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F1-1 - 日本大学理工学部

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F1-1 - 日本大学理工学部
平成 22 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集
F1-1
フィリピン・ベトナム・日本における交通ルール遵守意識と運転スキルの関連性の比較分析
Comparative Analysis of Relationship between Traffic Rule Compliance Awareness and Driving Skill in Philippine, Vietnam and Japan
◯早川弘美 4, 福田敦1, 福田トゥエンチャイ 2 , 岡村誠 3 , アレックス フィローネ 5, グエンバンチュオン 6
*Hiromi Hayakawa4, Atsushi Fukuda1, Tuenjai Fukuda2, Makoto Okamura3, Alexis Fillone5, Nguyen Van Truong5
1.はじめに
その尺度の運転スタイルの傾向が強いことになる.
近年,東南アジアでは,急速なモータリゼーション
調査では,HQL による設問に加え,Figure 1 に示す
の進展に伴って交通事故が増加しており,深刻な社会
交通ルールに対する意識に関する設問(4項目から1
問題となっている.そこで,各国とも交通事故の削減
つを選択)と,性別・年齢・職業・免許取得年・事故
に向けて交通規制の強化,交通安全教育の普及など
歴,の個人に関する5つの設問を独自に設定し,チェ
様々な取り組みを行っているが,国民の交通安全行動
ックシートと合わせて回答して頂いた.
を向上させるには至っておらず,交通事故が削減でき
1 ・ 自分は交通ルールを守っている.また,他の人も交通ルールを守っていると思う.
2 ・ 自分は交通ルールを守っている.けれど,他の人は交通ルールを守っていないと思う.
ない状況にある.
3 ・ 自分は交通ルールを守っていない.けれど,他の人は交通ルールを守っていると思う.
そこで,筆者らは,東南アジア諸国の中でも自動車
4 ・ 自分は交通ルールを守っていない.また,他の人も交通ルールを守っていないと思う.
の普及が進んでいるタイと,近年オートバイの普及が
進んでいるラオス,ならびに日本を対象に,運転者の
Figure 1. Consciousness survey to traffic rule
(2)アンケ-ト調査の実施
交通ルール遵守意識と運転スキルを調査・分析し,国
アンケート調査は,フィリピンではラサール大学の
によって両者の間の乖離が大きく異なることを明らか
A. G. Fillone 准教授の協力を得て,マニラ市の住民を対
にし,これが交通安全行動に大きく影響している可能
象に 2010 年6月に,ベトナムでは交通通信大学の
性を指摘した.
Thoung 講師の協力を得て,ハノイ市の住民を対象に
本研究では,タイ・ラオスにおける比較分析の継続
2010 年9月に実施した.なお,日本のデータは以前千
研究として,東南アジアの中でも公共交通の発達した
葉県佐倉市・船橋市周辺で調査した結果を利用した.
フィリピンとオートバイの利用が進んでいるベトナム
また,アンケートは日本語で作成したものを,現地に
の 2 つの交通状況の異なる国を対象に,運転者の運転
語訳し使用した.
スキルと交通ルール遵守意識を調査し,その乖離を分
マニラのサンプル数は 565 と予定の 100 を大きく超
析するとともに,日本の状況と比較を行った.
えていたので,属性の割合を変えずにサンプル数を無
2.運転スタイル調査
作為に抽出し,総数を 100 とした.抽出後のサンプル
(1)アンケート内容
数を Table 1 に示す.
アンケート調査では,社団法人人間生活工学研究セ
Table 1. Number of sample ( revised )
単位: 人
ンター(以下 HQL)の作成した運転スタイルチェック
シートを利用した.
20-29
male
female
Japan
この運転スタイルチェックシートは,HQL が 20~60
歳の男女 222 名のデータをもとに運転志向や態度に関
する質問 58 項目を変数として主成分分析を行い,8尺
度の運転スタイルに分別したものである 1)
.尺度は①
運転スキルへの自信,②運転に対する消極性,③せっ
かちな運転傾向,④几帳面な運転傾向,⑤信号に対す
る事前準備的な運転,⑥ステイタスシンボルとしての
車,⑦不安定な運転傾向,⑧心配性的傾向,となって
いる.チェックシートの設問は 18 であり,その回答結
果に HQL の調査によって得られた係数を乗じること
で,8尺度に点数が求められる.この点数が高いほど
Philippine
Vietnam
Car
Motorcycle
Car
Motorcycle
Car
Motorcycle
4
8
5
7
9
7
5
3
5
3
5
3
30-39
male
female
5
4
5
7
9
7
6
2
5
3
5
3
40-49
male
female
6
13
5
7
9
7
6
3
5
6
3
3
50-59
male
female
7
3
5
12
5
7
4
4
5
2
0
3
60-69
male
female
6
4
5
2
5
7
53
47
50
50
50
50
sum
100
100
100
3.データ分析・考察
(1)運転スタイル調査の分析
アンケート調査の集計結果をレーダーチャートと
して Figure 2 に示す.
