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Report on 7th World Seminar on Investment Casting
TOPICS 第7回 国際精密鋳造セミナーの開催報告 (一社)日本鋳造協会 角 田 悦 啓 精密鋳造とは、ワックスで製品模型(ろう型)を作製し、その上に耐火物である砂を何層にも塗布して 鋳型を造型し、その後、焼成してろう型を融かし出して鋳型内に空洞をつくり、そこに溶かした金属を 鋳込み、鋳型を壊して製品を取り出す方法で、ロストワックス鋳造法とも呼ばれ、精密鋳造で作られた 鋳物を精密鋳造品という。機械加工を最小限に抑える Near-Net shape の部品を作ることができるため、 複雑形状部品、超難削材である超耐熱合金でできている部品に適している。代表的な精密鋳造品とし て航空機のジェットエンジンのブレード、発電用ガスタービンのブレード、ロケット部品、自動車用ター ボチャージャーのタービンホイール、医療用の人口骨、ゴルフクラブのヘッド(チタン)などが挙げ られる。 1.はじめに 1 名、⑦イギリス:3 名、⑧アメリカ:5 名、⑨フランス: 日本鋳造協会(以下、JFS という)は、2013 年 9 以下に、その概要を報告する。 1 名、⑩チェコ:1 名であった(写真 1、2 参照)。 月 11 ∼ 13 日の 3 日間、東京・建築会館ホール(東京 都港区芝 5 丁目)にて第 7 回国際精密鋳造セミナー (ISIC-Tokyo 2013、以下本セミナーという。)を開催 2.開催経緯 した。参加者は国内をはじめ、欧米や中国、台湾、韓 我が国の精密鋳造技術は、米国からの導入技術であ 国など 10 の国・地域から、講演会・懇親会・工場見 り技術的にはいわゆる欧米先進国の後追いの状況で 学会に 127 名の参加登録があり、盛況裏に終了した。 あったが、近年は欧米の水準に追いつき、一部では欧 参加者の内訳は、①日本:64 名、②中国:10 名、③ 米の品質を凌ぐ分野も出てきている。例えば、自動車 台湾:30 名、④韓国:10 名、⑤タイ:2 名、⑥ベトナム: 用ターボチャージャのタービンホイールは、日本が世 界シェアの 50%以上を有している。さらに独自開発 写真 1 講演会開会式 90 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.12 写真 2 講演会場風景 TOPICS による DS(方向性凝固)、SC(単結晶)製品群や高 らは違和感なく聞くことができたと好評であった。講 品質品の大量生産技術の開発などもあげられる。他方、 演会場は、同時通訳を採用したため、それまでの学士 中国、台湾、韓国、インドをはじめとするアジアにお 会館(東京都千代田区神田錦町)に通訳ブースがない いても 90 年代に入って生産量が増加し始めたが、欧 ため、建築会館ホールに変更した。 米との技術格差が大きかった。 このため、JFS は、アジア全体の精密鋳造に関する 技術力アップと、アジアの“精密鋳造に関する情報セ 3.講演会 ンター”としての立場を担うことを目的に、第 1 回「国 講演会は 9 月 11 日(水)∼12 日(木)の 2 日間、田町 際精密鋳造セミナー」を 1999 年 9 月に開催し、その 駅前の建築会館ホールにて開催された。講演会参加者は 後第 2 回を 2001 年、第 3 回を 2003 年、第 4 回を 2005 108 名であった。講演会のプログラムは 3 部構成で、第 年、第 5 回を 2007 年、第 6 回を 2009 年と隔年ごとに 一日目に① 世界、欧米、日本、中国、台湾、韓国、イ 6 回開催してきた。第 7 回となる 2011 年は、2012 年 ンドの各国の市場動向 7 件(M01 ∼ M07) 、② オーガナ 4 月に第 13 回世界精密鋳造会議(WCIC2012)をアジ イズドセッション「精密鋳造の要素技術」6 件(O01 ∼ アで最初となる京都にて開催することに伴い中止した O06) 。第二日目に③ 技術セッション(T01 ∼ T11)11 ため、本セミナーが 4 年ぶりの開催となった。 件の合計 24 件の講演を行った(表 1 参照) 。 