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医療事故における臨床検査技師の責任 ∼身を守るための方策

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医療事故における臨床検査技師の責任 ∼身を守るための方策
目 次
医療事故における臨床検査技師の責任
∼身を守るための方策∼
弁護士 蒔田 覚 …………… 1
医療事故の法的責任 …………………………………………… 23
臨床検査技師の賠償事故例 …………………………………… 28
日臨技会員のための補償制度 ………………………………… 34
医療事故における臨床検査技師の責任
∼身を守るための方策∼
弁護士
蒔田 覚
【はじめに∼臨床検査技師の地位∼】
臨床検査技師の地位は法律上認められた国家資格です。最近は資格ブームで,
民間で様々な資格認定もなされているようですが,皆さんの地位は「法律上」認
められたものであるという点で大きく異なるのです。臨床検査技師等に関する法
律2条では「『臨床検査技師』とは厚生労働大臣の免許を受けて,臨床検査技師
の名称を用いて,医師又は歯科医師の指示の下に,微生物学的検査,血清学的検
査,血液学的検査,病理学的検査,寄生虫学的検査,生化学的検査及び厚生労働
省令で定める生理学的検査を行うことを業とする者をいう。
」と規定されています。
まず,国家試験に合格し免許を取得しているのですから「臨床検査技師の名称を
用いて」業務を行うことができるのは当然ですが,法は「臨床検査技師でない者
は,臨床検査技師という名称又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。」
として皆さんの地位を保障しています(同法20条)
。これが,いわゆる「名称独
占」と言われるものです。
次に,
「医師または歯科医師の指示の下に」という点ですが,これは臨床検査技
師が自らの主体的判断で業務を行ってはならず,必ず医師等の指示に基づいてく
ださいということを意味します。
ところで,医師法17条は「医師でなければ,医業をなしてはならない。」と規
定しています。診断,手術,処方といった医行為については医師以外の者が,こ
れらを行うことは禁止されています(絶対的医行為)。法は,健康被害が生じる
畏れがあるものについて「高度な医学的知識,経験,技術を要する医師自身が行
う」ことにより,国民(患者)に健康被害等が発生することを防止することを目
的としています。
しかし,医師のみで患者の健康を守れるものではありません。マンパワーの限
界というのもありますが,医療機関には看護師,臨床検査技師をはじめとして,
様々な医療従事者が存在しています。これらの人たちは,国家資格(地方資格)
を有する専門職であり,それに見合うだけの専門的知識・技術を有しています。
ですから,
「医師の指示の下」という限定付きですが,血清学的検査,血液学的検
査等,保健衛生上の危害が生じうる行為(相対的医行為)を行うことが許されて
1
いるのです。
最近の医療は「医師」を頂点とする「ピラミッド型」ではなく,それぞれの分
野の専門職が協力しあうという「チーム医療」型モデルで捉えられることが多い
ようです。ですから,
「医師の指示の下」という法律の表現が実態に即したものか
については議論もあるかもしれません。しかし,野球チームにも「監督」「コー
チ」
「キャプテン」等が存在しています。それぞれの選手が各ポジションの専門家
であるとしても,これらがバラバラではチームとして機能しません。患者の病状
を最も把握している医師が適切な指示を出し,各医療従事者がこれに従った業務
を行うことにより,体系だった医療が実現することになります。法は「医師の指
示の下」と規定することで,様々な医療行為の最終的責任が「医師」にあるとい
うことを規定したものといえます。
概念的には,医師が自ら行わねばならない行為(絶対的医行為),他の医療従事
者に任せることができる行為(相対的医行為)という区分があります。しかしな
がら,これらの区別は相対的なものです。医療は日進月歩であると言われていま
す。新しい治療方法の発見,医療機器の開発,医療技術・安全性の向上等により,
医療環境は日々刻々と変化します。かつては,医師が行わねば健康被害を生じる
おそれがあると考えられていた医療行為であっても,安全性が確立したのであれ
ば医師に限定しなければならない実質的な理由はなくなります。たとえば,自動
体外式除細動器(AED)が登場しましたが,これは社会生活のあらゆる場所で発
生しうる突然の心停止に対応する目的で素人に簡単に使えるように開発された医
療機器です。医師法等を杓子定規に当て嵌め,医師以外にAEDの使用を認めない
と考える人は存在しないのではないかと考えています。
そして,医師でなければ行えない行為,素人でも行える行為の中間に,一定の
技能,知識,経験等を有する者が行うことによって「保健衛生上の危害」を防止
できるものが存在しています。これらの行為も技能,知識等の向上,さらには教
育内容の充実により変化することになります。臨床検査技師の例ではないのです
が,看護師の業務内容として,以前は「静脈注射」を行うことは禁止されていま
したが,平成14年9月30日厚生労働省医政局長通知によって,これも「診療の補
助行為の範疇」であると解釈の変更がありました。これにより,看護師が医師の
指示に基づいて静脈注射を行うことが許容されることとなりました。なお,同通
知では「施設基準」についても触れられている点は注目する必要があります。具
体的には,「手順の作成の見直し。薬品作用,静脈注射に対する知識,技術,感
染,安全性に対する重要性」を指摘しています。
同様に医療環境,臨床検査技師の技能等の向上により,臨床検査技師の行いう
2
る業務の範囲も拡大する可能性を秘めています。業務範囲が拡大することは臨床
検査技師にとって喜ばしいことではないでしょうか。ただし,業務範囲が拡大す
るということと,それに見合う知識・技能の取得ということは表裏一体の関係に
あり,当然,それに見合う法的責任も重くなります。
臨床検査技師は医師の指示内容に基づいて各種検査を実施しますが,多くの場
合には医師の指示に従った臨床検査技師が法的責任を追及されることはありませ
ん。しかしながら,臨床検査技師の知識,技能の向上により,医師の指示が明ら
かに不適切という場合などには,「先生,そのような検査の目的はなんですか。」
「検査の必要性はありますか。」などと臨床検査技師から医師に問い糾すというよ
うな義務が発生することも考えられます。
そして,このような義務が認められるように至って初めて,臨床検査技師が医
師と対等の立場での専門性が認知されたことになるのではないでしょうか。かつ
て,看護師,その他の医療従事者は「医師の手足」であるという考え方がありま
した。これは,医療行為については「頭」である医師が全責任を負うのであって,
手足である医療従事者が法的責任を問われることはない。仮にその責任を問われ
るにしても著しく軽減されるべきであるという方向で機能しました。
「臨床検査技師としての専門性を高めたい。」「業務範囲を拡大したい。」,けれど
「法的責任」は負いたくないというわけにはいきません。「医師の手足」論により
保護されるのがよいのか,専門職としての地位向上を望むのか,よく考えていた
だければと思います。
【医療従事者の法的責任について】
医師,看護師,臨床検査技師に限らず,医療従事者は①民事責任,②刑事責任,
③行政責任という三つの法的責任を負っています。民事責任,刑事責任は資格の
有無にかかわらず発生しますので,医療従事者の地位による責任としては行政責
任が挙げられます。ただ,行政責任も医療従事者固有のものではありません。自
動車運転免許の交付を受けた方々が「免停になった」
「免許を取り消された」など
の話を聞いたこともあるかと思います。これも自動車運転者という地位に基づく
行政責任(行政処分)の一つです。
新聞報道,テレビのコメンテーターの発言等で「社会的責任」という言葉が用
いられることも少なくありません。しかし,これは「道義的責任」の一つであり,
法的責任とは異なるものです。ここでは,各人の世界観,倫理観,道徳観に従っ
た対応が求められることになります。
まず,医療従事者の地位に基づく行政責任についての事例を紹介させていただ
3
きます。平成11年,某都立病院にて,看護師が消毒剤を誤注射し患者が死亡する
という事例が発生しました。この事例は,
医師法21条に基づく届出を欠いたため,
社会的に「病院の隠蔽体質」が問題とされた事例ですので記憶されている方も多
いのではないでしょうか。この事例では,誤って消毒剤入りの注射器を準備した
看護師に業務停止2月,これに気づかずに患者に投与した看護師に業務停止1月
の行政処分が科されています。これらの行政処分は司法処分(刑事処分)におけ
る量刑を参考にして決定されたものです。
これに対して,平成16年3月18日の新聞記事では,刑事処分前に行政処分が
科されたことについて報道されました。これは,某大学病院での前立腺癌の患者
(60歳男性)に対し,腹腔鏡下前立腺摘出術を施行した際に,出血が持続し,出
血性ショック・心停止をきたし,約1ヶ月後に死亡となったという事案について
のものです。
医師の行政責任についての考え方に関しては「行政処分の程度は,基本的には
司法処分の量刑などを参考に決定するが,明らかな過失による医療過誤や繰り返
し行われた過失など,医師,歯科医師として通常求められる注意義務が欠けてい
るという事案については,重めの処分とする。なお,病院の管理体制,医療体制,
他の医療従事者における注意義務の程度や生涯学習に努めていたかなどの事項も
考慮して,処分の程度を判断する。」という指針が示されています。「基本的には
司法処分の量刑などを参考に決定する」と謳われているにもかかわらず,刑事処
分が科される前に行政処分を科していますので,極めて異例のできごとであった
と評価されます。その後も,同様の事例は存在していないようです。平成11年か
ら平成16年にかけて,民事裁判の提訴件数,刑事立件件数,起訴件数も増加傾向
がありましたので,平成16年ごろが医療従事者に一番厳しい時代だったのかもし
れません。
同じ新聞記事で,某大学病院における「抗がん剤の過剰投与」事例について3
