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IASB「確定給付制度:従業員拠出 (IAS第19号の改訂)」

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IASB「確定給付制度:従業員拠出 (IAS第19号の改訂)」
KPMG Insight Vol. 5 / Mar. 2014
1
会計トピック⑤
IASB「確定給付制度:従業員拠出
(IAS 第19 号の改訂)
」の概要
有限責任 あずさ監査法人 IFRS 本部
シニアマネジャー 浅井 美公子
国際会計基準審議会(IASB)は、2013 年11月に「確定給付制度:従業員拠出
(IAS 第19 号「従業員給付」の改訂)
」を公表しました。この改訂により、確定
給付制度の正式な規約(または推定的債務)による従業員または第三者による
拠出が勤務に関連するものであって、その金額が勤務年数に連動しない場合の
会計処理に、実務上の簡便的な方法が追加されました。
この改訂は、2014 年 7 月1日以降に開始する事業年度から適用することが求め
られます(IAS 第 8 号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って
遡及適用しなければなりません)
。なお、早期適用は認められます。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であることを、あらかじめお断り
いたします。
あさ い
み
き
こ
浅井 美公子
有限責任 あずさ監査法人
IFRS 本部
シニアマネジャー
【ポイント】
◦
「確定給付制度:従業員拠出(IAS 第 19 号の改訂)
」は、IAS 第 19 号(2011
年版)で明示された新たな規定の適用上の論点に対応するために、実務上
の簡便的な方法を提供するとともに、基準を明確にするものである。
◦この改訂により、確定給付制度の正式な規約(または推定的債務)による
従業員または第三者による拠出は、以下のとおり会計処理されることにな
る。
–拠
出が勤務に関連する場合、給付の総額を勤務期間に帰属させるのと同
じ方法を用いて、負の給付として勤務期間に帰属させることにより、勤
務費用の減額とする。
–拠
出が勤務に関連する場合であっても、その金額が勤務年数に連動しな
いものは、関連する勤務が行われた期間の勤務費用の減額として認識す
ることができる(実務上の簡便的な方法)
– 拠出が勤務に関連しない場合、
確定給付負債(資産)の再測定に反映する。
◦この改訂は、
2014 年 7 月 1 日以降に開始する事業年度から適用される(IAS
第 8 号に従って遡及適用しなければならない)
。早期適用は認められる。
Ⅰ IAS 第19号(2011 年版)の改訂の背景
「 確定 給 付制度:従 業員拠出(IAS第19号の改 訂)」は、
1.従業員または第三者による拠出を伴う確定給付制度の
会計処理
確定給付制度は、企業の拠出によって年金資産が積み立て
IASBから2013年11月21日に公表されました。これは、2013
られることが一般的ですが、制度の中には従業員または第三
年1月1日以降開始する事業年度から適用開始となった2011年
者にも拠出を求めることにより、企業によるコストの負担を軽
に公表されたIAS第19号(IAS第19号(2011年版)
)において
減するものがあります。
追加された、従業員または第三者からの拠出を伴う確定給付
2013年1月1日に開始する事業年度から適用開始となった
制度に関する新たな規定の適用上の論点に対応するものです。
IAS第19号(2011年版)では、このような従業員または第三者
による拠出を、任意の拠出と制度の正式な規約(または推定的
© 2014 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG
International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.
