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地域形成と空間の変動への接近 - DSpace at Waseda University

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地域形成と空間の変動への接近 - DSpace at Waseda University
結論
― 分裂と階層の地域形成 ―
東アジアには、国家同士が対立する「場の力学」を超えて、地域主義に裏付けられた地域
形成が進展しているのか。あるいは「地域主義なき機能主義」に頼りながら、力と利益の場
を追求しているのか。本研究では、この二つの問いを掲げて、地域形成を、地域主義によっ
て空間を再構築するプロセスとして位置づけ、既存の国際関係理論では対象の外に置かれて
きた東アジアに固有の地域空間の変動について分析を試みてきた。方法論と理論についての
考察結果と、定量・事例研究の分析結果をもとに、東アジアにおける地域空間の再構築につ
いての因果メカニズムとその特徴点を総括してみたい。
1. 方法論的理論の考察:地域形成と空間の変動への接近(第1章、第 2 章、第 3 章)
1−1 時空的アプローチ
地域協力と二国間経済連携が域内縦横に乱立し、2005 年の東アジア首脳会議の発足が示す
ように、国家間関係で「東アジア」という地域概念は公式の政策目標となり、非論争的・非
政治的分野を中心に実体として地域の形成がすでに進行している。反面、地域主義の思想・
哲学が不明瞭なままに、主体の多様性によって空間が特徴づけられ、共通の価値観に基づく
意思決定機構の統合を事実上、封印する形で、もっぱら機能としての東アジアを探求してき
た。一方において、東アジアの機能的な相互依存のネットワークが地域大に深化を遂げてお
り、他方においては地域を確定するための地域主義が明瞭さを欠くという、機能偏重主義で
ある。こうした地域形成について、とくに地域主義との関係を考察するために、科学哲学の
空間概念に遡及し方法論の整理と分析を試みてきた。
空間には、物質と観念の次元があり、その両次元において地域が変動する。東アジアには
地域主義の地盤が軟弱であるという事情が背後にあって、とくに主観的次元である観念とし
ての地域を明示的に捕捉することは難しく、加えて、国際政治環境とともに、各国の戦略・
政策によって多様な形式をとりながら変動してきた。本研究では、そうした東アジアの地域
化の一局面を記述・描写し、多様性に特徴づけられた「東アジア地図を描き直す」
(Remapping
Asia)1のではなく、東アジアの多様性を地域形成の説明変数のひとつに位置づけ、空間の変
1
Pempel ,T. J. 2005. Remapping Asia: The Construction of a Region. Ithaca: Cornell University
Press,1-28.
- 410 -
動を地域主義の文脈の中で分析することを目的にしてきた。このため、空間とは何か、空間
の再構築とはどういうプロセスを意味するのかをまず定式化した。その上で、西欧の普遍主
義に対抗し挫折を余儀なくされた戦前の地域主義が準拠した空間言説と国際政治理論を比較
し、また東北アジアのサブリージョン研究を出自とする分析アプローチについての考察を加
えることにより、東アジアという空間の構造を仮定した。
それらの考察から得られた東アジアの地域主義の中に埋め込まれた空間の特徴は、
第一に、
知識の体系としても、政策モデルや具体的な実践目標の面においても、主体、空間、時間を
分離せずに一体のものとしてとらえる「時空」の性格を持つことである。東アジアの空間が、
国際政治学を含む社会科学一般が基礎とするニュートン・カントの古典的な空間概念と異な
り、空間が時間と独立に存在する絶対空間ではなく、主体それぞれで多様な価値観を持ち、
意思決定の場が地域に統一されずに主体ごとに分散した関係そのものが空間として意味内容
を持つことである。
またひとつの特徴は、地域協力や交流の文脈の中で構想されてきた空間の特徴についてで
ある。
「自己否定の論理」を追求した「絶対無」の空間(時空)や、
「他者肯定」を介した「自
者肯定」といった「協生」の時空を目指す主体間の関係では「他者から自者へ」という「行
為体の深層」に見出される時間的な順序が意味をなし、つまり時間が「時刻」以上の意味内
容を持つという独自の思想を根拠にしている。思想の中の空間概念は、微視(ミクロ)的な
世界にとどまり、このため科学的哲学の基礎をなすニュートンやカントの空間概念枠組みに
準拠した、現実の地域空間の分析や地域主義の実践を難しくしてきたことである。
「時空」的な空間の特徴が、21 世紀の東アジアの地域協力にも確認でき、思想・イデオロ
ギーとしての地域主義と、実践のための具体的方策としての機能主義的アプローチの間の不
一致を招来するなど、地域主義が機能主義と分離した様相を呈してきた。
第三の特徴は、分析の段階で、主体間の関係によって決定する空間と、地図上の範囲を一
致させることが難しいことである。東アジアの地域形成についての先行研究の多くが、地理
的な区界を地図から切り取るように地域の範囲を設定している。額縁(frame)や容器
(container)2を地域枠組みのアナロジーに用いて、その中の主体の主観的次元、物理的次
2
地理的範囲と空間論枠組みについては、とくに本論文第2章を参照。国家・国境を基準に地理的空間を器
もしくは額縁として定義し、地理的空間の中の物理的な関係および意味内容を地域主義とする論考の多くは、
欧州研究に集中する。本論文で参照した先行研究のうち、容器・額縁論については以下の論考を再掲してお
く。①Giddens, Anthony. 1981. A contemporary Critique of Historical Materialism. London: MacMillan.;
②Marks, Garry. 1993. “Structural Policy and Multilevel Governance.” In Cafruny, Alan W. ed. The
State of European Community vol..2. London: Longman.; Taylor, Peter J. 1994. “The states as
container: territoriality in the modern world system.” Progress in Human Geography 18:2.151-62.; ③
Dent, Christopher M. 2007. East Regionalism. New York: Routledge.; ④高原明生 2008.「序章 アジアの
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元のいずれかに分析の焦点を絞り込んで観察し、地域の実態を分析する手法が一般的に用い
られる。これらの多くは、主体同士が作用する場所の意味で空間概念が用いられ、空間の境
界も地理的範囲と同義語として扱われる。つまり、地域形成は、政治や経済の相互依存状況
の中で地理的範囲が変化するプロセスとしてみなされてきた。しかし、空間と地理を重ね合
わせるこうした手法が、国境を基準に上位下位の地域主義が積み上げられてきた欧州研究に
