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生態系に関する影響と チャンスを評価する方法
生態系に関する影響と チャンスを評価する方法 企業の生態系評価ガイドの実地テスト事例 「(生態系サービスに)市場価格がなければ、その価値もないと人々は考える傾向があります」。 WBCSD の「生態系」フォーカスエリアのプログラムマネージャー、ミケル・カルス(Mikkel Kallesoe)は、世界中の企業が生物多様性の損失と生態系の劣化という問題に取り組もうとする 際に直面する主な生態系に関する課題をこのように語っています。 『企業の生態系評価(CEV)ガ イド』は、生態系サービスへの依存と影響に関連するリスクおよびチャンスを企業が評価する際に 役立つようにとWBCSDが作成した最新の手法です。 この12ヶ月間で、15社の企業が新しいガイドの 実地テストを行ってきました。CEV は、企業が 持続可能な生態系管理のための事例を構築す る際に役立つようにと、WBCSD によって作成 されました。WBCSD は、CEV 報告書の中で、 企業が認識すべきチャンス10項目を特定してい ます。意思決定の向上はその1つであり、新しい 収益源を把握するのも項目の1つです。すべての 実地テストが完了したわけではありませんが、 実地テストを実施した5社は、予備の調査結果 として発表することに同意しました。その大半 は、WBCSD 生態系フォーカスエリアのコアチ ームに属し、生態系に関わる課題に取り組んで きた企業です。本実地テストは、水管理(GHD の事例)、CO2 削減(日立化成工業の事例)、農 業(シンジェンタの事例)、生息地(アグリゲー ト・インダストリーズ/ホルシムの事例)、発電 (EDPの事例)を対象に適用されました。次の インタビューで、自社ビジネスの中核に生態系 の問題を据えるというモデルを設定するにあた って、各企業がどのように実地テストの活動を 展開してきてたかを紹介しています。 現在、産業界と環境は相互に関係している、と いうのは WBCSD のメンバー200社の間では 確立した概念です。世界中のどの業界も生態系 や生態系サービスに依存し、影響を与えていま す。いま適切な行動を取らないことで、長期的 に見ると企業は自社の繁栄を危うくしている可 能性があるのです。科学者、政府、社会団体は 何十年間も警鐘を鳴らし続けてきましたが、多 くの報告書は産業界の言葉で語られてはいま せんでした。WBCSD は、メンバーの支持を得 てこれを実行します。 2 2006年、WBCSD は、企業の役員を対象に、 目下の生態系の議論に新たな視点を与える 初めての発行物『生態系の課題とビジネスの 影響(Ecosystem challenges and business implications)』を作成しました。さらに2年 後、WBCSD は『企業のための生態系サービス 評価(ESR)』という新たなツールを発表しまし た。ESR は、生態系の変化から生じるビジネス 上のリスクとチャンスを特定した重要なツール としてしばしば参照されています。ESR は6カ 国語に翻訳されており、こうしたリスクとチャン スの管理を目的とする戦略を企業が積極的に 策定するための5段階の方法論を述べていま す。このレビューは広く普及していて、多くの企 業の研修で用いられています。 CEV はさらにこの1歩先を行くものです。さま ざまな業界のメンバーで方法論を試してみる ことで、WBCSD とパートナーは、生態系サー ビスに対するビジネス上の価値を定量化する 枠組みの策定を進めています。これによって、 企業は自然資本に価格を設定できるようにな ります。生態系の価値は今や、バランスシート の項目として記載することができるようになっ たのです。 WBCSD と ERM 社(Environmental Resources Management)は、国際自然保護連合(IUCN)、 世界資源研究所(WRI)、プライスウォーターハウ スクーパース(PwC)の支援を得て、 『企業の生態 系評価ガイド』を共同で作成しました。 オーストラリアにおける実地 テストにより、水源での水管 理が向上 ピーター・サザランド氏、GHD グローバル規模のコンサルティング企業であ る GHD の専門家の30%以上が、水資源管理 に携わっています。