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IT時代の外国語教育

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IT時代の外国語教育
IT時代の外国語教育
九州大学大学院 言語文化研究院
岡野 進
1
しており、全国でおよそ25万人が学習しています。
通信教育からディスタンス・ラーニングへ − いかにして繋ぐか? −
通信教育が生まれたのは、地理的あるいは時間的
な条件 − 例えば仕事をしていて、大学へ通う
私たちが通常教育という言葉で思い浮かべるも
時間的な余裕が無い − がネックになっていて、
のは、教室という物理的な空間で、教師と生徒が
大学へ行くことができない人々にも大学の門戸を
おり、いわゆる対面授業を行うものです。そして、
明けようという意図からです。通信教育は「印刷
郵便などで送られる教科書をベースに、ラジオも
教材による授業」、「放送授業」、「面接授業」から
しくはテレビを補助手段として行われる授業は、
構成されていますが、当初は無論現在も「印刷教
対面授業とは区別され、通信教育と呼ばれてきま
材による授業」が主たる教育手段となっています
した。通信教育はその後遠隔教育と呼ばれるよう
(平成7年、文部省)
。
になり、現在ではディスタンス・ラーニング、あ
変化が生じるのは、平成8年あたりからのように
るいはe-learningと呼ばれています。こうした名称
思われます。と、いいますのも、この年に文部省
の変化は、かつて通信教育と呼ばれていた教育の
に対して「マルチメディアを活用した21世紀の高
本質と関係があるのでしょうか、あるいは、ない
等教育の在り方について」という報告書が出され、
のでしょうか。
マルチメディアを積極的に教育に取り入れるべき
私は、名称の変化は通信教育の本質が変化した
との提言がなされるからです。マルチメディアを活
ことを表していると思います。そして、通信教育
用するメリットとして次の2点が挙げられています。
とディスタンス・ラーニング、あるいはe-learning
呼ばれるものは、確かにお互いに共通して持って
1)世界的な規模のネットワークにより、誰でも、
いるものがあるにしても、この両者は質的に異な
どこからでも、既存の枠組みを超えて高度な学習
るものであるというように考えています。
の機会を得ることができるとともに、情報の収
まず、通信教育とディスタンス・ラーニング、
集・発信が容易となる。
あるいはe-learning呼ばれるものはどこにおいて異
なるのか、それをお話しすることを通じて、通信
2)学習者の興味・関心や能力に応じた学習機会の
教育の現状の見取り図を描き、その中でコミュニ
提供が可能となり、学習者が主体的に学習に取り組
ティ・プレイス、3D-IESがどのような位置を占め
むことによって、問題発見・解決能力を高めること
ているかを明らかにし、特性を明確にしたいと思
ができる。
(文部省、懇談会、発表資料による)
います。
皆様既にご承知のように、日本では、通信制の
ここで興味深いのは、マルチメディアの必要性
大学があります。この歴史を振り返ってみますと、
を次のように述べているところです。
様々な事情で大学に通学できない人々にも修学の
機会を与えようという理念に基づき、1947年に学
マルチメディアの活用は、高等教育を、多様な学
校教育法によって制度化され、そして1950年には
習者に対して広く開かれたものにするとともに、
正規の大学教育課程として認可されました。また、
柔軟な学習形態の実施を可能にする。したがって、
同様の趣旨に基づいて1999年4月からは、大学院で
マルチメディアを活用することにより、オープン
も通信教育が実施されております。現在、17大学
(放送大学を含む)、10短期大学が通信教育を実施 33
かつフレキシブルな新しい高等教育システムの構
築に努めるべきである。
(文部省、懇談会、発表資
されることに見られるように、インフラストラク
料による)
チャーの整備が整いました。これにより、大学と
大学の間で情報の交換が可能になったわけです。
「高等教育を、多様な学習者に対して広く開か
また、パーソナル・コンピュータの性能が飛躍的
れたものにするとともに、柔軟な学習形態の実施
に向上し、ネットワークを介して画像・動画・音
を可能にする」と謳っています。これは、マルチ
声をダウンロードすることが容易になったことも
メディアは通信教育の分野において活用できると
「遠隔教育」という言葉を生み出した要因の一つに
いうことです。事実、翌年の平成9年には「遠隔授
数えることができるでしょう。
業」の大学設置基準における取り扱い等について」
それでは、以上に述べた通信テクノロジーの発
という答申が、大学審議会から文部省へ提出され
達により何が変わったのでしょうか?しかし、そ
ます。そこで、以下のような展望が示されていま
の前に、そもそも大学の授業はどのようなものと
す。
「このような情報通信技術の発展は、従来の高
して規定さているのか、それをみてみましょう。
等教育の教育形態の概念に大きな影響を与えてい
「授業は、講義、演習、実験、実習若しくは実技の
る。歴史をさかのぼれば、昭和22年に大学通信教
いずれかにより又はこれらの併用により行うもの
育が学校教育法において制度化され、同25年に印
とする」
(大学審議会答申)となっています。つま
刷教材を中心とした通信添削型の通信教育が正規
り、授業とはいわゆる対面授業を指していること
の大学教育として認可されたのが、高等教育にお
がこれで分かります。では、対面授業はどのよう
