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SGK001302
次期教育課程を見据えた教員養成の課題 ―コンピテンシー・ベースの教育課程改革を中心に― 上 田 喜 彦 [email protected] 総合教育研究センター教職課程 要旨 本稿の目的は、今日の教育課程改革の動向を踏まえて、コンピテンシー・ベースのカ リキュラムになると考えられる次期教育課程を見据えた教員養成の課題について考察するこ とである。そのために、諸外国およびわが国で提唱され、今後の変化の激しい社会で必要と される資質や能力について概観するとともに、先行研究にみられる教師として必要な知識の 枠組みを用いて、これからの時代に教師として必要な資質・能力は何かについて検討する。 それを踏まえて、教員養成に必要な内容や方法について考察し、変化する社会に対応した教 員養成の3つの方向性を指摘するとともに、今後、重要性を増すと考えられる専門家の実践 についてのヴィジョンや授業についてのメタ認知を養成するためのプロセスを提案した。 キーワード 教員養成 次期教育課程 コンピテンシー アクティブ・ラーニング Ⅰ.はじめに 2008(平成 20)年 3 月に改訂された現行の学習指導要領は、小学校では 2011(平成 23)年から中学校 では 2012(平成 24)年から実施されている。わが国の学習指導要領は、1958(昭和 33)年以降、社会の 情勢や教育課題、世界的な教育の動向等を反映させながら、ほぼ 10 年に 1 度改訂されてきた。2014(平 成 26)年 11 月 20 日、下村文部科学大臣は、 「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」 中央教育審議会に諮問し、次期教育課程の編成が具体的に動き出した。 それに先立ち、2014(平成 26)年 10 月 21 日には、中央教育審議会が「道徳に係る教育課程の改善につ いて(答申) 」において、道徳教育のねらいを実現するための教育課程の改善として、道徳の時間を教育課 程上「特別の教科道徳」 (仮称)として新たに位置付け、その目標、内容、教材や評価、指導体制の在り方 等を見直すとともに、 「特別の教科道徳」 (仮称)を要として道徳教育の趣旨を踏まえた効果的な指導を学 校の教育活動全体を通じてより確実に展開することができるよう、教育課程を改善することが必要である との考えを示した。これにより、1958(昭和 33)年の改訂以来現在まで「教科」としてではなく「領域」 として位置づけて実施されてきた「道徳」は、 「特別の教科」としてカリキュラム上に位置づけられること になった。 また、2014(平成 26)年 12 月 22 日に中央教育審議会が示した「子供の発達や学習者の意欲・能力に応 じた効果的な教育システムの構築について(答申) 」において、 「地域の実情や子供たちの実態に応じ、設 置者の判断で、小・中学校段階の接続の円滑化を図ったり、柔軟な区切りを設定したりするなどの多様な 教育実践を可能」とするため、 「一体的な組織体制の下、9年間一貫した系統的な教育課程を編成・実施し 得る小中一貫教育学校(仮称)や、小中一貫教育学校(仮称)に準じて小中一貫した教育を施すことがで 1 − 19 − きる小学校・中学校の設置」を可能にする6・3制にかわる新たな義務教育のシステムが示された。さら に、中央教育審議会は、2014(平成 26)年 12 月 22 日「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた 高等教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申) 」において、これまで「教育改革にお ける最大の課題でありながら実現が困難であった『高大接続』改革を、初めて現実のものにするための方 策として、高等学校教育、大学教育及びそれらを接続する大学入学者選抜の抜本的な改革」を提言してい る。 次期教育課程の改訂に向けて、ゆとりか脱ゆとりかといった教育課程の内容に重点を置いた改訂だけで はなく、道徳の「特別の教科」化による枠組みの変更、学校制度改革、高大接続の改革などの学校システ ムの在り方の改革などを一体で行うもので、下村文部科学大臣が「我が国の教育全体の大改革につながる ものと認識して」1)いると述べていることからも分かるとおり、これまでの学習指導要領の改訂と比べて も大きな変革が行われようとしている。 本稿の目的は、これらのわが国の教育課程改革の動向を踏まえて、コンピテンシー・ベースのカリキュ ラムになると考えられる次期教育課程を見据えた教員養成の課題について考察することである。 Ⅱ.次期教育課程の方向性 次期教育課程の方向性については、2012(平成 24)年 12 月から「育成するべき資質・能力を踏まえた 教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」で検討され、その議論の結果が「論点整理」として 2014 (平成 26)年 3 月 31 日に報告されている。また、国立教育政策研究所からは、 『教育課程の編成に関する 基礎的研究 報告書5 社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理』が 2013 (平成 25)年3月に報告されている。これらの検討や研究をふまえて 2014(平成 26)年 11 月 20 日に、 文部科学大臣から中央教育審議会に諮問された「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方につい て(諮問) 」の内容からは、次期教育課程の編成に向けた方向性をうかがうことができる。この諮問の概要 は、次のとおりである。 これからの子どもたちが成人して社会で活躍していく頃には、生産年齢人口の減少、グローバル化の進 展や絶え間ない技術革新等により、 「厳しい挑戦の時代」を迎え、 「社会構造や雇用環境は大きく変化」し ていくことが予想され、子どもたちがつくことになる職業の在り方も大きく変化するということを前提と している。 このことについて、たとえば新井紀子(2010)は、 「情報科学という技術革新は、知的労働を代替するタ イプの技術革新です。その当然の結果として、情報科学がリアリティーを持って社会に押し寄せてくる 21 世紀においてその職を奪われる可能性があるのは、コンピュータによって代替可能な職種に就いている 人々、いわゆるホワイトカラーだということになります。 」2)と述べているし、Frey と Osborne(2013) は、 「今後 10~20 年程度で米国の総雇用者の約 47%の仕事がコンピュータによって自動化されるリスクが 高い」3)としているように、情報社会の進展という側面から見ても、職業の在り方は現在とは全くちがっ たものになると予測されている。 諮問では、そのような認識にもとづいて、子どもたちには、 「こうした変化を乗り越え,伝統や文化に立 脚し,高い志や意欲を持つ自立した人間として,他者と協働しながら価値の創造に挑み,未来を切り開い ていく力を身に付けること」が求められ、教育の在り方も「個々人の潜在的な力を最大限に引き出すこと により,一人一人が互いを認め合い,尊重し合いながら自己実現を図り,幸福な人生を送れるようにする とともに,より良い社会を築いていくことができるよう」新しい在り方を構築していくとしている。 2 − 20 − 全国学力・学習状況調査の結果の分析 4)にも、諮問同様、わが国の子どもたちは、判断の根拠や理由を 示しながら自分の考えを述べることについて課題が指摘おり、また、内閣府の『平成 26 年版 子ども・若 者白書』では、自己肯定感や学習意欲、社会参画の意識などが国際的に見て低いことなどが指摘されてい る。 これらのことをふまえて、諮問では、新しい時代に必要となる資質・能力として、OECD が提唱する「キ ー・コンピテンシー」などをあげ、 「ある事柄に関する知識の伝達だけに偏らず,学ぶことと社会とのつな がりをより意識した教育」を行い、子どもたちがそうした教育を通じて、基礎的な知識・技能を習得すると ともに、実社会や実生活でそれらを活用しながら、自ら課題を発見し、その解決に向けて主体的・協働的に 探究し、学びの成果等を表現し、更に実践に生かしていくというサイクルやそれを推進する力の育成が重 要であるとして、これまで教育課程上の位置づけが明確にされてこなかったキー・コンピテンシーを教育 課程上に明示的に位置付けること、さらには、習得サイクルと社会への活用サイクルをより密接に関連づ けて取り扱うことを求めている。 