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能動RCフィルタ - 電子回路研究室
能動RCフィルタ 目的 1 回路設計・理論特性の計算・測定・データの整理を通して、アナログ電子回路、特に能動 RC フィルタに関する理解を深める。 まず、アナログフィルタの伝達関数の導出方法、LC フィルタ、能動 RC フィルタの設計方法 を修得する。また、5 次のローパスフィルタを 2 種類の能動 RC フィルタで設計して実際に回路 を作り、実験を行う。実験においては、周波数特性を測定し、構成方法によって特性偏差に違 いのあることを理解する。実際に音声信号をフィルタに入力することにより、どのような変化 が得られるかを調べる。 準備 2 2.1 インピーダンス 我々は、インピーダンスの知識を使 うと、キャパシタやインダクタは、そ れぞれ 1/sC 、sL の素子値を持つ抵抗 器のように扱うことができることをす でに知っている (表 1)。利得や位相を 求めるとき、すなわち定常状態の応答 を調べるときには、s = jω とする。j は虚数単位である。本実験では、定常 状態のみを対象とするので、常にこの 関係が成り立つ。ここで j は虚数単位、 ω は信号源の角周波数 [rad/s] である。 本実験で扱う比較的複雑な部類に属す る高次のフィルタにおいては、微分方 程式、キルヒホッフの電流則や電圧則 のみに頼って回路解析を行うことは殆 ど不可能である。 2.2 表 1: インピーダンス 素子 回路記号 インピーダンス C キャパシタ 1 sC L インダクタ sL R 抵抗器 R 1 次フィルタ もっとも簡単なフィルタを図 1 に示す。この回路の伝達関数 T (s) は、 ( ) 1 1/CR T (s) = = 1 + sCR s + 1/CR 1 (1) となる。このフィルタは 1 次フィルタと呼ばれる。分母を 0 とする s を T (s) の極という。この 回路の極は、−1/CR にただ一つだけ存在する。式 (1) より、伝達利得 |v2 /v1 | は、 v2 = |T (jω)| v1 1 = (2) 1 + jωCR 1 = √ 1 + (ωCR)2 のようにすることで求められる。ω は信号源 v1 の角周波数である。例えば、R=1Ω、C=1F の 場合の周波数特性は、図 1(b) のようになる。同図において、横軸は対数目盛であり、縦軸は dB で表現されている。dB(デシベル) 値は、次式によって与えられる。 v2 20 × log10 [dB] (3) v1 R v1 C v2 ω (a)1 次ローパスフィルタ (b) 周波数特性 図 1: 1 次ローパスフィルタ 2.3 オペアンプ 図 2 にオペアンプの回路記号を示す。同図に示すように、オペアンプの出力電圧 vo は、 vo = A(v+ − v− ) (4) で表される。ここで、図 3 に示す反転増幅器の出力電圧 v2 を導出しよう。重ねの理を用いると、 v− = R1 v2 + R2 v1 R1 + R2 (5) が得られる。v+ = 0 および式 (5) を式 (4) に代入し、v2 について解くと、 v2 = − AR2 v1 (R1 + R2 ) + AR1 (6) 2 となる。実際のオペアンプの解放利得 A は 105 ∼ 106 と大変大きい。そこで、上式において A → ∞ とすると、 v2 = − R2 v1 R1 R1 v2 + R2 v1 R1 + R2 vo (a) オペアンプ (7) が得られる。これは、伝達利得 (v2 /v1 ) がオペ アンプの解放利得 A に依存しないことを意味し ている。A が十分に大きく、正しく負帰還が掛 かっている場合 (詳しくは文献 [3] を参照せよ)、 オペアンプの +、− 入力端子の電圧は互いに等 しくなるようにオペアンプの出力電圧が決まる ことになる。すなわち、オペアンプを利用した 回路では、v+ = v− が成立する。これを仮想短 絡という。 仮想短絡の考えを使って出力電圧を求める場 合について述べる。まず式 (5) が成立する。次 に v+ = 0 であるので、同式から、 0= v+ v- v+ v vo Av v- (b) 等価回路 図 2: オペアンプ R2 R1 (8) v1 となり、直ちに式 (7) で与えられる結果が得ら れることがわかる。同様に、図 4(a) の回路の出 力電圧を求めよう。オペアンプの入力電圧 v+ , v− は、次のようになる。 v+ = v1 (9) R1 v− = v2 R1 + R2 vv+ 図 3: 反転増幅器 v1 仮想短絡より、v+ = v− が成立することを利用 し、上式を v2 について解くと、直ちに、 ( ) R2 v2 = 1 + v1 (10) R1 が得られる。図 4(b) の回路においては、R1 = ∞, R2 = 0 となるから、v2 /v1 = 1 が成立する。 これは、入力された信号がそのまま出力端子に 現れることを意味しており、特にこの回路を電 圧ホロワと呼ぶ。これは、後段に接続された回 路が前段の回路に影響しないようにさせる場合 によく用いられる。 3 v2 v2 R1 R2 (a) 正相増幅器 v1 v2 (b) 電圧ホロワ 図 4: 正相増幅器と電圧ホロワ フィルタ特性 3 2 章で述べたフィルタは 1 次ローパスフィルタであり、周波数に対してかなりなだらかな特 性をもつ。本章では、より急峻な特性を持たせることのできる高次のフィルタについて述べる。 フィルタとは 3.1 フィルタはある希望する帯域だけの信号を伝送し、それ以外の帯域の信号を減衰させる伝送 回路である。前者の帯域を通過域、後者のそれを減衰域という。通過域の振幅特性はフラット で、減衰域での減衰は無限大 (伝送量は 0) であることが理想的である。通過域と減衰域の配置 によって、図 5 に示すようなフィルタ特性がある。ハイパス、バンドパス、バンドストップ特性 はローパス特性に簡単な周波数変換を施すことによって得られるので、図 5(a) のローパス特性 が基本となる。このような通過域から減衰域への急峻な特性はあくまでも理想的なものであっ て、現実にはこの特性を関数で近似することになる。 |T| |T| |T| |T| 1 1 1 1 0 0 ω0 ω 0 0 ω0 0 ω 0 ω1 ω2 0 ω 0 ω1 ωs ω ω2 ω 図 5: 各種フィルタの特性 ローパス特性に対する仕様を減衰量で表すと、 図 6 のように ω ≦ ωp に対しては減衰量は 0 ∼ αmax であり、ω ≧ ωs に対しては減衰量が αmin 以 上である、すなわち減衰特性が斜線を施した部 分に入らないことが要求されることが多い。ωp を遮断周波数という。与えられた ωp , ωs , αmax , αmin に対してできるだけ低次数の関数で特性を 近似することが望ましいが、その関数として図 7 に示すバタワース、チェビシェフ特性、連立チェ ビシェフ特性が知られている。