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子ども・子育て支援新制度フォーラム in 広島 基調講演

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子ども・子育て支援新制度フォーラム in 広島 基調講演
■基調講演
演題
「子育て支援でひらく新たな未来」
榊原
智子
司会
氏(読売新聞東京本社
調査研究本部
主任研究員)
大変お待たせいたしました。それでは基調講演に移らせていただきます。
本日の基調講演は、
「子育て支援でひらく新たな未来」と題しまして、読売新聞東京本社
調査研究本部主任研究員、榊原智子様にご講演いただきます。
それでは、榊原様、よろしくお願いいたします。(拍手)
榊原
ご紹介どうもありがとうございました。あらためまして皆さん、こんにちは。東
京の読売新聞からまいりました榊原と申します。私は 25 年ほど新聞記者をしてきた者で
すが、先ほど角田企画官の話にもありました国の子ども・子育て会議というところに入ら
せていただいて、全国のこのシステムをどういうふうにしたらいいのかという議論を1年
半ちょっとほかの委員の皆さんと行ってきました。私自身は子どもは一人しかいないので
すが、もう高校生になってしまったんですけれども。一人の親として子育てにつまずいた
り、不安を抱えたり、仕事を続ける悩みを抱えたりといろいろあった中で、子育てをもっ
としやすい、安心して子どもが産めるような社会にしたい、そういうことを急いで進める
必要があるという想いを持っている一人の母親として、子ども・子育て会議に個人的な想
いも込めて参加させてもらっています。
今日は、国でいったいこの子ども・子育て新制度というものをどう考えているのか、私
は社会保障や子育てなどの取材を中心にやっている者ですが、メディアから見て、いった
いこの制度にどういう意味と課題があるのか、どう考えているのかということを、皆さん
にご報告したいと思ってまいりました。
冒頭で内閣府の角田企画官がおっしゃったように、消費税の 10%の引き上げが先延ばし
になりました。そのことを問う総選挙がこれから実施されるわけです。そのことで、実は
もう来年4月からスタートすることが決まっているこの新制度は、非常に不安と混乱が各
地で広がっています。本当は私は今日はここに来て皆さんと、とてもいいシステムが始ま
るんだ、ぜひもっといいシステムにするために、一緒に頑張りましょうというお話をした
くて来るつもりだったのですが、その前にいろいろな不安がまたちょっと出てきてしまっ
ている。それも含めて、みんなで前に進めていかなければいけないですよねとお話しなけ
ればいけなくなってしまったと。ちょっと残念ですが、子どもたちは元気に生まれてきて
くれる。その子たちが一人残らずよく育ってもらうためには、もっと子育ての環境を整え
る必要がある。待ったなしだと、だから進むしかないと、週末のこのような時間帯にこう
いうところに集まっていただく皆さんは、おそらく子育てにいろいろな意味で深い想いを
持った方たちだと思います。そういう方たちと想いを共有して進んでいけたらと思ってい
ます。
この子育ての新しい制度については、
お手元の資料の中にも説明資料が入っているので、
今日は私はシステムについて細かいことを説明するよりは、なぜこういう形のものが導入
されたのか、そして、そこにどういう意味があるのかということを、大きくお話しする必
要があると思っています。
まず、お持ちしたのが、これは国のグラフですが、合計特殊出生率という出生率の推移
が、1950 年から最近に至るまで、主だった国々の中でどう推移してきたのかということを
一覧に表したグラフです。この一番太い実線が日本の数字ですが、それ以外に、G7、G
8といわれる主要国の国々を拾っています。この中で、一番最初、左の 1950 年、つまり
第二次世界大戦が終わった頃は、どの国もみんな合計特殊出生率が2以上、つまり1人の
女性から平均2人以上の子どもが生まれているということで、お父さんお母さんの2人か
ら2人の子どもが生まれれば人口は維持できる。それ以上の子どもが生まれていて、社会
にはたくさん子どもがいた。日本を見て分かるとおり 3.8 ぐらい、かなりの子どもが生ま
れるベビーブームの時代でした。それが 1970 年代になると、どの国も出生率が低下し、
2.0 を切った。2.0 を切ったところから少子化の国といわれますので、どの国も少子化にな
っていたわけです。
ところが 1980 年代、90 年代からさまざまな違いが出てきました。さまざまな違いとい
