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ノルウェーの聴覚障害児のための インクルーシブ教育に関する現地調査
Annual Report No.24 2010 ノルウェーの聴覚障害児のための インクルーシブ教育に関する現地調査 A survey on the inclusive education for deaf and hard-of-hearing children in Norway A94201 派遣先 スタットペッド(国立障害児教育支援システム),スコーダレン・リソースセンター 期 間 平成21年8月31日〜平成21年9月12日(13日間) 申請者 兵庫教育大学 教授 鳥 越 隆 士 もにとってそれが適切だと判断すれば、バイ 海外における研究活動状況 リンガル・カリキュラムを選択できる。多く 研究目的 ろう児たちは地域の学校に在籍しており、ま 本調査研究では、ノルウェーの聴覚障害児 さにインクルージョンの枠組みの中でバイリ 教育への取り組みの現状と課題を、特に手話 ンガル教育を推し進めようとしている。また、 の活用と通常学級内での聴覚障害児への支援 他の北欧諸国と同様、ノルウェーでもろう児 の方途について、現地調査を行った。具体的 の人工内耳(以下、CI)装用が急増している。 には、聴覚障害児が在籍する通常学級内での CIとバイリンガル(手話の活用)との関わり 手話と音声言語の使用と相互の関わり、聴覚 はどのようになっているのだろうか? このよ 障害児への支援の具体的な内容と方法、通常 うな視点から調査を行った。 学級に在籍する健常児への支援、特に手話や スコーダレン・コンピテンス・センターは 障害に関する学習の実態、通常学級の教師と オスロ市の中心部にある。全国に国立のリソー 障害児学級の教師の連携、教師への手話を中 スセンターが10数ヶ所ほど。その他民間のセ 心とした研修のあり方について、教室での参 ンターが何ヵ所かある。全体をスタットペッ 与観察と関係者へのインタビューを行った。 ド(STATPED;国立特別教育支援システム) が統括している。それぞれのセンターは複数 海外における研究活動報告 の障害に対応しているが、聴覚障害に対応し ノルウェーは、歴史的に障害児教育に対し ているセンターは主に6か所。中でもオスロに てインクルージョンを中心に据えた取り組み あるこのセンターは聴覚障害に関して中心的 を行ってきた。他方で、1 9 9 7 年に、隣国ス な役割を担っている。 ウェーデンと同様に、ろう教育がバイリンガ センターは、ろう学校の部門(幼稚園と基 ルになった。教育法2−6条項には、「手話言 礎学校) 、コンサルテーション部門(地域のセ 語を第一言語としてもつ生徒は、基礎学校で、 ンター的機能) 、盲ろう学校の部門、研究・研 手話を使った指導を受ける権利を有する。」 修部門の4つからなる。所長から話をうかがっ と記されている。これに基づき、ろう児のた た。ろう学校には、通常の在籍生徒(フルタ めのカリキュラム(いわゆるバイリンガル・カ イム)とパートタイムの生徒がいる。生徒数 リキュラム)が制定された。親が自分の子ど はフルタイム(1年生から10年生まで)が40人、 ─ 878 ─ The Murata Science Foundation それにパートタイム生徒20名程。パートタイ 教育アドバイザーの具体的な仕事の内容に ム生徒は、地元の通常の学校に在籍している ついて話をうかがう。それぞれの担当の子ど が、週に2日、このセンターにやって来る。そ もがいる学校を年に2回程度訪問する。その の他、地域の学校に在籍している聴覚障害児 際、授業を参観して、その後担当教師に指導 のための短期プログラムがある。これは1年間 の在り方についてアドバイスする。また、生 に2週間ずつ、手話のニーズのある生徒がこの 徒から話も聞く。彼女の場合、1時間は話を 学校にやって来て、手話による授業を受ける。 聞くという。授業についていけるか、友達が 現在20名ほどが登録している。このとき、親 いるか、休み時間はどのようにすごすかなど。 も一緒に来て、手話を学ぶ。親同士の交流も 男の子の場合、例えば、サッカーなど一緒に できる。またその間通常学校の担任の先生も 身体を動かして、聴の友達の中になんとか入っ 1日か2日来て、子どもたちの学習の様子を見 ていくことができるが、女の子の場合、おしゃ たり、コンサルテーションを受けたりする。 べりが中心の友達関係なのでなかなか難しい コンサルテーション部門では、地域の学校 ケースが多いとのこと。セルフコンフィデンス にいる聴覚障害生徒に対するサービスを行っ (自信)を育成することも重視している。また ている。スタッフは20人ほど。教育アドバイ 訪問した際には、必ずケース会議が開かれる。 ザーは聴覚障害児が在籍する学校を訪問し、 そこに管理職、クラスの担任、支援教師、親、 教室での学習の様子を参観したり、担当教師 関連する専門スタッフなどが参加する。また や学校の管理職にコンサルテーションをした 学校の全教職員に対しての講義(研修)を行 りする。頻度は生徒のニーズによって異なる うこともある。同じことでも、支援教師が言っ が、多くの場合1年に2∼3回程度。また心理 てもなかなか聞いてくれないが、教育アドバイ 士もおり、心理テストや発達検査をしたり、 ザーが言うと納得してくれることもあるとのこ 親に対するカウンセリングをしたりする。 と。支援教師が孤立してしまうこともあるよ 1人の教育アドバイザーにインタビューした。 うだ。子どもは支援教師だけが責任の負うの 彼女は今40人の聴覚障害児を担当している。 でない。学校全体で負うのだという話もよく その中でバイリンガル・カリキュラムを選択 するとのこと。 しているのは9人のみ。聴覚障害生徒がインク 本調査では、実際に教育アドバイザーに同 ルージョンで成功するためには、身近に聴覚 行して、地域の学校訪問を行ったが、詳細は 障害成人がいることが必要との認識はあるが 省略する。 それがなかなかできていない。 「訪問週間」は この派遣の研究成果等を発表した それを補うプログラムである。 著書、論文、報告書の書名・講演題目 論文や報告に関しては、現在、準備中である。 ─ 879 ─