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知の知の知の知 - 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会

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知の知の知の知 - 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会
い~な
あまみ
中 央
しらさぎ
さくら
大阪+知的障害+地域+おもろい=創造
知の知の知の知
社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所情報誌通算 670 号 2012.1.27 発行
==============================================================================
日経ビジネスで連載されている「社会起業家の『障害者支援ビジネス』」
。今回は大阪でお
なじみのインサイトさんが登場します。じっくりお読みください。【kobi】
月給わずか 1 万 3000 円。障害者の賃金アップを支援 NEWSED PROJECT+地域作業所
hana/インサイト--施設経営にビジネス手法を持ち込む
高嶋 健夫
日経ビジネス 2012 年 1 月 26 日
月額約 1 万 3000 円。これは地域の小規模福祉作業所(いわゆる授産施設)で働く障害者
が得ている工賃の平均金額として、障害者福祉の専門家の間で広く定着している数字であ
る(厚生労働省調査などによる)
。このあまりにも低い賃金水準は大きな社会問題になって
おり、障害者自立支援法施行後、国も「工賃倍増計画」を打ち出すなど懸命にテコ入れを
図っているものの、なかなか改善していないのが現状だ。
法制度の制約など様々な要因が指摘されているが、施設経営という面から考えると、そ
もそも「ビジネス的な視点に欠けている」ことが最大の問題点と見る専門家は多い。もっ
と有り体に言えば、売れる商品が少なく、売る仕組みができていない。長い間、
「障害者福
祉」と「市場メカニズム」との間に大きな溝が存在していた、ということである。
そこで今、障害者支援を志す社会起業家の間で、ビジネスノウハウを持ち込んでそのギ
ャップ解消を図ろうという挑戦が始まっている。市場で受け入れられる魅力的な商品を開
発したり、継続的に販売していく流通の仕組みを構築したりすることによって、授産製品
の売り上げを伸ばし、施設で働く障害者の賃金を引き上げようという取り組みだ。
特定非営利活動法人(NPO 法人)の NEWSED PROJECT(ニューズド・プロジェクト、
東京・千代田区)は、廃材を活用したファッショナブルなアクセサリー、日用品の独自ブ
ランド「NEWSED(ニューズド)
」を立ち上げ、その製作を千葉県木更津市にある「地域
作業所 hana(ハナ)
」に発注している。NEWSED のプロデューサーである青山雄二副理事
と hana の筒井啓介代表はともに 31 歳。2 人の社会起業家は理念を共有する「ビジネスパ
ートナー」として、強い連帯感で結ばれている。
東日本大震災で被災した東北地方の障害者施設の支援に乗り出した社会起業家もいる。
障害者雇用や福祉事業所経営に関するコンサルティングを専門とするインサイト(大阪市
西区)の関原深社長だ。2011 年 5 月、障害者支援に関わっている 7 つの企業、NPO 法人
などと協力して、被災地の授産製品を販売する全国的な応援ネットワークを作り、施設経
営や障害者の収入確保を長期的に下支えしようという「ミンナ DE カオウヤ」プロジェク
トをスタートさせた。
2 つの取り組みに共通するのは、様々な経営資源を持つ企業・団体、専門家、そして消費
者を幅広く巻き込み、持続可能なビジネスモデルの構築を目指している点だ。旧来型の障
害者福祉の枠組みを乗り越えた、全く新しい「社会起業家主導の障害者支援スキーム」が
ビジネス社会の中で少しずつ形作られつつある。
作業所製品をファッショナブルなブランドに
「NEWSED」とは“new”と“used”を組み合わせた造語。一口で言えば、エコロジー
と障害者支援を結びつけた社会貢献型のオリジナルブランドだ。コンセプトは「古くなっ
