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第3章第1節~第3節 - 株式会社 十六総合研究所

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第3章第1節~第3節 - 株式会社 十六総合研究所
第3章
CA21の取るべき戦略
第3章
CA21の取るべき戦略
第3章 CA21の取るべき戦略
第1節 概要
1.目指すもの、それは 世紀の楽市楽座
「第1章 提言の背景 5.クリエイティブについて」において、クリエイティブの一
般的な概念について述べました。そこでは、クリエイティブな地域は、技術(Technology)
、
才能(Talent)
、寛容性(Tolerance)という 3 つのTを持っているとし、次の 6 つの方
向性―①地域の多様な“産業力”が結集できる、②“産業力”と“人材力”が融合して何
かが生まれる、③事業環境が整い、住むにも住みよい、④新しい人材やアイディアが継続
的に育つ、⑤周囲とのネットワークが豊富、⑥外部からの好感度が高い―の 6 つの方向
性を持つ地域が、強い人材吸引力・育成力と高い地域競争力を持つエリアであるとしまし
た。
ただし、この 6 つの方向性を実現するには、不必要な規制からは自由で、かつ、誰も
が参加できる環境が整っていなければなりません。
かつて、地域を代表する戦国武将、織田信長は、商業を発展させることを目的に、「楽
市楽座(注)」をこの地に開きました。楽市楽座は、現代でいう経済特区であり、
「座」に
よる独占販売権などの既存特権を排除した、自由かつ誰もが参加できる取引市場でした。
楽市楽座には、方々の国から多様な商品を売るためにあまたの商人が集まるようになり、
大いに賑わったと言います。これまでの枠組みにとらわれず、国内外の優れたリソースを
取り入れながら地域の発展を促そうとする楽市楽座の試みは、まさに CA21 の方向性に
近いと言えます。
温故知新、ここに CA21 が目指す方向を「21 世紀の楽市楽座」と名付け、この実現を
図るべく、本章及び次章において、その具体的な戦略について提案します(図表 3-1-1)
。
(注)
楽市楽座の現代的な見方について
(注)
歴史の様々な出来事から現代的な示唆が得られるという観点から、楽市楽座について書かれた名古屋市立
(注)
大学 横山准教授のコラム「インセンティブの経済史」参照。
22
第 1 節 概要
【図表 】 クリエイティブなエリア実現に向けた戦略
23
第3章
CA21の取るべき戦略
【コラム】 インセンティブの経済史
名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授 横山和輝氏
チャンス、権利保護、安心
部下に仕事を依頼する、子供に勉強をさせる、あるいは地域振興のために企業を誘致す
る―これらは、いずれもインセンティブ問題として捉えられる。インセンティブとは、や
る気にさせる工夫のことである。いかにしてこちらの要望通りの行動をとらせるか、こう
いった問題に悩んだご経験をお持ちの方は少なくないだろう。
効果的なインセンティブの与え方があるなら知りたいところである。だから歴史に着目
する意義がある。歴史は様々なインセンティブ付与の工夫の宝庫である。
戦国大名のビジネス誘致を例に挙げてみよう。戦国大名は家臣団の支持が不可欠である。
家臣が物資に困るようなことがあってはならない。そのためにも領国内に様々な物資が流
通するシステムを整える必要がある。あらゆる商工業者を領国内に誘致せねばならない。
特に内陸部の戦国大名は塩の調達が重要である。
しかし、戦国大名の権威は領国内に限られる。一方で、当時の商工業者は特定の有力寺
院・神社の権威のもとで座と呼ばれる同業者組合を結成していた。座のルールが彼らの行
動範囲を制限した。有力寺社が保護する権益を失いたくない以上、商工業者は座のルール
を遵守する。戦国大名はその権益を上回るだけのインセンティブを商工業者に付与しなけ
ればならなかった。
戦国大名の工夫、その一つが楽市・楽座である。座の権威を否定する楽市とよばれる経
済特区を設定し、特区内での商工業者の営業権を保証した。商工業者に新規ビジネスのチ
ャンスを与えた。楽市楽座に併せて戦国大名は法令を出し、押買(強制的に低い料金で売
らせる行為)を禁止するなど、売り手の権利保護を徹底した。加えて、楽市での治安維持
に努め、ビジネス面での安心を与えた。戦国大名の中には楽市の近辺に宿泊施設を作り、
その警護を命じて商工業者に安心を与えた者もいた。チャンス、権利保護、そして安心、
これらが商工業者に与えられたインセンティブである。
イエズス会宣教師ルイス・フロイスは、織田信長の支配下にあった当時の岐阜の賑わい
を次のように記している。
「この街には八千人ないし一万人の町民があるそうです。…(中
略…家の中では商取引が盛んで、バビロンの混雑のように見えるほどでした。そこには
方々の国から塩やその他の商品を負うた多数の馬を曳いて商人たちが集まってきたからで
す」
(ルイス・フロイス『日本史4』柳谷武夫訳、平凡社、 年)
。多くの塩が集まるほ
ど商業がにぎわった様子がうかがえる。チャンス、権利保護、そして安心、これらを与え
るだけの調整力を信長が行使したゆえのことである。強制的な態度を貫いたのでもなく、
自由放任としたのでもない。
インセンティブというキーワード一つで、歴史の様々なできごとから現代的な示唆が得
られる。歴史学の成果に注目した議論が経済学の新潮流の一つとなっている。
(よこやま かずき 経済史・金融論。博士経済学・一橋大学) 年生まれ。)
( 年 月 日 中部経済新聞 オープンカレッジより)
24
第 1 節 概要
2.クリエイティブな人とは
クリエイティブな人というと、一般的には技術者、研究者、デザイナー、アーティスト、
ディレクター、専門家、文筆家、芸術家などクリエイティブな職種に就いている人を思い
浮かべます。また、そういった職種に就きたいと努力している人もこれに該当するかも知
れません。人それぞれにイメージが異なることから、ここで、本提言で言う「クリエイテ
ィブな人」について説明します。
本提言では、クリエイティブな人を職種で制限しません。クリエイティブな心は誰にで
もあるため、CA21 は、そういった心を育て、そういった心のパワーを発揮しやすい場所
となることを目的としているからです。すなわち、
本提言でいうクリエイティブな人とは、
既にクリエイティブな力を発揮している人、これからクリエイティブな力を発揮したいと
思う人全てを対象にします。私どもはクリエイティブな人の範囲を大変広く考えており、
ある意味、
「新しいことに前向きな人」は全てクリエイティブな人になります。
ただし、次節以降で述べる個々の戦略が対象とする「クリエイティブな人」の概念は、
戦略ごとに異なる場合があり、新しいことに前向きでない人を含めるケースもあります。
こうした個々の戦略における定義は、各セクションで明示的にあるいは暗黙的に述べます。
【図表 】 クリエイティブな人の概念図
新しいことに前向きな人
第 節以降の個々の戦略で対象とする
クリエイティブな人
25
第3章
CA21の取るべき戦略
3.CA21が求める人について
CA21 はクリエイティブなエリアを目指します。しかし、CA21 が求める人(CA21 に
来ていただきたい人)に制限はありません。CA21 がクリエイティブなエリアとなるため
には、内外の様々な考えを受け入れる必要があり、
「どのような人でも積極的に受け入れ
る」ことは、CA21 の基本的なポリシーです。
26
第3章
CA21の取るべき戦略
第2節
産業発展・人材育成戦略
第3章
CA21の取るべき戦略
第2節 産業発展・人材育成戦略
ここでは、
クリエイティブなエリアを作る 3 つのT~技術
(Technology)
、
才能
(Talent)
、
寛容性(Tolerance)~から導かれる 6 つの方向性のうち、①地域の多様な“産業力”が結
集できる、②“産業力”と“人材力”が融合して何かが生まれる、③事業環境が整い、住
むにも住みよい、④新しい人材やアイディアが継続的に育つ、の 4 つの方向性を受けて、
産業発展・人材育成に関して述べます。その前に、岐阜県・愛知県の企業の皆様から様々
なご意見をお伺いしましたので、まずはその紹介から始めます。
1.企業ヒアリング結果から
企業ヒアリングに際しては、前向きで活力ある企業にお伺いしたいということで、当社
が実施した「平成 25 年 7~9 月期企業動向調査」におけるアベノミクスに関する質問で、
今後最も期待する政策について、「技術革新の支援」、「規制緩和」、
「経済特区の創設」の
いずれかを選んだ企業 20 社について実施しました。
お伺いした項目は、規制緩和や経済特区、技術革新、産学連携など産業発展に関するこ
とや岐阜地域に関することです。岐阜地域に関することについて、岐阜地域の企業には、
岐阜地域の強みや弱み、立地など、岐阜地域以外の企業については、岐阜地域との関わり
や岐阜地域の魅力などについてお伺いしました。
企業ヒアリングの中で、私どもが最も衝撃を受けたお話は、こんな感じでした。
私ども
「岐阜にどんなイメージをお持ちですか?」
A社
「岐阜と言ってもイメージがわかないな~。あまり関わりないしね。」
…(他のやりとり)…
私ども
「どんな地域の企業とお取引されているのですか?」
A社
「関市とかね。売上の半分くらいが関や各務原の企業向けだよ。ん?関や各務原
って岐阜か。岐阜とは関わりあったんだ。ゴメン、ゴメン。」
まさに、これほど印象が薄いのが岐阜なのだと思い知らされた瞬間でした。このエリア
が持っている地力をきちんと認識し、魅力を外に向けて発信し、新しいエネルギーの流入
を促すことの大切さを再度確認しました。
28
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
ヒアリングでお伺いした具体的なご意見は次のとおりです。
○産業発展に関する主なご意見
 マンションの容積率緩和や土地利用に関する規制緩和など、不動産をもっと有効利用
できるようにして欲しい。
 レジャー関連で景品に商品券を出せるようになれば、地域の商業活性化に役立つと思
うが、有価証券の発行とみなされる行為については規制される。
 時代に合わない規制を時代に合うようにしてほしい。例えば、サプリメントは食品と
薬剤の中間のようなものだが、薬事法や食品添加に関する規制など中途半端な扱いを
受けているように思える。
 既得権を守るような規制があり、新規参入を阻んでいる。
 規制が甘く参入が容易すぎて、品質・安全性が保たれていない業界もある。
 国が発注する公共工事は、大手ゼネコンしか入札資格がない場合が多い。地元企業は
下請けとして参画するしかなく、入札要件を緩和して欲しい。
 岐阜にはデザイン等の専門学校がなくなりつつあり、人材育成に支障がでている。入
社前、入社後通して、体系的にデザイナー、パタンナーを教育・育成する特区を作っ
てはどうか。
 インフルエンザワクチンは流行の型が分かってから製造するため、生産設備は短期間
高稼働するが、年あたりの稼働期間が短く採算性が悪い。国家戦略上必要性が高いの
であるから、採算性の悪さを補えるような優遇策を設けた特区を作ってはどうか。
 大企業の 100%出資子会社の場合、中小企業向け優遇施策が受けられないことがある。
