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11ID012 西田沙妃

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11ID012 西田沙妃
[論文]
情報産業が及ぼした過疎地における働き方の変化と知的生産性
徳島県神山町のサテライトオフィスを事例として
Influences of workplace productivity and changes in the way of working in Japanese sparsely populated
areas that information industry had.-A Case Study of Kamiyama satellite office in Tokushima Prefecture
- SubTitle Xxxxxxxx xxxxxxxx xxxxxxxxx xxxxxxxxxx xxxxxxxxx
西田 沙妃/総合デザイン専攻 11ID012 ● 指導教員/小玉祐一郎 印
Saki NISHIDA
In recent years, the depopulation problem due to population aging and declining in the local city is serious, activation
methods using a vacant house is often used. I suspect when once the internet was not advanced as modern, that city people are
moving to the depopulation town of inconvenient traffic was very difficult. However, Toffler is as expected in "The Third
Wave", world that can be connected by a high-speed line the PC of the electronics cottage, to work while communicating
with the company already exists. Case of satellite offices using private house in Tokushima Prefecture Kamiyama is one of
them. Research office in recent years, has said the psychology and economics so far not limited to the construction sector in
the "workplace productivity”. It is that "IT companies and sparsely populated areas are in need of communication" and. As be
also applicable in other areas under populated future, it is intended to make clear here that there is a relationship which both
satisfactory to both.
序章)本研究の背景と目的
理」
、第 3 階層の「知識創造」である。神山のサテライトオフ
0.1 はじめに
ィスを利用しているIT企業などは第 3 階層の比重が高いと
地方都市における過疎問題が深刻化する近年において、空
き家を活用した活性化手法が多く用いられている。かつてイ
考えられ、創造性や他者とのコミュニケーションがより重要
視されると考えられる。
ンターネットが現代のように進歩していなかった頃、都市生
以上から「過疎地域とIT企業両者がコミュニケーション
活者が交通の不便な過疎のまちに移り住むことは大変困難で
を必要としている」と考えられる。両者が双方に満足のいく
あったと思われる。しかしトフラーが「第三の波」で予測し
関係であることを、ここに明らかにすることを目的とする。
たように、
「自然環境に恵まれた郊外に建つ家庭の中にある小
0.2 本研究に対する先行事例及び、既往研究
型のコンピュータが高速の電話回線で結ばれれば、それがエ
0.2.1 情報産業の及ぼしたコミュニケーションの不足と施策
レクトロニクス・コテージ(電子小屋)になる。そうなれば、
近年の情報産業の普及により、働き方が時間や場所に制約
