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貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード

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貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード
──歴史的変遷をたどって──
渡 耒 絢
はじめに
年々拡大しつつあり,社会に大きな影響を与え
ている.実際フェアトレードに対する消費者ら
途上国では日々の生活が不安定であり,多く
の認知度向上や,政府や企業などのさまざまな
の人々が1日1ドル以下の生活を余儀なくされ
アクターからの積極的な支援が社会で見受けら
ている.そのため多くの世帯において健康管理
れはじめている.しかしその一方で活動形態の
に関する問題などに固執することができず,こ
拡大に伴い,フェアトレードというアプローチ
れが原因となって多くの子どもたちが命を落と
を指す言葉の意味が曖昧になりつつある.
す危険にまでおよんでいる.途上国が抱えてい
そこで本論文1)ではフェアトレードとはどう
るこういった問題の多くは,途上国での経済
いったものなのか,本来の意味を明確にするこ
的・社会的問題が絡んでおり,その解決に向け
と を 目的 と し,ま ず フェア ト レード が 辿って
た包括的なアプローチが活用されている.そう
きた経緯を歴史的にまとめていくことにする.
いった中でフェアトレードは近年,途上国の経
フェアトレードはどういったきっかけで始ま
済的・社会的開発の向上のために有効性を備え
り,どのような役割を担っているのかを整理し,
ているとして注目を集め,実施されている包括
フェアトレードが持つ本来の意味を明確にし,
的なアプローチの1つである.
今後ますます拡大を遂げていくフェアトレード
フェアトレードは途上国の人々の生活環境を
を実施するにあたっての活動軸を提案したいと
改善するため,彼らの自立性を高め,持続可能
考えている.
な 経済的・社会的成長 を 促 す ア プ ローチ で あ
る.地元資源を活用し,伝統的な手法によって
1 フェアトレードの歴史的変遷
商品を生産する機会に途上国の人々が参加する
一般的にフェアトレードとは,1)アフリカ,
ことにより,彼らが生活する上での自立支援と
アジア,ラテンアメリカなどの南(途上国)に
なり,持続的に彼ら自身の生活基盤の安定を図
おける不利な立場におかれている生産者に対し
ることを可能にしている.この活動は NGO が
て,北(先進国)の市場へ公平にアクセスでき
中心となって実践されている.NGO の活動規
る機会を提供することで,南(途上国)の貧困
模によってさまざまではあるが,生産者支援
者を救うための,2)直接的で持続可能な関係
を実施する NGO もあれば,先進国の消費者に
を,南の生産者(途上国)と世界における豊か
フェアトレードに対する認識や市場拡大に向け
な国(先進国)の消費者双方が構築する2)アプ
た啓発活動などの実施,貿易システムの変革
ローチである.また「途上国における貧しい生
を求める活動など幅広く行っている.そのた
産者や労働者のエンパワメントと育成に焦点を
め NGO の社会に対するフェアトレード活動は
あてたユニークなコンセプト」を持ち,「貿易
78 (486)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
の世界において信頼されているシステムである
れていたフェアトレード活動は,慈善的意識を
とともに,もっともこのシステムを必要として
残しつつ,少しずつビジネス的感覚を組み込
いる人びとに対して,真の変化をもたらすこと
んでいったとされている7).そしてこの兆候は
3)
ができる」アプローチでもある .
フェアトレードの考えに共感した流通ビジネス
もともと第 2 次世界大戦後のヨーロッパ経済
を,自然の成り行きで巻きこみ8),消費者へフェ
復興支援という慈善活動を起源に持つフェアト
アトレード活動を拡大させた普及期にあたる,
レードは,その歴史的変遷を 4 段階に分類4)す
1970 年代後半 か ら の 第 3 段階 を 誕生 さ せ た.
ることができる.第1段階は,フェアトレード
この時期には,途上国に対して経済的な支援を
の起源とされている 1940 年代から 1960 年代半
するためのフェアトレード機関や団体など,慈
ばまでを指す.主に米国やヨーロッパ圏で開始
善的な小売業者がヨーロッパ諸国で設立されは
され5),第 2 次大戦後に東欧諸国の経済復興支
じめた.そして小売業の増加に伴い,フェアト
援のために国際 NGO の Oxfam が開始したと
レードであることを認証するマークの誕生に
される東欧産の手工芸品の輸入活動や,米国の
よって,フェアトレード製品が幅広い消費者に
Ten Thousands Village によるプエルトリコの
浸透した.またこれまでフェアトレード商品と
刺しゅう製品の販売のための市場拡大が行われ
して主流であった手工芸品に加えて,コーヒー
ている.この時期に行われていた活動は,経済
もフェアトレード商品として扱われるように
的発展との関連性を見いだしておらず,飢饉や
なった.このコーヒー導入はフェアトレード普
戦争,天災などの被災者を救済するための資金
及の大きな力となった9).その後,1980 年代後
を集めることを通じたチャリティ活動という枠
半からの第 4 段階において,これまでの貿易市
組みから間接的に経済的な救済が可能であると
場で活動していた大手企業が除々にフェアト
いう見解を示していた.
レード 市場 に 参入 し は じ め た.スーパーマー
その後,1960 年代半ばころからの開発援助
ケット で の 販売 や 企業 の 参入促進,フェア ト
活動が中心となった現在のフェアトレードへと
レードラベル運動を通じたフェアトレードラベ
続く第 2 段階が現れ始めた6).独立した途上国
リング認証制度の普及・拡大,フェアトレード
の工業化が思ったように進まなかったこの時代
活動を行う団体同士の交流や情報交換などを行
では,自由主義経済モデルにおける先進国の閉
うためのネットワーキング化,不平等な国際貿
鎖的な市場や政治的な色合いの濃い途上国への
易の構造改革や商品生産国の社会状況や労働状
開発支援が主流であった.輸出商品に対する価
況の考慮を消費者に促す意識改革を目的とした
格の不公平性や大量生産による環境悪化,雇用
キャンペーンやアドボカシー活動が見られた.
減少などにより先進国と途上国の格差は拡大し
「第 3 世界との貿易が,公正さと相互理解の上
続けた.1968 年の UNCTAD 会議において決
10)
に立ったものであるべき」
であるという視点
定された「Trade not Aid─援助ではない貿易」
を持ったオルタナティブフェアトレードのつな
というスローガン以降,途上国側の要求の実現
がりを作り上げるため,消費者を巻き込んだ,
に向けた活動が開始され始めた.生産者の利益
多様なアクターによる活動を通じた一般市場で
を搾取する仲介業者を通さず,生産者から直接
の成長,拡大,社会への浸透が見られるように
取引を行う形態がオランダで見られ始め,これ
なった11).こういったさまざまな活動への取り
がフェアトレード活動を支援する機関・団体誕
組みは,1990 年代前後の貿易システムにおい
生の起源とされている.北の国(先進国)のニー
てさまざまな取り組みに変化が生じ,それが結
ズと南の国(途上国)の生産品とを直接的な関
果として途上国の人びとをより一層悩ませたこ
係で築き,途上国の経済的自立を目指して行わ
とに由来する.第1次産品の国際的な需給調整
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(487) 79
と価格安定を目的に先進国と途上国が締結する
治的な意味合いも含有するなど,現在のフェア
国際商品協定の中の1つである国際コーヒー協
トレードはこれまでの社会背景に対応したプロ
定の崩壊は,コーヒー価格の暴落を生み,広大
セスすべてに対するアプローチが組み込まれて
なコーヒー農園を所有する途上国で多くの貧困
いる.現在フェアトレードの定義が多様化し,
を生むことになった.また構造調整政策による
あいまいになりつつあるのも,これまでの経緯
規制緩和は,これまで独占的に途上国の一次産
において時代背景を含み,さまざまな側面やア
品を買い上げていたシステムを終了させること
クターからの圧力などが関与してきたためであ
となった.さらに国際収支の改善に向けた輸出
ると考える.したがってフェアトレード本来の
促進が結果として一次産品の価格を下落させて
目的を見いだすことは重要である.そこでまず
しまい,途上国はますます貧困の環境から抜け
フェアトレードを実施するにあたっての中核と
出せなくなってしまったのである12).フェアト
なる部分,つまりフェアトレードのフェアの部
レードはこれまでの経済・社会的成長に向けた
分はどういった事がらを示しているのかを追求
開発的視点の活動に加え,このような出来事の
していくことにする.
解決に向けた社会運動寄りの活動要素も加わっ
たことで社会運動色が特徴づけられるように
2 フェアトレードの定義
なった.そして除々にフェアトレードの成長が
フェア ト レード の 定義 を み て い く に あ た
固定化されはじめた.
り,国際 フェア ト レード 協会(International
このような歴史的変遷を経てきたフェアト
Fair Trade Association/IFAT)13)と フェア ト
レード は,
「経済的社会的改革」の 特質 を 持っ
レード ラ ベ リ ン グ 協会(Fairtrade Labelling
ていると言われている.フェアトレードに関わ
Organizations International/FLO)14),そ し て
るアクターの多様化による消費者倫理の拡大や
FINE15)が提示しているフェアトレードの定義
倫理的志向を持つマス市場の拡大,西洋社会に
を扱う.フェアトレードの定義は団体・機関に
おいて重要なカギとなる文化や情報の変化を生
よって異なりを見せ,さまざまなフェアトレー
じさせたという現象が時代の潮流によって引き
ド機関が独自の定義を用いるなど多様化してき
起こされているからである.
た.そ の た め IFAT で は,フェア ト レード 活
こういったフェアトレードの歴史をかえりみ
動を行う団体であることを認証するための基準
ると慈善活動から始まり,近代的な貿易システ
となるフェアトレードの定義を扱い,FLO は
ムから途上国の自立性を目指し,経済的社会的
フェアトレード商品であることを許可するため
に促進はしたものの,途上国にとって効果的な
の基準となるフェアトレードの定義を扱うこと
成果がみられないことへの反発が生じ,アドボ
でフェアトレードに関する活動や情報などを国
カシー活動や意識改革キャンペーンといった現
際的に統括している.IFAT と FLO 双方の定
在の貿易システムの改善に向けた運動が活発化
義を考慮しつつ,多様化するフェアトレードの
されたという経緯をたどっている.これまで
定義 を 統一 す べ く,国際的 な フェア ト レード
フェアトレードの経緯は年代別に 4 段階に区分
の定義が 2001 年 10 月,FINE というフェアト
され,その段階別でアプローチが異なることが
レード団体のもと,提示された.
