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優良法人顧客囲込みや顧客の経営悪化の予防策として

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優良法人顧客囲込みや顧客の経営悪化の予防策として
SC
CB
B
S
SHINKIN
SHINKIN
CENTRAL
CENTRAL
BANK
BANK
金融調査情報
海外経済調査レポート
21−2
No.11
総合研究所
〒103-0028 東京都中央区八重洲 1-3-7
TEL.03-5202-7671 FAX.03-3278-7048
URL http://www.scbri.jp
(2009.4.22)
2000.10
う
金融機関の攻めの営業スタイルとしての課題解決型営業
−景況感が再び悪化するなか、優良法人顧客囲込みや顧客の経営悪化の予防策として−
視点
我が国の景況感が急速に悪化するなか、今後の取引先法人企業の業況悪化が懸念されるとこ
ろである。現状、政府の景気対策の効果もあって金融機関の法人向け貸出が急速に増加してい
るが、今後は、優良法人取引先をめぐる金融機関間の競合激化が予想され、法人向け貸出の不
良債権化を予防すべく、前倒しで取引先企業の経営改善支援に取り組むことが課題になろう。
そうしたなか、かねてから法人向け融資開拓の一環として、顧客の課題解決に貢献すること
で取引先金融機関としての評価を高め、資金需要を掘り起こすべく、金融機関は課題解決型営
業やそれに類する営業方針を標榜してきている。今後も、顧客の課題解決に関与することで優
良取引先を囲い込む戦略が、信用金庫にとって重要であると考えられる。
そこで、地域銀行の課題解決型営業の動向を開示資料から概観し、あわせて信用金庫の課題
解決型営業への取組み事例を紹介することとしたい。
要旨
• 地域銀行のディスクロージャー資料等をみると、多くの地域銀行は、何らかの表現で課題
解決型営業に言及し、専担部署も設置している。
• 課題解決型営業の個別項目はおおむね地域密着型金融の個別取組み項目に重なる。近年、
地方銀行、第二地銀とも、50%以上の銀行が、注目度の高い創業・新事業支援、経営改善・
事業再生支援、コンサルティング、ビジネスマッチング、M&A、事業承継、無担保・第
三者保証不要融資、動産・債権譲渡担保融資への取組みを掲げている。
• 課題解決型営業を実施するためには、顧客課題を発見する必要がある。しかし、中小企業
には、課題発見の前提となる自社の現状把握が全くできていない場合や、課題の存在を全
く認識していない場合も少なくない。そのようななかで適切な対応を図るためには、職員
の課題発見力の育成と成功事例の共有化、営業店から顧客課題を吸い上げる仕組みの構築
等が必要である。
• 課題解決型営業への信用金庫の取組み事例については、担当者が行政区分にとらわれず、
地域横断的に活動し、創業支援に取り組んでいる多摩信用金庫の事例と、地元技術力を東
京でアピールする三条信用金庫のビジネスマッチングの事例等を紹介した。
キーワード
課題解決型営業
課題発見力
成功事例共有化
創業支援
ビジネスマッチング
©信金中央金庫 総合研究所
目次
はじめに
1.課題解決型営業と地域銀行にみるその戦略的活用
(1)課題解決型営業の意味と取組み体制
(2)課題解決型営業の範囲
2.継続的課題としての顧客課題の発見への信用金庫の取組み
(1)顧客課題解決の前に必要な顧客課題の発見
(2)職員の課題発見力の育成と成功事例共有化の必要
(3)営業店での顧客課題を本部に吸い上げる仕組みの構築
3.信用金庫の課題解決型営業への取組み事例
(1)創業支援:多摩信用金庫の事例
(2)ビジネスマッチング:三条信用金庫の事例を中心に
おわりに
はじめに
我が国の景況感が急速に悪化するなか、今後の取引先法人企業の業況悪化が懸念され
るところである。現状、政府の景気対策の効果もあって金融機関の法人向け貸出残高が
急速に増加している1。今後は、金融機関の間で優良法人取引先をめぐる競合が激化す
るとともに、法人向け貸出の劣化を予防すべく、前倒しで取引先企業の経営改善支援に
取り組むことが課題になろう。
そうしたなか、金融機関はかねてから、法人向け融資開拓の一環として、顧客の課題
解決に貢献することで取引先金融機関としての評価を高め、資金需要を掘り起こすべく、
課題解決型営業やそれに類する営業方針を標榜してきている。今後も、顧客の課題解決
に関与し優良取引先を囲い込む戦略は、地域や顧客の活性化のため、また、地域での競
合上、信用金庫にとって重要であると考えられる。
そこで、地域銀行の課題解決型営業の動向を開示資料から概観するとともに、信用金
庫の課題解決型営業への取組み事例を紹介し、その活動のポイントについて考察を行い
たい。
1.課題解決型営業と地域銀行にみるその戦略的活用
(1)課題解決型営業の意味と取組み体制
近年、「課題解決型営業」「ソリューション営業」といった言葉が地域金融機関の間
で頻繁に利用されるようになった。課題解決型営業とは、その字義どおり、「顧客の経
営上の様々な課題の解決を情報提供などで支援し、場合により個別解決策を提供するサ
ービス(コンサルティング)を行うことで収入を得たり、無償の場合でも本業の取引拡
1
信用金庫は 08 年 12 月末で前年同期比 1.7%増となり、その前の3四半期の同0%前後から急上昇した。また、国内銀行(銀行
勘定、信託勘定、海外店勘定の合計)についても、国内CP市場の混乱による大企業の借入金シフトもあり、08 年 12 月末で同
3.6%増となり、同年3月末の同 0.0%、6月末の同 0.9%、9月末の同 0.2%から伸び率が急進した。
1
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大につなげる営業のこと。」と解される。従来から大手金融機関を含む大企業間を中心
に、そのシンクタンク子会社なども通じてこうした無償、有償のサービスが行われてき
た。その後、外資系コンサルティング会社などのPRもあり、特にバブル崩壊後、取引
深耕策として意識的に取り組まれるようになってきた。
とりわけ地域金融機関の場合は、金融審議会報告書「リレーションシップバンキング
の機能強化に向けて」(平成 15 年3月 27 日)の中で、「問題解決型のビジネスモデル
