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第I期中期目標期間業務実績報告書 - 国立研究開発法人日本原子力

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第I期中期目標期間業務実績報告書 - 国立研究開発法人日本原子力
独立行政法人日本原子力研究開発機構
第Ⅰ期中期目標期間業務実績報告書
(平成 17 年 10 月 1 日~平成 22 年 3 月 31 日)
独立行政法人 日本原子力研究開発機構
目
次
独立行政法人日本原子力研究開発機構の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
第Ⅰ期中期目標期間業務実績
Ⅰ.国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成
するため取るべき措置・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
1.エネルギーの安定供給と地球環境問題の同時解決を目指した原子力システ
ムの研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
(1)高速増殖炉サイクル技術の確立に向けた研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
1)高速増殖炉サイクル実用化研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2)高速増殖原型炉「もんじゅ」における研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18
3)プルトニウム燃料製造技術開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24
(2)高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術に関する研究開発・・・・・・・・・ 26
1)地層処分研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26
2)深地層の科学的研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29
(3)原子力システムの新たな可能性を切り開くための研究開発・・・・・・・・・・ 31
1)分離・変換技術の研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31
2)高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・ 35
3)核融合エネルギーを取り出す技術システムの研究開発・・・・・・・・・・・・ 40
(4)民間事業者の原子力事業を支援するための研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・ 50
2.量子ビームの利用のための研究開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52
(1)多様な量子ビーム施設・設備の戦略的整備とビーム技術開発・・・・・・・・ 53
(2)量子ビームを利用した先端的な測定・解析・加工技術の開発・・・・・・・・ 60
(3)量子ビームの実用段階での本格利用を目指した研究開発・・・・・・・・・・・・ 65
3.原子力の研究、開発及び利用の安全の確保と核不拡散に関する政策
に貢献するための活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69
(1)安全研究とその成果の活用による原子力安全規制行政に対する
技術的支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 69
(2)原子力防災等に対する技術的支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 86
(3)核不拡散政策に関する支援活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90
4.自らの原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分に係る
技術開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96
(1)原子力施設の廃止措置に必要な技術開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 96
(2)放射性廃棄物の処理・処分に必要な技術開発・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99
5.原子力の研究、開発及び利用に係る共通的科学技術基盤の高度化・・・・・ 102
(1)原子力基礎工学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 102
(2)先端基礎研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 117
i
6.放射性廃棄物の埋設処分・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 122
7.産学官との連携の強化と社会からの要請に対応するための活動・・・・・・・ 124
(1) 研究開発成果の普及とその活用の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 124
(2) 施設・設備の外部利用の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 130
(3) 特定先端大型研究施設の共用の促進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 132
(4) 原子力分野の人材育成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 133
(5) 原子力に関する情報の収集、分析及び提供・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 139
(6) 産学官の連携による研究開発の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 141
(7) 国際協力の推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 143
(8) 立地地域の産業界等との技術協力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 145
(9) 社会や立地地域の信頼の確保に向けた取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 150
(10)情報公開及び広聴・広報活動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 153
Ⅱ.業務運営の効率化に関する目標を達成するためとるべき措置・・・・・・・・・・ 157
1.柔軟かつ効率的な組織運営・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 157
2.統合による融合相乗効果の発揮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 160
3.産業界、大学等、関係機関との連携強化による効率化・・・・・・・・・・・・・・・ 164
4.業務・人員の合理化・効率化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 166
5.評価による業務の効率的推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 170
Ⅲ.予算(人件費の見積りを含む。)、収支計画及び資金計画・・・・・・・・・・・・・・ 172
1.予算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 172
2.収支計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 176
3.資金計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 179
4.財務内容の改善に関する事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 183
Ⅳ.短期借入金の限度額・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 192
Ⅴ.重要な財産を譲渡し、又は担保に供しようとするときはその計画・・・・・・ 192
Ⅵ.剰余金の使途・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 192
Ⅶ.その他の業務運営に関する事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 193
1.安全確保の徹底と信頼性の管理に関する事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 193
2.施設・設備に関する事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 199
3.放射性廃棄物の処理・処分並びに原子力施設の廃止措置に関する
事項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 201
4.国際約束の誠実な履行・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 212
5.人事に関する計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 213
6.中期目標期間を超える債務負担・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 216
ii
独立行政法人日本原子力研究開発機構の概要
1
2
1.業務内容
(1)目的(独立行政法人日本原子力研究開発機構法第四条)
独立行政法人日本原子力研究開発機構(以下「機構」という。)は、原子力基本法第二条に規
定する基本方針に基づき、原子力に関する基礎的研究及び応用の研究並びに核燃料サイクル
を確立するための高速増殖炉及びこれに必要な核燃料物質の開発並びに核燃料物質の再処理
に関する技術及び高レベル放射性廃棄物の処分等に関する技術の開発を総合的、計画的かつ
効率的に行うとともに、これらの成果の普及等を行い、もって人類社会の福祉及び国民生活の水
準向上に資する原子力の研究、開発及び利用の促進に寄与することを目的とする。
(2)業務の範囲(独立行政法人日本原子力研究開発機構法第十七条)
機構は、第四条の目的を達成するため、次の業務を行う。
一 原子力に関する基礎的研究を行うこと。
二 原子力に関する応用の研究を行うこと。
三 核燃料サイクルを技術的に確立するために必要な業務で次に掲げるものを行うこと。
イ 高速増殖炉の開発(実証炉を建設することにより行うものを除く。)及びこれに必要な
研究
ロ イに掲げる業務に必要な核燃料物質の開発及びこれに必要な研究
ハ 核燃料物質の再処理に関する技術の開発及びこれに必要な研究
ニ ハに掲げる業務に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の処理及び処分に関する技
術の開発及びこれに必要な研究
四 前三号に掲げる業務に係る成果を普及し、及びその活用を促進すること。
五 放射性廃棄物の処分に関する業務で次に掲げるもの( 特定放射性廃棄物の最終処分
に関する法律 (平成十二年法律第百十七号)第五十六条第一項 及び第二項 に規定
する原子力発電環境整備機構の業務に属するものを除く。)を行うこと。
イ 機構の業務に伴い発生した放射性廃棄物(附則第二条第一項及び第三条第一項の
規 定 により機 構 が承 継 した放 射 性 廃 棄 物 (以 下「承 継 放 射 性 廃 棄 物 」という。)を含
む。)及び機構以外の者から処分の委託を受けた放射性廃棄物( 核原料物質、核燃
料物質及び原子炉の規制に関する法律 (昭和三十二年法律第百六十六号) 第二十
三条第一項第一号 に規定する実用発電用原子炉及びその附属施設並びに原子力
発電と密接な関連を有する施設で政令で定めるものから発生したものを除く。)の埋設
の方法による最終的な処分(以下「埋設処分」という。)
ロ 埋設処分を行うための施設(以下「埋設施設」という。)の建設及び改良、維持その他
の管理並びに埋設処分を終了した後の埋設施設の閉鎖及び閉鎖後の埋設施設が所
在した区域の管理
六 機構の施設及び設備を科学技術に関する研究及び開発並びに原子力の開発及び利
用を行う者の利用に供すること。
七 原子力に関する研究者及び技術者を養成し、及びその資質の向上を図ること。
八 原子力に関する情報を収集し、整理し、及び提供すること。
九 第一号から第三号までに掲げる業務として行うもののほか、関係行政機関又は地方公
共団体の長が必要と認めて依頼した場合に、原子力に関する試験及び研究、調査、分
析又は鑑定を行うこと。
十 前各号の業務に附帯する業務を行うこと。
2 機構は、前項の業務のほか、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律 (平成
六年法律第七十八号)第五条第二項 に規定する業務を行う。
3 機構は、前二項の業務のほか、前二項の業務の遂行に支障のない範囲内で、国、地方公
共団体その他政令で定める者の委託を受けて、これらの者の核原料物質 (原子力基本法
第三条第三号 に規定する核原料物質をいう。)、核燃料物質又は放射性廃棄物を貯蔵し、
又は処理する業務を行うことができる。
1
2.事務所等の所在地
(1)本部
〒319-1184 茨城県那珂郡東海村村松4番地49
TEL:029-282-1122
(2)研究開発拠点等
東京事務所
〒100-8577 東京都千代田区内幸町2丁目1番地8号
システム計算科学センター
〒110-0015 東京都台東区東上野6丁目9番3号
埋設事業推進センター
〒105-0003 東京都港区西新橋1丁目1番21号
原子力緊急時支援・研修センター
〒311-1206 茨城県ひたちなか市西十三奉行11601番地13
東海研究開発センター
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2番地4
原子力科学研究所
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2番地4
核燃料サイクル工学研究所
〒319-1194 茨城県那珂郡東海村村松4番地33
J-PARCセンター
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2番地4
大洗研究開発センター
〒311-1393 茨城県東茨城郡大洗町成田町4002番
敦賀本部
〒914-8585 福井県敦賀市木崎65号20番
高速増殖炉研究開発センター
〒919-1279 福井県敦賀市白木2丁目1番地
原子炉廃止措置研究開発センター
〒914-8510 福井県敦賀市明神町3番地
那珂核融合研究所
〒311-0193 茨城県那珂市向山801番地1
高崎量子応用研究所
〒370-1292 群馬県高崎市綿貫町1233番地
関西光科学研究所
〒619-0215 京都府木津川市梅美台8丁目1番地7
幌延深地層研究センター
〒098-3224 北海道天塩郡幌延町北進432番2
東濃地科学センター
〒509-5102 岐阜県土岐市泉町定林寺959番地31
人形峠環境技術センター
〒708-0698 岡山県苫田郡鏡野町上齋原1550番地
青森研究開発センター
〒039-3212 青森県上北郡六ヶ所村大字尾駮字表舘2番166
TEL:03-3592-2111
TEL:03-5246-2505
TEL:03-3592-2111
TEL:029-265-5111
TEL:029-282-5100
TEL:029-282-5100
TEL:029-282-1111
TEL:029-282-5100
TEL:029-267-4141
TEL:0770-23-3021
TEL:0770-39-1031
TEL:0770-26-1221
TEL:029-270-7213
TEL:027-346-9232
TEL:0774-71-3000
TEL:01632-5-2022
TEL:0572-53-0211
TEL:0868-44-2211
TEL:0175-71-6500
(3)海外事務所
ワシントン事務所
1825 K Street, N.W., Suite 508, Washington, D.C. 20006 U.S.A.
TEL:+1-202-338-3770
2
パリ事務所
Bureau de Paris 4/8, rue Sainte-Anne, 75001 Paris, France
TEL:+33-1-4260-3101
ウィーン事務所
Leonard Bernsteinstrasse 8/34/7 A-1220, Wien, Austria
TEL:+43-1-955-4012
3.資本金の状況
独立行政法人日本原子力研究開発機構の資本金は、平成21年度末現在で808,594百万円と
なっている。
(資本金内訳)
(単位:千円)
平成21年度末
政府出資金
792,175,116
民間出資金
16,419,373
計
808,594,490
備考
*単位未満切り捨て
4.役員の状況
定数(独立行政法人日本原子力研究開発機構法第十条)
機構に、役員として、その長である理事長及び監事二人を置く。機構に、役員として、副理事長一
人及び理事七人以内を置くことができる。
(平成17年10月1日~平成22年3月31日)
役名
氏名
任期
主要経歴
昭和41年 3月 大阪大学工学部原子力工学科
卒業
平成 9年 1月 科学技術庁科学審議官
平成10年 6月 同庁科学技術事務次官
平成12年 7月 日本原子力研究所副理事長
平成16年 1月 同研究所理事長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構
副理事長
平成19年 1月 同機構理事長
平成19年1月1日~
平成22年3月31日
理事長
(理事
長)
岡﨑 俊雄
殿塚 猷 一
(副理事長在任期間
平成17年10月1日~
平成18年12月31日)
平成17年10月1日~
平成18年12月31日
3
昭和35年 3月
平成 7年 6月
平成13年 6月
平成15年 6月
平成16年 1月
平成17年10月
慶應義塾大学経済学部卒業
中部電力(株)常務取締役
永楽自動車(株)取締役社長
核燃料サイクル開発機構副理事長
同機構理事長
日本原子力研究開発機構理事長
平成19年1月1日~
平成19年9月30日
副理事長 早瀬 佑一
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
平成21年7月14日~
平成21年9月30日
理 事
戸谷 一夫
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
平成19年8月1日~
平成19年9月30日
理 事
片山 正一郎
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
理 事
野村 茂雄
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
4
昭和43年 3月 東京大学工学部原子力工学科
卒業
昭和43年 4月 東京電力株式会社入社
平成10年 6月 同社福島第二原子力発電所長
平成15年 6月 同社常務取締役(企画部・広報
部担当)
平成18年 6月 同社取締役副社長(環境部・
建設部・品質・安全監査部)
平成19年 1月 日本原子力研究開発機構
副理事長
昭和55年 3月 東北大学工学部原子核工学科
卒業
平成15年 1月 文部科学省研究振興局
ライフサイエンス課長
平成16年 7月 内閣府参事官(原子力担当)
平成18年 7月 文部科学省大臣官房会計課長
平成20年 7月 同省大臣官房審議官(高等教育
局担当)
平成21年 7月 日本原子力研究開発機構理事
昭和50年 3月 東京大学大学院工学系研究科
修士課程修了
平成12年 6月 科学技術庁原子力安全局
原子力安全課長
平成14年 8月 原子力安全・保安院審議官
平成17年 1月 文部科学省科学技術・
学術政策局次長
平成17年 7月 内閣府原子力安全委員会
事務局長
平成19年 8月 日本原子力研究開発機構理事
昭和52年 3月 早稲田大学大学院理工学研究科
鉄鋼材料学専攻博士課程修了
昭和52年 3月 早稲田大学工学博士取得
平成 9年10月 動力炉・核燃料開発事業団
東海事業所核燃料技術開発部長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構
東海研究開発センター
核燃料サイクル工学研究所
副所長
平成19年 1月 同機構東海研究開発センター長
代理
東海研究開発センター
核燃料サイクル工学研究所長
平成21年10月 同機構理事
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
理 事
岡田 漱平
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
理 事
三代 真彰
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
理 事
横溝 英明
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
理 事
伊藤 和元
平成21年10月1日~
平成22年3月31日
(理 事) 木村 良
平成17年10月1日~
平成19年7月17日
5
昭和52年 3月 東京大学大学院工学系研究科
原子力工学博士課程修了
昭和52年 3月 東京大学工学博士取得
平成11年10月 日本原子力研究所
先端基礎研究センター次長
平成15年 4月 同研究所企画室長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構
量子ビーム応用研究部門
副部門長
平成19年10月 同機構理事
昭和50年 3月 東京大学大学院工学系研究科
原子力工学博士課程修了
昭和50年 3月 東京大学工学博士取得
平成 4年 6月 通商産業省九州通商産業局
公益事業部長
平成 8年 6月 資源エネルギー庁公益事業部
原子力発電課長
平成16年 6月 原子力安全・保安院次長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構理事
昭和51年 3月 東京大学大学院理学系研究科
物理学専門課程修了
昭和51年 3月 東京大学理学博士取得
平成 7年10月 日本原子力研究所関西研究所
大型放射光開発利用研究部
加速器系開発グループリーダー
平成13年 4月 同研究所東海研究所
中性子科学研究センター長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構
東海研究開発センター
原子力科学研究所長
平成19年10月 同機構理事
昭和46年 3月 大阪大学大学院工学研究科
原子力工学修士課程修了
平成 6年 4月 動力炉・核燃料開発事業団
動力炉開発推進本部次長
平成 9年 4月 同事業団高速増殖炉
もんじゅ建設所副所長
平成15年10月 核燃料サイクル開発機構
特任参事
高速増殖炉もんじゅ建設所
所長事務取扱
平成17年10月 日本原子力研究開発機構
敦賀本部高速増殖炉
研究開発センター所長
平成19年10月 同機構理事
昭和48年 3月 東北大学工学部電子工学科卒業
平成 3年 6月 科学技術庁原子力安全局
原子炉規制課長
平成 7年 6月 同庁原子力局動力炉開発課長
平成13年 7月 内閣官房内閣情報調査室
(理 事) 野村 正之
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
(理 事) 野田 健治
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
(理 事) 柳澤 務
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
平成16年 4月
平成17年10月
昭和42年 3月
平成12年10月
平成15年 4月
平成16年 4月
平成17年10月
昭和50年 3月
昭和52年 4月
平成13年 4月
平成16年 4月
平成17年10月
昭和47年 3月
平成10年 9月
平成12年 7月
平成15年10月
平成17年10月
昭和47年 3月
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
平成10年10月
(理 事) 中島 一郎
平成19年10月1日~
平成21年7月13日
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
(理 事) 石村 毅
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
平成15年 4月
平成15年10月
平成17年10月
昭和43年 3月
昭和60年10月
平成 8年 7月
平成10年10月
平成15年10月
平成17年10月
昭和43年 3月
昭和62年12月
平成 8年 4月
監 事
牛嶋 博久
平成22年1月1日~
平成23年9月30日
平成 9年 6月
平成10年 7月
平成14年 7月
平成22年 1月
6
内閣衛星情報センター管制部長
日本原子力研究所理事
日本原子力研究開発機構理事
九州大学工学部電子工学科卒業
日本原子力研究所安全管理室長
同研究所東海研究所副所長
同研究所理事
日本原子力研究開発機構理事
名古屋大学大学院工学研究科
金属・鉄鋼工学博士課程修了
名古屋大学工学博士取得
日本原子力研究所企画室長
同研究所高崎研究所長
日本原子力研究開発機構理事
東京大学大学院工学系研究科
原子力工学専門課程
博士課程修了
動力炉・核燃料開発事業団
新型転換炉ふげん発電所長
核燃料サイクル開発機構
大洗工学センター所長
同機構理事
日本原子力研究開発機構理事
大阪大学大学院工学研究科
原子力工学修士課程修了
核燃料サイクル開発機構
経営企画本部企画部長
同機構技術展開部長
同機構理事
日本原子力研究開発機構理事
早稲田大学法学部卒業
動力炉・核燃料開発事業団
総務部文書課長
同事業団敦賀事務所長
核燃料サイクル開発機構敦賀本部
副本部長
同機構理事
日本原子力研究開発機構理事
福岡大学商学部商学科卒業
会計検査院第5局電気通信検査
課長
会計検査院事務総長官房総務
審議官
会計検査院第4局長
国立国会図書館専門調査員
(商工科学技術調査室主任)
株式会社エム・シー・シー常勤
監査役
日本原子力研究開発機構監事
監 事
山根 芳文
平成21年10月1日~
平成23年9月30日
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
(監 事) 富田 祐介
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
平成17年10月1日~
平成19年9月30日
(監 事) 中村 豊
平成19年10月1日~
平成21年9月30日
平成21年10月1日~
平成21年12月31日
昭和50年 3月 早稲田大学法学部卒業
平成16年 4月 日本原子力研究所財務部長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構
財務部長
平成20年 4月 同機構人事部長
平成21年10月 同機構監事
昭和44年 3月 同志社大学法学部法律学科卒業
平成 2年 4月 日本原子力研究所人事部
調査役(課長相当)
平成15年10月 同研究所東海研究所管理部長
平成16年 4月 同研究所東海研究所副所長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構監事
昭和45年 3月 中央大学法学部法律学科卒業
平成 7年 7月 財務省九州財務局
宮崎財務事務所長
平成12年 7月 同省大臣官房文書課
情報管理室長
平成15年 7月 同省理財局管理課長
平成17年10月 日本原子力研究開発機構監事
※ ( )は平成22年3月31日現在で在籍しない役員
5.職員(任期の定めのない者)の状況
3,955 人(平成22年3月31日現在)
6.設立の根拠となる法律名
独立行政法人日本原子力研究開発機構法(平成十六年十二月三日法律第百五十五号)
7.主務大臣
文部科学大臣、経済産業大臣
8.沿革
昭和31年 6月 日本原子力研究所発足
昭和31年 8月 原子燃料公社発足
昭和42年10月 原子燃料公社を改組し、動力炉・核燃料開発事業団発足
昭和60年 3月 日本原子力研究所、日本原子力船研究開発事業団を統合
平成10年10月 動力炉・核燃料開発事業団を改組し、核燃料サイクル開発機構発足
平成17年10月 日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構を統合し、独立行政法人日本
原子力研究開発機構発足
7
8
第Ⅰ期中期目標期間業務実績
9
10
Ⅰ.国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する目標を達成
するため取るべき措置
1.エネルギーの安定供給と地球環境問題の同時解決を目指した原子力システムの
研究開発
(1)高速増殖炉サイクル技術の確立に向けた研究開発
1)高速増殖炉サイクルの実用化研究開発
【中期目標】
高速増殖炉サイクルは、軽水炉サイクルに比べウラン資源の大幅な有効活用を可能と
し、長期的なエネルギー安定供給に貢献できる可能性を有するものである。このため、その
実用化に向けた研究開発を推進する。
1)高速増殖炉サイクルの実用化研究開発
高速増殖炉サイクルの商業ベースでの導入に至るまでの研究開発計画の検討に貢献
するため、高速増殖炉サイクル技術の実用化像の構築に向けた調査研究を行うとともに、
その成果を踏まえた実用化研究開発を、国の定める方針にのっとり実施する。
【中期計画】
燃料形態、炉型、再処理法、燃料製造法等の高速増殖炉サイクル技術に関する多様な
選択肢について検討し、高速増殖炉サイクル技術として適切な実用化像とそこに至るため
の研究開発実施計画案を平成 27 年(2015 年)頃に提示することを目標として実施する。
具体的には、
① 平成 17 年度(2005 年度)までには、平成 13 年度(2001 年度)から実施してきている原
子炉(ナトリウム冷却炉、鉛ビスマス冷却炉、ヘリウムガス冷却炉、水冷却炉)、再処理法(先
進湿式法、金属電解法、酸化物電解法)、燃料製造法(簡素化ペレット法、振動充填法、鋳
造法)に関する研究成果をもとにして、研究開発の重点化の考え方及びこれを踏まえた課
題を取りまとめる。
なお、前記の課題を取りまとめるに当たっては、高速増殖炉サイクルの実用化時期(軽水
炉サイクルとの共存期間)、プルトニウム需給、再処理等軽水炉サイクル技術との連携等を
考慮した軽水炉サイクルから高速増殖炉サイクルへの合理的な移行の在り方に配慮する。
② 平成 18 年度(2006 年度)以降は、上記①の取りまとめを踏まえるとともに、これに対す
る国の評価・方針に基づき、主として開発を進めていくべき概念を中心に技術開発を実施
しつつ、その成果に基づき設計研究を進める。
さらに高速増殖炉サイクルの実用化時期(軽水炉サイクルとの共存期間)、プルトニウム
需給、再処理等軽水炉サイクル技術との連携等を考慮した軽水炉サイクルから高速増殖
炉サイクルへの合理的な移行のあり方の検討や、これに対応する燃料サイクルシステムの
概念検討及びこれに資する研究開発を進める。
≪中期実績≫
○ 燃料形態、炉型、再処理法、燃料製造法等の高速増殖炉サイクル技術に関する
多様な選択肢について検討し、高速増殖炉サイクル技術として適切な実用化像と
そこに至るための研究開発実施計画案を平成 27 年(2015 年)頃に提示することを
目標として以下の事項を実施した。
①高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究フェーズⅡ
11
○ 研究開発の実施
平成 17 年度(2005 年度)までに、高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究フェ
ーズⅡ(フェーズⅡ)において実施してきた原子炉(ナトリウム冷却炉、鉛ビスマス冷
却炉、ヘリウムガス冷却炉、水冷却炉)、再処理法(先進湿式法、金属電解法、酸化
物電解法)、燃料製造法(簡素化ペレット法、振動充填法、鋳造法)の各プラント概
念に関する研究成果をもとに、研究開発の重点化の考え方を取りまとめた。また、
開発すべき研究開発課題として、FBR サイクル実用化を実現するための研究開発
計画を取りまとめた。
フェーズⅡでは、革新技術を積極的に採用し、各概念が有する能力を最大限に
引き出すことが可能な FBR システム及び燃料サイクルシステムのプラント概念を構
築した。これらのプラント概念について、開発目標(安全性、経済性、資源有効利
用性、環境負荷低減性及び核拡散抵抗性)を具体化した設計要求への適合可能
性及び技術的実現性の観点から技術総括を行い、最も有望な候補概念(主概念)
として、「ナトリウム冷却高速増殖炉(MOX 燃料)、先進湿式法再処理及び簡素化
ペレット法燃料製造の組合せ」を選択し、これに研究開発を重点化することが望ま
しいと結論した。
今後の課題として、FBR サイクル実用化を適切なマイルストーンを設けながら実
現していくための研究開発計画を提案した。その際、軽水炉サイクルから高速増殖
炉サイクルへの合理的な移行の在り方に配慮することが重要であることを指摘し
た。
これら実用化戦略調査研究フェーズⅡの成果については、文部科学省の科学
技術・学術審議会研究計画・評価分科会の「原子力分野の研究開発に関する委
員会」及びその下の「原子力研究開発作業部会」において評価された。文部科学
省によるフェーズⅡ評価及びそれを踏まえた国の方針として、平成 18 年 11 月に
「高速増殖炉サイクルの研究開発方針について」が文部科学省で決定された。原
子力委員会では、文部科学省による評価結果等を受けて、12 月に「高速増殖炉
サイクル技術の今後 10 年程度の間における研究開発に関する基本方針」を決定
した。このように、フェーズⅡの成果が国の政策に反映された。
②高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCT プロジェクト)
○ FaCT プロジェクトの開始
上記の国の方針を受け、2006 年度からは、調査研究の段階から実用化に集中
した開発段階に移行することとなり、高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCT
プロジェクト)を推進することとなった。
機構内の体制としては、次世代原子力システム研究開発部門を中核として関係
部署等と連携・協力を図りつつ国家基幹技術として選定された高速増殖炉サイク
ル技術の開発を一元的に推進するため、「高速増殖炉サイクル技術開発推進本
部」を設置した。
12
また、オールジャパン体制としては、高速増殖炉サイクルの研究開発から実証・
実用化段階への円滑な移行を図るため、経済産業省、文部科学省、電気事業連
合会、日本電機工業会、機構で構成される「FBR サイクル実証プロセスへの円滑
移行に関する五者協議会」(五者協議会)及び学識経験者を加えた「高速増殖炉サ
イクル実証プロセス研究会」を設置された。この枠組みの中で、機構は中核的な役
割を担い、関係機関の合意形成に貢献した。
さらに、高速増殖炉の研究開発体制について、明確な責任体制のもとで効率的
に研究開発が実施できるよう、経済産業省、文部科学省、電気事業者と連携を取り、
中核企業の選定を行った。中核企業は、エンジニアリングを担う FBR 開発会社を
設立した。
○ 研究開発の進展
・ FaCT プロジェクトの計画策定
新たな研究開発段階への移行に当たって、国の方針に従い、開発目標、設
計要求の見直しを行った。また、主概念を構成する革新技術(炉 13 課題、燃料
サイクル 12 課題)について、平成 27 年(2015 年)までの開発計画を策定した。
革新技術は、2010 年、2015 年の節目毎に採用の可否を判断することになるた
め、採用のクライテリアを設定した。
平成 22 年(2010 年)までの研究開発計画及び平成 22 年(2010 年)の革新技
術採用のクライテリアについては、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に
基づく研究開発課題評価を行うため機構の外部評価委員会として設定している
「次世代原子力システム/核燃料サイクル研究開発・評価委員会」で評価を実
施し、妥当との評価を得た。
・ FaCT プロジェクトの中間取りまとめ
平成 20 年度(2008 年度)には、FaCT プロジェクトのフェーズⅠの中間取りま
とめを実施し、「次世代原子力システム/核燃料サイクル研究開発・評価委員
会」で中間評価(プロジェクトレビュー及びマネジメントレビュー)を実施した。中間
評価における指摘事項については機構の措置と、それらに対する具体的なアク
ションプランを定め、PDCA の一環として担当者と実施期限を決めて対応してい
る。
「中間取りまとめ」の成果及び中間評価の結果は、原子力委員会に報告し、そ
の際の指摘事項(一元的で全体を俯瞰したマネジメントとプラントエンジニアリン
グ能力の投入が重要、性能目標の社会的受容性や国際標準の地位を獲得する
ために適宜の見直し、重要な知識の管理など)も踏まえつつ、研究開発を着実に
進めた。
なお、「中間取りまとめ」の成果は、中間評価結果と併せて、原子力安全委員
にも報告している。
13
・ 2010 年(平成 22 年度)の革新技術の採否判断
2010 年の革新技術の採否判断については、FaCT プロジェクトを 2011 年(平
成 23 年度)からも継続して円滑に進めるために、計画よりも一年間前倒しで機構
内での評価を行い、関係機関(機構、電気事業者、製造事業者)との協議におい
て評価を進めている。各々の革新技術(炉システム、再処理技術及び燃料製造
設備)の採否の状況は次のとおりである。
炉システムの革新技術の採否は、実用化戦略調査研究で摘出した 13 種の革
新技術を炉心及びプラントシステムに組み込んだ 10 種の評価対象技術に再分
類し、「設計成立性」、「製作性」、「運転・保守性」、「経済性」の視点から評価を
行った。この再分類は、研究開発課題単独の進捗評価だけでは不十分であり、
炉心及びプラントシステムに組み込んだ設計成立性やシステムとして期待される
性能に基づき判断する必要があることから行ったものである。
本評価を行った結果、評価対象技術のうち、6 種の技術(②安全性向上技術、
④9Cr 鋼製大口径配管を用いた 2 ループシステム、⑦自然循環除熱式崩壊熱
除去システム、⑧簡素化燃料取扱いシステム、⑨SC 造格納容器、⑩高速炉用
免震システム)については、実証炉建設までに解決できる見通しがあることから採
用とした。ここで、採用とは、実用炉に採用できる見通しが得られ、実証炉概念
設計の適用対象とできる技術であることをいう。その他の 4 種の技術(①高燃焼
度炉心・燃料、③コンパクト化原子炉構造、⑤ポンプ組込型中間熱交換器、⑥
直管 2 重伝熱管蒸気発生器)については、採用見通しの課題を有するため、開
発リスク低減の観点から代替技術の要否について、平成 22 年度の適切な時期
まで検討を継続する。
燃料サイクル(再処理、燃料製造)の革新技術の採否判断は、最新の研究開
発成果及び実用施設概念の設計研究成果に基づき、技術的成立性の観点及
び開発目標・性能要求への影響の観点から行い、電気事業者と暫定評価を進
めている。再処理技術に関しては、先進湿式法再処理に係る 6 つの革新技術に
ついて最新の研究開発成果及び実用施設概念の設計研究成果に基づき暫定
評価を行った。再処理技術のうち、①解体・せん断技術、②高効率溶解技術、
④U-Pu-Np を一括回収する高効率抽出システムについては採用とした。③晶
析による効率的ウラン回収技術については制御性や DF の見通し等の、⑤抽出
クロマト法による MA 回収技術についてはフローシート条件構築等の見通しをそ
れぞれ得た上で 2015 年までに採否を再協議し R&D の進め方を決定することと
したが、セル内遠隔燃料製造の成立が前提であり、この視点を踏まえて判断す
る。⑥廃液低減化技術については R&D プログラムを 2013 年までに再構築した
上で採否を改めて協議することとした。
燃料製造技術に関しては、簡素化ペレット法燃料製造に係る 6 つの革新技術
のうち、①脱硝・転換・造粒一元処理技術及び②ダイ潤滑成型技術は採用とし
14
た。⑥TRU 燃料取扱い技術については採用とするが、今後の研究開発につい
ては再処理の MA 回収技術開発と整合させる。③焼結・O/M 調整技術は、量産
性の見通し根拠を試験等により明確にした上で、また、⑤セル内遠隔設備開発
は、遠隔保守概念の成立性を見通す検討を更に進めた上で、2015 年までに採
否を再協議し R&D の進め方を決定することとした。なお、燃料製造技術の 5 課
題の暫定評価に際しては、④燃料基礎物性研究の成果を取り込んで実施して
おり、④の課題は単独での採否判断には馴染まない。
○ 五者協議会での活動と機構の対応
平成 19 年度に五者協議会において高速増殖炉の実証ステップとそれに至るま
での研究開発プロセスの在り方に関する中間論点整理を合意し、その時点で想定
されるステップのイメージ(要素技術開発、機器開発試験・システム試験を経て実証
炉、商業炉へステップアップ)とともに、比較的早い時期に実施すべき項目及び将
来判断すべき「論点」とその「判断ポイント」を示した。
平成 21 年7月に五者協議会で合意した「高速増殖炉実証炉・サイクルの研究開
発の進め方等について」において、高速増殖炉の研究開発については、中核企業
および電気事業者の意見や考えを踏まえ、議論の結果を適切に研究開発計画等
に反映できる体制を構築すること、組織内の責任ある者がリーダーシップをもって
戦略的にマネジメントを行う体制を整備することとした。これを受け、平成 21 年 10
月及び平成 22 年 4 月の 2 段階で、機構の組織体制を見直すこととし、プロジェク
ト統括機能の強化を図った。
また、三者(機構、電気事業者、製造事業者)の間で、プロジェクトリーダークラス
等、各階層の意見交換の場を設けて開発の方向性を検討することで、電気事業者
及び製造事業者の意見を直接的に計画に反映できるようにした。
軽水炉サイクルから高速炉サイクルへの移行期(L/F 移行期)における再処理需
要や第二再処理工場で採用すべきプロセス選定等の技術検討は五者協議会の
枠組みで実施されており、次世代原子力システム研究開発部門、核燃料サイクル
技術開発部門、核燃料サイクル工学研究所が連携・協力することにより燃料サイク
ル技術の検討体制を強化し、再処理技術の調査等を進めた。
○ 国際協力
FaCT プロジェクトにおいて、国際協力は、高速炉サイクル技術の国際標準化を
目指すとともに、効率的な研究開発を図るために重要と認識し、積極的に推進して
いる。
平 成 19 年 1 月 に 締 結 ( 同 年 8 月 に 改 訂 ) し た 日 仏 米 三 研 究 機 関
(DOE/CEA/JAEA)のナトリウム冷却高速炉プロトタイプ協力を機軸として、二国間
協力や多国間協力を有効に活用しつつ国際協力を進めてきた。
二国間協力としては、日仏間の JAEA-CEA フレームワーク協定(平成 17 年
15
12 月締結)、フランス電力株式会社(EDF)との高速炉システムに関する協力取り決
め(平成 20 年 10 月締結)、日米原子力エネルギー共同行動計画(平成 19 年 4 月
締結)に基づき進めている。この中で CEA とのフレームワーク協定については多岐
にわたる共同研究協力を進めつつ、仏国のプロトタイプ炉(ASTRID)開発に集中
する方針の明確化に伴い、ナトリウム炉を中心とした協力項目・内容について見直
しを行っている。
多国間協力としては、第四世代原子力システム国際フォーラム(GIF)において、
平成 18 年 6 月にナトリウム冷却高速炉のシステム協定を締結し、ナトリウム冷却炉
高速炉開発の議長国として、5 つのプロジェクトで、先導的役割を果たしてきている。
また、平成 21 年 12 月には日本がGIF政策グループの議長国に就任した。さらに、
国際原子力機関(IAEA)の革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェ
クト(INPRO)や、高速炉技術ワーキンググループ(TWG-FR)なども活用し、国際的
な認識の共有化を図るよう努めた。
なお、米国政権交代に伴い、米国では先進リサイクル炉の開発等を凍結し、長
期的、基盤的な研究開発に主体をおく方向に原子力政策がシフトしたこと、及び仏
国のプロトタイプ炉(ASTRID)開発への集中化方針が示された。それらを踏まえ、
これまで実施してきた日仏米の三機関協力、日仏、日米の二ヶ国間(二機関)協力
の在り方を見直し中であり、日仏米の三機関協力の枠組みは維持しつつも、日仏
の連携を今後一層強化する方向で検討している。
○ 「常陽」の復旧状況と FaCT プロジェクトへの影響
「常陽」での温度制御型材料照射装置 2 号機(MARICO-2)を用いた ODS 鋼の
照射下クリープ試験について、試験片の照射後歪データの取得が未着手となって
いる。
平成 19 年度中にオンライン計測による炉内クリープ破断データを取得したが、
試験片を装填した MARICO-2 を炉外へ取り出すことができなかったため、試験片
の照射後歪データの取得が未着手となったものである。
その代替として、現在進めている BOR-60 で照射した ODS 鋼被覆管燃料ピン
の照射後歪データを取得して高燃焼度燃料の成立性を見通すために必要な評価
を進めた。
ただし、2015 年(実用化像の提示時期)までには、MARICO-2 の照射後試験に
よる照射後歪データの取得が必要であるため、2015 年までに照射後歪データ取
得を進め ODS 鋼被覆管燃料技術基盤確立に反映していく予定である。
以上、「①高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究フェーズⅡ」及び「②高速増
殖炉サイクル実用化研究開発(FaCT プロジェクト)」を通じて、我が国の将来のエネル
ギー安定供給に大きく貢献する FBR サイクルの研究開発に関して、技術的な事項に
ついては機構が中核となり、また、政策及び運営面では 5 者で協力しながら研究開
16
発を着実に進めることができた。中期目標で求められる事項を達成することができた。
さらに、国の政策に反映でき、中期計画内容に加え 2010 年に予定の革新技術採否
判断を前倒しして実施した。
なお、「常陽」については、MARICO-2 試料部との干渉による回転プラグ燃料交換
機能の一部阻害が生じ、運転を停止している。2009 年度までの中期計画に対しては
影響はないものの、今後、「常陽」における照射試験が予定通りに進まず、FaCT プロ
ジェクトにおける高燃焼度燃料の開発等に遅れが生じることが懸念される。このため、
以下のような対応を進めている。
・ MARICO-2 試料部との干渉による回転プラグ燃料交換機能の一部阻害に係
る原因究明と再発防止策及び復旧措置等を策定し、法令報告(最終報)を提
出した(平成 21 年 7 月 22 日)。
・ 外部有識者より構成され、「常陽」再起動の妥当性及び必要性を検討する「常
陽」利用検討委員会を行った。FBR 開発における「常陽」の今後の役割と必要
性が確認され、早期に運転を再開させるべきとの結論が理事長に答申された
(平成 21 年 4 月 23 日)。これを受けて、「常陽」の早期運転再開への理解を得
るために関係機関への説明を行うとともに、外部資金獲得のための国内外関
係機関との会議・打合わせや、「常陽」の復旧作業に反映するための海外先
行炉の炉内補修技術の調査等を進めた。また、干渉物の回収装置等の詳細
設計を完了した。
「常陽」の復旧に向けた対応に加えて、リスク管理の観点から、「常陽」での照射試
験を代替する可能性のある手段として、ロシアの BOR-60 や BN-600 などを用いて必
要な照射データを取得する計画についても検討を進めている。今後は、海外での照
射試験における照射データ品質確保の方策と正式な国際協力締結の見通しを検討
し、高燃焼度炉心材料開発計画の見直し案を考慮して、FaCT が目標としている高
燃焼度実現までの計画と照射試験炉選択の判断時期の案を 2010 年度末までに立
案する。
17
2)高速増殖原型炉「もんじゅ」における研究開発
【中期目標】
高速増殖炉の実用化に向けた研究開発の場の中核である高速増殖原型炉「もんじゅ」
については、その開発の所期の目的である「発電プラントとしての信頼性の実証」及び「ナ
トリウム取扱技術の確立」の達成に向けて、高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転を再開し、
100%出力運転に向けて出力段階に応じた性能試験を進める。
【中期計画】
高速増殖原型炉「もんじゅ」は、高速増殖炉サイクル技術の研究開発の場の中核とし
て、運転開始後 10 年間で「発電プラントとしての信頼性の実証」と「運転経験を通じたナトリ
ウム取扱技術の確立」という所期の目的を達成すべく、
① 漏えい対策等の改造工事及び長期停止機器等の点検・整備を行い、工事確認試験
を終了する。
② その後、燃料交換を経て性能試験を再開し、
ⅰ 発電プラントとしての信頼性の実証・向上に向け、100%出力運転に向けて出力
段階に応じた性能確認を進める。
ⅱ 高速増殖炉の設計及び運転保守管理技術の高度化のため、起動・停止を含め
た運転・保守データを取得し、プラントの熱過渡余裕等の設計裕度の検証や、運
転信頼性の向上及びナトリウム取扱技術の確立を進める。
≪中期実績≫
○ 以下のとおり、漏えい対策等の改造工事(工事確認試験を含む。)、長期停止機
器等の点検・整備、燃料交換の他、耐震安全性評価、耐震安全性向上対策等を
完了するとともに、平成 22 年 2 月 23 日に福井県及び敦賀市に性能試験再開の
協議願いを提出したが、中期目標期間内(平成 21 年度まで)に性能試験を再開す
るには至らず、中期目標・中期計画を達成できなかった。
この間、平成 20 年 3 月と 9 月に発生したナトリウム漏えい検出器の不具合によ
る誤警報の発報、同年 9 月に確認した屋外排気ダクトの腐食孔等に対応し、これら
の不具合へのハード面のみならず組織・安全文化等のソフト面も含めて改善する
「行動計画」を策定して改善活動に取り組み、自律的 PDCA サイクルを推進するシ
ステムが確立しつつある。
なお、平成 22 年 4 月 28 日に福井県及び敦賀市から了承を受け、国の立入検
査を受検した後、同年 5 月 6 日に性能試験を再開し、同月 8 日に原子炉が臨界に
到達した。その後、3 段階の性能試験の第 1 段階である炉心確認試験を実施中で
ある。
今後、第 2 期中期目標期間においては、中期計画に示す性能試験等の工程を
遵守できるよう、確立しつつある自律的 PDCA サイクルを推進するシステムを充実
しつつ運用し、「もんじゅ」・敦賀本部・機構本部のそれぞれにおける課題に対し、
早期発見に努めて一層の早期対応に取り組んでいく。
そして、性能試験及びその後の本格運転を通じて運転保守に係るプラントデー
18
タを取得し、平成 35 年(2023 年)頃を目途に所期の目的である「発電プラントとして
の信頼性の実証」及び「ナトリウム取扱技術の確立」を達成し、高速増殖炉実用化
に向けた研究開発に貢献していく。
○ ナトリウム漏えい対策等の改造工事については、機構が発足した以前の平成 17
年 2 月に福井県及び敦賀市から改造工事着手の了解を受け、同年 3 月に準備工
事に、同年 9 月に本格工事に着手し、同年 10 月に機構が発足した後、平成 19
年 5 月に本体工事を終了し、平成 19 年 8 月の工事確認試験の終了をもって完了
した。
○ 長期停止機器等の点検・整備については、国の審議を受けた「長期停止プラント
(高速増殖原型炉もんじゅ)の設備健全性確認計画書」に従い、プラント運転状態を
考慮してこれまで確実かつ計画的に点検・整備を行い、国による保安検査等を通
じて実施状況の確認が行われ、平成 21 年 12 月に性能試験の第 1 段階である炉
心確認試験に必要な設備の点検を完了した。
○ 工事確認試験については、ナトリウム漏えい対策等の改造工事の実施において
据付等が終了した機器・設備について、平成 18 年 12 月以降順次実施し、前述の
とおり平成 19 年 8 月に完了した。
○ 燃料交換については、前述の改造工事及び工事確認試験が完了した平成 19 年
8 月 30 日の翌 31 日から開始したプラント全体の健全性確認を行うプラント確認試
験において、この試験の項目の 1 つである燃料交換後炉心流量確認を実施するた
め、平成 21 年 6 月 24 日から同年 7 月 12 日までに 84 体の炉心燃料集合体、3
体のブランケット燃料集合体及び 19 体の制御棒集合体の合計 106 体の集合体の
交換を実施し、同年 7 月 27 日に燃料交換装置等の取り外し作業の終了をもって
燃料交換を完了した。
なお、合計 141 項目からなるプラント確認試験については、同年 8 月 12 日に完
了した。また、このプラント確認試験の間には、平成 20 年 3 月と 9 月に発生した接
触型ナトリウム漏えい検出器(CLD)の不具合への対応や、同年 9 月に確認された
屋外排気ダクトの腐食孔の補修工事を行ったとともに、平成 20 年 7 月に原子力安
全・保安院(保安院)から受けた同検出器の不具合から機構の品質保証・安全文化
に関することまで多岐にわたる指摘に対し、同月に「行動計画」を策定・公表して対
応を実施し、その結果を平成 20 年 9 月以降 4 回の「特別な保安検査」で確認して
きた同院から、平成 21 年 7 月に「特別な保安検査において達成を確認すべき目標
は達成している」との評価を受けた。
○ 一方、耐震安全性評価に関しては、平成 18 年 9 月の原子力安全委員会におけ
19
る「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂に伴って同月保安院
が事業者に対して同指針に照らした耐震安全性評価の実施と報告を求め、さらに、
同院は、平成 19 年 7 月に「平成 19 年新潟県中越沖地震を踏まえた対応につい
て(指示)」を、平成 19 年 12 月に「新潟県中越沖地震を踏まえた原子力発電所等
の耐震バックチェックに反映すべき事項の中間とりまとめについて」を指示し、事業
者に対して耐震安全性評価に反映するよう求めた。これらを受けた機構は、平成
20 年 3 月に耐震安全性評価結果報告書を提出して国の委員会における審議を受
けつつ、審議結果を踏まえて平成 22 年 2 月に耐震安全性評価結果報告書(改訂
版)を提出(同年 3 月 12 日に一部補正)し、同年 3 月 15 日に同院から妥当である
旨の評価を受け、同院からの報告を受けた原子力安全委員会が同月 18 日に「妥
当なものと認め、決定する」との原子力安全委員会決定を行った。この原子力安全
委員会決定により、「もんじゅ」の耐震安全性評価が完了した。
○ また、平成 7 年 12 月にナトリウム漏えい事故が発生した後、旧科学技術庁に設
置された「もんじゅ安全性総点検チーム」が平成 10 年 3 月に取りまとめた「動力炉・
核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅ安全性総点検結果」に基づく指摘事
項等に対し、平成 21 年 11 月に性能試験再開への取組を総括した「高速増殖原型
炉もんじゅ安全性総点検に係る対処及び報告について(第 5 回報告)」(平成 22 年
2 月 9 日に補正版)を保安院に提出した。この報告等を受けた同院は、平成 22 年
2 月 10 日、「原子力機構は、試運転再開に当たって、安全確保を十分行い得る体
制となっていると評価する。」との「独立行政法人日本原子力研究開発機構高速増
殖原型炉もんじゅ試運転再開に当たっての安全性評価について」を取りまとめた。
さらに、同院からこれらの報告を受けた原子力安全委員会は、同委員会が設置し
た「高速増殖原型炉もんじゅの安全性調査プロジェクトチーム」から同院の評価は
妥当である旨の報告を受け、平成 22 年 2 月 19 日、これを了承した。この原子力
安全委員会了承により、性能試験再開前に行うべきもんじゅ安全性総点検に対す
る対応が完了した。
これらの原子力安全委員会の決定及び了承並びにそれらの進捗状況等を踏ま
え、機構は、平成 22 年 2 月 23 日に福井県及び敦賀市に対して性能試験再開の
協議願いを提出した。その後、福井県の原子力安全専門委員会において、同年 3
月 18 日に施設の安全性や管理体制が、同月 29 日に耐震安全性が、それぞれ審
議され、さらに、同年 4 月 17 日に「安全性に問題はない」とする報告書がまとめら
れた。
○ 以上のとおり、平成 7 年 12 月のナトリウム漏えい事故によって技術的な信頼を低
下させ、また、その事故の状況を撮影したビデオ映像の不適切な取扱から社会的
な信頼を著しく低下させた状況から、旧科学技術庁の「もんじゅ安全性総点検」へ
の対応や平成 20 年 3 月のナトリウム漏えい検出器の不具合等の対する平成 20
20
年 7 月の保安院からの指摘に対する改善のための「行動計画」の実施等による技
術的・組織的な改善が行われた結果、「もんじゅ特別チーム」会合等を通じて経営
層から現場までが一体となり、「もんじゅ」に関する課題を共有して対策を検討・実
施・フォローするとの PDCA サイクルを推進する体制が構築されつつある。今後は、
課題情報を共有して早期に対応するために整備したシステムを活用・充実しつつ、
高速増殖炉研究開発センター・敦賀本部・本部のそれぞれにおける課題の早期発
見に努め、一層の早期対応に取り組んでいく必要があると認識している。また、平
成 21 年 1 月に適用が義務化された保全プログラムに基づく保守管理を確実に継
続し、特に、40%出力プラント確認試験における発電試験のために必要な水・蒸気
系やタービンの健全性確認に注力していく。そのため、平成 21 年度においても、こ
れらを含む点検作業に関し、課題の検討等の準備を進めた。
○ 出力段階に応じた性能試験については、以上のとおり漏えい対策等の改造工事、
長期停止機器の点検・整備、工事確認試験、燃料交換に加えて、耐震安全性評
価や耐震安全性裕度向上対策等の性能試験再開に関する諸準備を完了しつつ、
平成 22 年 2 月 23 日に福井県及び敦賀市に性能試験再開の協議願いを提出し
たが、性能試験を再開するには至らなかった。
平成 22 年度以降、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成 17 年 3 月
内閣総理大臣決定)等に基づいて平成 21 年 12 月に事前評価を受けた計画に従
い、約 3 年間の間に以下の 3 段階で行う予定である。
☆ 原子炉出力ゼロにおいて、長期間の停止によって燃料中のプルトニウムが壊
変して生成したアメリシウムを比較的多く含有する炉心の物理データを取得
すること等を目的として実施する「炉心確認試験」
☆ 原子炉出力約 40%において、発電機能である水・蒸気系、タービン系を含め
たプラントの全系統の機能確認や性能確認を行うこと等を目的として実施す
る「40%出力プラント確認試験」
☆ 原子炉出力を 40%、75%、100%とし、本格運転に向けた出力上昇及び
100%出力時におけるプラント性能を確認するための試験を行うこと等を目的
とする「出力上昇試験」
これらの性能試験の計画については、第 2 期中期計画において「炉心確認試験
(平成 22 年度(2010 年度)実施)、40%出力プラント確認試験(平成 23 年度(2011
年度)実施)及び出力上昇試験(平成 24 年度(2012 年度)頃実施)」とのスケジュー
ルを示した上で「平成 24 年度(2012 年度)頃に本格運転を開始することを目指す」
とした。また、第 2 期中期計画においては、停止中の経費や研究成果、停止による
高速増殖炉サイクル研究開発への影響といった、これまでの研究開発成果等を国
民に分かりやすい形で公表する、ともした。
なお、平成 22 年度になり、平成 22 年 4 月 28 日に福井県及び敦賀市から性能
試験再開の了承をいただき、保安院の立入検査を受検した後、同年 5 月 6 日に性
21
能試験を再開し、同月 8 日に臨界に臨界に到達した。
○ プラントの熱過渡余裕等の設計裕度の検証及び運転信頼性の向上のため、
200℃程度のナトリウム循環運転中における、運転・保守データの取得・蓄積を行う
とともに、性能試験結果等の原型炉データに基づく高速増殖炉技術の総合評価
(原型炉技術評価)の準備として、前回性能試験結果のデータベースに基づいて原
型炉としての予備的な技術評価を進めている。
○ ナトリウム取扱技術の確立のための研究開発では、「もんじゅ」性能試験における
放射性腐食生成物(CP)の挙動に関する予備解析を実施した。また、供用期間中
検査(ISI)の準備のため、原子炉容器廻り検査装置への体積検査機能を搭載し、
モックアップでの機能試験を進めている。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め、機構の外部評価委員会として設置している「次世代原子力システム/核燃料
サイクル研究開発・評価委員会」に、平成 20 年 11 月、「高速増殖原型炉『もんじ
ゅ』における研究開発及びこれに関連する研究開発」に関する事前評価を諮問し、
平成 21 年 11 月に以下の答申(概要)を受けた。
・ マネジメントについては、2015 年までの原子力機構における研究開発体制等
の枠組み及び運用方法は準備されていると評価する。
・ プロジェクトについては、性能試験項目とその結果得られる情報の活用を含め
た 2015 年までの研究開発計画の内容として必要な重要技術事項が包含され、
さらに、長期にわたる研究開発を 5 年程度で区切りその都度チェックをしてい
く進め方を採用しており、技術的に十分検討された研究開発計画であると評
価する。
・ なお、研究開発が一層効果的に実施されるよう、考慮すべき点を示した。
・ ここで示された点は、機構の措置として、具体的なアクションを定め、PDCA の
一環として担当者と実施期限を決めて対応している。
また、本評価結果に基づき、第 2 期中期計画として、性能試験及び本格運転を
通じて得られる性能試験データ及び運転・保全に係る技術的知見に基づく「発電
プラントとしての信頼性実証」及び「運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立」と
の所期の目的を達成するための研究開発を進めること、所期の目的を達成した以
降に高速増殖炉の実用化に向けた研究開発等の場として利活用するための準備
を行うこと等の計画策定を行った。
○ 国際的な高速増殖炉サイクル技術開発の中核に向けた取組として、第四世代原
子力システムに関する国際フォーラム(GIF)のナトリウム冷却高速炉システムに関
する研究プロジェクトの一つである、「もんじゅ」を利用したマイナーアクチニド含有
22
燃料の燃焼実証試験計画については、機構主導の下、日仏米三国によるプロジェ
クト取決めを平成 19 年 9 月に締結し、マイナーアクチニド含有燃料の物性測定や
「常陽」で実施された短時間照射燃料の照射後試験を実施するなど、プロジェクト
を推進中である。また、現状の進ちょく状況などを踏まえ、現行プロジェクト取決め
を見直す方向で三国間にて調整中である。
日仏二国間協力協定に基づく「もんじゅ-常陽-フェニックス」運転経験協力につ
いては、仏国から出された「もんじゅ」性能試験への具体的な試験提案について専
門家間での意見交換・検討を行った。また、その結果を反映して性能試験計画の
策定を実施した。
○ なお、福井県が進める「エネルギー研究開発拠点化計画」への貢献等の地域共
生活動や住民説明会・出前型説明会「さいくるミーティング」・報道対応の充実等の
理解促進活動による社会的な信頼の回復に努め、平成 22 年 2 月 23 日に福井県
及び敦賀市に対して性能試験の再開協議申入れを行うに至った。
福井県が進める「エネルギー研究開発拠点化計画」への貢献においては、「もん
じゅ」等を国際的研究開発拠点として活用していくことを機構と立地地域の共通の
目的とし、
☆ 「FBR プラント工学研究センター」(施設としては「プラント実環境研究施設(仮
称)」と「新型燃料研究施設(仮称)」)の整備
☆ 「プラント技術産学共同開発センター(仮称)」(「レーザー共同研究所」・「プラ
ントデータ解析共同研究所(仮称)」・「産業連携技術開発プラザ(仮称)」の 3
施設で構成)の整備
☆ 関西電力(株)との連携・協力による「ふげん」における「高経年化分析室(ホッ
トラボ)」の整備
☆ 「敦賀国際エネルギーフォーラム」等の国際会議の開催・誘致、海外研究員
の招へい、国際研修の実施
☆ 大学等への客員教授等の派遣、大学等からの実習生の受入れ、初等・中等
教育へのエネルギー教育・理科系教育の支援
☆ 機構が保有する技術等を紹介して活用してもらう活動(企業訪問、技術相談、
技術交流会・オープンセミナーの開催、文部科学省提供テレビ番組への取
材協力、各種産業フェア等への出展、成果展開事業の支援等)
等を積極的に進めた。
また、理解促進活動においては、分かりやすい説明等に努めた女性広報チーム
「あっぷる」が平成 21 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰において原子力の
理解増進により「科学技術賞」を受賞した。
23
3)プルトニウム燃料製造技術開発
【中期計画】
高速増殖原型炉「もんじゅ」及び高速実験炉「常陽」への燃料の安定供給を可能とする
工学規模の燃料製造技術の確立のため、
① 高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転計画に支障を与えないように、性能試験において
装荷する燃料の供給を可能とする技術を確立する。また、性能試験後に装荷する燃
料の供給を可能とする技術の確立を進める。
② 高速実験炉「常陽」の運転計画に支障を与えないよう安定的な燃料供給体制を維持
する。
≪中期実績≫
①高速増殖原型炉「もんじゅ」関連
