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ヒートアイランド現象の形成要因 4.

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ヒートアイランド現象の形成要因 4.
4. ヒートアイランド現象の形成要因
4.1 要因の概要
ヒートアイランド現象は、都市化に伴う「地表面被覆の人工化」と「人工排熱の増加」の
集積が大きな要因となっている。
地表面被覆では、自然土壌や緑地など気化熱により周囲の温度を低減する役割を担う蒸発
散作用をもつものから、アスファルトやコンクリートなど水を含まずしかも比熱の大きな
ものへと転換してきたことが大きな要因である。また、人工排熱では、冷房や自動車から
の排熱が大きな要因となっている。
暖められた大気は都市の気象・地理的な条件によって移動するため、熱の発生地域ばかり
ではなく風下や風の収束場(吹きだまり)にも影響を及ぼしている。
1)地表面被覆の人工化
地表面が建物やアスファルト舗装などによって覆われることにより、自然の土壌
や緑などに比べて熱的な特性が変化する。例えば、自然土壌や緑地の減少によって気
化熱により周囲の温度を低下させる役割を担う蒸発散作用が減少し、建築物による凹
凸の増加(乱反射の増加)や反射率の低下が地表面の高温化を招き、大気を暖める対
流顕熱や赤外線放射を増加させる。また、比熱の大きなアスファルトやコンクリート
に熱が吸収・蓄熱されると、夜間の赤外線放射が増加して夜になっても気温が下がら
ない現象が生じる。また、大気中の汚染物質(微粒子)も放射による熱の授受に関係
している。
2)人工排熱の増加
人工排熱は、排煙・冷却水
気温の上昇
など産業活動に伴う排熱(点
源)、自動車など移動発生源
による排熱(線源)、事務所
風
大 気
や家庭の空調システム・照
大気汚染
熱
明・OA機器などから排出さ
れる排熱(面源)などがある。
地表面被覆の人工化
人工排熱の増加
空調システムやOA機器な
ど個別機器の省エネ化は進
都 市
められているが、それを上回
注)大気汚染による温室効果については、必ずしも大気への熱
環境負荷増加の一方向に働くとはいえない面がある。
図 4-1 ヒートアイランド現象にかかわる要因の模式図
23
る人口と産業の集中、機器の
普及が都市の人口排熱を増
加させている。
3)気象条件
このようにヒートアイランド現象の原因となる要因は、個々の小さな熱収支の変化や
人工排熱の集積が大気を暖めることによって生成される一方、暖められた大気は地域
スケールの気象条件(海陸風)や地理的な条件(市街地の広がりや河川・緑地の配置
などによる風の道など)に支配されながらヒートアイランドを形成している。このた
め、必ずしも対流顕熱や人工排熱の多いところが高温域になるとは限らず、都心部か
ら風下方向に高温域が移動する現象もしばしば起きている。
(解説)地表面の熱収支
大気圏を通過して地表面に到達する太陽の放射エネルギーには、
直達日射(大気圏を通過して直接地表面に達する)
天空日射(大気中で散乱されて地上に降り注ぐ)
大気放射(大気中の水蒸気等に吸収されてその大気の温度に応じて再放射される)
があり、最も大きい直達日射は緯度や季節、天候によって異なるが、夏至の東京では約
1,000W/㎡に達する。
地表面に到達した放射エネルギーは、一部が反射され残りが地表面に吸収され地表面を暖
める。吸収されたエネルギーは、地表面付近の大気との対流(顕熱)によって大気へ、あるい
は再放射エネルギーとして空間に放出される他、水が存在する場合には蒸発の潜熱として大
気に放出される。残りは地中に熱伝導として伝わっていく。
地表面ではこのようなエネルギーの入射、放出がある比率のもとで一定のバランスを保っ
ているが、地表面被覆などが変化するとこのバランスが崩れ高温化などが生じる。
地表面反射
直達日射
地表面再放射
天空放射
大気放射
対流
蒸発
地表面
地表面
付近大
気
土中への熱伝導
○顕熱:日射などにより地面や建物が暖められると周囲の大気に熱が放出される。この熱を
顕熱と呼び、両者の温度差が大きいほど、大気の風速が大きいほど顕熱は大きくなる。