もうわざわざクルマに乗って会社のあるダウンタウンまで出
されなくなってきた結果、テレワークやノマドと呼ばれるよ
かける必要はなく、家にいて会社と通信して仕事をこなすこ
うな働き方が普及し、組織内のコミュニケーションに変化が
とができる。
」というような社会は郊外に限らず、山間の過疎
生じてきている。知的生産性を高めるためには、情報や知識
地にまで及びつつある。徳島県神山町における民家を利用し
共有が必要であると考えられてきたにも関わらず、その逆行
たサテライトオフィスの事例がその一つだ。
を行くような組織変化を情報産業は及ぼしている。そうした
現在、過疎地域における空き家を活用した活性化手法にお
コミュニケーション不足への具体的な施策として、阿部は 3
いて、企業誘致に成功している地域は少ない。また、他の手
つをあげている(※1)。1 つはフリーアドレス制度。次に偶発
法のような個人誘致(移住相談・お試し居住・二地域居住・ア
的なコミュニケーションを高めようとする試みとして、開放
ーティストインレジデンスなど)とくらべても企業誘致は雇
性を高めたオフィス空間やオフィスワーカーの集まる場を設
用を生み、今まで過疎の原因とされてきた雇用減少による若
置する事例。最後に分散していた拠点の統合である。こうし
者の流出や根本的な人口減少を防ぎ、生活水準を維持するこ
た実務家の注目に加え 2000 年以降、
様々な学術分野でコミュ
とが可能であると考えられることからも、持続可能な手法で
ニケーションと創造性(第三の知的生産性)への注目は高まっ
ある。そのオフィスは民家を改修し、地域とのコミュニケー
ていると考えられる。
ションや自然とのつながりを生むことで新たな働き方を創出
0.2.2 情報化初期におけるニューオフィス運動の課題
し、都市部とは違った生産性を生み出している。
一方で近年、様々な学術分野で行われてきたオフィスにお
実務家や研究者たちの注目がシフトする以前にも、働き方
の急激な変化とそれに対する施策と研究に注目は集まった。
ける「知的生産性」の研究があるが、これは 3 階層に分類さ
1980 年代以降の第三次就業者増加及びオフィス労働者増
れると考えられ第 1 階層の「情報処理」
、第 2 階層の「知識処
加、
OA化に伴う創造的業務への比重増加などを背景として、
1986 年 7 月、通商産業省はニューオフィス推進委員会という
として、管理者からオフィスワーカーに対して組織内の変革
私立懇談会を設立している。この懇談会の設置目的は「高度
が創始されることを伝達し、コミュニケーションの活性化を
情報化社会の向上と推進を図ること。
」にあった。すなわち快
達成しうると古川は考えているのである。
適性や環境質改善を考慮した、オフィスワーカーの活動を中
彼が建築学者と異なる点はオフィス空間の改善と生産性向
心に考えたオフィス設計の重要性を認識しはじめたのである。
上に直接的な関係性はないと考えている点である。それらを
ここで建築系学者は主にオフィス空間の快適性・機能性を、
つなぐ要素として、コミュニケーションの活性化を彼は重要
物理的構成要素に焦点を当てて研究をしてきた。しかし阿部
視していると考えられる。また、SECI モデルやバウンダリー
によれば、これらは個人レベルの環境認知にとどまり、快適
オブジェクトなど、経営学分野では早くからコミュニケーシ
性と機能性を実現することに努力を注がれてきたのである
ョン行動に対する注目が集まっていると考えられる(※8)。
(※1)。
建築学分野におけるコミュニケーションが知的生産性に与え
る研究としては、緑川・伊香賀・佐藤・割田らが、その相関
性を考察し、有用性を示している(※9)。
0.2.3 室内環境室が与える知的生産性研究の発展性
一方実務家たちの注目に伴い、建築学分野でも知的生産性
研究が活発に行われている。とりわけ建築環境工学系学者に
よる室内環境質が知的生産性に与える影響に対する研究が進
められている(※2)。彼らは「知的活動と建築空間の 3 階層モ
デル」を提案し、人の知的活動を、情報をルーチン処理する
「情報処理」
、情報を加工してまとめる「知識処理」
、そして
新しいアイデアを創り出す「知識創造」の大きく 3 つにわけ
図 1 建築学者たちの研究の見取り図(※1)
て考えている。前者二つの階層では、基本的な作業に必要な
一方で経営学者の古川は、1990 年代-2000 年代前半にかけて
明るさや湿度、新鮮な外気供給などの「環境整備」が求めら
「オフィス空間内の快適性と機能性を高めることが、オフィ
れているが、それらの上位階層である「知識創造」では人の
スワーカーの生産性を向上させる」という潜在的に共有され
