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第1章 教育制度の拡大と進路選択

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第1章 教育制度の拡大と進路選択
第1章 教育制度の拡大と進路選択
第1節 多様な教育・資格制度とその拡大計画
1.資格制度
フランスは、もっとも資格制度の発達した国の一つであり、それぞれの教育訓練を通して得られ
る資格に応じて、就業可能な職業の範囲が明瞭に区分されている。そうした教育内容と職業との対
応という面では、わが国ともっとも対極にある。
多数の国家資格が、社会的な威信の上下としても把握できる水準によって垂直的に区分され、ま
た各水準内で、専門的な分業に応じた多様な資格群の中に、つまり水平的に区分されている。水準
は、第1水準から第VI水準まであり、主に、表1−1−1のような各資格が、それに対応している。
表1−1−1 教育と資格制度
資格
水準
訓練・資格の水準表
定 義
1とII 技師学士号または技師学校と同等かまたはそれ以上の水準の訓練を通常必要と
する職業の従事者
(該当する教育免状:大学の第2期・第3期の免状、グランゼコールの免状)
LICENCES,METRISES,MAGISTERES,DEA,DESS,MASTERS,DOCTORAT,
皿
高等テクニシャン免状・技術大学の免状・高等教育第一期修了の水準の訓練を
通常必要とする職業の従事者
Y当する教育免状:DEUG,DEUST(大学第1期2年目
@ DUT(短期技術大学部IUT),BTS(上級テクニシャン養成課
@ 程STS)
IV 普通バカロレア・技術バカロレア・職業バカロレア・テクニシャン免状(BT)と
@ 同等の水準の資格を必要とする職業の従事者
@ 該当する教育免状:中等教育修了:BAC,BTn,BAC−PRO
V BEPやCAPと同水準の訓練を通常必要とする職業の従事者
準V 最大1年以内の短期の訓練(とりわけCEPや他の同等の証明書に通じる)を
@ 前提とする職業の従事者
VI 義務教育修了以上の訓練は必要としない職業の従事者
一5一
すなわち、資格水準というのは、学校教育あるいは、それに対置される訓練制度の各段階に対応
しているのであり、単純化すればその教育訓練の年限にほぼ対応したものである。その意味では、
フランスは「資格」社会であると同時に、わが国以上に「学歴」社会でもあるということになる。
Qualificationというフランス語を「資格」と訳すことにいささか躊躇するが、それも資格と学歴
が対応するこうした側面のためである。
さて、フランスの就業構造から見ると、工業部門での就業人口構成を職業グループに三層にわけ
てみると、1982年段階では1)単純労働者層がもっとも多く、2)職長・熟練労働者、3)技術者・
テクニシャン層と順に少なくなる、いわばピラミッド型の構成となっている。フランスで、今日問
題になっているのは、もっとも上級の管理者・技術者を拡大し、それと並行して彼らをサポートす
る中間段階の熟練労働者層を拡大することである。将来的には中央部の厚い紡錘形の労働力構成を
期待している。
そうすると、その目標に応じて各資格水準別の労働力構成(わが国でいう就業者の学歴構成)も
変化させる必要があり、その予測が表1−1−2である。現在の資格水準の構成が左側であり、右
側は2000年の労働力人口構成の予測であり、第皿水準、第IV水準など相対的により上位水準の資格
層の拡大が期待されていることがわかる。
つまり、今日フランスでは、現代社会の国際競争を意識して、かってのわが国で所得倍増計画の
際に用いられた人材需要アプローチとちょうど同じように、経済的に必要とされる労働力の訓練水
準の構成を設定し、それと対応して教育拡大を進めていくという政策がとられている。
表1−1−2 新卒者の資格水準構成の変動予測
1982
2000
第1・第H水準………………
90,000 (10.9%)
第皿水準………………………
80,000 (9.6%)
145,000 (18.1%)
第IV水準……………・…・・……
150,000 (18.1%)
245,000 (30,7%)
第V水準・・………………・……
380,000 (45.8%)
170,000 (21.2%)
第VI水準・・………………・……
130,000 (15.6%)
50,000 (6.2%)
190,000 (23.8%)
注:1982年から2000年にかけての新卒者の資格水準予測
出所:H.C. E. E.報告(1987)、ただしDEP, P, ESQUIEU氏の資料による。
2.教育制度の拡大
フランス人自らも、しばしば複雑で解りにくいという多分岐の資格制度は、同じく複雑で多分岐
型の学校教育・訓練制度に対応している。 (付属資料2)参照)
一6一
今日、その複雑な教育・訓練制度の発展の焦点として注目されているのが、第4資格水準である。
伝統的に、ここには、中等教育の修了を認定する国家学位(ディプロム)であり、大学入学資格で
もあるバカロレア(Baccalaur6at)が位置している。しかし、この段階の教育と資格は、1960年
代以後ひじょうに多様になっている。バカロレアだけをとっても、既存科目(A科からE科まで)
の普通バカロレア(Baccalaur6at G6n6ra1)に対する、1968年の技術バカロレア(Baccalaur6ats