へ踏み出していく必要性2」について言及されたことから、その取組みがリレーション
シップバンキングや地域密着型金融への取組みの中で広く普及したと考えられる。
課題解決型営業の基本は、経営改善・事業再生支援の実施計画立案とその実践である。
しかし、これらに限らず、地域密着型金融等にかかる新旧アクションプログラムに示さ
れた中小企業金融の円滑化や担保・保証に過度に依存しない融資等も、課題解決型営業
の範疇に加わるものと受け止められているようである。
図表1のように地域銀行は少なからず、株主・投資家や証券アナリスト向けのIR説
明会の資料(2008 年中の東京での開催分)やディスクロージャー誌(2008 年版)(以
下「対象開示資料」という。)の中に「課題解決型営業」「ソリューション営業」など
(図表1)地域銀行による課題解決型営業のさまざまな呼び方(例示)
ソリューション営業
ソリューション取引
北海道、青森、北陸、福邦、十六、三重、関西アーバン、
みなと、中国、香川、十八、豊和、宮崎太陽
山口FG
法人ソリューション戦略
山梨中央
情報営業とソリューション(経営支援型) 岩手
問題解決型営業
南都、伊予、愛媛
問題解決型のコンサルティング営業
横浜
問題解決型金融機能
琉球
顧客ごとの最適な問題解決策
百十四
課題解決型営業
みちのく、北都、大光、紀陽FG、
各種経営課題解決へのお手伝い
きらやか
経営課題解決への取組み
泉州
提案型営業
名古屋
付加価値提案型営業
大東
高付加価値金融サービスの提供
大光
高付加価値ソリューションの提供
長崎
投資銀行業務
百五、山陰合同、広島
(備考)1.百五銀行の場合、正確には「地銀型投資銀行業務」と呼んでいる。
2.各行資料より信金中金総合研究所作成
2
金融審議会報告書「リレーションシップバンキングの機能強化に向けて」(平成 15 年3月 27 日)に「中小・地域金融機関が
リレーションシップから得られる情報を活用しつつ、顧客が抱える経営上の問題に対する解決策をアドバイスする、といういわ
ゆる問題解決型のビジネスモデルへ踏み出していく必要性を示唆するものと考えられる。」との記述がある。さらに、ここでい
う問題解決型のサービスを「借り手中小企業のライフステージに応じ、円滑な資金供給やコンサルティング機能、ビジネスマッ
チング機能等の問題解決型サービスの提供が行えるよう、・・・・」という記述で例示している。
2
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の表現を盛り込んでいる。このことは、株主・投資家や一般の利用者から課題解決型営
業にかかる取組みは評価されるとの認識のもと、それをアピールしていこうという考え
の表れであるとも思われる。
また、経営改善・事業再生支援など、課題解決を取り扱う専担部署を設置する動きも、
近年、地域金融機関に広がっており、図表2のように、対象開示資料からもその様子が
うかがえる。形式面からは、ここ数年で課題解決型営業への取組み体制が整ってきてい
ると言えよう。
(図表2)地域銀行各行が設置する課題解決型営業専担部署(例示)
法人ソリューション部
十八
情報営業推進室
伊予
ビジネスソリューション営業部 関西アーバン
審査部企業経営支援室
滋賀
ソリューション営業部
みちのく
審査部企業支援室
八千代
企業経営支援室
福邦
審査部企業支援グループ
豊和
企業経営相談室
京葉
取引先支援室
大光
企業再生支援室
東日本
法人営業支援室
鳥取
企業支援室
東和、北國
融資統括部経営支援グループ
中京
企業支援チーム
富山第一
融資審査グループ経営支援チーム
岐阜
経営サポート室
横浜、西京、徳島 融資部企業支援室
八十二
経営改善支援チーム
札幌
与信管理部特定支援チーム
肥後
事業戦略支援グループ
沖縄
お客さまサポート部事業性支援グループ 四国
(備考)各行資料より信金中金総合研究所作成
(2)課題解決型営業の範囲
それでは、こうした課題解決型営業と呼ばれる業務は具体的にどのような範囲の商
品・サービスを指しているのであろうか。そこで、対象開示資料3から法人取引につい
ての記述や商品一覧を精査し、課題解決型営業にかかる取組みを洗い出してみた。集計
に当たって、項目を「創業・新事業支援」「経営改善・事業再生支援」「担保・保証に
過度に依存しない融資等」「その他」のカテゴリーに分けたが、事実上、大半が地域密
着型金融の個別取組み項目と重なるものであった(図表3)。
近年、注目されている農業・漁業、医療・介護・福祉といった特定業種に対する融資
や事業支援について、重点的に対応する取組みもみられた(これらの取組みの中には、
開業時コンサルティングなども含む)。他に製造業に重点を置く銀行もあれば、中国・
四国地方には造船・海運業に重点を置くという銀行も見られた。いずれの取組みも、図
表3においては、「経営改善・事業再生支援」のカテゴリーに含めて集計している。
3
今回の対象開示資料には「地域密着型金融の進捗状況」を含んでいない。当該資料は、地域密着型金融における当局への報告の
延長上に作成され、対象開示資料に比べて広く一般にアピールしようという意図が薄いと判断したため、洗出しの対象外とした。
3
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なお、今回、PFI、海外進出支援、産学官連携、環境への取組みについては、洗出
しの対象としなかった。これらの項目は、自治体など公的部門へのサービスや社会貢献
の色彩が強い取組みであったり、あるいは海外活動におけるサービスであるためである。
各項目において取組みを表明する銀行の全行に対する割合をグラフ化し、地方銀行、
第二地銀の別にみたのが図表4である。各項目は、①両業態(地方銀行、第二地銀)と
も取組みを表明した銀行の割合が高い(50%以上)項目、②両業態とも割合が低い(約
20%以下)項目、③地方銀行の割合が第二地銀を大きく(15%以上)上回った項目、④
第二地銀の割合が地方銀行を大きく(15%以上)上回った項目に分類できる(図表5)。
(図表3)課題解決型営業の取組みを表明する地域銀行の割合
(単位:行、%)
地方銀行 第二地銀
地方銀行 第二地銀
行数 占率 行数 占率
行数 占率 行数 占率
1 創 創業・新事業支援
36 59.0
35 83.3 26 に 動産・債権譲渡担保融資
39 63.9
27 64.3
2 業 創業・新事業支援融資
16 26.2
