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ニューズレター2013年第3号(PDF/991KB)

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ニューズレター2013年第3号(PDF/991KB)
JICA France Office Vol.3 (2013)
2013 年第 3 号
JICA France Office Newsletter
JICA France Office Newsletter
France Office Newsletter
~欧州の開発トレンドを読む~
〖今月のトピック〗
目 次
Ⅰ.EU における援助手法:
ブレンディングと相互信頼イニシアティブ
<今月のトピック>
Ⅰ.EU における援助手法:ブレン
EU は、この春、キプロス金融問題により、2009 年以来続く
ディングと相互信頼イニシアティ
ブ
経済危機の中で新たな混乱に直面しました。キプロス金融問
題は高額預金者への預金課税と引き換えにした欧州中央銀行
による支援策によって一応の収束しましたが、EU の多くの
・・・Page 1
国々は高失業率を抱え、構造的な経緯問題の解決は容易では
Ⅱ.パートナー紹介
ありません。このような背景にある中、EU による開発途上国
クラウス・ルディシュハウザー氏
や近隣国への開発・協力への支援もその予算には影響が出る
欧州委員会
ものと予想されます(2014 年から 2020 年を捕捉する欧州委
開発協力総局次長
員会の 7 ヶ年支援計画(MFF : Multiple Financial Framework)
の予算は、前回枠組みに比して減額が予想される)。従い、EU
・・・Page 5
にとって、資金のより効果的な活用やレバレッジ機能を通じ
た民間資金投入の拡大が、より重要な課題となっています。
(ページ 2 に続く)
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各地域の世界経済成長寄与率
7
Graph I.5: Contributions to World GDP growth from
EU, non-EU advanced and emerging economies
%
実質GDP伸び率予測
6
5
2011 2012 2013 2014
4
3
ユーロ圏
1.4
-0.6
-0.4
1.2
EU
1.6
-0.3
-0.1
1.4
世界
4.2
3
3.1
3.8
2
1
0
-1
-2
07
08
09
10
11
12
EU
Non-EU advanced economics
Emerging and developing countries
World
JICA France Office
13
14
発行:JICA フランス事務所
8 rue Sainte-Anne 75001
Paris France
TEL :+33-1-4020-0421
FAX :+33-1-4020-9768
フランス事務所
ニュースレター担当:水野
([email protected])
出 典 :European Commission Report:
European Economic Forecast Spring 2013
© European Union
~欧州の開発トレンドを読む~
ページ 1
1. ブレンディングのための
地域別ファンドと形態
(Eradication of Poverty)を開発政策の最大目
標 と し て 維 持 し つ つ 、 EU 内 の 連 携
(Coordinated action)を推進し、ブレンディン
従来より、EU の開発政策に関わる各アクタ
ー(欧州委員会、EU 各国、欧州・非欧州の融
資機関)は、開発途上国や近隣国での開発事
業において、連携の形態として、ローンとグラ
ントの混合による手法(ブレンディング・スキー
ム)を展開してきました。グラントは、資本投入、
金利補助、技術協力、保証、ファーストロス手
当、保険、リスク・キャピタル、コンディショナリ
ティ/成果ベース投入といった諸形態を通じ
て投入されますが(表 1)、これにより、事業の
グ・スキーム等による革新的な融資制度の割
合を高めてゆくこととしています(注1)。
事業の形成や実施において、ローンとグラ
ントを組み合わせることは新しい仕組みではあ
りませんが、EU がブレンディングの比率を戦略
的に高めてゆく方針であることが着目されます。