年6月の行政処分が科されたことが紹介されています。当時,法律上,業務停止
期間の定めはなく,概ね「5年内」の範囲で業務停止を科すという運用が定着し
ていました。その後,平成18年6月21日,医師法が改正され,業務停止の期間は
「3年内」と法定されました。その結果,3年を超える業務停止が相当と判断され
る場合には「免許取消し」になります。保健師助産師看護師法でも同様の改正と
なっています。
臨床検査技師等に関する法律の改正は見送られましたので,法律上は業務停止
期間の定めはありません。しかしながら,医師法等の改正が,臨床検査技師に対
する行政処分の判断に事実上の影響を及ぼす可能性は否定できませんので,今後
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の動向に注意する必要があります。
続いて,民事責任。これは,損害賠償責任と言われています。法的には契約関
係の有無により債務不履行責任と不法行為責任とに区別されますが,基本的にそ
の内容は同様で「医療行為,検査によって被害を受けた患者,あるいはその家族
に対して金銭的な賠償をする」ことを内容としています。
新聞報道等で「病院側に賠償命令」という見出しを目にすることがあります。
これは,裁判所において民事責任を認める判断が示されたことを意味します。そ
して,近年,損害賠償額の増加傾向は顕著です。平成13年1月15日,6歳の女の
子が「じんましんの治療」目的のため診療所で受診した際,医師の「塩化カルシ
ウム」静注の指示を誤解した准看護師が「塩化カリウム」を静注してしまった結
果,高カリウム血症による心停止をきたし,いわゆる寝たきりの状態になってし
まったという事例では,2億円を超える損害賠償が命じられました。民事裁判に
おける損害賠償は「被害の回復」を目的としたもので,
「加害者側への制裁」を目
的とする刑事処分とは,その目的を異にしています。損害額の算定において,ミ
スの内容が軽率なものであったか否かという点は大きな要素とはなりません。こ
の事例でも,初歩的ミスであったために高額な賠償となったのではありません。
具体的には,①被害者が将来どの程度の収入を得ることが見込まれるか,②今後,
どの程度の介護費用が見込まれるのかといった点を中心に損害が算定されます。
このように就労期間,平均余命までの年数に応じて賠償額が算定される結果,小
児等の場合には高額な損害賠償となります。最近では1億円を超える損害賠償が
認められることも珍しくはありません。また,この損害賠償額には,遅延損害金
5%が加算されます。元金が1億円の場合を考えますと1年間に500万円の遅延
損害金が発生することになります。そして,不法行為責任の場合には,不法行為
時から,これが加算されますので判決が示されるまでの間に,極めて高額な遅延
損害金が付加されるケースもあります。
そのため,多くの医療機関では損害賠償責任保険に加入しています。しかしな
がら,医療従事者個人に対して損害賠償請求がされることや,医療機関の加入し
ている保険のみで全損害を填補することができない場合もあります。自動車運転
の場合,自賠責保険に加入が義務づけられていますが,おそらく多くの方は,こ
れに加えて任意保険に加入し,万が一の事故に備えています。
医療従事者として事故を起こさないよう注意するのは当然ですが,医療行為が
身体への侵襲を伴うものである以上,常にリスクを内在しています。そのため,
安心して責任ある仕事を遂行するためには,万が一の事故に備えての準備も必要
となります。
5
最後に刑事責任について説明します。これは,「犯罪者」として処罰されるこ
とを意味します。患者のためにと善意で行った医療行為であっても,過失により
死亡・傷害の結果が発生した場合には,「業務上過失致死傷」罪に問われること
になります。具体的には刑務所に服役(懲役・禁錮)することや,罰金等の処分
が科されます。先ほどの塩化カリウム静注の事例では,医師・看護師に対して禁
錮の実刑判決が下されています。医療事故に関して,実刑が科されることは極め
て異例ですが,法律上は,このような処分をすることも可能となっています。も
ちろん,医療従事者に刑事処分を科すことの是非については様々な見解がありま
すが,現行法上は「医療従事者」を特別扱いすることはできません。医療を取り
巻く社会環境に変化が見られれば,あるいは「法改正」という可能性もあります
が,未だこのような情勢には至っていないのが現実です。
ところで,刑事責任における「罰金」と,民事責任における「損害賠償」とを
混同されている方もいるようですが,両者は全く異なります。罰金は,刑罰の一
種であり,国家に対して,一定額を納付することを義務づけるものですので,罰
金を支払っただけでは民事責任を免れることはできません。塩化カリウムの誤注
射の事例では,刑事責任・民事責任の両方が問われていることからもご理解いた
だけるのではないかと思います。
【法的責任の発生要件】
法的には詳細な議論がなされていますが,簡単にまとめますと「①過失の存在,
②悪しき結果の発生,③因果関係の存在」という三つの要素を全て満たした場合
に,損害賠償(民事責任)という効果が発生します。一方,
「①過失の存在,②死
亡・傷害の結果,③因果関係の存在」という三つの要素を全て満たした場合に,
刑罰(刑事責任)という効果が発生します。
両者を比較しますと,②の内容がやや異なりますが,他は同様の構造となって
います。民事責任の場合,「自己決定権その他の法的利益保護」の見地から,死
亡・傷害に限定せずに「悪しき結果の発生」という表現が用いられているにすぎ
ません。核心部分が「死亡・傷害」の結果であることは明白ですので,民事・刑
事責任の発生要件は,ほぼ同じと理解してください。
刑事手続は謙抑的な運用がなされているようですが,法律上は民事責任が肯定
されるものは刑事責任の対象ともなりうるのです。民事事件に比べれば件数自体
は多くありませんが,平成11年以降の刑事事件の増加傾向は顕著です。結果的に
刑事処分には至りませんでしたが,私の回りにも警察に取り調べられたとか,あ
るいは警察に事情を聞かれたという医療従事者が急増しています。大野病院の無
6
罪判決(確定)が,ブレーキとなることを願っています。
【裁判の構造】
民事責任,刑事責任の有無は,裁判を通じて明らかにされます。そこで,裁判
における判断構造についても理解が重要となります。
裁判では,まず「診療経過:どんな事実経過があったのか。」を確定します。次
にそれを前提に「過失(注意義務違反)があったのか否か」,それで過失(注意義
務違反)があると判断される場合には「悪い結果と因果関係があるのか」という
思考過程を辿ります。
過失の評価,因果関係の判断では,各種文献や鑑定人等の意見を参考にはしま
すが,最終的には裁判官が法的評価を行います。そのため,必ずしも医学的常識
が裁判の場に通用するものではありません。また,裁判所が医学的常識に従った
評価を行うとしても,前提となる事実経過が異なれば,当然,医学的知見を当て
嵌めた結果も異なることになります。事実経過は「証拠」に基づいて判断されま
すので,証拠の存在が,裁判の帰趨を決するといっても過言ではありません。医
療裁判における最も重要な証拠が「診療記録」です。
では,過失(注意義務違反)は,どのように評価されるのか。医療裁判では,
「医療水準」を満たしていたか否かにより客観的に過失(注意義務違反)が判断さ
れます。具体的には「
『当時の』臨床医学の実践における医療水準」が問題になり
ます。10年前と現在とでは,求められる医療水準は異なりますので,今の基準で
当時の医療を語ることはありません。また,医療機関といっても,大学病院,地
域の中核病院,救急指定病院から診療所まで,様々なものがあります。裁判にお
ける医療水準も,これを一律に扱うということではなく「当該医療機関の性格,
その所在する地域の医療環境の特性等を考慮して決定」されています。もちろん,
診療内容にもよりますが,通常は高次の医療機関ほど高い医療水準が求められる
ことになります。
また,
「医療水準」と「医療慣行」とは異なります。多くの場合,
「医療水準」
と「医療慣行」とは重なっていますので,医療従事者の多くの方が,これらの異
同を意識してはいないのではないかと思います。しかしながら,「医療水準」と
「医療慣行」とが異なる場面では,当該医療行為が「慣行」であったとしても,そ
れにより過失(注意義務違反)は否定されません。これが問題となった事例は,
麻酔導入の事案です。その際に使用した麻酔薬の能書(添付文書)の「副作用と
対策」の項には,「麻酔薬注入前に1回,注入後は10分ないし15分まで2分間隔
で血圧を測定しなければならない。」という趣旨の記載がありました。ところが,
7
その病院では5分ごとに血圧測定をしていました。
裁判所は,
「能書(添付文書)の記載が医療水準」であり,仮に当時の一般開業
医がこれに記載された注意事項を守らず,血圧の測定は5分間隔で行うのを常識
とし,そのように実践していたとしても,それは平均的医師が現に行っていた当
時の医療慣行であるというにすぎず,これに従った医療行為を行っただけでは,
医療機関に要求される医療水準に基づいた注意義務を尽くしたとはいえないとの
判断を示しています。
少し分かりやすい例で,裁判所の考え方を補足します。私も自動車を運転してい
た経験があるのですが,
「40Km/hの速度制限」の標識があったとしても,40k/h
以下の速度で走行している自動車は,まず,ありません。確か,教習所でも標識
を杓子定規に理解するのではなく,他の自動車の流れにのって走行するようにと
指導されたように記憶しています。前の自動車が50km/hで走行していたのであ
れば,自らも同様の速度で走る,もう少し早い速度であれば,その速度で走行す
る。実は,これが自動車を運転する際の慣行なのです。ところが,そのような慣
行に従っていたとしても,もし自動車事故(人身事故)を発生させた場合,「前
の車も50km/hで走っていましたよ。
」
「みんなこんなところでは60km/hで走って
いますよ,70km/hで走っていますよ。
」と言っても「法定制限速度は40キロです
よ。制限速度超過で人を撥ねちゃいましたね。」とこういうことを言われるわけで
す。これが法律家のいうところの「水準」です。少し厳しすぎると思われるかも