20 47.6 27 過
機械・車両
22 36.1
17 40.5
3 等 企業育成ファンド
28 45.9
13 31.0 28 度
売掛債権
12 19.7
7 16.7
4 経 経営改善・事業再生支援
42 68.9
37 88.1 29 に
在庫・棚卸資産
7 11.5
5 11.9
5 営 コンサルティング
39 63.9
25 59.5 30 依
肉牛・豚
2 3.3
0 0.0
6 改 技術相談(外注等による)
4 6.6
0 0.0 31 存
狭義ABL(事業サイクル)
2 3.3
3 7.1
7 善 農業・漁業重点
30 49.2
3 7.1 32 し 知的財産担保融資
4 6.6
2 4.8
8 ・ 医療・介護・福祉重点
33 54.1
10 23.8 33 な ノンリコースローン
8 13.1
5 11.9
9 事 製造業重点
3 4.9
0 0.0 34 い 債権流動化
24 39.3
1 2.4
10 業 ビジネスマッチング
49 80.3
32 76.2 35 融 証券化・CLO
3 4.9
8 19.0
11 再
商談会
33 54.1
11 26.2 36 資 シンジケートローン
36 59.0
16 38.1
12 生 株式公開支援
28 45.9
11 26.2 37 等 私募債引受・社債の受託
42 68.9
19 45.2
13 支 M&A
49 80.3
22 52.4 38 そ 確定拠出年金
33 54.1
7 16.7
14 援 MBO・EBO
4 6.6
0 0.0 39 の デリバティブ取引
27 44.3
6 14.3
中小企業再生支援協議会の活用
15
23 37.7
13 31.0 40 他
金利・為替
17 27.9
2 4.8
16
企業再生ファンド
19 31.1
12 28.6 41
商品
11 18.0
0 0.0
17
DES
4 6.6
2 4.8 42
天候・地震
10 16.4
3 7.1
18
DDS
3 4.9
2 4.8 43
一括ファクタリング
12 19.7
0 0.0
19
DIPファイナンス
2 3.3
2 4.8 44
リース(子会社・仲介)
4 6.6
5 11.9
20
事業承継
42 68.9
24 57.1 45
IT化支援
11 18.0
2 4.8
21 担 財務制限条項付融資
5 8.2
8 19.0 46
ISO認証取得支援
11 18.0
9 21.4
22 保 無担保・第三者保証不要融資等
45 73.8
34 81.0 47
中堅・中小企業格付け取得仲介
7 11.5
7 16.7
23 ・
税理士等提携商品
26 42.6
14 33.3 48
BCP策定支援
2 3.3
2 4.8
24 保
商工会等提携商品
12 19.7
8 19.0
25 証
スコアリングモデル活用商品
15 24.6
14 33.3
(備考)1.地域銀行の 2008 年中のIR説明会資料と 2008 年版ディスクロージャー誌を調査対象とした。そのため、ディスク
ロージャー誌等には掲載していないが、実際には課題解決型営業の各項目に取り組んでいる銀行もあり得る。なお、
地方銀行は、ふくおかFG3行と山口FG2行をそれぞれ1行と勘定し、情報が入手できない近畿大阪と足利を除
いたため計 61 行を対象とした。第二地銀は、東京スター、熊本ファミリー(ふくおかFG)、もみじ(山口FG)
を除いたため計 42 行を対象とした。
2.各地域銀行の「『地域密着型金融推進計画』の進捗状況」は、今回調査対象とした資料と比べて株主・投資家や顧
客、地域住民など、外部への情報発信力が弱いと見られるため、調査対象資料としなかった。
3.今回はPFI、海外進出支援、産学官連携、環境への取組みについては取り上げていない。
4.商工会等提携商品には商工会議所や法人会との提携商品を含む。
5.表中の英文金融用語のうち、MBO(Management Buy Out)は、会社の経営陣が、自社の株式や一事業部門を買収し、
会社から独立する手法のこと。EBO(Employment Buy Out)は、会社の従業員が自社の株式や一事業部門を買収し、
会社から独立する手法のこと。DES(Debt Equity Swap)は、金融機関が債務者企業の再建支援のために、貸出債
権の一部(Debt)を普通株や優先株(Equity)に転換(Swap)することによって、債務者企業の過剰債務を圧縮し、
自己資本比率を改善させる手法のこと。DDS(Debt Debt Swap)は、金融機関が債務者企業の再建支援のために、
貸出債権の一部(Debt)を劣後ローンや劣後債(Debt)に転換(Swap)することによって、財務負担を軽減する手法
のこと。DIP(Debtor In Possession)ファイナンスは、再建型倒産手続きである民事再生法、会社更正法等の手
続申立て後、再建計画の認可決定までの融資のこと。狭義ABL(Asset Based Lending)とは、ここでは、動産、
在庫、売掛債権等の流動資産を事業サイクルとして一体的に担保取得する融資を指す。CLO(Collateralized Loan
Obligation)は、ローン担保証券を指すとともに、ローン担保証券化して回収することを前提としたローンも含む。
BCP(Business Continuity Plan) は事業継続計画ともよばれ、企業が被災しても重要事業を中断させず、中断し
ても可能な限り短期間で再開させ、中断に伴う顧客取引の競合他社への流出、マーケットシェアの低下、企業評価
の低下などから企業を守るための経営計画のことを指す。
6.各行資料より信金中金総合研究所作成
4
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(図表4)課題解決型営業の取組みを表明する地域銀行の割合
(%) 100
第二地銀
90
80
70
60
50
40
地方銀行
30
20
10
0
1
3
5
7
9
11
13
15
17
19
21
23 25
27
29
31
(備考)図表3より信金中金総合研究所作成
33
35
37
39
41
43
45
47
項目番号(図表3参照)
①には、コンサルティング、ビジネスマッチング、M&A、事業承継、無担保・第三
者保証不要融資等、動産・債権譲渡担保融資と、近年注目を浴びる項目が並んだ。なお、
無担保・第三者保証不要融資等の具体的な取組みとして、全国規模の税理士会とのパッ
