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微生物の生態機能活用による環境保全技術の開発

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微生物の生態機能活用による環境保全技術の開発
平成17年度青森県工業総合研究センター事業報告書
微生物の生態機能活用による環境保全技術の開発
―環境微生物の探索技術の開発―
山口信哉、奈良岡哲志
果汁に含まれるポリフェノールは、一般に健康に良いことが知られているが、苦味やジュースな
どの澱の原因にもなっている。本研究では、アップルポリフェノールの分解菌の探索を行った。ア
ップルポリフェノールを炭素源とする固体培地を用いて、青森市内の土壌などから、アップルポリ
フェノールを分解する微生物を探索したところ、得られた微生物は全てカビであった。これらを液
体培養したところ、培養液にアップルポリフェノールを分解する酵素が確認された。また、非酵素
的に溶液中のアップルポリフェノールを消失させる物質も含まれていた。培地中の酵素活性とアッ
プルポリフェノールを消失させる物質の生成量は、培養 4 週間後に最大であった。この消失物質は
分子量が数万の高分子であるが、水とメタノール両方に溶解することがわかった。
Development of microorganism-based techniques for environmental preservation
Shinya Yamaguchi, Tetsushi Naraoka
Though an apple polyphenol is known to be good for health, it causes bitter of a fruit juice
and the precipitation of a grape juice.
By using agar medium containing an apple polyphenol
as a carbon source, microorganisms that assimilated an apple polyphenol were screened from
soil etc. of the Aomori city.
As a result, all colonies that appeared on the plate were mold.
When these mold were cultivated in liquid medium, it was observed that a part of mold
secreted enzyme decomposing to an apple polyphenol in the medium.
Moreover, the
compound that interacted with an apple polyphenol by non-enzyme reaction was produced in
the medium.
This compound is a high of molecular weight compound of tens of thousands
soluble in both water and methanol.
1.目的
自然環境が異なるとそこに存在する微生物も違ってくる。過酷な自然条件、人工的に汚染された
環境においても微生物は観察される。冷涼、豪雪地帯であり、縄文時代に高度な生活圏が存在した
青森市は、その環境に適応した独特な微生物叢を形成しているものと思われる。本研究では、青森
市内の土壌や水中などから利用可能な微生物を探索することを目的に実験を行った。探索の系とし
ては、アップルポリフェノールを分解する系を構築した。ポリフェノールは天然に数千種類存在し
ており、植物の種類によって含まれているポリフェノールも異なる。リンゴに含まれているポリフ
ェノールとしては、プロシアニジンがその半分を占め、他にフェノール酸類、カテキンやフラボノ
イドがある。ポリフェノールは、コレステロール低下作用など健康に対して良い影響を与えること
などが知られているが 1、2) 、反面、苦味の素であり、ブドウジュースなどの場合は、澱の原因と
なると言われている。そのため、果実加工品のポリフェノールを削減する意義は大きい。本研究で
は、微生物、特に菌体外に分泌する酵素によるアップルポリフェノールの分解を目的に、微生物の
探索を行った。
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平成17年度青森県工業総合研究センター事業報告書
2.実験方法
2−1.微生物のスクリーニング
スクリーニングのための寒天培地組成は、1Lにつき、(NH 4 ) 2 HPO 4 、2g;KH 2 PO 4 、2g;MgSO 4 ・7H 2 O、
1g;アップルポリフェノールとしてアップルフェノン水性5(商品名、アップルポリフェノール
5%含有、ニッカウヰスキー(株))50ml、寒天 15g、pH6.0 である。
青森市内 19 ヶ所(工業総合研究センター敷地、荒川地区水田、合浦公園、三内丸山)から土壌
を採取し、生理食塩水 9ml に土壌 1g を加え、撹拌し、500μl 採取し、4.5ml の生理食塩水に添加
し、順次希釈系列を作成し、この希釈液から 100μl 採取し、プレートに塗布し 25℃の培養器にて
培養した。随時、生じたコロニーを釣拾し、新しいプレートに植え継ぎ、コロニーの純化を行った。
2−2.アップルポリフェノールの定量法の検討
各種濃度のアップルポリフェノール溶液の 300μl に水 600μl と 20%トリクロロ酢酸(TCA)を
300μl 添加し、混合後、遠心分離(10,000rpm×10 分間)し、上清の吸収 400nm~600nm を分光光
