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オーストラリアのアジア野菜生産実態調査
03-IAD 食品規制実態 10 オーストラリアのアジア野菜生産実態調査 2004 年 3 月 日本貿易振興機構(ジェトロ) はしがき オーストラリアでは、アジア系移民の増加や食生活の多様化等を背景にアジア野菜の生 産が増加傾向にある。その生産の多くは、国内需要向けであるものの、一部ではアジア諸 国に輸出されている。品質、安全性の確保に積極的に取り組んでいる中、日本もターゲッ トにいれた取り組みも行われている。 本調査では、オーストラリアにおけるアジア野菜の生産・流通の実態、輸出の動向・取 り組み状況を調査したものであり、オーストラリアのアジア野菜生産状況について理解す る上で、参考になれば幸いである。 平成 16 年3月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 産業技術・農水産部 目 次 1 オーストラリアにおけるアジア野菜生産の現状 ・・・・・・・・・・・・ (1)野菜生産の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (2)野菜生産におけるアジア野菜のシェア ・・・・・・・・・・・・・・・ (3)アジア野菜生産の特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (4)生産者組織 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (5)単収 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1 2 3 3 4 2 州別のアジア野菜の生産状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 (1)ニュー・サウス・ウェールズ州 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 (2)ビクトリア州 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 (3)クイーンズランド州 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 (4)サウスオーストラリア州 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 (5)西オーストラリア州 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 (6)北部準州 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 (7)タスマニア州 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 3 アジア野菜の消費および流通 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 (1)アジア野菜の販売動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 (2)輸出動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 (3)輸入動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 4 アジア野菜生産・販売に関する政府等の支援 ・・・・・・・・・・・・・25 5 アジア野菜生産の実態(ケーススタディー) ・・・・・・・・・・・・・26 (1)アジア系移民生産者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 (2)白人系生産者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 (3)ベトナム系野菜生産者協会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 (4)中国系野菜生産者協会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 6 アジア野菜生産の課題と今後の展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・32 (1)オーストラリアのアジア野菜生産の強み ・・・・・・・・・・・・・・32 (2)オーストラリアのアジア野菜生産・流通の課題 ・・・・・・・・・・・32 (3)今後の展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32 (参考)アジア野菜関係者リスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 <定義> 本調査で対象としているアジア野菜とは、伝統的なアジア料理で一般に使われる 野菜、またはアジアを起源とする野菜とし、具体的には、以下のように分類した。 ・葉菜類:白菜、チンゲン菜(白キャベツ)、チョイサム(中国カリフラワー)、水 菜等 ・豆類:スネークビーン、ヤムビーンなどの豆類 ・ウリ類:ニガウリ、カボチャなどのウリ類等 ・水栽培の野菜:クレソン、ウォーターチェストナット、ハス等 ・ハーブ類:シャロット、スプリング・オニオン、ミント、バジル、コリアンダー 等 ・キノコ類:例:シイタケ等 ・根菜類:ゴボウ、ショウガ、タロイモ、ダイコン、ワサビ、タケノコ等 (注)本報告書においては、オーストラリアの各州について、以下のとおり略記する こととする。 ニュー・サウス・ウェールズ州:NSW州 ビクトリア州:VIC州 クイーンズランド州:QLD州 サウスオーストラリア州:SA州 西オーストラリア州:WA州 北部準州:NT州 タスマニア州:TAS州 1 オーストラリアにおけるアジア野菜生産の現状 (1)野菜生産の概要 オーストラリアにおける野菜生産額は、1999/2000 年度(年度は、7 月~6 月。以 下同様。)に一時的に減少したものの、総じて着実に増加してきており、2000/2001 年度は 20 億豪ドルとなった。一方、野菜の農業全体の生産額に占める割合は、農 業生産額が野菜と同程度、もしくはそれ以上に伸びていることから、6%前後で推 移している。 表1:オーストラリアにおける野菜生産額の推移 (単位:100 万豪ドル、%) 93/94 96/97 97/98 98/99 99/00 野菜生産額 1,443.7 1,662.3 1,812.3 1,864.4 1,861.9 1,999.5 農業生産額 23,754.8 28,130.8 28,258.0 28,893.9 30,223.6 33,564.1 6.1 5.9 6.4 6.5 6.2 5.9 野菜の農業生産額に占める割合 出所:オーストラリア統計局(ABS) 図1 アジア野菜の産地 ま、ありう‘ ダーウィン <ダーウィン近郊> <カナナラ地域> <アサートン高原地域> NT州 QLD州 <カナーボン地域> WA州 <スタンソープ、ロックイヤーバレー地域> ブリスベン SA州 <ワネルー地域> NSW州 <セントラル・コースト地域> <ハンターバレー地域> パース シドニー アデレード <アデレード平原、 マレーブリッジ地域> <西シドニー地域> VIC州 メルボルン <ジーロング地域> <デベンポート地域> TAS州 ホバート <ホバート近郊> 出所:ジェトロ・シドニー作成 1 2000/2001 (2)野菜生産におけるアジア野菜のシェア 1993/94 年のオーストラリアの野菜生産額は約 14 億 4,000 万豪ドルであり、アジ ア野菜の生産額は 5,040 万豪ドルで、そのシェアは 3.6%であった。2000/2001 年に は、オーストラリアの野菜の生産額が 20 億豪ドルとなるなか、アジア野菜生産額 は1億 3,580 万豪ドルで、シェアは 7.5%に増加しており、野菜生産におけるアジア 野菜の位置付けが高まってきていることが伺える。 2000/2001 年度におけるアジア野菜の生産額と生産者数を 93/94 年度と比較する と、オーストラリア全体では、ともに倍以上の伸びを示している。州別にみると、 TAS州を除いた各州で増加しており、特にNT州での生産拡大が顕著である。 生産者当たりの生産額については、オーストラリア全体で 8 万 1,000 豪ドルと見 込まれるが、州により格差がみられ、NT州では 18 万 3,000 豪ドルとなっている 一方、QLD州は砂糖きび生産との複合経営や試験的栽培が多いことから、5 万 7,000 豪ドルと低い水準にとどまっている。 