ける「遠隔教育」の始まりであり、これに続いて、
なものなのかといいますと、それは以下のような
次々と通信教育が開設された。その後、昭和58 年
ものとみなされています。
「大学等における直接の
には放送大学が設置され、これにより、放送メデ
対面授業においては、教員は授業中、学生の反応
ィアを活用した新たな形態の「遠隔教育」が生ま
等を見ながら授業を展開し、また、学生は授業時
れた。こうして「遠隔教育」は通信制の高等教育
間中に必要に応じ教員に質問等をすることが可能
機関において実施されてきたが、近年の情報通信
である。また、個々の学生に対して個別に指導を
技術の発展により、遠隔地間を結ぶテレビ会議式
行うことも可能である。」(大学審議会答申)テク
の授業という形で、通学制の高等教育機関におい
ノロジーの進歩は、対面授業によって挙げられる
ても「遠隔教育」を行うことが技術的に可能とな
効果を、例えば研究室から行う授業でも得られる
っているのである。将来的には、マルチメディア
ことを可能にしたのです。その際、以下のことが
の一層の進展により、通学制と通信制との境界を
満たされるべき条件として述べられています。
明確に分け難くなり、情報通信ネットワーク上で
のみ授業を行う、いわゆる「ヴァーチャル・ユニ
ア 授業中、教員と学生が、互いに映像・音声等
バーシティー」といった全く新しい形態が出てく
によるやりとりを行うこと。
ることも考えられる。」(大学審議会答申)通信教
イ 学生の教員に対する質問の機会を確保すること。
育は印刷メディアから始まり、テレビを経由して、
ウ 画面では黒板の文字が見づらい等の状況が予
衛星通信回線(スペース・コラボレーション・シ
想される場合には、あらかじめ学生にプリン
ステム)
、インターネットへ到るわけですが、この
ト教材等を準備するなどの工夫をすること。
流れを見ますと、通信教育という分野が、その時
エ 「遠隔授業」の受信側の教室等に、必要に応
代、時代のメディア・テクノロジーといかに密接
じ、システムの管理・運営を行う補助員を配
に結びついていたことかよく分かります。
置すること。必ずしも、受信側の教室に教員
さて、ここで「遠隔教育」という言葉が登場し
を配置する必要はないが、必要に応じてティ
ています。このような言葉が生み出された背景と
ーチング・アシスタント(TA)を配置するこ
しては、まず第一に通信技術の発達が挙げられな
とも有効である。
ければならないでしょう。衛星通信回線(スペー
オ メディアを活用することにより、一度に多く
ス・コラボレーション・システム)
、インターネッ
の学生を対象にして授業を行うことが可能と
ト、光ファイバー等が登場し、大学にLANが設置
なるが、受講者数が過度に多くならないよう
にすること。
(大学審議会答申)
34
したがって、遠隔授業は通信教育よりも広い範
ものも変わりつつある。例えば、大教室での授業
囲をカバーすることになり、通信教育は遠隔授業
の場合、学生ひとりひとりに対して情報の発信者
の一部に含まれることとなります。一定の制限を
としての役割は強く求められなかった。ところが、
設けているにしても、文部省が遠隔授業をいわゆ
ネットによる教育モデルでは、小人数での討論や
る対面授業と同等のものとみなすようになったこ
ケースの持ち寄りなど、情報の発信者と受信者と
とは、評価してもいいように思います。また、遠
しての役割が重視され、学生には目的意識を強く
隔授業を積極的に評価するとともに、生涯教育と
持つことが求められる」
(
「野村総研報告」
、前田裕
いうファクターが新たに加わったことも見逃して
子)
。このように学生層が変化したために教官の役
はならないことのように思います。
割も変化し、
「毎年同じ講義ノートをもとに授業を
しかし、テクノロジーによって可能性が増大し
行なうだけでなく、学生層や必要に応じて柔軟に
たにもかかわらず、文部省の考える授業が依然と
学習内容を組み替え、学習者のニーズに合わせて
して対面授業であることに変わりはありません。
授業を組み立てる能力ときめ細かな指導力が、教
遠隔授業が認められたのも、教える者と教わる者
師に求められている」(「野村総研報告」、前田裕
が同一の空間にいなくても、対面授業が可能であ
子)
、となっています。つまり、情報技術の発達に
ったからにほかなりません。その結果、遠隔授業
よって教育は教官が学生に知識なりスキルを伝授
を担う主たるメディアはテレビ会議システム、も
する、<知識提示型>とは異なるスタイルをもつ
しくはスペース・コラボレーション・システムに
授業が生まれたのです。
そのスタイルがディスタンス・ラーニングとよ
なるわけですが、ここに文部省の限界があります。
つまり、テクノロジーは遠隔教育という新しい教
ばれるものです。従来の考えは対面授業をあくま
育手段を生み出すと同時に、テクノロジーは教育
で主要な授業形式とみなし、遠隔授業を対面授業
そのものの質、さらには教育を受ける受講生をも
の代替手段としかみませんでした。ディスタン
変えていたはずなのですが、そうしたことに気づ
ス・ラーニングの特徴はネットワークを利用した
いていない、ということです。それは、遠隔授業
授業を対面授業の補助ないし代替手段とみるので
を対面授業の代理としてしかみなしていない点に
はなく、むしろそこに積極的に可能性を見出そう
よく表れています。
とすることです。このスタイルの授業は教官と学
生との相互理解に基づく「コミュニケーション型」
今、テクノロジーは教育そのものを変えたと言
いましたが、それはこういうことです。これまで
の授業とされています。さて、これは、どういう
の教育は、教室に教官と学生がおり、知識は唯一
授業なのでしょうか?
