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視線の注意捕捉における提示位置の効果
平成 26 年度 学士学位論文 視線の注意捕捉における提示位置の効果 The effect of position on attentional capture by gaze cue 1171011 村田 祐也 指導教員 繁桝 博昭 高知工科大学 情報学群 要 旨 視線の注意捕捉における提示位置の効果 村田 祐也 ヒトが他者の視線方向に注意を向けることは非常に重要であると考えられている. たとえ ば,複数人での会話を行っているときは話者の視線方向によって誰に対して話しているのか を推定することや他人とすれ違いをするときに相手の視線方向によっては回避行動をとる必 要性が出てくる場合もある. このように日常生活上の様々なところで他者の視線方向に注意 を向ける必要がある. Friesen & Kingstone(1998)は他者の視線方向とターゲット位置が 一致しているときのほうが視線方向とターゲット位置が不一致のときに比べ被験者の平均反 応時間が速くなることを明らかにし,他者の視線方向は観察者の注意を自動的にひきつけ ることを明らかにした. その後,視線の注意捕捉効果について様々な研究が行われているが, その多くは注視点上に顔刺激を提示するという条件で行われている. 視線の注意捕捉効果を 注意操作インタフェースに応用しようとしたとき,見ている場所に顔刺激が提示されるイン タフェースは非常に使い勝手が悪いと考えられる. そこで,本研究では注視点上から離れた 場所に顔刺激を提示し,視線の注意捕捉効果に影響が出るかについて検討した. 実験 1 では, 顔刺激の中心が注視点上にある条件と顔刺激の中心が周辺にある条件で視線の注意捕捉効果 に違いが生じるかを検討した. その結果顔刺激の中心が周辺にある条件でも視線の注意捕捉 効果が生じることが明らかとなった. 実験 2 では顔刺激の中心をより注視点から離した条件 で実験を行い,視線の注意捕捉効果が得られる限界について検討した. その結果,本研究で は少なくとも 4.5 deg 離れた条件でも視線の注意捕捉効果が得られることが明らかとなった. キーワード 視線,注意,注意捕捉,周辺視線手がかり –i– Abstract The effect of position on attentional capture by gaze cue Yuya Murata It is thought to be very important for humans to pay attention towards the direction in which other person’s eye gaze shifted. For example, we need to estimate to whom the person is talking from his or her gaze direction and to avoid bumping into people based on their gaze direction. Thus, we need to pay attention to other person’s gaze direction in everyday life. Friesen & Kingstone (1998) revealed that the response time for detecting a target position is faster when the other person’s gaze direction and target position are congruent compared to the case they are incongruent and found that the gaze direction automatically captured the viewer’s attention. Although there has been many studies examining the attentional capture by gaze cue after their study, most of the study presented the face on the center of the visual field. To consider using the effect to manipulate the attention as a interface, it is not convenient for the users to show facial stimuli to the center of the visual field. Therefore, in this study, it is investigated whether the effect is affected when the facial stimuli were presented in the periphery. In experiment 1, it is examined whether the effect showed difference between the conditions in which the facial