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ダウンロード - 横浜市立大学附属市民総合医療センター 麻酔科

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ダウンロード - 横浜市立大学附属市民総合医療センター 麻酔科
 序文
本日まで多くの初期・後期研修医を指導してきました。
その中でよく耳にしたのが、
「指導する先生によって言う
事が違うので困る」といった不満でした。
患者さんの麻酔法を検討する際には、術前からある問
題点のうちどれを一番重要と捉えるか、術後の状態とし
て何を一番避けたいと考えるか、等を勘案して麻酔法を
検討するため、これらの重み付けに違いがあれば選択さ
れる麻酔法も異なってくる可能性があります。麻酔科学のおもしろいところは、このよ
うな場合に答えが一つでない事、すなわち根拠をもって熟考された内容であれば、様々
な方法のどれもが正解となり得るというところだと思います。
しかしながら、標準手技や基本的な方針に関しては、このような variation の入り込
む余地が少ないと考えられます。むしろ、大学病院のように短期間に人が入れ替わるよ
うな研修施設においては、誰が教えても同じ内容を提供できることが重要だと考えてい
ました。
そこで今回、当院麻酔科に勤務する研修医や若手医師のためにマニュアルを整備し
ました。一部に当院の特殊性に起因する約束事に言及した部分もありますが、基本的に
はどこの病院で働く研修医にも押さえておいてもらいたい原則を網羅したつもりです。
指導者の皆さんもこの内容を確認して、それに添って指導して頂きたいと思います。将
来的には麻酔法や考え方等が変わりこのマニュアルの改訂が必要になることもあるで
しょう。その際にはまたその時のスタッフで改訂版を執筆してもらえたらと思います。
最後に、本マニュアル発行に際して各章の分担を決め、出来上がった原稿の編集を
してくれた大濱佐知・菅沼大両氏と、忙しい日常診療の合間をぬって本マニュアルの作
成に携わってくれた当院麻酔科のスタッフの皆に感謝します。
平成 24 年 3 月 横浜市立大学附属 市民総合医療センター
麻酔科部長 倉橋 清泰
麻酔科教育・研修用マニュアル 1 執筆担当者(五十音順)
2 大濱 佐知
(2 章、3 章)
乙供 太郎
(4 章、10 章、11-a)
菅沼 大
(1 章)
高橋 雪子
(11-h)
中島 理恵
(11-f、11-g)
野村 友紀子
(11-d、11-e)
藤井 香南
(11-i)
前里 琴美
(9 章、11-b、11-c)
山中 由貴
(5 章、6 章、7 章、8 章)
麻酔科教育・研修用マニュアル 目次
序文
1. 導入から挿管まで
2. 抜管
3. 退室
4. 呼吸器設定・術中肺保護
5. 輸液
6. 体位
7. モニターの異常
8. ライン・胃管の管理
9. 神経ブロック
10. 硬膜外・脊椎麻酔
11. 特殊麻酔
a. 分離肺換気
b. 腹腔鏡下手術
c. 肝切除・上腹部手術
d. 頭頸部
e. 脳外科
f. 小児麻酔
g. 産科麻酔
h. 心血管麻酔
i. 多発外傷
頁
1
4
7
9
11
14
16
18
20
21
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40
49
麻酔科教育・研修用マニュアル 3 1.全身麻酔の導入から気道確保まで
●セントラルモニタを接続し、モニターに OR○と表示されることを確認する。
●急速導入の手順
∼モニター装着から麻酔導入まで
モニターの装着を行う.必須なモニターである心電図,血圧計,パルスオキシメーターを
装着する.術前の状態と変わりないことを確認する。
輸液路の確保 血管内への確実な留置,確実な滴下を確認する。
前酸素化の開始 100%酸素 5∼6L/分 3∼5 分以上を投与する。
マスクフィットを確認する(「空気で押されますよ」と伝えた後息を止めてもらい、バッグ
を加圧する。マスクから漏れがないか確認。確認終了後忘れずに「息をして良いです」と
伝える)。
各種薬剤の投与 鎮静薬としてプロポフォール,ラボナール,ミダゾラム,麻薬としてフェ
ンタニル,アルチバを投与して就眠を図る.
意識消失を確認 睫毛反射消失を確認
マスク換気の可否を確認後に筋弛緩薬を投与する
筋弛緩が十分に得られた後に気管挿管手技に移る
●経口気管挿管の手順
1.気管挿管時の姿勢(頭位)
適切な頭位はスニッフィングポジションになる.少し高めの枕(高さ8∼10cm)の枕をも
ちいる.
2.開口
3.喉頭鏡ブレードの口腔内挿入
4.喉頭鏡ブレードの口腔・咽頭内進行
5.喉頭展開
6.気管チューブの口腔・咽頭への挿入
7.気管チューブの声門・気管への挿入
スタイレットをチューブ先端が1∼2cm 通過した直後に助手に声をかけ,気管チューブが
ずれたり一緒に引き抜かれたりしないようにゆっくりと抜去してもらう.
その際,気管チューブを右手親指,示指,中指でしっかりもち,薬指,小指を患者の頬部
に密着させチューブが動かないように保持しておく.
助手は左手でやや押し込むほうこうに力をかけて固定し,右手でスタイレットを抜去する.
スタイレット抜去後,チューブを進め、声帯にチューブマーカーを固定する.チューブマ
ーカーが 1 本のものではマーカーが、2 本のものでは 2 本の間が声門に位置する深さでチュ
ーブを固定する。
8.カフに空気を注入する
4 麻酔科教育・研修用マニュアル ◎気管チューブのカフへ空気を注入する方法
1)緩徐注入法または 2)急速注入法を用いる.
(2)急速注入法は緊急時や誤嚥の危険が高いとき用いる.
(1)緩除注入法では、パイロット部の圧を感知しながら、耳たぶの硬さになる位まで空気を
注入する。速やかに一次確認を行い、続いて二次確認を行う.
(2)急速注入法はパイロットカフの圧が十分に上がるまで(約 10ml)の空気を注入する.本
法の目的は,気管食道分離をすることである.チューブの固定がおわり気管挿管処置がお
ちついたところで,必要最小限の注入量になるように調節する.
◎カフに相当量の空気を注入してもリークを生じる場合
鑑別診断:
気管チューブが浅すぎて,カフが声門を完全に越えていない場合
食道挿管,患者の気管の太さに対して気管チューブが細すぎる場合
カフ損傷(製品が開封前から損傷されていた場合,気管操作中に歯牙などで損傷した場合)
9.気管チューブの位置確認
一次確認と二次確認を行う
一次確認:チューブの声門通過直視(挿管操作中または挿管完了後再確認),視診(両側胸郭
の動き,加圧による腹部膨隆がない,気管チューブ内面の曇り)
二次確認:呼気二酸化炭素モニターで十分に上昇し,連続する波形.(食道・胃から戻る空
気にも二酸化炭素が含まれていることに注意する)
一次・二次確認を行った後、聴診(5点聴診法,両側胸部での均等な呼吸音聴取,上腹部で
ゴボゴボという音がしない),触診(気管チューブのカフを経皮的に感じる)を行う。
10.気管チューブの固定
11.人工呼吸器への接続
●迅速導入の手順(帝王切開については[産科麻酔]を参照)
1.通常の麻酔準備(麻酔器の始業点検,吸引,使用可能な喉頭鏡)に加えてスタイレットを
挿入した適切なサイズの気管チューブを準備する.
2.前酸素化として,麻酔導入前によくフィットしたマスクで 100%酸素を最低 3 分間吸入
させる.
3.(オプション)サクシニルコリンを使用する場合,少量の非脱分極性筋弛緩薬を前投与す
る.
4.(オプション)少量のフェンタニル(50∼100μg)を投与する.
5.静脈麻酔薬を用いて麻酔導入をおこない,引き続いてサクシニルコリン 1mg/kg または
ロクロニウム 1.2mg/kg を静脈内投与する.
6.麻酔導入時から気管挿管終了まで輪状軟骨圧迫をおこなう.
麻酔科教育・研修用マニュアル 5 ◎輪状軟骨圧迫
輪状軟骨全面に圧を加えることで輪状軟骨後面と頚椎椎体との間で食道を圧迫して閉鎖す
る.圧迫方法は両手法を用いる.圧迫は前頚部,他方の手を後頚部におき両手を用いて圧
迫を加える。覚醒下の患者では最初に 10N(約 1kg の重さに相当),麻酔導入後では 30N(約
3kg の重さに相当)の圧を加える.
7.マスク換気を全く行わずに筋弛緩薬の作用が発現したころに気管挿管をおこない,挿
管終了と同時にカフに空気を十分量を注入する(急速注入法).
8.気管チューブが適正に挿管されているか一次・二次確認を行う.
9.気管チューブが間違いなく気管内に留置されていること確認後に,輪状軟骨圧迫を解
除する.
10.以後は通常の導入と同じである.気管チューブを固定する。胃管を挿入し、胃内容の
減圧をおこなったのち、カフ注入量の調節する.
6 麻酔科教育・研修用マニュアル 2.抜管
抜管時の合併症
低換気(麻酔薬、筋弛緩薬の残存),上気道閉塞,喉頭・気管支痙攣,
咳嗽による創離解,声帯麻痺・誤嚥,
高血圧,頻脈,不整脈,心筋虚血
① 終刀
終刀後に胸腹部のレントゲン撮影をした場合,肺野の確認のほか,挿管チューブ,胃管,
CV カテの先端位置を確認する.リバースは確認後に投与する.
終刀後レントゲン写真を撮らない科
婦人科(ラパロ)、形成外科、乳甲科、脳外科など
麻酔科医が必要と判断する場合はその旨を主治医,看護師へ伝え,オーダー依頼する.
② リバース
術後残存筋弛緩(postoperative residual curarization ; PORC)による合併症
術後呼吸器合併症(換気不全,誤嚥,肺炎,無気肺)
上気道閉塞,構音障害,複視
術後,抜管する予定であれば,筋弛緩薬はロクロニウムを選択する.