ケージ商品を取り扱う銀行が多かった。
②では、MBO・EBO、DES、DDS、DIPファイナンスや、財務制限条項付
融資、知的財産担保融資、ノンリコースローン、証券化・CLOなどの金融手法が並ん
だ。手法が高度で活用機会が少ないことと、米サブプライムローン関連商品問題の影響
などから、予想どおり表明行の割合は低かった。動産・債権譲渡担保融資については、
機械・車両を担保とした融資以外は低水準にとどまった。デリバティブ取引など「その
他」のカテゴリーに含まれる項目も低調なものが目立った。
③は、専担者配置など体制整備にかかる地方銀行と第二地銀の余裕度の差や、取引先
企業の規模の差などを反映した結果となったと考えられる。また、地方銀行の方が、よ
り政策の動向に敏感に反応する傾向があるとも考えられる。
(図表5)取組みを表明する銀行の割合のパターン別課題解決型営業の個別取組み項目
①両業態とも取組み表 (1)創業・新事業支援、(2)経営改善・事業再生支援、(5)コンサルティング、(10)ビジネスマッチング、
明行の割合が高い項目 (13)M&A、(20)事業承継、(22)無担保・第三者保証不要融資等、(26)動産・債権譲渡担保融資
②両業態とも取組み表 (6)技術相談(外注等による)、(9)製造業重点、(14)MBO・EBO、(17)DES、(18)DDS、(19)
明行の割合が低い項目 DIPファイナンス、(21)財務制限条項付融資、無担保・第三者保証不要融資等のうちの(24)商工会等
提携商品、動産・債権譲渡担保融資のうちの(28)売掛債権、(29)在庫・棚卸資産、(30)肉牛・豚、(31)
狭義ABL(事業サイクル)、(32)知的財産担保融資、(33)ノンリコースローン、(35)証券化・CLO、
デリバティブ取引のうちの(41)商品、(42)天候・地震、(43)一括ファクタリング、(44)リース、(45)I
T化支援、(46)ISO認証取得支援、(47)中堅・中小企業格付け取得仲介、(48)BCP策定支援
③地方銀行が第二地銀 (7)農業・漁業重点、(8)医療・介護・福祉重点、(11)商談会、(12)株式公開支援、(13)M&A、(34)債
を大きく上回る項目 権流動化、(36)シンジケートローン、(37)私募債引受・社債の受託、(38)確定拠出年金、(39)デリバテ
ィブ取引とそのうちの(40)金利・為替、(41)商品、(43)一括ファクタリング
④第二地銀が地方銀行 (1)創業・新事業支援、(2)創業・新事業支援融資、(4)経営改善・事業再生支援、
を大きく上回る項目
(備考)図表3、4より信金中金総合研究所作成
5
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逆に、④については、地方銀行より第二地銀の方が高く、取引先企業の規模が小さい
なかでも創業者等の支援を通じた取引先の開拓に熱心であることが反映された結果と
も考えられる。
なお、対象開示資料に記載がなく、今回の洗出しの対象となっていない項目(取組み)
について、実際は、その銀行が取り扱っている場合も当然にありうる。対象開示資料へ
の記載は、各行が広く一般にその項目の取扱いをアピールしたいとの意図の表れである
と考えるべきであろう。
地域銀行の開示状況を見ると、各行は自らの判断で項目を選択、必要に応じて提携を
活用して、法人営業の積極的な展開のための戦略的ツールとして課題解決型営業に取り
組み、それを外部にアピールしているものと思われる。信用金庫においても、顧客法人
企業とともに厳しい経済環境を乗り越えていく上で、課題解決型営業の戦略的活用が求
められるものと考えられる。
2.継続的課題としての顧客課題の発見への信用金庫の取組み
顧客ニーズの発掘自体は、信用金庫が昔から行ってきたことであり、「法人向け課題
解決型営業」と敢えて命名せずとも、あらゆる営業場面で求められてきた活動である。
基本的な要素であるからこそ、常にその能力の向上が求められ、今後とも信用金庫が継
続して取り組むべき課題であると言えよう。そこで、複数の信用金庫から顧客課題の発
見についてヒアリングした内容を整理し、参考に供したい。
(1)顧客課題解決の前に必要な顧客課題の発見
課題解決型営業を、事業所との関係強化の足掛かりにしたいと考えている信用金庫は
多いものと思われる。それゆえ、信用金庫も前述の課題解決型営業に含まれる個別金融
手法・サービスの研究や取組みを進め、地域銀行同様、専担部署を設置する動きも広が
ってきている。
課題解決型営業に取り組むには、まず、顧客課題を発見しなければならない。「M&
Aを考えているのだが・・・」と顧客から単刀直入に課題を切り出す場合も考えられるが、
そうしたケースは稀であろう。通常は、顧客との取引関係の中で渉外担当者が顧客の課
題を聞き出し、それに応じた提案をし、経営者の理解と協力を得て課題の解決を図ると
いう流れになる。
しかしながら、中小企業、特に小規模な企業の経営者においては、自社の現状把握が
不十分なことも少なくない。端的な例を言えば、帳簿の作り方や見方も分からず、経営
者の頭の中だけで資金繰りを管理している場合もある。また、経営課題を見つけられな
いのではなく、その存在を全く意識していない(極端に言えば、経営課題のことを考え
たこともない)ケースもある。業績不振の理由を不景気のせいだけにし、自社の経営改
善を図る機会を逸している場合も少なくない。
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さらに、金融機関から自社の経営課題を指摘されることや、課題解決に向けた提案を
嫌う経営者も少なくない。そうした経営者に対しては、会社が好調なときに提案を行っ
ても効果は期待し難い。資金が足りないなど、経営者が具体的な問題に直面したときこ
そが、助言に耳を傾けてもらうチャンスである。
いずれの場合も、信用金庫の職員は、経営者がいまだ認識していない「真の課題」を
見つけ出す手助けをする必要がある。経営課題にかかる顧客からの相談の8割は、売上、
受注、販路拡大に関することであるが、その課題を表面的に受け止めているだけでは、
真の課題解決には行き着かない。表面的な課題の障害となっている「真の課題」を突き
止めなければならない。例えば、売上増大という課題について、そのボトルネックが製
造コストの高さであるとした場合、さらに原因の深掘りを図り、コスト高の主因を求め
