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情報教育(長期研修員②)

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情報教育(長期研修員②)
平成16年度
研 究 紀 要
(第707号)
F10−01
授業支援における効果的なネットワーク活用の研究
−学習指導案・教育用コンテンツリンク集の活用を中心に−
2005年度までには,すべての教室でコンピュータを活用できる環境を整
備する計画が進められている。そこで「学習指導案・教育用コンテンツリン
ク集」を作成し「福岡市学校教育情報ネットワーク」上での活用を図った。
その結果,教職員はリンク集から指導案や教育用コンテンツを活用した
り,Weblog上において意見交流する中で,個々の疑問や考え方を共有した
り,ネットワークを活用した授業実践が行われる等,教職員の指導法改善
を支援できることが明らかになった。
福岡市教育センター
長期研修員
情報教育研究室
山下順一郎
目
第Ⅰ章
次
研究の基本的な考え方
1
「教育の情報化」の現状とその必要性‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研
1
2
研究の目標‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研
2
3
研究の内容‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研
2
(1)学習指導案・教育用コンテンツリンク集の作成
(2)学習指導案・教育用コンテンツリンク集の活用
4
主題についての基本的な考え方‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研
2
(1)「授業支援」とは
(2)「ネットワーク」とは
第Ⅱ章
1
研究の実際
学校のコンピュータ活用等の実際‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研
3
(1)福岡市の学校におけるコンピュータの活用
(2)福岡市の学校内LANの現状
2
学習指導案集について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研
4
(1)学習指導案の掲載規準
(2)学習指導案集の作成
3
教育用コンテンツリンク集について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研
5
(1)教育用コンテンツ集の作成
(2)教育用コンテンツの選択と更新
4
学習指導案・教育用コンテンツリンク集の活用の実際‥‥‥‥‥‥‥‥情研
6
(1)「Weblog」の利用
(2)「Weblog」とリンク集の活用
(3)「福岡市学校教育情報ネットワーク」と「Weblog」の連携
(4)「Weblog」の利用の実際
第Ⅲ章
1
研究のまとめと今後の課題
研究のまとめ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研11
(1)学習指導案・教育用コンテンツリンク集の作成から
(2)学習指導案・教育用コンテンツリンク集の活用から
2
今後の課題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥情研12
(1)学習指導案・教育用コンテンツリンク集の作成・活用における課題
(2)「Weblog」の課題と可能性
資料
参考文献
トワークを活用した研究が進められている。ま
第Ⅰ章
研究の基本的な考え方
た,市内すべての各園,学校においてホームペ
ージが開設されており,各学校からFTP更新シス
1
「教育の情報化」の現状とその必要性
テムを利用したホームページ更新を行うことに
2001年から始まった「e-Japan戦略」から3年,
より,それぞれの情報がインターネットを通し
「情報技術革命(IT革命)」が基盤整備,IT活
て地域や家庭へいち早く伝達できるようになっ
用の重視,IT国家到達への重点施策の明確化な
てきている。
ど様々な施策として具体的に進められてきてい
このように,「教育の情報化」が進むにつれ,
る。「e-Japan重点計画2003」の主な具体的施策
児童生徒,また学校が自ら積極的に様々な教育
の一つである「2005年度までに,概ねすべての
情報を活用し,提供できることが学習指導要領
小中高等学校等が各学級の授業においてコンピ
の一部改正で求められている。学習指導案や動
ュータを活用できる環境を整備する」ことにつ
画などの教育情報は,学習時に活用しようとし
いては,少しずつではあるが,見通しの立つと
ても,身近になかったり,あっても古い内容の