有効であっても、東アジアの場合は、地理を包括する国家間枠組みも未成熟であり、東北ア
ジアと東南アジアが政治的にも連続しておらず、方法論からの検討が課題となってきた。
1−2 相補性と因果性
本研究では、東アジアの空間的特徴に留意して、政治経済的な国際環境、地域的枠組み、
主体間の協調と対立関係をそれぞれ分離して考えるのではなく、上述のように国際・地域シ
ステムとともに変動する主体間の関係を地域空間として定義し分析することにした。
つまり、
空間は主体間の関係の徴表であり、地域空間は地図上の地理的範囲とは必ずしも一致する必
要はない。極論すれば、主体間の結合関係に内容の変化がともなわなければ、地域枠組み・
制度が発足しても、地域形成とみなすことはできない。したがって、分析の主眼も、地域統
合の実態を欧州の経験則との比較に置くのではなく、関係性の変化に着目した分析枠組みを
考察した。
また、
東アジアという地域形成の具体的な局面に表出する特異な特徴点を抽出し、
地域性として結論付ける手法をとらずに、機能的な協力関係を媒介にして変動する空間の政
治的経済的な力学および認識の連鎖を追跡し、仮説形成のための推論を試みた。
具体的に、次の4つの関係を方法論の焦点にした。
(1)国際関係の対立と協調をもたらす
国際政治の力学と空間(既存の空間論)の関係、
(2)地域形成のプロセスを、地域主義を外
形基準にして把握する。
つまり、
主体間の関係に見出される地域主義と空間の関係
(時空論)
、
(3)地域の実態に接近するための微視的方法と巨視的方法を縦断する分析枠組みの提示。
つまり、ミクロ(時空)の関係とマクロ(既存の空間)の関係を一体視した分析枠組み、
(4)
各国の政策知識(政策観)
・認識(概念モデル)
・意識(政策選好)を地域主義の操作変数と
する。つまり、政策・戦略と地域主義の関係(時空の変動についての過程追跡)―の4点で
越境: ネットワーク、フレームからコミュニティへ」高原明生編『現代アジア 研究 越境』慶応大学出版会、
1-20 頁。このうち、③、④はフレームとネットワークを区別して、その両論並記の形で地域形成、コミュ
ニティ形成の分析枠組みを紹介している。日本の欧州地域ガバナンス研究でフレーム・アプローチによる制
度論、地域アイデンティティの分析では、以下を参照。⑤柑本英雄 2000.『国際的行為体とアイデンティテ
ィの変容:欧州沿岸辺境地域会議と共通漁業政策をめぐって』成文堂.。⑥―2005.「EU 地域政策の枠組み
としての「越境経営モデル」構築の試み:バルト海グランドデザイン VASAB2010 と INTERREGⅡC を例
証として欧州地域空間再構成の研究」
『人文社会論叢』弘前大学,第 14 号 1-38 頁。
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ある。
地域形成の原因と結果がどのようなプロセスを経て結びついているのかという因果メカニ
ズムを分析するために、現代物理学の「相補性と因果性」を中核部分にした方法論を提示し
た。従来、演繹的な推論の過程で閑却されるか、国際関係理論から逸脱した例外として結論
づけられてきた東アジア地域形成を分析の射程にとらえるための枠組みが
「相補性と因果性」
である。つまり、上に述べた(1)∼(3)の分析を総合する枠組みが、
「相補性と因果性」
である。
(1)の伝統的な国際政治学が考察の対象に据えてきた物質的力学、
(2)の時間と
空間を普遍的な基準として固定してきた伝統的な国際政治学とは異なる新しい空間論の「時
空」の変動、
(3)国際社会の現象から主観認識のみを取り出し体系化した構成主義的な国際
政治理論とは異なる、主観・客観が交差しながら変化する「認識の連鎖」
。この3つを統合す
る枠組みにより、演繹的・帰納的な推論に頼る既存の方法論をもとにした分析結果からは脱
漏してしまう、アジア的な空間的な特徴を拾い上げながら、地域空間の変動と形成に接近を
試みた。
パワーや利益によって国際関係に働く「物質的な力学」と、意思決定の過程で変動する「認
識の連鎖/観念の力学」の双方を、
「相補性と因果性」という、ひとつの方法論の論理の枠組
みの中に据えてみた。これにより、冒頭に掲げた2つの問いを読み解くために、以下の方法
論の枠組みを提示した。
f (a, b ) + c = d
( f は因果性、 a : 地域形成の物質的力学; b :認識の形式; c : 相補性; d : 地域形成の実態)。
上記式で表されるように、国際関係の物質的な力学 a と認識の形式 b という二つの異なる
因果律が併置されながら、そのいずれでもない新しい因果律が創発的に発揮されていく。こ
「相補性と因果性」が変化していく因果メカニズムの枠組みの下で、
れが「相補性」c である。
空間がいかに変容するか。
「空間の再構築」について主に2つの課題を設定した。
(ⅰ)共通の価値観が不在で、意思決定が各国に分散する多様性の東アジアは、どのような主
体間の関係によって、どのような空間が再構築されてきたのか。
(ⅱ)機能的協力関係を媒介にした東アジアにおける地域主義の実践と地域形成の中で、変動
の力学と認識の連鎖(知識・認識・意識)は、どのように空間の再構築に作用してきたのか。
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結託ゲームによる演繹的推論と実態との乖離を検討することよって、この2つ課題をさら
に彫琢し、定量研究(ネットワーク分析)と過程追跡型事例研究という2つの分析を試み、
時空の変化を考察してきた。とくに(ⅰ)
(ⅱ)に提示した「空間の再構築」プロセスの中で、
ASEAN+3地域枠組みの中の国家間協力関係は、アジア的な時空を形成しているのか。言
い換えれば、知識・認識・意識が平仄を合わせた他者と自者が互いに肯定する時間的関係が
認められるかについて、定量分析・事例研究の分析結果から考察することにした。
各章の分析によって得られた知見を、以下に整理・統合してみたい。
2. 分析結果:ファインディングス(第4∼9章)
東アジアの経済領域では、
「延伸」と「凝集」という矛盾する二つの力が作用し、デファク
ト(事実上)の統合が深化してきた。しかし、東アジア共同体の構築を将来目標に掲げるま
で深化を遂げてきた ASEAN と日本・中国・韓国の「+3」の関係では、理論と政策の実践
の双方において政治と機能的分野が分断されて議論されてきた。
このため、
本研究ではまず、
機能的空間の中から政治的位相を抽出することを目的に、結託ゲームによって地域形成の実
態を記述分析した。
第 3 章の分析と考察の結果は、ASEAN、日本、中国に米国を加えた4者の政治的位相の
変化とともに、考察した東アジアの機能的協調関係も変動する状況にあることを鮮明に示し
ている。機能と政治的位相がともに変動する背景のひとつには、日米中 ASEAN4者間の構
造的な政治的な位相のズレの問題がある。米国が突出した政治経済力、軍事力を前提に「特
別な位置」にあり続けながら対東アジアの同盟・提携関係の軸が変動し、他方で東アジア域
内の ASEAN、日本、中国それぞれの対米関係の差によって、顕著な変動を示している。そ
の中で、ASEAN が唯一、ASEAN+3の調整の場として結節点となりうる余地を持ってい
る。同時に、ASEAN を基点にした協調の成否は、力と利得の政治力学ではなく、相互認識