○ 性能試験において装荷する燃料の供給を可能とする技術の確立
・ 高速増殖原型炉「もんじゅ」の低密度燃料ペレット製造設備のうち、平成 8 年
(1996 年)以降に開発・導入した設備の性能・特性の確認を行うとともに製造
条件を把握するための確認試験を終了し、平成 19 年(2007 年)度までに報告
書に取りまとめた。この試験により、「もんじゅ」用低密度ペレットの製造にかか
わる基本的な条件を把握できた。
・ 平成 20 年(2008 年)度より簡素化ペレット法等の工学規模での燃料製造技術
開発試験を進めており、得られた燃料のうち仕様を満足し、かつ、国の検査に
合格したものは「もんじゅ」性能試験用燃料として供給した。
・ 核燃料物質輸送中の妨害破壊行為に対する防護強化を図るため、燃料輸送
時の設計基礎脅威(DBT)への対応として専用カバーの製作等を実施し、「も
んじゅ」性能試験に使用する燃料輸送を実施した。
○ 性能試験後に装荷する燃料の供給を可能とする技術の確立
・ 将来の燃料製造に使用するプルトニウム原料を調達するための準備として、
輸送容器の試験体となる原型容器の製作を終了させ、輸送容器の設計の妥
当性を確認するための安全性実証試験を終了し、輸送容器の許認可・製作
に必要な技術データを取得した。
・ 今後調達可能なプルトニウム原料組成の評価に基づき、プルトニウム原料受
入設備の整備に係る安全設計、物流設計、設備検討を実施し、これらを通じ
て、多様なプルトニウム原料を取り扱うために必要な技術データを取得した。
・ 現在、加工事業許可申請中のプルトニウム燃料第三開発室等について、平
成 18 年(2006 年)度に改定された新耐震指針へ対応するための地質、地盤
等の調査・解析等を進めるとともに、加工事業許可申請の補正申請の準備を
進めた。
24
②高速実験炉「常陽」関連
・ Mk-Ⅲ第 2 次取替燃料製造用の濃縮ウラン原料、熱遮へいペレット、集合体
部材等の調達を行い、Mk-Ⅱ第 2 次取替炉心燃料製造(40 体)を計画どおり
終了した。
・ 製造済みの Mk-Ⅲ第 2 次取替炉心燃料集合体、次回取替燃料製造用の部
材及び原料の保管管理を行った。
③その他
○ 民間事業者への技術移転
・ 機構技術者の派遣、日本原燃(株)から受け入れた技術者の教育、訓練や粉
末混合試験設備を用いた実規模 MOX 確証試験、軽水炉用 MOX 燃料の製
造技術に関する評価試験、保障措置関連技術・分析技術・設備設計に係るコ
ンサルティング等を通じて、日本原燃(株)への技術協力を進めた。
以上の結果、中期計画に基づく目標を達成した。
25
(2)高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術に関する研究開発
【中期目標】
高レベル放射性廃棄物の地層処分の実現に向け、基盤的な研究開発を着実に進め、
地層処分技術の信頼性の向上を図り、原子力発電環境整備機構による処分事業と、国に
よる安全規制を支える知識基盤として整備する。そのため、瑞浪と幌延の深地層の研究計
画について、中間的な深度までの坑道掘削時の調査研究を進める。あわせて工学技術や
安全評価に関する研究開発を他の研究開発機関と連携して実施し、これらの成果を地層
処分の安全性に係る一連の論拠を支える知識ベースとして体系化する。
【中期計画】
機構は、我が国における地層処分技術に関する研究開発の中核的役割を担い、処分
実施主体である原子力発電環境整備機構による処分事業と、国による安全規制の両面を
支える技術を知識基盤として整備していく。
このため、「地層処分研究開発」と「深地層の科学的研究」の二つの領域を設け、他の研
究開発機関と連携して研究開発を進め、その成果を地層処分の安全確保の考え方や評
価に係る様々な論拠を支える「知識ベース」として体系化する。
中期目標期間における研究開発成果を、国内外の専門家によるレビュー等を通じて技
術的品質を確保した包括的な報告書と知識ベースとして取りまとめる。
1)地層処分研究開発
【中期計画】
① 工学技術の信頼性向上や安全評価手法の高度化のため、人工バリア等の長期挙動
や核種の移行等に関わるモデルの高度化を図り、データを拡充するとともに、評価に必
要となるデータの標準的取得方法を確立する。また、地質環境データ等を考慮した現実
的な処分システム概念の構築手法や全体システムモデルを整備するとともに、掘削深度
を考慮して、設計、安全評価手法の深部地質環境での適用性確認を行う。
② 以上の成果について、深地層の科学的研究の成果及び国内外の知見とあわせて、総
合的な技術として体系化した知識ベースを開発し、適切に管理・利用できるように、品質
管理や更新の考え方を含めた知識管理システムとして構築する。また、知識ベースを活
用した地層処分技術の理解促進のための手法開発を進める。
≪中期実績≫
○ 地層処分の工学技術の信頼性向上や安全評価手法の高度化を図るため、人工
バリア等の長期挙動や核種の移行等にかかわるモデルの高度化とデータの拡充
を行うとともに、評価に必要となるデータの標準的取得方法を整備した。得られた
成果は、処分場の設計や安全評価に必要となるデータベースや解析ツール等とし
て公開し、原子力発電環境整備機構(NUMO)や規制関連機関に提供した。収着
データの取得方法については、日本原子力学会の標準として制定された。
また、深地層の研究施設等で得られた地質環境データを活用することにより、処
分場の設計や安全評価手法の適用性を確認しながら、実際の地質環境条件を考
慮した現実的な処分システム概念の構築手法や全体システムモデルの整備を行
った。
○ 知識ベースについては、地層処分研究開発及び深地層の科学的研究の成果を
26
他の研究開発機関の成果や国内外の知見と併せて、地層処分に関する総合的な
技術として体系化するとともに、品質管理や更新を行いながら広く関係者の利用に
供することのできる知識管理システム(KMS)として構築し、プロトタイプの公開を果
たした。
今中期目標期間における研究開発成果については、国内外の専門家によるレ
ビュー等を通じて技術的品質を確保した包括的な報告書として取りまとめ、ウェブ
上のレポート(CoolRep)として、知識管理システムと有機的に連結させて公開した。
知識管理システムとウェブ上のレポートの公開により、処分事業や安全規制を技
術的に支援し、地層処分技術の理解促進にも活用できる恒常的なバックアップ体
制が整備できた。関係者からも、一般国民への PA ツールとしての活用などを含め
て、高い関心と評価が寄せられている。
○ 研究開発の現状や成果等に対する理解促進のための取組として、研究施設へ
の見学者受入れ、公開での報告会・情報交換会、学生・一般向けのセミナー、周
辺市民への広報誌の配布、ホームページやマスメディアを通じた情報発信等を行
った。また、平成 20 年度から資源エネルギー庁の理解促進事業として開始された
地層処分実規模設備整備事業について、幌延を実施場所として協力するとともに、
資源エネルギー庁の地層処分説明会「全国エネキャラバン」に専門家を派遣する
など、地層処分に関する国民との相互理解の促進を目指した資源エネルギー庁の
活動を支援した。
○ 我が国の基盤的研究開発を効果的・効率的に進めるために設置された地層処分
基盤研究開発調整会議における中核的な機関として、NUMO 及び規制関連機
関の動向やニーズを踏まえて、「高レベル放射性廃棄物の地層処分基盤研究開
発に関する全体計画」(以下、全体計画)を策定し、これに基づき、原子力環境整備
促進・資金管理センター、電力中央研究所、産業技術総合研究所、放射線医学
総合研究所等との間で、共同研究や情報交換を進めた。また、基盤研究開発の進
捗状況及び「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」の改定(平成 20 年 4
月)等を踏まえて、全体計画の見直しを行った。
○ NUMO との協力協定に基づき、研究者の派遣(現在 5 名、延べ 16 名)や技術交
流等を通じて、地層処分の事業を技術的に支援した。
また、原子力安全委員会への技術情報の提供や委員としての参加等を通じて、
国の安全規制に関する審議を技術的に支援するとともに、規制関連機関との間で
協力協定を締結して研究協力を行った。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め機構の外部評価委員会として設定している地層処分研究開発・評価委員会によ
27
る中間評価では、「第1期中期計画の研究開発は着実に進展しており、今後も機
構が総合的な技術力を維持・強化しながら、中核となって基盤的な研究開発を着
実に進めていくことが重要」との評価結果を得た。
28
2)深地層の科学的研究
【中期計画】
① 岐阜県瑞浪市において結晶質岩と淡水系地下水、北海道幌延町において堆積岩と塩
水系地下水を研究対象とした深地層の研究計画を進める。深度に依存する科学的、工
学的因子、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(平成 12 年法律第 117 号)に示
された要件(地下 300m 以深)を考慮し、中間深度(瑞浪市;地下 500m 程度、幌延町;地
下 300m 程度)までの坑道掘削時の調査研究を行う。得られた地質環境データに基づ
き、地上からの調査研究で構築した地質環境モデル(地質構造、岩盤力学、水理、地球
化学)を確認しつつ、地上からの調査技術やモデル化手法の妥当性の評価を行う。これ
らを通じ、精密調査における地上からの調査で必要となる技術の基盤を整備する。
② 深地層の研究計画の坑道掘削時の調査研究として、坑道掘削に係る工学技術や影響
評価手法についても検討を行い、適用性や信頼性を確認するとともに、その後の調査研
究に向けて最適化を図る。
③ 地質環境の長期安定性に関する研究については、精密調査地区の選定において重
要となる地質環境条件に留意して、天然現象に伴う地質環境の変化を予測・評価するた
めの調査技術の体系化やモデル開発等を進める。
≪中期実績≫
○ 深地層の研究施設計画については、結晶質岩と淡水系地下水を研究対象とした
瑞浪超深地層研究所及び堆積岩と塩水系地下水を研究対象とした幌延深地層研
究所の計画を進めた。平成 19 年度には、処分事業や安全規制の段階的な進展
に資するため、地上からの調査研究段階の成果を取りまとめ、概要調査等の技術
基盤として公開した。また、平成 21 年度には、地下施設での調査研究を行うため
の水平坑道を整備し、深地層の体験や調査研究内容の公開等を通じて、地層処
分に関する国民との相互理解を促進する場としても活用を図った。これは、平成 20
年 4 月に改定された「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方針」(以下、
最終処分に関する基本方針)によって、深地層の研究施設の公開等を通じた国民
との相互理解促進への貢献が改めて求められたことを踏まえた対応である。
瑞浪超深地層研究所については、2 本の立坑を深度 460m まで掘削しながら坑
道掘削時の調査研究を進めるとともに、深度 300m に延長距離約 160m の水平坑
道を整備した。また、幌延深地層研究所については、東立坑を深度 224m まで、
換気立坑を深度 250m まで掘削しながら、坑道掘削時の調査研究を進めるととも
に、深度 140m に延長距離約 180m の水平坑道を整備した。
掘削を進めながら、坑道壁面の連続的な地質観察や地下水の観測等を実施し、
岩盤の性状や断層・割れ目の分布、地下水の水圧・水質の変化等を把握した。得
られた地質環境データに基づき、地上からの調査研究で構築した地質環境モデル
を確認しつつ、地上からの調査技術やモデル化手法の妥当性を評価し、精密調
査における地上からの調査で必要となる技術基盤の整備を行った。
29
○ 坑道掘削に係る工学技術や影響評価手法については、坑道を掘削しながら岩
盤の変位・応力観測等を実施し、上記の調査・観測の結果とも併せて、掘削の影
響を確認しながら、坑道の設計・覆工技術や湧水対策技術等の妥当性を評価した。
その結果に基づき、より深部での調査研究に向けて掘削工事や対策工事の最適
化を図るとともに、精密調査における地下調査施設の設計・建設に活用できる技術
基盤として整備した。
○ 地質環境の長期安定性に関する研究については、精密調査地区の選定におい
て重要となる隆起・侵食/気候・海水準変動や断層活動及び火山・地熱活動を対
象に、過去から現在までの変動履歴を解明するための調査技術の体系化を図ると
ともに、調査結果から推定される過去の変動に基づいて、将来にわたる地質環境
の変化を予測するためのモデルの開発を行った。これらを通じて、変動の著しい場
所を排除し、安定な地質環境を選定するための技術基盤を整備した。
以上の結果、中期目標で示されたように、「基盤的な研究開発の着実な実施」をも
って、「NUMO による処分事業と国による安全規制を支える知識基盤としての整備」
及び「知識ベースとしての体系化」を果たした。加えて、当該期間中に、最終処分に
関する基本方針により求められた「深地層の研究施設の公開等を通じた国民との相
互理解促進への貢献」にも適切に対応した。これらにより、中期目標を達成した。
30
(3)原子力システムの新たな可能性を切り開くための研究開発
1)分離・変換技術の研究開発
【中期目標】
高レベル放射性廃棄物の処理・処分の負担軽減に貢献するために、高速増殖炉サイク
ル技術及び加速器駆動システムを用いた分離変換技術について、それぞれ核燃料サイク
ルへの分離変換技術の導入シナリオ及び放射性廃棄物処分のコスト低減効果に関する検
討を進める。
【中期計画】
原子力利用に伴う高レベル放射性廃棄物の処分に係るコストを合理的に低減することを
目指し、高速増殖炉サイクル技術並びに加速器駆動システム(ADS)を用いた分離変換技
術の研究を、分離技術と核変換技術の整合性を保ちつつ進める。また、廃棄物処分にお
ける分離変換技術の導入シナリオ、導入効果の検討を進める。
① 分離技術の研究では、いずれの方法にも適用可能な技術基盤として、マイナーアクチ
ノイド(MA)や長寿命核分裂生成物(LLFP)、発熱性核分裂生成物の適切な分離を達成で
きるプロセス技術に関する基盤データを取得する。これらの成果をもとに、コストを低減可
能な新しい分離プロセス概念を構築、提示する。
② 核変換技術の研究開発では、核変換の対象となる MA や LLFP の核データ整備、核設
計コードの整備及び炉物理実験による設計精度の向上を進める。また、MA 含有燃料の
物性取得や LLFP 含有ターゲットの試作により、核変換技術の基盤構築に資する。
ⅰ 高速増殖炉サイクル技術を用いた方法については、MA 含有燃料ペレットの試作及び
照射試験等、高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究で実施している要素技術の研究
等を基に、高速増殖炉技術による分離変換システムを構築、提示する。
ⅱ 加速器駆動システム(ADS)を用いた方法については、システムの概念検討と共に、核
破砕ターゲット用材料、超伝導陽子加速器の要素技術、鉛ビスマス関連要素技術の研究
を進め、成立性の高い核変換技術を構築、提示する。ADS 用燃料サイクル技術の研究と
して、MA 高含有窒化物燃料及び乾式処理プロセスの技術的成立性評価に資するデー
タを取得する。
これらの実施にあたっては外部資金の獲得に努める。
≪中期実績≫
○ 原子力利用に伴う高レベル放射性廃棄物の処理・処分の負担軽減を目指した分
離・変換技術については、原子力委員会による確認を受けつつ研究開発を行って
おり、機構は、分離変換技術の導入効果として、長期の発熱核種である241Amが高
レベル放射性廃棄物(HLW)から除去でき、分離した発熱性核分裂生成物(FP)を
約 130 年貯蔵後に廃棄すれば処分場における廃棄体の定置面積を約 1/4 に、約
300 年貯蔵後に廃棄すれば同面積を約 1/100 にそれぞれ縮小可能であるという試
算を平成 19 年に示している。ただし、これを達成するには、発熱性元素の分離を高
い効率で行う必要がある。また、同委員会の「分離変換技術検討会」が平成 21 年 4
月に示した報告書「分離変換技術に関する研究開発の現状と今後の進め方」での
指摘を踏まえつつ、基礎データの充足及び基本的ベンチマークの充実を目指した
31
研究開発を継続している。
○ 分離技術の研究では、文部科学省からの原子力システム研究開発事業受託研
究「新規抽出剤・吸着剤による TRU・FP 分離の要素技術開発」等において、FBR
サイクル及び ADS のいずれの方法にも適用可能な技術基盤として、MA や長寿
命核分裂生成物(LLFP)、発熱性 FP である Sr 及び Cs の適切な分離を達成でき
るプロセス技術に関する基盤データを取得した。
これまでの個別分離要素技術の研究成果を基に、硝酸濃度を低下させる必要
がない、リンを含む抽出剤を使用しないといった特徴により、コストを低減可能な新
しい分離プロセス概念を構築、提示した。
○ 核変換技術の研究開発では、核変換の対象となるMAやLLFPの核データ整備
として、 237Np、 241,243Am等のMAや、 107Pd等のLLFPの熱中性子捕獲断面積を
整備した。237Npについては、開発した測定技術を適用することで高速中性子捕獲
断面積も整備した。また、核設計コードの整備では、最新の計算科学技術を用い
て、解析効率及び信頼性を向上した核設計コードを開発し、高速実験炉「常陽」の
燃焼係数解析により、優れた精度を示した。さらに、ロシアのBFS高速臨界実験装
置で行われたNp装荷炉物理実験の解析評価を用い、Np装荷炉心の核特性予測
精度が向上することを示した。
また、MA 含有燃料(Am5%含有 MOX ペレット)の「常陽」照射試験を行い、化
学分析データ等を取得するとともに、LLFP 用のターゲットを安定同位体を模擬物
質として用いて試作し、その製造性の見通しを得た。これにより、核変換における
基盤技術の構築が可能となった。
○ FBR サイクル技術を用いた方法については、大洗研究開発センター燃料試験施
設(AGF)において取得された MA 等の「常陽」照射サンプルの化学分析結果につ
いて、最新の JENDL 評価済み核データライブラリを用いて解析を行い、核データ
改良を行った。また、高速増殖炉サイクル実用化戦略調査研究で実施した要素技
術の研究である MA 含有ペレットの試作及び照射試験等を基に、高速増殖炉サイ
クルシステムを分離変換システムとして見た際の概念を追求し、非均質ターゲット
装荷法(分散装荷法、リング状装荷法、ターゲット内ピン非均質装荷法)炉心概念
や増殖炉と専焼炉(臨界炉)との共存サイクルのシステム概念を構築・提示し、それ
らの特徴を把握した。
○ ADS を用いた核変換研究では、設計検討により、鉛ビスマス冷却材による被覆
管腐食を抑制しつつ、年間 250kg の MA を核変換できる ADS 概念を構築した。
鉛ビスマス核破砕用ターゲット材料の MEGAPIE 国際共同実験、超伝導陽子加
速器の構成要素であるクライオモジュールの大電力高周波試験、鉛ビスマスによる
32
鋼材の腐食試験、欧州の ADS 開発プロジェクト EUROTRANS との情報交換等を
通し、必要なデータの蓄積を図った。これらに基づき、ビーム窓構造や安全性等に
関する成立性を評価し、ADS を用いた成立性の高い核変換技術を構築、提示し
た。
ADS 用燃料サイクル技術の研究として、文部科学省からの革新的原子力システ
ム技術開発公募事業受託研究「窒化物燃料と乾式再処理に基づく核燃料サイク
ルに関する技術開発」において、Np、Am、Cm を含有した MA 高含有窒化物燃
料の熱物性データを世界に先駆けて取得した。
乾式処理プロセスに関しては、文部科学省からの革新的原子力システム技術開
発公募事業受託研究「窒化物燃料と乾式再処理に基づく核燃料サイクルに関する
技術開発」において、ADS 用窒化物燃料中の FP 元素及び希釈材の電解精製時
の挙動や溶解電位に与える影響のデータを取得した。さらに、窒化物の陽極溶解、
液体 Cd 陰極回収物の再窒化、再窒化回収粉末を原料とした窒化物ペレット製造
からなる一連の試験を実施して、実験室規模で ADS 用窒化物燃料乾式処理プロ
セスの技術的成立性評価に資するデータを取得した。
○ 原子力基礎工学研究部門と次世代原子力システム研究開発部門、地層処分研
究開発部門、J-PARC センター等が連携して、原子力委員会の分離変換技術検
討会における検討作業に協力し、本技術の導入シナリオや導入効果の様々な可
能性について、その意義が認められた。また、OECD/NEA におけるタスクフォース
設置の契機を作るなど、世界における本分野の研究を先導した。
○ 機構内での連携としては、文部科学省からの原子力システム研究開発事業受託
研究「抽出クロマトグラフィ法による MA 回収技術の開発」において、原子力基礎工
学研究部門と次世代原子力システム研究開発部門とが連携協力して、マイナーア
クチノイドの分離プロセス基礎データを取得・評価した。この成果は、FaCT プロジ
ェクトにおけるマイナーアクチノイド分離プロセスのフローシート構築に生かせる重
要な成果であり、基盤研究とプロジェクト開発の連携効果を大いに発揮した。
○ 外部資金の獲得については、受託研究 15 件、2,255,849 千円、科学研究費 5
件、21,099 千円であった。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め機構の外部評価委員会として設置している、原子力基礎工学研究・評価委員会
(平成 21 年 12 月開催)において今中期目標期間における分離・変換技術の研究
開発について進捗確認を受け、中期計画達成の確認を受けるとともに、着実に研
究が推進されており、研究姿勢及び世界をリードする実績が高く評価されている。
一方、海外のネットワークの活用やサイクル全体の中での早期開発を期待するとの
33
所見を得た。
以上の結果、中期目標を達成した。
34
2)高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発
【中期目標】
原子力利用の多様化の一環として、高温の熱源と経済性に優れた発電手段となり得る
高温ガス炉とこれによる水素製造について、技術基盤の確立に向けて研究開発を進める。
【中期計画】
原子力エネルギー利用の多様化として、水素製造と発電の実現が可能な高温ガス炉技
術基盤の確立を目指すとともに、高温の核熱利用を目指した地球温暖化ガスの発生を伴
わない熱化学法による水素製造技術を開発する。
①高温ガス炉の技術基盤の確立を目指した研究開発
高温ガス炉の技術基盤の確立を目指し、高温工学試験研究炉(HTTR)において、運
転日数が 50 日以上の高温(950℃)連続運転を行い、炉心の燃焼特性、ヘリウムの純度
管理、高温機器の性能、炉内構造物等の健全性等に関するデータを取得・評価するこ
とにより、高温ガス炉の実用化に必要なデータの蓄積を行う。
高温ガス炉の技術の高度化に向け高温ガス炉の特性評価に関する研究、燃料・材料
の開発及び長寿命化を目指した研究等を行う。HTTR において、異常事象等を模擬し
た試験を行うことにより、高い固有の安全性等、高温ガス炉の特性を実証するとともに、
特性評価手法の高度化を図る。また、燃料の高燃焼度化(約 120GWd/t を目標)及び黒
鉛構造物の長寿命化(約 6 年間を目標)及び耐熱セラミックス製構造物の開発を目指し
た研究開発を行う。これら高温ガス炉の技術の高度化に向けた研究開発の実施にあた
っては、外部資金の獲得に努める。
②核熱による水素製造の技術開発
ⅰ 過渡時、事故時の動特性試験の成果を反映し、HTTR-IS システムにおける熱供給
システムの設計を完了する。
ⅱ ISシステムによる 30m3/h規模の水素製造技術を確証する。なお、実施にあたって
は、外部資金の獲得に努める。
ⅲ 熱利用に係わる高温隔離弁、タービン圧縮器等の要素技術開発においては、国内
産業界との連携及び国際協力の活用を図るとともに、外部資金の獲得に努める。
≪中期実績≫
①高温ガス炉の技術基盤の確立を目指した研究開発
○ 高温工学試験研究炉(HTTR)において平成 22 年 1 月から 3 月にかけて、HTTR
と IS プロセスを統合して原子力水素製造を実証するための HTTR-IS システムの
長期安定運転に必要な期間として設定した 50 日間の高温(950℃)連続運転を完
遂し、水素製造に必要な 900℃の熱を長期にわたり安定供給できることを HTTR
が世界で初めて示した。これにより、第四世代原子力システムの VHTR の実現に
大きく近づいた。
高温連続運転に向けた原子炉施設の事前取組としては、平成 18 年に 1 次冷却
材中の不純物管理を合理化するなどの準備を進めるとともに、平成 19 年に定格
(850℃)運転モードでの 30 日連続運転を行うことで、その運転実績とこれまでの膨
35
大な保守管理データの分析から必要となる冷却設備等の懸案事項を抽出し、平成
19 年度の 1 次系ガス循環機フィルタ交換、平成 21 年度の遮へい体コンクリート用
冷却器の洗浄などの事前対策、平成 21 年度までの純化設備ガス循環機等(14 台)
の計画的な改良等、短期間に効果的に設備・機器等の整備を実施した。また、ヘ
リウムの微量漏えいを運転前に確実に検知できるようにシステムを改良し、そのシス
テムでヘリウム循環機からの漏えいを早期に検知してシール性能を向上させるなど
ヘリウム系の漏えい管理を改善した。さらに、大洗研究開発センター、原子力基礎
工学研究部門等の関係者から構成される横断的組織により高温連続運転におけ
るリスクを摘出・検討してリスク低減対策の徹底実施を図った。その結果、運転員特
別再教育により 150 ステップ以上の煩雑な手動操作を伴う制御棒反応度価値測定
で操作ミスをゼロとし、交換部品の事前調達及び迅速なトラブル対応などを実現し
た。このように総力を挙げた万全の事前取組を行うことより、高温連続運転を含む
120 日以上にわたる HTTR 設備運転期間中、操作ミス、機器のトラブルにより
HTTR は停止することなく、高温連続運転を無事完遂した。
この高温連続運転では、多くの設計課題を克服し、燃料温度を制限値以下に保
持しつつ、ヘリウム中間熱交換器の高温健全性を確保するなど非常に高い目標を
達成し、安定な高温熱(950℃)の取り出しに成功した。特に、燃料から放出される
核分裂生成物(FP)の放出率が海外の値よりも 1~3 桁低く、世界最高の燃料の
FP 保持性能を達成したことにより、機器設備の放射化がほとんど無い条件を実現
でき、幅広い産業熱利用に道筋を拓いた。また、炉心燃焼特性の指標である制御
棒位置を 3%以内の高精度で予測する解析手法を開発し、可燃性毒物及び燃料
濃縮度の調整とを組み合わせた反応度制御技術により、燃料の燃焼期間を約
20%延長可能であることを明らかにした。これにより、実用炉の運転期間を延ばし、
経済性の向上を可能とした。さらに、高温連続運転において、黒鉛構造物の腐食
で生成する水素濃度は目標値 3ppm の 1/30 以下であることから、設計を上回る黒
鉛の低腐食性を明らかにした。
高温ガス炉の特性評価に関する研究については、異常状態を模擬した試験とし
て、平成 18 年度から 19 年度にかけて制御棒引き抜き試験、一次冷却材流量を減
少させる試験を外部資金を獲得して実施し、一次冷却材流量が減少して自動的に
低温安定化する高い固有の安全性等、高温ガス炉の優れた安全性を実証した。あ
わせて、試験で得られたデータを基に特性評価手法の高度化を図り、解析精度を
向上させた。これらの成果により、高温ガス炉の究極的な安全性を実証する上で不
可欠な全ヘリウムガス循環機(3 台)を停止して炉心流量を喪失させる試験の詳細
評価が可能となり、日本で初めて実炉を用いた全流量喪失試験の許可を取得した。
同試験を次の第Ⅱ期中期計画において実施する。
高温ガス炉燃料・材料の研究については、高温ガス炉燃料の高燃焼度化のた
めに SiC 層を従来よりも 10 ミクロン厚くした燃料の試作に成功した。また、黒鉛構
造物の長寿命化として黒鉛の特性変化を非破壊的に評価する技術開発を外部資
36
金を獲得して実施し、残留応力及び酸化の評価式を高精度化した。さらに、原子
力機構の黒鉛検査基準や提供したデータを基に、日本原子力学会で高温ガス炉
黒鉛構造物の設計・製作に適用できる「高温ガス炉黒鉛構造物規格原案」を作成
した(平成 20 年度)。耐熱セラミックス製構造物の開発については、外部資金を獲
得し、炭素複合(C/C)材料の寸応変化、熱伝導率等の照射後試験データを取得し、
制御棒被覆管の照射条件下での成立性を解析により明らかにした。
これらの技術開発により、HTTR の高温ガス炉技術は世界最高性能として国際
的に評価され、日本の技術を国際標準化するための国際的イニシアティブを確立
する活動が加速された。OECD/NEA からは高温ガス炉の安全性に関する規格・
基準作成のため、HTTR 国際共同試験計画が承認され、米国の DOE/INL/GA
から NGNP 研究として HTTR トリチウム研究を受託した。
②核熱による水素製造の技術開発
○ HTTR-IS システムの機器の基本構成を決定し、IS プロセスの主要機器の構造
概念を提案するとともに、供給ヘリウムガスの温度、圧力、流量、運転制御方法を
決定した。また、HTTR-IS システムの想定される過渡時、事故時の代表的な解析
評価を行い、HTTR-IS システムの安全性保持の確認により、熱供給システムの設
計を完了した。
○ ISプロセスについて、実用材料を用いた耐熱・耐食性の大型機器技術として、炭
化ケイ素(SiC)製硫酸分解器、ブンゼン反応組成の非接触放射線計測法(外部資
金を獲得)、セラミックス製高温硫酸ポンプ等を世界で初めて開発した。装置設計
用データとして、低コスト化のために耐食被覆材(ガラスライニング)の耐食・耐熱デ
ータの取得等を行い、最小の工業規格品を適用できる 30m3/h規模の水素製造技
術を確証した。SiC製 硫酸分解器の開発に関し、積層する炭化ケイ素(SiC)ブロッ
ク同士を金ガスケットで接合し、タイロッドで固定して熱膨張を吸収する機構等を考
案し、気密性、耐圧性、耐震性を確保することに成功した。この成果により、平成
18 年度日本原子力学会賞技術賞を受賞した。また、HI濃縮用分離膜を先進的な
放射線 グラフト法で製作することに成功し、従来膜よりも濃縮エネルギーを約 40%
低減して、水素製造効率 40%に目処を得た。
○ 熱利用にかかわる機器の要素技術開発では、フランス原子力庁(CEA)との国際
協力を活用し、高温(900℃)環境下で使用可能な実用炉規模の高温隔離弁及び
圧縮機等のガスタービン機器回転軸の磁気軸受制御システムの設計を完了した。
産業界(三菱重工業(株))及び大学(京都大学)と連携により外部資金を獲得して先
進複合材を用いた中間熱交換器の技術開発を行い、プレート型中間熱交換器及
び間接サイクル発電システムの設計を完了した。
37
○ 技術基盤の確立では、原子力関連メーカーの意向を受け、原子力エネルギー基
盤連携センターに設置した特別グループ等において、共同で研究開発を進めた。
国産の高品質黒鉛を商用高温ガス炉へ展開するため、黒鉛・炭素材料挙動評価
特別グループにおいて、東洋炭素(株)と共同して黒鉛の微細組織に基づき材料特
性を評価する手法の開発及び原子力用黒鉛の照射データ整備を進めた。また、
高温ガス炉要素技術開発特別グループを設置し、三菱重工業(株)と共同して実用
高温ガス炉の基盤要素技術に関する研究に着手した(平成 21 年度)。さらに、(株)
東芝と高温ガス炉並びにそれを用いた水素製造法の開発に関する共同研究を行
うとともに、新日本製鐵(株)と IS 法により製造した水素を利用する水素還元製鉄の
共同研究を行い、製鉄所に設置する IS プロセスのシステム検討を実施した。
○ 日本の技術を世界の標準とするための国際的イニシアティブの確立を加速する
ため、以下の国際協力を推進した。第四世代原子力システムに関する国際フォー
ラム(GIF)の超高温ガス炉(VHTR)では、平成 20 年 3 月に水素製造プロジェクト
取決めが発効し、また、平成 21 年 9 月に材料プロジェクト取決めへの署名手続が
終了し、研究協力を副議長などの立場で主導している。CEA との二国間協定の枠
組みでの協力については、高温ガス炉及び超高温ガス炉に関する 6 つの分野に
おいて情報交換ベースの研究協力を実施した。また、韓国原子力研究所及び中
国清華大学核能及新能源技術研究院とも高温ガス炉及び原子力水素製造技術
に関する情報交換を行った。IAEA との協力については、ガス冷却炉技術ワーキ
ンググループ及び 3 つの協力研究プロジェクトへ参加した。国際原子力研究イニシ
アチブ(I-NERI)の文部科学省-米国エネルギー省 DOE 協定の下で、ZrC 被覆粒
子燃料の照射挙動に関する共同プロジェクトとして、米国 High Flux Isotope
Reactor (HFIR)において試作した ZrC 被覆粒子の照射・照射後試験を完了し、
VHTR で使用が想定される範囲である中性子照射量 6dpa までの ZrC の貴重な
データを取得した。これらの国際協力は、高温ガス炉システムの実用化を目指して
行われたものであり、機構の行う研究開発上適切な連携となっている。
○ 特に、実用システムの提案に向けて、発展途上国への小型高温ガス炉の世界的
展開を念頭に、技術立国を掲げるカザフスタンとは、カザフスタン国立原子力セン
ターと「原子力分野における研究開発に関する協力実施」に関する取決め、カザフ
スタン原子力委員会と「高温ガス炉の安全性研究に関する情報交換」のための覚
書、国立カザフスタン大学と「高温ガス炉技術に関する将来の人材育成」のための
覚書を締結し、(株)東芝、富士電機システムズ(株)等の国内原子力関連メーカーと
連携して、日本の技術を用いた発電・地域暖房用の小型高温ガス炉の建設に向け
た準備を進めた。あわせて、原子力関連メーカーと連携した技術支援により、カザ
フスタンが高温ガス炉事前成立性評価を完了し、高温ガス炉が記載されたカザフ
スタンと日本の政府間原子力協定が調印され、カザフスタン小型高温ガス炉建設
38
計画が始動間近となった。また、HTTR での黒鉛の実績により、東洋炭素(株)が中
国の HTR-PM 用黒鉛の製造を受注することができた。一方、国内では、鉄鋼協会
のグリーンエネルギー製鉄研究会の幹事として、大学及び製鉄メーカーと共に高
温ガス炉水素を用いた還元製鉄プロセスの検討を進めた。さらに、総務省の「緑の
分権改革」公募事業の委託を受けた茨城県、大洗町に協力し、水素利用ビジョン、
水素利用普及のロードマップ等の検討を平成 22 度年に実施することとなった。
○ IS プロセスの高腐食環境で使用可能な機器技術、水素製造効率の向上等につ
いて革新的な技術開発を行い、今中期目標期間中において 21 件の特許を出願し
た。
○ 高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発に当たっては、外部資金の獲
得に努め、文部科学省の公募事業など受託研究 12 件、1,259,471 千円、科学研
究費補助金 4 件、11,070 千円であった。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め機構の外部評価委員会として設置している原子力基礎工学研究・評価委員会
による進捗確認(平成 21 年 12 月)において、中期目標の達成が確認されるとともに、
「HTTR を国際的に活用する方策は優れており、世界をリードする研究開発を推
進している。日本における国際化のパラダイムシフトの中で、高温ガス炉の研究開
発の果たす役割は大きい。」との評価を受けた。
以上の結果、総力を挙げた万全の事前取組によりトラブルを乗り越えリスクを低
減して、 HTTR 高温(950℃)連続運転を完遂し、多くの設計課題を克服し、燃料
の FP 保持性能、黒鉛低腐食性能、反応度制御技術など設計を大幅に上回る成
果を挙げ、非常に高い目標を達成した。また、HTTR による優れた安全性の実証
が国内外で高く評価され、水素製造技術では世界を先導する技術基盤を確立した。
これら世界を先導する技術により、発展途上国で高温ガス炉建設計画を検討、自
治体、鉄鋼業界、原子力関連メーカー等の検討が加速され、将来の高温ガス炉利
用者の獲得に道を拓いた。
39
3)核融合エネルギーを取り出す技術システムの研究開発
【中期目標】
原子力委員会が定めた第三段階核融合研究開発基本計画に基づき、核融合研究開発
を総合的に推進し、核融合エネルギーの実用化に向けて貢献する。
【中期計画】
原子力委員会が定めた第三段階核融合研究開発基本計画に基づき、核融合研究開発
を総合的に推進し、核融合エネルギーの実用化に貢献する。国際熱核融合実験炉(ITER)
計画及び幅広いアプローチに取り組むとともに、炉心プラズマ及び核融合工学の研究開
発を進め、その成果を ITER 計画に有効に反映させることにより、ITER 計画の技術目標の
達成に貢献する。また、補完的研究開発としてのトカマク炉心改良等の炉心プラズマ研究
開発を行うとともに、増殖ブランケット・構造材料等の核融合工学研究開発を推進し、経済
性を見通せる原型炉の実現に必要な技術基盤の構築に貢献する。また、国際協力を活用
することにより、以上の研究開発の円滑な推進を図る。
≪中期実績≫
○ 核融合エネルギーの実用化に向けた研究開発では、原子力委員会の定めた第
三段階核融合研究開発基本計画を、大学・研究機関・産業界との強い連携による
オールジャパン体制の構築、品質保証体制及びリスク管理の充実といったマネジメ
ントの下に着実に遂行した。
国際熱核融合実験炉(ITER)計画及び幅広いアプローチ(BA)活動では、国内
体制構築への支援や準備活動を進め、国による ITER 協定及び BA 協定の締結
(平成 19 年度)によって核融合研究開発計画を国際的に前進させるとともに、我が
国の主導的立場確保に貢献した。さらに、国より ITER 計画の国内機関、BA 活動
の実施機関に指定され、計画を立ち上げるとともに「もの作り」に立脚した核融合炉
工学技術の研究開発において世界を主導する成果を続出(世界に先駆けたジャイ
ロトロン高周波加熱装置、超伝導導体、中性粒子入射加熱装置、ダイバータ等の
開発)させ、国際的イニシアティブを確保しつつ ITER 計画・BA 活動の推進に貢
献した。今中期目標期間におけるこれらの活動については、「国の研究開発評価
に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うため機構の外部評価委
員会として設置されている核融合研究開発・評価委員会による中間評価(平成 21
年度実施)においても、「ITER 計画及び幅広いアプローチ(BA)活動については、
協定の締結、組織立ち上げ、事業の開始、という流動的な状況の下、日本の実施
機関あるいは国内機関としての役割を担うという重要かつ困難な課題を見事にこな
したことは大きく評価できる。」との高い評価を得ている。
炉心プラズマの研究開発に関しては、臨界プラズマ試験装置 JT-60 による研究
開発を進め、従来考えられていた限界(自由境界理想安定限界)を超える高圧力
(規格化ベータ値 3.0)のプラズマを約5秒間維持することに世界で初めて成功し、
それを ITER の運転計画に反映させるなど、世界における核融合研究開発の進展
に大きく貢献した。核融合研究開発・評価委員会による中間評価においても、「規
格化ベータ値 3.0 でプラズマを 5 秒間維持できたことは特筆に値する。さらに
40
ITER を支援する定常運転シナリオをほぼカバーする成果を得ている。いずれも
ITER および原型炉プラズマに寄与する有意義な結果であり、定常炉を実現する
上での科学的・技術的意義は大きい。」との高い評価を得ている。
JT-60 は BA 活動によって JT-60SA に改造するために平成 20 年 8 月に運転
を完遂したが、これまでの核融合エネルギー開発への世界的貢献が高く評価され、
平成 21 年 4 月、日本原子力学会「原子力歴史構築賞」を受賞した。また、大規模
電気システムである JT-60 が「基礎的な物理実験レベルの概念を発電につながる
核融合反応装置として具現化した」ことなどが、電気工学の視点から高く評価され、
平成 22 年 3 月、電気学会「でんきの礎」賞を受賞した。
将来の核融合炉に不可欠な構成機器の一つである増殖ブランケットの開発では、
世界に先駆けて実規模大モックアップを製作し性能を確認しているほか、世界で
初めての実際の核融合炉ブランケットと同じ環境による高エネルギー中性子照射
下におけるトリチウムの生成・回収性能試験を実施し、ほぼ 100%のトリチウム回収
率が得られることを実証するなど、世界を先導している。なお、このような照射技術
や回収技術は、材料中のリチウム定量分析及び炭素-14 やフッ素-18 等の医療用
ラジオアイソトープ等を効率的に回収する技術への応用も期待されるものである。
また、原型炉に向けた構造材料の研究開発では、低放射化フェライト鋼について、
日米国際協力による米国 HFIR 炉を利用した共同照射実験によって中性子照射
データを蓄積し、原型炉への適用可能性を有すると評価し、経済性を見通せる原
型炉の実現に必要な技術基盤の構築に貢献している。
これらの研究開発活動について、核融合研究開発・評価委員会による中間評価
において、「炉心プラズマ研究やブランケット・材料研究では世界最高レベルを達
成しており、中期計画に対して、満足あるいはそれ以上の成果を出してきたと考え
られる。」との評価を得ている。
なお、ITER 計画や BA 活動には、核融合エネルギーフォーラム活動等を通して、
大学・研究機関・産業界の意見や知識を集約して取り組み、これら国内関係者との
連携を強化して計画を遂行し、国の指定による国内機関、実施機関としての責務
を果たすとともに、ITER 機構等の求めにも応えて計画の推進に積極的に貢献し、
また、我が国の技術基盤の向上に貢献している。一方で、アウトリーチ推進体制を
整備し、一般人や子供にも分かりやすい説明資料やホームページを整備したほか、
日本科学未来館の巡回企画展示への展示協力、講師派遣等、一般社会への知
識普及にも取り組んでいる。
41
①国際熱核融合実験炉(ITER)計画
【中期目標】
ITER 協定(イーター事業の共同による実施のためのイーター国際核融合エネルギー機
構の設立に関する協定)発効までの間、ITER 移行措置活動の実施機関として、ITER 建
設の共同実施を円滑に開始するために必要な準備を実施する。ITER 協定発効後は、
ITER 協定に基づく国内機関として、調達や人材提供の窓口として ITER 建設活動に取り
組む。
また、幅広いアプローチ協定(核融合エネルギーの研究分野におけるより広範な取組を
通じた活動の共同による実施に関する日本国政府と欧州原子力共同体との間の協定)発
効後は、幅広いアプローチ協定に基づく実施機関としての業務を実施する。
また、ITER 計画の技術目標の達成に貢献するため、燃焼プラズマ制御手法について
ITER 運転に資する指針を得る。
大学・研究機関・産業界の意見や知識を集約しつつ、ITER 計画及び幅広いアプローチ
に取り組むとともに、ITER 計画及び幅広いアプローチと国内核融合研究との成果の相互
還流に努める。
【中期計画】
ITER 協定(イーター事業の共同による実施のためのイーター国際核融合エネルギー
機構の設立に関する協定)発効までは、ITER 移行措置活動の実施機関として、調達の準
備等、ITER 建設の共同実施を円滑に開始するために必要な活動を実施する。ITER 協
定発効後は、ITER 協定に基づく国内機関として、調達や人材提供の窓口として ITER 建
設活動に取り組む。また、幅広いアプローチ協定(核融合エネルギーの研究分野における
より広範な取組を通じた活動の共同による実施に関する日本国政府と欧州原子力共同体
との間の協定)発効前は、ITER 建設に係る支援と並行して、幅広いアプローチ活動の推
進を支援する。幅広いアプローチ協定発効後は、幅広いアプローチ協定に基づく実施機
関としての業務を実施する。
また、粒子制御を活用した燃焼模擬実験等を実施することにより、燃焼プラズマ制御手
法の指針を得る。
核融合エネルギーフォーラム活動を通して大学・研究機関・産業界の意見や知識を集
約しつつ、ITER 計画及び幅広いアプローチに取り組み、ITER 計画及び幅広いアプローチ
と国内核融合研究との成果の相互還流に努める。
≪中期実績≫
○ 中期計画を踏まえ、ITER 機構及び参加極国内機関との強い連携を確保すると
ともに、品質保証体制やリスク管理を充実させ、我が国の調達責任を着実に果た
すことに留意した運営を行い、以下に示す実績を挙げた。
○ ITER 建設及び BA 活動の開始に向け、ITER 暫定機構への人員派遣、国内の
意見や知識の集約、国内体制構築への支援、ITER 調達準備や BA サイト準備推
進等の活動を進め、核融合研究開発計画を国際的に前進させる ITER 協定及び
BA 協定の締結に貢献した。これら国際共同計画の策定に当たっては、高性能プ
ラズマや核融合炉工学の研究開発において世界と並ぶ又はリードする活動を続け
てきたことが、我が国の主導的立場の確保に貢献した。
○ ITER 協定の発効(平成 19 年 10 月)後は、機構は国より国内機関に指定され、
ITER 建設活動において、その責務を確実に遂行してきた。遂行に当たっては産
42
業界との連携協力を強め、以下に示すような「もの作り」に立脚した核融合炉工学
技術の研究開発において世界を主導する成果を続出させ、我が国の技術基盤の
向上に貢献するとともに、ITER 協定参加極に対する国際的イニシアティブを確保
し、ITER 計画の推進に貢献した。
・ ジャイロトロン高周波加熱装置の開発では、これまでの世界記録を大きく上回
り ITER 目標性能(出力 1 メガワット、発振効率 50%)を上回る出力 1 メガワット
で発振効率 55%の定常発振に成功したほか、唯一 ITER の調達仕様を満た
していることから ITER 機構より要請を受け、信頼性確認試験を実施し ITER
運転シナリオの策定に貢献するデータの取得等の成果を挙げた。また、高周
波結合回路システムにおける技術開発が ITER 機構に高く評価され、本シス
テムの調達担当が米国より我が国に変更された。
・ 超伝導導体の開発では、世界に先駆けてトロイダル磁場(TF)コイル用超伝導
導体の製作技術基盤を構築し、ITER 計画における調達取決めの第 1 号とし
て TF コイル用超伝導導体の調達取決めを ITER 機構と締結し、ITER 計画
が建設段階に入ったことを世界に示したほか、いち早く超伝導導体製作工場
の建設に着手し、これを完成させ、世界に先駆けて超伝導導体の製作を開始
した。また、超伝導コイル開発に関する機構の技術力・評価力が高く評価され、
欧州が製作したポロイダル(PF)磁場コイル用導体の試験を ITER 機構及び
欧州から依頼され、試験を実施して性能を確認し、欧州、ロシア、中国におけ
る PF コイル用超伝導導体の調達開始を可能とした。
・ 中性粒子入射加熱装置の開発では、粒子の加速方式に関して欧州一段加
速方式との比較実験の結果、機構の開発した多段加速方式の優位性が認め
られ、ITER の技術仕様に採用されたほか、高電圧ブッシング用の世界最大
のアルミナセラミックリングの試作に成功するとともに、これを用いて試作した
大型絶縁体において ITER で要求される高い絶縁性能を世界で初めて実証
した。ダイバータの開発においては、ITER 機構による高熱負荷評価試験によ
り、世界に先駆けて、実機ダイバータ製作に必要な技術能力を有するとの認
定を ITER 機構より受け、さらに開発作業を進めている。
さらに、機構の技術開発力が ITER 機構に高く評価された結果、高周波技術、
超伝導技術、計測技術、トリチウム取扱技術、中性粒子ビーム入射技術等に関し、
ITER 機構からの受託研究(有償タスク)を引き受け、ITER 計画の推進に貢献して
いる。
○ ITER 機構に対する人的な支援としては、平成 19 年 10 月の ITER 機構発足以
降、直接雇用職員のべ 16.5 人・年(うち 10 人・年が上級管理職)の他にリエゾンを
派遣(実績:のべ 127 人・月)するとともに、ITER 機構の 492 回の技術会合に機構
職員を含む専門家をのべ 1,512 人参加させ、ITER 計画の進展に貢献した。さら
に、ITER 理事会、運営諮問委員会及び科学技術諮問委員会には委員及び専門
43
家を送り、ITER 計画の方針決定等に参画・貢献した。また、ITER 機構職員公募
の事務手続を支援し、現在、日本人職員 24 人が採用されている。また、ITER 機
構が研究機関及び企業に対して募集した 7 件の研究委託及び 44 件の業務委託
について、それぞれ国内向けに情報を発信し、25 社からの応募書類を ITER 機構
に提出した。
人材の派遣に関しては、不定期で短期間に実施される ITER 機構職員公募に
迅速・的確に対処するため、人材登録制度を構築・運用し、これまでに合計 182 名
の登録者を得ている。また、ITER 機構職員募集説明会を、東京、大阪の他、青森
や高知などにおいて計 30 回行ったほか、国外においても、在仏及び在米日本人
専門家を対象に、仏国(パリ、エキサンプロバンス)及び米国(ワシントン、サンノゼ、
ボストン)にて計 7 回の説明会を開催した。また、各説明会における質疑応答を機
構ホームページに掲載し、一般公開している。さらに、産業技術総合研究所、理化
学研究所、科学技術振興機構及び日本学術振興会とも連携して募集を進めてい
る。なお、ITER 機構職員募集については、機構ホームページに掲載するとともに、
日本原子力学会、プラズマ・核融合学会、日本物理学会、核融合エネルギーフォ
ーラム、日本原子力産業協会及び核融合ネットワークを通じて周知しているほか、
産業技術総合研究所及び理化学研究所の所内ホームページにも掲載している。
以上のとおり、機構は、ITER 計画に対する我が国の人的貢献の窓口、ITER 機
構からの業務委託の連絡窓口としての役割を着実に果たしている。
○ BA 協定の発効(平成 19 年 6 月)後は、機構は国より実施機関に指定され、その
責務を確実に遂行し、BA 活動の 3 つの事業(国際核融合エネルギー研究センタ
ー、国際核融合炉材料照射施設の工学実証・工学設計、サテライトトカマク)を以
下に示すように国内連携しつつ欧州と協調して順調に進めた。
・ 国際核融合エネルギー研究センターに関する活動では、原型炉へ向けて、
低放射化構造材料、炭化ケイ素(SiC/SiC)複合材、トリチウム技術、先進増殖
材及び先進中性子増倍材に関するそれぞれの研究開発課題について予備
的な技術開発を実施したほか、大学や国内研究機関とも連携した原型炉概
念設計の検討、核融合計算機シミュレーションセンターに設置するスーパーコ
ンピューターの機種選定検討等を進めている。
・ 国際核融合炉材料照射施設の工学実証・工学設計活動では、核融合研究
開発部門と液体金属に係る技術を有する大洗研究開発センターが連携協力
してリチウム試験ループの開発を進めて現地工事を開始したほか、加速器の
設計を進めプロトタイプの製作を開始している。
・ サテライトトカマク(JT-60SA)に関する活動では、大学、研究機関、産業界等
の国内意見を集約しながら日欧で JT-60SA の統合設計を完成させ、那珂核
融合研究所内に建設した超伝導導体製作設備でのポロイダル磁場コイル用
超伝導導体の製作開始等、調達活動を進めている。一方で JT-60SA の設置
44
に向け、JT-60 の運転を平成 20 年 8 月に完遂させ、その本格的解体・撤去に
向けて解体準備作業を順調に進めている。
また、BA 活動の拠点となる六ヶ所 BA サイトの整備についても計画どおりに進め、
原型炉 R&D 棟、計算機・遠隔実験棟、IFMIF/EVEDA 開発試験棟、中央変電
所の建設を平成 22 年 3 月に当初計画どおり完了した。
○ 燃焼プラズマの制御については、ガスジェット等の粒子制御装置を利用すること
により燃焼模擬プラズマの実時間制御を実証し、制御手法の指針を得た。また、国
際トカマク物理活動の国際装置間比較実験に参加し、JT-60(日)、JET(欧)、
ASDEX(独)、DIII-D(米)等の比較実験を通し、ITER の燃焼プラズマの性能予測
精度の向上に貢献した。
○ 核融合エネルギーフォーラム活動を通して大学・研究機関・産業界の意見や知
識を集約しつつ、ITER 計画及び BA 活動に取り組み、特に ITER 理事会や BA
運営委員会、BA 事業委員会などに関わる案件に対し、大学・研究機関・産業界の
意見などが反映されるプロセスを確立し、ITER 計画及び BA 活動と国内核融合研
究との成果の相互還流に努めた。核融合エネルギーフォーラムを構成する組織の
一つである ITER・BA 技術推進委員会が平成 20 年に取りまとめた 2 件の報告書
(「核融合エネルギー実用化に向けたロードマップと技術戦略」及び「トカマク型原
型炉に向けた開発実施のための人材計画に関する検討報告書」)は、産業界も参
加して全日本的な協力体制の下で作成し、文部科学省に提出したものであるが、
これらは、我が国のこれまでの核融合研究の成果に基づくものであり、今後の
ITER 計画及び BA 活動を確実に推進する上で不可欠の検討結果を含むだけで
はなく、今後の国内核融合研究を効果的に推進するために大きく貢献するもので
ある。
大学等との連携協力については、広く国内の大学・研究機関の研究者等を委員
として設置した「ITER プロジェクト委員会」を開催し、ITER 計画や BA 活動の進捗
状況を報告するとともに国内意見の集約を図った。また、日本原子力産業協会の
協力で、ITER 関連企業説明会を 14 回開催し、ITER 計画の状況と調達計画、
ITER 機構での知的財産権の取扱い等について報告し、意見交換を行ったほか、
BA 関連企業説明会を 2 回開催し、BA 活動の状況と調達計画等について報告し、
意見交換を行い、産業界との連携強化に努めている。さらに、BA 原型炉研究開発
の実施に当たっては、核融合エネルギーフォーラムと全国の大学等で構成される
核融合ネットワークに設立された合同作業会で共同研究の公募に関する意見集約
をするなど、大学・研究機関・産業界との連携協力を強化した。
○ 国際約束の履行の観点からは、ITER 計画及び BA 活動の効率的・効果的実施
及び核融合分野における我が国の国際イニシアティブの確保を目指し、ITER 国
45
内機関及び BA 実施機関として各協定の定めに従った物的及び人的貢献を、国
内の研究機関、大学、並びに産業界と連携するオールジャパン体制を構築して行
い、定期的に国に活動状況を報告しつつ、国内機関・実施機関としての責務を確
実に果たし、国際約束を誠実に履行した。
46
②炉心プラズマ研究開発及び核融合工学研究開発
【中期目標】
原型炉の実現に向けて、高い圧力のプラズマを定常的に維持するための研究(定常高
ベータ化研究)等の炉心プラズマ研究開発を進めるとともに、増殖ブランケット・構造材料等
の核融合工学研究を推進する。
【中期計画】
炉心プラズマ研究開発としては、実験炉の補完的研究開発として、定常高ベータ化研
究を進め、高自発電流割合のプラズマや高い規格化ベータ値のプラズマの維持時間を伸
長する。
上記研究を進めるため、加熱装置の連続入射時間を伸長する等の装置技術開発を行う
とともに、プラズマ輸送等のコードを改良する。また、大学等との相互の連携・協力を推進
し、人材の育成に貢献する。
理論・シミュレーション研究では、炉心プラズマの乱流構造の解明を進めるとともに、プラ
ズマの磁気流体的な挙動に関わる理論・数値計算手法を開発し、閉じ込め・安定性制御
のための理論的指針を取得する。
核融合工学研究開発としては、増殖ブランケットや構造材料の研究を行うとともに、核融
合エネルギー利用のための基礎的な研究開発や炉システムの研究を実施する。
増殖ブランケットの研究開発では、ITER での試験に向けた検討を進め、試験モジュール
の基本要件を明らかにする。構造材料の研究開発では、低放射化フェライト鋼について高
中性子照射線量の照射条件での材料特性等のデータを蓄積し、原型炉への適用可能性
を評価する。また、核融合材料照射試験に関し、現在国際協力で行われている検討活動
に参加する。
≪中期実績≫
○ 中期計画を踏まえ、機構内の他部門との連携体制及び大学・研究機関・産業界
との連携によるオールジャパン体制の構築に留意した運営を行い、以下に示す実
績を挙げた。
○ JT-60 を用いた炉心プラズマの研究開発においては、定常高ベータ化の研究を
進め、規格化ベータ値 2.3 以上の高性能プラズマを 28.6 秒間維持することに成功
して ITER の標準運転シナリオで要求される値を超える高性能プラズマの長時間
維持を実証したほか、高ベータプラズマの長時間維持に向けた課題を解決する手
法の発見、高自発電流割合 72%を原型炉と同等の安全係数領域で初めて実現す
ることに成功、自由境界理想安定限界を超える高い規格化ベータ値 3.0 のプラズ
マを約 5 秒という長時間維持することに世界で初めて成功し、定常高ベータ化研
究を大きく進展させ、ITER 計画等に貢献した。
○ 加熱装置の技術開発では、負イオン源粒子ビーム入射装置の入射時間伸長の
開発を進め、入射時間として 21 秒間(平成 18 年度)、27 秒間(平成 19 年度)、30
秒間(平成 20 年度)を得るとともに、世界最高入射エネルギー80 メガジュールを達
成し(平成 20 年度)、定常高ベータ化研究の進展に貢献した。さらにイオン源の耐
電圧性能の大幅な改善に成功して 3 アンペアの水素イオンビームを 500 キロボル
47
トにまで加速することに世界で初めて成功し、JT-60SA における要求を達成したが、
これらは ITER の負イオン源粒子ビーム入射装置開発にも貢献する成果である。
また、高周波加熱装置の技術開発では、電子サイクロトロン波加熱装置の入射
時間伸長の開発を進め、入射時間として 21 秒間(平成 18 年度)、30 秒間(平成 19
年度)を得て定常高ベータ化研究の進展に貢献した。また、JT-60SA に向けてジャ
イロトロンの開発を進め、ITER にも適用可能な新方式を開発し、1 秒以上の出力
維持時間において従来の世界記録 1,000 キロワットを 1,500 キロワットに更新する
成果を挙げた。なお、機構が開発したエネルギー回収型大電力ジャイロトロンは、
国立科学博物館より「科学技術の発達史上重要な成果を示し、次世代に継承して
いく上で重要な意義を持つ科学技術史資料」であると評価され、平成 21 年 10 月、
国立科学博物館重要科学技術史資料(未来技術遺産)に登録された。
炉心プラズマ制御技術の向上に資するため、プラズマ輸送等のコードを改良し、
コアプラズマ輸送モデルと周辺プラズマ輸送モデルを統合した。これにより、コアプ
ラズマとダイバータ間の相互作用を矛盾なく解明することが可能となった。
○ 大学等との相互の連携・協力については、広く国内の大学・研究機関の研究者
等を委員とする炉心プラズマ共同企画委員会、JT-60、JT-60SA、理論シミュレー
ションの各専門部会を開催するとともに、JT-60 の実験・解析や JT-60SA の設計・
建設に関連した公募型共同研究を 22 大学・機関と 147 件実施した。なお、本共同
研究における研究協力者の半数以上が助教と大学院生であり、人材育成の観点
からも大きな貢献をすることができた。
○ 理論・シミュレーション研究では、炉心プラズマの乱流構造の解明を進めるため、
従来の粒子モデルではなく、位相空間を連続媒質として解く高精度乱流輸送コー
ドを開発し、それをトーラス配位に拡張するとともに、これを用いてイオン熱輸送の
物理機構を解析し、加熱パワーに対する温度分布の硬直性が雪崩的な非局所的
熱輸送現象に起因することを明らかにして、閉じ込め制御に向けた理論的指針を
得た。また、プラズマの磁気流体的な挙動に関わる理論・数値計算手法として、抵
抗性壁モード解析等を行うための磁気流体力学的(MHD)安定性解析コードを開
発し、それをプラズマ回転効果にも対応させるとともに、これを用いて周辺局在モ
ード(ELM)の MHD 特性を解析し、ELM 安定性制御につながる理論的指針を取
得した。
○ 核融合工学研究開発としては、核融合エネルギー利用のための核融合工学技
術の高度化を進め、先進超伝導技術、真空技術、トリチウム安全工学、中性子工
学、ビーム工学、高周波工学、炉システムの研究開発を行い、タングステン表面に
おけるブリスタリング発生に関する発見、効率的な負イオンビーム生成につながる
発見、高温超伝導線材の熱処理時にジャケット材による性能低下を防ぐ方法の工
48
夫、大型電極の耐電圧特性に関する発見、効率の高い高周波結合回路システム
の開発等の世界を先導する成果を挙げるとともに、トリチウムと材料の相互作用や
核データ等の必要なデータの蓄積を着実に進めている。
○ 増殖ブランケットの研究開発では、第一壁実規模大モックアップを製作し、その
接合部健全性評価試験によって製作手法の妥当性を確認したほか、その流動試
験と高温水流動条件下での高熱負荷試験によって伝熱流動特性や構造健全性に
問題のないことを確認した。また、充填層構造体及び側壁の実規模大モックアップ
を製作し、その性能実証試験によって設計・製作手法が妥当であることを確認する
とともに、第一壁と側壁の実規模大モックアップを組み合わせた筺体モックアップを
製作し、その熱機械試験により設計・製作手法の妥当性を確認し、ITER 試験用ブ
ランケット・モジュールの基本要件を明らかにした。これらの製作及び確認は世界
に先駆けたものであり、我が国の技術的優位性と主導的立場を一層強固にしてい
る。
また、ブランケット模擬容器を製作し、核融合中性子源施設(FNS)により実際の
核融合炉ブランケットと同じ環境による中性子照射を行い、内部に生成したトリチウ
ムの回収試験を世界に先駆けて実施し、ほぼ 100%のトリチウム回収率が得られる
ことを世界で初めて実証する成果を得ている。
○ 構造材料の研究開発では、米国 HFIR 炉を用いた低放射化フェライト鋼の中性
子照射試験を継続して 35dpa までの照射を達成し、材料内にできるヘリウムの量
が 1,000appm を超えると硬化が助長されるなどの機械特性データや耐腐食特性
に関する基礎データを蓄積し、原型炉への適用可能性を有すると評価した。また、
核融合材料照射試験に関し、現在国際協力で行われている低放射化フェライト鋼
やベリリウム材料に関する検討活動に参加して技術情報の蓄積を進めた。
以上のように中期目標を達成するとともに、ITER 計画、BA 活動の推進を通じ我
が国の技術基盤の向上に貢献し国際的イニシアティブを確保する高い成果を挙げ、
かつ、炉心プラズマ研究開発及び核融合工学研究開発において世界を先導する優
れた成果を示している。
49
(4)民間事業者の原子力事業を支援するための研究開発
【中期目標】
民間事業者における軽水炉使用済燃料の再処理を技術的に支援するため、民間事業
者から提示された技術的課題を踏まえて、研究開発を行い、当該課題の解決に貢献する。
【中期計画】
民間事業者による軽水炉使用済燃料の再処理及び軽水炉でのプルトニウム利用を推進
するため、民間事業者から適正な対価を得つつ、そのニーズを踏まえて、必要な技術開発
に取り組む。
1) 平成 17 年(2005 年)度末を目途に電気事業者との既役務契約に基づく軽水炉ウラン
使用済燃料の再処理を終了する。
2) 燃料の高燃焼度化に対応する再処理技術の高度化を図るため、六ヶ所再処理工場
に係る技術的課題の提示を受けた上で燃焼度の高い軽水炉ウラン使用済燃料の再
処理試験の計画を進める。
3) 「ふげん」ウラン-プルトニウム混合酸化物(MOX)使用済燃料等の再処理試験を実施
する。
4) 高レベル廃液のガラス固化処理技術開発及び低レベル廃棄物の減容・安定化技術
開発を継続して実施する。
≪中期実績≫
○ 東海再処理施設においては、平成 18 年 3 月末までに電気事業者との既役務契
約に基づく軽水炉ウラン燃料の再処理(約 1,020 トン)を終了した。東海再処理施
設の累積処理量は同 3 月末でふげん燃料等を合わせて約 1,116 トン(平成 22 年
3 月末現在は約 1,140 トン)に達し、この運転を通じて、高耐食性材料・施工技術、
遠隔保守技術、環境放出放射能低減化技術、核不拡散技術等の技術開発を進
め、わが国初の再処理施設として再処理技術の国内定着、基盤整備に貢献してき
た。さらに、民間の再処理事業者である日本原燃(株)に対しては、機構において開
発したプルトニウム・ウラン混合転換技術、ウラン脱硝技術、高レベル廃液ガラス固
化技術を技術移転するとともに、これまでの保守・運転経験に基づく技術情報を提
供してきた。また、技術定着の観点から、機構技術者の派遣や研修生の受入れ等
の人事交流についても積極的に実施してきた。
○ 高燃焼度燃料の再処理試験については、東海再処理施設の耐震性向上対策の
状況を踏まえ、共同研究者である電気事業者と試験対象燃料や試験内容、試験
実施時期等について協議を行い、六ヶ所再処理工場の技術的課題を踏まえた試
験計画概要書の作成を行った。また、試験の実施に向け、高燃焼度燃料の特性を
整理し、許認可申請に係る各種評価を実施した。
○ 「ふげん」ウラン-プルトニウム混合酸化物(MOX)使用済燃料等の再処理試験に
50
ついては、今中期目標期間中に MOX 使用済燃料約 9 トン(うち、タイプ B 燃料:
約 6.5 トン)の処理を通じて、溶解特性や不溶解残渣に係るデータなどの各種デー
タの取得を行い、外部専門家の技術的意見を踏まえて取りまとめた。その後、耐震
設計審査指針の改定に伴い実施した耐震性向上対策のため、試験計画を見直し、
再処理試験としては再処理運転を伴わないマイナーアクチニドの分析技術開発な
どの技術開発を進め、成果を取りまとめた。なお、東海再処理施設の耐震性向上
対策は、平成 22 年末までに終了する予定であり、その後、再処理試験を再開すべ
く、試験計画の見直し・立案を行った。
○ 高レベル廃液のガラス固化処理技術開発については、改良型溶融炉によるガラ
ス固化体の製造(平成 22 年 3 月末までの累計 247 本)を通して、安定した溶融炉
運転が行えることを確認した。また、高減容ガラス固化技術や溶融炉の高度化に
係る長寿命化等の対策技術について試験、評価を行い各種対策技術の実現性の
見通しを得るとともに、試験運転に供した 1 号溶融炉を用いた解体技術開発を通し
て解体技術確立に向けたデータを整理した。あわせて、日本原燃(株)六ヶ所再処
理工場の試験運転を支援するための各種の調査研究等を実施した。これらのデー
タ採取及び各種試験等の技術開発並びに日本原燃(株)からの受託事業を実施す
ることにより、ガラス固化技術の維持・向上に努めた。
○ 低レベル廃棄物の減容・安定化技術開発については、模擬廃液を用いた低レベ
ル廃棄物のセメント固化評価試験を継続し、廃液の種類に応じたセメント固化条件
を明らかにするとともに、低放射性廃棄物処理技術開発施設へのセメント固化処
理設備設置に係る設計に反映した。また、硝酸塩を含む低放射性廃液の硝酸塩
分解試験を継続し、触媒還元法が有効であることを確認するとともに、操作条件の
最適化により触媒寿命(分解能力)を改善できる見通しを得た。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め機構の外部評価委員会として設定している次世代原子力システム/核燃料サイ