てしまったものを新たな視点で見ることで、別の新しいものとして蘇らせる」。
原材料には、不要品などの廃材や生産現場で発生した端材などを活用。商品デザインに
は新進気鋭の若手プロダクトデザイナー集団を起用し、製造は障害者施設に発注する。販
売はウェブサイトでのネット通販のほか、有名セレクトショップなど全国各地の専門店を
ネットワーク化するとともに、環境関係のイベント、百貨店の催事などでも随時販売する
--基本的なビジネススキームはそんな仕組みになっている。
現在扱っている主な商品は、
(1)英字新聞を使用したおしゃれなトートバッグなどの「新
聞バッグ」
、
(2)店舗で使われていた什器の色柄付きアクリル板を再利用したピアス、バッ
ジなどのアクセサリー類、
(3)学校のいすの背板や天板を再利用したハンガーやダイニン
グテーブル、
(4)東京ドームなどで使われているテント生地の廃材を使った書類ホルダー、
(5)自動車のシートベルトを再加工した蝶ネクタイ--などで、いずれ劣らぬ独創的なリ
サイクル・リユース商品がラインナップされている。
販路は現在約 60 店舗。ウェルカム(東京・渋谷区)が展開する雑貨店チェーン「George's」
の全店舗、原宿の「on Sundays」
、青山の「BOOK246」など全国各地の有名ショップが名
を連ねる。
「NEWSED」の商品デザインは、若手プロダクト
デザイナー集団が手掛けている(写真提供:
NEWSED PROJECT)
これら商品企画・開発から販路開拓、マ
ーケティング、販促プロモーションまでブ
ランド管理の一切を手掛けているのが、運
営母体である NEWSED PROJECT だ。
NPO 法人ながら、
「株式会社の一事業部門」
として産声を上げたユニークな出自を持つ。
“親会社”は、セールスプロモーション
(SP)会社のケンエレファント(東京・千
代田区、石山健三社長)。同社は海洋堂(大
阪府門真市)のフィギュアをおまけに付け
たペット飲料の販促キャンペーンを初めて展開したことや、同社製高機能フィギュア「特
撮リボルテック」シリーズの企画・販売を手掛けていることなどでオタク族の間ではよく
知られた SP 会社だ。
NEWSED PROJECT は同社の社会貢献事業部門として立ち上げたもので、2009 年春か
ら本格的に活動をスタート。本業が SP なだけにブランディング戦略はお手の物。たちまち
有名ファンション誌やライフタイル誌、デザイン誌などで取り上げられ、様々なイベント
やショップへの出品要請が相次ぐなど実績を上げる。そして事業推進体制が固まったとの
判断から 2011 年 9 月に本体から分離し、NPO 法人として独立した。現在も理事長を石山
ケンエレファント社長が務め、事務所は同社のオフィス内に置いている。その意味で、ケ
ンエレファントの一部門である点は変わらないが、収益管理面での独立性を明確にし、社
会貢献事業であることをより鮮明にしたということであろう。
「新聞バッグ」を通じて出会った社会起業家
「NEWSED」の企画を社内提案し、現在も総合プロデューサーの役割を担っているのが、
副理事の青山雄二さんだ。もっぱら「デザイン性の高いリサイクル商品」という側面がメ
ディアなどで脚光を浴びている同ブランドだが、
「実は、障害のある人たちの就労環境をど
うやったら改善できるか。私たちにできることは何かを考えたのが出発点なんです」とブ
ランド立ち上げの経緯を打ち明ける。
青山さんは 1980 年川崎市生まれ。帝京大学卒業後、大手自動車ディーラーに入社。そこ
で新車の販促キャンペーンといった SP 活動に携わったが、思うところあって 1 年半で同社
を退社し、約 1 年間、バックパッカーとして海外放浪生活を体験。帰国後の 2006 年、もう
一度 SP の仕事に打ち込みたいと考え、ケンエレファントに入社した。
入社後は大手ビール会社とコンビニ店チェーンの協賛販促キャンペーンを手掛けるなど、
希望通りに大きな SP の仕事を担当し、充実した毎日を送っていた青山さんが、障害者支援
の仕事に転身するきっかけとなったのは社員研修だった。社員啓発の一環として、石山社
長が「障害者福祉からビジネスパーソンが学べること」をテーマにしたセミナーに参加す
ることを勧めたのだ。
「それ以前は、障害者との接点は全くなかった」が、セミナーで関心
