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CMC 触覚センサを用いた樹脂プレート表面の触感の判別
429 CMC 触覚センサを用いた樹脂プレート表面の触感の判別 Discrimination of tactile sensation of resin plate surface using CMC tactile sensor ○学 今井 大坪 貴史(岐阜大) 正 克俊(岐阜大) 正 川村 山田 拓也(岐阜大) 宏尚(岐阜大) Takahito IMAI, Takuya KAWAMURA, Katutoshi OTSUBO and Hironao YAMADA Gifu University, 1-1 Yanagido, Gifu 501-1193 Key Words: Tactile Sensor, Tactile Sensation, Plate Surface, Roughness 1.緒言 人は指先の数 µm の変形や数 gf の力変化を触覚で知覚し, ざらざら,ツルツル,くっつくなどの触感として認識してい る.著者らは,このような物体表面の触感を判別することが できる触覚センサの開発を目指している.本研究で用いる CMC 触覚センサ[1]は,カーボンマイクロコイル(CMC)と呼 ばれる炭素素材を分散させたシリコーン樹脂をセンサ素子 としており,センサ素子に加わる数 gf の微小な力変化や数 μm の微小な変形を人と同じように検出できる[2].また,樹 脂プレート表面にセンサ素子を数十 gf の力で押し付けなが ら 1 mm 水平方向に滑らせたとき,材質や表面の加工方法の 違いによりセンサ出力が異なり,その違いが人の触感と関係 することがわかり,センサ出力と触感とを関連付けるいくつ かの評価指標を得た[3][4]. これまでの研究では,凹凸などの表面性状に加えて,材質 の違いがセンサ出力に影響している可能性があった.そこで 本研究では,同じ材質で触感が異なる試料を用意し,そのセ ンサ出力と,ざらざら・ツルツル,くっつく・くっつかない といった触感との関連を明らかにすることを目的とする.実 験では,樹脂プレート表面をサンドペーパーでこすって,表 面がざらざらした試料とツルツルになった試料,表面が指先 にくっつく感じの試料とくっつかなくなった試料を用意し た. にセンサ素子に与えられる力を力覚センサから計測するシ ステムを開発した(図 2) .本システムは,楔形 Z ステージ [神津精機(株) ,ZA07A-W2C] ,XY ステージ[神津精機(株), YA07A-R1] ,力覚センサ[ビー・エル・オートテック(株), ThinNANO 1.2/1]などから構成されている.楔形 Z ステージ および XY ステージはステッピングモータにより動作する. ステッピングモータにより Z ステージが上下に移動するこ とにより,Z ステージ上に置かれた CMC 触覚センサと力覚 センサが固定されたプレートに垂直に押しつけられて,セン サ素子に圧縮力が与えられる.このとき XY ステージが水平 方向に動くことで,センサ素子には水平方向への変形が生じ, センサ素子にせん断力が与えられる.これにより人の触運動 に模した動きが実現される. LC Component R Component Fingertip-type hybrid tactile sensor Sensor Signal Processing Device Plate Plate Acrylic CMC TouchSensor Sensor CMC Tactile Force Sensor Wedge- type Z stage XY stage Stepping Motor 2.CMC 触覚センサについて 本実験で用いた CMC セ ンサ素子を図 1 に示す.こ のセンサ素子は直径 16mm, 高さ 2 mm のドーム状のセ ンサ素子で,シリコーンゴ ムの中に 10%(重量比)の CMC を均一に分散させてあ Fig. 1 CMC sensor element る.CMC はコイル形状であ るので,CMC 触覚センサはインダクタンス成分を有してい ると考えられる.さらに,誘電体のシリコーンゴムに CMC が分散していることからキャパシタ成分も有している.これ により,CMC 触覚センサは LCR 回路を構成していると考え られる.そのため,センサ素子に外部刺激が与えられるとセ ンサ素子の変形とともに,電気的共振特性が変化する.それ により,位相成分と振幅成分が変化する.