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補助刺激分子 B7-1 の結晶構造及び溶液中の二量体形成
構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 補助刺激分子 B7-1 の結晶構造及び溶液中の二量体形成 オックスフォード大学 We11come Trust Centre for Human Genetics 池水 信二 【要旨】 我々の人体は、ウイルス等の非自己由来物質の進入から、B及びT細胞の免 疫系の働きにより守られている。この免疫反応にはT細胞の活性化が必要であ り、T細胞の活性化には 2 つのシグナルが必要である。シグナル 1 は、抗原提 示細胞(APC)上の主要組織適合抗原(MHC)・ペプチド複合体とT細胞上のT細胞 受容体(TCR)・CD3 複合体の結合の結果おこる抗原特異的なものである。シグナ ル 2 は補助刺激と呼ばれ、APC 上の補助刺激分子 B7-1(CD80)又は B7-2(CD86)と T細胞上に発現している CD28 又は CTLA-4 との結合の結果おこる抗原非特異的 ある。シグナル 1 のみの存在下では、T細胞は免疫寛容又は無反応状態になり、 シグナル 2 のみの場合、T細胞には変化が起こらない(図 1)。又、CTLA-4 Fc 図 1.T細胞活性化の 2 シグナルモデル を用いて B7 分子と CD28 の結合を阻害することにより、移植片拒絶を抑えるこ とが報告されている(Larsen ら,1996)。シグナル 1 を与える MHCc1ass1, MHC 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 c1ass2, TCR, CD4, CD8 等の構造解析は既に行われており、多くの構造を基に した知見が得られている。また、TCR と MHC c1ass1(Garboczi ら,1996)又は c1ass2 複合体(Remherz ら,1999)、 MHC-CD8 複合体(Gao ら,1997)等の構造も報告 されている。しかしながら、補助刺激分子に関しては、CTLA-4 の構造が NMR に より解析されているだけである(Metz1er ら,1997)。補助刺激分子の認識機構等 の構造を基にした知見を得るために、B7-1 の結晶構造解析を分解能 3.0Åで行 った(池水ら,2000)。構造解析の結果 B7-1 が 2 量体で存在していた為、溶液中 での B7-1 の 2 量体形成を超遠心分析(AUC)により確認した。 【序論】 B7-1 と B7-2 は、APC 上に発現している重度に糖修飾を受けているタンパク質 で免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリー(SF)に属する細胞接着分子である。 B7 分子は、Ig 可変領域(V-set)、Ig 定常領域(C-set)の 2 つの Ig 様ドメインか らなる細胞外ドメイン、細胞膜貫通領域及び細胞内領域からなるタイプ 1 型膜 蛋白質である。Human の B7-1 と B7-2 のアミノ酸配列の相同性は、約 25%と非常 に低い。しかし、異種間での同一蛋白質の相同性は約 50%であり、かなり保存 されている。これらの受容体、CD28 と CTLA-4 もまた IgSF に属する蛋白質であ り、T細胞上でジスルフィド結合よりホモ二量体を形成している。Human の CD28 と CTLA-4 のアミノ酸配列の相同性は 20%と低い。これらの受容体の場合もリガ ンド B7 分子と同様に、異種間では CD28 も CTLA-4 どちらも約 70%と良く保存さ れている。近年 CD28 類似蛋白質 ICOS が発見され(Hut1off ら,1999)、更にその リガンドの B7 類似蛋白質 LICOS(Ligand of ICOS)も同定された(Brodie ら,2000)。 しかし、トランスジェニックマウスによる分析の結果(Mande1brot ら, 2000)、 B7-1 と B7-2 のみが CD28 と CTLA-4 の機能的なリガンドであることが明らかに された。 補助刺激分子の発現は厳密に調節されている。CD28 は休止中の Human T 細胞 上に恒常的に発現しており、B7-2 は免疫反応初期に比較的速やかに APC 上に現 れる。B7-1 と CTLA-4 は、共に遅れて(約 72 時間後)現れる。