ころまできている。「e-Japan重点計画2004」で
ものであったりする場合が少なくない。例えば
は「2005年に世界最先端のIT国家」「2006年以
学習指導案などの資料は見つけにくく,見つけ
降も世界で最先端であり続ける」という今まで
ても媒体が紙であるために編集したり,すぐに
の目標に加え,「我が国が新しいIT社会のフロ
活用したりすることは容易でない。これらの情
ンティアを切り拓く開拓者となる」ことを目指
報を教師同士で共有しようとしても,学校内ま
すことも新たに示されている。
でで,学校同士の共有までその範囲が広がりに
これまでもコンピュータやインターネットを
くかった。
活用した授業実践,教育用コンテンツの普及・
しかし,これらの教育情報をネットワーク上
充実等,ソフト面において様々な研究がなされ
で公開し,提供していくことで,ネットワーク
てきた。国立教育政策研究所が進めている「教
につながった場所であれば,いつでも,どこで
育情報ナショナルセンター(NICER)」では,「教
も,誰でもその情報を活用し,共有できるよう
育の情報化」の推進を支援することを目的とし,
になると考えられる。また,様々な意見を付加,
各学校種や各教科についての教育用コンテンツ
修正していくことで,活用が容易になり,共有
を体系的にまとめられており,様々な授業に活
の範囲もより広がっていくのではないかと考え
用するための手段として用いられている。
た。
さらに,平成15年12月「小学校,中学校,高等
普通教室にネットワークがつながる学校内LAN
学校等の学習指導要領の一部改正等について」
では,その場に居ながらにして様々なクラスや
では,「年間の行事予定や各教科の年間指導計
学校間,さらには海外の諸外国と双方向で学習
画等について,保護者や地域住民等に対して積
を進めたり,交流を深めたりすることができる。
極的に情報提供を進める必要がある」と示され
その上,ネットワークから得た教育用コンテン
ている。学校が何を行っているかを素早く情報
ツを活用し,授業をより効果的に進めることが
を提供していく必要が改めて提示されている。
できる。
福岡市においては,「福岡市学校教育情報ネ
そこで,福岡市の基底教育カリキュラムに則
ットワーク」による福岡市教育センターを中心
した形の「学習指導案集」を作成し,ネットワ
としたイントラネットで,市内のすべての幼稚
ークにつながる児童生徒,教師が容易にこの情
園・小・中・養護学校が高速通信網で結ばれて
報を登録・更新等ができるようなシステムを構
おり,小・中15校での校内LANモデル校ではネッ
築する。その上で「教育用コンテンツ」も組み
情研−1
入れて,「福岡市学校教育情報ネットワーク」
(2) 学習指導案・教育用コンテンツリンク集
で公開することにより,教師はこれらの教育情
の活用
報を授業に積極的に活用でき,情報共有の範囲
「福岡市学校教育情報ネットワーク」に掲
を広げる支援ができるのではないかと考えた。
載した学習指導案・教育用コンテンツリンク
また,平成10年度から,「教育支援データベ
集を利用することで,福岡市の教職員への授
ース」として,「福岡市学校教育情報ネットワ
業支援を行う。これにより,リンク集の学習
ーク」が稼働している。平成14年度に,この「教
指導案や教育用コンテンツを活用した授業の
育支援データベース」を再構築し,教職員・学
在り方,指導法改善の在り方を明らかにする。
校の教育活動・児童生徒の学習活動をより有益
なものとするために研究を進めてきた。さらに
4
平成15年度では,「教育支援」の内容をそれぞ
主題についての基本的な考え方
(1) 「授業支援」とは
れ次の3つの支援として定義している。
「授業支援」とは児童生徒,そして教職員
が学校での授業にかかわるすべての時間・場
○教職員を対象とする支援(教職員支援)
面・場所等においての支援のこととする。具
○児童生徒を対象とする支援(学習支援)
体的には次の3つの支援にかかわりながら授
○学校を対象とする支援(学校支援)
業支援をしていく。
今年度は,この教職員を対象とする支援(教
職員支援)と児童生徒を対象とする支援(学習
支援)にかかわる支援を「授業支援」として,
研究を進めていくことにした。
2
研究の目標
学習指導案や教育用コンテンツの活用を中心
に,ネットワークにおける効果的な授業支援の
在り方を明らかにする。
3
研究の内容
児童生徒・教職員を支援する「福岡市学校教
育情報ネットワーク」の効果的な活用を明らか
にするために,以下の内容を研究する。
(1) 学習指導案・教育用コンテンツリンク集
の作成
「福岡市学校教育情報ネットワーク」を利
用し,多くの教職員と交流しながら,学習指
図−1
導案・教育用コンテンツリンク集を作成する。
この際,ホームページ上に指導案を掲載する
ア
授業支援とは
