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進捗状況報告書 - 共生環境評価領域

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進捗状況報告書 - 共生環境評価領域
平成16年度
環境技術開発等推進事業
(自然共生型流域圏・都市再生技術研究)
進捗状況報告書
研究開発課題名
流域圏自然環境の多元的機能の劣化診断手法と健全性回復施策
の効果評価のための統合モデルの開発
平成17年4月5日
研究代表者
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 加賀昭和
口絵1
流域圏構成要素の位置づけと
要素モデル群
口絵2
各研究グループのテーマと新しい関係づけの可能性
口絵 3
イソプレンの排出量分布
口絵4
モノテルペンの排出量分布
AE の河川濃度分布(晴天時)
口絵 5
AE の河川濃度分布(雨天時)
AE の河川濃度分布
クロロホルムの河川濃度分布(晴天時)
口絵 6
クロロホルムの河川濃度分布(雨天時)
クロロホルムの河川濃度分布
口絵 7
安威川流域の仮製地形図(1885 年∼1889 年)
口絵 8
安威川流域の明治期の土地利用状況の復元図
口絵 9
口絵 10
安威川流域の明治期∼1996 年の間の農地の変化
安威川流域の明治期∼1996 年の間の山林・緑地の変化
市街地
農地
山林・緑地
口絵 11
拠点集中型シナリオで
設定した土地利用配置
市街地
農地
山林・緑地
口絵 12
分散拠点型シナリオで
設定した土地利用配置
市街地
農地
山林・緑地
口絵 13
山林間居住型シナリオで
設定した土地利用配置
口絵 14
市街地
農地
山林・緑地
水面
対象地域の 1996 年の土地利用(3次メッシュ化)
口絵 15
口絵 16
市街地
農地
山林・緑地
水面
土地利用変化のトレンドから予測した 2050 年の土地利用
市街地
農地
山林・緑地
水面
土地利用変化のトレンドから予測した 2100 年の土地利用
口絵 17
淀川流域圏周辺の代表樹種
淀川流域圏周辺の平均樹齢
炭素蓄積量(シナリオ1)
炭素蓄積量(シナリオ0)
口絵 19
口絵 18
炭素蓄積量(シナリオ0)
口絵 20
炭素蓄積量(シナリオ1-20)
炭素蓄積量(シナリオ2)
炭 素蓄積量(シ ナリオ1)
口絵 21
炭素蓄積量(シナリオ1-40)
口絵 22
炭素蓄積量(シナリオ2-20)
花粉生産量
炭素蓄積量(シナリオ2)
10
[10 個/ha/year]
口絵 23
炭素蓄積量(シナリオ2-40)
口絵 24
平作時の単位面積あたりの
花粉生産量(シナリオ1)
花粉生産量
10
[10 個/ha/year]
口絵 25
平作時の単位面積あたりの
花粉生産量(シナリオ2)
目次
1. 研究開発の全体計画(加賀昭)
・・・1
2. 研究体制・アドバイザリボード(加賀昭)
・・・5
3. 進捗状況
・・・7
3-1 平成 16 年度の重点課題と進捗状況の概要(加賀昭)
・・・7
3-2 流域圏環境情報の収集整理とデータベース化
・・・9
3-2-1 環境情報の収集とデータベース構築
・・・9
(1)収集データ(加賀有)
・・・9
(2)システム構築(加賀有)
・・・10
(3)公開 WEB のイメージ(福田)
・・・12
3-2-2 水・物質・エネルギの循環収支算定
・・・17
(1)気象モデル(近藤)
・・・18
(2) 水文モデルと化学物質循環モデル(近藤)
・・・24
(3)地表面熱・水分収支モデル(下田・鳴海)
・・・30
(4)道路交通ネットワーク(松村)
・・・36
3-2-3 流域圏自然の住民参加型景観評価プロトタイプシステム構築(加賀有)
・・・41
3-3 流域圏自然のモニタリング・機能の定量化
・・・50
3-3-1 沿岸域の流動・水質・生態系のモニタリング(西田・入江)
・・・50
3-3-2 微生物に着目した河川生態系機能の評価(池・清)
・・・53
3-3-3 水生昆虫を用いた環境評価(玉井)
・・・65
3-3-4 流域圏生態系の二酸化炭素吸収機能評価(町村)
・・・77
3-3-5 流域圏生態系の光化学オキシダント制御機能評価(鳴海・近藤)
・・・84
3-4 施策プログラムの立案計画
・・・91
3-4-1 土地利用・都市再配置計画
・・・91
(1)土地利用シナリオおよび土地利用データの作成(澤木)
・・・91
(2)沿岸域の水質改善に向けた地形改変(西田・入江)
・・・97
3-4-2 流域圏森林整備計画
・・・99
(1)森林管理計画のシナリオ、数理モデルの概要(町村)
・・・99
(2)森林簿を利用したバイオマス量及び花粉生産量の推定(井上)
・・・102
3-4-3 ヒートアイランド緩和対策(鳴海・近藤)
・・・109
3-5 関連研究
・・・114
3-5-1 酸性物質の森林への霧水による沈着量(平木)
・・・114
3-5-2 都市公園の音環境に関する空間的分析(青野)
・・・121
4. 第4回検討会記録
・・・126
謝辞
・・・134
発表論文
・・・135
1.研究開発の全体計画
我が国では、河川流域を単位として自然の水循環を中心とした自然基盤により、河川に沿って都市が成
立し、発展してきた。しかし、現在、巨大化した都市活動がもたらす多大な環境負荷により、都市が成立
するための流域圏自然基盤が脆弱化しており、流域圏全体の自然環境保全・修復が求められている。また、
巨大化した都市では、高環境負荷と自然環境システムの後退・劣化という環境の現状を改善し、自然との
ふれあいの機会を増進し、健康、安全・安心かつ快適な都市の居住環境への向上が必要とされている。
本研究が対象としようとしている淀川流域圏は、利根川につぐ日本第2の流域人口をもち、下流部に横
浜市につぐ人口密度をもつ大阪市を抱えている。また、淀川流域圏は、日本で最初に文明が発達した地域
でもあり、人間活動による流域圏自然への負荷と、治山・治水などを目的とした自然改修の歴史も、日本
でもっとも長い。
本研究では、流域圏都市の活動基盤である流域圏自然環境が、本来多元的な機能をもつことに着目し、
淀川流域圏を対象としてその機能の定量化をめざすとともに、都市活動の影響による機能劣化の現状を定
量的に評価・診断するための手法の開発を試みる。その過程で、生態系の健全性を統合的に評価する指標
となり得る、自然生態系の新しいモニタリング手法の開発研究を併せて実施する。
さらに、都市活動が流域圏自然の多元的な機能の劣化に及ぼす影響を定量的に表現できる統合モデルを
開発し、流域圏の健全性回復のためのいくつかの施策を立案して統合モデルとの連結によりその効果評価
を試みることで、地域特性に応じて重視すべき機能を選択しつつ自然共生を図る都市再生への、新しい技
術的方法論を探る。
多くの社会的・自然的要素が複雑に絡み合って成立している流域圏環境を統合的に扱うこのアプローチ
は、環境研究をより実践的なものへと進化させる上での必須の過程であると考えている。
研究開発は以下の項目について段階的に実施する。(図1-1参照)
テーマ1 流域圏環境情報のデータベース化
課題(1) 流域圏環境情報の収集・整理とデータベース化
淀川流域圏において、自然環境資源(河川・水域・緑地・山林等の地理情報、植生・水源等の資源情報、
気象情報など)、都市基盤(下水道、交通、廃棄物処理など)、都市活動(人口、社会活動、土地利用な
ど)に関する情報を収集・整理し、データベース化を行う。データベースはGISをベースとしたネットワ
ーク対応のものを構築し、本研究の実施過程で得られる高次の流域圏環境情報を追加蓄積したのち、最終
年度には市民にもわかりやすいかたちの環境情報提供サイトとして一般公開する。
課題(2) 水・物質・エネルギの流域圏循環・収支の算定
水・物質(資源物質および微量環境負荷物質)・エネルギについて、淀川流域内循環・蓄積量と流域外に
対する流入・流出量を定量的に把握する。この算定にあたっては、各種統計データの収集・解析とともに、
気象・水文・海域流動・微量物質循環・地表面熱収支などの要素モデルを必要に応じて構築し活用する。
また、流域圏でのエネルギー消費と都市大気環境への有害物質排出負荷の大きな要因となっている道路交
通を、土地利用、都市活動との関係において記述するネットワークモデルもあわせて構築する。
1
図 1-1 研究開発の全体計画
課題(3) 流域圏都市機能の指標化
都市基盤情報、都市活動情報にもとづいて淀川流域圏の地域構造を把握するとともに、都市化・都市活
動量・利便性・快適性・安全性などの都市機能を指標化する。快適性に関しては、とくに親水空間・ビオ
トープ・里山などの身近な流域圏自然環境が都市住民に与える快適性の構造を、調査研究等により明らか
にする。指標化にあたっては、統計データの収集・解析、各種調査のほかに、とくに自然の快適性供与機
能のひとつである自然景観に対する住民評価の調査を、計画・実施する。
テーマ2 流域圏自然環境の多元的機能の定量化と診断
流域圏自然環境がもつ多元的な機能を評価し、都市活動の影響による機能劣化の程度を診断することを
試みる。診断にあたっては、機能が定量化できたものについては、その数値の流域内での時空間的な相対
比較、他流域との相対比較、また、生態影響の知られている人間活動からの負荷については、要素モデル
により算定した負荷と感受性から評価した生態リスクを用いる。河川生態系に対しては、河川環境中の微
生物がもつ汚染浄化機能を、DNAレベルと活性レベルで評価・モニタリングする手法を、実験的手法に
より開発して利用する。また、底生昆虫の生息状況にもとづく指標により、生物からみた河川環境の良否
を総合的に診断することも試みる。森林生態系に対してはその健全性を総合的に評価できる指標として、
植物ストレスを直接計測する手法の可能性を実験的に検討するとともに、二酸化炭素吸収機能についても
評価する。
2
テーマ3 都市活動が流域圏自然環境の機能に及ぼす影響の評価モデルの構築
テーマ1,2 で得られた結果を定量的に関連づける仮説を定式化し、開発済みの要素モデルと結合す
ることにより、都市活動が流域圏自然環境の機能に及ぼす影響を表現できる統合モデルを構築する。その
際、モデル入力をGIS上のデータからとり、出力をGIS上に返すかたちをとることで、都市活動や流域圏
基盤に関する情報が変化したときの、都市機能および自然生態系への統合的な影響・効果を、時空間的に
把握しやすい提示形式とする。最終年度には、評価モデルを可能な限りソースプログラムのレベルから一
般公開する。
テーマ4 施策プログラムの立案と効果評価
構想すべき施策プログラムとして、以下のものを計画している。(図1-2参照)
1)
土地利用・都市再配置計画
流域圏の人口・年齢構成の将来動向、気候変動による気温上昇などをシナリオとして設定したうえ
で、地域特性に応じて重視すべき機能を選択しつつ自然との共生を図る、淀川流域圏の土地利用・
都市の再配置の将来像を構想する。沿岸域については、海域の水質改善施策としての地形改変ある
いは過去の状態への復元計画を構想する。
2) 流域圏森林管理計画
淀川流域圏は50%以上の森林面積をもつが、その大部分が二次林および植林地であり、林業不振に
よる植林地の管理不足に起因する森林劣化が懸念される。過去から現在までの流域圏森林の健全性
とその機能の変遷を評価したうえで、それらを維持あるいは改善してゆくための森林管理の将来計
画を構想する。そのために必要となる森林生態系の数理モデルもあわせて構築する。
3) 都市内自然環境の整備・活用計画
流域圏都市が保有している都市公園・河川敷公園・鎮守の森などの都市内自然の、将来に向けての
整備・拡充計画を構想する。さらに、近年ますます顕著となっている都心部のヒートアイランド現
象を緩和する施策としての、建築物周辺での水と植生の活用策もあわせて検討する。
図 1-2 施策の時空間的広がり
3
以上の全体計画における、流域圏構成要素の本プロジェクトでの位置づけと、それらの関係を記述すべ
く開発する要素モデル群および検討施策との関係を口絵1に示している。流域圏の天と地の間に人が住ま
い、土地を利用することによって、自然が改変され、都市を含む流域圏の環境が変化し、さまざまな環境
問題が生じている、という構図の上流部分に施策を考えることによって、流域圏の各構成要素がどのよう
に望ましい方向に変わりうるのか、を明らかにしようとするのが、本プロジェクトの基本的アプローチで
ある。また、本プロジェクトは後述のように、多様な専門分野をもったメンバーから構成されており、各
グループ間の成果をすり合わせる段階で、従来にはない境界領域での新しい関連づけの可能性を随所に含
んでいる。その一例を口絵2に示している。
4
2.研究体制・アドバイザリボード
平成16年度の研究メンバーは、大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻を中心とする地球総合工学系
専攻の若手教員を中心に構成された。
研究代表者
研究分担者
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 気圏環境工学領域
教授
加賀昭和
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 都市環境デザイン学領域
教授
澤木昌典
大阪大学大学院人間科学研究科人間科学専攻 人間行動学講座
助教授 青野正二
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 生物圏・水環境工学領域
助教授 池 道彦
大阪大学大学院工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻 技術知マネジメント講座
助教授 加賀有津子
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 気圏環境工学領域
助教授 近藤 明
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 環境エネルギーシステム学領域
助教授 下田吉之
大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 地球保全総合工学領域
助教授 玉井昌宏
大阪大学大学院工学研究科土木工学専攻 水システム工学領域
助教授 西田修三
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 環境設計情報学領域
助教授 福田知弘
大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻 地球循環共生工学領域
助教授 町村 尚
大阪大学大学院工学研究科ビジネスエンジニアリング専攻 技術知マネジメント講座
助教授 松村暢彦
大阪大学大学院工学研究科土木工学専攻 水システム工学領域
助手
入江政安
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 気圏環境工学領域
助手
井上義雄
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 生物圏・水環境工学領域
助手
清 和成
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻 環境エネルギーシステム学領域
助手
鳴海大典
財団法人ひょうご環境創造協会環境技術部
次長
玉置元則
兵庫県立健康環境科学研究センター大気環境部
研究主幹 平木隆年
5
本研究では、研究の適切な進行を図る目的でアドバイザリボードを設け、関連分野において指導的立場
にある先生方に委員を委嘱し、検討会を通じて指導を仰いでいる。
アドバイザリボード委員は次の先生方である。
放送大学
教 授
国際連合大学
特別学術顧問
鈴木 基之
教 授
藤田 正憲
教 授
碓井 照子
教 授
桑野 園子
教 授
中瀬
大阪大学大学院工学研究科環境工学専攻
奈良大学文学部地理学科
大阪大学大学院人間科学研究科人間科学専攻
姫路工業大学自然・環境科学研究所
勲
元日本気象協会相談役
中野 道雄
大阪産業大学人間環境学部都市環境学科
教 授
村岡 浩爾
教 授
森山 正和
神戸大学工学部建設学科
6
3.進捗状況
3.1 平成16年度の重点課題と進捗状況の概要
16年度は、14,15年度の重点課題であった上記テーマ1、2をさらに進めるとともに、「テーマ4 施
策プログラムの立案と効果評価」に掲げた施策プログラム案のいくつかについて、シナリオ作成のための
準備、特定地域におけるシナリオ作成の試行、施策効果の一部に対する簡易算定などを実施した。「テー
マ3 評価モデルの構築」に関しては、テーマ1の進展の中で要素モデルとなるものの開発が進められて
おり、17年度にはこれらが統合されて評価モデルとなる。
課題(1) (流域圏環境情報の収集・整理とデータベース化)に関しては、これまでに、淀川流域圏の
自然環境情報、都市基盤情報、都市活動情報に関する既存の数値情報、統計資料、画像情報を収集し、
研究者間で共同利用可能な、空間データベース共有管理システムを構築し、運用を開始している。16
年度は追加収集されたデータと、17年度中にプロジェクトの成果として付け加わることが見込まれる
高次デーをも加えて、データを分類・再整理した。また、システム構成においては、インターネットを
通じて外部研究者からもデータベースがアクセスできる仕組みを導入した。さらに、本プロジェクトの
研究成果である環境情報データベース、評価モデル、施策プログラム案とその効果評価結果を WEB を
通じて一般公開する際のシナリオ及び画面の概略設計を行った。17年度はこのシナリオに基づいて、
プロジェクトの成果を順次、公開用データに変換していく。
課題(2)(水・物質・エネルギの循環・収支算定)に関しては、水・物質・エネルギの循環・収支モデ
ルの枠組みを、気象モデル、水文モデル、沿岸海域流動・水質・生態モデルで構築し、モデル間の界面を
地表面熱・水分収支モデルで結合し、微量化学物質循環モデルが媒体間の物質循環を横断的に評価すると
いう枠組みが15年度までに構築されている。各モデルについても16年度中にほぼ完成した。本報告書
では、淀川流域圏に対して、大気モデルについては森林からのVOC発生に着目したオキシダント濃度の算
定例を、水文モデルと化学物質循環モデルについては、降雨流出解析とPRTR物質の河川水中濃度算定
例を、地表面熱・水分収支モデルについては、地表面気温の算定例を、それぞれ示している。沿岸海域流
動・水質・生態モデルについては大阪湾岸でのCOD、窒素、DOの算定結果を15年度報告書ですでに提
示している。17年度は、各モデルを有機的に結合するインターフェースの開発とモデル公開に向けてユ
ーザーインターフェースの開発を実施する。
また、都市の機能を決定する重要な要因であり、流域圏でのエネルギー消費と大気環境への有害物質排
出負荷に対しても大きな要因となっている自動車交通を、本プロジェクトでは、流域において着目すべき
要素の一つとして取り上げている。交通計画,都市計画の多様な代替案シナリオを評価するための準備と
して、16年度は淀川流域圏域の交通状況の現状を再現するシミュレーションモデルを構築した。
課題(3)(流域圏都市の活動量・利便性・快適性の指標化)に関しては、流域圏都市についてその地域
構造の把握、利便性・快適性・安全性・都市ポテンシャル等の都市機能指標を既存のデータから算定する
試みについては15年度報告書で提示した。16年度はあらたに、地域整備や自然環境の整備・活用に深
く関係する景観に対して、住民側がどのように現状を認識し評価しているのかを把握するための試みとし
て、GPS機能を有したカメラ付き携帯電話を利用した流域圏自然の住民参加型景観評価のプロトタイプシ
ステムを構築した。
7
テーマ2 流域圏自然環境の多元的機能の定量化と診断に関しては、
1) 河川生態系に対して、河川微生物による化学物質の分解ポテンシャル、遺伝子型に基づく窒素循環関
与微生物・遺伝子の定量的検出、16S rDNAに基づく微生物群集の多様性および構造解析の手法をそれぞ
れ確立し、淀川水系の河川環境について、それらの手法を適用したモニタリングを、16年度も継続実施
している。また、河川生態系に関して、16年度はあらたに、淀川流域での底生昆虫の生息状況から得ら
れる多様性などの指標と、生息環境要素との関連性を調査・分析し、生物からみた河川環境の良否の支配
要因を探ろうとした。
2) 沿岸域生態系に対して、大阪湾湾奥部(淀川河口沿岸域)における生物生息環境の評価に向けて、そ
の支配因子である水質、流況、気象に関する現地観測を、16年度も継続実施している。
3) 森林生態系に対して、16年度はあらたに,流域圏生態系の二酸化炭素吸収機能モニタリング手法開
発および事例研究として,淀川流域圏の代表的森林植生のひとつであるアカマツ二次林において生態系炭
素循環の長期観測を実施した。年間を通しての観測とはなっていないため、17年度も継続して観測を実
施する。
テーマ4 (施策プログラムの立案と効果評価)に関しては、
1) 淀川流域圏に対する土地利用・都市再配置計画を立案するための導入として、16年度は安威川流域
を中心とするエリアに対して、自然的土地利用を重視した複数のシナリオに基づいた土地利用を導出し、
現状からの変更の程度、交通利便性の変化などを評価した。17年度はこれを淀川流域全体に拡大して評
価モデルの入力とし、総合的な評価を行う。
2) 淀川河口域を含む大阪湾奧部の水質改善策として、沿岸域地形の改変あるいは過去の状態への復元が
考えられる。16年度は現状の防波堤を除去した場合のDO濃度改善効果を、要素モデルにより検討した。
3) 流域圏森林管理計画に対して、16年度は GIS と森林生態系・森林経済数理モデルを組み合わせ,
流域圏森林の多面的機能を評価するための、研究方法の整理をおこなった。また、あわせて、森林簿に
基づく現状データと簡単な成長予測式とによる、流域圏森林のバイオマス量、スギ・ヒノキ花粉生産量
の将来予測を、いくつかのシナリオに対して実施した。
以下に各課題ごとの進捗状況を説明する。
8
3−2
流域圏環境情報の収集とデータベース化
3−2−1
環境情報の収集とデータベース構築
(1)収集データ
プロジェクトではこれまでに、流域圏環境を構成する情報のうち、主に自然環境情報(地理、
気象、植生、その他生態系指標など)、都市基盤情報(土地利用、施設、建物・住宅・インフラ
ストックなど)、都市活動情報(産業活動、地価、交通動態、社会経済指標など)について、利
用可能なデータの所在を調査するとともに、数値地図、国土数値情報、国勢調査などから本研
究を遂行するにあたり基礎情報として必要と思われるデータの収集を行ってきた。16年度は、
プロジェクトの進行にともなってあらたに収集・加工されたデータをこれに加えるとともに、
17年度中にプロジェクトの成果として付け加わることが見込まれる高次デーをも加えて、デ
ータを分類・再整理した。(表 3-1)
表 3-1
名称
数値地図2500
行政界・海岸線
鉄道・道路
JMCマップ
空間データ基盤
空間データ基盤
(水域)
土地関連
航空写真デジタルオル
ソ画像
地域分類
流域圏環境情報データ一覧
項目、内容
行政区域・海岸線,街区,道路
中心線,道路中心線,車道・歩
道境界・道路界,河川中心線・
河川境界,鉄道、駅、ベクタ線
情報,内水面、公園等の場地,
建物,測地基準点
市町村の境界線、海岸線
駅、全鉄道、JR 公営鉄道
民営鉄道、高速道路、国道、
主要地方道、高速自動車道及
び自動車専用道、一般都道府
県道、その他道路
行政界(都道府県、市町村
道路(高速、国道、・・・)
鉄道(JR、私鉄)
河川・湖沼(流路、湖沼界)
都市計画区域,自然公園,自然
環境保全区域,農業地域,森林
地域,指定地域新名称,鳥獣保
護区域
指定地域メッシュ
5地域鳥獣保護区・自然公園
沿岸地域ライン
漁港・港湾・漁礁・改定施設
線・環境基準類型方・鉱区・生
活環境項目・水産動物保護・
航路・漁業権等
沿岸海域メッシュ
水深・底質・渦流・藻場・磯
釣り場・潮流
沿岸陸域ライン
埋立・干拓地域、海岸線、海
水浴台帳、空港、砂利採取
地、自然公園区域、国土保全
関連情報、低地地形分類、地
盤沈下地域等
自然地形メッシュ
標高・傾斜度・山岳・谷密
度・地形地質・土壌
気候値メッシュ
降水量・気温・積雪
ダム
位置、コード、規模、貯水
量、竣工日
すべての河川
河川
有名な河川、主流を抽出
流域界・非集水域メッ 流域境界線
シュ
サブ流域境界線
流域3次メッシュ群
河川水系値テーブル
河川単位流域台帳・水系域流
路延長・水系域人口
湖沼
短辺100m以上の湖沼の位置、
面積
湖沼メッシュ
名称、水面標高、最大水深
河川・湖沼
河川流路 湖沼の水涯線 湖
沼内河川
水系域流路延長
河口からの延長距離、河床標
高値
流路延長メッシュ
種類別流路延長
流域界・非集水域
位置、コード
100mメッシュの代表土地利用
土地利用メッシュ
区分
3次メッシュ内の土地利用面積
割合
標高・傾斜度メッシュ 平均標高・傾斜度など
土地分類
地形・地質・土壌分類
自然環境情報GISデータ 現存植生、特定植物群落分
布、巨樹、巨木林分布、動植
物分布、湿地分布、藻場分
布、干拓分布
植生区分、集約群落
データ形式
空間
領域範囲
解像度
GIS(.shp)
近畿1、近
畿2、中部
2
ベクタ線情
報、ポリゴ
ン、点情報
GIS(.shp)
GIS(.shp)
近畿
全国
座標(面)
座標(線)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
JPEG,TIFF画像
全国
全国
全国
全国
淀川流域
座標(線)
座標(線)
座標(線)
座標(線)
ラスタ画像
時間
時間範囲
1995−1999
1995
4
一次・二次の別
(一次の場合データソース)
(二次の場合算出法)
一次 国土地理院 数値地図
一次 国土数値情報
一次 国土数値情報
一次 国土地理院 JMCマッ
一次 プ
一次
一次
国土数値情報
GIS(.shp)
GIS(.shp)
近畿
全国
3次メッシュ
座標(線)
1985
1984
一次 国土数値情報
一次 国土数値情報
GIS(.shp)
全国
3次メッシュ
1990
一次 国土数値情報
GIS(.shp)
全国
座標(線)
1984
一次 国土数値情報
GIS(.shp)
全国
メッシュ
1981
GIS(.shp)
GIS(.shp)
全国
淀川流域
3次メッシュ
座標(点)
1953−1982
1995
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
淀川流域
淀川流域
淀川流域
淀川流域
淀川流域
全国
座標(線)
座標(線)
座標(面)
座標(面)
3次メッシュ
表
1995
1995
1977
1977
1977
1995
1.5次
1.5次
1.5次
1.5次
1.5次
一次
GIS(.shp)
全国
座標(面)
1975
一次 国土数値情報
GIS(.shp)
GIS(.shp)
全国
全国
メッシュ
座標(線)
1982
一次 国土数値情報
GIS(.shp)
全国
座標(点)
1977
一次 国土数値情報
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(ラスタ)
全国
全国
淀川流域
メッシュ
座標(面)
ラスタ
1977
1977
1976 1987 1991 1997
の4ヵ年
1976 1987 1991 1997
の4ヵ年
1981年
一次 国土数値情報
一次 国土数値情報
1.5次 国土数値情報
GIS(.shp)
淀川流域
3次メッシュ
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
淀川流域
淀川流域
全国
3次メッシュ
座標(面)
座標(面)
1979 1986 1992 1996
の4ヵ年
GIS(.shp)
淀川流域
3次メッシュ
1996
植生自然度
GIS(.shp)
淀川流域
3次メッシュ
1996
レッドデータブック
植生ストレス
O3ストレスポテンシャル
GIS(.shp)
淀川流域
3次メッシュ
現在
森林簿ポリゴン
樹種、樹齢、材積・・・
GIS(.shp)
淀川流域
約100m2単位ポ 現在のみ
リゴン
植生・生態系
時間間隔
9
一次 国土数値情報
29
一次 国土数値情報
1.5次 国土数値情報
国土数値情報
国土数値情報
国土数値情報
国土数値情報
国土数値情報
国土数値情報
1.5次 国土数値情報
1.5次 国土数値情報
1.5次 国交省国土調査H.P.
