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無線LANにおける受付制御技術および トラヒック制御技術

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無線LANにおける受付制御技術および トラヒック制御技術
無線LAN
無線LANの通信品質向上を実現するQoS制御技術
受付制御
トラヒック制御
特
集
無線LANにおける受付制御技術および
トラヒック制御技術
み や の
と
も
こ
おおつき
し ん や
宮野 とも子 /大槻 信也
無線LANでは,利用環境や通信状況が変化すると,音声や映像等のリアル
タイム通信に対し通信品質を確保できない場合があります.本稿では無線
うめうち
まこと
おがさわら
まもる
梅内 誠 /小笠原 守
LANの通信品質確保を実現するための,受付制御技術およびトラヒック制御
NTTアクセスサービスシステム研究所
技術について紹介します.
無線LANの通信品質確保の実現に
向けた技術
先度(AC_VO,VI,BE,BK)に対応
付けることにより,無線LAN基地局
(基地局)と無線LAN端末(端末)
基地局
端末
基地局は受付制御が必
須であることをビーコ
ン信号により報知
Beacon
無線LANは,公衆スポットやオフィ
において,複数の通信品質を提供でき
ス,ホーム等,多様な場所で利用さ
るようになります.しかし,EDCAは
れています.今後は,単なるインター
優先度を提供する仕組みであり,優先
ネットアクセスによるWebやメールだ
度に基づく相対的な制御方法であるた
けでなく,音声通話(VoIP: Voice
め,所望する通信品質を常に確保でき
over IP)やストリーミング映像等のリ
るとは限りません.例えば,大容量の
アルタイム系アプリケーションの利用
トラヒックが流入したり,非常に多く
高優先度通信
が想定されます.無線LANの通信品
の端末が同時に通信を行うことで輻輳
DELTS
質は利用環境や通信状況により変化す
状態となり,すでに通信中のVoIPや
るため,ユーザは必ずしも所望した通
映像の通信品質が劣化(パケット損
信品質でリアルタイムアプリケーショ
失,遅延,ジッタ等が発生)します.
ンを利用できない場合があります.リ
優先制御EDCAに加え,無線リソー
アルタイム系アプリケーションを安定
スの状況を踏まえ,ユーザが要求する
求品質(平均速度,パケット長,物
して利用するためには,通信品質を確
通信品質が提供可能な場合にのみ,無
理 速 度 等 ) を表 すパラメータを,
保する仕組みが必要です.本稿では,
線リソースの利用を許可するといった
T S P E C に設 定 してA D D T S ( A D D
無線LANにおける通信品質確保を実
受付制御を併用することが,無線LAN
Traffic Stream) Request信号によ
現する技術のうち,無線リソースの利
における通信品質確保の観点から有効
り,基地局に通知します.基地局は,
用状況に基づく受付制御技術およびト
です.
その受 付 可 否 を判 断 して, 結 果 を
ラヒック制御技術について紹介します.
このためIEEE802.11e標準では,
ADDTS Request
TSPECパラメータを用
いて通信開始を要求
受付
判断
ADDTS Response
受付の可否を判断し結
果を通知
高優先度による通信
高優先度を利用した通
信の終了
図1 TSPECネゴシエーション
の概要
ADDTS Response信号により返答し
EDCAにおける受付制御の実現手段
ます.端末は,基地局から許可を受け
として,TSPEC(Traffic SPECifi-
た場合のみ,高優先度通信を開始し
cation)ネゴシエーションを規定して
ます.また,通信終了時にはDELTS
IEEE802.11eで規格化された優先制
います.その概要を図1に示します.
( DELete Traffic Stream) 信 号 に
御(EDCA:Enhanced Distribution
まず端末は,VoIPや映像等の高優先
無線LANの通信品質確保技術
無線LANの通信品質制御技術に,
(1)
Channel Access)
があります .EDCA
度(AC_VO,VI)通信の開始に際し,
は,無線LANのトラヒックを4つの優
これから利用するアプリケーションの要
より基地局に通知します.
