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高知県の予算の効率性アップ ~宿泊者数の増加を目指して~
高知県の予算の効率性アップ ~宿泊者数の増加を目指して~ 奥井元貴 1 経済新人会 小山勇 高橋亮太 金融研究部 安田萌々花 目次 第1章 導入 第1節 第2節 第3節 第4節 観光立国 観光の成長戦略 観光の経済波及効果 問題意識 第2章 現状分析 第 1 節 長期宿泊者の減少 第 1 項 高知県の人口減少 第 2 項 高知県の延べ宿泊者数の推移 第 3 項 宿泊日数 第 4 項 高知県外観光客の目的 第 5 項 外国人の望むこと 第 6 項 ホテルや旅館のクーポン 第 2 節 高知県の観光予算 第 3 節 高知県の観光資源について 第 1 項 観光資源の分類 第 2 項 高知県の観光資源 第3章 政策提言 政策 1 政策 2 第4章 宿泊者増加のための自然体験プログラムの促進 長期宿泊の動機づけによる宿泊者増加 参考文献 2 第 1 章 導入 この章では、まず政府が目標としている観光立国になるための取り組みを確認し て、最近の成長戦略における観光の指針を見た後に観光の経済波及効果を示し、最後 に高知県の観光での問題点を明らかにしていく。 第 1 節 観光立国 日本はここ十数年観光を重要視しており、自国の観光産業を興隆にするべく政策を 講じてきた。観光立国を実現するための政府の取り組みを簡単に見てみる。2003 年 1 月に当時の小泉純一郎総理大臣が観光立国懇談会を主宰したことが観光立国実現への 第一歩である。2003 年 4 月 24 日観光立国懇談会報告書では、当時の日本の観光の現 状が分析されており、今後どのように進むべきかが述べられている。それによれば、 世界が冷戦構造からシフトして国際交流がますます盛んになる中、日本は世界に開か れた国ではないといわれている。たとえば訪日外国人数は年間約 500 万人であり、世 界と比較すると観光後進国である。また、日本における留学者数や外国人居住者数は 主要国の中で低い水準にあるが、同時に日本には世界に発信できる魅力があると評価 している。日本には日本食や自然、治安の良さ、伝統文化、さらには高度な技術とい った世界に誇れるものがある。現状では、これらの日本の魅力をきちんと海外に売り 込めているわけではないと指摘している。今後の方向性としては官民一体となり日本 ブランドを確立して、それを十分外国人に知ってもらえるように PR 活動を実践して いくことや買い手の需要を分析することが重要性を示している。2003 年 4 月にはビ ジットジャパン事業が開始された。これは先ほど示した観光立国懇談会報告書を実践 していくための計画であり、韓国・台湾・中国・米国・香港・英国・仏国・ドイツ・ オーストラリア・カナダ・シンガポール・タイ・マレーシア・インドネシアの 14 重 点市場で官民一体・地方連携で事業していくことをきめたものである。2006 年 12 月 には、1963 年成立の観光基本法を全面的に改正し、観光立国推進基本法が成立し、 ここでは国民生活の長期的な安定や国際的視点理解のために観光事業を推進していく にあたって必要な人材の育成、地方の観光に対する取り組みが成文化され、観光が国 家戦略に位置付けられた意義がある。観光立国推進基本法をうけて 2007 年 6 月に観 光立国推進基本計画を当時の第一次安倍内閣で閣議決定され、翌年 2008 年 10 月に国 土交通省のもとに観光庁が創設された。観光庁によれば、表 1-1-1 にある 4 つが観光 立国としての目的である。 3 表 1-1-1 (出典:観光庁 観光立国推進基本計画) また観光庁は 7 個の計画期間における具体的かつ基本的な目標iを掲げている。主な点 としては、外国からの観光誘致や国内旅行の活性化である。2011 年の東日本大震災 をうけて、2012 年 3 月に観光立国推進基本法をもとに観光立国推進基本計画が再度 閣議決定され、2013 年には日本再生に向けた緊急経済対策、国土交通省観光立国推 進本部や観光立国推進閣僚会議を開催している。特に、第 2 回観光立国推進閣僚会議 では日本再興戦略 -JAPAN is BACK-を閣議決定した。このようにここ十数年一貫し て政府は観光へ力を入れてきている。2013 年 9 月 8 日に国際オリンピック委員会 (IOC)総会がアルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれ、2020 年の夏季五輪開催 都市として東京が選ばれたことからも、今後ますます多くの海外メディアや外国人が 日本を訪れることが見込まれる。こうした機会に日本を訪れる外国人に日本の良さを 理解してもらい、一時的ではなく継続的に日本に来てもらうことは観光庁が目的とし て提示するように、経済的側面のみならず、ますます進むグローバル化に対応する上 でも重要である。 第 2 節 観光の成長戦略 第 2 節では、先ほど挙げた-JAPAN is BACK-の内容を見ていくことにする。現在 は第二次安倍内閣が発足し、経済の再生が優先課題の一つとされ、アベノミクスが実 施されている。-JAPAN is BACK-では様々な分野で成長戦略が設定されているが、 観光に焦点を当てると 2030 年までの目標として、地域活性化・雇用機会の増大を目 的として、訪日外国人の旅行消費額は 4.7 兆円、訪日外国人の旅行消費がもたらす雇 用効果は 83 万人と定められている。ほかには 2020 年までに外国企業の対内投資残高 を作成当時の二倍にあたる 35 兆円に拡大すること、2030 年に訪日外国人旅行者数が 3000 万人を越えることを目指すことが述べられている。このために、日・ASEAN 友 好協力 40 周年の節目を受けて今後増加が見込まれる ASEAN 諸国からの観光客に対 してビザ発効要件を緩和する。それに加えて 2030 年までに宿泊客の 6 人に 1 人が外 国人となるような社会を構築することが目標として設定されている。それを実現する ために、外国人が快適に日本に滞在できるように宗教上の食事制限に配慮した一人一 人のお客に対するきめ細かい対応・美術館や博物館、自然公園といった施設や公共の 交通機関、道路等の案内表示の多言語対応の整備、都心と首都圏の空港を直通する交 4 通機関の整備、外国人旅行者の宿泊施設の予約等をするツアーオペレーターの認証制 度の定着、外国人旅行者対象の消費税免税制度を外国人の利便性を踏まえての改善が 求められる。さらに、MICE1誘致の強化が望まれる。