○潜熱:地面の温度が高くなると地面に含まれていた水分が大気中に蒸発する。この時、水
分は蒸発に必要な熱を地面から奪い大気に移動するため、結果的に熱が地面から大気に移
動することになる。この熱を潜熱と呼び、大気の湿度が小さく風速が大きいほど潜熱は大
きくなる。植物の蒸発散作用も潜熱の一つである。
○放射:物体表面から放射される電磁波による熱の移動で物体間の表面温度差の4乗に比例
するため、表面が高温なほど放射が大きくなる。地表面被覆と大気中の微粒子の間で放射
が起これば大気の温度が上昇する。
24
(解説)都市気温の主な形成要因
地表面付近の大気は、地表面からの対流顕熱や放射によって暖められる他、空調機や自動車排ガス等による人工排熱
によっても暖められる。また、土壌や水面からの蒸発潜熱は直接大気を暖めることはないが、蒸発によって周囲の温度
を下げる効果があり、結果的に大気の温度を下げる役割を果たしてくれる。
都市化によって地表面被覆が変化し、緑地や水面が少なくなり人工排熱が集積することによって熱収支に以下のよう
な変化が生じる。
緑地や水面の減少
蒸発量の低下
昼間の高温化
潜熱の減少
地表面被覆の
表面高温化
自然土壌の舗装や建
物化
大気への顕熱・
放射の増加
反射率の低下
熱吸収の増加
建物による凹凸の増
加
比熱の増大
エアコンや自動車、
工場等によるエネル
ギー消費の増大
人工排熱の増大
放射冷却の減
少
25
夜間の高温化
地表面被覆の
蓄熱増加
大気への顕熱・
放射の増加
4.2 個別要因の変化
○地表面被覆について
大都市地域では都市部を中心に緑空間が減少している。公園等の整備が進んでいるも
のの都市化とともに宅地の緑や生産緑地等が大きく減少している。
道路用地や公共施設、オフィス、高層住宅用の敷地などについてもアスファルト舗装
等による不透水化が進んでいる。
加えて、緑空間とされる「公園」についても、人工被覆の割合が増加しており、緑の
「量」は必ずしも十分とはいえない場合もある。ヒートアイランド現象防止の観点から
は、都市内の緑地における緑の量についても考慮する必要がある。
○人工排熱について
エネルギー消費を分野別に見ると、家庭部門と自動車輸送部門のエネルギー消費の伸
びが顕著である。また、季節ごとで比較すると夏期の冷房による消費の増大が著しい。
4.2.1 地表面被覆の人工化
1)都市における緑の減少
樹林等の緑は、ヒートアイランド現象などの都市気候の緩和する働きがあることが
知られている。各都市の緑被率の推移を見てみる。
仙台の 1988 年から 1994 年の 6 年間の動きは、市全域では農耕地と樹林地がそれ
ぞれ 1、0.5 ポイント減少し、緑被率としては 1.6 ポイントの低下となっている。し
かし市街化区域のみを見ると、農耕地や草地の減少により、緑被率は 4.6 ポイントと
大幅に下がっている(図 4-2)。
100.0
100.0
仙台市全域
市街化区域のみ
80.0
1988年
1994年
60.0
緑被率{%]
緑被率{%]
80.0
40.0
20.0
60.0
1988年
1994年
40.0
20.0
0.0
0.0
樹林地
草地
農耕地
水面
緑被合計
樹林地
草地
農耕地
水面
緑被合計
図 4-2 仙台市における緑被率の変化:左は仙台市全域、右は市街化区域のみ
注)平成 7 年「仙台市緑の分布調査報告書」(仙台市)より作成
東京の 1974 年から 1999 年の 25 年間の動きを見ると、23 区では草地、農地が減
り、逆に公園、宅地等の緑は増加しており、全体のみどり率は 1.3 ポイントの低下と
なっている。一方、23 区外の多摩地域では樹林や農地の減少により、みどり率は 6.2
ポイントも低下している(図 4-3)。
26
名古屋では 1990 年から 95 年までの 5 年間の動きを見ると、やはり樹林地や農地
の減少により、緑被率に直すと 2.4 ポイントの減少となっている(図 4-4)。
50.0
100.0
東京都区部
多摩地域
80.0
60.0
注)みどり率:ある地域における、樹林地、草地、農地、宅地内の緑(屋上緑化を含む)
、公園、
街路樹や、河川、水路、湖沼などの面積がその地域全体の面積に占める割合。