研究されてきている.しかし純粋な慈善活動で
IFAT の 定義 に よ る と フェア ト レード は,
あったフェアトレードは,時代の流れとともに
「ただ単に貿易に関することを定義づけている
外部からのさまざまな圧力を受けた.また経済
のではなく,国際貿易における最大限の公平
促進を目指したアプローチの失敗やグローバル
性を可能にする機会を築いている.そのため
化の波をうけた市民社会の台頭などに伴い,政
に,現状の貿易に関する規則と実践を変える
80 (488)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
表 1 フェアトレードに対する戦略的意図17)
- 安全性や経済的な自給自足につながるよう,社会的弱者の生産者と労働者とともに働く
-(加盟団体は)自らの組織の中でステークホルダーとして、生産者や労働者のエンパワメントを向上させる
- 国際貿易における最大限の公平性を築きあげるため,グローバルな範囲において幅広い役割を積極的に担う
必要性を示し,改善した貿易システムを通じ
FINE の定義より現在のフェアトレードは,
たビジネスによって南の人びとを優先させる
フェアトレードの潮流におけるこれまでの変化
ことができる」と示している.FLO による定
やフェアトレード拡大に大きな役割を果たして
16)
義
では,
「国際市場で販売が困難な人,確実
きたアプローチすべてを集約した包括的なアプ
(responsibly)に,そして有利(profitably)に
ローチであるととらえることができる(図1参
取引することが困難な人に対し,売り上げや収
照).フェア ト レード の 根源 は 慈善心 で あ り,
入を増大させるための市場アクセスやアドバイ
それに付随する形で経済成長および社会向上が
ス,支援などを提供し,利益を得られるように
存在する.そしてそのフェアトレードを拡大す
手助けする」ことであり,
「フェアトレードで
るため,活動の存在を認識させるための戦略と
得られた利益は,貿易(取引)を請け負う上で
してさまざまな形式となった社会運動という活
必要 な 組織能力 の 向上,労働環境 や コ ミュニ
動(movement)が引き起こされている.時代
ティの改善,ともに働く人々の生活向上や生活
とともにフェアトレードの潮流が変化している
に対する自尊心の向上に還元される」と示して
ことについては,以上のことからも理解できる
いる.IFAT では,フェアトレード商品を生産
が,フェアトレード活動における歴史的背景に
する 生産者 の 地位や人権を守り,取引パート
おいて共通して言えることは, ⑴ 労働に対す
ナーとして対等に付き合うことで,貿易が彼ら
る正当な対価, ⑵ 公正な価格での取引・販売,
の生活の手助けになるアプローチであるとして
という目的を掲げているという点である.そし
フェアトレードを位置づけている.一方 FLO
てフェアトレード活動と経済的成長との関連性
は,生産者の持続可能な発展を目指した活動と
から, ⑶ 生産者の経済的・社会的支援, ⑷ 経
してフェアトレードを定義づけている.
済的・環境的側面からの持続可能な発展,など
そして FINE の定義によると,フェアトレー
を見いだし,生産者を支援する体制が除々に整
ドは対話や透明性,尊重を基盤とした取引関係
備されてきた.また近年では生産者支援のみな
であり,国際貿易において最大限の公平性に努
らず, ⑸ 商品を購入する消費者に対する活動
めることを目指している.フェアトレードは持
も積極性を見せており18),チャリティ活動とい
続可能な開発に貢献しており,よりより貿易環
う枠組みから始まったフェアトレード活動は,
境(条件)や安全性,権利を,特に南の社会的
多様な側面から多くのアクターを巻き込み,持
弱者の立場におかれている生産者や労働者に対
続的に地球上で共存するためのアプローチとし
して機会を与えている.フェアトレード組織は
て拡大しつづけている.
消費者らに支えられ,生産者支援や現在の国際
貿易に関する規則や実践を改善させるキャン
ペーン・意識喚起運動を積極的に行っている.
この定義を確立するために FINE は表 1 の 3 点
を重要視している.
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
図 1 フェアトレードを形成するアプローチの位置づけ
[ こ れ ま で の 歴 史 的 経 緯 を も と に 筆 者 作 成 ]
(489) 81
82 (490)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
表 2 IFAT のフェアトレード基準20)
基 準
基準内容
1
生産者に仕事の機会を提供する ・貿易による貧困削減,自立に向けた支援
2
事業の透明性を保つ
・フェアトレードに関する関係者すべてに対して,公正に接し,必要な情報を提供する
3
生産者の資質の向上を目指す
・生産者の技術向上
・商品流通
・パートナーシップの継続
4
フェアトレードを推進する
・フェアトレードに関する活動内容の PR,啓発活動
・消費者に対して商品の背景の情報提供
5
生産者に公正な対価を支払う
・生産者が望ましいと考える生活水準を維持できる対価を支払う(必要に応じて,前払い)
6
平等な機会を与える
・リーダーシップ訓練,技術向上の機会を提供
・文化や伝統を尊重する
・宗教,性別,年齢の差別をなくす努力
7
安全で健康的な労働条件を守る ・生産者の法律,ILO の条件を違反しないような環境作り
8
子供の権利を守る
・子どもの成長や安全,教育を妨げないために,子供を雇っている生産者との話し合い
をする
・国連の「子どもの権利条約」,現地の法律,社会習慣を尊重
・負荷の低い素材や,負荷の低い手段を用いるなど,環境にやさしく,持続可能な資源
を利用した生産工程
・周縁部における小規模生産者の社会的,経済的,環境的富(well-being)に配慮した
貿易を行うこと
10
貿易(取引)関係
・生産者の費用だけで,利潤を最大化してはいけない
・フェアトレードの成長と促進に寄与する団結心,信頼,相互的尊敬に基づき,長期的
関係を維持する
[引用:IFAT ホームページ,IFAT 2005:2─3,Global Journey 発行年不明:3 より作成]
9
環境に配慮する
3 フェアトレードが意味するフェアとは何か?
3. 1 IFAT/FLO のフェアトレード基準から見
るフェア
レード)を選択し,またフェア(公正)でなけ
ればならないのか.この貿易(トレード)が本
来意味するフェア(公正)とはどういったもの
なのだろうか.
フェア ト レード は 経済的・社会的成長 を 促
西川 は,『連帯経済─ グ ローバ リ ゼーション
す.途上国の成長に貢献し,さらには社会運動
への対案』という著書の中で,地球に存在する
としての役割も備えているアプローチで包括的
すべてのアクターが相互につながりを持ち,共
な意味合いをもっている.フェアとは,公平性
通の行動をとる連帯行動の重要性について述べ
や平等,公正といった意味を持っている.フェ
ている.ネットワーク(連帯)を通じた経済シ
アトレードは,公正な貿易(トレード)という
ステムを連帯経済というが,これは自由主義市
意味合いになるが,経済的・社会的成長などの
場経済関係の中で取り残され,脱落し,不利な
途上国の成長に貢献し,さらに社会運動として
立場に押しやられているような社会的・経済的
の役割を備えた,包括的な開発アプローチであ
に恵まれない人びとを中心にとらえ,これらの
る.この包括的な意味を含有するフェアトレー
人びとの人権や自立を保証しようとするもので
ドの,どの点が「フェア」であるのだろうか.
ある.国境を越えたグローバル市場経済に伴
途上国の経済的・社会的成長を導くアプローチ
い,そのグローバル社会で生じた市場の失敗を
はさまざまあるが,その中でもなぜ貿易(ト
是正する措置として,この連帯経済をグローバ
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(491) 83
表 3 FLO のフェアトレード認証における基本条件21)
基本条件
1
条件内容
対象となる生産者
・小規模農家や農園労働者をフェアトレードの対象者とする
2
最低価格
・最低価格は,単に生産コストをまかなうだけではなく,「将来に対する投資」のための
配分を含有する必要がある
3
前払い
・生産者が債務のわなに陥らないよう,販売に際して買えばらいの機会を与える必要が
ある
4
長期安定契約
・収入の安定をはかるために,また将来の投資の基礎として,長期契約を結ぶことを目
指す
[出典:フェアトレード・ラベル・ジャパン 2006:6]
表 4 FLO のフェアトレード認証基準22)
認証基準
認証基準内容
1
フェアトレード価格および奨励
金の保証に関する基準
2
社会的な発展に関する基準
・民主制,透明性のある組合運営(選挙,総会,議決のプロセス)
・フェアトレードの収入の一部が生産者組合の社会発展のプログラム(学校建設など)
に使用される
3
経済発展に関する基準
・フェアトレードによる利益の一部が組合に積み立てられ,設備投資などに利用される
・生産者技術や製品管理に対する指導が行われ,生産物が輸出品質基準に満たす
4
労働環境に関する基準
・ ILO に準拠した安全な労働環境
・強制労働,児童労働の禁止(児童労働に関して,家庭内労働は認める)
・団結交渉権(農園労働者)
5
環境保全に関する基準
・薬品の使用,水質保全,森林保全,土壌保全,廃棄物の扱いに関する国際規約の遵守
[出典:フェアトレード・ラベル・ジャパン 2006:7]
ル社会に適応させるべく,草の根市民が国際機
アトレードを認証する基準条件から明らかにな
関や政府,民間企業に対して「グローバルな視
るとし,これは経済学的視点において,特に相
野を持った政策,
行動を実施」
(西川潤
(2007)
「連
互依存関係,相互補完関係に基づく政策的見解
帯経済の国際的側面」
,西川潤(編)
『連帯経済
として示している19).
─グローバリゼーションへの対案』
,明石書店:
IFAT と FLO のフェアトレード基準(表 2,
235)するために積極的な働きかけを行ってい
表 3,表 4 参照)から分析すると,フェアトレー
る.この活動は連帯して共通の行動をとる連帯
ドの役割は単にフェアトレードを通じた商品や
行動となり,連帯行動を通じた新しい経済シス
サービスの売買にとどまらず,人間同士の関係
テムの構築を実現可能にする可能性を示してい
をよくする手段となり得る世界観に変えること
る.この連帯行動により確立された新たな経済
であると示している23).このような西川の見解
システムの1つとして,西川はフェアトレード
から,生産者および消費者双方が互いにプラス
を挙げている.
のインパクトを得ることができる機会がフェア
フェアトレードが意味するフェアは,IFAT
であり,持続可能な環境を構築するツールとし
(国際フェアトレード協会)および FLO(国際
て,フェア(公正)なトレードが存在している
フェアトレードラベリング協会)が定めるフェ
と考えることができる.
84 (492)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
フェアトレード団体
(NGO)
生産者団体
生産者
消 費 者
図2 フェアトレードの仕組み
[ 著 者 作 成 ]
こ の よ う に フェア ト レード は,生産者 や 消費
3. 2 フェアトレードの仕組み
者,NGO が属するミクロの領域,つまり市民
よりよい人間関係の構築を実践するフェアト
社会の世界を中心に展開されているが,関連ア
レードの構図を見てみると図 2 のようになる.
