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(誘導ソフトウェア開発)の歩み - 一般社団法人 日本航空宇宙工業会
工業会活動 三菱スペース・ソフトウエア㈱における 宇宙事業(誘導ソフトウェア開発)の歩み 三菱スペース・ソフトウエア株式会社 つくば事業部第一技術部長 中嶋 憲 1.はじめに 現在の当社事業は宇宙開発のみならず、航 当社は1962年に三菱電機㈱と米国TRW社と 空、防衛、情報通信、防災・環境、バイオイ の合弁会社である三菱テー・アール・ダブリ ンフォマティクス、SI(システム・インテグ ユ株式会社(以下、MTRWという)として発 レーション)等各分野に裾野を広げ発展して 足し、1976年に社名を三菱スペース・ソフト いる。ここでは社名の由来でもある宇宙シス ウエア株式会社(以下、MSSという)に変更 テム分野、特に基幹ロケットの搭載誘導ソフ し現在に至っている。創業から半世紀に亘り トウェアに焦点を当て、その当社事業の歩み 日本の宇宙開発の発展と共に歩んで来た会社 を紹介し(表1参照)、今後の取り組みについ である。 て言及する。 表1 当社誘導ソフトウェア開発の歩み 西暦 1962 1966 1967 1968 1969 1970 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1985 1986 1994 1996 2001 2009 2014 12 当社宇宙事業(誘導ソフトウェア開発)の歩み プロセス・コントロールシステム及びシリコン半導体製品製造販売の会社創立(MTRWとして発足) プロセス・コントロール事業を三菱電機に事業移管し、衛星通信地球局を中心とした事業を展開 メキシコ衛星通信地球局アンテナ受注 三菱電機に地球局事業移管、科技庁宇宙推進本部の宇宙開発に参画 宇宙開発システムズ・エンジニアリング及びソフトウェア開発会社として再出発 宇宙開発推進本部よりQロケット及び射場開発のシステム・エンジニアリング作業を受注 宇宙開発事業団(NASDA)よりNロケット開発のシステム・エンジニアリング作業を受注 NASDAよりNロケット電波誘導システムのソフトウェア開発を受注 NASDAよりNロケットの誘導解析等を受注、TRWとの合弁事業契約完了 Nロケット初号機打上げ成功 三菱スペース・ソフトウエア株式会社(MSS)と社名を変更 NASDAより慣性誘導ソフトウェア開発を受注 NASDAよりH-Ⅰロケット慣性誘導ソフトウェア開発を受注 NASDAよりH-Ⅱロケット慣性誘導ソフトウェア開発を受注 H-Ⅰロケット初号機打上げ成功 H-Ⅱロケット初号機打上げ成功 NASDAよりH-ⅡAロケット慣性誘導ソフトウェア開発を受注 H-ⅡAロケット初号機打上げ成功 H-ⅡBロケット初号機打上げ成功 宇宙航空研究開発機構(JAXA)よりH3ロケット誘導ソフトウェア開発を受注 平成27年9月 第741号 2.日本の宇宙開発計画への参加 (2)H-Ⅰロケット MTRWにおける我が国の宇宙開発計画への N-Ⅰロケットにおいて開発した電波誘導シ 参加は、科学技術庁に設置された宇宙開発推 ステムの技術を継承し、1977年に宇宙開発事 進本部から、「人工衛星打上げロケット及び 業団より慣性誘導ソフトウェアの開発を受注 射場設備のシステム・デザイン」の委託研究 した。これが純国産のH-Ⅰロケット慣性誘導 を 1967 年 度 に 受 注 し た 時 に 始 ま る。当 初 ソフトウェアへと発展して行く。電波誘導か MTRWは地球局事業がその中心であったが、 ら慣性誘導になったことで、可視でなくとも 1968年に地球局事業を全て三菱電機に移管 誘導ができるようになり誘導区間の制約が大 し、日本の宇宙開発におけるシステムズ・エ 幅に緩和され、高精度に多様な軌道へ衛星を ンジニアリング及びソフトウェア開発を行う 投入可能になり、日本の宇宙開発にとっても こ と を 事 業 方 針 と し て 再 出 発 し た。ま た、 大きな前進となった。また、当社では誘導ソ 1969年に宇宙開発事業団が発足し、システム フトウェアの開発と並行し、これを開発・検 ズ・エンジニアリングは事業団が主体となり、 証するために必須となる飛行シミュレーショ MTRWはソフトウェア開発に軸足を移すこと ン・プログラム、計算機シミュレーション・ に な る。こ の よ う な 状 況 の 中、1973 年 に プログラム、慣性計測装置等の周辺機器の模 MTRW提案による電波誘導システムがNロ 擬を行うシミュレーション・プログラム、誘 ケットに採用されることになった。 導解析ツール群等も合わせて開発を行った。 H-Ⅰロケット試験機1号機の打上げは1986年8 3.誘導ソフトウェアの開発(図1参照) (1)N-Ⅰロケット 月であり約10年越しの開発となった。 (3)H-Ⅱロケット 当時は国産ロケットの開発・打上げを目標 H-Ⅰロケット初号機打上げに先立つ1985 に、米国から技術導入を行っていた時期であ 年、宇宙開発事業団より2ton級の静止衛星打 り、N-Ⅰロケットに採用された電波誘導シス 上げ能力を目指すH-Ⅱロケットの航法・誘導 テムに関しても米国TRW社の技術に負うとこ システムを受注した。H-ⅡロケットではH-Ⅰ ろが大きかった。1975年の初号機打上げ前に ロケットと同様の慣性誘導方式を採用してい は、MTRW技術者全員が米国TRW社で大型コ るが、H-Ⅰロケットとの相違点として、3 軸 ンピュータを用いた誤差解析シミュレーショ 同時の誘導操舵及び共軌道誘導方式の追加が ンを行う等の連携を深め、2号機においては、 挙げられる。共軌道誘導方式とは、軌道傾斜 ターゲッティング作業及び打上げ支援作業は 角と昇交点経度の両軌道要素を制御するヨー 全てMTRWの技術陣のみで実施している。ま 誘導則の採用、方位角変更方式ならびにリア た、1976年度には宇宙開発事業団より受注し ルタイム・ターゲット計算を含めた誘導方式 た作業の全てを独自で実施できるまでに技術 であり、慣性空間上で定義される目標軌道へ 力を高めた。このとき既に米国TRW社との合 の打上げに活用される。また、H-Ⅰロケット 弁事業契約は終結しており、米国TRW社から ではステーブル・プラットフォーム方式の慣 の技術トランスファー及び技術陣育成が完了 性計測装置であったが、H-Ⅱロケットではス したため、1976年6月を以て「三菱スペース・ トラップダウン方式が採用されたことにより ソフトウエア株式会社」に社名を変更した。 航 法 計 算 に つ い て も 新 た に 開 発 を 行 っ た。 1994年2月に初号機が無事打上がった。 13 工業会活動 誘導ソフトウェアがそのまま適用可能であ (4)H-ⅡA/Bロケット H-ⅡAロケットの開発は1996年に開始され り、新たな開発は行っていない。機体コンフィ た。H-Ⅱロケットの誘導方式には、高高度へ ギュレーションに伴う飛行経路シミュレー の直接軌道投入を行う太陽同期軌道打上げ ション・プログラムの小規模な改修に留まっ ミッションや、大きな軌道面変更を伴う飛行 た。 経路への適用に難点があり、その克服が誘導 (5)H3ロケット ソフトウェア開発における課題であった。H- 当社は、H3ロケットの開発にも誘導ソフト ⅡAロケットでは能力が大幅に向上した搭載 ウェアのキー技術担当事業者として参加して 計算機が開発、採用され、計算時間制約によ おり、今年度から基本設計に着手している。 り実現が困難であった高度な誘導方式を採用 これまでに蓄積した技術を最大限に生かし、 することができた。 高い信頼性を確保しながら打上げサービスに また、H-ⅡAロケットでは、飛翔制約への 柔軟に対応できる設計を遂行している。また、 適合性を確認するミッション解析作業の効率 運用におけるコスト削減とスケジュール短縮 向上を目指し、新たな飛行経路シミュレー のために、宇宙航空研究開発機構やプライム ション・プログラムの開発も行い、運用作業 コ ン ト ラ ク タ で あ る 三 菱 重 工 業 ㈱ と 共 に、 におけるコスト削減とスケジュール短縮に貢 ミッション解析作業の抜本的な見直しを行っ 献した。 ている。 H-ⅡBロケットでは、H-ⅡAロケット航法・ 出典:JAXAホームページ ロケット開発の歴史 http://www.rocket.jaxa.jp/rocket-engine/rocket/past/ 図1 当社開発誘導ソフトウェア搭載液体ロケット(N-Ⅱを除く) 14 平成27年9月 第741号 (6)その他 とのないようH3後も見据え、今後実現が期待 ロケット以外でもHOPE(宇宙往還機)の航 される空中発射や帰還型ロケット等の先進的 法・誘導システムに関する概念設計を受注し、 有 な誘導技術及びこれを支える飛行シミュレー 翼機の再突入誘導・各種センサによる複合航 ション技術について、再突入誘導の知見も活 法に関する検討を行った。残念ながらHOPE 用しながら具体化に向けた検討を行ってい は実用化に至ることはなかったが、OREX(軌 く。さらに、切れ目のない技術の継承・人材 道再突入実験)、HYFLEX(極超音速飛行実験) 育成、新たな技術の獲得を図ると共に、これ の一連の実験にも参加し、航法・誘導に関す ら先進技術の実現を目指した積極的な提案活 る新たな技術の蓄積を図ることができた。 動を推進していく。 4.今後の取り組み 5.おわりに 現在、H3ロケット誘導ソフトウェアは、プ 今回、当社宇宙事業の歩みを創立から振り ライムコントラクタである三菱重工業㈱の 返ったが、改めて諸先輩方の努力の積み重ね 下、宇宙航空研究開発機構の支援を受けて開 で現在の当社があることを再認識することが 発を進めているが、2020年の初号機打上げに できた。今後も当社が我が国の宇宙開発に不 向け、この開発を確実に完遂することに重点 可欠な存在であるよう技術を磨き続け、宇宙 を置いている。 産業界の更なる発展に向けて努力して参る所 また、Nロケットから数えて約40年間にわ 存である。 たる誘導ソフトウェア開発の歩みが止まるこ 15