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Title Author(s) 英米におけるSocial Policy and Administration研究の系譜と論理構造 に関する一考察 : 我が国における社会福祉研究との接点を求めて (その2・完) 吉原, 雅昭 Editor(s) Citation Issue Date URL 社會問題研究. 1996, 45(2), p.163-217 1996-03-01 http://hdl.handle.net/10466/6731 Rights http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n 研究 の系譜と論理構造に関する一考察 我が国における社会福祉研究との接点を求めて(その 2・完) 吉原雅昭 序章 第 1章 英 国 に お け る S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜 第 1節 S o c i a lP o l i c y and Administration研究の成立 ( 1 9 6 0年 代 1 9 7 0 年代初頭まで)ーティトマスによる全体像の提示と体系化への 努力 第 2 節教科書の整備と諸概念の検討 (1960年代後半 ~1980年代初頭) 第 3節 自治体社会サービス部の組織研究 ( 1 9 7 0 年代初頭 第 4節 ソーシャルポリシーのイデオロギ一分析(19 7 0年代半ば 現在) 現在) ーティトマス学派の理論前提の間い直し 第 5節 福祉多元主義からサービス供給の効率化へ ( 1 9 7 0 年代後半 現在) -資源分配過程やサービス効果の実証分析からマネージメント理論 の導入へ 第 6節 第 7節 国際比較研究の活発化(19 8 0 年代半ば 現在) 「諸改革Jを乗り切るための業務管理論へ ( 1 9 9 0 年代初頭 現在) n a b l i n g 機関化と自治体経営論への接近 一社会サービス部の e (以上、第4 5巻 l号) o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜 第 2章 米 国 に お け る S ーマネージメント、ヒューマンサービス、マクロソーシャルワークを 含めて 第 1節社会福祉機関の組織管理論としての体系化(19 6 0 年代) -163- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) 第 2節 サービス提供システム管理およびソーシャ jレワーク管理への展開 (1970年代~) - I 政 策Jと管理科学(組織理論)の影響の増大 第 3節 政策研究の体系化と政策科学のソーシャルワークへの影響(19 8 0 年 代~) 第 3章 -資源制約下において必要な実践知を求めて 英国と米国における系譜の比較から得られる知見 一両国における研究の系譜の構造と理論の特徴(固有性) 第 1節 英 国 に お け る 系 譜 の 構 造 第 2節 米 国 に お け る 系 譜 の 構 造 第 3節 両国における理論の特徴と差異 第 4章我が国における研究との関係についての若干の考察 (以上、第4 5巻 2号) 第 2章 米 国 に お け る SocialPolicy and Administration 研究の系譜 ーマネージメント、ヒューマンサービス、マクロソーシャルワー クを含めて 本章は、アメリカにおける S o c i a lP o l i c y andA d m i n i s t r a t i o n研究の系 譜を探究することをめざす。まず最初に、断わっておかねばならない事が ある O それは、本稿においてはイギリスにおける研究の系譜を探るために レビューした文献に比べ、アメリカのそれは相対的に数が少ないことであ るO この理由のひとつは、筆者の研究能力の制約である O しかし、ほかにも いくつかの理由があるように思われる O すなわち、アメリカにおいてこの 分野に関する出版物の総数が多いか少ないかは不明であるが、我が国にお ける社会福祉学部系の図書館には、あまりこの分野の文献が数多く所蔵さ -164- 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n 研究の系譜(吉原) れていない可能性が高いと考えられるのである O むしろ、社会福祉研究者 の間でもアメリカの文献といえば、ソーシャルワーク関係のものを思い浮 かべる人が多いであろう O また、アメリカにおけるこの分野の研究を翻訳 あるいは紹介した業績も、そう多くないように思われる O したがって、ア メリカにおける研究の系譜を整理する試みは、前章に比べてややラフなも のとならざるを得.ない。 本稿において、筆者は 1 9 6 0年代以降の研究を大まかに 3 つの系譜に分類す ることを試みた。なお、筆者は、これら 3 つの系譜は、いずれも現在のアメ リカにおける S o c i a lP o l i c yandAdminisitration研究に受け継がれている と考えている O 第 1節社会福祉機関の組織管理論としての体系化 ( 1 9 6 0 年代) 1.歴史的背景(アメリカにおけるソーシャルポリシーの制度環境) イギリスが、ベヴァレッジ報告を受けて 1 9 4 0 ' " ' ' 5 0年代に S o c i a lP o l i c i e s を体系的に整備し、いわゆる吋面祉国家j 化していったのに対し、アメリ カは現在もなお円、やいやながらの福祉国家 ( R e l u c t a n tWelfare S t a t e ) J と呼ばれている ω。近年も、クリントン大統領による健康保険制度改革構 想が議会の抵抗によって挫折したことは記憶に新しい O この国では世界大 恐慌の後、 1 9 3 0 年代に年金、失業保険、公的扶助など所得保障プログラム が法定化され、その後これらを運営する行政機構が整備されたが、連邦政 府は 1 9 6 0年代半ばになるまで社会福祉サービスの法制化には興味を示さな かった O すなわち、これらの政策分野は基本的に州と地方自治体の責任で あると考えられてきたのである。この考え方は、基本的に今日も変わって いない。 州政府や地方自治体はソーシャルサービスの提供についてそれぞれ独自 の工夫を行ってきたが、全般的にいって行政機関自身が直営でサービスを 供給することは少ない。むしろ、さまざまな非営利組織(以下、 NPOと略 す)や営利組織が実際のサ一ピスを担つていることが多いわけである(∞2 幻 ) これは、アメリカという国の特徴のひとつである社会的、政治的な多元性 EA 噌 FhU FO 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) の一部である。また、生活において個人の責任を重く見る価値観は、個人 のイニシアティブを好み、場合によっては個人による自由な結社ないし任 意組織を政府よりも重視することにもつながる O 例えば、 トラットナーに よる通史でも明らかにされているように、アメリカにおけるソーシャルワー ク、セツルメント、児童福祉、公衆衛生、精神保健などは、すべて個人の イニシアティブに端を発する NPO の活動から生まれたものである(幻。なお、 こういった活動の多くは、実際にはむしろ運動 ( movement) と呼ぶ方がふ さわしいものであった O 2 .A d m i n i s i t r a t i o ni nS o c i a lAgencyとソーシャルワークアドミニスト レーション したがって、筆者の知りうる限りアメリカでは、 1 9 6 0 年代以前には、ソー シャルポリシーをめぐる体系的な理論が展開されたり、ソーシャルアドミ ニストレーション概念の全体像が提示されることはなかったように思われ るO むしろ、既に述べたように、当時この国ではそのような理論が展開さ れうる実践的な基盤を欠いていた O また、イギリスにおけるマーシャルや ティトマスのように、特定の理論家がグランドセオリーを展開し、それら が学派やスタンダードを形成するといったこともなかったようである O では、この国には S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s i t r a t i o nの理論的系譜を考 察するうえで注目すべき研究はなかったのであろうか。筆者は、そのよう には考えない。アメリカでは、英国と同じような文脈でソーシャルポリシー とソーシャルアドミニストレーションが論じられることはなかったが、 r A d m i n i s i t r a t i o ni nS o c i a lAgency勺や「ソーシャルワーク・アドミニ ストレーションj という概念はかなり早い時期に成立していたのである O これらは、いずれも社会福祉機関の運営をめぐる理論で、ある O まず、 A d m i n s t r a t i o ni nS o c i a lAgencyという概念が生まれた背景につ いて考えてみよう O すでに指摘したように、この国では歴史的にソーシャ ルサービスの仕組みを理解するうえでNPO の重要性がきわめて高い O この ため、典型的には「地域に根ざした、活動、財政両面において自律性の高 -166- 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) いJ民間社会福祉機関に業務運営や組織管理に関する経験知が蓄積されて きたと考えられる。そして、こういったノウハウは業務や組織を管理する 立場にある専門職たちにとっては、徐々に必須のものとなっていった O 我 が国でも翻訳されている、ハーレイ・トレッカーの『新しいアドミニスト 9 6 1年 ) ω は、このような研究業績の典型例と考えら レーションJl (原著は 1 れる O ところで、トレッカーの著作を監訳した今岡健一郎は、ソーシャルアド ミニストレーションは施設管理論ではなく、 「ソーシャルポリシーとコミュ ニティ・オーガニゼーションの中間領域である J と述べている O 確かに、 アメリカではアドミニストレーション概念が確立する以前から、コミュニ ティ・オーガニゼーション (6)やグループワークの理論がかなり体系化され ていた O これらが、アドミニストレーション概念の形成に一定の影響を与 えたことは、例えば、トレッカーの著作からも明らかである O また、アメリカでは、コミュニティ・オーガニゼーションだけでなく、 マレー・ロスも関説しているコミュニティ・リレーションズ (Community R e l a t i o n s )が、アドミニストレーション概念の形成に影響を与えたと考え られる O このように、ソーシャルワーク理論の体系化が先行し、アドミニ ストレーション概念の形成に影響を与えるなど、当初から密接な関係にあっ たことは、アメリカの特徴といえそうである。 次に、ソーシャルワーク・アドミニストレーションという概念の背景に ついて簡単にふれておこう O レックス・スキッドモアは、アメリカにおけ るソーシャルワーク・アドミニストレーション概念の歴史的背景について 9 世紀末から 1 9 7 0 年代末まで、アドミニストレーショ 考察しているヘ彼は、 1 ンがソーシャルワークの教育や研究においてどのように位置づけられてき たか解説している。 スキッドモアによれば、アメリカではアドミニストレーションは伝統的 にソーシャルワーカーの教育や訓練との関係で論じられることが多かった。 したがって、もとからスーパービジョン論とのつながりが強かったわけで ある。また、同時に社会福祉機関を専門職ソーシャルワーカー自身が管理 -1 6 7一 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) する場合の管理職業務をめぐる諸問題も盛んに論じられてきた O その後、 1 9 6 0年代の後半になるとソーシャルワーク大学院で学んだソーシャルワー カーたちは何らかの形で管理職業務を担うことが多くなり、 1 9 7 0年代なか ばにはアドミニストレーションがソーシャルワーク大学院における教育に おいて重視されるようになったわけである。なお、この時期に関しては、 第 2節で述べることにする O 3 . 民間社会福祉機関の組織管理論-トレッカーによる体系化とその後 ハーレイ・トレッカーは、グループワークの研究者として有名であるが、 アドミニストレーションに関しても多くの業績を残している O アメリカで 1 9 6 1年に出版された『新しいアドミニストレーション』は体系的な著作で あり、高く評価されているので、やや詳しく見てみることにしよう O 本書 YMCA本部による運営研究プロジェクトの成果をふまえたものである O YMCAはアメリカ全土に支部を持つが、この調査研究プロジェクトにも 1 9 は 、 の支部が参加している O トレッカーは、 2年間にわたり、顧問としてこの研 究プロジェクトに参加していた O 本書は、 YMCAの職員に限らず、民間の コミュニティ・サービス団体で働く職員、ことに事務局長と、運営に重要 な役割を果たす理事を読者と想定している O 彼らがアドミニストレーショ ンにおける基本的な概念や過程を理解することを助けると同時に、団体運 営をめぐる具体的な課題や技術について、その要点を解説している O 著作の構成上の特徴としては、はじめの部分に団体または組織そのもの とコミュニティについての理解を促すため、それぞれ独立した章をもうけ ていることがあげられる O すなわち、実践者はアドミニストレーションの 概念や過程を理解し、団体運営に関するさまざまなテクニックを身につけ るだけでなく、その前提として小集団、組織、コミュニティについてしっ かりと理解しておくことが求められるのである O これらの面に関して、本 書は、アメリカで、既に豊富な蓄積がなされつつあった個人および集団に関 する行動科学や組織論の成果を取り入れている O 内容面の特徴は、いわゆる管理科学の成果を多く取り入れていることで -1 6 8一 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) ある。例えば、団体運営の技術に関する解説では個人への動機づけやリー ダーシップ理論が展開されているし、企業経営、行政管理、学校経営など 関連分野のノウハウも援用されている O また、本書は全般的に管理職の役 割に多くの紙幅を割いている。例えば、トレッカーは管理職の 2 つの役割に ついて解説する O すなわち、業務、組織、権限などを設計し、業務の実施 を促進、管理する役割と、人事や労務を管理し、部下の動機づけや葛藤を 調整、処理する役割で、ある O これを単純化すれば、前者は「業務を設計し、 指示する管理職j であり、後者は「部下の感情に対処する管理職j である O 当然、の事ながら、このどちらが欠けても管理職はその責を果たすことがで きない。また、これらと関連して、トレッカーはアドミニストレーション の有効性を検証する指標として、タスク指標だけでなくプロセス指標をあ げている O タスク指標は、文字どうり定めた目標をどの程度達成できたか というものであるが、プロセス指標は、 「参加者の技術や能力の成長 j を 評価しようとする。 しかしながら、アドミニストレーション概念そのものの吟味という点に 関しては、本書はあまり独創的なものとは言えない O すなわち、本書では スペンサーの定義などいくつかのアドミニストレーション概念が紹介され ているが、トレッカー自身の見解は明確に提示されているようには見えな い。なお、スペンサーのアドミニストレーション論は「組織の内部管理j と「組織-コミュニティ問調整j の双方を視野に入れているが、トレッカー も本書においてこの枠組みを援用している O このように、実践者向けの手 引き書である本書は、アドミニストレーション概念そのものの探究には多 くのスペースを割いていない。