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特集: 腸腰筋インピンジメント 人工関節周囲感染症(続)

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特集: 腸腰筋インピンジメント 人工関節周囲感染症(続)
CeraNews
2014年2号
整形外科医療情勢ジャーナル
特集:
腸腰筋インピンジメント
人工関節周囲感染症(続)
www.ceranews.com
CeraNews
目次
2
寄稿
3
Justin P. Cobb, BMBCh FRCS MCh
特集:
腸腰筋インピンジメント
関節置換術における四大重要合併症
6
インタビュー:Harry E. Rubash, MD
Contoura:解剖学的輪郭を有するボールヘッド
10
Thomas Zumbrunn, PhD, Michael P. Duffy, MD, Andrew A.Freiberg,
MD, Harry E, Rubash, MD, Henrik Malchau, MD, Orhun K. Muratoglu, PhD
特集:
人工関節周囲感染症の鑑別診断としての 人工関節周囲感染症(続) メタルインプラントアレルギー
12
Burkhard Summer PhD, Peter Thomas MD, PhD
基礎科学 パラダイムシフト
関節形成術における「生物学的ビッグ・バン」
16
最新情報
人工股関節置換における メタル・コンポーネント関連病理所見の 治療におけるベアリング交換
23
肩関節置換術のトレンドと今後の展望
28
Sylvia Usbeck, Leslie F. Scheuber
インプラント病理学
Sylvia Usbeck and Leslie F. Scheuber
トレンド
新着情報
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CeraNews 2 / 2014
2/ 2014
Felix Zeifang MD, PhDへのインタビュー
学会・ワークショップ
最新ニュース
書籍の紹介
30
31
32
Published by:
Chief Editor:
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CeramTec GmbH
Medical Products Division
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D-73207 Plochingen, Germany
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寄稿
3
医療従事者の皆様へ
人工関節置換術は2014年においても、引き続き重要な社会的課題であります。治療
に要するコストは上昇を続け、医療界の各方面からはこの分野における予算増を要求
する声が高まっています。人工関節置換術における選択肢は数多くあり、予算と成果
の両面においてバランスを取ろうとすると、外科医が下す判断要因を何にすべきかが、
かってないほど難しい問題となってきます。患者にとって最善の治療を行いたいと願う
反面、同時に我々の多くが予算調整の問題に直面しています。いかなる医療機関におい
ても、医師の下した選択の結果として得られる短期的、中期的、長期的結果が満足のい
くものであることが基本です。この点に関しては、主に二つの要素があります。まず購
入者にとっては、選択したインプラントあるいはベアリング・カップルのコスト、そし
て患者にとっては、その選択のもたらした価値です。不思議なことに、他の生活要素に
関して、我々人類はより優れた洞察力を備えてきましたが、この分野に関しては遅れを
取っています。近年、顧客側が医療提供者にコストダウンを要求しているため、デバイ
ス価格の低下を厳しく強いられているように感じています。どうしてこのような事が起
きるのか、少なくともその一因と考えられるのは、患者の寿命が延びたため、選択した
治療手段のもたらす価値は重大さを増し、結果が良ければ生活の質が向上し、寿命まで
延ばしてくれる可能性があるからなのです。今号のセラニュースでは、特定のベアリン
グ・カップル選択の際に、外科医と患者の双方が認識しておくべき要点を提示していま
す。
これまで数十年間にわたり「関節置換術業界/レジストリ連合」は徹底して機能性を
軽視し、「股関節置換の後ではどのスコアも満点だから、これ以上のものはない」「イ
ンプラントのサバイバルこそが紛れもない真実、セメント固定は絶対的なもの」という
レジストリの定義を堅持してきました。この同じ「業界/レジストリ連合」は、独自の
目線で失敗例の収集と定義づけを行っています。それゆえ、短期間で再置換を要するベ
アリングは失敗例であり、一方、長いプレートが必要となりQOLを著しく低下させる
人工関節周囲骨折の場合でも、ステム交換がなければ、いかなるレジストリにおいて
も記載すらされません。
ですので、レジストリの結論は必ずしも全体像を描いているわけではなく、独自のプ
リズムを通して目にしたものを伝えているのです。ここで興味深いのは、市場―すなわ
ち外科医と患者―が、さしてこの結論に注目していないということです。インプラント
の固定法に関しては、セメントがレジストリのお気に入りなのですが、市場がセメント
固定から離れていく傾向が継続しているのに、5年もたって初めて、レジストリ・デー
タは、セメントレス固定の方が効果的で安全性も高いとされることを認めました。これ
はすでに世界中の外科医や患者が熟知していた事実です。
ベアリング選択においても、同じ現象が起こっているようです。セラミック・オン・
セラミックとセラミック・オン・ポリエチレンは今や圧倒的多数で選択されるベアリン
グ・カップルです。何故なのでしょう? 外科医も患者も安価なベアリング・カップル
を使用すれば数ポンド節約できて、短期的にはそれでうまく行き、最初の十年間は大き
な問題も起きないことは分かっています。しかしその結果、患者にとって、また医療提
供者にとっても、多額の医療費が患者のこれから先の人生に発生するならば、経済的に
正しい選択ではないかもしれません。
運動時の大腿部と鼠径部の痛みはレジストリに記載されるとは限らない症状です。今
号の記事の中で、Harry Rubashは、鼠径部痛を取り上げています。現実に存在してい
るにもかかわらず、長い間看過されてきた症状です。コンポーネント設置の際の外科医
のミスなのでしょうか、あるいは大腿骨ステムの長さの問題なのでしょうか? それと
もバイオトライボロジー的要因によるものでしょうか?
後述の記事では、ボストンにあるOrhun Muratogluの研究グループが提唱した、新
しい大腿骨頭デザインについて取り上げています。これを使用することで、硬いエッジ
上での軟部組織インピンジメントに起因する、鼠径部痛が軽減される可能性が出てきま
す。大径メタル・オン・メタルあるいはメタル・オン・ポリエチレンのベアリングなど
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寄稿(続き)
が、適用可能なケースなのかもしれません。Muratogluらが腱やその他軟部組織を傷
つけないように、とデザインした魅力的かつ柔和な輪郭は、摺動面に体液を引き込み、
トライボロジー性能の向上をもたらす可能性があり、特にメタル・オン・ポリエチレン
のような低親水性ベアリングにおいて有効であると考えられています。ベアリング・
カップルがすでに高い親水性を有している場合、生体内でより小径のセラミック摺動面
を用いた場合にも、この効果が計測できるのか、今後期待されます。バイオトライボロ
ジー領域において非常に大きな注目を集めています。
バイオトライボロジーは重要な要素です。ミュンヘンのBurkhard Summerによる
後述の記事では、材質特性が背景にあると説明しています。氏は、関節置換で生成した
摩耗粉に対する、様々な人体免疫反応とその発現に関して報告しています。これは非常
に時宜にかなったテーマであり、本稿では反応条件の特徴を挙げて、定量化する方法を
示しています。条件は多様であり、あるレベルにおいては驚くほど広範囲に及んでいる
ようです。ゆえに、人体の免疫系はメタル・ナノ粒子やイオンに対して確実に反応して
おり、しかもその反応レベルは、セラミック粒子に対する場合と比べると対数的な差異
があるので、この材質特性が、セラミックにおける一層の魅力となっています。
人体の細胞が摩耗粉に対して予測不可能に反応をするとしたら、ヒト真核細胞と原核
細菌間におこる相互反応はさらに複雑です。そこに人工関節が加わることにより、複雑
さは増幅されます。摩耗粉が反応に影響するのかもしれないし、あるいは表面材質の特
性により、コンポーネントがバイオフィルムを形成しやすくなるのかもしれません。今
号ではここで述べた問題の数々を研究し、患者が感染症を発症しやすくなる要因につい
ても考察を深めています。もちろん、極端な体重増加や体重減少もここに含まれていま
す。
腐食はここ数年間ニュースになることの多かったテーマなので、これを抜きにして
は、ベアリングの最新情報は語れません。科学は進歩しており、今号のセラニュースで
は、炎症性細胞が、単にテーパー腐食生成物に反応しているだけでなく、腐食発生その
ものに役割を果たしている可能性を示すエビデンスが提示されています。
今号のセラニュースは、果敢に前進する科学、興味をそそる展開、貴重な体験と盛り
だくさんです。バイオトライボロジーという言葉を使い慣れている整形外科医の先生方
は、まだ、ほとんどいらっしゃらないかもしれません。しかし、実生活の中で我々は様
々にバイオトライボロジーを体験しているのです。本誌掲載記事が教えてくれるのは、
見事なまでに複雑な人間の生体システムが多層レベルにおいて人工関節と相互作用して
いる、という事実です。それは分子レベルから社会生活レベルに至るまで起こっている
のです。分子レベルにおいては、実際に酵素が起因して問題が発生している可能性があ
り、細胞レベルでは、摩耗粉が炎症性機序に影響していることは確実で、同時に、材質
の表面特性が細菌性バイオフィルムの表面固着度に直接影響を与えています。その滑性
こそが、ベアリングの摩擦とテーパー・トラニオンへのトルクを減少させ、それゆえ腐
食が起こるのです。そしてその一方で、マクロレベルにおける形状の問題は腸腰筋腱の
機能にかなりのインパクトを与えかねません。この段階で、整形外科医が認識できる規
模のバイオトライボロジーとなるのです。人間レベルにおいては、以上すべてが、医師
が患者と共に下さねばならない決断に関わる重要要素となるのです。社会としては、生
涯を通じて新しい関節の一部となるベアリングの価値を認識しなければなりません。患
者さんたちこそが、短期・中期・長期に渡って、その価値を享受していくのであり、こ
の長期が今やますます長くなりつつあるのです。
ありがとうございました。
Justin P. Cobb, BMBCh FRCS MCh
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Justin P. Cobb, BMBCh, MCH, FRCSは、 オックスフォード大学Magdalen
Collegeにて医学を学び、1982年に卒業。オックスフォード、ロンドン、ブライト
ンで研鑽を重ねた。修士論文は”Prognostic factors in operable osteosarcoma(
手術可能な骨肉腫における予後要因)”。1991年、The Middlesexにおいて顧問整
形外科医に任命される。1992年にはHunterian*Professorshipを受賞。University
College London Hospitals(UCLH)の顧問、さらにはUniversity College London(UCL)の名誉上級講師を15年間務めた後、2005年にThe Imperial Collegeの
整形外科部長に就任。1992年にThe Middlesex評議員団により最初の助成金を授与
され、その結果、AcrobotのBrian Daviesと共に世界初の触覚感知ロボット介助を開
発。
Charing Cross Campusの MSK LabとSouth Kensingtonのエンジニアとも親交が深かったため、Wellcome Trustと EPSRC**から1,100万ポンドの資金援助を受けて、OsteoArthritis Center (変形性関節症セ
ンター)を設立。Charring Crossのペイシェント・ベースは、機械工学のAndrew Amis、生物医学工学の
Anthony Bull、材料科学のMolly Stevens、トライボロジーのPhilippa Cann、土木工学のAndrew Phillips
らが、大学の垣根を越えた共同プロジェクトを行う理想的な拠点となっている。こうしたコラボレーション
が現在のMSK Labチーム結成につながった。
さらにAlison McGregorと共に、総勢25名の外科医、内科医、科学者、エンジニアを率いて、整形外科の
入院患者病棟と同じフロアで仕事をすることにより、彼らの最新の研究成果を即座に病室や筋骨格系疾患の
患者の手術室での処置へと反映させている。
最近では、こうしたプロジェクトが負傷した兵士の救済にも活用されている。世界初の3Dプランニン
グ、3Dプリンティング、そしてロボット工学を合体させることにより、最小侵襲関節温存手術***が実現し
た。この世界初の手術はDefence Medical Rehabilitation Centre Headley Courtと共同で行われたもので
ある。
MSK Labは、EPSRCのような研究評議会やWelcome Trust, ORUK, Michael Uren Foundationのよう
な慈善受託財団からの資金、さらには歩行と健康・疾病状態の関節との関係性についての大規模研究の一環
として、歩行測定でラボを訪れる患者からの寄付の提供も受けて運営されている。
氏の主な研究分野は、以下の通りである。
• 関節外科手術における正確性、精度ならびに費用対効果を担保するため、3Dプランニングと3Dプリンティ
ングで患者に最適な装置とロボットを開発すること。
• 関節疾病の初期段階において骨質と関節の形のモデルを作成し、それによってOAの進行状況の予見と低侵
襲かつ高機能の装置設計を行うこと。
• PROMS****と、個人情報のウェブをベースにしたツールを使用して、損傷関節の機能評価を行うこと。
• 健全な状態と疾病状態の際の歩行分析。各種のツールを駆使して「完全な」歩行、OAが進行した際の歩
行、それに続く医療介入を分析すること。
• 小規模で精度の高い医療介入と従来の関節全置換術とを比較した費用対効果分析。
Professor CobbはRoyal Air Forceの整形外科文民顧問である。また、King Edward ⅦHospital for Officersのスタッフでもあり、女王陛下の担当整形外科医である。
*Hunterian Society: www.hunteriansociety.org.uk
**Engineering and Physical Sciences Research Council
***http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/9730086/Robotic-surgery-gives-soldier-a-new-spring-in-his-step.html
****Patient Reported Outcome Measures
連絡先:
Justin P. Cobb, BMBCh, MCH, FRCS
Chair in Orthopaedic Surgery
Imperial College
Charing Cross Campus
South Kensington Campus,
London SW7 2AZ
UK
E-mail: [email protected]
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特集:腸腰筋インピンジメント
関節置換術における四大重要合併症
インタビュー:Harry E. Rubash, MD
Massachusetts General Hospital, Boston, USA
Harry E. Rubash, MDはMassachusetts
General Hospitalの整形外科部長。米国内さら
には世界的にも股関節・膝関節置換術のトップ・
スペシャリストの一人に数え上げられ、人工関節
置換術分野における輝かしい業績で名声を博して
おられます。外科医、研究者、教育者として、新
技術の開発や患者の術後経過の改善に取り組むこ
とで、股関節・膝関節置換術の進展に尽くしてこ
られました。セラニュースは、関節置換術におけ
る研究と医療の最新動向について、先生にお話を
伺いました。
先生はお仕事において成功を収められていま
すが、その成功の基盤となったものは何でしょ
うか? また、整形外科を選択し、中でも特に
人工関節全置換術を専門にされるようになった
理由があれば、教えていただけないでしょうか?
仕事における成功ということで大切にしている
のは、幼い頃から両親によって植えつけられてき
た価値観ですね。両親は、人生で望みを叶えるた
めには一生懸命働かなくてはいけない、と信じて
おりましたから。我家での一番の目標は、学業・
スポーツすべての面において、できる限り良い成
績を取れるように努力することでした。幼い頃か
ら私は機械系に興味を持ち適性もありましたし、
車には夢中になりました。中学・高校を通じて自
動車整備工としてアルバイトをしていました。で
も、非常に幼い頃から、自分が天職とするのは医
学だと思っていましたし、整備工としての技術や
ツールの扱い方を整形外科分野で有意義に活用し
ていけるのではないかと考えていました。
先生は、研究者、著述家、講演者、教師、オー
ガナイザーとして様々な分野で積極的に活動され
ています。そして、その結果、単に外科手術のみ
ならず、整形外科の研究分野においても世界的な
リーダーとなられました。このような多岐にわた
る活動の中で、ご自身が一番気に入られている役
割は何でしょうか?