の醸成いかんで変わってくる。
結託ゲームの考察結果に見るように、力と利益の「場の力学」によって地域空間は一意的
に決定せず、協調と対立、競合と協力の可能性が混在している。ASEAN を基点にして、ど
のような量的関係が成立しているのか。協調を互いに必要とする問題認識の下に実質的な関
係が成立し、地域空間の構築へと向かっているのか。この二つを主要なテーマにして定量分
析と事例研究を行った。
- 414 -
2−1 定量分析
(1)ネットワーク分析:複合ネットワークと政治交流の独立(第 4 章)
① ASEAN 地域主義の拡大の大国間関係
東アジアの空間形成が、ASEAN 中心でありながら、日中米という ASEAN 域外の大国
間関係が、ASEAN 域内の関係と密接な相関が確認でき、ASEAN 域外の国際関係が
ASEAN 地域主義の拡大の背景にあることを示唆している。
②「政治交流の独立」
分野の異なる複数のネットワーク同士が相互に関係した相関の連環ができあがっていく
同時に、政治領域と非政治領域がそれぞれ独立の論理で、地域的凝集のダイナミズムを発
揮し始めている。1997 年通貨危機後の東アジア地域主義の議論の多くは、経済領域を中心
とする地域協力関係の延長線上に、東アジア共同体を構想する機能的なアプローチに基づ
く議論であった。それに対し、東アジア地域形成はそうした直線軌道とは異なる軌跡を描
いていることを意味している。
(2)距離・方向・中心の分析: 機能主義的アプローチの再考(第 5 章)
①
政治交流と経済的相互依存関係
日本、中国を基点にした東アジアの政治経済的距離がそれぞれ異なる変動パターンと要
因を示していることである。日本は、自国の経済力が求心力となって働き交流が拡大し、
中国は対照的に交流相手国の規模に反応し、物理的距離と引力に抗う形で交流を拡大して
きた。政治経済的距離の変動要因の中でも、対米関係など政治的要素の影響の大きさが判
明した。東アジアの交流関係は、経済から政治へという一方向の波及効果ではなく、地域
形成に対し、政治・経済が相互に複雑に影響してきたことを示唆している。
② 既存理論との乖離
そのひとつが相互依存論や世界システム論の経済還元主義についてである。分析結果で
は、冷戦期の問題を引きずる東北アジアと ASEAN の間の経済的相互依存が、政治的な関
係に大きく左右されながら変動してきた事実を示している。つまり、経済が地域形成を先
導する形態ではなく、政治的な力学が経済的相互依存に影響してきた事実が読みとれる。
もうひとつは、機能主義的なアプローチへの含意である。経済分野を中心とする政府間
の機能的協力関係の延長線上に東アジア共同体の形成を置く機能主義的アプローチとは異
なる東アジアの政治経済的動態を、分析結果は示している。地域枠組みをつくり非論争的
分野の交流と協力の積み重ねによって、
いずれ政策意識が収斂し横断的制度が構築される。
将来は共通の価値観が醸成される。こうした制度と機能の自律的な発展メカニズムに期待
- 415 -
する楽観的なシナリオでもある。このシナリオに対し、
「距離」と「方向」の分析結果では、
将来の展開の萌芽となるような政治と非政治的分野の明確な相関をできない。
③ 「分散」と「凝集」
東アジアの空間創造に働く「分散」する力が、地域の「凝集」を特徴づけている。
日本が示す東アジアの地域形成の指向性と、対米揚力(地域形成の方向と力を示す指標)
が絶対的にも相対的にも突出した状況が 1990 年代以降、後退する一方で、他方では
ASEAN 地域主義の拡大と、その延長線にある ASEAN+3地域枠組みの下での空間の変
容に対応する形で、ASEAN 域内、ASEAN 諸国と中国、中国と韓国の揚力指標が増大し
てきた。
「分散」化の傾向と同時に、ASEAN 内部の凝集性の増大、ASEAN+1(日中韓)
、
日中、中韓、日米の交流関係が錯綜しながら「凝集」する地域形成を特徴づけている。
④「弱い中心構造」
中心が「分散化」する傾向である。グローバリズムと地域主義が並進する構造をとる中
で、地域形成の中心が、日・米・旧ソ連から日米へ、さらに日米中韓・ASEAN 先発加盟
国と 85 年以降、分散化してきた。明確な多極型でもない「分散型」の「弱い中心構造」
に向かっている。東アジアの地域空間は、世界システム論の中で先験的に「中心―準・周
辺」に区分された空間とは異なり、
「中心の相対化」
、
「周辺の中心化」が同時に進行し、地
域形成の特徴を示している。
⑤ 非政治経済的交流の拡大
政治・経済分野以上に、むしろ情報分野を筆頭にした社会領域の交流が、東アジア域内
の中心性の上昇と米国の突出した中心性の双方を、同時に実現している。東アジアの域内
関係の拡大と対米関係が二律背反ではなく、両立する形で地域空間の構築が進む現状を、
定量分析の結果が跡付けている。
距離・方向・中心性の分析から接近した東アジアの地域空間は、通説化してきた東アジア
の機能主義アプローチの再考を促すとともに、地理的範囲と空間を一体に固定した欧州統合
モデルや国際関係理論の枠組みを下に原因と結果を特定する因果律のみからでは把握できな
い力学が、東アジア空間の創造と変容のプロセスに作用していること示していた。
(3)非国家主体と地域形成:東北アジア自治体交流(第 6 章)
友好都市(姉妹都市)交流は、国際社会の変容と関わりをもちながら、交流の範囲と内
容の両面で、拡大を遂げてきた。地方自治の確立と市民社会の形成が途上にあり、地域内に
中央地方関係の制度的な差が存在する日中韓の東北アジア3カ国の都市交流には、国家が志
- 416 -
向する対外経済依存型の成長路線を反映してきた。友好都市提携の定量分析結果から、東北
アジア地域形成の要点を次の3点にまとめることができる。
① 友好都市交流と経済との間の強い相関関係は、1980 年代以降の共通する現象であるが、
90 年代後半にその傾向を強めている。
② 中国の改革・開放が全面化する 92 年以降、中国を基点に集計した日本、韓国との友好
都市提携数が拡大を遂げる。その過程で、中国国内に、都市交流の量的分布と経済成長の
域内格差が顕在化してきたことが確認できる。
③ 国家間関係と友好都市交流との関係では、
中国―日本、
中国−韓国、
日本−韓国の間に、
共通の傾向は読みとれない。ただし、それぞれの友好都市交流には、国家間の政治的・歴
史的経緯が投影されている。中国は、
「国家総体外交」の主要部品(
「部分組成」[陳 2004]
)
として友好都市交流を位置づけ、経済と国家外交の一体性を目的に掲げてきた。地方が中
央(党・政府)に「二重の従属」する関係が、経済交流を主目的に据えた友好都市交流の
推移に従来以上に鮮明になってきた。
東北アジア・サブ・リージョナリズムの一断面ともいえる、友好都市交流が経済に偏重す
る傾向は、グローバリズムの浸透と表裏一体の現象としてとらえることが可能であろう。グ
ローバリズムの諸相では、旧来の経済主体だけではなく、個人、地方、国家に関わる非市場
的な活動も、
市場経済の文脈の中で繰り広げられている。
東北アジア地域の友好都市交流は、
域内の潜在的能力と個性を拡張するための内発的発展論の発想からではなく、域外資源とノ
ウハウの導入を主眼とした「外向的経済発展」への関心を動機とする越境交流といえるだろ
う。国家間外交に同調して経済領域と相関した交流が拡大する傾向は、日本・韓国の都市交
