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平成24年度 環境経済の政策研究 資源採取から国内での

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平成24年度 環境経済の政策研究 資源採取から国内での
平成24年度
環境経済の政策研究
資源採取から国内でのリサイクルまでのトータルライフサイクルを視
野に入れた物質利用に伴う環境影響評価手法の開発及び我が国のリサ
イクルシステムにおける循環資源の流通・利用状況の環境・経済・社会
面からの検証による国際資源循環の推進
報告書
平成25年3月
公益財団法人地球環境戦略研究機関
東京大学 秋田大学 同志社大学
目次
I
1.
2.
研究の実施経過
研究計画
1
1.1
研究の背景と目的
1
1.2
3カ年における研究計画及び実施方法
2
1.3
本研究で目指す成果
5
1.4
行政ニーズとの関連・位置づけ
5
1.5
研究成果による環境政策への貢献
6
平成24年度における進捗結果
7
2.1
平成24年度における実施体制
7
2.2
平成24年度における進捗状況
7
2.3
ミーティング開催や対外的発表等の実施状況
9
2.4
平成25年度の研究方針
11
II
研究の実施内容
要約
1.
2.
13
序論
17
1.1
研究の背景
17
1.2
研究全体の概観
21
1.3
本年度研究の概要
24
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
26
2.1
政策シナリオ評価手法の検討
26
2.2
MRIOを用いたカーボンフットプリント・一次資源投入の推計
31
2.3
MRIO-CGE連携による政策シナリオの予備的評価
39
2.4
結論
48
補論2.2 MRIOを用いたカーボンフットプリント・一次資源投入
の推計の詳細(英文)
3.
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
49
64
3.1
資源開発に係る環境影響評価手法のレビュー
65
3.2
TMRの改善に向けた取り組み
68
3.3
鉱山開発に係るCO2排出量の推計の検討
70
3.4
エコロジカル・フットプリントに関する検討
78
3.5
レアアース製錬工程に伴う環境負荷とその評価手法
84
3.6
本章のまとめ
92
4.
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
4.1
国内リサイクルシステムと国際資源循環の持続可能性評価へ向けて
4.2
家電リサイクルシステム評価へ向けたデータ収集とその評価
104
4.3
廃電気・電子機器(WEEE)管理の持続可能性評価
115
4.4
本章の結論
134
補論4.3
98
日本の家電リサイクルシステムからの
温室効果ガス排出の試算結果(英文)
5.
97
全体の結論
135
145
5.1
研究計画に対する進捗
145
5.2
環境政策への貢献
147
5.3
学術的貢献
148
I.
研究の実施経過
1.
研究計画
1.1
研究の背景と目的
世界全体としての持続可能な開発を進めるためには、生存基盤を提供している生態系サービスを持
続可能な範囲で利用しつつ、富めるものの過剰消費と持たざるものの過少消費の両方を解決するとい
う難題に取り組む必要がある。このような取組を進める上で、資源消費に伴う環境影響・健康影響を
資源採取から製造・消費、さらにリサイクル・廃棄にいたるライフサイクル全体について定量的に評
価する手法・指標の開発が重要であるとの認識が、UNEP資源パネルやOECDの持続可能な物質管理
イニシアチブ(SMM)などの国際的政策プロセスで共有されている。
現在使用されている資源利用量、あるいは資源効率性といった物質フロー指標は、物質フロー分析
の結果を直接利用できるという利点があるが、レアアースのように利用量は微量でも採掘に伴う環境
影響が甚大なものなど、物質利用のライフサイクル全体の環境影響を適切に反映することができない。
また、有害物質など物質重量当たりの環境影響・健康影響が極めて大きい物質の環境影響を反映する
こともできない。採掘から最終処分にいたるライフサイクル全体の評価手法の開発については、関与
物質総量(TMR)がドイツのブッパータール研究所や我が国の物質材料研究機構により推計されてい
るが、詳細なプロセスに影響するような政策の効果を評価することが難しいという問題を抱えている。
また、TMRは環境影響を直接示すものではない。このような現状に鑑み、製品使用に伴うライフサイ
クルにわたる環境影響の定量的評価手法を開発することは、世界的な持続可能な資源利用の観点から
極めて重要である。さらに、我が国の循環型社会を促進する観点からも、このような評価を通じて我
が国の3R政策によるライフサイクル上流側である資源採取国での環境保全・生態系保全便益の見える
化、あるいは第二次循環基本計画に盛り込まれた国際循環型社会形成への貢献の便益の見える化を行
うことは重要である。国際循環型社会形成への具体的取組みとして、我が国が重視している我が国の
静脈産業のアジア太平洋地域への展開による広域資源循環を進める上で、国境を越えたトータルとし
ての環境影響の低減効果を示すことは、物流効率化などの経済的効果の定量的評価とともに追い風に
なると期待される。
このような問題意識のもと、本研究は、我が国の静脈産業の国際展開を念頭に、我が国の資源循環
システムの環境・経済・社会的視点からの評価に基づく国際循環型社会形成への具体的取組みに関す
る研究を行い、そのような取組みの便益提示に貢献するとともに、世界的な持続可能な資源利用の促
進への貢献を念頭に、製品利用に伴うライフサイクル環境影響・生態系への影響を定量的に評価する
手法・指標の開発を行うことを目的とする。本研究では、これら二つの目的に対応した研究をすすめ
るとともに、二つの目的を相互連関したものとして一体的に扱うことに留意する。すなわち、ライフ
サイクル環境影響の評価手法の開発にあたっては、資源循環システムによる効果・影響が反映できる
ものにするとともに、国際循環型社会への具体的取組みの検討にあたっては、物流効率などの分析に
加え開発したライフサイクル環境影響評価の活用を図る。なお、ライフサイクル環境影響評価につい
ては、経済全体を対象とするマクロ経済的手法が適しているCO2 排出量や貿易に伴う資源フローを考
慮した一次資源投入に関する評価と、特定の物質に絞り込んだ上で鉱山レベル、工場レベルでの分析
を行うより詳細なライフサイクル環境影響評価の両方を実施する。すなわち、多量に消費される一次
資源に関する持続可能な資源利用についてはカーボンフットプリントや一次資源投入によるマクロ
経済的評価を行い、レアメタルなど使用量は少ないものの環境影響が大きい資源については、採掘に
よる生態系破壊なども考慮したライフサイクル環境影響評価を行う計画である。
1
研究代表者らは、環境経済の政策研究第1期(2009~2011年度)に実施されたアジア資源循環に関
する研究において、4カ国CGEモデルを用いた持続可能な資源利用政策の影響評価を行うとともに、
GTAPデータベースにおいて鉱山部門から鉄鉱石、銅鉱石部門を切り出す作業を行っており、この成
果を踏まえてカーボンフットプリント、一次資源投入に関する研究を実施する。また第1期研究では、
E-wasteを事例として国際資源循環に関する研究も実施しており、本研究はこの成果を踏まえたうえで、
さらに物流効率やライフサイクル環境影響なども考慮し、かつ対象製品を拡大した形で国際資源循環
に関する研究を実施する。
1.2
3カ年における研究計画及び実施方法
研究全体の構成を図1のフローチャートに示す。
分析・評価手法の開発
マクロ経済的分析
資源循環システムの分析
特定物質に着目した分析
(1)カーボンフットプリント・一次資源
投入の推定
(2)ライフサイクル環境影響評価のた
めの情報収集
(3)我が国のリサイクルシステムの評価手
法の検討
(4)持続可能な資源利用政策の環境
影響評価手法の開発
(5)ライフサイクル各段階における環
境影響の推定評価指標に関する研究
(6)我が国のリサイクルシステムの評価お
よび他国リサイクルシステム情報の収集
(6)我が国のリサイクルシステムの評価お
よび他国リサイクルシステム情報の収集
(7)カーボンフットプリント・一次資
源投入を用いた持続可能な資源利
用政策の環境影響評価
(8)物質利用に伴うライフサイクル環
境影響評価
(9)国際資源循環の推進に関する研究
国際資源循環政策の影響評価
持続可能な資源利用政策の影響評価
政策影響評価・政策提言
図1
研究全体の構成
以下、研究項目毎に研究計画および実施方法を記述する。
(1)
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
本研究項目では、天然資源税や炭素税などの持続可能な資源利用政策による環境影響を製品のライ
フサイクルを通じて評価するための指標として、多地域産業連関表(MRIO)を用いて資源利用に伴
うカーボンフットプリントおよび一次資源投入を推定する。類似研究の蓄積がある欧州の推定値との
比較を行うために、本研究では世界全体をカバーしているGTAPデータベースを用いた世界多地域産
業連関表を作成し、フットプリント・一次資源投入の推定を行う。一次資源投入の対象資源としては、
次年度以降における政策影響評価で、価格効果や代替効果を反映できる一般均衡型モデルとして、研
究代表者らが鉄と銅を事例として開発した経済モデルの使用を想定していることから、本年度は鉄を
とりあげる。研究アドバイザーとして、カーボンフットプリントを始め環境産業連関分析に幅広い知
見を有する九州大学加河茂美准教授を想定している。
2
(2)
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
今後急速に普及すると予想され、リサイクルシステムの観点で重要であるハイブリッド車、電気自
動車などのエコカーに着目し、環境影響評価に必要なデータの入手可能性および国際資源循環との関
連を考慮し調査対象とする物質を特定する。当該物質の採掘段階から国内でのリサイクルまでを視野
に入れて、物質の採掘、製錬・加工等の各段階における物質フローに関する情報を収集すると共に、
TMRのようなマテリアルフロー関連の指標についての調査を行う。また、特に環境影響が大きいと見
込まれる採掘段階における環境影響を評価するために、温室効果ガス排出量、および生態系サービス
への影響を評価する手法について、欧州委員会が開発中の環境負荷反映物質消費量(EMC)指標やエ
コロジカル・フットプリント(EF)を用いた手法、あるいは欧州環境庁による生態系サービスへの影
響評価手法などについて情報を収集するとともに、水汚染、森林破壊、土地利用改変など主な影響要
因についての情報を収集するための現地調査先の特定を行う。候補地として、チリのリチウム鉱山な
どを想定している。協力者・アドバイザーとして滋賀大学中野桂教授、エコロジカル・フットプリン
ト・ジャパンの泉浩二理事、大阪市立大学畑明郎教授らを想定している。
(3)
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
我が国のリサイクルシステム全体の循環資源の流通・利用状況を評価する上で、環境・経済・社会
的影響が大きく、比較的データの揃っていること、および特定物質に着目した分析においてエコカー
に着目した研究を予定していることも踏まえ、使用済自動車および廃家電・電子製品のリサイクルを
対象とする。分析に必要な基本データとしては、環境統計、貿易統計、および中央環境審議会・産業
構造審議会のリサイクル法関連部会の最近の資料など、既存の公式資料の活用が可能かどうかを検討
する。流通・利用状況については、静脈物流(その種類やシステムの違いごとのコスト)・処理(手
法ごとのコスト)に関わる経済コストおよび環境影響、さらには社会影響として雇用を想定し、対象
リサイクルシステムごとの特性を類型化する。その上で、これらのリサイクルシステムについて、環
境・経済・社会的影響の評価手法の検討を行う。また、分析の対象とする有用素材の絞り込みを検討
する。こうした検討を実施する上では、静脈物流に関する知見を有する富山大学山本雅資准教授、国
際資源循環および静脈メジャーの国際展開状況に知見を有する三菱総合研究所橋徹主席研究員、およ
び国際資源循環、途上国のリサイクルシステムに知見を有するアジア経済研究所小島道一主任研究員
をアドバイザーとして、情報収集などについて、適宜、相談を行う。
(4)
持続可能な資源利用政策の環境影響評価手法の開発(平成25年度)
前年度に引き続き、資源利用に伴うカーボンフットプリント・一次資源投入の推定作業を、必要に
応じ対象とする資源を追加して実施する。推定値の妥当性を検証するために、欧州での推定値との比
較・検証を行う。この作業にあたっては、この分野の第一人者であり国際資源パネル委員を務めるエ
ドガー・ハーティッチ教授の協力を得て進めることを計画している。その上で、検証した推定値を価
格変化の影響を反映できる経済モデルに推定値を組み込み、持続可能な資源利用政策のカーボンフッ
トプリント・一次資源投入への影響を評価する手法を開発する。
3
(5)
ライフサイクル各段階における環境影響の評価指標に関する研究(平成25年度)
前年度までに収集された情報から、当該物質の土地改変量を含めた鉱石・ズリの採掘量、選鉱時に
発生する尾鉱量ならびに金属生産の各プロセスにおける温室効果ガス排出量を推定する。資料収集か
らデータが得られない鉱山については生産・開発時におけるコスト推定データベースを用いた環境負
荷物質量の推定を行う。データベースの推定精度に留意しつつも、特に公表データが乏しいレアメタ
ル鉱山についてはこの手法が適していると考えられる。さらに、金属の利用、廃棄段階における環境
負荷物質の推定も合わせて行うことで、ライフサイクルの各段階におけるインベントリの集計を行う
ことを目標とする。また、採掘段階での生態系への影響に関し、前年度に特定した対象地で現地調査
を行いデータ収集を行う。これらの推定値と物質フロー分析を組み合わせ、当該物質の利用によるラ
イフサイクル全体での環境影響評価手法を開発する。
(6)
我が国のリサイクルシステムの評価および他国リサイクルシステム情報の収集(平成25年度)
平成24年に実施する(3)で開発した手法により、環境・経済・社会的な視点からの評価を日本の
リサイクルシステムについて行う。さらに、先進国(日本)とデータの整備状況が似ていると考えら
れる新興国(台湾を想定)を選定し、対象国研究機関と連携して、同様の手法の開発を行う。また、
発展途上国をモデルに導入する上で必要な関連情報を収集し、リサイクルインフラの設置コストも検
討した上で先進国、新興国、発展途上国を中心にした循環資源の経済・貿易モデルを開発する。
(7)
カーボンフットプリント・一次資源投入を用いた持続可能な資源利用政策の環境影響評価(平
成26年度)
前年度までに開発された手法を用いて、天然資源税や資源キャップなどの持続可能な資源利用政策
によるカーボンフットプリント・一次資源投入への影響を評価する。評価対象となる政策シナリオは、
効果的な持続可能な資源利用政策の策定に資する目的で、複数の政策ツールを組み合わせた政策パッ
ケージや、政策実施国の異なる組み合わせ(資源生産国と資源消費国の組み合わせなど)など複数の
シナリオを検討する。
(8)
物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価(平成26年度)
前年度までに開発した物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価手法を用いて、選定した物質の
生産・使用等のライフサイクルにわたる環境影響の評価を行う。手法の妥当性の検証を行うために、
欧州委員会のライフサイクル環境影響に関する業務委託を受けているイタリアのJRCなどの海外の研
究機関の協力を得て、評価結果の比較および手法について検討する。ライフサイクル環境影響評価に
よって、対象物質の利用効率の改善や、代替による使用抑制といった企業努力によるライフサイクル
環境影響上の便益の定量化を試みる。本項目の成果は、上述(7)の成果と併せて2017年度の第四次
循環型社会形成推進基本計画の物質フロー指標改定の議論にインプットしていく。
(9)
国際資源循環の推進に関する研究(平成26年度)
前年度までに開発した先進国、新興国、発展途上国を中心にした循環資源の経済・貿易モデルを活
用し、使用済自動車および廃家電・電子製品のそれぞれに関して有用素材の絞り込みを行った上で、
4
資源循環の流通の特性、リサイクルや処理に活用されている主要技術に応じて、どのような資源循環
(近接循環、広域循環、国際循環の組み合わせ方)が、リサイクルの経済性を確保するための規模の
経済性、雇用および環境保全という観点から評価する。また、将来エコカーの急速な普及が予想され
る中で発生量の増大が考えられる使用済みバッテリーの効率的な再利用・リサイクルの検討に、上記
のライフサイクル環境影響評価の手法を適用し、環境上適正でかつ経済的にも効率的な静脈物流のあ
り方を検討する。研究成果については環境省の静脈産業海外展開促進有識者会合へインプットしてい
く。
本研究で目指す成果
1.3
各年度で想定される成果は以下の通りである。

多地域産業連関表を用いた資源利用に伴うカーボンフットプリント・一次資源投入の推定(平成
24年度)

我が国のリサイクルシステムの評価手法(平成24年度)

持続可能な資源利用政策の環境影響評価手法(平成25年度)

ライフサイクル各段階における環境影響評価指標(平成25年度)

開発した手法を用いた我が国のリサイクルシステムの評価(平成25年度)

カーボンフットプリント・一次資源投入を用いた持続可能な資源利用政策の環境影響評価(平成
26年度)

物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価(平成26年度)

国際資源循環に関する政策提言(平成26年度)
行政ニーズとの関連・位置づけ
1.4
本研究では、カーボンフットプリント、一次資源投入およびライフサイクル各段階における環境影
響評価指標に関する研究を通じ、2017年度の第四次循環型社会形成推進基本計画の物質フロー指標改
定に対する知的インプットを行う。具体的には以下のような貢献を目指している。
• カーボンフットプリント・一次資源投入の推定については、貿易に伴う環境影響移動が国際的に
大きな問題となっていることから、国際環境政策への貢献につながる。
• ライフサイクル環境影響評価については、企業などの省資源への取り組みが国際的な環境影響緩
和の点でも便益があることを示すことで、企業の環境への取り組みを促進する政策の幅を広げる
ことにつながる。
また本研究は、国際資源パネルでの議論、特に環境影響作業部会での議論への貢献が期待され、国
際環境政策への貢献につながるものである。またアジア3R推進フォーラムおよびその専門家グルー
プに成果を発信することで、アジア地域での物質フロー・環境影響評価指標の普及への貢献も期待で
きる。これは我が国の環境政策の国際展開につながるものである。
静脈メジャー国際展開に関連する政策示唆については、具体的には以下のような貢献を目指してい
る。
5
 我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討の結果は、我が国のリサイクル法につきコスト面
だけではなく、環境上適正な処理、省資源、環境ビジネスの育成、の3つの観点から総合的に評
価する手法につきプロトタイプを提示するという点で意義がある。
これらの成果を、共同研究者および研究アドバイザーが、環境省の静脈産業海外展開促進有識者会
合に参加していることを活かし、政策形成プロセスに発信していく。
1.5
研究成果による環境政策への貢献
本研究は、資源利用フローのグローバル化が進む中で、持続可能な資源利用の促進を目的として資
源利用に伴うライフサイクルでの環境影響評価手法の開発を進めるとともに、我が国政府がめざす静
脈産業の国際展開を含む国際資源循環システム構築への貢献を目的として、使用済み製品の適正処理
および環境負荷の低減、省資源・資源効率、環境産業の育成の3つの観点からリサイクリングシステ
ムの持続可能性評価を行う手法の開発を目指している。リサイクリングシステムの持続可能性評価の
成果は、すでに検討が進められている環境政策への直接的な貢献につながると期待される。
また、特定物質に着目した物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価に関する研究は、資源採掘
段階での負の環境影響、とくに生態系への負の影響について定量的に評価することを目指しており、
日本の製造業が省資源・省エネ対策を進めることによる便益が、日本の環境改善に貢献するだけでは
なく、資源産出国における環境改善、特に生態系サービス保全につながることを可視化することが期
待される。それにより、生物多様性保全条約や気候変動条約に関わる国際交渉において、日本の国際
的貢献をアピールすることにつながるとともに、企業が一層の省資源・省エネ対策を進めるインセン
ティブにつながる環境政策の設計にも貢献すると考えられる。
マクロ経済レベルでの資源利用に伴うライフサイクル環境影響評価に関する研究については、すで
に欧州で検討が始まっている資源利用抑制あるいは絶対的デカップリングを目指す政策につき、遅か
れ早かれ我が国でも検討する必要が出てくることが予想されるが、そのような検討に定量的な裏付け
を提供するツールの開発を目指しており、将来的な環境政策への貢献が期待されるとともに、昨年6
月のリオ+20での合意を受けて本格的に動き出した持続可能な開発目標(SDG)に関する国際プロセ
スにおいて、我が国が議論をリードする材料の提供が期待される。この研究については、すでに国際
資源パネルが興味を示しており、2013年2月に米国で開催される国際資源パネルの統合シナリオ作業
部会ワークショップに研究代表者が招聘されている。このように国際的に関心が高まっている分野で
あり、我が国の国際政策プロセスへの貢献の支援につながることが期待される。
6
平成24年度の進捗状況
2.
平成 24 年度の実施体制
2.1
平成24年度の研究参画者と分担項目を以下に示す。
氏名
所属機関
担当する分担項目
小嶋 公史
IGES
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
周 新
IGES
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
矢野 貴之
IGES
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
村上 進亮
東京大学
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
安達 毅
秋田大学
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
和田
同志社大学
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
堀田 康彦
IGES
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
ニルマラ・メニプラ
IGES
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
蒲谷 景
IGES
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
喜彦
2.2
平成 24 年度の進捗状況
(1)
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
GTAPデータベース(第7版、2004年対応)をもとに、研究目的に合った世界データベースを作成し
た。製鉄・鉄鋼部門を電炉鋼、転炉鋼に加え、銑鉄部門を分割し、リサイクル産業を独立した部門と
して分割した。地域分類については、鉄鉱石の主要産出国・輸出国・輸入国および化石燃料の主要産
出国・輸出国の観点から11地域(日本、中国、韓国、豪州、ブラジル、インド、米国、EU、インド
ネシア&マレーシア、その他主要石油・ガス産出国、その他世界)に分類した。
上記データベースに基づき世界MRIOを作成し、ベースラインシナリオにおけるカーボンフットプ
リント・一次資源投入(鉄鉱石)を推定した。
さらに、翌年度予定していた計画の一部を前倒しで実施した。

上記データベースから社会会計行列(SAM)を作成。

上記SAMを用い、世界MRIOと連携した静学CGEモデルを開発。

MRIO-CGE連携のテストランとして、豪州が鉄鉱石部門に天然資源税を導入した政策シナリオに
ついてMRIO-CGE連携に基づくカーボンフットプリントおよび資源フットプリントを試算。
(2)
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
対象資源として、ベースメタルとしては銅、レアアース、レアメタルとしてはリチウム、ネオジム、
ディスプロジウムを選定した。銅についてはマテリアルフロー情報の収集を進めるとともに、レアア
ース・レアメタルについては翌年度計画している現地調査の準備を進めた。TMRを含めたマテリアル
フロー関連の指標のレビューを実施するとともに、東芝が開発に着手した金属1キログラム当たりの
生物多様性への影響を鉱山ごとに指標化する手法について調査を行った。採掘段階における温室効果
7
ガス排出量について、銅鉱山を対象に鉱山でのエネルギー使用とCO2 排出量のデータベースを用いた
解析を実施した。採掘段階における生態系サービスへの影響を評価する手法についてレビューを行っ
た。また、水汚染、森林破壊、土地利用改変など主な影響要因についての情報を収集するための現地
調査先の検討を進めた。この一環として、中国のレアアースに関する情報収集を行うとともに、マレ
ーシアのレアアース精錬工場を対象に予備的現地調査を行った。
(3)
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
使用済自動車および廃家電・電子製品のリサイクルを対象として特性の類型化を行った。上述類型
化に基づき、リサイクルシステム評価手法の検討を行った。指標についてはリサイクルシステムの目
的である環境上適正な処理、省資源、環境ビジネスの育成、の3つの観点から共通の指標を検討した。
その上で、家電リサイクルと自動車リサイクルシステムの特性が大きく異なること、国際比較性の観
点から家電リサイクルの方が政策形成が国際的に進んでいることから、具体的なデータ収集、手法の
開発について家電リサイクルを先行して行い、その後自動車リサイクルへの適用を検討することとし
た。有用素材の絞りこみについては、現行の国内リサイクルシステムの評価については、有価物であ
り、国内で産出せず、資源循環が広く行われている鉄・銅・アルミを選定した。またエコカーリサイ
クルや小型家電リサイクルといった新しいシステムに関連して、ネオジム、インジウム、および電子
基板からのレアメタル、レアアースについて引き続き調査をする必要がある。
さらに、家電リサイクルシステム評価手法につき具体的なデータ収集を開始するとともに、電気・
電子製品リサイクルの持続可能性評価手法のプロトタイプを開発し、テストランを行った。
また、日本におけるリサイクルシステムの持続性評価に向けて、初年度の取り組みとして以下のこ
とを実施した。

対象とするリサイクルシステムの選定

リサイクルシステムに関するデータの収集
家電リサイクル法の試行に伴う基本データの収集として、環境統計や中央審議会資料等の公的
資料の収集の実施し、また、各関連企業等の公開情報についても収集を実施した。不足分や確認
が必要な分については、収集運搬会社や再資源施設等から収集した。

再資源化工場等関連企業へのヒアリングの実施
実際の関連企業に対して、評価検討に必要なデータ提供の依頼や、公開情報の確認も含めてヒ
アリングを計画した。実際に、家電再資源化会社への訪問、ヒアリングを実施した。

定量的な評価方法の検討
収集可能なデータ・必要なデータ・ヒアリング等を進めながら、また、その結果から評価すべ
き項目を設定し、その評価手法を決定した。主な評価項目として、「家電の再資源化に伴うエネ
ルギー使用量」、「それに伴うGHG(地球温暖化ガス)の排出量」、「再資源化回収物の資源価
値」、「フロンガス等有害物の適正処理」、「最終処分場延命化寄与」等を検討している。
その中で再資源化回収物については、家電を構成する主なメタルである鉄・銅・アルミニウム
をその対象としている。しかし、高性能な磁石(Nd)や光学パネル(In)に使われているレアメ
タルは、処理、解体の困難性や少量ゆえの経済性の問題から、資源としての回収がされていない
場合も見受けられる。また、ガラスについても、近年では、テレビにおける技術革新によりブラ
ウン管ガラスの利用が減少しており、廃棄物となっている場合が覆い。またプラスチックも同様
8
に逆有償での取引や海外への輸出も見られる。これらの実際のデータに関しては、不明瞭な点が
多く、資源回収としての成果を判断するには、さらなる情報収集と検討が必要であり、またこれ
らのリサイクルが結果として不十分である状態についての検証も必要である。