一次 自然環境保全基礎調
査
1.5次 自然環境保全基礎調
査
1.5次 自然環境保全基礎調
査
一次
季節別・ 二次 樹種・O3濃度・感
時刻別
受性から
二次 森林簿と林班ポリゴ
ンを結合
自排局データ
気象・大気環境
アメダス
地表面温度分布
大気汚染物質排出量
大気汚染濃度
河川、湾域水質
水域環境
水系微生物
マルチメディア環境 循環・蓄積量
道路・交通量データ
交通
国勢調査
都市活動
事業所・企業統計調査
都道府県編
宅地・土地統計調査
都道府県編
流域内市町村界図
都市指標マップ
風速、風向、気温、湿度等の
気象データ Nox、No、SO2、
O3、CO等の大気質データ
風速、風向、気温、雨量の
データ
ヒートアイランド
HC,NOX,SOX
HC,NOX,SO2,O3
BOD,COD,T-N,T-P,(DO,NO3N,NH4-N,植物プランクトン)
化学物質分解ポテンシャル、
窒素循環ポテンシャル、微生
物多様性
POPs,PRTR対象物質
主道路長、細道路長、車種別
交通量
第一次基本集計を町丁・字等
別集計結果に対応する地域境
界線、面積、人口、世帯及
び、属性
人口密度、都市公園面積率、
将来高齢化率等
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
GIS(.shp)
淀川流域圏
近畿
近畿
淀川流域圏
3次メッシュ
3次メッシュ
3次メッシュ
淀川水系
GIS(.shp)
GIS(.shp)
淀川流域圏
1990−1995
5
1987−1995
8
一年の内のある時間
一年の内のある時間
一次
一次
二次 モデル計算結果
二次
二次 モデル計算結果
二次
季節別
モニタリング結果
3次メッシュ
3次メッシュ
ある年
二次 モデル計算結果
一次
GIS(.shp)
ARC/VIEW
シェープ形式
2000
一次
GIS(.shp)
2001
一次
1998
一次
現在
現在
二次 国勢調査CDデータよ
り抽出
二次 市区町村基礎データ
(昭和55年∼平成13
年)、日本の市区町
村別将来推計人口(平
成15年)より抽出
GIS(.shp)
淀川流域圏
ARC/VIEW
シェープ形式
ARC/VIEW
シェープ形式
市区町村単位
GIS(.shp)
淀川流域圏
市区町村単位
GIS(.shp)
WEBによる公開からは除
くもの
(2)システム構成
構築した流域環境データベースシステムは、データ運用・管理にとって標準的あるいは汎用
性・拡張性の高い形式で共有データが取り扱いやすく、モデリング機能や機能拡張性に富むこ
とから ESRI 社製 ArcGIS をベースしたシステムを構築している。
本研究における共同研究者がそれぞれ、さまざまな共有データへの容易なアクセスを可能に
するシステム構成としている。具体的には、データの解析を行える仕組みとして、ネットワー
ク上で様々なデータが共有できるようにデータベースサーバを設置し、ArcSDE とリレーショナ
ルデータベース Oracle を組み合わせている。さらに、インターネットを通じて外部研究者から
もデータベースがアクセスできる仕組みとして、ArcIMS を導入している(図 3-1)。
<基本構成>
・
ArcGIS:GIS データ作成・編集・分析ソフト
:10ライセンス
・
ArcIMS:Web 用 GIS ソフト
:
1ライセンス
・
ArcView:GIS データ作成・編集ソフト
:
8ライセンス
・
Oracle Database Standard :データベース用ソフト
:20ライセンス
・
データベースサーバ用 PC
:
2セット
・
プリント・スキャナサーバ用 PC
:
1セット
・
A0 カラースキャナー
:
1セット
・
A0 カラープリンター
:
1セット
10
図 3-1
平成 16 年度までに構築したシステム構成
11
(3)公開 WEB のイメージ
研究成果を広く公開するために、各テーマで検討中の流域圏環境情報を統合モデル化し、Web
より配信するためのシナリオ及び画面の概略設計を行った。公開 Web にアクセスするユーザは、
本研究テーマに関する専門性やコンピュータに関する専門性、年齢などが様々であることが想
定できる。そこで、Web 配信する際には、どのようなユーザに、どのような内容を、どのよう
な形で見せるか、といったシナリオを十分に検討する必要がある。シナリオの概略設計の内容
を以下に示す。
まず、図 3-2 中③のようなトップページが表示される。本ページでは、流域圏プロジェクト
の概要を示すと共に、ユーザが選択できるように「講義編」「実習編」「パワーユーザ編」の 3
つの入り口を用意している。
「講義編」では、高校生以上の一般ユーザ及び専門家(自治体、環境関連研究所など)を対
象としており、現状、1970 年、2035 年の流域圏環境情報を比較しながら閲覧することで淀川流
域圏を理解することを目指す。2035 年の環境情報については、本研究プロジェクト参画メンバ
ーが、ある施策シナリオに基づいてシミュレーションした結果のみを提示させる。公開 Web の
画面イメージとしては、図 3-2 中⑤∼⑩のようになる。すなわち、大項目(自然・人工社会基
盤:森林植生、広域気象、土地基盤、住まい方、社会資本、環境負荷、安全性・快適性指標:
都市微気象、大気環境、森林生態系、河川生態系、河川環境、沿岸海域環境、有害化学物質)
別にシミュレーション結果を閲覧できる画面群と、それらをオーバーラップさせながら閲覧で
きる WebGIS 画面で構成される。各大項目の画面から、必要に応じて小項目の画面へとリンクさ
れ、詳細内容を閲覧することも可能である。
「講義編」では、特にコンピュータ操作に不慣れな
ユーザも多数アクセスすることが予想される。そこで WebGIS の画面では、画面の拡大・縮小な
ど基本的な操作を提供するに留める他、多数のレイヤーを表示した時に操作性が悪くなること
を防ぐため、レイヤーの構造化を行い、縮尺などの変更に対し表示内容を変更することも考慮
する。
「実習編」では、専門家(自治体、環境関連研究所など)自身が施策シナリオを立案すると
共に、そのシナリオに基づいたシミュレーションができることを目指す。具体的には、図 3-2
中⑪に示すように、ユーザが自然環境(樹種など)、社会基盤(土地利用分類など)、環境負荷
排出(人口廃熱など)それぞれの施策シナリオを立案し、パラメータを設定してシミュレーシ
ョンを行う。画面イメージとしては、図 3-2 中⑪∼⑭のようなフローとなり(図では講義編と
重複している画面は省略)、シミュレーション結果は「講義編」と同じように、大項目別に構成
された画面群と WebGIS 画面で閲覧することができる。パラメータの設定方法については、値を
ユーザが直接入力してシミュレーションする方法も考えられるが、シミュレーションプログラ
ムによっては、時間をかなり要するものもある。そこでこの方法は「パワーユーザ編」で提供
することとし、
「実習編」では考えうるパラメータ値を予め用意する方法を考える。項目毎に考
えうるパラメータを検討した結果、236 通りのパターンを用意する必要があることが明らかと
なった。
「パワーユーザ編」では、シミュレーション用のデータとプログラムをユーザ側 PC にダウン
ロードさせて、パラメータ値も自由に設定しながら、ユーザ独自の施策シナリオ決定と評価を
行うことを目指す。ユーザは、専門家(自治体、環境関連研究所など)の中でも自分でプログ
ラムをダウンロードしてシミュレーションできる、所謂パワーユーザを想定している。
12
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
13
図 3-2
⑨
⑩
⑪
⑫
⑬
⑭
公開 Web の画面イメージ
上に述べたような公開 Web の概略設計を行うにあたり、既存の WebGIS サイトを調査した。以
下に URL を記述する。調査の結果、全体的に GIS の技術 PR 的要素が強いものが多く、見た目が
美しくない、操作が煩雑で難しい、データ更新に時間がかかり操作しにくい、データが十分に
構造化されておらず閲覧しにくい、などの問題点が明らかになった。WebGIS で閲覧することの
良さは、各レイヤーに格納された様々なデータを組み合わせてオーバーラップさせることで、
様々な観点からの分析や予想しなかった新たな発見ができる点にある。これは、GIS 画面を画
像データとして表示することでは実現できない。技術的には開発途上の面もあるが、クライア
14
ント PC のスペックや通信環境などを考慮しながらデータ量やインターフェース設計を行うこ
とで、ユーザに負担のかからない閲覧方法を検討する必要がある。
・WALTER(図3-3)
http://java.arid.arizona.edu/ahp/index.jsp
・ESRIジャパン/GeographyNetwork
http://www.esrij.com/community/geography_net/geography_net.shtml
・総務省/統計GISプラザ
http://gisplaza.stat.go.jp/GISPlaza/
・国土交通省/なるほど便利GIS道具箱(図3-4)
http://w3land.mlit.go.jp/nrpb-gisbox/
・国土交通省/土地利用調整総合支援(LUCKY)
http://lucky.tochi.mlit.go.jp/
・農林水産省/日本水土図鑑(イメージのみ)
http://www.maff.go.jp/nouson/top/rikai/suidozu/suidozu.htm
・岩手県環境保健研究センター/自然環境の部屋
http://www.pref.iwate.jp/~hp1353/shizen/main-page/wildlife-home.html
・静岡県地震防災センター/静岡県防災情報インターネット
http://gis.pref.shizuoka.jp/bousai/index.htm
・静岡県都市計画室/都市計画情報インターネットGIS
http://gis.pref.shizuoka.jp/toshikei/index.asp
・横浜市都市計画局/都市計画地図情報
http://wwwm.city.yokohama.jp/tokei/
・山口大学総合情報処理センター/山口県の自然と文化
http://gis.cc.yamaguchi-u.ac.jp/
・滋賀県琵琶湖研究所/赤野井湾流域環境情報システム
http://www.lbri.go.jp/akanoigis/
・環境省自然環境局・生物多様性センター/生物多様性情報システム
15
http://www.biodic.go.jp/J-IBIS.html
図3-3
WALTER(アリゾナ大学の学際的な調査チームによるプロジェクト):
火による危険値の評価として、火災害における自然・人為的要因を考慮したFCS-1という解析モ
デルのパターン化したシミュレーションを公開したWeb。「講義編」「実習編」の参考とした。
図 3-4
国土交通省/なるほど便利 GIS 道具箱:
GIS に関する様々な公開プログラムをダウンロードできる。「パワーユーザ編」の参考とした。
16
3−2−2
水・物質・エネルギの循環収支算定
水・物質・エネルギの循環収支算定モデルの開発状況を図 3-5 に示す。モデルは、物質の移
流・拡散場である大気・水の流れを評価する気象モデルと水文モデル、沿岸海域の流動・生態
モデルから構築され、各モデルは環境媒体の循環収支とそれに伴って生じる物質循環を評価す
る。微量物質循環モデルは、大気、水域、土壌などの媒体間の物質循環を横断的に評価する。
地表面熱・水分収支モデルは、植生からの蒸散、水面を含む陸地からの蒸発を通して熱・水分
収支を評価する。以上5つのモデルは、不十分な部分も存在するが16年度にほぼ完成した。
17年度は、各モデルを有機的に結合するインターフェースの開発とモデル公開に向けてユー
ザーインターフェースの開発を実施する。
図 3-5
水・物質・エネルギの循環収支算定モデルの開発状況
17
(1)気象モデル
昨年度は、大気汚染によって流域圏の森林被害が顕在化しているかどうかを評価するために、
メソ気象モデルとカップリングした大気拡散モデルを用いて、大気汚染物質の年間積算暴露量
を算定する方法を提示し、その精度評価を実施した。大気汚染物質のなかで、光化学オキシダ
ント積算暴露量と森林枯損の関連性は、いくつかの調査研究で指摘されている。光化学オキシ
ダントは、二酸化窒素の光化学反応から生じた O ラジカルが酸素と結合して生成される。VOCs
が存在すると、光化学反応により生じる OH ラジカルなどの酸化剤が、一酸化窒素を二酸化窒
素に酸化する役目を果たし、上記の光化学オキシダント生成反応が何回も生じ、光化学オキシ
ダント濃度を上昇させる。VOCs の発生量は、建築塗装や有機溶媒などの人為起源だけでなく、
森林からの自然起源からも多く、自然起源から発生するイソプレン、モノテルペンは反応性が
強く、光化学オキシダント生成に深く関係している。しかるに、自然起源から発生するイソプ
レン、モノテルペンの空間、時間的な発生量の変動についての研究はあまりなされていない。
そこで、淀川流域圏を対象に、イソプレン、モノテルペンの空間、時間的な発生量の変動を府
県が所有する森林簿データ(詳細は3−4−2参照)に基づいて算定し、光化学オキシダント
生成に及ぼす影響について調査した。
流域圏の VOCs 発生量の推定
森林簿データの樹木は、スギ・ヒノキ・マツ・カラマツ・クヌギ・ブナ・ケヤキ・竹・その
他広葉樹・その他針葉樹の 10 種類に分類され
表 3-2
樹木からの VOCs 発生量
ており、それぞれの樹種に対して、樹齢、及
び材積が与えられている。樹木からの VOCs
植生分類
植物名
発生量評価実験は実施しているが(3−3−
6参照)、淀川流域圏に生育している上記樹木
常緑針葉樹
については実施していない。そこで、植物分
類学的な方法により、同じ科や属に属する樹
木の VOCs 発生量から、上記 10 種類の樹木の
落葉針葉樹
落葉広葉樹
VOCs 発生量を推定した。スギ、ヒノキ、マツ
スギ
マツ
ヒノキ
竹
その他針葉樹
カラマツ
ブナ
ケヤキ
クヌギ
その他広葉樹
EFiso
〔μg/gdw/h〕
0
0
0
0
0.1
0
24.8
0
21.9
15.2
EFmono
〔μg/gdw/h〕
7.2
0.5
0.8
0
2.5
0.5
0.6
0
0.6
0.2
の VOCs 発生量は、日本と似た植生が生育する
韓 国 の 測 定 値 ( 日 本 ス ギ (Cryptomeria
1.2
japonica), ベ ニ マ ツ (Pinus koraiensis),
値をそれぞれ用いた
季節別葉の量 〔V〕
ツノミノヒノキ(Chamaecyparis obtusa) の
1)
。それ以外の樹種は、
分類学的方法により、文献から最適と考えら
れる値を用いた 2)3)4)。その結果を表 3-2 に示
す。
落葉樹
常緑広葉樹
常緑針葉樹
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
日本の広葉樹は秋から冬にかけて落葉する
0.0
ため、VOCs 発生量を推定するためには、落葉
1月 2月 3月
によるバイオマスの減少を考慮する必要がある。
図 3-6
4月
5月
6月
7月
8月
9月 10月 11月 12月
葉のバイオマスの季節変化
図 3-6 は、落葉広葉樹、常緑広葉樹、常緑針葉樹の葉のバイオマス量の季節変化を表したもの
である 5)。縦軸は、葉の量が最大の月を 1.0 とした場合の各月の比を表している。常緑樹は 1
年を通して葉を有するが、その量は季節と共に変化する。落葉樹は、秋から落葉が始まり、春
18
に再び葉をつける様子を表している。
①イソプレンの排出量
イソプレンの発生量は温度と照度(PAR)に依存し、1時間あたりのイソプレン発生量 Eiso は
(1)式によって与えられる 6)。
(1)
Eiso = EFiso ⋅ CTCL ⋅ FBD ⋅ V
ここで、EFiso はイソプレンの1時間あたりの基礎排出量、FBD はバイオマス量[g/m2]、V は落葉
比[-]を表す。また、CT は温度に依存する係数、CL は照度に依存する係数で、式(2) (3)で定義
される。
CT 1 ⋅ (T − Ts )
R ⋅ T ⋅ Ts
CT =
CT 2 ⋅ (T − Tm )
1 + exp
R ⋅ Ts ⋅ T
exp
CL =
(2)
α ⋅ CL ⋅ L
(3)
1 + α 2 ⋅ L2
ここでα=0.0027, CL1=1.066, CT1=95000,CT2=230000, Tm=314 は、経験係数である。式(2),(3)
の CT、CL の温度・照度依存の依存性を図 3-7、3-8 に示す。イソプレンの排出量は、温度によ
り上昇し、40 度付近で極大となる。また、照度によって排出量は増加する。
1.2
3
CL 〔−〕
CT 〔−〕
1.0
2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
0.0
0
Temperature 〔℃〕
図 3-7
500
1000
1500
2000
2
PAR 〔μmol /m /s〕
CT の温度依存
図 3-8
CL の照度依存
②モノテルペンの排出量
1時間当たりのモノテルペンの排出量 Emono は、イソプレンと異なり気温のみに依存し、式(4)
で与えられる 6)。
E mono = EFmono ⋅ M (T ) ⋅ FBD
(4)
ここで、 EFmono はモノテルペンの1時間あ
4.5
たりの基礎排出量、M(T)は気温に依存する
M (T ) = exp( β ⋅ (T − Ts )) (5)
M (T) 〔−〕
係数で、式(5)で表される。
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
ここで、βは経験係数で 0.09 である。式(5)
0
0
10
20
30
40
Temperature 〔℃〕
は、図 3-9 に示すように温度と共に増加す
る。
図 3-9
19
M(T)の温度依存
50
③VOCs 発生量の日変動
図 3-10 に1月、
図 3-11 に 8 月の1時間毎のイソプレンとモノテルペン発生量の日変動を示す。
イソプレン発生量は温度と照度に依存しているため、夜間には放出されない。また、イソプレ
ンを主に発生させる広葉樹は、冬季に落葉するため、1 月の VOCs 発生量は極めて少ないことが
わかる。
300
monoterpene
isoprene
250
isoprene
monoterpene
250
VOC 〔ton/month〕
VOC 〔ton/month〕
300
200
150
100
200
150
100
50
50
0
0
0時
図 3-10
2時
4時
6時
8時
10時
12時
14時
16時
18時
20時
0時
22時
2時
図 3-11
1 月における VOCs 発生量の日変動
4時
6時
8時
10時
12時
14時
16時
18時
20時
22時
8 月における VOCs 発生量日変動
④VOCs 発生量の季節変動
図 3-12 に各樹種からのイソプレン排出量の季節変動を示す。気温が高く、照度が強い夏の時
期に発生量は増加し、主に広葉樹から放出されることがわかる。図 3-13 に各樹種からのモノテ
ルペン排出量の季節変動を示す。イソプレンと同様に、夏季に排出量は増加する。淀川流域圏
は主にスギ・ヒノキに占められており、それらからの発生量が多い。
1400
1800
1400
1200
その他広葉樹
クヌギ
ブナ
1200
モノテルペン排出量(ton)
イソプレン排出量(ton)
1600
1000
1000
800
600
400
200
0
800
600
その他広葉樹
クヌギ
ブナ
マツ
ヒノキ
スギ
400
200
0
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
図 3-12
イソプレン排出量の季節変動
図 3-13
モノテルペン排出量の季節変
⑤淀川流域圏の VOCs 発生量
口絵 3、口絵 4 に、淀川流域圏の年間のイソプレン排出量とモノテルペン排出量を示す。イ
ソプレンは、広葉樹が多い琵琶湖南側、淀川西側で発生量が多い。モノテルペンは、スギ・ヒ
ノキが多い奈良、大阪府南部で発生量が多い。
来年度の課題は、淀川流域圏を近畿圏に拡大し、イソプレンとモノテルペン排出量を推計す
ることと、樹種の基礎排出量を、グロースチャンバー実験により求めることである。
20
淀川流域の光化学オキシダント濃度推定
36.00°
①大気汚染物質濃度シミュレーションモデルの概要
計算領域は図 3-14 に示す東経 134 度 00 分から 136
度 26 分、北緯 32 度 55 分から 36 度 00 分の領域であり、
約 5 ㎞四方の 38×74 メッシュに分割して計算を行った。
鉛直方向は計算領域の上面高さを 5km とし、地表面付
約340km
74メッシュ
近で間隔が細かくなる 15 層不均等メッシュを用いた。
流れ場予測モデル、および移流・拡散方程式は昨年
度と同じである。大気汚染物質の沈着メカニズム
2)
と
して、土壌面、水面および地表の植物や構造面に直接
32.55°
沈降・吸着する dry deposition のみを考慮した。光
化学反応モデルは、Gery et al.
7)
約220km
38メッシュ
134.00°
136.26°
による CBM-IV を用
いている。CBM-IV モデルは、光化学反応で重要な役割
を果たす反応炭化水素を、一重結合や二重結合といっ
図 3-14
た炭素間の結合によっていくつかの共通のグループに
計算領域
分類する炭素結合法を用いることにより、反応成分種を 33 種類、反応式を 81 本に簡略化した
モデルである。
計算内で発生させている汚染物質は大きく分けて窒素酸化物、硫黄酸化物、炭化水素の 3 種
類である。昨年度の計算から更新した点は、森林起源 VOCs(VOCs:Volatile Organic Compounds
が正式名称で、常温で揮発する有機化合物の総称である)の気温ならびに光強度依存性の実態
把握を目的としたチャンバー実験結果を基に、Guenther et al.6)の実験式を組み込み、森林か
らの VOCs 発生量の時間変動を再現できるようになった点と、森林簿データを基に詳細な VOCs
発生量の空間分布を組み込んだ点である。
②観測値との比較
計算値と観測値の比較は、大阪府下の観測点 12 地点を個別に比較するのではなく、空間平均
した値で比較した。図 3-15 に計
算値と観測値との比較を示す。
観測値
計算値には、今回モデルに新し
24
く組み込んだ植生起因の VOCs
を示す。観測値には一時間おき
に四分位偏差も併せて示す。NO,
OX に関しては、濃度、位相とも
うまく再現できた。NO2 は若干
濃度 〔ppb〕
を考慮する、しないの 2 ケース
計算値(VOCゼロ)
NO
20
が大気汚染濃度にどれだけ影響
するかを把握するため、VOCs
計算値(VOC考慮)
16
12
8
4
0
1
位相がずれているが、濃度につ
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23
時刻
いては全時間帯を通して概ね一
致した。また、植生起源 VOCs
21
の考慮の有無では、NO と OX で明
確な差が見受けられた。OX では最
を考慮した方がより観測値に近い
値を示した。Solmon8) の計算結果
においても、植生起源 VOCs を考
慮した場合には 18ppb 大きい値を
濃度 〔ppb〕
大 20ppb 程度の差があり、VOCs
示しており、本研究も同様の結果
が得られたと考えられる。
40
35
30
25
20
15
10
5
0
NO 2
③気温上昇が OX 濃度に与える
影響
1
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23
時刻
ここでは、夏場の気温上昇の OX
濃度への影響を調べた。全時刻、
100
全空間において①濃度計算の際に
気温を 1℃上昇させた場合(光化
せた場合(汚染物質 VOCs の増大)、
③①と②が同時に起こった場合の
濃度 〔ppb〕
学反応促進)、②葉温を 1℃上昇さ
OX
80
60
40
三通りで気温による大気汚染濃度
20
へのインパクトを解析した。①∼
0
③での OX 上昇値の経時変化(12
1
地域平均)を図 3-16 に示す。なお、
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
図 3-15
Ox濃度の増分値 〔ppb〕
OX濃度の増分値 〔ppb〕
比較対照として、図 3-17 には郊外
両方+1℃
反応+1℃
葉温+1℃
1
3
5
7
9
3
5
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
両方+1℃
反応+1℃
葉温+1℃
3
5
7
9
11 13 15 17 19 21 23
時刻
時刻
図 3-16
9 11 13 15 17 19 21 23
時刻
計算値と観測値の比較(NO,NO
2,OX)
1
11 13 15 17 19 21 23
7
図 3-17
+1 度による OX 濃度の増分値(大
+1 度による OX 濃度の増分値(兵
庫内陸地域)
阪府)
(兵庫県の西脇市役所、豊岡市役所)における結果も併せて示す。郊外、大阪府両地域とも反
応(気温)よりも VOCs 発生量(葉温)の方が強いインパクトを持つが、その程度については
郊外の方がより顕著である。大阪府で詳しく見てみると、13 時で反応と VOCs 発生量が OX へ
及ぼすインパクトはほぼ同じだが、それ以外の時間帯では VOCs 発生量の方が強くなっている。
夜間は化学反応が弱いため昇温による影響があまり出なかったと推測できる。③は①と②の相
22
加効果により説明できることも分かった。また、昼間の+1℃により OX 濃度は最大で 4ppb、率
にして 5%前後増加することも分かった。また、この増加分は観測値の重回帰分析の結果得ら
れた気温の偏回帰変数(ppb/℃)(図 3-18)と比べても概ね近い値であり、統計的な OX 上昇分
が数値モデルにより説明できたと言える。
気温に係る偏回帰係数 〔ppb/℃〕
池田市立南畑会館
富田林市役所
府公害監視センター
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
11
図 3-18
12
13
14
時刻
15
16
17
気温に係る偏回帰係数の時系列変化
参考文献
1) Kim, Jo-Chun, Kim,Ki-Joon, Kim, Deug-Soo and Han, Jin-Seok; Seasonal variations of
monoterpene emissions from coniferous trees of different ages in Korea, Chemosphere,
(2004)
2) Benjamin M.T.; Low-emitting urban forests -A taxonomic methodology for assigning
isoprene and monoterpene emission rates-, 30, 1437-1452 (1996)
3) Isebrands J.G.; Volatile organic compound emission rates from mixed deciduous and
coniferous forests in Northern Wisconsin,USA, Atmospheric environment,33 2527-2536
(1999)
4) Wang Zhihui, A biogenic volatile organic compounds emission inventory for Beijing,
Atmospheric environment, 3771-3782 (2003)
5) 木村允; 陸上植物群落の生産量測定法,共立出版社,p26 (1976)
6) Guenther A.B., Isoprene and monoterpene emission rate variability:model evaluations
and sensitivity analyses, Journal of Geophysical Research 12607-12617 (1998)
7) Michael W. Gery, Gary Z. Whitten, James P. Killus and Marcia C. dodge (1989): A
PHOTOCHEMICAL KINETICS MECHANISM FOR URBAN AND REGIONAL SCALE COMPUTER MODELING, J.
Geophys. Res., Vol.94, No.D10, 12925-12956
8)Fabien Solmon et al.:Isoprene and Monoterpenes Biogenic Emissions in France -Modeling
and Impact during a Regional Pollution Episode-, Atmospheric Environment, 38,
pp.3853-3865, 2004
23
(2)水文モデルと化学物質循環モデル
①解析フロー
水系を中心とした、水文モデルと化学物質循環モデルの解析フローを図 3-19 に示す。
この水系モデルに気象モデルの境界条件を与えることによって、水系モデルと気象モデ
ルが連動した統合型モデルとなっている。
START
解析対象流域
<淀川流域圏>
3次メッシュ
定義
標高メッシュ
データ
流域界、流路網
データ
土地利用メッ
シュデータ
工業統計メッ
シュデータ
人口メッシュ
データ
標高
【落
落水線作成モデル】
森林・田・農地・
都市・水域
産業中分類工業
出荷額
夜間人口
落水線
排出量推計モ
モデル
排水量推計モ
モデル
PRTR 排出量
データ
水量原単位
気象データ
PRTR 届出排出量
(淀川流域圏)
PRTR 届出外排出量
(全国)
排水量
生活、都市、事業場
【テ
ティーセン分割】
気象データの割り当て
浄化槽年鑑
下水道統計
淀川流域圏への
PRTR 排出量
気象モデル
境界条件
下水処理場晴天
日平均放流量
下水道普及率
【熱
熱収支モデル】
蒸発散量
水域への総排水量
生活、都市、事業場
下水経由
地先
排水量
流れ解析モデル
パラメータ
排水量
【斜
斜面モデル K.W.等】
水利権台帳
A-D 層流出量等
内部境界条件
(取水等)設定
【河
河道モデル K.W.】
湖沼モデル
ダムモデル
水位、流量等
水位、流速等
水位、流速等
SS 水温モデルパ
ラメータ
【河
河道 SS 水温モデル】
河道 SS、水温等
物質動態モデル
パラメータ
【物
物質動態モデル】
メッシュ別、時間別の物質濃度等
水理量、濃度等
END
図 3-19
水系モデルの解析フロー
24
水域への総排出量
生活、都市、事業場
下水経由
地先
排出量
排出量
②排水量の推定
人為起源の点源排水量を推定するために、原単位法を適用する。
z
生活排水: Qpn = Pn × Dpn
z
都市排水: Qpd = Qpn × Qrate
z
事業場排水: Qis = S × Dis
ここに、Pn:夜間人口、Dpn:生活排水に係る汚水量原単位、Qrate:都市排水率(生
活排水量に対する都市排水量の割合)、S:産業中分類別工業出荷額、Dis:事業場排水
に係る汚水量原単位である。図 3-20 に示すように、下水道整備区域については下水処
理場から排水し(図 3-21、図 3-22)、その他は直接流域内水路に排水する。
人為起因流出:点源排水起因
自然起因流出:降水起因
下水道整備区域
生活
排水
都市
排水
し尿
雑排
水
下水道整備の状況によらず地先流出
事業場
排水
生活
排水
都市
排水
し尿
雑排
水
事業場
排水
畜産
排水
雨水
A層
市街
地
し尿
T
下水
T
単独
合併
未処
理
田
畑
山林
B層
C層
水路
D層
公共用水域
事業場排水量届出資料から把握
図 3-21
図 3-20
下水道普及率の分布
排水量の構成
図 3-22 下水処理場と晴天日実績平均放流
25
③水文モデル 1)の適用結果
昨年度構築した水文モデルを淀川流域圏に適用した。水文モデルは、河道・地表面・
土壌 A 層を Kinematic Wave Model で、土壌 B 層から D 層を線形貯留モデルで解析す
る分布型多層流出モデルである。1998 年から 2000 年まで計算を行い、その適用結果
を図 3-23 から図 3-25 に示す。
図 3-24
250
800
0
Simulated
100
100
150
50
200
0
250
0
50
100
150
200
Time[day]
250
300
Discharge[m3/s]
50
Observed
150
Precipitation[mm]
Discharge[m3/s]
Precipitation
200
河川流量分布(雨天時)
0
700
Precipitation
600
Observed
500
Simulated
150
300
200
200
100
0
350
250
0
50
100
0
Simulated
100
150
1000
500
200
0
250
100
150
200
Time[day]
250
300
350
300
150
Observed
50
Simulated
100
100
150
50
200
250
0
350
0
ハイドログラフ 【枚方】
図 3-25
0
200
Discharge[m3/s]
Observed
50
250
Precipitation
50
Precipitation[mm]
Discharge[m3/s]
Precipitation
0
150
200
Time[day]
ハイドログラフ 【加茂】
2500
1500
100
400
ハイドログラフ 【三雲】
2000
50
Precipitation[mm]
河川流量分布(晴天時)
50
100
150
200
Time[day]
250
ハイドログラフ 【虫生】
ハイドログラフ(淀川流域4地点)
26
300
350
Precipitation[mm]
図 3-23
④化学物質排出量推計モデル 2) 3)
PRTR(化学物質排出移動量届出制度)届出排出量ならびに届出外排出量の推計結果
を利用して、化学物質循環モデルに入力する化学物質の排出量を推定した(図 3-26)。
PRTR 届出排出量については、淀川流域圏を対象に GIS を利用してデータベース化を
行い、すべての PRTR 対象物質に関してその点源排出が抽出可能となった。PRTR 届
出外排出量については、全国の推計結果から人口や下水道普及率、産業中分類工業出荷
額を用いて淀川流域圏に割り当てた。
PRTR 届出排出量
(淀川流域圏)
点源
PRTR 届出外排出量
(全国)
届出外
届出
届出
裾切り排出
公共用水域
下水道移動量
no
yes
製造業?
工業製品出荷額
人口
下水処理場除去率
yes
no
地先?
(1−下水道普及率)
下水道普及率
下水処理場除去率
地先排出量
下水道排出量
地先排出量
下水道排出量
非点源
届出外(非点源)
届出外(非点源)
届出外(非点源)
届出外(非点源)
対象業種
非対象業種
家庭
下水道移動量
水域への排出率
yes
no
農薬?
土地利用
人口×
農地・ゴルフ場面積
(1−下水道普及率)
人口×下水道普及率
下水処理場除去率
地先排出量
図 3-26
下水道排出量
PRTR に基づく化学物質排出量推定の流
27
⑤化学物質循環モデル 2) 3)
淀川流域圏を対象に、化学物質循環モデルを構築した(図 3-27)
。本モデルの特徴は、
大気側の移流・拡散、大気からの沈着過程や大気と河川間の気液平衡などを取り入れた
点にあり、大気モデルと水系モデルの統合型モデルといえる。すべての PRTR 対象化
学物質や有機汚濁物質に関して解析可能である。
大気境界層
大気境界層
畑
山林
地表面
市街地
水田
水域
土壌A層
土壌A-C層
土壌B層
土壌C層
河川水
河川底泥液相
土壌D層
土壌D層
河川底泥固相
気相
液相
固相
分布型流出モデルの範囲
移流: 流域(A-C層)
大気からの沈着:湿性降下
移流: 流域内水路
大気からの沈着:乾性降下
移流: 流域網(D層、河川水)
大気への揮発
拡散: 分子拡散定数
拡散: 移動速度定数
懸濁態SS
沈降
再浮上
排出負荷: 地先排出(農薬)
排出負荷: 地先排出(点源排水起因)
排出負荷: 下水処理場排出
取水
図 3-27
化学物質循環モデルの構造
28
⑥化学物質循環モデルの適用結果
PRTR 対象物質のうち、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)とクロロホル
ムについて 1998 年から 2000 年まで計算を行った。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)は、水系洗浄剤で使用されている有力
な界面活性剤のうちの一つで、その排出源は図 3-28 に示すように事業所や家庭などの
特に都市部に集中している。クロロホルムは、主に代替フロンやフッ素樹脂の製造原料
として使われていて、ほとんどが事業所から排出されたものである(図 3-29)
。
ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)とクロロホルムの淀川流域圏への適用
結果を、口絵 5、6 に示す。今後精度向上のため、PRTR 届出外排出量からの推定方法
をより正確に行う必要がある。また、PRTR の大気への排出量を組み込み、大気モデル
とのより綿密な連動が必要である。
図 3-28
AE の地先排出量分布
図 3-29
クロロホルムの地先排出量
参考文献
1) 小尻利治・東海明宏・木内陽一:シミュレーションモデルでの流域環境評価手順の
開発、京都大学防災研究所年報第 41 号 B-2(1998)
2) 産総研-水系曝露解析モデル AIST-SHANEL ver.0.8 第 1 回技術講習会テキスト、
独立行政法人 産業技術総合研究所 化学物質リスク管理研究センター(2004)
3) http://www.riskcenter.jp/SHANEL/
29
(3)淀川流域圏熱収支モデル
① 淀川流域圏熱収支モデルの位置づけ
本モデルは先述の気象モデルと 組み合わせ、NOx やオキシダント等の大気汚染物質
の拡散解析に使用すると共に、ヒートアイランド現象の解析とそれに伴う 各種環境イ
ンパクトの解析に用いる。
淀川流域圏に位置する京阪神地域は、瀬戸内海の存在など地理的な条件から夏の 暑
さが厳しい。近年の気象統計を見れば大阪は日本で一番 暑い大都市であり、日本の中
で最もヒートアイランドによるインパクト が大きい地域であると予想される。従っ
て、淀川流域圏においてヒートアイランド現象 の発生およびインパクト形成に関する
メカニズムを解明することによって、自然の有する気候緩和効果の「価値」が明確に
できるものと考えている。
② 熱収支データベースの作成
エネルギー消費(人工排熱)が
都市熱環境に与える影響を分析す
熱需要原単位
民生部門
延床面積デー
タ
る上では、人工排熱量の地理分布
排熱量
熱源機器効率・比率
のみならず、顕熱と潜熱の区別や、
燃焼機器別燃料種
時間変化の把握が不可欠である。
類別排熱発生率
大規模施 設
ここでは図 3-3 0 に示す推計フロー
産業部門
熱循環収支
燃原料使用量
排熱量
データベース
データ
によって、民生・産業・交通の各
エネ ルギー
部門毎に熱収支データベースを作
消費原単位
鉄道での電力消費
成した。作成方法の詳細は前年度
交通部門
排熱量
進捗状況報告書を参照されたい。
府県別 ガソ リン・
軽油販売 量デ ー タ
以下に前年度からの主たる進展内
自動車由 来NOx
排出量デ ータ
容について部門毎に記す。
民生部門の熱・エネルギー収支
図 3-30:データベース整備方法
推計に関して、前年度までは大阪
府域のみを対象として整備を行っ
た。淀川流域圏に拡張する上での大きな問題点 は、上記推計フローのベースになる建
物用途別延床面積データが、他府県においては大阪府のように十分には 整備されてい
ない点にあった。この点に関して、各自治体においては固定資産税課税の元に なる課
税床(固定資産税が非課税の公共施設等を除く )の床面積データを所有していること
から、本年度は同データを用いて、兵庫県全域、京都府全域、和歌山、奈良、滋賀各
県の一部を対象に民生部門の熱・エネルギー収支の推計を行った。データベースでは
月別・時別に顕熱、潜熱、水系の各排熱量を第 3 次標準地域メッシュデータとして整
備しているが、推計結果の一例として 8 月の 14 時における顕熱排熱量を図 3-31 に示
す。排熱は大阪市を中心として、和歌山県から兵庫県にかけての大阪湾岸に 集中して
分布している様子が伺える。今後の課題としては、熱需要原単位の地域特性や非課税
床の影響を考慮した上で、エネルギー供給会社等のエネルギー消費デ ータとの比較検
証を行うことが挙げられる。
産業部門に関しても同様に大阪府域のみ を対象としたデータから淀川流域圏への拡
張を行った。データには環境省より提供を受けた 平成 11 年度大気汚染物質排出量総
[W/㎡]
図 3-31:近畿圏の民生部門顕熱排熱量(8 月:14 時)
[W/㎡]
図 3-32:近畿圏の産業部門顕熱排熱量(8 月:14 時)
合調査を用い、大阪市、神戸市、京都市、大阪府(大阪市を除く)、兵庫県(神戸市
を除く)、京都府(京都市を除く)、奈良県、滋賀県、和歌山県全域のデータを作成し
た。データベースでは民生部門と同様に、月別時別に顕熱、潜熱、水系の各排熱量を
第 3 次標準地域メッシュデータとして整備しているが、推計結果の一例として 8 月の
14 時における顕熱排熱量を図 3-32 に示す。産業部門からの排熱についても、大阪湾
岸に特に集中して発生している様子が伺え る。なお、本データで得られる情報は大気
汚染防止法対象の煤煙施設を持つ大規模施 設に限られることから、大阪府域において
産業部門の約 8% の排熱量を占める群小施設からの 排熱についても淀川流域圏への拡
張が必要と考えている。
[W/㎡]
図 3-33:近畿圏の交通部門顕熱排熱量(8 月:14 時)
交通部門に関しても同様に大阪府域のみ を対象とするデータから淀川流域圏への拡
張を行った。なお、ここでは交通排熱の大部分を占める自動車 排熱のみを対象とし
た。データには各府県別のガソリ
[TJ]
ン・軽油販売実績データを用い、
1000000
メッシュデータとして整備されて 900000
いる自動車由来の窒素酸化物分布 800000
データで府県毎に各メッシュに重 700000
交通
600000
み配分を行った。データベースで
産業
500000
民生
は月別時別に顕熱、潜熱、水系の 400000
300000
各排熱量を第 3 次標準地域メッ
200000
シュデータとして整備している
100000
が、推計結果の一例として 8 月の
0
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良 和歌山
14 時における顕熱排熱量を図 333 に示す。大阪湾岸や京都盆地
図 3-34:府県別部門別人工排熱量(年間)
などの都心部はもちろんのこと、
[TJ]
都心と地方都市を結ぶ幹線道路に 1000000
おいても比較的多くの排熱が分布 900000
800000
している様子が伺える。
700000
府県別に集計された人工排熱の 600000
水系
潜熱
500000
部門別内訳を図 3-34 に、形態別
顕熱
400000
内訳を図 3-35 に示す。いずれも
300000
年間の値である。これらによる
200000
と、臨海部に工業地帯を有する兵 100000
0
庫県や大阪府、和歌山県に多くの
滋賀
京都
大阪
兵庫
奈良 和歌山
産業排熱が存在することや、大阪
図 3-35:府県別形態別人工排熱量(年間)
府や兵庫県では他府県と比較して
民生・交通排熱が突出して存在することが分かる 。結果として、大阪府や兵庫県では
他府県よりも 3 倍から 15 倍程度の人工排熱が存在する 。これらに対して、滋賀県や
京都府、奈良県では排熱が少ないことが分かる。排熱形態に関しては、いずれの府県
においても顕熱が大勢を占めている 。
[TJ]
ここで、大阪府域に関しては、建物
700
延床面積データを昭和 48 年から平成 11
600
年にかけての 5 期にわたり整備すること
500
によって、民生部門人工排熱の経年変
400
化を検討可能とした。ただし、熱需要
300
原単位は現在の値を過去から現在に か
200
けて一律に使用し、経年的に変化しな
100
いものと仮定した。図 3-3 6 に大阪府域
0
における顕熱排熱量の経年変化を示す。
S48
S55
S62
H4
H11 [年度]
昭和 48 年からの四半世紀程の間に、排
図 3-36:人工排熱量の経年変化(大阪府)
熱量は概ね倍増近い伸びを示している。
熱需要原単位についても経年的に伸びが予 想されることから、各年で適切な原単位を
用いた場合には増加幅はより大きな値にな ると考えられる。大阪府以外の府県におい
ても同様に排熱量は増加していることが予 想され、今後も定期的なデータベースの更
新が必要と考えられる。
③ 淀川流域圏における都市熱環境の再現
ここで得られた熱収支データベースを先 述の気象モデルの地表面境界条件として入
力することによって、淀川流域圏における都市熱環境の再現を試 みた。なお、気象モ
デルへの入力の際には各部門から の人工排熱を表 3-3 に示す鉛直位置に与えた。全部
門の人工排熱を入力した場合(すなわち現実と同条件)の気温分布再現結果を図 337 に、大阪府内 3 箇所の大気汚染常時監視測定局に おける観測値と本モデルによる計
算値の比較結果を図 3-38 にそれぞれ示す。図 3-37 の結果から、日中(14 時)は大阪
平野から京都盆地や奈良盆地にかけて高温 域が発生し、特に東大阪や北摂方面で最も
高い値を示す一方で、神戸市などの大阪湾沿岸では海風の影響を 受けて比較的気温が
14 時
図 3-37:淀川流域圏の気温分布再現結果(全部門排熱考慮)
2時
38
38
計算値
観測値
34
32
気温 (℃)
気温 (℃)
34
38
計算値
観測値
36
30
28
34
32
30
28
32
30
28
26
26
26
24
24
24
22
22
1
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21 23
時刻
計算値
観測値
36
気温 (℃)
36
22
1
3 5
7
9 11 13 15 17 19 21 23
時刻
1
3 5
7
9 11 13 15 17 19 21 23
時刻
吹田市北消防署(郊外部) 高石環境情報センター(臨海部) 大阪環境情報センター(都心部)
図 3-38:気温再現精度に関する検証結果(全部門排熱考慮)
表 3-3:排熱排出位置
低い値を示した。夜間(2 時)については大阪市を中心
とする同心円状に高温域が拡がり、大阪市中心部で最も
気温が高くなる一方で、山沿いでは山風の影響を受けて
低い値を示した。図 3-38 の観測値との比較結果から、都
心部、臨海部、郊外部ともに気温日変化に関する振幅や
位相がほぼ一致しており、良好な再現結果が得られてい
ることがわかる。
排出形態
排出位置
交通部門
地上
産業部門
煙突高さ
給湯
各階
熱取得
各階
ターボ冷凍機
屋上階
ヒートポンプ
各階
ガス吸収式冷温水機 屋上階
その他
各階
④ エネルギー消費が都市熱環境に及ぼす影響
上記で推計された人工排熱がヒートアイ ランド現象にどの程度のインパクトを有す
るか調べるため、人工排熱を考慮した場合と、人工排熱を考慮しない(すなわち地表
面からの熱負荷のみを考慮する)場合の 2 通りの計算を行った。図 3-39 に人工排熱
を考慮した場合としない場合の地上 18 mにおける気温差を示 す。これを見ると、排
熱が多い日中には大気が不安定な状態にあ るために上空への拡散が起りやすく、気温
上昇幅は最高で 0.3℃強と比較的小さな値を示した。分布形状としては、日中は大阪
湾から内陸に向かって強い海風が吹くため に、排熱が風下方向へと流れている様子が
伺える。それに対し、夜間は山地からの陸風が卓越するが、その強度は海風に比べて
弱いことや、大気が非常に安定した状態になることか ら、気温上昇幅は最高で 1.5℃
と排熱が多い日中よりも大きい値を示した 。分布形状としては、大阪都心部を中心に
[℃]
[℃]
14時
2時
図 3-39:人工排熱を考慮した場合としない場合の気温差(地上 18m、8 月)
[℃]
[℃]
2時
14時
図 3-40:民生部門単独排熱による気温上昇幅
[℃]
[℃]
14時
2時
図 3-41:産業部門単独排熱による気温上昇幅
ヒートアイランド形状が明確に描かれてい る様子が伺える。以上のように、特に日中
には排熱の拡散範囲が大きく、神戸市から大阪中心部にかけての高密な排 熱が淀川流
域圏に移流されている可能性が高いこと、夜間には特に京都市域からの排熱が陸風に
よって淀川流域圏に影響を及ぼすことから 、本年度に熱収支データベースを淀川流域
圏を含む近畿圏の広範で整備したことに は大きな意義があったと考えられる。
本データベースでは前述のように各部門 別にメッシュデータとして整備を行ってい
ることから、各部門別に単独の影響を把握することも可能で ある。図 3-40 に民生部
門のみの人工排熱を地表面境界条件として 入力した場合、図 3-41 に産業部門のみを
与えた場合をそれぞれ示す。民生部門からの人工排熱は主として地表面 付近から排出
されることから、地表付近の気温に対して大きな影響が認め られるが、産業部門から
の人工排熱は上空の煙突高さから排出され るため、地表付近の気温にはあまり大きな
影響が認められないことがわかる。
(4)道路交通ネットワーク
淀川流域圏域は,京都,大阪,神戸をつなぐ主要な都市間交通機能を担うばかりではなく,日本の高
速道路ネットワークでみても名神高速道路をはじめとする主要な高速道路が集中しており,物流,人流
の重要な交通機能を担っている.このような道路ネットワークは活発な経済活動を支える一方で,その
上を走る自動車による道路混雑や大気汚染が深刻な状態にあり,抜本的な交通対策が必要とされている.
