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リウマチの治療

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リウマチの治療
「病気のプロフィル」No.
37
リウマチの治療
その2
「リウマチの治療・その2」では、慢性関節リウマチ
(RA)の治療のより実際的な
面について述べる。
次の項で紹介するように、2000-2010年は国際的に「骨・関節疾患の重要な10年」
になるから、このプリントもそれに対応して、ささやかながら、その一役を果すこ
とになろうかと自負していた。しかし、プリントにまとめるのは予想以上に困難で、
難航した。
RAの複雑、多彩な病態と多岐にわたる治療の選択肢のゆえに、結局は1970年代
以降に開発された治療法について平均的なまとめしか出来なかった。皆さんも判断
に困ることがあると思うが、RA治療の一意見として参考にしていただきたい。
骨・関節疾患に関する国際的な動向
狩野庄吾教授
(2000年)
(自治医科大学)によれば、1998年にスウェーデンに世界各地からリ
ウマトロジスト、整形外科医、リハビリテーション専門家、関連の学会または団体、
および世界保健機関
の10年
The
Bone
(WHO)の代表者が集り、2000年から2010年までを「骨・関節
and
Joint
Decade」として骨・関節疾患について対策を推進す
ることを申し合わせたという。また2000年にはスイスで「新しい千年紀の始りと筋
肉・骨格疾患の重荷
the
New
The
Burden
of
Musculoskeletal
Millennium」というワークショップが持たれた
Conditions
at of
the
[99]。
これらの国際会議は世界の医学界が人口の高齢化にともなって骨・関節疾患、な
かでも慢性関節リウマチ
(RA)、変形性関節症、骨粗しょう症、痛風、偽痛風などに
手を焼き、これらの疾患が人類社会に与える影響と重荷
burdenを重視したためと
思われる。
これはあくまで筆者の見解であるが、新しい根治療法を開発することによってRA
ひとつでも解決されれば、人類社会はどれだけ負担が軽くなるか分らない。
薬物療法
RAで最も深刻な病態は、前に述べたように、パンヌスという現象によって骨・軟
骨、関節が進行性に破壊されて行くことと関節外病変が発現することである。
1
Start
RAの場合には、症状が固定したり、治癒したりすることはほとんどない。全患者
の約10%に自然に寛解して、治癒するものがあることを示唆する意見があるが、現
在のところ、その関節症がRAであることを証明する特異性の高い診断の方法がない
(後述)。
薬物療法には根治療法と対症療法とあるが、RAには根治療法といえるほどの治療
法がない
[54]。後に述べるように、開発途上の新治療法のなかに根治療法が確立す
る可能性があるが、現状では骨・軟骨、関節の破壊の進行を阻止することに重点を
おいて患者のQOLを高める努力をするほかはない。
薬物療法の主要な方針
RAの薬物療法は非ステロイド抗炎症薬
(NSAID)、抗リウマチ薬、ステロイド薬、
その他の薬の単独使用、併用、および追加併用療法に分けられるが、どの場合でも
次の方針が堅持されねばならない。
(1)
どの薬の場合でも、治癒効果と副作用の比重
(benefit/risk
ratio)に配慮して
治療が進められる。
(2)
原則として、新しく用いる薬は少量から始める。
(3)
少なくとも毎月1回、治療薬の効果と副作用、全身状態、関節の病変の変化、
関節外病変発現の徴候などを知るために常例的な検査
routine
examinations
(理学
的所見とX線所見)がなされる。
(4)
薬が無効か、効果が不十分か、あるいは使用の過程で効果が低下していくエ
スケープ現象
(5)
(escape
phenomenon)が見られる場合には、治療方針を再検討する。
患者と家族のADLとQOLを定期的に検討する。
薬物療法の方式
1970年代の初めから1980年代の末にかけて提案された、RAに対する薬物療法の
方式
formatは多様、かつ錯綜の傾向にあるRAの薬物療法に何らかの整理を与えよ
うとしたものであると筆者は理解している。方式の名称には奇抜で、意味のよく分
らないものもあるが、治療法の選択とオリエンテーションをつけるには何かと便利
である。
ピラミッド方式 1968年にSmythは、次のような治療方式を提案した
[30]。
前に述べた基礎療法をベースにして、初めに第一選択としてNSAIDを用いて関節
の痛みを緩和し、それで効果が上らなければ、第二選択としてより効果のある抗リ
ウマチ薬またはステロイド薬に切り換えるか、あるいはこれらをNSAIDに上乗せし、
さらにその上に他の治療法を積み上げていくという方式である。
2
図
4に示すような模式図からピラミッド方式
pyramidal
planと名づけられた。何
故ピラミッド方式というのか分らないという読者がいるかもしれないが、治療法を
整理して考えるのに名前があったほうが良い。このことは次のステップダウン・ブ
リッジ方式や鋸歯状方式についても同様である。
この方式はRAの活動性を抑えるために安全な薬で過し、副作用のより顕著な抗リ
ウマチ薬やステロイド薬を避けた感がある[72]。しかしRAには様々な病態と重症度
の患者がおり、NSAIDの有用性を評価する考えは今なお根強い(後述)。
図 4.
