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北陸地域における伝統産業の現状

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北陸地域における伝統産業の現状
2012 年 2 月 23 日
日本銀行金沢支店
北陸地域における伝統産業の現状
――
新たなマーケット開拓などにより活路を見出す動き
――
[要 旨]
1.
北陸地域では、江戸時代に加賀藩の歴代藩主が高度な技能を持つ名工を京都などから招き美術工
芸の育成に取り組んでいたほか、福井藩における地元工芸品に対する保護政策を実施していたことなど
歴史的な経緯もあり、当地には伝統産業が集積している。輪島塗(石川県)、九谷焼(同)、高岡銅器(富
山県)、越前和紙(福井県)など国指定伝統的工芸品は、品目数(全国順位:石川県6位、福井県
10 位、富山県 12 位)、生産額(石川県3位、富山県9位、福井県 10 位)とも全国上位にランクさ
れており、県内総生産に占める生産額では、石川県が京都府に次いで全国2位(福井県5位、富山
県7位)となるなど、北陸地域における伝統産業は、他地域に比べ相対的にプレゼンスが高い。
2.
もっとも、バブル景気が崩壊した 1990 年以降は、生産額が減少傾向を余儀なくされており(1990
年対比:概ね1/4程度の水準まで減少)、これに伴い、伝統的工芸品に関わる事業所数、従事者数
とも、減少基調にある。その背景には、①家計所得の減少が続く中で、中国など安価な海外製品へ
の顧客シフトが進んでいること、②家屋の洋風化・小型化などによる生活様式および若者を中心と
するライフスタイルが変化していること、などがあげられる。
3.
こうした状況を眺め、各地の組合・企業では、国内需要の先細りに対する懸念から、新たなマー
ケットの開拓により活路を見出すべく、海外市場での見本市・展示会への出展に積極的に取り組み
はじめているほか、国内向けも含め、従来の伝統工芸品の枠を越えた新商品開発(輪島塗のスマー
トフォン・カバー、九谷焼の USB メモリ外装、炭素繊維を活用した金箔・漆のインテリア用品、国
際派デザイナーとのブランド商品開発など)にも踏み切る先が徐々に拡がりつつある。これらの商
品は、国内外のメディアにも取り上げられており、一部には商談が具体化する動きもみられるなど、
今後の動向が注目されている。
4.
この間、自治体では、伝統産業に対する支援体制を整備・強化している。例えば、飲食店・宿泊
ホテルなどの観光関連施設を対象に、伝統工芸品を購入する場合の助成制度が新たに導入されてい
るほか、国・県・金融機関の連携による活性化ファンド創設の動きがみられている。また、2014 年
度末の北陸新幹線開業を見据え、プロジェクトチームを立ち上げ、伝統工芸技術の活用促進に取り
組みはじめている。
北陸地域の伝統産業は、1990 年以降、縮小傾向を余儀なくされてきたが、新たなマーケット開拓に活
路を求める動きが、ここへきて注目されている。今後、各地での工夫を凝らした様々な取り組みが、自
治体、金融機関などの支援体制と相俟って、伝統産業の発展につながっていくことを期待したい。
本件に関するお問い合わせは、日本銀行金沢支店営業課・広報担当(電話 076-223-9522)までお願い
いたします。なお、本ペーパーは日本銀行金沢支店のホームページ(http://www3.boj.or.jp/kanazawa/)
でもご覧いただけます。
本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行金沢支店までご相談くださ
い。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。
1
1. 北陸地域の伝統産業1の他地域比較
北陸地域では、江戸時代に加賀藩の歴代藩主が高度な技能を持つ名工を京都などから招き美術工
芸の育成に取り組んでいたほか、福井藩における地元工芸品に対する保護政策を実施していたことなど
