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(審10)資料3-2 減収と損害額に関する裁判例 (PDF:153KB)
減収と損害額に関する裁判例 番 号 ポイント 判決 本件事故から「約1年7か 最高裁(二)H21.1.19 月後」には「営業を別の場 (民集63巻1号97頁) 所で再開する等の損害を 回避又は減少させる措置 を執る義務」が生じ、「上 記措置を執ることができた と解される時期」以降の営 業利益相当の損害全部 の賠償は認められないと された事例 1 (審10)資料3-2 事案等 判示部分 カラオケ店を営業していた 賃借人が、浸水事故によ る営業不能を理由に、賃 貸人等に対して債務不履 行や瑕疵担保責任等に基 づく損害賠償を求めた事 案 「本件事故の日の1か月後である平成9年3月12日から平成13年8月11日までの間の営業利益の 喪失による損害につきそのすべての賠償を請求する権利があるとする原審の上記3(2)の判断 は是認することができない。」 「賃借人に生じた営業利益喪失の損害は、債務不履行により通常生ずべき損害として民法416 条1項により賃貸人にその賠償を求めることができる」 「これらの事実によれば、Y1(注:賃貸人)が本件修繕義務を履行したとしても、老朽化して大規 模な改修を必要としていた本件ビルにおいて、被上告人が本件賃貸借契約をそのまま長期にわ たって継続し得たとは必ずしも考え難い。また、本件事故から約1年7か月を経過して本件本訴 が提起された時点では、本件店舗部分における営業の再開は、いつ実現できるか分からない実 現可能性の乏しいものとなっていたと解される。他方、被上告人が本件店舗部分で行っていたカ ラオケ店の営業は、本件店舗部分以外の場所では行うことができないものとは考えられない」 「遅くとも、本件本訴が提起された時点(注:本件事故から約1年7か月を経過した時点)において は、被上告人がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置 を何ら執ることなく、本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その 損害のすべてについての賠償を上告人らに請求することは、条理上認められないというべきであ り、民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上、本件において、被上告人が上記措置を執 ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその 賠償を上告人らに請求することはできない」 「現在も建物は使用でき 横浜地裁H6.5.24(交 交通事故の事案で,建物 「休業期間について判断するに、前記のとおり、本件建物は現在も使用することができない状態 ない」と認定しつつ,建物 通事故民事裁判例 が損壊して1階で営んでい であることが認められるが、 【~中略~】 諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係 の損壊程度等に鑑み,「3 集27巻3号643頁) た美容室の営業が不能に に立つ本件美容室の休業期間は3か月と認めるのが相当である。」 なったとして,不法行為に 2 か月」のみの営業損害が 認められた事例 基づき,11か月分の営業 損害等の賠償を求めた事 案 営業損害の期間につき, 「10年」との原告主張に対 し,特段の理由を示さない まま,「3年」の限度で認め 3 られた事例 東京地裁S59.6.25 (昭和57年(ワ)第 8947号事件・公刊物 未登載) 合鍵製造販売業等を営ん 「3 営業権侵害による損害2285万2161円について (一) 【略】 (二) 原告は、右利益の10年 でいた原告の代表者が死 分を損害額と主張するが、被告らの不法行為と相当因果関係にたつ損害は、3年分を以て限度 亡した後,その実兄らが とすると解するのが相当であり、その額は294万3928円となる。 