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神戸芸術工科大学
齊木崇人研究室
齊木崇人、 宮代隆司
2005/06/01
16
2005 年 5 月 21 日午前 10 時半より、 神戸芸術工科大学デザイン教育研究センター棟に
おいて、 ガーデンシティ舞多聞第 12 回公開講座が行われました。 当日は 29 組 40 名
の方に御参加頂きました。
「田園都市のまちづくりとマネージメントスキーム」
齊木崇人(神戸芸術工科大学教授)
私は 1997 年から 98 年の 1 年間、 世界最初の田園都市であるイギリスのレッチワース
に住んでおりました。 レッチワースには同じ建物は 2 つとしてありません。 今回はその建
物とまちなみを構成する「ルール」や「約束事」についてお話します。
鳥の目で見たレッチワース
レッチワースに滞在中、 私は 8 回ほど空撮を行う機会に恵まれました。 空から鳥の目に
なってみて改めて解ったこと、 それはレッチワースがグリーンベルトに包まれているとい
うことでした。 また、 地形に沿って、 南北に道路の軸線が描かれています。 私の住まい
は南東のエリアにありました。 客員教授をしていたロンドンのウエストミンスター大学には
電車で 30 分程かけて出掛けていました。
写真 1 レッチワースの中心部
(空撮 : 齊木崇人、1998)
時間をかけるまちづくりを学ぶ
レッチワースがまちびらきをした 1903 年から 5 年後の 1908 年、 当時の神戸市の外事係
長であった生江孝之が日本人として初めてレッチワースを訪れました。 滞在していたホー
ルホテルまで、 田園都市思想の発案者であるハワードが馬車で迎えたそうですが、 当
時のレッチワースは荒涼たる風景で、 生江は「ここが宅地になるとは信じられない」「本当
にここは良い風景になるのか」と思っていたそうです。 当時と今の風景を比較してみると、
時間をかけるまちづくりの大切さを学ぶことができます。
生き続けるまちなみと住宅
まちの中心部には、以前ガラス張りのモダンな建物のカレッジがありましたが、レッチワー
スのまちなみに合わないということから、 イングリッシュビレッジスタイルの建物に建て直
されました。 また初期に建設された「チープコテージ」という小規模な住宅が建ち並んだエ
リアあります。 ここでは 100 年近く経った建物が生き続ける知恵を知ることができます。
小川を生かしたハワードパーク
タウンセンターに隣接したハワードパークは、 レッチワース開発以前からある小川の流れ
を生かしています。 ここはプールもあり、 住民の憩いの場として親しまれています。 植栽
は木々の間からその向こうが見通せ、死角が出来ないようになっています。 日本では「安
全のため」と称して囲まれてしまう場合が多いですが、 逆に死角をつくる結果になってい
ます。
日本の文化をとりいれた花の咲く並木道
レッチワースには 56 種類の花の咲く並木道がありますが、 これは日本の花見の文化を
とりいれたものです。 このことはレッチワースのマスタープランを担当したレイモンド ・ ア
ンウィンの自著「Town Planning in Practice」に記されています。 レッチワースがまちびらきさ
れた 1900 年代初頭は国際的な文化交流が盛んに行われていた時代で、 このことがレッ
チワースのまちづくりにも影響しています。
写真 2 ハワードパークの風景
(撮影:齊木崇人、1998)
写真 3 ハワードドライブの並木道
(撮影:齊木崇人、1998)
ノートンコモンは住民の誇り
レッチワースの真ん中にはノートンコモンという大きな森がありますが、 ここは開発以前
からあった放牧用の森を住民の憩いの場として活用したものです。 住民に「レッチワース
で誇りに思える場所はどこですか ?」というアンケートをとると、 多くの人はこのノートンコ
モンだと答えます。 今の日本の住宅地に、 住民が誇りに思える場所はあるでしょうか。
公園の植栽計画の見直しと周辺のオフィスビルの改築
中心部にある J.F. ケネディガーデン(公園)は以前、 ポプラの木が取り囲んでいました。
しかし木が成長しすぎてしまい、 公園の魅力が生かされていないと判断したレッチワース
写真 4 ノートンコモンの風景
(撮影:齊木崇人、1998)
財団(レッチワースのまちづくりの主体)は、 樹齢数百年の 3 本の樫の木を残し、 ポプラ
