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Japan tax newsletter
KPMG Tax Corporation
Japan tax newsletter
February 2008
2008 年 1 月 31 日、新日豪租税条約
(新条約)が日豪両政府により署名さ
れました。この新条約は、両国におい
てそれぞれの承認手続と外交上の公
文の交換を経て、1970 年に発効した
現行の日豪租税条約(現行条約)に代
わり、発効することになります。
An update on current issues and trends
Contents
新日豪租税条約
I.
このニュースレターでは、新条約の主
な改正点をお知らせします。文中、「一
方の締約国」及び「他方の締約国」とは、
条約の本文と同様、文脈により日本又
はオーストラリアとご理解ください。改
正条約には議定書と交換公文が付さ
れており、各条項の解説にはその条項
に関連する議定書および交換公文の
II.
規定にも適宜触れています。
***
各条項の主な改正点
1. 対象税目
2. 恒久的施設
3. 不動産所得
4. 特殊関連企業
5. 配当
6. 利子
7. 使用料
8. 譲渡所得
9. 匿名組合
10. その他の所得
租税回避防止規定
1. 特典制限(LOB)
2. 導管取引防止規定/主要目的テスト規定
日本の租税条約ポリシーは、2004 年
III. その他
3 月に発効した新日米租税条約(日米
1. 両国間で課税上の取扱いが異なる事業体(ハイブリッド・エンティ
条約)を契機に大きく転換されました。
ティ)に関する規定
投資所得に対する源泉地国における
2. 発効
税率を大きく軽減するとともに、租税回
避を防止するための規定(特典制限条
項等)が設けれ、さらに両国間で課税
上の取扱いが異なる事業体に係る規定が盛り込まれました。その後、2006 年
10 月に発効した新日英租税条約(日英条約)や、2007 年 12 月に発効した新
日仏租税条約(日仏条約)も、同様の租税条約ポリシーに基づいて作成されて
います。
今回署名された新条約も、日米条約で採用された新しい日本の租税条約ポリ
シーを踏襲したものとなっています。また、オーストラリアの天然資源を念頭に
入れた規定(対象税目、恒久的施設、不動産所得)や、他の 3 つの条約に比べ
源泉地国の課税権を手厚くする規定(使用料、その他所得)など、新条約独自
のものも盛り込まれています。
Japan tax newsletter/February 2008
-1-
I. 各条項の主な改正点
1. 対象税目(第 2 条)
対象となる税目は、以下のように改正になりました。
現行条約
新条約
日本
所得税
法人税
所得税
法人税
オーストラリア
連邦所得税
所得税
石油資源使用税
•
新条約の対象となる税目に、オーストラリアの石油資源使用税が加わりま
した。
•
さらに、日本における外国税額控除に関する規定の適用上、オーストラリ
アの所得税及び石油資源使用税は、所得に対して課される租税として取
扱われることが明確にされました。
Observations:
-
オーストラリアが最近締結した租税条約の対象税目には「石油資源使用
税」が加えられており、新条約もその流れに沿っています。
2. 恒久的施設(第 5 条)
恒久的施設の範囲について、次のような改正が行われました。
(1)
建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事が恒久的施設を構成する
ものとされるのは、現行条約ではその存続期間が 6 箇月超の場合とされ
ていますが、新条約ではその存続期間が 12 箇月超の場合とされました。
(2)
また、一方の締約国の企業が以下に掲げるいずれかの活動を他方の締
約国内で行う場合には、その活動はその企業が他方の締約国内に有す
る恒久的施設を通じて行われるものとされるように改正されました。