流にも確認でき、中国側の国家要因のみで東北アジアの都市交流が特徴づけられているので
はない。市場経済の文脈の中で展開する都市交流の現状は、グローバリズムとの相克を繰り
返す国家次元の地域形成の実相でもあり、東北アジアに共通するミクロレベルの空間創造の
特徴でもある。
2−2 事例研究:
「知識・意識・認識」の連鎖
(1) 「フラット」な世界と階層秩序(第7章)
コミュニケーションの増大が、認識の共有さらに共通の自己認識の創造に貢献するという
期待は、地域形成の焦点のひとつであると同時に、ソフトパワー論の肯定的効果の側面でも
ある。情報交流が増大する背後の物理的構造(ハード)と政治的な力の関係に主眼を置き、
- 417 -
東アジア IT 協力ついて分析した。つまり、地域形成の中でのパワーのハード・ソフト相互
関係を視野に入れた分析である。分析結果の要点は次のとおり。
① フラットな機能と「帝国」の復活
インターネットは距離や地理的な制約から開放されたフラットな機能的な空間を創出し
たが、回線接続形態では、19 世紀末の国際電信時代の「帝国」秩序と類似した階層性を強
めていることである。東アジアのインターネット回線構造と地域協力関係にも、機能的空
間が地域大に「拡散」しグローバルな通信に統合していく現象と同時に、電気通信に関す
る背景的権利としての「通信主権」が特定の国に「集中」する傾向が確認できる。グロー
バルで階層のない機能的空間が拡大する一方で、他方の物理的空間では、国家間の階層性
をより顕著なものにしてきた。
②「通信主権」の変容と拡大。
インターネット時代の国際通信が提供するグローバルな機能的空間は、分散的でフラッ
トで様相を一面では呈しながら、物理的な接続構造に内在された国家間の相互依存(相互
接続)関係では、費用負担を軽減し政治経済的に自国にとって有利な資源配分を誘導しよ
うとする力が各国の行動に働いている。国家間の伝送路の相互接続点に着目して操作的に
定義した本章の「通信主権」に照らせば、第二次世界大戦後の国際通信秩序では、二国間
伝送路を共同所有し協調的に運営することによって、国際通信における国家の自律性が保
持されていた。しかし、インターネット時代に突入すると、主要国は基幹回線網を増強す
るとともに、相互接続点(国際 IX)を単独で誘致・建設し、自国に有利な物理的インフラ
構築に腐心する傾向がみられる。伝送路の相互接続に着目した「通信主権」を、各国が拡
張する現象である。
③ 国家戦略優先の地域構想
経済発展のための戦略手段に IT に位置づけ、地域的協力に優先する形で、国家戦略を
志向していることである。シンガポール、マレーシアをはじめ ASEAN 各国、さらに日本、
韓国、中国が一方で独自の IT 国家戦略を展開しながら、国家戦略との整合性が確保され
ないまま IT 分野の地域協力を目指している。このことは地域形成の過程で、各国の資源
配分を共通化する政策意識の不在であることの証左でもある。
①∼③に特徴づけられるプロセスでは、機能的空間を創造し管理するための「場の空間」
では、国際政治の伝統的な力学に基づく対立と競合が繰り広げられる。こうした「場の空
間」めぐる国家間の競合と協力、対立と協調が錯綜する現状は、グローバル化が浸透した
- 418 -
東アジアの一断面でもある。機能的な相互依存関係の増大が新しい地域空間を生み出す動
機になると同時に、旧来の占有を前提にした物理的空間の中では階層的構造をさらに深化
させる契機にもなるという、ソフト・ハードの両側面が影響し合いながら地域を形成して
きた実態を示している。
(2) 金融・通貨秩序の「分裂」
(第8章)
ASEAN+3 の協力関係は、東アジア地域の通貨秩序構築に発展するのだろうか。この問
いに対し、戦前期の円ブロックの予備的考察を経て、公共財のネットワーク構造と政策協調
の視野から 1997‐2003 年の東アジアにおける通貨秩序について考察した。通貨政策の選好
(意識)の変容を観察すると、日本、ASEAN、中国間の差異が明確になった。
① 金融・通貨制度の分離と「通貨主権」
日本、ASEAN、中国の各国は、米ドル中心の階層的な国際通貨秩序を容認しつつ、
それぞれの通貨制度を維持してきた。日本は、米ドル中心の国際公共財を補完する地域
媒介通貨を目指すという政策認識・意識にもとづき、東アジア地域の金融統合と「円の
国際化」を能動的に追求してきた。これに対し、ASEAN、中国は、
「通貨主権」の適用
範囲を国内に限定しつつ、それぞれの通貨・金融政策も国内政治経済の安定を優先して
きた。このように ASEAN 域内で通貨制度についての共通の政策観は存在しない、
ASEAN は共同体構想の中でも経済統合を追求しながらも、旧来の「通貨主権」概念を
超越した為替政策協調や通貨制度の議論を封印してきた。中国は、人民元の近隣地域へ
の流通拡大を目指す「区域化」を「国際化」の第一歩と位置づけ、超長期的の国際化戦
略を想定している。その最終目標の「国際化」は、米ドル中心の国際公共財からの自立
を意味していた。
② 「国際化」認識の差
日本、ASEAN、中国の政策認識の差が顕著であり、日本は東アジア地域金融協力の
延長線上に、円がドル・ユーロと並ぶ中心的役割を担う国際通貨制度を想定してきた。
つまり、金融・通貨一体の政策観が「円の国際化」戦略に結びついていた。ASEAN と
中国には、通貨制度を協調によって構築する政策的関心は希薄であり、グローバル市場
の安定性に保障する地域金融協力と、通貨制度面の政策協調を、別次元の問題として位
置づけられている。
③ 「円の国際化」とアジア的要素
国際通貨秩序についての政策選好(意識)に東アジア域内で乖離が生じ、さらにその差
異が拡大している。2001‐03 年の日米同時デフレ懸念とイラク戦争下で日本が発動し
- 419 -
た大規模為替介入策、さらに日米が歩調を合わせた人民元制度改革圧力を機に、東アジ
ア域内の政策選好の差は拡大していった。円は、米ドル中心の国際公共財の補完的役割
に傾斜し、
「円の国際化」からアジア的要素を一挙に後退させていく。その間、中国は「人
民元の区域化」によって国際化の第一歩を記し、将来の基軸通貨を視野に置き始める。
ASEAN は、日中の「国際化」のいずれとも距離を置きながら、グローバル市場への統
合を目指す方針をより鮮明にしてきた。このように、円の米ドル基軸の補完、中国人民
元の国際通貨化、ASEAN の既存の国際通貨制度の積極的な肯定といった三者三様の政
策選好の差が歴然としており、それぞれの政策意識を相互に受容するまでに域内関係は
深化していない。
以上の3つの差異にみられる知識・認識・意識の乖離から、
「管理された分裂」の構図を東
アジア金融協力の中に読みとることができる。欧州諸国通貨が経験した、域内の格差を克服
して通貨制度を単一通貨に収斂させていく「積み上げられた統合」
(ruled integration)と比
べると異質の対応である。
「知識・認識・意識」の各面の「分裂」を事実上、放置して調整せ
ずに、グローバルな資本市場への統合目指す金融協力が成立している。
東アジア通貨秩序の現在は、軍事的強制によって「管理された分裂」の空間支配を目指し
た 1930 年代の円ブロック構想と近似した公共財的なネットワーク構造をとっている。戦前
と戦後の相異点は、現下の東アジア金融協力では、米国排除の地域枠組みを発足させること