通過域でのうね り量をリプル量という。バタワース特性、チェビ シェフ特性のように減衰域においても減衰が常 に有限であるものを無極特性という。それに対 して連立チェビシェフ特性のように減衰域のい くつかの周波数において無限大の減衰が得られ るものを有極特性という。ここでは、バタワー ス特性、チェビシェフ特性について述べる。 4 α, dB αmin αmax 0 0 ωp 図 6: ローパスフィルタに対する仕様 α, dB O ωs ω 図 7: 各種減衰特性 第 2 章で、最も簡単なフィルタを示し、図 1 に例示した回路はローパスフィルタであること を述べた。このフィルタは、確かに低い周波数領域の信号を通し、反対に、高い周波数領域の 信号を通さないという性質を持つが、より急峻な特性を持つフィルタは、どのような方法で構 成すればよいだろうか? 基準ローパスフィルタの減衰自乗特性は、 2 y 2 (x) = ymin [1 + (α2 − 1)F 2 (x)] (11) のように表される。ただし、簡単のために αmax を α で表している。F (x) は |x| ≦ 1 に対して |F (x)| ≦ 1 となる関数で、核関数と呼ばれる。従って、|x| ≦ 1 に対して、 |y(x)| ≦ αymin (12) これが通過域に対応していることがわかる。また、|x| ≧ 1 に対しては、|F (x)| はできるだけ大 きいことが望まれることもわかる。この F (x) の与え方によって、種々の振幅特性を実現する ことができる。 3.2 バタワース特性 核関数の条件を満たす最も簡単な関数として、 F (x) = xn (13) が考えられる。上式の n は自然数で、フィルタの次数と呼ばれる。この n が大きいほど、最終 的に得られるフィルタ特性は、より急峻なものとなる。この核関数によって与えられる特性を バタワース特性という。振幅自乗特性は、 2 y 2 (x) = ymin [1 + (α2 − 1)x2n ] (14) のようになる。この減衰特性は周波数と共に単調に増加する。伝達関数を T (s) で表せば、 1 H2 |T (jω)| = 2 = y (ω) 1 + ε2 F 2 (ω) 2 (15) であるから、 |T (s)s=jω |2 = T (s)T (−s) H2 H2 = = 1 + ε2 F 2 (js) 1 + ε2 (−s2 )n H = 1/ymin ε2 = α 2 − 1 となる。例として、n = 1、2 のときに伝達関数 T (s) がどのようになるか考えてみよう。 5 (16) (a)n = 1 のとき H2 (1 − εs)(1 + εs) T (s)T (−s) = (17) 安定性より、T (s) の分母の零点 (T (s) の極) は、s 平面上の左半面になければならないから、 T (s) = H εs + 1 (18) が得られる。上式において、H = 1, ε = 1 とすれば、CR = 1 としたときの式 (1) と等しくな る。また、後述するチェビシェフ特性においても、n = 1 のときに得られる伝達関数も、式 (1) と同じ形式になる。このため、図 1 に示すフィルタは、1 次のフィルタということになる。 (b)n = 2 のとき H2 H2 = 1 + ε2 s4 (εs2 + 1)2 − 2εs2 H2 √ √ = (εs2 + 2εs + 1)(εs2 − 2εs + 1) T (s)T (−s) = (19) となるから、 T (s) = H √ εs2 + 2εs + 1 (20) が得られる。 一般には、式 (16) の分母=0 の根を求め、その中で s 平面の左半面にある根を選べばよい。その根を pnk とす れば、 ( ) 2k + 1 2k + 1 pnk = −r sin π + j cos π (21) 2n 2n π/n k = 0, 1, ..., n − 1 r = ε−1/n のように求めれる。|pnk | = r であるから、図 8 のように、 根は半径 r の円周上にある。伝達関数 T (s) は、以下のよ うになる。 H T (s) = ε n−1 ∏ π / 2n ω O r σ (22) 図 8: バタワース特性の極配置 (s − pnk ) k=0 6 3.3 チェビシェフ特性 バタワース特性においては、その核関数が xn で与え られた。チェビシェフ特性は、バタワース特性よりも急 峻な特性が得られる。チェビシェフ特性は、核関数 F (x) がチェビシェフ多項式 Tn (x) で与えられる特性である。 Tn (x) は、 { cos(n cos−1 x) |x| ≦ 1 Tn (x) = (23) −1 cosh(n cosh x) |x| ≧ 1 T1 +1 -1 +1 -1 T2 で与えられる。これを多項式で表すと、 T0 (x) = 1 T1 (x) = x 2 T2 (x) = 2x − 1 T3 (x) = 4x3 − 3x 4 2 T4 (x) = 8x − 8x + 1 6 3 T5 (x) = 16x − 20x + 5x +1 0.707 -1 +1 (24) -1 T3 +1 となる。これらの特性を図 9 に示す。式 (23) を式 (16) に 代入して、その根を求め、T (s) を求めると、次式のよう になる。チェビシェフ特性の極は、図 10 のように、楕円 上に乗っている。 H T (s) = n−1 ∏ n−1 (s + pnk ) 2 ε k=0 pnk = νnk + jµnk an 2k + 1 µnk = cos π 2 2n 2k + 1 bn (25) sin π νnk = 2 2n ( )1/2n ( )1/2n α+1 α−1 an = + α−1 α+1 ( )1/2n ( )1/2n α+1 α−1 bn = − α−1 α+1 k = 0, 1, 2, ..., n − 1 0.866 -1 +1 -1 0.500 T4 +1 0.383 -1 0.924 +1 -1 0.707 T5 0.309 +1 0.588 0.951 -1 +1 -1 0.809 図 9: チェビシェフ多項式の特性 7 ここで、Σ は和の演算を指示する記号である のに対し、Π は積の演算を指示する記号であ る。前述のように、ε2 = α2 − 1 で、α は通過 帯域内リプルと呼ばれ、図 6 における αmax を 表している。これは、通過域におけるうねり の量を示す。α は、デシベルでなく、比の値で あることに注意する。すなわち、αmax がデシ ベルで与えられた場合、以下のようにして求 めることができる。 