」 店舗内の商品・備品等を 撤収して同業務を開始し たことが不法行為に該当 するとして,営業損害等の 賠償を求めた事案 1 減収と損害額に関する裁判例 年間の「純利益」+「休業 福岡高裁S58.9.13 (判例タイムズ520号 中も支出を免れない経 費」は1年250万円と認定 148頁) した上、不法行為がなくて も近い将来閉店が予想さ れる状況等を考慮し、「2 年分」の500万円の営業 4 損害が認められた事例 「代替店舗を取得し,従前 大阪地裁S56.1.26 と同程度の収益をあげる (判例時報996号89 までの期間」として「11か 頁) 月半~2年」とした上,「代 替店舗開店後の減収分」 (1か月半~1年2か月)は 休業の半額のみが損害と なるとされた事例 5 (審10)資料3-2 解約を巡り係争中に、喫 茶店を営む賃借人が、店 舗入口の飾りテントが取り 去られ、「家主に無断で修 理することを禁ずる」旨の 掲示板を取り付けられた ため客足が激減し遂に閉 店休業に至ったとして、賃 貸人に対し、不法行為に 基づき営業損害の賠償を 求めた事案。 「前記営業による一審被告(注:賃借人)の年間純利益は、昭和50年度が105万1250円、昭和51 年度が120万0101円であつたこと、右利益の算出にあたり控除した経費の中には、年額132万円 の本件賃料及び約52万円の減価償却費が含まれているが、そのうち減価償却については昭和 54年ころまでに大部分の物件が償却済になるものとされていたことが認められるので、昭和52 年以後における物価の上昇傾向に、昭和53年12月ころ前記認定の範囲の客席を閉鎖した事実 等を勘案すれば、一審被告の昭和54年11月1日以降における休業損害は、休業中も支出を免 れない前記賃料相当損害金年額156万円を含め、当分の間1ケ年250万円程度と認めるのが相 当である。」 「当時、一審被告としては、前記店舗天井からの漏水、店内汚損及び客足の減少傾向等により、 漸次営業継続の意欲を失いつつあり、したがつて、一審原告による右妨害行為がなくても、近い 将来経営不振のため閉店の事態に立ち至ることが予想される状況にあつたと推認せざるを得な い。かかる諸事情を彼此勘案すれば、一審原告の前記不法行為によつて一審被告の被つた休 業損害は、昭和54年11月1日から2ケ年分の500万円をもつて相当と認める。」 火災により営業不能と なったテナント業者らが、不 動産賃貸業である家主に 対し、債務不履行に基づ き、営業損害等の賠償を 求めた事案 「営業用建物・店舗の滅失による同建物・店舗賃貸借契約上の賃貸人の債務の履行不能と相 当因果関係にある賃借人の損害としては、・・・及び他に代替店舗を取得して営業を再開し、従前 程度の営業成績をあげ得るに至るまでに通常要するであろう期間の得べかりし営業利益の逸失 による損害が考えられる」 「(二) 得べかりし営業利益の逸失による損害・・・〈証拠〉及び弁論の全趣旨から窺知される原告 らの代替店舗の取得の困難さ(括弧内省略)の度合及び原告らの●デパートにおける営業状態 特に従前の営業期間の長さ、暖簾、顧客の定着度などに徴すると、原告らが代替店舗を取得 し、同店舗で従前と同程度の営業上の収益(純利益)をあげ得るに至るまでには、当事者番号3 の原告▲を除くその余の原告らについては通常、代替店舗を取得して開店するまでに10カ月、 その後1年2カ月、以上通じて2年を要するであろうこと、及び原告▲については通常、代替店舗 を取得して開店するまでに10カ月、その後1カ月半(同原告は●ビルの店舗床部分を賃借したの は本件火災の約1カ月半前の昭和47年4月1日)、以上通じて11カ月半を要するであろうことが推 認される。」 「もつとも、〈証拠〉によると、・・・右のように本件火災後間もなく代替店舗を確保し営業を開始した 者もいることが窺知されるのであるが、他方右各証拠によると、同原告らの場合も結局は●ビル の各賃借部分よりも坪数及び場所的利益において劣る代替店舗しか確保できておらず、同原告 らにおいて本件火災当時と同程度の営業利益をあげるためには、同ビルにおけると同程度の代 替店舗を確保した場合と比較して更に期間を必要とするものと認められるので、結局、右のよう に一部の原告らにおいて本件火災後間もなく代替店舗を設けることができたということをもつて、 前示認定を覆し得るものではない。」 「しかしながら、前示認定の各期間内において、原告らが代替店舗で開店した以後の期間は、通 常開店直後に見込まれる赤字経営(括弧内省略)の時期を経た後は、従前の収益には及ばな いものの、収益が皆無というわけはないから、全く休業したと同様に扱うわけにはいかない。 即ち代替店舗での開店後従前の営業利益があがるに至るまでの期間における原告らの得べか りし営業利益の逸失による損害額は同期間を通じての減収分(括弧内省略)に相当するところ、 〈証拠〉から認められる商店経営の実態などに照らし、当裁判所は、各原告の被つたであろう 右減収による損害は全く休業した場合の損害の半額をもつて相当と認める。」 