により、国際政治の力の対立を排除してきたことである。しかし、通貨の持つ政治性に由来
する対立が ASEAN+3地域枠組みによって封印されたことによって、
域内の通貨制度を巡る
議論も同時に封殺してしまっている。通貨制度での政策協調と共通制度の議論がないまま、
「管理された分裂」が定着し、金融から通貨制度への展望を阻害している。
(3) 期待の収斂なきレジーム(第 9 章)
東アジア食料安全保障レジームの成立過程における日本と ASEAN の対外政策の相互作
用についての考察結果は、次の3点の事実関係を示している。
①ASEAN 内の認識
ASEAN 諸国経済の構造的な脆弱性について認識が、通貨危機後に顕在化するリスク
の中で共有さていくのに伴い、ASEAN 域内の農業問題、農産物貿易それぞれに対する
認識が醸成されてきたことである。
②対外政策の副産物
ASEAN 協力の深化と拡大を支援し主導的な役割を担ってきた日本にとって、東アジ
- 420 -
ア食料安全保障は、国際環境への対応を目的とした対外政策の副産物である。農業・食
料問題で認識を収斂させて相互補完的な地域協力を創出しようとする政治的意図以上に、
自国農業の保護を優先する政策選好があった。
③ 認識の収斂なき地域協力
ASEAN と日本の間で、農業・食料問題認識についての政治的位相に大きなズレが生じ
ているにもかかわらず、コメ備蓄という限定した分野に、国際レジームが成立したことで
ある。この特異な現象は、合理的利得計算と「期待の収斂」を前提とする国際レジーム・
制度論を超越した新たな視座を提供している。国際レジームは主体同士の政策選択の調整
によって成立し、調整が失敗すればレジームは未成立に終わる。にもかかわらず、ASEAN
と日本の間の農業・食糧問題の調整は未消化であり、認識の収斂もないままに、食料安全
保障分野で協力関係が誕生するという既存の制度論の枠組みの外で成立した事象である。
農業と食料という食料安全保障についての核心の問題認識・意識を共有することもなく、
地域協力枠組みが実現する構図は金融協力、IT 協力と同じである。その意味では、機能的協
力を媒介にした東アジアの地域形成は、利得と力をめぐって協調と対立を繰り返す旧来型の
「場の空間」構築とも異なり、地域内の潜在的なリスクに対応する形で、本来の問題につい
ての争点を深耕することはせずに、危機を発端に当初の問題認識と別領域での協調を模索し
従来とは異なる新しい知識・認識・意識の連鎖を生み出すことで協力関係に具体化してきた
といえるだろう。
3. 分析結果の総合
3−1「分裂と階層」の秩序
地域形成の文脈に結びつけて各章の考察結果の要点を総合すると、機能的協力関係を媒介
にした東アジアの空間再構築は、別表のとおりに総括(
「総括表」
)することができる。以下
の4点に総合することができよう。
第一に、空間の構造と機能が相反する特徴を際立たせていることである(総括表の「因果
性」
)
。
「world is flat」3というスローガンに象徴されるように、一般的に認識されているグロ
ーバル化と地域化によって、世界の中の東アジアの機能が域内外に連続して一体化していく
3
情報化時代の世界が機能的にフラット化するという通説を論じた代表的な論考についての考察は、第4章
および以下を参照。Friedman, Thomas L.2005. The World is flat. New York: Farrar, Straus and Giroux.
- 421 -
傾向は、定量研究の分析結果でも歴然としている。他方で、機能の源となるネットワークの
制度的、物理的な相互依存(相互接続)の「階層性」と、制度の「分裂」をより際出せてい
る。
とりわけ、グローバルに一体のネットワークと機能を提供してきた電気通信(第7章)
、通
貨・金融(第8章)の分野では、ネットワーク分析結果(第4、5章)が示すとおり、1980
年代以降の世界的な規制緩和と技術革新の相乗効果によって、東アジアの機能的統合が量的
に拡大と深化を遂げている。同時に、各国がそれぞれの戦略を展開しグローバルな機能のネ
ットワークへの統合を目指した結果、第二次大戦前の 30 年代の「階層」と「分裂」の国際
構造に類比される地域空間が、東アジアに復活したかのように出現している。
第二に、東アジアの機能的協力では、
「階層」と「フラットな世界」
、
「分裂」と「統合」と
いう矛盾を止揚するために協調を目指しているのではなく、グローバルな階層構造を地域の
側から支える相補的な態勢として、地域協力が模索されてきたことである(
「総括表」の「因
果性と相補性」と「実態」
)
。
「階層」と「分裂」という、地域統合や凝集性の発揮とは相反す
る構造が併置されたまま、グローバルな危機が伝播するリスクに対応するため、ASEAN+
3金融協力と IT 化に対応した地域枠組みが発足している。
前者の金融協力の範囲は、外為市場における通貨撹乱への対応に限定され、東アジア地域
の二国間協調によって流動性を供給する金融メカニズムである。円の国際通貨化を目指した
日本の政策認識・意識は、ASEAN と中国には受容されず、実質的な米ドルを頂点とした国
際通貨秩序の再編と通貨制度を巡る協調ついての議論は封殺された状態か続いている。IT 協
力においては、戦後の海底ケーブル網の構築プロジェクトでは、ASEAN の地域協調が成立
している。それに対し、インターネット時代に対応する独自の情報通信網の構築では、域内
格差と域内外の階層構造(デバイド)の解消に優先し、各国が機会(オポチュニティ)を個
別に探求する4。このように、通貨・通信両分野とも現在、直面する課題に伏在している構造
的な問題を協調の対象とはせずに、
域内外の対立を回避しながら協力関係を作り上げてきた。
第三に、
地域内で問題認識の収斂を見ることなく、
地域協力が具体化してきたことである。
通貨危機を発端に国際通貨秩序への対応を模索しながらも、通貨制度の議論と切り離した形
で金融協力が深化してきた事例が象徴的である。構成主義的な制度・レジーム論の中で国際
協調成立の要件とされる「認識・期待の収斂」が確認されず、分散(総括表の「因果性と相
補性」
)
する傾向を示しながら、
地域レジームが発足するという論理矛盾の構図が観察できる。
政策選択の意思決定の形式である「知識・認識・意識の連鎖」に焦点を当てると、ASEAN、
4佐賀健二
2003.「ASEAN 各国に対する IT 国際協力戦略」
『国際関係学紀要』第 11 巻 2 号,東海大学。
- 422 -
日本、中国の間で認識と意識は収斂せず、とくに国家の主権的権限についての認識が 3 者間
で分裂し、地域協力を模索している。
第Ⅲ部事例検証では、
「通信主権」
、
「通貨主権」
、
「食料主権」とそれぞれ表現した国家の主
権的権限が、国際関係の中で不断に変動している現象に着目し、認識・期待が国家間で収斂
せずに分裂する構図について詳述してきた。とくに2つの点を指摘しておきたい。
まず、主権的権限の範囲を拡大する傾向である。問題領域を国際・国内で仕切ってきた境
界の所在は有名無実化し、国境の内側で保障されてきた主権的権限の内容と範囲が曖昧さを
増してきた。本研究でネットワークの相互接続の構図を分析した国際通信、通貨の分野では
第二次大戦後、国際・国内の間に截然とした境界が存在し、国際機構・制度が結節点(相互