10αmax [dB]/20 ω π 2n µnk C1 an 2 νnk σ bn 2 C2 E (26) 図 10: チェビシェフ特性の 極配置 4 フィルタの実現方法 低周波帯のフィルタでは L の値が大きくなるが、L は集積化が困難であるので、LC フィル タは価格、寸法の点で不利となる。このような理由により R、C と能動素子 (オペアンプ 、ト ランジスタなど) によって構成された能動 RC フィルタが使われる。能動 RC フィルタの実現法 には、大別して縦続形構成法と LC シミュレーション法がある。 4.1 縦続形構成法 能動 RC フィルタの構成法として、さまざま な構成法が知られているが、ここでは縦続形構 成法について述べる。 次のように、伝達関数 T (s) を 2 次伝達関数 の積、 T (s) = N ∏ Ti (s) T1 T2 図 11: 縦続形接続法 C1 (27) i=1 R1 に分解し、図 11 のように、Ti (s) を実現する回路 を縦続接続することによって T (s) を実現する。 ただし、奇数次フィルタの場合には 1 次区間が 1 つ含まれる。1 次伝達関数は図 1 に示す回路に よって実現でき、その伝達関数は、式 (1) で示 した通りである。 TN V1 R2 C2 V2 Ra Rb 図 12: Sallen-Key 回路 2 次伝達関数は、たとえば、図 12 に示すサレンキー (Sallen-Key) 回路によって実現すること ができる。その伝達関数は、 T (s) = Hω02 s2 + (ω0 /Q)s + ω02 (28) 8 となる。ただし、 Rb H = 1+ Ra ω02 = 1 C1 C2 R1 R2 (29) √ √ √ 1 R2 C2 R1 C2 Rb R1 C1 = + − Q R1 C1 R2 C1 Ra R2 C2 である。よく使われる設計方法としては、次の 2 つがある。 (i)Ra = ∞、Rb = 0 の場合 R1 = R2 = R 2Q C1 = ω0 R 1 C2 = 2Qω0 R (ii)R1 = R2 = R , C1 = C2 = C の場合 ω0 1 = CR (30) (31) Rb 1 = 2− Ra Q なお、振幅特性は、式 (28) から、次のようになる。 H |T (jω)| = √ ((ω/ω0 )2 − 1)2 + ((ω/ω0 )/Q)2 4.2 (32) LC シミュレーション形構成法 本実験で扱う 5 次の LC フィルタを図 14 に示 す。LC シミュレーション形構成法は、LC フィ ルタの L を能動 RC 回路で実現してフィルタを 実現する方法である。L を実現する方法として GIC (Generallized Immittance Converter) によ る方法について述べる。図 15 の破線で囲まれ た部分を GIC という。 V1 、V2 、I1 、I2 の間には、 V1 = V2 I1 Z2 Z4 = I2 Z1 Z3 L1 RS C1 C2 L2 C3 図 14: 5 次の LC フィルタ (33) 9 RL 1 2 Z1 Z2 Z3 Z4 Z Z5 1' 2' 図 15: GIC R1 R2 2 2 2 GIC GIC GIC 1 1 1 (a) CRR1 CRR2 (b) 図 16: GIC による非接地インダクタの実現 なる関係があるので、端子 1–1’ より見たインピーダンス Z は、 Z= Z1 Z3 Z5 Z2 Z4 (34) のようになる。例えば、 Z1 = Z3 = Z4 = R Z5 = R5 Z2 = 1/sC とすれば、 Z = sCRR5 (35) となり、L が実現できる。また、図 16(a) のように接続すれば、式 (33) の関係を考慮すること により、同図 (b) が実現できることが分かる。LC フィルタの素子値を求める方法は、次章で詳 しく述べる。 5 LC フィルタの構成法 図 17 のように入力、出力両端子が抵抗で終端されたものを抵抗両終端形 LC フィルタとい う。図 17 の回路において点 a − a′ より右側を見込んだインピーダンスを ZI で表せば、点 a − a′ 10 RS a V1 LC RL V2 a' 図 17: 抵抗両終端形 LC フィルタ より右側に伝送される電力 PIN は、 PIN = Re ZI |V1 |2 |RS + ZI |2 (36) となる。LC 回路では電力損失はないので、この電力は RL で消費されることになる。すなわち、 Re ZI |V2 |2 2 |V | = 1 |RS + ZI |2 RL (37) となる。従って、 |V2 |2 RL ReZI = |T (jω)|2 = 2 |V1 | |RS + ZI |2 2RS (ZI + ZI ) RL · 2 = 4RS RS + RS (ZI + ZI ) + |ZI |2 [ ] RL |RS − ZI |2 = 1− 4RS |RS + ZI |2 (38) となる。ZI は ZI の複素共役を示す。ここで、 ρ(s) = ZI − RS ZI + RS (39) とおくと、 ρ(s)ρ(−s) = 1 − 4RS T (s)T (−s) RL (40) となる。振幅自乗特性 T (s)T (−s)|s=jω が与えられれば、式 (39) から分かるように ρ(s) の極は s の左半面にある (Hurwitz 多項式) ことより、ρ(s) が求められる。すなわち、ρ(s) の分母多項 式は、T (s) の分母多項式を何倍かしたものになる。入カインピーダンス ZI は式 (39) より、 ZI = 1 + ρ(s) RS 1 − ρ(s) (41) のように求められる。これを後に述べる連分数展開をすることにより回路が得られる。 11 [例] α = √ 2 (3dB) の 3 次バタワース特性をもつ LC ローパスフィルタを構成してみよう。 式 (6) より、 T (s)T (−s) = H2 1 − s6 (42) となり、式 (11) より左半面の極は、 √ 1 3 、 − 1 − ±j 2 2 となる。従って、 T (s) = s3 + H + 2s + 1 (43) 2s2 となる。直流 (ω = 0) においては、L は短絡、C は開放となり、RS と RL の直列回路となるの で、RS = RL = 1(Ω) とすると、H = 1/2 となる。式 (40)、(42) より、 4H 2 −s6 = 1 − s6 1 − s6 3 s −s3 = 3 · s + 2s2 + 2s + 1 −s3 + 2s2 − 2s + 1 ρ(s)ρ(−s) = 1 − (44) となり、ρ(s) の極 (分母の零点) は s の左半面になければならないので、 ρ(s) = ±s3 s3 + 2s2 + 2s + 1 (45) が得られる。ρ(s) の分母多項式は、T (s) の分母多項式を何倍かしたものになっている。