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サンタクロースの正体を知った瞬間のフラッシュバルブメモリー
᪥ᚰ➨ 㻣㻞 ᅇ䠄㻞㻜㻜㻤䠅 グ᠈㻌 㻟㻼㻹㻝㻞㻤㻌 サンタクロースの正体を知った瞬間のフラッシュバルブメモリー 越智啓太 (法政大学文学部) Keywords: 日常記憶;情動喚起;スナップショット化;目撃証言 【問 題】 フラッシュバルブメモリーは、ケネディ大統領暗殺やス ペースシャトルの爆発などの公共的な災害、大事件や大事 故を知り、それに対して情動的な喚起が引き起こされた場 合、そのニュースを知った瞬間の記憶が長期間にわたって 鮮明な想起意識を伴って保持される現象として定義される。 基本的には、公共的な出来事でなくても、個人的な出来事 で情動が喚起されれば、フラッシュバルブメモリー現象は 生じる。トラウマ体験や衝撃的な体験をした場合の記憶が それにあたる。 さて、フラッシュバルブメモリーは、どのようにして形 作られるのかについて、さまざまな仮説が提案されている。 第1に、事件の衝撃性が重要である、という説がある。こ の説では、ある程度の情動が喚起された場合、特殊なメカ ニズムが働らき、そのときに体験した出来事が脳内に「プ リント」されると考える。第2の説として、このような記 憶は、単に話題に上ることが多く、それゆえ何度も想起さ れそのたびに再符号化されていくからだという説もある、 リハーサル説である。第3に、大事故や災害を目にしたり 耳にしたりトラウマ体験に遭遇するとその記憶は自分の人 生を考えさせるきっかけとなったり、自分の人生を方向づ ける参照枠組みとなるために長期にわたって鮮明に保持さ れるのだという考えもある。 越智(2006)は、大学生が広島の平和記念博物館(原爆に ついての展示)を訪問した際の記憶において、展示物をい くつ記憶しているかは、その展示に情動的に喚起されたか よりも、その体験に「心動かされ」人生においてその体験 が参照枠組みになったかどうかが重要であることを示した。 これは、上記の3番目の説を示唆する結果である。 本研究では、成長の過程でサンタクロースの正体を知っ た瞬間の記憶(これは人によってはトラウマ記憶に近い情 動的体験であるし、人によっては全く重要でなく情動も喚 起しない記憶である)についてとりあげ、その記憶の鮮明 さを規定する要因について検討してみることにした。 【方 法】 実験協力者:大学1年生55名 実験方法:サンタクロースの正体を知った瞬間の記憶やそ のときの経緯、感情、情報源、その体験についての現在の 感情などについての質問紙を作成し、実施した。主な分析 の対象は、「サンタクロースの正体を知った瞬間の記憶の 鮮明度」を規定しているものは何かということである。上 記第1の仮説に対応する変数として「正体を知った時の衝 撃 度 」 評 定 を 用 い た 。 第 2の 仮 説 に 対 応 す る 変 数 と し て 「その記憶についていままで話題にした頻度」評定を用い た。第3の仮説に対応する変数として「自分が自伝を書く とした場合、その出来事を含めるか」についての評定とし た。 【結 果】 サンタクロースの正体について知った時期は、幼稚園以下 20%、小学校1,2年21%、小学校3年21%、小学校高学年1 8%、中学校以降21%であった。また、知った時期が遅け れば遅いほど衝撃度も大きい(r=.44)く、記憶も鮮明であ るという傾向が見られた。 次にサンタクロースの正体を知った瞬間の記憶の鮮明さと ほかの評定値の関係について検討した。まず、その瞬間の 衝 撃 度 得 点(100点法 で 評 定 ) と記 憶の 鮮明 さ ( 5段 階評 定)の間には比較的高い相関(r=0.44)が見られた。また、 意外度得点(100点法で評定)との間にも比較的高い相関が 見られた(r=0.5)。知った当時の重要度と記憶の鮮明度と の相関(r=0.35)は、現在の重要度に関する評定と鮮明度と の(r=0.23)よりも高かった。リハーサルに関する評定と記 憶の鮮明度に関しても相関が見られ、話題にした頻度と記 憶の鮮明度の間にr=0.375、想起した頻度と記憶の鮮明度 の間にはr=0.305の相関があった。その体験を自伝に書く かという項目と記憶の鮮明度についてはr=0.423の相関が あった。その出来事自体の感情価については、非常に良い 感情を持っている人から、非常に悪い感情を持っている人 (一般にサンタクロースの正体を知った時期が遅いほど、 その体験はネガティブなものであった)までいたが、内容 が良い記憶であると評定した人ほどその記憶を鮮明に保持 していると評定した(r=0.31)。 これらの各評定値は相互に比較的高い相関をもっていた ため、とくに仮説に関わる3つの変数と記憶の鮮明度の評 定値について他の変数との相関を統制した分析を行ったと ころ、以下のような関係が見られた。結果としては、第1, 第2、第3の各仮説に対応する変数と瞬間の記憶の間には、 ほぼ同様な相関が見られた。 衝撃点数 e1 -.34 -.28 .45 自伝に書く か -.32 .43 .30 瞬間の記憶 .25 話題頻度 【考 察】 本研究では、サンタクロースの正体を知った瞬間の記憶 の鮮明さを規定する要因について調査した。その結果、衝 撃度、話題頻度(リハーサル頻度)、人生における重要性 (自伝に書くか評定)のすべてが同程度、記憶の鮮明性と 関連しており、フラッシュバルブメモリー形成にどの要因 が最も重要であるのかについて決定することはできなかっ た。 文献:越智啓太 2006 広島平和記念資料館の記憶, 東京家政大学 博物館紀要 ,110,89-99. 㸫915㸫