CEV のこの実地テストで は、GHD の水管理、経済、天然資源管理とい う各分野の5人の専門家チームが、オーストラ リアの主要都市を拠点とする水関連企業2社 におけるプロジェクトチームを支援しました。 オーストラリアの降水量は、十分な量を期待 できないという点で世界でも知られていま す。GHD の水資源担当ビジネスリーダーであ るピーター・サザランド(Peter Sutherland)氏 は、ウォーター・セキュリティーの問題は、この 地域では極めて重大な問題であると述べてい ます。世界でも最悪水準の干ばつに見舞われ、 すべての主要都市が大規模な給水制限に直面 した経験があります。水資源をめぐる競争は熾 烈です。 廃水の再利用や水リサイクルの枠組みの確 立、淡水化などは、水供給を地域の気候に依 存しない体制に整えるための考慮事項とな ります。生態系サービスを自社の計画に統合 する事業構成(ポートフォリオ)を作成する上 で、GHD は多くの水関連企業である顧客を支 援してきました。 しかし、こうしたサービスの評価の定量化はあ まり明確ではありませんでした。CEV の実地 テストによって、評価を定量化するための非常 に優れた機会が提供されました。GHDは、南 オーストラリア州のSAウォーター(SA Water) とヴィクトリア州のメルボルン・ウォーター (Melbourne Water)というオーストラリアの 2社の水関連企業において、GHD の専門 家が水管理、経済、および天然資源管理 の面でプロジェクトチームを支援しまし た。 「ビジネス・シナリオの策定は簡単な ことではありませんでした。評価のテクニ ック手法を決定するのも同様です。関連 性のある正確なデータの入手はいまだに 課題として残っています」 2つの水道公益事業体に対し、実地テストの実 施を通じて改善策を提案しました。SA ウォー ターの事例では、WBCSD が策定した包括的 なガイドラインプロセスを通じてガイダンスが 行われ、メルボルン・ウォーターの事例では、 複数の事例が滞りなく実行されています。 どちらの水道公益事業体も、その費用と便益 は、生産チェーンのまさに源となっている生態 系、すなわち、集水域での自然保護と復元とい う面で評価されました。ビジネス上の目的は明 確です。水源の質が高まるほど、その後の処理 費用は少なくて済むということです。例えば、事 例の1つでは、流域内の湿地の自然復元を図る ことで集水域の管理が向上しました。これによ って、管理されていなければ下流の貯水池で望 ましくない藻類の発生を招く微生物、滞留した 堆積物や栄養塩の除去が推進されます。 3 リスク管理の観点からは、水源、またはサプラ イチェーン内のさらに上流で水質汚染の低減 を図ることによって、水質の観点から見た単一 の「防壁」としての処理場への依存が減少しま す。許容できない水質は、臭いや味の苦情につ ながりかねないだけでなく、顧客の健康上のリ スクとなることもあります。 コックス・クリークとマイポンガで行ったSAウ ォーター(SA Water)の2件の事例が、CEV の 実地テストとして実施されました。以前の調査 では運営費の削減に重点が置かれていました が、今回は、広範な生態系サービスを含めるよ うに適用範囲が拡大されました。カーボン・フ ットプリントの測定に加えて、審美的価値とレ クリエーションの機会が今回の検討対象とな りました。 ピーター・サザランド氏「(CEVで)使用する評 価テクニック手法を決定するにあたり、産業界 のシナリオを正確に認識する事は、重要な手 段となりました。過去の調査から得られた、直 接利用できる膨大な量のデータがあっても、 (今回の事例に)関連する正確なデータを取 得するのは大変な作業となり得るのです」 WBCSD のような高評価を得ている組織が CEV のテスト実施と発表をさらに進めれば、 水部門を含むビジネスコミュニティの、ツール への関心が高まることにつながるであろう、と ピーター・サザランド氏は語っています。GHD では、CEV が顧客にとってより重要な手法にな っていくだろうと捉えています。 4 CEV を活用し、日本の CO2 排出規制の今後を予測 河野文子氏、日立化成工業 日立化成工業は、2007 年から WBCSD の 「生態系」フォーカスエリアの中核メンバーと なっています。同社は現在、WBCSD へのコミ ットメントを日立グループ全体に拡大する動き を進めています。 このコミットメントを示すものとして、日立グル ープの40万人の従業員はエコバッジを付けて います。