クル研究開発・評価委員会において、今中期計画に対する実績の確認を行った。
以上の結果、中期目標を達成した。
51
2.量子ビームの利用のための研究開発
【中期目標】
中性子、荷電粒子・放射性同位元素(RI)、光量子・放射光等の量子ビームの高品位化
や利用の高度化等を目指した量子ビームテクノロジーの研究開発により、ライフサイエン
ス、ナノテクノロジー等の様々な科学技術分野における優れた成果の発出に貢献し、先端
的な科学技術分野の発展や産業活動の促進に資する。
【中期計画】
中性子、荷電粒子・放射性同位元素(RI)、光量子・放射光等の量子ビームの高品位化
や利用の高度化等を目指した量子ビームテクノロジーの研究開発により、ライフサイエン
ス、ナノテクノロジー等の様々な科学技術分野における優れた成果の発出に貢献し、先端
的な科学技術分野の発展や産業活動の促進に資する。
≪中期実績≫
○ 量子ビームの利用のため、以下の 3 つを柱とした研究開発を実施した。
(1)多様な量子ビーム施設・設備の戦略的整備とビーム技術開発では、大強度陽
子加速器施設(J-PARC)の運営管理を含め、J-PARC 施設の完成、リニアックビ
ーム増強、供用運転とともに、中性子利用技術開発、荷電粒子・RI 照射技術開
発、光量子・放射光の利用技術開発を行った。
(2)量子ビームを利用した先端的な測定・解析・加工技術の開発では、ライフサイエ
ンス、材料・ナノ科学等の様々な分野における量子ビームの有効な利用を促進
するための研究開発を行った。
(3)量子ビームの実用段階での本格利用を目指した研究開発では、荷電粒子、放
射光等を利用し、産業界と密接に連携して実用化を目指した研究開発を行っ
た。
○ 研究開発を進めるに当たっては、産業界等における成果の利用の拡大を目指し
ており、今中期目標期間中における上記(1)、(2)、(3)にかかる登録特許件数は
147 件である。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め機構の外部評価委員会として設置している量子ビーム応用研究・評価委員会に
よる事後評価において、上記の(1)~(3)について、中期計画達成の確認を受ける
とともに、「量子ビーム応用研究部門は、その運営上の困難を克服して、東海地区、
高崎地区、関西地区(木津サイト、播磨サイト)各サイトの独自性を活かしながら研
究基盤を着実に構築するとともに、部門内構成員の一体感を高めながらサイト間の
連携を推進し、幅広い分野でオリジナリティーのある素晴らしい成果を挙げており、
非常に高く評価される。また、サイト横断的な連携に基づく量子ビームの相補的・
複合的利用などによる相乗効果を生み出している点も高い評価に値する。このよう
にアクティビティー中心の組織化の試みは画期的であり、若手研究者の活躍の場
を切り拓くものであったと総括できる。さらに、産業界も含む国内での認知活動及
52
び他機関との連携活動を通して、「量子ビームテクノロジー」という新概念の確立を
行ってきたこと、「量子ビームプラットフォーム」構想など文部科学省の量子ビーム
に関する政策推進に大きく貢献してきたことは重要な意義を持つものである。これ
とともに、トップダウンとボトムアップの両方向から不断の努力がなされ、学術的、技
術的なニーズに基づき活動を展開できる体制を構築し、物質・材料、環境・エネル
ギー、生命・医療等の科学分野の発展や産業の振興に向けた量子ビームの展開
を目指し、産業界ではできない基礎的研究の推進と社会への成果還元の双方を
部門全体としてうまくこなしている。このような部門運営に基づき、中期計画及び年
度計画に掲げた研究計画は、すべての項目について所期の目標を達成するととも
に、量子ビームの特長を活用して原子力機構のエネルギー関連事業に寄与して
おり、高く評価できる。」との意見を受けている。また、第 2 期中期目標期間におけ
る研究計画、組織運営方針等に関する事前評価においても世界を先導する研究
成果が創出できるものと期待される旨の意見が寄せられた。
(1)多様な量子ビーム施設・設備の戦略的整備とビーム技術開発
【中期目標】
多様で高品位な量子ビームを得るため、以下のビーム発生・制御技術開発を行う。
1) 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と協力して大強度陽子加速器(J-PARC)の開発
を進め、高出力の陽子ビームを制御及び安定化するための技術の高度化により、100
kW の陽子ビーム出力を達成する。
中性子利用のための利用技術開発として、高強度パルス中性子用の検出器、中性
子光学素子等の開発を進める。
また、J-PARC に中性子利用設備・機器を整備する外部機関に対して、必要な技術
情報の提供等の支援を行う。
2) 研究炉による中性子利用技術及び光量子・放射光利用技術等の高度化を進める。
【中期計画】
高エネルギー加速器研究機構(KEK)と協力して大強度陽子加速器(J-PARC)の開発を進
め、高出力の陽子ビームを制御及び安定化するための技術の高度化により、100kW の陽
子ビーム出力を達成する。
中性子利用のための利用技術開発として、高強度パルス中性子用の検出器、中性子光
学素子等の開発を進め、中性子利用実験装置の開発に活用する。また、J-PARC に中性
子利用施設を整備する外部機関に対して、必要な技術情報の提供等の支援を行う。
冷中性子ビームについて現状(JRR-3 においては 約 1× 108n/cm2sec)の約 10 倍の強
度を目指すとともに、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)等、中性子利用技術高度化の研究開
発を行う。
荷電粒子・RI 利用研究を推進するため、ビーム径 1μm 以下の数百 MeV 級重イオンマイ
クロビーム形成等のビーム技術、加速器技術及び照射技術の開発等を行う。
光量子・放射光の利用技術開発では、ペタワット・レーザーの主パルスとプレパルスの強
度比 108倍への向上、X線レーザーで 0.1Hzの繰返し発振を実現する。また、アト秒パルス
高輝度X線の発生を可能とする短パルス小型高強度レーザー技術、エネルギー回収型次
世代放射光源実現のための低エミッタンス大電流電子銃を開発する。
53
がん治療用等のレーザー駆動小型陽子加速器の実現に貢献するため、レーザーによる
MeV 級の高エネルギー陽子の発生を実現するとともに、エネルギースペクトルの準単色化
を目指す。
≪中期実績≫
○ 高エネルギー加速器研究機構(KEK)と協力して大強度陽子加速器(J-PARC)の
開発を進めた結果、平成 19 年 1 月にリニアックで所期性能 181MeV加速を達成し、
同年 10 月には 3GeVシンクロトロンで 3GeV加速に成功した。そして、今中期目標
期間の 4 年目の平成 20 年度半ばに 100kWの陽子ビーム出力を達成し、同年、
12 月より、当初計画通り物質・生命科学実験施設(MLF)にて、中性子及びミュオ
ンを利用した供用運転を開始した。平成 21 年度は、J-PARCのすべての実験施設
(MLF、ハドロン実験施設、ニュートリノ実験施設)にて利用を開始し、平成 21 年 11
月以後は、ビーム出力 120kWの安定した供用運転を行っている。さらに同年 12
月には、300kWのビームを試験的に 1 時間MLFターゲットへ供給し、中期目標の
3 倍の強度を達成した。この時観測された 1 パルス当たりの冷中性子強度は約 5
×1012個であり、米国オークリッジ国立研究所核破砕中性子源(SNS)の 4.2×1012
個を約 20%上回るもので、世界最高強度であることを確認した。
大強度化、ビームロス極小化、初期段階での不安定性回避など様々な課題を克
服するとともに高強度パルス中性子用検出器、中性子光学素子等の技術開発を
進めたことにより、世界最高レベルの大強度陽子加速器による複合先端科学実験
施設が完成し、上記の中期目標を超える性能を確認した。以下に、今中期目標期
間で実施された大強度陽子加速器における技術的課題克服の主な成果を列挙す
る。
・ リニアック
- 高周波 4 重極加速器(RFQ)の空間電荷効果による電磁場不安定性を、π
モード安定化ループを採用し解消した。
- ビームの安定化を確保するため、300MHz 以上の高周波源とドリフトチュー
ブリニアック(DTL)内蔵可能な小型電磁石が必要となり、電気鋳造法による
世界初の超小型水冷式四極電磁石の開発を行い、クライストロン駆動型
DTL に採用し、安定加速を実現した。
・ 3GeV シンクロトロン
- 大強度を実現するためには加速段階での不安定性を回避する速い加速が
不可欠であり、これを実現できる高飽和磁束密度・比透磁率のナノ結晶磁
性合金(FINEMET)製コアを開発した。この結果、世界最速の 3GeV 加速
を実現した。
- オールセラミックスの大口径真空ダクトを開発し、高周波運転で真空ダクト上
に生じる渦電流加熱やビーム不安定性を一挙に解決した。
54
○ 冷中性子源である減速材容器についてモンテカルロ法による中性子及び光子の
輸送計算を行い、新型の減速材容器に変更することによって、中性子導管に入射
する中性子量が約 2 倍になることを明らかにした。この新型減速材容器の強度解
析、安全解析を実施するとともに、試作した模擬減速材容器を用いて耐圧試験及
び繰返し疲労試験を実施し、原発設備規格及び研究炉施設の技術基準を満たす
ことを確認した。また、中性子導管を高反射率 Ni/Ti 多層膜スーパーミラーを使用
した新型冷中性子導管に交換することで、現在の導管と比較して、約 5 倍の利得
(輸送効率向上)が得られることを明らかにした。これらにより、新型の減速材容器及
び中性子導管の更新によって、JRR-3 冷中性子ビーム強度を 10 倍化できることが
確認された。なお、本研究の一部は、外部資金である文部科学省の原子力基礎基
盤イニシアティブを獲得して実施した。
JRR-4 の医療照射技術の高度化では、従来の悪性脳腫瘍への照射だけでなく
皮膚癌、頭頸部癌、胸部等への照射にも対応するための技術開発を進め、延長コ
リメータを実用化した。さらに、新規のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の適用部位
である肺癌に対する照射を可能にするため、胸部を模擬したファントムを用いた照
射実験を行い、線量分布特性について検証した。線量評価技術の開発では、従
来 10mm 角であったボクセルを 2mm 角と高分解能化した線量計算手法を実用化
し、空気と軟組織が複雑に入り組んでいる頭頸部や肺に対しても精度の高い線量
評価を可能とした。これらにより、頭頸部、悪性黒色腫(皮膚癌の一種)及び肺癌に
対する治療研究が開始された。また、BNCT の適用部位の拡大と症例数の増大に
伴って、BNCT 照射時間の短縮を図るため、誘導結合プラズマ発光分光分析装
置(ICP-AES)を用いて短時間で血液中のホウ素濃度を測定する新たな技術を開
発するとともに、小型中性子モニタである光ファイバーを利用したシンチレーション
検出器(SOF)と自己出力型中性子検出器(SPND)を用いたリアルタイム中性子束
測定技術を開発した。なお、今中期目標期間に 69 回の医療照射を実現した(脳腫
瘍:34 回、頭頸部癌:32 回、肺腫瘍:2 回、悪性黒色腫:1 回)。
○ 荷電粒子・RI 利用技術の開発については、数百 MeV 級重イオンのマイクロビー
ム形成技術の開発を進め、平成 18 年度に 260MeV のネオン(Ne)イオンで世界最
小直径 0.6μm のビームを実現し(平成 19 年プレス発表)、中期計画に掲げた目標
(直径 1μm 以下)を早期に達成した(第 19 回研究と工業分野における加速器応用
に関する国際会議(CAARI2006)招待講演)。これに加えて平成 21 年度までに
520MeV のアルゴンイオン、220MeV の炭素イオンについてもマイクロビームの形
成を実現した。一方、これを用いた照準精度 1μm 以下かつ高速のシングルイオン
ヒット技術の開発では、高速照準シングルイオンヒット用走査型照準装置を製作・設
置し、260MeV の Ne イオンの直径 1μm 以下のビームを用いた当装置の要素性
能の確認を平成 20 年度に行うとともに当該年度の目標であった毎分 600 ヒット/分
以上を上回る 1,500 ヒット/分を達成した。また、本シングルイオンヒット技術を、平成
55
21 年度に実施した重イオンマイクロビーム細胞局部照射技術開発及び半導体耐
放射線性評価研究へ応用した。
○ 光量子・放射光の利用技術開発では、ペタワット・レーザーの増幅法を改良し、コ
ントラスト比(主パルスとプレパルスの強度比)を中期計画に掲げた目標である 108
倍を 2 桁上回る、2×1010まで向上できた。X線レーザー開発では、高出力かつ高
繰り返し動作ができる励起用ドライバーレーザーの開発に成功し、中期計画に掲
げた目標である 0.1Hzの繰返しX線レーザー発振を実現した。高強度超短パルス
レーザーを用いて形成したフライングミラー(光速飛翔鏡)により、アト秒パルス高輝
度X線が生成することを確認した。エネルギー回収型次世代放射光源実現のため
の低エミッタンス大電流電子銃の開発については、電圧 250kVのフォトカソード電
子銃を開発し、0.054mm-mrad の 低エミッタンスを達成した。また、フォトカソード
直流電子銃に分割型セラミック管とガードリングを採用し、電界放出電子からセラミ
ック管を保護して放電を抑えることで、世界最高の 500kVの安定な電圧印加に成
功し、次世代放射光源の実現に向け大きく踏み出すことができた(平成 22 年プレス
発表)。
○ レーザー駆動小型陽子加速器の開発については、14MeV までの高エネルギー
陽子の発生を実現するとともに、位相回転器及び四重極磁石を用いたエネルギー
スペクトルの準単色化に成功した。さらに、ガス状のナノ粒子クラスターをターゲット
として利用することでレーザーのエネルギーを極めて効率良く吸収させ、輝度は低
いものの従来法より高いエネルギー20MeV まで陽子を加速ができることを世界で
初めて実証した(平成 21 年プレス発表)。また、大阪大学、兵庫県等と連携し、これ
まで技術的に困難であった、粒子線を安定供給するためのターゲットや粒子線を
選別する技術、生きた状態の細胞に真空中で粒子線を照射する手法などの開発
に成功し、レーザー駆動陽子線が体内のがん細胞と衝突する状態の再現を可能と
する実験装置を開発した(平成 21 年プレス発表)。この装置を用い、培養状態のヒト
由来肺腺がん細胞株(A549)に対してレーザー駆動陽子線を照射し、DNA の 2 本
鎖が切断することを実証した(平成 21 年プレス発表)。これは本法が、がん治療効
果を有することを示しており、超小型粒子線がん治療装置開発に道筋をつけた。
○ J-PARC における中期目標の早期達成により、J-PARC の実験装置建設も予想
を超える進展があった。この結果、平成 21 年度には、機構及び KEK による実験
装置 7 台、茨城県による実験装置 2 台、外部資金による実験装置 3 台の合計 12
台が早期に稼働を開始し、うち 8 台を一般利用に供することができた。さらに、6 台
の実験装置の建設中であり、供用を開始してから 1 年で設置最大数である 23 台分
のうち 18 台の実験装置の準備が決定した。そして、J-PARC 供用運転により、以
下に示す世界的レベルの成果を得た。
56
・ 中性子実験装置
- 世界最高波長分解能(Δd/d=0.035%)での計測に成功した。
- 非弾性散乱実験方法において、J-PARC パルス中性子の特徴を活かした
複数入射エネルギー同時非弾性散乱測定法を世界で初めて実証した。
(日本物理学会英文誌の Editor’s Choice (平成 21 年度)に選定)
- 超高分解能粉末回折装置(BL08)では、世界最高の分解能で物質の構造
分析が行える性能を示した。(平成 20 年プレス発表)
- 茨城県中性子実験装置で、グルタミン酸等の有機物結晶構造の分析に成
功した。
・ ミュオン実験装置
- 鉄系超伝導体の超伝導相と磁性相の相関を世界で初めて観測した。
(Physical Review Letters 誌(平成 21 年)に掲載)
- 120kW 運転にて世界最高のパルスミュオン強度を達成した。
・ ニュートリノ実験施設
- 予想より早期に J-PARC で発生したニュートリノを 295km 離れたスーパー
カミオカンデで計測することに成功した。
・ ハドロン実験施設
- 3 台の実験装置が稼働し、それぞれの装置で K 中間子の効果的な分離、
抽出に成功した。
上記の成果は、完成した J-PARC の加速器施設、それぞれの実験施設が目標
どおり又は目標を超える性能を発揮したことにより得られたものである。また、機構
が主に担当する中性子実験装置における成果は、以下に示す今中期目標期間で
実施された技術開発によるものである。
・ パラ水素を用いた大型円筒形状モデレータ概念を世界で初めて導入した。そ
の結果、米国 SNS に比べて入射陽子パワー当たりの中性子積分強度で 2.5
倍、ピーク強度で 6 倍の大強度化を実現した。300kW でのパルス強度が
1MW での米国 SNS を凌駕した原因はこの性能の差によるものである。
・ 大強度でも健全な中性子吸収材 Ag-In-Cd 合金の開発により、世界最高波
長分解能(Δd/d=0.035%)での計測成功を導いた。
・ 高性能シンチレータ及び高分解能・コンパクト波長シフトファイバー型 2 次元
検出器の開発に成功し、茨城県生命構造解析装置用検出器として採用した。
また、開発した世界最高性能のスーパーミラーも採用し、中性子ビームの輸送
ロスを軽減した。この結果、グルタミン酸等の有機物結晶構造の解析に成功し
た。
○ 中性子利用施設を設置する外部機関に対する支援では、茨城県の 2 台の中性
子利用実験装置、大学等が建設する 2 台の中性子利用実験装置の建設をそれぞ
れ支援し、平成 20 年 12 月からの供用運転より利用を開始させることができた。ま
57
た、供用運転では、年 2 回に分けて実験課題の公募、課題審査を実施し採択結果
を通知する業務や中性子実験装置の取扱、実験への支援から、安全管理と確保
及び運転情報の提供を行う利用者支援業務を実施した。
○ 立地地域や産業界との連携については、茨城県中性子利用促進研究会や中性
子産業利用推進協議会、MLF 利用者懇談会と協力し、これらの装置の産業利用
を進めた。その効果として、平成 21 年度上期での課題募集では産業利用が 19%
であったが、下期では 39%に増加した。産業利用においては X 線と比べ、これまで
中性子を用いた実験を行うことのできる施設がほとんど無く、敷居の高いものであ
った。このため、J-PARC の中性子実験施設における産業利用は予想以上に多く、
産業界からの期待が大きいことを示している。
○ 施設運営の効率化として、平成 20 年度では、光熱水費 25%、施設委託費 20%
の経費削減を達成した。平成 21 年度は本格的供用を実施し、計画どおり J-PARC
のメンテナンス期間を電気料金の高い 7 月から 9 月の 3 ヶ月に実施することにより、
この時期に運転を継続する場合と比較して、電気料金を 1.9 億円減額できた。また、
電気使用量の予測が正確になり、合理的な運用が行えるデータベースを蓄積し
た。
○ J-PARC では、機構と KEK の 2 機関が J-PARC センターを組織し、一体的な運
営を行っている。具体的には、センター内の各組織の代表者からなる調整会議を
毎週開催し、事業の進捗を管理するとともに、課題を把握し対策を検討した。毎四
半期には J-PARC 運営会議(機構と KEK の理事を中心とした J-PARC 運営委員
で構成)を開催し、適宜諸問題の対処方針を審議し、経営方針の決定を行い、経
営の健全性、効率性、透明性の確保を行った。また、センター内に各種委員会を
設け、コミッショニング計画、安全等の諸問題の調整、リスク管理を行なった。上記
のように、頻繁かつ密度の高い情報交換を行うとともに達成すべき目標又は解決
すべき問題を共有することで、異なったバックグラウンドを持つ 2 機関が J-PARC セ
ンターのもとに一体となって運営することが可能となった。
さらに、国際的視点に立った J-PARC の運営に資するため、その分野の世界的
な研究者で構成される国際諮問委員会、加速器技術国際諮問委員会、中性子技
術国際諮問委員会等を組織し、毎年 1 回レビューを行い運営から技術に関する提
言を受けた。これら各種委員会から受ける提言に対し、資源を集中するなど、着実
に対応することにより、直面した問題の早期解決が行え、計画を上回る J-PARC の
建設及び早期の運転開始が可能となったものと考える。
○ 高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA)の稼働率(実運転時間/
計画運転時間)は、平成 22 年 2 月末時点でサイクロトロンが 99.7%、静電加速器
58
(3 基)が 99.5%でほぼ 100%を維持している。このような高稼働率を長年維持して
いる要因について施設側が分析して資料を作成し、安全統括部が機構の他の拠
点にも配布展開して情報共有を図った。高稼働率を維持している要因は主に以下
のとおりである。①背景:「装置への愛着と身近な利用者」(TIARA 建設に携わった
中堅職員が加速器をマイマシンと感じて我が子のように手を掛けており、また利用
者からの声が届きやすい環境にある。)、②士気:「技術者としての自負とこだわり」
(職員等がマシンタイムの重要性を肌で感じているため 1 分でも損失させまいとする
気概があり、故障時には業者任せにせず職員自身が迅速に、かつ、低コストで修
理する能力と体制を整備してきた。)、③技術開発:「ニーズに応える高度技術の開
発」(利用者の要望に応えて世界的にも高度な加速器・ビーム技術の開発を実施し
てきたので、職員の加速器の原理と構造に関する理解が深まり、予防保全やトラブ
ル等への迅速な対応に大きく寄与している。)。
○ 大阪大学と連携して提案した「多様なイオンによる高精度自在な照射技術の開
発(平成 20~24 年度)」のテーマが文部科学省公募課題「量子ビーム基盤技術開
発プログラム」に採択され、その幹事機関としてサイクロトロンビームの迅速切換え
を実現する技術開発に取り組み、新たな磁場計測装置(NMR)を設計製作して、運
転中のサイクロトロンで設計どおりの磁場測定ができることを確認した。さらに、これ
を用いてサイクロトロンの主磁場の短時間設定に係る技術開発を進めた。この他、
軽イオンマイクロビーム技術の分析及び加工への応用を進め、群馬大学と協力し
て 21 世紀 COE プログラム「加速器テクノロジーによる医学・生物学研究」に取り組
み、大気マイクロ粒子線励起 X 線分析法(PIXE)を用いて肺の中にあるアスベスト
の種類を細胞レベルの元素分布画像から特定する技術を開発し、社会問題化して
いるアスベスト肺の早期診断治療につながる成果(平成 20 年プレス発表)を挙げた。
また、芝浦工業大学と協力して、マイクロビーム描画による 3 次元微細加工に成功
し(平成 19 年プレス発表)、将来の「ものづくり」への応用に向けた基盤技術を確立
した。
以上により、中期目標を達成するとともに、J-PARC における中期目標の早期達成
を始めとした、多様で高品位な量子ビームの発生・制御技術開発において高い成果
を挙げた。
59
(2)量子ビームを利用した先端的な測定・解析・加工技術の開発
【中期目標】
ライフサイエンス、材料・ナノ科学等の様々な分野における量子ビームの有効な利用を
促進するため、先進的量子ビームの一層の高品位化や利用の高度化を行う。重イオンマイ
クロビームの細胞局部照射技術を確立するとともに、中性子非弾性散乱法のタンパク質動
的挙動解析への応用に目途をつける。
【中期計画】
生体高分子用中性子回折計の高度化、タンパク質に対する中性子非弾性散乱法及び
中性子小角散乱法等、生命科学研究に中性子を利用するための研究開発を推進する。
中性子非弾性散乱法中性子小角散乱法等の高度化技術開発、偏極中性子解析法や
パルス中性子を利用した物質の構造解析法の開発等を行い、物質科学、ナノテクノロジ
ー・材料研究に中性子を利用するための研究開発を推進する。
位置分解能 1mm 以内の中性子即発γ線分析、材料内部残留応力の測定・解析、材料
構造解析等の中性子回折利用技術及び解析法の開発を進める等、中性子を利用した非
破壊測定・解析技術の確立に向けた研究開発を推進する。
細胞の放射線応答解明のため、重イオンマイクロビームを用いた細胞局部照射技術を
確立する。また、有用遺伝子資源創成によるイオンビーム育種技術や、植物中の物質動態
解明のためのポジトロンイメージング技術等、荷電粒子・RI の利用技術の高度化研究を推
進する。
生きたままの細胞等の瞬時観察を可能とするレーザープラズマX線顕微鏡の要素技術
を開発する。放射光とレーザーの相補的利用による物質の構造解析法を開発する。
放射光による時分割測定法を開発することにより、アクチノイド物質の抽出・分離、触媒
反応に関するその場観察法を確立するほか、多重極限環境下でのX線回折実験技術開
発や、酸化物超伝導体の電子状態等の解明のための共鳴非弾性散乱法の開発等を行
い、放射光利用技術の高度化を推進する。
≪中期実績≫
○ 研究用原子炉 JRR-3 に設置した生体高分子用中性子回折計(BIX-3/4)につい
て、γ 線遮蔽とビーム輸送経路の最適化、試料冷却装置の装着等の高度化によっ
て、高分解能の中性子回折データが得られた。この装置を用いた中性子線による
水素、軽元素等の情報と、放射光 X 線による骨格構造の情報とを相補的に利用す
ることにより、創薬標的タンパク質(HIV プロテアーゼ)と医薬品候補分子の相互作
用(平成 19 年プレス発表)、タンパク質における低障壁水素結合(LBHB)の存在
(平成 20 年プレス発表)、ブタ膵臓エラスターゼ活性中心のオキシアニオンホール
の状態(平成 21 年プレス発表)、ヒドロゲナーゼモデル錯体における水素イオン捕
獲状態(平成 19 年プレス発表)を解明することに成功した。また、中性子非弾性散
乱法や中性子小角散乱法により、タンパク質と水和水の相互作用を解析し、水和
量とタンパク質の運動性に相関があることを見出した。シミュレーション技術の高度
化では、世界で初めて全 4 塩基対の DNA 配列パターン全てのシミュレーションを
行い、タンパク質-DNA の相互作用の分子論的な機構を明らかにした。さらに、世
界最高レベルの大規模シミュレーション(200 万原子)を実現し、タンパク質合成分
子リボソームのペプチド伸長反応機構の解析を行った。
60
○ 偏極中性子による非弾性散乱法や小角散乱法を可能とする装置開発を行い、磁
性薄膜中における磁気ドメインの磁場依存性や格子歪みと磁気構造との関係を明
らかにした。また、偏極中性子解析法やパルス中性子を利用した物質の解析手法
の開発を行い、巨大な負の熱膨張を示す物質として知られるMn 3 Cu 1-x Ge x Nの
Mn 6 N八面体の回転による大きな格子歪みを発見する(平成 20 年プレス発表)など、
窒化鉄微粒子、磁性材料、フラーレン等の各種ナノ材料の研究を行った。これらを
通じて物質科学、ナノテクノロジー・材料研究に中性子を利用するための研究開発
を推進した。
○ 位置分解能 1mm 以内の中性子即発 γ 線分析を可能とする装置開発を行い、三
次元元素分析測定システムを構築するとともに、隕石試料の元素分布測定に成功
し中期計画に掲げた目標を達成した。また、材料内部残留応力の測定・解析、材
料構造解析等の中性子回折利用技術及び評価装置の開発を進め、極低温から
1,200K 程度の高温における非破壊での材料の三次元応力分布測定を可能にし
た。なお、開発した極低温中性子材料評価装置は世界最高性能(最低到達温度
4.8K、最大荷重 10kN)を有しており、これによりジェットエンジンやロケットエンジン
部品の応力や変形機構の評価を行うことができた。これらを通じて中性子を利用し
た非破壊測定・解析技術の確立に向けた研究開発を推進し、産業応用への展開
を図った。今後、放射光 X 線との相補的利用により、試料中の幅広い領域の解析
を進める。
○ 重イオンマイクロビームを用いた細胞照射では、新規の集束式重イオンマイクロビ
ーム装置を用いてネオンイオンを誤差数 μm 以内の精度で培養細胞に照準照射
することに成功し、重イオンマイクロビーム細胞局部照射技術を確立した。重イオン
マイクロビームを用いて、非照射細胞にも放射線影響が伝達されるバイスタンダー
効果のメカニズムの一端を明らかにした。また、がん遺伝子を過剰発現させたがん
細胞の放射線抵抗性は重粒子線照射により消失することを明らかにし、難治性が
んに重粒子線が有効であることを示した(平成 20 年プレス発表、平成 20 年群馬大
学第 4 回 COE 国際シンポジウム・最優秀口頭発表賞受賞)。
荷電粒子・RIの利用技術の高度化研究の推進では、有用遺伝子資源創成によ
るイオンビーム育種技術の高度化を行い、植物が紫外線に強くなる原因遺伝子等
を明らかにする(平成 18 年プレス発表)とともに、芳香シクラメン(平成 21 年プレス発
表)やアルコールや有用物質生産能の高い醤油醸造酵母等を作出した。さらに、
低温開花性を持つ無側枝性輪ギクを始めとする様々な有用植物を作出し育種技
術の実用化に成功した(平成 19 年プレス発表、平成 19 年、21 年実施許諾等、平
成 20 年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞、平成 19 年日本原子力学会 関東
甲越支部賞 原子力知識・技術の普及貢献賞受賞、平成 20 年FAO/IAEA植物突
61
然変異国際シンポジウム招待講演)。また、放射線抵抗性細菌由来PprAタンパク
質のDNA修復促進機能を明らかにし、従来品の 10 倍高効率のDNA修復試薬
「TA-Blunt Ligation Kit」の製品化に成功した(平成 18 年プレス発表、平成 19
年放射線影響研究奨励賞受賞)。ポジトロンイメージング動態解析研究では、コメ
の汚染物質として問題となっているカドミウム(Cd)について、イネにおける吸収・移
行・蓄積過程の定量的解析を行い(平成 18 年プレス発表)、Cd高吸収イネ選抜系
統において、根組織内のCdを導管に移行させる能力が通常の食用品種と比較し
て高いことなどを明らかにした。また、効率的な製造方法を確立した窒素同位体
(13N 2 )を用いて、ダイズの根粒窒素固定の様子を世界で初めて画像化することに
成功した(平成 21 年プレス発表)。さらに、ポジトロン放出核種標識化合物の開発を
進め、がん診断に用いる銅同位体(64Cu)の迅速・簡便な新規製造法の開発に成
功するとともに、群馬大学との共同研究により、悪性リンパ腫、非小細胞肺癌、神経
内分泌腫瘍をそれぞれ標的とする新規64Cu標識化合物を合成し、担がんマウス実
験からその有用性を実証した(平成 19 年日本原子力学会関東・甲越支部若手研
究者発表討論会・研究奨励賞受賞、平成 20 年群馬大学第 4 回COE国際シンポ
ジウム・ポスター賞受賞)。
○ レーザープラズマ X 線顕微鏡の要素技術開発では、シュバルトシルド型結像光
学系及び光源一体型試料ホルダーを開発し、これらを用いてレーザー駆動 X 線の
単一ショット露光による神経、網膜、光受容細胞など生きたままの細胞の瞬時観察
を実現した。放射光及び X 線レーザーを相補的に用いた時間相関スペックル計測
法を開発し、誘電体の相転移点近傍におけるナノスケール構造のダイナミクスを測
定することに成功した。
○ 放射光を用いた、時分割 X 線吸収微細構造法(XAFS)による貴金属触媒反応の
その場観察法、時間分解蛍光 XAFS 法によるアクチノイド物質の抽出・分離反応
のその場観察法を確立した。特定のアクチノイド物質を選択的に認識するハイブリ
ッド型配位子としてフェナントロリンアミド(PTA)を新たに創製することに成功し、(平
成 20 年第 5 回放射光を利用した放射性物質の化学種同定とその技術、施設に関
する国際会議招待講演、平成 21 年日本放射化学会賞奨励賞受賞)極めて高いイ
オン認識性能を持つことを実証した。高温高圧下での X 線回折実験法を開発して
金属水素化物の構造変化を解明する(平成 21 年日本高圧力学会奨励賞受賞)と
ともに、共鳴非弾性 X 線散乱法を開発して銅酸化物超伝導体の電子状態を明ら
かにした(平成 18 年日本放射光学会奨励賞受賞、平成 19 年第 8 回アジア結晶
学会招待講演)。
○ 平成 21 年度を含む期中における高い成果を総括する。ライフサイエンス分野で
は、中性子を利用した創薬標的タンパク質(HIV プロテアーゼおよび膵臓エラスタ
62
ーゼ)と医薬品候補分子の複合体の立体構造解析に成功し、水素原子を含む相
互作用様式を解明した(平成 19、21 年プレス発表)。また、ブタ膵臓エラスターゼ
(タンパク質分解酵素の一つ)が高い生物活性を示す原因となるオキシアニオンホ
ールの状態を観測することに初めて成功した(平成 21 年プレス発表)。
また、細胞の放射線応答解析により、難治性がんに重イオン照射が有効である
ことを見出すとともに、放射線耐性機構解析に基づく高効率 DNA 修復試薬の開
発に成功した(平成 18 年プレス発表、平成 19 年放射線影響研究奨励賞受賞)。さ
らに、イオンビーム育種技術の高度化を進めて、有用遺伝子の発見および新品種
の花や環境浄化能の高い植物等を創成・実用化(平成 18、19、21 年プレス発表、
平成 20 年文部科学大臣表彰若手科学者賞受賞、平成 19 年日本原子力学会 関
東甲越支部賞 原子力知識・技術の普及貢献賞受賞、平成 20 年 FAO/IAEA 植
物突然変異国際シンポジウム招待講演)するとともに、ポジトロンイメージング技術
を駆使して、植物におけるカドミウムの動きや共生的窒素固定の観測などに世界で
初めて成功した(平成 18、21 年プレス発表、平成 18 年 IEEE NSS and MIC 国
際会議招待講演)。
これらの成果はライフサイエンス分野の発展に大きく寄与するだけでなく、創薬・
先端医療の高度化を通じた医療産業への貢献や、イオンビーム育種技術の高度
化を通じたバイオ技術産業への貢献につながるものである。
○ 材料・ナノ科学分野では、パルス中性子を用いた局所ナノ構造解析による負の熱
膨張機構の解明(平成 20 年プレス発表)、偏極中性子散乱実験によるフラストレー
ト系物質やマルチフェロイック系物質におけるスピンと格子の相関解明(平成 22 年
プレス発表、第 9 回超伝導国際会議招待講演)、高温超伝導体中で強く相互作用
した電子が起こす集団励起の世界初の観測(平成 21 年プレス発表)など、種々の
量子複雑系現象の解明研究が大きく進展した。また、中性子回折実験結果に基づ
き、宇宙に強誘電体の氷が存在することを提唱(平成 18 年プレス発表)するとともに、
その赤外吸収スペクトル測定に成功し、惑星探査によって宇宙における強誘電体
氷の探索が可能であることを示した(平成 21 年プレス発表)。これらの成果は、新た
な学術分野への量子ビーム利用の可能性を世界に向けて提示したものである。
放射光を用いた高温高圧下におけるアルミニウムと水素の直接反応によるアルミ
ニウム水素化物の合成と観測の成功(平成 20 年プレス発表、平成 21 年日本高圧
力学会奨励賞受賞)、充放電反応中の電池電極表面のリアルタイム観察(平成 18
年プレス発表)、ウラン化合物など重い電子系の電子状態観測(平成 20 年強相関
電子系国際会議招待講演、平成 19、21 年プレス発表)や半導体スピントロニクス
材料の磁気的性質の解明(平成 20 年プレス発表)など、量子ビーム利用により物
質・材料研究が大きく進展した。また、放射光による分子構造解析を基に精密分子
設計を行うことにより、使用済み核燃料溶液から特定アクチノイドイオンを分離する
抽出剤 PTA の開発に成功した(平成 20 年第 5 回放射光を利用した放射性物質
63
の化学種同定とその技術、施設に関する国際会議招待講演、平成 20 年日本化学
会学生講演賞、平成 21 年日本放射化学会賞奨励賞受賞)。
これらの成果は材料・ナノ科学分野の発展に大きく寄与するだけでなく、半導
体・電子産業や原子力産業への貢献につながるものである。
○ 量子ビームの利用のための研究開発における良好事例として、部門研究交流会
の開催(平成 20 年度:播磨地区、平成 21 年度:東海地区)が挙げられる。交流会
には部門内外から多くの職員等が参加し、量子ビーム応用研究の新規テーマの発
掘と部門内における相互理解・連携強化・士気向上の場として大きな意義があり、
この分野における顕著な成果の輩出につながったものと考えている。例えば、高崎
地区における PprA タンパク質に関する研究が交流会での相互理解を基に連携へ
と発展し、東海地区において構造を解明するなど、目に見える成果として結実して
いる。
以上により中期目標を達成するとともに、ライフサイエンス、材料・ナノ科学等の
様々な分野における量子ビームの有効な利用を促進する優れた成果を挙げた。
64
(3)量子ビームの実用段階での本格利用を目指した研究開発
【中期目標】
量子ビームを利用した研究開発のうち、近い将来における産業界による実用段階の本
格利用が見込まれるものについては、民間事業者への技術移転等を拡充し実用化を促進
するため、産業界と密接に連携して実用化を目指した研究開発を進める。
【中期計画】
量子ビームを利用した研究開発のうち、これまでの研究成果の蓄積により近い将来にお
ける実用化が見込まれる以下のものについては、民間事業者と分担、協力して実用化を目
指した研究開発を行い、適正な対価負担を求める。
荷電粒子を利用して、高付加価値材料・素子の創製に貢献するため、半導体の放射線
劣化の予測モデルを構築するとともに、10MGy の耐放射線性を有する炭化ケイ素(SiC)トラ
ンジスタ、水素と不純物の分離比が 10 対 1 以上の水素分離能を持つ SiC セラミック薄膜、
家庭用高耐久性燃料電池膜等を開発する。
荷電粒子を利用して、環境浄化・保全に貢献するため、生分解性高分子材料を開発す
るとともに、大気中の有機汚染物質を捕集・無害化する技術を開発する。
放射光と中性子を用いて、材料の表面から内部に至る残留応力の 3 次元分布測定法を
開発し、エンジン等の機器の評価に応用する。
短パルスレーザーを用いた、応力腐食割れ(SCC)防止等に有効な非熱蒸発加工による
残留応力除去技術を開発するとともに、高効率の同位体分離技術、同位体材料創製技術
を開発する。
≪中期実績≫
○ 荷電粒子を利用した高付加価値材料・素子の創製への貢献では、宇宙用三接
合太陽電池の発電特性劣化と結晶損傷との関係から、劣化予測モデルを構築し
た。半導体集積回路に関しては、トランジスタ単体に発生するイオン誘起過渡電流
から集積回路で発生する誤動作を予測可能とする誤動作予測モデル構築に成功
した。炭化ケイ素(SiC)基板を用いて作製した静電誘導型トランジスタは 10MGy 照
射後も良好に動作することを検証し、目標の耐放射線性を有する炭化ケイ素(SiC)
トランジスタが開発できた。また、水素と不純物の分離比が 10 対 1 以上の水素分
離能を持つ SiC セラミック薄膜の開発に成功し、中期計画に掲げた目標を達成し
た。さらに、燃料電池用電解質膜の高性能化を図るため、芳香族炭化水素系高分
子を基材とする電解質膜の開発を進め、導電性付与のためのグラフト重合技術に
改良を加え、膜厚や触媒との接合を最適化することで家庭用燃料電池膜に要求さ
れる発電特性と 80℃で 4 万時間以上の耐久性を実現し、中期計画の目標を達成
した(平成 20 年プレス発表)。
○ 荷電粒子を利用した環境浄化・保全への貢献では、橋かけによりポリ乳酸の透明
性を維持したまま耐熱性を改善する技術を開発し、生分解性高分子材料を用いた
展示めがねフレームのダミーレンズを開発して、産業界への技術移転を行った。さ
らに、低エネルギー電子加速器と二酸化マンガン触媒を併用したプロトタイプの揮
発性有機化合物分解処理装置を構築し、トルエンとキシレン混合ガスの 90%以上
の分解と 80%以上の無機化を達成することにより、大気中の有機汚染物質を捕
65
集・無害化する技術を開発した。
○ 放射光と中性子を相補的に利用することにより材料の表面から内部に至る残留
応力の 3 次元分布測定法を確立し、エンジン等の機器の評価に応用した。
○ 短パルスレーザーを用いた残留応力除去技術の開発については、原子炉構造
材用ステンレス鋼の非熱蒸発試験を実施して残留応力除去が可能であることを確
認し、応力腐食割れ防止等に有効であることを実証した。高効率の同位体分離技
術の開発については、2 波長赤外多光子解離プロセスによって酸素同位体の大量
濃縮が可能であることを明らかにした。同位体材料創製技術の開発については、
シリコン同位体濃縮SiF 4 ガスを用いた化学気相成長(CVD)により、シリコン同位体
の濃縮薄膜材料を創製することに成功し、その同位体比および結晶構造を明らか
にした。
○ 特筆すべき実用化事例として、(株)第一テクノと進めてきたビル空調用冷却循環
水浄化システムの開発において、試作した小型・可搬式の装置を用いて、高崎量
子応用研究所内での 2 つの建屋の空調用冷却循環水の浄化に関する実証試験
を終え、最終的な商品の製作に着手した。また、倉敷繊維加工(株)と進めてきた半
導体洗浄液に含まれる微量の金属を除去するための材料として、材料自体からの
溶出成分が極めて少なく、微量の金属を効率良く吸着して除去できるフィルターの
開発に成功した。同社は平成 22 年 3 月に静岡工場に微量金属除去材料の製造
装置を新設した。今後、装置による微量金属除去材料の製造条件を確立して、同
年 6 月から、半導体洗浄液に含まれる微量金属を除去するフィルターの生産を開
始する予定となっている。
エビ殻から得られるキトサンに放射線を照射し、低分子量化処理を施すことによ
り、環境を汚染しない生長促進剤を開発した。この効果を評価するため、芝生やシ
クラメン等の葉に噴射し検証を行った結果、生長に有効であることが確認された。
特に、シクラメンのフザリウム(植物病原カビの一属)を予防することに効果的であり、
「オリゴグルコサミン-L」(商品名)として商品化に成功した。
福井県の地場産業と連携して推進する地域資源活用型研究開発事業「越前和
紙の技法と等を活用した低収縮和紙の開発」で放射線橋かけにより作製したセル
ロースゲルを和紙に混ぜることにより、和紙の強度と収縮性の改善に成功した。成
果展開事業を通じた用途拡幅で、伝統的な「和」のイメージを追求する越前屋和紙
右衛門の天然素材草木染め和紙壁紙やランプシェードとして商品化された。
デンプンを発酵させて得られる乳酸を高分子化したポリ乳酸の耐熱性を向上さ
せ、70℃(輸出の際の船艙温度)での熱変形を従来の 100 分の 1 に抑えることに成
功した。全国の 90%のシェアを持つ福井県のメガネフレームの産業ニーズに対応
して成形プロセスを最適化し、展示メガネフレームのダミーレンズとして技術移転し
66
実用化につなげた。ダミーレンズは矯正用レンズと交換され廃棄されるため、これ
までの石油由来の材料を環境に優しい天然由来の材料に代えることができた。
○ 物質・材料研究機構、理化学研究所との「三機関連携」の枠組みにより燃料電池
キーマテリアルの開発研究を進展させ、中性子イメージング法を用いた燃料電池
内部可視化技術の開発により稼働状態での燃料電池内結露水の実時間観察に
成功するとともに、芳香族炭化水素系高分子を基材として用いることで、機械強度
の高い電解質膜の開発が期待できる約 8nm の結晶(ラメラ)構造が形成されること
などを明らかにした。これにより家庭用高耐久性燃料電池膜開発の大幅な進展に
つながっている。
宇宙航空研究開発機構と共同で宇宙用の太陽電池や電子部品の放射線耐性
の評価を推進した。これにより十分な放射線耐性を有することが証明された宇宙用
太陽電池が人工衛星「きずな」、「いぶき」、宇宙ステーション補給機「HTV」等に実
装されるとともに、32 ビットマイクロプロセッサや 1 メガビットスタティックランダムアク
セ ス メ モ リ (SRAM) 、 大 電 力 用 金 属 酸 化 膜 型 電 界 効 果 ト ラ ン ジ ス タ ( パ ワ ー
MOSFET)といった宇宙用新型半導体が開発され、宇宙ステーション「きぼう」に搭
載されるなど、日本の宇宙開発に大きく貢献している。
○ DNA 修復試薬については従来品の 10 倍高効率の試薬「TA-Blunt Ligation
Kit」が全国販売されている。イオンビーム育種では、無側枝性輪ギク「新神」「新神
2」の実施許諾に基づく全国栽培、新花色を持つキク科多年草オステオスペルマム
「ヴィエントフラミンゴ」の群馬県内試験販売、高い窒素酸化物吸収能を持つ壁面
緑化植物「KNOX」の全国販売等に成功するなど、日本中に広がりを見せている。
このように、生命科学分野では、育種、製薬の各産業分野におけるユーザをステー
クホルダーとして貢献や成果の還元を図り、成果の製品化や技術移転を行った。
○ 機構への訪問や講演会などでの民間からの技術相談に対応し、秘密保持契約
を締結して情報の開示を行い、共同研究の可能性のあるものについては、速やか
に共同研究を進めた。また、実用化においては、産業界へのアピール、技術移転
の働きかけなど様々な活動が実を結んだ。実用化に向けた研究開発の推進のた
め、外来研究員や協力研究員の派遣を企業に働きかけるともに、企業との密接な
連絡による研究の方向性の明確化及び特定寄付金の有効な利用による課題解決
の迅速化を図った。さらに、倉敷繊維加工(株)と進めてきた半導体洗浄液に含まれ
る微量の金属を除去するための材料の試作では、施設共用制度に基づきコバルト
照射施設を有償供用した。
○ 産学官連携を推進するため、コーディネーターを配置し、機構内の技術移転可
能な成果を集約するとともに、シーズを発掘するため、地元自治体等の産学連携
67
推進会議や科学技術振興機構(JST)が主催する新技術説明会などで成果の PR
を行った。また、機構主催で「放射線利用フォーラム」を年 1 回開催し、機構内の優
れた成果の発表や展示を行うことで、産業界への発信を強力に推進した。これらの
成果として、上記のような成果の商品化、技術移転が生まれてきている。
○ 機構内連携では、量子ビーム応用研究部門と次世代原子力システム研究開発
部門との間で、高速増殖炉サイクル実用化研究開発(FaCT プロジェクト)の個別課
題の解決に関する検討を進めた。この一環として取り組んだ放射光を用いた高速
炉用燃料被覆管 ODS 鋼材の酸化物析出状態のその場観察では、燃料被覆管製
造プロセスの最適化条件導出に見通しをつけ、FaCT プロジェクト推進に貢献して
いる。また、敦賀本部レーザー共同研究所と連携し、レーザー技術の原子力材料
開発・評価への応用促進にも寄与している。地層処分研究開発部門との連携では、
東濃地科学センターの湧水処理に取り組み、金属捕集材による含有ホウ素等の除
去技術の開発にめどを付けた。さらに、量子ビーム応用研究部門と安全研究セン
ターとの連携により、原子力用ケーブルの劣化メカニズム及び監視・診断手法に関
する研究を推し進め、原子炉の高経年化対策の技術的基盤整備に寄与するなど、
原子力エネルギー開発分野の推進に大きく貢献している。
また、量子ビーム応用研究部門と J-PARC センター、核融合研究開発部門が連
携して、J-PARC や ITER で使用する各種材料・機器類の耐放射線性評価を行い、
プロジェクトの円滑かつ着実な推進に寄与している。特に J-PARC ニュートリノビー
ムラインに設置する超伝導磁石用の構造・絶縁材料の耐放射線性評価では、10
年間運転後の健全性を確かめ、これを基にニュートリノビームラインの建設が順調
に進められ、スーパーカミオカンデでのニュートリノ検出実験の早期成功につなが
っている。
以上の結果、中期目標を達成した。加えて、荷電粒子等を利用した高付加価値材
料・素子の創製、環境浄化・保全に貢献する研究開発等を行うことで、民間事業者へ
の技術移転等を拡充し実用化を促進した。
68
3.原子力の研究、開発及び利用の安全の確保と核不拡散に関する政策に貢献す
るための活動
(1)安全研究とその成果の活用による原子力安全規制行政に対する技術的支援
【中期目標】
原子力安全規制行政を技術的に支援することにより、我が国の原子力の研究、開発及
び利用の安全の確保に寄与する。
このため、原子力安全委員会の「原子力の重点安全研究計画」(平成 16 年 7 月 29 日原
子力安全委員会決定)及び「日本原子力研究開発機構に期待する安全研究」(平成 17 年 6
月 20 日原子力安全委員会了承)を踏まえ、同委員会からの技術的課題の提示又は規制
行政庁からの要請等を受けて、安全研究を行い、これら諸機関の安全基準や指針の整備
等に貢献する。
また、関係行政機関等の要請を受け、原子力施設等の事故・故障の原因の究明に協力
する。
【中期計画】
軽水炉発電の長期利用に備えた研究を行う。原子力安全委員会の定める「原子力の重
点安全研究計画」等に沿って安全研究を実施し、中立的な立場から安全基準や指針の整
備等に貢献する。規制支援に用いる安全研究の成果の取りまとめに当たっては、中立性・
透明性の確保に努める。なお、実施に当たっては外部資金の獲得に努める。
≪中期実績≫
○ 安全研究では、原子力利用において進められつつある新たな展開、具体的には
軽水炉の長期利用、新技術の導入による利用の高度化(燃料の高燃焼度化、最適
運転サイクルの導入、出力増強など)、核燃料サイクル施設の本格操業、各段階に
おいて発生する放射性廃棄物の処分実施などに際して、十分な安全性が確保さ
れることを確認、実証するための研究を行い、その成果を活用して原子力安全規
制行政への支援を進めた。
○ 国内の安全規制への支援として提供した知見は、原子力安全委員会による報告
書「発電用軽水型原子炉施設の性能目標について」(平成 18 年 3 月)、「低レベル
放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成 19 年 4
月)、「ウラン取扱施設におけるクリアランスレベルについて」(平成 21 年 10 月)、「燃
料関連指針類における要求事項の整理並びに明確化について」(平成 22 年 3 月)
等の形で規制に反映された。
・ 機構が開発したレベル 3PSA コードを用いて安全目標案に対応する軽水炉
の性能目標導出のための解析を行い、格納容器機能喪失頻度の性能目標
値を提案するとともに、地域特性を考慮した気象条件や防護対策の効果、安
全目標が対象とする個人の範囲(年齢分布等)とその考え方を提示した。この
成果は、原子力安全委員会報告書「発電用軽水型原子炉施設の性能目標
について」において採用された。これにより、リスク情報を活用した規制の合理
性・透明性の向上、資源の適正配分に向けた道を拓いた。
・ 超ウラン核種廃棄物を含む放射性廃棄物(TRU 廃棄物)の処分に関し、整備
69
した安全評価コードを用いてトレンチ処分、ピット処分及び余裕深度処分に対
する埋設濃度上限値を算出した。また、各処分で想定される廃棄物中の重要
核種を抽出した。これらの研究成果をよりどころとして、我が国の TRU 廃棄物
を含む低レベル廃棄物の処分方策毎の埋設濃度上限値に係る政省令が施
行されるとともに、特定放射性廃棄物法の改正が行われ、処分場設計や資金
計画などの事業化が可能となった。原子力安全委員会報告書「低レベル放射
性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度上限値について」は本研究成果
に基づき取りまとめられた。
・ ウラン廃棄物のクリアランスに関し、廃棄物の処理・輸送時、産廃処分時、再
利用時における被ばく線量を評価するための解析コードを開発するとともに、
同コードを用いて算出したクリアランスレベルの評価結果を原子力安全委員
会に提供した。これを技術的よりどころとしてこう着状態であった審議が大きく
進展し、クリアランスレベルが設定された。原子力安全委員会報告書「ウラン
取扱施設におけるクリアランスレベルについて」は本研究成果に基づき取りま
とめられた。これにより、人形峠環境技術センターなど燃料濃縮・加工等の施
設における廃止措置活動を本格化する環境整備に貢献した。
・ 原子力安全委員会からの受託事業として、燃料の破損を防止するための具
体的要求事項を提案するとともに、原子力安全委員会報告書「燃料関連指針
類における要求事項の整理並びに明確化について」の原案を作成するなど、
安全審査指針類の体系化に大きく貢献した。
○ さらに、1,000 件を超える事故・故障の事例分析を行い、その結果を関係機関に
配布するとともに、研究報告書や学会誌を介して公開することでその知見及び教
訓の共有化を図った。特に、経済協力開発機構(OECD)/原子力機関(NEA)-国
際原子力機関(IAEA)の事象報告システム(IRS)に報告された事例 378 件(非公開
情報)についてはその分析結果を毎年報告書にまとめて関係機関(原子力安全委
員会、原子力安全・保安院(保安院)、原子力安全基盤機構(JNES)、電力各社)に
配布するとともに、2006 年からは、原子力安全委員会からの依頼により定期的に
報告した(計 13 回)。
○
国際的な取組としては、軽水炉事故時の安全性の確保・向上に係る
OECD/NEA ROSA プロジェクト(14 ヶ国 18 機関参加)を平成 17 年度より主催し、
機構の大型非定常試験装置(LSTF)を用いて非常用炉心冷却系(ECCS)作動時
の温度成層や蒸気凝縮など 3 次元二相流の課題を含む 6 課題 12 回の試験を実
施し、最適評価手法の開発・検証に用いる詳細な熱水力データを取得した。本プ
ロジェクトが提供したデータに基づき、事故時の炉心過熱の判断に用いる炉心出
口温度計の有効性に関する OECD/NEA 報告書が取りまとめられるとともに、各国
の規制機関や産業界に対し同温度計の有効性を再確認するよう提言がなされた。
70
また、参加機関からの強い要請により、同プロジェクトは第 2 期計画を平成 21 年度
から開始している。
○ 軽水炉の長期利用に関しては、確率論的破壊力学(PFM)解析手法を整備し、
高経年化対策における健全性確認に関わる規制へのリスク情報の活用に向けた
道を拓いた。また、放射線による材料劣化挙動に関して、原子炉圧力容器鋼の照
射脆化機構に立脚した予測手法についての新たな知見を得た。さらに、経年変化
予測手法の妥当性確認のため廃止措置段階にある「ふげん」発電所に対する実機
調査を本格化した。また、再処理施設の経年変化評価についても、トラブル事例等
の調査を通じて考慮すべき劣化メカニズムや監視すべき機器・部位を抽出するとと
もに、機器の腐食試験を実施して腐食進展傾向評価モデルを作成し、加工施設
及び再処理施設における高経年化対策の評価の手引き(保安院内規)に反映され
た。
○ 研究の計画は「原子力の重点安全研究計画」(平成 16 年 7 月原子力安全委員
会決定、平成 20 年 6 月一部改訂)、「日本原子力研究開発機構に期待する安全
研究」(平成 17 年 6 月原子力安全委員会了承)及び「原子力安全・保安院の原子
力安全研究ニーズについて」(平成 18 年 3 月)に沿って策定し、その実施に当たっ
ては安全研究センターが中心となり、中立的な立場を維持するよう留意しつつ、必
要に応じて機構内の関連部門と連携した。
○ なお、機構が実施する安全研究の中立性・透明性を確保するため、理事長の諮
問機関として外部の有識者による安全研究審議会(佐藤一男委員長)を設置し、研
究の計画、内容及び成果について評価を受けた。平成 20 年度までの成果につい
ては、「重点安全研究計画等を踏まえて各研究が着実に行われており、全体として
良い成果を挙げていると、概ね評価できる。」との評価を受けた。この際、主な要望、
指摘として、「経年変化、地震など外的事象の確率論的安全評価(PSA)のさらなる
充実が望まれる。」、「島根県の防災計画策定に際して、技術的支援を行った件に
ついては、高く評価したい。研究所における研究と現場のすり合わせはきわめて重
要であり、研究者自身が現場の課題を具体的に把握し、自らの技術が活用される
現場に立ち会う経験を、人材育成の観点から、増やすようにしていただきたい。社
会から信頼される研究者こそが、今求められている。」が挙げられた。
○ 研究の実施に当たっては、原子力安全委員会や保安院、JNES 等に対し、学協
会等で産学官が協働して策定した研究ロードマップ等の分析に基づいた適切な研
究提案をあらゆる機会を捉え、日常的に行うことで外部資金の獲得に努め、原子
力安全委員会より 7 件 1 億円、保安院より 16 件 139 億円、JNES から 38 件 38
億円の委託事業を受けたほか、科学技術振興機構や産業界からの委託事業を 9
71
件 10 億円受託した。また、推進側と規制側との協力として平成 21 年度より新たに
開始した JNES、日本原燃(株)、機構の 3 者による共同研究「再処理施設における
放射性物質移行挙動に係わる研究」を始めとして、大学、産業界との共同研究 26
件を実施した。
1)確率論的安全評価 (PSA)手法の高度化・開発整備
【中期計画】
リスク情報を活用した新たな安全規制の枠組みの構築に資するため、発電用軽水炉に
対する PSA 技術の高度化や核燃料サイクル施設に対する PSA 手法の開発整備を行う。ま
た、原子力安全委員会による安全目標の策定、及び立地評価や安全評価指針等の体系
化に資するため、原子力施設毎の性能目標等の検討を行う。
国内外において発生した原子力事故・故障の分析及び海外の規制等に係る情報の収
集、分析を行い、教訓や知見を導出する。
≪中期実績≫
○ 発電用軽水炉に対する PSA 技術の高度化については、リスク評価上重要なヨウ
素の化学挙動を考慮したレベル 2PSA(ソースターム評価)コードを整備し、シビア
アクシデント終息期におけるヨウ素の再揮発特性や再揮発割合等の知見をまとめ
た。また、機構が開発したレベル 3PSA(環境影響評価)コード OSCAAR を広く公
開するため、利用者の利便性に配慮し、線量換算係数算出コード及び放射線影
響変換係数算出コードを組み込み、OSCAAR コードパッケージとして整備した。さ
らに、リスク評価結果の不確実さに寄与するパラメータの重要度指標を新たに提案
するとともに、レベル 2PSA 及びレベル 3PSA の不確実さ評価手順を整備した。こ
の評価手順及び評価例は、日本原子力学会標準委員会の「原子力発電所の確率
論的安全評価に関する実施基準(レベル 2PSA 及びレベル 3PSA 編)」に反映され
た。
核燃料サイクル施設に対する PSA 手法の開発整備については、MOX 燃料加
工施設に対する内的事象 PSA 手法の整備を完了するとともに、再処理施設で想
定される代表的な 5 つの事故事象(高レベル廃液貯槽の沸騰、放射性溶液貯槽の
水素爆発、有機溶媒の火災、溶融ガラスの誤流下、臨界)に関連する実験データ
の調査から、事故影響評価への適用可能性及び適用範囲を整理し、現状の評価
手法の到達点、不足情報、今後解決すべき課題等を明らかにした。この成果は事
故解析のハンドブックとして役立てるため、日本原子力学会和文誌 6 編のシリーズ
論文として公開した。この成果を踏まえ、我が国で初めて規制支援機関と事業者と
が共同して行う研究の枠組みを構築し、リスク評価に必要な再処理施設の事故時
放射性物質移行挙動に関する研究を開始した。機構、JNES、日本原燃(株)の 3
者で協定を締結し、資金的効率性と中立性、透明性の確保とに留意して研究を進
めている。これまでに試験装置等を整備し、データ取得のための実験に着手した。
また、JNES からの受託事業として、既存の故障率データベースから再処理施設
72
PSA に援用可能な 49 種類の機器の故障データを収集・整理した。これにより PSA
結果の精度向上が期待され、リスク情報活用を進める環境を整えた。
原子力施設毎の性能目標等の検討については、レベル 3PSA コード OSCAAR
を用いて安全目標案に対応する軽水炉の性能目標導出のための解析を行い、格
納容器機能喪失頻度の性能目標値を提案するとともに、地域特性を考慮した気象
条件や防護対策の効果、安全目標が対象とする個人の範囲(年齢分布等)とその
考え方を提示した。この成果は、原子力安全委員会報告書「発電用軽水型原子炉
施設の性能目標について」(平成 18 年 3 月)において採用された。また、今後の原
子力安全委員会による核燃料施設の性能目標策定に資するため、再処理施設を
例に代表的な事故事象の上限的影響を試算し、事象毎の発生頻度を指標とする
性能目標策定手順を提示した。
○ 原子力事故・故障の分析については、OECD/NEA-IAEA の事象報告システム
(IRS)に報告された事例 378 件及び国際原子力事象評価尺度(INES)に報告され
た事例 141 件について内容を分析するとともに、IRS(非公開情報)については、分
析結果を毎年報告書にまとめ関係機関(原子力安全委員会、原子力安全・保安院、
JNES、電力各社)に配布した。INES については、和訳情報としてインターネット
上で公開することにより、その知見や教訓の共有化を図った。また、2006 年からは、
原子力安全委員会からの依頼により、これら報告された事例の分析結果について
定期的に報告した(計:13 回)。さらに、JNES からの受託事業として、米国原子力
規制委員会が発行した規制関連情報 176 件、以前に IRS に報告された事例の中
から安全上重要と考えられる事象 176 件(制御棒挿入問題:20 件、ミッドループ運
転時の事象:29 件、非常用ディーゼル発電機の不具合:14 件、非常用炉心冷却
系(ECCS)へのガス蓄積:19 件、異物混入:19 件、火災関連事象:75 件)を選定し
分析を行い、受託報告書にまとめた。この他、米国の軽水型原子力発電所におけ
る一次冷却水配管応力腐食割れ(SCC)事象(45 件)、及び、安全弁・逃がし安全弁
の設定点変動事例(93 件)を対象に情報の収集・分析を行い、各々原子力学会誌
論文及び機構の公開資料にまとめ公表した。さらに、IAEA の公開報告書 Blue
Book(過去 3 年間の重要事例の概要冊子)の作成に貢献した。
2)軽水炉燃料の高燃焼度化に対応した安全評価
【中期計画】
安全審査のための基準等の高度化に貢献するために、事故時燃料挙動模擬実験を実
施するとともに、高燃焼度燃料特有の現象を解明することによって、燃料挙動解析手法を
高精度化する。
≪中期実績≫
○ 反応度事故(RIA)時燃料挙動模擬実験により、これまで燃焼度 61MWd/kg まで
73
であった RIA 時の破損しきい値に関するデータの範囲を 77MWd/kg まで拡大し、
原子力安全委員会が定める基準において暫定的であった 65~75MWd/kg の範
囲について安全余裕を確認した。また、発電炉照射 MOX に対する我が国初の
RIA 模擬実験を行い、破損限界に関しウラン燃料との差異がないことを明らかにす
るなど、高燃焼度化及びプルサーマルの本格化に向けた環境を整えた(保安院受
託事業)。
高燃焼度燃料の RIA 時破損及び LOCA(冷却材喪失事故)時破断のメカニズム
や事故時の核分裂(FP)ガス放出挙動等、高燃焼度燃料特有の現象に関する知
見を取得した。RIA 時の破損メカニズムに関する成果は、燃料破損限界の高精度
予測だけでなく燃料開発への活用が期待されるとして高く評価され、平成 19 年度
日本原子力学会論文賞を受賞した。また、通常時及び事故時燃料挙動解析コー
ドの開発を進め、RIA 時の FP ガス放出や被覆管変形量等に関する解析コードの
予測精度を高めた。
○ 燃料の破損を防止するための具体的要求事項を提案し原子力安全委員会の燃
料関連指針類検討小委員会報告書の原案作成に協力するなど、同委員会が進め
ている安全審査指針類の体系化に大きく貢献した(原子力安全委員会受託事業)。
○ 我が国に導入が計画されている新型燃料の異常過渡時の健全性を調べる試験
を実施するため、材料試験炉(JMTR)において装置整備を進めた(保安院受託事
業)。
○ 上記の研究は安全研究センターと原子力科学研究所(ホット試験施設管理部、
研究炉・加速器管理部)、原子力基礎工学研究部門、システム計算科学センター、
大洗研究開発センターとの連携の下に実施した。
3)出力増強等の軽水炉利用の高度化に関する安全評価技術
【中期計画】
合理的な規制に資するため、安全余裕のより高精度な定量評価が可能な最適評価手法
を開発する。特に、3 次元二相流や核熱の連成を含む炉心熱伝達等、複合的な熱水力現
象のモデル化を図り、必要なデータを取得する。シビアアクシデントに関しては、リスク上重
要な現象のソースターム評価の不確実さ低減を図ることとする。
≪中期実績≫
○ 軽水炉事故時の安全性の確保・向上に係る OECD/NEA ROSA 国際研究協力
プロジェクト(14 ヶ国 18 機関が参加)を機構が平成 17 年度より主催し、機構の
LSTF を用いて、ECCS 注水時の温度成層や蒸気凝縮など 3 次元二相流の課題
を含む 6 課題 12 回の試験を実施し、最適評価手法の開発・検証に用いる詳細な
熱水力データを取得した。さらに、参加各国の実験後解析を交え、最適評価手法
74
の開発を性能検証と改良・整備を通じて行った。また、本プロジェクトが提供したデ
ータを中心に、事故時の炉心過熱の判断に用いる炉心出口温度計の有効性に関
する OECD/NEA 報告書が取りまとめられるとともに、各国の規制機関や産業界に
対し同温度計の有効性を再確認するよう提言がなされた。本プロジェクトは我が国
が初めて主催する OECD プロジェクトであり、その成功によって機構のプレゼンス
を内外に強く示した。
ROSA プロジェクトの成果が国際的に高く評価された結果、参加機関からの強
い要請により、平成 21 年度から第 2 期計画(ROSA-2 プロジェクト)が機構の主催
で開始され、規制上の新たな課題である中口径破断 LOCA 実験などに対して詳
細な熱水力データを取得するとともに、参加各国の解析を基に最適評価手法の課
題摘出を行っている。
○ 核熱の連成を伴う沸騰水型原子炉(BWR)炉心の運転時安定性を模擬する核熱
結合模擬試験装置(THYNC)実験により、不安定が生じる出力や不安定時の冷却
限界出力に及ぼす炉心の軸方向出力分布の影響、MOX燃料炉心の安定性に係
るデータベースを整備するとともに、機構が開発した 3 次元核熱結合解析コード
TRAC/SKETCHの検証に活用し、MOX燃料炉心とUO 2 燃料炉心の安定性の相
違が定性的に予測できることを確認した。
○ 核熱の連成を伴う BWR 炉心での RIA 時の高燃焼度燃料の健全性評価に係る
過渡ボイド(蒸気泡)挙動試験を実施し、機構が開発した高速応答ボイド率計測法
を用いて、出力の急上昇に伴うボイドの発生時刻、ボイド率の空間分布や時間変
化など複雑な 3 次元二相流に関するデータを取得した。さらに、ボイド発生時刻の
予測モデルを構築して、最適評価コード TRAC-BF1 の予測性能を評価した。なお、
取得したデータの一部を JNES へ提供し、クロスチェック用解析コードの整備に活
用された。さらに、BWR 異常過渡時の沸騰遷移後(Post-BT)熱伝達挙動試験を
実施してデータベースを整備するとともに、安全規制での利用が予想される原子力