特に,大阪府下の窒素酸化物の環境基準の達成率は改善されているとはいえ,依然低い.また,この圏
域にはJR,私鉄,市営地下鉄など鉄道が発達しており,自動車の代替交通手段として機能しうるネッ
トワークがすでに形成されている.
そこで,交通計画,都市計画の多様な代替案シナリオを評価するために,本年度は淀川流域圏域の交
通状況を再現するシミュレーションモデルを構築することを目的とする.具体的な対象地域は,大津市,
京都市,宇治市,向日市,長岡京市,八幡市,城陽市,京田辺市,亀岡市,大山崎町,九御山町,大阪
市,高槻市,茨木市,摂津市,吹田市,箕面市,池田市,豊中市,枚方市,寝屋川市,門真市,守口市,
交野市,四条畷市,大東市,東大阪市,島本町,川西市,宝塚市,伊丹市,尼崎市,西宮市にわたる地
域とする.
自動車交通量の予測には交通計画で一般的に用いられる四段階推定法を適用する.
交通量予測の一般的プロセスは、図3-42に示すような段階的な推定法(4段階推定法)によっている。
フレームの設定
発生集中交通量の予測
分布交通量の予測
交通手段分担の予測
配分交通量の予測
図3-42 交通量予測のプロセス
・フレームの設定
フレームの設定とは、計画対象地域の将来人口等の計画目標を設定することであり、フレームは道路
整備の目標となるだけでなく、あらゆる計画の目標となるものである。しかし、自動車交通量の予測に
おいては、発生集中交通量を予測するための指標の将来値を決定することであると考えてよい。
36
・発生集中交通量の予測
発生集中交通量の予測は、まず、総発生集中交通量を予測し、次に、計画対象地域を分割した各ゾー
ン毎に仮の発生集中交通量を求め、総発生集中交通量をこの仮の発生集中交通量比によって分割して各
ゾーン毎の発生集中交通量を予測する。
・分布交通量の予測
分布交通量の予測は、あるゾーンの発生集中交通がどのゾーンとの交通であるかを予測するものであ
り、本予測には,現在パターン法であるフレータ法を用いることとする。
・交通手段分担の予測
交通手段分担の予測は、人あるいは物が移動する際の利用交通手段を推定することにより、鉄道、バ
ス、自動車など交通手段別の交通量を推定する段階である。ここでは非集計モデルを用いて予測する.
分担交通量は,上記のように集計された分布交通量を用いて集計ロジットモデルを適用し,交通手段選
択モデルを構築して推計する.
交通手段の選択肢は自動車と鉄道やバスからなる公共交通の二項選択肢構造とし,トリップ特性によ
る変化を考慮して,トリップ目的(通勤,業務,自由)と時間帯別にセグメントを行ってそれぞれのモ
デルについてパラメータを推計した(表3-4).説明変数としては,自動車と公共交通を用いた場合の費
用と時間,そして自動車ダミー変数を用いた結果,尤度比が0.2以上の説明力が高いモデルを構築するこ
とができた.そこで,このモデルを使用して,各ゾーンの特性から自動車と公共交通の選択確率を求め,
各ゾーン間のOD交通量に掛け合わせることによって分担交通量を算出した.
表3-4 分担モデルのパラメータ推計
37
・配分交通量の予測
配分交通量の予測は、自動車あるいは交通手段別の分布交通量を路線に配分していく段階である。配
分交通量の計算には,利用者均衡原則に基づいた時間帯別交通均衡モデルを採用し,淀川流域圏の道路
ネットワークをシミュレーション対象地域とした.この際には,初期値のリンク間のOD自動車交通量
と道路ネットワークにすべてのOD交通量を配分し終わった後の所要時間,費用を上記の交通手段選択
モデルに代入して求まったOD自動車交通量の差がすべてのリンクで3%以内に収束するまで繰り返し計
算を行い,移動者の所要時間の認識の合理性が保たれるように配慮した.
・大気汚染物質排出量の予測
推計された配分交通量から求まるリンク交通量と平均走行速度から,大気汚染物質排出量を推計する.
大気環境の改善は,地球温暖化の主な原因となっている二酸化炭素,酸性雨や喘息の原因となる窒素酸
化物の排出量の変化を指標とした.二酸化炭素と窒素酸化物の排出量の算出には,ドイツの道路交通プ
ロジェクト評価に用いられるRAS/Wより引用した燃料消費量モデル式と排出係数を用いた.このモデル式
は,リンクの平均走行速度と交通量を説明変数としており,それらの変化に応じて,大気汚染物質の排
出量が変化する特性を持っている.このモデルを用いた環境汚染物質の排出量の予測の手順は以下の通
りである.
・ 車種別の燃料消費量モデル式に,リンク平均走行速度を代入して,単位走行キロあたりの車種別燃
料消費量を求める.
・これにリンク交通量を掛け合わせることによって,リンク別の燃料消費量を推計する.
・ 燃料消費量に排出係数を掛け合わせ,リンク別の環境汚染物質の排出量を算出する.
シミュレーションの再現性をみるために,道路交通センサスから得られた5:00∼21:00のリンク交通
量の実測値(y)とシミュレーションによる推定リンク交通量(x)の間で軸切片を0に固定した回帰分析
を行った結果,以下の回帰直線が得られた(図3-43).この結果から,両者はおおむね整合がとれてい
ると判断される.
観
測
リ
ン
ク
交
通
量
/12
(台
時
間
)
30000
25000
y=1.2217x
R2=0.588
20000
15000
10000
5000
0
0
5000
10000
15000
20000
推計リンク交通量(台/12時間)
図3-43 交通シミュレーションの再現性の検討
38
25000
・ ケーススタディ
構築された交通シミュレーションを使って,大阪市内でロードプライシングを実施した場合の対環境
の改善効果を試算した.
ロードプライシングは課金方法によって,自動車交通量を時間的空間的にコントロールできる操作性
の高い手法として注目されているが,主に規制地域を走行している時間や距離に応じて課金するコンテ
ィニュアスプライシングと料金徴収ライン(コードンライン)を設けてそのラインを通過する車両に対
して課金するコードンプライシングに分けられる.規制地域内の走行時間に応じて料金をかけるコンテ
ィニュアスプライシングが,ケンブリッジで実験的に実施された.しかし,規制地区内のドライバーは,
少しでも支払う金額が少なくてすむように一旦停止を無視したり,走行速度をあげたために,交通事故
が増加してしまい,この方式は中止された.そこで,本研究では,走行時間ではなく,走行距離に応じ
たコンティニュアスプライシングを設定した.規制地区は,JR大阪環状線または阪神高速1号環状線
とし,そこに流入する交通量に対する課金方式として,コードンプライシングとコンティニュアスプラ
イシングを想定した.料金は課金方法によってそれぞれ3種類設定し,規制対象時間帯と規制対象車種
は共通とした.また,ロードプライシングの効果の比較のため,燃料税の効果についても試算した.燃
料税は 1 リットルあたり 10 円,30 円,50 円とした.
ロードプライシングの 12 種類の代替案について自動車交通量の削減量と鉄道利用者数の増加を試算
した結果を示す(表 3-5)
.表中の数字は,大阪市内の現状に対する代替案実施後の増減の割合を示して
いる.
表 3-5 ロードプライシングの効果の試算
料金
総走行
総走行
鉄道
二酸化炭
窒素酸化
距離
時間
利用者数
素排出量
物排出量
こ ー ド ン JR 大阪環
100 円
-3.8
-4.5
1.1
-3.6
-1.3
プ ラ イ シ 状線
200 円
-6.3
-10.2
2.0
-6.3
-2.1
ング(円/
500 円
-12.4
-15.4
3.8
-11.2
-3.2
阪神高速
100 円
-2.9
-4.8
1.0
-3.0
-0.8
大阪環状
200 円
-5.0
-7.2
1.8
-5.2
-1.4
線
500 円
-8.5
-9.9
3.4
-8.4
-2.2
コ ン テ ィ JR 大阪環
10 円
-3.0
-3.2
0.1
-2.6
-0.1
ニ ュ ア ス 状線
30 円
-8.9
-9.8
0.5
-7.7
-0.5
プライシ
50 円
-10.9
-14.9
3.7
-11.9
-3.7
ング(円 阪神高速
/km)
大阪環状
10 円
-0.7
-2.0
0.1
-0.8
-0.2
30 円
-2.1
-3.7
0.9
-2.2
-0.6
50 円
-3.3
-5.1
0.9
-3.4
-0.9
回)
線
いずれの代替案についても料金が増加するにつれて,総走行距離,総走行時間の削減効果と鉄道利用
者数が増加するが,料金の増加に対するそれらの効果の増加の割合は逓減する.例えば,JR大阪環状
線内でのコードンプライシングによる総走行距離の削減は,100 円から 200 円の増加に対するその削減
39
の割合は 0.025 ポイント/円に対して,200 円から 500 円では 0.020 ポイント/円になっている.これ
は,規制地域を料金を支払って通過して得られる所要時間短縮効果を上回る料金が課せられるトリップ
が増加したため,料金が高額になるほど規制地域周辺を迂回する交通量が増加し,自動車から鉄道等へ
の公共交通機関への転換による削減効果を打ち消すためと考えられる.
また,コードン方式,コンティニュアス方式いずれにおいても,阪神高速環状線より規制地域が大き
いJR大阪環状線のほうが削減率が大きくなっている.しかし,JR大阪環状線に囲まれる地域の面積
は,阪神高速環状線のそれよりも約 8 倍あるにも関わらず,規制地域の面積と比例して削減効果が見込
まれない.これは,規制地域が大きい方が迂回対象トリップもまた多く,それらのトリップによるする
規制地域周辺の混雑の発生と走行距離の増大によると考えられる.
JR大阪環状線をコードンラインとするコードン方式とコンティニュアス方式を比較すると,それぞ
れ 1 回あたりと 10km あたりの料金が同等であれば,総走行距離,総走行時間はほぼ同程度の削減効果が
期待できるものの,鉄道利用者数の増加はコードンプライシングのほうが多い.コードン方式は規制地
域の内々トリップや内外トリップは課金対象から除外されるが,コンティニュアス方式だと課金対象と
なるため,自動車から公共交通機関への転換のインセンティブがはたらく.それらのトリップはバスを
利用するODが多いため,このような現象が現れていると解釈できる.
ロードプライシングの 12 種類の代替案について二酸化炭素と窒素酸化物排出量の削減量を試算した.
いずれの排出量についても,自動車交通量の削減と同様に,規制地域の大きさ,課金方法に関係なく,
料金があがるにつれて,二酸化炭素,窒素酸化物の排出量は現状よりも減少する傾向にある.また,ど
の代替案でも,大気汚染物質の削減効果があがっている.このことから,コードンライン周辺の迂回交
通による環境悪化を考慮しても,大気汚染物質の排出量の削減に,ロードプライシングは効果があるこ
とがわかった.
また,どの代替案でも,窒素酸化物の削減率は二酸化炭素の場合よりも低い値になっている.例えば,
JR大阪環状線内を規制地域にコードン方式で 200 円徴収したときの二酸化炭素の削減率が 6.3%に対
して,窒素酸化物は 2.1%である.これは,1 台あたりの窒素酸化物の排出量は,中速域から高速域にか
けては,走行速度が上がるにつれて排出量が増大する特性に起因すると考えられる.つまり,規制地域
内の交通量が減少することにより平均走行速度が向上した結果,二酸化炭素の削減率より下回る結果に
なったと考えられる.
つづいて,あらかじめ設定した環境目標を達成するようにロードプライシングの料金を設定すること
を考える.ここでは,地球温暖化防止に向けて国際的な取り組みがすすんでおり,明確な削減率が設定
されていることから,二酸化炭素の排出量の 6%程度の削減を環境目標と設定する.その環境目標を達
成するためには,規制地域をJR大阪環状線内とした場合,コードンプライシングでは 200 円/回,コ
ンティニュアスプライシングでは 20 円/km 程度となった.また,阪神高速環状線内に規制地域を狭め
た場合には,コードン方式では 300 円/回程度,コンティニュアス方式では規制地域が狭く,課金する
走行距離が短くなるため実際にかかる料金が低くなり,50 円/km でも 3.3%程度にとどまった.
40
3−2−3
流域圏自然の住民参加型景観評価プロトタイプシステム構築
(1)システム構築の目的
本研究で構想する自然共生のための種々の施策に対して、市民意見の聴取や市民参加の方
法を検討することは重要である。種々の施策のうち、地域整備や自然環境の整備・活用に深
く関係する景観を捉えた場合、住民側がどのように現状の景観を認識し評価しているのかを
把握することがまず必要になる。現状は、写真データを地図上に貼り付けることなどにより、
景観に関する情報を共有する方法がとられるが、その場合、情報の共有や再利用が困難など
の問題が生ずる。また、景観に関する情報は、高さ情報や奥行き情報も含めた三次元空間を
扱っているために、二次元である地図情報だけではなく、三次元空間も扱うことが望まれる。
一方、近年、IT 技術の進歩により、コンピュータネットワークを通じての情報交換が盛ん
に行われるようになっている。自治体においては、GIS を用いて、都市計画・固定資産税・
水道管理・道路管理システムなど様々なデータベースを構築し、ネットワークを通じてそれ
らの異種の情報を GIS に取込み、空間的に関連づけて分析する動きが出てきている。これに
より、情報を地図という視覚的なもので扱うことから、より訴求力を持った情報を提供する
ことが可能になっている。また、それを閲覧する方法としてインターネットを利用すること
で、一般市民との情報の共有も可能であり、コンピュータネットワークを通して、市民から
の意見収集、計画側の情報発信など、計画を進めていく上で重要となる「円滑なコミュニケ
ーション」を行う上で、重要な要素を担っている。
一般的な「コミュニケーション」のツールとしては、中でも携帯電話の普及、及び、その
発達は飛躍的であり、ここ数年の携帯電話にはメール機能(E-mail)だけでなく、ウェブラ
ウジング機能やカメラ機能、GPS 機能(位置情報取得)などの高性能な機能が装備されるよ
うになった。ユーザーは常にそれを文字通り「携帯」していることから、携帯電話は現代に
最も即したコミュニケーションツールであり、人々の生活にとってなくてはならない機器と
なりつつあるといえる。
よって、以上に取り上げた GIS や携帯電話などの情報ツールを活用することによって、景
観に関する情報を加工、蓄積、変更が容易な形で扱い、かつ市民と共有しながら扱える仕組
みが必要とされる。
本研究では、その課題の解決のために、GPS 機能を有したカメラ付き携帯電話を利用して、
市民各人が何らかの評価をした、淀川流域圏の実空間の位置情報付きの景観画像データによ
る収集画像データベースを作成し、収集画像を二次元空間や三次元空間上に貼り付けること
により、視覚情報を用いて環境の評価や環境マップの作成を可能にするプロトタイプシステ
ムを構築する。
(2)プロトタイプシステムの概要
GPS 機能付きのカメラ携帯で撮影された画像を、データサーバーへ送信する。送信された
画像はデータサーバーで受信される。サーバーは受信した画像から、メールアドレス、件名、
本文、jpeg 画像、及び画像の exif ファイルから緯度、経度、の各情報を抽出し、データベ
ースへ登録する。なお、この際データベースへの登録に関して、exif ファイルからの緯度・
経度情報の抽出や、抽出された緯度・経度情報のデータベースへの登録は perl を用いて開発
を行う。データベースに登録された情報は、三次元空間を表示可能なプログラムに読み込む
41
ことにより、三次元空間、二次元空間上に表示することを可能にする。
ここでは、三次元空間情報を取り扱うプログラムとして VirtoolsDevRを、データベースシ
ステムとして MySQL を利用する。VirtoolsDevRは、Virtools 社製のリアルタイム・シミュレ
ーションを可能にするために、Dirext3DRテクノロジーを用いたソフトであり、一連のプログ
ラムを機能ごとに単位化した「Behavior Block」を使い開発を行うことができ、Web ブラウ
ザ上に Plug-in できる Player を備えている。MySQL は、オープンソースのリレーショナルデ
ータベース管理システム(RDBMS)である。マルチユーザ、マルチスレッドで動作し、高速性と
堅牢性に定評がある。オープンソースなので基本的には無償で利用することができる。
Windows や各種 UNIX 系 OS など、多くのプラットフォームで動作するのも特長の一つである。
プロトタイプシステムの概要を図 3-44 に示す。
①
②-1
③
⑧
②-2
④
⑨
⑧
⑥
⑤
⑦
図 3-44
①
プロトタイプシステムのフロー
GPS 機能カメラ付携帯電話で写真を撮る。本システムでは au 製 W21K を利用して開発
した。GPS 情報付き画像をメールで送信する。
②-1
画像データから抽出した「From」、
「Suject」、
「画像ファイルのパス」、
「ファイル名」
など GPS 情報を登録する。
②-2
画像をデコードし、特定のフォルダに名前をつけて保存する。
③
評価フォームのあるウェブページの URL を自動返信する
④
Web にアクセスする。
⑤
氏名、年齢、住所、職種、職業、評価項目、コメントを送信する。
⑥
評価フォームで回答したデータを登録する。
⑦
FTP によりローカルマシンにダウンロードする。
⑧
必要なデータを読み込む。
⑨
送付された写真データを三次元空間、二次元空間に配置して閲覧する。
以上のようにシステムを稼動することによって、登録されるデータの例を図 3-45 に示す。
42
画像データ
氏名 淀川太郎
年齢 25 才
業種 市民
職業 飲食店勤務
評価 良い
コメント
自然が多くて非常に景色の良いところです。
図 3-45
登録データの例
(3)開発した機能
プロトタイプシステムを構築するために下記の内容の機能を新たに開発した。
①GPS 情報を抽出し、データベースに登録する
携帯カメラ、デジタルカメラで撮った写真には exif 情報という日時、カメラ名、焦点距離
など様々な情報が付加されている。特に、GPS 機能カメラ携帯で撮った写真の exif 情報には
GPS 情報(緯度、経度の位置情報)が含まれている。ここでは、画像データから抽出した「From」、
「Suject」、「画像ファイルのパス」、「ファイル名」など GPS 情報を登録する。そこで、まず
POP サーバに 1 秒に 1 回アクセスし、新規のメールを取得し、次にメールが届いていた場合、
「From」、「Suject」を抽出し MySQL に登録する perl スクリプトを作成した。
②画像をデコードして保存する
画像をデコードし、特定のフォルダに名前をつけて保存する。そのために、次の機能を可
能にする perl スクリプトを作成した。まず添付画像については Base64 でテキスト化された
データをフリーソフトの Base64 デコーダで jpeg にデコードし、その保存先のパスと ID と一
致させたファイル名を MySQL に登録する。次にデコードした jpeg データに付随している exif
情報から、公開されているライブラリを用いて位置情報を取得し MySQL に登録する。
③評価フォームのあるウェブページの URL を自動返信する
評価フォームのあるウェブページの URL を自動返信する機能を作成した(図 3-46)。その
ため次のような perl スクリプトを作成した。まず GPS 情報、添付画像等がない場合は、エラ
ーメッセージを自動返信する。また、正常に送られてきた場合については、MySQL のプライ
マリキーである ID の情報が付随した評価フォームの URL を自動返信する。
43
図 3-46
評価フォームのあるウェブページの URL の自動返信機能
④撮影者情報、評価項目、コメントを送信し、データベースに入力する
撮影者に関する情報である、氏名、年齢、住所、職種、職業、評価項目、コメントを送信
し、データベースに登録する。このために次のような perl スクリプトを作成した。まず、評
価フォームに回答したデータを MySQL の ID と一致するフィールドに登録する(図 3-47)。
次に、評価を加えるための web の URL を返信する。評価は、氏名の明記、年齢、性別、職種
の選択、職業の記入、良い悪いの評価である。コメントの記入さらに携帯電話の web 上のフ
ォームで送付した評価内容に沿って、データベースの評価項目のテーブルを追加する。
図 3-47
評価フォームによる回答データの MySQL への登録状況
図 3-48
評価の送信フォーム
44
⑤対象地区を地図、航空写真を二次元、三次元で表示閲覧する
ベースとなる表示画像としては、情報を適切なメディアや見方で閲覧できるように、地図
および航空写真の二次元、三次元画像をそれぞれ選択できるようにする(図 3-49)。視方向
を認知しやすいように、方位を表示する。
・二次元地図の場合:表示、閲覧するために、下記の機能を付加した。
-
←↑↓→ボタンでスクロール
-
マウスクリックでスクロール
-
PageUp、PageDown で拡大縮小
・三次元地図の場合:地図、航空写真をマッピングした地形モデルを三次元で表示する。
フライバイによる自由な視点での検討が可能となる。表示、閲覧するために、下記の機
能を付加した。
-
←↑↓→ボタンで回転
-
マウスクリックでターゲット移動
-
PageUP
図 3-49
PageDown でズームイン&アウト
二次元の地図による表示(左上)、三次元空間による表示(右上)三次元航空
写真による表示(下)
⑥撮影した写真を配置し、マーカーで表現する
・撮影した地点の認識を高めるために、携帯電話で撮影した写真の撮影地点に球形のマーカ
ーを配置することで、撮影した地点を表示する(図 3-50)。
45
図 3-50
二次元による表示(左)、三次元による表示(右)
⑦データベースから GPS 情報を取り出して配置する
ネットワーク上の別のマシンの MySQL から、写真の GPS 情報、撮影者情報を取得し、写真
を撮影した地点にマーカーを配置する(図 3-51)とともに、撮影者(行政、専門家、市民、
ゲスト)(図 3-52)、評価(良い、悪い)別(図 3-53)に分類分けしてマーカーを色別に配
置する。GPS 情報は XY 座標に変換して配置する。
図 3-51
地図上への写真撮影地点の表示
図 3-53
図 3-52
撮影者の分類:行政の場合
撮影者の評価
⑧GPS 情報を Virtools 上の座標に変換する
Virtools の座標の原点にあたる部分を ez ナビウォーク(*1)を用いて緯度経度に換算する
46
(図 3-54)。
Virtools 上の原点
北緯34°42’59.3”
東経135°29’08.2”
図 3-54
Virtools 上の原点(左)、ez ナビウォークの目算(右)
対象地域の範囲では緯度経度の誤差は少ないものとし、緯度経度、1秒あたりの距離を一
定なものとして設定する。次のサイトの緯度経度情報から二点間の距離を計算するソフト
を用いた。
http://www.gld.mmtr.or.jp/ itoh/yama/tool/gps.html
これにより緯度1秒当たり 30.8837m、経度1秒当たり 25.3826mとした。
緯度経度(GPS 情報)を(N,E)、Virtools 上の座標を(X,Y)で表す。
Virtools 上の原点(X0,Y0)=(0,0)の緯度経度を(N0,E0)とする。
ある撮影地点の緯度経度を(N1,E1)とするとその Virtools 上の座標(X1,Y1)は
X1=(N1-N0)× 30.8837
Y1=(E1-E0)× 25.3826
となる
⑨距離、面積を表示する
マウスでクリックした二点間の距離を計算して表示する(図 3-55)。任意の数の点で囲ま
れた範囲の面積を計算して表示する(図 3-56)。また二次元の地図の場合は、縮尺の変更を
可能にして、表示範囲を任意に変更できるようにする(図 3-57)。
赤線部分の距離表示
図 3-55
赤線部分の面積表示
距離の表示
図 3-56
47
面積の表示
図 3-57
縮尺の変更
⑩写真データ、撮影者情報を表示する
選択したマーカーについては、撮影した写真と撮影者情報を表示する(図 3-58)。詳細な
撮影に関する情報を参照できる。
写真データの表示
撮影者情報の表示
図 3-58
写真データ、撮影者情報の表示
(4)実証実験
淀川流域圏の下流域内に位置する阪急十三駅、阪急中津駅、JR 塚本駅周辺について上記の
プロトタイプシステムを実際に運用し、システムの評価を行った。その結果、上記の開発機
能の稼動を確認できた。
(5)まとめと今後の予定
本研究では、GPS 機能を有したカメラ付き携帯電話を利用して、市民各人が何らかの評価
をした淀川流域圏の実空間の位置情報付きの景観画像データによる収集画像データベースを
作成し、収集画像を二次元空間や三次元空間上に貼り付けることにより、視覚情報を用いて
環境の評価や環境マップの作成を可能にするプロトタイプシステムを構築した。
今後は、GIS システム上においても今年度構築した収集画像データベースの収集画像によ
る環境の評価や環境マップの作成が必要である。よって H17 年度には、収集画像データベー
スと ArcGIS システムとをリンクして、GIS システム上においても収集画像を閲覧できるシス
48
テム開発と実証実験を行う予定である。
(注)
*1
ez ナビウォーク:歩行中に目的地までスクロールする地図と音声・テキスト・バイブ・
アイコンでガイドするサービスであり、au が提供している。
49
3−3
流域圏自然のモニタリング・機能の定量化
3−3−1
沿岸域の流動・水質・生態系のモニタリング
(1)モニタリングの概要
モニタリングは、大阪湾奥部の淀川影響域で実施した。実施内容は、①海洋レーダーを用い
た流況観測、②水質観測、③底質調査である。ここでは水質観測の結果について報告する。水
質観測は、淀川河川水が流入する尼崎西宮芦屋港(東西約 6.7km、南北約 4.6km)において、2004
年 5 月 25 日から 11 月 30 日までの 7 ヶ月間、2 週間に 1 回の頻度で実施した。さらに台風通過
後の調査も実施し、本年度は計 11 回の観測を行った。水質観測点は図 3-59 に示す防波堤外の
1 点、人工島前面の 6 点、および人工島背後の 5 点の計 12 点である。塩分、水温、クロロフィ
ル a、濁度、DO の計測を実施した。観測方法は全て観測船による巡回測定である。
A4
B2
図 3-59
観測位置
(2)観測結果
本年度は一年を通して平年より気温が高く、西日本においては年平均気温が観測開始以来 2
番目の高さを記録した。降雨量は平年と比較して 7 月は約 1/3、8 月は約 1.5 倍を示した。ま
た、台風の上陸回数が 10 回という特異な記録を残した年でもあった。このような気象状況によ
って、湾奥部の水質は例年とは異なる構造を示した。特に、台風による強風と、11 月の高気温
が貧酸素水塊の消長に大きな影響を及ぼしたと考えられる。
図 3-60 に防波堤外の測点 D1、人工島前面の測点 1、人工島背後で水深の大きい測点 8、また
水深の小さい測点 11 における DO(mg/l)の経時変化を示す。本年度は気温が高く、7 月 6 日には
測点 11 を除いて貧酸素水塊が見られ、測点 8 では貧酸素水塊の厚さが 6m に及んでいる。その
後、8 月にかけて気温が上がり、水深方向の水温差や密度差による成層が強くなるに従い、徐々
に貧酸素水塊が発達している。9 月 1 日はすべての観測点である程度の DO の回復が見られるが、
これは 8 月 30 日に上陸した台風 16 号の影響である。しかし、その影響も一時的なもので、2
週間後の 9 月 14 日には、貧酸素水塊は再び底層付近で発達している。9 月 29 日の台風 21 号、
10 月 20 日の台風 23 号の影響により、11 月 1 日以降は時間とともに貧酸素水塊が徐々に減退し
ていく様子が見てとれる。このように、秋季における台風のような大きな気象撹乱は、人工島
背後の水域を除き貧酸素水塊減退の一因となっているものと考えられる。
50
Depth(m)
0
D1
-5
-10
-15
Depth(m)
0
1
-5
-10
Depth(m)
0
8
-5
Depth(m)
0
11
-2
-4
-6
7/6
7/20
8/10
図 3-60
8/24 9/1 9/14
10/4
10/19 11/1
11/16 11/30
DO(mg/l)の時系列変化
図 3-61 に人工島背後の測点 A5 における 2002、2003、2004 年の 3 年間にわたる DO の経時変
化を示す。2004 年は 11 月に入っても貧酸素水塊の解消があまり見られず、11 月 30 日において
も強固に残り続けているのがわかる。10 月以降、台風の影響もあり成層が弱まったものの、11
月に入っても貧酸素水塊が残存した測点が多数見られた。この理由として、11 月になっても気
温が下がらず底層の水温が高かったためと考えられる。そこで、貧酸素水塊減退期における、
底層(海底上 0.5m)の水温と DO の相関を図 3-62 に示す。用いたデータは、2002∼2004 年の 3
年分の観測結果である。地点による差異を明らかにするために、防波堤内の人工島背後の測点
(A4,8)、および人工島前面の測点(B2,3)、そして防波堤外の測点(D1)の3つの水域に分
けて整理した。また、貧酸素水塊の減退には成層構造の弱化が必要条件であるため、弱化した
日以降のデータを用いて解析を行った。図に示すように、防波堤内外を問わず底層の水温と DO
には高い相関が見られた。特に、人工島背後では、流動が小さいため底層付近の酸素消費(底
貧酸素水塊減退期
Depth(m)
2002
0
-5
-10
6/3
6/19 7/2
7/17
7/31
8/20
9/4
9/19
10/10 10/21
11/13 11/26
-5
-10
5/7 5/15 5/28 6/9 6/21 6/30 7/15 7/29
8/12
8/26
9/9
9/27 10/9
10/24 11/7
11/27
-1
Depth(m)
4/17
2004
Depth(m)
2003
0
-6
-11
7/6
図 3-61
7/20
8/10 8/24 9/1
9/14
10/4
10/19 11/1
3 ヶ年の DO(mg/l)の時系列変化
51
11/16 11/30
A4,8
8
D1
防波堤外
R=0.876
7
底層DO(mg/l)
B2,3
人工島前面
R=0.780
6
5
4
3
2
1
人工島背後
R=0.847
0
-1
15
17
図 3-62
19
21
底層水温(℃)
23
25
底層の DO と水温の相関
層水中および底泥による酸素消費)が底層の DO の増減に大きく寄与しているものと考えられる。
貧酸素水塊の発生は、陸域からの栄養塩の供給と底泥からの溶出、一次生産と有機物分解等
の生物化学過程と、物質の輸送と拡散を決定する物理過程に支配されている。しかし、淀川か
ら大阪湾に供給される栄養塩の動態と河口域の一次生産の実態については、未だ不明な点が多
く、現在、底泥の同位体分析による実態の解明を進めている。
52
3−3−2
微生物に着目した河川生態系機能の評価
流域圏の自然環境が有する最も重要な機能の一つとして、人為活動によって放出される
汚染物質などを分解・除去し(浄化)、或いは健全な物質フローに戻す(循環)『環境負荷
低減機能』を挙げることができる。GIS など既存の流域圏データベースには、主に人為活
動に由来する物質のフロー、各種有機・無機物の現存量(濃度)などのデータは含まれて
いるが、流域の自然が有する『環境負荷低減機能』、例えば汚染物質の浄化ポテンシャルや
元素循環のポテンシャルなどはほとんど含まれておらず、流域都市に由来する環境負荷イ
ンパクトによる自然の応答や劣化を予測し、適正な流域自然管理の戦略を構築していくた
めの化学的指標が整備されているとは言い難い。特に、汚染物質の浄化や炭素、窒素など
主要元素の循環において主要な役割を担っている微生物については、全くといっていいほ
どデータが整備されていないのが現状である。ここでは、
『環境負荷低減機能』の主力を担
う流域圏の微生物の主要な機能を評価することを目的として、
(ⅰ)化学物質分解ポテンシ
ャル、及び(ⅱ)窒素循環ポテンシャルを評価するとともに、微生物生態系構造について
検討を行った。
(1)淀川流域における微生物モニタリングサイト
微生物(機能)のモニタリングを実施するサイトとして、淀川水系に属する琵琶湖、瀬
田川、宇治川、桂川、木津川、淀川のそれぞれ特徴の異なる計 12 の地点を選定した。サン
プリングサイトの位置とその特徴を図 3-63 及び表 3-6 にそれぞれ示している。各サイトか
ら河川水試料を 2003 年 6 月 16 日、9 月 5 日、12 月 8 日、2004 年 5 月 27 日、8 月 24 日、
10 月 27 日、2005 年 1 月 12 日の 7 回採取し、微生物モニタリングに供した。サンプリング
はよく共洗いした 2L 容ペットボトルに表層水を採取することで行い、直ちに氷冷して研究
室に持ち帰り、実験に供した。
琵琶湖
桂川
1
7
6
宇治川
12
11
淀川
9 8
瀬田川
5 4
2
3
木津川
10
大阪湾
大和川
図 3-63 微生物モニタリングの実施サイト
表 3-6 サンプリングサイトの特徴
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
場所
滋賀県守山市今浜町
滋賀県大津市瀬田
京都府宇治市志津川
京都府宇治市槇島町
京都府宇治市宇治
京都府乙訓郡大山崎町字円明寺
京都府八幡市(町大字名不明)
京都府八幡市(町大字名不明)
大阪府高槻市大字上牧
大阪府枚方市三矢∼寝屋川市仁和寺本町
大阪府大阪市都島区毛馬町
大阪府大阪市此花区高見
採水地点
琵琶湖 湖内
琵琶湖 流出口
天ヶ瀬ダム 流入口
天ヶ瀬ダム ダム湖内
天ヶ瀬ダム 流出口
桂川・宇治川・木津川 合流前
桂川・宇治川・木津川 合流前
桂川・宇治川・木津川 合流前
桂川・宇治川・木津川 合流後
淀川大阪府流域東北部
淀川大堰 手前
大阪湾へ注ぎ込む地点
河川名
琵琶湖
瀬田川
宇治川
宇治川
宇治川
桂川
宇治川
木津川
淀川
淀川
淀川
淀川
影響因子
琵琶湖
琵琶湖
大津市付近の排水
ダム
ダム
京都府内の排水
宇治市内の排水
奈良県内の排水
三河川の合流
大阪府東北部域の排水
大阪市内の排水、堰
最下流域工業排水、海水
(2)河川微生物による化学物質分解ポテンシャルの評価
①試験の概要
昨年度までの検討結果から、河川物質の化学物質分解ポテンシャルを評価するための標
準物質としてアニリンとフェノールを、それぞれ初期添加濃度を 20mg/L で用いることとし
た。生分解試験は(TOC)阪大法に基づいて実施したが、予備検討の結果から、HPLC 分
析で標準物質自体の消長を追跡することによって分解全体をある程度評価できることが明
らかになったことから、HPLC 分析によって分解過程を評価することとした。
②試験結果及び考察
アニリン及びフェノールの分解試験の結果をそれぞれ図 3-64 及び図 3-65 に示す。分解
試験の結果、淀川水系の河川微生物によるアニリン及びフェノールの生分解に要する時間
はサンプリングの時期や地点によって様々であり、アニリン及びフェノールの分解特性は
季節的及び地理的条件によって大きく異なることが示された。アニリンの分解には 1.5-5
日程度のラグ期が存在し、その後一部のサンプルを除いて、0.5-2 日程度で 0 次反応的に分
解されることが示された。一方、フェノールの生分解では 1 日程度のラグ期が存在し、そ
の後 1−10 日程度で 1 次反応的に分解されることが示された。これらのことから、アニリ
ンの分解期を 0 次反応、フェノールの分解期を 1 次反応と仮定して、近似式からラグ期終
了時間(T 100 )、半減期(T50 )及び完全分解時間(T 0 )を算出し、これらの値を基にして、
地理的或いは季節的条件が生分解ポテンシャルに及ぼす影響について考察することとした。
T100 、T50 及び T0 を算出した結果、アニリンの分解においては、ラグ期が分解全体に占め
る割合が高く、T100 が T50 及び T0 の大部分を占めた。一方、フェノールの分解においては、
T100 はサンプリングの地点や季節による変動が小さく、多くのサンプルで 0.5-2 日となった。
また、幾つかの試料におけるフェノールの分解過程では、残存率が 40-60%に達した後、数
日間の停滞期が認められた。これは高濃度のフェノール或いはその中間代謝物の毒性によ
る影響であると考えられ、実環境中の濃度ではこのような分解開始後の停滞期はなく、速
やかに完全分解に至ると考えられた。これらのことから、河川微生物のフェノール分解ポ
テンシャルは T50 で評価することとした。以上のことから、アニリン分解試験における T 0
とフェノール分解試験における T50 を用いて分解ポテンシャルの強度を分類し、表 3-7 に示
すレベルの配色及び境界に基づいて、図 3-66 及び図 3-67 にそれぞれ示した。
アニリン分解試験における地点 1 から 3、及びフェノール分解試験における地点 2 から 3
では、下流に向けて分解時間が短くなる傾向を示した。これは、大津市内からの生活排水
や農業排水、或いは地点 3 周辺の森林からの栄養塩の流入などの要因により、琵琶湖内で
は少なかった分解微生物が増加或いは活性化したことによるものであると考えられた。ま
た、地点 7 から 10 においても、下流に向けて分解が早くなる傾向を示した。これは、大阪
府北東部に位置する工場や下水処理場からの人為活動由来の化学物質の流入によって、分
解微生物が集積され、分解ポテンシャルが向上したことに起因することが考えられた。ま
た、地点 7 から 10 は淀川本流の中で常に高い分解ポテンシャルを示したことから、この部
分が淀川水系本流の中で最も汚染度が高い可能性が考えられた。一方、ダム湖内の地点 4
及び流出口の地点 5 では、ダム上流部の地点 3 に比べて分解に長時間を要した。これは、
ダム湖内では河川水の滞留時間が長くなることによって、アニリンやフェノールを分解す
る微生物相が変化した、或いは分解微生物の活性が弱まったことによることが考えられた。
しかし、ダムと同様に水が停滞する堰(地点 11)では、ダムほどの分解能の顕著な低下は
認められなかった。通常、堰の一部が開門していたことから、堰ではダムに比べると水の
120
Aniline remaining (%)
120
(A)
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
0
9
Aniline remaining (%)
120
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
(B)
100
(E)
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
0
120
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
(C)
100
(F)
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
Aniline remaining (%)
Aniline remaining (%)
(D)
100
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
(G)
100
80
60
40
20
0
0
1
2
3
4
5
Tim e (days)
6
7
8
9
図 3-64 アニリンの分解
(A)2003 年 6 月、(B)2003 年 9 月、(C)2003 年 12 月、(D)2004 年 5 月、(E)2004 年 8 月、(F)2004 年 10 月、
(G)2005 年 1 月.地点 1:◆、地点 2:■、地点 3:▲、地点 4:●、地点 5:◇、地点 6:□、地点 7:
△、地点 8:○、地点 9:◆、地点 10:■、地点 11:▲、地点 12:●.