本セミナーの開催にあたって、大塚公輝実行委員長 ( ㈱ブライソンジャパン社長)の下に精密鋳造メーカー (1)世界市場及び主要国の市場動向(図 1 参照) 等の実行委員により企画・運営が行われた。また、発 精密鋳造の世界市場規模は、2012 年は 116 億ドル(約 表言語については、第 6 回までは日本語と英語の 2 か 1 兆 1,600 億円)の生産金額であり、2013 年には 122 国語で逐次通訳方式をとっていたが、中国、台湾から 億 US ドル(約 1 兆 2,200 億円)に達すると予測され の参加者が増加してきたので、今回より中国語も発表 た。このうち航空機産業向けは、折からの世界的な 言語に追加し同時通訳とすることにした。日本語と英 航空機産業の増産に対応するため、2014 年以降も引 語、日本語と中国語の同時通訳を採用した。なお、英 き続き増加傾向を示すと見込まれた。また自動車産業 語と中国語の同時通訳者は日本では少ないため、英語 では、米国の自動車産業の回復と燃費向上の趨勢によ と中国語の間の同時通訳は日本語通訳内容を経由して り、ターボチャージャーの需要が今後も増加するため、 中国語または英語に通訳することとしたが、参加者か ターボホイールの増産要請が今後とも強くなると予測 図 1 精密鋳造品の地域別生産金額の推移(2002 ∼ 2013) Vol.54(2013)No.12 SOKEIZAI 91 TOPICS 表1 ISIC-Tokyo 2013 プログラム 日 Code 時間 講演題目 M1&M2 10:00 ∼ 10:10 世界の精密鋳造市場レビュー 2013 10:10 ∼ 10:20 講演者・企業(大学)名 Mr. Ronald Williams Blayson Group Ltd. 北アメリカとヨーロッパの精密鋳造市場 2013 10:20 ∼ 10:30 M1 と M2 に関する質疑応答 M3 10:30 ∼ 10:45 日本の精密鋳造産業の傾向 神田芳明氏 株式会社北川鉄工所 M4 10:45 ∼ 11:00 中国本土における精密鋳造産業 吕志刚(Dr. Zhigang LU)Tsinghua University M5 11:00 ∼ 11:15 台湾の最新の市場動向 許深波(Mr. Sun-Po Hsu)TCIA M6 11:15 ∼ 11:30 韓国の精密鋳造市場概況 韓斗玉(Mr. Du Ok Han)Chunji Corporation 11:30 ∼ 11:45 M3 から M6 に関する質疑 11 日 11:45 ∼ 13:15 昼食 & カタログ展示 O1 13:15 ∼ 13:45 セラミックコア開発におけるセラミック Mr. Didier Dumont AVIGNON CERAMIC SAS コアとワックスのための原則と方法 進化したワックス試験とその後のワック 13:45 ∼ 14:15 Mr. Ronald Williams Blayson Group Ltd. ス開発 O2 − 14:15 ∼ 14:30 コーヒーブレーク O3 14:30 ∼ 15:00 精密鋳造シェルのバックアップコート性 Dr. Grant BradleyREMET Corporation 能の改善のための拡張コートバインダ 供給者との共同作業によるプロセス最適 15:00 ∼ 15:30 Mr. Conrad HolekRansom & Randolph 化とコスト削減 精密鋳造のための部分安定化ジルコニア 15:30 ∼ 16:00 Mr. Thomas ScottREMET Corporation るつぼの特徴と利益 O4 O5 O6 16:00 ∼ 16:30 精密鋳造用鋳型材料への人工砂の適用 10:00 ∼ 18:00 パネル・カタログ展示 島崎英司氏 伊藤忠セラテック株式会社 18:00 ∼ 20:00 レセプション 12 日 ワックスルームにおけるオートメーショ Mr. Bruce PhippsMPI Incorporation ンとディジタル技術 T1 9:30 ∼ 10:00 T2 10:00 ∼ 10:30 最新の精密鋳造シミュレーション技術 久保公雄(Dr.)