接続点)となり、国際領域において国家間の協調が成立していた。それが、米国を中心に展
開した技術革新と国際制度の改変によって激変した。
「埋め込まれた自由主義」は「むき出し
の自由主義」となり、国境の外の相互接続点をめぐって、国家間で自国の優位な位置を競い
合う。従来指摘されてきたように市場のグローバル化が「国家主権の衰退」を招く、いわゆ
る「国家の変容」5プロセスとは異なり、国家が主権的権限の対外拡張を求めて競合しながら
ネットワークを再構築するという空間(場)の占有を目的とする力学が作用している。
ASEAN、日本、中国の間の協力関係においても、欧州統合の主要な論点であった国家の主
権的権限の委譲と保持を地域形成の閾値とする地域統合論6の視角は、ほとんど問題視されず、
東アジアでは権限の拡大・拡充が各国の共通する課題となっている。グローバルな機能的空
間の登場とともに、主権的権限の拡大・拡充を前提に金融、IT 協力を志向しても、階層的な
国際的な構造が一段と鮮明になっている。
次いで、協調・協力のための交渉初期の問題認識と、東アジア地域協力が具体化する争点
領域の分裂である(総括表の「因果性」②③と「相補性+因果性」
)
。通貨危機後のドル基軸
の国際通貨制度を見直しへの関心から金融協力へのシフト、農業問題と食料問題それぞれの
問題認識が収斂しないままに発足したコメ備蓄制度や、ASEAN の IT デバイド(情報格差)
Held, David, et al. 2000. Global Transformations Politics, Economics, and Culture. Cambridge: Polity
Press.; Strange, Susan 1996. The Retreat of the State∼The Diffusion of Power in the World Economy.
London: Cambridge University Press.
6 とくに経済領域における東アジアの地域形成についての先行研究は、非論争的な機能的協力が、政治安全
保障領域に自動的に波及し、国家主権の一部、もしくは全面的に委譲し政治協同体を発足させるプロセスを
理論化した欧州統合論の定式に準拠にした分析が多い。また、東アジア共同体を議論する場合の通説として、
期待値とともに一般的に認識されている。しかし、欧州の統合事例においても、意思決定の態様は、主権の
境界が不明確であり、現実的に、主権の分断性と分権性の状態は一義的に規定できず、
「国家が無欠の形で
保持されているわけでもなく、さりとて諸国を束ねる制度的存在に明瞭に委譲されたわけではない」
[鴨
1993 203]状態が 90 年代の欧州地域であった。EU 発足後も統合論の規範的なとらえ方と実際の乖離は指
摘されている。鴨武彦 1993.「超国家性の逆説」
『講座 世紀間の世界政治: ヨーロッパの国際政治 主権国
家の変容』日本評論社、192-259 頁。
5
- 423 -
是正を目的にした ASEAN の IT 協力が域内事業者の集まりである e-ASEAN ビジネス協議
会を中心に IT 産業活性化策へと変質を遂げていく。これらの地域協力枠組みが本来の目的
と乖離して、当初構想された地域協力の中身が空洞化し、新たな協力を展開していくプロセ
スは、国際構造の変動に伴う対脅威認識を発端に、問題認識が収斂に向かい協力枠組み生み
出され、対脅威認識が薄れる中では、知識・認識・意識の連鎖は各国ごとに乖離する現象が
表面化してく。グローバル化の中で発生源が高度に構造化された脅威が出現し、構造的な問
題への対応について討議を重ねつつも、主権的権限に対する認識が各国で相違している。そ
のために、国家間関係の対立要素が加わり協力の範囲も限定される。構造的に安定すると、
国際関係の中に伏在する問題を克服しようとうる意識も後退する。その結果、政策協調に代
わって、主権的権限に直接関与しない予防的な安全網の構築を目的に、新しい協力関係が築
かれ拡充してきている。
総括表 「相補性と因果性」
因果性: f(a,b) ①構造・制度,②主権的権限,③認識
相補性+因果性: f(a,b) + c
実態 分析 d (第Ⅲ部)
階層性
(構造)
①非対称・階層的な相互接続
②「通信主権」の拡大(外向)・拡充(国
内)
③IT国家戦略(協調と競争)
World is Flat.
対米回線の増強、
域内情報受発信量の拡大
地域金融協力の拡大(CMI)
分裂
(制度)
①通貨制度と金融統合の「分裂」/通貨
制度の「管理された分裂」
②「通貨主権」の封印
③国際化認識の乖離
グローバルな金融統合、
金融アーキテクチャーの再構築、
ドル基軸への依存
コメ備蓄協力制度の発足
分散
(期待・認
識)
①「農業問題・食料問題」認識の収斂の
ない国際レジーム
②「食料主権」の多様性
③農業貿易交渉の非協調
WTO農業交渉の膠着、
農産物貿易問題の対応格差、
ASEAN食料問題の浮上、
ASEANレジームの外向的展開
e-ASEAN(IT協力枠組み)と国際協
調(海底ケーブル網)
注:
f (a, b ) + c = d ( f
(事例分析結果)
実態分析 d'(第Ⅱ部)
政治と非政治領域
の独立, 「分散」
「凝集」の並存,
「弱い中心構造」
(「周辺の中心
化」),
は因果性;
a : 地域形成の物質的力学; b :認識の形式; c : 相補性; d : 地域形成の実態
d ′ :地域形成の実態(定量分析結果)。
地域形成過程の実態分析(定量分析、事例研究)の結果の d , d ′ についての考察した空間の力学と認識の連鎖の因果性では、
「階層」
「分裂」
「分散」という地域形成とはメカニズムが明らかになる。この因果性と現実に積み上げられていく機能的協力
関係の乖離が、地域形成に働く相補性
c である。
3−2 「分散と凝集」の地域空間
機能的協力を媒介にした東アジアの空間構築で明確なことは、物質的な力学と構造が、東
アジアの地域形成の中でも大きな変動は見られず、1930 年代の東亜地域主義とブロック経済
に類比されるほどに「階層と分裂」という国際関係の構造的特徴が、従来以上に浮き彫りに
- 424 -
されてきたことである。そして地域空間を特徴づけてきた「階層と分裂」の構造下で、各国間
に「分散と凝集」双方の力が働いてきた。本研究の主要な分析対象期間は、1997 年アジア通
貨危機以降であるが、グローバル冷戦終結からこの間、東アジアの力の均衡に変化がないこ
とを前提に、地域空間の変動を分析してきた。階層構造を際立たせてきた物質的力学の変動
を、第3章で考察した地域形成の政治的位相の文脈に沿って、本研究の分析結果を統合して
みる。
第3章の 3 者・4 者ゲームの論理的帰結によれば、力と利益(利得)の物質的力学のみで
は、東アジア地域一体型の協調は成立しない。そこで協調が成立する条件として、次の 3 点
があげられる。
(a)ASEAN 地域が中心になり、ASEAN 地域主義が拡大、深化する、
(b)米国が東アジア地域の協調関係を容認(無関心)する、
(c)日中の両者が譲歩的な関係によって協調し、さらに ASEAN との間に協働的意識が
介在する。
東アジア地域協力が成立するためには、こうした二重、三重の前提条件を必要とするが、
(a)
、
(b)
、
(c)については、事例研究でも明らかなように、東アジア地域枠組みの中で従
来、十分に満たされてきたとはいい難く、むしろ3つ前提条件の基盤は動揺しながら地域協