出典)東京都環境局資料より作成
図 4-4 名古屋市における緑被率の変化
出典)平成 12 年版「名古屋市環境白書」(名古屋市)
これら緑地の減少により現在では図 4−5 に示すように市街地が拡大しており、特
に東京、名古屋では沿岸部から内陸部までの広い範囲が都市化し、連続的な緑地が後
退していることがわかる。
また、市街地内の緑の減少に対して、公園等の整備が進み、緑被率の減少の防止
が図られているが、ヒートアイランド現象の緩和という視点から考えた場合、園内の
過剰な人工構造物や舗装、葉量の少ない低木の植栽などはその効果に乏しい。自然土
壌のもつ透水性や保水性の保持が必要であり、また木々の葉の持つ気候緩和効果から
27
)
ど
(み
計
合
図 4-3 東京都におけるみどり率の変化:左は東京都区部、右は多摩地域
緑の量(ボリューム)が重要となっている。
り
率
面
水
園
公
緑
の
路
道
地
合
計
宅
地
等
の
樹
ど
(み
農
林
地
)
り率
面
水
園
公
の
路
道
地
地
等
の
農
宅
草
緑
0.0
緑
0.0
地
20.0
林
地
10.0
緑
40.0
地
20.0
1974年
1998年
草
30.0
面積率[%]
1974年
1998年
樹
面積率[%]
40.0
仙台周辺
東京周辺
名古屋周辺
図 4-5 各都市の衛星写真(LANDSAT TM のデータを用いた NVI)
2)都市における人工的土地利用の増加
先に見た大都市における緑の減少は、宅地等の人工的土地利用に転用されている。
図 4-6 に東京と名古屋の土地利用の変化を示す。東京、名古屋ともに山林田畑が減少
し、住宅や道路等が増えている。特に名古屋では 1974 年から 1994 年の間に山林田
畑は 9 ポイントも減少し、これが主に住宅と道路に転用されている。
28
名古屋市
東京 23 区
100%
100%
90%
90%
80%
その他
河川
公園・緑地
山林田畑
道路
公共施設
商工業
住宅
70%
60%
50%
40%
30%
20%
80%
河川
公園・緑地
山林田畑
道路
公共施設
商工業
住宅
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
10%
0%
0%
1974 1979 1984 1989 1994
1974 1979 1984 1989 1994
図 4-6 東京と名古屋の土地利用の変化
出典)国土地理院提供資料から作成
また、増加傾向にある人工構造物自体の材質の変化もヒートアイランド現象に影響す
る要因の一つとして指摘されている。木造に比べ熱容量の大きい RC 造建物などは特に
夜間のヒートアイランド現象に影響するといわれている。建物構造を大きく木造と非
木造に分類し、東京及び名古屋における建物構造別の総床面積の経年変化を見た(図
4-7)。
350,000
90,000
東京23区
木造構造
非木造構造
60,000
[千㎡]
200,000
150,000
50,000
40,000
30,000
100,000
97
93
19
89
19
85
19
81
19
77
19
73
19
69
19
65
19
19
19
図 4-7 東京と名古屋の建物構造の変化
19
57
97
93
19
89
19
85
19
81
19
77
19
73
19
69
19
65
19
19
19
61
0
57
10,000
0
61
20,000
50,000
19
[千㎡]
70,000
木造構造
非木造構造
250,000
名古屋市
80,000
300,000
出典)大都市比較統計年表データより作成
東京では、木造建築物は昭和 56 年をピークに減少に転じている。一方で非木造構造
物は増加の一途を辿り、木造構造物が減少に転じると同時期に非木造構造物の床面積
が木造構造物より大きくなっていることがわかる。
名古屋でも、総床面積に対する非木造構造物の割合は 71%に達し、経年的な変化を
見ても、東京とほぼ同様の変化をしている。
その他、河川のコンクリート護岸や建物敷地の不透水化など不透水面積の拡大は気
温を上昇させる方向に作用する。
29