行動による「場の活性化」が求められているとしている。
ていた因果経路の解明に実証努力を行う研究を残している。
また、最近では人間を画一化して環境整備を行うのではな
く、それぞれに自分の好みに合わせて環境を整えることので
きる「環境選択型技術」が室内環境室改善のうえで大きな鍵
を握ると田辺・西原は言っている(※5)。彼らは、風速をパー
ソナルコントロールできることが、疲労の症状を低下させ、
知的生産性に影響を与えるのではないかという研究を行って
いる(※6)。このような傾向は風だけではなく、照明において
も、午前中の昼光照明利用が知的生産性に与える影響の検討
などを伊香賀らは行っており(※7)、
自然とのコンタクトをと
図2
古川の研究の見取り図(※1)
古川は、オフィス空間とコミュニケーション行動について
は、水平方向へのフォーマルなコミュニケーション、水平方
りながら働くことが、知的生産性に影響するのではないかと
いう期待が、建築分野の研究において高まっているといえる
だろう。
向へのインフォーマルなコミュニケーション、垂直方向への
フォーマルなコミュニケーション、垂直方向へのインフォー
第一章)徳島県神山町の空き家を利用した過疎地域活性化策
マルなコミュニケーションに関しての活性度を尋ねている。
1.1
徳島県神山町について
いずれもオフィス形態との有意な相関関係は存在しないこ
徳島市内から車やバスで、40-50 分くらいの名西群という
とが明らかになった。このことからオフィス形態の変更だけ
地域に神山町はある。かつてはスギやヒノキなど林業で一時
では、企業のいずれの方向へのコミュニケーションも活性化
代を築いたが、木材価格の低迷とともに賑わいは低迷。人口
しないとし、①管理者によるコミュニケーションの創発、②
6300 人ほど、高齢化率 46%と、昭和 30 年代以降減少の一途
リフレッシュスペースを利用したインフォーマルなコミュニ
を辿り、
「限界集落」の割合が全国平均の「15.5%」を大幅に
ケーションの創出、の二つが重要であるとしている。
上回る「35.5%」という、厳しい状況にある(H22.4.30 現在)。
また、4 つのコミュニケーションの相関がきわめて高いこ
しかし、県が地上デジタル放送難視聴対策の一環として県
とにも着目している。すなわち、オフィス空間の変更を契機
内全域に光回線網を整備したこともあり、2010 年 10 月に、
クラウド名刺管理サービスのベンチャー企業が同町で初めて
と、2か月後に神山にサテライトオフィスをつくることを即
古民家をオフィスとしたのを契機に、IT 企業のサテライトオ
断し、グリーンバレーの支援を経て「神山ラボ」を設立した。
フィスの進出が相次ぐ。このことから 2011 年には、神山町が
また、空き家町屋 2011 として、新たに建築家の伊藤暁氏、
誕生した 1955 年以来初めて社会動態人口が増加に転じた。
柏原寛氏を加え、昭和4年(1929 年)に建てられ現在も神山町
1.2
の中心として親しまれている劇場寄井座の改修をテーマとし
NPO 法人グリーンバレーについて
2004 年の NPO 設立。本業は土木屋の大南信也氏を理事長と
た WS を行った。
する。その歴史は 1920 年代後半、反日感情が悪化した米国の
それとはまったく別に震災後、東京都は異なる電力地域で
現状に心を痛めた宣教師が送った青い目の アリス人形を
のバックアップオフィスの必要性を感じていた株式会社プラ
1991 年に里帰りさせるプロジェクトにはじまる。このプロジ
ットイ―ズの隅田徹氏は神山町に注目し、偶然手に入った物
ェクトは熱烈な歓迎を受け、ウィルスキンバーグ市と神山町
件が寄井座の隣であったため、
大南氏からこの WS の状況を知
との国際交流が始まり、その後も両地域の交流は続いた。こ
り、反応を示し、坂東・伊藤・須磨氏に「えんがわオフィス」
うした国際交流の活性化を下地に、
徳島県は神山町を中心に、
の設計を依頼することとなった。
1997 年「とくしま国際文化村」をつくる構想を発表した。行
一方、この他にも広がるサテライトオフィスの現象に行政
政による文化村構想は実現しなかったが、地域住民が県に提
も注目し、県・市町村・NPO・企業らとともに、
「とくしまサ
案をしていく体制により、1998 年に「アドプト・プログラム」
テライトオフィスプロモーションチーム」を運営しており、
及び、1999 年より芸術家を招待する「神山アーティストイン
空き家町屋 2012 として、600 ㎡を超える元縫製工場を 10 社
レジデンス」事業を開始した。国際文化村委員会は 2004 年に
程度が入居するシェアオフィス「神山バレーサテライトオフ