氏 株式会社イーケーケージャパン − 10:30 ∼ 10:45 コーヒーブレーク T3 10:45 ∼ 11:15 HMP-Thailand の紹介 井塚泰氏 HMP(Thailand)Ltd. T4 11:15 ∼ 11:45 航空エンジン材料の現状と将来 押野宏誠氏 株式会社 IHI − 11:45 ∼ 13:00 昼食&カタログ展示 T5 13:00 ∼ 13:30 鋳造シミュレーションを活用したロスト 八賀祥司氏 JUKI 会津株式会社 ワックス精密鋳造のパラメータ設計 精密鋳造における非接触三次元測定機の 遠山弘樹氏 株式会社 IHI キャスティングス 13:30 ∼ 14:00 活用(事例紹介) T6 T7 14:00 ∼ 14:30 精密鋳造品の 3D 形状高精度化への取組み 岸本圭太氏 株式会社大同キャスティングス − 14:30 ∼ 14:45 コーヒーブレーク 精密鋳造のための電気泳動析出による溶 謝杰廷(Mr. Jay-Ting Hsieh)CHIA YEH 14::45 ∼ 15:15 融シリカの一次コートの前処理 Precision Casting CO., LTD 鈴木国馬(Mr. Kokuma Suzuki)Impro Group 15:15 ∼ 15:45 中国における新技術情報 Limited T8 T9 T10 15:45 ∼ 16:15 湯流れ性に影響を及ぼすフォームフィルタ Mr. Ing. Ladislav TomekLANIK s. r. o. 10:00 ∼ 15:00 パネル・カタログ展示 13 日 92 工場見学 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.12 A コース:キングパーツ(広島県福山市)、 B コース: JUKI 会津(福島県喜多方市)、 C コース:山形精密鋳造(山形県長井市)、 D コース:東京ロストワックス(新潟県長岡市) TOPICS 写真 3 Mr. Ronald Williams 写真 4 吕志刚(Dr. Zhigang LU) された。しかしながら産業用ガスタービンを含むその 造品を含む鋳造業の新設及び既設に対する最低生産数 他の市場については、欧州・中国を含む世界経済の動 量および金額、環境。エネルギー規制に関するガイド 向に左右されるため、急速な増加は見込まれない状況 ラインが公表されたとの報告が注目された。中国を除 であると報告された。需要別では、航空機や産業用ガ くアジアは 12% で、そのうち日本が 4.9%、5.1 億ドル(約 スタービン等の高付加価値分野が 55%、自動車分野が 500 億円)であった。台湾は、企業数 41 社で 2012 年 15%、医療・産業機械等のその他分野が 30% であった。 の生産金額は約 220 億円、韓国は 70 社、約 270 億円、 地域別にみた 2012 年の生産額は、北米が全体の インドは約 450 億円の生産金額であった(写真 3、4 41% を占める最大の生産地域で 47.6 億ドル(約 4,760 参照)。 億円)、航空機産業が好調で向こう 7 年間フル生産が 見込まれている。欧州が 26.2 億ドル(約 2,620 億円)、 (2)我が国精密鋳造品の市場動向 イギリスが 48%、ドイツ 18%、フランス 14%、イタリ 図 2 は 2003 年から 2012 年までの売上高と生産重 ア 4%、その他 16% という生産内訳であった。 量である。この中での特徴の一つは 2004 年から 2008 アジア地域では、中国が 23% の 26.7 億ドル(約 2,670 年までは売上高の伸びに対し生産重量は比例した伸 億円)で、中国は民間航空機産業振興を図っており、 びを示していないことである。これは産業用ガスター 2020 年には 163 億ドル(約 1 兆 6,300 億円)の生産見 ビンや自動車用ターボチャージャーホイール等の高 通しとの報告があった。また、2013 年 5 月に精密鋳 付加価値製品の生産が伸びてきたことによるもので 図 2 我が国精密鋳造品の生産金額・生産重量の推移 Vol.54(2013)No.12 SOKEIZAI 93 TOPICS ある。この二つの分野が日本精密鋳造の大きな柱と なっている。もう一つの特徴は 2009 年に大きな谷が 4.