歴史的な経緯もあり、当地には伝統産業が集積している。
輪島塗(石川県)、九谷焼(同)、高岡銅器(富山県)、越前和紙(福井県)など国指定伝統的工
芸品は、品目数(全国順位:石川県6位、福井県 10 位、富山県 12 位)、生産額(石川県3位、富
山県9位、福井県 10 位)とも全国上位にランクされており、県内総生産に占める生産額では、石
川県が京都府に次いで全国2位(福井県5位、富山県7位)となるなど、北陸地域における伝統産
業は、他地域に比べ相対的にプレゼンスが高い(図表1)
。
── 「産品ブランド調査 2007(非食品部門)
」
(ブランド総合研究所)によると、想起度(地域ブ
ランドとして思いつくもの)、購買意欲度(買ってみたいと思うもの)のいずれも、輪島塗が
両部門で全国トップとなっているほか、想起度で九谷焼が 10 位、購入意欲度では加賀友禅が
9位、以下、加賀蒔絵 13 位、金沢箔 15 位、九谷焼 17 位となっている(図表2)。また、観光
庁主催の「外国人が選ぶお土産コンテスト」(2012 年)では、金沢箔(金箔)が最高賞を受賞
したほか、九谷焼も入賞するなど、当地の伝統産業に対する海外からの関心も高い。
【図表1】国指定伝統的工芸品の都道府県別順位(品目数)
1位
2位
3位
4位
5位
6位
7位
8位
9位
10 位
品目数
京都
新潟
沖縄
愛知
東京
石川
長野
大阪
福岡
福井
生産額
京都
兵庫
石川
岐阜
滋賀
佐賀
大阪
愛知
富山
福井
県内総生産に
占める割合
京都
石川
佐賀
岐阜
福井
滋賀
富山
山梨
和歌山
香川
(出所)伝統的工芸品産業振興協会「平成 18 年度版
伝統的工芸品総覧」、内閣府「県民経済計算」
【参考】北陸地域の国指定伝統的工芸品
富山県(5品目)
石川県(10 品目)
高岡漆器、井波彫刻、高岡銅器、
越中和紙、庄川挽物木地
福井県(6品目)
牛首紬、加賀友禅、加賀繍、九谷焼、
越前焼、越前漆器、若狭塗、越前打
輪島塗、山中漆器、金沢漆器、金沢
刃物、越前和紙、若狭めのう細工
仏壇、七尾仏壇、金沢箔
【図表2】「産品ブランド調査」による想起度・購買意欲度ランキング(非食品部門)
①想起度(地域ブランドとして思いつくもの)
1位
2位
3位
4位
5位
10 位
輪島塗
有田焼
西陣織
伊万里焼
瀬戸焼
九谷焼
②購買意欲度(買ってみたいと思うもの)
1位
2位
3位
4位
5位
9位
13 位
15 位
17 位
輪島塗
琉球ガラス
薩摩切子
紀州備長炭
有田焼
加賀友禅
加賀蒔絵
金沢箔
九谷焼
(出所)ブランド総合研究所「産品ブランド調査 2007」
1
「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に定められた、①主として日常生活の用に供されるものであること、②そ
の製造過程の主要部分が手工業的であること、③伝統的な技術又は技法により製造されるものであることなどの要件を
満たす工芸品を指す。
2
2.北陸地域の伝統産業を取り巻く外部環境の変化など
(1)生産額、事業所数、従事者数の推移
生産額(1990 年=100 とした指数)をみると、バブル景気が崩壊した 1990 年以降、減少傾向を
余儀なくされており、1990 年対比で概ね1/4程度の水準(2009 年 26.0)まで減少している。こ
れに伴い、伝統的工芸品に関わる事業所数(同 55.2)、従事者数(同 42.8)とも、減少基調にあ
る(図表3)
。
【図表3】北陸地域の伝統的工芸品の生産額、事業所数、従事者数の推移(1980 年以降)
北陸地域の伝統的工芸品の生産額、事業所数、従事者数
120 (1990年=100)
100
80
60
40
20
55.2
42.8
生産額
26.0
事業所数
従事者数
0
80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 09
年
(出所)北陸財務局「統計年報」
(2)伝統産業を取り巻く外部環境の変化