B7-1 又は B7-2 と CD28 の結合により TCR のシグナルを増幅する補助刺激が発生して無反応状態に 陥るのを防ぎ、CTLA-4 との結合により強い負のシグナルを生じてT細胞の活性 化状態に終焉を迎える(Martin ら,1986; Weiss ら,1986; Harding ら,1992; Wa1unas ら,1994; Waterhouse ら,1995)。CD28 依存の補助刺激の詳細なメカニ ズムについては分かっていない。細胞表面蛋白質の分子の大きさに依存した移 動とキナーゼの局所化の関係が明らかになり、このことと受容体の燐酸化によ る シ グ ナ ル 伝 達 の 関 係 が 報 告 さ れ て い る (Vio1a ら ,1999; Wu1fing & Davis,1999)。逆に CTLA-4 は、CD28 とリガンドの結合を阻害することにより CD28 のシグナルの発生を減少させ(O1sson ら,1999)、TCR にタイロシン脱燐酸化酵素 SHP-2 を補給し、複合体の ζ鎖の脱燐酸化と RAS シグナル伝達に依って CD28 依 存シグナルの導入を阻害する(Marengere ら,1996; Lee ら,1999)。 CD28 と CTLA-4 の機能の差は明らかであるが、B7-1 と B7-2 に関しては明らか でない。Th0 から Th1 又は Th2 への分化への関与が報告された(Freeman ら,1995; Kuchroo ら,1995)が、B7-1 と B7-2 の機能は、ヘルパーT細胞の分化ではなく、 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 補助刺激のシグナルの強度決定であるという報告(Schweitzer ら,1997)もある。 B7-1 と B7-2 の機能解析に関しては、更なる研究が必要である。 【方法】 CHO 細胞を用いて細胞外ドメインのみの可溶化型(s)B7-1 を発現させ、 28%PEG400, 0.1M Na Hepes pH7.5, 0.2M Ca1cium Ch1oride の存在下で結晶化 した。B7-1 の Native 結晶のデータ測定は、Daresbury 9.6 に於いて 2.8Å分解 能まで行った。このデータを用いて分子置換法、重原子同型置換法による解析 を試みたが、どちらの方法でも解析出来なかった。そこで、SeMet 変異体 B7-1 を作成し、多波長異常分散(MAD)法により解析を試みた。SeMetB7-1 も CHO 細胞 で発現させ Native と同様の方法で精製、結晶化を行った。SeMet sB7-1 結晶を 用 い て Se 原 子 の 存 在 の 確 認 は 、 Proton-induced X-ray emission(PIXE; Garman,1999) に よ り 行 っ た 。 こ の 結 晶 を 用 い て European Synchrotron Radiation Faci1ity(ESRF) BM14 に於いてλ=0.8855, 0.9793, 0.9796Åの 3 波長を用いて 3Å分解能までのデータ収集を行った。このデータを用いて MAD 法により 3Å分解能で構造決定を行った(池水ら,2000)。解析した sB7-1 と CTLA-4 の構造を用いて、ALA 置換体の受容体に対する親和力の分析結果、静電 ポテンシャル,疎水性度等を基に結合モデルを作成した。また B7-1 は結晶学的 2 回軸を基にした 2 量体を形成している。B7-1 の 2 量体形成に関する報告がさ れていなかった為、AUC により溶液中での 2 量体形成を確かめた。B7-2 につい ても同様の実験を行ったが、B7-2 については 2 量体形成の現象をみることは出 来なかった。 【結果】 SeMet sB7-1 を endoH により糖の削除処理、His-tag を削除し、結晶化を行っ た。この結晶を用いて PIXE により結晶中の Se 原子の存在を確認した。PIXE の 結果約 60%の Met が SeMet に置換されていることが分かった。ESRF BM14 で測 定した SeMet sB7-1 結晶の格子定数は、a=b=57.3Å,c=298.9Åであり、空間群 は I4122 に属している。デー タ処理は、HKL2000 システム(Otwinowski & Minor,1997)を用いて行い、プログラム SOLVE(Terwi11iger & Berendzen, 1997) を使用して MAD 法により重原子位置の解析及び精密化・初期位相の計算を行っ た。