表2:アジア野菜の生産額と生産者数(93/94 年度および 2000/2001 年度) (単位:100 万豪ドル) NSW VIC QLD SA WA NT TAS 合計 5.7 0.5 5.6 2.5 2.8 50.4 93/94 年度 生産額 28.9 4.4 生産者数 338 114 64 35 63 30 35 679 生産額 72.0 12.0 17.2 3.5 18.3 11.0 1.8 135.8 生産者数 1,000 110 300 40 129 60 36 1,675 2000/2001 年度 出所:農業研究開発公社(RIRDC) また、各州で栽培されている主要なアジア野菜については、表3のとおりで、こ こ 10 年ほど大きな変化はみられない。QLD州におけるタロイモ、ショウガ、ダ イコンの重要性が増してきているとされている。 表3:各州で栽培されている主要アジア野菜(2002 年) NSW VIC QLD SA WA NT TAS スプリング・オニ 葉菜類 白菜 葉菜類 カボチャ オクラ カボチャ ハーブ系野菜 葉菜類 スプリング・オニ 白菜 ニガウリ スプリング・オニ オン/シャロット ハーブ系野菜 オン/シャロット 葉菜類 パセリ ショウガ 白菜 2 オン/シャロット 葉菜類 スネービーン 葉菜類 白菜 白菜 タロイモ ハーブ系野菜 ダイコン ヒョウタン ダイコン タロイモ クレソン ダイコン カボチャ ゴボウ ヘチマ キノコ 出所:RIRDC 注:葉菜には、チンゲン菜、カイラン(中国ブロッコリー)、チョイサム(中国カ リフラワー) 、ボーチョイ(中国ホウレン草)などの緑色野菜が含まれる。 (3)アジア野菜生産の特徴 オーストラリアのアジア野菜生産は、比較的小規模の経営耕地に多量の家族労働 力および雇用労働力を投入して、多様な種類の野菜を生産する労働集約型経営が一 般的である。生産は天水又は小規模の灌漑に依存した畑での生産が中心となってい るが、気候が冷涼なVIC州では、一部ビニールハウスが活用されている。経営規 模は、生産者のタイプやアジア野菜を生産するに到る経緯等によって異なるが、ア ジア系移民の生産者ではアジア野菜単一作で 0.5~5ha、白人系生産者では、西洋野 菜や他の穀物等との複合作である場合が一般的で、 作付面積は 5~50ha 程度である。 表4:生産者のタイプによるアジア野菜生産の特徴 グループ1 グループ2 アジア系オーストラリア人生産者 白人系オーストラリア人生産者 生産者 最近来豪した移民 二代目のオーストラリア人 経営規模 小規模な経営規模(0.5—5ha) 大規模な商業的栽培(5—50ha) 栽培品目 多様な野菜を少量生産 数少ない品目を大量生産 自家種子 交配種を含む商業用種子 種子の入手方法 従来の栽培技術(英語力不足のた 最新の栽培技術を積極的に導入 栽培技術 め新技術の獲得が困難) 所属する 生産者組織 民族を基盤とする生産者グルー 西洋野菜を含む野菜としての生産 プのメンバー 者グループのメンバー ・レストランや小規模な生鮮野菜 供給先 店に販売 ・大規模な小売店への販売および 輸出 ・中央市場を回避する傾向 ・中央市場システムを通して販売 ・大規模小売店に直接販売するケ ースもあり (4)生産者組織 アジア野菜生産者のうち、アジア系移民は民族ごとに生産者団体を組織している。 言葉や習慣が理解できない生産者を援助しつつ、営農技術の向上、販路拡大等に一 3 定の貢献をしている。これらの組織は、シドニー地域だけでも、中国野菜生産者協 会、ベトナム野菜生産者協会、カンボジア野菜生産者協会、マルタ島、太平洋諸島、 アングロ/ケルト人のメンバーを代表するNSW全生産者園芸委員会が存在して いる。 しかしながら、これら民族に基づく組織は、アジア野菜生産者全体としての一体 感を喪失させるとともに、アジア野菜業界として政府に働きかけを行い、生産・輸 出の振興、生産や市場に関する情報の共有化といった機会を制限させるおそれがあ る。 このため、NSW州政府とNT州政府は、RIRDCが一部資金提供しているパ イロット・プロジェクトを通して、特定の民族グループ生産者に限定することなく、 農作業管理、市場取引、機械などに対する理解度を上げるための普及員を配置して おり、一定の成果を挙げている。 表5:アジア野菜生産者組織 州 NSW州 生産者組織 ・中国系野菜生産者協会 ・ベトナム系野菜生産者協会 ・カンボジア系野菜生産者協会 ・NSW全生産者園芸委員会(マルタ島移民、太平洋諸島移民、アン グロ/ケルト系) VIC州 ・ジーロン・アジア系野菜生産者協会(アジア系移民により構成) ・ビクトリア野菜生産者協会(西洋野菜も含む生産者協会) QLD州 ・アジア系野菜生産者グループ(一部は活動をしていない) ・タロイモ生産者協会 SA州 ・野菜一括取引生産者協会 NT州 ・アジア系野菜生産者協会 WA州 ・西オーストラリア州野菜生産者協会 TAS州 ・タスマニア州温室トマト・野菜生産者協会 (5)単収 アジア野菜の単収は、生産技術(温室栽培か畑栽培かなど)、生産地によって大 きく異なる。例えば、ビクトリア州政府では中国カリフラワーの単収を当たり6ト ンから 10 トンと推計しており、クイーンズランド州政府は 11 トンから 18 トンと 推計している。なお、販売価格は生産者販売価格である。 4 表6 2001 年の主要アジア野菜の単収および単位当たりの生産額(推計) 品目 単収の範囲 単収平均値 販売価格 粗生産額 (トン/ha) (トン/ha) (豪ドル/トン) (豪ドル/ha) ゴボウ 5-39 10 2,000 20,000 ニガウリ 20-30 25 3,300 82,500 チンゲン菜 8-17 15 2,000 30,000 白菜 35-80 60 600 36,000 6-18 12 6-10 9 2,000 18,000 ダイコン 40-50 45 1,100 49,500 カボチャ 10-22 15 400 6,000 オクラ 5-12 7 3,500 24,500 スネークビーン 6-30 8 2,700 21,600 7-23 12 2,700 32,400 中国カリフラワー (チョイサム) 中国ブロッコリー (カイラン) スプリング・オニオ ン 出所:RIRDC 5 2,000 24,000 2 州別のアジア野菜の生産状況 (1)NSW州 NSW州はオーストラリアのアジア野菜生産の約50%を占めており、アジア野菜 生産に関して独占的な立場にあるが、国内市場向け、特に国内最大の消費地である シドニーへの供給が大半を占め、生産量と比較して輸出が少ない。 ア 主要産地 NSW州のアジア野菜生産は、シドニー西部のリバプール、ウィンザー、リッ チモンドなどが主要産地となっており、国内最大の消費地であるシドニーに多様 な野菜を供給している。また、規模は小さいもののノーザン・リバーズ、ハンタ ー・バレー、そしてセントラル・コースト地域でも生産が行われている。ノーザ ン・リバーズ地域では長年にわたってタロイモとサツマイモが栽培されている。 ハンター・バレー地域でのアジア野菜には、日本への輸出を目的として生産され るダイコン、ハーブ類、ヒョウタンの種が挙げられる。セントラル・コーストで は、ダイコン、 カイラン、白菜、上海チンゲン菜、チョイサム等が栽培されてい る。 イ 主な野菜類 1993/94年度にNSW州で生産された主なアジア系野菜は、白菜、チンゲン菜、 チョイサム、カイラン、中国ホウレンソウ、スプリング・オニオンとなっていたが、 最近は、それらに加え、中国葉菜類、タロイモ等の生産が増加している。 ウ 販売量および販売額 シドニー市場(フレミントン市場)におけるアジア野菜の販売量は1993/94年度 の9,000トンから2000年には2万2,000トン、2001年には2万5,000トン(推計には若 干の非アジア野菜(西洋野菜)も含まれる)に上昇するとともに、流通する野菜 の種類も増加している。ショウガの生産は93/94年度の1,400トンから2001年には 約2,400トンに増加した。また、タロイモも急速に市場に出回りつつあり、2001 年には140トンとなっているが、当該市場を経由しないものも多く、実際の生産量 はそれを相当上回っているとされている。シャロット/スプリング・オニオンにつ いては、93/94年度の2,100トンから2001年の1万2,600トンに急成長した一方で、 クレソンの販売量は大きく減少した。 ベトナム系生産者のアジア野菜の約半分はシドニー市場を経由する。その他の 生産者に関しては、NSW州で販売されているアジア野菜のうち約85%が市場を 経由している。市場を経由しない野菜はアジア系の小規模生鮮野菜店に直売され 6 るか、カブラマッタやバンクスタウンの小売市場を通して販売される。レストラ ンへの販売は通常代理店を通して行われるため、シドニー市場経由の販売に含ま れる。アジア野菜の総生産の約80%は卸売市場を経由して販売されていると推計 されている。 したがって、2001年のシドニー市場の販売額は約6,000万豪ドルであるなか、生 産物のうち20%が市場を通らなかったと仮定すると、NSW州のアジア野菜の生 産額は約7,200万豪ドルになると見込まれる。 