うのは、それぞれの国で、これではまずいと子育て支援を強化したり、もしくは 70 年代
ぐらいから、いろいろな国で女性の社会進出、働く女性が増え始めていました。そういっ
た状況に対応して保育を増やしたり、ベビーシッターを増やしたり、それぞれの国でやり
方は違ったのですが、いろいろな試行錯誤が始まった。その結果、見ていただいて分かる
のが一番右端のところの違いです。一番上のほう、つまり 2.0 のところに、イギリス、フ
ランス、スウェーデン、アメリカという国々は収斂していて、2.0。少子化ではもうない。
少子化を卒業する国々として上のほうにあります。
一方、下のほうに日本も含めてずっと下がってきて、ちょうど 1.4 あたりに収斂してい
る、少子化がいつまでも改善できない少子化グループの国々。これがドイツ、日本、イタ
リア、さらにもっと低い韓国などなどの国です。つまり、合計特殊出生率の今の状況、少
子化の状況というのは、先進国の中でも二極化しています。すでに少子化を卒業し、そん
な心配がなくなった国々がこれだけある。つまり、少子化をめぐって日本で今もいわれる
のは、豊かになった国では、先進国では少子化は仕方がないのだというある種の神話があ
るのですが、それは実は間違いである。とっくにそんなことは過去のものにしている国が
結構あるということが分かるわけです。
これは、国立社会保障人口問題研究所という人口の国のシンクタンクのところでお作り
になっているグラフですが、では少子化が戦後長く続いてきた結果、今日本がどうなって
いるのか、また、今後どうなっていくのかということを、人口全体の数字をデータにして
表したものです。これは非常に古く 1880 年、つまり江戸時代の末期、明治の近代化が始
まった頃から現代、ちょうど真ん中に太い線がある、あのあたりまで来ているところなの
ですが、そこまで人口の全体がガーッと右肩上がりに増えてきた。私たちはちょうど今て
っぺんのあたりにいるわけですが、これから未来が右側のほうの、ずーっと山が急カーブ
で下がっていく。これがこれからの日本、人口減社会になった、人口減の時代を迎えたと、
最近メディアでもしきりに言うのが、この右側のほうの状況に足を踏み入れ始めたという
ことを指しています。
このグラフが面白いのは、中が3層の色分けになっているところです。一番下のところ
が年少人口、0歳から 14 歳までの子ども人口、真ん中が 15 歳から 65 歳までの中学が終
わってから働き始めるということで、15 歳以上の、支えて働き盛りといわれる世代がどれ
ぐらいいるのか。人口学では生産年齢人口と呼びます。その人たちがどれぐらいか。そし
て一番上の紫のところ、65 歳以上の高齢層がどれぐらいいるのかということを示したもの
です。
日本は今、高齢者が 25%、世界トップを切って、高齢者の比率が最も多い国になりまし
た。でも、左側を見ていただいて分かるのは、ここでこういう難しい話をする大人世代は、
もうちょっと左側のあたりで生まれているわけです。パッと見て分かるのは、高齢者がま
だまだ少ない時代、そして何よりも違うのは、子どもの人口が総人口の中で、3割、4割
を占めていた時代に私たちは生まれて育っています。
それが今どうか。今の実数としても、
子どもは 13%、12%ぐらい。つまり2割を切っている。10 人に1人も子どもがいない社会
になっている。それが右側、さらに未来になるともっと減っていくということがいわれる
わけです。
人口減少の、右のほうに移行してくる中で、まずもって国やメディアなどが騒ぐのは、
高齢者が増えてしまう。高齢化がどんどん進んでまもなく総人口の3割、そして 2060 年
ぐらいには4割、10 人に4人が高齢者になるという、人類がかつて経験したことのないよ
うな、すごい高齢者の多い社会になってしまう。これをどうしよう、年金もたないよねと
いうことが、しきりに議論されるわけですが、実は問題の根源はそこではありません。そ
こではなく下のほう、見ていただいて分かるように、子どもが9%、10 人に1人も子ども
がいないような異様な社会になります。日本はご存じのとおり、もっと左のほうにずっと
長く歴史があって今に至っているのですが、かつて一度もそんな異常な人口構成になった
ことはありません。子どもはいつも3割、4割ぐらいいました。高齢者は1割もいなかっ
た。
それが今度、まるで高齢者と若者の比率がちょうどひっくり返ったような状況になる。
そういう人口構造がかつてなくいびつになった中で、かつ総人口が急激に減っていく。20