更にプログラム SOLOMON 更に DM を用いて位相改良を行った。この電子密 度図を用いて初期モデルをグラフィックスプログラム O(Jones ら, 1991)使用 して構築した。sB7-1 の座標及び温度因子は、プログラム CNS(Brunger ら,1998) により精密化した。最終的に 1 から 200 番までモデルの構築が可能であった。 最終の R 値と Rfree は、3.0Å分解能で各々23.7%と 28.2%である。 sB7-1 モノマーは、 23*30*90Å3 の真っ直ぐに伸びた細長い構造をしている(図 2-A)。B7-1 は V-set と C1-set の 2 つの Ig ドメインから構成されており、これ らのドメインは短い linker 領域で繋がっている。B7-1 以前に構造解析された もので C1-set を含む蛋白質は、抗体,MHC,TCR のみであり、これらは抗原認識 に直接関与している。抗原認識に直接関与していない分子の中に C1-set が含ま れている例は、B7-1 が最初である。B7-1 は、V-, C-set の 2 つのドメインから 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 なる分子としては珍しく真っ直ぐに伸びた構造をしている。この真っ直ぐな構 造は、ドメイン 2(d2)が C1-set であることが影響している。蛋白質モデルの構 築は、A1a-200 まで行うことが可能であった。この残基以降は溶媒領域に向か って伸びており、A1a-200 から膜貫通領域の最初の残基である Leu-209 までは 8 残基存在している。細胞外ドメインの全体構造は、hCD2 に似ているが、2 つの Ig ドメイン間の Twist 及び Ti1t 角度が異なる(図 2-B)。 図 2.B7-1 の全体構造。(A)2 つの直交した方向からみた B7-1 のリボンモデル。 N 末端(赤)から C 末端(青)へと色を変えながら描写している。糖修飾配列を持 つアスパラギンで、糖のモデルを構築可能であった残基を黄緑色、構築できな かった(電子密度が明瞭でない)残基を暗緑色で示している。(B) B7-1,hCD2,CD4 d1d2 と IgGλの C αモ デル。各々の分子のドメイン 2 を重ね合わせて表示して いる。 B7-1 の N 末端ドメイン(a1)は、AGFCC'C"と DEB の 2 つの β-sheet からなる V-set を形成している。プログラム DALI により B7-1 d1 類似構造を持つ蛋白質 を検索したところ、human CD2 d1, CD4 d1 等が上位を占めた。B7-1 d1, hCD2 d1, 抗体 IgG1λl ight chain の V-set ドメインを重ね合わせて比較した(図 3-A)。 この時の Cα位 置の r.m.s.d.は、B7-1 d1 と hCD2 d1 又は IgG1λの間で、各々 1.1Å(89 アミノ酸残基)と 1.3Å(81 アミノ酸残基)であった。B7-1 d1 と hCD2 d1 間の構造的に共通している点で抗体と異なる点は、AGFCC'C" sheet の全体 のねじれが比較的少ないことである。抗体では、重鎖と軽鎖の AGFCC'C" sheet によりβ-バレル構造をとる。 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 図 3. 各ドメインの比較。(A)N 末端 V-set Ig ドメインの比較。(B)C 末端 C-set Ig ドメインの比較。B7-1 と IgG1 λの D 鎖、及び hCD2 の α鎖を強調している。 図 4.ドメイン間の相互作用。 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 d2 は、d1 と比較して細胞接着分子よりも抗体や MHC の β2m に似ている(図 3-B)。B7-1 d2 の β- サンドウィッチ構造は、DEBA sheet と GFC sheet からな る典型的な C1-set である(Williams & Barc1ay, 1988)。これに対して CD2 d2 は、 EBA と GFCC'の 2 の β-sheet からなる C2-set を形成している。