表7:シドニー市場のアジア野菜販売量および販売額(93/94年度) (単位:トン、豪ドル) 品目 白菜 販売量 販売額 93/94 93/94 4,202.38 1,695,878 1,403.23 1,409,930 749.83 5,179,348 1,767.65 3,458,192 スプリング・オニオン 464.88 884,162 クレソン 200.52 1,112,869 8,788.49 13,740,379 ショウガ1 2 パセリ シャロット2 2 合計 出所:RIRDC 注1:QLD州またはNT州で栽培されたものを含む可能性がある。 注2:アジア野菜のほか従来野菜も含まれる。 7 表8:シドニー市場のアジア野菜の販売量および販売額(2000年および2001年) (単位:トン、豪ドル) 品目 販売量 白菜 中国野菜 販売額 2000 2001 2000 2001 6,704.80 3,111.77 3,822,353 2,008,073 3,881.54 2,315.53 5,385,791 4,291,030 ショウガ 1 2,280.60 2,481.77 6,509,011 5,254,854 ハーブ類 2 730.07 1,878.77 3,422,835 6,954,360 na 375.35 na 259,857 1,976.75 2,275.98 6,168,436 7,178,737 4,617.97 11,389.71 12,227,524 30,227,899 1,166.10 1,242.16 3,078,958 3,118,044 タロイモ 140.33 143.76 454,972 412,708 クレソン 41.67 60.82 307,004 359,716 21,539.83 25,275.62 41,376,884 60,065,278 ケール パセリ 2 シャロット 2 スプリング・オニオン 2 合計 出所:RIRDC 注1:QLD州又はNT州で栽培されたものを含む可能性がある。 注2:アジア野菜のほか西洋野菜も含まれる。 エ NSW州における生産の特徴 NSW州のアジア野菜生産においては、アジア系移民の生産者が大宗を占める。 その多くは中国系であるが、近年はベトナム系やカンボジア系オーストラリア人 の生産者も増加してきている。アジア系生産者に加えて、マルタ島系および太平 洋諸島系移民も少数ながら生産を行っている。マルタ島系オーストラリア人は、 NSW州の野菜生産において古くから関わってきており、シドニーの遠隔地で比 較的大規模経営を行っている。栽培される野菜はその年々の価格によって変化す るが、それぞれ移民グループによって一定の傾向がある。中国系は葉菜類、カン ボジア系はスネークビーンやハーブ類、ニガウリ、ベトナム系は葉菜類やヒョウ タン、マルタ島系はチンゲン菜やダイコン、太平洋諸島系はタロイモを栽培する 傾向が強い。 8 表9: NSW州のアジア野菜生産者組織および生産者数 (単位:人) 協会名 生産者数 中国系野菜生産者協会 210 (非メンバーの生産者250) ベトナム系野菜生産者協会 38 (非メンバーの生産者40) カンボジア系野菜生産者協会 60(非メンバーの生産者60) 太平洋諸島系、マルタ島系その他を 50(非メンバーの生産者250) 含むNSW州自由生産者園芸委員会 ヨーロッパ系 生産者数合計(生産者組織の所属し 約960 ていない生産者も含む) 出所:RIRDC シドニー近郊のアジア野菜生産者の経営状況については、平均耕地面積は約2 ヘクタール、家族経営主体で、収穫期には雇用労働力が確保する経営が一般的で ある。これら農場では、20~30種類程度の野菜が生産され、一時的に栽培される ものもあれば、年中栽培されるものもある。収穫されたアジア野菜のほとんどは シドニー出荷され、輸出は少ない。 オ 輸出動向 NSW州は全国のアジア野菜生産量の50%以上占めているものの、輸出は少ない。 現時点で入手可能な最新のデータである1997/98年度の輸出量は602トンとなって おり、その約6割は香港、台湾向けの白菜である。NSW州の輸出が少ない要因 としては、シドニーのアジア移民の増加や健康志向の白人系住民の増加により、 州内需要量が増加していることに加え、大規模生産者が少なく、また生産者組織 における集荷が十分に機能していない状況においては、輸出に必要となる一定の ロットを確保することが困難となっていることなどが挙げられる。 (2)VIC州 オーストラリア全国のアジア野菜生産の10%を占めるVIC州では、近年5年間 でスーパーマーケットにおけるアジア野菜の需要は二桁の成長をみせている。 ア 主要産地 VIC州には、民族の異なる3つのアジア野菜生産者グループがあり、それぞれ の地域で生産が行っている。 ① 約20人の生産者によって構成されるベトナム系グループは、メルボルンの西 9 100kmにあるジーロングで生産活動を行っている。この地域の生産者数および生 産額は過去8年間で2倍となっている。この地域は風が強く、多くの野菜は灌漑 システムの下、ビニールハウスで栽培されている。 ② 中国系移民の生産者は、メルボルンから半径150km範囲の地域に散在している。 中国系生産者は主に収穫物をレストランや生鮮野菜店に直接販売している。 ③ 第3グループは白人グループであり、VIC州全体に散在している。 イ 主な野菜類 VIC州は他州に比べて冷涼な気候のため、栽培可能な品種が限られている。 主な野菜類は、スプリング・オニオン、白菜、ホワイトキャベツ、中国カリフラ ワー、中国ブロッコリー、チンゲン菜などであるが、他州と比較して、アブラナ 科やハーブ類、パセリなど束ねるタイプの生産が目立つ。 ウ 販売額および販売額 メルボルン市場におけるアジア野菜の販売量は93/94年度の4,255トンから2000 年には11,819トンに増加したが、2001年は7,816トンに減少した(他州での生産の 可能性のあるもの品目は除く)。その販売額については、93/94年度の723万6,000 豪ドルであったが、2001年には1,974万8,000豪ドルと見込まれる。 表10:メルボルン市場のアジア野菜販売量および販売額(93/94年度) (単位:トン、豪ドル) 品目 ショウガ* 販売量 販売額 759.73 956,431 パセリ 2,108.05 3,513,433 シャロット 1,161.63 2,345,880 225.70 420,745 4,255.11 7,236,489 スプリング・オニオン 合計 出所:RIRDC 注*:他州で栽培されたものも含む。 10 表11:メルボルン市場のアジア野菜販売量および販売額(2000年および2001年) (単位:トン、豪ドル) 品目 販売量 2000 タケノコ* 販売額 2001 2000 2001 0.00 1,720.27 0 1,362,186 3,794.71 0.00 2,592,908 0 0.00 1,371.74 0 2,910,840 中国野菜 1,652.73 1,553.46 3,653,475 3,564,652 ショウガ* 1,139.55 784.26 4,415,417 4,717,519 390.94 1,720.27 2,321,894 1,362,186 0.00 該当なし 0 該当なし 1,607.78 1,597.47 4,184,385 4,869,728 0.06 0.00 264 0 2,211.89 0.00 7,152,025 0 スプリング・オニオン 876.22 658.14 1,941,178 1,798,785 タロイモ* 108.82 85.90 308,632 279,964 クレソン 36.79 44.38 208,258 244,016 11,819.49 7,815.62 26,778,436 19,747,690 白菜 中国瓜* ハーブ類 ヘチマ* パセリ シャロット球根 シャロット 合計 出所:RIRDC 注*:他州で栽培されたものも含む。 なお、VIC州で生産されているアジア野菜の大部分はメルボルン市場を経由 せず、直接スーパーマーケットや供給チェーン会社、アジア系生鮮野菜店および レストランに販売されている。また、メルボルン市場で販売されている生産物の うちかなりの量は他州産である。これらを考慮しつつ、メルボルン市場での販売 を基とした、州全体の生産額は、約1,200万豪ドルと見込まれている。 エ VIC州における生産の特徴 ベトナム系農場は中国系および白人経営の農場に比べて規模が小さく、平均 2.5ha程度で、30種程度の野菜が生産されている。耕地の約40%がハウス栽培とな っているが、その維持費は増加する傾向にあり、露地栽培に転換されつつある。 一方、白人系野菜生産者は、白菜の栽培に専念している場合が多いが、近年は チンゲン菜その他の人気品目などを取り入れて多様化する生産者が増加している。 これら生産者は、冷蔵施設付きの大型倉庫や最新の包装箱等を導入するなど、品 質管理にも十分配慮している。メルボルンには、80種を超えるアジア野菜が供給 11 されているが、VIC州の生産は特に冬期に減少することから、その間はNSW 州やNT州から補充されている。 