しれません。余談ですが,ですから,自動車免許を保有しながら,自動車の運転
をしない法律家も少なくありません。自動車の運転であれば,そのような対応も
可能ですが,患者さんを目の前にしながら医療を行わないという訳にはいきませ
ん。ここに大きな違いがあるのですが,なかなか,この点の理解は深まっていな
いようです。
【具体的場面における過失(注意義務違反)の認定方法】
法的責任が発生するためには,
「過失(注意義務違反)」
「悪しき結果の発生」
「因
果関係」の三つの要件を満たす必要があります。ですから,悪しき結果が発生し
ただけで,法的責任を問われることはありません。「結果責任」ということになり
ますと,医療従事者は安心して医療行為を行うことはできません。これでは,本
当に治療を必要とする患者に対しても治療ができないことになりかねません。法
は「過失」を要件とすることで,このような不利益がないようにしているのです。
たとえば,採血において神経損傷が生じたとしても,過失がなければ法的責任は
発生しません。
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そこで,過失の構造を,より分析的に見ますと「予見可能性」,「結果回避可能
性」,
「結果回避義務」となっています。このいずれを重視するのかは法律家によっ
ても異なりますが,分かりやすく言うと「悪い結果の発生を予見したのであるか
ら,それを回避するための努力をしなければならないのに,それを行わなかった」
ということが過失と評価されるわけです。
ところで,日常生活において,漠然とした不安感や危惧感を抱いている場合も
少なくありません。例えば,自動車に乗ろうとした場合に「もしかしたら事故を
起こすかもしれない。」と思わない人はいないのではないでしょうか。結果回避義
務の前提となる予見可能性というのは,もっと具体的なものでなければなりませ
ん。
皆さんの中で「採血をしましょうと思った時に,
『私は絶対に神経なんて損傷さ
せない』と言い切れる人はいらっしゃいますか。もし,いらしたら手を挙げてく
ださい。」
「どなたもいらっしゃいませんね。」
「『ちょっと自信ないな』と人はどの
ぐらいおられますか。」「大勢の方に挙手いただきました。」
ところが,現実の医療裁判の場面でも「神経損傷の可能性があることが分かっ
ているなら避けなさい。」という議論をすることがあります。一般に医療行為自体
が「身体に侵襲を伴うもの」ですので,抽象的に悪い結果が起こるのではないか
という不安を抱えているわけです。今皆さんに挙手していただいたように「採血
の場合には神経を損傷するかもしれない。」という漠然とした不安感は常に存在し
ています。このような不安感を前提に「予見することができたのだから,そうい
う可能性があることが分かっていたのだから,神経を損傷しないように注意しな
さい。」と言われたらどうでしょう。唯一確実な方法としては,採血をしないと
いう以外にありません。これでは,本末転倒です。これは,実質的には「結果責
任」に等しい主張です。
そこで,
「神経損傷をさせないように注意する義務がある」という結果回避義
務があるとしても,「具体的に神経の走行を予見することができるのか。」という
「(具体的)予見可能性」について検討することになります。
これについては大阪地裁の裁判例(大阪地裁H8.6.28判決)があります。こ
こでは「橈骨神経、坐骨神経(おそらく,尺骨神経の誤記)及び正中神経に関し
ては、その部位を予見することによって神経損傷を回避することができるが、前
腕皮神経に関しては、静脈のごく近傍を通過している前腕皮神経の繊維網を予見
して、その部位を回避し、注射針による穿刺によって損傷しないようにすること
は、現在の医療水準に照らしおよそ不可能である。」として,前腕皮神経の走行に
ついては(具体的)予見可能性がないことを理由に過失を否定しています。
9
神経の走行に個体差があるとしても,走行異常がない限り,深部をmajor nerve
神経が走行していることは予見できますので,これを損傷しないように深く注射
針を刺さないようにするという結果回避義務が発生することについては,医療従
事者の方々にも一定の理解をいただけるのではないでしょうか。通常の穿刺の際
に,注射器の針を10度から15度という比較的浅い角度で刺入していることが,ま
さに結果回避義務を果たしていることになります。
ただ,この裁判例は前腕からの採血に関するものですが,医療従事者であれば
「坐骨神経」という言葉があるのを奇異に感じられるのではないかと思います。こ
のような解剖学的な理解もない素人の法律家に判断されたくないというお気持ち
は理解できないではありません。しかしながら,裁判を行うのが医学的素人の法
律家であることを批判しただけでは,最終的判断を行うのが裁判官であるという
現行法上,何らの意味がありません。むしろ,法律家が医学的素人であることを
前提に医療についての理解を求める工夫が大切です。神経損傷の事例では,神経
の走行を示すための文献として「アトラス」等が証拠として提出されます。文系
の人間が生体の動脈,静脈及び神経を目にすることはありませんので,これによ
り解剖学的な理解をします。そのため,これがモデル図であることを忘れ,全員
が同様の走行をしているのではないかという誤解が生じることもあるのです。皆
様にとっては笑い話かもしれませんが,カラーアトラスと同様に,「静脈は青色」
「動脈は赤色」「神経は黄色」と思い込んでいるような場合もあります。
個体差があることを説明するためには,「顔」や「体格」が千差万別であるこ
とを伝えたり,場合によっては,法律家同士の腕を並べて個々により静脈の走行
が異なっていることを説明したりしています。裁判の場では,医療従事者の常識
を,素人に分かりやすい説明内容に置き換える工夫が求められています。
そして,法律家が,神経走行の具体的内容を理解してはじめて「(具体的)予見
可能性」があったといえるか否か,
「結果回避義務」を果たしたかという法的判断
が可能になります。後者では,
「医療水準」に則った穿刺手技が行われたかについ
て確認されます。タイムマシンで採血時に戻ることはできませんので,医療従事
者・患者が,それぞれ裁判所において,当時の状況を説明し,裁判所で吟味の上,
採血手技が適切であったか否かが判断されます。実際の裁判の場では,患者側よ
り「乱暴にやられた。」「痛い,やめてくれ!と叫んだのに針を刺された。」「針先
でまさぐられた」など,色々なことが言われます。これを医療従事者の方に尋ね
ますと「通常どおりに実施したはずだ。」とまでの返事はいただけるのですが,生
の記憶となると自信がないという方も少なくありません。例えば,学校で健康診
断時の採血となると,20人,30人の方を順次採血しますし,カルテ等の記載もな
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い。何番目に並んでいたのか,どのような顔だったかも覚えていない。このよう
な状況で,私が患者側の意地の悪い弁護士だったとしたら,
「それは生の記憶とし
て,ビデオのように正確に覚えているのですか?」「患者は,乱暴な手技をされた
ことをよく覚えていますよ」「1回の経験だから覚えているのです。」と追及する
わけです。裁判では,一般的に正しい手技で行っていたか否かではなく,当該事
例で正しい手技が行われたか否かが問題となるのです。
このような事態を回避するためには,裁判に備えた「証拠」を準備する必要が
あります。突然裁判になることはありません。真に神経損傷が生じたのであれば,
翌日,あるいは翌々日に,患者側からの訴えがあると思います。このような訴え
があった時点で,早期に当時の記憶を喚起し,診療記録に追記するという習慣を
身につけてください。追記においては,普段意識しない「穿刺手技」の内容,
「陰
性所見」を丁寧に拾うことが大切です。
具体的には,
「どの静脈をねらって,どのような手技で穿刺をしたのか。」「その
際,疼痛の訴えはあったか」
「運動神経に触れた時のような反射はあったのか」
,
このようなことを逐一記載しておく必要があります。
そして,いかに注意したとしても前腕皮神経の損傷を完全に回避することはで
きません。ただ,神経を損傷したとしても多くの場合は,長くとも数ヶ月以内には
症状が改善するのではないでしょうか。ところが,CRPS typeⅡ(カウザルギー,
RSD等)という疾患が存在するために,裁判が混迷してしまうということがあり
ます。患者の素因も影響しているのかもしれませんが,このような疾病の場合,
極めて高額の損害賠償が求められる可能性があります。誤った手技を行ったので
あれば賠償に応じるのは当然としても,きちんとした手技をしたのに,記録が不
十分であったために賠償しなければならないというのでは納得できないのではな
いでしょうか。
【記録の重要性】
かつては,診療記録は「メモ」に過ぎないと考えている医療従事者が少なから
ず存在しました。最近では,さすがにこのような理解をされる方はいないと思い
ますが,自分しか読めない(あるいは,自分でも読めない)文字で診療記録を記
載される医師は,診療記録の重要性を十分に理解していないともいえます。
診療記録は,医療従事者間で患者の診療の経過を共有するという意味で非常に
大切です。その結果,適切な治療,医療事故防止が可能となります。ただ,法律
家の目から捉えた場合,裁判の証拠として極めて大きい価値を有しているといえ
ます。診療記録の記載の有無により「裁判の帰趨」が決定するといっても過言で
11
はありません。
診療記録の記載が問題となった事例を紹介させていただきます。平成12年9月
1日,患者は左耳の前部が腫れて口が開かない状態で耳鼻咽喉科を受診しました。
耳鼻咽喉科では蜂窩織炎を疑ってCT検査を予約しました。平成12年9月5日,
放射線科医師が単純CT,続いて造影CTを施行しました。この事案では,不幸
なことに造影剤によるアナフィラキシーショックとなり,翌日に患者さんはお亡
くなりになりました。
この裁判では「担当医師が,造影剤アレルギーについて問診をしなかったので
はないか。」が中心的な争点となりました。第一審の裁判所は「耳鼻咽喉科にお
いても,放射線科においても問診の記載がなかったこと」から,十分な問診がな
かったとして問診義務違反(過失)を認定しました。この事例では,放射線科の
