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第5号<平成23年1月20日発行

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第5号<平成23年1月20日発行
特別支援教育通信
【第5号】 平成23年1月20日発行 群馬県総合教育センター
特別支援教育の研修講座から
教育現場で関心が高い内容に、発達障害児への支援があります。そこで、本号では、研修講座「気にな
る子の理解と支援」から、二つの講義を紹介します。
一つは、「ソーシャルスキルトレーニングを取り入れた発達障害児への支援」
(平成22年9月8日実
施)です。社会性を育てるために必要な指導としてのソーシャルスキルトレーニングを含めた支援につい
ての内容です。
もう一つは、「発達障害児の進路指導・職業教育」
(平成22年10月8日実施)です。キャリア教育と
進路指導・職業教育のかかわりや発達障害のある子への支援についての内容です。
「ソーシャルスキルトレーニングを取り入れた発達障害児への支援」
明星大学
准教授
小貫
悟
先生
この講義では、社会性を育てるために必要な支援の方法について、いくつかのキーワードがありました。
○成功体験
○小集団指導
○トレーニングとコーチング
○シミュレーション
これらのキーワードは、互いに関係があります。
まず小集団でのトレーニングで成功体験を積み、それを実際の場面での般化*につなげます。実際の場面
では、般化を促すためにコーチングを並行して行います。さらに、個別にシミュレーションを行うことで、
さらなる般化を支えることができます。 こうして、子どもへの効果的な指導を行うことができます。
* 般化:トレーニングをとおして身に付けた技能などが他の相手や場面でもできること
1
成功体験
社会性を育てる上では、成功体験の確保が重要です。一度成功したということは、再現が可能ということで
あり、繰り返すことでしっかり身につけることができます。ソーシャルスキルトレーニング(以後SST)で
も、必要な行動をしっかり身につけることが大切なので、成功体験を確保します。
2
小集団指導
小集団での指導を行うと成功体験も得やすくなります。小集団の指導において、社会的場面を設
定して指導します。このとき、モデル提示とスキル提示が必要です。
スキルの提示とは、やり方を提示することです。発達障害のある子は、「ダメ」なことは分かっ
ているが、「ではどうしたらよいのか」が分からないという特性がある場合が多いので、禁止だけ
でなく、「こうしたらどう」という具体的な提示が必要になります。
3
トレーニングとコーチング、シミュレーション
社会性の指導には、いろいろな指導領域があります。そうした領域を指導する際、SSTだけでは限界が
あると考えています。これは、「スポーツにおける基礎体力トレーニングと試合」に例えることができます。
-1-
”スポーツにおいて基礎体力がつけば試合に勝てるか”というと、答えは”NO”です。
試合に勝つためには、トレーニングだけでなく、コーチング、さらにシミュレーションが必要です。スポー
ツにおける「練習試合によるシミュレーションを通して、トレーニングと試合をつなぐ」という視点を生かし、
社会性を育てるための指導においても、シミュレーションの導入を考えます。
社会性を育てるための指導で、まず成功体験を得るために、
小集団でのトレーニングを行います。それを学校などの具体的
な生活場面において、般化するときに、コーチング**を行いま
す。トレーニングとコーチングは同じ時期に実施することで成
果が上がります。
シミュレーションでは、指導に当たって、「今、ここ」での
社会的場面でなく、別の社会的場面を想定し、そこでの適切な
ソーシャルスキルについて考える機会を与えます。そして、ス
キルのレパートリーを増やしていきます。これをシミュレーシ
ョン法と呼びます。
** コーチング:もとは馬車で目的地まで運ぶこと。転じて、目標達成に導くこと
◇ コーチングのポイント ◇
①なぜ起きたのか(状況整理)
:例「どうして、そうなったの?」
②次に同じことが起きたときにはどうしたらよいか(スキル提示)
:例「こういうやり方があるよ」
③トラブルの中でもよかった点がどこか(継続・拡充ポイントの提示)
:例「こうしたところはよかったよ」
④自分で新しい回避方法が見つけられるか(スキルの発見、自助能力の育成)
:例「もっと、違うやり方はあるかな?」
※①と②で十分なコーチングと言えます。③と④はより発展的な指導です。
◇シミュレーション法◇
教材例
・ワークシート
・ロールプレイング
・ソーシャルストーリー
・ショート劇
・カード
・紙芝居 ・ペープサート ・漫画 ・クイズ ・ビデオ など
教材の使用場面(例)
【ロールプレイング】
〈 日 常 ル ー ル 〉あいさつ、謝る、電話の応答
〈 友 達 作 り 〉誘う、約束、ゆずる、ほめる、慰める、励ます
〈不本意な葛藤〉自分の状況を説明する、抗議する、間を置く、受け流す
〈他者からの依頼/他者への依頼〉質問する、手助けを求める、手助けする、要求する・応じる、断る、
提案する、歩み寄る
【ソーシャルストーリー】
あいさつには、いろいろなやり方があります。知っている人にあったときは、ふつう、えがおで「こん
にちは」といいます。きっと相手も「こんにちは」とへんじを …… (中略) ……。
わたしは、あくしゅをすることもあります。知っている人にあったときは、にっこりわらったり、手を
ふったり、ちょっと頭をさげたり …… (中略) ……。えがおは人をしあわせにすることができます。
服巻智子監訳「ソーシャルストーリーブック」(2005年
クリエイツかもがわ)から
SSTの要素が盛り込まれている指導に役に立つ言葉
「やってみせ
・モデル提示
=モデリング
説いて聞かせて
・スキル提示
=教示・プロンプト
させてみて
ほめてやらねば
・体験
=リハーサル
・成功
=強化・フィードバック
-2-
社会性は育たぬ」
「発達障害児の進路指導・職業指導」
