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報告書 - 国土交通省

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報告書 - 国土交通省
( 別 紙 2)
建設技術研究開発費補助金総合研究報告書
1. 課 題 番 号
第 12号
2. 研 究 課 題 名
鉄筋コンクリート造建築物の補修後の性能解析技術の開発と最適補修
戦略の策定
3. 研 究 期 間
平成19年度~平成21年度
4. 代 表 者 及 び 研 究 代 表 者 , 分 担 研 究 者
研究代表者
野口貴文
東京大学・准教授
分担研究者
長井宏憲
東京大学・助教
分担研究者
兼松
東京理科大学・准教授
分担研究者
鹿毛忠継
建築研究所・上席研究員
分担研究者
成瀬友宏
国土技術政策総合研究所・防火基準研究室室長
分担研究者
濱崎
建築研究所・主任研究員
分担研究者
川西泰一郎
学
仁
5. 補 助 金 交 付 総 額
都市再生機構・環境技術研究チーム
18,540,000円
6. 研 究 ・ 技 術 開 発 の 目 的
地球環境への配慮および新設構造物への投資削減を背景として,鉄筋コンクリート構造
物の長寿命化時代が到来しつつあり,合理的な補修のあり方を探ることは社会的に緊要で
あるが,新設構造物の設計とは異なり,既存鉄筋コンクリート構造物の補修設計手法は確
立されているとは言い難い。これまでの補修材料・補修工法の開発研究は,企業ベースに
進められてきたため,ほとんど体系化がなされていない状況にあった。補修材料自体の初
期性能に関する情報は各企業の実験データより得られるものの,補修後の鉄筋コンクリー
ト部材に関しては,その構造性能や耐火性能がどの程度あり,その性能がいつまで持続す
るのかに関しては,全く不明な状態であったと言っても過言ではない。
そこで本研究課題では,鉄筋腐食やかぶりコンクリートのひび割れ・剥離・剥落などの
劣化を生じた鉄筋コンクリート部材が,表面被覆工法,ひび割れ注入工法,断面修復工法
などを用いて補修された後,耐荷力,剛性,耐火性などの性能がどの程度回復・向上する
のか,また,その性能をどの程度維持できるのかを予測できる「鉄筋コンクリート部材の
補修後性能予測システム」を開発するとともに,劣化環境に応じてどのような材料・工法
を用いて補修を行えばライフサイクルコストを最小化できるのかを提示できる「鉄筋コン
クリート部材の最適補修戦略策定システム」を開発することを目的とする。
具体的な研究開発の目標は下記の通りである。
(1) 別 プ ロ ジ ェ ク ト で 実 施 さ れ る 実 験 結 果 に 基 づ き , 有 限 要 素 解 析 に 組 み 込 む た め の 補 修
材 料 性 能 お よ び 補 修 材 料 と コ ン ク リ ー ト・鉄 筋 間 の 付 着 性 能 に 関 す る 構 成 則 を 構 築 す る 。
(2) 別 プ ロ ジ ェ ク ト で 実 施 さ れ る 実 験 結 果 に 基 づ き , 火 災 時 高 温 下 に お け る 補 修 材 料 の 性
能および補修材料とコンクリート・鉄筋間の付着性能に関する構成則を構築する。
(3) 本 研 究 で 実 施 す る 実 験 結 果 に 基 づ き , 経 年 劣 化 に 伴 う 補 修 材 料 の 性 能 低 下 お よ び 補 修
材料とコンクリート・鉄筋間の付着性能低下を表す構成則を構築する。
(4) (1)~ (3)を 統 合 化 し , 補 修 を 施 し た 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 部 材 が 経 年 劣 化 し た 場 合 お よ び
火 災 時 の 高 温 に 曝 さ れ た 場 合 に お け る 耐 荷 力・剛 性 を 有 限 要 素 解 析 に よ り 予 測 で き る「 鉄
筋コンクリート部材の補修後性能予測システム」を開発する。
(5) 上 記 「 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 部 材 の 補 修 後 性 能 予 測 シ ス テ ム 」 に 立 脚 し , 遺 伝 的 ア ル ゴ リ
ズムを用いることにより,最適な補修戦略の策定を支援できる「鉄筋コンクリート部材
の最適補修戦略策定システム」を開発する。
(6) 上 記 「 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 部 材 の 最 適 補 修 戦 略 策 定 シ ス テ ム 」 を 利 用 し て , ラ イ フ サ イ
クルコスト最小化およびライフサイクルリスク最小化を達成できる補修計画を例示する。
7. 研 究 ・ 技 術 開 発 の 内 容 と 成 果
当該研究期間に行った研究によって得られた成果の概要を,個別の研究開発項目毎に次
ページ以降に示す。
① 補 修 材 料 の 力 学 性 能 お よ び 補 修 材 料 と コ ン ク リ ー ト・鉄 筋 間 の 付 着 性 能 の 構 成 則 の 構 築
② 火 災 時 高 温 下 に お け る 補 修 材 料 の 熱 特 性・燃 焼 特 性 お よ び コ ン ク リ ー ト・鉄 筋 間 の 付 着
性能に関する研究
③ RC梁 部 材 の 補 修 後 力 学 性 能 と 耐 火 性 の 実 験 的 検 討
④ RC梁 部 材 の 補 修 後 力 学 性 能 の 有 限 要 素 解 析
⑤ RC造 建 築 物 の 維 持 保 全 最 適 化 シ ス テ ム に 関 す る 研 究
① 補修材料の力学性能および補修材料とコンクリート・鉄筋間の付着性能の構成則の
構築
1. 引 抜 き付 着 試 験 による補 修 モルタルと鉄 筋 の付 着 特 性 評 価
1.1 目 的
補修部材の構造性能に関し界面付着特性を考慮した解析で評価する際,入力値として躯
体 コ ン ク リ ー ト や 補 修 モ ル タ ル ,鉄 筋 の 物 性 に 加 え ,躯 体 コ ン ク リ ー ト と 補 修 モ ル タ ル 間 ,
躯体コンクリートと鉄筋間,補修モルタルと鉄筋間それぞれの界面特性を求める必要があ
る。しかし,躯体コンクリートおよび鉄筋の物性ならびに躯体コンクリートと鉄筋間およ
び躯体コンクリートと補修モルタル間の付着性能のデ-タに比べ補修モルタルの物性,補
修モルタルと鉄筋の付着性能に関するデ-タ・報告は非常に少ない状況である。本研究で
は,代表的な四種のポリマーを様々な割合で含有した補修モルタルに関し,強度試験,鉄
筋引き抜き付着試験を行い,補修された鉄筋コンクリート構造物の構造耐力を有限要素法
で定量的に評価する際に必要な補修モルタルの物性,補修モルタルと鉄筋間の付着要素の
構成則を,有限要素法を用いてパラメトリックスタディすることで求める。
1.2 補 修 モルタルの物 性 測 定
(1) 実 験 因 子 お よ び 水 準
ポリマーの種類,およびポリマー含有率を実験因子として試験を行った。用いたポリマ
ー は VVA( 酢 酸 ビ ニ ル ・ ビ ニ ル バ ・ サ テ ラ イ ト ),EVA( エ チ レ ン 酢 酸 ビ ニ ル ),PAE( ポ リ
ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル ),CPAE( セ ル ロ - ス ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル )の 四 種 類 で あ る 。表 1
に実験因子および水準を示す。
表 1 実 験 因 子 及 び水 準
実験因子
水準
ポリマーの種類
VVA, EVA, PAE, CPAE
ポリマー含有率
0% , 5% , 10%, 20%
(2)補 修 モ ル タ ル の 調 合
実 験 に 用 い た 補 修 モ ル タ ル の 調 合 を 表 2に 示 す 。セ メ ン ト は 普 通 ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン ト を ,
細骨材は大井川産のものを使用した。試験体はセメントの水和反応が十分進んだ状態のも
の と す る た め 最 初 の 4週 間 水 中 養 生 し , そ の 後 5週 間 20℃ , RH5%の 乾 燥 養 生 室 に 静 置 し , 十
分に乾燥させた。
表 2 補 修 モルタルの調 合
水セ
メン
ト比
(%)
50
調 合 量 (kg)
水
7.5
セメ
ント
15
細骨
材
45
消泡
剤 (g)
ポリマー含
有 率 (%)
0
7.5
15.0
30.0
0
5
10
20
空気量
(%)
モ ル タ ル フ ロ ー (cm)
VVA
EVA
PAE
CPAE
VVA
EVA
PAE
CPAE
16.9
17.9
18.0
15.0
16.0 16.1
16.8 16.9
17.2 17.3
15.3
16.6
18.3
6.8
6.0
7.3
3.4
3.7
4.6
3.1
5.7
3.4
4.0
3.6
3.6
3.5
(3)圧 縮 お よ び 割 裂 引 張 試 験 方 法 と 測 定 項 目
圧 縮 試 験 は JIS A1108に 準 拠 し て 行 っ た 。 φ 10×20cmの 円 柱 試 験 体 を そ れ ぞ れ 3体 ず つ 試
験し,変位及び二軸のひずみ,荷重を測定し補修モルタルの圧縮強度および弾性係数,ポ
ア ソ ン 比 を 求 め た 。 割 裂 引 張 試 験 は JIS A 1113に 準 拠 し て 行 っ た 。 φ 10×20cmの 円 柱 試 験
体 を そ れ ぞ れ 3体 ず つ 試 験 し , 引 張 強 度 を 測 定 し た 。
(4)実 験 結 果 お よ び 考 察
測 定 し た 補 修 モ ル タ ル の 物 性 値 を 表 3に 示 す 。 弾 性 係 数 は JIS A 1149に 準 拠 し て 求 め た 。
ポ ア ソ ン 比 は 最 大 圧 縮 強 度 の 1/3時 の 値 と し た 。コ ン ク リ ー ト の ポ ア ソ ン 比 が 1.6~ 7程 度 で
ある事を考えると,補修モルタルのポアソン比も同程度又は粗骨材が入っていないため多
少 大 き く な る と 考 え ら れ る が ,得 ら れ た 値 を 見 る と そ の 予 測 と は 大 き く 外 れ て い な か っ た 。
ポ リ マ ー 含 有 率 と 補 修 モ ル タ ル の 物 性 の 関 係 を 図 1に 示 す 。弾 性 係 数 は ポ リ マ ー の 種 類 に 関
わらずポリマー含有率の増加にともなって低下する傾向が見られた。圧縮強度に関しては
10% ま で は 圧 縮 強 度 の 増 加 , 20% ま で は 強 度 低 下 の 傾 向 と な っ た 。 引 張 強 度 は ポ リ マ ー 含
有 率 の 増 加 に 伴 い 含 有 率 0% 時 の 強 度 に 比 べ 上 昇 し た が ,含 有 率 が 10% か ら 20% の 間 で い ず
れのポリマーに関しても増加率の停滞もしくは強度減少の傾向となった。以上の結果から
ポリマー含有率,種類によって圧縮強度,引張強度の変化傾向は異なり,適切な含有率を
決 定 す る こ と で ポ リ マ ー 含 有 率 0% の も の よ り も 高 い 強 度 性 能 を 持 っ た 補 修 モ ル タ ル と す
ることが可能なことが確認された。
表 3 PCMの物 性
圧縮強度
引張強度
弾性係数
( N/㎜ 2 )
( N/㎜ 2 )
( kN/㎜ 2 )
0
44.3
3.87
22.9
0.267
5
40.9
3.62
19.1
0.150
10
41.2
4.41
17.7
0.144
20
38.0
4.25
14.0
0.176
P/C(%)
VVA
EVA
PAE
CPAE
ポアソン比
5
45.9
4.40
20.3
0.162
10
46.9
4.38
17.8
0.193
20
41.6
4.21
13.7
0.193
5
47.0
4.39
20.6
0.132
10
49.1
4.61
19.0
0.183
20
44.8
4.81
15.4
0.210
5
44.0
4.38
20.2
0.274
10
49.3
4.79
18.5
0.186
20
47.1
4.81
15.7
0.259
25
2
弾性係数 (kN/mm )
23
21
19
17
15
13
11
9
7
5
0
5
10
15
20
VVA
EVA
PAE
CPAE
25
ポリマー含有率 (%)
55
5.0
4.8
4.6
2
引張強度 (N/mm )
2
圧縮強度 (N/mm )
50
45
40
35
30
0
5
10
15
20
ポリマー含有率(%)
VVA
EVA
PAE
CPAE
25
4.4
4.2
4.0
3.8
3.6
3.4
3.2
3.0
0
5
10
15
20
VVA
EVA
PAE
CPAE
25
ポリマー含有率 (%)
図 1 ポリマー含 有 率 とPCMの物 性
1.2 引 抜 き付 着 試 験 によるPCMと鉄 筋 間 の付 着 特 性
(1) 実 験 概 要
図 2に 示 す 引 抜 き 付 着 試 験 を 行 っ た 。試 験 体 は 一 辺 が 150mmの 立 方 体 で あ る 。直 径 19mm(D)
の 異 形 鉄 筋 を 用 い , 鉄 筋 の 付 着 長 さ は 120mmと し た 。 鉄 筋 は 横 ふ し の SD345Aの D19を 用 い ,
補 強 筋 に は Φ 5の 鉄 筋 を 用 い た 。 そ の 物 性 を 表 4に 示 す 。 鉄 筋 を 引 張 り な が ら ロ ー ド セ ル に
よ っ て 加 重 を ,変 位 計 に よ っ て 自 由 端 の す べ り を 測 定 し PCMと 鉄 筋 間 の 付 着 応 力 を 求 め ,付
着応力-すべり曲線を得た。
表 4 鉄 筋 の力 学 特 性
鉄筋
降伏強度
2
引張強度
2
弾性係数
種類
( N/㎜ )
( N/㎜ )
( kN/㎜ 2 )
D19
368
544
193
(2) 試 験 体 の 破 壊 状 況 と 付 着 応 力 - す べ り 曲 線
試験体の破壊状況はポリマーの種類や含有率による破壊状況の違いは特に見られず,割
裂ひびわれが発生した後も応力を保持し続けるすべり破壊であった。その挙動を付着応力
-すべり曲線から詳細に見ると,いずれの水準でも最大付着応力に達するより以前の初期
段 階 ( 最 大 付 着 応 力 の 1/2~ 2/3程 度 ) に お い て 割 裂 ひ び 割 れ が 生 じ 一 度 応 力 が 低 下 し , そ
の後すべりの増加率が上昇し再び応力が増加するという変化が見られた。最大付着加重に
達した後,付着応力は徐々に低下したが,その低下傾向は水準毎に若干の違いがあった。
付 着 強 度 を 表 5に 示 す 。
図 2 試 験 体 の形 状 および引 き抜 き試 験 装 置
表 5 付 着 強 度 (引 抜 き付 着 試 験 結 果 )
付着強度
P/C(%)
VVA
0
5
10
20
12.73
13.20
14.73
(N/㎜2)
EVA
PAE
15.54
11.33
12.68
11.84
14.00
11.93
12.09
CPAE
12.39
12.08
11.45
(3) 考 察
PCMの 付 着 強 度 は P/C= 0 % 時 の 付 着 強 度 よ り も 低 く な っ た が , ポ リ マ ー 種 類 お よ び P/C
に よ る 差 は 小 さ い 。 こ れ は 補 強 筋 に よ る 拘 束 が 付 着 性 能 に 与 え る 影 響 が 大 き い た め , P/C
の増加による影響が相対的に小さく評価されるためであると考えられる。また,補強筋が
ある場合,破壊には二段階あり,まず割裂ひび割れ発生までの段階ではポリマーの化学的
な 付 着 力 お よ び 引 張 強 度 の 影 響 が 強 く ,ひ び 割 れ 発 生 後 は 異 形 鉄 筋 の 節 と PCMが 補 強 筋 の 拘
束により機械的噛みあいによって応力を負担していると考えられ,圧縮強度の影響が大き
いと考えられる。この二段階では付着応力-すべり曲線の傾きも大きく異なる。よって補
強 筋 の 拘 束 が 存 在 す る 場 合 に お い て ,PCMと 鉄 筋 の 付 着 は 初 期 の 割 裂 ひ び 割 れ 発 生 ま で の 段
階,最大加重を記録する機械的噛みあいの段階,応力低下段階の3段階に分けて考える必
要があると考えられる。
2. 躯 体 コンクリートとPCMの付 着 試 験
2.1 引 張 試 験 によるPCMと躯 体 モルタル間 の付 着 特 性
(1) 使 用 材 料 の 物 性
PCMと コ ン ク リ ー ト 間 の 付 着 特 性 を 明 ら か に す る た め ,コ ン ク リ ー ト を 想 定 し た モ ル タ ル
下 地( 以 下 ,躯 体 モ ル タ ル )と PCM間 の 引 張 り 付 着 試 験 を 行 っ た 。躯 体 モ ル タ ル の 調 合 は セ
メ ン ト : 水 : 砂 = 1: 0.5: 3( 質 量 比 ) と し た 。
(2) 試 験 体 形 状 お よ び 試 験 装 置
試 験 体 は 100mm×100mm×20mmの 躯 体 モ ル タ ル の 中 央 に 40mm×40mm×10mmの PCMを 打 設 し
たものである。躯体モルタルの表面は紙やすりで平滑にし,打設時には水湿り状態とし,
打 設 後 は 20℃ ,RH 60% の 恒 温 恒 湿 室 で 9週 間 封 緘 養 生 と し た 。試 験 時 に は ,PCM表 面 の 加 重
面 を 紙 や す り で あ ら か じ め 平 滑 に し た 。 試 験 体 形 状 お よ び 試 験 装 置 を 図 3に 示 す 。
(3) 結 果 お よ び 考 察
試験体の破壊状況はポリマーの種類や含有率によって違いが見られ,界面の破壊,躯体
モ ル タ ル の 破 壊 ,PCMの 破 壊 の 3 種 類 で あ っ た 。得 ら れ た 引 張 付 着 強 度 お よ び 破 壊 状 況 を 表
6に 示 す 。P/Cが 高 い も の は 躯 体 モ ル タ ル 側 の 破 壊 が 生 じ た 。こ れ は PCMの 引 張 強 度 お よ び 引
張 付 着 強 度 が P/Cの 増 加 に よ っ て 上 昇 し ,躯 体 モ ル タ ル の 引 張 強 度 よ り も 高 く な っ た た め で
あり,ポリマーの含有により引張付着性能を補修前の性能まで回復させることが可能であ
る こ と が 確 認 さ れ た 。よ っ て ,ポ リ マ ー を 含 有 し た PCMは ひ び 割 れ 等 の 劣 化 後 の 補 修 と し て
は補修材側で破壊を生じさせないことが可能という点で十分な性能を有していると言え,
補 修 設 計 時 に は P/Cを 引 張 強 度 お よ び ,引 張 付 着 強 度 が コ ン ク リ ー ト の 引 張 強 度 を 上 回 る よ
うに調合することが好ましいと考えられる。
2510
補修モルタル
変位計
↑
試験体
←
30
40 30
躯体モルタル
試験体
30
40
30
図 3 試 験 体 形 状 および試 験 装 置
2.2 せん断 試 験 によるPCMと躯 体 モルタル間 の付 着 特 性
(1)試 験 体 の 破 壊 状 況 と せ ん 断 加 重 -す べ り 曲 線
せ ん 断 付 着 試 験 で 得 た PCMと 躯 体 モ ル タ ル 間 の せ ん 断 加 重 - す べ り 曲 線 を 図 6に 示 す 。 試
験 体 の 破 壊 状 況 は 多 く が 界 面 破 壊 で あ っ た が ,P/Cが 10% 以 上 の も の は 躯 体 モ ル タ ル の 一 部
が破壊した。いずれの水準においても,加重が小さい段階では加圧部自体のすべりや接触
誤 差 ,試 験 体 自 体 の す べ り も 測 定 さ れ る た め 直 線 と は な っ て い な い が ,最 大 付 着 加 重 の 1/3
~ 1/2付 近 か ら は 直 接 PCM部 分 に 加 重 が か か り 曲 線 は ほ ぼ 直 線 と な っ た 。 せ ん 断 付 着 強 度 お
よ び せ ん 断 応 力 - ひ ず み 曲 線 か ら 算 出 し た せ ん 断 剛 性 を 表 6に 示 す 。せ ん 断 応 力 は せ ん 断 加
重 を 付 着 面 積 1600㎜ 2 で 除 し , ひ ず み は す べ り を 付 着 長 さ 40mmで 除 し て 求 め た 。 ま た , せ
ん 断 剛 性 は せ ん 断 応 力 - ひ ず み 曲 線 の せ ん 断 付 着 強 度 と 1/2強 度 と の 間 か ら 算 出 し た 。せ ん
断付着強度に多少のばらつきはあるものの,曲線は類似していた。最大せん断加重後の挙
動は,付着界面に脆性的な破壊が生じた。急激に加重が落ちた。その低下傾向のばらつき
は大きいが,このばらつきは破壊後の急速な変形に測定機器が追従できなかったことによ
ると考えられる。
表 6 引 張 付 着 試 験 結 果 およびせん断 付 着 試 験 結 果
P/C
(%)
0
5
10
20
2
引張付着強度(N/㎜ )
2
せん断付着強度,せん断剛性(N/㎜ )
界:界面破壊,躯:躯体モルタル破壊
VVA
EVA
PAE
CPAE
VVA
EVA
PAE
CPAE
0.784,120
0.085:界
0.558:界 1.20:界 0.573:界 0.648:界 1.41,278 2.69,307 1.71,241 2.47,315
0.542:界 1.79:躯 1.31:界 1.52:躯 2.09,250 5.01,408 4.59,389 5.39,433
1.02:界 1.63:躯 1.79:躯 1.48:躯 3.93,336 6.10,406 5.11,394 5.40, 430
(2) 実 験 結 果 お よ び 考 察
PCMは P/C=0% 時 に 比 べ 躯 体 モ ル タ ル に 対 す る 高 い 付 着 性 能 を 示 し ,P/Cの 増 加 と と も に せ
ん断付着強度の増加,せん断剛性の増加の傾向を示した。せん断剛性の増加は躯体モルタ
ル と の 付 着 の 一 体 性 が 高 く な っ て い る こ と を 示 す と 考 え ら れ る 。 図 4に P/Cと せ ん 断 付 着 強
度 の 関 係 お よ び せ ん 断 剛 性 と せ ん 断 付 着 強 度 の 関 係 を 示 す 。図 4か ら せ ん 断 付 着 強 度 と せ ん
断剛性の間にはコンクリートの弾性係数と圧縮強度間との関係に類似した,ポリマーの種
類や含有率によらない相関が見られた。
コ ン ク リ ー ト と PCM間 の 応 力 は 互 い の 弾 性 係 数 が 異 な る ほ ど 大 き く な る と 考 え ら れ る た
め ,補 修 設 計 時 に は P/Cの 増 加 に よ る 弾 性 係 数 の 低 下 に 考 慮 す べ き で あ る が ,そ の 一 方 で コ
ン ク リ ー ト と PCM間 の 一 体 性 は 高 ま る と い え ,両 者 の バ ラ ン ス を 考 え る 必 要 が あ る と 考 え ら
れる。
500
450
6
5
4
3
2
1
0
0
5
10
15
ポリマー含有率(%)
20
VVA
EVA
PAE
CPAE
25
せん断剛性(N/mm 2)
せん断強度(N/mm 2 )
7
400
350
300
y = 147.58Ln(x) + 164.34
R2 = 0.9626
250
200
150
VVA
EVA
PAE
CPAE
100
50
0
対数近似
0
1
図 4 せん断 付 着 試 験 結 果
2
3
4
せん断強度(N/mm2 )
5
6
7
3. 引 抜 き試 験 およびせん断 試 験 の有 限 要 素 解 析
(1) 解 析 概 要 お よ び 解 析 モ デ ル
本 解 析 で は , PCMと 鉄 筋 間 お よ び PCMと 躯 体 モ ル タ ル 間 の 付 着 要 素 の 材 料 定 数 を 逆 解 析 に よ り 求 め
た。また,逆解析により再現する実験結果として応力分布を考慮していない付着面全域の平均や補
正を含む付着応力-自由端すべり曲線ではなく,直接の測定項目である加重-自由端すべり曲線を
選んだ。
解析方法は二次元平面応力弾塑性解析とし,加重増分法を用いた。本解析では付着要素として板
ボンド要素を用いた。板ボンド要素は軸方向に弾性係数,軸方向に鉛直なせん断方向に付着剛性,
という二方向の剛性を持つが,本解析では加重方向がせん断方向のみのため弾性係数による影響は
ほ と ん ど 無 い こ と を 解 析 に よ り 確 認 し ,そ の 値 は PCMと 同 じ と し た 。板 ボ ン ド 要 素 の 構 成 則 お よ び 解
析 モ デ ル を 図 5に 示 す 。 板 ボ ン ド 要 素 の 構 成 則 は 主 に 最 大 付 着 強 度 と 付 着 剛 性 か ら 成 る 。 図 5に 示 す
せん断ひずみは自由端すべりを付着層の厚さで除したものと定義される。
逆解析は板ボンド要素以外の物性を測定値に固定し,ポリマー種類およびその含有率に応じて板
ボンド要素の付着強度と付着剛性を変化させ,内部の応力分布およびクラック進展等を同時に確認
付着応力
しながら行った。
S
付着剛性
板ボンド要素
h
せん断ひずみ
せん断ひずみ=S/h
モルタル要素
鉄筋要素
ボンド要素
ボンドフリー
←
P
コンクリート要素
モルタル要素
板ボンド要素
P
図 5 付 着 構 成 則 および解 析 モデル
( 2) 実 験 結 果 と 解 析 結 果 の 比 較 お よ び 考 察
そ れ ぞ れ の 試 験 の 逆 解 析 に 用 い た 付 着 要 素 の 入 力 物 性 を 表 7に 示 す 。ま た ,逆 解 析 の 結 果 の
一例としてせん断付着試験に関する解析結果と実験によって得られたせん断加重-自由端
す べ り 曲 線 を 比 較 し た も の を 図 6に 示 す 。試 験 機 の 性 質 上 存 在 す る 加 圧 板 と 補 修 モ ル タ ル と
の十分な接触が得られるまでの部分においては,すべりが大きく評価されている。そのた
め,初期段階では曲線が直線状にならず解析とのずれが生じているが,最大せん断加重に
達するまでの曲線は実験値とよく一致しており,本解析で入力した付着要素の物性値で破
壊 が 生 じ る ま で の PCMと 躯 体 モ ル タ ル の 付 着 特 性 を 表 現 で き て い る と 考 え ら れ る 。
表 7 付 着 強 度 および付 着 剛 性 (解 析 値 )
P/C
(%)
0
5
10
20
付着強度,付着剛性(N/㎜2)
引抜き試験
せん断試験
VVA
EVA
PAE
CPAE
VVA
EVA
PAE
CPAE
0.784,1.50
12.5,50
11.3,53 10.5,43 11.9,48 10.4,40 1.41,3.48 2.70,3.84 1.71,3.01 2.43,3.94
10.6,40 12.5,60 13.6,62 12.5,44 2.10,3.13 5.21,5.10 4.61,4.86 5.39,5.41
11.6,50 11.4,33 12.0,27 11.6,30 3.99,4.20 6.21,5.08 5.27,4.92 5.40,5.37
11
10
11
解析値と実験値の比較(VVA)
10
9
9
8
8
7
7
6
6
VVA20%
VVA20%(FEM)
VVA10%
VVA10%(FEM)
VVA5%
VVA5%(FEM)
0%
0%(FEM)
5
せん断加重 (kN)
4
3
2
1
0
11
10
3
2
1
0
11
10
9
8
8
7
7
5
4
3
2
1
-300
4
解析値と実験値の比較(PAE)
6
-500
EVA20%
EVA20%(FEM)
EVA10%
EVA10%)FEM)
EVA5%
EVA5%(FEM)
0%
0%(FEM)
5
9
0
-100
解析値と実験値の比較(EVA)
100
300
500
PAE20%
PAE20%(FEM)
PAE10%
PAE10%(FEM)
PAE5%
PAE5%(FEM)
0%
0%(FEM)
700
900
解析値と実験値の比較(CPAE)
6
5
4
3
2
1
-500
-300
0
-100
100
すべり (μm)
図 6 解 析 値 と実 験 値 の比 較 (せん断 付 着 試 験 )
300
500
CPAE20%
CPAE20%(FEM)
CPAE10%
CPAE10%(FEM)
CPAE5%
CPAE5%(FEM)
0%
0%(FEM)
700
900
② 火災時高温下における補修材料の熱特性・燃焼特性およびコンクリート・鉄筋間の付着
性能に関する研究
1. ポリマーセメントモルタルの燃 焼 特 性 に関 する実 験
1.1 目 的
ポリマーセメントモルタルセメントは,構成要素として有機物を含むため,高温で使用
や 火 災 に 対 す る 問 題 点 が あ る [1]。そ こ で ,高 温 加 熱 の 環 境 下 に お い て ,セ メ ン ト 混 和 用 ポ
リマーにどのような変化が起きるのかを調べる必要がある。その結果火災時にポリマーセ
メントモルタル中樹脂の挙動を明確することができる。ポリマーセメントモルタルの燃焼
性 状 に 関 す る デ ー タ は 非 常 に 少 な く ,大 濱 ら に よ る 研 究 [2-3]な ど が 公 表 さ れ て い る 程 度 で
ある。また,近年,材料の燃焼に関する試験方法も変わった。
火災加熱を受けるポリマーセメントモルタルの性能低下メカニズムを明らかにするため
の基礎資料を得ること目的とし,セメント混和用ポリマーの示差熱熱重量分析を行う。ま
た,ポリマーセメントモルタルの燃焼性状を把握するため,ポリマーセメントモルタルの
発熱性試験および不燃性試験を行う。ポリマーセメントモルタルの燃焼特性に関する実験
の結果から,より熱に強い,より燃焼し難い補修材料を選定する。
1.2 セメント混 和 用 ポリマーの示 差 熱 熱 重 量 分 析
1.2.1 使 用 材 料
セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 は JIS A 6203(セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー デ ィ ス パ ー ジ ョ
ン 及 び 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 )に 規 定 さ れ る エ チ レ ン ・ 酢 酸 ビ ニ ル ( 略 称 : EVA) , ポ リ ア ク リ
ル 酸 エ ス テ ル ( 略 称 : PAE) お よ び 酢 酸 ビ ニ ル ・ ビ ニ ル バ ・ サ テ ラ イ ト ( 略 称 : VVA) を 使
用 し た 。 な お , 同 じ 種 類 の 樹 脂 の 中 で も , 異 な る 特 徴 を 持 っ た 2製 品 を 用 い た 。 表 1に は ,
各種セメント混和用再乳化形粉末樹脂の特性を示す。
表1 セメント混和用再乳化形粉末樹脂の特性
ポリマー種類
揮発分
(%)
酸 価 (mgKOH/mg)
見掛け密度
粒 子 径 (%) a
(g/ml)
ガラス転移温度
(℃ )
EVA-1
0.5
< 2.0
0.52
< 2.0
10
EVA-2
< 2.0
< 2.0
0.40 ± 0.10
< 2.0
10
PAE-1
0.6
< 2.0
0.49
< 2.0
8
PAE-2
< 2.0
< 2.0
0.50 ± 0.10
< 2.0
8
VVA-1
0.9
< 2.0
0.39
< 2.0
14
VVA-2
< 2.0
< 2.0
0.53 ± 0.10
< 2.0
14
a
300μ mふるい上 残 分
1.2.2 加 熱 方 法
試 料 へ の 加 熱 は ,図 1に 示 す 加 熱 曲 線 の よ う に ,昇 温 速 度 を 2℃ /min一 定 と し ,600℃ に 到
達 し て か ら ,実 験 装 置 の 中 で 自 然 に 冷 却 さ せ る 。ま た ,各 試 料 は 酸 素 20%の 条 件 下 で 加 熱 す
る。
Temperature(℃)
Target temperature(600℃)
2℃/min
Natural cooling
Room temperature(20℃)
5h
Time(h)
図1 加熱曲線
1.2.3 示 差 熱 熱 重 量 同 時 測 定 方 法
示 差 熱 熱 重 量 同 時 測 定 装 置 ( TG/DTA: Thermo Gravimetry Differential Thermal
Analyzer) は , 試 料 の 重 量 変 化 を 測 定 す る 熱 重 量 測 定 ( TG: Thermo Gravimetry) と , 試 料
の 温 度 変 化 を 測 定 す る 示 差 熱 分 析 ( DTA: Differential Thermal Analyzer) の 同 時 測 定 装
置で,試料の酸化,熱分解,脱水などにおける重量変化や,耐熱性の評価,反応速度解析
などに利用できます。雰囲気温度の上昇による試料の重量変化を,時間か温度に対して記
録 し た も の を TG曲 線 と す る 。 試 料 ホ ル ダ ー に 設 け ら れ た 熱 電 対 の 起 電 力 に よ り , リ フ ァ レ
ン ス と 試 料 と の 温 度 差 を 検 出 し , DTA曲 線 と す る 。
各 試 料 は 約 10mgを 用 い て , 示 差 熱 熱 重 量 同 時 測 定 装 置 を 使 用 し , 加 熱 中 各 試 料 の 重 量 ,
温 度 差 の 経 時 変 化 を 計 測 し た 。こ こ で の 温 度 差 と は ,試 料 と 基 準 物 質( α -ア ル ミ ナ ,測 定
温度範囲内で変化の内物質)を同一の熱的条件下で加熱し,熱電対で測定する両者の間に
生じる温度の違いである。
また,加熱前の試料及び加熱後室温までに冷却した後のものの微細構造を,走査型電子
顕 微 鏡 ( SEM) を 用 い て 観 察 を 行 っ た 。
1.2.4 実 験 結 果 および考 察
図 2に EVA-1の TG-DTA曲 線 を 示 す 。TG曲 線 は 試 料 の 重 量 残 存 率 を 示 し ,加 熱 温 度 200℃ ま で
は 試 料 の 重 量 は ほ ぼ 同 じ で ,200℃ 以 上 に な る と ,温 度 の 増 加 と 共 に 急 激 な 減 少 を 示 し て い
る 。ま た ,450℃ 付 近 ま で に 90%の 重 量 減 少 が 見 ら れ る 。こ の こ と か ら 試 料 の 90%が ポ リ マ ー
成 分 で あ る と 分 か る 。 ま た 残 り の 10%は 粘 着 防 止 剤 な ど の 添 加 剤 で あ る と 考 え ら れ る 。 DTA
曲 線 は 試 料 の 吸 発 熱 量 の 変 化 を 示 し , 2本 の 大 き な 発 熱 ピ ー ク が 認 め ら れ る 。 300℃ を 頂 点
と す る 第 1ピ ー ク は ,ポ リ マ ー の 熱 分 解 に よ り 生 成 す る 低 分 子 も の が 燃 焼 さ れ ,温 度 が 急 激
に 上 昇 す る も の で あ る 。 430℃ を 頂 点 と す る 第 2ピ ー ク は , 炭 素 を 主 成 分 と す る 物 質 , ま た
炭 素 の 燃 焼 と 炭 化 に よ る も の と 考 え ら れ る 。図 3に EVA-2の TG-DTA曲 線 を 示 す 。TG曲 線 で は ,
EVA-1と ほ ぼ 同 じ 減 少 傾 向 を 示 し ,450℃ 付 近 で 95%の 重 量 減 少 が 見 ら れ る 。DTA曲 線 で は ,2
本の大きな発熱ピークも示している。
図 4に PAE-1の TG-DTA曲 線 を 示 す 。 EVA系 試 料 と 違 い , 100℃ 付 近 か ら 試 料 の 重 量 は 徐 々 に
減 少 し ,300℃ 付 近 か ら 急 激 な 減 少 を 示 し ,400℃ か ら 再 び 緩 や か な 変 化 が 見 ら れ ,600℃ ま
で に 96%の 重 量 減 少 が 見 ら れ る 。 DTA曲 線 を 見 る と , 3本 の 発 熱 ピ ー ク が 顕 著 に 認 め ら れ る 。
第 1ピ ー ク は 280℃ の と こ ろ で あ り ,EVA系 よ り 燃 焼 し や す い と 分 か る 。図 5に PAE-2の TG-DTA
曲 線 を 示 す 。 PAE-1の 曲 線 と 比 べ TG曲 線 に は 顕 著 な 変 化 が 見 ら れ な い 。 DTA曲 線 で は , 非 常
に 鋭 い 発 熱 ピ ー ク が 300-330℃ に 認 め ら れ る 。こ れ は こ の 温 度 で ,燃 焼 お よ び 炭 化 反 応 が 激
しいためであると考えられる。
図 6に VVA-1の TG-DTA曲 線 を 示 す 。試 料 の 重 量 減 少 は 150℃ 付 近 か ら 顕 著 に 見 ら れ る 。600℃
ま で に は 95%の 重 量 減 少 が 見 ら れ る 。 発 熱 ピ ー ク は EVA系 試 料 と 同 じ く ら い の 領 域 で 認 め ら
れ る 。図 7に VVA-2の TG-DTA曲 線 を 示 す 。加 熱 温 度 230℃ か ら 試 料 の 重 量 減 少 が 始 ま り ,600℃
ま で に 87%の 重 量 減 少 が 見 ら れ る 。こ れ は こ の 試 料 に 添 加 さ れ た も の が 他 試 料 よ り 多 い こ と
が 分 か る 。 ま た , DTA曲 線 か ら , 300℃ 付 近 で の 発 熱 ピ ー ク が 他 試 料 よ り 複 雑 で あ る こ と が
分かる。
一 例 と し て , PAE-1試 料 の 加 熱 前 後 の SEM写 真 を 図 8に 示 す 。 左 側 は 加 熱 前 の 写 真 で あ る 。
球体状のものはポリマーであり,その上に付着しているものは粘着防止剤などの添加剤で
あ る 。右 側 は 600℃ で 加 熱 し た 後 の 残 渣 の 写 真 で あ る 。ポ リ マ ー が 加 熱 に よ り な く な り ,さ
らに炭化残渣は不規則に荒れた表面構造を形成することが分かる。
90
50
30
50
20
40
10
30
0
20
-10
-20
10
-20
-30
0
30
50
20
40
10
30
0
20
-10
10
0
300
400
500
-30
0
600
100
図2 EVA-1のTG-DTA曲線
100
60
90
50
70
40
60
30
50
20
40
10
30
0
20
-10
10
0
100
200
300
400
Heating Temperature (℃)
図4 PAE-1のTG-DTA曲線
400
500
500
TG
DTA
Residual ratio of weight
(%)
Residual ratio of weight
(%)
70
Temperature difference
(μV)
TG
DTA
0
300
600
図3 EVA-2のTG-DTA曲線
100
80
200
Heating Temperature (℃)
Heating Temperature (℃)
90
50
40
60
200
60
60
40
100
80
70
70
70
0
TG
DTA
Temperature difference
(μV)
100
60
80
70
60
50
70
40
60
30
50
20
40
10
30
0
20
-10
-20
10
-20
-30
0
600
-30
0
100
200
300
400
500
Heating Temperature (℃)
図5 PAE-2のTG-DTA曲線
600
Temperature difference
(μV)
Residual ratio of weight
(%)
80
70
Residual ratio of weight
(%)
TG
DTA
90
Temperature difference
(μV)
100
100
60
90
50
70
40
60
30
50
20
40
10
30
0
20
-10
10
0
0
100
200
300
400
500
70
TG
DTA
80
60
50
Temperature difference
(μV)
Residual ratio of weight
(%)
80
70
Residual ratio of weight
(%)
TG
DTA
90
Temperature difference
(μV)
100
70
40
60
30
50
20
40
10
30
0
20
-10
-20
10
-20
-30
0
600
-30
0
100
200
300
400
500
600
Heating Temperature (℃)
Heating Temperature (℃)
図6 VVA-1のTG-DTA曲線
Before heating
図7 VVA-2のTG-DTA曲線
After 600℃ heating
図 8 加 熱 前 後 PAE-1試料のSEM写真
1.3 ポリマーセメントモルタルの発 熱 性 試 験
1.3.1 使 用 材 料
セメントには,普通ポルトランドセメントを使用した。細骨材には,大井川産川砂(粗
粒 率 : 2.97, 表 乾 比 重 : 2.63g/cm3, 吸 水 率 : 1.81%) を 使 用 し た 。 セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ
ー に は , JIS A 6203( セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー デ ィ ス パ ー ジ ョ ン 及 び 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 )
に 規 定 す る エ チ レ ン ・ 酢 酸 ビ ニ ル ( EVA) , 酢 酸 ビ ニ ル ・ ビ ニ ル バ ・ サ テ ラ イ ト ( VVA) ,
ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル ( PAE) お よ び ス チ レ ン ・ ブ タ ジ エ ン ・ ラ テ ッ ク ス ( SBR) を 使 用
し た 。 な お , 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 に は , 粉 末 樹 脂 に 対 し て 消 泡 剤 が 1%添 加 さ れ て い る 。 ポ リ
マ ー デ ィ ス パ ー ジ ョ ン に は , そ の 全 固 形 分 に 対 し て 消 泡 剤 が 1%添 加 さ れ て い る 。 表 2に は ,
セメント混和用ポリマーの性質を示す。
表 2 セメント混 和 用 ポリマーの性 質
揮発分
粒子径
酸価
(%)
(%) a
(mgKOH/mg)
EVA
2.0以 下
2以 下
2.0以 下
0.50±0.10
VVA
2.0以 下
2以 下
2.0以 下
0.53±0.10
PAE
2.0以 下
2以 下
2.0以 下
0.50±0.10
再乳化形粉末樹脂
a
見 掛 け 密 度 (g/ml)
300μ mふ る い 上 残 分
ポリマー
固形分
pH
粘度
密度
ディスパージョン
(質 量 %)
(20℃ )
(mPa・ s)
(g/ml)
SBR
44.6
8.0~ 9.0
500~ 1500
1.0
1.3.2 試 験 体 の作 製
JIS A 1171( 実 験 室 に お け る ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 作 り 方 ) を 参 考 に , 表 3に 示 す
調 合 で , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル を 練 混 ぜ , 寸 法 100×100×400(mm)に 成 形 し た 後 , 4週
間 水 中( 20℃ )養 生 し て 寸 法 100×100×10(mm)の 試 験 体 に 切 断 し ,9週 間 乾 燥( 20℃ ,60%RH)
養 生 を 行 っ た 。ま た ,試 験 の 前 に ,各 試 験 体 を 60℃ の 乾 燥 炉 内 で 2日 間 乾 燥 し ,さ ら に 室 温
ま で デ シ ケ ー タ ー の 中 で 冷 却 し た 。 各 試 験 体 の 含 水 率 は 0.5~ 2.0%の 範 囲 に あ っ た 。 な お ,
試 験 体 個 数 は 各 水 準 2体 と し た 。
1.3.3 発 熱 性 試 験 方 法
ISO 5660-1の 規 定 に 従 い ,図 9発 熱 性 試 験 装 置 に 示 す よ う に 円 錘 型 の 電 気 ヒ ー タ で 輻 射 加
熱しながら電気スパークを着火として,その発熱量および発熱速度を酸素消費法により計
測 し た 。 不 燃 材 料 の 要 件 は , 加 熱 開 始 後 20分 間 の 総 発 熱 量 が 8MJ/m 2 を 超 え な い こ と , 防 火
上 有 害 な 裏 面 ま で 貫 通 す る 亀 裂 お よ び 穴 が 生 じ な い 場 合 お よ び 最 高 発 熱 速 度 が 10秒 以 上 継
続 し て 200kW/m 2 を 超 え な い こ と で あ る 。
表 3 ポリマーセメントモルタルの調 合
ポリマー 種
類
単 位 ポリマー量
(kg/m 3 )
NON b
0
10
20
30
EVA
40
50
100
10
20
VVA
PAE
30
40
50
100
10
20
30
40
50
100
10
20
SBR
30
40
50
100
セメント砂 比
(By weight)
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
1 : 3
水 セメント比
(%)
45
50
60
45
50
60
45
50
60
45
50
60
45
50
60
45
50
60
45
50
60
50
45
50
60
50
50
50
50
50
50
50
50
50
50
50
45
50
60
50
50
50
50
b
No polymer added
フロー
(mm)
113
150
195
118
166
215
128
180
213
140
183
225
138
190
215
153
160
193
148
168
198
185
145
185
213
190
185
195
180
190
177
191
193
190
208
183
155
180
228
195
197
223
-
図9 発熱性試験装置
1.3.4 実 験 結 果 および考 察
目 視 に よ り 観 察 し た 試 験 体 の 状 況 は ,次 の 通 り で あ る 。SBRモ ル タ ル お よ び 単 位 ポ リ マ ー
量 40kg/m 3 の EVAモ ル タ ル は 加 熱 と と も に 発 煙 し た 。 単 位 ポ リ マ ー 量 30kg/m 3 以 上 の SBRモ ル
タ ル お よ び 単 位 ポ リ マ ー 量 100kg/m 3 の EVAモ ル タ ル は 着 火 し た 。試 験 体 の 発 煙・着 火 の 様 子
を 図 10に 示 す 。水 セ メ ン ト 比 50%,単 位 ポ リ マ ー 量 100kg/m 3 の VVAモ ル タ ル お よ び PAEモ ル タ
ル は 爆 裂 を 生 じ た 。 試 験 体 の 爆 裂 前 後 の 様 子 を 図 11に 示 す 。 こ れ ら の こ と か ら , ポ リ マ ー
セメントモルタルが加熱される場合,ポリマーの種類,単位ポリマー量および水セメント
比によって,その発煙・着火状況,爆裂性の有無が異なることが分かる。また,ポリマー
の有無に関わらず,爆裂したもの以外の試験体には裏面まで貫通する亀裂および穴などは
確認されなかった。
ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 加 熱 開 始 後 20分 間 の 総 発 熱 量 を 図 12に 示 す 。EVAモ ル タ ル お
よ び VVAモ ル タ ル は 単 位 ポ リ マ ー 量 の 増 加 と と も に 総 発 熱 量 が 直 線 的 に 増 加 し ,水 セ メ ン ト
比 の 違 い に よ る 大 き な 差 は 見 ら れ な い 。 PAEモ ル タ ル は 単 位 ポ リ マ ー 量 が 30kg/m 3 を 超 え る
と 総 発 熱 量 は 直 線 で 著 し く 増 加 し , 50kg/m 3 で 8MJ/m 2 を 超 え , 100kg/m 3 で は 50kg/m 3 の 3倍 程
度 の 総 発 熱 量 と な っ た 。SBRモ ル タ ル は 単 位 ポ リ マ ー 量 が 30kg/m 3 を 超 え る と 総 発 熱 量 は PAE
モ ル タ ル よ り 大 き く 増 加 し , 40kg/m 3 で 8MJ/m 2 を 超 え , 100kg/m 3 で は 40kg/m 3 の 2倍 程 度 の 総
発熱量となった。
加熱様子
発 煙 ・着 火
火 炎 の拡 大
全面燃焼
図 10 発 煙 ・着 火
爆裂前
爆裂後
上 に飛 び出 す
飛 散 した様 子
図 11 爆 裂
32
120
2
総発熱量(MJ/m )
24
EVA(W/C=45%)
EVA(W/C=50%)
EVA(W/C=60%)
105
2
28
最大発熱速度(kW/m )
EVA(W/C=45%)
EVA(W/C=50%)
EVA(W/C=60%)
20
16
12
8
4
90
75
60
45
30
15
0
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
0
90 100
10
20
単位ポリマー量(kg/m 3 )
2
総発熱量(MJ/m )
24
20
16
12
8
4
0
90
70
80
90 100
80
90 100
70 80
90 100
75
60
45
30
15
10
20
30
40
50
60
70
80
0
90 100
10
20
単位ポリマー量(kg/m 3 )
最大発熱速度(kW/m2 )
28
PAE(W/C=50%)
24
20
16
12
8
4
0
0
10
20
30
40
50
60
70
30
40
50
60
70
単位ポリマー量(kg/m 3 )
32
2
60
0
0
総発熱量(MJ/m )
50
VVA(W/C=45%)
VVA(W/C=50%)
VVA(W/C=60%)
105
2
最大発熱速度(kW/m )
VVA(W/C=45%)
VVA(W/C=50%)
VVA(W/C=60%)
28
80
90
100
120
105
PAE(W/C=50%)
90
75
60
45
30
15
0
0
3
10
20 30
単位ポリマー量(kg/m )
40
50 60
単位ポリマー量(kg/m3)
120
32
24
SBR(W/C=45%)
SBR(W/C=50%)
SBR(W/C=60%)
105
2
最大発熱速度(kW/m )
SBR(W/C=45%)
SBR(W/C=50%)
SBR(W/C=60%)
28
2
40
120
32
総発熱量(MJ/m )
30
単位ポリマー量(kg/m 3 )
20
16
12
8
4
90
75
60
45
30
15
0
0
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90 100
単位ポリマー量(kg/m 3 )
図 12 ポリマーセメントモルタルの総 発 熱 量
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90 100
単位ポリマー量(kg/m 3 )
図 13 ポリマーセメントモルタルの最 大 発 熱 速 度
ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 加 熱 開 始 後 20分 間 の 最 大 発 熱 速 度 を 図 13に 示 す 。 最 大 発 熱
速 度 は 総 発 熱 量 の 結 果 と ほ ぼ 同 じ 傾 向 を 示 し て い る 。 全 試 験 体 で 最 高 発 熱 速 度 は 200kW/m 2
を超えなかった。
単 位 ポ リ マ ー 量 30kg/m 3 以 上 の SBRモ ル タ ル の 表 面 が 50kW/m 2 の 加 熱 を 受 け た 場 合 , モ ル タ
ル 内 部 の 温 度 は 時 間 の 増 加 と と も に 上 昇 す る 。 SBRは 約 200℃ で ス チ レ ン と ブ タ ジ エ ン ラ テ
ッ ク ス に 分 解 し , 360℃ 付 近 で 熱 分 解 気 化 が 始 ま る 。 加 熱 5分 程 度 で 表 層 部 の 温 度 は そ の 分
解気化温度を超え,熱分解ガスが空気中の酸素と反応し,試験体が着火したと考えられ,
表 層 部 に お け る SBRの 燃 焼 が , 試 験 体 の 発 熱 量 お よ び 発 熱 速 度 の 急 増 の 原 因 と 推 察 さ れ る 。
1.4 ポリマーセメントモルタルの不 燃 性 試 験
1.4.1 使 用 材 料
「 ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 発 熱 性 試 験 」 の 1.3.1に 記 述 す る 材 料 と 同 じ も の を 使 う 。
1.4.2 試 験 体 の作 製
「 ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 発 熱 性 試 験 」の 1.3.2に 記 述 す る 調 合 モ ル タ ル 調 合 で ,寸
法 φ 44×50(mm)に 成 形 し た 後 ,4週 間 標 準 水 中 養 生 し ,9週 間 の 気 中 養 生( 20℃ ,60%RH)を
行 っ た 。 ま た , 試 験 の 前 に , 各 供 試 体 を 60℃ に 保 た れ た 乾 燥 器 内 に 24時 間 静 置 し , さ ら に
室 温 ま で デ シ ケ ー タ ー の 中 で 冷 却 し た 。各 供 試 体 の 含 水 率 は 2.0~ 4.0%の 範 囲 で あ っ た 。供
試 体 個 数 は 各 水 準 3体 と し た 。
1.4.3 不 燃 性 試 験 方 法
ISO 1182-2002に 準 拠 し て ,炉 内 の 温 度 上 昇 お よ び 供 試 体 の 質 量 減 少 を 測 定 し た 。試 験 方
法 は ,750℃ に 保 っ た 加 熱 炉 の 中 へ 規 定 さ れ た 円 柱 状 の 供 試 体 を 入 れ ,炉 内 の 温 度 上 昇 を 計
測 す る 方 法 で あ る 。 不 燃 材 料 と し て の 要 件 は , 加 熱 開 始 後 20分 間 の 炉 内 最 高 温 度 が 試 験 終
了 の 最 終 1分 間 の 平 均 温 度 を 20℃ 超 え ず , 加 熱 終 了 後 の 供 試 体 の 質 量 減 少 が 30%以 下 で あ る
ことである。モルタルは均一な材料ではなく,内部に水分を含んでいるため,炉内温度が
安 定 す る ま で 20分 以 上 の 時 間 を 要 す る 。 そ の た め , 事 前 に 予 備 試 験 を 行 い , 試 験 時 間 を 30