注)1980 年1月に東京吉祥寺で観
測された結果によると、100m
メッシュ内のコンクリートや
アスファルト舗装の面積割合
が 30%を超えて増加するにつ
れて気温が高くなる傾向が見
られた。
図 4-8
不透水面積と気温の関係
出典)山下(1986)
「日本におけるヒートアイランドとその形成要因
について」日本気象学会誌,Vol.23,No.1,p11-18
4.2.2 人工排熱の増加
エネルギー消費は最終的に熱に変換され環境中に放出される。この意味で、エネル
ギー消費は都市の人工排熱を推定する重要な指標となる。
ここでは、仙台、東京及び名古屋のエネルギー消費を産業、業務、家庭及び自動車
輸送の部門別に経年変化を見てみる。
図 4-9を見ると、3都市とも家庭部門のエネルギー消費が一様に伸びている。また、
仙台市と名古屋市では自動車輸送が、東京都23区では業務部門がエネルギー消費増
加の重要な要素となっている。
40,000
120,000
100,000
東京都23区:621k ㎡
35,000
名古屋市 :326k ㎡
[10億kcal]
[10億kcal]
30,000
80,000
60,000
40,000
25,000
20,000
15,000
10,000
20,000
5,000
0
14,000
12,000
仙台市:788k ㎡
注)業務部門、産業部門、家庭部門については、大都市比較統
業務部門
産業部門
自動車輸送
家庭部門
8,000
6,000
計年表、国民経済計算及びエネルー・経済統計要覧(省エネ
ルギーセンター)。自動車部門については自動車輸送統計及
びエネルギー経済統計要覧(省エネルギーセンター)から算
出。仙台市の自動車部門においては平成 11 年度交通センサ
4,000
スを用い、東北地方運輸局のデータを仙台市のデータに割
2,000
り引いて使用。
各都市の面積は大都市比較統計年表から引用
1998
1995
0
1992
[10億kcal]
10,000
図 4-9 各都市の部門別エネルギー消費
30
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1977
1974
1971
1968
1965
1998
1995
1992
1989
1986
1983
1980
1977
1974
1971
1968
1965
0
また、夏季については冷房需要が最大電力を押し上げていることがよく知られてい
る。図4-10は最大電力の月別変化を経年的に見たもので、年々最大電力が増加する一
方で、7∼9月(夏季)の最大電力の突出も著しくなっている。この突出部分は主に
冷房による電力消費と考えられる。図4-11は夏季の消費電力を時間大別に見たもので
昼間の消費電力の増加が顕著である。
このような突出したピーク電力需要は、これに合わせた供給体制をとらざるを得な
い電力供給にとって非効率的であるばかりではなく、昼間のピーク電力を担っている
火力発電所からのCO2排出量増加を招いている。
図 4-10 月ごとの最大電力の変化
図 4-11 夏季の消費電力の時間変化
出典)電気事業連合会 HP
出典)電気事業連合会 HP
図 4-12 に東京23区の冷房消費エネルギーの経年変化を示す。冷房消費エネルギ
ーは年々増加する傾向にあり、特に業務部門の伸びが著しい。なお、この経年変化と
各年の夏季(7∼9月)の平均気温の変化を比べると、冷房消費エネルギーの増加傾
向の中で、減少あるいは極端に高い増加がある年は、平均気温が低い又は高い年と対
応しており、冷房消費エネルギーが気温と密接に関係していることがわかる。
31
業務部門
家庭部門
夏季平均気温
5,000
26.0
℃
25.0
4,000
[10億kcal]
24.0
3,000
23.0
22.0
2,000
21.0
1,000
20.0
1999
1997
1995
1993
1991
1989
1987
1985
1983
1981
1979
1977
1975
1973
1971
1969
1967
19.0
1965
0
図 4-12 東京 23 区の冷房負荷(家庭部門と業務部門)
注)冷房用エネルギー消費原単位(エネルギー経済統計要覧)を東京のエネルギー原単位を補正(平成 11 年「都に