大企業の子会社でも中小企業として扱う特区を作れば、全国の大企業が子会社を設立
してくれるのではないか。
 一部で言われている企業を利するような解雇特区とは逆に、従業員が働きやすく、モ
チベーションを高められるような特区、例えば時間外労働禁止特区のようなものをつ
くると、いい人材が集まるのではないか。
 技術には自信があるが、販路開拓が課題。産学連携でも、技術面の支援は厚いが、販
売面の支援はないに等しい。
 職人が高齢化し、不足している。正社員になれない若者が多いと聞くが、雇用のミス
マッチが起きているのではないか。
 人材育成について、せっかく教育投資しても、すぐ辞められてしまうリスクを考える
とお金を使いにくい。
 Made in Japan の製品を高付加価値イメージでヨーロッパに売るという戦略が有効
ではないか。
 工業団地にレジャー施設をつくれるようにしてはどうか。
 業界団体の垣根を越えたセミナーがあるといい。
29
第3章
CA21の取るべき戦略
 中小企業といえども、グローバルな事業展開が求められる。帰国後一定期間岐阜地域
で働くことを条件に、若い人材の海外派遣を支援する仕組みがあるといい。
 繊維にもエコカー減税のような施策を。
 販路開拓でのサポートをしてくれる仕組み、人材が欲しい。
○岐阜地域(必ずしも CA21 に限定しない)に関する主なご意見
 魅力がない。
 イメージがわかない。
 名古屋に対し、どうアピールするかを考えることが大切だ。
 教育機関のレベルが低い。学園都市をつくるべきだ。
 土地があるのが強み。まとまった土地を比較的安価に利用できる。
 若者の他地域流出が進んでいる。地元で正社員として働く若者を増やすため、職業訓
練に力をいれて欲しい。
 長野や新潟には精密機械を製造している企業が多く、これら地域の企業との取引が拡
大すれば岐阜地域は立地として魅力的。
 もし今の場所を移転するのであれば、①高速道路に近く、②駅にも近く、③人が集ま
りやすいところがいい。岐阜地域は、①、②は合格だが、③はどうか。
 岐阜といっても、高山の印象が強く、寒くて雪が多いイメージだ。
 工賃が安いというイメージがある。
 取引先とは、クレーム対応や打合せなどがあり、近い方が便利。高速道路で岐阜地域
にいけるのであれば新規の取引も広がるのでは。
 岐阜地域は地元の会社がしっかり市場を固めているため、会社方針として岐阜へは進
出しないことが決まっている。岐阜は排他的だ。
 川原町の古い町並みは魅力的だ。観光資源化すべき。
 シャトル観光バスを運行して周遊利便性を高めてはどうか。
 鵜飼を中心とした観光資源開発をするべき。
 かつてのパルコのように、名古屋にない施設があれば人も集まるのでは。
 大理石を使った施設を作るなど、ファッションの街として訴求してみては。
 島根が「残念県」と訴求しているように、ネガティブをポジティブにするキャンペー
ンをしてみては。
 「名古屋から 20 分」ということを、もっとアピールすべきだ。
 「おんぱく」をもっと PR するといい。
 映画などのロケ地誘致をするといい。
 ゆるキャラを作って活用するといい。
 日本一のものを作って訴求する。
30
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
寒い、雪が多い、魅力がないといったネガティブな印象で岐阜を語られる方が多かった
反面、地価や賃金が安いのではと、新規進出立地としての可能性をうかがわせるお話も聞
けました。
規制緩和に関しては、土地や建物の有効活用を求める意見が多く聞かれました。また、
医薬品とサプリメントや、医療と整体などのように、厳しい規制がある分野に類似した分
野があるような場合、過剰な規制が存在したり、業種によっては、逆により適切な規制が
必要と感じる場合があるといった声も聞かれました。
経済特区については、岐阜はアパレルの街ということで、ファッションを前面に打ち出
した特区、労働者の側からみて働きやすい特区、大企業の子会社であっても中小企業優遇
策のメリットを享受できる特区の創設といった意見が聞かれました。また、ビジネススキ
ルを学ぶ教育機関(例えば、アパレル業界において、デザイナーやパタンナーを教育・育
成する機関)が少ないという意見も聞かれました。
中小企業にとって、人材育成コストの負担は大きく、特に、入社直後の初期教育につい
ては、業界を超えて共通する部分も多いため、エリアでその役割を担うなど、公共化する
ことも有効かもしれません。また、働きやすい特区という面では、時間外労働を制限する
ことなどにより、ここで働く人の自由時間を確保し、余暇を楽しむ、学びなおす、起業す
るといった新しいライフスタイルの創出を支援することも、地域の活力を高めることに繋
がります。
それでは、こうしてお伺いした意見、アイディアも参考にしながら、4 つの方向性から
導かれた 3 つの戦略について述べていきます。
31
第3章
CA21の取るべき戦略
2.地域の行政・民間が一体となった産業人材強化への取り組み
~ここでのびる。人が育ち、産業が興るエリア~
エリアの目指すべき方向性「①地域の多様な“産業力”が結集できる」と「②“産業力”
と“人材力”が融合して何かが生まれる」から導かれる戦略については、
「地域の行政・
民間が一体となった産業人材強化への取り組み」として描きます。クリエイティブなエリ
ア形成のために、寛容性(Tolerance)というTの下、様々な人に集まってもらいたいと
いう思いはありますが、その前段として、そもそもこのエリアが持っているクリエイティ
ブな部分を十二分に伸ばしたいという願いもこめ、ここでの戦略を考えてみたいと思いま
す。
また、戦略の理念として、
「ここでのびる。人が育ち、産業が興るエリア」を掲げまし
た。
地域の人材、
産業がより成長する。そんなエリアにしたいという思いを込めています。
(1)ビジネス塾「信長学講座」(仮称)の展開
地域の英雄「織田信長」について学ぶことは、地元のことをより深く知る第一歩とな
ります。戦略家信長の生き様は、まさに経営の指南書と言えます。「信長に学ぶ経営学」
といった趣旨で講演をするコンサルタント等は全国に何人もいると思われます。このよ
うに様々な人に語られる信長流経営学を集約、体系化して経営指南書を作成すれば、相
当に訴求力のあるコンテンツとなります。コンテンツは、ICT を活用しオープン化、ウ
ィキペディアのように、中味が自己充実するような仕組みがいいでしょう。
コンテンツのヴァーチャル展開と並行し、リアルの世界で「信長セミナー」を展開し
ます。長良川沿いのホテル等で岐阜城を眺めながら受講できるようにすれば、こうした
セミナーが岐阜で実施されることの付加価値が増すでしょう。
(2)中小企業の初期教育投資の公共化
中小企業の構成比が高い CA21 は、大企業を誘致するよりは、中小企業が事業展開し
やすい環境を整える事を優先すべきでしょう。企業ヒアリングにもあったように、中小
企業にとって、定着するかどうかわからない入社したばかりの従業員に対する教育には、
転職や退職により教育投資が無駄になるリスクがつきものです。そこで、新社会人に必
要な、ある意味どんな企業でも共通するようなビジネススキル、いわゆる「社会人基礎
力」に関する部分の教育は、
「公」がその役割を担ってもよいのではないでしょうか。
例えば、CA21 エリア内に NPO 法人のビジネススクールを設立し、CA21 の一員であ
る市町との協働事業を展開します。講師は、CA21 エリア内等の企業で人材育成を担当
していた人などを中心に集めます。
軌道に乗ったら、
「社会人基礎力」に加え、アパレル基礎力、航空機基礎力、医薬品基
32
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
礎力といった、CA21 の業種特性に合わせた「業種別ビジネススキル」も、選択科目と
して教育できるようにします。業種別ビジネススキルについては、CA21 に立地する企
業をリタイアした優秀な人を講師として受け入れ、地域の匠の技の継承にも資するもの
とします。協力が得られる企業からは、現役の臨時講師を招きます。例えば、浜松市で
は、ものづくりマイスターを認定し、地域の人材育成に役立てています。
また、CA21 エリア内や近隣の大学には企業出身の教授も大勢いますし、愛知県には
企業系列の大学校もあります。こうした教育機関との連携をすすめることで、講師陣の
充実を図り、カリキュラムの実効性を高めます。
<浜松ものづくりマイスター>
浜松市には、優れた技術を持ち、人材育成に熱意のある人を公募し、審査の上、
マイスターとして認定、企業や学校などで講演、技術実習等を行う「浜松ものづ
くりマイスター」という制度があります。平成 22 年の事業開始から平成 25 年ま
での 4 年間で 12 人のマイスターが認定されています。
(3)ミッション付加型社会人海外留学制度
帰国後の一定期間、CA21 での就業と留学先大学との交流事業への従事を条件に、社
会人の海外留学に係る支援を実施します。
中小企業においても、グローバルな事業展開は必須となってきていますが、海外での
人脈等ネットワークづくりには苦労している企業が多いのが実情です。海外経験の豊富
な人材の育成や、海外と交流を深めるような取り組みの展開は喫緊の課題となっていま
す。
33
第3章
CA21の取るべき戦略
人材流出の脅威を教育資源の強みを活かすなどして克服し、CA21 を「人材が育つ街」
としていく(1)~(3)の戦略イメージをまとめると以下のようになります。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
人材の流動化による
人材育成コストの未回収
強み(Strengths)
企業大学の存在
多数の企業出身者
弱み(Weaknesses)
34
強みを活かして脅威を克服
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
3.製商学連携等による新産業・ビジネスモデル創出
~ここにつくる。世界一が産まれるエリア~
次は、エリアの目指すべき方向性「①地域の多様な“産業力”が結集できる」と「②“産
業力”と“人材力”が融合して何かが生まれる」、
「③事業環境が整い、住むにも住みよい」
から導かれる戦略について述べます。ここでは、前節で、官民一体となった取り組みによ
り、エリアの人材を中心として産業基盤が強化され、態勢が整うのを受け、外部の力の導
入を目指します。マイクロビジネスへの参入を目指す起業家、アクティブシニアライフを
享受するためビジネス塾で匠の技を教えようという退職者など、クリエイティブな思いを
持った人なら誰でも歓迎ですが、特に力を入れたいのは、産学連携を目指す「学の力」の
誘致です。産学連携の学といっても、従来型の理系依存のものではなく、マーケティング
や経営学といった文系学部との連携を重視します。すなわち、「製商学連携等による新産
業・ビジネスモデル創出」として戦略モデルを描きます。戦略の理念は、世界的にもまれ
な文系学部と民間企業のコラボレーションによる、CA21 発、「世界初」のビジネスモデ
ルの創出を目指し、
「ここにつくる。世界一が産まれるエリア」としました。
(1)民間企業・文系学部連携による新ビジネスモデルの創出