クターに与える影響は大きい.安全の保証がつ
フェアトレードには商品を生産する生産者団体
いた商品の生産に特化している生産者とその商
および生産者,商品を購入する消費者,フェア
品の対価を提供することができる消費者の関係
トレード活動全体をまとめる役割を担う NGO
は,双方における分業制が成立していると言え,
という 3 つのアクターが大きく分けて関係して
貿易としての比較優位性を持っていると考える
いる.その中でも NGO の役割は大きく,主に
ことができる.そして市民社会の世界を中心に
卸業兼小売業の役割を担っている.NGO は生
展開されているフェアトレードでは,その世界
産者に商品の発注をかけ,完成した商品を仕入
に属するアクターの意見をくみとりやすく,対
れる.そして仕入れた商品を消費者に販売し,
国家での貿易よりも透明性が確保でき,商品に
商品代金を消費者から受け取る.フェアトレー
対する信頼度を消費者は高めやすい.このよう
ドで得た収益は生産者に還元される.コーヒー
に形のある可視的なモノの取引だけではなく,
などの特定の商品に関しては,フェアトレード
双方の信頼関係を築き,双方を思いやる人間同
プレミアムと呼ばれる割増金を上乗せした収益
士の関係を消費者と生産者同士が築いていくた
を受け取ることが可能である.この収益は学校
めに果たすフェアトレードの役割は大きいもの
や診療所の建設,道路や橋の整備など,生産者
となっている.
が居住する地域社会全体の共同事業や生産者が
経済的利益を得ることができるような技術支援
3. 3 小 括
などに活用される24).この活動を通じて生産者
慈善性に軸をおいた活動からはじまったフェ
は,雇用機会や労働に見合った賃金,労働環境
アトレードは,生産者の自立性に向かう中で慈
の安全性を受け取り,同時に消費者は安全性が
善志向だけでの活動では生産者の自立性やフェ
保証された商品を受け取ることが可能となる.
アトレードの持続性に伴う普及に限界を感じ,
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(493) 85
ビジネス志向への転換がなされてきた.フェア
20)
,自由貿易体制への変更により,これまで第
トレードが通常の貿易と異なる点は,ビジネス
1 次産品価格を国際貿易の中で安定させていた
的な考えを活動に加えつつも,この活動の基盤
システムの崩壊に導いたこと,そして途上国の
が慈善的であるという点である.この 2 点の考
第 1 次産品生産者の多くが「伝統的な高利貸し
えがフェアトレードの貧困削減に寄与するアプ
商品や仲買人の抵抗と闘わなければならないと
ローチとして位置づけられている点である.
いう途上国の現実」
(村田 前掲書:21)の 3 点
フェアトレードを持続的な活動として確立し
により国際協力の必要性を促し,フェアトレー
ていく上で,できるだけ多くの市民にフェアト
ド運動という形で示されたとしている25).現在
レードを認識してもらうこと,そして慈善的志
のフェアトレード運動は,小規模な手工芸品や
向・ビジネス的志向の 2 点のバランスを保った
衣料品,農産物など幅広い産業において従事す
環境が必要であるが,キャンペーンやアドボカ
る生産者から構成された参加型の民主主義形態
シー活動といった社会運動により多くの人びと
をとる社会運動であるが,当初のフェアトレー
に認識してもらう目的をもったアプローチが加
ド運動はコーヒー豆やカカオ豆の直輸入から開
わることで可能となる.このアプローチが加わ
始された.
「身の回りから国際貿易を見直す」
(西
ることで,通常の取引関係で成立する商品や
川 前掲書:252)というスローガンを掲げ,
「生
サービスの売買の関係を超えたフェアトレード
産者の収入の向上や政策決定および自立に向け
に対する理解が深まり,人間同士の関係構築が
たエンパワメントの向上,教育や保健管理への
同時に達成される.
アクセス提供,自らの生活状況の改善」のため,
持続可能性を導きだす人間関係を構築する上
不公平な構造状況の変革を目指している.さま
でフェアトレードというものを明確にすること
ざまな起源を持つフェアトレードの市場を持つ
は重要であり,特にフェアトレードの商品を実
先進国と取引を行うという点で,フェアトレー
際に購入する人びとに対してフェアトレードに
ドはほかの社会運動とは異なる形態をとってい
関する情報や知識の提供や支援が必要である.
る26).
現在消費者に対し,フェアトレード全般につい
先にも記述したが,西川はグローバルレベル
て理解してもらおうとさまざまな働きかけが
で拡大する新自由主義の経済学の相反する経済
行われている.その中でも Oxfam はフェアト
学的視点として,地球的連帯という新たな視点
レードの起源となる途上国との貿易を開始し,
を提起している.この地球的連帯は,「国境を
現在でも国際的にフェアトレードに関連した活
超えた市場経済のグローバルな拡がりの中で起
動を実施する NGO の中でも先駆け的な存在で
こってくる様々な「市場の失敗」を是正するた
ある.
めに,政府,市民,民間企業が協力,連帯して,
4 社会運動としてのフェアトレード
共通の行動」(西川 前掲書:235)を起こして
いくアプローチで,「自由主義市場経済関係の
フェアトレード運動の起源は 1970 年代ころで
中で取り残されたり,脱落したり,不利な立場
あるとされている.村田はフェアトレード運動
に押しやられる人々を中心にとらえ」,「これら
を支える背景として,
「途上国の飢餓と貧困の克
の人々の人権や自立を保証しようとする経済シ
服を 21 世紀の国際社会の共通課題ととらえる良
ステム」(西川 前掲書:234)という,国内外
心が,先進国の国民大衆のなかに広まっている
において適応が可能であるとされる連帯経済を
こ と」
(村田武(2004)
「フェア ト レード と 日本
国際的な視点でとらえたものである.これまで
農業・食料問題」
,農業と経済編集委員会『農業
に引き起こされてきた多様な市場の失敗は,地
と経済 2004 年 4 月号』
,第 70 巻第 4 号,昭和堂:
球規模での事態となっている.これらの解決
86 (494)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
表5「貧困のない公正な世界」に向けた 4 つの活動アプローチ
アプローチ
見込まれる成果
1
経済的・社会的諸権利を基盤とするアプローチ
・公平性の促進
2
人道的対応と開発行為に関するアプローチ
・緊急人道支援などの短期的支援
・長期的な開発協力
3
世界 が 抱 え る 課題 に 対 す る 行動・提言・学習 か ら の ア プ ・政策提言や調査研究活動の実践
ローチ
・一般の人びとを対象とした開発教育
4
自立した地元パートナーとの共同活動アプローチ
・現場の情報や声の収集
・地域組織のエンパワメントの向上
[重田 2006:113─114 より著者作成]
表6 権利回復に向けた 5 つの変革目標
変革目標
目 的
《ごく当たり前の生活を持続させること》
・安定した職の獲得,労働権利の行使
・市場への参加や恩恵の受容に向けた力の向上
1
持続可能な生活の権利
2
基本的社会サービスに対する権利
・公共サービスや保険サービスなどの可視性を高める
・基礎教育を受ける権利の享受
3
生命と安全に対する権利
・紛争や自然災害の被害地域や個人的・社会的な構造におけ
る貧困者数の減少
4
声が届く権利
《社会的,政治的市民権》
・政治的権利の取得
・生活に影響する決定に対する発言権の確保
・精神的支援や技能の獲得
5
アイデンティティに対する権利
《ジェンダーと多様性》
・社会的差別を受けている人びとの権利と地位を享受
[重田 2006:114─115 より著者作成]
には,その社会状態に対応した地球規模での連
ド の 存在 を 挙 げ て い る.Oxfam International
帯行動が不可欠である.その連帯行動は,市場
は,このような社会的弱者を中心とした社会運
や国家が主体となっていた限定的な経済領域を
動の実践を通して,大きな役割を果たしている
国家や市場とのバランスを保ちつつ,市民社会
団体の1つである.
(NGO)の積極的な経済参加を可能にする新し
い相互依存関係の領域として,
「地方分権やコ
ミュニティの自治活動」や「民衆の経済」
,
「持
4. 1 国際貿易 の 変革 に 向 け た Oxfam の と り
くみ27)
続可能な発展」
(西川 前掲書:239)を構築す
Oxfam International は 第 2 次 世 界 大 戦 中 の
るとしている.この多角的な経済システムは,
1942 年,ギリシャの被災者を助けるため,イギ
草の根的視点からの問題提起がボトムアップさ
リスのオックスフォード市民 5 名が食糧や衣類
れる環境を築き,結果として,社会的立場の弱
を援助したことをきっかけに立ち上がった28).
い人びとが抱える要因が重視された新経済シス
100 ヶ国以上,3250 団体の現地パートナーと活
テムを構築できるのである.そのシステムを構
動しており,国際 NGO としては長い歴史を持
築するアプローチの1つとして,フェアトレー
つ団体である.Oxfam International は世界に蔓
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(495) 87
延する貧困削減に向け,慈善活動を越えた 4 つ
いうマイナス要因を生み出すものであること.
のアプローチ(表 5 参照)から最善策を模索し
⑶ 改革は可能であるという説得力30)を背景に,
実施している.そして「貧困のない公正な世界」
世界貿易の正当化を求め,貧困問題解決に向け
を目指す上で重要な視点となる,権利を奪わ
た活動としてフェアトレードと関連させたも
れた人びとの権利回復に向けて 5 つの変革目標
のである.このキャンペーンにおいて Oxfam
(表 6 参照)を掲げている.こういった Oxfam
International が訴えている貿易市場アクセス
International の取り組みは,
「人道支援,長期開
の解放は,輸出志向型を促すことと同じであり,
発支援,調査・研究,政策提言,啓発・市民キャ
結果として途上国に対して市場開放を強いるこ
29)
ンペーン」
といった幅広い領域にわたってい
とにつながるのではないかという懸念が指摘
る.
されている31).しかしこの点に関して Oxfam
このように Oxfam International ではさまざ
International は,貿易,特に輸出は雇用や経済
まなアプローチを駆使し,貧困削減と公正な世
成長を促進させる幅広い機会を創出し,結果と
界を目指した活動を行っている.その1つとし
して,貧困削減に寄与する可能性があるにもか
て Oxfam International で は,フェア ト レード
かわらず,現在の国際貿易は先進国の自己利益
事業も手がけている.フェアトレードとの関わ
の追求が中心となっており,途上国にとっては
りは 1965 年,Oxfam トレーディング社の設立
不利なシステムであることから,貿易システム
を導いた公正な貿易と言われるフェアトレード
の変革や公正な市場アクセスの解放に重点をお
事業の開始からである.
「より公正な世界」を
いた活動を行っているとしている32).
目指し,
「現地の人びとの生活が自立するよう
に,人びとが自分の作物を作ることができる援
助」を通じ,途上国・先進国を問わず,世界各
国で草の根的な支援活動を行っている.
