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離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察
広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 2016年 3 月 離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察 ──トライアスロン大会の事例を中心に── 山本 公平*・松本 耕二** 目 次 1. は じ め に 2. 先 行 研 究 2.1 スポーツ振興による地域活性化に関 する研究 2.2 トライアスロンによる地域活性化に 関する研究 3. トライアスロンの概要と展望 り,418の有人島のうち, 4 つの法律に該当す るものは305島である。本稿ではこの305島を 「離島」と定義する。 2013年(平成25年) 4 月に改正された離島振 興法は,港湾,道路,義務教育施設等のハード 事業に加えて,介護,自然環境,産業・雇用等 のソフト事業支援も充実させることとなった。 3.1 トライアスロンの概要 島民の重要課題の 1 つは,便数維持も含めた 3.2 トライアスロンの展望 離島航路の存続である。これに対して,地方自 4. パイロットスタディ 治体や島民等は,中長期的には島の定住人口増 4.1 伊豆大島トライアスロン大会 4.2 全日本トライアスロン宮古島大会 加対策を講じているが,短期的な対策として島 4.3 トライアスロンさぎしま大会 の交流人口増加の対策を講じているところが少 5. 発見事実と課題 なくない。 本稿は,1981年に皆生トライアスロン大会が 1. は じ め に 日本で初めて開催され,1980年代後半から全国 で開催されるようになったトライアスロン大会 日本は海に囲まれた島国である。地球上の陸 を研究対象として,大会の開催によって離島の 地は「島」と「大陸」に大別されるが,一般的 地域づくりを進める事例研究から特定のスポー にはオーストラリア大陸より小さな陸地は「島」 ツ振興が離島の活性化にどのような影響を与え と呼ばれており,日本は「島」によって構成さ ているかを,経営学的な視点から整理したもの 1) れている といえる。 北海道・本州・四国・九州・沖縄島の「本土」 と呼ばれる大きな島と,数多くの島々で構成さ れているが,平成22年国勢調査によると本土を 除いて418の有人島が存在する。 である。 2. 先 行 研 究 2.1 スポーツ振興による地域活性化に関する 研究 本土と比較して多くの島々は,自然的にも社 最初に,スポーツ振興による地域活性化に関 会的にも厳しい条件にあり,人口の減少と高齢 する既往研究を整理する。 化が進展している。国は離島振興法等の 4 つの 原田[2008] は,日本における戦後のスポー 2) 法律 を制定することで島々の振興を図ってお * 広島経済大学経済学部教授 ** 広島経済大学経済学部准教授 3) ツ振興策の変遷から,スポーツを事業としてと らえてスポーツをマネジメントする時代の訪れ を指摘する。サッカーリーグが企業チームから 80 広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 地域密着型クラブへと構造変換した事例を基に, と述べている。 地域密着型のプロクラブをコミュニティビジネ 竹原[2008] は,先行研究及び公表された ス 4) として捉えて,多くの住民の参加による地 域全体の事業として成立すると述べる。 5) 7) 統計データを基にスポーツの活用による地域活 性化について考察を行った。スポーツイベント 6) 関東経済産業局[2009] は,広域関東圏 をスポーツフェスティバルのような一般人が直 におけるスポーツビジネスの振興と地域活性化 接参加できるものと,プロスポーツやオリン の現状について調査・分析を行っている。ス ピックのような一般人が「みる」「支える」も ポーツビジネスを,プロチーム及び実業団チー のとに区分し,両者を招致・開催することによ ム等のトップチームが中核となったエンターテ る効果として,道路,公園といった社会資本整 イメント産業の領域と定義し,トップチームが 備や経済波及効果等の目に見えやすいものだけ 存在することによる地域活性化の効果として, ではなく,地域としての知名度やイメージの向 ①地域経済の振興,地域ブランドの向上,②住 上,運営ノウハウの習得といった目に見えない 民交流の増加,コミュニティ再生,③雇用の場 ものも存在すると指摘している。また,地方自 の創設,④健康増進効果の 4 点を想定した。調 治体等のスポーツ振興は地域経済の活性化に限 査の結果,想定した 4 点の中では,「地域・住 定されず地域振興の重要な役割を担っていると 民間における交流活性化」が最も大きな効果を し,その活用策として先述したスポーツイベン 表していた。これは,トップチームによる「見 トや特定のスポーツを振興する以外の方策とし る」スポーツだけでなくスポーツ全般にも言え てスポーツ競技の合宿の誘致に取り組む地方自 ることとして,スポーツによる人との繋がりが, 治体の増加を紹介している。 