私が深い関心を持って関わっているのは、患者
への治療と彼らの生活の改善です。臨床上の問題
があれば研究室に持ち帰り、時間的に余裕のある
時に革新的な解決法を開発して、それを臨床に適
切に応用できる方法に変換して、可能ならば患者
CeraNews 2/ 2014
治療や教育に反映させていくことです。このよう
に研究と臨床の間で平行移動を続けることで、研
究意欲が掻き立てられますし、途切れることはな
いのです。
どのような理由や理念のもとにHarris Orthopaedic Laboratoryが創設されたのでしょ
うか? 研究所の使命と、設立時期についてお話
しいただけますか?
Harris Orthopaedic Laboratoryは1995年、
Massachusetts General Hospitalにおいて創設
されました。現在、Orhun Muratoglu、Henrik
Malchauという二人の才能あるディレクターに
よって共同運営されています。創始者はWilliam
H. Harrisです。革新的なアイデアを考える思索
家、研究者、さらに整形外科手術では熟練の腕
を持つパイオニアで、とりわけ注目を集めたの
は、股関節先天性脱臼の患者に初めて股関節全置
換術を行って成功させたことです。研究所は整形
外科手術の分野において多大な貢献をしてきまし
たし、現在も、患者のためになるような整形外科
手術をめざして貢献しようと努力を続けておりま
す。
特に注目しておられる研究分野は何でしょうか?
注目しているものは広範にわたりますが、生
物力学、バイオマテリアル、運動学、そして股
関節・膝関節置換術の結果研究です。
近年、整形外科手術分野での進展は目覚ましい
ものがありますが、その一方で、高齢者の寿命が
延び、運動レベルも高まった結果、整形外科手術
を要する患者人口が過去40年間で変化したとい
う事実もあります。「関節が早くに擦り減ってし
まった」患者たちが増えた場合、対応できるだけ
の技量を持った外科医の数が足りないという危機
的状況が起こると思われますか?
この先何十年かの間に、当分野の労働力人口で
は対応不可能なほどの量の整形外科治療が想定さ
れるのは事実です。ですから、トレーニングを強
化すること、才能あるレジデントを整形外科に呼
び込むことが大切なのです。さらに、整形外科医
の手技を向上させると同時に、一人前の整形外科
7
医を作り上げるのに要する時間を短縮できるよう
な、整形外科学教育の新しい方法論を確立しよう
と模索を続けています。パラメディカルのおかげ
で、私達も患者の観察・治療における効率化が進
みました。彼らの存在は治療モデルにおける重要
な要素です。最終的に整形外科では手術治療が占
める割合が大きいですから、医師は患者の安全を
重視しなければならないし、同時に、患者側から
結果報告を出してもらうことが非常に重要なので
す。
我々の所では、股関節全置換術を受ける患者
の年齢が低下し続けています。私が診察してい
て、平均年齢が60代後半だった頃を覚えていま
すが、今や50代前半です。40代、50代の患者
は非常に活動的で、家族や仕事に縛られているの
で、当然のことながら正常なレベルの機能を一刻
も早く取り戻したいと願います。彼らの期待に、
できるだけ的確かつ実現可能な結果をもって応え
られるよう最善を尽くしています。
若い患者を手術する場合、再置換術までの時間
を遅らせる、あるいは再置換術そのものが不必要
になるようにして長期間もたせるためには、より
高度な手技が要求されるのですか?
患者の期待とそれに見合った結果を出すという
のが、最大のチャレンジの一つと言えます。患者
は治療処置の多くが再生可能で、手術自体も極め
て成功率の高いものであることを知っています。
しかし残念ながら、合併症という負担が伴うこと
を把握していますので、この点について患者に説
明し、合併症が起こった場合には有効な処置を取
らねばなりません。意思決定の共有という概念を
導入することにより、術前教育は効率的かつ効果
的なものとなりました。
今日、関節全置換術を改善するにあたり、重要
な事項が四点あると私は考えています。第一点目
は、股関節全置換術後の脱臼リスクです。第二は
人工関節周囲感染症の発症。第三は、現在のとこ
ろ、膝関節全置換術後の患者の満足度を高められ
ないでいること。そして第四は、この分野で近年
生まれた革新的な技術において失敗例もあったこ
と、これにはメタル・オン・メタル股関節全置換
術や股関節表面置換術ならびにこうした手法の導
入が含まれています。
Advanced Bearing Technologiesの導入
により、若く活動的な患者に人工関節の長期耐
用性が約束されて、この分野における進展状況
が一変しました。この技術を患者に使用するに
際して、どのような手順を踏んでおられるので
しょうか?
40歳だろうと、70歳だろうと、望まれるの
は、最長の耐用期間記録と最高の成功率を有し、
安全かつ費用対効果に優れた最良のベアリング表
面です。現在、股関節形成術では、セラミックボー
ルヘッドを(高架橋ポリエチレンベアリング表面
に対して)使用しています。私の意見ですが、高
架橋ポリエチレンとセラミックヘッドの組み合わ
せがベアリング・カップルにとってベストではな
いかと考えています。患者が75歳を超えている
場合は、一般にセラミックヘッドからメタルヘ
ッドに切り替えます。
第一世代の架橋ポリエチレンは、インプラント
後最低10年間、非常に良い結果を出しました。
抗酸化物添加のポリエチレンも同じくらいもつ
かどうかを判断するためには、長期間の追加デ
ータが必要です。
多くの場合、ベアリング材質は世代ごとに区分
され、第一、第二、そして第三世代さえ出てきて
います。これは即ち、長年にわたり改良が行われ
てきたということなのでしょうが、初期世代のも
のを振り返って見てみると、当時起こった問題の
中で、新材質を使っても今なお全面解決されてい
ないケースもあることに気づきます。こうしたテ
クノロジーに対する厳しいFDAの承認プロセス
をより一層厳しくすべきか、あるいは市場に出
た後の監視体制を強化すべきか、どちらがよい
と思われますか?
近年の、メタル・オン・メタル股関節全置換
術、表面置換型人工股関節全置換術、さらには昨
今のテーパー腐食件数の増加といった問題は、関
節形成術の分野では大きな関心を呼んでいます。
最初の二つのケースについては、新技術が導入さ
れました。この新技術による新しい構造は、すで
に市場に出ている他のタイプのベアリング表面と
基本的には同じである、というデータが示されて
います。今日の整形外科学界にとって、新技術の
導入は極めて重要な課題です。Henrik Malchau
の示唆するように、新技術の「段階的」導入を将
来に向けたモデルとするべきです。
私の印象ですが、FDA承認プロセス再構築の
一環として考えられるのは、市場に出た後の監視
体制ではないかと思います。構造、材質、人体構
造はインビトロで理想的に再現できるものではな
いことを皆分かっています。それゆえ、新しいデ
バイスを実際に患者にインプラントしては、短期
的・長期的な効果を完全に理解する必要があるの
です。そこで、広範囲をカバーし、かつ長期間継
続する強固な市場監視プログラムがあれば、私た
ちも新しい技術が安全かつ有効だという推定がで
きるわけです。こうした監視体制強化の追加的措
置は今現在も行われていますが、将来的には必要
条件となるでしょう。そして第二点として挙げた
いのが、「大規模データベース」とレジストリの
重要性ですが、インプラント失敗例の詳細を理解
する際に有用なものです。レジストリ・データで
早期に失敗例を探知して、今後の失敗率上昇が疑
われる装置が、広範囲の患者へインプラントされ
ないようにすべきなのです。我々外科医の責任と
して、こうした大規模レジストリに―海外諸国と
同じく米国においても―参加して可能な限り多く
のデータを提供すべきであり、そうすることで今
より早い段階で結果の数々を理解することができ
るのです。
CeraNews 2/ 2014
8
特集:腸腰筋インピンジメント(続)
近年、科学的論争の的になっているの
が、THA後、鼠径部の痛みが起こるという現象
です。先生の研究所では腸腰筋インピンジメント
の研究が行われています。何か判明したことがあ
りましたか? 新開発の湾曲型大腿骨ボールヘッ
ドのデザインで問題は解決されるのでしょうか、
あるいはカップに問題があるのでしょうか?
股関節置換術の後に起こる鼠径前部の痛みは、
我々の研究所では新しい研究課題となっていま
す。初期の研究では、股関節の鼠径前部の痛み
は、大径大腿骨ボールヘッドあるいは突出した臼
蓋コンポーネントと関連している可能性があると
されていました。この痛みは、股関節前方の関節
包の緊張と、腸腰筋腱が股関節包の前側面とコン
ポーネントに垂れかかっているため起きる腸腰筋
腱炎から派生した可能性があります。我々の研究
結果が実証したのは、大径大腿骨ボールヘッドと
いっても、人体に備わっている生来の大腿骨頭ほ
どの大きさはないにも拘わらず、大腿骨頭の位置
により、前方関節包と腸腰筋腱がインピンジメン
トを起こすリスクを負ってしまうことです。この
ため、新しいプログラムを開始して、大腿骨ヘッ
ドの輪郭デザインを直して、もっと解剖学に則し
た湾曲輪郭でヘッド・ベースに据えられるような
大径大腿骨ヘッドの使用を目指しています。実験
室モデル、死体の双方においてこの可能性を研究
している最中で、デザインも軟部組織、特に前方
関節包に優しいものを考えています。
現在THAを受ける患者の体重は、数十年前と
比べてかなり重くなっています。最近の研究で
は、初回THAをうける全患者の24%から36%
が肥満である、という結果が示されました。関節
置換術において、このような傾向は合併症増加に
つながりますか?
今の患者は、20~30年前と比べると、より活
動的で体重も増加しました。最先端、且つ効果
的で、広く容認された、実績ある手術手技を採用
していても、こうした要素があれば良好な術後成
績を得にくくなる可能性もあります。さらにリハ
ビリの進捗を妨げる可能性さえ考えられます。加
えて、肥満により合併症リスクが高まり、置換術
後の入院日数も長くなる可能性があるとする研究
結果もあり、術後の結果に悪影響を及ぼす要因が
合わさったような状態です。こうした種々の理由
で、患者には手術前にリスクを理解してもらうよ
う努力していますし、また教育プログラムを活用
して、意思決定プロセスには医師だけでなく患者
も共に加わって考えてもらうようにしています。
新しい医療戦略が議会で可決され、この分野に
加わる多くの外科医の将来に重大な影響を及ぼす
可能性が大きいように思われます。新人の方々に
向けて「先人の知恵」として何かお言葉をいただ
けませんか?
CeraNews 2/ 2014
先日議会が医療法案を通過させましたが、こ
れは我が国の医療法を基本的に書き換えるもの
です。医療費の維持不可能なまでの増加が、今
回の法制化の根本にある動機の一つでした。この
法律の全体あるいは一部が、将来破棄されるかど
うかは分かりません。しかしながら、金銭的に余
裕のない人々に医療を提供することは、医療改革
における結果として非常に重要であり、望ましい
ものでもあります。
第二に、一番目と同等に重要な医療改革のポイ
ントは、電子化された医療記録を有意義に活用す
ることです。巨額の予算をかけている割には、電
子化された医療記録を使用することで、医療の安
全性が向上したり、医療に関するコミュニケーショ
ンの効率化が進んだりするようようにも見えませ
ん。この新規の法制化により、プライマリケアは
根本から改組され、population health management(集団健康マネジメント)は我々医療
提供者にとって、ますます重要性を増してきまし
た。次の重要なステップは、一つにまとめられて
しまったパラダイムのもとで行われる個々の医療
行為に対する支払でしょう。これにより外科治療
の在り方そのものが根本から変わるでしょう。こ
の改革が3年あるいは5年以内に行われるとして
も、払い戻しシステムが基本的に変わってしま
うため、整形外科全般および整形外科各分野にお
いて重大な影響が出るでしょう。幸いなことに外
科診療を志す献身的で才能ある人々は、男女の別
を問わず、患者を治療することが好きで、良い結
果の出た患者と交流して情報を得るのを楽しみ、
何より患者を助けようという崇高な使命感を持っ
ているのです。我々の職業を選ぶ人たちにつきも
のの、こうした一面は決して変わることはないで
しょうし、それこそが医療を通じての道を紡いで
くれる黄金の糸なのです。変化はあるのでしょう
か? と問われれば、答えはイエスです。こうし
た変化の数々は影響をもたらすのでしょうか?
と問われれば、それもまた、イエスです。我々
は、社会として、こうした変化に対応していけ
るのでしょうか? と問われれば、そうなればよ
い、と心から望んでいます。最終目標は患者と国
民全体の健康の向上です。これこそが、我々が医
療を行う本質であり、治療者となることを選んだ
理由でもあるのです。
Harry Rubash先生、大変に興味深いお話を
ありがとうございました。 n
The interview was conducted by Dieter Burkhardt
(Vice President Sales & Marketing), Heike Wolf
(Manager Sales Services America) and Michael
Georg (Product Manager Hip), CeramTec GmbH.
9
インタビューを行
ったのは、CeramTec GmbHのDieter
Burkhardt(Vice
P r e s i d e n t
Sales&Marketing),Heike
Wolf(Manager
Sales Services
America)とMichael
Georg(Product
Manager Hip)でした。
Harry E. Rubash, MDはUniversity of
Pittsburgh より1975年にBS Summa
Cum Laude、1979年にMD Cum Laude
を取得。一般外科でのインターンシップ終
了後、同大学のFellowship and Residency
in Orthopaedic Surgeryで経験を積む。
さらに、ドイツのミュンヘンでAO Reconstructive and Trauma Fellowship、そし
てMassachusetts General Hospitalと
Harvard Medical SchoolにおいてHip and
Implant Surgery Fellowship を終了。.