+ 符号 の方を採り、これを式 (41) に代入し、ZI を求め、連分数展開すると、 ZI = 2s3 + 2s2 + 2s + 1 2s2 + 2s + 1 = s+ 1 (46) 1 2s + s+1 となり、図 18(a) の回路が得られる。− 符号の方を採ると、同図 (b) のようになる。 1 1 1 1 2 2 1 1 ZI 1 1 ZI (a) (b) 図 18: 抵抗両終端形 LC バタワースフィルタ 以上は与えられた伝達関数から回路を作っている。これを「回路の合成」という。これに対 して、与えられた回路の伝達関数を求め、振る舞いを調べることを「回路の解析」という。 12 6 スケーリング 以上の設計により得られたフィルタの遮断周波数は 1/2π[Hz] であるが、遮断周波数 fc [Hz]、 抵抗を K 倍したフィルタを得るためには、変換前の素子値の添え字を old、変換後の素子値の 添え字を new として、 KLold Lnew = 2πfc Cold (47) Cnew = 2πfc K Rnew = KRold のような変換を行えばよく、その結果、現実的な素子値を有するフィルタが得られる。このよ うな操作をスケーリングという。 フィルタ設計を行う場合には、規格化された伝達関数を実現する回路を構成し、最後の段階 で、遮断周波数、インピーダンスレベル(素子値の大きさ)が希望のものに合うように素子値 を変更する。式 (47) の第 3 式の関係は能動 RC フィルタの R に対しても成り立つ。 例えば、図 18(a) の回路を遮断周波数 1kHz 、終端抵抗 1kΩ のフィルタに変換するには、 K = 103 、 fc = 103 とすればよく、その結果、 RS = RL = 1kΩ L = 159mH C = 0.318µF が得られる。 7 単位の 10n の接頭語 単位の 10n の接頭語を表 2 に示す。 表 2: 単位の 10n の接頭語 名称 エクサ (exa) ペタ (peta) テラ (tera) ギガ (giga) メガ (mega) キロ (kilo) ヘクト (hecto) デカ (deca) 記号 E P T G M k h da 大きさ 1018 1015 1012 109 106 103 102 10 名称 デシ (deci) センチ (centi) ミリ (milli) マイクロ (micro) ナノ (nano) ピコ (pico) フェムト (femto) アト (atto) 13 記号 d c m µ n p f a 大きさ 10−1 10−2 10−3 10−6 10−9 10−12 10−15 10−18 8 実験および課題 実験装置 実験装置 CR オシレータ オシロスコープ 電圧計 周波数カウンタ 電源装置 LCR メータ パーソナルコンピュータ オーディオチェック CD スピーカ アンプ基板 AC アダプタ (DC12V 500mA 以上) 台数 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 用途 正弦波の発生 波形観測 振幅の測定 周波数の測定 実験回路への電源供給 素子値の調整 音声信号源 音声信号 フィルタ効果の確認 音声信号の増幅 アンプ基板への電源供給 実験用部品 部品 抵抗器 コンデンサ 種類 1/4W 炭素皮膜抵抗器 誤差 5% スチロールコンデンサ又はポリプロピレンコンデンサ 誤差 5% 共通事項 実験はすべて正弦波信号によって行 う。発振器、オシロスコープ、電圧計、 周波数カウンタ、フィルタの接続図を 図 19 に示す。電源電圧 VCC は ±15V とする。通過域でのフィルタの出力電 圧が 1V 程度になるように発振器の信 号レベルを調整する。つぎに、種々の 周波数の信号に対して V1 と V2 の値を 測定して V2 /V1 を求める。 なお、発振器の出カインピーダンス (600Ω) の影響を取り除くために、実験 回路では入力側に電圧ホロワ (電圧利 得=1) を挿入してある。装置製作上の 都合により演算増幅器のピンで必要の ないものは切り取ってある。 図 19: 測定器の接続図 (アンプは、音を聞くときだけ接 続する。音を聞かないときはフィルタとアンプを切り離 す。アンプの電源を切るだけでは不十分。) 14 振幅 V1 , V2 の測定に際しては、dBV を読みとること。このことにより、伝達利得 |T (jω)| を、 次式を使って知ることができる。(電圧 [V]) を読みとる必要はない。 |T (jω)|[dB] = V2 [dBV] − V1 [dBV] (48) 本実験では、V1 と V2 を記録し、さらに V2 − V1 の計算結果を記録せよ。データを取る方法を表 3 に示す。理論値は、C 言語やエクセル等を用い各班毎に計算せよ。片対数グラフ用紙は、実 験室に備えてあるので、教員・技術職員・TA 等を通して受け取ることができる。レポートの提 出にあたっては、表の罫線は定規を使い、グラフの特性曲線は、フリーハンドでつながず、自 在定規を用いること。実測値と理論値の違いがわかるように、色を変えるか、線種 (実測値:実 線、理論値:破線)を変えるなど、違いが分かるようにせよ。グラフの縦軸・横軸の軸線を書 き、物理量の記入も忘れずに記入せよ。 表 3: (例) 実験結果 周波数 [Hz] 10 ... ... V1 [dBV] V2 [dBV] 10 ... ... 実測値 [dB] 理論値 [dB] -6.0 ... ... 6.02 ... ... 4.0 ... ... 図 20 に片対数グラフ用紙の例を示す。 このグラフの横軸又は縦軸のうち一方は、 対数目盛となっている。すなわち、横軸 (周波数軸) が対数目盛であるとすれば、左 端からの距離 l は、周波数 f の常用対数 (log10 f ) に比例している。片対数グラフは、 対数軸の向きを正しく使い、反対にならな いように注意する。片対数グラフは、データ のまとめ方を学ぶため、グラフ描画ソフト を用いずに、各自手書きのものを提出せよ。 l 図 20: 片対数グラフの例 本実験を含め、実験を通して得られた情報や分かったことは余すところなく実験ノートに記 入する。何から新しい発見が生まれるか分からない。国内外の研究期間・企業など多くの場合、 A4 サイズのノートに記すことが多い。ルーズリーフは資料が散逸するので望ましくない。ノー トを各自購入し、利用することを勧める。 実験レポートに理論値も併せて記入することで、レポートの「考察」の材料となる。学生実 験では、予想される実験結果を得ることだけが目的ではなく、(i) レポートの書き方、(ii) データ のまとめ方、(iii) 考察の書き方を学ぶことの方が遙かに大切である。以上のことから、丸写し を含め考察が極めて貧弱なレポート、理論値が示されていない等のレポートは、再提出となる ので注意せよ。最低ラインについては、本テキスト p.24 の「実験報告書に含まれるべき内容」 を参照せよ。 