NPO 法人グリーンバレーに名を改め、町から受託した事業な
ィスコンプレックス」に改修することとなった。
どを行う。
1.3 サテライトオフィスについて
第二章)研究対象事例及び、研究の構成
地上デジタル化を機にそれまで関西から届いていた電波が
2.1 研究対象事例
届かなくなるという事態に対して、県は山間部に集落が多い
本論文では、神山町にオフィスを構える二社を対象とする。
為、電波塔を建てるより安いと、長さ20万㎞にも及ぶ光ケ
両社は「循環型」
「滞在型」というサテライトオフィスの利用
ーブル高速回線網を付設。ネット利用をすれば回線が混雑し
形態に違いがみられ、互いに比較することで、知的生産性の
ないため、都市部よりも動画が速く、通信速度が速いという
捉え方における違いなどを知ることが出来る。
状況が起きている。また、道や川でも仕事ができるという信
2.1.1 えんがわオフィス(株式会社プラットイーズ/循環型)
じられないような光景が、多くの人々を惹きつけている。
図 3 NHKで放映された
川辺で PC 作業をする様子
(※11)
1.4
空き家町家プロジェクトについて
当初、神山に関わる人たちの間で「サテライトオフィス」
という概念は頭の中になかった。
きっかけは 2010 年に始まっ
た建築家の坂東幸輔氏と彼の友人の須磨一清氏とグリーンバ
レー、東京芸術大学の学生らによる「空き家町屋プロジェク
図4
ト」の最初の取り組みで「ブルーベアオフィス」の改修から
「周囲に縁側をつけたい」という隅田氏の意向により、それ
えんがわオフィスのファサード(※12)
はじまる。アーティストインレジデンス事業や「イン神山」
まで神山に関わってきた建築家らとともに設計される。隅田
というウェブサイトのディレクターであったトムヴィンセン
氏は神山町に住民票を移すなど、積極的に地域に関わろうと
ト氏の年に数週間程度滞在するオフィスになる予定であった
する意志がある。現在働いている従業員は地元雇用されてお
が、彼がいない間知り合いの国内外のアーティストに貸しだ
り、当初本社から社員がくるだけであるという予定だったの
すという場所になった(現在では株式会社ソノリテが使用し
が結果的に地域の人材が必要になり、地元企業「株式会社え
ている)。
んがわ」を新たに設立している。業務としては、テレビ番組
このシェアオフィスの様子を須磨氏は友人の株式会社
や映画などの映像素材を長期保管する「デジタルアーカイブ
SanSan の寺田親弘氏に話すと、シリコンバレーで勤務経験の
事業」を行っている。なかでも次世代映像規格となるスーパ
あった彼は「働き方に革新を起こす」というミッションのも
ーハイビジョン(4K・8K)のアーカイブは、日本初とな
る最先端のサービスである。
第三章
建築家はデザインコンセプトにおいて「境界」
「他者としての
への影響
振る舞い」という言葉を選んでおり、他者と地域が出会う為
3.1 企業の神山でのサテライトオフィスの利用形態と知的生
の、新しいコミュニティの在り方を考えている。
産性
2.1.2 神山バレーサテライトオフィスコンプレックス
ここでは企業がサテライトオフィスをどのように利用し、神
(株式会社ダンクソフト/滞在型を主とした循環型)
IT 企業が過疎地域で働くことが及ぼす知的生産性
山での知的生産性についてどのように考えられているかをイ
ンタビュー結果をもとにまとめる。両社にはそれぞれ以下の
6 項目について伺い、ここでも循環型と滞在型という分類に
着目して比較を行った。
図 5 ファサ
項目❶サテライトオフィスを利用する人の業務形態
ード(※13)
項目❷知的生産性が向上した業務形態
項目❸知的生産性が低下した業務形態
項目❹知的生産性が改善・低下した項目の詳細
項目❺知的生産性を向上させるのに最適な期間とその理由
元縫製工場の大きな空間を活かしたシェアオフィス。運営
はグリーンバレーが町から委託されている(指定管理制度)。
項目❻知的生産性を向上させる、都市部から過疎地へと働く
場を移すことの変化・効用
企業間でコラボレーションが起こりやすいよう、壁で閉じ
3.2 企業の神山でのコミュニケーションの現状と知的生産性
られた空間はほとんどつくっていない。神山での働き方を試
ここでは企業が現状において行っている、神山でのオフィス
したい企業が一定期間滞在したり、企業から常駐スタッフが
内外のコミュニケーションを調査し、またそれらがどのよう
自社のシステムを活かした働き方を実証するために働いてい
に知的生産性と関係するのかをまとめていく。その際に、以
たりもする。ベンチャー支援を目的にしており、様々なコラ
下 ABCD のコミュニケーション分類を基本としてインタビュ