世紀は人口がたった 100 年で3倍に増えたという異常に増えた時代です。これからの 100
年は全くその逆のことが起ころうとしています。つまり 100 年で3分の1に減る。ものす
ごい変化が起きます。その中で、やたら増えていく高齢者、私もそちらのほうに入ってい
くわけですが、やたら増える高齢者をどうしようか。その中で圧迫されそうな子どもたち
をどう育てていくのか。それが私たちにまさに問われています。
そして、今私たちはトップなんですね。トップというのはジェットコースターに乗った
感覚でいえば分かると思いますが、一番上にいるときは無風状態、ちょうど静止状態に近
いときで、あまり変化を感じない。けれどもそれが下り坂にさしかかって、ガターン、ガ
ターン、ガタンガタンガタンと速くなっていくと、あっという間にスピードがついて、も
のすごい変化の中に取り込まれていく。これからそういう変化が始まります。
ですから、冷静に、子どもたちの状況はこれでいいのか。私たちは人口減少の、この社
会の在り方をこのままにしておいていいのか。冷静に議論し、変えようという努力をする
ことができるのは、おそらくこれから5年、10 年ぐらい、せいぜいそれぐらいの余裕しか
ないのではないか。そういう危機感を私は持って、今の子どもの政策の議論に加わってい
ます。
もっと長期で見たときのグラフがこれです。
これを見て分かるのは、平安時代からある、
これも人口学者の方がお作りになったグラフですが、より未来の、2400 年というところま
で広げて将来を見たときに、実は日本にはそこまでの未来がないということが示唆されて
います。日本は同じように出生率が低いドイツやイタリアと全然違うのは、島国で国境管
理が厳しい。つまり外国から人が入って来にくい。この島国の閉ざされた中で、ほぼ日本
人だけで生活している中で、人口がどうなっていくのかというのは出生率でかなり正確に
読み通せるわけです。それをグラフに載せてみるとこうなる。私たちは限りなく国全体が
消滅に向かって今、猛烈なスピードで進もうとしている。合計特殊出生率が日本は今 1.43
です。1.4 というのは、2人の男女から 1.4 人の子どもしか生まれない。つまり、30 年ぐ
らいで一世代が交代していくとしたら、30 年ごとに 70%、70%、70%という縮小再生産が
永遠に繰り返されていくということです。出生率を上げない限り、一人の女性が産むお子
さんの数がもっと増えない限り、この未来を変えられない。もしくは大量に外国人の方に
来てもらうという選択肢ももちろんあるわけですが、今のような日本人中心で運営してい
くこの社会の在り方では、こういう未来になる。
では、もうちょっと社会全体がどうなるのかということを分かりやすく表したグラフが
これです。これも人口学者の方にいただいたグラフですが、人口ピラミッドというものを
小学校で習ったときには、私の時代などはピラミッド形、正三角形のものでした。一番下
の、0歳で生まれる子どもが一番多くて、高齢者にしたがってずっと減っていく。日本も
そういう形でした。途上国は今もそうです。ところが、先進国では寿命が延び、高齢者層
がどんどん増えている中で、今だいたいどこの国もちょうちん型や釣鐘型という形になっ
ています。ところが、日本ではまもなく、これは未来の数字、15 年先なので、下のほうが
まだ起きていない未来なのですが、起きていない未来が、実はこんなにやせ細っていくと
いうことが予言されているわけです。
ただ、そのやせ細り方が出生率によって違うということを示してくれているのがこのグ
ラフの面白いところです。一番中側のくびれができている一番細いラインは、おそらく出
生率が一番下がってもこれぐらいだろうと人口学の方々が推定している、出生率 1.12 の場
合の数字です。真ん中のラインが 1.35、たぶんそれぐらいに推移していくのではないかと
いう、一番起こり得る数字と見られています。一番外側のちょっと太めのところが 1.6、
ちょっと回復したらこのくらい行くかもしれないという推計の数字です。
出生率の数字が 0 点いくつと、ちょっと変わっても大して変わらないと私たち素人は思
いがちですが、見ていただくと分かるように、未来の子どもたちが生きていく時代には、
かなり違いがあります。ちょっとでも努力すれば、こんなに違ってくる。たとえばフラン
スにしてもスウェーデンにしても、先ほどのグラフで見て分かるように、実は出生率が 1.6
であったり、1.5 であったりという時代があったのです。それが 20~30 年で、今 2.0 まで
戻っている。日本に出生率の未来が変わることができないと決め付ける必要は全くないと