プログラム DALI による類似構造の検索の結果、上位 6 位までを C1-set のものが占めた。hCD2 d2, 抗体の定常領域の B7-1 d2 への重ねあわせの結果、等価な Ca 位置数は 64 と 80 で、r.m.s.d.は各々1.5Åと 1.4Åであった。この構造の差は、d2 の端にあるβ 鎖(C'又は D 鎖)の位置と長さに現れ、CD2 d2(C2-set)の場合短い C'D 鎖を持ち、 抗体の場合長い DE 鎖を持つ。 B7-1 と hCD2 の linker 領域は、長さが等しく主鎖の構造が似ている。 しかし、 アミノ酸配列は Pro-111 と I1e-113(B7-1 の残基番号)だけが両方に保存されて いる。d2 の重ね合わせをした時の hCD2 d1 は、B7-1 と比べて分子の長軸を中 心に 100°回転させ、その後回転させた軸から 20°傾けた位置にある。この回 転と傾きは、B7-1 の A1a-106(hCD2 の G1u-104)の場所で起こっている。少ない 傾き角と d2 のより長い DE β鎖の為、B7-1 の埋もれた表面の面積は 670Å2 とな り hCD2 の 590Å2 と比べてやや大きくなっている。このドメイン間の埋もれた 領域は、Va1-8, Pro-74, Ala-106, Pro-134, Leu-162 からなる疎水性領域を形 成している。更に Ser-75 と G1u-162, Arg-73 が Pro-159 と G1u-160 と水素結合 を形成し、分子の直線的に伸びた構造を安定化している(図 4)。 B7 ファミリーの一次構造比較の結果、B7-1 特有の特徴は、B7 が新規の IgSF の subset であることを示している。human 及び mouse の B7-1 と B7-2,chicken CD80-1ike 蛋 白 質 (chCD80L), human mye1in/o1igodendrocyte(hMOG), human mi1k-fat g1obu1e membrane protein butyrophi1in(hbut), chicken MHC 分子 BG 抗原(chBG)の一次構造比較を図 5 に示す。最も大きな B7 ファミリーにアミ ノ酸配列が特異的に保存されている領域は、d2 の DE ループある。この領域は、 ドメイン間のサブセット保存されている疎水コア(Va1-8,A1a-106, Pro-134, Leu-163)に添って在り、重要なドメイン間の静電的な相互作用に関与している。 このことから、全 B7 ファミリーの d2 が C1-set に属し、全体構造が似ているこ とが予測される。 アラニン変異体を用いた実験(Peach ら,1995)は、Leu-25,Arg-29,Tyr-31, G1n-33,Met-38,Val-39,I1e-49,Trp-50,Tyr-53,Asp60,I1e-67, Lys-86, Leu-163 の変異体が結合能を 90%以上失うことを明らかにした。これらの中で、 Leu-25,Val-39,I1e-49,Tyr-53, I1e-67, Leu-163 は疎水領域の核を形成してい るアミノ酸残基である。これらを除いた変異体では、Asp-60 と Lys-86 以外の 残基が続いた B7-1 のリガンド組合部位と思われる AFGCC'C" sheet 上に L 型の クラスターを形成している(図 6-A)。Asp-60 は DEB sheet 上に位置しリガンド との認識には関与しないと思われる。Lys-86 も AFGCC'C"平面ではなく FG 1oop に位置し、BC1oop 上の G1u-24 と結合し FG 1oop の構造の安定化に寄与してい ると思われる。この L 型バッチ周辺全てのアミノ酸の置換が行われた分けでは ないが、受容体との結合に関与する領域は、このパッチよりは大きいと思われ る。G1n-33 は、human と mouse の B7-1 と B7-2 の全てに保存されている。また Tyr-31 の位置にはこれらの全てに芳香族アミノ酸残基があり、Met-38 の位置に 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 図 5.B7 ファミリーと hCD2 d2 と IgG1λのアミノ酸配列の比較。 B7-1 d1 と hCD2 d1, B7-1 d2 と IgG1 λの 構造上等価なアミノ酸は黄色のバーで、開いた青色のバーと閉じた街角のバー は、各々 αヘリックスと β鎖を示している。