これまで教官は学生に伝授すべき知識の源泉と
教官が持っており、教官がその知識なりスキルを
学生に伝授するというものでした。しかし、現在、
みなされてきました。しかし、今後はネットワー
そうしたものとは異なるスタイルの教育が生まれ
クを利用したさまざまコンテンツの開発が予想さ
つつあるように見えます。
れ、教官は知識の源泉であることの役割は今後も
変わりませんが、それと同時に、学生の能力・意
野村総合研究所から「e-ユニバーシティの潮流」
という報告書が出されています。これは合衆国の
欲に適したコンテンツを指示し、学習のプログラ
大学における変化を分析したものです。そこには
ムを組むという役割、ガイドないし、学習環境を
学生と教官の役割が変化したことがはっきりと記
デザインする役割を帯びてくるように思われます。
されています。まず学生に関しては次のように分
教官自身がコンテンツを作ることが理想ですが、
析されています。「ネットを利用した遠隔教育は、
コンテンツを開発するグループとそれを使用する
地理的、時間的な束縛がないため、従来の学生層
グループとに分かれるのではないでしょうか。
でなかった中高年層や、出張中、育児中、病気療
ネットワーク、あるいはマルチメディアを利用
養中、または遠隔地の人々にも教育の機会をもた
した授業に、これまでにない可能性を認めること
らしている。そのため、学生層は年齢、社会経験、
を可能にしているのは、それを支える通信テクノ
人種、地理的要件などの面で非常に多様性に富ん
ロジーの発展であることは言うまでもない事実で
だものになる。さらに、学生に対して求められる
すが、授業を受ける学生の変化も無視することは
35
できません。語学を教えていて驚かされるのは、
業に集中します。これはわたしの個人的な経験で
数が20人であろうと、50人であろうと、教室にい
すので、これを一般化することは危険かもしれま
る学生は砂粒のような存在であって、決して一つ
せんが、コンピュータは学生の学習意欲を引き出
にならないということです。例えば、宿題の解答
すことができるようです。
を答えてもらう際、順番にあててゆきますと、距
では、なぜコンピュータを使うことで学生の意
離にして50cmしか離れていない学生が何を答えた
欲を高めることができるのでしょうか?このこと
か、指名された学生は聞いていないので、自分が
は、学生のメディアに対する態度の変化に関係し
どの問題をやるのか、分からない。また、テキス
ているように思います。こうした発言は抽象的で
トを読ませ、ドイツ語の二重母音の誤りを指摘し、
分かりにくいと思いますので、別なことに喩えて
正しい発音を教えるのですが、他の学生はそれを
言ってみます。何人かが一つの部屋で音楽を聴く
物理的には聞いている筈なのですが、心理的には
場合、以前でしたらレコードもしくはCDをスピー
教官の言葉は学生に届いていないようで、同じ誤
カーから流して、それを全員で聴き、聴き終わっ
りの指摘を同じ時間に何度となく繰り返さざるを
たらまた全員でそれについて語り合う、そういう
えない。また、講読という授業でドイツ語のテキ
ことが可能でした。しかし、今は、たとえ同じ部
ストを日本語へ訳する場合、テキストを全員で考
屋にいても、スピーカーから流れる音をきくより
え、ああだこうだ言いながら、テキストの理解を
はむしろ、各自が持っている再生装置で音楽を再
深めなければ、授業でテキストを読む意味がない
生し、ヘッドフォンで聴くというのが普通のスタ
のですが、残念なことに、そうしたことはできな
イルのように思われます。
いのが現実です。他の学生の発言、教官のコメン
ですから、教官は自分が受けた授業の環境を唯
トを聞かないからです。
一の教育環境と考え、全員でスピーカーから流れ
教官の目には、学生が授業時間の大半は「オフ」
る音楽を集中して聴くことのできない学生を批判
の状態で、指命された瞬間にのみ「オン」になる
しても、何の役にも立ちません。大事なことは、
ように見えて仕方がありません。
こうした変化をこれまでの基準に基づいていいと
これではどうもなりませんので、確か今から2年
か悪いとかと判断することではなく、それを彼ら
ほど前のことと思いますが、思い切って授業のや
のスタイルとして受け入れ、彼らのスタイルにあ
り方を変えることにし、1時間でやる範囲を設定
った学習環境を構築することです。
し、全体で訳を考えるのではなく、一人一人やら
では現在の学生に適した環境とはどのようなも
せることにしました。つまり、割り当てられた分
のでしょうか?それは全員が同じ音楽をスピーカ
量のテキストを各自訳し、提出してもらうことに
ーで聴くのではなく、各自がヘッドフォンで聴く
したわけです。コンピュータを使っていましたの
スタイルに可能なかぎり近い環境です。全員が同
で、訳はワードプロセッサーで作成させました。
じ音楽をスピーカーから聴くというのは、教室に
また、テキストのなかで難しそうな構文、分かり
教官と学生が揃い、教科書を用いて授業を行うこ
にくそうな単語の意味は予めホームページに書い
とです。ところで、これは余談ですが、哲学者の