分に決定した。
1.4.4 実 験 結 果 および考 察
目 視 に よ り 観 察 し た 試 験 体 の 状 況 は , 次 の 通 り で あ る 。 単 位 ポ リ マ ー 量 100kg/m 3 の 供 試
体 は 加 熱 開 始 後 120秒 前 後 で 発 煙 し た 。 単 位 ポ リ マ ー 量 100kg/m 3 の EVAモ ル タ ル , 単 位 ポ リ
マ ー 量 50kg/m 3 以 上 の VVAモ ル タ ル , 単 位 ポ リ マ ー 量 40kg/m 3 以 上 の PAEモ ル タ ル お よ び 単 位
ポ リ マ ー 量 20kg/m3以 上 の SBRモ ル タ ル は 加 熱 開 始 後 お よ そ 90秒 に 着 火 し た 。 ま た , 着 火 時
間 は ,単 位 ポ リ マ ー 量 の 増 加 と と も に 早 く な っ た 。図 14に 発 煙・着 火 の 様 子 を 示 す 。ま た ,
単 位 ポ リ マ ー 量 40~ 50kg/m 3 の EVAモ ル タ ル , 単 位 ポ リ マ ー 量 30~ 50kg/m 3 の VVAモ ル タ ル ,
PAEモ ル タ ル お よ び 単 位 ポ リ マ ー 量 50kg/m 3 の VVAモ ル タ ル は 3個 の 中 1個 か 2個 は 爆 裂 を 生 じ
た 。 ま た , 水 セ メ ン ト 比 が 高 い ほ ど 爆 裂 し や す い 傾 向 が あ っ た 。 単 位 ポ リ マ ー 量 100kg/m 3
の モ ル タ ル で は ポ リ マ ー の 種 類 に 関 係 な く ,3個 の 供 試 体 全 部 で 爆 裂 を 生 じ た 。図 15に 爆 裂
した試験体の様子を示す。
例 と し て ,図 16に 水 セ メ ン ト 比 50%の 普 通 モ ル タ ル( NON)お よ び 単 位 ポ リ マ ー 量 50kg/m 3
の 3種 類 の ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 不 燃 性 試 験 に お け る 炉 内 温 度 の 経 時 変 化 を 示 す 。供
試 体 を 炉 内 に 投 入 す る と ,炉 内 の 熱 を 吸 収 す る た め ,炉 内 温 度 が 急 激 に 600℃ 付 近 ま で 低 下
し , 30秒 後 前 後 で 再 び 上 昇 す る 。 SBRモ ル タ ル は 加 熱 開 始 後 127秒 で , ポ リ マ ー の 燃 焼 に よ
っ て 他 の モ ル タ ル よ り 急 激 な 温 度 上 昇 を 示 し ,激 し い 燃 焼 の 後 炉 内 温 度 が 750℃ 付 近 ま で 低
下 し , そ の 後 は 他 の 供 試 体 と 同 様 に 緩 や か に 上 昇 す る 。 VVAモ ル タ ル も SBRモ ル タ ル と 同 じ
な 曲 線 を 示 し ,ポ リ マ ー の 燃 焼 が 遅 れ る た め ,炉 内 の ピ ー ク 温 度 に な る 時 間 が SBRモ ル タ ル
よ り 遅 い 。EVAモ ル タ ル は 燃 焼 し な か っ た た め ,顕 著 な ピ ー ク は 見 ら れ な い 。普 通 モ ル タ ル
はポリマーを含有しないため,ポリマーセメントモルタルに比べ,明らかに温度上昇が遅
い 。こ の こ と か ら ,ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル を 加 熱 す る 場 合 ,ポ リ マ ー の 種 類 に よ っ て ,
燃焼時間およびピーク温度が違うことが分かる。
図 14 発 煙 ・着 火 の様 子
図 15 爆 裂 の様 子
900
SBR
850
VVA
炉内温度(℃)
800
750
EVA
700
NON
650
NON (W/C=50%)
EVA (W/C=50%)
VVA (W/C=50%)
SBR (W/C=50%)
600
550
500
0
300
600
900
1200
加熱時間(s)
図 16 炉 内 温 度 の経 時 変 化 の例
1500
1800
図 17に 炉 内 温 度 変 化 と 単 位 ポ リ マ ー 量 の 関 係 を 示 す 。 炉 内 温 度 変 化 は 試 験 開 始 後 30分 間
の 炉 内 最 高 温 度 と 試 験 終 了 前 の 1分 間 の 平 均 温 度 の 差 で あ る 。 単 位 ポ リ マ ー 量 50kg/m 3 以 下
の EVAモ ル タ ル お よ び PAEモ ル タ ル は 20℃ 以 下 の 温 度 変 化 を 示 し , 100kg/m 3 の も の は 水 セ メ
ン ト 比 に 関 わ ら ず , 50℃ 以 上 の 温 度 変 化 を 示 し て い る 。 単 位 ポ リ マ ー 量 30kg/m 3 以 上 の VVA
モ ル タ ル お よ び 単 位 ポ リ マ ー 量 20kg/m 3 以 上 の SBRモ ル タ ル は 温 度 変 化 が 20℃ を 超 え る 。 ま
た ,単 位 ポ リ マ ー 量 の 増 加 と と も に 温 度 変 化 が 直 線 的 に 増 加 を 示 し ,100kg/m 3 の VVAモ ル タ
ル お よ び SBRモ ル タ ル は 50kg/m 3 の も の よ り や や 大 き な 値 を 示 す 。
爆 裂 を 生 じ な か っ た 各 ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 加 熱 後 の 質 量 を 測 定 し た 。 図 18に ポ
リマーセメントモルタルの加熱後の質量減少率と単位ポリマー量の関係を示す。単位ポリ
マ ー 量 の 増 加 と と も に 質 量 変 化 率 は 直 線 的 に 増 加 し ,増 加 の 傾 向 は 既 往 の 実 験 [3]の 結 果 と
ほ ぼ 同 じ で あ る 。ま た ,ポ リ マ ー の 種 類 ,単 位 ポ リ マ ー 量 お よ び 水 セ メ ン ト 比 に 関 わ ら ず ,
ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 質 量 変 化 率 は い ず れ も 30%以 下 で あ る 。ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル
タルの質量の減少は,供試体中の自由水,セメント硬化体中の結合水の一部,ポリマーの
分解による減少分が含まれる。試験前の供試体の含水率は,供試体によるばらつきはある
ものの,ポリマーの増量に伴う質量減少の増分は,ほぼポリマーの分解による減少分と考
え る こ と が で き る 。 ポ リ マ ー 量 の 10kg/m 3 は 供 試 体 全 体 の 質 量 の 約 0.4~ 0.5%に 相 当 す る こ
と を 考 慮 し た 場 合 ,SBRモ ル タ ル の 質 量 減 少 率 の 増 分 は ,ほ ぼ 単 位 ポ リ マ ー 量 の 増 分 に 相 当
し ,VVAモ ル タ ル の 場 合 は ,ポ リ マ ー の 増 分 の 半 分 程 度 が 質 量 減 少 と し て 表 れ て い る こ と が
分かる。このことから,不燃性試験においても,ポリマーの種類によって,分解のしやす
さ に 相 違 が あ り ,特 に SBRの 場 合 は 内 部 の ポ リ マ ー が 燃 焼 し 易 い 傾 向 が あ る と い う こ と が い
える。
2.5 まとめ
セメント混和用ポリマーの示差熱熱重量分析,ポリマーセメントモルタルの発熱性試験
およびポリマーセメントモルタルの不燃性試験の結果より,以下の知見が得られた。
(1) セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 は 空 気 の 中 で 高 温 加 熱 し て 燃 焼 す る 。
(2) セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 の 熱 分 解 の 温 度 領 域 は 二 つ の 領 域 に 分 け ら れ る 。 一
つ は 激 し い 200-350℃ で あ り , も う 一 つ は 緩 や か な 350-450℃ で あ る 。
(3) 火 災 時 に ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル 中 の 樹 脂 が 熱 分 解 , 燃 焼 お よ び 炭 化 反 応 の 発 生 が
確認される。
(4) ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 発 熱 量 お よ び 発 熱 速 度 は 水 セ メ ン ト 比 の 変 化 に あ ま り 依
存せず,単位ポリマー量の増加に大きく依存する。
(5) 本 実 験 の 範 囲 で は , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 発 熱 性 は , VVAモ ル タ ル > EVAモ ル タ
ル > PAEモ ル タ ル > SBRモ ル タ ル の 順 に 優 れ て お り , VVAお よ び EVAモ ル タ ル で は ,
50kg/m 3 以 下 , PAEモ ル タ ル で は , 40kg/m 3 以 下 , SBRモ ル タ ル で は 30kg/m 3 以 下 の 単 位 ポ
リマー量であれば,不燃材料として判定される可能性が高い。
(6) 不 燃 性 試 験 に お い て は ,単 位 ポ リ マ ー 量 30kg/m 3 以 上 の ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル は 火
災時に爆裂する可能性がある。
(7) ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 不 燃 性 は , 使 用 す る ポ リ マ ー の 種 類 , 単 位 ポ リ マ ー 量 に
よ っ て 異 な り ,VVAお よ び SBRモ ル タ ル で は 30kg/m 3 ,EVAモ ル タ ル お よ び PAEモ ル タ ル で
は , 50kg/m 3 程 度 を 超 え る と 温 度 変 化 が ISO 1182-2002の 規 定 温 度 20℃ を 超 え る 可 能 性
がある。
(8) 本 実 験 の 範 囲 で は , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 発 熱 性 は , EVAモ ル タ ル > VVAモ ル タ
ル > PAEモ ル タ ル > SBRモ ル タ ル の 順 に 優 れ て い る 。
10.0
EVA(W/C=45%)
EVA(W/C=50%)
EVA(W/C=60%)
80
質量減少率(%)
炉内温度変化(℃)
100
60
40
20
0
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m 3 )
80
90
0
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m 3 )
80
90
100
10.0
80
質量減少率(%)
炉内温度変化(℃)
EVA(W/C=45%)
EVA(W/C=50%)
EVA(W/C=60%)
7.0
100
100
60
40
VVA(W/C=45%)
VVA(W/C=50%)
VVA(W/C=60%)
20
9.0
8.0
VVA(W/C=45%)
VVA(W/C=50%)
VVA(W/C=60%)
7.0
6.0
0
0
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m 3 )
80
90
0
100
100
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m 3 )
80
90 100
10.0
80
PAE(W/C=50%)
質量減少率(%)
炉内温度変化(℃)
8.0
6.0
0
60
40
20
0
9.0
8.0
7.0
PAE(W/C=50%)
6.0
0
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m3 )
80
90
100
0
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m3 )
80
90 100
10.0
100
80
質量減少率(%)
炉内温度変化(℃)
9.0
60
40
SBR(W/C=45%)
SBR(W/C=50%)
SBR(W/C=60%)
20
0
9.0
8.0
SBR(W/C=45%)
SBR(W/C=50%)
SBR(W/C=60%)
7.0
6.0
0
図 17
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m 3 )
80
90
炉 内 温 度 変 化 と単 位 ポリマー量 の関 係
100
0
図 18
10
20
30 40 50 60 70
単位ポリマー量(kg/m 3 )
80
90 100
質 量 減 少 率 と単 位 ポリマー量 の関 係
2. 高 温 加 熱 後 のポリマーセメントモルタルの力 学 特 性 に関 する実 験
2.1 実 験 の目 的
ポリマーセメントモルタルは,普通セメントモルタルと比較して,接着性が良い,硬化
が速い,収縮が小さい,防水性が高い,耐摩耗性・耐薬品性が優れる等の利点を有してい
る。現在,建築,土木分野において,鉄筋コンクリート構造物の断面補修対策用の修復材
として積極的に使用されている。
ポリマーセメントモルタルに用いるセメント混和用ポリマーは,水性ポリマーディスパ
ージョン,水溶性ポリマー,液状ポリマー及び再乳化形粉末樹脂等の種類がある。再乳化
形粉末樹脂は,合成樹脂エマルジョンを噴霧乾燥して製造されるが,常温で保存した場合
に固まらないように,粘着防止剤が配合される。また,他のセメント混和用ポリマーに比
較して,再乳化形粉末樹脂は,缶を使用せず,取り扱いが良く,ポリマーセメントモルタ
ルの生産時には,セメント及び細骨材とドライミックスして商品化されている。
建築基準法では,補修時においてかぶりコンクリートを構成する材料として,ポリマー
セメントモルタル,またはエポキシ樹脂モルタルの使用が位置付けられている。しかしな
がら,ポリマーセメントモルタルは,その構成成分として合成樹脂やゴムのような有機物
を含有しているため,防火上の性能が明確ではなく,補修した鉄筋コンクリート構造部材
の耐火性能に関する材料面及び構造面からの検討例は少ない。そのため,補修した鉄筋コ
ンクリート構造部材火災加熱環境下での安全性が懸念される。また,補修した実大建築構
造部材の載荷加熱試験の実施は困難であり,火災加熱後の残存耐力は解析的研究による解
明が必要と考えられる。そのためには,補修材料及びコンクリートが高温にさらされた場
合の力学的特性に関する研究が,重要と考えられる。コンクリートについては多くの国内
外の研究がなされているが,補修材料についてはわずかな研究報告しかみられないのが現
状である。
そこで本研究では,現在市販されているエチレン・酢酸ビニル,酢酸ビニル・べオバ・
ア ク リ ル お よ び ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル 3種 類 の 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 を 選 び ,ポ リ マ ー セ メ ン
ト 比 を 変 化 さ せ ,普 通 セ メ ン ト と 大 井 川 水 系 陸 砂 と を 用 い て 断 面 修 復 用 モ ル タ ル を 作 製 し ,
火 災 を 想 定 し て ,200℃ か ら 1000℃ ま で の 高 温 加 熱 を 受 け た ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 強
度 試 験 を 行 い ,そ の 加 熱 前 後 の 外 観 変 化 ,質 量 変 化 及 び 強 度 変 化 に つ い て 検 討 ,考 察 し た 。
ま た ,実 験 で 得 ら れ た デ ー タ に 基 づ く 数 値 分 析 を 行 い ,高 温 加 熱 後 の 補 修 材 料 の 曲 げ 強 度 ,
圧縮強度および弾性係数の予測式を提案した。
2.2 高 温 加 熱 後 のポリマーセメントモルタルの曲 げ・圧 縮 実 験
2.2.1 使 用 材 料
(1) セ メ ン ト
セ メ ン ト は , JIS R 5210( ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン ト ) に 規 定 す る 普 通 ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン
トを使用した。
(2) 細 骨 材
細 骨 材 は , JIS A 5308( レ デ ィ ー ミ ク ス ト コ ン ク リ ー ト ) 付 属 書 1を 満 た す 大 井 川 水 系 陸
砂 を 使 用 し た 。 表 4に 細 骨 材 の 試 験 結 果 を 示 す 。
表 4 細 骨 材 の試 験 結 果
List of items
Absolute density
Saturated
( g/cm 3 )
density( g/cm 3 )
( %)
( -)
2.54
2.59
2.03
2.65
No less than 2.5
-
No more than 3.5
-
Land sand from
Ooi in Japan
Specified value
(JIS A 5308)
Water absorption
Fineness modulus
(3) セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂
セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 は , JIS A 6203( セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー デ ィ ス パ ー
ジ ョ ン 及 び 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 )に 規 定 す る エ チ レ ン・酢 酸 ビ ニ ル( 略 称:EVA),酢 酸 ビ ニ
ル ・ ベ オ バ ・ ア ク リ ル ( 略 称 : VVA) お よ び ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル ( 略 称 : PAE) を 使 用
し た 。 な お , 各 種 類 の 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 に は , 粉 末 樹 脂 に 対 消 泡 剤 が 1%添 加 さ れ て い る 。
表 5に 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 の 試 験 結 果 を 示 す 。
表 5 セメント混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 の試 験 結 果
Redispersible
Volatile
Apparent density
Acid number
Particle diameter *
polymer powder
portions (%)
(g/ml)
(mgKOH/mg)
(%)
EVA
0.5
0.52
No more than 2.0
No more than 2
VVA
0.9
0.39
No more than 2.0
No more than 2
PAE
0.6
0.49
No more than 2.0
No more than 2
* : Particle residue on the 300μ m flour bolter
2.2.2 試 験 体 の作 製
試 験 体 は JIS A 1171( ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 試 験 方 法 ) に 従 っ て , 表 6に 示 す ポ リ
マーセメントモルタルの調合で,水セメント比およびセメント対砂を一定にしてポリマー
セ メ ン ト モ ル タ ル を 練 り 混 ぜ , 寸 法 40×40×160( mm) と φ 50×100( mm) の 試 験 体 を 作 製
し た 。試 験 体 は 2日 間 湿 空 [20℃ ,90%( RH)],5日 間 水 中( 20℃ ),21日 間 乾 燥 [20℃ ,50%
( RH)]条 件 下 で 養 生 し た 後 ,材 齢 の 違 い に よ る 試 験 体 間 の 強 度 差 が で き る だ け 少 な く な る
よ う に , さ ら に 63日 間 乾 燥 [20℃ , 50%( RH) ]養 生 を 行 っ た 。
2.2.3 試 験 方 法
2.2.3.1 試 験 因 子
試験因子は,ポリマーの種類,ポリマーセメント比,加熱温度及び試験体形状とした。
ポ リ マ ー の 種 類 は 前 述 ( 2.2.1の 3) し た 3水 準 と し た 。 ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 ( P/C) は , 普
通 セ メ ン ト モ ル タ ル [ポ リ マ ー 無 混 和 ( 0%) ]を 含 め て , 5%, 10%お よ び 20%と し た 。 加 熱 温
度 は , 常 温 ( 20℃ ) を 含 め て , 200℃ , 400℃ , 600℃ , 800℃ お よ び 1000℃ の 6水 準 と し た 。
試 験 体 形 状 は ,40×40×160( mm)お よ び φ 50×100( mm)と し ,各 水 準 の 試 験 体 を 3体 ず つ
準 備 し た 。 ま た , 試 験 体 の 含 水 率 が ほ ぼ 一 定 に な る よ う , 高 温 加 熱 の 前 に , 60℃ , RH50%
の 環 境 下 で 3日 間 強 制 乾 燥 し た 。各 水 準 試 験 体 の 含 水 率 は 3本 の 平 均 値 と し て ,式( 1)を 用
い て 算 出 し た 。 表 7に 各 水 準 の 試 験 体 の 含 水 率 を 示 す 。
W = [ (M 6 0 - M 1 0 5 ) / M 1 0 5 ] × 100(%)
(1)
こ こ に , W: 試 験 体 の 含 水 率 ( %) , M 6 0 : 試 験 体 強 制 乾 燥 後 の 質 量 ( g) , M 1 0 5 : 試 験 体 絶
乾 状 態 の 質 量 ( g)
表 6 ポリマーセメントモルタルの調 合
Type of
Polymer-cement ratio
Cement : Sand
Water-cement ratio
Defoamer
Flow
polymer
(%)
(By mass)
(%)
(%)
(mm)
NON * *
0
151
5
191
10
199
20
208
EVA
5
178
1 : 3
VVA
PAE
50
1.0
10
192
20
198
5
177
10
188
20
194
* *
: No polymer added
表 7 各 水 準 の試 験 体 の含 水 率 (%)
Artifical drying
Type of polymer
Polymer-cement ratio (%)
Moisture content (%)
NON
EVA
VVA
PAE
0
2.9
5
3.2
10
3.1
20
3.0
5
3.1
10
3.3
20
3.7
5
3.2
10
3.3
20
3.4
2.2.3.1 加 熱 方 法
加熱プログラムは試験体の中心温度と表層温度および各試験体間の温度差ができるだけ
少なくなるよう決定する必要がある。しかし,強度試験用の試験体に熱電対を設置すると
断面欠損が生じるため,圧縮強度に影響する恐れがある。従って,加熱プログラムは,事
前に実施した予備試験から決めた。
試 験 体 の 加 熱 は , プ ロ グ ラ ム 調 整 機 能 を 有 し た 箱 型 電 気 炉 を 使 用 し た 。 図 19に 1000℃ ま
で 加 熱 プ ロ グ ラ ム の 一 例 を 示 す 。 加 熱 プ ロ グ ラ ム は , 昇 温 速 度 を 200℃ / h と し , 200℃ 毎
の 停 滞 時 間 を 1時 間 と し , 各 目 標 温 度 に 到 達 し て か ら 1時 間 停 滞 さ せ る こ と と し た 。 試 験 体
は 試 験 体 と 試 験 体 と の 間 に 20mmの 間 隔 が 得 ら れ る よ う に 配 置 し た 。
1200
目標加熱温度
加熱温度(℃)
1000
800
600
400
200
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
加熱時間(h)
図 19 加 熱 プログラム(1000℃)
2.2.3.1 質 量 測 定
電 子 天 秤 を 用 い , 加 熱 前 後 の 試 験 体 の 質 量 を 1/100gま で 測 定 し た 。
2.2.3.1 曲 げ強 度 試 験
曲 げ 強 度 試 験 は , JIS A 1171に 準 じ て 実 施 し た 。 測 定 は , 500KNア ム ス ラ ー 型 の 万 能 試 験
機 を 利 用 し , 毎 秒 50Nの 荷 重 速 度 で 載 荷 し て 最 大 荷 重 を 求 め た 。
2.2.3.1 圧 縮 強 度 試 験
圧 縮 強 度 試 験 は , JIS A 1171に 準 じ て 実 施 し た 。 測 定 は , 曲 げ 強 度 試 験 を 行 っ た 一 組 3
個 の 試 験 体 の 折 片 6個 を 用 い て , 500KNア ム ス ラ ー 型 の 万 能 試 験 機 を 利 用 し , 毎 秒 800Nの 荷
重速度で載荷して最大荷重を求めた。
静 弾 性 係 数 の 測 定 は , φ 50×100( mm) の 試 験 体 を 用 い て , JIS A 1149( コ ン ク リ ー ト の
静 弾 性 係 数 試 験 方 法 ) に 準 じ て 実 施 し た 。 測 定 は , 5000KN万 能 試 験 機 の ロ ー ド セ ル に よ る
荷重およびコンプレッソメーターによる試験体のひずみとし,時間ごとの値により各試験
体の応力-ひずみ曲線を求めた。また,求めた応力-ひずみ曲線から,圧縮強度時のひず
みを読み取った。
2.2.4 試 験 結 果 および考 察
2.2.4.1 外 観 観 察
外観観察は,目視により観察した。ポリマーの有無に関わらず,全試験体で爆裂を生じ
なかった。このことから,緩やかな加熱の場合には,試験体の含水率をコントロールする
こ と に よ り ,20%の ポ リ マ ー を 混 入 し て も ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル は 爆 裂 を 生 じ な い 可 能
性があると推測された。
図 20に 普 通 セ メ ン ト モ ル タ ル ( P/C 0%) 加 熱 前 後 の 写 真 を 示 す 。 普 通 セ メ ン ト モ ル タ ル
は ,加 熱 温 度 600℃ 以 下 で は ,試 験 体 の 表 面 に ひ び 割 れ は 生 じ な か っ た 。し か し な が ら ,800℃
以上の加熱では,ほとんどの試験体において表面にひび割れが生じた。ポリマーセメント
モルタルはポリマーの種類により顕著な相違が認められなかった。しかし,混入したポリ
マーの量(ポリマーセメント比)により試験体表面の状態が異なる結果となった。ポリマ
ー セ メ ン ト 比 5%の 場 合 ,加 熱 温 度 600℃ で は 0.05mm以 上 の ひ び 割 れ が 試 験 体 表 面 に 目 立 ち 始
め ,800℃ で は 全 面 に わ た り ひ び 割 れ が 細 か く 生 じ た 。例 と し て ,図 21に ポ リ マ ー セ メ ン ト
比 5%の VVAモ ル タ ル 加 熱 前 後 の 写 真 を 示 す 。 ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 10%と 20% の 場 合 , 加 熱 温
度 200℃ で 試 験 体 の 一 部 に ひ び 割 れ が 生 じ , 400℃ 以 上 で は 全 面 に わ た り 0.1 mm以 上 の ひ び
割 れ が 網 状 に 細 か く 生 じ た 。ま た ,ひ び 割 れ 幅 は 加 熱 温 度 が 高 い ほ ど 大 き く ,加 熱 温 度 800℃
で は 0.5mmを 超 え る も の も 多 数 発 生 し た 。 例 と し て , 図 22と 図 23に ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 10%
と 20%の VVAモ ル タ ル 加 熱 前 後 の 写 真 を 示 す 。 1000℃ で は ポ ッ プ ア ウ ト 現 象 が 発 生 す る 試 験
体 も あ っ た 。 特 に , PAE粉 末 樹 脂 を 混 入 し た し 試 験 体 で は 激 し い ポ ッ プ ア ウ ト が 生 じ た 。
2.2.4.2 質 量 変 化
表 8に 加 熱 前 後 試 験 体 の 質 量 を 示 す 。 試 験 体 の 質 量 は 3体 試 験 体 の 平 均 値 を 取 る 。
表 8 加 熱 前 後 試 験 体 の質 量
Type of
Polymer
NON
P/C
(%)
0
5
EVA
10
20
5
VVA
10
20
5
PAE
10
20
Condition
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
heating
Mass (g)
20℃
200℃
400℃
600℃
800℃
1000℃
417.0
417.0
416.9
416.9
412.5
412.5
408.8
408.8
400.5
400.5
394.3
394.3
394.3
394.3
410.3
410.3
403.5
403.5
406.4
406.4
412.7
398.1
413.3
394.8
414.1
394.9
405.2
384.5
394.5
379.6
397.3
379.6
388.3
368.0
408.7
392.6
410.4
393.6
403.2
385.0
414.3
393.1
421.2
396.3
412.0
383.3
402.4
371.2
394.7
373.0
392.2
366.5
387.3
355.6
407.7
384.4
409.0
378.3
403.5
368.4
415.5
388.2
408.9
379.9
410.2
377.6
408.0
370.9
398.1
371.6
399.8
368.8
385.0
348.5
409.3
378.6
406.2
375.0
400.0
361.5
410.4
377.1
409.7
373.3
409.9
368.3
399.5
353.0
394.9
361.4
396.2
356.8
386.3
340.5
407.8
371.5
409.7
369.1
402.1
354.6
419.0
382.3
416.7
374.1
410.7
364.9
404.4
351.6
396.4
358.5
392.7
349.0
386.1
337.5
407.0
366.2
411.2
365.4
405.0
352.9
図 20 NON(20~1000℃)
図 22 VVA 10%(20~1000℃)
図 21 VVA 5%(20~1000℃)
図 23 VVA 20%(20~1000℃)
0
NON(0%)
2
EVA(5%)
EVA(10%)
4
EVA(20%)
6
VVA(5%)
8
VVA(10%)
VVA(20%)
10
PAE(5%)
12
PAE(10%)
PAE(20%)
14
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
加熱温度(℃)
図 24 加 熱 温 度 と質 量 減 少 率 の関 係
加 熱 前 後 試 験 体 の 質 量 か ら 試 験 体 の 質 量 減 少 率 を 算 出 し た 。 図 24に 加 熱 温 度 と 試 験 体 の
質量減少率の関係を示す。各水準の試験体加熱後の質量減少は,加熱温度が高いほど,ポ
リマーセメント比が大きいほど大きくなっている。また,温度の上昇に伴う試験体の質量
減少率は直線的になっている。ポリマーの種類により顕著な差は見られなかった。加熱温
度 200℃ ま で は 各 水 準 の ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル と も 急 激 に 質 量 が 減 少 し , 200℃ 以 上 で
は や や 緩 や か に 減 少 し た 。こ れ は ,200℃ ま で に 試 験 体 中 の 自 由 水 が 加 熱 に よ り 水 蒸 気 と し
て 放 出 さ れ た た め と 推 察 さ れ る [4]。加 熱 温 度 1000℃ ま で の 質 量 減 少 率 に 関 し て は ,ポ リ マ
ー セ メ ン ト モ ル タ ル は 普 通 セ メ ン ト モ ル タ ル よ り 2~ 5% 多 か っ た 。
加 熱 温 度 200℃ 以 上 で は ポ リ マ ー の 混 和 量 に よ っ て 各 試 験 体 の 質 量 減 少 に 差 が 見 ら れ る 。
こ れ は 200℃ 程 度 か ら ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル 中 の ポ リ マ ー 自 身 が 加 熱 に よ り 熱 分 解 ,燃
焼 な ど の 化 学 反 応 を 起 こ し て い る [5]と 考 え ら れ る 。
2.2.4.3 曲 げ強 度 残 存 比
表 9に 各 加 熱 温 度 に お け る 試 験 体 の 曲 げ 強 度 を 示 す 。
図 25に 加 熱 温 度 と 曲 げ 強 度 残 存 比 ( 常 温 時 の 曲 げ 強 度 に 対 す る 各 加 熱 温 度 に お け る 曲 げ
強度の比)の関係を示す。曲げ強度残存比は,ポリマーの有無に関わらず加熱温度の上昇
とともに低下を示している。これは,加熱温度の上昇に伴い細骨材とセメントペーストと
の 界 面 の 破 壊 エ ネ ル ギ ー が 減 少 す る [6]た め と 推 察 さ れ る 。ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 5%以 下 の 場
合 ,ポ リ マ ー の 種 類 に 関 係 な く ,20~ 200℃ に お い て 緩 や か な 低 下 を 示 し ,200~ 400℃ に お
い て は 急 激 な 低 下 を 示 し て い る 。ま た 600℃ を 超 え る と 再 び 緩 や か な 低 下 を 示 し て い る 。ポ
リ マ ー セ メ ン ト 比 5%以 上 の 場 合 は , 20~ 600℃ に お い て 急 激 な 低 下 を 示 し , 600~ 1000℃ に
おいては緩やかな低下を示している。全体として,ポリマーセメント比が大きいほど曲げ
強度残存比は小さくなっている。
表 9 各 加 熱 温 度 における試 験 体 の曲 げ強 度
Flexural strength (N/mm 2 )
Temperature
(℃)
NON
0%
5%
10%
20%
5%
10%
20%
5%
10%
20%
20
200
400
600
800
1000
12.6
11.9
8.7
3.3
2.3
1.5
12.2
10.5
6.6
2.7
1.9
1.2
13.1
9.2
5.6
2.5
1.4
0.9
14.2
8.1
3.9
2.3
1.2
0.6
11.4
10.2
7.5
3.0
2.0
1.2
11.5
8.3
5.5
2.7
1.4
0.9
10.5
6.7
4.2
2.0
1.2
0.7
12.2
11.1
8.3
3.4
2.0
1.2
13.1
11.7
6.7
3.0
1.5
0.8
14.6
13.9
5.3
2.7
1.2
0.7
EVA (P/C)
VVA (P/C)
PAE (P/C)
1.2
NON(0%)
EVA(5%)
1.0
EVA(10%)
0.8
EVA(20%)
VVA(5%)
0.6
VVA(10%)
VVA(20%)
0.4
PAE(5%)
0.2
PAE(10%)
PAE(20%)
0.0
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
加熱温度(℃)
図 25 加 熱 温 度 と曲 げ強 度 残 存 比 の関 係
2.2.4.4 応 力 -ひずみ曲 線
例 と し て 普 通 モ ル タ ル , ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 5%, 10%, お よ び 20% ( VVA) の 応 力 - ひ ず
み 曲 線 を 図 26~ 29に 示 す 。ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 20%で は 加 熱 温 度 が 200~ 600℃ に お い て 載 荷
初 期 の 低 応 力 時 に ひ ず み が 増 加 す る 傾 向 を 示 し た 。こ れ は ,200℃ 程 度 か ら ポ リ マ ー セ メ ン
トモルタル中のポリマー自身が高温加熱により熱分解,燃焼などの化学反応を起こし,空
隙が増大したこと,また加熱中および冷却期間におけるセメントペーストおよび細骨材の
膨張・収縮,温度勾配によって引き起こされる熱応力による試験体内部の微細亀裂の発生
し た こ と に よ る も の [7]と 考 え ら れ る 。800℃ を 超 え る と 試 験 体 の 強 さ が 極 め て 小 さ い た め ,
ポリマーの混和量に関わらず波状の応力-ひずみ曲線を示している。
60
応力(N/mm2)
50
20℃
40
200℃
30
400℃
20
600℃
10
800℃
0
0
0.3
0.6
1000℃
0.9
1.2
1.5
1.8
ひずみ(%)
図 26 応 力 -ひずみ曲 線 (普 通 モルタル)
60
応力(N/mm2)
50
40
20℃
30
200℃
400℃
20
600℃
10
0
800℃
1000℃
0
0.3
0.6
0.9
1.2
1.5
1.8
ひずみ(%)
図 27 応 力 -ひずみ曲 線 (VVA—P/C5%)
60
応力(N/mm2)
50
20℃
40
200℃
30
400℃
20
600℃
800℃
10
1000℃
0
0
0.3
0.6
0.9
1.2
ひずみ(%)
図 28 応 力 -ひずみ曲 線 (VVA—P/C10%)
1.5
1.8
60
20℃
応力(N/mm2)
50
40
200℃
30
400℃
20
10
800℃
600℃
1000℃
0
0
0.3
0.6
0.9
1.2
1.5
1.8
ひずみ(%)
図 29 応 力 -ひずみ曲 線 (VVA—P/C20%)
2.2.4.5 圧 縮 強 度 残 存 比
表 10に 各 加 熱 温 度 に お け る 試 験 体 の 圧 縮 強 度 を 示 す 。
図 30に 加 熱 温 度 と 圧 縮 強 度 残 存 比 ( 常 温 時 の 圧 縮 強 度 に 対 す る 各 加 熱 温 度 に お け る 圧 縮
強 度 の 比 ) の 関 係 を 示 す 。 加 熱 温 度 200℃ ま で は PAEシ リ ー ズ の 圧 縮 強 度 は , 温 度 の 上 昇 に
伴って若干増大している。他の試験体はポリマーセメント比が大きいほど急激な圧縮強度
の低下を示した。これは,この温度段階で細骨材が膨張するのに対してセメント水和物が
収 縮 す る た め ,モ ル タ ル 内 部 に 微 細 ひ び 割 れ が 生 じ 強 度 を 低 下 さ せ た も の と 推 察 さ れ る [8]。
200℃ 以 上 で は ポ リ マ ー の 種 類 及 び ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 の 違 い に か か わ ら ず ,直 線 的 な 圧 縮
強 度 の 低 下 を 示 し た 。加 熱 温 度 400℃ で は ,ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 5%の 場 合 約 0.7,10%の 場 合
約 0.6, 20%の 場 合 約 0.5で あ る 。 さ ら に 加 熱 温 度 400℃ 以 上 に お け る 強 度 低 下 は , 水 酸 化 カ
ルシウムの分解,細骨材との付着力の低下によりモルタル強度が低下したものと考えられ
る [ 9 ] 。加 熱 温 度 600℃ 以 上 で は ,ポ リ マ ー の 種 類 及 び ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 に よ り 顕 著 な 差 は
無 か っ た 。し か し ,ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 20%の シ リ ー ズ は 他 の シ リ ー ズ よ り 若 干 小 さ な 圧 縮
強 度 残 存 比 で あ っ た 。 全 体 と し て , 圧 縮 強 度 残 存 比 は , 曲 げ 強 度 残 存 比 の 1.1~ 2倍 の 値 で
あり,両者の差は加熱温度の上昇とともに減少する傾向にあった。試験体の表面および内
部のひび割れの増加によって,曲げ強度残存比の低下は圧縮強度残存比より激しいと考え
られる。
加 熱 温 度 600℃ で は , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 曲 げ 強 度 は 常 温 時 の 20%程 度 で あ り ,
圧 縮 強 度 は 常 温 時 の 40%程 度 で あ っ た 。こ の 温 度 で 補 修 材 料 の 力 学 特 性 が 激 し く 低 下 す る こ
とから,部材の構造安全性に影響を与えると考えられる。
表 10 各 加 熱 温 度 における試 験 体 の圧 縮 強 度
Compressive strength (N/mm 2 )
Temperature
(℃)
NON
0%
5%
10%
20%
5%
10%
20%
5%
10%
20%
20
200
400
600
800
1000
61.0
58.5
45.8
28.3
16.6
7.7
57.4
52.1
44.7
28.8
18.0
7.1
57.0
46.1
39.9
28.6
17.1
5.9
52.6
34.4
31.1
23.8
12.8
5.5
49.6
46.7
35.8
22.8
11.3
5.1
48.5
37.5
29.4
20.9
9.5
4.6
47.7
33.2
23.8
17.7
9.0
4.4
56.0
53.3
40.2
25.4
17.5
7.0
52.3
53.7
38.3
22.5
14.9
6.3
54.1
56.2
35.6
21.5
13.1
5.9
EVA (P/C)
VVA (P/C)
PAE (P/C)
1.2
NON(0%)
EVA(5%)
1.0
EVA(10%)
0.8
EVA(20%)
VVA(5%)
0.6
VVA(10%)
VVA(20%)
0.4
PAE(5%)
0.2
PAE(10%)
PAE(20%)
0.0
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
加熱温度(℃)
図 30 加 熱 温 度 と圧 縮 強 度 残 存 比 の関 係
2.2.4.6 弾 性 係 数 残 存 比
試 験 体 の 弾 性 係 数 は 試 験 体 の 応 力 - ひ ず み 曲 線 か ら ,最 大 荷 重 の 1/3に 相 当 す る 応 力 と 試
験 体 の 縦 ひ ず み 50×10 - 6 の と き の 応 力 を 結 ぶ 線 分 勾 配 と し て 得 ら れ た 値 で あ る 。表 11に 各 加
熱温度における試験体の弾性係数を示す。
図 31に 加 熱 温 度 と 弾 性 係 数 残 存 比 ( 常 温 時 の 弾 性 係 数 に 対 す る 各 加 熱 温 度 に お け る 弾 性
係数の比)の関係を示す。全体として,弾性係数残存比は加熱温度とともにほぼ直線的に
低 下 し て い る 。加 熱 温 度 200℃ ま で は PAE5%お よ び 10%で は ,温 度 の 上 昇 に 伴 っ て 緩 や か な 弾
性 係 数 の 増 加 を 示 し た が ,他 の も の は 急 激 に 低 下 す る 傾 向 で あ っ た 。こ れ は PAE試 験 体 か ら
の 水 分 蒸 発 が 抑 制 さ れ て い る た め [5],試 験 体 内 部 の 未 水 和 セ メ ン ト 粒 子 を 高 温 度 で 再 水 和
を さ せ , 試 験 体 強 度 の 増 加 に 寄 与 し た 結 果 と 推 測 さ れ る 。 加 熱 温 度 が 200~ 600℃ の 範 囲 で
は ,試 験 体 は 急 激 な 弾 性 係 数 の 低 下 を 示 し ,600~ 1000℃ の 範 囲 で は 緩 や か な 低 下 を 示 し た 。
ポリマーの種類およびポリマーセメント比の違いにより弾性係数残存比に大きな差が生じ
た が ,全 体 と し て ,ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 が 10%以 下 で あ れ ば ,普 通 セ メ ン ト モ ル タ ル と 同 等
あるいは若干大きな値となった。
2.2.4.7 圧 縮 強 度 時 のひずみ
図 32に 加 熱 温 度 と 圧 縮 強 度 時 の ひ ず み の 関 係 を 示 す 。 圧 縮 強 度 時 の ひ ず み は , 加 熱 温 度
200℃ ま で は ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 が 大 き い ほ ど 減 少 量 が 大 き く な っ た 。加 熱 温 度 200~ 800℃
の範囲では,ポリマーの種類およびポリマーセメント比によらず加熱温度の増大に伴って
圧 縮 強 度 時 の ひ ず み も 増 大 す る 結 果 が 得 ら れ た 。し か し な が ら ,800~ 1000℃ に お い て は 圧
縮強度時のひずみが再び低下する傾向を示した。これは試験体の熱劣化が極度に進行し,
組織崩壊が生じたためであると考えられる。
表 11 各 加 熱 温 度 における試 験 体 の弾 性 係 数
Elastic modulus (KN/mm 2 )
Temperature
(℃)
NON
0%
5%
10%
20%
5%
10%
20%
5%
10%
20%
20
200
400
600
800
1000
21.2
17.7
13.9
3.1
1.7
1.5
19.3
16.1
12.0
6.6
3.5
1.4
18.7
15.6
12.4
5.1
3.4
0.4
16.0
12.8
7.5
6.0
3.1
0.8
15.9
13.2
12.5
3.7
1.8
1.5
16.7
11.4
7.4
3.5
1.8
1.7
11.5
10.2
9.0
3.9
1.6
1.1
15.3
16.5
11.0
4.3
1.9
1.0
16.2
17.5
12.4
4.4
1.9
1.8
14.7
12.9
10.6
3.9
1.7
1.4
EVA (P/C)
VVA (P/C)
PAE (P/C)
1.2
NON(0%)
EVA(5%)
1.0
EVA(10%)
0.8
EVA(20%)
VVA(5%)
0.6
VVA(10%)
VVA(20%)
0.4
PAE(5%)
0.2
PAE(10%)
PAE(20%)
0.0
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
加熱温度(℃)
図 31 加 熱 温 度 と弾 性 係 数 残 存 比 の関 係
1.4
NON(0%)
1.2
EVA(5%)
EVA(10%)
1.0
EVA(20%)
0.8
VVA(5%)
0.6
VVA(10%)
VVA(20%)
0.4
PAE(5%)
PAE(10%)
0.2
PAE(20%)
0.0
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
800
1000
加熱温度(
℃)
図 32 加 熱 温 度 と圧 縮 強 度 時 のひずみの関 係
2.3 高 温 加 熱 後 のポリマーセメントモルタルの力 学 特 性 の数 式 化
2.3.1 曲 げ強 度 の数 式 化
現 在 , 現 場 で 良 く 使 わ れ て い る 補 修 材 料 の ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 8~ 12%程 度 で あ る 。 高
温加熱後の補修材料の曲げ強度予測式を提案するため,本実験で得られたポリマーセメン
ト 比 10%の 試 験 体 の 曲 げ 強 度 残 存 比 に つ い て 数 値 分 析 を 行 っ た 。図 33に 曲 げ 強 度 残 存 比 の 数
値 分 析 結 果 を 示 す 。ま た ,本 実 験 の 結 果 に よ る EVA,VVAお よ び PAEモ ル タ ル の 加 熱 温 度 と 曲
げ 強 度 残 存 比 の 関 係 を 式( 2)に 示 す 。高 温 時 に お け る ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 引 張 試
験は非常に難しく,引張強度の温度依存性の報告もされてない。コンクリートの場合は,
高温で引張強度の低下率は圧縮強度の低下より大きい。同じの傾向であり,本実験のデー
タ を 見 る と ,ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 曲 げ 強 度 の 低 下 率 も 圧 縮 強 度 の 低 下 よ り 大 き い 。
火災加熱を受ける補修した鉄筋コンクリート部材の有限要素解析を行うときに,本実験か
ら提案した曲げ強度残存比の予測式を利用し,補修材料の常温時引張強度さえ分かれば,
他の温度領域の引張強度にも簡単に推測できると考えられる。
K t ,T = 0.008 × (T / 100) 2 − 0.19 × (T / 100) + 1.0377
20℃ ≤ T ≤ 800℃
K t ,T = 0.03
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
(2)
高 温 加 熱 後 の 補 修 材 料 の 曲 げ 強 度 の 計 算 式 を 式 ( 2a) に 示 す 。
[
]
f t ,T = K t ,T・f t , RT=f t , RT 0.008 × (T / 100) 2 − 0.19 × (T / 100) + 1.0377
20℃ ≤ T ≤ 800℃
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
f t ,T = K t ,T・f t , RT=0.03 f t , RT
(2a)
こ こ に : K t ,T : 曲 げ 強 度 残 存 比 ( -) f t ,T : 温 度 T℃ に お け る 曲 げ 強 度 ( N/mm 2 ) f t , RT : 常
温 ( 20℃ ) に お け る 曲 げ 強 度 ( N/mm 2 )
1.20
実験値(EVA)
曲げ強度残存比(-)
1.00
実験値(VVA)
実験値(PAE)
0.80
計算式(3.2)
0.60
0.40
0.20
0.00
0
200
400
600
800
1000
1200
加熱温度(℃)
図 33 曲 げ強 度 残 存 比 の数 値 分 析 結 果
2.3.2 圧 縮 強 度 の数 式 化
高温加熱後の補修材料の圧縮強度の予測式を提案するため,本実験で得られたポリマー
セ メ ン ト 比 10%の 試 験 体 の 圧 縮 強 度 残 存 比 に つ い て 数 値 分 析 を 行 っ た 。図 34に 圧 縮 強 度 残 存
比 の 数 値 分 析 結 果 を 示 す 。ま た ,本 実 験 の 結 果 に よ る EVA,VVAお よ び PAEモ ル タ ル の 加 熱 温
度 と 圧 縮 強 度 残 存 比 の 関 係 を 式 ( 3) に 示 す 。
K c ,T = −0.09 × (T / 100) + 1.018
20℃ ≤ T ≤ 1000℃ ( 3)
高 温 加 熱 後 の 補 修 材 料 の 圧 縮 強 度 の 計 算 式 を 式 ( 3b) に 示 す 。
f c ,T = K c ,T・f c , RT = f c , RT [− 0.09 × (T / 100) + 1.018]
20℃ ≤ T ≤ 1000℃
(3b)
こ こ に : K c ,T : 圧 縮 強 度 残 存 比 ( -) f c ,T : 温 度 T℃ に お け る 圧 縮 強 度 ( N/mm 2 ) f c , RT : 常
温 ( 20℃ ) に お け る 圧 縮 強 度 ( N/mm 2 )
1.20
実験値(EVA)
圧縮強度残存比(-)
1.00
実験値(VVA)
実験値(PAE)
0.80
計算式(3.3)
0.60
0.40
0.20
0.00
0
200
400
600
800
1000
1200
加熱温度(℃)
図 34 圧 縮 強 度 残 存 比 の数 値 分 析 結 果
2.3.3 弾 性 係 数 の数 式 化
高温加熱後の補修材料の弾性係数の予測式を提案するため,本実験で得られたポリマー
セ メ ン ト 比 10%の 試 験 体 の 弾 性 係 数 残 存 比 に つ い て 数 値 分 析 を 行 っ た 。図 35に 弾 性 係 数 残 存
比 の 数 値 分 析 結 果 を 示 す 。ま た ,本 実 験 の 結 果 に よ る EVA,VVAお よ び PAEモ ル タ ル の 加 熱 温
度 と 弾 性 係 数 残 存 比 の 関 係 を 式 ( 4) お よ び ( 5) に 示 す 。
K e ,T = ( −0.15T + 119) / 116
20℃ ≤ T ≤ 600℃ ( 4)
K e ,T = (−0.17T + 202) / 400
600℃ ≤ T ≤ 1000℃ ( 5)
高 温 加 熱 後 の 補 修 材 料 の 弾 性 係 数 の 計 算 式 を 式 ( 4c) と (5d)に 示 す 。
ET = K e ,T・E RT = E RT [(−0.15T + 119) / 116]
20℃ ≤ T ≤ 600℃ (4c)
ET = K e ,T・E RT = E RT [(−0.17T + 202) / 400]
ここに:
600℃ ≤ T ≤ 1000℃ (5d)
K e,T : 弾 性 係 数 残 存 比 ( -) ET : 温 度 T℃ に お け る 弾 性 係 数 ( KN/mm 2 ) E RT : 常