新しいコミュニティを形成していく効果を持つ 図 1 は本郷[2013] が既往研究からスポー (スポーツの効果) スポーツ行動(個人的行動) 「する」スポーツ 直接的効果 (アウトプット) 8) 間接的効果(アウトカム) 地域レベル ・健康増進、体力向上 ・精神修養(知性や社会性の 修養を通じた人格形成) ・子どもや青少年の成長 ・長寿社会の形成 ・医療・介護費の低下 ・国内外の人々との親交 ・他社の感動・行動の喚起 ・地域コミュニティの活性化 ・地域間・国際交流の活性化 スポーツ振興(組織的活動) 「する」+「観る」 「支える」 +「語る」スポーツの振興 全国・国際レベル ・スポーツ関連人材の育成 ・スポーツ関連施設の充実 ○地域活性化効果 (経済的・社会的効果) ・地域間や国際社会での相 互 理解や友好親善の進展 ・国際的なアイデンティティ ・連帯感や奉仕意識の高揚 (スポーツ振興の地域活性化効果-ソフト面の効果-) (同左-ハード面の効果-) 地域外からの誘客、観光関連産業の活性化 経済的効果 地域活性化効果 社会的効果 スポーツビジネスや関連産業の活性化 対外的な知名度向上・イメージアップ ・社会資本整備の進展 住民の地域への誇り・愛着の醸成 ・地域開発の誘発 住民の一体感・コミュニティ意識の高揚 住民の社会参加・貢献意識やホスピタリティの向上 出所:中国地域経済白書[2013] 出所:中国地域経済白書[2013] 図 1 スポーツの効果およびスポーツ振興の地域活性化効果 離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察 81 ツの効果を分類した上で,スポーツ振興による や精神涵養」や「住民の一体感・コミュニティ 地域活性化効果を概説したものである。自らが 意識の高揚」等の社会的効果を現す質問項目が 「する」スポーツ行動と, 「する」に「観る」 「支 高く,「域外からの誘客,観光関連産業の活性 える」「語る」を加えたプロスポーツやスポー 化」等の経済的効果を現す質問項目が低く回答 ツイベント等のスポーツ振興の 2 つに区分し, されていたことから,地方自治体には経済的効 それぞれの直接的効果と間接的効果を整理して 果よりも社会的効果の方が高く重視されている いる。地域活性化効果は,スポーツ振興の間接 と考察する。 的効果(地域レベル)に分類されており,これ 次に図 2 のとおり本郷は,個別のスポーツ振 を抽出しハード面とソフト面に区分している。 興施策についての経済的効果と社会的効果の重 ハード面には社会資本整備や地域開発を誘発す 視度を比較し,競技スポーツ振興施策は経済的 る効果が該当し,ソフト面では物やサービスの 効果を,生涯スポーツ振興施策は社会的効果を 生産・消費に関係する経済的効果と経済的効果 重視していることを指摘している。 に該当しないものを社会的効果として分類し, 上代・野川[2010]は,オリンピックやプロ 事例を挙げている。 スポーツ等におけるスポーツのビジネス化に加 この分類を基に本郷は,地域活性化効果のソ えて,マラソン大会やウォーキング大会等の生 フト面に対する地方自治体の意識と取組状況に 涯スポーツイベントも非営利のビジネス活動と ついて,中国地域の107市町村を対象にアンケー して位置づけられると提起する。公共の福祉を ト調査を行った。回答総数の 4 分の 3 が,ス 目的に実施される生涯スポーツは,NPO 法人 ポーツ振興がソフト面における地域活性化に効 等の非営利団体が核となって活動していること 果を及ぼすことを重視していると回答している。 から非営利ビジネスとして位置づけ,マネジメ その内訳として, 「住民の健康増進・体力向上 ントの存続が重要であると指摘している。ホノ (点) 7 住民のスポーツ活動の促進や ● クラブ活動への支援 6 5 4 3 ● ニュースポーツ等の特定スポーツ 競技スポーツイベント ● の誘致・開催 種目の普及促進 スポーツ合宿・ キャンプの誘致 ● 2 ● プロ・アマのトップスポーツ ● 生涯スポーツイベント への支援や観戦促進 の誘致・開催 1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 社会的効果の重視度 出所:中国地域経済白書[2013] 出所:中国地域経済白書[2013] 12 13 (点) (注)横軸と縦軸の数値は,取り上げた 6 施策における経済的効果と社会的効果の重要度 を段階評価で質問した結果について,「重視」を20点,「やや重視」を10点,「あまり 重視しない」を−10点,「重視しない」を−20点,「該当施策なし」および「無回答」 を 0 点として算出した評価得点の平均値。 図 2 スポーツ振興施策の経済的効果と社会的効果の重視度比較 82 広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 表 1 スポーツによる地域活性化既往研究の整理 マネジメント 視座 行政施策の 視座 発 見 事 実 原田[2008] ○ × 地域密着型のプロクラブをコミュニティビジネスとして捉える 関東経済産業局 [2009] ○ ○ 竹原[2008] ○ × スポーツ振興は地域振興の重要な役割を担う 本郷[2013] ○ ○ 地方自治体は経済的効果よりも社会的効果を重視 競技スポーツ振興施策は経済的効果を,生涯スポーツ振興施策 は社会的効果を重視 ○ × 生涯スポーツを非営利ビジネスと位置づけ,存続が重要 上代・野川 [2010] 「地域・住民間における交流活性化」が最も大きな効果 出所:筆者作成 ルルマラソンを事例として,大会ボランティア に広まっていった。日本では,1981年の皆生ト によるホスピタリティ・サービスと応援等が生 ライアスロン大会が初の大会となり,1980年代 涯スポーツイベントのビジネス化には必要であ 後半から全国で開催されるようになった。 ると論じている。 増井・生沼[1996] は,国際トライアスロ 表 1 は,これまで概観した先行研究の研究領 ン連合がスポーツの商業主義化に適応し世界選 域を,プロチーム及び実業団チーム等のトップ 手権の競技ルールを変更することで,「見せる チームのチームマネジメント,オリンピックや スポーツ」としてのトライアスロンへと変化し マラソン大会等のイベントマネジメントの視座 発展する過程を整理し考察している。 による研究と,行政等のスポーツ振興の視座に また増井[1997] は,トライアスロン大会 よるものに区分し整理したものである。 の多くは地方自治体が地域活性化を目的として スポーツビジネスのマネジメントとしての視 開催されていると提起し,長崎大島トライアス 座による研究が多い中で,地域のトップチーム ロン大会において地元住民の大会評価を中心に の存在や,イベントの誘致・開催等によって地 調査・研究を行った。