Technologiques:F科, G科, H科一創設当時はテクニシャン・バカロレア:Baccalaur6 at de
Technicien)の創設、さらに1985年の職業バカロレア(Baccalaur6 ats Professionnels)の創設が
ある。
1988年のDEPの統計によれば、普通バカロレア取得者が20万8千人、技術バカロレア取得者が
9万8千人、職業バカロレアが7千人であり、31万3千人それはフランスの年齢コーホートの平均
約85万人の37%にあたる。農業分野などのテクニシャン免状(Brevets de Technicien)取得者等を
含あると、第4資格水準での学位・免状取得者(’)は、コーホート換算でさらに1%増加する。
1960年以後の30年間、フランスでは中等教育を修了する者が急速に増加した。1960年においては
同年齢層のうちバシュリエになるのは10%であり、それに対して1990年代に入ってからは、それは
40%以上にのぼる。
この間に、3っの決定的な段階が学校教育制度の拡大を画している。
第1は、1959年の、いわゆるベルトワン改革である。16才までの義務教育の延長とともに、学校
教育の最終学級の漸進的分化と、子どもの後期段階へのアクセスを一般化していくことに関わる改
革を始めた。それは2タイプのコレージュを作る(フーシェ)政令によって、1963年完成された。
このような中等教育の構造転換によって、1960年代には大量のベビーブーム世代がコレージュへ進
学するという「教育爆発」が引き起こされた。
第2には、1975年のアビ改革である。これは、統一コレージュの創設と、第3級までの共通カリ
キュラムを制度化し、古い課程を廃止した。また、移行的第6級と第5級を導入した。
そして、第3の段階が1980年代半ばである。ここでは具体的な、教育システムの構造変化はない
けれども、同一年齢層の80%をバカロレア水準へという政策的な意図によって、新しい就学圧力が
リセの定員増加を加速させることになっている。そこには、より高い資格を得ようとする強い社会
的需要、変動の進む経済社会の必要、そして地方分権化のもとでの教育行政という主に3っの要因
が結びついている。
(1)第IV水準の「資格」は、バカロレアなどの「免状」を取得しなくても、中等教育最終級を修了することで
取得できるため、第IV水準自体はこれより多い比率となっている。
一7一
また、この最近20年間に、バシュリエ総数の増加とともに、その科目別内訳にも大きな変化があ
る。科学技術課程の継続的発展によって、特にG科は1988年にバシュリエの20%を集めており、他
の自然科学関連の課程(C科,E科, F科)の拡大も顕著である。他方で、1970年代におけるA科
の衰微と、1980年代におけるD科の衰微などが進行し、一一般教育の割合はもはや3分野2にまで低
下した。
ともかく、こうした教育の拡大は、より大きな投資を必要とし、経済負担にも波及するが、それ
以上に、その変動は質的次元の問題も引き起こすことになる。伝統的に少数の者に限られてきた教
育段階にあらゆる人々が流入してくることは、教育制度内部のアイデンティティーの危機を巻きお
こしかねない。すなわちシステムとして、旧来の教育の構造・内容・方法を、革新する必要に迫ら
れている。
3.バカロレア倍増計画
バカロレア拡大計画について、もう少し検討しておこう。フランスの教育拡大は、特に1985年以
後その拡大のスピードを早めている。今や高等教育と連動する新たな「教育爆発」とでもいう状況
を迎えている。この1985年以後今日にいたるフランスの教育爆発の立て役者の一人が、社会党の政
治家シュヴァーヌマン(J.P.Chev6nement)氏である。彼は、1991年の湾岸戦争時の国防大臣辞任
やマーストリヒト条約批準反対などで注目されたが、教育拡大に関しても重大な寄与をしている。
彼は、フランスのエリート官僚養成機関である国立行政学院(ENA)の卒業者でありながら、 E
NA卒業者のエリート独占に批判的な論文を書くなどしており、もともと教育拡大への志向が強かっ
たという。
1984年社会党ファビウス(Fabious)内閣のもとで、彼は文部大臣に任じられ、首相とともに日
本を訪問し、わが国の後期中等教育の普及と経済発展の状況を目の当たりにして後、1985年の12月
にフランスにおけるバカロレア取得者の大幅な増加を提唱した。日本とフランスの中等教育の現状
についての彼の当時の認識について、実は不正確だったとも言われており、またその教育拡大計画
は政治的なプロパガンダとして発表された。このため、当初の計画は、2000年に同年齢層の80%ま
でバカロレア取得というほとんど非現実的な目標(当時の取得率31%前後の2倍以上にあたる)で
あった。
にもかかわらず、それは国民の教育要求を目覚めさせることに成功し、また経済発展とそのため
に国家の必要とする技術者・教育者層の養成を拡大することが、社会全般に、またその基本的方向
は教育関係者の多くに支持されることとなった。このため、後のシラク内閣以降の文部大臣・文部
省においても、この目標を修正しながら、拡大計画を積極的に推進している。現在の計画は、西暦
一一 8 一一
2000年を目標として、バカロレアだけでなくバカロレア相当の「資格水準」まで、同世代人口の8
割が教育・訓練を継続することをめざしている。
すなわち、バカロレア相当の資格とは、普通バカロレアBAC、技術者バカロレアB−Tn、職業