わずかに、事業運営過程に関する一般的な 分析枠組みが示されるのみであり、あとの大部分はコミュニケーション、 計画、調整、理事会運営、研修といった具体的な課題が論じられるわけで ある O このように、アメリカでは 1 9 6 0 年代初頭に、それまでの実践をふまえ民 間社会福祉団体を中心とする業務および組織管理の理論として A d m i n i s i t - r a t i o ni nS o c i a lAgencyが一定の体系化をみた O そして、この国ではこう -169- 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) いったカテゴリーに属する著作は、その後も出版され続けている O 例えば、 ロパート・クリフトンとアラン・ダムスは 1 9 8 0 年に『地域基盤の福祉機関: J(8) を出版している。著作の構成はトレッカーの 草の根運営ハンドブック I ものに非常によく似ているが、本書はワークブック形式で書かれており、 教科書として出版されたもののようである O 以下に、目次を示してみよう O クリフトン&ダムス『地域基盤の福祉機関・草の根運営ハンドブック』 ( 1 9 8 0 年) *著作の構成(目次) (1)計画および財源調達と事業評価 (事業と資源の開発、目標と達成手段の設定、財源調達、事業評価) ( 2 ) コミュニケーション (文書作成、広報誌、新聞や放送メディアの活用) ( 3 ) ボランティアの活用 (ボランティアの効果的な活用法、運営委員会の役割) ( 4 )機関内および機関外政治 (ロビー活動、機関内での葛藤処理) ( 5 ) リーダーシップと職員研修 (リーダーシップ開発、サパイパル) これらのうち、事業の企画一実施過程、コミュニケーション、ボランティ アや運営委員会(理事会)との協働、リーダーシップの開発などの構成要 素は、トレッカーのアドミニストレーション論においても重視されていた。 変化した点は、機関内および、機関外政治について独立した章がもうけられ たことと、外部とのコミュニケーション手段として、テレビを含む放送メ ディアとの関係が論じられている点である O すなわち、 1 9 8 0年代ともなる と、地域を基盤とした比較的小規模のソーシャルサービス機関においても マスメディアとの関係が重要になった O また、機関と地域社会との関係は トレッカーが述べた「コミュニティについて理解しておく j というレベル をはるかに越えるものとなった O -170- 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) 第 2節 サービス提供システム管理およびソーシャルワーク管理への展開 (1970年代~) r - 政 策j と管理科学(組織理論)の影響の増大 1 . 1960~70年代におけるソーシャルポリシーの変化 戦後、アメリカは「豊かな社会j として経済的繁栄を謡歌していた O 自 助の価値を重視するこの国では、連邦政府は所得保障を中心とするソーシャ ルポリシーをわずかにセーフテイネットとして実施するのみで、社会問題 への対応は州、地方自治体、 NPO、そして基本的には国民自身にまかされ ていたのである。しかし、実際にはすべての国民が豊かさの恩恵に浴した わけではなかった O 人種差別や荒廃するインナーシティなど繁栄の裏側に 9 6 0年 代 存在した構造は、やがてさまざまな葛藤と摩擦を産み出し、特に 1 以降は政策的な対応を強く要請することになっていったのである。 ケネディの遺志を継いだジョンソン大統領が「貧困に対する戦争J を宣 言し、各種の立法措置に着手し始めたのは 1 9 6 4年である O この年には、公 民権運動の高まりによって公民権法の改正が行われるとともに、経済機会 法が制定された。翌 1 9 6 5 年には、社会保障法の改正によりメディケアとメ ディケイドが連邦の制度として創設され、同時にアメリカ高齢者法(O l d e r Americans Act) が制定された O さらに、その後も 1 9 7 3年のリハビリテー ション法、 1 9 7 4 年の社会保障法改正によるタイトル2 0の追加、 1 9 7 8年のリハ ビリテーション法改正などソーシャルサービスのプログラムを拡大する連 邦法が次々に定められた O これらの連邦法は、今日のアメリカの社会保障制度や社会福祉制度を理 解するうえでも重要なものが多いが、これ以前の諸立法とは異なるいくつ かの特徴を備えていた O 例えば、アメリカ高齢者法や社会保障法タイトル 2 0は、広く「貧困線以上j の国民をも対象とするソーシャルサービスにつ いて定めている。連邦法は新たなサービス・プログラムに関する基本的な 枠組みを定め、それに従って連邦が州や自治体に補助金を出すことにした わけで、ある O 他の先進工業諸国とは異なり、アメリカの連邦政府は、これ 以前は基本的に貧困線を上回る国民を対象とするソーシャルサービスには 補助金を支出してこなかった O t 弓 -EA 1i 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) では、これら一連の法改正は、社会福祉の実践現場にどのような影響を 与えたのだろうか。これらの連邦法はいずれも州の自治や選択権を広く認 めていたが、多くの州や自治体は、ソーシャルサービスに関する行政組織 の再編成を行った O また、具体的なサービスを供給する NPO や営利組織の 多くは、連邦や外│や自治体の補助金が得られる事業の開発や展開をめざす ことになった O このように、連邦政府のソーシャルサービスに関するプロ グラム拡大は、州、自治体、サービス供給組織のいずれにも大きな影響を 与えたわけである O 2 .ヒューマンサービスの提供システム管理論への収数 ( 1 ) スレヴィン、グルーパーらによる問題提起 こういった制度環境の変化は、アドミニストレーション研究にも大きな 影響を与えた O 例えば、ソーシャルワーク教育協議会は、 1 9 7 8年にサイモ ン・スレヴィンを編者とする『ソーシャルアドミニストレーション』 ω を出 版している。本書は 4 5の論文で構成され、 5 8 0ページにも及ぶ大部の研究書 であり、副題を「ソーシャルサービスの経営」としている O 当時、ソーシャ ルワーク教育協議会のエグゼクティヴ・ディレクターであったリチヤード・ ロッジは、本書のイントロダクションにおいて、 1 9 6 0年代以降の医療、教 育、福祉支出の急激な増加はソーシャルサービスにとって新たな実践分野 や事業の拡大を意味したが、同時にしっかりとしたプログラム評価やアカ ウンタビリティへの社会的要請も増していることを指摘している O また、 ロッジは、近年は、法、事業実施手続き、組織構造などがしばしば変更さ れるため、サービス供給システムが複雑化、断片化 ( f r a g m e n t a t i o n )し 、 場合によっては混乱が生じていることも指摘している O このような事態を重く見た連邦政府は、ソーシャルワーク教育を改革す るため、ソーシャルワーク教育協議会ゃいくつかのソーシャルワーク大学 院に研究開発のための補助金を出すことにした。連邦は、ソーシャルサー ビスにおけるアドミニストレーションやマネージメントに関する研究と、 その成果を生かした新たな教育カリキュラムの開発を求めたのである O こ 円ノ臼 4Bi t 円 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) の研究開発事業においては、ソーシャルワーク大学院と経営学や行政学の 大学院との協働がとくに推奨された。本著は、その成果の一部をまとめた ものである。 本著は、アドミニストレーションをめぐる課題を包括的に取り上げてい るので、そのすべてを紹介することはできないが、最も注目されるのは、 「資源配分および、統制とアカウンタピリティ J と題された第 5 部である O こ 2本おさめられ こには、事業経営や財務管理の方法、技術を扱った論文が 1 ている O これらのなかには、例えば、 PPB8、費用便益分析 (CBA)、目標に よる管理 (MBO)、ゼロベース予算 (ZBB)、サービスの生産性などを論じ たものが含まれている。 なお、本著に論文を寄せているマレー・グルーパーは、その後、 1 9 8 1年 に『ヒューマンサービスの経営システム』側を編集、出版している O ここで も 、 PPB8、MBO、CBA、ZBB、経営情報システムなどが論じられている O 本著への寄稿者には、経営学者のピーター・ドラッカーや、当時アメリカ 行政学の中心的な論客であったアーロン・ウィルダフスキー、マイケル・ リプスキーも含まれている O ドラッカーは目標による管理を、ウィルダフ スキーは予算編成過程を、リプスキーはストリートレベル官僚制を論じて いる O このように、政策の影響を強く受けるようになった後のアメリカの研究 を見ると、事業経営や財務管理の具体的な方法、技術を中心的な課題のひ とつとして論じる傾向があることがわかる O これは、アメリカにおける研 究の重要な特徴である O この理由は、ふたつ考えられる O いずれも、アメ リカにおける制度環境に起因するものである。 ひとつは、アメリカが連邦国家であり、かっ、ソーシャルサービスの提 供に関しては州の権限が強いことに加え、州によって地方自治体の規模、 種類、形態、権限、構造などがきわめて多様なことである O このような制 度環境においては、アメリカ全土にあまねく普遍性を持ちうるような制度 論を展開することはきわめて困難で、ある O しかし、実際には州や自治体ご とに自分たちが望むサービスシステムを構築し、運営していくことが求め t 内︽U 司 1i 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) られるのであるから、どんな地域でもある程度は活用できる事業経営、組 織管理、人事管理、財務管理、情報管理などに関するノウハウは非常に重 要になる。後に見るように、これらの知識は、その後、ソーシャルワーク 教育、ことにソーシャルワーク大学院における教育において重視されるよ うになっていった O もうひとつの理由は、すでに 1 9 7 0 年代の後半にはソーシャルサービスに 関する財政支出の伸びが事実上、鈍化しはじめていたことである O アメリ カの政治は、もともと納税者インタレストを反映しやすいという特徴を持 9 7 0年代半ばには一部の自治体においていわゆる「納税者の つが、すでに 1 反乱Jを経験していた O たとえソーシャルサービスといえども、科学的な 事業評価が要求され、効率的な供給が重視されることにはかわりがなかっ たO 窮屈な財政事情のなかで税金を投入しているのであるから、事業経営 の効率性や、財務管理におけるアカウンタピリティが熱心に論じられるこ とはごく自然なことであった O ( 2 ) ヒューマンサービス運営論への組織理論や管理科学の影響の増大 アメリカでは、スレヴィンやグルーパーとほぼ同じ時期やそれ以降に、 ヒューマンサービスの運営管理をめぐる著作が数多く公刊されている。こ れらを、出版された順に 6つ例示してみよう O ① ウォルター・エーラースほか『ヒューマンサービスの運営一入門的 手引き I J( 19 7 6 年)(11) ② ③ ディーター・グルノウ編『福祉か官僚制かI J( 19 8 0年)(凶 レックス・スキッドモア『ソーシャルワーク運営ーダイナミックな J ( 19 8 3 年)(13) 経営と人間関係I ④ アート・ナイトンほか『ヒューマンサービスの運営-ワークブック』 ( 1 9 8 3 年)(14) ⑤ ジョン・トロップマン『ヒューマンサービスにおける政策経営』 ( 19 8 4 年)(15) ⑤ バーナード・ノイゲボレン『ヒューマンサービスにおける組織、政 J( 19 8 5 )(16) 策、実践I -174- 英米における S o c i a lP o l i c y andA d m i n i s t r a t i o n 研究の系譜(吉原) これらを概観して気づくことは、まず、 1 9 6 0年代には見られなかった 「ヒューマンサービス j という概念が定着しつつあることである(ヘェーラー スやナイトンの著作は、いずれもワークブック形式を採用した教科書であ るO いずれも、ソーシャルワーク大学院などで用いることを前提として編 纂されたものであろう O エーラースの教科書は、基本的に各章が POSDCo RBの枠組みに基づいて構成されている O すなわち、ヒューマンサービス運 営における計画づくり ( P l a n n i n g ) 、組織管理 ( O r g a n i z i n g ) 、人事管理 ( S t u f f i n g )、方向付け ( D i r e c t i n g ) 、 調 整 (C o o r d i n a t i n g)、記録 ( R e B u d g e t i n g ) といった構成要素を具体的に学ぶこと p o r t i n g ) 、財務管理 ( がねらいである O 本著では、これらのほかにアドミニストレーションの基 本概念と、コミュニケーションの基礎理論、事業評価に関する基本的事項 が解説されている O ナイトンの教科書も、社会福祉機関において業務と組織を管理するアド ミニストレーターの役割を強調しているが、本書は機関における問題解決 の過程や生産性向上のための諸方策といった、より具体的なシナリオを重 視した構成になっている。経営学や組織論の成果を援用しつつ、アドミニ ストレーションの実践的な場面を意識して書かれた教科書といえよう O グ ルノウの研究は、大規模化し、官僚制化した福祉組織の問題点にメスを入 れ、さまざまな角度から解決策を探ろうとした国際的な共同研究の成果で ある。 スキッドモアの著作も、大学院レベルの教科書である O 彼は、これまで のソーシャルワーク運営に関する定義を概観した後、暫定的に自身のソー シャルワークの見解を述べている O 彼は、アドミニストレーションを「ソー シャルポリシーを、機関において具体的なソーシャルサービスの提供へと 変換する社会過程Jとしている O これは、非常にオーソドックスな見解で あり、本書ではその構成要素である計画づくり、意志決定、財務管理、事 業評価、組織管理、人事管理、スーパービジョンなどが順に論じられる O また、副題に示されているように、リーダーシップ、チームワーク、コミュ ニケーション、動機づけなど、機関における人間関係についても詳しく解 噌ZA ﹁円u i 円 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3 . 3 1 ) 説している。なお、彼はソーシャルワーク運営という言葉を用いているが、 課題をソーシャルワークだけに限定しているわけではなく、ヒューマンサー ビス全般に援用可能な内容としている O トロップマンは、新たに「機関における政策経営 j という概念を提起し いている O 彼は、ヒューマンサービス機関における政策の形成から決定、 事業化、事業評価にいたる過程全体を、それぞれの段階において重要な課 題を中心に解説しようとしている O この試みが成功しているかどうかはや や疑問であるが、彼の本著における強調点は、もはやヒューマンサービス 機関には単なる「政策分析の専門家j だけではなく、 「政策マネージャー J の役割を果たす者こそが必要だという主張である O したがって、政策の形 成、決定、管理を行う装置や、ガヴァナンス ( g o v e r n a n c e ) をめぐる諸問 題が詳しく述べられている O なお、トロップマンはマクロ・ソーシャルワー ク実践の研究者としても知られている。このマクロ実践やソーシャルワー ク運営に関しては、 1 9 7 6年に A d m i n i s t r a t i o ni nS o c i a lWorkという専門 学術雑誌も創刊されている O ノイゲボレンの著作はタイトルをヒューマンサービスの「組織、政策、 実践J としているが、実際には「ヒューマンサービス実践者のための組織 論J といった内容である。