筋弛緩薬の過量投与を避けるため,術中より筋弛緩モニターを使用する。
頭部拳上不能など臨床的徴候がある場合は筋弛緩作用の残存がみられる場合が多い。筋
弛緩モニターを使用し、可能であれば加速度計にて TOF 比を確認する。リバース薬の
選択はその患者の適応を考え、使用する。
TOF 比>0.9 と確認できれば、リバースは必要ないが、神経・筋疾患の合併のある患者
にはその限りでない。
③ 抜管
準備:抜管の計画を立てる。
a.覚醒での抜管、b.深麻酔下での抜管、c.深麻酔下で気管チューブを入れ替え
通常、覚醒での抜管を選択するが、それ以外はカンファランスで検討、IC への相談し
た上で行う。
物品:吸引チューブ(吸引管に接続し吸引できることを確認する)気管・口腔内用
バイトブロック(ガーゼで丸めたものは使用しない)、汚物用ごみ箱
カフ用シリンジ、フィットマスク、フェイスマスク
抜管前の確認・処置:
意識
呼名開眼、従命反応
麻酔科教育・研修用マニュアル 7 呼吸
自発呼吸が十分にある(呼吸数 10∼14 回、1 回換気量 6∼10ml/kg)
補助換気を行わず ETCO2 が上昇しない状態
気管吸引により強い咳反射を認める
循環
血圧・脈拍が安定している
止血がきちんとなされている、鎮痛が適当になされている、体温が十分に回復して
いる、なども確認する。
抜管前に、胃管、口腔内、気管内の順に吸引を十分に行う。この順序は気管内の吸
引によるバッキングで胃内容の逆流が起こることや、自発呼吸での吸気による誤嚥
を防ぐためである。この際、挿管チューブ内にキシロカインスプレーを噴霧するこ
とは厳禁である(潤滑油としての成分はなく、キシロカインによる気管粘膜の反射
抑制が起こるため)。必要があれば水または生理食塩水で吸引チューブを濡らす。
抜管完了まで胃管の先端は開放しておく。
気管内を吸引後、自発呼吸に合わせ十分に肺を加圧(20cmH20)する。
抜管:上記をすべて確認後、抜管する。テープをはがし、チューブを手で保持しながら、
バックを加圧し、20 ㎝ H2O にてホールドする。
介助の看護師にカフを抜くよう指示し、カフが完全に抜けてから気管チューブを速やか
に抜去する。カフが抜け切れていない場合や乱暴に抜去した場合には声門の損傷、披裂
軟骨の脱臼が起こるので注意する。
抜去後は、口腔内の分泌物を良く吸引する。フィットマスクをつけ酸素吸入を行う。
深呼吸を促し、胸郭の上りを視診し、頸部、両胸部を聴診する。
呼吸が安定していることが確認されたら、フェイスマスクへ変更する。
④ 覚醒遅延
IC に連絡しつつ、原因検索につとめる。
必要であれば、レントゲン撮影、採血などの検査を行う。
HCU,ICU への入室も考慮し、主治医にその旨を伝える。
8 麻酔科教育・研修用マニュアル 3.退室
オペ室での厳重なモニタリング下から管理が不十分になりがちの一般病棟への移動である
ことを念頭に置く。
抜管後のトラブル
呼吸困難
呼吸抑制
排痰困難
嗄声
創部痛
PONV
シバリング
患者の興奮
抜管後、上記の出現がないか観察する。
特に、PONV、シバリングは覚醒直後には出現せず、ベッド移動の際、退室間際から認めら
れることが多い。必要であれば、プリンペランや塩酸ペチジンの投与を考慮する。塩酸ペ
チジンを投与した後は、患者の呼吸状態を十分に観察する。
① ベッド移動
上記の抜管後のトラブルのほかに
循環動態
疼痛・鎮痛レベル
を確認したのち、最終のバイタルサイン,呼吸状態を麻酔チャートへ記入する。
オペ室へベッドを入れ患者をオペ台から移動する。
移動時にはルート等のトラブルが多いため、まずは確保されているルート、バルーン、
ドレーン管の数を把握し、すべてが移動用に準備されているか、スタッフ全員で確認す
る。確認できてから、麻酔科医の号令で移動する。
当院では救命・ICU 患者では直腸バルーンが入っている患者もおり、忘れられがちであ
るため移動前の確認が重要となる。
移動用酸素ボンベもしくは病棟ベッドに備えてある酸素ボンベへ酸素吸入を変更する。
ボンベが黒色の「医療用酸素ボンベ」であることを確認し、病棟ベッドのボンベは残量
をチャートへ記入する。
移動時にモニターが必要な場合は、事前にフルモニターもしくはパルスオキシメーター
かを外回り看護師へ伝え、準備を指示する。移動用モニターにモニターを付け替え、各
値が移送に適していることを確認してから患者を移送する。
麻酔科教育・研修用マニュアル 9 ② 退室許可
ベッド移動後、退室時間を外回り看護師と確認し、麻酔チャートへ記入する。
必ず患者の頭側に立ち、患者の観察ができる状態でベッドを操作する。呼吸補助などで
手が離せなければ、主治医へベッドの操作を依頼する。
ベッドプールで病棟看護師を待つ間に術後の患者観察を行う。呼吸状態は極力刺激がな
い状態を作り、観察する。その結果は回診用紙に記入する。
③ 退室基準(目安)
意識:clear
気道:患者自身で保てる、分泌物を排出できる
呼吸状態:呼吸数 10∼14 回、胸郭の上りが十分認められる
循環動態:術前と大きく変化がない状態
一般病棟へ帰室する患者では循環作動薬の使用は極力さける
循環作動薬が多量に必要な場合は HCU 入室を考慮する
疼痛:補助薬、硬膜外麻酔、持続フェンタニル静注を行って、自制内である
出血:コントロールされている
PONV,シバリング:コントロールされている
10 麻酔科教育・研修用マニュアル 4.呼吸器設定・術中肺保護
人工呼吸器設定について
人工呼吸器のモードを理解するためには、以下の三つの要素に分けて考えるとよい。
A) 機械的呼吸を開始させるもの(トリガー):人工呼吸器または患者
B) 機械的呼吸の量を決めるもの、すなわち吸気を制限するように設定するもの:圧また
は容量
C) 機械的吸気(サイクル)を終了させるもの:時間、流量、または容量
A)と C)により、人工呼吸の種類は表 1 のように間欠的強制換気(intermittent mandatory
ventilation)、補助調節換気(assist-control ventilation)、圧補助換気(pressure support
ventilation)の 3 つに分類することができ、IMV と ACV について B)のように圧(従圧
式:pressure control ventilation)または容量(従量式:volume control ventilation)で呼
吸の量を設定できる。
表1
呼吸終了が機械
呼吸終了が患者
呼吸開始が機械
間欠的強制換気(IMV)
なし
呼吸開始が患者
補助調節換気(ACV)
圧補助換気(PSV)
表2
VCV
PCV
呼吸量の決定
一回換気量
吸気圧
一回換気量
一定
変動
最大気道内圧
変動
一定
吸気流量
一定
変動
麻酔科教育・研修用マニュアル 11 VCV、PCV それぞれ表2に示すように変動する値があるため、その値に関してはモニタリ
ングを持続し、最適な換気を保てるように適宜調整する。
当院での人工呼吸器は 2012 年 1 月 14 日現在以下の通り。
手術室
種類
VCV
PCV
PSV
SIMV
番号
カートリッジ式
ソーダライム
1
ACOMA KMA1300Ⅲ
○
2
Drager Fabius GS
○
○
3
Drager Fabius GS
○
○
○
○
○
4
Datex-ohmeda Aestiva/5
○
5
Drager Fabius Tiro
○
○
○
○
○
6
Drager Fabius GS
○
7
Drager Fabius Tiro
○
○
8
Drager Fabius GS premium
○
○
○
9
Drager Fabius GS
○
○
○
10
Drager Fabius Tiro
○
○
○
11
Drager Fabius Tiro
○
○
○
12
Drager Fabius Tiro
○
○
○
13
Drager Fabius Tiro
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
この配置は流動的である。下記に示すような理由で多機能の人工呼吸器を使用したい場合
には、麻酔科医が呼吸器を交換する。ソーダライムがカートリッジではない麻酔器では、
術中のソーダライムの交換ができないため、術前に交換が必要かどうかを確認しておくこ
と。なお、PEEP はすべての麻酔器で使用することができる。
患者因子による人工呼吸器設定の一例
① 重度肥満
胸壁や腹壁の肥厚による無気肺発生を防止、肺胞の虚脱を防ぐために PEEP を併用する。
② 閉塞性肺疾患(COPD、喘息など)
autoPEEP を防ぐために呼気時間を十分にとるように、吸気時間を短くしたり呼吸回数を少
なくしたりして一回当たりの呼気時間を長くとるようにする。
③ %VC 低下患者
肺の過伸展を防ぐため、一回換気量を少なく(気道内圧 22cmH2O 以下)、呼吸回数を頻回に
する。
12 麻酔科教育・研修用マニュアル 肺保護について
人工呼吸器による肺機能悪化をおこす原因を理解し、それらを考慮した人工呼吸器設定を
行うことで肺保護を達成しうる。
肺機能の悪化の原因としては下記のものがある
① 酸素中毒
長時間の高い FIO2 は、急性気管支炎、絨毛運動障害、肺胞上皮障害を起こす。そのため
患者の酸素化能に応じてできるだけ FIO2 を下げるようにする。ただし手術中のみのように
短時間の投与では大きな問題になることは少ないので、酸素化を保つことを優先すること。
化学療法薬のブレオマイシン治療の既往がある患者や既に肺線維症等の診断がついている
患者では、肺胞損傷のリスクが高まっているため患者背景を考慮した上で高い FIO2 は避け
ることが望ましい。
また間質性肺炎の患者でも、エビデンスはないが術中の高い FIO2 が術後の急性増悪の誘
因となる可能性があるため、同様に注意する。
② 人工呼吸による肺損傷(ventilator-induced lung injury:VILI)
大きな換気量による高い肺胞圧は肺損傷(VILI)の原因となるので、過剰な換気圧と容量
を避ける。具体的には容量の目安は 6∼8mL/kg の一回換気量、プラトー圧は 35cmH2O を
超えない換気圧を心がける。
肺保護の方法(低い FIO2 や低い換気圧)では無気肺増加による酸素化の低下が起こるこ
とがあり、それを改善する方法として肺胞リクルートメント療法がある。
①
30 ∼ 60 秒 間 の 短 い 期 間 、 高 い 気 道 圧 を か け る 。 一 般 的 に 言 わ れ て い る の は
PCV40cmH2O を 40 秒間(40/40method:覚えやすい)。ただし肺胞圧を高くすると低
血圧や気胸を起こすことがあるので、十分に注意する。
②
P/F 比 450 を目標に、最高気道内圧‐PEEP=15cmH2O となる値で、呼吸三回分のみ
高い最高気道内圧と PEEP をかける(3-breaths method)。効果が出るまで徐々に圧を