の木を全て伐採しました。 このポプラの植栽計画は失敗だったと財団は言います。 ポプ
ラが伐採されたあとにはバラの木が植えられ、 同時に噴水と歩道が新設され、 公園は
新しく生まれ変わりました。 また公園に面したオフィスビルは以前はマッチ箱型の無機質
な建物でしたが、 ファサード(前面)のデザインを変更し、 屋上にドーム型の屋根を加え
ることで、 より魅力ある建物に変わりました。
オープンな住宅、 増改築のルール
レッチワースの住宅は塞がれていないオープンなデザインになっています。 また、 西洋
の住宅では一般的なことですが、 玄関のドアは内開きで人を迎え入れるような形になっ
ています。 そして、 レッチワースには増改築のルールが細かく定められ、 時代の変化に
対応しつつもまちなみの魅力を保ち続けることができています。
写真 5 生まれ変わったオフィスビル
(撮影:齊木崇人、1998)
ソーラーショットハウス(単身者用住宅)と住み替えのシステム
レッチワースには単身者用住宅「ソーラーショットハウス」があります。 内部には 100m 四
方の中庭があり、 ベンチが置かれています。 ここには単身者、 新婚夫婦、 高齢者が住
み、 バラエティのあるコミュニティを構成しています。 単身者や新婚夫婦の中には家族
が増えるとレッチワースの中にあるさらに広い住宅に移っていく人もいます。 子供が成長
するとまたさらに広い住宅に移り、 子供が独立し夫婦二人或いは単身になった時は再び
ソーラーショットに戻る、 ということも考えられます。 このようにレッチワースの中で住み替
えが出来るような仕組みがあります。
2 戸一住宅のデザイン効用
レッチワースには 2 戸一住宅が多く見られます。 日本では「2 棟長屋」と呼んであまり良
いイメージはありませんが、 2 つの住宅がまとまることによって正面のデザインが堂々た
るものになりますし、 2 棟の隙間の有効利用や、 本来なら壁 2 枚になるところを 1 枚に
することもでき、 建築費の節約にもつながります。
写真 6 人を迎え入れるような玄関を持つ住宅
(撮影:齊木崇人、1998)
歩道の緑地帯の活用
レッチワースの幅約 2m の歩道のうち、 車道側の 1m は緑地帯になっていますが、 その
下には光ケーブルや電線などが通っています。
歩道から見た住宅のイメージ
レッチワースの住宅は歩道から窓が見通すことができ、 前面が閉じないようにデザイン
がされています。 歩道側には主に人々が寛ぐスペースである sitting room が配置されて
いますが、 通りに面した窓の位置は前を通る人や来客が家の中から見えるようになって
います。 また、 玄関までのアプローチには砂利が敷き詰められ、 足音で人の出入りが
分かるようになっています。 こういった工夫はおのずと安全なまちづくりに結びついてい
ます。
屋根のデザインはまちの表情をつくる大切な要素になっていますが、 屋根や壁は常に手
入れがなされています。
住宅の内部と外部の関係性
レッチワースでは内部の家具が当初から使い続けられている例もあります。 室内と家具
の良い関係が必要ですし、 また窓を通して外部との関係も重要になってきます。 日本で
も戦前までは同じような思想がありましたが、 戦後は家具も室内も外部も切り離されて考
えられるようになってしまいました。
写真 7 ソーラーショットハウスの中庭
(撮影:齊木崇人、1998)
写真 8 2 戸一型住宅の風景
(撮影:齊木崇人、1998)
オープンと植栽の使い分け
チープコテージは小規模な住宅が建ち並んでいますが、 隣棟間隔の工夫や、 オープン
な外構と植栽の使い分けによって、 住宅の密度が高いにも関わらず、 開放的なまちな
みを実現できています。
タウンミーティングへの参加義務
レッチワースでは、 まちづくりについて話し合うタウンミーティングへの参加が住民に義務
づけられています。 毎回 30 人ほどの参加者がおり、 その中には勿論若い人も含まれて
います。 ミーティングは大体 3 回を 1 ラウンドとして行われ、 1 回目は顔合わせ、 2 回目
はまちづくりへの提案、 3 回目は具体化への提案を目標として行います。 話し合われた
写真 9 住宅のインテリアの様子
(撮影:齊木崇人、1998)
内容は数日以内にレポートとしてまとめられ、 各世帯に配布されます。
どんな風にしてレッチワースの価値観をつくってきたのか ?