を持った青山さんはその後、いくつかの福祉作業所を視察して回った。
そこで初めて障害のある人たちと交流し、
「温かくて楽しい時間を持つことができた」が、
それと同時に、作業所で働く障害者の低賃金の実情を知り、愕然とする。
「みんなごく普通
に働き、まじめで器用に仕事をこなしているのに、月数千円とか、1 万円程度しかもらって
いない。これは絶対におかしい、僕らで何か方法を見つけ出さなければならない」と強い
憤りを覚えたという。
海外放浪旅行で発展途上国の最貧困層の実情を目の当たりにし、いつか社会貢献活動に
も挑戦したいという想いは持っていた。だが、「もっと身近なところに、やるべきテーマが
あることに気づかされたんです」と青山さんは語る。
こうして、以前から構想していた「廃材を再利用したモノ作りを広げ、それを SP 用の販
促品に使う」というアイデアを発展させて、製品作りを障害者施設に発注するというビジ
ネスモデルに仕立てたのが「NEWSED」の始まり。2009 年 4 月に代々木公園で開催され
た「アースデー・トーキョー2009」に初参加し、ここで第 1 弾商品となる「新聞バッグ」
を都内のある福祉作業所に発注して販売。続いて、サーフボードに塗った樹脂剤を再活用
した「サーフアク
セサリー」などユ
ニークなリサイ
クル商品を次々
と商品化してい
った。
共同作品である新聞
バッグを手にする青
山 雄 二 ・ NEWSED
PROJECT 副 理 事
(左)と筒井啓介・
地域作業所 hana 代表(撮影:高嶋健夫)
そんな中で出会ったのが、木更津市にある障害者の通所施設「地域作業所 hana」だった。
2009 年の年末、まだ活動開始から 1 年ほどしか経っていないこの作業所が、NEWSED が
最初に手掛けたのと同じ「新聞バッグ」を独自に製作・販売していることを知った青山さ
んは木更津に足を運んだ。聞けば、筒井啓介代表は同い年で、出身地もお隣の横浜市とい
う。施設を見学し、じっくりと話し合う中で、青山さんは「hana の製品のクオリティーの
高さ」と「筒井代表の起業家マインドの確かさ」にすっかり共鳴し、次の大きな仕事を hana
に発注することを決断する。
それは、翌年の「アースデー2010」で販売する新聞バッグ 1000 枚を一括製作してもらう
という仕事だった。hana にとってはこれだけの大量受注は初めてで、しかも正式発注から
わずか 2 カ月程度しか製作期間がなかったが、何とか無事に納品することができた。この
最初の取引を通じて、2 人の間には「ビジネスパートナー」としての信頼関係ができあがっ
た。
青山さんは「今は NEWSED のパートナーは hana さんしかいないと思っています。きち
んとした生産管理ができる hana さんは、もはや NEWSED の製作部門としてなくてはなら
ない存在になっています」と力説する。現在では新聞バッグだけでなく、アクセサリーや
家具など他商品の最終アセンブルや検品工程も hana に発注するようにしているという。
一方の筒井さんも「モノは作れても、売り方がわからない私たちにとって、安定して仕
事を出してくれる NEWSED は理想的なパートナー。青山さんのすごいところは『作業所
の商品だからと言って、付加価値の高い確かな商品なのだがら、決して安売りしてはいけ
ない』というポリシーを曲げないこと。その分、品質のチェックは厳しいですが(笑)、そ
れはビジネスなんだから当然。いつも教えてもらうことばかりです」と全幅の信頼を寄せ
ている。
「企業に就職できない障害者が働く場所」を地域に作る
hana は、JR 木更津駅から徒歩で 10 分ほどのところにある。1 階は発展途上国から輸入
した衣料品、民芸品などフェアトレード商品や hana のオリジナル商品などを販売するショ
ップで、2 階が作業所になっている。訪れたのは 2011 年 12 月末。NEWSED 向けの年内最
後の出荷を控え、新聞バッグの製作が急ピッチで進んでいた。
2008 年から木更津市内で活動を始めていたが、障害者自立支援法に基づく「就労継続支
援 B 型事業所」の認定を受け、現在地に移転した 2010 年 4 月に正式オープンした。「就労
継続支援事業所」とは、企業などへの就職が困難な障害者に就労の場を提供しながら、能