内部に埋もれているアミノ酸は、赤色のバーで表示している。B7 ファミリーに 特徴的に保存されているアミノ酸はオレンジ色背景白抜き文字で、IgSF の V-set 又は C1-set に特徴的な配列は青色背景白 抜き文字で示している。 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 図 6.B7-1 と CTLA-4 の結合面。B7-1(A)と CTLA-4(D)のアラニン置換体分析。 アラニン置換体が結合能を native の 90%以上失うアミノ酸残基を紫色、結合に 影響を与えないアミノ酸残基を水色、糖の修飾部位は緑色で表示している。(B) と(E)は、各々B7-1 d1 と CTLA-4 の静電ポテンシァルの表示で、正の電荷を青 色、負の電荷を赤色、で示している。(C)と(F)は、B7-1 d1 と CTLA-4 の疎水 性度の表示である。疎水性領域を黄色で表示している。 G1u-162 の主鎖の O と、また Asp-158 0D1 は G1u-160 N と Thr-161 N, Asp-1580 D2 は Thr-161 0G1 と水素結合を形成している。G1u-162 0E1 は、Ser-75 N と Ser-75 0G と水素結合を形成している。これらの相互作用は DE 1oop の構造の安定化、 及びドメイン間ネットワークを経て D1 の構造の安定化に関与している様に思 われる。B7-1/CTLA-4 結合モデルの作成の試みにより、CTLA-4 が B7-1 d1 の L 型パッチと d2 の DE 1oop の両方同時に結合出来ないことが分かった。CTLA-4 が B7-1 d2 の DE 1oop と直接結合出来る様にしたモデルは、TCR/MHC 複合体の 形成時の細胞間距離(∼150Å)よりも短い(∼110Å)。これらのことを総合的に 判断すると B7-1 d1 の AGFCC'C" sheet が受容体結合部位と思われる。 この B7-1 の AGFCC'C"面は、hCD2 のこの結合面と比べて電荷を帯びたアミノ 酸が少なく、疎水性のアミノ酸が多い。二つのアミノ酸 Met-38 と Trp-50 は、 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 リガンドとの結合の必須であり、AGFCC'C"平面上に疎水性パッチを形成してい る。相補的に CD28 と CTLA-4 の FG 1oop に保存されている疎水的な MYPPPY 配列 が B7-1 と B7-2 に対する結合に必須である。 アラニン変異体分析、分子表面の荷電、分子表面の疎水性度を基に B7-1 と CTLA-4 の結合モデルを作成した(図 7)。この結合モデルは、Protein 0 の結晶 構造(Shapiro ら、1996)中に見られた逆平行ホモ二量体と似ている。このモデ ルの埋もれた領域は約 800Å2/分子である。このモデルでは CTLA-4 のねじれた C'C" 1oop は、B7-1 の長い FG 1oop と広い接触領域を形成する。アミノ酸配列 から human 及び mouse の B7-1, B7-2 は全て長い FG 1oop を持つことが予想され る。 図 7.B7-1 d1/CTLA-4 の複合体モデル。右図は左図の右方向から見たものであ る。 sB7-1 の結晶中のパッキングで注目すべきものは、結晶学的 2 回軸を基に形 成されている二量体(図 8-A)であり、各々の分子の 610Å2 が二量体の接触に関 与している。この二量体はコンパクトなもので、全体の形と大きさは抗体の Fab フラグメントと似ている。しかしながら、d1 の相互作用においてこの二量体が Fab'と異なる点は、Fab'が AGFCC'C"面で二量体を形成するが、B7-1 は B,C",D,E 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 図 8.B7-1 二量体。(A)アラニン置換体が結合能を native の 90%以上失うアミ ノ酸残基を紫色、結合に影響を与えないアミノ酸残基を水色、糖の修飾部位は 緑色で表示している。右の図は、左の図を Y 軸周りに 90°回転させたものであ る。(B)A-右図と同じ方向から見た図で、手前の分子を取り除いたものである。 二量体形成に関与しているドメイン 1 のアミノ酸残基と ASP115(下部)を赤色で 示す。