評価の試行
本年度に得られたデータやヒアリング結果をもとに、家電リサイクルシステムに対する評価を
行った。評価項目として、家電リサイクル法施行に伴う、①エネルギー消費とGHGの発生につい
ての試算を行った。これは法の対象となる各廃家電1台当たりを指定引取所から運搬と再商品化
工場での解体、再資源化に至るフローについての、エネルギー消費とGHG発生を試算し、回収さ
れた資源とバージン資源との比較を行ったものである。詳細は後述する。また、同様に、②家電
リサイクルにおける最終処分場の延命化寄与についての試算を行った。これは、法施工に伴い、
当初の主目的であった家電の粗大ゴミとしての直接埋立から資源化減容化への転換の成果を確
認するためである。
2.3
ミーティング開催や対外的発表等の実施状況
(1)
ミーティングの開催
平成24年度は研究者間の意見交換および進捗報告の場として、研究会合をIGES東京事務所において
以下の通り開催した。
開催日時
会合内容
第1回(7月27日)
研究項目のデータ、方法論について議論。
第2回(9月19日)
各研究項目の進捗報告。特にカーボンフットプリント推計手法と、
CGEモデルとの連携手法について議論。
第3回(11月13日)
各研究項目の進捗報告。特にレアメタル、レアアース鉱山活動の環
境影響評価のデータ・方法論について議論。。
第4回(12月20日)
研究項目毎の成果報告書ゼロドラフト発表。報告書目次案および報
告書作成スケジュールの確認。
第5回(1月21日)
(2)
成果報告書ドラフトにつき議論。
対外的発表
平成24年度における対外的発表などの実施状況については、以下の通りである。
• 平成24年9月に仙台で開催された環境経済・政策学会2012年大会で、「持続可能な資源利用に関す
る研究」と題する企画セッションを以下の通り主催し、本研究の研究報告を行った。
環境経済・政策学会2012年大会(2012年9月16日)
企画セッション:持続可能な資源利用に関する研究
座長:小嶋公史(地球環境戦略研究機関)
9
討論者:加川茂美(九州大学)、山崎雅人(名古屋大学)
1.
資源供給制約の経済影響評価とマテリアルバランスの検証
村上進亮(発表者)、安達毅、矢野貴之
2.
日本CGEモデルを用いたレアアース供給制約の経済影響に関する研究
小嶋公史、矢野貴之(発表者)
3.
4カ国CGEモデルを用いた資源循環・資源利用抑制政策に関する研究
小嶋公史(発表者)、矢野貴之
• 国際資源パネル、統合シナリオ作業部会ワークショップ(2013年2月、米国ニューヘブン)に招聘
講演者として参加、カーボンフットプリント・資源フットプリントに関する研究成果を発表
• また、以下の出版を通じて成果を対外的に発表した。
1) 査読付論文
和田喜彦(2012)「ウラン鉱山・製錬所による環境影響と課題」『化学物質と環境』No.113.pp.
8-10.
Zhou, X., Shirakawa, H., Lenzen, M., 2012. Chapter 3 Aggregation Effects in Carbon Footprint
Accounting Using Multi-region Input-Output Analysis. In Yu, T., Chawla, N., Simoff, S. (Eds.):
Computational Intelligent Data Analysis for Sustainable Development. Taylor and Francis (in press).
Zhou, X., Yano, T., Kojima, S., 2013. Direct vs. embodied emissions: Addressing the practical issue in
determining the carbon content for implementing border carbon adjustment measures. Carbon
Management (under review).
Zhou, X., Yano, T., Kojima, S., 2013. Addressing the hidden inequality in accounting for trade-related
emissions: National GHG inventory adjustment for trade in the presence of border carbon adjustment.
Energy Policy (under review).
2) 査読無論文
伊波克典, 清野比咲子編集、Pati Poblete, David Moor, 和田喜彦, 伊波克典, 岡安直比著。2012年。
『日本のエコロジカル・フットプリント2012』。WWFジャパン、グローバル・フットプリン
ト・ネットワーク。
Iha, Katsunori, Sakiko Kiyono eds. Pati Poblete, David Moor, Yoshihiko Wada, Katsunori Iha, and Naobi
Okayasu. Japan Ecological Footprint Report 2012. WWF Japan, Global Footprint Network. 2012.
10
和田喜彦。2012年。「環境評価とエコロジカル・フットプリント」名古屋大学エコトピア科学研
究所編。
『 エコトピア科学概論:持続可能な環境調和型社会実現のために』コロナ社。pp. 113-124.
3) 学会発表など
Hiroshi OTSUKA, Shinsuke MURAKAMI, Jiro YAMATOMI, Chiharu TOKORO, Ryu KOIDE: “Long
Lasting Material Flows of Mining after mine closure - Focused on Acid Mine Drainage Treatment”
Proceedings of International Conference of Ecobalance 2012, P-036, 2012
Moore, David, 和田喜彦, 伊波克典, 2012年。「福島原発事故による被害のエコロジカル・フット
プリント分析:バイオキャパシティ(生物生産力)損失を中心に」エントロピー学会秋の研究
集会
2.4
口頭研究発表11月18日東京:国学院大学。
平成 25 年度の研究方針
平成25年度は、本年度の成果、特に手法のテストランの成果を踏まえ、手法の改善を効果的かつ効
率的に行う。特にMRIO-CGEモデル連携による政策影響評価手法およびリサイクルシステムに関する
持続可能性評価手法については、平成25年度中の完成を目指す。
また、一部の研究成果のアウトリーチを図るため、シンポジウムを開催するとともに、国際資源パ
ネルなどへの成果発信を行う。
3年間の研究成果全体は、和文および英文書籍としてとりまとめ、成果のアウトリーチを図る。
11
12
II.
研究の実施内容
要約
本研究は、世界全体としての持続可能な開発を進めるためには、生存基盤を提供している生態系サ
ービスを持続可能な範囲で利用しつつ、富めるものの過剰消費と持たざるものの過少消費の両方を解
決するという難題に対し持続可能な資源利用の観点から取り組むものである。特に、循環資源を含め
た資源利用の国際化は、環境負荷の国際移動といった新たな問題をもたらすとともに、国際資源循環
システム構築による資源効率改善などの機会をもたらすことに着目する。
前者については、資源消費に伴う環境影響・健康影響を資源採取から製造・消費、さらにリサイク
ル・廃棄にいたるライフサイクル全体について定量的に評価する手法・指標の開発が重要であるとの
認識が、UNEP資源パネルやOECDの持続可能な物質管理イニシアチブ(SMM)などの国際的政策プ
ロセスで共有されている。採掘から最終処分にいたるライフサイクル全体の評価手法の開発について
は、関与物質総量(TMR)がドイツのブッパータール研究所や我が国の物質材料研究機構により推計
されているが、詳細なプロセスに影響するような政策の効果を評価することが難しいという問題を抱
えている。また、TMRは環境影響を直接示すものではない。本研究では、採掘段階での生態系への影
響に関し、文献調査および現地調査によるデータ収集を通じて推定し、物質フロー分析を組み合わせ
ることで、当該物質の利用によるライフサイクル全体での環境影響評価手法を開発する。
また、マクロ経済レベルでのライフサイクル環境影響評価も重要である。持続可能な資源利用政策
として、中国などいくつかの国がすでに天然資源税を導入しているが、中国の天然資源税の例に見ら
れるように、資源の囲い込み関する懸念を周辺国へと引き起こす可能性や、イギリスの資源税がイギ
リスにおける天然資源採掘量の減少とアイルランドでの天然資源の採掘量増加という天然資源採掘
の 移 転 を 生 じ た例 に 見 ら れ る よ う に 、 国 際 的 な 波 及 効 果の 重 要 性 が 指 摘 さ れ て い る ( European
Environment Agency 2008)。したがって、資源利用に伴うライフサイクルにわたる環境影響を詳細な
製品レベルおよびマクロ経済レベルで定量的評価手法を開発することが極めて重要な課題となって
いる。本研究では、天然資源税や炭素税などの持続可能な資源利用政策による環境影響を製品のライ
フサイクルを通じて評価するための指標として、多地域産業連関表(MRIO)を用いて資源利用に伴
うカーボンフットプリントおよび一次資源投入を推定する。政策による影響については価格効果や代
替効果を反映できる応用一般均衡(CGE)モデルを採用し、CGEモデルとMRIOを連携する手法を開
発する。
後者の資源利用の国際化がもたらす新たな機会については、我が国が進める国際循環型社会形成へ
の取り組み、特に我が国の静脈産業のアジア太平洋地域への展開による広域資源循環システム構築に
関し、国境を越えたトータルとしての環境影響の低減効果の定量的評価は、物流効率化などの経済的
効果の定量的評価とともに重要な役割を果たすと考えられる。したがって、資源循環システムの持続
可能性評価手法の開発が重要な課題となっている。本研究では、静脈物流(その種類やシステムの違
いごとのコスト)・処理(手法ごとのコスト)に関わる経済コストおよび環境影響、さらには社会影
響として雇用を想定し、対象リサイクルシステムごとの特性を類型化した上で、これらのリサイクル
システムについて、環境・経済・社会的影響の評価手法を開発する。
本年度は、3年間を予定している本研究の初年度という位置づけであり、研究全体の基礎固めとし
て関連情報の収集、方法論の検討および方法論を検証するとともに、独自に開発する手法のテストラ
ンを実施した。本年度の研究計画に沿って着実に研究が進展したにとどまらず、次年度以降予定して
いた研究の一部を前倒しで実施することができた。
13
特に、多地域産業連関表(MRIO)によるカーボンフットプリント・一次資源投入の推定と、価格
効果や代替効果を反映できる応用一般均衡(CGE)モデルを連携する政策影響評価手法の開発、ある
いはリサイクルシステムに関する持続可能性評価手法の開発など、独自性の高い新しい手法について、
現在入手可能なデータ、および現時点で開発された暫定的なツールによるテストランを実施すること
ができた。このテストランにより、手法の有効性に関するイニシャルチェックを行うとともに、具体
的なベースに基づき次年度以降の開発作業を効率的かつ効果的に進めることが可能になると考えら
れ、初年度における大きな成果と考えている。
本年度成果の概要は以下の通りである。
(1)
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
本研究では、ライフサイクル全体での環境影響指標であるカーボンフットプリント・一次資源投入
を推計するMRIOと、資源利用抑制・資源循環政策による経済全体に対する影響を評価する多地域一
般均衡(CGE)モデルを連携することで、資源利用抑制・資源循環政策の効果を経済影響に加えライ
フサイクル全体での環境影響についても評価するツールを開発する。ここで言うMRIOとCGEの連携
とは、具体的にはCGEモデルによる経済影響の推定結果を用いてMRIOを更新し、更新したMRIOを用
いてカーボンフットプリント・一次資源投入を推計することを意味する。
3年間の研究全体では、リサイクル・資源循環政策を反映する目的で、鉄スクラップストック動態
モジュールを開発し、動学CGEモデルに鉄スクラップ供給制約として組み込むことを計画しているが、
本年度はMRIO-CGE連携の方法論を固め、手法の有効性のイニシャルチェックを行う目的で、MRIO
と連携した静学世界CGEモデルを開発し、オーストラリアが鉄鉱石部門の売り上げに20%の天然資源
税を課税するという政策シナリオを想定してカーボンフットプリントおよび一次資源投入(鉄鉱石フ
ットプリント)をライフサイクル環境指標とする政策影響評価を行った。
この予備的影響評価は、データ未収集の部分について粗い仮定を置くなど、今後改善する部分が多
く、あくまでテストランという位置づけであるが、MRIO-CGE連携手法の具体的方法を確立するとと
もに、手法の有効性について一定の感触を得ることができた。本年度中にテストランを実施すること
ができたことにより、次年度以降のデータ収集およびMRIOおよびCGEモデルの共通データベースの
精度向上、動学CGEモデルへの拡張およびCGEモデルによる最終消費推計値とリンクしたスクラップ
ストック動態推計モジュールの開発およびCGEモデルへの組み込みといった作業を効果的・効率的に
行うことが可能になったと考えている。
なお、本年度はMRIO-CGE連携のテストランを実施することで方法論の開発の具体的なイメージを
固めることを優先したために、資源取引量に関する物量データと金銭ベースの産業連関表といった異
なるソースのデータの整合性検証や、より解像度の高いデータの収集については来年度対応する計画
である。また、合成財の価格データなど不確実性が高いパラメータについて感度分析を行い、クリテ
ィカルなものについてはシナリオ分析を行うなどの対応を考えている。
(2)
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
本年度は、環境影響評価手法について、特に天然資源開発に起因する部分のレビューと一部指標に
対する改善、データの収集に取り組んだ。改めてここで浮き彫り担ったものは、次のような点である。
14
• 鉱山開発の環境影響は現場固有の事情の影響が大きいが、これに対する対応は十分ではない。下
流の製造業などと違い、天然資源開発におけるインプットは当然ながら自然環境である。地下数
キロの坑内掘現場もあれば標高の高い山の中での操業もある。同じ金属鉱種を対象としていても
その品位は大きく異なる。代表値を求める作業が無駄なのではなく、現場個別の分析を行うこと
と、代表値を求めることは意義が違うものである。
• こうした環境影響は,その操業を止めた後も、またその準備段階においても大きな規模で発生す
る。つまり,環境影響の異時点間での負担、言い換えれば世代間衡平のような話について余り検
討できていない。配分を考える以前の問題として,製品のライフサイクルを考えるように、資源
開発現場のライフサイクルを考えるような研究が必要であると思われる。本研究においてはこの
問題に取り組んでいきたいと考えている。
• 現状扱えている環境影響、言い換えればそのためのインベントリデータの種類が少ない。CO2 排
出量と固体廃棄物量のデータはその他に比べれば状況は良い。水質やその他の大気への排出につ
いても状況は改善しつつあるが,鉱山現場は、通常と異なる法律で管理されているような場合も
有ること,また多くの現場が発展途上国にあることなどがその要因になっている。
これらを踏まえて今年度レビュー、もしくは実際に検討を行った評価手法について再検討した。個
別鉱山 に対 する対 応に つい ては 、東芝 が 開発に 着手 した鉱 山毎 の生 物多 様性へ の 影響評 価手 法
(MiBiD)は行っているものの、その他の指標については行っていない。関与物質総量(TMR)/物質
集約度(MI)と言ったマテリアルフロー分析(MFA)関係の指標については、特定の鉱山産の銅鉱
石のMIと言う数字を出すことは可能ではあるがデータの関係で不十分である。CO2排出量についても
同様だと言えよう。エコロジカル・フットプリント(EF)については,一つの鉱山に特化するよりも、
対象となる地域・経済等の網羅性の重要度が他の指標と比べれば高いこともあり、難しい部分もある
ことが判明した。また、時間的視野の問題についてはどの手法も現時点ではまったく対応していない
ことが判明した。CO2 排出量については、燃料・電源構成などと言った意味での原単位が同じ鉱山につ
いても変わる可能性も有り、将来の予測等は比較的困難であることが予見される。
検討対象とするインベントリ/環境影響の種類については、昨今の関心の高まりからようやくMiBiD
と言う手法の中で生物多様性の取扱いが始まったばかりであり、その他のものについてはこれから検
討しなければならないと言える。本研究でTMRやMIといった、MFAベースの物質量指標、もしくは
EFという面積あたりの指標をベースに開発したいと考えているものは、こうした様々な領域について、
一次近似的であったとしても包括的な視座を与えるような指標である。こうした検討と、CO2 排出量
のような個別インベントリの検討を同時並行的に進めることで、より意味のある指標開発へとつなげ
ていくことを考えている。
(3)
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
本年度は、我が国のリサイクルシステムの評価手法を検討した。リサイクルシステムの持続可能性
を評価する上で、「使用済み製品の適正処理と環境負荷の低減」、「省資源・資源効率」、「環境産
業の育成」をリサイクルシステムの目指す目的と解釈した。
各種リサイクル法の特性を比較したうえで、上記の目的に即した評価対象として、家電リサイクル
システムと自動車リサイクルシステムを検討した。その結果、家電リサイクルシステムを事例に、持
続可能性評価手法の更なる開発を進めていくことが効果的であるとの結論を得た。
15
そのうえで、家電リサイクルシステムを事例として、持続可能性評価手法を開発する上で必要なデ
ータ収集とその評価を試みた。具体的には、収集運搬に関連するデータ、製品データ、資源化データ、
環境影響データを、公的データとして得られる環境統計・貿易統計、中央環境審議会・産業構造審議
会のリサイクル法関連の部会などの資料を活用して、収集することを試みた。また、個別の施設に関
するデータは、直接訪問やメールなどを活用したヒアリングを行い、収集を試みた。こうしたデータ
を活用し、例えば、リサイクルシステムのロジスティックスを分析に反映するために、指定引取所か
ら再資源化工場までの収集運搬に関する推計を行った。また、既存のデータを活用すれば、家電リサ
イクル法が、最終処分場の延命化にどれほど寄与しているのかという試算が可能であることも示した。
持続可能性評価手法については、アジアでの途上国のリサイクルなどとの比較を目指していること
を考慮に入れた手法の開発を試みた。この手法に、ロジスティックスの要素を反映するために、人口
密度が高く使用済み家電の排出量が大きいと考えられる地方(福岡県)、中規模と考えられる地方(岡
山県)、人口密度が低く使用済み家電の排出量が小さいと考えられる地方(秋田県)をカバーする家
電再資源化工場を事例とする手法を考えた。ライフサイクル分析の手法を拡張し、持続可能性評価を
行うための手法を検討した。上記、「使用済み製品の適正処理と環境負荷の低減」、「省資源・資源
効率」、「環境産業の育成」の目的について、それぞれ2指標を計算するための計算手法も示した。
最終的に、この持続可能性評価手法の有効性を示すために、リサイクルシステムにおける温室効果
ガス排出を、家電4品目の製品単位ごとに試算してみた。本分析手法は、現在開発中のリサイクルシ
ステムの持続可能性評価の枠組を一部活用して、その評価指標の一つについて試算してみたものに過
ぎない。また、使用しているデータや仮定についても限定的であり、使用済み家電リサイクルの温室
効果ガス発生に関するすべての面を含むものではない。しかし、こうした限定を置いても、本分析枠
組みを活用し、データを精緻化すれば、日本における循環型社会推進の意義および世界の他の国々で
3Rを推進する意義を「見える化」するための政策情報ツールとして有意義な手法となる可能性がある。
16
序論
1.
1.1
研究の背景
持続可能な開発がブルントラント報告書(WCED 1987)によって提唱されてから、すでに四半世紀
が経過した。また、持続可能な開発を国際政策のトップアジェンダとして定着させたリオ地球サミッ
トから20年が経過した。この間、持続可能な開発を促進するために様々な努力がなされてきた。例え
ば、2000年の国連ミレニアムサミットで合意されたミレニアム開発目標(MDG)の達成に向けた様々
な努力の結果、極端な貧困の解消、初等教育の普及などいくつかの目標で大幅な改善がなされた
(United Nations 2012)。また、気候変動問題や生物多様性保全に対する国際的取組に加え、持続可
能な資源利用についても国際資源パネルが2007年に設立されるなど、地球環境問題に対する取り組み
にも進展がみられる。このような持続可能な開発に向けた努力に加え、冷戦の終結とも相まって経済
のグローバル化が急速に進み、BRICs諸国をはじめ急速な経済発展と貧困人口の大幅な減少に成功し
た国もある。
このような成果がみられる一方、現在の社会経済システムがいまだに持続可能を開発とはかけ離れ
ており、かつ状況は悪化しつつある可能性も指摘されている。国連統計によると、リオ地球サミット
が開催された1992年からの20年間で世界総生産(世界GDP)は約78%増加、一人あたりGDPで見ても
40%以上増加しているにも関わらず、極端な貧困はいまだに深刻な問題である。最新のミレニアム開
発目標報告書(United Nations 2012)によると、貧困ライン(1日1.25ドル)以下の人口は2008年時点
で14億人、安全な水にアクセスできない人口は8億人にのぼっている。
このように持たざるものの過少消費が相変わらず深刻である一方、、富めるものの過剰消費も持続
可能な開発を脅かしている。地球の環境容量に対する人類活動の環境負荷を評価する指標であるエコ
ロジカル・フットプリントで見ると、2006年時点で世界全体のエコロジカル・フットプリントは地球
の環境容量を40%以上超えており、先進国においては日本で地球環境容量の2.2倍、米国で地球環境容
量の5倍のエコロジカル・フットプリントとなっている(WWFジャパン、グローバル・フットプリン
ト・ネットワーク 2010)。また、Rockstrom et al.(2009)が提唱するプラネタリー・バウンダリーは、
人間の活動の基盤として不可欠な生物物理学的プロセスのうち、最も重要と考えられる気候安定化や
窒素循環などのいくつかのプロセスについて、地球の環境容量の限界を定量化し、人類が安全に活動
できる領域(safe operating space)を定義しようとするものであるが、プラネタリー・バウンダリー研
究の最新の知見によると、図1.1.1に示すように、気候変動に加え、窒素循環、リン循環および生物多
様性に関するプロセスですでに限界を超えている(Wijkman and Rockstrom 2012)。
17
出典:Wijkman and Rockstrom (2012)
図1.1.1
プラネタリー・バウンダリー
持続可能な開発は、環境持続可能性を損なうことなく貧困を撲滅する開発であるが、現在の世界の
開発経路は世界GDPについては成長しているものの、環境持続性を大きく損なうとともに、貧困撲滅
についても課題が山積している。Raworth(2012)は、このような現状に対し、プラネタリー・バウ
ンダリーを外輪とし、基本的ニーズを満たす社会的基盤を内輪としたドーナツを「人類の安全で公正
な活動空間」と定義し、持続可能な開発を、社会経済活動をこのドーナツの範囲に収めることと位置
付けている(図1.1.2参照)。
18
出典:Ratworth (2012)
図1.1.2
人類の安全で公正な活動空間
このように、世界全体としての持続可能な開発を進めるためには、生存基盤を提供している生態系
サービスを持続可能な範囲で利用しつつ、富めるものの過剰消費と持たざるものの過少消費の両方を
解決するという難題に取り組む必要がある。
本研究は、この難題に対し持続可能な資源利用の観点から取り組むものである。特に、循環資源を
含めた資源利用の国際化は、環境負荷の国際移動といった新たな問題をもたらすとともに、国際資源
循環システム構築による資源効率改善などの機会をもたらすことに着目する。
前者については、資源消費に伴う環境影響・健康影響を資源採取から製造・消費、さらにリサイク
ル・廃棄にいたるライフサイクル全体について定量的に評価する手法・指標の開発が重要であるとの
認識が、UNEP資源パネルやOECDの持続可能な物質管理イニシアチブ(SMM)などの国際的政策プ
ロセスで共有されている。現在使用されている資源利用量、あるいは資源効率性といった物質フロー
指標は、物質フロー分析の結果を直接利用できるという利点があるが、レアアースのように利用量は
微量でも採掘に伴う環境影響が甚大なものなど、物質利用のライフサイクル全体の環境影響を適切に
反映することができない。また、有害物質など物質重量当たりの環境影響・健康影響が極めて大きい
物質の環境影響を反映することもできない。採掘から最終処分にいたるライフサイクル全体の評価手
法の開発については、関与物質総量(TMR)がドイツのブッパータール研究所や我が国の物質材料研
究機構により推計されているが、詳細なプロセスに影響するような政策の効果を評価することが難し
いという問題を抱えている。また、TMRは環境影響を直接示すものではない。また、マクロ経済レベ
ルでのライフサイクル環境影響評価も重要である。持続可能な資源利用政策として、中国などいくつ
かの国がすでに天然資源税を導入しているが、中国の天然資源税の例に見られるように、資源の囲い
19
込み関する懸念を周辺国へと引き起こす可能性や、イギリスの資源税がイギリスにおける天然資源採
掘量の減少とアイルランドでの天然資源の採掘量増加という天然資源採掘の移転を生じた例に見ら
れるように、国際的な波及効果の重要性が指摘されている(European Environment Agency 2008)。し
たがって、資源利用に伴うライフサイクルにわたる環境影響を詳細な製品レベルおよびマクロ経済レ
ベルで定量的評価手法を開発することが極めて重要な課題となっている。
後者の資源利用の国際化がもたらす新たな機会については、我が国が進める国際循環型社会形成へ
の取り組み、特に我が国の静脈産業のアジア太平洋地域への展開による広域資源循環システム構築に
関し、国境を越えたトータルとしての環境影響の低減効果の定量的評価は、物流効率化などの経済的
効果の定量的評価とともに重要な役割を果たすと考えられる。したがって、資源循環システムの持続
可能性評価手法の開発が重要な課題となっている。
20
1.2
研究全体の概要
このような問題意識のもと、本研究は、マクロ経済レベルでの資源利用に伴うライフサイクル環境
影響、特定物質に着目した資源利用に伴うライフサイクル環境影響、および資源循環システムの持続
可能性評価の3つのテーマについて研究を進める。研究全体の構成を図1.2.1に示す。
分析・評価手法の開発
マクロ経済的分析
資源循環システムの分析
特定物質に着目した分析
(1)カーボンフットプリント・一次資源
投入の推定
(2)ライフサイクル環境影響評価のた
めの情報収集
(3)我が国のリサイクルシステムの評価手
法の検討
(4)持続可能な資源利用政策の環境
影響評価手法の開発
(5)ライフサイクル各段階における環
境影響の推定評価指標に関する研究
(6)我が国のリサイクルシステムの評価お
よび他国リサイクルシステム情報の収集
(6)我が国のリサイクルシステムの評価お
よび他国リサイクルシステム情報の収集
(7)カーボンフットプリント・一次資
源投入を用いた持続可能な資源利
用政策の環境影響評価
(8)物質利用に伴うライフサイクル環
境影響評価
(9)国際資源循環の推進に関する研究
国際資源循環政策の影響評価
持続可能な資源利用政策の影響評価
政策影響評価・政策提言
図1.2.1 研究全体の構成
本研究では、これら3つのテーマを相互連関したものとして一体的に扱うことに留意する。すなわ
ち、ライフサイクル環境影響の評価手法の開発にあたっては、資源循環システムによる効果・影響が
反映できるものにするとともに、国際循環型社会への具体的取組みの検討にあたっては、物流効率な
どの分析に加え開発したライフサイクル環境影響評価の活用を図る。
それぞれのテーマの概要は以下の通りである。
(1)
カーボンフットプリント・一次資源投入を用いた持続可能な資源利用政策の環境影響評価
本テーマでは、天然資源税や炭素税などの持続可能な資源利用政策による環境影響を製品のライフ
サイクルを通じて評価するための指標として、多地域産業連関表(MRIO)を用いて資源利用に伴う
カーボンフットプリントおよび一次資源投入を推定する。政策による影響については価格効果や代替
効果を反映できる応用一般均衡(CGE)モデルを採用し、CGEモデルとMRIOを連携する手法を開発
する。類似研究の蓄積がある欧州の推定値との比較を行うために、本研究では世界全体をカバーして
いるGTAPデータベースを用いた世界多地域産業連関表を作成し、フットプリント・一次資源投入の
推定を行う。一次資源投入の対象資源としては、価格効果や代替効果を反映できる一般均衡型モデル
として、研究代表者らが鉄と銅を事例として開発した経済モデルの使用を想定していることから、初
年度においては鉄鉱石をとりあげる。鉄の利用に関しては、スクラップリサイクリングの観点から鉄
鉱石を主要原料とする銑鉄および高炉鋼と、スクラップ鉄を主要原料とする電炉鋼を分けて扱うこと
が重要であることから、GTAPデータベースの部門の再分類を実施する。
21
そのうえで、資源利用に伴うカーボンフットプリント・一次資源投入の推定作業を、必要に応じ対
象とする資源を追加して実施する。推定値の妥当性を検証するために、欧州での推定値との比較・検
証を行う。
最終的に、開発した政策影響評価手法を用いて、天然資源税や資源キャップ、あるいは資源循環政
策などの持続可能な資源利用政策によるカーボンフットプリント・一次資源投入への影響を評価する。
評価対象となる政策シナリオは、効果的な持続可能な資源利用政策の策定に資する目的で、複数の政
策ツールを組み合わせた政策パッケージや、政策実施国の異なる組み合わせ(資源生産国と資源消費
国の組み合わせなど)など複数のシナリオを検討する。
(2)
特定物質に着目した物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価
本テーマでは、今後急速に普及すると予想され、リサイクルシステムの観点で重要であるハイブリ
ッド車、電気自動車などのエコカーに着目し、環境影響評価に必要なデータの入手可能性および国際
資源循環との関連を考慮し調査対象とする物質を特定する。当該物質の採掘段階から国内でのリサイ
クルまでを視野に入れて、物質の採掘、製錬・加工等の各段階における物質フローに関する情報を収
集すると共に、TMRのようなマテリアルフロー関連の指標についての調査を行う。また、特に環境影
響が大きいと見込まれる採掘段階における環境影響を評価するために、温室効果ガス排出量、および
生態系サービスへの影響を評価する手法について、欧州委員会が開発中の環境負荷反映物質消費量
(EMC)指標やエコロジカル・フットプリント(EF)を用いた手法、あるいは欧州環境庁による生
態系サービスへの影響評価手法などについて情報を収集するとともに、水汚染、森林破壊、土地利用
改変など主な影響要因についての情報を収集するための現地調査先の特定を行う。
収集した情報から、当該物質の土地改変量を含めた鉱石・ズリの採掘量、選鉱時に発生する尾鉱量
ならびに金属生産の各プロセスにおける温室効果ガス排出量を推定する。資料収集からデータが得ら
れない鉱山については生産・開発時におけるコスト推定データベースを用いた環境負荷物質量の推定
を行う。さらに、金属の利用、廃棄段階における環境負荷物質の推定も合わせて行うことで、ライフ
サイクルの各段階におけるインベントリの集計を行うことを目標とする。また、採掘段階での生態系
への影響に関し、前年度に特定した対象地で現地調査を行いデータを収集する。これらの推定値と物
質フロー分析を組み合わせ、当該物質の利用によるライフサイクル全体での環境影響評価手法を開発
する。
そのうえで、開発した物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価手法を用いて、選定した物質の
生産・使用等のライフサイクルにわたる環境影響の評価を行う。手法の妥当性の検証を行うために、
欧州委員会のライフサイクル環境影響に関する業務委託を受けているイタリアのJRCなどの海外の研
究機関の協力を得て、評価結果の比較および手法について検討する。ライフサイクル環境影響評価に
よって、対象物質の利用効率の改善や、代替による使用抑制といった企業努力によるライフサイクル
環境影響上の便益の定量化を試みる。
(3)
国際資源循環の推進に関する研究
本テーマでは、我が国のリサイクルシステム全体の循環資源の流通・利用状況を評価する上で、環
境・経済・社会的影響が大きく、比較的データの揃っていること、および特定物質に着目した分析に
おいてエコカーに着目した研究を予定していることも踏まえ、使用済自動車および廃家電・電子製品
22
のリサイクルを対象とする。分析に必要な基本データとしては、環境統計、貿易統計、および中央環
境審議会・産業構造審議会のリサイクル法関連部会の最近の資料など、既存の公式資料の活用が可能
かどうかを検討する。流通・利用状況については、静脈物流(その種類やシステムの違いごとのコス
ト)・処理(手法ごとのコスト)に関わる経済コストおよび環境影響、さらには社会影響として雇用
を想定し、対象リサイクルシステムごとの特性を類型化する。その上で、これらのリサイクルシステ
ムについて、環境・経済・社会的影響の評価手法の検討を行う。また、分析の対象とする有用素材の
絞り込みを検討する。
この環境・経済・社会的影響の評価手法を用いて、日本のリサイクルシステムを評価する。さらに、
先進国(日本)とデータの整備状況が似ていると考えられる新興国(台湾を想定)を選定し、対象国
研究機関と連携して、同様の手法の開発を行う。また、発展途上国をモデルに導入する上で必要な関
連情報を収集し、リサイクルインフラの設置コストも検討した上で先進国、新興国、発展途上国を中
心にした循環資源の経済・貿易モデルを開発する。このモデルを活用し、使用済自動車および廃家電・
電子製品のそれぞれに関して有用素材の絞り込みを行った上で、資源循環の流通の特性、リサイクル
や処理に活用されている主要技術に応じて、どのような資源循環(近接循環、広域循環、国際循環の
組み合わせ方)が、リサイクルの経済性を確保するための規模の経済性、雇用および環境保全という
観点から評価する。また、将来エコカーの急速な普及が予想される中で発生量の増大が考えられる使
用済みバッテリーの効率的な再利用・リサイクルの検討に、上記のライフサイクル環境影響評価の手
法を適用し、環境上適正でかつ経済的にも効率的な静脈物流のあり方を検討する。
23
1.3
本年度研究の概要
各テーマの本年度における研究の概要は以下の通りである。なお、本報告書では、以下の第2章か
ら第4章でそれぞれのテーマにおける研究成果を報告し、第5章に今年度研究全体の結論を述べる。
(1)
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
本研究項目では、天然資源税や炭素税などの持続可能な資源利用政策による環境影響を製品のライ
フサイクルを通じて評価するための指標として、多地域産業連関表(MRIO)を用いて資源利用に伴
うカーボンフットプリントおよび一次資源投入を推定する。類似研究の蓄積がある欧州の推定値との
比較を行うために、本研究では世界全体をカバーしているGTAPデータベースを用いた世界多地域産
業連関表を作成し、カーボンフットプリント・一次資源投入の推定を行う。一次資源投入の対象資源
としては、鉄をとりあげる。
(2)
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
今後急速に普及すると予想され、リサイクルシステムの観点で重要であるハイブリッド車、電気自
動車などのエコカーに着目し、環境影響評価に必要なデータの入手可能性および国際資源循環との関
連を考慮し調査対象とする物質を特定する。当該物質の採掘段階から国内でのリサイクルまでを視野
に入れて、物質の採掘、製錬・加工等の各段階における物質フローに関する情報を収集すると共に、
TMRのようなマテリアルフロー関連の指標についての調査を行う。
また、特に環境影響が大きいと見込まれる採掘段階における環境影響を評価するために、温室効果
ガス排出量、および生態系サービスへの影響を評価する手法について、欧州委員会が開発中の環境負
荷反映物質消費量(EMC)指標やエコロジカル・フットプリント(EF)を用いた手法、あるいは欧
州環境庁による生態系サービスへの影響評価手法などについて情報を収集するとともに、水汚染、森
林破壊、土地利用改変など主な影響要因についての情報を収集するための現地調査先の特定を行う。
候補地として、チリのリチウム鉱山などを想定している。
(3)
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
我が国のリサイクルシステム全体の循環資源の流通・利用状況を評価する上で、環境・経済・社会
的影響が大きく、比較的データの揃っていること、および特定物質に着目した分析においてエコカー
に着目した研究を予定していることも踏まえ、使用済自動車および廃家電・電子製品のリサイクルを
対象とする。分析に必要な基本データとしては、環境統計、貿易統計、および中央環境審議会・産業
構造審議会のリサイクル法関連部会の最近の資料など、既存の公式資料の活用が可能かどうかを検討
する。流通・利用状況については、静脈物流(その種類やシステムの違いごとのコスト)・処理(手
法ごとのコスト)に関わる経済コストおよび環境影響、さらには社会影響として雇用を想定し、対象
リサイクルシステムごとの特性を類型化する。
その上で、これらのリサイクルシステムについて、環境・経済・社会的影響の評価手法の検討を行
う。また、分析の対象とする有用素材の絞り込みを検討する。
24
1章
参考文献
European Environment Agency (2008) Effectiveness of environmental taxes and charges for managing sand,
gravel and rock extraction in selected EU countries. EEA Report 2/2008. Copenhagen: EEA.
Raworth K. (2012) A safe and just space for humanity: Can we live within the doughnut? Oxfam Discussion
Papers.
Rockstrom J., Steffen W., Noone K., Persson A., Chapin F.S. and Lambin E.F. 2009. A safe operating space
for humanity.’ Nature, 461, 472–5.
United Nations (2012) The Millennium Development Goals Report 2012. United Nations, New York.
WCED. 1987. Our Common Future. Cambridge University Press: London.
邦訳『地球の未来を守るため
に』。
Wijkman A. and Rockstrom J. (2012) Bankrupting Nature: Denying Our Planetary Boundaries. Report to the
Club of Rome. Routledge: London.
WWFジャパン,グローバル・フットプリント・ネットワーク。和田喜彦監修。2010年。『エコロジ
カル・フットプリント・レポート日本2009:限りある資源で幸せに暮らすために』WWF International.
Gland: Switzerland。
25
2.
2.1
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
政策シナリオ評価手法の検討
2.1.1 フットプリント推計手法の検討
本研究では3年間の研究期間全体を通じて、持続可能な資源利用に向けた政策シナリオを、経済的
影響および資源ライフサイクル全体を通じた環境影響の観点から定量的に評価する手法を開発する。
特に国際貿易を通じた波及効果を含めた評価手法を確立することにより、天然資源税や環境税などの
資源・環境効率改善および資源消費・環境負荷抑制を促進する政策や、国際資源循環システム構築な
どの資源循環政策につき、国際協調の潜在的効果も含めてより効果的な制度設計に有用な知見を得る
とももに、政策による便益をアピールするうえでも有用なツールとなることが期待される。
持続可能な資源利用を考える上で、国際貿易の視点はますます重要となっている。世界経済のグロ
ーバル化に伴い、国際貿易は1971年から2010年までに平均年率10%増加しており、2000年以降さらに
成長が加速する傾向にある(図2.1.1参照)。
出典:US Census Bureau, Inernational Data Base (http://www.census.gov/ipc/www/idb/)
図2.1.1
国際貿易、世界GDP、世界人口の経年変化(1990=100)
国際貿易の急増は、世界経済成長のエンジンとしての役割を果たしてきたが、二つの経路で地球環
境に対し負の影響をもたらす可能性がある。
一つ目の経路は、経済成長に伴う資源利用の増加による環境影響の増大である。Dittrich(2012)は、
金属、化石燃料、その他鉱物資源、バイオマス、その他の物質の5つの素材カテゴリー毎に物質重量
で見た国際貿易量の経年変化を1980年から2010年まで推定した(図2.1.2参照)。この推定値によると、
重量ベースの国際貿易量は1980年からの30年間で約2.5倍に急増している。資源利用のライフサイクル
を通じて発生する環境負荷、例えば資源採取段階での水質汚濁や土壌汚染などの環境汚染、廃棄物の
増大、さらにライフサイクルの各段階で発生する温室効果ガスなどは、経済規模の拡大とともに増大
する傾向にある。
26
出典:Dittrich 2012
図2.1.2
物質重量で見た国際貿易の経年変化
もう一つの経路は、生産コスト削減のために、先進技術を持ち資源効率・環境効率が高い先進国か
ら、資源効率・環境効率が相対的に低い新興国・途上国へ生産プロセスが移転することによる環境影
響の増大である。新興国・途上国では労働コストや原材料コストが比較的安いだけではなく、環境保
護対策が遅れていることから環境対策コストが安い場合が多く、そのような場合には、先進国から新
興国・途上国へのサプライチェーンの移転が環境負荷増大につながる可能性が高い。Helm et al.(2007)
は、UNFCCCプロセスにおいて温室効果ガス(GHG)排出削減の成功例と見なされているイギリスの
GHG排出量について、消費者責任原則(自国での排出量だけではなく貿易財の生産・流通過程で発生
するGHG排出量および国際観光に関する排出量につき、製品・サービスの消費国の責任排出量として
扱う)を適用した推計した結果、イギリスの責任排出量は1990年以降増加していることを明らかにし
た(図2.1.3参照)。
27
出典:Helm et al. (2007)
図2.1.3
イギリスの消費者責任原則に基づくGHG排出量経年変化
一方、製品サプライチェーンの国際化によって環境負荷の低減が見込める場合もある。例えば金属
は鉱石中の含有率は一般に極めて低く、これまでにように鉱石の形で輸出し輸入国で精錬を行うと鉱
石輸送に必要なエネルギー量は極めて大きく、それに伴う温室効果ガス排出量も大きい。これを鉱石
産出国で精錬まで行い、素材製品として輸出する場合、輸送に伴う環境負荷は大幅に削減すると考え
られる。一般に金属の精錬工程は多量のエネルギーを必要とし、大量の残渣を発生する環境負荷集約
産業であることから、現在精錬を行っている鉱石輸入国において環境コストが増大した場合には、鉱
石産出国への工程移転へのインセンティブが働く。新日本製鉄が日本の低炭素政策への対応として、
銑鉄生産工程をブラジルに移転する検討を始めたと報道されたのはまさにこのケースである。銑鉄生
産工程は非常に炭素集約的な工程であるので、この部分をブラジルに移転することで日本は炭素排出
量を大幅に削減できることになる。またブラジルから鉄鉱石ではなく銑鉄として輸入することで、輸
送量を大幅に削減することになり、輸送コスト、輸送に伴うエネルギー消費および炭素排出量の大幅
削減も期待される。ただしブラジルの炭素排出量は銑鉄生産工程に対応して増加するとともに、ブラ
ジルの銑鉄生産工程において日本の技術に比べてエネルギー・炭素効率の低いものが採用された場合
には、ライフサイクル全体での環境影響が正であるかどうかは定量的評価が必要となる。
資源あるいは製品の国際貿易フローを含めライフサイクル全体での環境影響を評価する手法とし
ては、製品のライフサイクル分析(LCA)手法を用いたボトムアップ・アプローチと、産業連関表を
用いた経済全体を対象としたマテリアルフロー分析(MFA)に基づくトップダウン・アプローチの2
つに大別できる。
ボトムアップ・アプローチは、資源の採取過程で発生する尾鉱など、製品としては利用されなかっ
た物質も含めてライフサイクル全体の環境影響を評価する目的に適している。産業連関表を用いたト
ップダウン・アプローチは一般に市場で取引された資源のみを対象にするために、製品として利用さ
れなかった物質を含めた評価は難しいが、各国の産業連関表を活用することにより国際的な分析に優
28
れていること、また本研究の研究対象である天然資源税などの経済的手段の影響を見る上で有利であ
ることから、本研究では後者のトップダウン・アプローチを採用する。
産業連関表を用いた経済全体を対象としたマテリアルフロー分析(MFA)において貿易に体化した
排出量・資源利用量を推計する場合、一国の産業連関表を用いる従来の手法では、輸入財の生産につ
いては輸入国と同じ産業構造を仮定して推定するため、各国の産業構造の違いを反映できないという
問題があった(Zhou and Kojima 2010)。この問題を解決するために、最近は多地域産業連関表(MRIO)
を用いた推計手法が用いられることが多い。
カーボンフットプリントの推計については、近年MRIOを用いた研究が蓄積されつつある。Zhou and
Kojima(2010)は、アジア経済研究所のアジアMRIOを用いて、アジアを中心に10か国の貿易に体化
したCO2排出量を推計した。Caldeira and Davis(2011)およびPeters et al.(2012)は、世界MRIOを用
いた分析の結果、貿易に体化したCO2 排出量を考慮しても途上国の排出量が先進国の排出量を上回っ
ていることを明らかにした。また、Skelton et al.(2011)は、世界MRIOを用いて「中間消費の帰属」
という新しい概念を提唱している。
一方、MRIOを用いた資源フットプリントの既存研究は限られている。オーストリアのSERIの研究
者グループが開発したGRAM(Global Resource Accounting Model)は、MRIOを用いて世界貿易に体化
されるカーボンフットプリントと資源フットプリントを同時に扱った最初のモデルと考えられる
(Giljum et al. 2008、Giljum et al. 2009、Wiebe et al. 2012、Bruckner et al.2012)。Bruckner et al.(2012)
は、MRIOを用いてOECD加盟国のうち11か国と、非OECD加盟国のうち15か国を対象として貿易に体
化された資源利用量を含む最終消費に伴う資源利用量(Raw Material Equivalent:RME)を2000年と2005
年について推計した。
本研究では、これら既存研究、特にGRAMに関連する文献を参考にしながら、世界MRIOを構築し
たうえで、世界MRIOを用いてカーボンフットプリントと一次資源投入(資源フットプリント)の推
計を行った。
2.1.2 MRIO-CGE連携による政策影響評価手法の検討
本研究では、天然資源税や炭素税あるいはリサイクル・資源循環政策などの持続可能な資源利用政
策による価格効果や代替効果を反映できる政策影響評価ツールとして、応用一般均衡(CGE)モデル
を採用し、これらの政策によるライフサイクル全体での環境影響を評価するために、CGEモデルと
MRIOを連携させることで、政策シナリオによる影響を、実質GDPの変化率といった経済影響ととも
に、ライフサイクル全体での環境影響指標であるカーボンフットプリント・一次資源投入で評価する。
MRIO-CGE連携の概要を図2.1.4に示す。
29
政策シナリオ(ショック)
CGEモデル





生産構造
消費構造
貿易構造
GDP
社会厚生
更新
MRIOモデル
 生産構造
 消費構造
 貿易構造
カーボンフットプリント・資源フットプリント推計
図2.1.4
MRIO-CGE連携手法
第1期研究で鉄および銅を対象として、天然資源利用抑制政策の影響評価を4カ国CGEモデルを用い
て実施した研究蓄積を踏まえ、一次資源として鉄鉱石に着目する。鉄のリサイクル・資源循環政策を
評価するために、鉄スクラップの利用についてモデルに反映する。具体的には、製鉄・製鋼部門を銑
鉄部門、高炉鋼部門および鉄スクラップを主原料とする電炉鋼部門に分割するとともに、鉄鋼ユーザ
ーの生産関数においてこれら3種類の製鉄・鉄鋼部門生産費の中間投入に不完全代替を仮定する。
また、リサイクル・資源循環政策を反映する目的で、次年度以降に鉄スクラップストック動態モジ
ュールを開発し、CGEモデル側での鉄スクラップ供給制約として組み込むことを計画している。鉄ス
クラップストック動態モジュールは、田崎ら(2001)やHatayama et al.(2010)の手法を参考にしな
がら、自動車や家電などの鉄スクラップの主要源につき、最終消費された時点から寿命分布関数にし
たがって廃棄されると仮定し、廃棄物産業連関表などを活用して物流ベースでの鉄スクラップ供給上
限量をCGEモデルに反映する。このため、最終的には鉄スクラップ供給モジュールの組み込みが可能
な、動学CGEモデルを開発するものとする。また、リサイクリングセクターへの投資拡大や、資源効
率改善のための追加的投資の効果などを反映するために、部門別資本の導入につき検討する。
既存研究では、Turner et al.(2012)が英国ウェールズを対象として、金属製品の輸出需要増加に伴
う経済影響およびカーボンフットプリントへの影響を、産業連関表による炭素勘定とCGEモデルを連
携して推定している例があるが、本研究では、世界MRIOとCGEモデルの連携により、持続可能な資
源利用政策の影響を、カーボンフットプリントに加えて同時に資源フットプリントについても分析す
るものであり、さらに資源循環の観点からスクラップリサイクリングにつき、スクラップストック動
態モジュールによる供給制約を反映している点で、非常に独自性の高いものである。
30
2.2
MRIO を用いたカーボンフットプリント・一次資源投入の推計
2.2.1 はじめに
本研究の目的は、鉄鉱石採取、鉄スクラップのリサイクルと炭素排出に焦点を当てて、鉄鋼製品の
サプライチェーンにおける上流への国際間影響を明らかにすることにある。本分析では、上流の貿易
財生産に使用される原材料と一次資源を貿易に体化された原材料と呼び、上流製品の生産により発生
する炭素排出を貿易に体化された排出、ないしカーボンフットプリント(CF)と呼ぶ。貿易に体化さ
れた間接的な原材料と排出の計測は、国内生産と消費のライフサイクル影響に関心がある政策決定者
にとって重要な情報である。
分析を行うため、本研究では、GTAPデータベース第7版に基づくグローバルな多地域産業連関
(MRIO)モデルを作成した。GTAPデータベースなどの一国産業連関表を二国間貿易で連結した構造
(SRIO)では、各中間財消費、財別の最終消費における貿易財需要はすべての輸入元を合成した合成
財に対する需要として扱われる。これのに対し、MRIOにおいては中間財消費、最終消費における貿
易財需要を輸入元毎に推計が可能であり、最終消費に体化された排出量や資源消費量を推計するうえ
で精度が高い。図2.2.1にSRIO(上段)とMRIO(下段)の関係を示す。
図2.2.1 SRIOとMRIOの関係
本研究ではMRIOを用いて主要下流産業(自動車、その他輸送機械、電子機器、その他機械、建設
を含む)で使用された鉄鋼製品に体化された原材料と排出を計測し、国際間で資源効率性と最終消費
に体化された排出を比較した。鉄鉱石、鉄スクラップ、鉄鋼製品の貿易パターンについても、資源フ
ローと炭素排出の観点から分析を行った。以下、2.2.2に本研究の方法論の概要を、また2.2.3に分析結
果の概要を記述する。本研究の詳細については本章末の補論2.2を参照されたい。
31
2.2.2 方法論
本研究で用いるデータは、米国パーデュ大学世界貿易分析センターが作成している2004年基準の
Global Trade Analysis Project(GTAP)データベース第7版である。このデータは、世界を113地域に区
分けし、各地域の経済が57産業部門に分割されているデータであるが、本研究では以下のように11地
域、57産業分類に統合した。
地域分類については、主要鉄鉱石輸出国としてオーストラリアとブラジルの2か国、主要製鉄・鉄
鋼生産国として日本、中国、韓国、インド、EU、米国の6か国・地域、また主要な原油・天然ガス輸
出国としてアジアにおけう主要輸出国としてインドネシアとマレーシアを併せて1地域(INM)とし、
それ以外の主要輸出国を1地域(OEG)として、その他地域と併せて計11地域を採用した(表2.2.1参
照)。
表2.2.1
No.
国・地域
11地域分類
No.
国・地域
1
日本(JPN)
7
米国(USA)
2
中国(CHN)
8
欧州(EU)
3
韓国(KOR)
9
豪州(AUS)
4
インドネシア、マレーシ
10
その他石油・ガス主要輸出
ア(INM)
5
インド(IND)
6
ブラジル(BRA)
国(EOG)
11
その他世界(ROW)
産業分類は、鉱業部門を鉄鉱石、その他鉱業の2つの部門に、製鉄・製鋼部門を銑鉄(pio)、鉄鉱
石を主原料とする転炉生産による鉄鋼(csb)、鉄スクラップを使用する電炉生産による鉄鋼(cse)
の3つに分割した。また、鉄スクラップリサイクルの影響を明らかにするため、その他製造業(omf)
から鉄スクラップリサイクル部門(ssr)とその他スクラップリサイクル部門(osr)を新設した。農
業関連部門については適宜集約し、57産業分類とした(表2.2.2参照)。産業部門の分割にあたり、日
本、中国、韓国、豪州、米国については、基準年に近いそれらの国々の産業連関表の生産額のシェア
を用いて分割した。また、二国間貿易額については、UNComtradeデータからそれぞれのシェアを求
めて、そのシェアにより分割を行った。
このデータベースをもとにチェネリー=モーゼス・モデルの仮定を用い、グローバルなMRIOモデ
ルを構築した。
32
表2.2.2
産業
57産業分類
1
穀類(grc)
30
産業
その他鉱物製品(nmm)
2
野菜、果物(v_f)
31
銑鉄(pio)
3
油糧種子(osd)
32
高炉鋼(csb)
4
砂糖原料作物(c_b)
33
電炉鋼(cse)
5
繊維作物(pfb)
34
非鉄金属(nfm)
6
その他作物(ocr)
35
金属製品(fmp)
7
畜産(lst)
36
自動車・部品(mvh)
8
林業(frs)
37
その他輸送機械(otn)
9
漁業(fsh)
38
電子機器(ele)
10
石炭(coa)
39
その他機械・装置(ome)
11
原油(oil)
40
その他の製造工業製品(omf)
12
天然ガス(gas)
41
鉄スクラップリサイクリング(ssr)
13
鉄鉱石(iro)
42
その他リサイクリング(osr)
14
その他鉱業(omn)
43
電力(ely)
15
と畜(cmt)
44
ガス・熱供給(gdt)
16
畜産食料品(omt)
45
水道(wtr)
17
油脂(vol)
46
建設業(cns)
18
酪農品(mil)
47
商業(trd)
19
加工米(pcr)
48
その他輸送(otp)
20
砂糖(sgr)
49
水上輸送(wtp)
21
その他の食料品(ofd)
50
航空輸送(atp)
22
飲料・たばこ(b_t)
51
通信業(cmn)
23
繊維工業製品(tex)
52
金融業(ofi)
24
衣服・その他繊維製品(wap)
53
保険業(isr)
25
なめし革・毛皮・同製品(lea)
54
その他事業所サービス業(obs)
26
製材・木製品(lum)
55
娯楽・その他サービス(ros)
27
パルプ・紙・板紙・加工紙(ppp)
56
公務・防衛・保健・教育(osg)
28
石油製品・石炭製品(p_c)
57
その他サービス(dwe)
29
化学・ゴム・プラスチック(crp)
No.
No.
なお、本年度は方法論開発作業を優先したため、鉄鉱石産出量などの物量データと、金銭ベースの
産業連関表の間のデータ整合性の問題については次年度検討する。
33
2.2.3 分析結果
(1)
一次資源投入と炭素排出
図2.2.2は、生産からみた国内直接排出と消費からみた最終需要のカーボンフットプリントを示して
いる。同様に、図2.2.3は、各国の直接の鉄鉱石使用量と最終消費に体化された鉄鉱石使用量を比較し
たものである。
Mt CO2
6,000
5,000
4,000
Direct
Emissions
3,000
CF
2,000
1,000
0
図2.2.2
直接排出と最終消費のカーボンフットプリント
注)JPN:日本、CHN:中国、AUS:豪州、KOR:韓国、USA:米国、IND:インド、BRA:ブラジ
ル、EU_25:欧州、I_M:インドネシア・マレーシア、EOG:主要石油輸出国、ROW:その他世界
34
Mt iron ore
500
Domestic
production
400
Direct use in
production
300
200
Total use
embodied in final
consumption
100
0
図2.2.3
鉄鉱石の国内生産量、直接使用量、最終消費に体化された量
これらの結果は、次の三つのパターンを示している。1)直接排出量とカーボンフットプリントは
ほぼ同量である(豪州、韓国、ブラジル)、2)直接排出量がカーボンフットプリントよりも多い(中
国、インド、インドネシア・マレーシア、主要石油輸出国、その他世界)、3)直接排出量がカーボ
ンフットプリントよりも少ない(日本、米国、欧州)。特に、米国と欧州は、生産による直接排出量
よりはるかにカーボンフットプリントが多くなっている。一方、中国とEOGは、カーボンフットプリ
ントよりもはるかに直接排出量が多くなっている。
生産における鉄鉱石の直接使用量と最終消費に体化された鉄鉱石に関して、日本、米国、欧州、そ
の他世界では、生産における直接使用量よりも最終消費に体化された鉄鉱石の方が多くなっている。
逆に、中国、豪州、ブラジル、主要石油輸出国では、最終消費に体化された鉄鉱石のよりも生産にお
ける直接使用量の方が多くなっている。韓国、インド、インドネシア・マレーシアでは、生産におけ
る直接使用量と最終消費に体化された鉄鉱石はほぼ同じである。
いくつかの部門における直接排出とカーボンフットプリントの比較は、補論Iに掲載されている。
一般的に、鉄鉱石採掘(iro)や銑鉄(pio)といった鉄鋼部門のサプライチェーンにおける上流に位
置する産業部門では、カーボンフットプリントよりも直接排出が多くなっている。一方、主要な下流
に位置する産業部門では、生産からの直接排出よりもカーボンフットプリントが多い。
(2)
資源効率性と炭素強度
表2.2.3と表2.2.4は、ある特定の産業部門における単位生産による炭素排出(直接排出/産業別総生
産)と最終消費1単位に体化された排出(体化された排出/産業別最終消費)をまとめたものである。
生産による直接排出の炭素強度については、日本で銑鉄(pio)、転炉生産による鉄鋼(csb)、電
炉生産による鉄鋼(cse)、自動車(mvh)において最も低い強度になっている。鉄鉱石(iro)以外に
ついて、日本の製造業の炭素強度は、11の地域の中でも低い値になっている。豪州は、自動車(mvh)、
その他輸送機器(otn)、電子機器(ele)、その他機械(ome)で最も低い炭素強度となっているが、
35
米国とブラジルでは、鉄鉱石(iro)と建設(cns)で最も炭素強度が低くなっている。一方、中国(自
動車:mvh、その他輸送機器:otn、その他機械:ome)、インドネシア・マレーシア(鉄鉱石:iro、
銑鉄:pio)、主要石油輸出国(転炉生産による鉄鋼:csb、電炉生産による鉄鋼:cse、電子機器:ele、
建設:cns)で、炭素強度が高くなっている。
表2.2.3
単位生産による炭素排出(kg CO2/2004年基準の米ドル)
iro
JPN
0.200
CHN
0.376
AUS
0.223
KOR
0.118
USA
0.011
IND
0.557
BRA
0.491
EU_25
0.110
I_M
0.577
EOG
0.901
ROW
0.246
pio
0.603
2.332
0.902
0.710
1.207
3.006
1.706
0.644
3.250
3.362
2.895
csb
0.007
0.025
0.010
0.008
0.013
0.033
0.019
0.007
0.035
0.037
0.032
cse
0.045
0.173
0.067
0.053
0.090
0.223
0.127
0.048
0.242
0.250
0.215
mvh
0.000
0.123
0.000
0.021
0.026
0.006
0.001
0.010
0.035
0.010
0.024
otn
0.005
0.102
0.000
0.091
0.028
0.005
0.002
0.020
0.082
0.021
0.038
ele
0.012
0.023
0.002
0.004
0.015
0.025
0.005
0.006
0.027
0.107
0.028
ome
0.008
0.106
0.007
0.009
0.022
0.043
0.009
0.014
0.071
0.078
0.055
cns
0.018
0.065
0.024
0.017
0.011
0.010
0.001
0.015
0.079
0.072
0.045
注)JPN:日本、CHN:中国、AUS:豪州、KOR:韓国、USA:米国、IND:インド、BRA:ブラジ
ル、EU_25:欧州、I_M:インドネシア・マレーシア、EOG:主要石油輸出国、ROW:その他世界、
iro:鉄鉱石、pio:銑鉄、csb:転炉生産による鉄鋼、cse:電炉生産による鉄鋼、mvh:自動車、otn:
その他輸送機器、ele:電子機器、ome:その他機械、cns:建設
生産の直接排出の炭素強度とは別概念になる最終消費に体化された炭素強度は、その他機械(ome)
と建設(cns)で炭素強度が低くなっている。韓国(電炉生産による鉄鋼:cse、その他輸送機器:otn)、
インド(鉄鉱石:iro)、ブラジル(銑鉄:pio、転炉生産による鉄鋼:csb)、欧州(自動車:mvh)、
インドネシア・マレーシア(電子機器:ele)でも、最終消費に体化された炭素強度が低い。一方、中
国(自動車:mvh、その他輸送機器:otn、建設:cns)、韓国(鉄鉱石:iro)、インド(電子機器:
ele、その他機械:ome)、その他石油輸出国(銑鉄:pio、転炉生産による鉄鋼:csb)、その他世界
(電炉生産による鉄鋼:cse)では、最終消費に体化された炭素強度が高くなっている。
表2.2.4
最終消費1単位に体化された排出(kg CO2/2004年基準の米ドル)
iro
JPN
0.612
CHN
2.172
AUS
0.959
KOR
4.349
USA
0.379
IND
0.004
BRA
0.015
EU_25
1.146
I_M
1.016
EOG
2.395
ROW
1.199
pio
0.120
2.517
1.299
0.064
0.403
5.357
0.038
0.799
4.019
6.500
5.866
csb
0.065
1.560
0.725
0.035
0.192
2.640
0.021
0.422
2.173
2.851
1.922
cse
0.070
1.693
1.112
0.018
0.147
2.748
0.042
0.496
0.898
2.672
2.862
mvh
0.191
1.763
0.734
0.369
0.824
1.508
0.486
0.342
0.874
0.501
0.894
otn
0.349
1.611
1.487
0.251
0.427
1.460
0.254
0.414
1.058
0.820
1.302
ele
0.426
0.533
2.888
0.343
0.932
2.173
0.624
0.552
0.330
1.008
0.542
ome
0.356
1.615
1.182
0.431
0.623
1.947
0.635
0.364
0.849
1.152
1.024
cns
0.270
2.393
0.426
0.581
0.055
1.362
0.331
0.365
1.312
0.984
0.740
36
(3)
国際貿易
表2.2.5と表2.2.6に、それぞれ各国の体化された排出と体化された鉄鉱石の起源の比率を示す。
表2.2.5
AUS
カーボンフットプリントの起源
JPN
CHN
JPN
CHN
84.7%
6.7%
0.2%
98.3%
0.8%
3.8%
KOR
1.1%
3.8%
0.4%
2.9%
0.1%
0.8%
0.3%
1.2%
0.5%
3.4%
0.8%
3.2%
0.2%
1.3%
0.8%
3.7%
AUS
KOR
0.3%
0.6%
0.0%
0.2%
86.1%
0.4%
0.1%
89.0%
0.0%
0.3%
0.0%
0.2%
0.0%
0.3%
0.1%
0.4%
0.2%
0.5%
0.0%
0.2%
0.3%
0.6%
USA
IND
2.1%
0.2%
0.2%
0.0%
2.1%
0.2%
1.9%
0.1%
89.3%
0.3%
0.2%
97.3%
1.5%
0.1%
1.9%
0.5%
1.2%
0.3%
3.3%
0.1%
2.1%
0.7%
BRA
EU_25
0.1%
1.2%
0.0%
0.2%
0.1%
1.9%
0.0%
0.9%
0.1%
1.0%
0.0%
0.3%
91.9%
1.9%
0.2%
86.5%
0.0%
1.1%
0.1%
1.3%
0.3%
3.3%
I_M
EOG
0.7%
0.5%
0.1%
0.1%
0.8%
0.6%
0.3%
0.5%
0.3%
3.7%
0.3%
0.2%
0.1%
0.8%
0.5%
1.6%
88.5%
0.5%
0.1%
92.1%
0.8%
1.6%
ROW
3.0%
0.7%
3.3%
2.1%
1.6%
0.7%
1.9%
4.4%
3.8%
1.3%
85.8%
表2.2.6
JPN
CHN
JPN
CHN
0.0%
15.3%
0.0%
61.2%
AUS
KOR
34.6%
0.2%
USA
IND
AUS
USA
IND
BRA
EU_25
I_M
EOG
ROW
体化された鉄鉱石の起源
KOR
USA
IND
BRA
EU_25
I_M
EOG
ROW
0.0%
2.6%
0.0%
14.3%
0.0%
15.7%
0.0%
4.4%
0.0%
1.3%
0.0%
11.4%
0.0%
20.1%
0.0%
4.8%
0.0%
13.1%
8.9%
0.1%
91.7%
0.0%
28.7%
12.0%
10.4%
0.1%
19.4%
0.0%
1.2%
0.0%
12.4%
0.1%
23.5%
0.3%
5.0%
0.1%
16.8%
0.2%
1.4%
9.2%
0.3%
11.1%
0.3%
1.1%
1.4%
6.5%
23.4%
6.0%
0.4%
53.0%
0.3%
0.5%
1.7%
6.7%
1.6%
11.4%
2.7%
2.0%
1.6%
8.8%
BRA
EU_25
21.4%
0.5%
13.1%
0.2%
1.9%
0.1%
22.9%
0.4%
15.2%
0.8%
7.0%
3.7%
92.8%
0.1%
26.8%
7.3%
21.2%
1.0%
7.5%
0.5%
20.2%
1.7%
I_M
EOG
0.1%
10.0%
0.0%
3.3%
0.0%
1.2%
0.1%
7.8%
0.0%
23.2%
0.0%
4.5%
0.0%
2.0%
0.0%
22.7%
1.8%
9.3%
0.0%
74.3%
0.1%
12.5%
ROW
7.2%
1.9%
1.1%
5.9%
5.1%
7.5%
1.7%
10.9%
9.8%
3.1%
25.1%
表2.2.5の対角線上にある計算結果によれば、日本、豪州、韓国、米国、欧州など先進国の多くでは、
国内生産に起因するカーボンフットプリントの割合が低くなっている。しかし、中国、インド、ブラ
ジル、主要石油輸出国では逆にそれらが高くなっている。
表2.2.6は体化された鉄鉱石のケースを示しているが、日本、韓国、米国、欧州、インドネシア・マ
レーシアとその他世界で、国内消費における体化された鉄鉱石の自給率がとても低い。日本の国内消
費における体化された鉄鉱石は、主に豪州(34.6%)、ブラジル(21.4%)、中国(15.3%)から来て
いる。
2.2.4 政策含意
研究では、MRIO分析を用いて、消費において炭素排出や一次資源(主に鉄鉱石)隠れたフローと
して体化されている量を示した。また、実際に排出している国や鉄鉱石を採掘している国を突き止め、
どこに影響が及ぶのかを明らかにした。得られた政策インプリケーションは次の通りである。
37

