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課題曲誌上レッスン(続)
課題曲誌上レッス ン(続) 第27回ピアノ ・オーディション予選課題曲 【J I・J II・A部門より】 堀 江 真理子(日大芸術学部講師) 課題曲記号と曲目 J12(P.16)シューマン:「ユーゲントアルバム」Op.68 より 5. 小曲、8. 勇敢な騎手 J13(P.17)バルトーク:「子供のために1」より 第3曲、第15曲 J21(P.18)ディアベリ:ソナチネ ヘ長調 Op.151-3 第3楽章 J23(P.18)プロコフィエフ:「子供のための音楽」Op.65 より 誌 上 レ ッ ス ン 7. きりぎりすの行進(ばったの行進)、10. 行進曲 A1(P.19)ベートーヴェン:ソナタ 第20番 ト長調 Op.49-2 第1楽章 A2&A4(P.19)J. S. バッハ:2声のインヴェンション ☆お手持ちの楽譜をご用意くださるとよりいっそうおわかりいただけると思います。 (広報部) J12 シューマン:「ユーゲントアルバム」Op.68 より 5.小曲 右手のメロディーと平行して左手にもメロディーがあり大事な役割をしているということを子ど もがちゃんと意識しているかどうかが大切です。さらにスラーへの意識も大事です。手は丸い形を 保ち、指は鍵盤のできるだけ近くから打鍵し立体的な響きが出るようにしましょう。自分の出して いる音をよく聴いて音のバランスに注意を払うようにします。左手の親指で弾くソの音が大きくな らないようにするのは言うまでもありませんが、その音が出過ぎるとなぜ良くないのかを響きで理 解できるように指導しましょう。 8.勇敢な騎手 スタッカートを弾くときも打鍵は鍵盤の近くからするようにします。 2∼3小節目のスラーの付いた頭の音と左手の四分音符はしっかり伸ばして、sf の性格(ちょっ いげん と威厳のある感じ)を出しましょう。八分音符が急ぎ足にならないように。心地よいリズム感を得 るにはメトロノームを使うのではなく、耳を使うのが一番です。自分の音の響きをよく聴くことが できれば自然にいいリズム感がつかめます。 16 <特集>課題曲誌上レッスン J13 バルトーク:「子供のために1」より 第3曲 うれ 愁いをたたえたメロディーは子守歌のようにも聞こえますが、この曲は愛する娘を失った悲しみ の歌、とされています。 右手の細かいスラーをきちんと守らないとメロディーが引き立たないので、大事に考えて弾きま しょう。だからといってスラーの最後の音を切りすぎないように。 1小節目のミの音や7小節目のドの音のように続けて同じ音を弾くとき、2つ目の音が無表情に ならないようによく歌って弾きましょう。 2小節目や4小節目の1拍目の音はちょっと重心をかけるような感じで長めに弾くときれいで す。同時にあたたかな音色が欲しいです。 8小節目の2拍目のラの音はよく響かせて。 11小節目からの左手の和音の動きは右手と同じニュアンスで弾きます。リズムの揺れを両手で感 じるように。 16小節目の左手2拍目の音は少し強めに弾いて印象づけましょう。 18小節目の2拍目のラの音も同様にはっきりと。長く伸ばさなければならないのでその分をよく 考えて強さをコントロールしましょう。最後の7小節間の左手も同様です。早くから小さくしすぎ て音が途絶えてしまわないように。 第15曲 若い女の子たちが楽しそうにおしゃべりをしているような曲ですね。何のお話をしているのでし ょう・・・? テンポがしょっちゅう変わるあたりが揺れる心の動きを表しているようにも感じます。 1∼2小節目の2拍目、左手はスタッカート、右手はテヌートという表現の違いが大切です。テ ヌートの音は単に長くするだけではなく、次の音に向かって呼びかけるような気持ちで弾きましょ するど う。はじめに Grazioso と記されていますからスタッカートは鋭すぎないように軽やかで優雅さが 必要です。和音はよくそろえてきれいな響きを作りましょう。 17 4小節目はスタッカートにテヌートがついているいわゆるメゾ・スタッカートです。