stimuli was presented on the center and presented 1.0 deg away from the center. The results showed that the effect was significant even when the face was not presented on the center. In experiment 2, the position of the face was manipulated from 1.5 deg to 4.5 deg. The results showed that the effect was still significant when the facial stimuli were presented at 4.5 deg away from the center. – ii – key words gaze, attention, capture of attention, peripheral gaze cue – iii – 目次 第1章 はじめに 1 第2章 刺激および装置 4 2.1 装置 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.2 刺激 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 実験1 7 3.1 被験者 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 3.2 実験条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 3.3 手続き . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 3.4 実験結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 3.5 考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 実験2 16 4.1 被験者 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 4.2 実験条件 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16 4.3 手続き . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 4.4 実験結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 4.5 考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28 まとめ 31 第3章 第4章 第5章 謝辞 32 参考文献 33 – iv – 第1章 はじめに ヒトは社会的生活を営む動物である. その生活では,他者の存在を認知し,コミュニケー ションをとることが必要であり,そのために相手の表情や視線方向などを利用して相手の状 態を推測している. たとえば,テレビについて説明している人とそれを聞いている人の視線 移動が 2 秒後に一致するという先行研究がある [1]. この研究では,視線移動について調べら れているが,注意は眼球運動を準備することに等しいとする注意の前運動理論(premotor theory of attention)[2][3][4] や Kowler ら(1995)[5] が示した視線を動かすのと同時に注 意を別の場所に向けることが不可能であるという先行研究に基づくと,他者の視線方向に観 察者の注意が向けられたともいえる. また, Peterson & Eckstein(2012)[6] は他者の性別, 表情,個人の識別を行うときに,ヒトの視線が眉間をよく見ることを明らかにした. このよ うに他者の視線や目はヒトにとって重要な意味を持つ. その中で他者の視線方向に対しての 注意は Posner(1980)[7] が開発した手がかり法を用いて検討されている. 手がかり法とは ターゲットが提示される前に左右どちらかにターゲット位置を知らせる先行手がかりを提示 し,手がかりと同じ位置にターゲットが提示される条件を一致条件,手がかりと異なる位置 にターゲットが提示される条件を不一致条件,手がかりがない条件を中立条件とし,ター ゲット出現に対してなんらかの行動をするという課題をしたときに,一致条件が中立条件よ りも早く,不一致条件が中立条件よりも遅くなるというもので,他者の視線方向を手がかり として使用することで他者の視線方向に対する注意による効果を検討することができる. た とえば, Friesen & Kingstone(1998)[8] は線画顔を用いて他者の視線方向にターゲットが 出現したときの反応時間が,他者の視線方向と反対側にターゲットが出現したときの反応時 間に比べ早いことを明らかにした. また, Driver ら(1999)[9] は実際の顔画像を用いて同様 –1– の結果が得られることを明らかにした. また, Friesen & Kingstone(2004)[10] によると, 手がかりが出てからターゲットが出るまでの時間が 600 ms 