力開発や知識習得に必要な訓練を提供する福祉サービス施設。利用する障害者と雇用契約
を結び、原則として最低賃金を保障する「雇用型」の A 型、利用者がそれぞれの健康状態
や生活環境、希望などに合わせて通所シフトを自由に決められる「非雇用型」の B 型の 2
つのタイプがある。
hana の定員は 20 人で、現在は 60 人ほどが利用登録している。土日も無休で開設してお
り、週平均 3~4 日通所している利用者が多いという。障害別の内訳は精神障害が 7 割、知
的障害・発達障害が 2 割、身体障害が 1 割ほどで、年齢層は 20~30 代の人が中心。地元・
木更津市のほか、君津市、袖ヶ浦市など周辺市町村から通って来る利用者もいるそうだ。
hana での新聞バッグの製作風景。最終仕
上げ・検品工程を受け持っている 2 人が写
真撮影に応じてくれた(撮影:高嶋健夫)
新聞バッグの製作は新聞紙の切り
出し、のり付け、バッグ底部への補
強材(ボール紙)の封入、持ち手の
取り付けといった具合に 20 ほどの
工程に細分化され、それぞれの障害
者の適性に合わせて作業を割り振っ
ている。
“原料”である英字紙は大学
図書館などから不要になった古新聞
を提供してもらっているほか、ウォ
ール・ストリート・ジャーナル・ジ
ャパンも協力しているそうだ。
気になるのは工賃水準だが、筒井代表は「NEWSED さんの仕事がコンスタントに入るよ
うになって以降、大幅に向上しました。今では全国平均の倍以上の月 3 万円以上を受け取
っている利用者も数人います」と明言する。
その筒井代表もまた、ユニークな経歴を持つ社会起業家だ。「子供の頃は父親と同じ普通
のサラリーマンになるつもりだった」が、法政大学在学中にわが国社会起業家の先駆的存
在である片岡勝氏の「ボランティア論」を受講したことから人生が変わる。
「これからの時
代はサラリーマンになるのもリスクが高い。それなら自分で道を切り開いてみるのも選択
肢」と言われ、
「木更津で地域活性化を手伝ってくれる人材を求めている」という片岡氏の
勧めに応じて、縁もゆかりもない木更津にやって来たのだという。
2000 年 7 月には、まだ在学中の弱冠 20 歳にして「有限会社ネットビジネス」を起業。
地元のコミュニティービジネスの担い手である女性起業家や NPO 法人を育成・支援する仕
事を 10 年にわたって続けてきた。30 歳になり、それまでの仕事が一応の成果を上げたと考
えた筒井さんは「次の 10 年間に何をするか」に思いを巡らせた。そこで行き着いたのが、
「障害のある人たちの働く場作り」だった。
「企業に勤務できる障害者は、残念ながら限られています。どうしても企業勤めが難し
く、地域社会の中でしか生きられない人もたくさんいる。そんな人たちのための働く場を
作り、地域社会の一員として安心して暮らせるように支援していくことは、とてもやりが
いのある仕事だと考えました」と起業動機を説明する。
その言葉通り、hana は「来たい人は必ず受け入れる」という施設運営を貫いている。
「仕
事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせる」が、筒井代表のモットー。このため、
新聞バッグなどの物品製作のほか、加工食品製造、ショップ経営、農作業、メール便配達
など「非効率を覚悟で、希望する仕事を提供している」という。データ入力作業をする障
害者のために購入したパソコンの稼働率を少しでも上げようと、1 階のショップの一角には
数席しかない小さなインターネットカフェを併設す るなど、経営は楽ではないが、
「NEWSED さんのおかげで、何とかやって行けそうな手応えをつかんでいます」と笑顔を
見せる。
「ずっと、この仕事で楽しませてもらいます!」
それぞれに新しい事業を軌道に乗せつつある 2 人の社会起業家は早くも、新たな目標に
向かって「次の一歩」を踏み出している。
hana の筒井代表の次の目標は「新聞バッグに続く、第 2 の経営の柱を確立する」こと。
今一番力を入れているのが、近く正式発売予定の hana オリジナルの創作スイーツ「ポルポ
ローネ」の拡販だ。これは、高齢者・障害者に使いやすい商品づくりのためのアクセシビ
リティー調査などを手掛けるテミル(東京・港区、船谷博生社長)が展開している障害者
施設の経営支援のための「テミルプロジェクト」で誕生した。