町はこの大会の開催に 域活性化に与える影響を行政施策の視座による よって「住民が誇れる大島町づくり」を目指し 研究もなされていることがわかる。両者の研究 ており,調査の結果も経済的効果よりも「地域 とも,スポーツは地域の活性化に寄与している コミュニティの形成」といった社会的効果に大 と結論づけている。 きく寄与している点を明らかにしている。 9) 10) 地域活性化を目的に開催されるスポーツイベ 2.2 トライアスロンによる地域活性化に関す る研究 11) ントについて原田・山崎[1998] は,地方自 治体等が主導する地域レベルのスポーツイベン 続いて,研究領域をトライアスロン大会の開 トにおいては,イベントのコンセプトを明確に 催に限定した先行研究を整理する。 伝える広報活動の重要性に着目し,指宿トライ トライアスロンは,1974年の米国サンディエ アスロン大会の参加者を対象に調査・研究を ゴでのスイム・バイク・ランの 3 種複合競技 行った。参加者の持つ指宿トライアスロン大会 レースが発祥とされ,ハワイで1978年から開催 のイメージを分析し,広報活動へのイメージの されているアイアンマンレースによって世界中 活用を提言している。 離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察 83 農村再生を目的として開催されるスポーツイ 大会が及ぼした波及効果として,①東京,大阪 ベントの地元ボランティアが,半ば強制的な参 からの直行便就航,②スポーツアイランド構想 12) 16) 加となっている点に着目した堺[1997] は, の策定,③宮古広域圏事務組合 トライアスロン中島大会のボランティアを対象 フトイベントの実施を挙げている。 に調査・研究を行った。地域活性化に関する分 トライアスロンによる地域活性化の先行研究 析の結果,この大会開催が農村再生の目的の 1 の多くは,参加者及びボランティア等へのアン つである「農村の経済的基盤の確立」には寄与 ケート調査による考察を中心としており,経済 していないものの,もう 1 つの「住民の郷土意 的効果よりも社会的効果への寄与が高いと指摘 識の高揚によるコミュニティづくり」としては していることが明らかとなった。 機能している点と指摘し,後者を重視したイベ ント開催を提言している。 13) 14) の設立とソ 3. トライアスロンの概要と展望 ま た 堺[1998] [2000] は,ト ラ イ ア ス 3.1 トライアスロンの概要 ロン中島大会の参加者及び住民に対しても,地 トライアスロンは先述したとおり,1974年に 域活性化に関する調査・研究を行っている。参 米国サンディエゴで世界初の大会が開催され, 加者への分析結果もボランティアと同様の結果 国内では1981年の皆生トライアスロン大会が初 となったが,「農村の経済的基盤の確立」に効 めての大会で1980年代後半から全国で開催され 果があったと回答した割合がボランティアの評 るようになったトライアスロンは,他競技と比 価よりも高い値を示したことに,参加者の期待 べると新しい競技である。2000年のシドニーオ 値が含まれていると推測している。住民の約 6 リンピックで正式競技として採用されたことや, 割が応援やボランティア,企画・運営として大 2007年から開催されている東京マラソンによる 会に関わっている状況の中で,住民に対する地 マラソンブームから,ビジネスマン層を中心に 域活性化に関する調査結果はボランティアと同 愛好者が増加している。日本トライアスロン連 様の結果となった。加えて,大会開催後の中島 合(以下「当連合」と言う。)によると,全国 町の地域活動(趣味,学習,スポーツ,奉仕活 の愛好者は40代を中心に約37万 5 千人存在し, 動)と村おこし活動の変化については「変わら 年間約290大会が開催されている。 ない」の回答が最も多く,これらの活動に変化 一般的にトライアスロンはスイム 3.8 km, がないことと指摘している。 3 者への調査結果 バイク 180 km,ラン 42.195 km で行われるハ から,小さな町でのスポーツイベントでは「地 ワイのアイアンマンレースが有名で,過酷な鉄 域振興」よりも「住民の郷土意識の高揚」に主 人のレースというイメージをもたれることが多 体をおいて運営することが求められると提言し い。しかし,オリンピックではスイム 1.5 km, ている。 バイク 40 km,ラン 10 km が採用され,参加 15) 長浜[2000] は,トライアスロン宮古島大 しやすい競技となってきた。当連合もこれをス 会の主催者として宮古島大会の成果及び波及効 タンダードディスタンスとして普及に努めてい 果を整理している。宮古島大会の成果として, る。 ①「トライアスロンの島」等のイメージ効果, ②住民が宮古島に自信と誇りを持つ等の社会的 3.2 トライアスロンの展望 効果,③地方自治体及び各団体の連帯効果,④ 2020年に東京でのオリンピックの開催が決ま 教育・文化的効果,⑤経済的効果の 5 つを示し, り,各競技団体が大会に向けて準備を進める中, 84 広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 アジアオリンピック 評議会(OCA) 国際オリンピック委員会(IOC) アジアトライアスロン 同盟(ASTC) 国際トライアスロン 連合(ITU) 公益財団法人日本オリ ンピック委員会(JOC) 公益財団法人日本体育協会 (JASA) 都道府県体育協会 公益社団法人日本トライアスロン連合(JTU) JTU加盟団体(47都道府県) 都道府県トライアスロン競技団体 日本学生トライアスロン連合(JUTU) 市町村トライアスロン競技団体 出所:「トライアスロン・マガジン」2015 図 3 トライアスロン団体相関図 当連合もオリンピック出場を目指すエリート選 あり,大塚専務理事は日本オリンピック委員会 手の強化を中心に競技の普及に努めている。