Harry RubashはMGHにおいてChief of
Orthopaedic Surgery、Harvard Medical
Schoolにおいては Edith M. Ashley Professor of Orthopaedic Surgeryを務めて
いる。股関節および膝関節置換術の初回手
術ならびに再置換術を専門とする。
American Academy of Orthopaedic
Surgeons, The Orthopaedic Research
Society, The Hip Society, The Knee Society, American Fracture Association
を含む専門組織からの受賞ならびに叙勲は
多数に上る。2006年には、Orthopaedic
Research and Education Foundationよ
り、Clinical Research Award for Outstanding Orthopaedic Clinical Research
を受賞した。
自らの専門知識を世界中の数多くの学会、
セミナー、講習会で発表。出版物多数、さ
らに複数の定期刊行物・出版物において編
集にも関わっている。
Harry Rubash の著した主要なテキストブ
ックは九冊に及び、出版された論文は200
を超える。
連絡先:
Harry E. Rubash, MD
Chief, Department of Orthopaedic Surgery
Massachusetts General Hospital
55 Fruit Street, Yawkey 3B
Boston, MA 02114
USA
CeraNews 2/ 2014
10
特集 人工関節周囲感染症
Contoura:解剖学的輪郭を有するボールヘッド
Thomas Zumbrunn,PhD, Michael P. Duffy, MD, Andrew A.Freiberg, MD, Harry
E, Rubash, MD, Henrik Malchau,MD, Orhun K.Muratoglu, PhD
Massachusetts General Hospital, Department of Orthopedic Surgery,
55 Fruit Street, Boston, MA 02114, USA
大径大腿骨頭は臨床ならびに生体力学研究において、人工股関節全置換術(THA)後の脱臼防止
および可動域の改善効果をもたらすことが知られている。その結果、36mm以上の径を持つセラッ
ミク・ヘッドの使用が過去十年間で、10倍増加した(2003年の4%から2013年には43%にまで上
昇。データ提供:CeramTec GmbH)。大径大腿骨頭は、腸腰筋のような生来の軟部組織に対しイ
ンピンジメントを起こして、腱炎発症や鼠径部の痛みに関連する動きの原因となる可能性がある。腸
腰筋は大腿骨頭、あるいは置換した大腿骨頭インプラントの前方を覆う筋肉である。 (図1参照)
大腿骨頭の突出による腸腰筋のインピンジメン
トは股関節前部と鼠径部における慢性的な痛みを
誘発する可能性があり、その結果日常の行動が制
限されるばかりでなく、運動にも支障をきたしか
ねない。腸腰筋腱炎、インピンジメントの両方、
あるいはどちらか一方が発症した場合、従来の治
療法は、ステロイド注射、関節鏡あるいはopen
tendon release、あるいはヘッドサイズを小さ
く変えての再置換THAであった。ステロイド注
射は根治ではなく対症療法に過ぎず、腸腰筋のリ
リースは関節機能低下を招く可能性がある。小さ
いヘッドサイズでの置換により、股関節前部の痛
みが軽減されることが明らかになったが、脱臼リ
スクが再び生じる可能性もある。臨床使用に必要
なのは、脱臼リスクが低く、かつ軟部組織を傷つ
けない大腿骨頭である。次世代の、解剖学的形状
に則した湾曲型大腿骨頭であれば、この種の軟部
組織インピンジメントの防止が可能である。
Contouraは、解剖学的形状に則した湾曲型の
輪郭を持つ大腿骨頭の新デザインで、赤道部を
超えた球面部分は滑らかなカーブを描いて周縁部
を包み込む輪郭を有し、安定性を保持しつつ下半
分における軟部組織を保護する構造となっている
(図2参照)。このデザインにより、カップで
覆われていない部分が腸腰筋腱を傷つけないよう
に配慮されている。結果として、カップとの接触
面積が増加することにより関節が安定し、突出の
少ない生理的な股関節を模倣した形状になった。
剖検所見より、様々な径のヘッドにおいて、大
腿骨頭と腸腰筋が接触していることが明らかにな
った。THA術中および再手術中、目視で接触が
確認され、さらに従来型ヘッドにインピンジし
てテント状に変形した腸腰筋が確認されたケー
スもあったが、Contouraインプラントの使用に
より改善された。以上は大腿骨頭と腸腰筋にワ
イヤーを埋め込んで撮影したX線写真により実証
された。 (図3参照)。
軟部組織の「干渉」が改善されたことに加え
て、Contouraのヘッド・デザインによりセラミッ
ク・オン・セラミック・インプラントにおける摩
擦抵抗が減少した、と予備研究の結果は示唆して
いる。Pendulum comparatorを用いて初期に行
われたバイオメカニクス実験において、湾曲型ヘ
ッドを使用することで、関節荷重に応じて12%
から19%の関節摩擦の減少が見られた。コンピ
ュータによる接触分析, 脱臼シミュレーショ
ン、摩耗抵抗といった力学的試験が行われたが、
湾曲型ヘッドと従来型ヘッドとを比較した場合の
結果は同様であった。1
我々の研究により、新型Contoura 大腿骨頭
は、大径大腿骨頭のルーティン使用における安
定性を確保しつつ、臨床的に重要な軟部組織イ
ンピンジメント防止の可能性も有していること
が示された。n
参照
1 Varadarajan KM, Duffy, MP, Zumbrunn T, Chan D, Wannomae K, Micheli
B, Freiberg AA, Rubash HE, MD, Malchau H, Muratoglu OK.
Next-generation soft-tissue-friendly large-diameter femoral head. Semin
Arthroplasty 2013;24(4):211–217(軟部組織に優しい次世代大径
大腿骨頭)
CeraNews 2/ 2014
11
略語
1
大腿骨頭の
位置
AAOS
American Academy of Orthopaedic Surgeons 米国整形外科学会
AAS
Atomic Absorption Spectrophotometry 原子吸光分光分析法
ALVAL
Aseptic Lymphocytic-dominated Vasculitis
Associated Lesion
無菌性リンパ球性血管炎関連病変
腸腰筋の境界
小転子への挿入
2
ARMD
Adverse Reactions to Metallic Debris 金属破片に対する有害反応
BMI
Body Mass Index 肥満指数
CFU
Colony Forming Unit コロニー形成単位
Co
Cobalt コバルト
CoC
Ceramic-on-Ceramic セラミック・オン・セラミック
CoCrMo Cobalt-chromium-molybdenum コバルト・クロム・モリブデン
CoP
Ceramic-on-Polyethylene セラミック・オン・ポリエチレン
CoXPE
Ceramic-on -XPE セラミック・オン・クロスリンクポリエチレン
Cr
Chromium クロム
CRP
C-Reactive Protein C-反応蛋白
CT
Computer Tomography コンピュータ断層撮影法
DGOOC
Deutsche Gesellschaft für Orthopädie und
orthopädische Chirurgie
(German Society of Orthopaedics and Orthopaedic Surgery) ドイツ整形外科及び整形外科手術協会
EPJIC
European Prosthetic Joint Infection Cohort Study 欧州人工関節感染症コホート研究
EFORT
European Federation of Orthopaedics and
Traumatology
欧州整形外科学会議
3
腸腰筋
Contoura
図.1:股関節前部の写真。腸腰筋が大腿骨頭周囲
を包み込む様を示している。
図.2:Contoura(前)と従来型インプラント
図.3:湾曲型ヘッドにより腸腰筋への圧迫が軽減
されたことを示すX線画像。
生理的形状を有する湾曲型ボールヘッドBIOLOX
CONTOURAは開発途上にあり、FDAやその他機関によ
る承認は受けていない。
®︲
EHS
European Hip Society 欧州股関節学会
ESR
Erythrocyte Sedimentation Rate 赤血球沈降速度
FDA
Food and Drug Administration アメリカ食品医薬品局
HHS
Harris Hip Score ハリスヒップスコア
HPF
High-Power Field 高倍率視野 強拡大の1視野
HR
Hip Resurfacing 股関節表面置換術
ICIC
Inflammatory Cell Induced Corrosion 炎症細胞誘発性腐食
LTT
Lymphocyte Transformation Test リンパ球幼若化試験
MARS
Metal Artifact Reduction Sequence 金属アーチファクト低減シークエンス
MIS
Minimally Invasive Surgery 最小侵襲手術
MHC
Major Histocompatibility Complex 主要組織適合抗原
MoM
Metal-on-Metal メタル・オン・メタル
MoP
Metal-on-Polyethylene メタル・オン・ポリエチレン
MRI
Magnetic Resonance Imaging 磁気共鳴映像法
Ni
Nickel ニッケル
PE
Polyethylene ポリエチレン
PJI
Periprosthetic Joint Infection 人工関節周囲感染症
SEM
Scanning Electron Microscopy 走査電子顕微鏡
THA
Total Hip Arthroplasty 人工股関節全置換術
TJA
Total Joint Arthroplasty 人工関節全置換術
TKA
Total Knee Arthroplasty 人工膝関節全置換術
TKR
Total Knee Replacement 人工膝関節全置換術
WBC
White Blood Cell 白血球
XPE
Crosslinked Polyethylene クロスリンクポリエチレン
CeraNews 2/ 2014
12
特集 人工関節周囲感染症(続)
人工関節周囲感染症の鑑別診断としての
メタルインプラントアレルギー
Burkhard Summer PhD、Peter Thomas MD, PhD
Clinic for Dermatology and Allergology, Ludwig-Maximilian-University, Munich, Germany
序説
メタルインプラントの使用が増加しているた
め、合併症の増加が見込まれる。2011年、ド
イツのみを例に取っても、人工膝関節全置換が
168,486例、人工股関節全置換が232,320例
施術された。そのうち、それぞれ9.5%および
10.4%が合併症による再置換手術であった。1 米国では膝全置換術、股関節全置換術それぞれ
702,415例、465,034例実施され、再置換率は
8.4%および10.7%であった。合併症誘因の一つ
が人工関節周囲感染症であるが、発症頻度のパー
センテージは一桁台前半である。文献の数字では
0.5%から5%の範囲で、共存症および再置換が
人工関節周囲感染症のリスクを高めている。2,3 とりわけ、軽度感染症などで見られるように、細
菌数が少ない場合、あるいは微生物が全く検出さ
れない場合における人工関節周囲感染症の診断が
課題となっている。その他にも近年注目を集めて
いる課題として、インプラントメタルおよび骨セ
メントコンポーネントに対する過敏症が挙げられ
る。これらの課題に関して、アレルギーおよび免
疫学的観点から、以下で議論したい。
メタルインプラントに対する
過敏症は存在するのか。
職業被曝あるいは宝飾品を身につけたことなど
が原因の皮膚金属アレルギーは一般的な事象であ
る。したがって、全人口に占める接触アレルギー
の割合はニッケルでは13%、コバルトでは3%、
クロムでは1%となっている。4,5 通常、罹患者
は女性に多く、ニッケルでは特にその傾向が強
い。一方、インプラントアレルギーは、接触金
属アレルギーと比較すると、発症例はごく少な
いように思われる。しかしながら、すでに1970
年代にはインプラント不具合と金属アレルギーの
関連が指摘されていた。6 通常、こうした症例は
相互の関連性を欠くものであった。あるいは、ご
く最近、複数のレビュー論文で報告されているよ
うに、症例シリーズを構成してはいるものの症例
数が少なかった。7-9 ただ、依然として明確なサ
マリー・データが手に入る状況ではない。にもか
かわらず、オーストラリアのジョイントレジスト
リーにはインプラント再置換の原因として初めて
金属感作が加えられ、肩関節の再置換の0.9%、
CeraNews 2/ 2014
人工股関節置換の5.7%が金属感作を理由として
いたとの記録がある。10 しかしながら、注留意
すべきは、これらのケースがアレルギー/過敏性
にどのくらい当てはまっているのか、数値から推
測することができないという点である。とはいう
ものの、バイエルン州保健省の助成で我々が実施
したインプラント300症例の研究において、合併
症を有する患者の方が、無症状患者に比べて、合
金あるいは骨セメントコンポーネントに対するア
レルギー率が高いことが明らかになった。11
臨床症状
無論、局所性あるいは全身性皮膚症状の場合、
まずアレルギーが疑われる。こうした症状には、
皮膚炎、丹毒様紫紅色紅斑、創傷治癒障害、孤立
性の血管炎あるいはじん麻疹などがある。通常、
これらの症例では金属アレルギーが認められる。
また骨接合材料に対する湿疹反応もみられる
出典:B.Summer,PhD、P.Thomas,MD,PhD、LMU
Munich
図1:骨接合部に発現したニッケルアレルギーによ
る皮膚炎
13
(図1)。骨セメントアレルギーに起因する皮膚
症状の可能性もあるが、エビデンスを示すのは
困難である。
したがって、人工関節周囲感染症およびそれ以
外で網様紅斑あるいはリンパ管内組織球症などの
より希少な症状群の看過を避けるため、偽性丹毒
様反応の例で記述されているような、インプラン
ト関連皮膚症状の組織学的検査を目的とすべきで
ある。12
インプラントアレルギーに関するその他の
症状についての記述もあり、創傷治癒障害(特
に、膝関節インプラント患者群において認めら
れる)疼痛、再発性滲出液、可動域制限および
無菌性ゆるみなどがある。13 金属アレルギーは
次のような症状群、すなわち、インプラント周
囲骨溶解を伴うインプラントの無菌性ゆるみ、
メタル・オン・メタルの股関節人工骨頭におけ
る偽腫瘍形成、関節周囲過剰線維形成(関節線
維性癒着)においても影響を与えている可能性
があるが、実証は困難である。
アレルギーが疑われる症例の解明
一般的な原因、具体的には人工関節周囲感染症
(下記参照)については鑑別診断によって除外し
なければならない。メタルインプラントアレルギー
が疑われる症例の検査は次のような手順で実施す
る。14,15
上皮検査
この試験では、金属アレルギー(具体的には対
ニッケル、コバルト、クロム)および骨セメント
コンポーネントに対する接触アレルギーの標準的
検出が可能である。しかしながら、皮膚アレルギー
反応をインプラント周囲症状群と100%同等とみ
なすことはできない。
組織検査
組織検査では、感染症、粒子誘因性異物反応、
線維形成、炎症性リンパ球の表面発現パターンを
特定できる。しかしながら、インプラント周囲過
敏症状の組織学的定義はまだ確立されておらず、
したがって、誘発因の特定はできない。
ずれかが充たされればインプラント関連感染症と
認められる。
• 同一の病原菌が人工関節周囲組織の培養で最
低2回確認される
• 関節と交通する瘻管(瘻孔)が存在する
• 下記の下位基準の内、三つが充たされる
- C反応性蛋白(CRP)濃度および血沈
(ESR)の上昇
- 関節液中白血球数の増加あるいは白血球エス
テラーゼ試験反応の変化
- 関節液中好中球割合の増加
- 人工関節周囲組織所見が感染を示唆
- 一回のみ培養陽性
このコンセンサス会議では、上記の基準につ
いての閾値、培養期間、組織検査基準、機器を
用いた追加的手法(X線撮影、音波処理など)も
定義された。
図2は人工関節周囲感染症が疑われる患者を
示している。組織サンプルの病理検査を実施す
れば、好中球閾値(10HPF内に23超あるいは5
以上のHPF内に1HPF当たり通常上限5~10の好
中球)を利用して、軽度感染症に関する感受性
情報が得られる。したがって、Morawietzらが
2009年に発表した論文で示された値は現在定義
されている限界内にある。再度の生検(微生物
学的検査にも必要)が推奨される。
近い将来、関節液中あるいはインプラント周囲
組織中の抗菌ペプチドの副次的解析など、他の診
断手法も利用可能になるだろう。17
しかしながら、通常の臨床実践においては、人
工関節周囲感染症が疑われる症例の多くで立証が
できていない。汚染による偽陽性、および寡少な
生検数、ペースの遅い微生物繁殖による(培養が
短期間すぎる場合、微生物は見逃される)偽陰性
等があるため、結果が不確実なものとなる。
臨床検査でも中等度の熱、滲出、痛みを伴う副
次的炎症症状しか明らかにすることができないこ
とが多い。それゆえ、コンセンサス会議に沿った
診断手順が推奨され、その手順に従って、疑わし
い場合はサンプリングを繰り返すべきである。
リンパ球幼若化検査(LTT)
T細胞の金属感作についてはこのインビトロ検
査によって明らかにすることができるが、この検
査は今までのところ科学ラボの領分であって、そ
の臨床妥当性については精査する必要がある。最
近のレビューにおいて診断手順とそれに対応する
アルゴリズムが示されている。16
人工関節周囲感染症
2013年にフィラデルフィア(米国)で開催さ
れた人工関節周囲感染症国際コンセンサス会議で
は、関節感染症およびその診断に要する手順が定
義された。2 その定義によれば、以下の条件のい
CeraNews 2/ 2014
14
特集 人工関節周囲感染症(続)
Literature
出典:B.Summer,PhD、P.Thomas,MD,PhD、LMU
Munich
1. Wengler A, Nimptsch U, Mansky T. Hip and knee replacement in Germany and the USA - analysis of individual inpatient data from German and