バカロレアBAC−P、テクニシャン免状BT、職業免状BPの各資格であるが、これらの資格取得
者だけでなく、その資格試験を志願できるリセの最終級相当まで学業を修了した二一すなわちバカ
ロレア試験の不合格者なども一が、「第IV資格水準」に分類されるのである。
4.職業バカロレア
1985年という、同じ時期に創始された「職業バカロレア(baccalaur6at professionnelle)」は、
多様な産業分野でのテクニシャンに相当する技能を確保するために第4資格水準での技術・職業教
育資格として設定されているが、マクロな教育政策的にも重要な意味を持っている。
職業バカロレアは、創設の最初の1985年に5っの専門分野が1283人の登録者をうけ入れた。1988
年には登録者は22760人にのぼり専門分野の幅も4倍になった。この制度が完全に運行するように
なれば、毎年12万人もの人々が登録するようになる、と予測されている。
教育拡大計画との関連でいえば、バカロレアそのものは、ナポレオンによって創始された伝統あ
る制度であり、中等教育終了資格を意味するとともに、大学入学資格ともなっている。すなわち、
大学は原則として入学者の選抜を行わない。もちろん、現実にはパリ大学の多くでバカロレア取得
者をさらに選抜している。しかし、それをあくまで例外とみなすことで、その原則は尊重されてい
る。とはいえ、将来もし、このバカロレアだけで同世代の8割を占めることになると、大学の無試
験・無選抜という原則は、単なる原則としてすらも維持できなくなる。
このたあ、この「倍増計画」と前後して、大学入学資格を伴わない「職業バカロレア」を導入・
拡大し、同じレベルでありながら大学への殺到を帰結しないこの資格へ誘導することが、問題を高
等教育の肥大に連動させないたあに、教育行政関係者が意図しているところである。すなわち、第
IV資格水準の中の普通バカロレア比率を、1986年現在の67%から2005年には52%に減少させ、その
分職業バカロレアを0%から17%まで拡大することが計画に盛り込まれている(2)。
この水準IVにおける新たな免状創設というのは、一つには労働市場サイドからみれば若年者の職
業参入の範囲拡大を意図したものであり、もうひとつには教育訓練からみると、第V資格水準の免
状所有者のための学業・訓練継続の可能性を広げるという目的も有している。もちろん、職業バカ
ロレアの創設が、第V水準の職業機会を脅かすことになってはならないため、第V水準からの職業
(2)教育評価予測局(DEP)のP. Esquie氏の資料による。
一9一
参入の保証にも関心が向けられる。また同時に、この新しい資格が第皿水準の免状所有者によって
伝統的に公認されている職業の領域への侵入も回避する必要がある。結局、上下両水準間での競合
による制約や、国立教育省の管轄外の教育訓練が存在するため、この職業対応型の教育資格が導入
されたからといって、それが将来スムーズに拡大できるという保証はない。
5.教育拡大への社会的圧力
教育需要はいったん点火すると、それは独自の起動力をもちはじあ、政策的に制御しにくいもの
となる。今日のフランスは、地方分権を積極的に推進しており、教育政策も同様である。国の教育
政策は文部省、特にこの教育拡大については教育評価予測局(DEP)が担当しているものの、実
際にバカロレアに向けてどれほど教育を供給するか、これは各州・県の業務である。もちろん国の
政策について、州・県の教育関係者への度々の説明会を催している。だが、そうした場で、教育評
価予測局の担当者が感じているのは、本来国が方向づけたい職業バカロレアなどの技術・職業教育
への関心ではなく、むしろ普通バカロレアへの高い関心である、という。
しかも、それは国民の教育要求拡大(特にリセ拡大)への関心の高まりと連動しているものであ
る。こうして、CIOの進路指導カウンセラーの多くはシュベーヌマン改革に賛同し、進学を奨励
し、コレージュやリセの教師も留年(redoublement)を少なくする努力をしている。筆者が訪問
したCIOでも、年間活動計画の冒頭に掲げられた3大目標の一つが、この「2000年に8割をバカ
ロレア相当まで学習することを支援する」というものであった。政策的な期待とは裏腹に技術教育
よりも保護者の期待する普通教育への流れという今日のフランスの状況は、1960年代の第1次ベビー
ブーム世代の高校進学期における日本の都道府県の状況を想起させるものがある。
その結果、そうした教育関係者の努力は、図1−1−1のようにコレージュ・リセの現在各学年
での留年者数の急速な減少をもたらしている。今日の教育拡大の勢いは目ざましいものがあり、第
IVレベルの資格取得率はこの数年急激に増加しており、教育評価・予測局の推計でも図1−1−2
のように「2000年に第4資格水準を同世代の8割に」という目標が、相当に実現可能な位置にきて
いる。
ともあれ、この中等教育段階までの進路選択と選抜について以下の節で見ておくことにしよう。
一10一
図1−1−1 コレージュでの留年率の長期的動向(1975年から1995年推計)
実 績
一一一一一一
¥
測一一一一一
18
エ
︻O
5級
C’
「 ・ 噛 ● ・
●・
ρ
@. . ・
,9
Xの
●●
@■
@鴨
@殉
6級
覧軸
閨@煽
@り り
、 、 ㌧ し 、価噂層 、 噂
12
3級
亀「■働
、
, ゆ99,
,’
●・
、
、
9
、隔
・.