学会 Post-BT 基準が推奨する熱伝達相関式の妥当性を明示した。あわせて、同
相関式の保守性の評価や詳細な現象解明を行うため、新たに実験相関式と機構
論的モデルを構築した。さらに、本試験で開発もしくは適用性を確認した相関式を
炉心の最適評価サブチャンネル解析コード COBRA-TF へ導入し、Post-BT 熱伝
達挙動を良好に予測できるよう整備した(保安院受託事業)。
○ 放射線誘起表面活性(RISA)効果が原子炉の炉心冷却特性に及ぼす影響を
JMTR 照射実験によって検討し、RISA 効果により沸騰熱伝達時の限界熱流束が
約 17%向上すること等を世界で初めて見出した。本成果は、原子炉の安全余裕の
高精度な把握につながることから高く評価され、平成 18 年度日本原子力学会技
術賞を受賞した(資源エネルギー庁公募事業)。
75
地震時の BWR 炉心安定性評価手法の開発を実施した。3 次元核熱結合解析
コード TRAC/SKETCH の基礎方程式に振動加速度を組み込み、実機を対象と
する実地震加速度下での解析ができるよう整備した。さらに、熱流動基礎方程式に
振動加速度を導入する改良を行い、地震時の炉心安定性をより精密に解析する
環境を整えた(科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(CREST))。
○ リスク上重要な現象であるシビアアクシデント晩期の格納容器内のプール水から
のガス状ヨウ素放出に係る実験を、事故を模擬したガンマ線照射下で行い、塗料
など格納容器の環境に係る様々なパラメータの影響に関するデータを得た。さらに、
ソースターム評価の不確実さ低減のため、最適評価手法としてヨウ素化学解析コー
ド Kiche を新たに開発した(JNES 受託事業)。
4)材料劣化・高経年化対策技術に関する研究
【中期計画】
高経年化機器の健全性確認に資するため、確率論的破壊力学解析手法等を整備す
る。放射線による材料劣化挙動について照射実験を行い、機構論的な経年変化の予測手
法及び検出手法を整備するとともに炉内構造物の健全性評価に必要な照射誘起応力腐
食割れ(IASCC)に関する照射後試験データベースの構築に寄与する。
≪中期実績≫
○ 高経年化機器の健全性確認に資するための確率論的破壊力学(PFM)解析手
法の整備については、高経年化配管の破損確率評価と断層モデルを用いた地震
動評価に対する解析コード類の整備に関して、技術的に高い評価(平成 18 年度
日本原子力学会技術賞・特賞)を受け、地震動の不確かさを考慮した配管の構造
信頼性評価を可能とした。また、保安院からの受託事業等により、原子炉圧力容器
の照射脆化を考慮した破壊確率評価のために開発した PFM 解析コードについて、
国内の規格・基準類に準拠して標準解析手法を整備し、平成 19 年度日本原子力
学会賞技術賞を受賞した。この PFM 解析コード等を利用した破損確率に基づく健
全性確認に関して、規制基準や学協会規格への活用方策を提示するとともに、高
経年化対策にかかわるリスク情報活用に向けた道を拓いた。さらに、JNES からの
受託事業として、過大な地震荷重に対するき裂進展挙動に関するデータを取得し、
新たなき裂進展予測手法を提案することにより、設計地震動を超える地震動の評
価に対応可能な技術基盤を提供した。
放射線による材料劣化挙動に関する機構論的な経年変化の予測及び検出手
法の整備では、以下のような実績となっている。
・ 原子炉圧力容器鋼の照射脆化予測評価の高精度化のため、材料試験炉
(JMTR)等で照射実験を行った。照射済の原子炉圧力容器鋼試料について、
3 次元アトムプローブ等による照射損傷組織に関するデータを取得し、機構論
的な照射脆化予測に対する新たな知見を得た。また、JNES からの受託事業
76
により、長期利用に伴い顕在化の懸念がある粒界脆化について、粒界偏析デ
ータの取得とシミュレーションを通して、機構論的な予測手法を整備した。この
結果、国内原子炉圧力容器鋼の場合には、照射速度効果は顕著ではなく、
60 年利用では粒界脆化に至らないことを明らかにした。
・ 中性子照射脆化の非破壊検出手法に関して、磁気的性質変化の検出手法
を整備し、JMTR で原子炉圧力容器鋼材と比較材の照射中におけるデータ
を取得した。
・ 原子炉圧力容器鋼の健全性評価に必要な破壊靱性評価手法に関して、試
験片寸法効負荷速度効果や高脆化材評価法に関する IAEA 国際協力研究
(CRP)に参加し、破壊靱性試験の結果を提供するとともに、成果報告書の一
部を執筆した。この成果に基づいて、破壊靱性評価手法の国際標準化及び
日本電気協会の破壊靱性試験法規格の原案策定に貢献した。
・ JNES からの受託事業により、廃止措置段階にある「ふげん」発電所の実機配
管の減肉測定及び熱流動解析、減肉予測解析を行い、配管減肉データベー
スを構築した。また、「ふげん」のポンプ、バルブ等の実機材料が熱時効脆化
の評価に役立つことを確認し、平成 22 年度以降に実施すべき詳細計画を立
案した。本研究では、福井県におけるエネルギー研究開発拠点化計画に対
応し、安全研究センターと原子炉廃止措置研究開発センターが福井大学と連
携して「ふげん」において供用された材料を利用した研究に取り組み、今後の
国内における高経年化研究に対して先行的に、実機からの知見を得るための
体制を構築することができた。
・ 保安院から高経年化対策強化基盤整備事業を受託し、原子炉圧力容器鋼溶
接熱影響部の照射脆化、ケーブル絶縁材の劣化機構や監視・診断手法、並
びに炉内構造物及び配管の SCC に対する研究を実施し、放射線場等にお
ける材料劣化に関するデータを取得した。本研究は、安全研究センターが中
心となり、大学、産業界や量子ビーム応用研究部門及び原子力基礎工学研
究部門と連携して推進することにより、茨城地区を中心に専門家集団を形成
して効率的に実施することが可能となった。
○ 炉内構造物の健全性評価では、JNES からの受託事業において、JMTR で中
性子照射したステンレス鋼試験片の照射後高温水中 SCC き裂進展試験を実施し、
き裂進展速度データ等の照射誘起応力腐食割れ(IASCC)に関する照射後試験
データベースの構築に寄与した。また、保安院からの受託事業により、炉内構造物
の IASCC の進展挙動やその発生原因となる照射による機器の寸法変化、長期照
射による原子炉圧力容器鋼の破壊靭性変化等を調べるための照射試験装置の製
作や、試験に必要な技術開発、未照射材の特性試験等を計画どおり進めた。これ
により、国が重要な照射施設として戦略的に整備することとしている JMTR を活用
する研究基盤施設の整備を進め、機構の特徴をいかした長期的な貢献を可能に
77
した。
5)核燃料サイクル施設の臨界安全性に関する研究
【中期計画】
再処理施設及び MOX 燃料加工施設の臨界事故等に関する実験データを蓄積するとと
もに、高精度の臨界安全評価手法を整備する。また、軽水炉における高燃焼度燃料や
MOX 燃料の利用、並びに使用済燃料の輸送や中間貯蔵施設の安全基準整備に資する
ため、燃焼度クレジット、臨界管理手法及び臨界安全データベースを整備する。
≪中期実績≫
○ 再処理施設や MOX 燃料加工施設等の臨界安全設計・管理及び臨界事故評価
の基盤となる実験データを臨界実験装置 STACY 及び TRACY で取得した。国内
で取得できない実験データは主に OECD/NEA の国際協力を通じて海外から得
た。これらの実験データを用いて解析コードの開発や検証を行うとともに、臨界安
全解析コードの検証結果、及びこのコードを用いて算出した臨界安全データを臨
界安全ハンドブック・データ集第 2 版として公刊した。また、これまでに公刊してきた
燃焼度クレジット導入、臨界管理手法、各種の臨界安全データを集約して臨界安
全データベースを整備した。これらの知見・成果はいずれも、今後の軽水炉におけ
るウラン燃料の一層の高燃焼度化、MOX 燃料の利用、さらにこれらの使用済燃料
の輸送と中間貯蔵など、増大する核燃料取扱いにおける安全性を保ちつつ効率
向上を実現することに資するものであると同時に、JCO 臨界事故において強く認
識された臨界安全に関する知見の増大と原子力利用の進展に応じた適宜の見直
しの必要性に応えるものである。
定常臨界実験装置(STACY)を用いて再処理工場の溶解槽を模擬した実験を
行い、その結果をベンチマークデータとして整備した。機構はこのデータを
OECD/NEA の国際臨界安全ベンチマーク評価プロジェクト(ICSBEP)に提供し、
ICSBEP を通じて各国に配布された。機構の提供したデータは、ICSBEP におい
て過去の疑義のある実験データの更新においても貢献している。
ICSBEP から提供されるベンチマークデータは臨界安全解析コードの検証に用
いられるもので、国内で実験が実施できない MOX 燃料等に関するデータも含まれ
ている。このベンチマークデータを用いて、我が国独自の解析コード MVP と汎用
評価済み核データライブラリーJENDL-3.2 を組み合わせた解析システムの検証を
行ったところ、従来の臨界安全ハンドブック初版に用いられた臨界解析コード
JACS システムより高精度な臨界安全評価が行えることが明らかとなった。この解析
システムを用いて最小臨界量、臨界寸法等の基礎的な量、及び臨界安全制限値
を算出・検証し、臨界安全ハンドブック・データ集第 2 版として取りまとめ、公刊した。
また、臨界安全評価手法に関する研究において高精度の手法を整備したことに対
78
して、技術的に高い評価を受けた(平成 18 年度日本原子力学会論文賞)。一方で、
燃焼度クレジットの導入に際して必要となる燃焼燃料組成評価を与えることができ
る統合化燃焼計算コードシステム SWAT3.1 を整備した。このコードシステムは事
業者が行う燃焼計算のクロスチェックに活用することが期待される。
過渡臨界実験装置(TRACY)で実験を行い、水反射体付き条件における臨界
事故時の出力・温度・圧力に関する実験データを、反応度添加方法や初期条件を
変えながら取得し、臨界事故に関する実験データを拡充した。このデータを用いて
臨界事故解析に用いる AGNES コードの開発を継続し、最大出力や総核分裂数
の評価精度の検証を行い、臨界事故評価に用いることのできる解析コードとして整
備した。
臨界安全ハンドブック、同データ集、燃焼度クレジット導入ガイド原案など、これ
までに公刊してきた臨界安全に関する設計・管理の考え方、及び臨界安全データ
を集約した知識データベースを構築した。
6)核燃料サイクル施設の事故時放射性物質の放出・移行特性
【中期計画】
核燃料サイクル施設の火災・爆発・臨界事故が万一発生した時の放射性物質の放出・
移行特性等に関する基礎データを取得し、安全審査等に対する科学的知見を提供する。
≪中期実績≫
○ 核燃料サイクル施設の火災・爆発について、可燃性物質や難燃性物質(ケーブ
ルシースやグローブボックスパネル材等)の燃焼時の煤煙発生率及び HEPA フィ
ルタ目詰まりデータなどを取得し、これまで得られた知見を基にした閉じ込め評価
手法を整備し、安全審査等に対する科学的知見として JNES に提供した。臨界事
故時については、溶解槽硝酸水溶液からのヨウ素の放出データを硝酸濃度や共
存有機物濃度などをパラメータとして取得するとともに、ヨウ素の放出・移行評価モ
デルを整備した。再処理施設の経年変化評価の妥当性評価手法整備を目的に、
再処理施設に係る過去のトラブル事例等の調査、考慮すべき劣化メカニズムや監
視すべき機器・部位の抽出、同機器・部位について腐食試験によるデータの取得、
腐食進展傾向評価モデルの作成を行い、その成果は保安院による高経年化対策
手引きの整備に貢献した。再処理施設の確率論的安全評価において重要な事故
シナリオの 1 つである、高レベル濃縮廃液貯槽の冷却機能喪失時に想定される高
レベル濃縮廃液の蒸発・乾固事象におけるルテニウムの気相放出や配管移行挙
動データを取得するために必要な試験装置及び分析機器等を整備し、ルテニウム
の放出挙動データ取得を開始した。
79
○ MOX 燃料加工施設等の核燃料サイクル施設において使用されるグローブボック
ス材料やケーブル材料等の可燃性又は難燃性物質を対象とした燃焼試験を実施
し、燃焼に伴う、エネルギーの放出速度、煤煙・放射性物質(模擬物質を使用)の放
出割合又は煤煙の目詰まりによる HEPA フィルタの差圧上昇等を評価する上で必
要不可欠な基礎データを定量的に取得するとともに、これらを相互に関連づけな
がらモデル化することで、事故時の閉じ込め機能の健全性を評価するための手法
として整備した。また、これら材料の熱的特性に係る基礎データを取得し、火災時
におけるこれら材料の熱分解の進行による閉じ込め機能の劣化の進展を評価する
ためのモデルを構築した。これらの知見は JNES に提供した。また、臨界事故時に
硝酸水溶液から気相に放出されるヨウ素の放出率データを硝酸濃度や共存有機
物濃度などをパラメータとして取得するとともに、ヨウ素の放出・移行評価モデルを
整備し、臨界事故時の放出率を定量的に把握することを可能にした。さらに、核燃
料サイクル施設においてリスク情報を安全規制に活用する観点から、同施設にお
いて想定される、火災・爆発・臨界事故時のソースターム評価モデルについて文献
情報を調査・整理し、結果を学会誌論文として公刊した。
○ 再処理施設の経年変化評価の妥当性評価手法整備を目的に、再処理施設に係
る過去のトラブル事例等の調査整理を行い、考慮すべき劣化メカニズムや監視す
べき機器・部位を抽出するとともに、同機器・部位について長時間腐食試験を実施
し、腐食メカニズムや腐食支配因子の影響評価データを取得するとともに、腐食進
展傾向評価モデルを作成した。本研究成果は、加工施設及び再処理施設におけ
る高経年化対策の評価の手引き(保安院内規)に反映された。
7)高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する研究
【中期計画】
安全審査基本指針の策定に資するために、安全指標、制度的管理、評価期間等に関
する基本的考え方を提示する。安全評価に関しては、水文地質学的変動、隆起浸食、人
工バリア材の長期変質、放射性核種挙動の変動等を扱う長期安全評価手法を開発・整備
する。
≪中期実績≫
○ 地層処分の安全規制支援を目的に、保安院及び JNES からの受託事業により
外部資金を獲得し、地層処分システムの時間的及び空間的な変動を考慮できる確
率論的評価コード GSRW-PSA を開発した。
GSRW-PSA を構成する詳細コードとして、溶解度の変動幅、ガラス固化体、炭
素鋼オーバーパック及びベントナイト系緩衝材の長期変質による性能変化、天然
バリアの変質、隆起・侵食の影響等を考慮できる解析コードを開発した。また、広域
地下水流動評価手法として、水理地質構造モデル等の構築手法を整備するととも
に、隆起・浸食などの地下水流動系への影響を評価できる解析コードを開発した。
80
平成 21 年度までに得られた成果を中間的に取りまとめた。これにより、サイトを
特定しない幅広い条件を対象として、地層処分に対する長期安全評価における確
率論的手法の骨格整備を完了し、処分場立地プロセスである概要調査結果の規
制判断に資する研究を着実に推進した。
長期安全評価における確率論的手法の整備で得られた知見等に基づき、評価
の時間スケールに応じた安全指標や安全規制の考え方を提案するとともに、指針
等策定に必要な研究課題を整理した。本検討結果は、原子力安全・保安部会廃
棄物安全小委員会報告書「放射性廃棄物処理・処分に係る規制支援研究計画
(平成 22 年度~平成 26 年度)」(平成 21 年 10 月)の作成に活用された。
○ 機構内の「連携重点研究」制度を活用し、大学及び民間企業と連携して地層処
分にかかわる基礎的研究を実施し、地層処分を実現するための科学的知識基盤
の充実と人材育成を図った。また、仏国の規制支援研究機関である IRSN との研
究協力として、機構で開発したベントナイト系緩衝材の長期変質評価コードを仏国
で観測した粘土層の長期変質データの解析を通して検証し、安全評価の信頼性
向上のための国際的な研究効率化を進めた。
○ 機構、JNES 及び産業技術総合研究所の 3 者間の規制支援研究に関する「地
層処分の安全性に関する研究協力協定」に基づき、3 者間で機構の幌延深地層
研究センターを対象とした広域地下水流動評価に関する人的交流を含む共同研
究を進め、規制支援研究を効率的に推進する枠組みを構築し、機能させた。
8)低レベル放射性廃棄物の処分に関する研究
【中期計画】
低レベル放射性廃棄物のうち、超ウラン核種廃棄物およびウラン廃棄物の処分について
は、廃棄物の特性及び処分方法に応じた安全規制の基本的考え方の策定に資するため、
評価シナリオの設定、固化体・人工バリア・天然バリアの機能評価等を含めた安全評価手
法を開発・整備する。また、処分方法ごとの濃度上限値設定に必要な解析を行う。
低レベル放射性廃棄物のうち炉内構造物等廃棄物については、余裕深度処分に関す
る安全評価手法を開発・整備する。
≪中期実績≫
○ 本研究は、低レベル放射性廃棄物の処分に係る埋設基準等及び安全審査指針
の策定支援のため、研究予算の一部を保安院からの受託事業で獲得して実施し
た。
○ 超ウラン核種を含む廃棄物(TRU 廃棄物)およびウラン廃棄物の処分については、
評価シナリオの設定、固化体・人工バリア・天然バリアの機能評価等を含めた安全
評価手法を整備し、処分方法毎の濃度上限値、クリアランスレベルを解析した。
81
TRU 廃棄物の処分に関しては、整備した安全評価コード GSA-GCL を用いて、
トレンチ処分、ピット処分及び余裕深度処分に対する TRU 廃棄物の埋設濃度上
限値を算出した。また、各処分で想定される廃棄物中の重要核種を抽出した。これ
らの研究成果をよりどころとして、我が国の TRU 廃棄物を含む低レベル廃棄物の
処分方策ごとの埋設濃度上限値に係る政省令が施行されるとともに、特定放射性
廃棄物法の改正が行われ、処分場設計や資金計画など TRU 廃棄物処分の事業
化が可能となった。原子力安全委員会報告書「低レベル放射性固体廃棄物の埋
設処分に係る放射能濃度上限値について」(平成 19 年 4 月)は、本研究成果に基
づき取りまとめられた。
ウラン廃棄物のクリアランスに関しては、廃棄物の処理・輸送時、産廃処分時、
再利用時における被ばく線量を評価するための解析コード PASCLR2 を開発する
とともに、同コードを用いて算出したクリアランスレベルの評価結果を原子力安全委
員会に提供した。これを技術的よりどころとしてこう着状態であった審議が大きく進
展し、クリアランスレベルが設定された。原子力安全委員会報告書「ウラン取扱施
設におけるクリアランスレベルについて」(平成 21 年 10 月)は、本研究成果に基づ
き取りまとめられた。この規制支援によって、人形峠環境技術センターなど燃料濃
縮・加工等の施設における廃止措置活動を本格化する環境整備に貢献した。
○ 炉心構造物等の余裕深度処分に関しては、隆起・浸食等の様々な変動要因が
考慮できる安全評価手法を整備し、余裕深度処分の評価で重要となる隆起・浸食
や地下水移行に伴う被ばく線量を解析した。また、余裕深度処分場の管理期間終
了後における将来のボーリングが処分施設を直撃することを想定したボーリングシ
ナリオに対する被ばく線量を例示的に解析した。本解析結果を原子力安全委員会
及び保安院に提供し、長期にわたる安全性を判断する指標の検討に貢献した。
安全評価の重要パラメータである放射性核種の岩石への収着性について、安
全審査におけるパラメータの設定方針とそのための技術的課題を整理した。整理
した課題を、JNES が余裕深度処分の安全審査に向けて設置した検討会「エキス
パートパネル」において報告し、規制機関による具体的な安全審査方法の検討に
貢献した。これにより、余裕深度処分事業の申請・審査に向けた環境整備に寄与
した。
9)廃止措置に係る被ばく評価に関する研究
【中期計画】
廃止措置については、作業者・周辺公衆の被ばく評価手法、敷地解放後の被ばく評価
手法の整備を行う。また、クリアランスの対象となる廃棄物についての評価対象核種、組成
比、濃度測定方法等を検討する。
≪中期実績≫
82
○ 本研究は、原子力施設廃止措置の安全確保及び我が国における安全規制の整
備のため、保安院及び JNES からの受託事業を外部資金として獲得して実施し
た。
○ 原子炉廃止措置に関わる作業者及び公衆の被ばく線量を評価するためのコード
DecDose を開発し、廃止措置計画の安全審査クロスチェックツールとして、保安院
に提供した。また、公衆被ばく線量に係る評価パラメータの感度解析を実施し、放
射性粉じんの飛散率等を重要パラメータとして抽出した。
原子力科学研究所バックエンド技術部及び原子炉廃止措置研究開発センター
との協力の下、「JPDR」解体廃棄物及び「ふげん」配管を対象とした切断試験を実
施し、より現実的な飛散率データを取得した。実機切断試験の結果は、これまでコ
ールド試験で整備されてきた既往データの妥当性を確認し、廃止措置事業の安全
確保に貢献した。
廃止措置後の敷地及び建屋の解放の在り方については、軽微な汚染しか存在
しないと想定される我が国のサイト解放を前提とした具体的な検認手順、合理的な
測定手法を提案した。さらに、廃止措置後の敷地に残存する放射性物質の許容濃
度を算出するためのコード PASCLR-Release を開発することで、サイト解放後の
被ばく評価手法を整備した。以上をもって、原子力安全委員会等でのサイト解放
基準の定量的審議に備えるとともに、廃止措置事業の終了行為の具体化に貢献し
た。
建家コンクリート廃棄物のクリアランスについては、可搬型 Ge 検出器による「建
家一括測定手法」を開発し、広大なコンクリート表面を対象とした合理的かつ保守
的なクリアランス検認を可能とした。また、評価対象核種、組成比、濃度測定方法
等を検討した結果を踏まえて放射能濃度の偏りの評価方法等の技術情報を取りま
とめ、放射能濃度確認に係る保安院内規の制定に貢献した。これにより、東海発
電所などからのクリアランス物の搬出が可能となった。
核燃料サイクル施設の廃止措置について、核燃料サイクル施設の特性、汚染状
況、予想される解体作業の特徴等を考慮して、原子炉施設廃止措置に対する安
全審査指針との共通点、相違点を整理した。これらの情報を基に、ウラン取扱施設
の廃止措置計画の申請を円滑に審査するための技術情報を取りまとめた。以上の
調査結果を踏まえ、核燃料サイクル施設の廃止措置に固有の放射性物質の移行
モデルを構築するとともに、DecDose をベースに核燃料サイクル施設版の廃止措
置被ばく線量評価コードを整備し、廃止措置事業の安全確保に貢献した。
10)関係行政機関への協力
【中期計画】
安全基準、安全審査指針類の策定等に関し、原子力安全委員会や関係する規制行政
庁への科学的データの提供等を行う。また、原子力施設等の事故・故障の原因究明のた
83
めの調査等に関しても、関係行政機関等からの個々具体的な要請に応じ、人的・技術的
支援を行う。
○ 原子力安全委員会からの要請に応じて基準・指針類の検討に必要な科学的デ
ータを提供した。データは報告書「発電用軽水型原子炉施設の性能目標につい
て」(平成 18 年 3 月)、「低レベル放射性固体廃棄物の埋設処分に係る放射能濃度
上限値について」(平成 19 年 4 月)、「ウラン取扱施設におけるクリアランスレベルに
ついて」(平成 21 年 10 月)、「燃料関連指針類における要求事項の整理並びに明
確化について」(平成 22 年 3 月)等に反映された。
事故・故障の原因究明のための調査等への協力として、保安院の要請に基づき、
東京電力(株)福島第一原子力発電所 6 号機において発生したハフニウム板型制
御棒のひび及び破損の原因究明に関する調査協力を安全研究センター、原子力
基礎工学研究部門、原子力科学研究所及び大洗研究開発センターが連携し、
JNES と協力して実施した。
IAEA 及び OECD が共同で運営する IRS や INES の活動から入手した各国
で発生した事故・故障の情報を収集・分析し、関係機関に報告する研究活動及び
INES から提供される情報を翻訳しホームページを通じて公開する活動を継続的
に行い、今中期目標期間中に 1,000 件を超える事故・故障の事例分析を実施しそ
の知見及び教訓の共有化を図った。
○ 関係行政機関等への人的貢献としては、原子力安全委員会の原子炉安全専門
審査会、核燃料安全専門審査会、原子力安全基準・指針専門部会、原子炉施設
等防災専門部会、緊急技術助言組織等の委員会等に委員として参画した(延べ
340 人回以上)。特に第Ⅱ期重点安全研究計画の策定作業には中核的支援機関
として参加し、必要な研究課題の提案や計画本体の記述案の作成などを行った。
また、保安院の原子力安全・保安部会、原子炉安全小委員会、検査の在り方に関
する検討会、高経年化対策検討委員会、核燃料サイクル安全小委員会、廃棄物
安全小委員会、廃止措置安全小委員会等の委員会等に委員として参画した(延べ
350 人回以上)。
○ 国が行う国際協力を支援するため、OECD/NEA の原子力施設安全委員会
(CSNI)などに多数が参加、協力した(延べ 110 人回以上)。特に CSNI 傘下のプロ
グラムレビューグループ、燃料安全ワーキンググループには議長を送ってその活動
を主導したほか、LSTF における ROSA 実験を OECD プロジェクトとして主催した。
また IAEA の活動についても安全基準の策定を始めとする様々な活動に協力した
(延べ 30 人回以上)。
○ 日本原子力学会や日本電気協会などの活動には部会長、専門委員会委員、分
84
科会委員などの形で積極的に協力した(延べ 740 人回以上)。特に日本原子力学
会標準委員会のリスク情報活用に係わる 6 つの分科会をはじめとして、学協会に
おける民間規格の策定に係わる多数の委員会に、委員として参加し、貢献した。さ
らに、産学官が協働した熱水力、高経年化評価、燃料等の技術戦略ロードマップ
の作成に中核的メンバーとして参加し、将来の研究ニーズやそれに必要な基盤的
研究施設を明らかにした。
以上の結果、中期目標を達成した。加えて、上記の成果をもって、我が国の原子
力の研究、開発及び利用の安全確保に貢献した。
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(2)原子力防災等に対する技術的支援
【中期目標】
関係行政機関及び地方公共団体の原子力災害対策の強化に貢献するため、地方公共
団体が設置したオフサイトセンターの活動に対する協力や原子力緊急時支援・研究センタ
ーの運営により、これら諸機関の活動を支援する。
【中期計画】
関係行政機関や地方公共団体の要請に応じて、原子力災害時等における人的・技術的
支援、平常時における原子力防災関係者に対する訓練、研修を実施するとともに、オフサ
イトセンターへの協力、原子力緊急時支援・研修センターの運営により、関係行政機関及
び地方公共団体の緊急時対応に貢献する。
国や地方公共団体による防災計画策定に役立てるため、PSA や環境影響評価等の手
法を活用して、緊急時における判断や各種防護対策の指標、範囲、実施時期等の技術的
課題の検討を行う。また、緊急時の意思決定プロセスにおける専門家支援のため、緊急時
意思決定支援手法等の検討を行う。
原子力防災に係る調査・研究、情報発信を行うことにより国民の安全確保に資する。
≪中期実績≫
〇 災害対策基本法に基づく指定公共機関として、毎年度行われる国及び地方公共
団体の原子力総合防災訓練において、オフサイトセンター及び地方公共団体の本
部活動並びに緊急時モニタリング、初期緊急被ばく医療活動等に参画した。これら
活動を通し、国、地方公共団体の支援体制の構築、対応活動の改善を提案し、平
成 18 年度には静岡県地域防災計画(原子力対策編)に反映された。また、福井県
から「原子力防災初動対応マニュアル作成」事業を受託し、福井県の防災マニュア
ル作成に貢献した。さらに、JCO 臨界事故から 10 年の節目の平成 21 年度原子力
総合防災訓練においては、事故の教訓を踏まえた検討及び種々の改善を踏まえ
た原子力防災活動について、自家用車避難訓練や緊急時モニタリング訓練、救護
所での住民防護活動などの企画・立案、準備から実施、評価及び事前の研修に至
るすべての段階について、原子力防災関係者に対する訓練、研修も含め、国、茨
城県、東海村を支援した。
〇 我が国の原子力総合防災訓練における課題であった外部機関による訓練評価
の実施や、訓練評価結果等による PDCA サイクルを回すことについて、経済産業
省からの受託事業として、「原子力防災に係る訓練評価に関する調査」を実施した。
この成果である、訓練目標設定の考え方、評価手法及び訓練評価結果の反映の
考え方については、国の委員会における議論にいかされ、今後の原子力総合防
災訓練の改善に反映された。
〇 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(国民保護法)
に基づく原子力総合防災訓練へも指定公共機関として参加して、国、地方公共団
体の原子力防災活動を支援協力した。また、放射性物質を用いた爆弾テロを想定
86
した平成 20 年度東京都大規模テロ災害対処訓練(実動)、神奈川県国民保護共
同訓練(図上)などにおいては、原子力研究開発機関として、訓練企画時の技術的
検討への助言を行なうとともに、訓練実施時には現場での支援活動を具体化する
など、放射性物質を用いた爆弾テロ対応における放射線防護活動の提言を通じて
我が国の防災に貢献した。
〇 原子力緊急時支援・研修センターは、原子力施設(核燃料物質等の輸送を含
む。)における原子力災害及び武力攻撃事態等に対応するため、24 時間の初期
対応体制をとっている。平成 20 年度には、新潟県中越沖地震に見られるような原
子力施設の地震によるトラブルの社会的影響にかんがみ、原子力施設立地地域
において観測された震度に応じた初動体制とした。
〇 原子力防災に対する理解を得るための活動として、防災関係機関及び周辺住民
に対して、茨城県との共催での「原子力防災体験フェア」等による施設公開及び日
常的な見学者の受入れを積極的に行っている。今中期目標期間の見学者数は約
14,300 名(平成 14 年 3 月の開所以降の累計は約 31,000 名)に上り、オフサイト
センターや支援・研修センター等の役割・機能についての理解を深めてもらうことに
より、原子力防災に関する知識の普及啓発が図られた。
〇 世界的な原子力平和利用気運の高まりを背景に、海外で発生した原子力事故
や放射線緊急事態等への支援について検討し、平成 22 年 3 月、海外における原
子力事故や放射線緊急事態発生時に、専門家の現地派遣及び国内における技
術支援を行う体制を整えた。また、原子力国際機関(IAEA)が提案している国際的
な緊急事態対応ネットワーク(RANET: Response Assistance Network)への登
録申請を行い、原子力平和利用に対する国際協力に貢献する体制を整えた。
〇 原子力災害対策特別措置法による新たな原子力防災の仕組みに基づく活動を
定着させることを目的に、経済産業省からの受託事業として、オフサイトセンター対
応要員及び原子力防災専門官等を対象に「オフサイトセンター機能班訓練」等を
実施した。特に、「オフサイトセンター機能班訓練」については、原子力災害対応と
して不可欠な「情報共有」や「連携」をリアルに再現することにより、実対応に近い活
動を体験する実践的なブラインド訓練モデルとして確立し、現在進められている我
が国の原子力防災訓練の中核部分に取り入れられた。なお、平成 17 年度、平成
18 年度の 2 年間に全国各地で 25 回開催した結果、参加者は 2,223 名に達した。
〇 経済産業省からの受託事業として、地方公共団体の原子力災害対応要員を対
象に「緊急時広報研修」、「緊急時対応研修」等を実施したほか、地方公共団体や
関係防災機関等からの要請に応え、地域の特性を反映した新規の研修・演習を実
87
施している。これらの研修においては、JCO 事故対応時の経験を踏まえ、演習に
力点を置いて提供してきていることから、参加者からは、理解度及び活用度とも
90%以上の高い満足度を得ており、国等からも継続した実施が求められている。
〇 緊急時の現実的な対応を考慮して放射線防護機材の取り扱い等も含めた訓練、
研修を総務省消防庁消防大学校、栃木県消防学校、千葉県消防学校、茨城県消
防学校、警察関係機関等の原子力防災関係者に対して実施した。また、東京大学
原子力専門職大学院に対する「原子力危機管理学」等の講義及び「原子力災害
防護対策に関する実習」や茨城キリスト教大学看護学部における原子力災害時の
救護活動等に関する講義や実習等、大学等への防災に関わる人材育成への協
力・支援を積極的に実施した。これらの要請は年々増えてきたものであり、現場で
の対応を行う防災機関等に対して着実に貢献してきている。
〇 以上、今中期目標期間中においては上記を含め全体で 9,825 名に対して研修
等を行った。これにより、原子力利用に対する社会の安心感醸成及び原子力災害
時における一般公衆の安全確保の向上に資することができた。
○ 緊急時における技術的課題の検討では、軽水炉の確率論的安全評価(PSA)か
ら得られた代表的事故シナリオに対して、レベル 3PSA コード OSCAAR を用い短
期防護対策(屋内退避、避難、安定ヨウ素剤予防服用)の複合的実施戦略を対象
に、最適な防護指標、実施範囲、実施時期等を分析し技術的課題をまとめた。ま
た、災害復旧期における長期防護対策である住民の一時移転の導入及び解除レ
ベルについて費用便益の観点から分析し、技術的課題を抽出した。この成果は国
際放射線防護学会でポスター賞を受賞した(平成 20 年度)。
防災指針の見直しに向けた検討に資するため、原子力安全委員会からの受託
調査(平成 17、18、19、21 年度)により、諸外国の原子力緊急事態に対する準備と
対応の最新動向を調査し、これまでの PSA から得られた情報を基に、特に基本要
件、緊急時計画区域(EPZ)、防護対策指標、予防的措置範囲等の技術的課題を
受託報告書としてまとめた。これらの成果は、原子力施設等防災専門部会に報告
し、防災指針改訂(平成 19 年 5 月)に反映された。
さらに、地方公共団体による防災計画策定のための支援として、島根県からの
受託調査により、避難施設の遮へい機能調査・解析を実施し、実効的な地域防災
計画策定に貢献した。
○ 緊急時意思決定支援手法の検討では、緊急時の意思決定プロセスにおける専
門家支援のため、事故進展解析、ソースターム評価、大気拡散評価、及び線量評
価に関する評価手順とデータベースからなる技術マニュアル案と PC ツール 1 次版
整備を完了した。これらの成果は、今後、原子力防災訓練等での活用が期待でき
88
る。
〇 我が国の原子力防災関係者等に広く原子力防災情報を提供するため、原子力
災害時対応の国内外情報を調査し、公開ホームページに原子力防災情報トピック
スを発信した。(アクセス件数 58,891 件(平成 20 年 6 月~平成 22 年 3 月末))
原子力災害時の住民避難の実効性向上に資するため、原子力災害時の避難
計画策定のための各種モデルの検討を行い、基本検証がなされたモデルによる避
難時間評価の有用性について報告書にまとめ、公開した。さらに、自家用車による
避難訓練結果の分析等早期対応力の強化に関する検討(茨城県原子力総合防災
訓練)を行い、茨城県地域防災計画に我が国で初めて自家用車による避難方法が
加えられた。
原子力災害時の情報共有の高度化に資するため、経済産業省からの受託「原
子力防災情報ネットワーク整備に係る統合型情報コラボレーションシステムの開
発」を行い、国の原子力災害対応システムに活用された。
原子力緊急事態の解除の判断の具体化に資するため、内閣府からの受託「発
電用軽水炉施設における原子力緊急事態解除の判断フロー及び判断チェックリス
トに関する調査検討」により、原子力緊急事態解除に関する国内外情報を調査検
討し、チェックリスト化に貢献した。
放射性物質の輸送における緊急時対応の実効性向上に資するため、内閣府か
らの受託「放射性物質の輸送事故の緊急時対応に関する調査」により、緊急時対
応に関する国内外情報を調査検討し、具体的な訓練シナリオ案を提示した。
〇 IAEA の特別拠出金事業である「アジア原子力安全ネットワーク(ANSN)」に緊急
時対応分科会(EPRTG)を組織し、当分科会のコーディネータとして原子力・放射
線防災及び緊急時対応に関する分科会及びワークショップを開催し、東南アジア
諸国の原子力安全基盤の向上に貢献した。分科会においては、被支援国の現状
とニーズに対応した中期活動計画の策定と各国の進捗状況のレビューを、また、
被支援国共通の弱点強化を目的としたワークショップにおいては、我が国の原子
力総合防災訓練の観察並びに専門家を派遣しての原子力防災・対応に関する我
が国の現状や経験・知見の提供を行い、東南アジア諸国の原子力防災対応能力
の向上に資する国際貢献を行った。これらの活動を通し、被支援国の原子力防
災・緊急時対応能力は一定の水準に達したが、原子炉施設を対象とする緊急時管
理、オフサイト活動、緊急時医療などの面で改善の必要があり、今後の EPRTG 活
動の重点課題として推進する予定である。
以上の結果、中期目標を達成した。
89
(3)核不拡散政策に関する支援活動
【中期目標】
我が国の核物質管理技術の向上、関係行政機関の核不拡散に関する政策を支援する
ため、以下の活動を実施する。
1) 関係行政機関の要請を受け、自らの技術的知見に基づき、政策的な研究を行い、その
成果を発信することにより、我が国の核不拡散政策の立案を支援する。
2) 関係行政機関の要請を受け、核物質管理技術開発、計量管理等の保障措置技術開
発を行い、国際原子力機関(IAEA)等を支援する。
3) 関係行政機関の要請を受け、包括的核実験禁止条約(CTBT)の検証技術の開発等を
行う。
4) 放射性核種に関する CTBT 国際監視観測所、公認実験施設及び国内データセンター
の整備、運用を継続する。
【中期計画】
多様な核燃料サイクル施設を有し、多くの核物質を扱う機関として、これまでの技術開発
を通じて培ってきた知識・経験・人材に立脚し、また、技術力を結集して、核不拡散強化の
ための国際貢献に努める。
1) 関係行政機関の要請を受け、技術的知見に基づく政策的な研究を行い、国際的な核
不拡散体制の強化に資するとともに、我が国の核不拡散政策立案を支援していく。
また、核不拡散に関連した情報を収集し、データベース化を進め、関係行政機関との
情報共有を図る。
インターネット等を利用して積極的な情報発信を行うとともに、国際フォーラム等を年 1
回開催して原子力平和利用を進める上で不可欠な核不拡散についての理解促進に努め
る。
2) 我が国の核物質管理技術の向上及び関係行政機関、国際原子力機関(IAEA)を技術
的に支援するために、核燃料サイクル施設への統合保障措置適用のための効率化・合理
化のための技術開発、保障措置強化・効率化の観点より、関係行政機関の要請を受け、
計量管理、極微量核物質同位体比測定法の技術開発等を行う。
3) 非核化支援として、関係行政機関の要請に基づき、包括的核実験禁止条約(CTBT)の
検証技術の開発等を行う。
4) 放射性核種に関する CTBT 国際監視観測所、公認実験施設及び国内データセンター
の整備、運用を継続する。
なお、実施に当たっては外部資金の獲得に努める。
≪中期実績≫
1)核不拡散政策研究
○ 平成 17 年度から実施してきた「核不拡散に関する日本のこれまでの取組とその
分析」について取りまとめを行い、原子力新興国の参考に資する政策提言を行っ
た。海外に対するアウトリーチ活動を行うことにより、日本の原子力利用の信頼性の
向上に貢献した。「アジア地域の原子力平和利用の信頼性・透明性向上」に関して、
原子力導入を企図するアジア諸国に対する核不拡散分野での協力のモデルケー
スとして、ベトナム、タイ、インドネシアとの間での専門家会合の実施等を通じて、協
90
力方策を検討した。特に、ベトナムに関しては、日本政府の支援の一環として、文
部科学省及び経済産業省の要請に基づき、同国の IAEA 追加議定書批准に向け
た現地調査及び支援を実施した。また、「米国の核不拡散政策が我が国の核燃料
サイクル政策に与えた影響に関する研究」に関して、過去の米国の核不拡散政策
や日米原子力協力の経緯について調査・分析を実施した。
○ 文部科学省から受託した「核不拡散強化のための海外動向調査」(平成 18 年度
~20 年度)、「核不拡散強化に関する海外技術調査」(平成 21 年度)により、米国
新政権の原子力・核不拡散政策等、国際的な核不拡散動向に関する調査を実施
し、原子力平和利用と核不拡散の両立に関する課題整理及び政策提言を行った。
内閣府から受託した「国際的な核不拡散体制強化に関する制度整備構想の調査」
(平成 18 年度~21 年度)において、核燃料供給保証問題に関して動向調査を実
施するとともに、関係省庁・関係機関と協議の上、核燃料供給保証システムの提案
等を取りまとめた。平成 21 年 1 月に開催された我が国政府主催のセミナーにおい
て、取りまとめた成果を発表した。外務省から原子力施設の廃止措置及び廃棄物
処分に関する調査(平成 17 年度、平成 18 年度及び平成 20 年度)を受託し、外交
政策を支援した。また、中部電力から「核不拡散及び原子燃料サイクルに関する技
術調査研究」を受託(平成 19 年度~21 年度)し、核不拡散を巡る国際動向が我が
国の原子力発電事業や核燃料サイクル事業に及ぼす影響の分析・評価を行った。
○ 平成 19 年 10 月に日本国際問題研究所との共催で、国際シンポジウム「核不拡
散と原子力の平和利用」を開催し、洞爺湖サミットに向けて原子力平和利用の推
進と 3S (Safegards/nonproliferation, Security, Safety)の取組のメッセージを
送るとともに、日本国際問題研究所は本成果を取り入れ、外務大臣へ提言を行っ
た。
○ 核不拡散に関連した情報のデータベース化については、政策研究で調査した情
報の収集を行い、データの分類整理を適宜実施し、データベース化を進め、その
一環として「核不拡散ポケットブック」(約 1000 ページ)を作成し、機構業務担当者、
機構外関係者に配布した。また、文部科学省、外務省、内閣府、経済産業省、日
本国際問題研究所との情報交換会の開催などを通じて関係行政機関との情報の
共有、政策課題の検討等に資した。
○ インターネットを使用したメールマガジン「核不拡散ニュース」を平成 17 年度より、
機構内外の関係者約 500 名にあてて 137 回発信した。また、原子力平和利用と核
不拡散、核軍縮にかかわる国際フォーラムを毎年 1 回主催するとともに、結果を機
構ウェブサイト(日本語及び英語)に掲載した。また、平成 18 年 11 月に IAEA エル
バラダイ事務局長(当時)を招へいして講演会を東京工業大学と共催し、核不拡散
91
への対応の重要性についての理解促進を図った。
2)核不拡散技術開発
○ 東海の核燃料サイクル施設を対象とした統合保障措置については、精力的に政
府及び IAEA との協議を実施し、平成 20 年 8 月に核燃料サイクル施設に世界で
初めて統合保障措置が適用された。また、平成 21 年 11 月には高速炉として世界
で初めてもんじゅサイトに統合保障措置が適用され、IAEA 査察コストの削減等に
貢献した。
○ 核不拡散科学技術センターと次世代原子力システム研究開発部門等とが連携し
て、次世代原子力システムの核拡散抵抗性及び先進保障措置技術についての検
討を行い、2010 年以降の開発課題をまとめ、FaCT プロジェクトへ反映した。国際
機関等との協力においては、IAEA の革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国
際プロジェクト(INPRO)、及び第四世代原子力システムに関する国際フォーラム
(GIF)における核拡散抵抗性の議論に参加し、GIF 核拡散抵抗性・核物質防護専
門家会合において、日本の考えを評価手法の策定に反映させ、報告書の作成に
貢献した。また、国内外関係者に対して評価手法等を紹介するワークショップを平
成 18 年 11 月に開催した。
先進的保障措置システム検討については、IAEA の設計段階からの保障措置
取り組み活動(Safeguards by design)へ参画するとともに、将来の核燃料サイク
ルに対する先進的保障措置技術に係るワークショップを平成 19 年 11 月及び平成
21 年 11 月に IAEA と共催し、技術開発課題や今後の取組方策等を取りまとめた。
また、政府主導の日米原子力エネルギー共同行動計画(JNEAP)、国際原子力エ
ネルギー・パートナーシップにおける保障措置・核物質防護ワーキンググループの
活動に積極的に参加し、研究協力を実施するとともに、JNEAP 第 1 期報告書の
作成に貢献した。
○ 機構と米国エネルギー省(DOE)との核不拡散・保障措置協力取決めに基づき、
累計で 25 件の共同研究を行い、毎年 1 回、日米で研究内容・成果についてチェッ
クアンドレビューを行ない、機構のプロジェクト等に反映するとともに、研究成果を
国際核物質管理学会、GLOBAL2009 等の国際会議で発表した。
○ 極微量核物質同位体比測定法の技術開発については、ウラン微粒子ごとの濃縮
度が測定できる新技術「フィッショントラック-表面電離型質量分析法(FT-TIMS)」を
開発し特許を取得した。平成 20 年 3 月に IAEA は、FT-TIMS を保障措置分析
法として認定した。また、「環境工学研究」の成果も取り入れ、実試料の分析経験を
基に同位体比測定法の改良・高度化を行った。政府及び IAEA からの依頼試料
の分析を着実に行い、信頼性の高いデータの提供を継続して行うことにより、
92
IAEA ネットワーク分析所(NWAL)の一員として NWAL の技術向上に貢献し、機
構の技術が高く評価された。
○ 核物質防護措置(PP)の強化策については、「もんじゅ」へ導入した侵入者自動監
視システムの実用化に向けた検証試験を実施し課題を抽出した。効果的・効率的
な PP 対応のため、米国サンディア国立研究所が開発した 3 次元ビデオ検知シス
テムを原子力科学研究所に設置し、性能検証試験を共同研究として実施した。ま
た、施設警備員の配置と出入り管理システムの最適化の検討を実施した。政府の
要請を受け、IAEA 核セキュリティシリーズ勧告文書等の策定に係る IAEA 会合に
参画し、技術的見地から支援を実施した。
○ 平成 21 年 9 月の国連総会において、鳩山総理は演説の中で、日本が挑むべき
5 つの挑戦の一つとして「核軍縮・不拡散への挑戦」について発言を行った。これを
受け政府の要請に基づき、機構は、核物質の測定・検知技術開発やアジア地域を
中心にした人材育成支援につき検討を開始し、平成 21 年 11 月に行われた日米
首脳会談において「核兵器のない世界」に向けた共同ステートメントが出され、核
不拡散、核セキュリティ分野の協力として日米協力を拡大していくことが合意された。
政府との協力の下、機構は平成 22 年 2 月に実施された日米政府間実務者会合に
て政府を支援するとともに、引き続き行われた日米専門家会合にて核物質の測定・
検知技術開発、核鑑識技術開発の日米協力の可能性に係る協議を実施した。ま
た、平成 22 年 3 月に実施された機構と DOE との核不拡散・保障措置協力取決め
に基づく年次調整会合にて、今後の協力内容の確認を行った。平成 22 年 4 月に
行われた、核セキュリティサミットにおいて、アジア地域を中心にした「核不拡散核
セキュリティ総合支援センター(仮称)」を日本原子力研究開発機構に設置すること、
核物質の測定、検知及び核鑑識に係る技術開発を日米協力で実施していくことと
いう具体的な形で、総理から日本のイニシアティブを世界に打ち出すことができ、
核セキュリティサミットに貢献した。
3)非核化支援
○ 政府の要請に基づく非核化支援については、まず、包括的核実験禁止条約
(CTBT)支援に関し、世界観測データの解析・評価等を行う検証システムの高度化
として、ガンマ線スペクトル解析/希ガス用ベータガンマスペクトル解析ソフトウェア、
核データライブラリ維持管理ソフトウェア、放出源情報推定解析システム等の開発・
整備を進め、国内データセンター(NDC)の基本機能整備を完了させた。また、
NDC の基本機能システムの試験評価を行うため、西アジアに発生した任意の地震
をトリガーとする国際的な NDC 評価演習への参加等を実施した。以上により、
NDC の CTBT 国際検証システムの開発整備を完遂し、検証システムの暫定運用
に至ることができた。さらに、CTBT 機関準備委員会(CTBTO)が主催する国際比
93
較試験に毎年参加し、核実験検知能力検証のための技能試験として極微量放射
性核種を高精度で分析・解析評価し、CTBTO から技術基準を満足する高い評価
を得た。
○ ロシア核兵器解体からの余剰兵器級プルトニウム処分への協力については、ロシ
アの高速炉 BN-600 に関する臨界実験、炉心解析及び安全解析、ロシア原子炉
科学研究所(RIAR)核燃料製造施設の改造作業の支援を実施した成果により、平
成 19 年 11 月の米露共同声明において、ロシアの余剰兵器級プルトニウムの処分
は高速炉燃焼オプションを採用することが決定された。また、機構とロシアの共同
研究である、21 体のバイパック燃料(振動充填方式による燃料製造)信頼性実証試
験では、BN-600 での燃料照射及び照射後試験を終了し、本格的な処分に向け
ての許認可データ取得に貢献した。共同研究の成果を、日本原子力学会誌等に
て発信した。
4)CTBT 国際検証体制支援
○ CTBTO からの受託「CTBT 放射性核種監視観測所の整備・運用と監視データ
の取得・解析・評価」により、高崎観測所の運用を継続するとともに、希ガス観測装
置を設置して平成 19 年 1 月より観測を開始した。沖縄観測所については、観測機
器の据付調整及びデータ送信試験を含む作動試験を実施して観測を開始し、平
成 19 年 2 月に CTBTO の認証を得て正式に運用を開始した。東海公認実験施設
の整備については、分析手法を確立し品質管理マニュアルを完成して、平成 18
年 11 月に CTBTO の認証を得て運用を開始した。これにより、CTBT で日本国内
に設置が定められている 3 ヶ所の放射性核種監視施設(高崎観測所、沖縄観測所、
東海公認実験施設)について、全ての整備・認証取得を完了し運用を継続してい
る。また、国内データセンター(NDC)については、日本国際問題研究所からの受
託事業「CTBT 国内運用体制の確立・運用(放射性核種データの評価)」として平
成 21 年 4 月より暫定運用を開始し、統合運用試験の実施等 CTBT 国内運用体
制への参画を行った。
なお、実施に当たっては、CTBTO から 2 件(観測所、公認実験施設)、日本国際
問題研究所から 1 件(NDC)の受託研究業務を獲得した。
○ 「包括的核実験禁止条約(CTBT)国際検証体制への貢献」で平成 17 年度第 38
回原子力学会貢献賞を受賞した。またこれまで 2 回(平成 18 年 10 月、平成 21 年
5 月)の北朝鮮の核実験について、政府の要請に基づき臨時即応体制を構築する
とともに、日本、ロシア、中国、フィリピン、モンゴルの粒子・希ガス観測所データ等
を解析し、政府へ評価結果の報告を実施した。なお、平成 18 年 10 月の核実験に
対する機構の解析評価対応に関して、外務大臣から感謝状を受領した。
94
以上により中期目標を達成するのみならず、政策研究や技術開発の推進を通じ、
関係行政機関の核不拡散に関する政策を高いレベルで支援するとともに、我が国と
してのイニシアティブの発揮への貢献となっている。
95
4.自らの原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分に係る技術開発
【中期目標】
機構は、原子力施設の設置者及び放射性廃棄物の発生者として、保有する原子力施
設の廃止措置及び自らの放射性廃棄物の処理・処分を、その責任でもって、安全確保を
大前提に、計画的かつ効率的に実施することが必要である。
このため、保有する原子力施設の廃止及び放射性廃棄物の処理・処分を、安全かつ効
率的に行うために必要とされる技術開発を行い、廃止措置及び放射性廃棄物処理・処分
について、機構が将来負担するコストの低減を技術的に可能とする。
【中期計画】
自らの原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分については、原子力施
設の設置者及び放射性廃棄物の発生者としての責任において安全確保を大前提に、計
画的かつ効率的に進めていく。この際、安全確保はもちろんのこと、コスト低減が重要であ
るから、合理的な廃止措置や放射性廃棄物の処理・処分に必要な技術開発を実施する。
(1)原子力施設の廃止措置に必要な技術開発
【中期計画】
ふげん発電所、人形峠・ウラン濃縮関連施設等に係る廃止措置技術の研究開発を実施
する。再処理特別研究棟を用いた再処理施設に係る廃止措置技術の研究開発を実施す
る。
また、廃止措置およびその準備に係る作業において、各種データを取得するとともに、
それらを基に、合理的な廃止措置を行うための廃止措置統合エンジニアリングシステムの
構築を進める。さらに、各種施設の解体時等における廃棄物管理に適用できるクリアランス
レベル検認評価システムの開発を進める。
≪中期実績≫
○ 施設の廃止措置や廃棄物の処理・処分を実施するに当たって、問題となることが
予想される課題について、共通的なものは部門で、拠点固有のものは各拠点にお
いて技術開発を進め、報告書を作成した。技術開発項目のいくつかについては、
コスト低減につながる成果(簡易迅速分析、高性能触媒等)を得ることができた。
また、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を
行うため機構の外部評価委員会として設置している「バックエンド推進・評価委員
会」において、平成 20 年度に中間評価が行われ、廃止措置、廃棄物の処理処分
に関する技術開発の進め方について、それぞれ、「妥当」、「概ね妥当」の評価を
受けた。平成 21 年度には今中期計画に対する実施状況を報告し、その妥当性が
確認された。
○ 原子炉廃止措置研究開発センター(ふげん)の技術開発としては、主に原子炉本
体の解体技術開発、トリチウム除去技術開発について実施した。
原子炉本体解体技術開発では、開発計画を取りまとめ、アブレイシブウォータジ
ェットなどの有力な切断工法について各種切断試験を実施して水中遠隔解体方
法に適用できる切断工法の絞込みを行い、それに対応した解体工法に関する基
本手順を取りまとめた。
96
トリチウム除去技術開発については、コールド環境で実施してきた試験の知見に
基づき、RI 施設及び原子炉施設において同技術の適用性確認試験を実施するこ
とで、トリチウム除去技術の実機への適用性を確証した。これを受けて、平成 21 年
1 月より実作業への適用を開始した。なお、適用性確認試験については、平成 18
年度からホット試験の開始予定が、廃止措置計画認可取得時期の遅れ等により、
平成 20 年度からの実施となったが、効率的に試験を行うことで、平成 20 年度中に
実作業への適用が可能となり、今中期目標期間内に実施すべき技術開発に影響
はなかった。
また、廃止措置により得られた解体データ(廃棄物量、人工数等)を構築中であ
った廃止措置統合エンジニアリングシステムに反映した。
○ 人形峠においては、主に集合型遠心機の除染技術開発について実施した。
集合型遠心機に関する乾式除染試験については、原型プラント第 2 運転単位
で七フッ化ヨウ素を用いて乾式系統除染試験を実施し、系統内の滞留ウラン(設備、
系統内に、残存する核燃料物質)の 95%以上の回収が可能であることを明らかにし、
日本原燃(株)への技術提供を実施した。
また、乾式除染後に湿式除染を行うことで 0.1Bq/g 以下まで機器除染が可能で
あることを日本原燃(株)との共同研究で確認した。この手法により、放射性廃棄物
量の削減、処分費の軽減が期待できる見通しを得た。
また、廃止措置により得られた解体データ(廃棄物量、人工数等)を廃止措置統
合エンジニアリングシステムに反映した。解体実績については公開資料(5 件)に取
りまとめた。
○ 再処理特別研究棟を用いた再処理施設に係る廃止措置技術の研究開発では、
コンクリートセル内に設置されている廃液タンクの撤去工法の確証試験の一環とし
て廃液貯槽(LV-2)を一括で撤去し、解体分別棟内で細断を行うとともに、作業に要
した人工数、解体手順、廃棄物量、被ばく等の関連するデータを取得した。一括撤
去との比較検討を行うために廃液貯槽(LV-1)をその場で解体する工法の確証試
験の一環として、コンクリート壁の開口、タンク周辺配管等の機器解体を継続し、関
連するデータの取得を行った。また、解体に関するデータの分析を行い公開資料
に取りまとめた。
○ 合理的な廃止措置の計画策定を支援するため、廃止措置統合エンジニアリング
システムの開発を進めた。具体的には、廃止措置を進めている「ふげん」及び「人
形峠・製錬転換施設」等の施設情報、及び解体実績データ等を収集整理した。こ
れらを基に、合理的な廃止措置の計画策定を支援するための廃止措置統合エン
ジニアリングシステムの構築を行った。平成 20 年度からは、運用試験としてこれら
施設の解体開始前にシステムを用いて作業人工数等の管理データの事前評価を
97
行い、作業工数の計画の妥当性を確認した。また、実績データの分析を行い、評
価モデルの作成・改良を進め、評価精度の向上を図った。これらの成果を公開資
料(3 件)に取りまとめた。
○ 効率的なクリアランス検認作業を支援するために、試験研究炉、発電炉及び原子
力船に適用可能なクリアランスレベル検認評価システムの開発を進めた。システム
の運用試験として、JRR-3(コンクリート)のクリアランス検認測定データ及びふげん
(金属)の分析データをシステムに入力し、評価対象核種選定機能等の機能確認を
行った。また、コスト低減に向けて検認測定データの分析やサンプリング測定によ
る検認のための標本数について検討を行った。さらに、原子力船むつの放射能デ
ータを取得し汚染特性を明らかにするとともに、システムを用いて評価対象核種の
検討を行った。これらの成果を公開資料(1 件)に取りまとめた。
98
(2)放射性廃棄物の処理・処分に必要な技術開発
【中期計画】
放射性廃棄物の処理・処分に必要な技術として、廃棄体の放射能測定評価技術、廃棄
体化処理技術、除染技術等の開発を進める。また、廃棄物、廃棄体に係る放射能及び物
性データの収集・整備等を進めるとともに、廃棄物発生から処理・処分までの履歴を追跡で
きる廃棄物管理システムを開発する。さらに、自らの廃棄物に対し、合理的な処分を目指
すため、TRU 廃棄物、ウラン廃棄物及び RI・研究所等廃棄物の各廃棄体の物理的・化学
的特性、核種移行への影響等に関する研究開発並びに処分場の設計・安全評価に関す
るデータ取得等を進める。
≪中期実績≫
○ 廃棄体の放射能測定評価技術については、低線量の放射性廃棄物に含まれる
処分安全評価上重要となる 29 核種を対象に簡易かつ迅速な放射性廃棄物分析
法の開発を進め、その成果を分析指針として公開資料に取りまとめた。本分析法
により、廃棄物定常分析に係る時間を従来法と比較して約 1/3 に短縮することが可
能となり、これによりコストも 1/3 程度に低減することが可能となった。また、本分析
法の一部は、電気事業者等が実施する実用発電所の廃棄物分析やクロスチェック
分析に採用された。
○ 廃棄体化処理技術については、処分時の環境への影響を小さくするための脱硝
処理技術、廃棄物の前処理合理化のためのか焼処理技術、有機物の分解処理を
可能とする水蒸気改質処理技術(SR 法)について開発を進めた。
脱硝技術開発については、廃棄物(低レベル放射性廃液)に含まれる硝酸塩が
処分において課題となるため、低レベル放射性廃棄物処理技術開発施設
(LWTF)の設備改造に適用すべく、硝酸塩の除去技術(脱硝技術)の開発を進め
た。さらに、運転コスト低減のための高性能触媒の開発において、触媒寿命を 4 倍
程度に延長させることに成功するとともに、設備コスト低減のためにフロー方式の脱
硝法を開発し、その技術的実用性を確認した。また、次世代の廃液処理設備に資
するため、資源エネルギー庁からの委託を受け、硝酸塩の膜分離技術と硝酸イオ
ンの分解技術を組み合わせた新しい脱硝技術の開発を開始し、技術的成立性を
確認した上で、ベンチスケールの膜分離試験装置を製作した。本件に関し、3 件の
特許出願を行った。
か焼技術開発については、処理性能評価試験、核種移行評価試験、安全性確
認試験等においてデータを取得するとともに、か焼設備の設計検討及びか焼処理
の前処理システムへの適用性評価を実施した。
SR 法については、コールド処理試験及び廃溶媒を用いたホット処理試験を実
施し、減重率、ウラン移行挙動、フィルタ性能の経時変化、構成装置の寿命等の実
廃棄物の長期的な処理性能の評価に必要なデータを取得した。
99
○ 除染技術開発については、本格解体を控える MOX 燃料取扱施設の廃止措置
において廃棄物の発生量を低減させるため、二次廃棄物の発生量が低減でき、乾
式の技術である超臨界二酸化炭素を用いるプルトニウムの除染技術の開発を進め
た。具体的には、二酸化プルトニウムの代替物である二酸化セリウムを用いた溶解
試験を実施し、技術開発に必要な溶解基礎データを取得した。
○ 廃棄物管理システムの開発については、廃棄物、廃棄体データの収集・整備とし
て、原子力科学研究所の数施設及び核燃料サイクル工学研究所の再処理施設か
ら発生する廃棄物等を対象に、廃棄物に付着している放射性核種の分析による放
射能データの蓄積など、核種組成、放射能量及び物性データの収集・整備等を継
続実施した。
また、廃棄物情報を管理するデータベース、廃棄体内の放射能濃度を評価する
機能、データを検索する機能等からなる廃棄物管理システムを開発した。データベ
ースは、廃棄物発生元でのデータや処理工程でのデータを関連づけて登録するこ
とによって、廃棄物発生から処理・処分までの履歴の追跡を可能とした。平成 21 年
度から原子力科学研究所において、既存の廃棄物情報を取り込み、本システムの
試験運用を開始した。本件に関し、3 件の公開資料作成を行った。
○ 研究施設等(「RI・研究所等」から名称変更)廃棄物のうち、浅地中処分対象につ
いては、主要拠点の施設情報及び廃棄物情報から浅地中埋設処分施設における
被ばく評価上重要となる核種(重要核種)を選定する手法の開発を進めるとともに、
施設情報及び廃棄物情報を調査、収集し、重要核種を予備的に選定して、これを
確認するための放射能分析を進めた。また、廃棄体性能に係る簡便かつ迅速な確
認方法を構築するため、廃棄物中の化学的有害物質及びセメント固化体に係る一
軸圧縮強度等に係るデータの調査、収集を進めた。
○ ウラン廃棄物については、人工バリアを設置しない合理的な余裕深度処分概念
に係る安全評価として、原子力安全委員会報告書に示されたシナリオ 3 区分の考
え方に基づいた予備的な被ばく線量評価を行い、成立可能性に係る課題の確認
を行った。本件については、年度毎に公開資料作成を行った。
○ その他、機構全体の余裕深度処分対象の廃棄物については、合理的な処分を
実施した場合の影響等に関する評価を行うため、被ばく線量評価ツールを整備す
るとともに、被ばく線量の試算を行った。本件については、2 件の公開資料作成を
行った。
○ 幅広い地質環境に対応できる TRU 廃棄物の地層処分の評価基盤構築に向け、
核種移行の影響及び処分場の設計・安全評価に関するデータ拡充と評価ツール
100
の開発を進めた。
具体的には、セメント変質、アルカリ影響下ベントナイト・岩反応、硝酸還元挙動
のデータ等を拡充した。また、処分場設計や処分システムの安全評価に係る検討
として、緩衝材の変質を反映した処分システムの力学解析やアルカリ環境や硝酸
塩及びその還元生成物の影響下での核種移行データ取得を進めた。これらの成
果については、年度ごとに年報として取りまとめ、出版公表した。
以上の結果、中期目標を達成した。
101
5.原子力の研究、開発及び利用に係る共通的科学技術基盤の高度化
(1)原子力基礎工学
【中期目標】
我が国の原子力の研究、開発及び利用の基盤を形成し、新たな原子力利用技術を創
出するため、以下の分野において基礎的研究を実施する。
核工学、炉工学、材料工学、核燃料・核化学工学、環境工学、放射線防護、放射線工
学、シミュレーション工学、高速増殖炉サイクル工学研究
【中期計画】
我が国の原子力研究開発の基盤を形成し、新たな原子力利用技術を創出するため、以
下の原子力基礎工学研究を実施する。なお、実施に当たっては外部資金の獲得に努め
る。
≪中期実績≫
○ 原子力基礎工学研究では、原子力研究開発の基盤を形成し、新たな原子力利
用技術を創出するとの方針の下に、共通的科学技術の基盤となるデータベースや
計算コード等の技術体系の整備を実施するとともに、その基盤に立脚した新たな
原子力利用技術の創出、産学官及び機構内との連携を推進した。
○ 原子力研究開発の基盤形成においては、研究成果の学会及び学術誌への発表
を促すとともに、優れた成果については学協会賞等への推薦を行い、研究者のモ
チベーション向上や若手研究者の育成に組織的に取り組んだ。その結果、日本原
子力学会賞で特賞を含む 14 件の受賞をはじめ 43 件の学会賞等を受賞し、学協
会から高い評価を得る基礎基盤的研究成果を創出できた。そのうち、若手研究者
を対象とする賞は 8 件あり、また、平成 22 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰
若手科学者賞受賞(平成 22 年 4 月)など、若手研究者の育成にも成果を挙げた。
○ データベース構築や分析手法の開発等では、国際協力研究等の展開により機
構の高い技術を開発段階から国際的に認知させる活動に取り組んだことで、多大
な国際貢献に結実した。機構の開発した放射性核種データベースは、国際放射線
防護委員会(ICRP)と米国核医学会の推奨データとして採用され、すでに、国際標
準データとして世界各国で利用され始め、IAEA 等の国際機関でも利用の準備が
進められている。また、機構の開発した特殊目的評価済み核データライブラリー
JENDL 高エネルギーファイル(JENDL/HE-2007)のうち 45 核種が、IAEA の核
融合用核データライブラリー(FENDL-3)に採用され、日本海人工放射性核種デ
ータベース JASPER は、世界最大の海洋放射能データベース IAEA-MARIS に
登録されるなど、IAEA の国際データベース構築活動に貢献した。これらは、その
高い精度やデータの貴重さが事前の広報活動で認められた結果である。さらに、
保障措置分析法として開発したウラン微粒子分析法(フィッショントラック-表面電離
型質量分析法(FT-TIMS))は、IAEA の保障措置分析技術として認証され、世界
102
の未申告活動の検知に活用されており、緊急時環境線量情報予測システム(世界
版)第 2 版 WSPEEDI-II は、IAEA の国際緊急時ネットワーク RANET に日本の
支援機能として国が登録手続きを進めるなど、国際機関の活動に大きく貢献した。
○ 新たな原子力利用技術の創出と産学官との連携では、主たる応用先を原子力エ