高めていき、場合によっては最高気道内圧 55cmH2O、PEEP40cmH2O という高圧ま
で必要となる場合もある。
③
以上の方法を用いて SpO2 の上昇がみられたら、PEEP レベルをあげることで肺の膨張
状態を維持し良好な結果を長期化させることができるが、多くの場合肺胞リクルート
メント療法の効果は一過性で、それ以上の効果を示した研究はない。P/F 比が低下して
きたら繰り返し行う必要がある。
麻酔科教育・研修用マニュアル 13 5.輸液
術中輸液の目標
① 適正な酸素供給
② 正常な血清電解質、血糖の維持
そのため術中輸液は細胞外液補充剤の投与を基本的に行う。
各輸液剤の組成
製剤名
浸透圧
Na
K Cl
生理食塩液
1
154 0
ラクテック
1
ヴィーン F
Lac
Ca Mg P 糖(%)
Cal
154 0
0
0
0
0
0
130 4
109 28
3
0
0
0
0
1
130 4
109 A28 3
0
0
0
0
フィジオ 140
1.1
140 4
115 A25 3
2
0
5(1%)
20
ビカーボン
1
135 4
113 B25 3
1
0
0
0
ヴィーン D
2
130 4
109 A28 3
0
0
G25(5%)
100
細胞外液増量剤(代用血漿)
ヘスパンダー 1
105 4
92
サリンヘス
154 0
154 0
1
20
3
0
0
G5(1%),
H30
20
0
0
0
H30
0
G:グルコース(ブドウ糖) M:マルトース S:ソルビトール
A:酢酸 Lac:乳酸 B:重炭酸 P:リン酸塩
浸透圧:生理食塩液を 1 としたときの浸透圧比
H:ヒドロキシエチルスターチ 糖は 500ml あたりのグラム数
電解質 Mgが入っているのはフィジオ 140 だけ
糖 術中代謝できる糖は 2%未満
手術室内の保温庫には
ヴィーン F 5 本
フィジオ 140 5 本
が常備されている。
14 麻酔科教育・研修用マニュアル 大量輸液が必要となるような場合や、長時間の手術の場合は術中低体温が問題になる。積
極的に輸液を加温することが必要になる。
また、アミノ酸製剤を投与することで熱産生が期待され、術中低体温予防になる。
*周術期低体温予防
①周術期低体温予防目的としてのアミノ酸投与は、可能な限り麻酔導入前より始める
のが望ましい。投与開始より一時間ほどで体温低下抑制効果が生じ、投与後 2∼3 時
間継続する。
②アミノ酸投与による体温保持効果は用量依存性に発揮される。他の加温装置を講じ
ることができない場合、アミノ酸投与のみで中枢音の低下を抑制するには、アミノ
酸量として 0.4∼0.6g/kg/hr 程度の投与が必要である。
[出典]
① 麻酔科研修ノート
② 麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン 2009
麻酔科教育・研修用マニュアル 15 6. 体 位
<腹臥位>
ストレッチャー上で導入する。
麻酔器が患者さんの足側へ移動する場合は長い蛇管、専用の人工鼻 Pneu-Moist(通称ぞう
鼻)を使用する。
挿管チューブは通常通り固定したあと、ブレンダームのような撥水テープでその上から固
定する。
胃管を挿入し脱気することで腹臥位になった際の腹圧上昇に備える。
唾液を吸収する、口腔周囲の過度の圧迫を防ぐ目的で、ジャコレで作ったバイトブロック
を噛ませる。
BIS モニターを使用する場合は、電極の上からブレンダームを貼り消毒液の垂れ込みを防
ぐ。また、BIS モニターの電極とコードの装着部位にもジャコレを巻き、消毒液の垂れ込
みを防ぐ。
腹臥位にする際にはバイタルが安定していることを確認後、モニターやルート、蛇管をは
ずし腹臥位にする。その際、眼球がプローンビュウなどで圧迫されていないことを確認し、
挿管チューブ、チューブのカフ、胃管も圧迫されたり、折れたりしていないことを確認す
る。
次に、腹部や生殖器等が圧迫されていないことを確認する。腹部の圧迫は胸郭コンプライ
アンスを低下させ、術中の呼吸管理へ影響を及ぼす可能性がある。
ヘッドピンで固定の場合は、鼻や顎が機械に当たっていないこと、首の角度が無理な角度
でないことを主治医と確認する。
プローンビュウは PACU に常備されており、麻酔科医が準備する。
スポンジにサランラップを巻き、液体による汚染を防ぐ。次に皮膚保護のため、綿を巻い
ておく。
頸部が正中でなくてもいい場合は、U 字枕を使用し首を横に向けてもよい。
頸椎手術など頭部の確実な固定が必要な手術ではヘッドピン固定される場合が多く、この
場合は主治医が準備し、セットしてくれる。
体位がとれたらすぐに蛇管、モニターを装着する。呼吸音を聴診し、手の位置が決まった
ら、Aラインの波形とルートが落ちることを確認する。
蛇管、胃管はテンションがかかって抜けないように余裕を持たせて手術台に固定する。
術中は 30 分に 1 度眼球が圧迫されていないことを確認し、麻酔チャートに記載する。
手術終了後、手術台に固定していたものをすべてはずし、病棟ベットの上に仰臥位とし、
ベット上で覚醒させる。
16 麻酔科教育・研修用マニュアル <透析シャント>
シャントが閉塞しやすい状態
体位・術者による患者の腕の圧迫
低血圧、脱水によるシャント血流の低下
これらを術中に予防することが重要である。
導入前に、シャントの位置、スリルを患者、看護師、主治医、麻酔科医で確認する。
術中、患者の腕を金属性のカバーなどを使用して保護し、場合によっては術者に注意を促
す。適当な循環を保つことで低血圧や脱水による閉塞を予防する。
30 分に 1 度、スリルを確認し、聴診し、その結果を麻酔チャートに記載する。
低血圧持続時など、リスクが高いときも触診、聴診を適宜行う。
退室時、シャントのスリルを患者、看護師、主治医、麻酔科医で再度確認する
麻酔科教育・研修用マニュアル 17 7.モニターの異常
【中枢神経】
BIS(Bispectral Index)モニター;脳波モニターによって計算される数値で、0∼100 の値
で意識状態など鎮静レベルを表すもの。電極貼付の前にアルコール綿で貼付部位を清拭後、
正しい位置に電極を貼る。このとき伝導性ゲルを漏らさないようにする。BIS 値が低い状
態でも突然の覚醒、体動が起こることがある。電気メス使用時や,筋電図が脳波に影響を
与えるため数値の正確さにかける時がある.
rSO2 モニター;前額部に貼付する場合、前大脳動脈と中大脳動脈の還流領域の境界をモニ
ターする。発光部から受光部間の直下の脳内局所の酸素飽和度を得るため、脳全体の血流
の指標にはならない.
【循環】
血圧計;最も簡便な血圧測定方法。マンシェットが腕に比べて細いと血圧が高目に測定さ
れるため、体格にあったものを使用する。また,装着が緩い場合も血圧は高めに表示され
る.
Aライン;コネクタをもう一度すべて締めなおして準備すること。コネクタに緩みがある
と空気が混入したり、コネクタが外れたりして大量出血する危険性がある。波形がきれい
に出ているときの血圧が正しいものであり、波形がおかしい場合の血圧は信憑性がない。
留置針の位置や固定などを調節する必要がある。また,移動時などは穴あき三活キャップ
から穴の開いていないものにかえること.ICU,HCU で術後にモニターを続ける場合は、可
能な限り 20G で確保する。
心電図;術操作の邪魔にならないところへ電極をはり,場合によっては撥水テープで保護
する。電極の位置が術野との兼ね合いで定位置にはならないため,必ず最初の心電図波形
を確認する.緑色の導線は左足の誘導であるため、左側腹部の手術では左大腿部に貼る。
尿量;全く尿が出てこない場合は、管を視認し、閉塞、屈曲がないことを確認する。明ら
かな閉塞がない場合、エアトラップの可能性もあるため吸引をかけてみる。
【呼吸】
SpO2;酸化型と還元型ヘモグロビンの吸光度の差からその相対比を求めることで酸素飽和
度を測定している.そのため,マニキュア(青や緑では約 5%低下)をしている場合や,色
素注入後は数値が低く表示される.また,ショックや血圧測定中,人工心肺使用中は脈波
18 麻酔科教育・研修用マニュアル が弱くなるため,測定値が正しく表示されない.その他,メトヘモグロビン血症や一酸化
血症など異常ヘモグロビン存在下でも数値は正しく表示されない.
【その他】
筋弛緩:尺骨神経を刺激して母指内転反応を観察することで筋弛緩からの回復を評価する.
TOF 比>0.9 が至適回復の基準である.TOF 比 0.8 では吸気流速の低下と上気道の部分閉
塞がみられ、0.9 未満の場合,咽頭機能が障害され誤嚥が起こる。また低酸素性換気応答
HVR は TOF 比>0.7 で 30%低下し、>0.9 まで正常化しないと言われている。
上肢が体幹固定されている場合、顔面神経を刺激し、眼輪筋をモニターする。
体温:重要臓器の温度を表す核心温(肺動脈血,食道下部,鼓膜,鼻咽頭)とそれに近い
外殻温(直腸,膀胱,口腔,腋窩)を測る方法がある.外殻温の場合,腹腔内洗浄による
直腸温低下や,尿量不足による膀胱温低下など,手術操作や環境によって核心温との差が
生じる.
麻酔科教育・研修用マニュアル 19 8.ライン・胃管の管理
【点滴ライン】
作成時にそれぞれの接続が緩んでいないことを確認する。特に A ラインのキットは滅菌を
行っているため、接続が緩くなっている。
血圧計と同じ腕の場合は逆流防止弁を使用すること。
術中手をしまうなど、体位によってルートが隠れてしまう場合は体位をとった際にルート
の落ちを必ず確認する。術者の体が当たり、ルートの圧迫、三活がロックされることがあ
る。
小児の場合は空気の混入は絶対に避けなければならないため、ロック式ではない三活の使
用が望ましい。
【胃管】
挿入後必ず聴診、吸引で管の先が胃内に入っていることを確認する。レントゲンが取れな
いときは、胃液の吸引が最終確認手段である。
肺への挿入が疑われた場合は、カプノモニターを胃管に接続し CO2 の排出がないか確認す
る。ただし、サンプリングチューブ内への胃液の混入に十分注意すること。さらに胃管挿
入前に比べ、呼気の一回換気量が低下することでも胃管の気管内迷入を知ることができる。
胃内脱気目的のため、挿入後胃管は開放しておく。
手袋や点滴の空き箱(500ml)を利用し、胃内容物が漏れないように工夫して開放すること。
術後レントゲン写真で胃管の先が胃内に留置されていることを必ず確認する。
20 麻酔科教育・研修用マニュアル 9.神経ブロック
強い術後痛⇒術後合併症のリスク増大
例えば・・・咳嗽や深呼吸の抑制⇒無気肺・肺炎 etc
交感神経刺激⇒高血圧・頻脈 etc
ストレスホルモン分泌⇒血糖コントロール悪化 etc
消化管運動低下や抑うつ・不眠・・・・・・
術後鎮痛の目的は、疼痛による苦痛を軽減することだけでなく、合併症発生のリスクを
軽減し、術後の QOL 向上、早期回復をはかることである。
術後鎮痛の方法として
①薬物療法
②局所麻酔・・・硬膜外鎮痛、末 梢 神 経 ブ ロ ッ ク 、創部へ直接の局所麻酔薬注入