Smyth (1968),
RA治療のピラミッド方式
伊藤・竹内 (1999)による[12,
30]。
ステップダウン・ブリッジ方式 1980年代の末になって上述のピラミッド方式に
対して反省の声が出て来た
[15]。
理由の第一は、RAの進行した病像と考えられていた骨・軟骨、関節の破壊が意外
に早く始るのが分ったことである
[69-71]。第二は、NSAIDの副作用が当初考えら
れていたより高い頻度で起ることである
(前述)。そうなると、骨・軟骨、関節の破
壊の進行を阻止することに無力なNSAIDを早期に使用することの意義が少なくなる。
そこで
Wilske
&
Healey
(1989)は、次のような治療方式を提案した
[15]。
RA発症の早い時期から第一選択として抗リウマチ薬を使用する。これは抗リウマ
チ薬の抗炎症作用、免疫系や結合織に対する特異的な作用に期待してのことである
[100]。しかし「その1」で述べたように、一般に抗リウマチ薬は効果が現れるまで
に時日がかかるから、その間の橋渡し
(bridge)の役目を果す薬として速効性のステ
ロイド薬かNSAIDを用いる。ステロイド薬は副作用の少ない5∼7.5mg/日(プレド
ニゾロン換算量)を用いて炎症を抑制し、機を見て漸減して抗リウマチ薬の単独使用
に移行(step
down)させていく。
一般に抗リウマチ薬は少量から始め、効果がないか、エスケープ現象が見られる
場合には増量するか、他の薬に切り換える
3
[11]。
以上の仕方がステップダウン・ブリッジ方式
55,
step-down
bridge
planである
[15,
98]。以前、RAで一度ステロイド薬を使用すると離脱がむずかしかったが、抗
リウマチ薬の導入によって離脱が比較的容易になったという
[55]。
この方式が成果をあげるには、一にかかって早期RAの診断にある
鋸歯状方式 Fries
(後述)。
(1990)は、選択した抗リウマチ薬に効果がないか、エスケー
プ現象が見られる場合には、図
5に示すように、次々と別の抗リウマチ薬に切り換
えていく方法を提案し、これを鋸歯状方式
sawtooth
planと名付けた
[73]。ステッ
プダウン・ブリッジ方式の変法ともいうべきものである。
Fries
図 5.
鋸歯状方式
(1990)と高崎 (1998)による
[73,
90]。
鋸歯状方式は、抗リウマチ薬の種類が限られていた以前では容易でなかったが、
開発途上のもの
(レフルノミド,
タクロリムス,
シクロスポリン,
第に種類が増えつつある昨今、やりやすくなったという
[55,
など)を含めて、次
72]。しかしRA治療に
より重要な役割を果しつつある抗リウマチ薬はメトトレキサートである。
メトトレキサートの少量間欠療法 前にも述べたように、以前他の病気に用いら
れていた薬で、この10年のあいだにRAにも用いて効果があることが分ったものが
いくつかある。その代表的なものがメトトレキサートとサラゾスルファピリジンで
ある。とくに前者はわが国で1999年に保険が認可され、RA治療の中心的な存在に
なりつつある
[5,
メトトレキサート
40,
101-104]。
(methotrexate)は、葉酸に対する拮抗作用を持った抗癌剤で
あるとともに、免疫抑制薬である
[102,
103]。前に述べたように、抗リウマチ薬の
なかでは「代謝拮抗薬」として分類され
[6]、製剤としてリウマトレックスやメト
トレキセートなどがある。RAに対する薬効はおそらく免疫抑制と抗炎症作用による
ものであろう
[103]。
1972年にHoffmeisterはRA患者にメトトレキサートを週に1
回服用させるだけで、
さほど副作用をきたすことなく、有効であると報告した[92]。これがメトトレキサー
トの少量間欠療法
low-dose
intermittent
4
therapyの最初と推測される。
その後追試された結果、この薬は一般に遅効性の抗リウマチ薬に比べて効果が早
く発現して、しかも強力であり、また日を追うごとに効果が上昇し、長期にわたっ
て寛解が続くことが分った。効果が上らないか、低下の傾向を示す場合には、増量
すれば高まることも分った。この薬の5年継続率は60%前後で、これは他の抗リウマ
チ薬のおよそ2倍である
[5,
40,
93-95,
103]。
1996年にアメリカとカナダのリウマトロジストに対してなされたアンケート調査
によれば、それぞれ78.5%と68.7%がメトトレキサートをRA薬物療法の第一選択に
あげている。その主な理由はメトトレキサートは他の抗リウマチ薬より早く効果が
現れ、継続使用率が高いことであった
[108]。わが国でもメトトレキサートをRA治
療の第一選択にあげる人が少なくない
[5,
103,
105]。
ついでながら、新しい抗リウマチ薬であるレフルノミド
(Leflunomide)は骨・軟
骨、関節病変の進行を抑制して患者のQOLを高める効果においてはメトトレキサー
トやサラゾスルファピリジンより秀れ、現在最も期待できる薬とされているが
[39,104,
109]、わが国ではまた臨床の場に入ってきていない。
メトトレキサートの少量間欠療法の具体的方法については、後に「処方」の項で
述べる。
表
11.