思います。
ただ、今の出生率が低い状況をそのままにしておくと、今度は 50 年ぐらい先、2060 年
にはこんな社会になっているということが予言されています。こんな時代に、消滅可能性
自治体ということが今いわれています。もう維持できなくなる自治体、放置されるコミュ
ニティや集落が全国で相次ぐであろうといわれていますが、集落やコミュニティの単位で
はなく国全体が消滅する事態にいくのではないか。こんな社会が年金制度も医療制度も介
護制度も維持できるわけがない。おそらく私はもうとっくにフェイドアウトしていると思
いますが、この頃の大人から未来の子どもたちに向けて発することができるメッセージが
あるとしたら、たとえばこんな社会を捨てて、生き延びられるような国に行きなさいと言
ってあげたくなるような日本ではないかと、悲しいけれども、そういう気がしています。
こんな未来をそのままにしてはいけないということで、国もいよいよ乗り出したのが、
消費税の 10%への引き上げと子育てへのテコ入れという、今度の子ども・子育て支援新制
度です。2012 年の夏に、税と社会保障の一体改革という言われ方で、テレビでも新聞でも
たくさんのニュースが流れたので、皆さんもご記憶にあるかと思います。税と社会保障の
一体改革の中に、この子育て支援の改革もあったのですが、いったい何だったのかという
ことをざっとおさらいすると、当時5%だった消費税率を8%、そして次に 10%と、合計
5%分も倍増させて、年間 13.5 兆円という大きなお金を全国で捻出しよう。そのお金を社
会保障全体、そして子育てにも使おうということが、与野党、自民党、公明党そして当時
の政権与党だった民主党で合意した改革でした。
税収の使い方というのは、実はそれまで消費税は高齢者にしか使っていなかったのです。
高齢3経費という、
「年金」
「老人医療」
「介護」に使おうというのが、竹下政権当時からの
合意だったので、そこにしか使っていなかったものを、初めて「子ども」もそこに入れて
あげるということで、今、社会保障4経費、もちろん社会保障の中には生活保護であると
か、いろいろなほかの福祉であるとか障害者への支援などが入っていますが、実はメイン
の、身分の高い大きな制度としてあるのが、年金、医療、介護です。そこにようやく子育
ても4つ目の柱として入れてもらえることになった。子育ての世界では夜明けといわれる
ような大きな変化が、この一体改革で約束されたということがあったわけです。
そのとき同時に成立したのが、子ども・子育て支援3法という、新制度の中身を決めた
法律です。大きな枠組みだけをご説明すると、学校に入る前の幼児期の教育と、保育と、
地域での子育て支援を総合的に、これまでは文科省、保育は厚労省、子育て支援も厚労省
というふうにバラバラだったのですが、それを一体的に、一つのお盆の上に載せて、全員
できちっとバランスよく見ていくという施策の盛り付け方を変えて、内閣府を中心に、ほ
かの関係省庁も一体になって連携して進めていく。子育ての世界で縦割りバラバラだった
ものを束ねるような変化が起きました。
その中身の特徴は大きく挙げて、
この4つではないかと思います。子育て支援の施策を、
私たち国民に一番身近な市町村が責任をもってコーディネートしていく。今ちょうど各地
の子ども・子育て会議で、5年分の事業計画を作っている最中だと思いますが、それを市
町村でやっていく。その中に子どもの関係の施策は全部取り込むということが決まりまし
た。今まではそうではなかった。たとえば私立幼稚園、民間の幼稚園は入っていませんで
した。民間の幼稚園は実は都道府県から直接補助があり、都道府県が指導監督し、私立幼
稚園は都道府県に向かって仕事をしていたわけです。保育所は市町村だったので、実は保
育園と幼稚園の間に交流がなかった。市町村と幼稚園の間にかなりよそよそしい関係があ
った。それが今度変わります。国の子ども・子育て会議もそうですが、制度始まって以来、
半世紀以上経って、初めて幼稚園と保育園と子育て支援の関係者が一つのテーブルについ
て、一緒にどうしようという議論が初めて始まりました。各地の子ども・子育て会議もそ
うだと思います。
実は、私も子育てをしてきて感じたのですが、幼稚園に行っているご家庭と保育所に通
っているご家庭と、地域で一緒に子育てしているご家庭なのに、非常に分断があると。そ
れはどこで起こっているのかというと、2つの施設類型が違っていて、独特の価値観がそ
れぞれにある中で、お互いに、ライバル心ではないですが、
「あちらと違う」という意識形