医師が裁判所で「良心に従って真実を述べ何事も隠さず偽りを述べないことを誓
います」と宣誓した上で,「私は問診をしました。」と証言したのですが,第一審
判決では,この証言は信用できないとされた訳です。
医療従事者の常識からすれば「放射線科の医師が問診しないで造影CTを施行
することなどは考えられない。」,しかし,裁判の場では,このような常識が通用
しないこともあります。判決文では「医師には問診を『全く怠った重大な過失』
がある」とまで表現されています。幸い,控訴審では是正されましたが,カルテ
の記載がなされていれば,第一審判決のような不利な判断をされることは回避で
きたのではないかと考えています。
ところで,アナフィラキシーショックに関する裁判の多くでは,ショック後の
対応が問われています。アナフィラキシーショックの発生自体を回避することは
不可能ですので,その後の対応が問題とされるのは,むしろ自然ともいえます。
しかし,この裁判ではショック後の対応については争点になりませんでした。な
ぜか。そのときの看護師が看護記録をきめ細かく記載しているのです。具体的に
は「14:45 BP測定不可,触診にて僅かに触知。14:49 麻酔科Dr挿管,心臓マッ
サージ……,14:50 ボスミン2A挿管チューブより注入,14:53ボスミン2A挿
管チューブより注入……」と処置内容が分単位で詳細に記載されていました。こ
れを見れば,当時の処置内容は明白ですので,これを確認するためだけの目的で,
看護師の証人尋問を実施する必要はありません。もちろん,医学的処置が適切で
あったかという評価は残りますが,これは医学文献や,専門家による鑑定意見を
求めることで判断することができます。記録上,適切な処置が行われていたこと
が明白でしたので,この点は争点となりませんでした。このように,記録を残す
ということで,裁判所への出廷自体を回避できる場合もあります。仮に,この事
12
例でも看護記録の記載が不十分であれば,看護師が法廷での証言を求められてい
たのではないかと思います。
もちろん,正確な記録を残すことにより「過失」が認定される場合もあります。
しかし,適切な治療が実施されていない以上,賠償するのは,むしろ当たり前の
ことと思います。そして,記録上「過失」が明らかな場合には,裁判に至る前に
非を認めて損害賠償をするのが通常ですので,結果的には裁判を回避できるとい
うメリットもあります。もちろん,刑事事件の可能性はありますが,窃盗や強盗
などの刑事事件と異なり,当事者が納得している場合にまで,検察官が起訴して
処分を求めるということは少ないのではないか,仮に処分をするとしても「罰金」
等,比較的軽い処分に留まるかと思われます。
悲しいのは,適切な医療行為を実施したにもかかわらず,記録がないために過
失があると判断されることです。高額な損害賠償を命じられることに納得できま
すか。まして,記録がないために刑事罰となったら,いかがでしょう。ですから,
診療記録には行った治療内容を正確に残しておくということが大切です。
診療記録は,このように裁判において重要な証拠となりますので,診療記録の
破棄,偽造,改ざんは絶対にやってはなりません。このような行為は,それ自体
が刑事罰の対象となりますが,それに留まらず,医療に対する社会的信用を失墜
させることにもなりかねません。医療従事者がこれだけ厳しい状況に置かれるよ
うになった背景の一つには,看護師による消毒剤の誤注入の事例がありました。
この事例では,
「異状死が疑われたにもかかわらず医師法21条に基づく届出を行
わなかった。」として,当該病院の隠蔽体質が問われました。このような事例を目
にすると,病院はミスがあっても隠蔽するのではないかという誤解が蔓延してし
まいます。もう一つ某大学病院で心臓手術のときにカルテを改ざんしたなんてい
うのも話題になりました。このようなことがあると,その病院だけではなく医療
界全体の信用を失うことになりません。この点は,是非,肝に銘じてください。
ただ,改ざんと追記とは,全く異なりますので,誤解しないでください。追記
というのは文字通り後からの記載ですが,その内容が真実であれば問題はありま
せん。この点,修正液で消したり,記録上不自然な加筆は改ざんと誤解される可
能性がありますので,①追記であること,②追記した日時を明確にして,客観的
な診療内容を記載することが重要です。
追記が問題となった裁判例(大阪地方裁判所H16. 3.10判決)を紹介します。
「肝臓癌,肝性脳症等の既往歴を有する患者(73歳男性)が,平成11年8月19日
肺炎併発で入院しました。8月22日午後8時テレビを観戦。午後9時30分興奮気
味。午後9時50分落ち着いた状態で就寝。午後10時15分ベッドからの転落を発
13
見。」「追記として,午後9時50分の観察時にベッド柵の挙上を確認。」という記
載がありました。通常の観察時にベッド柵が挙上を確認したことを,看護記録に
記載される方は,まずいないと思います。この裁判で,看護師は「ベッドから落
ちているのを発見しました。その前の観察では,ベッド柵は上がっていることを
確認していました。それで,後から追記しました」という趣旨の証言をしました。
裁判所は「通常時に特に問題とならない事項は確認してもあえて記載しないもの
であるが,本件においては,転落事故が発生して初めて,ベッド柵のセットの確認
という事項が記載に値する問題として浮かび上がってきたものであるから,ベッ
ド柵設置の有無を看護日誌に記載したこと自体は看護日誌作成の趣旨にかなうも
の」と判断しています。裁判所も「追記」が適法であることを認めてくれたので
す。
転倒・転落に限らず,イレギュラーが発生した場合には,可能な限り早期に,
診療経過を思い出し,普段は記録に残さないような所見や事実経過も正確に記録
することが重要です。
【医療紛争を防止するための方策】
1 医療紛争の背景
医療紛争を防止するためには,医療事故を未然に防止することが重要であるこ
とは,改めてお話するまでもありません。しかし,医療上のミスがなくとも,医
療紛争へと発展するケースも少なからず
存在しています。
医療紛争の構造を図解したものが右図
(図1)です。
まず,医療従事者の努力により医療の
安全性が確立し,これが過度に強調され
ますと,医療が身体に対する侵襲を伴う
ものであるという基本的なことを忘れ,
図1
実際の医療レベルを超える期待をすることになります。
医療不信がありますので,悪い結果が生じた場合,患者側は医療行為に伴うや
むを得ないものとは捉えず,医療過誤を疑うことになります。「権利意識の高ま
り」と記載しましたが,正確には悪い結果を誰かのせいにするという「誤った権
利意識」を持つ人が増えており,このような人たちは「泣き寝入りはしない」と
して,クレーム,医療紛争へと発展します。医療裁判自体は近年900件から1000
件を推移しており,ほぼ横這いと評価されますが,私が患者とのトラブルで相談
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を受けることが非常に増えています。我が儘,身勝手な患者が権利意識を振りか
ざし,医療従事者が疲弊し,真に医療を必要としている人との関係がぎくしゃく
してしまうという悪循環もあるようです。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが「Harvard Medical Practice Study」の
報告を紹介させていただきます。ここでは,専門家が3万件のカルテを分析して
います。専門家の目から見るとその中の280例に医療過誤が認められました。と
ころが,医療過誤の損害賠償の請求をしたのは,僅か8例にすぎません。損害賠
償を請求した51例の大部分は,専門家らが過失なし,問題なしと判断している症
例であったとのことです。この報告は,
「損害賠償(医療紛争)と,医療過誤との
関連性は乏しい」ことを客観的に示したものです。「医療裁判が,医療事故の再発
防止,医療の向上に役立つ」という主張をされる人たちもいますが,この報告が
日本の医療裁判に当て嵌まるとすれば,医療訴訟は医療事故防止に全く役立たな
いことになるかもしれません。
医療ミスがないにもかかわらず医療裁判へと発展した一例を紹介させていただ
きます。
「平成15年8月午前8時,60歳の女性患者が某大学病院の救急外来に搬
送されました。この患者さんは自殺目的でアルコールを大量に摂取し,急性アル
コール中毒による昏睡状態にありました。病院では,バイタルのモニタリングを
しながらラインキープをしました。午前8時30分ごろ採血,血液ガス分析を施行,
午前8時45分ごろ胃洗浄。午前9時40分ごろ,心停止となり死亡確認。」という
事例で,約6000万円の損害賠償請求が提起されました。
患者側の主張は,「採血・血液ガス分析を実施していないのではないか。」「もっ
と早く検査をしていれば」
「抗菌薬を投与していれば……」と記録の不備等の非難
に終始し,的を射たものではありませんでした。本件の場合,急性のアルコール
中毒であることは間違いがなく,医療機関での治療内容を検討しても不適切な点
は見当たらない。どうして,訴訟になったのかが全くわかりませんでした。結局,
遺族らが裁判に踏み切ったのは,医師の心ない発言でした。この医師は,駆けつ
けた家族に対して「ご本人が望んだ結果になりました」という話をしてしまった
ようです。自殺目的のアルコール摂取とはいえ,あまりにも家族の心情を理解し
ない発言です。信頼関係が構築されている患者であっても,医療従事者の心ない
発言によって,状況が一変しかねないことを理解しなければなりません。逆説的
ですが,患者側の心情に配慮した対応をするだけで,医療紛争を防止しうる場合
も少なくないと考えています。
2 医療行為における「事前の説明」と「事後の説明」
最近では,インフォームドコンセント(IC)の概念が定着しました。「治療内
15
容についての患者理解を深め,患者の納得の下に治療を実施する」という医療モ
デルは,医療紛争の減少にも繋がるのではないかとう期待がもたれていました。
しかし,ICの徹底にも拘わらず,医療裁判の減少傾向はなく,医療紛争自体は
増加している印象があります。
ところで,
「説明」といっても,その場面によって内容は大きく異なります。大
別すると「IC」
「経過報告」