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会計トピック⑤
債務)による拠出とに区別し、図表1のように会計処理するこ
これに対して、IAS第19号(2011年版)では前述のように、
勤務に関連する従業員または第三者による拠出を確定給付制
とを規定しています。
IAS第19号(2011年版)ではまた、第三者による拠出が、企
度債務の測定に織り込むことによって、勤務費用を減額する
業の給付に係る費用を減少させるか、または補填の権利とな
ことが明示されました。すなわち、企業は従業員または第三
るかの検討を、明確に企業に求めています。
図表1 従業員または第三者による拠出の従来の基準に基
づく会計処理
拠出の種類
会計処理
者による将来の拠出予定および拠出額を予測し、これらの拠
出を従業員の勤務期間にわたって負の給付として勤務期間に
帰属して確定給付制度債務および勤務費用の減額を算定する
ことが要求されます。これにより、企業は複雑で手間のかかる
数理計算を行なわなければならないことが見込まれます。ま
任意の拠出
拠出時に勤務費用の減額とし
て処理される
た、この新たな規定をIAS第8号に従って遡及的に適用するに
制度の正式な規約(または
推定的債務)による拠出
次のいずれかにより会計処理
される
なります。何十年も前に設立された古い制度において過去の
(a)
拠出が 勤 務に関 連する
場合は、負の給付として
勤務期間に帰属させるこ
とにより、勤務費用を減
額する(すなわち、給付
の純 額を勤務 期 間に帰
属させる)
。
(b)
制 度資 産の損 失または
数理計算上の差損から生
じた積立不足を補填する
ために拠出が求められて
いる場合、確定給付負債
(資産)の純額の再測定
を減額する。
2.適用上の論点
際しては、制度の設立当初からの従業員拠出の情報も必要に
拠出に関する資料がない場合など、新たな規定を遡及的に適
用して確定給付制度債務を算定することは実務上困難なケー
スも想定されます(図表2参照)
。
図表2 勤務に関連する従業員または第三者による拠出の
会計処理の移行
IAS 第19 号(2004 年版)
拠出を受け取った期間の
勤務費用の減額
IAS第 19 号(2011年版)
拠出を確定給付債務の測
定に織り込む
追加的な手続
• 将来の掛出予定
および拠出額の予測
• 掛出額の期間帰属
(2)従業員または第三者による拠出(負の給付)の期間帰属
方法
制度の正式な規約(または推定的債務)による勤務に関連す
IAS第19号(2011年版)は、負の給付をIAS第19号第70項
る従業員または第三者による拠出を伴う確定給付制度の会計
に従って期間帰属させることを規定する一方で、給付の純額
処理に関する新たな規定は、一般的に、その適用が実務上煩
が第70項に従って期間帰属されるという趣旨の記載をしてい
雑であると懸念されていました。また、IAS第19号(2011年
ます。また、参照されているIAS第19号第70項は、給付(総
版)は、従業員または第三者による拠出の勤務期間への帰属方
額)の期間帰属の方法に関する規定であり、その内容は、給付
法および実際の拠出額が勤務費用の減額と異なるような場合
(総額)の後期の年度における従業員の勤務が初期の年度より
に関する会計処理に関して明確なガイダンスを提供していな
著しく高い水準の給付を生じさせる(著しく後加重である)場
いため、新たな規定を実務上どのように適用するのかが定か
合を除いては制度の給付算定式に従い、給付が著しく後加重
ではありませんでした。
である場合は定額法により給付(総額)を期間帰属させること
を要求しています。 (1)新たな規定の適用に関する懸念
期間帰属の方法に関して「負の給付」と「給付の純額」の双
2004年に公表された、IAS第19号(2011年版)が適用され
方へ言及されていること、および参照された第70項が給付の
る前のIAS第19号(IAS第19号(2004年版)
)では、補填の権
総額の期間帰属の方法を規定するものであることから、負の
利に関連する第三者による拠出および制度対象の医療費に関
給付の期間帰属の方法に関しては、以下3つの解釈が可能であ
する将来の見積りに対して従業員に掛金の支払いを求める雇
ると考えられ、いずれの方法がIAS第19号(2011年版)の意図
用後医療制度を除き、従業員または第三者による拠出をどの
する方法であるかについては、今回の改定が公表されるまで
ように処理すべきかに関する規定が明示されていませんでし
明確ではありませんでした。
た。このため、勤務に関連する従業員または第三者による拠
出は、拠出を受け取った期間の勤務費用の減額として会計処
理されることが一般的な実務であり、これらの拠出が確定給
付制度債務の測定に考慮されることはありませんでした。
①給 付の総額に対して、第 70 項の「著しく後加重である」か否
かの判断を行い、負の給付に給付の総額の期間帰属方法と同
じ方法を適用する。
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会計トピック⑤
②給 付の総額と負の給付に対して別個に、第 70 項の「著しく後
加重である」か否かの判断を行い、それぞれの方法を別個に適
用する。