成がそれぞれの施設に通う中でできていて、小学校に行くと地域の子どもたちみんなが一
緒になったはずなのに、何となくちぐはぐ感が残ってしまう。一番最初のグラフで見てい
ただいたように、今子どもの数が猛烈に減っていって、子育て家庭が地域の中で孤立して
います。子どもの世界が分断している余裕がないのに、子どもの世界がいまだに、親たち
も分断されているような状況が、制度によって起きています。
それが初めて一つにされる。
そういった変化も起きることが期待されているわけです。
また、費用も、社会全体つまり消費税で、みんなが出し合ったお金が子どもに来る。み
んな子育てを応援するということが、お金を通して実現する。そしてまた子ども・子育て
会議をあちこちで作る。地域ごとに、おらが村で、おらが町でいったいどんな子育てをし
ていきたいかということが、子どもに関わる子育ての捨ていくホルダーの人たち全員で話
し合って決めよう。そういったしかけも今度できたわけです。
そしてもう一つ、つい忘れがちなのですが、実はこの理念というものがとても大事だと
私は思っています。これが、子ども・子育て支援3法が決まったときに入れられていた理
念なのですが、すべての子どもに良質な成育環境を保障しよう。保障というのは大変強い
日本語です。行政が責任をもってそれをやらなければならないという義務を負う。そうい
う響きが入っています。そして、子どもと子育てを社会全体で応援する。そういった理念
がこの法律の中に込められています。子育てに関わる人たちは、おそらくもうこういう気
持ちで関わっておられる方がほとんどだと思います。なぜこんな当たり前のことを今頃言
うのかと思われるかもしれませんが、実は日本の児童福祉はこういう理念に立っていませ
ん。
日本の児童福祉は戦後まもなく戦災孤児、浮浪児、すごく困窮した貧困な家庭の、困っ
た子どもたち、困った家庭に絞って、税金での支援を行おうという非常に限定的な救貧対
策として始まっています。今でもその理念が変わっていないので、保育が全ての人が使え
るしくみになっていない。できるだけニーズが重篤な人だけに絞って提供しようとするか
ら、保育で足切りが起きるわけです。それが、保育所で行っていることは同じですが、理
念が変わることで今度、新制度の中で保育の在り方もがらりと変わります。つまり、保育
を必要とする人がいたら、その人たち全てに保育を提供しようというように変わるわけで
す。市町村でこれまで行っていたような足切りが行えなくなります。保育の必要性を測る
ものさしが全国一律で導入されて、保育の支援が認定されたお子さんたち、家庭の方たち
は全国一律の資格を得て、全国一律の認定証をもって、保育を堂々と使いにいける。そう
いう介護のような普遍的な制度に変わっていきます。
そういった中で、保育だけでなく幼児教育を使われる方、そして子ども園という幼児教
育・保育を一体で行っているような施設、そしてまた小規模な保育、いろいろな子育て支
援のニーズがある人たちに、あまねく必要に応じて支援を届けていこう。もちろんスター
トした当初はそこまではなかなかいかないけれども、その支援を走らせながら数年の間に
はそこまで持っていこう。そういうことを今、各自治体として国の担当者の方々も実現し
ようと猛烈に仕事をしてくれています。その根拠となっているのがこの社会保障の一体改
革の中で約束されていた消費税のお金の配分の仕方にありました。消費税を5%引き上げ
た中のうちの1%分を充実に使うということが約束されていて、そのうち医療や介護や年
金にも使うけれども、子ども・子育てに 0.7 兆円、つまり年間 7000 億円を使ってくれる
ということが約束されていたわけです。
では、それはいったい子育てにとってどんな影響があるのかということをもう少しマク
ロな視点から見たのがこちらのグラフです。このグラフは内閣府が毎年まとめている少子
化対策社会白書、少子化白書の中にも掲載されているので、ご関心があれば内閣府のホー
ムページからも見ていただくことができますが、日本の数字が一番左にあります。これは
各国が GDP、1年間に社会みんなで稼ぎ出したお金全体の中からどれぐらい子どもや家族、
子育て支援にお金を使っていたのか。社会全体の富の中からどれくらいを子どもに分配し
たのかということを示したグラフです。
一番左にある日本は、実はずっと長い間、1%にも満たず、0.8%ぐらいで推移してきて
いました。少しずつ子育て支援も増えていたのですが、GDP も増えている中で、ずっとだ
いたい 0.8%ぐらいだった。それが、もう少し子育て支援を強化しようと言った頃から 0.9%
台になっていたのですが、民主党が子ども手当てというものを導入するようになり、どん