「学習指導案活用支援」とは
基準を作成し,福岡市内の教職員は誰でも学
学習指導案をデータベース化し,福岡市
習指導案を登録,更新,利用することができ
学校教育情報ネットワーク上にホームペー
るような体制づくりをする。
ジを作成する。本研究では,掲載する学習
情研−2
指導案の条件を定めた上で,時間や場所を
選ばずに掲載された指導案を参照したり,
第Ⅱ章
研究の実際と考察
ヒントを得たりして,各教職員の授業を支
援することを「学習指導案活用支援」とする。
イ
1
「教育用コンテンツ活用支援」とは
学校のコンピュータ活用の実際
(1) 福岡市の学校におけるコンピュータの活
Webサーバに蓄えられた,インターネット
用
などを通して閲覧できる,学習に活用でき
毎年,文部科学省が発表している「学校に
るテキストや画像・動画等の情報を「教育
おける情報教育の実態などに関する調査結果
用コンテンツ」とする。
(表−1)」によると次のような調査結果が出
本研究では,「福岡市学校教育情報ネッ
ている。
トワーク」を活用し,福岡市教育センター
表−1
のWebサーバに学習指導案集と関連付けた,
コンピュータ
を操作できる
教員の割合
教育用コンテンツリンク集を作成する。こ
コンピュータ
で指導できる
教員の割合
コンピュータ
1台あたりの
児童生徒数
普通教室の
L A N
整 備 率
のことで,学習指導案と教育用コンテンツ
福岡市
96.7%
86.9% 13.6人/台
7.2%
を連携させながら,授業や教材研究の支援
全 国
93.0%
60.3% 8.8人/台
37.2%
をすることを「教育用コンテンツ活用支援」
(「学校における情報教育の実態等に関する調査結果(平成16年7月発表)」から)
この結果を見ても分かるように,コンピュ
という。
ウ
コンピュータ活用の調査結果
「教職員連携支援」とは
ータを指導できる教員の割合が大きく上回っ
インターネット上のホームページのスタ
ているにもかかわらず,児童生徒がコンピュ
イルの一つであるWeblogを利用すると,教
ータを授業で活用する環境については全国平
職員間で疑問や意見を交流し合うことがで
均を大きく下回っている。
きる。このWeblog上において,教職員はお
授業などでコンピュータを活用する場合,
互いに意見を書き込み合うなどしながら考
福岡市内で学校内L A Nが整備されている15校
え方を共有したり,自分なりの疑問を出し,
をのぞき,パソコン教室に行きコンピュータ
それに他の教職員が答えたりできる。
を使用することがほとんどである。また,そ
本研究では,ネットワーク上にある学習
の活用方法については,市販のソフトウェア
指導案や教育用コンテンツ等の教育情報を
を使った学習方法が多い。インターネットを
活用した上で,Weblogを利用した教職員間
活用し学習を進める場合,その接続について,
の交流支援を「教職員連携支援」とする。
本市では,平成14年度から常時接続である光
ケーブルやCATVを使ったブロードバンド化が
(2) 「ネットワーク」とは
複数のコンピュータを接続した通信網をネ
ットワークという。しかし,本研究では,特
に福岡市教育センターと学校間を結ぶイント
整備済みであり,スムーズに活用できるよう
な環境にある。
実際に,福岡市教育センターで行われてい
ラネット「福岡市学校教育情報ネットワーク」
る課題研修講座「コンピュータの授業実践へ
を中心として,福岡市教育センターを結ぶイ
の活用」を受講する教職員を対象に,コンピ
ンターネットや学校内 L A Nを含めた通信網を
ュータ活用や学校内LANについてのアンケート
「ネットワーク」とする。
調査を行った。
この結果,授業でどれだけコンピュータを
活用しているかについては,月1∼2回程度
の活用までを合わせるとほぼ半分になる。活
情研−3
用する教科や時数によってもその方法は異な
さらに,実践例活用例にもなり,自分の指
ってくるが,コンピュータを指導できる教員
導改善にもつながる「学習指導案」と画像な
が86.9%もいる中で,コンピュータの活用を
どがそのまま授業に活用できる「教育用コン
進めていく上での難しさが伺える。
テンツ」を学校内LANで活用したいかという点
(図−2・図−3)では,双方とも80%を超
す興味関心が教職員の中にあるという結果が
出ている。
そこで本研究では,教職員の指導力向上や
より分かりやすい授業を目指したインターネ
ット上の資料活用という視点において,学習
指導案・教育用コンテンツリンク集を作成す
ることにした。
図−1
コンピュータ活用の頻度
(2) 福岡市の学校内LANの現状
本市では,前述のとおり全体の7.2%である
15校の小・中学校に学校内LANが設置されてい
る。今回のアンケート結果によると,すでに
整備済みの学校では,次のような長所があげ
られた。