ASP115 の側鎖は、結晶学的 2 回軸方向に伸びており、2 回軸上の原子を 介して相互作用している。 図 9.糖のモデルを付加した B7-1 二量体の直交図。受容体結合面は、糖の修飾 を受けても影響が無い(右図)。 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 図 10.B7-1 及び B7-2 の超遠心分析。(A)4℃(●)及び 20℃(○)における B7-1 の超遠心分析。B7-1 の濃度に依存した分子量の増加が見られる。(B)37℃にお ける B7-1 の超遠心分析・生体温度においても B7-1 の濃度依存の分子量変化が、 低濃度領域から見られる。(C)B7-2 の 20℃(○)及び 37℃(●)での超遠心分析の 結果。B7-2 においては、濃度依存の分子量変化が見られない。 β- 鎖が二量体形成に関与していることと、B7-1 の二量体では d2 の接触がない ことである。この d1 による二量体形成は、主に疎水性残基(Va1-11,Va1-22, G1y-45,Met-47,I1e-58,Asp-60,I1e-61,Thr-62 と Leu-70)により構成されてお り(図 8-B)、AGFCC'C"面はリガンド結合が可能な状態である。これらの分子は 二回軸から 4°ずつ傾き、C 末端の Sta1k 領域が隣の分子と隣接するように配置 している。sB7-1 上の糖修飾位置全てに糖を修飾したモデルを作成した(図 9)。 このモデルは、糠が二量体形成及びリガンド結合にも影響を与えないことを示 している。 B7-1 の二量体形成は過去に報告が無かった為、AUC により溶液中の二量体形 成を 4℃,20℃,37℃で確かめた(図 10-A,B)。AUC の結果は、Kd20∼50 μM での SB7-1 の溶液中の二量体形成を示唆する。より高い濃度では、sB7-1 のアグリケ ーションが確認された。これらの効果は可逆的で、サンプルの沈降速度分析は 単量体と二量体の存在を見分けることが出来なかった。このことは単量体と二 量体の変換が 10-2・S-1 よりも早いことを示している。AUC の結果から導かれた Kd は、4℃で 44 μM,20℃で 33 μM,37℃で 17 μM ある。この温度に依存した Kd 値の変化は、結晶中の二量体が疎水的に接触している為である。同様な実験を B7-2 についても行ったが、二量体形成は見られなかった(図 10-C)。 【考察】 B7-1 と hCD2 の最も大きな違いは、d2 のトポロジーである。B7-1d2 は C1-set に属し、以前に報告された蛋白質でこの構造を持つものは、抗体、TCR,MHC 等 の直接抗原抗体反応に関与する蛋白質のみである。プログラム ALIGN(Dayhoff ら,1983)を用いた解析の結果、human 及び mouse の B7-1 d2 と C1-set のアミノ 酸配列比較で C2-set のアミノ酸配列と比べて高いスコアー(5.4±O.6 vs 2.8 ±2.O)が得られた。この結果は、アミノ酸配列からも B7-1 d2 は C1-set である 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 図 11。免疫グロブリン定常領域の進化の関係。 ことを示す。しかしながら、典型的な C1-set どうしのアミノ酸配列のもの(8.5 ±2.7)と比較すると B7-1 d2 のスコアーは低い。この結果は、B7-1 類似蛋白質 が抗体、MHC,TCR 等よりも早い時期に出現していた可能性を示唆している(図 11)。B7-1 と B7-2 は、明らかに類似蛋白質であるがアミノ酸配列の類似度は低 い(25%)。human と mouse の B7-2 d2 アミノ酸配列の一致度は、C1-set(2.3±0.9) と C2-set(2.2±1.1)のどちらとも低い。このことは、B7-2 は B7-1 より更に原 始的である可能性を示している(図 11)。これらの結果と B7-1 と CD2 の V-set ドメインの類似性をあわせて考えると C1-set を持った分子は細胞接着分子か ら進化したことが予想される(図 11)。獲得免疫系で必須あり AGFCC'C" β-sheet でヘテロ二量体を形成することによって特徴づけられている抗体は、IgSF より も後に出現したと思われる。