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1 浄土寺川ダム管理用小水力発電の可能性について(調査報告) About
浄土寺川ダム管理用小水力発電の可能性について(調査報告) About the examination of the possibility of electricity for the jyoudoji river dam management 久保 光 赤沢一夫* 竹内茂夫** 要旨 最近の地球温暖化等、環境問題への関心が高まる中で、CO2排出量の少ない自然エネルギーの活用が注目され ている。また、最近小水力発電用に安価な発電設備が開発された。そこで、福井県が勝山市で建設を進めている 浄土寺川ダムの管理用小水力発電について妥当性を検討した。その結果、現在の社会情勢では、経済性が優先さ れることから、小水力発電設備の設置は難しい。しかしながら、経済性だけでなく CO2削減など、環境への負荷 も考慮して妥当性を評価する手法を考えることが課題である。 キーワード:水力、CO2削減 1.はじめに 最近の地球温暖化等、環境問題への関心が高まる 型 式 重力式コンクリートダム 提 高 72m 中で CO2排出量の少ない自然エネルギーの活用が注 提頂長 233m 目されている。そこで、福井県が勝山市で建設を進 提体積 260,000m3 めている浄土寺川ダムの管理用小水力発電について 越流部標高 経済性の観点から妥当性を検討した結果および小水 非越流部標高 EL364.0m 力発電のメリットについて報告する。 基礎岩盤標高 EL291.0m EL359.5m 貯水池諸元 2.浄土寺川ダムの概要 流域面積 7.7km2 2.1 ダムの目的 湛水面積 0.1km2 総貯水容量 ○洪水調節 ダム地点の計画高水流量 100m3/s のうち、 2,160,000m3 有効貯水容量 1,880,000m3 70m3/s の洪水調節を行うことにより、ダム上 堆砂容量 流域の開発による流出増を含めて浄土寺川沿川 設計洪水位 地域の水害を防除する。 サーチャージ水位 EL359.5m ○流水の正常な機能の維持 280,000m3 EL362.0m 常時満水位 EL355.5m 最低水位 EL327.5m 既得用水の補給を行うと共に、勝山市の流雪 3.小水力発電設備 用水の取水を可能とする等、流水の正常な機能 放流設備からは、水道用水、正常流量を常時放流 の維持と増進を図る。 (放流量 0.15~0.4m3)している状態である。そこ ○水道用水 で最近小水力発電用に開発された安価な発電設備を 設置する計画とした。設備規模の選定のため、放流 勝山市に対し水道用水として新たに 別(常時放流量 0.15~0.4m3の範囲で 0.05m3/s ピ 2,900m3/日の取水を可能とする。 ッチ)に設備費用と年間発生電力量を整理した結果 を表-1に示す。 2.2 ダム及び貯水池諸元 ダム諸元 4.発電所の経済性評価 * 元福井県土木部河川課 建設省河川砂防技術基準(案)同解説 2) およびダ ** 元福井県浄土寺川ダム建設事務所 ム管理用発電設備計画の手引き 1 1) によると、管理用 発電所の設置は、妥当投資額が管理用小水力発電設 備費用を上回っていることが前提となる。 表-1 放流量別の妥当投資額と評価 項 目 ① 単位:円 放流量(m3/s) 0.15 0.20 φ300 φ300 0.30 φ400 0.35 φ400 0.40 水車口径 mm *1 水車発電機 円 17,500,000 21,000,000 24,500,000 28,000,000 31,500,000 35,000,000 発電機盤 円 8,500,000 8,500,000 8,500,000 9,200,000 9,200,000 9,200,000 入口弁 円 1,500,000 1,800,000 2,100,000 2,400,000 2,700,000 3,000,000 配管材料 円 1,600,000 1,920,000 2,240,000 2,560,000 2,880,000 3,200,000 据付工事費 円 機器費の35% 10,185,000 11,627,000 13,069,000 14,756,000 16,198,000 17,640,000 諸経費 円 工事費の15% 5,892,750 6,727,050 7,561,350 8,537,400 