15 実験1 1 次ローパスフィルタ (1) 図 21 に示す 1 次ローパス回路について、|T (jω)| = |V2 /V1 | を測定せよ。R の値について は、教員、技術職員又は TA より指定を受けよ。(R = 10k ∼ 500kΩ の範囲が望ましい)。 指定を受けた抵抗器を、LCR メータを使用し、何本かの抵抗器を直列接続して必要な抵 抗値の抵抗器を得る。このようにして作られた抵抗器を、合成抵抗という。抵抗の合成に あたっては、計算が容易な 直列接続 とせよ。実験室に備え付けてある抵抗器のセットで は、計算ミスがなければ、通常 3 ないし 4 本以内の抵抗器で所望の合成抵抗が得られる。 例えば、3 本の抵抗器 R1 , R2 , R3 を直列接続した場合の合成抵抗 R は、R = R1 + R2 + R3 で求められる。まず、一番近くそれを超えない抵抗 R1 を LCR メータで計り、所望の抵 抗値から引き算した R2 を直列接続する。これを LCR メータで計り、不足分 R3 を直列接 続する。最後に正しい値になったことを測定により確認する。なお、不明な点があっても 安易に教員・技術職員・TA に助けを求めず、なるべく自分達の力で実験を遂行するよう 努力せよ。 (a) 図 22 を参照し、合成抵抗を実験回路に半田付けにより取り付よ。このような取り付 け方は、部品の取り外しが楽になることを意識している。 (b) p.14 図 19 のように実験回路および測定器を接続せよ。 (c) 電源を投入し、異常 (部品の異常加熱・異臭・発煙等) がないことを確認せよ。 (d) 測定データを取る前に 測定周波数の範囲 (10Hz∼20kHz 程度) の全範囲にわたって、 出力信号のクリップ (図 23) がないことを確認し、全体の特性を大雑把に把握せよ。 クリップが発生した場合は、正常な実験結果が得られない。本実験のような場合、実 測値が理論値を下回る現象が起こる。余力があればそのことを確かめ、どの程度の 偏差があるかを考察に書くと良い。クリップが発生した場合は、RC オシレータの アッテネータを調整し、クリップが発生しないように入力電圧 V1 の振幅を小さくせ よ。しかしながら、振幅が小さすぎる場合は、ノイズの影響を受けやすくなるので、 望ましくない。V1 の設定方法としては、10dBV、0dBV、-10dBV 1 など、区切りの 良い値が、データをまとめるときに好都合である。一度設定した V1 の振幅設定は測 定終了時まで変えないこと。これは、測定途中で振幅を変化させると、測定データ に飛びがでることがあるためである。 (e) 周波数を 10Hz∼20kHz 程度に変化させ、電圧計を用い、|T (jω)| = |V2 /V1 | を測定せよ。 測定データの取り方は、表 3 を参照せよ。周波数の読みには、RC オシレータの目盛り でなく、周波数カウンタの値を用いよ。周波数設定においては、片対数グラフを使って いることに注意せよ。10Hz, 20Hz, 30Hz,...,100Hz,110Hz,... などと、データを採るこ とはナンセンスである。この場合何ポイント取ることになり、測定に何時間(何日?) かかるか予想せよ。周波数設定は、片対数グラフの上で、振幅特性の形が分かる よ うにデータが取れていればよい。つまり、グラフの横軸のポイントは、等間隔に並 んでいる必要は全くない。等間隔にとったために、特性の山や谷を見逃して特性の 全体像が得られなかったり、時間内に実験が終わらなければ、かえって失敗を招く。 そのためには、上記 (d) で特性の全体像を把握している必要が何よりも大切となる。 1 dBV は 、実 効 値 1V の 正 弦 波 を 基 準 と し て い る 。(実 効 値 Vrms)=10x[dBV]/20 √ で あ る 。例 え ば 、 10dBV≃3.16Vrms, 0dBV≃1Vrms, -10dBV≃0.316Vrms となる。1Vrms の正弦波の振幅は 2 ≃ 1.41V である。 16 (2) エクセルや自作プログラムを使い、本テキスト p.2 式 (2) で与えられる理論値を求め、手 順 1-(e) で得られた測定値と共に片対数グラフ用紙にプロットし、両者を比較せよ。理論 値と実測値について、V2 /V1 が −3dB となる周波数を求めよ。なお、理論値の桁数は、合 理的な桁数とせよ。10 桁も 20 桁も書かないこと。 (3) 図 19 を参照し、フィルタの入力端子または出力端子にアンプとスピーカを接続せよ。入力 と出力で、どのような音の違いが聞こえるか確かめよ。大きな音が出ることがあるので、 最初はアンプのボリュームを最小にセットし、少しずつ音量を上げるように注意せよ。 (4) 入力信号として、オーディオチェック CD の音声信号を入力し、フィルタの前後で聴感上 どのような違いがあるか確かめよ。CD プレーヤとしては、実験室に備え付けのパーソナ ルコンピュータを利用せよ。オーディオプラグは一般的な 3.5mmϕ のステレオミニプラ グであるので、個人の持参したポータブルプレーヤとプラグが適合する場合は、各自の 責任の下で、自由に試すことは妨げない。 R v1 v2 10nF R : 10k - 500kΩ 図:21 実験回路 1 図:22 抵抗器取り付け例 (a) 歪んでいる波形の例 (b) 歪んでいない波形 図 23: クリップにより歪 (ひず) んだ波形と歪 (ひず) んでいない波形 17 実験2 Sallen-Key 回路 (1) 図 24 に示す Sallen-Key ローパス回路について、ポテンショメータを調整し、2.0 ∼ 2.9 の 種々の増幅器の電圧利得 K = H = 1 + Rb /Ra に対する |T (jω)| = |V2 /V1 | を測定せよ。測 定方法としては、以下の手順を参照せよ。 (a) 本テキスト p.14 図 19 のように実験回路および測定回路を接続せよ。 (b) 実験データを採る前に、K の値を設定する。K の設定に当たっては、十分に低い周 波数 (10∼30Hz) における V2 /V1 を測定しながらポテンショメータを調整する。本実 験では、K = 2.0, 2.3, 2.6, 2.9 の 4 種について実験を行う。この場合、本テキスト p.8 式 (28) から、十分に低い周波数では、利得そのものが K を表すから、V2 /V1 が所望 する K の値となるように電圧計を見ながらポテンショメータを設定すればよいこと になる。調整にあたっては、必ずオシロスコープで V2 を観測し、クリップが生じな いように留意せよ。また、K が 3 を越えると発振 (不安定) が起きるので、丁寧に調 整せよ。 (c) 実験1の手順 1-(d) と同様に入力周波数範囲 (10Hz–20kHz 程度) にわたって、クリッ プが生じないように V1 を設定せよ。