「生活指導」の三つがありますが,特に意識していた
だきたいのが前二者です。この二つの違いはおわかりでしょうか? ICという
のは治療,
あるいは検査を有効に行う前提として要求されます。これに対し,経過
報告というのは治療終了後にその経過結果を報告することを内容としています。
一般に患者の同意なしに治療を行なうことは違法と評価されます。ICにおけ
る説明は,患者の有効な同意を得るためにいかなる説明が必要かという点で問題
にされるもので,ここでは,患者の「同意」に力点がおかれます。ICは,患者
さんとの信頼関係をいかに築くのかという場面です。医療裁判の場で,過失の内
容としてICが問題となる機会も増えていますが,このようにデリケートな問題
を医療現場を知らない法律家が,損害賠償の有無を決定する裁判という場で扱う
ことの弊害を危惧しています。
これに対し,経過報告は,文字通り経過,結果を報告するものです。ですから,
その報告した内容について患者が承諾することまでは求められておりません。医
療従事者の方の中には,この違いに気付かず,事後の説明(経過報告)の場面に
おいても患者の同意を得ようと無理をしすぎている方が少なからず存在していま
す。
一般に事後の説明(経過報告)において,悪しき結果が発生していない場合に
は,簡単な説明で問題が発生することはありません。手術であっても「無事に終
わりましたよ。」という説明だけで更なる説明を求められないこともあろうかと思
います。特に,採血のような比較的軽微な侵襲に留まる医療行為では「はい,
(採
血が)終わりましたよ。」という報告で終わるのが殆どではないでしょうか。
ところが,採血により神経損傷が発生した場合には,患者から繰り返し説明を求
められるということになります。ましてや「死亡」
「重度の後遺傷害」が発生した
場合には,患者からの説明要求は執拗になります。誠実な医療従事者は,患者の
理解を得ようと患者の求めに応じて繰り返し説明を行うわけです。もちろん,繰
り返しの説明により納得されるケースもあるでしょうが,死亡,重度後遺障害が
発生した事例では,説明により患者側が納得するのは,稀と思われます。このよ
うな場面では,患者との信頼関係が破綻,あるいは破綻しつつありますので,患
者との距離を置く対応が必要となります。医療従事者の方々は,患者との信頼関
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係構築に力点をおき,また,そのような教育を受けていますので,患者との距離
の置き方,もっと言いますと「別れ方」を苦手としているようです。むしろ,こ
のような場合には,専門家(法律家)に相談しながら対応したほうがよい結果と
なることが多いと思います。
(1) ICの内容について
患者の同意を求めるためには,右図
(図2)の(1)∼(7)を説明する必要
があるということが言われていますが,
これは,手術等,身体的侵襲の大きい場
面を想定したものです。
治療内容によっては,これらの全てを
説明しなくとも,有効な説明と評価され
る場合があります。むしろ,そのほうが
図2
多いのかもしれません。例えば「採血しますよ」
「はい」と手を出す行為。これこ
そが「説明」と「同意」なのですね。もちろんそれはそれ以上に何をしたらいい
のか。例えば「チクッとするかもしれませんよ」「痛かったら言ってくださいね」
とか色々な説明があるでしょうが,これは法的義務としての説明ではなく,プラ
スαの部分です。患者は「採血しますよ」という説明で,
「針が刺さるのだ」とい
うことを理解して「同意」しているのです。同意の方法としては,「どうぞ」「は
い」と言葉でいうこともありますが,腕を差し出す行為そのものが「同意」と評
価されます。悪い結果が発生した場合には,患者側から事後的に「これも聞いて
いない,あれも聞いていない」との不満が述べられることがありますが,法的に
は有効な説明と同意がありますので「違法」ではありません。
(2) ICにおける証拠の重要性
ICを十分に行っているにもかかわらず,医療裁判の場では,患者側から「説
明を受けていない」と言われることがあります。このようなことを回避するため
には,口頭ではなく書面による説明と同意の手続が必要となります。もちろん,
これを重視するあまり,肝心の治療が疎かになったのでは元も子もありません。
ですが,現状に鑑みますと,身体的侵襲の大きい治療行為については,
「悪しき結
果の発生→紛争」というリスクを念頭におき,裁判での立証のためにも同意書を
求めることが無難と考えています。
医療従事者が丁寧な説明をしたとしても,患者に関心がなければ説明内容は覚
えていません。「はいはい,わかったからいいですよ」という患者は要注意とい
えます。また,患者が説明内容を理解し同意していたとしても,患者が死亡した
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ケースでは,ご遺族から説明がなかったという不満が述べられる可能性がありま
す。これに対応するために最も有効な手段が「書面による同意」の手続です。こ
の場合,必ず患者自身の署名を求めてください。本人が書けない場合は代筆もや
むを得ませんが,代筆者を明らかにし,代筆となった理由も明記しておく必要が
あります。残念ですが,これが現状です。
(3) インフォームドコンセントは医療紛争を防止するのか?
私としては,ICによって,医療紛争を防止することは非常に困難と考えてい
ます。真の意味での信頼関係があれば口約束で足りるはずです。
「武士に二言はな
い」という日本の文化が残っていれば,説明同意書を作る必要はありません。患
者の理解を深めるためだけであれば,説明書を充実させることで足り,同意書を
作成する必要はありません。 同意書に署名を求めるというのは,万が一の場合の
証拠作りという意味合いがあります。医療従事者と患者の関係を対立構造で捉え
ることは,かえって相互の溝を深めてしまう可能性があります。もう少し詳細に
説明する(右図3参照)と,まず,「1)
医療従事者と患者の立場の違い」があり
ます。専門家と素人とでは,当該医療内容
についての知識が全く異なりますし,用
いる言葉も違います。素人に分かりやす
く説明しようとすれば,どうしても,そ
の内容は不正確とならざるを得ません。
患者が医療従事者と同様の知識を有する
に至らなければ,本当の意味での同意と
図3
はいえません。なんとなく理解したような気がしても,その治療の怖さは分かっ
ていないわけで,この溝は永遠に消えないのでしょう。だから専門家に相談して
専門家に治療内容を決めていただく部分がどうしても残ってしまいます。
この点をクリアできたとしても,「治療する側」と「治療を受ける側」という
根本的な違いを消し去ることは不可能です。裁判の場では,合併症・偶発症につ
いての十分な説明があったのか否かが中心的な争点とされますが,
「確率論」は
治療する側にとって意味のあるものであり,治療を受ける側では,あまり意味の
あるものではありません。例えば,サイコロを100万回振れば,各出目の割合は
ほぼ「1/6」といえるでしょうが,しかし,サイコロを6回振った場合には,
大きなばらつきが生じる可能性があります。1%の合併症の発生する可能性があ
る治療であっても,当該患者にとっては,合併症が発生するか否か(100か0か)
ということになります。真に患者が訪ねたいのは,当該治療がどの程度安全か否
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かではなく「自分に合併症・偶発症が発生するのか否か。」という点にあります。
この質問に答えられる医療従事者はいないのではないでしょうか。おそらく「そ
れは精一杯努力しますけれども,やってみないことにはわかりません」というこ
とになります。これが医療行為に内在する危険なのです。この部分がある以上は
永遠に説明を尽くしても分かり合えない部分というのがでてきてしまうと考えて
います。また,いくら説明しても当然医療行為に内在する危険性は変化しません
し,医療ミスも起こりうるということです。ですから,事前の説明により医療紛
争を防止するといっても限界があると考えています。
(4) ICに対するクレーム対応
医療従事者がICを尽くしたとしても,悪い結果が生じれば患者から不満が述
べられる背景には,上述のような背景があります。では,患者側からクレームを
受けた場合,どのように対処したらよいのか。
採血事故があった場合,神経を損傷された患者から「採血を行うにあたって神
経損傷のリスクなんかは聞いていないよ」といわれることがあります。続いて
「説明義務違反ではないか」「神経損傷のリスクなんか聞いていたら採血なんかし
なかったよ」
「こんなの冗談じゃないよ」との不満に対してどのように対処するの
でしょうか。「説明が不十分でした。申し訳ございません。」で済めばよいのです
が,このような対応をしますと,非を認めたのだから「責任をとれ」,「損害を賠
償しろ。」という要求へと繋がる場合もあります。ところで,本当にこれは説明義
務違反なのでしょうか。
私も採血や注射の経験がありますが,今まで採血に際して「神経損傷の可能性」
についての説明を受けたことはありません。臨床検査技師の方で,採血の際に「神
経損傷の可能性」までを説明されている方は少ないのではないでしょうか。まし
てや,この点を明記した同意書を作成しているという施設はないと思います。こ
のような場合にまで,説明義務違反を理由に損害賠償を要求されたのでは,医療
行為を行おうとする医療従事者はいなくなってしまいます。
裁判の場で,患者側代理人より同様の
主張がなされた経験がありますが,私の
経験上,裁判所がこのような説明義務違
反を認定したというケースはございませ
ん。この点に関する裁判所の考え方を整
理しますと右図(図4)のようになりま
す。
死亡,重度の後遺障害など結果が重大。
19
図4
この場合,極めて頻度の少ない場合には説明が求められます。結果が軽微なもの
であっても,頻度の高いものについては,やはり説明が必要です。これに対して,
頻度が稀であり,かつ合併症の程度も軽微なものについてまで,法的説明義務は
ないといえます。
もちろん,望ましい説明については,様々な考えがあります。しかし,これは
法によって強制すべきものではなく,各症例の中で,医療従事者の方々が工夫す
べきものといえます。