コーポレート・コミュニケーション・セ ンターで専門職に従事する河野文子氏が日立 化成工業で CEV テストを推進しており、同氏 はその理由を次のように説明しています。 「当 社は、自然から直接採取された原料をそれほ ど多く利用しているわけではありませんが、だ からこそ、当社の製品のライフサイクルが明確 にわかるようにすることは、いっそう意義ある ことなのです。これが、私たちがCEV実地テス トへの協力を熱心に希望した理由です」 同社は、PC やテレビ、携帯電話といった電気 製品に使用される原材料の銅張積層板につい て、生産工程での CO2 排出評価を行うことで CEV の実地テストを実施しました。 「 CO2 排出 に重点を置くのは、必ずしも生態系評価に対す る新たなアプローチという印象は受けないかも しれません。しかし、CO2 排出は気候変動の一 因となっており、確かに私たちの生態系のバラ ンスに影響を及ぼしているのです」と、河野氏 は語っています。日本では、EUとは違って CO2 排出に対する市場価格がまだ存在していませ ん。これが、日立化成工業がこのテストに参加 するにあたってもうひとつのモチベーションと なりました。規制が導入された時点で、同社は その準備ができていることになるでしょう。 日立化成工業は、CEV の実地テストへの 協力を積極的に望んでいました。 「当社 は、自然から直接採取された原料をそれ ほど多く利用しているわけではありません が、だからこそ、当社の製品のライフサイ クルが明確にわかるようにすることは、い っそう意義あることなのです」 実地テストの最初の数カ月間、日立化成工業 のチームはプロジェクトの範囲を確定する作業 に熱心に取り組みました。このプロセスにおい て、後にほかのテスト実施企業と意見交換を行 ったことが、進行を容易にしました。2010 年3 月、スイスのモントルーにて実地テスト企業全 15社による WBCSD ワークショップが実施され ましたが、これは非常に有意義なものでした。 「CEV の実地テストの実施にあたっては、予め 全社的にコンセプトが明確化されていたわけ ではありませんでした」と河野氏は語っていま す。 「CEV 実地テストは、実行することで修得 するプロセスです。役員レベルの賛同は得られ ていても、同僚社員からは批判的な疑問が寄 せられるという心づもりが必要です。この対応 策として、私は情報を共有する目的で説明用パ ワーポイントのスライドを作成しました。単純 かつ容易な状態にした CEV の情報を活用する ことが、周りの人々を関与させる上で重要な要 素となることがわかりました」 河野氏は、生態系評価を事業戦略と連携させ るのは、日立化成工業に限らず、どの会社でも 苦労していることを認識しています。しかし、 実地テストでの正確なデータはまだ発表され ていませんが、日立化成工業はコスト削減と生 態系への配慮を結びつける機会を見出しまし た。銅張積層板でテストしたモデルは、CEV 予 備テストにとどまらず同社のほかの部門にも 適用することができます。 「しかし、業界全般 にわたって実地テストの結果を比較するのは まだまだ困難なことでしょう」と、同氏は語っ ています。標準化を進めるのが、次のステップ の必須事項となるでしょう。 実際には、日立化成工業は銅張積層板の生産 工程における複数の種類のエネルギー使用に ついて、ライフサイクルアセスメント(LCA)ソ フトウェアを使用しました。エネルギー源とし ての電気、石油、ガス、蒸気、およびこれらの 混合したものを比較することで、さまざまなシ ナリオにおける CO2 排出量の変動の評価が可 能となりました。これまで蒸気は付加的なエネ ルギー源としてしか考慮されてきませんでした が、銅張積層板の加熱または冷却工程で生成 される蒸気の再利用によって、良好な機会が 提供されることが判明しました。 5 農業のための生態系評価に関 しては、生息地回復への農業 従事者の関与を重視 ジェニファー・ショー氏、シンジェ ンタ CEV 実地テストでは、早い段階からの農 業従事者の関与を求めています。 「農業 従事者の役割は極めて重大です。最終的 に、農業従事者は授粉媒介者の生息地 拡大の整備による経済的便益を享受すべ きです」 授粉媒介者のための新しい生息地を創出する ことは、水や大気の質の向上や土壌浸食の低 減など、生態系にとっての一連の便益につな がります。 (自然が)空間や美しい眺望を提供 するという意味からいえば、審美的価値すら 危機に瀕しているのです。