力が成立してきた。
まず、
(a)の東アジア地域形成を主導する ASEAN の中核的役割は、経済的、軍事的な力
量に裏付けられたものではない。ARF、ASEAN+3、東アジア首脳会議あるいは ASEAN
拡大外相会議など、いずれも ASEAN が基点となり、超大国・米国、東アジア域内大国であ
る日中両国との均衡で図る制度的な地域枠組みが出来上がっている。だが実態面では、
ASEAN 諸国が、地域秩序を構築するプロセスで実質的な協力の内容について、単独で主導
的な役割を担ってきた形跡はほとんどない。
第7、8、9章の事例研究が示すとおり、ASEAN 中心の東アジア地域枠組みの中で、
「協
力(援助)する日本・中国」と「協力(援助)を受ける ASEAN の関係」に基づき、機能的
協力が積み上げられてきた。いわば、経済・政治・軍事各面において ASEAN の「脆弱性」
7を補う形で発揮したてきた
ASEAN 外交の成果ともいえる。ともすれば、幻影とまで揶揄
される外枠のみの ASEAN を中心にした東アジアの実態が東アジア地域協力に投影されてい
7
山影進 2005.「ASEAN の安全保障機能とアジア太平洋の広域安全保障」 『アジア太平洋の安全保障とア
メリカ』彩流社、179-203 頁を参照。
- 425 -
る8。
次いで、前提条件の(b)
(c)については、2005 年に初回会合が開催された東アジア首脳
会議のメンバーシップを巡る日中の確執がそうであるように、現行の物質的力学は新しい均
衡へと向かう転換期を迎えている。その予兆として戦略的な緊張関係9がすでに散見される。
①中国の持続的な経済発展によって、力の均衡に変化の予兆が浮上しつつあり、経済連携・
FTA を中心に日中それぞれが東アジア地域内に独自の二国関係を構築している、
②米国は ASEAN+3、東アジア首脳会議という東アジア地域枠組みから排除され、日本、
豪州、さらにインドとの二国間関係を強め、中国の台頭に対抗する予兆がある、
③ASEAN は、中国の政治経済的影響力の増大による均衡の変化を先取りし、インド、ロ
シアと接近し、同時に米国への過度の依存を回避しようとしている。
東アジア地域協力は、冷戦後の秩序が変動期を迎える中で勃発した通貨危機に端を発し、
その後の 10 年間の ASEAN+3の枠組みの下で IT、金融、食料協力の分野で積み上げられ
てきた。米国はこの間、経済力、政治力、軍事力で突出した影響力を行使し、米国を単極と
する国際構造と新秩序を構築するかに思えた。しかし、米国が 9.11 同時多発テロに象徴され
る新しい脅威と格闘を続けるなか、東アジアを含む世界戦略転換と国際秩序の再構築は未完
の状態にあると同時に、世界経済は混乱期に突入した。東アジア地域において今後、①②③
の予兆がさらに複雑な形で顕在化し、国際構造の中で東アジアが新しい均衡点へと向かう可
能性がある。その場合、東アジア機能的協力の実績を積み上げてきた「相補性と因果性」の
旧来メカニズムの激変は避けられず、
「分散と凝集」の振幅を拡大しながら、フラットでグロ
ーバルな機能的統合と、物理的な階層構造の先鋭化という矛盾の上に成立してきた地域協力
の基盤も変動し、ASEAN を基点とする「管理された分裂」の東アジア地域形成の軌道を修
正する局面も予想される。
4. 総括 「管理された分裂」と時空
東アジア地域は、一方で域外との関係において、とくに米国主導の非対称かつ階層的な国
ASEAN 幻想論の代表としては、次の論考を参照。Jones, David Martin and M.L.R. Smith. 2006. ASEAN
and East Asian International relations: Regional Delusion. Massachusetts: Edwards Elgar.
9 Phar, Kim Beng. 2006. Southeast Asian Perspective of East Asian Community: Promise and Problems
of one East Asia (邦訳、「東南アジアに東アジア共同体の舵取りは可能か」『世界』165-70 頁に所収)
8
- 426 -
際秩序を受容し、他方では域内の力の対立・競合を回避しながら「新しい脅威」に対応する
ために、非政治領域の協力可能な新たな争点領域を模索してきた。日本と中国の地域形成の
主導権をめぐる競争関係も、ASEAN 中心の地域枠組みの中で ASEAN・日中の対等な関係
に吸収されてきた。極論すれば、米国を排除した東アジアという地域枠組みが、国際システ
ムの力学の浸透を回避する防壁として機能しながら、
「分散と凝集」を繰り返しグローバルな
統合を促進する協力機構の役割を担ってきた。
「相補性と因果性」のメカニズムの中で、物質
的力学の因果律が、ASEAN+3の地域枠組みの中で固定される形で地域協力関係が成立し
てきたのである。
このように域内外からの物質的力学の相互浸透を遮断した地域枠組みの中で、東アジアを
一体の地域として創出する目標を掲げてきた。しかし、分析結果から明らかになった「知識・
認識・意識」の連鎖は、日本、中国、ASEAN の間で収斂することなく、具体化した機能的
協力関係の大半が、この地域に突きつけられた新しい脅威10への対応策であり、経済連携制
度や通貨政策の政策協調を事実上、封印し、国家間関係に特有の力学に由来する国際秩序の
階層性と制度的分裂の構造問題を巧妙に回避して、地域をグローバルな機能との融合を模索
するものであった。
断続的に勃発し東アジア地域が直面したこれらの新しい脅威と危機は、①グローバルで高
度な伝搬性、②予見困難性、③単独での対応限界と、国家規模の大小を問わず国際協調が必
須である、という特殊な性格を併せ持つ。これに対し、東アジア地域枠組みは、地域内外の
物質的力学の変動に対し防壁機能を発揮するだけなく、脅威に対し協調の必要性についての
共通知識が醸成する空間枠組みを提供していたことが予想される。しかし、この共通知識の
醸成装置としての ASEAN+3地域枠組みの中では、共通の価値観の所在が認められず、加
えて、
「認識の連鎖」が各国間で収斂しない状況にある。にもかかわらず、対応可能な争点領
域を見出し、リスク対応の協力態勢がとられてきた。通貨スワップ取極、コメ備蓄制度もい
1990 年代後半からの ASEAN+3が直面し、首脳会議のアジェンダにあがった主要な「新しい脅威」は
以下のとおり。
1997-98 年 通貨金融危機/インドネシア煙害;ASEAN+3地域枠組み発足(CMI 合意、2000)
2001 年 9 月 米国同時多発テロ; ASEAN Declaration on Joint Action to counter Terrorism(2001)
2002 年 2 月 バリ島クタ爆発事件; ASEAN +3 Declaration on Joint Action to counter Terrorism(2003)
2003 年 3 月 SARS 蔓延; Joint Declaration, Special ASEAN Leaders Meeting on SEVERE Acute
Respiratory Syndrome (SARS)(2003); Special ASEAN-China Leaders Meeting on SARS(2003).