当 及び国際トライアスロン連合の理事を務めてお 連合は先述したとおり,トライアスロンが歴史 り,2014年度には事務局員 2 名を国際トライア 的に浅いことを利害関係が少ない「強み」と位 スロン連合事務局に派遣している。 置づけ,オリンピック開催を起爆剤として普及 大塚専務理事は大会を開催する地域との関係 を図っていく計画をたてている。 性について「受益者である選手とトライアスロ 当連合の会長が岩城光英氏であることから ンを開催する地域があって,それをマッチング 「岩城ミッション」と名付けられたプロジェク するのが当連合である」と述べる。当連合とし トでは,2020年までに愛好者を50万人とし,国 て競技のマネジメント支援は行っているが,地 内開催の大会数を500大会へ増やす目標を立て 域のマネジメントまでは対応できないとも指摘 進めている。2016年からは国民体育大会(国体) した。 の正式競技となるが,全国高等学校総合体育大 会(インターハイ)での採用も目指しており, そのために全国の高等学校へトライアスロン部 の創設を働きかけている。 4. パイロットスタディ 4.1 伊豆大島トライアスロン大会 4.1.1 伊豆大島の概要 競技の普及には社会的に認知されることが不 本節では,離島におけるトライアスロン大会 可欠であり,そのためには東京オリンピックで のパイロットスタディを行う。 のメダル獲得が必須の課題であると大塚眞一郎 トライアスロン大会開催の企画・運営は,ト 17) は述べる。メダル獲得によって選 ライアスロン専門の企画会社に委託するケース 手が活躍することで競技の普及が進み,競技が と地元地方自治体等が中心となって運営する 普及することでいい選手も生まれてくる,との ケースとに大別される 。 好循環を想定し,一般選手の大会参加の満足度 1 つめのパイロットスタディとして,企画・ を高める仕組みづくりも進めている。 運営を企業に委託する伊豆大島トライアスロン 図 3 はトライアスロン団体の相関を現す。競 大会(以下「伊豆大島大会」と言う。)を概説 技の普及には各種関係機関との関係性も重要で する。伊豆大島大会は,東京都大島町と社団法 専務理事 18) 離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察 85 表 2 伊豆大島トライアスロン大会運営体制 主 催 伊豆大島トライアスロン大会実行委員会 大会会長 大島町長 大会実行委員長 大島町副町長 大会事務局長 大島町観光商工課長 共 催 東京都大島町,(社)大島観光協会 後 援 東京都,大島町教育委員会,大島町商工会,大島交通安全協会,大島防犯協会,大島体育協会,大 島町婦人会 伊豆大島手話サークル,伊豆大島ゲートボール協会,伊豆大島ライオンズクラブ,大島医療センター, 大島建設業協会,大島ダイビング協会「oshima21」,大島ダイビングサービス協会,大島バレーボー ル協会,大島町各郵便局,大島町商工会青年部,大島町商工会女性部,大島町体育指導委員,大島 協 力 町陸上競技協会,各地区体育会,各地区交通安全協会支部,各地区防犯協会,JA 東京島しょ伊豆 大島支店,七島信用組合,シマです大島おかみの会,ボーイスカウト大島第一団,元町漁業協同組合, (株)山田回漕店,伊豆大島トライアスロン連合,東京都トライアスロン連合 協 賛 東海汽船(株),(株)日本旅行,日本バナナ輸入組合,ノートン自転車工業(株),サッポロビー ル(株),エース損害保険(株),スポーツクラブ NAS,クロックス 協議内容 A タイプ スイム 1.5 km,バイク 40 km,ラン 10 km B タイプ スイム 0.75 km,バイク 20 km,ラン 5 km 部 門 個人,リレー( 2 または 3 人) 募集定員 400名 出所:伊豆大島トライアスロン大会実行委員会[2015]を基に筆者作成 19) 人大島観光協会が共催で1989年から毎年 6 月上 は21万人 旬に開催している。 現町長が町議会議員時代にトライアスロンを 伊豆大島は東京から 120 km の大平洋上に浮 通じた町の地域振興を目的として大会の開催を かぶ伊豆諸島最大の島である。島の中央部に活 提唱し,大会への集客だけでなく島へのリピー 火山の三原山(標高 758 m)が位置する火山島 ト効果を期待して開催することとなった。この であり,島周辺を流れる黒潮の影響で温暖多湿 ため,当大会は大島町観光商工課が所管してい な海洋性気候となっている。 る。 4.1.2 大会の経緯 となっている。 第 1 回から第 8 回までは,「全日本ショート 伊豆大島は昭和初期から,椿・あんこ・三原 トライアスロン選手権大会 in 伊豆大島」とし 山で代表される観光地として知られ,1960年代 て開催され,最大800名を超える参加者があっ の離島ブームをきっかけに,来島者が一挙に84 た。第 9 回以降は選手権大会からは外れて「伊 万人と急増した。大島町は「スポーツアイラン 豆大島トライアスロン大会」として運営してい ド」を標榜し,大学の体育会系サークルの合宿 るが,第19回大会では200名強にまで減少した。 など宿泊を基本とするレクリエーション的な観 第22回からはリレー部門を新たに創設したとこ 光地へと観光形態の転換を目指してきたが, ろ,マラソンブームやトライアスロン参加への 1973年をピークに来島者は減少傾向にあり, ハードルが低くなったことから,参加者が400 1978年の伊豆大島近海地震や1985年の三原山大 名を超えるまでに再び増加している。 噴火,2000年の三宅島噴火,新島・式根島・神 また,参加者は400名で大きな大会ではない 津島群発地震の影響を受けて,更に減少傾向に が,伊豆諸島の新島トライアスロン大会,式根 歯止めがきかなくなった。2012年度の来島者数 島マラソン大会,新島オープンウオータースイ 86 広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 ミング大会と合同でポイント獲得を競う東京ア 回することで何度も観ることができる「観る側 イランドシリーズとしても運営されている。 