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講演概要(PDF122KB)

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講演概要(PDF122KB)
政策研究セミナー(第 1 回)
日時:平成 22 年 10 月 12 日(火)
会場:ふくしま自治研修センター 講堂
講師:政策研究大学院大学教授 松谷 明彦氏
はじめに
福島県に限らず、日本全体が既に人口減少社会に入っておりまして、急速に高齢化が進
行しています。このように人口が減少していく環境変化においては、従来の制度やシステ
ムは機能しなくなってきており、今日は特に地方行政に絞って、どう対応したらいいのか
お話をしたいと思います。
人口の減少と高齢化の速度が速い
日本の人口は、2004 年をピークに減少傾向で、高齢化が急速に進行しています。1980
年代までは先進国で一番若い人口構成でしたが、その後わずか 7~8 年で世界で人口構造が
最も高齢化した国に変化しています。戦争、飢餓等により、一時的に人口が減る国がない
わけではないですが、構造的に出生数が死亡数より少ないという理由で人口が減る国は今
のところ日本だけなんです。21 世紀の前半で、人口が構造的に減る国はドイツ、イタリア
が考えられますが、その中でも、日本が最も人口減少速度が速く、しかも高齢化がものす
ごい勢いで進んでいくのです。
自治体の施策の方向性
人口が減少して高齢化に伴う問題は、年金問題、財政問題もそうだし、この先企業経営
も困難になってくるのではないかということで、さまざまな改革が考えられています。自
治体の施策を見ると、ともかく出生率が低下しているから、もっと子どもを産み育てられ
るような環境を整備することによって出生率を上げようとか。特に地方自治体では、東京
を始めとした大都市に若者が吸収されてしまうので、できるだけ若者が地元に残ってもら
うことによって、子どもを増やし、人口減少をくい止めようとか。施策の視点が、人口減
少、高齢化によって起こる問題にどう対処するかでなく、どちらかと言えば、人口減少、
高齢化が起こらないにしようと努力が払われているようです。
これまで子どもが減る原因は出生率の低下だったのですが、出生率の低下は底にきてお
り、近いうちには止まるだろうというのが多くの見方です。これから先、子どもが減少す
る原因としては、子どもを産む年代(25 歳~39 歳)の女性の数の激減なのです。2005 年
には 1300 万人いた子どもを産む世代が 2030 年には 800 万人に減少します。2030 年から 2055
年の四半世紀には、さらに減り、たった 50 年で子どもを産む世代の女性が1/3近くにな
るんです。出生率を何とか上げようと努力しても焼け石に水です。子どもを安心して産み
育てられる環境を作るという少子化対策は非常に重要なことなのですが、人口問題の解決
にはならないという認識が必要です。
子どもを増やすことによって人口構造を改善していくというのは、全く効果がないとい
うわけではありませんが、政策努力、財政負担の割りに効果が上がりません。アメリカ、
ヨーロッパを見てみると、地方都市の若者は日本と同様、都会にあこがれて出て行くので
すが、様々な経験を積んで、30 代後半から 40 代に地方に戻って来るのが非常に多いので
す。施策としては、若者が都会に行って様々なことを学び、身につけて、その能力を発揮
できるような就業機会の場の整備を進める方が人口構造の改善に役立つのではないでしょ
うか。
集中から分散へ人口の流れが変わる
今後人口構造が本格的に高齢化していくのは大都市で、経済環境も財政環境も厳しくな
ります。労働者の高齢化により、これまでの若い労働力を前提とした生産システムからの
転換が求められ、大都市の経済が低迷するのは避けられません。また、増税しないと財政
的にもたなくなってしまい、この増税により、今までのように地方から若者が一方向的に
出て行くことに対して抑制がかかるような変化が起こることも考えられます。一方、地方
の場合は人口構造はあまり変化せず、人口が急速に減少していきます。大都市に比べて、
高齢の労働者とそうでない労働者の割合はあまり変わらないことから、就業の機会を増や
せば、人の流れが大きく変わる可能性があります。
地方都市の活路
ヨーロッパと日本を比べると非常に大きな違いがあり、1 つ目は、ヨーロッパは大都市
に国際企業のオフィスがあり、工場自体は海外にあるということです。日本みたいに大都
市の企業が全国の地方都市に工場を持っているのは珍しいのです。また、ヨーロッパの地
方都市には地方都市独自の産業を持っています。2つ目は、日本の地方都市の企業は大企
業の下請けとして、部品や原材料を製造するところが多く、加工自体は大都市で行われて、
製品はすべて made in japan として大都市の企業を経由して海外に出ますが、ヨーロッパの
地方都市では、大企業の下請けなどはしておらず、地方都市のみで完成品を製造し、直接
海外に出しています。3 つ目は、ヨーロッパの地方都市には多くの外国人がいます。外国
にものを売ろうとすれば、国によって消費者の好みが違いますから、輸出したい国からデ
ザイナーを呼んでいるのです。自分たちが持っている技術と外国人が持っているノウハウ
を積み重ねて製品を作っていく、これがヨーロッパのやり方です。
地方都市は、今まで大都市の工場を呼んできて、就業機会を作り、ある程度のお金を地
方に落とさせてきたのですが、部品、原材料製造という付加価値の少ないプロセスしか行
っておらず、これをてこに地域活性化しようとしても無理なのです。生産工程のプロセス
すべて地方で行い、日本の大都市に製品を売るのでなく、直接海外に行くという方がよほ
ど儲かるのです。そういう時に大事なのが技術です。日本はロボットを使ってものを作る
というのが得意で、何でも大量生産です。ロボットでは人間ほど複雑な作業をすることが
できないので、高く売れる製品を作ることができません。一方、ヨーロッパやアメリカの
工場にはやたらと人がいるんです。熟練した職人を使って、付加価値の高い製品を作り、
高く売っています。日本の地方都市の産業を考えた場合、大きな工場を誘致するのではな
く、その土地に元々あった職人の技とか、そうものをベースに高く売れる製品を作って、
海外に売っていくということにすれば、十分に活路を見出すことが出来るのではないだろ
うかと思います。福島県にも他にないような世界に誇れる技術があるはずなのです。それ
に近代的な技術を組み合わせ、デザイナー、設計者を海外から呼んでその国にあった製品
を作り、海外に向けた経済活動をすることです。そうすれば、東京にいる若者が戻って来
るんですね。
おわりに
それから、地方都市というよりは、地域全体の話ですが、過疎問題が大きな問題になっ
ています。人口が減少し、高齢化していくのですから、集落をすべて残すということはで
きません。観光で何とかしようとしても、観光は人口を増やしませんから、地域の持続力
を高めることにはなりません。ではどうするかというと、どの地域でも核になるような集
落があると思いますが、重点的に道路など環境整備を図り、その集落だけは何が何でも守
るという方向に地域政策は変わっていかざるを得ないと思います。そして、一つの集落や
町村だけでなくて、その周辺の都市と大きなコミュニティを形成し、持続力を高めていく
という方向がいいのではないでしょうか。少しでもこれからの皆さんの行政にお役に立つ
ことがあれば、大変幸いです。
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