そのために必要な力を子どもたちに育むためには、知識の質や量の改善とともに、学びの質や深まりを 重視することが必要であり、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習として、これまで高等教 育の中でクローズアップされてきた「アクティブ・ラーニング」を高等学校までに学習の中でも重視し、 そのための指導の方法等を充実させていく必要があるとしている。 今回の諮問では、これらの問題意識のもと、次期教育課程について審議する内容として、 ① 教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方を一体として捉えた、新しい時代にふさわ しい学習指導要領等の基本的な考え方 ② 育成すべき資質・能力を踏まえた、新たな教科・科目等の在り方や、既存の教科・科目等の目標・ 内容の見直し ③ 学習指導要領等の理念を実現するための、各学校におけるカリキュラム・マネジメントや、学習・ 指導方法及び評価方法の改善を支援する方策 が盛り込まれている。 ①では「多様な他者と協働しながら創造的に生きていくために必要な資質・能力をどのように捉えるか」 や、 「子どもが自ら課題を見つけて解決を図る主体的な学習『アクティブ・ラーニング』などの新しい指導 方法はどうあるべきか」などが検討される。 ②では、国民投票法が改正され、平成 30 年6月 21 日から、満 18 歳以上で投票できることを受けて、 高卒段階で社会の一員となる責任を果たせるように、高等学校の教育で、教養や規範、自立した生活を身 に付ける新科目について審議することが求められている。また、地理歴史科を見直し、日本史を必修化さ せること及びより高度な思考力・判断力・表現力を育成する新科目や社会要請を踏まえた専門学科のカリ キュラムの在り方なども検討課題として挙げられている。 グローバル社会で求められる力の育成にも力を注ぐ方向で、外国語(英語)に関しては、4技能を学校 種ごとに身に付けさせるための指標の在り方について検討を求めている。小学校では、現行の外国語活動 を中学年で開始し、高学年では教科として学習に系統性を持たせて、互いの考えや気持ちを英語で伝え合 う能力を養うこと、中学校では、外国語授業を英語で実施することを基本とし、身近な話題について話し 合える能力を高めること、高校では、幅広い話題について発表・討論・交渉などを行う能力を身に付ける ことを目標とし、それぞれ審議される。 幼稚園では、幼児教育と小学校教育をより円滑に接続させていくための内容について議論を重ねていく。 このほか、体育・健康に関する教育内容の見直しにもふれている。2020 年東京オリンピック・パラリン 3 − 21 − ピックを契機に、児童生徒の運動・スポーツに対する関心や好奇心を向上させるための内容についても議 論を重ねていく。 ③では、学校種ごとの教育課程編成、実施、評価、改善の一連のカリキュラム・マネジメントの普及を 図る方向。さらにアクティブ・ラーニングなどの学習方法や新しい学びに対応した評価方法等の開発・普 及が検討される。 まとめると、次期教育課程の編成に向けて、新しい時代に必要な資質や能力を身につけさせることを重 視するコンピテンシー・ベースの教育課程改革をめざし、知識の獲得よりも、社会や生活との関係性を重 視した協働的な課題解決能力や実践能力を重視し、それらを身につけさせるためのアクティブ・ラーニン グ等の指導方法の充実を図ろうとしていること、さらには、初等中等教育を一貫した外国語(英語)教育 の在り方や新しい教科の設置などこれまでの枠組みを超えた様々な学びの方向性が浮かび上がってくる。 Ⅲ.教師として必要な知識の枠組み 次期教育課程は、おそらく 2016(平成 28)年度末には改訂が行われ、2020(平成 32)年、東京オリン ピックが開催される頃には完全実施されると考えられる。現在、教員養成は大学に委ねられているので、 2015 年度に入学する学生が教員となる頃には、次の新しい学習指導要領が実施されることになる。教員養 成に携わるものとしては、次期教育課程を見据えた教員養成について考えていかなければならない。 教師として必要な資質・能力や必要な知識とはどのようなものなのだろうか。教師が知っている必要が あること、あるいは、できるべきであることとは何かの全体を捉えることは困難なことである。しかし、 そのことを捉えようとすることは、教員養成の課題を考察する上で重要である。 教員の資質・能力について、我が国では、教育職員審議会や中央教育審議会などで、次のような枠組み で語られてきた経緯がある。 1997(平成9)年、教育職員養成審議会は、 「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について (教育 職員養成審議会・第 1 次答申) 」で、教員に求められる資質・能力について、 「 (1) いつの時代も教員に求 められる資質能力」として、教育者としての使命感、人間の成長・発達についての深い理解、幼児・児童・ 生徒に対する教育的愛情、教科等に関する専門的知識、広く豊かな教養、そしてこれらを基盤とした実践 的指導力を、 「 (2) 今後特に教員に求められる具体的資質能力」として、たとえば、地球的視野に立って 行動するための知識や豊かな人間性、変化の時代を生きる社会人に求められる課題解決能力・人間関係形 成能力・社会の変化に対応するための自己表現力・メディア-リテラシー・基礎的なコンピュータ活用能力 等を、 「 (3) 得意分野を持つ個性豊かな教員の必要性」として、全教員に共通に求められる基礎的・基本 的な資質・能力を確保するとともに、さらに積極的に各人の得意分野づくりや個性の伸長を図ることが大 切であるとしている。この答申では、教員としての普遍的な能力、時代に応じた能力、そして個人の職能 成長を前提とした個性を、教員の資質・能力としている。 2005(平成 17)年に中央教育審議会が示した「新しい時代の義務教育を創造する(答申) 」では、教員 の資質・能力を「あるべき教師像の明示」として次のように述べている。 • 人間は教育によってつくられると言われるが、その教育の成否は教師にかかっていると言って も過言ではない。国民が求める学校教育を実現するためには、子どもたちや保護者はもとより、 広く社会から尊敬され、信頼される質の高い教師を養成・確保することが不可欠である。 • 優れた教師の条件には様々な要素があるが、大きく集約すると次の 3 つの要素が重要である。 4 − 22 − 1.教職に対する強い情熱 教師の仕事に対する使命感や誇り、子どもに対する愛情や責任感などである。 また、教師は、変化の著しい社会や学校、子どもたちに適切に対応するため、常に学び続ける 向上心を持つことも大切である。 2.教育の専門家としての確かな力量 「教師は授業で勝負する」と言われるように、この力量が「教育のプロ」のプロたる所以であ る。この力量は、具体的には、子ども理解力、児童・生徒指導力、集団指導の力、学級作りの力、 学習指導・授業作りの力、教材解釈の力などからなるものと言える。 3.総合的な人間力 教師には、子どもたちの人格形成に関わる者として、豊かな人間性や社会性、常識と教養、礼 儀作法をはじめ対人関係能力、コミュニケーション能力などの人格的資質を備えていることが求 められる。また、教師は、他の教師や事務職員、栄養職員など、教職員全体と同僚として協力し ていくことが大切である。 Hammond と Snowden(2009)は、先行研究のレビューから、効果的に指導できる教師が行う実践は、 共通して、次の3つの分野の知識に支えられており、図1のように整理できるとしている。それらは新任 教師が習得しなければならない知識であるとし、次のように説明している。5) ・ 学習者としての生徒についての知識と、社会的文脈の中で生徒がいかに学び発達するのかについ ての知識( 「学習者と彼らの社会的文脈の中での発達についての知識」 ) ・ 教育の社会的な目的に照らしての、教えるべき教科と技能についての理解( 「教科とカリキュラム の目標についての知識」 ) ・ 教える内容と教わる側の視点に照らしての、教えることについての理解。これは評価を通して情 報が得られ創造的な教室環境によって支えられる。 ( 「教えることの知識」 ) そして、これらの知識は、変化する世界に備えて教育を養成するための重要な視点でもある。 