以下の条件において視線と反対 方向に出るという意識的に注意を向けた条件と視線の方向によって自動的に注意を向けてし まう条件で反応時間に差が見られないことから,視線の注意捕捉効果は自動的に影響を与え ることが示唆されている. このような視線の注意捕捉効果はその後,顔刺激の表情による効 果 [11] や意識的気づきによる効果 [12] など様々な研究が行われている. また,比較対象とし て同じく方向を指し示す矢印刺激を用いてその方向に注意が向くかについて, Jason(2002) [13] が検討し,視線と同様に矢印刺激が指す方向に注意が向くことが明らかとなった. この 研究では,注視点の上に矢印刺激を提示せず,注視点から 1 deg 離れたところに矢印刺激を 提示している. しかし,顔刺激を周辺に提示した場合に,視線の注意捕捉効果がおこるかに ついては検討されていない. 視線の注意捕捉効果を利用して注意操作インタフェースを開発 しようとしたときに見ているところに顔刺激を提示すると非常に使いづらいインタフェース となってしまう可能性がある. そこで本研究では,顔刺激の提示位置を周辺に変えたときの 視線の注意捕捉効果について検討する. –2– 図 1.1 手がかり法(Posner(1980)より引用) –3– 第2章 刺激および装置 2.1 装置 刺激提示は 21 インチの CRT ディスプレイ (EIZO 社, FlexScan T961, 1024 × 768 pixel, リフレッシュレート 60 Hz) を用いた. 実験は暗室内 (縦 150 cm, 横 120 cm, 高 さ 200 cm) で行い,被験者は顎台に顔を乗せて観察距離を 70 cm として一定に保った. 2.2 刺激 注視点として画面中央に大きさ縦 0.2 deg ×横 0.2 deg の十字を使用した. 顔刺激として直 径 2.1 deg の線画顔を使用した. 線画顔の目は 0.7 deg,瞳の大きさは 0.3 deg とした. ター ゲット刺激は直径 0.9 deg の円を使用した. ターゲットは画面中央から左右水平方向 6.4 deg の距離に提示した. 顔及び,注視点とターゲットの画面背景はグレーであった. 顔刺激及び ターゲットは黒色で描画し,注視点は赤色で描画した. –4– 2.2 刺激 図 2.1 図 2.2 刺激 ディスプレイ 図 2.3 キーボード –5– 2.2 刺激 図 2.4 顎台 図 2.5 暗室 –6– 第3章 実験1 3.1 被験者 被験者は正常な視力(矯正視力)を有する成人 10 名(平均 24.9 歳)が実験同意書に署名 した上で参加した. 3.2 実験条件 本実験では,注視点上に顔刺激の中心を提示する中心:0 deg 条件と注視点から離れたとこ ろに顔刺激の中心を提示する周辺:1 deg 条件を顔提示位置の条件として設定した. そのほか に,視線方向とターゲット位置が一致している条件(一致条件)か一致していない条件(不 一致条件)の視線手がかりの有効性の条件を 2 条件,ターゲットの位置が右に出るか左に出 るかの 2 条件の計 8 条件を実験の条件として設定した. 3.3 手続き 被験者には,提示される中央の注視点を常に見ていることとターゲットが出現した方向を 早く正確にキー押しで回答したあと,顔刺激の視線方向をキー押しで回答するように教示し た. 中央に注視点の十字が 500 ms 提示された後,視線方向が正面の顔刺激が 750 ms 提示さ れた. その後,左右どちらかに顔刺激の視線が移動し,300 ms 後に左右どちらかにターゲッ トが提示され,被験者は 1500 ms の間にターゲットの出現方向をキー押しで回答し,この ときの反応時間を測定した. その後,顔刺激の視線方向をキー押しで回答し,500 ms のイ –7– 3.3 手続き ンターバルが取られ次の試行へ移行した. 顔刺激提示位置が中心のときの 1 試行の流れを図 3.1 に,顔刺激提示位置が周辺のときの 1 試行の流れを図 3.2 に示す. 本試行は全条件を 15 回ずつランダムに提示した計 120 試行を本試行として行った. また,被験者は本試行の前に ランダムに選ばれた 30 試行で練習試行を行った. –8– 3.3 手続き 図 3.1 顔提示位置が中心のときの 1 試行の流れ –9– 3.4 実験結果 図 3.2 3.4 顔提示位置が周辺のときの 1 試行の流れ 実験結果 ターゲットの方向の回答が間違いである試行と反応時間が 100 ms 以下か 1000 ms 以 上であった試行の反応時間を分析から除外した. 誤答率は全試行数の 2.1%で,外れ値は 全試行数の 0.6%であった. すべての被験者の各条件における平均反応時間を図 3.3-3.12 に,すべての被験者の各条件における平均反応時間の総加算平均のグラフを図 3.13 に示 す. 各グラフの誤差線は標準誤差を示す. 分散分析の結果,視線手がかりの主効果(F(1, 9 )= 5.337, p < 0.05),顔刺激の提示位置の主効果(F(1, 9)= 21.283, p < 0.01),および 視線手がかりの一致/不一致の効果と顔刺激の提示位置の効果で交互作用が確認された(F( 1, 9)= 6.454, p < 0.05). 