とお金の投資方が増え、それがまた児童手当に戻ったりといろいろあったのですが、今ど
んどん増えていて、それが平成 25 年度、昨年度で 1.23%、ようやく1%の大台に乗るとこ
ろまできました。子ども・子育て支援新制度がスタートし、約束どおり消費税から 7000
億円がさらに追加で使われるようになれば、1.37%ぐらいになるのではないかと見られて
います。
では、それはほかの国に比べてどうなのかということを示したのがこのグラフです。一
番最初の出生率のグラフでちょうど二極化していたところの上のほうのグループです。フ
ランス、イギリス、スウェーデンが一番右のほうにあります。フランス、イギリス、スウ
ェーデンの数字を見てください。共通しているのはどこも3%以上なのです。2009 年とい
う少し前の数字ですが、それぞれの国が実は年々パーセンテージを上げています。2007
年や 2005 年のときのグラフを白書の古いバージョンを見ていただけば分かりますが、そ
のときにはフランス、イギリス、スウェーデンは3%ぎりぎりだったりしていたのです。
それは、どこの国も財政赤字、どこの国も失業率が高かったり不況だったり、みんな経済
で苦しんでいます。その中で、実は子どもへの投資は増やしているということが、こうい
ったグラフを見れば分かります。
たとえばイギリスやスウェーデンを見れば、まもなく4% の大台に乗るような勢いで増
やしています。何が日本と違うのか。それぞれの国の力の入れ方が違うのは、この色の大
きいところの違いがあるということで、見ていただければ分かると思いますが、保育にす
ごくお金を入れているところ、手当てにお金を入れているところ、スウェーデンのように
親の育休、親保険という独立した保険を作って、自営業の親でもどんな親でも、全員が給
料の8割ぐらいを受け取れるような、かなり寛大な給付を行っているのがスウェーデンで
すが、そこがかなり大きい数字になっていたり、それぞれの国によってアプローチは違う
のです。でも結果、3%を超えるような国々が出生率も 2.0%を超えるような、少子化を卒
業できる国になっている。それが共通点であるということが、ヨーロッパの人口学者から
指摘されています。
もう一つ共通点があると指摘されているのが、女性たちの労働力がどこも高いという数
字です。このグラフは縦軸が合計特殊出生率がどれぐらい高いかというところです。真ん
中のブルーにある点が、1.8 までは行ってないのですが、1.7 ちょっとぐらいの出生率まで
いけば、人口の維持としては安泰だというところで線が引かれています。この横軸は女性
がどれぐらい労働に参加しているのかという社会参加の率を表した軸です。実は 1980 年
代ぐらいまでどこの国でも、女性が働く国ほど出生率が低いということがありました。日
本では今もいわれています。少子化は女性が働くようになったためだということですが、
それは実は、直近ではもう先進各国は逆転しているのです。女性が働けば働く国ほど出生
率が高い。右肩上がりの相関関係があることが見て取れる。そういうことが確認されてい
ます。
その中で日本は、労働の参加率はそこそこ上がってはきていますが、出生率が低いとい
うことが分かるわけです。ドイツと日本の共通点は経済大国で、社会保障全体つまり年金
や医療などにはかなりのお金を割いているのに、保育が乏しいのです。それと女性が仕事
をし続けようと思ったら、結婚や出産をあきらめざるを得ないような状況が、実は職場と
保育の状況にある。女性が二者択一を迫られるような状況がある。それがドイツと日本の
共通項で、いまだにこんな状況になっているということが指摘されています。
私は 2007 年にフランスに取材に行ったのですが、その頃フランスが合計特殊出生率 2.0
を超えて、
「あの少子化で苦しんでいたフランスがベビーブーム?」ということで、すごく
注目されていました。私も「よし、見に行かなくちゃ」ということでフランスの田舎とパ
リへさっそく取材に行って、いろいろな方の話を聞いたのですが、そのときに、フランス
の子育て支援の政策の担当者の方、女性の方が胸を張っておっしゃっていたのが忘れられ
ません。私たちは女性の希望を全部かなえるための政策を、これでもかというぐらいやっ
てきました。仕事をしながら子どもを持ちたい。子どもを持ちたいならほしいだけの子ど
もが持てる。そういった社会にしようと、あれでもかこれでもかという政策を年々増やし
てきました。だから、出生率が 2.0 を超えた。だけど、隣のドイツを見てください。ドイ
