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児童・生徒のライフスキル育成に関する研究 第二報 ~小・中学生の
平成19年度 教育論文 児童・生 徒のライフスキル育成に関する 研究 第二報 ~小・中 学生のセルフエスティームを 育てる 実践を通して~ 熊本市立桜木小学校 熊本市立城北小学校 熊本市立桜木小学校 熊本市立松尾北小学校 熊本市立出水中学校 桑田 奈津子 澤 栄 美 濱 本 泰 平 桝 本 典 明 福 富 敦 子 目 次 は じ め に ................................................................................................ 1 Ⅰ 研 究 主 題 ............................................................................................ 2 Ⅱ 主 題 設 定 の 理 由 .................................................................................. 2 Ⅲ 研 究 の 視 点 ......................................................................................... 3 Ⅳ 研 究 の 仮 説 ・ 研 究 の 方 法 ..................................................................... 4 Ⅴ 実 践 ................................................................................................... 5 1 小学校 ( 1) 第 2 学 年 学 級 活 動 ...................................................................... 5 ( 2) 第 3・ 4 学 年 学 級 活 動 .............................................................. 1 0 ( 3) 第 5 学 年 体 育 科 ( 保 健 ) ......................................................... 1 5 ( 4) 第 5 学 年 体 育 科 ( 保 健 ) ......................................................... 1 9 2 中学校 第 3 学 年 音 楽 科 ........................................................... 2 3 Ⅵ 考 察 ................................................................................................ 2 8 Ⅶ 成 果 と 課 題 ...................................................................................... 2 9 お わ り に 主 要 参 考 文 献 ..................................................................... 3 0 はじめに 今日、学校現場において、いじめ・自殺・虐待といった命に関わる問題、喫煙・飲酒・ 薬 物 乱 用 ・食 ・生 活 習 慣 病 と い っ た 健 康 に 関 わ る 問 題 等 が 、 か な り 深 刻 化 し て い る 。 こ の よ う な 中 、心 の 教 育 に 焦 点 を 当 て 、児 童 生 徒 の 行 動 変 容 を 促 そ う と す る 取 組 が な さ れ て い る 。 その取組の一つとして、近年、セルフエスティーム(健全な自尊心)の形成を中核とす る ラ イ フ ス キ ル 教 育 が 注 目 さ れ て い る 。「 ラ イ フ ス キ ル 」と は 、WHO の 定 義 に よ る と「 日 常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して建設的かつ効果的に対処するために必要な 能 力 」 で あ り 、 現 行 の 学 習 指 導 要 領 が め ざ す と こ ろ の 、「 生 き る 力 」 と 似 た 概 念 で あ る 。 例えば、 「 生 き る 力 」の 第 一 の 要 素 と し て「 自 分 で 課 題 を 見 つ け 、自 ら 学 び 、主 体 的 に 判 断 し 、行 動 し 、よ り 良 く 問 題 を 解 決 す る 資 質 や 能 力 」、第 二 の 要 素 と し て「 自 ら を 律 し つ つ 、 他人と共に協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性」が示されている。 これは、まさしくライフスキルを構成する5つのスキルの目指すところと同じである。つ ま り 、「 生 き る 力 」 の 第 一 の 要 素 と 深 く 関 係 す る も の が 、「 目 標 設 定 ス キ ル 」 と 「 意 思 決 定 ス キ ル 」で あ り 、第 二 の 要 素 と 深 く 関 係 す る も の が 、 「 ス ト レ ス 対 処 ス キ ル 」と「 対 人 関 係 スキル」である。これらのライフスキルは、生まれながらに備わっているものではなく、 人をまねたり教えられたりしながら習得していくものであり、指導によって獲得可能な力 であるといわれている。このライフスキルの基盤となるのがセルフエスティームである。 以上より、ライフスキルを習得することによって、自分や周りの人を大事にし、よりよ く生きる力を身につけることができると考える。よって、冒頭に挙げた今日の多様化・複 雑化する学校教育の課題可決にもつながるものと考える。 このような中、昨年11月、中央教育審議会教育課程部会による「審議のまとめ」が出 された。そこでは、生きる力を育成するという理念は引く継ぎつつ、これまでの課題を踏 ま え 、学 習 指 導 要 領 改 訂 の ポ イ ン ト が 7 項 目 提 示 さ れ て い る 。そ の 一 つ 、 「学習意欲の向上 や 学 習 習 慣 の 確 立 」の 項 目 で は 、 「 体 験 的 な 学 習 や キ ャ リ ア 教 育 な ど を 通 じ 、学 ぶ 意 義 を 認 識 す る こ と が 必 要 で あ る 」と 述 べ ら れ て い る 。ま た 、 「豊かな心や健やかな体の育成のため に生きる自分への自信をもたせる必要がある」と述べられている。よって、新指導要領で は、指導内容や教材提示への必要感、納得・合意を大切にした指導、ひいては、児童生徒 に学ぶ意義を実感させる授業が、また、心身の健康の分野では、体験を大切にしつつ「生 きる自信」をもたせる授業が要求されていると解釈できる。 -1- Ⅰ 研究主題 児童・生徒のライフスキル育成に関する研究・第二報 ~小・中学生のセルフエスティームを育てる実践を通して~ Ⅱ 主題設定の理由 近年、保健科教育や道徳、人権教育など多くの教育場面において、自己肯定感や自尊 感情という言葉をよく耳にするようになった。ライフスキル教育においては、これらの 概念をセルフエスティームという言葉で表現しており、スキルの中でも中核となる大事 な ス キ ル と し て 位 置 づ け て い る 。セ ル フ エ ス テ ィ ー ム と は 、 「 健 全 な る 自 尊 心 」や「 自 己 意 識 」 と 訳 さ れ て い る 。 し か し 、 言 葉 だ け が 先 行 し 、「 具 体 的 に ど う い う こ と な の か 。」 「 ど ん な 教 材 を 使 っ て 指 導 す れ ば よ い の か 。」等 そ の 本 質 や 指 導 の あ り 方 は 十 分 理 解 さ れ ておらず、その一部分を取り上げ実践されているのが現状である。 そこで本研究では、小・中学生のセルフエスティームの向上を図るために、その構成 要素に着目した実践を試みた。特に本年度は昨年度の実践を拡げ、対人関係スキル(コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン ス キ ル )、 ス ト レ ス マ ネ ー ジ メ ン ト ス キ ル の 育 成 に 関 す る 実 践 も 行 っ た 。こ れ ら の 実 践 に お い て も 、セ ル フ エ ス テ ィ ー ム の 育 成 を 基 盤 と し て 授 業 を 展 開 し た 。 このような実践を、検証しながら積み重ねていくことは、子どもたちのセルフエスティ ームの育成および向上に大きく貢献できるものと考える。とりもなおさずこのことは、 学校現場が直面している、いじめや不登校問題をはじめ様々な教育課題を解決する糸口 になるものと考える。 ここで、本研究で取り扱うセ ルフエスティームをはじめ、他 5つのライフスキルの関係 のライフスキルの関係を図1に 自分らしく、よりよい生き方(自己実現) 示す。主に計画の段階で必要と されるのが「目標設定スキル」 社会問題(不安、ストレス、対人関係)の解決 と「意思決定スキル」であり、 実行の段階で必要とされるのが 「対人関係スキル」と「ストレ 計 画 ●目標設定 ●意思決定 実 行 ●対人関係 コミュニケーション ●ストレスマネージメント スマネージメントスキル」であ る。これらのスキルを生かして 様々な問題に対処し解決してい く中で、自己実現が可能となり セルフエスティーム(健全な自尊心 ) さらにそれをフィードバックし ながらスパイラル的に高まるもの 図 1 (アメリカ健康財団による「ライフスキルトレーニング」より) と捉えている。 Ⅲ 研究の視点 日 本 に お け る ラ イ フ ス キ ル 教 育 の 創 始 者 で あ る 川 畑 哲 朗 は 、 そ の 著 書 「『 健 康 教 育 と ライフスキル学習』理論と方法」の中で、セルフエスティームを「健全なる自尊心」と 捉え、全てのライフスキルの基盤となる最も重要なスキルと位置づけている。さらに、 -2- セ ル フ エ ス テ ィ ー ム の 構 成 要 素 と し て 、①「 独 自 性 の 感 覚 」、②「 有 能 性 の 感 覚 」、③「 き ずなの感覚」の3つを挙げている。そこで、本研究では、体育科(保健)や特別活動の 授業において、上述の3つの感覚を育てるという視点から授業を組み立て実践した。具 体 的 に は 、3 つ の 感 覚( 視 点 )そ れ ぞ れ に つ い て 、 「 子 ど も か ら こ ん な つ ぶ や き 、こ ん な 発 言 が 聞 け た ら い い な あ 。」 「 こ ん な 感 想 が 出 さ れ た ら い い な あ 。」と い う 教 師 の 願 い を 事 前に具体化しておく。そうすることで、実際の授業をイメージしやすくなり、的確で、 きめ細やかな支援が可能になると考えた。同時にまた、そうすることで3つの感覚の定 着の指標(評価基準)になると考えた。 次に、これまでのセルフエスティームをはじめとするライフスキルの指導は、極端な 場合は、学期の始めや終わりにイベント的に数回行われるという例も少なくなかった。 よって、本研究では日常の授業において実施でき、さらに継続的に活用できる授業展開 例や、教材教具の開発についても研究することにした。 最後に、近年、ソーシャルスキルトレーニングなどを含め、スキルトレーニングに重 きをおいた授業実践が報告されている。