ネルギーとしつつも、広い科学技術分野との協同を意識させるため、主要な成果に
ついては、プレス発表、開発成果の展示会等への出展等を研究員に促し、成果の
広報に組織的に取り組んだ。また、原子力エネルギー基盤連携センターの仕組み
を活用して、産業界と合同で 6 つの特別研究グループ(次世代再処理材料、軽水
炉熱流動技術、超高感度 U・Pu 非破壊検査技術、ガラス固化技術、等の 6 分野)
を立ち上げ、産業界のニーズに即応する体制を整えた。さらに、連携研究の実施
に当たっては、真に実効性のある連携を展開するため、外部資金の共同獲得を基
本方針として定め、競争的資金への応募を促進した。
その結果、機構の開発した超高純度ステンレス合金、高速度中性子ラジオグラ
フィ、エマルションフロー液液抽出装置が、各々、大規模製造技術の共同開発に
成功、自動車エンジン燃焼の高効率化研究の支援開始、環境企業等 3 社とのライ
センス契約に至り、産業界との連携で大きな進展を遂げた。エマルションフロー液
液抽出装置は、国が推進する特許流通事業である平成 21 年度「特許ビジネス市」
でも、特に優秀な特許として認定されている。
産学官連携の新たな仕組みとして、8 大学及び電力中央研究所と協力して設立
した「日本アクチノイドネットワーク」を母体(事務局:東北大学)に、文部科学省から
の原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ受託研究「広域連携ホットラボ利用に
よるアクチノイド研究」を開始し、国内のアクチノイド研究について人的・知的交流、
施設供用による有機的な連携を強化した。
産業界との共同研究 61 件、大学との共同研究 185 件を実施し、連携を促進し
た。
○ 機構内連携については、原子力基礎工学研究は、原子力基盤として機構内の
様々な活動に貢献しており、核不拡散支援活動の平成 19 年度 S 評価のうちの
CTBT 監視施設の整備運用及び保障措置技術開発、産学官の連携による研究開
発の平成 20 年度 S 評価のうちの原子力エネルギー基盤連携センターの運用など、
他の分野でも S 評価を受ける実績の一翼を担った。また、原子力基礎工学研究部
門が次世代原子力システム研究開発部門と連携して、高速増殖炉(FBR)用直管
型蒸気発生器の沸騰伝熱試験、マイナーアクチノイド(MA)の分離技術開発、原子
炉材料の照射効果評価等を実施し、プロジェクト推進に不可欠な要素技術の開発
で貢献した。さらに、平成 20 年度末に、両部門の炉物理関連のグループを統合し、
研究協力に加えて人事交流も積極的に行うことで、基盤研究からプロジェクトへの
支援の推進を強化した。原子力基礎工学研究部門と核燃料サイクル技術開発部
103
門及び核燃料サイクル工学研究所等が連携して、日本原燃(株)とともに原子力エ
ネルギー基盤連携センターに特別グループを設置することでガラス固化事業の喫
緊の課題に取り組むなど、機構内で連携して産業界等のニーズに即応する新たな
体制づくりも行った。
○ 研究の実施に当たっては積極的に外部資金を獲得し、受託研究 123 件、
13,071,299 千円、科学研究費 97 件、239,694 千円であった(他部門・拠点との連
携を含む。)。受託研究のうち、文部科学省、経済産業省原子力安全・保安院(保
安院)等の国からの受託事業は 100 件あり、国の施策に技術的に貢献した。また、
産業界からの受託研究は、23 件実施した。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め機構の外部評価委員会として設置している、原子力基礎工学研究・評価委員会
等において、研究開発の進捗確認を受け、各分野において、中期計画を高いレベ
ルで達成しているとの評価を得ている。また、個別の成果やマネジメントについて
「JENDL-4 や JASPER 等の国際的な利用に供されるデータベースを作成・提供
するとともに、産業界との連携を強化して新技術の開発・展開に努めて成果を挙げ
ていることを高く評価する。研究の方向性はクリアーで、適確なビジョンに基づき研
究を実施している。積極的に国際的な展開を図りつつ、国内においても開かれた
姿勢の下に、原子力界のみならず広く社会に貢献する成果を発信するなど、限ら
れた研究要員の中で若手の活力を引き出し、能力を発揮させている本部門のマネ
ジメントも高く評価できる。」との所見のほか、耐震性評価用仮想振動台の構築とマ
ルチスケーリングモデル手法の確立で日本の原子力プラントの高度化を進めるた
めの基礎を構築した点などが高く評価された。
○ 査読付き論文総数は 827 報。特許出願数は 91 件であり、実施許諾契約は 3 件
(関連特許 11 件を含む。)であった。また、プレス発表は 20 件であり、取材によるプ
レス記事等は 8 件であった。
1)核工学研究
【中期計画】
大規模モックアップ臨界試験を必要としない先進的な核設計技術の確立を目指し、高
精度炉物理解析コードシステム及び核設計誤差評価システムを開発する。
核計算の信頼性向上のため、燃料の高燃焼度化に伴い、従来よりも重要性が増す FP
核種や MA 核種を中心とした核データの評価により、誤差データの充実した汎用評価済み
核データライブラリーJENDL-4 を完成させる。
≪中期実績≫
○ 大規模モックアップ臨界試験を必要としない先進的な核設計技術の開発では、
104
核熱結合計算機能、炉心燃焼計算機能、複雑集合体計算機能を有する核設計コ
ード MOSRA を開発し、既存のモンテカルロコード MVP と連携して、多様な革新
的原子炉の核設計が可能な高精度炉物理解析システムを構築した。また、大規模
モックアップ試験無しで核設計計算精度を評価する技術体系を構築し、核設計誤
差評価システムを開発した。同システムで使用する革新炉に関する炉物理データ
を、高速炉臨界実験装置(FCA)を用いて取得した。
○ 汎用評価済み核データライブラリーJENDL-4 の完成に向けた開発・整備では、
断面積測定データが少ない核分裂生成物(FP)核種やマイナーアクチノイド(MA)
核種に対して、理論解析を系統的に行う核反応モデル計算コード(CCONE)を世
界に先駆けて開発することで、高精度のデータ評価を進めた。CCONE や最新の
知見を用いて汎用評価済み核データライブラリーJENDL-3.3(平成 14 年構築)の
全面的な見直しとデータ追加及び誤差評価を進め、収納核種数が世界最大の
JENDL-4 (FP 核種:約 220 核種、アクチノイド核種:79 核種、その他軽核・中重
核約 100 核種、誤差データ:95 核種)を完成させた。JENDL-4 は開発の過程にお
いても利用者への利便を考慮しており、産業界、大学等の要請に基づき、その一
部 (79 核 種 : U 、 Pu 、 MA 等 ) を JENDL ア ク チ ノ イ ド フ ァ イ ル 2008
(JENDL/AC-2008)として平成 20 年度に先行公開した。また、エネルギー範囲
20MeV~3GeV までの高エネルギーファイル(JENDL/HE-2007)を特殊目的デ
ータファイルとしてまとめ、ユーザーの利用に供してきた。
○ 次世代原子力システム研究開発部門と原子力基礎工学研究部門の炉物理研究
について、平成 20 年度末に両部門の炉物理関連のグループを統合し、研究協力
に加えて人事交流も積極的に行うことで、基盤研究からプロジェクトへの支援の推
進を強化した。
○
CCONE の 開 発 、 評 価 計 算 に 用 い る パ ラ メ ー タ の 系 統 性 研 究 、
JENDL/AC-2008、核設計誤差評価システムの開発などで、日本原子力学会賞
特賞・技術賞、奨励賞など 5 件を受賞し、学会から高い評価を得た。
○ JENDL-4 は 産 業 界 や 大 学 の ニ ー ズ を 反 映 し つ つ 開 発 し て お り 、 さ ら に
JENDL/HE-2007 の核データ等は国際的にも高く評価され、IAEA の核融合用
核データファイル FENDL-3 に反映されることとなった(starter ファイル(88 核種)
において、45 核種採用。)。
2)炉工学研究
【中期計画】
大規模熱流動実験を必要としない高精度かつ低コストの炉心熱設計手法の実現を目指
105
し、炉心内沸騰二相流に対する機構論的解析手法の開発に目途をつける。また、中性子
ラジオグラフィ法、光ファイバー等を用いた 3 次元熱流動計測技術を開発し、解析手法検
証用実験データを取得する。さらに、将来の原子力システムの熱工学的成立性を評価する
ために必要な熱データベースを取得する。
≪中期実績≫
○ 炉心内沸騰二相流に対する機構論的解析手法の開発では、燃料集合体内の複
雑な二相流現象を予測できるように 3 次元二相流解析コード ACE-3D を改良した。
改良した ACE-3D コードの予測性能を、稠密燃料集合体に関する熱特性試験等
で取得した実験データを用いて検証した。一連の結果から、ACE-3D を中核として
炉心内沸騰二相流を機構論的に解析できる目途をつけた。
3 次元熱流動計測技術の開発では、中性子ラジオグラフィ法や光ファイバー等
を用いた計測技術を開発し、稠密燃料集合体内ボイド率分布データ、蒸気水二相
流の詳細 3 次元熱流動分布等、解析手法検証用データを取得した。
将来の原子力システムの熱工学的成立性評価用熱データベースでは、原子力
基礎工学研究部門と次世代原子力システム研究開発部門が連携し、高速増殖炉
サイクル実用化研究開発における課題の 1 つであった直管型蒸気発生器伝熱管
の熱設計に対する妥当性評価に必要な高圧二層流の熱データベースを構築し
た。
○ 機構論的解析手法に関連した一連の成果に対して、日本原子力学会論文賞 2
件を受賞し、学会から高い評価を得た。
○ 開発した 3 次元熱流動計測技術を、自動車メーカーが注目し、CO 2 削減に取組
むためのエンジン内高速度可視化技術として採用(プレス発表、平成 20 年 11 月)
し、自動車メーカーによる低燃費車開発に活用されている。
3)材料工学研究
【中期計画】
水冷却の原子力システムで使用される炉心材料の経年劣化型現象を支配する照射下
の水-材料界面反応の機構を解明し、材料の使用限界を評価するとともに、耐照射性材料
の開発を進める。
原子炉材料の照射誘起応力腐食割れ(IASCC)機構の解明に必要な照射材の基礎的な
材料挙動に関する知見を取得するとともに、原子力用ステンレス鋼の応力腐食割れ(SCC)
の支配因子を探索する。
各種原子力材料の照射挙動のデータの取得及び評価を行い、機器の健全性評価等に
有効な微細組織変化や延性破壊に係る照射挙動シミュレーションコード開発の見通しを得
る。
再処理施設用材料の高度化のために、放射線場の硝酸溶液中の腐食や環境割れの予
測技術、監視技術及び防食技術の高性能化を図る。
106
≪中期実績≫
○ 水冷却の原子力システムで使用される炉心材料の経年劣化型現象を支配する
照射下の水-材料界面反応の機構を、軽水炉模擬照射環境下でのステンレス鋼の
隙間腐食試験データから解明するとともに、腐食モデルを提示し、材料の使用限
界を評価した。
また、耐照射性材料として超高純度(EHP)合金の開発を進め、JRR-3 にて照射
した試験材を用いた炉外試験において、その性能が良好であることを実証した。
○ 原子炉材料の照射誘起応力腐食割れ(IASCC)機構の研究では、日本原子力発
電(株)との共同研究により、JMTR において国内で初めて照射下 IASCC き裂進
展 デ ー タ を取 得 す る と と も に、 原 子 力 安 全 基 盤 機 構 (JNES) からの 受 託 事 業
「BWR 型原子力発電所の IASCC 評価研究」において、照射後試験により JMTR
照射材の応力腐食割れ(SCC)き裂進展データを取得・解析するなど、材料挙動に
関する知見を取得した。これらのデータは、JNES の IASCC 評価ガイド作成に反
映された。
また、原子力用ステンレス鋼の SCC の支配因子について、原子炉内で水の放
射線分解により生成する過酸化水素が SCC 及び腐食に与える影響を評価する実
験手法を確立し、その成果に基づき保安院から高経年化対策基盤整備事業「応
力腐食割れ評価手法の高度化に関する調査研究」を受託し、SCC 進展挙動に与
える水質因子の影響等を評価した。
○ 高クロム鋼、オーステナイト鋼、セラミック等の各種原子力材料の中性子及びイオ
ン照射挙動のデータを取得し、引張、破壊特性等の巨視的な挙動評価等から、炉
内の高照射機器の健全性評価等に有効な微細組織変化や延性破壊に係る照射
挙動シミュレーションコード開発の見通しを得た。
○ 再処理施設用材料の高度化のために、放射線場の硝酸溶液中の腐食の予測技
術として、気液平衡計算を活用した腐食予測モデルを開発するとともに、ステンレ
ス鋼の腐食機構を解明し、寿命評価手法を確立した。また、ジルコニウム、チタン
に対する環境割れの予測技術の高度化を進めるとともに、電気防食法の適用によ
る腐食監視技術及び防食技術の高性能化を図った。
○ 腐食や防食に関する実験・予測研究に対して、表面技術協会論文賞、日本原子
力学会賞技術賞、日本放射線化学会学術賞など 7 件の学協会賞を受賞し、学協
会から高い評価を得た。
○ (株)神戸製鋼所と共同で、原子力用の画期的な「オーステナイト系超高純度(登
録商標:Extra High Purity)ステンレス合金(EHP 合金)」の 0.5 トン規模の製造技
107
術を世界で初めて確立した(プレス発表、平成 20 年 12 月)。EHP ステンレス鋼で
は、日本溶接協会から、オーステナイト系合金として初めて、溶接材料に母材と同
一材を用いる「共材溶接」の指針が出されるなど、今後、原子力のみならず産業界
での幅広い利用が期待できる。
4)核燃料・核化学工学研究
【中期計画】
湿式再処理の技術基盤を強化することを目的に、湿式プロセスにおけるアクチノイド元
素等の挙動データを取得・整備する。ウラン前段高除染分離、アクチノイド一括分離、
MA/Ln 分離等に適した新規抽出剤を開発し、物性データを取得して溶媒抽出挙動を評価
するとともに、アクチノイドの効率的分離のための新しい分離手法の基盤データを取得す
る。
高プルトニウム富化 MOX 燃料の照射挙動評価に必要な熱的及び機械的物性を測定す
る。
≪中期実績≫
○ 湿式再処理の技術基盤を強化することを目的に、湿式再処理プロセスにおける
アクチノイド元素、核分裂生成物元素の化学的挙動データを取得・整備し、「再処
理プロセス・化学ハンドブック第 2 版」を公刊した。
MOX 燃料再処理プロセス構築に柔軟に対応できる、ウランを再処理の前段で
高除染に分離できるモノアミド抽出剤、アクチノイドを一括分離する高性能なジグリ
コールアミド抽出剤及びマイナーアクチノイド/ランタニド(MA/Ln)分 離 用 に
TPEN 抽出剤を開発し、それぞれ物性データを取得して溶媒抽出挙動を評価し
た。
アクチノイドの効率的分離のための新しい分離手法として、文部科学省からの原
子力システム研究開発事業受託研究「高選択・制御性沈殿剤による高度化沈殿法
再処理システムの開発」において、使用済燃料溶解液を用いた沈殿法による
U-Pu 分離試験を実施し、分離プロセス成立性評価に不可欠な Pu の沈殿挙動に
関する基盤データを取得した。
○ 高プルトニウム富化 MOX 燃料の照射挙動評価に必要な熱的及び機械的物性
の研究では、高 Pu 富化 MOX 燃料の熱的及び機械的物性を測定・評価するとと
もに、取扱いが極めて困難な Pu 及び MA の実験試料を自ら調製し、特定の燃料
組成にとらわれることなく、幅広く Pu 及び MA 化合物の物性を測定・評価した。
○ 我が国のアクチノイド研究の推進のために、魅力ある研究環境の整備、若手研究
員の人材育成、研究のより一層の活性化を目指して、8 大学及び電力中央研究所
と協力して「日本アクチノイドネットワーク(J-ACTINET)」を設立するとともに、それ
を母体に、文部科学省からの原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ受託研究
108
「広域連携ホットラボ利用によるアクチノイド研究」において、5 つの大学と連携して、
人的・知的交流、実験試料供給等による有機的な連携を強化した。また、アクチノ
イド基礎科学とその応用分野に関する人材の育成を目的とした「J-ACTINET サ
マースクール」を日本アクチノイドネットワーク及び東北大学と共催するなど、アクチ
ノイド研究に新たな展開をもたらし、我が国の核燃料サイクル技術の基盤形成に大
いに貢献した。
○ 文部科学省からの原子力システム研究開発事業受託研究「MA リサイクルのため
の燃料挙動評価に関する共通基盤技術開発」等の実施に当たっては、次世代原
子力システム研究開発部門、先端基礎研究センター、システム計算科学センター、
安全研究センター、大洗研究開発センター燃料材料試験部、核燃料サイクル工学
研究所プルトニウム燃料技術開発センター等の機構内の関連部署と幅広く連携し
た。
5)環境工学研究
【中期計画】
放射性物質等の環境負荷物質の動態を解明するために、包括的予測モデル・システム
を構築する。また、加速器質量分析法等による環境試料中極微量核種分析を行い、日本
海物質循環予測モデルを開発する。さらに、10-12 ~10-15g領域極微量核物質同位体比測
定法、ウラン含有微粒子(直径 1μm以下)検出法等を開発する。
≪中期実績≫
○ 放射性物質等の環境負荷物質の動態研究では、大気・陸域・海洋における包括
的物質動態予測モデル・システムを構築し、東海地区に適用してその性能評価を
行うことにより、包括的物質動態予測モデル・システムの基本版を完成した。システ
ムを構成する大気拡散モデルの部分利用では、世界トップクラスの予測性能をも
つ WSPEEDI-II を完成した。
加速器質量分析装置を利用した14Cと 129Iの極微量同位体比分析法を開発し、
森林・河川・海洋における重要な物質移行プロセスの解析・推定に適用した。特に
森林炭素循環研究では、土壌有機物中の14C同位体比に着目した貯留時間別の
炭素量評価から、地球温暖化により比較的長い貯留時間を持つ土壌有機物から
のCO 2 放出が促進される可能性を見出し、地球気候変動関連の学術誌「Global
Change Biology」誌(IF:4.8)に掲載された。
日本海海洋調査の観測・分析データを解析して、JASPER を作成し、これを検
証用データとして海洋中物質吸脱着モデルと海水循環モデルを結合した日本海
物質循環予測モデルを完成した。
極微量核物質分析法の研究では、保障措置環境試料のバルク分析について、
ウランでは 10-12g領域、プルトニウムでは 10-15g領域の同位体比測定法を開発した。
「フィッショントラック-表面電離型質量分析法(FT-TIMS)」について、微粒子の同
109
位体比測定を最適化することにより、1μm以下のウラン含有微粒子の検出を可能
とした。
○ WSPEEDI-II の日本原子力学会賞技術賞、JASPAR の日本原子力学会賞貢
献賞をはじめ、7 件の学会賞を受賞し、学会から高い評価を得た。
○ FT-TIMS は、平成 19 年に IAEA の保障措置分析技術として認証され、世界の
未申告活動の検知に活用されており、WSPEEDI-II は、IAEA の国際緊急時ネッ
トワーク RANET に日本の支援機能として登録手続きが進められている。また、
JASPER は、ロシアの排他的経済水域内における最近の放射能データを含んだ
世界唯一のデータとして、世界最大の海洋放射能データベース IAEA-MARIS に
登録されるなど、国際機関の活動に大きく貢献した。
○ 森林炭素循環研究の成果は、プレス発表(平成 20 年 10 月)により、NHK ニュー
スで放映、朝日、毎日新聞、雑誌「子供の科学」等で掲載されるなど、大きな反響
があった。また、平成 21 年 5 月の北朝鮮核実験時の WSPEEDI-II による国の緊
急時モニタリング支援も、文部科学省からプレス発表され、同省のホームページで
予測結果が開示されるなど、機構の社会貢献の広報に貢献した。
6)放射線防護研究
【中期計画】
小動物の中性子線量データを人体に外挿する手法、臨界事故時線量計算システム及
び国際放射線防護委員会(ICRP)が提案する最新モデルに基づく線量評価法を開発し、線
量評価法の信頼性を向上させる。また、放射線管理技術開発として、単色中性子校正場
の確立をはじめ、多様な被ばく形態に対応した放射線校正技術及び放射線計測技術の開
発を行う。
≪中期実績≫
○ 小動物の中性子線量データを人体に外挿する手法として、様々な中性子照射条
件の下で、マウスと人体の臓器線量を解析・外挿するシステム DOSE-Analyzer を
開発した。
臨界事故時に体内で生成される 24Na量に基づいて線量評価を可能とする臨界
事故時迅速線量計算システムRADAPAS及び臨界事故時詳細線量計算システム
RADARACを開発し、臨界事故時線量計算システムを完成させた。
ICRP の 2007 年基本勧告に基づき、線量評価用放射性核種データベース、中
性子、陽子及び 4 種類の重イオンに対する外部被ばく線量換算係数、内部被ばく
線量計算のための積分放射能計算法を開発し、線量評価法の信頼性を向上させ
た。
110
○ 放射線管理技術開発については、国内最多の全 10 エネルギー点の単色中性
子校正場及び高エネルギーの準単色中性子場の構築、並びに、それぞれのフル
エンス測定評価技術及び校正技術の確立を行った。また、多様な放射能測定試
料に対応した校正技術として、体積標準線源を用いない Ge 検出器の新しい効率
校正法の開発を行った。
核燃料サイクル施設の多様な被ばく形態に対応した放射線管理技術の開発とし
て主に以下の成果を得た。
中性子による被ばく線量評価精度の向上を目的に、プルトニウム取扱施設及び
原子炉施設の作業現場の中性子スペクトルを考慮した減速中性子校正場の整備
を進めた。
中性子とガンマ線に対して応答する新型臨界警報装置を開発し、臨界事故模
擬条件(パルス放射線場)での作動試験を経て、東海再処理施設の臨界警報装置
の更新において採用され、平成 21 年 9 月から供用を開始した。
プルトニウム分析測定の高度化を目的に、九州大学との共同研究(先行基礎工
学研究)によりプルトニウムの特性X線(LX線)測定用の超伝導相転移端(TES)型マ
イクロカロリーメータの開発を行い、 238Pu、 239Pu及び241AmのLX線(10~20keV)
を従来の半導体検出器よりも優れた分解能(半値幅:従来の約 250eVを約 50eV)
で測定することに成功した。
東海再処理施設からの 14Cの大気放出データ、施設周辺の大気中及び精米中
14Cデータを用いて環境評価モデルの国際比較(IAEA主催の環境モデリングプロ
グラム;EMRAS)に参画し、14Cの環境中移行モデル検証手法を構築した。
○ 臨界事故時迅速線量計算システムは、日本原子力学会賞技術賞、日本保健物
理学会論文賞を受賞し、高い評価を得た。
○ 臨界事故時線量計算システム(RADAPAS、RADARAC)は、国の緊急被ばく医
療ネットワーク会議に提供され、放射線事故時の医療処置のための線量評価に利
用されている。
○ 機構の開発した線量評価用放射性核種データベースについては、その高い精
度が認められて、ICRP と米国核医学会で採用され、ICRP Pub.107 (Nuclear
Decay data for Dosimetric Calculations)及び MIRD データベース第 2 版とし
て出版された。また、外部被ばく線量換算係数及び体格や姿勢が被ばく線量に及
ぼ す 影 響 の 研 究 成 果 も 、 ICRP が ICRP Pub.110 (Adult Reference
Computational Phantoms)として出版した。これらの出版物は、今後、放射線防
護及び核医学の分野で、世界標準データとして国際安全基準や世界各国の法令
等で広く利用される。ICRP Pub.107 のデータはすべて機構から提供しているが、
日本のデータベースのみで構成された ICRP 出版物はこれが初めてである。
111
7)放射線工学研究
【中期計画】
遮蔽基礎データを取得し、遮蔽設計法及び放射線挙動解析手法を開発する。
放射性廃棄物の資源化を目指して、放射性核種を線源とする放射線触媒反応による有
害物質の無害化技術等を探索する。
≪中期実績≫
○ 遮蔽設計法及び放射線挙動解析手法の開発では、大阪大学核物理研究センタ
ー、米国フェルミ国立加速器研究所等において遮蔽基礎データを取得し、粒子・
重イオン輸送計算プログラム PHITS にこれらに基づく改良を加えることで、遮蔽設
計法及び放射線挙動解析手法を開発した。また、大気中の任意地点における宇
宙線被ばく線量計算プログラム EXPACS を開発した。さらに、熱エネルギーから
1GeV の中性子、光子、及びミューオンによる被ばく線量を同時に測定できる放射
線モニタリング・システム DARWIN を開発し、原子力施設、加速器、高々度といっ
た多様な環境における線量測定技術を確立した。
○ 放射性廃棄物の資源化研究として、放射線照射と固体酸化物の添加による放射
線触媒反応に基づく、六価クロム(Cr(Ⅵ))を無害化する処理技術、及び水素ガス
を製造する技術を開発するとともに、放射性廃棄物の線源としての利用可能性を
検討した。また、新発想に基づく簡便・低コスト型の抽出装置「エマルションフロー
液液抽出装置」を開発し、人形峠環境技術センターにおけるウラン濃縮遠心分離
機の除染廃液からのウラン分離・回収、工場廃液からの有価物・有害物の回収・除
去等に適用した。
○ DARWIN は、日本原子力学会賞技術賞に加えて、平成 18~20 年度に実施し
た文部科学省からの原子力システム研究開発事業若手対象型研究開発受託研
究「多粒子対応型高性能次世代放射線モニタの開発」の事後評価において、独創
性及び実用性が高い成果として総合評価 S を得た。
○ これまで行ってきた EXPACS などの高エネルギー放射線の挙動解析研究の成
果は、「高エネルギー放射線被ばく影響評価に関する統合的研究」として、平成 22
年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞(平成 22 年 4 月)す
るなど、特に高い評価を得た。
○ EXPACS は、放射線医学総合研究所の航空機搭乗員被ばく線量計算システム
JISCARD-EX に利用された。このシステムは、国が定めたガイドラインに沿った我
が国の航空機乗務員の宇宙線被ばく線量(5mSv/年)の管理に、平成 20 年度に導
112
入され、利用されている。
○ エマルションフロー液液抽出装置は、関連する特許がメッキ会社等の 3 社に実施
許諾され、産業利用が進められている。この装置は、平成 21 年度「特許ビジネス
市」で特に優秀な特許として認定され、環境関連の特許を中心に開催された琵琶
湖特許市で単年度売上予測(平均額)とライセンス希望数でトップとなるなど、高い
評価を得ており、今後、産業界に大きな貢献が期待できる。
8)シミュレーション工学研究
【中期計画】
グリッド技術による並列分散計算技術を開発し、原子力施設の耐震性評価用仮想振動
台を構築する。原子炉材料のき裂進展、核燃料の細粒化現象の機構解明や、原子力分野
におけるナノデバイスの開発に貢献するため、ミクロからマクロに至る計算手法を統合した
マルチスケーリングモデル手法を構築する。低線量放射線影響の解明に貢献するため、IT
を活用したゲノム情報解析用データベースを構築し、DNA 修復タンパク質の機能を解明す
るとともに、DNA 損傷・修復シミュレーションの高度化を進める。さらに、超高速ネットワーク
コンピューティングに関する技術開発と次世代ハードウェア技術による専用シミュレータ基
盤技術の開発を行い、超高速コンピューティングニーズに効率的に対応できるシステムを
構築する。
≪中期実績≫
○ グリッド技術を活用した原子力施設の耐震性評価用仮想振動台の構築について
は、巨大施設を部品単位で集積し解析できる組立構造物解析手法を確立するとと
もに、膨大な部品間をまたがる振動伝播モデルを考案し、グリッド環境上に耐震性
評価用仮想振動台を構築して、高温工学試験研究炉(HTTR)全体の耐震性解析
(弾性解析による地震応答解析)に成功した。加えて、HTTR の一次冷却系機器を
対象に、解析結果と計測データとを比較し、解析結果の妥当性を確認した。
また、仮想振動台の先駆的な大規模計算や解析技術開発と実用レベルの検証
結 果 が 評 価 さ れ 、 計 算 科 学 分 野 で 世 界 最 大 級 の 国 際 会 議 SC (The
International Conference for High Performance Computing, Networking,
Storage and Analysis)における受賞 3 件(SC05、SC07、SC08)を含め、国内外
で 13 件の賞を受賞した。さらに、文部科学省「次世代スーパーコンピュータ計画」
の「グリッドミドル利活用技術の研究開発」及び「戦略プログラム」に採用されたほか、
原子力安全委員会「原子力の重点安全研究計画」に採用されるなど国の施策に
貢献している。
マルチスケーリングモデル手法の構築については、以下の 3 つのテーマに貢献
することを目指して研究開発を行った。
原子炉材料き裂進展に対しては、第一原理計算(ミクロシミュレーション)で得られ
たデータをマクロシミュレーションに反映する手法を開発し、従来困難とされた破壊
113
強度実験との比較検討を可能とした。これによりミクロスケールシミュレーションにお
いて粒界での不純物による脆化及び強化効果について定量的な知見を得た。
核燃料細粒化についてもマルチスケールシミュレーション手法を開発し、メゾレ
ベルのシミュレーションによる粒界バブル形成及び転位理論による亜結晶粒形成
を再現することに初めて成功した。
原子力デバイス開発では、超伝導中性子検出器のマルチスケールシミュレーシ
ョン手法を開発し、高精度予測によって実験条件を絞り込むことで、短期間で世界
一高速な中性子検出器(従来品に比べ 3 桁以上も高速で動作)の開発を成功に導
いた。
マルチスケールシミュレーションに関する成果は、計算機の性能を極限まで引き
出した並列化技術等が評価され、高性能計算分野において最も権威ある賞の一
つであるゴードンベル賞のファイナリスト 2 年連続受賞(2005 年、2006 年)を含め、
国内外で 3 件の賞を受賞した。
IT を活用したゲノム情報解析用データベースとして、DNA 修復関連タンパク質
の遺伝情報、立体構造情報及び放射線種線量情報を収録するデータベースを構
築し、様々な放射線に応答する DNA 修復タンパク質を検索可能にした。さらに
DNA 損傷の修復シミュレーションの大規模化、高速化を行い、ゲノム情報解析用
データベースとの連携により、修復タンパク質の DNA 損傷部位の認識過程を原
子・分子のダイナミクスとして捉えることに成功した。また、名古屋大学との連携によ
り、DNA 補修酵素の要となるアミノ酸を世界で初めて発見した。これは「DNA 補修
にアミノ酸は関与しない」という従来の定説に大きな修正を加える成果であった。
DNA 損傷・修復シミュレーションの高度化では、任意の荷電粒子による DNA 損
傷過程を計算できるプログラム TRACION を開発し、線質と DNA 損傷の質・量と
の関係を解析した。また、クラスター損傷による DNA 構造変化に関するシミュレー
ションを数種の損傷条件で行い、損傷の修復困難さと DNA 立体構造の変化との
関係を解析した。
超高速コンピューティングニーズへの効率的対応については、直近のニーズへ
の対応として、機構の計算資源の不足を補うため、機構外連携や国際協力の下、
グリッド計算機環境を整備し、機構外の計算資源を活用できるシステムを整備・維
持してきた。また、平成 21 年度には機構のスーパーコンピュータを更新し、
214TFLOPS(運用開始時点で国内 1 位)の計算資源を整備した。これに加え、セ
キュリティ機能の二重化や通信速度の高速化といったネットワークコンピューティン
グ技術を開発し、計算資源を遠隔地から安全かつ高速に利用できる環境を整備す
ることにより、超高速コンピューティングニーズに効率的に対応できる計算機システ
ム・ネットワークシステムを構築した。一方、将来のコンピューティングニーズに対応
114
し得る専用シミュレータ基盤技術開発としては、新しいハードウェア技術を用いて、
核融合プラズマ安定解析シミュレータの基本電子回路設計・試作及び流体解析専
用シミュレータの演算速度と消費電力の予測評価を行い、実験支援・運転支援・医
療等の現場におけるニーズに貢献できる可能性を確認した。
○ 本項目については、平成 18 年度に、「関西地区スーパーコンピュータの調達仕
様書を作成し、入札手続きを実施する。」とした年度計画を掲げたが、調達仕様書
の作成は完了したものの、機構全体の業務を総合的に判断し、合理化の一環とし
てスーパーコンピュータの更新は中止した。その代替措置として、平成 19 年度に
関西地区への PC クラスター計算機を導入するとともに同地区の利用者が東海地
区スーパーコンピュータを円滑に利用できるように、関西-東海地区間のネットワー
ク回線の増強を実施したことで中期計画への影響を回避した。
9)高速増殖炉サイクル工学研究
【中期計画】
高速増殖炉サイクル技術の研究開発の多面的な可能性を探索し、またこの活動を支え
る共通技術基盤を形成する研究開発を行う。
設計手法の高度化につながる解析コードの開発、物理・化学現象をより詳細に把握する
ため試験研究を行い、それらの成果のデータベース化、評価手法や技術基準の整備等を
着実に進める。
また、ピーク燃焼度 25 万 MWd/t 程度(炉心平均燃焼度で 15 万 MWd/t 程度に相当)
の高燃焼度燃料の開発を目指し、燃料材料、マイナー・アクチニド含有燃料等の高速中性
子による基礎照射データの取得を進める。
≪中期実績≫
○ 高速増殖炉サイクル技術の研究開発の多面的な可能性を探索し、また、この活
動を支える共通技術基盤を形成する研究開発として、基盤技術開発での構造分
野において、高温構造評価と耐震免振評価の両者の共通基盤となる構造強度の
解析法を進め、その主要課題である非弾性挙動予測について非弾性解析に基づ
く予測評価手法案を取りまとめた。また、材料分野において、炉容器構造物等の統
一的損傷評価指標の確立や提案指標に基づく損傷監視技術の開発のため、候補
材料の溶接継手材の磁気測定を実施することで磁気特性の変化の評価等を着実
に進めた。
○ 設計手法の高度化につながる解析コードの開発、物理・化学現象をより詳細に把
握するため試験研究として、次世代炉心解析システムの開発の第一フェーズを完
了し、高速実験炉「常陽」等の炉心を対象として検証を行うことで、それらの成果の
データベース化や二階層フレームワーク等の評価手法や技術基準の整備等を着
実に進めた。
115
○ ピーク燃焼度 25 万 MWd/t 程度(炉心平均燃焼度で 15 万 MWd/t 程度に相当)
の高燃焼度燃料の開発を目指し、酸化物分散強化型(ODS)鋼製被覆管の「常陽」
での材料照射試験を進め、照射下クリープ試験を実施し、炉内クリープ破断データ
を取得した。また、マイナー・アクチニド含有燃料(Am3%及び 5%含有 MOX ペレッ
ト)の「常陽」を用いた照射試験を行った。照射後試験として、非破壊試験(外観、寸
法、X 線 CT 検査等)を実施するとともに照射挙動評価のための燃焼度測定・金相
観察・EPMA 等の破壊試験を着実に進めた。
○ 本項目において、平成 18 年度の「「常陽」の外部利用の促進及び原子力基盤技
術開発への対応能力の向上に向けて、照射機能の拡大と多様化の第1期計画に
係る原子炉設置変更許可を取得する。」については、原子力安全委員会による二
次審査が継続中であったことから、計画した許可取得には至らなかったが、平成
19 年度 5 月に変更許可を取得することで当初目標を達成した。
以上の結果より、中期目標を達成するとともに、産学官及び機構内との連携を推進
しつつ、共通的科学技術の基盤となる技術体系の整備や、その基盤に立脚した新た
な原子力利用技術の創出など優れた成果を挙げた。
116
(2)先端基礎研究
【中期計画】
原子力科学は、あらゆる科学・工学分野の基礎を形成するものであり、我が国における
社会基盤を支える科学技術の基礎を成すものである。そのため、将来の原子力科学の萌
芽となる未踏分野の開拓を進め、新原理、新現象の発見、新物質の創生、新技術の創出
を目指した先端基礎研究を行う。
≪中期実績≫
○ 将来の原子力科学の萌芽となる未踏分野の開拓を進め、新原理、新現象の発見、
新物質の創生、新技術の創出を目指した先端基礎研究を、超重元素核科学やア
クチノイド物質科学、極限物質制御科学、物質生命科学の 4 分野で行った。
○ 新原理の発見としては、アクチノイド物質科学の研究において、これまで謎であっ
た絶対零度近傍で起こる未知の量子相転移の原因が磁気分極によるものであるこ
とを、ウラン化合物(USn 3 )の純良単結晶の核磁気共鳴の測定で明らかにした。こ
の発見は、高温超伝導を含む超伝導機構の解明や新超伝導体設計の重要な指
針を与えるものと期待できる(アクチノイド化合物の磁性・超伝導の研究)。また、超
重元素核科学研究では、核力として 2 種類の力を取り入れることによってすべての
原子核の内部構造を説明できる新しい理論を構築した(東京大学、日本大学との
共同研究)。これにより、陽子と中性子の数が大きく異なる「不安定核」の核構造を
説明することが可能となり、宇宙で発生したさまざまな原子核が鉄などの安定な原
子核に遷移する過程など、元素生成過程の解明につながる貴重な成果を得た(極
限重原子核の殻構造と反応特性の解明)。
新現象の発見としては、極限物質制御科学の研究において、コバルト(Co)とフラ
ーレン(C 60 )からなる複合物質に巨大なトンネル磁気抵抗(TMR)効果を発見し(従
来報告されていたTMR効果が 20%前後であるのに対して、この材料では最高で
90%に達する)、放射光X線磁気円偏光二色性実験からこのTMR効果はC 60 -Co
複合物質中の電子状態に起因することを見いだし、C 60 -Co化合物とCo結晶の界
面に高スピン偏極状態が存在すること、またC 60 -Co化合物層が分極して巨大な誘
電率を持つことが原因であることを明らかにした。これは、有機分子・遷移金属系材
料のスピン輸送現象への有機分子の寄与を初めて明らかにした成果である。この
現象は、電子のスピンを活用して情報処理・伝達を行う新しいエレクトロニクス技術
に直接結び付くものでもあり、新領域「分子スピントロニクス」の構築を主導した研究
成果である(超極限環境下における固体の原子制御と新奇物質の探索)。
超重元素核科学研究では、重イオン反応によって超重核を合成するための最
適な反応エネルギーを見いだす手法として、後方準弾性散乱断面積によるクーロ
ン障壁分布測定法を世界に先駆けて確立し、これにより超重元素合成反応におけ
る核融合障壁を系統的に測定して、その高さが既存の障壁の予想値より低エネル
117
ギー側に系統的にずれていることを見いだした。また、ウラン 238Uと原子核 30Si、
31P、 34S、 40Arの核反応によって生成される核分裂片の質量分布測定から、特異
な核反応過程の存在を見いだした(極限重原子核の殻構造と反応特性の解明)。
物質生命科学の研究では、特定の微生物が水溶液中の超ウラン元素等を濃集
する性質に着目し、鉄還元菌を白金酸水溶液とパラジウム酸水溶液に添加したと
ころ、鉄還元菌の細胞表面にナノスケールの白金族粒子が生成することを見いだ
した。さらに、藻土に「微生物細胞-白金族元素ナノ粒子」を保持させて、水素
(H 2 )と重水素(D 2 )の同位体交換(H 2 +D 2 →2HD)の観測を試みたところ、白金粒
子単体を用いた場合と比較して約 6 倍の効率で同位体交換ができるなど、優れた
触媒能を有することを発見した。このナノ粒子は、従来の工学的手法によるものと
は全く異なる微生物の特性を用いたバイオ作製法であり、経済性や高純度性の観
点から幅広い応用が期待される。(刺激因子との相互作用解析による生命応答ダイ
ナミックスの解明)。
新物質の創生としては、アクチノイド物質科学の研究において、これまで多くの
アクチノイド化合物純良単結晶の作製に成功し、その物性特性を世界に先駆けて
明らかにしている。高品位プルトニウム化合物(PuIn 3 )単結晶の作製を行い、その
試料のドハース・ファン・アルフェン効果の観察に成功し、世界で初めてプルトニウ
ム化合物のフェルミ面観察に成功した。また、Np系化合物については、磁気八極
子秩序状態の存在をNpO 2 で初めて発見した。一方、これまで全く予知されていな
かったネプツニウム化合物(NpPd 5 Al 2 )が超伝導を示すことを発見した(東北大学
及び大阪大学との共同研究)。この成果は国際学会や研究論文誌で高い評価を
得ており、日本物理学会論文賞を受賞した(アクチノイド化合物の磁性・超伝導の
研究)。
新技術の創出としては、超重元素核科学研究において、フロー電解法と迅速陽
イオン交換分離法を組み合わせたフロー電解カラム装置を開発し、従来の電気化
学的手法では不可能だったノーベリウムの 2 価から 3 価への酸化電位を初めて決
定した。本手法はシングルアトムレベルでの元素の化学的挙動の観測を可能とす
るものであり、今後、超重元素の化学的研究に大きなブレークスルーを与える(核化
学的手法による超重元素の価電子状態の解明)。極限物質制御科学の研究では、
丸和電機(株)との共同研究(黎明研究の活用)で、従来固体内での同位体分離は
不可能とされていた常識を覆し、超重力場・高温状態化で113Inと115Inの同位体分
離に初めて成功した。さらにこれを発展させ、固相や液相での同位体分離を実現
するための超遠心機ロータを開発した。これは原子の沈降を利用した同位体分離
システムの構築が可能であることを示したものであり、将来的には、種々の用途に
おける同位体分離工程への利用が期待される(超極限環境下における固体の原
子制御と新奇物質の探索)。
118
また、ビーム径が世界最高レベルの 1.9 μm の陽電子マイクロビームを発生させ
ることに成功した。この陽電子マイクロビームを用いて、シリコン単結晶等の最表面
に Ag や In 等の原子で形成された最表面ミクロ超構造を観察する手法を確立する
とともに、応力腐食割れを起こしたステンレス鋼の表面に発生した亀裂先端部及び
その周縁部で原子空孔の生成量が顕著に増大することを初めて数ミクロン単位で
明らかにした。(高輝度陽電子ビームによる最表面超構造の動的過程の解明)。
放射線作用基礎過程の研究では、軟 X 線のエネルギーを選択することにより、
DNA の鎖の切断と核酸塩基であるプリン塩基とピリミジン塩基の変異という 3 種類
の DNA 損傷を異なる効率で誘発させることに成功した。これにより将来、DNA の
修復に関する医療の研究分野や、DNA をナノデバイスとして利用する産業開発の
分野において、新たな DNA 操作技術への応用が期待される。
また、短いパルス幅の放射線を照射するパルスラジオリシス法を応用して、室温
から超臨界状態にわたる高温高圧水の放射線分解挙動を、これまで計測できなか
った 60 ピコ秒から 6 ナノ秒というごく短い時間範囲(時間分解能として約 200 倍)
で観測することに成功した。これにより、高温高圧状態にある水の放射線分解の挙
動を把握することが可能となり、現行軽水炉や研究が進行中の次世代超臨界水冷
却炉の安全運転に不可欠な冷却水管理技術の開発にも寄与すると期待される(放
射線作用基礎過程の研究)。
○ 組織の運営として、センタービジョン、すなわち、①国際的レベルの真の先端基
礎研究、②機構の特徴(物的・人的資源)を生かした「原子力」に関する先端基礎研
究、③萌芽的段階の研究を一人歩きできるまでに育てる先端基礎研究、④科学技
術基本計画との照合。特にその「基本姿勢」(基礎研究の重視と応用・社会との接
点、及び人材育成)に留意、を基本方針とし、将来の原子力科学の萌芽となる先端
基礎研究を進めた。研究の進展に応じて、新規採用職員及び博士研究員や任期
付研究員など若手研究者の配置や研究予算等の研究資源を選択的に各研究テ
ーマに投入した。平成 19 年度から、アクチノイド物質科学の国際的な COE を目指
して効果的な研究を進めるために既存の 2 つのテーマ(「新規なアクチノイド化合物
の創成とエキゾチック磁性・超伝導の探索」、「f 電子多体系のスピン・軌道複合ダイ
ナミックスの解明」)を統合して「アクチノイド化合物の磁性・超伝導の研究」を発足
させるとともに、新たに「放射線作用基礎過程の研究」を開始した。また、科研費そ
の他の外部資金の獲得に努め、先端基礎研究センターの全研究員が外部資金獲
得に向けて申請書を提出するように指導を行った。その結果、695,351 千円の外
部資金(科研費:286,835 千円(130 件)、競争的資金:362,085 千円(18 件)、その
他:46,431 千円(6 件))を得た。なお、平成 18 年度以降の科研費の新規応募の採
択率はそれぞれ 27、25、15、30%であった。
○ 科学・技術等各学問分野の学会・研究者集団をステークホルダーとして意識し、
119
8 名のグループリーダー(研究テーマに対応する分野で指導的立場にあり、うち 3
名は機構外より採用)の下で、原子力に関する先端基礎研究の国際的 COE を目
指した。世界的に著名な論文誌への発表や国際会議での招待講演による世界へ
のアピールを重視し、また、外国人研究者の受入れによる国際化等を行った。今
中期目標期間中に、査読付論文 664 編を発表した(研究者 1 人当たり約 10 報)。
国際会議での招待講演数 117 件、プレス発表 15 件、受賞 14 件、特許出願 7 件
の成果を得た。さらに、先端基礎研究国際シンポジウムを 4 回開催し、各回の参加
者は 219 名(うち外国人 19 名)、137 名(うち外国人 44 名)、87 名(うち外国人 23
名)、102 名(うち外国人 29 名)であった。また、「基礎科学セミナー」を 96 回開催す
るなど国内研究者はもとより外国人研究者を含めた活発な研究交流を行った。さら
に先端基礎研究センターの活動と成果を科学・技術の広範な領域及び社会へア
ピールするため、「基礎科学ノート」を 24 号から 32 号まで発行し、国内 354 か所に
配布した。
○ インキュベータの取組として、原子力科学分野にかかわる新たな発想に基づく斬
新な研究テーマを発掘するため、機構内公募(萌芽研究)を推進するとともに、機構
発足後は機構外を対象に黎明研究テーマを公募し、外部の専門委員からなる黎
明研究評価委員会で 155 件の提案から 33 件を選定して研究を実施した。また、
人材育成については、平成 20 年 4 月から我が国初となる理学部学生を対象として、
茨城大学理学部と連携した「総合原子科学プログラム」をスタートさせた。本プログ
ラムは、先端基礎研究センター研究員が中心となり講義、実習、卒論研究指導等
を行うものであり、平成 21 年 4 月から全学年ですべてのカリキュラム(全 8 科目)を
スタートさせた。さらに、特別研究生や学生実習生の受入れ、連携大学院教授等
への派遣を行い、学生・院生の教育や学位取得等の指導を行っている。博士研究
員については、受入期間終了後の行く先をも考慮し、視野を広く持つように指導し
ている。具体的には機構発足後に任期を満了した博士研究員 30 名の就職先は、
機構職員 5 名と大学等 9 名、民間 2 名、機構内・外の任期制研究員 13 名、帰国
1 名であった。
○ 「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を行うた
め機構の外部評価委員会として設置されている先端基礎研究・評価委員会での
事後評価(平成 22 年 2 月開催)において、「中期計画は達成された」との評価を得
た。
○ 今中期目標期間中のグッドプラクティスの共有としては、先端基礎研究・評価委
員会が実施した「現場訪問」を含む新しい評価方式の普及が図られ、量子ビーム
応用研究・評価委員会における共有につながった。
120
以上の結果、中期計画に基づく目標を達成した。
121
6.放射性廃棄物の埋設処分
【中期計画】
独立行政法人日本原子力研究開発機構法(平成 16 年法律第 155 号。以下「機構法」と
いう。)第 17 条第 1 項第 5 号に規定する業務を、同法第 19 条に規定する「埋設処分業務
の実施に関する計画」に基づき、機構以外の発生者を含めた関係者の協力を得て実施す
る。
【中期計画】
独立行政法人日本原子力研究開発機構法(平成 16 年法律第 155 号。以下「機構法」と
いう。)第 17 条第 1 項第 5 号に規定する業務を、同法第 19 条に規定する「埋設処分業務
の実施に関する計画」に基づき、機構以外の発生者を含めた関係者の協力を得て実施す
る。
・埋設施設の概念設計を行い、その結果等に基づき、早期に立地基準等の策定や埋設
事業総費用の精緻な見積りを行う必要があることから、概念設計の前提条件となる事
項について調査し、取りまとめる。
・受託契約の準備等、埋設処分業務を推進するために必要な準備を行う。
≪中期実績≫
○ 低レベル放射性廃棄物の処分のうち、浅地中処分(埋設処分)に関しては、下記
に示すとおり、平成 20 年 6 月に機構法が改正され、機構が埋設処分の実施主体と
なった。これに伴い、埋設処分に関して中期目標の項目が設定され、それに則して
中期計画を変更して業務を進め、以下のとおり中期目標を達成した。
○ 埋設処分については、日本アイソトープ協会(RI 協会)及び原子力研究バックエ
ンド推進センター(RANDEC)と協力を進め、研究施設等廃棄物(旧称:RI・研究所
等廃棄物)の埋設処分に係る文部科学省の「原子力分野の研究開発に関する委
員会 RI・研究所等廃棄物作業部会」の報告書作成、及び機構を埋設処分の実
施主体とする機構法改正を含めた文部科学省の制度化を支援した(平成 20 年 6
月改正機構法公布、平成 20 年 9 月改正機構法施行)。
○ 機構法改正等の制度化支援と並行して、RI 協会、RANDEC 等関係機関と連
携・協力して、研究施設等廃棄物を埋設する事業(埋設事業)の実現に向けて、研
究施設等廃棄物の物量調査、埋設施設の概念検討並びに埋設事業の資金計画、
収支計画等、事業化の検討を実施した。
○ 「埋設処分業務の実施に関する基本的な方針」(基本方針)(平成 20 年 12 月 25
日文部科学大臣・経済産業大臣決定)に即して、「埋設処分業務の実施に関する
計画」(実施計画)を取りまとめ、平成 21 年 10 月 30 日に文部科学大臣及び経済
産業大臣に対して認可申請を行い、平成 21 年 11 月 13 日に認可を得た。
○ 基本方針及び実施計画に基づき、事業開始年度の平成 21 年度より埋設処分業
122
務に関する計画(埋設処分業務計画)を定め、埋設施設の概念設計の実施、受託
契約の準備にかかる事項等、埋設処分業務を実施した。
○ 埋設施設の概念設計については、その前提条件となる廃棄体数量、概念設計を
行う埋設施設及び施設周辺の環境条件、埋設処分に関連する国内法令の施設基
準等を取りまとめた。また、既存の被ばく線量評価コードを改良し、その結果、埋設
施設に係る被ばく線量評価がより簡便に実施できることを確認した。
○ 受託契約の準備等、埋設事業を推進するために必要な準備として総費用の積算、
処分単価・受託料金の検討を行うため、調査・検討すべき項目を取りまとめるととも
に、RI 協会、RANDEC 及び機構で構成する「RI・研究所等廃棄物連絡協議会」
(協議会)において意見交換を実施した。輸送、処理に関しては、協議会において
埋設事業に係る今後の取組等について意見交換等を行った。また、「研究施設等
廃棄物の埋設事業に関する説明会」(平成 22 年 1 月 27 日開催)において発生者
との協力について意見交換等を行った。
○ 立地基準及び立地手順の策定に係る国内外の類似施設の地点選定事例につ
いて調査を実施した。埋設事業に関する情報発信については、ホームページを通
じて積極的に行うとともに、一元的な相談・情報発信を行う窓口として専用ページを
設置し、外部からの問合せ等に対応した。資金を管理するシステムの構築につい
ては、埋設処分業務勘定に関連するデータについて、資金を管理するシステム構
築のための仕様を取りまとめた。
以上の結果、中期目標を達成した。
123
7.産学官との連携の強化と社会からの要請に対応するための活動
(1)研究開発成果の普及とその活用の促進
【中期目標】
1) 機構の研究開発情報の国内外の流通を促進するため、発信する機構の研究開発成果
の質・量を拡充する。
【中期計画】
1) 研究情報の国内外における流通を促進し、研究成果の社会への還元を図る。
① 成果情報の整理・記録・発信体制の一元的処理により、基礎・基盤研究を業務とする部
門を中心に、成果を査読付論文として中期目標期間中年平均 900 編以上公開する。
② 広報及び情報公開活動においては、ホームページや大学公開講座、専門家講師派遣
等を充実させ、情報発信機能を拡充するとともに、各種成果報告会を年平均 20 回以上開
催して成果の PR に努める。
③ 高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術の成果普及と国民の理解増進を進めるた
め、研究施設の一般公開や深地層研究の体験学習を実施する。
≪中期実績≫
①成果情報
○ 日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構がそれぞれ整備していた成果情
報の整理・記録・発信体制を一元化し、収録件数約 55,000 件の研究開発成果デ
ータベースに統合して機構ホームページより公開した。あわせて、機構職員等が作
成・発表した研究開発報告書類と論文等の概要を取りまとめた研究開発成果抄録
集(和・英版)を編集して機構ホームページを通じて発信することにより、研究情報
の国内外における流通を促進し、研究成果の社会への還元を図った。
○ 今中期目標期間中に取りまとめ、公開した研究開発成果は、研究開発報告書類
1,595 件、学術雑誌等の査読付論文 5,376 編(今中期目標期間中年平均 1,075
編)、その他の論文 2,853 件であった。
○ 研究開発成果の社会への普及の拡充を確認する一助として、成果抄録集、報告
書全文、成果普及誌電子版などへの外部からのアクセス数を調べた結果、平成 19
年度の 119 万件から平成 21 年度には、235 万件に着実に増加していることが確
認された。
②広報及び情報公開活動
○ 研究開発成果について社会からの理解を促進するため、インターネットホームペ
ージを活用した情報発信に努力するとともに、各種報告会の開催および大学公開
特別講座等への講師派遣など直接対話による理解の獲得に取り組み続けた。
インターネットホームページについては、まず、ホームページの利用者の拡大に
124
努め、幅広く情報発信するツールとすべく、タイムリーな情報発信、分かりやすさに
配慮したコンテンツへの更新、顔の見える研究機関としての情報発信に留意し、
日々更新を実施してきた。安全への取組、研究開発成果の検索、主な研究開発事
業、学習サイトなど、利用者の目的に応じた情報へ直接アクセスできる複数の入口
をトップページに設けるなど工夫した。その結果、今中期目標期間中のアクセス数
は年度を重ねるごとに増加し、平成21年度の月平均アクセス実績は1,200万件に
至っている。これは、4年間で総務省統計のインターネット利用者の増加数7%を上
回る約80%の増加率であり、日々の工夫がアクセス実績として現れ、改善を行った
ことで理解増進に貢献できたものと考える。
また、研究開発部門の成果や、拠点の活動など各種成果報告会を今中期目標
期間中に計299回(年平均66回)開催し、直接対話による理解増進に努めてきた。
例えば、原子力機構報告会を4回開催し、機構事業の報告と産業界との連携によ
る成果を展示するなどし、毎回約600名の参加者を得た。来場者アンケートによる
と9割以上の方から理解できた、内容に満足したとの回答を得ている。
アウトリーチ活動については、平成 19 年度よりアウトリーチ活動推進会議による
組織的な推進の検討を重ねてきた結果、平成 21 年度は、全ての研究開発部門・
拠点にてアウトリーチ活動の積極的な取組み、その改善及び新たな取組を加えた
展開が図られた。具体的には、東海研究開発センター、敦賀本部、大洗研究開発
センター、関西光科学研究所でサイエンスカフェを開催した。その他、研究開発部
門では、サイエンスカフェの機会に講演者としてアウトリーチ活動を実施した。
さらに、大学公開特別講座への講師派遣には、第一線の研究者・技術者を派遣
することで、年々利用が増えており、全国の大学、大学院での教育に協力した。社
会からの要請により講師を派遣する広報講師派遣において、普通高校や小学生
の放課後授業などからの要請も出てきており、教育支援の一環として積極的に協
力できる環境が整ってきている。
③深地層の研究施設を拠点とした活動
○ 高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術の成果普及と国民の理解増進を進め
るため、2 つの深地層の研究施設(東濃地科学センター瑞浪超深地層研究所、幌
延深地層研究センター)においては、研究施設の一般公開、深地層研究の体験学
習を企画するとともに、関連自治体や地域の方々へ月報や社外向け広報誌等の
発行、事業説明会や研究成果報告会の開催、ホームページによる情報発信等、
研究開発への理解促進や成果普及に努めた。
研究施設の一般公開については、見学者の安全確保に十分留意し、月 1 回の
定期見学会の他、可能な限り見学者を受け入れた。その結果、中期計画期間中に
両研究施設において 18,686 人(東濃:13,505 人、幌延:5,181 人)の見学者を受け
入れ、そのうち、7,574 人(東濃:5,486 人、幌延:2,088 人)の方々に実際の地下の
環境を体験いただいた。また、幌延深地層研究センターでは、PR 施設「ゆめ地創
125
館」が平成 19 年 6 月に開館し、中期計画期間中に 33,120 人が訪れた。
見学会においては、見学者と研究者との直接対話による相互理解を重視し、見
学者の疑問に研究者が丁寧に答えるよう心掛けた。その結果、地層処分に対する
印象について、見学後は約 7 割の方が安心との印象を深めているとのアンケート
結果が得られた。加えて、実際に地下を体験したことへの感動や予想以上に勉強
になった等の意見を多数頂いた。また、見学者の意見等を反映した資料作りや説
明方法の工夫により、説明の分かりやすさの評価について「理解できた」と回答した
割合が向上した。
深地層研究の体験学習については、サマーサイエンスキャンプの開催、地域の
学校への講師派遣、スーパーサイエンスハイスクール等の校外学習や大学生の実
習生等の受入れ等を実施した。
【中期目標】
2) 機構の研究開発成果の産業界における利用機会を拡充するため、研究開発成果の知
的財産化を促進し、民間事業者の利用を拡大する。
【中期計画】
2) 研究開発成果について、特許等の出願による知的財産化を促進する一方、機構が取
得した特許等について産業界による利用機会を増大させる。
① 特許等の内容のデータベース化及び公開を行うとともに、権利化した特許等について
は、一定期間ごとに実施可能性の観点から当該権利の維持の必要性を見直し、効率的
な管理が行われるように努める。
② 技術相談会等の開催回数を前年度以上実施する等、保有技術の説明を積極的に行
い、実用化を促進する。また、ベンチャー支援制度、機構の特許を用いた製品化研究支
援制度等を整備し、利用機会を平成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研究所と核燃料サ
イクル開発機構との合計の実績(87 件)より、中期目標期間中に 5 年間の平均で 10%以上
増加させ、活用を促進する。
≪中期実績≫
○ 研究開発成果の知的財産化の促進については、機構のホームページに「特許・
実用新案閲覧システム」を整備し、新規に公開された特許を半年ごとにデータベー
ス化して公開した。閲覧システムは、格納データを充実(公開特許公報 約 2,200
件)し、特許流通データベースへのリンクを行う等、利用者の利便性の向上を図っ
た。
○ 特許等の効率的管理については、維持管理基準を定め、外国出願時、審査請
求時及び権利化後一定期間(6 年目及び 10 年目以降)経過時に、産業界における
実施の可能性及び機構の事業の円滑な遂行への寄与の二つの観点から、機構内
に設置した「知的財産審査会」において、外国出願の可否、審査請求の可否、権
利の維持/放棄を審査した。その結果、平成 21 年度末に保有する特許は 1,083
126
件となり、平成 16 年度末 1,499 件に比較して約 7 割に絞り込んだ。
○ 技術相談会等については、展示会への出展及び講演、企業との技術交流会等
を通して、機構が保有する技術及び製品化研究支援制度(成果展開事業)を一般
に紹介説明を行い、機構技術の利用機会を促進した。今中期目標期間中の技術
相談会等の対応回数は、下表のとおり年度による増減はあるものの平成 19 年度以
降は順次増加している。これらの対応により、今中期目標期間中に成果展開事業
への応募 39 件を受け、うち 33 件を採択する等、機構特許の実用化を促進した。
また、ほかに、外部からの電話及び面談等により、個別の技術相談及び特許の使
用許諾の要請等に対応した。
技術相談会等
17 年度
18 年度
19 年度
20 年度
21 年度
49
72
69
71
75
合計
336
○ ベンチャー支援制度及び機構の特許を用いた成果展開事業等については、ベ
ンチャー企業 3 社を支援するとともに、成果展開事業において、新たな植物活力
剤やチタン系材料の新刃物等、今中期目標期間中に 33 件を採択し、15 件を商品
化し、産業振興に寄与した。これらを含め、毎年度 10 件以上の新規実施許諾契約
を締結し、下表のとおり今中期目標期間中の 5 年間の平均で平成 16 年度実績(87
件)に比較して 16%の増加となった。また、イオン加速器(高崎)を用いた品種改良
研究の成果である新品種については、種苗の登録品種通常利用権許諾契約を今
中期目標期間中に 75 件締結した。
16 年度
17 年度
18 年度
19 年度
20 年度
21 年度
平均
(17-21)
許諾件数
87
88
95
102
109
111
101
新規件数
16
17
11
10
10
13
消滅件数
15
10
4
3
8
8
対 16 年度
101%
109%
117%
125%
128%
116%
比
○ その他、農業生産法人による農商工等連携事業計画への取組において、機構
が開発した高感度ガス分析装置により鮮度を指標化する仕組みの構築に協力す
る等、自治体の産業振興に寄与した。
【中期目標】
3) 機構の核燃料サイクル研究開発の成果については、民間事業者における活用を促進
するために、民間事業者からの要請を受けて、民間事業者の核燃料サイクル事業の推
進に必要とされる人的支援も含む技術的支援を実施する。
【中期計画】
127
3) 核燃料サイクル技術については、民間事業者からの要請に応じて、機構の資源を活用
し、人的支援も含む民間事業の推進に必要な技術支援に取り組む。
① 民間事業者の核燃料サイクル事業に対して、民間事業者からの要請に応じて、技術者
の派遣による人的支援、要員の受け入れによる養成訓練を継続するとともに、機構が所
有する試験施設等を活用した試験、トラブルシュート等に協力する。
② 機構の研究開発の成果を民間事業者からの要請に応じて、技術移転するとともに、技
術移転後も引き続き情報の提供や技術指導(技術者の派遣や要員受け入れによる人的
支援を含む)等を実施して、民間事業者による成果の活用を促進する。
≪中期実績≫
○ 日本原燃(株)の要請に応じた人的支援として、
・ 濃縮事業については、新型遠心機のカスケード試験結果の解析、試験設備
の制御の指導のため、機構技術者を 15 名(累積 91 名平成 22 年 3 月末)出
向派遣した。
・ 再処理事業については、再処理工場の試験運転における施設・設備の運転・
保守の指導のため、184 名(累積 344 名平成 22 年 3 月末)を出向派遣した。
また日本原燃(株)及び関連会社の技術者 107 名(累積 807 名平成 22 年 3
月末)を受け入れ、養成訓練を実施した。
・ MOX 燃料加工事業については、施設の建設・運転に向け機構の知見・ノウ
ハウを反映するため、24 名(累積 26 名平成 22 年 3 月末)を出向派遣した。ま
た日本原燃(株)技術者 24 名(累積 26 名平成 22 年 3 月末)を受入れ、養成
訓練を実施した。
・ 六ヶ所再処理工場分析工程で発生した汚染トラブル等への緊急支援におい
ても、分析技術指導者(19 名)及びグローブボックス作業指導者(9 名)を派遣し
迅速な対応を行った。また高レベル廃液ガラス固化施設試運転の課題に対し、
ガラス固化技術や遠隔保守技術等に精通した技術者(21 名)を、六ヶ所再処
理工場に常駐・出張させ、各種試験評価や、遠隔操作(固化セル内機器の洗
浄作業や機器類点検等)に関する技術的な助言を実施した。
○ 日本原燃(株)からの委託試験等
日本原燃(株)の要請に応じ、技術情報を提供するとともに、濃縮事業について
は 22 件(累積 52 件)、再処理事業については 33 件(累積 91 件)、MOX 燃料加工
事業については 12 件(累積 23 件)の委託試験やコンサルティング等を実施した。
以上の技術支援等により、民間事業者への成果の活用の促進を図った。その結
果、濃縮事業については、低下した濃縮能力の回復に向けたプラントのリプレース
工事、新型遠心機の製造が開始されている。再処理事業については、試験運転の
最終段階まで達しており、残る高レベル廃液ガラス固化施設の課題に対し支援強
化中である。MOX 燃料加工事業については、国の安全評価の長期化から建設開
128
始が遅れているものの、設備設計等に機構の成果が反映され、着実に建設準備が
進められている。
以上の結果、中期目標を達成した。
129
(2)施設・設備の外部利用の促進
【中期目標】
機構が保有する施設・設備を幅広い分野の多数の外部利用者に適正な対価を得て開
放し、これらを利活用する外部利用者の利便性の向上、様々な分野の外部利用者が新し
い利用・応用の方法を拓きやすい環境の確立に努める。
【中期計画】
機構が保有する施設・設備は、外部利用者から適正な対価を得て広範な利用に供する
ものとする。
機構が保有する施設・設備のうち民間や他の研究機関が保有することが困難な原子力
研究の基盤として重要な施設・設備は、施設共用に供する。外部からの利用ニーズが高い
施設・設備については、国の利用促進プログラム等を活用しつつ利用支援体制を整備し、
利用者に対して十分な支援を行い、利用の拡大に努める。
なお、施設・設備の共用に当たっては、利用者の立場に立って、企業秘密の保持や機
動性、弾力性を確保するとともに透明性・公平性を確保する。利用時間の配分の決定に際
しては、外部利用者が内部利用者より不利な立場に置かれることのないよう、また、産業利
用が配分の決定において不利な取扱いを受けることのないよう配慮する。
≪中期実績≫
○ 機構が保有する施設・設備のうち 17 の供用施設について、原価回収を基本とす
る料金設定により適正な対価を得て、大学、公的研究機関及び民間による広範な