特に、周 術 期 の 抗 凝 固 療 法 の 普 及 により、末梢神経ブロックの施行頻度は多くなっている。
◎市大センター病院麻酔科で実際に行うことの多い神経ブロックとしては、
☆TAP ブ ロ ッ ク (腹横筋膜面ブロック)
後方法・・下腹部(Th10∼L1 の前皮枝・外側皮枝)領域の知覚を遮断
肋骨弓下法・・後方法に比べより上腹部(Th7∼11 の外側皮枝を分枝した後に
肋骨弓下を走行する、脊髄神経前枝)を遮断
☆大 腿 神 経 ブ ロ ッ ク
☆腕 神 経 叢 ブ ロ ッ ク 腋窩法
☆閉 鎖 神 経 ブ ロ ッ ク
が挙げられる。
<エコーガイド下末梢神経ブロックの手順>
それぞれの方法は教科書に譲るとして、行う際の準備・注意点を記します。
●準 備
・超音波エコー(room13 の前にある駐車場から持っていく)
・エコーカバー、ブロック針→閉鎖神経ブロックは 100mm、それ以外は 50mm が標準
(機材準備室に入って正面一番奥の棚にある)
・局所麻酔薬(0.375%アナペインが一般的)
・消毒綿球、穴あき覆い布(機械出し看護師さんからもらうのが楽。)
●合 併 症 ( 神 経 障 害 ) の 予 防 の た め に
☆ま ず 前 提 と し て
術 前・術 後 診 察 を 徹 底 す る こ と( 元 々 あ る 神 経 症 状 を 見 逃 さ な い 。新 た な 神 経 症
状 が 出 現 し た 場 合 、そ の 原 因 が 神 経 ブ ロ ッ ク の 手 技 そ の も の で あ る の か を し っ か り
判断する)
麻酔科教育・研修用マニュアル 21 ☆当院では体幹ブロックは全身麻酔下で行い(術前・術後どちらでもよい。術者とのコ
ミュニケーション&術時間の兼ね合いで)、四 肢 の ブ ロ ッ ク は で き る 限 り 覚 醒 下 で行う。
☆施行する上で大切なのは、エコーで針 先 をしっかり描出するということ。
描出できない限りむやみに針を進めたり麻酔薬を注入したりべきではない。
☆神経障害を起こす原因のひとつとして、神 経 束 内 注 入 が挙げられる。
神経周膜は神経外膜に比較し緻密。
→薬液の「神経内注入」の中でも特に、神経束(神経周膜)内注入で神経束内圧上昇、
神経内血流が妨げられる可能性。
☆神経束内注入を避けるため、シ ョ ー ト ベ ベ ル 針 の使用を推奨。
☆局所麻酔薬注入時の注入圧に注意。
→注入は数mlずつ慎重にゆっくりと。抵抗が強い場合は位置を調節
☆神経刺激装置の併用を推奨する。
エコーガイド下に神経刺激を併用する。ブロック針が神経束内であった場合、刺激装
置の出力を 0.3mA へ低下させても筋収縮を認める。(糖尿病患者の場合は 0.5mA)
<局所麻酔薬中毒>
局所麻酔薬の血中濃度上昇によって引き起こされる。中 枢 神 経 毒 性 に引き続いて心 毒 性
が発現。特に力価の高い長時間作用性のブ ピ バ カ イ ン で最も強い毒性を示す。
中枢神経毒性の症状
初期症状 興奮症状 抑制症状 めまい・ふらつき ⇒ 多弁 ⇒ 昏睡
舌・口唇の痺れ 呼吸促迫 呼吸停止
複視・耳鳴り 強直・間代性の痙攣 血圧低下
☆対処方法
初期症状が認められた段階で酸素投与。高炭酸ガス血症は痙攣閾値を下げるため、適
切に換気を促す。痙攣時にはジアゼパム・ミダゾラムが第一選択。
痙攣による低酸素・高炭酸ガス血症・アシドーシスは心毒性(循環抑制、心停止)の増強
22 麻酔科教育・研修用マニュアル 因子。
※ 心 毒 性 の 蘇 生 法 lipid rescue
⇒脂 肪 乳 剤 20% イ ン ト ラ リ ピ ッ ド 1.5m L/kg を 1 分 間 か け て ボ ー ラ ス 投 与 後 、
0.25m L/kg/m in で 持 続 投 与 。
蘇生効果が不十分な場合にはボーラス投与を3∼5 分ごとにさらに 2 回まで繰り
返 す 。循 環 動 態 が 不 安 定 な 場 合 は 持 続 投 与 を 0. 5m L/kg/m in に 増 加 。最 大 投 与 量 は
8m L/kg ま で 。
20%イントラリピッドは、DAM カートにある。
DAM カートの横にイントラリピッドの使用法を記したカードがあるので、投与時にはそち
らを確認しながら使用する。
麻酔科教育・研修用マニュアル 23 10. 硬 膜 外 ・ 脊 髄 く も 膜 下 麻 酔
当院ではもともと重症患者さんが多いことと、術前の DVT 評価がシステム化しているため
抗血小板薬や抗凝固薬を内服、もしくは持続ヘパリン化されている患者さんが多いのが特
徴である。そのため他院と比べると硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔の症例が少ない傾向が
あるが、逆にあまりに呼吸機能が悪いために全身麻酔がかけられずにこれらの区域麻酔が
施行されるケースもある。
<硬膜外麻酔>
準備
姿勢は特に指示していなければ通常の硬膜外麻酔では左側臥位、帝王切開を行う妊婦に対
する CSEA(Combined Spinal Epidural Anesthesia)では右側臥位で行うようにナースが
準備してくれる。もしも患者さんの都合で反対向きの側臥位で行いたいときには、事前に
ナースに伝えておくと準備がスムーズである。
キットはセットのものがあり、7㎝の Tuohy 針、局所麻酔薬は 1%キシロカインシリンジ、
抵抗消失法に用いるシリンジはディスポのガラスシリンジが用意されてある。事前に患者
さんの体格が大きく、硬膜外腔が深いことが予想されるときなどは8㎝の Tuohy 針を準備
するよう指示表へ記入する。
適応
禁忌がなければ多くの開腹、開胸手術で施行されている。腹腔鏡・胸腔鏡下手術も硬膜
外麻酔を併用するが、婦人科の腹腔鏡下手術は全身麻酔のみで行う。ただし、婦人科で途
中開腹手術に移行した場合には、術後ブロックや硬膜外麻酔を追加したり、腹腔鏡のみの
場合でも麻酔科医が必要と判断すれば、硬膜外麻酔を併用してもよい。
予定大動脈瘤手術では手術日に大量のヘパリン投与が行われるため前日に麻酔科外来に
てカテーテル入れが行われる。月曜日の症例では日曜日にカテ入れを病棟で行う。担当麻
酔科医のかわりに日曜日の当直麻酔科医が行うこともある。
施行時の注意点
テストドーズは局所麻酔に用いたエピネフリンなしの 1%キシロカインシリンジをその
まま用いる。カテーテルを入れた後血液の逆流が見られた場合には、必ずエピネフリン入
りの 1%キシロカインの倍希釈液をつくり、テストドーズを行う。20%以上の心拍数増加が
認められるときには血管内迷入が考えられるので、最初からやり直す。エピネフリン入り
の 1%キシロカインはナースにいうとすぐに用意してもらえる。
ただし、心機能低下や AS 等で心拍数増加を避けるべき患者には、エピネフリン入りのキ
シロカインは投与しない。
24 麻酔科教育・研修用マニュアル <脊髄くも膜下麻酔>
準備
姿勢の向きは基本的に硬膜外麻酔の時と同様であるが、大腿骨頸部骨折など、患側を下に
できない患者さんの場合は患者さんに合わせた側臥位をとってもらうこと。
針は 25 ゲージのスパイナル針が用意される。麻酔薬は 0.5%マーカインが用いられるが、
高比重、等比重の選択は指示表に記す。
帝王切開ではマーカインにフェンタニルを 10μg(0.2ml)混注してもよい。事前に 0.2ml
のフェンタニルを吸ったシリンジを用意し、麻酔薬を準備するときにナースにシリンジへ
混注してもらう。
適応
泌尿器の経尿道的手術や下半身の短時間の手術、緊急ではない帝王切開術で行われる。
施行時の注意点
手術の延長、術式の変更・追加、または脊髄くも膜下麻酔が原因の患者急変に備え、部屋
の準備の際に必ず人工呼吸器の設定、気道確保の道具を用意する。
麻酔科教育・研修用マニュアル 25 11. 特 殊 麻 酔
a. 分 離 肺 換 気
分離肺換気の適応
ほぼすべての呼吸器外科手術(縦隔の手術は必要ない事もあるので術者に確認する事)、心
血管外科の胸部大動脈手術、食道悪性腫瘍手術
ほとんどすべての症例で左用ダブルルーメンチューブが使用できる。左肺全摘出術など、
右用のダブルルーメンチューブや気管支ブロッカーを必要とする手術の場合は上級医とよ
く相談して方法を決定する。
分離肺換気の準備
手術室には通常の全身麻酔セットのほか、ダブルルーメンチューブ・気管支鏡および気管
支鏡のカメラ画像を映すモニターを用意し、患者入室前に使用できる状態にしておく。挿
入するダブルルーメンチューブのサイズの目安は表1、表2に示すが、挿入困難時に備え
て挿入予定のサイズのものより1サイズ小さいものも用意する。気管支鏡は太さによって
はダブルルーメンチューブ内腔を通らない場合があるので、細めのものを持ってくるよう
にする。
おすすめ度
ファイバー
種類
△
F1
◎
F9
○
F3
◎
ラベルなし
チューブ
太さ
サイズ
3.4mm
すべて OK
(10.2Fr)
3.4mm
すべて OK
(10.2Fr)
4.5mm
39Fr
(13.5Fr)
不明
注意点
モニターに接続できない
F9 はもう一本太すぎて DLT に
使用できないものあり
ゼリー使用で 37Fr にも
なんとか使用可能
すべて OK
2012 年 1 月 15 日現在
なお、食道手術や血管手術では術後にチューブをシングルルーメンチューブに入れかえる
ため、テーパーガードチューブおよびチューブエクスチェンジャーを準備する。
表1:患者の体格によるサイズの目安
身長
男性
<150cm
女性
(32Fr)
150∼160 ㎝
37Fr
35Fr
160∼170cm
39Fr
37Fr
≧170cn
41Fr
26 麻酔科教育・研修用マニュアル 表2:画像の気管・気管支径を計測した場合のサイズの目安
気管径(㎜)
気管支径(㎜)
サイズ
>18
>12
41Fr
>16
12
39Fr
>15
11
37Fr
>14
10
35Fr
>12
<10
32Fr
典拠:http://www1.koalanet.ne.jp/anesth_memorandum/sub19.html
分離肺換気の方法(左用)
通常通り導入を行ったのちに挿管する。先端が気管分枝部遠位の位置で白カフのみ膨らま
せて一次・二次確認を行う。次に青ルーメンに気管支鏡を挿入し、左主気管支の左上葉気
管支が目視できる位置で固定して白カフを脱気し、気管支鏡をガイドにしてチューブを左
上葉気管支手前まで進める。白カフ、青カフに空気を注入し、白ルーメンから気管支鏡を
挿入して青カフで左主気管支がブロックされていることを確認する。最後に、クランプ鉗
子を用いて分肺を行い、聴診にて確認する。確認後にはチューブを固定するが、チューブ
は側臥位になったときに上になる口角に固定する。体位変換時にチューブの位置が変わる
こともあるため、位置を修正できる程度にテープを固定する。青カフは分肺換気を行うと
き以外は脱気しておく。
分離肺換気中の注意点
片肺換気中は、適宜血液ガスや SpO2 モニターをチェックしながら FIO2 を調整する。低酸