ボレーションが起こることを期待している。また、神山の自
ーを行っており、各企業の求めるコミュニケーション及び、
然を感じ取るオフィス環境をつくるために外壁を取り払い、
知的生産性との関係を探る上で利用する。
大きな開口部を設けており、同時に地域住民も集う場所とな
A 社員同士のフォーマルなコミュニケーション
ることを目指して計画している。一部をガラスパーティショ
(社員同士の会議など業務内の会話)
ンで区画してオフィスやラウンジとし、残りの工場の大空間
B社員同士のインフォーマルなコミュニケーション
を多目的に使えるスペースとして更なる改修の余地を残すこ
(社員同士の業務外における会話やランチなど)
とで、
「成長するオフィス」としている。什器類は、町民の方々
C社外の人々とのフォーマルなコミュニケーション
からいらなくなった家具を頂き、それらを素材にして椅子や
(神山の他の会社の方々や地域の方々とのビジネス上の会議)
机をデザイン WS を行い、
東京芸大の学生たちと製作している。
2.2 研究の構成
D社外の人々とのインフォーマルなコミュニケーション
(神山の他の会社の方々や地域の方々とのビジネス外の会話)
このABCDを基本として、以下 5 項目について伺い、ここ
でも循環型と滞在型という分類に着目して比較を行った。
項目❶ABCD各コミュニケーションの量的割合
項目❷知的生産性三階層における業務が必要とするフォーマ
ル・インフォーマルなコミュニケーションの割合
項目❸知的生産性が向上した業務形態に貢献している、フォ
ーマル・インフォーマルなコミュニケーションの割合
項目❹現段階での活性化順位
項目❺将来的に活性化したいコミュニケーション
図 6 研究の構成
図 6 のように、第三章の知的生産性とコミュニケーションの
関係性の結果と第四章の自然環境と知的生産性の結果は、第
五章にて考察として統合され、自然と地域とレスポンシブに
働く新しい働き方を示すことができる。
3.3 企業のオフィス内及び境界部のコミュニケーションと開
口部使用の様子
ここでは各企業のオフィス図面を用いて、オフィス内及び境
界部のコミュニケーションと開口部使用の様子を記述する。
企業にはオフィス図面上で季節ごとに、3.2 のABCD各コ
ミュニケーションがどこで・何時ごろ・どのように、行われ
わオフィスの設計を頼んでいるので最初から地域と関わって
るかを伺いながら筆者が記述していった。同時に開口部使用
いく意識はある。ここでの地域とは将来の雇用の対象である
の様子を伺うことで、他者の介入や境界部におけるコミュニ
人たち及びその関係者であり、オフィスの設計自体に地域と
ケーションの変化といった二次的作用にも着目し、以下 4 項
の関わり方を考えることが、雇用後の帰属意識を高めている
目についてまとめていく。その際図 8 のようなオフィス図面
と考えられる。また、その珍しさと施工担当者の地域との交
に表現し、
これらの項目の関係性がわかりやすいようにした。
流への意識の高さから、施工中においても近所のおばあちゃ
項目①オフィス内のコミュニケーションの様子
んが毎日のように差し入れを持ってくるなど、地元の企業理
項目②境界部のコミュニケーションの様子
解が改修過程においても深まっている。
項目③開口部使用の様子
またサテライトオフィスコンプレックスにおいては、改修
項目④他者の介入の様子
過程において東京芸術大学の学生が参加し、神山への愛着を
深めることで、
勝手に神山の広報活動へとつながったという。
単純に従業員という形ではないが、多様な人の愛着がまわり
まわって伝わっていくという意味で、働く人のオフィスへの
帰属意識や意欲向上に結び付いているのではと考えられる。
第四章 過疎地域の自然豊かな環境でレスポンシブに働く
ことが及ぼす知的生産性への影響
4.1 企業の考える自然環境の快適性と知的生産性の影響
ここでは企業が神山での自然環境の快適性をどのように捉え、
オフィスの室内環境をコントロールしている様子、そしてそ
れらがどう知的生産性に結びついていくのかをまとめる。両
社にはそれぞれ以下の 4 項目について伺い、ここでも両社の
比較を行ったが、
自然環境の快適性と知的生産性に関しては、
両社のオフィスが全く逆の方角を向いていることがより関係
しているだろう。
項目❶自然環境の快適性順位
項目❷自然環境を自らコントロールする頻度
項目❸自然環境が知的生産性に与える影響
項目❹知的生産性を向上させる自然環境への五感などの変化
4.2
オフィス内外の開口部使用の様子を考慮した、通風状
況と快適域
4.2.1 研究方法
図8
オフィス図面へ表現例(西田作成)
ここではA風解析結果の分析、B快適域の分析を行った。