現在 の Oxfam International が 実施 し て い
る貿易システムの改善を促すキャンペーンは,
1980 年代から 1990 年代にかけて誕生したもの
である.この年代の世界は先進国を中心とした
資本主義社会で,構造調整政策により先進国と
途上国間 に は 不公正な構造や構造的な貧困が
存在し,南北格差が見られた.こういった問題
が途上国の貧困を生み出す主要因であるとし,
Oxfam International は,キャンペーンやアドボ
カシー活動を世界レベルで実施することの重要
性を拡大させていったのである.
Oxfam International は,2002 年より “Make
Trade Fair” と い う ト レード キャン ペーン 活
動を開始した. ⑴ 既存の貿易システムにおい
て,繁栄や貧困が最大化することや,権力や不
平等,苦しみに対する無関心を容認していては
いけないこと. ⑵ 既存の貿易システムは絶望
の窮地や周縁部への追放や利益を得られないと
4. 2 フィリ ピ ン に お け る フェア ト レード 活
動:Oxfam GB (Great Britain) Philippine
Office のとりくみ33)
Oxfam International では,2010 年までに東
ア ジ ア 圏 で もっと も 深刻 な 不平等,社会的排
除,脆弱性といったものを一転させ,絶対的貧
困値の減少を目指している.そのため,1)生
活,2)健康/教育,3)紛争と自然災害,4)市
民の声を反映させる権利,5)ジェンダーと多
様性の観点からの支援活動を行っている34).そ
の中でもフィリピンは,最も自然災害を被りや
すい国であること,長期にわたる紛争により
平和と安全の確保が必要であること,国内の
課題やミクロ経済の課題に取り組んでいるコ
ミュニ ティへ の 支援 や 政策決定 へ の 参加促進
の 必要性 か ら,1)基礎教育,2)災害管理 と
緊急対策,3)貧困地域における資源へのアク
セスと管理の確保を中心とした社会的支援活
動 が,Oxfam International の メ ン バーと なっ
ている Oxfam GB を代表するさまざまな国々
35)
の Oxfam によって行われている
.開始当初,
88 (496)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
手工芸品生産者のサポートを中心に行い36),ま
向けて相互に補完し合っている.また Oxfam
たフィリピン社会を支えている第 1 次産品,特
International の フェア ト レード 活動 は,フェ
にサトウキビ,コーヒー,バナナの国際市場価
アトレード活動の原点でもある慈善活動と世界
格が世界の市場経済システムの変容により下落
の人びとすべてに自由なアクセスが開かれてい
し,農家の人びとの失業が蔓延していたことを
るにもかかわらず,現実は途上国にとって不利
受け,1995 年からは Oxfam フェアトレードプ
に働いている国際貿易システムの変革を求める
ログラム(OFT)に着手した.このプログラ
構造改革の基盤と意識をうまく融合させた活動
ムを通じて輸出市場への販売業および市場開拓
がなされている.つまりゴールに向かうための
に向けた活動が展開された37).1990 年代後半
アプローチを単一的にとらえているのではな
からはフィリピン国内の小規模生産者を統括す
く,ゴールに向かうことが可能であると考えら
る,
「フィリ ピ ン・フェア ト レード・フォーラ
れるアプローチすべてを考慮した活動がされて
ム(Philippine Fair Trade Forum/PFTF)
」と
い る.Oxfam International は,Oxfam に 属 す
いうネットワーク作りの支援を行った38).その
るメンバーと途上国に拠点を置くメンバーの事
後 Oxfam フェアトレードプログラムの終了に
務所とのネットワークを活かすとともに,それ
伴い,2001 年─2002 年ころから,これまで実施
ぞれの長所を活かしながら,途上国にとってよ
して い た 小規模生産者支援は起業の設立の手
り公正な世界を築き上げたいという社会的使命
助けを行う仲介業者への支援活動に移行し39),
達成に向けて,地に足を着けた活動を展開して
Oxfam は貿易システムの改善に向けたアドボ
いるが,その一方で考え方や活動方針などが狭
40)
カシー活動に活動軸を変更した .
義で偏りやすい可能性が問題点としてあげるこ
とができる.しかしこのようなネットワークの
4. 3 Oxfam International が 目指 す フェア ト
レードとは
有効な活用が,結果としてフェアトレード活動
における包括的なアプローチの構築を形成し,
Oxfam International か ら 見 え る フェア ト
多くの人びとを巻き込み,途上国にとって公
レード活動は,生産者の生活向上に対する支援
正となる生活環境を生み出す糧となっている.
活動と,貿易システムに重点を置いたキャン
Oxfam は独自の活動能力を十分に発揮した活
ペーン活動の 2 つの側面から展開されている.
動を展開していると言えよう41).
フェアトレードの基盤の安定性と生産者のスキ
ルアップを目指した草の根に根ざした活動,そ
4. 4 フィリピンにおけるフェアトレードの実態
して草の根に根ざした活動の成果を持続的なも
Oxfam の活動に関わらずフィリピン全体に
のになるよう,その基盤を世界中に拡大させる
おけるフェアトレード活動に関して,フェアト
活動としてアドボカシー活動への移行がなさ
レードの基準や目的において認識の間違いが生
れ て い る.世界中 で “Make Trade Fair” キャ
じている.フィリピン国内では,商品の品質を
ンペーンが実施できるのも,Oxfam の世界中
向上させるための手段としてフェアトレードが
に網羅しているネットワークが存在するからで
考えられているという事実である42).フェアト
ある.この双方の活動は一見関連性がないよう
レード は 生産者 や 労働者 に「よ り 良 い 交易条
に 見 え る が,“Make Trade Fair” キャン ペー
件」を提供し,「公正な国際貿易への変革」を
ン は,生産者 に 向 け た 支援活動 が 有効的・効
目的としている43).その中で「生産者と消費者
率的に機能できる環境作りのための活動であ
の関係を顔の見える関係に替え,人間同士のつ
り,この点においてフェアトレードに対する 2
ながりをつくり出していく」運動である44).ビ
つ の 活動 は,途上国 の 経済的・社会的成長 に
ジネス的思考だけのつながりだけではなく,そ
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(497) 89
れ以上の関係,つまり人間同士のつながりとい
レードは持つようになった.その背景は途上国
うフェアトレードの独自性に沿ったやりとりが
にとってマイナスのインパクトを生じさせるこ
あって初めてフェアトレードは成立する.こう
ととなった,現在の国際貿易に至るまでに引き
いったアプローチを生産者にとって単なる技術
起こされてきた貿易システムが大きく関連して
向上のツールであると位置づけられてしまうの
いる.またこの貿易システムはフェアトレード
であれば,単なる一方通行の援助と同じような
に社会運動的な考えを含ませ,確立させた要因
役割を果たすだけである.
でもある.
さらにフィリピンにおけるフェアトレード活
スティグリッツが「援助より貿易が大事」46)
動において,独自のフェアトレード基準を設け
というように,貿易による経済発展の拡大が途
た活動や,国際フェアトレード基準を遵守して
上国の人々の生活向上に寄与する有効性の1つ
いてもすべての基準を満たすのではなく,1項
とされている.貿易による輸出拡大は国によっ
目のみに焦点をあてた活動が展開されていると
て異なるものの,広大な貿易市場を活用し,貿
いう実態もある45).そのため共通したゴールを
易基盤を定着させることによって貿易から得る
持つことができないでいる.フィリピンにおけ
ことが可能な利益を増大することができる.そ
るこれらの課題の共通点は,フェアトレードに
して貧困に苦しむ多様な地域に大きな貢献とな
関する認識の欠如である.現状の社会運動は市
るとされてきた.しかしグローバリゼーション
場の拡大や消費者のフェアトレードに対する認
の台頭により,世界中の国々に門戸が開かれて
識向上,貿易システムの変革といった,どちら
いる貿易であるにもかかわらず,先進国に有利
かというと対先進国への活動傾向が見受けられ
な形で実践された資本の大量移動という問題を
る.これから推測すると,途上国内においては
抱えている.UNCTAD による調査報告47)では,
フェアトレード本来の意義,意味が明確に伝播
「最大限開放的 な 貿易政策(自由貿易)を 採用
されていない可能性がある.相互関係において
した国々は,貧困発生率が増加」したとし48),
受け取る何かが相手側にある以上,受け取った
世界市場で立場の弱い途上国がその被害を被っ
ことに対する見合った対価がもう一方にも必要
てしまうとしている.
である.双方ともに関連性がある受け皿がなけ
れば,継続可能な相互関係は構築できない.つ
5. 1 貿易による貧困増大の理由
まり,先進国でフェアトレードの市場拡大が成
なぜ,このように途上国が不利な立場になっ
功し,それをより継続しつづけるには,生産者
てしまうのか.それには,いくつかの要因が存
を含む,途上国側にもフェアトレードの意味や
在しているからである.
認識を向上させるような情報提供が重要であ
⒜ 効率化を優先する自由貿易
る.
途上国は貿易市場へのアクセスが難しく,ま
5 貿易と開発─貿易がもたらす経済成長─
た外国投資がないという点である.これは貿易
システムや市場とは直接関係性はないが,途上
フェアトレードに関する情報をなぜ提供する
国における貿易拡大や,食糧輸送増大のための
必要があるのかということについては,フェア
仕組みや奨励金の投資が欠けていることを受
トレードが包括的かつ多角的な要素を持ったア
け,貿易市場への参加を促すためのインフラが
プローチであるという背景と大きな関連性があ
不十分であることが背景になる49).例えば途上
る.フェアトレードは誕生から現在までさまざ
国が米国市場への参入を希望するとなる場合,
まな社会問題と向き合い,その都度柔軟に対応
貿易や経済的基準の条件を満たす必要性や米国
してきた.その結果,多角的な要素をフェアト
の外交政策,国家安全の保障の目的に協力する
90 (498)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
必要性が生じてくる.しかしながら途上国は,
るからである.第1次産品の価格が低くなって
このような条件を満たす上で不可欠な知識や技
しまうと,これまで購入できていた商品も買う
術へのアクセスが制限されたり,交通機関の欠
ことができなくなってしまう.輸出額を増大さ
如により先進国と対等な立場に立って貿易市場
せようと,換金作物である第1次産品の生産に
に参加することができず,貿易による適切な利
励むものの,季節性に左右されたり,さらに大
益を得ることができないのである.そして貿易
量生産されてしまうため,価格のさらなる下落
市場で生じた利益は,先進国の多国籍企業に吸
や,乱生産による生態系や環境の悪化,第 1 次
50)
収されてしまうのである .不平等な利益分配
産品が生産地で有効に利用されず,輸出されて
として世界市場に参加している企業が得た利益
しまうことによる資流失に陥ってしまう53).