しかし、スキルの必要性が児童生徒に十分認識 されているかどうか首をかしげたくなるような実践も少なくない。たとえば、ロールプ レイ等を通して、唐突に「断り方」の訓練がなされたり、話し方のパターンを何度も繰 り 返 し 練 習 し た り す る 授 業 で あ る 。は た し て 、こ の よ う な 授 業 で 、児 童 生 徒 は 、 「日常生 活場面で活用してみたい」 「 活 用 で き る 」と い う 自 信 や 意 欲 が も て る の だ ろ う か 。疑 問 で ある。 よ っ て 、 本 研 究 で は 「 課 題 を 解 決 し た い 。」「 こ う し た ら も っ と 楽 し い の に 。」「 早 く そ ん な 気 分 に な り た い な あ 。」等 、自 分 の 生 活 を 振 り 返 ら せ ラ イ フ ス キ ル の 必 要 性 を 十 分 実 感させたいと考えた。この過程を経てライフスキルのトレーニングを行えば、真の意味 で ス キ ル が 身 に 付 き 実 践 化 に つ な が る と 考 え た 。し た が っ て 、単 元 や 授 業 の 導 入 部 分( 前 段)において、ライフスキルの必要性を実感させるための教材、教具、授業展開はどう あるべきか、その方法についても研究する。 Ⅳ 1 研究の仮説・研究の構想 研究の仮説 前述したことを踏まえ、研究の仮説を以下のように設定した。 仮 説 1 3 つ の 視 点 で 授 業 構 成 し 、計 画 段 階 か ら 具 体 的 な 支 援 の 方 法 を 明 確 に し て 授 業 実 践 を 行 え ば 、効 果 的 に セ ル フ エ ス テ ィ ー ム を 高 め る こ と が で き る で あろう。 仮 説 2 小 学 校・中 学 校 を 通 じ て よ り 多 く の 教 科 、領 域 で 3 つ の 視 点 を 設 け て 継 続 的に指導を行えば高いセルフエスティームをもった子どもを育成できる であろう。 仮説3 ライフスキルの必要性を児童生徒に実感させる授業展開や教材の工夫を 行えば、児童生徒は効果的にスキルを獲得し実践意欲も高まるであろう。 -3- 2 研究の構想 さ ら に 、以 下 の よ う な 研 究 構 想 を 立 て た 。ま ず 、本 研 究 で は 、目 指 す 子 ど も 像 と し て 、 「高いセルフエスティームを持った子ども」と設定した。高いセルフエスティームは、 主体的で自信に満ちた行動として反映されるととらえた。 目指す子ども像 高いセルフエスティーム をもった子ども 自己実現・行動化 「独自性の感覚」 視 点 視点3 「 有 能 s性 の 感 覚 」 「きずなの感覚」 「自分は他の誰とも違っ 「自分はこんな事もできる」 「他者から信頼されている」 「こんなことに挑戦してみたい」 「他者を信頼している」 価 「自分らしさ」 「ありのまま の自分の肯定」 評 授業目標・実践 視点1 たかけがえのない存在」 タイミングを失わ ずに誉める 自省することによる自分の有能性に 感動・納得でき 気づかせる。 る教材の工夫 達成感を味わわせる教材の工夫 教師の支 援 このような子どもを育てるために、授業において、視点1「自分は他の誰とも違うか け が え の な い 存 在 な ん だ 。」と い う 独 自 性 の 感 覚 、視 点 2「 自 分 は こ ん な 事 も で き る ん だ 。」 と い う 「 有 能 性 の 感 覚 」、 視 点 3 「 他 者 か ら も 信 頼 さ れ 、 他 者 を 信 頼 し て い る 。」 と い う 「きずなの感覚」を目標に据え、授業を構成する。 授 業 に お い て 教 師 は 、独 自 性 を 育 て る た め に「 タ イ ミ ン グ を 逃 さ ず 誉 め 」、有 能 感 を 育 てるために「感動・共感できるような教材の工夫」をする。さらに、きずなの感覚を育 てるために、 「 自 省 す る こ と 」や「 達 成 感 を 味 わ わ せ る よ う な 教 材 」を 工 夫 す る 等 の 支 援 を行う。 さらに、これらの授業を絶えず振り返り、フィードバックしながら継続して指導を行 う こ と に よ り 「 目 指 す 子 ど も 像 」 に 迫 る 。( 文 責 -4- 濱本 泰平) Ⅴ 実践 1 小学校の実践 ( 1 )第 2 学 年 ① 学 級 活 動「 ま ほ う の こ と ば 」(平 成 1 9 年 1 0 月 実 施 対象人数30人) 実践のねらい 本実践は、相手の気持ちを考えることができず、攻撃的で冷たい言動でお互い を傷つけ合って喧嘩やケガにまで至ることが少なくない児童の実態に即し、あた たかい言葉かけとは何かを知り、言葉をかけ合う体験を通して、状況に応じてあ たたかい言葉かけをしようとする態度を育てることをねらいとしている。 その後、日常生活の中で、実際にあたたかい言葉かけをすることを通して、自 他を大切にすること、つまりセルフエスティームを高め、更にはよりよい対人関 係を築こうとする実践力を育成するものである。 ② 実践のポイント ア 想起しやすい二通りの生活場面を教師のロールプレイで提示し、相手の気持 ちや反応から、その言動がどんな結果をもたらすのか気付かせる。 イ 日常生活で起こりがちな具体的場面を設定し、あたたかい言葉をかけ合う体 験(ロールプレイ)を通して、そのよさを味わわせ、学んだことを生活の中へ 生かすことができるようにさせる。 ウ 日常生活の中で続けて実践(生活化)できるように、チャレンジカードを活 用し、自己評価させるとともに、児童の言動に対してその都度適切な評価を与 え「できた」という自信を持たせる。 エ 導入部で、まず、友達に冷たい言葉をかけられたときの体験を想起させるこ とで、あたたかい言葉かけの心地よさとアサーティブなコミュニケーションの 重要性を認識させる。 ③ 前 時 本 時 事 後 実践 評価規準・評価方法 学習活動 ○アンケートに記入する。 ・自分の生活を振り返りながら、 記入できたか。 時間 朝自習 ○ウォーミングアップのゲームをする。 ○ 問 題 場 面 を 把 握 し 、感 じ た こ と や 考 え た ことを話し合う。 ① 遊び に入 り たい 友 達に 冷 たい 言 葉 ・感じたことや考えたことを進ん で発表できたか。 (観察) かけをする場面 ・ 相 手 に か け る ま ほ う の 言 葉を考 ② 遊びに入りたい友達にあたたかい 学級活動 え る こ と が で き た か 。 言葉かけをする場面 (1H) (観察・シート) ○あたたかい言葉かけ(まほうのことば) について考える。 ① 自 分 な り の ま ほ う の こ と ば ・まほうの言葉かけを実践しよう とする意欲がもてたか。 をシートに書く。 (観察・シート) ② ロールプレイをする。 ○学習のまとめをする。 ○ ま ほ う の 言 葉 か け を 実 践 し 、チ ャ レ ン ジ カードに記入する。 ・日常生活の中で 、あたたかい言 葉かけを実践できたか。 (観察・チャレンジカード) -5- 帰りの会 等 ア 指導計画 イ 本時の実践 本学習でつけさせたい力と教師の支援・手立てを「独自性の感覚」「有能性の感覚」 「きずなの感覚」の3つに整理し、以下に示す。 独自性の感覚 有能性の感覚 きずなの感覚 ○あたたかい言葉かけとは ○相手の気持ちを考え、思い ○あたたかい言葉をかけ合う 何かを知り、自分なりの やりのあるあたたかい言葉 体 験 を 通 し て 、そ の よ さ を 味 まほうのことばをかける かけ(まほうのことば)で わ い 、生 活 の 中 で ま ほ う の こ ことができる。 自他の心を大切にできる。 とばをかけることができる。 【支援・手立て】 【支援・手立て】 【支援・手立て】 ・学習の始めに、想起しや ・2通りのロールプレイ提 ・日 常 生 活 で 起 こ り が ち な 具 体 すい2通りの生活場面を 示の中で、その時、自分 的場面を設定し、模擬体験 教師のロールプレイで提 ならどんな気持ちにな (ロールプレイ)させた。 示し、どんな言葉かけを り、どんな反応をするか (図3) されると心地よくなるか を、相手の立場に立って ・学 習 後 は チ ャ レ ン ジ カ ー ド 活 をイメージさせた。 (図2) 考えさせた。 ・学習シートの吹き出しに ・学習後のチャレンジカー 用 し 、ど ん な 時 に ど ん な ま ほ うのことばをかけられたか、 は、自分の言葉で台詞と ド ( 図 5 ) で 、ど ん な 時 に その時どんな気持ちがした してまほうのことばを書 どんなまほうのことばを か感想交流の場を設けた。 かせた。(図4) かけることができたか確 認させた。 遊びに入りた い 友 達 に 、冷 た い言葉かけを する場面 遊びに入りた い 友 達 に 、あ た たかい言葉か けをする場面 【 場 面 設 定 】今 日 は み ん な が 大 す き な 体 育 が あ る 日 。体 操 服 に 着 替 え 運 動場に出ようと下駄箱の所まで来 た 時 、「 う ~ 、 痛 い ! 」 の 声 。 前 に い た 友 達 が お 腹 を 押 さ え 、通 り 道 に 座り込む。早く運動場に出たいの に 、そ の 通 り 道 は 狭 く 、後 ろ に い る あ な た は 通 る こ と が で き な い 。≪ あ な た な ら 、ど ん な ま ほ う の 言 葉 を か けますか?≫ 図2「2場面のロールプレイ(台詞)」 だいじょうぶ? どこがい たいの? 待ってて。 保健 室の先生をよんでくるから。 児童の声 一緒に遊ぼうって言って、 なかまにいれてくれたら、 とてもうれしいよ! じゃまだ。どけ!とか 言われるとムカつく! 言い返してケンカにな るな・・・ 図2「2場面のロールプレイの様子」 -6- 図 3「 ま ほ う の 言 葉 を か け る 児 童 」 図4「まほうのことば」(左:学習シート、右:板書) ④ 本実践の考察 ア 本 実 践 後 に 、子 ど も た ち に と っ た ア ン ケ ー ト 結 果 は 以 下 の 通 り で あ る 。( 27 人 中 ) 質 1 2 3 問 学習前 友達が一人で遊んでいる時、 はい 声をかけましたか。 いいえ 学習後 2人 25人 はい いいえ まほうの言葉をかけることが はい できるようになりましたか。 いいえ それは、どんな言葉ですか。 22人↑ 5人 27人 0人 だいじょうぶ。がんばって。がんばってるね。 いっしょに遊ぼう。ありがとう。無理しないで。 4 まほうの言葉をかけられた時 うれしかった。いい気持ちがした。安心した。 どんな気持ちがしましたか。 ありがとうという気持ちになった。ホッとした。 よし、がんばろうという気持ちになった。 イ 実践のポイントに関する評価 ○「 ア 想 起 し や す い 2 通 り の 生 活 場 面 を 教 師 の ロ ー ル プ レ イ で 提 示 し 、相 手 の 気 持 ちや反応から、その言動がどんな結果をもたらすのか気付かせる」について 「遊びに入りたい友達に、冷たい言葉かけをする場面」では、悲しい・寂し い・いやな気持ちになり、喧嘩や仲間はずれ、いじめになるという児童の声が 聞 か れ た 。 一 方 、「 遊 び に 入 り た い 友 達 に あ た た か い 言 葉 か け を す る 場 面 」 で は、うれしい・いい気持ち・ありがとうという気持ちになり、楽しく過ごして 仲良しになれるという児童の声が聞かれた。 特 に 、 冷 た い 言 葉 か け を す る 場 面 で は 、 自 分 の 経 験 を 重 ね 合 わ せ て 、「 そ の 後、言い合いから叩き合いになって、みんなとの遊びが中断した」などと、言 葉のかけ方ひとつで、相手の気持ちや周りの雰囲気など、後の結果(現象)が 変わることに気付くことができた。 自己中心的な言動が残る低学年期ではあるが、友達の反応から、その言葉か けがどんな結果をもたらすかにも気付かせ、行動レベルで理解させることがで きたと考える。 -7- ○「 イ 日常生活で起こりがちな具体的場面を設定し、あたたかい言葉をかけ合う 体験(ロールプレイ)を通して、そのよさを味わわせ、学んだことを生活の中へ 生かすことができるようにさせる」について ・言 語 面 に 加 え て 非 言 語 面 の よ い と こ ろ に も 着 目 さ せ た が 、ロ ー ル プ レ イ の 中 で 、 あたたかい言葉をかけながら、座り込んだ友達の背中をさすったり、寄り添っ て顔を覗き込んだりする姿がみられた。また、図4「まほうの言葉の学習シー ト」中の絵のように、言葉のみならず、明るい表情や背中に手を当てる動作な どを書き入れた児童もみられた。これらのことから、すぐに日常生活に反映で きる効果があるといえる。 ・ 更 に 、実 践 の 中 で の 児 童 の 声 や 質 問 4 の 結 果 か ら 、言 葉 に よ る 気 持 ち の 変 化 は 体 に も 影 響 を 与 え る こ と に 気 付 き 、あ た た か い 言 葉 か け 体 験 で 人 を 思 い や る 気 持ちを体感したことが、お互いの絆(信頼関係)を強くしたものと考える。 ・図5「チャレンジカード」の感想から、学んだことを知識止まりとせず、生活 の中に生かそうとする意欲が高まっていることがわかる。 2 1 3 図5「学習後のチャレンジカード」 -8- ○「 ウ 日 常 生 活 の 中 で 続 け て 実 践( 生 活 化 )で き る よ う に 、チ ャ レ ン ジ カ ー ド を 活 用し、自己評価させるとともに、児童の言動に対してその都度適切な評価を与え 『できた』という自信をもたせる」について ・ 質 問 1 , 2 の 結 果 や 図 5 「 チ ャ レ ン ジ カ ー ド 」、 日 頃 の 児 童 の 行 動 観 察 か ら 、 日常生活においても、すすんでまほうの言葉をかけようとする姿がみられた。 ま た 、図 5「 チ ャ レ ン ジ カ ー ド 」中 下 線 1 の よ う に 、カ ー ド が な く て も 続 け て いこうとする意欲もみられる。 ・帰 り の 会 に お い て は 、ま ほ う の 言 葉 を か け た 回 数 を 確 認 さ せ る と 同 時 に 、ど ん な 時 に ど ん な ま ほ う の こ と ば を か け た か ( か け ら れ た か )、 そ の 時 の 気 持 ち を 発表することで、教師やクラス全員から賞賛を受ける機会となった。更には、 継 続 し て 実 践 し て い こ う と す る 意 欲 に も つ な が っ て い る 。こ の よ う に 、認 め ら れ た こ と が 自 信 と な り 、セ ル フ エ ス テ ィ ー ム と 友 達 と の 絆 の 高 ま り と も あ い ま っ た と い え る 。こ の こ と は 、図 4「 チ ャ レ ン ジ カ ー ド 」中 下 線 2 か ら も わ か る 。 ・実 践 意 欲 に は 個 人 差 が あ る た め 、ま ほ う の 言 葉 を か け た 回 数 の 多 少 で 評 価 す る こ と の な い よ う に 配 慮 し た 。同 時 に 、友 達 が ど ん な 時 ど ん な ま ほ う の 言 葉 を か け た か を 、発 表 や 感 想 交 流 を 通 し て 聞 く こ と で 、図 4「 チ ャ レ ン ジ カ ー ド 」中 下 線 3 か ら も わ か る よ う に 、よ り 多 く の あ た た か い 言 葉 を 知 る き っ か け と も な っ た 。こ の こ と は 、「 う ま く 言 え な い 」「 で き て い な い 」と い う 自 己 否 定 に つ な が る も の で な く 、友 達 の 言 動 か ら 学 び 、次 へ 生 か し て 挑 戦 し よ う と す る 前 向 きな態度の育成とセルフエスティームの向上にもつながったといえる。 ○「 エ 導 入 部 で 、ま ず 、友 達 に 冷 た い 言 葉 を か け ら れ た と き の 体 験 を 想 起 さ せ る ことで、あたたかい言葉かけの心地よさとアサーティブなコミュニケーションの 重要性を認識させる」について ・ 「遊びに入りたい友達に、冷たい言葉かけをする場面」では、悲しい・寂し い・い や な 気 持 ち( 図 6 ) に な り 、喧 嘩 や 仲 間 は ず れ や い じ め に な る と い う 児 童 の 声 が 聞 か れ た 。そ の 後 、 「 あ た た か い 言 葉 か け を す る 場 面 」で は 、う れ し い 、い い 気 持 ち 、あ り が と う と い う 気 持 ち ( 図 7 ) に な り 、楽 し く 過 ご し て 仲 良しになれるから、あたたかい言葉をつかった方がいいという児童の声が聞 かれた。 図6「悲しい気持ちを表現する教材」 図7「心地よい気持ちを表現する教材」 (同じ教材の裏表を使い、対照的な気持ちを視覚的にも捉えさせる) ・質問4の結果からも、あたたかい言葉(=まほうの言葉)かけをされると心地 よくなると実感していることから、自分の存在を認められた喜びや所属意識、 ま さ に セ ル フ エ ス テ ィ ー ム が 高 ま っ た と い え る 。更 に は 、望 ま し い 対 人 関 係( ア サーティブなコミュニケーション)の重要性に気付くことができたと考える。 (文責:桑田 奈津子) -9- (2) 第3・4学年 特別活動 「見方を変えよう ~健全な自尊感情の形成~」 ( 平 成 19 年 11 月 実 施 ① 対象人数6人) 実践のねらい 子どもたちは日常生活において、親、友達、教師をはじめ、様々な人との関わり の中で生活をしている。健全な自尊感情(自分を大事にする気持ち)の形成は、他 者との関わりを通したことばや態度などの他者評価による影響が大きい。自尊感情 とは、様々な要因を受け自分をどう捉えていくかという自己評価である。自分を肯 定的に捉えていくことは、自尊感情を高めていく上において非常に重要である。 そこで、自分を見つめ、自己概念が形成されるこの時期に、自分を肯定的に捉え ていく取組を行った。子どもたちの性格や行動などに起因する一つの事象を多面的 に捉える学習を通し、見方・考え方を変えることで、自分を肯定的に評価できるき っかけとなることをねらいとした。 ② 実践のポイント ア 否定的なイメージの強い漫画のキャラクターを題としたブレインストーミング を行い、次の2つの視点に気づかせるようにした。 a どんな人にもいろいろなよさがある。 b 1つの事象でありながら肯定的にも否定的にも捉えられる。 イ 一斉指導で、一般的に見られるような否定的な行動を教師から提示した。そし て、どのような捉え方があるか具体的な意見を通して考えさせるようにした。見 方を変えるとは、小学校中学年にとってはなかなか理解しがたい一面がある。そ こで、具体的な事例をもとに見方を変える考え方・スキルを高めたいと考えた。 この活動を行った上で、実際に自分や友達の否定的な一面について考えるように した。 ウ 授業は、講義形式の受け身の活動でなく、参加体験型学習の形態を多く取り入 れ、グループで活動をしながら見方を変える視点に気づかせるようにした。 エ 事前の活動で秘密の友達(よいところ探し)を行い、肯定的に見られた気持ち や相手の肯定的な面を見つけたときの気持ちを確認する活動を通して、自分や相 手を大事にしようとするセルフエスティームの大事さについて確認した。 ③ 実践 ア 留意点 a 否定的なイメージの強い 漫画の キャラクターを題材として取り上げる。 b 見方を変える視点を具体的に示し、見方を変える考え方・スキルを 高める。 c ワークショップの形態で行い、子どもたちの活動を主体に学習を進める。 イ 授業計画 1 秘密の友達を通して友達のよいところを見つけよう 1時間 2 学級の達人を見つけよう 1時間 3 見方を変えよう 4 1/2成人式をしよう 友達のがんばりを知る 自分を肯定的に見つめる (本時) 自分の成長を知り将来の自分を見つめる - 10 - 1時間 2時間 ウ 本学習で付けさせたい力と手立て 本学習で付けさせたい力を児童の言葉としてまとめた。また、教師の支援と手立 て を 「 独 自 性 の 感 覚 」「 有 能 感 の 感 覚 」「 き ず な の 感 覚 」 の 3 つ に 整 理 し た 。 独自性の感覚 有能感の感覚 「自分にはたくさんのよいと 「悪いイメージの見方を変える こ ろ が あ る 。」 こ と が で き た よ 。」 「自分はこの学級で役に立っ 「じぶんのよいところを生活の て い る 。」 中 で 生 か し て い き た い 。」 【支援・手立て】 きずなの感覚 「友達のよいところをたくさん見つ け る こ と が で き た よ 。」 「友達がよいイメージをもてるよう に 考 え る こ と が で き た よ 。」 【支援・手立て】 【支援・手立て】 ・ 事 前 の 活 動 (秘 密 の 友 達 )で ・ 全 員 が 意 見 を 出 せ る よ う に カ ー ・ 事 前 の 活 動 (秘 密 の 友 達 )に お い て 自分を見つめ評価する経験 ドを貼っていくようにする。 友達のよさを見つけ合おうとする をさせる。 ・自分のよさを実際の 生活の中で 肯定的な学級の雰囲気を育てる。 ・秘密の友達で得られたよさ 生かせるように具体的なめあ ・自分が友達に関わり、そのよさを を次々に掲示し日常生活で てを決めさせる。 見つけ出すことに価値があること 触れていくようにする。 を確認する。 エ 本時の学習の流れ(45分を下にまとめて表示) 学習活動 1 主な教師の発問・説明(○)児童の様子・声 クラスの実態を知る。 自 分 の 性 格 や 行 動 、能 力 の こ と で「 い や 」と 感 じ て い る 人 が た く さ ん い ま す 。」 導 入 ○ 事 前 の 意 識 調 査(・自 分 の こ と が 好 き か ・自 分 の こ と で 図8 2 事前の意識調査結果 い や な こ と が あ る か )の 結 果 ( 図 8 ) を 提 示 す る 。 「 ア ニ メ の 主 人 公 」を 「このアニメの主人公からイメージできること テーマとしたブレイン を カ ー ド に で き る だ け た く さ ん 書 い て 下 さ い 。」 ストーミングをする。 「 た く さ ん 書 く こ と が で き た よ 。」 ○「 ア ニ メ の 主 人 公 」は 否 定 的 イ メ ー ジ の 強 い キ ャ ラ ク ターを題にする 3 出 さ れ た 、イ メ ー ジ や 意見を発表する。 ○ 6 人 を 3 人 の 2 グ ル ー プ に 分 け て 行 い 、全 員 の 意 見 が 反映されるようにする。 ○グループごとに発表させ、 展 そのカードを肯定・否定の イメージに着目し、教師が 開 分類しながら黒板にはる。 (図 9 ) 4 図9 イメージの分類 出 さ れ た イ メ ー ジ・意 「出されたカードにはどんなことが 見について考える。 ①人にはいろいろなよ さがあることを知る。 書 か れ て い ま す か 。」 「悪いことがたくさんあるよ」 「でもよい と こ ろ も 書 い て あ る よ 。」 - 11 - 「悪いと思われている人にもいろいろな よ さ が あ る ん で す ね 。」 「 同 じ キ ャ ラ ク タ ー な の に 、『 弱 々 し い 』 と 『やさしい』とあるけど、どちらが本当?」 ②見方を変えることで 肯定的に捉えること ができることを知る。 展 ○キャラクターの一つの特徴を取り上げ、否定的にも肯 定的にも捉えることができることに気づかせる。 「見方を変えることで、その人を悪いよう に も よ い よ う に も 見 る こ と が で き ま す 。」 