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Vol.36 14/06

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Vol.36 14/06
Habitus EYE
VOL.36
2014/6/18
くらしの変化とマーケティング・トピックス
ハビトゥス(Habitus)とはラテン語で、習慣、行動様式、ものの見方、 感じ方などを意味しています。
今月は、Narratives をご紹介します。Narrative(ナラティヴ)とは、日本語で「物語」などを意味します。
このコーナーでは、毎回、個人が語る「物語」をもとに、くらしのなかの新たな変化やこれからの生活を読み解
いていきます。
《今月のコンテンツ》
■Narratives
File.6
「化粧のちから」で、がん患者さんの元気を取り戻す -
株式会社 資生堂 CSR部 資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター 関 ゆりさん................. 1
■ Narratives
「化粧のちから」で、がん患者さんの元気を取り戻す -
日本では、いま 2 人に 1 人が、がんになる時代と言われています。その一方で、がん治療法の進歩
もめざましく、最近では、外来でがん治療を受けながら、仕事を続ける人も増えてきました。
今回、がん治療による副作用の影響で、美容上のさまざまな悩みをお持ちの方に、最適なメーキャ
ップアドバイスをされている資生堂 ライフクオリティー ビューティーセンター(以降、SLQ センタ
ー)の関ゆりさんにお話を伺いました。
関ゆりさんは、30 代後半にエステティシャンの資格を取得されました。現在、資生堂 CSR 部に所属
され、化粧を通じた QOL の向上に向けた取り組みとして、資生堂 ライフクオリティー ビューティー
センターで、2008 年より、がん患者さんを対象に化粧方法をアドバイスされています。
フラ ン ス で の 「 ソシ オ エ ス テ テ ィ ッ ク」 活 動 と の出 会 い
――がん患者の方にお化粧(美容ケア)をされるようになったきっかけを教えて 下さい。
メーキャップについては、1990 年の初頭よ
り約 20 年にわたり、大城喜美子(資生堂を代
表するメーキャップアーティストの一人、現
在は退社)という美容技術者が、あざや白斑
など、肌に深いお悩みをお持ちの方のための
美容施術をこつこつと蓄えてきました。
2006 年に、CSR 活動の組織「資生堂ライフ
クオリティービューティーセンター」が立ち
上がり、
「女性・化粧による CSR 活動」がスタ
ートしました。化粧品会社として人のために
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資生堂 CSR 部
関ゆりさん
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お役に立てることとは何かを考える毎日でしたが、フランスに視察に行った時、そこで初めて「ソ
シオエステティック」という取組みを知りました。それがすばらしい活動だったのです。
――「ソシオエステティック」とは、どのような取組みなのですか。
エステティックには精神的な癒しを与える効果がありますが、ソシオエステティックとは、入
院中の患者さんや、社会的につらい立場に置かれている女性など、癒しをより必要としている人
たちにエステをすることを提案している活動なのです。社会的につらい立場に置かれている方達
の QOL(Quality of life=生活の質)を上げることが目的になっています。
視察したフランスのある病院では、「ソシオエステティシャン」が常駐して、患者さんに無料
でメークや美容マッサージを施していました。患者さんにインタビューさせていただいたのです
が、エステティックを受けている間は「病気を忘れられる」「つらさを忘れられる」と喜んでお
られました。
フランスでのソシオエステティックの取り組みを見て、私たち化粧品会社にもできることがあ
るのではないか、と考えたのが、がん患者の方への美容ケアでした。
――がん患者の方を対象にされた理由は?
ひとつは、2008 年ぐらいから、がんを患う方が2人に1人と、患者さんの数が多くなってきた
ことです。もう一つは、外来で治療を受けている患者さんが多くなり、通院や会社勤めなど、外
出の機会や必要性が多くなってきたということがあります。髪の毛が抜けたり、眉が抜けたり、
と実際に困っているという声も聞くようになりました。
――がん患者の方に使用される化粧品は、一般のものとは違うのでしょうか?
はい、やはり一般のファンデーションやコンシーラーではカバーしきれないため、パーフェク
トカバーファンデーション コントロールカラーという専用のファンデーション
(6 種類 26 品目、
2,500~3,000 円)を使用します。これは、抗がん剤の副作用で肌に強いくすみやシミが濃くなる
など、肌色の変化の気になる部分に、彩度が高くコントロー効果の高いファンデーションを使用
することで、肌色が均一に明るい仕上がりになります。SLQ センターでは、プライバシーが保た
れた個室で、カウンセリングを行い、その方に合った最適なものを選んで、使い方を修得してい
ただいています。最終的には、自宅でご自身でできるようになっていただくのが目的です。
婦 人 科 病 院 の産 前 エス テ で 手 応 え
――最初のスタートは、病院から始められたのですか?
2006 年に SLQ センターがスタートしたときは、がん患者の方に、エステティックにおけるマッ
サージとメーキャップの両方を行う考えでしたが、やはり、病院に入るのはハードルがものすご
く高くて、受け入れてもらえる状況ではありませんでした。
それで、外部のアドバイスで、試験的に産科病院で、産前エステを始めることにしました。す
でに、産後エステというのをやっているところがあり、比較的、ハードルが低かったのです。幸
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いにも、ある婦人科病院が協力してくださり、産前エステを始めることができましたが、始めは
看護婦さんの反応は、患者さんを選定していただくとか、仕事が増えることに対する負担から、
決して良いとは言えませんでした。そこで、まず看護師さんや助産師さんに、エステを実際に体
験していただいたところ、それが大変好評で、産前エステへの理解も得られるようになったので
す。
――がん患者の方に、カウンセリングを始められたのは?