北陸地域における伝統産業の生産額減少などの背景には、①家計所得の減少が続く中で、中国
など安価な海外製品への顧客シフトが進んでいること、②家屋の洋風化・小型化などによる生活
様式および若者を中心とするライフスタイルが変化していること、などの外部環境の変化があげ
られる。
①家計所得の減少が続く中での中国など安価な海外製品への顧客シフト
家計の実質可処分所得(図表4)をみると、企業の売上・収益の減少を背景に雇用・賃金調整
が本格化した 1990 年代後半から減少傾向にある。また、バブル景気の崩壊以降は、中国などから
の安価な海外製品が流入し、伝統的工芸品から海外製品への顧客シフトが進んでいる。例えば、
食器(茶碗・皿・鉢)への家計支出額(図表5)は、支出総額が減少しているうえ、1個当たり
の支出額も減少基調にあり、伝統的工芸品に対する需要の先細りが懸念されている。業界など関
係者からは、
「陶磁器の茶碗・皿などは、100 円ショップでも購入できる時代となり、若者を中心
に伝統的工芸品の本物志向が薄れつつある」
(九谷焼)、
「現在、生産量の8割が樹脂製漆器となっ
ているが、安価な中国製品との競合が激しさを増している」
(山中漆器)との声が聞かれているほ
か、法人需要についても、
「企業が経費削減を進める中で、取引先に対する贈答品(お盆、花器な
ど)の需要が低迷している」(輪島塗)といった状況にある。
3
【図表4】実質可処分所得(全国)
【図表5】食器への支出額(全国)
実質可処分所得と伝統的工芸品生産額
食器(茶碗・皿・鉢)への支出額
110
(1990年=100)
(1990年=100)
5,000 (円)
125
(円) 1,000
支出額(左軸)
100
100
1個当たりの支出額(右軸)
4,000
800
92.5
90
75
3,000
600
80
50
2,000
467
400
25
1,000
1,512
200
26.0
70
実質可処分所得(左軸)
北陸地域の伝統的工芸品生産額(右軸)
60
0
0
80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 09
0
80
年
年
85
90
95
00
05
10
(注)二人以上の世帯ベース(07年までは二人
以上の非農林漁家世帯ベース)。
(出所)総務省統計局「家計調査」
(注)実質可処分所得は日本銀行金沢支店が試算。
(出所)総務省統計局「家計調査」、「消費者物価指
数」、北陸財務局「統計年報」
【業界など関係者の声】
九谷焼
(石川県)
山中漆器
(〃)
・
陶磁器の茶碗・皿などは、100 円ショップでも購入できる時代となり、若者を中心に伝統的
工芸品の本物志向が薄れつつある。
・
山中漆器の茶道道具は高いシェアを誇ってはいるものの、家計所得の減少などを背景に、最
近では中古品が優先される傾向にある。
現在、生産量の8割が樹脂製漆器となっているが、安価な中国製品との競合が激しさを増し
ている。
・
越前漆器
(福井県)
・
最近の販売状況の特徴は、
「食器よりも中身(食べ物)」を重要視し、手頃な中国製漆器を購
入する傾向が強まっている。
加賀友禅
(石川県)
・
インクジェットにより模様を吹き付ける安価な着物の台頭から、加賀友禅の着物ニーズは低
迷。ネクタイ、ハンカチ、財布などへの取り組みも価格面での競合から芳しくない。
・
バブル期には活況を呈していたが、その後は、輪島市内への観光客の低迷および購買意欲の
後退などから、輪島塗の土産需要は減少を余儀なくされている。
企業が経費削減を進める中で、取引先に対する贈答品(お盆、花器など)の需要が低迷して
いる。
輪島塗
(〃)
・
②家屋の洋風化・小型化などによる生活様式および若者を中心とするライフスタイル
の変化
少子高齢化・核家族化の進展などを背景に家屋の洋風化・小型化など生活様式が変化している
ほか、若者を中心とするライフスタイルも大きく変わっている。例えば、日本的文化の「和」に