理系学部と企業による技術開発等の共同研究が盛んであるのに比べ、マーケティング
や経営学系の学部と企業のコラボレーションによる社会実験等の実施例は、極めて少な
いのではないでしょうか。しかし、
「技術より売り方が課題である」といった声は企業ヒ
アリングでも多く聞かれ、また、人材育成とあわせ、労働生産性をどう高めるかといっ
た悩みは、全企業共通のものと言っても過言ではありません。そこで、ここ CA21 でマ
ーケティング、経営に関する新たなビジネスモデルを生み出せばいいのです。CA21 に
コーディネート機能を持たせ、協同(共同)研究に参加を希望する企業を仲介、社会実
験の場を提供すれば、全国トップクラスの大学からオファーがくると思われます。ICT
があれば、距離のハンディキャップも克服できます。
文系学部が関与する産学連携の未開拓、経営学に関する実証実験機会の不足という機
会を活かして、ものづくり力に比べ弱い販売力、中小企業における労働生産性の低さと
いった弱みを克服するための触媒として、CA21 が機能することが望まれます。
35
第3章
CA21の取るべき戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
文系学部が関与する産業連
携の未開拓
経営学に関する実証実験機
会の不足
強み(Strengths)
弱み(Weaknesses)
ものづくり力に比べ弱い販売
力
機会によって弱みを克服
中小企業における労働生産
性の低さ
(2)ニッチトップ学部の強化
スウェーデンにベクショーという市があります。英国 BBC から「Greenest City in
Europe」と呼ばれるほど、環境に対する取り組みが優れていることで有名ですが、そこ
にあるリンネ大学も、ベクショー市の経済成長を支える大きな要因になっていると言わ
れています。その理由は同大学の木材、森林に関する研究が世界各国から人をひきつけ
ているからです。木材、森林というと、産業研究の中では決して大きな分野ではないと
思われますが、
それでも世界最先端ともなれば、
つまりニッチの中でもトップになれば、
世界中から人をひきつける引力を持つということの一つの証左と言えるでしょう。
CA21 には、日本でもトップクラスの獣医学部があります。例えば、CA21 の獣医学
が世界におけるニッチトップになれば、世界中から CA21 に人が集まってくるかもしれ
36
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
ません。トップレベルにある「学」を貴重な地域資源として、地域の成長ドライバーに
仕立てていくことも、地域活性化のために CA21 が取るべき戦略の一つと言えます。
<ベクショー市>
スウェーデンにある人口 83,000 人の地方都市。中小企業 8,000 社、IT 企業 400
社を擁する起業家の街としても知られ、毎年 300 社の新しい企業が誕生している
と言われています。同市にあるリンネ大学では、木材と森林、エネルギー、木造
による革新的建築など、地域資源の徹底活用による産業育成が盛んで、世界中か
ら毎年 1,000 人の留学生を受け入れています。
(3)産学連携による健康・環境ビジネス・生活付加価値の創出
CA21 には、薬学に関する大学もありますし、健康産業もあります。近隣の伊吹山は、
薬草の宝庫としても有名です。こうした地の利を活かした薬草ビジネスの創出をコーデ
ィネートしていくことも、CA21 の戦略となり得るでしょう。その際、単にビジネスを
創出するだけでなく、
その事業が地元で行われることの恵みを地域の人が享受できれば、
地域の幸福度は上昇するでしょう。
CA21 の所得は大都市圏ほど多くはありません。しかし、生活コストを抑えることに
より、大都市圏以上に可処分所得を高めることは可能です。薬草ビジネスの推進が健康
ビジネスの活性化に繋がり、CA21 が今以上の「健康エリア」となることで家計におけ
る医薬品費の節約を実現できれば、可処分所得の増加を達成できるでしょう。
また、岐阜県では、再生可能エネルギー利用の観点から、小水力発電やバイオマス発
電にも力を入れています。平成 23 年度に実施された「農業水利施設を活用した小水力
発電可能地調査結果」によれば、農業水利施設(農業用水路、農業耕水路、ため池)を
活用した小水力発電可能地は県内に 33 か所あり、合計で約 2,300kw の発電出力が見込
まれています。
また、
間伐材等未利用木材を主な燃料とするバイオマス発電プラントも、
平成 26 年秋に CA21 の瑞穂市で稼働が予定されています。
こうした再生可能エネルギーを有効利用した施設は、より少ない水量や落差で発電を
可能にする技術や、より効率的に間伐材を搬入、ストックする仕組みの実現により、更
に増えていくことが期待されます。再生可能エネルギーの有効利用の促進により、光熱
費節約の面からも可処分所得を増やすことが出来るでしょう。
37
第3章
CA21の取るべき戦略
【図表 】 加子母清流発電所(注)の概要
出所:岐阜県作成パンフレット「スマートビレッジかしもを目指して」より
こうして、CA21 で生まれる新ビジネスが当エリアに生活付加価値を産み出すことが
できれば、CA21 が目指すべき方向性の一つである「事業環境が整い、住むにも住みよ
い」が実現します。そこから人材誘致による地域活性化という新たな活路も開けます。
加子母清流発電所は、中津川市加子母小郷地区を通る既存の農業用水の有効落差約 62mを生かして
(注)
年間約 168 万 kw 時を発電する小水力発電所です。発電量は一般家庭約 400 世帯分の年間使用電力
(注)
(注)
量に相当します。
本発電所は、国の補助を受けて岐阜県が中津川市と共同で整備し、平成 26 年 2 月 10 日に同市に
(注)
譲渡されて稼働を開始しました。東海 3 県で初の、県営施行の農業用水を活用した小水力発電所
(注)
(注)
です。
38
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
クリエイティブな人にはペット好きも多いことから、岐阜に日本トップクラスの獣医
学部があることと併せて、
「人もペットも住みよい」といった戦略イメージを描けば、以
下のようになります。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
エネルギー効率の悪い住宅
事情
生活コストの高騰
強み(Strengths)
多様な再生可能エネルギー
医学・薬学・獣医学のインフラ
の充実
強みを活かして脅威を克服
弱み(Weaknesses)
省エネ住宅=NZ 時㎡年㻌
↓㻌
超省エネ住宅=NZ 時㎡年㻌
ペットに住民票㻌
→わんわんドック㻌
にゃんにゃんドック㻌
補助㻌
可処分所得増㻌
+αで移住促進㻌
39
第3章
CA21の取るべき戦略
4.優れた事業環境の整備
~ここならできる。夢を叶えるエリア~
産業発展・人材育成戦略の最後は、エリアの目指すべき方向性「③事業環境が整い、住
むにも住みよい」と「④新しい人材やアイディアが継続的に育つ」から導かれる戦略につ
いて述べます。官民一体となった取り組みにより、強化された産業基盤に、外部の力が加
わり新たなビジネスモデル、新規事業が創出されるのを促進するためにも、
「優れた事業
環境の整備」として戦略モデルを描き、新規事業が継続して生まれるような事業環境を定
着させます。
戦略の理念は「ここならできる。夢を叶えるエリア」。プロジェクト的な取り組みにと
どまらず、CA21 に来れば、何かできる、夢を叶えられる、そんなエリアを目指すことで、
クリエイティブな起業家精神に富む人材の移住を促します。
(1)マイクロビジネスの拠点化及び新ライフスタイル特区の創設
世界の製造業の潮流は、20 世紀型規格品大量生産から、21 世紀型効率的大量生産、
または 21 世紀型少量オーダーメイド生産の 2 方向への流れになるとの見方がなされて
います。前者は、低コスト、世界標準規格化により極限まで効率化を進め、大量生産を
進化させるというもの、後者は、ものづくりのロングテール化の流れに従うものです。
【図表 】ロングテール
多
販
売
数
ICT の発展により、
「周辺」
に商圏が限定される売り場ではなく、
「世界」を商圏にできるネット販売等が浸透したことから、薄
くても広く売ることで販売機会を確保し、これまでは取り扱い
できなかった商品の取り扱いが可能となりました。商品を需要
が多い順にグラフ化すると、需要が少ない部分はシッポのよう
に見えることからこの名が付きました。
ロングテール
少
多 需 要 少
40
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
後者は、当然、多品種少量生産となりますし、個性がより重視されることから、デザ
イナーやクリエイターなどに活躍の場が広がります。そうであれば、まさにそうした産
業であるアパレルを抱える CA21 の向かうべき流れは、後者すなわち「少量オーダーメ
イド生産」の方向でしょう。
生産面でも、
3D プリンターに代表されるデジタルファブリケーションの進展により、
設備を持たなくても、個人のレベルでものづくりができる時代になりつつあります。こ
れからは、デザインのセンスに恵まれる、データ分析能力に優れるなどといった、高い
能力を持つ個人が製造の主役になると言われています。アパレルで鍛えられた当地の作
家性に富んだ人材が、そうした主役を演じることが期待されます。また、CA21 からそ
うした魅力あふれる人材が輩出されれば、外からも有望な人材が多数転入してくること
にもなるでしょう。
また、マイクロビジネスとも親和性の高い働き方として、オンラインワーカーという
新しい働き方があります。企業に雇用されるのではなく、スキルを売るという働き方で
す。CA21 においても、ICT を活用し、エリア内の定職についていない有望な人材(例
えば、
子育て等のためリタイアしたキャリアウーマン、起業を目指している大学院生等)
がオンライン上でコミュニケーションし、仕事を行える場所(オンラインワークスペー
ス)をつくり、エリア内企業で不足するスキルを融通しあうといったことができれば、
マイクロビジネスの発展に寄与するだけでなく、人的資源に制約のある中小企業にとっ
ても、有効に活用できる仕組みとなるでしょう。こうした仕組みが軌道にのれば、移住
までは考えないという有望な人材を CA21 に取り込む、逆に CA21 の有能な人材の活躍
の場を外に広げる(それにより CA21 の認知を高める)といったことに拡大展開するこ
とも期待できます。
<0Desk>
世界最大のオンラインワークスペースである0Desk では、約 290 万人のワー
カーが登録しており、55 万社が利用していると言われています。日本の企業も約
1,500 社が利用しています。0Desk を利用する企業の約 70%は経費節約ではな
く、仕事のクオリティーを高めるための利用です。また、オンラインワーカーの
時給は、1 年目で 60%、3 年続けると 190%増えていると言われています。
41
第3章
CA21の取るべき戦略
アパレルで培われた多品種小ロット生産への対応力といった強みを活かし、ものづく
りのロングテール化、新しい働き方の萌芽といった機会を捉える本戦略のイメージをま