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所
Ⅰ
発達障害教育情報センター
大城 政之 先生
進路指導・職業指導とキャリア教育
●キャリアの定義
個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及びその過程における自己と働くことの関係付
けや価値付けの累積。
●キャリア教育の定義
「キャリア」概念に基づき、児童生徒一人一人のキャリア発達を支援し、それぞれにふさわしいキャリア
を形成していくために必要な意欲・態度を育てる教育、端的には児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育て
る教育。
【国立教育施策研究所生徒指導研究センター(2002)
「児童生徒の職業観・勤労観を育む教育の推進について」調査研究報告書より】
●進路指導とキャリア教育
進路指導の取組はキャリア教育の中核。 キャリア教育においては、キャリア発達を促す指導と進路決定
のための指導とが系統的に調和をとって展開されるべきである。適合とともに集団生活に必要な規範意識や
マナー、
人間関係を築く力やコミュニケーション能力など適応にかかる幅広い能力の形成の支援を重視する。
●職業教育とキャリア教育
職業教育はキャリア教育の中核。今後、キャリア教育の視点に立って、子どもたちが働くことの意義や専
門的な知識・技能を習得することの意義を理解し、その上で科目やコース、将来の職業を自らの意志と責任
で選択し、専門的な知識・技能の習得に意欲的に取り組むことができるよう指導の充実が必要である。
【文部科学省(平成 18 年 11 月)「小学校・中学校・高校キャリア教育推進の手引き
-児童生徒一人一人の勤労観、職業観を育てるために-」より】
キャリア教育で大切とされる、「知識・技能の習得」、「他者との関係作り」、「コミュニケーション能力」、
「自己理解」、「意志決定」等については、一般的に発達障害のある生徒の苦手な内容と考えられています。こ
のことを踏まえて、発達障害のある子への進路指導や職業教育にかかわる支援について考える必要があります。
Ⅱ
発達障害のある児童生徒への支援が目指すもの
発達障害児への支援が目指す最終的な目的は、『社会の一員として、健全な人格形成の保障(健全な心
の成長・発達の保障・自己実現の保障)
』をしていくことです。
加えて、本当に必要なことは、一人でできるようになることではなく、自分が苦手なことを知り(自
己理解)、そのことを上手く処理するために何を使えばよいか、誰に聞けばよいか(対処法:スキルの獲
得)を知っていて、そのことができるように、上手な生き方を教えてあげられる(自己実現)ことです。
そこで、こうした支援を考えていく上での、発達障害のある子への「早期からの支援」、「実態把握」、「基本
的な支援のポイント」
、
「集団における支援」などについて説明します。
1
早期からの支援
早期からの系統的な指導が職業教育の推進・充実に向けた課題の一つです。 特に、
「基
本的マナー」「コミュニケーション意欲」「協調性」の3つは、いつ誰がどこでどのよう
に指導するのかということを考える必要があります。
2
子どもを観察する
子どもの行動の背景を探ることで、解決の糸口が見つかります。家庭や学校での子どもの姿をよく観察す
ることが大切です。「どんな場面でどんな姿が現れたのか。その前には何があったのか。」ということを観察
します。
-3-
3
基本的な支援のポイント
子どもたちの多くは、わからないからできないので、見せる、聞かせる、気づかせる、そして教えるという
基本的な支援が必要です。その際に、支援はされる側(子ども)の立場で考えること、支援の意味を考えるこ
と、支援は徐々に減らして子ども自身がしなければならない状況に変えていくことがポイントです。
4
「集団」における支援のポイント
子どもには集団で活動する場面が多くあります。集団において、「参加する、わかる、できる」経験をする
こと、自分の役割があり「認められる」機会があること、「教え合う」「支え合う」人間関係があることなどが
大切です。
次年度の研修講座も大勢の皆様の申込みを
お待ちしております。 (特別支援研究係)
平成22年度教育研修(長期研修・特別研修)の研究テーマ
◇小学校におけるキャリア教育の推進に向けての調査研究
長
-キャリア発達《人間関係形成能力》と道徳の時間に視点を当てて-
期 ◇知的障害特別支援学級における個に応じた授業の改善
研
-ICF関連図を用いた個別の指導計画の作成と活用を通して-
修 ◇小学校における「総合的な学習の時間」の改善に係る調査研究
-高学年における児童及び教師の意識とESDの理念を取り入れた新しい学びの在り方-
◇病弱特別支援学校におけるチーム支援の在り方
-特別支援教育コーディネーターの活動の工夫に視点を当てて-
◇重度の生徒が意欲的に取り組める作業学習の工夫 -工芸班の活動を通して-
特 ◇自閉症・情緒障害特別支援学級(中学校)における自ら考え進路を選択する生徒の育成
別
-「自分にはこんなことができる」
「こんなことをしたい」という気持ちがもてる学級活動に視点を当てて-
研 ◇通常の学級の特別な支援が必要な児童への授業における支援
修
-専科の担当者と担任との連携を通して-
◇通常の学級における特別な支援が必要な生徒が、自律した生活を送るための生活指導
-タイムマネジメント支援を中心として-
◇視覚障害と肢体不自由のある重度・重複障害生徒の手指の動きを促す指導
◇高等養護学校における対人関係に課題がある学級集団の友達同士のかかわり方を高める実践的研究
-グループエンカウンター及びソーシャルスキルトレーニングの活用-
◇気がかりな姿を改善するための課題の設定と指導・支援に係る実践的研究
-生徒のしぐさ、表情、言動等に着目して-
◇地域と家庭と学校をつなぐ個別の教育支援計画を目指して
-書式の改訂と個別の教育支援計画策定会議運営の取組から-
-4-
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