9,371,700 10,206,000 送電建設費 円 15,500,000 15,500,000 15,500,000 15,500,000 15,500,000 15,500,000 円 *2 60,677,750 67,074,050 73,470,350 80,953,400 87,349,700 93,746,000 設備費用の合計 φ250 0.25 φ400 ② 出力 kw 43 58 72 87 101 116 ③ 年間発生電力量 kwh 372,000 492,840 598,080 705,240 782,280 824,760 2,400,000 2,400,000 2,400,000 2,400,000 2,400,000 2,400,000 636,000 998,520 1,314,240 1,635,720 1,866,840 1,994,280 ④ 年間買電料金節減額 円 既設ダム平均 ⑤ 年間売電収入 円 =3円/kw *3 ⑥ 年効用 円 =④+⑤ 3,036,000 3,398,520 3,714,240 4,035,720 4,266,840 4,394,280 ⑦ 年間修繕費 円 *4 950,000 950,000 950,000 1,100,000 1,100,000 1,100,000 ⑧ 減価償却費 *5 1,365,200 1,509,200 1,653,100 1,821,500 1,965,400 2,109,300 円 =⑦+⑧ 2,315,200 2,459,200 2,603,100 2,921,500 3,065,400 3,209,300 720,800 939,320 1,111,140 1,114,220 1,201,440 1,184,980 9,365,000 12,204,000 14,436,000 14,476,000 15,609,000 15,395,000 ⑨ 年経費 ⑩ 年効用-年経費 ⑪ 妥当投資額 *6 ⑫ 妥当投資額-設備費用 -51,312,750 -54,870,050 -59,034,350 -66,477,400 -71,740,700 -78,351,000 評価 1 2 3 4 5 6 163 136 123 115 112 114 評価 6 5 4 3 1 2 総合評価 6 5 4 3 1 2 発生電力量当たり建設単価 円/kwh =①/③ *1 落差はすべて 41.5m(=洪水期制限水位(344.5)-放流口標高(303.0))として計算。 *2 見積もりによる。 *3 聞き取り調査による。 *4 見積もりによる。 *5 減価償却費=設備費×負担率(50%)×0.9/償還年(20 年) *6 下式による。 年効用-年経費 妥当投資額= 資本還元率×(1+0.4×建設中平均利率×工期(年)) 資本還元率= 資本還元率= 0.07425 i(1+i) n n (1+i) -1 × {1- ここに i: 利子率= (1+i) n } 0.0458 n: 水車の耐用年数= (1+i) n = 0.1 20 2.4489 a1:アロケ率(河川) 工 期 = 2.0年 (工場製作+現地据付) a2:アロケ率(特定かんがい) 利子率 = a1×0.045+a2×0.055+a3×0.070+a4×0.065 a3:アロケ率(上水道) = 0.0458 a4:アロケ率(工業用水道) 2 0.968 0 0.032 0 を考慮して、見積もりを採用した。 4.1 設備費用 設備費用には、機器費(水車発電機、発電機盤、 4.8 減価償却費 入口弁、配管材料) 、据付費、諸経費、送電建設費を ダム管理用発電事業費の地元負担について、総合 含む。 耐用年数を 20 年、残存価格率を 10%として定額償 却額を計上する。減価償却費は以下の式で求められ 4.2 出力 出力は以下の式で求められる。 る。 P=9.8×Q×H×ηt×ηg 減価償却費=設備費×負担率(50%)×0.9/償還 ここに、Q:水量(m3/s) 年(20 年) H:有効落差(m) 4.9 妥当投資額 ηt:水車効率(80%) ダム管理用水力発電設備の妥当投資額の算出方法 ηg:発電機効率(90%) は、複利年金現価方式による資本還元方式が採用さ れ、表-1 下の計算式で求められる。 4.3 年間発生電力量 年間発生電力量は、以下の式で求められる。 5.