2 減収と損害額に関する裁判例 労働能力の一部を喪失し た個人会社の営業損害に つき,現実の「4年分」の 営業損害のほか,将来の 「3年分」の営業損害が認 められた事例 水戸地裁日立支部 S49.12.23(交通事故 民事裁判例集7巻6 号1929頁) 交通事故の事案で,牛乳 販売等を営んでいた個人 会社の夫婦が負傷したた め,同社らが営業損害等 の賠償を求めた事案 6 (審10)資料3-2 「原告会社は代表取締役原告●、取締役原告▲で個人企業と異らない営業形態であり、牛乳販 売の75%が外売り配達に依存していたもので、配達、集金、販売拡大は原告進、操の活動いか んにかかり、原告●、▲あつての原告会社であつたところ、原告●、▲の受傷による入院、通 院、後遺障害のため従来の営業活動を維持できず、原告会社は営業不振となり赤字経営に陥 つた。これは本件交通事故によるものであり、被告はこの損害を賠償する責任がある。」 「原告会社の昭和44年10月1日以後48年9月30日までの間のこれら欠損は、・・・訴外★の不法 行為と相当因果関係にある損害であると認められ、被告は原告会社のこれら欠損合計金269万 4389円(括弧内省略)を賠償する義務がある。」 「次に原告会社は、将来も右のような営業欠損を生ずるものとして、毎年金30万円の欠損として この5年分を営業損害として請求している。 【~中略~】 しかしながら、法人の営業は人的物 的有機体の総合的な活動から成るものであるから、原告会社がいかに原告●、▲の個人営業と 同様の業態であるといつても、原告●、▲の後遺障害等級による労働能力喪失率をそのまゝ原 告会社の営業損害と結びつけることはできないし、現に、前認定のとおり、原告会社の営業欠損 は、昭和47年10月以降はそれ以前に比較して急激に減少し、業績が回復しつつあることが認め られるので、原告会社主張のように、昭和48年10月以降5年間にわたつて年間金30万円の欠損 を生ずるものと認めるべき根拠に乏しい。そこで、前認定の原告●、▲の後遺障害の状況と、証 拠上認められる最終時期の原告会社の営業欠損が年間金32万8744円であること、原告会社の 業績が回復しつつあることなどの事実を総合勘案して、原告会社は昭和48年10月1日からの3年 間に各年間金20万円の欠損を生じ続けるものと推定して、原告会社の将来の営業損として合計 金60万円を被告に賠償せしめることが相当である。」 原告主張のとおり「2年 東京地裁S49.11.13 お茶・ノリ等販売をしてい 「成立に争いのない甲第9号証に原告本人尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く。)及び 間」の営業損害が認めら (判例時報777号69 た賃借人が、賃貸人に家 弁論の全趣旨を総合すると、原告が本件契約のとおり、本件建物の引渡をうけ、そこで従前どお れた事例 頁) 屋建替え名目で立ち退き りお茶、のり等の販売をすることができたならば、本件契約に定める家賃月額2万9,000円(これ させられた上、同建物を は前一認定の従前の家賃を大巾に上廻るものである。)を支払つてもなお、年間少くとも70万円 売却されたとして,不法行 を下らない純利益を挙げることができたものと認められる。原告本人尋問の結果のうち、1か月 為に基づき,営業損害の 15万円を下らない純利益をあげることができるという原告の主張にそう部分は、十分な裏付を欠 7 賠償を求めた事案 くので採用できないし、他に、右の認定を覆して、原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はな い。してみると、原告は、被告から本件建物の引渡を受けて、これに入居することができなかつ たため、原告主張の2年間に少くとも140万円の純利益を得られる筈であつたのにこれを失い、 同額の損害を被つたものと認められる。 」 「新たに他に家屋を賃借 して営業を開始するため に通常要すべき期間」とし て,当時の借家法の規定 8 に鑑み「6か月」と認定さ れた事例 青森地裁S31.8.31 (下級裁判所民事裁 判例集7巻8号2359 頁) 自動車修理業を営んでい た賃借人が、道路区画整 理に賃貸人が同意し、強 制立ち退きを命ぜられた 上、賃貸人が建物移築を しなかったとして、債務不 履行に基づき、営業損害 の賠償を求めた事案 「原告は昭和28年9月20日本件建物から退去して以来右の営業を休んでいる事実を認めること ができるから、●が原告に賠償すべき損害は原告が右の休業によつて失つた利益であるといわ なければならない。