シンジェンタの北米 サステナビリティ担当部門長のジェニファー・ ショー(Jennifer Shaw)氏は、農業従事者とし ての自身の職能を遥かに超えたところまで、農 業従事者の重要性は影響を及ぼすのだと語っ ています。農業従事者の側から見ると、CEV 実 地テストは農業従事者が授粉媒介者の新しい 生息地を確保することによる経済的便益を評 価するためのツールとなります。 ショー博士は、シンジェンタでの実地テストの アプローチの要点を次のように語っています。 「農業従事者の役割は極めて重大です。最終 的に、農業従事者は授粉媒介者の生息地拡 大の整備による経済的便益を享受するべきな のです。実地テストによって、この要素を重視 する機会がもたらされました。さらに言えば、 農業従事者の日々の作業とこの実地テストの 実施が適合するようにすべきです。そうでなけ れば、実地テストが機能することはないでし ょう」 6 Photo courtesy of Michigan State University 世界の食料生産の約30%が、顕花植物の再生 産を促進する授粉媒介者に依存しています。 しかし、授粉昆虫はここ数年間で大幅に減少 しました。植物を活性化する活動に特化して いるシンジェンタは、生息地回復を通じて授 粉プロセスの向上にグローバル規模で取り組 んでいます。 実施事例では、ミシガン州におけるブルーベリ ー生産で、生息地回復に向けて2つのシナリオ を検証しました。最初のモデルは、CRP (土壌保全保留地計画:Conservation Reserve Program)への登録、または授粉媒介 者の生息地を確保した既存の CRP 土地計画 の変更を前提としたものでした。このシナリオ には、連邦政府プログラム、農業従事者の最 低限の投資、農場景観の向上を通じた財政的 なインセンティブが含まれていました。もうひと つのモデルでは、土地管理および経済的な投 資が必要であり、その後に連邦機関から相当 額の費用共有インセンティブが得られるという ことで、農業従事者にはより大規模なコミット メントが求められるものでした。 このアプローチは、ミシガン州のブルーベリー 生産において商業用ミツバチによる授粉が現 在90%を占めており、野生ミツバチは残りの 10%であるということを示すデータに基づいて 策定されました。2008 年のミシガン州穀物価 格を元にすると、農業従事者が1億2,400万ド ルの経済的価値に相当するならば、野生ミツ バチは1,200万ドルということになります。この 数値が判明した現在、農業従事者は自身の土 地に新しく野生ミツバチの生息地を創出するこ との価値を明確に測定できます。また同様に、 農業従事者は、いっそう多様化した授粉戦略 の必要性を認識することになるでしょう。つま り生息地を新しく創出することは、農業従事者 にとってある種の保険証書として機能し得る可 能性があるということです。 農務省のグリーンペイメントを含め、実地テス トのモデルはまた、土地の産出高および質の 向上、さらにミツバチに優しい商品に対して消 費者が進んでより多額の代価を支払う可能性 についても想定しています。結果として、野生ミ ツバチによる授粉戦略によって農業従事者の 収益向上が可能になるのです。 農業従事者のレベルでのテストにより、経済的 なモデルを実際に策定する方法を把握する上 で必要な洞察が提供されます。実地テストの 進捗に応じて、シンジェンタは、さまざまな地 理、穀物、農業従事者のニーズに合わせて調整 されたほかの生息地回復という使命について 農務省と協力していくことになります。その他 のデータの裏付けもあり、CEV の実地テストに よって、シンジェンタが次の段階へ進むための 概念的枠組みが得られています。 CEV テストにおける生物多様 性アフターケア・プログラム のもたらす利益は費用を遥か に上回る デリア・シャノン氏、アグリゲート・ インダストリーズ ホルシム・グループの一員であるアグリゲー ト・インダストリーズは、骨材、アスファルト、 コンクリート製品等の幅広い建築資材を提供 しています。同社には10年以上前から生物多 様性ポリシーが導入されています。今回、英国 ヨークシャー州の46ヘクタールの土地で CEV ガイドの実地テストが実施されました。 ホルシムと IUCN のパートナー関係によっ て、IUCN の経済学者、ナタリー・オルソン (Natalie Olson)氏の協力を得て同社はこの テストを実施しました。