本研究の結果は、自動車、その他輸送機器、電子機器、その他機械、建設など鉄鋼サプライチェ
ーンの下流に位置する産業部門で、隠れたフロー、つまり体化された排出と体化された鉄鉱石が
多くなっている。

日本の製造業の多くは生産に直接起因する炭素排出と鉄鉱石使用の点では最も効率的であるが、
カーボンフットプリントと消費に体化された鉄鉱石という視点に基づくと、日本よりも効率性が
低い他国で上流産業の生産を行っているケースもあり、効率性は産業部門によって異なる。

鉄鋼のサプライチェーンについて、日本は豪州、ブラジル、中国、インド、EOGの上流産業の生
産にかかり依存している。

ライフサイクルの視点からは、国内生産に起因する排出や資源効率性に対処するのでは、国際協
力や国際分業を通じたサプライチェーン全体での削減を達成することはできない。よって、消費
に体化された排出や一次資源に関する政策を講じることが、サプライチェーンにおける総排出や
一次資源総投入の削減問題に対して重要となる。
38
2.3
MRIO-CGE 連携による政策シナリオの予備的評価
2.3.1 はじめに
本研究では、ライフサイクル全体での環境影響指標であるカーボンフットプリント・一次資源投入
を推計するMRIOと、資源利用抑制・資源循環政策による経済全体に対する影響を評価する多地域一
般均衡(CGE)モデルを連携することで、資源利用抑制・資源循環政策の効果を経済影響に加えライ
フサイクル全体での環境影響についても評価するツールを開発する。ここで言うMRIOとCGEの連携
とは、具体的にはCGEモデルによる経済影響の推定結果を用いてMRIOを更新し、更新したMRIOを用
いてカーボンフットプリント・一次資源投入を推計することを意味する。
本年度はMRIOと連携する経済影響評価モデルとして、世界全体を対象とした多地域静学CGEモデ
ルを開発した。この静学モデルを踏まえて、次年度に動学CGEモデルを開発したうえで、鉄スクラッ
プ供給の動学推計モデルを組み込み、製品寿命に関する政策やリサイクル・資源循環政策を併せて持
続的資源利用政策に関する分析を行う予定である。
2.3.2 経済影響評価モデル
本研究で用いるデータは、2.2節で説明したMRIOと同じ米国パーデュ大学世界貿易分析センターが
作成している2004年基準のGlobal Trade Analysis Project(GTAP)データベース第7版である。地域分
類、産業分類も2.2節のMRIOと同じ11地域分類・57産業分類である(表2.2.1、表2.2.2参照)。
GTAPデータベースを用いた多地域CGEモデルとしては、Hertel(1997)によるGTAPモデルを用い
ることが多いが、GTAPモデルはGEMPACKというソフトウェアを採用しており、変数の値(水準)
ではなく変数の変化率で数式が記述されている。しかし、変化率ベースでのモデリングでは価格均衡
条件のように変化率ではなく水準が均等化する条件をモデル化できないという問題が生じる。本研究
で開発したモデルは、変化率ではなく水準ベースでモデリングを行うために、GAMS(General Algebraic
Modeling System)ソフトウェアを採用し、混合相補問題(Mixed Complementarity Problem)として定
式化した上で、PATHソルバーを用いて解いている。
標準的なCGEモデル(例えば単一国モデルとしてはLofgren et al. 2002、多地域モデルとしては
McDonald et al. 2007)が利潤最大化による企業行動や効用最大化に基づく家計行動をベースにするの
に対し、本研究で開発したモデルでは企業も家計も費用最小化問題を解く形で定式化した。
二国間貿易についてはGTAPモデルの方法に準拠し、輸入と輸出が表裏一体である性質を利用し、
輸入側について国内市場に供給された財・サービスは同じ区分の輸入財・サービスとCES型関数で記
述される不完全代替であるとするArmington(1969)の仮定を採用し、さらに異なる輸入元からの輸
入財・サービスもCES型関数で記述される不完全代替であるとする2段階CESアプローチを仮定した。
輸出側については、二国間の輸出フローは対応する輸入フローで決定されると仮定した。貿易財の価
格についても均衡価格が存在しないため、輸出国の国内価格に輸送費、関税などを反映して輸入価格
が決まると仮定した。国際運輸マージンについては、需要側は輸入需要の一定比率として決定され、
供給側については国・地域別のシェアを一定として各国・各地域の運輸部門が供給すると仮定した。
市場構造について完全競争を仮定している。まず、生産関数は、中間財投入と付加価値を要素とす
るレオンチェフ型生産関数で表現される。中間財の財別需要もレオンチェフ型で決定されるが、鉄鋼
の中間財投入については、電炉鋼と高炉鋼の間の代替関係をCES型関数によって表わす。また、電炉
鋼部門においては、リサイクル部門から電炉鋼部門への中間投入を鉄スクラップ投入と仮定し、銑鉄
39
と鉄リサイクル中間財投入の間の代替関係をCES型関数によって表わす。付加価値の生産関数は、資
本ストック、熟練労働、非熟練労働、天然資源、土地を生産要素とするCES型関数である。そして、
このCES型関数を制約条件として費用最小化問題を解くことで、生産要素需要を決定する。なお、各
生産要素の地域間移動はないものと仮定した。
家計は、企業に生産要素を貸し出し、その対価を受け取ることで所得を得る。そして、その所得に
より家計消費がなされる。家計の効用関数はコブ=ダグラス型で、その効用関数を制約条件とする費
用最小化問題を解くことで、財別の消費を決定する。貯蓄については、GTAPモデルの方法に準拠し、
消費に加えて貯蓄も構成要素の一つとなっているコブ=ダグラス型効用関数を用いている。これは、
所得に対する貯蓄率一定の仮定を置くことに等しい。
政府消費については効用への影響をモデル化していないため、財別消費量を固定した。生産や貿易
などにおいて課せられた租税を収入とし、レオンチェフ型関数でもって財別の政府支出を決定する。
全ての財ならびに生産要素の価格は、それぞれの市場において需要と供給が均衡するように決定さ
れる。マクロクロージャーについては、政府収支均衡を達成するように政府収支余剰(または不足)
を政府から家計へ一括移転した。また、国際収支は基準年水準で一定とした。
モデリングの対象が単一国であろうと多地域であろうと、CGEモデルにおいては価格についてゼロ
次同次でワルラス法則が成り立つ定式化を用いることが通常のアプローチである。よって、通常の方
法によりCGEモデルを構築する場合、モデルを構成する方程式の一本が冗長となるため、ある一つの
変数をニュメレールとしてその価格を1と固定する。本モデルではその他世界(ROW)の為替レート
をニュメレールとした。
財別の中間需要、家計消費、政府消費における国内財と輸入財の間の代替弾力性、生産要素間の代
替弾力性、二国・地域間貿易における財別の代替弾力性など主要なパラメータは、GTAPデータベー
ス第7版のものを用いた。
2.3.3 政策シナリオの予備的評価
本年度は、MRIO-CGE連携の方法論を確立することを目的として、オーストラリアが鉄鉱石部門の
売り上げに対して20%の天然資源税を課す政策シナリオを想定し、経済影響評価モデルでシミュレー
ションを実施したうえで、その結果を用いてMRIOを更新しカーボンフットプリントおよび一次資源
投入(ここでは鉄鉱石)を推定するテストランを行った。
政策シナリオに対応したカーボンフットプリントおよび一次資源投入をMRIOで推定するには、政
策シナリオによる貿易構造および最終需要への影響をCGEモデルでシミュレートし、その結果を用い
てMRIOを更新する必要がある。この更新に使用した変数は以下の通りである。
• 二国間の貿易係数(各国・地域の各部門の売り上げに対する二国間輸出額の比率)
• 国・地域別の最終需要(家計、政府、貯蓄)
• 国・地域別のコモディティ生産量
• 部門別生産要素別の生産要素投入量
オーストラリアの鉄鉱石天然資源税(鉄鉱石部門の売り上げに対して20%課税)政策シナリオによ
る影響評価の結果は以下の通りである。政策シナリオによる影響は、政策を入れないなりゆき(BAU)
40
シナリオからの変化率で評価した。なお、以下の結果はあくまでMRIO-CGE連携のテストランという
位置づけであり、次年度以降ツールの改良とともにデータ精度を向上することで結果が大きく変わる
ことが予想される。
(1)
政策シナリオによる経済影響
政策シナリオによる実質GDPへの影響を図2.3.1に示す。
0.0004 %
0.0002 %
0.0000 %
-0.0002 %
-0.0004 %
-0.0006 %
-0.0008 %
図2.3.1
政策シナリオによる実質GDPへの影響(BAUからの変化率)
政策シナリオによる各国・地域の実質GDPへの影響は極めて小さいが、鉄鉱石への資源税を導入し
たオーストラリアおよび鉄鉱石輸入国に負の経済影響がみられる一方、世界最大の鉄鉱石輸出国であ
るブラジルには正の経済影響がみられる。また世界全体では負の経済影響がみられる。これらはおお
むね予想通りの結果と言える。
一方、政策シナリオによる効用水準への影響を図2.3.2に示す。
41
0.09 %
0.08 %
0.07 %
0.06 %
0.05 %
0.04 %
0.03 %
0.02 %
0.01 %
0.00 %
-0.01 %
図2.3.2
政策シナリオによる効用水準への影響(BAUからの変化率)
本モデルでは、一般的な静学CGEモデルと同じく効用水準は一人あたり所得で決まると仮定してい
るが、シミュレーション結果から天然資源税の税収を家計に一括移転するオーストラリアにおいて効
用水準への正の影響が大きくなっており、天然資源税の導入に政策合理性があることを示唆する結果
となった。
政策シナリオによる生産活動への影響について、図2.3.3に鉄鉱石生産量への影響を、図2.3.4に銑鉄、
高炉鋼、転炉鋼生産量への影響を示す。
10 %
5%
0%
-5 %
-10 %
-15 %
図2.3.3
政策シナリオによる鉄鉱石生産への影響(BAUからの変化率)
42
0.04 %
0.02 %
0.00 %
-0.02 %
-0.04 %
-0.06 %
-0.08 %
-0.10 %
銑鉄
-0.12 %
高炉鋼
電炉鋼
-0.14 %
-0.16 %
図2.3.4
政策シナリオによる銑鉄、鉄鋼生産への影響(BAUからの変化率)
鉄鉱石部門への天然資源税課税はオーストラリアの鉄鉱石生産を12.6%と大幅に減少させるが、輸
入先の代替効果により他国・地域の鉄鉱石生産を増加させる結果となった。一方、鉄鉱石の一次ユー
ザーである製鉄・鉄鋼部門への影響ははるかに限定的であるが、鉄鉱石輸入におけるオーストラリア
の比重が大きい日本、中国、韓国において銑鉄・鉄鋼生産を減少させ、オーストラリアからの鉄鉱石
輸入の比重が比較的小さい米国やEUといった主要製鉄・鉄鋼生産国の銑鉄・鉄鋼生産を押し上げる
結果となった(各国の鉄鉱石の輸入元については、2.2節の表2.2.6を参照のこと)。
資源利用のさらに下流側である、鉄鋼の主要ユーザーへの影響について、図2.3.5に自動車部門およ
び建設部門の生産量への影響を示す。
0.12 %
0.10 %
自動車
0.08 %
建設
0.06 %
0.04 %
0.02 %
0.00 %
-0.02 %
-0.04 %
図2.3.5
政策シナリオによる自動車部門、建設部門生産量への影響(BAUからの変化率)
43
資源利用の上流側において一国(オーストラリア)が天然資源税を導入することによる資源価格上
昇は、資源の二次利用者(一次利用者である銑鉄・鉄鋼部門の製品の利用者)においてブラジルの建
設部門とオーストラリアの自動車部門を除き、世界的に生産を押し下げる結果となった。
CGEモデルでは輸出先代替効果などの国際価格波及効果を反映しており、資源利用の下流側ほど一
国の政策が他国へも波及する今回のシミュレーション結果は、我々の予想と一致するものである。
(2)
政策シナリオによるカーボンフットプリントおよび一次資源投入への影響
政策シナリオによるCO2 の直接排出量およびカーボンフットプリントへの影響を図2.3.6(CO2 排出
量の変化、単位百万トン)および図2.3.7(変化率)に示す。
Mt CO2
300
250
直接排出
カーボンフットプリント
200
150
100
50
0
-50
-100
-150
-200
図2.3.6
政策シナリオによるCO2排出量の変化(100万トン)
8%
6%
直接排出
カーボンフットプリント
4%
2%
0%
-2%
-4%
-6%
図2.3.7
政策シナリオによるCO2排出量への影響(BAUからの変化率)
44
政策シナリオにより、日本、オーストラリア、韓国、米国、インドおよびその他世界においては、
直接排出量が減少するが反対にカーボンフットプリントは増加するという結果となった。世界全体と
しては総CO2 排出量が46万トン減少する結果となった。カーボンフットプリント推計結果の起源別内
訳を表2.3.1に示す。
表2.3.1 起源別のカーボンフットプリントの変化(100万トン)
JPN
CHN
AUS
KOR
USA
IND
BRA
EU_25
I_M
EOG
ROW
Total
JPN
30.9
-12.0
0.1
-1.2
-2.4
-0.4
0.0
-2.7
-1.1
5.4
-6.4
10.1
CHN
0.5
-36.6
0.3
1.0
1.7
0.4
0.1
0.5
2.1
3.9
6.4
-19.8
AUS
-0.2
-1.1
7.0
-0.2
-0.9
-0.0
-0.0
-1.1
-0.4
0.7
-2.1
1.6
KOR
0.4
1.6
0.1
-3.6
1.7
0.1
0.0
0.0
0.3
2.6
0.7
3.8
USA
-1.2
-12.0
0.2
-1.4
67.7
-1.5
-0.5
-4.4
-2.3
-0.6
-22.2
21.8
IND
0.1
0.1
0.0
0.1
0.6
0.3
0.1
1.4
-0.1
4.8
-0.6
6.9
BRA
-0.1
0.3
-0.0
0.0
0.4
0.2
-4.6
-0.0
0.1
1.2
1.3
-1.2
EU_25
-0.7
0.6
-0.0
-1.1
-0.0
0.6
-0.2
-36.3
0.1
17.4
-16.7
-36.3
I_M
0.0
0.4
0.0
0.1
0.2
0.1
0.0
0.0
-3.8
1.1
0.3
-1.4
EOG
1.5
3.3
0.6
1.1
-5.3
5.6
0.0
4.0
1.5
-67.1
1.5
-53.3
ROW
-1.3
-8.8
-0.8
-2.4
-6.6
-7.6
-0.6
-12.0
-1.6
15.4
47.7
21.5
政策シナリオによりカーボンフットプリントが大幅に増えた日本および米国において、自国起源の
フットプリントの増大が要因となっていることが分かる。一方、カーボンフットプリントが大幅に減
少した中国、EUおよび石油・ガス輸出国においては、自国起源のフットプリントの減少が要因とな
っていることが分かる。
次に、政策シナリオによる鉄鉱石投入量(一次資源投入量)につき、直接投入量および資源フット
プリント(最終消費に体化された鉄鉱石利用量)への影響を図2.3.8(鉄鉱石投入変化、単位百万トン)
および図2.3.9(変化率)に示す。
45
Mt
10
直接資源投入
資源フットプリント
5
0
-5
-10
-15
-20
-25
図2.3.8
政策シナリオによる鉄鉱石利用量の変化(100万トン)
15%
直接資源投入
資源フットプリント
10%
5%
0%
-5%
-10%
-15%
図2.3.9
政策シナリオによる鉄鉱石利用への影響(BAUからの変化率)
政策シナリオにより鉄鉱石フットプリント(最終消費に体化された鉄鉱石投入)が増加するのは、
日本とインドの二か国のみとなったが、この二か国は直接投入としては鉄鉱石投入が減少していると
いう興味深い結果となった。世界全体の鉄鉱石利用は23万トン減少する結果となった。鉄鉱石フット
プリント推計結果の起源別内訳を表2.3.2に示す。
46
表2.3.2
JPN
CHN
AUS
KOR
USA
IND
BRA
EU_25
I_M
EOG
ROW
Total
JPN
0.00
0.35
-1.09
0.11
0.09
0.71
2.56
-0.08
0.01
2.01
0.30
4.98
CHN
0.00
-0.96
-6.64
0.34
-0.02
0.15
-0.72
-0.04
0.00
2.13
-0.47
-6.22
起源別の鉄鉱石フットプリントの変化(100万トン)
AUS
0.00
0.00
-3.26
0.03
0.01
-0.07
-0.12
-0.01
0.00
0.24
-0.03
-3.23
KOR
0.00
0.36
-0.76
-1.21
0.04
-0.00
0.73
-0.02
0.00
0.48
-0.04
-0.43
USA
0.00
0.25
-4.20
0.25
-0.59
-2.23
-0.72
0.06
0.00
2.40
-1.20
-5.98
IND
0.00
-0.22
-1.93
0.03
0.01
0.41
-0.67
-0.35
0.00
8.68
-2.20
3.76
BRA
0.00
-0.03
-0.13
0.00
-0.00
-0.06
-1.52
-0.01
0.00
0.23
-0.04
-1.56
EU_25
0.00
-0.62
-7.24
0.22
-0.14
-2.48
-3.29
-0.80
0.00
16.26
-4.58
-2.67
I_M
0.00
-0.01
-0.48
0.03
-0.02
-0.31
-0.48
-0.02
0.00
0.48
-0.20
-1.01
EOG
0.00
0.90
-0.36
0.10
-0.14
1.34
1.72
0.77
0.01
-11.03
0.20
-6.50
ROW
0.00
-0.36
-4.37
0.29
-0.32
-3.98
-2.34
-0.73
0.00
6.80
0.38
-4.62
予想通り天然資源税を導入するオーストラリア起源の鉄鉱石フットプリントは全地域・国で減
少している。日本の鉄鉱石フットプリント増加はブラジルおよび石油・ガス輸出国(ロシア、カ
ナダといった主要鉄鉱石生産国を含む)起源のものが92%を占めている。インドの鉄鉱石フット
プリント増加は、ほとんどが石油・ガス輸出国起源という結果となった。
2.3.4 政策シナリオの予備的評価に関する結論
MRIOによるカーボンフットプリント・一次資源投入の推定手法と、CGEモデルによる政策影響評
価を連携する手法は筆者らが知る限りではまだ確立されていない。本年度は、この方法論の確立を最
優先課題とし、世界データベース(GTAP第7版)を共通のベースとしてMRIOおよびCGEモデルの基
本データベースとなる社会会計行列(SAM)を開発し、MRIO-CGE連携方法について検討した。本研
究では、最終的にリサイクル・資源循環政策を含めて持続可能な資源利用政策の効果を検証するため
に、スクラップストック動態モジュールを組み込んだ動学CGEモデルを開発する計画であるが、本年
度はMRIO-CGE連携についてテストランを行う目的で、静学世界CGEモデルを開発し、オーストラリ
アが鉄鉱石部門の売り上げに対して20%の天然資源税を課す政策シナリオに対するシミュレーショ
ンを実施し、その結果を用いてMRIOを更新しカーボンフットプリントおよび一次資源投入(ここで
は鉄鉱石)を推定した。
政策シナリオの予備的評価結果については、あくまでテストランという位置づけであるが、テスト
ラン結果から、直接排出量・資源投入量とフットプリント(最終消費に体化された排出量・資源投入
量)MRIO-CGE連携手法はのベースは確立できたと考える。次年度以降、本研究の目的に合わせ、
世界CGEモデルの動学化とスクラップストック動態モジュールの連携、GTAPデータベースからさら
に細分化を行った部門(鉱業、製鉄・鉄鋼部門、その他製造業から細分化した部門)に関するデータ
精度の向上を行う計画であるが、本年度中にテストランまで完了することができたことで、これらの
開発作業を効率よく行うことが可能である。
47
2.4
本章の結論
本研究では、ライフサイクル全体での環境影響指標であるカーボンフットプリント・一次資源投入
を推計するMRIOと、資源利用抑制・資源循環政策による経済全体に対する影響を評価する多地域一
般均衡(CGE)モデルを連携することで、資源利用抑制・資源循環政策の効果を経済影響に加えライ
フサイクル全体での環境影響についても評価するツールを開発する。ここで言うMRIOとCGEの連携
とは、具体的にはCGEモデルによる経済影響の推定結果を用いてMRIOを更新し、更新したMRIOを用
いてカーボンフットプリント・一次資源投入を推計することを意味する。
3年間の研究全体では、リサイクル・資源循環政策を反映する目的で、鉄スクラップストック動態
モジュールを開発し、動学CGEモデルに鉄スクラップ供給制約として組み込むことを計画している。
今年度は、MRIO-CGE連携の方法論を固め、手法の有効性のイニシャルチェックを行う目的で、MRIO
と連携した静学世界CGEモデルを開発し、オーストラリアが鉄鉱石部門の売り上げに20%の天然資源
税を課税するという政策シナリオを想定してカーボンフットプリントおよび一次資源投入(鉄鉱石フ
ットプリント)をライフサイクル環境指標とする政策影響評価を行った。
この予備的影響評価は、データ未収集の部分について粗い仮定を置くなど、今後改善する部分が多
く、あくまでテストランという位置づけであるが、MRIO-CGE連携手法の具体的方法を確立するとと
もに、手法の有効性について一定の感触を得ることができた。本年度中にテストランを実施すること
ができたことにより、次年度以降のデータ収集およびMRIOおよびCGEモデルの共通データベースの
精度向上、動学CGEモデルへの拡張およびCGEモデルによる最終消費推計値とリンクしたスクラップ
ストック動態推計モジュールの開発およびCGEモデルへの組み込みといった作業を効果的・効率的に
行うことが可能になったと考えている。
48
補論 2.2
MRIO を用いたカーボンフットプリント・一次資源投入の推計の詳細
A2.2.1 Introduction
The main purpose of this work is to address the cross-border upstream burdens in the supply chain of
iron and steel products focusing on iron ore extraction, steel scraps recycling and carbon emissions.
In this research, materials and primary resources used in all upstream productions of traded products
are called materials embodied in trade and carbon emissions generated from all upstream productions
are called emissions embodied in trade, or carbon footprints (CF). Accounting for indirect materials
and emissions embodied in trade is important to national decision makers who concern about the
life-cycle impacts of domestic production and consumption.
First, when policies aim solely at the improvement in domestic resource efficiency, the global
impacts, such as climate change and resource depletion due to the outsourcing of raw materials and
components to other countries, cannot be addressed properly. Japan can be considered as one of the
most efficient countries in resource and energy use in the world. However, taking indirect material
use and emissions into account, Japan’s efficiency profiles can be different. For example, from 1980
until 2005, Japan had continuously the highest net amount of materials embodied in imports, most of
which were from developing countries which had much lower resource efficiencies (Dittrich, 2010).
To understand the material flows and sources of emissions along the supply chain is therefore
important to make the policies which address not only the nation-wide material use efficiency and
emissions but also global resource efficiency and emissions.
Second, due to the existence of the hidden upstream burdens, the true costs of production are not
fully reflected in the transaction costs. This is so-called environmental burden shifting via trade. A
worse case is that environmental burdens will continuously shift from developed countries to
developing countries, which lack both technologies and financial capacity to prevent and remedy the
ecological damages. Analysis of the material flows and sources of emissions along the global supply
chain is therefore necessary to help assess trade patterns and associated ecological impacts.
This work focuses on iron metal because it is one of the fundamental materials supporting modern
economic growth. Iron and steel production is one of the most energy-intensive sectors and
dependent on iron metal which is a non-renewable resource. As both an importing and exporting
country, Japan plays an important role in global iron and steel production and consumption. Report
from the World Steel Recycling (2011) shows that there has been significantly increasing of scraps
used in steelmaking process, which can help reduce both virgin material use and carbon emissions.
Focusing on both the iron metal and steel scraps used in Japan’s iron and steel making, this study
includes international trade among eleven regions, which include two major iron ore producing
countries (Australia, Brazil), six steel producing countries (China, India, Japan, Korea, the EU and
the US), two major oil and gas producing country groups and the rest of the world (ROW) (see
Appendix 2.I for region classification).
We constructed a global multi-region input-output (MRIO) model based on the GTAP 7
Database.We calculated materials and emissions embodied in major downstream uses of iron and
49
steel products and compared the total resource efficiency and emissions embodied in the final
consumption of major downstream sectors across countries. The international trade patterns of iron
ores, steel scraps and iron and steel products are assessed in terms of material flows and carbon
emissions.
A2.2.2 Methodology
The GTAP 7 Database provided national input-output (IO) tables and bilateral trade data for 57
sectors of 113 regions in the world. Using the same assumption of the Chenery-Moses type of MRIO
(Chenery, 1953; Moses, 1955; Miller and Blair, 1985), we constructed a global MRIO model and
re-classified sectors into 57 (see Appendix 2.II). By using the global MRIO, both direct resource use
and emissions and indirect resource use and emissions due to upstream productions can be calculated
and the source country of resource extraction and emissions can be identified explicitly.
To capture the virgin vs. secondary material use in iron and steel making, we divided the iron and
steel making sector into three subsectors, i.e. pig iron (sector code “pio”), steel making by blast
furnace using iron ores as major inputs (code “csb”) and the technology of electric arc furnace using
steel scraps (code “cse”). For the virgin material, we separate iron ore (code “iro’”) from sector other
mining (code “omn”). To capture the impacts of the steel scrap recycling, we singled out steel scraps
recycling (code “ssr”), other scraps recycling (code “osr”) from other manufacturing (code “omf”).
In addition, to have less details on cereal grains and animal products, we aggregate three cereal
grains into one sector and four animal products into one sector. Procedures and data sources for the
sector disaggregation are explained as follows.
Disaggregation of domestic intermediate inputs, final Demand and outputs
To break down the former sector of domestic intermediate input, final demand and output, we used
the national IO table from each country, world steel statistical yearbook and Global Trade Atlas
Database compiled by IDE JETRO. The procedure to break down the former of domestic
intermediate input, final demand and output, we firstly mapped sectors in the national IO table
available for some countries into GTAP 7 database’s sector classification. Secondly, we calculated
ratio of each disaggregated sector. Thirdly, we applied the ratio to separate the former sector of
GTAP 7 database according to our new sector classification.
To break down the steel recycling and other recycling in Japan, we used the 2005 Japan Waste I-O
table. For countries that have no data available for specific sectors, we used the same data from
Japan as reference for blast furnace steel producing countries and USA as reference for electric arc
furnace steel producing countries. All data used to calculate the ratio in this study are based on
monetary value. Since data from world steel statistical yearbook is in physical unit, we multiplied the
physical unit data with export unit price to convert physical unit data into monetary value.
Bilateral trade
We used trade data provided by COMTRADE and Global Trade Atlas Database compiled by IDE
JETRO to break down the bilateral trade matrix for sectors of iron ore, other mining, pig iron, other
50
manufacture, steel recycling and other recycling. We used data about ratio of crude steel in blast
furnace and in electric arc furnace which is available on world statistical yearbook to separate the
bilateral trade data of crude steel into blast furnace and arc furnace. We followed the same procedure
used to break down the former sectors of domestic intermediate input, final demand and output. The
summary of data sources for each country and sectors used in this study can be seen on the appendix.
A2.2.3 Results
(1)
Primary resource use and carbon emissions
To address the hidden flows in the upstream productions of the supply chain of iron and steel
products, we use the indicator of carbon footprints and embodied iron ores. Figure A2.1 shows
national direct emissions from producer perspective and carbon footprints of final demand from
consumer perspective. Similarly, Figure A2.2 shows the comparison of direct iron use and total iron
embodied in the final consumption of all sectors in each economy.
Mt CO2
6,000
5,000
4,000
Direct
Emissions
3,000
CF
2,000
1,000
0
Figure A2.1 Direct emissions and carbon footprints of final consumption
Mt iron ore
500
Domestic
production
400
Direct use in
production
300
200
Total use
embodied in final
consumption
100
0
Figure A2.2 Domestic production, direct use in production and embodied iron ores in final
consumption
51
When comparing national direct emissions with carbon footprints, there are three patterns: i) direct
emissions and CFs are about the same (Australia, Korea and Brazil); ii) direct emissions are greater
than CFs (China, India, Indonesia & Malaysia, EOG, and ROW); and iii) direct emissions are less
than CFs (Japan, the US and EU-25). In particular, the US and EU-25 have much larger CFs than
direct emissions from production, and China and EOG countries have much larger direct emissions
than their CFs.
Comparing iron ore production and consumption, there are two groups of countries. Australia, India,
Brazil and EOG countries are among major iron ore producing countries in the world and have
greater production than consumption, while other countries have greater consumption than
production, in particular Japan, China and EU-25. In terms of direct use of iron ores in production
and iron ores embodied in the final consumption, we found Japan, the US, EU-25 and ROW have
larger amount of iron ores embodied in their final consumption than direct use in production, while
China, Australia, Brazil and EOG countries have more direct use in production than the amount of
iron ores embodied in their final consumption. Korea, India and Indonesia & Malaysia have about
the same amount of direct use of iron ores in production and embodied iron ores.
Comparison of direct emissions and CFs for selected sectors is presented in Figures A2.3 - A2.11.
Generally speaking, upstream productions in the supply chain of iron and steel products, such as iron
ore extraction (iro) and pig iron production (pio), have more direct emissions than their CFs, while
major downstream productions have more CFs than the direct emissions from production, such as
motor vehicle manufacturing (mvh), other transportation equipment (otn), electronic equipment (ele),
other machinery and equipment (ome) and construction (cns). Crude steel from blast furnace (csb)
and crude steel from electric arc furnace (cse) have mixed results.
52
Mt CO2
14
Mt CO2
14
12
12
10
10
8
6
4
8
iro_dir
cse_dir
6
iro_CF
cse_CF
4
2
2
0
0
Fig.A2.2 Direct emissions and CFs of iron ore
sector
Fig.A2.5 Direct emissions and CFs of crude steel
electric arc furnace sector
Mt CO2
250
Mt CO2
300
250
200
200
150
100
pio_dir
150
mvh_dir
pio_CF
100
mvh_CF
50
50
0
0
Fig.A2.3 Direct emissions and CFs of pig iron
sector
Fig.A2.6 Direct emissions and CFs of motor vehicle
sector
Mt CO2
12
Mt CO2
50
10
40
8
6
4
30
otn_dir
csb_dir
csb_CF
20
2
10
0
0
Fig.A2.4 Direct emissions and CFs of crude steel
blast furnace sector
Fig.A2.7 Direct emissions and CFs of other
transport equipment sector
53
otn_CF
Mt CO2
200
150
100
ele_dir
ele_CF
50
0
Fig.A2.8 Direct emissions and CFs of electronic
equipment sector
Mt CO2
300
250
200
150
ome_dir
100
ome_CF
50
0
Fig.A2.9 Direct emissions and CFs of other
machinery and equipment sector
54
Mt CO2
1200
1000
800
600
cns_dir
400
cns_CF
200
0
Fig.A2.10 Direct emissions and CFs of construction sector
55
(2)
Resource efficiency and carbon intensity
Tables A2.1 and A2.2 present the carbon emissions from per unit production (i.e. total direct
emissions/total sectoral output) and embodied emissions per unit final consumption (i.e. embodied
emissions/total sectoral final consumption) for selected sectors.
For the carbon intensity of direct emissions from production, Japan has the least intensity for the sectors
of pio, csb, cse and mvh. Except for sector iro, the carbon intensity of Japanese manufacturing sectors is
small among eleven regions. Australia has the least carbon intensity for the sectors of mvh, otn, ele and
ome, while the US and Brazil has the least carbon intensity for sector iro and sector cns, respectively. On
the other hand, China (mvh, otn and ome), Indonesia & Malaysia (iro and pio), and EOG countries (csb,
cse, ele and cns) have the highest carbon intensity.
Table A2.1 Carbon emissions from per unit production (kg CO2/US$_2004 value)
Sector code
iro
pio
csb
cse
mvh
otn
ele
ome
cns
JPN
0.200
0.603
0.007
0.045
0.000
0.005
0.012
0.008
0.018
CHN
0.376
2.332
0.025
0.173
0.123
0.102
0.023
0.106
0.065
AUS
0.223
0.902
0.010
0.067
0.000
0.000
0.002
0.007
0.024
KOR
0.118
0.710
0.008
0.053
0.021
0.091
0.004
0.009
0.017
USA
0.011
1.207
0.013
0.090
0.026
0.028
0.015
0.022
0.011
IND
0.557
3.006
0.033
0.223
0.006
0.005
0.025
0.043
0.010
BRA EU_25
I_M EOG ROW
0.491
0.110 0.577 0.901 0.246
1.706
0.644 3.250 3.362 2.895
0.019
0.007 0.035 0.037 0.032
0.127
0.048 0.242 0.250 0.215
0.001
0.010 0.035 0.010 0.024
0.002
0.020 0.082 0.021 0.038
0.005
0.006 0.027 0.107 0.028
0.009
0.014 0.071 0.078 0.055
0.001
0.015 0.079 0.072 0.045
For the embodied carbon intensity of final consumption, different from the carbon intensity of direct
emissions from production, Japan has the least intensity for the sectors of ome and cns. Korea (cse and
otn), India (iro), Brazil (pio and csb), EU_25 (mvh) and Indonesia & Malaysia (ele) are among lest
embodied carbon intensity of their respective final consumption. On the other hand, China (mvh, otn and
cns), Korea (iro), India (ele and ome), EOG countries (pio and csb) and ROW (cse) have the highest
embodied carbon intensity of their respective final consumption.
56
Table A2.2 Embodied emissions per unit final consumption (kg CO2/US$_2004 value)
Sector code
iro
pio
csb
cse
mvh
otn
ele
ome
cns
(3)
JPN
0.612
0.120
0.065
0.070
0.191
0.349
0.426
0.356
0.270
CHN
2.172
2.517
1.560
1.693
1.763
1.611
0.533
1.615
2.393
AUS
0.959
1.299
0.725
1.112
0.734
1.487
2.888
1.182
0.426
KOR
4.349
0.064
0.035
0.018
0.369
0.251
0.343
0.431
0.581
USA
0.379
0.403
0.192
0.147
0.824
0.427
0.932
0.623
0.055
IND
0.004
5.357