今見てきたように主に外国人を 国内に取り組むような政策が観光の成長戦略においては中心となっている。 第 3 節 観光の経済波及効果 第 2 節でみたように政府が観光を成長戦略に据えている理由は主に経済的側面に対 するメリットである。観光庁によれば、2012 年における旅行消費額は 22.5 兆円、波 及効果を含む雇用誘発効果は 399 万人となっている。表 1―3 は観光の経済波及効果 を図式化しものである。観光地で商品が買われると、観光産業を通してまず主にサー ビス業や御・小売業、建設業に波及効果が出る。次に、サービス業からほかのサービ ス業や御小売業へ波及効果があり、その後御・小売産業からほかの御・小売産業、食 品製造業、農業へと波及効果が続いていく。このように、観光産業での経済活性化は 他産業での経済活性化の起爆剤となるため、政府は観光の活性化を目指しているので ある。 図 1-3-1 (出典:北海道経済産業局 「観光産業の経済効果に関する調査」) MICE Meeting, Incentive, Conference, Event の頭文字をとったもので、企業等 のミーティングや企業研修、国際会議や学術会議、文化・スポーツイベントの開催の こと 5 1 第 4 節 問題意識 第 1 節から第 2 節でみてきたような政府の作った様々な法律から、各地方自治体も 観光に力を入れているところである。平成 26 年度の各都道府県の観光に対する予算 額・延べ宿泊者数及び観光予算額に対する宿泊数について見てみる。地方別に見てい くと、四国は 4 県とも延べ宿泊者数を観光予算で割った値がほかの地域と比較して低 いことが読み取れる。このことから、四国全体として観光予算がうまく宿泊者数に結 びついていない現状がわかる。全国の都道府県で比べてみると、観光予算額につい て、高知県は 47 都道府県のうち 7 位であり、延べ宿泊者数は 44 位である。このこと から、高知県は全国でもトップクラスの観光予算額を計上しているにもかかわらず、 延べ宿泊者数は全国で低い水準にあることがわかる。ここで予算額をどれだけ効率的 に使い、宿泊客を呼び込めているかを考えるために、先ほどと同様に延べ宿泊者数を 観光予算額で割った値を観光予算の効率性と定義する。この観光予算の効率性を都道 府県ごとに出したものをグラフにしたものが図 1-4-3 であり、このグラフから高知県 は観光予算の効率性が著しく低いことが示される。たとえば、同じ四国でも徳島県は 観光予算額が低い 4.19 億円で 2,256,720 人が宿泊していると見積もられており、全 国では観光予算については 31 位、延べ宿泊者数については 47 位、延べ宿泊者数を観 光予算額で割った値については 37 位とあまりうまくいってはないが、高知県の観光 予算額の 3 分の 1 以下であることを踏まえると改善する方法が限られてくると考えら れる。一方、高知県は先ほど考察したように観光に力を入れようと多額の予算を観光 に回しているが、延べ宿泊者数が少ない。これらのことより、高知県の観光には十分 に改善の余地があると考えられる。以上から主体として高知県を設定し、観光予算を 観光予算額の割に宿泊客の数が低いことすなわち観光予算の効率性が低いことを問題 として設定する。 6 図 1-4-1 単位:百万円 平成26年度観光予算 8000 7000 四国 6000 5000 高知県 4000 3000 2000 1000 0 北岩秋福栃埼東新石山岐愛滋大奈鳥岡山香高佐熊宮沖 海手田島木玉京潟川梨阜知賀阪良取山口川知賀本崎縄 道 (出典:都道府県 平成 26 年度観光予算一覧(観光庁調べ) ) 図 1-4-2 延べ宿泊者数 単位:人 60,000,000 50,000,000 40,000,000 高知県 30,000,000 20,000,000 10,000,000 0 北岩秋福栃埼東新石山岐愛滋大奈鳥岡山香高佐熊宮沖 海手田島木玉京潟川梨阜知賀阪良取山口川知賀本崎縄 道県県県県県都県県県県県県府県県県県県県県県県県 (出典:観光庁 宿泊観光統計調査) 7 図 1-4-3 延べ宿泊者数/観光予算額 160000 140000 120000 100000 80000 高知県 60000 40000 20000 0 北 岩 秋 福 栃 埼 東 新 石 山 岐 愛 滋 大 奈 鳥 岡 山 香 高 佐 熊 宮 沖 海 手 田 島 木 玉 京 潟 川 梨 阜 知 賀 阪 良 取 山 口 川 知 賀 本 崎 縄 道 県 県 県 県 県 都 県 県 県 県 県 県 府 県 県 県 県 県 県 県 県 県 県 (出典:平成 26 年度観光予算一覧(観光庁調べ)及び観光庁 宿泊観光統計調査) 第2章 現状分析 この章では、全国的に見ても人口減少が進んでいる高知県にとって大きな財源とな りうる観光客の現状を見て、高知県の観光資源や県の予算配分を分析し、高知県の現 在の観光のあり方とこれからのあるべき姿について考える。 第 1 節 長期宿泊者の減少 この節においては、まず県の経済を衰退させていく一因となる高知県の人口減少に ついて見て、次に高知県の延べ宿泊者数が少ないことを確認して、その原因を見てい くことにする。以下、延べ宿泊者数は一人が複数回宿泊した場合は、一泊ではなく複 数泊になることを注意しておきたい。 第 1 項 高知県の人口減少 グラフ 2-1-1 は平成 26 年の高知県の将来の人口推移予測であり、このグラフから は高知県の人口は将来的に相当数減っていくことが読み取れる。 8 グラフ 2-1-1 高知県の将来推定人口 単位:人 800000 750000 700000 650000 600000 550000 500000 450000 400000 H26 H27 H32 H37 H42 H47 H52 (出典:国立社会保障・人口問題研究所 日本の地域別将来推計人口) 次に他の都道府県と比較している表 2-1-2 から、高知県は現在でも将来においても、 ともに人口が少ないことがわかり、人口増減率も全国の都道府県のうち下位のグルー プにいる。さらにグラフ 2-1-3 の高知県の生産年齢人口の推移から、生産年齢人口は 減少していくことが読み取れる。 