開 見方を変えて○○を好きになろう 5 否定的側面を肯定的 「 さ わ が し い 」「 意 見 が 言 え な い 」「 ピ ア ノ が ひ に変える練習をする。 けない」について、見方を変えて好きになるよ ・さわがしい うな考え方や言い方ができないだろうか。 ・意見が言えない ・ピアノがひけない ○子どもたちに一般的に見られるような否定的な側面を 教師から提示し、子どもたちから意見を求める。 「元気がある」 「しっかり考えている」 「人 の 話 を し っ か り 聞 い て い る 」「 今 が ん ば っ ている」と考えることができるよ。 6 自分や友達について の否定的な見方を変え られないか考える。 ①自分について ②友達のことについて この学校や学級でいやだなと考えている「字がへた」 「字を書くのが遅い」 「めんどうくさがり」 「逆上がり ができない」について、みんなで考えて、自分や友達 が好きになるような見方・考え方を教えてあげよう。 短ざくに見方を変え 「練習すれば上手になる」 「ていねいに書いてい た 付 箋 を 貼 る 。(図 10) る 」「 細 か い こ と を 気 に し な い 」・・・・と い っ た 見 方をするといいよ。 ○否定的側面の書かれた短ざくは、人が限定されないよ う一般的な形で提示する。 ○見方を変えられた意見を紹介し賞賛する。 図 10 見 方 を 変 え た 付 箋 7 自分のめあてを書く。 ○これからの生活で心がけたいことを書かせる。 ま と め 8 本時の学習のまとめ をする ・教師の話を聞く 失敗を「失敗と考える」か「成功するための1歩」と考える か・・・・ よい方に考えることで、いろいろなことができるよ うになるし、自分や友達を好きになることができます。 - 12 - a 児童が自分の否定的な側面に対し、見方を変える意見の例 ○字を書くのが遅い → ていねいに書いている ○まんが字になる → ていねい、押さえて書いている ○面倒くさがり → 細かいことを気にしない ○走るのが遅い → 苦手なものでも一生懸命 ○意見が言えない → 人の意見をしっかり聞いている、しっかり考えて発表している。 ○さわがしい → 元気がある 声が大きい ○ピアノひけない → 今からできるようになる b 児童の授業後の感想 ○自分で書いてみながら何かあるかなと思ったけど、友達が書いてくれたのを見た らそういえばそうだと思った 。そう思わ れて いると思うとう れしくなりま した。 ○今日よりも自分や友達、先生のいいところをもっといっぱい見つけたいです。 ④ 考察 ア ブレインストーミングにより出された意見は、否定的な意見が大半であったが、肯 定的に捉えられた意見もみられたことで、キャラクターの人物像から「どんな人 にもいろいろなよさがある」という視点に気づかせることができた。さらに、キャ ラクターの一つの特徴を取り上げ、否定的にも肯定的にも捉えることができること に気づかせることができた。この肯定的に捉えることのよさに気づかせる段階で、 十 分 な 時 間 を 確 保 し 、 子 ど も 主 体 の 学 習 で 進 め た こ と が 、「 見 方 を 変 え る 」 と い う 次の学習に、意欲・考え方の面で効果があったものと考える。 イ 見方を変えるはじめの段階として、子どもたちに一般的に見られるような否定的 な行動を教師から提示し、どのような捉え方があるか具体的な意見を通して考えさ せるようにした。このようなトレーニングをしたことで、抽象的な思考活動であり ながら、見方を変える意見を出すことができたものと考える。さらに、この活動を 経験したことで、実際に自分や友達のことについて考えることができたように思う。 自分を肯定的な視点で考えていくきっかけができたことは、自分を大事にし、前 向きに努力していくというセルフエスティームを高める機会につながっていくも と考える。また、友達を見る視点についても肯定的な捉え方を学んだことは、さら に友達との絆の感覚を深めていくことができると考える。 ウ 課題に気付く段階では、漫画のキャラクターを題としたブレインストーミングをし たことで、子どもたちは取り組みやすく、たくさんのイメージ(見方)を出すこと できた。さらに、自分たちが出した意見を集約し、課題に気づかせたことで、意欲 的に自分自身を振り返る活動につながった。課題に迫る段階では、全員が考え をカードに書いて貼るという手法をとったことで、子ども一人一人が自分の考えを 表現しやすく、自由に意見を出すことができた。 このように、参加体験型学習の形態をとったことで、一人一人が能動的に活動に参 加し、自分のこととして考えていくことができたと考える。 エ 日常の活動で、秘密の友達など自分や相手を大事にしようとするセルフエスティー ムを高める活動を繰り返し行うことで、自分に自信を持ち、相手のよさを見つけ大 事にしようとする感覚が育ってきていると感じる。そのような集団の雰囲気の中 で 、「 見 方 を 変 え よ う 」 と す る 学 習 が 生 き て く る と 考 え る 。 (文責:桝本典明) - 13 - ( 3 )第 5 学 年 ① 体 育 科「 心 と 健 康 」( 平 成 1 9 年 1 1 月 〜 1 2 月 実 施 対象人数92人) 実践のねらい 近年問題となっている心の健康問題に対応して、5年生の保健学習では「心と健 康 」 に つ い て 指 導 す る 。 こ の 単 元 の 目 標 は 、「 自 他 の 心 身 の 発 育 ・ 発 達 の 違 い に 気 付 き 肯 定 的 に 受 け 止 め る こ と 」「 不 安 ・ 悩 み へ の 対 処 及 び 人 と の か か わ り に つ い て の 実 践 的 な 理 解 を 図 る こ と 」 で あ り 、「 心 の 発 達 」「 心 と 体 の つ な が り 」「 不 安 や 悩 み の 対 処 」「 対 人 関 係 」 の 4 題 材 で 構 成 さ れ て い る 。 指導前に行った悩みや不安に関するアンケートの結果、悩みを経験したことがあ る児童は、5年生全体の88%と、多くの児童が悩みや不安の経験をもっていた。 ま た 、 悩 み の 内 容 の 一 位 は 、「 友 達 関 係 」 で あ り 、 悩 み を も っ た こ と が あ る 児 童 の 85%が、経験した悩みの内容として選択した。 現在行っている悩みへの対処法としは、友達や親への相談が一番多く、2番目に 多 か っ た の は 、「 が ま ん す る 」 だ っ た 。 以 上 の こ と か ら 、 対 人 関 係 や ス ト レ ス 対 処 に 関 す る ス キ ル が 十 分 で な い こ と が う か が え た 。そ こ で 、こ の 学 習 の 中 で は 、特 に 、 ストレス対処スキルと対人関係スキルの育成を目標として設定した。それぞれのス キルを身につけることは、きずなの感覚や有能性の感覚等のセルフエススティーム を高めることにつながると考えられる。 また、指導の過程で、友達との協力や学習活動への積極的な参加ができる工夫を した。それらの工夫を通して、自分らしい意見が認められる安心感や友達と共に学 ぶ満足感をもたせるようにし、セルフエスティームを高めることもねらいとした。 ② 実践のポイント ア 日常生活で起こりがちな場面を設定し、自分のこととして考えられるように する。 イ 自分自身の心の学習という認識をもたせるよう工夫し、これからの自分の生活 の中で、積極的に実行しようとする意欲をもたせるようにする。 ウ 安心して自分の考えを発表したり表現したりできるような学習形態や友達と 協力して取り組むことができる学習形態を工夫する。 エ 導入部に、身につけさせたいスキルを意識したゲームを取り入れることで、ラ イフスキルの必要性を実感できるようにする。 ③ 実践 ア 指導計画 次 学習内容 時間 1 心の発達 1 2 心と体のつながり 1 3 不安なとき・なやみがあるとき 1 4 みんなで生きる 1 <ショートの指導> 秘密の友達(4/4までに、3〜4日間、朝の会・帰りの会を使って実施) 私のいいところ(「秘密の友達」実践後、ショートの時間で実施) - 14 - イ「不安なとき・なやみがあるとき」(ストレス対処スキル)・・1時間 「みんなで生きる」(対人関係スキル) 不 安 な と き・な や み が あ る と き(1時間) 題材 ・・1時間 主な学習活動 工夫した点 <導入ゲーム>ミラーリング 1 の実践 ○ 「体→心」のプラスの繋がりを感じさ 5年生全体の悩みの内容について せる。 知る。 ○ アニメの「ドラえもん」のキャラクタ 2 不安や悩みを抱えた時の対処法に ーを使い理解しやすくする。 ついて考える。 ○ ブレインストーミングを使い、自由に 3 前向きな対処法を出し合う。 意見を出せるようにする。 4 不安や悩みを抱えた時の自分に合 ○ 前向きさをチェックする視点を与え、 った対処法について考える。 考えやすいようにする。 ○ 学習カードを使い、個人に返す。 みんなで生きる(1時間) 導入ゲーム:私のいいところ(事前) ○自分の良さに気づかせる。 1 都合の悪くなった友達に対する ○ 安 心 し て ”心 の 声”を 考 え られ る よ う 心の声を考える。 に、個人シートを活用する。 2 人とのつきあいのパターンを知る ○ アニメ「ドラえもん」のキャラクター 3 アサーティブな言い方について考 を使い理解しやすくする。 える。 ○ ブレインストーミングを使い、自由に 4 アサーティブな態度について知る。 意見を出せるようにする。 5 ロールプレイイングで確かめる。 ○ 実際に体験することで、アサーティブ (前向き)な態度を実感させる。 図 11 実 際 には、理 解 しやすくするためキャラクターを使 用 (左 :ストレス対 処 右 :対 人 関 係 ) 図 12 ブレインストーミング後 のグループ分 け 図 12 「みんなで生 きる」の導 入 「私 のいいところ」 - 15 - 不安なとき・なやみがあるとき(1時間) 独自性の感覚 有能性の感覚 きずなの感覚 ○自分自身に合った対処 ○対処法が有効で実行可 ○安心して自分の経験や考 法があることに気付く。 能であることに気付く。 えを表現できる。 【支援・手だて】 ・ アニメキャラクタ 【支援・手だて】 ・ 対処法の善し悪しの ーを使い、対処法の チェックをすること 善し悪しをイメージ で(学習カードで 3 できるようにする 項 目:実 行 可 能 か 、体 ・ グループ活動→全 に 悪 く な い か 、迷 惑 に 体活動→個人活動の な ら な い か )、 自 分 が 順で個人返す。 選んだ対処法が有効 【支援・手だて】 ・ ブレインストー ミングを使って対 処法を出し合うこ とで、自分の経験 や考えを出しやす くする。 であることに気づか せる。 私 は 、運 動 よ り 音 楽 の 方 が リ ラ ッ ク ス で き る な … 。実 行 可 能だし。 図 13 みんなで生きる ○自分自身のよさに気付 ○ 問 題 が 起 き た 時 、う ま く 伝 ○友達と一緒にいいアイディ く。 える自信を持つ。 アを考えることができる 【支援・手だて】 ・ 導入のゲーム「秘 密 の 友 だ ち 」「 私 の (1時間)及び事前指導(ショート) い い と こ ろ 」を 通 し て 、友 達 の よ さ や 自 分自身のよさに気 づかせる 【支援・手だて】 ・ ブレインストーミ ングで、アサーティ ブな言い方の条件を 参考にした意見を出 すことができる。 ・ ロールプレイで体 験させる。 【支援・手だて】 ・ グループで協力し て、ブレインストー ミングで出された意 見の組み合わせによ り、前向きな言い方 を完成させる。 こんなふうに 思ってくれて たんだ! 目を見て、ちょう どいい声の大きさ で…。 図 14 図 15 - 16 - 板書 ④ 本実践の考察 ア 心の健康度の変化 本 実 践 前 後 に 、心 の 健 康 度 の ア ン ケ ー ト( 心 の 健 康 と 生 活 習 慣 に 関 す る 指 導 文 部 科 学省)を実施した。