実地テストでは、採石 と回復が英国ノース・ヨークシャー、リポン市 採石場周辺地域の生物多様性にもたらす影響 を財務的観点から定量化しました。また、地域 社会に提供される生態系サービスの費用と便 益についても測定しました。 同社の生物多様性担当マネージャー、デリア・ シャノン(Delia Shannon)氏は、生態系サー ビスへの業界他社の関与はいまだに限定的な ものであると説明しています。CEV実地テスト は実際のところ、アグリゲート・インダストリ ーズにこの分野で先陣を切る機会をもたらし ました。 現在のデータは、採石の後に生態系回復が完 了すれば、湿地に関連する便益は農業に転換 するよりも大きくなることを示しています。ア グリゲート・インダストリーズが実地テストで 湿地造成に重点を置いた理由がここにありま す。また、地域住民にとっては安全の観点から の直接的な便益も期待できます。湿地は洪水 7 アグリゲート・インダストリーズにとって、 企業の生態系評価は単に財政面の問題に とどまりません。 「これは生物多様性が役 員間で討議される重大な問題として、当業 界全般、ひいては業界を越えてさらに促 進していくためのツールです。CEV によっ て、WBCSD から産業界の評判向上に貢 献する、最新の素晴らしいツールが提供 されたのです」 防止に重要な機能を果たします。リポンの約 半数の世帯が、毎年洪水の影響を受けている のです。 さらに、外部ステークホルダーにとっての便益 を創出することでビジネスチャンスが拓かれま す。生態系の便益を含めた回復計画を提出す ることで、同社は信頼性を獲得できます。計画 書が地域社会のあらゆる要件を考慮したもの であれば、評判という面からかなりの便益が 存在するのです。 CEV テストによって、環境責任を担うアフター ケアから得られる利益は、これにかかる費用を 遥かに上回ることが示唆されています。しかも 微調整が可能です。湿地に沿って小道を設置す るのは、地域社会がすでに湿地から得られる としている価値に貢献するでしょうか。回復区 域と接しており、訪問者に公開されているカン 8 トリーハウスのコストと利益をどのように査定 するのでしょうか。実地テストによって、通常可 能であるよりも遥かに詳細にわたってこうした 要因を査定することが可能になりました。 土地所有者は、湿地回復の経済的価値を得る ことになるでしょう。アグリゲート・インダスト リーズにとっては、生物多様性アフターケア・プ ログラムの費用は、採鉱の収益性と回復の便 益のどちらの面から見ても、実施可能な額で す。同社と周辺の地域社会の両者が、採鉱とそ れに続く湿地回復および湖の生成から便益を 得ることになります。洪水制御への貢献は著し く、評判という面での便益は明白です。この結 果、生態系を評価すること、および同社の意思 決定プロセスの早期の段階でこのデータを考 慮することに資源を振り向ける重要性が強調 されることになりました。 実地テストを完了させるには、湿地プロジェク トに対して完全に許可が下りるのを待つ必要 があります。その一方で、アグリゲート・インダ ストリーズは保護の領域で間違いなく英国当 局の目に留まることになり、同社では実地テ ストの結果を英国政府の新たな自然環境ホワ イトペーパー(Natural Environment White Paper)に織り込むことを望んでいます。ガイド ラインは、英国内のその他の同社の拠点にお いてもテストされることが望ましく、そうなれ ばこの業界に経済的に成り立つ新標準が設定 される可能性が出てきます。デリア・シャノン (Delia Shannon)氏は次のように語っていま す。 「企業の生態系評価は単なる財政面の問 題にとどまらず、生物多様性が役員間で討議 される重大な問題として、当業界全般、ひいて は業界を越えてさらに促進していくためのツー ルです。CEV によって、WBCSD から産業界の 評判向上に貢献する、最新の素晴らしいツー ルが提供されたのです」 発電についての生態系評価 がリスク低減と信頼性向上 を推進 サラ・フェルナンデス氏、EDP ポルトガルに本社を置く EDP は、世界でも 最大級の再生可能エネルギー運用会社で す。EDP のビジネス戦略は、今後10年間で CO2 排出を70%削減するという社内コミット メントに対応しています。この推進を通じて、 同社の目標はポルトガル政府の包括的な計画 に大いに貢献することになります。 