とめると以下のようになります。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
ものづくりのロングテール化
新しい働き方の萌芽
強み(Strengths)
地場産業のノウハウ
強みを活かして機会をとらえる
強いものづくり力
弱み(Weaknesses)
デジタルファブリケー
ション(' プリンター
等)の進展㻌
地域の多品種少量生産ノウハウを強みとしたこの施策が軌道に乗れば、マイクロビジ
ネス団地のようなものを作り、
そこを通信費無料特区として、
高速ネット回線を無料化、
クリエイターの転入を更に促します。
時間外労働を禁止するなど、働く人に優しい、新しいライフスタイルづくりができる
ような特区を創設することも、新しい働き方を求めるクリエイターのニーズに応えるこ
とになるでしょう。労働時間制限により創出された時間は、余暇となれば地域の経済振
興に貢献しますし、学びに使われれば地域の人材力を向上させます。また、事業を起こ
す準備に利用され、新規事業の継続的創出に資するかもしれません。
また、現在、大企業の子会社は、中小企業向け優遇策を利用できませんが、これを利
用可能にできれば、CA21 に子会社を設立する大企業が続出するかもしれません。
42
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
(2)女性活躍支援特区の創設及び女性活躍支援宣言
女性の活躍支援が注目されています。ここでの戦略「優れた事業環境の整備」とは、
当然、女性が働きやすい環境ということも含みます。現状では、特に子育て期の女性に
とって、必ずしも働きやすい環境ではないということで、国の施策として次世代育成支
援策が実施されています。CA21 では、こうした施策に加え、特区創設などにより固有
の施策を実施し、より女性が働きやすい地域とします。あわせてエリアとして女性活躍
支援宣言を行い、施策の実効性を高めていきます。
例えば、
次世代育成支援対策推進法に基づく子育てサポート企業としての認定制度
「く
るみん」の認定基準には意識啓発研修の実施がありますが、
「2.(1)ビジネス塾「信長
学講座」の展開」で述べたビジネススクールで、エリア内企業による共同実施を支援し
ます。また、同制度では託児スペースなどを増改築して設けるなどした場合、割増償却
できるという優遇制度がありますが、中小企業にはそこまでの投資に踏み切れない企業
も少なくありません。そこで、CA21 では、共同利用の託児所を設けます。また、企業
内託児所を他企業にも融通した場合、国の優遇制度に付加して優遇する制度を設けます。
こうして、共同化により次世代育成支援策を中小企業にもより使いやすいものにします。
既に述べたように、新ライフスタイル特区では、時間外労働禁止に加え、男性の育児
休業取得を義務付けます。また、一定条件の下認められている非正規社員に対する育児
休業も完全認定します。
愛知県には「はぐみんカード」というものがあります。子育て家庭にカードが配付さ
れ、それを提示することにより協賛企業のサービス提供が受けられるというものです。
こうした子育て家庭応援カードは岐阜県にもあります。
ただし、こうした制度は進化する仕組みになっていないように思われます。CA21 に
は、子育て家庭からどんなサービスがあればうれしいかなど、情報を収集し協賛企業に
還元するという、制度を進化させるエンジンを組み込みます。協賛企業に消費者ニーズ
という情報が還元されれば、
こうした取り組みに参加するインセンティブにもなります。
また、育児休業中の労働者の中には、自宅で簡単なパソコン作業程度ならできるという
人もいます。情報収集分析業務が生まれるということは、こうした育児休業中の希望者
に軽作業を提供することにも繋がります。育児に専念したいならそれもよし、仕事慣ら
しするためにもやってみたいならそれもよし。CA21 は育児休業中の人に多様な選択肢
を与えるエリアになるのです。
また、女性が活躍するには育児休暇明け以降の子育て問題も解決しなければなりませ
ん。CA21 は次節で述べるように、高齢者が社会参加するエリアでもあり、エリアで子
育てするという理念が定着します。その理念を支える仕組みとして、子育て世代のライ
フステージに合わせたプログラムを揃えます。
例えば、保育園世代については、保育科がある大学と連携し、特別な保育実習をコー
ディネートしたり、就職していない待機保育士を活用するなどして、時間外保育等のニ
43
第3章
CA21の取るべき戦略
ーズにより対応できるようにします。また、小学校に入ったあとの学童保育を代替する、
低学年に特化したスポーツ教室やお仕事塾を高齢者ボランティア中心に展開します。
女性の活躍支援は、
共働きしやすい環境の整備にも繋がります。共働きの推進により、
大都市圏に比べ生計主体者の給与所得が低くても、世帯でみれば可処分所得は多いとい
った家計像を構築し、移住を促します。
【図表 】既存の制度を強化するイメージ
【図表 】ライフステージに合わせた支援
44
第 2 節 産業発展・人材育成戦略
(3)地域コンテンツビジネスの開発支援
エリアの目指す方向性の「住むにも住みよい」が具現化すれば、住んでいる人は住ん
でいるところを好きになります。映画、アニメ、ゲームといったコンテンツビジネスの
クリエイターが、好きな街を題材にすることはよくあることです。CA21 に転入してき
た、あるいはゆかりのコンテンツクリエイターが、CA21 のどこか、あるいは何かを素
材にした作品を制作し、それが広まれば、地域ブランド力が向上し、有能な人材をより
引き寄せることになります。
個々のクリエイターが CA21 でコンテンツビジネスに携わるためには、CA21 が創作
意欲に刺激を与えるエリアでなければなりません。豊かな生活環境、自然や造形物、人
情など豊富な素材も必要です。こうした生活環境、地域素材に関することは、次節以降
のクオリティ・オブ・ライフ戦略、ブランド戦略等においても述べますが、産業戦略パ
ートの本節では、こうした地域的強みをデータベース化し、訴求していく機能の必要性
を提案します。地域外の力も借りて、自分達も気づかないエリアのよさを発掘し、地域
外の人が知らないエリアのよさを外に向かって発信する機能は、CA21 を素材としたコ
ンテンツビジネスを振興していく上で不可欠です。
<パズル&ドラゴンズ>
国内で 2,300 万本がダウンロードされたといわれる(平成 26 年 1 月 4 日現在)
スマートフォン向けゲームに、
「パズル&ドラゴンズ」というものがあります。こ
のゲームでは日替わりで様々なコンテンツが登場するのですが、その中にゲーム
プロデューサーの故郷である富山県高岡市の観光大使キャラクターや、ブリ、シ
ロエビなどの名産品が登場するものがあります。
こうしてコンテンツとして採り上げられれば、2,300 万人に地域を訴求できる
ことになります。仮に 2,300 万枚のハガキを出して地域の紹介をしようとすれば、
ハガキ代だけで 11 億 5 千万円必要になります。
45
第3章
CA21の取るべき戦略
5.CA21にコーディネート機能を
本節では、クリエイティブな人の転入を、まず受け皿としての CA21 の地力を高める
ことからステップアップさせていくような象徴的なストーリー展開として描きましたが、
もちろん順序が前後することや、同時進行することもあるでしょう。いずれにしても、外
部の力の導入に関しては、それをコーディネートする機能が必要になります。
自動車産業や航空宇宙産業が集積し、日本の製造業の中心とも言える東海地区、その中
心地たる名古屋の発展を CA21 に取り込めばいいのです。名古屋に進出を計画する企業
や、名古屋で起業を目指す人たちを対象に、 CA21 が率先して、人材・オフィス・社宅・
資金といった経営資源をトータルにコーディネートし、
「クリエイティブ・エリア」とし
ての存在感を示すのです。まずは、名古屋に進出しようというクリエイティブな人材の住
居として、活動拠点の一部として CA21 を訴求するのです。
46
第3章
CA21の取るべき戦略
第3節
クオリティ
・オブ・ライフ戦略
第3章
CA21の取るべき戦略
第3節 クオリティ・オブ・ライフ戦略
クリエイティブなエリアを作る 3 つのT~技術(Technology)
、才能(Talent)
、寛容性
(Tolerance)~から導かれる 6 つの方向性の中で、
「③事業環境が整い、住むにも住みよ
い」と「④新しい人材やアイディアが継続的に育つ」の 2 つが定住人口の増加推進を図る
ための方向性となります。ここでは、岐阜県と愛知県で生活する人を対象に実施した居住
環境に対する個人アンケート調査の結果を参考に、CA21 エリアにおける定住人口の増加
を図るための戦略を提案します。
クリエイティブなエリア
を作る3つのT
エリアの目指す
べき方向性
エリア実現に
向けた戦略
③事業環境が整い、
住むにも住みよい
○“移り住みたくなる”
居住環境の整備
④新しい人材や
アイディアが
継続的に育つ
○地域独自の教育・
人材育成
技術(Technology)
産業発展のための
高い技術力
才能(Talent)
新しい価値を創出
する多様な人材力
寛容性
(Tolerance)
新しい人や産業を
継続的に呼び込み
受け入れる力
48
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
1.居住環境の現状分析
(1)個人アンケート調査の実施
前節でみたとおり、クリエイティブな「人材」の定住化を図るためには、その家族を
含めて住みやすいまちづくりをする必要があります。そこで、岐阜県と愛知県で生活す
る 517 人に対して個人アンケート調査を実施し、クリエイティブな「人材」が求める居
住環境と CA21 の現状を分析しました。
<個人アンケート調査概要>
調 査 方 法:インターネットでのアンケート調査
調 査 機 関:株式会社マクロミル
調 査 対 象 者:岐阜県または愛知県で生活する個人(有職者)
調 査 期 間:平成 25 年 9 月 20 日(金)~平成 25 年 9 月 24 日(火)
回
答
数:517 人
岐阜県居住者 うち、岐阜市居住者 うち、各務原市居住者 259 人
062 人
042 人
うち、岐阜市・各務原市以外の岐阜県居住者 155 人
愛知県居住者
258 人
うち、名古屋市居住者
103 人
うち、名古屋市以外の愛知県居住者
155 人
49
第3章
CA21の取るべき戦略
(2)クリエイティブな「人材」の定義
フロリダは、3 つのTの中の「才能(Talent)
」を「新しい価値を創出する多様な人材
力」と定義しました。また、本提言においてもクリエイティブな心は誰にでもあるもの
で、職種で限定するものではないとしております。
しかし、アンケート結果を分析する上で、クリエイティブな「人材」であるか否かを
客観的に判断することは困難であるため、
ここでは便宜的に職業区分の質問に対して
「管
理的職業」および「専門的・技術的職業」と回答した 216 人をクリエイティブな「人材」
とみなして分析を進めます(以下、この表現は個人アンケート調査に係る本項に限るも
のとし、単に「クリエイティブ」といいます)。
【図表 】個人アンケート調査回答者の職業区分
(単位:人、%)
(質問項目)
あなたのご 職業はなんですか?