○児童生徒の作品をネットワーク上で公開
図−2
できる。
学校内LANでの指導案活用
○児童生徒が喜んで学習している。
○様々な情報を共有することができる。
○画像が直接資料として活用できる。
しかし,「教える側の操作・活用能力が高ま
っていなかったり,実践活用例などが多くはな
かったりする」などの短所も挙げられている。
そこで,学校内LANが設置されていない小・
中学校の教職員に学校内LANの設置後,「コン
ピュータをどう活用したいのか」と問うたと
ころ,次のような意見が出てきた。
○授業内容を分かりやすく(指導力向上)
図−3
学校内LANでの教育用コンテンツ活用
○他学年との交流・校内(学校間)交流
2
○動画の授業活用
学習指導案集について
(1) 学習指導案の掲載基準
○インターネットで調べ学習
学習指導案はそれぞれの学校や教科,テー
○図書室新刊の紹介
○学級ホームページでのクラス紹介や行事
マ等で様々な形式がある。本研究の学習指導
案集を活用する場合,自校の指導案形式と異
報告
情研−4
なると,例え教科や内容が同じでも参考にし
職員は各学校の実態により近い状況での学習
にくかったり,見づらかったりすることが考
指導案の検索が行いやすくなり,その教育計
えられる。そこで,教師がネットワーク上で
画の一覧表を元に指導案を参考にすることが
容易に検索できたり,参考できたりするため
できると考えた。
に,学習指導案の掲載基準を策定することに
そこでまず,福岡市基底教育計画の各学年
した。
ごとに1学期から3学期までの3ページを用
この掲載基準は,次にあげる8つの点につ
意し,それぞれのページからメニューに沿っ
いて定め,これらに照らし合わせて学習指導
て進めることで,容易に検索できるようにし
案を作成していくことで,より参考にしやす
た。そして,作成されたり提供されたりした
い学習指導案集を目指した。
学習指導案をその一覧表の上に配時別にリン
ア
学習指導案の構成について
クさせることで,自分の求める指導案に的確
イ
単元(題材)目標について
にたどり着けるようにした。
ウ
学習指導案の内容について
エ
手だてや学び方について
り,福岡市小学校情報教育研究委員会の先生
オ
学習活動について
方にメーリングリストや連絡等で提供を依頼
カ
固定観念,先入観,社会的不平等の記述
した。提供された学習指導案に対しては掲載
また,学習指導案は自作したものはもとよ
禁止
基準に照らし合わせて掲載していった。
キ
学習教材について
学習指導案の提供については,電子メール
ク
よりよい指導案にするために
主体で行われた。ほとんどの指導案のファイ
資料−1
ルが電子メールで添付ファイルとして送られ
学習指導案掲載基準の画面
てきた。学習指導案は個人が作成したものな
ので,著作権に気をつけなければいけない。
また,学年共同で指導案を作成している場合
があるので,提供者以外にも承諾を得て掲載
しなければならない。そこで,提供された学
習指導案はPDF化して,提供者へ承諾を再度と
り,確認をしてもらい,福岡市教育センター
のサーバへ更新していった。
3
教育用コンテンツリンク集について
(1) 教育用コンテンツ集の作成
学習指導案を参考にした場合,学習指導案
(2) 学習指導案集の作成
からも教育用コンテンツ集が検索できるよう
本研究では,学習指導案を福岡市基底教育
にしてはいるものの,指導案上でコンテンツ
計画の一覧表とリンクさせると,より教職員
集につながっている場所を見つけられない場
の活用が促されるのではないかと考えた。
合がある。さらに,必要としている教育用コ
福岡市基底教育計画は年度当初,当該学年
ンテンツのみを活用したいときに,検索する
でそれぞれの学校の実態に応じ参考にされる
画面が学習指導案集と異なっていると検索に
べきものなので,より学校現場の実態に近い
も時間がかかると思われる。
単元の組み方が掲載されている。つまり,教
情研−5
そこで,学習指導案集と同時に活用したり,
教育用コンテンツのみを活用したりする場合
単元名からもそれぞれの必要なWebサイトが参
に検索しやすくするため,リンク集の画面を
照できるようにした。
学習指導案集と同じ形式にした。検索につい
また,Webサイト等は著作権等の問題もある
ては,画面上にあるメニューの「学年」→「学
ので,活用したい教育用コンテンツのサイト
期」を選択すると必要な教育用コンテンツを
を見つけたり,情報提供されたりした場合に
容易に検索できる。
は,電子メールで申請し,許可を得て掲載し
学習指導案集を活用しているときに教育用
た。許可が得られない場合は掲載していない。
コンテンツを参考にしたい場合も同様に,メ
ニューに沿ってページを移動すると,同じ場
4
学習指導案・教育用コンテンツリンク集の
所に必要な教育用コンテンツがリンクされて
活用の実際