表 2-1-2 都道府県別人口の推移 (単位:1000 人) 順位 2010 年 人数 2025 年 人数 2040 年 人数 1 東京都 13159 東京都 13179 東京都 12308 2 神奈川県 9048 神奈川県 9010 神奈川県 8343 3 大阪府 8865 大阪府 8410 大阪府 7454 4 愛知県 7411 愛知県 7348 愛知県 6856 5 埼玉県 7195 埼玉県 6991 埼玉県 6305 … … … … … … … 43 福井県 806 福井県 731 福井県 633 44 徳島県 785 徳島県 686 徳島県 571 45 高知県 764 高知県 655 高知県 537 46 島根県 717 島根県 622 島根県 521 47 鳥取県 589 鳥取県 520 鳥取県 441 全国合計 128057 120659 107276 (出典:国立社会保障・人口問題研究所 日本の地域別将来推計人口) 9 グラフ 2-1-3 単位:1000人 高知県生産年齢人口 600 500 400 300 200 100 0 2005年 2010年 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 (出典:国立社会保障・人口問題研究所 日本の地域別将来推計人口) 人口減少が進むと今後、どのような影響が出てくるのか。中小企業庁によれば、経 済の側面で考えた場合、経済の縮小化だという。人口が減少していくにしたがい、労 働人口が減少していくことになる。労働人口の減少つまり労働投入量により、成果物 としての GDP が減少し個々の国民の豊かさが損なわれる恐れがある。まとめると、 人口減少が進むことにより、供給量が減少していくことになる。また経済成長を考え る上で、もう一つ忘れてはならないのは、人は「生産者」であると同時に「消費者」 であるという点である。 「消費者」としての人に着目すると、人口減少は消費需要を 中心とする国内市場の縮小要因となり、経済成長を阻害する懸念がある。つまり、人 口減少は市場に対して供給側・需要側の両方に大きなインパクトを与えているのであ る。人口減少による経済の縮小化を食い止めて、経済を活性化していく方法を考える と、企業誘致と観光産業の強化があげられる。では、まず企業誘致についてみてみ る。2010 年 10 月 13 日発行みずほレポート「製造業誘致の地方雇用創出に対する有 効性は低下したのか」によれば 2000 年代前半は製造業の誘致合戦が全国で激化して いたが、たとえ誘致に成功したとしても当初予想していたほどの雇用拡大効果が得ら れないケースが見受けられ、製造業の雇用創出力が低下しているとの見方が広がって いるという。そして、製造業の雇用創出力は 1990 年代に徐々に低下していたと分析 されている。その背景としては、グローバル化による国際分業体制の進展などによっ て、国内で雇用創出力が高い労働集約型製造業のシェアが縮小し、雇用創出力の低い 資本集約製造業のシェアが拡大してきたことである。また製造業の雇用創出力の低下 は一様ではなく地域によって異なり、四国においては主要製造業の生産工場性が労働 から設備へのシフトによって進められる傾向が強く製造業の従業者数は他の地域に比 10 べて減少しやすいことから、サービス業をはじめとした非製造業に視野を広げた雇用 の維持・拡大に意を配ることが一段と重要になってくると結論づけている。このよう に、雇用機会拡大を目的とした企業誘致は高知県では有効な方策とは言えなく、サー ビス業である観光業は高知県では重要性が高まっていることがわかる。第 1 章の導入 でも述べたとおり、観光業は経済波及効果が高い特徴がある。観光業を推進していく ことは、その点から見てもメリットがある。 第2項 高知県の延べ宿泊者数の推移 高知県の延べ宿泊者数の推移を見てみると、グラフ 2-1-4 のようになる。 グラフ 2-1-4 (出典:観光庁宿泊旅行統計調査) このグラフを見ると、国内延べ宿泊者数の推移が停滞していることが読み取れる。ま た、外国人旅行者数はここ二年増加傾向にあることがわかる。また、外国人の宿泊者 は 1%ほどで、日本人の宿泊者は 99%ほどである。そのため、割合の高い日本人の宿 泊者数を増やしていくことが重要であるが、先ほどの第 1 項で見たように、将来的に は高知県では急激な人口が想定されているため、今後は外国人の宿泊者数を増やして いくことも併せて考えていくことが大切である。外国人は、基本的には日帰り旅行を して帰ることができないので、外国人観光客を誘致することができれば、宿泊してく れると考えられる。外国人観光客についていえば、近年所謂 LCC が伸長している。 LCC とは、低コスト構造を構築し、低運賃、ノーフリル(必要最低限のサービス) で運営している格安航空会社のことである。現在アジアパシフィック地域において営 業している主な LCC は、ジェットスター、ピーチ、スカイマーク、スターフライヤ ーなどが挙げられ、地域におけるシェアはおよそ 15%程度である。成田、新千歳、 仙台、福岡、松山、大分、長崎、鹿児島、那覇、熊本、石垣などの空港にて就航して 11 いる。高知の空港には未だ LCC は就航していない。しかし、既に LCC が就航してい る中部国際空港では導入年に国内線の旅客数が 16%アップ。関西国際空港において は国内線の旅客数はリーマンショック以前の水準まで回復し、国際線にかかる外国人 旅行者数は震災前の水準を上回った。また、国際チャーター便にて訪日外国人観光客 を呼び込もうとする動きもある。高知に台湾からのチャーター便が初めて就航したの は 2010 年 10 月であり、海外の企業の企画によるものであった。2013 年からは県と 高知県観光コンベンション協会の協力のもと、高知龍馬空港を利用する国際チャータ ー便を誘致するため、国際チャーター便事業に関する助成金の交付を開始している。 台湾、中国、韓国、その他の国を出発し、高知龍馬空港に到着する国際チャーター便 のうち、搭乗する訪日外国人観光客が、高知県内の宿泊施設に一泊以上する場合に限 り助成金が交付される。助成金額は高知に一泊以上する搭乗者の人数により異なる。 2013 年には韓国からのチャーター便を年間 5 回呼び込むなどした。この助成金交付 事業は 2014 年にも引き継がれた。 図 2-1-5 区分 高知県内に一泊以上する搭乗者数 助成金額 ア 150 人以上 665000 円 イ 120 人以上 150 人未満 551000 円 ウ 90 人以上 120 人未満 438000 円 エ 60 人以上 90 人未満 332000 円 オ 30 人以上 60 人未満 219000 円 カ 30 人未満 106000 円 (出典:2013 高知龍馬空港利用国際チャーター便運航支援事業助成金交付要綱) 図 2-1-6 図 2-1-7 2012年 2008年 乗用車 高速バス 観光バス 航空機 フェリー その他 鉄道 乗用車 高速バス 観光バス 航空機 フェリー その他 (出典:平成 24 年度 県外観光客入込・動態調査報告書 より作成) 12 鉄道 ここで再び日本人観光者に目を向ける。