経済性の検討結果 年間発生電力量=出力×24h×365 日×稼働率 5.1 建設単価による評価 ダム管理用水力発電設備の経済評価は、一般的に 稼働率:水車の稼働率は年間流量発生比率より算出 (過去 32 年間の水資料より) 建設単価法が用いられる。発生電力量当たり建設単 価は、120~160 円/kwh が多い。一応の目安とし ての建設単価は、160 円/kwh 以下が望ましいと考 4.4 年間買電料金節減額 えられる。1) 表-1から放流量 0.15 m3/s の場合以 年間買電料金節減額は県内既存ダム(笹生川、広野、 龍ヶ鼻、永平寺)の平均年間電気料金とした。 外は妥当性が認められるといえる。 4.5 年間売電収入 5.2 妥当投資額による評価 年間売電収入は、年間発生電力量から既存ダムの 表-1から妥当投資額が管理用小水力発電の設置 平均年間電気料金2,400,000円を1kw当たり電気料 費用を大幅に下回っていることから、残念ながら現 金15 円で割ったもの (160,000kwh) を差し引いて、 段階では、小水力発電設備を設置することは、妥当 売電価格 3 円/kw(聞き取り調査)を掛けて算出し でないと考えられる。また、買電しない場合のケー た。 スも検討したが、妥当投資額が管理用小水力発電の 設置費用を下回った。 4.6 年効用 年効用は、余剰電力の売電収入、管理用電力を自 6.小水力発電によるメリット 家消費することによる買電料金節減額の合計である。 表-1の総合評価において最も良かった放流量 0.35m3/s の場合、年間発生電力量は 782,280kwh であ 4.7 年間修繕費 り、これは火力発電所(0.23l/kwh)3) で年間使用す 年間修繕費は、以下の式で求められる。 る重油のドラム缶の 180 本に相当し、これから排出 修繕費=最大出力×1,182×2.7 される CO2を軽減できる。 (CO2削減量は 782,280 kwh (円) (kW) ×0.7308kg/kwh 4):石油火力=571,690kg/年) (円/kW) ここでは、この式で求めた修繕費より、メーカー また、仮に放流量 0.15m3/s で 43kw の出力の場合 の見積もりの方が高くなるため、将来の維持管理費 の 20 年間に必要な経費を算出してみる。すると、建 3 設費は 60,677,750 円である。しかし、送電建設費は 4)ライフサイクル CO2 排出量による発電技術の評価,(財)電力中央 この程度の発電機であれば、元々浄土寺川ダムに送 研究所 電される容量で兼ねられることも考えられる。 その場合の建設費は 60,677,750 円-15,500,000 円(送電建設費)=45,177,750 円となる。修繕費は 年間 950,000 円(見積もり)であるが、見積もりの 0.8 掛けとして 20 年間の修繕費を算出すると 950,000 円×0.8×20 年=15,200,000 円となり、20 年間に必要な経費は 45,177,750 円+15,200,000 円 =60,377,750(20 年)となる。 一方、20 年間に必要な経費は、3,036,000 円×20 年=60,720,000 円(20 年)となる。 よって、20 年間に必要な経費から、20 年間の効用 を差し引くと約 34 万円の黒字となる。 すなわち、経済性の検討結果で示した妥当投資額 による評価ではなく、採算性(20 年間に必要な経費 -20 年間の効用)から考えると妥当性があると考え ることもできる。 7.終わりに 小水力発電は CO2を発生しない純国産のエネル ギーで環境負荷の少ないクリーン性を有しているこ とから積極的に取り組むべきである。しかし、現在 の社会情勢では、経済性が優先されることから、小 水力発電設備の設置は難しい。しかしながら、日本 は京都議定書(COP3)によって 2008~2012 年間 でCO2を1990年レベルまで削減することを達成しな ければならないことや、エネルギー危機問題を考慮 すれば実施が必要となることも十分予想される。 このような社会情勢の中で、経済性だけでなく CO 削減など、環境への負荷も考慮して妥当性を評価 2 する手法を考えることや、小水力発電に対する助成 制度の整備が課題である。今回検討した小水力発電 設備は直接放流管につなぐ方式なので、ダム完成後 にも設置可能なことから、社会情勢に応じて設置を 考えていくべきである。 参考文献 1)ダム管理用発電の手引き P110~120 2)建設省河川砂防技術基準(案)同解説 計画編 P138~139 3)岩手県鷹生ダム管理用発電計画,2001 4