なければならない。仕入先が遠いため取引コストが高いことが大きな要因であるという
ことになれば、顧客の地元の仕入先を紹介することが最も効果的な解決策となる。
(2)職員の課題発見力の育成と成功事例共有化の必要
表面的な課題に深い洞察を加え、真の課題を発見するというスキルは、容易に身に付
くものではない。先輩職員や上席者が見本を示して経験と知識の蓄積を図り、渉外力を
組織的に育成していくことが必要である。しかし、長年に亘って営業店での人員削減が
続き、OJTが機能しにくくなっているとの声も多い。融資の申込先が何をつくり、ど
こに納入しているのか、資金使途が何かということを理解していない若手渉外担当者が
いることも、否定しがたい事実ではなかろうか。OJTを主導する先輩職員や上席者の
不足を支店長が補うべしとしても、若手渉外担当者との世代間ギャップも大きく、また
支店長自身の多忙もあり、適切なOJTを行うことは困難であろう。
それゆえ、OJTの不足を補うため、顧客経営者の交流会・勉強会に職員を積極的に
参加させ、経営者同士の会話から経営者の問題意識等に触れさせることで、取引先企業
の経営環境・事業環境に対する理解を深める機会を設けている信用金庫もある。商談会
においても、展示企業に渉外担当者や本部スタッフを同席させ、経営者と来場者の会話
からその企業の技術や事業内容、顧客ニーズを学ぶ機会としている。業務上のさまざま
な機会を活用して、渉外力強化にかかる営業店でのOJT不足を補う必要があろう。
また、渉外担当者全般の教育不足に加え、顧客課題の発見にかかる成功事例の蓄積が
店舗内に限られており、金庫全体での共有化が図られていないという状況も散見される。
組織的な成功事例の蓄積と還元を図る仕組みづくりやその効率的な運営が引き続き求
められよう。
(3)営業店での顧客課題を本部に吸い上げる仕組みの構築
さらに、課題解決型営業を全社的に展開するに当たっては、前述の成功事例の共有化
と同様、専担部署が全体を統括し、渉外担当者がキャッチした顧客課題を本部に吸い上
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げる仕組みを構築することが重要である。
ある信用金庫では、もともと各店舗に1∼2名の法
人を対象とした課題解決要員を配置し、課題解決型営
業の勉強会(起業の課題についてのディスカッション、
(図表6)ある信用金庫の課題解決型営業
の対応体制の変遷
①各店舗での担当者設置
本部
店舗
店舗
顧客
顧客
月1回以上
の勉強会
コーチングやM&Aについて)を月1回以上実施して
いた。しかし、担当職員が各店舗に少数ずつ分散して
いると、各自は通常業務も行う必要があり、なかなか
課題解決に集中できないという問題が生じたため、一
定規模以上の企業については、本部が並行して担当し、
最終的には、各営業店に分散する課題解決要員を本部
課題営業用員
課題営業用員
②一部本部と並行実施
店舗
本部
店舗
に集約することとした(図表6)。そうした体制の変
遷を経て、課題解決型営業の本部専担部署に各営業店
から顧客の課題が上がってくるようになり、現在は、
本部において全ての課題に対応している。本部が全て
に対応すると営業店が任せ切りになるという懸念も
顧客
顧客
規模の大きめ
の顧客
③営業店担当者の本部吸収
本部
あるが、まずは営業店から本部に顧客課題の情報がス
ムースに流れるパイプを築くことが必要であろう。そ
れが、本部での課題解決事例の蓄積と全営業店への還
店舗
店舗
顧客
顧客
店舗
元にもつながっていく。営業店と本部との間の情報環
流の仕組みの構築が肝要である。
顧客
(備考)信金中金総合研究所作成
3.信用金庫の課題解決型営業への取組み事例
次に、信用金庫における課題解決型営業の具体的取
組み事例についてみていきたい。現下の経済状況に鑑みて最も重要な取組みは、経営改
善・事業再生支援であろうが、その取組み事例はすでに拙著論文4において紹介してい
るため、本稿では、創業支援とビジネスマッチングの事例を取り上げることとする。
(1)創業支援:多摩信用金庫の事例
地域密着型金融の考え方が示すとおり、創業支援への取組みは、取引先の裾野の拡充
や地域の経済活性化に資することであり、今回は多摩信用金庫の事例を紹介する。
多摩信用金庫は、創業支援を行うブルーム5センター(八王子市)を設け、マネージ
ャー(ブルームマネージャー)1名を配置している。ブルームマネージャーは、インキ
4
金融調査情報 20-10「恒久化後も取組み進む信用金庫の地域密着型金融−経営改善支援には事業への助言を、一部個別取組項目
は制度の改善を−」(2009 年1月 21 日付)(同論文を信金中金月報 2009 年3月号にも掲載)
5
ブルームとは英語で花が咲くという意味の動詞(bloom)で、多摩信用金庫は創業を開花に喩えている。
8
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ュベーション施設のある大学等も含め八王子市、多摩市、三鷹市6の3か所を重点的に
訪問し、自治体や地元の経済団体等とも連携しながら、多摩地域で横断的に創業支援に
取り組んでいる。
イ.活動内容:八王子市を中心に多摩市・三鷹市でも活発な活動を展開
多摩信用金庫は、八王子市において京王八王子支店(自社ビル)の7階に創業者向け
インキュベーション施設であるブルームセンターを開設した。創業者・創業希望者のた
めにオフィススペース 12 室7を用意し、現在、10 室に入居者が入っている。入居費は
4,500 円/㎡だが、八王子市のオフィス賃料補助金の対象であり、入居者は家賃の半額
補助が利用できる。これまでに 22 社が入居し、うち 13 社が退去したが、廃業を理由と
したものは2社のみで、他の 11 社は新たな事業展開に向けてブルームセンターを卒業
したものである。売上高 1 億円にまで成長した企業もある。多摩信用金庫は、同ビルの
4階を八王子商工会議所に無償で貸し出し、創業希望者に対して自由な交流スペースを
提供している。同フロアには、商工会議所の中小企業相談窓口があり、ブルームセンタ
ーに入居する創業者・創業希望者は、商工会議所の様々なサービスを利用することがで
きる。商工会議所は、多摩信用金庫等と協調して起業家向け創業塾などを主催し、塾生
たちのバックアップやマッチングにも努めている。創業塾はこれまでの4期で 128 名の