ツでは仕事をしたい女性は、教育レベルが上がっているから増えているのに、子どもか仕
事かどちらかしか選べない。だからああなんですよね」とおっしゃっていました。
全く同じことが日本でも起きている。その方は分かっているけれども、礼儀正しい方な
ので、あえて私に直接はおっしゃらなかった。でも、その方はドイツをたとえにしておっ
しゃっていましたが、
「ドイツはあんなことをやっていて、まもなく年金ももたなくなりま
すよね」というご指摘でした。
先進国のこういった状況を見てきている社会保障の学者の方、人口学の学者の方々、政
府の関係の方々、皆さん分かっているわけです。少子化を放っておいたら国には未来がな
い。そして、女性がこれだけ教育を受け、社会参加を思うようになった時代は、その変化
に合わせて社会のシステムを変えざるを得ない。その中で、実は子どもも産みやすく育て
やすくなっていくのだ。そのためには当然お金も割かなければいけない。そういった状況
があるということが、先進国の中の共通の学びになっているということです。
つまり、日本も少子化でどうしよう、人口減でどうしようということを今、国も頭を抱
え、各地の自治体も、今お尻に火が付いた状況の中で、もう一段の取り組みをしようとい
う議論が始まっています。でも、考えたらやらなければいけないことは明確なのです。出
生率の葛藤をいち早く抜け出した 20~30 年の取り組みの中で、少子化を過去のものにし
てしまった国々の成功的な取り組みから、私たちは学べばいいわけです。実はもうグロー
バル化の中で、産業の状況も、家族の状況も、若者たちの雇用の状況も大変共通していま
す。固有のそれぞれの文化があるといっても、社会保障も年金も、介護保険もとても似て
います。そういった中で私たちは子育て支援の在り方も学ぶことがいろいろあるのではな
いか。そういったことが、それぞれの国に取材に行くと分かるというのが、私の実感です。
その中で、子ども・子育て支援新制度を国が始めると約束したその後から、実はもう一
段の少子化対策の議論が始まっているわけです。日本創成会議という民間のシンクタンク
が、人口減少対策の提言を今年の5月、6月に行って、大変なセンセーションを巻き起こ
したので、皆さんもお聞きになったかもしれませんが、日本では出生率の低さ、そして若
い女性たちが地域からいなくなって、首都圏に行ってしまう。こんな状況を放置しておい
たら、もう存続できなくなるような自治体、今、全国の自治体は 1700 ぐらいあるのです
が、半分ぐらいの自治体がまもなく消滅可能性自治体になってしまうというショッキング
なリストを、データを付けて発表されたので、全国の名指しされた首長さんたちは飛び上
がったわけです。薄々まずいなと気が付いていたそれぞれの議会も、これはまずいと、今
大騒ぎになっています。その中で安倍首相も、いよいよ国の最重要の課題として、人口減
対策に乗り出しますと。
「まち・ひと・しごと創生本部」というのを作って、もう一度あの
取り組みをしますと言い切ったわけです。そして、今の解散総選挙の中の大きな争点とし
て人口減対策というのが挙がっています。
実は少子化対策として長年議論してようやくスタートしようとしているのが、この子ど
も・子育て支援新制度、今日私たちが議論している新制度のほうなのですが、それが間近
にスタートするすぐ後ろから、もっと大きな波が、大津波のようにワーッと来ようとして
いるのが、実は人口減対策です。ただ、皆さん、考えてみるとお分かりになると思います
が、この第1弾の対策が、1弾目のロケットとして発射しようとしているこの瞬間に、で
も、消費税の財源が来ないかもしれないということが起きてしまっている。1弾目のロケ
ットが発射できないかもしれないという中で、今もっと大きな2弾、3弾ロケットの議論
をしているのです。
「おかしいじゃないですか。人口減対策とは何なのですか。あなたは子
育て支援について、本当に順を追って考えていますか?」ということを私たち、子どもや
子育てのことを真剣に考える者は、いま一度政治家に突き付けなければいけない。今そん
な時期です。
実は、政治家たちは子育て支援のことをよく分かっている方が大変少ない。市町村の中
で、子育てのことを身近に熱心にやっている方は別かもしれませんが、私がお目にかかっ
てきたベテランの政治家、とくにリーダーシップを持っているような年配の政治家の中に
は、子育てのことがちょっとお分かりでない方が多い。けれども、心配は皆さんしていま
す。そういう方たちに、現場はこんなに混乱していて、子どもを産みにくい、育てにくい
と思っている人がこんなにいます。私たちの町ではこうなんですということを、直接届け