なお、実際拠出額と勤務費用の減額の差異の取扱いを明確
にするガイダンスは、今回の改訂では追加されませんでした。
ただし、勤務費用の減額が実際の拠出額と異なる場合でも、
③給 付の純額に対して、第 70 項の「著しく後加重である」か否
かの判断を行い、給付の総額と負の給付の両方に同じ方法を
適用する。
従業員または第三者による拠出は雇用主の債務を増加させる
ことから、拠出額は確定給付債務の増加として取り扱われる
であろうというボードの見解が結論の根拠に記載されました。
(3)
実際掛出額と勤務費用の減額の差異の会計処理
すなわち、実際拠出額と勤務費用の差額は確定給付制度債務
負の給付の期間帰属に、制度の拠出算定式でなく定額法を
として扱われることを示唆していると考えられます。
用いた場合など、実際の掛出額と負の給付として期間帰属さ
せた金額(すなわち、勤務費用の減額)が一致しないケースが
1.実務上の簡便的な方法
生じることが想定されます。しかし、実際掛出額と勤務費用
の減額の差異をどのように会計処理するかについてのガイダ
この改訂により追加された実務上の簡便的な方法は、従業
ンスがIAS第19号(2011年版)にはありません。したがって、
員または第三者による拠出が次のすべての条件を満たす場合
この差額をどのように取り扱うべきかが論点となります。
に適用することが容認されます。
◦確定給付制度の正式な規約に示されている(または推定的債務
による)
Ⅱ 改訂の概要
◦勤務に関連する
◦拠出額が勤務年数に連動しない
IAS第19号(2011年版)の適用に伴う、勤務に関連する従業
この実務上の簡便的な方法を適用する場合、企業は、これ
員または第三者の拠出を伴う確定給付制度の会計処理に関す
らの拠出を関連する勤務が行われた期間の勤務費用の減額と
る企業の負担を軽減するために、この改訂は、一定の要件を
して認識することができます(図表3参照)
。
満たす場合にこれらの拠出を関連する勤務を提供した期間の
勤務費用の減額とする、実務上の簡便的な方法を提供してい
ます。この改訂はまた、これらの拠出を期間帰属させる方法に
関するガイダンスを明確にしています。
図表3 従業員または第三者による拠出の会計処理に関するフローチャート
従業員または第三者による拠出が求められる
確定給付制度か
No
この改訂の適用範囲外
Yes
これらの拠出は任意ではなく、制度規約
(または推定的債務)に基づくか
No
拠出時に勤務費用を減額
Yes
拠出は、積立不足を補填するものではなく、
勤務に連動するものか
No
確定給付負債(資産)の純額の
再測定に反映
Yes
拠出額は、勤務年数とは無関係か
No
Yes
簡便的な方法を適用するか
Yes
関連する勤務が提供された期の
勤務費用を減額
No
給付の総額を勤務期間に帰属させる方法で勤務費用の減額として勤務期間に帰属
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会計トピック⑤
また、拠出額が勤務年数に連動しないものの例示には、次
が含まれます。
Ⅲ 適用日および経過措置
◦従業員の給与に一定割合を乗じて算定される拠出
◦勤務期間を通じて固定金額の拠出
◦従業員の年齢に連動する拠出
この改訂は、2014年7月1日以降に開始する事業年度から適
用されます。ただし、IAS第8号に従って遡及適用することが
求められます。また、早期適用は認められますが、早期適用
する場合は、その旨を開示することが求められます。
たとえば、拠出額が入社10年目までは給与の4 %、11年目
以降は給与の10%で算出されるなど、拠出算定式に勤務年数
への参照がある場合は、拠出額が勤務年数に連動するものに
Ⅳ 日本企業への影響
分類されます。
2.従業員または第三者による拠出(負の給付)の期間帰
属方法の明確化
従業員または第三者による勤務に関連する拠出を伴う我が
国の制度の拠出額は、勤務年数に連動するものではないこと
が一般的であると考えられます。たとえば、従業員の標準給
勤務に関連する従業員または第三者による拠出の会計処理
与の金額を基に従業員の拠出額が算定される厚生年金基金も、
に、実務上の簡便的な方法が適用できない(または、適用しな
拠出額が勤務年数に関連しないものに分類されると考えられ
い選択をした)場合、IAS第19号(2011年版)では、これらの
ます。したがって、多くの日本企業がこの改訂の恩恵を受け、
拠出を負の給付として勤務期間に帰属させることにより、確
実務上の簡便的な方法を適用することが予想されます。
定給付制度債務を測定することが要求されます。この改訂は、
拠出の期間帰属の方法について、給付の総額を勤務期間に帰
属させるのと同じ方法に従って行うことを明確にしています。
すなわち、給付の総額を期間帰属する方法が定額法の場合は
定額法で、そうでない場合は制度の拠出算定式に従って負の
給付の期間帰属を行うことになります。
本稿に関するご質問等は、以下までご連絡くださいますよ
うお願いいたします。
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TEL: 03-3548-5112(代表番号)
[email protected]
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