おけるエネルギー需要統計調査」東京都)し、これと家庭世帯数及び業務部門延べ床面積(大都市比較年表)から、
東京 23 区の冷房用エネルギー消費を算出(左軸)。アメダスの東京の夏季(6∼9月)平均気温(右軸)。
32
4.3 要因の集積と気象条件
都市部では①連担した市街地の形成により大気循環による熱拡散が阻害されている、
②沿岸部の都市では工場など大きな熱源が臨海部(風上)に位置することが多い、③
都市内の地形、構造的な問題により大気が滞留しやすい弱風域が形成される場合があ
る、などさまざまな要因が集積することにより、都市全体あるいは都市内の特定の地
域の熱大気汚染を助長している。
4.3.1 人工被覆の集積
前節で示したように、緑被率が減少し、宅地等の人工被覆面が増大している。
東京23区と名古屋市の人工被覆の集積を見ると、東京では概ね80%以上の人工土地
被覆となっている。西側には世田谷区、練馬区、東側には江戸川区、北では足立区等
にはところどころ50%未満の地区が見られる。また、人工土地被覆が80%以上の市街
地にあって荒川沿いや新宿御苑、明治神宮、上野公園、皇居など人工土地被覆の低い
地区が点在し、都市に自然環境を与える貴重な存在となっている(図4-13)。
図 4-13 東京 23 区における人工土地被覆のメッシュ分布
注)東京都都市計画 GIS から 500m メッシュ内の人工土地被覆割合を算出した。
人工土地被覆には、公共用地、商業用地、住宅用地、工業用地、道路、鉄道、その他が
含まれている。
33
名古屋市では、中心部はほぼ75%以上の人工土地被覆となっている。市の東西には公
園緑地等が存在し、人工土地被覆率の低くなっている地域が見られる。しかしながら
湾岸部から北区まで南北には一様に人工被覆の高い地域が連なっており、この一連の
地域を海風が通ることとなり、この海風が収束する北部の気温上昇に影響するものと
考えられる。
図 4-14 名古屋市区における人工土地被覆のメッシュ分布
出典)平成 8 年「ヒートアイランドに関する基礎的調査のまとめ」名古屋市環境保全局
注)
人工土地被覆は住居系、商業系、工業系、道路、鉄道、その他を含む。
34
4.3.2 人工排熱の集積
都市における経済活動の高度化に伴いエネルギーの高密度な利用が進展している。
東京 23 区の人工排熱の経時変化を朝(6:00)、昼(14:00)
、夜(22:00)についてみ
ると(図 4-15)、朝は他の産業活動が始まっていないため幹線道路からの自動車排熱が
目立ち、都心部と周辺部に 100∼150W/㎡程度の排熱源が点在している。これらは 24
時間稼働の事業所の排熱と考えられる。
昼は、23 区全体が 30∼50W/㎡程度の排熱となり、特に都心の業務地区である大手
町から霞ヶ関方面、渋谷、新宿、池袋方面にかけては、太陽日射の最大値 1,000W/㎡
の4分の1に相当する 250W/㎡以上の排熱が放出されている。また、品川の火力発電
所等の特定施設が立地している地点でも 200W/㎡以上の排熱が放出されている。
夜間でも銀座、新橋、新宿、池袋などが 100W/㎡以上の熱源として残されている。
また、周辺住宅地区の排熱量は昼間に比べてそれほど減少せず 20W/㎡程度の排熱が
続き、夜型のライフスタイルの影響と考えられる。また幹線道路の交通量は多く 70W
/㎡レベルで幹線道路網の形状が浮かび上がっている。これに対して、皇居、明治神
宮、荒川、多摩川などの緑地や河川は人工排熱の放出がなく熱の吸収源として機能し
ていると考えられる。
名古屋市についてその人工排熱の分布を見る(図4-16)。全体を見ると港区の東部の湾
岸工業地帯、中区、東区等を中心とする市街地からの排熱が大きい。その他にも西区
にある環境事業や中川区にある清掃工場など排熱量の多い施設の地区が点在している。
図 4-16 名古屋における人工排熱量のメッシュ分布(8 月)
出典)平成 8 年「ヒートアイランドに関する基礎的調査のまとめ」名古屋市環境保全局
人工排熱量は、電力、都市ガス、自動車・船舶・航空機、工場・事業場からのものを推計。
35
14:00
6:00