オ 輸出動向 VIC州における主要輸出産品は白菜で、輸出先は台湾である。2000 年のその 輸出量は 580 トンで、94 年と比較して約7倍の増加となっている。また、最近は カボチャの輸出も増加している。 (3)QLD州 QLD州の生産はオーストラリア全体の12.5%を占めており、NSW州やVIC 州と異なり、輸出も行われている。 ア 主要産地 QLD州におけるアジア野菜の主産地は、スタンソープ地区、ロックイヤー・ バレー、ブリスベン近郊およびアサートン高原となっている。ブリスベン南西部 のNSW州との州境に位置するスタンソープ地域では、白人生産者による商業的 経営の下、白菜やダイコン等の重量野菜の生産が活発で、国内各地の卸売市場を はじめ海外にも出荷している。ブリスベンの西にあるロックイヤー・バレーでは、 サツマイモおよび白菜の生産が多く、近年は中国葉菜類の生産も増加してきてい る。ここでの生産者の大半は白人系オーストラリア人ではあるが、ベトナム系農 家のこの地域への移動も増加している。アジア野菜生産者の数がもっとも多い地 域はブリスベン近郊で、ベトナム系およびカンボジア系の小規模生産者(最近は サモアやトンガ等太平洋諸島出身者が増加)が、多様なアジア野菜を主にブリス ベンに供給している。州の北部ケアンズ近郊にあるアサートン高原では、タバコ 生産の衰退に伴って、タロイモの生産が成長してきている。 イ 主な野菜類 QLD州では、多様な気候条件の下、様々なアジア野菜が生産されているが、 そのうち、白菜、スプリング・オニオン、中国葉菜類、スネークビーン、ウリ類 の生産が多い。地域別にみると、州南部では、州最大の市場であるブリスベンに 近いことから、葉菜類の栽培の比率が高い。北部ではチンゲン菜(白キャベツ)、 タロイモの栽培が多い。 ウ 販売量と販売額 1995年に実施された調査結果(オーストラリアの野菜産業監査)では、93/94 年度のQLD州生産額は約570万豪ドルと推計されている(販売量に関する統計は 12 ない。) 。その後、ショウガやタロイモの生産が大きく伸びたことなどを背景に、 2001年には、約1,720万豪ドルに成長したものと推計されている。 表12:QLD州におけるアジア系野菜生産額(93/94年度) (単位:1,000豪ドル) 品 目 生産額 生産者数 1,500 21 白菜 2,200 28 その他 1,500 15 5,700 64 シャロット/ スプリング・オニオン 計 出所:RIRDC 表13:ブリスベン市場およびQLD州のアジア野菜販売量および販売額(2001年) (単位:トン、豪ドル) 品 目 ブリスベン市場 販売量 バナナの葉 OLD州全体(推計) 販売額 販売量 販売額 2 11,050 4 21,560 26 85,999 100 330,900 1,418 718,454 10,000 5,060,000 中国野菜 788 1,535,254 1,600 3,116,800 ダイコン 135 146,145 500 541,500 ハナミョウガ 0.1 375 0.1 750 ショウガ 902 1,876,160 2,000 4,160,000 8 13,058 16 39,232 111 158,151 350 499,100 タロイモ 43 147,592 1,000 3,395,000 ヤムイモ 2 6,708 4 15,032 3,435 4,698,946 15,574 17,179,874 ニガウリ 白菜 ヒョウタン ケール 合計 出所:RIRDC エ QLD州における生産の特徴 QLD州には現在約300のアジア野菜生産者がおり、これらのうち約3分の2はア ジア系オーストラリア人であり、残りは太平洋諸島系および白人系である。アジ ア系生産者は、小規模な農地で、アジア野菜に特化し多様な品目を少量生産する 場合が一般的で、一方、白人系生産者は、西洋野菜や穀物との複合経営の下、作 13 付を白菜、ダイコン、サツマイモ等の重量野菜に絞り、効率的に生産している場 合が多い。近年は、砂糖価格の低迷から、現金収入の拡大を図るため、新たにア ジア野菜に挑戦する砂糖きび生産者が増加してきているが、栽培技術が未熟であ り、供給先も限定されているため、現時点では、そのプレゼンスは決して高くな い。 オ 輸出動向 1997/98 年度のQLD州からの輸出量は約 3,400 トンで、その半数が白菜であ り、輸出先はシンガポール、マレーシアおよびシンガポールとなっている。これ ら輸出は、白人系大規模生産者により行われている。また、最近はショウガの輸 出も増加してきている。輸出を行っている生産者は、高度な生産技術、貯蔵施設 等や合理的な輸送システムを有し、大規模で効率的な商業的な経営を行っている。 (4)SA州 SA州におけるアジア野菜の生産は、西洋野菜の生産と併せ行われており、規模 は小さい。オーストラリア全体の生産に占める割合は3%にも満たず、輸出もほと んど行われておらず、その地位は低い。 ア 主要産地 SA州の野菜生産は、アデレードの北西郊外に位置するアデレード平原に集中 している。また、アデレードの東100km程に位置するマレー・ブリッジでも、生産 が行われている。 イ 主な野菜類 SA州では、白菜、中国葉菜類、ショウガ、ハーブ類、シャロット/スプリン グ・オニオンなどが生産されているが、それらの商的需要は少なく、一部がアデ レード市場で販売される以外は個人消費、生産者によっては食料雑貨との物々交 換に当てられることさえある。 ウ 販売量と販売額 1995年に実施された調査結果(オーストラリアの野菜産業監査)によれば、93/94 年度のSA州におけるアジア野菜の生産額は約50万豪ドルと推計されている(販 売量に関する統計はない) 。アデレード市場のアジア野菜の販売額は、2001年には ハーブ類を中心に約500万豪ドルとなっているが、これには、他州産のものなどが 含まれており、それらを除いたSA州産の生産額は約350万豪ドルと見込まれてい る。 14 表14:アデレード市場のアジア野菜の販売量および販売額 (単位:トン、豪ドル) 品 目 販売量 2000 販売額 2001 2000 2001 白菜 744.01 368.85 641,389 336,954 中国野菜 222.56 261.82 612,051 720,033 ショウガ 218.26 243.10 1,092,209 881,763 ハーブ類 84.29 138.01 574,350 1,166,939 ケール NA 14.51 NA 62,910 パセリ 280.70 372.00 912,244 1,204,590 0.01 0.00 65 0 198.51 184.72 516,648 523,207 1,748.34 1,583.01 4,348,956 4,896,396 シャロット球根 スプリング・タマネギ 合計 出所:RIRDC エ SA州における生産の特徴 SA州のアジア野菜は、主に、ベトナム系生産者によるアジア野菜に特化した 小規模経営の下、生産されている。収穫された野菜は、アデレード市場に出荷さ れるとともに、直接小売店やレストランに販売され、特に零細な生産者ほど市場 に出荷しないケースを多い。また、輸出については、白菜が約 10 トン程度輸出さ れているにすぎない。 (5)WA州 WA州のアジア野菜生産は、オーストラリア全体の約13.5%であるが、他州と比 較して大規模生産者が多く、輸出が最も盛んである。 ア 主要産地 アジア野菜の多くはパースから半径350km以内で生産されており、特にパース北 約50kmに位置するワネルー地域が主産地となっている。また、州北部のNT州と の境界に近いカナーボンおよびカナナラでも生産が行われている。 イ 主な野菜類 WA州では、従来から生産されている白菜、スプリング・オニオン、ダイコン に加え、最近は国内市場向けとしてカボチャ、チンゲン菜(白キャベツ)、チョイ サム(中国カリフラワー)の生産も行われている。 15 ウ 販売量と販売額 1993/94年度のWA州アジア野菜販売額は約560万豪ドルであり、そのうち白菜 が約8割を占めている。97/98年度から2000/2001年度におけるパース市場のアジ ア野菜の販売量は、年によってばらつきがあるものの、増加傾向で推移してきて いる。過去3年間において比較的安定した3,000トンから5,000トンとなっており、 販売される品数も増加している。 WA州全体の販売額については、それを直接示す統計等は存在しないが、パー ス市場の販売や市場外流通輸出動向等を下に推計すると、2000/2001年度の州全体 の販売額は約1,830万豪ドルと見込まれており、7年間で市場は3倍以上に拡大し たと見込まれる。 