彼は、実践者が日々の業務において直面する諸 問題に対処していくには、組織目的、組織構造、リーダーシップ、意志決 定、組織変革、専門職イデオロギ一、組織間関係など組織理論の基本的な 考え方を理解しておかねばならないと主張している。したがって、本書で はこれらの諸課題が実践事例を交えて解説されている O なお、本著では組 織に関するシステム論的な理解や、官僚制組織の諸側面が強調されている が、これらは、ヒューマンサービス運営に携わる管理職たちにとって特に 重要な課題だと考えられる。 このように、① ⑤の著作はそれぞれに特徴があり、相違点も少なくな い。しかし、これらはいずれもヒューマンサービスの提供システムにおけ る運営管理の方法を論じており、具体的な内容においては共通点も多い。 すなわち、これらはいずれも組織理論や管理科学(例えば経営学や行政学) -176- 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) の影響を非常に強く受けているので、ある O では、これらの研究は、第 1節で見た民間社会福祉機関の組織管理論と どのような点が異なっているのであろうか。前節でふれたトレッカーやダ ムスは、概して狭い範囲の地域社会を基盤とする比較的小規模の民間社会 福祉機関を想定して議論を展開している O しかし、本節で取り上げた著作 の多くは、民間組織においても、規模の大きい政府機関においても援用可 能な理論を展開している O すなわち、本節で取り上げた研究の多くは、住 民に対して直接的にサービスを提供する組織にとっても、政策の実施過程 や事業の執行過程全体を管理する政府機関にとっても「実践知J として役 立つ概念や分析枠組みを読者に提供しているのである。 ( 3 ) ウェイナーによる事業管理および財務管理論の体系化 本節で取り上げてきた一連のヒューマンサービスの提供システム管理論 のなかで、現時点で最も包括的かっ完成度の高い著作は、マイロン・ウェ イナーの『ヒューマンサービス経営J1{附である o 1 9 9 0 年に出版された本著の 第2 版は、 5 つのパートで構成されており、全部で 1 6章、約 5 0 0ページにわた る大著である O まず、以下に本著の構成と各章の目次を示しておきたい。 マイロン・ウェイナー『ヒューマンサービス経営(第2 版)I J( 19 9 0 年) *著作の構成(目次) ( 1 ) 諸価値とヒューマンサービス・マネージャー (ヒューマンサービス経営の明解さ、互いに相容れない諸価値の調 和) ( 2 ) 組織とシステム (人間行動と組織の理解、組織、人間と組織行動) ( 3 ) 組織環境のダイナミクス (組織と環境、マネージメントにおける女性と少数民族、戦略とし ての組織) ( 4 ) 制度の運営 (基本的マネージメント過程、プログラム管理、財務管理、人事管 'i 唱 月 t ヴ i 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) 理、情報管理とコンビューター) ( 5 ) システマティックな経営 (システム分析と設計、変革のマネージメント、相互作用組織、シ ステムの経営) つ含まれていることが この目次を見ると、組織を論じた章が少なくとも 6 わかる O これらの章においては経営学、行政学、社会学などの組織理論が ヒューマンサービスに引きつけて解説されている。しかし、私見によれば、 本書の完成度の高さが最もよくあらわれているのはこれらの章ではなく、 プログラム管理を扱った第 1 0章と財務管理を扱った第 1 1章である。まず、 ウェイナーはプログラム管理の全体像を図 2-1のように示している O 切口付ロロ ω 同門同υ付加。パ石仏判 mw S t r a t e g yF o r m a t i o n S t r a t ee i c S t r a t ee -i c GoaIs 一 一 一 Roles ム.司 a S t r i t e z i c S t I T m P o l i c i e s一 一 一 → P l a r i s 3 ; つ 司 3 く図 2-1> ウェイナーによる「プログラム管理の全体像j V V e i n e r( 1 9 9 0 )p . 2 3 4 -178- 英米における S o c i a lP o l i c ya n dA d m i n i s t r a t i o n 研究の系譜(吉原) プログラム管理の主なねらいは、アカウンタビリティを保ちつつ、機関 が提供するサービスのパフォーマンスを向上させることであり、その意味 で常に効果、効率、経済性といったことが問われる O 図 2-1にも示した ように、ウェイナーはこの複雑な過程を以下のように 5つの段階に分けて いる O ウェイナーによる「プログラム管理(計画と実施)Jの 5段階 ( 1 ) 基本的戦略の構築 ( 2 ) プログラム開発、計画づくり、予算編成 ( 3 ) 投入する資源と業務に関する実施計画づくり、およびその実施 ( W o r k r e s o u r c es c h e d u l i n ganda s s i n g n i n g ) ( 4 ) 業務活動の記録、進行管理および監視 ( 5 ) プログラムおよびその効果に関する評価分析 ウェイナーによれば、このモデルはサイパネティック・マネージメント の理論を援用したものである O したがって、機関に「フィードバック→フィー ドフォワードJの仕組みを組み込むことや、経営情報システムを構築する ことが重要になる O 図 2-1はこの点を強調している O なお、この図は戦 略的計画 ( S t r a t e g i cP l a n n i n g )、マネージメント・コントロール、オペレー ショナル・コントロールというマネージメントの 3層構造もあわせて示そ うとしている O これらは、従来、トップ・マネージメント、ミドル・マネー ジメント、スーパヴァイザリー・マネージメント(S up e r v i s o r y Manage- ment)と呼ばれていたものにあたる。 ウェイナーは、実際にこのモデルにそって、ある地域においてアルコー ル依存症者への援助を行う機関(Commu n i t y Ment a l Healt hC l i n i c )が数 年間にわたって事業を展開していく過程をシュミレーションしている O こ こでは、目標の設定、事業の組み立て、予算編成、年次計画、職員の雇用 計画、業務実施の記録、事業実績と職員の評価、事業全体の総括などが具 体的に例示されている。 -1 7 9一 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) 本著の第 1 1章で扱われている財務管理(ManagingF i n a n c e s )もまた、複 雑な過程である。ウェイナーは、財務管理においてとくに予算管理( B u d g e t - i n g )を重視している O これは、予算を編成する過程と、それに基づいて財 政を執行する過程をあわせたものである。ウェイナーは、予算管理はマネー ジメント全般にとって決定的に重要であるだけでなく、ヒューマンサービ スにおける政策を改善するためにも重要であると述べている O 予算編成の 過程においては、民主性と公正さが要求される。予算の執行過程において は、マネージャーやアドミニストレーターの行為自体が予算によって統制 される。 ウェイナーの言葉を借りるまでもなく、予算の編成と執行は、機関にお ける業務実施過程のほとんどすべての側面に関係している O やや大げさに 言えば、予算管理はヒューマンサービスの提供システムを運営管理する仕 組みそのものなのである。すでに述べたプログラム管理と財務管理は、一 連のプロセスを違う側面から眺めたものにすぎない。このふたつは、認識 の際に用いる枠組みや視点が異なっているだけなのである O ところで、予算管理は先述したプログラム管理との関係で、見ると、計画 段階だけでなく事業評価段階との関係も非常に強い。例えば、予算編成の 方式や予算書類のフォーマットは、単に財源をどのように管理するかにと どまらず、機関が事業の運営管理をどのようにとらえているを示したもの と見ることもできる O 例えば、ライン項目予算、パフォーマンス予算、プ ログラム・プランニング予算 ( P P B旬、ゼロベース予算 ( Z Z B )といったさま ざまな予算管理方式は、事業の計画や運営管理方法に関する考え方の違い を示している O これらの予算管理方法が重視する点は、それぞれ大きく異 なっている。それは、主に誰のインタレストを基盤とする予算管理方式か、 という点と密接にかかわり合っているのである。 予算管理が、単に経営と会計管理の過程であるだけでなく、資源の分配 を決定する政治過程であると表現されるのは、こういった意味である。一 般に、活用しうる資源の総量が拡大を続けているのか、伸びが鈍って停滞 しているのか、あるいは減少してるかは、その分配方法に大きな影響を与 -1 8 0一 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) える O そして、ヒューマンサービスの提供に必要とされる資源は、その社 会における政治経済メカニズムに規定される面が大きいのである。 第 3節政策研究の体系化と政策科学のソーシャルワークへの影響 ( 1 9 8 0 年代"') 一資源制約下において必要な実践知を求めて 1 .1 9 7 0 年代後半以降のアメリカのソーシャルポリシー ロナルド・レーガンが大統領に就任したのは、 1 9 8 0年のことである O ブ ルース・ヤンセンは、レーガンおよびブッシュ政権下における社会福祉政 策を「保守主義者たちによる反革命J(凶と呼び、ウォルター・トラットナー は「福祉国家をめぐる戦争j側と表現している O この時期における社会福祉 政策のイデオロギー性や反福祉的な性格については、すでに多くの研究が なされている O 例えば、ソーシャルポリシーをめぐるラディカルな財政削 減、ウェルフェアの否定とワークフェアへの回帰、家族など伝統的な価値 観の強調など幾つかの特徴を指摘できる O これら一連の新保守主義的な政 策がもたらしたものは、例えばホームレスの激増に象徴される貧富の格差 の拡大であった O その後の「雇用の増加なき好景気J や 1 9 9 2年のロスアン ジェルス暴動は、現在のアメリカ社会を理解するうえでたいへん重要な側 面だと考えられる。 1 9 6 0 年代なかばから 1 9 7 0年代半ばにかけての政策が実践現場 に影響を与え、典型的には 1 9 7 0年代後半以降にヒューマンサービスの提供 前節では、 システム管理論として体系化されていったことに焦点を当てた。しかしな がら、これらとほぼ同じ時期に、アメリカでは社会福祉をめぐる本格的な 政策理論と計画理論が提起され始めた。その背景としては、例えば以下の ようなことが考えられる O まず、ヤンセンも指摘しているように、 1 9 7 0年代は社会支出のノン・イ ンクレメンタルな増加があっただけでなく、その財政規模が連邦政府にお いても比較的大きな比率を占めるようになった O これは、ソーシャルサー ビスないしヒューマンサービスの市場規模の拡大を意味している O その後、 1 9 7 0 年代後半になると財政の伸びは急激に鈍化し、横ばいに転じた後、レー -1 8 1- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) ガン政権以降はラディカルな財政削減が行われることになった O このように、短い期間の問に資源が「急膨張-停滞一大幅削減j を経験 する場合には、資源分配の方法をめぐる理論、典型的には計画論が必要と される O また、ヒューマンサービスの事業や財政の規模が拡大し、政策に よって影響を受ける人々の数が増加すると、この「市場 J はより政治化す るO もとより、社会支出の急膨張、抑制、削減はいずれも政府機構におけ る多元的な意志決定によって実施されたのであるから、社会福祉をめぐる 政策理論の体系化が求められるのはごく自然なことであった O また、 1 9 6 0 年代から 1 9 7 0年代にかけての計画理論や政策科学の発展は、社会福祉にお ける計画論、政策論の発展にも大きく貢献したと考えられる。 2 . ギルパートとスペクトによる政策理論と計画理論の体系化 ニール・ギルパートとハリー・スペクトは、 1 9 7 4年に『社会福祉政策の 諸次元』の初版を公刊した(ヘタイトルに示されているように、本著はソー シャルサービスの提供過程をいくつかの次元に分けて分析する政策理論の 教科書である。彼らの分析枠組みは、 「社会的選択の諸次元 j とでも言う べきものであり、本著は各章がこの枠組みにそって構成されている O 分析 枠組みは、図 2-2のように示されている O Allocation く図 2-2> ギルパートらによる「社会的選択の諸次元j G i lb e r te ta l( 19 9 3 )p. 43 -182- 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) 本書は、この図に示された概念のうち、 V a l u e s,A l l o c a t i o n,P r o v i s i o n, D e l i v e r y,F i n a n c eの5 つを特に重視している O これらの概念は、簡単に言 うと以下のような問いから導き出されたもので、ある。 ギルパートとスペクトによる社会福祉政策の分析枠組み ( D i m e n s i o n s ) 19 9 3 )C h a p t e r2を要約) ( G i l b e r tandS p e c h t( ( 1 ) Values= r なぜ ( Why)J サービスを提供するのか ・社会的選択(政策決定)の前提となる社会的価値判断。 ( 2 ) A l l o c a t i o n =r 誰に (Whom)J サービスを提供するか(どのよう な基準で判断?) ・施策の対象をどのように設定するか。普遍主義か選別主義か。 ( 3 ) P r o v i s o n= r どのような ( What)J サービスを提供するのか(何 のために?) ・金銭か、モノか、サービスか、利用券か。 ( 4 ) D e l i v e r y =サービスを「どのように (How)J 提供するのか(提供 の方法と過程) ・サービス提供システムの設計と組織化。 ( 5 ) F i n a n c e=サービス提供に要する「コストをどのようにして賄う かj ・公的資金、民間資金、利用者負担などの比率。予算編成とその執 行過程など。 つの次元は実際にはお互いに密接に関係し合っていると 著者は、これら 5 する。本書のねらいは、読者に「社会的選択の複雑性j を理解してもらう ことである。