多重比較の結果,顔刺激の提示位置が周辺のときの視線手がかり の一致/不一致の効果と顔刺激の提示位置が中心のときの視線手がかりの一致/不一致の効果 と,視線手がかりが不一致のときの顔刺激の提示位置の効果が見られた(p < 0.05). – 10 – 3.4 実験結果 図 3.3 被験者 a 結果 図 3.4 被験者 b 結果 図 3.5 被験者 c 結果 図 3.6 被験者 d 結果 – 11 – 3.4 実験結果 図 3.7 被験者 e 結果 図 3.9 図 3.8 被験者 f 結果 被験者 g 結果 図 3.10 被験者 h 結果 – 12 – 3.4 実験結果 図 3.11 図 3.12 被験者 i 結果 – 13 – 被験者 j 結果 3.4 実験結果 図 3.13 実験結果 – 14 – 3.5 考察 3.5 考察 本実験の結果,顔刺激の提示位置が中心と周辺どちらであっても Friesen & Kingstone (1998)の結果と同様に視線手がかりの有効性による効果が見られた. このことから顔提示 位置が周辺であっても視線手がかりによる効果があることが示唆された. また,視線手がか りとターゲットの位置が不一致のときに顔提示位置による効果が見られ,顔提示位置が遠い と視線手がかりの逆方向に注意を向けづらくなることが明らかとなった. しかし,本実験で は顔刺激の提示位置が中心のときには提示している顔が 1 個であり,周辺のときには提示し ている顔が 2 個であることから,顔刺激の数が異なることによって差が出た可能性がある. そこで顔刺激の数を 2 個のまま,偏心度をより遠くにして,視線手がかりの効果に影響があ るかについて検討する. – 15 – 第4章 実験2 4.1 被験者 被験者は正常な視力(矯正視力)を有する成人 10 名(平均 24.9 歳)が実験同意書に署名 した上で参加した. 4.2 実験条件 本実験では被験者が視線方向を明確に判断できる顔提示位置を Jack ら(2008)[14] の成 果を参考にして定義した. Jack ら(2008)は視線方向を判断する顔刺激を観察する距離が 84 cm の条件では,注視点から顔刺激が 8 deg 離れていても顔刺激の視線方向を正確に判断 できることを明らかにした. 実験 1 では注視点からターゲットまでの距離が 6.5 deg である という制約から,注視点からターゲットまでの最大距離を 4.5 deg とし,最小距離を実験 1 よりも遠い 1.5 deg とした. さらに,その中間地点についても調べるために 3.0 deg も顔提 示位置の条件とし,3 条件を距離の条件として設定した. そのほかに,視線方向とターゲッ ト位置が一致している条件(一致条件)か一致していない条件(不一致条件)の視線手がか りの有効性の条件を 2 条件,ターゲットの位置が右に出るか左に出るかの 2 条件の計 12 条 件を実験の条件として設定した. – 16 – 4.3 手続き 4.3 手続き 被験者には,最初に提示される注視点を常に見ていることとターゲットが出現した方向に 合わせてキーボードの”←”キーもしくは”→”キーをなるべく早く正確に押したあと,視線方 向に合わせて”←”キーもしくは”→”キーをなるべく正確に押してもらうように教示した. 被 験者がキー押しをすることで試行が開始された. はじめに,中央に注視点の十字が 500 ms 提示された後,視線方向が正面の顔刺激が 750 ms 提示された. その後,左右どちらかに視線 が移動し,300 ms 後に左右どちらかにターゲットが提示された. 被験者は 1500 ms の間に ターゲットの出現方向をキー押しで回答し,このときの反応時間を測定した. その後,顔刺 激の視線方向をキー押しで回答し,500 ms のインターバルが取られ次の試行へ移行した.1 試行の流れを図 4.1 に示す. 本試行は全条件を 15 回ずつランダムに提示した 180 試行とし て行った. また,被験者は本試行の前にランダムに選ばれた 30 試行で練習試行を行った. 図 4.1 1 試行の流れ – 17 – 4.4 実験結果 4.4 実験結果 ターゲットの方向の回答が間違いである試行と反応時間が 100 ms 以下か 1000 ms 以 上であった試行の反応時間を分析から除外した. 誤答率は全試行数の 1.4%で,外れ値は 全試行数の 0.4%であった. すべての被験者の各条件における平均反応時間を図 4.2-4.11 に,すべての被験者の各条件における平均反応時間の総加算平均のグラフを図 4.12 に示 す. 各グラフの誤差線は標準誤差を示す. 分散分析の結果,視線手がかりの有効性(F(1, 9 )= 15.568, p < 0.01)と顔刺激の提示位置の主効果(F(1, 9)= 3.802, p < 0.05)が確認さ れた. 顔刺激の提示位置の主効果について多重比較を行った結果,すべての条件において有 意な差は見られなかった(p > 0.11). すべての被験者の視線手がかりの有効性が不一致の条件の反応時間から一致の条件の 反応時間を引いた差を図 4.13-4.22,すべての被験者の反応時間の差の総加算平均のグラ フを図 4.23 に示す. 分散分析の結果,偏心度による効果は認められなかった(F (2, 18 )= 0.672, p > 0.52). 