このとき、特性にピークがある場合は、その大 まかな周波数を記録せよ。 (d) 実験1の手順 1-(e) の手順に従い、|V2 /V1 | を測定せよ。K = 2.3, 2.6, 2.9 についても、 同様の測定をせよ。 (2) 本テキスト p.9 式 (32) で与えられる理論値を求め、(1) で得られた測定値と共に片対数グ ラフ用紙にプロットし、両者を比較せよ。なお、同式において、実験で設定した K を用 いれば、Q = 1/(3 − K), H = K となる。 (3) フィルタの入力端子または出力端子にアンプとスピーカを接続せよ。入力と出力で、どの ような音の違いが聞こえるか確かめよ。大きな音が出ることがあるので、最初はアンプ のボリュームを最小にセットし、少しずつ音量を上げるように注意せよ。 (4) 入力信号として、オーディオチェック CD の音声信号を入力し、フィルタの前後で聴感上 どのような違いがあるか確かめよ。CD プレーヤとしては、実験室に備え付けのパーソナ ルコンピュータを利用せよ。 10nF 10k v1 10k 10nF Rb 5k 2.4k Ra 図 24: 実験回路 2 18 v2 課題1 5 次チェビシェフローパスフィルタの伝達関数 通過帯域内リプル α = 2dB (101/10 ) の 5 次チェビシェフローパスフィルタの伝達関数に含ま れる pnk を全て求めよ。ただし、遮断周波数は 1(rad/s) とせよ。 計算には関数電卓を使用せよ。携帯電話の電卓機能は、通常の電卓とキーの並びが異なり、 数値入力に多大な時間がかかることが分かっている。パーソナルコンピュータの関数電卓も似 た理由から実用的でないので、本実験ではその使用を推奨しない。関数電卓は各自持参したも のがあれば使用せよ。実験室に備え付のものも使用できる。本実験を通して、関数電卓が使え るようになることを期待する。桁数は、課題2で高精度な数値が必要となるので、適当な桁で 四捨五入せず、電卓いっぱいの桁 (8 桁–10 桁) を示せ。 計算にあたっては、式 (25) を利用し、pnk を求める。sin および cos の中身はラジアンである ことに注意せよ。H は定数である。pnk が求められたら、教員・技術職員・TA に申し出て、結 果が正しいことを確認してもらう。 実験3 縦続形構成 課題1 で求めた伝達関数を、1 次回路と Sallen-Key 回路の縦統形構成によって実現せよ。但 し、遮断周波数は 1kHz とする。実験装置のコンデンサは 20nF となっているので、それに合わ せて抵抗値を決定せよ。LCR メータを使用して、何本かの抵抗を直列接続して必要な抵抗値の 抵抗を作る。この実験回路においては通過帯域利得は 4 個の増幅器の利得 (2 個は 1) の積に等 しくなる。 以下の手順により設計し、実験せよ。 (1) 課題1 により得られた 5 つの pnk を以下のように分ける。このように分ける理由は、伝達 関数の係数を実数とするためである。そのために、複素共役の極をまとめている。H は 未知の定数のままとしてよい。 H 1 2n−1 ε s + p52 H 1 = n−1 · 2 ε s + p52 T (s) = · 1 1 · (s + p50 )(s + p54 ) (s + p51 )(s + p53 ) 1 1 · 2 · 2 (49) s + s(p50 + p54 ) + p50 p54 s + s(p51 + p53 ) + p51 p53 · (2) 1 次の区間の素子値を決定しよう。上式から、この伝達関数は、図 25 のように、1 次回路 1 つと、2 次回路 2 つの縦続接続により構成できることがわかる。1 次回路の伝達関数は、 式 (1) により与えられる。同式と上式の分母同士を比較すると、CR = 1/p52 が得られる。 C = 1 から、R を求めよ。 (3) 2 次の区間 (i) の素子値 (R1 , Ra1 , Rb1 ) を決定しよう。この回路は、C1 = C2 , R1 = R2 であ るから、式 (31) の場合に相当する。同式における ω0 と Q を求めれば回路の素子値が決ま √ る。そこで ω0 を求めるために、同式と式 (49) を比較すると、ω0 = 1/CR = p50 p54 が成 り立つ。図 25 において C = 1 から、R1 を求めよ。Q を求めるにあたっても同様に係数 √ を比較すると、Q = p50 p54 /(p50 + p54 ) により求められる。その結果を利用し、Rb1 /Ra1 を求めよ。ここで、Ra と Rb は一意に決まらず、比で与えられるだけであることに注意 せよ。 19 (4) (3) と同様の手法を用いて、2 次の区間 (ii) の素子値 (R2 , Ra2 /Rb2 ) を求めよ。 (5) 本テキスト p.13 式 (47) を用いて fc = 1kHz、C = 20nF の回路に変換せよ。同式におい て、Cnew = 20nF, Cold = 1 として K を求めたのち、抵抗 R, R1 , R2 をスケーリングする。 利得を決定する抵抗 (Ra1 , Rb1 , Ra2 , Rb2 ) は 1kΩ∼10kΩ 程度とせよ。以上により、設計し た回路の回路図を示せ。 (6) 以上の結果が正しいことを、教員・技術職員・TA に申し出て、確認してもらう。 (7) 以上で求められた抵抗器を合成し、実験回路に素子を半田付けし、回路を完成させよ。抵 抗値は温度によって変化するので、注意する。 (8) 次のように、実験1と同様の測定を行う。 (a) 実験1の手順 1-(d) と同様に入力周波数範囲 (10Hz–20kHz 程度) にわたって、クリッ プが生じないように V1 を設定せよ。このとき、特性にピークがある場合は、その大 まかな周波数を記録せよ。 (b) 実験1 の手順 1-(e) の手順に従い、|V2 /V1 | を測定せよ。 (9) 理論値を求め、測定値と共に片対数グラフ用紙にプロットし、両者を比較せよ。理論値は、 1 次区間 (p.2 式 (2)) と、2 つの 2 次区間 (p.9 式 (32)) の合計 3 つの伝達利得の積となる。 (10) フィルタの入力端子または出力端子にアンプとスピーカを接続せよ。入力と出力で、どの ような音の違いが聞こえるか確かめよ。大きな音が出ることがあるので、最初はアンプ のボリュームを最小にセットし、少しずつ音量を上げるように注意せよ。 (11) 入力信号として、オーディオチェック CD の音声信号を入力し、フィルタの前後で聴感上 どのような違いがあるか確かめよ。CD プレーヤとしては、実験室に備え付けのパーソナ ルコンピュータを利用せよ。 