B7-1 d2 と C1-set を持つ MHC β2-microg1obu1in 間の類似性は、Bajorath ら(1994)により予測され、B7 類似蛋白質と MHC の遺伝 子的つながりについても報告された(Henry ら、1997)。sB7-1 と sCD2 は全体の 大きさ似ているが、B7-1 d2 に対して d1 の少ない傾き角は、分子の長軸に対し て B7-1 のリガンド結合面 AGFCC'C"が垂直に位置する。CD2 の場合は、分子の長 軸に対してリガンド結合面は B7-1 に比べてかなり上の方を向いている(Jones ら、1992; Bodian ら、1994)。これらの違いは、蛋白質の発現する順番に関連 しているのかもしれない。分子上部でのリガンド結合面の露出は、CD2 と LFA-3 によるT細胞と APC の初期の接触を確立するのに必要なのかもしれない。B7-1 はこの接触領域が形成されてから発現される、しかしながら、CD2 と LFA-3 に よりT細胞と APC が接触している間は、細胞間は B7-1,TCR とそれらの受容体と が複合体を形成するのに適した距離(150 人)に保たれている。B7-1 d1 の非結合 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 DEB 面を介した疎水性相互作用の結果、B7-1 は平行でコンパクトな二量体を形 成している。CD2 による B7-1 の様な二量体形成は、分子の長軸に対する d1 の 42°の傾き角の為に不可能である。 機能的に異なる相互作用が sB7-1 と sCD2 の結晶中の分子間接触に見ることが 出来る。sCD2 は結晶中で head-to-head 配置をしている(Jones ら、1992; Bodian ら、1994)。この結果と CD2 のリガンドで CD2 類似蛋白質 LFA-3 の解析結果(池 水ら、1999)から、CD2/LFA-3 複合体の結合様式を予測することが出来た(Davis ら、1998; 池水ら、1999)。このモデルは、後に解析された複合体結晶構造(Wang ら、1999)と同一であった。これと対比して、sB7-1 の結晶中の接触は非リガン ド結合面で行われ、二価のホモ二量体を形成している。簡単なモデルを用いた 図 12.T 細胞-APC 間での B7-1 と CTLA-4 による2種類の結合モデル。 研究で、溶液中の親和性が 15-75μM の細胞表面蛋白質は細胞接触領域で自発的 に相互作用するという報告がある(Dustin ら、1996&1997)。sB7-1 二量体形成時 の Ka20-50μM と単量体-二量体の早い置換から、細胞表面で二量体状態で平衡 に達し結晶中で見られた様なホモ二量体で存在していると思われる。sta1k 領 域でジスルフィドによってホモ二量体を形成している CTLA-4 と B7-1 二量体に よる細胞間での多価の複合体形成は、二通り考えられる(図 12)。モデル 1 は、 CTLA-4 ホモ二量体が B7-1 二量体を挟む様に 2:2 の複合体を形成するものであ る(図 12-A)。モデル 2 は、CTLA-4 の各々モノマーが異なる B7-1 二量体に結合 しジッパー形式の複合体を形成するものである(図 12-B)。複合体モデル 1 は結 合時に、CTLA-4 の Ig ドメインが大きく動く必要があることと、細胞間の距離 が最大で 135Åにしかならず MHC・TCR の 150Åと比べてやや短い。複合体モデ ル 2 は、細胞間の距離が 150A になり、複合体形成には CTLA-4 と B7-1 の局所化 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 だけで十分である。局所的に強いシグナルを与えるにはこのモデル 2 の方が好 ましい。 休止T細胞上では CTLA-4 は発現していない。活性化された細胞でも細胞表面 での CTLA-4 の発現は低く保たれている(Lins1ey ら、1992)。CTLA-4 は小胞内に も貯えられており(Leung ら、1995)、活性化T細胞と APC の接触面に直接放出 される(Lins1ey ら、1996)。これは、免疫学的シナプスの centra1 supramo1ecu1ar activation c1uster(cSMAC:Monks ら、1998; Grakoi ら、1999)の中への放出で あり、CTLA-4 の阻害作用の鍵となる。