3.4
改修行為と帰属意識
風解析には CRADLE 社の STREAM を用い、本来二社ともに解析
両オフィスともに竣工後の従業員との直接的な改修過程の
を行いたかったのだが、KVSOCオフィス近傍の解析には
共有はないが、都市部を事例とした先行研究の「従業員」の
難解な技術を要する為、今回はえんがわオフィス単体で解析
捉え方に違いがあるとみられる。
を行い、以降分析もひとつのオフィスに集中することにした。
図9
えんがわオフィスの地域雇用と帰属意識(西田作成)
えんがわオフィスにおいては、となりの敷地で地域ととも
に寄井座の改修WSをやっていた伊藤さんらに会い、えんが
図 10 えんがわオフィスの解析結果
A 風解析結果の分析について
4.3
季節ごとに時間に関しては出勤時刻を考慮し、❶朝 9-11
解析結果の分析
A風解析結果の分析方法
時、❷昼 12-14 時、❸15-17 時、❹18-21 時に別けて行っ
A-1 快適風速エリアの量的比較
た。よってこの時点で解析パターンは 16 パターン(えんがわ
A-2 開口部使用状況を考慮した快適風速エリアの拡大縮小
オフィスは 7 月開所の為 12 パターン)あることになる。
また、
の様子
1 つのパターンにつき、平均風速と主風向を設定するわけで
Aに関しては快適風速エリアを 0.4m/s~1.0m/s とし、
解析
あるが、主風向はパッシブ気候図とそれを形成する GMT デー
図上に着色したのだが、そのエリアをわかりやすく着色し直
タを用いて計算・決定をした。平均風速はパッシブ気候図の
し、図式化したものが図 11 である。この結果は第三章でまと
等高線から読み取った。また各オフィスに、第三章で述べた
めた季節ごとの開口部使用状況を反映している為、矢印にて
開口部使用の様子
5)
を参照して、各パターンに開閉状況を変
オフィス内外を流れる風を表している。
化させ、モデルに適用した。
B 快適域の分析について
快適域の分析は図 11 の様にオルゲーの生気候図にクライモ
図 12 快適風速
グラフを記入していくことで行った。快適範囲というのは、
エリアと開口部使
夏と冬では季節に対する人間の馴化があるのでその範囲がず
用状況(西田作成)
れている。同時に気流や周囲からの輻射などによって拡大さ
れる快適範囲が示されている。気流があれば実際の気温より
も低く感じられ、輻射があれば実際の気温よりも高く感じら
れることを示している。
Bオルゲーの生気候図による快適域の分析方法
B-1 快適域の量的比較
B-2 快適域の時刻変化の様子
快適風速同様、快適域エリアもわかりやすく着色し直し、図
式化したものが図 13 である。
図 13 快
適域の量
的比較と
時刻変化
(西田作
成)
各パターンの時刻別変化の様子をそれぞれつなげていくこと
で、1 日の変化の様子を読み取ることができる。全体では秋
図 11 オルゲーの生気候図と年間のクライモグラフ(※16 を
が一番快適域となる時間帯が多く、また快適域を縁側の方位
もとに西田作成)
別部分にして比較すれば、その場所により有意差を生じ、常
なお輻射量に関しては、人間がある輻射量を得る為に、どれ
に南側の快適域が他の縁側よりも大きい結果となった。
ほどの日射量が必要なのかを表 2 でまとめている。
生気候 図上の
窓 ガラス 面1 ㎡あた
第五章 考察
人体へ の輻射
りの透過日射量
5.1
第三・四章を考察し、
「知的生産性を生む空間がどのように使
量基準
12.5kcal/h
第三章と第四章を考察する意義
用され、その空間が選ばれる際にどのような自然環境及び場
約 57kcal/㎡・h
25.0 kcal/h
約 113kcal/㎡・h
37.5 kcal/h
約 170kcal/㎡・h
50.0 kcal/h
約 226kcal/㎡・h
62.5 kcal/h
約 282kcal/㎡・h
75.0kcal/h
約 339kcal/㎡・h
表2
輻射量と透
過日射量
所性が影響しているかどうか」
ということを明らかにしたい。
5.2
知的生産性を向上させる場所と時期の考察
第三章において循環型である E 社では「インフォーマルなコ
ミュニケーションの質が知的生産性に貢献している」ことが
明らかになったが、これらは「他者導線と社員導線が縁側に
おいて交わる」ことで強められる。それは縁側が単一の要因
として知的生産性を高めているのではなく、
「敷地周辺及び商
店街をも含んだ回遊導線」が縁側の他者性・非日常性を強め
日常性を強め、知的生産性を高めているのである。
ているからだと考えられるだろう。
よって過疎地の知的生産性とは地域とオフィスの信頼関係の
5.3