ておきます。こうしますと、黒板に板書する必要
黒崎政男さんは或る座談会でこのスタイルの授業
がありませんので、比較的余裕ができます。この
を印刷メディアが生み出したスタイルであること
時間を利用し、授業中は学生のコンピュータのモ
を指摘しています。唯一の授業形態と考えられて
ニターを見て、どのような構文が分かりにくいの
いるものが実は歴史的な産物であったわけです。
か、どのような誤りを犯すのかチェックする時間
つまり、対面授業を基準にして授業形態を考える
が生まれます。訳を作成するプロセスを把握でき
必要はないということです。このように考えます
ますので、ノートに書かせるよりも学生の力をい
と、今の学生に適したスタイル、学習意欲を引き
っそう良く把握できることに気づきました。
出すスタイルとは、教室のように画一的ではなく、
それでどうなったかということですが、熱心に
自分のペースで学習をすすめることができる、CD-
日本語の訳を作成する光景を見て、驚かされまし
ROMもしくはネットワークを利用した環境という
た。これが同じ学生なんだろうかと思うほど、授
ことになります。とりわけ、ネットワークは非常
36
にオープンな環境を提供するために、現代の学生
ばによってしか説明できない現象が見られるよう
が求めているスタイルにとても近く、学習環境に
になりました。この現象は主としてテレクラなど
大変適しています。したがって、ネットワークを
で見出される現象のようで、一面識もない他人、
利用したディスタンス・ラーニングという方法が
匿名の他人にいままで誰にも話さず、自分のうち
今の学生が求めている学習環境ではないかと考え
に隠しておいたものを告白するというそうした奇
ています。
妙なことが生じているようです。インターネット、
ネットワーク、もしくはマルチメディアを使う
携帯電話等の登場によって、距離感が変わったの
という点では、これまでの学習と異なる点はあり
ではないでしょうか?授業中などによく見られる
ませんが、従来の方法はそうしたメディアを対面
のですが、すぐ隣にいる学生が何を言ったか分か
授業の補助手段ないし代替手段として用いていた
らない。これはすぐ近くにいるにもかかわらず、
のに反して、ディスタンス・ラーニングは対面授
心理的にははるかに遠いところにいるわけです。
業に授業のモデルを求めず、新しいメディアを用
一方、匿名の人間に対しては電話などのメディア
いてこれまでにない学習環境を提供するという点
を介して、いままで隠していたことを話すような
に新しさがあります。従来の通信教育は教室に縛
ことがあるわけですから、物理的には大変遠いけ
れていましたが、教室を越えるという視点がディ
れども、心理的には非常に近いわけです。この場
スタンス・ラーニングにはあり、これはこれまで
合、お互いが匿名の存在であるということによっ
にはなかったことです。
て、身近な存在と感じるわけです。つまり、<
以上のべたことをこれからコミュニケーション
stranger>であるにもかかわらずではなく、<
の構造という側面から考えてみます。これまで授
stranger>であるがゆえに、<intimate>であるとい
業は教室という一種の密室で行われてきました。
うことになります。したがって、どのようにして
ここで支配的なコミュニケーションの構造は1対n
繋ぐかということが問題になる場合、<intimate
です。情報は教官から学生へと流れます。これは
stranger>が生まれる可能性があるメディアでなけ
スピーカーから音楽を聴くという形式です。しか
ればならない、ということになります。
し、求められているのは、ヘッドフォンで音楽を
一応の結論を導き出す時間になりました。現在
聴く形式です。これはコミュニケーションの構造
授業で求められているコミュニケーションの形式
としてはn対nでの形式をとります。不特定他者か
は、その構造において1対nのコミュニケーション
ら不特定他者へのコミュニケーションです。授業
を可能にする必要があります。授業を行うわけで
の環境においてこれを可能にするコミュニケーシ
すから、授業の流れをコントロールする人が必要
ョンの形式は、ネットワークです。この環境を導
です。そしてこの人のコミュニケーションは全体
入すれば、n対nのコミュニケーションが可能にな
にいきわたるものでなければなりません。1対nで
ります。授業ですので、1対nの構造をまったく考
なければならないわけです。だが、それだけでは
慮しないというのでは、授業をコントロールする
十分ではありません。さらにn対n、つまり、不特
ことができませんから、1対nをも含みこんだ、n対
定の他者から不特定の他者へのコミュニケーショ
nのシステムが学習環境として考えてみた場合、優
ンを可能にするもので、ユーザに匿名性を保証す
れた学習環境といえるでしょう。こうした環境の
るもの、ということが加わります。もっとも、教
もとでは、他の大学と共同で授業を行うことが可
育の現場で使う場合には、ログなどの解析によっ
能です。
て、どのユーザがどのような振る舞いをしている
問題はいかにして繋ぐか?です。
かを、明らかにできなければ、現場では無論つか