これをセンサ信号 処理装置[シーエムシー技術開発(株),SA-1]によって計 測し,それぞれ位相(LC 成分,VLC)と振幅(R 成分,VR) に分けて電圧変化として出力する.なお,本稿の実験では LC 成分を利用する. 3.CMC 触覚センサ評価システム 本研究では,CMC 触覚センサを用いて触感評価を行うた め,CMC センサ素子を数 µm から数 mm 圧縮変形およびせ ん断変形させたときの CMC 触覚センサの出力と,そのとき Fig. system Fig.21Experiment Experiment system 4.樹脂プレート表面の触感の評価 4.1 樹脂プレート表面の触感の評価実験 本実験では,同じ材質で触感が異なる樹脂プレートに対す るセンサ出力から触感を判別する指標を取得するため,セン サ素子を初期圧縮力 20 gf で試料に押し付けその後水平方向 に 1 mm 滑らせたときのセンサ出力を測定した.実験で使用 した樹脂プレートは,MC ナイロンプレート(MCAS)とア クリルプレート(AC)の 2 種類であり,サンドペーパーで こする前と後で人指先の触感は以下のようになった. ざらざらで指にくっつかない(MCAS1) ツルツルで指にくっつかない(MCAS2) ツルツルで指に少しくっつく(AC1) ツルツルで指にくっつかない(AC2) 図 3 に,センサ素子を MCAS1 に押し付けた後,水平移動 開始してから水平移動完了後 2 秒までの CMC 触覚センサ出 力と力覚センサ出力を示す.横軸は,水平移動開始からの経 過時間,左縦軸は力覚センサの垂直方向の力(Fz)と水平方 向の力(Fy),右縦軸は CMC 触覚センサの出力(VR,VLC) の変化を示している.また,モータ状態とは,XY ステージ を移動させるステッピングモータを表しており, 左縦軸の 10 が水平移動中,0 を水平移動停止後としている.ここで,VLC に着目すると,水平移動を開始してからおよそ 0.15 秒後にピ 日本機械学会東海支部第 65 期総会・講演会講演論文集(’16. 3. 17-18) No.163-1 2.5 2 1.5 -15 1 -20 0.5 -25 0 0 1 2 Time 3 4 sec Fig. 3 Outputs of CMC sensor and Force sensor 4.2 CMC 触覚センサ出力の比較および考察 まず図 4 に,それぞれの表面について,センサ素子が水平 移動を開始してから VLC がピーク値に到達までの時間を示 す.横軸が樹脂プレートの名前で,縦軸はピーク値に到達す るまでの時間である.図 4(a)より,ピーク到達時間は,ざら ざらした触感の MCAS1 よりツルツルした触感の MCAS2 の ほうが大きく,また図 4(b)より,くっつく触感の AC1 より くっつかない触感の AC2 のほうが大きいことがわかる.な お,水平移動開始からピーク値までの CMC 触覚センサの変 化量を比較したところ,ざらざら・ツルツル,くっつく・く っつかない触感どちらも区別できなかった. つぎに図 5 に,水平移動を開始してから停止するまでの VLC の変化量を示す. 図 5(a)より, ざらざらした触感の MCAS1 とツルツルした触感の MCAS2 では違いは得られなかったが, 図 5(b)より,くっつく触感の AC1 よりくっつかない触感の AC2 のほうが大きいことがわかる. さ ら に ,水 平 移動 を 停止 し てか ら の VLC の変 化 量を MCAS1(ざらざら)と MCAS2(ツルツル)は図 6 に,AC1 (くっつく)と AC2(くっつかない)は図 7 に示す.いずれ の図においても,横軸は水平移動を停止してからの時間,縦 軸は CMC 触覚センサ出力の変化量を示しており,水平移動 を停止した直後の CMC 触覚センサ出力値を 0 としている. 図 6 より,ざらざらした触感の MCAS1 よりツルツルした触 感の MCAS2 のほうが大きく,また図7より,くっつくよう な触感の AC1 よりくっつかない触感の AC2 のほうが大きい ことがわかる. これらの結果より,VLC がピーク値に到達するまでの時間 あるいは水平移動を停止してからの VLC の変化には,「ざら ざら・ツルツル」,「くっつく・くっつかない」ぞれぞれの 触感の程度が現れるが,「ざらざら感・くっつく感」の区別 は難しい.他方,VLC の水平移動開始から停止までの出力変 化には,「ざらざら・ツルツル」の特徴は現れず,「くっつ く・くっつかない」の触感の程度が表れることが示唆された. 5.