次のなかから最もあてはまるものを一つお選びください。
クリエイティブ
管理的職業
専門的・技術的職業
クリエイティブ以外
事務職
営業・販売職
製造・生産工程職
建設・採掘職
輸送・機械運転職
農林漁業職
その他
全体
回答者数
㻞㻝㻢
㻡㻝
㻝㻢㻡
㻟㻜㻝
㻝㻜㻞
㻢㻜
㻣㻤
㻝㻡
㻝㻣
㻝
㻞㻤
㻡㻝㻣
出所:当社実施の個人アンケート調査より(以下、図表 3-3-7 まで同様)
50
割合
㻠㻝㻚㻤
㻥㻚㻥
㻟㻝㻚㻥
㻡㻤㻚㻞
㻝㻥㻚㻣
㻝㻝㻚㻢
㻝㻡㻚㻝
㻞㻚㻥
㻟㻚㻟
㻜㻚㻞
㻡㻚㻠
㻝㻜㻜㻚㻜
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
(3)クリエイティブが居住環境に求めるもの
居住環境についての項目別満足度に対する回答では、クリエイティブは
「通勤利便性」
や「職場の近接性や就業機会」
、
「地域のコミュニティ」が重要であると考えています(図
表 3-3-2)
。
また、現在の居住環境に対する満足度は、特に「名古屋市」に住むクリエイティブが
「空気、水、騒音などの生活環境」に不満を持っていることがわかりました。
【図表 】現在の居住環境に対する項目別満足度・重要度
(クリエイティブ:◆ 回答者全体:▲)
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
毎日の買い物など、普段の生活利便性について
高級品の買い物の便利さやコンサート・美術展などへの参加の容易さについて
図書館、博物館利用など文化・教養施設の充実について
各種の子育て支援制度や施設、小児医療支援など育児支援について
小中高校、大学など教育機会の確保、質について
ご近所づきあいなど地域のコミュニティについて
空気、水、騒音などの生活環境について
景観など暮らしの中での癒し、安らぎについて
レジャー施設、海、山へのアクセスなど娯楽について
職場の近接性や求職の多さなど就業機会について
通勤時間や混雑など通勤利便性について
保育施設など女性就業の支援体制について
防犯、防災など安全について
地方税、公共料金、物価など生活コストについて
満足度=非常に満足の割合+まあ満足の割合×0.5
-やや不満の割合×0.5-非常に不満の割合
重要度=①~⑭各項目と総合的な満足度との相関係数
51
第3章
CA21の取るべき戦略
(4)CA21(「岐阜市」・「各務原市」)に対する調査結果
① 訪問頻度
現在の居住地により、回答者を「名古屋市」、
「名古屋市以外の愛知県」、「岐阜市」
、
「各務原市」
、
「岐阜市・各務原市以外の岐阜県」の 5 エリアに区分けし、
「岐阜市」
以外に住む人に対して「岐阜市」への訪問頻度を、
「各務原市」以外に住む人に対して
「各務原市」への訪問頻度を調査しました。
結果、岐阜県と愛知県内に住む人でさえ、あまり「岐阜市」、
「各務原市」を訪れて
いないことがわかりました(図表 3-3-3)
。
【図表 】「岐阜市」
・
「各務原市」への訪問頻度(居住地別)
㻔㻑㻕
ほ
ぼ
毎
日
㼇比率の差㼉
全体
全体
㻗㻝㻜㻌 ポイント
㻗㻡㻌 ポイント
全体
全体
㻙㻡㻌 ポイント
㻙㻝㻜㻌 ポイント
週
3
~
5
回
く
ら
い
週
1
~
2
回
く
ら
い
月
1
~
2
回
く
ら
い
年
に
数
回
行
っ
た
こ
と
は
あ
る
行
っ
た
こ
と
が
な
い
回答者数
「岐阜市」への訪問頻度
居
住
地
㻔㻠㻡㻡㻕
㻞㻚㻠
㻝㻚㻤
㻟㻚㻣
㻝㻞㻚㻣
㻟㻤㻚㻣
㻟㻣㻚㻤
㻞㻚㻥
名古屋市
㻔㻝㻜㻟㻕
㻝㻚㻜
㻝㻚㻜
㻝㻚㻜
㻣㻚㻤
㻟㻡㻚㻜
㻡㻞㻚㻠
㻝㻚㻥
名古屋市以外の愛知県
㻔㻝㻡㻡㻕
㻜㻚㻢
㻜㻚㻜
㻝㻚㻟
㻡㻚㻤
㻟㻞㻚㻥
㻡㻟㻚㻡
㻡㻚㻤
㻔㻠㻞㻕
㻣㻚㻝
㻞㻚㻠
㻣㻚㻝
㻠㻜㻚㻡
㻠㻜㻚㻡
㻞㻚㻠
㻜㻚㻜
㻔㻝㻡㻡㻕
㻟㻚㻥
㻟㻚㻥
㻣㻚㻝
㻝㻡㻚㻡
㻠㻢㻚㻡
㻞㻝㻚㻥
㻝㻚㻟
㻔㻠㻣㻡㻕
㻝㻚㻣
㻜㻚㻞
㻟㻚㻠
㻥㻚㻥
㻞㻢㻚㻝
㻠㻟㻚㻠
㻝㻡㻚㻠
名古屋市
㻔㻝㻜㻟㻕
㻜㻚㻜
㻜㻚㻜
㻜㻚㻜
㻜㻚㻜
㻝㻟㻚㻢
㻢㻟㻚㻝
㻞㻟㻚㻟
名古屋市以外の愛知県
㻔㻝㻡㻡㻕
㻜㻚㻢
㻜㻚㻜
㻜㻚㻜
㻠㻚㻡
㻝㻣㻚㻠
㻡㻞㻚㻥
㻞㻠㻚㻡
㻔㻢㻞㻕
㻤㻚㻝
㻝㻚㻢
㻝㻣㻚㻣
㻞㻝㻚㻜
㻠㻜㻚㻟
㻠㻚㻤
㻢㻚㻡
㻔㻝㻡㻡㻕
㻝㻚㻟
㻜㻚㻜
㻟㻚㻞
㻝㻣㻚㻠
㻟㻣㻚㻠
㻟㻢㻚㻝
㻠㻚㻡
各務原市
岐阜市・各務原市以外の岐阜県
「各務原市」への訪問頻度
居
住
地
岐阜市
岐阜市・各務原市以外の岐阜県
② 外部からのイメージ
同じく「岐阜市」を除く 4 エリアに住む人に岐阜市に対するイメージを項目別に調
査したところ、
「岐阜市」は第一に「自然に恵まれている」、次いで「観光地として魅
力的である」というプラスのイメージを持たれています。一方で、
「中心市街地に魅力
がない」
、
「産業が盛んでない」というマイナスのイメージも持たれています(図表
3-3-4)
。
52
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
【図表 】
「岐阜市」に対する外部からのイメージ
そう思う
どちらともいえない
そうは思わない
わからない
回答者数
㻔㻑㻕
自然に恵まれている
㻔㻠㻡㻡㻕
子供の教育に適している
㻔㻠㻡㻡㻕
生活利便性に優れている
㻔㻠㻡㻡㻕
文化施設が充実している
㻔㻠㻡㻡㻕
中心市街地が魅力的である
㻔㻠㻡㻡㻕 6.4
医療・福祉が充実している
㻔㻠㻡㻡㻕
安全である
㻔㻠㻡㻡㻕
働きやすいところである
㻔㻠㻡㻡㻕
産業が盛んである
㻔㻠㻡㻡㻕 6.8
観光地として魅力的である
㻔㻠㻡㻡㻕
老後過ごしやすい
㻔㻠㻡㻡㻕
59.6
26.8
12.7
57.8
21.3
12.7
45.9
16.9
8.6
19.8
42.0
13.2
42.0
9.7
50.5
18.5
9.7
20.0
52.5
10.8
16.7
24.2
50.1
19.8
12.7
47.5
16.3
25.7
44.2
16.0
36.9
24.8
39.3
11.2
12.1
27.5
49.0
12.1
8.4
22.6
17.1
「各務原市」に対するイメージは、約 45%の人が「自然に恵まれている」と答えてい
ます。また、
「岐阜市」と比較して「産業が盛んである」というイメージが強いものの、
ほぼ全ての項目において約 20%の人が「わからない」と回答しており、「各務原市」
に対する認知度が低いことを表す結果となりました(図表 3-3-5)
。
【図表 】
「各務原市」に対する外部からのイメージ
そう思う
どちらともいえない
そうは思わない
わからない
回答者数
㻔㻑㻕
44.6
自然に恵まれている
㻔㻠㻣㻡㻕
子供の教育に適している
㻔㻠㻣㻡㻕
生活利便性に優れている
㻔㻠㻣㻡㻕
文化施設が充実している
㻔㻠㻣㻡㻕
中心市街地が魅力的である
㻔㻠㻣㻡㻕 6.3
医療・福祉が充実している
㻔㻠㻣㻡㻕 4.0
安全である
㻔㻠㻣㻡㻕
働きやすいところである
㻔㻠㻣㻡㻕 7.2
産業が盛んである
㻔㻠㻣㻡㻕
観光地として魅力的である
㻔㻠㻣㻡㻕 6.5
老後過ごしやすい
㻔㻠㻣㻡㻕 5.9
33.7
9.7
14.1
8.8
53.3
11.6
44.2
21.1
46.7
41.1
21.3
30.7
50.9
9.5
7.8
16.6
51.4
47.6
17.5
19.8
40.0
38.7
47.4
13.9
20.4
34.3
20.6
13.9
25.5
20.6
23.2
21.9
28.4
25.3
25.5
22.1
20.4
26.1
53
第3章
CA21の取るべき戦略
③ 「岐阜市」
・「各務原市」への転居
「岐阜市」に転居したいかという質問に対し、
「ぜひ転居したい」または「転居先候
補として考えられる」と回答した人は、
「岐阜市」を除く 4 エリアの居住者全体(455
人)の約 21%である 95 人でした。その理由は、
「通勤利便性が高いこと」
(17 人)が
最も多く、続いて「自然に恵まれていること」(12 人)でした。
「各務原市」に転居したいかという質問に対し、
「ぜひ転居したい」または「転居先
候補として考えられる」と回答した人は、「各務原市」を除く 4 エリアの居住者全体
(475 人)の約 12%である 57 人でした。その理由には「日常生活の利便性」や「就
職機会の多さ」が挙げられています。
54
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
④ 「岐阜市」
・
「各務原市」からの転居
「現在の居住地から転居したいか?」という質問をしたところ、図表 3-3-6 のとお
りの結果となりました。
「岐阜市」
・
「各務原市」に住んでいる人の「今後も住み続けた
い」と回答した割合は、それ以外の地域に住んでいる人の割合を上回っており、現在
の居住環境に満足している人が多いことがわかりました。
【図表 】質問「現在の居住地から転居したいか?」に対する回答
回答者全員㻔回答者数:㻡㻝㻣㻕㻌
ぜひ転居したい㻌
㻟㻚㻟%㻌
その他㻌
㻜㻚㻠%㻌
できれば㻌
転居したい㻌
㻝㻜㻚㻤%㻌
どちらでもいい㻌
㻝㻢㻚㻢%㻌
ぜひ㻌
住み続けたい㻌
㻠㻜㻚㻜%㻌
どちらかといえば㻌
住み続けたい㻌
㻞㻤㻚㻤%㻌
岐阜市居住者㻔回答者数:㻢㻞㻕㻌
ぜひ転居したい㻌
㻝㻚㻢%㻌
その他㻌
㻝㻚㻢%㻌
できれば㻌
転居したい㻌
㻤㻚㻝%㻌
どちらでもいい㻌
㻝㻥㻚㻠%㻌
どちらかといえば㻌
住み続けたい㻌
㻞㻝㻚㻜%㻌
各務原市居住者㻔回答者数:㻠㻞㻕㻌
できれば㻌
転居したい㻌
㻝㻠㻚㻟%㻌
ぜひ㻌
住み続けたい㻌
㻠㻤㻚㻠%㻌
ぜひ転居したい㻌
㻜㻚㻜%㻌
その他㻌
㻜㻚㻜%㻌
どちらでもいい㻌
㻝㻝㻚㻥%㻌
どちらかといえば㻌
住み続けたい㻌
㻞㻝㻚㻠%㻌
ぜひ㻌
住み続けたい㻌
㻡㻞㻚㻠%㻌
55
第3章
CA21の取るべき戦略
(5)
「名古屋市」居住者との比較
現在の居住環境における満足度の調査を「名古屋市」居住者に対しても実施したとこ
ろ、全ての項目について、満足していると回答した人が満足していないと回答した人よ
り多く、総合的な満足度も他の地域と比べて高い結果となりました。また、
「岐阜市」
・
「各
務原市」居住者がともに「名古屋市」居住者より満足している項目は、
「生活環境(下表
中⑦)
」と「癒し、安らぎ(下表中⑧)
」の 2 項目のみでした。反対に「高級品の買い物
の便利さやコンサート・美術館への参加の容易さ(下表中②)
」に関しては、
「名古屋市」
居住者と「岐阜市」
・
「各務原市」居住者との間で満足度に大きな差が生じました(図表
3-3-7)
。
当社実施の個人アンケート調査とは別に、
「名古屋市」が実施した「平成 20 年住生活
総合調査」でも、首都圏や関西圏の住民と比較して名古屋市民は、現在の居住環境に対
して高い満足度を得ているという調査結果があります。CA21 は「名古屋市」と同じ目
線でまちづくりをするよりも、
「名古屋市」にはない魅力を高めていくことが重要ではな
いかと考えます。
【図表 】現在の居住環境に対する項目別満足度の比較
60
40
20
名古屋市