2.640
2.748
1.508
1.460
2.173
1.947
1.362
BRA EU_25
I_M EOG ROW
0.015
1.146 1.016 2.395 1.199
0.038
0.799 4.019 6.500 5.866
0.021
0.422 2.173 2.851 1.922
0.042
0.496 0.898 2.672 2.862
0.486
0.342 0.874 0.501 0.894
0.254
0.414 1.058 0.820 1.302
0.624
0.552 0.330 1.008 0.542
0.635
0.364 0.849 1.152 1.024
0.331
0.365 1.312 0.984 0.740
International trade
In order to address the issue of environmental burden shifting via trade, we traced the source countries
for the CFs and iron ores embodied in final consumption. Tables A2.5 – A2.6 shows the sources
countries of embodied emissions and embodied iron ores of each country, respectively.
Table A2.5 Sources countries of embodied emissions
JPN
CHN AUS
KOR USA
JPN
997.5
7.1
2.4
3.6
25.3
(84.7% (0.2% (0.8% (1.1% (0.4%
CHN
79.4
3013. 11.3
12.7
162.4
AUS
3.1
0.2
257.3 0.5
2.3
KOR
7.2
7.5
1.2
293.1 16.4
USA
25.2
5.2
6.4
6.3
5021.
IND
1.9
0.4
0.7
0.3
15.4
BRA
0.6
0.2
0.2
0.2
5.0
EU 2 14.2
7.7
5.7
2.9
56.4
I M
7.7
3.0
2.4
1.1
18.1
EOG
6.3
2.0
1.7
1.8
205.3
ROW 35.1
20.0
9.8
6.9
92.1
Total
1178.3 3067. 299.0 329.3 5620.
57
IND
0.6
(0.1%
6.6
0.2
1.3
1.7
823.9
0.3
2.4
2.3
1.3
5.8
846.5
BRA
0.6
(0.3%
2.6
0.1
0.6
3.2
0.2
194.9
4.0
0.3
1.7
3.9
212.1
EU 2
17.5
(0.5%
131.8
3.5
13.5
73.6
18.2
6.8
3314.
17.8
62.7
170.4
3829.
I M
2.4
(0.8%
10.0
0.6
1.7
3.8
1.0
0.1
3.4
279.8
1.5
12.1
316.2
EOG
4.4
(0.2%
36.1
1.1
4.8
93.6
3.6
3.4
36.8
3.5
2635.
38.1
2860.
ROW
23.7
(0.8%
105.1
7.8
17.9
58.5
21.1
7.5
92.4
23.0
44.7
2429.
2831.
Table A2.6 Source countries of CFs
JPN
CHN
AUS
KOR
USA
IND
BRA
EU_25
I_M
EOG
ROW
JPN
84.7%
0.2%
0.8%
1.1%
0.4%
0.1%
0.3%
0.5%
0.8%
0.2%
0.8%
CHN
6.7%
98.3%
3.8%
3.8%
2.9%
0.8%
1.2%
3.4%
3.2%
1.3%
3.7%
AUS
0.3%
0.0%
86.1%
0.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.1%
0.2%
0.0%
0.3%
KOR
0.6%
0.2%
0.4%
89.0%
0.3%
0.2%
0.3%
0.4%
0.5%
0.2%
0.6%
USA
2.1%
0.2%
2.1%
1.9%
89.3%
0.2%
1.5%
1.9%
1.2%
3.3%
2.1%
IND
0.2%
0.0%
0.2%
0.1%
0.3%
97.3%
0.1%
0.5%
0.3%
0.1%
0.7%
BRA
0.1%
0.0%
0.1%
0.0%
0.1%
0.0%
91.9%
0.2%
0.0%
0.1%
0.3%
EU_25
1.2%
0.2%
1.9%
0.9%
1.0%
0.3%
1.9%
86.5%
1.1%
1.3%
3.3%
I_M
0.7%
0.1%
0.8%
0.3%
0.3%
0.3%
0.1%
0.5%
88.5%
0.1%
0.8%
EOG
0.5%
0.1%
0.6%
0.5%
3.7%
0.2%
0.8%
1.6%
0.5%
92.1%
1.6%
ROW
3.0%
0.7%
3.3%
2.1%
1.6%
0.7%
1.9%
4.4%
3.8%
1.3%
85.8%
Appendix 2.I Region classification
No
Country Classification
Description
1
JPN
Japan
2
CHN
China
3
AUS
Australia
4
KOR
Korea
5
USA
USA
6
IND
India
7
BRA
Brazil
EU_25: AUT, BEL, CYP, CZE, DNK, EST, FIN, FRA, DEU, GRC, HUN, IRL,
8
EU25
ITA, LVA, LTU, LUX, MLT, NLD, POL, PRT, SVK, SVN, ESP, SWE, GBR
9
I&M
Indonesia and Malaysia
Major oil and gas exporting countries: XWS (middle east countries), RUS, IRN,
10
EOG
NGA, XNF, MEX, VEN, CAN, NOR
11
ROW
Rest of the World in GTAP 7 Database
58
Appendix 2.II Re-classification of sectors for the MRIO model
GTAP 7 Database
Classifications for the MRIO model
No
Sector
No
Sector
.
Code
.
code
Sector Description
Sector description
1 pdr
Paddy rice
2 wht
Wheat
3 gro
Cereal grains nec
1 grc
grains crops
4 v_f
Vegetables, fruit, nuts
2 v_f
Vegetables, fruit, nuts
5 osd
Oil seeds
3 osd
Oil seeds
6 c_b
Sugar cane, sugar beet
4 c_b
Sugar cane, sugar beet
7 pfb
Plant-based fibers
5 pfb
Plant-based fibers
8 ocr
Crops nec
6 ocr
Crops nec
9 ctl
Cattle, sheep, goats, horses
10 oap
Animal products nec
11 rmk
Raw milk
12 wol
Wool, silk-worm cocoons
7 lst
Live stocks
13 frs
Forestry
8 frs
Forestry
14 fsh
Fishing
9 fsh
Fishing
15 coa
Coal
10 coa
Coal
16 oil
Oil
11 oil
Oil
17 gas
Gas
12 gas
Gas
13 iro
iron ore mining
18 omn
Minerals nec
14 omn
Other mining
19 cmt
Meat: cattle,sheep,goats,horse
15 cmt
Meat: cattle,sheep,goats,horse
20 omt
Meat products nec
16 omt
Meat products nec
21 vol
Vegetable oils and fats
17 vol
Vegetable oils and fats
22 mil
Dairy products
18 mil
Dairy products
23 pcr
Processed rice
19 pcr
Processed rice
24 sgr
Sugar
20 sgr
Sugar
25 ofd
Food products nec
21 ofd
Food products nec
26 b_t
Beverages and tobacco products
22 b_t
Beverages and tobacco products
27 tex
Textiles
23 tex
Textiles
28 wap
Wearing apparel
24 wap
Wearing apparel
29 lea
Leather products
25 lea
Leather products
30 lum
Wood products
26 lum
Wood products
31 ppp
Paper products, publishing
27 ppp
Paper products, publishing
32 p_c
Petroleum, coal products
28 p_c
Petroleum, coal products
33 crp
Chemical,rubber,plastic prods
29 crp
Chemical,rubber,plastic prods
34 nmm
Mineral products nec
30 nmm
Mineral products nec
35 i_s
Ferrous metals
31 pio
pig iron
59
32 csb
Crude steel making by blast furnace
Crude steel making by electric arc
33 cse
furnace
36 nfm
Metals nec
34 nfm
Metals nec
37 fmp
Metal products
35 fmp
Metal products
38 mvh
Motor vehicles and parts
36 mvh
Motor vehicles and parts
39 otn
Transport equipment nec
37 otn
Transport equipment nec
40 ele
Electronic equipment
38 ele
Electronic equipment
41 ome
Machinery and equipment nec
39 ome
Machinery and equipment nec
40 omf
Other manufacturing
41 ssr
Steel scraps recycling
42 omf
Manufactures nec
42 osr
Other recycling
43 ely
Electricity
43 ely
Electricity
44 gdt
Gas manufacture, distribution
44 gdt
Gas manufacture, distribution
45 wtr
Water
45 wtr
Water
46 cns
Construction
46 cns
Construction
47 trd
Trade
47 trd
Trade
48 otp
Transport nec
48 otp
Transport nec
49 wtp
Sea transport
49 wtp
Sea transport
50 atp
Air transport
50 atp
Air transport
51 cmn
Communication
51 cmn
Communication
52 ofi
Financial services nec
52 ofi
Financial services nec
53 isr
Insurance
53 isr
Insurance
54 obs
Business services nec
54 obs
Business services nec
55 ros
Recreation and other services
55 ros
Recreation and other services
PubAdmin/Defence/Health/Educ
56 osg
at
56 osg
PubAdmin/Defence/Health/Educat
57 dwe
Dwellings
57 dwe
Dwellings
60
Table: Data Sources for Disaggregated Sectors of GTAP 7 Database
1. Domestic Intermediate Input, Final Demand and Output
Sector
Name
Japan
China
Australia
Korea
USA
India
Brazil
EU_25
Oil
Exporting
Countries
Indonesia
and
Malaysia
Rest of the
World
Iron Ore
JIO
CIO
AIO
USIO*
USIO
USIO*
JIO*
JIO*
Other
Mining
USIO*
USIO*
JIO*
JIO
CIO
AIO
USIO*
USIO
USIO*
JIO*
JIO*
USIO*
USIO*
JIO*
Pig Iron
JIO
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
Crude Steel
in blast
furnace
JIO
WSY
WSY
WSY
WSY
Crude Steel
in electric
arc furnace
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
JIO
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
WSY
Other
Manufactur
e
JIO
CIO
AIO
AIO
USIO
USIO*
JIO*
JIO*
USIO*
USIO*
JIO*
Steel Scrap
Recycling
JWIO
JWIO*
Other
Recycling
JWIO*
JWIO*
USIO
USIO*
JWIO*
JWIO*
USIO*
USIO*
JIO*
JIO
JIO*
JIO*
JIO*
USIO
USIO*
JIO*
JIO*
USIO*
USIO*
JIO*
61
2. Bilateral Trade
Sector
Name
Japan
Iron Ore
COMTRAD
E
China
IDE JETRO
Australia
IDE JETRO
Brazil
EU_25
IDE JETRO
COMTRAD
E and IDE
JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
and
Comtrade
IDE JETRO
and
Comtrade
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
COMTRAD
E
COMTRAD
E
IDE JETRO
and
Comtrade
IDE JETRO
IDE JETRO
COMTRAD
E
IDE JETRO
IDE JETRO
COMTRAD
E
COMTRAD
E
IDE JETRO
COMTRAD
E
IDE JETRO
IDE JETRO
and
Comtrade
IDE JETRO
IDE JETRO
COMTRAD
E
IDE JETRO
IDE JETRO
and
Comtrade
IDE JETRO
IDE JETRO
COMTRAD
E
USA
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
COMTRAD
E
Pig Iron
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
Crude Steel
in electric
arc furnace
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
Rest of the
World
India
Korea
Other
Mining
Crude Steel
in blast
furnace
Indonesia
and
Malaysia
Oil
Exporting
Countries
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
Other
Manufactur
e
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
IDE JETRO
Steel Scrap
Recycling
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
Other
Recycling
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
COMTRAD
E
Source: The authors
Note:
AIO = Australian Input-Output Table, CIO = China input-Output Table, IDE JETRO = Ratio is calculated using Global Trade Atlas Database compiled by IDE JETRO, JIO =
Japan Input-Output Table, JIO*= Calculated using the same ratio as Japan Input-Output Table, JWIO = Japan Waste Input-Output Table, JWIO* = Calculated using the same
ratio as Japan Waste Input-Output Table, USIO= USA Input-Output Table, USIO* = Calculated using USA Input-Output Table, WSY = World Steel Statistical Yearbook
62
2章
参考文献
Bruckner M., Giljum S., Lutz C., Wiebe K.S. (2012) Materials embodied in international trade – Global
material extraction and consumption between 1995 and 2005. Global Environmental Change 22: 568-576
Caldeira, K. and S. J. Davis. (2011) Accounting for carbon dioxide emissions: A matter of time. Proceedings of
the National Academy of Sciences 108(21): 8533-8534.
Chenery H.B. (1953) Regional analysis. In: Chenergy, H.B., Clark, P.G., Pinna, V.C. (Eds.), The Structure and
Growth of the Italian Economy. U.S. Mutual Security Agency, Rome, pp. 97–129.
Dittrich M. (2010) Physische Handelsbilanzen. Verlagert der Norden Umweltbelastungen in den Suden? Kolner
Geographische Arbeiten, Koln.
Giljum S., F. Hinterberger, C. Lutz, and B. Meyer. (2009) Accounting and modelling global resource use. In
Handbook of Input-Output Economics in Industrial Ecology, edited by S. Suh: Springer.
Hatayama H., Daigo I., Matsuno Y. and Adachi Y. (2010) Outlook of the world steel cycle based on the stock
and flow dynamics. Environmental Science and Technology 44, 6457–6463
Miller R. and Blair P. (1985) Input–Output Analysis: Foundations and Extensions. Prentice-Hall, New Jersey.
69-75.
Moses L.N., (1955) The stability of interregional trading patterns and the input–output analysis. The American
Economic Review 45, 803–832.
Peters G. P., G. Marland, C. Le Quere, T. Boden, J. G. Canadell, and M. R. Raupach. (2012). Rapid growth in
CO2 emissions after the 2008-2009 global financial crisis. Nature Climate Change 2(1): 2-4.
Skelton, A., D. Guan, G. P. Peters, and D. Crawford-Brown. (2011). Mapping Flows of Embodied Emissions in
the Global Production System. Environmental Science & Technology 45(24): 10516-10523.
Turner K., Munday M., McGregor P., and Swales K. (2012) How responsible is a region for its carbon
emissions? An empirical general equilibrium analysis. Ecological Economics 76, 70-78.
Wiebe, Kirsten S., Martin Bruckner, Stefan Giljum, Christian Lutz, Christine Polzin (2012b): Carbon and
Materials Embodied in the International Trade of Emerging Economies. A Multiregional Input-Output
Assessment of Trends Between 1995 and 2005. Journal of Industrial Ecology: 16 (4): 636-646
World Trade Organization (2011) International Trade Statistics 2011. Geneva: World Trade Organization.
Zhou X. and Kojima S. (2010) Carbon Emissions Embodied in International Trade: An Assessment based on
the Multi-region Input-Output Model. IGES: Hayama.
田崎智宏、小口正弘、亀屋隆志、浦野紘平(2001)使用済み耐久消費財の発生台数の予測、廃棄物学
会論文誌Vol.12 No.2:49-58.
63
3.
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
本研究では、3年間の研究全体を通じて製品使用に伴うライフサイクルにわたる環境影響の定量的評
価手法を開発し、選定した物質の生産・使用等のライフサイクルにわたる環境影響の評価を行うこと
を目的とする。このライフサイクル環境影響評価によって、対象物質の利用効率の改善や、代替によ
る使用抑制といった企業努力によるライフサイクル環境影響上の便益の定量化を試みる。
現在使用されている資源利用量、あるいは資源効率性といった物質フロー指標は、物質フロー分析
の結果を直接利用できるという利点があるが、レアアースのように利用量は微量でも採掘に伴う環境
影響が甚大なものなど、物質利用のライフサイクル全体の環境影響を適切に反映することができない。
また、有害物質など物質重量当たりの環境影響・健康影響が極めて大きい物質の環境影響を反映する
こともできない。採掘から最終処分にいたるライフサイクル全体の評価手法の開発については、関与
物質総量(Total Material Requirement:TMR)がドイツのブッパータール研究所や我が国の物質材料研
究機構により推計されているが、詳細なプロセスに影響するような政策の効果を評価することが難し
いという問題を抱えている。また、TMRは環境影響を直接示すものではない。
このような現状に鑑み、本年度は、資源開発に係る環境影響評価手法のレビューを通し、問題点の
抽出とその改善手法の提案を図る。環境影響・生態系影響を地球環境容量と比較することで様々な影
響を総合的に評価する手法であるEcological Footprintとあわせ、鉱山開発に係るCO2 排出量の評価、
TMRに代表されるマテリアルフロー指標、並びに関連研究(特に株式会社東芝による鉱山開発による
生物多様性への影響評価手法MiBiDを取り上げた)のレビュー並びに改善を行った。
本章では、3.1節でマテリアルフロー指標を中心に資源開発に係る環境影響評価手法のレビューにつ
いて、また3.2節ではレビュー結果に基づくTMR手法の改善に向けた取り組みについて報告する。3.3
節で鉱山開発に係る環境影響評価の一例としてCO2 排出量の推計について報告する。3.4節ではエコロ
ジカル・フットプリントに関する検討結果を報告する。あわせて3.5節で来年度に予定しているレアア
ース・レアメタルに関する現地調査の下準備として実施したマレーシアのレアアース精錬工場の現地
調査結果について報告する。最後に3.6節で来年度以降への示唆を含め今年度の作業をとりまとめる。
64
3.1
資源開発に係る環境影響評価手法のレビュー
3.1.1 エコロジカルリュックサック
我々が利用する製品やサービスは、それらを産み出すために自然界の物質が動かされ、変換されて
いる。これを踏まえ、その製品やサービスがこの「移動された自然界の物質」を背負っているものと捉
え、製品やサービスのある種の環境性能を表す指標を目指したものがエコロジカルリュックサックで
ある.その大きな特徴が、背負うものが実際に生産で利用する有用物だけでなく、工程の背後で生じる
廃棄物を含む点である。また、もう1つの特徴は、重量単位で示されているが故に、理解が容易である
という点がある。
例えば、ある素材1 kgを得るため、鉱石や、土砂、水などの自然資源を何kg自然界から採取したか
を数値化すると、鋼鉄21 kg、アルミニウム85 kg、再生アルミニウム3.5 kg、金540,000 kg、ダイアモン
ド53,000,000 kgとなる。輸送や加工によって消費されるエネルギーなども背負っていると考えるため
に、これが素材から製品へと下流側の製品へと進むにつれ一般的にはエコロジカルリュックサックは
大きくなる傾向にある。
このエコロジカルリュックサックは、原単位的に捉えるならば物質集約度(Material Intensity: MI)
と呼ぶことも出来る。そしてこれを応用した指標にMIPSと呼ばれる指標がある。例えばどちらの材料
が環境負荷の少ないものかを見るために、同じ重量でのエコリュックサックを比較する、といったよ
うに用いられる。なお、MIPS(Material Intensity Per Service)とは単位サービスまたは単位機能あたり
の物質集約度のことであり、計算式は次式のようになっている。
𝑀𝐼𝑃𝑆 =
𝑀𝐼
𝑆
MI:物質集約度、 S:サービス数。S=n[利用回数or時間or面積]×p[同時に利用する人数]
つまり、エコロジカルリュックサックを単位サービス量あたりで基準化していると考えればよい。
3.1.2 TMR (Total Material Requirement:関与物質総量)
昨今我が国において良く言われるTMRは、ある種のリュックサック指標的な意味合いが強く、すな
わち隠れたフローを含めたMIのような原単位的な意味で使われていることも多い。他方でそもそもの
TMRはeconomy-wide MFAにおける指標であり、ある時点(例えば年度)での経済社会システムにおけ
る隠れたフローを含めた物質総投入量を求めるものである。実はここに資源開発現場の環境影響評価
手法だと呼ぶには大きな問題がある。それはeconomy-wide MFAが静学的なスナップショット的分析手
法であり、TMRもまたその一指標であるがゆえに、基本的には異時点間での隠れたフローの時間的配
分を行うものではないという点にある。TMRとは当該時点における、環境から、我々の経済社会が移
動させた物質総量を求めるものである(地理的な境界を設定すれば、経済同士の貿易などもフローと
して捕捉される)。ただしMIが大きいような素材を大量に消費すればTMRは大きくなることは間違い
ない。
MIやTMRの考え方、特に資源開発に係る部分とその異時点間での配分問題を整理しておきたい。図
3.1.1に、鉱山開発の各段階においてどのような量の物質の移動(棒)とキャッシュフロー(線)が発
65
生するのかを模式的に示した。鉱山開発を大きく3段階に分けるとする。具体的には、開発、操業、閉
山後と分ける。正確には開発前に探査の段階があるが、この段階ではサンプルを獲得するためのボー
リングが行われる程度であり、余り大きな値ではないものと考え省略した。
図3.1.1
ライフサイクルを通してのTMRの推移
まず分かりやすい操業期間中のMIについて考える。時折粗鉱品位の逆数がTMRであるような解説を
見かけるが、これは根本的に誤りである。品位とは、鉱石として掘られた部分の対象金属の濃度であ
り、鉱山開発においては、特に露天掘においては鉱石として掘る以外にも非常に大量の土砂が採掘さ
れる場合がある。よって、正確な剥土比のデータが必要になる。公開されている学術論文等の文献に
おいては、ここまで大きな誤りは見られなかったが、こうした事柄に対する丁寧な解説は必要であろ
う。また、こうした剥土比などは、鉱山ごとに大きく違う、つまり鉱山開発は、下流の製品製造など
と異なり、その現場による際が極めて大きいことを改めて認識する必要がある。
操業前の開発段階における剥土による隠れたフローや、閉山後の鉱排水処理等による物質投入量は
しばしば勘定されない。関係する研究者へ問い合わせ等を行った結果、可能な場合にはこうした量も
計算した上で異時点間配分する場合も有る、と言った回答を得たが具体的な計算手法については多く
の情報を得ることは出来なかった。
つまり、図3.1.1で言えば黒色部(操業中の隠れたフロー)+灰色部(生産量)のみがTMRとして計
上され、赤色部分が勘定されないケースがあるようである。
3.1.3 CO2排出量
資源開発のCO2 排出量については余り正確に評価された事例は多くない。その数少ない事例が、本
研究の分担者によって実施されてきた。本研究ではその改善も行うが、これについては後に触れるこ
ととして、ここでは鉱山開発のCO2排出量の評価について簡単に整理しておく。
我が国において消費される資源について、その開発に係るCO2 排出量を正確に評価しようとした場
合、日本は資源のほとんどを海外の資源国に依存しているため、海外の資源産出国におけるエネルギ
ー・資材消費に関する統計がほとんど公表されていないことに制約を受ける。そこで代表的な鉱山の
結果を代表値として用いてしまう場合が多いが、TMRの項でも述べたが、採鉱法や鉱床の形態(深度
や品位、周辺の環境など)が異なるために、現場によって大きく異なることが予想されるが個別の実
66
データを得て評価することは難しい。これを改善すべく行ってきた取り組みが費用推定システムを用
いた鉱山のLCAである。ただしそこに含まれるデータも必ずしも多くはなく、まだ改善の余地が多い
ことは言うまでもない。
3.1.4 MiBiD
本節では、環境負荷の一次近似指標として重量単位でこれを捉えたエコロジカルリュックサックや
TMR、そして個別の一つのインベントリであるCO2 排出量について整理した。重量単位で評価を行う
マテリアルフロー的な指標にかかる期待は、ある種の物質集約度の整理であり、これを環境影響の指
標と捉えるならば、ありとあらゆる環境負荷を包含した、一次近似的なものとなる。CO2 排出量は温
暖化に関するインベントリである。
他方で、昨今鉱山開発に関して急速に注目されている環境影響に生物多様性がある。これについて
は、MiBiDと呼ばれるWatando et al.(2012)が最近開発した手法をレビューし検討する。具体的には、
生物多様性に対する採掘影響指標のことで、どこの鉱山から原料を採掘すればどの程度生物多様性に
影響を与えるのかという個別鉱山に対する評価指標である。植林や事業所周辺の生態系保護に止まら
ない、個々の製品との関わりを評価するために東芝(株)によって開発された。MiBiD原単位は、以
下の式によって求められ、植生、保護区、資源採掘に関する地理情報データを各データベースより取
得・処理して原単位化したものである。具体的には、採掘量を面積に換算し、当該地区の生物多様性
に係るデータと組み合わせることで評価を行う。
MiBiD原単位(MiBiD/kg) =
∑(植生係数 × 保護区係数) × 資源採掘係数
年間生産量
ただし、この面積に換算する部分には大きな問題を残しており、採掘の形態による違いや、剥土比
の検討などに明らかな問題がある。例えば坑内掘の鉱山もあたかも露天掘であるかのように現状では
取り扱われている。
しかしながら、個別の鉱山に対して評価を実施している点や、世界の生産量に対して鉄86%、 銅94%
のカバー率を持つだけのデータベースを開発しているなど意欲的な取り組みでありその進展には期待
が持てるところでもある。あえて個別鉱山に対する評価を行い、これを統合化しない(例えば銅1kg
に対して、としてしまわない)ことは、精緻な環境影響評価手法として評価できるものである。
67
3.2
TMR の改善に向けた取り組み
3.1.2節においてTMRの問題について示唆した。本年度はこのうち閉山後の坑排水処理などに伴う隠
れたフローの増加についての検討を行った。リュックサック的な意味で言えば、これもまた資源開発
によって生じた物質フローであり、そこから得られた資源が背負うべきものではないか、との考えに
よる。
そこで、東大グループがこれまでに開発してきた閉山後の鉱廃水の水質推定モデルを持っているが、
これをTMR勘定に用いる分析を試行し、場合によってはこの量が無視できないことを明らかにした
(Koide et al. 2012、Otsuka et al. 2012)。具体的には我が国における既に閉山した硫黄鉱山におけるケ
ーススタディーを行った。
多くの金属鉱山からは、重金属を含んだ酸性坑排水が排出される。これは、重金属含有硫化物を含
む鉱床が、大気や水に曝露することによる。こうした排水は、操業中のみならず閉山後も長期間にわ
たって排出する場合が多く、その場合にはこれを処理し続ける必要がある。多くの場合非常に長時間
をかけ、徐々に水質は改善される。現在操業中の鉱山の多くについては、この閉山後の鉱廃水処理ま
で含めた環境対策が義務付けられているが、我が国が多く抱えるような既に閉山してしまっている鉱
山の中には、その企業が解散したり倒産している事例も少なくない。そうした場合、この処理費用は、
行政が負担する以外にない。我が国においても少なくない金額が投じられており、かつその処理が何
年続くのかについても明らかではない。
そこで、本研究では水質の長期予測を行うモデルを開発した。実際には図3.2.1に示すように、鉱石
が一次反応曲線(図中のTheoretical Curve)に従い溶出するものと仮定し、そのパラメータを実データ
(図中の点線で示されるMeasured Curve)から推定する。
図3.2.1
水質予測モデル
これに基づき、将来の水質の変化を予測しつつ、その処理に必要となる中和剤の投入量、発生する
澱物の量などを化学平衡計算によって求める。言うまでもないが中和剤の投入は鉱山操業に関わる投
入であり、鉱山に係るTMRの一部だと言える。また中和処理からの澱物そのものはアウトプットであ
りTMRではないが、実際にはこれを貯めるためのダムを掘削して作る必要があるため、これもTMRの
一部であると考える。
こうして求められた中和剤投入や、澱物発生量がこの鉱山のライフサイクル全体を通してのTMRの
中でどの程度の量を占めるものかを推計した結果を表3.2.1に示す。
68
表3.2.1
硫黄鉱山Aのライフサイクルを通したTMR
操業・開発段階 [ton]
総採掘量 (A)
硫黄生産量 (B)
5,760,803
1,463,000
閉山後の鉱廃水処理[ton]
中和剤投入量 (C)
澱物発生量 (D)
910,930
275,059
TMRに対する影響
A/B
D/B
C/B
C+D / B
3.93
0.62
0.19
0.81
操業・開発関連のTMRは表中のAで表されるが、これを実際に生産された硫黄の量(B)との比で見る
と3.93程度である。これに対し、閉山後の鉱廃水処理に起因する部分はC+Dであり、これはBとの比率
で見れば0.81と言うことになる。操業中の剥土やズリなどに較べれば小さい値だと言えるが、無視で
きるかと言われればそれほど小さくはない。こうした段階の数値も無視せずに検討することの重要性
を示唆している。
また、C+Dがこれほど大きな値になっている理由は、水質改善速度の遅さである。この鉱山で、観
測されているデータについて、その全てが環境基準濃度を満たすのは2313年であると予測されている。
1970年代に操業を停止した鉱山の廃水処理が2300年まで続くことの意味は少なくない。鉱山からの環
境影響を、そのライフサイクルを通して考察することの意味と、そしてこれをスナップショット的な
データで語ることの危険さを示唆していると言えよう。
69
3.3
鉱山開発に係る CO2 排出量の推計の検討
本節では、鉱山別CO2 排出量推計データベースの改良について述べる。他の製造業とは異なり日本
は資源のほとんどを海外の資源国に依存しているため、この推計に際しては海外の資源産出国におけ
るエネルギー・資材消費の詳細に関する統計がほとんど公表されていないことに制約を受ける。
一方で、これまでに鉱山開発におけるフィージビリティスタディ(F/S:企業化調査)の段階で費用
概算を行うシステムとして、費用推定システムが開発されてきた。これは推定鉱量や鉱床の位置、想
定される採掘法などから、開発の初期費用や操業費を見積もり、投資の際の意思決定に利用するもの
である。そこで、著者らはかつて4-5)、この費用推定システムをデータベース化することによって、
鉱山の基本的な情報から採掘・選鉱プロセスのLCIを推定するモデルを構築した(安達、茂木 2005、
2006)。このモデルをMLED(Mining LCI Estimating Database)と呼ぶ。今回、鉱山開発における環境
負荷の新しい指標の開発にあたり、特徴的な2鉱山について資源開発活動によるエネルギーと資材の
消費量ならびにCO2排出量を算出し、生産方法に応じた標準的なCO2 排出量を推定し直した。
なお、本来のインベントリ分析の意味では、鉱山を対象とした場合、排水処理や重金属汚染、土地
改変も重要な環境負荷項目であると指摘されるが、現段階でのMLEDはこれらを扱うまでにはいたっ
ておらず、本稿ではCO2排出量のみを対象としている。
3.3.1 費用推定システムとデータベースの概要
MLED内部の計算手順は、始めにデータベース化した費用推定システムからエネルギーと資材の費
用を算出し、その費用を単価で割ることで消費量を算出する手法をとる。各プロセスで排出されるCO2
量は、消費量に排出係数を掛けて算出される。費用の推定式は,アメリカ鉱山局(USBM)が開発した
CES(Cost Estimating System)に基づく(US Bureau of Mines 1987a、1987b、1995)。CESは,34の鉱
種についてアメリカの約250鉱山から収集されたデータをもとに,鉱山開発に関わる細分化されたあら
ゆる工程ごとに費用曲線と費用に占める各投入物のシェアを推定している。内容は,大きく分けて採
掘プロセスと選鉱プロセスからなり,それぞれが生産前の資本投資段階と操業段階に分けられた構成
となっている。
本章では銅鉱山を対象とするが,採掘と選鉱の工程を経る鉱山開発であるならば,他の金属鉱山で
もMLEDによってCO2排出量を推定できる。すなわち、ベールメタルのみならず、レアメタルや貴金属
を採掘対象としている鉱山であっても、特殊な採掘法や選鉱法をとっておらず、かつ生産規模が費用
曲線の有効範囲内であればMLEDを用いたインベントリ分析が行える。
費用の推定式の多くは、次式のようなベキ乗型の関数で定義されている。
C = M ⋅ A⋅ X B
ここで、Cは対象とする工程の総費用で、容量やサイズ等の入力データXの関数である。AおよびB
は、USBMが推定したパラメータで、Mは単位あたりの数量で表された費用を総費用に変換するため
の乗数である。費用曲線は実際のデータと比較され、一般的にF/S段階で要求される25%以内の誤差に
収まることが確かめられている。各式には有効範囲が定められており、その間ではとくに高い信頼性
70
があるとしている。MLEDで推定する投入物の消費量はこの費用曲線に全て依存するため、推定され
るCO2 排出量も25%以内の誤差となることが期待される。
データベース作成にあたり、1984年版のCESを基本に、1994年版で更新された項目を補い、LCIの計
算に必要な式を約1,100本選択した。各式をグループに分け、さらに推定式を相互に関連づける作業を
行い、マイクロソフト社のAccess上でデータベース化を行った。主な構成は、露天掘、坑内堀、選鉱、
それぞれについて資本費と操業費の6つのデータテーブルからなり、また、それぞれのデータ入力と計
算結果出力のアプリケーション化をはかり利便性を高めている。鉱山データの入力画面例を図3.3.1に
示す。
図3.3.1
MLEDの鉱山データ入力画面例
3.3.2 生産プロセスの概要とシステム境界
(1)
金属地金の生産プロセスの概要
はじめに、非鉄金属を念頭において金属が地金として生産されるまでのプロセスを整理する。金属
は通常、大きく分けて採掘、選鉱、製錬の三段階を経て生産される。採掘は、鉱山において鉱床から
鉱石を掘り出すプロセスを指す。採掘方法には主に、地表を開削し、深い場合にはすり鉢状にピット
を開削することで鉱床に到達する露天掘と、地中にトンネル坑道を掘進し鉱床に到達することで、鉱
床部分のみを効率よく採掘する坑内堀とに分類できる。どちらの採掘方法が選ばれるかは、鉱床の位
置と形状に依存し、さらに鉱床とその周囲の力学的強度を勘案して細分化された具体的な採掘法が選
択される。特殊な鉱床を除いて、通常は鉱床を爆薬で発破することで起砕した鉱石をローダーやショ
ベルですくい上げ、トラックなどで運搬する。
採掘された鉱石は、選鉱所に運搬される。選鉱所では、まず鉱石をクラッシャー等の機器によって
100μm以下まで細かく砕く破砕・粉砕工程を経る。その後、大まかに鉱物と岩石を分離する選鉱プロ
セスによって精鉱が産出される。この代表的な方法として浮遊選鉱法(浮選)があり、銅の場合では
71
鉱石の段階で1%前後である品位(重量比)を、25~35%程度まで高めることができる。最後に沈殿濃
縮・脱水・乾燥させた精鉱が、鉱山からの製品として出荷されるのが一般的である。
日本の場合、海外の鉱山でこのように製造された精鉱を海上輸送によって輸入し、日本国内の製錬
所で金属地金を生産するのが供給の大半をしめる。精鉱を熔鉱炉で熔融させ、さらに転炉や精製炉で
不純物を取り除く処理を加えて粗金属(品位 99.5%程度)を作り、最終的にはさらに電解工程を経て
金属地金は製造される。
(2)
システム境界および投入物のCO2排出係数
本稿の目的である、わが国における金属地金のインベントリ分析のシステム境界は、採掘プロセス
の操業時段階のみとする。より厳密さを求める場合には、採掘プロセスの開発段階に相当する、探査
や地表の伐採・表土除去から坑道や立坑の掘削など操業に必要な準備のための開発、修理工場や事務
所の建設、アクセス道路などのインフラ整備も含まれなければならない。
操業中に関しては、採掘プロセスでは、発破孔のさく孔および発破による起砕から、鉱石が貯鉱所
まで運搬されるまでを範囲とし、その後、鉱石が破砕から選鉱を経て、製品として精鉱が港湾の貯蔵
設備まで運搬されるまでを選鉱プロセスの範囲としている。両者ともに排水処理、廃滓処理の操業に
関する範囲も含むことはできるが、データが揃わないため今回は除外している。また、重機や施設自
体の生産や廃棄については除外しているが、施設やインフラについては現地での建設に関与するイン
ベントリは対象内となっている。
MLEDで扱う投入物の項目は、採掘プロセスにおいては、燃料(軽油)・電力・火薬類・潤滑油・
鋼材・木材・タイヤの7種類を扱っている。ただし、鋼材や木材などの投入資材については、種類が
特定できないことから、資材の原材料段階でのインベントリを集計した。修理部品については、部品
の特定ができないので全て計算対象から除外している。システム外への環境負荷物質としては、MLED
の開発状況から、今回はCO2排出量のみを対象としている。
最後に、CO2 排出量の算定に用いた投入物の排出係数を表3.3.1に示す。これらは基本的に三種類の
文献(Life Cycle Assessment Society of Japan 2004、NIRE 2004、Nansai et al. 2002)から引用し、単位の
換算を行っている。電力については、わが国に精鉱輸入の実績のある、カナダ、オーストラリア、イ
ンドネシア、ペルー、チリおよびアルゼンチンについて調査した。発電種別の発電量およびエネルギ
ー投入量をIEAの資料(IEA 2004a、2004b)から参照し、受電端側における排出係数を求めた。この際、
発電時の燃料燃焼についてのCO2 排出係数は、IPCCの資料(IPCC 1997)に従った。また、発電設備・
運用についての係数は、JLCA Databaseの日本の発電所の値を用いた。
72
表3.3.1 インプットエネルギーと材料のCO2 排出係数
Fuel
CO2 Emission
Unit
Factor
2.64 kg- CO2/liter
Source
a)
Explosive
0.60 kg- CO2/kg
b)
Lubricant
3.06 kg- CO2/liter
b)
Tires
2.89 kg- CO2/kg
c)
Steel
1.32 kg- CO2/kg
c)
Steel Pipe
1.49 kg- CO2/kg
c)
Timber
7.46 kg- CO2/㎥
b)
Gas
70.6 kg- CO2/Mcf
c)
Sulfuric
0.590 kg- CO2/kg
d)
Cement
0.786 kg- CO2/kg
c)
Electricity
Country CO2 Emission
Unit
Factor
Argentina
0.357 kg- CO2/kWh
2002
Australia
1.126 kg- CO2/kWh
2002
Canada
0.291 kg- CO2/kWh
2002
Chile
0.349 kg- CO2/kWh
2002
Indonesia
0.946 kg- CO2/kWh
2002
Peru
0.187 kg- CO2/kWh
2002
Year
Source: a) K. Nansai et al. (2002), b) NIRE LCA Database (1999), c) JLCA-LCA Database (2004), d) N. Narita et al.
(2001)
3.3.3 採掘プロセスのCO2排出量推定結果
今回は本調査の目的を鑑みて、採掘方法の違いによりどの程度CO2 排出量が異なってくるかを見る
ため、露天掘鉱山および坑内堀鉱山の代表例としてチリからLos Pelambres鉱山(露天掘)とEl Teniente
鉱山(坑内堀)の2つを選択し、それぞれの排出量を推定した。両者とも世界を代表する大規模な銅
鉱山であり、地理的にも近く、年間の銅生産量はそれぞれ411,800t、400,300tと近い生産規模であるた
め、採掘方法による比較に適していると考えた。表3.3.2にMLEDに入力した主なデータを示す。
73
表3.3.2
主な生産物
採掘
採掘の方法
鉱石生産量 (t/day)
ズリ・剥土処理量
(t/day)
金属生産量(t/year)
平均品位(%)
粗鉱埋蔵量(1000t)
ピットの深度(m)
ピット内での運搬距離
(m)
コンベヤ運搬量(t/day)
コンベヤ長(km)
Los Pelambres鉱山とEl Teniente鉱山の主なデータ
Los Pelambres鉱山
銅
露天掘
油圧ショベル&
トラック
176,600
264,900
411,800
0.74
1,479,000
300
2,870
120,000
13
採鉱法
鉱石生産量 (t/day)
El Teniente鉱山
銅
坑内堀
ブロックケービン
グ(LHD方式)
128,767
削岩機の種類
金属生産量(t/year)
平均品位(%)
粗鉱埋蔵量(1000t)
坑内運搬量 (t/day)
ジャンボ
400,300
0.95
1,459,000
128,767
採掘
坑内運搬距離(m)
12,000
* データは2011年のもの。主にRaw Materials Databaseから引用。
JOGMEC 金属資源レポート 2010.11 pp.103-130
この他にも入力データを充実させることで、より精緻なCO2 排出量の推定につながる。今回は、プ
ラントや坑道の開発時のデータは省き、採鉱プロセスの操業時に関するデータのみを収集した。した
がって、次に示すCO2 排出量は鉱山のライフサイクル全体での値ではなく、ある1年(ここでは2011
年)の操業状態での排出量を推定することになる。
露天掘り鉱山では、鉱石のほかにズリと呼ばれる廃石の処理が含まれてくることが特徴的である。
坑内堀でも廃石は発生するが露天掘りと比べると少なく、今回のEl Teniente鉱山は鉱石の破砕を自然
の重力にまかせるブロックケービング法による採掘であるので、さらに少ない。データが見られなか
ったため、今回はゼロとした。露天掘り鉱山では、ピット内から外にダンプカーで鉱石を運び出さね
ばならず、ピットの深さと運搬距離がエネルギー消費に大きくかかわってくる。対して、坑内堀では
地中でのその鉱床の位置にエネルギー消費が大きく依存している。El Teniente鉱山は山の中に鉱床が
あり、鉱床下部から緩やかに下る坑道を山の側面に出口があるようにすることで、エネルギーの消費
量は少なくすんでいる。これが地表から深い地中に鉱床がある場合は、鉱石の運び出しに多くのエネ
ルギーが必要になってくる。
以上のデータをMLEDに入力し、計算を行ったところ表3.3.3のCO2 排出量推定結果が得られた。
74
表3.3.3
MLEDによって推定されたCO2排出量 (Los Pelambres and El Teniente)
Los Pelambres
消費量
1,321,261
338,208
177,082
30,284
25,580
839
0
1,893,254
金属生産単位あたり
CO2排出量
1.011
0.259
0.136
0.023
0.020
0.001
0.000
1.45
787,568
462,149
46,603
49,447
62,090
8,711
14
1,416,582
金属生産単位あたり
CO2排出量
0.644
0.378
0.038
0.040
0.051
0.007
0.000
1.16
CO2排出量
燃料 (L)
電力 (kwh)
タイヤ (kg)
鋼材 (kg)
火薬 (kg)
潤滑油 (L)
木材 (m3)
合計 (kg-CO2/kg-Cu)
500,099
969,077
61,253
22,960
42,633
274
0
El Teniente
消費量
燃料 (L)
電力 (kwh)
タイヤ (kg)