度計にて測定し、定量可能な波長を見出した。
2−3.菌体外酵素の測定
2−1で純化したコロニーを液体培地(1Lにつき、(NH 4 ) 2 HPO 4 、2g;KH 2 PO 4 、2g;MgSO 4 ・7H 2 O、
1g;50mlのアップルフェノン水性5、pH6.0)に一白金耳加え、25℃で培養した。1 日 1 回撹拌し
た。3 週間後培養液から 1ml採取し、遠心分離(10,000rpm×10 分間)した。上清 100μlと液体培
地 200μl、水 600μlを加え、25℃で 4 時間反応させた。20%TCAを 300μl添加し酵素反応を停止し、
混合後、遠心分離(10,000rpm×10 分間)し、上清の 430nmの吸光度を測定した。
また、液体培地の培養上清を 50μl を用い、液体培地 200μl、水 650μl を加え、25℃で 0.5、1、
2、4、8、24 時間反応した。20%TCA を 300μl 添加し、混合後、遠心分離(10,000rpm×10 分間)
し、上清の 430nm の吸光度を測定した。
コロニーを液体培地に一白金耳加え、25℃で培養した。1 日 1 回撹拌した。1 週間毎に培養液か
ら 1ml 採取し、遠心分離(10,000rpm×10 分間)した。上清 20μl または、50μl を取り、液体培
地 200μl、水 680μl または、650μl を加え総量 900μl で、25℃で 2 時間と 4 時間反応させた。
20%TCA を 300μl 添加し、混合後、遠心分離(10,000rpm×10 分間)し、上清の 430nm の吸光度を
測定し、時間当たりの酵素活性を測定した。
2−4. アップルポリフェノール消失物質
2−3で酵素活性の強かったコロニーを液体培地に一白金耳加え、25℃で培養した。培養液を 1
週間毎に 1ml 採取し、100℃、10 分間加熱した。遠心分離(10,000rpm×10 分間)し、この上清 50
μl と、液体培地 200μl、水 650μl を加え、すぐに 20%TCA を 300μl 添加し、混合後、遠心分離
(10,000rpm×10 分間)し、上清の 430nm の吸光度を測定し、非酵素的に溶液中のアップルポリフ
ェノールを消失させる物質について測定した。
4 週間後の培養液を採取し、100℃、10 分間加熱した。遠心分離(10,000rpm×10 分間)し、こ
の加熱上清を 10μl、20μl、50μl、100μl、200μl、400μl 採取し、0.5%アップルポリフェノー
ルを含む液体培地 200μl に総量が 900μl になるように水を添加し、混合した。20%TCA を 300μl
添加し、混合後、遠心分離(10,000rpm×10 分間)し、上清の 430nm の吸光度を測定した。対照は
培養していない培地のみを加えた。
2−5. アップルポリフェノール消失物質の分離精製
液体培地 2L で、25℃で 4 週間、培養し、培地中からアップルポリフェノール消失物質を分離精
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平成17年度青森県工業総合研究センター事業報告書
液体培養液
製した(Fig.1)。培養液をガーゼで
ろ 過 し 、 遠 心 分 離 ( 8,000rpm × 20
遠心
エバポレーター乾固
分間)した。上清にろ液中のポリフ
ェノールを除去するため、ポリクラ
MeOH添加
上清
沈殿
ール SB-100(和光純薬工業社製)
を 5%添加し、撹拌後、再び遠心分
遠心
ポリクラールSB-100
添加5%
離(5,000rpm×20 分間)した。終
濃度 80%になるようエタノールを添
エバポレーター乾固
上清
沈殿
加し、撹拌、遠心分離(8,000rpm×
EtOH添加(終濃度80%)
~60μm、和光純薬工業社製)を充
沈殿
上清
MeOH 0%
100%EtOH
固相抽出カラム Seppak C18 (10g、
100%
40%
60%
80% 100%
80%EtOH
ゲルろ過Sephacryl S-300
溶部を除去し、再びロータリーエバ
ポレーターで乾固するまで濃縮し、
80%
ワコーゲルC18
で溶出させ、通過液と合わせてロー
で濃縮した。メタノールを加え、不
MeOH 40%
Seppak C8
清を通した。80%エタノール 300ml
タリーエバポレーターで乾固するま
Seppak C18
遠心
20 分間)した。ワコーゲル C18(40
填したカラム(φ6.5cm×3cm)に上
可溶部
不溶部
Fig.1
アップルポリフェノール消失物質の分離精製
日本ウォーターズ社製)に供した。メタノールの濃度 40%、80%、100%で 50ml を順に溶出し、40~
80 % 画 分 を 集 め 、 ロ ー タ リ ー エ バ ポ レ ー タ ー で 乾 固 す る ま で 濃 縮 し た 。 次 に 固 相 抽 出 カ ラ ム
Seppak C8 (5g、日本ウォーターズ社製)に供し、水とメタノール濃度 40%、60%、80%、100%で
30ml を順に溶出し、水の画分を集めロータリーエバポレーターで濃縮した。
これをゲルろ過に供した。ゲルは Sephacryl S-300(φ2.6cm×122cm ファルマシア社製)を用い、
7ml/フ ラ ク シ ョ ン 、 溶 離 液 は 水 を 用 い 、 流 速 0.4ml/分 で 行 っ た 。 各 フ ラ ク シ ョ ン の 検 出 は 、
UV230nm で行い、フラクション毎にアップルポリフェノール消失活性を測定した。活性を有する画
分をロータリーエバポレーターにより濃縮し、凍結乾燥した。
3.実験結果
3−1.アップルポリフェノールの定量法の検討
アップルポリフェノールは、430nm で特徴的な吸収が見出され、濃度依存性が見られた。これは、