滞留が明確には起こっておらず、分解ポテンシャルへの顕著な影響が現れなかったと考え
られた。京都市内を流れる桂川(地点 6)、奈良県内を流れる木津川(地点 8)においては、
サンプリングの時期によらず、淀川本流上流部(地点 1-5)に比べて分解時間が短い傾向を
示した。桂川、木津川は、水質調査の結果から、地点 1-5 に比べて汚濁負荷が高く、その
結果分解微生物が馴養されて、化学物質分解ポテンシャルが高まったと考えられた。地点
9 における分解時間は直前で合流する 3 河川(桂川、宇治川、木津川)のほぼ中間の値を
取り、3 河川中の微生物が混合したことを反映した結果となった。また地点 10 は、大阪府
の都市部に位置するために、生活排水や工場排水の流入が多く、微生物活性が高まること
が予想されるが、一部の試料においては、地点 9 よりも低い分解能力を示した。これは、
高い汚濁負荷が高流量の淀川本流における希釈等によって軽減し、全体的に微生物の活性
が弱まったことによる可能性が考えられた。大阪湾直前の地点 12 では、試料によって分解
時間が大きく変動した。地点 12 では、サンプリングの時期や時間帯によって海水(海水性
微生物)の流入量が異なり、このために人工河川水を用いた本研究の生分解試験で分解能
力を発現できた微生物量が異なって、不安定な結果をもたらした可能性が考えられた。
120
Phenol remaining (%)
120
(A)
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
0
Phenol remaining (%)
120
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
(B)
100
(E)
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
0
120
Phenol remaining (%)
(D)
100
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
(C)
100
(F)
100
80
80
60
60
40
40
20
20
0
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
Phenol remaining (%)
Tim e (days)
(G)
100
80
60
40
20
0
0
1
2
3
4
5
Time (days)
6
7
8
9
図 3-65 フェノールの分解
(A)2003 年 6 月、(B)2003 年 9 月、(C)2003 年 12 月、(D)2004 年 5 月、(E)2004 年 8 月、(F)2004 年 10 月、
(G)2005 年 1 月.地点 1:◆、地点 2:■、地点 3:▲、地点 4:●、地点 5:◇、地点 6:□、地点 7:
△、地点 8:○、地点 9:◆、地点 10:■、地点 11:▲、地点 12:●.
アニリン分解試験における 2005 年度冬期、フェノール分解試験における 2003 年秋期及
び 2005 年冬期の多くの地点において、他の季節における同地点の結果よりも分解時間が長
くなる傾向を示した。これらの時期では、水温が春期や夏期に比べて非常に低く、微生物
活性が低下したために分解ポテンシャルも低下したと考えられた。このため、水温は化学
物質分解ポテンシャルに大きく影響する環境因子であることが示唆された。他方、採水中
に降雨があった 2003 年春期及び 2004 年秋期には、他のサンプリング時期に比べて地点ご
との差が小さくなることが認められた。降雨時には、流量及び流速が高まることによって、
下水処理場や工場排水からの放流水などの人為的な影響やその他の外的因子による影響が
河川全域を通して均一化するため、地点ごとの分解ポテンシャルの差が小さくなったと考
えられた。
表 3-7 生分解ポテンシャルの分類
生分解ポテンシャルレベル
1
2
3
4
5
6
7
配色
アニリン分解のT0における境界 (day)
フェノール分解のT50における境界 (day)
0-3.0
0-1.5
3.0-4.0 4.0-5.0 5.0-6.0 6.0-7.0 7.0-8.0
1.5-2.0 2.0-2.5 2.5-3.0 3.0-4.0 4.0-5.0
8.05.0-
大阪湾
淀川
宇治川
瀬田川
琵琶湖
淀川大堰
地点8
木津川
天ヶ瀬ダム
瀬田川洗堰
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
(G)
図 3-66 アニリン分解における T 0 の分布
(A)2003 年 6 月、(B)2003 年 9 月、(C)2003 年 12 月、(D)2004 年 5 月、(E)2004 年 8 月、(F)2004 年 10 月、(G)2005 年 1 月.
地点12
地点11
地点10
地点9
地点6
地点7
桂川
地点5
地点4
地点3
地点2
地点1
大阪湾
淀川
宇治川
瀬田川
琵琶湖
淀川大堰
地点8
木津川
天ヶ瀬ダム
瀬田川洗堰
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
(G)
図 3-67 フェノール分解における T50 の分布
(A)2003 年 6 月、(B)2003 年 9 月、(C)2003 年 12 月、(D)2004 年 5 月、(E)2004 年 8 月、(F)2004 年 10 月、(G)2005 年 1 月.
地点12
地点11
地点10
地点9
地点6
地点7
桂川
地点5
地点4
地点3
地点2
地点1
(3)窒素循環ポテンシャルの評価と微生物生態系構造解析
①試験の概要
河川表層水から調製した DNA テンプレートに対して、全微生物の指標として真正細菌の
16S rDNA、硝化ポテンシャルの指標としてアンモニア酸化細菌の amoA 遺伝子、脱窒ポテ
ンシャルの指標として nirK 及び nirS 遺伝子、芳香族化合物分解ポテンシャルの指標として
C12O 及び C23O 遺伝子を、それぞれ MPN-PCR 法により定量した。また、真正細菌の 16S
rDNA を標的として、PCR-DGGE 法により、微生物生態系構造の解析を行った。
②試験結果及び考察
1.窒素循環微生物の分布と季節変動
16S rDNA 及び窒素代謝遺伝子の定量結果をそれぞれ図 3-68(A)及び図 3-68(B)-(D)
に示す。
16S rDNA は 103 -10 8 MPN/ml の範囲で存在しており、地点 7 以降の下流部の大部分におい
て、5、6 月の春季に最も高い値を示し、夏季及び冬季に低い値を示した。このことから、
河川微生物数は水温によって変動することが示唆された。
amoA 遺伝子は 2003 年 9 月と 12 月、2004 年 5 月と 8 月、2005 年 1 月では 10 0 -10 2 MPN/ml
であったが、2003 年 6 月、2004 年 10 月では 10 1 -10 3 MPN/ml となり、相対的に高い値を示
した。他方、アンモニア酸化細菌のエネルギー基質であるアンモニア態窒素は、2003 年 6
月において水系全体を通して高濃度であった。このことから、河川中の amoA 遺伝子数は
アンモニア態窒素濃度に依存して変動する可能性が考えられた。また、2003 年 6 月及び 2004
年 10 月は、前日及び当日に降雨があったことから、降雨によって河川に流入した周辺土壌
由来のアンモニア酸化細菌が河川中の amoA 遺伝子数の上昇をもたらした可能性も考えら
れた。一方、季節によらず、下水処理場をはさむ地点 5 と地点 7 の間で amoA 遺伝子数が
上昇する傾向が認められ、特に冬季には地点 7 において地点 5 よりも 100 倍高い amoA 遺
伝子数を示した(図 3-68(B))。即ち、下水処理場の放流水も amoA 遺伝子数を変化させ
る source として機能しており、特にアンモニア酸化細菌の生育に適さない低水温時(最適
生育温度:25-30℃)には河川水中の amoA 遺伝子数に対する下水処理場の放流水の影響が
大きくなる可能性が考えられた。
nirK 遺伝子及び nirS 遺伝子は季節によらず概ね 100 -10 2 MPN/ml であったが、多くの場合
に地点 3 から地点 4 にかけて低下する傾向を示した(図 3-68(C)、
(D))。ダム湖内ではそ
の前後よりも流速が低く、滞留時間が長くなるが、この影響によって脱窒遺伝子数が低下
した可能性がある。他方、地点 11 から地点 12 にかけて、nirK 遺伝子数が減少し、nirS 遺
伝子数が上昇する傾向を示した(図 3-68(C)、
(D))。Taroncher-Oldenburg ら(2003)は脱
窒菌相が塩濃度や無機態窒素、溶存性有機炭素に応じて変化することを示している。つま
り、淡水に対する海水の流入割合によって脱窒菌相が変化し、nirK 及び nirS 遺伝子に対し
て異なる変化をもたらした可能性が考えられた。
2.芳香族化合物分解微生物群の分布と季節変動
C12O 及び C23O 遺伝子の定量結果を図 3-68(E)及び(F)に示す。C12O 遺伝子は地点
や季節によらず 3.6MPN/ml 以下であったが、C23O 遺伝子は 10 0 -10 3 MPN/ml であり、C12O
遺伝子よりも多く存在した。カテコールを経由する芳香族化合物分解の中で、C12O を介す
る分解は常経路、C23O を介する分解は高汚染負荷時に発現する非常経路であると考えられ
ており、それぞれの遺伝子数が上昇する環境条件が異なっている。このことから、C23O 遺
伝子が多く存在していることから、淀川水系では芳香族化合物による汚染が生じている可
能性が考えられた。
(A)
log(MPN-copies/ml)
10
8
3
6
2
4
1
2
0
0
1
2
3
4
5
7
9
10
11
log(MPN-copies/ml)
1
12
(C)
4
2
3
4
5
7
9
10
11
3
2
2
1
1
12
(D)
4
3
0
0
1
2
3
4
5
7
9
10
11
12
(E)
3
log(MPN-copies/ml)
(B)
4
1
3
4
5
7
9
10
11
3
2
2
1
1
0
2
12
(F)
0
1
2
3
4
5
7
地点
9
10
11
12
1
2
3
4
5
7
9
10
11
12
地点
図 3-68 MPN-PCR 法による遺伝子定量結果. (A)16S rDNA、(B)amoA 遺伝子、(C)nirK 遺伝
子、(D)nirS 遺伝子、(E)C12O 遺伝子、(F)C23O 遺伝子.
□: 2003 年 6 月、○: 2003 年 9 月、△: 2003 年 12 月、■: 2004 年 5 月、●: 2004 年 8 月、◆: 2004
年 10 月、▲: 2005 年 1 月.
3.微生物生態系の特徴と季節変化
PCR-DGGE バンドパターンより算出した Shannon-Weaver index(H’)及び Simpson index
(D)を図 3-69 に示す。2003 年 6 月では全地点において概ね変化はなく、2003 年 9 月に
おいては、地点 4-7 で大きく変化したが、上流域或いは下流域では多様性は保存された。
2004 年 5 月では地点 1-3 の間で急激に変化したが、地点 4 より下流部では同程度の多様性
であった。2004 年 8 月では上流から下流にかけて全体的に上昇する傾向を示したが、地点
間での大幅な増減はなかった。2004 年 10 月においては、地点 4 及び地点 11 で急激に低下
した。2005 年 1 月においては、地点 1-7 では地点ごとに増減を繰り返し、合流後は漸増し、
地点 11 と 12 の間で低下した。多くのサンプリング時期にダム前後、合流前後、鳥飼大橋
付近から大阪湾直前の地点 10-12 において多様性が変化することが認められた。特に、多
様性は、ダムや堰など河川の流速を低下させる構造物の下流部分で低下し、3 河川の合流
や海水の流入によって上昇することが示されたことから、河川微生物の多様性は物理的或
いは化学的な環境変化によって変化することが示唆された。
4
(A)
0.5
0.4
3
4
(B)
0.4
3
6
0.1
0
0
1
2
3
4
5
7
4
3
8
2
8
0.2
8
6
1
0.4
0.1
0
1
0.5
6
8
0
9 10 11 12
(C)
6
2
3
4
5
7
9 10 11 12
4
(D)
0.4
8
6
3
0.3
1
0
0
2
3
4
5
4
8
6
0.2
0.1
1
0.3
2
6
7
8
6
0.4
3
0.1
0
0
1
0.5
2
3
4
5
7
9 10 11 12
4
(F)
3
0.3
2
8
0.2
1
8
6
0.1
0
0
1
2
3
4
5
7
地点
9 10 11 12
0.5
0.4
8
6
0.3
2
0.2
1
9 10 11 12
(E)
0.5
D
H’
D
0.2
8
6
8
1
H’
0.3
2
D
H’
0.3
2
0.5
0.2
6
1
0.1
0
0
1
2
3
4
5
7
9 10 11 12
地点
図 3-69 Shannon-Weaver index(H’; ●)及び Simpson index(D; △)の算出結果
(A)2003 年 6 月、(B)2003 年 9 月、(C)2004 年 5 月、(D)2004 年 8 月、(E)2004 年
10 月、(F)2005 年 1 月.
図中の数字は地点を表す.
PCR-DGGE バンドパターンのクラスター解析の結果を図 3-70 に示す。2003 年 6 月にお
いては、上流から下流に向けた微生物相の遷移が認められ、2003 年 9 月においては、地点
1-10 が 1 つの大きなクラスター内に位置した。2004 年 5 月では、地点 2-5 及び地点 7-12 が
それぞれ異なるクラスターを形成し、2004 年 8 月では、地点 1-4 及び地点 9-11 がそれぞれ
同じクラスター内に含まれた。2004 年 10 月においては、地点間の微生物相の変化が大き
いことが認められた。また、2005 年 1 月では、地点 1-4 及び地点 10-12 が類似した微生物
相を示した。これらの結果から、物理的に繋がっている河川環境においては、サンプリン
グの時期によって程度の差はあるが、微生物相は上流から下流に向けて徐々に変化してい
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
(F)
図 3-70 クラスター解析結果
(A)2003 年 6 月、(B)2003 年 9 月、(C)2004 年 5 月、(D)2004 年 8 月、(E)2004 年 10 月、(F)2005 年 1
月.
図中の数字は地点を表す.
くことが示された。一方、複数の河川の合流する地点や淡水と海水が混じる地点において
は、複数の source に由来する微生物が混合されることによって、直前の地点とは大きく異
なる微生物相を形成することが示唆された。
(4)まとめ
2 年間のモニタリングにより、化学物質分解ポテンシャルに関して、(ⅰ)汚水等の流入
によって高まること、(ⅱ)滞留時間が長い地点で低下すること、(ⅲ)春期と夏期に上昇
し、冬季に低下すること、
(ⅳ)降雨によって地点間の差が縮まること、など多くの興味深
い事象を明らかにすることができた。このことから、分解パターンが異なるアニリン及び
フェノールに対する分解能力に基づく化学物質分解ポテンシャルの評価が河川微生物の汚
染浄化能力の評価に適用できると考えられる。また、窒素循環微生物の解析により、アン
モニア酸化細菌の有する amoA 遺伝子は季節や地点によって異なる物理的特徴と化学的特
徴の影響を反映しており、脱窒菌の有する nirK 及び nirS 遺伝子はダムによる滞留時間の変
化のような物理的な特徴に反応して変化することが示された。これらのことから、窒素循
環微生物群は、人為的な負荷による生態系への影響を評価するための指標として適用可能
であるものと考えている。さらに、微生物生態系の解析によって、別の source からの異な
る微生物相の混合が河川微生物相を大幅に変化させることが示された。
3−3−3
(1)
水生昆虫を用いた河川環境評価
はじめに
昨今,EU 諸国やオーストラリア等の国々では,底性昆虫を用いて,河川環境とくに生物の
生息環境を Integrity という見地から総合的に評価しようと言う試みが盛んに行なわれている.
これは,水質が良いことは良好な河川生態系の形成に必須の条件のひとつであるが,そのほか
にも流れや流路の改変,流路に隣接する陸上部分の改変,流域・水系レベルの広域的改変,河
道内に加え沿岸も含めた生物同士の関わり合いといった条件が河川の生物群集に影響を与えて
おり,これらの要因をなるべくもれなく評価しようという試みである.
総合的な河川環境を示す指標として,多様度指数,環境変化に敏感なカゲロウ,カワゲラ,
トビケラの3目の占める割合(EPT 比)などが使われているが,最近では,環境形成要素を多く
取り込んで河川環境を評価する手法(Multimetric Index)が開発されている.例えば,Ofenbock
et al(2004)1)は,生息環境に及ぼす様々なストレスと底性無脊椎動物に関する様々な指標との
関連を調査して,複合項目の新たな指標の提案を行なっている.
欧米と我が国では,生息生物種やそれらの環境への適応過程が異なっていることから,既述
の研究成果の日本の諸河川への適用性については検討を要する.場合によっては,全く新しい
指標の開発が必要となることも予想される.ところが,我が国では,水質汚濁指標を除けば,
生物生息環境に関連する生物指標についての研究は殆ど行なわれていない.
本研究では,淀川下流域を対象として,「河川水辺の国勢調査年鑑」2) の底生生物データと生
物生息環境要素との関連性について検討を行なうことにより,我が国の河川の生物生息環境に
関する適切な評価インデックスを見いだすことを目的とする.
(2)分析データ
2.1
分析の対象地点の概要
本研究では淀川下流域を対象とし,河川水辺の国勢調査年鑑の中で該当する調査ポイントは
36 点である.調査は,京都府八幡市付近の三川合流地点下流域では,右支流である芥川,水無
瀬川,左支流である天野川,穂谷川,船橋川,天野川の支流の北川,三川合流より上流では,
宇治川,木津川,桂川等で行なわれている.分析対象となった河川の位置を図 3-71 に示す.
また,分析対象とした地点を図 3-72 に示す.
65
図 3-71
図 3-72
分析対象河川の位置
分析対象の地点
66
表 3-8
環境要素とその出典
出典あるいは推定方法
環境要素
(利用データ)
調査地点標高
河川水辺の調査年鑑
透明度
GIS
流域土地利用状況
(標高,土地利用データ)
マイクロハビタット構成
現地調査
河畔あるいは河道内植生
河道内構造物
2.2
水生昆虫データ
淀川下流域において底生生物調査の行なわれた平成 6 年度河川水辺の国勢調査年鑑・底生動
物調査編のデータを用いた.採集された昆虫種と個体数データとともに,昆虫採集の方法が記
載されている.水深の大きくない箇所では,コドラートを用いた調査が,水深の大きい場所で
は採泥器により採集が行なわれている.
2.3
環境要素
本研究で採用した環境要素とその出典を表 3-8 に示す.水生生物の生息に影響を及ぼす要素
は,水質,物理的なハビタットの状況,他の生息生物との関連の3つに大別できる.水質は,
流域の地質状況,降雨状況など自然条件と人為的な影響により決定される.調査地点毎の水質
データがないこと,水質は時間変動が大きいことから短期間調査を実施しても意味のあるデー
タを得られないこと,さらに,地点毎の水質の差異が人的影響により支配されているとの予測
から,ここでは,水質データの代わりに,各地点の流域土地利用特性を用いることとした.
物理的なハビタットの特性は,緯度,経度,標高,流域地質条件,流域土地勾配,河床勾配と
いった自然条件と河道や流況等に対する人為的改変の影響が含まれることになる.ここでは,
瀬淵や落差工などの人工構造物の有無,河床材料の粒径によって,物理的なハビタット状況を
分類した.ここでは,他の生物との関係として,有機物供給源となる河道内植生や河畔林の有
無のみを調査した.
分析対象地点の標高,透明度は河川水辺の国勢調査年鑑に記載されており,そのデータをそ
のまま用いた.各調査ポイントの流域面積,流域土地利用状況は GIS (地理情報システム,ESRI
社 ArcView3.2a)の水理計算機能(Hydrologic Modeling)を用いて求めた.瀬淵,河道内構造物
などの物理的なハビタット状況と河道内,河道周辺の植生状況については,現地調査により把
握した.
67
(3)水生昆虫を用いた環境指標
既往の研究を参照して,出現した水生昆虫の種数,存在量,種数構成,汚濁耐性/非耐性,多
様度,生活型,摂食機能等に着目した 27 種の指標を算定した.以下に指標の内容について示
す.
(1)種数
a) Plecoptera taxa;カワゲラ目の種数
b) Trichoptera taxa;トビケラ目の種数
c)EPT taxa;カゲロウ目,カワゲラ目,トビケラ目の種数
d)Total taxa;全種数
e)Total families;全科数
(2)存在量
a) Plecoptera (abundance);カワゲラ目の個体数(LN)
b) Trichoptera (abundance);トビケラ目の個体数(LN)
c) Total individuals (abundance);総個体数(LN)
d)EPT(abundance);カゲロウ目,カワゲラ目,トビケラ目の個体数合計の総個体数におけ
る割合[%]
個体数が場所や種によりオーダーを超えて変動することと,また出現数が0となる場合がある
ことを勘案して,LN(個体数+1)を用いた.
(3)種数構成
a)[%]EPTtaxa;カゲロウ目,カワゲラ目,トビケラ目の種数[%]
(4)汚濁耐性/非耐性
a) Saprobic index;PentleとBuckの汚濁指数3)
汚濁耐性/非耐性の指数の中で,個体数に着目した指数である.汚濁指数 SI は,種iの出現
量 hi (多い,普通,少ないの 3 段階)と,既往の研究によってリストとなっている種iの汚濁耐
性値 si(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ;数が大きくなるほど,汚濁耐性度は大きい.)の積の総和を,出現量の総
和で除して算出される.SI が大きいほど汚濁が進んでいることになる.次式は SI の定義式で
ある.
∑ (s ⋅ h )
SI=
∑h
i
i
i
(3.1)
i
i
本研究では,個体数で出現量を多い:100 個体以上,普通:10 個体以上 100 個体未満,少ない:1
個体以上 10 個体未満に分けた.
b)Sensitive taxa;非汚濁耐性の種数
種数に着目した方法である.研究では,Saprobic index で 4 つに分けた生物の汚濁耐性値 si
のうち,Ⅰに分類される種の数を求めた.
68
c) ASPT(Average Score Per Taxon)4)
科に着目した方法である.すでに求められた各科の BMWP(Biological Monitoring Working Party)
スコア(付録資料 3)から,科まで同定した出現底生無脊椎動物の合計値を科数で割って求め
る方法.値が大きいほど,水質はよいといえる.
(5)多様度5)
a) H'(Shannon-Wiener指数)
この指数は群集中の稀な種の数の変化に敏感に反応する.また,構成種すべてが同一個体数の
場合に H’は最大となり,多様性大を示す.
H ' = −∑ ( pi ⋅ ln pi )
(3.2)
i
ここに,pi は,ある群集からランダムに 2 匹を選んだとき,両方とも同じ種に属する確率であ
り, pi = N i N で示される.Ni:種iの個体数,N:総個体数,
b) J'(均衡度)
群集を構成する種の個体数がどれくらい近い値かを示す指数である.また J’は0∼1の範囲で
値をとり,構成種すべてが同一個体数のとき最大値1を取る.
J′ =
(∑ pi ⋅ ln pi )
i
ln S
S:種数 (3.3)
c)1/D(Simpson)
優占種とくに一位種の個体数の変化に敏感に反応する方法である.D はある群集からランダ
ムに 2 匹を選んだとき,両方とも同じ種に属する確率である.これを逆数(1/D)にすることによ
って,値が大きくなるほど各種の個体数が近く,多様度を示す.値の上限と下限はそれぞれ種
数と 0 である.
1
=
D
1
∑ pi
2
(3.4)
i
(6)生活型6)
各生活型の割合([%]Burrower,[%]Climber ,[%]Clinger, [%]Swimmer)
(7)摂食機能6)
各摂食機能群の割合
[%]Collector-gatherer,[%]Scraper, [%]Predator
RETI([%]shredder&grazer);摂食機能が Shredder,Grazer の個体数合計の全個体数における割
合.本研究では,Grazer の代わりに Scraper を用いた.
69
(4)
分析結果と考察
図 3-73 は淀川下流域の右支川,芥川における指標値の流下方向変化を示している.土地利
用状況の変化に伴う水質の低下という一般的な傾向のため,全体的に上流から下流に向かうに
つれ指標値の低下がみられるが,(%)EPT taxa で増加がみられるなど,地点ごと,指標ごとの
ばらつきが大きい.
地点ごとにばらつきが生じるのは別の人為的ストレスの影響を受けているためと考えられる.
また,指標ごとに変動傾向が異なるのは,人為的ストレスの種類や大きさに応じて,反応度が
異なるためと考えることができる.
図 3-73 芥川における指標値の変化
表 3-9 は,標高,透明度,および,流域土地利用状況から抽出した人工的な土地利用(農地,
建物用地,幹線道路用地の合計)の割合について,各水生昆虫による生物指標と相関をとった
結果である.ここに示した水生昆虫の指標の多くが人工地面積(%)と良い相関にあり,人工的な
土地利用の増加に伴って水質低下を起こし,それに各指標値が反応していることがうかがえる.
また,[%]EPT
(abundance),Saprobic
index,[%]Sensitive taxa,[%]Clinger,[%]Swimmer,
[%]Scraper は透明度に影響を受けていることが分かる.特に[%]Clinger, [%]Scraper はよく反
応している.
各指標が瀬構造,河道内構造物,植生の影響を調べるために,有意に平均値が異なるかの
検定を多重比較の最小有意差法によっておこなった.ただし,等分散ではないとされた脚注の
ついた指標に関しては,Tamhane 法で多重比較を行なった.
表 3-12 は,瀬構造の違いによって,生活型に着目した各指標の平均値が有意に異なるかを
示している.結果から,[%]Burrower は「−」と「早瀬,平瀬&早瀬」間で,[%]Clinger は「−」
と「平瀬&早瀬」間で, [%]Swimmer は「早瀬」と「−,平瀬,平瀬&早瀬」間で有意な差がみら
れる.図 3-74 から,[%]Burrower は瀬のないところで増加がみられ,図 3-75 から,[%]Clinger
70
は逆に瀬のあるところで増加がみられる.この特徴は表 3-10 の各分類群の生活様式と見事に
一致している.
表 3-9 相関分析
標高(m)
LN 透明度(cm)
Plecoptera taxa
0.1803
0.0434
-0.3927 **
Trichoptera taxa
0.3589 **
-0.0679
-0.3700 **
EPT taxa
0.3509 *
-0.0172
-0.4500 **
Total taxa
0.3563 **
-0.1411
-0.4430 **
Total families
0.4010 **
-0.0902
-0.5270 **
Total individuals (abundance)
0.1719
-0.0506
-0.2453
Plecoptera (abundance)
0.3291 *
0.0728
-0.4074 **
Trichoptera (abundance)
0.4318 **
0.0433
-0.4399 **
[%]EPT(abundance)
0.4956 **
0.3413 *
-0.6045 **
[%]EPTtaxa
0.3018 *
0.2368
-0.5278 **
-0.5173 **
-0.3126 *
0.6290 **
[%]Sensitive taxa
0.6395 **
0.3279 *
-0.5571 **
ASPT
0.3572 **
0.0798
-0.6119 **
H'(Shannon)
0.2935 *
-0.2630
-0.6696 **
J'(均衡度)
0.0464
-0.0371
-0.2947 *
1/D(Simpson)
0.2368
-0.1400
-0.4808 **
[%]Burrowers
-0.3475 *
-0.0553
0.6386 **
[%]Climbers
-0.2671
0.1180
0.4041 **
指標
Saprobic index
[%]Clingers
0.6644 **
[%]Sprawlers
-0.1874
[%]Swimmers
0.0541
[%]Collectors-gatherers
0.6407 **
-0.2267
0.3087 *
人工地面積(%)
-0.5178 **
0.1679
-0.4134 **
-0.3407 *
-0.2110
0.3976 **
[%]Collectors-filterers
0.2521
0.3336
-0.1012
[%]Scrapers
0.4701 *
0.5902 **
-0.5589 **
[%]Shredders
-0.2177
-0.1322
[%]Predators
-0.1658
0.0257
0.3501 *
0.1758
-0.4513 **
RETI([%]shredder&grazer)
0.3578 **
71
0.1539
表 3-10
生活型分類の説明
名称
流れに対する露出度
[%]Burrowers
砂や泥底,有機物堆積層などに穴を掘って潜り潜んでいる.
[%]Climbers
水生植物や有機物堆積上に棲む.茎を伝って昇降する.
[%]Clingers
流れの速い瀬の岩などに張り付いている.長く曲がったツ
メや扁平な体,吸盤などを持つ.
[%]Sprawlers
水草の葉の表面や砂底に棲む.
[%]Swimmers
普段は石などにしがみついているが,移動時は流,静水中
を泳ぐ.
表 3-11
摂食機能群の説明
名称
内容
Collector gatherer
沈殿している餌を集めて食べる.
Collector filterer
流下する有機物を網などで濾しとって食べる
Scraper
付着藻類などをはぎ取って食べる.
Predator
肉食
Shredder
落葉や水草をかじって食べる.
表 3-12 瀬構造ごとの指標値平均の差
**:1%有意,*:5%有意
(I) 瀬
指標
(J) 瀬
平均値の差 (I-J)
137.192
早瀬
388.321
67.926
4.7E-05 **
平瀬&早瀬
238.300
80.745
0.03239 *
早瀬
376.315
125.149
0.07823
平瀬&早瀬
226.294
132.545
0.51314
平瀬&早瀬
-150.021
57.970
0.11796
平瀬
-175.800
84.690
0.31501
早瀬
-435.264
77.922
0.08700
平瀬&早瀬
-399.106
70.553
9.7E-05 **
早瀬
-259.464
107.515
0.24053
平瀬&早瀬
-223.306
102.301
0.22500
平瀬&早瀬
36.158
96.772
0.99954
平瀬
[%]Burrower
平瀬
早瀬
注)
[%]Clinger
平瀬
早瀬
有意確率
12.006
注)
-
標準誤差
1.00000
−:瀬構造無し,平瀬:平瀬のみ在り,早瀬:早瀬のみ在り,平瀬&早瀬:平瀬と早瀬共に在
り
72
図 3-74 各瀬構造の[%]Burrower の平均と誤差
図 3-75
各瀬構造の[%]Clinger の平均と誤差
表 3-13 は河道内構造物によって,それぞれ Total taxa,Shannon の平均値が異なるかにつ
いて示している.Total taxa,Shannon は共に「−,落差工」と「落差工&3 面張」間で有意
な差がみられる.また図 3-76,図 3-77 からわかるように,3 面張りで値が下がる.Shannon
は確率からもとめた多様度指標であり,Total taxa も種数に基づいた多様度の指標であるるこ
とから,3 面張りによって多様度の低下が生じているといえる.逆にいえば,多様度の指標は
河道内構造物の影響を示す指標ということができる.