素性肺血管収縮 Hypoxic Pulmonary Vasoconstriction(HPV)は片肺換気後 30 分ほどで
おこる。酸素化が改善してくるのを確認しながらできるだけ FIO2 を低くする。酸素化が悪
い場合は高い FIO2 で酸素化を保つことを優先する。換気能も低下するので PaCO2 の値を
確認し調整する。通常両肺の時の回数から 20∼30%の呼吸数の増加で維持は可能である。
8∼10mL/kg の一回換気量で換気する。それ以下だと無気肺の助長、それ以上だと気道内圧
と血管抵抗を増大させ、上側肺への血流のシフトが起こり、酸素化の低下を起こす恐れが
ある。高度の閉塞性換気障害がある場合は、換気回数を上げすぎると呼出が不十分になる
可能性がある。換気回数や I/E 比を適切に設定する。
片肺換気中酸素化が保てない場合の対応
① チューブ位置の確認・痰の吸引
② 非換気側の CPAP
③ 換気側の PEEP
④ 間欠的両肺換気
⑤ 早期の手術側の肺動脈のクランプ
麻酔科教育・研修用マニュアル 27 b. 腹 腔 鏡 下 手 術
1.気腹による呼吸・循環への影響
●換気・呼吸の変化
・胸郭コンプライアンスの低下
・動脈血二酸化炭素分圧の上昇
腹膜腔から血管内への CO2 吸収
換気血流不均等:生理学的死腔の増加(横隔膜挙上、患者体位)
呼吸器合併症
二酸化炭素皮下気腫
気胸、気縦郭
ガス塞栓
(気管支挿管)
●血行動態の変化
腹腔内圧上昇⇒下肢血流貯留・大静脈圧迫・静脈抵抗増加⇒静脈還流低下
胸腔内圧上昇⇒神経液性因子(バソプレシン・カテコラミン)の放出
腹腔内臓器の血管抵抗上昇 ⇒肺血管抵抗上昇、体血管抵抗上昇
↓
動脈圧上昇、心拍出量減少
2.患者体位による変化
●頭低位
冠動脈疾患患者では中心血圧量・圧変化が大きく、特に左心機能が悪い患者で心筋酸
素需要が高まる。
気管分岐部が頭側に移動し気管支挿管となることがある(→SpO2 低下、気道内圧上昇)
●頭高位
心拍出量低下・平均動脈圧低下
3.麻酔管理における注意点とトラブルシューティング
●気道内圧
特に COPD 患者では気道内圧上昇が肺合併症のリスクとなる。
気腹開始後の動脈血二酸化炭素分圧の上昇については換気の調節で対応するが、一回
換気量を必要以上に上昇させることは好ましくない。PETCO2 35mmHg 程度を目標と
して、従圧式換気への変更、換気回数を増やす、適切な PEEP で対応する。
●二酸化炭素分圧の上昇
適切な換気を行っていれば、二酸化炭素分圧は気腹開始後15∼30分でプラトーに
28 麻酔科教育・研修用マニュアル 達する。その後に PETCO2 が 25%以上上昇する際は二酸化炭素皮下気腫を考える。
患者の皮膚を触ってみて、握雪感の有無を確認する。
※ 当院では皮下気腫の発生が多い。(ポート挿入時に皮下気腫を発生)気腹圧の変化
も確認しておくこと。
換気の補正だけで高二酸化炭素血症を防止できない場合は、一旦腹腔鏡を中断して
CO2 を排除し、正常に戻した後で低い気腹圧で再開する。
二酸化炭素皮下気腫は送気をやめれば早期に消散するため、皮下気腫が頚部に及んで
いても抜管は可能である。ただし高二酸化炭素血症が補正されるまでは調節呼吸を行う。
●患者体位変化
砕石位をとる場合も多い。神経圧迫部位がないか、適切な保護が行えているか。
腕の過剰進展がないか、など体位を取る際に十分注意する。
チューブのずれがないかチェック。頭低位では気管支挿管となっていないか注意。体
位変換を行った後には両側胸部聴診を忘れずに。
●尿量減少
気腹終了後には尿量流出がみられるようになるが、適切に前負荷を増加させておくこ
とは大切。
※各科の体位
外科 上部⇒頭高位 右上肢を体幹固定する。
下部⇒頭低位 砕石位。ヘッドギアを使用。
上肢を体幹固定するかどうかは術式により異なる。
→外転する手にラインを集めておく。
婦人科 頭低位(術者からは骨盤高位という表現をされます)
両上肢を体幹固定する。肩パッドをあてる。 →ラインを延長。
腎 側臥位、ジャックナイフ位。マジックベッドで固める。
c. 肝 切 除 ・ 上 腹 部 手 術
肝臓は代謝を担う主要な臓器であり、薬物代謝・排泄や血液凝固系に影響を及ぼしている。
肝機能障害により
・アルブミン低下 ・耐糖能異常 ・肝性脳症 ・水、Na の貯留 ・肺血管透過性亢進→肺水腫、胸水 ・血小板減少、凝固因子低下→出血傾向
・門脈圧亢進→脾腫、食道静脈瘤、腹水
といった種々の病態が出現する。
これらの病態が各々影響するため、術前の肝機能障害の程度をしっかり評価しておくことが必要。
⇒Child-Pugh スコア、ICG 負荷
麻酔科教育・研修用マニュアル 29 ※肝臓の血流の特殊性
肝血流量:1100∼1800ml/分(心拍出量の 25∼30%)
肝動脈は総肝血流量の約 30%,門脈は 総肝血流量の約 70% を担う
→出血は下大静脈圧に依存する→中心静脈圧に依存する
●薬物
(肝血流への影響・肝代謝)
吸入麻酔薬
ハロタン:血圧低下,肝血流低下.肝障害のリスク(+)→現在臨床使用はほぼ無し.
イソフルラン:血圧が保たれれば肝血流は保たれる
セボフルラン:肝血流減少はハロタンよりは少ない。肝障害は他の麻酔薬より低率.
静脈麻酔薬
チオペンタール,プロポフォール:容量依存性に総肝血流減少を引き起こす。
初期投与の効果は増強されるが,通常使用量では排泄半減期は延長しない。
ケタミン:一般的には血圧の維持により肝血流は保てる
麻薬
フェンタニル:肝代謝・腎排泄。肝障害により効果増強,排泄半減期延長.
レミフェンタニル:薬物動態は肝障害に影響を受けない.
筋弛緩薬
ロクロニウム:肝代謝は受けず,未変化体のまま 70%胆汁排泄・30%腎排泄。
肝障害での消失半減期は 1.75 倍延長。効果持続時間は 1.5 倍に延長。
ベクロニウム:一部肝代謝を受ける。40~50%胆汁排泄,15~20%腎排泄。
代謝産物の一部は筋弛緩作用を持つ。肝障害では排泄半減期延長。
●実際の麻酔管理
1.術前評価 原疾患と肝切除の程度の確認
∵肝切除の原因の多くは肝細胞癌・・・原発性 or 転移性か?
原発性肝細胞癌の原因の 90%は 肝炎ウィルス(C 型 75%,B 型 15%)
⇒多くは肝硬変を背景としている。門脈圧亢進,静脈叢発達⇒出血リスク↑↑
肝機能障害の評価:薬物代謝・効果に影響,周術期リスク判定
硬膜外麻酔の可否:凝固能異常(PT-INR>1.3∼1.4),血小板減少のある場合(Plt<5 万)→不可
食道静脈瘤のある患者は硬膜外静脈叢も発達しているため、施行する際に
は血管損傷や血管内迷入に注意すること。
2.管理目標 30 麻酔科教育・研修用マニュアル 肝臓の血流の特殊性により、出血は中心静脈圧に依存する。
⇒肝切除時は必ず CV(当院はトリプルルーメン)を挿入する 。
モニター:観血的動脈圧,中心静脈圧
ライン:太いライン 2 本,CV
一般的には 維持は AOS+fentanyl+(硬膜外麻酔)+(remifentanil)
① 血流量を保つ:血圧の維持(sBP>80mmHg)。
肝臓を脱転する際、血圧の変化に注意し、術者へ注意を促す。
②出血への対応:出血しやすい術操作時(肝門部処理,肝切離)特に注意。術野をよく見る。
体動等ないよう筋弛緩薬を適切に投与(筋弛緩モニター使用)
中心静脈圧を上げすぎない工夫が必要となる。CVP5~6mmHg を目標として,従圧式
換気吸気圧を 12~15mmH2O 程度,換気量 6ml/kg,換気回数を 15 回前後 ,PEEP 0 とす
る。
CVP が低すぎると空気塞栓のリスクも上昇する為,CVP を下げすぎず PETCO2 の低下に注
意してモニタリングを行う。
③過剰輸液・輸血の防止:
細胞外液(Lactate より Acetate がよい?厳密には大差ないと いう報告もある)
術全体で 4∼5ml/kg/時となるよう調節。ビカーボンを使用するのも良い。
過剰輸血は肝内循環不全・高ビリルビン血症を引き起こすため Ht 25~30%を目標に。
④血糖コントロール:低血糖にも注意
⑤尿量の確保 (最低 0.5ml/kg/時,1.0ml/kg/時を目標に)
★Pringle 法
肝動脈・門脈の圧迫遮断。
(術中 Pringle 法の他、肝中枢側・末梢側で下大静脈完全遮断を行う場合がある。)
出血コントロールのため術野で行われる。
(術者指示により,肝保護のため血流遮断の前に mPDL1000mg を静注する)
15 分遮断(→CVP 上昇、血圧上昇)し肝切除
⇒5 分解除(→CVP 低下、血圧低下)し血流再開 を繰り返す。
d. 頭 頸 部 手 術
<頸部手術の麻酔管理における注意点>
・気道管理
①術前評価
病歴
普段の呼吸状態、頭頚部の手術、頚部への放射線照射治療、外傷の既往
身体所見
開口障害、MallampatiⅢ以上、短頸、小顎など
画像検査
上気道の開存度、解剖学的構造の変異の有無、頸椎の可動性
②気道確保
挿管:スパイラルチューブや RAE チューブなど術野を邪魔しないチューブを用いる。
麻酔科教育・研修用マニュアル 31 術式によっては経鼻挿管を実施する。
レーザーを使用する手術では気管チューブへの引火を避けるためレーザーフレッ
クスチューブを用いることもあるので主治医に確認する。
気管チューブの十分な固定:麻酔科医が患者の側方や尾側に移動する。
気道確保器具の固定部位が覆い布に覆われて観察できない
消毒や出血、分泌物などで固定用テープの粘着力が低下することが予想されるため、
固定用テープの上から撥水性素材(ブレンダーム)による補強を行う。
③術中管理
モニター:呼気終末二酸化炭素濃度、SpO2、気道内圧、スパイロメトリー
*モニターに異常がある場合→術者に報告
→呼吸回路の確認(接続状態、閉塞の有無など)
→手換気にして換気状態を確認および聴診
→原因に応じて対応、対応困難時はインチャージをコール ④麻酔覚醒・抜管
気道浮腫、出血 気道狭窄 呼吸障害(再挿管)
反回神経麻痺
評価:リークテスト→深麻酔の状態(麻酔が浅いとバッキングを起こすため)で口腔内を十
分に吸引した後、気管チューブのカフを脱気して加圧する。
20cmH2O 未満でリークがあれば抜管可能。
喉頭鏡や気管支ファイバーで直接観察する
抜管:患者の覚醒時に口腔内の十分な吸引後行う
抜管後:呼吸状態が悪化する可能性があるため十分な時間をかけて呼吸状態を観察する
必要がある。特に反回神経麻痺は抜管前に評価できないため注意する。
*気道確保困難症例 抜管後に再度気道確保が必要となった場合にも手術の影響により困難が予想されるた
め、浮腫、出血の有無にかかわらず慎重な麻酔覚醒と抜管が必要である。再挿管に備
えたガイド器具の準備をしてから抜管、もしくは抜管前にインチャージへコールする。
・体位
甲状腺手術など肩枕により頸部伸展させる手術では挿管チューブが浅くなることがある。
また頸椎病変がある場合は症状の増悪の危険性があるため、事前に体位をとって患者本
人に確認する。
<当院の特徴>
