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日本の 中古住宅マーケットに 潜む危険

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日本の 中古住宅マーケットに 潜む危険
1
第
章
日本の
中古住宅マーケットに
潜む危険
買ってしまってから「欠陥」が発覚するという悪夢
今、日本の中古住宅市場ではどんなことが起きているのでしょうか。はじめに、いくつ
かの事例を通して、現状の問題点を探ってみましょう。
まず、築 年の木造住宅を購入した人のケースから。
その家には、引き渡しぎりぎりまで売主が住んでいたため、購入者が建物をじっくり見
ることができたのは、引き渡しの翌日のことでした。改めて家じゅうを観察すると、玄関
ドアに隙間があるうえ、そのドア枠が外壁のタイルと平行になっていないことが発覚。さ
らに、2階に上がってみると、網入り窓ガラスにヒビが2カ所も見つかりました。
また、築8年の中古住宅を購入した人のケース。
入居してしばらくは何事もなかったのですが、2カ月が過ぎた頃に到来した台風で雨漏
りが発生しました。まさにこれから、住宅ローンの返済が始まろうというタイミングでし
た。
これらはいずれも、財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターに寄せられた相談
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事例です。
前者の「玄関ドア枠と外壁タイルが平行でない」という例は、最悪の場合、建物の構造
体そのものがゆがんでいる恐れがあります。もし大地震にでも見舞われれば、倒壊する危
険もないとはいえません。
また、後者の「雨漏り」は住んでいて不自由なだけでなく、構造体を腐らせるなど、建
物に深刻なダメージを与えかねません。しかも、このケースでは入居後2カ月を過ぎてい
るため、売主の責任を問えない可能性があります。
し
年間は施工会社や売主が保証義務を負うこと
新しく家を建てるときは、使用する建材や設備機器、設計の内容をこと細かに書面にし、
そのとおりに施工する前提で契約を結びます。引き渡し後、万一建物の構造にかかわるよ
か
うな瑕疵 (欠陥のこと)が発見されれば、
が法律で定められています。
Xさんが購入したのは、築 年のリフォーム済みの中古住宅でした。売買契約は、「現
況有姿」に同意して結びました。しかし、あるとき1階和室の巾木に虫食いを発見。そこ
もうひとつ、トラブルの事例を見てみましょう。
建物の質が悪くても、売主や仲介業者の責任は問えない?
そして、住宅で最も重要なのは、その隠れている部分。建物を支える構造体や断熱材な
ど、壁の内側にあるものこそが、建物の寿命と性能を決定づけるのです。
さて、ここで問題になるのは、ガラスのヒビなら目で見て発見できるけれど、壁の中に
隠れている柱や梁がどうなっているかはわからない、ということです。
引の範囲内であったと認定されてしまうのです。
渉をしておかなければならず、ひとたび売買が成立すれば、それは「現況有姿」として取
のが一般的になっています。窓ガラスのヒビなどは、事前にチェックして補修や価格の交
れません。そこで、
「現 況 有姿」
、つまり「現在あるがままの状態」を前提に取引を行う
げんきょうゆう し
しかし、中古住宅の場合は、仮に新築時の設計書類が保存されていても、完成してから
人が住み、年月を経ているため、傷み方や手入れの状態まではなかなか文書では表現しき
10
で床下を確認してみると、土台はシロアリに侵食されていました (不動産トラブル事例デ
。
ータ ベ ー ス よ り )
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たとえ「現況有姿」の取引であっても、売買時点では知りえなかった瑕疵については売
主に責任を問うことができます。このケースの場合も、売主に対して、瑕疵担保責任に基
づく補修費用等の支払いが命じられました。
ただし、瑕疵担保責任の対象や期間については、事前に契約書で取り決めておかなけれ
ばなりません。このとき、売主が不動産会社なら、「宅地建物取引業法」の定めで最低2
年以上の瑕疵担保責任が義務づけられています。
しかし、中古住宅では、売主が個人であるケースが多いのです。そして、個人の場合は