象徴される和室・着物に関する統計をみると、畳表生産量、和服への家計支出額(図表6)とも
に減少傾向を続けている。
業界など関係者からは、
「家屋の小型化などに伴う床の間・客室の減少を背景に、蒔絵を施した
来客用大型テーブル、調度品などの需要が減少している」
(輪島塗)、
「和風の広い客間の飾り物と
して好まれていた大皿の需要が減少している」(九谷焼)ほか、「結婚式の引出物のカタログギフ
ト化により、それまで主流となっていた掛時計、お椀といった高級漆器の需要が弱くなっている」
(加賀友禅、山中漆器)との声が聞かれている。
4
【図表6】畳表生産量、和服への支出額(全国)
和服への支出額
畳表生産量
1,000
(万枚)
25,000
800
20,000
600
15,000
(円)
405
400
10,000
200
5,000
3,261
0
0
80
年
02 03 04 05 06 07 08 09 10
年
(出所)農林水産省「農林水産統計」
85
90
95
00
05
10
(注)二人以上の世帯ベース(07年までは二人
以上の非農林漁家世帯ベース)。
(出所)総務省統計局「家計調査」
【業界など関係者の声】
輪島塗
(石川県)
・
家屋の洋風化および小型化に伴う床の間・客室の減少を背景に、蒔絵を施した来客用大型
テーブル、調度品などの需要が減少している。
九谷焼
(〃)
・
かつては和風の広い客間に飾り物として大皿が好んで購入されていたが、現在は洋風の家屋
が増加している中で、これらの需要が減少している。
加賀友禅
(〃)
・
着物業界は、若者が成人式以外に着物を着る機会が減少していることなどから、厳しい状況
にある。これに伴い、加賀友禅の需要も弱くなっている。
山中漆器
(〃)
・
結婚式の引出物のカタログギフト化により、招待者の選択肢が拡大傾向にあり、それまで主
流となっていた掛時計、お椀といった高級漆器の需要が弱くなっている。
金沢箔
(〃)
・
家屋の小型化などもあって、仏壇需要の減少および小型化傾向が強まっており、金沢箔の受
注減少傾向が続いている。
越前漆器
(福井県)
・
食器洗い機や電子レンジ、IH クッキングヒーターなどに対応していない漆器が多いことか
ら、消費者のニーズをとらえきれていない。
3.新たなマーケット開拓に注力する取り組み
伝統的工芸品に関わる組合・企業では、国内需要の先細りに対する懸念から、新たなマーケッ
トの開拓などにより活路を見出すべく、海外市場での見本市・展示会への出展に積極的に取り組
みはじめているほか、国内向けも含め、従来の伝統工芸品の枠を越えた新商品開発(輪島塗のス
マートフォン・カバー、九谷焼の USB メモリ外装、炭素繊維を活用した金箔・漆のインテリア用
品、国際派デザイナーとのブランド商品開発など)にも踏み切る先が徐々に拡がりつつある。こ
れらの商品の中には、国内外のメディアに取り上げられるケースが少なくなく、一部には商談が
具体化する動きもみられるなど、今後の動向が注目されている。
(1)海外マーケット開拓の動き
北陸地域では、国内需要の減少を眺めて、日本の伝統的工芸品に対する関心の高い欧州を中心
に見本市・展示会を積極化する動きがみられている。輪島塗のパリ・ウィーンでの積極的な展示
会の開催や、越前打刃物の欧州での見本市への出展のほか、越前漆器では、海外のバイヤーをター
ゲットに国内展示商談会を開催する動きがみられる。
こうした中、従来の伝統工芸品の枠を越えた取り組みも徐々に拡がりつつある。例えば、クー
ル・ジャパン(アニメや漫画など日本独自の文化が海外で評価されている現象)の盛り上がりを
5
眺め、最先端のデザインとの融合製品の展示・販売会をニューヨークで開催する動き(輪島塗)
や、欧州向けブランド製品(インテリア小物)の開発・展開(山中漆器)、従来意匠と一線を画す
国際派デザイナーとのブランド商品の開発(高岡銅器)といった取り組みがみられる。一部には
「欧州向けに開発したインテリア小物が、国内外のメディアから注目を集めている」(山中漆器)
とか、