・甲状腺手術では術中に止血確認のためにバルサルバ法を行う。
32 麻酔科教育・研修用マニュアル ・LMS では抜管後最低 10 分は手術室で呼吸状態を確認する。
<眼科麻酔における注意点>
①眼球心臓反射
眼球圧迫、外眼筋牽引などにより三叉神経―迷走神経反射が出現、徐脈・血圧低下が起
こり、場合によっては心停止となる。モニターおよび術野画像を注意深く観察、上記が
出現した場合は術者に報告していったん手を止める、アトロピン静注などの対応をとる。
②笑気の使用禁忌 網膜剥離などの手術で硝子体内にガスを注入している場合には笑気ガス投与が行われる
とそのガスが膨張して失明する可能性がある。笑気はガス注入後 3 カ月使用禁止である。
③眼圧
一般に麻薬・鎮痛薬は眼圧を低下させる。また非脱分極性筋弛緩薬は眼圧を低下させる
一方でスキサメトニウムは眼圧を上昇させる。
e. 脳 神 経 外 科
<生理・病態>
脳は心拍出量の 12~15%の血液を受けている
重量当たりの血液量が多い=代謝率が高い(全身酸素消費量の約 20%)
脳血流量は脳代謝率、頭蓋内圧、PaCO2、平均動脈圧などの影響を受ける
<麻酔、手術が与える影響>
・静脈麻酔薬
ケタミンを除き脳血流と脳代謝率をともに低下させ頭蓋内圧に対する悪影響を示さない。
・揮発性麻酔薬
用量依存性の脳血管拡張を生じるが、一般的に用いられる濃度のセボフルランでは脳血
流の差は臨床的に有意なものではないとされている。
・亜酸化窒素
脳血管拡張作用を有し、脳血流に対する影響は単独で使用した場合に最も大きい。
・麻薬
一般的には脳血流と脳代謝率に大きな影響は与えない。
・筋弛緩薬
麻酔科教育・研修用マニュアル 33 スキサメトニウムは頭蓋内圧を上昇させる。
<麻酔管理における注意点>
・頭蓋内圧の調節
頭蓋内圧↑
PaCO2↑↑、胸腔内圧↑、バッキング
特に頭蓋内圧亢進症例ではできるだけ低く保つことが必要である。
*頭蓋内圧亢進症例の迅速導入→上記のとおりスキサメトニウムは頭蓋内圧↑
ロクロニウム大量投与(1.2mg/kg)で行う
・脳潅流圧の調節
脳潅流圧(平均動脈圧―頭蓋内圧)を維持=平均動脈圧を維持
・モニタリング
MEP などについて勉強会資料があるので、一読すること。
MEP
TIVA で行う。吸入麻酔で行う場合はコントロール時の濃度から極力変更しない
よ
うにする。また筋弛緩薬は MEP の反応を抑制する。導入時のみに用いる、もし
くは TOF 比 30%以上に一定に保つことが必要である。また、血圧低下・volume
減少も MEP を抑制するため適切な維持を行い、大きな変動を避ける。
下位脳神経モニター
主科が持参する専用の気管チューブ(NIM EMG チューブ)で気道確保、スリーブを
声門に合わせた位置でチューブを固定する。
・体位
腹臥位、パークベンチなどの体位では体位変換後の気管チューブの位置のずれや閉塞な
どに注意する。
長時間の手術が多いため、圧迫による神経麻痺や皮膚損傷に注意する。
ヘッドピン固定時にバッキングが起こると頭蓋骨骨折の危険がある。
・空気塞栓
術野が心臓より高位になる場合(特に坐位)は空気塞栓が起こる可能性があることを念頭
に置く。呼気終末二酸化炭素濃度が急激に低下し空気塞栓が疑われる場合は、これ以上
の空気迷入を防ぐために術野を生理食塩水で満たす、頭部低位にするなどの対応をとる。
<当院の特徴>
・頭部外傷、重症な脳出血などにより異常に頭蓋内圧が亢進している場合を除き、吸入麻
34 麻酔科教育・研修用マニュアル 酔・静脈麻酔のどちらでもよい。
・基本的には術後抜管するが、手術所見および術前の意識レベルによっては挿管管理のま
ま帰室することがある。
・術後に頭部 CT を施行する場合
抜管後:CT 室への移動は主科。ICU 入室後に麻酔科は ICU カンファに参加。
挿管中:CT 室までジャクソンリースで換気。移動中の呼吸・循環管理は麻酔科。CT
撮影中の換気は脳外科医が行ってくれているが、呼吸状態が悪い患者は麻酔科医が行う
こと。
f. 小 児 麻 酔
小児解剖学と生理
① 新生児は鼻呼吸依存であり、鼻づまりは気道の完全閉塞原因となる。
⇒経口エアウェイやラリンジアルマスク、気管内挿管が必要
② 乳児の舌は成人と比較すると相対的に大きい。
⇒容易に気道閉塞を起こす。
③ 乳児や幼児では気道のもっとも細いところは輪状軟骨の部分である。
④ 気道が細い。
⇒わずかな径の変化でも気道抵抗は著しく増大する。
⑤ 新生児は代謝率が大きいため成人と比較すると、酸素消費量が多い。
(6∼9 ml/kg/min)
⇒呼吸数と分時換気量が多い。
⑥ 一回換気量は成人と同様 7ml/kg である。
⑦ 8 歳から 10 歳ごろには肺は成熟して成人と同じレベルになる。
⑧ 新生児や乳児は心室コンプライアンスが低く、収縮に関与する心筋の量が相対的に少な
い。
⇒心拍出量の増加は心拍数の増加により生じる。徐脈が一番有害な不整脈である。
⑨ 新生児、特に早産児は低血糖になりやすい。
⇒低血糖になりやすい児には血糖維持のためにブドウ糖投与を増す。
⑩ 体表面積が大きく熱を奪われやすい。
⇒乳児は筋肉量が少ないため、シバリングによって低体温を代償することができない。術
中の体温管理が重要。
小児麻酔に必要なもの
小児カートは控室の隣の器材室にある。小児の症例があたっている場合、自分の手術室の
麻酔科教育・研修用マニュアル 35 前にカートを移動させ使う。
① 喉頭鏡
⇒直および曲のもの、種々の大きさのブレードを準備するとよい。
② ラリンジアルマスク
③ 口腔内エアウェイ
④ 気管チューブ
⇒種々の太さのチューブを準備するとよい。
⑤ マスク
⇒種々のサイズを用意するとよい。換気状態や唇の色を見れるように透明で、クッショ
ン部分が柔らかくフィットが良いものを用意する。
⑥ 片耳聴診器
⑦ 麻酔気回路およびバック
⇒新生児など換気量の小さいときは、仮に気管チューブが閉塞していても人工呼吸器は蛇
管を換気し続け、閉塞に気付かないことがある。適度な硬さがある蛇管を用意する。
当院にある小児用気道確保の器材
喉頭鏡
直および曲 0∼2
LMA
1∼2.5
air way
0∼2
チューブ(※)
RAE カフなし:3.5∼5.5、RAE カフ付 4.0∼6.0
スパイラルチューブ カフなし:3.5∼6.0
ソフトシール カフ付:5.0∼5.5、シェリタン カフ付:5.5
∼6.5
ブルーライン カフなし:2.5∼6.5
マスク
新生児用、乳幼児用、小児用 麻酔気回路およびバック
76cm 1L、150cm 1L
※8 歳以下の小児ではカフなしが原則
(カフによる気道粘膜の物理的損傷や細いサイズを選択することによる気道抵抗の増大と
呼吸仕事量の増大が懸念されるため)。
麻酔導入
★緩徐導入
① 8 か月から 5 歳の小児は前投薬(
*)投与後に導入を行うことがある。
② マスクを顔の近くで保持し、酸素と亜酸化窒素(だいたい 3L/6L程度)で導入
36 麻酔科教育・研修用マニュアル を開始する。
③ 揮発性麻薬(セボフルラン)の濃度を 0.5%ずつ徐々に上げていく。
④ 睫毛反射が消失した時点で、マスクを患児の顔に密着させて顔をそっと持ち上げ
る。
⑤麻酔深度を深めてから点滴をとる。
★静脈麻酔による導入
① プロポフォール(3∼4㎎/㎏)やチオペンタール(4∼6 ㎎/㎏)で行う。
*当院では 13‐1 病棟のみ前投薬の投与が可能である。ジアゼパム 0.3∼0.5 ㎎/㎏(手術
30 分から 1 時間前)を投与する。処方オーダーを入力し、指示にコメントする。薬のみの
処方をすると、ジアゼパムを少量の水で溶かして、児が飲めるように看護師が用意してく
れる。
注意)小児は大人に比べて喉頭痙攣をおこしやすい。気道刺激のほか静脈路確保などの刺
激により喉頭痙攣をおこす。気道刺激の解除、麻酔を深める、PEEP をかけて換気する、
サクシニルコリンを投与などにより対応する。
抜管
★当院では基本的にはきちんと覚醒してから抜管する。PACU がないため、症例によって
深麻酔下に抜管する場合(喘息など)、手術室内で覚醒を確認してから帰室する。
★抜管後は上気道閉塞、低酸素、せん妄、興奮、嘔吐、出血などに観察が必要である。
⇒SpO2 の観察とともに呼吸運動、頸部の聴診による気道の開通の確認を行う。
小児局所麻酔
★仙骨硬膜外麻酔(Caudal block)
・適応
尿道下裂などの泌尿器手術、多趾症などの整形手術、鼠径ヘルニア
停留精巣などの鼠径手術
・準備
神経ブロック針または 23G 程度の注射針または翼状針、
局所麻酔(0.25% ロピバカイン 1 ㎎/㎏)
① 全身麻酔後、足を曲げた側臥位にする。
② 仙骨裂孔を確認し、30 度から 45 度の角度で穿刺する。
③ 仙尾靭帯はやや抵抗があるが、それをすぎると抵抗がなくなる
針が動かないように保持し、吸引にて血液や髄液が吸えないことを確認後、薬を投与する
g. 産 科 麻 酔
麻酔選択
麻酔科教育・研修用マニュアル 37 予定帝王切開は基本的に区域麻酔、その他は緊急度や母子の状態に応じて区域麻酔か全身
麻酔を決める。全身麻酔は気道確保の困難な可能性、誤嚥の問題から慎重に選択する必要
がある。
38 麻酔科教育・研修用マニュアル 実際の麻酔(脊椎くも膜下麻酔)
① Preload または Co-loading 輸液負荷をする。
(⇒母体が低血圧になることにより胎児循環が不安定になるのを防ぐ。)
② 右側臥位にて腰椎穿刺
③ 高比重ブピバカイン+フェンタニル10μg
④ ただちに仰臥位とし子宮左方転位もしくは手術台を左へ傾ける
(⇒脊椎麻酔後の低血圧、妊娠子宮による仰臥位低血圧症候群を避けるため)
⑤ 血圧を毎分測定
(⇒低血圧による妊婦の嘔気・嘔吐や胎児の徐脈を避けるため)
⑥ フェニレフリン、エフェドリン、輸液で低血圧治療
(⇒低血圧による妊婦の嘔気・嘔吐や胎児の徐脈を避けるため)
⑦ 酸素投与
(⇒児の酸素化、母体の脊麻後低血圧による相対的低酸素血症を予防するため)
⑧ 冷感消失で T4 以上もしくは触覚消失で T6 以上の麻酔レベルを目指す。
実際の麻酔(全身麻酔)
①
100%酸素吸入、
(⇒低酸素血症になりやすい、挿管困難が予想されるため。)
②
子宮左方転位
(⇒妊娠子宮による仰臥位低血圧症候群を避けるため。手術台は水平で用手的に行う)
③
消毒、布かけ後に麻酔導入
(⇒児への麻酔暴露をできるだけ避ける)
④
チオペンタール4㎎/㎏、スキサメトニウム1㎎/kg 静注による迅速導入
(⇒妊娠子宮のため妊婦はフルストマックとして麻酔導入する)
⑤
輪状軟骨圧迫
⑥
握りの短い喉頭鏡
⑦
内径7.0㎜以下の挿管チューブにて挿管
(⇒気道浮腫により通常より気道が細い)
⑧
挿管確認後、術者に手術開始可能であることを伝える。
⑨
胃管挿入
⑩
児娩出まではセボフルラン1 -2%、娩出後は0.5-1%
(⇒セボフルランにより子宮収縮が妨げられる可能性があるので、胎児娩出後はセボフル
ラン濃度を下げる。)
⑪
ミダゾラム、フェンタニルなどを静注やレミフェンタニルの持続静注