2004 年 12 月インド洋スマトラ沖津波災害
2005 年 高病原性鳥インフルエンザの流行
2007 年 原油価格高騰
2008 年 世界同時不況
ASEAN Secretariat<http://www.asean.org/5467>(2009 年 2 月 4 日取得)。
10
- 427 -
うなれば、リスク分散的・回避的な地域主義であろう。その過程で、日中の主導権獲得競争
や各国の主権的権限にかかわる問題領域に交渉が及んだり、米国の対応しだいで、通貨制度
を巡る議論に象徴されるように、
東アジアの地域形成は振幅を繰り返してきた。
その様相は、
地域形成・地域主義の停滞と深化を繰り返しているようにも映る。
空間変容の定式(第 1 章第 2 節)に照らせば、東アジアという地域空間は、主体間の関係
に急激な変化がなく、意思決定機構の配置・編成替えも確認できないままに現在に至ってい
る。ともすれば、
「東アジア」という目標の看板を掲げただけの地域形成とみなすこともでき
よう。しかし、価値観、地域内の意思決定の態様に変化がなく、従来の空間配置を踏襲しな
がら振幅を繰り返しているようであっても、ASEAN+3をはじめとする ASEAN を基点に
据えた地域枠組みの中で、
危機対応の実質的な関係を模索していることは確かな事実である。
さらに実質的な関係を育みながら空間の変容と地域形成へと向かうのか否かという問題は、
この地域が国際構造の変動に対し、
域内外の物質的力学つまり国際政治の場の力学を克服し、
協力を深化できるかという問題でもある。力・利益追求の場を求める旧来の地域空間とは異
なる、時間的な支援関係によって結ばれた新たな時空が形成されるかどうかである。
1990 年代以降の機能的協力関係に結実した東アジアの地域主義は、哲学、思想として表明
されたものではなく、国際関係の変動に対応するリスク分散・事後的対応措置という政策に
黙示的に示されてきた。
「相補性と因果性」のメカニズムによって、ASEAN+3 という地域
枠組みの中で力の対立を回避し、リスク分散型地域主義が生み出されてきた。その意味で、
地域空間の中で物質的な力学を意図的に抑制し、非伝統的な新しい脅威と課題に対応してい
く「相補性と因果性」のメカニズムは、ASEAN+3の地域枠組みが採用する東アジア独自
の地域主義の概念モデルでもある。非線形に緩やかな深化を想定する東アジア的な概念モデ
ルではあるが、将来を遠望すれば、避けて通れない重い課題を背負っている。互いの「知識・
認識・意識」が反響せずに期待の収斂を欠いていても、国際政治の物質的力学を一定状態(均
衡)に保持すれば、機能的関係が国際変動に対して生み出されていく、この図式は、多様な
価値観にもとづき、意思決定の機構が各国主体に分散する空間構造と深くかかわっている。
対立を地域枠組みによって力の関係を回避しながら協調的関係を構築する東アジア独自の手
法は、
「協生の平和」という東洋的な思想にもとづく地域主義でも、また平和主義から機能的
統合を展開していった欧州の地域主義とも異なる因果メカニズムである。力の場という旧い
空間の要素を残しながら、協力関係を模索する地域枠組みは、いわば「管理された分裂」の
地域空間といえよう。
しかし、国家を主体にした旧い空間構造の中では、
「他者への不信・否定」と「他者への信
- 428 -
頼・肯定」の双方の動機を含んでおり、グローバルな機能への対応を追求する協力関係以上
の地域形成を展望することは難しい。冷戦後秩序の再構築に向けて、東アジアにおける国際
政治の構造がさらに変動する場合、国際政治経済の再編と関連する諸問題に、東アジアの「相
補性と因果性」はどのように反応し、
「管理された分裂」の因果メカニズムを変容させていく
のか。明示的な地域主義をより意思的な構想として表明し、事後的なリスク対応機能のみな
らず、地域として明確な目的志向の構造的な力を発揮することができるのか。また、変動す
る国際関係の中で非国家行為体の越境が増大し、新しい脅威と国際変動への東アジアの対応
にとっても、政府間主義による国家次元のみの協調・協力対応にも限界が指摘されている。
東アジアの機能的協力関係を媒介にした地域形成についての分析結果からは、
「他者肯定」の
時間的関係にもとづくネットワークの形成を確認できない。東アジア地域主義の今後の分析
の課題であると同時に、新しい時空の形成に向けて東アジアの地域形成が背負う課題でもあ
る。
- 429 -
初出論文
序論 書き下ろし
第1章 「サブリージョンの空間論的アプローチ」
『北東アジア研究』第 14 号 177-94 頁、
2008 年(加筆修正。第3節以降、書き下ろし)
第2章 同上論文をもとに書き下ろし
第3章 「東アジア経済共同体の政治的位相」
『環日本海研究』第 10 号 78-96 頁、2005 年
(加筆修正)
第4章 書き下ろし
(以下をもとに執筆。
『東アジア共同体の構築 4: 図説ネットワーク解析』岩波書店、
223∼86 頁、2006 年の参照データ。
「地域空間の変動と分析アプローチ」多賀秀敏
研究代表『 平成 18 年度科学研究費補助金研究成果報告書
EU サブリージョンと
東アジア共同体−地域ガバナンス間の国際連携モデル構築−』2009 年)
第5章 「東アジア地域形成における政治交流分析」
『ソシオサイエンス』第 13 号 102-22
頁、2007 年。
「東アジア地域システムにおける中心性の変動」
『社学研論集』第 9 号 169-83 頁、
2007 年。
「東アジアの政治交流分析」日本国際政治学会報告提出ペーパー、2007 年 10 月(福
岡国際会議場)
。
(以上、加筆修正)
第6章 「東北アジア自治体交流の定量分析」
『環日本海研究』第 13 号 1-18 頁、2007 年(加
筆修正)
第7章 「インターネットと通信主権の変容−東アジア IT 協力の予備的考察−」
『社学研論
集』第 10 号 163-77 頁、2007 年(加筆修正)
第8章 書き下ろし
第9章 「東アジア食糧安全保障のレジーム論的考察」
『ソシオサイエンス』第 12 号 107-22
頁、2006 年(加筆修正)
結論
書き下ろし
- 430 -
Fly UP