(a) 建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事に関連する監督活動
又はコンサルタント活動で、12 箇月を超える期間継続するもの
(b) 天然資源を探査し、又は開発する活動(大規模設備の運用を含む。)
であって、いずれかの 12 箇月の期間において合計 90 日を超える
期間行われるもの
(c) 大規模設備の運用((b)に該当するものを除く。)であって、いずれか
の 12 箇月の期間において合計 183 日を超える期間行われるもの
設備の提供のみを目的とする賃貸借契約(裸用船(機)契約を含みま
す。)に基づいて設備を賃貸する場合には、「設備を運用」するものとはさ
れません。
Japan tax newsletter/February 2008
-2-
「大規模設備」とは、たとえば、道路、ダム又は発電所の建設に使用され
る産業用の土木工事設備、工場において使用される製造設備、石油又
は鉱石の採掘に使用される掘削設備等が含まれます。
(3)
上記(1)および(2)の期間の判定については、ある企業の一方の締約国内
における活動期間に、その企業の関連企業が関連する活動をその締約
国内において行っている場合におけるその関連企業の行う活動の期間を
合計したところで決定すべきものとされました。
Observations:
-
天然資源を主要な産業のひとつとするオーストラリア特有の規定が盛り
込まれました。天然資源産業に携わる日本企業は、オーストラリアにお
ける活動を新条約に照らして検討する必要があります。
3. 不動産所得(第 6 条)
現行条約には不動産所得条項が規定されていませんが、新条約では不動産
所得条項が設けられました。
•
一般的な不動産所得条項と同様、新条約の不動産所得条項においても、
不動産から取得する所得に対して不動産所在地国の課税権を認めること
としています。
•
「不動産」には、「鉱山、油田、ガス田、採石場その他の天然資源を採取し、
若しくは開発する場所の開発若しくはこれらの場所を探査し、若しくは開
発する権利の対価として支払金又はこれらの開発若しくは権利に関する
支払金を受領する権利」を含むものとされました。
Observations:
-
第 5 条(恒久的施設)の規定と同様、天然資源を主要な産業のひとつと
するオーストラリア特有の規定が盛り込まれました。
4. 特殊関連企業(第 9 条)
特殊関連企業条項については、以下のような改正がなされています。
•
一方の締約国により移転価格課税が行われた場合に、二重課税を避ける
ため、相互協議の合意に基づき、他方の締約国が行う対応的調整に係る
規定が設けられました。
•
課税年度の終了時から 7 年以内に調査を開始しない場合には、税務当
局が移転価格課税を行えないとする規定が設けられました。
•
交換公文において、両締約国は、OECD 移転価格ガイドラインに従って、
企業の移転価格の調査を行い、事前価格取決めの申請を審査することが
了解されています。また、各締約国における移転価格課税に係る規則(算
定方法を含む。)は、OECD 移転価格ガイドラインと整合的である限りにお
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いて、条約に基づく移転価格課税事案の解決に適用することができるとし
ています。
Observations:
-
対応的調整の規定は、OECD モデル条約に定められており、日本の最
近の条約にも含まれています。
-
税務調査の期間制限の規定は、長期間を経過した後に移転価格の更
正処分が行われる場合の納税者の負担に配慮して、日米条約や日英
条約でも採用されています。日本の国内法上、移転価格課税のための
更正の期間制限は、納税者に仮装・隠蔽等がない限り、法定申告期限
から 6 年間とされており、この条約の規定により 7 年に延長されること
はありません。
5. 配当 (第 10 条)
配当に係る租税条約による軽減税率は、以下のようにさらに軽減されます。た
だし、これらの軽減税率を適用するには下記の要件に加えて、導管取引防止