は,利潤をさらに拡大させようと工業を中心と
さらに先進国は途上国の第1次産品を不公平
した産業設備や代替品生産に向けて投資され
な価格で輸出させることで,自国経済を豊かに
る.これは,工業の技術進歩が世界経済におけ
しようと試みていることも貧困増大の要因の1
る景気循環に大きな影響を与えているからであ
つである.例えば綿花産業では,米国が自国産
る.工業産業に投資することにより,さらなる
業者に補助金を出す54)などして,他国よりも安
利潤を得る一方で,第1次産業に依存している
い価格で輸出を行う.そうすると綿花を扱う途
途上国は技術進歩の波に乗ることもなく置き去
上国の国々は,常に需要の伸び悩みや産品の価
りにされ,当然のことながらこの利潤は提供さ
格変動に悩まされることとなる.解決のために
れることはない.効率性を優先する自由貿易に
はそれよりもさらに安い価格で輸出しなければ
より,先進国と途上国における経済格差はます
ならなくなる55).このように先物取引のような
ます拡大していくのである51).
利益 の 水準化(income-smoothing)へ の 機会
⒝ 生産者を取り巻く環境・交易関係
不足,国際取引市場で定められた国際価格の不
途上国は工業製品の輸出量が低い代わりに,
安定,また気候変動や政治的・治安的な不安定
1 次産品に依存したモノカルチャー的な経済サ
から収入を守り,安定させるような保険設備不
イクルを持っているという点も,途上国におけ
足が結果として経済的な機会への不便さを生じ
る貿易に伴った貧困増大の要因の1つである.
させ56),途上国が経済的に危機的状況に陥って
途上国にとって第1次産品は有利な分野である
しまっている57).そして生産者を取り巻く環境
ため,第 1 次産品に依存していることは自由貿
にも類似した影響を引き起こしている.
易のメリットから見てみると,自国における経
これらの要因の背景には,品質や価格での改
済成長を可能にするアプローチの1つであるは
善努力,新商品の開発促進といった,貿易の競
52)
ずである .しかしながら途上国経済の成長に
争効果による効率的な資源分配を重視したり,
寄与するどころか,ますます経済を悪化へと導
自国にとって不得意な産業を一時的に保護し,
くものになっているのが事実である.途上国は
自由貿易のもとで競争できるように育成する傾
第1次産品の輸出額で,自国で生産できない商
向があるなど,貿易市場において有利な立場に
品を先進国から購入する.そのために第 1 次産
ある先進国が,少しでも多くの利益を得るため
品を生産するわけだが,第1次産品に依存して
に貿易を行っているためである58).先進国のよ
いる大半の途上国において,大量に第1次産品
うに豊富な生産要素を持つ産業や製品は,利益
が生産され輸出されると,結果的に商品価格を
の拡大が可能である.一方で途上国のように少
下げてしまう.これは一般的に貿易における商
ない生産要素を持つ産業や製品の利益は,縮小
品価格は,ある商品の量が増加するとその商品
傾向にある.自国にとって有利な産業に依存し
価格は下落してしまうというパターンが存在す
ても利益を得ることができる国と,そうでない
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(499) 91
生産者 → 私的仲介業者 → 加工工場(processing plant) → 地方輸出業者
消費者国
生産国
消費者 ← 小売業 ← 焙煎会社 ← 国際貿易業者
図3 コーヒーが消費者に届くまでのプロセス
[FLO,
IFAT, NEWS! and EFTA 2006:128 をもとに作成61)]
K
(.1+(#60'95CPF'(6#
̌$WUKPGUU7PWUWCN5WEEGUUGUCPF%JCNNGPIGUQH(CKT6TCFG̍(CKT6TCFG#FXQECE[
$TWUUGNU
‫ޣ‬࿑㧠㧦ࠦ࡯ࡅ࡯㧝↉ߩᦨ⚳ଔᩰ߆ࠄฃߌขࠆ෼⋉ߩഀว‫ޤ‬
10%の収益
生産者
(途上国)
荷主,焙煎業者
(55%)
輸出業者
(10%)
消費者
(先進国)
小売り業者
(25%)
ⶄ㔀ߥᵹㅢ⚻〝ߚ߼㧘↢↥࡮ടᎿߥߤߩ⵾ຠᖱႎ߇޽޿߹޿
ᄙ᭽ߥખ੺ᬺ⠪߇㑐ࠊࠆߎߣߦࠃࠅ㧘↢↥⠪㧔ㅜ਄࿖㧕߇ᓧࠄࠇࠆ೑⋉߽ỗᷫߔࠆ
図 4 コーヒー1瓶の最終価格から受け取る収益の割合
㨇࠺ࠗࡧࠖ࠶࠻࡮࡜ࡦࠨࡓ ࠍ߽ߣߦ૞ᚑK㨉
[デイヴィット・ランサム 2004:63 をもとに作成62)]
i
࠺ࠗࡧࠖ࠶࠻࡜ࡦࠨࡓ㧔⪺㧕Ꮢᯅ⑲ᄦ㧔⸶㧕
㧔㧕
‫ߪߣ࠼࡯࡟࠻ࠕࠚࡈޡ‬૗߆‫ޢ‬
‫ޔ‬㕍࿯␠
国の二極化が貿易市場の中で生じ,残念ながら
いていても,収入向上が見込まれる他資源への
途上国は後者となってしまっているのである.
移行が難しいのが現状である.先祖代々行われ
つ ま り1次産品 に 依存 し て い る 途上国 は,
ている作業から,高収入がみこまれる作業へ転
生産する上での環境悪化や価格変動など,交
換することは,危険を伴う活動とされている.
易条件の不利な立場を強いられるも,貿易の
これは収入資源に関わる信用貸し付けや教育へ
効率化 を 求 め た 国際分業体制 に よ り,途上国
の機会が不足していることに関係している60).
の多くは第 1 次産品の生産に依存せざるを得
⒞ 利益分配の不平等
ない.交易条件が低下傾向にある製品への輸
貿易によって得られた利益を取引に関わる参
出依存の利益減少は避けられない状態に陥り,
加者に分配する際の不平等もまた,貧困を生み
ますます生活の向上が見受けられなくなって
出す要因の 1 つとなっている.例えばコーヒー
しまうのである59).
が消費者に届くまでのプロセスを見てみると,
また仮に価格情報に関してアクセスが行き届
コーヒーという1つの商品であるにもかかわら
92 (500)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
ず,非常に多くの仲介業者がその取引に関わり
に も 問題 が あ る.こ う いった 先進国 と 途上国
を持っていることが明らかである(図 3,図 4
の不平等は,世界の貿易市場を占有している多
参照)
.
国籍企業が成長・拡大を遂げることにより,自
このように多くの仲介業者が関わっている要
社や自国内に経済成長をもたらすことができる
因は,途上国には生産物を加工,梱包,仕分け,
という側面から生じているものである.世界市
焙煎などの生産物に付加価値を付けることが可
場においてわがもの顔で取引を行っている多国
能であるノウハウを持ち合わせていないためで
籍企業の支配力が,貿易市場の不平等をさらに
ある.そのため,途上国が輸出品として扱って
加速させている.「本来の貿易は,自己の手元
いる1次産品の多くは,加工工程が行われない
にない諸資源を交換することで入手できる人間
まま先進国へ輸出される.先進国で商品として
の福利を増大するアプローチでなければならな
販売させる時には,すでに商品には付加価値が
い.」(西川 前掲書:249).「先進国 の み な ら
付いているが,仲介業者を介して,他の国にお
ず,途上国も自国が優先する文化的,社会的,
いて加工,梱包,仕分けなどが行われているた
経済的な側面を発展するための優先順を決定す
め,生産国には数 % の利益しか受け取ること
る権利がある」(ニュー・インタナショナリス
ができないのである63).
ト・ジャパン(2004)前掲書:8)ことから,「多
⒟ 貿易機会を得るためのソフトインフラや枠
くの利益を得るための貿易ではなく,1人でも
64)
組みの欠如
途上国において自由市場が機能していくには
多くの人の利益のための貿易」(福田・小林 十分な情報提供が不可欠である.特に遠方にい
ろ う.し た がって 社会運動 と し て の フェア ト
る生産者はラジオや新聞,電話を所有していな
レードは,その拡大や貿易システムの改善,お
いことが多く,価格に関する情報を得ることが
よび多くの人びとの認識拡大に対して大きな影
できない.そのため,仲介者のやり方になすが
響力を担い,結果としてフェアトレードは包括
ままになっている状態となっている.また,輸
的な定義を持つアプローチとなっているのであ
出するための第1次産品を生産するための農業
る.
機具や設備のための貸し付けの多くは,高金利
前掲書:63─64)システムを確立する必要があ
を強いる仲介者によるものである.そのため公
6 理想的なフェアトレード活動
平な貸し付けへのアクセスができないでいる.
フェアトレードの誕生,および社会運動の1
つとして展開されてきたのは,「第 3 世界の生
先進国・途上国双方にとってよい利益をもた
産者にさらに門戸を広げること」を通じて「貧
らすとされる貿易市場は,結果として国境を越
困から抜け出す方法を模索」(ニュー・インタ
えた自由貿易や自由な資本移動の展開がプラス
ナショナリスト・ジャパン(2006)前掲書:2)
の側面であると考えられる経済のグローバル化
していたととらえることができる.現在のフェ
と同時に,南北格差や貧富の格差の拡大,相対
ア ト レード の 形 が 形成 さ れ た 1960 年代 か ら
的な貧困問題の激化という経済のグローバル化
1970 年代には,貿易システムの導入によって
のマイナスの側面も引き起こしている.つまり
経済的・社会的側面の向上が期待された.しか
自由貿易は,すべての人々の恩恵を増大させる
し生産商品の市場確保の不足や認識の低さなど
とは限らないのである65).先進国と途上国の間
が伴い,一定の成果が見込まれることがなかっ
に不平等が生じてしまうのは,上記で挙げたよ
た.その後,貿易システムの偏りに伴う社会的
うな物質的,経済的,政治的障害から生じる.
弱者の増大により,貿易システムの構造改革を
また先進国がもたらす政策や貿易システム自体
促すような活動の重要性が問われ,貿易システ
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(501) 93
ムの構造改善を求めた反 WTO 活動やアドボ
フェアトレード活動は,直接的・間接的なプラ
カシー活動などが盛んに行われた.さらに社会
スのインパクトをフェアトレードに関与するす
的に不利な立場の生産者に対して,また,社会
べてのアクターのみならず,フェアトレードに
的弱者に対して,経済的恩恵を持続的にもたら
関与していないアクターに対しても与えること
すためにフェアトレード認証マークを設置する
ができる.この点において Nicholls と Opal は
など,日常的にフェアトレード活動に取り組む
以下のように述べている.