図 1 教えることと学ぶことの理解のための枠組み 6) 5 − 23 − 先に取り上げた教育職員養成審議会答申(1997)及び中央教育審議会(2005)で述べられている資質・ 能力は、教員に求められる資質・能力の総体をカテゴライズしたものである。しかしながら、そのカテゴ リーは、 「教育の専門家としての確かな力量」のようにある程度測定可能な能力から「教職に対する強い情 熱」のように明確には測定できない情意的な側面を含むものとなっている。また、教員として採用された 後の研修等による職能成長を視野に入れたものである。これらの答申で取り上げられている資質・能力は、 教員養成段階においてどのような資質・能力を身につけさせるべきかということを考える上で参考にはな るものの、新任教員が身につけておくべき知識を具体的に述べたものではなく、 「養成→採用→研修」とい う一連の流れの中で、徐々に形成されていく資質・能力を分類、整理したものといえる。 一方、Hammond らの枠組みは、そもそも「教室に入るにあたって、新任教師は何を知っておかなけれ ばならないか」7)という目的のために作成された枠組みであり、新任教師にとって必須の知識を捉える枠 組みとして有効であると考えられる。そこで、本稿では、図 1 の枠組みにしたがって、議論を進めること にしたい。 A. 教科とカリキュラムの目標についての知識 先の枠組みに従えば、教師に必要とされる教科とカリキュラムの目標についての知識は、教師に求めら れる知識の重要な要素である。しかも、次期教育課程がコンピテンシー・ベースの教育課程改革をめざす のであるから、 「コンピテンシーとは何か」あるいは「なぜ、コンピテンシーという能力論を基盤とするの か」を知ることは重要である。ここでは、これまでに我が国や主要国で提唱されているこれからの時代に 必須の資質・能力について整理するとともに、コンピテンシー・ベースのカリキュラムについて考えてみ たい。 1. 我が国において提言されている資質・能力 現行の学習指導要領(2008(平成 20)年 3 月改訂)では、初等中等教育の目指すべき理念として、 「生 きる力」があげられている。 「生きる力」は、 「知識基盤社会」において、これまでより一層重要性を増し ているとして、1998(平成 10)年版の学習指導要領から現行の学習指導要領まで継承されている。そもそ も「生きる力」は、1996(平成 8) 年の中央教育審議会「21 世紀を展望した我が国の教育の在り方につ いて(第 2 次答申) 」で提言されたもので、国際化や高度情報社会の到来など変化が激しい時代にあって、 いかに社会が変化しようと必要な資質・能力として位置付けられている。具体的には、基礎・基本を確実 に身に付け、いかに社会が変化しようと、自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行 動し、よりよく問題を解決する資質や能力である「確かな学力」 、自らを律しつつ、他人とともに協調し、他 人を思いやる心や感動する心である「豊かな人間性」 、たくましく生きるための「健康や体力」であり、こ れらの力をバランスよく身につけている人間像を、 「生きる力」を身につけた姿であるとしている。この「生 きる力」は、単なる知識の量よりも、自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力などの資質や能力の育成を 重視する「新しい学力観」の延長上に位置するものであると考えられる。また、2008(平成 20)年の中央 「 『生きる力』は、その内容のみならず、社会において子どもたちに必要とな 教育審議会答申8)において、 る力をまず明確にし、そこから教育の在り方を改善するという考え方において、この主要能力(キー・コ ンピテンシー)という考え方を先取りしていたといってよい」と述べられているとおり、これからの知識 基盤社会を生きる子どもたちに必要な主要な能力として、 「生きる力」を想定していることは分かる。しか 6 − 24 − しながら、現行の学習指導要領上では、 「生きる力」を構成する資質・能力の全体像やそれを育成するため の教育目標や内容の関連については、具体的に明確にすることができていなかったといえる。 また、 「生きる力」の概念やその重点は、1996(平成 8) 年の「課題解決力」重視から、1998(平成 10) 年の中央教育審議会答申「新しい時代を拓く心を育てるために-次世代を育てる心を失う危機-」では、 問題解決能力重視から「豊かな人間性」重視へ、2000 年前後の学力低下論争における「ゆとり教育批判」 のなかでは、 「確かな学力」の重視、すなわち、 「学力」 「資質・能力」重視へ、そして、現行の「確かな学 力」 、 「豊かな人間性」 、 「健康や体力」のバランス重視へと変遷してきている。 2. 主要各国におけるコンピテンシー・ベースのカリキュラム改革の流れ 主要各国においても、人間の全体的な能力をコンピテンシーとして、それに基づいたカリキュラム改革 をしていくという流れがある。 現在、さまざまな国がそれぞれの立場から、コンピテンシーについて示しているが、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)が提言している「キー・コンピテンシ ー」 、ATC21S プロジェクト(Assessment and Teaching of Twenty-First Century Skills Project:21 世紀 型スキルの学びと評価プロジェクト)が提唱している「21 世紀型スキル」等はその代表的なものといえる。 また、国立教育政策研究所も諸外国の先行研究のレビューからわが国において教育課程編成の基盤となる 考え方として「21 世紀型能力」を提唱している。 以下に「キー・コンピテンシー」 、 「21 世紀型スキル」及び「21 世紀型スキル」の概要をみた上で、次期 教育課程で考えられるカリキュラムモデルについて考えることにする。 a. OECD DeSeCo の「キー・コンピテンシー」の概要 OECD のキー・コンピテ ンシーが研究されるように なった背景には、近年、国際 的に「多様化と自由化が進む 一方で、国際化とそれに伴う 標準化が進んで」おり、個人 や各国政府は「継続的な経済 成長を求めながらもその成 長が自然環境や社会環境に 及ぼす影響について懸念」8) している。これらの背景の中 で、読み、書き、計算以外の どのような能力が個人を人 生の成功へと導き、社会の成 図 2 DeSeCo プロジェクトの経緯 11) 功へと導くことに関連づけ られるかという疑問やコンピテンシーの定義は何かといったことへの関心から 1997 年に DeSeCo (Definition and Selection of Competencies: Theoretical & Conceptual Foundations)プロジェクト 10) 7 − 25 − がはじめられ、図211)のような経緯で研究が進められた。 そして、2003 年、次のようなキー・コンピテンシーの枠組み(図3)12)が示された。 DeSeCo によれば、これからの社会で必要な能力であるキー・コンピテンシーの条件は「社会や個人に とって価値ある結果をもたらすこと」 「いろいろな状況の重要な課題への適応をつけること」 「特定の専門 家だけでなく、すべての個人にとって重要であること」の3つである。DeSeCo は、これらの条件によっ て社会のヴィジョンと生活の必要性などからキー・コンピテンシーの理論的要素を特定し、それらの要素 を「異質な集団で交流する」 「自律的に活動する」 「相互作用的に道具を用いる」という3つのカテゴリー に分類している。これらのカテゴリーは、様々な状況の中で、相互に関係しながらさまざまな課題解決の ためにはたらくのだが、その際、中心的にはたらくものとして、思慮深さ(反省性)がある。この思慮深 さには、メタ認知や批判的思考なども含まれる。 図3では、キー・コンピテンシーの3つのカテゴリーについて、より能力的側面を強調するため、 「異質 な集団で交流する」を「多様な社会グループにおける人間関係形成能力」とし、 「自律的に活動する」を「自 律的に活動する能力社会」とするとともに、 「相互作用的に道具を用いる」を「社会的・文化的、技術的ツ ールを相互作用的に活用する能力」と表現することにした。 図 3 DeSeCo の全体的な枠組みとキー・コンピテンシー12) b. ATC21Sの「21 世紀型スキル」 :KSAVE モデル 21 世紀は、知識基盤社会と言われており、ICT によって社会的なつながり方も変わってきている。