全被験者の分析に使用した試行の視線方向の正答率を図 4.24-4.33 に,正答率の総加算平 均のグラフを図 4.34 に示す. – 18 – 4.4 実験結果 図 4.2 被験者 a 結果 図 4.3 被験者 b 結果 図 4.4 被験者 c 結果 図 4.5 被験者 d 結果 – 19 – 4.4 実験結果 図 4.6 被験者 e 結果 図 4.7 被験者 f 結果 図 4.8 図 4.9 被験者 g 結果 – 20 – 被験者 h 結果 4.4 実験結果 図 4.10 図 4.11 被験者 i 結果 – 21 – 被験者 j 結果 4.4 実験結果 図 4.12 実験結果 – 22 – 4.4 実験結果 図 4.13 被験者 a 結果 図 4.14 被験者 b 結果 図 4.15 図 4.16 被験者 d 結果 被験者 c 結果 – 23 – 4.4 実験結果 図 4.17 被験者 e 結果 図 4.18 被験者 f 結果 図 4.19 被験者 g 結果 図 4.20 被験者 h 結果 図 4.21 図 4.22 被験者 i 結果 – 24 – 被験者 j 結果 4.4 実験結果 図 4.23 反応時間の差 – 25 – 4.4 実験結果 図 4.24 被験者 a 視線方向正答率 図 4.25 被験者 b 視線方向正答率 図 4.26 被験者 c 視線方向正答率 図 4.27 被験者 d 視線方向正答率 – 26 – 4.4 実験結果 図 4.28 被験者 e 視線方向正答率 図 4.29 被験者 f 視線方向正答率 図 4.30 被験者 g 視線方向正答率 図 4.31 図 4.32 図 4.33 被験者 j 視線方向正答率 被験者 i 視線方向正答率 – 27 – 被験者 h 視線方向正答率 4.5 考察 図 4.34 4.5 視線方向正答率 考察 実験 2 の結果,注視点から顔の中心までの距離が 4.5 deg の条件であっても視線手がかり の有効性が見られることが明らかとなった. また,偏心度が大きくなるほど反応時間が遅く なることが明らかとなった. 被験者の視線方向に対する回答では,被験者は視線方向につい て判断が出来ているということが考えられる. このことは Jack ら(2008)の結果を再現す ることとなった. このことから,ヒトは視線方向が分かったときそれを手がかりとし,注意 をその方向へと向けてしまう可能性が示唆された. Jack ら(2008)の研究とあわせて考え ると顔が自分に近い時には注視点から 8 deg 離れたところまでは視線手がかりの効果が得ら れ,自分から遠い顔に対しては 4 deg 離れた時点で視線手がかりの効果が得られなくなる可 能性が考えられる. しかし,本実験ではこれ以上の偏心度による違いを検討できなかったた め,今後はターゲット位置を遠い条件にしてより遠い偏心度でも視線手がかりの効果が出る かについて検討する必要がある. また, Jack ら(2008)の実験と同様に被験者の観察距離を 操作し,視線手がかり効果に影響があるかについて検討していきたいと考えている. 偏心度が大きくなるほど反応時間が遅くなる原因として偏心度が大きくなるほど顔刺激へ と注意を移動する距離が長くなることと,視力の低下による顔刺激の視線方向の見えにく – 28 – 4.5 考察 さによるものが考えられる. Eriksen & Eriksen(1974)[15] は妨害文字が目標文字の両脇 1 deg 以上離れているときに妨害文字が目標文字の識別に干渉しないことから注意の領域は 1 deg の大きさであるとし, Tsal(1983)[16] はターゲットと目標の提示時間間隔が長くな ると反応時間が一定になり,その時間間隔がターゲットと注視点の距離に比例することから 注意の移動は 1 deg あたり 8 ms の固定速度で移動している可能性を示唆した. これらの研 究は偏心度によって反応時間が遅くなる理由を説明できる. また,視力は図 4.35 に示すよう に,周辺になると急激に低下し,注視点の視力を 1 としたときに 5 deg 離れたところでは約 0.35 ほどまで低下してしまう. この視力低下により,顔刺激の視線方向の判別が困難になり, その遅延によって反応時間が遅くなった可能性がある. – 29 – 4.5 考察 図 4.35 偏心度による視力の低下(Wertheim(1894)[17] から引用) – 30 – 第5章 まとめ 本研究では,被験者の注意を顔刺激の視線に向けさせるためにターゲット位置と顔刺激の 視線方向の二重課題による実験を行い,その結果,注視点上に顔刺激が提示されなくても視 線の注意捕捉効果が見られることが明らかとなった. さらに,注視点から顔の中心が 4.5 deg 離れている顔刺激でも注意捕捉効果が見られることが明らかとなった. これは,注意を操作 するインタフェースを開発するうえで有用な結果となった. 本研究では,提示ディスプレイ の制約内での視線の注意捕捉効果について検討をしたが,今後はさらに大きい範囲での視線 の注意捕捉効果について検討していく必要がある. – 31 – 謝辞 本研究および論文作成にあたり,ご指導ご鞭撻をいただいた繁桝博昭先生に深く感謝しま す. また,副査を務めてくださった岩田誠先生,篠森敬三先生に感謝します. 実験に被験者 として協力していただいた友人,後輩に心より感謝します. ありがとうございました. – 32 – 参考文献 [1] Daniel, C. & Rick, D. 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