2008 年から 2012 年にかけて、高知への観光 客が用いる交通手段の傾向に大きな変化はない。乗用車によって訪れる観光客が 65%近くを占め、高速バス及び観光バスをも含めると、自動車によって訪れる観光客 は全観光客のうちの 85%ほどまでに至る。乗用車で訪れた観光客は県内においても 乗用車で見て回ることが予測される。高知の観光においては一般道及び高速道路が大 変重要な役割を担っていることが見て取れる。 図 2-1-8 高知県の地域別観光客割合の推移 2008年 0% 20% 四国 中国 40% 関東 近畿 60% 九州・沖縄 80% その他 100% 0% 20% 四国 中国 40% 近畿 関東 60% 九州・沖縄 80% その他 100% 四国 20% 中国 近畿 関東 九州・沖縄 その他 30% 40% 50% 60% 70% 80% 2009年 2010年 2011年 0% 10% 0% 2012年 20% 四国 0% 40% 中国 20% 四国 近畿 中国 60% 関東 40% 近畿 関東 80% 九州・沖縄 60% 九州・沖縄 90% 100% 100% その他 80% その他 100% (出典:平成 24 年度 県外観光客入込・動態調査報告書 より作成) 自動車によって訪れる観光客が多い理由として上のグラフからわかるように、高知の 県外観光客は四国の近隣の県や中国、近畿地方といった、比較的地理的に近い地域か ら訪れていることが挙げられる。四国・中国・近畿の三地域を合わせて全観光客数の うちの七割を占める。 第 3 項 宿泊日数 観光庁の平成 23 年第4四半期の宿泊旅行統計調査によれば、日本人の一人あたり の平均宿泊日数は 1.31 泊であり、外国人の一人当たりの平均宿泊日数は 1.63 泊であ る。一方、高知県の日本人の一人あたりの平均宿泊日数は 1.18 泊で 47 都道府県のう 13 ち 38 位であり、外国人の一人当たりの平均宿泊二日数は 1.23 泊で 47 都道府県中 44 位である。このように高知県を訪れる観光客の宿泊日数は全国的にも短くなってい る。 第 4 項 高知県外観光客の目的 グラフ 2-1-9 にあるように、高知県を訪れる観光客は名所・旧所・観光施設を訪れ ることを目的とする人が多く、平成 22 年度の「龍馬伝」放映後も緩やかに減少はし ているものの、依然として高い割合を占めている。2 番目に多いのは自然見物・町歩 きの割合で、平成 23 年度に急増したのは室戸ジオパークが世界ジオパークに認定さ れたことが原因として考えられる。以上二つの項目で約半数を占めており歴史的名 所・観光施設の訪問や、自然との触れ合いを目的として高知県を訪れる人が多いこと がわかる。また平成 22 年度から食べ物の割合が増加しており、カツオや土佐ジロー といった高知ならではの食材に注目が集まっている。 グラフ 2-1-9 旅行目的割合 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 自然見物・町歩き 名所・旧所・観光施設 休養・慰安 食べ物 神仏霊場めぐり その他 H25 (出典:高知県 県外観光客入込・動態調査) 第 5 項 外国人の望むこと 外国人が日本に来るにあたって困ったことを観光庁が聞き取り調査したものをまと めたものグラフ 2-1-10 であり、大きく分けて言葉の問題と Wi-Fi 環境があまり発達 していない問題があることがわかる。2014 年 3 月 20 日の高知新聞の見出し「高知県 14 が Wi-Fi 整備に本腰 外国人旅行者の要望に対応」とあるように、Wi-Fi 環境の整備 については現在行われているところである。 グラフ 2-1-10 n=479 旅行中困ったこと 目的地までの公共交通の経路情報の入手方法 公共交通の利用方法、利用料金 公共交通の乗り場情報の入手 公共交通の乗車券手配 観光情報(見どころ、文化体験等)の入手 観光チケット(入場券等)の入手 飲食店情報の入手 飲食店の予約 宿泊施設情報の入手 宿泊施設の予約 ツアー・旅行商品情報の入手 ツアー・旅行商品の予約 割引チケット・フリー切符の情報の入手 割引チケット・フリー切符の入手 無料公衆無線LAN 環境 両替・クレジットカード利用 外国語の通じる病院情報の入手 地図、パンフレット(多言語)が少ない 地図、パンフレットが分かりにくい 観光案内所の数が少ない 観光案内所の場所が分かりにくい ピクトグラム・サインが少ない ピクトグラム・サインが分かりにくい コミュニケーション その他 0 5 10 15 20 25 30 35 単位:% (出典:観光庁外国人旅行者に対するアンケート調査結果について) このほかに観光立国の実現に関し、観光庁の平成 23 年の「政府が総合的かつ計画的 に講ずべき施策(案)参考資料」では、物価の高さ、文化の違いによる戸惑いが問題 となっていると示されている。このアンケートをもとにすると、最も優先すべきこと は外国人が日本に来るにあたっての障壁である言葉の問題を解決することであり、言 15 40 葉の問題を解決することによって外国人の日本での観光の満足度を高め、リピーター が増えることにつながっていくと考えられる。また、訪日外国人の感想を Twitter や Facebook といった SNS や口コミで聞いた日本に行ったことのない外国人が初めて日 本に来ることも期待される。 第 6 項 ホテルや旅館のクーポン 第 2 章 1 節 5 項で見たとおり、外国人が宿泊するにあたって困難なことが物価の高 さであって、これは消費額の約 3 割を占める宿泊にも当てはまると考えられる。また 日本人にとっても宿泊日数が少ないのは、宿泊費が旅行費の 3 割程度と多くを占める ことから宿泊施設の料金の高さが原因であることも考えられる。従って観光客に対し てホテルや旅館のクーポン券を配る、または連泊者に対して二泊目以降を割引するな どして旅行費の多くを占める宿泊費を減らすことができれば、観光客にとって高知県 に長く宿泊してもらう上での費用が軽減され、連泊の促進につながると考えられる。 第2節 高知県の観光予算 高知県の観光振興部の平成 26 年度予算は 14.7 億円で、主な使い道は表 2-2-1 のよ うになっている。 表 2-2-1 (出典:高知県 観光振興部 平成 26 年度当初予算見積概要(八策)より作成) 16 高知県の予算の使い方を他の都道府県と比較してみる。今回は比較対象として観光関 連事業予算が高知県と同規模でありながらも多くの観光客を呼び込めている静岡県2 と比較する。なお、比較に際して事業内容により予算を以下のように分類した。