@.・ 、
Dq
@「 鴨 ●
4級
一・ ●噂o●・
曹
曹
怐E●Oo
怐@・ o ● ・
・ 嚇幽 ●唖.
6
3
75 76 77 78 79 80
81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95
出所:文部省Direction de l’evaluation et de prospective
図1−1−2 1968年から2002年までのバカロレアレベルまでの学業到達および
資格取得の実績と予測
予 測一一一一一副)
績一一一一レ
他の第IV資格水準
職業、。。レ多
50SO)6
科学技術バカロレア
40%
普通教育バカロレァ
099
0αQ︶
9ρ0
一11一
? 89g
90σ
84
81
78
7KU
72
にUQ﹂
0
第2節 バカロレア到達までの教育と選抜
1.中等教育レベルの各学年の通過
バカロレア相当まで80%が学習を継続するという目標は、20%がその前の水準Vに相当する教育・
訓練段階で教育や訓練を離れることである。そして、1980年代後半までは、これらの生徒がほぼ半
数を占めている。どの段階で教育訓練から離れていくのか、文部省教育評価予測局(DEP)の推
計によれば、1970年生まれのコーホートに関して図1−2−1のような形で、おおきく2つの進路
の枝分かれの時期があったことがわかる。まず第5級から第4級への進学の際に大きな枝分かれが
ある。つまり、3年間のCAP(就業適性証明書)課程などに行くもの17.2%が、残り70.7%の第
4級進学者と分かれる。次に、第3級から第2級への進学に際して、24.5%がBEP(職業免状)
課程へと進学し、残りの44.0%がリセ第2級に進学するのである。
これに対して、1985年生まれコーホート世代の進路を図1−2−2のように変えていくというの
が、政府のバカロレア拡大計画であるから、それぞれの大きな分岐点の通過だけでなく、各学年途
上で学校や訓練制度から離れる生徒をなくすという積み重ねが不可欠となっている。
なお、これらの進路分化は、生徒・保護者の自由選択によることを原則としている。進学の適否
に関して学校やCIOでの指導はあるが、最終的な決定権は生徒・保護者にあるわけである。
2.DEPのバカロレア取得プロセスの調査(1)
DEPでは、1980年に第6級ないしSES(特殊教育)に入学した生徒のサンプル1万9千人を
対象として抽出して、中等教育の終了まで、学年進行に沿って徹底的な進路の調査を実施している。
ただし、この調査では第6級に至らなかった生徒はサンプルから除外されている。すなわち、一世
代の約4%にあたる生徒は特殊教育を受けたり、学校教育から離れて職業前教育に進むため、この
調査の対象には入っていない。数のうえではごく少数だが、この生徒たちは外国人の子弟や恵まれ
ない地位の出身の子どもが多くの割合を占める、といわれている。
さて、1980年パネルは、第6級にその年に入学し、1987年から1989年までの間に、彼らの37%が
最終的に普通教育バカロレアか技術バカロレア、または農業分野などでの技術者免状を獲得してい
る。この数値は、全国的な統計と整合するものである。このコーホートがいかにしてバカロレア取
得にいたるのか、調査結果から、各段階の教育課程の通過のプロセスをみよう。
(1)以下は、主としてP.Esquieu’Qui devient Bachelier’,Education et Formation”,No.23,1990,
Minist5re de 1’Education Nationale de la Jeunesse et des Sports, pp.4−20をもとに構成したもの
である。
一12一
図1−2−1 1970年コーホートの中等教育における進学状況(文部省)
@←
離学者
10,000
@ 65 80 90 20 00 70
150 職業見習準備学級
50
6級
9,500
5級
9,025
職業前教育学級(CPPN)
(CPA)
920
@560
離学者
職業教育証書
35
880
1,720
4級
7,070
3級
6,780
S
P70
P,540
3 200
1,150
2,450
PBEP
235
2級
4,400
2,230
2BEP
P,230
1級
最終級
4,540
450
1BAC PROF
↓
4,360
S10 2BAC PROF
47.7%
一13一
@40
CAP 3
@900
図1−2−2 1985年コーホートの中等教育における進学状況予測(文部省)
,
離学者
10,000
CPPN
CPA
CE
230
200
P5
9白 1 50
50
離学者
300
9,700
9,640
4T
7,930
4P
220
1,200
70
7,800
3T
3P
1,150
210
135
0Q
2,960
200 M CAP 3
1 BEP
12 5
00 05
1 140
5,740
2,840
57 0
6,370
1,450
1
最終級
75
6,225
1 37 5
s一一一一一一一一一一一一一・’rp一一一一
76 %
一14一
2BAC PROF
3.統一コレージュ内における教育的軌跡の多様化
コレージュでの教育そのものは統一的なのであるが、生徒の初等教育での就学期間が多様である