メトトレキサートの副作用
用量に無関係な副作用
急性間質性肺炎
用量に依存する副作用
消化管症状 (食思不振, 嘔気, 胃部の不快感, 口内炎)
肝機能に関連する酵素の異常値 (GOT, GPT, Al-Ph,
骨髄抑制 (貧血, 白血球減少, 血小板減少), など
総用量に関連する副作用
肝線維症, 肝硬変症,
など
その他の副作用
精神神経症状 (頭痛, めまい, 記銘力低下)
皮膚症状 (皮疹, 脱毛, 皮下結節)
腎障害 (BUN上昇, 血尿)
易感染
全身倦怠感, など
江口
(2000)を一部改変[103]。
5
LDHの上昇)
メトトレキサートの副作用を表
11に示す。副作用の多くは、重篤なものを除き、
薬の減量または中止によって消失する。大曽根ら(1997)は、メトトレキサートを使
用した患者234例のうち、使用後200週までに副作用が発現したために使用を中止し
た患者は47例
(約20%)であったと報告している
[106]。
最も警戒しなければならない副作用は使用した患者の3∼5%に見られる間質性肺
炎で、このなかにRAの関節外症状であるリウマチ肺
トが促進した例が含まれている可能性がある
(前述)の発現をメトトレキサー
[96]。他方、江口(2000)は、メトトレ
キサートの一回使用量や使用期間と間質性肺炎発現とのあいだには関連はないと述
べている
[103]。
表
12.
メトトレキサートの少量間欠療法における
使用禁忌、慎重使用、および要注意使用
使用禁忌
(1) 妊婦, (2) MTXの成分に対する過敏症状の既往歴, (3) 骨髄抑制の
ある患者, (4) 慢性の肝疾患がある患者, (5) 腎障害がある患者,
(6) 授乳中の女性, (7) 胸水または腹水のある患者, など
慎重に使用
(1) 肺線維症の既往歴のある患者, (2) 感染症がある患者, (3)
を服用している患者, (4) 水痘患者, (5) アルコール常飲者,
(6) 高齢者, など
併用の禁忌薬
(1) NSAID, (2) ST合剤, (3) スルホンアミド系薬,
ナトリウム, (5) ポルフィマーナトリウム, など
MTX
:
メトトレキサート。江口
(2000)を一部改変
(4)
NSAID
ピペラシリン
[103]。
表
12にメトトレキサートの使用禁忌、慎重に使用すべき場合、および他の薬との
併用禁忌を示す。これは表
11の副作用一覧とともに常時参考にすると良い。
メトトレキサートを使用する場合に、葉酸
5mg
(フォリアミン
1錠)をメトトレキ
サートの最終使用の24∼48時間後に服用させると、メトトレキサートの効果を維持
したままで副作用、とくに消化管障害や肝機能障害の発現頻度が低下するという
[103]。
併用療法
(追加併用療法)
2種類またはそれ以上の種類の薬を併用することの利
点は、作用の仕組みの異なる薬を同時または追加して使用することによって薬の作
6
用点が拡大し、また単独使用の場合よりそれぞれの薬の量を少なくして副作用が発
現しにくくなることであろう
[40]。結核や悪性新生物などの化学療法では古くから
行われていることである。
RAについては、Bunch et . al(1984)やCsukaet
al. (1986) 以来、とくにメトト
レキサートを中心とした2∼3種類の抗リウマチ薬の併用または追加併用療法がなさ
れ、その効果が二重盲検法によって検定されている
免疫抑制薬
[14,
40,
107]。最近では新しい
(抗リウマチ薬)であるレフルノミドや生物学的製剤であるキメラ型TNF
-αモノクローナル抗体(Infliximab/Remicade)、可溶性TNF受容体・Fc融合タンパ
ク質(Etanercept/Enbrel)などが開発され、メトトレキサートとこれらとの併用も
期待されているようである
[103]。
しかし、筆者は2種類以上の抗リウマチ薬の併用を積極的に推奨する気になれな
い。randomisedの二重盲検法で併用が有効であるというデータがまだ十分に出そ
ろっていないし、治療効果/副作用の比重
(benefit/risk
ratio)の視点から、もう少
し今後の治験の成績を待ったほうが良さそうである。
処方の例
いくつかの報文、処方集、および日本医薬品集
対する処方を選択した
[1,
6,
28,
42,
54,
(2000年版)を参考にして、RAに
110-112]。これらは三つの主要なRA治療
薬であるNSAID、抗リウマチ薬、およびステロイド薬を中心にしたもので、そのど
れを選ぶかは上に述べた治療方式またはそれぞれの医師独自の治療方法によって決
まる。あるいは、さらに良い処方があるかもしれない。
表
13にRAの重症度と臨床像による大まかな治療方針
(吉野谷
1993)を示したが、
もちろんこれは一案に過ぎない。悪性関節リウマチをふくむ「難治リウマチ」の治
療については、後に項を改めて述べる。
以下に紹介する処方を実地に用いる場合には、用法、副作用、または薬間相互作
用を再確認されたい。診療記録には内服、注射、その他の治療の時間は明記されね
ばならない。以前、服薬の時間は「食後30分」が多かったが、最近では治療の時間
が多様になり、食前30分、食直後、食間、就眠前、....が加わった。薬の吸収、有効
時間、薬の相互作用などを考慮して時間は明記されねばならない。1959年に提唱さ
れた時間薬理学chronopharmacologyの視点からも、このことはもっと重視されて
然るべきである
[1]。
薬物療法では非経口的薬物療法以外の一日あたりの服薬回数の上限が問題になる
が、紙数の関係でこれは別の機会にゆずる。
7
表
活動度
13.