その ような 21 世紀に必要なスキルは、ICT を活用しながら、学習者同士が互いに理解を深め合い、あるゴー 8 − 26 − ルを達成するにつれて次の新たなゴールを見出し、新しい課題を自ら設定してそれを解きながら前進して いく、創発的で協調的なプロセスを通して知識を生み出すスキルであるといわれている。2009 年、シスコ システムズ、インテル、マイクロソフトというグローバル IT 企業の支援のもと、世界各国の研究者や政府、 国際機関が連携して設立された国際団体 ATC21S (Assessment and Teaching of 21st Century Skills)は、 21 世紀型スキルを以下 4 つの分類からなる 10 のスキルに整理し、KSAVE モデルとして次のように定義し ている。 KSAVE モデル 13) 21 世紀型スキルのフレームワークの分析を構造化するために、包括的な概念図表を作成した。この 図では、次のように 4 つのカテゴリーに分類された 10 個のスキルを定義している。 思考の方法 1.創造性とイノベーション 2.批判的試行、問題解決、意識決定 3.学び方の学習、メタ認知 働く方法 4.コミュニケーション 5.コラボレーション(チームワーク) 働くためのツール 6.情報リテラシー 7.ICTリテラシー 世界の中で生きる 8.地域とグローバルのよい市民であること(シチズンシップ) 9.人生とキャリア発達 10.個人の責任と社会的責任 c. その他の国でのコンピテンシーの枠組みと我が国における 21 世紀型能力 「世界においても、今日的に育成すべき人間像をめぐ 国立教育政策研究所(2013)の報告書 14)では、 って、断片化された知識や技能ではなく、人間の全体的な能力をコンピテンシー(competency)として定 義し、それをもとに目標を設定し、政策をデザインする動きが」広がっていると指摘している。また、代 表的なコンピテンシーとして、たとえば、OECD の DeSeCo プロジェクト(1997~2003)による「キー・ コンピテンシー」や北米を中心として研究が進められた「21 世紀型スキル」等をあげている。これらは PISA 調査 15)にも取り入れられ国際的に大きな影響を与えている。さらに、主要各国では、キー・スキル(イギ リス) 、汎用的能力(オーストラリア) 、キー・コンピテンシー(ニュージーランド)など、呼称は異なる が、21 世紀に求められる資質・能力を定義し、それを基礎にしたナショナル・カリキュラムを開発する取 り組みが潮流となっている。これらの国々の教育改革における資質・能力目標を、報告書では図416)のよ うにまとめている。 そして、 「① 資質・能力を明確に教育目標に据えることが重要である。② 教科内容の知識とは別に、資 9 − 27 − 質・能力の育成を教育目標とすることができる。③ 資質・能力の育成のためには、教科内容の豊富な学習 経験が必要である。 」とした上で、 「21世紀型能力」を図517)のように示して次のように説明している 18)。 図 4 諸外国の教育改革における資質・能力目標 16) 第一に、21 世紀型能力の中核に、 「一人ひとりが自ら学び判断し自分の考えを持って、他者と話 し合い、考えを比較吟味して統合し、よりよい解や新しい知識を創り出し、さらに次の問いを見つ ける力」としての「思考力」を位置づける。 「思考力」は、問題の解決や発見、アイデアの生成に関 わる問題解決・発見力・創造力、その過程で発揮され続ける論理的・批判的思考力、自分の問題の 解き方や学び方を振り返るメタ認知、そこから次に学ぶべきことを探す適応的学習力等から構成さ れる。 第二に、思考力を支えるのが、 「基礎力」 、 すなわち、 「言語、数、情報(ICT)を目的 に応じて道具として使いこなすスキル」で ある。技術革新を背景に ICT 化が著しく 進む今日において、社会に効果的に参加す るためには、読み書き計算などの基礎的な 知識・技能とともに、情報のスキルが不可 欠である。情報スキルは、計算や記憶の代 行など、読み書き計算の不足を補償する可 能性すらある。その支援力の大きさを使っ て、思考力を助けるのが、この基礎力の一 つの役割と考えることもできる。 第三に、最も外側に、思考力の使い方を 図 5 21 世紀型能力 17) 方向づける「実践力」を位置づける。 「実践力」とは、 「日常生活や社会、環境の中に問題を見つけ 出し、自分の知識を総動員して、自分やコミュニティ、社会にとって価値のある解を導くことがで きる力、さらに解を社会に発信し協調的に吟味することを通して他者や社会の重要性を感得できる 10 − 28 − 力」のことである。そこには、自分の行動を調整し、生き方を主体的に選択できるキャリア設計力、 他者と効果的なコミュニケーションをとる力、協力して社会づくりに参画する力、倫理や市民的責 任を自覚して行動する力などが含まれる。 この 21 世紀型能力は、次期教育課程で、子どもたちに育成することが求められる資質・能力を考える上 でひとつの枠組みとなると考えられる。 d. 次期教育課程におけるコンピテンシーとカリキュラムの関係 今後、子どもたちに身につけさせるべきコンピテンシーは、国や文化によって多少の違いはあるものの、 図 4 における「基礎的なリテラシー」 「認知スキル」 「社会スキル」や図5に示されたような「思考力」を 中核とし、それを支える「基礎力」と「思考力」の使い方を方向付ける「実践力」であることが示唆され ている。 これらのコンピテンシーは、カリキュラムに中にどのように位置付けることができるのだろうか。また、 コンピテンシー・ベースのカリキュラムの問題点はどのようなものがあるのだろうか。 先にも述べた「育成するべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」の 論点整理では、育成すべき資質・能力に対応した教育目標・内容について、 「ア)教科を横断する汎用スキ ル(コンピテンシー)等にかかわるもの(①汎用的なスキル等としては、たとえば問題解決、論理的思考、 コミュニケーション、意欲など)②メタ認知(自己調整や内省、批判的思考等を可能にするもの) 、イ)教 科等の本質にかかわるもの(教科等ならではの見方考え方など) 、ウ)教科に固有の知識や個別スキルに関 するもの」については相互のつながりを意識しつつ扱うことが重要としている。教科・領域という枠組み のなかで、育成すべき資質・能力を横断的に位置付け、さらに、認知レベルとメタ認知レベルに分けてカ リキュラムイメージを図で表現すれば、図6のようなカリキュラムのモデルを考えることができる。 11 − 29 − 図6 コンピテンシーと教科領域を統合するためのカリキュラムモデル このモデルでいえば、認知レベルでは、教科領域の中でその教科領域に固有の知識技能の習得や教科等 ならではの見方や考え方を身につけることを教育目標・内容とするとともに、問題解決力やコミュニケー ション力などの汎用スキルの育成を目標として教育活動を実施できるような授業をカリキュラムの中に位 置付け、さらにその教育のプロセスをとおして、メタ認知(メタ認知的技能・メタ認知的知識)の育成も 行っていくということになる。 コンピテンシー・ベースのカリキュラムについては、世界的な潮流でもあり、今後の変化の激しい社会 の中で生き抜いていくためには、思考力や問題解決力、コミュニケーション力、メタ認知、実践力といっ たものが不可欠であることなど、その理念については理解できる。しかしながら、そこにはいくつかの問 題点も存在する。 第一に、汎用スキル(コンピテンシー)等は教科の内容と比べてその範囲が広く、これを目標として位 置づけることによって、学校教育の有限性を無視して、学校教育で取り扱う内容等が無限に膨張してしま うこと、あるいは、学校に無限責任を押しつけてしまうことになる可能性がある。 第二に、教科横断的な汎用スキル(コンピテンシー)を教育目標や内容として位置付けることで、教科 の目標とのダブルスタンダードとなってしまうことである。このことによって、教科等の学習で何を目標 とするのか不明確になり、コンピテンシーの育成はおろか教科目標の達成すらできないという状況になる 可能性がある。 第三に、コンピテンシーの育成を意識するあまり、学校での教育活動が、極端に活動主義的になったり、 形式主義的になったりすることが危惧される。