本機能により,基地局は無線容量
を超過する通信を抑制できるため,す
NTT技術ジャーナル 2007.8
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無線LANの通信品質向上を実現するQoS制御技術
でに通信中の高優先度通信の品質を
度の通信品質が劣化するという問
機能概要を図3に,各機能の詳細を
確保できます.また,ユーザはこれか
題があります.
以下に示します.
ら良好な通信が可能かを通信前に判別
③
課 題 3 : E D C A における
(1) TSPECネゴシエーションによる
でき,混雑時にはしばらく待ってから
TSPECネゴシエーションは,高優
再度通信を行う等の動作ができるため,
先度(AC_VO,VI)トラヒック
本機能は,TSPECネゴシエーショ
VoIPやストリーミング映像等のリアル
に 適 用 さ れ , 低 優 先 度
ンの課題1を解決します.本機能にお
タイム系サービスをより快適に利用で
(AC_BE,BK)トラヒックには適
ける判断方法を図4に示します.基地
用されません.このため,多量の
局は,受付の可否をシステムの余剰時
低優先度トラヒックにより,品質
間より判断します.ここで余剰時間は,
確保対象である高優先度の通信
すでに受付を許可された高優先度通信
EDCAでTSPECネゴシエーション
品質が劣化する場合があります.
の占有時間の総量から算出します.具
を用いて通信品質確保を実現する方法
④ 課題4:TSPECネゴシエーショ
体的には,基地局は受信したTSPEC
は非常に有効ですが,次の課題があり
ンを動作させるためには,端末に
より要求された通信の占有時間を算出
ます(図2)
.
EDCAおよびTSPECネゴシエー
し,システムの余剰時間と比較して,
① 課題1:TSPECネゴシエーショ
ション機能が実装されていること
要求の占有時間が小さい場合は許可
ンによる受付判断の判断基準は規
が必須です.本機能を具備しない
,要求の占有時間が大きけれ
(図4(a))
定がありません.このため,高優
端末には受付制御を適用できない
先度通信の品質確保の観点から
ため,対象となるユーザが限定さ
判断指標を定める必要があります.
れてしまいます.
きます.
TSPECネゴシエーションの課題
② 課題2:端末はTSPECネゴシ
エーションの後,EDCAを用いた
ば拒否(図4(b))と判断します.
本機能により,無線容量の超過を
抑制できるため,すでに受付を許可し
た高優先度通信の品質を確保すること
開 発 技 術
ができます.
自律分散制御により無線アクセス
前述の課題を解決しEDCAにおける
を行うため,基地局より許可され
通信品質確保を実現するために,新た
た値を超過する場合があり,その
に受付制御およびトラヒック制御技術
結果許可量と実トラヒックとの差
を開発しました.
が生じ,すでに許可された高優先
受付制御機能
(2) 高優先度(AC_VO,VI)に対
するトラヒック制御機能
本機能は,TSPECネゴシエーション
の課題2を解決します.基地局は,受
主な開発技術は次の4項目です.
付制御で許可された高優先度トラヒッ
クが許可量を超過しないように常時観
測し,超過するトラヒックに対し制御
<課題1>
無線帯域不足による
通信品質劣化
基地局
無線ネットワーク
<課題4>
TSPEC
ネゴシエーション
音声端末 AC_VO
機能の実装必須
映像端末 AC_VI
有線ネットワーク
VoIP
VoIP
VoIP
VoIP
VoIP
VoIP
VoIP
VoIP
Video
を行います.本機能の動作例を図5に
Video
Video
Video
Web
Web
示します.連続して一定期間トラヒッ
クの許可量からの超過を観測すると,
超過量に応じたパケットを廃棄し,そ
の後一定期間トラヒックの超過が観測
<課題2>
受付後の
多大トラヒック
流入による
品質劣化
された場合に接続解除(Disassociation)を送信して接続を解除します.
また,観測対象のトラヒックがパケッ
ト廃棄により許可量以下となった場合
は,観測状態に戻ります.