3 観光地作づくり…周遊ルートや観光資源の発掘、商品開発 観光客誘致…イベントの開催や PR 活動などの認知度向上のための事業 スポーツ観光…プロスポーツの合宿誘致や大会の開催への補助 受け入れ態勢…ガイドなどの人材の育成や県民の意識改革 観光施設整備運営…観光施設の整備や運営への補助 図 2-2-2 と図 2-2-3 を比較すると高知県は静岡県に比べて観光客誘致(高知県 34% 静岡県 18%)やスポーツ観光(高知県 34% 静岡県 3%)に予算を費やしているこ とがわかる。確かにイベントの開催や知名度向上のための PR 活動は観光客の増加に は欠かせない。だが、県外観光客の安定的な確保にはリピーターの創出が重要であ る。訪れた観光客に高知県の魅力を伝え「また来よう」と思わせるにはイベントの開 催やキャンペーンによって一時的な集客効果を狙うよりも観光資源を生かした魅力的 な商品や体験プログラムの開発に力を入れる方が効果的である。また前述のように自 然との触れ合いや歴史的名所の訪問、高知の特産品などに観光客のニーズ4が集まっ ていることも踏まえると現在の高知県の観光予算の使い道には見直しの余地があると 考えられる。 静岡県の平成 26 年度の観光予算は約 14.7 億円(平成 26 年度 静岡県当初予算 案) 3 事業によっては複数の分類に属するものもあったが、事業名や中心的な事業内容か らその主たる目的を考え分類した。 4 平成 25 年度にスポーツを目的として高知県を訪れた観光客は全体の 1.4%である。 17 2 図 2-2-2 静岡県 観光予算 事業割合 4% 18% 3% 7% 68% 観光地づくり 観光客誘致 スポーツ観光 受け入れ態勢 観光施設運営・整備 (出典:高知県 県外観光客入込・動態調査) 図 2-2-3 高知県 観光予算 事業割合 18% 37% 34% 1% 観光地づくり 観光客誘致 10% スポーツ観光 受け入れ態勢 観光施設運営・整備 (出典:静岡県 平成 26 年度 当初予算概要) 第 3 節 高知県の観光資源について この節では高知県の観光において現状活用できうる観光資源について分析する。 第 1 項 観光資源の分類 最初に観光資源とは何か、そしてどのようなものがあるのか説明する。 18 そもそも観光とは観光する主体(観光客)と媒介物(交通機関,ツアー会社,行政等),そして 観光対象の 3 要素から構成される。このうち観光対象は文化財や景観といった有形の もののみならず、体験やイベントといった無形のものも含まれる。そして観光資源と は「観光上の諸効果を生み出す源泉として、働きかける対象となりうる対象」5もし くは「観光者の多様な要求を喚起したり、欲望を充足させるものが観光対象であり、 観光資源はその素材である」6とされている。すなわち観光資源とは観光対象=観光商 品にするために人々が働きかける前の、手つかずの素材である。 図 2-3-1 観光資源の分類とその例 資源 自然観光資源 人文観光資源 山岳,高原,滝 河川,海岸,洞窟 動植物,温泉 有形 無形 有形 史跡,建築物,庭園, テーマパーク 無形 年中行事 一時的なイベント 風習 複合 有形文化資源と 無形文化資源が 複合されたもの 季節,気象 種別 複合観光資源 施設観光資源 大都市 宿泊 飲食 物品販売 娯楽 文化教育 観光案内 公共サービス 農村漁村 郷土景観 歴史景観 (出典:観光学大辞典) 観光資源は自然観光資源と人文観光資源と複合観光資源、施設観光資源の 4 つに分類 される。またそのなかでも有形と無形、複合といくつかに分類される。 第 2 項 高知県の観光資源 次に高知県でどのような観光資源があるのか前節で述べた分類ごとに説明する。こ こでは高知県が他の県と競争できる強みとなる、もしくは今後強みになりうる観光資 源を説明し他の観光資源については説明を省く。 5 6 香川眞編「観光学大事典」より引用 香川眞編「観光学大事典」より引用 19 ・自然観光資源 高知県の自然観光資源としては河川,海岸の 2 つが挙げられる。代表的なものとして、 日本最後の清流と呼ばれる四万十川と太平洋に面する室戸岬や足摺岬が挙げられる。 四万十川は全国的に認知度が高く7観光資源として有用でありこれについては第 3 項 で後述する。また海岸について、室戸岬は周辺地域とあわせてジオパーク8 として認 定されたことで観光資源として期待が持てる。一方足摺岬は灯台のほかホエールウオ ッチングを産業とすることで観光資源となっている。しかし室戸岬も足摺岬も交通の 便が悪く9 、観光対象化するは時間がかかる。 ・人文観光資源 人文観光資源は高知県として史跡と一時的なイベントが挙げられる。史跡は高知城が 2013 年度の入込客数で 26 万 807 人として代表的である。また坂本龍馬と関連した史 跡などが存在し、大河ドラマ「龍馬伝」放送以後史跡等の観光資源は大部分が活用さ れ、新たな観光資源としての余地は少ない。一方、一時的なイベントは第 2 節で述べ た通り、よさこいまつりや龍馬まつりといった祭りが行政民間を問わず開催されてい る。2013 年度で 1146 件10 開催されており、十分な数だといえる。 ・複合観光資源 複合観光資源のうち高知県が競争力を持つものとしては郷土景観と食があげられる。 まず郷土景観については指標として文化庁が指定する文化財のうち重要文化的景観11 という項目を用いると高知県には 6 か所あり、これは長崎県の 7 ヶ所についで全国 2 位12の件数の多さである。ではこの 6 か所について詳しく見てみることとする。四万 十川流域の集落や棚田、四万十川からの物資が集積した港が登録されており、6 か所 すべてが四万十川流域の農林業と物流に関する史跡の集合である。すなわち四万十川 2007 年に四国経済連合会がインターネット上で実施した(n=3333)「四国の観光資 源の認知度・体験度並びに四国に対するイメージアンケート」では四万十川の四国外 住民認知度は 99.7%であった。 8 希少かつ学問的に重要な地質遺産が点在する地域のことを指す。室戸岬は世界ジオ パークネットワークによって 2011 年に世界ジオパークとして認定された。 9室戸岬;高知市から:電車で 2 時間 30 分、車で約 2 時間 徳島市から:電車で 2 時間 30 分、車で約 3 時間(室戸市観光協会サイトより) 足摺岬;高知市から:電車で 3 時間 30 分、車で 3 時間(土佐清水市観光協会サイトより) 10観光情報サイト「よさこいネット」上の 2013 年 4/1~2014 年 3/31 までのイベント 件数 11 重要文化的景観とは、主に農村地域の生活や風土に根ざした史跡の集合体を後世に 遺すべき 1 つの景観としてとらえたものである。 