RAの活動性と臨床像による治療の方針
関節炎の発現状況
NSAID DMARD 免疫抑制薬 ステロイド薬
ごく軽度
手足のゆびの
inactive 数カ所
軽度
mild
手足のゆびが主で、
ときに大中関節
関節内注入だけ
中等度
moderate
大中小関節のすべて
少量内服 1)
関節内注入
重度
severe
関節炎に臓器障害が
ある (難治RA)
中等量内服 2)
最重度
血管炎、臓器障害が ステロイド療法、血漿交換
malignant 前面に出て、生命
療法などの早期効果が期待
/fatal
予後が危ぶまれる
できる治療を優先する。
積極的に使用、
しばしば使用、
大量内服と
パルス療法 3)
原則として使用しない。
1) プレドニゾロン換算量 10mg以下。2) プレドニゾロン換算量 12.5∼20mg/日。
3)後に述べる。この表では抗リウマチ薬をDMARDと免疫抑制薬とに分けている。
吉野谷 (1993)を一部改変[125]。
関節に比較的軽度の炎症症状と痛みが見られる場合 抗リウマチ薬のクローズアッ
プによってNSAIDの影が薄くなったかのごとき感があるが、なお依然としてその存
在価値は失われていない
(1)
[6,
18,
34,
72]。NSAIDの有用性は、次のとおりである。
RAの診断が確定するまで、関節炎に関連する症状を解決する最も手近な治療
薬である。(2)
臨床的に落ち着いたようにみえても、関節に関連する症状が続く場
合がある。とくに指趾のこわばりは意外に患者の負担になっている
[34]。(3)
主と
して副作用の面で抗リウマチ薬が使えず、NSAIDで患者の苦痛を緩和しなければな
らない場合がある。(4)
抗リウマチ薬の効果が不十分な場合に、NSAIDを使用する
ことがある。ただし、上述のように、NSAIDとメトトレキサートとの併用は禁忌で
ある。以下、具体的な処方の例をあげる。
1)
プロピオン酸系のNSAID―lexoprofen
sodiumのプロドラッグであるLoxonin
は鎮痛と消炎のバランスがとれていて、推奨される。消炎性の抗潰瘍剤
を併用すると良い。
Rp.
ロキソニン (60mg)
1日3回、食後に分服
8
3T
Marzulen
2)
フェニル酢酸系のNSAID―nubumetoneのプロドラッグ
Rp.
3)
フェニル酢酸系のNSAID―diclofenac
Rp.
4)
レリフェン (400mg)
1日1回、夕食後に服用
Relifen。
2T
sodiumの徐放剤
ボルタレン徐放カプセル
1日2回、食後に分服
Voltaren。
(37.5mg)
2C
COX-2選択性のインドール酢酸系のNSAID―Osteluc。ただし、RAに対する
効果はいまひとつ不十分。
Rp.
5)
オステラック(200mg)
2T
1日2回、朝夕食後に分服。
インドール酢酸系のNSAID―proglumetacin
maleateのプロドラッグである
Miridacin。
Rp.
ミリダシン
(90mg)
3T
1日3回、食直後に分服。
関節の炎症症状と痛みが顕著な場合 経口剤と坐薬の併用は支障がないが、2種
類以上のNSAIDの経口服用は止めるべきである
1)
(前述)。
上述の経口薬を次の坐薬と併用。一般に坐薬は副作用が少ない。
Rp.
ボルタレン坐薬
50mg
就寝前に肛門内に挿入
2)
少量のステロイド薬を用いるのも良い。前述のように、RAでは一般にプレド
ニゾロン製剤が用いられる。
Rp.
プレドニン (5mg)
1∼1.5T
1日1回、朝食後に服用
Rp.
プレドニン (1mg)
4T
1日4回、毎食後と就寝前に服用
比較的軽度のRAについて薬物療法の長期効果を期待する場合 抗リウマチ薬を中
心に用いる。
1)
早期RAに対して抗リウマチ薬
Rp.
2)
actaritの製剤―Orcleを用いる。
オークル (100mg)
1日3回、食後に分服。
3T
NSAIDで十分な効果が上がらない場合に、寛解導入の金化合物
auranofinの製
剤―Ridauraを用いる。6mg/日を越えてはならない。
Rp.
3)
リドーラ (3mg)
2T
1日2回、朝夕食後に分服
NSAIDまたは他の抗リウマチ薬で効果が上がらない場合に、核酸合成阻害イ
ミダゾール系の免疫抑制薬
mizoribineに属する製剤―Bredininを用いる。
9
Rp.
4)
プレディニン (25mg)
1日3回、食後に分服。
活動性がある比較的早期の患者には
6T
lobenzarit
disodiumの製剤―Carfenilを
用いる。これは遅効性であるから、NSAIDを併用することが多い。
Rp.