本格的にカウンセリングを始めたのは、2013 年 10 月の SLQ センターのリニューアルオープン
からです。それまでは、日本対がん協会* や都内の総合病院などに話をもちかけて、毎回 6 人ぐ
らいの患者さんを集めていただき、
「美容ケアセミナー」というかたちで開催していました。
日本対がん協会では、がん相談を受けている方が看護師さん、ソーシャルワーカーの方々なの
で、患者さんのお悩みや対応方法についても理解をされていました。
セミナーを開催し、カウンセリングを受けた患者さんの変化を見ていただくと、
「化粧には、こ
ういうすごい力があるのですね」と改めて「化粧のちから」を実感していただけました。
最初の頃は、私たちも、不安がありました。もし、途中で患者さんの具合が悪くなったらどう
しよう、とか。そこで、看護師さんなど医療関係者の方々や患者さんからも、いろいろ教えてい
ただきながら、進めてまいりました。
*がんの早期発見や早期治療、生活習慣の改善によって、がん撲滅を目指そうという趣旨で設立された団体
「 元 気 な頃 の 自 分 の顔 に 戻 り たい 」 が 最 大 の望 み
――がん患者の方への美容ケアが、QOL の面で効果があることを検証され、学会でも発表されていま
す。お化粧をされる前と後では、実際、患者さんにどのような変化が見られますか?
SLQ センターに来られる患者さんの中には、ご来所時はうつむいて目を合わせない、大きなマ
スクをかけて来られるといった方も少なくありません。専用のファンデーションでくすみやシミ
がカバーされていくと、徐々に鏡に目を向け、「きれいにカバーできますね」と表情も明るくな
り、笑顔になっていただけます。眉やまつ毛の脱毛による外見の変化も同様です。
キレイにメーキャップをさせていただくと、「久しぶりに、メーキャップをしてキレイになっ
た自分に会えた」「マスクをとって帰ります」
「銀座をブラブラして帰ります」と、笑顔でお話し
くださる姿がうれしく、また、印象的でもあります。
一般の方と違う点は、一般の方は少しでもキレイに見せたい
若々しく見られたいというご要
望が多いですが、がん患者さんの場合は、少しでも「病気前の自分の顔に戻りたい」「もとの自
分に戻りたい」という気持ちが強く、これは活動を通じてわかったことです。
――がん患者さんが、実際に困っていることは、どのようなことですか?
抗がん剤の副作用の影響で眉やまつ毛、髪の毛が脱毛することによる外見上の変化に加え、肌
に強いくすみやシミが濃くなるなどの肌色の変化に悩む方も多くいらっしゃいます。また、爪や
手の黒ずみに悩む方もいらっしゃいます。
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最近は、治療を受けながら働いている方が多くなってきましたが、一方で、勤務先の病気に対
する理解が少なく、仕事を辞めざるをえない状況に追い込まれる方も少なくありません。また、
会社に病気のことを伝えにくい環境にいらっしゃる方や、同僚や友人、ご近所に病気を悟られた
くないと思う方も多くいらっしゃいます。
今 後 は 、男 性 の患 者 さ ん へ も カ ウ ン セ リ ン グ
――男性の方で、相談に来られる方はいませんか?
これまでは、女性限定でやってきましたが、男性の方も同様に、眉が抜けたり、手が黒ずんで
しまったといったお悩みをもっておられる方がいます。とくに仕事をするにあたって、営業の方
などは、お客様と接するときに困るということを耳にします。そこで、今年から、男性の方に対
するカバー方法も、研究を進めながら始めていきたいと思っています。すでに、いろいろな病院
にお声をかけているのですが、やはり、化粧というと、男性の方は、まだまだハードルが高いよ
うです。おひとりでいらっしゃるのが負担であれば、奥様と一緒でもかまわないので、ぜひカウ
ンセリングを、と申し上げています。
――今後の活動の目標、抱負などについてお聞かせください。
以前は、
「命が助かったのだから、シミや抜け毛くらいはがまんしなさい、という医師もいた」
という話を聞いたことがあります。しかし、最近は「人の外観はとても大事」と明言する医師も
いるほど、医療関係者の方たちの考え方も変わってきました。実際、看護師さんたちも、患者さ
んから美容面での相談を受けることが多くなってきているそうです。
医療機関によっては、看護師さんが、美容ケアのアドバイスをして
いる病院も出てきています。
また、私たちが連携している病院で、乳がんの患者さん向けに、3
ヶ月に 1 回、お化粧やハンドマッサージを行っています。ここでは、
医師やメディカルソーシャルワーカーの協力により、化学療養中の乳
がん患者さんを対象に、精神的な効果(QOL の向上)の臨床結果を取
りました。この結果は、日本香粧品学会でも発表していますが、患者
さんに美容ケアのアドバイスをする前と後で変化を調べたところ、
「心
の元気度」「活動性」「治療への取り組み意欲」などに明らかな改善が
見られました。
「化粧のちから」で、少しでも治療に前向きになり、元
気を取り戻してくれる患者さんが増えることを願っています。
また、がん治療法も急速に進歩していますので、それによって副作用の内容も変化して
います。これからも、医療関係者の方たちと連携しながら、新しい情報を収集して、お化粧や美
容の力でできることはないかを追求していきたいと考えています。
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(聞き手:秋元真理子)
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