結言 本稿では,サンドペーパーでこすりざらざらした触感の樹 脂プレートをツルツルした触感の表面に,くっつくような触 sec sec Time Time 0.05 0 MCAS1 MCAS2 AC1 AC2 Material Material (a)MCAS (b)AC Fig. 4 Time to peak while the sensor element is sliding after compressed at the compression force of 20 gf CMC sensor’s V output -10 3 0.1 0 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 MCAS1 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 MCAS2 AC1 AC2 Material Material (a)MCAS (b)AC Fig. 5 CMC sensor’s output voltage change while the sensor element is sliding after compressed at the compression force of 20 gf V -5 Material: MCAS1 0.05 0.5 Compression force: 20 gf 0.4 0.3 0.2 :MCAS1 :MCAS2 0.1 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Time sec Fig. 6 CMC sensor’s output voltage change just after the sensor element MCAS is slid for a distance of 1 mm V 0 0.1 CMC sensor’s output : Motor status : Fy : Fz : VR : VLC 5 3.5 0.2 0.15 CMC sensor’s output 10 0.2 0.15 CMC sensor’s V output 4 Compression force: 20 gf 感の樹脂プレートをくっつかないような触感の表面に変え た.そして,4 つの表面に対して CMC 触覚センサを軽く押 し付け,滑らせたときの CMC 触覚センサの出力からざらざ らとツルツルという触感を,また,くっつくとくっつかない という触感を同じ材質であってもそれぞれ判別することが できる指標が得られた. V 15 CMC sensor’s output Force sensor’s output gf ークを迎えるまで急激に値が変化し,ピークを迎えてからは 緩やかに変化している.さらに水平移動を停止した直後にも 大きく値の変化が見られる.このような CMC 触覚センサの 出力の変化は他のプレート表面でも同様の傾向が見られた. これまでの研究で得られた触感を判別するための指標は, CMC 触覚センサの水平移動開始からのピーク値に到達する までの時間および出力の変化量,水平移動を開始してから停 止するまでのセンサの変化量,水平移動を停止してからのセ ンサの変化量の 4 つである.本稿においても,ざらざらとツ ルツル,くっつくとくっつかないを比較するためにこれらの 指標を用いる. 0.7 Compression force: 20 gf 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 :AC1 0.1 :AC2 0 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 Time sec Fig. 7 CMC sensor’s output voltage change just after the sensor element AC is slid for a distance of 1 mm 参考文献 [1] 葛谷,植田,河邊, “CMC 触覚センサーへの応用”, INTER MATERIAL 8 月号,pp. 9-16,2004. [2] 祢次金,川村,山田,谷,“微小変形時における CMC 触覚センサの力覚応答特性” ,第 28 回日本ロボット学 会学術講演会予稿集,2O1-2,2010. [3] 柿崎,川村,大坪,山田,“CMC 触覚センサを用いた 物体表面の滑り特性の評価に関する研究” ,日本機械学 会東海支部第 63 期総会講演会講演論文集,404,2014. [4] 犬塚,川村,大坪,山田,“CMC 触覚センサを用いた 物体表面の触感の判別”日本機械学会東海支部第 64 期 総会講演論文集,246,2015.