の楽しさ」を重視した変更である。 4.1.3 運営の仕組み 4.1.4 地域活性化 伊豆大島大会の運営体制は表 2 のとおりであ 伊豆大島大会は10:45から受付を開始し, り,島をあげて大会に取り組んでいることが示 レース後の表彰パーティーが終了するのが20: されている。先述したとおり,町の地域振興を 00である。レース終了後は全参加者が宿泊する 目的として運営されることから,町観光商工課 こととなり,宿泊業者の需要の創出に繋がって が所管しており,行政側の所管が観光部局また いる。大会翌日には参加者が島内を観光するこ は教育委員会となるかで運営の姿勢が変わって とでの需要も期待されている。 くる。 また,表 2 にもあるように島の多くの団体が 大島町は,大会実行委員会に(有)トリニ 協力していることから,島が一丸となるイベン ティを加え,同社代表取締役の小沼徹氏をレー トを開催することでの地域の繋がりを保つ役割 スディレクターとしている。具体的には,参加 も持っている。特に第 1 回のコースは島を一周 者募集などの島外での活動や,大会前の会場設 するように設計されており,集落ごとの自治会 営や大会当日の運営などをトリニティが受託し も全面的に運営に協力した。 て企画・運営を行う。町からの支援として,実 大島町は,大会参加者と島民との関わりを意 行委員会に対して200万円の補助金を観光振興 識して大会運営を行っていると述べる。また, 策として支出している。 近年のマラソンブームもあり,カメリアマラソ トリニティはトライアスロン大会運営専門の ン大会やウルトラランニング大会など,当大会 企画・運営会社であり,石垣島,天草国際,国 を軸に島へのリピーターを増やしていく仕組み 営昭和記念公園等全国で20大会の運営を受託し を構築していきたいと考えている。 ている。小沼氏は,「トライアスロン大会の企 画段階からの運営には専従者が必要であり,地 方自治体等が大会運営の全てを行う場合,担当 4.2 全日本トライアスロン宮古島大会 4.2.1 宮古島の概要 者が兼業となってしまい細かな配慮ある対応が 2 つめのパイロットスタディとして,宮古島 とりにくい。」と述べる。小沼氏は,東京から 市が中心となって運営する全日本トライアスロ 定期的に現地に出向き調整を行っている。 ン宮古島大会(以下「宮古島大会」と言う。) 実行委員会の事務局をトリニティに委託した を概説する。宮古島大会は,宮古島市と琉球新 ことで,先述した国際トライアスロン連合によ 報社が主催で1985年から毎年 4 月に開催してい る「見せるスポーツ」としてのトライアスロン る。 へと競技ルールを変更している。当初は,島内 宮古島は沖縄本島から南西に 300 km に位置 をほぼ 1 周するコースとしていたが,自転車競 する島である。島全体が平坦で山岳部が少ない 技を 10 km のコースを 2 周ないし 4 周するコー 島であり,高温多湿な亜熱帯海洋性気候である スに変更した。大会当日に道路規制をすること ことから,プロ野球のキャンプや,各種スポー から袋小路となって移動できない島民が生じる ツ団体の合宿地としても活用されている。 ことや,冠婚葬祭を執り行うことが困難となる 4.2.2 大会の経緯 こと,観客の視点からも,走っている選手を 1 沖縄県内でも風光明媚な石垣島が中心の八重 度しか観ることができないよりも,コースを周 山諸島とは異なり,平坦な地形の農業主体の島 離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察 20) 87 で観光面において立ち後れていた中で,1984年 人の参加者 に琉球新報社からハワイのアイアンマンレース めた外国人選手も第 1 回大会から多く参加して のビデオが持ち込まれ,開催の働きかけがあっ おり,第15回大会以降はおおむね50名を超える た。その年のうちにハワイでの大会を視察し, 参加者となっている。 観光シンポジウムを開催したところ,宮古島大 を決定している。招待選手を含 4.2.3 運営の仕組み 会開催の機運が盛り上がり,全国規模のスポー 表 3 のとおり,宮古島大会は宮古島市と琉球 ツイベントにするために当時は 5 市町村に分か 新報社の主催で開催されており,宮古島市観光 れていた宮古島の全島行事として1985年に第 1 商工局商工物産交流課イベント交流係の課長補 回大会が開催された。 佐以下 9 名が全日本宮古島トライアスロン実行 第 1 回大会が NHK のテレビ生中継で 4 時間 委員会事務局となって,毎年 1 月から宮古島市 半放映され,宮古島大会が全国に知られること 総合体育館に事務局を設置し,企画・運営に従 となった。マスコミの取材者数も第10回大会の 事している。 9 名体制では不足することから, 406名を最高人数として,毎回300名前後が訪れ 以前事務局に所属していた 8 名が 2 月から 4 月 ている。 まで職専免 参加者数は,第 1 回大会は241名だったが, 頭をとって島中が協力する形での運営形態をと その後毎年増加していき第 9 回大会で1,000名 る。 を超えて国内最大級の大会となった。2014年に 伊豆大島大会とは開催規模が違うものの専従 開催される第30回大会では,抽選の結果1,708 者17名体制で事務局を運営しており,また,内 21) で専従対応している。