⑫
完全覚醒で抜管、術後鎮痛は IVPCA
麻酔科教育・研修用マニュアル 39 h. 心 血 管 麻 酔
開心術
1.麻酔準備
1)麻酔器
(1)通常の始業点検
(2)回路蛇管は長いものを使用(シリンジポンプを置くスペース確保のため)
2)麻酔薬
(1)麻酔導入薬
①fentanyl(500mcg 10ml 注射器)
②propofol(導入時ボーラス投与用 200mg アンプル)
③midazolam(生食 8ml に希釈,total 10ml として使用)
(2)麻酔維持
①吸入麻酔薬
- sevoflurane
②静脈麻酔薬
- propofol(持続投与用(CPB 中)500mg ディプリバンキット)
- fentanyl
(3)筋弛緩薬
①vecuronium bromide(10mg/10ml のものを2つ用意)
3)輸液ライン
★両上肢は体幹固定されるため確実なラインを
(1)輸血ライン
(輸血回路(ポール)‐三方活栓‐急速輸血用回路 Ranger ハイフロータイプ‐三方活栓‐
延長回路 2 本以上(→患者シースまたは末梢ラインへ)
(2)CV 用回路(小児用輸液セット 2セット)
(3)末梢輸液ライン 2 本
3 )圧ライン
生食(500ml)にヘパリン 2500 単位を混注
(1)トリプルルーメン圧ライン
A ライン (赤)先端は延長(回路先端‐100cm 耐圧延長‐三方活栓付き耐圧延長)
CV ライン(青)
PA ライン(黄)人工心肺中は心筋保護回路(術野から渡される)も接続する
40 麻酔科教育・研修用マニュアル 4)循環作動薬・特殊薬 (希釈水は 5%ブドウ糖液 250ml/B を用いる)
(1)ボーラス投与
①heparin = 全例 300 単位/kg(開心術)= 20ml 注射器
★heparin 投与量は術式によって調整
ⅰ)人工心肺症例,OPCAB 症例 = 300 単位/kg = 0.3ml/kg
ⅱ)AAA,ASO 症例 = 100 単位/kg = 0.1ml/kg
ⅲ)Stent Graft 症例 = 150 単位/kg = 0.15ml/kg
ⅳ)PCPS 使用胸部下行瘤,胸腹部瘤症例 = 50 単位/kg = 0.05ml/kg
②norepinephrine = 全例 = 50mcg/ml = 20ml 注射器-(ⅰ)
全例 = 5mcg/ml = 10ml 注射器-(ⅱ)
★norepinephrine(1ml/A)を 20ml 注射器で 20 倍希釈(生食 19ml に希釈)-(ⅰ)した後,
10ml 注射器に 1ml 分注し,10 倍希釈(生食 9ml に希釈)-(ⅱ)
③ephedrine = 全例 = 4mg/kg = 10ml 注射器
④phenylephrine = 全例 = 0.05mg/kg = 20ml 注射器
⑤atropine = 全例 = 原液
⑥ソルメドロール = 開心術全例 = 1000mg/16ml(溶解液)
(2)持続投与
★シリンジポンプを 6∼8 台用意し,持続投与薬剤はあらかじめセットしておく
★各シリンジにシュアプラグ延長(SP-ET100LOSB)とサフィード延長チューブ(100cm)
を接続
★NTG は PVC フリーのシュアプラグ延長を 2 個とする
①DOB (100mg/5ml/A)
= 全例 = 150mg ∼200mg/50ml = 50ml 注射器
②NAD (1mg/1ml/A)
= 全例 = 3mg/50ml = 50ml 注射器
③NTG(ミオコール 5mg/10ml/A)
= 全例 = 原液で 10∼15mg (2∼3A) = 50ml 注射器
★NTG は PVC フリー延長回路を使用すること
④milrinone (ミルリノン 10mg/10ml/A) = 症例ごとに = 20mg/50ml = 50ml 注射器
⑤nicorandil(シグマート 12mg/V) = 症例ごとに = 1mg/ml として使用= 50ml 注射器
⑥diltiazem(ヘルベッサー 50mg/V) = 症例ごとに = 1mg/ml として使用= 50ml 注射器
★diltiazem は冠動脈攣縮予防目的の使用あり(橈骨動脈,胃大網動脈グラフト使用時)
5)モニタリング
麻酔科教育・研修用マニュアル 41 (1)ECG = 全例 = 5 極
(2)NIBP = 全例
(3)IAP = 全例
(4)PAP = 開心術全例(ASD を除く)(大血管手術は弁疾患,肺高血圧症にて適応)
基本的には CCO, SvO2 装置付きを使用する
(5)CVP = 全例
(6)rSO2(INVOS) = 開心術全例
(7)BIS = 装着可能な症例で
(8)TEE = 心臓・大血管手術
(9)体温(NPT, BT) = 全例
6)CVC, PAC(Swan-Ganz カテーテル)準備
エコーガイド下穿刺用プローブカバーも準備
(1)CVC (マイクロニードル triple lumens 20cm)
(PAC 留置せず,かつ ScvO2 測定が必要な症例ではプリセップカテーテル使用)
(2)PAC
7)気管挿管準備
(1)気管チューブ(カフ上部吸引孔付き,男性 8.0mmID, 女性 7.0mmID)
(下行大動脈置換術で分離肺換気が必要なケースではダブルルーメンチューブ用意)
(2)喉頭鏡
(3)固定テープ
(4)カフ用注射器(グリーン)
(5)キシロカインスプレー(容器内残量が十分あることを確認)
(6)スタイレット
(7)人工鼻
8)TEE 準備
プローブを接続してから電源を ON
患者情報入力(名前,身長,体重),TEE 用プローブカバー装着(カバー内部にはエコーゼ
リー注入),TEE 用バイトブロックをプローブに通しておく
9)心拍出量計(CEDV モニター)
電源を入れ,患者情報(身長,体重)を入力しておく
2.入室∼麻酔導入
42 麻酔科教育・研修用マニュアル 1)モニター装着
(1)ECG
(2)NIBP
(3)SpO2
(4)rSO2
(5)BIS(必要性,装着スペースに応じて,rSO2 モニターよりも前額低位に)
2)ライン確保
(1)末梢静脈ライン(20G 針以上)
(2)(導入前に確保する必要性があれば)動脈ライン(20G 針または 22G 針)
3)麻酔導入
(1)酸素投与(マスク 5L/min 以上)
(2)麻酔薬投与
①fentanyl 1∼2 mcg/kg
②propofol 1mg/kg または midazolam 1∼3mg(状態に応じて)
③vecuronium br. 0.15mg/kg
4)気管挿管(循環動態をモニターで確認しながら進める)
(1)マスク換気(O2 5L /min sevoflunrane 適宜使用)
(2)口腔内(舌根,喉頭蓋谷)キシロカインスプレー(ボトルを傾けすぎない)
(3)マスク換気(O2 5L /min sevoflunrane 適宜使用)
(4)声門 キシロカインスプレー
(5)マスク換気(O2 5L /min sevoflunrane 適宜使用)
(6)気管挿管,呼吸音・カプノグラム確認
(7)気管チューブ固定
5)TEE 挿入
(1)経口より胃管挿入(経鼻用エアウェイ(7mm)をガイドとして用いる)
胃内・食道内空気を除去したら胃管・ガイド用エアウェイは抜去
(2)潤滑用ゼリーを TEE プローブまたは口腔内に塗布
(3)TEE プローブを口腔内へ挿入(左手または介助者により下顎挙上)
(4)心臓の画像が見られることを確認
(5)TEE 用バイトブロックを噛ませる
6)CVC, PAC 挿入(右内頚静脈)
麻酔科教育・研修用マニュアル 43 1)体位をヘッドダウンへ,挿管チューブ・蛇管は低めに固定
2)手洗い後,滅菌ガウン,清潔手袋装着
3)消毒
4)右内頚静脈穿刺
(1)CVC 用(頚部の尾側)
(2)PAC 用(頚部の頭側)
★TEE 画像でガイドワイヤーが適切に血管内にあり右房へと向かっていることを確認
★CVC, シース留置できたら体位は水平位に戻し PAC 挿入・PA 圧測定準備
5)固定(CVC は右内頚静脈 13cm 程度)(固定後 CVC3ルーメンの血液逆流を再確認)
6)PAC 挿入
★カテーテルカバー装着,カバーの向きに気をつける
★圧モニタリング(圧ライン黄色)をしながら挿入,TEE ガイド併用
7)(覆布剥離後)テープ固定
★頚部の刺入部は透明シールで覆わずそのままに
★シース側管(PAC は固定しない),CVC を下顎より中枢側に白粘着テープで固定
7)特殊薬ライン装着(CVC)
(1)強心薬(CVC 緑(middle))
(2)血管拡張薬(CVC 青(proximal))
★CVC 白(distal)は CVP 圧ラインに接続
★シースはヘパリンでロック,緊急時の輸血ルートに用いる(急速輸血回路と接続)
3.麻酔維持
1)吸入麻酔
(1)O2/ Air (FIO2 = 1.0∼0.5)(ABG, SvO2 血液採取までは FIO2 1.0)
(2)sevoflurane
★貧血,または低心拍出量の場合は FIO2 高めで
★sevoflurane 微調整のため流量は多めで
2)静脈麻酔
(1)TIVA で行う際は propofol 4∼6 mg/kg/hr または TCI 2.0∼4.0 mcg/ml
(2)fentanyl 適宜
3)筋弛緩薬
(1)vecuronium br.適宜
4.手術準備
44 麻酔科教育・研修用マニュアル 1)手術体位調整,離被架装着
2)SvO2 セットアップ(体内キャリブレーション→次へ→吸引で PAC 先端より血液採取)
(PAC 挿入時に使用した延長ラインは不要なので血液採取時に外す)
3)連続心拍出量モニター開始
4)ABG, ACT 測定
5.手術開始前
1)術野消毒
2)覆布(麻酔科側は2枚目を輸液スタンドに固定)
3)fentanyl 2mcg/kg 追加
6.手術開始後
(1)胸骨切開時に人工呼吸器停止(挿管チューブから蛇管を外す),切開後人工呼吸再開
★胸骨切開前に fentanyl 500∼1000mcg 程度投与が目安
7.CPB 導入
1)大動脈送血カニューレ挿入前
(1)Heparin 投与「ヘパリン○○単位/kg, ●●cc を投与します」→2分後 ACT 測定
★250 秒を超えた時点で外科医,Perfusionist に通知「ACT が 250 を超えました」
(2)ソルメルコート 1000mg 投与
(3)収縮期動脈血圧を 100mmHg 以下に低下させる
2)麻酔薬投与変更
(1)propofol
① 2mg/kg 程度 loading
② 持続投与
35℃∼34℃ = 5 mg/kg/hr
34℃∼33℃ = 4 mg/kg/hr
33℃∼
= 3 mg/kg/hr
(2)筋弛緩薬
vecuronium 6∼7mg
(3)麻薬
fentanyl 5 mcg/kg
3)換気停止(Total flow 移行後,人工呼吸器による換気停止,O2 0.5L/min, APL 弁全開)
麻酔科教育・研修用マニュアル 45 8.CPB 離脱後