73
表 3-13 河道内構造物ごとの指標値平均の差
**:1%有意,*:5%有意
(I)
注)
Total taxa
−
落差工
注)
−
H’
(Shannon)
平均値の
河道内構造物
指標
落差工
(J)
差 (I-J)
標準誤差
有意確率
落差工
-5.636
5.542 0.69754
落差工&3 面張
11.200
1.753 6.4E-07 **
落差工&3 面張
16.836
5.265 0.02820 *
落差工
-12.014
27.210 0.96288
落差工&3 面張 121.318
16.697 0.00035 **
落差工&3 面張 133.332
29.408 0.00145 **
−:落差工と 3 面張り無し,落差工:落差工のみ在り,落差工&3 面張:落差工と 3 面張り護
岸在り
図 3-76
各河道内構造物の EPT taxa の平均と誤差
図 3-77 各河道内構造物の H’の平均と誤差
表 3-14 は植生によって各指標の平均値が有意に異なるかを示したものである.
「−,水際植
生」と「水際植生&河畔林」間で有意な差がみられる.しかしながら,河畔林のあるところは
標高の高い,山間部であり,逆に河道内植生のみある所,植生の無い所は低地であったため,
74
指数値は流域の土地利用の影響を大きく受けている可能性がある.したがって,有意差を植生
の影響と判定するのは難しいといえる.
表 3-14 植生ごとの指標値平均の差
**:平均の差は 1%で有意,*:5% で有意
(I) 植生
指数
注) Total taxa
H'
(Shannon)
(I-J)
標準誤差
有意確率
0.913
2.033
0.9601
水際植生&河畔林
-12.203
2.735
0.0002 **
水際植生
水際植生&河畔林
-13.116
3.045
0.0003 **
-
水際植生
15.007
26.324
0.5712
水際植生&河畔林
-58.032
23.509
0.0171 *
水際植生&河畔林
-73.039
20.051
0.0007 **
水際植生
-40.045
32.236
0.5462
水際植生&河畔林
-218.301
49.207
0.0003 **
水際植生&河畔林
-178.257
56.536
0.0091 **
水際植生
注) [%]Collector-filt
erer
平均値の差
(J) 植生
水際植生
水際植生
−:植生無し,水際植生:水際植生のみ在り,水際植生&河畔林:水際植生と河畔林在り
(5)
まとめ
本研究では,様々な人為的影響を量的に計測する水生昆虫を用いた評価法について,指標と
生物生息環境との関連性を調べることで検討した.本研究で得られた結論を箇条書きにして示
す.
水生昆虫の群集を表している指標は,流域内の土地利用状況,マイクロハビタット構成,河
道内構造物に影響を受けていることが分かった.
[%]Clinger は多種の環境要素(標高,河床勾配,日流量,透視度,集水域,人工地面積)に
対し良い相関にあった.生活型の指標である[%]Clinger はこれまで指標として使われた事例は
見られないが,指標として有効であるといえる.
生活型は瀬環境の特徴をよく表していた.また,多様度は落差工のみでは有意な低下が見ら
れなかった一方で,3 面張りでは低下が見られた.
75
参考文献
1)
Ofenbock,T.,Moog,O.,Gerritsen,J.,&Barbour,M. :A stressor specific multimetric approach for
running water in Austria using benthic macro-invertebrate: Hydrobiologia 516:251-268,2004.
2)
国土交通省河川局河川環境課監修,(財)リバーフロント整備センター編集:平成6年度河川
水辺の国勢調査年鑑
魚介類調査,底生動物調査編,山海堂
3)
森下郁子,1985:生物モニタリングの考え方.山海堂.
4)
P.D.Armitage,D.Moss,J.F.Wright & M.T.Furse:The performance of a new biological water quality
score system based on macroinvertebrates over a wide rage of unpolluted running-water sites,Water
Res.Vol.17,No.3,pp.333-347,1983
5)
伊藤嘉昭,佐藤一憲
6)
R.W.MERRITT
、
種の多様性比較のための指数の問題点
K.W.CUMMINS(1996)
:
AQUATIC
生物科学(2002)第53巻第4号
INSECTS
OF
NORTH
AMERICA,KENDALL/HUNT PUBLISH COMPANY.
7)
国土地理院:数値地図50mメッシュ(標高) 日本-Ⅱ,平成9年,および数値地図2500大阪-2,
大阪-5,京都-1,京都-2,平成9年
8)
国土地理院:国土数値情報1/10細分区画利用データKS-202-1
76
3−3−4
流域圏生態系の二酸化炭素吸収機能評価
(1) はじめに
平成 16 年度は,流域圏生態系の二酸化炭素吸収機能モニタリング手法開発および事例研究と
して,淀川流域圏の代表的森林植生のひとつであるアカマツ二次林において生態系炭素循環の
長期観測を実施した。アカマツは世界の冷温帯に広く分布し,冷帯では純林を構成するが,日
本では主として西南日本の低山に人為的撹乱を受けた二次林として成立する。淀川流域圏では
1270 km3,流域圏の全森林面積の 25%を占める。その多くは純林ではなく,常緑および落葉広
葉樹との混交林である。本研究は生態系炭素循環のコンパートメントとして樹木地上部,樹木
地下部,土壌,大気を考え,それらの間の炭素循環を定量的に評価することを目的とし,アカ
マツ二次林において観測をおこなった。なおこの報告では,各コンパートメントの炭素量およ
びコンパートメント間炭素循環量を,炭素原子数 mol で表記する。
(2) 観測方法
兵庫県三木市のアカマツ林(34°47’N, 134°59’E)で,生態系二酸化炭素交換量および土壌呼
吸速度の連続観測をおこなった。アカマツ林の面積は約 68 ha で傾斜は小さく,樹冠層の高さ
は約 8 m,構成樹種はアカマツ(Pinus densiflora)の他,ソヨゴ(Ilex pedunnculosa),リョウブ
(Clethra barbinervis),コナラ(Quercus serrata)などである。アカマツの樹齢は 30∼50 年で,
観測開始前年までは定期的に下草刈りが行われていたため,若齢木はない。生態系二酸化炭素
交換量は 2004 年 9 月に観測を開始し,地上 13 m においてオープンパス赤外線ガスアナライザ
(Li-cor LI-7500)および超音波風速温度計(R. M. Young 81000)を使用した渦相関法によって
顕熱・潜熱・二酸化炭素フラックスを測定した。風速および温度,水蒸気密度,二酸化炭素密
度はデータロガー(日置 8240)によって 0.1 秒インターバルで測定した。温度,水蒸気密度,
二酸化炭素密度の線形トレンド除去と WPL 補正(Webb et al., 1980)をおこない,30 分インタ
ーバルでフラックスを計算した。異常値を除去するため,定常性テストとフットプリント解析
をおこなった。除去された二酸化炭素フラックスを復元するため,1 ヶ月ごとに気温と光合成
有効放射(PAR)による生態系二酸化炭素交換量の補完推定をおこなった。
土壌呼吸は 2004 年 5 月に観測を開始し,2 個のアクリル製円筒チャンバ(内径 30cm、高さ
25cm)と赤外線ガス分析計(Vaisala GMD20)を使用したクローズドチャンバ法によって土壌
呼吸速度を測定した。チャンバ内の二酸化炭素濃度を 20 分毎に 10 分間連続測定し、その濃度
変化の傾きを土壌呼吸速度とした。チャンバは 4 地点の間を約半月毎に置き換えた。各チャン
バ内土壌の 5cm 深に T 型熱電対を設置して地温を測定した。
気象環境要素として,地上 14 m において全天日射量(Kipp & Zonen CM3),正味放射量(Kipp
& Zonen NR-Lite),PAR(Kipp & Zonen PAR01),地上 13 m において気温・相対湿度(Vaisala
HMP-45C),深度 0∼10 cm の平均土壌含水率(Campbell Scientific Inc. CS-615),深度 1 cm にお
いて土壌熱フラックス(REBS PFH-01)を 10 秒インターバルで測定し,データロガー(Campbell
Scientific Inc.CR-10X)で 10 分平均値を記録した。
樹木の地上部現存量と生長量を測定するため,2003 年 12 月 9 日と 2004 年 12 月 6 日に毎木
77
調査を行った。カマツ林内 5 か所∼9 か所にリタートラップを設置し,約 1 ヶ月ごとに容器に
集積した葉や枝の乾燥重量を測定してリター中に含まれる炭素量を求めた。2005 年 12 月 6 日
に土壌呼吸測定点の地表面から 15cm深までの樹木根の乾燥密度を測定し,またこれらの点を
含む林内 10 地点で 15cm 深までの土壌全炭素量・全窒素量を測定した。
土壌呼吸における微生物呼吸の寄与を分離するため,土壌呼吸速度観測地点付近の土壌を採
取し,室内実験で微生物呼吸速度の温度および含水率依存性を測定した。赤外線ガス分析計
(Vaisala GMD20)を備えた一辺 20cm の立方体のアクリル製容器に植物地下茎を除いた土壌を厚
さ 5cm に詰め,容器内の二酸化炭素濃度変化の傾きを二酸化炭素発生速度とた。実験条件とし
て温度を 10∼40℃に調節し,また土壌含水率を 7.5, 10, 15%の 3 段階に調節した。
(3) アカマツ林の地上部現存量・地上部生長量・リター量
.毎木調査結果を基に,地上部現存量,地上部生長量,地下部生長量を求めた。アカマツ林の
平均樹高は 8.3 m,立木密度は 280 ha‐1,2004 年の地上現存量は 231 mol m–2 で,広島県の 40 年
生アカマツ林の地上部現存量 365.5 mol m–2(Nakane et al., 1985)よりも小さかった。2003 年と
2004 年の地上部現存量の差から,地上部生長量は 35 mol m–2 y–1 で,現存量に対して生長速度
は非常に大きかった。リター量は林内の落葉樹の落葉期にあたる 11, 12 月に多かった。本研究
の 6 月から 12 月における総リター量 23 mol m–2 は,Nakane et al.(1985)の 6 月から 12 月におけ
る総リター量 38 mol m–2 よりも小さかった。
(4) 土壌呼吸の季節変化とその影響因子
図 3-78 に,測定期間の日平均気温および 5 cm 深地温,日平均土壌含水率,日雨量の季節変
化を示す。2004 年 5∼12 月の期間の降水量は 1246mm で,準平年値の 904mm よりも大きかっ
た。特に台風が繰り返し来襲した 8∼10 月の降水量は 701mm と,準平年値 346mm に比べて 2
倍以上であった。また 2004 年 5∼12 月の期間の平均気温は 19.7℃と,平年(18.3℃)より高か
った。図 3-79 に,6 か所の測定点における日積算土壌呼吸量の季節変化を示す。5 月 8 日∼12
月 31 日の期間の平均日積算土壌呼吸量は 0.208 mol m–2 d–1 であった。この値は広島県の 40 年
生アカマツ林における 5∼12 月の平均日積算土壌呼吸量 0.276∼0.365 mol m–2 d–1(Nakane et al.,
1985)に比べて小さかった。これは,本研究林分の地上部現存量とリター量が Nakane et al.(1985)
の林分より少なかったことと整合する。5 月から 6 月上旬まで,日平均地温の上昇に伴って日
積算土壌呼吸量もゆるやかに増加した。その後の地温上昇に伴い,日積算土壌呼吸量は急激に
増加し, 7 月 20 頃まで高い状態が持続した。一方 7 月下旬から 10 月上旬まで地温が高く保た
れているにもかかわらず,日積算土壌呼吸量の変動は大きかった。この期間内で日積算土壌呼
吸量が急激に減少している期間は,晴天日が続いた 7 月下旬と 9 月上旬であり,この期間の日
積算土壌呼吸量は,地温だけでなく土壌含水率の影響を受けたと考えられる。10 月中旬以降は
地温の減少とともに,日積算土壌呼吸量は減少した。
アカマツ林の地点 B における 5 cm 深の地温と土壌呼吸速度の関係を,図 3-80 に示す。多く
の報告と同様に,土壌呼吸速度は地温上昇に対して指数的に上昇した。土壌含水率が 10%以上、
6.5%∼10%,6.5%未満の 3 つに分類すると,同じ地温では土壌含水率が高い方が土壌呼吸速
78
度が大きく,土壌含水率が土壌呼吸速度に影響した。
次に,4 つの測定点の間に土壌呼吸速度のばらつきが見られたが,この要因として植物根の
密度,土壌炭素および窒素量の影響が考えられる。室内実験による微生物呼吸速度を用いて土
壌呼吸を根呼吸と微生物呼吸に分離た。各測定点の平均根呼吸および微生物呼吸速度,15cm 深
までの根の乾燥密度・土壌炭素量・土壌窒素量を,表 3-15 に示す。根の乾燥密度が大きいほ
ど根呼吸速度は高く,土壌炭素・窒素が多いほど微生物呼吸速度が高い傾向がみられた。
夏季の晴天日において,地温が上昇する日中に土壌呼吸速度が低下する現象が見られ,主と
して地点 C において 5 日間生起した。一例として,図 3-81 に 2004 年 9 月 7 日の地点 C におけ
る土壌呼吸速度と地温の変化を示す。日中の土壌呼吸速度低下の原因として,植物の水ストレ
スによる根呼吸低下が考えられる。水ストレスの気象的要因の指標として飽差と風速の積であ
る大気の蒸発需要を用い,日中平均蒸発需要のレベルで分類した日中の土壌呼吸低下現象の発
生頻度分布を,図 3-82 示す。日中の土壌呼吸低下現象は蒸発需要が高い日にのみ発生したた
め,植物の水ストレスと関係すると推察される。また地点 C の発生頻度が高かったが,これは
地点 C において土壌呼吸に占める根呼吸の割合が他の 3 地点よりも高かったことと関係すると
考えられる。このような日中の土壌呼吸低下現象は,夏季の乾燥が著しい東シベリアのカラマ
ツ林でも報告されている(後藤, 2003)。
(5) 生態系二酸化炭素交換量
月別総光合成量,生態系呼吸量,生態系二酸化炭素交換量を,図 3-83 に示す。総光合成量
は 9 月から 12 月にかけて PAR の低下とともに減少し,一方生態系呼吸量も気温の低下ととも
に減少した。両者の差である生態系二酸化炭素交換量の絶対値も,同期間に単調減少したが,
12 月でも負の値(二酸化炭素吸収)であった。9∼12 月の生態系二酸化炭素交換量の合計は 16
mol m‐2 の吸収であった。この期間は一般に森林の光合成が最も活発な夏季を含まないため,年
間生態系二酸化炭素吸収量としては,フィンランドのオウシュウアカマツ林における 10.9∼
25.6 mol m‐2 y‐1 (Suni et al., 2003)よりも大きいと推定される。9 月から 12 月までの生態系炭素循
環を図 3-84 に示す。この期間の総一次生産(GPP)は 41 mol m‐2 で,植物呼吸量 15 mol m‐2 を
控除すると純一次生産(NPP)は 26 mol m‐2 であった。この期間は落葉樹およびアカマツの落
葉期を含むため相対的にリター生産が多く,NPP の約 70%がリター生産,約 30%が植物生長で
あった。同じ理由でリター生産に対する微生物呼吸は約 60%にとどまり,この期間は土壌有機
物の蓄積が大きく増加した。この期間の地上部生長は 2 mol m‐2 で,毎木調査による地上部生長
35 mol m‐2 より大幅に小さかった。植物呼吸のうち地上部呼吸と根呼吸の比率は 3:7 となり,地
上部呼吸の方が小さくなった。茨城県の 40 年生アカマツ林において,年間の根の生産は全生産
の 14%であった(Karizumi, 1990)。林齢が近い本研究対象林における根の呼吸量の比率も通年
ではこの程度と考えられるため,本研究における地上部呼吸は過小である可能性が高い。以上
のように,今回は光合成と呼吸が最も活発な夏季の生態系二酸化炭素交換量を観測していない
ため,生態系内コンパートメント間の炭素循環を十分に把握できなかった。
(6) まとめ
79
本研究ではアカマツ林において,生態系炭素循環の長期観測をおこなった。地温,土壌含水
率,植物の水ストレスが土壌呼吸速度に影響を与える因子であることがわかった。また測定点
間の土壌呼吸のばらつきは根の密度と土壌中の炭素・窒素量に関係していることがわかった。
秋∼冬季でもアカマツ林は二酸化炭素吸収源であり,北欧のオウシュウアカマツよりも年間二
酸化炭素吸収量が大きいと推定された。今回は生態系二酸化炭素交換の通年観測がおこなえな
かったため,生態系内コンパートメント間の炭素循環量の把握ができなかった。このため,モ
ニタリングを今後継続する必要がある。
参考文献
後藤圭亮, 2003: 東シベリアのカラマツ林と伐採跡地における土壌呼吸特性. 大阪大学大学院
工学研究科地球総合工学専攻修士論文.
Karizumi, N., 1990: The Mechanical and Function of Tree Root in the Process of Forest Production. V.
Reduction of inorganic matters to soil and formation of porosity resulting from root system. Bull.
For. & For. Prod. Res. Inst., 357, 1-49.
Nakane, K., Tsubota, H. and Yamamoto, M., 1984: Cycling of soil Carbon in a Japanese Red Pine Forest.
I. Before a Clear-Feling. Bot. Mag. (Tokyo), 97, 39-60.
Suni, T., Rinne, J., Reissell, A., Altimir, N., Koronen, P., Rannik, Ü., Maso, M. D., Kulmala, M. and
Vesala, T., 2003: Long-term measurements of surface fluxes above a Scots pine forest in Hyytiälä,
southern Finland, 1996-2001. Boreal Environ. Res., 8, 287-301.
Webb, E. K., Pearman, G. I. and Leuning, R., 1980: Correction of flux measurements for density effects
due to heat and water vapor transfer. Quart. J.Roy. Meteorol. Soc., 106, 85-100.
80
40
20
10
10
0
0
2/
30
100
20
50
10
0
5/1
5/31
6/30
7/30
8/29
9/28
10/28 11/27 12/27
測定期間の日平均気温,5 cm 深地温,日平均土壌含水率,日雨量の季節変化
0.5
A
B
C
D
E
F
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
5/1
5/31
図 3-79
6/30
7/30
8/29
9/28
10/28
11/27
6 か所の測定点における日積算土壌呼吸量の季節変化
6
土壌呼吸速度
(μmol m -2 s -1)
日積算土壌呼吸量
(mol m -2 d-1 )
土壌含水率(%)
04
150
0
図 3-78
40
/1
1/
/1
04
/1
04
/9
04
/8
04
日平均土壌含水率
0/
8
/2
/2
9
0
/3
/7
04
04
/6
/5
/3
/3
0
1
/1
/5
04
降水量
27
20
27
30
28
30
200
降水量(mm d −1 )
日平均地温
地温(℃)
日平均気温
04
気温(℃)
40
含水率(10%以上)
含水率(6.5%以上10%未満)
含水率(6.5%未満)
4
2
0
0
10
20
30
地温(℃)
図 3-80. 地点 B における 5 cm 深の地温と土壌呼吸速度の関係
81
12/27
表 3-15
平均根呼吸および微生物呼吸速度,15cm 深までの土壌炭素量・土壌窒素量・根の乾
燥密度
測定点
土壌呼吸速度
根呼吸速度
微生物呼吸速度
土壌炭素量
土壌窒素量
(µmol m s )
(µmol m s )
(kg m )
(kg m )
(kg m–3)
A
2.70
1.44
1.26
3.60
0.147
1.95
B
2.34
1.02
1.31
2.81
0.142
1.59
C
2.34
1.45
0.89
1.99
0.097
1.84
D
2.92
1.44
1.48
3.07
0.136
1.89
–2
–1
–2
4.0
–1
土壌呼吸速度
地温
25.7
3.0
25.4
2.0
25.1
1.0
24.8
0.0
0:00
図 3-81
–3
6:00
12:00
18:00
地温(℃)
土壌呼吸速度(μmol m -2 s -1 )
–1
–3
根の乾燥密度
(µmol m s )
–2
24.5
0:00
2004 年 9 月 7 日の地点 C における土壌呼吸速度と地温の変化
日中に土壌呼吸の減少なし
土壌呼吸減少
15
日数(日)
12
9
6
3
0
0∼1.5 1.5∼3.0 3.0∼4.5 4.5∼6.0 6.0∼7.5
7.5∼
-1
蒸発需要(kPa m s )
図 3-82
日中平均蒸発需要のレベルで分類した日中の土壌呼吸低下現象の発生頻度分布
82
Ag
Ne
月積算光合成有効放射量
1000
10
800
5
600
0
400
-5
200
-10
0
9月
図 3-83
月積算光合成有効放射量
(mol m-2 month -1)
月積算 Re / Ag / Ne
(mol m−2 month−1 )
Re
15
10月
11月
12月
月別総光合成量,生態系呼吸量,生態系二酸化炭素交換量
総一次生産 (GPP)
41
植物呼吸
純一次生産 (NPP)
15
26
リター生産
植物生長
18
8
地上部
未分解
地上部 根生長
根呼吸
微生物
呼吸
11
6
リター 8 生長 2
4
呼吸
純生態系生産 (NEP)
10
16
図 3-84
9 月から 12 月までの炭素循環(単位: mol m‐2)
83
3−3−5
流域圏生態系の光化学オキシダント制御機能評価
(1)はじめに
炭化水素(HC)は光化学オキシダントの前駆物質として作用することが知られている。こ
の HC には植生起源と人為起源の二種が存在するが、Carter(1994)によると植生起源 HC
は人為起源と比較して 3 倍程度反応性が強いとしている。植生起源 HC がオキシダント濃
度に与える影響として、Solmon(2004)は、フランスのパリを含む 795×795km の地域でオ
キシダント濃度予測を行い、植生起源 HC を考慮しない場合と比較して最高で約 30ppb 高
くなることを計算で示している。また、Guenther et al. (1993)は植生起源 HC の発生量は
気温および光強度に依存し、気温上昇もしくは光強度増加に連れて発生量が増加する実験
式を提案している。近年、地球温暖化やヒートアイランド現象の影響により、特に大都市
では気温上昇が顕著であるが、これら昇温の影響が植生起源 HC 発生量の増加、さらには
オキシダント濃度の増加につながる可能性があると考えられる。本研究では、樹木が排出
する VOCs の気温ならびに光依存性の実態を把握することを目的として、チャンバーを用
いて実験を行った結果について報告する。なお、本研究の結果を基に植生起源 VOCs 排出
モデルを作成し、3-2-2 で示した気象モデルに組み込むことによって、汚染物質予測モデ
ルの精度向上、さらには流域圏での気温上昇が大気環境に与える影響把握を行うことが目
的である。将来的には都市スケールでの気温変化や緑化対策がオキシダント濃度に及ぼす
影響について検討を行うことを視野に入れている。
(2)実験方法
気温依存性ならびに光依存性に関する検討を目的として、表 3-16 に示す実験条件の組み
合わせを設定した。
1)気温依存性に関する検討:図 3-85 に示すチャンバー内の気温を 25、30、35℃の 3 段
階に設定し、それぞれの状況下でイソプレン(C4 H 8 )排出量を測定する。気温は 9 時から 17
時の間それぞれの段階で一定になるようにチ
表 3-16
ャンバー内空気温の制御を行う。
2)光依存性に関する検討:チャンバー内の
25℃
30℃
35℃
4個
○
○
○
3個
-
-
-
2個
-
○
○
1個
-
-
-
OFF
-
○
−
ランプ
ランプ点灯個数を 4 個、2 個、0 個の 3 段階に
設定し、それぞれの状況下でイソプレン排出
量を測定する。ランプは 10 時から 17 時の間
それぞれの個数に制御を行う。
各実験は以下に記す実験手順で行った。
温度
実験条件
○樹木は前日の晩からチャンバー内で静養させる。
○静養時のチャンバー内気温には外気温と同様の日変動を与える。
○チャンバー内のランプは 5 時から 19 時に点灯させ、それ以外は消灯する。
○5 時から 10 時ならびに 17 時から 19 時は常時ランプを 3 個点灯させ、10 時から 17 時に
は表 3-16 に示す個数のランプを点灯させる。
図 3-86 には、樹木の配置状況を示す。
84
図 3-85
チャンバー概観
図 3-86
樹木の配置状況
計測はイソプレン濃度については 1 時間毎とし、サンプリングポンプにより 100ml/min で
300ml を捕集管に取り入れ、熱脱着装置を備えた GC/MS(QP2010 SIMAZU)(図 3-87)で
イソプレンの定量化を行った。チャンバー内の気温についてはチャンバー中心部において
強制通風装置内に設置した T 型熱電対により 1 分毎に計測した。葉温については 15 箇所の
葉にランダムに貼付された K 型熱電対により 1 分毎に計測した。チャンバー内の光合成有
効放射量(PAR)については、チャンバー中心部においてポロメータ(LI-1600 LI-COR)により
計測を行った。
なお、本実験で用いたチャンバーは完全密閉型ではないために、チャンバー内外での換
気が生じる。そこで、本実験で解析対象とするイソプレンを用いて濃度の減衰実験を行い、
ln〔イソプレン濃度(μg/m3)〕
濃度の補正係数を求めた。この減衰実験の結果を図 3-88 に示す。
8.10
y = -6.26E-04x + 8.08
R2 = 0.973
8.05
8.00
7.95
7.90
7.85
7.80
0
60
120
180
240
300
360
経過時間(分)
図 3-87
熱脱着装置を備えた
図 3-88
GC/MS(QP2010 SIMAZU)
イソプレン濃度減衰実験結
(3)イソプレン排出量の気温依存性
イソプレン排出量の気温依存性に関する実験結果を図 3-89 に示す。図中の各プロットは
85
サンプリング結果、太線はサンプリング結果の 3 時間移動平均を示している。気温依存性
についてはポプラならびにコナラを対象として実験を行ったが、ポプラの方が気温による
影響を強く受けていることが示された。ポプラに関して、日中のピークについては 25℃で
の 150μg に対して、35℃では 300μg と 2 倍程度の発生量の違いが認められた。コナラに
ついては、実験期間中から実験終了後にかけて季節変化に伴う葉色の変化が認められ、比
較的植生活性度の低い状況にあったことから、気温依存性が顕著には現れなかったものと
推察される。
以上の実験は、概ね 1 日から 2 日の中日を設定して温度段階の低い方から順に実験を試
みたが、実験結果には過去の実験履歴の影響が含まれている可能性が懸念される。そこで
連続した 3 日間を対象として、初日ならびに 3 日目は気温を 30℃、2 日目は 35℃に設定し、
2 日目にヒートショックを与えることで、初日と 3 日目の間に排出量の差を生じるか否か
について検討を行った。ヒートショックに関する検討結果を図 3-90 に示す。この結果より、
初日と 3 日目にはほとんど排出量に違いが認められず、前日の気温は当日の排出量に大き
排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
な影響を及ぼさないことが示された。
500
450
400
350
300
250
200
150
100
50
0
35℃(9/13)
30℃(9/11)
25℃(9/ 9)
排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
6:30
10:30
12:30
200
160
14:30
16:30
18:30
コナラ
35℃(9/12)
30℃(9/10)
25℃(9/7)
120
80
40
0
6:30
図 3-89
8:30
ポプラ
8:30
10:30
12:30
14:30
16:30
18:30
イソプレン排出量の気温依存性(上:ポプラ、下:コナラ)
86
排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
600
1日目(30℃)(9/18)
2日目(35℃)(9/19)
3日目(30℃)(9/20)
500
400
300
200
100
0
6:30
8:30
図 3-90
10:30
12:30
16:30
18:30
実験履歴の影響に関する検討
400
排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
14:30
30℃(4個)(9/11)
350
30℃(2個)(9/26)
300
30℃(OFF)(9/25)
250
200
150
100
50
0
6:30
8:30
図 3-91
10:30
12:30
14:30
16:30
18:30
イソプレン排出量の光依存性
(4)イソプレン排出量の光依存性
イソプレン排出量の光依存性に関する実験結果をポプラに関して図 3-91 に示す。気温条
件については表 3-16 に示すように 30℃で固定した。なお、コナラについては気温依存性
の検討実験結果からも推察されたように、植生活性度が低下した状況にあったことから、
ここではポプラのみを対象として実験を行った。結果として、気温同一条件下で光強度を
増加させることによって、明確にイソプレン排出量が増加することが示された。ランプ 4
個の状態(光合成有効放射量で 1200μmol/㎡/s)からランプ 2 個の状態(同じく 500μmol/
㎡/s)に変化したことで、イソプレン排出量はピークで 200μg から 100μg 程度に半減し
ていることがわかる。また、実験環境の統制上、5 時から 10 時ならびに 17 時から 19 時に
は全条件においてランプを 3 個点灯させているが、特にランプを全て OFF にした条件では
ランプ消灯から 1 時間以内に排出量が 0 になっていることがわかる。Guenther3 ) の実験式
においても、有効放射量が 0 の条件下では排出量は 0 と定義されており、同様の結果が得
られたと言える。
87
(5)イソプレン排出量の季節影響
以上で述べたイソプレン排出量の気温ならびに光依存性に関する結果は、いずれも 9 月
に実施されたものである。ここでは排出量の季節影響を検討することを目的として、ポプ
ラを対象とし、10 月に同様の実験を行った結果を各気温段階別に図 3-92 に示す。これよ
排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
り、10 月におけるイソプレン排出量は明らかに 9 月と比較して減少していることがわかる。
600
25℃
25℃(10/9)
500
25℃( 9/9)
400
300
200
100
0
6:30
8:30
10:30
12:30
14:30
16:30
排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
600
30℃
30℃(10/10)
30℃( 9/11)
500
18:30
400
300
200
100
0
6:30
8:30
10:30
12:30
14:30
16:30
18:30
排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
600
35℃
35℃(10/11)
35℃( 9/13)
500
400
300
200
100
0
6:30
8:30
図 3-92
10:30
12:30
14:30
16:30
イソプレン排出量の季節影響
88
18:30
(6)各条件における平均イソプレン排出量と葉温の関係
ここではイソプレン排出量と葉温の関係について、Guenther(1993) の実験式を参考に整
理を行う。図 3-93 にサンプリング期間中の平均イソプレン排出量(いずれの条件ともに
12 時から 16 時までの時間当たり排出量の平均値)と葉温の関係を示す。なお、9 月の実験
では葉温を測定していなかったため、10 月の葉温と気温の測定結果を基にランプ条件毎の
葉温推定式を求めた結果から推定した。その結果、Guenther の実験式と比較して、定性的
には概ね一致しているものの、本実験の結果はより顕著に気温や光の影響を受けることが
示された。この原因としては、対象樹木の違い(Guenther はユーカリプタス、モミジバフ
ウ、アスペン、マメの木を使用)や、実験実施季節の違い(Guenther は 6、7 月に実施)など
が考えられる。本実験ではポプラを主たる対象として検討したが、他の樹種や樹木の成長
期における排出量についても今後測定の必要があると考えられる。
平均排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
実験値(ランプ4個)
実験値(ランプOFF)
実験値(ランプ2個)
推定値(Guentherの式)
350
300
9月
250
200
150
100
50
0
25
30
35
40
平均排出量(μg/葉の乾燥重量/h)
葉温推定値の平均(℃)
45
35℃
350
300
10月
250
200
150
100
50
0
25
30
35
40
45
葉温測定値の平均(℃)
図 3-93
平均イソプレン排出量と葉温の関係(上:9 月、下:10 月)
Carter W.P.L.(1994):Development of Ozone Reactivity Scales for Volatile Organic
Compounds, J.Air Waste Man.Ass, 44, pp.881-899
Fabien Solmon et al.(2004):Isoprene and Monoterpenes Biogenic Emissions in France -Modeling and
Impact during a Regional Pollution Episode-, Atmospheric Environment, 38, pp.3853-3865
89
Guenther A.B., Zimmerman P.R., Harley P.C., Manson R.,Fall R.(1993):Isoprene and Monoterpene
Emission Rate Variability -Model Evaluations and Sensitivity Analyses-, Journal of Geophysical
Research, 98, pp.12609-12617
90
3−4
施策プログラムの立案計画
3−4−1
土地利用・都市再配置計画
(1)土地利用シナリオおよび土地利用データの作成
(1)土地利用シナリオおよびデータ作成の方針
本節では、複数の土地利用シナリオを作成し、モデルに投入するための土地利用データの算
出を試みた。ただし、今年度は対象地域を支流である安威川流域を中心とするエリアに限定し
た。
土地利用シナリオの作成は、以下の方針と方法によった。
①対象地域での自然的な土地利用の可能性を把握するため、前近代の状態にもっとも近い明
治期の陸軍迅速図をもとに、当時の土地利用をデジタル・データで復元する。
②対象地域の自治体のホームページ等に掲載されている住民意識調査結果や淀川流域委員会
等の団体のホームページから、この地域の将来像に関連する住民の意見を整理し、シナリ
オ作成の際の参考とする。
③上記をもとに、自然的土地利用を重視し都市的土地利用を整序した形の土地利用シナリオ
を作成する。
④一方、③とは別に現状の土地利用をベースに、過去からの土地利用変化のトレンドを将来
に伸ばす形での土地利用変化予測サブモデルを作成し、これも土地利用シナリオの一つと
して設定する。
⑤③および④で作成した土地利用シナリオに基づいた土地利用データを3次メッシュレベル
で算出する。
⑥各土地利用シナリオについて、都市計画的な観点から、交通費用・変更費用の2点からの
評価を試みる。
以下、それぞれについて記す。
(2)支流域をケースとした明治期の土地利用図の復元
土地利用シナリオの作成に際して、対象地域とした安威川流域での自然的な土地利用の可能
性を把握するため、前近代の状態にもっとも近い明治期の土地利用の復元を行った。原資料と
しては、参謀本部陸軍測量局作成の二万分一仮製地形図(出典:『関西地誌図集成(1884 年∼
1890 年)』柏書房)を用いた(口絵 7)。対象地域の仮製地形図の作成年次は 1885 年∼1889 年
である。
作業としては、仮製地形図に示された凡例から、①集落(市街地)、②田、③畑、④山林・緑
地、⑤道路、⑥河川、⑦池の7種類の土地利用に塗り分け、これをデジタル・データに変換・
入力した(口絵 8)。
さらにこのデータから 10mメッシュの土地利用データを作成し、国土地理院作成の「細密数
値情報(10mメッシュ土地利用)−近畿圏 1996」の 1996 年時点での土地利用状況との変化を
把握した。農地の変化を示したものが口絵 9、山林・緑地の変化を示したものが口絵 10 である。
これらの図を見れば、対象地域においては市街化の進展により、平地部のほとんどの農地が失
われ、山林についても千里丘陵や枚方丘陵ならびに高槻市の天神山丘陵、茨木市の阿武山丘陵
91
などを中心に失われてきたことがよくわかる。
なお、ここで作成した 10mメッシュの明治期の土地利用データは、さらに同精度で当時の標
高データや植生データを作成すれば、これらから地形・植生を加味した自然立地的土地利用計
画手法の適用による土地利用シナリオ、すなわち都市自然の潜在力を最大限に生かした土地利
用像の作成が可能となると考えられ、当初はこの方法に基づく土地利用シナリオの作成を意図
していた。ところが、本研究におけるモデルに投入するデータの精度が3次メッシュ(1km)
と統一されたことから、この精度では上記の自然立地的土地利用計画手法の適用が困難なため、
当初の研究計画を変更し、この手法の適用に関する研究開発は別途の課題とすることとした。
そこで、
(2)における作業としては、この明治期の土地利用データを3次メッシュに統合し、
土地利用シナリオ作成のベースとなる3次メッシュ・データを作成した。
(3)土地利用シナリオの作成
(2)で作成した明治期の土地利用は、江戸時代までの工業化以前の農業を中心とする前近
代にこの地域の土地の自然資源を最大限活用する一形態を示していると判断される。ここで、
土地利用シナリオの作成にあたっては、この土地利用をベースに現状と同じ人口を同地域に再
配分するシナリオとして、以下の3つのシナリオを作成した。
シナリオ1
拠点集中型
シナリオ2
分散拠点型
シナリオ3
山林間居住型
それぞれのシナリオの特徴とそこでの土地利用イメージを表 3-17 に示す。
なお、これらのシナリオ作成に関しては、対象地域の自治体のホームページ等に掲載されて
いる住民意識調査の結果や淀川流域委員会等の団体のホームページから、この地域の将来像に