ことができる環境整備が行われてきている.
このように現在の国際的なフェアトレードの
7. 1 直接的に得ることが可能なインパクト66)
潮流 は,生産者 の 経済的社会的側面 の 充実 を
直接的なインパクトとしてまず考えられるも
図り,それらが持続可能的に向上しつづける
のは収入である.フェアトレード商品を認証す
ためのツールでありながら,社会運動の傾向や
るマークは,生産者らに対して市場価格よりも
政治的側面が強いことがうかがえる,したがっ
高い価格を保証していることから彼らの収入は
て現在のフェアトレードは,慈善活動を基盤に
向上する.ウガンダの小規模ドライフルーツ生
もち,社会運動を通じた経済活動と社会的向上
産者は,ウガンダにおける平均収入の 2 倍以上
の達成が可能な包括的な枠組みの開発レジーム
の収入を得ることができている.またフェアト
(regime)ということが言えよう.
レードでは仲介業者が存在しないため,生産者
この開発レジームを用いて生産者の経済的・
が得ることのできる収入は仲介業者が存在する
社会的側面の充実を図り,持続可能的に彼ら自
取引よりも多い.例えばフェアトレードコー
身が向上し,自立性を高めつづけるためには,
ヒーの 共同組合 メ ン バーの 生産者 ら は,仲介
取引にかかわる全アクターが対等な立場で存在
業者を介する生産者よりも平均して 25% から
する状況,つまりフェアな環境が不可欠であ
60% も高い収入を得ることができている.
る.そしてこの環境の中にトレードに関わるア
女性がフェアトレードに参加することによっ
クターが同じ立場で存在し,トレードを実施す
て恩恵を得られることもフェアトレードに関わ
ることがフェアトレードであるととらえること
ることで生じる直接的なインパクトである.実
ができる.
際のところ,コーヒーやココアのような換金作
7 フェアトレードに関するメリット・インパ
クトおよび問題点・課題
物 の フェア ト レード 活動 で は,男性 が 実権 を
握っていたり,フェアトレード活動に参加する
ことで家事以外の仕事量の増加,フェアトレー
では実際にフェアトレード活動に参加してい
ドに従事したとしても収入は男性へ支払われた
る生産者はどのようなインパクトを得ているの
りと女性のフェアトレード活動への参加が必ず
だろうか.包括的な枠組みにより実施されてい
しもよいとは言えない.しかし,家庭内の家事
るフェアトレードの原動力は,慈善的な取り組
とフェアトレード活動を両立させることができ
みである.現在の国際貿易のシステムを改善し
るよう,換金作物への従事ではなく,手工芸品
ようとする行動は,南の人びとの人権や安全性
などの自宅でも仕事に従事できる製品の製造に
などを考慮しない社会的立場が不利な状況を生
携わることができるように工夫も行なわれてい
み出し,関連アクターによって優劣がついてい
る.フェアトレード認証マークのために,FLO
るという要因のために起こっている.そのため
が女性のエンパワメントの向上や直接的な収入
社会運動 と い う 活動(movement)を 通 じ て,
手段を明記しているわけではないが,女性の生
優劣のない代替的な取引システムを構築しよう
計を向上させることは,発展に際して有益な作
と心がけた改善策を促している.このような
用となっているとされているからである.女性
94 (502)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
は子どもたちによい栄養を提供するなど,家庭
で販売する際の交渉機会を持つことも可能とな
内の栄養状態の管理を行う役割を担っているた
る.このように,先進国と直接的な関係を築く
め,彼女らの収入は結果として家庭内の事がら
ことで大規模なバイヤーとの交渉も容易に成立
に使用される.フェアトレード活動を通じて収
することも可能である.さらにはバイヤーが生
入を得た女性を確保することは,フェアトレー
産者団体を訪問することで,生産者の誇りとな
ドのネットワークに属するメンバーによい影響
り,ますます生産に従事することにつながる.
を与えることが可能である.
先進国とのつながりは生産者団体の信用性を高
フェアトレード活動は生産者の高い収入を経
め,同時にフェアトレードではない市場に波及
て,労働者の子どもたちの教育にもプラスのイ
させるプラスの影響をもたらす.
ンパクトを与えている.フェアトレード認証さ
フェアトレード認証マークは,小規模生産者
れた商品は高めの価格で販売されることから,
に対して共同組合への加盟や委員会への参加を
生産者らが得られる収入が多くなる.その収入
促し,フェアトレードで得ることができた社会
で子どもたちの学費の支払いや,もしくは共同
プレミアムの用途を一緒に決定することを求め
組合内で奨学金を奨励するなど,社会的なプレ
ている.つまり社会的に立場の弱い生産者を積
ミアムとして提供される.
極的に参加させることで,彼らの声を集約させ
フェアトレード商品の多くは,その地域の伝
る役割を認証マークは担っていると言える.ま
統的な手法を活用したものである.
したがって,
た労働環境の改善に前向きな姿勢を示すプラン
伝統文化の保持や文化の再生などに大きな貢献
テーションを支える役割も担っている.このよ
をもたらす.また都市部や他国へ出稼ぎに行く
うに社会的側面に積極的に関与しようとする組
ことなく,農村部にいながら現金収入の仕事に
織団体の活動は,その他のプランテーションに
携わることができるという点においては,農村
対する手本となり,労働基準を改善しようとす
部の生活スタイルを持続させることを可能にし
る意識が芽生える.さらにフェアトレード認証
ている.
マークはフェアトレードという品質を保持する
フェアトレード活動は,生産者の精神面にプ
ために,委員会が技術や認証,社会的プロジェ
ラスの大きな影響を与えている.1番の影響と
クト,マーケティングを監視することも役割と
しては,
フェアトレード活動という枠組み
(ネッ
して担っている.そのため市民参加やリーダー
トワーク)の一部に属しているということであ
シップ育成といった間接的な活動を通じて,参
る.このことが誇りや自尊心を生み,市民の積
加者が成長する環境を提供している.さらに共
極的な参加が増大する.このような精神的な成
同組合のフェアトレード活動は,環境問題への
長は,働くことに対する自らの誇りとなり,結
活動やフェアトレードをよりよくするための意
果としてフェアトレード活動にも現れている.
見交換,さらには情報交換などフェアトレード
また財政面においても精神的な成長を見ること
という枠組みを超えた社会に大きな影響を与え
ができるが,これは個人経営の場合に見られる
ている.このような社会に対するフェアトレー
ことが多い.
ドを通じたプラス効果は,「生産者団体が加盟
メ ン バーの 社会的発展 を 向上 さ せ る 可能性 を
67)
7. 2 間接的に得ることが可能なインパクト
持っていること,そして,フェアトレードの利
間接的なインパクトとしては,先進国の団
潤を受け取ることができる人びとは貧困者であ
体(消費者)と直接的な関係を構築することで
る」68)ことを定めているフェアトレード基準の
市場情報を得ることが可能となる.また,この
存在が大きい.
つながりによってフェアトレードではない市場
加えてフェアトレードは,フェアトレードを
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
(503) 95
取りまく外部にも影響を与えることが可能であ
での役割を担っている.中村はフェアトレード
る.フェアトレードによって構築され,かつ支
活動の中心的アクターが NGO であるというこ
援されている社会資本や貿易連携,市場情報な
とに注目し,運動としてのフェアトレードの果
どのネットワークにより,フェアトレード活動
たす役割について以下の 4 点挙げている.
の外部にまで雇用の機会や税所得などのフェア
トレード活動を実際行っている地域と同等の恩
恵をもたらすことができる.つまりフェアト
レードへの関連性を問わず,派生的に幅広く恩
【運動としてのフェアトレードの役割69)】
⑴フェアトレードに関わる多様なアクターとの
ネットワーキング化
恵を浸透させることができるのである.
強い絆で結ばれたつながりと異なるアクター
このようにフェアトレードは,フェアトレー
同士が協調して連携することが可能な緩やかな
ドに関わることで得ることが可能なインパクト
結合の双方が不可欠であり,それらの連携をう
を生産者や生産者団体当事者のみならず,フェ
まく誘導するリーダー的存在とそのリーダーを
アトレードという枠組みを超え,さまざまな人
補佐するコーディネーター的存在が不可欠であ
びとに同等な恩恵を与えうる可能性を示してい
る.
る.しかし,これらと同時にフェアトレードが
⑵活動や事業,運動を実施した際の成果に関す
抱える課題も存在する.
る評価の明確化
フェアトレードのこれまでの歴史的変遷をみ
7. 3 フェアトレードに関する課題・問題点
てもわかるように,時代や社会の背景によって
⒜ フェアトレード運動と情報提示の必要性
アプローチが変化しつつある.その変化にうま
フェアトレードとは一般的には南の生産者と
く対応でき,かつ掲げる目標を達成できるよう
北との対等な関係を指し,途上国のグローバル
な運動の形を形成する必要がある.そのために
社会から排除された位置づけを是正し,彼らが
は,成果に関する評価が不可欠である.またこ
受け取ることのできない恩恵や待遇を先進国と
のような評価は,フェアトレードと社会に定着
同等に提供するという国際協力に根ざしたアプ
させるためにも重要な役割を持つ.
ローチの1つである.北と南の領域に公平性を
⑶目的や運動,手段をつねに問い直す
構築すべく,フェアトレードというアプローチ
フェアトレード生産者を社会的排除者にする
のパイプを用いて双方をつなぎ,世界的な枠組
のではなく,社会に組み込み,その状態を持
みの中で不公平な対応をうける人びとが現れる
続させ,人的資本を創出するためには必要であ
ことがないよう,南の生産者と北の消費者の間
る.
において双方ともに対等な恩恵を受ける環境が
⑷信用性を得る
整備されることを望んでいる.西川による「よ
多様なアクターからの信頼がなければ,ネッ
りよい人間関係の構築」という観点が焦点とな
トワーキング化も不可能である.可能な活動領
るフェアとは,上記で挙げたまさに生産者と消
域,不可能な活動領域を明確に提示することで,
費者双方が思いやりを持った関係性について述
多くのアクターがさまざまな領域において関わ
べられていることがうかがえる.このように北
ることができる道筋が構築され,積極的な参加
と南の双方においてフェアな関係性を構築する
を求めやすい.