而して●と原告の間の本件建物の賃貸借の期間については何等の主張も ないので●が原告に賠償すべき前記休業による損失は原告が新に他に家屋を賃借して営業を 開始するために通常要すべき期間の損失と解すべきところその期間は他に特別の事情なき限り 借家法が解約申入期間として6ケ月の期間を定めていることに鑑み6ケ月と認めるのが相当であ る。」 3 減収と損害額に関する裁判例 番 号 ポイント 交通事故による労働能 力の減少につき、事故 による収入減がないこと を理由に賠償は認めら 1 れないとされた事例 判決 最高裁(二) S42.11.10 (民集21巻9号23 52頁) 給与面で不利益な取扱 最高裁(三) を受けていない者が、交 S56.12.22 通事故による労働能力 (民集35巻9号13 の減少につき、財産上 50頁) の損害があるというため には、「特別な努力をし ている」、「不利益な取扱 を受けるおそれがあるも のと認められる」など、 特別の事情の存在を必 要とするとされた事例 2 事案等 (審10)資料3-2 判示部分 交通事故で後遺症の残 「損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を填補することを目的とするものである る障害を負った者が、労 から、労働能力の喪失・減退にもかかわらず損害が発生しなかつた場合には、それを理由 働能力喪失率を基準と とする賠償請求ができないことはいうまでもない。原判決の確定した事実によれば、Aは本 して賠償額を算定し損害 件交通事故により左太腿複雑骨折の傷害をうけたが、その後従来どおり会社に勤務し、 従来の作業に従事し、本件事故による労働能力の減少によつて格別の収入減を生じてい 賠償を求めた事案 ないというのであるから、労働能力減少による損害賠償を認めなかつた原判決の判断は 正当であつて、所論の判例に反するところもない。」 交通事故で後遺症の残 る障害を負った者が、労 働能力が喪失した分も 含めて損害賠償を求め た事案 「原審は、(中略) (4) しかし、本件事故後も給与面については格別不利益な取扱は受 けていないこと、などの事実関係を確定したうえ、事故による労働能力の減少を理由とす る損害を認定するにあたつては、事故によつて生じた労働能力喪失そのものを損害と観 念すべきものであり、被害者に労働能力の一部喪失の事実が認められる以上、たとえ収 入に格別の減少がみられないとしても、その職業の種類、後遺症の部位程度等を総合的 に勘案してその損害額を評価算定するのが相当であるとの見解に基づいて、(中略)損害 を認定している。 しかしながら、かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能 の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が 比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来におけ る収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の 一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。 ところで、被上告人は、(中略)事故後においても給与面で格別不利益な取扱も受けてい ないというのであるから、現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難 いというべきであり、それにもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財 産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないこと が本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど 事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしてい るものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し 又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取 扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不 利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである。 4