カルフェニール (80mg)
1日2回、食後に分服
2T
中等度から重度のRAについて、長期にわたる効果を期待する場合 この段階の
RAは1970年代からリウマトロジストを最も悩したと推測される。抗リウマチ薬を
中心に薬を用いる。
1)
水溶性の金剤
sodium
Rp.
aurothiomalateの製剤―Shiozolを用いる。
シオゾール 10∼25mg
1∼2週間に1回筋肉内注射
1
V
初回の注射は10mg。それから1∼2週間目に第2回目の注射を25mg。それ以降、
同じ要領で25mgを注射する。
2)
NSAIDまたはその他の薬で十分な効果が上がらない場合には、抗リウマチ薬
salazosulfapyridineの製剤―Azulfidine
Rp.
3)
抗リウマチ薬
enteric
アザルフィジン腸溶錠
朝夕2回、食後に分服
bucillamineの製剤―Rimatil
coated
(500mg)
(EC)を用いる。
2T
(50・100mg)。効果の切れ味は良い。
最大量が300mg/日を越えないようにする。
Rp.
リマチル (100mg)
2∼3T
1日2∼3回、食後に分服
4) 抗リウマチ薬 D-penicillamineの製剤―Metalcaptase。これもRAに対する
効果の切れ味は良い。
Rp.
メタルカプターゼ (100mg)
1日2回、食前に分服
2T
メトトレキサートの少量間欠療法 わが国では製剤としてリウマトレックス
(Rheumatrex)とメトトレキセート
には、リウマトレックス
(Methotrexate)がある。慎重に治療したい場合
(1カプセル:2mg)を4mg/週から始め、十分な効果が得ら
れなければ、6mg/週に増量する
[103]。ただし、保険では最大使用量は8mg/週と
制限されている。
Rp.
リウマトレックス
(2mg)
3C
以上の量を初日から第二日目にかけて12時間の間隔で3回に分服。残りの5日間は
休薬する。
10
難治のRAに対する治療
一般に難治のRAとはムチランス型関節症 Arthritis
mutilansを呈するRA、悪性
関節リウマチ、および続発性アミロイドーシスを合併したRAを指しているが、筆者
は、表14に示すように、一般の医師の手に余り、少なくとも一度はリウマトロジス
トまたは整形外科医その他の専門科に診せる必要がある患者をも含めて、難治のRA
のカテゴリーに入れたほうが良いと思っている。図
の破壊が高度な例も含まれる。したがって表
6に示すような骨・軟骨、関節
14は医学的分類というよりは便宜的な
ものである。
メトトレキサート導入後難治のRAは減ったという見方があるが[105]、まだはっ
きりした統計学的資料は示されていない。
以下の、悪性関節リウマチを中心に難治のRAの治療法について述べる。 悪性関節リウマチの治療
RAにおいて、関節症状のほかに、血管炎を主体にした関節外の症状が見られ、重
篤、かつ難治の臨床像を呈するものを悪性関節リウマチ
malignant
rheumatoid
arthritisという[114]。以下、英語の頭文字を取ってMRAの略語で呼ぶことにする。
現在、この病名は欧米の医学界では使われておらず、わが国の医学界だけのもので
ある。
MRAはすべてのRA患者の約0.6%をしめ、わが国全土でおよそ3,600人の患者が
いると推測されている[117,
118]。
表14.
難治のRA
ムチランス型関節症
悪性関節リウマチ
続発性アミロイドーシス
頸椎のリウマチ病変
骨粗しょう症と多発骨折
手根管症候群
ベーカー嚢腫形成とその破裂
高齢発症のRA
山田(1999)と大曽根(1999)を参考に編成[24,
11
116]。
図 6.
手指関節の変形
四つの指が尺骨側に偏位し、関節変形も著しい。
山本 (1994)より引用[124]。
表
15.
悪性関節リウマチの治療指針案
(抜粋)
薬物療法
1.
ステロイド薬:PSLを初回に40∼80mg/日を使用.
[適用] 血管炎にもとづく臓器の虚血・梗塞, 間質性肺炎,
多量の滲出性漿膜炎, 心筋炎, 多発性神経炎(運動障害),
上強膜炎, 全身の壊死性血管炎, など。
2.
ステロイド薬:PSLを初回に20∼40mg/日を使用.
[適用] 皮膚潰瘍・梗塞, 指趾の壊疽, 紫斑・出血,
少量の滲出性漿膜炎, 多発性神経炎(知覚障害), など。
3.
抗リウマチ薬 (免疫抑制薬)
[適用] (1) ステロイド薬に反応しない場合, (2) ステロイド薬
の減量がむずかしい場合, (3) ステロイド薬に重篤な副作用があり,
継続がむずかしい場合, (4) 肉芽腫性の病変を伴った血管炎が
見られる場合, など。
4.
抗リウマチ薬 (D-ペニシラミン)
[適用] 肺線維症, 指趾の壊疽, 閉塞性の動脈内膜炎,
5.