その結果、指導後に、心の健康度が低いと思われるグループの全 児童数に対する割合が10%減少し、高いと思われるグループの割合が7%上昇した (図16)。 心の健康度の割合の変化 割合 80% 指導前 60% 指導後 40% 20% 0% 70%以下 70~90% 90%以上 <図 16> また、心の健康度を構成する5項目(自己効力感、不安傾向、行動、身体的訴え、 その他)は、図17に示すとおり、各項目でそれぞれわずかに上昇した。特に、その 他(イライラ感等)の項目で上昇がみられた。なお、特に健康度の低かった児童につ いて見てみると、総点数が13点上昇し(満点108点中、指導前60点 → 指導後 73点)、自己効力感と不安傾向での高い伸びが見られた(図18)。 自己効力感 90.0% 自己効力感 100.0% 80.0% 90.0% 70.0% 80.0% その他 70.0% 60.0% その他 不安傾向 不安傾向 50.0% 40.0% 60.0% 1回目 2回目 1回目 2回目 身体的訴え 身体的訴え 行動 行動 心の健康度の変化(個人) 心の健康度の変化(全体) <図 17> <図 18> - 17 - イ 指導後の感想 授 業 終 了 後 に 書 か せ た 4 時 間 全 体 を 通 し て の 感 想 を 、 「 ( 1 ) -② 実 践 の ポ イ ン ト 」 に沿って考察すると、それぞれのポイントについて、多くの記述がみられた。 ポイントの「ア」「イ」については、児童の約6割に「今後の生活に役立てたい」 「習ったことを生かしたい」といった感想がみられた。以下は、児童の感想の一部で ある(一部原文を省略、修正)。 ・ 4 時 間 を と お し て 、ふ だ ん の 生 活 に や く だ て ら れ る こ と ば か り で し た 。ま た 、し っ てよかった。しらなかった。もっとしりたい。と思うことばかりでよかったです。 とてもいいべんきょうになったと思います。 ・ 心 と 健 康 の 学 習 を し て 返 事 な ど 、こ れ か ら の 生 活 に 役 立 つ 事 が た く さ ん あ っ た 。こ れから学習したことを生かしていけたらいいと思いました。 また、児童の約3割が、実践のポイント「ウ」についての感想を述べていた。以下 は、その一部である(原文のまま)。 ・ ブレインストーミングではわくわくして、みんなとできて楽しかったです。 ・ 最 初 は 、ゲ ー ム を い っ ぱ い し て 、と て も 楽 し か っ た で す ! ! い ろ い ろ き ん ち ょ う し たりしたけど、はんで話し合って決めたりしたのがよかったです! ・ ぼ く は 、「 心 と 健 康 」を 勉 強 し て 、澤 先 生 は 、四 時 間 だ け で「 み ん な で 」と い う の が た く さ ん あ っ て 、協 力 と い う の を 学 び ま し た 。こ れ か ら も 協 力 し よ う と 思 い ま す 。 実践のポイント「エ」については、自分のこれまでの生活を振り返る中でのライ フスキルの必要性や、ゲームでの動機づけを肯定的に受け止める感想が多数見られ た。このことは、児童がライフスキルの必要性を実感することにつながったと考え られる。以下は、児童の感想の一部である(原文のまま)。 ・ 私 は 、こ の べ ん き ょ う を し て 、が ま ん し す ぎ る と 体 に 悪 い こ と や 、伝 え た い こ と を 上手に伝えるための言葉などを学習しました。今まで、少し相手を傷つける言葉を 使っていたので、これからは、気をつけようと思いました。 ・ 相 手 の 気 持 ち を 考 え て 接 し た り 、話 し た り し な い と い け な い な あ と 思 い ま す ! ゲ ー ム感覚で勉強ができ、楽しかったです! 以上のことから、「心と健康」の指導を通して、児童の心の健康度が上昇し、学習した ことを自分の生活に生かして行こうとする意欲が高まったと考えられる。 ただ、この結果は、短期的な指導後の結果であり、繰り返し指導をしていくことが心の 健康の維持につながると考えられる。 (文責:澤 - 18 - 栄美) (3)第5学年 体 育 科 ( 保 健 )「 心 ほ ん わ か プ ロ ジ ェ ク ト ~ 心 と 体 の つ な が り ~ 」 (平成19年6月 実施 ① 対象人数38人) 実践のねらい 心 と 体 は 密 接 な 関 係 に あ り 、悩 み や 不 安 、イ ラ イ ラ の 心 の 状 態 を 放 置 す る と 病 気 に なったり、問題行動へと発展したりすることがあることを理解させたい。 ま た 、そ の た め に 心 の 変 化 を 自 覚 し 、心 の 不 安 に 自 ら 対 処 し よ う と す る 態 度 を 身 に 付け、さらに、イライラするなどの具体的な場面を想定して、自分にあった対処の 仕方(スキル)を練習し、実践化につなげたいと考えた。 ② 実践のポイント ア 導 入 場 面 に お い て 、心 と 体 が 密 接 に 関 係 し て い る と い う 例 と し て 、極 度 の ス ト レ スから体毛が抜けた犬の写真や、不安な状態や悩んだ状態がつづいた結果、円形 脱毛症にかかったという設定のパペット(カツタ君)を提示する。 イ カ ツ タ 君 を 5 年 の 男 子 と い う 設 定 に し 、授 業 者 と カ ツ タ 君 の 対 話 形 式 で 授 業 を 進 める。さらに、カツタ君を反面教師的に扱うことで、全員に自分の悩みや不安、 イライラした場面を想起させ 、安心して 自分 の体験を発言で きる雰囲気を 作る。 ウ 養 護 教 諭 と の TT で 授 業 を 進 め る 。心 と 体 が 密 接 に 関 連 し て い る と い う 事 実 を 科 学的根拠をもとに作成した自作のデジタル教材を用いて説明する。 エ ストレスマネージメントスキルの必要性を子どもの発言や感想の言葉から引き 出し、次時のスキル獲得をより主体的にし、実践化の可能性を高める。 ③ 実践 ア 時 指導計画 ね 題材名(教科) 1 /2 本時 「心と体のつな ○ がり」 (保健) ら い 緊張したりイライラしたり不安になったりするときの体 の状態について想起する。 ○ 心( 感 情 )と 体 が つ な が っ て い る と い う 科 学 的 根 拠 に つ い て知る。 ○ 不 安 や 悩 み 、イ ラ イ ラ 等 を 放 置 し て お く と 病 気 に な る 場 合 があり、自らそれらに対処しようとする態度をもつ。 2 /2 「イライラした ○ 前時の学習を振り返る。 時どうするの ○ 不 安 や 悩 み 、イ ラ イ ラ す る と き の 心 の 状 態 を 想 起 し 、ど の ?」 (保健) ようにしてその感情を抑えるか考える。 ○ 不 安 や 悩 み へ の 対 処 の 方 法 を 知 り 、深 呼 吸 法 な ど 自 分 に あ った方法を決め、実際に練習する。 イ 身に付けたい力と支援 本時で身に付けたい力を「子どものつぶやき」として3つの視点から整理した。 さらに、授業展開の際の支援をより具体的に予測して授業に臨んだ。 - 19 - 独自性の感覚 ○自分はこんな時、体がこうなった よ。 有能性の感覚 きずなの感覚 ○カツタ君にアドバイスができたよ 。 ○ぼくはこんな不安があったけどこ ん な 風 に し て 解 決 し た よ 。だ か ら 、 カツタ君もがんばって。 ○自分はカツタ君にこんなアドバイ ス を し た い な あ 。【 支 援 ・ 手 だ て 】 :他と比較しないこと、言いたく ○悩みがあるのは僕だけではないん だ。 ○悩んでいることを書けたよ。発表 できたよ。 ○私の意見を真剣に聞いてくれてあ りがとう。 ○あのときは、つらかったけど、よ く立ちなおれたなあ。 だね。 【 支 援・手 だ て 】 :個 別 に 机 間 指 導 し 、認め励ます。 ○~くんは、そんな経験があったん 【 支 援・手 だ て 】 :体 験 談 等 の 発 言 に 対しては十分配慮して伝える。 ないことは言わなくていいという ことを伝える。 ウ 授業場面1 発問と児童の発言・反応 支援のポイント・評価(◇) ・・・・・・・・・・( 中 略 )・・・・・・・・・ T : ◆ 授 業 者 と パ ペ ッ ト ( カ ツ タ 君 ) と 「 あ れ ? カ ツ タ 君 、こ ん な に 暑 い の に な ん で 毛 の寸劇(対話)を全体の前で行う。 糸の帽子なんてかぶっているの?」 カツタ君は5年生男子という設定。 ( 一 斉 に カ ツ タ 君 の 恰 好 を 見 て 笑 う 。) ◆ 「 な ぜ だ ろ う ? 」「 何 が 原 因 だ ろ カ ツ タ :「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」( 無 言 で 下 を 向 く ) う」という疑問をもたせる。 T :「 帽 子 を ぬ げ ば い い の に 。 教 室 の 中 だ か ら 脱 ご カツタ君に同情させる形で自然 う よ 。 ほ ら ぬ が し て や る ね 。」 に授業に引き込む。 (無理矢理帽子を脱がそうとする授業者) カ ツ タ :「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」 ( 首 を よ こ に 振 る 。 脱 が さ れ る の を い や が る 。) T :「 ど う し た ん だ ろ う ね 。」 どうしてカツタ君は帽子を脱がないと ◆ 児童が推理し、問 いの答えを 発見 思いますか? していくように する。カツタ 君に 同意を求めるな ど、ストーリ ー性 C :「 頭 に け が し て る か ら 」 を大切にする。そ うすること で全 T :「 カ ツ タ 君 に 聞 い て み よ う か 。 カ ツ タ 君 ど う で 員にリアリティーをもって生活 すか?」 を振り返らせる。 カ ツ タ :「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」( 無 言 で 首 を 横 に 振 る ) T :「 ち が う ん だ っ て 。 な ぜ カ ツ タ 君 は 頭 を 見 せ た く な い の か な ぁ 。」 ◆ 悩みをもっている児童や極度に 緊張する児童、発 言を苦手と する 児童の心情を、カ ツタ君に代 弁さ C :「 頭 の 上 の 方 だ け 髪 の 毛 を 切 り す ぎ た か ら 。」 せ皆で考える。そうすることで、 T:「 聞 い て み る よ 。・・・・・ 違 う ん だ っ て 。な に 児童全員に安心感を与え内面を なに、うん。うん。そうだね。みんな笑うか もしれないから恥ずかしいんだって。みんな 笑 わ な い で 聞 い て く れ る か な あ 。」 ( 全 員 で う な ず く 。 真 剣 な 様 子 に な る 。) - 20 - さらけ出しやすくする。 C :「 毛 が 抜 け た ん じ ゃ あ 。」 ◆ 相 手 の 立 場 に 立 ち 、あ た T :「 聞 い て み よ う か 。・ ・ ・ ・ ・ ・ カ ツ タ 君 、 髪 の 毛 が 」 たかい気持ちで発言を 抜けたから?だれも笑わないと約束したから言って 聞 く こ と 。他 の 発 表 を 聞 ご ら ん 。」 いても冷やかしたり笑 カ ツ タ 君 :「 う ん 。」( 小 さ く う な ず く ) ったりしないというこ C :「 へ え 。」( 口 々 に ど よ め く ) とを確認する。 C :「 な ん で 。」 「なぜ、髪の毛が抜けたと思う?」 ◆ 実は、好きな女子の名前 (しばらく沈黙) を言いふらされたストレ C :「 ス ト レ ス か ら 髪 の 毛 が 抜 け た ん じ ゃ な い で す か 。」 スから円形脱毛症になっ T :「 へ え 。 な ん で そ う 思 っ た の で す か ? 