表15:WA州のアジア野菜販売額(93/94年度) ( 単位:万豪ドル) 品 目 販売額 白菜 生産者数 450 26 シャロット/スプリング・オニオン 60 32 その他 50 5 出所:RIRDC 表16:パース市場におけるアジア野菜の販売量の推移 (単位:トン) 品 目 生産量 97/97年度 98/99 99/2000 2000/2001 カボチャ 579 4,200 2,137 3,700 白菜 697 611 608 725 チンゲン菜 20 62 100 108 チョイサム 51 40 52 51 ダイコン 20 28 32 50 シャロット 18 33 40 41 モヤシ 77 22 28 36 0 0.3 18 30 14 13 11 8 ニガウリ 0 0.1 5 4 クレソン 2 1.7 1.4 1.7 水菜 オクラ 16 中国ブロッコリー (カイラン) スネークビーン 合計 8 4.2 1.6 1 0 1.9 2.8 0.2 1,500 5,000 3,000 4,700 出所:RIRDC エ WA州における生産の特徴 WA州の野菜生産者も、他州と同様にアジア系オーストラリア人と白人系オー ストラリア人に大別できる。白人系生産者は、西洋野菜の生産から多様化の一環 として、アジア野菜の生産に取組み、輸出志向も高い。一方、アジア系生産者の 多くは、パース近郊でアジア野菜に特化した小規模農場を営み、収穫物のほとん どをパース市場に出荷している。以下に、WA州の3つの主要産地における生産の 特徴である。 表21:WA州主要生産地域の特徴 生産の特徴 生産地域 カナナラ 品 目 経営規模 生産者数 主な市場 その他 カナーボン 首都圏(パース) ニガウリ、カボチャ、 カボチャ、白菜、オ ゴボウ、ダイコン、 白菜、オクラ、チン クラ 白菜 ゲン菜 タアサイ ニ ガ ウ リ 栽 培 の 4-6ha 1/4ha か ら カ ボ チ ャ 栽培の500haまで 24 裏庭程度の規模から 20数haまで 20 ニガウリ、中国葉菜、 パース市場 そしてオクラはパー ス市場、カボチャは シドニーおよびメル ボルン市場、白菜お よびオクラはダーウ ィン市場 25 ゴボウは日本、ダイ コンは台湾、香港お よびシンガポール、 そして州内市場。白 菜は輸出および地元 市場。 ニガウリ栽培シーズ 生産者はよく確立さ 小規模生産者の詳細 ンは4月から9月 れており、経験も豊 な統計把握は困難。 富である。ほとんど は50代以上。 出所:WA州農務省 17 カ 輸出動向 WA州は国内で最も生産量に対する輸出割合が多く、約40%が輸出に向けられ ている。2000/2001年度の輸出量は3,282トンで、そのうち白菜が7割以上占めて いるほか、日本や台湾向けにゴボウも輸出している。 表17 WA州のアジア野菜輸出量(2000/2001年度) (単位:トン) 品 目 白 輸出量 主な輸出先 菜 2,566 シンガポール、台湾、香港 ゴボウ 387 日本、台湾 ダイコン 310 シンガポール、台湾、香港 中国葉菜類 9 シンガポール チンゲンサイ 6 シンガポール、モルジブ その他 4 合 計 3,282 出所:RIRDC (6)NT州 NT州では、アジア野菜の生産割合が西洋野菜の生産より大きく、野菜生産のう ち生産量で75%、生産額では90%がアジア野菜となっている。 ア 主産地 アジア野菜の生産は、ダーウィンから100km以内の地域で行われている。ダーウ ィンの南300kmに位置するキャサリンにおいてもカボチャの生産が行われている が、商業的な生産が行われるまでには至っていない。 イ 主な野菜類 2000年現在では、オクラ、ニガウリ、スネークビーン、ヒョウタン、ヘチマが 主要なアジア野菜となっており、特に、オクラ、ニガウリ、スネークビーンの3 品目でアジア野菜全体の生産額の約60%を占める。一方、葉菜類はほとんど栽培 されていない。 ウ 販売量および販売額 NT州園芸産業省の資料によると、総生産量は1994年が約400トンであったもの が、2000年には8倍の約3,200トン、販売額は100万豪ドルから926万豪ドルと9倍以 上の伸びを示している。一方、西洋野菜の販売量は約2,200トンから1,000トンに 18 半減しており、西洋野菜からの作付け転換により生産が急激に拡大していると考 えられる。 表18: NT州におけるアジア野菜の販売量および販売額(94年および2000年) (単位:トン、1,000ドル) 品 目 販売量 94 スネークビーン 販売額 2000 94 2000 92 455 271 1,226 138 611 254 1,370 ヒョウタン 20 230 35 461 ハーブ類 16 27 68 214 ヘチマ 24 142 56 284 オクラ 23 890 79 3,113 トーガン 17 127 30 254 その他 79 723 2070 2,340 409 3,205 1,000 9,262 西洋野菜 2,225 1,001 2,667 1,613 合計 2,634 4,206 3,667 10,875 ニガウリ アジア野菜計 出所:NT州園芸産業省 エ NT州における生産の特徴 NT州のアジア野菜生産者の95%がベトナム系で、残りはカンボジア系又はタ イ系である。生産者数は急激に増加しており、1980年代後半には10軒に満たなか ったものが、現在では60軒前後になっていると考えられている。 平均3ha程度の耕地の下、家族労働力の主体の零細経営であり、生産者の農業経 験は浅い傾向にある。マンゴーなど果実類の生産の傍ら、短期現金収入の確保を 目的に生産している生産者も多い。このため、栽培技術は低く、収入も不安定で、 今後、栽培を断念する生産者が増加すると予定されているが、一方で、他州から の移住して生産に取り組む者をいるとみられ、全体の生産者数は大きな変動はな いとみられている。 また、輸出については、現時点では行われていないが、シンガポールの輸入業 者がアジア系葉菜類の関心を抱いているとのことである。 19 (7)TAS州 TAS州におけるアジア野菜の生産は、州内の市場が小さい上、一部輸出が行わ れているものの、州内の人口が少なく需要が乏しいことから、規模は小さく、縮小 傾向にある。 ア 主産地 州都ホバート近郊では葉菜類が生産されているほか、タスマニア島北西部にあ るデベンポートおよび北東部のスコッツデールでは、カボチャが生産されている。 イ 主な野菜類 カボチャ、スプリング・オニオン/シャロット、ウォンボク、チンゲン菜、ベビ ー・カイラン、ダイコンが主に州内市場向けに生産されているほか、白菜、ゴボ ウ、枝豆、ソラマメも小規模ながら栽培されている。また、ヒラタケ、シイタケ、 マイタケ等のキノコ類についても、試験的な栽培が行われている。 ウ 販売量および販売額 1995年に実施された調査結果(オーストラリアの野菜産業監査)では、93/94 年度のTA州生産額は約280万豪ドルと推計されている。93/94年度以降、スプリ ング・オニオン/シャロットの生産量は年間約450トンから約230トンまで減少した ことなどから、2001年度では、約180万豪ドルに減少したと推計されており、オー ストラリアで唯一アジア野菜生産が縮小した州となっている。 表19: TAS州におけるアジア野菜販売量および販売額(2001年度) (単位:トン、1,000豪ドル) 品 目 カボチャ スプリング・オニオン/ 販売量 販売額 1,500 600 234 600 300 600 2,034 1,800 シャロット 葉菜類 合計 出所:RIRDC エ 生産の特徴 タスマニア州でも、アジア野菜生産者は、2つのグループに分類できる。ホバ ート周辺の小規模菜園での生産者および州北部の白人系生産者である。ホバート 周辺の生産者の大部分はアジア系移民であり、主にタイ、カンボジアおよびラオ 20 ス出身者である。一方、州北部の生産者は白人系であり、100-150haの農地を利用 してカボチャを他の穀物や畜産等と複合経営の下、生産している。 なお、輸出については、具体的数量は不明であるが、日本、シンガポールなど に、カボチャが州内の2つの業者から出荷されている。 21 3 アジア野菜の消費および流通 (1)アジア野菜の販売動向 1990 年代半ば以降、アジア野菜の国内消費が増加してきており、大半のスーパー マーケットや生鮮野菜店で購入が可能となっているほか、多くのレストランにおい てもアジア野菜を味わうことができる。生鮮野菜店における小売りは停滞傾向にあ るが、スーパーマーケットにおける売上げは、西洋野菜の売上げが伸び悩んでいる なか、現在も増加傾向にあり、特に、中国系葉菜類は売上げトップ 10 に入るほど の人気がある。 また、「農産物直売場」も増加してきている。これらは、利用方法等を紹介しつ つ、収穫まもない様々なアジア野菜を販売するもので、スーパーマーケットに引き 取られない商品の重要な販路となっている。この動きは、特にQLD州とNSW州 で顕著である。 ア 製品の形態 オーストラリアで栽培されたアジア野菜の大半は、生鮮野菜として、箱入りで 小売店に販売されている。生鮮野菜物鮮度保持包装されたサラダミックスの人気 も上昇している。また、加工品として、ダイコンの漬物をはじめとする野菜の漬 物も少量ながら生産されている。 イ 卸売市場 卸売市場の重要性は、州によって異なっている。