長めのスタ ッカートであまり強い感じにならないように、フレーズを閉じるつもりで。 17∼18小節目の左手バス、半音階の動きをしっかり出して。 9小節目からのスタッカートにスラーがついているのはポルタートですので旋律的に弾きます。 「わたし、こんなふうに思っているのだけど・・」と聞かせるような感じで歌いだすのですが、や っぱり恥ずかしくなって「今のままでいいわ」という4小節。「でも思い切ってもう一度・・・」 「やっぱり今までどおりでいいわ」こんなそわそわした感じを表現してみましょう。 J21 ディアベリ:ソナチネ ヘ長調 Op.151-3 第3楽章 この曲はテンポの設定がポイントになるでしょう。速すぎたり遅すぎたりすると雰囲気が出ませ ん。ちょうど気持ちのいいテンポを見つけてください。Allegretto を速度の面からだけ考えないよ うに。この言葉にはむしろ気分的な意味がこめられています。ワクワクして思わず口笛を吹きたく なるような、そんな気持ちで弾き始めましょう。でも途中から気分にいろいろ変化が起こります。 そう、この曲は短いながらもドラマ性に富んだ曲です。 17∼20小節で感情を表出したかと思うと次の小節で急に声をひそめる。かと思うと25∼26小節で 声高に話す、といった具合に小刻みに変化する表情をいかに豊かに表現するか、それにはまず演出 家になったつもりでこの劇を組み立ててみましょう。それを音にすればいいのです。Coda は「め でたしめでたし」で華やかに幕を閉じます。オーケストラのように。 J23 プロコフィエフ:「子供のための音楽」Op.65 より 7.きりぎりすの行進(ばったの行進) 最初の右手のリズムはキリッと引き締まった感じで。9小節目の p のニュアンスとのコントラス トをしっかりつけましょう。 7、11、15小節目は音と音との間に距離感が出るように。 17小節目からはレガート性をよく出して、右手と左手が完全にひとつの動きになるようにしましょう。 30∼32小節はちょっとひと休み、といった感じでユーモラスに。 33小節からの左手は1拍目の音が山を描くように大きなフレーズを感じながら、2拍目の音との 移動を柔軟におこなえるようにしましょう。 10.行進曲 18 <特集>課題曲誌上レッスン この行進曲は生真面目にならないように。ブラスバンドが行進していくように楽しく前進しましょう。 曲中に出てくるアクセントを強調することでユーモラスな表情が出てきますので、目一杯表現し あいまい ましょう。スラーやアーティキュレーションが曖昧にならないように気をつけて。 いったん 19小節からは一旦スタッカートではなくなりますが決して重くならないように、27小節の f まで 絶え間なく crescendo していきます。 A1 ベートーヴェン:ソナタ 第20番 ト長調 Op.49-2 第1楽章 なが まず音を出さずに、絵を眺めるように楽譜を見ることをおすすめします。 すると音符が図形のように見えてきます。なだらかな山のようだったり直線的な上り、下り、三 角の屋根のようなかたち、規則的な並びなど、なかなか美しい風景が広がっています。このフォル ムこそが音楽の表情なのです。ですからこの形に沿って表情を付けていけば自然に抑揚がつき、音 こうよう 楽の流れに乗ることができます。さらに全体像がつかめてくることでしょう。音が登っていく高揚 そうかい はぐく 感、降りていく爽快感など、子どもは敏感に感じますので、音楽で得られる豊かな感情を育むこと が何よりも大切なことだと思います。 小学生がこの曲を演奏するときは変に作りすぎないように純粋な気持ちで素直に弾いてほしいと ふく 思いますが、機械的な演奏だけはしないように想像力を膨らませてください。 ひとつ注意しておきたいのは、ペダルを使いすぎないようにということです。ペダルによって音 の動きが雲隠れしてしまっては困ります。指の弱さをペダルでカバーするようなことだけはやめま しょう。 A2&A4 J. S. バッハ:2声のインヴェンション インヴェンションは対位法的な音楽を学ぶために最も有益な曲集です。 2声を同時に考え、聴くことをしっかり学ばなければなりません。