もとに成り立ち、周囲に開放的で他者性・非日常性を強める
縁側での風の様子と使用頻度との関係性の考察
最も使用率の高い「秋の北側縁側・東側縁側」を選ぶまでの
ことが重要であるという結論に至る。
プロセスは、
「<第一要因>各時間に使用するかどうかの意思
決定は時間帯の快適風速エリアの大きさに左右され、<第二
参考文献
要因>季節の風を快適だと感じているほど窓を開けてレスポ
1)
日本におけるオフィス空間のデザイン研究の変遷-快適性
ンシブになり、<第三要因>その季節によく縁側を使用する
と機能性の追求-/阿部智和
かは全体の快適風速エリアの大きさに左右され、さらに<第
2)知的生産性に関する研究、知的活動と建築空間の階層モデ
四要因>使用する頻度の高い縁側では風速にばらつきが多く、
ル
斑が多い。
」となる。よって使用頻度が高くなるほどレスポン
/杉浦・村上・高井・川瀬・宗本・田辺・伊香賀・坊垣
シブとなり、オフィス内部と境界部の結びつきは強まるのだ
3)建築におけるワークプレイスプロダクティビティ
と考えられる
/沖塩・倉重・村上
5.4 縁側での快適域の様子と使用頻度との関係性の考察
4)建築空間が知的生産性に与える影響度の評価手法
縁側の部分ごとに各季節の特徴を見れば、第四章 B 快適域の
/大林組技術研究所
分析結果より、以下のようになる。
5)
室内環境質と知的生産性(執務空間の知的生産性-ワークプ
6月北=東=南=西/7月北=東=南=西/8月北=東=南=西
レイスプロダクティビティ)/田辺・西原
9月北=東=南=西/10月南>北=東=西/11月南>西>北>東
6)室内気流が作業効率に与える影響に関する研究
12月
(その 1)被験者実験方法・気流感・作業負担感および作業成
南>西>北>東/1月北=東=南=西/2月南=西>北>東
すべてが快適域内・外となる月以外、常に有意差が現れ、そ
績結果)/田中・西原・田辺
の順位は常に南側縁側の快適域が他の縁側よりも大きいこと
7)
午前中の昼光照明利用が生理量及び知的生産性に与える影
を示している。これは使用頻度が高かった北側縁側・東側縁
響の検討(その 1)実測概要と物理環境の測定結果/佐藤・市
側とは異なる結果となった。これは北側縁側では山が見える
原・伊香賀・張本・多和田
などの視覚効果、北側という安定した光環境が使用頻度が高
8)知識創造のワークプレイス・デザイン-「ネットワークが
い要因だと考えられる。
職場」時代のイノベーションの場/紺野・華
5.4.3 縁側での快適域の様子と使用頻度との関係性の図式化
9)
オフィスの建築空間とコミュニケーションが知的生産性に
与える影響/緑川・伊香賀・佐藤・割田
11)新建築 2012 年 7 月号
10)イン神山 HP 2013 年 11 月 6 日現在
図 14 縁側での快
http://www.in-kamiyama.jp/
適域の様子と使用
11)Tokushima working styles 2013 年 11 月 6 日現在
頻度との関係性の
http://www.tokushima-workingstyles.com/
図式(西田作成)
12)伊藤暁建築設計事務所HP 2013 年 1 月 21 日現在
http://www.satoruito.com/
13)神山バレーサテライトオフィスコンプレックス HP
2013 年 11 月 6 日現在
http://www.in-kamiyama.jp/kvsoc/
商店街に面した気軽に立ち寄ることのできる南側縁側が“温
14)日経ビジネスオンライン反常識、イケてる人が目指す過
熱環境的に快適”ということは、オフィス周縁に他者を誘因
疎の町奇跡の NPO、グリーンバレーの創造的軌跡(1)(2)(3)
する重要なファクターとなっているのではないか。更に図 14
2013 年 11 月 6 日現在
の様に建築のシークエンスによる誘因により、他者の北側縁
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120705/234166/
側の利用につながっていると考えられる。これは、オフィス
15)株式会社プラットイ-ズ HP 2013 年 11 月 6 日現在
内部の快適性のみを高めようとする都市のオフィスでは考え
http://www.plat-ease.co.jp/
られないことであり、1Fにオフィスがありその周りを回遊で
16)住宅設計ハンドブック/工学博士 清家清編
き、他者が介入するということも不可能に近い。これがオフ
ィスのセキュリティを弱めることと引き換えに、他者性・非
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