NSW州では、収穫物の8割 がシドニー市場(フレミントン・マーケット)を経由しているが、その他の卸売 市場では収穫物の約半分に過ぎない。生産者の話によると、シドニー市場を通し て生産品を取引きすれば、スーパーマーケットからの注文を一括して処理でき、 また従来の生鮮野菜店にとっても購買がしやすく効率が良いと述べている。また、 QLD州の市場関係者は、中央卸売市場を設置することで競争が確保され、また 品質の均一化、向上すると語っている。なお、NT州およびTAS州には中央卸 売市場が存在しない。 表 20:中央卸売市場を経由して販売されるアジア野菜の割合 卸売市場 NSW VIC QLD SA WA NT TAS 80% 45% 50% 50% 60% — — 経由率 出所:RIRDC 22 ウ 流通経路 アジア野菜の流通経路は、地域やチェーンの洗練度によって異なる。例えば、 ダーウィンからメルボルンまでのチェーンは長く、入念な梱包とクールチェーン (継続的低温流通管理)を必要とする。冷温の貯蔵と輸送は、都市部の市場近郊 での収穫物に対しては必ずしも行われていない。 図2 アジア野菜の流通経路 収穫 洗浄 中央卸売 市場 卸売業者 生産者 生産者等 直売場 小売店 レストラン 選別 梱包 輸出業者 (冷蔵) 海外市場 また、オーストラリアのアジア野菜取引においては、契約栽培が少ない。近距 離の大市場を抱えるNSW州の生産者は、気象の変動によるリスクがあまりにも 大きく過ぎるとして、契約栽培を好まない。NT州の一部生産者は国内の卸売業 者と契約栽培を行っているが、契約が卸売業者に有利な内容となっており、彼ら の不満は大きい。一方、流通業者も、収穫物が理想的な状況で納品されないケー スが多いと懸念を抱いている。 エ スーパーマーケットでの販売状況 オーストラリアにおけるアジア野菜の販売は過去 5 年間で約 2 倍に成長してお り、既に主流野菜としての地位を確立している。消費者、特に共働き夫婦の家庭 で炒め野菜のメニューが普及しており、パック入りミックス野菜の需要が拡大し て2桁の伸びを示している。品目ごとにみると、チンゲン菜、中国ブロッコリー 等緑色野菜の人気が高い。スーパーマーケットは、契約栽培ではなく卸売会社と 通じて、アジア野菜を調達しているが、生産者がスーパーマーケットに供給する ためには、HACCP等品質保証の認証を得ることが不可欠となっている。 23 (2)輸出動向 アジア野菜の輸出動向について現在入手可能な最新のデータである 1997/98 年度 の実績で州別輸出量をみると、QLD州が約 3,400 トンと最も大きかった。また、 ウォンボクを含む白菜類がオーストラリアの輸出野菜の大半を占めており、主な輸 出市場はシンガポール、香港および台湾となっている。近年は、ダイコン、ゴボウ、 タロイモなどの輸出も増加してきている。 生産に占める輸出の割合については、95 年に実施された調査結果(オーストラリ アの野菜産業監査)によれば、93/94 年度は約 20%が輸出されていると推計してお り、近年は、国内需要が増加してきているほか、中国、ベトナム、ニュージーラン ド等との競争が激化していることから、輸出割合は減少傾向にあるとみられている。 表 21:アジア野菜の輸出量 (単位:トン) NSW VIC QLD 主な輸出用 白菜 品目 ウォンボク ウォンボク キノコ パセリ ウォンボク ショウガ 白菜 394 3,397 10 3,000* 9,000 15,500* 1,250 7,700 輸出量 (97/98 年) 644 SA WA 白菜 ゴボウ ダイコン NT — TAS カボチャ 0 1,000* 参考: 生産量 15,000 (2000 年) 出所:RIRDC 3,200 2,000 注*:2001 年のデータ 輸出戦略は、輸出元によって異なっている。白人系輸出業者は、HACCPや残 留農薬管理等を通じた品質管理を非常に重要視する。一方、アジア系輸出業者は、 価格を重視し、全体的なチェーンとして輸出を考慮するに至っていない。海外の輸 入業者はアジア系輸出業者から低価格の商品を大量に購入し、アジア市場で販売し ているが、利益は少ないといわれている。 (3)輸入動向 現時点においては、ニュージーランドと太平洋諸島から輸入されていたタロイモ が唯一の輸入生鮮アジア野菜である。以前は乾燥チンゲン菜を含む半加工食品の輸 入がなされていたが、現在は国内産生鮮品に代替されている。また、アジア野菜を 使った加工食品が、中国、タイ、マレーシア、スリランカ、インド、フィリピンか らかなり輸入されている。 24 4 アジア野菜生産・販売に関する政府等の支援 アジア野菜については、オーストラリア農業に占める地位は極めて低く、政府の アジア野菜・販売に対する支援や介入はほとんど行われていなかった。しかし、近 年、その生産が急速に拡大し、輸出も今後拡大する可能性があると認識されるに至 り、政府からの支援活動が開始された。アジア野菜に対する支援は、生産者への直 接的な財政支援ではなく、オーストレードの輸出促進支援やAQISの輸出アドバ イス等他の分野にも共通する一般的な支援のほか、連邦政府資金を活用した「農業 研究開発公社(RIRDC)」と「ホティカルチャー・オーストラリア(HAL)」 等による研究開発など間接的な支援となっている。 RIRDCには、アジア野菜とその関連加工食品(漬物など)の研究開発を含む 充実したアジア食品プログラムがある。このプログラムは 1991 年から 5 年を 1 期 として開始され、現在は 2000 年から 2004 年まで第 3 期戦略計画に基づき、活動が 行われている。2003/2004 年度の主な活動実績については、以下のとおりである。 (新規作物開発) ・タスマニア州におけるわさび生産と市場開拓 ・日本および米国向けタロイモ(サトイモ)、サツマイモ等の開発 ・国内外市場に向けた新たなアジア野菜 (産業開発) ・ニュースレター「アジア野菜へのアクセス」を年 10 回発行 ・シドニー近郊ベトナム系生産者の収益性確保への方策 HALは、野菜生産額に応じた課徴金を活用した資金(半額は連邦政府からの補 助)により、委託研究を行っている。しかしながら、アジア野菜の生産額はまだそ れほど大きくなく、従って徴収された課徴金では、十分な研究が行えないという問 題点を抱えている。生産者の間でも、この課徴金の評判は非常に悪いようである。 また、州政府においても、生産者に対し営農指導を行っているほか、州の生産実 態に応じて、様々な支援を行っている。例えば、輸出が盛んなWA州では、新野菜 輸出プロジェクトを創設し、日本向けのゴボウやダイコンの栽培方法の試験栽培や パッケージング等についての研究を行っている。 25 5 アジア野菜生産の実態(ケーススタディー) 前述したようにオーストラリアにおいてアジア野菜を生産している生産者は、2 つのタイプに分類できる。1つは、オーストラリアに最近移住し、当初は農地を借 地し、作物も親しみのあるアジア野菜を小規模に栽培を始めた生産者。もう一つは、 親子数代で農業に従事、大規模農地を所有し、将来性がある作物としてアジア野菜 を選択して栽培をしている農家である。前者は、中国、ベトナム、カンボジアなど のアジア系が多く、後者は、数代で営々と農業を営んだオーストラリア人農家の他 に、戦後間もなく移民してきた南欧、特にイタリア系オーストラリア人が含まれて いる。イタリア人は移民後、融資や農作業でお互いに助け合って、オーストラリア の農業(野菜や果実が多い)に切り込み、その地位は定着している。 インタビューを行ったのは、前者の典型であるベトナムからの移民生産者、後者 は、親子数代で農業に従事している白人系オーストラリア人生産者である。また、 アジア系の野菜生産者は、それぞれの出身国別に、言葉や習慣が理解できない生産 者を援助しつつ、営農技術の向上、販路拡大等を目的に生産者組織を結成しており、 そのいくつかの組織にもインタビューを行った。 (1)アジア系移民生産者 ヘンリー・ニューエン(Nguyen)氏 35 歳 ヘンリーがベトナムの高校を卒業した直後の 16 年前、両親とともにオーストラ リアに移住した。父親はベトナムでは軍人で、農業の経験はなかったが、農業によ って生計を立てようと、シドニー郊外ロスモア(Rossmore)に3ha の借地で営農を 開始した。彼も作物を育てることに興味があったので、父親とともに農業に従事す ることになった。農業を始めたのは移住歴と等しく今年で 16 年目となる。 父親が 60 歳になった6年前に、農業経営はヘンリーが任されることとなった。 その時、ヘンリーは 30 歳、25 歳のときに結婚したが、妻は小学校教師で農業には 従事していない。農業は彼と両親3名で行っている。農場は、自宅から車で 20 分 の地区にあり、ほぼ毎日通作している。農業就業時間は夏場が特に忙しく、一日最 低 12 時間程度で、冬場は5~6時間程度である。 農地の貸主は元農業者のオーストラリア人で、自宅の周辺に約 10ha の農地を所 有しているが、所有農地を3戸の農業従事者に貸して、そこから得る賃貸料の他に、 農業機械を数台種保有し、その機械のリースからも収入を得ている。