など。
その他の薬物療法 (抗凝固療法, 血小板凝集抑制薬, 血管拡張薬,
[適用] 血栓, 塞栓による臓器虚血または梗塞, 皮膚潰瘍・梗塞,
指趾の壊疽, など。
血漿交換療法
[適用]
など)
本文参照。
外科療法
[適用] 腸梗塞, 指趾の壊疽, 狭心症・心筋梗塞,
などで外科手術が必要と考えられる場合。
上強膜炎,
虹彩炎
PSL:プレドニゾロン換算量。橋本ら(1988)と吉田(1998)を一部変更[113,
114]。
12
治療の方針 1988年に厚生省研究班から出されたMRA治療の指針を表15に示す。
ステロイド大量療法が中心になっており、そのほかに表
治療法が必要なことが分る[114,
115]。p.
15に示すようないろいろな
10で述べた「中等度から重度のRAにつ
いて、長期にわたる効果を期待する場合」の記載と重複する部分がある。
ステロイド・パルス療法 強力な治療効果を期待して超大量に相当する量のステ
ロイド薬を静脈内に点滴注射する治療法をステロイド・パルス療法
steroid
pulse
therapyという。リウマチ・膠原病では主にRAとSLEに適用され、RAでは症状が
急激に悪化した場合や上述の難治のRAで、あらゆる治療に抵抗する場合に適用され
ている[91]。
使用するステロイド薬は、プレドニゾロンより電解質コルチコイド作用の小さい
水溶性のメチルプレドニゾロン1000mgを生理食塩水か5%グルコース溶液に混合し、
およそ1時間かけて点滴静注する。続いて「後治療」をおこなう(後述)。メチルプレ
ドニゾロン100∼500mgのミニパルス療法もある[113]。
通常、効果は6∼8週間続くが、それ以上長期にわたる効果は期待できない。経口
大量療法に比べて、副作用は予期したほど多くはないが、感染に対する抵抗性低下
は警戒しなければならない[91,
113]。
≪処方の例≫
コハク酸メチルプレドゾロン・ナトリウムの製剤
Solu-Medrol(注射用
40・125・
500・1000mg)を用いる。
Rp.
ソル・メドロール(500mg)
1∼2V
以上を生理食塩水200∼250㎖に溶かし、1日に1回、1時間かそれ以上の時間をか
けて点滴静注する。これは3日間続け、第4日目から後療法としてプレドニゾロンを
内服させる。
Rp.
プレドニン(5mg) 6∼8T
食間、3回分服
(2T, または3・3・2Tを3回分服)
症状によって40mg/日以上内服させることもある。以上の内服を約1カ月間続け、
それ以降、1カ月に5∼10mgずつ減量する。ただし、20mg/日以下に減量した場合
に再燃することがあるから、注意を要する。
ステロイド薬の関節内注入 この治療法は副腎皮質ステロイドが発見されて間も
ない1951年にすでに試みられていたらしい[28]。次のような場合に適用されている
[24,
28,
(1)
2,
34]。
3の少数の関節に限って炎症症状と痛みが著しい場合、(2)
社会的な必要性
(近親の冠婚葬祭などを含む)からQOLを高める目的で関節の痛みを軽減し,
改善する場合、(3)
関節症状が他の治療法に抵抗し,
改善が期待できない場合、(4)
リハビリテーションの前処置として痛みを軽減する必要がある場合、など。
13
機能を
治療効果は3カ月程度続く[24]。
注入ステロイド薬の選択、大・中・小関節による注入量の選択、無菌操作、注入
技術などの問題があるから、RA専門の整形外科医にまかせるほうが良い。とくに医
原性の関節炎には注意しなければならない[24,
28]。
ステロイド薬に不応の難治のRA ステロイド薬に不応のRA患者の場合には、免
疫抑制剤
azathioprineの製剤であるImuranか、あるいはナイトロジェンマスター
ド系の抗腫瘍薬のcyclophosphamideの製剤であるEndoxanが用いられる。副作用
にはとくに注意しなければならない。
Rp.
イムラン(50mg) 1∼2T
1日に1∼2回、食後に服用
イムランの耐薬量と有効量は患者によってかなり異なるから、適量を決めるのに
注意が必要である。初期量を2∼3mg/kg、維持量を0.5∼1mg/kgを原則とする。
末梢血白血球数が3,000/mm3 以下の場合や妊婦ではとくに注意が必要である。
Rp.
エンドキサン(50mg) 1∼2T
1日に1∼2回、食後に服用
ペントスタチンとの併用は禁忌。骨髄抑制と感染がある場合には、とくに注意が
必要である。
血漿交換療法 病気の原因の一部をなしていると推測される流血中の有害成分を
体外循環のシステムによって除去する方法を血漿交換
plasma
exchangeという。
最近では、この治療法には、有害成分の除去ばかりではなく、免疫調節作用もある
といわれている[119]。
装置は次々と工夫改良されており、単純血漿交換療法、二重膜濾過血漿交換療法、
免疫吸着法、血漿冷却濾過法、塩析法、血球成分除去法などの方法がある。図7に
その一つを示す。これらの方法の委細は必ずしも「血漿交換療法」の名にマッチし
ないが、ここでは一応この名で統一しておく。どの方法も一般の医師の手に余る面
が出て来たから、中央診療施設で専門の技術者が実施したほうが良い。
22疾患に医療保険が認可され、リウマチ・膠原病では主にRAとSLEに適用され
ている。
最初にRAに血漿交換療法を適用したのは
Jaffe(1963)であった[121]。以来、RA
の病態の原因の一部をなしていると推測されるIgGリウマトイド因子や免疫複合体
を除去する目的でなされ、またクリオグロブリン血症や過粘稠度症候群なども適用
の対象になっている[116]。皮膚潰瘍を生じたMRAには顕著な効果が見られるとい
う[122]。
14
図 7.