ためには,フェアトレードに関して共通した受
け皿を保持することが重要である.この点にお
NGO は基本的に利益を追求しない非営利組
いてフェアトレード運動はフェアトレードに対
織であるが,自らの組織運営費を稼ぐ事業型
する本来の認識や理解を浸透,そして深める上
NGO の台頭などにより,競争社会の中での事
96 (504)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
業展開を NGO にも課されることとなりつつあ
ることを中村は述べている.そういった社会の
これらの課題に共通して言えることは,本来
中で持続的に生きながらえていくには,その組
のフェアトレードに関する情報や知識をフェア
織基盤の存在を多くの人びと,特に市民に伝え
トレード活動に関わるすべてのアクターに提供
る必要があり,彼らがその組織基盤を支持する
する重要性である.情報提供はフェアトレード
か否かの判断や評価が必要となる.市民は客観
の理解を深め,より多くのアクターをフェアト
的に判断可能な能力を身につける必要があり,
レード活動に巻き込み,消費者と生産者におけ
彼らがそのためには NGO がさまざまな側面に
る相互間の人間関係を構築することが可能とな
関する情報を開示することが必要である.した
るだけではなく,生産者の自立性やエンパワメ
がってフェアトレードを持続可能な活動として
ントの向上などを確立させる.結果として,
維持 し 続 け て い く に は,先進国・途上国問 わ
フェアトレードの持続可能性やフェアトレード
ず,フェアトレードに関する情報提示が不可欠
の市場拡大を導きうる可能性を秘めている.
であると考えられる.
⒝ 生産者に対する対応の格差と生産者のフェ
アトレードに対する危機感の欠如
8 おわりに
フェアトレードはさまざまな要素を持った,
フェアトレード基準は貧しい生産者が恩恵を
社会的に不利な立場におかれている人びとの生
得る環境を提供するという意味を持っているに
活向上を目指したアプローチである.その背景
も関わらず,フェアトレードという市場で活動
には,生産者らに対して困窮な生活を余儀なく
することのできる生産者は,先進国の市場で販
させた,さまざまな社会現象を改善し,彼らの
売するに適した輸出品を生産できる生産者のみ
自立性を促すという慈悲的な意図を持ってい
70)
に限られている .こういった状況はフェアト
る.しかし時代に柔軟に対応した活動を行って
レードという生産者の生活向上に根ざした活動
きた結果,現在ではフェアトレードの定義があ
に対して生産者,消費者ともに疑問を抱き,持
いまいになるほど,単なる慈善活動ではなく経
続可能なアプローチとして継続することが危ぶ
済成長や社会成長を伴う包括的な位置づけがな
まれることになりかねない.またフェアトレー
されている.その中では持続的によりよい人間
ドに関与する生産者の中には,共同組合という
関係を構築するという慈善的な考えが前提にあ
組織に属しているがゆえにフェアトレード活動
り,その上で関連アクターによるフラットな環
に関する危機感の希薄さが見受けられる71).例
境を構築し,対等な関係で取引を実施しようと
え ば,先進国 の 消費者 が フェア ト レード だ と
試みる.このようなフェアトレード全体の枠組
思って購入していた商品がフェアトレードと関
みを支えているのが,フェアトレードを通じた
連性がなかったということでは,途上国の信頼
社会運動である.
性を失うこととなり,不買行為が進み,貧困を
フェアトレードにおける社会運動は,フェア
悪化させることになりかねない.生産国内にお
トレードに関与するアクター間のフラットな関
いてこういった状態では,生産者と消費者双方
係構築を目指している.このような環境整備に
にとってよりよい機会を享受し合う関係が継続
向けて,国々によって認知度の格差がみられる
しづらくなる.したがって,こういった課題解
ものの,現在ではフェアトレードの理解・認識
決を促す上でフェアトレードに関する情報の共
を促す機会を設けるなど,フェアトレード拡
有は重要であり,特に生産者のフェアトレード
大に向けた活動が行われ,社会運動を通じた
に対する認識の強化は,フェアなトレードを成
情報提供は重要な役割をも担っている.生産者
立させていく上で不可欠であると考える.
の商品を販売する市場や商品を購入する消費
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
者,フェアトレードに関わるすべての領域,ア
クター,そしてフェアトレードに間接的に関わ
ることができるアクターなど,広範囲にわたる
フェアトレードであるため,その普及および認
識・意識拡大には,包括的かつ多角的に考慮す
る必要性が十分にある.しかしながら現時点に
おけるフェアトレードの認識強化のターゲット
は消費者であるのが現状である.これはフェア
トレード自体,対先進国への貿易アプローチで
あるからである.しかし生産している当事者ら
がフェアトレードに対する理解の度合いによっ
ては,彼らのフェアトレードに対するモチベー
ションや向上心などが異なり,将来的にフェア
トレードが持続可能性を秘めたアプローチであ
るのかそうでないのかを決定づけることにも関
連するものと考える.
近年,フェアトレードにおける生産者の視点
が希薄になりつつある.フェアトレード本来
の目的から外れないためにも,生産者に適切
なフェアトレードに関する認識を与えることが
最優先されるべきであると考える.そうするこ
とで先進国に開示する生産者情報もより明確な
ものとなる.消費者は商品購入に関して,真の
フェアトレードを見極めることができる情報を
認識することができ,消費者としての購入責任
を持つことができる.全アクターの相互作用に
基づき成立しているこの一連の関係性がフェア
トレードのフェアのもととなる真髄ではないだ
ろうか.この点に焦点を当てたフェアトレード
の取り組みとして現在,どういった方向性で
フェアトレードが動いているのかについては,
今度の研究課題としていきたい.
注
1)本稿は,第 4 回ガバナンス/国際開発研究会(平
成 20 年 7 月 19 日開催)における報告をふまえ
てのものである.当日は,諸先生ならびに研究
会参加者に多くのご教示を賜った.ここに記し
てお礼申し上げたい.
2)EFTA-European Fair Trade Association
(505) 97
(2001) “Fair Trade in Europe 2001 Facts
and Figures on the Fair Trade Sector in 18
Countries,” EFTA: 5
3)FAIRTRADE LABELLING ORGANIZATIONS
INTERNATIONAL(2006)“Why Fairtrade? An
explanation about Fairtrade and its objectives,
”
(Explanatory Document)
,FLO: 4
4)フェアトレードリソースセンター[FTRC]公
式 HP,
『フェア ト レード と は 何?』
,<http://
www.ftrc-jp.org/whatft/index.html>,
[検 索
日:2006/07/27],Alex Nicholls & Charlottte
Opal(2004)Fair trade: the Story so Far,in “Fair
Trade Market-Driven Ethical Consumption‚”
Sage Publication:19─20,渡辺龍也(2007)
「フェ
ア ト レード の 形成 と 展開─国際貿易 シ ス テ ム
へ の 挑戦─」
,東京経済大学現代法学会誌『現
代法学』
,現代法学会:7─35 を参照した . なお,
渡辺はフェアトレードにおけるこれまでの発展
を 5 つの時期(慈善活動期,連帯活動期,開発
志向期,市場・消費者志向期,ビジネスの本格
参入期)に区分し,その形成と展開について述
べている .
5)マイケル・バラット・ブラウン著/青山薫・市
橋秀夫訳(1998)
『フェア・トレード 公正なる
貿易を求めて』
,新評論:290
6)ネパリ・バザーロ(1998)
『ネパリ・バザーロ
だよりベルダレルネーヨ通信 第 16 号 1998 年
2 月』
,ネパリ・バザーロ:5
7)大津荘一(2005)
「フェア ト レード に 取 り 組
む ヨーロッパ の 生協─ ス イ ス,イ ギ リ ス,イ
タ リ ア の 生協─」
,
(財)生協総合研究所『生
活 協 同 組 合 研 究 第 351 号』
,
(財)生 協 総 合
研 究 所,<http://www.jccu.coop/world_coop/
europe/pdf/souken_0504.pdf#search>,[ 検 索
日:2006/05/24]
8)フェア ト レード リ ソース セ ン ター[FTRC]
公 式 HP,『フ ェ ア ト レ ー ド と は 何?』,
<http://www.ftrc-jp.org/whatft/index.html>,
[検索日:2006/07/27]
9)EFTA(1995)“Facts and Figures on the
Fair Trade Sector in 14 European Countries,
”
EFTA: 2─3,<http://www.european-fair-tradeassociation.org/Efta/Doc/FT-E-1995.pdf>,
[検
索日:2007/05/31]
10)マイケル・バラット・ブラウン 前掲書:290
─292
11)谷田ふみ(2003)
「フェアトレードの意義と
可能性」
,龍谷大学社会学会(編)
『龍谷大学
社会学論集第 23 号』
,龍谷大学社会学会:123
(2002 年度卒業論文)
12)渡辺 前掲書:18─21
13)途上国 に お け る 貧 し い 人 び と や 社会 か ら
排除 さ れ て い る 人 び と の 生活 を 向上 さ せ る
98 (506)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
こ と,そ し て 国際貿易 に お け る 不公平 な 構
造 に 変革 を も た ら す こ と を 目的 と し た 組織.
1989 年 設 立(Global Journey(発 行 年 不 明)
“Global Journey Information,Start-up and
Support Guide,” <http://www.bafts.org.uk/
Upload_files/GlobalJourneyBooklet2007.pdf>
[検索日:2007/05/10 ]).
14)フェアトレード製品がラベルによって保証さ
れ,フェアトレードショップだけでなく,スー
パーマーケットなどでも売られることにより
フェアトレード市場を拡大させることという目
的を掲げ,ラベリングイニシアティブおよび生
産者ネットワークを構築するという役割を担っ
ている組織.1997 年に設立(フェアトレード・
ラベル・ジャパン(2006)『フェアトレード認
証ラベル・パンフレット』,フェアトレード・
ラベル・ジャパン:3).
15)IFAT,FLO,NEWS!(欧 州 世 界 シ ョ ッ プ
ネ ッ ト ワ ー ク)
,EFTA(ヨ ー ロ ッ パ フ ェ ア
ト レード 協会)の 4 つ の 国際組織 の 連携 の も
と,フェアトレードの一貫した向上を目指し,
FINE が持つネットワークやメンバーに対して
開発協力を可能にさせることを目的とする団
体.この協力を通じて,フェアトレードや協調
性に対する共通の中心基準やガイドラインの開
発 を 行って い る.FINE と い う 団体名称 は,4
組織の頭文字を取って付けられた.1998 年に
設立(EFTA-European Fair Trade Association
(2001)“Fair Trade in Europe 2001‚” EFTA:
11, 長 坂 寿 久 編 著(2008)
「日 本 の フェア ト
レード 世界を変える希望の貿易」
,明石書店:
49)
.
16)Fairtrade Labelling Organizations International
( 2 0 0 6 ) “I n t r o d u c i n g F a i r t r a d e a n d i t s
organizations,
”(Explanatory Document)
‚ FLO: 2
17)FLO,IFAT,NEWS!,EFTA.(2005)“Fair
Trade in Europe 2005 Facts and Figures on
Fair Trade in 25 European countries,” Fair
Trade Advocacy Office,Brussels: 21
18)EFTA(1995)“Facts and Figures on the
Fair Trade Sector in 14 European Countries,”
EFTA: 2 <http://www.european-fair-tradeassociation.org/Efta/Doc/FT-E-1995.pdf>
[検索日:2007/05/31]
19)詳 し く は,西川潤(2007)「連帯経済 の 国際
的側面」,西川潤(編)『連帯経済─グローバリ
ゼーション へ の 対案』,明石書店:233─262 を
参照 .