教育目標としてコンピテンシーを位置付けるとすれば、そ れを評価せざるをえない状況が生まれてくるが、その際、パターン化した思考や指導と関連させた硬直し た思考のみが評価される可能性があり、コンピテンシーの育成と教科内容や教科目標が別物として取り扱 われ、その関連性が希薄化するという状況に陥る可能性も指摘できる。 12 − 30 − これらの問題が解消される形で次期教育課程が提示されたとしても、教員養成の場で取り扱う内容は、 これまでとは違った枠組みが必要になると考えられる。 これまでの教員養成の中で重視されてきた教科の専門性にかかわる目標や内容の理解に加えて、今後は、 教科の内容と関連させながら、新たに教育目標として強調されるだろう汎用スキル、たとえば、問題解決 力、発見力、創造力等の思考力や人間関係形成力、社会参画力等の実践力等についても具体的に理解して いくことが要求される。教職に関する専門領域における教育目標や内容あるいは科目について再構築が必 要となることは必至である。少なくとも、汎用スキルに関する知識や理解について取り扱えるように教員 養成の科目内容の見直しや科目の新設などを考える必要があるであろう。 B.学習者と彼らの社会的文脈のなかでの発達についての知識 教師が身につけるべき知識として、子どもと子どもの学習、発達についての知識がある。図1でいえば、 左上の円に含まれる部分である。 まず、教師には、学習者が学びを創造していくプロセスについて観察し、それを理解するための知識や 技能が必要である。そのために、一般的な発達の理論について知識をもっていることが必要であるととも に、人が様々な事柄についてどのように認知し、記憶していくのか、あるいは、どのように自分の考えを 他者の考えと関連づけたり新たな情報を自分のスキーマに組込んだりしていくのかなどの学習心理学や認 知心理学の知識をもっていることも必要であろう。また、自分の学習や思考をモニタリングし、コントロ ールすること、認知をコントロールする認知としてのメタ認知についての知識も不可欠であろう。 メタ認知は、1970 年代に Flavell (1976)が、続いて Brown(1978) が用い始めた語で、メタ認知的知識と メタ認知的技能に分けて考えられる ことが多い。メタ認知的知識は、自己 や他者の認知的特性についての知識、 課題についての知識、方略についての 知識、環境についての知識などがある。 自己や他者の認知的特性についての 知識は、たとえば「私は、計算問題は 得意だが、文章問題は苦手だ」とか「私 は、計算ミスをしやすい」といった個 人内での特性や「A さんの説明はよく 図7 認知とメタ認知との関係図 18) 分かる」 「A さんは B さんより理解が 早い」といった個人間の比較にもとづく認知的特性、 「目的をもって学習をしたことは、身につきやすい」 といった一般的な認知特性などが含まれる。課題についての知識は、 「計算問題で、桁数が増えるほど間違 えやすい」といった課題の性質が学習者の認知活動に及ぼす影響についての知識である。方略についての 知識は、 「図にかいて考えると分かりやすい」 「相手の知っていることにたとえると、説明を理解してもら いやすい」といった目的に応じた効果的な法力に関する知識である。メタ認知的技能は、認知やそれに伴 う問題解決の状況をモニターし、自らのもつメタ認知的知識に照らして評価し、認知をコントロールする というプロセスではたらく技能である。重松(1990)は、数学教育における問題解決場面における認知と 13 − 31 − メタ認知との関係を図7のようなモデルで示している 19)。メタ認知をうまくはたらかせることができる人 は、目的に達するまでに自分の活動を適切にモニタリングすることができ、その方法を常に目的に向けて 推進していける人ということになる。逆に、メタ認知をうまくはたらかせることができない人は、目的に 対する方法がまちがっているのにもかかわらず、自分の行動を振り返らずに同じ方法を用い続け、目的が 達成できないということになるといえる。メタ認知は、人が思考したり、問題解決をしたりする際の推進 力となるものであり、自分の行動や思考を振り返ったり、批判的に思考することを可能にするものである。 また、メタ認知は、 「21 世紀型能力」の中核である「思考力」をうまくはたらかせるために重要なもので あるとともに、社会への活用場面でも、重要な役割を担う能力であると考えられる。当然、コンピテンシ ー・ベースのカリキュラムの中では、その育成が重要なテーマとなる。 子どもが学習という営みにより主体的にかかわるためには、動機づけが重要である。子どもを主体的な 学習に向かわせる課題や支援の在り方、子どもの学習を促進しよりよい学びを生み出すにフィードバック の在り方に関する知識や技能は、授業を創造する教師にとって不可欠なものであるといえる。 さらに、コンピテンシーが全人的な能力であるとすれば、そこには社会の中での価値観の共有であった り、その子ども自身のアイデンティティの形成であったり、社会における実践力の育成であったりに関与 することにもなる。教師には、これまでのように、さまざまな心理学的な知見を基盤として、授業の中で 子どもの学習の状況やその実現状況について適切にモニタリングし、評価し、必要であればコントロール することが求められるだけではなく(実際にはそれだけですら難しいのだが) 、子どもの学習の実現状況や 発達段階に応じて、社会の中で子どもが学習によって得た知識や技能をどのように活用するのかを考えさ せることが必要となる。教師には、教育の専門職として知っているべき子どもの発達や学習に関する理論 だけではなく、より広く深い教養や社会への関心、問題意識が要求されることになる。その意味では、教 員養成の過程における教養教育の重要性が、今以上に高まると考えられ、教員養成のカリキュラムを教養 という視点からも見直す必要がある。 これからの教員養成では、これまで以上に高度な発達や学習に関する理論的な知識およびそれを基盤に して子どもを捉える的確な目の涵養、そして、社会との関連の中で子どもの学習を位置付けるための幅広 い教養と問題意識の育成が重要となる。 C. 教えることについての知識 教師に求められる知識の3つ目の枠組みは、教えることについての知識である。教えることについての 知識には、多くの要素が含まれるが、教科領域に固有の教科内容の知識及び教材開発の知識、多様な学習 者にいかにして教えるかの知識、評価についての知識、そして、子どもたちが目的的・生産的に学習でき るように教室での活動に如何に対処していくかの技術である。教師のもつべき能力でいうならば、大きく は3つあり、教育内容について専門的知識をもち様々なアプローチによってモデルを示すことができるこ と、学習者の状況を充分にモニタリングできること、その状況を評価し、適切に対応することであるとい える。さらに、その基盤としての学習環境を準備できる能力も重要である。 多くの場合、授業の成否は、学習者である子どもがどのように学んでいくのかの予測と、それにもとづ いた計画と準備にかかっている。その基盤となるのは、教科内容についての知識である。しかも、教科の 内容を知っているというだけではなく、その知識自体を柔軟に捉えることができることと、知識への柔軟 なアプローチについての知識をもち、学習者の理解や誤答の典型的なパターンを知り、それへの対処方法 を知っている必要がある。往々にして学習者の誤りは、学習への理解を深め、多様な学びの糸口となるこ 14 − 32 − とが多いからである。また、教室の子どもたちは実に多様である。多様な学習者の集団に教えることがで きる準備ができなければならない。さまざまなニーズを抱えた子どもたちを理解する知識と個に応じた指 導ができる指導のバリエーションをもつ必要がある。 教科に関する専門性と多様な子どもへの対応は、これまでも教師にとってなくてはならないものであっ たし、おそらくこれからも必要な知識であると考えられ、学校の状況や社会の情勢に応じて多少の変動は あるものの不易な部分である。 子どもの学習を評価するという営みは、教師にとって非常に重要な活動である。それはある学習のまと まりのゴールであるとともに、次の学習指導へのスタートでもある。教育内容について、子どもたちにど のような知識が定着したか、あるいは、計算などの技能がどの程度できるかを評価するだけであれば、よ く準備された客観テストで目標の達成・未達成を評価することは可能である。 しかし、子どもの思考力や問題解決力、コミュニケーション力、社会参画力等の汎用スキル(コンピテ ンシー)を教育目標や教育内容とするコンピテンシー・ベースのカリキュラムでは、これらの力を評価し なければならない。