行政が音 表 3 宮古島トライアスロン大会運営体制 主 催 宮古島市,琉球新報社 主 管 宮古島市体育協会,宮古島トライアスロン実行委員会 後 援 内閣府,沖縄県,沖縄県体育協会,沖縄観光コンベンションビューロー,沖縄マリンレジャーセー フティービューロー,沖縄県医師会,日本トライアスロン連合,宮古地区医師会,沖縄県看護協会, 沖縄県建設業協会宮古支部,宮古島商工会議所,宮古島観光協会,宮古島市婦人連合会,宮古青年 会議所,宮古島地区交通安全協会,宮古島漁業協同組合,伊良部漁業協同組合,池間漁業協同組合, 沖縄県食品衛生協会宮古支部,宮古地区薬剤師会,宮古地区歯科医師会,宮古新報社,宮古毎日新 聞社,宮古テレビ,エフエムみやこ,琉球水難救済会,日本ライフセービング協会沖縄支部,宮古 島手話関係団体連絡会 特別協力 NHK 沖縄放送局,第11管区海上保安本部,宮古島海上保安署,宮古島マリンリゾート協同組合 支 援 沖縄県立宮古病院,国立療養所宮古南静園,宮古島徳洲会病院,陸上自衛隊西部方面衛生隊,航空 自衛隊宮古島分屯基地,陸上自衛隊第15旅団,自衛隊沖縄地方協力本部 特別協賛 日本航空,日本トランスオーシャン航空,沖縄コカ・コーラボトリング 協 賛 オリオンビール,東急グループ,沖縄東急会,りゅうせき,琉球セメント,沖縄トヨタグループ, 宮古テレビ,沖縄電力,サンエー,OCS,琉球銀行,沖縄銀行,沖縄海邦銀行,沖縄セルラー電話, ブルーシールアイスクリーム,沖縄パナソニックファミリー会,パワーバー,スキンズ,スペシャ ライズドジャパン,タイメックス,ナチュラルエナジー,小林製薬,シーボジャパン,シマノセー ルス,東商会,ネオシステム,K2 ジャパン,沖縄ヤマト運輸 協議内容 スイム 3 km,バイク 155 km,ラン 42.195 km 部 門 個人 募集定員 1,500名 出所:宮古島トライアスロン実行委員会広報部[2012]を基に筆者作成 88 広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 閣府や自衛隊,マスコミ等の後援や協力を取り 4 つめの教育・文化的効果は,宮古島大会に 付けているが大きく異なる点である。 は多くの外国人選手や関係者が来島する。外国 宮古島市の運営予算額は24年度大会で600万 人の招待選手は,島内の小中学校を訪問し交流 円,25年度大会800万円であり,これに17名の する仕組みとなっており,地域ごとに対応する 専従職員の人件費は含まれていない。 国を決めている。生徒たちは交流会の中で刺激 まったくの手探りで始めた大会であるため, を受け,外国や言語への関心を高めるきっかけ 救命医療体制の対応能力をみながら参加者数の となっている。また,外国人選手にとっても, 増加や年齢制限を65歳と設定するなど進めてき 生徒たちと交流することで国を代表してきた選 た。コースは島全体を 1 周するような形を採用 手であること,トップアスリートであることを している。 自覚する機会となっている。 4.2.4 地域活性化 5 つめの経済的効果については,宮古島大会 先述したとおり,長浜[2000]が宮古島大会 での来島者は,選手,マスコミ,ボランティア の成果を 5 つ挙げており,これに基づいて整理 等で7,000名弱と推計され,その経済効果は 3 していく。 億2,600億円 1 つ目のイメージ効果であるが,第 1 回大会 この他特徴的なものとして,第 1 回大会から の NHK でのテレビ放送の影響が強くスポーツ 番組制作及び全国への番組配信によって,地域 アイランドとしての地位は揺るぎないものと になくてはならないテレビ局として成長した宮 なった。宮古島大会が開催されるまでは,住民 古テレビがある。 が進学や就職で本土に移り住んだときに,宮古 宮古テレビは1978年に放送を開始したケーブ 島出身と言ってもわかってもらえないことが多 ルテレビ局だ。宮古島は沖縄本島から約 300 かったが,今では「トライアスロンの宮古島」 km 南西に位置する離島のため,以前は NHK として知名度も高い。 のみが二次再送信で放送されていた。当社設立 2 つめの社会的効果については,宮古島大会 後は電通映画社を通じて東京キー局の番組を入 の開催によって,子供から大人まで多くの島民 手し, 3 週間後に放送していたが,現在は衛星 が島に誇りを持つようになった。第 1 回大会か 放送でリアルタイムに受信可能となった。 ら25年以上が経過し,大会の応援やサポートを 衛星放送時代となっても島民は,全国ニュー 経験した子供たちが大人になった今,よい思い スは NHK で,沖縄県内のローカルニュースは 出として語り合う財産となっている。また宮古 沖縄県内の民放,宮古島のニュースは宮古テレ 島大会は,島民のアイデンティティともいえる ビ(以下「当社」とする。)で,と棲み分けを 心のよりどころになっている。 している。当社はケーブルテレビ局のため,会 3 つめの地方自治体及び各団体の連帯効果に 員からの視聴料金が基本収入源である。宮古島 ついては,島全体を使ったコースとしてトライ 大会を毎年中継することで番組制作能力を高め アスロンが開催されるために,コース内の道路 つつ,島民のニーズを掴んだ番組制作によって, 整備やエイドステーションの設置等,島内の経 約55,000人の島でありながら50人規模のテレビ 済団体や,教育・文化団体,町内会等あらゆる 局として経営を存続している。 団体のボランティアによって成り立っている。 当社は,第 1 回大会から電通と協力して90分 この活動が連帯感を生み,宮古島大会以外の活 番組を制作した。大会の一部を生中継し,全国 動においても活性化している。 のケーブルネットテレビ局へ配信した。第 5 回 22) と試算されている。 離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察 89 大会からは社内に番組制作班を設置し,独自で トライアスロンさぎしま大会実行委員会が主催 番組制作を行っている。島内向けに生中継を行 で1990年から毎年 8 月下旬または 9 月上旬に開 い,総集編を制作して電通が全国の地方局に配 催している。 信する。当社も沖縄テレビまたは琉球放送の 1 佐木島は三原港からフェリーで25分の距離に 時間の番組枠を購入し番組を放映している。第 あり,周囲 12 km の三原市内に位置する離島 1 回大会を NHK が生中継したことでトライア である。三原市や旧因島市の造船業中心にフェ スロンを初めて知った人も多く,第 2 回大会以 リーで勤務しながらワケギやカンキツ類等を栽 降の当社番組によって,宮古島大会と宮古島の 培する兼業農家地帯であった。