血漿交換療法の一つのシステム
疎水性アミノ酸吸着剤を使用した体外循環のシステム。患者の股動脈に血管を確保
し、一次膜フィルター(plasma separator)によって血球と血漿を分離する。血漿成
分は吸着剤充填カラムを通り、再び血球成分と混和され、股静脈を経て患者に返さ
れる。高橋・吉野谷(1992)より引用[120]。
現在、MRAだけに医療保険が認可されているが、関節外症状がなくても、関節炎
の症状が顕著で、RA治療薬があまり効かない場合に血漿交換療法が効果を上げるこ
とがある[119]。
一般に1週間に1回の頻度で施行され、1回の血漿処理量は約2,000∼2,500㎖であ
る[119]。技法の委細は日本アフェレシス学会編集の「マニュアル」を参考にするこ
とを奨める[123]。
上強膜炎その他の眼病変 外眼部・前眼部の炎症性疾患に効く抗炎症副腎皮質ス
テロイドホルモンの点眼用液
fluorometholone
の製剤
Flumetholon(0.02・0.05・
0.1%)を点眼する。
Rp.
フルメトロン点眼液 (0.1%)
1回1∼2滴点眼、1日2∼4回
皮膚潰瘍その他の皮膚病変 慢性の末梢動脈狭窄または閉塞にもとづくと推定さ
れる皮膚病変の場合には、プロスタグランジンE1薬
または
alpstadilの製剤Palux
Liple(5・10
µg)を用いる。
Rp.
パルクス(10
µg) 1 V
1日1回静注、または点滴静注
15
(5・10
µg)
RAの経過と予後―過去ならびに現在
「骨・関節の10年」(p.
1)を迎えるに当って、Steinbrockeret
al.
(1949) 以来の
およそ50年間、診断と治療の進歩によってRAの経過と予後はどれだけ変ったであ
ろうか。
筆者はこのことに関して本格的に検討した統計資料を探索したが、見出すことが
できなかった。調べ足りなかったかもしれない。しかし小規模な臨床統計はある。
これらは多分に経験的
(empirical)であるが、RAの予後の推移を考察する上で貴重
な参考になる。
早期関節リウマチ
発症後1年以内のRAを、便宜上、早期関節リウマチ
early
rheumatoid
arthritis
と呼んでいる。以下、早期RAと略称する。
RAの経過と予後は、早期RAをどれだけの感度と特異性をもって診断できるかに
かかっていると推測される。しかし最初に関節症状を発現したRAがRA特有の病変
がきざして発症したRAであるか、他の原因にもとづく関節症であるか、あるいはか
なりの期間不定の発熱や全身倦怠感などが続いた後に顕性化したRAであるか明らか
ではない。この点、かつてマントウ反応や胸部X線写真で早期診断をしていた肺結
核症などとは状況が異なる。
小出(1994)によれば、早期RAでは関節滑膜にT・Bリンパ球の増加、好中球の浸
潤、局所のサイトカイン・レベルの上昇、滑膜細胞の増殖などの所見が認められる
という[78]。以前から関節局所に病変が始り、かなり長い不顕性の期間を経て発症
している可能性もある。
しかし、いろいろな疑問や問題点を残しながらも、RAに早期診断・早期治療をし
て患者のQOLを高める目標として、今のところ早期RAは最も有力な対象である。
また最近ではRAの病因解析に早期RAは重視されている。
診断と治療 早期RAの診断基準(試案)の一つを表
性はさほど高いものではなく、発症の初期には表
16に示す[79]。その感度と特異
17に示すようなリウマチ・膠原病、
および類縁疾患、とくに全身性エリテマトーデス、混合性結合織病、シェーグレン
症候群など診誤らないようにしなければならない。
柏崎ら(1992)は、早期RA診断の感度と特異性に配慮して、早目に抗リウマチ薬を
使用する目処についてガイドラインを提案している[43,
97,
98]。
今後、早期RAをより適確に診断する感度と特異性の高い方法が確立されることが
望ましい。
16
表
16.
早期RAの診断基準
1.
朝のこわばり
(15分以上継続)が1週間以上続く。
2.
三つ以上の関節域の腫脹が1週間以上続く。
3.
手関節, MCP関節,
1週間以上続く。
4.
左右対称性の関節域の腫脹が1週間以上続く。
5.
リウマチ因子陽性。
6.
手または足のX線像上の変化,
または骨びらんの所見。
PIP関節,
足関節,
またはMTP関節の腫脹が
軟部組織の紡錘状の腫脹,
骨粗しょう症,
発病1年以内で、以上の6項目のうち4項目以上あてはまれば、早期RAと診断
する。診断の除外項目(主要な鑑別の対象)は表 17に示す。松原ら(1992)など
を一部改変[62, 133-135]。
表
17.