温 ( 20℃ ) に お け る 弾 性 係 数 ( KN/mm 2 )
1.20
実験値(EVA)
実験値(VVA)
実験値(PAE)
計算式(3.4)
計算式(3.5)
弾性係数残存比(-)
1.00
0.80
0.60
0.40
0.20
0.00
0
200
400
600
800
1000
1200
加熱温度(℃)
図 35 弾 性 係 数 残 存 比 の数 値 分 析 結 果
2.4 まとめ
高温加熱後の補修材料の曲げ強度,圧縮強度および弾性係数を求めるため,補修材料に
用いられるポリマーセメントモルタルを作製し,その高温加熱後の曲げ試験および圧縮試
験を行った。得られた実験データを用い,数値分析を行い,加熱温度を変数とする簡易な
予測式を求めた。ポリマーセメントモルタルの高温加熱後の力学特性を実験により調べた
結果,以下の知見が得られた。
(1) 高 温 加 熱 後 の 残 存 強 度 は , 加 熱 温 度 の 上 昇 及 び ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 の 増 加 と と も に ほ
ぼ直線的に低下する。
(2) 高 温 加 熱 後 の 曲 げ 強 度 の 低 下 率 は 圧 縮 強 度 の 低 下 に 比 較 し て 大 き い 。
(3) 加 熱 温 度 600℃ で 補 修 材 料 の 力 学 特 性 が 激 し く 低 下 し ,部 材 の 構 造 安 全 性 に 影 響 を お よ
ぼす可能性がある。
(4) 一 般 に 補 修 材 料 の ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 8~ 12%程 度 で あ り , 本 研 究 で 示 し た 式 に よ っ
て,補修材料の曲げ強度,圧縮強度および弾性係数を推定することが可能になると考
えられる。
3. 高 温 加 熱 を受 けたポリマーセメントモルタルとコンクリートの付 着 特 性 に関 する実 験
3.1 実 験 の目 的
補修した鉄筋コンクリート構造部材の構造性能に関し界面付着特性を考慮した解析で評
価 す る 時 に ,基 本 的 な 物 性 値 と し て 鉄 筋 ,躯 体 コ ン ク リ ー ト お よ び 補 修 材 料 の 物 性 に 加 え ,
躯体コンクリートと鉄筋間,躯体コンクリートと補修材料間および補修材料と鉄筋間それ
ぞれの界面付着特性を求める必要がある。有限要素解析を行う場合は,各材料間の付着性
状を再現するために付着要素を設けることでより精緻なシミュレーションを行える。構成
則としては強度と弾性係数が最も重要な物性値と言われる。補修した実大建築構造部材の
載荷加熱試験の実施は困難であり,火災加熱後の残存耐力は解析的研究による解明が必要
と 考 え ら れ る [10]。 そ の た め に は , 補 修 材 料 と コ ン ク リ ー ト が 高 温 に さ ら さ れ た 場 合 の 付
着特性に関する研究が,一つ重要な課題と考えられる。常温時における補修材料とコンク
リ ー ト の 付 着 特 性 に 関 す る 研 究 が 多 く 見 ら れ [11-15],高 温 加 熱 を 受 け る 補 修 材 料 と 躯 体 コ
ンクリートの付着性状に関するデータは見あたらない。そこで本実験では,有限要素解析
に用いる補修材料とコンクリートの付着要素の構成則を構築することを目的とした。その
ため,躯体としてコンクリートを想定した躯体モルタルを使用した。現場で良く使用され
るセメント混和用ポリマーを用い,ポリマーセメントモルタルを作製し,高温加熱を受け
たポリマーセメントモルタルと躯体モルタルの引張付着試験を行い,ポリマーセメントモ
ルタルと躯体の付着性状の温度依存性について検討し,考察した。また,実験で得られた
結果に基づき数式化を行い,高温加熱後の補修材料の引張付着強度予測式を提案する。
3.2 ポリマーセメントモルタルとコンクリートの付 着 実 験
3.2.1 使 用 材 料
(1) セ メ ン ト
セ メ ン ト は , JIS R 5210( ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン ト ) に 規 定 す る 普 通 ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン
トを使用した。
(2) 細 骨 材
細 骨 材 は , JIS A 5308( レ デ ィ ー ミ ク ス ト コ ン ク リ ー ト ) 付 属 書 1を 満 た す 大 井 川 川 砂 を
使用した。
(3)セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂
セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 は , JIS A 6203( セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー デ ィ ス パ ー
ジ ョ ン 及 び 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 )に 規 定 す る エ チ レ ン・酢 酸 ビ ニ ル( 略 称:EVA),酢 酸 ビ ニ
ル ・ べ オ バ ・ ア ク リ ル ( 略 称 : VVA) お よ び ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル ( 略 称 : PAE) を 使 用
し た 。 な お , 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 に は , 粉 末 樹 脂 に 対 し て 消 泡 剤 が 1%添 加 さ れ て い る 。
3.2.2 試 験 体 の作 製
試 験 体 は 100×100×25(mm)の 躯 体 モ ル タ ル の 中 央 に 40×40×10(mm)の ポ リ マ ー セ メ ン ト
モ ル タ ル を 打 設 し た も の で あ る 。図 36に 試 験 体 の 形 状 を 示 す 。躯 体 モ ル タ ル の 調 合 は JIS R
5201に 準 拠 し た 。 表 11に 躯 体 モ ル タ ル の 調 合 を 示 す 。 ま た , 躯 体 モ ル タ ル の 表 面 は 紙 や す
り で 平 滑 に し , 打 設 時 に は 水 湿 り 状 態 と し た 。 JIS A 1171( 実 験 室 に お け る ポ リ マ ー セ メ
ン ト モ ル タ ル の 作 り 方 ) を 参 考 に , 表 12に 示 す 調 合 で , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル を 練 混
ぜ , 寸 法 40×40×10(mm)に 成 形 し た 後 , 28日 間 水 中 ( 20℃ ) , 56日 間 気 中 ( 20℃ ) 養 生 を
行った。
ま た ,試 験 体 の 含 水 率 を 調 整 す る た め ,高 温 加 熱 の 前 に 試 験 体 は 乾 燥 炉 の 中 に 3日 間 60℃
で強制乾燥を行った。
図 36 試 験 体 の形 状
表 11 躯 体 モルタルの調 合
Water-cement ratio
Cement : Sand
Flow
Air content
(%)
(By mass)
(mm)
(%)
50
1 : 3
159
3.5
表 12 ポリマーセメントモルタルの調 合
Type of
polymer
Polymer-cement ratio
(%)
Cement : Sand
(By mass)
Water-cement ratio
(%)
NON * *
EVA
VVA
PAE
0
10
10
10
1 : 3
50
Flow
(mm)
159
182
193
190
: No polymer added
1.0
* *
3.2.3
Defoamer
(%)
実験方法
3.2.3.1 実 験 因 子
試験因子は,ポリマーの有無,ポリマーの種類および加熱温度とした。ポリマーの種類
は前述したエチレン・酢酸ビニル,酢酸ビニル・べオバ・アクリルおよびポリアクリル酸
エ ス テ ル と し ,比 較 用 に ポ リ マ ー 無 混 和 の モ ル タ ル も 作 製 し た 。ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 10%
と し た 。加 熱 温 度 は ,常 温( 20℃ )を 含 め て ,200℃ ,300℃ ,400℃ ,500℃ ,600℃ お よ び
800℃ の 7水 準 と し た 。
3.2.3.2 加 熱 方 法
試 験 体 の 加 熱 は , プ ロ グ ラ ム 機 能 を 有 し た 箱 型 電 気 炉 を 使 用 し た 。 例 と し て , 図 37に 加
熱 温 度 200℃ , 400℃ , 600℃ お よ び 800℃ の 加 熱 プ ロ グ ラ ム を 示 す 。 加 熱 プ ロ グ ラ ム は , 昇
温 速 度 を 200℃ /hと し , 各 目 標 温 度 に 到 達 し た 後 は 試 験 体 の 断 面 温 度 が 均 一 に な る よ う に 1
時間加熱を継続した。加熱後試験体は,電気炉の中で自然に冷却し,常温になってから取
り出し,試験に供した。
加 熱 温 度 (℃ )
800℃
4h
200℃/h
600℃
3h
400℃
2h
1h
200℃
自然冷却
1h
加 熱 時 間 (h)
図 37 加 熱 プログラム(1000℃)
図 38 試 験 装 置
3.2.3.3 付 着 実 験 方 法
建 研 ( 独 立 行 政 法 人 建 築 研 究 所 ) 式 引 張 付 着 試 験 を 行 っ た 。 図 38に 試 験 装 置 を 示 す 。 試
験する前ポリマーセメントモルタル表面は面外方向へ垂直引張荷重が作用するように紙や
すりで平滑にし,接着ボンドで治具に接着させた。また,十分にボンドを固化させるため
に一日乾燥させた上で試験を行った。
3.2.4 実 験 結 果 および考 察
表 13に 各 加 熱 温 度 に お け る 試 験 体 の 引 張 付 着 強 度 を 示 す 。 ポ リ マ ー を 含 有 し た ポ リ マ ー
セメントモルタルは普通モルタルに比べ躯体モルタルに対する高い付着強度を示し,ポリ
マーの種類により引張付着強度の違いが見られた。
図 39に 加 熱 温 度 と 引 張 付 着 強 度 残 存 比 ( 常 温 時 の 引 張 付 着 強 度 に 対 す る 各 加 熱 温 度 に お
け る 引 張 付 着 強 度 の 比 )の 関 係 を 示 す 。普 通 モ ル タ ル は ,加 熱 温 度 の 上 昇 と と も に ,400℃
ま で 急 激 な 低 下 を 示 し , そ の 後 , ほ ぼ 一 定 な 数 値 を 示 し て い る 。 EVAモ ル タ ル お よ び VVAモ
ル タ ル は ,加 熱 温 度 200℃ で 引 張 付 着 強 度 残 存 比 が 0.1程 度 に な り ,300℃ 以 上 で は 引 張 付 着
強度をほぼ失う。同温度領域において,その付着強度低下率は普通モルタルの低下に比較
し て 大 き い 。こ れ は 加 熱 温 度 200℃ 程 度 か ら ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル 中 の ポ リ マ ー が 熱 分
解 ,燃 焼 [5]に よ り ,ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル と 躯 体 モ ル タ ル の 界 面 に ひ び 割 れ が 発 生 し ,
付 着 面 積 に も 減 少 し た 原 因 と 考 え ら れ る 。ま た ,加 熱 温 度 200℃ 以 上 で は ,ポ リ マ ー セ メ ン
トモルタルの付着力は無くなり,火災加熱を受ける時に躯体との一体性に影響をおよぼす
可 能 性 が あ る と 考 え ら れ る 。PAEモ ル タ ル の 引 張 付 着 強 度 残 存 比 は ,加 熱 温 度 200℃ で 約 0.9,
400℃ で 約 0.5, 600℃ で 約 0.3, 800℃ で 約 0.1, 同 温 度 領 域 に お い て 他 の モ ル タ ル よ り 高 い
値を示している。これは,試験体内部のポリマーが高温で分解する時に一部分のポリマー
が外に出た,一部分のポリマーが再び界面で固まり,躯体と一体になったと考えられる。
表 13 各 加 熱 温 度 における試 験 体 の引 張 付 着 強 度
Bond strength (N/mm 2 )
Temperature
NON
(℃)
EVA (P/C)
VVA (P/C)
PAE (P/C)
10%
0%
10%
10%
20
0.7
1.9
2.4
2.5
200
0.3
0.3
0.3
2.2
300
0.2
0.1
0.3
1.5
400
0.1
0.0
0.6
1.3
500
0.1
0.0
0.3
1.5
600
0.1
0.0
0.2
0.7
800
0.1
0.0
0.1
0.3
1.2
NON
引張付着強度残存比(-)
1
EVA
VVA
0.8
PAE
0.6
0.4
0.2
0
0
200
400
600
800
加熱温度(℃)
図 39 加 熱 温 度 と引 張 付 着 強 度 残 存 比 の関 係
1000
3.2.5 ポリマーセメントモルタルとコンクリートの付 着 強 度 の数 式 化
現 在 , 現 場 で 良 く 使 わ れ て い る 補 修 材 料 の ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 8~ 12%程 度 で あ る 。 高
温加熱後の補修材料とコンクリートの付着強度予測式を提案するため,本実験で得られた
ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 引 張 付 着 強 度 残 存 比 に 基 づ き 数 値 分 析 を 行 っ た 。 図 40に 引 張
付 着 強 度 残 存 比 の 数 値 分 析 結 果 を 示 す 。ま た ,本 実 験 の 結 果 に よ る EVA補 修 モ ル タ ル お よ び
VVA補 修 モ ル タ ル の 加 熱 温 度 と 引 張 付 着 強 度 残 存 比 の 関 係 の 計 算 式 を 式 ( 6) に 示 し , PAE
補 修 モ ル タ ル の 計 算 式 を 式( 7)に 示 し 。火 災 加 熱 を 受 け る 補 修 し た 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 部 材
の有限要素解析を行う時に,本実験から提案した予測式を利用し,補修材料とコンクリー
トの常温時における付着強度さえ分かれば,他の温度領域の付着強度にも簡単に計算でき
ると考えられる。
EVA補 修 モ ル タ ル お よ び VVA補 修 モ ル タ ル の 引 張 付 着 強 度 残 存 比 :
K b ,T = (−T + 220) / 200
20℃ ≤ T ≤ 200℃
K b ,T = (−0.1T + 80) / 600
200℃ ≤ T ≤ 800℃
K b ,T = 0
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
(6)
PAE補 修 モ ル タ ル の 引 張 付 着 強 度 残 存 比 :
K b ,T = (−0.9T + 798) / 780
20℃ ≤ T ≤ 800℃
K b ,T = (−0.1T + 100) / 200
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
(7)
高 温 加 熱 後 の EVA補 修 モ ル タ ル お よ び VVA補 修 モ ル タ ル の 引 張 付 着 強 度 の 計 算 式 を 式
( 6a) に 示 す 。
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [( −T + 220) / 200]
20℃ ≤ T ≤ 200℃
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [(−0.1T + 80) / 600]
200℃ ≤ T ≤ 800℃
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
f b ,T = 0
(6a)
高 温 加 熱 後 の PAE補 修 モ ル タ ル の 引 張 付 着 強 度 の 計 算 式 を 式 ( 7b) に 示 す 。
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [(−0.9T + 798) / 780]
200℃ ≤ T ≤ 800℃
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [(−0.T + 100) / 200]
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
ここに:
(7b)
K b ,T : 引 張 付 着 強 度 残 存 比 ( -) f b ,T : 温 度 T℃ に お け る 引 張 付 着 強 度 ( N/mm 2 )
f b , RT : 常 温 ( 20℃ ) に お け る 引 張 付 着 強 度 ( N/mm 2 )
1.2
EVA
引張付着強度残存比(-)
1
VVA
PAE
0.8
計算式(4.1)
計算式(4.2)
0.6
0.4
0.2
0
0
200
400
600
800
1000
加熱温度(℃)
図 40 引 張 付 着 強 度 残 存 比 の数 値 分 析 結 果
3.3 まとめ
高温加熱後の補修材料とコンクリートの付着強度を求めるため,補修材料に用いられる
ポリマーセメントモルタルの高温加熱後の引張付着強度試験を行った。得られた試験デー
タを用い,数値分析を行い,加熱温度を変数とする簡易な予測式を求めた。ポリマーセメ
ントモルタルと躯体コンクリートの高温加熱後の付着特性を実験により調べた結果,以下
知見が得られた。
(1) 高 温 加 熱 後 の 残 存 付 着 強 度 は ,加 熱 温 度 が 高 く な る ほ ど 低 下 す る 。EVAモ ル タ ル お よ び
VVAモ ル タ ル の 場 合 ,加 熱 温 度 200℃ で は 常 温 時 の 10%ま で 低 下 す る 。一 方 PAEモ ル タ ル の
場 合 は ,付 着 強 度 の 低 下 が 小 さ く ,加 熱 温 度 200℃ に お い て 付 着 強 度 残 存 比 0.9を 確 保 し
た 。 800℃ 加 熱 後 の 付 着 強 度 残 存 比 は , 約 0.1を 示 し た 。
(2) 高 温 加 熱 後 の EVAモ ル タ ル お よ び VVAモ ル タ ル の 付 着 強 度 低 下 率 は 普 通 モ ル タ ル の 低 下
に 比 較 し て 大 き い 。 PAEモ ル タ ル の 付 着 強 度 低 下 率 は 普 通 モ ル タ ル の 低 下 に 比 較 し て 小
さい。
(3) 加 熱 温 度 200℃ で 補 修 材 料 と 躯 体 の 付 着 強 度 が 激 し く 低 下 し ,火 災 加 熱 を 受 け る 時 に 躯
体との一体性に影響をおよぼす可能性がある。
(4) 一 般 に 補 修 材 料 の ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 8~ 12%程 度 で あ り , 本 研 究 で 示 し た 式 に よ っ
て ,高 温 加 熱 を 受 け た 補 修 材 料 と コ ン ク リ ー ト の 付 着 強 度 を 推 定 す る こ と が 可 能 に な る
と考えられる。
4. 高 温 加 熱 を受 けたポリマーセメントモルタルと鉄 筋 の付 着 特 性 に関 する実 験
4.1 実 験 の目 的
補修した鉄筋コンクリート構造部材の構造性能に関し界面付着特性を考慮した解析で評
価するときに,基本的な物性値として鉄筋,躯体コンクリートおよび補修材料の物性に加
え,躯体コンクリートと鉄筋間,躯体コンクリートと補修材料間および補修材料と鉄筋間
それぞれの界面付着特性を求める必要がある。有限要素解析を行う場合は,各材料間の付
着性状を再現するために付着要素を設けることでより精緻なシミュレーションを行える。
構成則としては強度と弾性係数が最も重要な物性値と言われる。
補修した実大建築構造部材の載荷加熱試験の実施は困難であり,火災加熱後の残存耐力
は 解 析 的 研 究 に よ る 解 明 が 必 要 と 考 え ら れ る [10]。 そ の た め に は , 補 修 材 料 と 鉄 筋 が 高 温
にさらされた場合の付着特性に関する研究が,一つ重要な課題と考えられる。常温時にお
け る 補 修 材 料 と 鉄 筋 の 付 着 特 性 に 関 す る 研 究 が 見 ら れ [16], 高 温 加 熱 を 受 け る 補 修 材 料 と
鉄筋の付着性状に関するデータおよび報告は見あたらない。
そこで本実験では,有限要素解析に用いる補修材料と鉄筋の付着要素の構成則を構築す
ることを目的とした。現場で良く使用されるポリマーを用い,ポリマーセメントモルタル
を作製し,高温加熱を受けたポリマーセメントモルタルと鉄筋の引き抜き試験を行い,ポ
リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 性 状 の 温 度 依 存 性 に つ い て 検 討 し ,考 察 し た 。ま た ,
実験で得られた結果に基づき数式化を行い,高温加熱後の補修材料と鉄筋の付着強度予測
式を提案する。
4.2 引 き抜 き付 着 実 験
4.2.1 使 用 材 料
(1) セ メ ン ト
セ メ ン ト は , JIS R 5210( ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン ト ) に 規 定 す る 普 通 ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン
トを使用した。
(2) 細 骨 材
細 骨 材 は , JIS A 5308( レ デ ィ ー ミ ク ス ト コ ン ク リ ー ト ) 付 属 書 1を 満 た す 大 井 川 川 砂 を
使用した。
(3) セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂
セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 は , JIS A 6203( セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー デ ィ ス パ ー
ジ ョ ン 及 び 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 )に 規 定 す る エ チ レ ン・酢 酸 ビ ニ ル( 略 称:EVA),酢 酸 ビ ニ
ル ・ べ オ バ ・ ア ク リ ル ( 略 称 : VVA) お よ び ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル ( 略 称 : PAE) を 使 用
し た 。 な お , 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 に は , 粉 末 樹 脂 に 対 し て 消 泡 剤 が 1%添 加 さ れ て い る 。
(4) 鉄 筋
鉄 筋 は , SD345Aの D16を 使 用 し た 。 表 14に 鉄 筋 の 試 験 結 果 を 示 す 。
表 14 鉄 筋 の試 験 結 果
鉄筋種類
降 伏 強 度 ( N/mm2)
D16
374
引張強度
( N/mm2) 弾 性 係 数 ( KN/mm2)
558
185
4.2.2 試 験 体 の作 製
図 41に 試 験 体 形 状 を 示 す 。試 験 体 は ,一 辺 が 100mm立 方 体 状 の ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル
中 央 に 鉄 筋 D16を 定 着 筋 と し て 埋 め 込 ん だ 。鉄 筋 と ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 付 着 区 間 は
試 験 体 の 自 由 端 側 に 設 け ,長 さ は 64mm( 鉄 筋 径 の 4倍 )と し た 。ま た ,試 験 体 の 両 端 側 に は
端部からの局所応力が付着性状に与える影響を緩和するためにボンドフリー部分にその上
下 12mmの 部 分 に 耐 熱 ア ル ミ テ ー プ を 巻 く こ と で 設 け た 。 ま た , 鉄 筋 を 拘 束 す る た め , 型 枠
に ス パ イ ラ ル 筋 を 試 験 体 の 中 央 部 分 に 設 置 し た 。 JIS A 1171( 実 験 室 に お け る ポ リ マ ー セ
メ ン ト モ ル タ ル の 作 り 方 ) を 参 考 に , 表 15に 示 す 調 合 で , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル を 練
混 ぜ ,寸 法 100×100×100(mm)に 成 形 し た 後 ,2日 間 湿 空( 20℃ ,90%RH),5日 間 水 中( 20℃ )
養 生 し ,31日 間 乾 燥( 20℃ ,60%RH)養 生 を 行 っ た 。ま た ,試 験 の 前 に ,各 試 験 体 を 60℃ の
乾 燥 炉 内 で 3日 間 乾 燥 し , さ ら に 室 温 ま で 冷 却 し た 。 各 試 験 体 の 含 水 率 は 2.0~ 3.0%の 範 囲
に あ っ た 。 な お , 試 験 体 個 数 は 各 水 準 3体 と し た 。
図 41 試 験 体 形 状
表 15 ポリマーセメントモルタルの調 合
Type of
Polymer-cement ratio
Cement : Sand
Water-cement ratio
Defoamer
Flow
polymer
(%)
(By mass)
(%)
(%)
(mm)
NON
**
0
159
EVA
10
182
VVA
10
PAE
10
1 : 3
50
1.0
193
190
* *
: No polymer added
4.2.3 実 験 方 法
4.2.3.1 実 験 因 子
試験因子は,ポリマーの有無,ポリマーの種類および加熱温度とした。ポリマーの種類
は前述したエチレン・酢酸ビニル,酢酸ビニル・べオバ・アクリルおよびポリアクリル酸
エステルとし,比較のためポリマー無混和のモルタルも作製した。ポリマーセメント比は
10%と し た 。加 熱 温 度 は ,常 温( 20℃ )を 含 め て ,200℃ ,400℃ ,600℃ ,800℃ お よ び 1000℃
の 6水 準 と し た 。
4.2.3.2 加 熱 方 法
試験体の加熱は,プログラム機能を有した箱型電気炉を使用した。加熱プログラムは,
昇 温 速 度 を 200℃ /hと し ,各 目 標 温 度 に 到 達 し た 後 は 試 験 体 の 断 面 温 度 が 均 一 に な る よ う に
2~ 5時 間 加 熱 を 継 続 し た 。具 体 的 に は ,加 熱 温 度 200℃ で 5時 間 ,そ れ 以 上 の 加 熱 温 度 で は 2
時 間 を 保 持 し た [17]。 加 熱 後 試 験 体 は , 電 気 炉 の 中 で 自 然 に 冷 却 し , 常 温 に な っ て か ら 取
り出し,試験に供した。
4.2.3.3 引 き抜 き付 着 試 験 方 法
図 42に 試 験 様 子 を 示 す よ う な 引 き 抜 き 付 着 試 験 を 行 っ た 。 引 き 抜 き 試 験 に あ た っ て は ,
「 引 き 抜 き 試 験 に よ る 鉄 筋 と コ ン ク リ ー ト の 付 着 強 度 試 験 方 法( 案 )」[18]を 参 考 に し た 。
鉄筋を引張ながらロードセルによって荷重,変位計によって自由端のすべりおよびモルタ
ル自身の変形,試験体全体の変位を測定した。球座と試験体の間にゴム板を設置すること
で試験体表面の凹凸の影響を少なくし,また鉄筋を垂直に荷重がかかるようにした。
図 42 試 験 の様 子
4.2.4 実 験 結 果 および考 察
表 16に 各 加 熱 温 度 に お け る モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 を 示 す 。 ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ
ルと鉄筋の付着強度は普通モルタルと鉄筋の付着強度より若干低い。
表 16 各 加 熱 温 度 におけるモルタルと鉄 筋 の付 着 強 度
Bond strength (N/mm 2 )
Temperature
(℃)
NON (P/C=0%)
EVA
(P/C=10%)
VVA
(P/C=10%)
PAE
(P/C=10%)
20
11.3
10.9
10.8
10.8
200
13.9
11.0
12.6
10.8
400
11.2
9.3
9.7
7.9
600
8.1
6.8
7.1
5.3
800
6.8
4.4
4.7
4.7
1000
6.3
4.2
3.9
4.1
図 43に 加 熱 温 度 と 付 着 強 度 残 存 比 ( 常 温 時 の 付 着 強 度 に 対 す る 各 加 熱 温 度 に お け る 付 着
強度の比)の関係を示す。各温度領域において,ポリマーセメントモルタルの付着強度低
下率は普通モルタルの低下に比較して大きい。これは,加熱温度の増加にとともにポリマ
ーセメントモルタル内部のポリマーの熱分解・燃焼により試験体内部のひび割れの増加,
付 着 界 面 組 織 破 壊 な ど に よ る も の と 考 え ら れ る 。加 熱 温 度 200℃ ま で は 普 通 モ ル タ ル と 同 様 ,
VVAモ ル タ ル は 若 干 大 き な 増 加 を 示 し ,200℃ 以 上 で は 直 線 的 な 低 下 を 示 し て い る 。EVAモ ル
タ ル お よ び PAEモ ル タ ル は 加 熱 温 度 200℃ か ら 低 下 し 始 め , 800℃ ま で は 急 激 な 低 下 を 示 し ,
そ の 後 緩 や か な 低 下 を 示 し て い る 。 加 熱 温 度 400℃ で は , VVAモ ル タ ル 約 0.9, EVAモ ル タ ル
約 0.9,PAEモ ル タ ル 約 0.7で あ り ,600℃ で は ,VVAモ ル タ ル 約 0.7,EVAモ ル タ ル 約 0.6,PAE
モ ル タ ル 約 0.5で あ る 。ポ リ マ ー の 種 類 に よ っ て ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 残
存比の違いが見られた理由として,高温加熱後のポリマーセメントモルタルの強度の影響
が考えられる。つまり,高温加熱を受けたポリマーセメントモルタルの強度低下の違いは
異形鉄筋との機械的噛み合い力に影響する。
1.4
NON
付着強度残存比(-)
1.2
EVA
VVA
1.0
PAE
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
200
400
600
800
1000
1200
加熱温度(℃)
図 43 加 熱 温 度 と付 着 強 度 残 存 比 の関 係
4.2.5 ポリマーセメントモルタルと鉄 筋 の付 着 強 度 の数 式 化
現 在 , 現 場 で 良 く 使 わ れ て い る 補 修 材 料 の ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 8~ 12%程 度 で あ る 。 高
温加熱後の補修材料と鉄筋の付着強度予測式を提案するため,本実験で得られたポリマー
セ メ ン ト モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 残 存 比 に つ い て 数 値 分 析 を 行 っ た 。 図 44に 付 着 強 度 残
存比の数値分析結果を示す。また,本実験の結果によるポリマーセメントモルタルの加熱
温 度 と 付 着 強 度 残 存 比 の 関 係 を 式( 8)~( 16)に 示 す 。火 災 加 熱 を 受 け る 補 修 し た 鉄 筋 コ
ンクリート部材の有限要素解析を行う時に,本実験から提案した予測式を利用して,常温
時における補修材料と鉄筋の付着強度さえ分かれば,他の温度領域の付着強度にも簡単に
計算できると考えられる。
1.4
EVA
VVA
PAE
計算式(5.1),(5.2),(5.3)
計算式(5.4),(5.5),(5.6)
計算式(5.7),(5.8),(5.9)
付着強度残存比(-)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
200
400
600
800
1000
1200
加熱温度(℃)
図 44 付 着 強 度 残 存 比 の数 値 分 析 結 果
EVA補 修 モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 残 存 比 :
K b ,T = 1.0
20℃ ≤ T ≤ 200℃
(8)
K b ,T = −0.1(T / 100) + 1.2
200℃ ≤ T ≤ 800℃
(9)
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
(10)
K b ,T = 0.4
VVA補 修 モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 残 存 比 :
K b ,T = (T + 880) / 900
20℃ ≤ T ≤ 200℃
(11)
K b ,T = (−T + 1100) / 750
200℃ ≤ T ≤ 800℃
(12)
K b ,T = 0.4
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
(13)
PAE補 修 モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 残 存 比 :
K b ,T = 1.0
20℃ ≤ T ≤ 200℃
(14)
K b ,T = −0.125(T / 100) + 1.25
200℃ ≤ T ≤ 600℃
(15)
K b ,T = −0.025(T / 100) + 0.65
600℃ ≤ T ≤ 1000℃
(16)
高 温 加 熱 後 の EVA補 修 モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 の 計 算 式 を 式 ( a) と ( c) に 示 す 。
f b ,T = f b ,T
20℃ ≤ T ≤ 200℃
(8a)
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [− 0.1(T / 100) + 1.2]
200℃ ≤ T ≤ 800℃
f b ,T = K b ,T・f b , RT = 0.4 f b , RT
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
(9b)
(10c)
高 温 加 熱 後 の VVA補 修 モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 の 計 算 式 を 式 ( d) と ( f) に 示 す 。
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [(T + 880) / 900]
20℃ ≤ T ≤ 200℃
(11d)
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [(−T + 1100) / 750]
200℃ ≤ T ≤ 800℃
(12e)
f b ,T = K b ,T・f b , RT = 0.4 f b , RT
800℃ ≤ T ≤ 1000℃
(13f)
高 温 加 熱 後 の PAE補 修 モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 の 計 算 式 を 式 ( g) と ( i) に 示 す 。
f b ,T = f b ,T
20℃ ≤ T ≤ 200℃
(14g)
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [− 0.125(T / 100) + 1.25]
200℃ ≤ T ≤ 600℃
(15h)
f b ,T = K b ,T・f b , RT = f b , RT [− 0.025(T / 100) + 0.65]
600℃ ≤ T ≤ 1000℃
(16i)
ここに:
K b ,T : 引 張 付 着 強 度 残 存 比 ( -) f b ,T : 温 度 T℃ に お け る 引 張 付 着 強 度 ( N/mm 2 )
f b , RT : 常 温 ( 20℃ ) に お け る 引 張 付 着 強 度 ( N/mm 2 )
4.3 まとめ
高温加熱後の補修材料と鉄筋の付着構成則を求めるため,補修材料に用いられるポリマ
ーセメントモルタルと鉄筋の高温加熱後の引抜き付着試験を行った。得られた実験データ
を用い,数値分析を行い,加熱温度を変数とする簡易な予測式を求めた。ポリマーセメン
ト モ ル タ ル と 鉄 筋 の 高 温 加 熱 後 の 付 着 特 性 を 実 験 に よ り 調 べ た 結 果 ,以 下 知 見 が 得 ら れ た 。
(1) 高 温 加 熱 後 の 残 存 付 着 強 度 は , VVAモ ル タ ル の 場 合 , 加 熱 温 度 200℃ ま で 若 干 増 加 し ,
200℃ 以 上 で は 他 の モ ル タ ル と 同 様 , 加 熱 温 度 の 上 昇 と と も に 直 線 的 に 低 下 す る 。
(2) 高 温 加 熱 後 の ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 低 下 率 は 普 通 モ ル タ ル の 低
下に比較して大きい。
(3) 高 温 加 熱 後 の ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル と 鉄 筋 の 付 着 強 度 残 存 比 は ,加 熱 温 度 400℃ で
0.7~ 0.9,600℃ で 0.5~ 0.7,1000℃ で 約 0.4を 示 し た 。ま た ,VVAモ ル タ ル > EVAモ ル タ
ル > PAEモ ル タ ル の 順 に 小 さ く な る 。
(4) 一 般 に 補 修 材 料 の ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 8~ 12%程 度 で あ り , 本 研 究 で 示 し た 式 に よ っ
て ,高 温 加 熱 を 受 け た 補 修 材 料 と 鉄 筋 の 付 着 強 度 を 推 定 す る こ と が 可 能 に な る と 考 え ら
れる。
5. 高 温 加 熱 を受 けるポリマーセメントモルタルの熱 特 性 に関 する実 験
5.1 実 験 の目 的
熱伝導率は,物体内部を流れる熱の速さを表す値であり,内部の等温面積を通って単位
時間に垂直に流れる熱量と,この方向における温度勾配の比率である。コンクリートの熱
伝導率は構成される材料の熱伝導率によって決まり,骨材種類,セメントの種類,調合方
法 , 試 験 時 の 含 水 量 , 空 隙 率 , 外 気 温 度 な ど に よ っ て 影 響 さ れ る 。 原 田 [19]の 研 究 で は ,
コ ン ク リ ー ト の 熱 伝 導 率 は ,温 度 上 昇 と と も に 急 激 に 減 少 し ,700℃ 程 度 で は ,常 温 に お け
る 値 の 5割 程 度 に な る と 報 告 し て い る 。ま た ,土 井 ら [ 2 0 ] の 研 究 で は ,500℃ 程 度 ま で は 普 通
強度のコンクリートに比較して,高強度コンクリートの熱伝導率が大きな値を示した。ま
た ,加 熱 温 度 が 高 く な る に つ れ て ,ほ ぼ 直 線 的 に 小 さ く な り ,常 温 時 の 3割 程 度 ま で 小 さ く
なることを報告している。
火災時における補修した鉄筋コンクリート構造部材の断面温度分布を予測するためには,
コンクリートおよび補修材料の高温環境下での熱特性を把握することが重要であるが,補
修 材 料 に つ い て の 知 見 は 十 分 得 ら れ て い な い 。そ こ で 本 実 験 で は ,3種 類 の ポ リ マ ー を 用 い
たポリマーセメントモルタルを作製し,その高温加熱後の熱伝導率測定試験を行い,ポリ
マーセメントモルタルの熱伝導率の温度依存性について検討し,考察した。また,実験で
得られた結果に基づく回帰分析を行い,高温時における補修材料の熱伝導率の予測式を提
案する。
5.2 熱 伝 導 率 の測 定
5.2.1 使 用 材 料
(1) セ メ ン ト
セ メ ン ト は , JIS R 5210( ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン ト ) に 規 定 す る 普 通 ポ ル ト ラ ン ド セ メ ン
トを使用した。
(2) 細 骨 材
細 骨 材 は , JIS A 5308( レ デ ィ ー ミ ク ス ト コ ン ク リ ー ト ) 付 属 書 1を 満 た す 大 井 川 産 水 系
陸砂を使用した。
(3) セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー
セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー は , JIS A 6203( セ メ ン ト 混 和 用 ポ リ マ ー デ ィ ス パ ー ジ ョ ン 及
び 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 )に 規 定 す る エ チ レ ン ・ 酢 酸 ビ ニ ル( 略 称 :EVA),酢 酸 ビ ニ ル・べ オ
バ ・ ア ク リ ル ( 略 称 : VVA) お よ び ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル ( 略 称 : PAE) を 使 用 し た 。 な
お , 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 に は , 粉 末 樹 脂 に 対 し て 消 泡 剤 が 1%添 加 さ れ て い る 。
5.2.2 試 験 体 の作 製
JIS A 1171( 実 験 室 に お け る ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 作 り 方 ) を 参 考 に , 表 17に 示
す 調 合 で , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル を 練 混 ぜ , 寸 法 100×100×400(mm)に 成 形 し た 後 , 2
日 間 湿 空 ( 20℃ , 90%RH) , 5日 間 水 中 ( 20℃ ) 養 生 し て 寸 法 100×100×40(mm)の 試 験 体 に
切 断 し , 21日 間 気 中 ( 20℃ , 60%RH) 養 生 を 行 っ た 。
表 17 ポリマーセメントモルタルの調 合
Type of
Polymer-cement ratio
Cement : Sand
Water-cement ratio
Defoamer
Flow
polymer
(%)
(By mass)
(%)
(%)
(mm)
NON * *
0
EVA
10
VVA
10
PAE
10
151
1 : 3
50
1.0
199
192
188
* *
: No polymer added
5.2.3 実 験 方 法
5.2.3.1 実 験 因 子
試験因子は,ポリマーの有無・種類,含水率および加熱温度とした。ポリマーの種類は
前 述 し た 3種 類 と し ,比 較 用 に ポ リ マ ー 無 混 和 の モ ル タ ル を 作 製 し た 。含 水 率 は ,0%( 105℃
で 絶 乾 乾 燥 ) , 1.5~ 2.1%( 60℃ で 強 制 乾 燥 ) お よ び 5.3~ 5.8%( 20℃ で 自 然 乾 燥 ) の 範 囲
内 に 調 整 し た 。 加 熱 温 度 は , 常 温 ( 20℃ ) を 含 め て , 200℃ , 400℃ , 600℃ , 800℃ お よ び
1000℃ の 6水 準 と し た 。
5.2.3.2 加 熱 方 法
試験体の加熱は,プログラム機能を有した箱型電気炉を使用した。加熱プログラムは,
図 45に 示 す よ う に 昇 温 速 度 を 200℃ /hと し ,各 目 標 温 度 に 到 達 し た 後 は 試 験 体 の 断 面 温 度 が
均 一 に な る よ う に 2時 間 加 熱 を 継 続 し た 。加 熱 後 試 験 体 は ,電 気 炉 の 中 で 自 然 に 冷 却 し ,常
温になってから取り出し,試験に供した。
加 熱 温 度 (℃ )
1000℃
5h
800℃
4h
600℃
3h
400℃
2h
1h
200℃
2h
加 熱 時 間 (h)
図 45 加 熱 プログラム
5.2.3.3 熱 伝 導 率 の測 定 方 法
図 46に 実 験 の 様 子 を 示 す よ う に ,加 熱 線 お よ び 熱 電 対 を 試 験 体 中 央 部 に 位 置 し た 。な お ,
加 熱 線 は 特 殊 圧 延 ニ ク ロ ム 線 を 熱 電 対 は 径 0.3mmの ク ロ メ ル ア ル メ ル を そ れ ぞ れ 使 用 し た 。
前述のように所定時間試験体を高温加熱し,常温になるまで冷却した後,各試験体の熱伝
導率を測定した。
測定原理および熱伝導率の計算:
加 熱 線 に 電 流 を 流 す と ,ジ ュ ー ル の 法 則 に 従 っ て I 2 Rの 熱 を 発 生 し ,試 験 体 の 温 度 を 上 昇
する。加熱線で発生した熱は,熱線のまわりにシリンドリカルな温度場を作り,このとき
の 加 熱 線 の 温 度 は 式 ( 17) に 従 っ て 試 験 体 の 熱 伝 導 率 に 関 係 し な が ら 上 昇 す る 。
T = A( I 2 R / λ ) × Ln( r 2 / t + B )
(17)
こ こ に , T : 加 熱 線 の 温 度 ( ℃ ) , I : 加 熱 線 に 流 し た 電 流 値 ( A) , R : 加 熱 線 の 電 気 抵
抗( Ω ), r : 加 熱 線 の 半 径( cm), t : 加 熱 時 間( Sec), A , B : 定 数 通 電 加 熱 中 の 時 間
t 1 , t 2 に 対 し て , そ れ ぞ れ の 温 度 を T 1 , T 2 と す る と 式 ( 18) と な る 。
T2 − T1 = ΔT = ( I 2 R / 4πλ ) × Ln(t 2 / t1 )
(18)
式 ( 19) よ り 温 度 上 昇 量 Δ T に 対 し て , 加 熱 時 間 比 の 自 然 対 数 値 Lnt を プ ロ ッ ト し て 得 ら
れる曲線の勾配から熱伝導率λを求める。
λ = I 2 R /( 4πΔT ) × Ln(t 2 / t1 )
(19)
しかし,上式が誘導される過程において,線の半径がセロで,無限大の媒質中に無限長
さの理想的熱源が置かれているとした仮定と,式を簡単にするための省略が行われた。ま
た熱流の影響が考慮されてないので,補正する必要がある。
測 定 す る 時 に 試 験 体 の 放 熱 に よ る 測 定 誤 差 t0 が 生 じ る 。 こ の た め 式 中 の t1お よ び t2か ら
測 定 誤 差 t 0 を 差 引 い て , 単 位 を 工 学 単 位 に 換 算 し た 式 か ら 熱 伝 導 率 を 求 め た [21]。
λ = [0.1576 R0 (1 + mθ )]× dE / dθ × I 2 × [d log(t − t 0 ) / dE ]
(20)
こ こ に , R 0 : 0℃ に お け る 熱 電 対 の 抵 抗 ( Ω /m) , m : 熱 電 対 の 温 度 係 数 , θ : 加 熱 線 の
測 定 時 平 均 温 度( ℃ ), dE/d θ:熱 電 対 の 発 電 能 力( mV/℃ ), I:加 熱 電 流( A), dlog(t-
t 0 )/d E: log(t- t 0 )~ E関 係 を プ ロ ッ ト し た 直 線 の 勾 配
5.2.4 実 験 結 果 および考 察
図 46に 試 験 体 の 含 水 率 と 熱 伝 導 率 の 関 係 を 示 す 。 ポ リ マ ー の 有 無 に か か わ ら ず , 含 水 率
の増加とともに,試験体の熱伝導率が直線的な増加を示している。このことから,試験体
中の水分が多いほど,表面から内部まで温度が伝わりやすいことがわかる。
図 47に 試 験 体 の 加 熱 温 度 と 熱 伝 導 率 の 関 係 を 示 す 。 ま た , 式 ( 21) , 式 ( 22) に ユ ー ロ
コ ー ド [22]に 示 さ れ る コ ン ク リ ー ト の 熱 伝 導 率 の 上 限 値 お よ び 下 限 値 を 示 す 。 各 水 準 の 試
験体熱伝導率は加熱温度が高くなるにつれて小さくなる傾向を示している。普通モルタル
は 加 熱 温 度 に か か わ ら ず , 式 ( 21) お よ び 式 ( 22) に 示 さ れ る コ ン ク リ ー ト の 熱 伝 導 率 の
範 囲 内 で あ る 。 ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル は , 常 温 ( 20℃ ) で は ユ ー ロ コ ー ド の 範 囲 内 で
あ る が ,加 熱 温 度 200℃ で 急 激 に 熱 伝 導 率 が 低 下 し ,ユ ー ロ コ ー ド の 下 限 値 よ り 小 さ な 値 を
示 し て い る 。加 熱 温 度 200℃ 以 上 に お い て も ,ユ ー ロ コ ー ド の 下 限 値 よ り 若 干 小 さ な 値 を 示
し て い る 。 こ れ は , 200℃ 付 近 か ら ポ リ マ ー が 熱 分 解 し [5], ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の
空隙率が普通モルタルおよびコンクリートより大きくなったからであると推察される。ま
た ,EVAお よ び PAEは ほ ぼ 同 じ 熱 伝 導 率 を 示 し ,VVAが 他 の 種 類 の ポ リ マ ー よ り 小 さ な 結 果 と
熱伝導率(W/m・K)
なった。
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
NON
EVA
VVA
0
PAE
1.5~2.1
5.3~5.8
含水率(%)
図 46 含 水 率 と熱 伝 導 率 の関 係
λ = 2 − 0.2451 × (T / 100) + 0.0107 × (T / 100) 2
(21)
λ = 1.36 − 0.136 × (T / 100) + 0.0057 × (T / 100) 2
(22)
熱伝導率(W/m・K)
こ こ に , T : 加 熱 温 度 ( ℃ ) , λ : 熱 伝 導 率 ( W/m・ K)
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
NON
EVA
VVA
PAE
計算式(6.5)
計算式(6.6)
0
200
400
600
加熱温度(℃)
図 47 加 熱 温 度 と 熱 伝 導 率 の関 係
800
1000
5.2.5 熱 伝 導 率 の数 式 化
高 温 時 に お け る 補 修 材 料 の 熱 伝 導 率 の 予 測 式 を 提 案 す る た め ,本 実 験 で 得 ら れ た デ ー
タ に つ い て 回 帰 分 析 を 行 っ た 。図 48に 熱 伝 導 率 の 回 帰 分 析 結 果 を 示 す 。ま た ,本 実 験 の
結 果 に よ る EVAお よ び PAE場 合 の 加 熱 温 度 と 熱 伝 導 率 の 関 係 の 回 帰 式 を 式 ( 23) に , VVA
の 場 合 の 回 帰 式 を 式( 24)に 示 す 。計 算 値 は 実 験 値 に ほ ぼ 一 致 し て い る 。火 災 加 熱 を 受
け る 補 修 し た 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 部 材 の 内 部 温 度 シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行 う 時 に ,本 実 験 か
ら 提 案 し た 予 測 式 を 用 い る と ,簡 単 に 重 要 な 物 性 値 で あ る 補 修 材 料 の 熱 伝 導 率 の 決 定 は
でき,実用的なものであると考えられる。
λ = −0.2675 × Ln(T ) + 2.4518
λ = −0.2238 × Ln(T ) + 2.0228
(23)
(24)
熱伝導率(W/m・K)
こ こ に , T : 加 熱 温 度 ( ℃ ) , λ : 熱 伝 導 率 ( W/m・ K)
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
実験値(EVA;PAE)
実験値(VVA)
計算式(6.7)
計算式(6.8)
0
200
400
600
加熱温度(℃)
800
1000
図 48 熱 伝 導 率 の回 帰 分 析 結 果
5.3 まとめ
高温時における補修材料の熱伝導率を求めるため,熱線法に基づいたポリマーセメント
モルタルの熱伝導率の測定を行った。得られたデータを用い,回帰分析を行い,加熱温度
を変数とする簡易な予測式を求めた。高温加熱を受けたポリマーセメントモルタルの熱伝
導率測定試験より,以下の知見が得られた。
(1) 熱 伝 導 率 は , 加 熱 温 度 が 高 く な る に つ れ て , 小 さ く な る 。 ま た , ポ リ マ ー の 種 類 に 依
存し,普通モルタルおよびコンクリートより小さい値となる。
(2) 一 般 に 補 修 材 料 の ポ リ マ ー セ メ ン ト 比 は 8~ 12%程 度 で あ り , 本 研 究 で 示 し た 式 に よ っ
て,補修材料の熱伝導率を推定することが可能になると考えられる。
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design.