したがって、著者は社会福祉政策を一応いくつかの次元に分 けたうえで、それら相互の関係を説明しようとしている O また、著者は社 会福祉においては政策形成過程と政策実施過程が密接に関連し合っている ため、おもに政策の具体的な実施場面に登場するソーシャルワーカーも、 政策について科学的に認識する能力を身につけるべきだと考えている O -1 8 3一 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) なお、著者は前書きにおいて、本著はエヴェリン・パーンズとリチヤー ド・ティトマスの影響を強く受けていると述べている O 確かに、本著には ティトマスが提起した概念が幾度となく用いられている O しかし、それだ けではなく、アメリカの政治学者、行政学者、社会学者、経済学者の研究 成果もまた積極的に取り入れられている O ところで、著者が提起した V a l u e s,Al 1o c a t i o n,P r o v i s i o n,D e l i v e r y, F i n a n c eの5 つの概念は、社会福祉計画の基本的な構成要素ともなりうるも のである O 実際、ギルパートとスペクトは本書の第8 章において計画につい て解説しているが、この部分は計画論としてはややもの足りない内容であ るO 実は、ギルパートとスペクトは、その後、 1 9 7 7 年に本著とは別に、社会 福祉の計画に関する体系的な論文集『社会福祉計画論』閣を刊行しているの である O 本書は、計画に関する基本問題、計画のモデル、計画策定における具体 的な方法、技術などを包括的にあつかった論文集であり、合計 2 7の論文で 構成されている O 寄稿者のなかにはマーティン・レインやアルフレッド・ カーンなどアメリカの代表的なソーシャルポリシー研究者だけでなく、経 済学者フリードリッヒ・ハイエク、社会学者アマタイ・エツィオーニ、行 政学者チヤールス・リンドブロム、政治学者シエリー・アーンスタインな ども名を連ねている O 本書の特徴は、社会福祉計画やコミュニティ・オーガニゼーション理論 の基本問題である「分析的モデルか、相互作用モデルか j を正面にすえて いる点である。まず、合理的な意志決定をめざすアルフレッド・カーンの 計画過程モデルを見てみよう。これは、分析的モデルの計画理論の典型例 と考えられる O カーンは社会計画の過程モデルを、図 2- 3のように示し ている O これに対し、リチヤード・ボランが提示している計画過程の社会的ネッ トワーク・モデルは、相互作用モデルの基本的な考え方を代表するもので ある O 図 2-4のように、社会福祉計画の策定をめぐる相互作用過程には 3つの重要なフェイズがあり、それらをふまえたうえで「意志決定の場の構 -184- 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) 造j に対し多元的なアプローチを構想してくことが重要なのである。 PLANNING INSTIGATORS PROBLEMS-NEEDS-CONCERNS INVESTIGATIONOFWHATI S & WHATW ILLBE ( F a c t s-p r o j e c t i o n s-a v a i l a b l eknowledgemanpower& r e s o u r c ei n v e n t o r y-s a n c t i o n s ) VALUE& PREFERENCESCREEN DEFINTIONOFTHEPLANNINGTASK VALUE,FACTUAL,RESOURCE INTERESTGROUP&POLITICALSCREENS く図 2ー 3> カーンによる社会計画の実践(過程)モデル G i l b e r te t .a l( 19 7 7 )p .8 0 -185- 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) Characterofthe Public Agenda Characterof Decisions t obe Made Environment Interacting Units フェイズ② ClientGroup Value Exchange Ex(:hange r v i c eEx change FunctionalSe Co mmunityI 淑 泊i o n Network Reso~rce' Planner J く図 2-4> リチヤード・ボランによる計画過程の社会的ネットワーク ・モデル G i l b e r te ta l( 19 7 7 )p . 1 6 7ただし、吉原が一部加筆 O これらふたつのモデルにおいては、計画過程におけるプランナーの役割 はかなり異なっている O 例えば、分析的モデルの諸論文においては、社会 的ニードの概念、社会的ニードの測定方法、問題分析の技術、計画策定過 程におけるデルファイ法の活用、プログラム運営や事業評価の方法、ヒュー 応用の可能性などが論じられる。このように、 マンサービスにおける PPBS 分析的モデルは計画過程における方法や技術の側面に焦点を当てている。 これに対し、相互作用モデルの諸論文においては、地域権力構造 (CPS)、 市民参加、政治的多元主義、影響力行使の諸戦略、アドボケート・プラン ニングなどが論じられる O このように、相互作用モデルにおいては、多く の場合、計画は政治過程ないし意図的な社会変革の過程と見られている O ところで、ギルパートとスペクトがイントロダクションにおいて解説し ているように、アメリカでは伝統的に社会福祉計画はコミュニティ・オー ガニゼーションとの関係で論じられてきた。アメリカでは、コミュニティ・ -186- 英米における S o c i a 1P o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) オーガニゼーションはソーシャルワークの専門技術として長い歴史を持つ が 、 1 9 6 0 年代には公民権運動をはじめとするさまざまな社会運動が高まり を見せる一方、政府は市民参加や計画策定をビルトインした都市政策や貧 困対策事業に着手し始めた。こうして、社会計画ないし社会福祉計画がに わかに脚光を浴びることになったのである O ジャック・ロスマンが 1 9 6 8年に提起したコミュニティ・オーガニゼーショ ンの 3 つのモデル「地域開発、社会計画、ソーシャルアクション j は、この ような社会変動をふまえたものである。このロスマンの整理には、本稿で 述べた社会計画の基本問題、すなわち「分析的モデルか、相互作用モデル かJも含まれている O そして、この論点はその後ロスマン以降のコミュニ ティ・オーガニゼーションの理論家、例えばロパート・パールマン(お)にも 引き継がれていくことになるのである。 このように、アメリカにおける社会福祉計画の理論は、他の政策におけ る計画理論、システム理論、政策科学などの助けを借りて体系化が図られ たものである。しかし、同時にコミュニティ・オーガニゼーションをはじ めとするソーシャルワーク理論も社会福祉計画論の体系化に一定の影響を 与えていた O そして、逆にコミュニティ・オーガニゼーションの理論自身 も、この時期以降は計画理論、システム理論、政策科学などの影響を受け て、さらなる理論的な発展が図られることになる O 例えば、 1 9 7 0年代半ば から提起され始めたマクロ・ソーシャルワーク実践論は、この典型例であ る (24)。このように、ソーシャルワーク理論とソーシャルポリシーやソーシャ ル・アドミニストレーションの理論の聞に密接な相互作用が見られるのは、 アメリカの特徴といえよう O なお、ここで取り上げた著作を見ると、ギルパートとスペクトにおいて は政策論と計画論が相互補完的な内容になっているように思われる。どう やら、これらの政策論、計画論に、前節で取り上げたヒューマンサービス の供給システム管理論を加えたものが、アメリカにおける S o c i a lP o l i c y andAdministration研究の全体像といえそうである O 加えて、すでに第一 節で述べた個々の福祉機関や組織の管理論も重要である O そして、全般的 -187- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3 . 31 ) に機関におけるアドミニストレーター(としてのソーシャルワーカー)の 役割や、制度の運営過程における事業管理、財務管理の方法が重視されて いることが、この国の特徴だと考えられる。 3 . 社会福祉政策に関する教科書の発展 このように、政策論や計画論がある程度体系化された後、 1 9 8 0年代にな ると、これらをふまえた社会福祉政策の教科書が数多く出版されるように なってくる O ここでは、リチヤード・サウパーの『ヒューマンサービス提 供システム j C お)と、ダイアナ・ディニットー&トーマス・ダイによる『社 会福祉:政治と公共政策(初版)j側を見てみよう O この 2 冊は、いずれも 1 9 8 3 年に出版されたものである O まず、サウパーの教科書は、タイトルを「ヒューマンサービス提供シス テム J としているにも関わらず、その構成は、第 1章第 2節で取り上げた 英国の伝統的な S o c i a lP o l i c ya n dA d m i n i s t r a t i o nの教科書によく似てい る。例えば、ムリエル・ブラウンの教科書やマイケル・ヒルによる教科書 である。これらは、いずれもソーシャルポリシー全体を貫く課題を整理し た後、所得保障、保健医療、住宅といった個々の政策分野を具体的に解説 するという構成であった O サウパーの教科書は、ヒューマンサービスの提 供システム全般を貫く課題を述べた後、 r 5つのヒューマンサービス j につ いて具体的な記述が行われる。 5 つのヒューマンサービスとは、精神保健、 更生保護( c r i m i n a lj u s t i c e )、保健医療、教育、社会福祉である O これがア メリカにおける代表的な見解なのかどうかはわからないが、これらと英国 における r S o c i a lP o l i c i e s J概念との違いは、住宅政策、雇用政策、所得保 障政策が入っていないことと、精神保健および更生保護が入っていること である。 本書の特徴は、ヒューマンサービスがベルタランフィーの一般システム 理論を援用して分析、記述されていることである O また、いわゆる多問題 家族への対応や小地域を基盤とするサービス提供への指向も見られる O す なわち、ヒューマンサービス提供システムにおける「統合化、連絡調整、ネッ -188- 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration 研究の系譜(吉原) トワーキングj が強調されているわけである O この背景には、著者が現行 のシステムを、バラバラで非効率的であり、専門分化や官僚制化の弊害が 大きいため利用者のニーズとの聞に大きなギャップが生じている、と評価 していることによる O また、後により盛んになる「問題j の生活モデルに よる理解、エコロジカルなパースペクティヴの採用、社会的支援のー形態 としての相互扶助やセルフヘルプ・グループといったことも言及されてい るO しかし、本著は各論部分を 4人の研究者に委ねていることもあって、 分析や記述の枠組みがやや不統ーであり、結論を述べる章を欠くなど著作 としての体系性には疑問がある O ディニットーの著作は、おもに政治学ことに公共政策の視角からの教科 書である。本書の最大の特徴は、社会福祉政策における政治的イシューを 重視し、コンフリクト・モデルによる説明を多用することである O アメリ カにおいては、例えば貧困やヘルスケアをめぐる諸政策は、国民各層の価 値観に根ざしたものであり、重要な政治的争点である O この意味で、ディ ニットーの立場はソーシャルポリシーのイデオロギー性を論じた英国の研 究者たちに近い部分がある。また、ソーシャルポリシー論の教科書として は、カレントな政策的争点を扱ったキャスリーン・ジョーンズのものに近 い。なお、共著者であるトーマス・ダイは、公共政策を専攻するアメリカ の政治学者で、彼の政策過程モデルは我が国でもよく知られている制。こ のように、政策科学の専門家が執筆していることもあり、本書では政策の 実施過程と評価過程が重視されており、これらの課題を合わせて扱う章が 設けられている O 著者によれば、社会福祉政策は基本的に政策対象(例えば貧困者、障害 者、老人)の状況に関する政治的選択の問題である O したがって、その国 における諸価値の間の抗争やコンフリクトがそのまま映し出される O 社会 福祉政策は、常に貧困や不平等をめぐる政治的闘争 ( p o l i t i c a ls t r u g g l e )の 結果である。したがって、政策決定をめぐる議論に参加する者は、政策目 標、問題の定義、問題解決の戦略、改革案を含む具体的な政策パッケージ やプログラムなどをそれぞれ異にしているのである。 -189- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) 本著は、社会福祉政策における主要な 1 6のプログラムを取り上げている O これらのなかには社会保険、生活保護、失業補償、食糧切符、精神保健、 職業訓練、職業リハビリテーション、ヘルスケア、高齢者や児童へのケア サービスなどが含まれている。各プログラムについて歴史、最近の動向、 現在の問題点、今後の見通しなどが分析されている O なお、本著はレーガ ン政権下で執筆されたため、その福祉改革の性質についても詳しく言及さ れている。また、本著は「レイシズムとセクシズム j に特別に 1章を割い ている点がユニークである O これは、アメリカにおいては基本的な政治的 イシューであるし、レーガン政権下では、ことにその重要性が増したので ある O 4 . ヤンソンによる政策実践論の提起 テネシ一大学の平山尚らは、レーガン政権下における社会福祉政策を分 析した論文慨において、福祉理念の転換、福祉財政のラディカルな削減と いう厳しい環境は、アメリカのソーシャルワーカーたちに新たな戦略の開 発を強いたと述べている O 平山は、ソーシャルワーカーにより一層求めら れる役割として、地域社会のニードの明確化、ニードを持つ住民の声の代 弁、福祉プログラムの効果測定、福祉財源の十分性を確保するための政治 的活動、の 4つを例示している O これらは、地方政府、州政府、連邦政府 のいずれのレベルにおいても求められる。 では、平山が示したソーシャルワーカーの諸機能を統一的にとらえうる 実践パラダイムは開発されたのだろうか。ブルース・ヤンソンの『社会福 祉政策:理論から実践へ』閣は、新たに「政策実践( P o l i c yP r a c t i c e )J と いう概念を提示してこの間いに答えようとしている。彼の「政策実践J概 念は、本章の第 2節でふれたジョン・トロップマンの「政策経営(P o l i c y Management)J 概念と同様に、まだ試論の域を出ていない面がある O しか し、本著はこれまでの研究を継承しつつ発展させようと試みた意欲的なも のであり、かっ体系的な著作で、あるので、簡単にふれておきたい。 ヤンソンは、レーガンおよびブッシュ政権による福祉改革という現実を -190一 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) 直視するにつれ、ソーシャルワーカーたちが政策の形成、決定、実施、事 後評価といった一連の過程にもっと意識的かっ積極的に参加すべきだと確 信するようになった O これまで、アメリカのソーシャルワーク実践のパラ ダイムには、政策決定過程と距離をとろうとするいくつかの神話があった。 しかし、もはや倫理的にも、職業倫理のうえでも、職業上の具体的な利害 からも、ソーシャルワーカーは政策過程に参加することを求められている O また、システム理論やエコロジカル視角の影響を受けた新しいソーシャル ワーク理論は、いずれも環境との相互作用を重視するが、政策は環境の重 要な一部分なのである O すでに第 1章で取り上げたヴェロニカ・コールシェッドは、 「すべての ソーシャルワーカーはマネージャーである J と述べたが、ヤンソンは本著 において「すべてのソーシャルワーカーは、政治過程に意識的かっ積極的 に関わるべきだj と主張している O 本書の結論にあたる最終章のタイトル は 、 「政策実践を専門職の役割に統合する J である O ヤンソンは、本著に よって、多くの専門職ソーシャルワーカーたちが政策実践を業務に組み込 むことを求めているのである O ヤンソンによれば、ソーシャルワーカーを含む政策実践者 (Policy Prac t i t i o n e r )が政策の改善やより効果的な実施をめざす政策実践を行うには、 政策過程のあらゆる段階において、分析的技能、政治的技能、相互作用的 技能、価値観明確化技能、という 4つの技能を活用する必要がある。