いる。こうすることで即座にそのコンテンツ
(1) 「Weblog」の利用
福岡市学校教育情報ネットワーク上で本研
を活用できるようにした。
資料−2
究の学習指導案集・教育用コンテンツ集を活
リンク集のメニュー画面
用するとき,学習指導案や教育用コンテンツ
は常に新しかったり,更新できたり,さらに
は自分で修正・更新できたりすることが望ま
しい。しかし,その前に,これらの学習指導
案集と教育用コンテンツについて,教職員の
意見交換の場所が必要である。
資料−3
Weblogの一画面
これらのことから,普通教室に学校内LANが
つながっており,コンピュータやプロジェク
タが整備されていると,教育用コンテンツが
基底教育計画に沿ってリンクされているので,
必要なときに検索しやすく,活用が促されや
すいと考える。
(2) 教育用コンテンツの選択と更新
リンク集に掲載する教育用コンテンツは,
その単元の学習指導案に関連付けられている
そこで本研究ではこの交流部分にWeblogを
ものを主としている。教育用コンテンツは現
利用することにした。Weblogでは,インター
在様々なWebサイトで紹介されているが,直接
ネット上に,簡単に日記形式のホームページ
単元とかかわるWebサイトへのリンク集は多く
を作成できる。これを利用すると,ホームペ
はない。特に,福岡市基底教育計画に基づい
ージ作成用ソフトウェアでわざわざホームペ
た形でのリンク集は存在せず,活用するため
ージを作成する必要がない。Webブラウザの操
には学習前に自分で様々なリンク集から検索
作だけで自身のホームページを作成し,日付,
していかなければならないことが多かった。
見出し,本文,写真等を日記形式で書き込ん
そこで本研究では,学習指導案集と同じく
基底教育計画に基づいたリンク集を作成し,
情研−6
だり,貼り付けたりすることができる。また,
書き込んだ記事に対して,共通の関心をもっ
ているユーザー同士が交流を深めることがで
きる。
インターネット上の電子掲示板上で意見交
流をした場合,一つの意見についてその返信
本研究では,このユーザー同士の交流と,
が書き込まれ,その返信についての意見や元
日記形式で書き込んだり,画像を貼り付けた
の意見に対する書き込み等がされる。つまり
りすることが授業記録となり,評価にもつな
一つの話題について様々な話が進められてい
げられるのではないかと考えた。
き,これが「電子掲示板」という一つの場で
また,携帯電話との連携も可能で,携帯電
行われる。
話を利用し,インターネットを介して自分や
Weblogの場合は,一人一人が独立した自分
他のユーザーのWeblogを閲覧できる。そして
の意見を発信する場をもっており,そこへ自
自分のWeblogに文章を書き込んだり,付属し
分の記事を書き込んでいく。書き込まれた記
ているデジタルカメラで撮影した写真を電子
事についてのコメントは,他のユーザーから
メールの添付ファイルとして送るとWeblog上
書き込まれたり,そのコメントに対しての記
にその写真を掲載することができる。
事を自ら書き込んだりする。また,トラック
さらに,他のユーザーの記事に対する意見
バック機能を使って元の記事に関連のある記
を自分のWeblog上で書き込み,それを「トラ
事を自らのWeblog内に記事として書き込んだ
ックバック」という機能を用いてそのユーザ
ということを,元の記事を書き込んだユーザ
ーに知らせると,関連した記事を書いたこと
ーに知らせる等,様々な場所で,様々な形で
を相手に通知できるだけでなく,相手の記事
交流が展開されていく。
や自分の記事を見たユーザーにもそれぞれの
記事を参照してもらうことができる。
これらの機能を使うことは,手軽さと即時
性が兼ね備わっており,教職員のさらなる交
流が行われる上で,広がりや深まりが出てく
るのではないかと考えた。
(2) 「Weblog」とリンク集の活用
図−5
Weblogの仕組み
このWeblogの特徴を活かし,教職員同士の
意見交流等がより活発になるように,学習指
導案集や教育用コンテンツリンク集へは,最
初に研修員のWeblogを通ってからアクセスで
きるように設定した。このとき,あらかじめ
学習指導案集,教育用コンテンツリンク集の
URLの記述のそばに,研修員が他の閲覧者に対
図−4
する様々な課題や問題等を書き込んでおき,
授業や指導法改善への構想図
情研−7
それを読んでもらうことで課題意識や問題意
資料−4
Weblog上に書き込まれた授業記録①
識を投げかけていった。
(3) 「福岡市学校教育情報ネットワーク」と
「Weblog」の連携
本研究では,福岡市学校教育情報ネットワ
ーク上に設置された学習指導案集と教育用コ
ンテンツリンク集をWeblogを通して見ること
で,各教職員が自分のWeblogに記録を残しな