では,採血等の場合の神経損傷は,どのように評価されるのでしょうか。10回
に1回,100回に1回の割合で発生するものではありませんね。おそらく,1万
件に数件あるかないかの極めて稀なものといえます。また,死亡や重度後遺障害
と比べれば,比較的軽微といえます。私が実際の裁判で用いた文献では,発生頻
度としては「2万件に4例」,うち1例が,その後の通院がなく経過不明,2件
が1∼2週間で緩解,残りの1件が6ヶ月で緩解となっていました。前腕皮神経
等の損傷であれば,後遺障害が一生残存し,そのために仕事ができなくなってし
まうというケースはまず考えられないと思いますし,そのようなケースは全く想
定できないほど稀なものと思われますので,採血に関しては,通常「神経損傷」
についてまで説明すべき法的義務はないという結論を導くことができると考えま
す。
ですから,患者側から「説明義務違反」といわれても,「それは違う。」という
ことになります。ただ,このような場合に,患者と議論しても紛争を大きくする
だけです。そこで,文献等を示し,
「採血に伴い神経損傷が起こることは稀である
こと」「採血に際しては通常の手技を行っていたことから,やむを得ない合併症・
偶発症であること」を伝え,
「結果的に神経損傷に至ったことは残念である」と
『道義的な謝罪』をするのがよいと考えます。もちろん,これで患者の理解が得ら
れるわけではないでしょうが,この説明は経過報告(事後の説明)ですので,患
者の理解を得ることまでは求められていないのです。患者を目の前にして,この
ような説明を行うことが憚られるのであれば,同趣旨の内容の書面を交付するこ
とも検討に値します。いずれにしましても,このようなケースでは,医療従事者
1人で抱えこまず,法的見地からのアドバイスを求めつつ,対応することが理想
といえます。
【結びにかえて∼悪しき結果が発生した場合に患者の求めるもの∼】
悪しき結果が発生した場合の患者対応は,容易ではありません。医療事故を完
全に防止することができない以上,この場合に患者が求めるものを理解しておく
20
ことが重要です(右図5参照)。
悪い結果が発生したときに患者側は,
まず「①謝罪」を求めます。「謝罪もしな
いなんて病院側の誠意が感じられない」
ということになります。謝罪が法的責任
を認めたものと誤解される畏れがあるた
め,医療従事者は謝罪を躊躇うことにな
ります。信頼関係が破綻した状況下での
図5
謝罪にはリスクもありますが,私は「道義的謝罪」を行うべきと考えています。
具体的には「結果に対して残念だ」あるいは,
「最善を尽くしたが,このような結
果になり申し訳ないと思う。」というのが道義的な謝罪です。これを「法的責任」
を認めたものと評価する人は相当にゆがんだ方だと思います。ただ,注意してい
ただきたいのは,道義的な謝罪ですので「何度も繰り返さない」ということです。
繰り返し謝罪を求める人は,
「謝罪を求めているのではなく,法的責任を認めさせ
よう」として謝罪要求をしているのです。このような患者に対して,繰り返し謝
罪をすることは相手を助長させるだけです。このような患者に対し,
「一生かけて
償います」
「こうこうこういうことを約束します」などの言葉は禁忌です。
次に「②真実を説明してほしい」,患者側からは「責任追及をしているのでは
なく,真実が知りたいだけだ」といわれる場合があります。医療従事者は,これ
を受けて丁寧に経過を説明します。しかし患者は納得しない。この場合,
「真実を
知りたい」との患者の言葉は「ミスを認めろ」と置き換えられます。悪しき結果
が発生した場合,患者側ではやむを得ない合併症・偶発症とは,なかなか理解で
きません。これが理解できているのであれば,そもそもクレームなどは言わない
はずです。このような患者に対し,ミスがなかったという説明をいくらしても患
者が納得しないのは当然です。かえって丁寧に説明すればするほど「病院は真実
を隠そうとしている。隠蔽体質の病院だ。」と誤解される可能性があります。
医療裁判の結果,患者さんの言い分が認められるのは約40%程度です。残りの
60%は病院側の言い分が認められていますが,その時に敗訴した患者側から「真
実が分かってよかった」という言葉を耳にすることはありません。むしろ「裁判
所も真実にたどり着けなかった」,あるいは「病院側のうそが見抜けなかった」非
常にうまい言葉です。
悪しき結果が発生した場合の患者に対する事後の説明は,二度三度と説明を繰
り返すのではなくて,
「十分な調査を行った上で,きちんとした説明を一度だけ行
う。場合によっては,書面を交付する。」これが最善の対応です。調査には時間を
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要することもあるかもしれませんが,どれほど面倒であっても「(誤りがないにも
拘わらず)ミスがありました」という回答をすることがあってはなりません。患
者の思い描く内容を認めれば,それ以上,繰り返しの説明を求められることはな
くなりますが,その後は,ミスを認めたのだから「法的責任をとれ」「賠償しろ」
……と責め立てられる結果となってしまします。
患者の中には「僕はミスだけ認めてくれればいいのです。本当に言葉だけがほ
しいのです」「ミスがあったのだったら,ミスがあったと認めてくれればいいので
す。賠償なんて全然考えていません」と言う人もいます。しかし,一度ミスを認
めるや,損害賠償を求められたという事例での相談を受けることも少なくありま
せん。ですから,「その場しのぎの安易な対応はしない」ことが大切です。
このような場合には,施設内で十分に検討するだけでなく,法律家にも相談し,
慎重な対応を取ることが望ましいと考えています。
以 上 (平成20年10月17日)
22
<参考資料>
医療事故の法的責任
1.民事責任
① 債務不履行責任(民法第415条)
§診療契約に基づく善管注意義務違反 → 設置主体者・開設者
② 不法行為責任
(ア)不法行為責任(民法第709条)
§医療行為者の過失(注意義務違反)→ 個人(臨床検査技師)
(イ)使用者責任(民法第715条)
§管理・監督注意義務違反 → 病院、院長、検査部長など
(ウ)共同不法行為責任(民法第719条)
§チーム医療等の注意義務違反 → 故意過失のある関与者全員
※注意義務の基準:
『人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その
業務の性質に照らし、危険防止のため実験上必要とされる
最善の注意義務を要求されるが、その注意義務の基準とな
るべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践におけ
る医療水準である』 最判(3小)昭57.3.30
民法第415条【債務不履行による損害賠償】
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これに
よって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき
事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
民法第709条【不法行為による損害賠償】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者
は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法第715条【使用者等の責任】
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について
第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任
及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をして
も損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
23
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨
げない。
民法第719条【共同不法行為者の責任】
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯し
てその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害
を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規
定を適用する。
民事責任参考図
24
2.刑事責任…『業務上過失致死傷罪』
(刑法第211条1項)
業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若し
くは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた
者も,同様とする。
(解説)
刑事責任とは,加害者の自由・財産等に一定の害悪を与えることにより,応
報を科すと共に,犯罪予防や再犯防止を図るなど,公法的見地からの責任です。
民事責任が私人間の問題であるのに対し,刑事責任は「国家」対「個人」の関
係です。民事責任と刑事責任とは目的が異なりますので,民事責任を果たした
からといって刑事責任を免れることはできません。
患者の診療を目的とするものであっても,不適切な手技により,死亡,重度
後遺障害その他の傷害を発生させた場合には,上記のとおり業務上過失致死傷
として刑事責任を問われることになります。「懲役」「禁錮」は自由刑といわれ
るもので,刑事施設に収容される点は共通していますが,懲役の場合には,施
設内で「所定の作業」が義務づけられています。また,
「懲役」は破廉恥罪に対
する刑罰と考えられており,医療事故の場合に懲役刑が選択されることは極め
て稀です。一方,
「罰金」は財産刑といわれるもので,裁判所の定めた金額を
納付することにより刑事責任を果たしたことになります。そして,医療従事者
が,当初より過失を認めている場合には,略式手続という簡略な手続により刑
事事件が終了することもあります。
医療行為は,身体に対する侵襲を伴い,合併症や副作用により死亡や重度障