規定/主要目的テスト規定をクリアーする必要があります。詳しくは、「II. 租税回
避防止規定 2. 導管取引防止規定/主要目的テスト規定」をご参照ください。
現行条約
受益者
新条約
軽減税率
受益者
親子間配当
軽減税率
配当支払い法人の議決権株式の
80%以上を 12 箇月以上(*1)直接
に所有する法人
0%
かつ
受益者が次のいずれかに該当す
る場合:
すべての受益者
15%
(a) 一定の公開会社(*2)である。
(b) 5 以下の一定の公開会社に
その議決権及び価値の 50%
以上を直接又は間接に保有さ
れている。
(c) 配当について、権限のある当
局の認定(*3)を受けている。
一般配当
(*1)
配当支払い法人の議決権株式の
10%以上を直接に所有する法人
5%
上記以外
10%
この規定の 12 箇月所有要件を満たすためには、配当の受益者である法
人は、その配当の支払を受ける者が特定される日をその末日とする 12
箇月の期間を通じ、配当を支払う法人の議決権のある株式を所有するこ
とが必要です。配当の支払を受ける者が特定される日は、日本について
は「利得の分配に係る会計期間の終了の日」、オーストラリアについては
「配当に関する宣言が行われる日」とされます。
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(*2)
「一定の公開会社」については、「II.租税回避防止規定 1.特典制限
A.適格者 (c) 一定の公開会社」 をご参照ください。
(*3)
「権限のある当局の認定」については、「II.租税回避防止規定 1.特典制
限 C. 権限のある当局の認定」 をご参照ください。
•
日本における課税所得の計算上、受益者に対して支払う配当を控除する
ことができる法人(投資法人(いわゆる REIT)、特定目的会社等)によって、
オーストラリアの居住者へ支払われる配当については、次の各区分に応
じた税率が適用されます。
•
-
日本法人の有する資産のうち日本国内に存在する不動産により直接
又は間接に構成される部分が 50%を超える場合・・・15%
-
その他のすべての場合・・・10%
オーストラリア不動産投資信託から日本の居住者へ支払われる分配金に
ついては、15%の税率が上限とされます。ただし、その分配前 12 箇月の
期間のいずれかの時点において元本の 10%以上を直接又は間接に所
有する場合は新条約の適用はありません。
Observations:
-
免税規定が適用される受益者の株式所有要件は、日米条約(50%超を
直接又は間接に 12 箇月以上所有)や日英条約(50%以上を直接又は
間接に 6 箇月以上所有)と比較して、厳しいものとなっています。さらに、
免税規定が適用される要件として、受益者が一定の公開会社または公
開会社の子会社であることが求められており、最近締結した条約と比較
して、免税を認める配当の範囲は限定的なものとなっています。
-
年金基金が受益者である場合の規定は、日米条約や日英条約、日仏条
約には設けられていますが、新条約では特段設けられませんでした。
6. 利 子 (第 11 条)
利子に係る租税条約による軽減税率は、以下のようになります。ただし、これら
の軽減税率を適用するには下記の要件に加えて、特典制限条項の要件(免税
の場合のみ)、および導管取引防止規定/主要目的テスト規定をクリアーする必
要があります。詳しくは、「II. 租税回避防止規定 1. 特典制限、および 2. 導管
取引防止規定/主要目的テスト規定」をご参照ください。
現行条約
受益者
すべての受益者
新条約
軽減税率
10%
受益者
軽減税率
- 締約国政府、地方公共団体、中央銀行等
- 利子の支払者と関連しない金融機関(*)であ
って、その利子の支払者と全く独立の立場
で取引を行うもの
0%
上記以外
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10%
(*)
この規定の適用上、「金融機関」とは、次のいずれかに該当するものです。