③ RC部材の補修後力学性能と耐火性の実験的検討
1. 健 全 梁 に対 する断 面 修 復 工 法 の効 果 に関 する研 究
1.1 目 的
これまでの研究で補修を施した鉄筋コンクリート部材の性能を解析によって評価する際
に 必 要 な , 躯 体 コ ン ク リ ー ト や PCM, 鉄 筋 の 物 性 に 加 え , そ れ ら の 界 面 付 着 特 性 を FEMパ ラ
メトリックスタディにより求めてきた。本研究ではこれまでに求めた界面の付着特性を構
造部材の解析への応用が可能であることを確認するために,実構造部材を想定した補修梁
を 作 成 し ,梁 試 験 の 結 果 と 付 着 特 性 を 考 慮 し た FEM解 析 結 果 の 比 較 検 討 を 行 う 。ま た ,断 面
修復工法を用いる上で断面形状は構造耐力に直接影響を与え,さらにひび割れ劣化が生じ
やすいとされる界面の位置を決定するという意味で非常に重要であると考えられる。その
上で,補修断面を最小にし界面を応力が集中する部分に設けるべきか,補修断面を広げ海
面を応力集中の小さい部分に設けるべきかを検討するために,本実験では補修部を非対称
とし,一方を等曲げ区間内に,もう一方を等曲げ区間外のせん断区間となるようにした。
1.2 実 験 の概 要
(1) 実 験 因 子 お よ び 水 準
補 修 に 用 い る ポ リ マ ー は こ れ ま で の 研 究 に 用 い た VVA( 酢 酸 ビ ニ ル・ビ ニ ル バ・サ テ ラ イ
ト ) , EVA( エ チ レ ン 酢 酸 ビ ニ ル ) , PAE( ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル ) , CPAE( セ ル ロ ー ス
ポ リ ア ク リ ル 酸 エ ス テ ル )の 四 種 類 の う ち ,使 用 頻 度 の 高 い EVAを 用 い ,ポ リ マ ー 含 有 率 は
実 際 の 補 修 現 場 で 用 い ら れ る 値 を 想 定 し 10% と し た 。 表 1に 実 験 因 子 お よ び 水 準 を 示 す 。
表 1 実 験 因 子 及 び水 準
実験因子
水準
ポリマーの種類
EVA
ポリマー含有率
10%
表 2 補 修 モルタルの調 合
水 セ メ ン ト 比 (%)
50
(2)
水
7.5
調 合 量 (kg)
セメント 細骨材
15
45
消 泡 剤 (g) ポ リ マ ー 含 有 率 (g)
15.0
1500
モ ル タ ル フ ロ ー (cm)
EVA
15.0
躯 体 コ ン ク リ ー ト お よ び PCMの 調 合
実 験 に 用 い た 躯 体 コ ン ク リ ー ト お よ び PCMの 調 合 を 表 2に 示 す 。
(3)梁 試 験 体 の 作 成 手 順
RC梁 の 寸 法 は 高 さ 300mm, 奥 行 き 200mm, 幅 2400mmと し た 。 主 筋 は D16鉄 筋 を 比 引 張 側 に 3
本 , 圧 縮 側 に 2本 配 筋 し た 。 さ ら に せ ん 断 破 壊 を 防 ぐ 目 的 で D10鉄 筋 15cm間 隔 に 配 筋 し た 。
作 製 し た 梁 形 状 を 図 1に 示 す 。鉄 筋 の 性 状 は 降 伏 強 度 ,破 断 強 度 ,弾 性 係 数 で あ っ た 。補 修
試験体は鉄筋組み立て後,あらかじめスタイロを配置し,コンクリート打設から4週間後
に PCMを 打 設 し た 。 表 面 は や す り を か け , PCM打 設 の 際 に 水 湿 し 状 態 と し た 。 PCM打 設 後 は ,
健 全 試 験 体 は , 補 修 梁 は 50℃ の 乾 燥 室 で 6ヶ 月 間 養 生 と し た 。
300
600
600
300
600
2400
側面
240
300
30
30
240
30
D16
30
Strain gauge
300
D10@150
30 140 30
200
断面
700
500
900
側面
図 1 試 験 体 の形 状
( 4) 梁 試 験 方 法 お よ び 測 定 項 目
図 2に 示 す よ う な 曲 げ 梁 試 験 を 行 っ た 。ス パ ン 長 ,載 荷 ス パ ン の 三 等 分 点 載 荷 で 行 い ,ひ
ず み 増 分 毎 に ひ び 割 れ 進 展 状 況 ,ひ び 割 れ 幅 ,PCMと コ ン ク リ ー ト の ず れ ,鉄 筋 の ひ ず み 挙
加力ヘッド
載荷梁
ピン・ローラー支持
30 140 30
200 断面
ひずみゲージ
D10@150
150
70 240 30
300
動を測定した。
D16
700
900
2400
側面
図 2 試 験 概 要 および載 荷 概 要
650
(5) 躯 体 コ ン ク リ ー ト お よ び PCMの 強 度 試 験
圧 縮 試 験 は JIS A 1108に 準 拠 し て 行 っ た 。 φ 5×10cmの シ リ ン ダ ー を そ れ ぞ れ 3 体 ず つ 試
験 し ,変 位 お よ び 荷 重 を 測 定 し コ ン ク リ ー ト お よ び PCMの 圧 縮 強 度 お よ び 弾 性 係 数 を 求 め た 。
割 裂 引 張 試 験 は JIS A1113に 準 拠 し て 行 っ た 。φ 10×20cmの シ リ ン ダ ー を そ れ ぞ れ 3 体 ず つ
試 験 し , 引 張 強 度 を 測 定 し た 。 表 3に コ ン ク リ ー ト の 物 性 を , 表 4に PCMの 物 性 を 示 す 。
表 3 コンクリートの物 性
圧縮強度
引張強度
弾性係数
( N/㎜ 2 )
( N/㎜ 2 )
( kN/㎜ 2 )
43.8
2.80
21.6
表 4 PCMの物 性
圧縮強度
2
( N/㎜ )
53.2
引張強度
2
( N/㎜ )
4.09
弾性係数
( kN/㎜ 2 )
18.9
(6) 実 験 結 果
・荷重-変位曲線
梁 中 央 部 の 荷 重 - 変 位 曲 線 を 図 3に 示 す 。破 壊 状 況 は ,健 全 梁 ,補 修 梁 と も に 曲 げ 引 張 破
壊であり,終局耐力および終局耐力に大きな違いは見られなかったが,終局荷重後の靭性
に大きな差が見られた。また,剛性に関しては初期剛性に違いが見られ,補修梁の剛性が
低くなり,同様に初期ひび割れ荷重も補修梁の方が低かった。試験初期の荷重-変位曲線
を 図 4に 示 す 。
180
160
荷重 (kN)
140
120
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
変位(mm)
図 3 荷 重 -変 位 曲 線 (梁 中 央 部 )
健全梁
補修梁
補修梁
40
160
荷重 (kN)
140
120
100
80
60
40
20
0
0
2
4
6
8
10
変位(mm)
12
健全梁
補修梁
14
図 4 荷 重 -変 位 曲 線 (梁 中 央 部 ,初 期 段 階 )
180
160
荷重 (kN)
140
120
100
80
60
コンクリひずみ
鉄筋ひずみ
コンクリひずみ(補修梁)
鉄筋ひずみ(補修梁)
40
20
0
2000
7000
12000
17000
22000
27000
ひずみ (μ)
図 5 荷 重 -ひずみ関 係
・ひび割れ図
健 全 梁 お よ び 補 修 梁 の ひ び 割 れ 図 を そ れ ぞ れ 図 6お よ び 図 7に 示 す 。 ひ び 割 れ 性 状 は 健 全
梁と補修梁で違いが見られた。まず,健全梁は等曲げ区間中央に初期ひび割れが生じ,そ
の後等曲げ区間内に均等にひび割れが広がっていった。それに対し,補修梁は初期ひび割
れが補修を施した側の等曲げ区間端に生じ,その後補修を施していない側にひび割れが集
中 し た 。補 修 梁 で PCMの 剥 落 は 見 ら れ な か っ た が ,界 面 に は ひ び 割 れ が 生 じ て お り ,鉄 筋 と
の 付 着 に よ っ て 剥 落 が 防 が れ た と 考 え ら れ る 。ま た ,ひ び 割 れ 発 生 荷 重 は 健 全 梁 が 23.8k N,
補 修 梁 が 13.8kNだ っ た 。
図 6 ひび割 れ図 (健 全 梁 )
図 7 ひび割 れ図 (補 修 梁 )
(7) 考 察
ひび割れ進展の違いは補修部位と躯体コンクリート間で応力が伝達されず,結果として
梁の断面が小さい部分中央かつ等曲げ区間であり,鉄筋が配筋されている箇所からひび割
れが生じたためであると考えられる。また,降伏耐力や終局耐力に差が見られないのはも
と も と 引 張 側 で は 鉄 筋 の 応 力 負 担 が 主 で あ る た め と 考 え ら れ る 。PCMの 付 着 に 関 し て は ,鉄
筋との付着はひび割れ分散から良好な様子が確認されたが,躯体との付着に関しては初期
養生による界面等への乾燥収縮ひび割れなどの影響も大きく,さらに詳細な検討が必要で
ある。また,初期ひび割れの影響から補修界面の付着が完全ではなかったと考えられ,本
実 験 の 補 修 梁 の 結 果 は 界 面 が 完 全 に 付 着 し た 補 修 梁 と 補 修 界 面 が 完 全 に 剥 離 し ,PCM無 し と
同様の切り欠き梁の中間に当たると考えられ,荷重-変位関係,ひび割れともに本実験の
結果が補修梁と健全梁の差ではないと考えられる。
2. 補 修 した鉄 筋 コンクリート梁 の耐 火 試 験 および加 熱 後 の載 荷 試 験
2.1 実 験 の目 的
建 築 基 準 法 の 仕 様 規 定 に お い て 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 梁 部 材 は 3時 間 の 耐 火 構 造 と し て 規 定
されてきたが,耐火性能設計では鉄筋コンクリート梁部材の耐火性能を工学的に検証する
必要がある。一方,ポリマーセメントモルタルは,その構成成分として有機物を含有して
いるため,防火上の性能が普通モルタルに比べ良くなく,補修した鉄筋コンクリート梁部
材の耐火性能に関する事例は非常に少なく,補修した鉄筋コンクリート梁部材の耐火性能
を適切に評価するには試験データおよび知見が十分とはいえない。そのため,補修した鉄
筋コンクリート梁部材は火災加熱環境下での安全性が懸念される。また,補修した実大鉄
筋コンクリート梁部材の載荷加熱試験の実施は困難であり,その火災加熱後の残存耐力は
実 験 で 評 価 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ る [1]。
そこで,ポリマーセメントモルタルより断面修復した鉄筋コンクリート梁部材の耐火性
能 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て ,EVA補 修 モ ル タ ル を 用 い た 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 梁 部 材 を
対 象 と し た 1050℃ ま で の 加 熱 実 験 お よ び 加 熱 後 の 静 的 曲 げ 試 験 を 行 い , 火 災 加 熱 環 境 下 で
の温度特性ならびに加熱後の力学特性について検討を行う。
2.2 梁 の耐 火 試 験
2.2.1 試 験 体 概 要
梁 幅 200mm, 梁 高 さ 300mm, 梁 長 さ 2400mmの 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 梁 試 験 体 を 計 2体 作 製 し た 。
主 筋 は D16異 形 鉄 筋 を 梁 の 引 張 側 に 3本 ,圧 縮 側 に 2本 配 筋 し た 。ま た ,梁 の せ ん 断 破 壊 を 防
ぐ た め , D16異 形 鉄 筋 150mm間 隔 に 配 筋 し た 。 補 修 梁 は 鉄 筋 組 み 立 て 後 , あ ら か じ め ス タ イ
ロ フ ォ ー ム を 配 置 し ,コ ン ク リ ー ト の 打 設 か ら 4週 間 後 に ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル を 打 設
した。表面はやすりをかけ,ポリマーセメントモルタル打設の際に水湿し状態とした。作
製 し た 健 全 梁 の 形 状 を 図 8に , 補 修 梁 の 形 状 を 図 9に 示 す 。 梁 を 作 製 し た 後 , 含 水 率 測 定 用
の ダ ミ ー 試 験 体 と と も に 50℃ の 乾 燥 室 で 6ヶ 月 間 強 制 乾 燥 を 行 い ,含 水 率 が 国 土 交 通 省 指 定
試 験 機 関 で 耐 火 試 験 が 行 わ れ る 条 件 で あ る 5%以 下 に 下 が っ た こ と を 確 認 し て 耐 火 試 験 を 行
っ た 。 コ ン ク リ ー ト の 調 合 を 表 5に , コ ン ク リ ー ト の 材 料 特 性 を 表 6に , ポ リ マ ー セ メ ン ト
モ ル タ ル の 調 合 を 表 7に , ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル タ ル の 材 料 特 性 を 表 8に , 鉄 筋 の 機 械 的 性
質 を 表 9に 示 す 。
5-D16
図 7 健 全 梁 の形 状
5-D16
1000
900
図 8 補 修 梁 の形 状
500
表 5 コンクリートの調 合
調合表
水セメント比
単 位 重 量 (kg/m 3 )
細 骨 材 率 (%)
(%)
56
セメント
水
細骨材
粗骨材
混和剤
318
178
851
920
3.18
48.2
表 6 コンクリートの材 料 特 性
圧 縮 強 度 (N/mm 2 )
引 張 強 度 (N/mm 2 )
弾 性 係 数 (N/mm 2 )
43.8
2.8
2.16×10 4
含水率
密度
(%)
(g/cm 3 )
4.6
2.45
表 7 ポリマーセメントモルタルの調 合
単位ポリマー量
セメント砂比
水セメント比
消泡剤
フロー
(kg/m 3 )
(By weight)
(%)
(%)
(mm)
50
1: 3
50
1.0
190
表 8 ポリマーセメントモルタルの材 料 特 性
圧 縮 強 度 (N/mm 2 )
引 張 強 度 (N/mm 2 )
弾 性 係 数 (N/mm 2 )
53.2
4.1
1.89×10 4
含水率
密度
(%)
(g/cm 3 )
3.1
2.08
表 9 鉄 筋 の機 械 的 性 質
降伏強度
引張強度
弾性係数
(N/mm 2 )
(N/mm 2 )
(N/mm 2 )
(%)
SD345
374
558
18.5×10 4
17.6
SD295A
340
487
19.2×10 4
25.3
寸法
鋼材種類
D16
D10
伸び
2.2.2 耐 火 試 験 方 法
載 荷 加 熱 耐 火 試 験 炉 を 使 用 し て 加 熱 実 験 を 行 っ た 。耐 火 試 験 炉 の 前 後 に そ れ ぞ れ 8個 の プ
ロ パ ン ガ ス バ ー ナ ー が 設 置 さ れ て い て ,合 計 16個 の バ ー ナ ー を 使 っ て 加 熱 す る 。図 9に 加 熱
炉 内 の 様 子 を 示 す 。 図 10に 示 す ISO834標 準 加 熱 曲 線 に 従 っ て 加 熱 を い っ た 。 加 熱 中 の 様 子
を 図 11に 示 す 。
2.2.3 測 温 位 置
加 熱 試 験 炉 の 炉 内 温 度 は 8ヵ 所 を 測 定 し た 。試 験 体 の 付 近 に 設 置 し た 熱 電 対 の 位 置 を 図 12
に 示 す 。健 全 梁 の 内 部 温 度 測 定 位 置 を 図 13に 示 す 。測 定 位 置 に つ い て は ,梁 の 底 面 か ら 15mm,
フ ー プ 筋 の 30mm, 下 端 鉄 筋 の 40mm( 2ヶ 所 ) , 85mm, 185mm, 285mmに 熱 電 対 を 取 り 付 け た 。
測 定 位 置 に つ い て は ,梁 の 底 面 か ら 15mm,フ ー プ 筋 の 30mm,下 端 鉄 筋 の 40mm( 健 全 部 1ヶ 所
お よ び 補 修 部 1ヶ 所 ),コ ン ク リ ー ト と 補 修 材 料 の 界 面 の 70mm,85mm,185mm,285mmに 熱 電
対を取り付けた。
図 9 加 熱 炉 内 の様 子
図 10 ISO834標 準 加 熱 曲 線
図 11 加 熱 中 の様 子
温度測定点
鉄筋(D16)
コンクリート
185
285
85
40
15 30
加熱面
図 12 健 全 梁 の内 部 温 度 測 定 位 置
温度測定点
コンクリート
鉄筋(D16)
断面修復材
185
40
15 30
70
285
85
加熱面
図 13 補 修 梁 の内 部 温 度 測 定 位 置
2.2.4 実 験 結 果 および考 察
2.2.4.1 火 災 加 熱 を受 ける梁 の断 面 温 度
炉 内 温 度 と 経 過 時 間 の 関 係 を 図 14に 示 す 。 加 熱 時 間 20分 程 度 ま で に 試 験 体 付 近 の 温 度 は
ISO834標 準 加 熱 曲 線 の 温 度 よ り 低 い 値 を 示 し て い る 。 こ れ は , 加 熱 開 始 前 に 加 熱 炉 を 予 熱
し な か っ た と 考 え ら れ る 。20分 以 上 の 加 熱 で は ,炉 内 温 度 が 標 準 加 熱 曲 線 の 温 度 に 近 付 く ,
ほぼ同じの値を示している。
健 全 梁 の 断 面 温 度 分 布 を 図 15に 示 す 。 梁 加 熱 面 か ら 裏 面 ま で 高 さ の 増 加 と と も に 温 度 が
低くなっている。また,加熱時間の経過とともに温度が急激な増加を示している。下端鉄
筋 の 温 度 は , 加 熱 時 間 60分 で 287℃ , 120分 で は 535℃ に な る 。 2ヶ 所 鉄 筋 の 温 度 を 測 定 し た
が ,差 が 見 ら れ な か っ た 。加 熱 時 間 60分 ま で に 裏 面 に 最 も 近 い 285mmと こ ろ の 温 度 が 緩 や か
に 増 加 し ,そ の 後 ほ ぼ 一 定 な 値 約 100℃ を 維 持 し ,90分 か ら 再 び 緩 や か な 増 加 を 示 し て い る 。
120分 の 加 熱 終 了 時 点 で 134℃ に な る 。 補 修 梁 の 断 面 温 度 分 布 を 図 16に 示 す 。 加 熱 時 間 の 経
過とともに内部温度の増加は健全梁とほぼ同じの傾向を示している。しかし,補修部分の
下 端 鉄 筋 の 温 度 は , 加 熱 時 間 60分 程 度 ま で に ほ ぼ 同 じ の 値 を 示 し , そ の 後 著 し く 増 加 を 示
し て い る 。加 熱 時 間 120分 で は 833℃ に な り ,60分 時 点 の 温 度 よ り 327℃ 高 い 。こ れ は ,加 熱
時 間 40分 程 度 か ら 補 修 部 分 の 断 面 40mmと こ ろ の 温 度 が 200℃ を 超 え ,ポ リ マ ー セ メ ン ト モ ル
タ ル 中 の ポ リ マ ー が 熱 分 解 ,燃 焼 と の 複 雑 な 化 学 反 応 [2]を 起 こ し ,底 面 か ら 鉄 筋 位 置 ま で
ひ び 割 れ が 発 生 し た た め と 考 え ら れ る 。図 17に 加 熱 後 補 修 梁 の 補 修 部 分 の ひ び 割 れ を 示 す 。
耐火試験で鉄筋コンクリート部材のひび割れのコントロールも重要なことであると分かる。
1200
炉内温度(℃)
1000
800
600
400
測定1
測定4
測定2
測定5
測定3
測定6
測定7
測定8
ISO834
200
0
0
30
60
90
120
150
180
時間(min)
図 14 炉 内 温 度 と経 過 時 間 の関 係
900
15mm
40mm(bar-1)
185mm
40mm(bar-2)
800
700
30mm(hoop)
85mm
285mm
温度(℃)
600
500
400
300
200
100
0
0
60
120
180
240
時間(min)
図 15 健 全 梁 の断 面 温 度 分 布
300
360
420
900
15mm
40mm(bar-1)
85mm
285mm
800
700
30mm(hoop)
70mm
185mm
40mm(bar-2)l
温度(℃)
600
500
400
300
200
100
0
0
60
120
180
240
300
360
420
時間(min)
図 16 健 全 梁 の断 面 温 度 分 布
図 17 補 修 部 分 のひび割 れ
2.2.4.2 火 災 加 熱 を受 けた梁 の外 観 状 況
加 熱 中 に 試 験 体 は 爆 裂 ,剥 離 ,断 面 欠 損 な ど が 生 じ な か っ た 。加 熱 後 の 試 験 体 を 見 れ ば ,
明 ら か に 補 修 梁 の 補 修 部 分 の ひ び 割 れ は 健 全 部 分 よ り 多 く ,2mm程 度 の ひ び 割 れ が い く つ あ
り ,ま た 補 修 材 料 と コ ン ク リ ー ト の 界 面 ま で に 貫 通 し た 。界 面 の ひ び 割 れ は 約 2mm程 度 で あ
り,補修材料がコンクリートと離れた状態になった。今回の梁の補修は梁の下端鉄筋の奥
まで行ったため,補修部分が梁中の鉄筋との一体性を保持し,補修部分全体の脱落が非常
に発生し難いと考えられる。逆に,補修断面の高さが小さくなると,火災加熱を受けると
補修部分が落ち易いと考えられる。ポリマーセメントモルタルは高温加熱を受けると,そ
の緻密さために爆裂が生じやすいと言われる。今回の耐火試験で,ポリマーセメントモル
タ ル が 加 熱 温 度 1000℃ で 加 熱 し て も 爆 裂 が 生 じ な い こ と か ら , 試 験 体 の 含 水 率 を コ ン ト ロ
ー ル す れ ば ,爆 裂 が 生 じ 難 く な る と 分 か る 。耐 火 試 験 2日 間 後 ,健 全 梁 の 加 熱 面 が ぼ ろ ぼ ろ
になり,断面欠損の状態になった。しかし,補修梁の補修部分は顕著な変化が生じなかっ
た。本耐火試験では全体的に火災加熱を受ける補修梁の外観状況は健全梁より良いと言え
る。
2.3 梁 の載 荷 試 験
2.3.1 載 荷 試 験 方 法
加 熱 さ れ た 梁 は 室 温 で 1週 間 自 然 冷 却 し た 後 ,加 熱 後 の 耐 荷 特 性 を 検 討 す る た め に ,静 的
曲げ試験を実施した。健全梁と補修梁は同様の載荷試験を行った。健全梁および補修梁の
載 荷 概 要 を 図 18お よ び 図 19に 示 す 。 載 荷 方 法 は ス パ ン 長 さ , 載 荷 ス パ ン の 3等 分 2点 載 荷 と
し,破壊に至るまで静的に漸増載荷した。測定項目は,梁中央点のたわみ,載荷点のたわ
載荷梁
70
ピン・ローラー支持
断面
30 140 30
200
D10@150
300
加力ヘッド
30 240 30
み , 支 点 の た わ み お よ び 載 荷 荷 重 で あ る 。 図 20に 梁 の 載 荷 様 子 を 示 す 。
2-D16
3-D16
300
600
300
600
300
300
2400
載荷梁
70
ピン・ローラー支持
D10@150
30 140 30
200
300
加力ヘッド
30 240 30
図 18 健 全 梁 の載 荷 概 要
断面
2-D16
3-D16
300
600
300
300
2400
図 19 補 修 梁 の載 荷 概 要
600
300
図 20 梁 の載 荷 様 子
2.3.2 実 験 結 果 および考 察
梁 の 荷 重 -中 央 た わ み 曲 線 を 図 21に 示 す 。破 壊 状 況 は ,健 全 梁 ,補 修 梁 と も に 曲 げ 引 張 り
破壊であり,降伏耐力および終局耐力に大きな違いは見られなかったが,終局荷重後の靭
性に差が見られた。降伏耐力や終局耐力に差が見られないのはもともと引張側では鉄筋の
応力負担が主であるためと考えられる。また,剛性に関しては初期剛性に違いが見られ,
補修梁の剛性が低くなり,同様に初期ひび割れ荷重も補修梁の方が低かった。これはあく
までコンクリートおよびポリマーセメントモルタルの温度ひび割れによるものであり,補
修材料としての性能劣化は特に認められない。全体的に,補修梁は健全梁と比べてほとん
ど 差 の な い 曲 げ 性 状 を 示 す こ と が 確 認 さ れ た 。載 荷 試 験 を 行 っ た 後 ,梁 の 下 端 鉄 筋 を 取 り ,
鉄 筋 の 引 張 試 験 を 行 っ た 。健 全 梁 の 鉄 筋 の 最 大 荷 重 は 113.3KNで あ っ た 。補 修 梁 の 健 全 部 分
の 鉄 筋 の 最 大 荷 重 は 112.3KNで あ り ,補 修 部 分 の 鉄 筋 は 111.3 KNで あ っ た 。火 災 加 熱 を 受 け
た 違 う 梁 で あ て も 主 筋 に は 差 が な か っ た と 分 か る 。 図 22に 梁 の 最 大 た わ み 量 を 示 す 。 補 修
梁 の 最 大 た わ み 量 は L/14で あ り , 健 全 梁 の L/11に 比 べ て 小 さ い 。
200
180
160
荷重(KN)
140
120
100
80
60
40
健全梁
補修梁
20
0
0
5
10
15
20
25
中央たわみ(mm)
図 21 梁 の荷 重 -中 央 たわみ曲 線
30
35
40
補 修 梁 の最 大 たわみ量
約 L/14
健 全 梁 の最 大 たわみ量
約 L/11
L
図 21 梁 の最 大 たわみ量
2.4 まとめ
ポリマーセメントモルタルにより断面修復した鉄筋コンクリート梁の耐火試験および加
熱後の静的曲げ試験を行い,火災加熱された補修した鉄筋コンクリート梁の断面温度およ
び力学特性について検討したものである。得られた成果をまとめると以下の通りである。
(1) 火 災 加 熱 を 受 け る 補 修 梁 の 下 端 鉄 筋 温 度 は 健 全 梁 に 比 べ て 高 い 。 特 に , 補 修 部 分 の 鉄
筋温度は他の部分より高い。
(2) 火 災 加 熱 を 受 け た 補 修 梁 の 曲 げ 性 状 は 健 全 梁 と の 差 が 極 め て 小 さ い 。
(3) 火 災 加 熱 を 受 け た 補 修 梁 の 最 大 た わ み 量 は 健 全 梁 に 比 べ 小 さ い 。
(4) 火 災 加 熱 を 受 け る 補 修 梁 の 補 修 部 分 で 爆 裂 , 脱 落 , 断 面 欠 損 な ど が 生 じ な け れ ば , 補
修梁は健全梁と同等の耐火性能を有する。
参考文献
[1] 王 徳 東 , 野 口 貴 文 , 濱 崎 仁 , 朴 同 天 : 高 温 を 受 け た 補 修 材 料 の 残 存 強 度 , コ ン ク リ ー ト 工 学 年
次 論 文 集 , Vol.30, pp.30-33, 2008.7
[2] 王 徳 東 , 野 口 貴 文 , 下 山 淳 一 : 高 温 加 熱 下 に お け る セ メ ン ト 混 和 用 再 乳 化 形 粉 末 樹 脂 の 挙 動 ,
日 本 燃 焼 学 会 第 44回 燃 焼 シ ン ポ ジ ウ ム 講 演 論 文 集 , pp.410-411, 2006.12
④ RC梁 部 材 の補 修 後 力 学 性 能 の有 限 要 素 解 析
1. 解 析 概 要 および解 析 モデル
本 解 析 で は ,こ れ ま で の 研 究 に よ っ て 求 め た 鉄 筋 と PCMの 付 着 要 素 の 材 料 定 数 ,躯 体 コ ン
ク リ ー ト と PCMと の 付 着 要 素 の 材 料 定 数 を 用 い 健 全 梁 ,補 修 梁 お よ び 補 修 を 施 し て い な い 切
り 欠 き 梁 の FEM解 析 を 行 い 梁 試 験 結 果 と の 比 較 検 討 を 行 っ た 。ま た ,乾 燥 ひ び 割 れ の 影 響 か
ら試験開始前段階で補修部の界面剥離が生じていた可能性があるため,解析は健全梁,補
修梁および補修部を切り欠いた切り欠き梁の計3種の梁に関して行った。付着要素の構成
は主に最大付着強度と付着剛性から成る。解析方法は二次元平面応力弾塑性解析とし,荷
重 増 分 法 を 用 い た 。 解 析 モ デ ル を 図 1に 示 す 。
図 1 解 析 モデル(上 から健 全 梁 ,補 修 梁 ,切 り欠 き梁 )
図2 要素分割図
2. 各 要 素 の構 成 則
(1) RC造 梁 モ デ ル の 構 成
RC造 梁 は コ ン ク リ ー ト・鉄 筋・PCM・界 面( 付 着 要 素 )の 四 種 に よ っ て 構 成 し ,時 間 に 依
存する物性は考慮しないこととした。
(2) コ ン ク リ ー ト の 構 成 則 の 設 定
コンクリート要素は4節点アイソパラメトリック平面応力要素を用い,弾性体とした。
(3) 鉄 筋 の 構 成 則 の 設 定
鉄 筋 の 一 軸 応 力 - 歪 み 関 係 に は 歪 み の 増 大 に 伴 っ て 弾 性 ,降 伏 ,歪 み 硬 化 領 域 が 現 れ る 。
あるいは,明確な降伏棚がなく接線剛性が序所に低下しながら応力が上昇し続けるものも
ある。従って本研究では歪み硬化領域や降伏棚がない鉄筋の降伏後の挙動を表現するため
に , 第 2 剛 性 と し て 一 般 的 に 用 い ら れ る 1/1000と い う 値 を 使 用 し た 。 又 , 有 限 要 素 解 析 に
よく用いられているモデルとしてバイリニア形でモデル化した。(バイリニア形では鉄筋
要素の材料物性は降伏点と弾性係数で構成される)弾塑性体とした。
(4) 補 修 材 の 構 成 則 の 設 定
コンクリート要素と同様の設定を行った。弾性体とした。
(5) 界 面 の 構 成 則 の 設 定
・鉄筋とコンクリートの界面
一 般 的 に , 有 限 要 素 法 に よ る RC構 造 部 材 の 解 析 の 時 , 鉄 筋 と コ ン ク リ ー ト の 付 着 要 素 の
モ デ ル 化 方 法 と し て は ,Bond-link要 素 や Bond-interface要 素 を 鉄 筋 と コ ン ク リ ー ト の 境 界
面 に 介 在 さ せ る 。又 ,そ の 物 性 は 実 験 か ら 求 め ら れ た 付 着 応 力 -す べ り 曲 線 を モ デ ル 化 し て
得られた最大付着応力と付着剛性で表現する。既往の文献で求められたコンクリート強度
と付着剛性,最大付着強度の関係式を用いた。
・鉄筋と補修材の界面
これまでの研究から求めた構成則を用いた。
・コンクリートと補修材の界面
界面要素の破壊物性のデータを用いるために付着要素としていたボンド要素を設定した。
物性はこれまでの研究により求めた構成則を用いた。
ま た ,切 り 欠 き 梁 は 補 修 材 部 分 の 男 性 係 数 を ほ ぼ 0と し ,強 度 を 高 め 解 析 に 影 響 を 与 え な
い も の と 設 定 し 解 析 を 行 っ た 。 図 3に 各 要 素 の 構 成 則 を 示 す 。
鉄筋
コンクリート
補修材
応力
界面
応力
応力
応力
たわみ
たわみ
たわみ
たわみ
図 3 各 要 素 の構 成 則
3. 実 験 結 果 と解 析 結 果 の比 較 および考 察
・荷重-変位関係
図 4に 解 析 に よ る 荷 重 - 変 位 関 係 を 示 す 。 PCMの 強 度 が コ ン ク リ ー ト よ り も 高 く , ま た 界
面物性に関してもコンクリートの引張強度よりも高いものを用いたため,結果として初期
剛性および降伏耐力が補修梁,健全梁,切り欠き梁の順となった。試験結果は健全梁>補
修梁であったことを考えると,補修梁の補修界面ひび割れが試験結果に影響を及ぼしてお
り,補修梁と切り欠き梁の中間の結果となっていたと考えられる。
・ひび割れ図
図 5に 解 析 結 果 の ひ び 割 れ 図 を 示 す 。健 全 梁 の ひ び 割 れ は 等 曲 げ 区 間 内 に 均 等 に 分 布 し て
おり,試験結果と同様の傾向を示している。補修梁に関しては,ひび割れの偏りは切り欠
き梁の傾向に似ているといえるが,試験結果では等曲げ区間内全体にひび割れが生じてお
り,その部分では補修梁の解析結果の傾向と同じであるといえる。試験時に補修梁の補修
界面にひび割れが生じていたことを考慮すると,その試験結果は完全な切り欠き梁と補修
梁の中間にあたると考えられる。よって,ひび割れも補修梁と切り欠き梁の中間になると
考えられ,本解析結果が傾向を正しく示していると考えられる。
160
140
荷重 (kN)
120
100
80
60
40
20
0
0
10
20
変位 (mm)
健全梁
補修梁
健全梁(FEM)
補修梁(FEM)
切り欠き梁(FEM)
30
40
160
140
荷重 (kN)
120
100
80
60
40
20
0
0
10
20
変位 (mm)
健全梁(FEM)
補修梁(FEM)
切り欠き梁(FEM)
30
40
図 4 荷 重 -変 位 関 係 (解 析 )
図 5 ひび割 れ図 (上 から健 全 梁 ,補 修 梁 ,切 り欠 き梁 )
4.
補 修 したRC梁 部 材 の高 温 加 熱 後 の力 学 性 能 の有 限 要 素 解 析
健 全 お よ び 補 修 後 の RC梁 部 材 に つ い て , 火 災 に よ り 高 温 加 熱 を 受 け た 後 の 力 学 性 能 に つ
いて,有限要素解析によって検証した。解析の条件を下記に示す。
加 熱 条 件 : ISO834標 準 加 熱 曲 線 に 従 う 加 熱 。 時 間 は 秒 ( s) と し て 計 算 し た 。
載荷条件:③の実験の載荷点と同じ二点載荷とした。
補修した鉄筋コンクリート梁モデルの構成:
コンクリート,鉄筋,補修材料,界面(付着要素)
コンクリートの要素設定:
4節 点 ア イ ソ パ ラ メ ト リ ッ ク 平 面 応 力 要 素 , EUROCODE NO.4に 従 う 。
鉄筋の構成則の設定:
バイリニア形でモデル化した。鉄筋要素の材料物性は降伏点と弾性係数で構成される
弾塑性体とする。
補修材料の要素設定:
4節 点 ア イ ソ パ ラ メ ト リ ッ ク 平 面 応 力 要 素
界面の構成則の設定:
・鉄筋とコンクリートの付着:物性は既往の文献で求めた構成則を用いる。
・鉄筋と補修材料の付着:物性は本研究①により求めた構成則を用いる。
・補修材料とコンクリートの付着:物性は本研究①により求めた構成則を用いる。
・各材料の高温加熱後の特性:物性は本研究②により求めた構成則を用いる。
健 全 梁 の 有 限 要 素 解 析 に よ る 出 力 結 果( 全 60ス テ ッ プ )に つ い て ,図 6に ひ び 割 れ 図 ,図
7に 応 力 図 , 図 8に 変 形 図 ( 変 形 量 を 10倍 に し て 表 示 ) を 示 す 。 補 修 梁 に つ い て も 解 析 結 果
を 同 様 に 図 9か ら 図 11に 示 す 。
STEP1- STEP6
STEP5- STEP30
STEP35- STEP60
図 6 解 析 結 果 ・健 全 梁 ・ひび割 れ図
STEP1- STEP6
STEP5- STEP30
STEP35- STEP60
図 7 解 析 結 果 ・健 全 梁 ・応 力 図
STEP1- STEP6
STEP5- STEP30
STEP35- STEP60
図 8 解 析 結 果 ・健 全 梁 ・変 形 図
STEP1- STEP6
STEP5- STEP30
STEP35- STEP60
図 9 解 析 結 果 ・補 修 梁 ・ひび割 れ図
STEP1- STEP6
STEP5- STEP30
STEP35- STEP60
図 10 解 析 結 果 ・補 修 梁 ・応 力 図
STEP1- STEP6
STEP5- STEP30
STEP35- STEP60
図 11 解 析 結 果 ・補 修 梁 ・変 形 図
5. まとめ
本研究では以下の知見が得られた。
(1) 試 験 結 果 か ら 健 全 梁 と 補 修 梁 の 降 伏 耐 力 と 終 局 耐 力 に 明 確 な 差 は な く , ま た 解 析 結 果
か ら 切 り 欠 き 梁 よ り も 高 い 性 能 を 示 し た こ と か ら PCMに よ る 断 面 修 復 が 梁 に 関 し て は 有
効であることが確認された。
(2) PCMの 初 期 乾 燥 ひ び 割 れ の 影 響 が 試 験 結 果 に 影 響 を 及 ぼ し て お り ,実 構 造 物 に お い て ひ
び割れが生じることの無いように養生に注意する必要がある。
(3) こ れ ま で に 求 め た 界 面 要 素 の 構 成 則 を 用 い る こ と で , ひ び 割 れ に 関 し て 解 析 に よ り 傾
向の予測が可能であると考えられる。
(4) 鉄 筋 裏 側 ま で は つ っ た 断 面 修 復 の 場 合 , 鉄 筋 と の 付 着 に よ り 補 修 界 面 に ひ び 割 れ が 生
じ て も 剥 落 現 象 は 生 じ な か っ た が ,今 後 は 鉄 筋 裏 側 ま で は つ ら な い 場 合 の 挙 動 を 確 認 す
る必要がある。
(5) 補 修 を 施 し た RC梁 部 材 に つ い て , ① お よ び ② の 材 料 実 験 に よ っ て 確 認 し た 構 成 則 を 用
いて,火災後を想定した有限要素解析をおこなった。
⑤ RC造 建 築 物 の維 持 保 全 最 適 化 システムに関 する研 究
1. 劣 化 リスクの評 価 手 法 に関 する研 究
1.1 始 めに
本章では,塩害,中性化及び複合劣化(中性化及び内存塩分,凍害及び塩分侵入,凍害
及び中性化)の劣化リスク評価の構築手法を提案することを目的とした。不確実性を考慮
した劣化モデル(塩害,中性化及び複合劣化)を通して腐食開始時期を評価し,鉄筋の腐
食程度を変数とする各材料要素の構成則を既往の実験に基づいてまとめ,「トラス・アー
チ理論」および「平面保持を仮定した塑性曲げ理論」により,鉄筋が腐食した部材の構造
性能(せん断耐力と曲げ耐力)を簡便に算定する。鉄筋が腐食した部材のせん断耐力と曲
げ 耐 力 を 把 握 す る 上 で ,地 震 危 険 度 分 析 で の 再 現 期 間 500年( 二 次 設 計 時 の 大 地 震 ,震 度 階
6強 〜 7) と な る 地 震 動 を 倒 壊 に よ っ て 人 命 の 損 失 を 生 じ な い よ う な 要 求 基 準 と し , 構 造 安
全性能指標を構築する。また,腐食速度の不確実性を想定し,確率論的手法を用いて部材
及び建物の「破壊確率」を算定し,想定する供用期間のリスクあるいは損失を評価する。
RC造 建 築 物 の 劣 化 に 伴 う リ ス ク ( 図 1) の 中 に は , 再 現 期 間 500年 の 地 震 動 に 対 す る 損 失
コ ス ト( 構 造 安 全 性 能 評 価 )の ほ か に ,再 現 期 間 100年 の 地 震 動 に 対 す る コ ン ク リ ー ト 剥 落
による損失コスト(使用安全性評価)も含まれる。本研究では,かぶり厚さや鉄筋腐食速
度 な ど の 不 確 実 性 を 考 慮 し た 上 で ,文 献 及 び 調 査 に よ り 剥 離 が 生 じ る 鉄 筋 腐 食 量 を 設 定 し ,
最外側鉄筋に対する「剥離確率」を使用安全性評価として算定し,想定する供用期間の損
失コストを評価する。
最 後 , 幾 つ か の 劣 化 環 境 に お け る 12階 の RC造 建 物 を 対 象 と し て 劣 化 リ ス ク を 評 価 し , 提
案した手法の適当性を検証する。
図 1 劣 化 リスクの計 算 フロー(中 性 化 事 例 )
1.2 劣 化 における確 率 論 的 予 測 モデル
1.2.1 塩 害
塩害は,コンクリートに浸透した塩化物イオンが鉄筋の不動態皮膜を破壊し,最終的に
は鉄筋腐食に繋がり,建築物の耐久性を著しく損なう劣化現象であり,中性化と同様に古
くから多くの研究がなされている。建築物に導入される塩化物としては,主に,海砂や練
混ぜ水に起因する初期塩分と,立地環境に依存する飛来塩分が想定されるが,特に後者は
コンスタントに塩分が供給されるため,適切な維持保全が必要となる。本研究では,塩害
による劣化過程として三つの状態を仮定する。即ち,潜伏期(鉄筋の腐食開始まで),進
展期(鉄筋軸方向ひび割れの発生まで),劣化期(ひび割れが拡大し,腐食が急増し耐力
低下が顕著な段階)と考える。
1.2.1.1 潜 伏 期
鉄 筋 位 置 に お け る 塩 化 物 イ オ ン 量 は 式 (1)を 用 い て 求 め る 。 た だ し , 既 往 の 研 究 [1]を 参
考 に ,施 工 お よ び 環 境 の ば ら つ き に 伴 う 塩 分 の 見 か け 拡 散 係 数( 式 (2))の 誤 差 を 設 計 値 ±
30%と 設 定 し ,対 数 正 規 分 布 を 仮 定 す る 。ま た ,か ぶ り 厚 さ の ば ら つ き に つ い て も ,既 往 の
調 査 結 果 [1]を も と に ,そ の 誤 差 は 設 計 値 ±20%と 設 定 し ,同 様 に 対 数 正 規 分 布 を 仮 定 す る 。
な お ,コ ン ク リ ー ト 表 面 の 塩 化 物 イ オ ン 量 に つ い て も 変 動 係 数 10%の 対 数 正 規 分 布 を 与 え る 。
鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 築 物 の 耐 久 設 計 施 工 指 針 で は , 鉄 筋 の 腐 食 発 生 に 関 し て 0.6kg/m 3
を限界塩化物イオン量としている。この限界値は構造物の置かれる環境条件やコンクリー
ト の 調 合 な ど に よ り 異 な る こ と か ら , 本 研 究 で は 文 献 [2]に 基 づ き 1.0~ 1.2 kg/m 3 の 矩 形 分
布を設定する。以上の不確実性に基づき,モンテカルロ法で最外側鉄筋の鉄筋腐食発生確
率 を 計 算 し , 図 2の よ う に 腐 食 発 生 確 率 が 10%を 超 過 し た 時 点 で 腐 食 し 始 め る と 考 え る 。
x
Cl = ( C o
C init )( 1 erf (
log DP =
3.9( W / C )2 + 7.2( W / C ) 2.5
2 D pt
)) + C init
(1)
(2)
t : 経 過 時 間 (年 ), x : か ぶ り 厚 さ (mm), Cl : 鉄 筋 位 置 に お け る 塩 化 物 イ オ ン 量 (kg/m 3 ),
Co : コ ン ク リ ー ト 表 面 の 塩 化 物 イ オ ン 量 (kg/m 3 ), C i n i t : コ ン ク リ ー ト 中 の 初 期 塩 化 物 イ オ
ン 量 (kg/m 3 ), D p : 見 か け の 拡 散 係 数 (cm 2 /年 ), W/C : 水 セ メ ン ト 比 (%)
塩 分 侵 入 の 解 析 に 対 し て 式 (1)が よ く 用 い ら れ て い る が ,建 築 物 の ほ と ん ど に は 仕 上 げ 材
が施されており,仕上げ材の塩化物イオン浸透抑制効果,すなわち仕上げ材の塩分拡散係
数と仕上げ材の劣化に伴う仕上げ材塩分拡散係数の変化を解析に組み込む必要がある。
図 2 腐 食 発 生 確 率 の定 義
また,コンクリート表面の塩化物イオン量は,材齢依存性があることから,本研究では
式 (1)の 代 わ り に 差 分 法 に よ り , Fickの 拡 散 方 程 式 ( 式 (3)) を 解 く こ と と し た 。
∂Cl
∂2 Cl
= D ( x ,t )
∂t
∂x 2
(3)
1.2.1.2 進 展 期 および劣 化 期
鉄 筋 の 腐 食 速 度 は , 暴 露 試 験 を 基 に 桝 田 ら ( 文 献 [3]) が 提 案 し た モ デ ル ( 式 (4)) に よ
り 予 測 す る 。本 研 究 で は ,腐 食 速 度 の 不 確 実 性 を 想 定 し ,既 往 の 研 究 [2]に 基 づ き 変 動 係 数
と し て 50%を 設 定 し , 対 数 正 規 分 布 を 仮 定 す る 。 な お , 文 献 [3]に よ れ ば , こ の モ デ ル を 用
いれば,実測より計算結果の方が大きくなり安全側に評価されることが指摘された。
Vcorr =
78
x
( 0.578 × Cl + 0.023( W / C ) 1.52 )
(4)
以上のように,本研究では不確実性を有する要因について確率分布および変動係数を設
定 す る が , そ れ ら を ま と め て 表 1に 示 す 。
表 1 不 確 実 性 を有 する要 因 の設 定 条 件
不確実性を有する要因
確率分布
変動係数
コ ン ク リ ー ト 表 面 の 塩 化 物 イ オ ン 量 Co
対数正規分布
10%
かぶり厚さx
対数正規分布
20%
コ ン ク リ ー ト 中 の 塩 分 拡 散 係 数 Dp
対数正規分布
30%
腐 食 発 生 限 界 塩 化 物 イ オ ン 量 Climit
矩形分布
1.0-1.2 kg/m 3
鉄筋の腐食速度
対数正規分布
50%
1.2.1.3 塩 分 侵 入 抑 制 効 果 評 価
仕 上 げ 材 の 特 性 に 応 じ て , ( a) 表 面 仕 上 げ 材 と コ ン ク リ ー ト か ら な る 2層 材 料 と し て
塩 化 物 イ オ ン の 拡 散 係 数 を 別 個 に 設 定 し た 拡 散 方 程 式 に よ り 予 測 す る モ デ ル ( モ デ ル A) ,
( b) 表 面 仕 上 げ 材 の 適 用 に よ っ て 表 面 塩 化 物 イ オ ン 濃 度 が 低 下 す る ( Co➝ Co ’ ) と 仮 定 し
た 拡 散 方 程 式 に よ り 予 測 す る モ デ ル ( モ デ ル B) な ど を 設 定 す る ( 文 献 [4]) 。
モデルA
モデルB
図 3 表 面 仕 上 げ材 における塩 分 侵 入 抑 制 効 果 評 価 モデル
モ デ ル Aに よ り 塩 化 物 イ オ ン の 浸 透 量 予 測 を 行 う 場 合 に は ,仕 上 げ 材 の 塩 分 拡 散 係 数 と そ
の経時的な増大を定量的に把握する必要がある。仕上げ材の劣化による塩分拡散係数の増
大 は ,現 時 点 で は 十 分 に 明 ら か に さ れ て い な い が ,本 研 究 で は ,図 3に 示 す よ う に ,仕 上 げ
材の塩分拡散係数は,仕上げ材の施工直後の状態(初期値)から時間の経過に伴い指数曲
線を描きながら増大するものと仮定し,一定年数経過後は,下地とするモルタルの塩分拡
散係数と等しくなるものとして解析を行う。
1.2.2 中 性 化
鉄 筋 周 辺 の コ ン ク リ ー ト の 中 性 化 に 伴 い , 空 隙 水 の pHが 低 下 す る と , 不 動 態 皮 膜 が 破 壊
され,最終的には鉄筋腐食に繋がり,構造物の耐久性を損なう現象が起きる。そこで,既
往の研究を基に,中性化の影響を受ける場合の鉄筋腐食過程を下のようにモデル化する。
図 4 仕 上 げ材 の劣 化 モデル
1.2.1.1 潜 伏 期
潜伏期は中性化の影響による鉄筋腐食が生じ始めるまでの期間とした。コンクリートの
大 気 に 接 す る 面 の 平 均 中 性 化 深 さ ( C , mm) は 下 式 に よ り 計 算 す る 。
C=A t
(5 )
A: 中 性 化 速 度 係 数 , t: 材 齢
既 往 の 研 究 [5]を 参 考 に ,本 研 究 で は 施 工 及 び 環 境 の ば ら つ き に 伴 う 中 性 化 速 度 係 数 の 変
動 係 数 を 45% と 設 定 し , 対 数 正 規 分 布 を 仮 定 す る 。 鉄 筋 の か ぶ り 厚 さ は , 既 往 の 調 査 結 果
[1]を 基 に ,そ の 変 動 係 数 を 20% と 設 定 し ,対 数 正 規 分 布 を 仮 定 す る 。一 般 に ,鉄 筋 が 腐 食
し始めるときの限界中性化深さは,室内外の条件差により異なることが知られている。本
研 究 で は 文 献 [6]に よ り ,室 外 で の 限 界 中 性 化 深 さ が 鉄 筋 位 置 に 等 し い と ,室 内 で の ほ う が
鉄 筋 表 面 か ら -20mmと 設 定 し ,以 上 の 不 確 実 性 に 基 づ き ,モ ン テ カ ル ロ 法 で 最 外 側 鉄 筋 の 鉄
筋 腐 食 発 生 確 率 を 計 算 し ,図 4の よ う に 鉄 筋 腐 食 発 生 確 率 が 10% を 超 過 し た 時 点 で 腐 食 し 始
めると考える。
1.2.1.2 進 展 期 及 び加 速 期 前 期
進展期は鉄筋の腐食開始からコンクリート表面に腐食ひび割れが生じるまでの期間,加
速期前期は腐食ひび割れ発生からコンクリートの剥離が生じるまでの期間とした。既往の
調 査 [7]に よ り 剥 離 が 生 じ る ひ び 割 れ 幅 は 0.5mm〜 1.0mm以 上 で あ る の で ,本 研 究 で は 進 展 期
及 び 加 速 期 前 期 の ひ び 割 れ 幅 は 0.5mm以 下 と し ,1.0mm以 下 と し ,1.0mmを 超 え る 場 合 は 加 速
期 後 期 と 設 定 す る 。な お ,既 往 の 研 究 [8]に 基 づ き ,進 展 期 と 加 速 期 前 期 の 腐 食 速 度 に は 大
差 が な い と 判 断 し ,腐 食 速 度 を 0.06% /年( 重 量 減 少 率 )と し ,変 動 係 数 50% の 対 数 正 規 分
布に従うものと仮定する。
かぶり厚さの分布
鉄筋かぶり厚さの位置
中性化速度式
鉄筋腐食発生確率
中性化深さの分布
供用期間(年)
図 5 鉄 筋 腐 食 発 生 確 率 の計 算
1.2.1.3 加 速 期 後 期
加 速 期 後 期( ひ び 割 れ 幅 は 1.0mm以 上 )以 降 に お い て は ,か ぶ り コ ン ク リ ー ト は 著 し く 損
壊し鉄筋腐食に対する保護能力は,ほとんど失われると想定される。下式によって激しい
剥離が生じる鉄筋腐食量を算定し,加速期後期の開始時間を評価することとした。
wc = 2.5993 x + 0.4773
r=
400 wc
ρ s φo
(6)
(7)
w c:鉄 筋 単 位 表 面 積 あ た り の 腐 食 反 応 に 消 費 さ れ た 鉄 筋 量 (mg/mm 2 ),x:ひ び 割 れ 幅 (mm),
d : 被 り 厚 さ (mm), φ : 鉄 筋 径 (mm)( φ o : 元 の 鉄 筋 径 ), ρ s : 鉄 の 密 度 (7.85mg/mm 3 ), r : 腐
食 に よ る 重 量 減 少 率 (% )(鉄 筋 の 腐 食 量 )
本 研 究 で は , 文 献 [8]に 従 い 腐 食 速 度 は 裸 鋼 材 の 腐 食 速 度 と 同 一 と 推 測 し て , 0.14% /年
( 重 量 減 少 率 ) と し , 変 動 係 数 50% の 対 数 正 規 分 布 に 従 う も の と 仮 定 す る 。
1.2.1.4 中 性 化 抑 制 効 果 評 価
本研究では,構造体及び部材に仕上げ材が施されている場合,仕上げ材の中性化抑制効
果及びその持続性を考慮し,中性化深さの算定を行うこととした。セメント系仕上げ材の
場合,仕上げ材自身の中性化が進行し,その後躯体コンクリートの中性化が始まると考え
ら れ て い る 。そ の 抑 制 効 果 は ,等 価 か ぶ り 厚 さ の 考 え 方 で 式 (8)の よ う に 評 価 さ れ る 。タ イ
ル の 場 合 は 式 (9)を 用 い る も の と し た 。ま た ,高 分 子 混 入 系 仕 上 げ 材 の 場 合 ,紫 外 線 や 風 雨
に よ り 仕 上 げ 材 の 劣 化 が 進 行 し , 徐 々 に 中 性 化 抑 制 効 果 が 失 わ れ , 文 献 [9,10]に 基 づ き ,
式 (10)~ 式 (12)の よ う に 中 性 化 抑 制 効 果 と そ の 持 続 性 を 評 価 し た 。特 に 樹 脂 塗 膜 の 場 合 は ,
式 (13)の よ う に 計 算 す る 。
C = A t - M eq
(8 )
C = A× S × t
(9 )
C = A( t + R 2 - R )
(10)
Ci = A [ ti' -1 + Δt + ( Ri' -1 )2 - (Ri' -1 )]
(11)
ti' -1 = ( Ci -1 / A + Ri' -1 )2 - ( Ri' -1 )2
(12)
Ri' -1 = Tr × 0.135 × e-0.090 ti - 1
(13)
( 条 件 : Δt = 1 , C0 = 0 , t0 = 0 )
M e q : 等 価 か ぶ り 厚 さ , S : 中 性 化 抑 制 効 果 の 係 数 , C i : ス テ ッ プ i で の 中 性 化 深 さ (mm),
t’ i - 1 : ス テ ッ プ i-1 で の 見 か け 材 齢 (年 ), R’ i - 1 : ス テ ッ プ i-1 で の 中 性 化 抵 抗 (年 1 / 2 ),
t’ i - 1 : ス テ ッ プ i-1 の 仕 上 塗 材 の 劣 化 材 齢 (年 ), T r : 樹 脂 塗 膜 厚 さ (μ m)
1.2.3 複 合 劣 化
実 際 に は ,中 性 化 ,塩 害 ,凍 害 な ど の 劣 化 機 構 が 単 独 で RC造 建 築 物 に 影 響 を 与 え る だ け
ではなく,複合して影響を与えることがある。そのような場合には,単独の劣化機構で検
討し,診断,対策を行うのみでは不充分となったり,かえって劣化を促進しかねないこと
が あ る 。 文 献 [11]に よ り 複 合 劣 化 を 「 独 立 的 複 合 劣 化 」 , 「 相 乗 的 複 合 劣 化 」 及 び 「 因 果
的 複 合 劣 化 」の 3カ テ ゴ リ ー に 分 類 し ,後 者 の 二 つ に お い て は 一 般 的 に 劣 化 速 度 が 大 き く な
り,劣化症状も重くなりがちである。特に相乗的複合劣化である事例を初期の段階で認識
できないと,予測に基づく対策が十分に発揮しなかったり,かえって逆効果となることに
もなりかねない。このため,本研究では既往の研究により予測が可能である相乗的複合劣
化を中心として下のような三つの複合劣化現象を検討することとする。
1.2.3.1 中 性 化 及 び内 存 塩 分
一般に,中性化は乾燥期間が比較的長い乾湿繰り返し条件で進行し,塩化物の外部から
の供給は塩化物イオンを含む水の存在が条件となる。従って,海洋環境における飛沫帯や
感潮部では,塩化物イオンの供給量は多いが,供用条件下でのコンクリートの含水条件に
よっては,中性化がほとんど進行しない場合もあり,塩分侵入との複合が問題とならない