レッチワースの価値観の形成には過去の経験がうまく生かされています。 まず気持ちの
いい場所は個人の占有にせず、 皆で共有すること。 ピクチャレスクといった中世からの
文化やデザイン原理を取り入れること。 レッチワースを囲む農地(グリーンベルト)を自由
に歩きまわれる仕組み。 光と風を取り入れえた室内デザインの工夫。 こういった歴史的
経験を生かしながら、 まちづくりをおこなってきたのです。
1903 年のまちびらきから 1930 年代までにつくられた住居のほとんどは質の高いものです
が、 戦後に建てられたものは理想的なものとは言えません。 また、 1960 年代にはレッ
チワース全体が荒れ始めていました。 マネージメントスキーム(コミュニティの約束事)は
そんな中 1962 年に定められました。 これは一緒に住むためのルールとも言えます。 建
物は勿論、 芝生や生垣の手入れも怠っていれば近隣の人に指摘されます。 また、 デザ
インガイダンスは主に増改築についての留意点が述べられていますが、 新しく建て替え
る場合にも適応されます。 屋根、 窓、 玄関、 生垣、 さらにはガレージに至るまで、「どの
ように施工すべきか」ということが細かく言及されています。 レッチワースには同じ建物は
一つとしてありませんが、 まちなみを守る気持ちは同じと言えます。
レッチワースには以前テニスコートだったところを住民の老齢化と共に家庭菜園に変更し
たところもありますが、 世代交代と共に再びテニスコートに戻す計画が持ち上がっていま
す。 このように土地利用を固定せず、 コミュニティの要望に応じて変更する柔軟性も持ち
合わせています。 また、 光ケーブルといった新しいものも、 まちなみのイメージを壊さな
いように採り入れられています。
また、 多様な規模の住宅があることによって生涯に渡ってレッチワース内で住み替えが
可能となっています。 このことによって昔からのコミュニティに参加でき、 安心 ・ 安全な
暮らしができるようになっているのです。
生き続けるまち、 レッチワース
私はレッチワースに毎年訪れますが、 行く度に質が上がっているのが分かります。 1997
年にはタウンセンターの再生が着手されました。
生きているまちには生きているルールが共有されているのです。 日本のまちにも様々な
ルールが生まれていますが、 行政によって既存のものがあてはめられたものが多い。
まちづくりのルールは自分たちでつくり、 また変更も可能でなくてはなりません。 ルール
はまずは「人に迷惑をかけずに、 コミュニティ内でうまくやっていくため」の最小限のもの
からはじめ、 時代の要求に応じて訂正 ・ 加筆が行われるべきです。 ルールはつくりかえ
られて生きるものです。 後から入ってくる人や次世代の人を迎え入れる準備の出来てい
ないルールではまちは死んでしまいます。
写真 10 チープコテージハウスの風景
(撮影:齊木崇人、1998)
写真 11 ワークショップの様子
(撮影:齊木崇人、1998)
写真 12 以前テニスコートだった家庭菜園
(撮影:齊木崇人、1998)
写真 13 ショッピングセンターの風景
(撮影:齊木崇人、1998)
「ガーデンシティ舞多聞」
みついけプロジェクト
第 2 回コミュニティワークショップ
2005 年 5 月 21 日
(土)
午後 1 時 30 分より、みついけプロジェクトの第 2 回目の
コミュニティワークショップが開催され、入居予定の方々が参加されました。
みついけコミュニティワークショップは、2006 年春の宅地の引渡しまで継続的
に開催されるワークショップの中で、コミュニティのルールづくりや公園づくり、
緑地管理の方法などが居住予定者の皆さんとの間で話し合われます。
当日のプログラム
1 はじめに 都市機構
2 住宅構想プランと建築協定等
①住宅構想プランについて 齊木崇人
齊木研究室が中心となって行っている、個別ヒアリング形式の住宅のプランニ
ング
(基本設計)
についての経過報告がありました。
このプランニングは、建築協定や緑地協定の構築と同時進行で行うことにより、
良好なまちなみをつくることを目的として行われています。
②建築協定等の事例紹介とみついけ協定案 都市機構・齊木崇人
建築協定・緑地協定によって良好なまちづくりを実現している先行事例の紹介
と、みついけにおける協定内容の事務局提案がなされました。
3 コミュニティ別ワークショップ 都市機構・齊木崇人研究室
①協定の事例について
②みついけ協定案について
③意見交換
④各コミュニティの代表者による発表
コミュニティ別ワークショップは、a ~ g の各コミュニティが別々の部屋に集
まって行われます。先に説明された、
建築協定案や緑地協定案を素案として、
「み
ついけのまちづくりにとって何が優先されるべきか ?」
「縛られすぎない柔軟な
ルールづくりとは ?」
といったことが、参加者の皆さんの間で話し合われました。
最後には全参加者が再び集合し、各コミュニティで話し合われた内容が、コミュ
ニティの代表者によって発表されました。
入居予定者の皆さんは、
2005 年 11 月の協定申請案確定を目指して、
継続的にワー
クショップを行っていきます。
写真 1 住宅構想プラン説明の風景
(撮影:安井沙永子、2005.5)
写真 2 住宅構想プランの図面を前に
(撮影:宮代隆司、2005.5)
写真 3 住宅構想プランに沿ってつくられた模型
(撮影:李勝煥、2005.5)
4 これからのワークショップのテーマ
①緑地管理について 栗本講師
樹林が暮らしの中で果たす役割
(山崩れを防ぐ、土砂の流出を防ぐ、省エネ)
の
メカニズムが、イラストと共に分かりやすく説明されました。
②お知らせ事項 都市機構
今後のコミュニティワークショップのスケジュールとその内容、そして未決定
事項のお知らせがされました。後者では主に、
造成法面等への植栽
(位置、
樹種等)
が説明されました。
5 質疑応答 都市機構
写真 4 コミュニティ別ワークショップの風景
(撮影:李勝煥、2005.5)
6 おわりに 都市機構・齊木崇人
写真 5 コミュニティの代表者による発表
(撮影:平野奈々、2005.5)
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