R R1 1 R1 R2 1 R2 1 1 1 Rb2 Ra2 Rb1 Ra1 図 25: 縦続形構成による 5 次ローパスフィルタ (遮断周波数 1rad/s) R 20nF R1 20nF R1 R2 20nF R2 20nF 20nF Rb1 Ra1 Rb2 Ra2 図 26: [実験回路 3] 縦続形構成による 5 次ローパスフィルタ (遮断周波数 1kHz) 20 課題2 LC フィルタの構成 課題1 で求めた伝達関数を、RS = RL = 1(Ω) の LC フィルタを用いて図 18(b) の回路形式 (並列枝から始まる) で構成せよ。(注) ZI の有効数字の桁数が少ないと、連分数展開がうまくで きないので, ZI を求めるときには有効数字を 6∼8 桁程度とること。 方針 最終的に本テキスト p.11 式 (41) で与えられる ZI が必要となる。これを求めるためには、 ρ(s) 求める必要があるが、これは式 (40) で与えられる ρ(s)ρ(−s) を因数分解することによって 求められる。そのためには、振幅自乗関数 T (s)T (−s) を求めればよい。振幅自乗関数は、課題 1 で求めたものの他に、核関数 F (x) = T5 (s) として、式 (16) でも同一のものが与えられてい ることに留意する。以上の設計は、以下の手順で行うことができる。 (1) RS = RL = 1 より、直流、すなわち ω = 0 における伝達利得、すなわち T (0) = 1/2 とな ることを用い、課題1 で求めた伝達関数の H が 1/2 となることを確かめよ。同様に、式 (16) の H も 1/2 となることを確かめよ。 (2) 式 (16) 及び式 (24)、H = 1/2 より、次式が成立する。 1 4 1 = 4 T (s)T (−s) = 1 1 + ε2 T52 (js) 1 · 2 2 4 1 − ε s (16s + 20s2 + 5)2 · (50) 上式及び RS = RL = 1 を式 (40) に代入すると、次式が得られる。 ρ(s)ρ(−s) = 1 − 1 1− + 20s2 + 5)2 −ε2 s2 (16s4 + 20s2 + 5)2 = 1 − ε2 s2 (16s4 + 20s2 + 5)2 s(16s4 + 20s2 + 5) −s(16s4 + 20s2 + 5) · = ∏ ∏ 24 4k=0 (s + p5k ) 24 4k=0 (−s + p5k ) ε2 s2 (16s4 (51) ρ(s) の極は s の左半平面になければならないので、 ρ(s) = ± s(16s4 + 20s2 + 5) ∏ 24 4k=0 (s + p5k ) (52) となる。二つの ρ(s) のうち、本課題では、図 18(b) の回路形式 (並列枝から始まる) で構 成するために、− 符号の方をとる。式 (52) の文字に課題1 で求めた数値を入れ、具体的 な ρ(s) を求めよ。ρ(s) の分母分子を展開する。電卓を使って計算せよ。 (3) ρ(s) を式 (41) に代入し、ZI を求めよ。 (4) 本テキスト p.12 式 (46) を参考にし、ZI を連分数展開せよ。 (5) 以上の結果から、図 27 に示す回路の素子値を決定し、回路を示せ。連分数展開の結果と 回路の素子値の対応は、式 (46) と図 18(a) の関係をよく見て、なぜ回路の素子値が得られ るかを考えよ。以上により得られた回路について、結果を教員・技術職員・TA に申し出 て、結果が正しいことを確認してもらう。 21 L1 RS C1 L2 C2 C3 RL 図 27: 5 次の LC フィルタ 実験4 LC シミュレーション形構成 GIC を用いた回路によって、課題2で求めた LC フィルタをシミュレートする回路を構成せ よ。ただし、遮断周波数は 1kHz とする。実験装置の GIC を構成する抵抗、コンデンサはそれ ぞれ 10kΩ、20nF となっている。また、フイルタの入力抵抗 RS 、出力抵抗 RL は共に 10kΩ と なっている。決定する素子値はコンデンサ 3 個と L を実現するための抵抗 2 個である。必要な 値のコンデンサは何本かのコンデンサを並列接続して作る。 方針 まず、課題2で求めた LC フイルタを遮断周波数 1kHz , RS = RL = 10kΩ のフィルタに 変換する。つぎに、式 (35) 、図 16 より RL1 , RL2 を決定し、GIC と抵抗によって L の部分を実 現する。この設計は、次の手順で行うことができる。 (1) 課題2で求めた LC フイルタを式 (47) を用いて、fc = 1kHz, RS = RL = 10kΩ のフィル タに変換する。そのためには、K をどのように設定したらよいか考えよ。変換した結果 の回路を示せ。 (2) 実験3 の回路を図 28 に示す。この中で、RS , RL , C1 , C2 , C3 は、課題2で求めたものと 同一となる。R1 , R2 の決定に当たっては、式 (35) を使って求めることができる。すなわ ち、回路でシミュレートできるインダクタンスは、L = CRR5 で求められる。ここで、 R = 10kΩ, C = 20nF である。この結果から、図 28 における R1 , R2 の値を求めよ。 (3) 以上の結果が正しいことを、教員・技術職員・TA に申し出て、確認してもらう。 (4) 以下の手順で実験を行う。 (a) 設計により得られた抵抗を実験1と同様の手段 (直列接続) により合成せよ。 (b) 設計により得られたキャパシタを合成せよ。この場合、計算が容易な 並列接続 とせ よ。実験室に備え付けのキャパシタのセットは、あまり細かい値が揃っていないた め、場合によっては 5-6 本のキャパシタが必要となる。例えば、3 本のキャパシタ C1 , C2 , C3 を並列接続した場合の合成キャパシタンス C は、C = C1 + C2 + C3 で求 められる。 (c) 入力周波数範囲 (10Hz–20kHz 程度) にわたって、クリップが生じないように V1 を設 定せよ。このとき、特性にピークがある場合は、その大まかな周波数を記録せよ。 (d) 実験1の手順 1-(e) の手順に従い、|V2 /V1 | を測定せよ。 (5) 理論値を求め、測定値と共に片対数グラフ用紙にプロットし、両者を比較せよ。理論値 は、次式のように本テキスト p.21 式 (50) で与えられる振幅自乗関数を用いるのが便利で 22 ある。次式の ω = 1rad/s が、実験における f = 1kHz に対応している。ε は、課題1 に おけるそれと同一の値である。 |T (jω)| = √ 1 1 T (jω)T (−jω) = · √ 2 2 2 1 + ε ω (16ω 4 − 20ω 2 + 5)2 (53) (6) フィルタの入力端子または出力端子にアンプとスピーカを接続せよ。入力と出力で、どの ような音の違いが聞こえるか確かめよ。大きな音が出ることがあるので、最初はアンプ のボリュームを最小にセットし、少しずつ音量を上げるように注意せよ。 (7) 入力信号として、オーディオチェック CD の音声信号を入力し、フィルタの前後で聴感上 どのような違いがあるか確かめよ。CD プレーヤとしては、実験室に備え付けのパーソナ ルコンピュータを利用せよ。 R1 R2 R R R R R R 5.1MΩ C C R C R R R = 10kΩ C = 20nF RS v1 C1 C2 C3 RL v2 図 28: LC シミュレーション形構成による 5 次ローパスフィルタ (遮断周波数 1kHz) 9 研究課題 [研究課題1] 式 (23) より T6 (x) を導出せよ。 [研究課題2] Sallen-Key 回路において Rb /Ra = 0 とした場合には、与えられた Q(≧ 0.5) に対 して R1 = R2 とした場合に容量値の広がりが最も小さくなることを示せ。 [研究課題3] 式 (34) を導出せよ。 [研究課題4] 偶数次チェビシェフフイルタは RS = RL では実現できない理由を説明せよ。 [研究課題5] 図 28 の破線で示された高抵抗が必要である理由を説明せよ。 (研究課題4, 5はかなり難易度が高いので、分からない場合は途中までの考えでも良いので述 べよ。) 23 10 実験報告書に含まれるべき内容 実験報告書には、以下の内容が含まれていなければならない。これはあくまでも最低限「含 まれるべき内容」を示したものなので、演習等における設問ではない。実験報告書は、読み手 が、その報告書を読んで実験を再現できることが必要とされる。2 年生の「論理回路実験」で 学んだように、読み手にわかりやすいように、執筆せよ。全文手書きでも良いし、ワードプロ セッサを使っても構わないが、グラフは手書きのものを提出せよ。考察は実験報告書の中で最 も重用視される。実験結果の羅列だけの実験報告書は再提出とする。 ・ 実験の目的 ・ 実験装置 ・ 図・表に番号を付け、本文中で図表番号を使って参照する。 ・ 表の罫線は直線定規で書かれていること。表及びグラフに物理量 (Hz, dB 等) が書かれて いること。図の軸線も直線定規で書かれていること。図の特性は、理論値と実測値の違い が分かるように線種又は色分けし、自在定規を使って書く。 ・ 実験 1 の回路、指定を受けた抵抗値。−3dB となる周波数の計算値。 ・ 実験 1–1(e) で得られた実験結果。実験データには、表とグラフの両者を示し、どちらに おいても実測値と理論値を記す。グラフは各自手書きのものを提出せよ。コピー不可。 ・ 実験 1–(3) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 ・ 実験 1–(4) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 ・ 実験 1 の考察。 ・ 実験 2 の回路。 ・ 実験 2 の実験結果。実験データには、表とグラフの両者を示し、どちらにおいても実測値 と理論値を記す。グラフは各自手書きのものを提出せよ。コピー不可。 ・ 実験 2–(3) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 ・ 実験 2–(4) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 ・ 実験 2 の考察。 ・ 課題 1 で求められた伝達関数。 ・ 実験 3 の回路。 ・ 実験 3 の実験結果。実験データには、表とグラフの両者を示し、どちらにおいても実測値 と理論値を記す。グラフは各自手書きのものを提出せよ。コピー不可。 ・ 実験 3–(10) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 ・ 実験 3–(11) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 24 ・ 実験 3 の考察。 ・ 課題 4 における ρ(s), ZI (s) 及び、連分数展開の結果。回路。 ・ 実験 4 の回路。 ・ 実験 4 の実験結果。実験データには、表とグラフの両者を示し、どちらにおいても実測値 と理論値を記す。グラフは各自手書きのものを提出せよ。コピー不可。 ・ 実験 4–(6) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 ・ 実験 4–(7) において、フィルタの前後で、どのような違いがあるか。 ・ 実験 4 の考察。実験 3 の考察と併せて行っても良い。 ・ 研究課題。 11 参考文献 [1] 柳沢、神林 ”フィルタの理論と設計” 電子科学シリーズ、産報出版 [2] 柳沢、金光 ”アクティブフィルタの設計” 電子科学シリーズ、産報出版、1973 年 [3] 石橋 ”アナログ電子回路” 電子・情報工学講座、培風舘、1990 年 A LF356 のピン配置 図 29 に本実験で使用するオペアンプのピン配置を示す。 図 29: LF356(Top View) 25 B 抵抗器のカラーコード 固定抵抗器の定格表示法の一つに JIS カラーコード表示がある。これは表 4 に示すように、 はじめの 2 色で数値を、3 色目の色で ×10 の何乗かを、最後の色で許容誤差を表すものである。 表 4: カラーコード表 黒 茶 赤 橙 黄 緑 青 紫 灰 白 金 銀 無着色 第1色帯 第1数字 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 第2色帯 第2数字 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 第3色帯 乗数 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 0.1 0.01 第4色帯 許容差 (%) ±2 ±5 ±10 ±20 図 30: 抵抗器 例: 黄紫茶金・ ・ ・ 茶黒赤金・ ・ ・ (47 × 10) 470Ω ± 5% (10 × 100) 1kΩ ± 5% 26 C パワーアンプ 図 31 にパワーアンプ基板の回路図を示す。図 32 に本実験で用いられているステレオ–モノラ ル変換コードを示す。同図に示すように、3.5mmϕ のステレオプラグを用い、1kΩ の抵抗器を 2 本使って、ステレオ–モノラル変換を行っている。 +12V LM380 1µF 1000µF V1 0.1µF VR 10kA 2A 2.7Ω 1µF +12V GPP20J DC IN 12V SPEAKER 2.5W 470µF 2DC0005D100 LM380 TOP VIEW 図 31: パワーアンプ基板回路図 1kΩ 1kΩ L R GND 3.5mmφ 図 32: ステレオ–モノラル変換コード c 庄野和宏、石橋幸男 2007 ⃝ 27