同プロジェクトは、テミルの呼びかけに応じた有名パティシエが、オリジナルスイーツ
のレシピを施設ごとに提供する新商品開発プロジェクト。筒井代表によると、「hana のス
イーツは、船橋市の有名パティシエ、高木康裕さんが障害のある人でも味、品質を管理し
やすいやさしいレシピを考案してくれたもの」だそうで、「素材には、地元のマザー牧場の
乳製品を 100%使用しています」と PR に余念がない。
「これからも 1 つひとつの仕事を丁寧にやっていきたい」と静かに闘志を燃やす筒井代
表。
“第 2 の故郷”となった木更津を愛し、
「両親はおかげさまで地元の横浜で元気に暮ら
していますが、将来はこちらに呼び寄せ、面倒を見たいと思っています」と、この地に骨
を埋める覚悟を語っている。
一方の青山・NEWSED PROJECT 副理事は、NEWSED ブランドの経営基盤の強化に向
けて全力投球を続けている。NPO 法人として独立した初年度の年間売上高はおおむね 3000
万円程度を達成する見通しで、
「次年度は少なくとも 1.5 倍くらいに伸ばしたい」とさらな
る新商品開発や販売網の拡充に意欲を見せる。
自前で販売するオリジナル商品に加えて、ノベルティーグッズなど大手企業とのコラボ
商品の開発にも力を入れていく構え。すでに大手ワインメーカーからワインボトルを入れ
る縦長の新聞バッグを大量受注するなど、営業活動の成果も現れ始めている。エコと障害
者支援とデザイン性を同時に実現させた NEWSED 商品は、CSR(企業の社会的責任)活
動を推進する大手企業がタイアップするのにうってつけの“高付加価値商品”と言える。
それだけに、青山さんは「NEWSED には、商品が勝手に突き抜けてくれるようなポテンシ
ャルがあると確信しています」と言い切る。
インタビューの最後に「これからもずっと、この仕事で楽しませてもらいます」。そんな
独特の表現で、将来への夢と決意を語ってくれた。
被災地の施設を応援する「ミンナ DE カオウヤ」
東日本大震災で被災した障害者を支援する様々な取り組みが、全国各地で続けられてい
る。その中には、
「NEWSED」と同じように企業や NPO 法人などが連携して支援スキーム
を作り、被災地にある障害者施設を応援しようという大型プロジェクトも生まれている。
2011 年 5 月に本格的にスタートした「ミンナ DE カオウヤ」プロジェクトである。
持続可能な被災地支援を目指して「ミンナ DE カオウヤ」プロジェクトを
立ち上げた関原深・インサイト社長(写真提供:インサイト)
仕掛け人は、2007 年 9 月創業の障害者雇用関連の調査・コン
サルティング会社、インサイトの関原深社長だ。1971 年兵庫県
伊丹市生まれの 40 歳。神戸大学大学院自然科学研究科修了後の
97 年に三和総合研究所(現・三菱 UFJ リサーチ&コンサルティ
ング)に入社。主に MOT(技術マネジメント)面でのインキュ
ベーション事業を担当していたが、たまたま受け持った厚生労働
省の受託事業で障害者施設の経営の実情を知ったことが人生の
転機となった。
「作業所で働く障害者は悲惨なほどの低い賃金水準に置き去り
にされていますが、マーケッターの目で見ると、その要因は障害
者施設の多くがマーケティングを知らないから。障害者福祉にヒ
トの流れ、カネの流れを付け加えることができれば大きく伸びる余地があるはず、と考え
たんです」と、インサイトを起業した動機を語る。
つまり、障害者福祉サービスにビジネススキームを持ち込むことで、障害者施設の経営
改善やそこで働く障害者の収入増を実現できると考えたのである。
「シンクタンクには私以
外にも MOT や IPO(株式公開)の専門家はたくさんいます。自分には社会起業支援のほう
が向いていると感じたんですね」と笑う。
そんな関原社長は仕事柄、障害者やその家族・支援者の置かれた状況をよく知るだけに、
震災発生直後から「平時にも増して支援が必要なことはわかっているが、いったい自分に
は何ができるだろうか」と思い悩む日々が続いたという。そんな時に、愛知県半田市の社
会福祉法人「むそう」の戸枝陽基(ひろもと)理事長が「このままでは被災地の障害者の
仕事がなくなってしまう。障害者の困窮を救うためにも、今こそ授産製品を全国で売って
いく仕組みが必要なのではないか」とヒントをくれた。この言葉に触発されて企画したの