分析 的技能と相互作用的技能は、すでにギルパートとスペクトが計画論におい て提示したものに似ている O 相互作用的技能においては、ネットワーキン グ、説得、交渉、仲介、集団の活用などの手法が述べられている。政治的 技能においては、政治的戦略の開発が重視される O 価値明確化技能は、政 策選択の前提となる倫理的あるいはイデオロギー的問題を取り扱う O ところで、政策実践者は政策過程の各段階において「政策タスク J を担 うことになる O ヤンソンは、 6つの政策タスクについて、政治学や公共政 策における政策過程モデルを援用して次のように述べる O すなわち、①ア ジェンダ設定、②問題の定義、③政策オプションの作成、④政策の決定 -1 9 1- 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) C e n a c t i n g )、⑤政策の実施、⑥政策の事後評価、である。これらを審議過 程の観点から眺めたのが、図 2-5であり、それぞれの段階における政策 タスクを示したのが、図 2-6で、ある O 本書の構成上の特徴は、特別に「政策の実施 j に 1章を割いていること である。政策実施過程の複雑さ、その分析枠組みや諸次元、規定要因、政 策革新C P o l i c yI n n o v a t i o n )との関係、政策実施過程における障壁C b a r r i e r s ) と対処方法などが述べられており、豊かな内容となっている。このように、 ヤンセンの政策実施論は、マクロソーシャルワーク理論、社会福祉政策論、 社会福祉計画論に、本章の第 2節で取り上げたサービス供給システム管理 論とはやや視点が異なる行政学、政治学の「政策実施理論(Imp lement a t i o n T h e o r y ) J を加えたものであると見ることができる O 政策実施過程は、管理科学や経営学によって説明できる部分も少なくな いが、ヤンソンはむしろ、これが本質的には政治一行政過程であることを 重視して議論を展開している。レーガンおよびブッシュ政権下においては、 連邦だけでなく州や地方政府の財政も厳しくなっていた O 資源の制約が大 工 : CONTEXTUAL FACTORS: CONSTRAINTS 二l FLOW OF DELIBERATJONS Processing o fl h eI s s u巴 Presenling P o l i c yI s s u e o rP ro blem • which proposals a l e consid巴redワ . •t h e sequence o f a t i o n s d e l i b巴r • patlernso fi n t e r a c t i o n c o n f l i c torcooperalion • patlerns o fp a r t i c i p a t i o n orwithdrawal EnactlumL ' i • whowins or l o s e s ? Implementation andA s 盟 国ment o fEnacted P o l i c i e s CONTEXTUAL FACTORS: OPPORTUNITlES く図 2-5> r 審議過程としての政策過程モデル -192- Ja n s s o n( 1 9 9 0 )p . 3 4 英米における S o c i a 1P o l i c yandAdministration 研究の系譜(吉原) CONTEXTUAL FACTORS: CONSTRAINTS ーー一一回ー+ 幽 嗣 - ・E ・園圃ーー令 CONTEXTUAL FACTORS: OPPORTUNITIES く図 2-6> r 審議過程における 6つの政策タスク j Jansson ( 1 9 9 0 )p . 2 9 2 きいなかで福祉プログラムをめぐる利害対立が先鋭化、政治化した状況に おいては、ヤンソンの政策実践論はかなりのリアリティを獲得しうるよう に思われる。今や、これらは、現場のソーシャルワーカーたちに必要とさ れる「実践知Jの一部を構成しはじめたのである。 注(第 2章) (1) BruceJansson, “ TheR e 1 u c t a n tW e l f a r eS t a t e(2nd e d i t i o n ) ",Brooks &C o 1 eP u b 1 i s h i n gCompany,Wadsworth,1 9 9 3 . (2) この傾向も、今日なお変化していない。例えば、レスター・サラモン著、入山映訳 9 9 4年。を参照されたい。 『米国の非営利セクタ一入門』ダイヤモンド社、 1 (3) ウォルター・トラットナー著、古川孝順訳『アメリカ社会福祉の歴史.n)1/島書店、 1 9 7 8 年 。 (4) アメリカでは、この A d m i n i s t r a t i o ni nS o c i a 1 Agencyという概念は、非常に 伝統的なものである。アメリカにおけるソーシャルワーク関係の辞書や事典でも、 - 193- 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) この概念を扱ったものは少なくなし ' 0なお、 Adminisitration within Social Agencyと表現される場合もある。 (5) ハーレイ・トレッカ←著、今岡健一郎監訳『新しいアドミニストレーション』日本 YMCA同期出版部、 1 9 7 7年 o Ha r 1e i g h Trecker,"New Understandings o f s s o c i a t i o nP r e s s,1 9 6 1 . Administration", A (6) 1 9 6 0年代以前のコミュニティ・オーガニゼーション理論と 1 9 6 0 年代以降の理論につ いては例えば以下を参照されたい。マレー・ロス著、岡村重夫訳『コミュニティ・ オーガニゼーション・理論、原則と実際』全社協、 1 9 6 8 年。定藤丈弘「アメリカに おける最近のコミュニティ・オーガニゼーションの動向については)J社 会 事 業 史 研究会『社会事業史研究』第3 号 、 1 9 7 5年。および同著「同 ( 2) J 社会事業史研究会 『社会事業史研究』第4 号 、 1 9 7 6年。高田真治「アメリカでの歴史」高森敬久ほか編 著『コミュニティ・ワーク』海声社、 1 9 8 9年。 (7) RexSkidmore," S o c i a lWorkAdminisitration DynamicManagement r e n t i c eHall,1 9 8 3 . andHumanR e l a t i o n s h i p s ",P (8) RobertC l i f t o n& AlanDahms,"GrassrootsA d m i n i s i t r a t i o n:A Hand bookf o rS t a f fandD i r e c t o r so fSmal 1 Community-basedS o c i a lS e r v i c e Agencies",Brooksand C o l eP u b l i s h i n g Company,Monterey,C a l i f o r n i a,1 9 8 0 . (9) SimonS l a v i n( e d . )," S o c i a lA d m i n i s i t r a t i o n TheManagemento ft h e o u n c i lonS o c i a lWorkEducation,HaworthP r e s s, S o c i a lS e r v i c e s ",C 1 9 7 8 . ( 10 ) MurrayGruber( e d . ),"ManagementSysytemsi nt h eHumanS e r v i c e s ", TempleU n i v e r s i t yP r e s s,1 9 81 . ( 1 1 ) WalterE h l e r se ta, . l " A d m i n i s i t r a t i o nf o rt h eHumanS e r v i c e s An I n t r o d u c t o r yProgrammedT e x t ",Harper& RowP u b l i s h e r s,1 9 7 6 . ( 12 ) D i e t e rGrunowe ta , . l " W e l f a r eo rBureaucracy? " , O e l g e s c h l a g e rGunn & HainP u b l i s h e r s/ Ver 1agAntonHain,1 9 8 0 . ( 13 ) RexSkidmore," S o c i a lWorkAdminisitration DynamicManagement r e n t i c eHall,1 9 8 3 . andHumanR e l a t i o n s h i p s ",P -194- 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration 研究の系譜(吉原) ( 14 ) ArtKnightone ta, . l " A d m i n i s i t r a t i o no ft h eHumanS e r v i c e s :A P r a - n i v e r s i t yo fMichiganP r e s s,1 9 8 3 . c t i c a lWorkbookf o rManagers",U ( 15 ) JohnTropman," P o l i c yManagementi nt h eHumanS e r v i c e s ",Colum- b i aU n i v e r s i t y P r e s s,1 9 8 4 . ( 16 ) BernardNeugeboren," O r g a n i z a t i o n,P o l i c yandPr~ctice i nt h eHuman S e r v i c e s ",Longman,1 9 8 5 . ( 17 ) 我が国でこの概念を検討した業績として、嶋田啓一郎「ヒューマンサービスの理論」 9 8 8 年 。 福田垂穂ほか編著『福祉と関連サービス』中央法規、 1 ( 18 ) MyronWeiner,"HumanS e r v i c e sManagement( 2 n de d i t i o n ) ",Wads- worthP u b l i s h i n gCompany,1 9 9 0 .なお、初版は 1 9 8 2年 。 ( 19 ) BruceJansson,"TheR e l u c t a n tWelfareS t a t e(2nd e d i t i o n ) ",Brooks &C oleP u b l i s h i n gCompany,Wadsworth,1 9 9 3 . Chapter1 1 . ( 2 0 ) WalterT r a t t n e r,"FromPoorLawt ot h eWelfareS t a t e( 5 t he d i t i o n ) ", TheFreeP r e s s,1 9 9 4 . Chapter 1 6 . ( 21 ) 筆者は、 1 9 9 3 年に出版された第3 版を参照した O なお、著者は第3 版の前書きにおい て、政策の大きな変動にもかかわらず、本著の理論枠組みは初版からほとんど変化 e i lG i l b e r te ta1 . . "Dimensions o fS o c i a l Wel・ していないと述べている。 N f a r eP o l i c y( 3 r de d i t i o n ) ",P r e n t i c eHall,1 9 9 3 . ( 2 2 ) N i e lG i l b e r tandHarryS p e c h t( e d . ),"Planning f o rS o c i a lW e l f a r e ", P r e n t i c eHall,1 9 7 7 . ( 2 3 ) ロパート・パールマン&アーノルド・グリン著、岡村重夫監訳『コミュニティ・オー ガニゼーションと社会計画』全社協、 1 9 8 0年。なお、原著は、 RobertPer 1man andArnoldGurin,"CommunityOrganizationandS o c i a lPlanning", JohnWileyandSons,1 9 7 2 . ( 2 4) 詳しくは、定藤丈弘「コミュニティ・オーガニゼーションの理論枠組みの発展」 『社会福祉研究』第4 3号 、 1 9 8 8 年。同「コミュニティ・オーガニゼーションの実践 モデルの検討 J r 地域福祉研究』第 1 7号 、 1 9 8 9年 。 ( ω 2 5 幻 ) RichardSauber 仁 川 勺 " 寸 T 、 h eHumanS e r v i c e sD e l i v e r ySystem U n i v e r s i t yP r e s s,1 9 8 3 . にU Qd 1i 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) ( 2 6 ) DianaD i N i t t oandThomasDye," S o c i a lWelfare :P o l i t i c sandP u b l i c P o l i c y ",P r e n t i c eH a l l,1 9 8 3 . ( 2 7 ) ダイの政策過程モデルについて、例えば、曽根泰教『現代の政治理論』日本放送出 版協会、 1989 年、 135~ 1 3 8ページを参照。 ( 2 8 ) 平山尚ほか「レーガン政権下の社会福祉政策」日本社会福祉学会『社会福祉学』第 2 3巻2 号 、 1 9 8 2年 。 ( 2 9 ) BruceJansson," S o c i a lW e l f a r e. P o l i c y From Theoryt oP r a c t i c e ", Wadsworth,1 9 9 0 . 第 3章 英国と米国における系譜の比較から得られる知見 一両国における研究の系譜の構造と理論の特徴(固有性) 第 1節英国における系譜の構造 英国における研究の系譜を、大まかな時期区分をもとに簡単な年表にま とめたものが図 3- 1である O 次に、これをもとに研究の系譜相互の論理 的な関連づけを試みたのが図 3-2である O 以下、これらを活用しながら、 発見したことを述べてみたい。 まず、英国における研究の系譜はティトマス的パラダイムの「継承、批 判、展開、離脱Jであるととらえることが可能である O まず、 1 9 6 0 年代後半 より盛んになった教科書の整備や諸概念の検討は、ティトマスが提示した ものを継承しようとした O 次に、 1 9 7 0年代半ば以降に登場するソーシャル ポリシーのイデオロギ一分析は、ティトマス的パラダイムがあいまいにし ている点や暗黙の了解事項としている論点をとらえ、批判的に議論を展開 した。ここでは、ティトマスが批判されたことが重要なのではなく、ひと りの論者として相対化されたことが重要である。そして、自治体社会サー ビス部の研究、国際比較研究、福祉多元主義とサービス供給効率化、とい う 3つの研究の系譜は、いずれもティトマスが提示した論点を敷街し、実 証研究によって具体的に展開しようと試みたものである。