満
足
度
岐阜市
各務原市
0
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭ 総合
-20
-40
※各項目、満足度の算出方法は【図表 3-3-2】と同様
56
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
(6)個人アンケート調査結果まとめ
個人アンケート調査結果から「岐阜市」、
「各務原市」は、岐阜県民や愛知県民でも訪
問頻度や認知度が低く、
「豊かな自然に恵まれている」というイメージしか持たれていな
いという現状が浮き彫りになりました。しかしながら、
「岐阜市」や「各務原市」に決し
て魅力がないという訳ではなく、住んでいる人にとっては大きな魅力があることがわか
りました。
クリエイティブやその家族にとって住みやすい居住エリアとするために、CA21 の魅
力を更に高め、クオリティ・オブ・ライフ(本提言では「質の高い生き方」を意味しま
す。以下、
「QOL」といいます。
)を実現させるまちづくりをしていくことが重要と考え
ます。
2.CA21の魅力
名古屋から CA21 までの所要時間(鉄道)は、東京から横浜まで、大阪から神戸まで
とさほど変わりません。一方、CA21 の地価や物価は、横浜や神戸に比べ圧倒的に安く、
生活コストを抑えることができることから、よりゆとりある住まい方ができるという大き
な魅力があります。また、CA21 エリアが、多彩な人材が育つ教育環境を整備することが
できれば、クリエイティブな人(注)やその家族にとって大きな魅力となります。これらの
魅力を活かした生活を「生活充実型 QOL」と名付けます。
更に、個人アンケート調査結果にも表れているとおり、エリア内に清流長良川、木曽川
や金華山など「豊かな自然環境」があることも大きな魅力です。
「豊かな自然環境」は、
日々の生活に癒しと安らぎを与えるだけでなく、自然を活かした教育により独創性や感受
性を育て、新たなクリエイティブな人を産み出す土壌となります。これらの魅力を活かし
た生活を「自然満喫型 QOL」と名付けます。
CA21 は 2 つの QOL を実現できるエリアです。次項ではそれぞれの魅力を活かした具
体的な戦略を提案します。
(注)
以降、クリエイティブな人とは、職種を問わずに新しいことに前向きな人のことをいいます。
57
第3章
CA21の取るべき戦略
【図表 】CA21の魅力
生活
充実型
型
㻽㻻㻸
自然
満喫型
満
㻽㻻㻸
自然満喫型 42/ の魅力
生活充実型 42/ の魅力 【安心安全に暮らせるCA21】 【癒し・安らぎのあるCA21】
【健康でゆとりのあるCA21】 【自然教育を実践するCA21】
【多彩な人材を育てるCA21】
【図表 】CA21の魅力を活かした 42/ 戦略
58
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
3.エリア実現に向けた具体的な戦略
(1)“移り住みたくなる”居住環境の整備
① 安心安全に暮らせるCA21(生活充実型 QOL)
(ア)
「共働き子育て世帯」の支援
女性の社会進出により勤労者世帯の過半数が共働き世帯となっています。共働き
世帯の増加は経済的な要因もありますが、クリエイティブな女性が社会との繋がり
と自己実現の場を求めていることも一因です。更に、内閣府が主導する「男女共同
参画社会」の推進により、共働き世帯はより一般化すると考えられています。
総務省実施の平成 22 年国勢調査によれば、岐阜県の共働き世帯率(夫婦のいる
一般世帯数のうち共働き世帯数の割合)は 49.0%と、都道府県別で高い方から 12
番目です。また、共働き世帯の 48.0%は、20 歳未満の子どもがいる世帯です。こ
の「共働き子育て世帯」が安心して子育てできる居住環境を整えることが、共働き
子育て世帯を中心に地域活性化を促し、更にはクリエイティブな人やその家族を
CA21 に呼び込む魅力となります。
共働き子育て世帯をターゲットとしたまちづくりとして、千葉県流山市の成功事
例があります。流山市は平成 17 年に全国の基礎自治体で初めてマーケティング課
を作り、
「都心から一番近い森のまち」をコンセプトとしたまちづくりにより、5 年
間(平成 18 年~平成 22 年)で子育て世代を中心に約 1 万人の人口増加を達成して
います(
「平成 23 年 6 月 流山市シティセールスプラン」より)
。
子育てと仕事を両立できる、ワーク・ライフ・バランスを実現した CA21 を目指
すべく、
「イクメン育成のために行政や地元企業が率先して男性の育児休暇取得を推
進する」
、
「育児のための三世代同居や近隣居住を支援する(補助金、容積率の緩和
など)
」
「保育施設への送迎が困難である場合に地元の公民館などの公共施設を無料
、
待機所として活用する」といった施策の実現により、CA21 が、共働き子育て世帯
にとって住みよいまちづくりをすることが重要です。
59
第3章
CA21の取るべき戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
働き方の多様化
強み(Strengths)
安価な土地
強みを活かして機会をとらえる
弱み(Weaknesses)
ワーク・ライフ・
ワーク・ライフ・
バランスの実現
バランスの実現
例三世代同居等の支援㻌
公共施設を無料待機所として活用㻌
(イ)地域、教育、文化等による結びつきの強化
近年、地域コミュニティの重要性が見直されており、個人アンケート調査でもク
リエイティブな人が居住環境に求める重要な要素として地域の結びつき(コミュニ
ティ)を挙げています。しかし、コミュニティの形成には地域住民の相互理解と相
互扶助が必要となり、一朝一夕で実現できるものではありません。また、保守性が
強いと言われる岐阜県では、従来からの住民と新たな住民(クリエイティブな人や
その家族)との間でコミュニティが上手く形成されない懸念があります。
そこで充実したコミュニティ形成を目指すためには、地域住民の共通の目標を掲
げて課題解決に取り組むことが重要と考えられます。強い保守性とうらはらに郷土
愛の強い住民が多い CA21 では、地域を良くするために新旧住民が一緒に働くこと
が、意識の差を埋めることに繋がります。従って、例えば大規模災害を想定した共
助意識の醸成や、子育て層・独居老人の孤立防止、防犯体制の構築などの地域共通
60
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
の課題に対し、クリエイティブな人も含めて多くの地域住民が意見を出すことを通
じて、安心安全に暮らせるまちづくりに参画することが望まれます。その中で、地
域の特性とクリエイティブな発想が混ざり合い、地域に適した課題解決策が生まれ
てくるのではないでしょうか。
自治会や町内会といった従来の地域コミュニティは、個人のライフスタイルの変
化や情報伝達手段の多様化を受けて、担い手不足や加入率の低下という問題を抱え
ています。一方で、東日本大震災などにより、大災害を見据えた共助による防災意
識が高まっています。従来の地域コミュニティのありかたを見直し、時代に即した
新たな地域コミュニティを育むいい時期です。
繰り返しとなりますが、新たな地域コミュニティの形成には、地域住民の相互理
解と相互扶助が必要です。幸いにも、CA21 にはエリア全体で 92 館の公民館があり
ます。公民館などの既存設備を有効に活用すれば、自治会や町内会だけでなく、NPO
法人やボランティア団体、まちづくりに関心を持つ地域住民が集まって意見交換が
できるでしょう。住民が中心となって地域に適した課題解決策を考え、それを行政
がバックアップし、成功事例を CA21 エリア全域で共有する。このような地道な活
動を積み重ねれば、時代にまた地域に即したコミュニティを形成できると考えます。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
コミュニティの希薄化
南海トラフ巨大地震等の
防災上の脅威
強み(Strengths)
住民の郷土愛
強みを活かして脅威を克服
弱み(Weaknesses)
・担い手不足㻌
・加入率低下㻌
新旧住民によるまちづくりへの
共同参画
61
第3章
CA21の取るべき戦略
② 健康でゆとりのあるCA21(生活充実型 QOL)
(ア)空き家・空き地の活用
ライフコース(就職や結婚といったライフイベントの選択により描かれる人生の
道筋)の多様化や、モノからコトへの価値観の変化もあり、新築住宅の購入希望人
口が減少しています。一方で景観や防犯の観点から好ましくない空き家や空き地が
増加しており、資産のデッドストック化が問題となっています。そこで、空き家等
を再利用・リフォームすることで、ライフステージに応じた柔軟な住まい方ができ、
賑わいと経済活力の維持向上に繋げられると考えます。
空き家等は、
(ⅰ)相続時などに所有権移転登記がされていないため所有者が特定
できない、
(ⅱ)空き家を更地にすると固定資産税が増えてしまう、(ⅲ)建築基準
法の条件を満たしていない土地では新たな建物が建築できない、
(ⅳ)空き家の取り
壊しにお金がかかるなどの問題から、再利用が進んでいないのが現状です。また、
空き家等の情報発信手段が少なく、売り手と買い手がマッチングされていないとい
う問題もあります。CA21 でも、一部の市町が空き家等の情報提供をしているもの
の、情報量が限られており、空き家等の有効活用には CA21 エリア全域をカバーす
る充実した情報提供手段の構築が必要です。
空き家のリノベーション促進策として、固定資産税を優遇したり、リフォームに
補助金を交付することで、低コストでも自由度の高くゆとりのある住居設計ができ
るというメリットを、
買い手に発信することが考えられます。
リフォームに併せて、
低炭素素材の利用や太陽光・小水力発電などの再生可能エネルギーを利用した超省
エネ技術の活用により、生活コストを抑えることができれば、日常生活にもゆとり
が生まれることをアピールすることも重要です。住居や生活の質が保たれることは、
クリエイティブな才能の更なる発揮には欠かせません。
また、売り手サイドにも空き家の取り壊し費用を補助する、CA21 エリア外から
の移住者に空き家を売却または賃貸した場合に助成金を交付する、定期借地権を活
用して資産を手放すことなく家賃収入を得られる仕組みの活用を支援するといった
施策により、一層の空き家等の再利用が進みます。
高齢化や人口減少などによって、日本全国の別荘や賃貸物件を除いた空き家率は
20%を超すとも言われています。CA21 が先行して中古住宅市場を充実させること
こそ、地域の活性化と住民の定着化のために必要なのではないでしょうか。
62
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
新築住宅の需要減
生活コストの高騰
強み(Strengths)
安価な土地
強みを活かして脅威を克服
豊富な住宅ストック
弱み(Weaknesses)