鋼材 (kg)
火薬 (kg)
潤滑油 (L)
木材 (m3)
合計 (kg-CO2/kg-Cu)
CO2排出量
298,095
1,324,209
16,120
37,488
103,483
2,847
2
銅 金 属 1 kg 生 産 ( 採 鉱 プ ロ セ ス の み ) に 排 出 さ れ た CO2 排 出 量 は 、 Los Pelambres 鉱 山 で
1.45kg-CO2/kg-Cu、El Teniente鉱山で1.16 kg-CO2/kg-Cuとなった。それぞれのインプットエネルギーと
材料の種類別の構成比を図3.3.1と図3.3.2に示す。
75
図3.3.1
インプット別、CO2排出量寄与構成(Los Pelambres鉱山)
図3.3.2
インプット別、CO2排出量寄与構成(Los Pelambres鉱山)
今回の推定では露天掘り鉱山のほうが約25%CO2 排出量が多いとの結果になった。この要因は、深
くなったピット底部から長距離の鉱石運搬をしなければならないことが効いている。図3.3.1でも燃料
消費の割合が大きいのは、ダンプトラックによる消費量の大きさを示している。これはLos Pelambres
鉱山だけでなく、世界の大型鉱山に共通した問題点であり、今後徐々に採掘の深部化が採掘費用、消
費エネルギー、CO2排出量の増加に結びつくと考えられる。
それに対して坑内堀鉱山は今回の調査でも低めのCO2 排出量が推定されたように一面で環境にやさ
しい採掘方法とも言える。ただし、坑内堀鉱山は坑道の保持や突然の鉱石の崩壊、通気の確保など、
露天掘りにはない保安上の危険性が高い。さらにブロックケービング法は、El Teniente鉱山のように
76
大規模坑内堀鉱山に適用されるが、安定した生産にたどりつくには技術的な問題点も多く、これから
の主流となる採掘法として期待されているものの、成功例はまだ少ないのが現状である。他の採鉱法、
たとえばサブレベルストーピング法などを採用した場合、エネルギー消費量は大きく増加すると考え
られる。
今回示したように、鉱山別にCO2 排出量には大きな差があり、代表値を求めることで汎用性の高い
インベントリデータを作成することとは別の意味で重要であることが分かる。
77
3.4
エコロジカル・フットプリントに関する検討
3.4.1 エコロジカル・フットプリントとは
エコロジカル・フットプリント(Ecological Footprint:EF)指標は、人間経済活動の持続可能性(サ
スティナビリティ:Sustainability)を評価する指標として1990年から91年にかけて開発された指標であ
る。開発者はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学大学院コミュ二ティー地域計画学研究科のウ
ィリアム・リースとマティス・のふたりである(Rees and Wackernagel 1994)。ワケナゲル
1980年代、「環境と開発に関する世界委員会」、いわゆる「ブルントラント委員会」が1987年に発
行した『Our Common Future』(WCED 1987)の影響もあり、「持続可能な発展」、「持続可能性」な
どの概念が社会的に広く認知されつつあった。こうした時代的状況下にあって、社会経済システムや
技術・製品のあり方が、持続可能な方向に向かっているのかを客観的に計測するための分析ツールが
普及していった。以前から開発されていたライフサイクル分析(Life Cycle Analysis:LCA)もこの時
代に存在感を高めていった。LCAは、製品の生産・消費から廃棄に至る過程で必要となるエネルギー
量・資源量、そして廃棄物量などの物理量に着目し、それらを相対的に低減させることを主眼にして
いる。
一方、地球生態系を全体システム(holistic system)と捉え、人間がつくる社会経済システムを全体
システムの部分集合、すなわちサブシステム(下位システム:sub-system)であると捉えるエコロジー
経済学者たち
1
の間ではサスティナビリティの達成のためには全体システムとサブシステムのバラン
ス関係を生態学的な観点から評価できるツールが不可欠であるという認識があった。すなわち、大地・
水域に存在する生態系(エコシステム)を「自然資本(natural capital)」と捉え、自然資本が日々供
給してくれている「生態系サービス(ecosystem service)」、いわゆる「自然所得(natural income)」とい
うものの供給量に着眼するのである。そして自然資本が供給する自然所得の供給量と社会経済システ
ムが自らを維持するために必要とする自然所得の需要量とのバランス関係が健全であるかを客観的に
計測できるツールを開発しなければならないという認識である。エコロジカル・フットプリント指標
は、このような要請に応えるために開発されたのである。
考案者のリースはエコロジカル・フットプリントを以下のように定義している。「ある特定の地域
の経済活動、またはある特定の物質水準の生活を営む人々の消費活動を持続的に支えるために必要と
される生産可能な土地および水域面積の合計[それらが地域内に存在するか外に存在するかは無関係]」
(Rees 1997)。
エコロジカル・フットプリント計算の手順としては、まず、社会経済システムによる資源需要量な
らびに経済システムから排出される廃棄物量について計測し、その資源需要量を満たし廃棄物を浄化
吸収するために必要となる自然資本の量はどれだけかを算出し、それを土地水域面積で表示する。第
二に、生産可能な土地や水域がどれだけ存在するか、すなわち生態系による生態系サービス供給可能
量を生産可能な土地水域の面積で示す。これを「生物生産力(バイオキャパシティ:BC)」と呼ぶ。
1
Rees and Wackernagel(1994)に加え,以下の2冊もエコロジー経済学のエッセンスが満載である。Daly, Herman
and John Cobb Jr. 1989. For the Common Good: Redirecting the Economy Toward Community, the Environment, and
a Sustainable Future. Boston: Beacon Press. Daly, Herman. 1996. Beyond Growth: The Economics of Sustainable
Development. Boston: Beacon Press.(邦訳:ハーマン・E・デイリー著,新田功,蔵本忍,大森正之共訳。2005
年『持続可能な発展の経済学』みすず書房。)
78
繰り返しになるが、エコロジカル・フットプリントとは、需要サイドと供給サイドの両者を量的に比
較し、そのバランス関係をみる指標である。需要サイドであるエコロジカル・フットプリントが、供
給サイドのバイオキャパシティを越えていなければ、生態学的にみて持続可能性があるとの診断を下
すことができるのだ。万一、エコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティを超過していると
すれば、すなわち需要側が供給側の能力を超えている場合は、生態学的な意味で持続可能性が達成さ
れていないことを意味する。
3.4.2 オーバーシュートの危険性
生態学にも造詣が深い社会学者のキャットンは、このように需要側が生態系の供給能力(=環境収
容力とも呼ぶ)を超えている状態を、オーバーシュート(Overshoot, 超過利用)と名付けている(Catton
1982)。オーバーシュートは軽視できない危険な状態である。なぜならば、オーバーシュートは、自
然資本(いわゆる元本)を食い潰す過程であるのにもかかわらず、その発生、ないしは深刻さの程度
を認知することが難しいからである。オーバーシュートが発生しても、資源消費量は、環境収容力を
やすやすと突破し、また増加することすら可能である。次第に自然資本は減少し、弱体化し、やがて
生態系の大崩壊(キャタストロフィー)と資源量や個体数の激減という事態が到来する可能性がある。
カナダ大西洋沖のタラ漁が1992年に崩壊したが、カナダ連邦政府漁業省に属する約100人の科学者がタ
ラの資源量を監視し続けていたのにもかかわらず資源の大崩壊は起こってしまったのである。地球規
模での生態系の大崩壊が起こらないよう、オーバーシュートの厳重な監視体制が必要であるが、エコ
ロジカル・フットプリントはそのための有効なツールとして認識されている。
3.4.3 エコロジカル・フットプリントの計算手法
エコロジカル・フットプリント計算に算入する土地カテゴリーは、以下の6種類である)。①耕作地
と②牧草地(食料や繊維製品の原料を産み出す土地)、③森林地(木材や紙製品の原料を産み出す土
地)、④二酸化炭素吸収地(化石エネルギー使用などに伴って排出される二酸化炭素ガスを吸収する
ための土地、カーボンフットプリントということもある)、⑤生産能力阻害地(建物、道路、インフ
ラなどで覆われた土地)、⑥漁場(海洋淡水域:水産資源を産み出す水域)。エコロジカル・フット
プリント計算の手順は以下の通りである。
1) 実際の計算では、データや計算上の制約から、環境負荷すべてを含むことは困難である。数ある
資源の内、まず、生態系が産み出す再生可能資源(バイオマス資源)の消費を計上する。(①、
②、③、および⑥。)
2) 非再生資源の化石燃料の使用については、④「二酸化炭素吸収地(カーボンフットプリント)」
として計上する。非再生資源の金属資源については、その加工のためのエネルギー(化石燃料)
消費として間接的に④に計上する。(④を「エネルギー地」と呼称することもある。)
3) バイオマス資源生産能力の阻害となっている土地面積も加える(⑤)。
79
4) 域内での「純消費」に係わる土地水域面積を計算。国(地域)外で生産されたモノでも、貿易を
通して輸(移)入され、域内で消費されたモノについては、その国(地域)の責任としてその土
地水域面積を加算する(バーチャル・ランド、バーチャル・オーシャン)。逆に域内で生産され
たモノでも輸(移)出され、域外で消費されたモノの生産に係わった土地水域面積は除外する。
5) 食物連鎖の上位に位置する生物種の消費に関するエコロジカル・フットプリントは、第一次生産
者(Primary Producer=緑色植物や植物プランクトンなど)の生産量に換算して面積を産出する(食
肉の場合、飼料作物の作付面積や牧草地面積を畜舎の面積に加える)。食物網が複雑で、食物連
鎖が長い水産資源の場合、以下の式で必要一次生産量(Primary Producer
Required:PPR)を求め、
PPRの値を水域の生産性で除すことで面積を算出する)(Wada 1999)。
(必要一次生産量:PPR)={(漁獲量+混獲量)÷ 9}× 10(TL-1)
漁船の格納スペースには限界があるため、目的魚以外の魚種が網に掛かった場合(=混獲)は海
洋投棄されるので、混獲分も計算に加える(国連農業食糧機関(FAO)によれば、すべての魚種
の混獲率の世界平均値は27%)。漁獲量と混獲量の合計を9で除するのは、水分を含む漁業資源量
を炭素量に変換するためである。TLとは、食物連鎖の栄養段階を示し、植物プランクトンのよう
な第一次生産者のTLは1で、動物プランクトンのTLは2となる。TL-1とは、第一次生産者からの
変換回数を示す。動物プランクトンの変換回数は1回となる。水棲生物の場合、食物連鎖の変換
効率は、10 %である(Pauly and Christensen 1995)。魚たちは自らの身体を維持するために、自
らの身体の10倍の重さの栄養段階一つ下の魚種またはプランクトンを食しているという意味であ
る。栄養段階が3の魚種は、第一次生産者から数えて、変換回数が2回であるため、その魚種の消
費量に10の2乗(=100)を掛けることによって、その魚種を育てるために必要となった植物プラ
ンクトン量(PPR)が計算できる。PPRの値を漁場の生産性で除すと漁場のエコロジカル・フット
プリントが算出できる。
6) エコロジカル・フットプリントとバイオキャパシティ(生産可能な土地・水域面積)との比較。
地球上の生産可能な土地(水域)面積の合計は119億グローバル・ヘクタール(gha)(沙漠、高
山、遠洋などを除外)である(2008年データ)。これは地球表面全体の約22%にあたる。この面
積を世界人口で除するとバイオキャパシティの一人当り面積が計算でき、それは1.8 ghaとなる。
ここで、グローバル・ヘクタールという単位の意味を次節で少々詳しく見てみたい。
3.4.4 比較を公平に行うための平準化の工夫:グローバル・ヘクタール
2000年代前半以降、標準的なエコロジカル・フットプリント計算では、土地生産性が違う土地を単
純に加算することによる歪みを補正するための工夫が施されている。すなわち、全世界の生産可能な
土地水域の平均的な生産力を持った仮想的な土地を、世界標準の単位として利用する。この単位が、
グローバル・ヘクタールである。つまり、1グローバル・ヘクタールとは、世界平均の土地生産性を
80
持つ土地1ヘクタールのことで、生産性という基準でウェイト付けされた面積である21)。生産性の
高い土地は、加重され、生産性の低い土地は割り引かれる。そうすることにより、エコロジカル・フ
ットプリント計算では、同量同種の農産物(たとえば小麦)の資源消費は、生産元の土地が肥沃か否
かに関係なく、同じ面積として表わされる。このような補正を行わないならば、モンゴル草原など生
産性の低い土地に依存する人々のエコロジカル・フットプリントは過大に計上され、生産性の高い土
地に依存する人々のエコロジカル・フットプリントは小さく計上されてしまい、公平な比較は難しく
なってしまう。
ヘクタール(ha)をグローバル・ヘクタール(gha)に換算するための第一ステップは、ある資源の
消費量に対応する実際の土地面積に対して「収量係数(Yield Factor:YF)」を賭け合わせる。これは、
国毎に差異がある同種土地カテゴリー(たとえば耕作地)の生産性の差を標準化するための係数であ
る。すなわち「収量係数」とは、ある国の耕作地の生産性と世界の耕作地全体の平均生産性との比率
のことである。生産性の高い耕作地を有する国の耕作地は、エコロジカル・フットプリント計算では、
実際面積よりも広く計上されるのである。たとえば、日本の耕作地は、2005年データで世界平均の1.7
倍、アルジェリアは、0.6倍であったが、これらがそれぞれの国の耕作地の収量係数である。2005年時
点の日本の収量係数は、耕作地:1.7、牧草地:2.2、森林地:1.1、漁場:0.8と計算されている(Ewing
et al. 2008)。
次に、上で得た数値(実際の作付面積×収量係数)に「等価係数(Equivalence Factor:EQF)」を
乗ずることにより、グローバル・ヘクタール(gha)に換算される。「等価係数」は、(耕作地と森林
地などといった)異なる土地カテゴリーの生産性の差を平準化するための係数である。たとえば、世
界平均的な耕作地は、世界のすべての生産可能な土地の生産性との比較で、2.65倍と計算された(2005
年時点)。これが耕作地の等価係数に当たる。他の等価係数は、牧草地:0.50、森林地:1.33、漁場:
0.40、淡水域:0.40、生産能力阻害地:2.64である(Ewing et al. 2008)。
3.4.5 エコロジカル・フットプリントでみる社会経済システムの持続可能性
WWFジャパンとGFNの計算では、2006年時点での地球全体のバイオキャパシティは119億グローバ
ル・ヘクタールである(WWFジャパン、グローバル・フットプリント・ネットワーク 2010)。
人類のエコロジカル・フットプリントは、1960年代初期には、人類は地球のバイオキャパシティの6
割程度で経済運営をおこなっていた。しかし、1970年代の後半から人類のエコロジカル・フットプリ
ントは、バイオキャパシティとほぼ同じ大きさとなり、1980年代半ばからオーバーシュート状態に陥
っている。2006年時点では、人類のエコロジカル・フットプリントは、171億グローバル・ヘクタール
であり、地球のバイオキャパシティの144%となっている。これは人類が、深刻な生態学的な債務
(ecological debt)状態に陥っていることを意味する。できるだけ早い時期にオーバーシュートを解消
する努力が必要である。
一人当たりでみると、バイオキャパシティ1.8ghaに対し、エコロジカル・フットプリントは1人当た
り世界平均値2.6ghaという大きさになっている。1人当たりの値は国によって大きな差がある。最大で
あるアラブ首長国連邦は10.4gha、アメリカは9.1gha、日本が4.1gha(以上は「生態学的債務国」 2)、
2
日本のエコロジカル・フットプリントの土地カテゴリー別内訳は,耕作地14%,牧草地1%,森林地7%,二酸
81
エクアドルは1.8ghaであり、エクアドルのような消費生活を全人類が行えば、地球一個分で足りる計
算となる。しかし、アメリカ人と同じ生活を人類全員が行えば地球5.1個が必要となり、日本人同様で
あれば地球2.3個必要となる。オーバーシュートを引き起こしている「生態学的な債務国」が率先して、
一致協力して、「地球一個分の経済」を実現しなければ、地球生態系の大崩壊が到来しないとも限ら
ない状況である。
3.4.6 エコロジカル・フットプリント分析で不足している点
エコロジカル・フットプリント分析は、世界各地で啓発目的や政策評価・技術評価手法としての応
用が広がりを見せている(和田 2007、2009、2010:Kitzes et al. 2009)。ただし、実際には、エコロジ
カル・フットプリントでは表現し難い環境負荷もある。
たとえば、水資源の需要と供給の問題である。これについては、ウォーター・フットプリントとい
う補助的指標が考案され、広く認知されつつある。
エコロジカル・フットプリント分析には、ひとつ決定的な弱点がある。それは時間軸に関すること
がらである。国別エコロジカル・フットプリント勘定(NFA)という国際的なエコロジカル・フット
プリントのデータベースがグローバル・フットプリント・ネットワークという研究機関によって維持
管理されているが、このエクセル上の計算式はすべて単年度式である。ある国で、道路・インフラの
建設がなされた際、そのために使用されたエネルギー量は、その国のその年の二酸化炭素排出量とし
て計上される。たとえ、道路やインフラが40年使用され続けたとしても、その年のエコロジカル・フ
ットプリントが増えることになる。すると急成長しているアラブ首長国連邦などの国のエコロジカ
ル・フットプリントは勢い大きくなる。しかし、よく考えてみると、それらのインフラの寿命が以後
40年だとすれば、建設のためのエネルギー消費、そしてそこからの二酸化炭素排出量は40年に割って
責任を割り振るほうが、世代間の公平性が確保されるという意味で理に適っている。実際、製品や技
術のライフサイクル分析(LCA)手法ではそのようにしている。
逆に、今年の人間の経済活動が将来世代に影響を与えるような場合、つまり、現在の経済活動の結
果として、10年先になって環境負荷や環境管理コストが発生する場合、エコロジカル・フットプリン
ト計算では今年のエコロジカル・フットプリントには反映されない。
たとえば、各種鉱山の、鉱山の閉山後にも不可欠とされる水質・尾鉱などの長期的管理コストや、
原子力発電の使用済み核燃料などの高レベル放射性廃棄物の超長期的管理コストなど、あるいは、原
発事故や核関連施設の放射能汚染事故が発生場合に将来世代におわす環境負荷、このような将来的に
超長期に渡って発生する環境管理コストや環境負荷については、エコロジカル・フットプリント計算
でもLCAでもほとんど入れていない。こうした、後から発生する費用を「事後継続的影響管理コスト」
あるいは、Prolonged Impact Management (PIM) Costsと呼ぶ。たとえば、ウラン鉱山の尾鉱や水質の管
理は、最低でも1万年必要であるとする証言がある。使用済み核燃料の天然ウランに対する相対毒性
は、一旦は下がるが70万年後に最大化する。そのため、必要な管理期間は100万年とする見解も説得的
であり、実際、オバマ米大統領は100万年管理が必要だと述べている。日常的な放射能漏れ管理、原発
化炭素吸収地65%,生産能力阻害地2%,漁場12%となっている。家計内の消費項目別では,食料36%,居住
15%,運輸交通17%,商品(衣料品/家具/パソコンなど)13%,サービス(医療/教育など)19%。
82
労働者の放射能被曝、原発などのテロ攻撃への防御、プルトニウムや劣化ウランの兵器利用による影
響も考慮されねばならない。
エコロジカル・フットプリント分析の原則は、ある国・地域の資源利用のために必要とされる土地
水域が国内・地域内にあろうが国外・地域外にあろうが無関係に、その国・地域の責任として計上す
ることとなっている(「地理的な意味での利用者拡大責任論・帰属論」と言えよう)。事後継続的影
響管理は、現世代の資源利用が、次世代に負わせているコストである。このコストを現世代の責任と
して計算することが必要であろう。つまり地理的な意味での利用者拡大責任論が採用されるのであれ
ば、「時間的な利用者拡大責任論」も成り立つと思われる。(図3.4.1参照)
図3.4.1
資源利用にともなう「地理空間的な利用者拡大責任論」と「時間的な利用者拡大責任論」の概
念図
レアアースについては、鉱床の種類にもよるが、多くの場合、放射性物質であるトリウム232を含ん
でいる。従って、採掘・製錬過程で大量の放射性廃棄物質が発生するのである。毒性の強いこうした
放射性廃棄物の環境負荷の「見える化」の手法は十分に確立されたとはいえない状況である。本研究
では、レアアース利用の環境負荷をエコロジカル・フットプリント指標の枠組みの中でどう計測すべ
きか、さらにエコロジカル・フットプリント指標に組み込めない要素はどのように扱うべきかなどに
ついて検討を行っていきたいと考えている。
83
3.5
レアアース製錬工程に伴う環境負荷とその評価手法
本節では、次年度以降の評価の下準備段階として今年度行ったレアアース精錬工場における環境負
荷に関する現地調査の整理を行う。
3.5.1 Lynas社レアアース製錬工場
レアアースは、17もの鉱物の総称で、スマートフォンからハイブリッド自動車に至るまでの、ハイ
テク製品に必要不可欠な資源である。中国が、全世界で消費されるレアアースの約97パーセントを供
給している。しかし、近年、中国は、環境汚染防止と資源保全という名目で生産量と輸出量を制限し
ており、安定した供給を実現するためには、供給元の多様化が必要であるとされる。
オーストラリアのLynas社(ライナス社)は、西オーストラリア州ラバトンの南35キロにある、マウ
ント・ウェルド鉱山(図3.5.1)でレアアース鉱石(具体的には次の資源を含有する:Yttrium oxide;
Niobium pentoxide; Tantalum pentoxide; Thorium; Zirconia; Phosphate; Phosphorous; Niobium; Tantalum;
Rare earth elements; Phosphorous oxide)を採掘し、選鉱処理を施したのち、それをマレーシアへ運び、
自社の最先端の技術を誇る製錬工場(Lynas Advanced Materials Plant、以下LAMP)で分離・製錬を開
始した(2012年12月7日現在、Ar 2012)。この工場は中国国外では最大級であり、日本をはじめ、世
界中から期待されている。日本政府は特に積極的に動いており、JOGMECを通じ、この製錬工場建設
のために、Lynas社に対し約200億円の融資を実施した。双日とJOGMECそしてLynas社との間で、年間
8500トン(日本国内のレアアース需要の約3割に当たる)のレアアース供給を10年間行うという契約も
成立している。
図3.5.1
マウントト・ウェルド鉱山、豪・西オーストリア州(Mount Weld Mine, Western Australia)
Lynas社は、もともと中国において同様の製錬工場建設を計画していた(Bradsher 2012)。しかし、
中国政府は、2006年以降段階的にレアアース採掘・製錬工程の規制、とりわけ環境規制を強化し続け
ている。そのため、Lynas社は、2007年に立地国をマレーシアTerangganu州に変更した(Bacon 2012)。
マレーシア政府がLynas社に対し10年間の法人税免除を申し入れたという事情もあった。ところが、こ
の州のスルタン(君主)が反対表明を行ったため計画は頓挫した。そこで、現在のPehang州Kuantan
市の北方のGebeng工業団地内の敷地に白羽の矢が当たった。この地には既に石油化学工業を中心とす
84
る企業が多数立地している。またKuantan港から2.5㎞という地の利もありこの地が選定された(図
3.5.2~3.5.4参照)。
図3.5.2 マレーシア国の半島部の主要都市
図3.5.3 Kuantan市と北方約10㎞付近に位置するGebeng工業団地(薄茶色)
図3.5.4
Gebeng工業団地の近接航空写真
ただし、Gebeng 鉱業団地から南方10㎞にはKuantan市、北方10㎞にKemaman市という人口規模が数
十万人の中規模地方都市が存在する上、付近は南シナ海に面する風光明媚なリゾート海岸が続いてい
る。ウミガメの産卵地も付近にあり、その隣接地には、「地中海クラブ」という高級リゾートも立地
しているという土地柄である。
このGebeng工業団地の敷地は、もともと海抜が低く、灌木が生える湿地帯が広がっていた場所であ
った。そのような水分の多い土地の上に近隣の山を削って得た赤土を大量に搬入して盛り土をして整
地した地盤が脆弱な場所なのである(図3.5.4)。以上の特性がある土地に、トリウム232、ウランなど
の放射性廃棄物が大量に産み出される工場が造られたのである(トリウム232:放射性物質(半減期141
85
億年、アルファ崩壊。白血球に障害をもたらす危険性をもつ)。ここは、洪水の発生も懸念される場
所でもある。実際、2012年12月25日に、LAMP敷地とその周辺は大雨のため洪水が発生している(図
3.5.5参照)。
図3.5.5
洪水に見舞われたLAMP 2012年12月25日(SLSM 2013)
元々湿地帯出会った場所であるため、万一、放射性物質が土壌中に漏洩した場合には、容易に地下
帯水層に流入するという特性もある。以上の理由により、地域住民が製錬工場の稼働に強く反対を表
明している。Lynas社は、2012年5月よりLAMPの操業を開始する準備を整えていた。しかし、工場の
建設が始まる二年前から、地元住民らによる環境と安全に関する反対運動が開始された。
以下では、ライナス社のLAMPの建設の経緯とその計画に対する地元住民の反対運動の経緯につい
て記述する。
1) 2011年6月に、国際原子力機関(IAEA)がマレーシア政府に招かれ、ライナス社のライセンス・
プロセスの一般的な段取りについて査定を行った。そして、IAEAは11の提案をし、政府とライナ
ス社はそれに従うことを公の場で合意した。
2) しかし、残念ながら、政府とライナス社は情報を公にすることと、ライセンス・プロセスを透明
にするといったIAEAの提案に従う約束を守らなかった。且つ、ライナス社は、レアアース製錬工
場における、安全な長期的放射性廃棄物管理プランを立てられていないにもかかわらず、鉱石を
輸入する免許と廃棄物を処理する免許を発行された。以上のような状況を踏まえ、市民らは自分
たちの住む場所と自分たちの未来を守る権利を勝ち取るために闘っている。
3) 2012年1月30日に、マレーシア原子力発電認可局(AELB)がLAMPに対する二年間の暫定運転免
許(Temporary Operating License:TOL)を付与することとした。しかし、ライナス社が追加的な条
件を満たさなければならない理由により、免許の発行は控えられていた。
86
4) ライナス社側の弁護団は、2012年10月10日にクアンタン高裁で、三つのライセンス(鉱石輸入免
許(the ore import license)、廃棄物処理免許(the waste disposal license)、暫定運転免許(TOL))がす
べて発行されたと主張した。その一方で、マレーシア原子力発電認可局(AELB)は、鉱石輸入免
許と廃棄物処理免許が発行された明確な時期について、公式な発表をしていない。
5) 2012年11月8日に、マレーシア・クアンタン高裁にて、幾度も延期が繰り返されたLAMPの暫定運
転免許を認めるか否かの判決が言い渡され、結果的に暫定運転免許の有効性が認められた。マレ
ーシアの環境保護団体Save Malaysia Stop Lynas (以下、SMSL)とその弁護団は、この判決と戦い、
暫定運転免許を再び停止するための控訴を続けている。
6) 2012年8月28日に、クアンタン高裁はSMSLからの以下の要請を受け入れた。
 1月30日にマレーシア原子力発電認可局(AELB)がLAMPに対して付与した、暫定運転免許を
停止する。その理由として、詳細な環境インパクトアセスメント(DEIA)が何もなされてい
なく、暫定運転免許が付与される前に最新の放射性物質のインパクトアセスメント(RIA)と
放射性廃棄物マネジメントプラン(RWMP)がマレーシア原子力発電認可局(AELB)に提出
されるべきであったため。
 2012年4月17日のMOSTIパネルの前に、ライナス社のプロジェクトのリスクと害を明確な根拠
をもってクアンタンの住民グループと弁護団の代表がアピールしたにもかかわらず、ライナス
の暫定運転免許を取り消さないとした「科学、技術、革新省(MOSTI)」の決定を見直すこと。
SMSLは弁護団とともに、これらが解決されるまで、早期にかつできるだけ長く、暫定運転免
許の停止を元に戻すために抗告している。
7) この判決を受けて、SMSLは2012年11月9日に、対話のための暫定的な猶予期間、もしくは暫定運
転免許(TOL)の再度の暫定的な停止をするよう、クアンタン高裁に対して正式な申請を行った。
そして、2012年11月14日にヒアリングが行われた。
8) 12月19日に、マレーシア控訴裁判所は、Lynas社の暫定的運転許可を停止する一時的な法定の命令
を求める住民側の訴えを却下した。そして、住民側に対し、訴訟費用と弁護士費用としてLynas
社と政府側にそれぞれ10,000マレーシアリンギット(約29万円)を支払うよう命じた。
以上が、マレーシアでのライナス社の動きと反対運動に関する最新動向である。
その後、2012年11月8日の判決でLAMPの暫定運転免許が認められたが、工場施設の不具合などもあ
り、実際の稼働は12月7日ころに始まったと見られている。ただし、前述したように、2012年12月25
日には、この工場が洪水に見舞われており、それによる影響は定かではない。また、Lynas社は最初の
3か月は年間11,000トンの生産量で生産をし、翌年からは年率22,000トンで操業することを計画してい
るが、現在どの程度生産しているのか定かではない。
情勢は日々刻々と変化しつつある。2013年1月26日、ドイツの民間研究機関であるOeko-Institutが
SLSMから委託された研究報告書をKuantanにて発表した。要点は、住民の懸念が杞憂ではない、とい
う内容であった。すなわち、Lynas社の公表した放射性物質の排出量は、国際的な許容基準の1,000倍
87
以上となるので、稼働はすべきでない(Oeko-Institut 2013)、という厳しい内容であった。住民組織
SLSMは、この報告書を政府に提示し、政府にその決定を覆させるべく運動を展開している。
マレーシアの総選挙が迫っており、本件がそれによる何かしらの影響を受けることも考えられる。
今後急激に状況が変わる可能性があるため、注意深く見守る必要がある。
なお、筆者は、Lynas社のLAMP工場に入溝し、工場責任者と短時間面会した(2012年11月28日)。
工場責任者からの説明によると、LAMPの操業から排出される放射性トリウム廃棄物の放射能レベル
は、6.2Bq/gなので、現在作ってあるテーリングダムで充分管理できる。過去のエージアン・レアアー
スの場合より、廃棄物は放射能レベルがかなり低いので心配はいらないとのこと。また、トリウムの
半減期は、141億年であり、非常に微量な放射線しか出さないので、万一環境中に漏れても影響は少な
いなどと述べていた。
しかし、筆者の経験では、福島市内の汚染がひどい箇所の土壌のセシウムのベクレル値は、12,000/
㎏であり、これをグラムに直すと12Bq/gとなる。このような数値と比較しても、放射性廃棄物は、厳
重に管理しなければならないレベルである。
この点を、京都大学小出裕章氏に伝えたところ、以下の回答が寄せられた。
「6.2Bq/g ということは、この廃物中には、約1500 ppm のトリウム232が含まれていることになり
ます。私(小出氏)が岡山県のチタン製錬廃物の中からトリウムを見つけた(中略)時の廃物中のトリ
ウムの濃度は約700ppmでしたから、今回和田さんが調べてきてくださったものはその2倍を超えてい
ます。私から見ればすごい毒物だと思います。」とのこと。工場責任者が豪語した「万一漏れても影
響は少ない」というのは全くの誤りであろう。
工場責任者によれば、副産物として出てくる石膏は、1Bq/g以下であるので放射性廃棄物を減量する
ためにも、この副産物を肥料や建設材料として販売する計画であるとのこと。Lynas社の資料によれば、
これらの値は、イギリス政府の基準に適合している十分低い値であるとのこと。しかし、疑問の思っ
た筆者は、鉱山ジャーナリストの谷口正次氏に尋ねてみた。すると、「少なくとも日本の石膏ボード
メーカーは、たとえお金をつけても引きとらないでしょう。なぜなら、放射能がたとえ問題ないレベ
ルでも、過去にリン酸石膏中のラドンが大きな社会問題として取り上げられ、以後、天然石膏と排煙
脱硫石膏しか使っていないのではないでしょうか。リン酸石膏は世界中で山と積まれています。双日
社も引き取りは難しいと推察します。放射能の数値の問題ではないと思います。日本では風評を恐れ
てボードメーカーもセメント会社も手を出さないのではないでしょうか。」との回答が届いた(2013
年1月21日私信)。
帰国後、筆者は、JOGMECのレアアース担当者とも面会した(2012年12月7日)。担当者は以上のよ
うな状況を十分承知していた。日本政府の立場と今後の対応方針を尋ねたところ、日本政府としては、
環境への十分な配慮を行うようにマレーシア政府とLynas社に要請しているので、これ以上踏み込んだ
対応を行う予定は無いとのことであった。しかし、長期的な環境汚染と健康被害が懸念されるばかり
か、この問題への国際的な関心の高まりに鑑みて、日本政府としてはより十分な注意を払うべきであ
ろう。万一、将来的に、問題が顕著となった場合は、融資を行った者の責任が問われてくることが懸
念される。
88
3.5.2 ARE社(エイジアン・レアアース社)事件
エイジアン・レアアース事件とは、マレーシア・ペナン州イポー郊外ブキメラ村周辺において1970
年代から1980年代にかけてモザナイト(モナズ石)からイットリウムなどの希土類金属を抽出する工
程から発生した放射性トリウムによる環境汚染のことである。ARE(エイジアン・レアアース)社は、
三菱化成が35 %出資、1979年にマレーシアで設立された合弁会社である。
立地場所は、首都クアラルンプールから約200㎞北方にあるイポー郊外のブキメラ村である。1973
年ARE社の前身「マレーシア・レアアース」設立。1982年、テレビの赤色発光体などに使用されるイ
ットリウムなどのレアアースをモナザイトなどの原料から精製・抽出する操業を開始した。この工場
で生産されたレアアースが100%日本に輸出されていた。
問題の背景としては、日本では 1968年の原子炉等規制法改正により、放射性廃棄物の投棄や保管に
は厳重な管理が必要となった。それに伴い、1971年以降モナザイトからレアアースを抽出する工程は
日本から海外に生産拠点を移動させていった。(「公害輸出」の典型例とされている)。
精製・抽出の過程で放射性物質であるトリウム232が発生。工場はトリウムを含む残土の保管施設を
持たず、工場の裏にあった池や地面に警告表示もなしにそれを野積み状態にしていた。
杜撰なトリウムの管理の結果、住民の健康被害が現れた。マレーシア平均の3倍の異常出産、40倍以
上の発生率で子どもたちが白血病や癌に罹患するという痛ましい事態が発生した。投棄場の外周で自
然放射線の約50倍の値を検出(地上1m)(1984年)、不法投棄された場所では、通常の730倍の線量
も計測されている(1986年時点で、市川定夫氏、ロザリー・バーテル氏らの測定)(市川 2005)。
住民はARE社の操業停止を求めて抗議活動を展開。1985年にはイポー高等裁判所に提訴。高裁は仮
処分として操業停止命令を出し、操業を一時止させた。その後ARE社は廃棄物の仮備蓄場を建設した
ため、マレーシア原子力許可委員会から操業の再開を認められた。ところが仮備蓄場は穴を掘っただ
けの粗末なものであったため、住民は抗議行動を再開。1992年にはイポー高裁で、操業中止命令。住
民側の全面勝訴となった。しかし、1993年にマレーシア最高裁の上告審では操業を合法として認める
逆転判決が出された。
ARE社は1994年1月、「中国から輸入するほうが経済的」として、撤退。工場は閉鎖され、放射性ト
リウム14%を含むトリウム廃棄物が放置された。ARE工場の解体と廃棄物保管場所の設置と除染作業
が行われたのは2003年から2005年にかけて、操業停止から9年もたってからであった。現在、従来の地
上の保管場所が古くなり、放射性廃棄物を新しい地下保管場所に移転中。現在も管理監視が必要とさ
れている。
筆者は、今回の現地調査においてイポーにも赴き、30年を経てもなお傷跡が残っているブキミラ村
を訪ねた。28年前に、ARE社の従業員として工場施設の拡張工事に当たっていた女性に出会った。彼
女の名は、ライ・クアンさん(図3.5.6)。
89
図3.5.6
ARE元従業員で被害者の母でもあるライ・クアンさんと筆者
当時、工場の拡張工事が始ったころ彼女は子供をお腹に宿していた。しばらくして生まれた子供が
先天性の白内障、心臓に穴があり小脳症というに三重の重い障害を持っていた。子供は、何とか生き
延びたが、昨年2012年春、28歳の若さで亡くなっている。「ロザリー・バーテル医師が、彼がまだ幼
い頃訪問して診察してくださったが、その時先生は、『お子さんは、恐らく30歳までは生き延びるこ
とがかもしれない』とおっしゃいました。まさにその通りになってしまった」と涙ながらおっしゃっ
ていた。
三菱化成も州政府も、現在に至るまで、被害者の病気とARE社の排出した汚染物質との因果関係を
認めていない。見舞金と称して、月いくらかの生活費補助を出しているのみである。ただ、汚染土壌
の保管、見舞金の支出には莫大な費用が掛かっており、操業収益を上回るコスト負担が三菱化成の肩
にのし掛かっているという(図3.5.7)。
図3.5.7 汚染土壌の最終保管用ダム
筆者は、工場跡地で放射線測定を実施した(図3.5.8)。高さ1mの放射線(γ線のみ)は、0.115、
0.109、0.118、 0.128マイクロSv/h程度で、バックグラウンドの2~3倍程度であり、汚染の程度はそれ
ほど大きくはない。工場跡地から数キロ離れたところにある汚染土壌保管場所付近も計測した。その
付近で、通常の10倍程度(0.444マイクロSv/h)の線量を計測した場所もある。
90
図3.5.8 汚染土壌の最終保管場所付近での放射線計測
それらの土壌サンプルも集めた。それらの解析は現在某研究者に委託中である。この結果が待たれ
る。
甚大な被害が発生し、被害者に対し、外国の加害企業が責任を認めていない事実。そして見舞金支
払いという妥協的な解決しかなされていないという実態があるからこそ、マレーシア市民は、Lynas
社の製錬工場を信用しないという側面があるのではないか。そうであるのならば、加害企業の所属す
る国である日本は、Lynas社問題に対してより積極的な働きかけを行う必要があるのではないか。
日本政府もマレーシア政府も、そして国際社会も、レアアース市場が活気づく今こそ、過去の教訓
から学ぶことが必要であろう。
91
3.6
本章のまとめ
本章では、環境影響評価手法について、特に天然資源開発に起因する部分のレビューと一部指標に
対する改善、データの収集に取り組んだ。改めてここで浮き彫り担ったものは、次のような点である。
• 鉱山開発の環境影響は現場固有の事情の影響が大きい。にも関わらずこれに対する対応は十分で
はない。下流の製造業などと違い、天然資源開発におけるインプットは当然ながら自然環境であ
る。地下数キロの坑内掘現場もあれば標高の高い山の中での操業もある。同じ金属鉱種を対象と
していてもその品位は大きく異なる。代表値を求める作業が無駄なのではなく、現場個別の分析
を行うことと、某かの代表値を求めることは意義が違うものである。
• こうした環境影響は、その操業を止めた後も、またその準備段階においても大きな規模で発生す
る。つまり、環境影響の異時点間での負担、言い換えれば世代間衡平のような話について余り検
討できていない。配分を考える以前の問題として、製品のライフサイクルを考えるように、資源
開発現場のライフサイクルを考えるような研究が必要であると思われる。本研究においてはこの
問題に取り組んでいきたいと考えている。
• 現状扱えている環境影響、言い換えればそのためのインベントリデータの種類が少ない。本節で
示したようにCO2排出量と固体廃棄物量のデータはその他に比べれば状況は良い。水質やその他の
大気への排出についても状況は改善しつつあるが、鉱山現場は、通常と異なる法律で管理されて
いるような場合も有ること、また多くの現場が発展途上国にあることなどがその要因になってい
る。
これらを踏まえて今年度レビュー、もしくは実際に検討を行った評価手法について再検討してみる。
表3.6.1に示すとおり、個別鉱山に対する対応についてはそれが本来の目的であるMiBiDは行ってい
るものの、その他の指標については行っていない。TMR/MIと言ったMFA関係の指標については××
鉱山産の銅鉱石のMIと言う数字を出すことは可能ではあるがデータの関係で不十分である。CO2排出
量についても同様だと言えよう。EFについては、一つの鉱山に特化するよりも、対象となる地域・経
済等の網羅性の重要度が他の指標と比べれば高いこともあり、難しい部分もあろう。2点目の時間的視
野の問題についてはどの手法も現時点ではまったく対応していない。CO2 排出量については、燃料・電
源構成などと言った意味での原単位が同じ鉱山についても変わる可能性も有り、将来の予測等は比較
的困難かもしれない。
92
表3.6.1
評価対象
本年度検討した手法のまとめ
扱うインベン
個別鉱山に
異時点間での配分に対
トリデータ
対する対応
する対応
TMRなどの
物質利用
物質移動量
MFA系指標
間接的には全て?
固体廃棄物量
不十分
ほぼ出来ていない
(本研究で検討を行う)
難しい
CO2 排出量
地球温暖化
CO2 排出量
不十分
(エネルギー消費原単
位が変わりうるので)
不十分かつ難
資源需要と廃
EF
持続可能性
棄物排出量
→面積に換算
しい
(包括的で
ある必要があ
出来ていない
(本研究で検討を行う)
るので)
MiBiD
生物多様性
採掘量を面積
あり(それが
現時点ではされていな
に変換
目的)
い
検討対象とするインベントリ/環境影響の種類については、昨今の関心の高まりからようやくMiBiD
と言う手法の中で生物多様性の取扱いが始まったばかりであり、その他のものについてはこれから検
討しなければならないと言える。本研究で我々がTMRやMIといった、MFAベースの物質量指標、もし
くはEFという面積あたりの指標をベースに開発したいと考えているものは、こうした様々な領域につ
いて、一次近似的であったとしても包括的な視座を与えるような指標である。こうした検討と、CO2
排出量のような個別インベントリの検討を同時並行的に進めることで、より意味のある指標開発へと
つなげていくことを考えている。
93
3章
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96
4.
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
本研究は、3年間を通じて、我が国の循環型社会およびアジアでの循環型社会形成を促進する観点か
ら、資源循環システムの持続可能性評価手法の開発を試みるものである。最終的には、国際循環型社
会形成への具体的取組みとして、我が国が重視している我が国の静脈産業育成および、アジア太平洋
地域への展開による広域資源循環を進める上で、国境を越えたトータルとしての持続可能性評価へ向
けた貢献を行うことを目指す。物流の効率化を含む資源循環の効率化などの環境・経済・社会的効果
の定量的評価を行うことで、こうした流れへの一助となることを目指す。
本年度は、我が国のリサイクルシステム全体の循環資源の流通・利用状況を評価する上で、環境・
経済・社会的影響が大きく、比較的データの揃っていること、および特定物質に着目した分析におい
てエコカーに着目した研究を予定していることも踏まえ、使用済自動車および廃家電・電子製品のリ
サイクルを対象とした。流通・利用状況については、静脈物流(その種類やシステムの違いごとのコ
スト)・処理(手法ごとのコスト)に関わる経済コストおよび環境影響、さらには社会影響として雇
用を想定するその上で、我が国のリサイクルシステムについて、環境・経済・社会的影響の評価手法
の検討を行った。
本章の構成は以下の通りである。
4.1節では、我が国のリサイクルシステムおよび国際資源循環の持続可能性評価手法の確立に向けた
本研究における基本的な考え方を示した。本研究3年間の目標を、どのような資源循環(近接循環、広
域循環、国際循環の組み合わせ方)が持続可能性の実現という面で効果的かという観点から評価する
ことと位置付け、その中で我が国のリサイクルシステムを評価するための手法を開発する上での本年
度の考え方を示した。
4.2節では、日本における家電リサイクル法の持続可能性の評価について、その評価に必要な情報の
種類とその収集方法、また評価すべき項目とその評価手法についての検討を行った。初年度において
は、その中で、調査やヒアリング等を通じて得られた情報の確認とその情報から評価した持続可能性
の一例について言及する。
4.3節では、リサイクルシステムの目的を、使用済み製品の適正処理および環境負荷の低減、省資源・
資源効率、環境産業の育成の3点にあると考えたうえで、持続可能性評価手法の開発を試みている。そ
のうえで、本評価手法の有効性を示すため、使用済み製品の適正処理および環境負荷の低減の一指標
として温室効果ガスの排出に関して、日本の家電リサイクルシステムを事例に試算を行った。
最後に4.4節に本年度研究の結論を述べる。
97
4.1
国内リサイクルシステムと国際資源循環の持続可能性評価へ向けて
4.1.1 我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討へ向けた考え方
(1)
リサイクルシステムに関する考え方
本研究では、リサイクルシステムとは、狭義には各種リサイクル関連法・政策の下で行われる使用
済み製品の回収・運搬・解体・処理のシステムを指している。広義には、対象とする使用済み製品の
発生以後、各種リサイクル関連法の下およびリサイクル関連法の外で行われる回収・運搬・解体・処
理、さらには一部中古品やスクラップの輸出などを含む。
さらに、我が国のリサイクルシステムの評価手法を開発することで、2年目、3年目には、海外に流
出しているケースとの比較や、海外のインフォーマルセクターでのリサイクルシステム、さらには海
外~国内フォーマルリサイクルシステムに輸入した場合などとの比較を可能にする目的がある。すな
わち、国内資源循環と国際資源循環の適切なバランスに関して、政策的に意義のある評価手法を確立
したい。
3年間を通じた研究全体の評価対象となりうるリサイクルシステムを表4.1.1に示す。
表4.1.1 本研究での三年間でのリサイクルシステムの評価対象と成り得るルート
製品使
排出者か
用・リユー
らの収
ス段階
集・運搬
1.国内フォーマルリサイクル
2.国内中古市場~海外リユース・
スクラップ
3・インフォーマル不用品引取り~
海外インフォーマルリサイクル
4.国内~海外フォーマルリサイク
ル施設への受け入れ
5.海外~国内フォーマルリサイク
ル施設への受け入れ
中間集
積・分別
中間集積から再資
源化施設への運搬
(海外への輸送)
再資源化
×
○
○
○
○
△
○
○
○
○
×
○
○
○
○
×
○
○
○
○
×
×
○
○
○
こうした比較を可能にするためには、狭義の国内リサイクルシステムの評価手法を確立すると同時
に、海外でのインフォーマルリサイクルの評価手法の確立とデータの収集が不可欠になってくる。
(2)
リサイクルシステムの目的と評価指標案
静脈産業の育成を図る上で、その持続可能性への貢献を評価することが重要である。
すなわち、静脈産業が、経済、環境、社会的に持続可能性に貢献している側面を「見える化」するこ
とが重要だ。静脈産業は、循環資源を収集し再資源化するリサイクルシステムの中で中心的な役割を
果たす。しかし、静脈産業は、素材を加工し製品として出荷することを主体とする動脈産業とは異な
る側面を持っている。すなわち、循環資源の効果的で効率的な収集・運搬システムの確立が、システ
ム成功の可否を握っているという点である。
日本の現在のリサイクル法は、循環型社会の形成という考えのもとに成り立っているといってよい
だろう。日本の循環型社会形成推進基本法では、循環型社会を、「製品等が廃棄物となることが抑制
98
され、並びに製品等が循環資源となった場合においてはこれについて適正に循環的な利用が行われる
ことが促進され、及び循環的な利用が行われない循環資源については適正な処分が確保され、もって
天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される社会」としている。
ここから浮かび上がる循環型社会およびリサイクルシステム構築の目的は、使用済み製品の循環的
利用と適正処理、天然資源の消費の抑制、それによる環境負荷の低減である。
本研究では、リサイクルシステムの目的は、以下の3点にあると考え、これらの目的を評価するため
の手法と指標の開発を試みる。
使用済み製品の適正処理および環境負荷の低減
日本のリサイクルシステムの背景には、市場での有価での「取引が困難になったリサイクル可能物、
もしくは有害物を含む廃棄物、コスト面などで自治体では処理困難なリサイクル可能物を、リサイク
ルシステムを構築することで適正処理を促すことが考えられる。適正処理とは、生活環境の保全上の
支障が出ないように、適正に運搬し、衛生的に環境基準などを順守して処理することだと解釈できる。
本研究では、4.3項でより詳しく議論するが、これを測る指標については、「健康へのネットインパク
ト(net impact to human health)」、および「温室効果ガスの排出(GHG emissions)」を提案する。
省資源・資源効率
資源循環を行う目的としては、リサイクルされた素材を使うことで省資源・資源の効率的な利用に
つながるという考え方がある。このため、本研究では、4.3項でより詳しく議論するが、これを測る指
標として、
「天然資源の消費抑制(Resource saving)」および「リサイクル率もしくは資源回収率(recycling
rate/resource recovery rate)」を提案する。
環境産業の育成(グリーンな雇用の創出および静脈産業の国際展開)
さらに、近年、リサイクル産業がグリーンな雇用の創出に貢献することが評価されてきている。実
際、日本の環境省の推計によると、環境産業に占める廃棄物・資源有効利用産業の占める割合は、2010
年に市場規模で約56%の約38.8兆円、雇用規模で約60%の111万人を占めている。その中でも廃棄物処
理・リサイクルサービスおよびリサイクル材の占める割合は大きく、およそ環境産業の市場規模の約
16.6%および雇用で約23.3%を占めている。また日本の静脈産業の有する制度面および技術面でのノウ
ハウを途上国に移転することを通じて、静脈産業の国際展開を図る動きがある。
途上国では経済の発展に伴い、循環資源が市場ベースで容易にリサイクルされない状況に直面する
可能性があり、今後、リサイクル産業がフォーマル化していくことが予想される。そうした点からも、
リサイクル産業の有する雇用創出、経済への貢献を評価する必要があるだろう。このため、本研究で
は、4.3項でより詳しく議論するが、これを測る指標として、「収入ベースの福祉(income-based human
well-being)」および「雇用(employment)」を想定する。
(3)
研究対象の絞込み
我が国における種々のリサイクルシステムにおいて、リサイクルシステム全体を調査・評価するよ
りは、我が国の持続可能な資源利用および国際資源循環という観点で重要なリサイクルシステムを選
99
定する方が効果的であると考える。このリサイクルシステムに対する一定の持続可能性評価システム
を開発することで、他のリサイクルシステムの評価への応用を検討することがより効率的なアプロー
チであると考えるためである。そのため、以下の視点から研究対象の絞込みを行った(表4.1.2参照)。