しかし、福祉多 -196- 1 9 6 0 年 ーマス 1 9 9 0 年 1 9 8 0 年 1 9 7 0 年 年 1 9 9 5 SJF-1cy i │ o n 研岡究の山成立マス貼 q 泌c i a lP o l i c va n dA d m i n r s t u a 1 ! J 1 0 年地方自治体社会サー ピス法 ③自治体社会サービス部の組織研究 ワ - H C斗 │ i ④政策のイデオ ギ一分析 ーーーーーー--------) 1 9 7 9年サッチ ャー政権誕生 0 9 9 2年まう ヨミ~êヨ 1 9 6 9 コミュニティ・ディベ ップメント事業開始 地方 材政危機の深刻化 ? 1 9 7 8年 ウ 羽 ルフェンデン報告 ⑤福祉の混合経済論とサービス効率化論 ーーーーーーーーーーーーー-l> 1 9 8 2年パークレイ事告 1 9 8 8年グリフィ ス報告 1 9 8 9 年l重 法 1 9 9 (年問S 及びコミュニティ ア 法 ⑥国際比較研究の増加 ーーー-l> ⑦諸改革後の業務管理論 く図 3-1> 英国における研究の系譜に関する年表 吉原雅昭作成 ( 1 9 9 6年) 湘涛打針与が∞ Oのん包同 MO ︼仙の可印ロ門戸﹀円四日ルEEgt。ロ唱滞3剰融(時間判﹀ ②よ科書の整備と諸概念の検討 1 9 6 8年シーオ ーム報告 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3 . 31 ) ① テ ィ ト マ ス に よ る おc ial Policyand Adminisitration研究の体系イヒ -ソ-:/ヤノレワーカー 養成への社会的要請 .分析枠組の明値化を 図る必与害性 .t 比半J I -実証研究へ ②湾主干ヰ書の整備と諸慨合:の検討ー -研究方法の発展+研究の必要桂信曽大 元主義とサービスりほ合効率化 A. 資 源 分 配 過 程 へ の 着 目 B. マ ネ ー ジ メ ン ト E 竪命の業務への活用 C. サ ヒ ス 供 給 の 効 率 化 D. 福 祉 多 元 主 義 と 民 営 化 -収数 一-è> cm高改革後の業務官1~命 く図 3-2> 英国における研究の系譜に関する構造図吉原雅昭作成(19 9 6 年) 元主義が政策によって民営化にシフトし、財政的理由からサービス供給の 効率化やマネージメント理論が強調されるにつれ、英国の S o c i a lP o l i c y andA d m i n i s i t r a t i o n研究は明らかにティトマス的パラダイムから離脱し はじめた o 1 9 9 0年代における最も特徴的な研究の系譜は諸改革後の業務管 理論であるが、ここでは、ソーシャルワーク理論や倫理などよりも、むし ろ「管理職(経営者)としての実行能力j が問われている O また、これ以前 の研究においては多くの著作にティトマスが引用されていたのに、諸改革 後の業務管理論ではほとんど引用されていなし、。 次に、制度環境や政策との関係を見ょう。とくに重要なのは、シーボー ム改革、サッチャ一政権による福祉改革、 1 9 8 0年代なかば以降の地方財政 の危機、の 3つで、あると考えられる O これらは、明らかにその後の英国に おける研究の系譜を規定している O まず、シーボーム改革は、自治体社会 サービス部の業務や組織をめぐるさまざまな研究を生み出した O サッチャー -1 9 8一 英米における S o c i a lP o l i c ya n dA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) 政権による福祉改革は、政策のイデオロギ一分析の必要性を高めた O そし て最後に、 1 0 年以上の長期にわたる地方財政危機とサッチャ一政権末期の 諸改革は、強いサービス効率化ドライブと危機管理的な業務管理論を生ん だ 。 では、研究の系譜問相互の論理的な関連はどうであろうか。教科書の 整備や分析概念の明確化が一定図られた後、英国では自治体社会サービス 部の業務と組織に関する実証研究と、政策のイデオロギ一分析に研究が二 極分化する。その後、伝統的な自治体社会サービス部研究への批判として 福祉多元主義が提起される O そして、サッチャ一政権による福祉改革と地 方財政危機はサービス供給効率化を最重要課題に押し上げ、最終的には経 営学を活用した社会サービス部の業務管理論へと、ある種の収散を見せる のである。 最後に、関連諸科学と S o c i a lP o l i c y and A d m i n i s t r a t i o n研究の関係に ついて見ておこう o S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の学際性につ いては、既にティトマスのところで簡単に解説した O ティトマス以後の動 向を見ると、いくつかのことに気づく O 特に、英国において非常に豊かな 蓄積を持つ自治体社会サービス部研究についてである。これらの研究にお いては、すでに指摘したように、 1 9 7 0年代後半以降、資源分配過程、サービ ス供給主体の多元化、マネージメント理論の導入、サービス供給の効率化、 民営化、規制緩和といったテーマが頻繁に論じられる O ところが、これら はいずれも同じ時期に行政学を中心とする英国の政策科学 ( p o l i c ys t u d i e s ) や地方自治研究Clo c a lgovernments t u d i e s ) でも重視されていたのであ るO もとより、英国ではシーボーム改革以降、行政学や地方自治研究と S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究が接近しつつあったが、 1 9 8 0年代 になるとこの傾向はより強まった ω。また、 S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a - t i o n研究において国際比較が増加していることも、この背景と関係がある ように思われる。政策科学や地方自治研究においては、国際比較は最も重 要な研究方法のひとつであるし、それらは新たな分析枠組みや概念を生み 出してきたのである。 -199- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) 第 2節 米 国 に お け る 系 譜 の 構 造 米国における研究の系譜を、大まかな時期区分をもとに簡単な年表にま とめたものが図 3-3である。次に、これをもとに研究の系譜相互の論理 的な関連づけを試みたのが図 3-4である O 以下、これらを活用しながら、 発見したことを述べてみたい。 まず、米国における研究は社会福祉機関の管理職に必要な実践知として スタートしており、英国に比べるとソーシャルポリシーの理論化や体系化 は遅かった O また、連邦国家であり、州ごとに地方政府の構造や形態に多 様性が大きいことから、一般的に言って、英国における自治体社会サービ ス部のように研究対象が明確に焦点化されることもなかった O むしろ、米 国の場合は、政府機関でも民間機関でも、大規模組織で、も小規模組織で、も、 異なる州法やローカル・ルールのもとでも、精神保健でも保育でも、活用 し得るようなノウハウないしソフトウエアの開発が求められた O アメリカ における研究は、いずれもこのような要請に十分こたえうるものとなって いる O 次に、米国においては S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n 研究とソーシャ ルワーク理論の関係が緊密で、ある点に特徴がある O 初期においてはソーシャ o c i a lP o l i c y and A d m i n i s t r a t i o n研究 ルワーク理論の体系化が先行し、 S に影響を与えた面が大きいが、その後は、お互いに影響を及ぼし合うよう になりつつある O 例えば、社会福祉機関の運営管理論の源流には、既に体 系化されていたグループワーク、コミュニティ・オーガニゼーション、コ ミュニティ・リレーションズ、スーパヴィジョンの理論があった。また、 米国におけるアドミニストレーション論のもうひとつの源流は、ソーシャ ルワーカーの教育、訓練カリキュラムやソーシャルワーク管理職の業務を めぐる議論である O その後も、コミュニティ・オーガニゼーションにおい て社会計画モデルやソーシャルアクション・モデルが提起された時期と政 策論や計画論が大きな進展を見せた時期は重なっている。また、近年はマ クロソーシャルワーク論との関係も非常に重要である O 制度環境や政策との関係においては、図にも示したように 1 9 6 0年代半ば ∞- -2 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) 昨 l 蜘年 l 鈎昨 1 9 8 昨 1 9 9 拝 ? 連邦およ訓務相土創構プログラム駄 l附 シ ヤ 削 ク 噛 肘ピス醐 対@ヨ J w z レ 一 ーーーL- く図 醐よる脚 ーと剛 一一ク哨 │上 i 3-3> 米国における研究の系譜に関する年表 吉原雅昭作成(19 9 6年) E 「一一一一一一一一一一ソーシャルワーク管担聖職の業務とは何か ーート一一一一一一一一一一コミュニティ・オーガニゼーションとコミュニティ・リレ一戸ョンズ ソ ー シ ャ ノ レ ワ ー カ ー の 孝T育 、 副 昨 康 、 ス ー ノ 守 ヴ ィ ジ ョ ン Gコ.Kf,男社会キ扇和上牧鱈羽の逗雪営守事璽雪命 連 邦 政 府 に よ る 社 会 福 祉 プ ロ グ ラ ム のt L たた ! ・ヒューマンサービス論 福祉行政組織向役割の変化 ②〉ヒューマンサービスのま是供システム管ま理論 ・組緒主玉虫論や経営学の貢献 (ex)サ イ パ ネ テ ィ y ク ・ マ ネ ー ジ メ ン ト . プ ロ グ ラ ム 管F 理や財砂野雪理の方法論 (ex)費 用 便 益 伝 子 + 斤 、 プ ロ グ ラ ム 予 算 ゼロベース予算革、目標による笥王里 社壬主的選択の王唇命(疋対台学〉 ↓ Q;ヰ士妥当扇祉政策論の体系化 コミュニティ・オーガニゼーション王!翠命の発展 一 一 一 一 l 一一一一一一一@芥士会福祉計f 時命の体系化 引土会福祉企文策をめぐる奪跡斗書の整備 論 -マクロソ シャノレワーク辺E -iJ;乞策立訪包のた髭命(干訂改今七〉 ・ レ ー カ ン お よ び ブ y シ ュ E財 程 に よ る 福 祉 改 革 百涯定策実民主五命の提起 く図 3-4> 米国における研究の系譜に関する構造図吉原雅昭作成 ( 1 9 9 6 年) -201- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3 . 31 ) から 1 9 7 0年代半ばにかけての連邦政府による社会福祉プログラムの拡大と、 レーガンおよび、ブッシュ政権下における福祉改革が重要である。前者がな ければ、さまざまなヒューマンサービスの提供システムの管理方法に関す る研究は生まれなかったであろうし、政策論や計画論の体系化はもっと遅 くなったであろう。また、既に述べたように、ブルース・ヤンソンの政策 実践論は、レーガンおよびブッシュ政権下における福祉改革に対抗しうる ソーシャルワーク実践を模索するなかで提起されている。 関連諸科学と S o c i a lP o l i c ya n dA d m i n i s t r a t i o n研究の関係を見ると、 組織理論、経営学、行政学、政治学、公共政策理論、政策科学などの影響 を非常に強く受けているように思われる。これらが、いずれも米国におい て最も豊富な理論的蓄積がなされた科学であることは偶然とはいえないで あろう。また、英国に比べて、影響を及ぼした関連諸科学の種類も多いよ うである。これは、むしろ、関連諸科学における一流の研究者たちが社会 福祉政策とその実施システムを興味深い研究対象ととらえ、折にふれて積 極的に論じたと見るべきであろう。ピーター・ドラッカ一、チャールズ・ リンドブロム、アーロン・ウィルダフスキー、マイケル・リプスキー、ア マタイ・エツィオーニなど各分野における一流の研究者たちがいずれも 1 9 7 0 年代後半に社会福祉の実施システムに関する論考を残しているのは、この 時期における課題の重要性を物語っている O 最後に、研究の系譜間相互の論理的な関連について考察しておきたい。 すでに述べたように、米国において最も豊かな蓄積がなされたヒューマン サービスの提供システム管理論は、民間社会福祉機関の運営管理論が発展 したものである。したがって、このふたつの系譜は共通性が高い。次に、 本稿で取り上げたギルパートとスペクトにおいては、社会福祉の政策論と 計画論は相補的なものであった O 近年提起されている政策実践論は、この 政策論と計画論に、マクロソーシャルワーク理論の一部と政策実施の理論 を加えたものと考えられる O では、社会福祉機関の運営管理論やサービス提供システムの管理論と政 策論および、計画論の関係はどのようなものであろうか。最もマクロで、か -202- 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) つファンダメンタルな社会的選択の問題を扱うのが政策論であり、最もミ クロに近い実践的課題を扱うのが機関の運営管理論であることは、ほぼ明 白で、ある O この両者のほぼ中間に、メゾ・レベルの課題を扱う研究領域と して、計画論とサービス提供システムの管理論を位置づけることができ るヘ S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s i t r a t i o n研究を体系的に発展させて行く には、これら 3つのレベルを包括的に視野に入れる必要がある O それぞれ のレベルの研究をバランス良く蓄積していく事が望ましいし、それぞれの レベルの研究をお互いに論理的に関連づけていく必要もあろう O 第 3節両国における理論の特徴と差異 この研究に着手するまで、筆者は英国と言えばソーシャルポリシーの理 論、米国と言えば社会福祉機関の運営管理論という、なかばステレオタイ 1 9 6 0年代から今日に至る研究 プ化されたイメージを持っていた O しかし、 をやや系統的にレビューしてみると、このようなイメージだけでは不十分 なことは明らかである O 米国にも政策理論はあるし、英国では機関の経営 が論じられていないわけでもなし ¥0 1 9 6 0年代以降の約 3 0年間を通して見る と、いずれの国においても、登場する順序や分析視角などに違いはあるも のの、①マクロな政策理論、②サービス提供システムの運営管理論、③ 個々の機関や組織における経営論(業務マネージメント)、の 3つが存在 するのである O なお、一言付け加えると、 「福祉多元主義とサービス供給 効率化j に分類された英国の研究は、内容的には米国におけるサービス提 供システム管理論や社会福祉計画論の一部に近いものが多い。 そして、両国とも、これらのうちで中間領域にあたるメゾ・レベルの研 究に最も豊かな蓄積が見られる。 例えば、英国における自治体社会サービ ス部の研究、計画や財務管理を含む米国のヒューマンサービス提供システ ム管理論(ことにプログラム管理の理論)である O このうち、米国の研究 は、経営学や組織理論および計画理論などの管理科学の影響をより強く受 けているようである O しかし、この傾向は最近英国でも強まりつつある O また、近年はどちらの国においても、 S o c i a lP o l i c y and A d m i n i s i t r a - -2 0 3 - 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) t i o n研究全般を通して、政治学や行政学などの政策科学との接点が拡大し ている。