関連する住民の意見を整理し、参考とした。住民意見は多岐にわたり、またその立場や主張も
異なるが、表 3-18 には上記シナリオ作成の参考とした意見、すなわち自然環境重視、環境保
全重視の立場からの意見を例示した。
(4)土地利用配置の設定
次にそれぞれのシナリオについて、土地利用配置を設定した。設定については、以下のよう
な方法を用いた。
①土地利用種別については、水面・道路・鉄軌道等を除いて、
「市街地」、
「農地」、
「山林・緑
地」の3区分とした。水面・道路・鉄軌道等については面積一定とした。
②それぞれの種別について、土地利用比率を 0%、33.3%、66.7%、100%の4段階設定した。
なお、シナリオ3の山林間居住型の中で、山林間居住に関するものだけは、市街地 10%、
山林・緑地 90%という疎住にあたる段階設定を設けた。
③各シナリオごとに、3次メッシュ(1km メッシュ)それぞれについて、3種別の比率の総
和が 100%となるように、復元した明治期の土地利用図を元にしながら、シナリオにした
がって土地利用比率の配分を行った。なお、この作業はモデルを作成し使用したものでは
なく、作業チームの考察と手作業によるものである。
土地利用配置の設定状況を図示すると口絵 11∼口絵 13 に示すものとなる。この土地利用配
92
表 3-17
明治の土地利用を出発点とした3つの土地利用シナリオ
1.拠点集中型
2.分散拠点型
3.山林間居住型
特
かつての自然環境を維持し
拠点地区を中心にコンパク
現状に近い形で広範囲に市
徴
ながら拠点地区の集合住宅
トなまとまりの中で市街地
街地が存在するが、一部は
に高密居住する。
を形成する。
山林地域にも居住する。
・明治期の山林、田畑、河川、水
系はほぼそのまま残す。
・明治期の集落を市街地の拠点と
して、高層化による高密度な都
市を形成する。
・一部はその周辺の田畑を開拓し
て市街地とする。
・集合住宅は超高層、高層、低層
など様々な形態を組み合わせて
配置する。
・超高層ビルは、下層部を店舗や
事務所、中層部を住宅、高層部
を共用施設とし、ビルの足元に
は公園などの緑地を配置し、豊
かな緑環境を創出し、身近に豊
かな自然を楽しめるようにす
る。ビルからの眺望も考慮する。
・移動は横方向より縦方向が多い
ので車は役にたたない。縦の移
動手段が必要になる。
・住宅地と田畑、森林が一体型と
なった小市街地の地域を分散し
て配置。各々がコンパクトシテ
ィの形態をもつ。
・市街地の周囲に田畑や森林が広
がり、相互の市街地の緩衝地帯、
レクリエーション空間、生物の
生息空間となる。
・人口は特定地区に集中しないよ
うに配置する。
・明治期の集落地だけでなく、新
たな都市核も設定する。
・農業および林業を重視し、地産
地消の循環型社会における土地
利用像をイメージ。
・山林は、バイオマス資源の供給
地となる。
・3つのシナリオの中では、現況
の土地利用にもっとも近い。
・マンションは少なく戸建て住宅
を多く配置。
・駅の近くに市街地を配置。周囲
に工業と田畑を点在させる。工
場の周囲は緑で囲む。
・北部は大都市近郊の農林業、森
林地域とし、また自然体験ゾー
ンとする。その手前には田園地
帯が広がる。休日に森へ行くこ
とが市民の共通の趣味・ステー
タスとなるようなイメージ。
・山林間の住宅地は小規模のもの
で、自然環境と共生した居住空
間。徹底的な自然志向の人が住
むイメージ。
・淀川周辺は水とふれあえる自然
体験ゾーンに。
イ
メ
ー
ジ
模
式
図
土
地
利
用
イ
メ
ー
ジ
・住居の近くで働く形態をとる。
置において、現況と同じ人口が「市街地」の部分にのみ居住すると仮定すると、シナリオごと
の市街地部分の平均人口密度は、シナリオ1の拠点集中型が 1,023 人/ha と超高密となり、こ
の場合は、超高層集合住宅群が建ち並ぶ市街地が出現することになる。シナリオ2の分散拠点
型では同じく 367 人/ha、シナリオ3の山林間居住型では 217 人/ha となり、人口密度の点では
市街地部分は現状の 112 人/ha よりもいずれも高密となる。
93
表 3-18
シナリオ作成に関して参考とした住民意見の例示
分野
意見内容
出所
交通
できるだけ車を使わず、公共交通を利用する。
中心部は、人が車などに気兼ねなく安心して買い物ができる空間整
備として必要であるとともに、人が集まる為のインフラ整備を車優
先ではなく、公共交通機関や自転車に配慮した整備を優先される必
要がある。
住宅地域内に通過交通が流入して危険である。
大阪府の自然環境は多府県とくらべて非常に貧しいにもかかわら
ず、箕面や茨木などの現存林を開発しようとするのが納得いかない。
それも必要と思えない住宅やダム開発では絶対納得がいかない。周
辺部では壊しておいて変に公園化された不自然な「自然」を作るの
は税金の無駄遣いだし、自然環境保全を勘違いしているとしか思え
ない。
山なみ景観を守るためには、その手前に田園地帯などが広がってい
ることは望ましいことです。
大阪府が千里、泉北ニュータウンを造成した時代は住宅が必要な時
代であったが、将来の人口減少と自然環境の大切さを考えると郊外
の大規模宅地開発の必然性はない。
◆高槻市の農業や農地に対するイメージについて
・農地が新しい風景をつくりだしている(24 票/47 票)
・子供の教育の上で役立っている(23 票/47 票)
・昆虫や魚など生き物の発育の場となっている(19 票/47 票)
◆高槻市の農業や農地の役割について
・田園風景、緑空間、生物の生息する自然空間(32 票/47 票)
茨木市環境ワークショップ(H13)
高槻市道路網計画(素案)に対す
る意見募集(H16)
山林
農地
枚方市市民意識調査(H15)
大阪の環境に対する府民意見「み
なさんのご意見」(H12)
NPO山麓委員会・広報センター
(H16)
枚方市市民意識調査(H15)
高槻市市政モニタリング調査
(H15)
・地域への安全安心な農作物の供給(26 票/47 票)
都市
内の
緑
「適度な密度と高さで広がる建物群」と、
「それらと入り混じった豊
富な緑群」とが、魅力的な都市鳥瞰を生み出すといえる。
都市化が進んだ町にこそ自然を復元すべき。河川を中心として自然
環境を都市の中へ広げていく。
市内の私有地、街路樹、山林、工場敷地などに植林や壁面緑化を行
う。
山が住宅になり、道路が通り、河原や池が人口の公園に作り変えら
れ、自然を感じなくなった。
自然景観・歴史的景観の保護がされていない。
街に緑が少ない。なくなってきている。
子供が自然とふれあえる場所が少ない
NPO山麓委員会・広報センター
(H16)
応募者意見一覧 枚方市
茨木市環境ワークショップ(H13)
枚方市市民意識調査(H15)
(5)土地利用変化トレンドからの土地利用配置予測
以上は作成したシナリオに基づいて大幅な土地利用変更を行う場合を想定したが、ここでは
国土地理院が発行している細密土地利用データ(近畿圏)の 1974 年、1979 年、1985 年、1991
年、1996 年の5ヵ年のデータをそれぞれ3次メッシュに統合し、1974 年∼1996 年の土地利用
変化のトレンドから予測式を導いて、2050 年および 2100 年の土地利用を予測するというモデ
ルを作成して予測した。
予測する土地利用種別は市街地、農地、山林・緑地、水域の4区分であり、予測値はそれぞ
れの3次メッシュにおける面積構成比率である。
予測モデルの作成には、各メッシュの土地利用の変化割合を説明変数とし、将来の土地利用
面積を目的変数とする重回帰分析を用いる方法と、過去5年次のデータ・プロットに近似曲線
を当てはめ、将来の面積を予測する非線形回帰分析を用いる方法の2つが考えられた。しかし
前者の重回帰分析においては、メッシュ相互間の土地利用変化トレンドに必ずしも相関関係が
94
あるとはいえず妥当性に欠けたので、後者の非線形回帰分析を採用した。
非線形回帰分析による将来の面積の予測は以下の手順によった。すなわち、各メッシュ(計
340 メッシュ)において、土地利用4種別ごとに、1974 年、1979 年、1985 年、1991 年、1996
年の5年次の面積データのプロット図を作成した。そしてメッシュごとに土地利用種別それぞ
れに近似曲線を当てはめた。近似曲線は、対数関数、分数関数、定数の3種を当てはめ、定数
項、係数を求めて、予測式を設定した。
近似曲線の当てはめは、基本的には、増加は対数関数的に増加し、減少は反比例的に減少す
るとの仮定に基づく。また、期間内の上下変動が激しい場合には、長期的視点で見た場合の増
加か減少か、つまり 1974 年と 1996 年を比べた場合の増加か減少かを優先して行った。近似曲
線の当てはめ例を図 3-94∼図 3-97 に示す。
将来の予測面積値は、各メッシュで、それぞれの土地利用種別ごとに求めている。それらを
メッシュ単位で集計すると、メッシュの面積を上回る場合と下回る場合が生じる。そこで予測
面積値を按分して、面積合計がメッシュ面積と等しくなるようにして、それをそれぞれの予測
面積とした。
最後に、土地利用種別の予測面積値に基づき、メッシュごとの種別土地利用比率を算出した。
VAR214
VAR122
940000
120000
920000
100000
900000
80000
880000
860000
60000
840000
40000
820000
観測
800000
対数
0
1
2
3
4
5
観測
20000
逆数
6
0
CASE_LBL
図3-94
1
2
3
4
5
6
CASE_LBL
対数関数の当てはめ例
図3-95
分数関数の当てはめ例
VAR138
VAR243
90000
810000
800000
80000
790000
780000
70000
770000
760000
観測
観測
750000
60000
対数
0
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
6
CASE_LBL
CASE_LBL
図3-96
逆数
0
6
変動の場合の対数関数の当てはめ例
図3-97
95
変動の場合の分数関数の当てはめ例
口絵14には1996年の土地利用比率(実績)を、口絵15に2050年の予測結果、口絵16に2100年の
予測結果を示す。
(6)3シナリオおよびトレンド予測結果に関する比較評価
最後に、
(3)
(4)に示した3つの土地利用シナリオに基づく土地利用配置と、
(5)で示し
た過去の土地利用変化のトレンドから予測した 2050 年および 2100 年の土地利用配置の5種類
の土地利用配置につき、①市街地面積、②農地面積、③山林・緑地面積、④土地利用変更面積、
⑤駅との近接性の5つの指標に関して、予測値を現状値(1996 年値)で除した比率を算出するこ
とによって、変化の度合を比較検討した(表 3-19)。
ここで、④土地利用変更面積とは、メッシュごとに求めた各土地利用面積の現在値と将来値
の差の絶対値の合計である。⑤の駅との近接性は、メッシュごとの面積重心と最寄りの鉄道駅
との直線距離を求め、これとメッシュ内の人口(ただし、現段階では、人口の再配分予測は行
っていないのでメッシュ内の人口は不変としている)との積の合計を算出したものである。
(3)
(4)に示した3つの土地利用シナリオに基づく土地利用配置では、大胆なシナリオに
基づくために、市街地面積が縮小して山林・緑地面積が増大しているが、土地利用変更面積率
が大きくなっている。一方で、駅との近接性は大幅に高まっていることがわかる。
表 3-19
3シナリオおよびトレンド予測の結果に関する比較
市街地面積の
変化率
農地面積の変
化率
山林・緑地面積
の変化率
土地利用変更
面積率
駅との近接性
の変化率
0.116
0.844
2.643
0.588
0.199
0.339
0.728
2.338
0.491
0.286
0.560
1.319
1.815
0.407
0.256
1.011
1.010
1.032
0.207
0.964
1.025
0.978
1.023
0.303
0.971
シナリオ1
拠点集中型
シナリオ2
分散拠点型
シナリオ3
山林間居住型
トレンド予測
2050年
トレンド予測
2100年
(7)今後の課題
今年度は淀川の支流域である安威川流域を対象として土地利用配置を試みたが、全体の統合
モデルへの土地利用データの投入のために、淀川流域圏全域に関しての土地利用配置案の作成
および予測に基づく土地利用データの生成が必要であり、これは来年度早期に取り組む予定で
ある。また、その際には、本年度は人口変動を加味していないため、人口数の増減や人口配置
についても加味していくことが課題となると考える。
96
(2)沿岸域の水質改善に向けた地形改変
淀川河口域を含む大阪湾奥部では、宅地化や廃棄物の最終処分場の確保のために、現在も更
なる埋め立てが進められている。また、港湾域の静穏化等の防災面から防波堤や護岸の新たな
設置も進められている。しかしながら、湾奥部ではこのような人工島や防波堤の建設によって
閉鎖性が増加し海水交換の低下をまねき、それが水質悪化の要因となっている。本年度は、生
物の生息環境の指標ともなる溶存酸素(DO)を用いて、水環境に及ぼす地形改変の影響につい
て評価検討を行った。人工島や防波堤の撤去など幾つかのケースについて、その影響を評価し
た。ここでは、防波堤の撤去による水質改善効果に関する計算結果について報告する。三次元
計算に用いた湾奥部の計算メッシュを図 3-98 に示す。
防波堤を撤去したケースの残差流分布を図 3-99 に示す。比較のために図 3-100 に現況の再
現計算の結果を示す。現況では防波堤背後に時計回りの循環流が存在しているが、防波堤を撤
去した場合にはその循環流は消滅し、港外からの大きな時計回りの循環流の影響が及ぶように
なることが確認できる。また、西部水域では反時計回りの循環流の存在も認められる。
防波堤が港内の貧酸素水塊の挙動に及ぼす影響を明らかにするために、防波堤を撤去したケ
ースと現況との DO の偏差を求めてみた。その水平分布を図 3-101 に示す。水深 5m では港外か
図 3-98
図 3-99
計算メッシュ
水深 2m における残差流分布
図 3-100
水深 2m における残差流分布
(現況)
(堤防を撤去した場合)
97
らの大きな循環流により、東部水域において DO が大きく改善していることがわかる。特に、西
宮浜の前面では約 2.0mg/L もの回復を示しており、貧酸素化が解消している。しかし、水深 5m
以深では防波堤周辺にのみ回復傾向が見られるにすぎない。防波堤を撤去した場合、東部水域
では底層の貧酸素水塊を解消するほどの大きな効果は現れないものの、水深 5m 以浅では貧酸素
水塊が解消し、浅水域に生息する生物にとって生息環境の改善効果が期待できるものと考えら
れる。
(a)水深 5m
(b)水深 7m
(c)水深 10m
図 3-101
DO の偏差の水平分布
98
3−4−2
流域圏森林整備計画
(1)森林管理計画のシナリオ、数理モデルの概要
わが国の森林と林業を取り巻く社会経済的環境は,悪化の一途をたどっている。安価な外国
産木材の輸入による木材価格低下,高い設備・維持・光熱・人件費,過疎・高齢化による労働
力不足などによって森林の維持管理・適期伐採がおこなわれない放置林が増加し,林業の衰退
のみならず地域環境悪化や災害危険性の増加も危惧されている。このような背景から,わが国
の林野行政も経済性・収益重視から,森林の持つ多面的機能を積極的に利用するように転換し
つつある。本研究でも,流域圏の森林の多面的機能を評価し,効果的に利用する施策の提言を
目的の一つとしている。今年度は GIS と森林生態系・森林経済数理モデルを組み合わせ,流域
圏森林の多面的機能を評価し,またそれらの機能を最大限に発揮するための森林管理計画最適
化のため,研究方法の整理をおこなった。
はじめに,流域圏森林機能の抽出と分類をおこなう。森林・林業基本法に基づいて 2001 年に
閣議決定された森林・林業基本計画において,森林は機能別に 3 つに分類された(林野庁ウェ
ブページ)。すなわち,水土保全林(以下,保全林),森林と人との共生林(以下,共生林),資
源の循環利用林(以下,循環林)である。またこれらの指定に準じ,各府県でも独自の森林機
能分類をおこなっている。森林機能分類とありうべき管理目標を,表 3-20 に示す。保全林は
表面侵食防止,表層崩壊防止,洪水緩和,水資源貯留を主たる機能とし,複層林・長伐期化に
よって土壌緊縛力が強い主木を育生すると共に,間伐によって下層植生を育生して表面侵食を
防止する。また落葉樹導入によって土壌有機層を生成し,透水性・保水性向上を図ることを管
理目標とする。共生林は保健・レクリエーション,景観形成,学術・教育,生物多様性保全な
ど,広く国民の生活質や無形の価値を高める機能を主とし,多様な樹種・林相から成る森林の
育成だけでなく,希少生物種の生息環境など貴重な自然の保護,渓流・湿地・草原などの生態
系や史跡・名勝などと一体の景観管理,里山林としての利用を促進など,機能に応じた多様な
管理をおこなう。循環林は木材をはじめとする森林資源の供給とそれによる収益を主な機能と
し,生産量・生産性・収益を最大化するような造林・育林・伐採施業管理を目標とする。表 3-20
には,これらの機能分類別に立地適地の条件も示す。保全林は傾斜が急で地盤が弱く,侵食や
崩壊の危険性が高い場所や取水河川上流域が適する。共生林は地域住民が利用し易い場所,史
跡・名勝・自然公園などを含み景観上重要な場所,貴重な自然が残る場所などが適する。循環
林は地位・生産性が高く,作業が容易な場所が適する。これらの適地の判定には,GIS の利用
が有効である。まず現在の森林簿によるゾーニングを分析して,これらの立地適地判定に有効
な要素を抽出する。次にこれらの要素を用いて流域森林を再照査し,新たに最適なゾーニング
を提案する。
次に,森林生態系モデルを森林管理計画に導入する手法と効果を検討する。森林生態系モデ
ルは,天然林における種子移入・発芽,個体生長・枯死,個体間競争,種間競争などを数理的
に表現し,樹種構成,樹齢・サイズ分布などの動態をシミュレーションするモデルである。人
為的に管理をおこなう森林についても,種子移入の代わりに植林,自然枯死に加えて間伐・伐
採を考慮することで,天然林と同じモデルで表現が可能である。種々の森林生態系モデルのう
ち,森林管理に応用しやすいモデルは,個体サイズ分布モデル(例えば Kohyama, 1992)であ
99
る。Kohyama (1992)は個体サイズとして樹幹直径(DBH),個体間競争要因として光資源を考え,
複数種競合下において樹種ごとの樹齢・個体サイズ分布の経年変化をシミュレーションした。
モデルパラメータは樹種ごとのサイズ動態特性(潜在生長速度,最大生長サイズ,新規加入率,
死亡率)と,生長速度および新規加入率の光資源感受性である。ある年 t における樹種 i の木
の胸高直径が x である確率 fi(t,x)は,次式で表される。
∂f i (t , x)
∂[Gi (t , x) f i (t , x)]
=−
− M i (t , x) f i (t , x)
∂t
∂x
ここで,Gi (t,x)は生長速度,Mi (t,x)は死亡率である。生長速度と死亡率は周囲の個体による被
圧によって変化し,例えば光資源被圧を考えるなら対象サイズ x より大きい個体の合計 DBH
の関数とする。このタイプの森林生態系モデルを森林管理に応用するとき,個体サイズは材積
と相互変換が可能であるため,毎木の材積,林分の総材積,材積の生長,経済価値を容易に算
出できることが利点である。課題として,GIS に蓄積する森林簿などの入手可能な資料から,
モデルパラメータを決定する方法を検討する必要がある。
次に森林経済モデルとして,単純な収支勘定を考える。資産として原資,山林,立木,設備
機械,負債,収入として林木売却,副産物販売,借入,交付金(森林整備地域活動支援,水源
税,環境税など),支出として設備機械購入・維持,苗木・資材購入,林道整備費,人件費(固
定費,賃金),光熱燃料費,廃棄物処理費,管理費(事務,保険,税など),返済などを考える。
これらの項目間には相互制限関係がある。
最後に,GIS,森林生態系モデル,森林経済モデルを統合し,森林管理のシミュレーション
をおこなう。GIS は森林機能分類と森林生態系モデルのパラメータを提供するだけでなく,森
林経済モデルに対しても労働力供給量や,施業単価に影響する傾斜,標高,林道整備状況など
の情報も与える。モデル実行単位としてまず市町村程度で試算をおこない,モデルの挙動を確
認した後流域圏へ広げる。森林管理シナリオとして,環境性を重視したシナリオ,収益性を重
視したシナリオを設定し,それによって目標とする各機能別森林管理目標への到達の可否を試
験する。
参考文献
Kohyama, T., 1992: Size-structured multi-species model of rain forest trees. Functional Ecology, 6,
206-212.
林野庁: 森林・林業基本計画関連情報.
http://www.rinya.maff.go.jp/seisaku/kihonkeikaku/keikakukanren.html
100
表 3-20 森林の機能分類と適地・管理目標
森林分類
水土保全林
(保全林)
森林と人との共生林
(共生林)
資源の循環利用林
(循環林)
主な機能
表面侵食防止
表層崩壊防止
洪水緩和
水資源貯留
保健・レクリエーション
景観形成
学術・教育
生物多様性保全
資源供給
収益
101
管理目標
複層林化
長伐期化
落葉樹導入
下層植生・土壌育生
樹種・林相多様化
生態系多様化
里山利用
原生林の保護
適切な造林・保育
除伐,間伐,枝打ち
適期伐採
省力・低コスト化
立地適地
急傾斜
弱地盤
水源流域
居住地域に近い
交通アクセス
史跡・名勝がある
貴重な自然
高地位・高生産性
緩傾斜・低標高
林道既整備
(2)森林簿を利用したバイオマス量及び花粉生産量の推定
本プロジェクトのテーマの一つである「流域圏環境情報のデータベース化」の一環として、森
林情報の整理とGISを用いたデータベース化を行った。さらにデータベース化された森林情
報を用いて、流域圏およびその周辺の森林のバイオマス量を算出し、そのバイオマス量から炭
素蓄積量の算定、花粉生産量の推定を行った。炭素蓄積量は地球温暖化の主たる原因物質であ
る CO2 吸収量の定量化を目的に、また花粉生産量は、近年問題視されている花粉症の発生源対
策として、花粉生産量ポテンシャルの定量化を目的に行ったものである。
(1) 森林情報
森林情報は、各都道府県(民有林)及び各森林管理局(国有林)で管理されている森林簿か
ら抽出した。森林簿は小班もしくは枝番単位で多くのデータが記録されている。記載されてい
る項目は、林班コード、面積、樹種、林齢、材積、成長量、疎密度、施業方法、林道距離、森
林機能、標高…と数十項目にわたる。解析対象とした森林簿は、大阪府、兵庫県の一部、京都
府の一部、滋賀県、三重県の一部、奈良県の一部及び国有林であり、淀川流域圏及びその周辺
の市町村が含まれる。ただし、府県によって森林簿の項目や項目の分類は統一されていなかっ
たので、共通項目の範囲内で、統一された淀川流域圏の森林簿を林班(複数の小班で構成)単
位で再構築した。
林班に対するデータをレコードと呼び、各レコードは複数のフィールドから構成されている。
ここで、フィールドには、林班コード、面積[ha]、材積[m3]、代表林種、代表樹種、平均樹齢[年]、
ゾーニングを採用した。林班コードは林班に固有の番号である。代表林種は1つの林班に占める
面積が最も大きい林種のことで、人工林、天然林、竹林、その他としてまとめた。同様に代表樹
種についてもスギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツ、マツ、カラマツ、その他針葉樹、カラ+他針、
クヌギ、ケヤキ、ブナ、その他広葉樹、ケ+ブ+広、タケ、その他にまとめた。ここで、マツはア
カマツとクロマツを足したもの、カラ+他針はカラマツとその他針葉樹を足したもの、ケ+ブ
+広はケヤキとブナとその他広葉樹を足したものである。平均樹齢は、林班内に含まれる樹種
のうち、タケとその他を除いた樹齢の面積による荷重平均をとった数値とした。また、バイオマ
ス量の算出には、樹種ごとに材積、林齢、ヘクタールあたり材積[m3/ha]を求めた。この時の樹種
は、スギ、ヒノキ、マツ、その他針葉樹、クヌギ、その他広葉樹の 6 種類とした。
口絵 17、18 はそれぞれ淀川流域圏周辺の代表樹種と平均樹齢をマップとして出力したもの
である。口絵 17 を見るとスギは京都市の北部や奈良県から三重県、滋賀県の流域圏境界に沿っ
て分布していることが読み取れる。またマツは都市部に近い標高の低い立地に多く生育してい
るのが分かるが、多くは天然林であり管理はおこなわれていない。口絵 18 から滋賀県、三重県
は比較的若い林分が多いのがわかる。多くはスギ、ヒノキの人工林で林業が盛んで管理が行わ
れていることが推測される。一方年齢の高い林分はほとんどが広葉樹、マツの天然林となって
いる。
図 3-102 に流域圏周辺全体に占める樹種別の面積の割合を、表 3-21 に樹種別にまとめた面積、
平均樹齢、人工林・天然林の割合を示す。これらから淀川流域圏はスギ、ヒノキ、マツで約 2/3 を
占めており、人工林であるスギ、ヒノキは平均樹齢が他の樹種より比較的若いことがわかる。
102
表 3-21 淀川流域圏周辺の植生の面積、平均樹齢及び人工林・天然林割合
面積[千 ha]
平均樹齢[年]
人工林[%]
天然林[%]
スギ
112.96
45.74
99.56
0.44
ヒノキ
99.82
42.37
99.45
0.55
マツ
127.45
65.22
8.38
91.62
その他広葉樹
169.72
49.48
0.88
99.12
クヌギ
5.27
45.41
27.98
72.02
その他針葉樹
1.15
71.52
16.20
83.80
合計
516.63
48.97
49.81
50.19
タケ
15.33
-
-
-
その他
7.66
-
-
-
539.62
48.97
47.69
48.05
淀川流域圏周辺
樹種別面積[%]
タケ
その他針葉樹
2.84
0.21
その他
1.47
クヌギ
0.98
スギ
20.93
その他広葉樹
31.45
ヒノキ
18.50
マツ
23.62
図 3-102 淀川流域圏周辺の植生の樹種別面積割合
(2)バイオマス量の算定
バイオマス量(全現存量)は材積を基に算定した。材積とは木の体積のことであり、森林簿
に記載されている材積は幹材積を表している。この幹材積は各府県が「材積表」を利用して求め
ている。林野庁は材積表を公表しているが、大まかな地域別の樹種別材積となっている為、その
ままでは各府県に適用しにくい。そこで各府県では林野庁の材積表を参考に地域別に調整し、
地質や日照の違いで3段階に分けた材積表を採用しており、各府県の材積表はどれも林齢から
値が求まる成長パターンとして表現されている。
樹木のバイオマス量(全現存量)は幹現存量に葉、枝、根の現存量を足した値となる。本研究で
は森林簿の材積の値を用いて幹現存量を算定し、文献などから他の各部分の現存量比を求め、
全現存量を算出する方法を採用した。
幹現存量は、(1)式により HA 材積と木の密度(BD)から求めた。
幹現存量[t/ha] = HA材積[m /ha] × BD[kg/m ] × 10
3
3
103
-3
(1)
また、各樹種に対する BD は (2)式より求めた。
BD =
ρ o × 100
(100 + 28 × ρ )× 10
(2)
−3
o
ここで、BD [kg/m3] : 基礎
密 度 (basic density) 、 ρ o
表 3-22 樹種別の全乾密度と基礎密度
ρo(g/cm3)
0.350
0.400
0.470
0.470
0.600
0.600
樹種
スギ
ヒノキ
マツ
他針葉樹
クヌギ
他広葉樹
3
[g/cm ] : 全 乾 密 度 (ovendry density)。ただし、全乾
密度とは約 103℃で恒温に達
したときの全乾材の密度をい
う。表 3-22 に各樹種の ρ o 、
BD の値を示す。
BD (kg/m3)
319
360
415
415
514
514
図 3-103 に林齢による根、
幹、枝、葉の全現存量に対する割合の一例
100%
(スギ)を示す。表 3-23 に算出した樹種
別の各部分現存量及び全現存量を示す。こ
表 す た め に 、 面 積 [ha] を 乗 じ て 単 位 を
[105t]にした。また HA 全現存量[t/ha]は流
域圏での平均的な単位面積あたり全現存量
である。流域圏において、森林のバイオマ
全現存量に対する割合
こで、淀川流域圏周辺の総バイオマス量を
80%
60%
葉
枝
40%
幹
根
20%
ス量は 5615 万トンであると算定された。そ
の中でスギは面積的には約 20%を占めて
0%
いるが、バイオマス量では約 30%を占めて
0
10
20
30
40
50
60
70
林齢[year]
いる。これはスギが豊富なバイオマス資源
であることを示しているとともに、スギ林
図 3-103 全現存量に対する各部分現存量
管理の効果が大きいことも示している。
の割合(スギ)
林齢と現存量の関係は(3)式のミッシャーリッチ関数で近似され、将来の現存量の成長予測が
できる。
WV = m1 {1 − m2 exp(− m3 x )}
(3)
表 3-23 各樹種の各部分現存量と全現存量
面積
3
[10 ha]
スギ
ヒノキ
マツ
その他広葉樹
クヌギ
その他針葉樹
流域圏周辺全体
112.96
99.82
127.45
169.72
5.27
1.15
516.38
葉現存量
5
[10 t]
枝現存量
5
[10 t]
幹現存量
5
[10 t]
根現存量
5
[10 t]
15.75
8.80
2.87
3.51
0.09
0.03
31.05
12.02
8.51
8.56
14.91
0.003
0.09
44.09
110.94
72.80
102.36
87.70
2.21
1.08
377.09
35.38
24.20
25.83
23.02
0.58
0.27
109.28
104
全現存量 HA全現存量
5
[10 t]
[t/ha]
174.09
114.31
139.62
129.14
2.88
1.47
561.51
154.11
114.51
109.55
76.09
54.69
127.30
108.74
表 3-24 ランク別に分けた樹種に対する m1、m2、m3
m1
m2
m3
L
142.753
1.361
0.0328
M
172.605
1.361
0.0405
H
202.792
1.347
0.0450
L
110.000
1.361
0.0365
M
148.500
1.361
0.0405
H
188.100
1.361
0.0500
L
94.148
1.680
0.0450
M
132.314
1.361
0.0365
H
164.262
1.225
0.0295
L
77.808
1.497
0.0328
M
103.991
1.361
0.0328
H
133.052
1.225
0.0295
L
45.927
1.361
0.0500
M
59.049
1.225
0.0450
H
75.996
1.102
0.0405
樹種
スギ
ヒノキ
マツ
その他広葉樹
クヌギ
ここで、WV [t/ha] : 全現存量、x[年] : 林齢、m1、m2、m3 は樹種により定まる変数である。表 3-24
にデータへの(3)式の当てはめにより推定した各樹種に対する m1、m2、m3 を示す。表中の L、M、H は
地質や日照の違いで分けたランクであり、成長パターンが順に良くなっている。図 3-104 にス
ギに対する林齢と全現存量の関係とミッシャーリッチ関数を用いた近似曲線を示す。三本の曲
線はそれぞれランク L、M、H を表している。
図 3-104
林齢に対する全現存量の近似曲線
(上:ランク H、中:ランク M、下:ランク L)
105
(3) 素蓄積量の算定
炭素蓄積量は(4)式を用いて樹種別に求めた。
炭素蓄積量[t]=全現存量[t/ha]×森林面積[ha]×炭素含有率
(4)
炭素含有率は全ての樹種で 0.50 とした。計算結果を表 3-25 に示す。これを見ると、スギの炭
素蓄積量が約 30%と大きな割合を占めていることがわかる。淀川流域圏周辺(森林面積 516.4×
103[ha])では炭素蓄積量が約 2800 万トンで、CO2 蓄積量になおすと約 1 億 300 万トンであった。
森林総合研究所の報告によると、日本の森林面積は約 23.7×106[ha]で炭素蓄積量は約 11 億 8 千
万トンである。したがって日本の炭素蓄積量の約 1/40 を淀川流域圏周辺が蓄積していることに
なる。また単位森林面積あたりの炭素蓄積量は 54.4[t/ha]で、日本全国の平均値の 50.0[t/ha]の値
を上回る。この理由の一つとして、奈良県を中心とするスギ林の高い炭素蓄積が考えられる。
表 3-25
スギ
ヒノキ
マツ
その他広葉樹
クヌギ
その他針葉樹
流域圏周辺全体
淀川流域圏周辺における樹種別炭素蓄積量の推定結果
CO2蓄積量
炭素蓄積量
面積
HAあたり炭素
3
5
蓄積量[t/ha]
[10 t]
[10 ha]
[105t]
112.96
77.06
87.04
319.16
99.82
57.25
57.15
209.56
127.45
54.78
69.81
255.97
169.72
38.05
64.57
236.76
5.27
27.34
1.44
5.28
1.15
63.65
0.73
2.69
516.38
54.37
280.75
1029.43
さらに将来の炭素蓄積量をシナリオ別に予測した。予測にあたっては(3)式より現存量が変
化するという仮定のもとに、20、40 年後の炭素蓄積量を推定した。
・シナリオ0…(3)式により求めた現在の状況。
・シナリオ1-20…林業が衰退し、20 年間管理が全く行われない場合。
・シナリオ1-40…40 年間管理が全く行われない場合。
・シナリオ2-20…適正伐期齢に基づき管理された時の 20 年後の場合。適正伐期齢に達する
と、全ての木が例外なく伐採され、同樹種を植林する。適正伐期齢は表
3-26 に従った。ただし伐採された幹の部分は木材として利用され、炭素吸
収の役割を果たすとして計算に入れた。他の部分は燃焼されると仮定した。
・シナリオ2-40…適正伐期齢に基づき管理された時の 40 年後の場合。条件は、シナリオ2-20
と同じ。
表 3-26 樹種による伐採適齢期
樹種
スギ
ヒノキ
マツ
伐採適齢期[年]
40
45
40
106
その他
広葉樹
20
クヌギ
20
その他
針葉樹
40
表 3-26 に各シナリオにおける炭素蓄積量とその変化率を示す。管理の有無による 20 年後の炭素
蓄積量にはほとんど差が無いが、40 年後には、管理を行った場合は行わなかった場合に比べて、炭
素蓄積量の増加率が約2倍となった。間伐材の利用を促進すれば、その効果はさらに増大する。口絵
19∼23 には、それぞれ淀川流域圏周辺のシナリオ0、シナリオ1-20、1-40、シナリオ2-20、2-40 におけ
る炭素蓄積量を示す。奈良県一帯や京都市北部に、スギ・ヒノキによる高い炭素蓄積量地域が存
在することがわかる。
表 3-27 シナリオ別の炭素蓄積量とその変化率
シナリオ 0
シナリオ 1-20
シナリオ 2-20
シナリオ 1-40
シナリオ 2-40
炭素蓄積量 [10 t]
270.90
314.37
313.34
334.14
392.47
変化率 [%]
-
+16.05
+15.67
+23.35
+44.88
5
(4)花粉生産量の推定
近年、スギやヒノキの花粉が主な原因である花粉症に苦しむ人が増え、社会問題化している。
花粉症の罹患者増加の原因については諸説あるが、戦後のはげ山に造林したスギやヒノキが着
花年齢に達したことも一因である。ここではスギ林とヒノキ林を対象にし、花粉の推定生産量のマ
ップを作成し、伐採などの管理による将来花粉生産量の予測を行った。まず、林齢が 25 年以上
の林分が花粉を主に生産し、その後は林齢による変化はあまり見られないことから 25 年以上の
スギ林、ヒノキ林が花粉を生産するとした。次に ha あたりの花粉生産量の推定には(5)式を用
いた。
ha あたり花粉生産量[個/ha/年] = ha あたり雄花生産量[個/ha/年]×
雄花あたり平均花粉粒数[個/個]
(5)
ここで、雄花あたり平均花粉粒数は文献によりスギが 396,000 個/個、ヒノキが 198,200 個/個と
した。ha あたり雄花生産量は表 3-28 に示す 1986∼1990 年間の値を採用し、ha あたり花粉生産
量を算出した。結果を表 3-29 に示す。また結果の最小値、平均値、最大値を凶作、平作、豊作時
の ha あたりの花粉生産量とした。
表 3-28
スギ
ヒノキ
スギ・ヒノキの ha あたり雄花生産量の年推移 [104 個/ha/年]
1986
8143
5165
1987
4788
5153
1988
13611
30235
1989
2326
668
表 3-29 スギ・ヒノキの ha あたり花粉生産量の年推移
スギ
ヒノキ
1986
32.25
10.24
1987
18.96
10.21
1988
53.90
59.93
1989
9.21
1.32
1990
8751
4809
平均
7524
9206
[1012 個/ha/年]
1990
34.65
9.53
平均
29.80
18.25
雄花生産量が凶作、不作、豊作の場合におけるスギ、ヒノキの花粉生産量を表 3-30 に示す。
流域圏周辺全体では、花粉発生源となる面積は全森林面積の 38.28%にあたる 197.67×103 ha で、
雄花生産量が豊作時には 111.91×1017 個/年もの花粉生産ポテンシャルを有すると推定される。
107
表 3-30 スギ、ヒノキの花粉生産量
スギ
ヒノキ
合計
平作 [個/year] 豊作 [個/year]
25年生以上面積 [ha] 凶作 [個/year] 不作
3
17
17
17
108.68×10
10.01×10
32.39×10
58.58×10
3
17
17
17
88.99×10
1.17×10
16.24×10
53.33×10
197.67×103
11.18×1017
48.63×1017
111.91×1017
次に、将来(20 年後)の花粉生産量を以下のシナリオに基づいて推定した。
・シナリオ 1…林業が衰退し、管理が全く行われなくなった場合。単純に現在の林齢に 20 年
を加えて計算した。
・シナリオ 2…適正伐期齢に基づき間伐が行われる場合。適正伐期齢に達すると、全ての木が
例外なく伐採され、同樹種を植林する。適正伐期齢は表 3-26 の値を用いた。
このシナリオに基づいて淀川流域圏の花粉生産量を推定した結果を表 3-31 に示す。口絵 24、
25 にそれぞれ平作時のシナリオ1、2の推定結果を示す。シナリオ 1 では現在の 5 年生以上の木か
ら花粉が生産されることになるので、ほぼ全てのスギ、ヒノキが発生源だということになる。シ
ナリオ 2 では花粉生産量が現在の約 1/3 になった。
表 3-31 シナリオ別の淀川流域圏における花粉生産量推定結果
面積 [ha]
凶作 [個/年]
平作 [個/年]
豊作 [個/年]
現在
197.67×103
11.18×1017
48.63×1017
111.91×1017
シナリオ1
212.73×103
11.72×1017 (+4.79%)
51.87×1017 (+6.67%)
120.68×1017 (+7.83%)
シナリオ2
66.31×103
3.57×1017 (-68.12%)
16.04×1017 (-67.01%)
37.68×1017 (-66.33%)
( )内の数値は、現在に対する増減割合を示す。
(5)まとめ
森林簿データを用いて、淀川流域圏周辺におけるバイオマス量の推定を行った。また、樹種
ごとの成長曲線をミッシャーリッチ関数により近似することで、将来のバイオマス量予測が可
能となった。バイオマス量をもとに樹種別炭素蓄積量の将来予測を行った結果、伐採適齢期に
伐採・植樹を行う管理の有効性が示された。一方、花粉症の原因物質であるスギ・ヒノキ花粉
の生産量ポテンシャルを推定した結果においても、伐採・植樹による管理により花粉生産量を
1/3 程度に減少させることが出来ることを示した。