最近読んだ雑誌に<intimate stranger>というこ
うことはできませんが。カオスになってしまいま
すので。
とばがありました。これは「親密な他人」とでも
訳すのでしょうか、大変奇妙なことばです。<
以上の条件を満たすシステムは何かと考えます
intimate>であれば<stranger>ではないはずです
と、コミュニティ・プレイス、3D-IESは以上の条件
し、逆に<stranger>であれば、<intimate>である
を満たしています。これらのシステムの大きな特
わけはないのですから。しかし、この奇妙なこと
徴は仮想空間の中をアバターが動くという点にあ
37
ります。こうしたことは何を意味するのでしょう
仮想空間のシステムとして我々はソニーのコミ
か?仮想空間はコミュニケーションの「場」を提
ュニティ・プレイスをベースにした3D-IESを採用
供してくれます。これにより、たとえ物理的に離
したわけですが、その際NTTが開発したシステム
れていようと、ユーザはコミュニケーションの場
も選考の対象にしました。そこで、システム選定
を共有できます。コミュニケーションは2次元で行
のためにワークショップを開催し、野村総研、
われるより、3次元で行われるほうが有効です。3
NTTにデモをやっていただきました。3D-IESを採
次元であれば、発言しないユーザもその空間にい
用しましたのは、NTTのシステムにくらべて3D-
ることが分かり、コミュニケーションへと加わる
IESの方がより匿名性を保証し、仮想空間に大学
ように促すこともできます。2次元の場合には、無
(ヴァーチャル・キャンパス)を作るというよう
視されてしまうでしょう。また、アバターを用い
に、空間が教育に特化して作られていた、という
ますので、或る程度の匿名性が保証されたコミュ
理由によります。
ニケーションを行うことが可能になります。アバ
ターはユーザの意思を反映した振る舞いをします
ので、ユーザはアバターに感情移入を行うことが
可能です。
2
事例報告(九州大学)
次に以下の4点を中心に述べていこうと思います。
1.
九州大学はなぜ3D-IESを導入したのか。
2.
それをどのように活用しているのか。
3.
どのような成果が生まれたか。
4.
今後の課題は何か。
1.九州大学はなぜ3D-IESを導入したのか。
図 1 . 3D-IESの画面イメージ
私が所属している九州大学言語文化研究院は
昨年 総長特別経費を獲得し、あるプロジェクト
2.それをどのように活用しているのか。
(Laputa Project)
を立ち上げました。目的はIT時代
その前にどのような環境で授業が行われている
にふさわしい外国語学習環境を構築し、教授法を
か述べます。
開発するというものです。どのシステムを選ぶか
という段階で、仮想空間を組み込んだシステムを
九州大学六本松地区にはコンピュータが設置さ
使うことが決定されました。仮想空間は今後実際
れている教室が5室あります。授業で使用された教
の物理的な空間と同様に使われるだろう、コミュ
室には69台のコンピュータと4台のプリンタが設置
ニケーションも仮想空間において行われるように
されています。使用したコンピュータの性能は以
なるであろうと考えたからです。しかし、システ
下のようになっています。
ム選考において仮想空間を選ばせたのは、仮想空
間は、九州大学の学生がネイティブ・スピーカー
CPU
IntelCeleron (500MHz)
(ネイティブ・スピーカーだけとは限りませんが)
OS
Memory
Microsoft Windows NT
128MB
とコミュニケーションを行い、情報を交換する
コミュニティーを作り出すことの可能性でした。
たとえば、常時人がアクセスし、ドイツという国、
ドイツ文化、ドイツ人について知りたければ、あ
そこの空間へ行けば、誰かが教えてくれる、そう
したコミュニティーが生まれるのではないか、と
いう思いが仮想空間を採用した背景にあります。
38
3D-IESを用いて英語・ドイツ語の授業を行って
問題にとりかかります。練習問題をこなした後で、
います。現在、英語は4人の教官、ドイツ語は1人、
チャットに移行します。チャットはテーマを決め
計5人の教官が3D-IESを使って授業を実施していま
ずに自由に行う場合もあれば、その日に学習した
す。授業の内容ですが、やはり、それぞれ違った
文法事項を用いてチャットを行うことを求める場
使い方しています。授業の大部分をディベートの
合もあります。前者は確かに楽しいには違いあり
時間に充てている教官がいます。また、別な教官
ませんが、文法、単語が不正確なまま、チャット
はこのように考えています。自動車学校の授業が
を行うことになりかねない。一方、後者は正確性
学科と実技に分けられているように、英語の授業
という点では前者に勝るものの、受講生の能動的
も学科と実技とに分け、3D-IESを使う授業はいわ
な姿勢を奪う恐れがあります。それぞれ一長一短
ゆる実技の時間と捉え、とにかく英語を実践させ
あり、いずれとも決めがたい、というのが実情で
る。それで、英語を使ったゲーム形式の授業をや