US hospitals for the years 2005 to 2011. Ärzteblatt Int 2014;111(2324):9
2. Parvizi J, Gehrke T (editors). Proceedings of the International Consensus
Meeting on Periprosthetic Joint Infection. Data Trace Publishing Company
2013
3. Zmistowski B, Della Valle C, Bauer TW, Malizos KN, Alavi A, Bedair H,
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(2 Suppl):77-83
4. Schäfer T, Bohler E, Ruhdorfer S, Weigl L, Wessner D, Filipiak B, et al.
Epidemiology of contact allergy in adults. Allergy 2001;56(12):1192-6
5. Thyssen JP, Menne T. Metal allergy – a review on exposures, penetration,
genetics, prevalence, and clinical implications. Chemical research in toxicology 2010;23(2):309-18
6. Elves MW, Wilson JN, Scales JT, Kemp HB. Incidence of metal sensitivity
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8. Granchi D, Cenni E, Giunti A, Baldini N. Metal hypersensitivity testing in
patients undergoing joint replacement: a systematic review. J Bone Joint
Surg Br 2012;94(8):1126-34
図2:臨床的に感染症が疑われる患者(インプラン
ト不適合の鑑別診断)
アレルギー学的観点からの手順
合併症に罹患した関節形成について、機械的原
因、ミスアラインメント、人工関節周囲感染症、
およびその他の一般的な鑑別診断が除外されたな
ら、アレルギー反応が症状を引き起こしたとみな
すべきである。この場合、上皮検査および組織検
査が必要である。LTTを正しく実施すれば金属感
作に関する追加的情報を得ることができるが、こ
の検査はまだ広範に使用される常用手順とはなっ
ていない。現在、複数の研究グループがインプラ
ントアレルギー患者における、その他の特性評価
に取り組んでいる。18 メタルインプラントアレ
ルギーは確実に存在するが、看過されるケースが
多いのも、また確かである。追跡調査を実施する
ことで、いかなる条件が整えば、低アレルギー誘
発性インプラントにより患者が恩恵を受けられる
のかが明らかになるだろう。19,20 n
9. Thomas P, Schuh A, Ring J, Thomsen M. Orthopädisch-chirurgische Implantate und Allergien: Gemeinsame Stellungnahme des Arbeitskreises Implantatallergie (AK 20) der Deutschen Gesellschaft für Orthopädie
und Orthopädische Chirurgie (DGOOC), der Deutschen Kontaktallergie
Gruppe (DKG) und der Deutschen Gesellschaft fur Allergologie und
Klinische Immunologie (DGAKI). Orthopäde 2008;37(1):75-88
10. Registry AOANJR. Annual Report. 2012
11. Thomas P, Stauner K, Schraml A, Mahler V, Banke IJ, Gollwitzer H, et al.
Charakteristika von 200 Patienten mit Verdacht auf Implantatallergie im
Vergleich zu 100 beschwerdefreien Endoprothesenträgern. Orthopäde
2013;42(8):607-13
12. Kulichova D, Gehrke T, Kendoff D, Summer B, Parvizi J, Thomas P. Metal
Hypersensitivity Mimicking Periprosthetic Erysipelas-Like Infection. J Bone
Joint Surg Case Connect 2014;4(3).
13. Eben R, Walk R, Summer B, Maier S, Thomsen M, Thomas P. Implantatallergieregister – ein erster Erfahrungsbericht. Orthopäde 2009;38(6):
557-62
14. Schalock PC, Menne T, Johansen JD, Taylor JS, Maibach HI, Liden C,
et al. Hypersensitivity reactions to metallic implants - diagnostic algorithm and suggested patch test series for clinical use. Contact Dermatitis
2012;66(1):4-19
15. Thomas P, Summer B, Krenn V, Thomsen M. Allergiediagnostik bei Verdacht auf Metallimplantatunverträglichkeit. Orthopäde 2013;42(8):602-6
16. Thomas P. Clinical and diagnostic challenges of metal implant allergy
using the example of orthopedic surgical implants. Allergo J Int 2014;23
(in press).
17. Gollwitzer H, Dombrowski Y, Prodinger PM, Peric M, Summer B, Hapfelmeier A, et al. Antimicrobial peptides and proinflammatory cytokines in
periprosthetic joint infection. J Bone Joint Surg Am 2013;95(7):644-51
18. Thomas PH, C.v.d., Schopf C, Thomsen M, Frommelt L, Schneider J, Flaig
M, Krenn V, Mazoochian F, Summer B. Periimplant histology and cytokine pattern in Metal-allergic Knee arthroplasty patients with improvement after revision with hypoallergenic materials. Sem Arthroplasty
2012;23(4):268-72
19. Dietrich KA, Mazoochian F, Summer B, Reinert M, Ruzicka T, Thomas
P.Intolerance reactions to knee arthroplasty in patients with nickel/cobalt
allergy and disappearance of symptoms after revision surgery with titanium-based endoprostheses. J Dtsch Dermatol Ges 2009;7(5):410-3
20. Thomsen M, Rozak M, Thomas P. Verwendung von Allergieimplantaten
in Deutschland: Ergebnisse einer Umfrage. Orthopäde 2013;42(8):597601
CeraNews 2/ 2014
15
Burkhard Summer, PhD
はドイツ、ミュンヘンのLudwig-Maximilians-University
にあるClinicforDermatologyandAllergologyの人類生
物学者である。同氏はインプラ
ントアレルギー分野で15年に
わたって活躍している。
Burkhard Summerは金属過
敏性および新開発バイオマテリ
アルへの感作性を検出するためのインビトロ検査を開
発し、評価してきた。
また、同氏はインプラントアレルギー分野の様々な
研究プロジェクトおよびインプラント材質の生体適合
性に関する研究も手がけてきた。その研究における科
学上の目的は、対インプラント過剰免疫反応の患者の
典型的な所見を調べ、その特性を明らかにすることで
ある。患者の血液細胞あるいは組織サンプルのメディ
エータ発生および分子サイトカイン発現の評価が同氏
の採用する主たる方法である。
Peter Thomas MD, PhDとともに、Burkhard Summerはインプラント非忍容性反応が疑われる患者のため
の専門外来を運営している。この専門外来ではすでに
1500人以上の患者が診察を受けている。
Burkhard Summerは研究プロジェクトおよび臨床研
究の成果を複数の国際的学術誌に発表している。また、
免疫学およびアレルギー学の分野において、ポスドクの
教育、指導に積極的に携わっている。同氏は世界中の研
究グループと研究に関するコンタクトをとり、学術的議
論を交わすことに大きな関心を寄せている。
連絡先:
Burkhard Summer, PhD
Implant Allergy Working Group Allergomat
Clinic for Dermatology and Allergology
Ludwig-Maximilians-Universität München (LMU Munich)
Laboratory for Allergology U21
Frauenlobstr. 9–11
D-80337 Munich
Germany
Phone: +49 89 4400 56175
Fax: +49 89 4400 56158
E-Mail: [email protected]
http://allergomat.klinikum.uni-muenchen.de
CeraNews 2/ 2014
16
基礎科学
パラダイムシフト
関節形成術における「生物学的ビッグ・バン」
Sylvia Usbeck, Leslie F. Scheuber
CeramTec GmbH, Plochingen, Germany
「人類が直面する重大問題
の多くは、生物学的関連で
あるか、あるいは生物学的
介入の影響を蒙りやすいも
のである。」
The Economist,
June14th2007,p.13
2007年、「エコノミスト」は特集記事で、重大な人的および社会的問題の多くは、生物学的なも
のであるという見解を述べた。人工関節周囲感染症(PJI)の対処法についての問題がその一例であ
る。21世紀にとって生物学とは、20世紀にとっての物理学に等しいものとなるだろう、と記事は仮
定している。
パラダイムシフトが関節形成術において起こりつつある。トライボロジーは、20世紀においては
関節形成術における中心的かつ優先的課題であったのに対し、21世紀においてのその役割は生物学
となるだろう。科学的および学際的観点に基づいた研究分野から、高い注目を集めているのは、摩
耗・腐食生成物とインプラントとの生物学的関連性、未だ充分に研究が進んでいない全身性のリス
ク、体細胞とインプラント表面間の相互作用の特定などである。
人工関節周囲感染症(PJI)とはバイオフィルム感染症であり、最も複雑で未解決の生物学的問題
であると同時にインプラント関連問題の一つである。PJIは、将来、医療・社会経済体制に相当量の
負担を課すことになると見込まれている。近年出版された研究成果1では、PJIは依然としてTKA後
の再置換の主因であり(初回関節形成術の0.4%~4.0%)、3番目に多いTHA後の合併症(0.3%~
2.2%)であると述べられている。さらに、この中で引用されている米国内での研究によれ
ば、2005年から2030年の間に初回TKAの症例数は673%、初回THAは174%増加すると推定さ
れている。2001年から2009年の間に、米国内の病院が負った感染症による再置換術の年間医療費
は、3億2,000万ドルから5億6,600万ドルに増加し、2020年までには16億2,000万ドルを超える
と推定されている。2 関節形成術数の増加に伴い、PJIの増加も見込まれている。本研究の著者らは、
この期間中、PJIによる負担額はTHA後で1.4%から6.5%、TKA後で1.4%から6.8%に増加すると
予測している。
こうした展開を受けて、PJIおよび潜在的なリスク因子、すなわちモジュラーインプラントにおけ
る腐食やフレッティング、さらに金属破片反応(ARMD)は、国際会議や専門家による文献におい
て重要課題となっている。CeraNewsはこうした最新状況の結果について要約を試みた。
出典:Usbeck/Scheuber,CeraNews2/2014
THA後のPJIの臨床的所見。インプラント関連感染
症は、診断・治療・費用に関わる問題である。
CeraNews 2/ 2014
出典:A.Trampuz,MD,CharitéBerlin,Germany
人工関節周囲感染症(PJI)はバイオフィルム感
染症である。インプラント表面上のバイオフィルム
(SEM)
17
PJIのリスク因子、診断および新知見
術前の栄養不良は、無菌性再置換術後のPJI発症における独立したリスク因子として挙げられること
が多い。このことは、栄養不良が急性PJIのリスク因子であることを実証した近年の2件の研究におい
て再確認された。関節形成術を受けた患者の大多数は肥満体である。PJIリスクの増加と不良な結果
が氷山の一角として論じられている。PJIの初期診断と原因菌の正確な特定が、管理戦略の必須要素
として現在検討されている。研究により、人工関節周囲組織と滑液をベースにした従来型培養法は診
断感度不足であることが判明した。
研究
栄養不良による再置換THA/TKA後のPJIリスクの増加A
Crossら並びにYiらは、一連の非感染性の再置
換術375例(TKA202例、THA173例)と感染
性の再置換術126例における栄養不良の有無に
ついて調査したと報告した。PJIが原因で再置換
術を受けた患者の53.2%が栄養不良であったの
に対し、PJI以外の理由で手術を受けた患者の場
合は、32.8%に留まった。非感染性の再置換術
を受けた患者375人の内の3.2%が急性PJIを発
症した。良好な栄養状態の患者グループの1.2%
に対し、栄養不良の患者グループのPJI発生率は
7.3%であった。感染性の再置換ならびに非感染
性再置換後の急性PJI発症の双方において、栄養
不良はリスク因子であった。
著者らは、手術前の栄養不良は、肥満患者および
標準体重の患者の両者において、一般的に認めら
れると指摘した。著者らは、栄養不良の患者にお
いて急性PJIのリスクが高まることを考慮して、
外科医は、患者に対し術前の栄養状態チェックの
実施を検討すべきであり、再置換術は全栄養パラ
メーターが改善した後にのみ行うべきであると結
論づけた。
今後の研究では、標準化検査手順の影響を精
査して、PJIリスクのある栄養不良状態を示唆す
る異常検査値を修正しつつ、潜在的な因果関係
の究明にあたるべきである。
研究
栄養不良による輸血とPJIリスクの増加
Chenら(米国)は、214例の初回TJA(膝関
節118例、股関節96例)の後ろ向き調査による
評価を行った。著者らは、栄養不良の患者が輸血
を受ける事例の方が多く、さらに輸血を受けた患
者のPJIリスクがより高まることを発見した。
研究
肥満によるTKA後のPJIリスクの増加
スイスの科学者らは、肥満と初回TKA後のPJI
発症との相関関係の有無を調査した。
Zinggおよびその他は2,346人の患者に行われ
た2,816例の初回TKAについて評価した。平均
フォローアップ期間は86ヶ月であった。この前
向き研究で、著者らは、BMI値の上昇は女性患者
でより多く認められ、さらに加齢と合併症率上
昇との関連性も認められたことを報告した。こ
の研究で、著者らはBMIの明白な境界値が35で
あることを突き止めた。
BMI値が35以上になると、再置換(原因の如
何を問わず)とPJIのリスクが2倍になった。著
者らは、この影響が女性よりも男性において強
くなることを確認した。
研究
MIS前方アプローチ(Smith-Peterson MIS)後のPJI発症率の増加