12 全国で 43 か所登録されており、登録箇所は 1 道 2 府 21 県に存在する。 20 7 流域の農村風景は観光資源として有用であるといえる。実際に四万十川流域の重要文 化的景観登録地区ではグリーンツーリズムが推進され自然体験プログラムが設定され ている13。下流部の四万十市では。しかし一方源流部や上流部の梼原町,津野町,中土佐 町では下流部と同様に重要文化的景観認定史跡が存在するにも関わらず民宿や自然体 験プログラムが少なく14問題である。また、食は高知県の観光資源の重要な一つであ る。特にかつおは「土佐を代表する魚として、県民に親しまれおり、昭和63年6月 21日に「県の魚」にも指定されています。 」15との通り県の名産物と言える。しか し、かつお料理以外に知名度の高い料理は少ない。いわゆるご当地グルメの数16は 4 品(須崎の鍋焼きラーメン,四万十川の川魚料理,土佐のカツオ料理,皿鉢料理)しかな く、これは全国平均 5.3 品より低い。そこで行政が食を観光資源として活用すること が必要であるが、方法として宣伝活動によって知名度を上げる程度しかがなく、まず 民間による新商品開発が重要である。そのため高知県が食を観光資源として活用する には障害が多い。 ・施設観光資源 施設観光資源では宿泊と文化教育が有用な観光資源になりうる。宿泊では特に農漁民 宿を観光資源としてあげたい。一般に農漁業民宿とは農家や漁師が副業として経営す る民宿のことであり、そこに滞在すれば郷土料理が楽しめ自然体験ができる下の図 23-2 は農漁民宿数をまとめたものであるが、高知県の農漁民宿数は全国 35 位の 24 軒 であり現状では有用な観光資源とは言えない。 13 例えば田植え体験といった農業体験や川漁師体験、染物体験やカヌー体験である。 20 軒で自然体験プログラムは 42 個あるのに対し、源上流部の 三自治体は合計して民宿が 8 軒、自然体験プログラムは 47 個しかない。 15 高知県庁水産振興部水産政策課のサイトより 16 大手旅行会社 JTB グループの運営する「るるぶ.com」のご当地グルメ特集より取 り扱われている数を計った。 21 14四万十市には民宿が 図 2-3-2 農漁民宿数 農漁民宿数 件 350 数 300 250 200 150 100 50 0 大 香 栃 山 鳥 福 高 山 広 岡 岐 山 宮 熊 東 愛 鹿 岩 京 大 秋 静 福 阪 川 木 梨 取 岡 知 口 島 山 阜 形 崎 本 京 知 児 手 都 分 田 岡 井 島 (出典:農林水産省 2010 年度農業センサスと 2008 年度農業センサス17より作成) しかし、農漁業民宿はグリーンツーリズムの拡大とともに増加傾向にある。下の図 23-3 は農業民宿数が 2005 年から 2010 年にかけどう増加したか18を示すグラフであ る。 図 2-3-3 農家民宿増加率 倍 10 8 6 4 2 0 -2 神 新 山 群 京 千 大 福 栃 鳥 福 山 石 三 岡 岐 熊 愛 宮 青 高 愛 和 奈 潟 梨 馬 都 葉 阪 井 木 取 島 形 川 重 山 阜 本 媛 崎 森 知 知 歌 川 山 (出典:2005,2010 年度農林水産省農業センサスより作成) 高知県はこのグラフでは 46 都道府県19のうち 6 位の 3.5 倍となっている。すなわち農 漁業民宿はこれから有用な観光資源になると考えることができる。また文化教育につ いては博物館,美術館が観光資源となりうる。高知県が高知のイメージ調査で坂本龍馬 が 1 位20であることから、観光客は坂本龍馬に関する観光を望んでいると考えられ 17 漁業センサスと農業センサスは実施年が異なるためそれぞれ最新版を使用 増加率=(2010 年の軒数-2005 年の軒数)/2005 年の軒数として計算 19 佐賀県は 2005 年度が 0 軒のため計算できず 20第 1 回高知県イメージ調査(2013 年実施,インターネット調査,n=5000)で「あなたが 22 18 る。また高知市の坂本龍馬記念館は 2013 年度の利用客数が 16 万 5309 人21と利用者 が多い。そのため高知県は坂本龍馬と歴史を観光の目玉としている。 第3章 政策提言 現状分析を受けて、高知県の観光が抱える問題点を克服するためにはどのような施 策が必要になるのかを考える。 政策1 宿泊者増加のための自然体験プログラムの促進 高知県内の宿泊者数を増やすための一つの方策として自然体験プログラム22の促進 を提示し、その実効性について議論する。 現状分析で述べたように高知県には四万十川やその流域の農村景観といった自然観 光資源や複合観光資源を有しているにも関わらず、高知県の行政がその資源を十分生 かしているとは言い難い。高知県を訪れる観光客の多くが自然見物を目的としている という需要の面から考えて、高知県の行政として観光業を振興するのであれば自然観 光資源や複合観光資源を商品化した自然体験プログラムを活用するべきである。 自然体験プログラムの促進が宿泊者数増加の方法として妥当か検討する。宿泊者数 を増加させるには現状の観光客の宿泊日数を増やすという方法もしくは新たな来訪者 を呼びその人々の一部を宿泊させるという方法の 2 種類の方法が存在する。そして自 然体験プログラムの促進という政策は主に前者の、宿泊日数の増加に効果があると考 えられる。なぜならば、自然体験プログラムの多くは所要時間が 2~3 時間多くとも半 日程度であり、自然体験プログラムのみを観光対象とする場合日帰り観光で十分であ るからである。すなわち、自然体験プログラムの促進は来訪者にとっての観光対象の 候補を増やし滞在時間を長くすることが重要である。自然体験プログラムの現状につ いて国土交通省観光庁の 2011 年着地型旅行市場現状調査報告23のⅢ市場動向を用い て考える。自然体験プログラムを含む着地型旅行24はまず知名度が 51.8%にとどまっ 『高知』と聞いて思い浮かべるコトやモノを思い浮かぶ順に、最大 5 つまでお知らせ ください。 」という質問で 52.8%が坂本龍馬と回答。 21 同じ高知市の土佐山内家宝物資料館の利用客数は 1 万 783 人。 どちらも高知県平成25年県外観光客入込・動態調査報告書より 22 グリーンツーリズムという側面での農漁業体験や農漁家民泊とエコツーリズムとい う側面での自然観察や環境保全活動、ラフティングやカヌーといった自然を対象とい たスポーツ体験の 3 つを合わせたものを指す。 23 インターネット調査,n=1400 24 従来の大手旅行会社によるツアーの企画実行(=「発地」型旅行)と対になる概念 で、旅行先の企業や自治体がツアーやプログラムを企画実行する旅行のこと。 