20)IFAT(2005)“Standards for Fair Trade
Support Organizations and Fair Trade Networks‚” The International Fair Trade Association: 2─3
IFAT 公 式 HP(日 本 語 版)<http://www.ifat.
org/japanese/principles_jp.shtml>[検 索 日:
2006/08/12 ]
,10) の み Global Journey(発 行
年 不 明)“ Global Journey Information,Startup and Support Guide‚” <http://www.bafts.
org.uk/Upload_files/GlobalJourneyBooklet2007.
pdf>[検索日:2007/05/10]
21)フェア ト レード・ラ ベ ル・ジャパ ン(2006)
『フェア ト レード 認証 ラ ベ ル』
,フェア ト レー
ド・ラベル・ジャパン
22)フェアトレード・ラベル・ジャパン 前掲書
23)西川 前掲書:255─256
24)渡辺 前掲書:52
25)村田 前掲書:18─25
26)Kimberly M. Grimes(2005)Changing the
Rules of Trade with Global Partnerships: The Fair
Trade Movement,in “ Social Movements: an
Anthropological Reader,
” June Nash(ed)
‚
Blackwell Publishing: 237─248
27)重田康博(2006)
「オックスファムによる世
界の貧困問題への取り組み」
,功刀達朗・毛利
勝彦編著(2006)
『国際 NGO が 世界 を 変 え る
地球市民社会の黎明』
,東信堂:109─131
28)Oxfam International と し て は 1995 年 に 設
立されている.「世界の貧困と不正義をなくす
ためには世界の NGO が連携・協力して活動す
る方が効果的である」という考えが背景にあ
る(重田 前掲書:110).
29)重田 前掲書:110
30)Oxfam(2002)“Rigged Rules and Double
Standards Trade Globalization and the Fight
against Poverty,
” Oxfam: 6─7
31)Walden Bello “What’s Wrong with the Oxfam
Trade Campaign,
” Reclaiming the Commons,No.
77,April 2002,<http://www.focusweb.org>
[検索日:2007/09/28]
32)Angus Cleary “Oxfamʼs Response to Walden
Bello,
” Reclaiming the Commons,No. 78,May
2002,<http://www.focusweb.org>[検 索 日:
2007/09/28]
33)2007 年 1 月 26 日から同年 2 月 3 日にかけて
行った フィリ ピ ン の 経済開発 に 関 す る フィー
ル ド 調査 の 中 で 1 月 29 日 に Oxfam GB(Great
Britain)Philippine Office を 訪 問. そ こ で Ms.
Shalimar Vitan と Ms. Margarita Hakobyan か
らインタビューを行った際の内容である . なお
この内容は,渡耒 絢・ジギャン クマル タパ
(2008)
「フィリピンの社会開発における包括的
ア プ ローチ」
,
『横浜国際社会科学研究 第 12
巻 第 4・5 号 2008 年 1 月』
:157─172 の 第 2 章
から抄出し,加筆・修正したものである .
34)Oxfam GB ホ ー ム ペ ー ジ よ り[検 索 日:
2007/02/06],<http://www.oxfam.org.uk/
what_we_do/regional/eastasia/overview.
貧困削減に資するアプローチとしてのフェアトレード(渡耒)
htm>.
35)1984 年 か ら Oxfam Australia,1986 年 か ら
Oxfam HongKong(Oxfam HK <http://www.
oxfam.org.hk>,
[検索日:2007/02/06]
)
,1987 年
からは Oxfam GB が支援活動を開始している.
Oxfam Novib の開始年は未定であるが,1980 年
代から実施している.その後,Oxfam America
も 支援 に 加 わ り,対 フィリ ピ ン の 直接的支援
が 行 わ れ て い た が,Oxfam America は 2001 年
にフィリピンからカンボジアに事務所を移し,
Oxfam Australia は現在,フィリピン事務所を閉鎖
している(Ms. Vitan へのメールインタビュー[実
施日:2007/02/19]より)
.2002 年から,Oxfam
Australia と Oxfam HongKong は,先住民族 プ
ログラムとジェンダーアクションプランの支援
を開始.現在では,Oxfam Australia が能力育成
と制度的支援の領域において現地 NGO の主要
な 2 団体とともに最終的プログラムを支援して
いる.Oxfam GB では,台風災害に対する緊急
支援やミンダナオ紛争に対する支援,LaoLao 地
区における経済的,および衛生的支援を行って
い る(Oxfam Australia <http://www.oxfam.org.
au>,
[検索日:2007/02/06 ]
)
.
36)1981 年 か ら,フェア ト レード 商品 の 生産者
へ直接的な支援を行っていた当時は,ルソン島,
ヴィサヤ諸島,ミンダナオを中心に行っていた
(Ms. Vitan へのメールインタビュー[実施日:
2007/02/19 ]より).
37)こ の Oxfam フェア ト レード プ ロ グ ラ ム の
需要 は 翌年 の 1996 年 に ピーク を 迎 え,当時
は 24 万 ド ル の 貿易量 が あった(ICLEI-Local
Governments for Sustainability(2006,Oct.)
“Fair Trade in Philippines: Challenges and
Opportunities,
” Southeast Asia Secretariat: 7,
9)
.
38)このネットワークでは,零細農業者や生産者
に対してフェアトレード活動への参加を促し,
フェアトレード商品である手工芸品や農産物の
ビジネスオペレーションの支援,商品のデザイ
ン開発技術や商品の質を高めるために,多角
的な視点をネットワーク参加者に提供したり,
フェアトレード活動を運営していくにあたって
必要となるスキルを習得するためのアプローチ
をヨーロッパ団体の協力を得て実施している
(Ms. Vitan へのメールインタビュー[実施日:
2007/02/19]より).
39)Ms. Vitan へのメールインタビュー[実施日:
2007/02/19]より
40)渡辺 前掲書:35
41)しかし Oxfam フェアトレードプログラムは,
フェア ト レード 商品 の 需要 の 減少 が あった に
もかかわらず,継続しつづけたことで多くの
損失を生み,多くの生産者がより貧困に陥っ
(507) 99
たことから,Oxfam のフェアトレード活動は
失敗であったとも言われている(ICLEI-Local
Governments for Sustainability ibid.: 9). ま た
事実,Oxfam International に お け る フェア ト
レード事業の縮小が見られる.Oxfam GB では
直接的 な フェア ト レード 事業 よ り も フェア ト
レード事業に関連させた貿易キャンペーンや政
策提言への活動の移行が見られる(重田 前掲
書:127).
42)ICLEI-Local Governments for Sustainability
ibid.: 11
43)渡辺 前掲書:5
44)西川 前掲書:252
45)ICLEI-Local Governments for Sustainability
ibid.: 12
46)オック ス ファム・イ ン ターナ ショナ ル/渡辺
龍也訳(2006)
『貧富・公正貿易・NGO WTO
に挑む国際 NGO オックスファムの戦略』
,新評
社:60. なおオックスファムは,Stiglitz,J(2001)
“Two Principles for the next round: or how to
bring developing countries in from the cold‚” in
B. Hoekman and W. Martin(eds)
: Developing
Countries and the WTO: A Pro-Active Agenda,
Oxford,Blackwell: 8 から引用している .
47)1990 年代の状況について,36 の貧困国にて
状況調査 を 行った と 記 し て い る(UNCTAD
(2004)“The Least Developed Countries Report
2004 Linking International Trade with Poverty
Reduction‚” New York and Geneva: 188)
.
48)UNCTAD ibid.: 188
49)マイケル・バラット 前掲書:62
50)ニュー・イ ン タ ナ ショナ リ ス ト・ジャパ ン
「南北アメリカの自由貿易(2004 年 12 月号)
」
,
ニュー・インタナショナリスト・ジャパン(NI
ジャパ ン)
(発行年不明)
『 NI ジャパ ン ブック
レット1 南北格差を広げるグローバルな枠組
み 国際機関とグローバルな協定』
,インティ
リンクス:7
51)マ イ ケ ル・バ ラット 前掲書:74─76,西川
前掲書:250
52)ニュー・イ ン タ ナ ショナ リ ス ト・ジャパ ン
(2006)
「公正な貿易への道のり」
,ニュー・イン
タナショナリスト・ジャパン(NI ジャパン)
『公
正な貿易とは何か』
,No. 76,インティリンクス:
22
53)マイケル・バラット 前掲書:72
54)米国では,25000 の産業型綿花農家に 100% の
補助金を出し,世界の綿花市場において 40% の
シェアを持つ(ニュー・インタナショナリスト・
ジャパン(2004)前掲書:3).
55)
福田邦夫・小林尚朗
(編)
(2006)
『グローバリゼー
ション と 国際貿易』
,大月書店:16,ニュー・
インタナショナリスト・ジャパン
(2006)前掲書:
100 (508)
横浜国際社会科学研究 第 13 巻第 6 号(2009 年 2 月)
8
56)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 18─19
57)ブ ル キ ナ ファソ,チャド,マ リ,ベ ナ ン で
は,処女金を受けたテキサスの生産者の半分の
コストで 1 キロの綿花を生産することができ
るが,国際市場ではそのコストの 60% しか回
収できない(ニュー・インタナショナリスト・
ジャパン(2004)前掲書:3─4).
58)福田・小林 前掲書:64,西川 前掲書:249
59)福田・小林 前掲書:57
60)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 18─19
61)FLO,IFAT,NEWS!,and EFTA(2006)
“Business Unusual Successes and Challenges
of Fair Trade,” Fair Trade Advocacy Office,
Brussels
62)デ イ ヴィット ラ ン サ ム(著)
/市橋秀夫(訳)
(2004)
『フェアトレードとは何か』
,青土社:63
63)オックスファム・インターナショナル 前掲
書:97,マイケル・バラット 前掲書:82
64)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 18─19
65)西川 前掲書:249─251
66)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 205─
211
67)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 211─
215
68)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 214
69)中村陽一(2007)「市民的公共圏を基盤とし
た社会への貢献 緩やかな結合(ウィークタ
イ)とコーディネーターへの注目」,オルター・
ト レード・ジャパ ン『季 刊[あっと]at 8 号
特集フェアトレードの現在 オルタナティ
ブな南北の貿易の回路をもとめて』,太田出版:
103─110
70)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 214
71)Alex Nicholls & Charlottte Opal ibid.: 212
[わ た ら い あ や 横浜国立大学大学院国際社会
科学研究科博士課程後期]
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