瑕疵担保責任を2カ月程度とするのが一般的になっています。
つまり、冒頭の相談事例では、雨漏りが起きたのが入居後2カ月を過ぎていたため、売
主の責任を問えない可能性が高いわけです (ただし、知っていて黙っていたなど、売主に悪
年以上の中古住宅では、瑕疵担保責任そのものを免除する契約が通例とな
意がある場合は責任追及が可能)
。
さらに、築
っています。
シロアリのトラブル事例に戻ると、ここでもうひとつ見逃せないのは、売買を仲介した
不動産業者が何の責任にも問われていないことです。買った一般消費者は、不動産会社は
「住宅のプロ」と捉えていたことでしょう。それなのに判決では、業者は「土台を見るこ
とはなく、シロアリについて特別に知識があるとはいえないことから、欠陥を認識し、ま
たは過失により認識しなかったということはできない」としています。つまり、不動産会
社がシロアリを見逃したのは無理もないことだから責任は問えない、という理屈です。
では、ここまでの問題点を整理してみましょう。
◦中古住宅は「現況有姿」の取引だが、表面から見ても建物の構造の状態はわからない。
◦仲介を行う不動産会社にも、建物の品質を判断する専門的な知識があるとは限らない。
◦購入後に欠陥が見つかっても、売主に責任を問える範囲や期間は限られている。
こうしたことから、
「中古住宅の購入はギャンブルのようなもの」と表現する人さえい
ます。買った建物の善し悪しは「運次第」だから、というのです。
残念ながら、日本の中古住宅市場では、まだまだ「建物の品質」が軽視されていると言
わざるをえないでしょう。
一生かかって返さなければならないようなローンを組んで買う家が、本当に安心して住
める状態なのか、この先、何年間ちゃんと住めるのか、わからないのが現実なのです。
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中古住宅の広告では、土地と建物の価格が区別されない!
中古住宅の市場にはもうひとつ、建物の品質を軽視しているかのように思われる実状が
あります。それは中古物件の「広告」です。
インターネットの物件情報サイトなり、新聞の折り込みチラシなり、お手元に中古一戸
建 て 住 宅 の 物 件 広 告 が あ れ ば 見 て く だ さ い。 価 格 は ど う 書 か れ て い ま す か。 3 5 0 0 万
円? 4000万円? それはいったい、何の値段でしょうか。土地? それとも建物?
そう、物件広告では、土地と建物の区別なく「合計価格」が表示される仕組みになって
いるのです。
「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」
(不動産公正取引協議会連合会)
の「住宅の価格の表示」には次のように書かれています。
と (不動産の表示に関する公正競争規約施行規則第 条第 号)
。
ス供給施設のための費用等を含む。〕に係る消費税等の額を含む。以下同じ。)を表示するこ
格〔当該敷地が借地であるときは、その借地権の価格〕及び建物〔電気、上下水道及び都市ガ
住宅 (マンションにあっては、住戸)の価格については、1戸当たりの価格 (敷地の価
38
」という、日本社会における不動産の考え方があるのではないでしょうか。
法第 条 第 1 項 )
こうした価格表示が行われてきた背景には「土地及びその定着物は、不動産とする (民
しかし、価格決定要因がまったく異なる土地と建物の値段が合計額でしか示されない現
実では、建物の品質と、その適正価格を評価するすべはありません。
いったことが評価されるべきではないでしょうか。
一方、建物ももちろん、建築時には資材相場や人件費などで景気の影響を受けます。し
かし、特に中古住宅の場合は、建物ひとつひとつの品質や性能、購入後何年住めるか、と
気によって大きく左右されるものです。
土地の価格を決める要素には、方位や道路付け、形状などさまざまなものがありますが、
それは個々の区画の差異を決めるにすぎません。地価は、社会的な経済状況、すなわち景
が果たして高いのか安いのか、判断することは不可能ではないでしょうか。
「全部でいくらなのか」が重要であること
もちろん、住宅を買おうとする人にとって、
はいうまでもありません。しかし、土地と建物の内訳が示されなければ、それぞれの価格
11