場合もある。一方,除塩不足の海砂の使用などにより建設当初から塩化物イオンが内在す
る場合には,中性化の進行による塩化物イオンの濃縮が塩害を促進する可能性がある(文
献 [11]) 。 つ ま り , 中 性 化 及 び 内 存 塩 分 と な る 複 合 劣 化 を 評 価 す る こ と に は , 中 性 化 し た
コンクリート中において,セメント水和物による塩化物イオンの固定能力の低下を考慮し
中性化領域前端における塩化物イオンの濃縮及び移動を計算することが必要である。本研
究 で は , 既 往 の 文 献 [12,13,14]に 基 づ き 簡 単 な 評 価 方 法 を 提 案 す る 。
中性化による塩化物イオンの濃縮量を推定するために,塩化物イオンの固定化率の変化
のみ(炭酸化係数)を考慮する場合には,塩化物イオンの固定化率の分布を仮定すること
により中性化による塩化物イオンの濃縮が表現される。即ち,固定塩化物が液相中に解離
されることにより,液相中の自由塩化物イオン濃度が上昇し,自由塩化物イオンの濃度勾
配を駆動力とする拡散が促進される。また,未中性化域では液相中の塩化物イオン濃度に
比例して塩化物イオンの固定量が増加するため,見かけ上全塩化物イオンは中性化のフロ
ントで濃縮されることになる。劣化機構の複合を考慮した塩化物イオン濃度分布の計算フ
ローを以下のように示す。
Step1. 初 期 条 件 の 設 定
Ctot ( x ,0 ) = CI
( 1 4)
Step2. 全 塩 化 物 量 の 分 布
Ctot ( x ,t )
(15)
Step3. 固 定 化 係 数 の 算 出
α fixed
⎧1, C tot ≤0.001 × 300;
⎪
= ⎨1 - 0.35( C tot - 0.1 )0.25 ,0.001 × 300 ≤C tot ≤0.03 × 300 ;
⎪0.543 , C ≥0.03 × 300 ;
tot
⎩
(16)
Step4. 固 定 塩 化 物 量 の 分 布
C fixed ( x , t ) = α fixed × Ctot ( x , t );
(17)
Step5. 自 由 塩 化 物 量 の 分 布
C free ( x , t ) = ( 1 - α fixed ) × Ctot ( x , t );
Step6. 炭 酸 化 係 数 の 算 出
(中性化深さ
CH + = CH + ,o [ 1 - erf (
DH = [
x
2 DH t
2erf ( 1 - CH + ,bound / C H + ,o )
pH = - log10 ( CH + )
►
[H + ]濃 度
►
pH
►
β C)
(19)
)]
αC
-1
(18)
]2
(20)
(21)
⎧1.0 , pH < 7.5;
⎪- 0.4 × pH + 4.0 ,7.5 ≤ pH < 9.0 ;
⎪
βC = ⎨
⎪- 0.16 × pH + 1.84 ,9.0 ≤ pH < 11.5;
⎪⎩0 , pH ≥11.5
(22)
Step7. 自 由 塩 化 物 量 の 分 布
C'free = ( 1 - α fixed + α fixed × βC ) × Ctot ( x , t );
(23)
C'fixed = Ctot ( x ,t ) - C'free ;
(24)
Step8. 自 由 塩 化 物 量 の 拡 散
拡 散 方 程 式 ► C'free ( x ,t + Δt )
(25)
Step9. 次 の 段 階 の 塩 化 物 量
Ctot ( x ,t + Δt ) = C'free ( x ,t + Δt ) + C'fixed ( x ,t )
(26)
CH + ,o :表 面 の [H + ]濃 度 (mol/l); DH + : [H + ]の 拡 散 係 数; αC :中 性 化 速 度 係 数; CH + ,bound :
中 性 化 の 判 定 に 用 い る [H + ]の し き い 濃 度 (mol/l) ; コ ン ク リ ー ト の 中 性 化 深 さ は , 1%フ ェ
ノールフタレインアルコール溶液をコンクリート表面に噴霧した時の呈色の有無によっ
て 判 定 さ れ る 。 従 っ て , コ ン ク リ ー ト の pHが あ る し き い 値 pHよ り も 小 さ く な る 表 面 か ら
の深さを意味する。一般に,コンクリートの中性化の進行は t 則で表されるので,コン
ク リ ー ト の pH分 布 の 中 性 化 に よ る 変 化 は , 拡 散 則 で 表 現 出 来 る 。 拡 散 方 程 式 の 解 を 適 用
し て pHに 関 わ る [H + ]濃 度 分 布 を 表 せ ば 上 式 の よ う に 表 さ れ る 。
文 献 [15]に よ り 66の 建 物 に つ い て は コ ア 採 取 に よ る コ ン ク リ ー ト 中 の 塩 化 物 量 の 実 態 調
査 が 行 わ れ た 。建 築 物 中 の 平 均 塩 化 物 量 が 塩 素 イ オ ン 濃 度 で 0.03%ご と に 区 分 さ れ ,度 数 分
布 と し て 図 6の よ う に 示 さ れ る 。 こ の 図 に よ れ ば 海 砂 を 使 用 し た 建 築 物 で は 平 均 塩 分 量 が
0.03%〜 0.12%の 範 囲 に あ る の に 対 し , 海 砂 を 使 用 し な か っ た 建 築 物 で は 殆 ど の 場 合 0.03%
以 下 と な っ て お り ,0.06%を 超 え る こ と は ご く ま れ で あ る 。海 砂 を 使 っ た 時 ,一 番 多 い の は
0.06%〜 0.09%( 1.2kg/m 3 〜 1.8kg/m 3 ) で あ る 。 こ の た め , 本 研 究 で は 中 性 化 及 び 塩 分 内 存
と な る 複 合 劣 化 の 事 例 に 対 し て 内 存 の 塩 分 イ オ ン 量 を 1.5kg/m 3 と 設 定 す る 。
図 6 度 数 分 布 [15]
1.2.3.2 凍 害 及 び 塩 分 侵 入
塩分侵入と凍害との複合劣化作用を想定すると,凍害によりコンクリート中に微細なひ
び割れが発生し,塩化物イオンの浸透が促進され,鉄筋の腐食速度が加速される。なお,
鉄筋腐食だけではなく,微細なひび割れによりコンクリートの材料性能も低下する。文献
[16,17]に よ る と , 相 対 動 弾 性 係 数 が 60%の 時 , 圧 縮 強 度 , 曲 げ 強 度 , 静 弾 性 係 数 は そ れ ぞ
れ 約 35%,60% ,60%程 度 低 下 す る こ と を 示 し た 。従 っ て ,塩 分 侵 入 と 凍 害 の 複 合 作 用 を 受
けた建築物では,鉄筋とコンクリートとの付着性能および鉄筋の降伏強度を鉄筋の腐食に
起因する低下を同時に考慮する。その上,断面性能も同様で鉄筋腐食によって発生するひ
び割れとかぶりの剥落および凍害によるコンクリートの材料性能の変化やスケーリングな
どの現象を考慮することになる。本研究では,凍害によりスケーリング・ひび割れが生じ
る時のコンクリートの劣化指標を相対動弾性係数で表すこととし,この指標を用い塩分の
見かけの拡散係数を修正して簡便に塩分侵入と凍害との複合劣化を評価することとした。
文 献 [18]に よ り , 凍 結 融 解 作 用 が 発 生 す る コ ン ク リ ー ト の 塩 分 の 見 か け の 拡 散 係 数 D p m
は , 相 対 動 弾 性 係 数 が 80% 以 上 の 場 合 , 凍 結 融 解 作 用 が 発 生 し な い 事 例 と 大 差 な い が , 相
対 動 弾 性 係 数 が 50% 程 度 に な る と , 見 か け の 拡 散 係 数 は 2〜 3倍 に 増 加 し , 相 対 動 弾 性 係 数
が 20% 程 度 の 場 合 は ,6倍 以 上 に 増 加 す る こ と が 認 め ら れ た 。本 研 究 で は ,以 上 の 実 験 結 果
に 基 づ き 式 (27)( 図 7) を 提 案 す る 。
D pm = D p × m
(27)
E ≦ 8 5 % , m = 10.56 × exp( -2.77 × 10 -2 × E )
(28)
E>85%, m = 1.0
(29)
2
E : コ ン ク リ ー ト の 相 対 動 弾 性 係 数 (% ), m : 修 正 係 数 , D p : 見 か け の 拡 散 係 数 (cm /年 )(凍 結
融解なし)
耐 久 設 計 指 針 [6]に は ,コ ン ク リ ー ト の 相 対 動 弾 性 係 数 が ,露 出 し て い る 水 平 面・水 掛 か
り面のコンクリートの場合,コンクリートの材料・調合・含水状態ならびに年間の平均凍
結 融 解 回 数 ,最 低 温 度 及 び 経 過 年 数 を も と に ,下 式 に よ り 算 定 で き る 。ま た ,本 研 究 で は ,
凍 結 融 解 回 数 に 対 し て 環 境 か ら の 不 確 実 性 を 想 定 し , 変 動 係 数 10%の 対 数 正 規 分 布 を 設 定
することとした。
E = ( 100 − C eq × t / 25 ) × AIR × WC × Q
(30)
C e q : 年 間 の ASTM相 当 サ イ ク ル 数 (サ イ ク ル /年 ), t : 竣 工 後 の 年 数 (年 ), AIR : 目 標 空 気
量 に よ る 係 数 , WC : 水 セ メ ン ト 比 に よ る 係 数 , Q : 粗 骨 材 吸 水 率 に よ る 係 数
1.2.3.3 凍 害 及 び 中 性 化
複合劣化作用となる中性化及び凍害を想定すると,凍害による生じたコンクリート中の
微細ひび割れによって透気性が高まり,二酸化炭素の拡散が容易になったためと考えられ
る。しかし,凍害は,コンクリートが飽水状態に近い場合にのみ起きるため,凍害で被害
を受ける環境条件で中性化の進行する可能性が低いという報告もあった。本研究では,凍
害及び塩分侵入の複合劣化と同じように相対動弾性係数を用い中性化速度係数を修正して
簡 便 に 複 合 劣 化 と な る 凍 害 及 び 中 性 化 を 評 価 す る こ と と し た 。既 往 の 研 究 [.17]に よ り 相 対
動 弾 性 係 数 が 10% 低 下 す る と , 中 性 化 速 度 係 数 比 は 0.16増 加 し , 相 対 動 弾 性 係 数 80% で は
健 全 な コ ン ク リ ー ト の 約 1.3倍 と な る 。 以 上 よ り , 本 研 究 で は 式 3.2.31を 用 い 凍 害 及 び 中 性
化の複合劣化における中性化速度係数を評価することとした。
Am = A × [ −0.016 × ( E − 100 ) + 1 ]
E : コ ン ク リ ー ト の 相 対 動 弾 性 係 数 (% ), A : 中 性 化 速 度 係 数 (凍 結 融 解 な し )
図 7 相 対 動 弾 性 係 数 と塩 分 の見 かけ拡 散 係 数 との関 係
(31)
1.3 構 造 安 全 性 能 及 び使 用 安 全 性 能 評 価
1.3.1 構 造 安 全 性 能 評 価
1.3.1.1 梁 と柱 のせん断 耐 力 の評 価
各 種 設 計 基 準 の せ ん 断 設 計 [19,20]で は ,せ ん 断 補 強 筋 の ト ラ ス 作 用 に よ り 伝 達 さ れ る せ
ん断力と,せん断補強筋の関与しない機構で伝達されるコンクリートの負担するせん断力
が考慮されている。コンクリートの負担するせん断力の中には曲げ圧縮域コンクリートを
斜めに伝わる圧縮力のせん断力方向の分力(アーチ作用),ひび割れ面における骨材のか
み 合 い 作 用 お よ び 主 筋 の だ ぼ 作 用 等 が 含 ま れ る 。 文 献 [21]に お い て は , こ の コ ン ク リ ー ト
の 負 担 す る せ ん 断 力 と し て , 塑 性 理 論 に 基 づ い た ア ー チ 機 構 強 度 を 加 え る こ と に よ り RC部
材 の せ ん 断 耐 力 を 与 え て い る 。 本 研 究 で は , こ の 理 論 を 用 い , 鉄 筋 が 腐 食 し た RC部 材 の せ
ん断耐力を評価することとした。
付着破壊発生時のせん断耐力
ト ラ ス 機 構 で 負 担 す る せ ん 断 力 V t は ,主 筋 の 付 着 応 力 度 を 引 張 側 端 部 の j t の 範 囲 で 0と し ,
そ れ 以 外 の 範 囲 で は 付 着 割 裂 強 度 τ b u に 達 し て い る と 仮 定 し , 式 (32)と な っ た 。 腐 食 し た
鉄筋とコンクリートとの付着性状は,日本コンクリート工学協会リハビリテーション委員
会 [22]で の 提 案 式 ( 式 (33)) に よ り 算 定 す る 。
図 8 トラス・アーチ機 構 の概 念 図
Vt = τ bu × ∑φ × jt × ( L
jt ) / L
(32)
τ bu = τ bo × exp( 0.0607 r )
(33)
τ bo = ( 1.2 + 5 p w b / d b ) σ B
(34)
b : 部 材 幅 (cm), L : 内 法 ス パ ン (cm), j t : 外 側 主 筋 中 心 間 距 離 (cm), ∑ φ : 主 筋 周 長
合 計 (cm), σ B : コ ン ク リ ー ト 圧 縮 強 度 (N/mm 2 ), r : 鉄 筋 の 重 量 減 少 率 (%), τ b o : 主 筋 の 付
着 強 度 (N/mm 2 )(腐 食 の な い 場 合 ), d b : 主 筋 の 直 径 (cm), p w : 補 強 筋 比
一 方 ,ア ー チ 機 構 で 負 担 す る せ ん 断 力 V a は ,文 献 [19,20]の せ ん 断 強 度 式 と 同 様 に ,式 (35)
で与えられる。
Va = ( ν × σ B
σ ct ) tan θ × b( D / 2 )
tan θ = {( L / D )2 + 1 }
(35)
(36)
L/ D
ν : コ ン ク リ ー ト 圧 縮 強 度 の 有 効 係 数 , σ B : コ ン ク リ ー ト 圧 縮 強 度 (N/mm 2 ), σ c t : コ ン
ク リ ー ト 圧 縮 束 の 応 力 度 (N/mm 2 ), D : 断 面 の せ い (cm)
し た が っ て , 付 着 破 壊 発 生 時 の せ ん 断 耐 力 Vbuは , ト ラ ス 機 構 で 負 担 す る せ ん 断 力 Vtと ア
ー チ 機 構 で 負 担 す る せ ん 断 力 V a の 和 と し て , 式 (37)で 与 え ら れ る 。
Vbu = Vt + Va
(37)
付着破壊が発生しない場合のせん断耐力
付 着 破 壊 が 発 生 し な い 場 合 , 梁 の せ ん 断 耐 力 V u は 式 (38)で 与 え ら れ る 。 腐 食 鉄 筋 の 降 伏
点 は , JCIリ ハ ビ リ テ ー シ ョ ン 委 員 会 で の 提 案 式 ( 式 (40)) を 用 い て 算 定 す る 。
Vu = bjt pwσ wy cot Φ + tan θ( 1
β )bDνσ B / 2
(38)
β = {( 1 + cot 2 Φ ) pwσ wy } /( νσ B )
(39)
σ wy = σ wyo ( 1 2.17 r / 100 )
(40)
σ w y o : せ ん 断 補 強 筋 の 強 度 (腐 食 の な い 場 合 )(N/mm 2 ), Φ : ト ラ ス の 傾 斜 角 (45 o と 仮 定 )
1.3.1.2 梁 と柱 の曲 げ耐 力 の評 価
使用される鉄筋の降伏点やコンクリートの応力度-ひずみ度関係が実状に即していれば,
平面保持を仮定した塑性曲げ理論は,実際に得られる梁・柱の曲げ耐力をかなりの精度で
予測できることが,既往の多くの実験によって確認されている。平面保持を仮定した塑性
曲 げ 理 論 が 利 用 さ れ る 一 方 で , 以 下 に 示 す 曲 げ 終 局 強 度 略 算 式 ( 式 (41)及 び 式 (42), 文 献
[21]) も よ く 利 用 さ れ て い る 。 本 研 究 で は , こ れ ら の 式 と 腐 食 鉄 筋 の 降 伏 点 の 評 価 式 ( 式
(41)) を 用 い , 鉄 筋 が 腐 食 し た 梁 と 柱 の 曲 げ 耐 力 を 評 価 す る 。
梁 の 曲 げ 耐 力 : M u = 0.9 a t σ y d
柱 の 曲 げ 耐 力 : M u = 0.8 at σ y D + 0.5 ND( 1
(41)
N
)
bDσ B
(42)
σ y = σ yo ( 1 2.17 r / 100 )
(43)
柱 の 曲 げ 耐 力 式 の 適 用 は ,0.4bD σ B ≧ N > 0の 時 N:柱 軸 方 向 力 (N),a t:引 張 主 筋 断 面 積 (mm 2 ),
σ yo:
引 張 主 筋 の 降 伏 点 強 度 (腐 食 の な い 場 合 )(N/mm 2 )
1.3.1.3 せん断 力 に対 する要 求 水 準 の設 定
本 研 究 で は , 再 現 期 間 500年 ( 50年 超 過 確 率 が 10%) の 地 震 動 に 対 応 す る 地 震 荷 重 で の せ
ん 断 力 Q E を 鉛 直 荷 重 時 せ ん 断 力 Q L と 合 成 し た 値 を 要 求 水 準 ( 式 (44)) と し て 設 定 す る 。
QDS = QL + QE
(44)
な お ,定 常 ポ ア ソ ン 過 程 に 基 づ き ,再 現 期 間 500年 と し た 場 合 の 地 震 動 の 年 間 超 過 発 生 確
率 は 0.2%と な る 。
1.3.1.4 構 造 安 全 性 能 評 価 指 標 および破 壊 確 率
こ こ で は , 1.3で 定 め た せ ん 断 力 Q D S に 基 づ き 式 (45)及 び 式 (46)で 「 せ ん 断 耐 力 評 価 指 標
DV」 と 「 曲 げ 耐 力 評 価 指 標 DM」 を 定 義 す る 。
DV =
DM =
min( Vbu ,Vu )
QDS
2M u / L
QDS
(45)
(46)
D V < 1の 場 合 は , せ ん 断 破 壊 が 生 じ る と 判 断 し , D M < 1の 場 合 は , 曲 げ 破 壊 が 生 じ る と 判
断 す る 。腐 食 速 度 の ば ら つ き は 対 数 正 規 分 布( 変 動 係 数 は 50%)と 仮 定 し ,せ ん 断 耐 力 評 価
指 標 お よ び 曲 げ 耐 力 評 価 指 標 を 評 価 す る 。図 9に 示 す よ う に ,時 間 の 経 過 と と も に せ ん 断 耐
力 評 価 指 標 お よ び 曲 げ 耐 力 評 価 指 標 は 低 下 し て 限 界 値 ( =1) に 近 づ く 。 こ こ で , 評 価 指 標
の 分 布 は モ ン テ カ ル ロ 法( 試 行 回 数 1000回 )に よ り 鉄 筋 腐 食 量 を 乱 数 と し て 発 生 し て 求 め ,
そ の 分 布 の 一 部 が 限 界 値 以 下 に あ る 部 分 の 総 面 積 を 「 せ ん 断 破 壊 確 率 PM」 お よ び 「 曲 げ 破
壊 確 率 PV」 と 定 義 し て 算 出 す る 。
図 9 せん断 破 壊 確 率 の定 義 (曲 げ耐 力 の場 合 も同 じ)
1.3.1.5 層 破 壊 確 率
同 層 の 各 柱 の 破 壊 確 率 に 基 づ き ,重 み 付 け 平 均 法 で 層 破 壊 確 率 を 評 価 す る こ と と し た( 式
(47)) 。 柱 の 軸 方 向 耐 力 は 重 要 性 を 反 映 し , 同 層 の 各 柱 の 軸 方 向 耐 力 の 総 和 に 対 す る 比 率
を重み付け係数として定義する。
Pj =
N
N
∑
∑Qi
i =1
i =1
[( PVij + PMij ) × Qi j ] /
(47)
P j :j 階 の 層 破 壊 確 率 , PVij :j 階 の i 柱 の せ ん 断 破 壊 確 率 , PMij :j 階 の i 柱 の 曲 げ 破 壊 確 率 ,
Qi j : j 階 の i 柱 の 軸 方 向 耐 力 , N : 階 ご と に 柱 の 本 数
1.3.1.6 建 物 破 壊 確 率
一般の構造系は,破壊確率において概念的に直列系や並列系のシステムで表現すること
が で き る [23]。直 列 系 は ,ど れ か 1つ の 破 壊 が シ ス テ ム の 破 壊 と な る こ と か ら ,破 壊 確 率 の
和として表現される。また,並列系は全ての破壊が同時に生起する時,システムの破壊と
な る こ と か ら ,破 壊 確 率 の 積 事 象 で 表 現 さ れ る 。本 研 究 で は ,直 列 系 に 基 づ き ど れ か 1つ の
層破壊が建物の破壊につながると仮定して,下式のように建物破壊確率を評価できるもの
とした。
Pf = 1 −
M
∏(1− P j )
j =1
Pf : 建 物 破 壊 確 率 , M : 建 物 の 層 数
(48)
1.3.2 使 用 安 全 性 能 評 価
仕 上 げ 材 ま で も 含 め た 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 の 構 造 体 及 び 部 材 に お け る 使 用 安 全 性 は ,柱 ,
梁 及 び ス ラ ブ に お い て は ,小 中 地 震( 再 現 期 間 100年 の 地 震 動;定 常 ポ ア ソ ン 過 程 ,年 間 超
過 発 生 確 率 は 1.0%) に 於 い て も , コ ン ク リ ー ト 片 ま た は 仕 上 げ 材 が 剥 落 し な い こ と に よ っ
て保証されるものとした。そこで,使用安全性は,コンクリートの一体性またはコンクリ
ートと仕上げ材との一体性によって評価することとした。使用安全性を脅かすコンクリー
ト片または仕上げ材の剥離現象が生じる状況としては,鉄筋コンクリート造においては,
鉄筋の腐食膨張によるかぶりコンクリートのひび割れが進展・拡大してコンクリート片及
び仕上げ材の剥離に至る場合が想定される。
本研究では,コンクリートと仕上げ材との一体性を評価する手法がまだ確立されてない
ため,中性化速度係数或は塩分の見かけ拡散係数,かぶり厚さ及び鉄筋腐食速度の不確実
性 を 考 慮 し た 上 で ,剥 離 が 生 じ る ひ び 割 れ 幅 は 0.5mm〜 1.0mm( 均 等 分 布 )と 設 定 し ,式 (6)
及 び 式 (7)に よ り 剥 離 が 生 じ る 鉄 筋 腐 食 量 を 算 定 し ,モ ン テ カ ル ロ 法 で か ぶ り コ ン ク リ ー ト
の 「 剥 離 確 率 PS」 を 使 用 安 全 性 評 価 と し て 計 算 す る こ と と し た 。 つ ま り , 鉄 筋 腐 食 に よ る
かぶりコンクリートの剥離が生じた時,小中地震に伴うかぶりコンクリートの剥落も起き
ると考えられる。
1.4 劣 化 リスクの評 価
1.4.1 リスクの定 義
日頃よく使われる“リスク”あるいは“危険”という意味は,金融工学におけるよう
に ,利 得 ま た は 損 失 の 両 者 を 考 え ,そ れ ぞ れ が 生 じ る 可 能 性 の 大 き さ を 言 う こ と も あ れ ば ,
事 故 や 災 害 の 事 象 そ の も の を 示 す こ と も あ る 。例 え ば ,文 献 [.24]に よ り リ ス ク を 定 義 し た
ものには次のようなものがある。
① 心 理 学 の 分 野 で は ,事 故 や 災 害 な ど の 危 険 事 象 ,す な わ ち 損 失 そ の も の( peril)を 意
味している。(損失の原因)
②地震,台風,災害,交通事故といった危険事象を発生させる個別の事実やその集合
( hazard) を い う こ と も あ る 。 ( 危 険 な 状 態 )
③ 環 境 経 済 学 で は ,人 間 が 生 活 し て い く う え で ,不 合 格 な 状 況 が 生 じ る 可 能 性 の 大 き さ ,
す な わ ち , 損 失 の 発 生 確 率 ( probability of loss) と し て い る 。
④ 発 生 の 可 能 性 を 考 慮 せ ず , 単 に 損 失 ( consequence, loss) を 意 味 す る こ と も あ る 。
⑤経済学,特にファイナンス分野では,結果が期待値から乖離する大きさとして用いら
れる。
⑥発生確率が付与された損失とする。(広義リスク)
⑦ 損 失 の 発 生 確 率 と 損 失 と の 積 , す な わ ち 損 失 期 待 値 ( expected loss) と す る 。( 狹 義
リスク)
このような広義な定義方法とともに,建設分野を含め,工学分野においては,⑦と同
じ よ う な JIS Q 2001[25]を 踏 ま え た リ ス ク の 定 義 方 法 が 一 般 的 に は 使 わ れ て い る 。 こ れ に
よると,事態の発生確率とその結果の組み合わせと定義され,平易には将来における不確
かな損失,あるいは不利益とその発生確率の組み合わせと解釈する。これは損失,あるい
は不利益に伴う事態の発生という問題を事前に検討する場合には,想定される事態の発生
頻 度( frequency),あ る い は 確 率( probability)と 事 態 が 発 生 し た 場 合 の 結 果( consequence)
と い う 二 つ の 側 面 か ら , こ れ ら の 定 量 化 さ れ た 指 標 ( 式 (49)) を 天 秤 に か け て 意 思 決 定 者
は「リスク」をイメージするためである。
リ ス ク( R)= 損 失 の 発 生 確 率( P)× 損 失( C)
(49)
R は 期 待 値 で あ り ,そ れ は 平 均 値 の こ と で あ る か ら 一 般 に は な じ み が あ り ,こ の 値 を 用 い
てリスクの大きさを示す指標とすることは合理的である。このため,本研究では以上の定
義による損失期待値を用い,劣化リスクを評価することとした。
1.4.2 劣 化 リスクの評 価
建 築 物 に 対 す る 要 求 性 能 ( 表 2, 文 献 [6]) の う ち , 中 性 化 や 塩 害 な ど の 劣 化 に 伴 う コ ン
クリートのひび割れ・剥離・脆弱化,鉄筋の腐食などの現象との関係が,過去に定量的な
研究がなされてなく明確になっていないもの(美観性など),技術資料等に基づいても構
築しにくいもの(断熱性,遮音性など)については設計供用期間内の性能を予測あるいは
確保することは困難である。また,相当激しい劣化に至るまでは構造体及び部材の性能に
は関与しないと考えられるもの(耐火性,断熱性,遮音性など)については,他の性能の
低下が先行して生じるため,その性能の確保を目的として耐久設計や維持保全などを行う
ことが無意味である。このため,本研究では,構造安全性能及び使用安全性能を中心とし
て劣化リスクを下のように定義する。
劣化リスクの定義:「鉄筋コンクリート造建築物の構造安全性能・使用安全性能の観点
から材料劣化に伴う経済負担を対象とし,その発生確率と経済負担の組み合わせ」
表 2 建 築 物 における要 求 性 能
構造安全性
耐震性,耐風性,耐積雪性,耐火性など
日常安全性
使用安全性,対人・対物安全性
使用性
防 振 性 ,断 熱 性 ,遮 音 性 ,防 水 性 ,気 密 性 な ど
復旧可能性
修復性
視環境性
美観性
劣 化 予 測 結 果 に 基 づ い て 算 定 し た 「 建 物 破 壊 確 率 P f 」 と 「 剥 離 確 率 P S 」 , 再 現 期 間 500年
と 100年 の 地 震 動 の 年 間 超 過 確 率 ( v f と v s ) お よ び 地 震 に 伴 う 破 壊 ( 全 壊 と い う 意 味 ) に よ
る 損 失 コ ス ト C f と か ぶ り コ ン ク リ ー ト の 剥 落 に よ る 損 失 コ ス ト C s を 用 い , 式 (50)に よ り 設
計 供 用 期 間 の 劣 化 リ ス ク E を 算 定 す る 。た だ し ,損 失 発 生 時 の 損 失 額 も 現 在 価 値 に 換 算 し 評
価する。
T
1
E=
×( Cf × Pf × ν f + Cs × Ps × νs )dt
∫
t
0 (1+ k )
(50)
k=
(1+ i )
1
(1+ h )
(51)
T : 設 計 供 用 期 間 (年 ), i : 資 本 の 利 率 (%), h : 物 価 上 昇 率 (%), v f : 再 現 期 間 500年 の 地
震 動 の 年 間 超 過 確 率 (%), v s : 再 現 期 間 100年 の 地 震 動 の 年 間 超 過 確 率 (%), C f : 地 震 に 伴 う
破 壊 に よ る 損 失 コ ス ト , Cs: か ぶ り コ ン ク リ ー ト の 剥 落 に よ る 損 失 コ ス ト
損 失 コ ス ト の 設 定 は ,単 純 に 撤 去・再 建 費 用 の み を 考 慮 す れ ば よ い わ け で は な く ,施 設 ,
設備または建築物が使用できなくなったことによる営業損失,人的損失などを考慮する必
要があるが,こられを見積ることは極めて難しい。現状はこれを定量的に評価することが
因難であることから,本論文の解析には含めないこととする。したがって,既往の研究か
ら,建築物の用途により初期建築費用を基準金額として地震に伴う破壊および剥落による
損失コストを後述のように定める。
1.5 試 算 例 及 びまとめ
計 算 対 象 は ,12階 建 て RC造 建 築 物 ( ラ ー メ ン 構 造 )( 図 10)と し , 劣 化 予 測 に 必 要 な パ
ラ メ ー タ は 1階 ,6階 ,12階 の 側 柱 を 例 と し て 表 3の 通 り と し た 。劣 化 リ ス ク の 計 算 に 必 要 な
パ ラ メ ー タ を 表 4に 示 す 。 た だ し , 各 事 例 の 初 期 建 築 費 用 は 簡 便 に 計 算 す る た め , 1.0と 設
定する。
再 現 期 間 500年 と な る 地 震 荷 重 分 布 の 算 定 は ,応 答 ス ペ ク ト ル 法 に よ り 行 う 。本 研 究 で は ,
建築学会の「建築物荷重指針・同解説」に基づき加速度応答スペクトルを定め,固有振動
解 析 結 果 か ら 1次 か ら 3次 ま で の 固 有 周 期 と 固 有 モ ー ド を 用 い て , モ ー ダ ル 解 析 に よ り 地 震
荷 重 の 分 布 型 を 求 め る こ と と し た 。以 上 よ り ,本 試 算 例 は 再 現 期 間 500年 と な る 地 震 動 の 大
き さ を 代 表 す る 1階 に お け る 層 せ ん 断 係 数 が 0.25と な る よ う に 設 定 し ,静 的 非 線 形 解 析 を 用
いて各部材の応力(要求水準)を評価する。
本研究では,塩分侵入,中性化,複合劣化(中性化及び内存塩分,凍害及び塩分侵入,
凍害及び中性化)を劣化環境と仮想し,それぞれの評価条件及び結果を次のように表す。
なお,建物及び層毎の剥離確率を評価する時,前述の手法により柱,梁及び外壁ごとに部
材の剥離確率を計算し,各部材の露出面積の比率を重み付け係数として平均の剥離確率を
求めることとした。
8000mm
9000mm
8000mm
6000mm x 6
外側柱
図 10 基 準 階 伏 図
表 3 劣 化 予 測 に必 要 なパラメータ
1階
6階
12階
せ い D (cm)
95
95
90
幅 b (cm)
95
95
90
内 法 ス パ ン L (cm)
400
350
350
か ぶ り 厚 さ x (cm)
4.00
4.00
4.00
主 筋 の 直 径 d b (cm)
4.1
4.1
3.2
400
400
400
800
800
300
補 強 筋 比 pw
0.003
0.003
0.003
要 求 水 準 Q D S (kN)
1355
701
218
側柱の位置
主 筋 の 降 伏 強 度 σ y o (N/mm 2 )
2
補 強 筋 の 降 伏 強 度 σ w y o (N/mm )
*引 張 り 鉄 筋 比 は 約 2.5%
表 4 劣 化 リスク評 価 に必 要 な費 用 項 目
初 期 建 築 費 用 CI
1.00
地 震 に 伴 う 破 壊 ( 全 壊 と い う 意 味 ) に よ る 損 失 コ ス ト C f (×C I )
10.0
か ぶ り コ ン ク リ ー ト の 剥 落 に よ る 損 失 コ ス ト C s (×C I )
2.0
資 本 の 利 率 i (%)
3.0
物 価 上 昇 率 h (%)
1.0
1.5.1 塩 分 侵 入 事 例
本 章 で は , 表 面 塩 化 物 イ オ ン 量 を 3.0kg/m 3 と 仮 定 し , 幾 つ か の 事 例 の 分 析 条 件 を 表 5に 示
す。前述に提案した劣化リスク評価手法により,各事例の破壊確率,剥離確率,劣化リス
ク な ど を 図 11及 び 図 12の よ う に 表 す 。
結果により,階数が高くなるにつれて,各柱に作用するせん断荷重が小さくなるため,
同 じ 水 セ メ ン ト 比 の コ ン ク リ ー ト で も 層 破 壊 確 率 が 小 さ く な る と と も に , 各 事 例 と も 12階
の破壊確率がほとんどゼロになる。なお,仕上げ材がある事例は,同セメント比での仕上
げ材のない事例に比べて,鉄筋の腐食量が小さいが,供用期間の増大に伴い建物破壊確率
及び剥離確率が高くなり,同セメント比での仕上げ材のない事例と同じになっていくと見
られる。
水セメント比の減少に伴いコンクリートの塩分の見かけ拡散係数が小さくなり,塩分侵
入による鉄筋腐食量が減少することで建物破壊確率,平均剥離確率及び劣化リスクも低下
し て い く 。供 用 期 間 100年 で の 劣 化 リ ス ク の 結 果 を 見 る と ,水 セ メ ン ト 比 45%を 除 き ,初 期
建 築 費 用 の 約 0.5倍 に な る 。
図 13は 予 定 供 用 期 間 を 60年 及 び 100年 を 設 定 す る 場 合 , 3つ の 塩 害 環 境 に お け る 各 事 例 の
劣化リスクの内訳を示す。結果により,表面塩分イオン量に関わらず,水セメント比の増
加につれて,劣化リスクに対して破壊による損失の比率は高くなる傾向がある。なお,同
一 の 水 セ メ ン ト 比 で ,表 面 塩 化 物 イ オ ン 量 が 高 い ほ ど ,破 壊 に よ る 損 失 の 比 率 も 高 く な る 。
剥 落 に よ る 損 失 の 結 果 に は ,表 面 塩 化 物 イ オ ン 量 の 増 加 に つ れ て ,水 セ メ ン ト に 関 わ ら ず ,
ほぼ一定になる傾向がある。
表 5 各 事 例 の分 析 条 件 (塩 分 侵 入 )
仕上げ材
厚膜型
なし
なし
なし
N60_CL12F
N55_CL12F
N45_CL12F
CF60_CL12F
水 セ メ ン ト 比 (%)
60%
55%
45%
60%
仕 上 げ 材 の 厚 さ h (mm)
-
-
-
0.49
2.61
1.91
0.89
2.61
400
450
550
400
-
-
-
0.0038
-
-
-
15
種類
分析条件
エポキシ樹脂
コンクリート
塩分の見かけ拡散係数
2
D p (cm /年 )
コンクリートの圧縮強度
f c ’ (N/mm 2 )
仕上げ材
塩分の見かけ拡散係数
2
D s o (cm /年 )
仕 上 げ 材 の 耐 用 年 数 r t (年 )
1.5.2 中 性 化 事 例
中 性 化 の 劣 化 環 境 に 対 し て ,本 章 で は 水 セ メ ン ト 比 60%の 事 例 を 主 と し て 分 析 条 件 を 表 6
に 示 し ,仕 上 げ 材 の 種 類 は モ ル タ ル ,樹 脂 塗 膜 及 び タ イ ル と 設 定 さ れ る 。な お ,文 献 [6,8]
により,室外と室内との二酸化炭素濃度,湿度,温度,酸素濃度などの劣化環境条件が違
い原因でそれぞれの中性化速度係数及び鉄筋の腐食速度を設定することとし,室外におけ
る 鉄 筋 の 腐 食 速 度 は 1.3.2と 同 じ よ う に 設 定 さ れ , 室 内 に お け る の は 室 外 の 三 分 の 一 に さ れ
る 。 各 事 例 の 破 壊 確 率 , 剥 離 確 率 , 劣 化 リ ス ク な ど を 図 14及 び 図 15の よ う に 表 す 。
表 6 各 事 例 の分 析 条 件 (中 性 化 )
仕上げ材
なし
モルタル
樹脂塗膜
タイル
N60_Cb12F
M60_Cb12F
C60_Cb12F
T60_Cb12F
60
60
60
60
400
400
400
400
仕 上 げ 材 の 厚 さ h (mm)
-
20
0.10
-
中性化抑制効果の係数S
-
-
-
0.5
等 価 か ぶ り 厚 さ M e q (mm)
-
16
-
-
仕 上 げ 材 の 耐 用 年 数 r t (年 )
-
-
15
-
種類
分析条件
水 セ メ ン ト 比 (%)
コンクリートの圧縮強度
f c ’ (N/mm 2 )
中 性 化 速 度 係 数 A (mm/(年 )
0.5
): 7.57(室 内 ); 3.80(室 外 )
結果により,塩分侵入と同じように階数が高くなるにつれ,各柱に作用するせん断荷重
が 小 さ く な る た め ,同 じ 水 セ メ ン ト 比 の コ ン ク リ ー ト は 層 破 壊 確 率 が 小 さ く な る と と も に ,
各 事 例 と も 12階 の 破 壊 確 率 が ほ と ん ど ゼ ロ に な る 。な お ,各 事 例 と も 建 物 破 壊 確 率 と 1階 の
層 破 壊 確 率 と の 差 が 小 さ い た め ,劣 化 に 伴 う 損 失 は 1階 の 劣 化 状 況 で 支 配 さ れ る と 考 え ら れ
る 。 供 用 期 間 100年 で の 劣 化 リ ス ク の 結 果 に よ る と , 全 部 の 事 例 は 初 期 建 築 費 用 の 約 0.1倍
以下になるが,タイルのケースはほとんどゼロになる。
100
N60_CL12F(1F)
N60_CL12F(6F)
N60_CL12F(12F)
N60_CL12F(Building)
80
Failure Probability
of Structure Safety (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
60
40
20
0
N55_CL12F(1F)
N55_CL12F(6F)
N55_CL12F(12F)
N55_CL12F(Building)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
a. 水 セメント比 60%,仕 上 げ材 なし
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
b. 水 セメント比 55%,仕 上 げ材 なし
100
100
N45_CL12F(1F)
N45_CL12F(6F)
N45_CL12F(12F)
N45_CL12F(Building)
80
Failure Probability
of Structure Safety (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
60
40
20
0
CF60_CL12F(1F)
CF60_CL12F(6F)
CF60_CL12F(12F)
CF60_CL12F(Building)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
100
0
Specified Service Period (year)
20
40
60
80
100
Specified Service Period (year)
c. 水 セメント比 45%,仕 上 げ材 なし
d. 水 セメント比 60%,柔 軟 型 エポキシ樹 脂
図 11 12 階 建 てビルの層 破 壊 確 率 及 び建 物 破 壊 確 率 (塩 分 侵 入 事 例 )
100
N60_CL12F
N55_CL12F
N45_CL12F
CF60_CL12F
16
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
20
12
8
4
N60_CL12F
N55_CL12F
N45_CL12F
CT60_CL12F
80
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period(year)
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period(year)
b. 平 均 剥 離 確 率
100
1
N60_CL12F
N55_CL12F
N45_CL12F
CF60_CL12F
80
Deterioration Risk ( xCI)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
60
40
20
0
N60_CL12F
N55_CL12F
N45_CL12F
CT60_CL12F
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
20
40
60
80
100
0
Specified Service Period(year)
20
40
60
80
Specified Service Period(%)
c. 建 物 破 壊 確 率
d. 劣 化 リスク
図 12 12 階 建 てビルの平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と劣 化 リスク(塩 分 侵 入 事 例 )
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
2
3
4
a. 表 面 塩 化 物 イオン量 3.0kg/m 3
5
6
100
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
2
3
4
5
6
b. 表 面 塩 化 物 イオン量 6.0kg/m 3
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
2
3
4
c. 表 面 塩 化 物 イオン量 9.0kg/m 3
図 13 劣 化 リスクの内 訳
5
6
100
N60_Cb12F(1F)
N60_Cb12F(6F)
N60_Cb12F(12F)
N60_Cb12F(Building)
80
Failure Probability
of Structure Safety (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
60
40
20
0
M60_Cb12F(1F)
M60_Cb12F(6F)
M60_Cb12F(12F)
M60_Cb12F(Building)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
100
0
Specified Service Period (year)
20
a. 仕 上 げ材 なし
100
C60_Cb12F(1F)
C60_Cb12F(6F)
C60_Cb12F(12F)
C60_Cb12F(Building)
80
60
80
100
b. モルタル
Failure Probability
of Structure Safety (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
40
Specified Service Period (year)
60
40
20
0
T60_Cb12F(1F)
T60_Cb12F(6F)
T60_Cb12F(12F)
T60_Cb12F(Building)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 樹 脂 塗 膜
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
d. タイル
図 14 12 階 建 てビルの層 破 壊 確 率 及 び建 物 破 壊 確 率 (中 性 化 事 例 )
100
100
N60_Cb12F
M60_Cb12F
C60_Cb12F
T60_Cb12F
16
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
20
12
8
4
N60_Cb12F
M60_Cb12F
C60_Cb12F
T60_Cb12F
80
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
0
100
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
1
N60_Cb12F
M60_Cb12F
C60_Cb12F
T60_Cb12F
Deterioration Risk ( xCI)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
40
60
80
100
b. 平 均 剥 離 確 率
100
80
20
Specified Service Period(year)
Specified Service Period(year)
60
40
20
N60_Cb12F
M60_Cb12F
C60_Cb12F
T60_Cb12F
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period(year)
100
0
20
40
c. 建 物 破 壊 確 率
d. 劣 化 リスク
図 15 12 階 建 てビルの平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と劣 化 リスク(中 性 化 事 例 )
1.5.3 複 合 劣 化 事 例
60
80
Specified Service Period(%)
100
複 合 の 劣 化 環 境 に お け る 分 析 条 件 は 表 7の よ う に 仮 定 さ れ た 。前 述 に 提 案 し た 複 合 劣 化 の
評 価 手 法 に 基 づ き 各 事 例 の 破 壊 確 率 , 剥 離 確 率 , 劣 化 リ ス ク な ど を 図 16及 び 図 17の よ う に
表す。
表 7 各 事 例 の分 析 条 件 (複 合 劣 化 )
複合劣化
中性化
凍害
凍害
種類
塩分内存
塩分侵入
中性化
N60_BCC12F
N60_BFC12F
N60_BFN12F
60
60
60
400
400
400
1.5
0
0
0
3.0
0
7.57
-
7.57
3.8
-
3.8
-
25
25
目 標 空 気 量 に よ る 係 数 AIR
-
1.0
1.0
水 セ メ ン ト 比 に よ る 係 数 WC
-
1.0
1.0
粗骨材吸水率による係数Q
-
1.0
1.0
分析条件
水 セ メ ン ト 比 (%)
コンクリートの圧縮強度
f c ’ (N/mm 2 )
塩 分 内 存 C i n i t (kg/m 3 )
3
表 面 塩 分 イ オ ン 量 C o (kg/m )
中 性 化 速 度 係 数 (室 内 )
A (mm/(年 ) 0 . 5 )
中 性 化 速 度 係 数 (室 外 )
A (mm/(年 ) 0 . 5 )
年 間 の ASTM相 当 サ イ ク ル 数
C e q (サ イ ク ル /年 )
凍害及び塩分侵入の複合劣化と塩分侵入だけの単独劣化との結果を比較すると,凍害の
原因で時間を経て塩分の見かけ拡散係数が高くなるが,両方での鉄筋腐食が同じの時間で
発生したため,劣化リスクもほぼ同じだと判明する。凍害及び中性化の複合劣化の結果を
見ると,凍害の原因で中性化だけの単独劣化より鉄筋の腐食が早めに発生したが,両方で
の腐食量の差が少ないため,劣化リスクの差も少ないと考えられる。
中性化を考慮した各事例の結果を比べると,複合劣化機構を考慮した事例は鉄筋の腐食
量 が 多 く , 特 に 塩 分 内 存 の 場 合 は , 最 外 側 に お け る 鉄 筋 の 平 均 重 量 減 少 率 が 15%以 上 に 達
し , 中 性 化 の み の 事 例 の 約 5倍 に な る 。 な お , 再 現 期 間 500年 地 震 動 下 の 破 壊 確 率 の 結 果 を
見 る と ,供 用 期 間 60年 以 降 ほ ぼ 100%に 上 る 。こ の こ と は ,塩 分 内 存 の 時 ,建 設 直 後 に 鉄 筋
の腐食が全面的に発生したためである。
100年 及 び 60年 の 供 用 期 間 に お け る 劣 化 リ ス ク の 内 訳 は 図 18の よ う に な る 。予 定 供 用 期 間
を 100年 と 設 定 す る 場 合 ,凍 害 を 考 慮 し た 複 合 機 構 は 単 独 機 構 に 比 べ て 劣 化 リ ス ク が ほ ぼ 同
じ だ と 見 ら れ る が ,塩 分 内 存 の 事 例 に は ,劣 化 リ ス ク が 初 期 建 築 費 用 の 約 1.0倍 に な り ,中
性 化 だ け の 劣 化 リ ス ク の 10倍 に な る こ と が わ か る 。
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
N60_BCC12F(1F)
N60_BCC12F(6F)
N60_BCC12F(12F)
N60_BCC12F(Building)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
100
Specified Service Period (year)
中 性 化 及 び塩 分 内 存
100
N60_BFC12F(1F)
N60_BFC12F(6F)
N60_BFC12F(12F)
N60_BFC12F(Building)
80
Failure Probability
of Structure Safety (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
60
40
20
0
N60_BFN12F(1F)
N60_BFN12F(6F)
N60_BFN12F(12F)
N60_BFN12F(Building)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
b. 凍 害 及 び塩 分 侵 入
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 凍 害 及 び中 性 化
図 16 12 階 建 てビルの層 破 壊 確 率 及 び建 物 破 壊 確 率 (複 合 劣 化 事 例 )
100
100
N60_CL12F
N60_Cb12F
N60_BCC12F
N60_BFC12F
N60_BFN12F
16
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
20
12
8
4
0
N60_CL12F
N60_Cb12F
N60_BCC12F
N60_BFC12F
N60_BFN12F
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
100
0
Specified Service Period(year)
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
1
Deterioration Risk ( xCI)
N60_CL12F
N60_Cb12F
N60_BCC12F
N60_BFC12F
N60_BFN12F
80
40
60
80
100
b. 平 均 剥 離 確 率
100
Failure Probability
of Structure Safety (%)
20
Specified Service Period(year)
60
40
20
0
N60_CL12F
N60_Cb12F
N60_BCC12F
N60_BFC12F
N60_BFN12F
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period(year)
c. 建 物 破 壊 確 率
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period(%)
d. 劣 化 リスク
図 17 12 階 建 てビルの平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と劣 化 リスク(複 合 劣 化 事 例 )
100
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
2
3
4
5
a. 予 定 供 用 期 間 60 年
1.0
建物の破壊による損失
0.8
かぶりコンクリートの剥落
による損失
0.6
0.4
0.2
0.0
1
N60_Cl12F
2
N60_Cb12F
3
4
5
N60_BCC12F
N60_BFC12F
N60_BFN12F
b. 予 定 供 用 期 間 100 年
図 18
劣化リスクの内訳
1.5.4 本 章 のまとめ
本章では,塩害,中性化及び複合劣化(中性化及び内存塩分,凍害及び塩分侵入,凍害
及 び 中 性 化 )の 劣 化 リ ス ク 評 価 の 構 築 手 法 を 提 案 し た 。RC造 建 築 物 に お け る 劣 化 リ ス ク に
は , 再 現 期 間 500年 の 地 震 動 に 伴 う 破 壊 に よ る 損 失 コ ス ト ( 構 造 安 全 性 能 評 価 ) の ほ か に ,
再 現 期 間 100年 の 地 震 動 に 伴 う か ぶ り コ ン ク リ ー ト の 剥 落 に よ る 損 失 コ ス ト( 使 用 安 全 性 評
価)も含まれる。試算例と同じように各劣化環境に伴うリスクを評価し,各劣化リスクの
構成をもとに予防保全視点に基づく水セメント比或は仕上げ材の選択することが可能だと
い え る 。さ ら に ,提 案 し た 手 法 に よ り ,RC造 建 築 物 を 対 象 と し て 単 独 劣 化 と な る 塩 分 侵 入
或は中性化に伴う損失を定量することができるだけではなく,中性化及び塩分内存などの
複合劣化も考えられる。将来,様々な仕上げ材における劣化因子遮断機構及び経年劣化モ
デルを劣化リスクの評価手法に取り入れ,より現実に合う現象を模擬することが可能だと
考えられる。
2.