Web利用端末 AC_BE
<課題3>
低優先度トラヒックへの
適用不可
図2 TSPECネゴシエーションにおける課題
本機能により,受付を許可された量
を超過する高優先度トラヒックを抑制
できるため,すでに開始した高優先度
通信の品質確保が可能となり,安定し
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NTT技術ジャーナル 2007.8
ユビキタス性の追求
特
集
混雑時・不正要求時
には要求を拒否
無線ネットワーク
<解決方法1>
無線リソースを考慮した
TSPECネゴシエーション
受付制御機能
基地局
有線ネットワーク
VoIP
VoIP
VoIP
<解決方法4>
端末実装に依
存しない,
音声端末 AC_VO
観測量利用
受付制御および
トラヒック
制御機能
VoIP
VoIP
VoIP
VoIP
<解決方法2>
超過トラヒックの
流入を防止する
高優先度
トラヒック
制御機能
Video
映像端末 AC_VI
超過量
観測
Video
Video
Web
Web
パケット
廃棄
観
測
ト
ラ
ヒ
ッ
ク
量
接続解除
制御前
制御後
許可量
経過時間
図5 高優先度トラヒック制御
Web利用端末 AC_BE
地局における観測量利用受付制御機
<解決方法3>
端末あたりのトラヒック
総量を管理する,端末単位
トラヒック制御機能
能と,VoIP以外のトラヒックを制御
するトラヒック制御機能から構成され
図3 開発機能概要
ます.受付制御機能では,基地局に
おける受付判断指標として,システム
の余剰帯域とVoIP通信の輻輳を表す
占有時間
余剰時間を
超過しない場合:
許可
無線容量
占有時間
判断対象
の通信
比較
余剰時間
VoIP
判断対象
の通信
受付済み
の通信
VoIP
受付許可済み
通信の
占有時間
の総量
比較
余剰時間
VoIP
よる受付制御機能と異なります.基地
局は,システムの余剰帯域と再送割合
VoIP
受付済み
の通信
再送割合を用い,両者とも観測値を
用いる点がTSPECネゴシエーションに
Video
が一定値以下の場合に許可,一定値
VoIP
VoIP
VoIP
無線容量
余剰時間を
超過する場合:
拒否
VoIP
受付許可済み
通信の
占有時間
の総量
VoIP
以上の場合に拒否と判断します.ま
た,トラヒック制御では,受付判断に
おいて一定時間拒否となる場合に無線
が輻輳状態であると判断し,VoIP以
Video
(a) 判断が許可の場合
Video
(b) 判断が拒否の場合
図4 TSPECネゴシエーションにおける受付判断方法
外のトラヒックに対し制御を実行し
ます.
本機能により,TSPECネゴシエー
ションを具備しない端末に対しても受付
た通信を提供できるようになります.
ラヒック制御機能
制御を適用することが可能となります.
(3) 端末単位のトラヒック制御機能
本機能は,TSPECネゴシエーショ
本機能は,TSPECネゴシエーショ
ンの課題4を解決します.本機能は,
ンの課題3を解決します.本機能は,
TSPECネゴシエーションを実装しない
EDCAにおいて端末単位に利用可能
端末に対して受付制御を適用する機能
なトラヒック量を管理し,上限値を超
です.TSPECネゴシエーションにおける
図5に示した高優先度に対するトラ
過するトラヒックに対し制御を実行し
制御信号の代わりに,接続要求・応答
ヒック制御機能の効果を図6(a)に示
ます.制御方法は,図5に示す高優先
(Association Request/Response)
します. 基 地 局 および端 末 の無 線
度に対するトラヒック制御機能に準じ
を用 いて端 末 の接 続 を制 御 し,
L A NインタフェースはIEEE802.11b
ますが,端末が利用するトラヒック量
TSPECによる余剰時間の代わりに無
を用いました.グラフは,音声端末
の総量を判断に用いる点が異なります.