早期RAと鑑別を要する疾患
1. リウマチ・膠原病
全身性エリテマトーデス
強皮症
多発性筋炎・皮膚筋炎
混合性結合織病
シェーグレン症候群
3. リウマチ性疾患
乾癬性関節炎
反応性関節炎
ライター症候群
強直性脊椎炎
リウマチ性多発筋痛症
2. 未分化結合織病
4. その他
ベーチェット病
松原(1992)その他による[62,
133-135]。一部改変。
RA発症後の経過
RAが発症後どのような経過をたどるかについては、研究者によって意見はさまざ
まである。まとまりがないままに、それぞれの意見を紹介しておく。
臨床経過の型 Smyth(1968)は、図
(約15%)、多周期型
polycyclic
35%)に分けている[30,
8に示すように、進行型
type(約50%)、および単周期型
progressive
monocyclic
type
type(約
31]。これらのなかで進行型ではその個体が保有する遺伝子
型、例えば白血球抗原の1型であるHLA-DR4の対立遺伝子についてホモ接合である
可能性が高いとする報告がある[20]。ヒト・ゲノムの解析も急速に進んで、自己免
疫現象に関連する遺伝子もいくつか同定されているから、このような進行型RA患者
の宿主要因
host
factorもいずれ明らかになるであろう。
17
図 8.
RAの臨床経過の型
(1968)と川合 (1999)による[6,
Smyth
30]。
以上の三つの型のほかに、ほとんど治療しないうちに自然に治癒する例があるこ
とを示唆する見解がある[24,
34]。しかし、そのような関節症がRAであることを証
明する信頼度の高い方法がない。
RAの経過に関して、さらにいくつかの見解がある。断片的な記載ながら、記して
おく。
○患者の約80%は発症後およそ10年で何らかの障害を残す[9,
13]。
○比較的早期に診断された患者の約35%は、予後不良な経過をとる[2]。
○RAは完全に治癒するか、障害が固定して「欠陥治癒」に状態になることは稀で
ある[2]。
図
9.
早期RA患者の生存率
川合(1999)による[6]。
18
早期RAの生存率 川合(1999)によれば、早期RAの患者86人(男性
22,
女性
64人)
の発症から初めて受診するまでの期間は平均6.7カ月で、年齢は47歳であった。生
存率は初めての受診から10年間で約85%、20年間で55%であった(図
9)。
RAの予後は好転しつつあるか 診断と治療法の発達によってRAの予後は好転しているであろうか。上に述べたよ
うに、この点について本格的な統計資料を探索したが、見出すことができなかった。
しかし経験的
(empirical)な報告はある。これとても貴重である。
延永(1992)は、1950年から1992年までの40数年にわたって、RAに対する治療薬
の推移とそれが患者の病態におよぼす影響について検討している[18]。
RAの経過を長期的にみると、寛解率は1990年代の初めで20%足らずで、これは
al.
1948年におけるShort et の報告[127]とほとんど変らない。宮城・東(1997)も同
様な見解を示している[132]。しかしSteinbrocker et
al.
の病期と重症度分類(表 2)
などを基準にして統計学的に吟味すると、RAの経過や機能障害の程度に反映する病
気の進行速度は遅延しており、その結果、患者のADLはより良好に保たれ、QOLは
向上していると推測している。これはおそらくRAの診断と治療の方法が進歩したこ
とによるであろう[5,
6,
18,
34,
40,
124]。
患者の死亡年齢 川合(1999)は205例のRA患者の死亡した年齢を調べている[6]。
1990年代半ばの死亡年齢は平均65.2歳(男
死亡年齢より10歳ほど若いという(図
63.7,
女性
67.3歳)で、これは一般の平均
10)。1990年代半ばでは、1975年代に比べて、
生存する年齢が延長していることを示唆している。
主要な死因は感染、全身にわたる血管炎、他のリウマチ・膠原病との重複、薬物
療法の副作用などであろう[6,
図
13,
126]。
10.
RA患者の死亡した年齢の年代的推移
川合(1999)による[6]。
19
表
18.
開発途上にあるRAの治療法
抗サイトカイン療法
細胞内シグナル伝達阻害薬療法
抗接着分子療法
造血幹細胞移植療法
経口ペプチド療法
アフェレーシス療法
モノクローナル抗体療法
遺伝子治療
アンチセンス療法
漢方療法
T細胞ワクチネーション療法
その他
橋本(1997)その他を参考に筆者編成[5,
26,
40,
(p.
41,
14参照)
129,
131]。
む す び
RAには、以上述べた治療法のほかに、抗サイトカイン療法をはじめとする新しい
治療法が開発途上にある(表
18)。あらゆる治療手段を講じても悪化する一方の患者
を診ると、遺伝子治療の早急な実現を望みたくなる。
[謝辞]
立元貴博士,
大第一内科)、藤井俊志,
住吉真治医師
(福岡逓信病院・内科)、大塚毅,
中島衡博士
庄野泰英氏(福岡逓信病院・薬剤部)の御協力に深謝する。
柳瀬 敏幸(2000.12.12)
20
(九
参 考 文 献
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