RC 造 建 築 物 ・部 材 の限 界 状 態 および耐 用 年 数 に関 する研 究
2.1 始 めに
建築物における維持保全活動を計画する前に,まず耐用年数あるいは限界状態を評価す
る 。建 築 物 の 耐 用 年 数 に は ,法 的 耐 用 年 数 ,物 理 的 耐 用 年 数 ,社 会 的 耐 用 年 数 な ど が あ る 。
このことは,建築物が解体されて除却されるまでの耐用年数は,各種の原因があり,必ず
しも物理的耐用年数だけで決まるわけではないことを意味する。しかし,以前に比べて,
RC造 建 築 物 の 早 期 劣 化 状 況 に 関 心 が 高 ま る こ と で , そ の 耐 用 年 数 が , 物 理 的 耐 用 年 数 に 基
づ く も の が 多 く な っ て き た [34]。 こ の た め , 本 研 究 で は 物 理 的 耐 用 年 数 を RC造 建 築 物 ・ 部
材の耐用年数と定義した。
近年,鉄筋コンクリート造建築物の耐用年数の評価規準としては,中性化寿命説(ある
いは塩分侵入量),鉄筋の腐食確率に関するひびわれ寿命説及び構造耐力低下寿命説の三
つがある。いずれも確率的手法により環境条件やコンクリートの品質などのばらつきを考
慮し,既往の実態調査に基づき限界量を要求機能・性能に合うように設定して耐用年数を
予測する。鉄筋腐食確率は部材のひび割れと構造耐力低下との関係があるが,要求機能・
性能に基づき明確的な評価手法が必要だと思う。このため,本章では,信頼性理論により
1.3に 示 す 構 造 安 全 性 能 及 び 使 用 安 全 性 能 の 限 界 状 態 を 考 慮 し て RC造 建 築 物・部 材 の 耐 用 年
数の予測手法を提案することとした。なお,鉄筋コンクリート造建築物の耐久設計施工指
針に提案された性能設計法により維持保全限界状態及び設計限界状態は予防保全の視点及
び鉄筋の腐食確率という概念に基づき定義されたが,使用安全性能および構造安全性能に
対して鉄筋の腐食確率より明確的な評価指標を用い,予防保全のみならず性能限界の視点
も 包 含 す る 考 え で RC造 建 築 物 ・ 部 材 の ラ イ フ サ イ ク ル を 定 め る こ と が 必 要 だ と 思 う 。
既存建築物の維持保全および耐用年数予測は,新築の建築物と違い,劣化に関わるデー
タが予測値だけではなくて,現時点で得られた点検資料や調査資料などもある。既存建築
物を対象として詳細な調査により得られた中性化深さ,侵入塩分量あるいは鉄筋腐食量が
それまでの予測値と異なることになった場合,それまでの予測を更新する必要がある
[35,36]。 こ の た め , 本 章 で は ベ イ ズ 法 ( Bayesian Method) に よ り 詳 細 調 査 の 結 果 を 用 い
て予測値を更新し,さらに更新した資料に基づいて先の将来予測(中性化深さ,塩分侵入
量,鉄筋腐食量など)を行い,耐用年数および限界状態を再評価する方法を提案すること
とした。
最後,部材を対象とする試算例で提案した手法の適当性を検証する。
2.2 使 用 安 全 性 能 及 び構 造 安 全 性 能 の限 界 状 態 に基 づく耐 用 年 数
2.2.1 使 用 安 全 性 能 の限 界 状 態 に基 づく耐 用 年 数
新築の場合,第三章に提案した各劣化モデルに基づき梁および柱部材の鉄筋腐食量を評
価するうえで,かぶりコンクリートの剥離が生じる鉄筋腐食量を設定し,使用安全性能に
関 す る 信 頼 性 関 数 Z S は 式 (52)の よ う に 定 義 し た 。 た だ し , 既 存 の 建 物 に 対 し て 前 述 の 手 法
と 同 様 に 評 価 す る ほ か ,2.3の 提 案 に よ り 詳 細 調 査 に よ る 劣 化 度 の 判 定 を 用 い 鉄 筋 腐 食 量 の
予測値を修正することもすべきだと考えられる。
ZS =
Rlim
−1
r( t )
( 52)
μZ S =
μlim
−1
μr ( t )
σ Z S = ( σ R2lim (
( 53)
1
μr
)2 + (ν r μ r )2 (
μ Rlim
μr2
)2 )0.5
( 54)
信 頼 性 関 数 Z S の 平 均 値 μ Z S 及 び 標 準 偏 差 σ Z S は FORM法 で 式 (53)及 び 式 (54)の よ う に 表 さ
れ る 。 使 用 安 全 性 能 に お け る 故 障 確 率 P Sf は , 対 数 正 規 分 布 を 仮 定 す れ ば , 式 (55)の よ う に
な る 。 本 研 究 で は , 使 用 安 全 性 能 の 限 界 状 態 に 基 づ く 耐 用 年 数 T S は P S f が 0.10( 片 側 非 超 過
確 率 , P[X≦ μ -1σ ] ) を 上 回 る 時 点 と 定 義 し た 。
PSf = P [ Z S ≤ 0 ] = 1 - Φ( β Z S ) , βZ S ( μZ S , σ Z S
⎛
⎞
⎜
⎟
⎜
⎟
μZ S
⎟
ln⎜
⎜
σZS 2 ⎟
) ⎟
⎜ 1+ (
⎜
⎟
μZ S
⎝
⎠
)=
σZS 2
ln[( 1 + (
) )]
μZ S
PSf ( TS ) = P [ Z S ≤ 0 ] = 0.10( 10%)
( 55)
( 56)
2.2.2 構 造 安 全 性 能 の限 界 状 態 に基 づく耐 用 年 数
構造安全性能について,前述と同じように梁および柱部材の鉄筋腐食量を評価するうえ
で ,第 三 章 に 基 づ き 部 材 の せ ん 断 耐 力 及 び 曲 げ 耐 力 を 評 価 し ,再 現 期 間 500年 の 地 震 動 に 対
応 す る せ ん 断 力 を 設 定 し ,各 破 壊 モ ー ド( 付 着 破 壊 ,補 強 筋 の 降 伏 破 壊 ,主 筋 の 降 伏 破 壊 )
に 関 す る 信 頼 性 関 数 Z V B , Z V F , Z M F は 下 式 の よ う に 定 義 し た 。ま た ,そ れ ぞ れ の 平 均 値 及 び 標
準 偏 差 も FORM法 を 用 い 式 (60)〜 式 (63)の よ う に 表 さ れ る 。
付 着 破 壊 の 信 頼 性 関 数 : ZVB ( t ) =
Vt ( t ) + Va ( t )
−1
QDS
Vu ( t )
−1
Q DS
( 58)
2M u ( t )
−1
Q DS × L
( 59)
補 強 筋 の 降 伏 破 壊 の 信 頼 性 関 数 : Z VF ( t ) =
主 筋 の 降 伏 破 壊 の 信 頼 性 関 数 : Z MF ( t ) =
μ ZVB ( t ) =
μVt ( t ) + μVa ( t )
Q DS
, μZVF ( t ) =
μVu ( t )
QDS
( 57)
, μZ MF ( t ) =
2 μM u ( t )
QDS × L
σ ZVB ( t ) = (( νr μr )2 ( μBZVB − ( νσ B × tan θ × bD / 2 ) / QDS )2 ( −6.07 )2 )0.5
σ ZVF ( t ) = (( νr μr )2 ( −2.17 )2 (( μBZVF − ( νσ B × tan θ × bD / 2 ) / QDS ) /( 1 − 2.17 r ))2 )0.5
( 60)
( 61)
( 62)
σ Z MF ( t ) = (( νr μr )2 ( −2.17 )2 ( μBZ MF /( 1 − 2.17 r ))2 )0.5
( 63)
各破壊モードの発生確率は対数正規分布を仮定すれば,下式のようになる。
付 着 破 壊 の 発 生 確 率 : PBf = P [ Z VB ≤ 0 ] = 1 − Φ( β ZVB ), β ZVB ( μ ZVB , σ ZVB )
( 64)
補 強 筋 の 降 伏 の 発 生 確 率: PVf = P [ Z VF ≤ 0 ] = 1 − Φ( β ZVF ), β ZVF ( μ ZVF , σ ZVF )
( 65)
主 筋 の 降 伏 破 壊 の 発 生 確 率: PMf = P [ Z MF ≤ 0 ] = 1 − Φ( β Z MF ), β Z MF ( μ Z MF , σ Z MF )
( 66)
本 研 究 で は , 各 破 壊 モ ー ド が 独 立 と 仮 定 し 直 列 構 造 系 の 破 壊 の 概 念 ( 式 (67)) を も ち い
て 再 現 期 間 500年 地 震 動 下 の 構 造 安 全 性 能 に お け る 故 障 確 率 P E f を 式 (68)の よ う に 評 価 す る 。
PES ( t ) = ( 1 − PBf ( t )) × ( 1 − PVf ( t )) × ( 1 − PMf ( t ))
( 67)
PEf ( t ) = 1 − PES ( t )
( 68)
ある期間内に大地震が発生する確率を考えると,これの確率は期間長さの関数であり,
長い期間を考えるほど安全の確率は低くなり,危険の確率は大きくなる。このため,構造
安 全 性 能 の 限 界 状 態 に 基 づ く 耐 用 年 数 を 評 価 す る 場 合 に は ,再 現 期 間 500年 地 震 動 の 年 間 超
過 確 率 も 考 慮 す る こ と が 必 要 で , 単 位 時 間 内 に 破 壊 の 発 生 す る 確 率 と な る 破 壊 率 ( Hazard
rate, あ る い は Hazard function) ( 式 (70)) を 用 い て 期 間 t 内 に 破 壊 が 生 じ な い 確 率 R(t)
( 生 存 確 率 , Reliability function of structure safety performance) [37]を 下 式 の よ
うに表す。
R( t ) = P [ T > t ] = 1 - P [ T ≤ t ] = 1 - F ( t )
( 69)
λ( t ) =
[
]
dR ( t ) / dt
f (t )
== - ln R ( t )
1 - F( t )
R (t )
( 70)
t
R ( t ) = exp( - ∫ λ( t )dt ) = P [ 時間( 0 ,t)内で非破壊 ]
0
( 71)
T:破 壊 が 生 じ る ま で の 時 間( 確 率 変 数 );F(t):不 信 頼 関 数;意 味 は 時 間 t内 で 破 壊; λ( t ) × dt :
時 間 t 内 に 破 壊 が 生 じ な い と い う 条 件 の も と で ,( t,t+dt) の dt 時 間 内 に 破 壊・損 傷 が 生 じ る 確
率 で あ る 。 λ( t ) は 単 位 時 間 内 に 破 壊 の 発 生 す る 確 率 で , 破 壊 率 と よ ば れ る
以 上 よ り ,本 研 究 で は ,500年 地 震 動 の 年 間 超 過 確 率 λ f を 考 慮 し 期 間 t 内 に 構 造 安 全 性 能
の 故 障 が 生 じ な い 確 率 R F ( 生 存 確 率 , Reliability function of structure safety
performance)は 式 (73)で 表 さ れ る 。な お ,本 研 究 で は ,構 造 安 全 性 能 の 限 界 状 態 に 関 す る
耐 用 年 数 は R F が 0.999( 破 壊 確 率 は 10 - 3 ( 片 側 非 超 過 確 率 , P[X≦ μ -3σ ] ) ) を 下 回 る 時 点
と 定 義 し た 。 つ ま り , 耐 用 年 数 T f ( 式 (74)) に は , 劣 化 に 伴 う 構 造 耐 力 低 下 を 生 じ る に も
か か わ ら ず , 再 現 期 間 500年 地 震 動 に よ る 崩 壊 を 配 慮 す る こ と が な い と 考 え ら れ る 。
λ( t ) = PEf ( t ) × λ f ( t )
( 72)
t
RF ( t ) = exp( - ∫ (PEf ( t ) × λ f ( t ) )dt
0
(
7
3
)
7
4
)
R F ( T f ) = 0.999(99.9%)
(
2.2.3 設 計 限 界 状 態 及 び維 持 保 全 限 界 状 態
鉄筋コンクリート造建築物の耐久設計施工指針により,設計限界状態は要求性能に対し
て,建築物及び部材の性能のそれ以上の低下を許容しえない限界状態とし,維持保全限界
状態は,要求性能に対して,建築物及び部材の性能がそれ以上低下すると維持保全が困難
になると考えられる限界状態として定義された。指針には構造安全性や使用性や修復性な
どの様々な要求性能が含まれているが,コンクリート中の鉄筋は,一般に最外側鉄筋から
腐食し始めるので,使用安全性(コンクリートまたは仕上げ材に浮き・剥離によって評価
する)に関する維持保全限界状態に先ず達し,ついで使用安全性に関する設計限界状態及
び構造安全性(鉄筋の腐食に伴う耐力低下を評価する)に関する維持保全限界状態がくる
と考えられる。以上の観点により中性化となる劣化原因に対して維持保全限界状態はコン
クリートにひび割れが発生することを未然に防止する考えで「中性化深さがいずれかの鉄
筋表面を腐食させる位置に達した時」と,設計限界状態は構造安全性が低下することを未
然 に 防 止 す る 考 え で「 最 外 側 鉄 筋 の 腐 食 確 率 が 20%に 達 し た 時 」と い う 性 能 検 証 型 一 般 設 計
法は指針に記載された。塩分侵入にも同じ考えで提案された。
前述の性能設計法にある限界状態とも予防保全の視点及び鉄筋の腐食確率という概念に
基づき定義されたが,使用安全性能および構造安全性能を鉄筋の腐食確率より明確的な評
価 指 標 に よ り 評 価 し , 予 防 保 全 の み な ら ず 性 能 限 界 の 視 点 も 包 含 す る 考 え で RC造 部 材 の ラ
イ フ サ イ ク ル( 限 界 状 態 )を 定 め る こ と が 必 要 だ と 思 う [38,39]。こ の た め ,本 研 究 で は「 使
用 安 全 性 能 の 故 障 が 生 じ る 時 点( 使 用 安 全 性 能 の 限 界 状 態 )」が「 維 持 保 全 限 界 状 態 」と ,
「構造安全性能の故障が生じる時点(構造安全性能の限界状態)」が「設計限界状態」と
設 定 す る 。 2.2.1, 2.2.2に 示 す 使 用 安 全 性 能 及 び 構 造 安 全 性 能 に お け る 信 頼 性 評 価 手 法 に
よ り ,RC造 部 材 の 設 計 限 界 状 態 及 び 維 持 保 全 限 界 状 態 を 図 19の よ う に 設 定 す る こ と と し た 。
つ ま り , 使 用 安 全 性 能 の 限 界 状 態 に 基 づ く 耐 用 年 数 ( 式 (56)) は 維 持 保 全 限 界 状 態 と , 構
造 安 全 性 能 の 限 界 状 態 に 基 づ く 耐 用 年 数( 式 (74)は 設 計 限 界 状 態 と 定 義 さ れ る 。な お ,最
外側鉄筋の腐食し始める時点は予防保全という維持保全と考えられる。
建築物を対象とする場合には,各柱部材の構造安全性能における故障確率に基づき,
1.3.1.5及 び 1.3.1.6の 方 法 に よ り 建 物 故 障 確 率 を 計 算 し , 前 述 と 同 じ よ う に 構 造 安 全 性 能
における耐用年数及び設計限界状態を評価する。なお,各部材の使用安全性能における故
障確率及び露出面積の比率に基づき,重み付け平均法により建築物の使用安全性能を評価
し,耐用年数及び維持保全限界状態を定める。
図 19 RC 造 建 築 物 ・部 材 の耐 用 年 数 及 び限 界 状 態
2.3 既 存 建 築 物 における劣 化 予 測 の修 正
2.3.1 ベ イ ズ 法 の 紹 介
ベイズ法では,分布の未知パラメータも確率変数と仮定(あるいはモデル化)される。
このようにして,パラメータ推定に関するあらゆる不確定性の源を(全確率の定理によっ
て)形式上統合することができる。この方法によれば,直観や経験など(事前情報)に基
づく主観的判断を,ベイズ法により観測データに組み入れることができ,バランスのとれ
た 可 能 と な る 。 既 往 の 研 究 [40,41,42]に よ り , ベ イ ズ の 方 法 は 判 断 に 強 い 根 拠 が あ る 場 合
には特に有用である。
ベイズ法では,観測可能な変数(観測データ)と未知パラメータの間には基本的差異は
なく,全て確率変数であると考える。観測データεをとり,未知パラメータθをとり,さ
ら に 事 前 確 率 を f ' ( θi ) ,事 後 確 率 を f " ( θ i ε ) ,観 測 デ ー タ の 確 率 分 布 を f ( ε θ i ) と 表 す と ,θ
の事後確率は下式のようになる。
f " ( θi ε ) =
f ' ( θi ) f ( ε θi )
∑j f ' ( θi ) f ( ε θi )
( 75)
f "( θ ε ) =
f '( θ ) f ( ε θ )
∫Θ
( 76)
( f ' ( θ ) f ( ε θ ))dθ
θ が 連 続 的 な ら , 和 を 積 分 に か え , 式 (76)と な る 。 こ こ に Θ は , 可 能 の 値 の 集 合 で , 母
数 空 間( Parameter space)と 呼 ば れ る 。こ れ ら f ' ( θ ) , f " ( θ ε ) を θ の 確 率 分 布 と し て 見 て ,
事 前 確 率 分 布 , 事 後 確 率 分 布 と い う 。 f ' , f " 及 び 尤 度 関 数 f ( ε θ ) ( Likelihood function)
の 関 係 と し て , 簡 単 に 式 (77)と 書 く こ と が で き る 。
f "( θ ε )∝ f '( θ )• f ( ε θ )
( 77)
∞
f " ( θ ε ) = kf ' ( θ )L( θ ) , k = [
∫ L( θ ) f
'
( θ )dθ ] − 1
( 78)
−∞
尤 度 関 数 f ( ε θ ) と い う の は ,パ ラ メ ー タ θ の と き に ,観 測 結 果 ε が 得 ら れ る 条 件 付 確 率 ,
あ る い は 確 か ら し さ を 表 し ,即 ち θ の 関 数 で あ り ,一 般 的 に は L( θ ) と 書 く 。式 (76)の 分 母
はθに独立で, f " (θ ε ) に確率密度関数として適切な性質を持たせる正規化のための係数に
過 ぎ な い 。 し た が っ て , 式 (76)は , 式 (78)に も 表 さ れ る 。
一 般 に , θ の 期 待 値 が パ ラ メ ー タ の 点 推 定 量 ( ベ イ ズ 推 定 量 , Bayesian estimator) と
して用いられる。従って,観測されたデータεに照らしたパラメータθの更新された推定
値は次のようになる。
θ̂ " = E( θ ε ) =
∫( θ × f
"
( θ ))dθ
( 79)
Θ
一 般 に , 尤 度 関 数 L( θ ) に 対 し て , f ' ( θ ) と f " ( θ ε ) が 同 一 種 類 の 分 布 族 に 属 す る な ら ば ,
観 測 デ ー タ ε は 単 に 同 一 分 布 族 内 の 変 換 を 引 き 起 こ す だ け で あ る 。こ の 時 , f ' , f " の 分 布
族 を f の 自 然 な 共 役 分 布 の 族 ( Natural conjugate family) と い う 。 例 え ば , 正 規 分 布 の
自然な共役分布も正規分布である。
2.3.2 鉄 筋 腐 食 量 の修 正
既存建築物に対して劣化状況及び進行を把握する必要な資料を得るために詳細調査を行
う こ と は 一 般 的 で あ る 。 RC造 建 築 物 の 詳 細 調 査 は , 建 物 概 要 調 査 及 び 外 観 目 視 調 査 の 結 果
というもので,劣化の原因が鉄筋腐食によると推定される場合或いはその劣化によって鉄
筋腐食が引き起こされると予測される場合に,劣化度を判定して劣化原因を特定すること
で,現地調査及び採取資料の分析調査も含む。なお,調査結果に基づき補修・補強の要否
の判定ならびに補修・補強工法の選定を実施する。
本研究では,詳細調査の結果や設計図書や公的機関などで提供される情報を用い前述の
予測方法で劣化に伴う腐食量の確率分布を推測し,ベイズ法により腐食状態の推測値(腐
食 量 の 確 率 分 布 )と 詳 細 調 査 か ら の 劣 化 度 に よ る 腐 食 状 態 を 整 合 す る こ と と し た( 図 20)。
また,更新した腐食量の確率分布に基づき,腐食速度を修正し調査時点以降の劣化進行を
予測する。
図 20 鉄 筋 腐 食 量 の修 正 フロー
2.3.2.1 事 前 分 布
本研究では,劣化した部材に対して前述の予測方法により得られる腐食量の確率分布を
ベ イ ズ 法 の 事 前 分 布 と し て 設 定 す る こ と と し た 。つ ま り ,事 前 分 布 は 変 動 係 数 50%の 対 数 正
規分布というものである。なお,腐食量の平均値がゼロと予測される時,文献により事前
情 報 が な い 場 合 と 同 じ よ う に あ い ま い な 事 前 分 布 ( Diffuse prior) を 仮 定 し た 。
2.3.2.2 劣 化 度 の 判 定
文 献 に よ り , 劣 化 度 の 判 定 は 表 8と 表 9の よ う に 外 観 の 劣 化 症 状 と 鉄 筋 の 腐 食 状 況 と の 二
つ の 側 面 か ら 行 う 。し か し ,こ の 両 者 に よ る 判 定 の 結 果 は 必 ず し も 一 致 す る と は 限 ら な い 。
通常の場合は,外観の劣化症状が重度であれば鉄筋の腐食状況も重度であることが多い。
逆に鉄筋の腐食状況が重度であっても,外観の劣化症状はそれほど進行していないことが
ある。特に,仕上げ材が施されている場合は,その傾向がみられる。劣化度の判定で,外
観の劣化症状と鉄筋の腐食状況とによる判定が一致しない場合,より厳しく評価された方
の劣化度に従わねばならない。また,柱や梁では,一つの部材で複数箇所ではつり調査を
している場合は,もっとも劣化度の厳しいものをその部材の劣化度とする。
表 8 劣化度評価基準
評価基準
劣化度
外観の劣化症状
健全
めだった劣化症状はない
鉄筋の腐食状況
鉄筋の腐食グレードはⅡ以下である
軽度
鉄筋に沿う腐食ひび割れはみられな
腐食グレードがⅢの鉄筋である
い が ,乾 燥 収 縮 に よ る 幅 0.3mm未 満 の
( 腐 食 量 1.0%-3.0%)
ひび割れやさび汚れなどがみられる
中度
重度
鉄筋腐食によると考えられる幅
腐食グレードがⅣの鉄筋である
0.5mm未 満 の ひ び 割 れ が 見 ら れ る
鉄 筋 腐 食 に よ る 幅 0.5mm以 上 の ひ び
腐食グレードがⅤの鉄筋である
割れ,浮き,コンクリートの剥落な
腐食グレードがⅤの鉄筋はないが,大多
どがあり,鉄筋の露出などが見られ
数の鉄筋の腐食グレードはⅣである
る
表 9 鉄筋腐食度評価基準
グレード
評点
I
0
腐食がない状態,または表面にわずかな点さびが生じている状態
Ⅱ
1
表面に点さびが広がって生じている状態
Ⅲ
2
点さびがつながって面さびとなり,部分的に浮きさびが生じている状態
4
浮 き さ び が 広 が っ て 生 じ , コ ン ク リ ー ト に さ び が 付 着 し , 断 面 積 で 20%以
Ⅳ
Ⅴ
評価規準
下の欠損を生じている箇所がある状態
6
厚 い 層 状 の さ び が 広 が っ て 生 じ , 断 面 積 で 20% を 超 え る 著 し い 欠 損 を 生 じ
ている箇所がある状態
2.3.2.3 尤 度 関 数 の設 定
劣化度判定の結果によって鉄筋の腐食状況を推測することができると考えられるので,
本 研 究 で は , 既 往 の 文 献 ( 図 21) に 基 づ き 劣 化 度 に よ る 鉄 筋 腐 食 量 の 範 囲 を 表 10の よ う に
仮 定 し た 。 な お ,フ ァ ジ ィ 集 合( Fuzzy set) に よ く 使 わ れ て い る メ ン バ ー シ ッ プ 関 数 と す
る 図 22の よ う な 三 つ の 標 準 関 数 ( S 関 数 , Π 関 数 , Z 関 数 ) と 各 劣 化 度 の 鉄 筋 腐 食 量 の 範 囲
を用いて各尤度関数のパラメータを設定することとした。
ま ず ,S 関 数 と 呼 ば れ る も の で あ り ,次 の よ う に パ ラ メ ー タ a ,b ,c を 用 い て 表 わ さ れ る 。
... u ≤ a
⎧0 ⎪ u-a
⎪2(
)2 ... a ≤u ≤b
⎪ c-a
S ( u ; a ,b ,c ) = ⎨
⎪1 - 2( u - a )2 ... b ≤u ≤c
⎪
c-a
⎪1 ... u ≥c
⎩
こ こ で , パ ラ メ ー タ b( = ( a + c ) /
( 80 )
2 ) は S 関 数 の 値 が 0.5と な る 点 で あ る 。 他 に , Π 関 数 , Z
関 数 が 用 意 さ れ て お り , S関 数 を 用 い て 次 の よ う に 表 さ れ る 。
b
⎧
... u ≤c
⎪⎪S ( u ; c - b ,c - 2 ,c ) Π ( u ; b ,c ) = ⎨
⎪1 - S ( u ; c ,c + b ,c + b ) ... u ≥c
2
⎩⎪
( 81)
Z ( u ; a , b , c ) = 1 - S ( u ; a ,b , c )
( 82)
Π 関 数 に お い て b は バ ン ド 幅 を 表 し , 点 c で 1と な る 。
以 上 よ り , 本 研 究 で の 各 劣 化 度 の 尤 度 関 数 は 図 23の よ う に 示 さ れ る 。
表 10 尤 度 関 数 のパラメータ
尤度関数
パラメータ
(a,b,c)
0.5%-1.0%
Z関 数
a=0%, b=1%, c=2%
1.0%-3.0%
3.0%-5.0%
Π関数
Π関数
b=2%, c=2%
b=2%, c=4%
5.0%以 上
S関 数
a=4%, b=5%, c=6%
劣化度
腐食量
健全
軽度
中度
重度
図 21 腐 食 グレードと腐 食 量 の関 係
図 22 尤 度 関 数 の設 定
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
2
4
6
8
図 23 各 劣 化 度 の尤 度 関 数
2.3.3 腐 食 し始 める時 点 の修 正
劣化度が健全と判定されるケースには,鉄筋の腐食がグレードⅡと腐食なし(グレード
Ⅰ )と い う 二 つ の 可 能 性 が 含 ま れ る 。前 者 に 対 し て 前 述 2.2.2と 同 じ よ う に 腐 食 の 確 率 分 布
を更新するが,後者には腐食量をゼロと設定し,腐食し始める時点を修正すべきだと考え
られる。そのため,本研究では,まず詳細調査による中性化深さあるいは塩分侵入量を母
数の推定量を直接誘導する方法である最尤法で分析し中性化深さあるいは塩分侵入量の確
率分布を求める上に,かぶり厚さの調査資料を利用して鉄筋腐食発生確率を計算し腐食の
有 無 を 判 断 す る こ と と し た 。腐 食 な し( 鉄 筋 腐 食 発 生 確 率 < 10%)と 判 断 さ れ る 場 合 ,詳 細
調査による中性化深さあるいは塩分侵入量を用いて中性化速度係数あるいは塩化物イオン
量 の 見 か け 拡 散 係 数 の 平 均 値 及 び 標 準 偏 差 を 推 測 す る 。そ の う え ,前 述 1.2と 同 じ よ う に 鉄
筋腐食発生確率を評価し腐食し始める時点を予測する。ただし,予測には,実際の環境や
建物の条件が反映できる資料を用いることが重要であるが,情報の足りない部分に信頼の
データ(設計図書や公的機関など)を活用すれば,よい精度を持つ結果も得られると思わ
れる。
2.3.4 既 存 建 築 物 における劣 化 予 測 修 正 の提 案
本研究では,詳細調査による劣化度の判定を用い鉄筋腐食量の予測値を修正する方法を
図 24の よ う に 提 案 す る 。 な お , 劣 化 度 の 判 定 結 果 に よ り 二 つ の ケ ー ス に わ け , 下 に 示 す よ
うに評価する。
ま ず ,劣 化 度 が 軽 度 ,中 度 或 い は 重 度 で あ る ケ ー ス に は ,前 述 1.5.2の よ う に 腐 食 量 の 確
率分布及び腐食速度を修正し,調査時点以降の予測を行う。ただし,事前分布はあいまい
な分布である時(平均腐食量の予測値はゼロ),鉄筋腐食速度を更新せずに第三章の計算
式 を 用 い て 予 測 す る 。そ の 一 方 ,劣 化 度 が 健 全 で あ る ケ ー ス に は ,ま ず 前 述 2.2.3の よ う に
腐 食 開 始 の 有 無 を 判 断 す る こ と が 必 要 で あ る 。鉄 筋 発 生 確 率 が 10%を 超 過 す る 場 合 に は ,前
述と同じように腐食量の確率分布および腐食速度を修正し,調査時点以降の予測を行う。
腐 食 が 発 生 し な い 場 合 に は ,平 均 腐 食 量 が ゼ ロ と 設 定 し 前 述 2.2.3の よ う に 腐 食 し 始 め る 時
点を修正して予測する。
現実には同じ階層における部材でも必ず同じ劣化度といえない,各々の部材を対象とし
て劣化予測を修正することには膨大な計算量があると思う。本研究では,計算効率を高め
るために,層を単位として詳細調査による劣化度の割合を用いて調査時点以降の鉄筋腐食
量曲線を下式のように修正することとした。つまり,層の平均劣化度下の鉄筋腐食量曲線
にしたがい修正後の層破壊確率と剥離確率を再評価する。
j
j
j
j
j
fc = PDj1 × fc D1 + PDj 2 × fc D 2 + PDj 3 × fc D 3 + PDj 4 × fc D 4
( 8 3)
j
fc : 修 正 後 の j 階 に お け る 鉄 筋 腐 食 量 曲 線 , PDj1 , PDj 2 , PDj 3 , PDj 4 : 詳 細 調 査 に よ る j 階 に お け る
j
j
j
j
劣 化 度 の 割 合 ( D1: 健 全 , D2: 軽 度 , D3: 中 度 , D4: 重 度 ), fc D1 , fc D 2 , fc D 3 , fc D 4 : 修 正 後 j
階における各劣化度の鉄筋腐食量曲線
図 24a
既 存 建 築 物 における劣 化 予 測 修 正 の提 案 (中 性 化 )
予測部分
鉄筋腐食量の予測値
(確率分布)
平均腐食量>0
事前分布:対数正規分布
尤度関数へ変換
平均腐食量=0
事前分布:あいまいな分布
(均一分布)
鉄筋腐食量の
事後分布
詳細調査部分
詳細調査(劣化度の判定):
図 24b
既 存 建 築 物 における劣 化 予 測 修 正 の提 案 (中 性 化 )
2.4 試 算 例 及 びまとめ
本章に提案された手法で,内三章と同じような事例を対象とし,柱部材の耐用年数及び
限 界 状 態 を 評 価 す る 。1階 の 外 側 に あ る 柱 に 対 し て 劣 化 環 境 を 塩 害 侵 入 及 び 中 性 化 と 仮 定 し ,
劣 化 予 測 に 関 す る パ ラ メ ー タ を 表 11及 び 表 12に 示 す 。
表 11 塩 分 侵 入
水セメント比
見かけ塩分拡散係数
コンクリート圧縮強度
W/C(%)
Dp(cm/year)
fc’ (MPa)
60
2.61
40
55
1.91
45
50
1.33
50
45
0.89
55
表 12 中 性 化
コンクリート圧縮強
水セメント比
中性化速度係数
W/C(%)
A(mm/year 0 . 5 )
60
7.6
40
60
3.8
40
度
fc’ (MPa)
2.4.1 耐 用 年 数 および限 界 状 態
塩分侵入事例の結果により,使用安全性能の限界状態に基づく耐用年数を寿命とする場
合には水セメント比及び表面塩分イオン量に関わらず,最外側における鉄筋の平均腐食量
は 1.00%〜 1.50%( 鉄 筋 の 腐 食 状 況 : グ レ ー ド Ⅲ ) で あ る こ と が わ か っ た 。 な お , 文 献 に は
か ぶ り コ ン ク リ ー ト の 剥 離 が 生 じ る ひ び 割 れ 幅 の 限 界 量 を 0.5mm〜 1.0mmと 設 定 し , そ れ に
応 じ る 鉄 筋 の 腐 食 量( コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 は 40MPa,鉄 筋 の 直 径 は 36mm,か ぶ り コ ン ク
リ ー ト の 厚 さ は 50mm)は 約 3.00%〜 5.00%と い う こ と で ,安 全 側 の 視 点 で 片 側 非 超 過 確 率 10%
の 下 限 値( 正 規 分 布 ,変 動 係 数 50%)を 設 定 す る 場 合 ,1.08%〜 1.80%に な っ た 。両 方 法 に よ
る結果がほぼ一致だと見られる。以上より,使用安全性能の限界状態に基づく耐用年数を
維 持 保 全 限 界 状 態 と 設 定 す る 条 件 下 ,最 外 側 に お け る 鉄 筋 の 平 均 腐 食 量 が 1.00%と な る 時 点
に補修・補強が必要だと判明する。
構造安全性能限界状態に基づく耐用年数を寿命とする場合,同じ水セメント比の事例に
は 寿 命 の 増 加 に つ れ て 再 現 期 間 500年 地 震 動 の 発 生 確 率 が 高 く な る こ と で 部 材 最 外 側 に お
ける鉄筋の平均腐食量は小さくなることがわかる。同じ塩分侵入条件下で水セメント比の
低 い ほ う は コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 が 高 い た め ,最 外 側 に お け る 鉄 筋 の 平 均 腐 食 量 が 高 い 。
構造安全性能の限界状態に基づく耐用年数を設計限界状態と設定する場合,最外側におけ
る 鉄 筋 の 平 均 腐 食 量 を 表 に 示 し た 限 界 量 以 下 に 抑 え て 再 現 期 間 500年 地 震 動 に よ る 崩 壊 を
配慮する必要がないと思う。
中性化事例の結果により,塩分侵入事例と同じように使用安全性能の限界状態に基づく
耐用年数を寿命とする場合には水セメント比及び表面塩分イオン量に関わらず,最外側に
お け る 鉄 筋 の 平 均 腐 食 量 は 全 て 1.32%( 鉄 筋 の 腐 食 状 況:グ レ ー ド Ⅲ )で あ る 。一 定 値 に な
る原因としては,本研究に使われている中性化に伴う鉄筋の腐食速度が酸素の濃度などと
関係なく劣化段階によることである。使用安全性能の限界状態に基づく耐用年数を維持保
全 限 界 状 態 と 設 定 す る 条 件 下 で 最 外 側 に お け る 鉄 筋 の 平 均 腐 食 量 が 1.00%と な る 時 点 に 補
修・補強が必要だと判明する。
構造安全性能の限界状態に基づく耐用年数を設計限界状態と設定する場合,最外側にお
け る 鉄 筋 の 平 均 腐 食 量 を 3.5%( グ レ ー ド Ⅳ )以 下 に 抑 え て 再 現 期 間 500年 地 震 動 に よ る 崩 壊
を配慮する必要がないと思う。
表 13 塩 分 侵 入 事 例
水 セ メ ン ト 比 60% , コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 40 MPa
使用安全性能
表面塩分
イ オ ン 量( kg/m 3 )
腐食
開始時間
耐用年数
6.0
3.0
1.5
1
2
13
7
13
30
平均
腐食量
1.16%
1.34%
1.33%
構造安全性能
耐用年数
17
29
58
平均
腐食量
4.30%
4.06%
3.74%
腐食確率
≧ 20%
2
3
17
水 セ メ ン ト 比 55% , コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 45 MPa
表面塩分
腐食
イ オ ン 量( kg/m 3 ) 開 始 時 間
6.0
3.0
1.5
2
3
18
使用安全性能
耐用年数
9
16
41
平均
腐食量
1.24%
1.27%
1.34%
構造安全性能
耐用年数
23
41
88
平均
腐食量
5.34%
5.04%
4.57%
腐食確率
≧ 20%
2
4
23
水 セ メ ン ト 比 50% , コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 50 MPa
表面塩分
腐食
イ オ ン 量( kg/m 3 ) 開 始 時 間
6.0
3.0
1.5
2
4
25
使用安全性能
耐用年数
11
22
59
平均
腐食量
1.14%
1.32%
1.31%
構造安全性能
耐用年数
30
56
>100
平均
腐食量
6.10%
5.76%
x
腐食確率
≧ 20%
3
5
33
水 セ メ ン ト 比 45% , コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 55 MPa
表面塩分
腐食
イ オ ン 量( kg/m 3 ) 開 始 時 間
6.0
3.0
1.5
3
6
37
使用安全性能
耐用年数
16
32
>100
平均
腐食量
1.30%
1.31%
x
構造安全性能
耐用年数
40
79
>100
平均
腐食量
6.90%
6.49%
x
腐食確率
≧ 20%
4
8
49
表 14 中 性 化 事 例
水 セ メ ン ト 比 60% , コ ン ク リ ー ト の 圧 縮 強 度 40 MPa
中性化
速度係数
( mm/year 0 . 5 )
使用安全性能
腐食
開始時間
耐用年数
平均
腐食量
構造安全性能
耐用年数
腐食確率
平均
≧ 20%
腐食量
7.6
10
31
1.32%
68
3.54%
15
3.8
36
57
1.32%
94
3.54%
53
表 15 塩 分 侵 入 事 例 における鉄 筋 平 均 腐 食 量 の限 界 量
W/C( % )
維持保全限界状態
設計限界状態
限界量
腐食状態
限界量
腐食状況
60
1.0%
グレードⅢ
3.5%
グレードⅣ
55
1.0%
グレードⅢ
4.5%
グレードⅣ
50
1.0%
グレードⅢ
5.5%
グレードⅤ
45
1.0%
グレードⅢ
6.5%
グレードⅤ
表 16 中 性 化 事 例 における鉄 筋 平 均 腐 食 量 の限 界 量
中性化
維持保全限界状態
設計限界状態
速度係数
限界量
腐食状態
限界量
腐食状況
7.6
1.0%
グレードⅢ
3.5%
グレードⅣ
3.8
1.0%
グレードⅢ
3.5%
グレードⅣ
(mm/year 0 . 5 )
100
80
Failure Probability (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
60
40
20
Co=6.0 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Structure safety
Bonding failure
Yielding of main bars
Yielding of stirrup
80
60
40
20
Co=1.5 kg/m 3
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
a. 再 現 期 間 500 年 地 震 動 下 の
b. 各 破 壊 モードの発 生 確 率
構 造 安 全 性 能 における故 障 確 率
(表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3 )
100
100
100
80
60
40
20
Co=6.0 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=1.5 kg/m 3
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
100
Reliability Function of Structure Safety (%)
Failure Probability
of Serviceability Safety (%)
0
100
96
92
88
84
Co=6.0 kg/m3
Co=3.0 kg/m3
Co=1.5 kg/m3
80
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
c. 使 用 安 全 性 能 における故 障 確 率
d. 生 存 確 率
(再 現 期 間 500 年 地 震 動 )
図 25 塩 分 侵 入 事 例 ,水 セメント比 60%
100
100
80
60
40
Co=6.0 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=1.5 kg/m 3
20
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
0
100
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
a. 再 現 期 間 500 年 地 震 動 下 の
b. 各 破 壊 モードの発 生 確 率
構 造 安 全 性 能 における故 障 確 率
(表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3 )
100
80
60
40
20
Co=6.0 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=1.5 kg/m 3
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
100
Reliability Function of Structure Safety (%)
100
100
Failure Probability
of Serviceability Safety (%)
Structure safety
Bonding failure
Yielding of main bars
Yielding of stirrup
80
Failure Probability (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
96
92
88
84
Co=6.0 kg/m3
Co=3.0 kg/m3
Co=1.5 kg/m3
80
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
c. 使 用 安 全 性 能 における故 障 確 率
d. 生 存 確 率
(再 現 期 間 500 年 地 震 動 )
図 26 塩 分 侵 入 事 例 ,水 セメント比 55%
100
100
Co=6.0 kg/m3
Co=3.0 kg/m3
Co=1.5 kg/m3
80
60
40
20
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
0
100
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
a. 再 現 期 間 500 年 地 震 動 下 の
b. 各 破 壊 モードの発 生 確 率
構 造 安 全 性 能 における故 障 確 率
(表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3 )
100
80
60
40
20
Co=6.0 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=1.5 kg/m 3
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
100
Reliability Function of Structure Safety (%)
100
100
Failure Probability
of Serviceability Safety (%)
Structure safety
Bonding failure
Yielding of main bars
Yielding of stirrup
80
Failure Probability (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
96
92
88
84
Co=6.0 kg/m3
Co=3.0 kg/m3
Co=1.5 kg/m3
80
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
c. 使 用 安 全 性 能 における故 障 確 率
d. 生 存 確 率
(再 現 期 間 500 年 地 震 動 )
図 27 塩 分 侵 入 事 例 ,水 セメント比 50%
100
100
Co=6.0 kg/m3
Co=3.0 kg/m3
Co=1.5 kg/m3
80
60
40
20
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
0
100
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
a. 再 現 期 間 500 年 地 震 動 下 の
b. 各 破 壊 モードの発 生 確 率
構 造 安 全 性 能 における故 障 確 率
(表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3 )
100
80
60
Co=6.0 kg/m3
Co=3.0 kg/m3
Co=1.5 kg/m3
40
20
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
100
Reliability Function of Structure Safety (%)
100
100
Failure Probability
of Serviceability Safety (%)
Structure safety
Bonding failure
Yielding of main bars
Yielding of stirrup
80
Failure Probability (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
96
92
88
84
Co=6.0 kg/m3
Co=3.0 kg/m3
Co=1.5 kg/m3
80
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
c. 使 用 安 全 性 能 における故 障 確 率
d. 生 存 確 率
(再 現 期 間 500 年 地 震 動 )
図 28 塩 分 侵 入 事 例 ,水 セメント比 45%
100
100
100
Structure safety
Bonding failure
Yielding of main bars
Yielding of stirrup
80
Failure Probability (%)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
A=7.6 mm/year 0.5
A=3.8 mm/year 0.5
60
40
20
80
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
0
100
a. 再 現 期 間 500 年 地 震 動 下 の
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
100
b. 各 破 壊 モードの発 生 確 率
100
Failure Probability
of Serviceability Safety (%)
A=7.6 mm/year 0.5
A=3.8 mm/year 0.5
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
100
Reliability Function of Structure Safety (%)
構 造 安 全 性 能 における故 障 確 率
100
96
92
88
84
A=7.6 mm/year0.5
A=3.8 mm/year0.5
80
0
20
40
60
80
Specified Service Year (year)
c. 使 用 安 全 性 能 における故 障 確 率
100
d. 生 存 確 率
(再 現 期 間 500 年 地 震 動 )
図 29 中 性 化 事 例
2.4.2 劣 化 予 測 の修 正
塩分侵入事例に対してある時点で行う詳細点検の結果(劣化度)を想定し,ベイズ更新
により予測値を現状と合うように再評価する。更新前後の構造安全性能に基づく耐用年数
は表に示した。更新後の耐用年数が点検年より短い事例に対して直ぐ補強を含む維持保全
活 動 を 行 う べ き だ と 考 え ら れ る 。例 え ば ,水 セ メ ン ト 比 60%,表 面 塩 化 物 イ オ ン 量 6.0kg/m 3
の 条 件 下 で 竣 工 か ら 20年 以 内 の 詳 細 点 検 の 結 果 が 「 重 度 」 と な る 場 合 に は , 最 も 早 く 構 造
安全性能の限界を迎えてすぐ補強・補修を行うことが必要で,「中度」となる場合には,
点 検 年 か ら 3年 以 内 補 強 ・ 補 修 す べ き だ と い う こ と が わ か る 。
表 17 劣 化 予 測 の修 正
水 セ メ ン ト 比 60%, 表 面 塩 分 イ オ ン 量 6.0kg/m 3
点検
5
10
15
20
軽度
15
18
E
E
中度
7
12
17
E
重度
5
8
11
13
年
劣化度
*更 新 前 の 構 造 安 全 性 能 に 基 づ く 耐 用 年 数 : 17年
水 セ メ ン ト 比 55%, 表 面 塩 分 イ オ ン 量 6.0kg/m 3
点検
5
10
15
20
軽度
20
22
E
E
中度
9
15
20
E
重度
6
10
14
17
年
劣化度
*更 新 前 の 構 造 安 全 性 能 に 基 づ く 耐 用 年 数 : 23年
水 セ メ ン ト 比 50%, 表 面 塩 分 イ オ ン 量 6.0kg/m 3
点検
5
10
15
20
軽度
28
28
E
E
中度
11
18
23
28
重度
7
12
16
20
年
劣化度
*更 新 前 の 構 造 安 全 性 能 に 基 づ く 耐 用 年 数 : 30年
水 セ メ ン ト 比 45%, 表 面 塩 分 イ オ ン 量 6.0kg/m 3
点検
10
15
20
25
軽度
37
38
E
E
中度
21
26
32
37
重度
14
19
23
27
年
劣化度
*更 新 前 の 構 造 安 全 性 能 に 基 づ く 耐 用 年 数 : 40年
:直ぐ補強,
: 3年 以 内 補 強 ,
: 5年 以 内 補 強
2.4.3 本 章 のまとめ
RC造 建 築 物 ・ 部 材 を 対 象 と し て , 本 章 に 提 案 さ れ た 手 法 に よ り 使 用 安 全 性 能 及 び 構 造 安
全性能における限界状態および耐用年数を評価することができる。即ち,劣化環境及び建
築物・部材の条件を入力し,性能限界に繋がる維持保全限界状態及び設計限界状態を代表
とする最外側鉄筋の平均腐食量が得られる。実用の視点から見ると,鉄筋腐食確率となる
従来の手法より有用だと考えられる。
既存建築物に対しては,劣化に関するデータが予測値だけではなくて,現時点で得られ
た点検資料や調査資料などもある。本章に提案されたベイズ更新手法により,詳細調査と
なる劣化度の結果,中性化深さ(或は塩分侵入量),かぶり厚さなどを用いて鉄筋の腐食
量分布或は腐食開始点を更新し,さらに更新した資料に基づき先の将来予測を行う。構造
安全性能手法とあわせ,補強・補修を実施するかどうかを判断することができると思う。
3.
補 修 費 用 及 び効 果 に関 する研 究
3.1 始 めに
中性化,塩害などを対象として行われる補修工法は様々であるが,本章では文献及び補
修・補強会社へのヒアリングを参考に実績がある工法をまとめ,劣化状況および回復目標
に 応 じ る 補 修 水 準 を 設 定 す る 。本 研 究 で は ,以 下 の よ う に 5つ の 補 修 水 準 を 設 定 し ,後 述 の
免疫的アルゴリズムによって維持保全計画の最適化を行うことには膨大な計算量が必要な
ため,確率論手法に基づき補修後の効果評価モデルを構築することとした。
▲ TYPE-Ⅰ ---外 観 補 修 ( 補 修 部 分 の 再 劣 化 が 含 ま れ る )
▲ TYPE-Ⅱ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 ( 補 修 部 分 の 再 劣 化 が 含 ま れ る )
▲ TYPE-Ⅲ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +全 面 的 内 存 劣 化 要 因 除 去
▲ TYPE-Ⅳ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +鉄 筋 追 加 ( 補 修 部 分 の 再 劣 化 が 含 ま れ る )
▲ TYPE-Ⅴ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +全 面 的 内 存 劣 化 要 因 除 去 +鉄 筋 追 加
維持管理や維持保全を計画することには,補修後の効果評価がもちろん,コストの見積
りも重要だと考えられるが,現時点では,劣化に伴う補修必要面積の精度よく予測できる
方法が欠如している。このため,本章では,劣化後の剥離確率及び鉄筋の重量減少率をも
とに補修水準及び劣化状況により補修範囲を評価し,コストを計算する方法を提案する。
最 後 に ,い く つ か の 劣 化 環 境 に お け る 12階 建 て の RC造 建 物 を 対 象 と し て ,補 修 シ ナ リ オ を
設 定 し , 補 修 コ ス ト 及 び 劣 化 リ ス ク を 含 む LCCを 評 価 し , 提 案 し た 手 法 の 適 当 性 を 検 証 す
る。
3.2 維 持 保 全 計 画 における補 修 ・補 強 水 準 の設 定
3.2.1 劣 化 における補 修 ・補 強 工 法
中性化,塩害などに対して行われる補修・補強工法を「鉄筋コンクリート造建築物の耐
久 性 調 査 ・ 診 断 及 び 補 修 指 針 [43]」 , 「 コ ン ク リ ー ト 建 物 改 修 事 典 [44]」 , 補 修 ・ 補 強 会
社へのヒアリングを参考に以下に示す。
3.2.1.1 表 面 被 覆 工 法 (仕 上 げ材 更 新 工 法 )
コンクリート表面を樹脂系やポリマーセメント系の材料で被覆することにより,水分,
炭酸ガス,酸性雨,酸素及び塩分などを遮断して,鉄筋に有害物質の侵入を防止し,劣化
進行を抑制し,建物の耐久性を向上させる工法である。躯体の保護,耐久性改善及び美観
の回復を図る。なお,下地コンクリートに劣化,損傷がある場合は,ひび割れ補修工法或
は断面補修工法を先行し行う。
3.2.1.2 ひび割 れ補 修 工 法
ひ び 割 れ の 補 修 工 法 と し て は , シ ー ル 工 法 , 樹 脂 注 入 工 法 , Uカ ッ ト 工 法 が 一 般 的 で あ
る 。 シ ー ル 工 法 は , コ ン ク リ ー ト や モ ル タ ル 仕 上 げ 面 の 0.2mm未 満 の 微 細 な ひ び 割 れ の 表
面 を パ テ 状 エ ポ キ シ 樹 脂 や 可 撓 性 エ ポ キ シ 樹 脂 で 幅 約 10mm,厚 さ 2mm程 度 に シ ー ル す る 工
法 で あ る 。 樹 脂 注 入 工 法 は , 0.2mm∼1.0mmの ひ び 割 れ に 適 用 さ れ る 。 Uカ ッ ト 工 法 は , ひ
び 割 れ 幅 が 1.0mmを 超 え る 場 合 と 動 き の あ る ひ び 割 れ に 適 用 さ れ る 。 ひ び 割 れ に 沿 っ て 電
動 カ ッ タ ー を 用 い て 幅 10mm程 度 , 深 さ 15mm程 度 に U字 形 の 溝 を 掘 り , 清 掃 後 プ ラ イ マ ー
を塗布する。その後,シーリング材,可撓性エポキシ樹脂およびポリマーセメントモルタ
ルなどを充填してひび割れを補修する工法である。
3.2.1.3 断 面 補 修 工 法
断面修復工法は,劣化によりコンクリートの浮きや剥離などが発生した場合の修復や,
中性化・塩化物イオンなどの劣化要因を含むかぶりコンクリートを撤去した場合の断面修
復を目的とした補修工法である。不健全部をはつり取ったコンクリート欠損部の埋め戻し
のためにポリマーセメントモルタル,ポリマーモルタル,セメントモルタルやコンクリー
トなどが使用される。
3.2.1.4 鉄 筋 防 せい処 理
不健全部のコンクリートをはつり取り,鉄筋のさび落としを行った後に,防錆処理を行
う 。鉄 筋 の さ び 落 と し は ,コ ン ク リ ー ト の は つ り に よ り 露 出 さ せ た 鉄 筋 を サ ン ド ブ ラ ス ト ,
サ ン ダ ー な ど に よ り ,さ び 落 と し 程 度 ,ケ レ ン 1級 ,ケ レ ン 2級 ,ケ レ ン 3級 の 四 段 階 程 度 と
する。必要により防せい材を塗布して鉄筋の腐食を抑制する。
一般に行われている防せい処理は,無処理,ポリマーセメントペーストの塗布,エポキ
シ樹脂塗料の塗布やさび転換塗料の塗布などがある。このほか特殊な方法としてエポキシ
樹脂塗装鉄筋などの防食鉄筋への取換えや電気防食工法の適用などがある。
3.2.1.5 塩 分 除 去 工 法
塩害によって劣化したコンクリート建築物を補修する場合には,塩化物イオンが既に鉄
筋周辺に存在し,鉄筋腐食によってかぶりコンクリートの剥離,剥落やひび割れの発生し
ている場合が多いが,鉄筋まで塩化物イオンが到達せずに劣化が顕在化していない場合も
ある。前者には,劣化コンクリートを撤去して(はつり),鉄筋防せい処理や断面補修を
行う工法を適用することとなり,後者には,塩化物を含んだコンクリートの除去できる脱
塩工法が,あるいは鉄筋腐食の抑制できる亜硝酸含浸工法が有効だと考えられる。
亜 硝 酸 含 浸 工 法 と は ,亜 硝 酸 塩 を 含 む 塗 布 形 防 せ い 剤 を コ ン ク リ ー ト 表 面 へ 塗 布 含 浸 し ,
鉄筋近傍に浸透拡散した亜硝酸塩の防せい効果によって鉄筋の腐食を抑制する工法である。
脱塩工法(電気化学法)とは,コンクリートの内部鉄筋を陰極に,コンクリート表面に陽
極を設置して,両極間に直流電流を一定期間流すことにより,コンクリート中の塩化物イ
オンを鉄筋周辺からコンクリートの表面外へ移動させ,内存塩分がゼロとなる状態に戻ら
せる工法である。
3.2.1.6 アルカリ性 回 復 工 法
中性化によって劣化したコンクリート建築物を補修する場合には,経年で既に中性化深
さが鉄筋まで到達しており,その鉄筋の腐食によってかぶりコンクリートが剥離,剥落や
表面にひび割れが発生している状態であることが多い。このような状態の補修とは,劣化
コンクリートを撤去して,鉄筋防せい処理や断面補修を行う工法を適用することとなる。
また,劣化が顕在化していない時点で補修を行う場合には,中性化したコンクリートのア
ルカリ性雰囲気の回復できるアルカリ付与工法や再アルカリ性工法が有効だと考えられる。
アルカル付与工法とは,浸透性アルカリ性付与材(ケイ酸リチウム系,ケイ酸ナトリウ
ム,ケイ酸カリウムなど)を中性化したコンクリート表面へ含浸してアルカリ性雰囲気を
高め,鉄筋の腐食環境を改善する工法である。再アルカリ性工法(電気化学法)とは,中
性化したコンクリート内部の鉄筋を陰極とし,コンクリート表面に陽極を内在させたアル
カリ溶液保持層を仮設して,両極間に直流電流を一定期間流すことにより,中性化部分の
アルカリ性を回復させる工法である。
3.2.1.7 補 強
部分的に鉄筋腐食が著しく鉄筋の断面欠損が生じている場合には,その部分に添え筋を
用いる場合があるが,その際には構造耐力などの計算を行って,鉄筋への適切な結束や定
着の方法を検討することも必要だと考えられる。
3.2.2 補 修 水 準 の設 定
本 研 究 で は ,3.2.1の 補 修・補 強 工 法 を も と に 補 修 程 度 に よ り 以 下 の よ う に 5つ の 補 修 水 準
を 設 定 し , 各 水 準 に は 劣 化 の 原 因 に 応 じ て い く つ か の 工 法 が 含 ま れ て い る ( 表 18, 表 19及
び 表 20) 。
TYPE-Ⅰ ---外 観 補 修 ( 補 修 部 分 の 再 劣 化 が 含 ま れ る )
TYPE-Ⅰ は ,外 観 補 修 を 目 的 と し て 基 本 的 に ,前 処 理 ,高 圧 清 浄 ,ひ び 割 れ・欠 損 補 修 ,
下地調整,仕上げの手順を施すことを想定し,仕上げ更新工法,ひび割れ補修工法及び埋
め戻し補修工法を行う。ただし,内存の劣化要因が除去されないことに伴う未補修部分の
劣化進行及び補修部分の再劣化を考慮し補修後の劣化を評価することが必要だと考えられ
る。
本研究では,外観補修する時,初期の仕上げ材と同一の仕上げ材を施すこと,つまり仕
上 げ 材 更 新 す る こ と と し た 。 な お , ひ び 割 れ 補 修 工 法 を 行 う 場 合 , 0.5mm未 満 の ひ び 割 れ
に は ひ び 割 れ シ ー ル 工 法 を , 0.5mm以 上 の ひ び 割 れ に は U-カ ッ ト 工 法 を 用 い る 。
TYPE-Ⅱ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 ( 補 修 部 分 の 再 劣 化 が 含 ま れ る )
TYPE-Ⅱ は ,TYPE-Ⅰ と 同 じ 対 策 を 取 る う え ,剥 離 部 分 に 対 し て ,前 処 理 ,は つ り ,高 圧
清 浄 ,防 錆 材 塗 布 ,含 浸 材 塗 布 ,断 面 修 復 ,下 地 調 整 ,仕 上 げ の 手 順 を 施 す こ と を 想 定 し ,
仕上げ更新工法,ひび割れ補修工法,断面補修工法及び鉄筋防せい処理を行う。本水準の
目 的 は 外 観 補 修 す る 他 に 鉄 筋 腐 食 部 分 を 補 修 す る こ と で あ る 。 TYPE-Ⅰ と 同 じ よ う に , 内
存の劣化要因が除去されないことに伴う未補修部分の劣化進行及び補修部分の再劣化を考
慮し,補修後の劣化を評価することが必要だと考えられる。
TYPE-Ⅲ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +全 面 的 内 存 劣 化 要 因 除 去
TYPE-Ⅲ は ,TYPE-Ⅱ と 同 じ 対 策 を 取 る う え ,未 剥 離 部 分 に 対 し て 内 存 劣 化 要 因 の 除 去 を
施すことを想定し,仕上げ更新工法,ひび割れ補修工法,断面補修工法,鉄筋防せい処理
及びアルカリ回復工法あるいは塩分除去工法を行う。内存劣化要因が除去される原因で補
修後の状態は鉄筋量を除き初期状態へ戻ると推定できる。なお,電気化学方法となる脱塩
工法及び再アルカリ性工法は建物に対して費用が相当高いため,本研究ではアルカリ付与
工法及び塩分除去工法(はつり)を想定し補修後の劣化を評価することとした。
TYPE-Ⅳ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +鉄 筋 追 加 ( 補 修 部 分 の 再 劣 化 が 含 ま れ る )
TYPE-Ⅳ は ,TYPE-Ⅱ と 同 じ 対 策 を 取 る う え ,元 の 鉄 筋 量 と 同 等 と な る よ う に 鉄 筋 を 追 加
することを想定し,仕上げ更新工法,ひび割れ補修工法,断面補修工法,鉄筋防せい処理
及び鉄筋追加工法を行う。元の鉄筋量と同等となるように鉄筋を追加することにして補修
後 の 鉄 筋 量 は 初 期 状 態 へ 戻 り , TYPE-Ⅱ と 同 じ よ う に 内 存 の 劣 化 要 因 が 除 去 さ れ な い こ と
に伴う未補修部分の劣化進行及び補修部分の再劣化を考慮し,補修後の劣化を評価するこ