」 ていたことを伝える。 C :「 だ っ て 、 前 、 テ レ ビ で 見 た こ と が あ り ま す 。」 T :「 じ ゃ あ 、 カ ツ タ 君 に 聞 い て み よ う か 。」 カ ツ タ 君 :「 ・ ・ ・ ひ そ ひ そ ・ ・ ・ 授 業 者 に 話 す 。」 ◆ 推理した児童や、相手の 立場になって聞きカツタ ( 授 業 者 と パ ペ ッ ト の 対 話 の 様 子 を 、真 剣 に 見 入 っ て い 君との約束を守った学級 る 児 童 。手 遊 び し て い た 児 童 も 、い つ の ま に か 、授 業 全員を誉める。以後の展 者 に 引 き 込 ま れ て い る 。) 開に生かす T:「 み ん な 、 ○ ○ 君 の い っ た と お り な ん だ っ て 。 ◆ カツタ君の心の変容を促 知 ら な い う ち に 髪 の 毛 が 抜 け て た ん だ っ て 。み ん な に 見 した優しい発言や態度 ら れ る の が は ず か し か っ た ん だ っ て 。」 をとりあげ認め励ます T :「 カ ツ タ 君 偉 い ね え 。 よ く 言 え た ね 。 そ し て 、 み ん な も よ く 約 束 を 守 り 真 剣 に 聞 い て く れ た ね 。」 T :「 じ ゃ あ 、 帽 子 を 脱 ご う か 。 み ん な 、 も う 笑 わ な い よ ね 。 だ れ か カ ツ タ 君 を 励 ま し て 。」 こ と で 、学 級 全 体 に 安 心 して発言できる雰囲気 を学級全体にさらに浸 透させる。 C :「 笑 わ な い よ 。 恥 ず か し が ら な く て も い い よ 。」 C :「 カ ツ タ 君 頑 張 っ て 。」「 安 心 し て い い よ 。」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 中 略 )・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ エ 授業場面2 ○ 養護教諭による自作のデジタル教材での説明 ◆カツタ君の映像をもとに、 ○ 自分の体験を振り返る なぜ円形脱毛症になった C: 「運動会の時緊張しすぎて本当におなかが痛くなりまし の か 。そ の メ カ ニ ズ ム を 具 た 。 ト イ レ に 何 回 も 行 き ま し た 。」 体的に説明した。 C:「 小 さ い 頃 、 注 射 が 嫌 で 、 お な か が 痛 く な り ま し た 。」 ◆心と体がつながっていろ C: 「 何 か 忘 れ た け ど 悩 ん で い て 、あ く び が 出 て 気 分 が 悪 く という実感がもてるよう な り ま し た 。」 ・・・略・・・ に 、で き る だ け た く さ ん の T: 「 だ れ か 、カ ツ タ 君 に 今 日 学 習 し た こ と を 使 っ て ア ド バ イスしてくれる人」 体験を発表させる ◆ 単なる授業感想ではな C:「 悩 ん で い な い で 先 生 に 相 談 す る と い い よ 。」 く、学んだことを活用し カ ツ タ 君 :「 う ん 。 あ り が と う 。」 てカツタ君に手紙を書く - 21 - C: 「イライラするときやむかつくときは直接その人に言え という設定で授業を振り ば い い よ 。」 返る。ワークシートに手 T:「 そ う だ ね 。 そ う す る と 病 気 に な ら な い か も ね 。」 ◆ 紙を書かせ発表させる。 カ ツ タ 君 :「 … … 」 ( う つ む い て い る 。) ◇ 心と体が密接に関係して い る こ と が わ か る 。( ワ ークシート) ◆ ストレスへの対処の仕方 やその必要性に触れた 発 言 を と り あ げ る 。次 時 の学習に生かす。 図 1 9 〈前に出てカツタ君にアドバイスする児童〉 T:「 あ れ 、 カ ツ タ く ん ど う し た の か な 。」 C:「 … … あ あ 、 言 い 返 せ な い ん じ ゃ な い で す か 。」 T:「 そ う か な あ 。 じ ゃ あ ど う し た ら い い か な あ 。」 C:「 む か つ く と き は 外 に 出 て 遊 ぶ と い い よ 。」 … … 図 2 0 〈次時の板書計画〉 ◇ 学習したことを生活場 面で生かそうとしてい る 。( ワ ー ク シ ー ト ) ④ 本実践の考察 ア 犬 の 写 真 、パ ペ ッ ト を 用 い た 寸 劇 は 、予 想 以 上 に 反 応 が よ く 、児 童 の 興 味 を 引 い た 。 特に、学級で当時最も関心のあった男女間の話題をもとに創作した寸劇は、児童の共 感を得、スムーズに本時の学習に入ることができた。さらにまた、心と体がつながっ ており、本学習が深刻な問題としてとして受け止められるきっかけとなった。 イ パペットが、悩み病気になってしまったという設定にし、原因を皆で考えたり、皆 の前では言いにくいことやそのつらさや恥ずかしさに共感させたり、どうしたら本音 で発表しやすくなるかを皆で考えたりした。また、落ち込んでいるパペットにアドバ イスをする場を設けた。これらの活動を通して、児童一人一人に自分を客観視させる こ と が 容 易 に な り 、「 悩 み 等 を 発 表 し て も 笑 わ な い こ と 」「 悩 み が あ っ て も い い と い う こ と 」「 安 心 し て 発 表 し て い い と い う こ と 」「 悩 み 等 を 皆 の 前 で 発 表 す る こ と は と て も 勇気が要るが、素晴らしいということ」等の暗黙のルールや安心感を学級に浸透させ ることができた。授業終盤では自分の体験談を生き生きと発表する児童が増えた。 ウ パ ペ ッ ト も 観 衆 の 一 人 と し て 説 明 を 聞 く と い う 設 定 で 、養 護 教 諭 が 心 と 体 の 関 係 を 、 自作のデジタル教材を用いてわかりやすく説明したことで、それが、すんなりと理解 された様子であった。 エ 「 悩 ん で い る カ ツ タ 君 に 何 と ア ド バ イ ス す る の か 。」「 ど う し た ら カ ツ タ 君 の 悩 み が 解 消 す る の か 。」「 ど う し た ら よ か っ た の か 。」 と い う 問 い を 児 童 に も た せ た こ と で 、 資料1からもうかがえるように、 「 ど う に か し た い 。」と い う 切 実 な 思 い が 読 み と れ た 。 ま た 、「 だ れ か に 相 談 す る 。」「 直 接 相 手 に 思 い を 話 す 。」 等 の 対 処 法 も 出 さ れ た 。 次 時 - 22 - で扱う「ストレスマネジメントスキル」の必要性を考える契機となった。 【 表 1 】「 授 業 終 末 に 記 入 し た カ ツ タ 君 へ の 手 紙 」( 一 部 原 文 を 省 略 ) … … 私 も 、友 達 関 係 で い っ ぱ い 悩 ん だ よ 。お な か が い た く な っ た り 、熱 で た り い ろ い ろ だ れ だ っ て あ る と 思 う よ 。今 も い っ ぱ い な や ん で る よ 。… … 私 も 今 な や ん で ご は んが入らないんだ。いっしょだね。元気出して。 私 は 、不 安 だ っ た と き は 手 足 に 力 が 入 ら な か っ た け れ ど 、友 達 と 仲 良 く 遊 ん だ ら な お っ た よ 。カ ツ タ 君 も 毛 が ぬ け ち ゃ っ た け ど そ れ は 心 の 病 気 み た い な も の 。薬 つ け て も な お ら な い け ど 、そ の み ん な に 自 分 が い や だ っ て う ち あ け た ら す っ き り し て ス ト レ スはなくなると私は思うよ。だれかを好きになることははずかしいことじゃないよ。 頑張ってね。 先 生 に 相 談 し た り み ん な に 、ス ト レ ス の こ と を い う と み ん な も な っ と く す る と 思 う よ 。… … ぼ く も 緊 張 や 不 安 に な っ た と き 足 が 動 か な か っ た り 、ふ る え た り し た よ 。イ ラ イ ラ や ス ト レ ス を な く し た 方 が い い よ 。薬 を 使 っ て も な お ら な い と 思 う か ら 自 分 自 身でもなおすといいよ。がんばってね。 ぼ く も 、そ ん な こ と が あ っ た よ 。で も だ い じ ょ う ぶ 。先 生 や お う ち の 人 … … 相 談 す れ ば い い よ 。自 分 で 心 の と び ら を 開 け て み よ う 。カ ツ タ 君 の 場 合 い じ め の ス ト レ ス が 出 た の か も し れ な い よ 。も う い じ め ら れ た こ と は わ す れ て 、新 し い カ ツ タ く ん に へ ん しんしよう。 (文責 2 濱本 泰平) 中学校の実践「課題曲を楽しく、お腹の中から合唱しよう!」 (1)第1学年 ① 音楽 ( 平 成 19年 11月 実 施 男 子 18人 女 子 20人 ) 実践のねらい 本学習は、1年生の音楽科授業に養護教諭が専門的立場で参加した授業 である。数ヶ月後に校内での合唱コンクールを控えているが、成長期の1 年生の中には、変声期を迎えて、合唱を苦手とする生徒もみられる。 そこで、この中学1年生の時期に、不安な気持ちをもっている生徒を保 健面から支援し、ライフスキル教育を取り入れることで、一人一人が自信 もって合唱に参加できるのではないかと考えた。さらに「合唱コンクール で入賞したい」という同じ目標のもとに、それぞれの生徒がお互いのよさ を 認 め 合 い 、そ し て 学 級 の き ず な が 深 ま る 機 会 に な る こ と を め ざ し て い る 。 ② 実践のポイント ア 養 護 教 諭 が 専 門 的 立 場 で TTと し て 参 加 し 、 生 徒 の 学 習 意 欲 を 高 め る 。 (図 2 1 ) イ 二次性徴の時期で、変声期を迎えている生徒もいるため、一人一人の生徒に配 慮し、発声への抵抗や不安感を緩和できるようにする。 ウ 腹式呼吸の正しい習得は、発声方法や心の健康にも役 立つことを理解してもらう。 エ 授業での個人目標設定と自己評価、およびパート練習 の相互評価を行い、授業の充実を図る。 ③ 実践 ア 実践の留意点 図 2 1 TT 授 業 の 様 子 - 23 - ○ 生徒全員が楽しく参加できる体験や学び合いの授業を工夫する。 ○ 変 声 期 や 腹 式 呼 吸 に つ い て 教 材 を 工 夫 し 、満 足 感 を 感 じ る よ う に す る 。 ○ 変 声 期 は 、個 人 差 が あ る こ と を 伝 え 、不 安 感 の 大 き い 生 徒 に 配 慮 す る 。 ○ 音楽の本授業でライフスキル教育の重要性が実感できるようにする。 イ 学習で付けたい力と手立て 音楽の授業の中で、みんなが楽しく、自信 をもって歌えるためには、一人一人のセルフ エステイームを高める手立てが重要である。 そこで、まずセルフエステイームの要素 である「独自性の感覚」「有能性の感覚」 「きずなの感覚」の3つの視点で、支援や 手立てを整理してみることにした。 本授業では、生徒の不安を解消し、合唱コ ンク―ルへの意識を高めて、学級の絆づくり 図22 授業最後の合唱 につなげたいと思う。 独自性の感覚 有能性の感覚 きずなの感覚 ○ 声 帯 の 状 態 に 合 わ せ て 、 自 分 ○ 心 か ら 歌 う 歌 声 は 、素 晴 ら し ◎ 学 級 の か け が え の な い らしく歌うことができる。 いと満足することができる。 ○ソプラノやアルトそれぞれの 一人として、自分のパー ト の 責 任 を 果 た す こ と パ ー ト が 、 自 分 の 楽 譜 を 正 確 ○ 変 声 期 で も 、腹 式 呼 吸 を 上 手 に ができる。 に、自信をもって歌うことが しながらうまく歌うことがで ◎ 合 唱 の 喜 び を み ん な で できる。 きる。 共 有 し 、合 唱 を 通 し て き ずなを実感できる。 【支援・手立て】 【支援・手立て】 ・変声期には個人差があり、一人 【支援・手立て】 ・変声期や腹式呼吸について ・「 合 唱 コ ン ク ール で 優 勝 一人発声が違うことを科学的に の教材を工夫する。特に変声 し よ う ! ! 」の 目 標 を 生 理解させる。 期で悩んでいる生徒の不安 徒に意識づける。 を緩和する。校歌や課題曲の ・一 人 一 人 の 歌 声 が 響 き 合 ・歌声を聴いて、タイミングを逃 さず誉める。 ・ソプラノ、アルトとそれぞれ パート練習を重ね、パートご との歌声を披露することで、 意味を理解させ、強弱などの い 、み ん な の 気 持 ち が 一 歌い方を正確に学ぶように つ に な る 感 動 で き る 場 する。 を確保する。 ・本時の学習が、今後心の健康 ・ パ ー ト リ ー ダ ー が 中 心 に 音の違いを確かめるようにす ( ス ト レ ス マ ネ ー ジ メ ン ト )に な っ て 、そ れ ぞ れ の パ ー る。 も役立つことを学ばせる。 ト の い い と こ ろ を 伝 え るようにする。 ③ 授業の流れ 生徒の反応および評価 主 な 教 師 の 支 援 ( 発 問 ) T1、T2 T1: 「 今 日 は 、 保 健 の 先 生 と 授 業 をします。楽しみですね。」 S:「 あ れ ! ! 今 日 の 授 業 、保 健 の 先 生 が い る 。」 S: 「 い つ も と 違 う 授 業 に な る の か な ~ 。 」 - 24 - T2: 「 合 唱 は 、 み ん な の 力 が 結 集 してできるものです。変声期を ◆ 音 楽 の 授 業 な の に 、保 健 の 先 生 が い る の が 不 正しく理解して、よりよい発声 思議に思っている生徒もいたようである。 に つ い て 学 習 し て も ら い ま す 。」 ◆ 変 声 期 に つ い て は 、 関 心 の あ る 生 徒 が い た 。 T 1 :「 早 速 で す が 、椅 子 に 横 に な って腹筋をしましょう。」 □ 腹筋の支援(机間指導) S: 「 最 近 、 音 楽 の 時 間 に 腹 筋 す る け れ ど 、 な ぜだろう!!」 S: 「 体 育 と 同 じ ? 」 T2: 「 音 楽 の 授 業 な の に 、 な ぜ 腹 筋をしたのかな?」 □ 意外性で授業意欲を高める。 □ 腹筋が腹式呼吸と関係してい ることを実感してもらう。 T 2 :「 人 間 の 呼 吸 に は 、横 隔 膜 の 上 下運動が関係しているよ。」 □ 息 を 吐 く と き 、吸 う 時 の 体 の メ カニズムについて模型図を用 いて説明する。 T 2 :「 横 隔 膜 を 意 識 し て 、腹 式 呼 吸 ◆腹式呼吸を理解している 生徒は、数名であった。 横隔膜の働きについては、 知らなかった生徒が多く 図23 教材 驚いたようである。(図23) S: 「 息 を 吐 く 時 も 吸 う 時 も 肺 の 収 縮 だ と 思 っ て い た 。横 隔 膜 が 肺 を 押 し た り 、下 げ た り し て 呼吸をしているのだ。」 ◆ 正しい呼吸法について学んだ後の呼吸をみる を 練 習 し て み よ う 。腹 式 呼 吸 は 、 と 、自 然に お 腹 を 手で 押 さ えて 、まる で 横 隔膜 ス ト レ ス 解 消 や 集 中 力 UPに も 効 を 意 識 し て い る よ う だ っ た 。い つ も の 校 歌 と 比 果がありますよ。」 べて、少しだけ力強さが感じられた。 S: 「 腹 式 呼 吸 っ て 、 歌 だ け じ ゃ な く て 、 い ろ ん な T 1 :「 で は 、校 歌 を お 腹 の 中 か ら 歌 ってみよう。」 T 1 :「 さ あ ~ こ れ か ら 課 題 曲 に 入 り 時に役立つことを知った。何か得した気分。」 ~生徒の個人目標設定~ S: 「 早 く 歌 詞 を 覚 え て し ま い た い 。 」 ます。それぞれ本時の到達目標 S: 「 音 を 外 さ な い よ う に 歌 う 。 」 は、立てていますか?」 S: 「 ソ プ ラ ノ に 影 響 を 受 け な い よ う に 。 」 □ 課題曲をパートごとに分かれ て練習し、その後披露する。 S: 「 大 き な 声 で 歌 う 。 」 ~パート別相互評価~ (図24) S: 「 ソ プ ラ ノ の 人 は 、 T1: 「 ア ル ト の 人 は 、 ソ プ ラ ノ の 人 にコメントを。そして、ソプラノ の人は、アルトの人にコメントを 伝えてみましょう。」 T2: 「 今 日 の 発 声 の 調 子 は 、 ど う ですか?高い声が出しにくい人 はいませんか?」「当たり前の ことだから大丈夫だよ。恥ずか しっかり音が取れて声 も出ていたと思う。」 S: 「 ア ル ト も 音 が 外 外れていなかった。」 S:「 ○ ○ 君 が い つ も よ り 図24 パート練習 上 手 に 歌 っ て い た 。」 ◆男子数名が恥ずかしそうに手を挙げた。 (この生徒達の不安が取れますように・・・) しがらなくて。」 □「変声期」について、科学的に 正しく理解してもらう。 - 25 - T2: 「 み ん な は 声 帯 の 場 所 が ど こ にあるかわかりますか?」 「変声期は、性ホルモンが咽頭 粘膜に影響して、声帯が2~3 倍大きくなる生理的現象の一つ です。」 □ 変声期における男女の声の下 がりをピアノで表現する。 T1: 「 一 般 的 に 男 子 は 、 1 オ ク タ ーブ、女子は、2音半程声が下 がると言われています。」 T2: 「 音 の 下 が り に は 、 個 人 差 が あるからね。一人一人違うから 心配しなくていいよ。」 □ 声帯の大小による声の響きの 違いをペットボトルで教材を 図25 教材 図 2 6「 声 帯 ど こ か な ? 」 S:「 分 か る と こ ろ か ら い く と ・ ・ ・ ま ず 肺 → 口 腔 → 横隔膜→気管→声帯 あ っ そ う か 食 道 も あ っ た 。」 ◆ 横 隔 膜 は 学 習 し て い た の で 、割 と 分 か っ た よ う で あ る 。 呼 吸 器 中 心 だ っ た の で 、食 道 が 最 後 に な っ て し ま っ た 。 ~ピアノの音 男子の場合~ ◆ピアノで学級の男子生徒の名前を1オクターブ下げて 呼 ん だ 時 、ま た 女 子 生 徒 の 名 前 を 2 音 半 下 げ て 呼 ん だ 時 、 男女ともにどよめいた。 作 成 し 、 確 か め て も ら S:「 女 子 は 、 わ か り に く か っ た は ず よ 。」 う。・・・・・・・・・・ S:「 そ う か 。 心 配 し な く て い い の だ 。」 ア ペットボトル・・上半身 S:「 安 心 し た 。 異 常 じ ゃ な か っ た 。」 イ 蓋の下の部分・・のど S:「 他 の 人 と 違 っ て い て も い い の が わ か っ た 。」 ウ ゴム風船・・・・声帯 □声帯の部位に穴を開けて、変声 期前の小さい風船と変声期を迎 え た 大 きい 風 船 に息 を 吹き か け 、音 の 振 動 や 響 き を 実 験 す る 。 図27 声帯の教材 図28 性ホルモンの影響 ○小さい風船→小さい声帯 ◆最初は、教師の方でそれぞれに息を吹きかけ、声の響 ○大きい風船→大きい声帯 き を 確 か め た が 、次 に 、希 望 の 生 徒 に 実 験 し て も ら っ た 。 ※声帯の大きさと咽頭部のスペー スが関係している。 T1: 「 課 題 曲 を 正 し い 呼 吸 法 で 、 そして、横隔膜を意識しながら 歌ってみよう!みんなの声が響 き合うように!!」 T1: 「 皆 さ ん 、 今 日 の 授 業 は ど う でしたか?目標は達成できまし たか?誰か感想を!」 T2: 「 変 声 期 の こ と や 腹 式 呼 吸 に ついて理解できましたか?体に S:「 え っ わ か り に く い ! 」( 図 2 7 ) S:「 耳 を 澄 ま せ て 聴 い て み よ う 。」 S:「 風 船 が 大 き い 方 が 、 あ ん ま り 響 か な い ! 」 ◆ 風船が小さい方が音の響きも大きいことを実際に確 か め る こ と が で き た よ う で あ る 。つ ま り 、風 船 の よ う に 声 帯 が 大 き く な っ た 場 合 は 、高 い 声 も 出 し に く い こ とを納得していた。 S:「 自 分 の 声 帯 の 状 態 で 、 無 理 をしないで、自分なりにお腹 の中から声を出しながら、精 ついての不安も緩和し、 一 杯 歌 え ば い い 。」 みんな自信もって歌っていまし S:「 と に か く 、 横 隔 膜 を 意 識 た。声が出にくい人への思いや り、パートごとの団結、 し て み よ う 。」 図29 教材 S:「 今 日 は 、 変 声 期 の こ と を 保 健 の 先 生 か ら 詳 し く - 26 - 他者への励ましなど、人とのか 学んで安心しました。声が出にくい人にも温かい かわりで育まれます。みなさん 声 か け を し た い と 思 い ま し た 。」 は合唱を通して、学級の絆も深 めたと思います。 これらの 学 び (ライフスキル)は 、 自 分 を 高 め る 重要な学習です。 S:「 僕 は 、 今 、 声 が 出 し に く い け れ ど 、 必 ず 安 定 し てくると聞きました。のどを乾燥させないように し て 、 無 理 し な い よ う に し て い き た い で す 。」 S:「 だ い ぶ 、 み ん な が 本 気 で 歌 っ て く れ る よ う に な り ま し た 。 他 の 人 の 、 励 ま し は 嬉 し か っ た で す 。」 S:「 歌 を 歌 う 時 、 横 隔 膜 を 意 識 し な が ら 歌 っ て み た いと思いました。いい声が出るように。学級が同 じ 目 標 に ま と ま っ て い く 気 が し ま す 。」 ◆合唱コンクールに向けて、これから本格的な練習が始 まる時だったので、意欲的に授業に参加できていた。 ④ 実践のふりかえり ア 生徒の自己評価から 本 時 で は 、「 変 声 期 や 腹 式 呼 吸 に つ い て 正 し く 理 解 で き る 。」こ と を 一 つ の ね ら い と し た が 、 図 1 よ り 変 声 期 に つ い て 81.5%、 腹 式 呼 吸 に つ い て 7 4.4%の 生 徒 が 概 ね 理 解 し て い る こ と が 分 か っ た 。 視 覚 的 教 材 、 特 に 実 験 が できるペットボトル人形は、生徒の関心が高かったようである。 「 変声期」 と 「 腹式呼吸 」 の 理解度( %) 80 50 60 40 変声期 18.5 20 16.2 20 2.6 0 0 5 4 3 0 0 2 1 変声期 31.5 50 18.5 0 0 腹式呼吸 16.2 61.2 20 2.6 0 図30 イ 61.2 31.5 腹式呼吸 授 業 に お け る「 変 声 期 」と「 腹 式 呼 吸 」の 理 解 度 生徒の授業感想より (一部原文を省略) ・変声期のことがよく分かった。変声期とは、声が低くなるだけと思っていたけれど、 実際は、性ホルモンの影響で声帯が大きくなって、発声に影響していることを学ん だ。すごい。 ・腹式呼吸を上手にすると、いい歌声が出やすくなることがわかった。みんなで、呼 吸法に気 をつけると、クラスの合唱がまとまってくると思った。欠席の人にも教 えてあげたい。 ・変 声 期 を 迎 え て い る 人 と 迎 え て い な い 人 が い て 、色 々 だ け ど 、声 が 低 い か ら と 言 っ て 文 句 を 言 わ ない。 ・変声期で悩んでいる人がいたら、無理に声を出さないようにやさしく励ましてあげたと思う。 ・この学習を合唱の練習に生かし、良い成績を残せなくても、一生懸命取り組もうと思う。 以上から、本学習を通して、特に変声期への関心と理解度が高まった生徒が多い ことがわかった。また、他者への思いやりの気持ちや自信が感じられ、授業後の活 動に生かそうとしていることもわかった。 エ セルフエステイームの3要素の観点から ○ 「 独 自 性 の 感 覚 」・ ・ ソ プ ラ ノ と ア ル ト に 分 か れ 、 自 分 の 声 帯 の 状 態 に 合 わ せ て 自分らしく歌っていいんだという自信がうかがえた。 ○ 「 有 能 性 の 感 覚 」・ ・ 腹 式 呼 吸 を 用 い て 発 声 す る 歌 声 が 、 今 ま で と は 違 う 歌 声 に - 27 - なっていることを満足している生徒が増えた。 ○ 「 き ず な の 感 覚 」・ ・ パ ー ト リ ー ダ ー の リ ー ダ ー シ ッ プ が う か が え た 。 リ ー ダ ー の 指 示 で 生 徒 同 士 が 素 直 に 練 習 に 参 加 し て い た 。校 歌 合 唱 の 際 は 、表 情 も よ か っ た 。変 声 期 中 の 生 徒 に 温 か く 接 し た い と 書 い た生徒が何人もみられた。 オ おわりに 音楽は、発声を通して自己表現したり、他者と音を通じてコミュニケーションし たりするなど、ライフスキル教育の基本的要素が多く含まれていると思う。授業の 中で、生徒がお腹に手を置いたり、腹式呼吸を意識しながら歌う姿をみて、学級の 絆と合唱の素晴らしさを改めて感じさせられた実践であった。 (文責:福富 敦子) Ⅵ 考察 1 小学校の実践 (1)2年「まほうのことば」の実践 実際に起こり得る生活場面を想定し、冷たい言葉をかけた場合と温かい言葉をか け た 場 合 の 結 果 の 違 い を 予 測 さ せ 、「 ま ほ う の こ と ば 」 の 素 晴 ら し さ を ロ ー ル プ レ イ 等 で 実 感 さ せ る 授 業 で あ っ た 。さ ら に 、独 自 の ま ほ う の 言 葉 を 実 践 で き る よ う に 、 「チャレンジカード」で授業後も継続して評価を行った。アンケート結果からも、 ま ほ う の 言 葉 を か け ら れ た 場 合 の 児 童 の 気 持 ち が 、「 安 心 し た 」「 ホ ッ ト し た 」 な ど 互いに安心感、信頼感を自覚していることがうかがえた。さらに、相手を心地よく できたという自信を育む場も設定した。そのことで、子どもたちは「いっぱいした い な 。」「 カ ー ド が な く て も や り た い 」 と 表 現 す る 等 、 学 習 し た こ と を 日 常 場 面 で 実 践しようとする意欲がうかがえた。 (2)3・4年「見方を変えよう」の実践 事前に「秘密の友達」の実践を行い、他者に肯定的に評価されたときの気持ちを 体験的に十分味わわせた上で、少人数グループでの参加体験的学習を展開した。そ こ で は 、「 走 る の が 遅 い 」 と い う 表 面 的 で 否 定 的 な 見 方 か ら 「 苦 手 な も の で も 一 生 懸命」というような、努力の過程や内面にある向上心に目を向ける等、中学年なり の肯定的な見方が自然な形で引き出され、見方を変えることの良さが学級全体に共 有 さ れ た 。 さ ら に 、 自 分 が 気 づ か な い 自 分 の 良 さ に 気 付 き 、「 … … 今 日 よ り も も っ と い っ ぱ い 良 い と こ ろ を 見 つ け た い で す 。」 な ど 、 以 後 の 行 動 化 を 予 感 さ せ る よ う な感想が得られるなど、独自性の感覚や有能性の感覚、さらには、学級集団の信頼 関係の深まりが感じられた。 (3)5年「心と健康」の実践 本 実 践 後 、心 の 健 康 度 の 低 か っ た 児 童 の 、自 己 効 力 感 と 不 安 傾 向 の 項 目 に お い て 、 著しい向上がみられた。これは、導入ゲームや学習形態、身近な教材等の工夫が行 われたことで、自由な雰囲気の中で安心して自分の思いや考えを発言できる授業展 開がなされた証しであると考える。さらにまた、授業後の感想やアンケート結果か ら、本実践は、ストレス対処スキルと対人関係スキルの育成に主眼を置きつつも、 友達と協力して学習する楽しさを提供したり、独自の対処法に気づかせ、実際の生 活で「実行しよう」という意欲を持たせたりする等、絆の感覚や有能性の感覚、自 分らしさに気付く独自性の感覚を向上させる契機となり得たことがうかがえる。 (4)5年「心と体のつながり」の実践 - 28 - 担 任 外 の 二 人 に よ る TT の 授 業 で あ っ た 。 ま た 、 授 業 者 と パ ペ ッ ト と の 対 話 形 式 で授業が展開されたことで、授業後の感想や授業中の対話からうかがえるように、 児 童 は 意 欲 的 に 学 習 に 参 加 し 、真 剣 に 学 習 課 題 に つ い て 考 え た 。特 に 、パ ペ ッ ト( カ ツタ君)の悩みを学級全体で考えアドバイスする場面では、相手の立場に立ち共感 的 な 優 し い 言 葉 を か け て い た 。以 後 の 活 動 に お い て も 、児 童 も 、内 面 を さ ら け 出 し 、 安心して自分の体験や考えを発表していた。このことから、体験を発表できた自信 や、発表したことを共感的に受け止められたことからくる互いの信頼感、皆似た体 験をし、同じような悩みをもっているんだという安心感等が高まったといえる。一 方 、 パ ペ ッ ト の 思 い に 共 感 し 、「 悩 み や 不 安 を 小 さ く し て あ げ た い 。」 と い う 思 い を 引き出す工夫をしたことで、ストレスに対処する方法を自然に考えることができた。 2 中学校の実践 変声期を迎えた生徒も存在する中学1年生という発達段階において、人前で歌った り、堂々とクラス合唱に参加したりするためには、生徒一人一人のセルフエスティー ムを高めることが重要になってくる。なぜなら、個人差や男女差を認め、自分らしさ を表現できる学級の雰囲気や、さらには、各パートを構成する一人一人が責任を自覚 し て 、他 者 と の 信 頼 を 得 な が ら 演 奏 を 創 り 上 げ て い く 必 要 が あ る か ら で あ る 。そ こ で 、 本 実 践 で は TT と い う 授 業 形 態 を と り 、 養 護 教 諭 の 立 場 か ら 、 変 声 期 の 声 帯 の 変 化 や 腹式呼吸のメカニズムを自作の教具を用いて分かりやすく説明した。そのことで、生 徒 か ら 、「 声 が 出 し や す く な っ た 」「 声 が 低 い か ら と い っ て 差 別 し な い 」 な ど 、 歌 う こ とへの自信や、違いを認め友達の演奏を尊重しようとする意欲が感じられるような感 想を得ることができた。 Ⅶ 成果と課題 1 成果 (1)仮説1の検証 セルフエスティームの3つの構成要素を、授業づくりの「3つの視点」として展 開 を 工 夫 し た 。ま た 、指 導 の ポ イ ン ト を 明 確 に し て 授 業 に 臨 ん だ 。さ ら に 、授 業 後 、 3つの視点やポイントにしたがって授業を振り返った。その結果、通常の授業にお いても、授業形態や教材・教具の工夫をすればセルフエスティーム向上が可能であ ることや、他のライフスキル形成と平行してセルフエスティームが高められること が明らかになった。よって仮説1は、検証されたものとしたい。 (2)仮説2の検証 また、小学校中学年から、中学生まで、それぞれの発達段階に即してセルフエス ティーム形成の指導を試みた。ここでも、3つの視点を踏まえた授業構成・支援・ 評価という一連の指導が有効であることがアンケート結果や授業後の感想から明 らかになった。このことは、今後セルフエスティームを育成していくための授業内 容や授業方法を探る上で、大きな手がかりとなった。よって、仮説2も検証された ものとしたい。 (3)仮説3の検証 単元の導入や授業の導入において、身に付けたいライフスキルの必要性を実感さ せる教材・教具や展開の工夫を行った。その結果、これまでどちらかというと受け 身 に な り が ち で あ っ た ス キ ル ト レ ー ニ ン グ 指 導 が 、「 … … 兄 ち ゃ ん と 喧 嘩 し た と き 実 際 に 深 呼 吸 を し た ら 落 ち 着 き ま し た 。」 な ど 、 進 ん で ス キ ル を 活 用 し よ う と し た り、実際に活用したりしたというように、現実場面でのスキル活用を促す学習とな り得た。よって、仮説3も検証されたといえる。 - 29 - 2 課題 (1)より客観的な評価をすることで、質の高い実践が可能となる。よって、今後は、 セルフエスティーム定着の度合いを、より客観的な尺度を用いて計測し、実践に 活かしていきたい。 (2)セルフエスティームの3つの構成要素は個々バラバラに存在するのではなく、 互いに関連し合いながら高まっていくものと考えられる。よって、今後は、三者 の関係性や発達段階を踏まえた指導の適時性などの課題を、多くの教科や学年で 実践を重ねて明らかにしていきたい。 (文責:濱本 泰平) おわりに 近年、自尊感情、セルフエスティームという言葉は、生徒指導や特別支援教育、人権教 育、道徳教育などの教育雑誌や教科の授業研究会などでも聞かれるようになりました。そ の重要性が教育現場で認知されつつあることの現れだと思います。しかし、研究会やワー クショップの際に、先生方から「その時はとっても楽しそうに活動するのですが、同じ問 題 の 繰 り 返 し で す 。」 と か 、「 自 己 主 張 す る こ と ば か り で は な く 、 が ま ん す る こ と も 大 切 で は?」などの疑問や意見をいただくこともありました。よって、セルフエスティームの本 質やその育成の手だてが十分理解されておらず、言葉だけが先行しているような感想を持 ちました。 一 方 、本 研 究 会 は 、 「 心 の 健 康 」に 関 心 の あ る 有 志 が 、毎 月 1 回 の 研 究 会 と 、年 に 1 回 の ライフスキル教育ワークショップ開催を中心に9年間活動してきました。ここ数年では、 「 い じ め や 不 登 校 問 題 の 解 決 」・「 特 別 支 援 教 育 に ラ イ フ ス キ ル 教 育 が ど の よ う に 生 か せ る か」等をテーマにして研究してきました。研究を続ける中で、これらの教育課題の解決の ためには、セルフエスティームの育成が重要であることが実践的に明らかになりました。 例 え ば 、 学 校 で 「 周 り と う ま く 関 わ れ な い 子 」「 い つ も 先 生 に 注 意 さ れ る 子 」「 虐 待 を 受 けている疑いのある子」…これらの子どものセルフエスティームは著しく低いという結果 も明らかになりました。これらの子どもをはじめ、学校の児童生徒一人一人のセルフエス ティームを少しでも向上させたい。このような強い願いから、校種や職種を問わず実践研 究を続けてきました。その研究の一端を昨年度に続き本年度も論文にまとめることにしま した。 拙い研究ですが忌憚のないご指導をお願いします。 〈参考文献〉 ・小学校学習指導要領解説(総則、体育科、学級活動、音楽科) ・中学校学習指導要領解説 (総則、音楽科) ・心の健康と生活習慣に関する指導 ・ WHO ラ イ フ ス キ ル 教 育 プ ロ グ ラ ム ・実践 ソーシャルスキル教育 文部科学省 WHO 編 大 修 館 書 店 図書文化 - 30 -