農地を賃貸し ているのは、ヘンリー一家の他に、ベトナム系とレバノン系生産者で、ともに野菜 をそれぞれ3~4ha とほぼ同じ規模で栽培している。ベトナム系生産者はアジア野 菜の栽培が中心であるが、レバノン系生産者はトマトなど西洋野菜の温室栽培を行 っている。 26 ヘンリーが今年の夏場に栽培しているのは、ニガウリ、スネーク・ビーンズ、茄 子、トマトの 4 種で、アジア野菜に限定しているわけではない。長年の経験で学ん だことは、直接販売できる小売業者と懇意になり、顧客が望んでいるものをその業 者から聞いて、その作物を栽培するのが最も安全な販売方法であると語っている。 失敗した例として、2000 年のシドニー・オリンピック期間中のレタスが挙げられる。 選手村への供給や訪問客の増加によりレタスが品薄にあるとの噂が流れた。確認も 十分しないまま大量のレタスの栽培に踏み切ったところ、噂を信じた他の農家も同 じくレタスを栽培したために供給過剰となり、逆に値崩れを起こした。それ以来、 販売先を確保している作物だけ、販売可能量の予測しつつ、慎重に栽培することと している。 (ニガウリ) 現在、懇意にしている小売業者は 2 人おり、1 人はイタリア人、もう1人は中国 人である。夏場にはイタリア人はトマトを、中国人はスネーク・ビーンズを中心に 買い取ってくれる。トマトは秋先にも買い取ってくれる。 彼らに販売した後の余剰分は、仲買人経由でシドニー卸売市場に出荷するが、そ の販売価格は業者との直接販売と大きな開きがある。スネーク・ビーンの場合、12 本を一束にし 1 ダース単位で出荷するが、小売業者は 1 ダースを 13~15 豪ドルで 買い取ってくれるのに対し、仲買人経由で青果市場に販売しても 9 豪ドルに過ぎな い。懇意な小売業者を見出すことが、所得拡大のカギである。 栽培は、灌漑水を農地全体に引き、肥料を施してその上に黒いビニールのシート をかぶせて蒸発を防止しながら行っている。トマトは夏場と秋先に出荷できる 2 種 を育て、作付け割合が最も多い。ニガウリは初めての作物で今年は試験栽培を行っ 27 た。試験用栽培は、植木鉢に入れたままのものと苗床にしたものの2種類育ててみ たが、結果的には、苗床の方が生育が順調であることが分かった。農業を開始して 16 年経過したが、未だ試行錯誤が続いている。問題が生じた場合は、州政府の農業 指導員に相談するものの、野菜の種類が多岐にわたるため、指導員自身も知識・経 験不足で十分なアドバイスを受けられないのが実情である。このため、近くの図書 館で参考書を借り、栽培技術の習得に励んでいる。 農業経費は、借地料、農業機械賃貸料、種子代、灌漑水利用料、肥料、農薬、ビ ニール・シート等の農業資材購入費などであるが、この経費のうち最も高いのは肥 料代である。一定の収量を得るには、毎年、かなりの量の施肥が必要となっている。 農業指導員の助言によれば、少なくとも1~2ha の農地を取得できれば、1~2年 間の休耕地を設けることが可能となり、全体の肥料使用量を減らせるとのことであ る。それが理想であると分かっていても、借入れ金により農地を購入するというリ スクを父親が負いたがらないとのことである。父親は今ある農地で最大の収入を得 るべきという理念の下、これまで農業を営んできた。 「狭い農地でコツコツと、家族 3 人肉体労働を行っているので、自分たちは筋肉 たくましく「ヘルシー」にはなっているが、このままでは、決して「ウエルシー(金 持ち)」にはならない。現在、高い収入を上げる可能性があると言われているゴボ ウに関心がある。ごぼうの栽培が可能かどうかと韓国の店から打診があった。しか し、ごぼうの種子をどこで入手していいのか分からない。 」と語っている。 (ヘンリーと州政府職員) 28 (2)白人系生産者 フィリップ・ハモンド(Hammond)氏 36 歳 ビクトリア州の州都メルボルンから東に 220km に位置する国内で最大の酪農地帯 であるリンドナウ(Lindenow)で、肉牛生産とともに白菜を栽培している。 先祖数代の農家で、父親は酪農家だった。父親が 10 年前に農業から引退した際、 父親の農地 80ha を買い取った。自分の代に入って、酪農から野菜と牧草の栽培と 肉牛飼育に転換した。野菜の栽培品目を検討していた際、タイミングよく、台湾の 輸入業者から白菜栽培の打診があったことから生産を開始した。うまく生育し、輸 出先でも受け入れられたので、それ以降台湾への輸出を継続している。今年で 7 年 になる。付近にもう1戸、同じく白菜を台湾市場用に栽培している農家がある。台 湾へは、一部の小型白菜が空輸で、残りは冷蔵施設を完備した船舶で輸出している。 冬は白菜を栽培し、夏はインゲンを栽培し国内に供給している。牧草を栽培し、 家畜の飼料として販売するほか、その飼料を使って肉牛も飼育している。白菜の栽 培面積は 12ha で、栽培は 16 名の従業員が行っている。販売先は、台湾のみとなっ ており、過去5年間で出荷額は少し増加している。白菜生産による粗収益は 30 万 豪ドルであり、経営費を控除した純利益は6万豪ドルである。「豪ドル高が続くな か、利益を維持・向上するための経営コストの削減という課題は抱えているものの、 しっかりとした販路を確保している現在の白菜生産に十分満足している。今後とも、 アジア野菜については台湾向け白菜生産に特化していく考えであるが、将来的には、 もし畑の土壌に適する白菜以外のアジア野菜があれば、生産を開始する可能性はあ る。アジア野菜市場の展望は明るいと思う。 」と語っている。 (3)ベトナム系野菜生産者協会 (Vietnamese Vegetable Growers Association of NSW) <構成員の概要> 協会が結成されたのはわずか3年前の 2001 年で、構成員は 38 名。シドニー近郊 にベトナム人の生産者は全部で 70 人いるが、残りは、温室の花卉栽培等を行って おり、それぞれの協会に属している。メンバーのうち農地を自分で所有している生 産者はわずか2戸に過ぎず、残りはすべて借地で生産している。平均耕地面積は 2.5ha 程度である。構成員全体の年間所得は約 100 万豪ドルとなっており、生産者 1人当たりでみれば、2.6 万豪ドルである。 <流通経路> スーパーマーケットや海外に販売している生産者はなく、レストランや青果店へ の直接販売と仲買人を通したシドニー市場への出荷という2つの流通経路を活用 29 している。その割合は半々となっている。いずれも、先方が引き取りに来るのでな く、生産者が運搬する。 消費者への直接販売は、シドニー市場に生産者が直接販売できる場所が確保され ており、そこで青果店やレストランに販売する。ここでは一般消費者も購入可能で あるが、ほとんどの品物が1箱単位で販売されるため、個人での利用は難しい。そ の他、シドニー近郊で生産者直売のマーケットが数ヶ所あり、意欲のある者は、そ こでも収穫物を販売している。 <構成員が抱えている課題> 農業収入がわずかであることから、若い世代は他産業に流出し、後継者不足が深 刻になっている。また、シドニー近郊では他の地域のからの人口流入により、都市 化が進展しており、地主がいつ農地を手放すかわからないという不安も抱えている。 <今後の戦略> 協会は結成されて日が浅い現段階では、各生産者が抱える問題点を掘り起こすに 止まっているものの、将来的には、後継者問題や農地問題について政府へのロビー 活動を行うまで発展させたいと考えている。また、現在は生産者が個々で販売を行 っているが、今後は、最大限に利益をあげられるような販売ネットワークを結成す ることも検討している。アジア野菜の需要の伸びは今後も期待できることから、こ れらの課題を克服すれば、未来は明るいと話している。 * 同協会のスー・フア(Su Hua)会長自身も、オーストラリアに移住をしてき て 26 年になる。ベトナムで大学の農学部を卒業しており、移住して意気込んで 10ha 借地で農業を開始した。自分1人の経営では限界もあることから、現在では 約 2ha に縮小し、ニガウリ、サヤエンドウ、トマトなどを栽培している。2人の 息子がいるが 1 人は医者にもう1人はコンピューター技師になって農業を継ぐ気 はまったくないとのこと。 「自分が年老いたら自分1代だけの農業は、そこでお終 いとなるだろう。しかし、会長としてベトナム系の農家全体を助けていきたい。」 と語っている。 (4)中国系野菜生産者協会 (Chinese Vegetable Growers Association of NSW) <構成員の概要> 構成員は 210 人。協会が結成されたのは 1989 年、今年で 15 年目となる。シドニ ー近郊にいる中国系生産者 250 人のうち、210 人が加盟している。このうち農地を 自分で所有している生産者は 2/3 に当たる約 150 人。残りは借地。生産者の耕地面 30 積は、最大は 5ha、平均は 2.5ha 程度となっている。 <流通経路> 販売先は、量販店のスーパー・マーケット(ウールワース、コールズ) 、アジア食 料品店、仲買人を通した青果市場、農家直売などのシドニー近郊で販売のほか、ブ リスベンやメルボルンなど他州の市場への販売を行っている。また、海外にも輸出 しており、日本には白菜とセロリ、シンガポール、香港、台湾などにはチンゲン菜、 チョイサム、コリアンダーなどのバーブ類を空輸している。 <課題> 労働力不足が深刻で、経営規模を拡大しても雇用確保が困難で、需要が増加して いるにもかかわらず、それに見合った生産の拡大ができないという状況にある。連 邦政府移民省にアジア人の農業従事者の移住を願い出たことがあるが、国内に失業 問題があるとのことで却下された。都市化の進展により、農地がシドニー近郊から さらに郊外に押しやられてはいるが、輸送力さえあれば問題とはならない。しかし、 農地はあっても働く人がいなければ農業は成り立たない。雇用労働力の確保が最優 先課題である。 31 6 アジア野菜生産の課題と今後の展望 (1)オーストラリアのアジア野菜の強み ・アジア系移民の増加、白人系住民の食習慣の変化等による、オーストラリアのア ジア野菜に対する国内需要の高まり ・アジア野菜の生育に適した生産基盤 ・アジア諸国の端境期に輸出が可能 ・無農薬・低農薬生産であることが海外でも認識 ・野菜の生産と市場に必要な条件を理解しているアジア人移民が多数存在 ・地理的にアジア市場に近接 (2)オーストラリアのアジア野菜生産・流通の課題 ・小規模生産者でも支払い可能な賃金で雇える労働者の欠如 ・機械化の遅れ ・シドニー、メルボルン等大都市近郊での都市化の進展による農地価格の高騰 ・都市近郊と中心とした農業投資意欲の減退 ・高価な水利権 ・新たな栽培技術への対応の遅れ(特に英語力が不十分なアジア系移民) ・産業全体のしての統一性の欠如 ・クールチェーンの欠陥とそれによる品質格差 ・不完全な等級付け ・高い梱包コストと輸送コスト ・小売市場の寡占(2 大スーパーの食料品売上げは全体の 7 割以上)による買い手 の集中化 ・新規産品等に対する消費者教育の欠如 ・消費者を惹きつける広告戦略の欠如 (3)今後の展望 オーストラリアおけるアジア野菜生産は、過去 10 年弱の間に生産額で約 3 倍の 伸びを示し、需要の顕著な伸びをみせている。このようななか、オーストラリアの アジア野菜産業は、多種少量の野菜を近接する大消費地に供給する零細生産者と、 特定の野菜を多量に生産し州外や海外市場に供給する商業的生産者の 2 極化が明ら かに進展している。上に示したような課題は両者に共通するものもあるが、その多 くは零細生産者、すなわちアジア系移民生産者特有の構造的な課題となっている。 これらの課題は、生産者自らの努力や政府の支援等により、そのいくつかは解消さ れつつあるが、彼らが大幅な生産の拡大やひいては所得拡大を図る上で大きな障害 32 となっている。これまでの生産の拡大は、どちらか言えば、生産者数の増加による ものが大きく、今後、高齢化、都市化により離農者が増加すれば、供給力が低下す るおそれさえある。大都市への生鮮野菜の地道な供給という彼らの役割は、既存の 生産者組織の機能強化あるいは民族という枠を超えた連携がない限り、今後も変わ らないものと考えられる。 オーストラリアのアジア野菜産業の更なる発展、将来は、白人系の商業的生産者 が握っている。現在アジア野菜の輸出のほとんどを担っている白人系生産者は、恵 まれた生産条件の下、十分な栽培技術を有しているとともに、冷蔵施設付きの大型 倉庫や最新の包装箱等に積極的に投資を行い、収穫物の品質の向上にも努めている。 海外の輸入業者のニーズに応じ、作付け品目も柔軟に対応している。しかしながら、 これまでの輸出は、輸入国からの注文が運良く入ったことが契機となっており、ア ジア野菜産業全体としての統一性の欠如や新興産業であること等を背景に、生産者 はどちらかというと、受身の姿勢であった。したがって、今後、更に輸出を拡大さ せるためには、政府の強力な支援の下、業界が一体となった輸出販売戦略を構築し、 積極的なプロモーション活動を推進していく必要があると考えられる。 33 (参考)アジア野菜関係者リスト 区分 政府関係 名称 住所 NSW Agriculture 担当者 Locked Bag 11, 電話番号 Dipak Aditya 2 4577 0628 Department of Primary Industris and 80 Ann St, Brisbane, QLD Eric Coleman 7 5466 2216 Windsor,NSW 2756 機関 Fishries, QLD 4001 Natural Resources and Environment, Calverts VIC Rd, Bairnsdale, Robert Dimsey 3 5152 0400 VIC 3875 Department of Agriculture,WA Locked Bag 4, Bentley John Burt 8 9780 6196 Deliverey Centre WA 6893 Department of Primary Industris and Lenswwod Reseach Centre Hollow Howard Resources, SA Swamp Rd 8 8389 8800 Lenswood, WA5240 The Department of Primary Industries, Rundle Rd, Devoprt TAS Joe Horak Water and Environment, TAS 3 6421 7662 7310 Department of Business, Industry and Berrimah Farm, Makagon Geoff Walduck Resouce Development, NT 8 8999 2219 Road, Berrimah, NT 0828 RIRDC(Rural Industries Reserch and PO box 4776 Kingston, Tony Byrne Development Corporation) 2 6272 5472 ACT 2064 HAL(Horticulture Australia Ltd) Sydney Flemington Market, Alison Anderson 2 9746 1865 NSW 2000 生産者 団体 Vietnamese Vegetable Growers Su Hua 412 557 888 Association of NSW Chinese Vegetable Growers Association Flemington of NSW Markets,NSW David Chung 2 9822 5283 2129 Cambodian Vegetable Growers Boran Huot 419 490 187 Bill Mcmahon 2 4578 1352 66/330 Wattle Street Ultimo, Robin Johnson 2 9211 1555 Association of NSW NSW Free Growers Horticultural Council 輸出業者 Purveyors International Pty Ltd NSW 2007 Antico International Store G Flemington Hugh Molloy 2 9724 9555 19 Kaleno Rd, Balwyn, Stephen Chen 3 9857 8691 Markets, NSW 2129 Chen International Pty Ltd VIC3150 34 区分 輸出業者 名称 Coleflex Pty Ltd 住所 19 Crows Lane, 担当者 Glen Philip Chang 電話番号 3 9829 5646 Waverley, 3150 Agritarade International Pty LTd PO Box 110 Thornlie, 6998 8 9398 8380 Aismik International Agro Everrtte Way, Hopevalley, 8 9437 1483 WA 6165 Austral Pacific Exports PO Box 107 875 Fremantle, 8 9335 8866 WA 6160 Powerwide Enterprises Pty Ltd 358c South St,Oconnor WA 8 9314 2989 6163 Trident Produce Pty Ltd PO Box 275 Willeton, WA 6155 35 8 9456 1288 平成 15 年度 発 行 発行所 食品規制実態調査事業 2004 年3月 日本貿易振興機構(ジェトロ)産業技術農水産部 東京都港区虎ノ門 2-2-5 電話 03(3582)5186 (無断転載を禁じます)