とが必要だと考えられる。
TYPE-Ⅴ ---外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +全 面 的 内 存 劣 化 要 因 除 去 +鉄 筋 追 加
TYPE-Ⅴ は ,TYPE-Ⅲ と 同 じ 対 策 を 取 る う え ,元 の 鉄 筋 量 と 同 等 と な る よ う に 鉄 筋 を 追 加
す る こ と を 想 定 し ,仕 上 げ 更 新 工 法 ,ひ び 割 れ 補 修 工 法 ,断 面 補 修 工 法 ,鉄 筋 防 せ い 処 理 ,
アルカリ付与工法あるいは塩分除去工法(はつり),及び鉄筋追加工法を行う。内存劣化
要因を除去することと元の鉄筋量と同等となるように鉄筋を追加することにして補修後の
状態は完全に初期状態へ戻ると考えられる。
表 18 塩 分 侵 入 における補 修 水 準
仕上げ材
ひび割れ
埋め戻し
断面
鉄筋防せい
塩分除去工法
更新
補修工法
補修工法
補修工法
処理
(はつり)
TYPE-Ⅰ
○
○
○
―
―
―
―
TYPE-Ⅱ
○
○
―
○
○
―
―
TYPE-Ⅲ
○
○
―
○
○
○
―
TYPE-Ⅳ
○
○
―
○
○
―
○
TYPE-Ⅴ
○
○
―
○
○
○
○
補修水準
鉄筋追加
表 19 中 性 化 における補 修 水 準
仕上げ材
ひび割れ
埋め戻し
断面
鉄筋防せい
アルカリ付与
更新
補修工法
補修工法
補修工法
処理
工法
TYPE-Ⅰ
○
○
○
―
―
―
―
TYPE-Ⅱ
○
○
―
○
○
―
―
TYPE-Ⅲ
○
○
―
○
○
○
―
TYPE-Ⅳ
○
○
―
○
○
―
○
○
○
―
○
○
○
○
補修水準
TYPE-Ⅴ
表 20 中 性 化 及 び塩 分 内 存 における補 修 水 準
鉄筋追加
塩分除去工法
仕上げ材
ひび割れ
埋め戻し
断面
鉄筋防せい
更新
補修工法
補修工法
補修工法
処理
TYPE-Ⅰ
○
○
○
―
―
―
―
TYPE-Ⅱ
○
○
―
○
○
―
―
TYPE-Ⅲ
○
○
―
○
○
○
―
TYPE-Ⅳ
○
○
―
○
○
―
○
TYPE-Ⅴ
○
○
―
○
○
○
○
補修水準
アルカリ付与
鉄筋追加
工法
3.3 補 修 水 準 における効 果 評 価 モデル
本 研 究 で は ,以 下 の よ う に 5つ の 補 修 水 準 を 設 定 し ,後 述 の 免 疫 的 ア ル ゴ リ ズ ム に よ っ て
維持保全計画の最適化を行うことは,膨大な計算量が必要なため,それぞれの条件に従い
層を単位とする破壊確率と剥離確率に補修の効果を次のように直接反映し,その後建物の
破壊確率及び剥離確率を更新することとした。ただし,前提条件としては補修材の種類が
部材と同じように設定することである。
3.3.1 外 観 補 修 (TYPE-Ⅰ)
基本的に,前処理,高圧清浄,ひび割れ・欠損補修,下地調整,仕上げの手順を施すこ
と を 設 定 す る 。補 修 実 施 年 で は ,図 30の よ う に 剥 離 確 率 が 初 期 状 態 に し( A➝ B),未 補 修
部 分 が そ の ま ま 劣 化 進 行 す る こ と に な る た め ,補 修 前 の 曲 線 と 同 様 に 推 移 す る こ と と し た 。
また,補修した部分は,劣化要因が除去されないため,潜伏期間がゼロと設定する初期建
築時の剥離確率曲線と同様に推移することとした。未補修部分の劣化及び補修部分の再劣
化を合わせ,補修後の剥離確率曲線になる。
一方,外観補修のみを考慮し,構造物の補強は行わないため,破壊確率の低減はないも
のとした。
剥離確率
t ≤ ti ;
Pi s ( t ) = Pi -s1 ( t )
t > ti ;
Pi s ( t ) = ( Pi -s1 ( t ) Pi -s1 ( t i )) + Pi s-1 ( t i ) × ( Pos ( t + t B
( 84)
t i ))
( 85)
t : 供 用 期 間 (年 ), t i : i 回 目 の 補 修 ・ 補 強 の 実 施 年 (年 ), Pi -s1 : i-1 回 目 の 補 修 ・ 補 強 後 の 剥 離 確 率
(%), Pi s : i 回 目 の 補 修 ・ 補 強 後 の 剥 離 確 率 (%), Pos : 初 期 建 設 時 の 剥 離 確 率 (%), t B : 潜 伏 期
間 ( 劣 化 因 子 が 侵 入 し て か ら , 鉄 筋 が 腐 食 し 始 め る ま で ) (年 )
破壊確率
Pi f ( t ) = Pi -f1 ( t )
( 86)
Pi -f1 : i-1 回 目 の 補 修 ・ 補 強 後 の 破 壊 確 率 (%), Pi f : i 回 目 の 補 修 ・ 補 強 後 の 破 壊 確 率 (%)
ti
ti
図 30 TYPE-Ⅰ実 施 後 の剥 離 確 率
ti
図 31 TYPE-Ⅰ実 施 後 の破 壊 確 率
3.3.2 外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 (TYPE-Ⅱ)
TYPE-Iと 同 じ 対 策 を 取 る う え , 剥 離 部 分 に 対 し て , 前 処 理 , は つ り , 高 圧 清 浄 , 防 錆 材
塗布,含浸材塗布,断面修復,下地調整,仕上げの手順を施すことを設定し,補修実施年
で は ,図 32の よ う に 剥 離 確 率 が 初 期 状 態 に し( A➝ B),未 補 修 の 部 分 が そ の ま ま 劣 化 進 行
す る こ と に な る た め ,補 修 前 の 曲 線 と 同 様 に 推 移 す る こ と と し た 。ま た ,補 修 し た 部 分 は ,
劣化要因が除去されるため,初期建築時の剥離確率曲線と同様に再劣化して未補修部分の
劣化と合わせて補修後の剥離確率曲線になる。
一方,構造物の補強は行わないため,破壊確率の低減はないものとした。
剥離確率
t ≤ ti ;
Pi s ( t ) = Pi s-1( t )
t > ti ;
Pi s ( t ) = ( Pi -s1 ( t ) Pi -s1 ( t i )) + Pi s-1 ( t i ) × ( Pos ( t
( 87)
t i ))
( 88)
破壊確率
Pi f ( t ) = Pi -f1 ( t )
( 89)
Pi s-1 ( ti )
ti
ti
図 32 TYPE-Ⅱ実 施 後 の剥 離 確 率
3.3.3 外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +全 面 的 内 存 劣 化 要 因 除 去 (TYPE-Ⅲ)
TYPE-Ⅱ と 同 じ 対 策 を 取 る う え , 未 剥 離 部 分 に 対 し て ア ル カ リ 性 付 与 工 法 ( 中 性 化 ) 或
は塩分除去工法(塩害)を施すことを設定し,補修実施年では,全コンクリート中の劣化
要 因 が 除 去 さ れ る た め ,図 33の よ う に 剥 離 確 率 が 初 期 状 態 へ 戻 っ て( A➝ B)こ の 部 分 を 起
点に初期建築時と同様に推移することとした。
一方,全コンクリート中の劣化要因を除去し構造耐力の低下が一時的にとどめられるも
の と 仮 定 し , 潜 伏 期 間 を 設 け る ( 図 34)。 潜 伏 期 間 終 了 後 は , 補 修 前 の 破 壊 確 率 曲 線 と 同
様に推移することとした。
剥離確率
t ≤ ti ;
Pi s ( t ) = Pi -s1 ( t )
t > ti ;
Pi s ( t ) = Pos ( t
( 90)
ti )
( 91)
破壊確率
t ≤ ti ;
Pi f ( t ) = Pi -f1( t )
Pi f ( t ) = Pi -f1 ( t i )
( 93)
Pi f ( t ) = Pi -f1 ( t − t B )
( 94)
ti < t ≤ t B + ti ;
t > ti + t B ;
( 92)
ti
図 33 TYPE-Ⅲ実 施 後 の剥 離 確 率
tB
ti
図 34 TYPE-Ⅲ実 施 後 の破 壊 確 率
3.3.4 外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +鉄 筋 追 加 (TYPE-Ⅳ)
TYPE-Ⅱ と 同 じ 対 策 を 取 る う え , 元 の 鉄 筋 量 と 同 等 と な る よ う に 鉄 筋 を 追 加 す る こ と を
設 定 し ,補 修 実 施 年 で は ,図 32の よ う に 剥 離 確 率 が 初 期 状 態 に し( A➝ B),未 補 修 の 部 分
がそのまま劣化進行することになるため,補修前の曲線と同様に推移することとした。ま
た,補修した部分は,劣化要因が除去されるため,初期建築時の剥離確率曲線と同様に推
移し,未補修の部分と合わせて補修後の剥離確率曲線になる。
一 方 , 補 修 実 施 年 で , 破 壊 確 率 が 初 期 状 態 に し ( C➝ D), 未 補 修 の 部 分 に 劣 化 要 因 が 存
在するため,潜伏期間がゼロと設定する初期建築時の破壊確率曲線と同様に推移すること
と し た ( 図 35)。
剥離確率
計 算 式 は 式 87 と 式 88 と 同 じ で あ る 。
破壊確率
t ≤ ti ;
Pi f ( t ) = Pi -f1 ( t )
t > ti ;
Pi f ( t ) = Pof ( t + t B
( 95)
( 96)
ti )
Pof : 初 期 建 設 時 の 破 壊 確 率 (%)
潜伏期間がゼロと設定する
初期建築時の破壊確率曲線
補修実施年
C
D
ti
供用期間(年)
図 35 TYPE-Ⅳ実 施 後 の破 壊 確 率
3.3.5 外 観 補 修 +腐 食 部 分 補 修 +全 面 的 内 存 劣 化 要 因 除 去 +鉄 筋 追 加 (TYPE-Ⅴ)
TYPE-Ⅲ と 同 じ 対 策 を 取 る う え , 元 の 鉄 筋 量 と 同 等 と な る よ う に 鉄 筋 を 追 加 す る こ と を
設 定 し , 補 修 実 施 年 で は , 全 コ ン ク リ ー ト 中 の 劣 化 要 因 が 除 去 さ れ る た め , 図 33の よ う に
剥 離 確 率 が 初 期 状 態 へ 戻 っ て( A➝ B)こ の 部 分 を 起 点 に 初 期 建 築 時 と 同 様 に 推 移 す る こ と
とした。
一 方 , 補 修 実 施 年 で , 破 壊 確 率 が 初 期 状 態 に し ( C➝ D), 未 補 修 の 部 分 に 劣 化 要 因 も 除
去 す る た め , 初 期 建 設 時 の 破 壊 確 率 曲 線 と 同 様 に 推 移 す る こ と と し た ( 図 36)。
剥離確率
計 算 式 は 式 90 と 式 91 と 同 じ で あ る 。
破壊確率更新
t ≤ ti ;
Pi f ( t ) = Pi -f1 ( t )
t > ti ;
Pi f ( t ) = Pof ( t
( 97)
ti )
( 98)
初期建築時の破壊確率曲線
と同じを設定する
補修実施年
C
D
ti
供用期間(年)
図 36 TYPE-Ⅴ実 施 後 の破 壊 確 率
3.3.6 複 合 劣 化 における補 修 の効 果 評 価 モデル
凍害及び塩分侵入と凍害及び中性化の複合劣化に対して前述の補修水準における効果評
価モデルを用い補修後の劣化を推測することとした。中性化及び塩分内存の場合,劣化要
因が除去される部分には塩分が内存しないため,その部分の補修後の劣化は中性化の影響
のみを配慮し,以下のように前述の効果評価モデルを修正する。
TYPE-Ⅱ : 補 修 実 施 年 で は , 剥 離 確 率 が 初 期 状 態 に し , 未 補 修 の 部 分 が そ の ま ま 劣 化 進 行
す る こ と に な る た め ,補 修 前 の 曲 線 と 同 様 に 推 移 す る こ と と し た 。ま た ,補 修 し た 部 分 は ,
劣化要因が除去されるため,中性化のみが配慮される初期建築時の剥離確率曲線と同様に
推移し,未補修の部分と合わせて補修後の剥離確率曲線になる。
TYPE-Ⅲ : 補 修 実 施 年 で は , 全 コ ン ク リ ー ト 中 の 劣 化 要 因 が 除 去 さ れ る た め , 塩 分 が 内 存
しない初期状態へ戻ってこの部分を起点に中性化のみが配慮される初期建築時と同様に推
移することとした。
一方,全コンクリート中の劣化要因を除去し構造耐力の低下が一時的にとどめられるも
の と 仮 定 し ,潜 伏 期 間 を 設 け る 。た だ し ,全 コ ン ク リ ー ト 中 の 劣 化 要 因 が 除 去 さ れ る た め ,
潜伏期間は中性化のみが配慮される劣化の潜伏期間と同じように設定することとした。つ
まり,補修実施年では,破壊確率が初期状態にせず潜伏期間を設定し,潜伏期間終了後こ
の部分を起点に中性化のみが配慮される初期建築時の破壊確率曲線と同様に推移すること
とした。
TYPE-Ⅳ : 補 修 実 施 年 で は , 剥 離 確 率 が 初 期 状 態 に し , 未 補 修 の 部 分 が そ の ま ま 劣 化 進 行
す る こ と に な る た め ,補 修 前 の 曲 線 と 同 様 に 推 移 す る こ と と し た 。ま た ,補 修 し た 部 分 は ,
劣化要因が除去されるため,中性化のみが配慮される初期建築時の剥離確率曲線と同様に
推移し,未補修の部分と合わせて補修後の剥離確率曲線になる。
一方,補修実施年で,破壊確率が初期状態にし,未補修の部分に劣化要因が存在するた
め,潜伏期間がゼロと設定する初期建築時の破壊確率曲線と同様に推移することとした。
TYPE-Ⅴ : 補 修 実 施 年 で は , 全 コ ン ク リ ー ト 中 の 劣 化 要 因 が 除 去 さ れ る た め , 塩 分 が 内 存
しない条件となる初期状態へ戻ってこの部分を起点に中性化のみが配慮される初期建築時
と同様に推移することとした。一方,補修実施年で,破壊確率が初期状態にし,未補修の
部分に劣化要因も除去するため,中性化のみが配慮される初期建築時の破壊確率曲線と同
様に推移することとした。
3.4 補 修 水 準 における費 用 評 価 モデル
3.4.1 補 修 工 法 における費 用 単 価 の推 定
補修工法に用いる材料及び施工単価はメーカー,規格や場所の違いなどで価格差が生じ
ているものもあるが,倍半分の差が生じるものではないと思う。このため,本研究では,
文 献 [45,46,47,48,49]及 び ヒ ア リ ン グ を も と に 工 法 の 単 価 を 表 20の よ う に 設 定 す る 。 な お ,
単 価 に は 労 役 費 , 材 料 費 を 含 む 。 3.2.2に 示 し た 中 性 化 , 塩 害 な ど に 対 し て 行 わ れ る 補 修 工
法 の 単 価 は 選 定 し た 材 料 及 び 施 工 方 法 を 表 20に 示 し た 番 号 を 用 い て 表 21に 示 す 。
表 20 施 工 工 法 及 び単 価
番号
名称
価格
単位
1
ケレン
400
円 /m 2
2
高圧清浄,清掃
200
円 /m 2
3
コンクリート面はつり
3000
円 /m 2
4
シ ー ル 工 法 ( 0.2m/m 2 )
200
円 /m 2
5
U-カ ッ ト 工 法 ( 0.3m/m 2 )
1050
円 /m 2
6
下地調整(セメント系下地調整材)
600
円 /m 2
7
断面修復(モルタル塗り金ごて押え)
2700
円 /m 2
8
錆落とし
600
円 /m 2
9
防錆材塗布
450
円 /m 2
10
含浸材塗布(珪酸リチウム)
1800
円 /m 2
11
表面塗装(複層材料)
1630
円 /m 2
12
表面塗装(樹脂リシン)
530
円 /m 2
13
再アルカリ化工法
40000
円 /m 2
14
脱塩工法
70000
円 /m 2
15
含浸材(ケイ酸リチウム)
1800
円 /m 2
16
含浸材(亜硝酸カルシウム)
1960
円 /m 2
17
含浸材(亜硝酸リチウム)
1960
円 /m 2
18
鉄筋追加
700000
円 /m
表 21 補 修 工 法 及 び単 価
番
補修工法
施工工法
価格
単位
号
A
B
C
D
E
F
仕上げ材更新(樹脂リシン)
シ ー ル 工 法 ( 0.2 m/m 2 )
U-カ ッ ト 工 法 ( 0.3 m/m 2 )
埋め戻し
断面補修
断面補修(鉄筋防せい処理を含む)
12
1,2,4,6
1,2,5,6
1,2,6,7
1,2,3,6,7
1,2,3,6,7,8
,9
13
G
再アルカリ化工法
H
脱塩工法
14
I
J
アルカリ付与工法
塩分除去(はつる)
1,2,6,10
1,2,3,6,7
530
1400
2250
3900
6900
7950
円 /m 2
円 /m 2
円 /m 2
円 /m 2
円 /m 2
円 /m 2
4000
0
7000
0
3000
6900
円 /m 2
円 /m 2
円 /m 2
円 /m 2
*仕 上 げ 材 更 新 に お け る 費 用 は 仕 上 げ 材 の 種 類 に よ り 定 め ら れ る
3.4.2 補 修 水 準 における費 用 評 価 モデル
補 修 コ ス ト を 計 算 す る 場 合 ,劣 化 に 伴 う 補 修 必 要 面 積 を 設 定 す る こ と が 必 要 だ と 思 う が ,
現時点では,その面積を精度よく予測する方法が欠如している。このため,本研究では,
劣化後の剥離確率及び鉄筋の重量減少率(部材の最外側)をもとに補修水準および劣化状
況により補修範囲を評価しコストを計算することとした。ただし,同じ補修水準には劣化
状況により実施工法及び補修範囲も違うため,本研究では層剥離確率に基づき劣化状況を
表 22の と お り に 定 め る こ と と し た 。
ま ず , 層 を 単 位 と し て 表 21及 び 表 22に 示 し た 各 工 法 単 価 に よ り 全 面 的 補 修 に お け る 各 工
法費用を計算する。選択した補修水準及び各層の劣化状況に応じる全面的補修に対する割
合 を 表 23の よ う に 定 め , 表 24に 示 し た 算 定 式 に よ り 建 物 全 体 の 補 修 コ ス ト を 評 価 す る 。 鉄
筋を追加する場合,部材の位置によって鉄筋の重量減少率が若干違うため,本研究では鉄
筋の平均重量減少率をもって補修費用を算定することとした。
補修には,変状なしと見なされた劣化状況を除き,建物に対する全面的仕上げ材更新も
ふ く ま れ る 。な お ,層 剥 離 確 率 が 3% よ り 小 さ い 場 合 は ,補 修 を 実 施 し な い と し た 。最 後 に ,
補修後の層毎の破壊確率及び剥離確率に基づき,建物破壊確率及び剥離確率を計算し,リ
スクを評価する。
表 22 劣 化 状 況 と層 剥 離 確 率 との関 係
層 剥 離 確 率 ( %)
P S <3
劣化状況
変状ない
3≦ P S <15
15≦ P S <50
50≦ P S <85
85≦ P S <100
軽度
中度
重度
全面的劣化
表 23a 全 面 的 補 修 に対 する割 合 (TYPE-Ⅰ)
劣化状況
変状なし
軽度
中度
重度
全面的劣
化
0
100%
100%
100%
ひび割れ補修工
法
シ ー ル 工 法( γ 1 )
0
(100%-P S )
0
0
ひび割れ補修工法
U-カ ッ ト 工 法
( γ 2)
0
0
(100%-P S )
(100%-P S )
100%
0
0
仕上げ材
更新工法
埋め戻し工法
( γ 3)
0
PS
PS
PS
100%
表 23b 全 面 的 補 修 に対 する割 合 (TYPE-Ⅱ)
劣化状況
変状なし
軽度
中度
重度
全面的劣
化
0
100%
100%
100%
ひび割れ補修工
法
シ ー ル 工 法( γ 1 )
0
(100%-P S )
0
0
ひび割れ補修工法
U-カ ッ ト 工 法
( γ 2)
0
0
(100%-P S )
(100%-P S )
100%
0
0
仕上げ材
更新工法
断 面 補 修 工 法( γ 3 )
(鉄筋防せい処理)
0
PS
PS
PS
100%
表 23c 全 面 的 補 修 に対 する割 合 (TYPE-Ⅲ)
変状なし
0
ひび割れ補修工
法
シ ー ル 工 法( γ 1 )
0
0
0
軽度
100%
(100%-P S )
0
PS
中度
重度
全面的劣
化
100%
100%
0
0
(100%-P S )
(100%-P S )
PS
PS
100%
0
0
100%
劣化状況
仕上げ材
更新工法
ひび割れ補修工法
U-カ ッ ト 工 法 ( γ 2 )
断 面 補 修 工 法( γ 3 )
(鉄筋防せい処理)
劣化状況
変状なし
軽度
中度
重度
全面的劣化
ア ル カ リ 性 付 与 工 法 ( γ 4)
0
(100%-P S )
(100%-P S )
(100%-P S )
0
表 23d 全 面 的 補 修 に対 する割 合 (TYPE-Ⅳ)
劣化状況
変状なし
軽度
中度
重度
全面的劣化
仕上げ材
更新工法
0
100%
100%
100%
100%
ひび割れ補修工法
シ ー ル 工 法 ( γ 1)
0
(100%-P S )
0
0
0
ひび割れ補修工法
U-カ ッ ト 工 法( γ 2 )
0
0
(100%-P S )
(100%-P S )
0
断 面 補 修 工 法 ( γ 3)
(鉄筋防せい処理)
0
PS
PS
PS
100%
鉄筋追加
( γ 5)
0
r
r
r
r
劣化状況
変状なし
軽度
中度
重度
全面的劣化
表 23e 全 面 的 補 修 に対 する割 合 (TYPE-Ⅴ)
劣化状況
変状なし
軽度
中度
重度
全面的劣化
仕上げ材
更新工法
0
100%
100%
100%
100%
ひび割れ補修工法
シ ー ル 工 法 ( γ 1)
0
(100%-P S )
0
0
0
ひび割れ補修工法
U-カ ッ ト 工 法( γ 2 )
0
0
(100%-P S )
(100%-P S )
0
アルカリ性付与工法
( γ 4)
0
(100%-P S )
(100%-P S )
(100%-P S )
0
劣化状況
変状なし
軽度
中度
重度
全面的劣化
鉄 筋 追 加 ( γ 5)
0
r
r
r
r
表 24 補 修 費 用 の算 定 (中 性 化 )
補修水準
施工方法
断 面 補 修 ( γ 3)
(鉄筋防せい処理)
0
PS
PS
PS
100%
補修費用の算定
TYPE-Ⅰ
外観補修
TYPE-Ⅱ
外観補修
腐食部分補修
TYPE-Ⅲ
外観補修
腐食部分補修
内存劣化要因除去
TYPE-Ⅳ
外観補修
腐食部分補修
鉄筋追加
TYPE-Ⅴ
外観補修
腐食部分補修
内存劣化要因除去
鉄筋追加
Σ( 層 毎 の 仕 上 げ 材 更 新 工 法 費 用 ) +
Σ( 層 毎 の シ ー ル 工 法 費 用 ×γ 1 ) +
Σ( 層 毎 の U-カ ッ ト 工 法 費 用 ×γ 2 ) +
Σ( 層 毎 の 埋 め 戻 し 工 法 費 用 ×γ 3 )
Σ( 層 毎 の 仕 上 げ 材 更 新 工 法 費 用 ) +
Σ( 層 毎 の シ ー ル 工 法 費 用 ×γ 1 ) +
Σ( 層 毎 の U-カ ッ ト 工 法 費 用 ×γ 2 ) +
Σ( 層 毎 の 断 面 補 修 工 法 費 用 (鉄 筋 防 せ い 処 理 )×γ 3 )
Σ( 層 毎 の 仕 上 げ 材 更 新 工 法 費 用 ) +
Σ( 層 毎 の シ ー ル 工 法 費 用 ×γ 1 ) +
Σ( 層 毎 の U-カ ッ ト 工 法 費 用 ×γ 2 ) +
Σ( 層 毎 の 断 面 補 修 工 法 費 用 (鉄 筋 防 せ い 処 理 )×γ 3 ) +
Σ( 層 毎 の ア ル カ リ 性 付 与 工 法 費 用 ×γ 4 )
Σ( 層 毎 の 仕 上 げ 材 更 新 工 法 費 用 ) +
Σ( 層 毎 の シ ー ル 工 法 費 用 ×γ 1 ) +
Σ( 層 毎 の U-カ ッ ト 工 法 費 用 ×γ 2 ) +
Σ( 層 毎 の 断 面 補 修 工 法 費 用 (鉄 筋 防 せ い 処 理 )×γ 3 ) +
Σ( 層 毎 の 鉄 筋 追 加 費 用 ×γ 5 )
Σ( 層 毎 の 仕 上 げ 材 更 新 工 法 費 用 ) +
Σ( 層 毎 の シ ー ル 工 法 費 用 ×γ 1 ) +
Σ( 層 毎 の U-カ ッ ト 工 法 費 用 ×γ 2 ) +
Σ( 層 毎 の 断 面 補 修 工 法 費 用 (鉄 筋 防 せ い 処 理 )×γ 3 ) +
Σ( 層 毎 の ア ル カ リ 性 付 与 工 法 費 用 ×γ 4 ) +
Σ( 層 毎 の 鉄 筋 追 加 費 用 ×γ 5 )
*層 毎 の 補 修 費 用 = 層 全 体 の 柱 ・ 梁 及 び 外 壁 の 全 体 の 露 出 表 面 積 ×補 修 単 価
*Σ : 1階 か ら M 階 ま で の 積 算
3.5 ライフサイクルコストの評 価
建築物を建て保全することとそれに要する費用には強い相互関係があり,新築時点で安
いと思って建てた建築物も,その維持保全或は維持管理に多くの費用が必要になる場合も
あれば,逆に,新築時点では費用的に多少高い建築物でも,維持保全或は維持管理まで考
えると,全体としては安いことになる場合もある。建築物の費用を考慮する場合には,そ
の建築物が企画・設計される段階から,建設されて建築主に引き渡され,完成した建築物
が使用され,維持保全或は維持管理され,最終的に壊されるまでの全生涯に要する費用を
考慮するという考え方を取ることが多くなりつつある。この考えをライフサイクルコスト
( LCC) と 定 義 さ れ た 。 つ ま り , 建 築 物 の LCCに は 以 下 の よ う に 2つ の コ ス ト が 含 ま れ る 。
イニシャルコスト:建築物の企画・設計に要する費用
建設に要する費用
ランリングコスト:修繕・保守点検等建築物の維持保全に要する費用
建築物の運用・管理に要する費用
こ れ ら の コ ス ト の 割 合 は , 建 築 物 の 規 模 , 用 途 な ど に よ っ て 異 な る が , 文 献 [50]に よ り
事 務 所 ビ ル を モ デ ル と し て 試 算 し 多 結 果 ,イ ニ シ ャ ル コ ス ト が 26.3%,ラ ン リ ン グ コ ス ト が
73.7%に な っ た 。
本研究では,同事例に対して建築物の運用・管理および企画・設計に要するコストが同
じだと想定するため,経済的最適な維持保全計画を求めることに対して初期建築費用,維
持 保 全 費 用 と 劣 化 リ ス ク の 総 和 を LCCと 定 義 す る こ と と し た 。
3.5.1 ライフサイクルコストの定 義
経 済 的 最 適 な 維 持 保 全 計 画 を 設 定 す る た め , 劣 化 リ ス ク Eを 求 め た 上 で , 初 期 建 築 費 用
C I に 補 修 費 用 を 加 え ,供 用 期 間 を 通 す 総 出 費 C T( LCC)を 下 式 に よ り 算 定 す る も の と し た 。
CT = CI +
∑(CRep ×
1
t
(1 + k ) Rep
)+ E
(99)
CI: 初 期 建 築 費 用 , CRep: 補 修 コ ス ト , tRep: 補 修 を 実 施 す る 年
3.5.2 破 壊 及 び剥 離 による損 失 コスト
損 失 コ ス ト の 設 定 は ,単 純 に 撤 去・再 建 費 用 の み を 考 慮 す れ ば よ い わ け で は な く ,施 設 ,
設備または建築物が使用できなくなったことによる営業損失,人的損失などを考慮する必
要があるが,こられを見積ることは極めて難しい。現状はこれを定量的に評価することが
因難であることから,本論文の解析には含めないこととした。
既 往 の 研 究 [51,52,53]に よ り 建 築 物 に 対 し て 地 震 に 伴 う 破 壊( 全 壊 と い う 意 味 )に よ る 損
失 費 用 ( 表 25) を 設 定 す る に あ た り , 構 造 ・ 仕 上 げ を 含 む 建 物 被 害 , テ ナ ン ト 所 有 の 設 備
被害,機能被害,及び人的被害の各費用を考慮し,各被害項目の内容と被害費用の算定手
法を以下に示す。本研究ではそれを参考に初期建築費用の基準金額を定めて破壊による損
失 コ ス ト を 表 26と 同 じ よ う に 設 定 す る 。
①建物被害費用:建物の被害個所の補修費用であり,躯体工事費,仕上げ工事費など全
てを含む建築工事の総工費とする。
②設備被害費用:テナント所有の建物内の設備,什器,収容機器の被害費用とする。
③機能被害費用:当該建物の被害により所定の機能が果たせず,結果として損失に繋が
ることが考えられる。例えば,検討対象建物の用途は事務所ビルである場合,補修工
事中はビルの家賃料が取れないことから,機能損失期間を推定し被害費用を求める。
④人的被害費用:当該建物の被害により人的被害は想定される。文献によれば兵庫県南
部 地 震 の 被 害 デ ー タ で は ,住 宅 用 途 で 全 壊 建 物 の 10棟 で 1人 程 度 の 割 合 で 死 亡 し て い る 。
小中地震に伴うかぶりコンクリートの剥落による損失費用は,今までほとんど研究され
て い な い た め ,本 研 究 で は ,建 物 の 用 途 と 関 係 が あ る と 想 定 し ,文 献 [54,55]を 参 考 に 地 震
に 伴 う 破 壊 ( 全 壊 と い う 意 味 ) に よ る 損 失 費 用 の 0.2倍 と 仮 定 す る 。
表 25 地 震 に伴 う破 壊 による損 失 コストの各 項 目
建 物 の 用 途 (Occupation Type)
A
B
C
D
E
F
G
H
民 家 (Privately owned houses)
0.3
0.4
0.2
0.1
0.1
0.2
0.1
1.0
貸 し マ ン シ ョ ン (Apartment houses for rent)
0.3
0.2
0.2
0.1
0.1
0.5
0.2
0.2
小 さ い 規 模 の 商 店 (Small shops)
0.4
0.4
0.1
0.1
0.2
0.2
0.1
0.2
高 い オ フ ィ ス (Tall office buildings)
0.25
0.2
0.3
0.3
0.2
0.5
5.0
0.1
病 院 (Hospitals)
0.25
0.5
0.3
0.5
10.0
2.0
20.0
0.1
消 防 署 (Fire stations)
0.3
0.1
0.2
0.2
10.0
0.1
5.0
0.1
原 子 電 力 発 電 所 (Nuclear power plans)
0.15
0.1
0.2
10.0
2.0
100
2000
0.1
A: Damage to structure, requiring repair or replacement
B: Damage to contents, requiring repair or replacement
C: Damage to non-structural components, requiring repair or replacement
D: Damage to equipment, requiring repair or replacement
E: Function loss
F: Injuries
G: Fatalities
H: Psychological damage
表 26 地 震 に伴 う破 壊 による損 失 コスト
建 物 の 用 途 (Occupation Type)
Loss due to structural failure
(normalized by initial cost( C I ) )
民 家 (Privately owned houses)
2.4
貸 し マ ン シ ョ ン (Apartment houses for rent)
1.8
小 さ い 規 模 の 商 店 (Small shops)
1.7
高 い オ フ ィ ス (Tall office buildings)
6.9
病 院 (Hospitals)
33.6
消 防 署 (Fire stations)
原 子 電 力 発 電 所 (Nuclear power plans)
16
2113
3.6 試 算 例 及 びまとめ
本章に提案された補修費用及び効果モデルの適当性を検討するため,第三章と同じよう
な 事 例 を 対 象 と し , 補 修 シ ナ リ オ を 設 定 し て 維 持 保 全 費 用 及 び LCCを 評 価 す る 。 補 修 シ ナ
リオとは,維持する劣化状況を定め,前述した劣化予測をもとに劣化が維持劣化状況に達
すると,選択された補修水準を実施することである。試算例での維持劣化状況は建物剥離
確 率 15%及 び 30%と 定 義 さ れ る 。
3.6.1 塩 分 侵 入 事 例
本 章 で は , 塩 分 侵 入 の 環 境 条 件 を 文 献 [43,56]に よ り 4つ の 環 境 地 域 に 分 類 し , 表 27と 同
じ よ う に 設 定 す る 。 供 用 期 間 を 100年 と 設 定 す る 場 合 の LCCは 表 28及 び 表 29に な る 。
塩分侵入の結果を見ると,維持保全がない事例に比べて補修を実施した事例は塩分侵入
量 に 関 わ ら ず LCCが 低 く な る 。 維 持 劣 化 状 況 を 剥 離 確 率 15%と 設 定 す る 場 合 ( 図 36, 図 37
及 び 図 38) に は , 表 面 塩 分 イ オ ン 量 の 増 加 に つ れ て , 内 部 劣 化 要 因 を 除 去 し な い 補 修 水 準
での維持保全費用と内部劣化要因除去工法を含む補修水準との差が小さくなる傾向がある。
このことは,表面塩分イオン量が多くなると内部劣化要因を除去しないことで次の補修時
期までの時間が短く維持保全活動の回数も増えていくためである。さらに,同じ塩害環境
地域において予定供用期間が長いほど,補修水準の設定に関わらず維持保全費用がほぼ同
じ に な る が ,鉄 筋 追 加 を し な い 補 修 水 準 の ほ う は 劣 化 リ ス ク の 高 い 原 因 で LCCも 高 く な る 。
維 持 劣 化 状 況 を 剥 離 確 率 30%と 設 定 す る 場 合 ( 図 36, 図 37及 び 図 38) に は , 内 部 劣 化 要
因を除去する補修水準での維持保全費用が内部劣化要因を除去しない補修水準より高く,
表 面 塩 分 イ オ ン 量 の 増 加 に つ れ て 両 方 の 差 も 大 き く な る 傾 向 が あ る 。 剥 離 確 率 15%の 事 例
と 同 じ よ う に 鉄 筋 追 加 を し な い 補 修 水 準 で の 劣 化 リ ス ク が 高 い た め , LCCの 視 点 か ら 見 る
と塩分侵入となる劣化環境に対して鉄筋追加を含む維持保全活動のほうが経済的に有効だ
と判明する。
100年 の 予 定 供 用 期 間 に 対 し て ,鉄 筋 追 加 を 含 む 補 修 水 準 は ,剥 離 確 率 15%と な る 維 持 劣
化 状 況 で の 補 修 費 用 が 剥 離 確 率 30% の 約 2倍 に 達 す る が ,剥 離 確 率 30% で の 劣 化 リ ス ク が 剥
離 確 率 15% よ り 高 い た め ,維 持 劣 化 状 況 に 関 わ ら ず 補 修 後 の LCCが ほ ぼ 同 じ だ と 見 ら れ る 。
な お , 予 定 供 用 期 間 100年 に お け る LCC減 少 率 ( 式 (100)) の 結 果 ( 図 41) に よ り , 維 持 劣
化 状 況 の 設 定 に 関 わ ら ず ,鉄 筋 追 加 を し な い 補 修 水 準 と な る TYPE-Ⅰ ,TYPE-Ⅱ ,TYPE-Ⅲ
で の LCC減 少 率 が ほ ぼ 20%以 下 に な る こ と が わ か る 。 そ の 上 , 表 面 塩 分 イ オ ン 量 の 増 加 に
つ れ て , 鉄 筋 追 加 工 事 を 含 む 補 修 水 準 で の LCC減 少 率 が 高 く な る が , 他 の 補 修 水 準 が 逆 に
低 く な る 傾 向 も 見 ら れ る 。 従 っ て , LCC減 少 率 の 視 点 か ら 見 る と , 鉄 筋 追 加 を 含 む 補 修 水
準 と な る TYPE-Ⅳ 及 び TYPE-Ⅴ は 塩 害 環 境 地 域 に お け る 予 定 供 用 期 間 100年 に 対 し て 有 効 だ
と考えられる。
本 研 究 で は , 補 修 効 率 を 評 価 す る た め , 補 修 費 用 及 び LCCの 減 少 量 に 基 づ き 補 修 便 益 比
を 式 (101)の よ う に 定 義 す る 。 予 定 供 用 期 間 100年 に お け る 補 修 便 益 比 か ら 見 る と , 全 体 的
に 表 面 塩 分 イ オ ン 量 が 高 い ほ ど , 低 く な る 傾 向 が あ る 。 剥 離 確 率 15%と な る 維 持 劣 化 状 況
を 設 定 す る 場 合 に は ,TYPE-Ⅳ 及 び TYPE-Ⅴ の 補 修 便 益 比 が ほ ぼ 同 じ だ が ,剥 離 確 率 30%に
は TYPE-Ⅳ の 補 修 効 率 が 最 も 高 い と 見 ら れ る 。
LCC減 少 率 :
NLCC − MLCC
NLCC
補修便益比:
NLCC − MLCC
MCost
(100)
(101)
NLCC:維 持 保 全 を 実 施 し な い 場 合 の LCC; MLCC:維 持 保 全 を 実 施 す る 場 合 の LCC; MCost:維
持保全費用(補修費用)
3.6.2 中 性 化 及 び複 合 劣 化 (中 性 化 及 び塩 分 内 存 )事 例
本 章 で は , 中 性 化 と 複 合 劣 化 ( 中 性 化 及 び 塩 分 内 存 ) の 環 境 条 件 を 表 28と 同 じ よ う に 設
定 す る 。供 用 期 間 を 100年 と 設 定 す る 場 合 の LCCは 表 29及 び 表 30に な る 。複 合 劣 化 の 結 果 を
見 る と , 維 持 保 全 が な い 事 例 に 比 べ て 補 修 を 実 施 し た 事 例 は LCCが 低 く な る が , 中 性 化 の
み の 劣 化 環 境 に 対 し て , 維 持 保 全 を 実 施 し て も LCCが ほ と ん ど 変 わ ら な い 傾 向 が あ る 。
中 性 化 の み の 事 例( 図 39)に 対 し て ,維 持 保 全 を 実 施 し な い 時 の 劣 化 リ ス ク が 低 い た め ,
い ず れ の 補 修 水 準 に し て も , LCCが 有 効 に 減 少 さ れ な い と 見 ら れ る 。 つ ま り , 中 性 化 の み
の 環 境 に 対 し て ,LCCの 視 点 か ら 見 る と 維 持 保 全 対 策 を 実 施 し な く て も こ の 建 物 は 100年 の
供用期間を経てることができると考えられる。
中 性 化 及 び 塩 分 内 存 の 複 合 劣 化 ( 図 40) に 対 し て , 内 部 劣 化 要 因 を 除 去 す る 補 修 水 準 は
一回目の工事で内部の塩分がなくなることで中性化となる劣化機構のみ進行するため,内
部劣化要因を除去しない補修水準より安く,予定供用期間が長いほど両方の差が多くなる
傾 向 も 見 ら れ る 。 LCCの 視 点 か ら 見 る と 複 合 劣 化 環 境 と な る 中 性 化 及 び 塩 分 内 存 に 対 し て
鉄筋追加及び劣化要因除去を含む維持保全活動のほうが経済的に有用だと判明する。しか
も ,LCC減 少 率 及 び 補 修 便 益 比 の 結 果( 図 41)に よ り ,予 定 供 用 期 間 100年 の 要 求 に 対 し て
TYPE-Ⅴ の 補 修 効 率 は 他 の 水 準 よ り 高 い と 考 え ら れ る 。
表 27 塩 分 侵 入 の環 境 条 件
塩害環境
低塩害
環境地域
準塩害
環境地域
一般塩害
環境地域
3.5
1.5
7.0
3.0
14.0
6.0
飛 来 塩 分 量 ( mdd)
表 面 塩 分 イ オ ン 量 ( kg/m 3 )
重塩害
環境地
域
21.0
9.0
表 28 中 性 化 及 び複 合 劣 化 の環 境 条 件
劣化原因
中性化速度
(室内)
中性化速度
(室外)
7.6
3.6
7.6
3.6
中性化
複合劣化
(中性化と塩分内
存)
内存塩分
イオン量
( kg/m 3 )
x
1.5
表 29 剥 離 確 率 15%の維 持 劣 化 状 況 下 の LCC(予 定 供 用 期 間 100 年 )
No maintenance
劣化原因
LCC
1.5
表面塩分
イオン量
3.0
6.0
1.0
7
1.4
1
TYPEⅠ
TYPEⅡ
TYPEⅢ
TYPEⅣ
TYPE-Ⅴ
0.07(7%)
1.05
1.05
1.04
1.04
1.04
1.32
1.32
1.27
1.15
1.13
1.67
1.66
1.60
1.28
1.26
0.41(41%
)
1.7
6
Risk
0.76(76%
)
9.0
1.9
2
0.92(92%
)
1.0
中性化
0.09(9%)
9
複合劣化
( 中 性 化 +塩 分 内
存)
1.9
6
0.96(96%
)
1.88
1.88
1.81
1.41
1.35
1.09
1.10
1.09
1.07
1.06
1.79
1.72
1.47
1.35
1.19
表 30 剥 離 確 率 30%の維 持 劣 化 状 況 下 の LCC(予 定 供 用 期 間 100 年 )
No maintenance
劣化原因
LCC
1.5
3.0
表面塩分
イオン量
6.0
9.0
中性化
複合劣化
( 中 性 化 +塩 分 内
存)
Risk
1.0
7
0.07(7%
)
1.4
1
1.7
6
1.9
2
1.0
9
1.9
6
0.41(41
%)
0.76(76
%)
0.92(92
%)
0.09(9%
)
0.96(96
%)
TYPEⅠ
TYPEⅡ
TYPE-Ⅲ
TYPEⅣ
TYPE-Ⅴ
1.05
1.06
1.06
1.05
1.05
1.31
1.31
1.28
1.14
1.13
1.62
1.62
1.59
1.24
1.24
1.79
1.79
1.79
1.31
1.33
1.10
1.10
1.10
1.10
1.10
1.77
1.72
1.55
1.44
1.27
0.5
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.15
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.2
0.1
0.05
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
a. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
b. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
0.5
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.15
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.2
0.1
0.05
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.4
0.3
0.2
0.1
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
0
100
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況
d. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
図 36 塩 分 侵 入 (表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3 )
1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.25
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.3
0.2
0.15
0.1
0.05
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
a. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
b. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.25
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.3
0.2
0.15
0.1
0.05
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
0
100
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況
d. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
図 37 塩 分 侵 入 (表 面 塩 分 イオン量 6.0kg/m 3 )
1
0.4
Cost of Maintenance (CI)
0.35
0.3
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.25
0.2
0.15
0.1
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
0.6
0.4
0.2
0.05
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
a. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
b. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
0.4
1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.3
No maintenance
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.35
0.25
0.2
0.15
0.1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
0.6
0.4
0.2
0.05
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況
d. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
図 38 塩 分 侵 入 (表 面 塩 分 イオン量 9.0kg/m 3 )
1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.04
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.05
0.03
0.02
0.01
0
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
a. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
b. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.04
0.03
0.02
0.01
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.05
0.6
0.4
0.2
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況
d. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
図 39 中 性 化
1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.25
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost o Maintenance (CI)
0.3
0.2
0.15
0.1
0.05
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
a. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
b. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
1
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.25
Cost of Maintenance
+Deterioration Risk (CI)
Cost of Maintenance (CI)
0.3
0.2
0.15
0.1
0.05
No maintenance
TYPE-I
TYPE-II
TYPE-III
TYPE-IV
TYPE-V
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
0
100
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況
d. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修費用
補修費用 + 劣化リスク
100
図 40 複 合 劣 化 (中 性 化 と塩 分 内 存 )
100
Co=1.5 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=6.0 kg/m 3
Co=9.0 kg/m 3
80
Reduction of LCC (%)
Reduction of LCC (%)
100
中性化及び塩分内
60
40
20
Co=1.5 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=6.0 kg/m 3
Co=9.0 kg/m 3
80
60
40
中性化及び塩分内
20
0
0
1
2
3
4
TYPE of Retrofit/Repair
5
1
2
3
4
TYPE of Retrofit/Repair
a. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
b. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
LCC減 少 率
LCC減 少 率
5
14
14
Co=1.5 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=6.0 kg/m 3
Co=9.0 kg/m 3
12
Co=1.5 kg/m 3
Co=3.0 kg/m 3
Co=6.0 kg/m 3
Co=9.0 kg/m 3
12
10
10
中性化及び塩分内
8
B/C
B/C
中性化及び塩分内
8
6
6
4
4
2
2
0
0
1
2
3
4
TYPE of Retrofit/Repair
1
5
2
3
4
TYPE of Retrofit/Repair
c. 剥 離 確 率 15%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
d. 剥 離 確 率 30%の 維 持 劣 化 状 況 下 の
補修便益比
補修便益比
5
図 41 補 修 便 益 比 及 び LCC 減 少 率
3.6.3 本 章 のまとめ
維持管理や維持保全を計画することには,補修後の効果評価がもちろん,コストの見積
りも重要だと考えられる。このため,本章では,設定した補修水準の効果モデルを構築す
る上,劣化後の剥離確率及び鉄筋の重量減少率(部材の最外側)をもとに補修水準及び劣
化 状 況 に よ り 補 修 範 囲 を 評 価 し ,コ ス ト を 計 算 す る 方 法 を 提 案 し た 。提 案 し た 手 法 に よ り ,
所 有 者 の 意 思 に 基 づ き 予 定 供 用 期 間 , 維 持 劣 化 状 況 を 設 定 し , LCC最 小 化 の 視 点 か ら 補 修
水準及び補修時期が定められことは試算例を用いて検証された。さらに,確率論に基づく
補修後の効果評価モデルを用いることで補修部分の再劣化を含む補修後の劣化を予測する
ことができるだけではなく,計算量も減少されることが明らかになった。
将来には,より合理的な維持保全計画を求めることには,補修工法に用いる材料及び施
工単価はメーカー,規格や場所の違いなどで価格差が生じているものもあるため,事前調
査及び補修・補強会社のヒアリングが必要である。
4. 維 持 保 全 計 画 最 適 化 システムの構 築 に関 する研 究
4.1 始 めに
補修計画の最適化手法については,対象となる探索空間が広大なため,必要な補修水準
を 連 続 的 な 解 空 間 の 中 で 適 宜 設 定 し ,適 切 な 時 期 に 行 う こ と は 非 常 に 困 難 で あ る こ と か ら ,
多 く の 研 究 で は 多 変 数 の 組 合 せ の 最 適 解 導 出 手 法 と し て 有 効 と 考 え ら れ る GA( Genetic
Algorithm)の 適 用 が 試 み ら れ て き た 。し か し ,実 際 の 建 築 物 の 維 持 保 全 計 画 を 定 め る 場 合 ,
単に大域的最適解が要求されるだけではなく,所有者の意思及び劣化状況を考慮した実現
可能で評価の優れた他の準最適解も重要になる場合も少なくない。このような計画最適化
問 題 に 対 し , 免 疫 的 ア ル ゴ リ ズ ム ( Immune Algorithm; 以 下 , IA) は 独 自 の 調 節 機 構 を 有
していることから,一つの解に収束することなく複数の準最適解を一度に探索できる能力
が示されていて,多様な複数の解を得る手段として注目され始めている。
そ こ で , 本 研 究 で は IAに よ り 塩 分 侵 入 や 中 性 化 な ど に 伴 う 劣 化 リ ス ク を 含 め た LCCを 最
小化する維持保全計画構築手法を提案することを目的とした一連の研究を行う。さらに,
IAか ら の 準 最 適 解 集 合 ( LCCは 一 定 の 範 囲 内 ) に 対 し て , 簡 略 化 フ ァ ジ ィ 理 論 に よ り 所 有
者意思及び劣化状況に基づく実現性のもっとも高い維持保全計画,即ち本研究での最適維
持保全計画を推論する方法を提案する。
最後に,試算例を利用して提案した維持保全最適化システムの適当性を検証する。
4.2 免 疫 的 アルゴリズムによる維 持 保 全 計 画 準 最 適 解 導 出 システム
IAは 体 の 免 疫 シ ス テ ム の 抗 体 産 生 機 構 と そ の 自 己 調 節 機 構 を 工 学 的 に モ デ ル 化 し た
アルゴリズムである。これらの機構は,解の多様性を維持することを可能とするもの
であり,解の多様性を維持することは初期収束を起こしにくくし,局部解に陥ること
を 少 な く す る 働 き を す る 。 さ ら に , IAに よ り 求 め ら れ た 準 最 適 解 は 逐 次 記 憶 細 胞 に 保
存されていくため,複数の準最適解を求めることも可能である。
4.2.1 免 疫 システムの概 要
免 疫 シ ス テ ム と は ,生 体 内 に 侵 入 す る 未 知 の 抗 原( Antigen)に 対 応 す る た め ,抗 体
( Antibody) の 再 構 築 に よ り 抗 原 に 対 応 す る 抗 体 を 産 生 し , 抗 原 を 排 除 す る 生 体 監 視
防 衛 機 構 で あ る 。こ の 抗 原 に 対 す る 一 連 の 処 理 は 免 疫 応 答 と 呼 ば れ ,以 下 に 示 す Step1
〜 Step5 [59]の 高 次 情 報 処 理 機 構 に よ り 実 現 し て い る と 考 え ら れ る 。
Step1. 抗 原 の 認 識 機 構 : 生 体 内 に 侵 入 し た 抗 原 を リ ン パ 系 が 認 識 し , 免 疫 応 答 を 開 始 す
る。
Step2. 抗 体 の 再 構 成 機 構 : 抗 体 産 生 細 胞 に よ り , そ の 抗 原 を 排 除 し 得 る 抗 体 を 構 築 す る
ため再構築(選択・交叉・突然変異・増殖)を行い,適切な抗体を産生する。
Step3. 抗 体 に よ る 抗 原 の 排 除 機 構 : 侵 入 し た 抗 原 を 分 解 ・ 中 和 す る こ と で 生 体 防 御 を 行
う。
Step4. 排 除 に 利 用 さ れ た 抗 体 の 記 憶 機 構 : 一 度 排 除 し た 抗 原 に 対 し て は , 記 憶 細 胞
( Memory cell) に 記 憶 さ れ た 抗 体 を 用 い る こ と で 素 早 く 抗 原 排 除 を 行 う 。
Step5. 抗 原 の 認 識 機 構 : 抗 原 排 除 の た め に 抗 体 が 大 量 に 産 生 さ れ た 結 果 , 生 体 内 の 抗 体
集団の多様性が損なわれてしまう。そこで,自己に対しても免疫性を示し,大量
に 発 生 し た 抗 体 の 産 生 を サ プ レ ッ サ ー T細 胞 ( Suppressor cell) で 抑 え る こ と で 調
節を図る。
図 42 免 疫 システムの概 念
4.2.2 免 疫 的 アルゴリズムの特 徴
前項により,免疫システムは複数の情報処理機構から構成されており,抗体の産生を調
節 す る 機 構 に 注 目 す る と ,次 の よ う に 3つ に 大 別 さ れ ,そ れ ぞ れ は 探 索 ア プ ロ ー チ と し て の
工 学 モ デ ル に お け る 各 概 念 [59]を 図 43の よ う に 対 応 つ け ら れ る 。
一次免疫応答:
未 知 の 抗 原 に 対 し 行 う 抗 原 排 除 。抗 原 排 除 時 に 使 用 さ れ た 抗 体 な ど の 免 疫 細 胞 は ,
免疫学的記憶として記憶細胞へ分化する。
二次免疫応答:
一度排除した抗原に対し抗原排除。一次免疫応答時に獲得した記憶細胞を活用するこ
とにより,より素早い抗原排除を実現する。
抑制機構:
増えすぎた抗体の産生を抑制することで多様性を保持し,未知の膨大な抗原の侵入に
備える。
図 43 IA の計 算 手 順
本 研 究 で は ,多 く の 研 究 [59,60,61]と 同 じ よ う に 免 疫 学 的 記 憶 の み を 用 い た 二 次 免 疫 応 答
と 抑 制 機 構 に つ い て モ デ ル 構 築・実 装 を 行 う こ と と し た 。こ の た め ,IAの 基 本 構 成 は ,(1)
遺 伝 的 ア ル ゴ リ ズ ム に 基 づ く 解 の 再 構 成 , (2) 記 憶 細 胞 に よ る 有 効 解 の 記 憶 , (3) サ プ レ
ッ サ ー T細 胞 に よ る 記 憶 解 再 探 索 の 抑 制 と な っ て い る 。 こ の 構 成 に よ り , GAの も つ 強 力 で
広域な探索能力に加え,有効解の再利用および再探索の抑制による探索効率の上昇が期待
さ れ る 。 GAの 計 算 手 順 は 文 献 [62,63]に 基 づ き 設 定 す る 。
抗原の認識
初期抗体群の生成
親和度・類似度の計算
(目的関数の認識)
(解候補の生成)
親和度:解の評価値
類似度:解候補同士の類似性
濃度計算
記憶細胞及び
サプレッサーT細胞への分化
抗体産生の促進と抑制
抗体群の生成
記憶細胞:解の集合
サプレッサーT細胞:抗体産生の抑制
新しい世代の抗体群を構成
図 44 IA の計 算 手 順
4.2.3 計 算 の手 順 [59,64]
( 1) 抗 原 の 認 識 :
IAに お い て は ,最 適 化 問 題 の 目 的 関 数 を 抗 原 ,問 題 の 解 候 補 を 抗 体 ,解 の 集 合 を 記
憶 細 胞 と 呼 び , 抗 原 と 抗 体 の 親 和 度 を 解 の 評 価 値 と 呼 ぶ 。 計 算 手 順 を 図 44に 示 す 。
( 2) 初 期 抗 体 群 の 生 成
本 研 究 に お け る 遺 伝 子 型 ( 図 45) は , 1回 の 維 持 保 全 活 動 を 6ビ ッ ト と し , 最 大 20
回 ま で 維 持 保 全 活 動 を 行 う も の と し て ,計 120ビ ッ ト の 遺 伝 子 長 と し た 。1回 の 維 持 保
全 活 動 の 遺 伝 子 型 の 内 訳 は , 今 回 採 用 し た 6水 準 ( 補 修 な し を 含 む ) の 維 持 保 全 方 法
を 表 す 3ビ ッ ト( 2 3 種 類 )の 識 別 子 と ,直 前 の 維 持 保 全 実 施 時 期 か ら の 期 間 を 表 す 3ビ
ッ ト ( 23種 類 ) の 識 別 子 か ら な る も の と 定 義 し た 。
図 45 抗 体 における遺 伝 子 構 成
( 3) 親 和 度 ・ 類 似 度 の 計 算
抗 原( LCC,C T )と 抗 体 v( 維 持 保 全 計 画 )の 親 和 度 Φ v( 評 価 値 )は ,式 (102)の よ
う に 供 用 期 間 を 通 し て の 総 支 出( C T )の 逆 数 と し ,総 支 出 の 減 少 に つ れ ,評 価 値 が 高
く な る よ う 定 義 し た 。 抗 体 vと 抗 体 wの 類 似 度 Ψvw( 類 似 性 を 示 す 値 ) は , 二 つ の 解 に
共通する遺伝子の割合を示す。
Φv =
1
CT
(102)
( 4) 濃 度 計 算
各 抗 体 v の 濃 度 Θ v は 式 (103)に よ り 与 え る 。 抗 体 v と 抗 体 w の 類 似 度 Ψ v w が 所 定 の 閾 値
Tπ1よ り 小 さ い 場 合 , 類 似 性 が な い と 見 な し 濃 度 Θvに 反 映 さ せ な い 。
Θν =
1
N
N
∑π νω
(103)
ω =1
Ψ v w ≧ T π 1 の 場 合 π v w = 1, 他 の 場 合 は 0と な る 。 N は 各 世 代 の 総 抗 体 数 で あ る
本 研 究 で は , 世 代 の 抗 体 群 の 濃 度 が 閾 値 T П を 超 え な い 場 合 , GAを 用 い て 次 世 代 を
産生するものとした。
( 5) 記 憶 細 胞 と サ プ レ ッ サ ー T細 胞 へ の 分 化
各 抗 体 vの 濃 度 Θvが 閾 値 TПを 超 え た 場 合 , 記 憶 細 胞 候 補 μと す る 。 記 憶 細 胞 候 補 μは
記 憶 細 胞 が 上 限 数 に 達 す る ま で は ,記 憶 細 胞 m に 分 化 さ せ ,記 憶 細 胞 が 上 限 数 に 達 し
て い る 場 合 に は , 記 憶 細 胞 候 補 μの 親 和 度 が 記 憶 細 胞 群 の 親 和 度 よ り 高 い 場 合 に 限 り
記 憶 細 胞 候 補 μと の 類 似 度 が 一 番 高 い 記 憶 細 胞 に 入 れ 替 え る 。 ま た , 記 憶 細 胞 候 補 μ
は ,濃 度 の 高 い 順 に サ プ レ ッ サ ー T細 胞 s に 分 化 さ せ る 。サ プ レ ッ サ ー T細 胞 s と の 類 似
度 Ψvsが 閾 値 TS以 上 に な る 抗 体 は 消 滅 さ せ , 類 似 の 解 候 補 の 生 成 を 押 さ え る 。
( 6) 抗 体 産 生 の 促 進 と 抑 制 [59]
過 度 の 抗 体 生 成 を 抑 制 す る た め , 全 て の 抗 体 vに つ い て 次 式 に よ り 期 待 値 Evを 計 算
し , 期 待 値 が 低 い 抗 体 の 一 部 ( 本 研 究 で は 個 体 数 の 1/2と 設 定 ) を 自 然 消 滅 さ せ , 残
った抗体を次世代の抗体の産生に利用する。
S