- 銀行
- 金融市場において資金を借り入れ、若しくは有利子預金を受け入れ、か
つ、これらの資金を資金の貸付けを行う事業において利用することによ
ってその利得を実質的に取得する企業
•
金融機関に支払われる利子がバックトゥバック融資に関する取決めの一
部として支払われる場合には 10%の税金が課されます。「バックトゥバッ
ク融資に関する取決め」とは、たとえば、オーストラリア法人に直接融資を
した場合にはその受取利子について免税規定の適用が受けられない日
本の事業法人が、日本の金融機関を経由してそのオーストラリア法人に
融資するような取決めが想定されています。
Observations:
-
日米条約や日英条約、日仏条約では証券会社や保険会社が免税の対
象となる受益者として明記されていたのに対し、新条約ではその記載が
ありません。
-
年金基金が受益者である場合の規定は、日米条約や日英条約、日仏条
約には設けられていますが、新条約では特段設けられませんでした。
7. 使用料 (第 12 条)
新条約においては、使用料の限度税率が 5%に引き下げられます。ただし、使
用料についても導管取引防止規定/主要目的テスト規定が盛り込まれました。
詳しくは、「II. 租税回避防止規定 2. 導管取引防止規定/主要目的テスト規定」
をご参照ください。
軽減税率
•
現行条約
新条約
10%
5%
現行条約では、産業上、商業上若しくは学術上の「設備」の使用若しくは
使用の権利の対価が使用料として取扱われていましたが、新条約では、
こうした対価は使用料の範囲から除かれました。
Observations:
-
日米条約、日英条約及び日仏条約では、両国間の投資を促進するため
に使用料の源泉地国課税を排除しましたが、新条約では、制限税率が
10%から 5%に引き下げられるにとどまりました。
-
使用料の範囲から「設備」が除かれたため、機械装置の賃貸契約や裸
用船(機)契約から生じる所得は、原則として事業所得として取扱われ源
泉所得税が課されなくなります。
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8. 譲渡所得 (第 13 条)
現行条約には譲渡所得条項が規定されていませんが、新条約には譲渡所得
条項が設けられました。ただし、この第 13 条の条約の特典を受けるためには、
特典制限条項の要件を満たす必要があります。詳しくは、「II. 租税回避防止規
定 1. 特典制限」をご参照ください。
新条約の譲渡所得条項の概要は以下のとおりです。
一方の締約国の居住者が以下のものの譲渡により取得する収益
他方の締約国における課税の有無
他方の締約国にある不動産
有
他方の締約国にある不動産を保有する法人の株式
有
(不動産関連株式の譲渡)
他方の締約国の居住者である法人の株式
(事業譲渡類似株式の譲渡(25%/5%要件)に該当する譲渡)
•
有
(一方の締約国において租税が
課されない場合に限る)
他方の締約国内に有する恒久的施設の事業用資産を構成する財産
有
上記以外
無
不動産関連株式の譲渡所得:
一方の締約国の居住者が、その資産の価値の 50%以上が他方の締約
国にある不動産により直接又は間接に構成される法人の株式の譲渡によ
り取得する収益に対しては、他方の締約国において租税を課することがで
きることとされました。組合、信託財産その他の団体の持分も同様に取扱
われます。
•
事業譲渡類似株式の譲渡所得:
一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の発行した
株式の譲渡によって取得する収益は、25%/5%要件に該当し、かつ、そ
の一方の締約国において租税が課されないものに限り、他方の締約国に
おいて租税を課すことができます。
-
25%要件 – 譲渡者が保有する株式(その譲渡者の特殊関係者が保
有する株式を含みます。)の数が、その譲渡が行われた課税年度の
いずれかの時点において、その法人の発行済株式の総数の 25%以
上であること。
-