「フランス・パリに初出展した商品が国内外のメディアに取り上げられたほか、商談が具体
化しているものもある」
(高岡銅器)など、海外マーケット需要の取り込みに手応えを感じている
声が聞かれている。
【海外での見本市・展示会を積極化させる動き】
・
国内需要の増加に過度な期待はできないとして、海外展開を視野に入れつつ、日本の伝統的
工芸品にも関心の高いパリ・ウィーンでの積極的な展示会を開催し続けている。これまでの
出展で現地ニーズの取り込みに手応えを感じている。
越前打刃物
(福井県)
・
日本製包丁の認知度・評価が高まりつつある欧州において、積極的な見本市への出展および
伝統工芸士や商品関連デザインにより、新たなビジネスモデルを模索している。
越前漆器
(〃)
・
海外への販路開拓を目指している。高級志向の強い海外バイヤーをターゲットに、東京での
展示商談会において、宝石箱・フォトフレーム・花器などのインテリア品を出展している。
輪島塗
(石川県)
【従来の伝統工芸品の枠を越えた取り組み】
輪島塗
(石川県)
・
「クール・ジャパン」を踏まえて、伝統工芸に最先端のデザインを融合させた製品などの展
示・販売を行うイベントをニューヨークで開催。
・
欧州は、日本のインテリア小物など伝統的工芸品を好む傾向があるため、現地での PR を通
じて需要の開拓が期待できる。国の支援の下、欧州向けブランド製品(インテリア小物)を
開発・展開。国内外のメディアからの注目が高まっている。
・
国の支援の下、国際展開を念頭に置き、従来意匠と一線を画す国際派デザイナーとのブラン
ド商品を開発。日本のインテリア小物など伝統的工芸品に関心の高いフランス・パリでのイ
ンテリア見本市へ初出展。国内外のメディアに取り上げられたほか、商談が具体化している
ものもあるなど、手応えを感じている。
九谷焼
(石川県)
・
九谷焼の高い技術を活用し、和と洋の融合によるワイングラスなど新製品を開発。欧米での
綿密な市場調査とともに、展示会などに積極的に参加し海外販路開拓に取り組んでいる。
金沢箔
(〃)
・
石川県の先端技術である炭素繊維に金箔・漆を融合させたインテリア用品を開発。近々、パ
リで開催される見本市に出展する予定にある。
山中漆器
(〃)
高岡銅器
(富山県)
(2)国内での需要掘り起こしの動き
需要が縮小している国内でも、従来の伝統工芸品の枠を越えた取り組みが徐々に拡がりつつあ
る。需要旺盛な情報通信分野への活用を目指し、蒔絵技術を用いたスマートフォン用カバー(輪
島塗)、九谷焼による USB メモリの外装(九谷焼)、外部デザイナーとの現代風食器・風鈴のコラ
ボ商品を開発する動き(高岡銅器)がみられている。また、無地の漆器(輪島塗)や電磁調理器
具にも対応可能な漆器(越前漆器)により需要掘り起こしに注力する動きがみられる。
これらの商品の中には、「スマートフォン用カバーが主力商品となっている」(輪島塗)といっ
たように、国内においても独自の経営戦略が奏功しているケースがみられはじめている。
【従来の伝統工芸品の枠を越えた取り組み】
輪島塗
(石川県)
・
鑑賞用漆器の需要が落ち込む中、食器を中心に「普段使い」の商品の充実を目指し、敢えて
無地の漆器への生産シフトを図っている。
越前漆器
(福井県)
・
需要が拡大している IH クッキングヒーター、食器洗い機にも対応できる新製品を開発。従
来の日常生活における不便さを解消しつつ、需要獲得に取り組んでいる。
6
輪島塗
(石川県)
・
スマートフォンの需要好調を眺めて、輪島塗の蒔絵技術を活かしたスマートフォン用カバー
市場に進出し、これが主力商品となっている。
九谷焼
(〃)
・
USB メモリの外装に九谷焼を用いた新商品を開発。土産需要に止まらず、オフィスでの利用
促進なども含め、新たな取り組みを手掛けている。
高岡銅器
(富山県)
・
外部デザイナーとのコラボレーションを通じ、新たに現代風食器・風鈴などの生産に着手。
インターネットや都内ショップでの販売が好調となっている。
4. 自治体の取り組み