サステイナビリティ担当シニア・コーポレー ト・スタッフであるサラ・フェルナンデス(Sara Fernandes)氏は、生物多様性の問題をめぐる リスク低減は、意思決定プロセスにおいて中 核的な要素となりつつあると、同社が CEV 実 地テストを実施する主な動機について説明し ています。欧州環境責任指令などの規制が今 後 EDP の運営に与える影響は増大していくで しょう。現在、総計1500MWにのぼる発電所 の建設を進めている EDP にとって、発電所の 周辺環境のモニタリングは極めて重大な問題 となりつつあります。 運用コストの削減もまた同様に、重要な推進 要因であり続けています。CEV 調査の主題と なったのは、高い環境評価を得ている地域で あるセラ・ダ・エストレーラ国立公園における 旧来の水力発電システムでした。山火事など、 自然生態系が水力発電所に及ぼす影響に基づ いて、この選定がなされました。CEV 実地テス トのデータでは、発電所の運用費を削減する 機会が創出される可能性が示されています。 EDP が CEV テストに必要となる膨大な量の データを集めるにあたって、外部パートナーが 必要なことは明白でした。フェルナンデス氏 環境責任をめぐる問題により、企業はリス クを低減し、それに応じて社内の意思決 定プロセスの適合を図る動きが促進され ます。CEVの実地テストによって、この流れ が開始される卓越した機会が提供されま した。 「私たちは、単にビジネス上の利益 を評価しているだけではありません。詳細 にわたるこの種の調査の実施には、明確 な社会的利益も存在するのです」 は次のように語っています。 「詳細にわたるこ の種の調査の実施には、明確な社会的利益も 存在するのです。さらに、私たちにとって信頼 性は重要事項のひとつです。そこで独立した 研究機関の調査がこれを提供することになり ます」。2つの大学がフィールド調査を実施し ました。1つはポルト大学の研究センター、も う1つはリスボンの技術大学の研究グループで した。 旧系統の水力発電所を廃止する選択肢を取る ことで、科学者らは流域管理の代替シナリオ を検討しました。生態系サービス間のトレード オフが検討され、説明されました。同社にとっ てのそれぞれの流域管理シナリオの制限事項 と機会が特定されました。 CEV 実地テストの期間中、地元のステークホ ルダーとの相互作用が向上し、評判という価 9 値が創出されました。EDP は同社の環境管理 システムについてISO14001標準から、地域社 会の関与が必要となる EMAS(欧州環境管理 監査制度)へのアップグレードを進めていま す。EDP は地域的な観点から見た便益と制限 事項について、地域の人々との共同ワークショ ップを計画し、さまざまなシナリオを検証し ました。その結果、EDP が他業務の開始時に 展開できるコミュニケーション・ツールの開発 が、実地テストによって促進されました。 研究者、外部のステークホルダー、および関係 するEDP社員の反応は肯定的なものでした。 集められたデータの複雑さと量の多さは、明ら かに時間と費用の制約があったことから、テス トを進める上での障壁となりました。さらにフ ェルナンデス氏によると、費用面での便益とい う観点での正確な結果は現時点では得られて いませんが、予備テストは収支のバランスが取 れているようであり、EDP の他部門へ拡大でき る見込みであるとのことです。 EDP の水力発電所の実地テストは、新しい欧 州再生可能エネルギーシステムの厳しい規制 下で認証を受けています。サラ・フェルナンデ ス氏によると、今日グリーン・エネルギーに対 して高い代価を支払っているように、生物多 様性に優しいエネルギーに対しても消費者が そうする態勢が整っているかどうかを判定す る、興味深い機会になるとのことです。しかし ながら、その実現には、おそらく CEV が業界 における標準的な運用手順となる必要がある でしょう。 持続可能な発展のための世界経済人会議(WBCSD)について WBCSD は、持続可能な発展の推進を提唱する約200社で構成される、各企業の CEO が率 いるグローバル規模の団体です。WBCSD は、資源の制約が強まりつつある世界において、イ ノベーションと持続可能な成長のきっかけをもたらすことをその任務としています。WBCSD は、政府、非政府団体、および政府間組織と協力して、持続可能な発展の問題について各企 業が経験とベスト・プラクティスを共有し、その実行を提唱するための基盤を提供します。