ため、コレージュの生徒は多様なものとなっている。DEPの1980年パネル調査対象の子どもたち
は、さまざまの学年で大量に留年し、また第5級と第3級のそれぞれの段階で重要な進路の分化を
経験している。このようにして、リセまで達するのは半数以下となり、そのうちの何割かは、かっ
てよりも多数になっているのだが、BEPへ進学の後でリセに進んでいる。
中等教育は1980年代からは、統一コレージュにおいてすべての子どもを受け入れ、すべての子ど
もに開かれている。だが、1980年コーホートに関して、最終的に少数の生徒しかバカロレア・レベ
ルまで導いていない。
1980年に第6級に入学したものにとって、観察期の通過とリセへのアクセスは、将来の学歴を本
質的に決めてしまうふたつの契機である。それらはほとんど同じくらいの重要性を持った段階的な
選抜をもたらす。
つまり、100人のうち26人の生徒は第4級に達しないし、さらに28人は2度目の第4級をパスし
ない。ただし、これらの選抜は不可逆的な性格をもたない。多くのBEP資格者が最終的にリセに
再編入するので、この増分が、第2級から最終級までに見られる生徒数の減少(離学者数)と相殺
される。
4.小学校での留年とその波及効果
今日、中等教育の構造は根本的に変化し、以下の3っの状況が集約されたものとなっている。つ
まり、1)コレージュが、すべての子どもを受け入れ、2)単一タイプのコレージュで、3)第6
級から第3級まで共通教育を受けるということである。そして、すべての生徒全体を受け入れたコ
レージュは、いっきに生徒の多様性に直面している。
コレージュへの入学年齢を見てもその多様性をうかがい知ることができる。第6級に入学し、義
務教育修了まで学業を継続した、パネル調査対象者の3分の2が、11歳かそれ以下でコレージュに
入学しているのに対して、残りの3分の1は12歳以上で入学していた。これら2グループの差は、
小学校段階での留年の有無にある。
それでも、1970年代から1980年代にかけて、コレージュ内での留年も、第6級入学における留年
経験者の割合も減少しつづけている。1973年にDEPが同様の調査を行ったときには、入学者の半
数の留年経験者があったのに対して、1980年ではもはや3分の1しかないのである。
第一の留年経験のないグループの中で、コーホートの約4%の生徒は10歳で第6級に入学してい
る。それ故、飛び級経験はごくわずかである。その頻度は現在では安定しているが、1960年代以降
一15一
は減少している。
第二の留年経験を経験しているグループの中でも、コーホートの約10%の生徒は、13歳以上で第
6級に入学しており、小学校で2度以上の留年を経験している。こうした大きなハンディを負った
遅滞者数は増加している。これは、コレージュへのアクセスが一般的になり、かってならば教育修
了学級に送られていた生徒がコレージュに進むようになった1960年代末からの傾向である。
それ故、留年経験者数の低下傾向は、1回だけの留年の後に12歳で第6級に入学する者の非常に
顕著な減少のみに起因しているのである。こうした子どもたちは1980年コーホートの25%に相当し、
それに対して1973年コーホートでは41%を占めていたのである。
初等教育の経験によって、その後の中等教育における教育的軌跡がうまく予測できる。最終級ヘ
アクセスできたのは対象全体の44%であるが、この比率は、通常の年齢よりも早く第6級に入学し
た生徒では88%、通常の年齢の生徒では60%であり、逆に、1年または2年以上の遅滞者ではそれ
ぞれ14%、さらに3%にまで低下している。
初等教育における2度の留年によって課された困難は、ほとんど乗り越えられはしない。彼らの
圧倒的多数は、第4級には到達せず、職業前学級か3年夏CAP準備級へと進級する。こうした学
級はかっての第6・5移行級の修了後の進路であったのだが、CPPN−CPAと同様、その部分
的な代替物になっている。こうした生徒たちは、かってならばコレージュへの入り口から締め出さ
れていたのだが、今や重要な意味を持つ遅滞の累積を経て、一般教育を早い時期に退くことになる。
小学校で1度だけ留年したのちに12歳半第6級に達した子どもたちにとって、リセへの進学機会
はまだ確定的ではない。ただし、彼らの将来の学歴は第6級入学時から決定的に影響されているよ
うにも見えないこともない。もし彼らが観察期に新たな問題を抱えれば、CPPNやCPAや3年
制CAPに行く者が最も多くなるわけである。現実には、彼らの半数が第3級まで進み、そして、
大多数はBEPに進んでいる。
小学校で留年を経験しなかった者にとって、バカロレアに達する機会は留年した者と比べて5倍
も高い。とくに第6級に飛び級で入学した生徒は、コレージュで1度留年したとしても、ほとんど
確実にリセに入学する。通常の年齢で第6級に入学した生徒は、それよりは低い確率である。彼ら
がBEPへの進学を指導される可能性も無視できず、彼らがコレージュの学級で留年すればそうし
た可能性が強い。
すなわち、教育人[一1の多様性は、ひとつには中等教育段階の第6級入学年齢に要約することがで
きる。留年は、小学校で遭遇する困難の救済という面もあるが、他面では教育遅滞というハンディ
キャップとして用いられることによって、ひとつの「サンクション」ともなりうる。統一コレージュ