5%要件 – 譲渡者及びその特殊関係者がその譲渡が行われた課税
年度中に譲渡した株式の総数が、その法人の発行済株式の総数の
5%以上であること。
-
「一方の締約国(居住地国)において租税が課されるもの」 –法人の組
織再編において株式の譲渡から生ずる収益に対し一方の締約国の
法令により課税の繰延べが認められる場合(その繰延べの対象とな
った収益の全部又は一部に相当する収益が、将来行われる譲渡又
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は組織再編成により免税となる場合を除きます。)には、上記要件に
おける「一方の締約国において租税が課されるもの」に該当するもの
として取扱われます。
Observations:
-
2005 年度税制改正により、日本の国内法上も、不動産関連法人(そ
の有する資産の価額の総額のうちに日本の不動産等の価額の占める
割合が 50%以上である法人)の株式を外国投資家が譲渡した場合に
生じる譲渡益を課税することとなりました。 これは、新条約と同様の規
定です。しかし、日本の国内法上、小口投資家に対する課税除外規定
(外国投資家の保有する株式が一定以下(上場株式については 5%以
下、非上場株式については 2%以下)に該当する場合には、課税しな
いという規定。判定は、外国投資家と特殊関係がある株主の持分を含
めて行われます。)の適用がある場合には、オーストラリア投資家が不
動産関連株式を譲渡しても、日本国内に恒久的施設を有しない限り、
その譲渡益について日本で課税されることはありません。
-
新条約は、日英条約及び日仏条約とほぼ同様の規定振りとなっていま
す。
9. 匿名組合(TK) (第 20 条)
新条約には新しく匿名組合条項が設けられ、匿名組合契約その他これに類す
る契約に関連して匿名組合員が取得する所得、利得又は収益に対して、源泉
地国においてその国の法令に従い租税を課す権利を認めています。
Observations:
-
オーストラリアの匿名組合員が日本において事業を行う者との匿名組
合契約に基づき受ける利益の分配は、現行条約の下においても、日本
の国内法により、20%の源泉所得税が課されています。
-
これと同様の規定は、日米条約、日英条約及び日仏条約にも設けられ
ています。
10. その他の所得 (第 21 条)
現行条約には、その他の所得条項はありませんでしたが、新条約では新たに
設けられました。その他の所得(不動産所得、事業所得、配当所得、利子所得
などの個別の規定に該当しない所得)については、源泉地国での課税権を認
めています。
Observations:
-
日米条約、日英条約及び日仏条約は、受益者の居住地国のみに課税権
を認めていますが、新条約では源泉地国の課税権も認めています。
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II. 租税回避防止規定
1. 特典制限(第 23 条)
新条約には、特典制限条項が設けられました。一方の締約国の居住者が以下
の条項に基づく特典を受けようとする場合には、その居住者は特典制限条項
の要件を満たさなければなりません。
•
•
•
•
第 7 条 (事業所得)
第 10 条第 3 項 (配当 - 免税規定)
第 11 条第 3 項 (利子 - 免税規定)
第 13 条 (譲渡所得)
以下の説明において、上記の所得を「特典制限条項対象所得」とします。なお、
配当の減免規定に関する要件だけはより厳しい、特殊なものになっております
ので、この内容については配当所得(「I. 各条項の主な改正点 5. 配当」)にまと
めてあります。そちらをご参照ください。
特典制限条項の流れは、以下のようになります。
No
A. 適格者に該当しますか?
Yes
特典制限条項対
象所得の各条項
Yes
特典を受ける
権利有り
に規定されている
No
B. 能動的事業活動基準を
満たしていますか?
C. 権限のある当局の認定を
受けていますか?
No
要件を満たしてい
Yes
ますか?