対象リサイクル法としては、家電、自動車、包装容器、食品、建設、小型家電の各種リサイクル
法を想定した。

持続可能な資源利用という面で重要か?:すなわち、資源性・汚染性の両側面を有する循環資源
を取り扱っている。さらに、将来的に付加価値の高い資源(金属資源、レアメタルやレアアース)
を取り扱っているか?

関連データが公開されており、収集が容易かつ正確にできること:消費者負担型のシステムの方
が公開度・透明性が高いと判断

施行からの期間が5年以上で、定着している制度であること。

国際資源循環と関連性のある循環資源を扱っていること。

国際比較可能性:最終的には、国際資源循環と国内資源循環の適正なバランスなどを視野に入れ
て、日本のリサイクル制度との国際比較をする意味のある循環資源を扱っていること。
表4.1.2
日本のリサイクル法
家電リサイクル法
自動車リサイクル法
容器包装リサイクル法
食品リサイクル法
建設リサイクル法
小型家電リサイクル法
我が国における各種リサイクル法と対象としての絞込み評価
持続可能な
資源利用に
重要?
◎
○(エコカー
◎)
△
×
△
◎
関連デー
タの入手
容易性
◎
○
施行か
ら5年
国際比
較性
総合判断
○
○
国際資源
循環との
関連
◎
○
◎
△
◎
○
○
○
△
△
○
○
○
×
◎
×
△~×
◎
○
×
×
△
○
×
×
△
この中でも、金属資源を扱い、資源の有用性と有害性が課題となっているという点、国内的にも国
際的にも政策的な関心が高いという点では、家電リサイクルシステムが第一候補となるであろう。ま
た、エコカーに着目した研究を予定していることも踏まえ、使用済自動車リサイクルのメカニズムも
検討に値する。
家電リサイクルシステムと自動車リサイクルシステムを比較すると、以下のような違いが存在する。
自動車リサイクルシステムは、引き取り業者、フロン類解体業者、解体業者、破砕業者と、家電リサ
イクルシステムの回収、指定引取所、家電リサイクル施設(A、B)というフローよりも、多くの業者
を経るシステムとなっている。そのため、より複雑なデータ収集を行う必要がある可能性が高い。ま
た、家電リサイクルシステムは、指定引取所、家電リサイクル施設に関する情報が公開されており、
入手が容易である。自動車リサイクルシステムについては、使用済み自動車の引取りのフローは把握
されているものの、一部の指定の工程(フロン類、AIRBAG類、ASR類の最終引取り・処分)を除い
て、業者の把握が困難であると理解した。そのため、家電リサイクルシステムよりも、データの収集・
100
分析上の困難に直面すると判断した。そのため、家電リサイクルシステムを例に、リサイクルシステ
ムの持続可能性評価手法の検討・開発を進めることが効果的であると判断した。
本年度は、家電リサイクル法の下でのリサイクルチェーンの評価のみを行うが、将来的には経済原
理によって国外へ流出している中古品、海外へのスクラップ輸出、海外でのスクラップリサイクルを
想定し、海外での不適正なリサイクルとの比較による経済的な効率性だけではない、持続可能性の観
点から、我が国のリサイクルシステムの比較評価を行いたい。また、分析の対象とする有用素材の絞
り込みを検討する。
(4)
本年度研究の評価対象
我が国のリサイクルシステムの評価手法を検討するため、家電リサイクル法の下での家電リサイク
ルシステムおよびその枠外でのリサイクルを評価の対象とする。対象は、家電リサイクル法の下での
家電4品目とする。
将来的にフォーマルなリサイクルシステムとインフォーマルのリサイクルシステム、国内資源循環
を行った場合や海外での不適正処理・適正処理との比較などを可能にするために、リサイクルシステ
ムの評価手法は、製品単位当たりの影響とすることが望ましい。そのため、持続可能性評価の単位は、
家電4品目ごとの1製品平均と4品目の平均とする。
(5)
本年度研究でのリサイクルシステムの境界に関する考え方
家電リサイクル法の下での家電リサイクルシステムの評価を行うために、再資源化施設に注目し、
そこからリサイクルチェーンを遡る形でのライフサイクルでの持続可能性評価手法を考慮する。リサ
イクルシステムは、都市圏や地方などのインフラや人口規模により、必要とされるロジスティックス
に差が生じるものと考えられる。そのため、リサイクルチェーンが包含する地域の人口規模と人口密
度がリサイクルシステムの持続可能性指標に大きな影響を与える可能性がある。このことから、人口
密度の高い大都市を抱える地域の再資源化施設、中程度の人口密度の地域の再資源化施設、人口密度
の低い再資源化施設に注目し、そこに集まる廃家電を逆にたどるアプローチの推計手法を取る(4.2参
照のこと)。
(6)
リサイクルシステムとロジスティックス
家電リサイクル法の下での家電リサイクルシステムのリサイクルチェーンを他のシステムと比較す
るために、リサイクルチェーンは、「排出者からの収集・運搬(ロジスティックス)」、「中間集積・
分別」、「中間集積から再資源化施設への運搬(ロジスティックス)」、「再資源化」に大別される
と考える。ロジスティックスの分析を行うため、少なくとも指定引取所/中間集積所と再資源化施設
(リサイクルプラント)の間のロジスティックスの持続可能性評価枠組みへの統合を試みる。ただし、
排出者からの収集と指定取引所/中間集積所への運搬が、非常に分散型のシステムとなっており、コ
ストが高いとも考えられる。そのため、この点については、4.2項、4.3項で、どのような分析を行うか
の考えを示す。
以上を整理すると、評価の対象とするのは、表4.1.3の通り。
101
表4.1.3
初年度の評価対象
製品使
用・リユ
ース段階
排出者か
らの収
集・運搬
中間集
積・分別
1.家電リサイクル法
×
の下での再資源化ル (検討外)
ート(再資源化施設を
中心としたネットワ
ーク)
×
(評価手
法の検討
中)
○
中間集積か
ら再資源化
施設への運
搬
○
再資源化
×(ただし、デ
ータ収取可能性
を検討中。海外
への輸送は含ま
ず)
本年度は、家電リサイクル法の下での家電リサイクルシステムを評価するための、データの有無の
確認、データ収集と分析、および持続可能性評価のための手法を開発する。
4.1.2 評価システムの条件
先述の目的のために家電リサイクルシステムを客観的かつ確実に評価するには、信頼性の高いデー
タが継続的かつ容易に収集できる必要がある。また、それらを用いて評価する場合には、評価対象・
項目・方法の設定が明確かつ公正である必要がある。
また、次年度以降には、国内における他のリサイクルシステムの評価や、海外でリサイクルシステム
の評価を行う必要があり、将来的には、既存システムの改善や新システムの構築に活用できることを
留意し、評価手法を考慮する必要がある。
評価検討対象年度を、2005年度とした。これは、「産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小
委員会
電気・電子機器リサイクルワーキンググループ
中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会
家
電リサイクル制度評価検討小委員会」において、家電リサイクル制度の見直し時に、2005年度の情報
が多く収集され、また、解析されているため比較・参考データ資料が多く存在するためである。また、
近年に家電リサイクルの実情に顕著に影響を及ぼしたいわゆるリーマンショック(消費低迷による収
集減や労働条件の悪化)やエコポイント、地デジ対応(一時的な大量入荷と人員増)等の特異的な事
象の影響がない年度として2005年度を選定した。
4.1.3 国内リサイクルシステムの持続可能性評価手法へ向けた課題
本年度は、リサイクルシステムの持続可能性評価手法を、家電リサイクル法の下でのリサイクルシ
ステムを事例にして、開発する。このことを通じて、特に評価指標の点で、自動車リサイクルなどの
他のシステムへの応用が可能になる可能性がある。
4.1.2項で議論したように、本年度は、家電リサイクル法の下での国内リサイクルチェーンを事例に
評価手法の開発を行う。将来的には経済原理によって国外へ流出している中古品、海外へのスクラッ
プ輸出、海外でのスクラップリサイクルを想定し、海外での不適正なリサイクルとの比較による経済
的な効率性だけではない、持続可能性の観点から、我が国のリサイクルシステムの比較評価を行うこ
とを予定している。
そのためには、中央環境審議会
産業構造審議会環境部会
廃棄物・リサイクル部会家電リサイクル制度評価検討小委員会、
廃棄物・リサイクル小委員会
102
電気・電子機器リサイクルワーキンググル
ープで示されている使用済み家電のフロー推計を参考に、最終的には家電リサイクル法の下でのフォ
ーマルなリサイクルシステム、国内でのスクラップ市場、海外へのリユース・スクラップ市場へ流れ
る使用済み家電の間での持続可能性評価を実施することを目指す。特に、エコポイントという他の政
策の影響のない2005年の試算を参考にすることを試みる。
入口
出口
指定リサイク
ル施設での
公的リサイク
ル
リサイクル法
の下での公
的リサイクル
システム
海外でのリ
ユース
リユース、中
古品市場
国内市場向
けスクラップ
(1)
海外向けス
クラップ(1)
使用済み製
品の非公式
の回収
国内市場向
けスクラップ
(2)
自治体によ
る回収、不
法投棄
海外向けス
クラップ(2)
自治体によ
る処理
図4.1.1
家電リサイクルのフローとリサイクルシステムへの入り口と出口のイメージ
本年度は、図4.1.1における入口「リサイクル法の下での公的リサイクルシステム」と出口「指定リ
サイクル施設での公的リサイクル」に注目して、評価手法の開発に努めた。すなわち、消費者~指定
引取施設~指定のリサイクル施設のルートのみを見ており、システムの抜け穴(leakage)の問題を取
り扱っていない。来年度は、入口「リユース、中古品市場」から「海外でのリユース」、および「使
用済み製品の非公式回収」から「海外向けのスクラップ」というルートについても評価をすることを
試みる。これらのルートの持続可能性評価の比較を行うことで、日本のリサイクルシステムの経験を
海外に移転する効果や、国際資源循環の評価にも活用できる手法が開発されることが期待される。
評価対象の拡大や、リサイクル料金の前払い制の効果などについても、来年度以降検討する必要が
ある。
103
4.2
家電リサイクルシステム評価へ向けたデータ収集とその評価
4.2.1 我が国の家電リサイクルシステムを評価する意義
日本における「特定家庭用品機器再商品化法(以下
家電リサイクル法)」は、平成25年4月に、平
成13年4月の施行から、13年目を迎える。12年間に消費者並びに事業者・行政機関・製造業者・小売業・
収集運搬業者・リサイクル業者等によって、様々な試行錯誤の結果、最も身近で成功したリサイクル
システムの一つとしての地位を築いてきている。また、新たに平成25年4月に施行予定である「使用済
み小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律(以下
小型家電リサイクル法)」のベースともな
っている。この家電リサイクルのシステム・技術を客観的に評価し、数値化することができれば、種々
のリサイクルシステムの構築や見直し時に、目的設定や管理項目等の制定・修正に大きく寄与するこ
とができる。また将来的にこの手法を用いて、海外(特にアジア)でのリサイクルシステム・技術の
比較や、それらの改善や技術供与等も可能にすることができれば、日本の静脈産業の発展と拡大の起
爆剤とすることができるだろう。
4.2.2 評価システムに必要なデータ
環境・経済・社会的影響を確実に網羅した信頼性のある評価システムを構築するに、正確かつ継続
的に得られるデータが必要である。現行では、公的データとして得られる項目は、環境統計・貿易統
計、及び中央環境審議会・産業構造審議会のリサイクル法関連部会等の資料がある。それらや、各社
のHP等の情報、ヒアリング等を行い、それを元に評価を行う。ただし、経営情報や詳細なコスト情報
については、企業秘密等の問題もあり、公開されない場合も考えうる。その場合は、統計的なデータ
から推計していく方法を取る必要がある。ただし、データ項目、比較方法や評価手法については、情
報収集を進め、関係各所や専門家とともに検討する必要がある。(H25年度以降に集中的に検討を行
う)
以下に、評価に必要なデータの一例を示す。
収集運搬に関連するデータ
目的:収集運搬に関するコスト・環境負荷・雇用等を評価す。
・収集距離(小売店、指定引取所、再資源化施設(表4.2.1))
・収集量(表4.2.2、表4.2.3)
・収集形態、コスト
・雇用
・回収、収集率
・収集運搬における消費者負担
製品データ
目的:家電4品目の基礎データとして、資源化率や回収率のベース情報として、またリサイクル設計な
ど環境配慮等について評価する。
・年間生産量と年間消費量
・製品寿命と買替サイクル
104
・資源使用量(図4.2.1)
・リサイクルデザインと部品数、素材数
資源化データ
目的:資源化による成果とそれに関連する雇用・コストと環境負荷、最終処分場延命化への寄与率を
評価する。
・再資源化の種類と量(表4.2.4、表4.2.5)
・再資源化率(表4.2.6~表4.2.9)
・資源化に必要なエネルギー
・資源化コスト
・廃棄物発生量
・減容化率
・最終処分場の延命寄与(表4.2.10)
・資源化における消費者負担(表4.2.11)
環境影響
目的:資源化に伴う周辺環境・作業員への影響を評価する。
・大気、水質汚染
・従業員の健康等
以上のようなデータを収集し、環境・経済・社会における持続性・影響を項目化し、それに対して
様々な視点、角度からの評価を行う。
資源を安定的に調達するためには、各国が政策的に協力し、
どのような形で国際的に循環利用していくかが大きな課題となっている。本節では、資源の希少性を
見る上で価格が一つの重要な指標であるという立場から、資源循環を担う市場が国際的に効率的に価
格情報を市場参加者に提供しているかを中心に検証していく。
105
表4.2.1 再資源化施設の一覧と所在地
再資源化施設名
㈱鈴木商会
㈱鈴木商会
北海道エコリサイクルシステムズ㈱
東北
東北東京鐵鋼㈱
㈱釜屋リサイクルセンター
㈱エコリサイクル
東日本リサイクルシステムズ㈱
関東
中田屋㈱
NNY㈱
中田屋㈱
パナソニックエコテクノロジーセンター関東
中田屋㈱
フェニックスメタル㈱
㈱テルム
㈱関東エコリサイクル
㈱ハイパーサイクルシステムズ
㈱ハイパーサイクルシステムズ
東京エコリサイクル㈱
JFEアーバンリサイクル㈱
㈱フューチャーエコロジー
北陸
豊和商事
甲信越
豊和商事
ハリタ金属
ハリタ金属
東海
中田屋㈱
トーエイ㈱
豊田メタル㈱
中部エコテクノロジー㈱
富士エコサイクル㈱
グリーンサイクル㈱
関西リサイクルシステムズ
近畿
サニーメタル㈱
パナソニックエコテクノロジーセンター㈱
関西リサイクルシステムズ㈱
㈱アール・ビー・エヌ
中国・四国 平林金属㈱
平林金属㈱
平林金属㈱
九州・沖縄 九州メタル産業㈱
九州メタル産業㈱
熊本新明産業㈱
太信鉄源㈱
㈱荒川商店
㈱荒川商店
拓南商事㈱
アクトビーリサイクリング㈱
㈱拓琉金属
㈱拓琉リサイクル研究センター
西日本家電リサイクル
北海道
(家電製品協会)
石狩工場(他)
発寒リサイクル工場(TV)
伊勢崎工場
那須事業所
加須工場
千葉工場
市原工場
本社工場
千葉工場
三条支店
本社
射水リサイクルセンター
富士工場
御津工場
港工場
岡山工場
鳥栖営業所リサイクルC
南栄工場
106
所在地
北海道
北海道
青森県
福島県
秋田県
宮城県
群馬県
栃木県
埼玉県
茨城県
千葉県
千葉県
神奈川県
栃木県
千葉県
千葉県
東京都
神奈川県
東京都
新潟県
新潟県
富山県
静岡県
愛知県
愛知県
三重県
静岡県
愛知県
三重県
大阪府
兵庫県
大阪府
兵庫県
岡山県
岡山県
岡山県
福岡県
佐賀県
熊本県
宮崎県
鹿児島県
鹿児島県
沖縄県
熊本県
沖縄県
沖縄県
福岡県
石狩市
札幌市
苫小牧市
八戸市
鏡石町
大館市
栗原市
伊勢崎市
大田原市
加須市
稲敷市
千葉市
市原市
横浜市
栃木市
市川市
千葉市
江東区
川崎市
大田区
三条市
長岡市
高岡市
射水市
富士市
常滑市
半田市
四日市
浜松市
名古屋市
伊賀市
大阪市
加東市
枚方市
姫路市
岡山市
岡山市
岡山市
北九州市
鳥栖市
熊本市
宮崎市
鹿児島市
鹿児島市
うるま市
水俣市
浦添市
沖縄市
北九州市
A
A
B
A
A
B
B
A
A
A
A
A
A
A
B
B
B
B
B
AB
A
A
A
A
A
A
A
A
B
B
B
A
A
B
B
A
A
A
A
A
A
A
A
A
A
B
B
B
AB
表4.2.2 指定引取所における引取台数
FY
H13
Air Conditioner
TV CRT
TV LC
Refrigerator
Washing Machine
H14
H15
H16
H17
Air Conditioner
TV CRT
TV LC
Refrigerator
Washing Machine
H19
H20
H21
2,002
1,635
3,517
2,003
1,585
3,551
2,004
1,814
3,787
2,005
1,990
3,857
2,006
1,828
4,127
2,007
1,890
4,613
2,008
1,968
5,365
2,191
1,929
8,537
2,563
2,425
10,140
2,665
2,662
10,463
2,802
2,813
11,216
2,820
2,953
11,620
2,716
2,943
11,614
2,725
2,884
12,112
2,746
2,821
12,900
表4.2.3
FY
H18
2,001
1,334
3,083
H13
H14
H15
H22
H23
2,010
3,142
17,368
654
3,400
3,136
27,700
2,011
2,341
7,866
599
2,843
3,151
16,800
再資源化処理台数
H16
H17
H18
H19
H20
H21
2,001
1,301
2,981
2,002
1,624
3,515
2,003
1,579
3,549
2,004
1,809
3,777
2,005
1,990
3,852
2,006
1,835
4,094
2,007
1,872
4,542
2,008
1,968
5,210
2,143
1,882
8,307
2,556
2,409
10,104
2,653
2,656
10,437
2,807
2,791
11,184
2,807
2,950
11,599
2,709
2,951
11,589
2,724
2,879
12,017
2,733
2,818
12,729
図4.2.1
2,009
2,154
10,320
218
3,007
3,087
18,786
2,009
2,114
9,213
179
2,979
3,031
17,516
H22
H23
2,010
3,071
15,607
564
3,381
3,162
25,785
家電製品の材料構成
表4.2.4 家電の再資源化量(重量・台数)
再資源化
台数
重量
単位
×1000台
×1000t
H13 H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
2,001 2,002 2,003 2,004 2,005 2,006 2,007 2,008 2,009 2,010 2,011
8,307 10,104 10,437 11,184 11,599 11,589 12,017 12,729 17,516 25,785 19,573
320
387
400
429
449
448
467
496
645
888
676
107
2,011
2,372
10,622
648
2,836
3,095
19,573
表4.2.5 再資源化重量とリサイクル率
再資源化
鉄
銅
アルミニウム
その他・金属
ガラス
プラスチック
合計
単位
t
t
t
t
t
t
t
リサイクル率
%
H13
H14
H15
H16
H17
H18
H19
H20
2,001
2,002
2,003
2,004
2,005
2,006
2,007
2,008
110,555 127,171 134,769 143,321 145,034 142,429 146,800 151,822
5,423
7,901
8,791 10,028 11,883 12,259 13,261 15,131
965
1,845
1,875
2,298
3,324
2,920
9,644 10,624
41,406 56,035 55,671 61,790 69,334 65,497 58,755 58,797
45,153 55,075 55,975 60,818 53,727 52,394 68,269 83,749
7,462 14,785 25,400 32,799 50,761 69,344 81,609 94,276
210,964 262,812 282,481 311,054 334,063 344,843 378,338 414,399
66
68
71
73
75
77
81
表4.2.6 家電別再資源化状況
FY
Treatment UNIT
Treatment Weight
H13
unit
×1000
×1000t
Recycle weight
Fe
t
Cu
t
Al
t
Non ferrous(Mix metal) t
CRT glass
t
Plastics
t
Total
t
Recycle Rate
%
H14
H15
H16
H17
H18
Treatment UNIT
Treatment Weight
Recycle weight
Fe
t
Cu
t
Al
t
Non ferrous(Mix metal) t
CRT glass
t
Plastics
t
Total
t
Recycle Rate
%
Treatment UNIT
Treatment Weight
Recycle weight
Fe
t
Cu
t
Al
t
Non ferrous(Mix metal) t
CRT glass
t
Plastics
t
Total
t
Recycle Rate
%
84
82
H19
H20
H21
H22
H23
2003
3549
96
2004
3777
103
2005
3852
108
2006
4094
118
2007
4542
134
2008
5210
156
2009
9213
269
2010
15607
435
2011
10622
284
2001
6,257
2,714
155
242
45,153
4,291
60,813
2002
7,235
3,369
188
483
55,075
5,756
74,108
2003
8,013
3,602
183
767
55,975
7,481
78,024
2004
8,167
3,835
123
1,100
60,818
9,823
85,870
2005
8,678
4,068
192
1,035
53,727
15,830
85,535
2006
11,620
4,456
85
892
52,394
21,645
93,098
2007
13,881
4,951
73
1,199
68,269
27,190
117,570
2008
15,800
5,719
77
1,448
83,749
32,683
141,484
2009
27,188
9,541
93
1,812
137,644
56,197
234,484
2010
43,737
15,153
218
2,636
217,846
94,309
375,909
2011
28,482
10,154
172
1,782
122,452
63,350
228,403
73
75
78
81
77
77
86
89
86
85
79
H14
H15
H16
H17
H18
洗濯機
H19
H20
H21
H22
H23
2001
1882
54
2002
2409
71
2003
2656
80
2004
2791
86
2005
2950
93
2006
2951
95
2007
2879
94
2008
2818
94
2009
3031
102
2010
3162
108
2011
3095
107
2001
23,242
352
105
6,253
2002
30,992
476
142
8,703
2003
35,120
644
263
9,894
2004
37,668
789
455
10,893
2005
39,225
1,016
520
13,713
2006
39,857
1,050
544
14,018
2007
40,755
1,240
612
12,915
2008
41,524
1,605
789
11,360
2009
46,200
1,514
941
12,047
2010
48,015
1,785
1,257
13,216
2011
47,660
1,776
1,332
12,901
828
32,781
2,652
44,967
6,365
54,289
8,903
60,712
15,190
71,669
19,385
76,860
21,709
79,238
24,616
81,902
27,093
89,804
29,543
95,826
30,030
95,710
56
60
65
68
75
79
82
84
85
86
87
H13
unit
×1000
×1000t
83
83
2002
3515
95
表4.2.8 家電別再資源化状況
FY
H23
2,011
180,095
20,861
14,336
68,252
122,452
149,815
555,811
2001
2981
80
H13
unit
×1000
×1000t
H22
2,010
218,210
28,290
17,639
82,079
217,846
181,884
745,948
テレビ
表4.2.7 家電別再資源化状況
FY
H21
2,009
176,518
19,272
11,631
64,111
137,644
127,695
536,871
H14
H15
H16
H17
H18
エアコン
H19
H20
H21
H22
H23
2001
1301
58
2002
1624
72
2003
1579
70
2004
1809
79
2005
1990
86
2006
1835
78
2007
1872
79
2008
1968
83
2009
2114
89
2010
3071
128
2011
2372
99
2001
22,633
1,951
588
19,411
2002
23,112
3,058
1,111
27,969
2003
23,219
3,432
1,136
26,831
2004
25,878
4,137
1,340
30,396
2005
26,200
5,490
2,228
33,925
2006
23,910
5,031
2,023
30,275
2007
23,729
5,076
8,634
24,453
2008
24,403
5,406
9,344
25,696
2009
25,160
5,917
9,927
27,448
2010
35,628
8,367
14,395
40,238
2011
26,972
6,445
11,184
31,615
434
47,018
1,487
58,739
2,439
59,060
3,185
66,940
4,742
74,590
5,552
68,797
6,969
70,868
8,849
75,706
9,617
80,078
14,220
114,858
12,350
90,577
78
78
81
82
84
86
87
89
88
88
89
108
表4.2.9 家電別再資源化状況
H13
FY
Treatment UNIT
Treatment Weight
unit
×1000
×1000t
Recycle weight
Fe
t
Cu
t
Al
t
Non ferrous(Mix metal) t
CRT glass
t
Plastics
t
Total
t
Recycle Rate
%
H14
H15
H16
H17
H18
冷蔵庫
H19
H20
H21
H22
H23
2001
2143
128
2002
2556
149
2003
2653
154
2004
2807
161
2005
2807
162
2006
2709
157
2007
2724
160
2008
2733
163
2009
2979
182
2010
3381
210
2011
2836
176
2001
58,423
406
117
15,500
2002
65,832
998
404
18,880
2003
68,417
1,113
293
18,179
2004
71,608
1,267
380
19,401
2005
70,931
1,309
384
20,661
2006
67,042
1,722
268
20,312
2007
68,435
1,994
325
20,188
2008
70,095
2,401
414
20,293
2009
77,045
2,269
538
22,770
2010
88,121
2,895
1,479
25,887
2011
73,167
2,374
1,242
21,867
1,909
78,356
4,890
93,006
9,115
99,120
10,888
105,548
14,999
110,289
22,762
114,112
25,741
118,690
28,128
123,339
841
105,472
41,454
161,846
40,440
141,101
59
61
63
64
66
71
73
74
75
76
79
表4.2.10 最終処分場の残余量、年数の推移
FY
残余年数
残余容量
年
100万m3
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 total
18 18.7 19.3
14 14.8 15.6 15.7
14
12.8 13.2 13.8
165 160 153 145 138 133 130 122 122 116 114
表4.2.11 消費者の負担額
FY
2001 2002
3,675
エアコン
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
3,150
2,625
2,100
テレビ
冷蔵庫
16inch~
~15inch
171L~
~170L
洗濯機
2,835
2,835
1,785
4,830
3,780
4,830
2,520
4.2.3 評価項目
現在、これらのデータを下に3つの観点で6つの指標から評価しようとしている。1)適正処理・環
境保全(純CO2 、純健康影響)、2)省資源・資源効率(バージン資源の省資源、リサイクル率・資
源回収率)、3)グリーン雇用・環境ビジネスの育成(雇用機会、収入ベースでの福祉)。評価項目
は、このリサイクルシステムによって生じる影響・効果を大きく分類して以下とした。
①
環境影響
環境影響は、再資源化に伴う大気汚染・水質汚濁・土壌汚染等並びの従業員の健康等の環境影響・
安全に関する項目であり、これらを防止する技術・設備とのその結果について評価する。また、当初
からの目的である減容化による最終処分場の残余年数増加への寄与の度合いや、家電に含まれる有害
物・汚染物質対策(オイルによる土壌汚染、Hg等による重金属汚染、フロンによるオゾン層破壊等)
についても評価対象とする。要するに、当該リサイクルシステムによって、重金属・油分・フロン等
の適正処理による環境負荷低減、エネルギー使用量やCO2 、大気・水質の汚染を防止し、地球温暖化
109
やオゾン層破壊の抑制と最終処分場の延命を低エネルギーで行われていること評価される。(何と比
較して評価するかは、議論が必要であり、一例としては、最終処分場延命化に関しては、減容化と粗
大ゴミとしての埋め立てと比較する等の考えが必要である)。後述するが、再資源化に伴う「温室効
果ガスの排出」による比較が中心となると考えている。主な評価項目を表4.2.12に示す。
表4.2.12 主な評価項目
評価項目
資源回収量
再資源化に伴い回収された資源量(家電1t当たり)
使用エネルギー
再資源化に伴うエネルギー使用量(家電1t当たり)
それに伴うGHG排出
再資源化に伴うGHG排出量(家電1t当たり)
資源化による最終処分場延命化
国内の年間最終処分量を削減できた割合
②
資源循環
資源循環は、再資源化に伴い、得られる資源(レアメタルを含むメタル全般やプラスチック等のマ
テリアルリサイクルや廃プラのサーマルリサイクル)に関する項目であり、これらを回収する技術・
設備とその結果について評価する。具体的には、回収される金属の回収率やメタルの価値、プラスチ
ックの再利用状況やエネルギーとしての再利用状況が該当する。対象回収物としては、鉄・アルミ・
銅・プリント基盤類やプラスチックである。
③
経済・社会影響
経済・社会影響においては、この再資源化システムが経済・社会に与えた影響を評価するとともに、
リサイクルシステムそのもの評価する。
経済・社会影響は、再資源化に伴う輸送・解体等の関連雇用の創出や、設備投資創出等の経済効果を
評価する。また、システム評価としては、消費者負担の程度や、再商品化コスト、再商品化等の関連
施設の経営状況等を評価する。
4.2.4 基本データと評価項目の相関図
次に基本データと評価項目の相関図を図4.2.2に示す。収集したデータと、それを元に評価される大
項目である環境影響・資源循環・社会経済評価とそれを形成する小項目である各項目の関係を示して
いる。
小項目横のに評価項目における+-表示している。これは、以下のことを表す。
「+」その項目の数値が高いことが、評価における+評価となる。
「-」その評価の数値が高いことが、評価において-評価となる。
110
基本データ
評価項目
収集・運搬
収集・運搬量
収集・運搬距離
収集・運搬コスト
収集・運搬単価
収集率
雇用
製品
資源使用量
生産量
比重
リサイクル設計
部品数
・
・
・
・
・
・
環境対策
大気・水質
振動・騒音・悪臭
健康
-
-
+
-
+
・
・
・
・
・
資源循環
回収資源量
資源価値
再資源化
リサイクル効率
サーマルリサイクル
+
+
+
+
+
・
・
・
・
・
・
社会・経済
・ 雇用
・ コスト
・ 消費者負担
経済効果
資源化
再資源化項目
再資源化率
資源価格
エネルギー使用量
コスト
フロン処理
資源化費用
廃棄物発生量
最終処分量
雇用
・
・
・
環境影響
エネルギー使用量
CO2排出
最終処分場延命
周辺環境影響
オゾン層破壊防止
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
+
-
-
+
・
・
・
図4.2.2 使用する基本データと評価項目案の相関図
4.2.5 評価方法の一例
①
収集運搬に関する評価方法の検討
家電リサイクルシステムにおいて物流の占める割合は、決して小さなものではない。収集運搬に関
わるコスト・環境負荷の検討の一例として、平均的な指定引取所から再資源化工場までの距離につい
ての検討が必要である(各家庭から指定引取所までの同様な検討は、次年度以降)。
福岡県をモデルケースとして上記の距離の推定を行った。対象は、福岡県内の各指定引取所(表4.2.13
参照)から、再資源化施設であるN社への輸送を検討した。
基本データ
N社:福岡県北部に所在し、福岡県、大分県、佐賀県、長崎県、山口県のA,B双方
の家電の再資源化を行っている。
111
指定引取所:福岡県内に10箇所の指定引取所が存在し、各所から、N社へ運搬される。指定引取
所の管轄範囲内の推定人口と再資源化施設までの距離は以下の通りである。指定引取所からの距離に
ついては、webを用いて2点間の実距離を算出した(図4.2.3参照)。
表4.2.13
福岡県
飯塚市
人口 糸島市
5 0 8 大牟田市
大牟田市
小郡市
糟屋郡
北九州市
鞍手郡
久留米市
福岡市
指定引取所一覧(福岡県)
指定引取所
有安鳥羽958-4 庄内工業団地内
志摩馬場386番地1
新開町3-48
四山町80-30
大板井字石町1363-1(久留米運送(株)福岡小郡店内)
粕屋町大字仲原2675
若松区響町一丁目62番地
小竹町大字南良津92番5
東櫛原町353
博多区榎田1-8-20
範囲万人
25
30
割合
距離
5%
6%
30
6%
25
30
143
15
50
160
508
5%
6%
28%
3%
10%
31%
100%
47
100
147
147
97
74
0
39
108
75
62
NKRC
数字は人口(万人 2012年)
= 指定引取り所(SY)
3
3
4
10
6
3
149
5
3
10
7
5
13
3
4
3
6
6
32
4
3
7
5
7
4
6
6
3
4
5 3
4
10
11
7
10
97
4
12
図4.2.3 指定引取所と再資源化工場(N社)の位置関係(福岡県)
これらより、人口分布率≒指定引取所持込量率として、平均距離を計算すると、福岡県内で指定引
取所に集められた家電の再資源化施設までの運搬距離は、およそ62km(片道)となる。
また、収集運搬業者への聞き取りから、これらの運搬には10tウィング車が使われているが、その実
積込量は、4t程度に留まる。これは、家電自体の見かけ比重が小さいことと、運搬の安全性のために
インナーコンテナを用いているため、充填率が低いためである。さらに、運搬車の平均的な燃費は、
112
3.5km/L(軽油)である。これらを用いて、福岡県における指定引取所から再資源化施設間の輸送にか
かるエネルギー消費量等を計算することができる。これについては4.3.8にて、記述する。
②
最終処分場の延命化への寄与率
家電リサイクル法導入目的の一つである最終処分場枯渇対策について、日本全体における最終処分
場の残余容量、残余年数の推移は図4.2.4の通りである。
種々のリサイクル施策や、廃棄物削減の取り組みの結果、残余年数は大きく徐々に増え、状況は改
善されている。
300
残余容量 100万m3
残余年数 年
250
200
150
12.8 13.2
13.8 14.0 14.0 14.8
165 160 153
15.6
145 138
133 130
15.7
18.0
18.7
20
19.3
16
14
12
122 122 116
114
100
10
8
6
4
50
0
18
2
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
0
出典:環境省「一般廃棄物処理事業実態調査の結果(H22年度)」、「一般破棄物の排出及
び処理状況等について」
図4.2.4 最終処分場の残余量、年数の推移
この改善に家電リサイクル法の導入がどのくらい寄与しているのか、再資源化がどれくらいの直接
埋立の削減に貢献しているかを検討する必要がある。直接的に最終処分場の延命化に寄与したかを計
算する場合、法の施行に伴い、家電4品目が粗大ゴミとして直接埋立から再資源化に向けられたと仮定
する必要がある。つまりは、再資源化施設に運び込まれた家電容積=家電リサイクル施行前なら直接
埋め立てされていたと考えて、以下のような計算を行う。計算方法については、精査の余地を残すが、
概要は以下の通りである。また、ヒアリング結果等から家電のみかけ比重を0.2t/m3と仮定する(今後
の精査が必要)。
再資源化重量
÷
家電見かけ比重
=
再資源化容積
再資源化容積
≒
最終処分場延命化寄与容積
113
最終処分場延命化寄与容積
/
年間最終処分量+最終処分場延命化寄与容積=最終処分場延
命化寄与率
上記の計算を行った結果、再資源化された家電の容積を、表4.2.14に示す。
表4.2.14
再資源化
台数
重量
容積
単位
×1000台
×1000t
×1000m3
再資源化量とその容積
H23
H14
H15
H21
H22
H13
H16
H17
H18
H19
H20
2,008
2,009
2,010
2,011
2,006
2,007
2,005
2,003
2,004
2,001
2,002
8,307 10,104 10,437 11,184 11,599 11,589 12,017 12,729 17,516 25,785 19,573
449
448
467
496
645
888
676
400
429
387
320
3,380
3,223
4,440
1,600
1,935
2,000
2,145
2,245
2,240
2,335
2,480
これらより、近年では、200~450万m3/年相当の家電が再資源化されている計算となる。それは、ほ
ぼ、最終処分場の延命化に直結すると考えると家電リサイクル法施行2001~2011年の11年間で2,800万
m3の最終処分場の埋立量の削減となる。表4.2.15に示す残容量と残余年数から、年間の埋立量は以下
に示す数字となる。2001~2011年の11年間でからの最終処分場への埋立量は、10,030万m3 である。再
資源化され、埋立を免れた容積、つまりは、再資源化により延命化された容積は「2,800万m3」となり、
その「寄与率は、22%」となる。
表4.2.15
FY
残余年数
残余容量
年間埋立量
家電容積
家電割合
年
100万m3
100万m3
100万m3
年間埋立量と再資源化による最終処分場延命化寄与率
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 total
18 18.7 19.3
14
14 14.8 15.6 15.7
12.8 13.2 13.8
165 160 153 145 138 133 130 122 122 116 114
8.3
6.2
5.9 100.3
9.9
9.0
7.8
6.8
12.9 12.1 11.1 10.4
3.4 28.0
2.2
2.2
2.3
2.5
3.2
4.4
1.9
2.0
2.1
1.6
22%
11% 14% 15% 17% 19% 20% 22% 24% 32% 42% 36%
114
4.3
廃電気・電子機器(WEEE)管理の持続可能性評価
4.3.1 研究手法
実用的な観点からみて、リサイクルシステムの持続可能性評価においては、環境・経済・社会の3
つの持続可能性分野を考慮すべきである(Singh 他、2009年)。これらの持続可能性の3つの柱に関す
る長期的な政策を構想するにあたり、持続可能性評価の定量的指標を特定することが不可欠である。
持続可能性評価のための「ツール」としては、ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を用いるこ
とができる。LCA手法を通じて、環境・経済・社会的側面およびライフサイクルのすべての段階につ
いて、リサイクルシステムのライフサイクルにおけるインプット(投入)とアウトプット(生産排出)
の特定が容易となるためだ。LCA手法によるライフサイクルの考え方を通じた廃電気・電子機 器
(Waste Electrical and Electronic Equipment:WEEE)の持続可能性の評価、およびそのための指標特定
の基本的な枠組みを図4.3.1に示した。
手順1 研究
対象地の選定
手順2
環境・
経済・社会的視
点からのライフサ
イクルアセスメント
国内外の研究対象地におけるプロセスフローを特定
電気・電子機器廃棄物のプロセスフロー
自治体
インプット(投
入)
・鉱物
・化石エネルギー
・資本
・労働力
消費者
集積場
前処理施設
リサイクル
施設
小売店
アウトプット
(生産排出)
・大気、水、土
壌への排出
・資源回収
・収益
・雇用
ライフサイクルインベントリ
手順3 最適
指標の特定
手順4 持続
可能性評価お
よび意思決定
環境指標
・温室効果ガスの排出
・非生物資源の消費抑制
・リサイクル率/資源回
収率
経済指標
・コスト便益
社会指標
・健康へのネットインパクト
・雇用機会
・所得に基づいた福利
・日本および選定されたアジア諸国における既存のWEEEリサイクルフロー
の持続可能性評価
・結論および政策提言
図4.3.1 研究手法の基本的な枠組み
LCA手法は基本的に、研究対象地の選定、WEEE管理システムのライフサイクルインベントリ分析
(ライフサイクルのインプットおよびアウトプットに基づいた優先問題を認識するため)、インベン
トリ分析結果からの最適指標特定、この指標群を用いた持続可能性評価、そして政策提言の5つの主要
な手順からなる。
115
(1)
研究対象地の選定
国内外のWEEEリサイクルシステムについてライフサイクルのインプットおよびアウトプットを特
定することは、持続可能性評価における重要な側面となる。しかし、これを複数の国について行う場
合、機器の用途種類、発生率、リサイクルシステムの処理能力、エネルギー構造、経済発展度、人口
密度などの違いにより、多くの偏差が想定される。したがって、国外の研究対象地の選定は慎重に行
い、アジア開発途上国全体を代表するような結果が得られるようにするべきである。
日本におけるWEEE管理の持続可能性評価については、WEEEフローの多様性や、異なるWEEE管理
についてのより信頼性が高く最新のデータの入手を念頭に置き、代表的な対象地3カ所を表4.3.1の通り
選定した。今年度はこの3県につき情報収集を行うとともに、評価手法の具体的なイメージを固める目
的で福岡県を事例としてとりあげ、評価手法のテストランを実施した(4.3.8に記述)。
表4.3.1 日本で選定した研究対象地におけるWEEE管理フローの一般的背景
研究対象地
WEEE管理の種類
福岡県
日本の高人口密度地域におけるWEEE排出状況の代表例となる
県(1 km2当たり人口密度=1020.45人)
岡山県
日本の中人口密度地域におけるWEEE排出・管理状況の代表例
となる県(1 km2 当たり人口密度=273.88人)
秋田県
日本の最低人口密度地域におけるWEEE排出状況の代表例とな
る県(1 km2当たり人口密度=95.40人)
4.3.2 指標特定およびWEEE管理の持続可能性評価のために開発されたライフサイクルアセスメント
(LCA)手法
本研究ではライフサイクル手法にしたがい、環境・経済・社会的側面からみたWEEE管理システム
の優先的指標の特定、そしてWEEEリサイクル手法の持続可能性評価を行う。したがって、持続可能
性の3つの柱について「ゆりかごから墓場まで」、包括的なライフサイクルアセスメント(LCA)手法
を実施する。同手法では、収集、1次・2次運搬、予備処理(解体)、リサイクル、資源回収など、WEEE
管理のライフサイクルにおけるすべての段階を含む。
ライフサイクルインベントリ分析は持続可能性評価における重要な手順のひとつとなる。同手順に
おいてはデータ収集と算出処理を行い、機能単位ごとのライフサイクルにおけるインプット(エネル
ギーと物質、コスト、労働力)およびアウトプット(排出、回収した資源、収益、地域への便益)を
定量化する。ライフサイクルの次の段階である影響評価においては、インベントリ分析の段階で特定
された物質とエネルギーの流れ、財源、ステークホルダー関与などに関わる環境・経済・社会的影響
/負荷を分析する。したがって、WEEE管理システムのライフサイクルインベントリ分析の結果に基
づき、3つの側面における持続可能性を評価するうえで最適の影響指標を特定することができる。本研
究のためのLCA手法開発は次項で述べる。
116
4.3.3 持続可能性評価のためのLCAの評価範囲の「拡大」および「深掘り」
本研究においては、ライフサイクルの考え方を用いて、日本ならびに選定したアジア諸国における
WEEEリサイクルプロセスの持続可能性評価を行うにあたり、適切な環境・経済・社会指標を特定す
る。メニクプラ(2011年)が述べているとおり、「従来の環境LCAの評価」範囲は、全体的なライフ
サイクルの持続可能性評価のために拡大および深掘りされることとなる。LCAの評価範囲の「拡大」