は、教育の水準確保の要求を断念することなく、多様な入学者に対処しようと努めねばならなかっ
一16一
たため、留年とう教育的な対策をとった。このたあ、留年状況は1970年代末から1980年代初頭にか
けて悪化し、この傾向は、政府の中等教育改革への取り組みが始まる1986年まで続いたのである。
5.バカロレア取得の社会階層差
1)社会階層の4グループ
パネル調査対象生徒の37%が最終的に、普通教育バカロレア・技術バカロレア、または農業分野
等のテクニシャン免状を獲得している。その比率や専門分野の構成などは、保護者の社会階層によっ
て、大きな差異がある。図1−2−3のように、データから、比較的均質的な4グループが引き出
される。
両極端を挙げれば、教員・上級カードル・自由専門職層の子どもたちは4分の3以上がバシュリ
エになり、それに対してブルーカラー労働者・無職層の子どもは4分の1以下にすぎない。ホワイ
トカラー労働者・職工長・農業経営者・職人・小規模商人層の子どもたちは全体の平均と非常に近
い比率である。また、企業家・大規模商人・中間カードルの子どもたちは、2人に1人以上がバシュ
リエになっている。
また、ある社会階層から、バシュリエが多く輩出していればいるほど、その中でも一般教育バカ
ロレアが多くなる。「上級カードル」グループの子どもは、68%がバシュリエになり、ブルーカラー
労働者の子どもの12%に対して、ほぼ6倍になっている。
図1−2−3 保護者の社会・経済階層とバカロレア取得率
〔a>男女計 (b}男子 (C)女子
普通バカロレア技術バカロレア
(BAC)CBTn) BAC BTn BAC BTn
無職,他
非熟練労働者
熟練労働者
職長
事務職員
職人,小店主
農業
工業,大規模商業自営
中間カートル
上級カードル自由専門職
教員
ii−i. iI.I ii.1. iiil i・i liii・ i l・ l l・ [・ii i l・
O 20 40 60 80SO)6 O 20 40 60 80906 0 20 40 60 8’O%
資料出所:P.Esquieu,1990, Qui Devient Bachelier?Education et Fo「mation, No・23
一17一
2)性別と社会階層
全国統計でみると、バシュリエの中の女子比率は、1962年に半数をこえ、1980年代にはほぼ58%
で安定していた。1988年度には、女子比率が56%となっている。
1980年パネルのデータも、女子の42%が最終的には、普通教育バカロレアか技術バカロレア、テ
クニシャン免状を獲得するのに対して、男子では32%にとどまっている。このように男子と女子の
バカロレアを取得する機会には、ほぼ10%ポイントの開きがある。
この開きは、おもに一般教育の分野によるものであり、女子の29%に対して男子では20%である。
なお、一般教育において男子は、より難関のC科などの科学技術分野に集中している。技術系のバ
シュリエになる確率では、農業分野等のテクニシャン免状まで含めると、そのテクニシャン免状が
男子が圧倒的に多数を占あるため、男子13%に対して女子12%と、男女でほとんど変わらない。
この男女間の格差の大部分は、第5級を通過する際に形成され、それが最終級までひきつづいて
維持されている。つまり、男子生徒の3分の1は第4級に達しないのに対して、女子生徒では不到
達率は5分の1のみである。他方、職業前課程や3年制CAPの課程は、男子生徒が過半数になる。
もっとも、彼らのうちの半数強は、その後に第4級に達する。そのばあい技術教育第4級・第3級
に向う傾向があり、それらはまた男子が多数を占めているが、それはもはや速やかな職業的統合に
結びつくというばかりではなく、今日では、バカロレア・レベルにアクセスする機会をも保証して
いる。
さらに社会階層によって、進学行動の男女差をさぐってみると(図1−2−3右側)、女性の優
位は、特に中間カードル、ホワイトカラー労働者、ついでブルーカラー労働者の順に拡大され、上
級カードルにおいては差異が小さい。
社会階層の影響は、女子よりも男子に対していっそう際立ったものとなっている。バカロレア比
率を、ブルーカラー労働者層と上級カードル層とで対比すると、男子では18%対72%であり、女子
では27%対81%であり、男子ほどの格差はないことがわかる。
6.小学校段階での選抜と社会階層
異なる社会階層の子どもたちは、図1−2−4のようにすでにコレージュにばらばらに到着して
いる。コレージュへの入学の遅れは、教員と中間カードルの子どもにとっては例外的であるが、上
級カードル・自由専門職の子弟ではそれより若干増え、その他の社会階層ではかなり拡大する。小
学校での留年経験率は、中間カードル層の子どもの5人に1人であるが、農業従事者・職人・ホワ
イトカラー労働者の子弟のほぼ3分の1、不熟練労働者の子どもの半数にのぼる。
飛び級経験や2年以上の留年経験といった特殊な状況も、社会的選抜において重要な意味をもつ
一一 18 一
図1−2−4 第6級入学時の年令と生徒の社会階層的背景
11歳 10歳以下
13歳以上
(標準) (1年以上飛び級)
(2年以上おくれ)
/
ij15,9
合計
1(ioo):
上級カードル,自由専門職
ilii!