害などの結果が発生するリスクを内在していますので,医療従事者にはやや酷
な印象もありますが,法は医療従事者を特別扱いしてはいません。
また,院内死亡の場合であっても,不適切な医療行為や,医療行為に起因す
る予期しない死亡等の場合には異状死体と評価され,死体検案をした医師に,
所轄警察に異状死の届出が義務づけられています(医師法21条)。そのため,最
近では毎年150 ∼ 200件程の異状死の届出がなされています。これは「捜査の
端緒」と扱われ,警察による医療従事者の取調べが始まります。多くは,取調
べの過程で不適切な医療がないことが明らかになったり,検察官の判断で起訴
猶予となり,現実に刑事処分が科されることは少数といえます。しかし,捜査
機関による取調べ自体が,医療従事者にとって極めて過酷なものであることは
否めません。また,カルテの改竄や口裏合わせ等が疑われる場合には,逮捕・
勾留されることもあります。結果的に不起訴になったり,無罪が得られたとし
25
ても,その代償は少なくありません。
また検察庁で起訴された場合,公務員に限らず,民間企業でも「起訴休職」
の制度を採用している企業は殆どありません。警察・検察の捜査を経て,公判
請求された時点で,休職扱いとなり,給与は支給されません。ですので,経済
的な余裕のない方は事実上,退職して,他の仕事を探さねばならない状況に追
い込まれてしまいます。無罪になったとしても,このような事実上の不利益を
回復することはできません。このように,刑事責任は極めて重いものですが,
事故発生後の対応を適切に行うことにより,刑事責任を免れることも可能です。
万が一の場合には,専門家に相談することをお勧めします。
3.行政処分…免許取消・業務停止処分
【臨床検査技師等に関する法律】
第8条第1項「臨床検査技師が第4条各号のいずれかに該当するに至ったと
きは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めて臨床検査技
師の名称の使用の停止を命ずることができる。」
第4条第3項「第2条に規定する検査の業務に関し、犯罪又は不正の行為が
あった者」
第2条 この法律で「臨床検査技師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、
臨床検査技師の名称を用いて、医師又は歯科医師の指示の下に、微生物学的
検査、血清学的検査、血液学的検査、病理学的検査、寄生虫学的検査、生化
学的検査及び厚生労働省令で定める生理学的検査を行うことを業とする者を
いう。
26
医療訴訟の特異性
◆医療訴訟の半数は裁判上和解で決着。
◆敗訴率は低いが、有償解決率は高い。
(但し、敗訴率、有償解決率も年々増加傾向に有る。)
◆賠償額の高額化。
◆審理期間の短縮=裁判の迅速化促進
※「裁判の迅速化」は歓迎されるが、『粗審粗判』になっていないか吟味が必要。
○医療訴訟件数の推移
新受件数
1997年度
2010年度
597件
794件
※最高裁ホームページから抜粋
27
臨床検査技師の賠償事故例
<事故例1:採血>
◆血液検査時の注射針で後遺症、3,800万円の賠償命じる
病院での血液検査の際、注射針で腕の神経を傷つけられ、職業上致命的な障害
が残ったとして、元美容師の男性(45歳)が、病院と臨床検査技師に計約4,650
万円の損害賠償を求めた訴訟の判決(地裁)で、約3,800万円の支払いが命じら
れた。判決によると、裁判長は「神経を傷つける可能性は常にあるが、損傷を避
けるための注意を怠った」と指摘。そのうえで「美容師業務への復帰は困難で、
仕事は相当に制限される」として、67歳までの一定の労働能力喪失を認定。慰
謝料も「約20年にわたって美容師として働き、顧客の指名も受けていた」とい
う事情を指摘、原告の請求をほぼ認めた。男性は1998年、体調がすぐれず検査
のため入院。臨床検査技師が血液採取の注射針で左腕の神経を傷つけ、男性は左
手に力が入らなくなったり、指の感覚が低下した。原告は「はさみを持つ右手は
もちろん、髪を扱う左手が生命。指名客は数千名を超えていた」と主張、病院側
は「不可抗力の要素があった」と減額を求めていた。
この件に関する損害賠償額(類推)
地 裁 判 決 約3,800万円の支払い命令(約4,650万円の民事請求に対して)
遅延損害金(年利5%) 年間利子・約190万円×4年間(1998年の事故、2002年の判決)
合 計 金 額 約4,560万円(その他 勝訴側の争訟費用を負担する場合もある)
<事故例2:採血>
◆採血ミスで4,000万円請求
市立病院で採血時にミスがあり、左手に障害が残ったとして、飲食店経営の女
性(53歳)が、店の休業による逸失利益など約4,000万円の損害賠償を市に求め
る訴訟を起こした。
訴えによると、 女性は1995年から月1回、血液検査を受けていたが、 2001年
9月に担当の臨床検査技師が「血管が見えない」として、従来と違う場所に針を
刺した。その結果、採血直後から痛みが続き、左手の指がしびれるようになった。
臨床検査技師はミスを認め、医療費の負担を約束したが、その後のリハビリで
症状が改善せず、飲食店の休業を余儀なくされているという。
同病院は「訴状を検討し、裁判で当方の主張をしていきたい」としている。
28
<事故例3:超音波検査中>
◆検査中にベッドから転落死 1,500万円で和解
男性患者が検査中にベッドから転落し、2007年に検査翌日に死亡した事故が
あり、和解金1,500万円を支払うことで男性の遺族と合意したとの病院発表が
あった。
発表によると、男性は呼吸不全などで通院中、脚のむくみを訴え、超音波検査
を受けた。臨床検査技師が男性の膝下の血流を調べるため、ベッドの上に椅子を
置いて座るよう指示したところ、立ち上がった男性はバランスを失い、ベッドの
柵を越えて転落。床に頭を打ったということであった。
<事故例4:病理組織検査>
◆組織検査ミスでがんと誤診
公的病院で2001年1月、40代の男性患者が肺がんと誤診され、左肺の半分を
摘出されたことが分かった。組織検査の検体に誤って、別の肺がん患者の検体が
混入したのが原因だという。
男性は摘出手術の翌月、縫合部に穴が開く合併症のため再手術を受けたが、脳
こうそくを併発し、意識不明の状態が続いている。病院側はミスを認め、すでに
患者側との示談が成立した。
病院によると、男性はエックス線検査で肺の影を指摘され診察を受けた。内視
鏡で肺の腫瘍(しゅよう)とみられる部位の細胞片を採取して検査した結果、肺
がんと診断し、腫瘍のあった左肺の下半分を摘出したが、腫瘍は良性だった。
同じ日に採取された別の末期がん患者の検体が、男性の検体に混入した可能性
が高いことが判明したという。
29
<事故例5:病理組織検査>
◆がん患者と間違い乳房切除
2008年総合病院で、乳がん検診の受診者の検体をがん患者のものと取り違え
て、がんではない女性の左乳房を全切除するミスがあった。受診者を識別するた
めの番号を、臨床検査技師が誤って検体に記入したのが原因らしい。同病院は女
性に経緯を説明し、謝罪した。
同病院によると、乳房を切除されたのは40代女性。乳がん検診を受け、触診
では異常がなかったが、マンモグラフィーや組織検査で「がんの疑いがある」と
診断。磁気共鳴画像装置(MRI)の画像もがんを疑わせるものであったため、切
除手術を受けた。
ところが切除組織を詳しく検査して、がんではないことが判明。調べると、検
査組織を乗せるスライドに記入された識別番号が、同じ日に検査を受けた別の受
診者と入れ替わっていた。
同病院はがんと判明した別の受診者にも謝罪し切除手術をした。術後は良好と
いう。院長は、
「非常に申し訳ないことをした。全力で再発防止策に取り組む」
としている。
<事故例6:細胞診>
◆がんと誤判定し肺切除
総合病院で2005年9月初旬に患者3人から採取した細胞を検査する際に検体
を取り違え、60代の男性を誤って肺がんと判定、右肺の約3分の1を切除する
医療ミスが起きた。男性は既に退院し、
手術が必要ない慢性炎症性腫瘤(しゅりゅ
う)と分かった。同病院は、臨床検査技師が検体に患者識別のシールを貼り間違
え、確認も怠ったのが原因とみている。外部の専門家を含む事故調査委員会を設
置し、原因究明や再発防止策を検討する。病院長は記者会見で「コンピューター
断層写真(CT)検査で肺がんを強く疑わせる所見があり、細胞検査が陰性でも
切除が推奨されるケース。しかし経過観察という選択肢もあり、選択の機会を奪
うことになった」と謝罪した。他の2患者のうち、「がんの疑い」とされた1人
は手術を受けがんと確定、「良性」の1人は診療に影響なかった。8月初めに肺
がんの疑いで、内視鏡を使い肺の細胞を採取する検査を実施、肺がんと診断し手
術したが、病変部が奥深くにあるため手術中の細胞検査はできず、肺の一部を切
除。しかし、切除した組織を検査した結果、がんでないことが分かり、取り違え
が判明した。
30
<事故例7:細胞診>
◆がん見落としで死亡
W市医師会臨床検査センターが細胞検査で子宮がんを見落としたため死亡した
として、同市の女性=当時(43)=の遺族が、同センターを運営するW市医師会に
計約1億2千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、地裁は25日、医師会側の
過失を一部認め、計600万円を支払うよう命じた。
裁判長は判決理由で、死亡との直接的な因果関係は認めなかったが「検査に誤
りがなければ、原告が延命した可能性はあった」とし、適切な医療処置を受けら
れなかったことによる遺族の精神的苦痛を認めた。判決によると、女性は1995
年4月と6月、出血したため臨床検査センターで検査を受けたが、センターは
がん細胞を見落とした。別の病院で子宮がんと診断され、手術を受けたが再発、
1998年1月に死亡した。
子宮がんの検診で細胞診の検査を受けたところ陰性(Class 2)の結果であっ
たが、後日別の施設で検査したところ子宮頸部の進行がんであることが判明した。
見直しにより明らかながん細胞が見落とされていた。
最初に診た医師が検査センターに異議を申し立て、この内容が新聞記事となっ
た。外部の専門家も交えた事故調査委員会を立ち上げ、原因の究明と今後の対策
を講じて落着した。がん細胞を見落とした73歳の細胞検査士は事件発覚時には
退職しており、技師に対する処分はなかった。
<事故例8:心電図検査>