線区間の統計情報(観測量)を基に
(VoIP)がAC_VOで双方向通信(64
(4) 観測量利用受付制御およびト
受付判断を行います.具体的には,基
kbit/s)を,映像端末(Video)が
開発機能の適用効果
上記開発技術を実装した基地局を
用いて効果を確認しました.
NTT技術ジャーナル 2007.8
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無線LANの通信品質向上を実現するQoS制御技術
ト
ラ
擬似音声端末が
送受信するトラヒック ヒ
ッ
ク
の時間変化
量 許可量
受信トラヒック
送信トラヒック
超過
(ms)
1 000
受付制御なし
受付制御あり
受付
トラヒック制御の
制御
時間変化
(ms)適用
1 000
許可量超過
トラヒック
観測
VoIP UL
VoIP DL
Video
100
遅
延
100
高優先度 接続解除 通信
トラヒック
品質
制御適用
の回復
遅
延
10
10
1
1
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
VoIP台数
0
10
20
30
40
50
60
70(s)
経過時間
(a) トラヒック制御機能
(b) 受付制御機能
図6 開発機能の適用効果
AC_VIでダウンリンク(DL)の通信
(2Mbit/s)を,受付許可後に行って
いる状態において,擬似音声端末が,
と同等に回復し,VoIP/Video端末
の通信品質が回復します.
今後の展開
図6(b)に,TSPECネゴシエーショ
今後は,有線ネットワークにおける
AC_VOでの受付量を超過して無線容
ンによる受付制御機能の適用効果を示
通信品質確保方法と連携した技術に
量を圧迫するトラヒックを送受信する
します. 本 機 能 を実 装 した基 地 局
拡張し,エンド・ツー・エンドの通信
場合のVoIP/Video端末のアップリン
(IEEE802.11b)において,複数の音
品質確保の実現に向けて技術開発を
ク(UL)・ダウンリンク(DL)の遅
声(VoIP)端末が同時に通話したと
延の時間経過を示しています.
きのV o I P 端 末 の遅 延 について,
観測開始から10秒間は,受付制御
AC_VOの受付制御機能を有効とした
機能により適切なリソース配分がなさ
場合と無効とした場合との比較をしま
れているため,VoIP/Video端末とも
した. 受 付 制 御 機 能 がない場 合 は,
に遅延が低く抑えられています.観測
VoIP端末が10台を超えると遅延が増
開始から10∼50秒間は,許可量を超
加します.一方,受付制御機能があ
過 した端 末 のトラヒックにより,
る場合は,VoIP端末が11台以降の受
VoIP/Video端末の遅延が増加しま
付は拒否され,すでに通信中のVoIP
す.基地局は,擬似音声端末からの
端末の遅延は低く抑えられ,通信品質
許可量超過トラヒックを観測すると,
が確保されます.
観測開始から30∼50秒間,許可量か
以上,開発技術の適用効果の一例
らの超過パケットを廃棄します.しか
として,VoIP/Videoの遅延改善例を
し擬似音声端末のアップリンクトラヒッ
示しました.このように,無線リソー
クが,VoIP/Video端末のトラヒック
スの状況を考慮して受付制御を行い,
を圧迫し続けるため遅延は増加したま
また許可量を超過するトラヒックに対
まです.基地局は,観測開始50秒後
し制御することによって,リアルタイ
に擬似音声端末に対し接続を解除し
ム系の通信を安定して提供することが
ます.これにより,VoIP/Video端末
可能となります.
の遅延が,観測開始10秒までの遅延
52
NTT技術ジャーナル 2007.8
進める予定です.
■参考文献
(1)“IEEE Std.802.11e-2005,”Nov. 2005.
(左から)小笠原 守/ 梅内 誠/
宮野 とも子/ 大槻 信也
無線LANを利用したネットワークの通信
品質制御技術を開発し,NTTグループの事
業に貢献できるよう,積極的に技術提案し
ていきます.
◆問い合わせ先
NTTアクセスサービスシステム研究所
第三推進プロジェクト
TEL 046-859-3378
FAX 046-859-4311
E-mail [email protected]
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