参加 メンバーは35カ国以上の20の主要業界にわたっており、合わせて7兆ドル規模の年間収益を 上げています。また、60以上の国家および地域のビジネス・カウンシル、さらに大多数が発展 途上国に拠点を置くパートナー組織も WBCSD の活動の力となっています。 www.wbcsd.org 10 結び 『企業の生態系評価ガイド』の実地テストは、 未知の要因が多い道のりです。参加各企業は、 各社の事業のコアに生態系評価を引き寄せる ために、様々な方法で取り組みました。実施し た各社はすべて、ツールを形成するための起 業家精神を発揮してくれました。このツール は、実地テストを試行する以外に具体化する 方法がないのです。実施企業は、生態系保全 によって提供される機会に熱心な目を向けて いることを実証しました。これらの企業の大半 で、自社事業に生態系サービスの影響に関す る数値を取り入れることがすでに可能となっ ています。 各社とも、CEV 実地テストは役員会から全面 的な承認を得ました。サステイナビリティの専 門家が、テストに際して適切なチームを関与さ せる推進役となりました。一部の事例におい ては活動の可視性が限定的であった可能性が あり、全社に熱意が及ぶことはなかったかもし れません。しかし、WBCSD のスタッフおよび プロジェクト・パートナーのガイダンスとサポ ートに加えて、他の実施企業との情報交換や CEV のワークショップも多大なる助けとなり、 また今後も力となり続けるでしょう。懐疑的な 視線に対抗するために、同業者向けに実地テ ストの要約版の配付資料を作成した専門家も います。これは役に立ちました。それでも、外 部のパートナー、組織、政府の反響は圧倒的 に肯定的なものであり、実施企業はテストを 継続しました。 各社が直面しているビジネスケースを明確に 説明することが、おそらくこの作業の最も困 難な部分であったことでしょう。農業分野の企 業、あるいは環境問題のコンサルタント企業 にとっては、パラメータを設定し、資源を見出 すことは比較的容易だったでしょう。テストそ のものには、膨大な量のデータを集めること が必要でした。大半のテスト実施企業は、研究 機関や政府当局といっそうの協力を図る必要 性があると報告しています。しかしながら、多 くのデータを必要としていても、ビジネスの目 的は単純そのものであることが多いのです。 農業従事者が自然授粉から得られる利益はど れほど大きなものでしょうか。生産工程で生 まれる蒸気はどのようにすればリサイクルで きるのでしょうか。処理工程の後のほうで費 用をかける代わりに、水源のところで生態系 を回復させたなら、どんな便益があるのでし ょうか。 CEV は実行しながら学んでいくプロセスです。 業界全体にわたり統一された測定ツールは、 近い将来には実現しないかもしれません。し かし、WBCSD が2011年前半に出版を企画し ている『企業の生態系評価ガイド』が、さらに 多くの回答を与えてくれるでしょう。CEV実地 テストに参加している企業の作業は、有意義な ツールの開発に向けて進展していく上で欠か せないものでした。 CEV および WBCSDの 生態系マネジメントに かかわる取り組みの詳細は、 www.wbcsd.org/web/ecosystems.htm をご覧ください。 11 More information on Corporate Ecosystem Valuation at: www.wbcsd.org/web/ecosystems.htm World Business Council for Sustainable Development www.wbcsd.org 4, chemin de Conches, CH-1231 Conches-Geneva, Switzerland, Tel: +41 (0)22 839 31 00, E-mail: [email protected] 1500 K Street NW, Suite 850, Washington, DC 20005, United States, Tel: +1 202 383 95 05, E-mail: [email protected] c/o Umicore, Broekstraat 31, B-1000 Brussels, Belgium, E-mail: [email protected]