全体的にフィリピンは日本の結果と形が似ている
が,一回り大きい結果となっている.それに対して
ベトナムでの結果は独特な形をとっている.特に,
虚偽尺度は,前研究のタイ・ラオスに比べ,フィリ
ピン・ベトナムで大きな値となっている.
1:日大理工・教員・交通 2:日大理工・研究員・交通 3:日大理工・院・交通 4:日大理工・研究生・交通
5:デ・ラサール大学工学部・教員・土木,6:ハノイ交通通信大学工学部・教員・交通
341
4
3
5
1
0
3
sum
平成 22 年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集
スキル自信
4.00
4.00
I follow rules
3.50
虚偽尺度
消極性
3.00
I don't follow rules
3.06 3.13
2.78
3.00
2.96
2.53
2.75
2.50
2.00
2.00
1.50
1.00
心配性
せっかち
1.00
0.00
0.50
0.00
Japan
不安定
几帳面
(4)考察
調査結果から,特にベトナムでは自身の交通ルール
Philippine
事前準備
Vietnam
Figure 3. Self confidence in driving skill
Japan
ステイタス
Philippine
Vietnam
に対する遵守意識は高い事がわかった.また,そう意
識している人ほど運転スキルへの自信があり,几帳面
Figure 2. Driving style
(2)交通ルールに対する意識調査の分析
な運転傾向にある.これは,一見,日本のアンケート
交通ルールに対する意識に関する調査結果を,Table 2
結果と類似しているが,実際のベトナムの交通状況を
に示す.いずれの国においても「自分は交通ルールを
みると,確かに信号はよく守られている一方で,逆走
守っているが他人は守っていない」と認識している運
などは日常的にみられることから,ベトナムの運転者
転者が多い結果となった.特に自分が交通ルールを守
が認識している交通ルールは,独自に解釈されたもの
っているかという点に関して注目すると,日本とフィ
で,正しい交通ルールとは異なっている可能性がある.
リピンでは約 80%が自分は交通ルールを守っている
また,フィリピンでは LRT やジープニーなど公共的
と意識しているのに対し,ベトナムでは 94%と,特に
な乗り物が発達していることから,日本と似た結果が
ハノイの運転者の交通ルールに対する遵守意識が高
出ると予測されたが,交通ルールを守っている人ほど
いことが分かる.
運転スキルに対する自信が低く,自信のある者ほど交
通ルールを守らず,自分の好きなように運転する傾向
Table 2. Result of consciousness survey to traffic rule
I follow traffic rules
Japan
I don't follow traffic rules
sum
I follow traffic rules
Philippine
I don't follow traffic rules
sum
I follow traffic rules
Vietnam
I don't follow traffic rules
sum
Other people follow
traffic rules
Other people doesn't
follow traffic rules
sum
が高いタイ・ラオスと似た傾向が見られた.
40
41
81
4.結論
5
12
17
45
53
17
63
80
た.その結果,今後交通安全活動を進めていくために
20
は,特にベトナムにおいては正しい交通ルールを伝え
6
14
23
77
40
54
94
4
2
6
44
56
本
研究では,交通安全と運転特性との関連性を考察し
ていく必要性があることがわかった.また,前研究と
似た結果となったフィリピンにおいては,交通ルール
だけでなく,自分の認知している運転スキルと実際の
(3)クロス解析
運転スキルの差を認識させていくことも必要であると
HQL による運転スタイル調査結果と交通ルールに対
する意識調査結果の分析を行った.
いうことがわかった.
5.今後の課題
運転スタイル調査の結果を「自分は交通ルールを守
現在の分析では,主観的に差があるかないかを判断
っている」
「自分は交通ルールを守っていない」の2属
しているため,今後は統計学的に有意に差があるかあ
性に分けて抽出した.すると日本とベトナムの差異の
ないかを判断する必要がある.そこで,今後は分析手
生じ方は軒並み似た形となり,
「自分は交通ルールを守
法として,分散分析法もしくは多重比較法を用いた分
っている」と認識している人ほど運転スキルに自信が
析方法を検討していく必要がある.
あり,几帳面な運転傾向が強く,不安定な運転傾向が
強い特徴が見られた.自身の遵守意識別の運転スキル
参考文献
に対する自信のクロス分析結果を Figure 3 に示す.
[1]社団法人 人間生活工学研究センター:
「HQL 式運転
スタイルチェックシート解説書」
,2003 年
342
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