は、持続可能性の3つの柱を共通のLCA枠組みにより良く組み込むことによって行う。LCAの評価範囲
の「深掘り」は、最終的な損害/影響を測定する方法の追加、および(または)測定の高度化によっ
て行う。こうしたLCAの概念範囲の修正を通じて、その適用性が改善され、3つの側面からの持続可能
性評価の信頼性や有用性が向上する。LCAの評価範囲の「拡大」および「深掘り」を図式化したもの
を図4.3.2に示した。
出典
Menikpla 2011
図4.3.2 従来のLCAの評価範囲からの 「拡大」および「深掘り」を示した図式
4.3.4 機能単位
機能単位は、LCA手法の目的・評価範囲の段階の一部として定められる。機能単位の主な目的は、
インプット・アウトプットデータを(数学的な意味で)標準化するための基準を設けることだ。また、
様々なWEEEリサイクルフローの比較も、同一の機能単位を基にして行うことが可能である。したが
って、WEEE管理における機能単位は、WEEEの種類、発生台数、各機器別の構成素材割合、国内およ
び国外における機器別の総資源リサイクル量などの主要指標を考慮して設定すべきだ。本研究では、
エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の4種類の主要WEEEを検討する。
117
なお、WEEE製品は製品の寸法(長さ・幅)、質量、および製造のための素材用途の面でそれぞれ
異なる。機器の分類別に機能単位を定めた場合、分析が困難となる。したがって、本研究では機能単
位を、各年度における上記4機器の「WEEEリサイクルの平均単位重量」と定義する。各機器グループ
の機能単位を推計できれば、選定した国の年度ごとの全体的な環境・経済・社会影響を容易に算出す
ることが可能となる。
4.3.5 システム境界/LCA枠組みの設定
WEEEリサイクルの「ライフサイクル持続可能性評価」を行うにあたり、従来の LCAにおけるシス
テム境界を拡大し、適切なLCA枠組みとなるようにした。この枠組みには、収集(消費者~集積所)、
1次・2次運搬、予備処理(解体)、リサイクル、および資源回収など、WEEE管理のライフサイクル
におけるすべての段階が含まれる。
また、システム境界の設定は、所要のライフサイクルシステムに入る環境・経済・社会的側面から
みたインプット、およびそこから出るアウトプットを特定するうえで重要である。以下で述べるよう
に、ライフサイクルにおける中心的なインプットおよびアウトプットの特定は、以下の主要な点につ
いて行う。
収集および運搬
WEEEの収集と運搬は膨大なエネルギーを必要とし、環境への排出を伴うことは、良く知られた事
実である。収集と運搬の方法によって、収集車両の効率性、運搬ルート、環境影響の深刻さは、アジ
ア諸国間で相当異なってくる。WEEE 収集と運搬に必要となるエネルギーは、非生物資源の枯渇やそ
の他様々な社会経済・環境影響の原因となる。現在、WEEEは相当量が処理コストの安価な途上国に
輸出されている。したがって、WEEEの収集、および収集済WEEEの国内または国外の処理施設への運
搬は評価プロセスに含まれるとみなされる。収集と運搬による影響を算出する基礎として、LCA手法
を通じた物質フロー分析とエネルギー収支を行う。運搬方法、運搬距離、使用する車両の種類および
燃料効率、廃棄物収集の頻度などの基本データを、各研究対象地について収集する。
WEEEの解体/リサイクル
解体とリサイクルは国内または国外でも行われる場合がある。したがって、各機器分類の平均単位
重量ごとのすべての素材の解体およびリサイクルプロセスは、その場所を問わずシステム境界に含ま
れるべきである。処理/加工場所を踏まえ、解体/リサイクルに関する資源利用データおよびその詳
細を考慮に入れるべきである。
電力消費
電力は、WEEEのリサイクルプロセスの様々な段階における設備や機械の稼働に求められる最も重
要なインプット資源のひとつである。したがって、選定した国での(系統連系型)発電プロセスにお
ける排出や化石資源消費は、インベントリ分析段階で考慮すべきである。その一方で、WEEEのリサ
イクルを通じて、相当量の物質を回収することができ、未使用の物質の代わりに利用することが可能
となる。したがって、発電のための化石資源利用およびそれによる排出、つまり未使用の資源を消費
118
する生産プロセスを回避することができる。各国の発電による資源の消費と排出は、WEEEリサイク
ルの環境影響を左右する指標のひとつとなる。アジア数カ国間の発電に使用する化石燃料の種類およ
び排出物の比較を表4.3.2にまとめた。
表4.3.2
日本およびその他アジア2カ国における発電による資源消費と排出
国名
日本
タイ *
インド***
発電エネルギー源別割
合
液化石油ガス(LPG)
/液化天然ガス
(LNG):35%
原子力:23%
石油:15%
石炭:6%
天然ガス :2%
水力 :19%
天然ガス :73.4%
石炭/褐炭 :20.2%
重油および軽油:0.70%
水力 および再生可能
エネルギー :5.40%
石炭 :53.3%
天然ガス :10.5%
石油 :0.90%
水力 :24.7%
原子力 :2.90%
再生可能エネルギー :
7.7%
1MWh(メガワット時)
発電当たりの化石燃料
消費量
褐炭 :197 kg
重油および軽油:2.03L
天然ガス :173 m3
石炭 :305 kg
天然ガス :24.3 m3
石油 :2.18 kg
排出物(1MWh発電当
たり)
二酸化炭素(CO2):566
kg
一酸化炭素(CO) :
0.461 kg
窒素酸化物(NOx ) :
1.77 kg
メタン(CH4 ) :0.0475
kg
二酸化硫黄(SO2) :
2.39 kg
粒子状物質(PM 10 ) :
0.542 kg
CO2 :648kg
CO :0.147 kg
NOx :1.64 kg
CH4 :0.0525 kg
SO2 :4.18 kg
PM 10 :0.00578kg
出典:*エネルギー省代替エネルギー・省エネルギー局(DEDE)・2008年、タイ発電公社(EGAT)・2008年、
*** 電力省・2009年、Chakraborty・2008年、Kannan・2005年
必要となる熱エネルギー
熱エネルギーは、WEEEの解体/リサイクルで必要となる主要インプットのひとつである。したが
って、化石エネルギー消費の種類、必要となる化石資源量、火炉の効率性、燃焼による排出などのデ
ータは、WEEEリサイクルの機能単位に関するシステム境界において考慮すべきである。化石燃料の
燃焼による国別の排出データは、本研究の評価対象国すべてについては入手できない可能性がある。
リサイクルの単位プロセスに必要とされる熱エネルギーを求めるうえでオンラインデータベース(エ
コインベントなど)が使用されている場合は、同量の熱エネルギーの生成に必要となる利用可能な追
加エネルギー源に基づき、各国の状況に調整する必要がある(データベースの値は欧州の状況を反映
している)。また、インベントリ分析において、各国の燃料源の燃焼による排出を考慮すべきである。
こうした調整は、分析作業の不確実性を回避するうえで有用となる。
119
ライフサイクルインベントリ分析
インベントリ分析の段階では、ライフサイクルの連鎖全体を調べるうえで、必要となるすべての環
境・経済・社会関連データを活用する。環境インベントリ分析に関しては、原料、エネルギー消費、
大気、水、土壌への環境排出といった、すべてのインプットおよびアウトプットを考慮すべきである。
また、WEEEリサイクルプロセスに関わるすべての費用と収益を、財務面での持続可能性評価の実績
に含めるべきである。財務情報を収集するには、1次集積所、2次集積所、運搬事業者、解体施設など
様々なステークホルダーからの協力が必要となる。
WEEE管理に伴う主要な社会問題としては、所得創出(主に途上国におけるWEEE販売)、雇用機会
の創出、健康被害のおそれなどが挙げられる。したがって、社会的影響を定量化するための関連デー
タは、現場データ(1次・2次集積所およびリサイクル事業者)、文献データ、プラントの記録、およ
び推計/算定として収集すべきである。持続可能性評価に必要となるデータの種類を表4.3.3にまとめ
た。
120
表4.3.3 ライフサイクルインベントリ分析に必要なデータ種類
持続可能性
評価
ライフサイクル
の段階
必要なデータ
・1次・2次集積所の1日当たりWEEE取扱能力、化石燃料消費量、および電
力消費量
WEEEの収集と
運搬
・WEEEの運搬に必要な化石燃料消費量、および収集車両の燃料燃焼によ
る排出量
・車両の仕様(積載量、運搬 距離)
環境面
WEEEのリサイ
クル
・各機器の構成素材割合、回収率、各素材のリサイクル性
・WEEEのリサイクルに必要な単位重量当たりの電力および熱エネルギー、
ならびに排出量
・リサイクルプロセスに必要な補助原料、およびその 排出量
回収不可能な微
細破片の処理
・回収不可能な 微細破片に含まれる物質の種類および量
・回収/リサイクル不可能な微細破片の処理に用いる技術の種類
・回収不可能な 微細破片の処理に必要な電力および熱エネルギー 、なら
びに排出 量
・回収不可能な物質(プラスチックなど)の燃焼による排出
WEEEの収集と
運搬
・1次・2次集積所の機械類および車両のコスト
・1次・2次集積所の稼働・維持管理コスト
・長距離運搬車両の操作・維持管理コスト
・収集車両の耐用性/耐用年数、車両の積載容量
・リサイクル施設の年間設備投資(用地費用、 設備コスト)
経済面
WEEEのリサイ
クル
・総稼働・維持管理コスト(人員、燃料、電力、水、補助原料、およびそ
の他の設備コスト)、保険、税
・回収資源の販売能力および価格
回収不可能な 微
細破片の処理
WEEEの収集と
運搬
・処理施設の設備投資(用地費用、機械コストなど)
・稼働・維持管理コスト(燃料、人員、設備、機械維持管理コスト)
・1次・2次 収集に必要な労働力
・長距離運搬に必要な労働力
・収集と運搬活動による健康問題のおそれ
・WEEE販売を通じた地域住民の所得創出
社会面
WEEEのリサイ
クル
・高技能・低技能人材の雇用機会の創出
・従業員の福利厚生
・解体/リサイクルにより生じるおそれのある健康問題
・従事者/労働者の所得創出の可能性
回収不可能な 微
細破片の処理
・高技能/低技能人材の雇用機会の創出
・従業員の福利厚生
・回収不可能な微細破片の処理による健康問題のおそれ
121
4.3.6 持続可能性評価のための最適指標の特定
持続可能なWEEE管理には、環境・経済・社会影響の定量化および比較を助けるための手法やツー
ルが必要である。持続可能性の指標は、環境、経済、社会、技術的進歩といった分野で様々な国や企
業業績に関する情報伝達においての政策決定やパブリック・コミュニケーションにとって有用なツー
ルとして認識されつつある。本研究では、環境に配慮した使用済み製品の管理 、資源効率、およびグ
リーンジョブ・国際的なリサイクル産業振興といった研究目標を達成するための優先的指標群を特定
した。
(1)
環境に配慮したWEEE管理
環境的持続可能性とは、資源の合理的消費と環境汚染の低減に集約される。環境評価に関する優先
的問題は、各国の規則や規制、基準によって異なる。しかし、WEEE管理による環境排出に伴う主要
環境負荷を計測する際、リサイクルによる物質回収を通じた環境負荷の軽減可能性も含められるよう、
温室効果ガス(GHG)の正味排出量と健康へのネットインパクトの2つの主要指標を特定した。これ
らの指標について、以下の項で詳しく説明する。
温室効果ガス(GHG)の正味排出量
廃棄物管理手法ごとの温室効果ガス(GHG)排出可能性は、持続可能性の評価において重要となり
つつある。現在、地球温暖化は最も大きな環境的脅威のひとつであり、WEEE管理も人為的GHG排出
における相当大きな原因となっている。WEEE管理は一方において、すべての段階において相当量の
化石エネルギー(化石燃料、電力など)を消費し、様々なGHG(二酸化炭素(CO2)、亜酸化窒素(N2 O)、
メタン(CH4 )など)の排出原因となっている。そのため、ライフサイクルの各段階において、すべての
GHG排出可能性を推計するべきである。その一方で、WEEEリサイクルを通じた物質回収により、未
使用資源の生産や利用を代替できるため、これらの生産・利用プロセスに伴うGHG排出は回避するこ
とができる。したがって、WEEE管理によるGHG排出回避/削減可能性を考慮すべきである。全体と
しての気候への影響やWEEE管理の便益は、ライフサイクル全体を通じた排出と間接的かつ最終段階
におけるGHG排出削減の両方を含めた、GHGの正味排出量によって決定される。したがって、意思決
定や政策提言を行うにあたり、GHGの正味排出量を算出すべきである。
WEEE管理によるGHGの総排出量および正味排出量は、それぞれ以下のように計算する。
GHGGross = ∑ (QiC × EFi ) + ∑ (QiT × EFi ) + ∑ (QiTF × EFi )
GHGNet = GHGGross − ∑ (Qi PA × EFi )
Qi :物質iの量
C :1次・2次収集
T :運搬
TF :処理施設
PA :回避可能量
EFi :i番目の物質の等価係数
122
本研究ではGHGによる気候影響の集計において、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が推奨す
るGHG等価係数を使用する(CO2:1、CH4 :25、N2O:298)。(Forster et al. 2007)
健康へのネットインパクト
健康被害はWEEE管理に伴う最大の問題のひとつである。健康問題はWEEEの取り扱い、処理、およ
び処分のすべての段階に直接的(有害物質への曝露)または間接的(汚染された水、土壌、食品の摂
取)に関わっている。WEEEには毒性の強い化学物質が含有されている(鉛、カドミウム、水銀、ベ
リリウム、臭素系難燃剤(BFR)、ポリ塩化ビニル、リン化合物など)。これらの化学物質の多くは
ガンや呼吸器疾患、生殖系問題を引き起こすとして知られている。事実、過去のいくつかの研究では、
電子産業に従事する労働者の肺ガンや咽頭ガン、鼻腔ガン、乳ガン、膀胱ガン、脳腫瘍のリスクが相
当高かったことが示されている。WEEEリサイクルに従事する労働者は、WEEEの粉砕や処分中に重金
属や毒性のある難燃性化学物質に曝露している。リサイクル・処分が適切に行われなかったためにこ
うした危険が生じる場合も多い。
健康への総インパクトを定量化する指標として、世界保健機関(WHO)と世界銀行が開発した障害
調整生存年数(DALY)の考え方を用いることができる(PRé Consultants 2001)。なお、「健康被害」
は環境排出が原因となって生じるものの、健康保護は社会全体の利益となるため、同指標は社会的指
標とみなすこともできる。
様々な種類の健康被害を集計するにあたり、障害の比較による重み付けを行うためのツールが必要
となる。これは、毒性物質の排出影響による生命損失年数(YOLL)および 障害生存年数(YLD)に
よって示される。実際の健康インパクトは、自然環境中の汚染物質の運命、およびそれが人間の福利
に及ぼす影響によって決定される。DALYは総健康被害を推計するためのツールとして使用でき、複
数の健康インパクト経路の最終的な影響を説明することができる。
被害係数は、死亡率/深刻な罹患率から導くことができ、疾病別の罹患値は同一または異なる汚染
物質により求めることができる(Steen 2000)。したがって、同モデルを用いて、影響の深刻度を恒久
的な損失生存・障害年数として容易に説明することが可能となる。
個別の健康インパクトによる総健康被害は以下のように計算することができる。
DALY(人数-年数)=死亡率(YOLL)+ 深刻な 罹患率 (YLD)+罹患率 (YLD)
WEEE管理によって生じ得る健康インパクトを考慮した総健康被害の一般計算式は以下 となる。
DALYs = ∑ (Gi ∑ H mortality ⋅a + Gi ∑ H severe morbidity ⋅a + Gi ∑ H morbidity ⋅a )
i
a
a
a
Gi:ライフサイクル全体を通じて排出される汚染物質iの量
Hmortality(死亡率) a 、H severe morbidity(深刻な
罹患率) a
、Hmorbidity(罹患率) a :汚染物質 i が原因となった疾病
経路aによる健康への被害係数
(2)
資源効率
多様な物質への需要は新興国をはじめとして世界中で高まっており、金属の安定供給確保は重要な
問題とみなされていることから、WEEE管理は重要な役割を果たす(Oguchi 他、2011年)。適切な
123
WEEE管理は、準備賦存量とみなすことのできる2次資源量の最大化に寄与する。したがって、収集、
事前選別、予備処理、およびリサイクルは、各種類のWEEEの2次金属資源としての特徴を考慮し、秩
序立てて行うべきである。選定した国の資源利用効率におけるWEEE管理の総寄与を算出する際は、
以下の資源の正味消費抑制量と、リサイクル率および資源回収率 を指標として用いる。
資源の正味消費抑制量
化石エネルギーおよび金属資源は一国の発展にとって極めて重要だが、これらは限りある資源であ
り、持続可能性に欠ける。事実、世界の石油・金属賦存量は、高い消費率を背景に急速に枯渇してい
る。WEEE管理プロセスも、1次・2次収集、運搬、およびリサイクルをはじめとして化石エネルギー
の消費と関わりがあり、その意味で限りある資源の枯渇に加担している。その一方で、WEEEのリサ
イクルを通じて相当量の資源抽出に寄与することも可能である。最近では、WEEEは貴金属やレアメ
タルを含む様々な金属を含有していることから、こうした多様な金属資源の第2の源とみなされつつあ
る。さらに、プラスチックやゴムといった素材も相当量回収できる可能性がある。リサイクルによる
レアメタルなどの物質回収により、未使用物質・金属の使用を代替できるため、未使用資源の消費抑
制に寄与する。したがって、WEEEからの物質回収は、非生物資源の枯渇抑制のために未使用の化石
燃料・金属消費を代替する良い解決策となる。本研究では、WEEEリサイクルによる資源の正味消費
抑制量は、リサイクルプロセスに使用される資源と回収される資源の両方を考慮して算出する。
非生物資源の総使用量および正味使用量は以下のように計算する。
ARGross (i ) = ARC (i ) + ART (i ) + ARTF (i )
AR Net (i ) = ARDGross (i ) − ARRM (i ) = mi
ARGross(i ): 非生物資源 iの総量
ARC(i) :1次・2次収集における非生物資源の使用量
ART :運搬における非生物資源の使用量
ARTF :処理施設における非生物資源の使用量
AR RM(i) :物質回収による非生物資源 i の保存量
mi :資源 i の抽出/消費抑制の正味数量
非生物資源 iの枯渇可能性は以下のように計算できる(Guinée、2001年)。
ADPi =
DRi
(Ri ) 2
×
( R ref ) 2
DR ref
ADPi:非生物資源 iの枯渇可能性
Ri :資源 iの究極賦存量(kg)
DRi :資源 iの抽出率(kg.y-1 )
Rref :基準資源の究極賦存量(アンチモン kg)
124
DRref :基準資源の抽出率(kg.yr–1 )
ADP = ∑ ADPi × mi
i
非生物資源の正味消費抑制量を計算する際は、重み付けの段階において様々な資源について集計す
べきである。これは極めて主観的なものとなり得る。
リサイクル率および資源回収率
WEEEリサイクル率もしくは資源回収率は、資源の効果的利用を定量化するための適切な目安とな
る。これにより、単位重量当たりのリサイクル済みWEEEが、新たな鉱石の採掘を回避するうえで、
どの程度寄与しているかを知ることができる。さらに、同指標はリサイクルプラントの性能を評価し、
「リサイクルプラントがいかにうまく機能しているか」を示す。個別の品目別にリサイクル率を設定
することにより、すべてのステークホルダー層の目標達成意欲を向上させ、それにより国全体の資源
効率を高める。また、各国間のリサイクルシステムの効率性を比較するうえでも、これは適切な指標
である。WEEEの種類別のリサイクル率は以下の数式を使って算出する。
リサイクル率
(3)
リサイクル済み量もしくはリサイクル可能な資源量
=
総リサイクル量
×
100
グリーンジョブおよび国際的なリサイクル産業振興
グリーンジョブの創出を通じた貧困軽減や経済発展は、国際的なリサイクル産業振興を目指すうえ
で重要な側面のひとつとなるだろう。現在、多くの途上国において地域における失業が個人の心身の
健康に何らかの影響を及ぼしている。また、失業は、家族の緊張や対立の増加、心身の健康悪化、家
庭内暴力、社会における犯罪増加などをもたらす場合もある(Jørgensen 他、2008年)。
適切なWEEE管理システムを導入することにより、雇用機会やその他の所得機会の創出が促され、
それによる地域経済成長を通じて生活水準を向上させることが可能となる。先進国では消費者は、有
料または無料で廃機器の引き渡しをする。しかし、途上国ではWEEEは潜在的価値のある資源と見な
されているため、消費者や企業はWEEEの引き渡しと引き替えに対価を得ようとする。したがって、
途上国では廃棄物が収集事業者、加工事業者、中古販売業者、および消費者の間で販売・取引される
ことから、WEEE 産業は個人と企業の両方に所得創出機会をもたらし得る(Hicks 他、2005年)。ま
た、集積所、運搬事業者、解体・リサイクル施設における高技能および低技能労働者の雇用機会をも
たらすことで、世帯所得の増加やそれによる貧困削減が進み、個人およびその家族の生活水準の向上
が可能となる。
このように実際、雇用機会の創出および世帯所得の増加は、衣食住や公衆衛生、健康、識字レベル、
および幸福度などの福利を測る指標と相互に関連している。選定した国のグリーンジョブの創出を通
じた貧困軽減や経済発展効果については、以下の雇用機会と、所得に基づいた福利の2つの指標を用
いて評価する。
125
雇用機会
質の面(安全な労働環境、健康保険、職場での訓練)および量の面での雇用機会向上は、持続可能
なWEEE管理を目指すうえで適切なアプローチといえる。個別のWEEEリサイクルシステムによるグリ
ーンジョブ創出の可能性を推計することは、将来の社会的福利やそれによる経済発展を知るうえで適
切な指標といえる。潜在的な雇用機会創出は、すべてのWEEE管理段階を考慮した社会的ライフサイ
クルアセスメントの考え方に基づいて開発された一般数式によって算出される。同数式では、WEEE
リサイクルの平均単位当たりの必要労働時間に着目している。
PEO (労働時間/単位) =
( LR c × TC ) ( NTV × LR pervehicle ) LRTF LR I
+
+
+
TU C
TU T
TU TF TU I
PEO: 潜在的雇用機会
LRC: 1次・2次収集に必要な労働量(集積所当たり労働時間)
TC:個別の研究対象地における集積所の総数
TUC: 1日当たりの集積所ごとの総取扱単位数
NTV:運搬車両の台数
LRper vehicle(車両1台当たり): 車両1台当たりに必要な高技能・低技能労働量(車両1台当たり労働時間)
TUT :1日当たりの総運搬単位数
LRTF:処理(解体およびリサイクル)施設に必要な高技能・低技能労働量(1日当たりの労働時
間)
TUTF:施設で処理された1日当たり総単位数
LRI: 間接的活動(事務など)に必要な高技能・低技能労働量(1日当たりの労働時間)
TUI: 間接的に取り扱いされた1日当たり総単位数(1日当たりの労働時間)
所得に基づいた福利
福利は、グリーンジョブおよび間接的な所得創出機会の創出の結果として向上する。技能水準に基
づく様々な賃金帯の有給雇用の時間数は、個人およびその家族の基礎的ニーズを満たすのに十分とな
る。適切なWEEE管理活動による福利に基づく所得向上の結果、「より良い生活」を手に入れた人の
数は、WEEE管理1単位による潜在的所得創出要因を平均生活費で除すると算出できる(表 4.4参照)。
生活水準の向上(単位当たり人数) =
∑ ( PEO × TW ) + I
i
i
indirect
i
COL
PEOi: i番目の水準の潜在的雇用機会(単位当たり労働時間)
TWi: i番目の水準の賃金レート(1時間当たり金額)
Iindirect(間接) :間接的活動による所得創出(単位当たり金額)
COL: 生活費 (1人当たり金額)
126
4.3.7 持続可能性の評価手法の改善のためのさらなる研究
より包括的な持続可能性評価を行うためには、WEEE管理における持続可能性の柱である環境・経
済・社会的側面のすべてを、図1に示した単一の概念枠組みの下で評価すべきである。これまでに開発
された手法は、WEEE管理の環境および社会的問題に関する重要な問題しか網羅していない。経済は
WEEE管理において非常に重要な要素であり、それゆえLCAを用いて、環境と同様に秩序だった形で
分析することが重要である。このように、ライフサイクル全体を考慮してWEEE管理プロセスの経済
的実現性を定量化するには、プロジェクトの次段階で関連経済指標を特定し評価するべきであろう。
費用便益分析やライフサイクル費用計算は、WEEE管理の経済的特性を測るための指標となり得る。
4.3.8 事例研究:日本の家電リサイクルシステムからのGHG排出推計の実施
本手法での分析結果の例を示すために、日本の家電リサイクルシステムからのGHG排出推計を実施
した。本研究は、福岡県の事例(正確には、福岡県に所在する最大手の家電リサイクル施設を中心と
した家電リサイクル法の下での家電リサイクルシステム)から得られたデータを活用し家電リサイク
ルからの温室効果ガスの推計を行ったものである。方法論について説明したように、日本において人
口密度の高い地域での使用済み家電の発生と管理状況をよりよく理解するために福岡県の事例を選択
している。この推計は、あくまで本手法を活用した場合の分析イメージとして行ったものであり、使
用データおよび推計結果については、さらなる精査が必要である。次年度において本手法の開発をさ
らに進めたうえで、秋田県、岡山県についても事例研究を実施する予定である。推計内容の詳細につ
いては、本章末の補論4.3を参照されたい。
評価の段階では、使用済み家電のリサイクルプロセスに関するすべての活動からの温室効果ガス発
生に関する基本データを発見するためにインベントリ分析を実施した。特に、指定引取所から家電リ
サイクル施設への運送およびリサイクルプロセス全体に関わるエネルギーと物質消費に関する情報を
得るために、事例研究対象とする家電リサイクル施設に対して特定の情報を得るための実地調査およ
び聞き取り調査を行った。また、天然資源からの物質の製造からの温室効果ガスを定量化するために、
既存の文献を調査し、活用した。しかし、本試算は非常に限定的なものであるということに留意する
必要がある。というのも、排出者からの1次収集および、解体・分別後のスクラップの精錬に関する
データは、次年度以降に収集予定であるためである。そのため、リサイクルプロセスの全体の温室効
果ガス排出の推計には至っていない。そのため、これまでの進捗を図4.3.3に示した。
127
図4.3.3 家電リサイクルからの温室効果ガス発生に関してデータ収集の進捗状況
(1)
使用済み家電の輸送に関わる温室効果ガス発生
福岡県の事例における指定引取所から家電リサイクル施設への使用済み家電の輸送に伴う重量トラ
ック(10トントラックが使用されている)の活用による温室効果ガス発生量を分析した。
複数の家電リサイクル施設(福岡県以外も含む)からの聞き取り調査などの結果から、平均的な使
用済み家電の積載量は10トントラックに対して4トン/移動であり、燃料効率は往復で平均3.5 km/L で
あることが分かった。指定引取所から家電リサイクル施設への平均距離は62 kmであると推計された。
これらの情報に基づいて、使用済み家電の輸送に伴うディーゼル燃料の使用に伴う温室効果ガス発生
をIPCC-tier 1アプローチを活用して計算した。すべての試算は、日本の家電リサイクル法で対象とな
っている家電の種類の1製品ごとの平均重量を活用した (e.g; テレビ- 28 kg/unit; エアコン- 43 kg/unit;
冷蔵庫- 58kg/unit; 洗濯機- 32kg/unit) (家電リサイクル年次報告書
平成23年度版)。
本分析によれば、表4.3.4に示したように使用済みテレビ、エアコン、洗濯機、冷蔵庫の輸送に伴う
温室効果ガスの発生量は、それぞれ平均0.459 kg CO2 -eq/unit, 0.612 kg CO2-eq /unit, 0.765 kg CO2-eq /unit
そして1.835 kg CO2-eq /unit となる。
表4.3.4 日本・福岡県の事例における使用済み家電の温室効果ガス発生
Item
Ave transported
units/trip
Television
Air conditioner
Washing Machine
Refrigerator
200
150
120
50
Ave fuel required
per round trip for
124 km (L/round
trip)
35.43
35.43
35.43
35.43
注:4家電の1製品単位での平均を試算
128
Total CO2
emission per
round trip (kg
CO2/round trip)
91.760
91.760
91.760
91.760
Average CO2
emissions per
unit (kg
CO2 -eq/unit)
0.459
0.612
0.765
1.835
(2)
使用済み家電のリサイクル活動に伴う温室効果ガス発生量の推計
事例研究の対象とした福岡県の最大手の家電リサイクル施設では、年間約3万トンの家電をリサイク
ルしているという情報が公開されている。家電リサイクル施設での解体・リサイクル段階における温
室効果ガス発生量、関連設備の使用に伴う主に化石燃料と電力の利用によるものだと考えることが出
来る。電力、軽油、LPGが表4.3.5に示したようにこうした施設の操業に使われている。
リサイクルプロセスで活用されるエネルギーそれぞれの種類に応じた温室効果ガスの発生は、CO2
emission factorsに基づいて推計した。たとえば、ディーゼルとLPGの燃焼に伴う温室効果ガスの発生は
それぞれ、0.0687 kg CO2-eq/MJ 、0.0598 CO2-eq/MJ となる。また、日本での電力供給の利用に伴う温
室効果ガスの発生は、0.555 kg CO2-eq/kWh (NIES, 2013)である。 これらの既存の推計値に基づいて、
家電4品目ごとのリサイクルに伴うエネルギー種ごとの温室効果ガス発生量を推計した。その結果、冷
蔵庫のリサイクルが最も温室効果ガスを使用する (5.029 kg CO2-eq/unit) となり、表4.3.6に示したいよ
うにエアコン(3.766 kg CO2-eq/unit), 洗濯機(2.747 kg CO2 -eq/unit) テレビ (2.443 kg CO2-eq/unit)という
順に 温室効果ガス発生が多いと推計された。
使用済み家電のリサイクルに伴う温室効果ガス発生の全体量を定量化するために、ライフサイクル
の各段階からの温室効果ガス推計を合計した。この段階では、指定引取所から家電リサイクル施設へ
の輸送およびリサイクル段階での温室効果ガスが合計され、各家電の1製品・重量あたりの温室効果ガ
ス発生量が推計された。その結果、図4.3.4に示したように、リサイクルシステムからの温室効果ガス
は、冷蔵庫(6.864 kg CO2-eq/unit)、エアコン (4.377 kg CO2 -eq/unit)、洗濯機(3.512 kg CO2-eq/unit) テレ
ビの順番に(2.902 kg CO2-eq/unit)なる。
129
表4.3.5 リサイクル量に基づいたリサイクルのエネルギー使用量の割り当て
Air
Televisions
conditioners
Estimation of number of WEEE units recycled in Fukoka
Total weight of the recycled units Japan in
86
108
2005 (1000 tonnes)
Percentage of each appliance based on
19%
24%
mass
Allocation of total amount of recycled
5,746
7,216
WEEE based on mass (tonnes)
Average weight of a unit (kg/unit) (Japan
43
28
average)
No of units recycled annually in Fukoka
132,962
257,372
Description
Refrigerators
Washing
machine
Total
162
93
36%
21%
10,824
6,214
58
32
187,550
197,105
449
30,000
774,989
Mass based allocation of energy utilization
10,000
(i) Total diesel consumption (L/year)
Allocation of diesel based on mass of
each type of appliance (L/year)
Diesel consumption per unit (L/Unit)
(ii) Total electricity consumption (kWh/year)
Allocation of electricity based on mass of
each type of appliance (kWh/year )
Electricity consumption per unit
(kWh/Unit)
(iii) Total LPG consumption (kg/year)
Allocation of LPG based on mass of each
type of appliance (kg/year )
LPG consumption per unit (kg/Unit)
1915
2405
3608
2071
0.0144
0.0093
0.0192
0.0105
4,280,111
819,799
1,029,514
1,544,272
886,526
6.17
4.00
8.23
4.50
70,000
13,408
16,837
25,256
14,499
0.1008
0.0654
0.1347
0.0736
表 4.3.6 使用済み家電ごとの温室効果ガス発生推計
Description
Air
conditioner
Televisions
Refrigerators
Washing
machine
0.037
0.024
0.050
0.027
3.422
2.220
4.570
2.496
0.307
0.199
0.409
0.224
3.766
2.443
5.029
2.747
GHG emissions from diesel utilization (kg
CO 2 -eq/Unit)
GHG emissions from electricity
consumption (kg CO 2 -eq/Unit)
GHG emissions from LPG consumption (kg
CO 2 -eq/Unit)
Total GHG emissions from recycling (kg
CO2 -eq/Unit)
130
GHG emission (kg CO2-eq/Unit)
GHG emission from recycling
6.864
8.000
6.000
GHG emission from transportation
4.377
3.512
2.902
4.000
2.000
0.000
Air conditioner
Television
Refrigerator
Washing
machine
注:家電の1製品あたりの平均重量から計算
図4.3.4 家電リサイクルからの温室効果ガス発生
(3)
循環資源の回収に対する天然資源からの製造との温室効果ガス発生比較
使用済み家電から回収された資源は、再生され何度も使用することが可能になる。その結果、こう
した資源を天然資源の段階で採掘し、精錬することを削減することが可能になり、その結果エネルギ
ーと資源の利用量を削減した上で、環境負荷を削減することが出来る。使用済み家電のリサイクルの
効果を「見える化」するためには、上記で試算したリサイクルからの温室効果ガス発生量を同じ資源
を天然資源から日本で生産する場合と比較することは意味がある。2005年の段階で、それぞれの使用
済み家電からの資源回収率は、テレビ77%, エアコン84%, 洗濯機75% そして冷蔵庫 67%であった。
しかし、実際のリサイクルにより、資源回収され資源として再生される実際の量は、それぞれの資
源の種類のリサイクル可能性に依存している。そのため、リサイクル施設で回収されたすべての金属
のリサイクル可能性は95%と仮定した。また、プラスチックについては不純物を考慮に入れて、90%
とした。本研究では、ヨーロッパの状況を活用し天然資源からの生産のインベントリデータを活用し
た。しかし、本分析は、天然資源のデータについては、日本の実態に合わせて、日本における天然資
源からの生産に関するデータを活用することが可能であれば、次年度以降改善される必要がある。本
研究では、それぞれの使用済み製品から回収される資源をバージンから生産した場合の温室効果ガス
排出量は、エアコンについては、133.84 kg CO2-eq/unit weight、テレビが32.36 kg CO2-eq/unit weight 、
冷蔵庫が118.59 kg CO2-eq/unit weight 、そして洗濯機が70.73 kg CO2-eq/unit weight となる。
(4)
使用済み家電のリサイクルからのネットでの温室効果ガス発生の推計
使用済み家電管理の温室効果ガス対策上の便益は、リサイクルシステムでの温室効果ガス発生量と、
さらに資源回収と再生による天然資源の代替による温室効果ガス削減効果を勘定することで、ネット
での温室効果ガス排出がどうなるかということにかかっている。使用済み家電リサイクルの温室効果
ガスに対するネットでの寄与量を定量化するために、使用済み家電ごとに回収される資源のリサイク
131
ルを考慮に入れて、そうした循環資源と天然資源からの物質生産との温室効果ガス発生の比較を行っ
た。
図4.3.5に示したように、製品単位ごとのリサイクルを通じた温室効果ガス削減量の推計は、エアコ
ン -129.46、テレビ -29.45、冷蔵庫 -111.72 そして洗濯機 -67.21 kg CO2-eq と推計できた。使用済み
家電ごとのリサイクルがすべて、ネットでの影響がマイナスになっているということは、天然資源か
らの物質生産よりもリサイクルの方が、温室効果ガスの発生量がきわめて低いことを示している。す
なわち、リサイクルにより天然資源からの金属資源の生産が回避されたと仮定することにより、すべ
ての使用済み家電において、温室効果ガス発生回避効果があると想定することができる。
図4.3.5
(5)
WEEEリサイクリングからのGHG排出量と天然資源からの物質生産によるGHG排出量の比較
事例研究の結論
本分析は、福岡県に存在する九州北部一円を対象とした家電リサイクル施設の事例を活用し、日本
の人口密度が高い地域での家電リサイクルの効果を推計する試みの一部である。リサイクルプロセス
全体のライフサイクルでの温室効果ガスの推計を行う試みとして、リサイクルシステムの各段階(た
だし、今回は、排出者から指定引取所については含まれていない)の温室効果ガスの推計と勘定を行
うことを試みた。
上記の分析結果から、使用済み家電のリサイクルシステムからのエネルギーの消費量は、相当量あ
り、温室効果ガス排出につながっていることが分かった。しかし、リサイクルシステムから回収され
る同量の資源を天然資源から生産した場合には、どの使用済み家電の品目のリサイクルから発生する
温室効果ガスよりもはるかに高いことが分かった。そのため、すべての使用済み家電のリサイクルに
おいて、ネットでの温室効果ガス発生量はマイナスになるという結果となった。本研究により、使用
済み家電のリサイクルを通じて資源の回収・再生量が大きければ、天然資源からの資源生産に比して、
温室効果ガスの発生を抑制したということが言えることになる。
本分析は、現在開発中のリサイクルシステムの持続可能性評価の枠組を一部活用して、その評価指
標の一つについて試算してみたものに過ぎない。また、使用しているデータや仮定についても限定的
132
であり、使用済み家電リサイクルの温室効果ガス発生に関するすべての面を含むものではない。しか
し、こうした限定を置いても、本分析枠組みを活用し、データを精緻化すれば、日本における循環型
社会推進の意義および世界の他の国々で3Rを推進する意義を「見える化」するための政策情報ツー
ルとして有意義な手法となる可能性がある。
133
4.4
本章の結論
本研究は、3年間を通じて、我が国の循環型社会及びアジアでの循環型社会形成を促進する観点から、
我が国のリサイクル法の下でのリサイクル、リサイクル法の外での海外への中古品やスクラップの輸
出とそれに伴うリサイクル、アジア途上国のインフォーマルなリサイクル市場でのリサイクルなどの
持続可能性の比較評価を目指している。そうすることで、近接循環、広域循環、国際資源循環の効果
的な組み合わせ方に関する示唆を得ることを目指している。
この目標に向けて、初年度は、我が国のリサイクルシステムの評価手法を検討した。リサイクルシ
ステムの持続可能性を評価する上で、「使用済み製品の適正処理と環境負荷の低減」、「省資源・資
源効率」、「環境産業の育成」をリサイクルシステムの目指す目的と解釈した。
各種リサイクル法の特性を比較したうえで、上記の目的に即した評価対象として、家電リサイクル
システムと自動車リサイクルシステムを検討した。その結果、家電リサイクルシステムを事例に、持
続可能性評価手法の更なる開発を進めていくことが効果的であるとの結論を得た。
そのうえで、家電リサイクルシステムを事例として、持続可能性評価手法を開発する上で必要なデ
ータ収集とその評価を試みた。具体的には、収集運搬に関連するデータ、製品データ、資源化データ、
環境影響データを、公的データとして得られる環境統計・貿易統計、中央環境審議会・産業構造審議
会のリサイクル法関連の部会などの資料を活用して、収集することを試みた。また、個別の施設に関
するデータは、直接訪問やメールなどを活用したヒアリングを行い、収集を試みた。こうしたデータ
を活用し、例えば、リサイクルシステムのロジスティックスを分析に反映するために、指定引取所か
ら再資源化工場までの収集運搬に関する推計を行った。また、既存のデータを活用すれば、家電リサ
イクル法が、最終処分場の延命化にどれほど寄与しているのかという試算が可能であることも示した。
持続可能性評価手法については、アジアでの途上国のリサイクルなどとの比較を目指していること
を考慮に入れた手法の開発を試みた。この手法に、ロジスティックスの要素を反映するために、人口
密度が高く使用済み家電の排出量が大きいと考えられる地方(福岡県)、中規模と考えられる地方(岡
山県)、人口密度が低く使用済み家電の排出量が小さいと考えられる地方(秋田県)をカバーする家
電再資源化工場を事例とする手法を考えた。ライフサイクル分析の手法を拡張し、持続可能性評価を
行うための手法を検討した。上記、「使用済み製品の適正処理と環境負荷の低減」、「省資源・資源
効率」、「環境産業の育成」の目的について、それぞれ2指標を計算するための計算手法も示した。
最終的に、この持続可能性評価手法の有効性を示すために、リサイクルシステムにおける温室効果
ガス排出を、家電4品目の製品単位ごとに試算してみた。本分析手法は、現在開発中のリサイクルシス
テムの持続可能性評価の枠組を一部活用して、その評価指標の一つについて試算してみたものに過ぎ
ない。また、使用しているデータや仮定についても限定的であり、使用済み家電リサイクルの温室効
果ガス発生に関するすべての面を含むものではない。しかし、こうした限定を置いても、本分析枠組
みを活用し、データを精緻化すれば、日本における循環型社会推進の意義および世界の他の国々で3
Rを推進する意義を「見える化」するための政策情報ツールとして有意義な手法となる可能性がある。
134
補論 4.3
日本の家電リサイクルシステムからの温室効果ガス排出の試算結果
A4.3.1 Introduction
The proposed methodology was adopted to quantify the environmental impacts from WEEE recycling
process chain in Japan. This part of the research was carried out to estimate Greenhouse Gas (GHG)
emissions from recycling of WEEE based on the data obtained from Fukoka Prefecture. As explained
in the methodology, the Fukoka prefecture was selected as the study location in order to understand
the situation of WEEE generation and management in high density population areas in Japan. At this
stage of the assessment, an inventory analysis was carried out in order to find out the basic data
related to GHG emissions from all the activities related to the recycling process of WEEE. A
comprehensive field survey was conducted and the necessary plant specific information was gathered
from Fukoka prefecture on energy and material consumption for secondary transportation and the
recycling processes. However, data on primary collection and recycling of scraps after dismantling
will be collected in the next phase in order to quantify the total GHG emissions from the entire life
cycle. The progress made so far on quantification of life cycle GHG emissions from WEEE recycling
is shown in Figure A4.1.
Figure A4.1: Phases covered and to be covered on quantification of life cycle GHG emissions from
WEEE recycling
A4.3.2 GHG emissions from WEEE transportation