Eν = Φν ∏ ( 1 − Ξ vs )
(104)
s =1
Ψvs≧ Tπ2の 場 合 Ξ
v s = Ψ v s , 他 の 場 合 は 0と な る
( 7) 抗 体 の 産 生
消 滅 さ せ た 抗 体 に 代 わ る 新 し い 抗 体 を ,残 っ た 抗 体 の 選 択 ,交 叉 及 び 突 然 変 異 に よ
り 再 構 成 す る 。選 択 方 式 は 期 待 値 E v を 用 い た ル ー レ ッ ト 戦 略 と し た 。交 叉 操 作 に よ り
新 し く 抗 体 を 産 生 さ せ ,次 世 代 の 抗 体 群 を 準 備 す る 。産 生 し た 抗 体 に 対 し て は 突 然 変
異 操 作 も 導 入 し た 。 上 記 に 従 い , 再 構 成 し た 抗 体 と 上 記 (6)で 残 っ た 抗 体 は 次 世 代 の
抗 体 群 と な る 。 な お , 交 叉 方 法 に は ル ー レ ッ ト 方 式 に よ る 1点 交 叉 と エ リ ー ト 保 存 を
採 用 す る 。抗 体 群 の 適 合 度 の 合 計 に 占 め る 各 抗 体 の 適 合 度 を ,そ の 抗 体 が 親 抗 体 と し
て 選 択 さ れ る 確 率 と す る 。突 然 変 異 は ,各 抗 体 に 対 し て ,任 意 の 遺 伝 子 座 1 つ に 関 し
て,突然変異確率で数字をランダムに変化させる。
4.2.4 解 の多 様 性 指 標 [59,60,64]
解の多様性は,平均情報エントロピーによる多様度評価の概念を導入した。抗体群はG
個 の 遺 伝 子 座 を 持 つ N個 の 抗 体 か ら 構 成 さ れ , 抗 体 の 取 り 得 る 記 号 ( 対 象 遺 伝 子 ) が L個 存
在 す る と 仮 定 す る 。 こ の と き , 抗 体 の 遺 伝 子 座 j の 情 報 エ ン ト ロ ピ ー Hj ( N ) は 式 で 与 え ら れ
る 。ま た ,抗 体( 個 体 )の 平 均 情 報 エ ン ト ロ ピ ー H ( N ) は 式 で 定 義 さ れ る 。こ の と き , H(N)
が高いほど多様性があると評価される。
L
∑pij log pij
H j( N ) =
(105)
i =1
H( N ) =
1
G
G
∑H j ( N )
(106)
j =1
p ij = 遺 伝 子 座 に 出 現 し た i 番 目 の 記 号 / N ( i 番 目 の 記 号 の 出 現 率 )
4.2.5 閾 値 の決 定 法 及 び多 様 性
閾 値 と 多 様 性 の 関 係 は 文 献 [60]に よ り 下 の よ う に 考 え る 。IAで は ,4つ の 閾 値 Tπ 1 ,TΠ ,TS ,
Tπ 2 を 用 い , 抗 体 群 の 多 様 性 を 制 御 す る 。 閾 値 は 濃 度 に 関 す る Tπ 1 , TΠ と 抗 体 産 生 の 促 進 と
抑 制 に 関 係 す る TS , Tπ 2 に 分 け ら れ る 。 た だ し , 4つ の 閾 値 は 独 立 し て 多 様 性 を 制 御 す る の
ではなく,それぞれがお互いに影響し合う。
Tπ 1 ▶濃 度 に 関 し て 許 容 す る 抗 体 間 の 距 離 を d と す る と Tπ 1 は 次 式 で 設 定 す る 。 抗 体 間 の 距
離 d以 下 の 抗 体 は , 濃 度 に 直 接 反 映 さ せ る こ と に な る 。
Tπ 1 =
1
d +1
(107)
TΠ ▶抗 体 と の 距 離 が d 以 下 の 抗 体 で 濃 度 に 関 し て 許 容 す る 抗 体 数 を k ,全 抗 体 数 を N と す る
と TΠ は 次 式 で 与 え る 。 抗 体 と の 距 離 を d 以 下 と す る 抗 体 数 が k を 超 え た 場 合 の み ,そ
の抗体を記憶細胞候補に分化する。
TΠ =
k
N
(108)
TS ▶サ プ レ ッ サ ー T細 胞 と 抗 体 の 許 容 す る 距 離 を d s1 と す る と TS は 次 式 で 与 え る 。 以 下 の
抗体は消滅させることになる。
TS =
1
d s1 + 1
(109)
Tπ 2 ▶サ プ レ ッ サ ー T細 胞 と 抗 体 の 許 容 す る 距 離 を d s 2 と す る と Tπ 2 は 次 式 で 与 え る 。サ プ レ
ッ サ ー T細 胞 と 抗 体 の 許 容 す る 距 離 が d s 2 以 下 の 抗 体 は 期 待 値 が 低 く な り , 次 世 代 に
残りにくいと考えられる。
Tπ 2 =
1
ds2 + 1
(110)
閾 値 の 決 定 は , 許 容 す る 抗 体 間 距 離 d, ds1 , ds2と 許 容 す る 個 数 kを 予 め 決 め る こ と で 与
え ら れ る 。具 体 的 な d , d s 1 , d s 2 の 値 は ,取 り え る 抗 体 間 距 離 の 最 大 値 に 対 す る 許 容 す る 抗
体間の割合を設定することである。また,問題の性質によって閾値を変える必要がある。
例 え ば ,評 価 の 高 い 準 最 適 解 を 要 求 す る 場 合 ,許 容 す る 抗 体 間 距 離 の 割 合 を 小 さ く ,個 数 k
を多く設定すると,解をある程度収束させてから記憶細胞に分化させられる。多様性を重
視 す る 場 合 ,許 容 す る 抗 体 間 距 離 の 割 合 を 大 き く し ,個 数 k を 少 な く 設 定 す る 。制 約 条 件 を
満 た す 解 が 少 な い 場 合 や 収 束 し に く い 問 題 で は ,個 数 k を 少 な く し な け れ ば 記 憶 細 胞 に 分 化
しない。
つ ま り ,各 閾 値 は ,問 題 の 性 質 と 多 様 性 及 び 評 価 値 水 準 の 確 保 に 応 じ て 決 め ら れ る 。様 々
な 数 値 実 験 の 結 果 [60]に よ る と , d , d s 1 , d s 2 は 許 容 す る 抗 体 間 距 離 の 割 合 を 0-25%, TΠ は
0-50%の 範 囲 で 値 を 設 定 す る と , 比 較 的 容 易 に 多 様 性 の あ る 評 価 の 高 い 準 最 適 解 が 得 ら れ
る。
4.2.6 維 持 保 全 計 画 準 最 適 解 導 出 システムにおける技 法
IAに 多 様 性 の あ る 解 を 得 よ う と す る 場 合 , 「 記 憶 細 胞 と サ プ レ ッ サ ー T細 胞 へ の 分 化 」
が 重 要 に な る 。 オ リ ジ ナ ル IAで は , 記 憶 細 胞 が そ の 上 限 数 ま で 分 化 し て い な い と き , 同 じ
遺伝子列で構成された記憶細胞候補が存在すると,上限数に達するまで記憶細胞にそのま
ま分化する。結果的に最終世代まで同じ遺伝子列を持つ記憶細胞が保持される可能性が高
い。また,記憶細胞に記憶されている評価の高い準最適解が新しく分化した評価の低い記
憶 細 胞 候 補 と 入 れ 替 わ り , 記 憶 細 胞 の 評 価 を 下 げ る こ と も あ る 。 本 研 究 で は , 文 献 [60]を
もとにこれらの部分を次のように変更する。
▲ 記 憶 細 胞 が 上 限 数 に 達 す る ま で , 1世 代 で 同 じ 遺 伝 子 を 持 つ 記 憶 細 胞 候 補 は , 1つ だ け
記憶細胞に分化させる。
▲記憶細胞が上限数に達するまで,記憶細胞候補と現在記憶されている記憶細胞中に同
一のものがある場合,新たに記憶細胞に分化させない。
▲記憶細胞候補との類似度が一番高い記憶細胞において,記憶細胞中で最も評価が高い
場合,記憶細胞候補の評価の方がより高いときに限り入れ替える。
▲ サ プ レ ッ サ ー T細 胞 の 総 数 S を 各 世 代 の 記 憶 細 胞 候 補 の 数 と 同 じ よ う に 設 定 す る 。
▲予定供用期間あるいは維持保全活動上限数以外の遺伝子列は無意味になり,抗体間の
類似性を正確的に評価するため,ゼロに設定する。
上述のような操作により,準最適解の集合である最終的な記憶細胞は一つとして同じも
のはなく,大域的あるいは局部的に評価の高い解が必ず一つは残ると考えられる。
4.3 所 有 者 意 思 及 び劣 化 状 況 に基 づく最 適 補 修 水 準
4.3.1 ファジィ推 論 の紹 介 [65, 66]
フ ァ ジ ィ 関 係 が 2つ の 事 柄 の 関 係 に つ い て の 知 識 を 表 現 し て い る も の と す れ ば ,一 方 の 事
柄 の 様 子 と し て 与 え ら れ れ ば ,他 方 の あ る べ き 様 子 に つ い て も 何 か 言 及 で き よ う 。こ れ は ,
あいまいな知識と情報に基づく推論を行っているわけである。つまり,「ファジィ関係に
基づく推論」はファジィ推論と呼ばれている。
フ ァ ジ ィ 推 論 ( Fuzzy reasoning) を 行 う た め に は , 推 論 規 則 が 必 要 で あ る 。 フ ァ ジ ィ 推
論 の 推 論 規 則 は , IF-THEN形 式 で 記 述 さ れ て い る 。 フ ァ ジ ィ 推 論 で 使 う IF-THEN規 則 を ,
特 に フ ァ ジ ィ IF-THEN規 則 と 呼 ぶ 。フ ァ ジ ィ 推 論 は ,直 接 法 と 間 接 法 に 分 類 で き る 。現 在 ,
直 接 法 と な る マ ム ダ ニ 推 論 法 ( Mamdani) は , min演 算 と max演 算 に よ っ て 構 成 さ れ る 推 論
機構が簡単であるためによく使われている。
マ ム ダ ニ 推 論 法 と し て 図 46の よ う な IF-THEN規 則 を 用 い る ( A, B, Cは フ ァ ジ ィ 集 合 で
ある)。まず,与えられた入力に対する各規則の前件部の適合度を求め,それをもとに各
規 則 の 推 論 結 果 を 求 め る 。最 後 ,非 フ ァ ジ ィ 化( Defuzzification)を 用 い ,各 規 則 の 推 論 結
果から最終的な確定値となる推論結果を求める。なお,直接法の後件部のファジィ集合を
シ ン グ ル ト ン( 実 数 値 )に 置 き 換 え れ ば ,後 件 部 を 簡 略 化 し た 推 論 法 と な る 。本 研 究 で は ,
そういう簡略化ファジィ推論により所有者意思及び劣化状況に基づく最適補修水準の推定
を行うこととした。
図 46 IF-THEN 規 則
4.3.2 所 有 者 意 思 及 び劣 化 状 況 に基 づく最 適 補 修 水 準 の推 定
維持保全計画にある活動毎に対して所有者意思及び劣化状況に基づき適合度を評価する
場合には,所有者意思が営業損失や建物の残存価値などいろいろな原因に左右されるため
現時点で模倣することが難しいと思う。本研究では,余寿命を用い所有者の補修意識を推
測 し 3つ の レ ベ ル ( 暫 定 , 延 命 , 恒 久 ) を 設 定 す る こ と と し , 予 定 供 用 期 間 100年 の 条 件 下
で そ れ ぞ れ に 応 じ る 補 修 水 準 を 表 31に 示 す 。 そ の 一 方 , 補 修 水 準 を 決 め る 時 , 建 物 現 時 点
での劣化状況も考慮すべきで,本研究では補修時点での劣化状況に対して外観変状の有無
を建物の剥離確率により,構造安全問題の有無を建物の破壊確率により評価する。
所有者意思及び劣化状況に基づく最適補修水準のファジィ推論におけるファジィ
IF-THEN規 則 及 び 所 有 者 意 思 , 変 状 , 構 造 安 全 問 題 の メ ン バ ー シ ッ プ 関 数 は 表 32, 図 47に
示す。本研究では,維持保全時点の条件に基づきそれぞれメンバーシップ関数に従う帰属
度を評価し,各帰属度を掛け合わせること(代数積)により各規則の適合度を評価するこ
ととした。つまり,前件部変数とする建物の使用年数,剥離確率及び破壊確率を入力し,
各規則に代表する補修水準それぞれの適合度を評価する。適合度の最も高い方が所有者意
思及び劣化状況に基づく最適の補修水準と考えられる。
維持保全計画にある活動毎に対して所有者意思及び劣化状況に基づき適合度を把握した
後 , 平 均 値 を 利 用 し 維 持 保 全 計 画 の 実 現 性 を 代 表 す る 評 価 値 ( TVA) を 表 す 。 所 有 者 意 思
及 び 劣 化 状 況 の 視 点 か ら 見 る と ,評 価 値 が 高 い ほ ど ,実 施 す る 可 能 性 も 高 い と 考 え ら れ る 。
表 31 所 有 者 意 思
所有者
補修意識
意思
顕在化しているすべての劣化部分を補修する
恒久
だ け で な く ,内 在 し て い る 劣 化 要 因 を ほ と ん ど
完 全 に 除 去 し ,恒 久 的 な 補 修 効 果 を 期 待 す る 補
修意識である
補修工法
外観補修
腐食部分補修
内存劣化要因除去
補修水準
TYPE-Ⅲ
TYPE-Ⅴ
顕在化している劣化部分を補修するとともに,
延命
劣化要因を内在していると考えられる部分に
対 し て は ,劣 化 進 行 を 抑 制 す る 工 法 を 施 し ,延
外観補修
TYPE-Ⅱ
腐食部分補修
TYPE-Ⅳ
外観補修
TYPE-Ⅰ
命効果を期待する補修意識である
顕 在 化 し て い る 劣 化 部 分 の み を 補 修 し ,そ の ほ
暫定
かの部分に対しては劣化が顕在化するたびに
処置していく補修意識である
表 32 ファジィ規 則
規則1
IF 恒 久 + 外 観 変 状 有 り + 構 造 安 全 問 題 有 り ,THEN
TYPE-Ⅴ
規則2
IF 恒 久 + 外 観 変 状 有 り + 構 造 安 全 問 題 な い ,THEN
TYPE-Ⅲ
規則3
IF 延 命 + 外 観 変 状 有 り + 構 造 安 全 問 題 有 り ,THEN
TYPE-Ⅳ
規則4
IF 延 命 + 外 観 変 状 有 り + 構 造 安 全 問 題 な い ,THEN
TYPE-Ⅱ
規則5
IF 暫 定 + 外 観 変 状 有 り
,THEN
TYPE-Ⅰ
規則6
IF 恒 久 ,延 命 ,暫 定 + 変 状 な し
,THEN
補修なし
図 47a 所 有 者 意 思 のメンバーシップ関 数 (予 定 供 用 期 間 100 年 )
図 47b 変 状 のメンバーシップ関 数
1
構造安全問題なし
構造安全問題有り
u3H
u3N
0.1%
3%
建物破壊確率(%)
図 47c 構 造 安 全 問 題 のメンパーシップ関 数
4.4 維 持 保 全 計 画 最 適 化 システムの構 築
本 研 究 で 提 案 し た RC造 建 築 物 に お け る 維 持 保 全 計 画 最 適 化 シ ス テ ム に は 図 48の よ う に
二 つ の 部 分 が 含 ま れ て い る 。 ま ず , 4.2に 示 し た 免 疫 的 ア ル ゴ リ ズ ム に よ り , LCC最 小 化 を
目 的 関 数 と 設 定 し 維 持 保 全 計 画 候 補 と な る 準 最 適 解 の 集 合 を 探 索 し , 同 時 に LCCを 最 小 化
す る 維 持 保 全 計 画 も 得 ら れ る 。次 に ,6.3に 示 し た 簡 略 化 フ ァ ジ ィ 理 論 に よ り ,前 述 の 準 最
適解らに対して所有者意思及び劣化状況に基づき実現性に関する評価値を推定しその評価
値の一番高い解を最適の維持保全計画とする。つまり,本研究での最適維持保全計画とい
う の は , LCCを 減 少 す る こ と に 対 し て 有 効 だ け で は な く て , 実 現 性 に 対 し て 高 い 評 価 を 持
つものである。
以 上 よ り , こ の 維 持 保 全 計 画 最 適 化 シ ス テ ム を 用 い , 一 回 の シ ミ ュ レ ー シ ョ ン で LCC最
小化とする維持保全計画だけではなく,優れた準最適解の集合及び所有者意思と劣化状況
に基づく実現性が高い最適の維持保全計画も得られると考えられる。
図 48 所 有 者 意 思 及 び劣 化 状 況 を考 慮 した維 持 保 全 計 画 最 適 化 システム
4.5 試 算 例 及 びまとめ
計 算 対 象 は ,第 三 章 と 同 じ よ う な 12階 建 て RC造 建 築 物 と し た 。試 算 例 に 対 し ,本 研 究 に
提 案 し た 維 持 保 全 計 画 最 適 化 シ ス テ ム に よ り , LCC最 小 化 と す る 維 持 保 全 計 画 だ け で は な
く,優れた準最適解の集合及び所有者意思と劣化状況に基づく実現性が高い最適の維持保
全 計 画 も 探 索 す る う え ,IAに よ る 優 れ た 準 最 適 解 集 合 の 多 様 性 を 検 討 す る た め ,GAに よ る
準 最 適 解 集 合( 準 最 適 解 の 数 は IAに お け る 記 憶 細 胞 数 と 同 じ )を 求 め る 。な お ,IA及 び GA
の パ ラ メ ー タ ー は 表 33と 同 じ よ う に な る 。
本章では,塩分侵入,中性化,複合劣化(中性化及び内存塩分,凍害及び塩分侵入,凍
害及び中性化)を劣化環境(第三章と同じ)と仮想し,第五章における補修水準の効果及
び費用モデルを参考にそれぞれの結果を次のように表す。
表 33 GA と IA に必 要 パラメーター
種類
GA
IA
固体数
400
世代数
1000
選択方法
ルーレット戦略+エリート保存
交叉方法
一 点 交 叉 ( 交 叉 確 率 75%)
突然変異確率
0.5%
記憶細胞数
-
30
T π 1 ,T π 2 ,T S
-
0.85
TП
-
0.65
4.5.1 塩 分 侵 入 事 例
本 章 で は ,予 定 供 用 期 間 を 100年 と す る 水 セ メ ン ト 比 55% の 建 物 を 対 象( N55_CL12F,第
三 章 と 同 じ ) と し て 表 面 塩 化 物 イ オ ン 量 を 3.0kg/m 3 , 6.0kg/m 3 , 9.0kg/m 3 と 仮 定 す る 。 前 述
に 提 案 し た 維 持 保 全 計 画 最 適 化 シ ス テ ム に よ り ,LCCを 最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 を 探 索 し ,
そ の 計 画 を 実 施 し た 後 の 破 壊 確 率 ,剥 離 確 率 ,LCCな ど を 図 49,図 50及 び 51の よ う に 表 す 。
そ の 結 果 , LCCを 最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 を 実 施 し た 後 , 各 事 例 と も 平 均 の 鉄 筋 腐 食 量
を 3%以 下 に ,建 物 の 破 壊 確 率 を 10% 以 下 に 抑 え る こ と が わ か る 。特 に ,表 面 塩 化 物 イ オ ン
量 3.0kg/m 3 に は 100年 の 間 に 建 物 の 破 壊 確 率 が ほ ぼ ゼ ロ に な る 。
LCCを 最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 実 施 前 後 の LCCに お け る 各 費 用 の 構 成 比 を 図 52aに 示 す 。
維持保全を実施しない場合,劣化リスク(かぶりコンクリート剥離による損失と建物の破
壊 に よ る 損 失 ) の LCCに 対 す る 比 率 は 表 面 塩 化 物 イ オ ン 量 の 増 加 に つ れ て 高 く な り , 特 に
9.0kg/m 3 の 場 合 に は 劣 化 リ ス ク と 初 期 建 築 費 用 の 比 率 は ほ ぼ 同 じ で あ る 。 維 持 保 全 を 実 施
す る こ と で ,い ず れ の ケ ー ス に お い て も の 建 物 破 壊 に よ る 損 失 の 比 率 は 1.0% 以 下 に 抑 え ら
れ , 維 持 保 全 費 用 の 比 率 も 約 10%と な る 。 た だ し , か ぶ り コ ン ク リ ー ト 剥 離 に よ る 損 失 の
比 率 は 9.0kg/m 3 の ケ ー ス を 除 き ( 11.5%) , 10% 以 下 と な る 。 水 セ メ ン ト 比 45%事 例 の LCC
の 内 訳( 表 52b)を 見 る と ,水 セ メ ン ト 比 55%と 同 じ 傾 向 が あ る が ,維 持 保 全 を 実 施 す る こ
と で ,い ず れ の ケ ー ス に お い て も の 劣 化 リ ス ク の 比 率 は 5.0% 以 下 に 抑 え ら れ ,維 持 保 全 費
用 の 比 率 も 約 10%と な る 。
各 世 代 に お け る 最 良 解 の 親 和 度 は 図 53の よ う に 推 移 し た 。GAと IA共 に ほ ぼ 同 じ 解 に 収 束
し た が , IAを 用 い た 場 合 に は 類 似 解 に 対 す る 抑 制 機 構 が あ る た め 収 束 解 近 傍 で 解 が 変 動 し
ているものと考えられる。さらに,本システム自体の有効性を検証するために解の多様性
に 関 す る 検 討 を 行 う 。各 世 代 の 個 体( SH)と 各 世 代 か ら 得 ら れ た 準 最 適 解( SAH;GAは 上
位 30個 ,IAは 記 憶 細 胞 )の 多 様 性 は 図 54の よ う に 示 さ れ る 。個 体 の 多 様 性 に つ い て は ,GA
よ り IAの ほ う が 多 様 で あ り , 多 様 性 が 高 い ほ ど , 類 似 の 解 へ の 抑 制 力 は 高 く な り , 局 部 解
に 陥 り に く い も の と 考 え ら れ る 。 つ ま り , IAで は 独 自 の 調 節 機 構 が 働 き , 一 つ の 解 に 収 束
す る こ と が 抑 制 さ れ て い る 。こ の よ う に ,準 最 適 解 の 多 様 性 に つ い て は ,GAで は 世 代 数 の
増 加 に つ れ て 多 様 性 が 低 く な る が , IAで は 逆 に 高 く な る た め , 解 析 の 最 後 ま で 準 最 適 解 の
多 様 性 が 維 持 で き る こ と を 示 す 。 つ ま り , 複 数 の 準 最 適 解 を 一 度 に 探 索 で き る IAの 能 力 が
示されたものと考える。
各 事 例 に お け る 準 最 適 解 集 合( IAに お け る 記 憶 細 胞 )に 対 し ,LCC最 小 値( LCCmin)を
参 考 に そ の 10%を 上 限 と 設 定 し , そ の 範 囲 内 の 維 持 保 全 計 画 の 実 現 性 に 関 す る 評 価 値
( TVA) を 4.3に 示 し た 簡 略 化 フ ァ ジ ィ 理 論 に よ り 評 価 す る こ と と し た 。 結 果 は LCC最 小 値
及 び 実 現 性 に 関 す る 評 価 値 の 最 大 値 ( TVAmax) を 用 い て 修 正 し て 図 55に な る 。 実 現 性 に
対 し て 最 も 高 い 評 価 を 持 つ 維 持 保 全 計 画 は LCCを 減 少 す る こ と に 対 し て も 有 効 で , 本 研 究
で の 最 適 維 持 保 全 計 画 と い う も の で あ る 。な お ,GA及 び IAに よ る LCC最 小 値 及 び 実 現 性 に
関 す る 評 価 値 の 最 大 値 の 維 持 保 全 計 画 は 表 34に な る 。
最 適 維 持 保 全 計 画 の 結 果 を 基 礎 と し て , 水 セ メ ン ト 比 55%の 場 合 に は , 鉄 筋 追 加 工 法 及
び 内 存 劣 化 要 因 除 去 工 法 を 含 む 補 修 水 準 ( TYPE-Ⅴ ) を 主 と し て , 表 面 塩 分 イ オ ン 量 の 増
加 に つ れ て 補 修 回 数 も 多 く な る こ と が わ か る 。 そ の 一 方 , 水 セ メ ン ト 比 45%の 場 合 に は ,
内 存 劣 化 要 因 除 去 工 法 を 含 む 補 修 水 準( TYPE-Ⅲ 及 び TYPE-Ⅴ )を 交 互 に 用 い 維 持 保 全 を 行
う傾向がある。
100
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
50
40
30
20
10
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
80
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
0
100
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
40
60
80
100
b. 平 均 剥 離 確 率
2
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
80
1.6
Life-cycle Cost (xCI)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
100
20
Specified Service Period (year)
Specified Service Period (year)
60
40
20
1.2
0.8
0.4
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 建 物 破 壊 確 率
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
d. ライフサイクルコスト
図 49 LCC を最 小 化 する維 持 保 全 計 画 実 施 後 の平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と LCC(表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3 )
100
100
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
50
40
30
20
10
0
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
100
0
Specified Service Period (year)
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
40
60
80
100
b. 平 均 剥 離 確 率
2
80
1.6
Life-cycle Cost (xCI)
100
Failure Probability
of Structure Safety (%)
20
Specified Service Period (year)
60
40
20
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
0
1.2
0.8
0.4
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 建 物 破 壊 確 率
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
d. ライフサイクルコスト
図 50 LCC を最 小 化 する維 持 保 全 計 画 実 施 後 の平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と LCC(表 面 塩 分 イオン量 6.0kg/m 3 )
100
100
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
50
40
30
20
10
0
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
100
0
Specified Service Period (year)
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
80
1.6
Life-cycle Cost (xCI)
2
Failure Probability
of Structure Safety (%)
40
60
80
100
b. 平 均 剥 離 確 率
100
60
40
20
20
Specified Service Period (year)
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
1.2
0.8
0.4
N55_CL12F(No maintenance)
N55_CL12F(Maintenance)
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 建 物 破 壊 確 率
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
d. ライフサイクルコスト
図 51 LCC を最 小 化 する維 持 保 全 計 画 実 施 後 の平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と LCC(表 面 塩 分 イオン量 9.0kg/m 3 )
100
100%
80%
60%
40%
20%
0%
図 52a LCC における内 訳 (水 セメント比 55%)
100%
80%
60%
40%
20%
0%
図 52b LCC における内 訳 (水 セメント比 45%)
0.9
0.96
IA
GA
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
IA
GA
0.89
0.88
0.87
0.95
0.94
0.93
W/C55%
0.86
W/C45%
0.92
0
200
400
600
800
1000
0
200
Generation
400
600
800
1000
800
1000
800
1000
Generation
a. 表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3
0.82
0.9
IA
GA
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
IA
GA
0.81
0.8
0.79
0.89
0.88
0.87
W/C55%
0.78
W/C45%
0.86
0
200
400
600
800
1000
0
Generation
200
400
600
Generation
b. 表 面 塩 分 イオン量 6.0kg/m 3
0.78
0.84
IA
GA
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
IA
GA
0.76
0.74
0.83
0.82
0.81
W/C55%
0.72
0.8
0
200
400
600
800
1000
W/C45%
0
Generation
200
400
600
Generation
c. 表 面 塩 分 イオン量 9.0kg/m 3
図 53 各 世 代 の最 良 解 の親 和 度
1
1
SAH(GA)
SAH(IA)
SH(GA)
SH(IA)
0.8
0.6
SH,SAH
SH,SAH
0.8
SH(IA)
0.4
SAH(IA)
W/C45%
SAH(GA)
SAH(IA)
SH(GA)
SH(IA)
W/C55%
0.6
0.4
SH(IA)
SAH(IA)
SH(GA)
SH(GA)
0.2
SAH(GA)
0.2
SAH(GA)
0
0
0
200
400
600
800
0
1000
200
400
600
800
1000
Generation
Generation
a. 表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3
1
1
SAH(GA)
SAH(IA)
SH(GA)
SH(IA)
0.8
0.6
SH,SAH
SH,SAH
0.8
SH(IA)
0.4
SH(GA)
0.2
0.6
0
0
0
200
400
600
800
SH(IA)
0.4
SH(GA)
0.2
SAH(GA)
SAH(IA)
W/C45%
SAH(GA)
SAH(IA)
SH(GA)
SH(IA)
W/C55%
1000
SAH(GA)
SAH(IA)
0
200
Generation
400
600
800
1000
Generation
b. 表 面 塩 分 イオン量 6.0kg/m 3
1
1
SAH(GA)
SAH(IA)
SH(GA)
SH(IA)
0.8
0.6
SH,SAH
SH,SAH
0.8
SH(IA)
0.4
W/C45%
SAH(GA)
SAH(IA)
SH(GA)
SH(IA)
W/C55%
0.6
SH(IA)
0.4
SH(GA)
SH(GA)
SAH(IA)
0.2
SAH(GA)
0.2
SAH(GA)
SAH(IA)
0
0
0
200
400
600
800
1000
0
200
400
600
Generation
Generation
c. 表 面 塩 分 イオン量 9.0kg/m 3
図 54 解 集 合 の多 様 性
800
1000
0
0
W/C45%
W/C55%
Upper Limit
0.2
Upper Limit
0.4
0.4
(
TVA/(TVAmax)
)
0.2
0.6
0.6
0.8
LCCmin=1.12
TVAmax=96.0
1
1
The optimal
maintenance plan
0.8
The optimal
maintenance plan
1.02 1.04 1.06 1.08
1.1
LCCmin=1.06
TVAmax=50.0
1
1
1.12
1.02 1.04 1.06 1.08
1.1
1.12
LCC/(LCCmin)
LCC/(LCCmin)
a. 表 面 塩 分 イオン量 3.0kg/m 3
0.2
0
W/C55%
Upper Limit
0.2
TVA/(TVAmax)
0.4
TVA/(TVAmax)
W/C45%
Upper Limit
0.6
0.8
The optimal
maintenance plan
1
1
0.4
0.6
0.8
LCCmin=1.23
TVAmax=75.1
1.02 1.04 1.06 1.08
1.1
The optimal
maintenance plan LCCmin=1.14
TVAmax=57.2
1
1.12
1
1.02 1.04 1.06 1.08
LCC/(LCCmin)
1.1
1.12
LCC/(LCCmin)
b. 表 面 塩 分 イオン量 6.0kg/m 3
0
0.2
Upper Limit
0.4
0.4
0.6
0.6
The optimal
maintenance plan
0.8
The optimal
maintenance plan
0.8
W/C45%
Upper Limit
TVA/(TVAmax)
TVA/(TVAmax)
0.2
LCCmin=1.92
TVAmax=80.0
LCCmin=1.20
TVAmax=51.7
W/C55%
1
1
1
1.02 1.04 1.06 1.08
1.1
1.12
1
1.02 1.04 1.06 1.08
LCC/(LCCmin)
LCC/(LCCmin)
c. 表 面 塩 分 イオン量 9.0kg/m 3
図 55 解 集 合 の多 様 性 及 び最 適 維 持 保 全 計 画 の推 定
1.1
1.12
表 34a IA 及 び GA による維 持 保 全 計 画 (水 セメント比 55%)
維 持 保 全 計 画 ( Co=3.0kg/m 3 )
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.41
GA( LCCmin)
1.12
24-Ⅴ ,40-Ⅲ ,50-Ⅴ ,74-Ⅴ
IA( LCCmin)
1.12
26-Ⅴ ,40-Ⅲ ,52-Ⅴ ,76-Ⅴ
1.80
1.12
26-Ⅴ ,42-Ⅲ ,52-Ⅴ ,76-Ⅴ
2.51
1.13
20-Ⅲ ,34-Ⅴ ,48-Ⅲ ,64-Ⅴ ,72-Ⅲ
24.7
IA( TVAmax)
1.13
32-Ⅴ ,64-Ⅴ
96.0
最適維持保全計画
1.13
32-Ⅴ ,64-Ⅴ
96.0
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.76
GA( LCCmin)
1.23
15-Ⅴ ,23-Ⅲ ,35-Ⅳ ,51-Ⅴ , 67-Ⅴ ,75-Ⅲ ,87-Ⅳ
IA( LCCmin)
1.24
19-Ⅴ ,35-Ⅴ ,43-Ⅲ ,53-Ⅴ ,69-Ⅴ ,85-Ⅴ
43.0
1.24
17-Ⅴ ,35-Ⅴ ,51-Ⅴ ,59-Ⅲ ,69-Ⅳ ,81-Ⅴ
47.2
1.24
19-Ⅴ ,39-Ⅴ ,59-Ⅴ ,81-Ⅴ
75.0
IA( TVAmax)
1.24
19-Ⅴ ,39-Ⅴ ,59-Ⅴ ,79-Ⅴ
75.1
最適維持保全計画
1.24
19-Ⅴ ,39-Ⅴ ,59-Ⅴ ,79-Ⅴ
75.1
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.92
GA( LCCmin)
1.31
14-Ⅳ ,26-Ⅳ ,38-Ⅳ ,50-Ⅳ ,62-Ⅳ ,74-Ⅳ ,88-Ⅳ
IA( LCCmin)
1.31
16-Ⅳ ,30-Ⅳ ,40-Ⅳ ,50-Ⅳ ,64-Ⅳ ,78-Ⅳ ,90-Ⅳ
22.3
1.31
16-Ⅳ ,30-Ⅳ ,44-Ⅳ ,58-Ⅳ ,70-Ⅴ ,86-Ⅴ
8.3
1.32
14-Ⅴ ,28-Ⅴ ,44-Ⅴ ,58-Ⅳ ,74-Ⅴ ,92-Ⅳ
58.3
IA( TVAmax)
1.33
14-Ⅴ ,32-Ⅴ ,46-Ⅳ ,62-Ⅴ ,80-Ⅳ ,94-Ⅰ
80.0
最適維持保全計画
1.33
14-Ⅴ ,32-Ⅴ ,46-Ⅳ ,62-Ⅴ ,80-Ⅳ ,94-Ⅰ
80.0
維 持 保 全 計 画 ( Co=6.0kg/m 3 )
維 持 保 全 計 画 ( Co=9.0kg/m 3 )
*TVA: 所 有 者 意 思 及 び 劣 化 状 況 に 基 づ く 実 現 性 に 関 す る 評 価 値
表 34b IA 及 び GA による維 持 保 全 計 画 (水 セメント比 45%)
TVA
TVA
TVA
維 持 保 全 計 画 ( Co=3.0kg/m 3 )
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.14
TVA
GA( LCCmin)
1.06
41-Ⅲ ,67-Ⅴ ,83-Ⅰ
IA( LCCmin)
1.06
41-Ⅲ ,67-Ⅴ ,83-Ⅰ
18.4
1.06
47-Ⅲ ,67-Ⅴ
50.0
1.06
51-Ⅴ
1.8
IA( TVAmax)
1.06
47-Ⅲ ,67-Ⅴ
50.0
最適維持保全計画
1.06
47-Ⅲ ,67-Ⅴ
50.0
3
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.50
維 持 保 全 計 画 ( Co=6.0kg/m )
TVA
GA( LCCmin)
1.14
24-Ⅲ ,34-Ⅴ ,52-Ⅲ ,66-Ⅴ ,76-Ⅲ
IA( LCCmin)
1.14
24-Ⅲ ,34-Ⅴ ,52-Ⅲ ,66-Ⅴ ,76-Ⅲ
41.7
1.14
26-Ⅴ ,50-Ⅴ ,60-Ⅲ ,74-Ⅲ ,90-Ⅳ
4.57
1.14
22-Ⅲ ,36-Ⅴ ,46-Ⅲ ,72-Ⅴ
57.2
IA( TVAmax)
1.14
22-Ⅲ ,36-Ⅴ ,46-Ⅲ ,72-Ⅴ
57.2
最適維持保全計画
1.14
22-Ⅲ ,36-Ⅴ ,46-Ⅲ ,72-Ⅴ
57.2
3
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.69
維 持 保 全 計 画 ( Co=9.0kg/m )
TVA
GA( LCCmin)
1.20
21-Ⅴ ,41-Ⅴ ,61-Ⅴ ,81-Ⅴ
IA( LCCmin)
1.20
21-Ⅴ ,39-Ⅲ ,45-Ⅴ ,61-Ⅲ ,69-Ⅴ ,81-Ⅲ
43.6
1.20
19-Ⅴ ,39-Ⅴ ,59-Ⅴ ,79-Ⅴ
12.1
1.21
17-Ⅲ ,25-Ⅴ ,39-Ⅲ ,49-Ⅴ ,57-Ⅱ ,75-Ⅴ
35.8
IA( TVAmax)
1.21
17-Ⅲ ,29-Ⅴ ,43-Ⅲ ,53-Ⅴ ,61-Ⅲ ,79-Ⅴ ,95-Ⅱ
51.7
最適維持保全計画
1.21
17-Ⅲ ,29-Ⅴ ,43-Ⅲ ,53-Ⅴ ,61-Ⅲ ,79-Ⅴ ,95-Ⅱ
51.7
*TVA: 所 有 者 意 思 及 び 劣 化 状 況 に 基 づ く 実 現 性 に 関 す る 評 価 値
4.5.2 中 性 化 及 び複 合 劣 化 (中 性 化 及 び塩 分 内 存 )事 例
本 章 で は , 予 定 供 用 期 間 を 100年 と す る 水 セ メ ン ト 比 60% の 建 物 ( N60_Cb12Fと
N60_BCC12F, 第 三 章 と 同 じ ) を 対 象 と し て 中 性 化 及 び 複 合 劣 化 ( 中 性 化 及 び 塩 分 内 存 )
と な る 劣 化 環 境 と 設 定 す る 。 前 述 に 提 案 し た 維 持 保 全 計 画 最 適 化 シ ス テ ム に よ り , LCCを
最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 を 探 索 し , そ の 計 画 を 実 施 し た 後 の 破 壊 確 率 , 剥 離 確 率 , LCCな
ど を 図 56及 び 図 57の よ う に 表 す 。
中 性 化 の み の 結 果 に よ り , LCCを 最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 を 実 施 し た 後 , 平 均 の 鉄 筋 腐
食 量 を 約 1.0%以 下 に , 建 物 の 破 壊 確 率 を 20% 以 下 に 抑 え る こ と が わ か る 。 LCCを 最 小 化 す
る 維 持 保 全 計 画 実 施 前 後 の LCCに お け る 各 費 用 の 構 成 比 を 図 58aに 示 す 。結 果 を 見 る と ,維
持保全を実施しない場合,劣化リスク(かぶりコンクリート剥離による損失と建物の破壊
に よ る 損 失 ) の LCCに 対 す る 比 率 は 約 10%で , 維 持 保 全 を 実 施 し た 後 約 3.0%に 抑 え ら れ ,
維 持 保 全 費 用 の 比 率 は 約 1.5% で あ る 。
複 合 劣 化 に 伴 う 劣 化 リ ス ク は , 他 の 事 例 と 同 じ よ う に LCCを 最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 を
実 施 す る こ と で 有 効 に 低 減 さ れ ,図 58bの 結 果 を 見 る と ,維 持 保 全 を 実 施 し な い 場 合 ,劣 化
リ ス ク ( か ぶ り コ ン ク リ ー ト 剥 離 に よ る 損 失 と 建 物 の 破 壊 に よ る 損 失 ) の LCCに 対 す る 比
率 は 約 50%で , 維 持 保 全 を 実 施 し た 後 約 5.0%に 抑 え ら れ , 維 持 保 全 費 用 の 比 率 は 約 10% で
ある。
各 世 代 に お け る 最 良 解 の 親 和 度 は 図 59aの よ う に 推 移 し た 。 GAと IA共 に ほ ぼ 同 じ 解 に 収
束 し た が , IAを 用 い た 場 合 に は 類 似 解 に 対 す る 抑 制 機 構 が あ る た め 収 束 解 近 傍 で 解 が 変 動
しているものと考えられる。その上で,本システム自体の有効性を検証するために解の多
様 性 に 関 す る 検 討 を 行 っ た( 図 59b)。多 様 性 の 結 果 に よ る と ,塩 害 の 事 例 と 同 じ よ う な 傾
向 が 検 証 さ れ , IAに お け る 複 数 の 準 最 適 解 を 一 度 に 探 索 で き る 能 力 も 示 さ れ た 。
塩 分 侵 入 事 例 と 同 じ よ う に 準 最 適 解 集 合 ( IAに お け る 記 憶 細 胞 ) の 結 果 も LCC最 小 値
( LCCmin)及 び 実 現 性 に 関 す る 評 価 値 の 最 大 値( TVAmax)を 用 い て 修 正 し て 図 59cに な る 。
実 現 性 に 対 し て 最 も 高 い 評 価 を 持 つ 維 持 保 全 計 画 は LCCを 減 少 す る こ と に 対 し て も 有 効 で ,
本 研 究 で の 最 適 維 持 保 全 計 画 と い う も の で あ る 。な お ,GA及 び IAに よ る LCC最 小 値 及 び 実
現 性 に 関 す る 評 価 値 の 最 大 値 の 維 持 保 全 計 画 は 表 35に な る 。 結 果 を 基 礎 と し て , 中 性 化 及
び複合劣化事例には,鉄筋腐食が室内外とも全面的に生じている原因で建物の破壊確率が
剥離確率より進んで行くため,外観変状のメンバーシップ関数に従う帰属度が低く,実現
性に関する評価値も低く評価されることがわかる。つまり,このような事例に対して,外
観から見ると変状が軽く生じているに関わらず,鉄筋腐食に伴う構造安全性能低下への配
慮が必要だと考えられる。
100
N60_Cb12F(No maintenance)
N60_Cb12F(Maintenance)
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
10
8
6
4
2
N60_Cb12F(No maintenance)
N60_Cb12F(Maintenance)
80
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
0
100
20
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
60
80
100
b. 平 均 剥 離 確 率
2
100
N60_Cb12F(No maintenance)
N60_Cb12F(Maintenance)
N60_Cb12F(No maintenance)
N60_Cb12F(Maintenance)
1.6
80
Life-cycle Cost (xCI)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
40
Specified Service Period (year)
Specified Service Period (year)
60
40
1.2
0.8
20
0.4
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 建 物 破 壊 確 率
d. ライフサイクルコスト
図 56 LCC を最 小 化 する維 持 保 全 計 画 実 施 後 の平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と LCC(中 性 化 )
100
100
N60_BCC12F(No maintenance)
N60_BCC12F(Maintenance)
Average Spalling Probability (%)
Average Corrosion of Steel (%)
50
40
30
20
10
N60_BCC12F(No maintenance)
N60_BCC12F(Maintenance)
80
60
40
20
0
0
0
20
40
60
80
0
100
20
40
60
80
100
Specified Service Period (year)
Specified Service Period (year)
a. 平 均 鉄 筋 腐 食 量
b. 平 均 剥 離 確 率
2
100
1.6
80
Life-cycle Cost (xCI)
Failure Probability
of Structure Safety (%)
N60_BCC12F(No maintenance)
N60_BCC12F(Maintenance)
60
40
20
1.2
0.8
0.4
N60_BCC12F(No maintenance)
N60_BCC12F(Maintenance)
0
0
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
c. 建 物 破 壊 確 率
100
0
20
40
60
80
Specified Service Period (year)
d. ライフサイクルコスト
図 57 LCC を最 小 化 する維 持 保 全 計 画 実 施 後 の平 均 鉄 筋 腐 食 量 ,平 均 剥 離 確 率 ,
建 物 破 壊 確 率 と LCC(中 性 化 及 び塩 分 内 存 )
100
100%
80%
60%
40%
20%
0%
図 58a LCC における内 訳 (中 性 化 )
100%
80%
60%
40%
20%
0%
図 58b LCC における内 訳 (中 性 化 及 び塩 分 内 存 )
0.9
0.98
IA
GA
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
Affinity of the Optimal
Antibody in one generation
IA
GA
0.97
0.96
0.95
0.89
0.88
0.87
0.86
0.94
0
200
400
600
800
1000
0
200
Generation
400
600
800
1000
Generation
a. 各 世 代 の最 良 解 の親 和 度
1
0.8
0.6
0.4
SH(IA)
SH(GA)
0.2
GA(SAH)
IA(SAH)
SH(GA)
SH(IA)
0.8
SH,SAH
SH,SAH
1
GA(SAH)
IA(SAH)
SH(GA)
SH(IA)
0.6
0.4
SH(IA)
SAH(IA)
SH(GA)
0.2
SAH(GA)
0
SAH(IA)
SAH(GA)
0
0
200
400
600
800
1000
0
Generation
200
400
600
800
1000
Generation
b. 解 集 合 の多 様 性
0
0
Upper Limit
Upper Limit
0.2
TVA/(TVAmax)
TVA/(TVAmax)
0.2
0.4
0.6
The optimal
maintenance plan
0.8
0.4
0.6
The optimal
maintenance plan
LCCmin=0.13
TVAmax=14.1
0.8
LCCmin=0.03
TVAmax=0.16
1
1
1.02 1.04 1.06 1.08
LCC/(LCCmin)
1.1
1.12
1
1
1.02 1.04 1.06 1.08
LCC/(LCCmin)
c. 解 集 合 の多 様 性 及 び最 適 維 持 保 全 計 画 の推 定
1.1
1.12
図 59 最 適 化 の結 果 (左 :中 性 化 ;右 :中 性 化 及 び塩 分 内 存 )
表 35a IA 及 び GA による維 持 保 全 計 画 (中 性 化 )
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.09
維持保全計画
TVA
GA( LCCmin)
1.03
61-Ⅴ ,75-Ⅲ
IA( LCCmin)
1.03
61-Ⅴ ,77-Ⅲ
0.02
1.03
61-Ⅴ ,77-Ⅰ
0.02
1.04
61-Ⅴ
0.03
IA( TVAmax)
1.04
61-Ⅴ ,77-Ⅱ
0.2
最適維持保全計画
1.04
61-Ⅴ ,77-Ⅱ
0.2
*TVA: 所 有 者 意 思 及 び 劣 化 状 況 に 基 づ く 実 現 性 に 関 す る 評 価 値
表 35b IA 及 び GA による維 持 保 全 計 画 (中 性 化 及 び塩 分 内 存 )
LCC( 維 持 保 全 な し )
1.96
維持保全計画
TVA
GA( LCCmin)
1.13
13-Ⅴ ,37-Ⅲ ,75-Ⅴ
IA( LCCmin)
1.13
13-Ⅴ ,37-Ⅲ ,75-Ⅴ
2.5
1.13
13-Ⅴ ,45-Ⅲ ,81-Ⅱ
10.6
1.13
13-Ⅴ ,43-Ⅲ ,85-Ⅰ
7.3
IA( TVAmax)
1.13
13-Ⅴ ,47-Ⅲ ,81-Ⅱ
14.1
最適維持保全計画
1.13
13-Ⅴ ,47-Ⅲ ,81-Ⅱ
14.1
*TVA: 所 有 者 意 思 及 び 劣 化 状 況 に 基 づ く 実 現 性 に 関 す る 評 価 値
4.5.3 本 章 の ま と め
本 研 究 で は IAに よ り 塩 分 侵 入 や 中 性 化 な ど に 伴 う 劣 化 リ ス ク を 含 め た LCCを 最 小 化 す る
維 持 保 全 計 画 構 築 手 法 を 提 案 し た 。さ ら に ,IAか ら の 準 最 適 解 集 合( LCCは 一 定 の 範 囲 内 )
に対して,簡略化ファジィ理論により所有者意思及び劣化状況に基づく実現性のもっとも
高い維持保全計画,即ち本研究での最適維持保全計画を推論する方法を構築した。
一 連 の 試 算 例 を 基 礎 と し ,IA或 は GAに よ る LCCを 最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 に よ り ,塩 分
侵 入 , 中 性 化 及 び 複 合 劣 化 に 伴 う 建 物 の 破 壊 確 率 , 剥 離 確 率 , 鉄 筋 腐 食 量 及 び LCCが 減 少
さ れ ,劣 化 リ ス ク の LCCに 対 す る 比 率( 水 セ メ ン ト 比 55%,表 面 塩 分 イ オ ン 量 9.0kg/m 3 の 事
例 を 除 く ) も 10%以 下 に 抑 え ら れ る 。 つ ま り , 本 研 究 に 提 案 し た 維 持 保 全 計 画 最 適 化 シ ス
テ ム に よ り LCCを 減 少 す る こ と に 対 す る 有 効 な 補 修 計 画 を 探 索 す る こ と が で き る と 考 え ら
れ る 。な お ,IA及 び GAに よ る 解 多 様 性 の 結 果 を 見 る と ,本 シ ス テ ム の 出 力 解 か ら 多 様 性 の
高い複数の維持保全計画が得られたことを示し,所有者意思及び劣化状況を考慮し実現可
能な優位解の探索に対しても有効なシステムであることが明らかとなった。
将来には,予定供用期間の残存だけではなく,補修・補強に伴う営業損失や建物の残存
価値や維持保全における費用の調達など所有者意思と関連がある要素を配慮してファジィ
推論を建て,より実現性をもつ維持保全計画の探索できるシステムを構築することに進む
ことが必要だと思う。
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[56] 日 本 建 築 学 会 : 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 築 物 の 耐 久 設 計 施 工 指 針 ( 案 ) ・ 同 解 説 , 2004
[57] Jung S. Kong, M.ASCE・ Dan M. Frangopol, F.ASCE: Probabilistic Optimization of Aging
Structures Considering Maintenance and Failure Costs, Journal of Structural Engineering
( ASCE) , Vol.131, No.4, pp.600-616, 2005.4
[58] Dan M. Frangopol, Eugen Brühwiler, Michael H. Faber, Bryan Adey:Life-Cycle Performance
of Deterioration Structures( Assessment, Design and Management) , ASCE, 2003.8
[59] 大 内 東 ら : 生 命 複 雑 系 か ら の 計 算 パ ラ ダ イ ム , 森 北 出 版 , 2003
[60] 本 間 俊 雄 ・ 加 治 広 之 ・ 登 坂 宣 好 : 免 疫 ア ル ゴ リ ズ ム に よ る 構 造 シ ス テ ム の 最 適 化 と 解
の 多 様 性 , 日 本 建 築 学 会 構 造 系 論 文 集 , No.588, pp.103-110, 2005.2
[61] 中 村 秀 明 ら:遺 伝 的 ア ル ゴ リ ズ ム お よ び 免 疫 ア ル ゴ リ ズ ム に よ る 橋 梁 維 持 管 理 計 画 最
適 化 の 検 証 , 構 造 工 学 論 文 集 , Vol.47A, pp.201-210, 2001.3
[62] 兼 松 学 ・ 野 口 貴 文 : 遺 伝 的 ア ル ゴ リ ズ ム に よ る RC 構 造 物 の 補 修 ・ 改 修 最 適 化 問 題 に
関する研究,複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画に関するシンポジウ
ム 論 文 集 , pp.51-54, 2001
[63] 兼 松 学 : 建 築 材 料 分 野 に お け る 性 能 指 向 型 設 計 支 援 多 基 準 最 適 化 シ ス テ ム の 構 築 ,学
位 論 文 , 2005.3
[64] 石 田 好 輝 : 免 疫 型 シ ス テ ム と そ の 応 用 ( 免 疫 系 に 学 ん だ 知 能 シ ス テ ム ) , コ ロ ナ 社 ,
1998.7
[65] 塚 本 弥 八 郎 : フ ァ ジ ィ 情 報 論 , 大 学 教 育 出 版
[66] 西 村 昭 ら : 構 造 物 の 健 全 度 診 断 へ の フ ァ ジ ー 集 合 論 の 適 用 に 関 す る 基 礎 的 研 究 ,土 木
学 会 論 文 集 , Vol.7, No.380, pp.365-374, 1987.4
[67] 長 谷 川 禎 彦 ・ 伊 庭 斉 志 : 免 疫 系 を 用 い た 遺 伝 的 プ ロ グ ラ マ ミ ン グ に よ る 多 峰 性 探 索 ,
人 工 知 能 学 会 論 文 誌 , Vol.21, No.2E, pp.176-183, 2006
[68] 高 橋 敏 樹 ら : 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の ラ イ フ サ イ ク ル コ ス ト 評 価 シ ス テ ム の 開 発 ,
大 林 組 技 術 研 究 所 報 , No.65, pp.47-52, 2002
[69] 高 橋 敏 樹 ら:遺 伝 的 ア ル ゴ リ ズ ム を 用 い た コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の ラ イ フ サ イ ク ル コ ス
ト 最 小 化 に 関 す る 研 究 , コ ン ク リ ー ト 工 学 年 次 論 文 集 , Vol.23, No.1, pp.1207-1212,
2001
[70] 邱 建 國 ら : 塩 害 に 伴 う 劣 化 リ ス ク を 包 含 し た LCCを 最 小 化 す る 維 持 保 全 計 画 最 適 化 に
関 す る 研 究 , 日 本 建 築 学 会 構 造 論 文 集 , 第 616号 , pp.41-48, 2007.6
[71] 邱 建 國 ら:免 疫 的 ア ル ゴ リ ズ ム に よ る RC建 築 物 の 中 性 化 に 対 す る 維 持 保 全 計 画 最 適 化
に 関 す る 研 究 , 日 本 建 築 学 会 構 造 論 文 集 , 第 624号 , pp.173-180, 2008.2
8. 研 究 成 果 の 刊 行 に 関 す る 一 覧 表
刊 行 書 籍 又 は 雑 誌 名( 雑 誌 の と き は
刊行年月日
刊行書店名
2009年 9月
日本建築学会
執筆者氏名
雑誌名,巻号数,論文名)
日 本 建 築 学 会 学 術 講 演 梗 概 集( A 1分冊)
・ポリマーセメントモルタルの発
熱性に関する研究 - その1 ポ
リマー量および調合条件の影響
・ポリマーセメントモルタルの発
熱性に関する研究 - その2 試
験体の厚さの影響
コンクリート工学年次論文集
( Vol.31)
・高温を受けたポリマーセメント
モルタルの力学性状
日本火災学会研究発表会概要集
・ポリマーセメントモルタルの燃
焼特性の評価
・高温を受けたポリマーセメント
モルタルとコンクリートの付着
特性
Journal of Advanced Concrete
Technology
“ Optimal Maintenance Plan for
RC Members by Minimizing
Life-Cycle Cost Including
Deterioration Risk Due to
Carbonation”
日 本 建 築 学 会 学 術 講 演 梗 概 集( A 1分冊)
・ポリマーセメントモルタルの燃
焼特性および熱伝導率に関する
研究 その1 発熱性試験の結
果
・ポリマーセメントモルタルの燃
焼特性および熱伝導率に関する
研究 その2 不燃性試験の結
果
・ポリマーセメントモルタルの燃
焼特性および熱伝導率に関する
研究 その3 熱伝導率の温度
依存性
・補修モルタルと躯体コンクリー
ト間の付着特性に関する研究
コンクリート工学年次論文集
( Vol.30)
濱崎仁,野口貴文,
金 亨 俊 ,王 徳 東 ,吉
田正志
金 亨 俊 ,濱 崎 仁 ,野
口 貴 文 ,王 徳 東 ,吉
田正志,長井宏憲
2009年 7月
日本コンクリ
ート工学協会
濱崎仁,野口貴文,
王徳東,金亨俊
2009年 5月
日本火災学会
金 亨 俊 ,濱 崎 仁 ,野
口 貴 文 ,王 徳 東 ,吉
田正志
濱 崎 仁 ,金 亨 俊 ,野
口 貴 文 ,王 徳 東 ,長
井宏憲
2008年 10月
日本コンクリ
ート工学協会
Chien Kuo Chiu,
Takafumi Noguchi
and Manabu
Kanematsu
2008年 9月
日本建築学会
濱崎仁,野口貴文,
王徳東,金 亨俊,
吉 田 正 志 ,成 瀬 友 宏
金亨俊,野口貴文,
濱 崎 仁 ,王 徳 東 ,吉
田正志,成瀬友宏
王徳東,野口貴文,
濱崎仁,成瀬友宏,
長井宏憲,金亨俊
米田信年,野口貴
文 ,朴 同 天 ,濱 崎 仁
2008年 7月
日本コンクリ
ート工学協会
・高温を受けた補修材料の残存強
度
王徳東,野口貴文,
濱崎仁,朴 同天
・有限要素逆解析による補修モル
タルと躯体コンクリートの付着
構成則構築
日本建築学会構造系論文集
金亨俊,野口貴文,
米田信年,濱崎仁
2008年 2月
日本建築学会
( NO.624)
・腐食形態を考慮した腐食鉄筋の
金螢来,野口貴文,
力学的性能の評価に関する研究
長井宏憲
・ 免 疫 的 ア ル ゴ リ ズ ム に よ る RC建
邱 建 國 ,兼 松 学 ,野
築物の中性化に対する維持保全
口貴文,長井宏憲
計画最適化に関する研究
日本建築学会学術講演梗概集
2007年 9月
日本建築学会
( A -1 分 冊 )
・腐食鉄筋の腐食形状の定量化及
金螢来,野口貴文,
び力学的性能の評価
長井宏憲
・ 免 疫 的 ア ル ゴ リ ズ ム に よ る RC建
邱建國,野口貴文,
築物の維持保全最適化に関する
兼松学,長井宏憲
研究
・補修モルタルと鉄筋の付着特性
米田信年,野口貴
に関する研究
文 ,朴 同 天 ,濱 崎 仁
王徳東,野口貴文,
・VVA粉 末 樹 脂 混 入 ポ リ マ ー セ メ ン
トモルタルの高温加熱後の力学
濱 崎 仁 ,朴 同 天 ,熊
的性質に関する実験的研究
英,崔国臣
9. 研 究 成 果 に よ る 知 的 財 産 権 の 出 願 ・ 取 得 状 況
知的財産権の内容
知的財産権の
種類,番号
10. 成 果 の 実 用 化 の 見 通 し
該当なし
11. そ の 他
なし
出願年月日
取得年月日
権利者名
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