向田・鷺・須ノ 知名度が高まっていった。 上の 3 集落があり1955年当時は3,000人を越え 当社の従業員50名のうち番組制作のスキルを ていた人口も,造船不況から職場も閉鎖・縮小 持つ者は,番組制作スタッフ 4 名と報道記者 7 され,職を求めて島を出て行った。2015年11月 名を含めて20名近くいる。当社のマンパワーで, 末現在で429世帯の人口765人であり,人口減少 これまでに宮古島大会関連の番組28本を制作し と高齢化が進んでいる。 てきた。この番組制作によって技術が向上し, 4.3.2 大会の経緯 ローカルニュース,行政関連番組に加えて地元 佐木島では,向田・鷺・須ノ上の 3 集落対抗 情報番組も制作し,宮古島大会中継だけでなく で島内バレーボール大会や島内 1 周駅伝等を 島民の高い支持を得ている。 行っていたが,人口減少で開催が困難となった。 しかし,長期に及ぶ不況によって広告主が減 町内会を中心に町全体の活性化策を検討してい 少し, 3 期前から番組制作部門は赤字決算と たところ,公民館からトライアスロンを紹介さ なっている。宮古島大会は島民の関心が高く生 れ,1990年に第 1 回を開催することとなった。 中継放送は視聴者へのサービスと位置づけてい 第 2 回からは 3 人でのチームリレーの部を新設 るが,中継ポイントやレンタル機材の削減や人 し,第 1 回に196名だった参加者は,2015年の 員配置の見直し等によるコスト削減に努めてい 第26回には369名と41チームの参加となってい る。 る。 大会運営についてもマンネリ化しており「行 4.3.3 運営の仕組み 政として他にやることがある」「もういいじゃ さぎしま大会は,町内会を中心に地元住民に ないか」という意見も一部あるが,中止には よって企画・運営される大会である。大会当日 至っていない状況にある。島民の心のよりどこ は島外からのボランティアスタッフの協力もあ ろとなった宮古島大会の今後は,地域活性化の るが,さまざまな計画策定や調整はすべて島内 視点からも重要であり,大会とともに成長した のスタッフが行っている。 当社の方向性に与える影響は極めて大きい。 行政の積極的な支援はなく,大会運営費約 1,000万円のうち,三原市の補助金は50万円で 4.3 トライアスロンさぎしま大会 4.3.1 佐木島の概要 あり,残りは参加費(700万円)と企業からの 寄付(200万円)で運営している。三原市は, 3 つめのパイロットスタディとして,鷺浦町 教育委員会のスポーツ振興課の所管である。 内会が中心となって運営するトライアスロンさ 地元住民が運営するため,住民総出でのボラ ぎしま大会(以下「さぎしま大会」と言う。) ンティアや応援を行っている。さぎしま大会は を概説する。さぎしま大会は,地元住民による スイム 1.5 km,バイク 42.0 km,ラン 10.0 km 90 広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 表 4 トライアスロンさぎしま大会運営体制 主 催 トライアスロンさぎしま大会実行委員会 主 管 三原市鷺浦町内会 後 援 三原市,三原市教育委員会,三原市医師会,三原市体育協会,広島県トライアスロン協会,NHK 広島放送局,三原商工会議所,三原ライオンズクラブ,三原青年会議所,JA 三原,三原市スポー ツ推進委員競技会,PW 安全協会中国地方本部,日本財団 協議内容 スイム 1.5 km,バイク 42 km,ラン 10 km 部 門 個人,リレー( 3 人) 募集定員 個人400名,リレー40チーム 出所:トライアスロンさぎしま大会実行委員会[2013]を基に筆者作成 と短いため,島を 1 周する県道はちょうど 10 経済効果としては,大会前後には選手と家族 km であり,バイクで 4 周。ランで 1 周する。 等で1,000人が来島し臨時便が運行される。また, 当日は町中の人が応援する。事前に回覧板等で 大会当日だけでなくトライアスロンの練習に来 住民に選手の名前を知らせておくと,大会当日 島する人が増え,フェリー等の利用者が増加し にゼッケン番号ではなく名前で応援し,このこ た。 とが選手にはたまらなくうれしいらしい。 小さなことであるが,島内の24団体がボラン 4.3.4 地域活性化 ティアとして関わることから,各団体に事務経 さぎしま大会の当初の目的は,交流人口の増 費として 3 万円支給している。各団体とも自治 加にあった。人口減少の中で切実な問題はフェ 会費で運営しているが,人口減少で予算が減少 リー,及び高速艇の便数確保であり,これを改 している中で,運営経費として助かっている。 善することであった。 同様に大会当日の昼食は 3 地区の女性会が また,大会運営を島民が協力して行うことで, 1,000食対応する。全メニュー300円が女性会の 島の住民が 1 つにまとまり,島民が自慢できる 事業収益となる。 ものとして。世代を超えた繋がりのツールとし さぎしま大会は全国的にもめずらしい町内会 ての活用も検討していた。実行委員会の小谷氏 主催方式である。行政主導の場合は首長が変わ (60代)は東京の大学に進学したが,当時の三 ると中止の可能性があり,商工会議所主催の場 原市はほとんど知名度がなかった。しかし今で 合は予算がなくなると中止が考えられる。よっ はトライアスロンの島と自信を持って語ること て,町内会主催で継続している。 ができる。 大会運営は順調であるが,人口減少と高齢化 2007年度まで島内に中学があったときには, からスタッフの平均年令が第 1 回から24才上 中学生とその保護者がエイドステーションを担 がっている現状にある。今後の継続が課題と 当した。さぎしま大会開催前の島内中学の卒業 なっている。 文集のテーマのほとんどが修学旅行だったが, 大会開催後は 9 割以上がエイドステーションの 5. 発見事実と課題 話になった。