EIB によれば、ブレンディングを通じた融資の
割合は近年上昇し、近隣諸国投資ファシリティ
( NIF ) 及び 西バ ルカン 投 資 フ レ ー ム ワー ク
(WBIF)とのブレンディングを通じた融資の割
実効性(フィージビリティ)や融資適格性を高め、
投融資者の参画のインセンティブを引き上げ
ることが可能となります(レバレッジ効果)。
合はそれぞれ 23%、EU-アフリカインフラストラ
クチャー投資ファンド(ITF)を通じた融資の割
合は 15%となっており、今後増加していく見込
ブレンディング・スキームに基づく事業形成
と実施を安定的に展開するため、EU は以下
(表 2)のような地域毎の専門ファンドを設定し
てきました。2011 年 10 月に欧州委員会は、ポ
スト MDGs の開発戦略として、「変化へのアジ
ェンダ(an Agenda for Change)」を発表してい
みです。
グラント形態の活用の割合は、直接資本投
入、技術協力がそれぞれ 3 割強、金利補助が
3 割弱となっています(金利補助は ITF におい
て主なツールとなっている)。
ますが、この中においても、貧困の根絶
表1:グラントの種類
直接資本投入
事業ホスト国あるいは事業オーナーの資本基盤強化のために投入する。
(Direct Investment Grant)
特別勘定は設けず、その使途の監理を行う。
金利補助
事業ホスト国あるいは事業オーナーの金利返済に充当する。
(interest Rate Subsidies)
技術支援(Technical Assistance) 事業形成や実施の補助のためにソフトの支援を投入し、技術移転も図る。
保証
デフォルト(債務不履行)時に、融資者の債権保証のため投入する。
(Loan Guarantees)
ファーストロス手当
ストラクチャード・ファイナンス事業において、初期段階で事業収益が
(First-Loss piece)
発生しない場合の融資者への補償として投入する。
リスク・キャピタル
事業の資本基盤を強化するため投入する。直接投資グラントに比して、
(Risk Capital)
収益の発生を確保すべき事業に適用される(中小企業支援や経済インフ
ラ等)
。
コンディショナリティ/成果
事業ホスト国や事業オーナーのガバナンスの強化、関係者の利益担保を
ベース投入(Conditionality/
目的として、事前に設定したコンディショナリティを達成した場合に投
Performance based grants)
入する。
(活用される機会は実際にはほとんどない。
)
JICA France Office
~欧州の開発トレンドを読む~
ページ 2
表 2 地域毎のブレンディングのための無償ファン
の利益であり、EU の対外政策上の主要な目標であると
ドと実績
規定されています。
◇EU-アフリカインフラストラクチャー投資ファンド
(ITF)2007 年設立
◇近隣諸国投資ファシリティ(NIF)2008 年設立
◇西バルカン投資フレームワーク(WBIF)2009 年
設立
◇ラテンアメリカ投資ファシリティ(LAIF)2010 年設
立
◇中央アジア投資ファシリティ(IFCA)2010 年設立
◇アジア投資ファシリティ(AIF)2011 年設立
◇カリブ諸国投資ファシリティ(CIF)2012 年設立
◇大洋州投資ファシリティ(IFP)2012 年設立
(ITF、NIF、WBIF が後続して設立されたファンドの
モデルとなっている。ITF は EIB が事務局を、NIF と
WBIF は欧州員会(開発・協力総局 DGDEVCO)が
事務局を務める。)
各無償ファンドの規模、2012 年末時点(百万€)
出典:各無償ファンドの年報及び HP からの情報をもとにフランス事務所作成
(注 1)
EU は、EU という統一的なアクターとして域外政策を
展開することを通じ、EU の共通の価値観を広めるとの
目的を根幹に有しています。欧州連合(EU)の援助政
策は、2005 年 12 月に EU 加盟 27 ヵ国、欧州議会、EU
理事会、欧州委員会間によって定められた「開発に関
する欧州のコンセンサス(The European Consensus on
Development)」を共通のヴィジョン、大綱として、これを
基に実施されています。この大綱は、EU の開発協力の
最大の目的を貧困の根絶(Eradication of Poverty)に置
き、その解決のアプローチとして、多岐にわたる分野で
の活動の展開を規定しています(ガバナンス、政治・経