自治体において、伝統産業に対する支援体制が整備・強化されている。最近では、飲食店・宿
泊ホテルなどの観光関連施設を対象に、伝統工芸品を購入する場合の助成制度が新たに導入(輪
島市)されているほか、国・県・金融機関の連携による活性化ファンド創設(石川県)の動きが
みられている。また、2014 年度末の北陸新幹線開業を見据え、プロジェクトチームを立ち上げ、
伝統工芸技術の活用促進に取り組みはじめている。
──
輪島市では、市内の飲食店、宿泊施設などの観光関連施設に対して、輪島塗の食器などの
購入資金について、その 75%(上限2百万円)を助成する制度を 2010/11 月に開始。また、
金沢市では、伝統的工芸品の工房整備に対する融資などを行っている。
──
石川県では、2012/1 月、北陸新幹線の内装に伝統工芸技術を取り入れるよう働きかけるプ
ロジェクトチームを設置したほか、自動車・航空機、家電などへの応用も視野に入れている。
──
富山県では、
「マイスター」制度を導入し、在庫品のリメイクにより、消費者ニーズにマッ
チした商品開発を支援しているほか、福井県では、福井県工業技術センターにおける漆技術
などの応用展開に向けた開発などに取り組んでいる。
【自治体の取り組み】
・
輪島市内の飲食店、宿泊施設などの観光関連施設に対して、輪島塗の食器などの購入資金に
ついて、その 75%(上限2百万円)を助成する制度を 2010/11 月に開始(既に 100 件を越
える利用実績)。
・
現代に適応したスタイルの工芸品開発に取り組む企業などへの開発費用の助成、展示商談会
開催に伴う助成のほか、伝統的工芸品の工房整備に対する融資などを行っている。
・
2008 年、国・県・地元金融機関がそれぞれ資金を拠出してファンドを創設。運用益を利用
して、伝統的工芸品など「産業化資源」の研究開発・販路開拓のための資金を助成。2011
年度には、海外市場を見据えた商品開発・販路開拓のための枠を新設。
「産業連携サポートデスク」を設置し、企業・大学・行政が新商品・新技術の研究開発や販
売促進で連携する体制を整備。
向こう3年間で輸出倍増が見込める中小企業を対象に、成功した場合の情報開示を条件とし
て、製品開発費用などを助成。
2012/1 月、北陸新幹線の内装に伝統工芸技術を取り入れるよう働きかけるプロジェクト
チームを設置。このほか、自動車・航空機、家電などへの応用も視野に入れている。
輪島市
金沢市
・
石川県
・
・
・
富山県
・
・
福井県
・
伝統的工芸品5品目を対象に、新規雇用者が正社員となるまでの給与、実習費などの全額を
補助(1~2名)。
「マイスター」に認定された人材が、長期在庫品をリメイクすることで、より消費者ニーズ
にマッチした商品開発を支援。
販路開拓、新商品開発、後継者育成を3本柱とする支援体制を整備。商談会・展示会にかか
る開催費用の助成、福井県工業技術センターにおける漆技術などの応用展開に向けた開発な
どに取り組んでいる。
飲食店などが業務用に伝統工芸品を購入する場合の購入費補助を実施。
7
5.終わりに
北陸地域における伝統産業は、1990 年以降、縮小傾向を余儀なくされている。
しかしながら、最近では、新たなマーケット開拓に活路を求める動きが、ここへきて注目されて
いる。これらの取り組みは国内外のメディアに取り上げられているほか、商談が具体化しつつある
ケースもみられるなど、需要の取り込みに手応えを感じている声が聞かれはじめている。
当地の伝統産業は、他地域に比べ相対的にプレゼンスが高く、高いブランド力も有しているだけ
に、国内外でのマーケット調査の強化や、産地を越えたコラボレーションなどを通じて、新たなマー
ケット開拓に活路を求める動きが拡がっていくことが望まれる。今後、各地での工夫を凝らした
様々な取り組みが、自治体、金融機関などの支援体制と相俟って、伝統産業の発展につながってい
くことを期待したい。
以
8
上
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