別荘・賃貸用を除く空き家 戸㻌
(総務省「平成 年住宅・土地統計調査」に㻌
おける各CA21市町の空き家数を合計)㻌
・CA21エリア内での包括的情報発信㻌
・売り手・買い手への支援(税制面・金銭面)㻌
・超省エネ住宅へのリフォームで生活コスト低減㻌
63
第3章
CA21の取るべき戦略
(イ)職住近接によるゆとりのある生活
職住近接とは、働く場所と住む場所が近くにあることを意味します。もともと
CA21 は産業集積が盛んであることから、CA21 の 11 市町に住んでいる雇用者世帯
の通勤時間(市町単位の中位数(注)の平均値)は 25.4 分(全国平均 27.8 分)であ
り、国内でも職住近接が進んでいるエリアであると言えます(総務省「平成 22 年
住宅・土地統計調査」を基に当社が算出)。
通勤時間が短くなれば、自分のための時間や家族と過ごす時間を増やすことがで
きます。趣味などでリフレッシュすることで仕事の能率を向上させたり、仕事とは
違うクリエイティブな活動で自分の幅や人間関係を広げたり、また独立や起業のた
めの自己研鑽の時間を持つこと等により、ワーク・ライフ・バランスを実現できま
す。また、前述の共働き子育て世帯にとっても、保育所等が職場から近ければすぐ
に子どもを迎えに行けるので、子育て負担を少なくすることができます。
ただし、一般的に職住近接は、不要な残業時間が増えたり、生活コストが増加し
たりするデメリットもあると言われています。ゆとりのある職住近接型ライフスタ
イルを実現するためには、
これらのデメリットを軽減する必要があります。例えば、
企業へ残業時間縮小のメリットを啓蒙したり、前節で述べた「時間外労働」を禁止
することで不必要な残業時間を縮小できます。また、中心市街地の空き家をリノベ
ーションしたエネルギー効率の良い住居に住むことで、生活コストを低くすること
も可能です。
米カリフォルニア州シリコンバレーにあるフェイスブック本社は、オフィスから
徒歩で通える距離に、本社に通う従業員の最大 10%が住むことのできる 394 戸の
住宅コミュニティを建設する予定であると発表しました。フェイスブックは職住近
接によって、クリエイティブな人に自社で効率的に仕事をしてもらおうと考えてい
るのかもしれません。
もちろん、労働観やコスト意識は人それぞれですので、全ての人に職住近接型ラ
イフスタイルが合うわけではありません。しかし、職住近接型ライフスタイルは、
クリエイティブな人に最も受け入れられやすいライフスタイルの一つではないでし
ょうか。
(注)
中位数とは、複数のデータを値の大きさの順番に並べた時に丁度中央にあたる値のことをいい、
(注)
中央値とも呼ばれます。
例えば本件のような、通勤時間や家計調査における 1 世帯あたりの貯蓄額など、回答に上限がない
(注)
(注)
統計調査では、値の大きな少数のデータの影響で平均値が実体と乖離する場合があります。
(注)
そこで、特定の統計調査では、複数のデータを代表する値として、平均値ではなく中位数が使われて
(注)
います。
<極端なモデルケース>
64
通勤時間(分)
回答A 回答B 回答C 回答D 回答E 中位数 平均値
㻝㻜
㻞㻜
㻟㻜
㻠㻜
㻞㻜㻜
㻟㻜
㻢㻜
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
働き方の多様化
強み(Strengths)
高い産業集積による
従来からの就業機会
強みを活かして機会をとらえる
弱み(Weaknesses)
・企業への啓蒙㻌
・時間外労働禁止㻌
・空き屋等の再利用㻌
③ 癒し・安らぎのあるCA21(自然満喫型 QOL)
(ア)豊かな自然環境と多彩なレジャーを満喫
CA21 では、エリア内に清流「長良川」や「木曽川」、「金華山」を始めとする豊
かな自然環境が身近にあり、従来から自然環境と調和したまちづくりがなされてい
ます。日常的に癒しと安らぎを得られる、子どもの情操教育にも適したエリアと言
えるでしょう。
また、もう一つの特徴として日本の中央に位置しているため、高速道路や東海道
新幹線、中部国際空港を利用することで、日本全国のレジャーを満喫できます。今
後、東海環状自動車道(西回り)や北陸新幹線、リニア新幹線が開通することで、
各地への更なる交通利便性の向上が見込まれています。もちろん、CA21 エリア内
にも魅力的な観光スポットやレジャー施設は数多くありますが、住んでいる地域を
超えて、あらゆるレジャー施設に容易にアクセスができるのは、日本の中央に位置
する CA21 ならではの大きな魅力の一つです。
65
第3章
CA21の取るべき戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
東海環状自動車道(西回り
ルート)、リニア新幹線開通に
よるストロー現象
強み(Strengths)
日本の中心地
強みを活かして脅威を克服
豊かな自然環境
弱み(Weaknesses)
(イ)休耕地(耕作放棄地)を利用した農業活動
農業従事者の高齢化や担い手不足による休耕地(耕作放棄地)の増加は、日本全
国で大きな問題となっています。平成 22 年の世界農林業センサスによれば、CA21
を含む岐阜県の耕作放棄地は 5,490ha(CA21 では 1,195ha)
、耕作放棄地率(耕作
放棄地の面積を、経営耕地の面積と耕作放棄地の面積を加えたもので除したもの)
は 12.7%であり、都道府県別の耕作放棄地の割合は高い方から数えて 31 位と低い
方です。ただし、耕作放棄地が 10 年で 1,687ha も増加(約 1.4 倍)していること
や、65 歳以上の基幹的農業従事者が全体の 7 割を超えていることからも、将来に向
けた対応策を考える必要があります。
66
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
一方で、特定農地貸付法及び市民農園整備促進法に基づき開設されている市民農
園の数は、平成 25 年 3 月末時点で CA21 エリア内に 20 農園あります(農林水産省
ホームページより)
。平成 25 年に農林水産省が市民農園の拡大方針を定めたことか
ら、将来的に農園数は更に増加すると見込まれます。また農地のみ借り入れる市民
農園とは異なり、農家自らが開設し、農業指導、種苗の用意や農機具の貸し出しを
行う農業体験農園も増加傾向にあり、農業従事者以外の農業活動が一般化しつつあ
ります。
スローライフの実現や子どもの食育教育のために、農業に興味を持つ都市住民と
休耕地(耕作放棄地)の所有者をマッチさせる仕組みづくりは地域資源の有効活用
に繋がり、自然と調和のとれた CA21 の魅力を更に高めることとなります。更に、
クリエイティブな人が農業に携わることになれば、本業で培った知識や経験が生産
方法や管理方法の発展に役立ち、付加価値の高い農産物の生産に繋がることも期待
できます。
また、農業活動には高齢者の「生きがいづくり」という側面もあります。休耕地
を開拓して農産物を生産するという明確な目標があれば、日々の生活に目的意識が
生まれます。また、農産物の収穫という成功体験が喜びを産み出します。更に、そ
の農産物を販売することで、社会との「繋がり」が持て、生きがいづくりにも繋が
ります。ここで、休耕地を利用した農業活動により、高齢者の生きがいづくりと、
更には活発なまちづくりにも成功した事例を紹介します。
<鹿児島県鹿屋市柳谷地区(通称:やねだん)>
「やねだん」は人口 300 人未満、高齢化率 4 割を超える小さな集落ですが、
住民参加による地道な取り組みを続ける中で、地域の「絆の再生」に成功し
た優良事例として有名です。
「やねだん」では青少年の育成や高齢者の生きが
いと健康づくりなどの地域が抱える課題解決に向けて、行政からの補助金に
頼らないまちづくりを実践しています。
そのきっかけは、自治公民館長が主導した休耕地を利用した高校生による
サツマイモづくりでした。現在では、高齢者を中心に住民が自主的に休耕地
を開拓して、収穫したサツマイモを原料にオリジナル芋焼酎を醸造して全国
に販売。その収益を公園の整備などのまちづくりに活かしています。
こうした地域ぐるみの取り組みや、古民家を改装した迎賓館にアーティス
トを招くといった特徴ある活動がマスコミを通じて全国に紹介された結果、
集落を出た若者が「やねだん」の良さを再認識して、地元に戻ってくるケー
スも増えています。
67
第3章
CA21の取るべき戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
市民農園や農業体験農園な
どの農業体験ニーズの拡大
強み(Strengths)
弱み(Weaknesses)
休耕地(耕作放棄地)
の拡大
68
機会によって弱みを克服
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
(2)地域独自の教育・人材育成
① 多彩な人材を育てるCA21(生活充実型 QOL)
(ア)教育機関の誘致・整備
クリエイティブな人の「卵」である優秀な学生を育てるためには、魅力ある教育
機関(有名大学等)を誘致・整備することが欠かせません。ただし、大学の定員が
増加する一方で、少子化の進行により大学間の学生獲得競争が激しくなっており、
学生が魅力を感じる質の高い教育機関を誘致するためには、CA21 独自の魅力を学
生にも大学にもアピールしていく必要があります。
1990 年代前半までは大学の極度集中を防止するために、都心部での学部・学科新
設や定員増加が抑制されていました。そのため、多くの大学は閑静で広大な教育環
境に優れる郊外型キャンパスを作りました。しかし、
「大学全入時代」とも呼ばれる
近年では、学生の大学に対する選別意識が高まり、学生が生活利便性を求めて郊外
型キャンパスを敬遠する傾向にあります。また、都心の地価下落も相俟って、大都
市圏において大学の「都心回帰」が始まっています。
このような状況の中、CA21 に有名大学を誘致するためには、CA21 ならではの
教育環境を整えることが必要であると考えます。
CA21 は、日本の中央に位置し、交通利便性に優れ、自然環境に恵まれ、地価の
安い広大な土地があるなど良好な教育環境の基礎的要素を兼ね備えています。更に、
CA21 でしかできない教育が実践できれば、有名大学を誘致するための大きな魅力
となります。
例えば、CSR の一環として企業が大学で講義すること(いわゆる出前講座)は一
般化しつつありますが、そもそもの講義数が少ない上に講師を大企業や地元企業の
経営者層が担当していることがほとんどで、講義内容が画一的になる傾向がみられ
ます。そこで、自治体や地域金融機関の人脈やネットワークを介して、地元企業の
一線で働くクリエイティブな人や、退職したクリエイティブな人を講師として紹介
することで、これまでのものとは一味違った実践的な出前講座を開くことができま
す。様々な業界のクリエイティブな人たちの生の声は、学生にとって大きな刺激と
なります。このように CA21 は独自の教育環境を整え、次世代のクリエイティブな