てあげなければいけない。届けてあげるのに一番いいタイミングというのがあります。
政治家にとって国民の声に耳を傾ける時期、それは選挙期間です。今です。今、特に国
会議員に人たちは、猛烈に自分たちの選挙区を走り回っている。その人たちをつかまえて、
ぜひ訴えてください。皆さんが思っていらっしゃる子育ての課題を訴えていただきたい。
まずは、消費税引き上げを先延ばしにするのであれば、相応の、同じだけのお金を、どこ
から捻出するのでもいいから、子育て支援に関わっている人たちが困らないように、必ず
確保すべきでしょうと言ってください。その上の人口減対策ですよねということを、声を
揃えて言わなければいけない。そういう時期です。
最後にお見せするこの表は、人口減対策を議論している国の審議会が出したものです。
これは子どもに直接関係のない数字なのですが、実はこういった議論が今行われようとし
ているということを共有したくてお持ちしました。一番上にあるのは、女性が平均初婚年
齢、つまり結婚する年齢がすごく上がっている。一番左が日本ですが、平均 29.2 歳。結婚
する年齢がすごく上がっている。そして、一番最初の子どもを産む年齢も 30 歳とすごく
上がっている。だから子育てがすごく遅れちゃっているんだよね。結婚をもっと早くさせ
よう。早く産ませよう。そんな議論が実は国会でも自治体でも起きがちなのですが、見て
分かるのが、右のほうの、たくさん子どもが生まれている国々の結婚する時期も、子ども
を産み始める時期も、さほど違わないのです。やはり女性たちが高等教育を受けてから仕
事を始めるようになっている中で、どうしても結婚も出産も遅れがちになる。日本の問題
の本質はそこではないのです。実は下のほうにあります。
日本の長時間労働の割合が、右側のほかの国々に比べて、2倍、3倍ととても高いとい
うことが、この数字を見て分かります。また、父親たち、夫たちの家事、育児の時間が、
右側のほうの国々に比べて3分の1以下。そして、一番下の家族関係の、子育て関係の、
政府が支出するお金も、先ほどのグラフで見たようにはるかに小さい。実はこの下3つぐ
らいのところ。つまり働き方、お父さんとお母さんの家庭内での役割分担、そして社会全
体の応援の仕方、そういった大きな枠組みのところから変えないと、出生率の問題、子育
ての問題を解決できない。そういう気づきが、今人口減の議論の中で起き始めています。
チャンスなのです。
子どもや子育てのことで、お母さんやお父さんが孤立して苦しんでいる。その人たちに
頑張れ頑張れ、もっと頑張れ、もっと産めと言うだけではもうどうにもならないような状
況が、日本の子育ての現場で起きています。頑張らなければいけないのは、その人たちで
はなく社会の側だということを気づかせてくれるのが、この表です。
これ以上くだくだと私のほうから申し上げる必要はないと思います。この後シンポジウ
ムで、もっと幅広いいろいろな方たちの議論があると伺っています。日本は子どもが1割
もいないような社会になりつつあります。これはつまり、子どもが社会の中のマイノリテ
ィ、弱者になってきているということです。
最近、保育所を増やそうとしても、声がうるさい、子どもの声や子育てで集まってくる
親たちの声が騒音であるといわれています。これは実はすでに日本は、子どもを社会的な
弱者としてつまはじきにし始めている兆候の一つといえると思います。フランスでは少子
化を食い止めるのは、子どもに対する社会の免疫が落ちつつあるのを早く食い止める必要
があるから。そういった気づきももって取り組んでおられました。子どもは騒がしい、手
間がかかる。誰だって最初はみんなの迷惑になる。けれども、それはみんな通ってきた道
なのだからお互い様だよね。そういう寛容性や子どもに対する免疫を失った社会は存続し
ていけなくなる。そういった気づきのもとで、フランスは少子化対策に取り組んだ。そう
聞きました。日本はそういった気づきのないまま、子どもへの免疫を失いつつある。その
危機的な崖っぷちに今いると感じています。ぜひ、この崖っぷちから戻っていって、子ど
もたちをしっかり育てられるような日本に戻りたい。皆さんも、おそらくそういう想いが
あって今日ここに集っておられると思います。そういった想いを共有して、この子ども・
子育て支援新制度、お金も確保した上でいいスタートを切れるように、一緒に取り組んで
いきたいと思っています。つたないお話、どうもご清聴ありがとうございました。
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