コンピテンシーを直接的に評価することは困難で、ある課題に対するパフォーマンス から推し量って評価する以外にはその方法はない。たとえば、OECD が実施している PISA などは、キー・ コンピテンシーの一部分を評価しようとして開発された学力調査問題であるといえる。また、我が国の全 国学力・学習状況調査 20)や特定の課題に関する調査 21)なども、思考力や活用力等を評価することを念頭 において作成されている。パフォーマンス評価では、客観テストのように、目標の達成・未達成を二分法 で評価することは難しい。パフォーマンス課題への学習者の取組の様子は多様で幅をもっている。そのた め、教師は質的判断を迫られることになる。このとき主観的な判断に陥らないように、パフォーマンス評 価では、ルーブリック(rubric)という、パフォーマンスの質や達成度を評価する評価規準表を用いること が必要である。ルーブリックの具体例としては、表1のようなものがある。 表1 小学校第2学年「かけ算」のワークシートのルーブリックの例 自力解決 ふり返り(算数作文) 既習事項の活用、説明の整合性 多様な考え 3 ・既習事項を活用して他の人にわかりやすく説 明している。 (同じ数ずつまとめて数える、○個のいくつ分な どの説明ができている。) ・図と式、説明が一致している。 ・多様に考えることができてい る。 (3種類以上の数え方を考え ることができている) ・ふり返りに、はじめて学習した内容がかかれてい る ・学習の感想や気づきとその理由が書かれている。 2 ・既習事項を活用して説明しているが、他の人 に分かるように説明できていない。 (○個のいくつ分、○個のまとまりの何列分など の説明がない。) ・図と式、説明が一致している。 ・多様に考えることができてい る。 (2種類以上の数え方を考え ることができている) ・ふり返りに、はじめて学習した内容がかかれてい る。 ・自力解決では、説明が不充分だが、ふり返りでは 十分な説明ができている。 ・学習の感想や気づきだけが書かれている。 1 ・自力解決ができていない。 ・自力解決ができているが、既習事項を使って 説明できていない。 ・図と式、説明が一致していない。 ・多様に考えることができてい ない。 ・ふり返りは書けているが、本時の学習内容が十分 に入っていない。 教師には、パフォーマンス評価に関する知識、たとえば目標に適したパフォーマンス課題の開発、子ど ものパフォーマンスを評価するためのルーブリックの作成、評価基準の設定などが求められることになる。 これらについては、現在でも教員養成教育のなかでふれられてはいるものの、今後さらにその重要性が高 まると考えられる。 15 − 33 − 子どもたちが目的的・生産的に学習できるように教室での活動に如何に対処していくかの技術は、講義 が中心となってきたこれまでの授業の中でも、必要とされてきた。 「初等中等教育における教育課程の基準 等の在り方について(諮問) 」では、コンピテンシーを子どもたちに育むため、知識の質や量の改善ととも に、学びの質や深まりを重視することが必要であり、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習 として、これまで高等教育の中でクローズアップされてきた「アクティブ・ラーニング」を高等学校まで に学習の中でも重視し、そのための指導の方法等を充実させていく必要があるとしている。 アクティブ・ラーニングとはどのようなものなのだろうか。Bonwell と Eison(1991)は、アクティブ・ ラーニングの一般的な特徴として次のような点をあげている 22)。 (a) 学生は、授業を聴く以上のかかわりをしていること (b) 情報の伝達より学生のスキルの育成に重きが置かれていること (c) 学生は高次の思考(分析、総合、評価)に関わっていること (d) 学生は活動(例:読む、議論する、書く)に関与していること (e) 学生が自分自身の態度や価値観を探究することに重きが置かれていること そのうえで、アクティブ・ラーニングを「学生にある物事を行わせ、行っている物事について考えさせる こと」と定義している。つまり、行為すること、行為についてリフレクションすることを通じて学ぶこと がアクティブ・ラーニングであることになる。松下(2015)は、アクティブ・ラーニングを「一方的な知 識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的 な学習には、書く・話す・発表する等の活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う。」23) と定義している。その上で、アクティブ・ラーニングには、「社会の変化への対応として、認知機能の育 成、すなわち技能・態度(能力)の育成という課題」も込められているとしている。そして、アクティブ・ ラーニングの構図には大きく2つあるとしている。第1の構図は、伝統的な知識伝達型講義における受動 的学習にポジショニングして、コメントシートや小テストなどを導入して受動的学習を乗り越えることに 注力したアクティブ・ラーニングであり、第2の構図は、受動的学習を乗り越えることは、当たり前にな っており、能動的学習にポジショニングして、ディスカッション、プレゼンテーション、LTD(Learning Through Discussion)話し合い学習、PBL(Problem-Based Learning)などを行なっていくアクティブ・ ラーニングであるとし、汎用スキルの育成を図ることとは、後者の構図にしたがっているものと理解され るとしている。さらに、第2の構図ができるようになった段階で、その質を高める工夫、たとえば、ディ ープ・アクティブラーニングがあるとしている。つまり、アクティブ・ラーニングは、知識伝達に重きを 置いた伝統的な講義形式の授業を超えて、教科の目標を達成するとともに、汎用スキルを育成することが できるものであり、アクティブ・ラーニングであるということをさらに超えた所に、真の深い学びがある ということになる。 これから教員となる学生にとっては、アクティブ・ラーニングを授業の中で展開できる知識や技能が必 要となる。それも、単にアクティブ・ラーニングを実践できるだけではなく、第2の構図で示されている ように、アクティブ・ラーニングを前提とし、それを超えた所に深い学びがあるとすれば、まずは、アク ティブ・ラーニングといわれる学習形態や学習方法について理解し、それを授業の中で展開できること、 さらにはそれを省察して幾つかの工夫を加え深い学びを求めていくことが必要となる。教員養成において は、これまでより、より高度な指導力や実践力、実践を省察する力を育成することが求められているとい える。また、アクティブ・ラーニングを支えるツールとしての ICT の活用も重要な要素であろう。 Ⅳ コンピテンシー・ベースのカリキュラムと教員養成の課題 16 − 34 − これまでに述べたように、次期教育課程改訂 に向けて、義務教育の枠組みや高大接続も含め た大きな教育の変革が行われようとしている。 カリキュラムの上でも、 「特別の教科道徳」の創 設、小学校における外国語(英語)の教科化な どの枠組みの変更、内容や目標についても、こ れまでの教科の目標・内容に加えて汎用スキル あるいはコンピテンシーの育成をも目指し、さ らに、方法についても知識伝達型の講義形式の 授業からアクティブ・ラーニングによる授業へ 図9 教員養成の3つの方向性 の転換が求められるなど、学習指導要領の枠組 みも、教科の目標や内容、その取り扱い上の留 意点を示す教育課程編成の基準からさらに一歩踏み込んで、教科を横断する汎用スキルとそれを育成する ための教授方法を示す枠組みへという方向性が見えてきている。 このような状況の中で、教員養成においては、図1で示した変化する世界に備えて教師を養成するため の3つの知識を身につけさせることが基盤となり、その中でも次期教育課程がコンピテンシー・ベースの カリキュラムを志向しているということとの関連で考えれば、図9に示したように「教科目標を達成する ための専門性」 「汎用スキルを育成するための専門性」 「多様な指導方法に対応できる専門性」の3つの方 向性をもって進めていくことが重要であると考えられる。すなわち、教科目標を達成しつつ、汎用スキル を育成するという2つの方向性を意識しながら、教師として必要な3つの知識と専門家の実践についての ヴィビジョンを身につけさせ、それを基盤として、アクティブ・ラーニングや ICT の活用などの多様な指 導方法に対応できるというもう一つの方向性を持って、教師を養成していくということになる。