Yes
特典を受ける
権利無し
No
A. 適格者
一方の締約国の居住者が次のいずれかに該当する場合には、その居住者は
その各課税年度において適格者とされます。
(a)
個人
(b) 適格政府機関
(c)
一定の公開会社 (その主たる種類の株式がオーストラリア又は日本の公
認の有価証券市場に上場され又は登録され、かつ、一又は二以上の公認
の有価証券市場において通常取引されるもの。二元上場法人に関する取
決め(二つの上場法人が、それぞれ独立した法人としての地位、株主の構
成及び株式の上場を維持しながら、両法人の経営方針及びそれぞれの
株主の経済的利益を統合する取決め)に参加する法人を含みます。)
(d) 一定の公開事業体
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(e) 年金基金 (その課税年度の直前の課税年度終了の日において、その受
益者等の 50%を超えるものがいずれかの締約国の居住者である個人で
ある年金基金に限る)
(f)
一定の公益団体
(g) 個人以外の者で、(a)から(f)までの適格者であるいずれかの締約国の居住
者により、株式の議決権及び価値の 50%以上又は受益に関する持分の
50%以上を直接又は間接に所有されるもの
(留意事項) (g)における所有期間要件
(g)の適用上、以下の期間において所有要件を満たしているときに、その支
払が行われる課税年度においてその所有要件を満たすものとされます。
(i) 源泉徴収による課税については、その所得の支払が行われる日(配
当については、その配当の支払を受ける者が特定される日)に先立
つ 12 箇月の期間
(ii) その他のすべての場合については、その所得の支払が行われる課
税年度の総日数の半数以上の日
B. 能動的事業活動基準
一方の締約国の居住者が以下のすべての要件を満たす場合には、能動的事
業活動基準を満たすことになります。
(i)
その居住者が、居住地国において事業を行っていること。(銀行、保険会
社又は証券会社が行う銀行業、保険業又は証券業を除き、事業は自己の
勘定のために投資を行い又は管理するものでないことが必要です。)
(ii) その特典制限条項対象所得が、その事業に関連し又は付随して取得され
るものであること。
(iii) その居住者が居住地国において行う事業が、その居住者又は特殊関連者
が他方の締約国内において行う事業との関係において、実質的なもので
あること(この要件は、その居住者が他方の締約国内において行う事業か
ら所得を取得する場合又は特殊関連者から他方の締約国内において生ず
る所得を取得する場合にのみ、求められます。) 。
C. 権限のある当局の認定
一方の締約国の居住者は、他方の締約国の権限のある当局が、その締約国
の法令又は行政上の慣行により、その居住者の設立、取得又は維持及びその
業務の遂行がこれらの規定により認められる特典を受けることをその主たる目
的の一つとするものでないと認定するときは、特典制限条項対象所得について
特典を受けることができます。
Observations:
-
条約締約国の真の居住者に対してのみ特典を与えることが、特典制限
条項の趣旨であり、新条約は、日米条約、日英条約及び日仏条約に続
き、日本にとって包括的な特典制限条項を設けた 4 つ目の租税条約と
なります。
-
日英条約、日仏条約と同様、特典制限条項の適用を受ける所得が限定
Japan tax newsletter/February 2008
- 10 -
され、新条約では第 7 条 (事業所得)、第 10 条第 3 項 (配当 - 免税規
定)、第 11 条第 3 項 (利子 - 免税規定)及び第 13 条 (譲渡所得)のみと
されています。従って、たとえば、配当に対する 5%又は 10%の軽減税
率や利子に対する 10%の軽減税率の特典を受ける場合には、特典制
限条項の規定を考慮する必要はありません。
-
EU 諸国との条約に特徴的な派生的受益基準は、日米条約同様、新条
約には設けられませんでした。
2. 導管取引防止規定/主要目的テスト規定
(第 10 条、第 11 条、第 12 条)
新条約の第 10 条(配当)、第 11 条(利子) 及び第 12 条(使用料)の各条項に
は、導管取引防止規定及び主要目的テスト規定が設けられました。
導管取引防止規定
導管取引防止規定は、一方の締約国の居住者が他方の締約国で生じた所得
を受け取る場合に、その取引が導管取引と認められる場合には、条約の特典
を与えないとする規定です。導管取引とは、日豪いずれの居住者でもなく新条
約により認められる特典と同等以上の特典を受ける権利を有しない者が、日豪
いずれか一方の居住者から所得の支払を受けないとしたならば、その一方の
締約国の居住者が他方の締約国の居住者から所得の支払を受けなかったで
あろうと認められる取引とされています。
主要目的テスト規定
主要目的テスト規定とは、
(i) 配当 ・ 利子 ・ 使用料の割当て、
(ii) 配当の支払の基因となる株式その他の権利 ・ 利子の支払の基因となる債