108
3-4-3 ヒートアイランド緩和対策
1) 本研究プロジェクトにおけるヒートアイランド研究の位置づけ
本研究では淀川流域圏における広範な事象 を研究対象としており、ともすれば各サ
ブテーマ間の連関が見えにくくなる危惧が ある。そこで、各要素間の関連を明確に示
すための事例の一つとして、本研究ではヒートアイランド現象を取り 上げる。
淀川流域圏に位置する大阪・京都は、瀬戸内海の存在など地理的条件から夏の暑さが
厳しい。近年の気象統計を見れば大阪は日本で一番暑い大都市であり、日本の中で最も
ヒートアイランドによるインパクトが大きい地域であると予想される。従って、淀川流
域圏でヒートアイランド現象発生およびそのインパクト形成のメカニズムを解明するこ
とによって、森林や水面など自然の有するヒートアイランド緩和効果の「価値」が明確
にできるものと考えている。
一方でヒートアイランド現象には都市域での土地利用の変化による地表面での蒸発の
変化やエネルギー消費による排熱の量や形態等が大きく関係している。
そこで、図 3-105 に示すようなフローで、「土地利用・都市最適配置計画」による地
表面水・熱収支の変化や省エネルギー対策等による人工排熱の変化がヒートアイランド
現象にいかなる影響を及ぼし、
それが更に流域圏内の人間や生態系に与えるインパクト
にどのような変化をもたらすのかを同時に見ることで、
本研究で開発したいくつかのサ
ブモデルの関係性を明らかにすることを試みる。
なお、ヒートアイランド現象が人間や生態系に及ぼすインパクトは図 3-106に示すよ
うに多様である。特に、気温の上昇による植生からの VOC 放散の増大や風系の変化によ
る光化学オキシダントなど大気汚染質の変化について本研究では3-3で示したように詳
その他のヒートアイランドイン
パクト評価
光化学オキシダントの発生
森林
NOx,VOC等大気汚染物質
の発生と拡散
土地利用変化・人工廃熱等
によるヒートアイランド現象の
発生
都市圏
大気汚染が植生に与えるストレス
気温が植生からのVOC
発生量に与える影響
メソスケールモデルによるヒートア
イランド現象のシミュレーション
気温上昇が人間生活や
生態系・資源消費に及ぼ
すインパクトの定量化
ヒートアイランド現象緩和策による、
洪水防止など副次的効果の定量化
地表面の改変による蒸発量の変化につい
ての気象モデルと水理モデルの統合
土地利用・都市最適配置計画
流域圏全体にわたるエネルギー収支モデ
ル(人工廃熱の発生分布)
図 3-105:流域圏研究におけるヒートアイランド研究の位置づけ
ループ
資源の消費
冷房廃熱増加
気温上昇
熱帯夜の増加
風系の変化
植生からのVOC放出増加
土地利用変化
体感気温の変化
建築エネルギー
消費量の変化
水消費量の増加
大気汚染の悪化
人間健康への影響
熱中症リスクの上昇
病原菌の繁殖
都市洪水の増加
生態系への影響
図 3-106:ヒートアイランド現象によるインパクトの連関
細な分析とモデル化を行った。
本研究ではこれらのインパクトをできるだけ総合的に評
価することを目指している。
2) 空調システムや地表面被覆の変化がヒートアイランド現象に及ぼす影響
都市におけるヒートアイランド現象は、地表面被覆の改変や人間活動に伴うエネル
ギー消費が主たる要因となって引き起こさ れている。前者の日射エネルギーの地表面
バランスを乱す要因のことを「一次破壊系要因」と呼び、後者の化石燃料の使用に伴
う熱放出を「二次破壊系要因」と呼んでいる。従って、ヒートアイランド現象の緩和
対策はこれら二要因の改善が主たる方策と なる。前者に関しては、地表面からの蒸発
散効果を期待した公園・緑地の整備、水面の配置、建物敷地内や屋上面の緑化、さら
には保水性舗装などの対策が挙げられる。その他、日射エネルギーの地表面入射を抑
える高反射性の壁面・舗装面の仕上げが代表的な対策技術として 挙げられる。後者に
関しては、省エネルギー設備の導入や建物の断熱性向 上、低燃費車の普及などによっ
て、使用するエネルギー総量を抑制することは もちろん重要であるが、空調機器の排
熱対策として排熱形態を直接気温に影響を 及ぼさない潜熱や水系排熱に変換する手法
が考えられている。
3-3-1 で作成した淀川流域圏熱収支データベースはエネルギー消費プロセスを考慮
した上で、積み上げベースの人工排熱量を推計してい るため、例えば、都市熱環境改
善策としての各種エネルギーシステム変更 に伴う影響を定量的に把握することが可能
である。ここでは 3-3 -1 で述べた気象
モデルと淀川流域圏熱収支データベ ー
表 3-32:複合対策メニュー
スを組み合わせることによって、排出
対策内容
対策水準
される人工排熱の形態が変化した(空
自動車排熱削減
10%削減
建物内エネルギー消費削減
15%削減
調システムの変更により)場合に予想
市街地(地上)緑化
15%増加
される気温変化や、表 3-3 2 に示す複
屋上緑化
20%増加
合対策メニューが実施された場合の 気
高反射性壁面(アルベド20%→60%)
20%増加
温変化について紹介する。
保水性舗装
20%増加
図 3-1 07 に計算対象エリア内の業務
[℃]
[℃]
2時
14時
図 3-107:業務建物の空調システムを水冷式に変更した場合の気温変化(地上 18m、8 月)
[℃]
[℃]
-0.9
-0.3
-0.6
-0.2
-0.4
-0.1
-0.1
0.0
14時
2時
図 3-108:各種複合対策(表1)による気温変化(地上 18m、8 月)
建物における空調システムが全て水冷式に 変更された場合の気温変化予測結果を示
す。水冷式の空調システムでは排熱の約 9 割を潜熱として排出し顕熱が削減されるこ
とによって、日中には大阪都心部を中心に 0.1℃程度気温が低下することが示され
た。業務建物からの排熱は日中に多いことから 、業務建物における水冷化対策は日中
気温の低減に寄与することがわかる。次に、図 3-108 に複合対策(表 3-31)が実施さ
れた場合の気温変化予測結果を示す。なお、各対策内容の水準は、ある程度対策実施
の現実性を勘案して決定した値である。結果として、日中には 0.5℃から 0.8℃程度、
夜間には 0.3℃程度の気温低下が見込まれた。なお、図は省略するが、日中気温の低
下に最も大きく寄与したのは高反射性被覆への変更であった。
3) ヒートアイランド現象とインパクトの関係
前項で述べたように、本研究で構築した気象モデルと淀川流域圏 熱収支データベー
スを用いることによって、一次および二次破壊系要因それぞれに対す る改善方策の効
果を定量的に把握することが可能となった 。本研究では次年度において、ここで得ら
れたヒートアイランド現象改 善効果が、図 3-106 で示した各種インパクトに及ぼす影
響を定量的かつ総合的に評価することを試みる。
日上水 給水量( 10^6m^3)
Ox濃度の増分値 〔ppb〕
4.5
4.0
両方+1℃
反応+1℃
葉温+1℃
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
1.7
y = 0.0005 x2 - 0.0136 x + 1.4117
R 2 = 0 .8 465
1.6
1.5
1.4
1.3
1.2
20
0.0
1
3
5
7
9
11 13
時刻
15 17
19
21
25
30
35
日最高気温(℃)
23
図 3-109:気温・葉温 1℃上昇による大阪府
図 3-110:気温と上水供給量の関係(大阪市)
域のオキシダント濃度変化
40
50
電力供給量(MW)
電力供給量(MW)
60
40
30
20
10
0
30
20
10
0
10
20
30
40
10
20
気温(℃)
30
40
気温(℃)
図 3-111:気温と電力供給量の関係(左:業務集中地区、右:住宅集中地区)
y = 0.001e 0.4017x
R2 = 0.6393
60
エアコン利用率 (%)
熱中症搬送者数[人]
70
50
40
20
15
10
5
0
20
30
25
30
35
40
日最高気温[℃]
20
図 3-113:気温と熱中症搬送者数の関係(大阪市)
10
0
ここでは以下に、ヒートアイランド現象と
インパクトの関係について検討の途中経過
図 3-112:気温と住宅冷房使用率の関係 を報告する。図 3-109 から図 3-1 13 にインパ
(午前 2 時、大阪市内住宅 50 戸平均) クト分析の一例を示す。なお、それぞれの
詳細については各参考文献を参照されたい。
図 3-109 は気温や葉温が変化した場合の大阪府 域におけるオキシダント濃度の変化を
数値計算によって予測した結果である 1-1) 。環境温度が上昇するこ とによって、光化
学反応の活性化や 3-3-6 で述べたように植生起源の VO C 発生量が増加し、結果として
オキシダント濃度が増加すること が分かる。図 3-110 は大阪市における気温と上水使
用量の関係を示している 1-2) 。気温上昇に伴う上水使用量の 増加は、建物の冷房で用
いられる冷却用水であることが分析結果から明 らかになっている。図 3-111 は大阪府
内のある地域における気温と電力供給量の 関係を示している 1-3) 。夏季には冷房の使
用に伴い気温と電力使用量に明確な関係性 が認められ、特にその変化率は住宅地域で
大きいことが明らかになっている。図 3-112 は大阪市内の住宅における気温と冷房使
用率の関係を示している 1-4) 。夜間気温が 25℃を超え始めると冷房利用 率は急増し始
20
25
外気温(℃)
30
めることが分かる。図 3-113 は大阪市における気温と熱中 症搬送者数の関係を示して
いる 1-5) 。日最高気温が 30℃を超え始めると搬送者数は 急増し始めることが分かる。
図 3-106 に示すように、ヒートアイランド現象が各種インパクトに及ぼす影響はそ
れぞれが複雑に係わり合っている。例えば、都市域に公園・緑地や屋上緑化面を整備
することによって気温の低下が予想される 。この気温低下は、周辺建物や自動車にお
けるエネルギー消費の削減、熱中症リスクの軽減、水消費量の削減などに寄与する一
方で、バイオマスの増加に伴い植生起源 VOC 発生量が変化することで大気汚染リスク
を増加させる可能性も秘めている。また、公園・緑地の整備は防災、景観、管理など
の都市機能を変化させることから、上述のようなヒートアイランドおよびその インパ
クトに対する評価にとどまらず、都市域での住みやすさといった都市機能面 での評価
も総合的に行うべきと考えており、相互(ヒートアイランド評価よ都市機能評価)の
最適点を探る作業を次年度の大きな課題として位置付けている。
参考文献
1-1)坂口勝俊、鳴海大典、井上義雄、下田吉之、近藤明、町村尚、加賀昭和、水野稔:
気温ならびに光強度変化が樹木起因の VOCs 排出量に及ぼす影響、空気調和・衛生工学
会近畿支部学術研究発表会論文集、2005 年 3 月
1-2)坂口勝俊、岸本卓也、鳴海大典、下田吉之、水野稔:大阪府域を対象とした上水
消費量に関する気温感応度、空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集、2004 年 9 月
1-3)鳴海大典、下田吉之、水野稔:気温変化が地域の電力消費に及ぼす影響、エネル
ギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文集、No.21、2005 年 1 月
1-4)鳴海大典、森藤奈央、岸本卓也、下田吉之、水野稔:ヒートアイランド現象の対
策目標に関する一考察、日本建築学会大会大会学術講演梗概集(中部)、環境工学 D-1、
2003 年 9 月
1-5)森藤奈央、水野稔、下田吉之、鳴海大典:戸建住宅の夜間冷房利用率に関する実
態調査、日本建築学会近畿支部研究報告集、第 43 号(環境系)、2003 年 6 月
14 時
2時
3−5
関連研究
3−5−1
酸性物質の森林への霧水による沈着量
(1) はじめに
森林衰退の原因の一つと考えられている酸性物質の沈着は、湿性沈着および乾性沈着によって
もたらされることが明らかとなっているが、霧が頻繁に発生する標高の高い山地の森林では、
これらのほかに霧水を介した酸性物質(霧水沈着またはオカルト沈着と呼ぶ)が重視されている。
この霧水沈着量は標高依存性や風速依存性を持つとされており、この現象を詳細に検討するた
め種々のモデル計算がなされているが、霧水による沈着量は推計方法により湿性沈着と乾性沈
着の合計の 20%から 15-20 倍と変動要因が多い(DOLLARD(1983), KROLL(1989), SAXENA (1990),
MILLER (1993.10))。 本研究では実測に基づく霧水沈着の寄与を明らかにするため、これまで
に六甲山で霧水の観測結果および林内に降る雨(林内雨と呼ぶ)や幹を流れ下る雨(樹幹流、林内
雨と併せて樹冠通過雨と呼ぶ)の測定結果を解析し、六甲山 800m のスギ林における霧水、乾性、
雨水による沈着量の割合を推定した。SO42-については霧水 58%、乾性 28%、雨水 13%、NO3では霧水 48%、乾性 14%、雨水 6%となり、霧水沈着量は乾性沈着量の 2∼3 倍、雨水沈着量
の 4∼8 倍であることが明らかになった。
また、霧水成分は大気中のガスやエアロゾルよりもたらされる。Ikawa ら(1998)は SO2 の濃
度をインデックスにして霧水成分濃度を推定する方法を示しているが、ガス・エアロゾルから
の寄与については言及されていない。三浦ら(2004)は霧の形成や消散が大気中エアロゾルの
化学組成の季節変動にまで影響を及ぼしているとしている。本年度調査では、森林への沈着量
の大きな部分を占める霧水成分と大気中のガス・エアロゾル成分との関係を明らかにすること
を目的とした。
(2)調査地点及び測定期間・項目
霧発生時に大気中で液相と気相に存在する化学成分のマスバランス調べるため、2004 年 6 月
から 8 月に神戸市の市街地に隣接した六甲山の標高約 800mにある六甲自然保護センターにお
いて霧水採取法とフィルターパック法を組み合わせて霧発生時のガス・エアロゾルの調査を実
施した。霧水と大気中のガス・エアロゾルは図 3-114 に示す霧水分離測定装置とガス・エアロ
ゾル一括測定装置によって採取した。霧水分離測定装置は臼井工業研究所製 F500 細線式霧水採
取装置とフィルターパック法を組み合わせており、霧発生時に大気を毎分約 10m3吸引し、分
離した霧水を 60ml ごとに自動的に採取し採取時刻を記録するとともにフィルターパック法で
霧水を除いたガス・エアロゾルを測定した(以下、霧分離測定と呼ぶ)。フィルターパック法は
東アジア酸性雨モニタリングネットワークで乾性沈着測定法に採用されている 4 段ろ紙法を用
いた(F0:テフロンろ紙、F1:ポリアミドろ紙、F2:K2CO3 含浸ろ紙、F3:リン酸含浸ろ紙)。また、
ガス・エアロゾル一括測定装置は加熱により霧水を蒸発させフィルターパック法でガス・エア
ロゾルとして一括測定する方法をとった(以下、対照測定と呼ぶ)。測定項目は霧水中およびエ
アロゾル中の水可溶性 SO42-, NO3-, Cl-, NH4+, Na+, K+, Mg2+ ,Ca2+ とガス状の HCl, HNO3, SO2, NH3
である。
114
(3)結果
霧水成分濃度は細線式霧水採取装置の採気量を用いて大気中濃度に変換して表示し、フィル
ターパック法で得られた、大気中のガス・エアロゾル濃度と同じ単位で比較した。
測定結果の例として図 3-115 に霧水測定日ごとの霧水中 SO42-濃度、大気中粒子状 SO42-濃度、
ガス状 SO2 濃度を示す。霧が出現した測定日ごとの霧水分離測定で得た濃度の合計値と、対照
測定で得た濃度とは、双方とも 0 から 300nmol/m3 の範囲あり、測定日ごとに一致した濃度を示
した。また、霧水中に含まれる SO42-濃度は、大気中に存在する全いおう酸化物(霧水中 SO42濃度、大気中粒子状 SO42-濃度、ガス状 SO2 濃度の合計)の 14%前後であった。
霧分離測定と対照測定で得られたガス・エアロゾル成分濃度と霧水成分濃度の中央値を表
3-33 に示す。霧発生時と霧なし時を比較するとエアロゾル中の SO42-, NO3-, Cl-, NH4+, Na+, K+,
Mg2+ ,Ca2+ 濃度は霧発生中に低下しており、ガス状の HCl, HNO3, SO2 は大きな変化はなく、NH3
はやや上昇した。また図 3-116 に、成分ごとの霧水分離測定と対照測定の濃度の測定成分ごと
の合計値の比較を示す。SO42-,NO3-,NH4+として分析された成分濃度は中央値が 10-80nmol/m3 の範
囲であったが最高濃度は 600nmol/m3 近い濃度まで出現した。一方、その他の成分は 100nmol/m3
以下の低い濃度範囲にあり測定誤差による変動のため両測定法間の相関がやや悪いものがあっ
た。しかしながら、両測定で得られた濃度の関係は 1:1 に近く大気濃度を正しく測定出来てお
り、両者から得られた濃度は比較できる精度を有していた。
霧分離測定と対照測定が評価に足る精度を有していたので、霧水成分の由来を調べるため、
両測定濃度の差から霧水への分配を推定した。図 3-117 に霧水分離測定と対照測定の相関を示
す。それぞれ回帰係数から対象測定の濃度に対する霧分離測定の濃度比を求めると、エアロゾ
ル中 SO42-は霧水分離後の空気中に 73%残留しており霧水により 27%減少したと推定された。
また、ガス状 SO2 は 95%残留し、5%の減少に留まった。ガスとエアロゾルの合算では 86%残
留し、霧水により 14%減少したと推定された。同様の手順で各成分について推定した結果を表
3-34 に示す。エアロゾル中 NO3-は 58%空気中に残留し、霧水により 42%減少していた。ガス
状 HNO3 は 60%残留し、40%減少していた。エアロゾルとガスの合算では 66%が残留し霧水に
より 34%減少していた。他の成分では、エアロゾル中に塩化物が 27%しか残留せず 73%霧水
に吸収され、大きな分配が起こっていた。ガス状物質では、いおう酸化物が 95%残留し 5%の
み霧水に吸収されていたが、硝酸、塩化物アンモニアは 23-40%霧水に吸収されていた。総合
するとガス・エアロゾル成分の濃度変化を集計すると、霧水への吸収は 10−34%の範囲にあり
硝酸と塩化物の霧水への分配が大きかった。
文献
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116
ガス・エアロゾル・霧水成分の大気中濃度(nmol/m3)
表 3-33
エアロ ゾル
ガス
nmol/m3 Cl- NO3- SO42-
Na+
K+
霧なし時
2.5
11.6
46.8
21.2
78.4
2.6
3.2
5.1
19.9
霧発生時
1.7
4.2
31.2
12.3
45.6
1.9
1.1
3.5
霧分離後
1.0
4.0
18.6
6.9
35.8
1.5
1.1
1.8
霧水
6.1
11.1
10.0
4.7
19.2
0.7
0.7
0.8
NH4+
Mg2+ Ca2+ HCl
HNO3
SO2
NH3
28.8
50.4
72.7
18.4
26.3
56.8
92.4
12.6
12.6
50.7
72.9
2004 年 6 月 21 日から 8 月 31 日までの測定値の中央値
表 3-34
大気中ガス・エアロゾル成分の霧への分配率
SO42-
NO3-
Cl-
NH4+
Na+
K+
Mg2+
Ca2+
粒子
27%
42%
73%
10%
29%
21%
10%
34%
ガス
5%
40%
33%
23%
粒子+ガス
14%
34%
31%
11%
117
フィルターパック
細線式霧水採取部
空気
空気
ファン
空気
対照用フィル
ターパック
(一括測定)
霧水
図 3-114 霧水・ガスエアロゾル採取装置
RUN
20
19
18
17
16
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
Reference
350
300
250
200
150
100
50
0
Fog separated sample
SO4( particle)
SO2(gas)
Fog-SO4
0
図 3-115
50
100
150
200
250
300
Gaseous, aerosol and fog concentration(nmol/m3)
Gaseous and aerosol concentration(nmol/m3)
いおう化合物の大気中での存在形態
118
350
Cl
NO3
70
200
50
Sum of fog, gas, and aerosol
(nmol/m3)
Sum of fog, gas, and aerosol
(nmol/m3)
60
y = 0.90 x
40
30
20
10
y = 0.96 x
150
100
50
0
0
0
10
20
30
40
50
Reference(nmol/m3)
60
70
0
50
SO4
300
Sum of fog, gas, and aerosol
(nmol/m3)
Sum of fog, gas, and aerosol
(nmol/m3)
200
600
y = 0.98 x
250
200
150
100
50
500
y = 1.00 x
400
300
200
100
0
0
0
50
100
150
200
250
Reference(nmol/m3)
300
350
0
100
200
300
400
Reference(nmol/m3)
500
600
K
Na
20
Sum of fog and aerosol (nmol/m3)
50
Sum of fog and aerosol (nmol/m3)
150
NH3
350
y = 1.04 x
40
30
20
10
0
0
10
20
30
Reference(nmol/m3)
40
15
y = 0.92 x
10
5
0
0
50
5
10
Reference(nmol/m3)
15
20
15
20
Ca
Mg
20
Sum of fog and aerosol (nmol/m3)
10
Sum of fog and aerosol (nmol/m3)
100
Reference(nmol/m3)
y = 1.33 x
8
6
4
2
0
0
2
4
6
Reference(nmol/m3)
8
15
y = 0.86 x
10
5
0
0
10
5
10
Reference(nmol/m3)
図 3-116 霧水分離測定法と一括測定法による濃度比較
縦軸:霧水分離測定(霧水およびガスエアロゾル濃度の合計)
横軸:一括測定(ヒータで霧水を乾燥させたガスエアロゾル濃度)
119
250
200
150
y = 0.73 x
100
50
350
Concentration after removal of
fogwater (nmol/m3)
Concentration after removal of
fogwater (nmol/m3)
250
Concentration after removal of
fogwater (nmol/m3)
SO4(Aerosol+Fog)
SO2(Gas)
SO4(Aerosol)
200
y = 0.95 x
150
100
50
0
0
0
50
100
150
200
Reference(nmol/m3)
図 3-117
250
0
50
100
150
200
Reference(nmol/m3)
250
300
y = 0.86x
250
200
150
100
50
0
0
50
100 150 200 250
Reference(nmol/m3)
霧分離測定と対照測定のガス・エアロゾル濃度の相関
120
300
350
3−5−2
都市公園の音環境に関する空間的分析
(1)はじめに
従来、騒音とは居住空間において問題視される閉鎖的な地域環境問題であった。ところが近
年、人が居住しない場所について騒音の除去のみならず、より適正な音環境を創造しようとい
う動向が見受けられる。これは領域的に見た場合に、居住空間から公共空間への拡大と考えら
れ、環境資源的枠組みでは騒音除去の点から良好な音環境サービスの提供と解釈できる。この
ように音環境を資源でありサービスであると考えた場合、音は場の環境が提供するサービスで
あると考えるべきであろう。つまり、音が単独として快適性を与えるのではなく、音も含めた
場の環境全体が人々に安らぎやうるおいを与えていると捉えるのである。
本研究では、場の環境と音環境との関係が人々にいかなるサービスを与えうるか検討するた
め、都市公園の音環境を事例に検討を行った。公園領域の研究では、公園内の資源を利用者に
対してサービスとして提供するという考え方が成熟しつつあり、公園は音環境をサービスとし
て捉える場合に適した空間であると考えられる。従来の自然公園やレクリエーション施設等で
の音環境に関する研究は、利用する人が被害者にも加害者にもなり得るという特徴を持ち合わ
せているため、音源と利用者の印象に関する研究や、音源の発生場所などの研究がなされてい
る。このうち筆者らは、市街地の都市公園にしばしば見受けられる、公園の周囲を囲む主要幹
線道路から混入してくる交通音について、喧騒感の除去あるいは緩和による音環境のサービス
という立場から研究を行った。昨年の報告では、多種多様な人々が利用する都市公園において、
公園利用者の喧騒感の程度は利用目的に大きく左右されることを明らかにし、交通音の音圧レ
ベルと利用者の印象に関する量―反応曲線を利用目的別に推定した。しかし、公園内で聞かれ
る音は、場の環境を構成する一要素に過ぎず、より上位の目的である公園環境全体の快適性と
いった視点からも音環境について考察する必要がある。また、前回の報告では道路交通騒音に
より喧騒感が発生する可能性のある施設あるいはゾーンの特定は行えていない。
そこで今回は、公園の音環境をいかにサービスとして提供していくことができるかに着目し
て、公園内の施設配置の観点から検討を行った。
(2)調査
(1)調査概要
大阪府営の 4 つの緑地公園を対象に,公園内の滞留行動が見られる場所において質問紙調査
と環境騒音測定を行った。場所の詳細については後述する。質問紙は、
「喧騒感の評価」,
「環境
全体の評価」,「利用目的」,「場における支配的な音源」に対する質問で構成された。喧騒感の
評価については「非常に邪魔になる−全く邪魔にならない」という形容詞対の 5 段階尺度で行
った。この尺度については国内での喧騒感の評価に対する動向や公園の音環境の研究における
利用頻度の高さを考慮して採用した。またその場で聞こえてくる音についてその支配性の順位
をつけて自由に記述してもらった。環境全体の評価は 5 段階尺度による「満足―不満足」で回
答してもらった。総回答者数は 279 名、年齢は 18∼65 歳、男性 145 名,女性 134 名であった。
環境騒音の測定に関して、質問紙調査を行った場所でアンケートと同時にその場の LAeq,1min
の測定を行った。LAeq の 1 分という時間については質問紙調査に要する時間を考慮して設定し
121
た。通常環境騒音の LAeq の測定には 10 分程度の時間が必要とされるが、事前の測定調査では
10 分の場合と 1 分の場合とでの大きな差は確認されなかった。また地図上に利用者の評価結果
をプロットするために、アンケート実施場所の緯度・経度を GPS(SONY-PCQA-GPS3VH)で
測定した。
(2)調査地の概要
本研究の対象とした公園は、久宝寺緑地公園,大泉緑地公園,鶴見緑地公園,深北緑地公園
の 4 公園である。いずれも中央環状線,あるいは外環状線といった大阪府の市街地と近隣地域
をつなぐ主要幹線道路の周囲に配置されており、住区基幹公園のような小規模公園ではなく、
スポーツや遊戯など活動的な目的と休養や散歩・鑑賞といった静的な目的の両方に供用されて
いる大規模公園である。
(3)利用目的による施設の分類
4公園内で滞留行動が見られた施設について、公園緑地協会の文献を参考にそれらの施設を
「休養施設」「修景・鑑賞施設」「芝生広場」「園路広場」「遊戯施設」「運動施設」と分類した。
さらに今回実施した質問紙調査による利用目的の集計結果から、上記の施設を、動的利用が主
な場所であるか、静的利用が主な場所であるか、あるいは静動混在型なのかという観点から、
大きく 3 つに分類した。その結果を表 3-35 に示す。
表 3-35
公園施設の分類と各施設内におけるアンケート回答者の静目的利用者の割合
Type
公園内施設
type A (主に静目的)
type B (静動混在)
type C (主に動目的)
休養施設
修景・鑑賞施設
園路広場
芝生広場
遊戯施設
運動広場周辺施設
静目的利用
者の割合
92.1%
90.1%
83.5%
42.1%
12.3%
8.5%
(4)音環境評価と環境全体評価の空間的分布
GIS(Micro Image - TNT lite)を用いて地図上に環境全体の評価と音環境の評価プロットを行
った。これらの評価値は 5 段階での評価がよい側から 3 つを「満足」とし、評価が悪い側から
2 つを「不満足」として 2 分したものである。同時に公園内の施設を利用目的別に表現するた
め、表 3-35 の分類に従って静目的施設,動目的施設,静動混在施設をそれぞれ色の濃淡で表
現した(静目的
淡⇔濃
動目的 )。公園の電子地図と評価値プロット、ならびに色分けされ
た施設をオーバーレイし、各回答者の環境全体と音の評価について、公園内の施設エリアとの
関係を分析した。例として図 3-118 に大泉緑地公園のプロット地図を示す。
122
4 公園に共通の特徴について空間分析的に検討を行うと、まず音環境と環境全体の両方が悪
いという●に+マークのプロットは大きな外周道路付近、具体的には道路から 300 メートルの
ゾーン以内に密集していた。環境全体を不満足とした人が音環境についても不満足と回答した
確率をゾーンごとに図 3-119 に示すが、道路から近い側での一致度が高い傾向が伺える。さら
に図 3-120 に道路から 300 メートル以内におけるゾーンでの音環境,環境全体の評価ともに悪
いというプロットの存在率を、施設タイプごとに分析した結果を示す。静目的施設である Type
A において顕著に喧騒感の高さと環境全体の不満足感が伺え、道路からの距離とともにこれら
は減衰していく傾向にある。
○環境全体満足
●環境全体不満足
■音環境満足
+音環境不満足
Type A:主に静目的
Type B:静動混在
Type C:主に動目的
図 3-118
大泉緑地公園プロット図
(図中、細い黒線で示すゾーンは 100m 間隔、左方の黒い塗りつぶしは主要幹線道路である。
数値は LAeq,1min を示す。点線の楕円で囲んだ付近は噴水施設のあるエリアを示す。)
123
∼
50
0m
0m
0∼
50
0m
40
0∼
40
30
0∼
30
0m
20
0∼
20
10
0∼
10
0m
鶴見緑地
久宝寺緑地
深北緑地
大泉緑地
0m
音と環境全体の評価の一致度
100.0%
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
道路からの距離
各ゾーンにおいて環境全体を不満足と回答した人が音環境も不満足とした割合
100.0%
90.0%
80.0%
70.0%
60.0%
50.0%
40.0%
30.0%
20.0%
10.0%
0.0%
∼
30
0m
20
0
∼
20
0m
10
0
m
type A(静目的)
type B(静動混在)
type C(動目的)
0∼
10
0
ゾーン中の全プロット数に対する
「音,全体ともに不満足」プロットの割
合
図 3-119
道路からの距離
図 3-120
施設タイプごとの各ゾーン中に占める「音,全体ともに不満足」プロットの割合
以上、公園内での環境全体の評価と音環境評価を地図上で比較したところ、動目的の施設で
は環境に不満足という利用者が見受けられたが、音環境については満足している利用者が大半
であった。一方で静目的に供用された施設では、その施設が幹線道路付近に存在する場合に音
環境,環境全体ともに評価が低くなる傾向が伺えた。これは幹線道路から 300 メートル以内の
ゾーンで顕著であった。これらの施設では音の喧騒感が環境全体の印象に間接的に影響を与え
ている可能性が考えられる。
124
しかし、図 3-118 の楕円部にも見られるように、主要道路周辺の静目的施設にもかかわらず
音環境・場の環境全体ともに満足とされている場所が例外的に見受けられた。この図中の楕円
部は噴水施設であった。本調査で行った他の公園についても噴水施設周辺では同様の結果が得
られた。これらより、その場の音環境を大きく変えるような場所では道路交通音の喧騒感が緩
和されている可能性が示唆された。
(3)おわりに
利用者の利用目的が静的か動的かによって喧騒感の感じ方、あるいは静けさへの要望が異な
るという本研究結果は、公園内での施設配置に貴重な知見を与えると考えられる。具体的には、
静的な活動を目的とした利用者に供用される休養施設や修景・鑑賞施設等は、主要幹線道路付
近に配置されている場合に喧騒感が高くなる傾向があるため、これらの施設は公園内部への配
置を行い、騒音の影響を受けにくい活動的な施設を幹線道路周辺に配置するという、配置計画
が考えられる。また、道路との高低差を設けたり、隣接する動的な利用に供用された施設との
分離を行ったりすることで公園内への騒音の侵入を防ぐという手法も考えられる。しかし、公
園に求められる種々の機能を考慮した際に、このような“音の住み分け”が公園全体のコンセ
プトにとって必ずしも有効であるとは言い難い。
公園に求められる機能として、快適性(景観や緑など)、レクリエーション性(園内の遊具、
トイレなど)、防災性(災害時の避難場所)、環境性(都市のヒートアイランドの緩和、騒音の
緩衝材など)等が考えられる。このうち、公園内の静けさとは主に快適性に対してその機能を
発揮すると考えられるが、これらの機能はあらゆる人が使いやすい機能であること、全ての利
用者が平等に享受できることという、ユニバーサルデザインの視点での機能の平等分配が近年
求められている。例えば、道路との高低差を設けることは公園内部の状況を不明瞭にし、精神
的な入りやすさを阻害する可能性を持つと述べられており、喧騒感は減っても使いにくい公園
になる可能性がある。また、車椅子等を利用する人にとっても高低差は物理的な障害となる。
休養施設などの配置計画に関しても、パーゴラやベンチ、四阿などはあらゆる場所に配置する
ことで公園利用者の選択性を確保することができる。したがって、駐車場から近い場所、ある
いは公園の入り口付近といった、喧騒感は高まるがアクセス性はよいといった場所についても
休養施設の配置は必要であろう。以上のように、静と動を分離する配置計画のみでは、音への
配慮は行うことができても公園全体として使いやすい公園であるかについては多くの問題が残
る。したがって、本研究結果における利用目的の差を考える場合、ゾーニングに向けての指標
であるとともに、施設配置後においても、喧騒感が高まりやすいと考えられる場所を特定し、
よりいっそうの音環境に対する配慮を行うための指標であるといった解釈も必要であると思わ
れる。
今回の調査では、物理的に幹線道路から近く利用形態も静目的が主である施設であっても、
噴水施設の存在により喧騒感や環境全体の評価が周りより高くない場所が見受けられた。これ
は道路交通騒音が物理的にマスキングされているというよりは、他の自然的な音の存在により
喧騒感が緩和されたと考えるのが妥当であると思われる。このように公園など公共の施設では
騒音そのものを消すことは不可能であっても、音環境の代替的な便益を与えることで場の満足
度を向上させることができるのかもしれない。
125
環境技術開発等推進事業(自然共生型流域圏・都市再生技術研究)公募研究
流域圏自然環境の多元的機能の劣化診断手法と
健全性回復施策の効果評価のための統合モデルの開発
第4回検討会記録
開催日時
平成16年10月22日
14:00−16:00
開催場所
大阪大学吹田キャンパス
銀杏会館
会議室B
出席者
アドバイザリ・ボード委員
放送大学
教授
鈴木 基之
国際連合大学 特別学術顧問
神戸大学
教 授
森山 正和
環境省総合環境政策局総務課
環境研究評価調整官
大坪
環境研究技術室室長補佐
片山
研究メンバー
加賀
池
澤木
清
西田
昭和
道彦
昌典
和成
修三
大学院生
呂 煜鉉
国順
雅英
青野
近藤
下田
鳴海
町村
栗栖 雅宣
正二
明
吉之
大典
尚
戸部 達也
プロジェクト事務補佐
荻野 礼加
126
塩谷 憲司
議事録(抄録)
■
司会から委員、研究メンバーを紹介
■
研究代表者から、中間評価結果の概要とそれを受けての研究計画見直し案を説明
■
A 委員
第一に、多様でかつ時空間的にひろがりのあるたくさんの評価指標を最終的にどう
統合化するのか、それを機能にどうリンクさせるのかがわかり難い。そこを整理して、それをい
かに階層的あるいは構造的に統合していくかが重要。第二に、住民参加は調査票を使うようなフ
ォーマルなものではなく、もっとインフォーマルに、琵琶湖・淀川流域の問題を扱う研究会など
で活躍しておられる方々を引き込むというような方法が可能。
B 委員
■
第一に、流域の現状に対して、
「個々にはいろいろ問題はあるが、現在の状況は全体
に見て、それほど深刻な状況ではない」というように捉えているが、生活基盤である流域圏の本
来あるべき理想的な姿がもう少し扱われてもよい。第二に、GIS を活用した最終的なアウトプッ
トの公開イメージがまだわかり難い。データベースが「流域の豊かさ」とどうつながってゆくの
かもわかり難い。
■
加賀
A 委員ご指摘の、階層的・構造的に各機能の意味を配置した上で評価するという視点
がなかったので、その点は検討する。住民評価に関しては、澤木先生にお答えいただく。B 委員
ご指摘の、アウトプットのイメージがまだ不十分だという点についてはさらにイメージを膨らま
せて、実際にどんな形になるかというのをデザインしてゆく。
「流域圏の理想的な姿」は、前々か
ら A 委員も言われている「落としどころ」の部分だと思うが、私個人は、これまでの流域に対す
る自然改変は基本的には正しい歴史であって、それで余裕ができたので、またもう一回自然を取
り戻そうではないか、というスタンスで考えている。現状よりはもう少し自然と親しめるという
実感のある方向へ考えていかなくてはということであって、理想的な姿という一つの形をイメー
ジすることはできていない。データベースとのつながりとしては、それぞれの機能を指標化した
ものについては「どちらの方向に進んだほうが、より自然と共生できる暮らし方か」というのは
分かるので、できるだけトータルなポイントが高いほうへ変化するような施策を選んでいくこと
を考えている。
C 委員
■
かつては補助金を獲得すれば、メンバーが個々ばらばらに研究成果を出して、それ
を最後にまとめればよい、という時代もあったが、現在は、プロジェクトに対して最低限のまと
まりのあるアウトプットが要求される。今までは、自分さえいいことやっていれば、なんとなく
全体の方向も全体最適に向かっているという考えだったと思うが、今は違う。全体最適が何かと
いうのをまず議論して、その中で自分のやれるところは何かという発想が必要。今のやり方は、
一つひとつのパーツは非常にいいが、それがバラバラである。好きなようにこれとこれをピック
アップして、こうして並べたら何か出来るのではないのという発想である。プラモデルでも、ま
ず基本設計があって、それに関してパーツをちゃんと並べておいて、これをつないでいこうとい
う発想だと思う。このプロジェクトはプラモデル的発想をしてほしい。まず基本設計をしっかり
して、自分はどこのパーツを受け持っているのかというのがわからないと、全体像が見えてこな
い。
■
司会
それではメンバーからの意見を。
■
近藤
こういうプロジェクトをやると、大学の場合にはヒエラルキー構造でないグループが
127
バラバラに研究を進める。これからはそれではいけないという意見に私も賛同する。私自身はこ
のプロジェクトで、
「モデルの統合」をやりたいと考えている。これまで、大気、河川、沿岸海域
で別々に扱われてきた水・物質・エネルギ循環モデルを、流域圏全体としてデータをやりとりし
ながら動く全体的なモデルが構築ができればと考えている。
■
C 委員
キーマテリアルはあるか?なぜ大気・水文・沿岸海域をまとめて考えなくてはいけ
ないか?