卒業生を輩出し、創業率は事前予想の 10∼15%を大きく上回る 35%と高水準にある。
さらに同金庫は、八王子商工会議所と八王子市の連携により地域産業活性化に取り組
む「サイバーシルクロード」と一緒に創業支援に取り組んでいる。同団体には「ビジネ
スお助け隊」という支援チームがあり、さまざまな分野の経験、技術、ノウハウを持っ
た人々がメンバー登録し、初回は無料、その後も実費負担のみで創業希望者を支援して
いる。都心でサラリーマンとして勤めていたが、引退後は地元にネットワークを持たな
(図表7)多摩信用金庫の多摩地区3市における創業支援活動
活動
地域
連携
先
主な
活動
内容
多摩信用金庫 ブルームマネージャー(3市の創業者の間を横断的に活動し、マッチング活動)
八王子市(京王八王子支店)
多摩市(東永山創業支援施設
三鷹市
「ビジネススクウェア多摩」)
八王子市、八王子商工会議所と連携
多摩市・多摩市創業支援促進協 ㈱まちづくり三鷹(三鷹T
議会と連携
MO推進協議会の運営)、
三鷹SOHO倶楽部と連携
京王八王子支店にインキュベーショ
インキュベーションマネージ
三鷹SOHO・㈱まちづく
ン施設「ブルームセンター」を設置
ャーとして、入居者の支援の
り三鷹の人達との情報交換
し、入居者を支援。八王子商工会議
他、毎週月曜日に予約による一 と人脈作り。他市の企業情
所やサイバーシルクロードにスペー
般経営相談を行っている。
報等のパイプ役を演じる。
スも提供。ブルームセンターの入居
者は総合的サービスを受けられる。
(備考)多摩信用金庫資料より信金中金総合研究所作成
6
7
いずれも東京都西部の多摩地区の都市
1室は 5.9∼12.7 ㎡、共益費は無料
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いため、その勤務経験に基く技術やノウハウを、同チームを通じて社会に還元している
人々も多い。サイバーシルクロードは、多摩信用金庫と今後もより強固な関係を構築し
ていきたいという意向にある。
多摩市でも、多摩市・多摩市創業支援促進協議会と連携し、東永山創業支援施設「ビ
ジネススクエア多摩」を拠点に活発な活動を展開している。同協議会にも「創業サポー
ト市民スタッフ」という八王子の「ビジネスお助け隊」と類似の組織がある。
また、同金庫は三鷹市でも、㈱まちづくり三鷹(三鷹TMO推進協議会が運営)、三
鷹SOHO倶楽部等と連携し、創業者の集まりや三鷹SOHO倶楽部の立上げに関わっ
た人たちとの情報交換・人脈作り活動を行い、地域のパイプ役を担っている。
その他、同金庫は年に2回、日本政策金融公庫などと共同で、専門家や活躍している
起業家の生の声を聞くセミナーと、情報交換と人脈作りを目的とした交流会の2本立て
の催しを行う「ブルーム交流カフェ」を主催している。
ロ.創業支援融資よりも顧客の立場に立った創業支援活動を重視
多摩信用金庫の営業店には、創業支援融資の相談も多数寄せられている。営業店が単
独で対応する場合もあるが、事業計画がしっかり固まっていない先に対しては、ブルー
ムマネージャーが営業店と一体となって、創業支援融資も含めた支援を行っている。同
金庫には「ブルーム」という創業支援にかかるプロパーの融資商品があるが、東京都に
は創業支援にかかる最大1,000万円までの制度融資があるため、近年は制度融資の利用
が増加している。
また、同金庫は、創業資金は極力抑えるようアドバイスしている。金融機関にとって
は目先の収益機会を逸することとなるが、「小さく生んで大きく育てる」との考えの下、
資金調達は事業に失敗しても返済できる範囲にとどめ、顧客の財務リスクを極力小さく
するよう努めている。事業が拡大してから必要な資金を調達すればよいと考え、創業資
金は計画の7割ぐらいを目処とするよう指導している。商品の販売先が決まってから資
金を調達すれば、さらにリスクを抑えることができるため、同金庫は、十分な時間をか
けて創業計画のアドバイスに取り組んでいる。
ハ.横断的に創業者をマッチングして伴走支援
また、一般的には、創業支援融資を実行しても、その後のサポートが全く行われない
事例も多いが、同金庫のブルームマネージャーは創業後の伴走支援も自らの使命とし、
顧客と一緒に創業後の課題解決に取り組んでいる。例えば、創業塾のOB会を開催し、
事業者同士のマッチングを図るなどの取組みが行われている。社長が技術者出身の企業
は、製品を作ることは巧みだが、それをどう利用するか、どう営業するかを考えること
は苦手であることが少なくない。マッチング等を通じてサポートすることで、その企業
の飛躍の可能性は大きく高まるのである。
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地域で広く事業をつなげるためには、行政区域にとらわれず広く活動する必要がある。
自治体や商工会議所などの支援活動は行政区域に拘束されるのに対し、多摩信用金庫の
ブルームマネージャーは多摩地区の主要3拠点等を跨いで自由に活動し、広く創業者同
士等のマッチングを図れることに強みがある。
なお、ブルームマネージャーは業務内容も多様で活動範囲も広いが、1名で対応して
いる。創業者情報がその1名に集中することでむしろマッチング効率が高まると、同金
庫では考えている。大人数で活動すれば細かな業務管理も必要となり、優秀なマネージ
ャーの活動を縛ってしまうことにもなり兼ねない。
多摩信用金庫は、創業支援活動を通じて始まりの段階から創業者の人となりや事業計
画を把握することが目利き力の向上に通じると考えている。顧客のビジネスが軌道に乗
ったとき、創業者から「たましんさんと共に事業を拡大したい(=資金も含めビジネス
パートナーとして共に歩みたい)。」と言っていただけるよう、現在は種まきに取り組
んでいるのである。
(2)ビジネスマッチング:三条信用金庫の事例を中心に
ビジネスマッチングは、顧客の販路開拓に直結する最も基本的な顧客企業の支援活動
であり、顧客企業にとって好不況にかかわらず取り組むべき課題である。地域金融機関
は、アクションプログラムに取り組み始めた2004年から着実に実績を伸ばしている。一
方、商談会のマンネリ化や需要の飽和を懸念する声もある。三条信用金庫の事例を中心
に、ビジネスマッチングにかかる信用金庫の現状認識や打開策をみていくこととする。
イ.首都圏の信用金庫のビジネスフェア