Claussら(スイス)は、従来型THAにおける
発表データと比較して、601例の連続したMIS
THA(551人の患者)群の方においてPJI発症率
がより高い(2.0%)ことを発見した。複数菌感
染症の発生率が高く(58%)、そのうち症例の
42%で糞便性病原体が認められた。PJIグループ
では、BMI値が比較的高かった。著者らは、より
側方からの切開で鼠径部から離れる手法の方が、
特に肥満患者にとっては有益となる可能性を示唆
した。
CeraNews 2/ 2014
18
基礎科学
2011年、Holinkaら(オーストリア)3は、Trampuzらが推奨した手法に準拠した超音波処理試験
を実施し、組織培養に比べて、コンポーネント表面の細菌検出に極めて有効であることを確認した。
近年発表された研究により、臨床診断手順での細菌検出において、超音波処理法は信頼性があり、十
分に有効であることが確認された。
2つの研究
超音波処理によるPJIの微生物学的診断の向上
Ravnら(デンマーク)は、連続した126例の
THA、77例のTKAの再置換術について前向き研
究を行った。臨床・血清学的所見に基づき、著者
らは、48例の再置換術においてPJIを予測した。
著者らは摘出したインプラントの超音波処理液体
培養と従来型の人工関節周囲組織培養、および関
節液培養を比較した。著者らは、従来型の培養法
では49例のPJI(24%)を診断し、そのうち7例
が無菌性ゆるみによる再置換、5例が構造的問題
による再置換であったと報告した。対象的に、超
音波処理培養では68例(33%)で陽性を認め、
そのうち12例が無菌性ゆるみによる再置換、15
例が構造的問題による再置換であった。またPJI
による48例の再置換のうち、従来型手法で37例
(77%)、超音波処理法で41例(85%)におい
て細菌が同定された。再置換症例において認めら
れた雑菌混入は、主に検体採取方法に起因するも
のであった。また従来法に比べて、超音波処理法
出典:A.Trampuz,MD,CharitéBerlin,Germany
超音波処理
では、検体採取時の雑菌混入例がより少ないとい
う結果を示した(各々15例と6例)。
著者らは、超音波処理法では従来法より陽性
のPJI培養を19例多く検出し、検体採取時の汚染
を抑制し、加えてPJIによる再置換例についてよ
り比率で原因菌の有益な情報を得ることができ
ると述べた。
Lepetsosら(ギリシャ)は、インプラント
のゆるみによりTHAあるいはTKAの再置換術を
受けた患者64人について調査を行った。著者ら
は、PJIの微生物学的診断目的で、摘出インプラ
ントの超音波処理液体培養と従来型の人工関節
周囲組織培養とを比較した。その結果、超音波
処理した液体培養(84.6%)が従来型の組織培
養(61.5%)より感度が有意に高いことが認め
られた。
出典:A.Trampuz,MD,CharitéBerlin,Germany
組織
摘出インプラントの超音波処理のような新手法は、PJIの診断に革命をもたらしている。摘出インプラント
の超音波処理のような新手法は、当初の診断が無菌性ゆるみとされた症例が、実際は軽度の感染症であったと
判明する例もある。
CeraNews 2/ 2014
19
2つの研究:
メタル・コンポーネントと比して有意に高いPEコンポーネント(TKA)とXPEコンポー
ネント(THA)における細菌付着性
残念なことではあるが、膝関節インプラント、
股関節インプラント等の感染性摘出インプラント
における細菌付着性について調査した、意義ある
臨床研究は少ない。
我々の知る限りでは、2012年に初めて、オー
ストリアの研究グループが、従来型PEコンポー
ネント(UHMWPE)に対する細菌付着性は、他
のインプラント材質の場合と比べて、高くなる
という実験結果を確認した。Holinkaら(オース
トリア)は、PJI患者の摘出人工膝関節(大腿骨
および脛骨コンポーネント、PEインサート、膝
蓋骨)の異なる100個のコンポーネントにおけ
る細菌付着性の評価・定量化研究の、重要な臨
床所見を発表した。著者らは、超音波処理培養
法でコロニー形成単位(CFU)数をカウントす
ることにより、膝コンポーネント表面の細菌負
荷を評価した。本研究での有意の差異は認めら
れなかったが、PEインサートと脛骨コンポーネ
ントの微生物感染が一番多かったことを、著者
らは報告している。CoCrMoコンポーネントと
比較して、最も高いCFU負荷が認められたのは
PEコンポーネント(インサート、膝蓋骨)であっ
た。最も多くの数の膝関節コンポーネントに付
着していたのは、表皮ブドウ球菌であった。超
音波処理培養で最も高いCFU数をもたらした病
原体として、黄色ブドウ球菌が特定された。著
者らは、感染性の再置換手術においては、コン
ポーネントの部分的な交換や、PEコンポーネン
ト単体の交換では十分ではない可能性があると
指摘した。
近年この研究グループは、PJI患者の人工股関
節コンポーネントへの差異のある細菌負荷につ
いての重要な臨床結果を初めて発表した。Lass
ら(オーストリア)は、連続した24人のPJI患者
の摘出股関節インプラント(ステム、カップ、
ボールヘッド、インサート)について、80個の
異なる股関節コンポーネントへの細菌付着の評
価および定量化を行った。著者らは、16個のチ
タン-アルミニウム-ニオブ合金(Ti6Al7Nb)
ステム、16個の純チタンカップ、24個のセラミ
ックボールヘッド(BIOLOX ®ⓓⓔˡⓣⓐ)および24
個のXPEインサートの超音波処理を行った。
24個のインプラント(24人の患者)すべてに
おいて、超音波培養で陽性を示した。摘出した
80個の股関節コンポーネント中68個で病原菌が
検出された。黄色ブドウ球菌は最も高いCFU数
をもたらした病原菌として特定され、特にXPEイ
ンサートではその傾向が顕著で、他の多数のコン
ポーネントから隔離された。
最も高い細菌負荷が認められたのはXPEイ
ン サ ート(10,180 C FU 、平均:566、範
囲:0~5,000)で、セラミックボールヘッド
(5,746 CFU、平均:319、範囲:0~2,560)、
メタル・カップ(5,007 CFU、平均:278、
範囲:0~3,000)、ステム(1,805 CFU、平
均:82、範囲:0~1,000)がそれに続いた。コ
ンポーネント一個に対するCFU負荷が最多であっ
たのは、XPEインサート(566)で、メタル・カ
ップ(417)セラミックボールヘッド(338)が
それに続いた。純チタンステムのCFU負荷は非
常に低位にとどまった(164)。
本研究の重要な成果は、XPEインサートにお
ける細菌付着性は、メタル・インプラント材質
(ステム、カップ)と比較すると有意に高く、
メタル(チタン、チタン合金)における細菌付
着性が低いと確認されたことにある、と著者ら
は指摘した。
さらにセラミックボールヘッドとXPEイン
サート間におけるCFUの不均等な分布は有意な
ものではなかったが、異なるバイオマテリアル
が細菌負荷に影響を与えていることを示したと
報告した。
しかしながら、我々の見解は、エビデンスに基
づいた科学的研究を行い、有意な臨床結果と、種
々のベアリング表面における細菌負荷の有効なデ
ータを実証する必要があるのではないか、という
ことである。
喫煙がMOMベアリング患者の不具合率に及ぼす影響
たばこの煙には微量のコバルトとニッケルが含まれる。喫煙が先天性および適応的免疫反応の両方
に影響を及ぼすことは既知の事実である。喫煙とニッケル感作リスクの増加との関連性は過去の研究
によってすでに知られている。今回初めて、研究により、喫煙がMoMベアリング不具合の重大なリ
スク因子として特定された。この喫煙と不具合の関連性は、CoPベアリングの比較患者グループでは
顕著ではなかった。
CeraNews 2/ 2014
20
基礎科学
研究
CoCベアリングとは対照的に、喫煙によって上昇するMoMベアリングの不具合率
Lübbekeら(スイス、米国)は、同一のカッ
プ・デザインとボールヘッド径(28mm)を持
つセメントレスCoPベアリングと比較したセメ
ントレスMoM THAの患者において、再置換率に
対する喫煙の影響について調査した。本研究は、
平均年齢71歳の1,964人の患者(女性57%)を対
象とした。1,301個のCoPベアリングと663個の
MoMベアリングが評価された。平均フォローアッ
プ期間は6.9(1.8~12.8)年であった。56例の
THAが再置換された。
喫煙経験のあるMoMベアリングの患者におけ
る再置換率は、喫煙経験のない患者より4倍高
かった(95% CI 1.4~10.9)。CoPベアリング
の患者における罹患率は、有意に低い1.3(95%
CI 0.6~2.5)であった。本研究でARMDを示し
た6人の患者は喫煙経験者であった。
著者らは、喫煙とMoMベアリング間の相互作
用は金属過敏症に関係する可能性があると仮説
を立てた。さらに、喫煙がMoMベアリングにお
けるARMD誘因あるいは増幅効果となりうると
結論付けた。
セラミックの結果
強直性脊椎炎は、脊椎や仙腸関節の慢性炎症によって引き起こされる進行性関節炎の一種である。
強直性脊椎炎はまた、股関節にも影響を及ぼすことがある。股関節強直の患者に異なるベアリングを
使用したTHAの結果については、入手可能なデータは限られている。しかしながら、初期臨床研究に
よって、長期的サバイバルにおけるCoCベアリングの優位性が顕著に示された。骨溶解が無いため、
骨保存により、将来的に起こりうる再置換術がさらに容易になるかもしれない。セラミック粒子の卓
越した生物学的挙動は、摩耗粉誘因の骨溶解リスクの低減に反映されている。
2つの研究
強直性脊椎炎の患者におけるCoC THAの高率の長期サバイバルレート
HHSでは2つの患者グループ間の有意な差
異は認められなかった。X線検査では、MoP
グループの13例の股関節で骨溶解が認められ
たが、CoCグループで骨溶解は認められなか
った。カップのゆるみがMoPグループの10
股で認められたが、CoCグループでカップの
ゆるみは認められなかった。CoCグループに
おける9.1年後の平均サバイバルレートは100%
であったが、MoPグループではわずか81%
であった。著者らは、セメント非使用THA
のような症例ではCoCベアリングが選択肢
として望ましいかもしれないと結論づけた。
ある。著者らは、強直した股関節におけるCoC
ベアリングで同様の結果を得た。
著者らは、15人の患者(男性9人、女性6人)
の16症例のセメントレスTHAを評価した。術時
平均年齢は52(16~75)歳であった。1993
年以前に手術を受けた患者にはMoPベアリング
(22.25、28 mm)が使用された。1993年か
ら1997年の間に手術を受けた患者にはCoPベア
リング(28mm)がインプラントされた。1997
年以降に手術を受けた患者にはCoCベアリング
(28、32mm)がインプラントされた。全患者
において、術後に運動性と機能の向上が見られ
た。9例の股関節(8人の患者)においてMoP
ベアリングあるいはCoPベアリングが使用され
た。直近のX線検査において6例の股関節(5人
の患者)で1~3mmの線形摩耗が認められた。X
線検査において3例の股関節に骨溶解が認められ
た。MoPベアリング(22.25mm)の若い女性
患者は、術後5年後にカップの無菌性ゆるみによ
り再置換術を受けた。患者が術時16歳であった
ため、THAにおいて高い機能性が要求されたこ
と、若年性関節リウマチにより臼蓋骨が比較的柔
軟であったことが複合原因となり、無菌性ゆるみ
が発生した、と著者らは推定した。
2009年にRajaratnamらが、平均フォローアッ
プ期間11(5-19)年の股関節強直の患者におけ
るセメントレスTHAの成績を発表したが、我々
の知る限り、これが現在のところ最長の成績で
最新のフォローアップにおいて、CoCベアリ
ングを使用した7人の患者(7股)ににおいてX線
像上線摩耗あるいは骨溶解を呈した症例はなかっ
た。
Kimら(韓国)は、強直性脊椎炎の患者におけ
る股関節障害の発生率が30~50%であると報告
した。著者らは、THA関連の問題では、患者の
低年齢化と彼らに対する高度の外科的処置が挙
げられることを指摘した。
35人の患者(男性30人、女性5人)の49例の
セメントレスTHAの臨床結果ならびにX線検査結
果が比較された。手術時の平均年齢は32(20~
54)歳であった。平均フォローアップ期間は9.1
(2.2~18.3)年であった。MoPベアリング使用
は23例、CoCは26例であった。
CeraNews 2/ 2014
21
著者らは、セメントレスTHAは良好な長期的
結果を伴う強直股関節の効果的な治療であると
結論づけた。
研究
CoCの高い中期サバイバルレート(MoPとの比較)
Radulescuら(ルーマニア)は、平均年齢
45.6(30~62)歳の60人の患者(女性38人、男
性22人)におけるセメントレスCoC THA(アル
ミナ)と平均年齢46.8(32~64)歳の62人の患
者(女性41人、男性21人)におけるセメントレ
スMoP THAを比較した前向き研究の中期結果を
報告した。平均フォローアップ期間は6.2(4.1〜
8.9)年であった。
X線検査で、MoPグループの4例(6.45%)に
骨溶解が認められたのに対し、CoCグループで
認められた骨溶解は1例(1.67%)のみであっ
た。HHSで、両患者群に有意な差異は認められ
なかった。
著者らは、術後6年時点において、CoCベアリ
ングのサバイバルレートがMoPベアリングより
も高いと結論付けた。
研究
摘出インプラント分析により確認された卓越したCoCベアリングの長期摩耗挙動
Korimら(イギリス)は、無菌性ゆるみによ
り術後平均16(7-20)年で再置換された、いわ
ゆる「Mittelmeierインプラント」第一世代の9
例の摘出CoCベアリングについて研究した。
セラミックコンポーネントはアルミナセラミッ
ク(BIOLOX®、CeramTec GmbH、Plochingen)であった。患者(女性6人、男性3人)の
初回術時平均年齢は48(22~60)歳であった。
著者らの報告によれば、低摩耗領域に比べて
著しく高い表面粗さを有するstripe wearは、3
個のボールヘッドでのみ認められた。他の6例の
ベアリングにおける摩耗は僅少であった(平滑
な表面の0.011 μmに対して0.289 μm)。
第一世代CoCベアリングの長期における摩耗
度は、過去の摘出インプラント分析と比較して
も、低い水準にある、というのが著者らの結論
であった。
腐食に関する新しい所見: CoCrMo股関節インプラントおよび膝インプラントの炎症細胞
誘因性腐食(ICIC)
多数の文献において、生体系に局所的影響を及ぼす腐食損傷が分析・考察されてきた。多種の炎症
性細胞起因の腐食損傷を示す新しいエビデンスが近年発表されたが、これは炎症性細胞とCoCrMo
インプラント表面間に存在するかもしれない相互作用の臨床結果について、新たな疑問を科学者と臨
床医に投げかけたものである。この新たな所見は、関節置換術におけるARMDへの我々の理解にも影
響を及ぼすかもしれない。
研究
炎症性細胞は生体内CoCrMoインプラントを腐食させることが可能である
Gilbertら (米国)は、摘出股関節・膝関節イン
プラントの顕微鏡観察により、CoCrMoインプ
ラントにおける炎症細胞直接誘発性腐食の新た
なエビデンスを提示した。MoM, MoPベアリン
グを含む51のインプラント・システムから摘出
した69個のCoCrMoインプラントのうち、51個
のコンポーネント(74%)において炎症細胞に
よる腐食が認められた。
著者らは、この観察は特定のデザイン、合金微
細構造、金属あるいはポリエチレンインサート材
質に限定して行われたものではないと報告した。
著者らは多様な腐食パターンを観察したが、
これは即ち、異なる細胞タイプおよび/または
細胞活性が刺激されたことを示唆している。腐
食のトポグラフィーを観察すると、各細胞がCo-
CrMoインプラント上を移動し、細胞膜を表面に
付着・定着させ、その結果腐食を進行させてい
ると推定される。著者らは、攻撃細胞の大きさ
が20~300μmであると観察した。金属イオン
は関節の炎症に大きく関与しており、細胞によ
る広範囲の腐食部位に認められた。
いかなる条件のもとで、いかなる活性化刺激が
この種の直接炎症細胞攻撃および腐食を誘発する
のかは、未だ明らかにされていない。
著者らは、活性刺激にはベアリング表面、モジュ
ラーテーパーあるいはその他のインプラント部
位における摩擦腐食(tribocorrosion)、ポリ
エチレンインプラントによる粒子生成、感染あ
るいは患者に特有な未知の因子が含まれる、と
推測した。
CeraNews 2/ 2014
基礎科学
22
局所的な環境条件下における低pH値と変化に関
連して起きる炎症性疾患と同様に、患者の疾病
素因が重要な役割を果たしているか否かは未だ
不明である。 n
著者の連絡先
Sylvia Usbeck (Clinical Affairs Manager)
Leslie F. Scheuber (Senior Product Manager Hip)
CeramTec GmbH
Medical Products Division
CeramTec-Platz 1–9
D-73207 Plochingen
Germany
E-mail: [email protected]
E-mail: [email protected]