す。そこで現在は、当日学習した文法事項が含ま
っています。そのうちのひとつに「仮想お見合い」
れている、チャットのヒントになるようなファイ
があります。受講生を男、女、男の父、男の母、
ルを作成し、これを応用させることでチャットを
女の父、女の母、見合い世話人とに役割を決め、筋
行うようにしています。たとえば、その日現在完
書きを決めずに、チャットさせるというものです。
了形を文法事項として学んだ場合には、現在完了
ドイツ語は私が担当しております。指導方法で
形の文のファイルを作っておき、これを参考にし、
チャットを行わせます。
すが、授業は受講生に受動的な学習態度を強いる
従来の講読形式では行われていません。むしろ学
本来チャットの相手は自分で探すのが、受講生
習したドイツ語を能動的に使うことに重点を置い
の自発性を活かすためにも一番いいのですが、時
て授業がデザインされています。各授業時間に30
間がかかるという難点があります。したがって、
分程度チャットの時間を設け、チャットを通して
こちらで予め組み合わせを作っておき、それにし
ドイツ語を能動的に使うことにより、ドイツ語を
たがったローテーションによってチャットの相手
コミュニケーションのツールとして身につけるこ
を見つけ、チャットを行うこともあります。
コミュニケーションの構造から見ますと、ホー
とが授業の狙いです。文字チャットを行うことは、
インターネットの時代になり、ライティングの能
ムページによる文法事項の説明は1対nですが、チ
力の重要性が認識されていることもあり、時宜を
ャットではn対nになります。
得たものと考えています。
3. どのような成果が生まれたか。
では具体的にどのように授業が行われているか
3D-IESを使った授業から生まれた成果としては、
をお話します。まず、ニュース配信機能を使い、
その日のメニューを伝えます。次にファイル送授
なんといっても、授業の活性化を図ることができ
信機能を用いて、前回のチャットのログをPDFフ
たことを挙げなければならないでしょう。3D-IES
ァイルで配信します。PDFにするのは、書き換え
を使うことによって、受講生から学習意欲を引き
を防止するためです。ファイルには誤った個所が
出すことができたということです。村上春樹は小
マーカーでチェックされており、受講生は誤りを
説の中でスペイン語を教えることについて「砂漠
正したものを次回提出することが求められます。
に水を撒くような作業です」と語っていますが、
訂正ファイルの提出もファイル送受信機能を使っ
スペイン語の代わりにドイツ語といっても同じこ
て行われます。次に小テストを行いますが、前述
とです。教えるほうも、授業を受けるほうも、な
の手順で行われます。
かなかシンドイ情況に置かれています。このシン
以上のようにNCPパネルを使うことで、紙を使
ドイ情況は受講生の学習意欲の乏しさと無関係で
わずにネットワークによって授業のメニューを伝
はありませんが、それでもって説明できる性質の
えたり、テストを行うことが可能になっています。
ものではありません。
教官のほうも学習意欲を起こさせるために授業
つまり、遠隔授業に対応しているということです。
授業の教材の提示は音声も含めて、ホームペー
にいろいろ仕掛けを施してはいますが、なかなか
ジに掲載されています。文法事項を説明し、練習
効果があがりません。たとえば、ビデオ教材を使
39
を実感できるからです。
った授業があります。この授業をテニススクール
に喩えるなら、テニスの試合のビデオを見せるば
コミュニケーションに定位した授業では、或る
かりで、結局テニスコートに立ってテニスの試合
状況を設定し、そこで用いられる表現を練習する
をすることなく、授業が終わってしまう、そうし
ことが大変重要な作業になります。通常の教室で
たテニススクールを連想させます。重要なことは、
行う場合、この練習は受講生にペアを組ませて実
いうまでもなく、テニスコートに立つことであり、
施しますが、何と言っても、コミュニケーション
学習した言語でコミュニケーションを行うことで
が行われるコンテクスト、背景といったものが欠
す。こうしたことを実現しない限り、学生に外国
けてしまう。ここでコンテクストということばが
語の授業のモチベーションを与えることは難しい
表すのは、ドイツ語が話される<場>です。コミ
ように思われます。
ュニケーションの練習は、素材がどれほど日常生
活で使われる表現であろうと、コンテクストが欠
3D-IESを使用した結果、このシステムの優れた
けている<場>で行われる場合には、実践的な練
点は以下の4点にあることが分かりました。
習にはなりにくい。たとえば、ドイツのゲーテと
いった語学学校でこの種の練習が実施されれば、
1) 匿名性が保証されること。
後ほど受講生のアンケート結果を見ていただき
この方法は有効でしょう。だが、日本の大学の教
ますが、日本語ほど自由に扱えない言語を使用す
室という環境で行われる場合には、具体的な文章
る際には、匿名が保証されることが、コミュニケ
を教室という非常に抽象的な空間で練習するとい
ーションを活発に行わせる要因になっています。