が「ミンナ DE カオウヤ」プロジェクトだ。
「ミンナ DE カオウヤ」プロジェクトが参加
したイベント会場の仮設店舗での販売風景
(写真提供:インサイト)
販売先や仕事を発注してくれる元請
け企業を失った被災地の福祉事業所と、
店舗やイベント会場などで被災地の製
品を売りたいと考えている全国各地の
企業・団体、NPO 法人、市民グループ
などをそれぞれ募り、その間の営業、
仕入れ、資金回収などの業務を簡潔な
「販売パッケージ」にしてインサイト
が仲介・代行するというのが基本スキ
ーム。関原社長らの呼びかけに対して、
まず積水ハウス CSR 室、NPO 法人み・
らいず、授産品セレクトショップのロハス王子など大阪、愛知、東京の 7 つの企業・法人
が協力を表明。2011 年 5 月、積水ハウスが提供した大阪・梅田スカイビル地下 1 階の店舗
スペースに“第 1 号店”をオープンし、本格的な販売支援活動が始まった。
その後、同プロジェクトに参加する被災事業所、支援企業は右肩上がりで増え続けてお
り、現在では 60 の被災事業所の計 313 アイテムを取り扱う一方、販売支援者は全国 28 店
舗に広がっている。販売活動を行ったイベントも累計 210 を数える。
「ミンナ DE カオウヤ」
のホームページにはその日までの売り上げ総額が大きく掲示されており、1 月 22 日現在で
「3221 万 1425 円」に達している。
本格的な立ち上げからわずか半年強でこれだけの売上高を達成したことは、経営規模が
総じて零細な福祉事業所にとっては絶大な支援効果をもたらしていると言って差し支えな
いだろう。関原社長は「趣旨に共鳴した人が参加しやすいビジネスモデルを作ることがで
きたのが成功の要因」と分析する一方で、「線香花火で終わらせてしまっては、一時的な義
援金と同じことになってしまう。少なくとも 3 年間は続けて、持続的なビジネスに仕上げ
ることが私たちの使命だと自覚しています」と継続支援への決意を表明している。
「定着率の向上」と「親亡き後の生活支援」が課題
ところで、
関原社長は自身も社会起業家であると同時に、障害者支援を志す起業家や NPO
法人、社会福祉法人の経営を指導・支援する“社会起業家 for 社会起業家”という立ち位置
にいる。
そんな専門家として、若い社会起業家による新しいタイプの障害者支援ビジネスが台頭
しつつある現状をどう見るかを尋ねたところ、「やはり、私の世代やそれ以下の若い世代の
間には、社会の中につながりや絆を求める傾向が強まっていることが大きな背景になって
いる。この世代には『みんなが等しく、楽しく生きられるように』という感覚が確かにあ
ると感じています」という答えが返ってきた。
「実際、
『ミンナ DE カオウヤ』の店舗運営を手伝ってくれている有償ボランティアの中
にも、被災地でボランティア活動を経験し、東京や大阪に戻ってきた大学生が多数参加し
ていますし、自ら支援活動を実践する参加型の取り組みは今後ますます活発になっていく
のではないでしょうか」と見る。
その一方で、今後の課題としては「継続的に支援していく息の長い仕組み作り」の必要
性を指摘する。
「例えば、就労支援について言うと、企業に就職した障害者の定着率をいか
にして引き上げていくか。障害者雇用数は年間 7000 人ほど増加していますが、内訳を見る
と、3 万人の新規雇用者に対して 2 万 3000 人の離職者がいる。定着率は未だに高くはない
のが現状なんです」
。
さらに、
「より長期的には、将来の離職後の生活をどうやって支えていくか。特に懸念さ
れるのが『親亡き後の生活支援』です。ここは福祉政策のエアポケットになっているとこ
ろで、国、企業、福祉事業所が連携してサポートしていく社会システムを早急に構築する
必要がある。若い社会起業家にも是非取り組んでもらいたい大きな起業テーマだと考えて
います」と語っている。
月刊情報誌「太陽の子」、隔月本人新聞「青空新聞」、社内誌「つなぐちゃんベクトル」、ネット情報「たまにブログ」も
大阪市天王寺区生玉前町 5-33 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所発行
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