www.biolox.com
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CeraNews 2/ 2014
インプラント病理学
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最新情報
人工股関節置換における
メタル・コンポーネント関連病理所見の治療における
ベアリング交換
Sylvia Usbeck and Leslie F. Scheuber
CeramTec GmbH, Plochingen, Germany
MoMベアリングに関連する人工関節周囲軟部組織の生物学的拒絶反応の原因は、まだ完全に明
らかになっていない。また、この合併症の正確な発病機序と罹患率も依然として不明である。FDA
とEFORT/EHSは、MoM股関節インプラントの、症候性・無症候性患者双方のフォローアップを
推奨した。4,9 しかし、インプラントされたメタルボールヘッドのすべての径において、症状のある
軟部組織と無症状の軟部組織についての病理所見を記録・文書化するための標準化された診断アル
ゴリズムはない。大径MoM人工股関節置換手術後の症候性・無症候性を含む炎症性偽腫瘍の罹患
率が報告されているが、4~71%であり、インプラントタイプ、患者集団、使用画像法(超音波検
査、CT、MARS(metalartefactreductionsequence)核磁気共鳴画像法)1–3,5,6,8,10–15によっ
て異なる。
無症候性偽腫瘍の臨床的有意性は依然として不明である。将来的に無症状の患者に症状発現がある
のか、あるとすれば、どの程度の頻度であるかについては不明である。この件についての意義深い研
究は不足している。現在、偽腫瘍の最適な外科治療についての一致した意見は存在しない。改善され
た再置換結果のデータベースを調べれば、関連問題に対する具体的な解答が得られ、整形外科医に対
して適切なガイダンスとなるかもしれない。
Source:P.Bösch,MD,Vienna,Austria
文献および臨床診療からの症例報
(図
1–3b)は、メタル関連の臨床的問題は、セラミッ
クコンポーネントのベアリングに再置換すること
で、解決されたようである、と示唆している。著
者らは、セラミックインプラントがTHAにおけ
る現在の選択肢の中で最も生物学的に不活性であ
ることから、CoC、CoPあるいはCoXPEベアリ
ングへの再置換を提案している。
図1:女性患者、65歳、術後4年、左股関節MoM
THA、症状なし。皮膚科で「不明のリンパ
球性腫瘍」と診断され、患者は2度手術を受
けた。
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出典:P.Bösch,MD,Vienna,Austria
出典:P.Bösch,MD,Vienna,Austria
図2 a–b:男性患者、65歳、スポーツ愛好家、右股関節MoM THA、術後2年、症状なし、屈曲部の腫れ、滲
出液
出典:P.Bösch,MD,Vienna,Austria
出典:P.Bösch,MD,Vienna,Austria
図3 a–b:男性患者、59歳、左股関節MoM THA、症状なし、術後11年、軟部組織および骨の広範囲な損傷
症例報告
MoM人工股関節置換術関連病理所見の治療におけるベアリング交換
Cadossiら(イタリア)は、MoM股関節表面
再建術後12ヶ月で、良性骨盤偽腫瘍を発症した
59歳女性患者の症例について報告した。患者に
金属アレルギーの既往歴はなかった。患者は、左
大腿部に疼痛と大腿四頭筋の衰えを訴えた。X線
検査とCTスキャンで、良好に固定され、安定し
ているインプラントと大腿頸部と大腿近位部周辺
に濃淡のない偽腫瘍を認めた。大腿神経の不全が
認められた。
さらに、詳細な病歴調査により、患者が約30
年間美容師として働き、そのため長期間にわたっ
て常に化学薬品に触れていたことが明らかになっ
た。著者らは、美容師における高いアレルギー性
接触皮膚炎発症率について多くの報告があること
を指摘した。
CeraNews 2/ 2014
再置換:
第一段階として、開腹法を用いて壊死軟部組織
塊を摘出した。AASで、人工関節周囲組織と血
清中に、正常値より高い金属イオンレベル(Co,
Cr)が認められた。患者が手術から回復する間
に、第二段階の再置換術が計画された。患者は
依然として左大腿部に疼痛を訴えており、部分
的な神経麻痺の回復は認められなかった。パッ
チテストで、CoとNiに対する陽性の皮膚反応が
認められた。血清中のCrレベルとCoレベルは高
く、Niレベルは正常であった。過好酸球増加症
も認められた。人工関節は安定しており、X線検
査でRadiolucent lineは認められなかった。再置
換術中切除された腸腰筋の再生がCT画像で確認
された。
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MoM表面置換術からCoC THAへの交換を行っ
た。寛骨臼周辺組織の組織学的分析で、高密度
のリンパ球浸潤、多数の肥満細胞および複数の
好酸球が認められた。腸腰筋、および寛骨臼コン
ポーネントと腸骨間の反応組織からの生検標本を
組織学的に検査すると、巨大細胞、マクロファー
ジ、fibrous-macrophage反応、リンパ球の浸
潤を伴う線維組織、大型好酸球、出血およびリ
ンパ濾胞が認められた。好酸球はアレルギー、
組織の恒常性および免疫反応に関係する。2.9%
から8.3%におよぶ細胞数の増加は好酸球増多症
を示した。
結果:
CoCへの再置換により、臨床症状の原因を除
去することができた。著者らは、MoMインプラ
ントの除去とCoC THAへの再置換後、好酸球の
Sandifordら(イギリス)は、MoM股関節表
面置換術をセメントレスTHAへ転換する手術を
受けた25人の患者(女性13人、男性12人)の
適応症と早期転帰を前向き研究で評価した。フォ
ローアップ期間中に1例が脱落した。著者らは、
術中所見は診断により異なっていたと報告した。
再置換の適応症は、主に鼠径部痛(6例)、スポ
ーツ後の原因不明の痛み(2例)、クリック音を
伴う痛み(2例)および滲出液を伴う痛み(10
例)であった。再置換までの平均期間は30.2(4~
65)ヶ月であった。
再置換:
全患者において、少量の滲出液が認められ
た。3例が濃灰色、1例が淡黄色であった。3例
にカップ裏側に嚢腫性病変が認められ、この3例
中1例にカップのゆるみが認められた。黒色の偽
関節包が3例に認められた。
これらの所見が認められた全患者におい
て、MoMベアリングからCoCベアリングへの再
置換術が行われた。
割合は10日後に7.7%に低下し、1ヶ月にはさら
に2.1%に低下したと報告した。疼痛は治まり、
大腿神経の不全のみ残存した。CT画像で、偽腫
瘍の消失が確認された。患者は新たな有害反応
や合併症を発症することなく正常に回復した。
考察:
著者らは、急峻なカップ設置と、二種類の免
疫・炎症機序、マクロファージによる壊死および
金属ナノ粒子に対する細胞媒介性過敏症(遅延型
IV)が結びついた可能性があり、その結果この偽
腫瘍を発症したと示唆した。加えて、これらの機
序は、金属感作の機会が職業上多かったことが影
響していると思われた。著者らは、偽腫瘍の発病
機序におけるナノサイズのメタル摩耗粉とメタル
イオンの役割についてのさらなる調査を求めた。
みであった。小径ベアリングを使用していた女性
患者は本コホートで不具合率が高かった。
著者らは、1000人以上の一連の患者から得ら
れた近年のデータ(R.Treacy)を引用し、原因
不明の疼痛反応は小径MoMベアリングの女性患
者において多く認められているのではないかと
示唆した。
これまでは、メタル関連合併症は大径ヘッド
使用よりも、小径メタルボールヘッド(≤32mm)
使用に起こりにくく、発症は主に女性患者に多い
と、推定されてきた。しかしながら、すべてのイ
ンプラントサイズと男女両性の患者における、症
候性・無症候性合併症の発症率に関する情報を含
んだ有益な研究は報告されていない。
結果:
著者らは、全患者が、特に疼痛緩和に満足して
おり、UCLA活動スコアが上昇し、日常の仕事や
活動、スポーツに復帰したと報告した。術後の
Oxford, Harris, Womacのヒップスコアの平均
値は、それぞれ術前の数値と比較すると、統計
学的に有意な改善を示した。
考察:
著者らは、人工関節周囲軟部組織有害反応の原
因は十分に理解されていないが、このような適応
症による再置換術時には、ベアリングカップルに
コバルトクロムコンポーネント使用を回避するの
が、理にかなっていると指摘した。カップ裏側の
溶骨性病変が認められたのは女性患者においての
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インプラント病理学
Maurer-Ertlら(2011年)の発表後、Kawakitaら(日本)は、MoM THA後の偽腫瘍
による片側下肢浮腫に関する論文を2番目に報告
した。著者らは、左股関節の大径MoM THA後
の典型的な炎症性偽腫瘍について報告した。術
後約1年後に69歳女性患者は、左側下肢浮腫を
訴えた。X線検査で、軟部組織腫脹が認められ
た。CT画像で、骨盤の腸骨窩の前に左外腸骨動
脈および静脈を圧迫している直径5cmの腫瘤が
認められた。
再置換:
径ボールヘッド/ネックテーパー接合部に腐食の
兆候は認められなかった。臼蓋窩あるいは大腿骨
の溶骨性病変は認められなかった。
固定状態良好のステムは置換されなかった。
カップは交換され、MoMベアリングカップルは
CoCベアリングカップルに置換された。
結果:
患者は、術後合併症や有害反応の兆候もなく、
正常に回復した。
著者らは、軟部組織腫瘤の完全除去は不可能で
あったと報告した。従って、著者らは、その体積
を可能な限り小さくした。組織学的所見は炎症性
偽腫瘍と一致した。切除した壊死塊に、巨大細胞
と微小血管周囲にリンパ球とプラズマ細胞の浸潤
が認められた。患者の下肢浮腫は徐々に回復し、
腫瘤の体積も低減した。外静脈の拡張は消失し
た。患者は同時に左股関節THAの再置換術と右
股関節の初回THAを受けた。
外科医らは、大径ヘッド内側とネック周囲に壊
死組織を認めた。組織学的検査でメタル摩耗粉は
認められなかった。関節液中と軟部組織内の金属
イオン濃度の有意な上昇は認められなかった。大
考察:
Johnsonら(米国)は、MoMベアリング
に関連する有害組織反応に重点的に取り組
み、ARMDが罹患率の高さに関係していると指
摘した。著者らは、MoM HR後3.5年の左股関節
痛、クリック音、腫脹のある60歳女性患者の症
例を発表した。身体所見では、関連神経血管病
変は認められなかったが、患者は股関節可動域
運動時の痛みときしみ音を示した。クロム濃度
とコバルト濃度はそれぞれ65ppbと53ppbであっ
た。ESR、CRP値、WBCカウントは正常範囲内
であった。X線検査で、寛骨臼コンポーネントあ
るいは大腿骨コンポーネントのゆるみは認めら
れなかった。CT画像で、左腸骨の寛骨臼上域に
1.6×1.4cmの偽腫瘍が認められたが、再置換術
中に除去された。
再置換:
著者らは、メタル摩耗粉ではなく細胞媒介性過
敏性反応(遅延型IV)がおそらくこの偽腫瘍発症
の原因であったとの仮説を立てた。金属過敏性が
起因して偽腫瘍が発現するのかもしれないと仮定
する研究は多い。残念ながら、現在に至るまで、
偽腫瘍形成に至るメタル摩耗粉の閾値があるの
か、という問いに対する答えは出ていない。し
かし、複数の反応(免疫学的、炎症性、細胞傷
害性、過敏性)がMoM股関節インプラントの個
々の患者内で重複して起こり、偽腫瘍形成に至
る可能性も考えられる。
著者らは、関節包切開時に、50~60mlの灰色
の液体が流出したと報告した。また、股関節後
面と前下方面に灰色に着色したメタローシスを
伴う広範囲な偽関節包を認めた。組織学的分析
で、ARMDと一致する反応性変化、慢性炎症お
よび微粒子を持つマクロファージを伴う緻密線
維組織が認められた。MoM股関節表面置換術か
らCoC THAへの転換を行った。
結果:
患者は、術後合併症や有害反応の新たな兆候も
なく、正常に回復した。著者らは、患者は3ヶ
月後のフォローアップで、わずかなトレンデレ
ンブルグ兆候が認められるが、不安定性はな
く股関節の可動域は良好であると報告した。n
「ARMDに起因する再置換では、ベアリング表面は、ARMDの再発や症状の継続を防ぐため、 MoMベアリング以外に置換すべきである。」
Johnson S et al. Revision of Metal-on-Metal Bearing Surfaces in Hip Arthroplasty. Scuderi GR (ed.). Techniques in Revision Hip and Knee Arthroplasty. Elsevier Saunders 2014 p. 562
CeraNews 2/ 2014
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著者の連絡先
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[Open Access Full Text Article; English and Portuguese]
Sylvia Usbeck (Clinical Affairs Manager)
Leslie F. Scheuber (Senior Product Manager Hip)
CeramTec GmbH
Medical Products Division
CeramTec-Platz 1–9
D-73207 Plochingen
Germany
E-mail: [email protected]
E-mail: [email protected]
www.biolox.com
参考文献
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CeraNews 2/ 2014
28
トレンド
肩関節置換術のトレンドと今後の展望
Felix Zeifang MD, PhDへのインタビュー
Department of Orthopaedic and Trauma Surgery, University Hospital of Heidelberg
肩の手術は、近年著しい発展を遂げてきまし
た。関節置換治療の症例件数も急増しています。
他の関節置換術においての最重大問題は摩耗、
感染症、アレルギーですが、CeraNewsはFelix
Zeifang MD, PhDとのインタビューの中で、肩
関節置換術における未解決の問題や今後の展望、
さらには、肩の手術における関節置換術の重要性
についてもお話を伺いました。
肩関節置換術において、近年特に発展を遂げて
きたのはどのような点でしょうか?
毎年、世界中で約185,000個の人工肩関節が
インプラントされていますが、そのうち20,000~
30,000個についてはドイツで手術が行われてい
ます。このように、肩関節置換は、股関節や膝
関節に比べると、占める割合の非常に少ない分
野ではあります。しかし、その件数は近年著し
く増加しています。中でもReverse shoulderが
最も増加しています。
Reverse shoulder置換の症例件数がそのよ
うに増加しているのはなぜでしょうか?
加齢に伴い退行性変化が進むと、最終的に腱板
断裂につながります。これは、健康な人にも肩関
節の関節症(肩関節症)の患者にも影響を及ぼし
ます。腱板機能不全を患う患者の割合も年齢を
重ねるにつれて増加して、60歳では約10%の
人たちが悩まされています。また、その割合は
一年加齢するごとに約1~2%ずつ増加していま
す。Reverse shoulder置換術を行えば、腱板の
筋肉は、その機能が主に三角筋で復元されますの
で、不要になります。従って、人工逆肩関節置換
術は特に高齢者にとって有益なのです。
肩関節置換術の適応症は近年どのように変化し
ているのでしょうか?
肩関節症と共に、最近では上腕骨近位粉砕骨折
の治療が主になってきています。この症例には、
プレートを使用するよりも、Reverse shoulder
置換の方が、より効果的な機能回復を期待でき
るのです。
どのような臨床結果が出ているのでしょうか?
CeraNews 2/ 2014
解剖学的人工肩関節にも、Reverse shoulder
にも共通して言えることは、患者の主観的満足
度は非常に高いということです。重要なのは、
適切な人工関節を選択することです。そうする
ことで、私たちは、術後10年経っても、満足度
80%以上という非常に素晴らしい結果を達成し
ました。再置換率は比較的低いのですが、研究
された症例件数はまだ多くはありません。私た
ちが最近発表した研究では、39例の肩関節全置
換において、平均フォローアップ期間13年間を
経て、再置換が必要な症例はありませんでした。1
にもかかわらず、解剖学的人工肩関節をX線で
分析すると、術後13年で関節窩コンポーネント
のゆるみ率が36%と、高いことが明らかになり
ました。しかし、ほとんどの高齢の患者におい
て、機能制限を引き起こすような症状は見られ
ませんでした。X線でゆるみが確認されても、患
者たちは満足しているのです。関節窩コンポーネ
ントの恒久的固定は、未だ解剖学的人工肩関節に
おける最大の課題です。
Reverse shoulderにおいても同様の問題が
あるのでしょうか?