済・社会改革、紛争予防、司法、人権、公共サービスへ
のアクセス、教育、文化、医療、環境、天然資源管理、
貧困削減を導引する成長(Pro-poor Growth)、貿易と開
発、移民、食料安全保障、子供の権利、ジェンダー等)。
そしてそのような活動を通じて、人権、自由、平和、民主
主義、良き統治、ジェンダー平等、法の支配、正義への
尊重を推進することを「共通の価値」と定めています。
2009 年に発効したリスボン条約においても、開発途上
2.運営体制
ブレンディング・スキームは、そもそも EU パー
トナー国の事業に多くの公的・民間資金を呼
び込むため(EU 各国の政府負担を抑えるた
め)に導入されました。上述のように、グラント
の投入により事業のフィージビリティや融資適
格性を高め、投融資者の参画を容易にするこ
とが目的です。EIB によれば、かつて融資案件
は、融資に足る条件を具備しているもののみを
採択していましたが、案件を採択可能なものと
する手段を主体的に取り入れることで、案件採
択の幅を広めると共に、案件の実現が迅速化
しました。
ブレンディング・スキームの運用構造としては、
欧州委員会、各国代表、事業ホスト国から成る
戦 略 委 員 会 ( Steering Committee, Strategic
Board)が EU 政策との適合性やスキームの改
善など、ブレンディング・スキームの方針や構
造に関する上流部分での管理を所掌します。
事業への融資、グラント投入の申請は、事
業実施者(事業オーナー)から融資者に提出
され、融資者グループ(Financial institutions
Group、通常は EIB がヘッドとなります)が、投
入グラントの形態や規模、ブレンディング・スキ
ームの構築上の実務的な検討や詰めを行いま
す(グラント投入の申請がない場合でも、融資
者グループにおいてブレンディングの組成が
検討されます)。最終的な採択の決定は、各地
域ファシリティ代表や欧州委員会などより成る
経営員会(Operational Board)においてなされ
ます。経営委員会は事業オーナーやホスト国
の債務状況の観点からも適格性を判断し、融
資者グループの付議した案件の審議を行いま
す。ブレンディングによる採択の決定以降は、
融資、グラントはそれぞれの通常の手続きに従
って実行されます(融資プロセスにおけるグラ
ント投入のタイミング等は融資者グループがフ
ァシリティの事務局と調整します)。
国の貧困の根絶は、安定し繁栄する世界に向けた EU
JICA France Office
~欧州の開発トレンドを読む~
ページ 3
図2
以上のように、ブレンディング・スキームによる
案件のプロセスは、融資者を主なビークルとし
て、政策的な上流部分でのチェック機能と実
務上の適格性でのチェック機能による 2 層の
牽制機能を設置し、実施する構造となっていま
す(下図 1)。
なお、ブレンディング・スキームにおけるグラ
ントの ODA カウントについては、EU 各国の拠
出の割合に応じて配分する等の議論が EU と
DAC との間でなされています(EIB 融資を始め、
現行 ODA 定義上、融資は ODA としてみなさ
れず、これが DAC における ODA 再定義の議
論の発端となっています)。
3.相互信頼メカニズム
欧州委員会、EIB 等は、ブレンディング・スキ
ームの効果、効率性を高め、手法の開発を検
討し、これらを 7 か年支援計画(MFF)に反映し
また、ブレンディング・スキームに参加してい
る KFW(ドイツ復興開発銀行)及び AFD(フラン
ス開発援助庁)は、EIB との 3 者の間で、2013
てゆくため、2012 年 12 月、「対外政策のため
の EU ブレンディング・プラット・フォーム(EU
Platform
for
Blending
in
External
Cooperation)」を立ち上げました。政策グルー
プ(Policy Group)と技術グループ(Technical
Group)の 2 層より成り、前者は欧州員会、
年 1 月に相互信頼イ ニシアティブ( Mutual
Reliance Initiative : MRI)に関する運用ガイダ
ンスを策定しました。これは 3 機関のうち 1 つが
リード機関となり、案件の事前評価(アプレイザ
ル)、実施中の調達手続き監理等を担い(調達
ガイドラインはほぼ共通化されている)、他の 2
EEAS(欧州対外行動庁)、EU 各国をメンバーと
し(欧州議会をオブザーバーとする)、後者は
欧州委員会、EIB、欧州金融機関をメンバーと