(1)protamin 投与 投与量 = heparin 投与量
1(ml)
(2)投与前の ACT を確認する
(3)外科医,Perfusionist に投与開始を通知「プロタミン△△mg を投与します」
100ml/h で開始する(10 分間で投与)
(4)所定量の 1/3 投与時に外科医に通知する
(5)所定投与量の 70%に達した時点で ACT を計測
(6)ACT が基準値に回復したら,投与終了を外科医,Perfusionist に通知
(7)投与終了後 2∼3 分経過してから ACT 測定
胸部大動脈瘤切除・再建術
A.上行置換術
①部屋・物品 = CABG に準じる
体位は仰臥位,両上肢体幹固定
ブックエンドを用意(人工心肺開始後頭部を冷却する)
②圧ライン = トリプルルーメン
A ライン(赤),CV ライン(青),心筋保護液ライン(黄)
★心筋保護回路は術野より渡される
③CVC = トリプルルーメン
★Swan-Ganz はたいていの症例では必要ない(心機能に問題ないこと多いため)
③TEE = CABG に準じる
④薬剤および投与ルート= CABG に準じる
★末梢ラインは必ず両上肢に分けて 2∼3 本確保(16G 以上)
★A ラインは必ず左手に確保する(右腋窩動脈を送血路として用いることがあるため)
⑤rSO2 モニター
B.弓部置換術
①部屋・物品 = 上行置換術に準じる
②圧ライン = トリプルルーメン + シングルルーメンを用意
A ライン(赤),CV ライン(青),心筋保護液ライン(黄)
+
もう1本の A ライン(赤)足背動脈(無理なら術野で大腿動脈にお願いする)
③TEE = CABG に準じる
④薬剤および投与ルート= 上行置換に準じる
⑤rSO2 モニター = 上行置換に準じる
46 麻酔科教育・研修用マニュアル C.弓部置換術
①部屋・物品
1)挿管チューブは分離肺換気用(Blueline),気管支ファイバー用意
★術後気道出血がある場合,著しい咽頭・喉頭浮腫がある場合を除いてはカフ上部吸引
孔付きチューブに入れ替えて退室する
2)体位 右側臥位
3)通常 PCPS 補助下に置換行う
②圧ライン = 弓部置換に準じる(トリプルルーメン + シングルルーメン)
★下肢の A ライン(赤)は PCPS の送血管と対側に確保
③TEE = CABG に準じる
④薬剤および投与ルート = 上行置換に準じる
★ヘパリンの量は基本 50 単位/kg であるが,そうでない場合もあるので必ず術者に確認
★筋弛緩薬,fentanyl は MEP への影響を考え,導入時のみの投与とする
⑤rSO2 モニター = 上行置換に準じる
⑥スパイナルドレナージ = 必要な時は外科から依頼される
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
胸部下行大動脈瘤
1.通常術式
1)右側臥位,左開胸アプローチ
2)部分体外循環(PCPS):大腿静脈・右房脱血,右大腿動脈送血
★術中 MEP 使用(MEP そのものの準備まではしなくてよい)
2.麻酔準備
1)薬剤
(1)麻酔薬
①propofol (4mg/kg/hr)
②remifentanil (0.2∼0.3γ )
③ketamine(投与量目安:1∼1.5 mg/kg/hr)
★MEP モニタリング下では筋弛緩薬, sevoflurane は使用しない(当院ルール)
★脊髄虚血への影響の可能性から fentanyl は使用しない(当院ルール)
④fentanyl:導入時のみ
⑤筋弛緩薬:導入時のみ
(2)循環作動薬 (希釈水は 5%Glu (250ml/B)を使用)
麻酔科教育・研修用マニュアル 47 ①NAD
1)ボーラス投与用 (5mcg/ml に希釈)
2)持続投与用 3mg/ 50ml
②DOB
③NTG(ミオコール 5mg/10ml/A) ★延長は PVC フリーのシュアプラグ回路を使用
④nicorandil(シグマート 12mg/V)
⑤hANP (1000mcg/V) (1mcg/50ml に希釈,0.02γ∼)
(3)その他薬剤
①Ca 持続静注(カルチコール)
②GI 療法(50% Glu 40ml + ヒューマリン R 10 単位)(Glu 2g にヒューマリン R 1 単位)
2)輸血
十分な血液準備
★オーダーは5パックずつ 「常に手をつけないものが5パックある状態」
3)モニタリング
5極
(1)ECG
(2)NIBP
(3)IAP
右手,右足
★先端は延長(100cm 耐圧‐三方活栓付き耐圧延長)
(4)PAP (必要に応じて)
(5)CVP
(6)rSO2(INVOS) = 開心術全例
(7)BIS = 装着可能な症例で
(8)TEE = 心臓・大血管手術
(9)体温(NPT, BT) = 全例
3)ライン類
(1)輸血ライン
(輸血回路(ポール)‐三方活栓‐急速輸血用回路 Ranger ハイフロータイプ‐三方活栓‐
延長回路 2 本以上(→患者シースまたは末梢ラインへ)
(2)CV 用回路(小児用輸液セット 2セット)
(3)末梢輸液ライン 3 本
48 麻酔科教育・研修用マニュアル (2)気管挿管
1)分離肺換気用ダブルルーメンチューブ(左用)(男性:35∼37Fr, 女性 32∼35 Fr)
2)気管支ファイバー
3)分離肺換気時 CPAP
5)spinal drainage
①他の圧モニターと同じ高さとする
②腋窩中線
③spinal drainage 15mmHg 以下を保つ
★MEP 消失原因
①深麻酔
②spinal ischemia→平均還流圧を上げる,肋間動脈の再建
2.麻酔管理
1)Clamp 前
clamp 中は臓器血管収縮,vessel pool 低下,
preload 上昇(???)
後負荷上昇:nicardipine 使用(?),TEE で AR 評価
2)Clamp 中
①propofol:PCPS 中は肝血流低下のため脳内濃度上昇
②換気:FiO2 1.0, PEEP 5 右手の SpO2 を目安に
3)declamp
NTG off
NAD 0.05γへ増量,5mcg/ml ワンショット
volume 負荷
3)PSVT 時 アデホス 0.1mg/kg
i. 多 発 外 傷
外傷緊急麻酔の注意点
〈緊急気道確保〉
外傷患者は、受傷前に摂取した飲食物、口や鼻の損傷から嚥下した血液、外傷によるス
トレスに伴う胃内容物の停滞により、常にフルストマックを伴い、麻酔導入の際は誤嚥の
麻酔科教育・研修用マニュアル 49 危険があると考えられる。受傷した時点で胃の動きは止まっており、その時点から最低 6
時間は空いていないとフルストマックと考え、挿管は rapid sequence で行うことが安全で
ある。しかし、外傷患者では酸素消費が増加しているため、充分な前酸素化が必要であり、
前酸素化が困難な、顔面外傷、呼吸努力の低下、興奮状態の患者も多く、酸素化が困難で
あると、導入後に酸素飽和度低下が急速に生じる。
また、頸椎損傷の危険が高い受傷機転がない場合でも、頸椎損傷が除外されるまで頸椎
は不安定と考えるべきである。主治医に頸椎損傷を確認し、損傷している恐れがある場合
は頸椎カラーで固定したまま、頸椎の屈曲がないよう、エアウェイスコープやファイバー
挿管を行う。
〈麻酔導入薬〉
出血性ショックを起こした外傷患者はもちろん、一見、循環が保たれている患者でも、
静脈麻酔薬の投与には注意する必要がある。静脈麻酔薬はすべて、循環血液中のカテコー
ルアミンを抑制するため、極度の低血圧や心停止を引き起こす可能性がある。手術室での
静脈麻酔による導入では、プロポフォールが多く用いられているが、血管拡張作用と陰性
変力作用を有するため、循環動態の変化に注意が必要である。循環動態が保たれない場合、
ケタミンを用いることもある。ケタミンは、中枢神経への直接作用によりカテコールアミ
ンを放出する。基本的に出血している場合は循環血液量が減少しているので、麻酔薬の投
与量を減らすか、危機的に循環血液量が減少している場合では鎮静薬を全く投与できない
場合もある。
筋弛緩薬は、スキサメトニウムやロクロニウムが使用される。直接外傷や脊髄損傷、熱
傷などの患者では、血清カリウムの上昇が認められることがある。スキサメトニウム投与
後の脱分極により血清カリウム 0.5-1.0mEq/L の上昇や、眼圧上昇や頭蓋内圧上昇の可能性
もある。

輸液路の確保
少なくとも 16 ゲージ以上の二つの太い輸液ルートを確保することが推奨される。しかし、
太いゲージや CV に固執せず、確実な輸液ルートがあれば、手術を開始して止血を優先する
場合もある。患者のバイタルや人員の余裕があれば、内径の太い中心静脈ラインやシース
挿入を行う。中心静脈ラインの設置が可能な部位は、内頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈で
あり、それぞれ利点・欠点がある。内頸静脈アプローチは、麻酔科医には慣れた場所だが、
頸椎カラーの除去と頸部の操作が必要とされる。大腿静脈は容易で迅速にアクセスでき、
骨盤や大腿に明らかな外傷がなく緊急に薬物や輸液投与が必要な患者にとって適切な選択
である。ただし、腹部穿通性外傷の患者では、大腿静脈から注入された輸液は下大静脈や
腸骨静脈の損傷からの出血に含まれてしまうかもしれない。鎖骨下静脈は、直接の外傷を
うけることもまれである。気胸を生じる危険性が高いが、胸腔ドレナージをしている場合
には同側を優先する。
50 麻酔科教育・研修用マニュアル 
急速輸血
手術申し込みがあった時点で、輸血オーダー量や、既に輸血されているかどうか、追加
オーダーの量を確認する。
手術中の目標 Hb は基本的には 8g/dl 台であるが、患者が若く循環動態が保てている場合
には、7g/dl 台でも輸血より膠質液やアルブミン製剤を投与し様子をみることもある。T&S
はオーダーされていれば、オーダーの量以上に請求することもでき、輸血を 1 回オーダー
しても返却することができる。当直時では、血液判定に 20 分、交差試験に 40 分の時間が
かかり、O(+)製剤であれば 5 分で届く。この時間を考えてオーダーする。
血漿投与は、出血性ショックの患者におこる凝固障害の治療に適応となる。その都度、
末血や凝固能を検査し次に投与する製剤を考える。
血小板輸液は、臨床的な凝固障害を伴う患者に限定して行うべきである。外傷患者では
凝固因子の消費により障害が起こることが多い。輸血された血小板の半減期は非常に短い
ため、通常は凝固障害が明らかに認められる患者だけに投与するべきである。
また、貯蔵されていた血液を急速に輸血すると、添加されているクエン酸により血清遊
離カルシウムの低下がおこり、持続的な低血圧をもたらす。イオン化カルシウム濃度は出
血のある患者では定期的に測定し、正常範囲を保つようにカルシウムを補充する。
麻酔科教育・研修用マニュアル 51 
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