とくに、英国では伝統的には地方自治研究、最近は公共セクター 経営論との関係が強まりつつある O なお、社会福祉をめぐる政治過程は、それ自身が重要なイデオロギ一過 程でもあるので、ソーシャルポリシーのイデオロギ一分析は大切な課題で ある O 政策によってサービス・プログラムが拡大される時期であれ、削減 される時期であれ、政策のイデオロギーは問われるからである。マーガレッ ト・サッチャーとロナルド・レーガンは、いずれも新保守主義の政治家で あったから、 1 9 8 0年代に入ってこういった視角からの研究が盛んになるこ とはごく自然なことであった O 米国にこの種の研究が無いわけではないが、 英国においてより顕著である理由は、いくつか考えられる。ひとつは、研 究におけるティトマス的伝統が、ソーシャルポリシーにおける価値判断 (例えば、選別主義と普遍主義)を重要なテーマとしていたことである O も うひとつは、政治的な理由である。伝統的に保守党と労働党のイデオロギー の違いは、米国における共和党と民主党の差よりも大きかった O このため、 幾度かの政権交代を経験している両国ではあるが、政策のイデオロギー性 が政治家によって増幅される傾向は英国の方がより大きかったと考えられ るのである。 最後に、両国における最近約 3 0年間の研究の系譜を、その「流れJ に注 目して、ひとつの傾向を指摘してみたい。やや大胆な見解になるが、筆者 0年間において、英国の研究は徐々にアメリカ化し、米国の研究は はこの 3 ややイギリス化しつつあると考えている O いわば、両国における研究の系 譜は、接近ないし収散しつつあるのである。 英国の理論は、ティトマスに見られる体系的な政策理論から始まったが、 その後、自治体社会サービス部の研究、福祉多元主義、サービス供給効率 化へと研究の重点が移り、 1 9 9 0 年代には財政危機、民営化、制度改革とい う環境のなかで、危機管理的な業務管理論へと収散しようとしている O 今 や、伝統的に英国の研究が持っていた広く豊かな視野は失われ、諸改革を 何とか乗り切るために必要な実践知だけが研究に求められている。ひとこ -204- 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) とで言えば、英国における研究は政策理論からマネージメント・テクノロ ジーへと視野が狭まりつつあるように見える O 逆に、米国では民間社会福祉機関の経営から、サービス提供システムの 運営へ、そして政策理論の体系化、ソーシャルワーク実践への応用へと研 究の視野が拡大傾向にある。ただし、米国の場合これが視野の拡大なのか、 それとも関連諸科学の影響の増大による研究の拡散を意味するのかは、疑 問の残るところである O ともかく、このように、それぞれの研究の系譜が 登場する順番は、英国と米国ではほぼ逆になっているのである O こういったある種の収散が起きた理由は、はっきりとはわからない。ひ とつは、これまで述べてきたような、両国における制度環境や政策の変化 である O もうひとつは、本章でもしばしばふれたような、関連諸科学との o c i a lP o l i c yandA d m i n i s i t r a t i o n研究における インターフェイスを含むS 知的環境の変化である。すなわち、どのような研究者が、どのような問題 意識を持ち、どのような研究方法で課題にアプローチしていったかは、両 国の間において幾分か異なる面があった O このほかに、両国における研究 の間の影響や相互作用も考えられるが、これは、残念ながら本研究ではほ とんど明らかにすることができなかった O 注(第 3章) (1) 例えば、英国の行政学、政策科学、地方自治研究に関する学術雑誌における社会福 祉関係の論文の多さには目を見張るものがある。これらの学術雑誌のうち、筆者が u b l i cAdminisitration、LocalGovernment よく参照するものを 5つあげる oP o l i c yMaking、P o l i c yandP o l i t i c s 、P u b l i c S t u d i e s、LocalGovernmentP MoenyandManagemento (2) 実は、ヒューマンサービス供給システムの管理論と、本稿で取り上げた社会福祉計 画論は、論理的な構造が非常によく似ている。分析の視角や方法においては異なる 面も少なくないが、対象とする事象はほぼ同じであり、このふたつの研究の系譜は、 いわば、コインの裏表の関係にあると見ることもできる O -205- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3 . 31 ) 第 4章 第 1節 我が国における研究との関係についての若干の考察 我が国における研究の系譜の探究にむけて 我が国には、これまで見てきた英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i - s i t r a t i o n研究と比較することが可能な研究の体系が存在するのであろうか。 筆者は本稿の執筆に際して、社会福祉における「運営j 、 「経営j 、 「マネー ジメント J、 「組織J、 「行政j と し 1ったキーワードで和文単著の検索を行っ てみたが、本稿の趣旨にそってレビューを行う必要を底じる文献をあまり たくさん発見することはできなかった O したがって、残念ながら我が国に おける S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s i t r a t i o n研究の系譜や論理構造を包括的 に整理することは将来の課題とせざるをえなし」以下は、前章までの作業 と今後の作業をつなぐうえで最低限ふれておく必要があると考えた、我が 国のいくつかの研究について簡単に論じてみたい。取り上げるのは、重田 信一のアドミニス卜レーション論、高沢武司の社会福祉管理論、三浦文夫 の社会福祉経営論、永田幹夫の福祉組織化論である。 1.重田信一のアドミニストレーション論 我が国において、おもに米国のアドミニストレーション概念を社会福祉 研究に取り入れ、独自の福祉施設管理論と社会福祉運営論を体系化しよう とした最初の論者は、重田信ーである ω。彼は、本稿があまり取り上げなかっ た1 9 6 0 年代以前の米国におけるアドミニストレーション論を学び、つつ、我 が国における実践現場との交流のなかで自らの理論を構築していった O す でに 1 9 5 2年の段階において、彼が社会福祉施設の経営における「民主化と 能率向上Jの重要性を指摘していたことは有名である O 重田は、社会福祉 施設の運営管理を論ずる際に「施設ぐるみの福祉活動j を重視する立場か ら 、 「運営j を「福祉施設の目的達成に向かつての直接的機能と、その直 接的機能を維持発展させる間接的機能を包合したもの J と定義していた O また、 「経営j は基本的には組織活動を方向づけることであり、具体的に は「その組織の基本目標を決定し、その目的を達成するのに必要な資源・ -206- 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) 職員を整え、その組織活動を促進する運営責任者(施設長)を選定し、さ らに組織活動が順調に展開できるよう建物設備の保全、あるいは対地域関 係の調整等について根幹となる諸方針を設定するなど運営の基礎固めに努 めること J と定義されている O 重田が、アドミニストレーションの定義や理論史を除く実証研究におい て取り上げた課題は 4つある O それは、活動主体の組織研究、アドミニス トレーションの促進条件の研究、アドミニストレーションの過程研究、地 域社会との関係の研究である O そして、このなかで重田がデータや実践事 例を豊富に用いながら特に熱心に論じたテーマはふたつある。ひとつは、 アドミニストレーションの促進条件のひとつである労務管理、ことに職員 の労働条件の問題である。これは当時、政策的にも、実践現場においても、 学会においても重要な課題であった O そして、もうひとつはアドミニスト レーション過程のうち「業務の組織化j 段階で用いられる諸方法(スーパ ヴィジョンを含む)である O 重田がこのふたつを重視していたのは、彼の 実践指向、ひいては、現場職員への熱い思いの現れであろう。 9 7 1年の著作においてアドミニストレーショ また、同時に、重田がすでに 1 ン過程における「統制Jの問題、すなわち活動の事後評価とフィードパッ クの重要性を指摘していた点も注目される O 一般的に言って、当時我が国 の社会福祉実践にはこういった視角が欠けていた O これと関連して、重田 9 8 4 年の著作では、施設の運営管理においては維持管理だけでなく、創 は1 造的管理の手法を開発し定着させねばならないと主張している O なお、重 田はアドミニストレーション研究には、伝統的に行政法学、経営学、組織 社会学(組織論)という 3つのアプローチがあると整理している O 重田自 身は、この 3つのなかでは経営学と組織論から比較的多くを学んでいたよ うである。 最後に、重田が社会福祉運営論をどのように考えていたか簡単に見てお こう O 重田は、大学で教鞭をとるにあたり、社会福祉管理論と社会福祉行 政論を一体化して、新たに社会福祉運営論を創造する構想であった O 彼は、 社会福祉の行政機関、社会福祉施設、民間社会福祉団体の運営過程に共通 -207- 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) した内容を盛ることをめざし、行政と施設運営との相互関連性をひとつの 土俵の上で考えようとしたのである。そのためには、機関の管理職や施設 長が他の分野で用いられている管理技術を応用するだけでは不十分であり、 運営においても社会福祉活動の特徴や固有性が問われる。 このように見てくると、重田のアドミニストレーション論は、本稿で述 べた米国における研究の諸系譜とそのまま比較対照することはできないも のの、おおよそ、社会福祉機関における運営管理論に、施設を基盤とする 福祉サービス供給システムの管理論と社会福祉計画論の一部を加えたもの であると言えそうである。 2 高沢武司の社会福祉管理論(批判的アドミニストレーション研究) 高沢武司は、重田よりやや遅れて 1 9 6 0年代からアドミニストレーション 研究に着手し始めた(九彼は、アドミニストレーション論の研究テーマを 1 6 例示している O いわく、政策形成、政策決定、新事業の開始、従属機関や 組織への権限委譲、従属及び単位組織の大目的の分割解釈、専門職の配置 とその処遇、賃金及び労働条件の問題、諸機関の調整、諸機関相互のリファ ラル、スーパヴィジョン、パブリックリレーションズと住民参加、効果測 定、クライエント集団、専門職集団、労働組合などの問題、社会事業教育 など、である O 高沢自身も、これらのうちいくつかの課題について組織論 や行政法学の知見を援用しつつ実証的な研究を行っている O 初期の高沢の研究は、組織論の影響を強く受けていた O 例えば、彼は 1 9 6 3 年の論文において、アドミニストレーションの意味をいくつかの表現に置 き換えようとしているが、それらは、以下のようなものであった o r 社会 福祉の全作用を過程的にとらえた固有の領域 J 0 r 社会福祉の全作用から それ自体の論理的必然として現れる組織過程 J 0 r 政策の目標を実現化す る過程と方法J0 r 社会福祉が機能化する際の純粋に道具的な側面 J 0 こ れらは、いずれもアドミニストレーション概念を組織論ないし過程の視角 からとらえようとしたものである O しかし、高沢は同時に、このようなとらえ方がある種の危険をはらむも -208- 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) のであることを指摘した O すなわち、こうしたとらえ方の結果、 「アドミ ニストレーションの問題は、社会諸機関個々の自律的な運営(既存機能の 能率化)という自己閉塞的な課題になってしまい、それをとりまく諸条件、 究極的には社会諸機関を規制する問題が脱落してしまう J という問題が出 てきたのである。ことに、アドミニストレーション論がもっぱら社会福祉 施設における運営管理の方法を扱ってきたため施設経営だけがイメージさ れがちな我が国では、この問題は一層深刻であった O また、我が国では、 残念ながらアドミニストレーション論とコミュニティ・オーガニゼーショ ン論はあまり関係づけられてこなかった O しかしながら、高沢が指摘して いるように、社会福祉におけるアドミニストレーション過程とは、基本的 には、個々の機関レベルのものだけではなく、行政組織においても、機関 間相互の間にも、それらと地域社会の問にも、存在すると考えられるので ある。 このように考えると、アドミニストレーション論は福祉施設における運 営管理方法といった個々の課題を探究するだけでなく、同時に「社会福祉 の管理構造j 、すなわち「組織と管理の総過程 j を視野に入れる必要が出 てくる O これは、途方もなく大きく、限りない広がりを持つテーマである O したがって、高沢は 1 9 7 0年代の前半を通して、社会福祉の行政機構、福祉 サービスの受給者、社会事業管理の全体構造、措置制度、民間委託、福祉 サービスの給付と管理、福祉政策の決定過程と市民参加、地方自治体と行 政責任、ボランティア活動、民生委員、社会福祉運動、専門職労働、社会 福祉における組織間関係、社会事業教育、などをいずれも社会福祉におけ るアドミニストレーションをめぐる具体的な課題として論じた O ところで、これらの課題は思いつくまま無作為に取り上げられているわ けではない。高沢によれば、これらはいずれも、 「社会福祉の管理構造を 認識する際の公権力作用とそれに対する反作用に関する考察 j という主題 に連なっているのである。この主題が、組織論だけで解明できないことは、 誰の日にも明らかであろう O その結果、高沢は社会福祉における組織と管 理の問題を理解するために「権力構造分析 J の必要性を痛感し、 -2 0 9 - 1 9 6 0年代 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3 . 31 ) 末以降は組織論だけでなく、行政法学、政治学、社会運動論などを援用し た批判的なアドミニストレーション研究へと進んでいったので、ある。 すなわち、高沢は 1 9 6 8年の論文において、我が国におけるアドミニスト レーション研究の方法ないし戦略を、以下のように定めている o r 社会事 業管理の理論研究の課題にとってまず着手されておかねばならないのは、 組織の一般理論によって媒介されるべき方法の前提として、法と行政によっ て強固に組織されている社会事業行政そのものの権力構造の分析であろう。 (中略)組織と管理の問題を、一旦、社会事業行政における課題として配 置し直して、しかる後にその固有の方法に到るという迂回の途が必要であ る 。 j したがって、高沢は、重田理論を評価しつつも、福祉実践に無批判なか たちで能率主義の論理を導入することの危険性を主張したり、スーパヴィ ジョン論や専門職主義に潜む隠れた管理性の問題を指摘したりした O 高沢 は、もともと、当時の米国のアドミニストレーション理論が、ややもする と「エグゼ、クティヴ(例えば施設長)のためのもの j になりがちな論理構 造を内包していることに、気づ、いていたのである O 彼は、米国のアドミニ ストレーション理論を批判的に摂取し、 「生存と自己実現を制約する権力 や組織の解放Jを展望し得る、新たなアドミニストレーション研究の方法 を開発することをめざした O このような高沢の立場は、本稿で取り上げた英国における研究の系譜、 「政策のイデオロギ一分析j を想起させる。