ある首都圏の信用金庫は、渉外担当者の訪問可能な取引先数を鑑み、渉外担当者1人
当たり 100 先、大規模店舗1店舗当たり 1,500 先に対してビジネスフェアへの来場勧誘
を行っている。さらに1万件以上の近隣企業にダイレクトメールを送付し、多数の来場
者を集めている。直近(2回目)の開催では 600 件の成約があり、新聞にも取り上げら
れるなど、認知度も高まっている。また、経済産業省や中小企業基盤整備機構からもフ
ェアへの参加申出を受けている。今後の課題は、取引先等に出展企業を紹介するタイミ
ングを早めて来場者の増加を図り、マッチング率を上昇させることであると捉えている。
加えて、同金庫は出展者間のマッチングも効果的であると考えている。出展企業の業
種が多岐にわたっていても、例えば、食品業者において容器をつくるための金型の需要
があるように、多様なマッチングのチャンスがある。出展者は同じ地元で同じ信用金庫
の取引先であり、顔が見える安心感がマッチングにも奏功すると考えられる。
さらに、商談会の対象地域の拡大について、将来はともかく現状においては、地元企
業に地方の需要を求めるというニーズは乏しく、まずは地元の出展企業を増やすことが
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先決であると考えている8。同金庫は、徐々に対象地域を広げ、次のステップでは県内
全県規模で、さらに次のステップでは隣県を巻き込んでビジネスフェアを展開するとい
うビジョンを描いている。
別の首都圏の信用金庫は、いろいろな企業に商談会へ出展していただけるよう努めて
いる。同金庫は商談会の分野を絞るよりも、不特定多数の人々に興味を持っていただく
ことの方がはるかに顧客のビジネス機会は拡がると考えており、それこそが様々な企業
と取引のある金融機関が主導する商談会の強みであると捉えている。100社の出展があ
れば、自社を除く99社と触れる機会ともなる。直接的なメリットは得られずとも、他社
の状況や景気動向を肌で感じることは、企業経営者の視野が広がる機会でもある。目先
の損得に拘れば、ビジネスマッチングは信用金庫とって費用の持出しに過ぎないが、顧
客の縁を拡めることこそ、自金庫の取引の裾野を拡大し、地域での存在感を高めること
につながるのである。
商工会等を通じて以前から顧客同士のつながりがあることも多いため、自金庫のエリ
ア内だけで商談会を行っていても、数回の実施で行き詰まってしまう恐れもある。しか
し、近隣金庫との商談会の共催については、顧客も自社の商品や技術を近隣の同業者に
は見られたくないと考えるなど、距離の近さがマイナスに働く面もある。信用金庫の立
場に立っても、隣接した金庫同士は日頃から顧客サービスを競っているため、日常とは
別のことと割り切って互いに協力することは、感情的になかなか難しいことであろう。
そのため、同金庫は少し離れた信用金庫こそ、商談会共催のより良きパートナーである
と考えている。
ロ.東京開催フェアへの参加に注力する三条信用金庫のビジネスフェア戦略
しばしばビジネスマッチングは、製品・商品の販売促進活動と捉えられるが、モノの
売買のマッチングは、その場限りで終わることも多い。三条信用金庫は、三条地域のメ
ーカーの技術力をPRし、地元企業に対するニーズを拡げていくことを目的に、技術の
ビジネスマッチングに注力している。なお、西武信用金庫も技術に着目したマッチング
活動を行っている。
三条信用金庫が東京で開催される他金庫のビジネスフェアに参加する(これまでの実
績は図表8参照)理由としては、まず、三条市は域内総生産に占める製造業の割合が3
割に達し、新潟県および全国平均の2割と比べて相対的に高いものの、従業員 10 人未
満の零細企業が全体の6割を占め、販路開拓や技術の売込みを自社で行うことが難しい
企業が多いことが挙げられる。また、三条地域は刃物技術をはじめ、金属加工に係るあ
らゆる技術の集積地で、かつ、下請け的性格の強い受注型の部品メーカーが多い。この
ため、発注元は関東、関西をはじめ全国に拡がっており、地元でのマッチングには多く
8
同金庫のビジネスフェアへの出展企業は延べ 300 社だが、同金庫の地元には2∼3万社の中小企業が存在する。
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を期待できない。さらに、三条市は上場企業を7社も輩出しており、技術や製品に誇り
を持ち、それを全国に発信しようと強く意識している企業も少なくない。これらのこと
が、圧倒的な巨大マーケットである東京へ目を向ける大きな理由である。
加えて、これまで積極的な営業・販売活動を行ってこなかったことから、三条の技術
力が必ずしも正確に理解されておらず、三条までマッチング候補先に来てもらうことが
難しいという事情もあった。実際、商工会議所等が県内・県外バイヤーを対象に三条で
商談会を開催しても、期待した来場者に届かないことが多かった。特に来場を期待して
いる県外大手メーカーにおいては、参加費用を負担してまで出席することに消極的な先
が多い。大消費地の東京で直接、情報を発信することは、三条の技術力の認知度を飛躍
的に向上させる好機である。
なお、限られた地域を対象にビジネスマッチングを続けていれば、参加者の関心が薄
れ、開催方法等の見直しを迫られる可能性も否定できない。しかし、地域活性化の視点
に立てば、一度始めた地元開催の商談会を中止することは、なかなかに決断し難いこと
である。それゆえ、将来の選択の余地を残しながら商談会の実効性を上げていくために
は、東京など域外の商談会を活用することも有効であると言える。
東京での商談会に参加する場合、地元開催ではないため、どうしても三条地域からの
出展企業が 20∼30 社にとどまり、目立たなくなる恐れがある。このため、キーとなる
企業、テーマとなる技術を考えて出展企業を選定することが必要となる。また、数少な
い参加企業の特徴を効果的に示すために、同金庫は、三条市や燕市などの行政のほか、
地元商工会議所や工業会等の産業団体などにも出展を依頼し、三条・燕の産業の全貌と
特徴を現すことができるよう心がけている。
商談会での問題点としては、まず、受注型の下請け企業の出展に際して、部品の発注
元の大企業が技術の漏洩等を懸念して参加を快く思わないこともあるため、結果として
出展を諦めざるを得ない場合があることが挙げられる。また、出展した場合でも、技術