し(EU 圏以外のマルチ金融機関をオブザーバ
ーとする)、技術グループにて現行のブレンデ
ィング・メカニズムのレビューを行い、改善点な
どを政策グループに提言する仕組みとなって
います (図 2) 。
融資機関がリード機関の作業を活用するもの
です。ジョイント協融のみならずパラレル協融
にも適用されます。3 融資者の手続きが 1 本化
されることで、事務コストが削減され、案件の組
成や管理が効率化されます(融資契約、ディス
バース、返済は融資者別に行われます)。関
係者によれば、MRI は「手続きの調和化」では
なく、「相互信頼に基づく一本化」との位置付
図1
けで、約 10 年前から提議されていましたが、こ
の 2 年間、14 件をパイロット事業として試行的
に運用してきたとのことです。2013 年からの適
用を本格化し、ブレンディング・スキームの下
でもこれを活用することで、ブレンディング・ス
キーム融資部分の一層の効率化を進めるとの
考えもあります。
JICA France Office
~欧州の開発トレンドを読む~
ページ 4
ブレンディング実例
(END)
パートナー紹介
今月は、欧州委員会・開発協力総局次長
クラウス・ルディシュハウザー氏(Mr. Klaus Rudischhauser)
を紹介します。
1) 現在、どのような業務に取り組んでいますか?
MDG 最終年を 4 年後に控えた 2011 年、MDG の達成に向けた取り組みを迅速化し、開発政策のインパク
ト及び効果を高めるため、EU は新たな戦略指針として、
「変化のためのアジェンダ(Agenda for Change)」
を採択しました。人権、民主主義、ガバナンス、包摂的、持続的成長といった分野に重点を置き、具体的な
協力分野として、人間開発、社会保障、持続可能なエネルギーと農業、開発における民間セクターとの連携
を重視しているものです。
「変化のためのアジェンダ」は、2014-2020 を対象とする EU の将来の対外政策枠
組みにおいてもその核となっており、従って、今日最も重要な課題は、この戦略方針を効果的に実施に移す
ことです。
2) EU の将来の開発協力について、どのような展望をお持ちですか?
世界における喫緊の課題は、貧困の根絶(Eradication of Poverty)と経済と環境の両面を考慮した持続的
な繁栄の両方を確保することです。これらへの取り組みが、EU 内同様、EU 対外活動の基礎となります。欧
州委員会は今年 2 月に、
「全ての人に適切な生活を:貧困を終わらせ、持続可能な未来を(A Decent life for All:
Ending poverty and giving the world a sustainable future)」と題する政策文書を発表しましたが、その中
で、上記の課題を冒頭に掲げ、2030 年までを見据えたポスト 2015 の枠組みへの行程を提案しました。
非持続可能な開発が繰り返されれば、近年の成果は負に転換され、将来の成果は不確定なものとなってし
まいます。従って、将来の活動は、社会、経済、環境の側面を調和させ、繁栄へと結びつけなければなりま
せん。
3)EU 金融危機の EU 開発協力への影響について、どのようにお考えですか?
2012 年、EU の援助量は 551 億ユーロと最大のドナーとなっていますが、金融経済危機の影響で、前年か
ら 12 億ユーロ落ち込み、GNI 比 0.43%となりました。EU 加盟 27 ヶ国は、2015 年までに援助量を GNI 比
0.7%とする目標を設定しており、大きな努力が必要となっています。しかしながら、各国の財政状況が制約
を受けることを契機として、新たな開発資金を引き込む努力がなされてきました。民間部門の参画、ホスト
国の資源の動員、新興国の貢献などが一層必要となっています。すなわち、伝統的な援助を越え(Beyond
Aid)、援助政策を一貫させ、調和させ、効率化させてゆくための動き、検討が必要となるでしょう。
金融財政危機の時代にあっては、ODA を実施してゆくにあたり、援助効果を高める必要があります。国際的
なレベルで、関係するステークホルダーがシナジーと補完性を向上させることが、益々重要になっていると
思います。
以 上
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~欧州の開発トレンドを読む~
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