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私たち日本人にとって、長く土地は最も重要な資産でした。1990年代初頭のバブル
崩壊以前には、
「土地は必ず値上がりする資産である」という「土地神話」「土地信仰」が
まかりとおっていたことを覚えている人も多いでしょう。
万円だった家と
対して、これまで建物は「土地の定着物」としてしか捉えられていませんでした。前述
のように、不動産仲介のプロでも建物に関する専門知識を持つ人は少なく、建物の価格は
ほとんど築年数によってのみ評価されてきたのが現実です。新築時に坪
〜
年程度の建物が価格「ゼロ」とみなされ、「中古
万円かけた家とが、5年後に売られるときには同等の値段になってしまうこともあり
えます。それどころか、わずか築
坪
50
満たず、
「検査・点検の結果」については2割にも届きませんでした (図表1―1)
。
2007年にリクルート住宅総研が行ったアンケート調査によれば、日本の持ち家層の
うち「新築時の設計図書」を「すぐに取り出せる形で保管している」と答えた人は半数に
また、完成した後どんな使われ方をし、どんなメンテナンスが行われているのか、きち
んと記録している例はほとんどないでしょう。
せん。
中古住宅の場合、たとえ新築時の設計資料が残っていたとしても、それが本当にそのと
おりに施工されているかどうかは、当時の関係者でもなければうかがい知ることはできま
先に、
「表面から見ただけでは、建物の構造はわからない」というお話をしました。
ない」ことには値段のつけようがありません。
中古住宅の市場で建物の品質が価格に反映されないのには、根本的な要因があります。
それは、建物の品質を判断するための材料がないことです。そもそも「品質がよくわから
車には「車検」があるのに、住宅にはなぜ「家検」がないのか?
しても、それがほとんど評価されない、ということでもあります。
大事な我が家を売りに出す人にとってみれば、建てるとき、どれほど耐震性や断熱性の
確保にお金をかけたとしても、また、住んでいる間、どれほど丁寧に手入れをしてきたと
ません
一戸建て住宅」ではなく「古家付き土地」として売りに出されるのも珍しいことではあり
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固定資産税の
納税通知書
権利書
管理規約・
使用細則
検査・点検の
結果
建築確認済証・
検査済証
新築時の
設計図書
土地測量図面
分譲会社や建設
会社の保証書
リフォーム時の
設計図書
その他
何もない
34.9
45.5
16.5
30.9
38.5
25.8
44.9
17.8
33.2
12.6
29.9
11.8
6.3
11.2
1.4
7.1
17.6
9.7
80
60
40
20
調査数:日本 2000 米国 1000
出典:
「既存住宅流通活性化プロジェクト」リクルート住宅総研
自動車ならば、一定期間ごとに点検
が義務づけられていて、これを怠れば
公道を走ることはできません。中古車
売業者が点検・整備するのが一般的で
として取引される際には、販売前に販
す。売る側も買う側も、走行距離や修
理歴など、それまでの履歴を考慮して
値付けや交渉を行うでしょう。
車には「車検」があるのに、住宅に
「 家 検 」 が な い の は な ぜ で し ょ う か。
車は点検・整備を経て市場に出される
のに、住宅の売買では、点検の有無も
補修の履歴も顧みられないのはどうし
てでしょうか。車は道を走るけれど、
家は個人の土地にとどまっていて、住
たとえば、家を買うとき、建てるとき、私たちはその選択基準の第一を「自分にとって
住みやすいこと」に置きがちです。
に対して、客観的な視点に欠ける傾向があります。
「住宅は個人の持ち物」という意識は住む人自身にも強く、それゆえ「自らの家の品質」
買った人も売った人も、幸せになる世の中に!
ち物ですが、同時に社会資本でもあると捉えるべきでしょう。
が、これからは住宅の寿命を延ばすことが求められる時代です。家は一義的には個人の持
に引き継ぐこともあれば、他の人に譲り渡すこともあるでしょう。次章で詳しく述べます
確かに、住宅は個人の持ち物であり、点検も修理もリフォームも、すべて持ち主の裁量
に任されているのが現実です。けれども、住宅は一代限りのものとは限りません。子ども
人以外にかかわりを持たないから?