朝は幹線道路からの自動車排熱が目立
ち、都心部と周辺部に排熱源が点在してい
る。これらは 24 時間稼働の事業所の排熱
と考えられる。
昼は、特に都心の業務地区で大量の排熱
が放出されている。
夜間でも中心市街地は熱源として残さ
れている。また、周辺住宅地区の排熱量は
それほど減少せず、夜型のライフスタイル
の影響と考えられる。これに対して、皇居、
明治神宮、荒川、多摩川などの緑地や河川
は人工排熱の放出がなく熱の吸収源とし
て機能している。
22:00
図 4-15 東京における人工排熱のメッシュ分布(1日の変化)
注)人工排熱については、①事業所排熱(点源)、②自動車排熱(線源)、③民生:事務所・住宅等か
らの排熱(面源)の3種類に分けて把握した。
①事業所排熱:環境省「大気汚染物質排出総合調査」(1996年)による燃料使用量、排ガス量から推
計)
②自動車排熱:幹線道路と非幹線道路に分け、幹線道路は「道路交通センサス」(1997年)、非幹線
道路はデジタル道路地図の道路延長と東京都による「都市内自動車交通量及び自動車排出ガス量算
出調査」(平成4年3月)を基に推計
③民生:事務所、住宅等からの排熱:東京都都市計画GISデータを用い、足永らの資料による建物
用途別、規模別(延床面積)の熱源システム(直焚冷温水機/ビル用マルチ/空冷HPチラー/蒸気
吸収+ボイラー/給湯ボイラー/ルームエアコン)の類型化、関数化された原単位に基づき、メッ
シュ別延床面積から推計
36
4.3.3 都市の風−弱風域の形成−
1)仙台平野の風
仙台は海に面した都市であり比較的強い風が吹いている(図4-17)。市街地の風上
にあたる湾岸部には農地が広がり、市街地に運ばれる風は海からの冷涼な空気に近く、
これと強い風の影響により他の都市に比べ都市域の熱拡散が良好であるものと考え
られる。
仙台市を抜けた風は北西部の山岳の影響により北東に進むようになるが、大衡で
は海風の影響は弱まり平均で0.43m/sである。このままヒートアイランド現象が進
展すると、仙台市及びその北東地域の熱環境の悪化が懸念される。
5.0
仙台(平均 1.12m/s)
風速(m/s)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
5.0
新川(平均 0.59m/s)
風速(m/s)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
5.0
大衡(平均 0.43m/s)
風速(m/s)
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
1
2
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5
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7
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9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
図 4-17 仙台の風速時間変動
注)風速は、1997∼1999 年のアメダスデータより夏季(6∼9月)の典型的な夏日(天気図
よりモデル都市が太平洋高気圧に覆われた晴天、弱風日)を選定し、各時間帯の平均風速
(土地利用からべき法則で補正)を得た。
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2)関東地方の風
日中の関東平野では、鹿島灘からは東の風、相模湾からは南の風が関東平野に侵入
し、両者は埼玉県付近でぶつかり全体的に東の風となる。東京はこのような風系の中
に存在している。平坦地形の場合、海風の侵入限界は沿岸から20∼40kmであるといわ
れているが、関東地方の場合は平野の規模が大きく、背後に控える日本アルプスの山
麓特有の影響もあいまって、広範囲に風が行き渡るのが特徴である(足永,『東京−海
陸風がめぐるメトロポリス』,都市環境のクリマアトラス,日本建築学会,2000)。
しかしこの海風の影響は内陸に行くに従い弱くなる傾向があり(図4-18)、東京湾