人を育てられるエリアとなるべきでしょう。
69
第3章
CA21の取るべき戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
一極集中の流れ
強み(Strengths)
安価な土地
日本の中心地
強みを活かして脅威を克服
豊かな自然環境
弱み(Weaknesses)
(イ)産業高校・大学の整備
CA21 は航空宇宙産業や繊維産業、ファッション産業などの地場産業が盛んです。
業界をリードする地元企業と連携して、在学中にその業界のスペシャリスト(=ク
リエイティブな人)となるために必要な専門知識を学ぶことのできる、産業高校や
大学(以下、
「産業高校等」といいます。
)を設立します。その上で、卒業後に地元
企業への就職を斡旋することで、次世代のクリエイティブな人の定住化が図れると
考えます。
企業内学校と言われるものには、就職後の社内教育のために開設しているものと、
企業が学校運営に携わっているものがあります。後者は「学校教育法」に基づく「学
校」を運営する場合がほとんどですが、一部には卒業後の採用を前提にして、母体
企業で働くための職業訓練を行う学校もあります。
前節において、NPO 法人を活用した(社会人としての)初期教育投資の公共化
を提言しましたが、その理念は就職後に限られたものではありません。CA21 の地
70
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
場産業は主に中小企業によって支えられており、単独で多くの卒業生を雇用できる
大企業が少ないため、
複数企業が共同して産業高校等を運営してはどうでしょうか。
もちろん、同業のライバル会社との共同運営となることから、運営上の公平性を
保つためには、行政や業界団体が授業内容、卒業後の進路等を調整する必要があり
ます。そのため、自社の収益源となる根幹の技術伝達が困難であり、授業内容の専
門性は、一企業が単独運営する場合よりも劣りますが、業界の基礎知識は教育でき
ますので、就職後は即戦力になってくれるでしょう。
更に、前節でもみたとおり、今後個人の働き方が変わり、一企業に就職するので
はなく、オンラインワーカーとして複数の企業にプロジェクト単位で参加するとい
う働き方が増えてくるでしょう。産業高校等を通じて、在学時からオンラインワー
クスペースに登録すれば、個人の得意分野やスキルを地元企業にアピールでき、卒
業後にオンラインワーカーとして効率的に働くことができます。
クリエイティブな人が地元企業に就職して定住することで、全ての産業にとって
プラスの影響が広がり、CA21 エリア全体の活性化に繋がっていきます。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
中小企業における
雇用のミスマッチ
強み(Strengths)
高い産業集積による
従来からの就業機会
強みを活かして脅威を克服
弱み(Weaknesses)
・航空宇宙産業㻌
・ファッション産業 等㻌
71
第3章
CA21の取るべき戦略
(ウ)信長館(仮称)の建設
信長は、足軽出身の秀吉を重用したという史実に代表されるように、出自や貴賤
を問わず、能力ある人材に活躍できる場を与え、天下統一を実現しました。現代に
おいても、大学生、研究者、ポスドク( postdoc:博士号(ドクター)取得後に期
間限定の研究に従事している研究者のこと)
、非常勤講師、作曲家、アーティストと
いった人たちの中には、経済的な理由から日々の生活に追われ、その才能を発揮す
ることもできない人は沢山いるでしょう。
信長の方針を手本として、
能力ある人が、
その力を十分に発揮できるような環境・仕組みづくりが重要です。
CA21 は大都市圏に比べて物価も安く、自然環境にも優れ、安定した生活を過ご
しやすい環境にあります。そこで、能力や将来性はあるものの、経済的な理由で実
力を発揮できていないクリエイティブな人を対象として、破格の家賃で住めるシェ
アハウス(信長館(仮称)
)を作ってはいかがでしょうか。今までのアーティストた
ちの作品発表の場と言えば、大都市圏がほとんどでしたが、ICT の発達により CA21
に住みながら全世界に才能を発信できるため、彼らにとっても信長館に住むという
インセンティブが働きます。
更に、様々な分野のクリエイティブな人が一つ屋根の下で住むことによって、お
互い刺激し合い、思いもしない新たなものが生まれるでしょう。その積み重ねによ
り、CA21 エリア全体が他の地域にはないオリジナルの付加価値を創出する、クリ
エイティブなエリアとなることを期待します。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
一極集中の流れ
強み(Strengths)
安価な土地
強みを活かして脅威を克服
豊かな自然環境
弱み(Weaknesses)
72
空き家の再利用㻌
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
(エ)ファッション分野でクリエイティブな才能を発揮
これまでは、
「クリエイティブな才能を発揮しやすい職業」に就く人を教育するた
めの戦略案を提案してきました。ただし、クリエイティブな心は誰もが持っている
ものです。CA21 は、そこに住む全ての人が、クリエイティブな才能を発揮できる
エリアを目指すべきです。
クリエイティブな才能を発揮する手段の一つとして、衣服による自己表現(ファ
ッションセンスの向上)が考えられます。センスのいい衣服とは、何もブランドも
のの高級品に限られたものではありません。私たちが日常的に着ている衣服でも、
ちょっとした工夫やワンポイントで十分にファッションセンスを発揮できます。
<ミシュランガイド>
星の数でレストランを評価することで有名な「ミシュランガイド」の東京版
では、2014 年発行版より新たに「ビブグルマン」という丁寧に作られた質の
良い料理を手頃な価格(5,000 円以下)で味わえるレストランが掲載されまし
た。
「料理の美味しさ=高い料金」という方程式は、必ずしも成立しないとい
う例と言えます。
また、感受性の高い子どもの頃から、着こなしや質の高い衣服の選び方(仕立て・
生地やデザインの目利き力)など、ファッション産業のノウハウを活かした教育を
受けることで、自ずとファッションセンスが向上するでしょう。
ファッションセンスのいい衣服を身に着けた、クリエイティブな人たちが CA21
に住むことで、それを見た人たちが刺激を受けます。すると、自らもセンスのいい
衣服を着ることを心がけるようになり、地域全体のファッションセンスの向上に繋
がります。パリやロンドン、あるいは東京の青山といった最先端のファッションと
は異なり、手頃な価格の衣服を着ていても、ちょっとした工夫でファッションセン
スのいい住民が住むまちづくりができれば、CA21 独自の魅力が生まれます。ファ
ッション分野以外にも、クリエイティブな才能を発揮できる分野が広がるのではな
いでしょうか。
73
第3章
CA21の取るべき戦略
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
一極集中の流れ
強み(Strengths)
地場産業のノウハウ
強みを活かして脅威を克服
弱み(Weaknesses)
(オ)アクティブシニアの活用
改めて述べるまでもなく、日本社会は高齢化が進行しており、岐阜県もその例に
漏れません。岐阜県の将来人口推計によると 2040 年には県人口の約 36%が 65 歳
以上の高齢者になると予測されています。
ただし、一口に高齢者と言っても、健康で自立した生活を送り、社会参加意欲の
高い高齢者(以下、
「アクティブシニア」といいます。)が数多くいます。アクティ
ブシニアから様々なことを学ぶ仕組みを作ることは、これからの日本社会にとって
非常に重要な課題です。
74
第 3 節 クオリティ
・オブ・ライフ戦略
これまでに、地域独自の教育・人材育成をテーマとして、いくつか戦略案を提案
してきましたが、いずれの戦略案でも、その担い手としてアクティブシニアを活用
することが可能です。これにより、若者がアクティブシニアから様々なことを学ぶ
だけでなく、アクティブシニアにとっても、自己実現の場が与えられることで「生
きがい」を実感できます。
高齢化の進行を弱みと捉えず、CA21 が率先して、アクティブシニアを活用し、
次世代を担うクリエイティブな若者を育てる仕組みづくりをすべきではないでしょ
うか。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
クリエイティブな人を育成する
地域独自の教育・人材育成
戦略
強み(Strengths)
社会参加意欲の高い
高齢者
強みを活かして機会をとらえる
弱み(Weaknesses)
② 自然教育を実践するCA21(自然満喫型 QOL)
(ア)自然体験プログラムの実施
自然教室や臨海学校のような体験活動が、子どもの情操教育に役立つことは数多
くの研究・調査で実証されています。また、文部科学省も以前より自然体験の推進
に積極的で、平成 23 年度に改定された新しい学習指導要領(小学校)でも、自然
の中での集団宿泊活動などの充実がうたわれています。
75
第3章
CA21の取るべき戦略
CA21 は海こそないものの長良川や木曽川、金華山などの自然環境に恵まれてお
り、これまでも様々な体験活動が行われてきました。ただし、体験活動は学校教育
としての一面が強いため、各市町単位での活動が多く、他市町と連携した取り組み
はあまり行われてきませんでした。
体験活動では子どもの情操教育の他に、他人との共同活動を通じて自主性や社交
性を育むことができます。また、普段の学校などの限られたコミュニティとは異な
る年齢層の人々と触れ合ったり、普段とは異なる環境下で活動したりすることで学
習効果を高めることが期待できます。
そこで、各市町が持つ体験活動施設の共有化、経験豊富なインストラクターや
NPO 法人、学生やボランティア、高齢者の共同活用によって、CA21 エリア内で横
断的に体験活動を行える仕組みづくりを提案します。そこでは、居住地や年齢を問
わず参加者を募り、また一市町単位では実施が困難であった体系的なプログラムを
用意することで、生活圏や年齢が異なる人々と交流できる体制を整えます。これに
より、子どもたちが体験活動を満喫できるだけでなく、将来の教育者を目指す学生
に実習の場を与えることができ、更にはアクティブシニアの生きがいづくりにも繋
がるのではないでしょうか。
機会(Opportunities)
脅威(Threats)
新たな学習指導要領で
求められる体験活動
強み(Strengths)
豊かな自然環境
強みを活かして機会をとらえる
弱み(Weaknesses)
地域を含めた社会全体で㻌
「生きる力」を育てる㻌
76
体験学習施設、インストラクター、
132 法人、学生等の共同活用㻌
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