がら,指導法改善に取り組むことができるよ
次の授業記録は,5年生理科「流れる水
うにした。リンク集から参照した学習指導案
のはたらき」の一部である(資料−5)。
や教育用コンテンツを使うことについて,ど
学習指導案の中に教育用コンテンツリンク
う考えたか,どう思ったかという感想だけで
集へのリンクを挿入しており,そのリンク
はなく,児童生徒がこちら側の発問にどう反
先のWebサイトについて,感想や改善点まで
応したか,自分が失敗してしまったこと等,
記録されている。著作権等の問題もあり,
様々なことをWeblogに記録していくことがで
内容についての変更や改善は難しいが,事
きる。この記録をお互いに見合うだけでもそ
前にこれらの記録を参照することで,自ら
れぞれの指導について改善方法を見いだすこ
が学習を進める際のヒントを得ることがで
とができると考えた。
きる。
また,福岡市学校教育情報ネットワークは,
資料−5
Weblog上に書き込まれた授業記録②
地域イントラネットとして福岡市内の各学校
のコンピュータと接続されている。つまり学
校現場に居ながらにして,学習指導案をネッ
トワークから取り込んだり,学習指導案の画
面上から直接教育用コンテンツを活用したり
できる。その中で出てきた自分なりの課題や
良かった点,反省点などをその日のうちに自
分のWeblogに書き込む。これらのことを通し
また,授業記録の書き込みは,学習指導
て,より多くの教職員とその意見や考えを共
案集に掲載している指導案どおりに授業を
有できるだろうと考えた。
進めた結果を書き込むだけではなく,教科
(4) 「Weblog」の利用の実際
書どおりに進めた結果を書き込むこともあ
本研究では,Weblogで利用できる基本的な
3つの機能を使い,教職員の連携を支援して
った(資料−6)。
資料−6
Weblog上に書き込まれた授業記録③
いった。
○(前略)第2時を終えましたが,「割合の別の表
ア
「Weblog」の書き込み
し方」としての比については,教科書の流れでどの
教職員同士の連携を広げていくために,
子もだいたいとらえられたようです。
学習指導案集や教育用コンテンツリンク集
しかし,もとにする量を意識させるための支援が
を参考にしていくと,Weblog上に次のよう
必要です。例えば2:3の場合,「何が2で,何が
な書き込みがされていった(資料−4)。
3になるのか」をしっかり交流しないと,つまずき
その日の学習の成果や課題が書き込まれ,
の多い子はとらえられないと思います。そこに時間
自分の授業のふり返りも行っている。
をかけました。(※長文のためWeblogより抜粋)
情研−8
他の教職員が,この授業記録を閲覧する
資料−8
研修員のWeblog上に書き込まれたコメント
ことで,学習指導案集にある指導案の進め
方と教科書の進め方を比較し,参考にする
ことができた。さらに,それぞれの良さを
確認したり,授業の進め方のヒントにした
りした。
これらのことから,Weblogの記録を授業
記録として後で読み返したり,再度リンク
イ
集にある指導案と見比べたり,その指導案
質問がコメントとして返ってきたことに
にリンクされている教育用コンテンツを活
より,指導案の方の記述を早速変更し,再
用したりすることで,各教師の指導法改善
掲載するとともに,コメントを書き込んだ
を支援することができたのではないかと考
教職員のWeblogにその旨を伝えた。このよ
える。
うにして,お互いの意見を自由に出し合い,
他の教師と考えを共有していった。
「Weblog」のコメント
研修員や他の教師がWeblog上に疑問や質
また,各教職員が共通に関心をもってい
問を書き込み,それに応えるコメントを書
ると思われる話題を投げかけてみると,多
き込んでいったことで,意見の共有が有意
くの意見や質問が出て,教職員同士の交流
義に進められた。
がより活発になっていった。
資料−7
資料−9
研修員のWeblog上での書き込み
Weblog上での意見交流①
教師Mより「英語活動」についての学習
指導案の提供があり,学習指導案集に掲載
まず,研修員が学習指導案集に新たな指
し,研修員のWeblog(資料−9)で紹介し
導案を掲載をしたとき,これに対する感想
た。また,教師Sが自分の勤務校の「英語
をWeblog上で募集した(資料−7)。する
活動」に関する実態(資料−10)をWeblog
と,次のような反応(資料−8)がコメン
に書き込んでいたので,アドレスも含めて
トとして返ってきた。
合わせて紹介していった。
情研−9
資料−10
教師SのWeblogの書き込み
資料−12
Weblog上での意見交流③
教師MとNのコメント
次の日,教師Tがネットワーク上の指導
案を見て,自分なりの意見をコメントとし
て書き込んだ。また,「英語活動」につい