から上陸する風は人工排熱を吸収し、温度の高い人工被覆地区を通り、東京の北部に
その熱を滞留させる可能性がある。2章でも示したように、実際に東京の北部には高
温域が形成されている。
5
新木場(平均 2.87m/s)
風速( m/s)
4
3
2
1
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
5
東京(平均 1.03m/s)
風速(m/s)
4
3
2
1
0
0
1
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3
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9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
5
練馬(平均 0.83m/s)
風速(m/s)
4
3
2
1
0
0
1
2
3
4
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10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
図 4-18 東京の風速時間変動
注)風速は、1997∼1999 年のアメダスデータより夏季(6∼9月)の典型的な夏日(天気図
よりモデル都市が太平洋高気圧に覆われた晴天、弱風日)を選定し、各時間帯の平均風速
(土地利用からべき法則で補正)を得た。
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3)濃尾平野の風
濃尾平野―伊勢湾の領域における海風は、その規模により2種類に分類できる。伊勢
湾を起源とし、これより周囲の陸地へ海岸線を横切って放射状に吹き出す小規模な海
風「伊勢湾海風」と、遠州灘方面の太平洋を起源とするSE∼S系の大規模な海風「遠州
灘海風」である(北田他,「濃尾平野における海陸風の特徴と広域海風の出現条件」,天
気,Vol.41 №7,1994)。夏季の典型的な日の風の流れの特徴は、12:00∼16:00くらい
まで伊勢湾海風(南西風)、以降、夜まで遠州灘海風(南東風)が名古屋等濃尾平野
を支配する。
アメダスの風速を見ると(図4-19)、仙台、東京に比べて名古屋地域は全体的に風が
弱い。湾岸域の東海でも最高で約1m/s、名古屋、多治見では最高でも1.5m/s程度に
とどまっている。また、名古屋は夕方∼夜間にかけて他都市よりも急速に風速が衰え
る傾向が見られる。
上記の風系の変化に伴い、それぞれの風下にあたる多治見、岐阜において高温域が
形成されていることは前述のとおりである。
5
東海(平均 0.52m/s)
風速(m/s)
4
3
2
1
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
5
風速(m/s)
4
名古屋(平均 0.83m/s)
3
2
1
0
0
1
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3
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9
10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
5
多治見(平均 0.54m/s)
風速(m/s)
4
3
2
1
0
0
1
2
3
4
5
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10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24
時間
図 4-19 名古屋の風速時間変動
注)風速は、1997∼1999 年のアメダスデータより夏季(6∼9月)の典型的な夏日(天気図
よりモデル都市が太平洋高気圧に覆われた晴天、弱風日)を選定し、各時間帯の平均風速
(土地利用からべき法則で補正)を得た。
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