Reverse shoulderにおいては、関節窩コンポー
ネントのゆるみはかなり少数です。現在、Reverse shoulder置換術が取り入れられてから10
年間の症例結果がありますが、それらをX線で分
析すると、関節窩ボールヘッドのベースプレート
はしっかりと固定されていることがわかります。
これに対し、ベースプレートの下側の骨侵食に特
徴付けられる、肩甲骨切痕の問題があります。こ
の現象は、Reverse shoulder置換全体の約3分
の2に見られますが、関節窩コンポーネントのゆ
るみにはつながりません。肩甲切痕の原因はまだ
断定されていませんが、おそらく人工関節の機械
的な問題、関節包への刺激、あるいは摩耗による
骨溶解が原因だと考えられます。
Reverse shoulderの場合、ゆるみはどちらか
と言うとステム周辺に見られます。このゆるみ
は、おそらくマイクロモーション、大きな回旋
運動、あるいは摩耗粉によって引き起こされる
ものだと考えられます。また、Reverse shoulderには、別の機能低下が見られます。
29
患者の腕を外転させたときに重量を支える筋力
は、年月が経つにつれて徐々に弱くなるのです。
先ほどと同様、根本的な原因は、明確には断定
されていませんが、これは、筋繊維の長さの変
化や、筋肉の脂肪変性の増加によって引き起こ
される、三角筋の疲労が原因だと考えられます。
解剖学的人工関節のゆるみの発生率が高いのは
なぜでしょうか?
確かに、設計が最適ではない初期のインプラン
トや、不十分な肩関節置換術研究に起因するゆる
みも一般的にはあります。入手可能なコンポーネ
ントの種類やサイズも少なくて、各患者の体の構
造に合うようなものを選べなかったということも
一因です。しかし最近では、非常に優れたシステ
ムが開発されています。また以前は、海綿骨に穴
を開けていましたが、今では、皮質骨へのインプ
ラント固定により高い安定性が確保できると分か
り、手技も改善されました。
現在、骨セメントを用いたポリエチレン製関
節窩コンポーネントが主流となっています。しか
し、比較的小さな骨ですので、固定の方法は最適
とは言えません。マイクロモーションも起こり、
インプラントが本来あるべき場所を保持できなく
なる可能性もあります。私たちは、新しいコンポー
ネントの設計に加え、ジェット洗浄とプレッシャ
ライズセメンティングといった最新のセメント技
術によって、この問題が解決されるよう願ってい
ます。
セメントレス固定ならより高い安定性が期待で
きるのでしょうか?
肩関節置換術において、メタルバックシステム
を使用して、肩甲骨コンポーネントをセメントレ
ス固定した場合、重大な摩耗の問題につながり
ます。術後10年未満であっても、臨床症状を引
き起こすようなゆるみが高率で発生しやすくな
るのです。それに応じて、セメントレス固定で
は、再置換率も高くなります。ニュージーラン
ドの2013年のレジストリ・データによると、セ
メントレス固定の再置換率は、骨セメントを用
いて固定した場合の約4~5倍も高いのです。2
ステムの交換についても困難で、侵襲は避けられ
ません
どのような対処が必要だとお考えですか? 関節窩側の開発が最も必要だと考えます。もち
ろん最適なのは人工肩関節の関節窩コンポーネン
トにすでにベースプレートがついていて、それ
が、Reverse shoulderに替える際のボールヘッ
ド(glenosphere)固定にも適していることで
す。しかしながら、この方法を取ると、まずオ
フセットによる問題が起きますし、メタルバック
のコンポーネントは摩耗起因のゆるみ発生率が高
いという事実もあります。肩関節のベアリング・
カップル研究はまだ成熟段階には至っていません
が、私たちは望みを高く持っており、例えばセラ
ミックコンポーネントの使用で摩耗問題を最小限
に抑えられるのではないかと考えております。
セラミックコンポーネントを使用することで改
善される問題は他にもあるのでしょうか?
金属アレルギーの患者の場合、現状、チタンイ
ンプラントに頼らざるを得ません。そういった患
者には、セラミックインプラントが改善策となる
でしょう。肩関節置換術においては、人工関節周
囲感染症による問題が増加しています。黄色ブド
ウ球菌や表皮ブドウ球菌に加えて、関節置換術で
はめったに見られなかったある細菌が問題を引き
起こしています。それは、プロピオニバクテリウ
ムで、腋窩に見られる皮膚の生理学的微生物で
す。その存在確認には、最低10日間の培養が必
要なため、おそらく過去に見落とされることも多
々あったかもしれません。股関節置換術で明らか
なように、セラミックコンポーネントの使用で、
感染症の発生率を低減させることができます。で
すからセラミックは、将来的に感染症回避に役
立ってくれるかもしれません。
博士、興味深いお話をお聞かせ頂き、ありがと
うございました。n
インタビューを行ったのは、Heinrich Wecker(医用工学ビジネス開発戦略部長、CeramTec GmbH)。
ということは、セメントレス固定は適切な選択
とは言えないのでしょうか?
残念ながら、現段階ではそのとおりです。しか
し、もし問題が改善され、セメントレス固定が適
切な選択と言えるようになれば、解剖学的人工肩
関節からReverse shoulderへの変更が簡素化さ
れるため、有用だと考えられます。解剖学的イ
ンプラントを設置している患者の回旋腱板の筋肉
に、通常の変性プロセスの結果として疲労が発生
した場合、この変更は必要です。ですが、セメン
ト固定されたカップの取り外しは厄介です。骨に
大きな穴が開いているので、これを塞いでからベー
スプレート固定をしなければなりません。
参考文献
1. Raiss P, Schmitt M, Bruckner T, Kasten P, Pape G, Loew M, Zeifang F. Results of cemented total shoulder replacement with a minimum follow-up of
ten years. J Bone Joint Surg Am. 2012;94(23):e1711-10
2. Clitherow HD, Frampton CM, Astley TM. Effect of glenoid cementation on
total shoulder arthroplasty for degenerative arthritis of the shoulder: a review of the New Zealand National Joint Registry. J Shoulder Elbow Surg.
2014;23(6):775-781
CeraNews 2/ 2014
30
トレンド
FelixZeifangMD,
PhDは、The University Hospital of
Heidelberg のThe
Department of Orthopaedics
and
Trauma Surgeryに
て、2005年7月よ
りAssistant Medical Directorを務
め、2010年よりThe
Shoulder and Elbow Surgery Sectionを担当。
主要研究分野は、肩の外科手術、肩関節
置換術、軟骨細胞移植、限局性軟骨欠損の
治療、腫瘍、敗血症性整形外科学、足の外
科手術。
Felix Zeifang MD, PhDは、その研究分
野において40以上もの論文を発表し、数
々の賞を受賞。The Orthopaedic University ClinicにてAssistant Lecturer、The
Training Center for Shoulder and Elbow Surgery of the German Society for
Shoulder and Elbow SurgeryにてDirectorとしても活躍している。
連絡先:
Felix Zeifang, MD, PhD
Head of the Shoulder and Elbow
Surgery Section
Department of Orthopaedic
and Trauma Surgery
University Hospital of Heidelberg
Schlierbacher Landstraße 200a
D-69118 Heidelberg
Germany
電話: +49 6221 56 262 24
ファックス:+49 6221 56 283 88
E-mail: [email protected]
新着情報
学会・ワークショップ
第16回EFORTCongress
メインテーマ:感染症
第16回EFORT Congress Prague 2015の
メインテーマは人工関節周囲感染症です。主
な学術議題は、下記のとおりです。
•整形外科バイオマテリアルへの細菌付着
•整形外科感染症の経済学
•感染TKR
•TJA感染の適応治療
•インプラント調査におけるRSAの研究
•トライボロジーの現状問題
•THAにおけるデュアル・モビリティ(二重摺動):
適応症と制限
チェコ共和国、プラハ
2015年5月27日~29日
詳細ならびにオンライン登録はこちら
から。
www.efort.org/prague2015
人工関節感染症に関する
学術的ワークショップ
The PRO-IMPLANT Foundation(ベルリ
ン、Charité-University Medicine)は、好評
の学術的ワークショップ(使用言語:英語)
を2015年にも引き続き予定しています。取り
上げられるのは、診断から内科・外科治療に
至るまで、人工関節周囲感染症に関連するあ
らゆる問題です。専門家による報告、症例に
ついての議論、実践的な体験型ワークショッ
プなどが行われます。
The European Prosthetic Joint Infection
Cohort Study (EPJIC)の報告もあります。
EPJICとは、PJIの患者5,000人を含む国
際的な多施設共同研究プロジェクトで、感染
症、機能、生活の質の長期的変化の評価を行っ
ています。
既に100以上の病院が、この研究への参加に
関心を寄せています。
コラボレーションに興味のある方は、The
PRO-IMPLANT Foundationにご連絡ください。
E-mail: [email protected]
開催日程:2015年3月5日~6日、6月1日~2日、
9月24日~25日
開催場所:LangenbeckVirchowHausLuisen straße58/59D-10117 Berlin(ドイツ)
詳細ならびにオンライン登録はこちら
から。
www.pro-implant-foundation.org
CeraNews 2/ 2014
31
最新ニュース
CeraNewsアプリ:セラムテックGmbHの整形外科医療情勢ジャーナル
セラムテック社のCeraNewsが、
無料アプリでも
ご覧いただけるようになりました。好評のハードコ
ピー版に加え、
いつでもモバイルアクセスでデジタ
ル版をお楽しみいただけます。
いたします。CeraNewsアプリなら、院内でも外出
先でも、股関節置換術分野の最新情報をオンライ
ンでお楽しみいただけます。
PJIについて取り上げた最新版も既にアプリでご
覧いただけます。
それ以前のバックナンバーについ
てもアプリでご覧いただけます。CeraNewsは年2
回の無料提供です。
インプラント病理学、
トライボ
ロジー、ベアリング・カップルなど、様々な臨床・学
術トピックについて、最新の興味深い情報をお届け
主な内容:
•メインテーマ
•インタビュー
•署名記事 ・文献の評価
•基本情報 ・症例報告
www.ceranews.com
App Store: https://itunes.apple.com/app/id906409794
Google-Play-Store: https://play.google.com/store/apps/details?id=com.pressmatrix.ceranews
PALACADEMY®アプリ:人工関節周囲感染症(PJI)診断要領
人工関節周囲感染症(PJI)は、関節置換術
において深刻な合併症で、患者の幸せや医療制
度に大きな影響を与えます。その最大課題の1
つとして「培養陰性」のPJIが上げられます。
公開されている症例シリーズにおいて、培養
陰性PJIの報告率は5%~41%です。微生物培養
における病原菌単離の失敗には、多くの要因が
あります。1
P A L A C A D E M Y ®ア プ リ 「 人 工 関 節 周
囲感染症(PJI)診断要領」は、iPadで
ご利用いただけます。Heraeus Medicalは、
このアプリで、課題研究教育ツールや診断結果
改善方法を提供しています。
主な内容:
•症例:診断アルゴリズムを用い、実際の症例
に沿った段階別手順
•課題:PJIについてのFAQや問題、役立つ情
報、動画
•メディアライブラリー:文献評価コメント、
ダウンロード用グラフと図
•症例報告:臨床例情報交
http://heraeus-medical.com/en/diagnostic_app/diagnostic_app_1.aspx
1
Peel, T. et al. 2013. Management of Prosthetic Infection According to Organism. http://dx.doi.org/10.5772/53244
Apple、Appleのロゴ、iPhone、iPadは、米国および他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。AndroidはGoogle Inc.の商標です。
CeraNews 2/ 2014
新着情報
32
文責(新着情報)
S. Usbeck (Clinical Affairs Manager),
L. F. Scheuber (Senior Product Manager Hip),
F. Petkow (Manager Sales Services
International)
書籍の紹介
筋骨格系感染症: 原理・予防・診断・治療
筋骨格系における感染症は稀ではあります
筋骨格系感染症問題の様々な側面を簡潔にまと
が、患者にとっても外科医にとっても衝撃度の
めています。さらに、本書の第二の目的は、こ
大きい合併症です。本書は、Swiss Orthopae-
の困難な感染症の対処にあたり、感染症専門
dicsとThe Swiss Society for Infectious Dis-
家、整形外科/外傷外科医、微生物学者、病理
easesとの連携の賜物です。この二つの組織の
学者、形成外科医間の協力体制を強化・促進し
代表が、双方の協力で設立された専門家グルー
ていくことです。
プInfections of the musculoskeletal system
の一員として、本書を執筆しました。本書は、
Infections of the musculoskeletal system
Infections of the
musculoskeletal system
Infection Therapy Passport
For follow-up of orthopaedic antibiotic treatment for infections.
To be brought to all consultations by the patient!
DOB
Name /
/
Diagnosis Antibiotic allergy Information for the doctor
Basic principles, prevention, diagnosis and treatment
Your patient underwent surgical treatment of a bone or joint infection and was started on antibikotics.
To check the progress of treatment, we rely on thorough documentation of the chemical laboratory
parameters and so kindly ask you to arrange for regular laboratory tests and to enter the results in the
following pages. We are happy to answer your questions at any time. Should clinical signs or lab
results suggest that the antibiotic treatment needs to be modified, we can of course arrange to discuss
the matter on an interdisciplinary level (with specialists in orthopaedics and infectious diseases) and
issue therapeutic recommendations. As background information, please fax page 2 and 3 of this passport to the doctor responsible for treatment (see below).
Basic principles, prevention, diagnosis and treatment
n CRP, WBC
measured every
weeks
n Hepatic values (ASAT, ALAT, AP)
measured every
weeks
n Creatine kinase
measured every
weeks
n Renal values (creatine, urea)
measured every
weeks
measured every
Monitor closely when using rifampicin, caution when discontinuing rifampicin
weeks
ハンドブック(無料)とInfectiousDisease
Passport(英語版、ドイツ語版)は、筋骨格系感
染症患者の抗生物質治療用に作成されました。ハン
ドブックならびにInfectiousDiseasePassport
のご注文はこちらから。
When using rifampicin, quinolone, fusidic acid, daptomycin
When using daptomycin
n INR (in pats on anticoagulation)
n Other
measured every
weeks
n Clostridium antigen test only in the event of diarrhoea during antibiotic treatment (> 3 evacuations of liquid stool/day)
For the treating doctor
Stamp
Name
Telephone
Published by the swiss orthopaedics and the Swiss Society for Infectious Diseases
expert group “Infections of the musculoskeletal system”
Fax
Email
Published by swiss orthopaedics and the Swiss Society for Infectious Diseases expert group
“Infections of the musculoskeletal system”.
It was developed by Prof. Peter E. Ochsner and Prof. Werner Zimmerli at the Cantonal Hospital of
Liestal, Switzerland.
1st English edition 2014
05799_Buch_IdB_Titelbild_Englische_Version_20140327_RZ.indd 3
11.08.14 14:15
Heraeus Medical GmbH
Philipp-Reis-Str. 8/13
D-61273 Wehrheim, Germany
1402_459_Infektiologischer_Pass_EN.indd 2
www.heraeus-medical.com
11.08.14 14:17
股関節置換術におけるセラミックインプラントの臨床使用:解説書
本書では、日常の臨床治療における、セラミッ
ク股関節インプラントの使用について、役立
つヒントや情報を簡潔かつ明瞭な形で皆様に
お届けしています。臨床治療に適用可能な手
法やカラフルな写真や図をご覧いただくこと
で、医療の現場に携わる方々が重要情報をい
ち早く入手できるよう、お手伝いします。
The Clinical Management Guideシリーズ
は、時間をかけることなく早く情報を得たい
と望まれる整形外科医の皆様に向けて出版さ
れています。役立つ助言ツールとして、この
ポケットガイドは、日常の臨床治療で起きる
様々な問題を選び、その解決法に関する最新
情報を提示しつつ、本質に迫っていきます。
さらに、日常的に関節置換術の問題に直面し
ていなくても、必要なときに情報にアクセス
したいと望まれる股関節置換分野関連の医療
従事者や科学者の皆様にもお役に立てる内容
となっています。
Kiefer H, Usbeck S, Scheuber L.F., Atzrodt V
股関節置換術の臨床管理。セラミックインプ
ラント使用の解説書。
初版:2014年、40ページ、イラスト24点、カラー
SpringerHeidelberg
ご利用可能形式:
eBook
ISBN978-3-662-45492-3
使用フォーマット:PDFまたはEPUBダウンロード
してみてください。
Kiefer · Usbeck
Scheuber · Atzrodt
ソフトカバー版
ISBN978-3-662-45491-6
Clinical
Management of
Hip Arthroplasty
2014年10月出版予定
Practical Guide
for the Use of
Ceramic Implants
CeraNews 2/ 2014
CeraNews整形外科医療情勢ジャーナル
この用紙をFAX番号:075-502-0487(日本国内)まで御送り下さい。
更に詳しい情報を希望:
Safety Reminder
Die hart/weich Gleitpaarungen Keramik/Polyethylen (PE), Keramik/Crosslinked Polyethylen (XPE), Metall (CoCrMo)/XPE wurden
hinsichtlich möglicher Auswirkungen von Keramikpartikeln auf das Abriebverhalten (Dreikörperverschleiß) untersucht.