B7-1 の溶液中の CTLA-4 に対する親和性 は、O.2-O.4 μM であり、細胞表面の分子による結合の中で最も高く(Davis ら、 1998)、B7-1/CD28(4 μM;van der Merwe ら、1997)に比べて少なくとも 10 倍は 高く、B7-2/CD28(15 μM)に比べて 40-100 倍高い。上記に示した B7-1/CTLA-4 複合体モデル 2 は、cSMAC 領域での細胞間接着に安定性を与える。B7-1/CD28 結合が補助刺激を与えるのは明らかであるが、構造学的考察と B7-1 と CTLA-4 の発現の時期を合わせて考えると、B7-1 の主な機能は免疫反応後期での CTLA-4 と複合体を形成した結果起こる安定性したシグナルの発生であると思われる。 CTLA-4 によるシグナルの増加の結果、T細胞の活性化は終焉を迎える。 【おわりに】 最近になりマウス(m)の CTLA-4 の結晶構造が 2.OÅ分解能で解析された (Ostrov ら、2000)。mCTLA-4 の構造は、NMR により解析された hCTLA-4(Metz1er ら、1997)と大きな相違点が 2 点ある。まず C"鎖の属する β-sheet が、これら の 2 つの構造では異なっている。hCTLA-4 の報告で、C"鎖と C7 鎖間に相互作用 が見られなかったことが述べられているが、この構造では 2 つの β-鎖が隣接し ており NMR による解析に誤りがある可能性が大きい。次に、リガンド結合部位 MlYPPPY 配列の PPP の構造が、NMR では trans-trans-cis であったのに対し、高 分解能で解析された mCTLA では c1s-trans-cis であった。この領域は全ての種 で保存されていることと、CTLA-4 が異なる種の B7-1 と結合可能なことから、 全ての種の CTLA-4 のこの領域が同一の構造をしていることが予測される。 今後 これらのことを明らかにしていく為に、更なる構造学的データの蓄積が必要と される。また、B7-1 又は B7-2 と受容体の複合体結晶の構造解析により、これ らの分子の認識様式が明らかにされると思われる。 本研究は、David I. Stuart 教授、 及び E.Yvonne Jones 教授の指導の下に Simon J.Davis 博士との共同研究で行われた。超遠心分析は、Robert J. C. Gi1bert 博士によって行われた。データの測定においては、ESRFBM14 のスタッフに助け て頂いた。最後にこれらの方々に感謝致します。 [参考文献] Bajorath, J., et al. 1994 Protein Sci. 3, 2148-2150 Bodian, D.L., et al. (1994) Structure 15, 755-766 Brodie, D., et al. (2000) Curr. Biol. 10, 333-336 Brilnger, A.T., et al. (1998) Acta Crystallogr. D 54, 905-921 Davis, S.J., et al. (1998) Immunol. Rev. 163, 217-236 構造生物 Vol.7 No.1 2001 年5月発行 Dayhoff, M.O., et al. (1983) Methods Enzymol. 91, 524-545 Gao, G.F., et al. (1997) Nature 387, 630-634 Garboczi, D.N., et al. (1996) Nature 384, 134-141 Dustin, M.L., et al. (1996) J. Cell Biol. 132, 465-474 Dustin, M.L., et al. (1997) J. Biol. Chem. 272, 30889-30898 Freeman, G.J., et al. (1995) Immunity 2, 523-532 Garman, E. (1999) Structure Fold. Des. 7, R291-R299 Grakoui, A., et al. (1999) Science 285, 221-227 Larsen, C.P., et al. (1996) Nature 381, 434-438 Harding, F . A., et al. 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