うパラドックスに否応なしに気づかされます。こ
なんといっても、これは英語の学習の影響と思い
れを乗り越えるには、たとえば、仕事で三ヶ月後
ますが、我々の受講生は必要以上に間違いを恐れ、
にはドイツへ行かなければならないというように、
外国語を使うことに消極的です。匿名性を保証さ
受講生に強い目的意識が必要です。だが、殆どの
れること、受講生は間違いを犯すことに神経質に
学生はドイツ語学習に目的を持っていない。した
なることなく、コミュニケーションへ加われるよ
がって、教室で口頭により対話形式の練習を行う
うです。
場合、熱心さに欠けてしまう。コミュニケーショ
ンは具体的な場でなされるのですが、通常の教室
ではこの<場>が欠落してしまうために、興味が
2) ログが残ること
ログが残りますので、やりっぱなしにはなりま
湧かないからです。この<場>を仮想空間は提供
せん。これを分析することにより、個々人の犯し
してくれるのです。この意味で3D-IESのベースに
た間違い、受講生に共通する間違いなどを簡単に
なっているCommunity Placeの開発者である秦勝
見出すことができます。ログを月単位、あるいは
重氏が、昨年3月に九州大学で開催されたシンポジ
学期単位でまとめることにより、受講生の学習の
ウム、「ネットワークが開く外国語教育」、で次の
客観的なデータを得ることができます。受講生の
ように述べられているのは大変興味深く、また重
学習の進捗情況がわかりますので、これに基づい
要な指摘といえるでしょう。「とかくCommunity
て成績を出すことも可能になります。
Placeはその見え方からゲームソフト等と対比され
ることが多いが、その本質はむしろコミュニケー
ションコンテキストの充足にあると考えている」
3) シミュレーションが可能であること
3D-IESは仮想空間ですので、シミュレーション
(
「サイバーコミュニケーションとその課題」
「大学
が可能です。シミュレーションというと少し大げ
教育(九州大学教育センター)
」
)
。つまり、秦氏に
さな感じがしますが、ことばを使うことでコミュ
よれば、Community Placeの本質は「コミュニケ
ニケーションの相手から何らかのアクションを導
ーションコンテクストの充足にある」ということ
き出すことができるということです。これは一見
なり、これは、現在展開している文脈では、仮想
すると些細なことのように思われるかもしれませ
空間を使用することで、こうした練習問題と教室
んが、大変重要なことです。こうすることにより、
との間に見られる落差を解消することが可能にな
ことばがコミュニケーションのツールであること
ることを意味するのです。
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間は確かに3次元でなければならないという必然性
4)ネットワークに繋がっていること
ネットワークに繋がっていますので、他大学の
はないが、3次元仮想空間におけるチャットは2次
学生とのチャットも可能です。チャットの醍醐味
元空間でのチャットを上回る成果を上げることが
は、たとえ外国語の授業としてのチャットであっ
できる。
ても、昨年の受講生のことばをかりれば、
「未知な
β)この疑問は3次元仮想空間の根幹にかかわる
るものの探索」にあります。一度も会った事がな
重要な問題です。仮想空間と実生活の関係につい
い他大学の学生とチャットをし、相手からさまざ
てはシェリー・タークルに優れた研究書、
「接続さ
まな情報を引き出したり、共通で何か作業を行う
れた心」(「接続された心」、日暮訳、早川書房刊)
ことは、授業の活性化を生み出します。
があります。そこで彼女は次のように記していま
以上のように、3D-IESを使うことで教室を越え
す。
「ヴァーチャリティを檻にしておくことはでき
て授業を展開することができます。他大学と共同
ない。いかだにしてもいいし、はしごにしてもい
で授業を行うことは、受講生にとっても、教官に
い。過渡的なスペースでもモラトリアムでもいい。
とっても、いい意味での刺激になります。これに
もっとすばらしい解放に到達したら捨てるものな
より、教官は共同で授業を行う授業について意見
のだ。画面上の人生(life on the screen)
を交換することが可能になり、授業の改善に向け
要はないが、それをもう一つの人生としてあつか
てすすむことができます。これまで、教室という
う必要もない。成長するためのスペースとして利
密室で授業が行われてきたことからみれば、大き
用していいのだ。(.....)異質の文化の地から故郷に
な進歩といわなければなりません。
戻ってきた人類学者のように、ヴァーチャリティ
を拒む必
を旅する者は、この世界の策略の理解にもっとた
けて現実世界に戻ってくることができる」
(359-360
恐らくこのスタイルの授業には以下のような疑
問が出されるでしょう。
頁)
。仮想空間を「成長するためのスペース」とし
α)どうして3次元空間が必要なのか?2次元空間
て捉えるタークルの視点はとても重要で、また示
で十分ではないか?
