効果の実証分析―
・アジア4カ国のインフレ・ターゲティングによる金融政策の評価
・JBICI便り
第15号 2003年 3 月
<巻頭言>人間の安全保障
・日本企業の国際競争力と海外進出―『空洞化』の実態と対応策―
・日系自動車サプライヤーの完成車メーカーとの部品取引から見た今後の展望
・SDRM―IMFによる国家倒産制度提案とその評価―
148 開発金融研究所報
・中国の金融・資本市場改革の成果と今後の課題
・世界銀行の民活開発戦略とビジネスパートナーシップ
・JBICI便り
第14号 2003年 1 月
<巻頭言>競争相手として不足はない!
・わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2002年度海外直接投資アンケート調査結
果(第14回)―
<講演抄録>日本企業の中国における市場戦略のポイントを考える
・日本と中国の貿易・産業構造から見た今後の展望
・国際貿易理論の新たな潮流と東アジア
・インフラストラクチャー整備が貧困削減に与える効果の定量的評価―スリランカにおける灌漑
事業のケース―
・JBICI便り
第13号 2002年12月
<巻頭言>地図を見ながらアジアを考える
・直接投資が投資受入国の開発に及ぼす効果
・IT化のマクロ経済的インパクト
・高等教育支援のあり方―大学間・産学連携―
・農産物流通におけるIT活用の可能性
・ケニア:ナクル地域の開発と自然環境の共生に関する―考察-環境事業、ひとつの取り組み―
・Bipolar Viewの破綻―中南米の為替制度動向が意味するもの―
・援助の制度選択
・JBICI便り
第12号 2002年 9 月
<巻頭言>国際金融の渦
・国際ライセンス・ビジネスの中国への展開は可能か
・<解説>2001年度わが国の対外直接投資動向(届出数字)
・紛争予防の視点から見た自然資源管理
・メコン地域開発をめぐる地域協力の現状と展望
・インドシナ域内協力(電力セクター)
・会議報告 第3回JBICシンポジウム
・21世紀の国際協力
・市場経済移行10年の教訓:IMFスタッフ・ペーパー
・JBICI便り
第11号 2002年 4 月
<巻頭言>モンテレーからヨハネスブルグへ
・
「経済開発のための保健への投資」に関する8つの疑問に答える
・中国市場を指向した共生型製造モデル
・我が国製造業の競争力強化への示唆
2006年11月 第32号 149
・通貨危機の予測
・通貨危機のタイプの検出
・アジア諸国のインフレーション・ターゲティングと為替政策
・JBICI便り
第10号 2002年 3 月
<巻頭言>蓄えた知識と経験を生かす開発援助
・序論:域内協力の意義とJBICの役割
・広域物流インフラ整備におけるメルコスールの経験
・中・東欧の広域インフラ整備をめぐる地域協力
・東アジアの域内経済協力
・JBIC ‐ ADB ‐ IDBセミナー「アジアとラテンアメリカの域内協力」の概要報告
・JBICI便り
第 9 号 2002年 1 月
<巻頭言>世界は変るのか
・ロシアにおけるコーポレート・ガバナンス
・アジアでの営業秘密を巡る企業戦略
・2001年度海外直接投資アンケート調査結果報告(第13回)
・中国への研究開発(R&D)投資とそのマネジメント
・フィリピン:効率的な商品作物流通のあり方
・97年アジア危機の流動性危機的側面
第 8 号 2001年11月
<巻頭言>どういう国(社会)を創るのか
・ASEAN諸国における地場銀行業の比較計量分析
・海外直接投資を通じたアジアへの技術移転が経済開発に及ぼすインパクト
・アジア地域の本邦製造業企業におけるB 2B利用の展望
・東南アジア住宅セクターの課題
・ベトナム:工業品輸出振興の課題
・地方自治体の都市間協力と円借款との連携可能性と課題
第 7 号 2001年 7 月
<巻頭言>市場万能主義の罠
・クロスボーダー敵対的TOB
(Take-Over Bid)とリスク・マネジメントへの示唆(下)
―ESOP(Employee Stock Ownership Plan)によるリスク・マネジメントの視点から―
・2000年度わが国の対外直接投資動向(速報)
・ベトナムの工業品輸出拡大戦略
・中国の中小企業の現況について
・タイの行政手続法と行政行為
第 6 号 2001年 4 月
<巻頭言>新たな時代の開発 ―市場主義を超えて―
150 開発金融研究所報
・我が国製造業の競争パフォーマンス
・欧州にみるクロスボーダー敵対的TOB
(Take‐Over Bid)とリスクマネジメントへの示俊(上)
―マンネスマン社(ドイツ)
、ロンドン証券取引所(LSE)の事例を中心として― ・国際再編成の中でわが国自動車部品メーカーの成長戦略 ―日産系部品メーカーの対応―
・Global Development Network
・開発における知識ネットワークの可能性と課題 ―Global Development Networkについて―
・Global Development Network 第2回年次総会(東京会合)報告
・JBICセッション「インフラ開発、経済成長、貧困削減」開催報告
・経済発展における社会資本の役割
・交通インフラの成長及び公平性に与える影響 ―トランスログ費用関数とCGEモデルの韓国経
済への適用―
第 5 号 2001年 1 月
<巻頭言>21世紀の開発援助を求めて
・国内外の経営改革を急ぎつつ、海外事業拡大の姿勢をみせるわが国製造業企業 ―2000年度海
外直接投資アンケート調査結果報告(第12回)―
・ブルガリア、ルーマニア、ハンガリーの動産担保法と日本企業のビジネス
・日本企業の工業部門改革の参考になるのか ―EMS
(Electronics Manufacturing Service)ビ
ジネスモデル―
・東アジアの経済成長:その要因と今後の行方 ―応用一般均衡モデルによるシミュレーション
分析―
・東アジアの持続的発展への課題 ―タイ・マレーシアの中小企業支援策― 増刊号 2000年11月
<巻頭言>特集「21世紀の開発途上国の社会資本を創る」によせて
・社会資本の経済効果
・動学的貧困問題とインフラストラクチャーの役割
・交通社会資本の特質と費用負担について
・都市環境改善と貧困緩和の接点におけるODAの役割と課題について
・日本のインフラ整備の経験と開発協力
・IT革命とeODA
第 4 号 2000年10月
<巻頭言>「情報技術(IT)革命」に思う
・日本の金融システムは効率的であったか?