The stem taper could
become damaged intraoperatively by surgical
instruments.
Material und Methode
Safety Reminder
BIOLOX® Inserts
2. Trial reduction with
trial femoral ball head
only.
The use of a trial head is
required because the use
of an actual ceramic ball
head for trailing can modify
the surface finish of the
stem taper.
3. Careful cleaning and
drying of the stem taper.
Make sure that third body
particles (soft tissue, fat,
cement or bone fragments,
etc.) are not trapped in
between the connection of
the stem and ceramic ball
head tapers.
1, 2, 3, 6 Figure Source:
Prof. D. Höntzsch (Tübingen, Germany)
4, 5 Figure Source: CeramTec
• Do not use any BIOLOX® ball head that has been dropped to the floor, damaged or previously
used.
• Make sure that the ceramic ball head taper and the stem taper are compatible.
• Don’t combine products from different manufacturers.
9
CeraFacts
• Use a trial ball head for trial reduction.
• Make sure that the taper surfaces are clean and not damaged.
• Carefully assemble the components.
• Confirm proper assembly and then impact.
0–1,0 Mio. Zyklen
1,0–5,0 Mio. Zyklen
Primärversorgung
Versorgung nach Keramikfraktur
Abriebvolumen (mg/Mio. Zyklen)
Abriebvolumen (mg/Mio. Zyklen)
3
316
2
316
315,5
315
1
0,5
9
Metall/XPE-Gleitpaarung
Metall/XPE-Gleitpaarung
316 ± 47
im Simulator mit
im Simulator mit
Keramikpartikeln
Keramikpartikeln
bis 5 mm
bis 5 mm
1
316 ± 47
Abrieb Ke/PE
(XPE)
0,5
315
Keramik/PE- Keramik/PEGleitpaarung
Gleitpaarung
1
Keramik/XPEKeramik/XPEim Simulator mit
im Simulator
mit
Gleitpaarung Gleitpaarung
Keramikpartikeln
Keramikpartikeln
im Simulator mit
bis 5 mm
bis 5 mmim Simulator mit
Keramikpartikeln
Keramikpartikeln
0,5
bis 5 mm
bis 5 mm
0
Abrieb Me/XPE
0
316 ± 47
Fretting and Corrosion at Modular
Junctions
Can ceramics address this clinical issue?
315
Abrieb Ke/Ke
316
315,5
Metall/XPE-Gleitpaarung
im Simulator mit
Keramikpartikeln bis 5 mm
315,5
1,5
AbriebvolumenAbriebvolumen
(mg/Mio. Zyklen)
(mg/Mio. Zyklen)
1
Keramik/KeramikGleitpaarung im
Standard-Simulator
nach ISO 14242-19
< 0,1
0,5
Keramik/PEGleitpaarung
im Simulator mit
Keramikpartikeln
bis 5 mm
0,56 ± 0,21
0
Keramik/XPEGleitpaarung
im Simulator mit
Keramikpartikeln
bis 5 mm
0,31 ± 0,17
0,56 ± 0,21 0,56 ± 0,21
0,31 ± 0,17 0,31 ± 0,17
0
September 2013
Abb. 1: Zwischen den Gleitflächen eingebrachte Keramikpartikel während des Tests
Abb. 2: Punkte 1–5, an diesen Stellen wurden
Al2O3-Partikel vor Testbeginn eingebracht
Abb. 3: Oberfläche BIOLOX®delta
nach 5 Mio. Zyklen
Abb. 4: Oberfläche XPE Insert
nach 5 Mio. Zyklen
Schlussfolgerung
1. Von den bislang untersuchten Gleitpaarungen weisen Keramik/Keramik-Gleitpaarungen ein sehr
geringes Abriebvolumen auf (Abb. 5) 9. Aus tribologischer Sicht stellt die Keramik/Keramik-Gleitpaarung die beste Versorgung nach Keramikfraktur dar.8
10. Check the right
position of the insert
in the cup after
fixation. (e.g. X-ray).
3. Die Verwendung der Metall/PE-Gleitpaarung nach Keramikfraktur ist kontraindiziert.1–5 Keramikpartikel können in das PE-Insert eingepresst werden und zur hochgradigen Zerstörung des Metallkugelkopfes führen (Abb. 7–8).
CeramTec-Platz 1–9
Always remember
Abb. 8
Klinische Erfahrungen bestätigen die Testergebnisse.7 Für die Versorgung nach Keramikfraktur
stehen BIOLOX®OPTION-Kugelköpfe aus dem Material BIOLOX®delta zur Verfügung.
Abb. 7–8: Metallose, 1,5 Jahre nach Metall/PE-Versorgung bei Keramikfraktur
(Quelle: Prof. C. Lohmann, Orthopädische Universitätsklinik Magdeburg)
CeramTec GmbH
D-73207 Plochingen, Germany
Abb. 7
2. Die zweitbeste Versorgungsmöglichkeit ist aus tribologischer Sicht die Keramik/PE-Gleitpaarung
(UHMWPE oder XPE).
Medical Products Division
Medical Products Division
Phone: +49 7153 611 828
Fax: +49 7153 611 950
VersorgungVersorgung
nach Keramikfraktur
nach Keramikfraktur
A Resource Booklet
8. Fixation of the insert is achieved by
impacting with the
appropriate impactor
in axial direction.
CeramTec GmbH
• Only unused BIOLOX® ball heads taken from the original packaging must be used.
Keramik/PE und Keramik/XPE
Die Testergebnisse mit Keramik-Fremdpartikeln zeigen, dass die
Gleitpaarungen Keramik/PE und Keramik/XPE Versorgungsmöglichkeiten nach Fraktur einer Keramikkomponente darstellen, um abriebbedingte Probleme durch Dreikörperverschleiß und damit verbundene Komplikationen gering zu halten. Bei der Ke/XPE-Gleitpaarung
war das Abriebvolumen des Kugelkopfes um den Faktor 1000 geringer als im Vergleich zur Me/XPE-Gleitpaarung (Abb. 6). EineAbrieb
QuanKe/Ke
Abrieb Ke/PE
tifizierung des Abriebs der PE- und XPE-Inserts war aufgrund
der (XPE)
Abrieb Me/XPE
eingebrachten Keramik-Fremdpartikel nicht möglich. Nach 5 Mio.
istZyklen
die Integrität beider Oberflächen weiterhin gegeben und
0–1,0Zyklen
Mio. Zyklen
0–1,0 Mio.
1,0–5,0 Mio. Zyklen
1,0–5,0 Mio. Zyklen
somit die Funktionalität der Gleitpaarung gewährleistet (Abb. 3–4).
Abb. 5: Primärversorgung Abb. 6: Versorgung nach Keramikfraktur
CeramTec ; 2 Figure Source: Prof. A. Kusaba (2009); 4, 5 Figure Source: Prof. H. Kiefer (2011)
Always remember
CeraFacts
Comprehensive library,
all about BIOLOX®
ceramics, with helpful
animations and videos
for your clinical practice
on USB stick
Crosslinked UHMWPE 32 mm, UHMWPE 32 mm
Das Abriebverhalten von BIOLOX®delta- und CoCrMo-Kugelköpfen
in Verbindung mit PE- u. XPE-Inserts wurde im Hüftgelenksimulator Primärversorgung
Primärversorgung
Abrieb
Ke/Ke
Abrieb
Ke/Ke
(Endolab® Rosenheim) getestet. Vor Testbeginn wurdenAbrieb
Al2Ke/PE
O3(XPE)
-PartiAbriebvolumenAbriebvolumen
(mg/Mio. Zyklen)
(mg/Mio. Zyklen)
Abrieb Ke/PE (XPE)
3
Abrieb Me/XPEAbrieb Me/XPE 3
kel in die korrespondierenden Inserts eingebracht (Abb. 2).
Während
des Tests wurden weitere Keramikpartikel mittels der Testflüssigkeit 2
2
(Kälberserum) den Gleitpaarungen zugeführt (Abb. 1). Die Gleitpaa- 1,5
1,5
rungen durchliefen jeweils 5 Millionen Testzyklen. Die Tests
wurden
Abrieb Ke/Ke Abrieb Ke/Ke
1
entsprechend den Normen ISO 14242 Part 1 und 2 durchgeführt.
Die 1
Keramik/KeramikKeramik/KeramikAbrieb Ke/PE Abrieb Ke/PE
Gleitpaarung im
Gleitpaarung im
(XPE)
(XPE)
0,5
Schädigung der Gleitpaarungsoberflächen wurde visuell beurteilt.
Die 0,5
Standard-Simulator
Standard-Simulator
nach ISO 14242-1
nach ISO 14242-1
Abrieb Me/XPEAbrieb Me/XPE
Abriebmessung erfolgte gravimetrisch.
< 0,1
< 0,1
0
0
6. When using an
insertion instrument,
please follow its
instructions for use
carefully.
Only unused BIOLOX® ball
heads taken from the original packaging must be used.
Do not use any BIOLOX®
ball head that has been
dropped to the floor, damaged or previously used.
6. Avoid intraoperative
damage as well.
Aluminiumoxid-Matrix-Verbundwerkstoff
(BIOLOX®delta), CoCrMo
Inserts:
Zwischen den Gleitflächen wurden Keramik-Fremdpartikel bis 5 mm
eingebracht, um das Abriebverhalten bei simuliertem Dreikörperverschleiß zu testen (Abb.1–2).
4. The cup has to be
clean and dry before
placing the insert.
Liquids and fat are not
compressible and have
to be removed from
the cup.
Fixation of the femoral ball
head by gently impacting on
the plastic femoral ball head
impactor (multiple times
are permitted) in an axial
direction. Never strike the
femoral ball head directly
with the metal hammer.
5. Fixation of the
BIOLOX® femoral ball
head.
Resultate
Kugelköpfe:
Fremdpartikel: Aluminiumoxidkeramik (Al2O3)-Partikel
(BIOLOX®forte)
2. Remove osteophytes in order to
avoid impingement.
Place femoral ball head
with clean, dry inner taper
by gently turning it.
4. Correct handling of
the BIOLOX® femoral ball
head.
NEW
Gleitpaarungswahl bei Revision nach Keramikfraktur
BIOLOX® Ball Heads
1. Use taper protective
cap and do not remove
until immediately prior
to placement of the trial
femoral ball head.
CeramTec-Platz 1–9
inserts taken from the original packaging must be used.
[email protected] insert that has been dropped to the floor,
www.biolox.com
Make sure that the ceramic insert and the acetabular cup are compatible.
Don’t combine products from different manufacturers.
Make sure the position of the acetabular cup and its function is thoroughly checked by using
Literatur:
1
Allain J et al. Revision Total Hip Arthroplasty Performed After Fracture of a Ceramic Femoral Head: A Multicenter Survivorship Study. J Bone Joint Surg Am 2003;85:825–830
2
Gozzini PA et al. Massive wear in a CoCrMo head following the fracture of an alumina head. Hip Int 2002;12(1):37–42
3
Hasegawa M et al. Cobalt-chromium head wear following revision hip arthroplasty performed after ceramic fracture – a case report. Acta Orthopaedica 2006;77(5):833–835
4
Kempf I et al. Massive Wear of a steel ball head by ceramic fragtments in the polyethylene acetabular cup after revision of a total hip prosthesis with fractured ceramic ball head.
Acta Orthop Trauma Surg 1990;109:284–287
5
Matziolis G et al. Massive metallosis after revision of a fractured ceramic head onto a metal head. Archives of orthopaedic and trauma surgery. 2003;123(1):48–50
6
Traina F et al. Revision of a Ceramic Hip for Fractured Ceramic Components. Scientific Exhibit at the 78th AAOS Annual Meeting, San Diego, 2011
7
Thorey F et al. Early results of revision hip arthroplasty using a ceramic revision ball head. Seminars in Arthroplasty, 2011 (in press)
8
Oberbach T. et al. Resistenz von Dispersionskeramiken gegenüber Dreikörperverschleiß. Abstract, Deutscher Kongress für Orthopädie und Orthopädische Chirurgie 2007
9
Pandorf T. et al. Abrieb von großen keramischen Gleitpaarungen, 55. Jahrestagung der Vereinigung Süddeutscher Orthopäden, Baden-Baden, 26.–29. April 2007
D-73207 Plochingen, Germany
Phone: +49 7153 611 828
Fax: +49 7153 611 950
[email protected]
www.biolox.com
This information does not replace the instructions for use.
Make sure that the acetabular cup and the ceramic insert are clean and not damaged.
The information given in the instruction for use is binding and must always be observed. (August 2014)
Carefully assemble the components.
• Confirm proper assembly and then impact. Do not use an insertion instrument for impaction.
CeraScience
Printed in Germany·Stand: Oktober 2011
This information does not replace the instructions for use.
The information given in the instruction for use is binding and must always be observed. (August 2014)
CeraFacts
USBメディアライブラ
リー(アニメーション、
手術実演、ビデオ)
Safety
Reminder(A4)
BIOLOX®インサートや
BIOLOX®大腿骨ボールヘッ
ドをインプラントする場合
に外科医が注意すべきこと
情報(A4)
BIOLOX®ライナーの
挿入器具についての
情報
available as PDF
セラミック破損
後の再置換用ベアリン
グ・カップルの選択肢
(A4)
available as PDF
モジュラー関節に
おけるフレッティング
と腐食
-セラミックスはこの
臨床課題を解決できる
のか?リソース・ブッ
クレット
available as PDF
available as PDF
人工関節置換術におけるセラミックスに関する学術論文に関心があるので電話あるいはEメールでの連絡を希望。
新たな医療用アプリケーションに関心があるので“BIOLOX® family – the future in your hand” の送付と電話あ
るいはEメールでの連絡を希望。
CeraNewsをEメール(PDF)で受け取ることを希望。
CeraNewsを冊子で受け取ることを希望。
氏名 : ふりがな : 役職・ポジション : 所属診療科 : 病院/勤務先名称 : 勤務先住所 : 〒
勤務先電話番号:
勤務先Fax番号:
eメールアドレス:
スマートフォンを持っていますか?
タブレットPCを持っていますか?
はい
はい
□iPhone
□iPad
□Android
□その他
□Blackberry
株式会社ウップス
□いいえ
□いいえ
セラムテックGmbHMedicalProductsDivisionJapanOffi
ce
CeraNews 2/ 2014
TEL :(075)
581︲1380 FAX :(075)
502︲0487
e-mail : [email protected]
Fly UP