■
近藤
難分解性物質の長期的な挙動を、空間分布まで含めて扱いたいと考えている。
■
西田
この部分は全体構想の中の課題2、物質の循環収支の部分。微量物質の循環以外に、
私たちが生態系と関連させて興味を持っているのは、窒素やリンで、その挙動を流域全体で把握
するには大気、水文さらに水質、生態系という個別のモデルをつなぎ合わせて統合することが必
要で、それを今やっている。そのためには、数理の専門以外に化学の専門、生物の専門が入って
くる、社会科学も入ってくる。そういう意味の統合化は図ろうとしている。
■
A 委員
モデルができたとして、
「多元的機能の劣化診断」あるいは「健全性回復施策」とは
どうつながっていくのか。出来上がったモデルがどういう使われ方をしていくかというのは、現
実に淀川流域でどういう問題があって、それを回復あるいは改善するために、そのモデルがどう
いうふうに生きてくるかという極めて明確な目的意識がないと、単に趣味の問題で終わる。スト
ーリーをつくるべき。
■
加賀
劣化診断とのつながりの一つとして、例えばダイオキシンのようなものが、底泥に蓄
積して、食物連鎖を経て人間に戻ってくるという状況だと劣化しているといえる。
■
A 委員
ダイオキシンであれ何であれ、個別の物質になると、これは淀川流域の問題だけで
はなく極めて一般的な相間のトランスファーの問題である。琵琶湖・淀川流域圏固有の問題に着
目すべきでは。
■
加賀
メディア間のバランスは一般的だが、循環は流域で考えており、データも流域内でサ
ンプリングしている。
■
A 委員
では、それを回復するためのどういうプロポーザルが淀川流域に対してできるか。
相間のトランスファーはコントロールできない。結局のところ、発生源で抑えるしかない。
■
加賀
蓄積系の分布を調べた上で、量の多いところは修復のプロポーザルをする。
■
A 委員
それはあるかもしれないけれども、このロジェクトらしい、面白いものをつくって
はどうか。いろいろな先生方が集まって、何かやはり骨太のモデルがあって、そこにいろいろな
ものがかかわっていくというようなイメージのものはできないか。
■
西田
一般公開できるような汎用性のあるモデルを構築して、それを淀川に適用するのでは
なくて、淀川固有のものを、という趣旨か?
■
A 委員
汎用的なものをつくって、それを淀川に適用するというのは従来の手法である。汎
用的なモデルをつくり上げるために、このプロジェクトの予算を使うことはない。このプロジェ
クトの予算は、この流域でやってみせる、ということで環境省のほうでお認めになったプロジェ
クト経費なので、タイトルはこれだけれども、実は研究者の心理でそれぞれが一般論をやってい
るというのでは、最終年になって研究代表者が困る。一般論をもう持っておられる方々がここに
集まっているのだから、今の琵琶湖・淀川流域について考える上では、これだというものを統合
モデルとして出して欲しい。
■
C 委員
研究課題名の「劣化診断手法と効果評価のための統合モデル開発」の意味はまず、
128
劣化診断手法を開発して、それから対策の効果評価のための統合モデルを開発すると読めるが、
統合モデルが診断もできて、対策の効果評価もできるという意味はもたせていないのか?
この
「と」は「劣化診断手法の開発と統合モデルの開発」という読み方でよいのか?
■
加賀
モデルは診断にも関連している。モニタリングで診断がつく場合はよいが、モニタリ
ングだけではデータが離散的になるので、モニタリング結果を説明できるようなモデルができれ
ばモデルの力を借りて診断することもある。
■
池
先ほどの「施策評価」といったときには、現状で行われている劣化診断だけでは不十分
で、いろいろな機能の劣化診断をすることによって、どういう評価をしていけばいいのかという
のが分かってくる。それから現状の問題がわかってくる。それに対していろいろな施策を考えた
上で、どの施策が効果が出るのかがわかるモデルをつくっていこうというのが、このタイトルを
つけたときの経緯である。
■
A委員
おっしゃる通り、劣化診断をする段階とモデルとは全く切り離されているものでは
なくて、劣化診断をしてそれを回復するためにモデルをつくるわけだから、どういうモデルがつ
くれるかを念頭に置いて、劣化しているかどうかの判断をしないといけない。これだけいっぱい
指標をあげて、これをどうやってモデルに取り込むつもりなのか。モデルアウトプットとして、
こういう指標を全部取り込めるのか。
■
近藤
理想的な統合モデルができれば可能だが、あと1年半では難しい。部分的な統合がい
ろいろ出来上がっていって、そのアウトプットをつなぐことで、3つなり4つなりの指標ができ
あがる。別の指標については何か違うものと違うものを組み合わせることでできる。
■
A委員
何と何がモデルの中で実際動かしうるパラメータなのか、それにフィルターをかけ
て、こういう指標になっていくわけだから、そういう構造を明確にイメージ化して、統合モデル
としてどんなものが出来るのか、1年半後にはどんなものが出来るのか、もう追い詰められたと
ころであるから、コンセンサスをつくって欲しい。
■
池
先ほどの「劣化診断手法」の中で、われわれの場合は、水の化学物質分解ポテンシャル
などで微生物生態系の評価をするためのデータを蓄積していっている。診断はデータとモデルの
両方でやる。負荷発生も含めて、化学物質がどう挙動しているか、流域内は健全だという施策を
出したとしても、それが流域外に流出していれば、もう豊かな流域圏ではないということになる。
化学物質が流域からどれだけ流出するか、エネルギがどれだけ消費されているかの評価について
は、モデルを動かすことによって流域外への負荷がわかる。
「外に負荷を出さない」流域圏、ちゃ
んと暮らしているのだというのが、われわれの一つのテーマになっている。その負荷が物質であ
ったり、熱であったりすると理解している。
■
C 委員 「劣化診断」の対象は機能、機能はステートあるいはそこのシステムである。
「場の
システム」の劣化と、状況が悪くなっているという「ステート」の劣化とを混同しているところ
もあるのでは。効果評価のところも、ステートの改善効果を評価しているのか、機能を回復する
ための効果を評価しているのかがわかりにくい。機能を評価するときはその点を整理すべき。わ
かりやすいのはOECDがやっている「ドライビングフォース」、つまりプレッシャーがあって、
ステートがあって、インパクトがあるという関係。
「機能」というのは、プレッシャーとステート
の間のシステムで、反応系のところを「機能」と言っているので、そこを考えて、自分たちが開
発しようとするものを絞って欲しい。
■
加賀
普通のモデルはステートで回っているが、我々の場合はさらに、例えば森林の環境が
129
非常に悪ければ、それが、自然の状態だけではなく、人間の側へ返ってくる機能としても評価す
るので、「機能」までなんとかつなぎたい。
■
C 委員
かなりの部分が、いわゆるシステムとして評価できるものが定量化できるというこ
とか。例えば、水なら涵養能や洪水調整能が定量化できるということか。
■
加賀
そのつもりである。検証や精度に問題はあるかもしれないが、一部を除いてモデルの
アウトプットとして評価する。
■
西田
モデルの統合の中で非常にやっかいな点は、時空の解像度が、大気と川とでは全く違
ってくること。地下水も入ってくる。それをどう整合性を持たせるかはデータのやりとりの問題、
その辺の技術的な話をいま詰めている。
■
下田
大気と水文とのつながりでいえば、大気モデルの蒸発散と、水文モデルの蒸発散が通
常はつながっていないので、これをつなぐ。それからステートと機能の関係は、たとえば土地利
用のステートが「気温」という機能を生み出しているが、
「気温」というステートが、またいろん
なインパクトを都市環境に生み出しているので、そこを定義しにくい。それをデータで解いてい
こうとしている。例えば土地利用と気温の関係、あるいはエネルギ消費と気温の関係について、
もともと大阪が一番暑いということもあって、この流域圏では気温緩和の問題を解かないといけ
ない。それから今度は気温がどのように影響を与えるかということで、エネルギ消費量や水消費
量が気温によってどう変わるか、さらに、このプロジェクトでは、気温が変わると植生からのV
OC発生量が変化して、それが光化学オキシダントの形成に影響を与えるという過程を解きつつ
ある。最後に、それをどう回復していくかとなると、ヒートアイランドの場合は、土地利用を変
えるしかないので、それを変えていくためには、都市計画から考えねばならない。その最後のと
ころが今まだ見えていないが、気温が変わってどういう機能劣化、インパクトを与えているかと
いうところに関してはだいぶん解けてきた。このプロジェクトでは、このように横糸を通す部分
もこれまでやってきたつもりであるが、成果報告をするときの、出し方を考えないといけない。
■
C 委員
気候緩和のような温度が変化することは、これはステートである。インパクトとは
人間に対する健康影響や、生態系に対する悪影響などである。「能」というのは緩和させる能力、
どの程度緩和できるかという、その能力が下がってくるところが「劣化」、そういう整理だと思う。
「能」というのは難しいと思う。そこまでのところを、しっかり抑えられたら面白いが、やはり
基本設計があって、自分らは何をやりたいかというのをもう少し明確にして欲しい。全部はでき
ないだろうから、今回「自分らはどこをやるか」ということを、もう少し具体的に示したほうが、
評価は上がる。
「視点も広げる、対象も広げる」ということでプロポーザルを発表されても、評価
委員会の意見は、
「具体性がない」とか「どこの場所かが全然わからない」という、繰り返しにな
ってしまう。皆さんの問題意識を基本設計に書いてもらって、
「自分たちは今回最低限ここはやる
ぞ」というのがあって、その具体例で、
「あるアスペックを見たときの劣化診断はこうなって、そ
れの対策の評価もこういうものでやった」としたほうが、受けがいい。
■
A 委員
モデルに対する注文だが、われわれが「え、そんなことが起こるの」というような
こと、例えば東京のヒートアイランドでいえば、建物が汐留の辺りに建つと、それだけで都心の
気温が変化するというような、リニアな変化ではなくてあるところからカタストロヒックに変わ
るようなものをモデルで出して欲しい。間違えてもよいので、こういうことが起こるかもしれな
いという警告を発して欲しい。たとえば植生がガラッと変わってしまうというようなことを予測
できるモデルが出来たら素晴らしい。精度は高くなくてよい。それから、ここで考える「流域圏」
130
というのをきちんと定義して欲しい。琵琶湖から滋賀県全域を含んで大阪湾までなのか、どこか
らどこまでなのかをきちっとして欲しい。その中の、
「この地域だけを」ということがあっていい。
あとで時間があれば、それはそのままエクステンション(拡大)すればよい。とにかく骨格がど
うなっているか、そこにどういうファクターが入っているという基本設計、そういう概念性的な
ものをきちっとして欲しい。
■
B委員
問題はモデルの使われ方である。何が問題なのか、何を解決したらいいのかという
のがよく分からない。自然と人間が共生することを、将来的に可能なものにしたいということな
ので、これから1年半で多くのこともできないと思うので、まとめの方向を示して欲しい。
■
加賀
あと1年半で、例えば、森林計画という施策の場合、データの蓄積と整理は淀川流域
圏全体ですでにきあがっているので、それを例えば全国森林計画のレベルで、どこを植林してい
くと水資源がどう変わるかというのは、期限内で全部出ると考えている。指標が多すぎるという
のは、あと1年半ではこれは全部はできないであろうということか。先ほど、階層的・構造的に
といわれた。これが必要だというのはよく分かるが、
「これに絞り込む」というふうに、なかなか
絞り込めない理由の一つは、
「特にここが問題で、これさえ解決すれば流域が良くなる」という問
題が逆になくて、
「少しずつみんなどれも問題かな」という認識のため、どうしてもたくさん並ぶ
ような格好になっている。この中から、恣意的に「これはあと1年半では出来そうにないから、
落とす」ということで、減らしていくということでよいのか。それともやはり、理念の絞り込み
が必要なのか。
■
A委員
こういうプロジェクトを設定されたときに、この流域で何が問題だからこれをやろ
うという、そういう意味でのモティベーションはなかったのか。私も前回、
「落としどころ」とい
うことを繰り返し申し上げた。最終的な着地点をみんな持っていて、そこへ誘導していくという
のが通常だが、今お伺いするとそれがない。例えば、太古の昔のような流域圏にするとしたら、
いったい何があり得るのかとか、それは極端でだが、いろいろなことを考えて、そのためには何
がどうという、もっと大胆なことをやればよい。モデル遊びというのは、そういうものではない
かと思う。
■
C委員
淀川というのは結構ホットな所で、近畿地方整備局でも種々の活動をしており、問
題はたくさんある。例えば、水環境に関しても、BOD、CODについてもほとんど下がらない。
あれを少しでも下げるようにするにはどうしたらよいかというのも、一つの問題設定だと思う。
逆に言えば、今まで国土交通省などがやってきたことだって、1割が間違っていたけれども、9
割は正しかったという評価でもいい。この戦後何十年間やってきたことを見ると、治水も評価し
ないといけないし、利水も評価しなければいけない、すべて評価したら、やはり今まで国がやっ
てきた行政は9割正しかった、という評価でもそれは構わないと思う。
■
池
淀川は、使い込んでいるわりには、施策が幸を奏してめちゃくちゃなことにはなってい
ない。しかし、今からもうちょっと、これだけ使い込んだら急にめちゃくちゃになる部分がある
のではないか、それをちゃんと評価しておかなければいけないのではないか、という議論は出て
いる。私は化学物質の分解ポテンシャルをモニタリングしているが、化学物質の濃度自身はそん
な高くはないが、分解ポテンシャルは高い。今年に入ってほかの河川を調べると、ほかに比べて
高すぎるということがわかってきた。分解ポテンシャルを指標にすると、ここの川は使いすぎて
いるというのが見えていて、あるレベルまでいってしまうと、破瓜する時点がくるのではないか。
全国の河川に展開して比べてみれば、このレベルに戻さなければいけないという努力目標が河川
131
の産業利用面や水処理システムに対して示唆できるのでは、と考えている。淀川を単体で調べる
のではなくて、四万十川に行ってみたり、利根川に行ってみたり、隅田川に行ってみたりという
ことをして、その川の歴史と比べることで、この川がどの程度耐えてくれているのかが分かるか
と。
■
A委員
■
池
その辺の発想を、やはりモデルの中できちんとリンクさせていくことが必要である。
われわれのデータベースでは、今後いろいろなところで分解能などを継続的にモニタリ
ングできたら、と考えている。ほかの河川と比べることで見えてくることが多そうで、全体的な
淀川利用に対する提案はそこから確かに出てきたもので、と考えている。
■
加賀
今後の方針をまとめないといけない時間にきているが、住民参加の点はいかがか。
■
澤木
私は都市計画のほうをやってきている。モデルの全体像は私からは見えにくいので、
そこに都市側の資料として何を渡したらいいかと考えている。都市計画の結果としての土地利用
をどのくらいの精度でモデルに入れていくかという点では、大まかな出力群が、いろいろなモデ
ルの中の引き渡しなっているように思う。今、この中で1つの作業として明治 20 年くらいの陸測
図から出発して、人間が人間の力で自然と調和しながらある程度循環的な社会を築いていけば、
近代以前の土地利用状態に一番近いと考えて、安威川流域でいま作業をしている。そういったと
ころの土地利用を復元しながら、その上に今の都市的機能を再構築してみたときもっといい形が
ないかという、シナリオを書くための準備作業をしている。モデルのほうはその辺も含めて、皆
さんともっと議論していきたいと常々思っているので、今日の議論も含めて、私のほうでももっ
と考えていきたい。住民参加のほうは、実際に流域にお住まいの人たちが、特に空間的な面から
どういう快適性の評価をされているか、あるいは、どういうところの景観がいいと思っておられ
るのかというのを、これから調査することにしている。その中で、地域の市民団体の方々とつな
がりながら、いろいろご意見を聴取していこうと考えているが、もう1年半しかないので、その
ご意見を「落としどころ」というか、
「方向性」みたいなところに反映できるような形で、参加の
プロセスを踏めるかと考えている。個人的には、淀川流域ではそういうフィールドを持っておら
ず兵庫県内や大阪府のもっと南のほうの何カ所かで住民参加型のまちづくりのお手伝いを日々し
ているが、住民の方々の意見集約の方法として、単に何人かに聞けば終わりということではやは
り「参加」というのは進まない。実際にその地域を理解し、その人たちと関係をつくっていく中
で、意見を公平に吸い上げていく仕組みがいる。地域と接触を持っていくためには、それなりの
時間が要るので、そちらのほうも体制を早くつくっていかなければ、全体の施策プログラムの立
案に対しての住民の意見の吸収とか、その点も難しいなという気がしている。確かに1年半と言
われますと、今からすぐにでも動き出していかないと全体のほうに反映できないと思っている。
■
下田
プロジェクトの進め方について、今までの進め方に対して非常に発想の転換を求めら
れている。最初にGISを使うということを前提に立ててしまったため、各分担がGISの各階
層をマッピングし、モデルがそれを串刺しにするかたちで研究が進められてきた。今後は、各階
層に対して責任を持ってマップをつくるだけではなくて、1人ずつに何か施策の提言を1つ義務
付けて、それを全部の階層のデータを見渡して出せるような方向に変えていなければいけない。
■
加賀
まず、A委員にご指摘いただいたように、指標や機能を横並びではなくて、階層的・
構造的に並べて、われわれのモデルで最終的な機能のところまでたどり着けるのものと、1年半
では無理だなというものは消すということで整理をするが、私は、コレというふうにはならなく
て、少し数が減るだけになる。その代わり、それに対して施策までちゃんと考える、あるいは考
132
えられるものだけを残すという整理ぐらいならできるが、今から改めて何か1つのものに絞れと
言われると、ちょっとお手上げ状態になる。
環境省への回答としては、もう少し構造まで分かるような機能とか指標化といったものを整理し
て示して、必ず施策まで含めて検討できるものだけを残すというのはどうか。
■
D委員
行政の立場から言うと、1年目、2年目、3年目と、成果が積み上がっていくとい
うものであれば非常に分かりやすし、安心ができる。このプロジェクトはどちらかというと積み
上げ式ではなくて、やはりテーマに特に関連したものがピックアップされて進んでいくというこ
とだと思うので、いま2年半で、全体の成果に対して進捗率が何%あるかを示してもらうのは難
しいが、個々の方々の成果、住民参加のテーマの進捗みたいなことについては、ゴールがここに
あって、それに対していま全体的には何%の進捗率なのかを、意識してもらったほうがよい。先
日の中間評価のときもお聞きしていたが、結局、全体的にどこまで進んでいるのか、やはり分か
りにくいところが非常にある。どういうところを目指すのかは、検討していただいてよいが、ゴ
ールを意識していて、それに対して、今どの状態に来ているのかということを、共通認識として
持てない。そういうところが行政の立場としても問題である。
■
C委員
基本設計を書いてもらって、今回このプロジェクトでどこをやるというのが本当の
計画なので、その範囲でがんばっていただければできる。たぶん来年の新規テーマの募集がある
ので、そのときに延長で申請するか、次の、別のテーマで申請するかはご自身の判断だが、中間
評価から見ると延長というのはなかなかハードルが高い。ただ1カ月で議論していただけるとい
うのは、こちらとしては非常にありがたいので、是非この機会を本当に生かして、劇的な案を大
学のほうでつくっていただきたい。
■
司会
そのほか何か連絡事項は。
■
A委員
国土交通省で、琵琶湖・淀川水質保全機構が動いているが、あそことは何か連携は
とっているか。向こう側にこういうプロジェクトが動いているという認識をちゃんと持ってもら
っているか。
■
C委員あと、近畿地方整備局などとも、いろいろ意見交換をしていただければ。局でも環境
共生、環境汚染に関していろいろ興味を持っておられるので、意見交換などをしてもらうことは
非常に重要だと思う。また、
「住民参加」というのは、地に着いた研究をやってくれという話だと
思う。デスクワークだけではなくて、本当に地に着いて、
「みんな今何を考えているのかな」とい
う研究をやってほしいという意味だと思う。
■司会
予定の時間がきたので、これでアドバイザリ委員会を閉会させていただく。貴重なご意
見をたくさん賜ったので、これからメンバーでまた再検討をいろいろさせていただく。
133
謝辞
本研究の実施にあたり、次の諸機関のご協力を賜りました。記して謝意を表します。
・国土交通省神戸港湾空港技術調査事務所
・(財)電力中央研究所
・わかやま海域環境研究機構
・農林水産省林野庁近畿中国森林管理局計画部計画課
・大阪府環境農林水産部緑整備室森林管理課
・京都府農林水産部林務課
・兵庫県農林水産部農林水産局林務課
・滋賀県琵琶湖環境部林務緑政課
・奈良県農林部林政課
・三重県環境森林部森林振興室
・兵庫県農林水産部農林水産局治山課
・大阪府環境農林水産部環境指導室環境保全課
・京都府企画環境部環境管理課
・兵庫県生活環境部環境局環境情報センター
・滋賀県琵琶湖環境部環境管理課
・奈良県生活環境部環境政策課
134
研究発表論文一覧
発
表 題 名
掲載法/学会等
発表年月
発
表
者
● 近畿圏を対象とした人工排熱データベースの作成お 日本建築学会近畿支部研究報 2005.6
告集、第 45 号(環境系)
よび都市熱環境に対する影響評価
羽原勝也、岸本卓也、鳴海大典、下田吉之、
近藤明、水野稔
空気調和・衛生工学会近畿支 2005.3
部学術研究発表会論文集
羽原勝也、岸本卓也、鳴海大典、下田吉之、
● 気温ならびに光強度変化が樹木起因の VOCs 排出量 空気調和・衛生工学会近畿支 2005.3
部学術研究発表会論文集
に及ぼす影響
坂口勝俊、鳴海大典、井上義雄、下田吉之、
● チャンバー実験による樹木が排出する VOCs の気 日本農業気象学会近畿支部大 2004.12
会
温・光依存性、、pp.2-5、2004 年 12 月
坂口勝俊、包海、多田将晴、加賀昭和、近
藤明、下田吉之、井上義雄、鳴海大典、町
● 関西圏における人工排熱が都市熱環境に及ぼす影響
水野稔
近藤明、町村尚、加賀昭和、水野稔
村尚
● 数値モデルによるヒートアイランド緩和対策技術の 空気調和・衛生工学会学術講 2-004.9
性能評価に関する研究、pp.1023-1026、2004 年 9 月 演会講演論文集
岸本卓也、鳴海大典、近藤明、下田吉之、
● 建物からの人工廃熱が都市熱環境および空調熱負荷 空気調和・衛生工学会学術講 2-004.9
演会講演論文集
に及ぼす影響
鳴海大典、水野稔、下田吉之、近藤明
● Environmental Impact of Urban Heat Island Proceedings of the 6th 2004
Phenomena
International Conference on
Yoshiyuki Shimoda, Daisuke Narumi,
水野稔
Minoru Mizuno
Ecobalance
● 第3章ヒートアイランド現象の環境影響、第6章人工 ヒートアイランドの対策と技 2004.8
術,学芸出版社
排熱の影響と対策
鳴海大典、下田吉之(分担執筆)森山正和
● 大阪府域を対象とした電力供給量に関する気温感応 空気調和・衛生工学会学術講 2004.9
度
演会講演論文集
鳴海大典、岸本卓也、坂口勝俊、下田吉之、
水野稔
● 大阪府域を対象とした上水消費量に関する気温感応 空気調和・衛生工学会学術講 2004.9
演会講演論文集
度
坂口勝俊、岸本卓也、鳴海大典、下田吉之、
● 数値モデルによるヒートアイランド緩和対策技術の 空気調和・衛生工学会学術講 2004.9
性能評価に関する研究
演会講演論文集
岸本卓也、鳴海大典、近藤明、下田吉之、
International Conference 2003.9
● Effect of Anthropogenic Waste Heat upon Urban
Thermal
Environment
Using
Mesoscale on Urban Climatology
Daisuke
NARUMI,
Yoshiyuki
SHIMODA, Akira KONDO and Minoru
Meteorological Simulation Model
● 夏期の気温上昇が地域の電力消費量に及ぼす影響
MIZUNO
岸本卓也,水野稔,下田吉之,鳴海大典
5th
135
日本建築学会近畿支部研究報 2003.6
告集第 43 号・環境系
編
水野稔
水野稔
● 戸建て住宅の年間冷房利用率に関する実態調査
日本建築学会近畿支部研究報 2003.6
告集第 43 号・環境系
● 大気環境アセスメントへの数値モデル実用化手法の 第17回数値流体力学シンポ 2003.12
開発
ジウム
● マルチメディアモデルによる加古川流域でのダイオ 第44回大気環境学会年会
2003.9
キシン類の挙動推定
森藤奈央,水野稔,下田吉之,鳴海大典
守田野歩、近藤明、加賀昭和,井上義雄
加賀昭和,近藤明,井上義雄,菫玉瑛,松
本大輔、鶴川正寛
● 河川微生物による PRTR 規制化学物質の生分解に関 日本水処理生物学会第 40 回大 2003.11
する研究
会
董榮輝、上野貴央、池道彦、藤田正憲
● DNA を指標とした淀川水系における窒素循環ポテン 日本水処理生物学会第 40 回大 2003.11
シャルおよび微生物生態系のモニタリング
会
清和成、井上大介、上野貴央、秋吉孝、大
野直、村重勝士、池道彦、藤田正憲
● 淀川流域における化学物質の生分解ポテンシャルの 第 38 回日本水環境学会年会
2004.3
池道彦、上野貴央、清和成、藤田正憲
海岸工学論文集 Vol.50
2003.10
入江政安,中辻啓二,西田修三
● 紀淡海峡における流動構造と物質輸送に及ぼす黒潮蛇 海岸工学論文集 Vol.50
2003.10
金
行の影響
● 湯浅楠勝:都市域近傍の閉鎖性水域における貧酸素水 海岸工学論文集 Vol.50
2003.10
入江政安,西田修三,中辻啓二,金
評価
● 密度差の大きい流動場への改良σ座標系モデルの適用
塊の挙動に及ぼす気象の影響
2004
瀬戸内海,No.40,pp.17-21
2004
湾奥部閉鎖性水域における貧酸素水塊の消長への影 水 工 学 論 文 集 , Vol.49 , 2005
響因子
pp.1303-1308
●
紀淡海峡のリン・窒素フラックス
●
● 大気濃度の定点連続観測による陸域二酸化炭素ソー 日本気象学会 2003 年度秋季 2003.10
ス・シンク広域マッピングの可能性
大会
136
俊憲,
湯浅楠勝
2004.2
● Seasonal variations of temperature, salinity and 2nd International
dissolved oxygen in the enclosed area of the head Conference on Asian and
of Osaka Bay
Pacific Coasts
● 浮遊物の挙動予測に向けた海洋レーダーの適用性評 海岸工学論文集 Vol.51
価
漢九,西田修三,中辻啓二
Masayasu Irie, Keiji Nakatsuji Shuzo
Nishida and Kusukatsu Yuasa
中辻啓二,西田修三,清水隆夫,坂井伸一,
松山昌史,坪野考樹,森 信人
西田修三
入江政安,西村和幸,佐々木昇平,西田修
三,中辻啓二
小田知宏,町村尚,青木俊介,山口克人
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