この系譜は、伝統的な S o c i a l P o l i c yandA d m i n i s i t r a t i o n研究への批判から生まれたものであり、現実 の社会福祉政策に潜む権力関係の問題を批判的に考察するものを含んでい たO これに倣えば、高沢の立場は「社会福祉の運営過程の権力構造分析 j と表現できるかもしれない。なお、この後 1 9 8 0年代に入ると、高沢の研究 は社会福祉政策論、計画論、サービス供給システム管理論などに発展して いくことになる。 -210一 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) 3 . 三浦文夫の社会福祉経営論(政策論)と永田幹夫の福祉組織化論 高沢が社会福祉の組織と管理の総過程を解明することを目指したのに対 し、福祉政策の研究者である三浦文夫は、伝統的な社会福祉行財政論や法 制論への不満から、新たに社会福祉経営論を提起した∞ o I 経営論j とし た意図は、社会福祉に関する政策形成と、政策が決定された後の管理運営 を同時に取り扱うことであった O 三浦は、 1 9 8 0年の時点で、こういった知 識は国や地方自治体だけでなく、社会福祉協議会などにおいても必要にな りつつあると指摘している O 彼は、当時議論されていた都市経営のアナロ ジーとして「経営Jという言葉を用いたようであるが、重田や高沢と同じ ようにアドミニストレーション概念の多元性を認識していた O 三浦によれば、社会福祉経営の主要な課題は、ニードの把握、ニードの 充足に必要な方法や手段(すなわちサービス)の選択、サービスの円滑な 推進や展開に必要な資源の調達と確保などである O なお、三浦は政策目標 の設定については比較的簡単に述べるだけで、政策を形成する方法につい てもあまり論じていなし」しかし、逆にニードとサービスをつなぐ際の基 準となる考え方である「サービス運営の公準j 、サービス実施に必要な資 源の調達や配分を行う仕組みを意味する「サービスの供給体制 j 、その前 提となる「公私の機能分担j 、そして、 「福祉サービスの供給組織j などに ついては非常にシステマティックに論じている。ただし、公私の機能分担 論と深く結びついた三浦のニーズ論は、高島進をはじめとする多くの論者 に批判されている(ぺ このような三浦の経営論の枠組みは、全体としてみると[ニーズ=サー ビス=政策=アドミニストレーション]というティトマスの S o c i a lP o l i c y andA d m i n i s i t r a t i o n研究のシェーマに似た論理構造を持っている O また、 「なぜ、誰に、どのようなサービスを、どのように提供するのか。それに 要するコストをどのように賄うかの j という問し 1から出発するギルパート とスペクトの社会福祉政策論とも似ている部分がある。 すでに述べたように、三浦自身は「サービスをどのように提供するか J 、 すなわちサービスのデリパリー・システムを最も重要な政策課題と考えて EA 噌 1i nL 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3 . 31 ) いた O そして、彼の[ニーズ=サービス=資源]論は、結論的には福祉ミッ クスないし福祉多元主義を提案するものであった∞。ところで、彼は著書 のなかで自らの経営論の体系においては政策を「計画j と言い換えても良 いと繰り返し述べている O すると、彼にとって社会福祉計画の中心課題は、 サービス供給計画と資源の動員(調達、配分、組織化)計画ということに なる O 高沢が三浦理論を「戦略的社会工学(開発工学)Jと 呼 ん だ り へ 牧 里毎治が三浦の公私分担論と永田幹夫の地域福祉論を合わせて「資源論的 アプローチによる在宅福祉重視の地域福祉論J と名づけた ( 7 ) のは、このよ うな特徴をとらえたものである。 永田幹夫は、 1 9 8 0年代の半ばに、三浦の社会福祉経営論の枠組みを援用 しつつ独自の地域福祉論、社協論、社協活動論を体系化した研究者であ る (8)。彼は、岡村重夫が地域福祉概念の構成要素として提起した福祉組織 化活動 (9) を、アドミニストレーションの課題ととらえた。そして、一方で 地域組織化活動をコミュニティ・オーガニゼーションの課題ととらえ、こ のふたつを合わせて社協活動の理論的な核としたのである O 永田にとって、地域組織化活動とは「地域社会において生成発展し、変 化する地域住民のニーズに即応して、社会福祉の組織活動を有機的に統合 する過程j である。ところが、彼が社協における福祉組織化に関する重点 事業や活動として例示したものは、当初岡村重夫が想定したものとは、か なり異なっていた。そして、永田が 1 9 8 0年代の後半に公刊した地域福祉論 においては、地域組織化活動に新たに計画化、統合化、ソーシャルアクショ ンが付加された O このなかで永田が最も重視したのが、計画の実施や事後 評価までを含んだ、「コミュニティワーク過程としての計画策定過程 j 、す なわち地域福祉計画である。この、地域福祉計画という考え方(間は、全く 我が国独自のものであるが、その内容は米国における社会福祉計画論を解 説する際にふれた「分析的モデルj と「相互作用モデルj を巧みに組み合 わせたものと見ることも可能である。 4EA 白 つ つ山 英米における S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s t r a t i o n研究の系譜(吉原) 第 2節 残 さ れ た 課 題 すでに序章において述べたように、本稿は社会福祉政策研究や社会福祉 運営研究のメタ論理を探究する上での予備的な作業を行ったが、残された 課題はあまりにも多い。まず、第 1章から第 2章において論じた英米にお ける S o c i a lP o l i c yand A d m i n i s i t r a t i o n研究の系譜はまだ未整理であい まいな点を多く含んでおり、試論の域を出ていない 。次に、本稿の成果 ( 1 1 ) をふまえつつ我が国における研究の系譜を解明していくには、我が国にお ける社会福祉政策研究や社会福祉運営研究の諸業績をより系統的にレビュー し、構造化することが求められる O 例えば、高田真治の社会福祉計画論(1 2 )、 高寄昇三の自治体経営論 c l ヘ右田紀久恵の自治型地域福祉論(凶などについ ても論理構造や研究方法を解明する必要があると考える。また、近年は我 が国で、も英国の S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s i t r a t i o n研究を援用した新たな 研究方法が模索されているので ω これらの評価も行う必要がある。 第 3節結語(社会福祉運営研究の必要性) ところで、本稿はきわめて不十分ながら、国際比較の手法を用いた「研 究についての研究Jである O したがって、研究における各国独自の文化を 尊重することはきわめて大切で、あり、研究方法に関する帝国主義的な態度 は厳に慎むべきであると考えられる。歴史的な経緯、研究の対象とする具 体的な事象、研究を取り巻く知的環境などが異なっているにもかかわらず、 ある特定の研究方法をそのままの形で普遍的に用いるべきだと主張するの はたいへん危険なことである O しかしながら、これまでの我が国における 社会福祉研究と本稿で検討した英米の研究の系譜を対比してみると、筆者 はいくつかのことが気になった。本稿を終えるにあたって、本稿で述べた 点をふまえ、試論めいたものを含め、現在の我が国の社会福祉研究につい て 3点ほど指摘しておきたい。これらは、いずれも我が国における社会福 祉運営研究の必要性を示唆するものである。 ( 1 ) 我が国の社会福祉研究は、社会福祉法制の分立体制をそのまま反映 して、代表的には「対象者j カテゴリーを基盤とするいわゆる「分野論j -213- 社会問題研究・第4 5巻第 2号( ' 9 6 . 3. 31 ) がきわめて支配的であり、歴史研究など一部を除けば、現在もなお、分 野論が落としがちな横断的課題への取り組みはあまり進んでいない。 横断的な課題とは、例えば政策過程、政策問調整、財政、施設、サービ ス、組織間関係、職員、地域社会、地方自治体、運動などである。なお、 我が国固有の概念である地域福祉論は、当初こういった縦割りの分野 論を止揚する可能性を含めて提起されたが、現在のところ、地域福祉 論におけるこの側面はあまり多くの研究者や実践者には理解されてい ない。(例えば、地域福祉論を分野論のひとつとカテゴライズする場合 があるが、あまり妥当な見解とは思えない。) ( 2 ) 我が国における社会福祉の研究と教育は、大きく「基礎、方法技術、 分野j に分類されている O そして、私見によれば我が国における社会 福祉研究は伝統的に、原理論(本質論を含む)、ソーシャルワーク研究、 政策研究、各「分野j の研究、歴史研究、の 5つが支配的であった O そ して、社会福祉士および介護福祉士法 ( 1 9 8 7年)によって社会福祉の専 門教育が制度化されたことや、近年の社会福祉政策の動向から、この 枠組みはますます固定化しつつあるように思われる O ここから生起し うる問題はふたつある。まず、既に述べたもののうち、現時点におい て中心的な研究領域である、ソーシャルワーク研究、政策研究、分野 論研究の 3つのカテゴリーに収まりにくい研究が、社会福祉学系の学 会では活性化しにくいことである。もうひとつは、ソーシャルワーク 研究、政策研究、分野論研究の 3つがお互いに関係づけられることな くバラバラに発展してしまう危険性があることである O これらが、い ずれも紀憂に終わることを望みたいが、英米における S o c i a lP o l i c y andA d m i n i s i t r a t i o n研究の系譜と比較したとき、現在の我が国におけ る研究の動向に対してはやや悲観的、批判的にならざるをえない。 ( 3 ) 最後に、(1)および( 2 )の双方に関わることがらを指摘しておきたい。 我が国は連邦国家ではなく単一国家であるが、英国において豊かな蓄 積を持つ「自治体社会サービス部の研究 j にあたる業績は、これまで 相対的に少なかったように思われる。おどろくべきことに、福祉事務 -214- 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) 所をはじめとする福祉行政組織は我が国ではあまり実証的な研究の対 象とされてこなかったのである(16)。また、米国において豊かな蓄積を 持つ、管理科学や組織論を活用した「サービス供給システム管理論J ないし管理方法研究も、あまり発達していない(的。また、英米におい てこの 2 0年あまりの問に急速に高まった社会福祉研究と政策科学や地 方自治研究の共同作業も、今後の課題として残されているように思わ れる(1的。しかし、最近の日本政治学会、日本行政学会、地方自治関係の 諸学会の動向、社会保障研究所を基盤とする共同研究プロジェクト(19) などを見ていると、社会福祉系学会のそとにおいては、その条件は十 分に整いつつあるように思われる。社会福祉研究者は、今後、彼らと 共有しうる概念体系を構築し、共同研究によってより豊かな理論知と 実践知を開発することができるのであろうか。緊急の課題である O こ とに、 「基礎自治体を基盤とする計画化」の時代である昨今において は、社会福祉における「政策の形成一決定一実施 J という視角を援用 し、政策科学におけるさまざまな知見を用いた社会福祉政策研究およ び社会福祉運営研究の展開が求められる O 注(第 4章) (1) 以下は、 2 冊の著書を参照した。重田信一『アドミニストレーション』誠信書房、 1 9 7 1年。同『福祉施設の運営管理研究の課題』全社協、 1 9 8 4年。 (2) 以下は、高沢武司『社会福祉の管理構造』ミネルヴァ書房、 1 9 7 6 年を参照。 (3) 以下は、 2 冊の著書を参照した。三浦文夫『社会福祉経営論序説』禎文社、 1 9 8 0 年 。 9 8 7年。 同『増補・社会福祉政策研究』全社協、 1 (4) 高島進『社会福祉の理論と政策』ミネルヴァ書房、 1 9 8 6年。 (5) この点については、筆者も指摘したことがある。吉原雅昭 i W e l f a r eP l u r a l i s i m と福祉ミックス論J r 社会問題研究』第4 0巻第1 ・ 2 合併号、 1 9 9 1年。 (6) 京極高宣ほか編『福祉政策学の構築』全社協、 1 9 8 8年 、 5 5ページ。 (7) 牧里毎治「地域福祉論の概念構成」右由紀久恵ほか編著『地域福祉講座①社会福祉 の新しい道』中央法規、 1 9 8 6 年 。 p h υ 11 臼 ' つ 社会問題研究・第4 5巻第 2号 ( ' 9 6 . 3. 31 ) (8) 以下は、 2 冊の著書を参照した O 永田幹夫『改訂・地域福祉組織論』全社協、 1 9 8 5 年。同『地域福祉論』全社協、 1 9 8 8 年 。 (9) 岡村重夫『地域福祉論』光生館、 1 9 7 4年。 ( 10 ) 例えば、全国社会福祉協議会『地域福祉計画・理論と方法』全社協、 1 9 8 4年。 ( 1 1) 例えば、英国にはアラン・ウォーカー、ピル・ジョーダン、フィオナ・ウィリアム スらのように、ティトマス・パラダイムを超え、独自にオルタナティヴなソーシャ ルポリシー論を体系化しようとする理論家が何人かいるが、本稿は主にソ←シャル アドミニストレーション概念に焦点を当てており、また筆者の能力や紙幅の制約も あって、彼らの著作を研究の系譜に位置づけることはできなかった。また、米国に おけるソーシャルサービス、ソーシャルワークの業務と組織のマネージメントに関 する著作についても、本稿で取りあげることができたものは、公刊されている著作 の量から考えると、ごく一部にすぎない D ( 12 ) 高田真治『社会福祉計画論』誠信書房、 1 9 7 9年。 ) 例えば、高寄昇三『地方自治の経営』学陽書房、 1 9 7 8 年 。 ( 13 ) 右田紀久恵による以下の著作を参照のこと。右由紀久恵・松原一郎編著『地域福祉 ( 14 講座②福祉組織の運営と課題』中央法規、 1 9 8 6 年。同「社会福祉の改革と地域福主U 日本地域福祉学会『日本の地域福祉』第 1 巻 、 1 9 8 7年。同編著『自治型地域福祉の 9 9 3年。同編著『地域福祉総合化への途』ミネルヴァ書房、 展開』法律文化社、 1 1 9 9 5 年 。 ( 15 ) 大山博ほか編著『社会政策と社会行政』法律文化社、 1 9 9 1年。 ( 16 ) この意味で、岡部卓による一連の福祉事務所研究や、星野信也による福祉行政研究 は貴重である。例えば、阿部卓「これからの福祉事務所J r 社会福祉研刻第四号、 1 9 9 4年。星野信也「個別福祉サービスの地方分権化J東京都立大学『人文学報』第 2 1 1号 、 1 9 8 9年。 ) この意味で、松原一郎の研究は貴重である。松原一郎「組織論の視点から」京極高 ( 17 宣ほか編著『福祉政策学の構築』全社協、 1 9 8 8 年。同「福祉事務所におけるソーシャ ルワーク J r 地域福祉研究』第 1 0巻 、 1 9 8 2年。なお、組織社会学の研究者によるも のとしては、田尾雅夫の著作がある。田尾雅夫『ヒューマン・サービスの組織』法 律文化社、 1 9 9 5 年 。 -2 1 6一 英米における S o c i a lP o l i c yandAdministration研究の系譜(吉原) ( 18) 右田紀久恵の自治型地域福祉論は、当初からこの面に関しても先進的である。この 意味からも、彼女の理論を S o c i a lP o l i c yandA d m i n i s i t r a t i o n研究として解明 していくことが望まれる。 ( 19 ) 例えば、社会保障研究所編『福祉国家の政府間関係』東大出版会、 1 9 9 2年。 一2 1 7-