◆大学病院で、人工呼吸器のチューブが外れた
2001年5月、臨床検査技師のミスで女性患者=当時(69)=の人工呼吸器の
チューブが外れ、呼吸不全で死亡した事故で、業務上過失致死の疑いで男性主治
医(41)と臨床検査技師(32)を書類送検した。調べでは、臨床検査技師が同
年5月10日、心電図検査のためにベッドを倒した際、人工呼吸器のチューブが
外れた。主治医は事故発生後、緊急事態に気付きながらほかの医師に任せ、2回
呼び出されるまで患者の元に駆けつけなかった疑い。同署は、臨床検査技師が看
護師から患者に関する引き継ぎを怠ったことと、主治医以外では難しい人工呼吸
器のチューブの再挿入を主治医が行わなかったなど、過失が重なったために患者
が死亡したと判断した。2人は容疑を認めているという。医療ミスの発覚後、臨
床検査技師と主治医は病院を辞めている。
31
<事故例9:輸血関連>
◆名前の確認怠り輸血ミス
市立病院で2004年5月に手術した同市内の血液型AB型の50代男性に、О型
を輸血していたことが分かった。病院が名前の確認を怠った。患者の容体は安定
し、生命に危険はないという。病院によると、男性は13日夜、大けがをして救
急外来に搬送され、手術で1,840ミリリットルの輸血を受けた。通常、輸血の際
には患者から採取した血液型の検体と、輸血申し入れ書にそれぞれ患者の名前を
記入し、確認する。今回は、隣のベッドにいたО型60代男性の検体だったのに、
輸血申し入れ書との名前の確認を看護師や臨床検査技師が怠った。14日朝の点
検でミスが判明。病院は家族に謝罪し、警察署に届けた。不適合輸血は患者の赤
血球を破壊し、死亡する場合もあるが、AB型の人にО型を輸血してもトラブル
は起きにくいとされる。
<事故例10:輸血関連>
◆血液取り違え、患者死亡
町立病院で、食道動脈瘤破裂の大量出血で救急搬送された40代の男性の処置
中、誤って検査で不合格となった血液を輸血したと発表した。
男性はまもなく死亡した。
副作用防止のため輸血の血液を病院の臨床検査技師が、誤って不適合血液を適
合として運び、そのまま使われたという。県警は司法解剖し、死亡との因果関係
を調べている。病院によると、男性は夜、心肺停止状態で搬送された。緊急入院
し心肺機能はやや回復したが、輸血開始から約1時間後に脈拍が低下、再び心肺
が止まり翌日未明に死亡した。
病院の臨床検査技師が輸血管理システムの設定を誤り、検査結果の「適」「不
適」を逆にして伝票に手書きしたのが原因という。検査する職員は通常6人いる
が、当時は夜間で1人だけだった。
32
<事故例11:輸血関連>
◆13人の輸血用血液が無駄に
市立医療センターで2007年8月中旬、血液保冷庫内の温度が室温の暑さの影
響で上昇、手術用に保存していた患者13人の血液計8.2リットル分が使えなく
なったことが24日、分かった。病院が発表した。緊急検査室のエアコン3台の
うち2台が故障したのが原因。保冷庫のドアはガラス製で室温の影響を受けやす
いという。病院は、厚生労働省の指針で定められた保存温度を超えると細菌に感
染する恐れがあるとして、血液を廃棄した。患者13人のうち、自分の血液が使
えないことに同意した3人は予定通り手術を受けたが、残る10人は手術を延期
した。
病院によると、臨床検査技師が16日午後、エアコンの故障に気付いたが、業
者がお盆休みに入っているため18日午後まで修理できなかった。通常24 ∼ 25
度に保たれていた室内温度は、17日には32.6度まで上昇。保冷庫内も適正温度
の4∼6度を超える7.0 ∼ 9.6度に上がった。地方気象台によると、17日の市の
最高気温は35.4度を記録した。病院は、保冷庫を35度までの外気に耐えられる
新型に交換し、エアコンも1台増やす予定。
<事故例12:血液型検査>
◆3歳児の血液型判定ミス
市の福祉保険センターで2005年2月に実施した血液型検査で、臨床検査技師
(51)がマニュアルに従わず、3歳児の血液型を誤って判定したと発表した。
福祉保険センターはほかにも判定ミスがあった可能性があるとみて、同じ日に
検査を受けた他の幼児ら33人を対象に再検査を実施する。市によると、検査は
3歳以上の希望者を対象にABО式で実施。臨床検査技師は、血液を混ぜる試薬
をマニュアル通りスライドに落とし、2分以内に判定するのを怠ったため、凝縮
して正確な判定ができなかったらしい。男児はО型と判定されたが、両親の血液
型と合致しなかったため、母親が別の医療機関で再検査しA型と分かった。
33
日臨技会員のための補償制度
日臨技の会員には、業務中の賠償責任保険と会務中の傷害保険が日臨技の保険料負担で自動
付保されていますので安心です。また、医療保険やがん保険に会員割引保険料(最大62 %)
で任意に加入することができます。
34
35
会員が任意で加入する保険(保険料は会員負担)
日臨技の会員は、各種保険に割安で加入することができます。
日臨技会員は、日常生活を守る各種保険「日臨技リンクス」に団体のスケールメリットを活かし
た 割安な保険料 で加入することができます。
平成24年度は、一層割引率がアップいたしました。それは、日臨技が保険料を負担する「全員加
入保険」の採用によって、損害率による割引が適用されるためです。また、女性に優しい特約も充実。
現在、同種の保険に加入されている方は、是非補償内容や保険料を比較してみてください。会員の
メリットを活かして、割安な任意保険へのご加入をご検討されることをお勧めします。
■「日臨技リンクス」のラインアップ
保 険 種 目
医
が
療
ん
保
保
険
険
普 通 傷 害 保 険
個人賠償責任保険
団 体 長 期 障 害
所 得 補 償 保 険
割 引 率
37 . 0 % → 58 . 0 %
(平成23年) (平成24年)
37 . 0 % → 58 . 0 %
(平成23年) (平成24年)
43 . 3 % → 62 . 2 %
(平成23年) (平成24年)
20 . 0 %
(割引率の変更なし)
30 . 0 %
(割引率の変更なし)
※単体でも加入できます(個人賠償責任保険を除く)
36
概 要
主 に 病 気 に な っ て、入 院、手 術 を
行ったときに、負担した医療費を補
う保険です。24年度は特約も充実
しました。
がんに罹ったとき、診断保険金、入
院保険金を始め、様々な費用が支払
われる保険です。24年度は特約も
充実しました。
ケガをした場合に、入院費・通院費、
手術保険金、死亡・後遺障害保険金
が支払われる保険です。
他人の身体や物に損害を与え、賠償
義務が生じた場合にその賠償金を
支払う保険です。
ケガや病気で就業できなくなった
場合に、所得の減少分を補う保険で
す。
■各保険の補償内容と保険料例
●医療保険
〇 補償内容
補償内容
保 険 金 額
疾病入院保険金
日額:5,000円
疾病手術保険金
5万、10万または20万円
葬祭費用保険金
100万円を上限とする
実費費用
New! 退院後通院保険金
日額:3,000円
New! 先 進 医 療 保 険 金
技術に係る費用に応じて
5万∼ 305万円
New! 女 性 入 院 保 険 金
New! 女性形成治療保険金
日額:5,000円
5万、10万または20万円
〇 1口当りの月額保険料例
(2口まで加入できます)
年齢
女性特約
な し
女性特約
あ り
23歳
350円
490円
33歳
390円
650円
43歳
550円
780円
53歳
980円
1,360円
63歳
2,050円
2,770円
●がん保険
〇 補償内容
補償内容
保 険 金 額
診 断 保 険 金
100万円
入 院 保 険 金
日額:10,000円
手 術 保 険 金
10万、20万または40万円
退院後療養保険金
10万円
通 院 保 険 金
日額:5,000円
重 度 一 時 金
100万円
特定手術保険金
50万円
葬祭費用保険金
100万円を上限とする実費費用
New! 女性特定手術保険金
1回の手術につき20万円
〇 1口当りの月額保険料例
(2口まで加入できます)
年齢
女性特約なし
女性特約あり
初年度 2年目以降 初年度 2年目以降
23歳
120円
140円
130円
150円
33歳
210円
270円
220円
290円
43歳
420円
550円
450円
590円
53歳
950円 1,270円
990円 1,320円
63歳 2,190円 2,940円 2,230円 3,000円
●普通傷害保険
〇 補償内容
補償内容
保 険 金 額
死亡・後遺障害保険金
150万円
入 院 保 険 金
日額:2,500円
手 術 保 険 金
2.5万、5万または10万円
通 院 保 険 金
日額:1,900円
37
〇 1口当りの月額保険料
年齢・性別問わず 320円
●団体長期障害所得補償保険
〇 保険金額とお支払い期間
毎月の保険金額
お支払い期間
受け取り月額保険金=
支払基礎所得額(※)×所得喪失率
支払い開始日:免責期間終了の翌日
支 払 い 期 間:最長3年間
(精神障害の場合は最長2年間)
(※)1口10万円×口数
〇 1口当りの月額保険料例(10口まで加入できます)
免責30日型
年齢
免責90日型
免責545日型
男
女
男
女
男
女
23歳
492円
381円
252円
233円
158円
106円
33歳
618円
722円
271円
440円
185円
187円
43歳
1,047円
1,212円
529円
676円
381円
462円
53歳
2,064円
2,236円
1,368円
1,572円
1,099円
1,295円
63歳
4,600円
4,157円
4,207円
3,940円
3,358円
3,151円
これらの保険には互助制度も付帯しています。
(保険の加入種目数に拠らず互助制度運営費100円/月)
〇 互助制度の内容
補 償 項 目
感 染 見 舞 金
弔
慰
金
自然災害見舞金
自然災害に伴う
ケ ガ に よ る
入 院 見 舞 金
補 償 内 容
検査費用等で10万円限度(業務中や会務中など)
一律3万円
(ご加入者の配偶者、子供または両親が死亡されたとき)
一律10万円
(床上浸水または家屋損壊1 / 2以上に限る)
1ヶ月未満の入院の場合:一律3万円
1ヶ月以上の入院の場合:一律10万円
38
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