1:蕗
中間カードル
工業自営,大規模商業自営
農業自営
職人,小規模商店
ii]lg
事務職員
職長
07 0558 7 3 3 5 7
教員
熟練労働者
15.23
単純労働者
22.85
無業
5.37
60 50 40 30 20 10 O(SO)60)O 10 20 30 40
s’
潤@60 7b sO g6
ている。二度以上の留年は、最も恵まれた社会階層では100人に1人程度で、ほとんど存在せず、
不熟練労働者の子弟では6人に1人、無職者の階層では4人に1人があてはまる。
逆に、飛び級経験はサンプル全体としては例外的であるが、教員の子弟では5人に1人と比較的
一般的な現象である。教員・上級カードルの子弟は、第6級の入学者全体の11%を占めるが、10歳
以下の入学者の中では40%を占めている。
そして、小学校の留年と社会的出自とは、コレージュ進学後の進路分化において、それぞれの効
果を相乗し拡大することになる。つまり、社会階層がなんであれ、リセアン、さらにバシュリェに
なる機会は、小学校で留年をしている場合きわめて小さくなる。等しく初等教育を受け、同年齢で
第6級に入学した生徒をとってみると、中等教育における経路は社会階層間で非常に異なっている。
留年せずに小学校を出たとき、ブルーカラー労働者の子弟の47%が最終級に至り、それに対し、上
級カードルの子弟は88%である。留年を経験している場合は、その比率はそれぞれ8回忌32%にな
る(図1−2−5)。
一19一
図1−2−5 社会階層と中等教育段階での学業継続
(1)上級カードル(cadres supεrieurs)
(2}中間カードル(cadres moyens)
(3)事務職員(employ6)
(4)労働者(ouvrier)
%o
SO>6
100
%
100
100
60
計
く3)
80
60
、
(4)
40
40
、
31計
40
、軸(2)
×
”.(2)
、、、
60
80
臥 、、
80
、
(1)
〈1)
X ””’一. (1)
(4)
20
20
20
隔q(2)
計畠
(3)
6級 4級 2級最終級 6級 4級 2級最終級 6級 4級 2級最終級
イ)第6級入学年令計 ロ)第6級に11歳以下 ハ)第6級に12歳以上で
(標準年令以下)で 入学した者
入学した者
出所:P.Esquieu,1990,“Qui Devient Bachelier?”Education et Formation, No.23
7.中等教育段階での選抜のプロセス
1)コレージュでの留年と職業教育の選択
コレージュへの入学後も、職業前学級、3年制CAPやBEPの準備級、第2級などに進学した
生徒の人口動態的・社会学的プロフィールは非常に対照的である。CPPN−CAPを進路選択し
た生徒は、男子が多数を占め、恵まれない社会的地位出身の生徒が最も多く、彼らはもともと1、
2年遅れでコレージュに到達している。CAPに行く者は平均的な年齢で入学しているが、彼らの
うち半数が第6級か第5級で留年している。BEP志願者は、小学校ではほぼ留年していないが、
彼らの半数が第5級か第3級で留年を経験している。
BEP準備の教育は、調査対象生徒の26%が選択しているが、近年、二重の変化を示している。
つまり、職業前課程や3年制CAP準備級が徐々に衰微し、それに平行して技術教育第4・3級が
発展するにつれて、多くの男子の就学はBEP準備の方に移り、それは今や一世代のほぼ30%を受
一20一
け入れ、男子が多数を占めるにいたっている。
2)リセへの進級と留年
女子のばあい、多くがリセの第2級に進級しているが、ここでは非常に際立ったプロフィールが
みられる。女子生徒の90%以上は小学校で留年せず、70%はコレージュでも留年せず、その結果、
約3分の2は一度も留年を経験しないで、15歳の通常の年齢かそれよりも早く第2級に達している。
それゆえ、第2級は「若い」状態のままとなり、逆にみれば、多くの遅滞者をリセへのアクセスか
ら排除する、事前になされる年齢による選抜の重要さを示している。
社会階層別にみると、第2級に達したブルーカラー労働者の子弟は、上級カードルの子弟よりも
多くコレージュでの留年を経験している。前者の場合35%に対し、後者は20%のみである。つまり、
統一コレージュでの留年の増加が、まずブルーカラー労働者の子弟に関わる問題であるということ
である。対照的に、恵まれた社会的地位の子どもは二重の利点を兼ねそなえているということがわ
かる。すなわち、彼らは第2級に達する頻度が高く、しかもより早く留年なしに到達することがで
きるのである。
同じような相違が、最終級へのアクセスの遅れにおいても観察される。上級カードルの子弟は半
数以上が、第6級入学の6年後にストレートに最終級に到達する。それに対してブルーカラー労働
者の子弟は辛うじて40%である。後者の場合、最終級への到達が分散してしまうことは、彼らがし
ばしば第1級に復帰する前に、BEP準備課程を履修するたあでもあり、その経路は不可避的に1