(%)
100
もちろん、それ自体は悪いことではありません。しかし、「自分のこと」しか考えない
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71.1
72.9
日本
米国
52.2
82.1
0
現在の住居のすぐに取り出せる形で保管している書類(全体/複数回答)
図表₁-₁
ために、普遍性に乏しい、凝った間取りにしてしまったり、快適性や省エネルギー性など
の基本性能を軽視してしまったりしては、他人に引き継ぎにくい建物になりかねません。
「自分が一生住むのだから、それでいいじゃないか」と思うかもしれませんが、何が起き
るかわからないのが人生です。親の介護や離婚のために生活が一変してしまうこと、思わ
ぬケガや病気によって今までどおりに働き続けられなくなることなど、身近な誰かの身に
起きたことは、いつなんどき、自分の身に降りかからないとも限りません。また、親や子
どもの家族と同居することになってより広い住まいに買い替えることや、新天地を求めて
住み替えたくなることだってあるでしょう。
事実、旭化成ホームズグループの調査では、売買が成立した中古住宅のうち %がわず
か築5年以下、築 年以下も含めると %にも及ぶ、というデータもあります。せっかく
手に入れた新築住宅を
す (図表1―2)
。
10
年もたたないうちに手放している方が少なくないことがわかりま
30
15.2年
平均
(資料)旭化成不動産株式会社
%に売却損が発生
それでも、
「土地神話」が生きていた時代なら、建物が二束三文にしか評価されなくても、
土地の値上がり分で十分元が取れたかもしれません。しかし、2009年に社団法人不動
10
10
15.3%
20%
75
%を占めてい
43
のです。
います。それこそが、住まいの「資産価値」な
同じように、家 を買うときもぜひ、「 売りに
出したときの価値」を考えていただきたいと思
な色の車を選ぶ人が多いと聞きます。
り売りやすさを優先して、白やシルバーの無難
を考えるのではないでしょうか。自分の好みよ
車を買うときなら、多くの人が「リセールバ
リュー (中古車として売りに出したときの価値)
」
価値の低い建物だったとしたらどうでしょう?
もしもあなたが家を売らなければならなくな
ったとき、その家が、買い手がつきにくい市場
るのです (図表1―3)
。
00万円以上に上った世帯が約
しています。しかも、その売却損の金額が10
産流通経営協会が行った調査では、自宅を売った世帯のうち、実に約
19%
23%
10年
〜15年以下
15年
〜20年以下
10%
11%
建築
5年
(その他)
〜10年以下
20年
〜25年以下
17%
5年以下
26年超
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第1章 日本の中古住宅マーケットに潜む危険
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旭化成ホームズグループで売買が成立した中古住宅の事例(築年数別)
図表₁-₂
100
90
80
住宅を売却した世帯の売却損益の状況(2009年)
(%)
3000万円以上益 3.3%
売却益発生
20.9%
2000万円未満益
損得なし
損得なし(0円)
4.6%
16.3%
4.6%
70
2000万円
以上益
1.3%
売却損発生
1000万円未満損
60
32.0%
50
40
売却損発生
74.5%
30
1000万円〜2000万円未満損
19.6%
1000万円以上損
中古住宅の市場において、建物の品質が適切に評価されないことは、買う人にとっても
売る人にとっても不幸です。何十年ものローンを組んで買った家が、万一欠陥住宅だった
第1章 日本の中古住宅マーケットに潜む危険
としたら? 大事な家を手放さなければならないときに、十分な対価が得られないとした
ら? どちらも、あってはならないことです。
私たちの生活の基盤であり、大事な財産である「住まい」。買った人も、売った人も、
幸せにならなければおかしいのです。そして、そのための市場環境を整えることが、私た
ち「優良ストック住宅推進協議会」の目標なのです。
27
図表₁-₃
20
2000万円〜3000万円未満損
15.7%
10
3000万円以上損
7.2%
0
n=153
出典:
「不動産流通業に関する消費者動向調査」㈳不動産流通経営協会
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