2つの声部のモティーフや動 き、声部同士の関係を聴き分け、それらを音楽的に融合させるというテクニックを自然に身に付け ることで、複数の声部で展開される音楽に対しても対処していけるようになります。 ですから「耳」をしっかり使わない練習は時間の無駄といっても過言ではないと思います。 から 2つの声部は線として絡み合って流れていきますので、主題だけ強調するような演奏はやめましょう。 演奏上で大事な主な点は次のことがらです。 1 指使い 2 フレージング 3 ダイナミックス 4 タッチ 5 装飾音 1 指使い 2声の場合はそれほど困らないのですが、多声的な進行の中でレガートを維持するために必要な やり方として、オーバ−ラッピング(指を他の指の上に重ねて持っていく)やアンダーラッピング (指を他の指の下から持っていって交代する)、ひとつの音の上で弾き直さずに指を替える方法など があります。 ひんぱん 基本的にはあまり頻繁に指替えをしないで5本の指をフルに使うようにしましょう。 2 フレージング 音楽の構造に関わる骨子ともいえるものです。したがってフレージングをまちがえると意味のわ からない文章のようになってしまいます。また息つぎとも深い関係がありますので、フレーズを意 識して演奏することはとても大事です。 19 3 ダイナミックス バッハの時代のダイナミックスはロマン派音楽のそれとはちがうものです。しかし我々はどうし ても音楽的経験から得たもので判断してしまいますので、時として様式感の違うダイナミックスを バッハでおこなってしまうことがあります。 和声的な面から考えるダイナミックスは自然だと思いますが、いわゆるロマン派的なクレッシェ ンドやディミヌエンドはバッハの演奏にあまりふさわしくないということは覚えておく必要がある きふく かと思います。ただ音楽の起伏から自然に付けたくなることもありますので、そのことを全く否定 するものではありません。バロック音楽は f と p という対極の2つの性質が生み出す緊張が音楽の 特徴だといえます。 4 タッチ タッチにはレガート、スタッカート、ノン・レガート、テヌートなどがあります。 特にレガートはフーガなど演奏するときは不可欠ですので、インヴェンションなどでしっかり身 につけなくてはなりません。次の音を弾いてから前の音を離す、つまり一瞬だけ音が重なる状態が できるわけです。たったこれだけのことなのですが、鍵盤を押さえる、という意識がどうしても働 いてしまい、打楽器のように弾いている(叩いている)子どもが多いのは残念です。 スタッカートは沢山の種類があり、軽いスタッカート、少し重めのスタッカート、長めのスタッ カートなど、どの程度に切るかは曲の性格やテンポでみなちがってきます。その選択は演奏者の経 ゆだ 験と感受性に委ねられるものですので、より多くの作品に触れて感覚的に覚えるのが一番だと思い ます。 ノン・レガートはほとんど音符の長さを保ち、次の音に移る前にごく短く息を入れる感じに弾き ます。 5 装飾音 バロック音楽に装飾は不可欠であり、音楽構造の一部であるということをよく理解する必要があ ります。したがって装飾音は音楽的に(旋律的に)美しく弾かなければなりません。当時は装飾音 きそ は即興的に付け、そのセンスを競って楽しんでいたのです。 技術的にまだ難しい場合はあまり無理はせず、音楽の流れを止めることなく自然に入れられると ころだけつける程度でもいいと思います。 フレージングとダイナミックスに関しては音楽的経験の浅い人にはどうしていいかわからないこ とも多いと思います。バッハの楽譜は世界中で多くの出版社から出ており、それぞれの校訂者が 様々な解釈(ガイド)を付けていますので、それらを参考になさると良いと思います。 ただあくまでもバッハは譜面にスラーもニュアンスもほとんど書き入れてないということは知っ ておく必要があります。ですので、まずはじめは「原典版」で弾いてみましょう。 何の先入観もなく音楽と向き合いましょう。そしてある程度構造がつかめたらいろいろな意見を 参考にするという勉強法をおすすめします。 ※誌面の都合上、一部の曲を掲載しています。なお、前号 (102号) にも掲載しておりますのでご参照ください。 20