年間の学校教育の期間延長を必要とするのである。
将来のバシュリエへの選抜の量的に主要な部分は、第2級へのアクセスである。ただし、彼らリ
セアンの一部は最終級には至らないが、他方でBEPの資格者が、適応用の第1進路変更級を通じ
てリセに再編入することにより相殺される。
すなわち、第2級に達する生徒よりも最終級に到達する生徒の方が多いのである。1980年パネル
において、その二つの動きは生徒のほとんどすべての階層の間で、男子であれ女子であれ、カード
ルの子弟であれブルーカラー労働者の子弟であれ、均衡する傾向がある。もしリセにおいて学業を
放棄する者が多くなれば、他方、BEP出身の編入者が多くなって、ひどくなる減少傾向を補なう
のである。それ故、リセの入学時の格差と分化は、農業従事者の子弟を除いてバカロレアまでほと
んど変わらないようである。農業従事者の子弟は、とりわけ男子については、しばしば農業BEP
の資格を有し、テクニシャン免状を取得するために学校教育を継続する。こうして、BTセクショ
ンのなかでは、第1および最終級のレベルで彼らの存在は著しく強められる。
一21一
3)リセの専門課程の選択
リセへの進学者は、分化されていない第2級を修了後に、第1・最終級のさまざまなセクション
に進路分化していく。
最近20年間に、バシュリエの総数の増加は、主として科学技術課程の発展に起因し、その内でも
G科は1988年にはバシュリエの20%を集めている。同時に、1970年代におけるA科の衰微と、1980
年代におけるD科の衰微とともに、一般教育の割合は3分の2にまで徐々に低下してきている。
一般教育課程は技術教育課程よりも女性が多く(57%対54%)、現役のバシュリエが多数含まれ
ている。それに対して、バシュリエのF科,G科の80%以上は、19歳かそれ以上の生徒である。各
科の区別は非常に対照的なプロフィールを浮かび上がらせる。
男子では、自然科学コースのC、E、 F科が優勢だが、標準年齢のバシュリエは70%以上を数え、
標準年齢よりも若い者がC科で13%、E科で52%、 F科で22%を占めている。逆に、 A科とG科は
非常に女性が多く、前者は標準年齢の合格者と留年経験者がバランスしているが、後者は遅滞者が
85%にのぼっている。B科とD科は中間的な位置を占める。
専門分野の選択として、一般教育を志向する傾向は全体としては68%程度である。社会階層的に
は、カードル層の子弟で非常に顕著であり、彼らの84%がA科からE科に進学し、それに対してブ
ルーカラー労働者の子弟はかろうじて半数である。一般教育のなかでも、数学中心のC科はカード
ル層の子弟、とりわけ男子(リセ進学者の31%)の選好を集めており、文系のA科は女子によって
占められている。ブルーカラー労働者を出身階層とするバシュリエのうち、6%のみがC科の合格
者である。彼らが最大の割合を占めるのは男子ではF科に、女子ではG科である。
これらの偏りの一部は、中等教育における留年の有無に起因している。上級カードルの子弟は遅
滞が少ないことで有利な状況にある。さらに、同じような状況においても、彼らはブルーカラー労
働者の子弟とは違いを見せ続ける。このように、18歳以下の生徒では、カードル層の95%が普通教
育バカロレアに指向し、3人に1人がC科に入学している。ブルーカラー労働者の場合、同じ年齢
でバカロレアF、GはC科に対して優位であり続ける。
また、重要なことは、生徒の社会的出自に関わらず、18歳以上の生徒はより技術バカロレアを指
向している。
ここまでの調査結果が示していることは、初等教育における1度か複数回の留年によるハンディ
キャップが、生徒の将来に対して強く影響を与えているということである。ブルーカラー労働者層
の子どもは第6級から後により頻繁に留年するので、リセアンになることはより少なくなり、また
リセアンになる場合もコレージュで留年の後となるので、より時間がかかっているのである。
一22一
4)バカロレアの合格率
最後に、バカロレアの合格率も、生徒の諸特性によって違いがある。つまり、飛び級経験の子ど
もの合格率が高く、年齢が高くなるにつれて規則的に合格率が下がっている。また、初等・中等教
育経験が同じばあいでも、女子の合格率は、男子よりも高くなっている。
合格率の社会階層間の差異もあり、教育機会の格差が一段と拡大することが指摘されている。つ
まり、バカロレアの試験合格率も、上級カードル、中間専門職、ホワイトカラー、ブルーカラーの
各子弟の順で、規則的に減少しているのである。普通教育バカロレアの合格率はこの4グループで、
それぞれ78.5%から71,7%までの範囲である。技術バカロレアではそれぞれ、69.1%から66,9%と
なっている。細分すれば、C科では、カードル層の子弟の合格率は86.9%に達し、ブルーカラー労
働者の子弟の78.6%との差をひろげている。
一23一
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