ての進め方に疑問をもつ教師Mからは,自
分が実際に行った英語活動に関する児童生
徒の記録を書き込んでいた。そして,自分
なりの考えも付け加え,研修員のWeblogに
これらのコメントは,ほとんど一つのWeb-
コメントとして書き込んだ(資料−11)。
log上で書き込まれており,その中で意見交
資料−11
流が行われている。しかし,これらのコメ
Weblog上での意見交流②
ントは一人だけではなく,多くの教職員が
教師TとMのコメント
見られるようになっている。このように,
学習指導案集・教育用コンテンツリンク集
をWeblog上で活用していくことで,そのコ
メント部分だけでも様々な意見が出された
り,疑問を出し合ったりすることで意見交
流ができたり,考え方を共有したりするこ
とができていた。
ウ
Weblogのトラックバック
電子掲示板では一つの場所だけの話題に
なりがちであるが,Weblogのトラックバッ
ク機能はさらに教師の意見を交流,共有す
このように「英語活動」という一つの課
題が少しずつ広がりを見せていった。
る上で有効である。
教師Mは,学習指導案集に掲載された「英
翌々日のコメント(資料−12)では,低
語活動」の指導案をネットワーク上から見
学年の英語活動をどのように行うのか,ま
た後,先に示したWeblogへの書き込みやコ
た,英語活動を行うときの教師の姿につい
メントを読んだ。そして,自分自身のWeblog
てのコメントが書き込まれていた。
に実際に行った「英語活動」の実践につい
続いて「英語活動」の先進校に勤務して
て書き込み,研修員のWeblogにトラックバ
いる教師Nからは,先進校ならではの貴重
ックさせた(資料−13)。コメントは,Web-
な経験や実践を書き込まれており,しかも
logの意見に対する自分の意見であり,相手
前日のコメントに答えるような形で書き込
に対する受け身的な感想になる。しかし,
みがなされていた。
自分でWeblogをもち,そこに自分の意見を
情研−10
書き込むことは自分の意見を表す場所が存
第Ⅲ章
在し,その意見を自分のものだけではなく,
研究のまとめと今後の課題
相手にも知らせることで,発信しようとす
る積極的な活動にもつながる。つまり,トラ
1
研究のまとめ
ックバック機能を有効に活用することで,
本研究では,学習指導案・教育用コンテンツ
より積極的に自分の意見を知らせることが
リンク集の活用を中心に,ネットワーク上にお
できる。
ける効果的な授業支援の在り方を明らかにする
資料−13
研究を行ってきた。
トラックバックされた授業記録
(1) 学習指導案・教育用コンテンツリンク集
の作成から
本研究では,教職員が学習指導案から教材
研究したり,教育用コンテンツを授業で容易
に利用したりできるようにするために,学習
指導案集と教育用コンテンツリンク集を関連
付けて作成した。
インターネット上には非常に多くの情報が
あり,必要な学習指導案や教育用コンテンツ
を容易に探し出すことは難しい。そこで,福
岡市の基底教育計画と同じ様式でリンク集を
作成したことで,必要な学習指導案や教育用
コンテンツを見つけやすくし,提供できた。
さらに,学習指導案から直接教育用コンテ
このようにして,他の教師は研修員のWeb-
ンツをリンクさせることで,教育用コンテン
log上に示されているトラックバックのURL
ツを改めて探すことが少なくなった。このこ
をたどっていきながら,教師MのWeblogへ
とで,教育用コンテンツを活用した授業の実
移動し,考えや思い等を知ることができる
践例が,指導案の参照と同時にできるので,
ようになっていった。
教材研究がしやすい形で提供できた。
資料−14
トラックバックされた表示
また,リンク集には「各学年」「英語活動」
の他に,「指導案の掲載基準」や「指導案の
ひな型」を掲載したりことで,学習指導案を
同じ形式で提供できた。
(2) 学習指導案・教育用コンテンツリンク集
の活用から
学習指導案・教育用コンテンツリンク集を
活用した授業の在り方,教職員の指導法改善
の在り方を明らかにするため,Weblogを利用
した教職員同士の交流を工夫した。その結果,
○
指導案や教育用コンテンツの利用法に
ついて,Weblog上で意見交流が時間や場
所が違っていても,考え方を共有するこ
情研−11
とができた。
○
用コンテンツを増やしていき,常に更新
学習指導案や教育用コンテンツについ
していくことが必要である。
ての改善意見なども書き込まれ,より必
○
意見交流や情報の共有を目的に個人の
要な学習指導案や教育用コンテンツを知
Weblogを立ち上げ,一人一人が積極的に
ることができた。
活用することが必要である。
○
児童生徒の様子やつぶやき等を記録す
(2) 「Weblog」の課題と可能性
ることで,自らの授業をふり返ったり,
本年度の研究においてWeblogを進めるにあ