・特集:開発のパフォーマンス向上をめざして
・開発途上国と公共支出管理
・公共支出管理と開発援助
・プログラム援助調査
・タイの事業担保法草案とその解説
・国際協力銀行のアジア支援下の融資にかかる経済効果についての試算
2006年11月 第32号 151
第 3 号 2000年 7 月
<巻頭言>貧困削減の包括的枠組み
・アジア危機、金融再建とインセンティブメカニズム
・
[報告]主要援助国・機関の動向について
・
[報告]Education Finance:教育分野における格差の是正と地方分権化
・上下水道セクターの民営化動向
・農村企業振興のための金融支援
・1999年度わが国の対外直接投資届出数字の解説(速報)
第 2 号 2000年 4 月
<巻頭言>グローバリゼーション雑感
・開発金融研究所のベトナム都市問題への取り組み
・南部アフリカ地域経済圏の交通インフラ整備
・タイ王国「東部臨海開発計画 総合インパクト評価」
・東アジアの経済危機に対する銀行貸出のインパクト
・アジア法制改革と企業情報開示
・わが国家電産業のASEAN事業の方向性
・ベトナム:都市開発・住宅セクターの現状と課題
・ベトナム:都市公共交通の改善方策
第 1 号 2000年 1 月
<巻頭言>「開発金融研究所報」発刊によせて
・わが国製造業企業の海外直接投資に係るアンケート結果報告(1999年度版)
・アジア危機の発生とその調整過程
・途上国実施機関の組織能力分析
・中国:2010年のエネルギーバランスシュミレーション
・インドネシア:コメ流通の現状と課題
152 開発金融研究所報
CONTENTS
<Foreword>
What I Dream About MDGs…
………………………………………………………………… 2
<ABCDE Conference>
Highlights of Annual Bank Conference on Development Economoics
Tokyo 2006… ……………………………………………………………………………………… 4
The Role of Infrastructure in Reducing Chronic and Transient Poverty:
The Case of JBIC Supported Irrigation Project in Sri Lanka… ……………… 7
Assessing the Impact of NERICA on Poverty Reduction: Evidence from
Uganda… ………………………………………………………………………………………… 21
On the Role of Infrastructure in Poverty Reduction: Impact Evaluations of
JBIC's Irrigation Projects in Sri Lanka and Pakistan ……………………………… 34
Developing Economies in 30 Years: Does the Population of Aid-Recipient
Countries Continue to Grow? … …………………………………………………………… 70
Repor t on the third JBIC/LPEM-FEUI Joint Seminar on "Indonesia’s
Competitiveness in an Era of Globalization and Regional Integration: Connecting
Business Opportunities and Financing Sources”………………………………………… 91
<Country Economic Review>
The Inter-governmental Fiscal Relations and Provincial Public Finance
in Argentina……………………………………………………………………………………… 94
Thailand's Saving-Investment Balance and its Future Growth Potential…
…… 112
Cambodia in the Way to Recovery. The Challenges Ahead………………… 130
JBICI Update………………………………………………………………………………………… 141
開発金融研究所報 第32号
2006年11月発行
編集・発行
国際協力銀行開発金融研究所
〒100-8144
東京都千代田区大手町1-4-1
電話 03-5218-9720(総務課)
印 刷
株式会社サンワ
Ⓒ国際協力銀行開発金融研究所 2006
読者の皆様へ
本誌送付先等に変更のある場合は、上記までご連絡をお願いいたします。
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1
2006/11/07
14:42:42
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