その子供達や親戚,知人が島に トライアスロン大会開催による離島の地域活 帰ってきたときに,世代を超えてトライアスロ 性化についてのパイロットスタディを行った。 ンに関わった話ができる環境をつくることがで 1,500人以上の参加者となる規模の大きな宮古 きたと小谷氏は述べる。 島大会については, 3 億2,600万円の経済的効 離島におけるスポーツ振興による地域活性化の一考察 果が試算されているが,伊豆大島大会とさぎし ま大会については,経済的効果よりも社会的効 果に寄与していることが明らかとなった。 また,運営方法についても行政及び地域が主 導で行う宮古島大会とさぎしま大会の方が,住 民の積極的な関わりと社会的効果が大きいこと が判明した。 離島の厳しい自然的,社会的状況に対応する ためのソフト事業として,トライアスロン大会 等の地域スポーツイベントの開催は,主に社会 的効果があることが明らかとなった。今後は, さらに事例を集めることで定量的な評価に結び つけていきたい。 謝辞:本稿は広島経済大学共同研究費助成(平成23 年度∼平成25年度)及び笹川スポーツ研究助成(2015 年度)の成果の一部である。 また,現地調査の実施にあたっては,下記に記し た機関の協力をいただいた。ここに記して心から感 謝したい。 ・公益社団法人日本トライアスロン連合 ・伊豆大島トライアスロン大会:東京都大島町観光 商工課,有限会社トリニティ ・全日本トライアスロン宮古島大会:全日本宮古島 トライアスロン実行委員会,宮古テレビ,下地総 合スポーツクラブ,Studio Body & Brain ・トライアスロンさぎしま大会:トライアスロンさ ぎしま大会実行委員会,三原市教育委員会スポー ツ振興課,三原市経済部文化観光課 注 1) 公益財団法人日本離島センターホームページ: http://www.nijinet.or.jp/info/faq/tabid/65/Default. aspx 2) 沖縄振興特別措置法,奄美群島振興開発特別措 置法,小笠原諸島振興開発特別措置法。 3) 原田[2008]pp. 11–19 4) 地域コミュニティを起点として,地域住民が主 体となって地域の問題に取り組み,コミュニティ の労働力,ノウハウ,技術等の地域資源を生かし て,ビジネスとして成立させていくコミュニティ の元気づくりを目的にした事業活動。細内[2011] pp. 5 – 8 5) 関東経済産業局[2009]p. 2 6) 関東経済産業局管内 1 都10県(茨城県,栃木県, 群馬県,埼玉県,千葉県,東京都,神奈川県,新 潟県,長野県,山梨県,静岡県) 7) 竹原[2008]pp. 139 – 158 91 8) 本郷[2013]pp. 61 – 65 9) 増井・生沼[1996]p. 150 10) 増井[1997]pp. 51 – 60 11) 原田・山崎[1998]pp. 35 – 42 12) 堺[1997]pp. 83 – 88 13) 堺[1998]pp. 69 – 75 14) 堺[2000]pp. 61 – 68 15) 長浜[1998]pp. 18 – 19 16) 2005年に 5 市町村が合併して宮古島市とはなっ た 17) 2015年 9 月 2 日に公益社団法人日本トライアス ロン連合大塚眞一郎専務理事から聴取 18) 2011年 3 月 7 日に有限会社トリニティ代表取締 役小沼徹氏から聴取 19) 大島町ホームページ http://www.town.oshima. tokyo.jp 20) 全日本トライアスロン宮古島大会公式ホーム ページ http://www.miyako-net.ne.jp/~strong/ 21) 職務専念義務の免除 22) 宮古島トライアスロン実行委員会[2012]p. 27 参 考 文 献 伊豆大島トライアスロン大会実行委員会[2011]「第 22回伊豆大島トライアスロン大会」 経済産業省関東経済産業局[2009]「スポーツビジネ スを核とした地域活性化策の検討・提案」『広域 関東圏におけるスポーツビジネスを核とした新 しい地域活性化のあり方に係る調査報告書』 堺 賢治[1997]「スポーツイベントに関する研究: ボランティアの場合」愛媛大学教育学部保健体 育紀要 堺 賢治[1998]「スポーツイベントに関する研究 (2):参加者の場合」愛媛大学教育学部保健体育 紀要 堺 賢治[2000]「スポーツイベントに関する研究 (3):住民の場合」愛媛大学教育学部保健体育紀 要 高木ミナ[2015]「公益社団法人日本トライアスロン 連合(JTU)に聞く「普及」と「強化」の両輪 で走る日本トライアスロン界の未来戦略」『トラ イアスロン・マガジン』ベースボール・マガジ ン社 竹原康幸[2008]「スポーツによる地域や産業の活性 化」『スポーツの視点から産業,地域振興を考え る』大阪府立産業開発研究所 トライアスロンさぎしま大会実行委員会[2013]『第 24回トライアスロンさぎしま大会』 長浜博文[2000] 「トライアスロンによる地域おこし」 しまたてぃ第13号 原田尚幸・山崎利夫[1998]「スポーツイベント運営 における広報活動─トライアスロン大会に対す るイメージについて─」学術研究紀要,鹿屋体 育大学 原田宗彦[2008]「スポーツマネジメントをめぐる社 会的背景」原田宗彦・小笠原悦子編著『スポー 92 広島経済大学研究論集 第38巻第 4 号 ツマネジメント』大修館書店 細内信孝[2011]「コミュニティ・ビジネス戦略で活 性化を」AFC フォーラム 5 月号 増井 悟・生沼芳弘[1996]「トライアスロン競技の 発展に関する一考察」日本体育学会大会号 増井 悟[1998]「トライアスロン大会が地域活性化 に及ぼす影響について」東海大学紀要,体育学 部 間宮聰夫・野川春夫[2010]「生涯スポーツイベント のマーケティング」『スポーツイベントのマーケ ティング』市村出版 宮古島トライアスロン実行委員会広報部[2012]「第 28回全日本トライアスロン宮古島大会 GUIDE BOOK」 宮古島トライアスロン実行委員会[2011]「第27回全 日本トライアスロン宮古島大会事業報告」