権その他の権利 ・ 使用料の基因となる財産又は権利 の設定又は移転、又
は、
(iii) 受益者である法人の設立、取得若しくは維持若しくはその業務の遂行
に関与した者が、条約の特典を受けることをその主たる目的の全部又は一部と
する場合には、条約の特典を与えないことを定めた規定です。
Observations:
-
日本の租税条約に導管取引防止規定が設けられたのは、日米条約、日
英条約、日仏条約に続き、新条約が 4 つ目の条約となります。
-
主要目的テストは日米条約にはありませんが、日英条約、日仏条約に
続き、新条約にも設けられました。新条約では、主要目的テストの対象と
なる行為として、上記のうち(i)と(iii)が新たに加えられています。
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- 11 -
III. その他
1. 両国間で課税上の取扱いが異なる事業体(ハイブリッド・エン
ティティ)に関する規定 (第 4 条(居住者)第 5 項)
新条約の第 4 条第 5 項には、両国間における課税上の取扱いが異なる事業
体(一方の締約国では構成員課税の事業体(*)として、他方の締約国では法人
課税の事業体として取扱われる事業体。)を通じて稼得される所得の取扱いが
定められました。両国間における課税上の取扱いが異なる事業体を通じて取
得される所得については、受益者の居住地国における事業体の課税上の取扱
いに従って、条約の特典が与えられるかどうかが判定されることになります。
(*) 「構成員課税の事業体」とは、たとえば、任意組合のように、組合事業によ
り生じる所得について組合(事業体)レベルでは租税が課されず、その組
合員(構成員)のレベルで租税が課される事業体を指します。
この規定をケースごとにまとめると、以下のようになります。A 国、B 国は、それ
ぞれ日本、オーストラリアのいずれかの締約国を想定しています。ただし、下記
により新条約の恩典が与えられるとされる者についても、新条約上の他の要件
を充足することが必要ですのでご留意ください。
ケース
(a)
(b)
条約の特典
A 国源泉所得が B 国で組織された事業体
B 国の居住者であるその事業体の構成員に対し、その
(B 国において構成員課税の取扱いを受ける事業体)
構成員の所得として取扱われる部分についてのみ、条
を通じて取得される場合
約の特典が与えられる。
A 国源泉所得が B 国で組織された事業体
その事業体に対し、その所得に条約の特典が与えられ
(B 国において納税主体として取扱われる事業体)
る。
を通じて取得される場合
(c)
(d)
A 国源泉所得が第三国で組織された事業体
B 国の居住者であるその事業体の構成員に対し、その
(B 国において構成員課税の取扱いを受ける事業体)
構成員の所得として取扱われる部分についてのみ、条
を通じて取得される場合
約の特典が与えられる。
A 国源泉所得が第三国で組織された事業体
条約の特典が与えられない。
(B 国において納税主体として取扱われる事業体)
を通じて取得される場合
(e)
A 国源泉所得が A 国で組織された事業体
条約の特典が与えられない。
(B 国において納税主体として取扱われる事業体)
を通じて取得される場合
Observations:
-
日本の条約にこうした両国間における課税上の取扱いが異なる事業体
に係る規定が設けられたのは、日米条約、日英条約及び日仏条約に続
Japan tax newsletter/February 2008
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いて 4 つ目となります。
-
日米条約に含まれていた第三国で組織された事業体を通じて支払われ
る所得の規定は、日英条約と日仏条約には設けられませんでしたが、新
条約では盛り込まれました。
2. 発効 (第 31 条)
新条約は、両締約国のそれぞれの国内法上の手続きに従って承認された後、
その承認を通知する外交上の公文の交換の日の翌日から 30 日目の日に効
力が生じます。
新条約は以下のものから適用が開始されます。
源泉徴収される租税
オーストラリア
日本
この条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1
この条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1
日以後に取得する所得
日以後に租税を課される額
この条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1
源泉徴収されない所得
に対する租税
その他の租税
この条約が効力を生ずる年の翌年の 7 月 1
日以後に開始する各課税年度の租税
日以後に開始する各課税年度の所得
この条約が効力を生ずる年の翌年の 1 月 1
日以後に開始する各課税年度の租税
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