23 ていて低いといえる。そして来訪者が興味を抱くことと参加することに大きく隔たり がある。25この傾向は同統計においてグリーンツーリズムとエコツーリズムで顕著で ある。また着地型観光は 1 回参加した参加者がリピーターとなる割合が 53.9%である 一方、グリーンツーリズムとエコツーリズムの同様のリピーター率は 40%と少し低 い。つまり自然体験プログラムの促進の方針としては第一に知名度を上げることがあ り、第二に興味を抱いた来場者がプログラムに参加しやすくなるような環境作りをす ることが考えられる。 モデルケースについては和歌山県を例として取り上げる。和歌山県は高知県と地形 的に似ている26ことからモデルケースとして選出した。自然体験プログラムについて 地形的条件が似ているほうが応用しやすい。では和歌山県の観光政策、特に自然体験 プログラムについて見てみる。図 3-1 からわかるように和歌山県内での体験型観光客 は 2013 年度が 25 万 6090 人、2012 年度が 25 万 1341 人、2011 年 21 万 6994 万人 と体験型観光客数は増加傾向にあることは明らかである。 図 3-1 和歌山県体験型観光客統計 和歌山県体験型観光客 260000 人 256090 251341 250000 240000 230000 220000 216994 210000 200000 190000 2011 2012 2013 (出典:2013 年度,2012 年度和歌山県観光動態調査より作成) 体験型観光客数は特に 2011 年度から 2012 年度への増加分が大きい。では和歌山県 はこの時何をしていたのかを和歌山県観光振興実施行動計画から検討する。和歌山県 は「ほんまもん体験」を売り出すとして自然体験プログラムに関する政策を行ってい る。図 3-2 には 2012 年度に実施した体験プログラム向けの政策が示されている。 プログラムへの参加者はプログラムに興味を示した人の 29.5%にしか過ぎない。 どちらも県境付近が山地で領域の森林率が 8 割前後と高い。また有名河川が存在 し、太平洋に面している。 24 25 26 図 3-2 2012 年度の政策 体験プログラムの利用促進 県観光情報サイト等 イベントにおける プレスツアーの実施 による情報発信 情報発信 「ランドネピクニック 本州最南端で海にふ パンフレットを各種団 2012」(アウトドアイベント) れあう体験の旅 体へ送付(約500社) @横浜にブース出展 参加者:大阪日日新 (来場者約2万名) 聞、昭文社 大阪アウトドアフェス 県観光情報サイトに 大阪日日新聞 ティバル 2013 にブー おける情報発信 8月11日掲載 ス出展 (更新約350件) (来場者34623名) 体験プログラムの 雑誌タイアップ記事 棚卸し 「ランドネ」 7万部発 全ての体験事業者等 観光プログラム作り 行 に対して受入れ体制 熊野古道ウォーク(大 等のアンケート調査 雲取越) を実施 (出典:2013 年度和歌山県観光振興実施行動計画より作成) この政策からやはり自然体験プログラムの促進において知名度の向上が第一であるこ とがわかる。知名度向上への集中的な政策が体験者増加を引き起こしたのだ。和歌山 は大阪からのアクセスは良いので大阪をターゲットとして集中的に宣伝活動を行って いる。また自然体験プログラムへの参加を容易にするために受け入れ事業者にアンケ ート調査を行い受け入れ態勢の準備に努めている。 続いて 2013 年度の政策を見る。図 3-3 に示したのが 2013 年度実施された政策で ある。 25 図 3-3 2013 年度の政策 体験プログラムの情報発信 県観光情報サイト等 パンフレットによる 雑誌タイアップ による情報発信 プロモーション 県観光情報サイトに 駅頭でパンフレットを 「ランドネ」 7万部発 おいて全ての体験プ 配布 行 ログラム(350)の詳 JR新大阪駅:3800部 熊野古道中辺路ト 細情報を紹介 JR天王寺駅:4000部 レッキング、観光 JRパンフレット配置 「Richer」10万部発行 イベントにおける 京都駅,新大阪駅,神 有田エリアの体験 情報発信 戸駅など15駅 観光スポット 計約13,000部 「ランドネピクニック 2013」(アウトドアイベント) 「関西ウォーカー」10 @横浜にブース出展 万部発行 (来場者約2万名) 日高エリアの体験 観光スポット 旅行会社へのセール 全国宣伝販売促進会 ス活動の強化 議エキスカーション 体験プログラムの 団体対応可の人気体 旅行会社、メディア等 魅力アップ 験プログラムを抽出し に対し観光資源を紹介 利便性向上 た素材集を会社訪問 する視察ツアーに体験 プログラムを組入れ し(370店)提案 (出典:2014 年度和歌山県観光振興実施行動計画より作成) 2012 年度と同様に宣伝活動に力を入れている。注目に値するのは県観光情報サイト においてすべてのプログラムの詳細情報を紹介しているという政策の部分である。和 歌山県の自然体験プログラムをインターネット上で詳しく調べることができるという ことは自然体験プログラムの様子がわかり興味を持った客が自然体験プログラムに参 加しやすくなるという点で重要である。2013 年度の政策は 2012 年度に比べ体験型観 光客数の伸び率という数値上では見劣りするものであったが、増加を引きおこしてい るため有効である。つまり、モデルケースとしての和歌山県の政策は対象を絞った宣 伝活動と体験客の受入れ基盤の整備が主である。なお和歌山県の観光予算は 5 億 30 万円と高知県の 14 億円 8600 万円より少ない。27 高知県が宿泊者数を増やすために行う政策は以上のモデルケースを生かして自然体 験プログラムの促進である。具体的には宣伝活動と自然体験プログラムの一元管理化 の二つを挙げる。まず一つ目の宣伝活動については高知県にとってのメインターゲッ トを見つける必要がある。自然体験プログラムは地方より都会に需要があるので関西 もしくは空港から定期便がある首都圏が宣伝活動の対象となる。宣伝活動の方法とし 27 観光庁調べ,都道府県平成 26 年度観光予算一覧より 26 ては和歌山県のように旅行会社と旅行者両方への働きかけを行う。旅行会社に対して は高知の立地の悪さから和歌山のように訪問することは困難であるので、旅行フェア への参加を増やしなおかつ自然体験プログラムのツアー案をまとめて旅行会社に郵送 して届けるのが良い。一方旅行者にたいしてはパンフレットもしくはポスター各種メ ディアへの露出がとりうる政策であるが、高知の観光予算の豊富さをかんがみてテレ ビ CM や全国紙での広告といった強い宣伝が必要である。