他の教職員の学習の進め方等に興味をも
たり,いくつかの課題が浮き彫りになるとと
ち,交流まですることができた。
もに,今後の可能性も見えてきた。
○
学年や教科を超えて,様々な分野での
ア
意見交流がなされ,その中で有益な情報
「Weblog」の課題
Weblog上では誰でも容易に意見交流をす
の共有をすることができた。
ることができる。しかし,関係のない人が
Weblogを利用しながら,ネットワーク上で,
ユーザーになりすまして個人のWeblogを改
学習指導案・教育用コンテンツリンク集を中
変したり,誹謗中傷などを書き込んだりす
心に活用していくと,授業支援に有効であっ
ることも考えられる。ユーザーIDやパス
たと考える。
ワードを付与する等,セキュリティ面を少
しでも高める工夫が必要である。
2
今後の課題
また,個人を特定できるような情報がWeb-
(1) 学習指導案・教育用コンテンツリンク集
log上に書き込まれていると,これらを悪用
の作成・活用における課題
されることも考えられる。個人情報やプラ
学習指導案・教育用コンテンツリンク集を
イバシー保護の面からも,書き込みに対し
活用するにあたり,下記のような課題が出て
きた。
○
○
○
○
て十分な配慮が必要である。
イ
「Weblog」の可能性
著作権の関係上,一つ一つの学習指導
本年度の研究は,一般企業が運営する無
案や教育用コンテンツの作成者に,ホー
料のWeblogサービスを利用した。今後,福
ムページへの掲載承諾を得ることが必要
岡市学校教育情報ネットワークの中で,セ
である。
キュリティを高め,管理しながら教育セン
すでに公開されている教育用コンテン
ターで運営していくことができれば,同じ
ツにおいて,必要なコンテンツをより効
学校だけでなく,他の学校の教職員,ひい
率的に集める手だてが必要である。
ては全市の教職員と意見交換したり,考え
学習指導案・教育用コンテンツは常に
方や疑問点を共有したりできる。また,Web-
新しいものが必要であり,誰でも,いつ
logに掲載する授業記録を,具体的に残すこ
でも,どこからでも,これらを登録した
とができるようになり,これらの記録を個
り,更新したりできることが必要である。
人評価へとつなげていくこともできる。
リンク集は,すべての学年,教科,単
さらに,福岡市学校教育情報ネットワー
元について作成していった。しかし,範
ク上に今回作成した学習指導案・教育用コ
囲が広く,それぞれの教員の課題とする
ンテンツリンク集をWeblogと一緒に活用し
教科や単元に合う指導案や教育用コンテ
ていくと,資料交換や意見交流など様々な
ンツを提供することが難しかった。そこ
情報を共有することが容易にできるように
で,今後も引き続き,学習指導案や教育
なると考えられる。
情研−12
資
料
1
the Educator's Reference Desk
http://www.eduref.org/
2
教育情報化推進協議会
http://www.eeaj.jp/public/doc/menu.html
3
教育情報ナショナルセンター
http://www.nicer.go.jp/
4
教育用画像素材
http://www.kayoo.org/home/s1_recipe_fr.htm
5
教育用画像素材集
http://www.nipec.niigata.niigata.jp/cec/
6
IT実践ナビ
http://www.nicer.go.jp/itnavi/
7
学校における情報教育の実態などに関する調査結果
活用事例集
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/07/04072101.htm
8
学校放送オンライン「先生の広場」
http://www.nhk.or.jp/school/hiroba/index.html
参考文献
1
文部省
小学校学習指導要領解説
国語編
開隆堂出版
(平成11年)
2
文部省
小学校学習指導要領解説
社会編
開隆堂出版
(平成11年)
3
文部省
小学校学習指導要領解説
算数編
開隆堂出版
(平成11年)
4
文部省
小学校学習指導要領解説
理科編
開隆堂出版
(平成11年)
5
エクスメディア
超図解
6
鈴木芳樹
[はてな]ではじめるブログ生活
デイアート
7
堀田龍也・中川斉史
学校のLAN学事始
高
ウェブログでつ く るホームページ入門 エクスメディア (2004年)
研究指導者
筬
島
下
社
(2004年)
研究助言者
賢
次
(教育情報係長)
中
長期研修員
山
陵
(2004年)
順一郎
(鳥飼小学校教諭)
情研−13
野
和
光
(広島大学教授)
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