利用に供し、今中期目標期間中、5,313 件の利用実績があった。なお、料金の見
直しについては、発生者負担の原則に則り、利用者自らが発生させた放射性廃棄
物の処理等の料金を徴収すること、及び民間企業の利用者増大のため、研究開
発利用のうち成果非公開で随時受付に課せられていた割増料金(基本料金の 5 割
増し)を廃止することの変更を行った。
17 年度
18 年度
19 年度
20 年度
21 年度
年度計画
1,000
1,000
1,000
1,000
1,000
5,000
1,000
利用件数
1,055
1,233
1,183
1,213
629
5,313
1,063
309
460
600
796
288
2,351
491
(JRR-3 に係る件数)
合計
平均
○ 施設供用施設については、民間や他の研究機関が保有することが困難な原子
力研究の基盤として重要な施設・設備を当初 12 施設で開始し、外部の要請に基
づき 17 施設に拡大した。
○ 外部からの利用ニーズが高い施設・設備については、利用者の求めに応じて役
務提供などの支援を行うとともに、国内外の会議を通して施設利用の紹介を行い、
施設供用を拡大した。また、利用者の利便性を考慮して、利用申込みの電子化を
行うとともに、JRR-3 については、国の補助事業である先端研究施設共用促進事
業に採択されたことにより、利用者支援体制の一層の強化を行った。
130
○ 産業界への利用拡大については、利用者の希望に応じて秘密保持契約を締結
するなど成果非公開利用の促進に寄与した。
○ 利用課題の採択及びマシンタイムの配分は、施設利用協議会における外部専門
家による審査を活用する等、透明性、公平性を図った。
以上の結果、中期目標を達成した。
131
(3)特定先端大型研究施設の共用の促進
【中期目標】
特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(平成 6 年法律第 78 号)第 5 条
第 2 項に規定する業務(登録施設利用促進機関が行う利用促進業務を除く。)を行うこと
により、研究等の基盤の強化を図るとともに、研究等に係る機関及び研究者等の相互の間
の交流による研究者等の多様な知識の融合等を図り、科学技術の振興に寄与する。
【中期計画】
J-PARC に関して、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(平成 6 年法
律第 78 号)第 5 条第 2 項に規定する業務(登録施設利用促進機関が行う利用促進業務
を除く。)を実施する。
・試験研究を行う者の共用に供される中性子線共用施設の建設及び維持管理等を行う。
・機構以外の者により設置される中性子線専用施設を利用した研究等を行う者に対して、
当該研究等に必要な中性子線の提供を行うとともに、安全管理等に関して技術指導等
を行う。
≪中期実績≫
○ 中性子線共用施設の建設については、ダイナミクス解析装置及びナノ構造解析
装置の概念設計を終了し、機器製作と設置調整に着手した。また、新たに階層構
造解析装置及び物質構造解析装置の機器製作に着手した。
○ 機構外の機関等により設置される中性子線専用施設を利用した研究等を行うユ
ーザーに対して、専用施設への中性子線の安定した提供と安全管理等の技術指
導を実施した。また、中性子線専用施設の設置については通年で募集し、2 件の
応募があり、審査を開始した。なお、専用施設が一般利用に供出した利用分につ
いては、その研究課題の募集及び選定を年 2 回(前期及び後期として)実施した。
募集等に必要な情報はホームページ等で公開し、研究等を通じて得られた成果に
ついては、年報や報告書等で公開した。
○ 平成 20 年 12 月から供用運転を実施し、平成 21 年 11 月以後、陽子ビーム出力
120kW の安定した運転を行うに至り、中性子線専用施設においても、英国 ISIS
や米国 SNS と同等な実験が行えるようになった。
以上の結果、中期目標を達成した。
132
(4)原子力分野の人材育成
【中期目標】
国内外の原子力分野の人材の育成、大学等の同分野の教育研究に寄与するため、大
学等との間の連携協力を促進するとともに、研修による人材育成機能の質的向上を図る。
【中期計画】
大学等と連携協力し、人材育成に関する機能を充実、強化して、原子力分野の人材育
成に取組む。さらに、将来の量子ビーム利用を支える、最新技術の開発や先端研究を担う
人材の育成に貢献する。
1) 研修による人材育成
研修による人材育成については、研修者及び派遣元に対するアンケート調査により年度
平均で 60%以上から「有効であった」との評価を得る。
2) 大学との連携による人材育成
原子力産業の技術者や規制行政庁等の職員を対象とした大学院修士レベルの専門的
実務教育や国際機関等で活躍できる人材の育成に対し、人的協力及び保有施設の供用
により協力する。
連携大学院制度に基づく協力を拡充するとともに、大学等への人的協力や保有施設の
供用を通じて機構と複数の大学等とが相互補完しながら人材育成を行う連携大学院ネット
を構築することによって原子力人材の育成を進め、共通的科学技術基盤、量子ビーム利
用、高レベル放射性廃棄物地層処分等の教育研究に貢献する。
≪中期実績≫
○ 機構は、機構法第 17 条第 1 項第 7 号に基づき、機構内外の研究者・技術者に
対する広範な人材育成活動をミッションの一つとして実施して、大学等と連携協力
し、原子力分野の人材育成や将来の量子ビーム利用を支える、最新技術の開発
や先端研究を担う人材の育成に貢献した。
1) 研修による人材育成
○ 今中期目標期間の外部技術者等を対象とする研修及び職員技術者を対象とす
る研修は臨時研修も含め、全て計画どおりに実施し、今中期目標期間中の受講生
の総数は約 5,800 名(平成 17 年度は上期を含む。以下同様。)であった。
○ また、中期計画中にある「さらに将来の量子ビーム利用を支える、最新技術の開
発や先端研究を担う人材の育成に貢献する」という課題については、機構の
JRR-3 を利用した中性子利用実験基礎講座で今中期目標期間中に 77 名の育成
に貢献した。
○ さらに、この期間に、第 3 種放射線取扱主任者講習、技術士(原子力・放射線部
門)試験準備講座及びリスクコミュニケーション講座を新規に立ち上げた。なお、第
3 種放射線取扱主任者講習については、出張講習が行えるように業務規程の認可
を変更し、平成 20 年度は福井県敦賀市の高校において出張講習を実施した。ま
133
た、放射線取扱主任者受験講座、核燃料取扱主任者受験講座については、機構
内職員向け研修を新たに機構外の受講生にも開放した。また、機構外からのニー
ズに柔軟に対応して、年間の研修計画に無い文部科学省や経済産業省原子力安
全・保安院(保安院)等から臨時で申込みのある研修を今中期目標期間に 19 回実
施した。
○ このほか、保安院及び労働大学校等からの単独講義の依頼、さらに、高等学校
等からの依頼による講義を実施するなど、若年層に対する原子力人材育成及び原
子力に対する正しい知識の普及にも貢献した。
○ また、今中期目標期間中に、法定資格講習では、第 1 種 971 名及び第 3 種 237
名が放射線取扱主任者の国家資格を取得した。また、原子力研修センターの研修
修了者の中から原子炉主任技術者試験の口頭試験で全合格者数 95 名中 83 名
(うち 30 名は東大専門職大学院修了者)、原子力・放射線部門の技術士試験では
第 1 次試験 25 名、第 2 次試験 5 名が合格した。特に、原子炉主任技術者試験で
は、合格者に占める原子力研修センターの研修修了者(含む、東大専門職大学院
修了者)の割合が今中期目標期間中は約 70%から約 90%であり、原子力研修セン
ター研修を受けた者の合格率が高くなっている。
○ これらの研修では、原子炉主任技術者や放射線取扱主任者等の資格を有する
人材や、実務を通じて講義科目や実習に関する豊富な知識と経験を有する人材を
講師として充てることにより、研修の質の向上に努めた。
○ また、研修効果を評価する観点から、60%以上を目標値とする研修の有効性を
確認するため、受講生に対するアンケートを実施した。このアンケート結果では、今
中期目標期間中 90%を上回る受講者から「有効であった」との高い評価を得た。さ
らに、受講生ばかりでなく、研修生の派遣元に、平成 19 年度及び 21 年度にアンケ
ートを実施し、どちらもほぼ 100%「有効」であるとの評価を得ている。
○ 研修の講義のレベルアップを目的として、平成 21 年度から専門家(元大学教授)
による講義の聴講と講師への指導を実施している。
○ 職員向け技術研修については、今中期目標期間に共通する安全教育及び原子
力技術者教育のための約 40 の講座をすべて計画どおりに実施した。今中期目標
期間の受講生数は約 3,700 名であった。職員研修では、機構の職務に関する豊
富な知識と経験を有する職員等を講師として充てることにより、技術継承及び技術
力向上に貢献した。また、22 講座については外部にも開放し、日本原燃(株)等か
らも延べ 167 名受講生を受け入れ、機構から民間への技術移転等に貢献した。
134
2) 海外を対象とした人材育成
○ 海外を対象とした原子力分野の人材育成では、今中期目標期間は文部科学省
からの受託事業「国際原子力安全交流対策(講師育成)事業」を継続実施した。
○ インドネシア、タイ、ベトナムを対象に各国からの要望に基づき、講師候補生を我
が国に受け入れて、現地研修で必要な講師として育成するために行う研修を今中
期目標期間中に 20 回(各年度約 10 名参加し、総数 57 名)、我が国から講師を派
遣し相手国との共催で現地の技術者を育成するために行う研修を 37 回実施した
(受講生総数 927 名)。このうち、講師候補生を我が国に受け入れて行う講師育成
研修では、研修の有効性及び個々の業務への応用性について研修生にアンケー
トを行った結果、全ての研修生から「有効かつ応用性が高い」との回答が得られ
た。
○ また、現地で行う研修では、研修実施前と実施後の受講生の理解度試験の成績
を比較した結果、いずれの研修も大幅に理解が向上したとの成果が得られた。これ
らの活動を通じ育成された講師により、各国において当センター講師が直接関与
しない自立研修講座の開催が増加しているほか、現地大学生への指導も行われる
ようになってきている。このように研修の有効性が認められた結果として、同研修に
ついての理解がアジア地域に拡がり、ベトナムを対象とした炉工学分野の講師育
成研修に今中期目標期間にはベトナムから 3 名、インドネシアから 2 名参加し、さ
らにマレーシアから 1 名、サウジアラビアから 3 名の自費参加があるなど、一定の評
価が得られている。
○ さらに、原子力研修センターが核不拡散科学技術センターと協力して、主として
アジア諸国を対象とした IAEA との共催による保障措置トレーニングコースを 3 回
(受講生総数 21 ヶ国から 53 名)、また、敦賀、国際原子力情報・研修センターと協
力して、原子炉プラント安全コースを 5 回(受講生総数:8 ヶ国から 48 名)開催し、
いずれも受講生へのアンケート結果において高い評価が得られた。
○ その他の海外協力では、
・ 原子力委員会が主催するアジア原子力協力フォーラム(FNCA)において、人
材養成プロジェクトの日本側のプロジェクトリーダーを務め、アジア原子力教
育訓練プログラム(ANTEP)活動について、本格的な整備を進めた。
・ 原子力発電導入に向けた原子力人材育成データベースの構築に係る委託
調査を内閣府から受注して、同データベースの運営、改良、更新を行った。
・ また、IAEA のアジア原子力安全ネットワーク(ANSN)関連会合に出席し、教
材整備等について協力した。
135
・ 技術者派遣ネットワーク構築のための国際ニーズ調査として平成 21 年度はカ
ザフスタンを対象とした訪問調査などへの協力を行った。
・ フランス原子力庁(CEA)の国家原子力科学技術研究院(INSTN)と人材育成
に関する協力協定を締結し、平成 21 年度は原子炉基礎工学研究部門に 1
名の学生を受入れるとともに、平成 22 年 4 月から 2 名の INSTN 修士学生の
受け入れ準備を進めた。
・ 平成 21 年 3 月に機構が加盟した欧州原子力教育ネットワーク(ENEN)との共
催により、平成 21 年 12 月に原子力科学研究所において、加速器駆動システ
ム(ADS)に関する国際ワークショップを開催した。欧州以外では初の開催とな
ったため、中国、韓国の学生や若手研究者も参加できるようになった。
3) 大学との連携協力
○ 連携大学院方式に基づく協力については、平成 17 年度の協定締結大学は 11
大学院 1 学部であったが、今中期目標期間終了時点では 17 の大学院、1 学部及
び 1 高専に増加した。この間、機構職員を客員教員等として延べ 281 名派遣する
とともに、学生 110 名を受け入れて研究指導を行うなどの協力を実施した。
○ 原子力教育大学連携ネットワーク(大学連携ネットワーク)については、平成 17 年
度に 3 大学と覚書を締結し、運用に向けて教育カリキュラムの検討や遠隔教育シス
テムの導入を図り、平成 19 年度より、原子力関連教育を相互に受講可能な遠隔教
育システムを活用した共通講座や、核燃料物質取扱を体験できる核燃料サイクル
技術を中心とした学生実習を開始した。当初 3 大学で開始された大学連携ネットワ
ークは、今中期目標期間終了時点では 6 大学まで拡大された。なお、共通講座に
は、延べ約 400 名の学生が受講し、機構職員も延べ 18 名が客員教員として協力
している。学生実習については、約 90 名を受け入れた。大学連携ネットワークにつ
いて、大学に不足している教科が補充できることや他大学の専門家講師の講義が
受講できること、更に核燃料サイクル技術に係る最先端の研究施設において体感
できる実習等を各大学が正式なカリキュラムとして設定していること、又は連携・協
力推進協議会や分科会での協議の場において謝意の表明や継続性の確保を望
まれる等から一定の評価を得られていると考える。
○ 東京大学大学院原子力専攻(専門職大学院)への協力では、平成 17 年度の開
講以来 78 名の学生に対して、講義については客員教員、非常勤講師、特別講師
延べ 194 名、実習については延べ 282 名の機構職員が講師を担当し、機構が講
義の約 60%、実習の約 90%を担当し、すべてを予定どおり実施した。またインター
ンシップ実習では学生を NUCEF 及び JRR-4 等で受け入れ、延べ 44 名の講師
が協力して実施した。東京大学大学院原子力国際専攻への協力については、延
べ 23 名の客員教員を派遣し協力した。また、平成 20 年 8 月に東京大学が機構を
136
連携機関の一つとして応募し採択された、文部科学省の「高度専門職業人養成教
育推進プログラム」では、専門職大学院の卒業生を大学に招いて「フォローアップ
研修」への講師派遣や海外調査への協力を行った。
○ 平成 19 年度から開始された文部科学省・経済産業省の「原子力人材育成プログ
ラム」については今中期目標期間中に 66 の大学・高専に対して講師派遣、学生を
受け入れての実習(延べ 124 名参加)、施設見学の受入れ(延べ 29 件)などの協力
を行った。機構の職員も延べ約 70 名が講師等として協力している。協力に際して
は、事前に大学等と調整を進めることにより、効果的、効率的な協力を進めた。
平成 21 年度の実習で受け入れた学生に対して、実習の有効性を確認したとこ
ろ、参加者全員が有効であったと評価している。
4) その他内外機関との連携協力
○ 産官学が一体となって、原子力人材育成の中長期的ロードマップ、ビジョン等の
検討を行うため、平成 19 年 9 月に発足した原子力人材育成関係者協議会(事務
局:日本原子力産業協会)において、委員として検討に参加するとともに、国際対
応ワーキンググループにおいて、国際的に活躍できる人材の育成、国際人材育成
のためのネットワーク化及びアジア諸国等に対する原子力人材育成に関する提言
をまとめた。また、同協議会「ロードマップワーキンググループ」においても、原子力
人材育成に向けた取組の方向性等の議論に参加し、協議会報告書における原子
力分野の技術者・研究者の育成及び人材基盤の確保のための提言の取りまとめ
に寄与した。
○ 日本原子力学会教育・研究専門委員会教科書ワーキンググループに委員として
参加し、平成 20 年 3 月に策定された新学習指導要領に基づく小中学校教科書の
エネルギー関連記述に関し、従来の教科書の記述等を検討するとともに、6 項目
からなる提言の起草などに貢献した。さらに、平成 21 年 3 月に策定された新学習
指導要領に基づく高等学校教科書のエネルギー関連記述に関しても、日本原子
力学会の立場から、従来の教科書の記述等を検討するとともに、13 項目からなる
提言の起草などに貢献した。
○ 50 年間に延べ 11 万人の受講生を輩出し、多方面での原子力人材育成活動を
通じ、日本の原子力界に貢献したことが認められ、平成 20 年度には原子力研修セ
ンターが日本原子力学会歴史構築賞を受賞した。
○ 機構の使命として、我が国の原子力開発を担う人材の育成を継続して行うための
課題を抽出するとともに、解決の方向性を検討することを目的として、平成 19 年度
に「原子力人材育成関係部門協議会」を機構内に発足させ、平成 20 年度には技
137
術系職員の人材の育成に関して報告書を取りまとめ、経営に反映するとともに、平
成 21 年度からは研究系及び事務系職員の人材の確保、育成、活用に関する課題
の抽出と提言案の取りまとめを行っておりこの結果を経営に報告することとしてい
る。
○ 機構外委員を中心とした原子力研修委員会を毎年度開催し、国内研修、国際研
修の課題やあり方、国の原子力人材育成プログラムへの対応や FNCA の成果の
反映等、委員から今後の研修センターの活動についての有効な意見を事業に反
映させている。
以上の結果、中期目標を達成した。また、研修や大学との連携による人材育成にと
どまらず、国内外の他機関との連携を実施し、平成 22 年度には、国際原子力人材育
成イニシアティブでは、国内外の原子力人材育成のハブ機能を果たすという役割が
期待されるなど、これまでの実績が評価され、機構の原子力分野の人材育成の取組
が高く評価された。今後ともその役割の重要性を認識し、着実に人材育成を推進して
ゆくこととする。
138
(5)原子力に関する情報の収集、分析及び提供
【中期目標】
知識・技術を体系的に管理し、継承・移転するため、国内外の原子力に関する情報を、
産学官のニーズに適合した形で、収集、分析し、提供する。
また、関係行政機関の要請を受けて、関係行政機関の政策立案や広報活動を支援す
る。
【中期計画】
国内外の原子力情報を収集・整理し、原子力の研究開発を支援するとともに、機構が担
うべき外部への情報整理・提供機能について検討し、その向上を図る。収集すべき情報を
精査するとともに、産学官の受け手のニーズに合わせた整理・提供を行う。
国際原子力情報システム(INIS)計画に参加し国内の原子力情報を取りまとめ国際原子
力機関(IAEA)に送付するとともに、INIS データベースの国内利用の促進を図る。
関係行政機関の要請に基づき、関係行政機関の原子力政策立案や広報活動を支援す
る。
原子力研究開発全般に係る、国外や産業界等への発信も含めた幅広い情報及び関係
行政機関の原子力広報の基礎となるような情報についても提供を図る。
≪中期実績≫
○ 国内外の原子力に関する専門図書、海外学術雑誌、電子ジャーナル、原子力レ
ポート等を収集・整理し、これら所蔵資料の閲覧、貸出、複写による情報提供を行
い研究開発を支援した。東海及び大洗地区の旧二法人図書館の統合や図書館シ
ステムの統合、電子ジャーナル利用可能拠点の拡大等により東海にある中央図書
館を中核とする一元的な図書館運営を進め効率的な情報提供を行った。機構が
担うべき外部への情報整理・提供機能を検討し、旧二法人の所蔵データを統合し
たデータベースを構築し、そのインターフェースとして目録情報発信システム
(OPAC)を整備した。OPAC の運用においては、欧米の原子力研究開発機関や国
際原子力機関(IAEA)作成の原子力レポート 70 万件、専門図書及び学術雑誌の
目録情報 10 万件をインターネットを介して外部に提供した。加えて、所蔵資料の
文献複写サービスを実施するとともに IAEA 図書館が運営する原子力専門図書館
の国際的ネットワークに参加して英文版 OPAC を公開し、提供情報の向上を図っ
た。新たに収集する図書、学術雑誌等の情報については、研究者、技術者への希
望調査や委員会を通じてユーザの意見を集約し、計画的に収集・整理・提供を行
った。また、これまでに文献情報として蓄積した知識・技術を産学官のニーズに合
わせて整理するなど体系的に管理し、継承・移転に努めている。
○ 国際原子力情報システム(INIS)計画への参加については、国内で刊行された原
子力文献情報 25,805 件(年平均 5,161 件)を収集・採択し、英文による書誌情報、
抄録の作成、索引語付与等の編集を行い IAEA に送付することで国内原子力情
報の普及と国際貢献に寄与した。INIS データベースの国内普及については、原
子力関係学会等で INIS 利用説明会及びデモンストレーションを 28 回(年平均 5.6
回)実施した。平成 20 年 12 月に INIS データベースの無償利用を段階的に実施
139
することを目的とする IAEA/INIS オープンアクセスプロジェクトに参加(米国、フラ
ンス、カナダ等 11 カ国)し、原子力関連学科をもつ大学が INIS を無料で利用でき
るよう計 60 大学の登録手続きを行った。日本が登録した大学数は本プロジェクト参
加国中第 1 位(参加 11 カ国で 388 大学が登録)であった。なお、IAEA からインタ
ーネットで提供される INIS へのアクセスは平成 21 年 4 月から無料となった。
○ 原子力エネルギーの開発利用等に関する内外の幅広い情報を収集・分析し、要
請に応じて原子力委員会への資料の提供、経済産業省からの受託研究の実施、
文部科学省の国際共同研究事業への専門機関としての参画等多様な形で行政
機関等への情報提供を行った。また、行政機関等外部から寄せられる個別の要請
に応じ、必要な場合には個々のニーズに応じた分析を加えた上で提供する等、シ
ンクタンク機能を果たすことにより政策立案を支援した。また、国や自治体の要請
に応じ、科学技術理解増進イベントへの参加等の形で原子力広報の基礎となる情
報の提供を行い、広報活動を支援した。
○ 地球環境問題への対応とエネルギーの安定供給に果たし得る原子力の役割に
関する社会的議論の活性化のための素材として超長期のエネルギー需給シナリオ
である「2100 年原子力ビジョン」を取りまとめ、公表するとともに、国内外へ積極的
に発信した。さらに、海外ウラン探鉱関連情報や放射線計測技術情報等、機構が
保有する産業界にとって有用な幅広い情報の提供を行っている。また、一般社会
にとって有用であり、原子力広報の基礎ともなる情報は、機構公開ホームページ等
を通じて積極的に提供しており、累次のコンテンツ充実によりアクセス数の増加を
果たした。
以上の結果、中期目標を達成した。
140
(6)産学官の連携による研究開発の推進
【中期目標】
1) 産業界との連携の強化を図るため、産業界の意見を機構の業務運営に適切に反映す
るための仕組みを構築し、そのニーズを的確に把握し、適切な運営に努める。
また、軽水炉技術の高度化については、機構の保有する技術的ポテンシャル及び施
設・設備を効果的かつ効率的に活用し、改良軽水炉技術開発に協力する仕組みを構
築し、関係行政機関等の取組みに協力する。
2) 大学等との連携の強化を図るため、大学等の関係者の意見を機構の研究開発に適切
に反映するための枠組みを構築し、これらを的確に把握し、大学等に対して研究機会を
提供するために機構の保有する施設・設備を活用し、大学等の教育研究に協力する。
【中期計画】
産学との連携を強化し、社会のニーズを踏まえた研究開発を推進するためにプラットフォ
ーム的役割を担う枠組みを構築し、我が国の原子力研究開発の中核機関としての機能、
成果の利用促進機能の発揮に努める。
産業界との連携に関しては、共同研究、技術移転、技術協力等を効率的に行う他、産業
界との実務レベルでの定期的な意見交換を実施する。
軽水炉技術の高度化については、機構の保有する原子力基礎工学研究の技術的ポテ
ンシャル及び施設・設備を効果的かつ効率的に活用し、改良軽水炉技術開発等に産学と
連携した課題設定を行い拠点的に取組む仕組みを構築することにより、関係行政機関、民
間事業者等の取組みに協力する。
大学等との連携に関しては、大学等の関係者の意見を反映させ、大学等の機構の研究
への参加や研究協力を拡大する。
≪中期実績≫
○ 産学との連携強化のための枠組みについては、産業界の意見を機構の業務運
営に適切に反映するための仕組みとして、平成 18 年 1 月に、原子力エネルギー基
盤連携センターを設立し、我が国の原子力研究開発における中核機関として次世
代再処理材料開発、軽水炉熱流動技術開発、廃棄物中の U や Pu の超高感度非
破壊検出技術開発、高温ガス炉用黒鉛・炭素材料開発、ガラス固化技術特別グル
ープ、及び高温ガス炉要素技術開発の 6 分野の共同研究をニーズを的確に把握
しつつ行うことにより成果の利用促進機能の発揮に努めた。
○ 産業界等との連携に関しては、原子力エネルギー基盤連携センターにおける
(株)神戸製鋼所との研究協力協定に基づく耐食性に優れた次世代再処理材料の
開発、原子力発電環境整備機構との特定放射性廃棄物の地層処分技術に関する
技術協力、及び日本原燃(株)との再処理技術に関する技術協力及び技術移転等、
並びに(株)IHI 及び東京大学との連携による手荷物中隠匿核物質探知システムの
開発等を効果的に行った。また、機構、物質・材料研究機構、理化学研究所の三
機関連携により負の熱膨張を示す物質の発現機構の解明も機関間の連携効果に
より効果的に実施している。
141
○ 定期的な意見交換については、上記技術協力協定に基づく運営会議等の開催
により産業界との実務レベルでの定期的な意見交換を行うことでニーズの把握に
努め、技術協力の円滑な推進に資した。
○ 軽水炉技術の高度化については、原子力エネルギー基盤連携センターの中に、
軽水炉熱流動技術開発の分野で、民間企業と連携した特別グループを設置し、機
構の熱流動関連技術及び熱流動設備等を活用して、連携業務を効果的に遂行す
ることで、関係行政機関、民間事業者等の取組に協力した。
○ 大学等との連携については、機構の具体的な研究課題に沿って実施される先行
基礎工学研究制度(54 課題採択)及び連携重点研究制度(16 課題採択)等に基づ
く共同研究により、人材・施設を補完し、効果的に研究を進めた。例として連携重
点研究制度においては、首都大学東京ほか 8 機関による「リアルタイム非破壊超微
量元素分析法の開発」など高い成果を挙げているほか京都大学と共同した
(U-Th)/He 年代測定システムの開発、先進材料の重照射挙動予測と耐照射性に
関する研究における、機構、北海道大学、東京大学の加速器と施設の補完的利用
により効果的に研究開発を推進した。また、大学等との包括的連携協力協定に基
づく、連携協議会等を福井大学、岡山大学、茨城大学、核融合科学研究所と開催
し、大学等の関係者の意見を反映させ、大学等の機構の研究への参加や研究協
力を拡大し、人材育成、共同研究等の推進に資した。
○ 民間企業等との連携については、技術相談、技術協力及びセミナーを開催し、
産学連携サテライトを積極的に活用し効果的に産業界との連携を行った。一例とし
て、高感度ガス分析装置の応用を拡大するとともに地域活性化に資するため、農
業生産者及び流通企業と協力し、農産物の新鮮度を指標化して付加価値を高め
る等、新しい産業分野の育成に貢献した。
○ 産業界等のニーズを把握して人材・施設・技術を補完し、効果的に共同研究開
発を推進し、実用化/製品化プロジェクト等を実施することにより、熱中症警告装置、
めがね用デモンストレーションレンズ、γ 線照射キトサンを主原料とする植物用成長
促進剤等の開発を効果的に行った。これにより、毎年 10 件以上の新規実施許諾
契約を締結し、今中期目標期間中の平均では 101 件、平成 16 年度実績(87 件)
に比較して 16%の増加となった。成果展開事業においては、平成 17 年度からの
今中期目標期間中に 33 件を採択し、15 件を商品化した。
以上の結果、中期目標を達成した。
142
(7)国際協力の推進
【中期目標】
関係行政機関の要請を受けて、原子力の平和利用や核不拡散の分野において、国際
原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)等の国際機関の活動
への協力、ITER 計画、第 4 世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)、アジア原子
力協力フォーラム(FNCA)等の国際協力を通じて、我が国の国際的地位に相応しい国際協
力活動を効率的に実施する。
【中期計画】
関係行政機関からの要請に基づき、国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構/原子
力機関(OECD/NEA)、経済協力開発機構/エネルギー機関(OECD/IEA)等の活動に積極
的に協力し、これら機関への職員を派遣するとともに、諮問委員会や専門家会合に専門家
を参加させる。また、核不拡散技術開発、非核化支援、新しい制度等の検討に係る国際協
力を通じて、原子力の平和利用、核不拡散強化のための国際貢献に努める。
高速増殖炉サイクル技術の研究開発、核融合研究開発や高レベル放射性廃棄物の処
理・処分技術に関する研究開発等に関して、二国間協力及び多国間協力(ITER 計画、第
4 世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)
他)を積極的に実施する。GIF では、技術的なリード国としてイニシアチブを執るナトリウム冷
却高速炉(SFR)を始めとし、超高温ガス炉(VHTR)等における協力を積極的に進め、開発リ
スクの低減、資源の効率的運用を図る。また、原子力技術の世界的発展と安全性の向上
に資するため、FNCA 等により施設の国際利用、国際拠点化等を通じアジア諸国・開発途
上国に対する国際貢献を図る。
≪中期実績≫
○ 国際協力は、国際的な中核拠点(COE)を目指し、国際基準の作成貢献・開発技
術の国際標準化、軍縮・核不拡散等への国際貢献、研究開発の効率的な推進、
アジア諸国の人材育成・技術支援を目的としている。また、国際情勢の変化に的確
に対応すべく、米国の政権交代による原子力政策の動向、研究開発への影響等、
各国の原子力動向について調査を行い、機構の事業等への影響を評価した。
国際原子力機関(IAEA)、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)、イ
ーター国際核融合エネルギー機構(ITER 機構)、世界原子力発電事業者協会
(WANO)等の国際機関の事務局に常時 20 人程度の職員を派遣し、これらの機関
の各種の諮問委員会、専門家会議等に平成 17 年 10 月以降の累計で 1,922 人
の専門家を参加させ国際協力プロジェクトの運営、国際的な基準等の策定等の活
動に貢献するとともに、国際機関の活動に日本の意見を反映するよう努めた。
OECD/NEA では国際共同プロジェクトとして機構の施設を利用した原子炉安全
性試験プロジェクト(ROSA プロジェクト)に加え、機構の高温ガス炉 HTTR を利用
した国際共同プロジェクトが新たに採択されるなど、日本のプレゼンスを高めるとと
もに、機構の研究開発の推進にも役立っている。
核不拡散・非核化支援では、米国エネルギー省(DOE)との核不拡散・保障措置
取決めに基づく共同研究による技術開発を実施した。また、包括的核実験禁止条
143
約(CTBT)国際検証システムへの支援として、同条約機関準備委員会との協力の
下に、各観測所及び公認実験施設の暫定運用を行った。また、ロシア余剰核兵器
解体プルトニウム処分では、ロシアの高速炉(BN-600)を使用した処分に向けて、
照射試験、照射後試験など技術的な支援を終了した。
高速増殖炉サイクル技術、核融合、高レベル放射性廃棄物、その他の幅広い分
野の研究開発等に関して、二国間協力及び多国間協力(ITER 計画、第 4 世代原
子 力 シ ス テ ム に 関 す る 国 際 フ ォ ー ラ ム (GIF) 、 ア ジ ア 原 子 力 協 力 フ ォ ー ラ ム
(FNCA)他)を積極的に実施した。二国間協力では米国 DOE、フランス原子力・代
替エネルギー庁(CEA)、ドイツ・マックスプランク・プラズマ物理研究所、フィンランド
の高レベル廃棄物処分機関、中国科学院、韓国原子力研究所、カザフスタン国立
原子力研究センター等、世界各国の主要な機関と取決めを締結し協力を行って、
機構の研究開発を効率的に進めた。米国のオバマ新政権からも、クリーンエネル
ギーとしての原子力の研究開発協力の拡大を求められるなど、機構との研究開発
協力は高く評価されている。その他の国からも協力の拡大を求められている。
多国間協力について、GIF では、ナトリウム冷却高速炉(SFR)、超高温ガス炉
(VHTR)等において各種の研究開発協力取決め等を締結し、協力を積極的に進
め効率的、効果的な開発を行った。また、機構は GIF 全体を総括する政策グルー
プ会合の副議長、2009 年 12 月からは議長として運営を主導するとともに、各種の
技術会合においても議長、副議長として主要な役割を果たした。GIF で機構は副
議長を務めてきたが、2009 年には海外の推薦により参加国の満場一致で議長に
選出されるなど、機構の貢献の大きさが他の加盟国に高く評価されている。ITER
及び BA では、機器の調達取決め等を締結し、計画を順調に進めた。また、計画
の運営、技術会合においても主導的な役割を果たし、ITER 事業の推進に大きく
寄与した。
原子力技術の世界的発展と安全性の向上に資するため、FNCA 等の各プロジ
ェクトに専門家を派遣し、計画の進展に大きく寄与した。また、原子力研究交流制
度で平成 17 年 10 月以降の累計で 115 人、その他の枠組みにより、アジア諸国始
め、開発途上国の研究者を受け入れ、人材育成に貢献した。外国人研究者の受
入れ総数は平成 17 年 10 月以降の累計で 1,228 人である。機構の人材育成事業
は 海 外 から も 高 く 評 価 さ れ 、 新 た な 国 か ら の 参 加 希 望 が 出 さ れ て い る 。 更 に
J-PARC 等の機構の施設の国際利用を進め、国際拠点化のための環境整備を行
い、国際的な研究の進展にも貢献した。
以上の結果、中期目標を達成した。
144
(8)立地地域の産業界等との技術協力
【中期目標】
立地地域における技術交流活動を促進するため、共同研究や技術移転等を行うことに
より、立地地域の企業、大学等との連携協力活動を充実・強化する。
【中期計画】
機構の今後の事業の推進と我が国における原子力事業の継続的な発展には、立地地
域の企業、大学等との間での連携協力活動を展開し、共同研究や技術移転を通じて、地
域における科学技術や経済の発展に寄与することが極めて重要である。
そのため、立地地域の企業、大学、関係機関との連携協力を図り、地域が持つ特徴ある
研究ポテンシャルと機構の先端的・総合的研究ポテンシャルの融合による相乗効果を活か
して、地域の研究開発の拠点化に協力する。また、立地地域の産業の活性化等に貢献す
るため、技術相談、技術交流等を進める。
国際的な研究開発拠点を目指す高速増殖原型炉「もんじゅ」については、福井県が進
めるエネルギー研究開発拠点化構想と連携し、海外研究者の招聘、国際会議の開催、情
報発信等を行う。さらに、幅広い研究開発や教育・人材育成のために「もんじゅ」を利用して
いくとともに、研究開発成果を公開することにより成果を地域産業界へ展開し、地元産業の
活性化に貢献する。
岐阜県瑞浪市と北海道幌延町の深地層研究施設については、地域の計画とも連携しつ
つ、深地層研究の拠点として、国内外の研究機関等との研究協力に活用する。
茨城県のつくば、東海、日立地区の連携強化を図り、機構の同地区の先進的施設を核
とした一大先端産業地域の形成を目指して茨城県が進めているサイエンスフロンティア構
想に協力し、J-PARC への中性子利用実験装置の整備及びそれらを活用した研究活動、
産業利用促進を支援する。これにより、地域産業の発展や研究成果を活用した新産業・新
事業の創出の促進、将来の科学技術を担う人材の育成等に協力する。
≪中期実績≫
1)敦賀地区関連
○ 国際的な研究開発拠点を目指す高速増殖原型炉「もんじゅ」については、福井
県が進めるエネルギー研究開発拠点化構想と連携し、フランス原子力庁元局長の
ジャック・ブシャール氏を平成 17 年 10 月の機構の発足時から機構の国際協力特
別顧問に迎えて協力を得つつ、海外研究者の招へい、国際会議の開催、情報発
信等を着実かつ積極的に行った。さらに、幅広い研究開発や教育・人材育成のた
めに「もんじゅ」を利用していくとともに、研究開発の成果を公開することにより、成
果を地域産業界へ展開し、地元企業の活性化に貢献した。
○ 「もんじゅ」関連の海外研究者の招へいについては、平成 17 年度下期に 4 名、
平成 18 年度に 1 名、平成 19 年度に 4 名、平成 20 年度に 7 名、平成 21 年度に
7 名を受け入れた。この間、平成 20 年 7 月に受入機能を通訳や研究支援の面か
ら強化するために敦賀本部国際原子力情報・研修センターに設置したリエゾンオ
フィスの効果が顕著に現れたものと考えている。
○ 国際会議の開催については、大規模・著名な会議だけでも、平成 17 年度下期と
145
平成 21 年度に第 4 世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)の政策グル
ープ会合を、平成 18 年度と平成 20 年度に「敦賀国際エネルギーフォーラム」を、
平成 19 年度に国際原子力機関(IAEA)の「高速炉に関する技術会合」と経済協力
開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の「革新的燃料を利用する新型炉に関する
ワークショップ」を、平成 21 年度に国際原子力機関の「高速炉システム国際会議
敦賀セッション」を、それぞれ福井県において開催した。特に、隔年で開催してきた
「敦賀国際エネルギーフォーラム」は、毎回多くの海外研究開発機関や地元教育
機関からの参加者を含め千人近い方々の参加を得て好評を得ており、今後も継続
的に開催し、「もんじゅ」・「ふげん」の状況や原子力・エネルギーに関する地元の理
解を深め、また、「もんじゅ」を中心とする国際的な研究開発拠点の形成を図ってい
きたいと考えている。
○ 幅広い研究開発や教育・人材育成のための「もんじゅ」の利用については、特に、
平成 20 年 11 月の「エネルギー研究開発拠点化計画 推進方針〈平成 21 年度〉」
において「高速増殖炉を中心とした国際的研究開発拠点の形成」のための施策と
して表明した「FBR プラント工学研究センター」と「プラント技術産学共同開発セン
ター(仮称)」の整備を累次表明してきた計画のとおりに進めてきた。具体的には、
「FBR プラント工学研究センター」について平成 21 年 4 月に組織を設置するととも
に、「産業連携技術開発プラザ(仮称)」や「データ解析共同研究所(仮称)」とともに
「プラント技術産学共同開発センター(仮称)」を構成する「レーザー共同研究所」に
ついて平成 20 年 4 月に関西光科学研究所の「レーザー技術利用推進室」として
敦賀本部に設置した後、平成 21 年 9 月に「レーザー共同研究所」として設置した。
原子炉廃止措置研究開発センター(ふげん)においても、原子力発電所内で使
われていた機器や配管等の経年劣化予測等を研究する施設である高経年化分析
室(ホットラボ)について、平成 18 年 11 月の同方針〈平成 19 年度〉において電気事
業者が平成 19 年度中を目途に整備するとしていたところ、平成 20 年 11 月の同方
針〈平成 21 年度〉において関西電力(株)と協力して「ふげん」内に設置する旨を表
明し、平成 21 年度に整備した。
教育・人材育成の面においても、高等教育においては、学生教育セミナー「敦
賀原子力夏の大学」を平成 18 年度以降毎年度開催するとともに、平成 18 年 10
月に包括連携に関する協定を締結した福井大学に客員教授等を、平成 19 年 3 月
に連携協力に関する協定を締結した福井工業大学に非常勤講師をそれぞれ継続
的に派遣し、両大学からのインターンシップの受入れ等を実施してきた。特に、平
成 21 年 4 月に設置された福井大学附属国際原子力工学研究所に対しては客員
教授 8 名と特別研究員 5 名を派遣して 6 件の共同研究を展開した。この間、福井
大学大学院の学生が国際原子力情報・研修センター等の施設を利用して現場に
即した研究を実施できるよう平成 19 年 1 月に同センターに設置した福井大学サテ
146
ライト研究室を活用した学生研究が、平成 19 年度の日本原子力学会フェロー賞を
受賞している。
また、中等・初等教育においては、原子力・エネルギー教育への協力のため、ハ
イブリッドカート等を利用した理科教育支援や平成 20 年度からは科学実験を中心
とした「アクアトム科学塾」を毎年度 70 回程度開催した。特に、ハイブリッドカート等
を利用した理科教育支援は、平成 19 年度に社会経済性本部エネルギー環境教
育情報センター主催の第 17 回エネルギー広報活動・広報施設表彰において「エ
ネルギー環境情報センター運営委員長賞」を受賞し、「アクアトム科学塾」とともに
地元の教育機関から好評を得ているために受入容量の面から開催希望に応えき
れない状況となっている。
さらに、国際的な人材育成においても、国際原子力情報・研修センターにおい
て、「もんじゅ」の運転・保守を行う職員等への研修や消防署等の自治体等の外部
機関向けの研修を実施しつつ、平成 18 年度からは文部科学省から受託した公募
型事業「国際原子力安全交流対策(講師育成)事業」におけるアジアからの国際研
修生受入を開始して平成 20 年度からは回数を年間 2 回に増やして継続してきた。
○ 研究成果の公開、地域産業界への展開、地域企業の活性化への貢献について
は、福井県内の企業等に対する技術相談や企業訪問等を通じて地元企業の課題
解決等に貢献できる機構が有する特許やノウハウ等の技術情報を提供するととも
に、機構が有する特許等を地域企業が活用して共同研究を行う成果展開事業等
を実施した。
技術相談は、ビジネスコーディネータによる毎週 2 回の定期的な実施に加え、企
業等からの要望に応じて高崎量子応用研究所や関西光科学研究所等の敦賀本
部以外の機構の研究者も派遣する等の丁寧な対応を実施してきた。企業訪問も、
年間約 200 回に及んでいる。これらに加え、シーズとニーズの合致等を目的とした
技術交流会やもんじゅ・ふげんの現場等における新たなオープンセミナーを開催し、
特許要約情報の配信、各種の産業フェア等への出展等を実施するとともに、ふくい
産業支援センターと若狭湾エネルギー研究センターが連携して実施している「ふく
い未来技術創造ネットワーク推進事業」(http://mirai.vcnet.fukui.fukui.jp/ 参
照)の各種の研究会や敦賀商工会議所の「廃止措置研究会」等に参加し、技術交
流に努めた。さらに、文部科学省からの委託を受けた福井商工会議所が制作して
福井放送(株)が毎週土曜日にテレビ放映した平成 20 年度の「未来工房の匠たち」
や平成 21 年度の「未来を拓く鍵」(http://www.mirai-kagi.com/program/index
.html 参照)における映像提供や出演等の取材協力を通じ、もんじゅ・ふげんやレ
ーザー共同研究所等の技術を広く福井県内に紹介した。
これらの結果、毎年度 3 社程度の福井県内の企業等が成果展開事業を活用し
て成果を展開し、その中からは福井市の山田技研(株)が平成 17 年度に実施した
成果展開事業「冬季路面性状判断支援システムの開発」のように製品化に至って
147
平成 19 年度から売上の 2%を機構に納付する段階に発展した例や、平成 21 年度
には製品化に向けた特許を福井県内の企業 3 社と共同出願した等の成果が現れ
始めている。
2)東濃・幌延地区関連
○ 岐阜県瑞浪市と北海道幌延町の深地層研究施設(東濃地科学センター瑞浪超
深地層研究所、幌延深地層研究センター)については、地域の研究機関である岐
阜大学、名古屋大学、地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所、幌延地圏
環境研究所、北海道大学、道立地質研究所をはじめ、国内の大学や公的研究機
関 、 及 び ス イ ス 放 射 性 廃 棄 物 管 理 協 同 組 合 (NAGRA) 、 韓 国 原 子 力 研 究 所
(KAERI)等の海外の研究機関との研究協力や研究坑道等の施設供用によって、
関連分野の研究開発の推進及び研究者等の育成に活用した。
立地地域の産業の活性化等への貢献については、東濃地科学センターにおい
て地域の自治体主催のビジネスフェアに毎年ブースを展示し、機構所有の知的財
産等の紹介や技術相談に応じた。また、地場産業である窯業関係者に製造技術
の高度化や製品の軽量化等への応用として機構のレーザー技術や新素材(セルロ
ースゲル)等を紹介した。その結果、地元の民間事業者が窯業における機構技術
の有効性の確認試験を開始した。
地域の計画への支援については、「おもしろ科学館」、「サイエンスフェア」等の
地域主催行事に積極的に参加し、運営に協力した。
3)茨城地区関連
○ 今中期目標期間にて、茨城県が進めているサイエンスフロンティア構想の一環と
して、茨城県は J-PARC に 2 台の中性子利用実験装置を建設した。この装置の建
設に対し、設計から製作及び機構が開発した検出器の利用など多くの面から支援
し、予定通り装置を完成させ、平成 20 年 12 月からの供用開始に合わせ、それらの
装置の利用を開始させることができた。
○ 今中期目標期間を通し、茨城県中性子ビーム実験装置評価委員会等で指導・
助言を行うとともに、中性子利用促進に係る協力協定に基づき茨城県と連携協力
して、産業利用促進に係る活動を実施した。また、茨城県中性子利用促進研究会
や中性子産業利用推進協議会、そして J-PARC/MLF 利用者懇談会が合同で実
施する各種研究会や、茨城県中性子ビームライン利用成果報告会において
J-PARC センター職員が講演するなど協力を行い、地域産業への発展や新産業
の創出、人材育成に協力した。
○ J-PARC の中性子利用実験において、茨城県のつくば、東海、日立地区などの
地域産業を含めた産業利用が平成 21 年度からの本格的供用において、上期一
148
般公募課題の 19%、下期で 39%を占めるに至っている。これは、上記に示した産
業利用等への協力の効果が発揮されたと考えている。
以上の結果、中期目標を達成した。
149
(9)社会や立地地域の信頼の確保に向けた取り組み
【中期目標】
機構の意思決定中枢と研究開発の現場との責任体制を明らかにした上で、機構に対す
る社会や立地地域からの信頼の確保に向けた取り組みを実施する。
【中期計画】
社会・立地地域との共生については、機構の事業に関する安心感・信頼感を醸成するた
め、意志決定中枢と研究開発現場との間の責任体制を明確にして、情報公開・公表の徹
底等により国民や立地地域住民の信頼を確保する。そのため、安全確保への取り組みや
故障・トラブルの対策等の情報を国民や立地地域に発信する等、国民の理解の促進と一
層の安心感を醸成するための情報公開を進めるとともに、広報・広聴・対話活動を継続的
に実施する。具体的には、対話集会、モニター制度等の広聴活動を年平均 50 回以上実
施する他、相互の交流と理解を深めるための活動として、自治体等の推進する原子力教育
に協力する。
≪中期実績≫
○ 社会、立地地域との共生については、立地地域等の安全確保に係る取組に対し、
住民の安全確保及び生活環境保全を図るべく、立地自治体と機構との間で定め
た安全協定等に基づき、定期的な報告及び事故・故障等の際の速やかな連絡等
を研究開発拠点において実施し、立地地域住民の信頼を確保するよう努めた。ま
た、研究開発拠点での渉外活動については、各拠点が円滑に事業を行えるよう、
必要に応じ、本部及び各拠点内での情報共有を図り、支援を行った。
一方、理事長のもと「広報基本方針」を策定し、各研究開発拠点も含めこの趣旨
に沿い広報活動を継続的、効果的に実施した。また研究開発部門についても協力
及び指導を行うこととした。
○ 情報公開法に基づく、情報公開制度の運用については、外部有識者による情報
公開委員会によりその厳格な運用を担保しつつ、適切に行ってきた。開示請求へ
の対応を適切に実施するため、担当者を対象とした窓口対応研修の実施、担当課
長会議の開催などを定期的に行った。さらに、積極的に情報提供するため、各拠
点のインフォメーションコーナーにおいて、開示請求以前に情報を提供できるよう
するなどし、透明性の確保に努めてきた。
○ 地域社会からの信頼確保を目指して、日ごろから関係自治体や報道関係に対し
て、適時的確に情報提供を続ける取組を行ってきた。事故・トラブルに関する情報
については、迅速かつ正確な情報を提供し、同時にプレス発表を行うとともに、ホ
ームページにて情報発信してきた。
○ また、機構の現状について情報発信するため、原則毎週金曜日に週報による情
報発信を関係自治体及び報道関係機関に年平均48回提供し続けてきた。特に報
道関係機関に対しては、日ごろからの理解増進活動として、毎回1件の話題を選定
150
し詳しく説明する記者勉強会、実際の研究現場において研究活動の現状を見て
聞いてもらうための施設見学会を開催するとともに、機構の目指している方向や方
針について理解いただく役員懇談会を年平均9回開催し、機構の業務について正
しい理解をいただけるよう努力してきた。結果、研究開発成果のプレス発表を、年
平均100回以上行う中、新聞等への記事掲載件数は年平均260件となっている。
機構としては、効果的なプレス発表を目指して、これまでの発表と、記事掲載の関
係を分析し、発表のタイミングなどに工夫を行いながら実施してきた。
○ さらに、地域との理解増進と共生の観点から、相手の要望を踏まえた対話活動を
継続的に実施することを重視し、モニター制度や対話集会活動を年平均 63 回取り
組み、同様の取組を対象者を変えて実施した実績を含めると年平均約 360 回行っ
た。その中で、リスクや安全確保への取り組みなどを重視しつつ、継続的に東海研
究開発センターにおける「さいくるフレンドリートーク」や敦賀地区における「サイク
ルミーティング」などの対話活動を行ってきた。敦賀地区では住民説明会参加者の
意見を聴取したところ、「もんじゅ」の重要性について理解できるとした方は、当初の
7 割から 8 割へと増え、一般住民への理解増進を醸成できたものと考えられる。
さらに、敦賀地区の女性広報チーム「あっぷる」、東海地区の女性広報チーム
「スイートポテト」、大洗地区の女性広報チーム「シュガーズ」の役割が大きく、説明
会や出前実験教室、出張授業等の草の根活動を継続実施した。
その結果、「あっぷる」の活動は、福井県民の原子力理解増進に大いに寄与し
ているとの理由から、平成 21 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞
を受賞した。
また、J-PARC センターと茨城県及び東海村の連携による理解促進活動が評価
され、平成 21 年度原子力学会社会・環境部会賞、優秀活動賞を受賞した。
○ 地域共生に向けた取組として、理数科教育支援に取り組み、年平均約300回の
活動を実施した。サイエンスキャンプの受入れ件数の拡大、スーパーサイエンスハ
イスクール(SSH)、サイエンスパートナーシッププロジェクト(SPP)活動の受入れ、
協力、出張授業・実験教室、展示施設における実験教室・工作教室、サイエンスカ
フェの開催など順次拡大の方向で展開してきており、参加者からは大変好評を得
ている。サイエンスキャンプに参加した高校生のアンケートによると9割以上の生徒
が満足したと答え、原子力研究開発への関心が更に高まったと答えている。このよ
うに地域での教育における貢献により、地域との共生を進めてきた。
○ さらに、外部有識者で構成する広報企画委員会委員と地域住民の方々との意見
交換会を実施し、第三者を介し異なる角度からの様々な意見を聴取することで、広
聴・広報活動に反映し、信頼を確保することに努力している。
151
○ 社会や立地地域からの信頼を確保するためには、従業員のコンプライアンス意識
の向上・徹底が必要であるので、ルールはもとより、マナー・モラルをも含めたコン
プライアンス(倫理法令遵守)の重要性、意義の理解、向上を目指し、人事部の階
層別研修でのコンプライアンスの講義や各拠点と連携して全拠点での研修を継続
実施した。
また、「コンプライアンス通信」(メールマガジン)を発行し(平成 22 年 3 月末までに
134 回(毎月約 3 回)発行)、コンプライアンスに関して社会で問題となった事例等、
身近な話題を取り上げ、各職場で「コンプライアンス通信」を素材としてコンプライア
ンスについて意見交換を図るようにした。
さらに、コンプライアンスに関する各種事例を取り上げた「コンプライアンスハンド
ブック」の全従業員への配布(平成 18 年度)、全従業員を受講対象とした e-ラーニ
ング(パソコンを利用した学習)の実施(平成 20 年度)、マンガを活用した分かりやす
い「コンプライアンスケースブック」の全従業員への配布(平成 21 年度)というように、
年度ごとに、意識向上・徹底のためのツールにも工夫をこらし、従業員のコンプライ
アンス意識の向上・徹底を図った。
○ これらに加え、機構におけるコンプライアンスを更に推進するため、平成 21 年 4
月 1 日に「コンプライアンス推進規程」を制定した。この規程に基づき、理事長が
「推進方針・推進施策」を策定周知し、これを受け、全組織において組織ごとに「取
組計画」を策定して種々の活動を実践し、また、実践した結果(取組結果)について
も報告するという仕組みを構築し、全組織が主体的にコンプライアンス活動を実践
した。また、コンプライアンス委員会(委員長:理事長)においても、「推進方針・推進
施策」案や各組織の「取組計画」について審議検討し、委員会の意見をフィードバ
ックしたり、取組状況を中間的に確認するため、拠点で会議を開催し(平成 21 年度
は関西光科学研究所(木津)・東海研究開発センターで開催)、拠点・部門等の者と
の意見交換をしたりするなどして、全組織のコンプライアンスの推進に努めた。
以上の結果、中期目標を達成した。
152
(10)情報公開及び広聴・広報活動
【中期目標】
国民に対する適切な情報公開、適時適切な広聴・広報活動、積極的な研究成果の発信
に努める。
なお、情報の取扱いに当たっては、核物質防護に関する情報、他の研究開発機関等の
研究や発明の内容、ノウハウ、営利企業の営業上の秘密の適切な取扱いに留意する。
【中期計画】
国民の科学技術への理解増進を図り、機構の研究成果を積極的に発信するため、広報
誌、研究施設の公開等を活用し、研究成果等を普及する。広報誌については年平均 10 回
以上の発行を行う。さらに、機構の一般公開、講演会等を実施するとともに、関係行政機関
が主催する国民向け理解増進活動に積極的に協力する。ホームページの質及び量を充
実し各年度の平均月間アクセス数 50,000 回以上を確保する。
なお、情報の取扱いに当たっては、核物質防護に関する情報、他の研究開発機関等の
研究や発明の内容、ノウハウ、営利企業の営業上の秘密の適切な取扱いに留意する。
≪中期実績≫
○ 広聴・広報活動による理解増進活動では、継続的に活動することが最重要なこと
であり、毎年の積み重ねにより徐々に結果がでるものと考え活動してきた。このため、
一時的なイベント性ではなく、「草の根活動」を重視し、対話による双方向コミュニケ
ーションによる理解増進を目指し「一人ひとりが広報マン」というスローガンのもと、
機構全体で取組を行ってきた。
○ インターネットホームページでは、まず、ホームページの利用者の拡大に努め、
幅広く情報発信するツールとすべく、タイムリーな情報発信、分かりやすさに配慮し
たコンテンツへの更新、顔の見える研究機関としての情報発信に留意し、日々更
新を実施してきた。研究開発成果の検索、安全への取り組み、主な研究開発事業、
学習サイトなど、利用者の目的に応じた情報へ直接アクセスできる入り口をトップペ
ージに設けるなど工夫した。結果、今中期目標期間中のアクセス数は、トップペー
ジは各年度とも月平均12万件以上を確保し、全体では平成18年度の月平均650
万件から、年度を重ねるごとに増加し、平成21年度の月平均1200万件に至ってい
る。これは、4年間の総務省統計のインターネット利用者の増加数7%を上回る約
80%の増加率であり、日々の工夫がアクセス実績として現れ、幅広く情報発信でき
ることで理解増進に貢献できたものと考える。
○ さらに、トピックスを伝えるためのメールマガジンを発信し、平成21年度からは、も
っと適時性のある発信の要望に答えるために、隔週発信から、原則毎週発信に改
善した。また、平成20年度からは携帯端末利用者の増加を踏まえ、携帯版ホーム
ページを立ち上げるなど、サービスの拡大による利用者の確保を目指した。
○ 報道関係機関に対しては、日ごろからの理解増進活動として、毎回1件の話題を
153
選定し詳しく説明する記者勉強会、実際の研究現場において研究活動の現状を
見て聞いてもらうための施設見学会を開催するとともに、機構の目指している方向
や方針について理解いただく役員懇談会を年平均9回開催し、機構の業務につい
て正しい理解をいただけるよう努力してきた。結果、研究開発成果のプレス発表を、
年平均100回以上行う中、新聞等への記事掲載件数は年平均260件となっている。
機構としては、効果的なプレス発表を目指して、これまでの発表と、記事掲載の関
係を分析し、発表のタイミングなどに工夫を行いながら実施してきた。
また、機構に関する新聞記事やテレビニュース等で、事実と異なる内容や読者
に誤解を与えるような記事等に対しては、社会的な影響等を勘案し、記事解説の
作成や報道機関への抗議を行うとともに機構のホームページへ記事解説を掲載す
る等、一般の方々に対して正しい情報の発信を行い、機構の主張を明確にしてき
た。
○ 海外に向けた情報発信として、広報部と国際部と協力し、平成 18 年度より IAEA
総会において機構ブースを継続的に設置し、注目度の高いプロジェクトを選択して、
「次世代原子力システム開発」、「もんじゅ」、「核融合」、「核不拡散」などについて
展示説明することで、機構の国際的な研究開発、連携協力について積極的に情
報発信を行った。また、ウィーン及びパリにおいて現地の報道関係者を対象とした、
機構の事業説明会を開催し理解増進に努めた。
○ 対話活動では、年平均約360回を維持し、地域に密着した活動を積み重ねた。
加えて、研究者・技術者による対話の重要性にかんがみ、双方向コミュニケーショ
ン活動であるアウトリーチ活動を新たに開始し、定着させるため、機構内のアウトリ
ーチ活動推進会議により良好事例を踏まえ、活動を改善しより積極的なものとして
展開できるようしてきた。具体的には、東海研究開発センター、敦賀地区に続き、
大洗研究開発センター、関西光科学研究所においてサイエンスカフェを開始する
など、機構のサイエンスカフェの開催等は平成18年度の6回から平成21年度には
27回と大幅に増加した。同時に、アウトリーチ活動の一環として、研究者・技術者を
中心に理数科教育支援に取り組み、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)、サイ
エンスパートナーシッププロジェクト(SPP)に参画・協力した。また、地元小中学生、
高校生等を対象とした講演会、施設見学会、アクアトム科学塾の開講など実験教
室、出前実験教室等を合わせて年平均300回開催し、原子力や科学について体
験し学んでいただくことで自治体や教育機関等との連携強化と信頼確保に努め
た。
○ 特に、国民を対象に専門用語を使わず、相手に分かりやすい資料、自分たちで
咀嚼してからの説明を住民説明会、サイエンスカフェ、出張授業等で行い、日ごろ
からの広聴・広報活動である草の根活動を継続実施してきた。その結果、敦賀地
154
区の女性広報チーム「あっぷる」の活動は、福井県民の原子力の理解増進に大い
に寄与しているとの理由から平成21年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学
技術賞を受賞した。
また、J-PARC における広報活動では、年平均約 400 回見学会を実施した。見
学した教員からは、「何事も身近なもので例えると分かりやすく説明できることが分
かった」、「研究者の話からわくわく感が伝わり今後の授業へ活かしたい」との感想
をいただいた。その結果、J-PARC センターと茨城県及び東海村の連携による理
解促進活動が評価され、平成 21 年度原子力学会社会・環境部会賞、優秀活動賞
を受賞した。
○ これら活動の結果、機構の広報活動への期待の増加の現れと考えられるものとし
て、外部からの協力依頼をいただけるように変化してきている。例えば、サイエンス
チャンネルや科学番組の映像作成に際しての、シナリオ作成、撮影への協力、教
育用ビデオの制作協力、教育用の原子力副読本への協力、原子力図鑑制作への
協力など協力関係が増加傾向にある。また、学習指導要領の改訂に伴い、原子力
や放射線学習に対して、学校への講師派遣依頼や機構作成のパンフレットの提供
依頼などにも協力した。
○ また、月 1 回程度の継続的な情報発信を目指す観点から、広報誌を年間 10 回
以上発刊する目標を立てた。実績としては、定期刊行物として、最新の研究開発
の成果、現状等を紹介する広報誌「JAEA ニュース」を年平均 8 回、一般を対象と
して、機構内外を問わず研究者とその活動の紹介、誌上サイエンスカフェ、産業界
との協力による成果等をシリーズで取り上げた広報誌「未来へげんき」を年平均 4
回の合計年平均 12 回発行し、地元関係者を始め、関係機関や地方自治体、マス
コミや原子力産業界等に配布した。アンケートハガキで寄せられた意見を踏まえ、
医療分野への原子力の貢献と機構の取組、将来のエネルギー安定供給に向けた
研究開発、放射性廃棄物の処理・処分等を誌面で企画するなど読者のニーズを
反映した。
○ 機構への理解を得るため東海、大洗、那珂、高崎、関西の研究開発拠点で施設
一般公開を、東海、敦賀、東濃、幌延、J-PARC センターで見学会を開催し、地域
の住民を中心に多数の参加者を得た。また、サイエンスキャンプの受入れでは、当
初の 5 拠点から 7 拠点へ受入れを増やし、若手研究員による説明等を積極的に行
い、若者に対する科学技術への理解促進に努めた。
○ また、研究開発拠点のみならず、研究開発部門・事業推進部門も交えた、広報
委員会を年 2 回、平成 19 年度からはアウトリーチ活動推進会議を 2 回開催し、目
標設定とその結果の評価、良好事例の抽出、改善点の検討等を行った。
155
○ 展示施設については、核物質防護の観点から見学が難しい研究施設に代わっ
て、事業活動を理解いただく場と理数科教育支援の場としての地域の科学館とし
て運用しつつ、効果的、効率的に理解促進を実施することを目指して、平成20年
度、21年度を対象とした展示施設の利用効率向上のためのアクションプランを制
定し、実行してきた。結果、東海地区にて重複していたインフォメーションプラザ東
海の展示機能を整理移設、廃合した。他の展示施設においては、来館者増加、経
費節減、収入増加にさまざまな施策により取り組み、全体として2年間で、来館者約
8%増加、経費約15%削減、収入約19%増加させることに成功した。さらに、引き続
き効率化を目指し、テクノ交流館リコッティのあり方の見直しの実施に向け、平成22
年度以降のアクションプラン策定に向けた取組を行った。
○ 情報の取扱いに当たり、核物質防護に関する情報については、核物質防護規定
の下部要領として制定している情報管理要領の運用を具体的に解説するため「核
物質防護上の情報管理の判断基準について(解説)」を作成・周知し、これにより教
育を実施するとともに同判断基準に基づいて適切に取り扱い、また他の研究開発
機関等の研究や発明の内容、ノウハウ、営利企業の営業上の秘密情報について
は、知的財産等取扱に係る秘密保持契約の締結や共同研究等契約時に共同研
究規程等に基づいた守秘義務条項を規定した契約の締結により、適切に取り扱っ
た。
以上の結果、中期目標を達成した。また、それ以外にアウトリーチ活動や対話活動
等にも積極的に継続し取り組み、平成 21 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰
科学技術賞を受賞した敦賀地区の女性広報チーム「あっぷる」の活動などの例から、
国民や社会といったステークホルダーの科学技術や原子力への理解増進等への貢
献につながっている。
156
Ⅱ.業務運営の効率化に関する目標を達成するためとるべき措置
1.柔軟かつ効率的な組織運営
【中期目標】
日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構を統合して機構を設立したことを踏まえ、
統合のメリットを活かした業務運営の効率の高い組織を構築し、効率的な運営を行う。
理事長のリーダーシップにより、事業の選択と資源の集中投入により効率的な業務運営
を行う。
【中期計画】
これまで日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が異なる経営・業務運営の下で
行ってきた業務を統一的かつ一体的に遂行し、総合的で中核的な原子力研究開発機関
の役割を果たしていくため、理事長のリーダーシップを支える柔軟かつ機動的な組織体制
を構築し、原子力施設の安全を確保しつつ、効果的・効率的な業務運営を図る。
理事長のリーダーシップの下、適切な経営管理制度を設計・運用し、事業の進捗管理、
課題の把握と対策を行い、事業の選択と限られた経営資源の集中投入により、業務運営
の効率化を行う。
≪中期実績≫
○ 9つの研究開発部門と11箇所の研究開発拠点を軸とする研究開発体制の下で
機構が総合的かつ中核的な原子力研究開発機関としての役割を果たしていくため
の組織運営を行った。経営の最重要課題である「もんじゅ」プロジェクトを推進する
ための敦賀本部の統括機能の強化、「もんじゅ」の安全管理及び品質保証の強化
を図ることを目的とした敦賀本部及び高速増殖炉研究開発センターの組織見直し
など、事業の進展に応じて、組織体制の見直しを行った。敦賀本部及び高速増殖
炉研究開発センターの組織見直しにより、経営層の迅速な情報把握と指示や、「も
んじゅ」内における適時・適切な意思決定、組織的な課題解決などが可能となった。
幅広いアプローチ活動の支援、原子力第1船原子炉廃止措置計画及び民間核燃
料サイクル事業への技術支援等を一層効果的に展開していくための「青森研究開