しかし宣伝活動にはデメリ ットがある。それは予算の無駄遣いが起きやすいということである。広告費は不透明 なものが多いため監視も難しく自浄作用が期待される。次に自然体験プログラムの一 元管理化を示す。現在高知県内での自然体験プログラムはインターネット上でまとめ てわかるようにはなっていない。そのため和歌山県のように自然体験プログラム事業 者からアンケート調査やヒアリング調査を行って正確な情報を県で把握するようにす る。そして自然体験プログラムへの敷居を下げるために県主導で自然体験プログラム をインターネット上で予約できるようなサイトを作るのが良い。自然体験プログラム の一元管理化は県で自然体験プログラムの需要と供給がわかるようになり柔軟な政策 と指導が可能となる。一方、自然体験プログラムの一元管理化に伴うデメリットとし ては自然体験プログラム事業への新規参入が弱まる可能性があることである。現在の 自然体験プログラム市場は組合レベルで事業者が競争するぐらいで基本的に各事業者 は独占的にその地域の自然体験プログラムを引き受けている。そのため地域を見つけ れば新規参入することは容易である。しかし自然体験プログラムの一元管理化は各事 業者を同じ高知県という市場で競争させることであるため、一度人気なプログラムが できた場合新規参入は難しい。その結果自然体験プログラム市場自体の縮小につなが る可能性がある。 つまり高知県自然体験プログラムの促進としては宣伝活動と自然体験プログラムの一 元管理化をすべきだと考える。 政策 2 長期宿泊の動機づけによる宿泊者増加 第 2 章 1 節 5・6 項で見たように物価が高くて、宿泊に否定になっている外国人や 日本人にホテルや旅館などの宿泊施設利用者に対する期限付きの割引券を配布するこ とや、連泊者に対して割引をすることで宿泊日数が増えると考えられる。 ここで仮に一日の宿泊代を x、クーポンによる割引額を a とする。平成 24 年度県 外観光客入込・動態調査報告書によると、県外旅行者の消費額のうち宿泊費の割合は 約 3 割、交通費が約 3 割、飲食費、お土産代などが残りの 4 割となっている。したが ってクーポンの利用により県外旅行者が一日宿泊を伸ばした際に観光消費額は交通費 27 の大半が除かれるとしてもそれ以外の 7 割が増えると考えられ、さらにこの観光消費 額の増加分は1章 3 節で述べたような経済波及効果を生む。ここで経済波及効果を北 海道経済産業局「観光産業の経済効果に関する調査」にある例のように観光消費額の 増加分の半分とすると、クーポンによる観光客の 1 泊の宿泊の延長による経済効果は 7 3 x ∙ 3 ∙ 2 = 3.5x となる。これが割引額をaとした時に得られる観光消費額の増加とその 波及効果の概算であることから、この割引による宿泊日数の増加策は現状分析の予算 の見直しによる余剰予算のもとで行われる限り、有効なものだと考えられる。しかし 宿泊費の全額負担といったような極端な割引は多くの観光客を呼び込む上で効果的か もしれないが、予算的には現実的でないためこの政策は政策 1 で述べたような自然体 験プログラムなどのように高知県の観光地としての魅力を高める施策と合わせて行わ れることでより効果が見込めるものとなる。 第4章 参考文献 観光庁 観光立国の実現に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策(案) 参考 資料 http://www.mlit.go.jp/common/000186693.pdf 日本政策投資銀行 宿泊旅行を中心とした観光の課題と展望-東北における震災の調 査を踏まえて- http://www.dbj.jp/pdf/investigate/etc/pdf/book1203_03.pdf#search='%E8%A6%B3% E5%85%89+%E8%AA%B2%E9%A1%8C' 中小企業庁 人口減少が経済に与えるインパクト 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和歌山を売り出す」 http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/062400/documents/AP2013-04.pdf 観光庁「都道府県 平成 26 年度観光予算一覧」 http://www.mlit.go.jp/common/001043321.pdf 2010 年 10 月 13 日発行みずほレポート 30 「製造業誘致の地方雇用創出に対する有効性は低下したのか」 http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report10-1013.pdf 都道府県 平成 26 年度観光予算一覧(観光庁調べ) http://www.mlit.go.jp/common/001043321.pdf 参考資料 1. i国内における旅行消費額 平成 28 年までに 30 兆円にする。 【平成 21 年実績:25.5 兆円】 2. 訪日外国人旅行者数 平成 32 年初めまでに 2,500 万人とすることを念頭に、平成 28 年までに 1,800 万人にする。 【平成 22 年実績:861 万人、平成 23 年推計:622 万人】 3. 訪日外国人旅行者の満足度 平成 28 年までに、訪日外国人消費動向調査で、 「大変満足」と回答する割合を 45%、 「必ず再訪したい」と回答する割合を 60%とすることを目指す。 【平成 23 年実績: 「大変満足」の回答割合 43.6%、「必ず再訪したい」の回答 割合:58.4%】 4. 国際会議の開催件数 我が国における国際会議の開催件数を平成 28 年までに5割以上増やすことを 目標とし、アジアにおける最大の開催国を目指す。 【平成 22 年実績:国際会議 の開催件数 741 件】 5. 日本人の海外旅行者数 平成 28 年までに 2,000 万人にする。 【平成 22 年実績:1,664 万人、平成 23 年 推計:1,699 万人】 6. 日本人の国内観光旅行による1人当たりの宿泊数 平成 28 年までに年間 2.5 泊とする。 【平成 22 年実績:2.12 泊】 7. 観光地域の旅行者満足度 観光地域の旅行者の総合満足度について、 「大変満足」と回答する割合及び再来 訪意向について「大変そう思う」と回答する割合を平成 28 年までにいずれも 25%程度にする。 【実績値無し】 (出典:観光庁 観光立国推進基本計画) 31