The collected WEEE at the primary collection points are transported to the secondary collection
points. Required data for sustainability assessment from transportation of the collected WEEE from
primary collection points to the secondary collection points are yet to be gathered. In this phase, data
135
was gathered only for secondary transportation which means transportation of WEEE from secondary
collection points to the recycling facility by heavy duty-trucks. Although, the maximum loading
capacity of these types of trucks is 10 tonnes, the average load of WEEE transported is amounted to 4
tonnes/trip as home appliances required a large storing space. The average fuel consumption
efficiency of this kind of truck is approximately 3.5 km/L for a round trip. The average transportation
distance from collection points to the recycling facility is 62 km. Based on these information, GHG
emissions from the combustion of diesel fuel were calculated by using IPCC-tier 1 approach
(Waldron, et al., 2006). Energy content of the diesel fuel in Japan is 37.7 MJ/L and CO2 emission
factor from combustion of diesel fuel is 0.0687 kg CO2-eq/MJ.
According to this data, total fuel requirement for a 124 km distance (62 km × 2) round trip would be
35.43L. CO2 emissions from the combustion of this amount of diesel and the estimations per unit of
each types of WEEE are shown in Table A4.1. Emissions of N2O and CH4 from the combustion of
diesel fuel are assumed to be negligible. All the estimations have been done per average unit weight
of each type of appliance in Japan (e.g; Television - 28 kg/unit; Air conditioner - 43 kg/unit;
Refrigerator - 58kg/unit; washing machine - 32kg/unit) (Kaden recycle Annual report, 2011).
According to the analysis, the estimated GHG emissions from the transportation of television, air
conditioner, washing machine and refrigerator are 0.459 kg CO2-eq/unit, 0.612 kg CO2-eq /unit, 0.765
kg CO2-eq /unit and 1.835 kg CO2-eq /unit respectively.
Table A4.1
GHG emissions from WEEE transportation in Fukoka, Japan
Item
Television
Air conditioner
Washing Machine
Refrigerator
Ave transported
units/trip
200
150
120
50
Ave fuel required
per round trip for
124 km (L/round
trip)
35.43
35.43
35.43
35.43
Total CO2
emission per
round trip (kg
CO2/round trip)
91.760
91.760
91.760
91.760
Average CO2
emissions per
unit (kg
CO2 -eq/unit)
0.459
0.612
0.765
1.835
A4.3.3 GHG emissions from recycling activities of WEEE
Approximately, 30,000 tonnes of WEEE is being recycled per year at the Fukoka recycling facility
which is the study location. GHG emission from the recycling phase is mainly due to the utilization of
fossil fuel for the operational activities of the machines. Electricity, light oil and LPG are used as the
major energy sources for operational activities. Annual energy utilization rate for recycling of
approximately 30,000 tonnes of WEEE at the Fukoka plant in the year 2005 is shown in Table A4.2.
136
Table A4.2
Annual energy utilization for recycling activities in Fukoka
Type of energy
Fuel(light oil)
Electricity
LPG
Amount
10,000
4,280,111
70,000
unit
L/year
kWh/year
kg/year
The weight of each category of appliance which is recycled in Fukoka was estimated by using the
average composition of WEEE (mass basis) in Japan. According to the annual total mass of WEEE
recycling in Japan, the recycled mass of televisions, air conditioners, washing machines and
refrigerators amounted to 24%, 19%, 21% and 36% respectively (Kaden recycle Annual report, 2011).
It was assumed that the composition of WEEE in Fukoka plant is also similar to that of Japanese
average composition. In order to derive the annual energy consumption for each type of home
appliance recycling in Fukoka, the total annual energy consumption was allocated among the four
categories based on the estimated total mass of each category of appliances, see Table A4.3.
Table A4.3. Allocation of energy for recycling based on mass of recycling
Description
Air
conditioners
Televisions
Estimation of number of WEEE units recycled in Fukoka
Total weight of the recycled units
86
108
Japan in 2005 (1000 tonnes)
Percentage of each appliance based
19%
24%
on mass
Allocation of total amount of
5,746
7,216
recycled WEEE based on mass
(tonnes)
Average weight of a unit (kg/unit)
43
28
(Japan average)
No of units recycled annually in
132,962
257,372
Fukoka
Mass based allocation of energy utilization
(i) Total diesel consumption (L/year)
Allocation of diesel based on mass of
each type of appliance (L/year)
Diesel consumption per unit (L/Unit)
Refrigerators
Washing
machine
162
93
36%
21%
10,824
6,214
58
32
187,550
197,105
Total
449
30,000
774,989
10,000
1915
2405
3608
2071
0.0144
0.0093
0.0192
0.0105
(ii) Total electricity consumption (kWh/year)
Allocation of electricity based on mass
819,799
of each type of appliance (kWh/year )
Electricity consumption per unit
6.17
(kWh/Unit)
(iii) Total LPG consumption (kg/year)
Allocation of LPG based on mass of
13,408
each type of appliance (kg/year )
0.1008
LPG consumption per unit (kg/Unit)
4,280,111
1,029,514
1,544,272
886,526
4.00
8.23
4.50
70,000
16,837
25,256
14,499
0.0654
0.1347
0.0736
GHG emissions from each type of energy utilization for the recycling process were estimated based
on CO2 emission factors. For instance, CO2 emission factors from diesel and LPG combustion are
137
0.0687 kg CO2-eq/MJ and 0.0598 CO2-eq/MJ respectively. GHG emission from grid electricity
production in Japan is 0.555 kg CO2-eq/kWh (NIES, 2013). Based on these default values, GHG
emissions in respect of different types of energy utilization for recycling of each type of appliance
were calculated. Taking into account the GHG emissions from all kinds of energy utilization for
operational activities at the recycling facility, the total GHG emission was estimated, see Table A4.4.
According to the analysis, the highest GHG emission resulted from recycling of refrigerator (5.029 kg
CO2-eq/unit) followed by air conditioners (3.766 kg CO2-eq/unit), washing machines (2.747 kg
CO2-eq/unit) and televisions (2.443 kg CO2-eq/unit).
Table A4.4
GHG emissions from recycling of different types of WEEE
Description
GHG emissions from diesel utilization (kg
CO2-eq/Unit)
GHG emissions from electricity
consumption (kg CO2-eq/Unit)
GHG emissions from LPG consumption (kg
CO2-eq/Unit)
Total GHG emissions from recycling (kg
CO2-eq/Unit)
Air
conditioners
Televisions Refrigerators
Washing
machine
0.037
0.024
0.050
0.027
3.422
2.220
4.570
2.496
0.307
0.199
0.409
0.224
3.766
2.443
5.029
2.747
A4.3.4 Overall GHG emissions from recycling of process of WEEE
In order to quantify the overall GHG emissions from the recycling of WEEE, the estimated emission
from each phase of the life cycle were added up. It should be noted that GHG emissions from
transportation of WEEE from primary collection points to the secondary collection points and GHG
emissions from scraps recycling have yet to be calculated. At this stage, by adding the GHG emission
potential from secondary transportation and recycling, total GHG emissions per unit weight of each
appliance were estimated, see Figure A4.2. The highest total GHG emission resulted from recycling
of refrigerators followed by air conditioners, washing machine and televisions.
138
GHG emission (kg CO2-eq/Unit)
GHG emission from recycling
GHG emission from transportation
6.864
8.000
6.000
4.377
3.512
2.902
4.000
2.000
0.000
Figure A4.2
Air conditioner
Television
Refrigerator
Washing
machine
GHG emission from WEEE recycling (calculations have been done per average unit
weight of home appliance)
A4.3.5 GHG emission from virgin production of equivalent amount of materials
The materials recovered from the WEEE recycling can be used over and over again, minimizing the
need to mine and process virgin materials and thus saving substantial amounts of energy and other
resources while minimizing environmental degradation. The recycling of non-renewable resources is
often advocated as the solution to the potentially restricted supplies. It in indeed true that every
kilogram of resources that is successfully recycled obviates the need to locate and mine that amount
of kilogram from virgin ores. In order to realize the effectiveness of the recycling of WEEE, the
recycling emissions should be compared with the virgin production of the same amount of materials
in Japan. Therefore, these GHG avoidance/savings potential due to recovered materials from WEEE
management were accounted for.
According to the availability data of the recycling process of WEEE in Japan, a significant amount of
different types of materials/metals can be recovered. In the year 2005, the percentages of materials
recycled in Japan with respect to each category of appliance are 77%, 84%, 75% and 67% for
televisions, air conditioners, washing machines and refrigerators respectively. The percentages of
different types of materials/metals within the recycled amount of each type of appliance are shown in
Table A4.5. In other words, table 5 shows the amount of dissembled materials from each appliance to
be sent to the final recycling facility.
139
Table A4.5
Composition of materials of each type of home appliances
Type of metal/
materials
Fe
Cu
Al
Nonferrous(Mix
metal)
CRT glass
Plastics
Total
Percentage (%) of materials in each appliances to be recycled
Air
Washing
Television
Refrigerator
conditioner
machine
36.10
10.39
65.50
56.31
7.56
4.87
1.21
1.46
3.07
0.23
0.35
0.75
46.74
1.24
19.08
19.68
0.00
6.53
100.00
64.32
18.95
100.00
0.00
13.85
100.00
0.00
21.80
100.00
The amount of materials recovery would vary depending on the “recyclability” of each type of
metal/materials.
The “recyclability” refers to the exact amount of materials that can be recovered
per unit input of recyclables. In this study it was assumed that recyclability of all the metals would be
95% and the recyclability of plastic would be 90% due to impurities. The potential amount of
recovery materials were estimated based on the recyclability of each type of materials.
Inventory data for virgin production of different types of materials was obtained from various LCA
databases such as Ecoinvent, Simapro and SPINE (Pré Consultants, 2007; Hischier and St. Gallen,
2007; IAI, 2012). In this inventory analysis process, consideration was given for all the inputs and
outputs of virgin production per unit weight of material. It should be noted that inventory data used
for virgin resource production represent the European situation. This analysis might be modified in
the next phase if there is possibility to find virgin production data in Japan. As an example, Table
A4.6 shows the material recovery potential from air conditioners and the estimation procedure of
GHG emissions from an equivalent amount of virgin materials production. According to this analysis,
total GHG emissions from equivalent amount of virgin material production (34.53 kg of material/Unit
recycled) would be 133.84 kg CO2-eq/unit weight of air conditioner. Similarly, the analysis was
performed for other home appliances. The estimated GHG emissions from the virgin production of an
equivalent amount of materials would be 32.36 kg CO2-eq/unit weight of television, 118.59 kg
CO2-eq/unit weight of refrigerator and 70.73 kg CO2-eq/unit weight of washing machine.
140
Air Conditioner
Average unit
weight
Percentage of recyclable materials
Recycled weight
43
kg/unit
84
36.47
%
kg/unit
Table A4.6 Amount of materials recovered and GHG emissions from equivalent of virgin material
production
CO2 emissions
Amoun
CO2
Actual
Actual
from
t to be
emissions
Type of Materials
Recycla
recycled
equivalent
recycle
from virgin
after dissembling
% of materials
bility of amount of
amount of
d
production
air conditioners
material materials
materials
(kg)/un
(kg
s (%)
( kg /unit)
recovery (kg
it
CO2 -eq/kg)
CO2 -eq/Unit)
Fe
36.10
13.17
95
12.5075
3.20
39.98
Cu
7.56
2.76
95
2.6209
4.28
11.21
Al
Non-ferrous
metals
Glass
3.07
1.12
95
1.0636
8.87
9.43
46.74
17.05
95
16.1954
4.28
69.24
0.00
0.00
95
0.0000
0.97
0.00
6.53
2.38
90
2.1446
1.85
3.97
100.00
36.47
Plastics
Total
34.5320
133.84
A4.3.6 Net GHG emissions from recycling of WEEE
The overall climate impact or benefit of the WEEE management will depend on the net GHG,
accounting for both emissions from recycling and the indirect, downstream GHG savings by resource
recovery. Therefore net GHG emissions should be calculated in order to make the decision and policy
recommendations. In order to quantify the net GHG emission potential from WEEE recycling, GHG
emissions from an equivalent amount of virgin materials production processes were subtracted from
GHG emissions from recycling per unit weight of each type of home appliance. Net negative
magnitude values were resulted for all type of home appliances recycled indicating that recycling has
much lower emissions than that of the virgin production process. The estimated net GHG emissions
from recycling per unit weight of air conditioner, television, refrigerator and washing machine
amounted to -129.46, -29.45, -111.72 and -67.21 kg CO2-eq respectively, see Figure A4.3. The
resulted net negative values indicate that there is a significant contribution from recycling of all kind
of WEEE for mitigating GHG emissions that would otherwise occur through the virgin production
process of an equivalent amount of metal/resources.
141
Figure A4.3 GHG emissions from recycling of WEEE, virgin production of equivalent
amount of materials and net GHG emissions
A4.3.7 Conclusion
This study convincingly demonstrates the life cycle effects of WEEE recycling on GHG mitigation.
This analysis was done based on the situation of Fukoka Prefecture in order to represent the condition
of WEEE generation from high population density areas in Japan.
Life cycle GHG emissions from
the overall recycling process should be calculated by adding all the phases of the life cycle such as
GHG emissions from primary transportation, secondary transportation and dismantling and recycling.
GHG emission from primary transportation was unable to be completed due to lack of data and it will
be done in the next phase. This study summarizes only GHG emissions from secondary transportation
followed by recycling. Based on the analysis results, it was revealed that recycling process chain of
WEEE also consumes a significant amount of energy, and it has caused emissions of GHG.
Furthermore, the GHG emissions in the recycling per unit weight of WEEE were compared with the
same amount of the material production process through the virgin production process chain. GHG
emission potential from an equivalent amount under virgin materials production process is much
higher than GHG emissions from recycling of average unit weight of WEEE. Therefore, negative
values were resulted as the net GHG emissions potentials from the recycling of all kind home
appliances. This result revealed that, recycling of WEEE and recovery of considerable amount of
materials makes a great contribution for GHG mitigation. The estimated net GHG emissions potential
from each type of home appliances recycling can be utilized for decision and policy recommendations
on promoting a sound materials recycling society in Japan and elsewhere.
142
4章
参考文献
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一般財団法人
家電製品協会
年次報告書
平成23年度版
一般財団法人
家電製品協会
年次報告書
平成16年度版
一般財団法人
家電製品協会
HP
西日本家電リサイクル㈱
「東芝グループ
HP
西日本家電リサイクルサイトレポート」
「家電リサイクル制度の施工状況の評価・検討に関する報告書」平成20年2月
境部会廃棄物・リサイクル小委員会
議会廃棄物・リサイクル部会
電気・電子機器リサイクルワーキンググループ
家電リサイクル制度評価検討小委員会
「リサイクル料金の透明化について
けるコスト分析」平成19年3月
中央環境審
合同会議資料
A,B両グループにおける平均的な家電リサイクルシステムにお
産業構造審議会環境部会廃棄物・リサイクル小委員会
電子機器リサイクルワーキンググループ
ル制度評価検討小委員会
産業構造審議会環
中央環境審議会廃棄物・リサイクル部会
合同会議資料
「リサイクル等係る協働の取り組みに関する独占禁止法の指針」
144
公正取引委員会
電気・
家電リサイク
5.
5.1
全体の結論
研究計画に対する進捗
本年度は、3年間を予定している本研究の初年度という位置づけであり、研究全体の基礎固めとして
関連情報の収集、方法論の検討および方法論を検証するとともに、独自に開発する手法のテストラン
を実施した。本年度の研究計画に沿って着実に研究が進展したにとどまらず、次年度以降予定してい
た研究の一部を前倒しで実施することができた。
特に、多地域産業連関表(MRIO)によるカーボンフットプリント・一次資源投入の推定と、価格
効果や代替効果を反映できる応用一般均衡(CGE)モデルを連携する政策影響評価手法の開発、ある
いはリサイクルシステムに関する持続可能性評価手法の開発など、独自性の高い新しい手法について、
現在入手可能なデータ、および現時点で開発された暫定的なツールによるテストランを実施すること
ができた。このテストランにより、手法の有効性に関するイニシャルチェックを行うとともに、具体
的なベースに基づき次年度以降の開発作業を効率的かつ効果的に進めることが可能になると考えられ、
初年度における大きな成果と考えている。
テーマ毎の計画に対する進捗は以下の通りである。
(1)
カーボンフットプリント・一次資源投入の推定
研究計画:
本研究項目では、天然資源税や炭素税などの持続可能な資源利用政策による環境影響を
製品のライフサイクルを通じて評価するための指標として、多地域産業連関表(MRIO)を用いて資
源利用に伴うカーボンフットプリントおよび一次資源投入を推定する。類似研究の蓄積がある欧州の
推定値との比較を行うために、本研究では世界全体をカバーしているGTAPデータベースを用いた世
界多地域産業連関表を作成し、カーボンフットプリント・一次資源投入の推定を行う。一次資源投入
の対象資源としては、鉄をとりあげる。
以下のように、研究計画通りに研究が進捗した。
• GTAPデータベース(第7版、2004年対応)をもとに、製鉄・鉄鋼部門を電炉鋼、転炉鋼に加え、
銑鉄部門を分割し、リサイクル産業を独立した部門として分割することで、研究目的に合った世
界データベースを作成した。地域分類については、鉄鉱石の主要産出国・輸出国・輸入国および
化石燃料の主要産出国・輸出国の観点から11地域(日本、中国、韓国、豪州、ブラジル、インド、
米国、EU、インドネシア&マレーシア、その他主要石油・ガス産出国、その他世界)に分類した。
• 上記データベースに基づき世界MRIOを作成し、ベースラインシナリオにおけるカーボンフットプ
リント・一次資源投入(鉄鉱石)を推定した。
さらに、翌年度以降予定していた計画の一部を前倒しで実施した。
• 上記データベースから社会会計行列(SAM)を作成
• 上記SAMを用い、世界MRIOと連携した静学CGEモデルを開発
• MRIO-CGE連携のテストランとして、豪州が鉄鉱石部門に天然資源税を導入した政策シナリオに
ついてMRIO-CGE連携に基づくカーボンフットプリントを試算
145
(2)
ライフサイクル環境影響評価のための情報収集
研究計画:
今後急速に普及すると予想され、リサイクルシステムの観点で重要であるハイブリッ
ド車、電気自動車などのエコカーに着目し、環境影響評価に必要なデータの入手可能性および国際資
源循環との関連を考慮し調査対象とする物質を特定する。当該物質の採掘段階から国内でのリサイク
ルまでを視野に入れて、物質の採掘、製錬・加工等の各段階における物質フローに関する情報を収集
すると共に、TMRのようなマテリアルフロー関連の指標についての調査を行う。
また、特に環境影響が大きいと見込まれる採掘段階における環境影響を評価するために、温室効果
ガス排出量、および生態系サービスへの影響を評価する手法について、欧州委員会が開発中の環境負
荷反映物質消費量(EMC)指標やエコロジカル・フットプリント(EF)を用いた手法、あるいは欧州
環境庁による生態系サービスへの影響評価手法などについて情報を収集するとともに、水汚染、森林
破壊、土地利用改変など主な影響要因についての情報を収集するための現地調査先の特定を行う。候
補地として、チリのリチウム鉱山などを想定している。
以下のように、研究計画通りに研究が進捗した。
• 対象資源として、ベースメタルとしては銅、レアアース、レアメタルとしてはリチウム、ネオジ
ム、ディスプロジウムを選定した。銅についてはマテリアルフロー情報の収集を進めるとともに、
レアアース・レアメタルについては翌年度計画している現地調査の準備を進めた。
• TMRを含めたマテリアルフロー関連の指標のレビューを実施するとともに、エコロジカル・フッ
トプリントに関する情報収集およびレビューを行った。また、東芝が開発に着手した金属1キロ
グラム当たりの生物多様性への影響を鉱山ごとに指標化する手法(MiBiD)について調査を行った。
採掘段階における温室効果ガス排出量について、銅鉱山を対象に鉱山でのエネルギー使用とCO2
排出量のデータベースを用いた解析を実施した。採掘段階における生態系サービスへの影響を評
価する手法についてレビューを行った。
• 水汚染、森林破壊、土地利用改変など主な影響要因についての情報を収集するための現地調査先
の検討を進めた。この一環として、中国のレアアースに関する情報収集を行うとともに、マレー
シアのレアアース精錬工場を対象に予備的現地調査を行った。
(3)
我が国のリサイクルシステムの評価手法の検討
研究計画:
我が国のリサイクルシステム全体の循環資源の流通・利用状況を評価する上で、環境・
経済・社会的影響が大きく、比較的データの揃っていること、および特定物質に着目した分析におい
てエコカーに着目した研究を予定していることも踏まえ、使用済自動車および廃家電・電子製品のリ
サイクルを対象とする。分析に必要な基本データとしては、環境統計、貿易統計、および中央環境審
議会・産業構造審議会のリサイクル法関連部会の最近の資料など、既存の公式資料の活用が可能かど
うかを検討する。流通・利用状況については、静脈物流(その種類やシステムの違いごとのコスト)・
処理(手法ごとのコスト)に関わる経済コストおよび環境影響、さらには社会影響として雇用を想定
し、対象リサイクルシステムごとの特性を類型化する。
その上で、これらのリサイクルシステムについて、環境・経済・社会的影響の評価手法の検討を行
う。また、分析の対象とする有用素材の絞り込みを検討する。
146
以下のように、研究計画通りに研究が進捗した。
• 使用済自動車および廃家電・電子製品のリサイクルを対象として特性の類型化を行った。上述類
型化に基づき、リサイクルシステム評価手法の検討を行った。指標についてはリサイクルシステ
ムの目的である環境上適正な処理、省資源、環境ビジネスの育成、の3つの観点から共通の指標を
検討した。その上で、家電リサイクルと自動車リサイクルシステムの特性が大きく異なること、
国際比較性の観点から家電リサイクルの方が政策形成が国際的に進んでいることから、具体的な
データ収集、手法の開発について家電リサイクルを先行して行い、その後自動車リサイクルへの
適用を検討することとした。
• 有用素材の絞りこみについては、現行の国内リサイクルシステムの評価については、有価物であ
り、国内で産出せず、資源循環が広く行われている鉄・銅・アルミを選定した。またエコカーリ
サイクルや小型家電リサイクルといった新しいシステムに関連して、ネオジム、インジウム、お
よび電子基板からのレアメタル、レアアースについて引き続き調査をする必要がある。
• 家電リサイクルシステム評価手法につき具体的なデータ収集を開始するとともに、電気・電子製
品リサイクルの持続可能性評価手法のプロトタイプを開発し、テストランを行った。
5.2
環境政策への貢献
本研究は、資源利用フローのグローバル化が進む中で、持続可能な資源利用の促進を目的として資
源利用に伴うライフサイクルでの環境影響評価手法の開発を進めるとともに、我が国政府がめざす静
脈産業の国際展開を含む国際資源循環システム構築への貢献を目的として、使用済み製品の適正処理
および環境負荷の低減、省資源・資源効率、環境産業の育成の3つの観点からリサイクリングシステム
の持続可能性評価を行う手法の開発を目指している。リサイクリングシステムの持続可能性評価の成
果は、すでに検討が進められている環境政策への直接的な貢献につながると期待される。
また、特定物質に着目した物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価に関する研究は、資源採掘
段階での負の環境影響、とくに生態系への負の影響について定量的に評価することを目指しており、
日本の製造業が省資源・省エネ対策を進めることによる便益が、日本の環境改善に貢献するだけでは
なく、資源産出国における環境改善、特に生態系サービス保全につながることを可視化することが期
待される。それにより、生物多様性保全条約や気候変動条約に関わる国際交渉において、日本の国際
的貢献をアピールすることにつながるとともに、企業が一層の省資源・省エネ対策を進めるインセン
ティブにつながる環境政策の設計にも貢献すると考えられる。
マクロ経済レベルでの資源利用に伴うライフサイクル環境影響評価に関する研究については、すで
に欧州で検討が始まっている資源利用抑制あるいは絶対的デカップリングを目指す政策につき、遅か
れ早かれ我が国でも検討する必要が出てくることが予想されるが、そのような検討に定量的な裏付け
を提供するツールの開発を目指しており、将来的な環境政策への貢献が期待されるとともに、昨年6
月のリオ+20での合意を受けて本格的に動き出した持続可能な開発目標(SDG)に関する国際プロセス
において、我が国が議論をリードする材料の提供が期待される。この研究については、すでに国際資
147
源パネルが興味を示しており、2013年2月に米国で開催される国際資源パネルの統合シナリオ作業部会
ワークショップに研究代表者が招聘されている。このように国際的に関心が高まっている分野であり、
我が国の国際政策プロセスへの貢献の支援につながることが期待される。
5.3
学術的貢献
本研究は、各テーマがそれぞれ独自性の高い研究手法を採用している。
マクロ経済レベルでの資源利用に伴うライフサイクル環境影響評価に関する研究は、多地域産業連
関表(MRIO)と応用一般均衡(CGE)モデルの連携により、天然資源税などの政策影響によるライフ
サイクル環境影響をカーボンフットプリントおよび一次資源投入(資源フットプリント)で評価する
ことを目指している。筆者らが知る限りでは、世界MRIOと世界CGEの連携による政策影響評価は初め
ての試みであり、カーボンフットプリントだけではなく資源フットプリントについても評価対象とす
る試みも独自性の高い試みである。さらに本研究では、次年度以降CGEモデルを動学化するとともに、
CGEモデルの最終需要に寿命分布を反映したスクラップストック動態推計を組み込むことにより、資
源循環政策を評価するうえで重要な役割を果たすスクラップ供給制約の内生化を計画しており、学術
的意義は高い。
特定の物質に着目した物質利用に伴うライフサイクル環境影響評価に関する研究では、既存の関与
物質総量(TMR)などの手法を参考にしながら、物質利用経路による環境影響の違いを反映し、かつ
採掘段階や精錬段階での環境インパクト、特に生態系サービスへのインパクト、を反映した影響評価
手法の開発を目指しており、極めてニーズが高いとともに、既存の研究がほとんどない分野に切り込
む試みである。本研究とよく似た目的で開発が進められている株式会社東芝による鉱山開発による生
物多様性への影響評価手法(MiBiD)は、開発の初期段階であるにも関わらず、学会での発表につい
て日刊工業新聞に掲載されるなど社会的ニーズの高いテーマであり、本研究の学術的意義は高い。
国際資源循環システムに関する研究では、リサイクリングシステムを使用済み製品の適正処理およ
び環境負荷の低減、省資源・資源効率、環境産業の育成の観点から評価し、かつ物流効率改善などの
効果も加味したうえで評価する、持続可能性評価手法の開発を目指しており、極めて独自性が高く、
かつ社会ニーズに合致した研究である。
148
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