を言葉だけで説明することは難事であり、来場者から十分な理解が得られないこともあ
る。
(図表8)三条信用金庫と他の信用金庫のネットワークを活用したビジネスマッチング実績
開催回数
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
第6回
第7回
(年月)
18 年4月 18 年 11 月 19 年4月
19 年 11 月 20 年4月
20 年 10 月
20 年 11 月
主催金庫
西京信金 西武信金
西京信金
西武信金
西京信金
青梅信金
西武信金
協賛金庫
三条
三条
三条
三条・浜松 三条・亀有 三条・亀有 三条・浜松
・青梅
・西京
出展企業数
31
19
38
17
30
12
18
(全体)
(104)
(209)
(107)
(210)
(130)
(99)
(215)
入場者数
300
4,900
1,500
5,000
2,000
698
5,050
商談件数
59
52
181
129
238
75
52
成約件数
8
21
9
7
18
9
未定
(備考)1.協賛金庫名は信金を省略
2.出所は三条信用金庫資料
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商談会当日の成約状況は把握しても、多忙な日常業務の合間を縫ってその後のフォロ
ーアップを行うことはなかなか難しく、その適切な実施は今後の課題に挙げられよう。
ただし、同金庫は、商談の主目的をその場での成約の多寡ではなく、顧客の課題の把握
とその解決策を見出すことに置いている。実際、当日は成約に至らずとも、いろいろな
人と知り合うことが、例えば会場での名刺交換が、後に奏功する場合もある。
商談会の参加者数が多数に上る場合は、会の運営面に細かな注意を払うことが重要と
なる。例えば、来場者がせっかく興味を覚えても、人が多いと落ち着いて話し込む雰囲
気が無くなり、立ち話で終わってしまう場合もある。数分間話すだけでは、個別商談ブ
ースに移るほど話も弾みにくい。それゆえ、開催準備の段階から出展企業に対して、自
社のプレゼンテーションの仕方を煮詰めること、マッチングの希望企業を調査・選定し
ておくことを要請することが、マッチング率を高めるためのポイントとなる。
今後も、商談会のやり方を進化させる必要がある。まずは、信用金庫業界のネットワ
ークを活用して、地元企業と遠隔地企業の双方にメリットのある地域で商談会を開催す
るなど、商談会の対象範囲を広域化することが求められよう。
また、ビジネスマッチングの主目的を商品・製品の販売とする企業も少なくないため、
主催者である三条信用金庫としては、それらのニーズに一定の配慮をすることも必要で
あるとしている。ただし、同金庫にとってビジネスマッチングの基本は、単発の販売促
進策ではなく、地元の技術をアピールすることで顧客が息の長い取引関係を新たな取引
先と構築すること、また、個別企業の技術力の向上を通じて地域産業全体の強化を図る
ことであり、そのような仕組みを作ることこそが重要であると考えている。それゆえ同
金庫は、商談会も数ある販売促進支援手段の一つであり、効果が乏しくなればそれに固
執することなく、他の方法へ転換すればよいと考えている。
ビジネスマッチングを地域貢献の観点から地域ぐるみの活動とするためには、信用金
庫単独主催という形式にとらわれず、地元自治体、大学、産業団体などと一体となって
取り組むことが重要である。2007年に同金庫が三条市内の若手経営者約100名による二
世の会(さんしん未来塾)を立ち上げたのも、メンバーが社長となったとき、個々の力
では対応が困難な問題に対して、地域全体で支えあう人的ネットワークを構築しておく
ことが大切であると考えた故である。
おわりに
以上、最近の開示情報等からうかがえる、課題解決型営業への地域銀行の取組み状況
を整理し、次に課題解決型営業を実施するうえで第一に求められる顧客課題の発見能力
について、信用金庫における対応状況と問題点等についてみてみた。そして最後に、課
題解決型営業の取組み事例のうち、創業支援における多摩信用金庫の事例とビジネスマ
ッチングに関する三条信用金庫の事例等を紹介した。
課題解決型営業への取組みについて、図表5の①の項目のように、多くの地方銀行や
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第二地銀が取り組んでいるとする項目は、信用金庫の顧客ニーズも高いものと思われる。
自金庫の経営資源との兼合いの中で考える必要があるが、外部提携も選択肢と捉え、積
極的に取り組むべき施策であろう。一方、図表5の②(地方銀行、第二地銀とも取り組
み度合いが低い)や、③(地方銀行が第二地銀より取組み度合いが高い)の項目は、顧
客ニーズの有無や自金庫の経営資源、競合との関係などを考慮し、是々非々で判断すべ
き施策であろう。
顧客課題の発見については、それを見出せない顧客に対する課題の提示と、課題の提
示を望まぬ顧客や課題の存在を全く認識していない顧客に対して課題の存在を受け入
れるよう説明し、説得することが重要である。皮肉な話ではあるが、顧客が困難に直面
している状況のときこそ、課題の発見や解決に向けて、より顧客の協力を得やすいと言
える。それゆえ、現下の不況局面は、顧客課題はより深刻となり、その解決はより困難
となろうが、顧客の協力が得やすくなるという点では、積年の課題を一掃する好機と捉
えることもできよう。ただし、その機会を活かすためには、課題解決型営業に対応し得
る人材の育成策(課題発見力の育成など)と全社的な情報環流の仕組み(成功事例の共
有化や顧客課題を本部へ吸い上げる仕組み)が必要となる。
多摩信用金庫と三条信用金庫の事例においては、両金庫とも、顧客企業のビジネス開
拓支援としてのマッチングを行政区域の枠にとらわれることなく、より広い視野をもっ
て取り組んでいた。今後も様々な分野で地域金融機関の業務の広域化がテーマとなって
いこうが、その際、個々の信用金庫は、自らの狭域高密度経営の強みを維持しながら、
信用金庫業界の連携力を活かして広域化のメリットを求めることが肝要であると考え
る。
以 上
(間下
聡)
本レポートのうち、意見にわたる部分は、執筆者個人の見解です。投資・施策実施等についてはご自身の
判断によってください。
15
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