発センター」の設置を行った。「青森研究開発センター」の設置による関連情報の
一元化により、各地元自治体への一貫性ある対応や、外部対応の一元化による人
的資源の効率的運用などが可能になった。
○ 業務運営を効率的・効果的に行うため、各部門及び拠点ごとに設定した年度目
標に対して、期中に上期実施状況を、年度末に年度全体の実施結果と次年度実
施計画を、理事長自らが各組織長からヒアリング(理事長ヒアリング)を行い、各組織
の業務実績の評価に基づく課題の把握と解決に向けた方針を指示し、その結果を
次の業務に反映させる経営管理PDCAサイクルの運用を確立してきた。また、理事
長ヒアリング時に、機構経営に係るリスク要因及びその対処方策を共有する取組を
実施している。
○ 機構の業務運営に係る重要事項を審議し、迅速な経営判断や機関決定を行うた
157
めの理事会議等を効果的に開催するとともに、その情報を電子情報により速やか
に現場に伝達・周知させている。また、各研究開発部門長は関連する拠点長を交
えた定期的な会合を開催するなどにより、部門・拠点の運営に関する情報の迅速
な共有を図っている。さらに、理事長は拠点長会議及び部門長会議を開催し、各
組織の運営に関して拠点長、部門長等との意見交換を行い、その結果を組織体
制の見直し等に反映している。
○ グッドプラクティスの共有化については、保安活動、研究開発推進及び業務効率
化に関する事例のイントラネット等による機構内周知に加え、経営管理PDCAサイ
クルにおいて、各組織にグッドプラクティス事例の報告を平成20年度から義務づけ、
その事例の機構内周知を行い組織運営の改善を図っている。各組織にアンケート
調査した「水平展開すべき良好事例(平成20年度)」のベスト3は以下の通り。
①【人材育成】従業員のコンプライアンス意識啓発・徹底のため、コンプライアン
ス通信発行、コンプライアンスハンドブック作成・配布、集合研修実施、e-ラー
ニング実施等、様々な手法を組み合わせた取組を継続的に実施。これら取組
においては、原子力関係のみならず各種法令等の遵守、企業倫理遵守、職
業人・社会人としてのマナー遵守までをも含む幅広いテーマを取り上げてい
る。
②【広報活動】人々に分かりやすく伝える技術と人材に富んだ日本科学未来館
やつくばエキスポセンター等の機関と連携し、これらの科学館の各種イベント
や常設展示に核融合研究開発関連の意義や現状等を紹介するアウトリーチ
活動を定着させることができた。
③【内部統制】コンプライアンス推進規程の整備と連携し、「原子力施設における
法令等の遵守活動規程」を制定。理事長の定める活動方針に基づき、法令遵
守を確実にするための活動を実施。活動状況は安全統括部長が取りまとめ評
価し、中央安全審査・品質保証委員会での審議結果も含め、必要と判断した
事案について、法務室長と協議の上、コンプライアンス委員会に報告。
また、他法人のグッドプラクティス事例を自組織にいかすための情報交換に着手
した。
○ 理事長のリーダーシップをより発揮し、「もんじゅ」性能試験再開を目指した諸準
備を含む高速増殖炉サイクル研究開発、高レベル放射性廃棄物処分研究、ITER
計画及び幅広いアプローチ活動の推進及びJ-PARC計画対応を主要な事業とし
て選択し、それらに経営資源の集中を図った。これにより、予算制約の下において
も、「もんじゅ」性能試験実施に向けた諸活動の着実な実施が可能となるとともに、
深地層の研究所建設が着実に進展し、ITER計画及び幅広いアプローチ活動が
計画どおりに進捗し、J-PARCの総ての利用施設が稼働開始するといった効果が
現れている。
158
○ 「事業調整財源」及び「研究調整財源」からなる理事長調整財源を設置し、前者
は経営課題や重点事業に、後者は機構内の連携・融合研究の促進等のための研
究テーマに配分を行っている。
○ 経営の健全性、効率性、透明性の確保に努める仕組みの一環として、経営上の
重要事項について助言・提言を得るため、外部有識者から構成される経営顧問会
議を、研究開発の方向性について外部有識者から意見を得るための研究開発顧
問会を設置した。今中期目標期間中においては、経営顧問会議を8回、研究開発
顧問会を6回開催した。
以上の結果、中期目標を達成した。
159
2.統合による融合相乗効果の発揮
【中期目標】
日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の有していた施設、設備、人員を一体
的に活用し、基礎・基盤研究とプロジェクト研究開発の間の連携・融合・統合等を効果的に
進めながら事業を実施する。
なお、プロジェクト研究開発を実施するに当たっては、その過程で発生する技術的課題
を抽出し、当該課題を基礎・基盤研究にフィードバックして解決を図る。
【中期計画】
統合により日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の管理部門を一元化し、簡
素化する。管理部門の人員は、平成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研究所と核燃料サ
イクル開発機構の人員の合計に比べて 130 人以上削減する。
基礎・基盤研究からプロジェクト研究開発に至る幅広い専門分野の研究者・技術者の有
する経験や成果等充実した技術基盤をもとに、保有する研究インフラを総合的に活用し、
研究開発を効率的に行う。
日本原子力研究所の革新的水炉の研究開発部門と核燃料サイクル開発機構の高速増
殖炉の研究開発部門を集約し、研究開発を一元的に実施する。
実用化を目指したプロジェクト研究開発を進めるに当たっては、プロジェクト研究開発を
進める部署から基礎・基盤研究を進める部署へニーズを発信し、基礎・基盤研究を進める
部署は、これを的確にフィードバックして適時かつ的確に研究目標を設定する。また、基
礎・基盤研究で得た成果をプロジェクト研究開発に適切に反映させる。
≪中期実績≫
(管理部門の一元化、簡素化)
○ 日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の有していた人員を一体的に
活用するため、統合により旧法人の管理部門を一元化し、簡素化した。また、管理
部門の人員について、各部門・拠点における人的資源や業務状況を確認しつつ、
人員配置の見直しを進め、平成 16 年度の日本原子力研究所と核燃料サイクル開
発機構の人員の合計に比べて 130 人以上削減する計画に対して、133 人を削減
した。
○ 旧二法人の研究拠点を統合した大洗研究開発センターでは、自主保安活動及
び品質保証活動等の統合を段階的に進めており、平成 17 年度は事故・故障に係
る規則類を統一した。平成 18 年度には品質保証計画の統合や職員教育を実施し、
平成 19 年度と 20 年度にかけては、関連保安規定の改正、原子力事業者防災業
務計画の統一及び環境放射線モニタリング等の設備・機器の整備を含めた一体化
を完了した。平成 21 年度には、放射線障害防止法に基づく使用の許可を平成 23
年度に一本化することに向けて、RI 統合推進委員会を設置し、統一的・一元的な
安全管理体制の確立、安全意識の共有と向上、異常時の対応や環境放射線モニ
タリング等の設備・機器の整備に取り組んでいる。
安全及び品質等に係る一元化の取組を継続的に進めた結果、運営管理におい
て、設備・機器の統一による設備維持のコスト削減や業務の更なる効率化を可能と
し、規則・規程類の統一により、職員相互の認識共有と安全・品質向上意識の醸成
160
が図られる等の融合相乗効果を生み出している。
(研究インフラの総合的活用)
○ 機構の各部署で保有している分析機器等のインフラの有効活用を図るため、保
有部署以外の利用に供する事ができる機器のリストを平成 18 年度から毎年精査・
更新し、イントラネットに掲載して機構内に周知した。平成 19 年度には約 1,700 件、
平成 20 年度には約 2,000 件、平成 21 年度には約 2,500 件、保有部署以外から
の利用があった。平成 21 年度には分析機器を電気化学分析装置、光分析装置、
電磁気分析装置、分離分析装置、分解・蒸留・分離・濃縮装置、熱分析・熱測定装
置、専用測定装置、放射線測定装置、その他、に分類した。これにより、利用者が
用途に対応した分析機器を検索することが容易となった。
(革新的水炉と高速増殖炉の研究開発部門の集約と研究開発の一元的実施)
○ 二法人統合時に、日本原子力研究所の革新的水炉の研究開発組織と核燃料サ
イクル開発機構の高速増殖炉サイクルの研究開発組織を集約し、次世代原子力
システム研究開発部門を発足させた。また、平成20年度には、次世代原子力シス
テム研究開発部門の炉心解析グループを原子力基礎工学研究部門の核設計技
術開発グループに統合し、我が国の炉物理研究の基盤を支え、炉物理研究センタ
ーとしての役割を担い、標準コード開発とプロジェクト支援業務の責務を果たすた
めの組織とした。その結果、プロジェクト研究開発からのニーズ発信、基礎基盤研
究からのフィードバックを通じて、実証炉、実用炉の設計研究に必要な炉心解析技
術の高度化、炉心核特性予測誤差の評価などの作業効率が向上し相乗効果が発
揮された。
(基礎・基盤研究とプロジェクト研究開発の連携)
○ 実用化を目指したプロジェクト研究開発部署と基礎・基盤研究部署の間の協議
会として、次世代原子力システム研究開発部門が事務局を務める「高速増殖炉サ
イクル連携推進会議」を毎年 1 回開催し、核不拡散科学技術センター、システム計
算科学センター、先端基礎研究センター、核燃料サイクル技術開発部門、原子力
基礎工学研究部門、量子ビーム応用研究部門、地層処分研究開発部門等と次世
代原子力システム研究開発部門の連携として、年間 13~18 テーマの研究を進め、
プロジェクト研究開発のニーズ発信と基礎・基盤研究からのフィードバックによりプ
ロジェクト型研究である FaCT の研究開発課題の解決や設計研究作業の効率化を
図った。例えば、FaCT から、革新的な蒸気発生の管板の詳細熱応力解析のニー
ズを示し、システム計算科学センターの大規模並列計算技術を活用した解析によ
って機器構造上の応力集中箇所を明らかにした。これにより、FaCT では適切な設
計余裕を有する蒸気発生器の設計案を確定することができ、システム計算科学セ
ンターでは、大規模並列計算技術の実機設計への適用による職員の研究開発対
161
するインセンティブの向上等の融合相乗効果が発揮されている。FaCT の燃料製
造技術開発分野では、次世代原子力システム研究開発部門、原子力基礎工学部
門が有する異なる温度領域の MOX 物性データを活用した実験的アプローチと、
先端基礎研究センターとシステム計算科学センターの第一原理計算に基づく燃料
材分子の格子振動解析による理論的アプローチを併用することによって、実験研
究では予測が困難な燃料物性予測手法の確立を進めた。その結果、FaCT ではこ
れまで実測困難な領域の熱物性を実用燃料開発に適用することが可能となり、先
端基礎研究センターでは、熱物性予測モデル構築という成果が得られ、相互に融
合相乗効果が発揮された。
(その他連携強化)
○ 理事長のリーダーシップの下で、経営資源の再配分を行う仕組みとして理事長調
整財源を用いて運用する「連携・融合研究制度」を平成 18 年度に創設し、原子力
基礎工学研究部門、量子ビーム応用研究部門、核融合研究開発部門、次世代原
子力システム研究開発部門、核燃料サイクル工学研究所、J-PARC センター、大
洗研究開発センター、関西光科学研究所、システム計算科学センター等異なる部
門・拠点の連携により、機構の保有する研究資源を総合的に活用して研究開発を
効率的に実施する仕組みを確立した。例えば「ファイバーレーザー照射溶接補修
技術の標準化に向けた現象論的解釈の高度化」等、連携・融合無しには為し得な
かった多くの成果が創出されており、連携による相乗効果を発揮するために大きく
貢献している。
○ 日欧協力で進めている幅広いアプローチ(BA)事業において、国際核融合炉材
料照射施設(IFMIF)の工学実証・工学設計活動(EVEDA)の一環として、高速炉
開発を行っている大洗研究開発センターと核融合研究開発部門が連携して、同セ
ンターが有する液体金属に係る既存技術や試験施設を有効に活用し、リチウム試
験ループの設計製作を実施している。平成 20 年度からはリチウム燃焼に係る試験
やリチウム漏えい検出器の開発試験等を実施し、平成 21 年度からはリチウム試験
ループの設置工事に着手した。融合相乗効果として、大洗研究開発センターでは
液体金属技術の向上・伝承及び人材育成が図られ、核融合研究開発部門では
BA 事業のコスト削減が可能となる等、相互に成果を生み出している。
○ 事業推進部門の例として建設部では、核燃料サイクル工学研究所の再処理施設
の耐震 BC における地質・地質構造調査や基準地震動策定の成果を、原子力科
学研究所の研究炉の耐震安全性評価にも有効に活用し、さらに、大洗研究開発
センターの研究炉については、機構全体として耐震安全性評価内容が整理統合さ
れ統一性の高い評価につながるなど、情報共有や問題点の把握、品質の向上等
において融合相乗効果が発揮されている。
162
○ 部門・拠点を横断した協議会により、組織間の連携を促進した。特に、平成 18 年
度に原子力基礎工学研究部門と量子ビーム応用研究部門が次世代原子力システ
ム研究開発部門、燃料材料試験部(大洗研究開発センター)等と連携して、科学技
術振興機構の募集する文部科学省による原子力システム研究開発事業「基盤研
究開発分野」における平成 18 年度新規研究開発課題公募に応募し、課題が採択
された。平成 20 年度には、「原子力システム研究開発事業」において平成 18 年度
からの継続課題 8 件を進め、8 件の論文等発表、6 件の国際会議発表、29 件の学
会発表、1 件の特許出願の成果を得た。平成 21 年度には、安全研究センター、原
子力基礎工学研究部門、量子ビーム応用研究部門、地層処分研究開発部門、光
医療研究連携センター、システム計算科学センター、照射試験炉センター、ホット
試験施設管理部等が連携して、90 件の論文等発表、82 件の国際会議発表、152
件の学会発表、14 件の特許等出願の成果を挙げた。
以上の結果、中期目標を達成した。
163
3.産業界、大学等、関係機関との連携強化による効率化
【中期目標】
原子力の研究開発を効果的・効率的に実施するため、産業界、大学等及び関係行政機
関との強固な連携関係を構築するとともに、そのニーズを適切に反映するとともに、適正な
負担を求め、研究開発を効率的に推進する体制を整備する。
機構が研究開発を実施するに当たっては、大学等の研究開発の成果の効率的かつ効
果的な活用を促進するとともに、研究開発の過程で発生した技術的課題の解決に当たっ
ても、大学等と連携して、その解決を図る。
【中期計画】
機構は、日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が進めてきた産業界、大学及び
関係行政機関との連携関係を一層発展させ、我が国全体の原子力技術に関する総合力
の強化を図るとともに、原子力利用の拡大を図る。
研究課題の設定や研究内容に関して、産業界との意見交換の場を設ける等により、産
業界、大学及び関係行政機関の意見・ニーズを適切に反映するとともに適正な負担を求
め、効果的・効率的な研究開発を実施する。
≪中期実績≫
○ 産業界等との連携については、原子力エネルギー基盤連携センターの活動や物
質・材料研究機構、理化学研究所との三機関連携等、複数の機関での人材・施設
を利活用することによって研究資源を節約し、効率的に研究を進めた。原子力エ
ネルギー基盤連携センターにおいては、高温ガス炉用黒鉛・炭素材料開発の分野
では、現在世界で唯一原子炉級黒鉛製造技術を持つ(株)東洋炭素と連携して、
連携先の製作した黒鉛試料を用いることにより、X 線 CT 法による黒鉛内の空孔分
布の測定からヤング率や熱膨張率等の巨視的物性を評価する手法の開発を効率
的に進め、2 年半で目処をつけた。また、廃棄物中の U や Pu の超高感度非破壊
検出技術開発を(株)IHI と進めるとともに、(株)IHI や東京大学と連携してその技
術とノウハウを融合し、装置作成に当たっては外部の競争的資金を共同獲得する
ことで、航空手荷物中の隠匿核物質を検出できるシステムの試作機を完成し、平
成 21 年度はその実用性を実証し、3 年間で効率的に開発した。なお、研究開発の
実施に当たっては、産業界から派遣された人員を含めて構成する特別グループの
設置により、産業界の意見・ニーズを適切に反映している。また、三機関連携では
機関間の効果的結合により負の熱膨張を示す物質の発現機構の解明を短期間で
効率的に進めている。さらに、全国にある機構の研究拠点において、全機構の成
果を活用して産業界との連携を効率的に進め、原子力・量子ビーム利用の拡大を
図った。例えば、実用化プロジェクトにおいて、産業界からの要請に応じ、適正な
費用の負担を求め固体中含有ガス量測定装置(グラビマス)等の製品開発を短期
間で効率的に行うとともに、高崎量子ビーム応用研究所における成果である生分
解性ハイドロゲルを敦賀本部での産学連携活動を通じて、低伸縮越前和紙の商品
化に結び付ける等、効率的に成果活用を推進した。
○ 大学等との連携については、連携重点研究及び先行基礎工学研究を通して、産
164
業界・大学等との研究協力及び人材育成に係わるプラットホームの形成を推進し、
医療・先端分析技術等、社会ニーズに応える分野の連携を重点化し、効率的に研
究を進めた。例えば、先行基礎工学研究制度の「粒界制御法による改良型高速炉
耐照射材料の開発」においては、北海道大学が所有するマルチビーム型超高圧
電子顕微鏡システムを共同で利活用することにより、材料特性の把握が容易になり、
効率的な研究が進められ、特許を出願した。さらに大阪大学と共同で気泡・溶存ガ
ス挙動解析手法の開発を短期間で効率的に開発した。また、連携重点研究制度
においては、首都大学東京ほか 8 機関による「リアルタイム非破壊超微量元素分析
法の開発」など高い成果を効率的に上げている。
○ 関係行政機関との連携においては、内閣府が実施する産学官連携サミット等に
協力し、論文発表、出展等を通して産学官の連携関係を一層発展させた。
○ 研究課題の設定や研究内容に関して、産学官での意見交換の場を設けることに
ついて、産業界とは、技術協力協定に基づく運営会議等の開催により実務レベル
での定期的な意見交換を行い、大学等とは、研究協力と人材育成に関する包括的
連携協力協定に基く連携協議会等を実施し、効果的・効率的な連携を推進した。
○ 依頼された研究開発等の実施に伴う費用の負担については、受託研究規程、共
同研究規程等の規程や手引きを整備し、それらに基づき、依頼元から適切な費用
の負担を求めている。また、当該研究開発等で放射性廃棄物が発生する場合には、
依頼元が費用を負担する条件で契約している。
以上の結果、中期目標を達成した。
165
4.業務・人員の合理化・効率化
【中期目標】
機構の行う業務について既存事業の効率化を進め、独立行政法人会計基準に基づく
一般管理費(公租公課を除く。) について、平成 16 年度 (2004 年度) の日本原子力研究
所及び核燃料サイクル開発機構の合計額に比べ中期目標期間中にその 15%以上を削減
するほか、その他の事業費 (外部資金で実施する事業費を除く。) について、中期目標期
間中、毎事業年度につき 1%以上の効率化を図る。
なお、「行政改革の重要方針」(平成 17 年 12 月 24 日閣議決定)を踏まえ、平成 18 年度
以降の 5 年間で国家公務員に準じた人件費削減を行うとともに、役職員の給与に関し、国
家公務員の給与構造改革を踏まえた給与体系の見直しを図る。
また、業務の効率化、事業の見直し及び効率的運営により要員の効率的配置を行うとと
もに、日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の情報システムを一元化し、情報
伝達の迅速化、業務の効率化を図る。また、外部資金で実施する事業費についても効率
化を図る。
【中期計画】
機構の行う業務について既存事業の効率化を進め、独立行政法人会計基準に基づく
一般管理費(公租公課を除く。) について、平成 16 年度 (2004 年度) の日本原子力研究
所及び核燃料サイクル開発機構の合計額に比べ中期目標期間中に、その 15%以上を削
減するほか、その他の事業費 (外部資金で実施する事業費を除く。) について、中期目標
期間中、毎事業年度につき 1%以上の業務の効率化を図る。また、外部資金で実施する
事業費についても効率化を図る。
事業の見直し及び効率的運営並びに管理部門の更なる効率化を進め、職員(任期の定
めのない者)を平成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の
人員の合計に比べ 489 人以上削減する。
「行政改革の重要方針」(平成 17 年 12 月 24 日閣議決定)において削減対象とされた人
件費については、平成 22 年度までに平成 17 年度の人件費と比較し、5%以上削減する。
そのため、今中期目標期間の最終年度である平成 21 年度の人件費については、平成 17
年度の人件費と比較し、概ね 4%以上の削減を図る。ただし、今後の人事院勧告を踏まえ
た給与改定分については削減対象から除く。
なお、以下の常勤の職員に係る人件費は、削減対象より除く。
①国からの委託費及び補助金により雇用される任期付研究者
②運営費交付金により雇用される任期付研究者のうち、国策上重要な研究課題(第三
期科学技術基本計画(平成 18 年 3 月 28 日閣議決定)において指定されている戦略
重点科学技術をいう。)に従事する者及び若手研究者(平成 17 年度末において 37
歳以下の研究者をいう。)
③競争的研究資金又は受託研究若しくは共同研究のための民間からの外部資金により
雇用される任期付職員
また、機構の事務・技術職員の給与水準に関し、人材確保の観点から類似の業務を営
む民間企業との水準を注視しつつ、平成 21 年度における対国家公務員年齢勘案指数を
119 以下とすることを目標とする。
国家公務員における給与構造改革を踏まえ、本給表カーブのフラット化を図るとともに、
管理職手当ての見直しに加え、現行の調整手当等の見直しを図る。
(注) 平成 17 年度の人件費は、日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構及び機構に係る人件費を合算
したものである。
契約等の各種事務手続きを簡素化、迅速化する。また、両法人の情報システムを一元
化し、情報ネットワークを活用した情報の電子化、情報伝達の迅速化を図る。
任期付任用制度の積極的な活用、国内外の優れた研究者の招聘等により、研究開発
166
活動の活発化に努める。
≪中期実績≫
○ 独立行政法人会計基準に基づく一般管理費(公租公課を除く。)については、平
成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研究所及び核燃料サイクル開発機構の合計
額に比べ中期目標期間中に約 26.4%削減した。その他の事業費(放射性廃棄物
の埋設処分、J-PARC 運転維持費、TRU 廃棄物地層処分費用拠出金、材料試
験炉(JMTR)の改修、核物質防護強化対策、高速増殖炉サイクル実用化研究開
発、新耐震基準に基づく耐震強化対策の新規・拡充事業及び外部資金のうち廃
棄物処理処分負担金等で実施した事業費を除く。)についても毎事業年度につき
1%以上の効率化を図り、平成 16 年度(2004 年度)に比べ中期目標期間中に約
15.1%の効率化を達成した。
また、新規・拡充事業及び外部資金で実施する事業についても、J-PARC 運転
委託業務に関する契約方法の工夫(高エネルギー加速器研究開発機構も交えた 3
者契約)などの効率化を図った。
今後も一般管理費(公租公課を除く。)については、平成 21 年度(2009 年度)に
比べ、第 2 期中期目標期間中にその 15%以上を削減し、その他の事業費(外部資
金で実施する事業、新規に追加される業務、拡充業務及び埋設処分業務勘定へ
の繰入は除く。)については、平成 21 年度(2009 年度)に比べ、第 2 期中期目標期
間中にその 5%以上を削減することを目標に既存事業の徹底した見直し、効率化
を継続する。
○ 職員(任期の定めのない者)について、各部門・拠点における人的資源や業務の
状況を確認しながら、平成 16 年度の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機
構の人員の合計から 489 人以上削減する計画に対して、490 人を削減した。
(参考) 平成 17 年度:目標 100 人以上削減、実績 107 人(4,338 人)
平成 18 年度:目標 85 人以上削減、実績 90 人(4,248 人)
平成 19 年度:目標 86 人以上削減、実績 91 人(4,157 人)
平成 20 年度:目標 75 人以上削減、実績 79 人(4,078 人)
平成 21 年度:目標 122 人以上削減、実績 123 人(3,955 人)
○ 「行政改革の重要方針」(平成 17 年 12 月 24 日閣議決定)等において削減対象
とされた総人件費について、職員(任期の定めのない者)の合理化を中心として取り
組んだ結果、平成 17 年度と比較して 4%以上の削減目標に対して、約 6.1%の削
減を図った。
(参考) 平成 18 年度:目標▲0.4%程度、実績▲約 0.9%
平成 19 年度:目標▲1.0%程度、実績▲約 5.0%
平成 20 年度:目標▲2.0%程度、実績▲約 5.7%
167
平成 21 年度:目標▲4.0%程度、実績▲約 6.1%
○ また、国家公務員の給与構造改革等を踏まえ、平成 18 年度に、国家公務員の
指定職俸給表の見直しに準じた役員給与規程の改正及び旧二法人の給与水準
を統一した職員本給表への改正並びに管理職手当の見直しを行った。その後、平
成 19 年度に、さらなる職員本給表の改定(本給水準の引下げ)等を行った。
○ 独立行政法人整理合理化計画等に基づき、役職員の給与水準について適切に
公表するとともに、給与水準の適正化の観点から、労働組合との協議を経て、平成
19 年度から平成 21 年度にかけて、期末手当の引下げ等の見直しを行った。
○ 平成 17 年 10 月の機構設立後、それぞれの部署で業務の効率的な運営に努め
たが、平成 19 年 1 月、業務効率化推進委員会を設置して、管理部門を中心とする
事務業務の効率化を総合的・統一的に推進した。また、平成 20 年度から、その活
動を全拠点に拡大した。
委員会は、国の行政効率化推進計画や機構内でのアンケート等から課題を選
定して年度計画を策定し、その達成状況を当該年度中に中間・年度評価を行うな
ど、PDCA サイクルを回して実施した。その結果、平成 19 年度から 21 年度までで、
85 件の課題に取組み、79 件(約 93%)の課題が達成という結果を収め、各種事務
手続の簡素化、迅速化等が図られ、業務の効率化が行われた。
主な成果は、次のとおり。
・ コピー機使用料の削減(平成 19 年度から平成 21 年度で、機構全体で約 15%
削減(対 18 年度比))
・ 新 TV 会議システムの運用開始
・ 新 TV 会議システムの導入、専公接続サービスの導入等による通信費の削減
(平成 19 年度及び平成 20 年度で、機構全体で約 17%削減(対平成 18 年度
比))
・ 給与明細書の E-mail 配信システムの開発、運用
・ 文書決裁システムの導入により、紙処理に比べて回付日数を、回議書で 1/2、
業務連絡書で 1/4 に短縮
・ セキュリティ強化、ユーザの利便性向上、一括調達による調達コストの削減等
のためのシンクライアントの導入による業務系パソコン一元管理の実施
・ 資産の有効活用のための、遊休品、不用品の転用照会のシステムの構築
・ 一般競争入札の拡大等の公共調達の効率化
・ 東海研究開発センターにおける、一般廃棄物焼却炉の統合による運転経費
等の削減
両法人の情報システムの一元化については、機構の発足に合わせて日本原子
力研究所及び核燃料サイクル開発機構の基幹業務システムを一元化し、財務や
168
契約に関する業務の円滑な遂行に大きく貢献した。また、このシステムの一元化に
おいて、これまで我が国で主流であったレガシーシステム(メーカ独自のハードウェ
アやソフトウェアによるシステム)に代えてオープン系システム(標準的なサーバやソ
フトウェアを使うシステム)を採用し、従来のメーカに依存した開発・運用管理からの
脱却を図った。これにより、平成 21 年度に実施した本システムの改修においては、
国の調達指針に沿って、調達規模を適切な規模に分割し、かつ、すべて一般競争
で実施することにより、改修の予算を約2割節減することができた。
情報ネットワークを活用した情報の電子化、情報伝達の迅速化については、機
構のイントラホームページ(機構内部向けのホームページ)の整備と拡充、e-ラーニ
ングシステムの整備、財務・契約業務に従事する職員の IT リテラシーの向上のた
めの研修等を実施した。
さらに、計算機及びネットワークの最適化計画を策定、実施することで、今中期
目標期間の総額として、約 14 億円の運用経費を削減した(平成 16 年度の両法人
合計の経費で平成 21 年度まで推移した場合との比較)。
○ 任期付任用制度の積極的な活用の観点から、各部門、拠点等と連携しながら、
職員(任期の定めのない者)とのバランス、総人件費削減に係る取組、研究開発の
進展状況にも留意しつつ、任期付研究員等の任期制研究者を 438 名(延べ人数)
受け入れることにより、研究開発環境の活発化を図った。
○ 外国人研究者の招聘等については、原子力研究交流制度で平成 17 年 10 月以
降の累計でアジア地域の研究者を 115 人受け入れた。また、その他の枠組みによ
り、各国の外国人研究者を平成 17 年 10 月以降の累計で 1,228 人受け入れた。
外国人研究者の参加により国際的な研究の進展に貢献するとともに、機構の研究
開発も更に活性化した。
○ 男女共同参画の推進の観点から、平成 18 年度に男女共同参画委員会を設置し、
平成 19 年度に男女共同参画推進目標を策定した。本目標に基づき、女性研究
者・技術者の採用促進、メンター制度によるキャリア育成、講演会の開催等による
理解促進等を計画的に実施した。
○ 「行政改革の重要方針」等において削減対象とされた総人件費の削減、および
独立行政法人整理合理化計画等に基づく役職員の給与水準の適切な公表、並
びに給与水準の適正化に向けた対応について、今後も継続的に取り組んでいくこ
ととする。
以上の結果、中期目標を達成した。
169
5.評価による業務の効率的推進
【中期目標】
事業の全般について、社会的ニーズ、費用対効果、経済的波及効果を勘案した事前評
価から事後評価に至る体系的かつ効率的な外部有識者による評価を実施することにより、
各事業の妥当性を評価するとともに、評価結果は、国民に分かりやすく提供し、業務運営
に的確にフィードバックする。
【中期計画】
機構の事業を効率的に進めるために、外部評価等の結果を活用して評価の透明性、公
正さを高める。
評価に当たっては、社会的ニーズ、費用対効果、経済波及効果を勘案し、各事業の計
画・進捗・成果等の妥当性を評価し、適宜事業へ反映させる。
評価結果は、インターネット等を通じて公表するとともに、研究開発組織や施設・設備の
改廃等を含めた予算・人材等の資源配分に反映させ、事業の活性化・効率化に積極的に
活用する。
≪中期実績≫
○ 機構は、自らの事業を効率的に進めるために、今中期目標期間の初頭に外部評
価システムを構築し、期中を通じ運用してきた。外部評価では、9 つの研究開発部
門に対して、7 つの研究開発・評価委員会と 1 つの審議会を設け、各研究開発課
題外部評価計画に基づき、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく事
前、中間、事後評価を計画的に進めた。中期目標期間において実施された外部
評価は、延べ 17 回(事後 2 回、中間 11 回、事前 4 回)であった。なお、評価委員
の選定においては、ユーザーを含む機構の研究開発分野やそれに関連した分野
に精通した外部の専門家に加え社会・経済のニーズを評価に反映できる外部の有
識者、かつ公正な立場で評価できることを基準としている。
○ 評価に当たっては、各研究開発課題の特性に合わせて運営するとともに、研究
開発成果のみならず、社会的ニーズ、費用対効果、経済波及効果などの多角的
視点も盛り込んで、各研究開発の計画・進捗・成果等の妥当性を評価した。
○
外部評価結果は、指摘事項への措置と併せて、機構の公刊資料
(JAEA-Evaluation)として一般に公表するとともに、その電子版を機構ホームペ
ージ(http://www.jaea.go.jp/01/1_6.shtml)に掲載しインターネットを通じて公表
することで透明性を確保するとともに、公表資料中で評価者名を明らかにすること
で、公正さを高めた。また、評価委員会からの指摘事項に対しては、機構としての
措置を策定、実施し適宜事業へ反映させることで、事業の活性化・効率化に積極
的な活用を図っている。
○ 以下のような事例に見られるように、外部評価の運用においては、グッドプラクテ
ィスの共有を図るなど、業務の活性化や効率的推進に向けた改善を行っている。
170
基礎研究系では、先端基礎研究・評価委員会が実施した、評価委員が各研究
の現場を回って研究者から意見等を直接聴取する研究室視察について評価室イ
ントラホームページを通じて機構内で共有を図った結果、量子ビーム応用研究・評
価委員会が取り入れ、拠点をまたぐ大規模な研究室視察に発展した。また、この視
察では、管理職を入れない若手研究者のみの意見聴取も行っている。このような
研究室視察では、研究開発の詳細な背景を施設、設備の状況を含めて評価委員
に示すことで、個々の研究開発のプロセスやマネージメントにおける改善点等に関
する詳細な指摘を受けることに加え、横断的な視点での評価を受けることができて
いる。また、委員に評価されている点や改善点が直接的に研究者等に伝わり、士
気の向上や効果的、効率的な改善に貢献しており、量子ビーム応用研究の分野に
おいて毎年顕著な成果が産み出される一因となっている。
プロジェクト系では、各プロジェクトの特色に合わせ、例えばバックエンド推進・評
価委員会では「廃止措置の進め方」、「処理処分の進め方」と課題を分けて評価を
受け、また、次世代原子力システム/核燃料サイクル研究・評価委員会では研究
開発の成果と計画についてのプロジェクトレビュー(技術的評価)と研究開発体制等
についてのマネージメントレビュー(大局的評価)に分類して評価を受ける、など効
果的な運営をしている。
以上の結果、中期目標を達成した。
171
Ⅲ.予算(人件費の見積りを含む。)、収支計画及び資金計画
1.予算
【中期目標】
財務内容の改善に関する事項
1.予算の適正かつ効率的な執行
予算を適正かつ効率的に執行するための仕組みを構築する。
【中期計画】
1.予算 2.収支計画 3.資金計画 (1.、2.、3.とも下記表参照)
≪中期実績≫
平成17年度(下期)~平成 21 年度予算
(単位;百万円)
一般勘定
区別
予算額
決算額
差 額
収入
295,540
276,991
△18,548
41,747
54,834
13,088
500
682
182
31,087
15,438
△15,650
0
384
384
受託等収入
1,147
33,820
32,673
その他の収入
6,702
6,801
99
-
-
-
376,723
388,950
12,227
一般管理費
39,347
34,886
△4,461
(公租公課を除く一般管理費)
24,520
22,237
△2,284
15,313
13,011
△2,302
9,208
9,226
18
14,827
12,649
△2,177
262,836
248,878
△13,958
106,529
102,837
△3,692
19
1
△18
156,307
146,041
△10,266
2,584
2,584
0
41,747
55,724
13,977
500
572
72
31,087
15,240
△15,847
0
375
375
運営費交付金
施設整備費補助金
特定先端大型研究施設整備費補助金
国際熱核融合実験炉研究開発費補助金
その他の補助金
廃棄物処理処分負担金
計
支出
うち、人件費(管理系)
うち、物件費
うち、公租公課
事業費
うち、人件費(事業系)
うち、埋設処分業務勘定へ繰入
うち、物件費
うち、埋設処分業務勘定へ繰入
施設整備費補助金経費
特定先端大型研究施設整備費補助金経費
国際熱核融合実験炉研究開発費補助金経費
その他の補助金経費
172
1,147
33,816
32,669
廃棄物処理処分負担金繰越
-
-
-
廃棄物処理事業経費繰越
59
63
3
借入償還金
-
-
-
376,723
389,554
12,831
受託等経費
計
173
電源利用勘定
区別
予算額
決算額
差 額
収入
444,455
462,626
18,171
36,807
26,754
△10,053
特定先端大型研究施設整備費補助金
-
-
-
国際熱核融合実験炉研究開発費補助金
-
-
-
その他の補助金
-
-
-
25,047
47,096
22,049
8,824
10,634
1,810
31,000
28,301
△2,699
546,133
575,411
29,278
一般管理費
53,293
44,735
△8,558
(公租公課を除く一般管理費)
23,964
21,489
△2,475
うち、人件費(管理系)
13,714
12,059
△1,654
うち、物件費
10,251
9,429
△821
うち、公租公課
29,329
23,246
△6,083
412,472
449,663
37,191
102,730
96,634
△6,096
44
2
△43
309,742
353,029
43,287
6,062
6,062
△0
41,021
32,291
△8,730
特定先端大型研究施設整備費補助金経費
-
-
-
国際熱核融合実験炉研究開発費補助金経費
-
-
-
その他の補助金経費
-
-
-
受託等経費
25,047
47,687
22,640
廃棄物処理処分負担金繰越
14,244
13,635
△610
廃棄物処理事業経費繰越
56
55
△0
借入償還金
-
-
-
546,133
588,065
41,933
運営費交付金
施設整備費補助金
受託等収入
その他の収入
廃棄物処理処分負担金
計
支出
事業費
うち、人件費(事業系)
うち、埋設処分業務勘定へ繰入
うち、物件費
うち、埋設処分業務勘定へ繰入
施設整備費補助金経費
計
174
埋設処分業務勘定
区別
予算額
決算額
差 額
収入
8,710
8,649
△61
13
12
△1
129
0
△129
8,852
8,661
△191
111
19
△92
うち、人件費
63
2
△61
うち、埋設処分業務経費
48
17
△31
埋設処分積立金繰越
8,741
8,641
△99
計
8,852
8,661
△191
他勘定より受入
受託等収入
その他の収入
計
支出
事業費
[注 1] 上記予算額は運営費交付金の算定ルールに基づき、一定の仮定の下に試算されたもの。各事業年度の予算につ
いては、事業の進展により必要経費が大幅に変わること等を勘案し、各事業年度の予算編成過程において、再計算
のうえ決定される。一般管理費のうち公租公課については、所用見込額を試算しているが、具体的な額は各事業年度
の予算編成過程において再計算のうえ決定される。
[注2] 各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
[注3] 受託経費
国からの受託経費を含む。
[注4]
・「廃棄物処理処分負担金」の使途の種類は、電気事業者との再処理役務契約(昭和 52 年契約から平成 6
年契約)に係る低レベル廃棄物の処理、保管管理、輸送、処分に関する業務に限る。
・当中期計画期間における使用実績は、以下のとおり。
平成 19~21 年度の使用実績額 ; 全体業務総費用 31,204 百万円のうち、14,666 百万円
①廃棄物処理費
使用実績額 ;
19 年度 560 百万円
20 年度 297 百万円
21 年度 288 百万円
合計 1,145 百万円
②廃棄物保管管理費
使用実績額 ;
19 年度 3,808 百万円
20 年度 1,744 百万円
21 年度 1,963 百万円
合計 7,515 百万円
③廃棄物処分費
使用実績額 ;
20 年度 3,385 百万円
21 年度 2,621 百万円
合計 6,006 百万円
・廃棄物処理処分負担金(当中期計画期間の未使用額 13,634 百万円)は次期中期計画に繰り越す。
[注5]
・一般勘定及び電源利用勘定の「その他の収入」には、機構法第 17 条第 1 項に基づく受託研究、共同研究
等契約で発生した放射性廃棄物の処理、貯蔵及び処分のための費用が含まれる。
・当該費用のうち処理及び貯蔵のための費用は、平成 22 年度以降に使用するため、次期中期計画に繰り越
す。
175
2.収支計画
≪中期実績≫
平成17年度(下期)~平成21年度収支計画
(単位:百万円)
一般勘定
区別
計画額
実績額
差 額
388,646
304,017
84,629
経常費用
388,646
302,435
86,211
事業費
225,510
254,176
△28,666
2,603
2,585
18
一般管理費
39,326
11,587
27,739
受託等経費
1,147
26,687
△25,540
減価償却費
122,663
9,985
112,678
財務費用
0
111
△111
雑損
─
458
△458
臨時損失
─
1,012
△1,012
388,646
306,428
82,218
233,696
250,362
△16,666
補助金収益
24,495
11,539
12,956
受託等収入
1,147
28,909
△27,762
0
0
0
6,643
7,305
△662
122,663
7,307
115,356
臨時利益
─
1,006
△1,006
税引前当期純利益
─
2,411
△2,411
─
133
△133
当期純利益(△当期純損失)
─
2,278
△2,278
目的積立金取崩額
─
総利益 (△総損失)
─
2,278
△2,278
費用の部
うち、埋設処分業務勘定
へ繰入
収益の部
運営費交付金収益
廃棄物処理処分負担金
収益
その他の収入
資産見返負債戻入
(△税引前当期純損失)
法人税、住民税及び
事業税
[注 1]各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
[注 2]・一般勘定及び電源利用勘定の「その他の収入」には、機構法第 17 条第 1 項に基づく受託研究、共同研
究等契約で発生した放射性廃棄物の処理、貯蔵及び処分のための費用が含まれる。
・当該費用のうち処理及び貯蔵のための費用は、平成 22 年度以降に使用するため、次期中期計画に繰越す。
176
(単位:百万円)
電源利用勘定
区別
計画額
実績額
差額
588,455
480,325
108,130
経常費用
588,455
473,920
114,535
事業費
348,235
416,445
△68,210
6,106
6,064
42
一般管理費
53,271
12,371
40,900
受託等経費
25,047
37,053
△12,006
減価償却費
161,902
8,051
153,851
費用の部
うち、埋設処分業務勘定
へ繰入
財務費用
0
236
△236
雑損
─
2,452
△2,452
臨時損失
─
3,717
△3,717
588,455
485,540
102,915
380,196
400,280
△20,084
収益の部
運営費交付金収益
補助金収益
0
8,833
△8,833
受託等収入
25,047
37,194
△12,147
廃棄物処理処分負担金
16,756
14,566
2,190
収益
4,554
16,738
△12,184
161,902
5,927
155,975
臨時利益
─
2,002
△2,002
税引前当期純利益
─
5,215
△5,215
─
185
△185
当期純利益(△当期純損失)
─
5,030
△5,030
目的積立金取崩額
─
総利益 (△総損失)
─
5,030
△5,030
その他の収入
資産見返負債戻入
(△税引前当期純損失)
法人税、住民税及び
事業税
[注 1]各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
[注 2]・「廃棄物処理処分負担金」の使途の種類は、電気事業者との再処理役務契約(昭和 52 年契約から平成
6 年契約)に係る低レベル廃棄物の処理、保管、管理、輸送、処分に関する業務に限る。
・今年度における使用実績は、以下のとおり。
使用実績額 ; 全体業務総費用 31,204 百万円のうち、14,666 百万円
①廃棄物処理費
使用実績額 ;
1,145 百万円
合計 1,145 百万円
②廃棄物保管管理費
使用実績額 ; 7,515 百万円
合計 7,515 百万円
③廃棄体処分費
使用実績 ; 6,006 百万円
合計 6,006 百万円
・廃棄物処理処分負担金は次年度以降に繰り越す。
[注 3]・一般勘定及び電源利用勘定の「その他の収入」には、機構法第 17 条第 1 項に基づく受託研究、共同研
究等契約で発生した放射性廃棄物の処理、貯蔵及び処分のための費用が含まれる。
・当該費用のうち処理及び貯蔵のための費用は、平成 22 年度以降に使用するため、次期中期計画に繰越す。
177
(単位:百万円)
埋設処分業務勘定
区別
計画額
実績額
差額
94
3
91
経常費用
94
3
91
事業費
74
2
72
一般管理費
5
─
5
受託等経費
13
─
13
減価償却費
1
0
1
財務費用
0
─
─
雑損
─
─
─
臨時損失
─
─
─
8,834
8,644
190
8,691
8,632
59
13
12
1
1
0
1
129
─
129
─
8,641
△8,641
─
─
─
8,741
8,641
100
─
─
─
8,741
8,641
100
費用の部
収益の部
他勘定より受入
受託等収入
資産見返負債戻入
臨時利益
税引前当期純利益
(△税引前当期純損失)
法人税、住民税及び
事業税
当期純利益(△当期純損失)
目的積立金取崩額
総利益 (△総損失)
[注 1]各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
178
3.資金計画
≪中期実績≫
平成17年度(下期)~平成21年度資金計画
(単位:百万円)
一般勘定
区別
計画額
実績額
差額
376,723
540,235
△163,512
334,417
300,644
33,773
2,603
2,585
18
投資活動による支出
42,247
227,060
△184,813
財務活動による支出
0
2,256
△2,256
59
10,274
△10,215
376,723
540,235
△163,512
334,476
330,970
3,506
295,540
276,991
18,549
補助金収入
31,087
15,822
15,265
受託等収入
1,147
30,988
△29,841
0
0
0
その他の収入
6,702
7,168
△466
投資活動による収入
42,247
196,643
△154,396
42,247
55,516
△13,269
その他の収入
0
141,127
△141,127
財務活動による収入
0
0
0
前期中期目標期間よりの
─
12,622
△12,622
資金支出
業務活動による支出
うち、埋設処分業務勘定
へ繰入
次期中期目標期間への
繰越金
資金収入
業務活動による収入
運営費交付金による
収入
廃棄物処理処分負担金
による収入
施設整備費による収入
繰越金
[注 1]各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
[注2]・一般勘定及び電源利用勘定の「その他の収入」には、機構法第17条第1項に基づく受託研究、共同研究
等契約で発生した放射性廃棄物の処理、貯蔵及び処分のための費用が含まれる。
・当該費用のうち処理及び貯蔵のための費用は、平成 22 年度以降に使用するため、次期中期計画に繰越す。
179
(単位:百万円)
電源利用勘定
区別
計画額
実績額
差額
546,133
922,941
△376,808
490,812
462,170
28,642
6,106
6,064
42
投資活動による支出
41,021
434,985
△393,964
財務活動による支出
0
13,340
△13,340
14,300
12,446
1,854
546,133
922,941
△376,808
505,112
539,069
△33,957
444,455
462,626
△18,171
補助金収入
0
0
0
受託等収入
25,047
31,433
△6,386
廃棄物処理処分負担金に
31,000
28,243
2,757
4,610
16,767
△12,157
41,021
365,656
△324,635
36,807
26,820
9,987
4,214
338,836
△334,622
財務活動による収入
0
0
0
前期中期目標期間よりの
─
18,217
△18,217
資金支出
業務活動による支出
うち、埋設処分業務勘定
へ繰入
次期中期目標期間への
繰越金
資金収入
業務活動による収入
運営費交付金による収入
よる収入
その他の収入
投資活動による収入
施設整備費による収入
その他の収入
繰越金
[注 1]各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
[注 2]・「廃棄物処理処分負担金」の使途の種類は、電気事業者との再処理役務契約(昭和 52 年契約から平成
6 年契約)に係る低レベル廃棄物の処理、保管、管理、輸送、処分に関する業務に限る。
・今年度における使用実績は、以下のとおり。
使用実績額 ; 全体業務総費用 31,204 百万円のうち、14,666 百万円
①廃棄物処理費
使用実績額 ;
1,145 百万円
合計 1,145 百万円
②廃棄物保管管理費
使用実績額 ; 7,515 百万円
合計 7,515 百万円
③廃棄体処分費
使用実績 ; 6,006 百万円
合計 6,006 百万円
・廃棄物処理処分負担金は次年度以降に繰り越す。
[注3]・一般勘定及び電源利用勘定の「その他の収入」には、機構法第 17 条第 1 項に基づく受託研究、共同研
究等契約で発生した放射性廃棄物の処理、貯蔵及び処分のための費用が含まれる。
・当該費用のうち処理及び貯蔵のための費用は、平成 22 年度以降に使用するため、次期中期計画に繰越す。
180
(単位:百万円)
埋設処分業務勘定
区別
計画額
実績額
差額
8,852
8,661
191
業務活動による支出
92
1
91
投資活動による支出
19
17
2
8,741
8,643
98
8,852
8,661
191
8,723
8,661
62
8,710
8,649
61
13
12
1
投資活動による収入
129
─
129
財務活動による収入
0
─
─
前期中期目標期間よりの
─
─
─
資金支出
次期中期目標期間への
繰越金
資金収入
業務活動による収入
他勘定より受入
受託等収入
繰越金
[注 1]各欄積算と合計欄の数字は四捨五入の関係で一致しないことがある。
○ 第1期中期目標期間において、、一般勘定及び電源利用勘定でそれぞれ約22
億円と約24億円の総利益が計上されているが、これは、収入支出決算上の支出と
財務決算上の費用の計上期のズレにより生じていた運営費交付金債務残を中期
目標期間最終年度の処理として、独立行政法人会計基準第81に基づき、全額収
益に振り替えたこと等によるものである。当該利益は主として現金の伴わない、見
掛け上の利益であるため、目的積立金の申請はできない。なお、一部の執行残に
よる利益は国庫納付する予定である。
○ 第1期中期目標期間において、埋設処分業務勘定で約86億円の総利益が計上
されているが、これは、機構法第21条に基づき、翌事業年度以降の埋設処分業務
等の財源に充てなければならないものであり、目的積立金の申請は必要ない。
○ 利益及び剰余金について
・ 第1期中期目標期間において、一般勘定で約22億円の総利益及び剰余金が
計上されているが、これは、収入支出決算上の支出と財務決算上の費用の計
上期のズレにより生じていた運営費交付金債務残を中期目標期間最終年度
の処理として、独立行政法人会計基準第81に基づき、全額収益に振り替えた
ことによるものである。現金を伴う利益ではないため、中期計画に定める剰余
金の使途に充てることができない。なお、一部の執行残による利益は国庫納
181
付する予定である。
・ 第1期中期目標期間において、電源利用勘定で約50億円の総利益及び剰余
金が計上されているが、これは、再処理施設収入を借入金の返済(負債の減
少)に充てたことに伴い、収益に対応する費用が計上されず利益が生じたこと
や収入支出決算上の支出と財務決算上の費用の計上期のズレにより生じて
いた運営費交付金債務残を中期目標期間最終年度の処理として、独立行政
法人会計基準第81に基づき、全額収益に振り替えたことによるものである。現
金を伴う利益ではないため、中期計画に定める剰余金の使途に充てることが
できない。なお、一部の執行残による利益は国庫納付する予定である。
・ 第1期中期目標期間において、埋設処分業務勘定で約86億円の総利益及び
剰余金が計上されているが、これは、機構法第21条に基づき、翌事業年度以
降の埋設処分業務等の財源に充てなければならないものであるため、中期計
画に定める剰余金の使途に充てることができない。
○ 運営費交付金債務について
・ 一般勘定における運営費交付金債務は0円である。
・ 電源利用勘定における運営費交付金債務は0円である。
以上の結果、中期目標を達成した。
182
4.財務内容の改善に関する事項
(1)自己収入の確保
【中期目標】
外部資金として、多様な機関から競争的資金をはじめとする資金の導入、研究開発以外
の自己収入をそれぞれ増加させる。
【中期計画】
外部資金として、多様な外部機関からの競争的資金をはじめとする資金の導入を図るた
め、受託研究や共同研究の積極的な展開を進めるとともに、競争的資金獲得額の中期目
標期間中の 5 年間の平均値を平成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研究所と核燃料サイ
クル開発機構の獲得額の合計に比べ 30%以上増加させる。また、研究開発以外の受託事
業及び研修事業による収入、特許実施料収入、施設・設備の共用による対価収入等の自
己収入についても、増加に努める。
自己収入額の取り扱いにおいては、各事業年度に計画的な収支計画を作成し、当該収
支計画による運営に努める。
≪中期実績≫
○ 文部科学省、経済産業省資源エネルギー庁、経済産業省原子力安全・保安院
(保安院)、内閣府、科学技術振興機構、日本学術振興会、原子力安全基盤機構、
新エネルギー・産業技術総合開発機構等、多様な外部機関からの資金の導入を
図った。
競争的資金の獲得に向けて、研究開発部門等で文部科学省「原子力システム
研究開発公募事業」、「原子力基礎基盤戦略研究イニシアティブ」、科学研究費補
助金等への応募を奨励した。応募者の所属する組織において応募研究課題につ
いての精査を行い、内容の充実を図った。また、科学研究費補助金の応募に関す
る有識者講演会を実施し、その発表資料や報告要旨などをイントラネットに掲載し
て周知し、積極的な取組みを促した。競争的資金の今中期目標期間中の 5 年間
の平均獲得額は 5,084 百万円/年であった。(平成 16 年度の実績(588 百万円)
に対して約 765%増加)
研修事業による収入の増加等を目指して、原子力研修センターニュースや原子
力学会メーリングリストによる情報提供、受講生募集活動等を積極的に行った。平
成 18 年度より、第 3 種放射線取扱主任者講習及び技術士試験対策講座を開講し
た。また外部からの講習申込に随時対応し、平成 20 年度からは保安院からの依頼
に対応した原子力専門研修等を行うとともに、第 3 種放射線取扱主任者講習の出
張講習(敦賀工業高校)を実施するなど、外部収入の増加対策を推進した。さらに、
平成 21 年度には新たに「原子力関係者のためのリスクコミュニケーション講座」を
開講するなど、研修受講料収入の確保に努めた。(平成 17 年度(下期)~21 年度
の実績 285 百万円)。
特許等実施料収入の増加等を目指して、機構ホームページの該当部を全面変
更し、特許情報検索へのアクセスを容易にした。検索システムでは、延べ約 2,200
件の特許公報を PDF 化することで技術の詳細を公開し、かつ、特許情報のリスト
183
表示機能を追加することで、全情報の閲覧を容易にした。また、特許の実施許諾を
受けた企業の活動促進に利するため、「JAEA ライセンス企業」呼称制度を導入し
た。これらにより特許等実施許諾契約並びに実施料収入の実績は平成 17 年度
132 件の契約で 18 百万円、平成 18 年度 144 件の契約で 11 百万円、平成 19
年度 183 件の契約で 15 百万円、平成 20 年度 200 件の契約で 25 百万円、平成
21 年度 205 件の契約で 20 百万円となり、平成 16 年度 106 件の契約で 7 百万
円と比較し、今中期目標期間としては増加している。
民間や他の研究機関が保有することが困難な施設・設備を、外部の科学技術に
関する研究及び開発を行う者等の利用に供するため、17 の供用施設を指定し、機
構のホームページで公開した。また、機構ホームページを通して、利用課題の定期
募集、供用施設の概要、利用期間等の情報提供に努めるとともに、研究会、成果
報告会等を開催し、成果の発表の機会を提供するなど利用者のコミュニティーの
形成を支援した。更に、利用ニーズの高い施設・設備では、利用申し込みの電子
化を順次行い、利用者への利便性の向上を図った。これまで外部利用に供してき
た施設・設備以外の施設・設備においても、民間研究機関や大学等からの利用ニ
ーズが高いものについては、今後外部利用の対象とすることにした。
展示館に関しては、平成 19 年度に策定した「展示施設の利用率向上のためのア
クションプラン」に基づき、共催イベントの実施、イベント開催案内の配布範囲の拡
大、実験・工作教室の内容の充実などを通じて入場者の増加と外部資金獲得によ
る収入増加を図った。(平成 17 年度下期 3 百万円、平成 18 年度 15 百万円、平
成 19 年度 17 百万円、平成 20 年度 17 百万円、平成 21 年度 17 百万円の計 69
百万円)
○ 自己収入については、年間の収支計画を策定し、当該収支計画による運営に努
めた。競争的資金、受託研究、共同研究、施設利用料、特許許諾料等、研修授業
料収入、寄附金、展示館収入の各収入について、平成 20 年度の取組とその分析
を行い、これに売電収入を加えた今後の具体的な取組を検討し、平成 20 年度以
降の自己収入の増大に関する定量的目標を、第 2 期中期目標期間の最終年度で
ある平成 26 年度(予定)の自己収入額(「もんじゅ」売電収入を除く。)を平成 20 年度
見込みの 3%増とすることを目標とする(公募事業が平成 20 年度と同程度で継続さ
れるものと仮定)こととした。平成 20 年度実績に対して、平成 21 年度は 0.5%以上
増加していることから、平成 21 年度はこの目標を達成したと言える。売電収入につ
いては、「もんじゅ」の性能試験から第 1 サイクルまでの目標(暫定)は総額 30 億円
とし、今後性能試験及び本格運転の計画が明確になった時点で見直すこととした。
また、主要な収入項目について、それぞれ定量的な目標を定め、自己収入の確保
を図ることとした。
184
(2)固定的経費の節減
【中期目標】
施設維持管理費の節減を図る等により、固定的経費の削減を図る。
【中期計画】
施設(同期間中に新たに稼動を開始する施設を除く。) の維持管理費について、中期目
標期間中の平均で対前年度 1%以上を削減する。また、同期間中に新たに稼動を開始す
る施設の維持管理費についても、その節減に努める。
≪中期実績≫
○施設(中期目標期間内に性能試験再開の準備を完了し平成 22 年 5 月 6 日に性
能試験を再開した高速増殖原型炉「もんじゅ」、中期目標期間中に新たに稼働を
開始した大強度陽子加速器施設(J-PARC)、幌延深地層研究センター地上施設
(ゆめ地層館、国際交流施設を含む)、再処理低放射性廃棄物処理技術開発施設
(LWTF)、人形峠レンガ加工場を除く。)の維持管理費について、安全確保を前提
としつつ、施設に関わる外部委託費、点検費・消耗品費、光熱水費の節約努力等
により、中期目標期間中に平均で対前年度約 6.0%節減した。
185
(3)調達コストの節減
【中期目標】
調達方法を改善し、調達コストの節減を図る。
調達については、競争入札による調達の拡大、随意契約による調達の縮小を進める。
特に、関連会社との随意契約を抑制する。
【中期計画】
契約業務においては、透明性及び公平性を確保し、かつ経済性を高める観点から、契
約に当たっては競争契約の拡大を進めることとし、中期目標期間中における随意契約によ
る調達件数の割合及び随意契約による契約総額の割合の平均値を、調達件数割合につ
いては 50%以下(平成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機
構との合計の実績:58%)に、契約総額割合については 60%以下(平成 16 年度(2004 年
度)の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構との合計の実績:65%)に減少させる。
なお、関連会社に対しては、中期目標期間中における随意契約による調達件数の割合
及び随意契約による契約総額の割合の平均値を、調達件数割合については 40%以下(平
成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構との合計の実績:
56%)に、契約総額割合については 60%以下(平成 16 年度(2004 年度)の日本原子力研
究所と核燃料サイクル開発機構との合計の実績:77%)に減少させる。
≪中期実績≫
1) 中期計画に基づく実績
○ 契約業務においては、中期計画目標の達成のため、各年度において着実に年
度計画目標を達成し、総契約実績及び関連会社との契約の 2 つの目標値を達成
した。これにより、契約業務の透明性、公正性を確保するとともに、競争効果による
調達コストの削減を行った。(主要 4 事業において 3.9 ポイント減)
※平成 18 年度→平成 19 年度 △0.6 ポイント減
平成 19 年度→平成 20 年度 △2.5 ポイント減
平成 20 年度→平成 21 年度 △0.8 ポイント減
17 年度~21 年度実績
総契約実績
(500 万円/件
以上)
関連会社との
契約実績
(500 万円/件
以上)
中期計画目標
件数
金額
件数
金額
随意
契約
37%
40%
50%以下
60%以下
競争
契約
63%
60%
随意
契約
17%
24%
40%以下
60%以下
競争
契約
83%
76%
2) 随意契約見直し計画等に基づく実績
○ 随意契約見直し計画を平成 19 年 12 月に策定し、平成 20 年 4 月から機構の随
186
意契約基準を国の基準額まで引き下げるとともに、基準を超える契約については、
競争契約・随意契約を問わず、契約締結後に契約相手方等の契約情報をホーム
ページで公表することにより、競争性、透明性の確保を図っている。以降、当該計
画に基づき、競争性、透明性のある契約方式への移行を計画的に進めた。また、
平成 21 年 11 月 17 日の閣議決定「独立行政法人の契約状況の点検・見直しにつ
いて」に基づき、随意契約事由の妥当性、契約価格の妥当性、真の競争性の確保
状況等について、監事及び外部有識者によって構成する「契約監視委員会」(機
構では、平成 21 年 11 月 30 日設置)を設置し、点検及び見直しを行い、新たな随
意契約等見直し計画を策定した。
(ア) 契約事務に係る執行体制
契約プロセスにおいては、専門的知見を有する技術系職員を含む契約審査委
員会(事務局:審査課)により契約方式の妥当性等の事前確認を行う体制を整備し
ている。また、受注希望者から提出される見積仕様書については、専門的知見を
有する請求元において技術審査を行うことにより、妥当性を確認している。
契約審査委員会の審査対象は、平成 19 年度までは、5,000 万円以上で一般競
争入札以外の案件、平成 20 年度から 500 万円以上の特命案件としていたが、一
者応札問題への対応についても審査対象とするため、平成 21 年度中に少額随意
契約基準を超える案件すべてを審査対象とすることとし、内部統制の充実、強化を
図った。
審査体制は、契約審査委員会(10 名)、審査課(4 名)の合計 14 名であり、適切に
審査を実施している。
(イ) 契約に係る規程類の見直し
平成 19 年 12 月の随意契約見直し計画策定時点において、国の契約の基準と
異なる規定となっていたものについては、平成 19 年度及び平成 20 年度に見直し
を行い、国と同じ基準としている。(少額随意契約基準、指名競争契約限度額等)
(ウ) 随意契約見直し計画の実施・進捗状況等
平成 19 年 12 月に策定した随意契約見直し計画については、平成 22 年度まで
に目標を達成する計画としている。この目標の達成に向け、平成 20 年度に締結す
る契約から、少額随意契約基準、公表基準等を国と同様の基準とした上で、競争
性のない随意契約の判断基準となる「特命クライテリア」(機構ホームページ上で外
部にも公開)を定め、公平性、透明性の確保に留意しつつ取り組んできた。
また、契約審査委員会による事前審査の強化、平成 21 年度に設置した契約監
視委員会による点検及び見直しを踏まえ、競争性の無い随意契約の減少に取り組
んだ結果、件数、金額とも着実に減少させてきている。
187
(競争性のない随意契約:
平成 18 年度 5,291 件(73%) 607 億円(60.4%) ⇒ 平成 21 年度 964 件
(15.6%) 369 億円(29.0%))
(エ) 個々の契約の合規性等
競争性のない随意契約、一者応札・応募となった契約については、競争性、透
明性がより確保される契約方式へ移行する余地は無いか、契約価格が適正かの観
点から、平成 21 年度に設置した「契約監視委員会」による点検、見直しが行われ、
個々の契約において不適切な点が無かったことが確認された。機構としては、当該
点検、見直しにより策定された新たな随意契約等見直し計画に基づき、より公平性、
透明性のある契約への移行に取り組んでいる。
関連法人(独立行政法人会計基準に定める特定関連会社、関連会社及び関連
公益法人)との契約に関しては、法律で定められているもの以外は競争性の無い
契約は行わないこととし、関連法人との競争性の無い契約の減少に取り組んだ。
(平成 21 年度実績:0 件)