そして、 そのような教員養成の方向性のなかで教師として必要とされる知識や技能が育成されることを前提として、 図1で中心に位置する「専門家の実践についてのヴィジョン」として示されている部分が、今後一層重要 性を増す。 専門家の実践についてのヴィジョンとは、教えることを導くすぐれた実践のイメージである。我々は誰 もが、自分が教育を受けてきた経験をベースとして、教えることについてのイメージをもっている。この イメージは、授業の形態や展開などに大きな影響をあたえると考えられている。実際、学生たちの模擬授 業を観察していると、アクティブ・ラーニングや問題解決型の授業について学んでいても、これまでに受 けた授業、例えば講義型の授業から脱却することは難しいという事実からもうかがえる。また、このヴィ ジョンの中で特に注目したいのは、授業を行っている自分が何を目標にどこへ向かっていて、そこへどの ように子どもたちを導こうとしているのかについての自覚や信念、あるいは、教えることについてのメタ 認知を含んでいるという点である。教えている自己を見つめる内なる目としてのメタ認知は、教師がある 教育目標に向かって授業という行為を遂行する上できわめて重要である。その際、授業をする自己をモニ タリングするためのいくつかの問いが考えられるが、そのうち重要なものとして、 「子どもにとって何が大 切かわかっているか」 「その子どもの学習に対してどのような支援が必要かを知っているか」 「その指導が どのような結果を生み、将来の教授にとってどのような意味があるのかを予測できているか」などが考え られる。このヴィジョンは、先に述べた3つの知識と3つの方向性を統合するものとして重要であり、こ の部分が不十分であれば、いくら知識や技能をもっていても、それを授業として具現化し子どもや社会の 17 − 35 − ニーズに応じた教育を行っていくことは困難であろうと考えられる。つまり、教科についての専門的な知 識をもち、対話を通して生徒たちを把握し、適切なフィードバックを与えられる優秀な教師の育成には、 専門家の実践についてのヴィジョンがもっとも重要な要素であると考えられる。 では、教員養成の場で、よりよい実践へのヴィジョンをもたせるには、どのようなプロセスが考えられ るのだろうか。 重松(2010,2011)は、若手教師が授業の中で適切なメタ認知的支援が行えるようにするために、ベテ ラン教員をメンターとして、ともに授業を計画し、授業の事前・事後に若手教員に助言をするなどして、 若手教員の授業に対するメタ認知の変容を促し、授業改善を行った事例について研究を行い、授業改善と メンターのもつ授業に対するメタ認知が若手教員に内面化することを確認している。そこで見られる若手 教員の変容は、次のようなプロセスを経ている。特に、④の場面で、授業に対するメタ認知の変容が見ら れ、それ以降、おおきな授業改善が見られている。 ① メタ認知的支援の必要性を感じている ② 実践に対するメンターの適切な支援がある ③ 指導助言をそのまま生かそうとする ④ 指導によってうまく対応できる事例があるという実感がある ⑤ 様々な事例に適用する ⑥ メタ認知的支援の方法を獲得する。 また、Korthagen(2010)が提唱するリアリスティック・アプローチでは、省察的な教師を育成するため のプロセスとして、①行為(Action) 、②行為の振り返り(Looking back on the action) 、③本質的な諸 相への気づき(Awareness of essential aspects) 、④行為の選択肢の拡大(Creating alternative of action) 、 ⑤試行(Trial)の5つの局面からなる ALACT モデルを提唱している。 これらの先行研究から考えると、これからの変化の激しい社会やコンピテンシー・ベースのカリキュラ ムに対応していく教員養成教育において、よりよい実践へのヴィジョンをもたせるためには、次のような プロセスを繰り返していくこと必要ではないかと考えられる。 ① 目指す授業(モデル授業)を観察し、授業イメージを得る ② 観察したモデル授業についてメンターとともに振り返る ③ モデル授業で用いられている知識や技能について抽出し、身につけるべきことや目標を明確化 する ④ 抽出した知識や技能を用いた授業を計画する ⑤ 模擬授業を行う ⑥ メンターと共に模擬授業について省察し、評価する中で、そこで用いられた知識や技能のよさ を実感する ⑦ 模擬授業についての振り返りを発表したり話し合ったりして外化する このプロセスの①について、教員養成関連科目で講義型、アクティブ・ラーニング、問題解決型学習、 協同学習など、担当する教員が、学生のモデルとなるような授業を展開することが、学生によりよいヴィ ジョンを培うために重要であろう。その意味では、教職課程の授業が、一方的な知識伝達の講義型授業か ら脱却することが必要である。また、学生の様々な学習活動を保障するために、適正なクラス規模による 授業が必要となり、加えてこのプロセスを全ての学生に保障するとすれば、知識の量を精選することが必 要になる。さらには、十分な時間的な保障も必要となる。 さらには、これまで述べてきたように、変化の激しい社会に対応する教育の専門家として、教師に必要 18 − 36 − な知識や技能については、効率よく知識の量を求めることと、ディープ・アクティブラーニングなど新し い教授方法を取り入れ、時間はかかっても深い学びを求めることとのバランスが取れたカリキュラム構成 を検討することが必要である。 Ⅴ おわりに 本稿では、次期教育課程において、これまでの教育目標に加えて、汎用スキル(コンピテンシー)の育 成が、目標となるであろうことを踏まえ、今後育成することが求められる資質・能力について、これまで の動向を概観したうえで、教員養成教育において今後取り入れるべき内容について、教師に必要な3つの 知識の枠組みに分けて考察し、これまでも追求されてきた「教科目標を達成するための専門性」 、 「汎用ス キルを育成するための専門性」 、ツールとしての ICT 活用を含む「アクティブ・ラーニングなどの多様な指 導方法に対応できる専門性」の3つの方向性が重要であることを指摘した。また、知識や技能に加えて、 実践のヴィジョンの形成や授業についてのメタ認知の育成に着目し、教員養成における育成のプロセスに ついて提案した。 しかし、現実問題として考えたとき、現在の教職課程のカリキュラムから考えれば、このようなプロセ スによる授業展開が可能な科目は、少人数クラスとなっている「教育方法学」 「教育実習講義」 「教職実践 演習」などのみであり、一般大学の教職課程における教員養成カリキュラムの中で、このプロセスを十分 に実施していくことには、多くの困難があると考えられる。 また、本稿で指摘したとおり、道徳及び小学校英語の教科化、小中一貫教育の制度化とそれに伴う教員 免許制度の改革、さらには、高大接続の改革など、次期教育課程の改訂に合わせて行われる、近年にない 大きな変化に備えることも教員養成の課題であるといえる。 今後の研究課題としては、今回提案したプロセスの課題について実践的に研究し、その効果を検証する とともに、より具体的な課題を洗い出し、プロセスの精緻化を行っていくことなどが考えられる。 註及び引用文献 1) 文部科学省 HP 平成 26 年 11 月 21 日下村博文文部科学大臣記者会見による。 URL:http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/1353500.htm (最終アクセス日 2015.3.5) 2) 新井紀子(2010) 『コンピュータが仕事を奪う』 ,日本経済新聞社,P.5 3) Frey, C.B. and Osborne,M.A.(2013) ,The Future of Employment: How Susceptible Are Jobs to Computerisation? Sept. 17, 2013, unpublished manuscript available at http://www.futuretech.ox.ac.uk/sites/futuretech.ox.ac.uk/files/The_Future_of_Employment_OMS_Working_P aper_1.pdf (最終アクセス日 2015.3.5) 4) 国立教育政策研究所教育課程センター(2012) 『全国学力・学習状況調査の4年間の調査結果から今後の取組が期 待される内容のまとめ ~児童生徒への学習指導の改善・充実に向けて~ 中学校編』 ,教育出版,P.3 および P.29 など 5) Darling. Hammond, L . and Baratz. Snowden, J.