唆に富んでいます。外国語の学習の目標は仮想空
β)
「仮想空間で外国語がいくら使えるようになっ
間にではなく、現実生活にこそ見出されるべきで
たところで、話すことが実際に可能になるとはか
す。だが、これは仮想空間を学習環境として利用
ぎらない。使えるようになるためには、現実の場
することの不可能性を意味するものでは決してあ
面でさまざまな障害を克服しなければならない」。
りません。彼女が主張していることは外国語学習
つまり、仮想空間での成果は実生活の行動につな
にも妥当します。仮想空間は、外国語の学習にお
がらないのではないか。
いても、
「成長するためのスペース」として考える
ことができる。一つ上のステージへ上がる為のス
α)対する反論として、実際に3次元仮想空間で
テップとして利用すればいいわけです。
のチャットを経験した学生のインタビューを紹介
したい。このインタビューを行った学生は2次元で
4. 今後の課題は何か。
のチャットを過去に行ったことがあり、2次元チャ
授業終了後実施されたアンケートから以下の課
ットと3次元仮想空間でのチャットとの比較につい
題が見出されました。
て意見を求めた際に以下のように回答してくれた。
「2次元チャットの場合、議論のテーマに関心がな
1)同じ教室にいる人間とどうしてチャットをしな
く、チャットに加わらない者は無視されてしまい
くてはいけないのか?ネットワークの機能が活か
ますが、3次元の場合にはアバターがあるために、
されていないではないか。
たとえチャットに加わらない場合でも、その空間
せっかくネットワークにつながっているのだか
にいることが分かり、チャットへ誘うことができ
ら、学外の人とチャットをしてみたい、という要
ます。また、3次元であれば仮想空間に配置されて
望が出されました。ここでは事情があって話すこ
いる絵などのオブジェクトをチャットの手がかり
とができませんが、これは実現しています。
に利用することができるが、2次元ではそうしたこ
こうした要望が出されたからといって、仮想空
とはできません」
。チャットが主体の場合、その空
間を使った授業は学外との共同授業でなければ、
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えました。
十分な効果が挙げられないの、という疑問をお持
空間を活かせるような仕掛けが空間にあれば、
ちになられかもしれませんが、決してそんなこと
空間を利用しやすくなると、考えています。
はありません。
コミュニケーションの情況を設定し、そこでの
a) アバター同士でオブジェクトの受け渡しがで
役割を受講生にそれぞれ割り振り、シミュレーシ
きれば、空間を活かすことができるのではいかと
ョンを行うことで十分な効果が挙がるはずです。
思います。つまり、アバター同士の会話で行われ
そしてこうしたことが可能になるためには、ユー
る課題を与え、課題を果たした徴として、一方が
ザが簡単に空間を作れるように、何もない空間が
他方に何かオブジェクト渡す。そしてた、とえば
コミュニティ・プレイスに用意され、またテーブ
空間を動き回り、チャットをし、一定の数のオブ
ル、カウンター、机、椅子などがあって、家具の
ジェクトを集めた時点で、その時間のタスクは終
配置を変えるだけで、さまざまな空間が簡単に構
了とみなされる。タスク終了までの時間を競う。
築できるようになれば、授業が大変やりやすくな
b)
るように思います。
中へ入れるようになっていません。中へ入れるよ
2)教授法の確立
うになれば、さまざまなシチュエーションを設定
授業で使っているローテンブルクの空間は、
これはこちらの能力に関わることですが、教授
した授業を行うことがやりやすくなります。たと
法は確立されたものとなっていないのが実情です。
えば、ドアをあければ、そこはレストランで、そ
成果は上がっていますが、こちらが予想したほど
れぞれ客とウエイターになり、レストランで必要
ではありません。その原因の一つは授業が仮想空
な会話パターンを練習することが可能になります。
間で一貫して行われていないことです。問題はテ
キストです。現在市販されたテキストを使ってい
3次元仮想空間を使うスタイルの授業はまだ始ま
ますが、やはり授業で使う空間に特化したテキス
ったばかりで、いわば手探りの状態で、いろいろ
トが必要であることを痛感いたしました。ドイツ
なことを試行錯誤しながら、行っています。
語はローテンブルクの空間で授業を行っています
今日はこうした授業ができるということをお話
が、ローテンブルクを舞台にしたテキストを作成
させていただきました。少しでも皆様の参考にな
し、さながら仮想空間のローテンブルクに暮らし
れば、よろしいのですが。
ているかのように授業が行われることを可能にす
る、そうしたテキストが必要です。文法の説明も
仮想空間で行えるようにするのが理想です。
また、仮想空間で用いられる会話のパターンの
提示は、今、文章で行っています。しかし、ビデ
オのほうが具体的ですので、これはビデオの方が
有効ではないかと考えています。つまり、ビデオ
で見たものを仮想空間で再現するわけです。しか
し、ビデオ教材をどこかに委託して製作してもら
う予算はありませんので、試みに春休みを利用し
図 2 . 3D-IESを使用した授業風景
て学生さんに協力してもらい、ビデオ教材の製作
を予定しています。
したがって、順調にいけば、4月からの授業は空
間に特化したテキスト、ビデオによって授業が行
われます。
3) 仮想空間の空間が活かされていない
ソニーの武田さんが授業を見学された際に、空
間がチャットに活かされていない、というご指摘
を受けました。これを解決するためにいろいろ考
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