タンパク質の吸収波長と重ならないので都合が良い。以降 430nm で定量することとした。
3−2.アップルポリフェノール消失酵素のスクリーニング
固体培地で生じたコロニーを植継ぎで純化し、128 個のコロニーを得た。これを液体培養にて培
養し、培地中の酵素活性を測定したところ、3 種の強い活性を示したコロニーと 9 種の弱い活性を
示したコロニーをスクリーニングした。3 種の強い活性を示したコロニーは、いずれも青森市の三
内丸山で収集した土壌から得られたものである。コロニーの表面の状態からいずれもカビであり、
同じ種類であると推察された。
3−3.菌体外酵素の測定
培地に含まれている酵素の活性の時間変化を測定し、400nm~600nm の吸収で示した(Fig.2)。
反応時間とともにアップルポリフェノールが減少し、酵素反応によるものと思われた。
Fig.3 に培養液の酵素活性の 1 週間毎の変化を示した。培地 50μl、1 時間当たりで反応で消失
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平成17年度青森県工業総合研究センター事業報告書
したアップルポリフェノール量で表した。培養 2 週間目から活性が現れ、4 週間で最大活性 248μ
g/培地 50μl・時間であった。
消失したアップルポリ
フェノール量(μg )
250
0hr
吸光度
0.5hr
1hr
2hr
4hr
8hr
200
150
100
50
0
0
24hr
1
2
3
4
5
培養日数(週)
Fig.3
培養液中の酵素活性の経
時変化
Fig.2
反応時間による酵素活性測定
3-4.アップルポリフェノール消失物質
培地に含まれている消失物質の生成について、1 週間毎に測定し、液体培地 50μl 当たりの消失
するアップルポリフェノール量で示した(Fig.4)。2 週間目から生成し、4 週間目に最大の生成量
であった。その時の消失したアップルポリフェノール量は、228μg/培地 50μl であった。
4 週間後の培地の加熱上清のアップルポリフェノールの消失について、添加量とアップルポリフ
ェノールの消失量について、量的相関が認められた(Fig.5)。
アップルポリフェノール消失物質について分離精製し、Sephacryl S-300 のゲルろ過で分子量の
分布を測定したところ、ゲルの中に入り、きれいな対称型の分布を示した(Fig.6)。分子量は数万
の高分子であると思われる。この活性を有する画分の収量は 38.1mg であった。
対照(0μl)
200
10μl
吸光度
消失したアップルポリ
フェノール量(μg )
300
100
50μl
100μl
0
0
1
2
3
4
5
培養日数(週)
Fig.4
20μl
200μl
400μl
培養液中のアップルポリフェ
ノール消失物質の生成の経時変化
Fig.5
アップルポリフェノール消失に及ぼす
加熱培地の添加量の影響
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平成17年度青森県工業総合研究センター事業報告書
0.6
4.考察
本研究は、体に良いと言われているアップルポリ
あるが、ニッカウヰスキー(株)が摘果リンゴのポ
リフェノールに関して長年研究し、販売に至ったの
で実験材料のアップルポリフェノールが入手でき、
可能になったものである。
吸光度(230nm)
フェノールについて、視点を変えて取組んだもので
ローリー法
やブラッドフォード法
Vt.
0.4
0.3
0.2
0.1
培地中に生成される酵素タンパク質量について、
3)
Vo.
0.5
4)
0
0
により試み
50
Fraction No.
たが、培地に添加したアップルポリフェノールが妨
230nm
ポリフェノール消失活性▽430nm
7ml/Fraction、0.4ml/分、溶離液:水
害し、測定することは不可能であった。また、培地
中の酵素を精製する際、培地に 10%硫酸アンモニウ
ムを添加すると、アップルポリフェノールの大部分
が沈殿し、除去できることが明らかとなった。
本研究で探索された微生物の酵素反応により、溶
液中のアップルポリフェノール含量は低下したが、
100
Fig.6
アップルポリフェノール消失物質
の Sephacryl S-300 によるゲルろ過クロ
マトグラフィー
遠心分離を行うと、沈殿量が増加する傾向が観察されることから、アップルポリフェノールは重合
沈殿すると推測される。また、同様にアップルポリフェノール消失物質に関しても、遠心分離する
と、沈殿物が観察されることより、分離精製した物質がアップルポリフェノールの重合に関与して
いるものと思われる。
リンゴに含まれているポリフェノールは、プロシアニジンがその半分を占め、他にカテキンやフ
ラボノイドが含まれているが、どのポリフェノールに作用しているか、また、この酵素とアップル
ポリフェノール消失物質は、リンゴ以外の果実のポリフェノールでも同様に反応するかについて興
味が持たれる。
一連の実験で使用したコロニーの同定を外部に依頼したところ、 Paraphaeophaeria 属のアナモ
ルフ属 Paraconiothyrium sp.であった。このカビの研究は文献等でほとんど見当たらず、研究が
進んでいないが、非病原菌であると推察される。今後の産業応用に期待される。
5.参考文献
1)神田智正他:果汁協会報、487、30 (1999).
2)赤染陽子:食品工業、48、48 (2005).
3)O. H. Lowry et al: J. Biol. Chem., 193, 265 (1951).
4)Bradford, M. M.: Anal. Biochem., 72, 248 (1976).
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