また、応札(応募)条件については、一者応札となった全案件について、制限的
な応札条件が設定されていないか、その他一者応札となっている要因の有無につ
いて点検を行い、原子力公衆安全、放射線安全管理上必要とされる品質保証等
の特殊性を考慮のうえ、改善の余地のあるものについては応札条件の見直し等を
行うこととした。
再委託については、平成 20 年度の会計検査で、機構の一部の契約について、
契約条項に定めている再委託の届出が行われないまま、再委託されていたことが
判明したことを受けフォローを的確に実施した。また、契約条項の見直しを行い、
再委託に関する取扱いを明確にした。
一者応札の問題については、機構が発注する業務には高度な技術、専門性を
必要とするものが多く、また、研究開発分野においてはリスクを伴うため、受注可能
な企業数は限られたものとなってしまうことに起因すると考えられる。そのような中で、
契約業務の透明性、公正性を高めるため、競争性のある契約への移行努力を行っ
ているが、移行が進むにつれて、比例的に一者応札率が高くなる傾向にある。
機構においては、一者応札率を下げる改善方策を定め、ホームページに掲載の
うえ取り組んだ。
また、平成 21 年 11 月 17 日の閣議決定「独立行政法人の契約状況の点検・見
直しについて」に基づき、真の競争性の確保状況等についての点検・見直しを行
った。この中で、平成 20 年度に一者応札となった全案件について、制限的な応札
条件が設定されていないか、その他一者応札となっている要因の有無について点
検を行い、原子力公衆安全、放射線安全管理上必要とされる品質保証等の特殊
性を考慮の上、改善の余地があるものについては応札条件の見直し等を行うことと
した。更に、平成 22 年度以降の一者応札の更なる縮減に向け、平成 21 年度中に、
188
最低公告等期間の延長(10 日から 14 日)、仕様書のホームページ掲載を行った。
(4)財務内容の改善に関するその他の事項
○ 宿舎について
1.機構の見直し方針の策定
独立行政法人整理合理化計画(平成 19 年 12 月 24 日、閣議決定)を受け、
老朽化した宿舎及び入居率が低調な宿舎については、平成 21 年 3 月に弁護
士、公認会計士等の外部委員 4 名及び内部委員 1 名で構成する厚生用資産検
討委員会の意見を受け、次のように方針を策定した。
宿舎については、生活環境の向上を図ることにより、業務効率の向上に資す
るとともに優秀な人材を確保するという観点のみならず、特に原子炉施設等のあ
る拠点については、緊急時の一斉招集等の対応を考慮し、拠点の近傍に寮を
設置し運用してきており、今後とも有効活用を図る。
上記方針を受けて、保有資産の効率的な活用の観点から、必要数を確保し
つつ集約化等を行うとともに不要となる宿舎の廃止を進めることとし、住宅につい
ては、機構全体で 17 箇所、270 棟、1,708 戸あるが、その内の 10 箇所につい
て、計 80 棟、461 戸を、寮については、機構全体で 9 箇所、47 棟、1,441 戸あ
るが、その内の 2 箇所について、計 2 棟、68 戸を廃止することとした。また、これ
らについては、平成 26 年度末までにそれぞれ閉鎖し、可能なものから売却等の
手続に着手することとした。
2.今中期目標期間の取組状況
上述の見直し方針の策定の他、以下の項目を実施した。
①太田社宅 8 棟の内、4 棟については、高エネルギー加速器研究機構
(KEK)に有償貸与するとともに、残り 4 棟は閉鎖し、他の住宅に集約化する
ため、その準備作業として入居者の一部の転居を実施した。
②第 1 荒谷台住宅の廃止する 4 棟については、解体撤去工事を実施した。
③百塚原住宅の住宅廃止跡地については、埋設配管等の撤去工事を実施し
た。
④その他、居住者への説明、地元等との協議、転居先住宅の補修工事等を
実施した。
○ 分室について
1.機構の見直し方針の策定
独立行政法人整理合理化計画(平成 19 年 12 月 24 日、閣議決定)を受け、
分室については、平成 21 年 3 月に弁護士、公認会計士等の外部委員 4 名及
び内部委員 1 名で構成する厚生用資産検討委員会の意見を受け、次のように
方針を策定した。
189
分室は、出張旅費(宿泊費)の節減に加え、出張者の移動時間節約等、業務
の効率化の観点でもメリットがあることから、第 2 期中期目標期間(平成 22 年度
~平成 26 年度)中に、経済的なメリットが見込まれる施設については引き続き活
用することとし、稼働率が低調で経済的なメリットが見込まれない分室について
は、平成 26 年度末までにそれぞれ廃止又は宿舎(寮)への転用を図ることとす
る。
また、機構内外の事故・トラブル等緊急時には、対策本部等の近傍に、対応
要員が待機・仮眠・宿泊できる施設が必要となることから、これに対応するための
施設については、①国レベルの災害(主に原子力災害、テロ等)対策に従事する
緊急時対応要員の詰所等、②機構施設(輸送時を含む)で発生した事故・トラブ
ル対応に従事する要員の詰所等として、更に機能を充実させ、想定される緊急
事態に適切に対処できるよう整備を進めていく必要があるため、引き続き活用し
ていく。
上記方針を受けて、上齋原分室については廃止し、櫛川分室、土岐分室及
び下北分室については宿舎に転用することとした。
2.今中期目標期間の取組状況
上述の見直し方針の策定の他、以下の項目を実施した。
①櫛川分室、土岐分室及び下北分室において、具体的な宿舎への転用計画
を検討した。
②土岐分室について、寮室へ変更するための修繕工事を実施した。
3.「勧告の方向性」への対応
「独立行政法人の主要な事務及び事業の改廃に関する勧告の方向性につい
て(平成 21 年 12 月 9 日、政策評価・独立行政法人評価委員会委員長通知)」
を踏まえ、第 2 期中期計画において、「上齋原分室を廃止し、櫛川分室、土岐分
室及び下北分室については宿舎に転用するとともに、青山分室については廃止
に向けた検討を行う。さらに、互いに近接する東海分室と阿漕ヶ浦分室について
は、第 2 期中期目標期間内に売却等を含めその在り方について抜本的に見直
す。」こととした。なお、平成 22 年度において、青山分室については、廃止のた
めに必要な検討を終え、東海分室と阿漕ヶ浦分室については、J-PARC ユーザ
ー向け宿泊施設の整備状況等を勘案し、売却を含めその在り方について検討
を進めることとしている。
○ 独立行政法人会計基準の変更に伴い、平成18年度から機構の保有する資産に
ついては、必要性の評価・検討を行い、中期計画に基づく廃止措置対象施設等に
ついて、減損会計を適用した適正な資産評価を実施した。
190
○ 管理会計の一環として、平成19年度からセグメント別費用の経年比較を行うととも
に、主要事業ごとの費用の比較を実施し、経営の効率化を図るべく、当該情報を
各部門長等に提供した。さらに平成21年度においては、財務分析データに関する
要望等について各部門長等と意見交換を行った。
○ 「独立行政法人会計基準」に基づき、平成17年度から平成20年度の財務諸表附
属明細書に「開示すべきセグメント情報」として業務内容に応じたセグメント情報の
開示を行った。
○ 使用されていない宿舎、宿舎跡地については、平成20年3月に売却等方針を決
定した。既に、平成20年7月に重要な財産の処分に係る認可申請を行っており、
財務大臣との協議を経て認可が得られれば、売却手続に移行する予定である。
○ 会計監査人による監査
随意契約については、平成20年度及び平成21年度において、「独立行政法人
の随意契約について(平成20.2.13公認会計士協会発出)」に基づき、監査が行わ
れた。また、内部統制においても監査が行われ、いずれの監査でも特段の指摘は
無かった。
○ 情報開示については、国民の理解を得るための分かりやすい情報開示と、情報
へのアクセスの円滑化を求められていることを踏まえて、機構ホームページにおけ
る財務諸表等の開示に際して、平成19年度決算から財務諸表等に関する分かり
やすい概要説明の掲載や事業報告書と一覧性を持たせた開示とするなど、機構ホ
ームページにおいて国民が理解しやすく、かつ、アクセスしやすい情報開示を行っ
た。
○ 那珂核融合研究所の未利用地(西地区)については、平成20年11月の理事会で
の売却方針の決定に基づき、現在、茨城県及び那珂市から要請のあった公共事
業から発生する建設発生土を受け入れ、売却に向け準備中である。
以上の結果、中期目標を達成した。
191
Ⅳ.短期借入金の限度額
【中期目標】
なし
【中期計画】
短期借入金の限度額は、330 億円とする。短期借入金が想定される事態としては、運営
費交付金の受入れに遅延等が生じた場合である。
≪中期実績≫
○ 該当なし
Ⅴ.重要な財産を譲渡し、又は担保に供しようとするときはその計画
【中期目標】
なし
【中期計画】
なし
≪中期実績≫
○ 該当なし
Ⅵ.剰余金の使途
【中期目標】
なし
【中期計画】
機構の決算において剰余金が発生したときは、
・ 以下の重点研究開発業務への充当
① 高速増殖原型炉「もんじゅ」における研究開発
② 中性子科学研究
・ 研究開発業務の推進の中で追加的に必要となる設備等の調達の使途に充てる。
≪中期実績≫
○ 該当なし
192
Ⅶ.その他の業務運営に関する事項
1.安全確保の徹底と信頼性の管理に関する事項
【中期目標】
業務の実施においては、法令遵守を大前提に、安全確保を業務運営の最優先事項とし
て徹底する。
特に、原子力施設、核物質の管理に当たっては、国際約束及び関連国内法令を遵守し
て適切な管理を行うとともに、核物質防護を強化する。
【中期計画】
原子力事業者として、法令遵守を大前提に安全確保を業務運営の最優先事項とするこ
とを基本理念とし、自ら保有する原子力施設が潜在的に危険な物質を取り扱うとの認識に
立ち、安全管理に関する基本事項を定めるとともに、自主保安活動を積極的に推進し、施
設及び事業に関わる原子力安全確保を徹底する。また、原子力安全の基礎をなす技術者
倫理の醸成を図るため、倫理規程を定める等従業員の意識向上を図るとともに、役職員の
コンプライアンス(法令遵守、企業倫理)の徹底を図るため、内部統制を含めた業務管理の
充実を図る。
多様な核燃料サイクル施設を有し、多くの核物質を扱う機関として、率先して保障措置
協定等の国際約束及び関連国内法を遵守し、原子力施設や核物質について適切な管理
を行う。国際基準や国内法令の改正に対応した核物質防護の強化を図るとともに、核物質
輸送の円滑な実施に努める。
原子力災害時に適切に対応するため、必要な人材の教育・訓練を実施し、地域とのネッ
トワークによる情報交換、研究協力、人的交流等を行い、平常時から緊急時体制の充実に
努める。また、地方公共団体等が行う原子力防災訓練及び講習会等に積極的に協力する
とともに、必要な指導、教育を行う。
原子力安全に関する品質目標の策定、目標に基づく業務の遂行及び監査の実施によ
り、保安規定に導入した品質マネジメントシステムを確実に運用するとともに、継続的な改
善を図る。
原子力施設における安全に関する教育・訓練計画を定め、必要な教育・訓練が確実に
実施されていることを把握するとともに、継続して実施することにより、機構全体の安全意識
の向上を図る。
労働災害の防止、労働安全衛生等の一般安全の確保へ向けた安全活動を推進する。
緊急時における情報共有化に関する対応システムを整備し確実な緊急時対応を図る。
≪中期実績≫
○ 中期計画に基づき安全確保の徹底を図るため、機構の基本方針のトップに「安
全確保の徹底」を掲げた。また、機構発足以降、各拠点における安全活動実施状
況及び機構内で発生した故障・トラブルの傾向と対策等を基に、年度ごとに、安全
管理に関する基本的事項を安全衛生管理基本方針として定め、原子力エネルギ
ー安全月間(5 月)、全国安全週間(7 月)、全国労働衛生週間(10 月)及び年末年始
無災害運動(12 月~1 月)など、自主保安活動を積極的に推進し、施設及び事業
に関わる原子力安全確保を徹底してきた。
○ 法令報告に該当する施設の事故・故障等が発生した場合、それぞれの拠点にお
いて原因と対策を講じ、他拠点に対して水平展開を実施した。
平成 19 年に明らかとなった「原子力科学研究所の非管理区域における汚染」の
193
対応に当たっては、安全確認調査・対策本部及び外部有識者委員会を設置し、広
い視点に立って状況を確認し、必要な助言、指導を行うとともに、他拠点において
も類似の問題が無いかどうか確認した。これらの活動から得られた教訓は、安全衛
生管理基本方針に基づく活動施策に取り入れ、更なる徹底を図った。
もんじゅの屋外排気ダクト腐食孔の発生や原子炉廃止措置研究開発センターに
おける放射性物質(重水)の漏えいでは、根本原因分析を行い、類似事象の発生
防止や潜在する不適合を未然に発見する取組等を検討し、改善を図った。
○ 平成 19 年から平成 20 年にかけての一連の原子炉等規制法の改正を踏まえ、研
究開発段階炉施設(「もんじゅ」及び「ふげん」)、加工施設、再処理施設、廃棄物埋
設施設及び廃棄物管理施設において、法令遵守及び安全文化の醸成に係る活
動を展開した。また、機構の自主保安活動として、上記施設以外についても「原子
力施設における法令等の遵守活動規程」及び「原子力施設における安全文化の
醸成活動規程」を平成 21 年 4 月 1 日から施行し、理事長の活動方針及び安全統
括部長の活動施策を基に、各拠点が活動計画を策定し、具体的活動を開始した。
これらの活動状況を評価するため、平成 21 年度に Web を用いたアンケート調
査を行うとともに、主要な施設において聞き取り調査を行い、その確認結果を踏ま
えて、平成 22 年度の法令遵守に向けた活動方針及び安全文化醸成に向けた活
動方針を策定した。
○ 経営と現場の関係強化を目的として、原子力エネルギー安全月間等の機会を捉
えた役員巡視と拠点幹部等との意見交換等を行った。また、各拠点において、所
長等の幹部が現場巡視を行うとともに、職員等との意見交換を行うなど、現場との
対話を通した相互理解の促進、業務管理の充実を図った。平成 17 年 10 月に「役
職員倫理規定」を定めるとともに、技術者倫理の醸成を図るため、実施計画を作成
し、平成 18 年度から毎年度、これに基づき技術者倫理に関する講演会を各拠点
で行い、機構行動基準の継続的浸透を図った。また、通報連絡に係る基準やマニ
ュアル等の見直しを適宜行い、事象の分類や過去の通報事例の充実を図った。こ
れらを通じて通報連絡に係る原則や意識の徹底を図った。通報連絡の基準やマニ
ュアルは、総合防災訓練を計画的に行い、有効性を確認した。
○ 機構の内部規程類について、各組織における制定状況を確認・比較し、組織間
の整合性が担保されるよう体系的な見直しを行い、必要な改廃に着手した。また、
原子力安全監査を含む機構の内部統制機能について、一層の強化を図るための
検討を行った。
○ 機構発足以来、従業員のコンプライアンス意識の徹底のため集合研修(コンプラ
イアンス研修を組み込んだ、キャリアパスを念頭に置いた管理職昇資格研修を含
194
む)を実施するとともに、コンプライアンス通信(機構内メールマガジン)の発行、コン
プライアンスハンドブックの配布等活動を行ってきた。平成 20 年度には新たな取組
として e-ラーニングを実施した。
また、理事長を委員長とし、顧問弁護士等を委員とするコンプライアンス委員会
において、審議検討を経て、新たに「コンプライアンス推進規程」を制定し、平成 21
年度から、コンプライアンス活動推進方針及び推進施策に基づき、全拠点各組織
が取組計画を策定し、主体的にコンプライアンス活動を行った。
機構共通の活動では、法務室が各拠点と共催で従業員を対象としたコンプライ
アンス研修会を開催するとともに、研修資料をイントラネットに掲載して参加できな
かった者への浸透を図った。「コンプライアンス通信」は、平成 20 年度に引き続き
発行回数を増やし、コンプライアンスに関する機構内外の動向や参考事例を幅広
く取り上げ、考える、理解しやすい内容とした。さらに、コンプライアンスに関する新
たな学習ツールとして、「コンプライアンスケースブック」を関係各部と連携して作成
し、平成 22 年 3 月に全従業員に配布した。また、通報制度の運用やイントラネット
を通じた情報提供、新規採用者に対するコンプライアンス教育図書の配布を行い、
従業員の意識の向上を図り、コンプライアンスの徹底を図った。
○ 保障措置については、核燃料サイクル工学研究所のプルトニウム燃料加工施設、
再処理施設及び R&D 施設を一くくりとするサイト(サイト名称:JNC-1)及び高速増
殖原型炉もんじゅ(サイト名称:JNC-4)への統合保障措置の実施について、関係
拠点と連携し国際原子力機関(IAEA)及び文部科学省保障措置室との調整を実
施し、統合保障措置の適用に向けた適用後の検認を想定したトライアルを経て、
JNC-1 にあっては平成 20 年 8 月 1 日から、また、JNC-4 にあっては平成 21 年
11 月 18 日から統合保障措置の適用が開始された。また、その他の施設(大洗南、
人形、ふげん、原科研、大洗北の R&D 施設等)の統合保障措置適用へ向けた協
議をそれぞれ実施し、平成 22 年度に統合保障措置が適用される見通しを得た。
計量管理報告については、各研究開発拠点が実施する計量管理報告(法令報
告)を総括し、文部科学省に提出した。また、機構の設立に当たっては、「日本原子
力研究所」及び「核燃料サイクル開発機構」の優良事例を考慮して通達及び下部
要領を策定し、機構としての計量管理業務の統一的な運営及び円滑化を図った。
「原子力科学研究所の非管理区域における汚染」を受け平成 19 年度に実施し
た「安全確認点検調査」の対応については、確認された不備事例(報告漏れ)の原
因を分析し、機構としての改善計画を取りまとめて文部科学省保障措置室に報告
を行った。また、不備事例の再発防止と機構全体の計量管理業務の水準・品質の
維持向上を図る観点から、基本方針を策定し、これに沿った業務の改善対策(情報
伝達・チェック機能の充実強化、従事者の教育の徹底、計量管理手続を具体化し
たマニュアルの導入、計量管理業務実施状況調査の実施等)を機構全体で展開し
た。あわせて、これを契機に、本部及び拠点の計量管理責任者で構成する「計量
195
管理責任者会議」を設置し、定期的(2 回/年)に本部及び拠点間の意見交換を行
い、業務の継続的な改善を図った。
機構が所有するプルトニウムの利用・管理の透明性確保については、国の公表
を支援する観点から、機構が保有する分離プルトニウム量に関して正確かつ迅速
な情報提供を行った。また、国の公表に併せて、機構も自身のホームページ上で
毎年度公開した。
○ 核物質防護については、平成 17 年 12 月施行の改正原子炉等規制法において
強化された核物質防護に対応した各研究開発拠点施設の核物質防護措置の強
化・維持を図るとともに、各研究開発拠点の核物質防護規定変更認可申請に係る
指導・支援を実施した。平成 18 年度に、情報管理要領(通達)に基づく「核物質防
護上の情報管理の判断基準について(解説)」を制定し、本部関係部署への情報
管理教育を実施した。各研究開発拠点における核物質防護検査の課題の取りまと
めを行い、核物質防護担当課長会議及び中央核物質防護委員会において同課
題の検討を行うとともに、共通課題については水平展開を実施する等、各研究開
発拠点の核物質防護を総括した。
核物質防護措置強化の観点から、「もんじゅ」へ導入した侵入者自動監視システ
ムの実用化に向けた検証試験を実施した。米国サンディア国立研究所が開発した
3 次元ビデオ検知システムを原子力科学研究所に設置し、性能検証試験を共同
研究として実施するとともに、施設警備員の配置と出入り管理システムの最適化の
検討を行った。また、新たに平成 21 年度から、セキュリティ・バイ・デザイン・ハンド
ブックの作成を行うこととし、これに着手した。政府の要請を受け、平成 19 年度から
IAEA 核セキュリティシリーズ勧告文書等の策定に係る IAEA 会合に参画し、技術
的見地から支援を実施した。
○ 核物質輸送については、使用済燃料等多目的運搬船(開栄丸)を用いた「ふげ
ん」使用済燃料輸送に係る契約と同輸送の調整、試験研究炉使用済燃料の対米
返還輸送及び拠点が実施する「もんじゅ」取替 MOX 新燃料輸送等に係る支援を
実施した。
試験研究炉の安定な燃料需給を図るため、使用済燃料の対米返還輸送計画及
びウラン調達計画を取りまとめ、平成 20 年度に米国エネルギー省(DOE)と「使用
済燃料引取契約」及び「低濃縮ウラン供給契約」を更新し、締結した。また、平成
19 年度に機構全体の中長期輸送計画を調査し、今中期目標期間中に取り組むべ
き計画の具体化及び次期中期計画における課題等の検討を進めるとともに、「もん
じゅ」等燃料製造用 MOX 原料粉末の輸送に係る諸調整等を実施した。
○ 原子力災害時に適切に対応するため、自治体における危機管理の現状と原子
力防災上の留意点を中心とする危機管理教育・訓練計画を策定し、毎年度、外部
196
講師による経営層への危機管理教育を実施した。また、原子力科学研究所、核燃
料サイクル工学研究所等の各拠点において危機管理講演会を開催するとともに総
合訓練を行った。総合訓練には他の拠点等から選出した訓練モニタ員を派遣し、
訓練の実施状況を評価し、訓練目的に沿った現実的な事象進展を見据えた訓練
シナリオの策定や限定した範囲のみをシナリオにするなど、訓練方法等の改善事
項を抽出した。改善事項は次回の訓練に反映するなどして、実効性の向上に努め
た。
「原子力防災業務計画」を有する原子力科学研究所、核燃料サイクル工学研究
所等 6 拠点においては、地域防災計画に基づく原子力防災連絡協議会に委員を
派遣し、地域との情報交換を行った。また、国や地方公共団体が行う防災訓練に
協力するとともに、保健所や消防関係機関等からの要請に基づき原子力防災に関
する説明等を行い、平常時から緊急時体制の充実に努めた。
○ 原子力安全に関する品質保証活動として、機構設立と同時に、原子力安全に係
る品質方針及び品質目標を定めるとともに、PDCA サイクルの推進による継続的
改善、不適合情報による機構内水平展開の実施、品質マネジメントシステム
(QMS)の理解向上に関する教育、品質月間(11 月)における啓発活動の実施等、
機構内各施設の特徴を踏まえ、JEAC4111-2003 等に準拠した品質保証活動の
推進を図った。また、業務に対する要求事項の明確化、根本原因分析に係る要員
の育成など、自律的な PDCA による品質保証活動の更なる充実を図った。
一方、これらの活動に係る QMS の適合性や有効性を確認するため、毎年度、
実施計画を作成し、原子力安全監査を実施した。これら原子力安全監査の結果及
び各施設の活動状況を、臨時又は定期の理事長マネジメントレビューに報告し、
社会の信頼を集める組織とするための取組の推進、業務に対する要求事項の明
確化、事故・故障等の未然防止に資する水平展開による予防措置の促進等の改
善項目を抽出するなど、継続的な改善を図った。
○ 原子力施設における安全に関する教育・訓練は、各施設の保安規定等に基づき
必要な教育・訓練を毎年度行った。また、危機管理や QMS の理解向上に関する
教育等を行い、安全意識の向上を図った。
○ 環境基本方針を定めて環境配慮への取組を継続して行った。また、環境配慮促
進法に基づき、機構の環境配慮活動をまとめた「環境報告書」を毎年度作成し、公
表した。
○ 労働災害の防止や労働安全衛生等の一般安全を確保するため、安全衛生管理
基本方針に基づき、拠点のリスクアセスメントに係る資料の配布及び教育を実施し
た。
197
アスベスト対策は、措置計画を作成して改善措置を行ってきた。また、新たに対
象となったトレモナイト等は、使用状況等の調査を行い、措置計画を見直し改善措
置を行った。
新耐震指針に係る対応を的確に実施するため、耐震安全性の評価計画を策定
するとともに耐震検討委員会及び耐震対策会議を設置し、地質地盤調査等の検
討を行った。
○ 機構における緊急時の通報・連絡及び情報共有が確実に実施できるよう、緊急
時対応設備・システムの充実強化計画を策定し、これに基づき整備を行ってきた。
整備に当たっては、IT 技術の採用やコスト削減を図るため機構独自の技術開発を
行った。既存の電話回線を使用した TV 会議システムは、新たな接続ソフトを開発
し、機構内 LAN を活用した TV 会議システムに改善し、多地点との同時接続を可
能にするとともに運用コストの大幅な削減を行った。また、大規模災害発生時の電
話回線の混雑(災害型輻輳)を回避するため、機構内 LAN・内線電話網を活用し
た「JAEA 緊急時召集通報システム」を開発(特許取得)する等、緊急時の確実な
対応を図った。
○ 平成 19 年 7 月の新潟県中越沖地震に伴う柏崎刈羽原子力発電所の被災を踏ま
え、通報連絡体制等の点検を行い、衛星携帯電話の導入等必要な改善を行った。
また、震度 6 強相当の大規模地震を想定した周辺住民の安全確保等について、
必要な改善策を検討し、各拠点の現状調査に着手した。また、緊急地震速報シス
テムを整備し、順次運用を開始した。
以上の結果、中期目標を達成した。
198
2.施設・設備に関する事項
【中期目標】
機能が類似または重複する施設・設備(以下「施設等」という。) について、より重要な施
設等への機能の重点化、集約化を進める。業務の遂行に必要な施設等については、重点
的かつ効率的に、更新及び整備を実施する。
【中期計画】
機能が類似または重複する施設・設備(以下「施設等」という。) について、より重要な施
設等への機能の重点化、集約化を進める。業務の遂行に必要な施設等については、重点
的かつ効率的に、更新及び整備を実施する。
平成 17 年度(2005 年度)から平成 21 年度(2009 年度)内に取得・整備する施設・設備は
次の通りである。
(単位:百万円)
予定額
財源
22,720 施設整備費補助金
施設設備の内容
高速増殖原型炉「もんじゅ」の改造
大強度陽子加速器施設の整備
幌延深地層研究センターの地上施設の整備
41,645 施設整備費補助金
2,821 施設整備費補助金
[注]金額については見込みである。
なお、上記のほか、中期目標を達成するために必要な施設の整備、大規模施設の改修、高度化等が追加され
ることがあり得る。また、施設・設備の老朽度合等を勘案した改修等が追加される見込みである。
≪中期実績≫
○ 機能が類似・重複する施設・設備の重点化・集約化への対応は、今中期計画に
「類似・重複する機能を他の施設に集約重点化することにより廃止する施設」の策
定を行い、それに従って廃止措置を進めている。(「Ⅶ.3.(1)放射性廃棄物の処理・
処分に関する事項」参照)
○ 高速増殖原型炉「もんじゅ」、大強度陽子加速器施設、幌延深地層研究センター
の地上施設については、以下のように整備を進めた。
高速増殖原型炉「もんじゅ」の改造については、平成 19 年 8 月に漏えい対策設
備の改修を、その他核物質防護設備の更新や原子炉補機冷却系海水系配管の
更新など 15 件を平成 22 年 3 月までに終了した。また、燃料取扱系自動化制御盤
の改修にあっては引続き改造を進めており、平成 21 年度から新規に送電線基幹
系統安定化装置の設置に着手するなど、設備機器の信頼性を向上し、施設の安
全を確保するための対策を実施した。
大強度陽子加速器の整備は終了した。これで、リニアック、3GeV シンクロトロン、
50GeV シンクロトロンの 3 加速器施設、物質・生命化学実験施設、原子核・素粒子
実験施設、ニュートリノ実験施設の 3 実験施設がそれらの第Ⅰ期分として完成した。
さらに、リニアックのビーム強度を現状の 181MeV から 400MeV に増強する、リニ
アックビーム増強に着手した。
199
幌延深地層研究センターの地上施設については、ズリ(掘削土)置場を除いた整
備予定の施設はすべて完工した(研究棟・コアワークショップ棟平成 18 年竣工、排
水管路平成 18 年整備、PR施設平成 19 年竣工、国際交流施設平成 21 年竣工)。
地下施設の掘削の進展に応じて整備するズリ(掘削土)置場は当該期間予定の整
備(53,000m3)を終了した。
○ 平成 23(2011)年度の再稼動に向け、平成 19 年度から材料試験炉(JMTR)の改
修に着手し、炉室給排気系統、電源設備、ボイラー設備、冷却設備、計測制御系
統の詳細設計を行うとともに、これらの改修に必要なすべての設工認申請を行い、
認可を得た。炉室給排気系統、電源設備、ボイラー設備については、更新工事を
完了し、冷却設備、計測制御系統については、更新工事を進めている。
使いやすい材料試験炉を目指して利用性の向上等に関する検討を進めるととも
に、利用者の意見を的確に反映させる等透明性を確保した運営に資するため、
「JMTR 運営・利用委員会」を設置し、これまで 4 回開催した。また、照射利用のた
めのホームページの整備など利用者サポート体制の構築を図り、照射利用公募を
開始した。また、JMTR 及び JMTR ホットラボの施設定期自主検査を実施し、
JMTR 設備機器の維持管理を着実に行った。
以上の結果、中期目標を達成した。
200
3.放射性廃棄物の処理・処分並びに原子力施設の廃止措置に関する事項
【中期目標】
自らの原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分は、原子力の研究、開
発及び利用を進める上で極めて重要な業務であり、計画的、安全かつ合理的にこれを実
施し、原子力施設の設置者及び放射性廃棄物の発生者としての責務を果たす。
【中期計画】
自らの原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分は、原子力の研究、開
発及び利用を円滑に進めるために、重要な業務であり、計画的、安全かつ合理的に実施
し、原子力施設の設置者及び放射性廃棄物の発生者としての責任を果たしていく。
(1)放射性廃棄物の処理・処分に関する事項
【中期目標】
1)放射性廃棄物の処理
① 低レベル放射性廃棄物の処理については、契約によって外部事業者から受け入れた
もの及び東海再処理施設において民間事業者との再処理役務契約の実施にともない
発生したものも含め、安全を確保しつつ、固体廃棄物の焼却、溶融、圧縮、液体廃棄物
の固化等の減容、安定化、廃棄体化処理、廃棄物の保管管理を着実に実施する。
② 高レベル放射性廃棄物については、適切に貯蔵する。
2)放射性廃棄物の処分
低レベル放射性廃棄物の処分については、安全規制等の処分に関する制度の準備状
況を踏まえつつ、他の発生者を含めた関係者と協力し、発生者責任の原則に基づく自己
の廃棄物のほか、機構の業務の遂行に支障のない範囲内で委託を受ける他者の廃棄物
について、処分の実現を目指した取組を進める。
【中期計画】
1)放射性廃棄物の処理
① 低レベル放射性廃棄物の処理については、契約によって外部事業者から受け入れた
もの及び東海再処理施設において民間事業者との再処理役務契約の実施に伴い発生し
たものも含め、安全を確保しつつ、固体廃棄物の焼却、溶融、圧縮、液体廃棄物の固化
等の減容、安定化、廃棄体化処理、廃棄物の保管管理を計画的かつ着実に促進し、これ
らを将来処分または外部に搬送するまでの間、適切に保管管理できるようにする。
② 高レベル放射性廃棄物の管理については、ガラス固化体の貯蔵方策等の検討を進
め、適切な貯蔵対策を講じる。
2)放射性廃棄物の処分
低レベル放射性廃棄物の処分については、安全規制等の処分に関する制度の準備状
況を踏まえつつ、発生者責任の原則に従いかつ、他の発生者を含めた関係機関と協力し
て処分の実現を目指した取組を進める。このうち、浅地中処分相当(トレンチ処分及びコン
クリートピット処分)については、自己の廃棄物に加え、機構の業務の遂行に支障のない範
囲内で他者の廃棄物の処分を受託することも踏まえて、埋設施設の設計・安全性の評価、
事業資金計画の検討等を行い合理的な事業計画の策定に係る取組を進める。余裕深度
処分相当については、合理的な処分に向けた実施体制、スケジュール等の調整を進める。
地層処分相当については、高レベル放射性廃棄物との併置処分等の合理的な処分がで
きるよう検討を進める。
201
≪中期実績≫
○ 廃止措置及び放射性廃棄物の処理、処分に向けた検討を行い、機構の廃棄物
がタイムリーに処分できるように、廃棄物管理計画書を作成し、計画に従って、廃
棄物の処理、保管管理を進めてきた。
また、廃止措置については、平成 20 年度末に整理合理化計画の指摘に対応し、
着手、終了時期を明確にし、これに従って、廃止措置を実施している。
また、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づく研究開発課題評価を
行うため機構の外部評価委員会として設置している「バックエンド推進・評価委員
会」において、平成 20 年度に中間評価が行われ、廃止措置、廃棄物の処理処分
の進め方について、それぞれ、「妥当」、「概ね妥当」の評価を受けた。さらに、平成
21 年度には今中期計画に対する実施状況を報告し、その妥当性が確認された。
(1)放射性廃棄物の処理・処分に関する事項
1)放射性廃棄物の処理
○ 低レベル放射性廃棄物の処理については、契約によって外部業者から受け入れ
たもの及び東海再処理施設において民間事業者との再処理役務契約の実施に伴
い発生したものも含め、安全を確保しつつ、既存の処理設備で計画的に減容、安
定化、廃棄体化処理を行ってきた。また、廃棄物の保管についても、計画的に管
理してきた。
その他、以下に現在整備中の処理設備の状況を示す。
○ 高減容処理施設においては、大型廃棄物の解体分別を含む前処理を継続的に
実施するとともに、高圧圧縮処理を開始し、廃棄物の減容化を進めた。溶融設備
については、平成 17 年度に発生したトラブルへの再発防止策を講じた後、コール
ド試運転を行い習熟度を上げた。
○ 低放射性廃液の減容・固化処理及び難燃性廃棄物の焼却を行うための低放射
性廃棄物処理技術開発施設(LWTF)について、建設を終了し、固体廃棄物焼却
設備及び液体廃棄物固化処理設備の試験運転を実施した。
○ 大洗における α 固体廃棄貯蔵施設の満杯回避と将来の処分に向けた同廃棄物
の安定化処理を目的に、施設の検討を開始し、平成 19 年度に固体廃棄物減容処
理施設(OWTF)として、詳細設計を進めた。平成 20 年度に廃棄物管理事業変更
許可の申請を行い、現在規制当局による安全審査中である。
なお、平成 18 年度に廃棄物管理事業変更許可申請の遅れがあったが、廃棄物
の分別管理の徹底や固体廃棄物前処理施設を活用した減容処理により、α 固体
貯蔵施設の貯蔵計画に影響を来たすことがないよう調整した。
202
○ 低レベル放射性固体廃棄物の焼却による減容、安定化を行なう東海固体廃棄物
廃棄体化施設(TWTF)焼却設備の設計検討を進め、平成 21 年度に基本設計に
着手した。また、不燃物処理設備、廃棄体保管設備の概念検討にも着手した。
○ 高レベル放射性廃棄物の管理においては、ガラス固化体の貯蔵方策等の検討
を進め、適切な貯蔵対策を講じた。
2)放射性廃棄物の処分
○ 低レベル放射性廃棄物の処分のうち、浅地中処分相当に対する実施状況につ
いては、Ⅰ.6「放射性廃棄物の埋設処分」を参照。
○ 余裕深度処分については、合理的な処分に向けて関係機関との調整を継続し
た。
○ 地層処分については、TRU 廃棄物の高レベル放射性廃棄物との併置処分につ
いて原子力委員会「長半減期低発熱放射性廃棄物処分技術検討会」が設置され、
平成 18 年に検討会から併置処分可能との報告書が作成された。この報告書作成
に当たり、機構も廃棄物データを提供する等の支援を行った。
また、TRU 廃棄物の処分に向けた拠出金制度確立のための支援も行っており、
平成 20 年度から拠出金制度が開始され、原子力発電環境整備機構(NUMO)を
処分実施主体とした合理的な処分の枠に機構の発電に関連する廃棄物も含まれ
ることとなった。平成 21 年度には、NUMO との技術協力協定の改定を行い、高レ
ベル廃棄物と TRU 廃棄物の併置処分に関連する技術的検討を進めた。
○ 既存の極低レベル処分施設(トレンチ処分)については、管理期間中の巡視・点
検を継続し、安定な状態を維持した。
203
(2)原子力施設の廃止措置に関する事項
【中期目標】
日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構の統合による合理化・効率化、資源投入
の選択と集中を進めるため、機構の保有する原子力施設について、使命、役割を終えた施
設、機能の類似、重複する施設、老朽化した施設の廃止措置を、計画的かつ効率的に進
める。
なお、原子力施設の廃止時期及び廃止方法の検討を行うに当たっては、国内外におけ
る代替機能の確保、機能の他機関への移管、当該施設の利用者の意見等も考慮する。ま
た、廃止後の機構の研究開発機能の在り方についても同時に検討するものとする。
【中期計画】
統合による合理化・効率化、資源投入の選択と集中を進めるため、機構は、使命を終え
た施設及び老朽化した施設については、効率的な廃止措置を計画的に進めるとともに、機
能の類似・重複する施設については、機能の集約・重点化を進め、不要となる施設を効率
的かつ計画的に廃止する。
以下の各施設について、廃止を含む整理・合理化のために必要な措置を着実に実施す
る。
①使命を終えた施設の廃止措置
○ 中期目標期間前に使命を終え、廃止措置または廃止措置準備を進めていた施設
・放射性物質放出実験装置(VEGA)…平成 17 年度(2005 年度)より解体に着手し、所
要の取組みを進める。
・研究炉2(JRR-2)…解体を進める。
・高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)…平成 21 年度(2009 年度)までに解体を終了
する。
・再処理特別研究棟…一部施設撤去中 平成 26 年度(2014 年度)までの終了を目
指し所要の取組みを進める。
・むつ地区燃料・廃棄物取扱棟…解体を進める。
・ウラン濃縮研究棟…平成 24 年度(2012 年度)より解体に着手し平成 26 年度(2014
年度)までの終了を目指し所要の取組みを進める。
・同位体分離研究施設…平成 20 年度(2008 年度)より解体に着手し平成 21 年度
(2009 年度)までに終了する。
・高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)…平成 20 年度(2008 年度)に廃止措置を終
了する。
・液体処理場…平成 22 年度(2010 年度)より解体に着手し平成 26 年度(2014 年度)
までの終了を目指し所要の取組みを進める。
・圧縮処理装置…平成 25 年度(2013 年度)より解体に着手し平成 26 年度(2014 年度)
までの終了を目指し所要の取組みを進める。
・重水臨界実験装置(DCA)…廃止措置を進める。
・東濃鉱山…今後、閉山措置の進め方を検討する。
・新型転換炉「ふげん」※…平成 17 年度(2005 年度)より廃止措置に着手する。
・濃縮工学施設※…中期目標期間中に廃止措置に着手する。
・ウラン濃縮原型プラント※…中期目標期間中に廃止措置に着手する。
・東海地区ウラン濃縮施設※…中期目標期間中に廃止措置に着手する。
・製錬転換施設※…中期目標期間中に廃止措置に着手する。
・プルトニウム燃料第 2 開発室…平成 23 年度(2011 年度)以降に廃止措置に着手す
べく所要の取組みを進める。
204
・ナトリウムループ施設…平成 23 年度(2011 年度)以降に廃止措置に着手すべく所
要の取組みを進める。
・バックエンド技術建家(ダンプコンデンサー建家)…除染技術開発等の研究開発を
終了した後に、放射能濃度測定の技術開発場所として再利用する。
○ 中期目標期間中に使命を終え、廃止措置に着手する施設
・自由電子レーザー(FEL)…平成 18 年度(2006 年度)に停止する。
・粒子工学試験装置の一部(PBEF、NITS)…平成 18 年度(2006 年度)に停止する。
○ 中期目標期間終了後に廃止措置に着手するための準備を行う施設
・廃棄物安全試験施設(WASTEF)…平成 21 年度(2009 年度)に停止する。
②老朽化により廃止する施設
該当施設なし。
③類似・重複する機能を他の施設に集約重点化することにより廃止する施設
○ 中期目標期間前に使命を終え、廃止措置または廃止措置準備を進めていた施設
・ホットラボ施設(照射後試験施設)…燃料試験施設(RFEF)に機能を集約する計画の
もと、設備機器を解体中。平成 24 年度(2012 年度)までの終了を目指し所要の取
組みを進める。
○ 中期目標期間中に廃止措置に着手する施設
・2 号電子加速器照射施設…1 号電子加速器照射施設に機能を集約し、平成 17 年
度(2005 年度)に停止する。
・バックエンド研究施設(BECKY)空気雰囲気セル 3 基…高レベル放射性物質研究施
設(CPF)に機能を移管し、平成 21 年度(2009 年度)に停止する。
・冶金特別研究棟…バックエンド研究施設(BECKY)に機能を集約し、平成 19 年度
(2007 年度)より解体に着手し平成 20 年度(2008 年度)までに終了する。
・再処理試験室…バックエンド研究施設(BECKY)に機能を集約し、平成 20 年度(2008
年度)より解体に着手し平成 21 年度(2010 年度)までに終了する。
・プルトニウム研究 2 棟…バックエンド研究施設(BECKY)に機能を集約し、平成 20 年
度(2008 年度)より解体に着手し平成 21 年度(2010 年度)までに終了する。
・セラミック特別研究棟…バックエンド研究施設(BECKY)に機能を集約し、平成 19 年
度(2007 年度)より解体に着手し平成 20 年度(2008 年度)までに終了する。
○ 中期目標期間終了後に廃止措置に着手するための準備を行う施設
・プルトニウム研究 1 棟…バックエンド研究施設(BECKY)に機能を集約し、平成 24 年
度(2012 年度)より解体に着手し平成 26 年度(2014 年度)までの終了を目指し所要
の取組みを進める。
④中期目標期間中に廃止措置の着手時期、事業計画の検討に着手する施設
・保障措置技術開発試験室施設(SGL)
・東海再処理施設
・大型非定常試験装置(LSTF)
(※印の施設は、動燃改革により整理された事業に供された施設)
(廃止措置計画の認可が必要な施設については、当該認可をもって廃止措置着手とす
205
る。)
上記の他、人形峠周辺の捨石堆積場の措置を実施するとともに、人形峠環境技術セン
ター内の鉱さい堆積場の措置方法の検討を行う。
なお、原子力施設の廃止措置については、当該施設に係る外部利用者等のニーズを確
認した上で、廃止後の機構の研究開発機能の在り方、国内外における代替機能の確保、
機能の他機関への移管、当該施設の利用者の意見等を踏まえて、具体的な原子力施設
の廃止時期及び廃止方法の検討を行うものとする。
≪中期実績≫
○ 中期計画に記載の 36 施設について、廃止措置が計画どおり実施できるよう財源
確保、資源配分に努めた。その結果、いくつかの施設については、期限内に目標
を達成できなかったが、今中期目標期間中には、記載したすべての目標を達成し
た。
また、さらなる合理化や効率化を目指し、従来の 36 施設に加えて、新規に 7 施
設を加えた 43 施設の廃止措置計画を平成 20 年度末に策定し、その計画に従っ
て廃止措置を実施している。
①使命を終えた施設の廃止措置
○ 放射性物質放出実験装置(VEGA)については、平成 17 年度中に VEGA の解
体撤去を実施し、計画どおり廃止措置を終了した。
○ 研究炉 2(JRR-2)については、平成 18 年度に廃止措置計画の認可を取得し、廃
止措置を継続している。また、残存する設備機器の分類を行うとともに、維持管理
を継続した。
○ 高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)については、平成 18 年度に廃止措置計画
の認可を取得し、使用済燃料を STACY 施設へ移設し、続いて設備・機器の解体
撤去、管理区域の解除及び炉室等の建屋解体に係る工事を実施し、平成 21 年度
に解体を終了した。なお、平成 20 年度に実施できなかった使用済燃料移設作業
については、平成 21 年度初めに実施しており、中期計画どおり廃止措置を終了す
ることができた。
○ 再処理特別研究棟については、平成 26 年度までの終了を目指し、解体作業を
進めてきたが、平成 20 年度に整理合理化計画により、終了時期を明確にし、これ
に従って作業を進めている。具体的には、廃液長期貯蔵施設のセル内に設置され
206
ている廃液貯槽(LV-2)を平成 18 年度には実施できなかったが、平成 19 年度に一
括撤去を完了した。また、廃液貯槽周辺配管等の機器も撤去し、中期計画どおり
所要の取組を実施した。
○ むつ地区燃料・廃棄物取扱棟については、廃止措置計画の認可を平成 18 年 10
月に取得し、解体工法の検討など廃止措置を計画的に実施するとともに、残存す
る原子炉施設の維持管理を安全かつ適切に実施した。また、施設の解体等で発
生する廃棄物について、物量、発生元、放射能濃度等のデータベース化を終了し
た。現在は、合理的な解体方法を目指し、原子炉容器等の大型廃棄物の一括処
理処分の実施に向けての検討を進めている。
○ ウラン濃縮研究棟については、平成 24 年度の解体着手に向けて、大型廃棄物
の処理等の検討を進めた。
○ 同位体分離研究施設については、平成 20 年度より解体に着手し、平成 21 年度
に廃止措置を終了した。
○ 高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)については、平成 19 年度から準備を開
始し、平成 20 年度に廃止措置を終了した。
○ 液体処理場については、平成 22 年度より解体に着手することを目指し、取組を
進めてきたが、平成 20 年度の整理合理化計画で、解体の着手、終了時期を明確
にしたことから、これに従って作業を進めている。
○ 圧縮処理装置については、平成 25 年度より解体に着手することを目指し、取組
を進めてきたが、平成 20 年度の整理合理化計画で、解体の着手、終了時期を明
確にしたことから、これに従って作業を進めている。
○ 重水臨界実験装置(DCA)については、平成 18 年度に廃止措置計画の認可を
取得し、残留放射能評価のための資料分析や付属機器の解体を進めた。平成 20
年度からは第 3 段階(原子炉本体等の解体撤去)に移行し、原子炉建屋内機器の
解体に着手した。
○ 東濃鉱山については、閉山措置の進め方を検討し、平成 21 年度に閉山措置計
画書を策定した。
○ 新型転換炉「ふげん」については、廃止措置の制度化に関する原子炉等規制法
の改正(平成 17 年 12 月施行)を受け、今中期目標期間の早い段階での廃止措置
207
着手を目標に準備に入り、規制当局との調整を進めてきた。その結果、平成 20 年
2 月 12 日に廃止措置計画の認可を得て、廃止措置に着手した。なお、当初計画よ
り廃止措置着手時期は遅れたが、工程の見直しにより廃止措置全体計画への影
響は無い。
廃止措置認可後は、廃棄物貯蔵庫の満杯を回避するため、クリアランス対象で
ある給水加熱器等の設備を優先して解体を進めてきた。
また、クリアランス検認申請に必要なデータを蓄積するため、試料を採取し核種
分析評価を行うとともに、クリアランス検認に必要な検認モニタ、除染装置の導入を
行った。
一方、使用済燃料及び重水の輸送については、搬出先の状況を考慮しつつ計
画的に搬出を進めたが、使用済燃料については、受入先である東海再処理施設
の耐震裕度向上対策工事等により、平成 20~21 年度は実施できなかった。なお、
第 2 期中期目標期間において、計画的に搬出することで廃止措置の全体計画に
影響はない。
○ 濃縮工学施設の廃止措置は、平成 19 年度に規制当局との検討の結果、使用許
可変更により廃止措置を進めることとした。
遠心機解体処理は、平成 19 年度の日本原燃(株)との共同研究の完了を以って
試験研究段階を終了し、平成 20 年度からの定常運転(ルーチン化)へ移行すること
により廃止措置に着手した。
平成 20 年度以降、遠心機解体処理について、作業手順の効率化等を図り、解
体処理能力(5 台/日(年間 1,000 台相当))の確証を得た。
○ ウラン濃縮原型プラントについては、第二運転単位(使用施設)の滞留ウラン除去
及び回収を平成 20 年 2 月に完了し、滞留ウラン除去及び回収技術を確立するとと
もに、日本原燃(株)への技術提供を行った。
第二運転単位の滞留ウランの除去の完了を受けて、平成 20 年度に遠心機の供
給電源である高周波電源設備の解体・撤去を行い、ウラン濃縮原型プラントの廃
止措置に着手した。
なお、第一運転単位(加工施設)の滞留ウラン除去及び回収は、平成 18 年度に
廃止措置計画の認可を受け、実施する計画であったが、加工事業許可変更(平成
21 年 3 月申請)で進めることとなり、現在、規制当局で審査中である。
○ 東海地区ウラン濃縮施設のうち、G 棟(H 棟含む。)について、管理区域解除にか
かわる使用変更許可申請の許可を平成 21 年 10 月 2 日に取得し、廃止措置に着
手した。
○ 製錬転換施設の廃止措置は、平成 19 年度に規制当局との検討の結果、使用許
208
可変更により廃止措置を進めることとした。
平成 19 年度に、設備の解体・撤去準備として、スクラップウランの処理等を実施
し、廃止措置に着手した。
平成 20 年度からは、本格的な設備の解体・撤去を開始し、平成 21 年度末で主
要設備の約 60%の解体・撤去を実施した。
○ プルトニウム燃料第 2 開発室については、不稼動設備となっているグローブボッ
クス外付帯設備類の一部及びコンテナ前処理設備(非汚染機器)の撤去作業を実
施した。また、施設の維持管理を行うとともに、残存核燃料物質の安定化処理作業
等を実施し、平成 23 年度以降に廃止措置に着手すべく、所要の取組を進めた。
○ ナトリウムループ施設については、施設の維持管理を継続するとともに、平成 20
年度から 21 年度にかけて試料分析を行い、ナトリウムループの汚染状況のデータ
を取得し、平成 23 年度に廃止措置に着手すべく、準備を進めた。
○ バックエンド技術開発建家(ダンプコンデンサー建家)については、平成 19 年度
から保管体の廃棄体化に向けた放射能濃度測定及び放射能測定の技術開発場
所として再利用している。
○ 自由電子レーザー(FEL)については、平成 19 年 3 月まで運転を行い、運転を停
止した。また、平成 20 年度から 21 年度にかけて、設備を他機関へ譲渡することで、
廃止措置費用及び廃棄物発生量を低く抑えることができた。
○ 粒子工学試験装置の一部(PBEF、NITS)については、平成 18 年度に運転を停
止し、平成 19 年度に装置撤去を終了した。
○ 廃棄物安全試験施設(WASTEF)については、今中期目標期間中は各年度の計
画により、施設の運転・維持管理を行った。
廃止措置に着手するための準備としての施設の停止については、機構の単独
利用に関する運転を終了したため、平成 22 年 3 月末日に施設の利用を停止した
が、外部利用者のニーズを調査した結果、原子力基礎工学研究・評価委員会及
び東京電力(株)からの運転継続に関する要望書が届いたこと、原子力安全基盤機
構、日本原燃(株)、原子燃料工業(株)等からの委託研究による他施設での代替が
困難な利用があることから、平成 22 年度以降も運転を継続することとして次期中期
計画(平成 22 年 4 月開始)を策定し、主務大臣の認可を得た。今後は、外部資金を
主に継続利用する。
②老朽化により廃止する施設
209
・該当無し
③類似・重複する機能を他の施設に集約重点化することにより廃止する施設
○ ホットラボ施設(照射後試験施設)については、平成 24 年度までの終了を目指し
て取組を進めてきたが、平成 20 年度の整理合理化計画で、解体の着手、終了時
期を明確にしており、これに従って作業を進めている。具体的内容としては、鉛セ
ルの内装機器及び附帯設備の解体撤去、建家内不用機器類の解体撤去を行っ
た。また、鉛セルの解体撤去、コンクリートケーブの除染、管理区域解除を安全に
かつ合理的に行うための廃止措置計画を検討し、所要の取組を進めた。
○ 2 号電子加速器照射施設については、1 号電子加速器照射施設に機能を集約し、
平成 17 年度(2005 年度)に停止し、平成 20 年度に廃止措置を終了した。
○ バックエンド研究施設(BECKY)空気雰囲気セル 3 基については、今中期目標
期間中は各年度の計画により、空気雰囲気セル 3 基の運転・維持管理を行った。
廃止措置に着手するための準備としての施設の停止については、機構の単独
利用に関する運転を終了したため、平成 22 年 3 月末日に施設の利用を停止した
が、外部利用者のニーズを調査した結果、原子力基礎工学研究・評価委員会から
の運転継続に関する要望書が届いたこと、原子力安全基盤機構、日本原燃(株)等
からの委託研究による利用があることに加えて、高レベル放射性物質研究施設
(CPF)に対する需要も高いため、これら利用ニーズに応えることができず、その他
の施設では代替が困難なことから、平成 22 年度以降も運転を継続することとして
次期中期計画(平成 22 年 4 月開始)を策定し、主務大臣の認可を得た。今後は、
外部資金を主に継続利用する。
○ 冶金特別研究棟については、平成 19 年度より解体に着手し、作業を進めていた
が、管理区域内に新たな汚染箇所が発見されたため、平成 20 年度内に解体を終
了できなかった。その後、作業を継続して平成 21 年度に管理区域を解除し、今中
期目標期間内に廃止措置を終了した。
○ 再処理試験室については、平成 20 年度より解体に着手し、平成 21 年度に廃止
措置を終了した。
○ プルトニウム研究 2 棟については、平成 19 年度より解体に着手し、平成 20 年度
に廃止措置を終了し、中期計画よりも早期に目標を達成した。
○ セラミック特別研究棟については、平成 19 年度より解体に着手し、平成 20 年度
に廃止措置を終了した。
210
○ プルトニウム研究 1 棟については、BECKY に機能を集約し、平成 24 年度より
解体に着手する計画で取り組みを進めてきたが、平成 20 年度の整理合理化計画
で、解体の着手、終了時期を明確にし、これに従って作業を進めている。具体的に
は、機能集約先の状況調査を行うとともに課題の抽出を行った。また、移行後の研
究実施のため、核燃料物質の仕分け案を策定し、所要の取組を進めた。
④中期目標期間中に廃止措置の着手時期、事業計画の検討に着手する施設
○ 保障措置技術開発試験室施設(SGL)については、施設の維持管理を継続する
とともに、不用燃料の調査を行い、廃止措置の着手時期及び事業計画の検討に着
手した。平成 20 年度の整理合理化計画で、解体の着手、終了時期を明確にした。
○ 東海再処理施設については、運転・維持管理を行うとともに、平成 20 年度より、
次期中期計画検討と併せて、再処理施設の事業計画の検討を実施した。
○ 大型非定常試験装置(LSTF)については、OECD/NEA 計画などの外部利用ニ
ーズに対応して運転・維持管理を遂行するとともに、廃止措置の着手時期、事業
計画を検討した。平成 20 年度の整理合理化計画で、解体の着手、終了時期を明
確にした。
○ 人形峠周辺の捨石堆積場の措置については、平成 18 年 5 月に関係者と締結し
た「方面ウラン残土の措置に関する協定書」等に基づき、措置を進めた。センター
内の鉱さい堆積場の措置は、必要なデータ採取のための調査、試験等を行った。
廃砂たい積場は措置設計を完了し、廃泥堆積場の詳細設計の検討を開始した。
並行して廃水処理設備の配管工事等の措置を実施した。
その他、外部有識者の評価(鉱山跡措置委員会)を受けつつ鉱山跡措置を進め
た。
○ 廃止措置に関しては、ニーズ調査結果の反映や費用最小化を踏まえた合理的な
計画策定のため、平成 20 年度に策定した検討方針に基づき、当該施設の内外の
ニーズを確認した上で、利用希望のあったいくつかの施設については運転を継続
する等して、利用者の希望に応えるようなスケジュールとしてきており、一部の設備
については他機関への移管、運転の継続等を行った。
以上の結果、中期目標を達成した。
211
4.国際約束の誠実な履行
【中期目標】
機構の業務運営に当たっては、我が国が締結した原子力の研究、開発及び利用に関す
る条約その他の国際約束の誠実な履行に努めること。
【中期計画】
機構の業務運営に当たっては、我が国が締結した原子力の研究、開発及び利用に関す
る条約その他の国際約束の誠実な履行に努める。
≪中期実績≫
Ⅰ.1.(3).3). ① 参照
212
5.人事に関する計画
【中期目標】
職員の能力と実績を適切かつ厳格に評価し、その結果を処遇に反映させるととも
に、日本原子力研究所、核燃料サイクル開発機構といった職員の出身元にとらわれ
ることなく、適材適所の人事配置を行い、職員の能力の向上を図る。
また、競争的で流動的な研究開発環境の創出を図るために任期付研究員等の活用
を促進する。
【中期計画】
(1)方針
国家施策に基づく重要プロジェクトの確実な遂行から創造性に富んだ基礎・基盤
研究までの幅広い業務を着実に遂行するため、個々人の能力・適性を活用できるよ
う組織横断的かつ弾力的な人材配置を促進する。
競争的で流動的な環境の創出による研究活動の活性化、及び、柔軟性と機動性に
よる研究の効果的推進を図るため、任期付研究員等の活用を推進する。
機構が果たすべき多様なミッションの遂行に資する産学官との適切且つ効果的な
連携を図るため、大学、産業界等との人事交流、及び技術移転に関わる人的協力を
着実に実施する。
組織の活性化、業務の効率的な実施のため、適切な人事評価制度及びその処遇へ
の反映を考慮した人事制度を採用する。
機構業務の効率的・効果的な遂行に資するため、職員の能力向上を図るための人
材育成を体系的かつ計画的に推進する。
(2)人員に係る指標
統合効果を活かし、事務の効率化に努める。
(参考 1)
・期初の職員(運営費交付金により職員給与を支給する任期の定めのない者)数
4,386 名
・期末の職員(運営費交付金により職員給与を支給する任期の定めのない者)数の見
込み
3,956 名
(参考 2)
中期目標期間中の「行政改革の重要方針」(平成 17 年 12 月 24 日閣議決定)及び「簡
素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律」(平成 18 年法律第
47 号)において削減対象とされた人件費総額見込み(総人件費改革の取組の削減対象
外となる任期付研究者等に係る人件費を除く。)
179,401 百万円
(参考 3)
(参考 2)において削減対象とされた人件費と総人件費改革の取組の削減対象外となる
任期付研究者等の人件費とを合わせた人件費総額見込み(国からの委託費、補助金、競
争的研究資金及び民間資金の獲得状況等により増減があり得る。)
186,689 百万円
≪中期実績≫
213
○ 各部門・拠点における人的資源や業務の状況を確認しながら、組織横断的かつ
弾力的な人員の再配置を実施した。特に、主要事業(高速増殖炉サイクル技術の
研究開発、高レベル放射性廃棄物地層処分技術の研究開発、核融合の研究開
発、量子ビームテクノロジーの研究開発)については、これら事業の展開に応じた
重点配置を基本として、人員体制の強化を図った。また、旧法人間の更なる融合
の観点から、研究開発部門や拠点のライン管理職をはじめとした交流促進のため
の人員配置を実施した。さらに、機構内外を対象とした研究グループリーダーの公
募を行うなど、能力、実績、意欲を勘案して、適材適所の人員配置を実施した。
○ 競争的で流動的な環境の創出による研究活動の活性化等の観点から、各部門、
拠点等と連携しながら、職員(任期の定めのない者)の採用状況や総人件費削減
への取組にも留意しつつ、任期付研究員等の任期制研究者を 438 名(延べ人数)
受け入れることにより、研究開発環境の活発化を図った。
○ 客員研究員の委嘱や特別研究生の受入れ等、大学との連携を強化し、優秀な
人材の確保の観点から、各大学との情報交換を実施した。また、日本原燃(株)等と
の技術協力に関し、機構内関係組織と協議の上、六ヶ所再処理施設における事
業展開等に応じた人員の派遣、日本原燃(株)等の技術者研修の要請に係る調
整・対応等を適切に実施した。
○ 組織の活性化、業務の効率的な実施のため、新しい人事評価制度を導入し、段
階的に適用を開始した(課長級以上の職員は平成 19 年度から適用を開始し、平
成 20 年度の処遇へ反映。課長級未満の職員は平成 20 年度から適用を開始し、
平成 21 年度の処遇へ反映。)。人事評価制度については、独立行政法人整理合
理化計画等も踏まえ、「機構ミッションの達成」「人材の育成」「適正な処遇」を目的
とし、中期目標、中期計画、年度計画等に立脚した各職員の目標設定、目標の達
成度合や成果に応じた人事評価を適切かつ厳格に実施し、その結果を処遇に反
映するとともに、客観性、透明性の観点から、被評価者へフィードバックを行った。
また、人事評価における公平性を確保する観点から、評価承認者が評価者による
評価結果の整合性を保持するとともに、評価者の評価能力の向上を図る「評価者
研修」を実施した。さらに、職員の能力、業績を評価し、昇任・昇格へ反映させるた
め、研究業績審査等の昇任審査制度の運用を図った。
○ 研究等のマネジメント能力の習得、強化の観点から、研究者・技術者について、
国への出向や経営企画部等の機構内中核組織へ、キャリアパスを念頭に人員配
置等を行った。
○ 組織目標の、より良い達成に向けた一手段として「経営方針の理解」「適切なマネ
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ジメント」「立場・役割の理解」等に主眼をおいて、管理職に至るまでの各階層にお
ける研修を体系化し、計画的に実施するとともに、国外の大学や研究機関への留
学により、体系的かつ計画的に人材育成を推進した。また、平成 21 年度において
は、組織運営管理能力の向上の観点から、管理職を対象として、「リーダーシップ
能力」「意思決定能力」「管理能力」等の向上に資するマネジメント実践研修を実施
した。
以上の結果、中期目標を達成した。
215
6.中期目標期間を超える債務負担
【中期目標】
なし
【中期計画】
中期目標期間を超える債務負担については、研究開発を行う施設・設備の整備等が中
期目標期間を超える場合で、当該債務負担行為の必要性及び資金計画への影響を勘案
し合理的と判断されるものについて行う。
≪中期実績≫
○ 研究開発を行う施設・設備の整備等が中期目標期間を超える場合について、当
該債務負担行為の必要性及び資金計画への影響を勘案し合理的と判断される以
下の事業を行った。
*( )内は、契約金額と契約期間
(1)補助金により実施する事業
①高速増殖原型炉もんじゅにおける研究開発
・ もんじゅの送電線基幹系統安定化装置の設置(269百万円・平成21年度~平成
23年度)
・ 原子炉機器輸送ケーシング電気盤等の更新(91百万円・平成20年度~平成22
年度)
②プルトニウム燃料製造技術の開発
・ プルトニウム燃料施設防護単位防護装置の改修(350 百万円・平成 19 年度~平
成 22 年度)
③核融合研究
・ サテライトトカマク計画整備(真空容器等の製作)(6,665百万円・平成19年度~
平成23年度)
・ ITER の超伝導コイル導体製作(5,007 百万円・平成 19 年度~平成 22 年度)
・ サテライトトカマク計画整備(コイル等の製作)(3,819百万円・平成20年度~平成
24年度)
・ ITERの超伝導コイル製作(4,270百万円・平成20年度~平成22年度)
・ IFMIF-EVEDAターゲット系リチウムループの整備(1,620百万円・平成20年度
~平成22年度)
・ サテライトトカマク計画整備(真空容器等の製作)(3,153百万円・平成21年度~
平成25年度)
・ ITER の超伝導コイル素線製作(890 百万円・平成 21 年度~平成 23 年度)
・ ダイバータ試作試験(46百万円・平成21年度~平成22年度)
④量子ビーム研究開発
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・ リニアックビームの増強(8,484 百万円・平成 20 年度~平成 23 年度)
⑤放射性廃棄物の処理・処分(固体廃棄物減容処理施設)
・ 固体廃棄物減容処理施設の整備(9,593百万円・平成20年度~平成24年度)
⑥放射性廃棄物の処理・処分(液体放射性廃棄物処理施設)
・ セメント固化装置の製作(479百万円・平成20年度~平成23年度)
・ 液体廃棄物処理関連装置の製作(使用済樹脂回収装置)(100百万円・平成20
年度~平成23年度)
(2)運営費交付金により実施する事業
①高速増殖炉サイクル実用化の研究開発
・ 冷却系機器開発試験施設の整備(3,171 百万円・平成 21 年度~平成 26 年度)
②高速増殖原型炉もんじゅにおける研究開発(性能試験)
・ もんじゅ性能試験(144百万円・平成21年度~平成22年度)
③高速増殖原型炉もんじゅにおける研究開発(設備保全点検)
・ もんじゅ設備保全点検(3,444百万円・平成14年度~平成22年度)
④高速増殖原型炉もんじゅにおける研究開発(維持管理)
・ 燃料出入設備等点検(231百万円・平成21年度~平成22年度)
・ 水・蒸気、タービン・発電機関連設備の点検(2,452百万円・平成21年度~平成
23年度)
・ アニュラス屋外排気ダクト取替に係る溶接事業者検査及び安全管理審査(12百
万円・平成21年度~平成22年度)
⑤高速増殖原型炉もんじゅにおける研究開発(耐震)
・ 原子炉建屋背後斜面測量作業(3百万円・平成21年度~平成22年度)
⑥プルトニウム燃料製造技術における開発
・ 第 16 回高速増殖原型炉「もんじゅ」炉心燃料集合体の輸送(45 百万円・平成 21
年度~平成 22 年度)
⑦高レベル放射性廃棄物の処理・処分技術における研究開発
・ 瑞浪超深地層研究所における研究坑道掘削工事(3,050 百万円・平成 21 年度
~平成 23 年度)
・ 幌延深地層研究センターにおける研究坑道掘削工事(3,780 百万円・平成 20
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年度~平成 22 年度)
⑧原子炉基盤における研究開発(JRR-3)
・ JRR-3 取替用燃料体(第 21、22 及び 23 次)の製作(970 百万円・平成 21 年度
~平成 25 年度)
⑨原子力基盤における研究開発(材料試験炉(JMTR))
・ 改修(1次冷却設備、プロセス計装等の更新)(1,509百万円・平成19年度~平成
22年度)
・ 改修(制御棒駆動装置の更新)(1,250百万円・平成20年度~平成22年度)
・ 燃料要素製作(2,018百万円・平成21年度~平成23年度)
・ 燃料用ウランメタル購入(24百万円・平成21年度~平成22年度)
⑩原子力基盤における研究開発(常陽)
・ 第5次取替反射体の製作(353百万円・平成18年度~平成23年度)
⑪平成 21 年度会計監査
・ 平成 21 年度会計監査人監査契約(33 百万円・平成 21 年度~平成 22 年度)
以上
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