編,秋田喜代美,藤田慶子訳(2009) 『よい教師をすべての教 19 − 37 − 室へ 専門職としての教師に必須の知識とその習得』 ,新曜社,P.7 6) 前掲書 5)P.8 の図 1.1 をもとに筆者が作成 7) 前掲書 5)P.5 8) 中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について(答申) 」 2008(平成 20)年 1 月 17 日,PP.7-8 9) Rychen,D.S. Salganik,L.H.,立田慶裕監訳(2006) 『キー・コンピテンシー -国際標準の学力をめざして』 , 明石書店,PP.24-25 10) DeSeCo プロジェクトは、国際化と高度情報化の進行とともに多様性が増した複雑な社会に適合することが要求 される能力概念「コンピテンシー」を、国際的、学際的かつ政策指向的に研究するため、経済協力開発機構(OECD) が組織したプロジェクトで、1997 年 12 月から活動を始め、2003 年に最終報告を行い「キー・コンピテンシー」 の概念を定義した。 11) 前掲書 9) P.222 をもとに筆者が作成 12) 前掲書 9) P.196 の図 1 をもとに筆者が作成 13) Griffin,P, .McGaw,B,Care,E編,三宅なほみ監訳(2014) 『21 世紀型スキル 学びと評価の新たなか たち』 ,北大路書房,p.46 14) 国立教育政策研究所教育課程研究センター/研究代表者 勝野頼彦(2013) 『教育課程の編成に関する基礎的研究 報告書5 社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理「改訂版」 』 http://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/Houkokusho-5.pdf (最終アクセス日 2015.3.13) 15) PISA(Programme for International Student Assessment)は、OECD が進めている国際的な学習到達度に関 する調査。15 歳児を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、2000 年から3年ごと に本調査が実施されている。先進各国で、PISA ショックといわれるような学力観の変容をもたらし、世界の教育に 大きな影響を与えている。我が国でも、いわゆる脱ゆとり路線へのきっかけを作ったといわれている。 16) 前掲書 14) P.13,図1 17) 前掲書 14) P.26,図9 18) 前掲書 14) P.27 19)重松敬一(1990) 「メタ認知と算数・数学教育 -『内なる教師』の役割」,平林一榮先生頌寿記念出版会編『数学 教育学のパースペクティブ』 ,聖文社,PP.76-128 20)全国学力・学習状況調査は、義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から,全国的な児童生徒の学力や学 習状況を把握・分析し,教育施策の成果と課題を検証し,その改善を図るとともに,学校における児童生徒への教育 指導の充実や学習状況の改善等に役立て、さらに,そのような取組を通じて,教育に関する継続的な検証改善サイク ルを確立することを目的に、平成 19 年度から文部科学省・国立教育政策研究所が実施しており、現在は、小学校第 6 学年児童と中学校第 3 学年の生徒全員を対象に、国語、算数および数学を毎年、理科を 3 年に一度実施している。 主に、知識理解をみるA問題と主として活用についてみるB問題および質問紙で構成されている学力調査である。 21)特定の課題に関する調査は、国立教育政策研究所が、学習指導要領の検証のため,指導要領の改善事項を中心に, 各教科の目標や内容に照らした児童の学習の実現状況についてペーパーテスト及び質問紙調査を実施される教育課 程実施調査や学習指導要領実施状況調査の枠組みでは把握が難しい内容、たとえば、特定の教科の内容に依らない論 理的思考に関する調査などについて、児童生徒を対象としたペーパーテスト又は実技調査、質問紙調査を抽出調査で 実施している調査のことである。 ,Active learning Creating excitement in the Classroom.,の松下佳代氏に 22) Bonwell,C.C., and Eison,J.A.,(1991) よる訳出を、松下佳代(2015) 『ディープ・アクティブラーニング 大学授業を深化させるために』 ,勁草書房,PP.1-2 20 − 38 − から引用した。 23)松下佳代(2015) 『ディープ・アクティブラーニング 大学授業を深化させるために』 ,勁草書房,P.32 参考文献 (1) Brown ,A.L.,(1978) Knowing When, Where, and How to Remember : A Problem of Metacognition. Advances in Instructional Psychology, Vol.1(Ed.)Robert Glaser 湯川良三,石田裕久共訳(1984) 『メタ認知』 ,サイエン ス社 (2) Flavell, J.H.,(1976) “Metacognition aspects of problem solving”:L.Resnick(Ed.)”The nature of intelligence” Hilsadle NJ : Erlbaum, pp.231-236 (3) Flavell, J.H.,(1979) “Metacognition and Cognitive monitoring”: A new area of cognitive-developmental inquiry. American Psychologist 34 pp.906-911 木下芳子訳(1981) 「メタ認知と認知的モニタリング」 ,波多野 誼余夫(監訳) 『子どもの知的発達』 ,金子書房 PP.44-59 (4) Korthagen,F 編著,武田信子訳(2010) 『教師教育学 理論と実践をつなぐリアリスティック・アプローチ』 , 学文社 (5)三宮真知子(2008) 『メタ認知 学習力を支える高次認知機能』 ,北大路書房 (6) 重松敬一、勝美芳雄、上田喜彦(2010) 「数学教育におけるメタ認知の研究(24) : メタ認知的支援の実践によ る教師の指導観変容システムの開発」,数学教育論文発表会論文集 43(2), 日本数学教育学会,PP.507-512 (7) 重松敬一、勝美芳雄、上田喜彦(2011) 「数学教育におけるメタ認知の研究(25) メタ認知的支援による教師の 指導観変容システムの開発 2」,数学教育論文発表会論文集 44(1), 日本数学教育学会,PP.147-152 (8)立田慶裕(2014) 『キー・コンピテンシーの実践 学び続ける教師のために』 ,明石書店 (9) 育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会(2014)「育成すべき資質・能 力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会― 論点整理―」,文部科学省HP(最終アクセス日 2015.3.5) (10) 教育職員養成審議会(1997)「新たな時代に向けた教員養成の改善方策について(教育職員養成審議会・第 1 次答申)」,文部科学省 HP(最終アクセス日 2015.3.5) (11)中央教育審議会(2008) 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善につい て(答申) 」 ,文部科学省 HP(最終アクセス日 2015.3.5) (12)中央教育審議会(2015)「子供の発達や学習者の意欲・能力に応じた効果的な教育システムの構築について(答 申)」,文部科学省HP(最終アクセス日 2015.3.5) (13)中央教育審議会(2005) 「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」,文部科学省HP(最終アクセス日 2015.3. 5) 21 − 39 −