パネル・カタログ展示 見られることで、これは 2008 年のリーマンショック 講演期間中、ロビーにて「パネル・カタログ展示」 を反映した世界同時不況によるもので、日本の精密 も行われ、日本 7 社、韓国 2 社、チェコ、英国各 1 社 鋳造業界も大きな打撃を受け 2009 年の生産高は前年 の計 11 社がそれぞれの技術や製品・部品等の PR を の 72%(28% の減少)となった。中でも日本の精密 行った。昼食時やコーヒーブレーク時に展示コーナー 鋳造産業の大きな担い手であった自動車の分野が大 には人だかりができていた(写真 5、6、7 参照)。 きな打撃を受けた。さらに 2011 年 3 月には東日本大 震災により日本経済は大きな被害を受けたが、精密 鋳造産業各社の素早い対応により、2010 年の売上高 は最盛期であった 2008 年の 86% までの回復を見せた。 また、2017 年までの需要予測として、需要の約 40% を占める自動車向は世界的な自動車生産増を反映し てターボホイールが 50% 増、産業用ガスタービンも 50% 増、航空機向けも 50% 増といづれも高い見通し が報告された。 (3)オーガナイズドセッション「精密鋳造の要素技術」 サプライヤー各社から、セラミック中子の設計手順、 パターンワックスの開発とその評価技術の最新情報、 写真 5 コーヒーブレーク風景 ポリマー強化型バインダーを用いたシェルシステムを 用いた鋳型の改善、迅速乾燥シェルシステムによるコ ストダウン提案、部分安定化したジルコニアるつぼの 真空溶解への適用及び日本からはサポインで開発され た人工砂「セラビーズ」の適用状況などについて詳細 な報告が行われた。これらの報告については参加者か ら盛んな質疑応答がなされた。 (4)技術セッション 第二日目は、5 つの国・地域から 10 名の講演者を 招き、各国の最新技術に関する報告が行われた。この 中ではワックス成形・組み立て工程での自動化への最 新技術について 1 件、鋳造シミュレーションを方案確 立に適用して開発リードタイムを短縮する技術につい 写真 6 パネル・カタログ展示 ① て 2 件、非接触式寸法測定方法を適用して後工程の工 数削減の現状報告 2 件などが行われ、各社がいかに工 程を省力化してコスト削減を図る努力をしているかが 推察できる報告であった。 また、日立メタルプレシジョン(タイ工場)及び IMPRO 社(中国)からは新規工場の立ち上げになさ れた多大な努力とその成功事例が報告された。今回 の講演でも前回に引き続き精密鋳造の顧客である IHI 社から「航空機用エンジン開発の最新情報と精密鋳 造業界に対する要望」というテーマで最新状況の報 告があり、精密鋳造メーカー各社にとっては非常に 参考になった。 94 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.12 写真 7 パネル・カタログ展示 ② TOPICS 5.レセプション 材産業室の木村隼人室長補佐が挨拶。次いで、EICF 第一日目の講演会終了後 17:00 からウエルカムド の Steve Leyland 会長が乾杯の挨拶を行い、懇親会は 始まった。途中に、アトラクションとしてマリンバ・ リンクが始まり、18:00 から講演会場と同じホールに パーカッションの演奏が行われ、テンポの良い曲が て懇親会を開催した。来賓を代表して経済産業省素形 次々に披露された。参加者は写真を撮ったり、手拍子 をとったりして、心地よい音色にしびれていた。参加 者は 87 名であった(写真 8 参照)。 6.工場見学会 第三日目の 9 月 13 日(金)に、工場見学会を実施し た。工場見学コースは、次の 4 コースに合計 68 名の 参加があった。 A 班 12 名がキングパーツ(広島県福山市)、B 班 35 名が JUKI 会津(福島県喜多方市)、C 班 19 名が 山形精密鋳造(山形県長井市)、D 班 6 名が東京ロス トワックス工業(新潟県長岡市)を見学した(写真 9 写真 8 レセプション風景 参照)。 写真 9 J U K I 会 津 見 学 の 集 合 写 真 Vol.54(2013)No.12 SOKEIZAI 95